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腰痛診療ガイドライン2019発刊、7年ぶりの改訂でのポイントは?

 2019年5月13日、日本整形外科学会と日本腰痛学会の監修による『腰痛診療ガイドライン2019』(編集:日本整形外科学会診療ガイドライン委員会、腰痛診療ガイドライン策定委員会)が発刊された。本ガイドラインは改訂第2版で、初版から実に7年ぶりの改訂となる。いまだに「発展途上」な腰痛診療の道標となるガイドライン 初版の腰痛診療ガイドライン作成から現在に至るまでに、腰痛診療は大きく変遷し、多様化した。また、有症期間によって病態や治療が異なり、腰痛診療は複雑化してきている。そこで、科学的根拠に基づいた診療(evidence-based medicine:EBM)を患者に提供することを理念とし、『Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014』で推奨されるガイドライン策定方法にのっとって腰痛診療ガイドライン2019は作成された。腰痛診療ガイドライン2019は9つのBackground Questionと9つのClinical Question 腰痛診療ガイドライン2019では、疫学的および臨床的特徴についてはBackground Question (BQ)として解説を加え、それ以外の疫学、診断、治療、予防についてはClinical Question (CQ)を設定した。それぞれのCQに対して、推奨度とエビデンスの強さが設定され、益と害のバランスを考慮して評価した。推奨度は、「1.行うことを強く推奨する」、「2.行うことを弱く推奨する(提案する)」、「3.行わないことを弱く推奨する(提案する)」、「4.行わないことを強く推奨する」の4種類で決定する。エビデンスの強さは、「A(強):効果の推定値に強く確信がある」、「B(中):効果の推定値に中程度の確信がある」、「C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である」、「D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない」の4種類で定義される。腰痛診療ガイドライン2019では腰痛の定義がより明確に 腰痛診療ガイドライン2019において、腰痛は「疼痛の部位」、「有症期間」、「原因」の3つの観点から定義された。疼痛の部位からの定義では、「体幹後面に存在し、第12肋骨と殿溝下端の間にある、少なくとも1日以上継続する痛み。片側、または両側の下肢に放散する痛みを伴う場合も、伴わない場合もある」とされた。有症期間からは、発症から4週間未満のものを急性腰痛、発症から4週間以上3ヵ月未満のものを亜急性腰痛、3ヵ月以上継続するものを慢性腰痛と定義した。原因別の定義では、「脊椎由来」、「神経由来」、「内臓由来」、「血管由来」、「心因性」、「その他」に分類される。とくに「悪性腫瘍」、「感染」、「骨折」、「重篤な神経症状を伴う腰椎疾患」といった重要疾患を鑑別する必要がある。腰痛診療ガイドライン2019では運動療法は慢性腰痛に対して強く推奨 腰痛診療ガイドライン2019では、運動療法については「急性腰痛」、「亜急性腰痛」、「慢性腰痛」のそれぞれについて評価され、そのうち「慢性腰痛」に対しては、「運動療法は有用である」として強く推奨(推奨度1、エビデンスの強さB)されている。それに対して、「急性腰痛」、「亜急性腰痛」に対してはエビデンスが不明であるとして推奨度は「なし」とされた。腰痛診療ガイドライン2019では各薬剤の推奨度とエビデンスの強さを評価 腰痛診療ガイドライン2019が初版と大きく異なる点は、推奨薬の評価方法である。まず、腰痛診療ガイドライン2019では、「薬物療法は疼痛軽減や機能改善に有用である」として、強く推奨(推奨度1、エビデンスの強さB)されている。そのうえで、腰痛を「急性腰痛」、「慢性腰痛」、「坐骨神経痛」に区別して、各薬剤についてプラセボとのランダム化比較試験のシステマティックレビューを行うことでエビデンスを検討し、益と害のバランスを評価して推奨薬を決定した。オピオイドについては、過量使用や依存性を考慮して弱オピオイドと強オピオイドに分けられている。 腰痛診療ガイドライン2019での各薬剤の推奨度とエビデンスの強さは以下のとおり。●急性腰痛に対する推奨薬<非ステロイド性抗炎症薬> 推奨度1、エビデンスの強さA<筋弛緩薬> 推奨度2、エビデンスの強さC<アセトアミノフェン> 推奨度2、エビデンスの強さD<弱オピオイド> 推奨度2、エビデンスの強さC<ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液> 推奨度2、エビデンスの強さC●慢性腰痛に対する推奨薬<セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬> 推奨度2、エビデンスの強さA<弱オピオイド> 推奨度2、エビデンスの強さA<ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液> 推奨度2、エビデンスの強さC<非ステロイド性抗炎症薬> 推奨度2、エビデンスの強さB<アセトアミノフェン> 推奨度2、エビデンスの強さD<強オピオイド>(過量使用や依存性の問題があり、その使用には厳重な注意を要する) 推奨度3、エビデンスの強さD<三環系抗うつ薬> 推奨度なし*、エビデンスの強さC(*三環系抗うつ薬の推奨度は出席委員の70%以上の同意が得られなかったために「推奨度はつけない」こととなった)●坐骨神経痛に対する推奨薬<非ステロイド性抗炎症薬> 推奨度1、エビデンスの強さB<Caチャネルα2δリガンド> 推奨度2、エビデンスの強さD<セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬> 推奨度2、エビデンスの強さC

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「心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」発表/日本循環器学会

 「心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」が、2019年3月29日に発表された。本ガイドラインは「肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(2012年改訂版)」および2011年発表の「拡張型心筋症ならびに関連する二次性心筋症の診療に関するガイドライン」の統合・改訂版。第83回日本循環器学会学術集会(3月29~31日、横浜)において、心筋症診療ガイドライン作成の合同研究班班長を務めた北岡 裕章氏(高知大学医学部 老年病・循環器内科学)が、その内容について講演した。 同氏は、心筋症診療ガイドラインの本改訂において重視した点として下記3つのポイントを挙げたうえで、心筋症全体の定義と分類、肥大型心筋症(HCM)、拡張型心筋症(DCM)の診断・治療について、主な改訂点を解説した。1.これまでの心筋症の分類法を参考にしながら、わが国の診療実態に即した心筋症の新しい定義の作成2.HCMは、EBMの十分でない疾患であるため、ACCF/AHA、ESCのガイドラインを参考に、わが国より発信されたエビデンスを盛り込みながら、診療現場での実際の意思決定に有用であること3.DCMにおける病因解明の進歩を折り込み、本症が左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)の代表的な疾患であることより、急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)を参照した最新の診療・治療方針を明示すること心筋症診療ガイドラインでは心筋症を4つの基本病態に整理 心筋症の分類としては、米国心臓協会(AHA)の病因による分類(2006年発表)、欧州心臓病学会(ESC)の形態による分類(2008年発表)が知られる。心筋症診療ガイドラインでは、従来通り形態や機能から心筋症を診断する。その際には、“常に病因としての遺伝性/非遺伝性を意識し、心アミロイドーシスやファブリー病など二次性心筋症を鑑別したうえで確定されるべきである”とされた。 原発性(特発性)心筋症としての病名を、肥大型心筋症、拡張型心筋症、不整脈原性右室心筋症、拘束型心筋症の4つに分類している。さらに“これらの病型にOverlapがあることを明示した”ことも重要なポイントである。新ガイドラインでは肥大型心筋症は安静時に圧較差がなくても負荷をかけて心エコー推奨 肥大型心筋症については、近年の報告から「左室壁15mm(家族歴がある場合は13 mm)以上の心肥大」と診断上の定義を心筋症診療ガイドラインでは明記。そして閉塞性肥大型心筋症(HOCM)については、安静時に圧較差がある症例に加えて、負荷によって30mmHg以上の圧較差を認める場合もHOCMとして定義している。北岡氏は、「従来、HOCMは安静時の圧較差30mmHg以上と提唱されてきた。しかしこの10年ほどで、安静時には圧較差が認められなくても、負荷をかけると認められる症例が多く存在し、HCM全体の7割程度で、圧較差が病態と関係するということが分かってきた」とその背景を解説した。HCMと確定診断された患者では、バルサルバ手技などによる負荷を、心エコー検査中に行うことを推奨している。 そのほか新たな心筋症診療ガイドラインでは、MRIは形態学的評価だけでなく、二次性心筋症との鑑別あるいは予後予測において、最も推奨度の高いクラスIに変更された。心筋生検については、MRIの進歩などによりルーチンでの実施は不要と位置付けられている。「ただし、決して心筋生検の重要性が後退したということではなく、不明の場合の最終検査としては非常に重要」と同氏は補足。また、遺伝子診断についての推奨度が2012年版から大きく再整理・変更されていることも説明された。肥大型心筋症の突然死予防にガイドラインでICD植込み適応をフローチャート化 肥大型心筋症の薬物治療については、従来通りで新ガイドラインに大きな変更はない。突然死予防は、ICD植込み適応の考え方が再整理された。2012年度版から5つの主要リスク因子および修飾因子を一部変更。これまで重みづけされていなかった各主要リスク因子についてエビデンスを基に重みづけし、フローチャートの形でICD植込み適応の推奨度を示した。 そのほか、圧較差と不整脈に対する治療法は、近年の知見を盛り込んだ形に一部変更されている。不整脈については、心房細動患者に対する抗凝固療法にクラスIの推奨度とエビデンスレベルが記された。エビデンスの充実からワルファリン使用の推奨が明記され、DOACについても「有用性が期待される」という形で新たに記載された。抗がん剤によるリスクを整理、またクラスIの推奨となった遺伝子検査も(DCM) 新たな心筋症診療ガイドラインでは、DCMの定義に大きな変更はないが、近年左室機能障害を引き起こす重要な原因として指摘されている抗がん剤について、報告されている発症率とともに一覧化された表が初めて掲載された。 検査に関しては、HCM同様二次性心筋症との鑑別や予後予測においてもMRIによる評価に推奨度が記載された。「ただし、HCMほどデータが十分ではないという判断から、クラスIIaの推奨度となっている」と同氏は話した。心筋生検の位置づけはHCMと同様となっている。 DCMにおける遺伝子検査については、「40以上ある原因遺伝子の中で、特にタイチンとラミンについては検査に臨床的意義があると判断された」と述べ、タイチンにIIa、ラミンにIの推奨度が記載されている。MitraClipの COAPT試験の結果を反映 DCMの治療に関しては、「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」に基づく内容となっている。加えて、その後の知見としてMitraClipの COAPT試験の結果も反映された。 また、ラミンA/C変異を有する患者は予後が悪いことが、日本人を対象とした試験でも報告されている。そのため、新たな心筋症診療ガイドラインでは“提言”の形で、ESCあるいはAHA/ACC/HRSガイドラインにおけるICD植込み適応(リスク因子と推奨度)を紹介している。

