日本語でわかる最新の海外医学論文|page:176

予測能の高い認知症リスクスコアが英国で開発

 認知症発症を予測するリスクスコアが英国で新たに開発され、既存のリスクスコアより高い予測能を有することが確認された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のMelis Anaturk氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Mental Health」に8月21日掲載された。  認知症患者数が世界的に増加し、その対策が各国の公衆衛生上の喫緊の課題となっている。認知症発症リスクを予測し予防介入を強化することが、疾病負担の抑制につながると考えられることから、種々のリスクスコアが開発されてきている。ただし、いずれも予測能の限界が存在する。これを背景としてAnaturk氏らは、英国の大規模ヘルスケア情報データベース「UKバイオバンク」のデータを用いて新たなリスクスコアを開発し、その予測能を検証した。

介護施設の入浴時ユニバーサル除菌、感染症入院リスクを低下/NEJM

 ナーシングホームにおいて、全入所者に対するクロルヘキシジンの使用とポビドンヨード経鼻投与による除菌は、通常ケアよりも感染症による入院リスクを有意に低下することが示された。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のLoren G. Miller氏らが、ナーシングホーム28ヵ所の入所者計2万8,956人を対象に行ったクラスター無作為化試験で明らかにした。ナーシングホームの入所者は、感染・入院および多剤耐性菌の保菌率が高いといわれる。NEJM誌オンライン版2023年10月10日号掲載の報告。

妊娠糖尿病への早期メトホルミンvs.プラセボ/JAMA

 妊娠糖尿病に対する早期のメトホルミン投与は、プラセボ投与との比較において、インスリン投与開始または32/38週時空腹時血糖値5.1mmol/L以上の複合アウトカム発生について、優位性を示さなかった。アイルランド・ゴールウェイ大学のFidelma Dunne氏らが、プラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果を報告した。ただし、副次アウトカムのデータ(母親のインスリン開始までの時間、自己報告の毛細血管血糖コントロール、妊娠中の体重増加の3点)は、大規模試験でさらなるメトホルミンの研究を支持するものであったという。妊娠糖尿病は、妊娠期に多い合併症の1つだが、至適な治療は明らかになっていない。JAMA誌オンライン版2023年10月3日号掲載の報告。

ベジタリアン食で、胃がん罹患リスク6割減

 食事とがん発症リスクとの関連は多数の先行研究があり、果物、野菜、全粒穀物、豆類などの植物性食品の摂取量の増加はがん罹患の予防効果と関連し、赤身肉や加工肉の多量摂取はがん罹患リスク増加と関連している、という報告がある。こうした中、菜食(ベジタリアン食)と消化器がんリスクについて調査した研究結果が発表された。中国・香港中文大学Tongtong Bai氏らによるこのシステマティックレビューは、European Journal of Gastroenterology & Hepatology誌オンライン版2023年9月18日号に掲載された。

「人生をエンジョイ」する人は認知症発症リスクが低い~JPHC研究

 人生をエンジョイすることは、自身の環境と楽しく関わる能力と関連しており、これは認知症リスクとも関連しているといわれている。順天堂大学の田島 朋知氏らは、日本の地域住民における人生のエンジョイレベルと認知症発症との関連を調査した。The Journals of Gerontology. Series B, Psychological Sciences and Social Sciences誌オンライン版2023年9月18日号の報告。  対象は、Japan Public Health Center-based(JPHC)研究に参加した5年間のフォローアップ調査時点で45~74歳の日本人3万8,660例。心理的状態およびその他の交絡因子の特定には、自己記入式アンケートを用いた。認知症発症は、2006~16年の日本の介護保険(LTCI)制度に基づき評価した。Cox比例ハザードモデルを用いた、ハザード比[HR]および95%信頼区間[CI]を算出した。

ICIによる心筋炎、現時点でわかっていること/日本腫瘍循環器学会

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は抗PD-1抗体のニボルマブが2014年に本邦で上市されて以来、抗PD-L1抗体や抗CTLA-4抗体も登場し、現在では臓器横断的に幅広いがん種に対し、単独投与のみならず併用投与も行われるようになった。しかし、その一方でさまざまな免疫関連有害事象(irAE)が報告されており、とくに循環器医も腫瘍医も恐れているirAEの1つに心筋炎がある。これは通常の心筋炎とは何が違い、どのように対処するべきなのだろうか―。9月30日~10月1日に開催された第6回日本腫瘍循環器学会学術集会のシンポジウム『免疫チェックポイント阻害薬関連有害事象として心筋炎の最新の理解と対応』において、3名の医師が心筋炎のメカニズムや病態、実臨床での事例やその対応について発表した。

