感染症内科の海外論文・最新ニュースアーカイブ

女性のがん、39ヵ国の診断時期・治療を比較/Lancet

 英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のClaudia Allemani氏らVENUSCANCER Working Groupは、女性に多い3種類のがん(乳がん、子宮頸がん、卵巣がん)の治療提供状況について初めて世界規模で評価した「VENUSCANCERプロジェクト」の解析結果を報告した。低・中所得国では、早期がんと診断された女性がガイドラインに準拠した治療を受けやすくなってはいたが、早期診断される女性の割合は依然として非常に低いままであることを示した。著者は、「解析で得られた知見は、WHOの世界乳がんイニシアチブや子宮頸がん撲滅イニシアチブといった、がん対策への国際的な取り組みの実施とモニタリングを支援する重要なリアルワールドエビデンスである」としている。Lancet誌2025年11月15日号掲載の報告。

高齢者への高用量インフルワクチンの入院予防効果:FLUNITY-HD試験(解説:小金丸 博氏)

高齢者に対する高用量不活化インフルエンザワクチン(HD-IIV)の重症化予防効果を検証した国際共同プール解析「FLUNITY-HD試験」の結果が、Lancet誌オンライン版2025年10月17日号に報告された。標準用量インフルエンザワクチン(SD-IIV)では免疫応答が不十分なことが知られており、HD-IIVの高齢者における追加的な防御効果を明らかにすることを目的とした。本試験は、デンマークのDANFLU-2試験(登録者:約33万人)とスペインのGALFLU試験(同:約13万人)という、同一デザインの実践的ランダム化比較試験を統合解析したものである。対象は65歳以上で、少なくとも1つの慢性疾患を有する者が約49%と重要なリスクグループが適切に含まれており、高齢者集団への一般化が可能であると思われる。いずれの試験も日常診療環境で実施され、主要評価項目は「インフルエンザまたは肺炎による入院」とされた。

風邪や咳症状に対する日本での市販薬使用状況は?

 OTC医薬品の適切な使用を促進し、国民医療費の削減に貢献するうえで、OTC医薬品の使用に影響を与える要因を理解することは重要である。大阪大学の田 雨時氏らは、COVID-19パンデミック後の日本における風邪や咳に対するOTC医薬品を用いたセルフメディケーションの現状を調査し、関連要因を明らかにするため、本調査を実施した。BMC Public Health誌2025年5月24日号の報告。  2024年4月25日〜6月26日にオンライン横断調査を実施した。日本の風邪や咳に対するセルフメディケーション行動の現状および社会背景や心理評価尺度に関する共変量を収集した。これらの関連性の分析には、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。結果のロバスト性を検証するため、サブグループ分析および感度分析を実施した。

敗血症性ショックへの新たな蘇生戦略の提案:CRTに基づく多角的介入(解説:栗原宏氏)

敗血症性ショックは日本国内では年間約6.5万例程度発生し、そのうち3例に1例が死亡する重篤な疾患である。血液循環不全と肝機能を反映して乳酸値は上昇するため、乳酸クリアランスは敗血症性ショックの治療において最も重要な指標の1つとなっている。2019年に発表された先行研究(ANDROMEDA-SHOCK試験)では、敗血症性ショックの患者を対象として、治療目標をCRTとした群は従来の乳酸クリアランスとした群に対して非劣性が示されていた。CRTという簡便な指標が、血液ガス分析や頻回の検査を必要とする乳酸クリアランスという複雑な指標に劣らないことが示された意義は大きい。

小児インフルワクチン、初回2回接種の有効性は3歳未満で顕著/メタ解析

 世界保健機関(WHO)は、インフルエンザワクチン未接種の生後6ヵ月~9歳未満の小児に対し、少なくとも4週間の間隔を空けて2回接種し、その後は毎年1回接種することを推奨している。オーストラリア・メルボルン大学のJessie J. Goldsmith氏らは、既接種歴のない小児を対象に、1回と2回接種の効果の違いをメタ解析により検証した。JAMA Network Open誌2025年10月3日号掲載の報告。  研究者らは、MEDLINE、EMBASE、CINAHLで創刊から2025年3月24日までに発表された論文を対象に検索を行った。研究対象シーズン以前にインフルエンザワクチンを接種したことがない9歳未満の小児を対象に、1回接種と2回接種におけるワクチン有効性(VE)とその差を推定した。