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バビル2世とEBMの深い関係を知っていますか?【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第8回

第8回 バビル2世とEBMの深い関係を知っていますか?オヤジギャグとカラオケでのアニメソング歌唱がやめられません。嫌われるとわかっていても、若手医師から総スカンをくっても、やめられません。オヤジギャグは思い浮かんだら言わずにはおれません。アニメソングの十八番は「バビル2世」の主題歌と、タイガーマスクのエンディング曲「みなし児のバラード」です。昭和時代に少年期を過ごした皆さまには共感をいただけるものと思います。今回は、医療関係者としてぜひ知っておくべき(?)ウンチクとして、EBMと「バビル2世」の深い関係を紹介します。知らないとチコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られます。バビル2世は、バビルの塔に住んでいると主題歌にも歌われています。本来のマンガのタイトルは「バベル2世」の予定であったのが、当時の編集担当者が予告を打つ際に誤植のまま進めてしまい、「バビル2世」になったという逸話があります。そのまま「バビル2世」で続いているのは、昭和という時代の寛大さでしょうか。ここからは「バベルの塔」として記したいと思います。旧約聖書に記されたバベルの塔について要約します。大洪水の後、ノアの子孫である世界中の人々は、同じ言語を話す1つの民族であったそうです。神が作り出した石や漆喰ではなく、人造物として作り出したレンガやアスファルトを用いて、天国へ続く超高層の塔を築きはじめたのです。その様子を見ていた神は人間の結束力と能力を危惧し、言葉を混乱させその企てを阻んだのです。言葉を混乱させる=つまり多言語化という罰が与えられ、多種多様な言語が登場しました。日本語・英語・中国語・フランス語・スペイン語・アラビア語…挙げればきりがありません。言語が統一され続けていたならば、多少の文化の違いはあっても、現在ほど戦争や対立は生じていないのではないかと思われます。学問の世界では、統一した言語として英語への集約が完了しつつあります。神は、英語を母国語とする者には軽微な罰しか与えず、日本語を母国語とするわれわれには厳罰を与えたのです。神の試練に感謝できるほど人格が完成していない自分としては、この不公平さを嘆かずにはおれません。「日本人がバベルの塔建設を提案したわけではない」と言いたくなります。研究論文だけでなく、英語を使う地域での症例報告や薬剤の副作用情報などは共有されやすく、英語が母国語でない地域の情報は無視されやすくなります。これを「バベルの塔バイアス」と呼ぶ場合もあるようです。人工知能(AI)による翻訳の精度が急速に進化しています。日本語で書いた論文も瞬時に翻訳してくれる世界が目前に迫っているのです。英語が苦手な日本人にとっては朗報ですが、それを知った神は新たな罰を与えるかもしれません。その罰が、医師不要時代の登場であるかもしれません。神さま、お手柔らかにお願いいたします。

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高齢者でもスタチンは投与すべきなのか?(解説:平山篤志氏)-923

 今後多くの先進国は、高齢化社会を迎える。とくにわが国は高齢化率が著しく、諸外国に先駆けて数多くの未知なる諸問題に対処してゆかねばならない。その1つにEvidence Based Medicineがある。医学の世界では、EBMに基づいてガイドラインが作成され、治療に対応している。EBMとして最もエビデンスレベルが高いとされるのは、Randomized Control Trial(RCT)で得られた結果である。だが、多くの場合RCTでは高齢者が除外されているか、また含まれていても数が少ないため十分なEBMを得ることができていない。RCTでは少数であっても実臨床では数多い高齢者についての情報を得るために、近年はReal World Evidenceということが注目されるようになり、電子カルテベースのデータや保険会社のデータ、あるいはレジストリー研究からの結果が出されるようになっている。 本論文もその1つで、スペインの電子カルテからのデータを基に、75歳以上の高齢者でコレステロール低下目的にスタチンを投与することの有用性が検討された。電子カルテのレコードから75歳以上で初めてスタチンを投与された患者と、さまざまな背景因子を合わせた患者(プロペンシティーマッチした)を比較したものである。結果は興味深く、75歳以上ではスタチンの投与は心血管イベント低下効果がないとするものである。ただ、糖尿病患者では有用性があることも示されたが、この効果も85歳以上では効果が消失するようである。ガイドラインでは1次予防としてもスタチンの投与の有用性は広く示されているため、75歳以下だけでなく、高齢者でも有用なのではと推測されていたが、本論文では安易なスタチンの投与はすべきでないとしている。結論を出すには2022年ごろに発表される高齢者を対象としたRCTの結果(STAREE試験)を待たなければならないが、本論文の結果は安易にガイドラインを高齢者に適応すべきではないという示唆でもある。 ただ、(1)これまでスタチンを投与してきた患者を75歳で中止すべきなのか? (2)75歳以上の高齢者では各個人間での相違(合併症、虚弱度、食事など)を考慮すべきではないか? (3)スペインと他の地域での高齢者は同じなのか? など、年齢だけでは規定できない多くの要素があり、Real World Evidenceだからといって、普遍化はできない。高齢者では、RCTやReal World Evidenceにも多くのバイアスがあるので、これまでのEBMに基づいた治療ではなく、一人ひとりの背景因子をしっかり把握して個人に合ったエビデンスの適応を考慮しなければならないであろう。

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EBMの威力を痛感させたGLOBAL LEADERS試験(解説:後藤信哉氏)-914

 ステント留置後の血栓性閉塞にはアスピリン・チクロピジン併用療法が画期的効果を示した。その後、多くの抗血小板薬が冠動脈インターベンション、急性冠症候群を対象として開発された。血栓イベントを恐れるあまり、欧米では大容量の抗血小板薬が使用され、出血イベントが増えた。その結果、抗血小板薬の早期中止を求めて「必要期間短縮」を目指すランダム化比較試験が計画された。本研究でも12ヵ月のアスピリン・P2Y12受容体阻害薬(クロピドグレルまたはチカグレロル)を標準治療として、アスピリン・チカグレロル1ヵ月使用後、チカグレロル単剤にするプロトコールと比較された。実臨床に近い試験としてエンドポイントは冠動脈の閉塞を反映するQ波性心筋梗塞と総死亡とされた。 世界の実臨床を反映する試験として、試験結果以上にベースラインの各項目が興味深い。登録された症例の半数弱は急性冠症候群であった。70%以上の症例は橈骨動脈アプローチが選択されている。インターベンション施行前から75%程度の症例ではTIMI 3の血流があり、インターベンション後に99%以上になった。カテーテルの術者にとってステント血栓症、Q波性心筋梗塞に興味が集中しがちだが、これらのイベントは総死亡の半数以下であった。総死亡の詳細は示されていない。心血管死亡でなく総死亡であることに注目する必要がある。急性冠症候群、冠動脈インターベンション後の症例は血栓イベントリスクが高いとして抗血小板薬の開発標的となっていた。今回のGLOBAL LEADERS試験は半数に急性冠症候群を選択しても、冠動脈インターベンション後の症例の予後は現在の標準治療にて十分に良好であることを示した。多数の薬剤を開発し、多数のランダム化比較試験を施行した結果、疾病の予後がシステム的に改善された好例である。まさに仮説検証を繰り返し、標準治療をシステム的に改善させたEBMの威力を実感させた試験であった。

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病院スタッフのEBM順守で脳卒中患者のアウトカム改善か/JAMA

