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バッド・キアリ症候群〔BCS:Budd-Chiari Syndrome〕

1 疾患概要バッド・キアリ症候群(Budd-Chiari Syndrome:BCS)とは、肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群をいう。わが国では両者を合併している病態が多い。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す1)。■ 概念・定義肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群。■ 疫学2004年の年間受療患者数(有病者数)の推定値は、190~360人である(2005年全国疫学調査)。男女比は約1:0.7とやや男性に多い。確定診断時の年齢は、20~30代にピークを認め、平均は約42歳である2)。2013年の門脈血行異常症に関する定点モニタリング調査では、発症時平均年齢が32.2歳、診断時平均年齢が44.7歳であった3)。■ 病因本症の病因は明らかでない例が多く、わが国では肝部下大静脈膜様閉塞例が多い。肝部下大静脈の膜様閉塞や肝静脈起始部の限局した狭窄や閉塞例は アジア、アフリカ地域で多く、欧米では少ない。発生は、アランチウス静脈管の異常をもとに発症するとする先天的血管形成異常説が考えられてきた。最近では、本症の発症が中高年以降で多いこと、膜様構造や肝静脈起始部の狭窄や閉塞が血栓とその器質化によって、その発生が説明できることから後天的な血栓説も考えられている。これに対して欧米では、肝静脈閉塞の多くは基礎疾患を有することが多い。基礎疾患としては、血液疾患(真性多血症、発作性夜間血色素尿症、骨髄線維症)、経口避妊薬の使用、妊娠出産、腹腔内感染、血管炎(ベーチェット病、全身性エリテマトーデス)、血液凝固異常(アンチトロンビンIII欠損症、protein C欠損症)などが挙げられる。多くは発症時期が不明で慢性の経過(アジアに多い)をたどり、うっ血性肝硬変に至ることもあるが、急性閉塞や狭窄により急性症状を呈する急性期のBCS(欧米に多い)もみられる。アジアでは下大静脈の閉塞が多く、欧米では肝静脈閉塞が多い。分類として、原発性BCSと続発性BCSとがある。原発性BCSの病因はいまだ不明であるが、血栓、血管形成異常、血液凝固異常、骨髄増殖性疾患の関与が疑われている。続発性BCSを来すものとしては肝腫瘍などがある。■ 症状BCSは発症形式により急性型と慢性型に分けられる。急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大および腹水にて発症し、1~4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、わが国ではきわめてまれである。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す3)。■ 分類1)病型杉浦らは本症の病型を以下の4つに分類している(図1)4)。図1 BCSの病型画像を拡大する(文献4より引用改変)I型:横隔膜直下の肝部下大静脈の膜様閉塞例、このうち肝静脈の一部が開存する場合をIa、すべて閉塞している場合をIbII型:下大静脈の1/2から数椎体にわたる完全閉塞例III型:膜様閉塞に肝部下大静脈全長の狭窄を伴う例IV型:肝静脈のみの閉塞例出現頻度は各々34.4%、11.5%、26.0%、7.0%、5.1%と報告がある。2)発症形式発症形式により急性型と慢性型に分けられる。上記の症状でも既述したが、急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大および腹水にて発症し、1~4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、わが国ではきわめてまれである。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。わが国においては慢性型が典型例として考えられている。■ 予後慢性の経過をとる場合、うっ血性肝硬変に至る。また、病状が進行すると肝細胞がんを合併することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準本症は症候群として認識され、また病期により病態が異なることから一般検査所見、画像検査所見、病理検査所見によって総合的に診断されるべきである。確定診断は、造影CTや肝静脈造影による下大静脈・肝静脈閉塞(狭窄)と、肝臓の病理組織学的所見に裏付けされることが望ましい。1)一般検査所見血液検査:1つ以上の血球成分の減少を示す。肝機能検査:正常から高度異常まで重症になるにしたがい、障害度が変化する。内視鏡検査:しばしば上部消化管の静脈瘤を認める。