開発中の経口パラチフスA菌ワクチン、有効性・安全性を確認/NEJM

 パラチフスA菌(Salmonella enterica serovar Paratyphi A[S. Paratyphi A])は年間200万例を超える腸チフスの原因となっている。現在承認されたワクチンはなく、いくつかのワクチンが開発中である。その1つ、経口投与型の弱毒生パラチフスA菌ワクチン(CVD 1902)について、英国・オックスフォードワクチングループのNaina McCann氏らVASP Study Teamは、同国の健康ボランティア成人を集めて、制御されたヒト感染モデル(controlled human infection model)を用いた第II相の二重盲検無作為化プラセボ対照試験を行い、CVD 1902の2回投与により、安全性への懸念を伴うことなくパラチフスA菌に対する防御能獲得に結び付いたことを報告した。NEJM誌2025年10月29日号掲載の報告。

敗血症性ショック、CRTに基づく個別化蘇生法が有用/JAMA

 敗血症性ショックの初期治療に、毛細血管再充満時間(CRT)を目標とした個別化血行動態蘇生プロトコール(CRT-PHR)を用いることで、全死因死亡、バイタルサポート継続期間および入院期間の複合アウトカムが通常ケアより優れることが示された。チリ・Pontificia Universidad Catolica de ChileのGlenn Hernandez氏らが、北米・南米、欧州およびアジアの19ヵ国86施設で実施した無作為化試験「ANDROMEDA-SHOCK-2試験」の結果を報告した。敗血症性ショックに対する血行動態蘇生の最適な戦略は依然として明らかではないが、ANDROMEDA-SHOCK試験では、CRTを目標とした蘇生は乳酸値に基づく蘇生と比較し、臓器機能障害の回復が速く、蘇生輸液量が少なく、生存率が高いことが示唆されていた。

尿検査+SOFAスコアでコロナ重症化リスクを早期判定

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のオミクロン株の多くは軽症だが、重症化する一部の患者をどう見分けるかは医療現場の課題だ。今回、東京都内の病院に入院した842例を解析した研究で、尿中L型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)とSOFA(Sequential Organ Failure Assessment score)スコアを組み合わせた事前スクリーニングが、重症化リスク判定の精度を高めることが示された。研究は国立国際医療センター腎臓内科の寺川可那子氏、片桐大輔氏らによるもので、詳細は9月11日付けで「PLOS One」に掲載された。  世界保健機関(WHO)が2020年3月にCOVID-19のパンデミックを宣言して以来、ウイルスは世界中に広がり、変異株も多数出現した。現在はオミクロン株の亜系統が主流となっており、症状は多くが軽症にとどまる一方、一部の患者は酸素投与や入院を必要とし、死亡する例も報告されている。そのため、感染初期の段階で重症化リスクを予測する方法の確立が求められている。

帯状疱疹ワクチンは心臓病、認知症、死亡リスクの低減にも有効

 帯状疱疹ワクチンは中年や高齢者を厄介な発疹から守るだけではないようだ。新たな研究で、このワクチンは心臓病、認知症、死亡のリスクも低下させる可能性が示された。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部の内科医であるAli Dehghani氏らによるこの研究結果は、米国感染症学会年次総会(IDWeek 2025、10月19〜22日、米アトランタ)で発表された。  米疾病対策センター(CDC)によると、米国では3人に1人が帯状疱疹に罹患することから、現在、50歳以上の成人には帯状疱疹ワクチンの2回接種が推奨されている。帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)の既往歴がある人に発症するが、CDCは、ワクチン接種に当たり水痘罹患歴を確認する必要はないとしている。1980年以前に生まれた米国人の99%以上は水痘・帯状疱疹ウイルスに感染しているからだ。

世界中で薬剤耐性が急速に拡大

 抗菌薬が効かない危険な感染症が世界中で急速に広がりつつあるとする報告書を、世界保健機関(WHO)が発表した。この報告書によると、2023年には、世界の感染症の6件に1件が、尿路感染症や淋菌感染症、大腸菌による感染症などの治療に使われている一般的な抗菌薬に耐性を示したという。  2018年から2023年の間に、監視対象となった病原体と抗菌薬の組み合わせの40%以上で薬剤耐性が増加し、年平均5~15%の増加が見られた。2021年には、このような薬剤耐性はおよそ114万人の死亡と関連付けられていた。WHO薬剤耐性部門ディレクターのYvan Hutin氏は、「薬剤耐性は広く蔓延し、現代医療の未来を脅かす存在となっている。端的に言えば、質の高い医療へのアクセスが乏しいほど、薬剤耐性菌感染症に苦しむ可能性が高くなる」と、New York Times紙に語っている。