 中国・Capital Medical UniversityのYilong Wang氏らは、同国40の公的病院を対象に、急性虚血性脳卒中(AIS)患者に関するエビデンスに基づく医療パフォーマンスの病院スタッフの順守について、多面的な質改善の介入で変化が認められるかを調べる多施設共同クラスター無作為化試験を行った。その結果、all-or-none評価では認められなかったが、複合指標評価でわずかだが統計的に有意な改善が認められたことを報告した。研究グループは、「今回認められた所見の一般化可能性について、さらなる研究で明らかにする必要がある」とまとめている。JAMA誌2018年7月17日号掲載の報告。公的40病院を対象に、質的介入群vs.通常群のクラスター無作為化試験 検討は、中国の40の公的病院を対象に行われた。登録被験者は、2014年8月10日~2015年6月20日にAISで入院した患者4,800例で、12ヵ月間フォローアップを行った(最終フォローアップ2016年7月30日)。 20病院では多面的な質改善の介入(クリニカルパス、ケアプロトコール、コーディネーターによる質監視、パフォーマンス指標のモニタリングとフィードバックなど)が行われ、20病院では通常ケアが行われた(対照群)。 主要アウトカムは、9つのAISパフォーマンス指標に対する病院スタッフの順守で、複合指標順守率とall-or-noneで評価した(共主要アウトカム)。副次アウトカムは、3、6、12ヵ月時点で評価した院内死亡率、長期的アウトカム(新規の血管イベント、後遺症[修正Rankinスケールスコア:3~5]、全死因死亡)であった。介入群の複合指標順守率が有意に高率、新規血管イベント発生も減少 登録・無作為化を受けた4,800例(平均年齢65歳、女性36.6%)のうち、3,980例(82.9%)が12ヵ月間のフォローアップを完了した。 介入群の患者は、対照群の患者よりもパフォーマンスが高い傾向が認められた。複合指標順守率に有意差が認められた(88.2% vs.84.8%、絶対差:3.54%[95%信頼区間[CI]:0.68~6.40]、p=0.02)。all-or-noneによる評価では、両群間に統計的な有意差は認められなかった(53.8% vs.47.8%、絶対差:6.69%[95%CI:-0.41~13.79]、p=0.06)。 新規の臨床的に認められた血管イベントは、介入群が対照群と比べて有意に減少した。3ヵ月時点は3.9% vs.5.3%(差:-2.03%[95%CI:-3.51~-0.55]、p=0.007)、6ヵ月時点は6.3% vs.7.8%(差:-2.18%[95%CI:-4.0~-0.35]、p=0.02)、12ヵ月時点は9.1% vs.11.8%(差:-3.13%[95%CI:-5.28~-0.97]、p=0.005)であった。

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循環器内科 米国臨床留学記 第29回

最終回 臨床留学を通して感じた、日本人の仕事に対する倫理観研修医と専門医研修の両方を日米で行うというのは稀ですが、それを行った私の経験から、日本と米国の研修システムを比較してみたいと思います。主観的な意見もありますので、ご了承ください。以前は、米国の教育システムが日本の教育システムよりも体系的で、米国で臨床を経験することで、卒後教育がどういったものであるべきかを学ぶ、という点だけでもかなり意味があったのではないでしょうか。米国を参考に日本のレジデンシー、フェローシップ教育が作られているのは間違いないと思いますが、その点において米国帰りの先生たちによる日本の医学教育への寄与は大きかったと思われます。優れた研修プログラムは日本にも米国にもある日本で臨床研修が義務化された2004年頃から、日本の教育システムもかなり変わってきました。批判もありますが、統一された基準の下での研修という意味では、進歩があったと思います。インターネットが普及して、日米を問わず、Evidence Based Medicine(EBM)が当たり前となっています。指導医がUpToDateなどを使ってきた世代になりつつありますし、場所を問わず、EBMを実践することは可能です。日本でも、評価が高く、また臨床研修に力を入れているような病院では、米国と遜色ない臨床のトレーニングを受けられると思います。ここで“評価が高い”と限定したのには理由があります。日本では研修医の数よりも研修プログラムの募集定員数の方が多いため、指導医の数や指導内容が伴っていない研修プログラム(指導医が不十分、研修体制が不十分など)がかなりあるように感じます。数年前になりますが、とある日本の病院で短期間働いたときに、「こんな指導医がほとんどいないような病院でも、臨床研修の指定を受けられるのか」と衝撃を受けたこともあります。これは研修プログラムを支える環境や文化の違いもあると思います。米国ではプログラムディレクターやチーフレジデントはかなりの時間を研修プログラムのマネージメントに割いていますが、それに対する時間が確保されており、また、給料や社会的な評価も伴います。日本でプログラムディレクターをやっていても、それに時間を割いている分、臨床を免除されることもなく、ボランティアということがほとんどではないでしょうか。プログラムディレクターや指導医の待遇を改善しなければ、プログラムの質の改善も難しいと思います。こういった側面があるとは思いますが、評価の低いプログラムは淘汰されていく必要があると思います。全米のみならず各国からレジデントの希望者が殺到する米国では、末端のトレーニングプログラムですら、教育体制はそれなりに整っています。実際、私が研修したのは外国人ばかりのプログラムで、ランクとしては下の方のプログラムでした。しかしながら、指導者はやる気に満ち溢れ、各国代表ともいえる優秀なレジデントは学習意欲に溢れていました。実際、米国ではプログラムは常に評価されており、レジデントからの評判や専門医試験の合格率が低いと廃止となることもあります。米国における多様な患者層や疾患米国では患者も多人種にわたり、日本で経験できないような症例もたくさん経験できます。また、いろいろな国から来た、さまざまなバックグラウンドを持つレジデント、指導医、医療従事者と仕事をするということは、かけがえのない体験です。難民などから這い上がってきた同僚をみると、自分がいかに恵まれていたかを思い知らされます。日本と違う国で働くという経験は何事にも代えがたい貴重な経験だと思います。日本の“スーパーローテーション”問題日本の初期臨床研修の、いわゆるスーパーローテーションにも問題があると思います。内科医になりたいのに、精神科や産婦人科をお客さんとしてローテートしても、将来的に役に立たない可能性が高いと思われます。こういったことは学生の間に済ますべきだと感じている医師がほとんどではないでしょうか。結果として、内科、外科、産婦人科、精神科など異なる科を目指す研修医が一緒になって研修をして、共有された目的がないというような状況が生まれます。米国のinternal medicine(内科)のレジデントは、ほとんどが“Categorical”と呼ばれる将来内科医となる人たちです。彼らにはinternal medicineの専門医を取るという明確な目的があり、かなり早い段階から専門医試験の勉強をしており、知識のレベルも高いです。同じ目標を持つレジデントと切磋琢磨できる環境が、内科、外科を問わず理想的だと思います。日本でしか学べないこととは?一方で、日本の研修システムにも優れた点がたくさんあります。例えば、手技に関しては日本人の研修医のほうがはるかに優れています。米国のレジデントは急変時には手が動かないというか、手技が何もできないのです。挿管は麻酔科を待ち、点滴、採血も技師かナースを待つのがほとんどです。一刻を争う状況で、エコーなしに大腿静脈からラインを確保する、自ら挿管を行うというようなことは経験がないためできません。また、仕事に対する取り組み方も異なります。個人差はもちろんありますが、概して、日本人の方が責任感を持って仕事に取り組んでいる研修医が多い気がします。米国はいい意味でも悪い意味でもシフト制が浸透しているため、“自分の患者”という意識がレジデントには希薄です。また、専門医がたくさんいるため、さまざまな科にコンサルトを出すが、レジデントや指導医に主体性がないため、方針が何も決まらないといったこともよくあります。日本で私が研修医だった頃のように夜中になっても患者の急変で病院に戻ったり、土日も病院に来なければ行けないというのは時代にそぐわないですし、もはや受け入れられませんが、自分の患者という意識は大切だと思います。医師としての最初の仕事である研修医の間に学ぶ患者に対する態度、姿勢はその後の在り方を決めうると思います。その意味でも、日本の良質なプログラムの中で高い倫理観を持った指導医や先輩と仕事をすることは、一生の財産になると思います。医学生の皆さんには、優れた指導医や先輩がいて、臨床研修に力を入れている施設での研修を目指してほしいと思います。臨床留学は実現可能な目標臨床留学を目指していた頃は、臨床留学の意味など考えたことがありませんでした。ただ、気が付いたら米国で臨床がしたいと思っていました。そして、臨床留学を目指してからは、“目指した以上後に引けない”というのが大きなモチベーションでした。実際、私は帰国子女でもないですし、初めて海外に行ったのも大学2年生の時でした。臨床留学を知ったのも大学6年生でハワイ大学に研修に行ってからです。当時はテレビ番組の“ER”などを見ながら、臨床留学を夢見ていました。英語は今でも苦労していますし、“ちょっと何言っているか分からない“的なことを患者や指導医から何百回も言われてきました。英語は完璧にはなりえませんが、英語以外の部分で日本人は挽回できます。トレーニングを2つの国で繰り返すのは、時間の無駄かもしれませんが、誰にでもできるわけではない経験ができたと思い、後悔はありません。臨床留学はレジデントからだけでなく、フェローからでも可能です。興味があれば、ぜひ挑戦してみてください。個人的には、“日本の優れた研修病院“で初期研修を受けてからの留学をおすすめします。患者や仕事に対する責任感、これは日本でしか学べない部分だと私は思っています。日本にいた頃は当たり前だと思っていたが、米国では当たり前ではない素晴らしい部分が、日本人にはたくさんありました。そのたびに、日本人でよかったと感じてきました。過去3年間にわたり連載を続けてきた「循環器内科 米国臨床留学記」も、私のフェローシップ卒業とともにいったん終了となります。これまでたくさんの叱咤、激励、質問などをくださった方々、貴重な時間を割いてお付き合いくださった読者の方々、本当にありがとうございました。

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リアルワールドエビデンスを活用したSGLT2阻害薬の治療ゴールとは