乳房再建術後の短期照射法は安全かつ効果的

 乳房切除術後に乳房再建術を受けた乳がん患者に対して、1回当たりの線量を増やして治療回数を減らす短期照射法は、乳がんの再発や治療に伴う副作用に関しては標準的な放射線治療を受けた場合と同等だが、生活への影響や経済的負担は軽減することを示した研究結果が報告された。米ダナファーバー・ブリガムがんセンターのRinaa Punglia氏らによるこの研究結果は、米国放射線腫瘍学会年次総会(ASTRO 2023、10月1〜4日、米サンディエゴ)で発表された。  Punglia氏の説明によると、女性の乳がん患者のおよそ40%が乳房切除術を受け、そのうちの62%が乳房再建術を受ける。乳房切除術を受けた患者のおよそ3分の1には、通常は5週間の放射線治療が必要になる。近年、乳房切除術と同時にインプラントや自家組織による乳房再建術を行う患者が増加傾向にあるが、乳房再建術後の患者に放射線治療を行うと、感染症や乳房周囲の瘢痕組織の形成などの合併症のリスクが増加することが知られている。

変形性手関節症の症状軽減に効果的な治療法とは?

 変形性手関節症に対する一般的な治療法であるステロイド薬やヒアルロン酸の注射は、ガイドラインでも推奨されているにもかかわらず、実際には症状を緩和する効果がないとする研究結果が報告された。Parker研究所(デンマーク)リウマチ科のAnna Døssing氏らによるこの研究結果は、「RMD Open」に9月21日掲載された。  Døssing氏らは、MEDLINE、Embase、およびCochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)を検索して、2021年12月26日までに発表された、変形性手関節症の患者に対する薬物療法の効果に関するランダム化比較試験(RCT)を65件選出。これらの研究結果から痛みに対する治療の効果量を計算し、それぞれの治療法の効果をネットワークメタアナリシスおよびペアワイズメタアナリシスで評価した。これらのRCTでは、総計5,975人を対象に、29種類の治療法について検討されていた。

術前リスク層別化アルゴリズムで、不必要な卵巣摘出術が低減/JAMA

 米国・Nemours Children's HealthのPeter C. Minneci氏らMidwest Pediatric Surgery Consortiumの研究チームは、卵巣温存術に適した良性病変の可能性が高い病巣を同定するための術前リスク層別化アルゴリズムを使用することで、不必要な卵巣摘出術が減少することを示し、これによって青少年期における不必要な卵巣摘出とその生涯にわたる影響を回避できる可能性があることを明らかにした。研究の成果は、JAMA誌2023年10月3日号に掲載された。  研究チームは、良性と悪性の卵巣病変を識別し、不必要な卵巣摘出術を減少させるための、コンセンサスに基づく術前リスク層別化アルゴリズムの性能を評価する目的で、前向きコホート研究を実施した(Thrasher Research FundのE.W. "Al" Thrasherによる助成を受けた)。

CKDの腎と心血管疾患への悪影響はさらに広い範囲(解説:浦信行氏)

JAMA誌において、2,750万人余りを対象としたメタ解析の結果、CKDの悪影響は従来報告されている全死因死亡、心血管死、腎代替療法を要する腎不全、脳卒中、心筋梗塞、心不全、急性腎障害にとどまらず、あらゆる入院、心房細動、末梢動脈疾患にまで及ぶことが報告された。結果の詳細はジャーナル四天王のニュース記事をご覧いただきたいが、本研究はそれ以外にもいくつかの重要な成績が示されている。尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)とeGFRをクレアチニンのみで評価したものと、クレアチニンとシスタチンCで評価したものの各々の有害事象のリスクを対比すると、全体の傾向はヒートマップ上では同様であるが、クレアチニンのみで評価したeGFRでの結果は少し感度が悪い印象を受ける。eGFR各階層での有害事象のハザード比を表した図3においても、確かにクレアチニンのみで評価したeGFRでのハザード比の変化の傾きは緩徐であり、各有害事象に対する感度が対比上は低いと考えられる。かつ、各有害事象のハザード比は、クレアチニンでのeGFRは90~105を底値としてU字型を描いている。シスタチンCを加えたものではこのような結果を示していない。これはおそらく高齢者主体のサルコペニア・フレイル症例のリスク上昇を表すものと考えられる。したがって、症例によってはシスタチンCによるeGFRの評価を加えることが必須である。