門脈圧亢進症性胃腸症や十二指腸、胆管周囲、下部消化管などにいわゆる異所性静脈瘤を認めることがある。2)画像検査所見(1)超音波、CT、MRI、腹腔鏡検査肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄が認められる(図2)。超音波ドプラ検査では肝静脈主幹や肝部下大静脈流ないし乱流が見られることがあり、また、肝静脈血流波形は平坦化あるいは欠如することがある。脾臓の腫大を認める。肝臓のうっ血性腫大を認める。とくに尾状葉の腫大が著しい。肝硬変に至れば、肝萎縮となることもある。図2 BCSの腹部造影CT(門脈相)像画像を拡大する2A:水平断、2B:冠状断、2C:矢状断。肝部レベルで下大静脈が高度狭窄している(矢印)。肝静脈の3主幹および分枝も閉塞し、造影されない。肝内は粗雑化し、硬変様に変化し、肝表に腹水も見られる。また、肝内に腫瘍性病変も出現している(矢頭)。(2)下大静脈、肝静脈造影および圧測定肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄を認める(図3)。肝部下大静脈閉塞の形態は膜様閉塞から広範な閉塞まで各種存在する。また、同時に上行腰静脈、奇静脈、半奇静脈などの側副血行路が造影されることが多い。著明な肝静脈枝相互間吻合を認める。肝部下大静脈圧は上昇し、肝静脈圧や閉塞肝静脈圧も上昇する。図3 BCSの下大静脈造影像画像を拡大する右大腿静脈からカテーテルを入れて造影した。肝部下大静脈の一部分が完全に狭窄化し、血流がほとんど途絶している。3)病理診断(1)肝臓の肉眼所見急性期のうっ血性肝腫大、慢性うっ血に伴う肝線維化、さらに進行するとうっ血性肝硬変となる。(2)肝臓の組織所見急性のうっ血では、肝小葉中心帯の類洞の拡張が見られ、うっ血が高度の場合には中心帯に壊死が生じる。うっ血が持続すると、肝小葉の逆転像(門脈域が中央に位置し、肝細胞集団がうっ血帯で囲まれた像)や中心帯領域に線維化が生じ、慢性うっ血性変化が見られる。さらに線維化が進行すると、主に中心帯を連結する架橋性線維化が見られ、線維性隔壁を形成し、肝硬変の所見を呈する。■ 重症度分類表に重症度分類を示す。画像を拡大する● 重症度重症度I:診断可能だが、所見は認めない。重症度II:所見を認めるものの、治療を要しない。重症度III:所見を認め、治療を要する。重症度IV:身体活動が制限され、介護も含めた治療を要する。重症度V:肝不全ないしは消化管出血を認め、集中治療を要する。● 付記1.食道・胃・異所性静脈瘤(+):静脈瘤を認めるが、易出血性ではない。(++):易出血性静脈瘤を認めるが、出血の既往がないもの。易出血性食道・胃静脈瘤とは『食道・胃静脈瘤内視鏡所見記載基準(日本門脈圧亢進症研究会)』『門脈圧亢進症取扱い規約(第3版、2013年)』に基づき、F2以上のもの、またはF因子に関係なく発赤所見を認めるもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。(+++):易出血性静脈瘤を認め、出血の既往を有するもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。2.門脈圧亢進所見(+):門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、出血傾向、脾腫、貧血のうち1つもしくは複数認めるが、治療を必要としない。(++):上記所見のうち、治療を必要とするものを1つもしくは複数認める。3.身体活動制限(+):当該3疾患による身体活動制限はあるが歩行や身の回りのことはでき、日中の50%以上は起居している。(++):当該3疾患による身体活動制限のため介助を必要とし、日中の50%以上就床している。4.消化管出血(+):現在、活動性もしくは治療抵抗性の消化管出血を認める。5.肝不全(+):肝不全の徴候は、血清総ビリルビン値3mg/dL以上で肝性昏睡度(日本肝臓学会昏睡度分類、第12回犬山シンポジウム、1981)II度以上を目安とする。6.異所性静脈瘤門脈領域の中で食道・胃静脈瘤以外の部位、主として上・下腸間膜静脈領域に生じる静脈瘤をいう。すなわち胆管・十二指腸・空腸・回腸・結腸・直腸静脈瘤、および痔などである。7.門脈亢進症性胃腸症組織学的には、粘膜層・粘膜下層の血管の拡張・浮腫が主体であり、門脈圧亢進症性胃症と門脈圧亢進症性腸症に分類できる。門脈圧亢進症性胃症では、門脈圧亢進に伴う胃体上部を中心とした胃粘膜のモザイク様の浮腫性変化、点・斑状発赤、粘膜出血を呈する。門脈圧亢進症性腸症では、門脈圧亢進に伴う腸管粘膜に静脈瘤性病変と粘膜血管性病変を呈する。■ 鑑別診断特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞症、肝硬変との鑑別を要する。BCSは進行すれば肝硬変に至り鑑別困難になることが多いが、肝静脈や下大静脈の閉塞・狭窄の有無がポイントとなる。