 2018年5月15日、アストラゼネカ株式会社は、「リアルワールドデータから見えるSGLT2阻害剤による糖尿病治療の新たなステージ~日本人を含むCVD‐REAL2研究の結果によって示唆される日本人糖尿病患者さんのベネフィットや真の治療ゴールとは~」をテーマとしたプレスセミナーを開催した。香坂 俊氏(慶應義塾大学医学部 循環器内科 講師)と門脇 孝氏(東京大学医学部付属病院 特任研究員・帝京大学医学部 常勤客員教授)の2名が講師として招かれ、リアルワールドエビデンス(RWE)の未来と糖尿病治療のエビデンスへの活用についてそれぞれ解説した。安全性確立の時代からランダム比較化試験(RCT)へ 香坂氏によると、1960~70年代に世界を震撼させたサリドマイド事件をきっかけに臨床試験の重要性やそれに基づく認可システムに警鐘が鳴らされ、比較対照試験が一般的となった。さらに、この事件を踏まえ、1990年代からランダム化比較試験(RCT)が一般化されるようになるが、 「基礎研究が安全性の検証のみ」「比較対照がプラセボ」 「効果の実証」についての問題点が議論されるようになり、根拠に基づく医療(EBM)、客観的な医療的介入が治療方針として提唱されるようになった。RCTの限界 さらに、2000年代になるとRCT中心の医療から薬剤間の比較研究へと変わったが、患者の予後に差がつく薬剤に淘汰されていく。その中で、「副作用検出に症例数が少ない(Too Few)」「適応疾患が限定(Too Narrow)」「高齢者が除外(Too Median-Aged)」のような、いわゆる「RCTの5Toos」の問題が指摘されるようになった。なぜRWEなのか? これらの問題を踏まえ、登場したのが「リアルワールドエビデンス(RWE)」である。コホートあるいはデータベース研究、症例対照研究を利活用するため、相対的に「早く」「広く」「安く」結論が得られることが最大のメリットであり、臨床データで選ばれないような特定集団に着目することができる(ビッグデータの活用)点も大きな特徴である。 一方で、「『バイアスを完全に除くことができない』『登録されている情報が限定的』『コントロール(比較対照群)を設定できない』ため、データの信憑性に欠ける点が今後の解決すべき課題である」と同氏は語る。CVD-REAL2:RCTとRWEの方向性が合致した研究 ここで、事例としてRWEを使ったCVD-REAL2が示された。この研究は、世界主要3地域の2型糖尿病患者を対象に、SGLT2阻害薬もしくは他の血糖降下薬による治療において、全死亡、心不全による入院、全死亡または入院の複合解析、心筋梗塞、そして脳卒中との関係性を比較した試験である。そして、SGLT2阻害薬の大規模なRWEの中でも、同薬がより良好な心血管ベネフィットを示したと注目を浴びている。 このほかにRWEが活用された例として、『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』の事例を紹介し、同氏は「これは非常にRWEの特性が活かせた事例」と述べ、「データ活用の発展に伴い、RCTの結果のみを鵜呑みにして医療を行うのではなく、その場面や領域に即したRWEを活用しながら診断の方針を確定させることが必要」と強調した。SGLT2阻害薬に対する意識変化 続いて、門脇氏が糖尿病専門医の視点からSGLT2阻害薬でのRWEの活用を説明した。SGLT2阻害薬は発売直後、「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」が策定され、服用により通常体液量が減少するので脱水、脳梗塞への注意喚起が行われた治療薬である。 ところが2015年9月にEMPA-REG OUTCOME試験での非致死的脳卒中の減少が報告されたことから、SGLT2阻害薬は糖尿病専門医だけでなく循環器科専門医の間でも、その可能性に期待が高まるようになった。DECLARE-TIMI58のもたらす結果とは 今回、門脇氏が講演で紹介したDECLARE-TIMI58試験は、2型糖尿病(6.5%≦HbA1c<12%)かつ、心血管疾患既往のある40歳以上、または1つ以上の心血管リスク因子を保有する男性(55歳以上)あるいは女性(60歳以上)の患者、約1万7,000例が登録され、試験期間が中央値4.5年の研究である。同試験では、心不全の抑制を評価するために、これまでの試験では副次評価項目としてしか評価されてこなかった、心血管死または心不全による入院の複合や心血管死、心筋梗塞、虚血性脳卒中の複合が主要評価項目となっている。同氏は「この研究でRWEを活用し、糖尿病治療の最終目標をより多くの医師が意識し達成することを期待したい」と伝えている。また、「この研究結果は2018年の後半に発表される予定で、重要な役割を果たす可能性があるのでぜひ注目してほしい」とも述べている。■参考アストラゼネカ株式会社 プレスリリースDECLARE-TIMI 58試験スキーム■関連記事SGLT2阻害薬で心血管リスク低下~40万例超のCVD-REAL2試験SGLT2阻害薬、CV/腎アウトカムへのベースライン特性の影響は/Lancet

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アブレーションはお嫌いですか?(解説:香坂俊氏)-847

 あまり知られていないことなのだが、心房細動(AF)のリズムコントロール(※)が「長期的な予後を改善した」という研究結果は「存在しない」。以前であればこうしたことは問題でなく、まぁ理に叶っていて、かつ安全性が担保されていれば(つまり、makes senseでsafety guaranteedなら)そんな治療をやってみてもいいんじゃないかという、かなりおおらかな雰囲気の中医療は行われていた。※調律を細動から洞調律に戻す治療。カテーテルによる肺静脈焼灼隔離(アブレーション)や抗不整脈薬を用いた治療などはすべてここに含まれる ただ、EBMの時代になり、徐々に医療行為に予後改善の証明が要求されるようになった。そして、このEBM的な視点から捉えると、AFのカテーテルアブレーションというのはかなり微妙な治療であり、症状が強い患者さんに対しては抜群の力を発揮するのだが、そこを拡大解釈し、あまりQOLが阻害されていない患者さんにアブレーションを行っていくのは(若干)問題なのではないかと指摘されていた。 日本の現場で、こういったことを持ち出すと、「香坂先生はアブレーションが嫌いなんでしょう」などと揶揄されるのだが、日本は世界でも珍しい「供給が需要を生む」(日経新聞 4月26日朝刊第5面)というスタイルを取っているために鷹揚に構えることができるのだが、こうしたところに規制が厳しい医療システムではそうそう平穏にいかないことが多い。たとえば米国でAFアブレーションを行おうとすれば、かなり患者の症状に関して具体的な記載が求められる。CASTLE-AF試験の衝撃 ここに一石を投じる臨床試験の結果が発表された。それが、CASTLE-AF試験であり、以下その概略を記す:・AFを合併した治療抵抗性の心不全患者(NYHA II-IVでEF35%以下、ICD植込み症例)をランダム化:AFアブレーションを行うか、そのまま薬物療法を続けるか。・合計363例が登録され、179例がアブレーションを施行され、184例が薬物療法を続行した。・その結果、アブレーション群で全死亡・心不全入院の複合リスクが約4割減少した(追跡期間3年間で主要複合エンドポイントの発生は28.5%対44.6%)。 日本の循環器医療からすると、何を今さら、という風に思われる向きもあるかもしれないが、このCASTLE-AF試験の結果は驚くべきものである。2006年に発表されたAF-CHFという抗不整脈時代の臨床試験の名残もあり、有意な差がでるかどうかはいいところ半信半疑というところだったのだが、死亡や心不全入院というハードエンドポイントが4割減少というのは桁外れの効果である。 まだ小規模RCTの結果ではあるものの、今後重症心不全(NYHA II-IVでEF35%以下)を合併したAFに対しては「予後改善」をターゲットとしてアブレーションを行っていくことができるようになった。重要なポイントとして、アブレーションで完全にAFが消失しなくとも、AFの期間(AF burden)が短くなるだけで予後が改善する傾向がみられているということが挙げられる(必ず手技が成功しなくてはいけないわけではない)。 心不全でないAFに対する予後はいつ評価されるのか? 実はこちらも現在北米でRCTが進められており、その名もCABANAという。こちらの試験ははるかに大きな規模で行われ、通常の心機能が保たれているAF患者群に対してファーストラインにアブレーションを行ったらどうなるかというところを検証している。こちらは今年の5月に米国のHeart Rhythm Societyで発表される予定であり、はたしてCASTLE-AFの結果を再現できるかどうかというところが注目される。