医師の英語学習、どのくらいお金と時間をかけている?/1,000人アンケート

 英語で学会発表を行ったり、外国人患者を診療したりするために、英語は医師にとって欠かせないスキルとなっている。英語を学ぶ主な目的や学習方法といった医師の英語学習状況を把握するため、会員医師1,021人を対象に『医師の英語学習に関するアンケート』を9月21日に実施した。年代別の傾向をみるため、20~60代以上の各年代を約200人ずつ調査した。その結果、英語学習に最も費用と時間をかけているのは30代であることなどが明らかとなった。海外学会への参加頻度から、おすすめの英語系YouTubeチャンネルや語学学習アプリなど、学習に役立つツールまで、英語学習に関するさまざまな意見が寄せられた。

日本人統合失調症患者の下剤使用開始と関連する要因は

 抗精神病薬の一般的な副作用の1つに便秘がある。しかし、便秘をターゲットとした研究は、これまで行われていなかった。獨協医科大学の川俣 安史氏らは、同じ統合失調症患者を20年間さかのぼり、下剤使用開始と関連する要因を特定しようと試みた。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2023年9月12日号の報告。  2021年4月より各病院に通院する統合失調症患者14例を登録した。対象患者の2016、11、06、01年4月1日時点でのすべての処方箋データをレトロスペクティブに収集した。下剤の使用頻度の違いと傾向を特定するため、Bonferroni補正コクランQ検定およびコクラン・アーミテージ検定を用いた。20年にわたる下剤使用開始と関連する要因を評価するため、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。

膀胱がんリスク、仕事での立位/歩行は座位より5割減~日本人集団

 身体活動と膀胱がんリスクとの関連については、アジア人集団では一貫していない。今回、大阪大学のHang An氏らが日本人の大規模コホートで検討したところ、とくに男性において、レクリエーションスポーツへの参加や仕事での立位/歩行の身体活動が膀胱がんリスクと逆相関していたことが示された。Cancer Research and Treatment誌オンライン版2023年10月6日号に掲載。  本研究は集団ベースの前向きコホート研究で、がん/心血管疾患の既往のない40~79歳の日本人5万374人について自己記入式質問票で身体活動に関する情報を取得し解析した。Cox比例ハザードモデルを用いて、潜在的交絡因子を調整後の膀胱がん発症のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。

高齢者での術後せん妄、原因は血液脳関門の透過性亢進か

 高齢者では、手術後にせん妄が生じ、それが深刻な合併症や苦痛を引き起こすことがあるが、その原因は不明であった。こうした中、新たな研究により、術後せん妄を発症する患者では、物質が脳に入るのを防ぐ細胞の層である血液脳関門の透過性が亢進していることが明らかになった。米デューク大学医学部麻酔学分野のMichael Devinney氏らによるこの研究結果は、「Annals of Neurology」に8月24日掲載された。  Devinney氏は、「この結果により、米国で毎年何百万人もの高齢者に影響を及ぼしている術後せん妄の問題に取り組むための道筋が整った。その意味で、本研究結果は重要だ」と話している。同氏はさらに、「術後に血液脳関門が開かないようにする方法や、関門を通過して脳に到達することができる物質を特定できれば、術後せん妄を予防する治療法の開発につなげることが可能になるかもしれない」と同大学のニュースリリースで述べている。