閉塞部(狭窄部)を開存させる治療で症状の著明な改善が望まれる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞ないし狭窄に対しては臨床症状、閉塞・狭窄の病態に対応して、カテーテルによる開通術や拡張術、ステント留置あるいは閉塞・狭窄を直接解除する手術、もしくは閉塞・狭窄部上下の大静脈のシャント手術などを選択する。急性症例で、肝静脈末梢まで血栓閉塞している際には、肝切離し、切離面-右心房吻合術も選択肢となる。肝不全例に対しては、肝移植術を考慮する。門脈圧亢進の症候に対する治療法は以下のとおりである。■ 食道静脈瘤に対して1)食道静脈瘤破裂による出血中の症例では、一般的出血ショック対策、バルーンタンポナーデ法などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的硬化療法、内視鏡的静脈瘤結紮術などの内視鏡的治療を行う。上記治療によっても止血困難な場合は緊急手術も考慮する。2)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、または待期手術、ないしはその併用療法を考慮する。3)未出血の症例では、食道内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、または予防手術、ないしはその併用療法を考慮する。4)単独手術療法としては、下部食道を離断し、脾摘術、下部食道・胃上部の血行遮断を加えた「直達手術」、または「選択的シャント手術」を考慮する。内視鏡的治療との併用手術療法としては、「脾摘術および下部食道・胃上部の血行遮断術(Hassab手術)」を考慮する。■ 胃静脈瘤に対して1)食道静脈瘤と連続して存在する噴門部の胃静脈瘤に対しては、上記の食道静脈瘤の治療に準じた治療によって対処する。2)孤立性胃静脈瘤破裂による出血中の症例では一般的出血ショック対策、バルーンタンポナーデ法などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的治療を行う。上記治療によっても止血困難な場合は、バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)などの血管内治療や緊急手術も考慮する。3)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、B-RTOなどの血管内治療、または待期手術(Hassab手術)を考慮する。4)未出血の症例では、胃内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、血管内治療、または予防手術を考慮する。5)手術方法としては「脾摘術および胃上部の血行遮断術(Hassab手術)」を考慮する。■ 異所性静脈瘤に対して1)異所性静脈瘤破裂による出血中の症例では、一般的出血ショック対策などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的治療を行う。 上記治療によっても止血困難な場合は、血管内治療や緊急手術を考慮する。2)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、血管内治療、または待期手術を考慮する。3)未出血の症例では、内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、血管内治療、または予防手術を考慮する。■ 脾腫、脾機能亢進症に対して巨脾に合併する症状(疼痛、圧迫)が著しいとき、および脾腫が原因と考えられる高度の血球減少(血小板5×104以下、白血球3,000以下、赤血球300×104以下のいずれか1項目)で出血傾向などの合併症があり、内科的治療が難しい症例では、部分的脾動脈塞栓術(partial splenic embolization:PSE)ないし脾摘術を考慮する。4 今後の展望國吉 幸男氏(琉球大学大学院 医学研究科 胸部心臓血管外科学講座)らが行っている直達手術(senning手術)が根治手術として有名であり、好成績をおさめている5,6)。肝移植も有効なことが多いが、ドナーの問題などから、わが国ではあまり行われていない。しかし、根治的治療として今後の期待がかかった治療法といえる。外科治療に至るまでの間に、カテーテル治療による閉塞部拡張術やステント挿入術(経頸静脈的肝内門脈静脈短絡術)が行われることもあり、良好な効果を得ている。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科、血管外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業) バッド・キアリ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Moriyasu F, et al. Hepatol Res. 2017;47:373-386.2)廣田良夫ほか. 