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高齢者への抗がん剤治療は有効か

 4月4日(水)、都内で日本肺癌学会主催の第19回 肺がん医療向上委員会が開催された。「高齢者肺がんへの抗がん剤治療は有効か? 無効か?」をテーマに津端 由佳里氏(島根大学医学部 内科学講座)が登壇し、全国に先んじて高齢化が進む島根県での診療の現状を踏まえ、高齢肺がん患者における抗がん剤治療について講演した。「肺がん診療ガイドライン」での推奨は? 初めに津端氏は、本講演では高齢者の定義を後期高齢者に当たる75歳以上として進めることを説明したうえで、「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2017年版」(日本肺癌学会編)で“75歳以上”との記載がある2つのクリニカルクエスチョン(CQ)を紹介した。 まず遺伝子変異陽性例については、75歳以上においてもEGFR、ALK、ROS1、BRAFといったそれぞれの遺伝子を標的とした分子標的治療薬が「GRADE 1」として強く推奨されている(CQ20)。同氏はゲフィチニブ1)やエルロチニブ2)の臨床試験結果も踏まえ、「分子標的薬の有効性・安全性は高齢者であっても期待できる」と述べた。 次に遺伝子変異陰性例(PD-L1<50%、もしくは不明)で全身状態が良好(PS 0-1)な場合については、ガイドラインでは細胞障害性抗がん剤単剤が、年齢によらず「GRADE 1」として推奨されている(CQ38)。ただし、カルボプラチン併用療法については「GRADE 2」と弱い推奨(提案)レベルに留まっており、「細胞障害性抗がん剤も高齢者に対してある程度効果は期待できるが、カルボプラチン併用療法については治療関連死が4.4%と高かったという報告3)があり、治療内容と副作用に十分注意しながら進める必要がある」と話した。 また、免疫チェックポイント阻害薬については、ガイドラインでは現状言及されていない。サブグループ解析を除き、結果が発表されている大規模臨床試験はCheckMate 1714)のみで、この試験では高齢者(70歳以上)に対するニボルマブ投与の安全性・有効性が70歳未満と比較して同等であることが確認されている。しかし、「エビデンスが蓄積されていないこと、欧米と日本における高齢者の定義(年齢)が異なることから、今後も国内でのデータを蓄積し、有効性について検討していく必要がある」とまとめた。治療し過ぎ、手控え過ぎをいかに避けるか 続いて同氏は、身体・生理機能の差が必ずしも年齢に依存しない高齢者では、治療法の選択は個々に行う必要があり、一律には判断できないことに言及。NCCNガイドラインでは高齢がん患者における治療方針決定フローが示されており、病状理解・治療目標の設定・化学療法のリスク評価という各段階において、高齢者機能評価(GA)実施の重要性が述べられていることを紹介した。しかし実際には、GAの実施には時間を要するほか、複数の手法が提案されているため、どのGAをどのタイミングで使用するかが決まっていない、という問題点を指摘。「とはいえ、何らかの形で機能評価を実施していかなくてはいけない」と話し、島根大学医学部附属病院での実践例として、電子カルテにGAを組み込んだ独自のシステムを紹介した。本システムは、決められた項目に沿って入力していくと評価できるもので、メディカルスタッフでも慣れれば3分、慣れなくても10分ほどで評価ができ、同院では75歳以上の肺がん患者にいずれかのタイミングで必ず実施するようにしているという。 最後に津端氏は医療費の問題にも言及。2018年3月の米国大統領諮問委員会によるがん治療薬の「経済的毒性」についての報告書5)によると、米国でのがん患者1人当たりの薬剤費が、1995年の5万4,100ドルから2013年には20万7,000ドルと約4倍に増加しているという。一方で同報告書では、がんによる死亡率がこの間に25%減少し、3人中2人は5年生存が可能になったというデータも報告されていることを紹介した。 同氏は、「価値に基づく価格設定の推進など、医療費の問題には医療者だけでなく社会全体で取り組んでいく必要がある。医師としては、目の前の患者一人ひとりにとって最善の医療を提供するために、患者ごとに異なる状況を適切に評価することはもちろん、希望に沿った治療選択のための十分な説明と情報提供を行う力を、日々高めていかなければならないと考えている」とまとめた。■参考1)Maemondo M, et al. J Thorac Oncol.2012;7(9);1417-1422.2)Goto K, et al.Lung Cancer.2013;82(1):109-114.3)Quoix E, et al.Lancet.2011;378(9796);1079-1088.4)Checkmate 171試験(Clinical Trials.gov)5)Promoting Value, Affordability, and Innovation in Cancer Drug Treatment (A Report to the President of the United States from the President’s Cancer Panel),2018

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1型糖尿病の臓器障害に、RA系阻害薬は有効か?(解説:石上友章氏)-776

 糖尿病は、特異的な微小血管障害をもたらすことで、腎不全、網膜症、神経障害の原因になる。糖尿病治療のゴールは、こうした合併症を抑制し、健康長寿を全うすることにある。RA系阻害薬に、降圧を超えた臓器保護効果があるとされた結果、本邦のガイドラインでは、糖尿病合併高血圧の第1選択にRA系阻害薬が推奨されている。しかし、臨床研究の結果は、必ずしもRA系阻害薬の降圧を超えた腎保護効果を支持しているわけではない。ONTARGET試験・TRANSCEND試験1,2)を皮切りに、最近ではBMJ誌に掲載された報告3)(腎保護効果は、見せかけだった~RA系阻害薬は『万能の妙薬』ではない~)も、観察研究ではあるが、否定的な結果に終わっている。 1型糖尿病の腎保護については、ミネソタ大学のMauerらのRASS試験4)が、決定的な結果を報告している。本研究では、ARB(ロサルタン)、ACEI(エナラプリル)とplaceboの3群に分けた対象で、腎保護作用を検討している。本研究の特筆すべき点は、腎保護効果について、腎生検標本を用いて、厳密に評価していることにある。その結果は、メサンギウム分画容積をはじめとした、すべての病理学的評価指標に、3群間で差が認められなかった。 この結果を受けて、NKF(米国腎臓財団)によるKDOQI Clinical Practice Guideline For Diabetes And CKD/2012 Updateには、6章の6.1として、“We recommend not using an ACE-I or an ARB for the primary prevention of DKD in normotensive normoalbuminuric patients with diabetes.(1A)”とされた5)。この一文には、RA系阻害薬の糖尿病性腎障害抑制作用は、病理学的な変化をもたらすほどの効果はなく、微量アルブミン尿のような不正確な指標で評価された、見かけ上の効果でしかないとの意味が込められている。 英国・ケンブリッジ大学のM Loredana Marcovecchioらが行い、NEJM誌2017年11月2日号に掲載されたAdDIT試験は、スタチンとACE阻害薬を試験薬とし、2×2要因デザインで行われたRCTである。結果は、両試験薬ともに、primary endpointを達成することはできなかった。副次評価項目である、微量アルブミン尿の累積発症率には有意差が認められたが、EBMの原則に従って、著者らはこの結果を採用しなかった。しかしながら、“Many secondary outcomes in the published protocol were exploratory but considered to be clinically relevant in this population of adolescents.”とは、「夢の続きを見ていたい」という著者らの率直な心情の吐露なのかもしれない。

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派手さはないが重要な研究(解説:野間 重孝 氏)-767

 急性心筋梗塞患者の急性期の治療において、酸素の使用が初めて報告されたのは古く1900年までさかのぼり、以来今日までごく当たり前のように行われてきた。血液酸素飽和度を上昇させることにより、より効率的に虚血心筋に酸素を供給することができるだろうという発想から生まれた治療法で、この理屈には大変説得力があったことから、疑われることなく長く行われ続けた。80年代になってパルスオキシメータによるモニターが容易に行えるようになっても、この考え方の根本が見直されることはなかった(パルスオキシメータの発明は1974年で、わが国で行われた)。 実際JCS 2008でも心筋梗塞発症後6時間以内の酸素投与が積極的に勧められており、救急現場の対応の項ではMONAなどという懐かしい言葉が現在も登場している(ちなみにM:モルヒネ、O:酸素、N:nitrate、A:アスピリン)。これはわが国だけのことではなく、2012年のESCガイドラインでも酸素投与は推奨されており、2016年の改訂でも大きく改められてはいない。つまりガイドラインの世界では程度の差こそあれ、急性心筋梗塞患者の急性期治療に酸素を用いることにはまだ疑義が呈されていないといえる。 しかし実際の臨床の現場では、低酸素血症、心不全のない急性心筋梗塞の患者に対して酸素投与が行われる機会は、かなり減っているという印象を受けている。このような問題に対するアンケート調査が行われたことはないので、評者自身、学会の運営委員会などで各施設の先生方に片っ端から質問してみたのだが、低酸素血症のない患者に対する酸素投与は確かにいつのころからか行われなくなっているというのが大勢だった。読者は「いつのころから」とか「何となく」といった表現に対し「何といい加減な」と反発される向きも多いのではないかと推察するが、これこそが医学界の現実であり、EBM運動が起こった理由なのである。なお付け加えれば、そうした先生方も酸素飽和度が95%を切るような症例に対しては酸素を投与すると答えており、これには急性心不全治療のプロトコールの影響があるのではないかと推察した。 一方で今世紀に入るころから、低酸素血症のない急性心筋梗塞患者に対する酸素投与には、疑義が呈されるようにもなっていた。それらは、不必要な酸素投与は冠動脈抵抗を上げることにより、かえって血液供給の効率を悪くするのではないか、酸素投与による酸化ストレスが考慮されるべきではないかなど、確かに考慮されるべき疑義だった。現在最も信頼されているEBMレビューの1つであるCochrane reviewが、初めて急性心筋梗塞に対する酸素投与には確かな研究的根拠がないのではないかと疑義を呈したのは2010年のことであり、2016年のreviewでははっきり根拠薄弱と断じるに及んだ。そんな中、はっきり反対とのデータを提出したのが2015年に発表されたAVOID studyだった。対象患者は638名と小さな研究ではあったが、低酸素血症のない急性心筋梗塞患者に酸素を投与することは、かえって梗塞サイズを大きくするのではないかとのデータを提出し、波紋を呼んだ。 このような流れの中で、大規模data baseを使用して行われた調査研究が本研究である。彼らはスウェーデンの全国レジストリデータを用いて、低酸素血症のない急性心筋梗塞患者6,629名を酸素投与群と非酸素投与群により分けた。低酸素血症の定義はSpO2 90%未満としたから、かなり思い切った振り分けといえる。SpO2 90%が酸素分圧60Torrに当たるからだ。この結果彼らは、酸素投与が1次エンドポイントである1年以内の全死亡に影響を与えないだけでなく、再入院率にも影響を与えないことを示した。この研究は非盲検研究ではあるが、酸素投与という問題がそれほど臨床医の関心や利害の対象ではない以上、盲検研究とほぼ同じ信頼性があるとしてよいものであると考えられる。この研究結果は、ガイドラインに訂正を迫るのに十分な重みのあるものであったと評価されよう。 評者は、こうした派手さはないが、誰もが疑問に感じつつもはっきりした根拠が得られない分野に確かな一歩を進める研究こそが、医師主導型研究の有るべき姿であると考えているものであり、今回の研究を高く評価するものである。実際、この研究はこの分野の静かなmilestoneとなる研究ではないかと考える。