歯科医院で定期的な口腔メンテナンスを受けている人は歯を失いにくい

 一般歯科医院で歯科衛生士による口腔メンテナンスを受けている人を20年以上追跡した研究から、決められたスケジュール通りに受診している人ほど歯を失いにくいという有意な関連のあることが明らかになった。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔疾患予防学分野の安達奈穂子氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Dental Hygiene」に8月27日掲載された。  口腔メンテナンス受診率が高いほど歯の喪失が少ないことを示唆する研究結果は、既に複数報告されている。ただし、それらの研究は主として大学病院や歯周病専門歯科という限られた環境で行われた研究の結果であり、大半の地域住民が受診する一般歯科における長期的な歯科受療行動と、歯の喪失との関連については知見が少ない。これを背景として安達氏らは、一般歯科医院の患者データを用いて、以下の遡及的な解析を行った。

筋肉量の多寡にかかわらずタンパク質摂取量が高齢者の全死亡リスクに関連

 日本人高齢者を対象とする研究から、タンパク質の摂取量が多いほど全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが低いという関連が示された。この関連は、筋肉量や血清アルブミンなどの影響を統計学的に調整してもなお有意であり、独立したものだという。東京都済生会中央病院糖尿病・内分泌内科の倉田英明氏(研究時点の所属は慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科)らの研究によるもので、詳細は「BMC geriatrics」に8月9日掲載された。  タンパク質摂取量と健康リスクとの関連については、動脈硬化や腎機能、またはサルコペニア(筋肉量・筋力の低下)、フレイル(要介護予備群)などの観点から研究されてきている。しかし、食文化の違いによるタンパク源の相違などの影響のため、それらの研究結果は一貫性が見られない。また、国内発の知見はいまだ少なく、かつサルコペニアやフレイルリスクを有する高齢者の筋肉量とタンパク質摂取量との関連を検討した研究が主体であって、地域在住一般高齢者の死亡リスクとの関連は明らかになっていない。

eplontersen、遺伝性ATTRvアミロイドーシスに有効/JAMA

 ポリニューロパチーを伴う遺伝性トランスサイレチン型(ATTRv)アミロイドーシス患者の治療において、アンチセンスオリゴヌクレオチドであるeplontersenはプラセボと比較して、血清トランスサイレチン濃度を有意に低下させ、ニューロパチーによる機能障害を軽減し、良好なQOLをもたらすことが、ポルトガル・Centro Hospitalar Universitario de Santo AntonioのTeresa Coelho氏らが実施した「NEURO-TTRansform試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年9月28日号で報告された。   NEURO-TTRansform試験は、過去の臨床試験のプラセボ群(historical placebo)との比較を行う非盲検単群第III相試験であり、2019年12月~2021年6月に日本を含む15ヵ国40施設で患者のスクリーニングを実施した(米国・Ionis Pharmaceuticalsの助成を受けた)。

慎重に評価する必要がある論文。さらなるフォローアップが望まれる(解説:野間重孝氏、下地顕一郎氏)

本研究(ILUMIEN IV試験)はOCTガイドとアンギオガイドのPCIを比較、2年間追跡したものである。これまでIVUSで証明されてきた優位性をOCT単独で検証した大規模なRCTであり、18ヵ国80施設が参加、2,487症例が組み入れられた。  結果は、OCTガイド群でminimum stent areaが大きく、ステント血栓症が少なかったものの、TVFでは差がみられなかった、というものである。

HIVの流行終結を目指す取り組みとは

 HIV感染症は、医療の進歩により、もはや死に至る病気ではなくなった。国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、2030年までにHIV流行を終結する目標を発表しており、HIV流行終結に向けた対策は世界的に推進されている。一方、日本においては、HIV/エイズの適切な予防・検査・治療の推進に加え、誤解の解消と正しい情報の提供が喫緊の課題とされている。2023年10月5日、「2030年までのHIV流行の終結に向けた道筋とは」をテーマとした、ギリアド・サイエンシズ主催のメディアセミナーが開催された。

日本における軽度認知障害とアルツハイマー病の疾病負荷

 軽度認知障害(MCI)およびアルツハイマー病の予防や管理対策の開発には正確な疫学データが必要とされるが、日本ではこのようなデータが不足している。九州大学の福田 治久氏らは、日本における新規発症のMCIまたはアルツハイマー病患者の疾病負荷と進行について調査を行い、急速に高齢化が進む国においてMCIやアルツハイマー病は優先度の高い疾患であり、本結果は日本におけるこれらの疾病負荷や進行について重要な初の考察を提供するものである、とまとめている。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2023年9月9日号の報告。