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ワルファリンの可能性(解説:後藤信哉氏)-756

 日本は、非弁膜症性心房細動などにいわゆるNOACsが多く使用されている国である。しかし、世界の抗凝固薬の標準治療は安価なワルファリンである。日本では2mg/日で開始すれば多くの場合、INR 2以下くらいにコントロールできる。 30年ワルファリンを使用している筆者には経験がないが、2mg/日でも過剰でINRが延長してしまう症例がいるらしい。まれに2mg/日ではINRが延長せず、漸増させて10mg/日程度が必要な症例は経験する。圧倒的多数の症例は2mg/日で問題なく、一部に過剰、過小の症例がいる原因にワルファリンの代謝が寄与するとされる。血漿蛋白に結合していないワルファリンが肝臓で活性型に転換する。その酵素はチトクロームP450のCYP2C9とされる。ビタミンK還元酵素複合体にも遺伝子型に応じた酵素活性の差異がある。 この2種の酵素の遺伝子型を事前に知っていれば、ワルファリンの初期投与量、維持量を個人ごとに予測できる、との仮説が過去に臨床的に検証された。2本のNEJM誌の論文の結果は相互に矛盾していた。 今回JAMA誌に発表された論文では対象を膝または腰の置換術にして症例を均質化した。その結果、予想どおり、遺伝子型を考慮に入れたワルファリン治療において重篤な出血が少なく、INR 4以上の過剰投与も避けられた。 疾病一般の予後が改善して、時代は「平均的症例の標準治療」、「One dose fit all」を目指すEBMの時代から、個別症例の最適治療を目指す「Precision Medicine」に転換しようとしている。主作用と副作用イベント発症率相関性のあるバイオマーカーとしてのPT-INRがあるワルファリンは、個別最適化に向いた薬剤である。抗凝固効果のポテンシャルは選択的抗トロンビン薬、抗Xa薬よりも大きく、薬剤の価格は安い。丁寧に使用すれば安全性も高い。安い薬を日本人医師の職人魂にて個別最適化して使用すれば、有効、安全、安価な医療を実現できる。 日本の圧倒的多数は2mg/日にて大きな問題はないと考えるが、遺伝子型により特殊な少数例を弁別できるので日本での応用性もあると考える。

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出産前搾乳は低リスク糖尿病妊婦において安全に実施できる(解説:住谷哲氏)-720

 肥満人口の増大に伴い糖尿病妊婦も増加している。糖尿病妊婦からの出生児は子宮内で高血糖の環境にあるため高インスリン状態にあり、分娩後は一過性低血糖を来すことがある。そのため分娩後NICUでの管理が必要になることが少なくない。初乳(colostrum)は通常の乳汁に比べてグルコース濃度が高く、出生児の低血糖を予防するために適切である。そこで、わが国ではあまりないと思われるが、欧米の一部では糖尿病妊婦に対する出産前搾乳が推奨されている。一方で、妊娠後期の搾乳はオキシトシン分泌を介して子宮収縮を促進することから、出生児の合併症を増加させる可能性も懸念されている。そこで糖尿病妊婦における出産前搾乳の有益性に関するコクランのシステマティックレビューが実施されたが、エビデンスが存在しないため有益性は不明とされていた1)。 本試験はこの「糖尿病妊婦の出産前搾乳は出生児に対して有益かつ安全か?」との臨床的疑問に回答を試みたものである。対象は9割以上が妊娠糖尿病(GDM)であり、残りが妊娠前糖尿病(pre-existing diabetes、1型糖尿病および2型糖尿病の両者を含む)である。多くの除外基準が設定されており(詳細は論文を参照されたい)、低リスク妊婦のみが対象となっている。対象患者は妊娠36週から搾乳する群と対照群に無作為に分けられたが、試験デザインから盲検化は不可能であり、データ回収、解析などを盲検化したPROBE(Prospective Randomized Open Blinded-Endpoint)法に近い方法が用いられた。 その結果、出生児のNICUへの入院率は両群に有意差はなく、出産前搾乳は低リスク糖尿病妊婦において安全に実施できると考えられた。ただし著者らが強調しているように、この試験の結果は多くの除外基準をクリアした低リスク妊婦のみに適用可能であり、すべての糖尿病妊婦に適用できるかは現時点では不明である。 本試験は、これまで慣習として広く実施されてきた医療行為(糖尿病妊婦における出産前搾乳)を臨床的疑問として定式化し、因果関係を証明するのに最も適切であるRCTを用いてその有益性を明らかにした。臨床的疑問の定式化はEBMの第一歩であるが、これは既存のエビデンスに基づいて眼前の臨床的疑問を解決する第一歩であるのみならず、自ら新たなエビデンスを創造するための第一歩でもある。本論文を読んで筆者はそれを再認識させられた。

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【GET!ザ・トレンド】日本発のエビデンスを量産する:日本臨床疫学会

EBMのよりいっそうの発展、日本発のエビデンスの量産を目指す日本臨床疫学会の第1回年次学術大会が、2017年9月30日~10月1日に開催される。第1回大会長の東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻臨床疫学・経済学教授の康永秀生氏に臨床研究の重要性について聞いた。本邦の臨床研究の現状と問題点について教えていただけますか日本の臨床研究は、米国や英国に比べて立ち遅れているといえます。これには日本の医学の歴史的背景も関与しています。日本の医学は明治以降ドイツから輸入されましたが、ドイツの医学教育は基礎実験重視でした。その流れは現在も続き、臨床の研究室でも、基礎実験研究で博士論文を書くことがほとんどという状況です。2000年代に入り、米国発のEBMの概念が日本に普及し、臨床研究が重要視され始めました。しかし、日本ではEBM研究をどのように実践していくのか、EBMの基となる臨床研究をどうやっていくのか、臨床研究の教育の担い手が育っていませんでした。そのため、日本人対象の日本発のエビデンスはいまだに少なく、海外エビデンスに依存して日常臨床を実践しなければならないという現状です。これが日本の医療が直面する問題だと思います。日本臨床疫学会を設立した背景はどのようなものですか?医学部の教育カリキュラムの中で臨床研究に割ける時間はほとんどありません。とはいえ、臨床研究は、実臨床の試行錯誤の中から出てくるクリニカルクエスチョンから始まりますので、卒業後に行うほうが適しています。そういう意味でも、臨床研究の教育は、大学院が行うべきものだといえます。しかし、教育を担うべき公衆衛生大学院(SPH:School of Public Health)を有する医学部はほんの一部であり、受け皿としては不足しています。また、臨床を離れて授業料を払いながら学ぶのは負担が大き過ぎます。大学院教育のような濃密なカリキュラムでなく、診療の休みにじっくり勉強するような受け皿が必要です。それには、学会という受け皿を作り、研究者のすそ野を広げることが必要となります。そのような経緯で、福原俊一先生を代表理事として、国内の臨床疫学者を中心に「日本臨床疫学会」を設立しました。学会のキャッチフレーズは「臨床研究で医療を元気にする」です。EBMのよりいっそうの発展、日本発のエビデンスの量産を目指しています。臨床研究を実践したいという人すべてを受け入れる、この大きなコンセプトの下、診療科横断的な医師、そして看護師、薬剤師、理学療法士などのメディカルスタッフなど幅広い方々が参加されています。臨床疫学会は、本年、第1回学術大会を開催されますね。私が大会長となり、本年の9月30日~10月1日に第1回の学術集会を開催します。大会テーマは、「天地開闢」。無に近い日本の臨床研究に新たなものを作り出していく、という想いを込めています。大会では、日本の臨床研究の第一人者がそろい、教育的セッションを中心に行います。臨床研究と臨床試験を同じものだと勘違いされている方が多いのですが、介入試験である臨床試験は臨床研究の1割程度に過ぎず、残りの9割は観察研究です。従来、臨床研究はRCTなどの臨床試験に重点が置かれていましたが、若手の先生方が最初に取り組むべきは、多くの資金を必要とする臨床試験よりも、観察研究でしょう。診療録、電子カルテ、レセプトなど自分が手に入るデータベースを用いてアイデアをひねり、研究デザインを考え、統計手法を使って解析し、論文化する、という観察研究のプロセスを、学会を通して学んでいただきたいと思います。現実には臨床疫学や統計学を苦手としている臨床の先生方はまだ多いようですね?臨床疫学、統計学のハードルが高いと感じている臨床の先生方は多いようです。しかし、これらはきちんと学習する機会があれば必ず習得できるものです。ただ、教科書や、座学の教育で身に付けることは難しく、インタラクティブな教育が必要になります。今回の学術大会でも、チューター指導の下、実際のデータを使って統計ソフトの使い方や統計手法のロジックを学ぶ、参加型の統計学教育セッションや、参加者自身がテーマを考え、研究方法を練り上げていく、研究実践ワークショップを企画しています。臨床研究の発展には、大学院での教育の充実に加え、学会などを通じて、臨床家が日常臨床を行いながら習得できる卒後教育プログラムの提供が重要だと思います。こうした積み重ねが日本発の良質なエビデンスを量産できる日を生むのだと思います。1)日本臨床疫学会 第1回年次学術大会■関連記事来たれ!リサーチ・マインドを持つ医療者…日本臨床疫学会 第1回大会開催

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46ヵ国の喘息死亡動向、2006年以降変化なし/Lancet

 WHO死亡データベースから、46ヵ国における1993~2012年の喘息死亡の動向について、ニュージーランド・Medical Research InstituteのStefan Ebmeier氏らが分析し、結果を発表した。同死亡率は1980年代後半から減少傾向がみられるが、2006年以降5~34歳の同死亡率の明らかな変化はみられないという。結果を踏まえて著者は、「推奨ガイドライン適用で喘息死亡の約半数は回避可能だが、それには確立されたマネジメント戦略のより良好な実施が必要である。一方で、喘息死亡のさらなる実質的な減少には、新たな戦略も必要かもしれない」と述べている。Lancet誌オンライン版2017年8月7日号掲載の報告。5~34歳の喘息死亡率を照合 研究グループは、WHOのオンライン死亡データベースから、46ヵ国の5~34歳の年齢標準化・国別の喘息死亡率を照合した。解析包含の条件は、各国が1993~2012年のうち10年間の完全データを有していることとした。整合性がとれた正確な喘息有病率と処方データがない場合、LOESS(locally weighted scatter plot smoother)曲線を用いた。5~34歳群の各国人口に重み付けを行い、喘息死亡率の世界的な動向を経時的に示した。 解析には46ヵ国を包含した。そのうち36ヵ国は高所得国、10ヵ国は中所得国であった。2006年と2012年の死亡率に明らかな変化なし 世界的な喘息死亡率のLOESS推定値は、1993年には人口10万当たり0.44(90%信頼区間[CI]:0.39~0.48)であったが、2006年は同0.19(0.18~0.21)であった。 2006~2012年にかけて、一部の国および地域では明らかなさらなる低下が認められたが、2012年の世界の喘息死亡率のLOESS推定値は人口10万当たり0.19(90%CI:0.16~0.21)であり、全体的には明らかな減少は認められなかった。 なお、日本の動向分析には1995~2011年のデータが用いられており、LOESS推定値は、1995年0.65、2006年0.13、2011年0.06となっている。

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メタ解析の陰と陽(解説:香坂 俊 氏)-709

今回の【Yu氏らによるメタ解析】そのものは、直近に公表されたSAVES試験(2016年)の結果とかぶるものであり、睡眠時無呼吸に対して陽圧換気が(予後改善に)効果がなかったという内容だ。簡単にその流れをまとめると●睡眠時無呼吸は(おそらくは頻回の交感神経系の賦活化を通じ)高血圧や耐糖能異常 を惹起し、動脈硬化疾患の発症とも関連していることがわかっている●それならば陽圧換気で治療を行えば、こうした患者さんたちの予後を改善できるので はないか、と考えることは自然なことのように思われた●しかし、実際にRCTをやってみると陽圧換気は症状(日中の眠気や頭痛等)は改善し たものの、その後の心血管イベントは抑制しなかったということになる。驚くべき結果ではあるが、SAVESですでにわかっていることをなぜ今さらという気がしなくもない(実際、今回の論文の著者のうち数名はSAVESのinvestigatorでもある)。そして、今回のメタ解析の40%弱はSAVESに由来するものであることを考えると「同じような研究グループが、ある程度かぶったデータを使って、結局同じことを言いたいだけではないのか?」と勘繰りたくもなる。(1)このメタ解析のPositiveな側面上記のような勘繰りはよそに、まず「このメタ解析を読んでよかった」というところを最初に書いておこうと思う。・全体でみると陽圧換気のメリットはなかったが、メリットのありそうな患者群を提示することができた(論文中の図4)・具体的には、(1)追跡期間が長ければ長いほど、(2)陽圧換気のコンプライアンスが良いほど、さらに(3)重症であればあるほど(無呼吸低呼吸指数[AHI]が高いほど)陽圧換気の効果が高いことが示されている・すなわち、これまで行われたRCTは(1)期間が短すぎ、(2)コンプライアンスにばらつきがありすぎ、さらに(3)軽症例を対象としすぎていた可能性がある実際、この論文に付随するEditorialのタイトルには「(陽圧換気に関する結論を出すには)It Is Far Too Soon to Say」と書かれている。(2)このメタ解析のNegativeな側面このメタ解析を掲載したJAMA誌は多大な恩恵を受ける。SAVESは1年弱ですでに130回引用されている(2017年8月6日時点)。しかし、おそらく今後同じ分野の研究者はこちらのメタ解析の結果を、彼/彼女らの論文に引用するだろう。すると、同誌のインパクトファクター[IF]の上昇に貢献できる。IFは単純な指標ではあるが、現在雑誌のreputation(名声度?)に非常に大きな影響を持つようになっている。自分はかねて、なぜ主要雑誌はこうした学術的にあまり新規性のないメタ解析の出版を続けるのか疑問に思っていたが、こうした雑誌の政治的、あるいは戦略的な側面からの考え方というものもあるのではないかと推測している(これは本論文が、SAVESが掲載されてから8ヵ月でアクセプトされるというスピードの速さにも表れている)。(3)自分なりのメタ解析の読み方メタ解析という手法は長い歴史をもち、古典的なEBMの世界では、各種推奨の根拠の頂点に位置するものとされてきた。ただ、ここ数年でずいぶんそのあり方も変わってきたように思える。今回は、陽圧換気に関するYu氏らの論文を基にして最近のメタ解析の【良い点】と【学術誌に利用されやすい点】を取り上げてみたわけだが、今後メタ解析の手法はさらに高度化・複雑化していくことが予想される。臨床の現場の人間としては、メタ解析だからといって画一的に過大評価せず、そのリサーチクエスチョンに応じて弾力的に解釈していく必要があるだろう。

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【JSMO2017見どころ】緩和・支持療法

 2017年7月27日(木)から3日間にわたって、第15回日本臨床腫瘍学会学術集会が開催される。これに先立ち先月、日本臨床腫瘍学会(JSMO)のプレスセミナーが開かれ、プレナリーセッションをはじめ、「免疫・細胞療法」「Precision medicine」「AYA世代のがん治療」「緩和・支持療法」の4つのテーマにおける注目トピックが紹介された。 このうち、「緩和・支持療法」については西森 久和氏(岡山大学病院 血液・腫瘍内科 助教)が登壇した。以下、西森氏のコメントと注目演題を紹介する。【西森 久和氏コメント】 緩和・支持療法とは、がんに伴うさまざまな苦痛や症状、抗がん薬の副作用などを和らげるための治療である。がんを告知された患者さんは、がんに伴う痛みだけでなく、精神的にも不安やいらだちを感じ、社会的にも仕事を継続できなくなるなどの問題を抱えており、医療者は「苦痛」を全人的に捉えたうえで、サポートをしていく必要がある。がん対策基本法での緩和ケアの推進により、よりよい緩和医療が提供されるようになってきているが、いまだ不十分な点も多いのが現状といえる。本学会では、最新の緩和ケアに関するトピックスに加え、現状を直視したうえでよりよい方向性を見出すためのシンポジウムを数多く準備している。 医学の進歩により、さまざまな抗がん薬が開発され、それに伴う副作用も多様化している。一般的な抗がん薬による治療のイメージは、吐き気や嘔吐がつらい、脱毛など美容上の問題がある、などネガティブなものが多いかと思われるが、新しい制吐薬の開発など支持療法の分野も進歩しており、より効果的な抗がん薬をより安全に、やさしく患者さんに投与できる時代になってきている。本学会では支持療法に関しても、エビデンスに基づき患者さんの生活の質を保つことのできる情報を多く提供する予定である。 また、会期中神戸国際会議場では「患者・家族向けプログラム~いつでも、何処でも、最適のがん医療を受けるために~」が開催され、その模様がJunko Fukutake Hall(岡山大学鹿田キャンパス)でライブ中継される。各日午後には、両会場で相互交流を図る患者発のプログラムが予定されており、医療者にとっても「患者目線」を知ることができる機会となっている。 【注目演題】合同シンポジウム(日本緩和医療学会 / 日本臨床腫瘍学会)「緩和ケアに関わるガイドラインの変更と解説」日時:7月28日(金)10:20~12:20場所:Room 4(神戸国際展示場1号館2F Hall A)セミプレナリーセッション「「予後2年」の望ましい伝え方:どのようながん患者がどのような台詞を好むか?」日時:7月29日(土)8:20~10:20場所:Room 4(神戸国際展示場1号館2F Hall A)シンポジウム「症状スクリーニングと緩和治療―早期からの緩和ケアを目指して―」日時:7月27日(木)14:50~16:30 場所:Room 3(神戸国際展示場2号館1F コンベンションホール北)「口腔のケア・がん口腔支持療法を推し進めるために―論拠に基づいた実践を目指して」日時:7月28日(金)8:20~10:20場所:Room 5(神戸国際展示場1号館2F Hall B)「口腔のケア・がん口腔支持療法を推し進めるために―人材を養成する体制から在り方を問う」日時:7月28日(金)10:20~12:20 場所:Room 5(神戸国際展示場1号館2F Hall B)「Whole Person Care 〜 Care for cancer patients 〜」日時:7月28日(金)17:00~18:30 場所:Room 4(神戸国際展示場1号館2F Hall A)「チームで取り組む分子標的薬の副作用マネジメント 患者へベネフィットをもたらす支持療法」日時:7月29日(土)10:20~12:20 場所:Room 2(神戸国際展示場2号館1F コンベンションホール南)「外来がんリハビリテーション エビデンス&プラクティス」日時:7月29日(土)15:00~17:00場所:Room 2(神戸国際展示場2号館1F コンベンションホール南)ワークショップ「緩和ケア病棟転院時の患者・家族の見捨てられ感について~安心して転院できますか」日時:7月27日(木)9:20~11:00 場所:Room 3(神戸国際展示場2号館1F コンベンションホール北)「がん治療中の患者の decision making のサポート―がん治療する?しない?―」日時:7月27日(木)13:00~14:40 場所:Room 3(神戸国際展示場2号館1F コンベンションホール北)教育講演「がん患者とのコミュニケーション」日時:7月27日(木)14:00~14:30場所:Room 10(神戸国際会議場1F メインホール)「緩和ケアにおける EBM」日時:7月29日(土)9:20~9:50 場所:Room 10(神戸国際会議場1F メインホール)「がん化学療法後のB型肝炎ウイルス再活性化のリスクとその対策」日時:7月29日(土)9:50~10:20 場所:Room 10(神戸国際会議場1F メインホール)「がん連携における在宅支持療法」日時:7月29日(土)10:20~10:50 場所:Room 10(神戸国際会議場1F メインホール)「がんのリハビリテーション」日時:7月29日(土)10:50~11:20 場所:Room 10(神戸国際会議場1F メインホール)「がん患者の家族へのサポート」日時:7月29日(土)11:20~11:50 場所:Room 10(神戸国際会議場1F メインホール)【第15回日本臨床腫瘍学会学術集会】■会期:2017年7月27日(木)~29日(土)■会場:神戸コンベンションセンター、Junko Fukutake Hall(岡山大学鹿田キャンパス)■会長:谷本 光音氏(岡山大学大学院 血液・腫瘍・呼吸器内科 特任教授)■テーマ:最適のがん医療— いつでも、何処でも、誰にでも —第15回日本臨床腫瘍学会学術集会ホームページはこちら

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ネット購入可とした薬剤の安全性懸念にどう対処するか?(後藤 信哉 氏:解説)-633

 英国の医療システムは、米国よりも日本に近い。日本では、健康保険システムの支払いを受けるために医療機関は医療経済データベースの構築に寄与せざるを得ない。レセプト電算化により医療経済データベースはさらに充実すると想定される。しかし、「厚生労働省英文発表課」などがないので、蓄積された情報が広く英文論文として発表される仕組みがない。日本の医療は均質、かつ自動的に質が高いデータベースが構築されるのに世界の診療ガイドラインに影響を及ぼすことがない。 英国でも、電子カルテの情報は本邦の支払基金のように各地域ごとに集積される。経済情報のみならず、リスク因子、薬剤服用、臨床アウトカム情報も集積される。筆者も完全には理解していないが、University College of London, Oxford大学、Birmingham大学などは、これらの診療情報を英文論文として定期的に発表している。日本以外の各国では静脈血栓塞栓症はまれな疾病ではない。入院して動かなくなるだけで静脈血栓ができる体質の人も多い。膨大なデータベースが集積されている英国では、1万9 ,215例の静脈血栓塞栓症と年齢を調整した90万9, 530例もの大規模なコントロールの比較研究が可能となる。日本でも全国のレセプト情報を使えば、人口規模から考えれば英国よりも大規模な観察研究、ケースコントロール研究は容易にできると想定される。「英文での論文発表」が世界の「標準治療」を決めるEBMの世界は、大規模なデータベースを発信できる国が主導する。日本には世界を主導するチャンスがあった。 エストロゲン使用時の静脈血栓リスク増加は広く知られた問題である。性ホルモンの分泌は加齢とともに低下するので、血栓イベントが高齢者に多い状況にてテストステロンが静脈血栓リスクとなるとの仮説を思いつくのは難しい。実際、本邦ではテストステロン製剤はインターネット販売も可能な第1類医薬品とされている。処方薬であれば薬剤の安全性情報は医師を通じて患者に届く。今回は観察研究とはいえ、英国の大規模臨床研究の結果である。使用開始後6ヵ月にて血栓リスクが高いというのは英国において事実と理解される。第1類医薬品の安全性情報をどのように薬剤使用者に届けるのか? 日本には早速課題が生まれた。第1類医薬品をネット購入した場合でも薬剤師の確認が入る。広告規制よりは専門家を通じた情報共有が好ましいとも思われる。静脈血栓塞栓症が時に致死的な疾病だけに、リスクの社会との共有法を考えるよい機会である。 グローバル化は経済にとどまらない。国家の規制があっても、海外の情報は容赦なく入ってくる。第1類医薬品としてのテストステロンが静脈血栓塞栓症リスクを増加させることが事実であった場合、英国から発信された情報は企業を通じて市場に公表するか? 日本人と英国人は異なるとして無視するか? 日本でも同様の調査を早急に行って情報の類似性を確認するか? 選択肢は多いが決めるのは難しい。 他国から影響を受けるよりも他国に影響を与えるほうが好ましいと私は考えるので、日本の医療データベースを自動的に英文論文化して公表するシステムを作るのが得と私は考える。

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正直驚いたNEJMにおける心房細動合併PCI例の標準治療の設定…(解説:後藤 信哉 氏)-623

 EBMは「平均的症例」の「標準治療」の確立に役立つ。ばらつきが大きく「平均的症例」の幅が広い場合にランダム化比較試験を行っても、その結果の臨床的インパクトは乏しい。抗凝固療法が勧められる症例は「脳卒中リスクを伴う心房細動」であり、抗血小板薬併用療法が勧められるのは「PCI/Stent留置後」の症例である。抗凝固療法による重篤な出血合併症は年率2~3%であり、抗血小板薬併用療法による重篤な出血合併症は年率1%程度である。各々、単独でも100例のうち数例が重篤な副作用を起こす医療介入の決断は苦しい。PCI/Stent後は、1年以上→1年→6ヵ月と推奨期間が短縮しているので、絶対的な出血イベントリスクは減少している。脳卒中リスクは加齢と共に増加するので、一度抗凝固療法を始めてしまうと出血リスクを長期に引きずることになる。PCI/Stent後の抗血小板療法は、併用療法からクロピドグレルないし相同薬(プラスグレル、チカグレロル)単独への流れはあるが、抗血小板薬なしの選択は厳しい。「心房細動と脳卒中リスクを合併した」「PCI/Stent症例」では、一定期間のクロピドグレルないし相同薬を必須として、その後の併用薬を考えることになる。適応症のほかに医師の裁量を考えれば、日本には25 mgのクロピドグレルの錠剤がある。欧米と異なり、個別調整が可能である。プラスグレルの場合には、世界の1/3量が日本の推奨用量でもある。最小限の基盤治療さえ標準化できない状況でのランダム化比較試験の目的の設定は、きわめて困難である。 最近、悪者になりがちなワルファリンはPT-INRに応じた個別最適化が可能である。PT-INR 2~3を標的としたワルファリン治療を仮の標準治療として、各種NOACの開発試験が施行されたが、各種NOAC試験はINR 2~3を標的としたワルファリン治療による重篤な出血合併症が3%程度と、実臨床との解離を示した。実臨床では、PT-INR 2前後を標的とした医師もいれば、INR 1.6程度を標的とした医師もいる。アジア地区のPT-INRのコントロールは、実態として1.5~2程度であることも示されている1)。抗凝固薬のアームは、ワルファリンでも標的PT-INRの設定を標準化できない。抗血小板薬併用療法にて十分に出血イベントが起こることを経験している臨床医は、現実には低い標的PT-INRを設定していると想定されるが、実態のデータもない。過去に「標準治療」が確立されていない段階ではランダム化比較試験を施行しても、その結果を将来の「標準治療の転換」には利用できない。ヤンセン、バイエルが試験の「スポンサー」であるが、将来の「標準治療の転換」、適応拡大につながらない可能性のある試験への投資は難しかったと想定される。 抗血小板薬による出血リスクの増加を当然のこととして、抗凝固薬を減量するのは当然の発想である。しかし、ワルファリンではあえて、「脳卒中リスクを有する心房細動」にて十分に出血したPT-INR 2~3を標的とした。しかし、「スポンサー」が売っているリバーロキサバンは減量した。世界では「脳卒中リスクを有する心房細動」には20mgを使用するが、15mgに減量した。出血を恐れている以外の理由が考えられるだろうか? 出血を恐れるのであれば、なぜワルファリンのPT-INRの標的を下げなかったのであろうか? 日本では適応を取得していないが、欧州では過去のATLAS-TIMI 51試験の結果に基づき、2.5mg×2/日のリバーロキサバンが急性冠症候群に承認されている。急性冠症候群の心血管イベントが減少し、出血イベントは増えることが2.5mg×2/日のリバーロキサバンでも示されているので、この用量にて「脳卒中リスクを有する心房細動」の心原性脳血栓塞栓を予防できれば、そこには新規性がある。 筆者は「標準治療」が確立されていない領域での「仮の標準治療」設定時には、試験の最初から終了まで一貫して当初の仮定が「仮の標準治療」であることを、著者、読者、共に理解しなければならないと思う。本試験にて「仮の標準治療」とされた抗血小板薬併用療法とPT-INR 2~3を標的としたワルファリン治療の組み合わせは、一般的な「脳卒中リスクを有する心房細動」に「PCI/Stent」をするときに、INR 2~3を標的としたワルファリンと抗血小板薬併用療法を併用すると、臨床的に意味のある出血イベントが年率27%も起こるとされた。New Engl J Medのような一流雑誌であっても、「仮の標準治療」とされるべきPT-INR 2~3を標的としたワルファリンと抗血小板薬併用療法の併用を「standard of therapy」と記載している。確立された「標準治療」のない領域にて「仮の標準治療」を設定するのは危険である。本試験の結果を拡大解釈しないように賢く対応することが重要と、筆者は考える。

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