2005年全国疫学調査. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業「門脈血行異常に関する調査研究」平成25年度研究報告書;2013.3)廣田良夫ほか. 門脈血行異常症に関する定点モニタリングシステムの構築. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業「門脈血行異常に関する調査研究」平成25年度研究報告書;2013.4)Okuda H, et al. J Hepatol. 1995;22:1-9.5)國吉幸男ほか, 日本心臓血管外科学会雑誌. 1991;20:919-921.6)Pasic M, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 1993;106:275-282.公開履歴初回2018年05月08日

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“2008年rosiglitazoneの呪い”は、いつまで続くのか?(解説:石上友章氏)-851

 2008年12月18日に、米国食品医薬品局(FDA)が出した通達によって、以後抗糖尿病薬については、心血管イベントをアウトカムにしたランダム化臨床試験(CVOT: cardiovascular outcome trial)を行うことが、義務付けられた。以来、これまでに抗糖尿病薬については、複数のCVOTが行われて発表されている。従来薬のCVOTの結果が非劣性にとどまることが多かったのに対して、SGLT2阻害薬を対象にした、EMPA-REG OUTCOME試験では、試験薬であるempagliflozin群に、心血管複合エンドポイント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)を有意に抑制する効果が証明された(エンパグリフロジン、心血管死リスクを有意に低下/NEJM)。心血管死については、約40%もの抑制が認められ、一躍脚光を浴びた。PPARγアゴニストの1つである、rosiglitazoneのもたらした教訓1)が、すべての抗糖尿病薬についてのCVOTを義務化させた。 Whiteらの手による、Cardiovascular Safety of Febuxostat and Allopurinol in Patients with Gout and Cardiovascular Morbidities (CARES)試験は、こうした背景の下、CVOTの適応を抗高尿酸血症薬にまで拡大した結果、行われた臨床試験である。新薬であるfebuxostatにおける、従来薬であるallopurinolに対する非劣性、すなわち安全性が証明された。CVOTについては、EMPA-REG OUTCOME試験のように、予期せぬ幸運のような、想定外の結果が得られる場合もあるが、例外的である。大規模ランダム化試験のコストは、薬価に反映されるのは間違いないので、CVOTの義務化にも功罪がある2,3)。市販後調査(観察研究)を効率化し、草の根のようなシステムを構築することで、より迅速に、より的確に、安全性・有効性についての情報を収集することで代用できるのではないか?

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日本未承認の抗がん剤は65剤、月1千万円超の薬剤も:国立がん研究センター

 国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉)先進医療・費用対効果評価室(室長:藤原 康弘)は2018年4月23日、2015年4月から公開している「国内で薬事法上未承認・適応外となる医薬品・適応のリスト」の最新集計結果(2018年4月4日現在)を公開した。 同リストは、米国食品医薬品局(FDA)および欧州医薬品庁(EMA)が承認した医薬品のうち、がん領域において日本では未承認あるいは適応外の医薬品と、その1ヵ月当たりの薬剤費を試算したもの。これまで四半期ごとに更新している。【集計結果のポイント】 ・2018年4月時点で、FDA / EMA既承認、日本未承認の抗がん剤はのべ65剤(55薬剤、65適応症)。うち、FDAのブレークスルー・セラピーに指定されている抗がん剤は18剤であった。・適応症の内訳は、血液がん30剤、泌尿器がん(前立腺がんなど)11剤、乳がん5剤、皮膚がん(悪性黒色腫など)4剤、骨軟部腫瘍(肉腫)3剤、肺がん(非小細胞肺がん)3剤、卵巣がん2剤、小児がん2剤が主なものであった。5大がん(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、肝がんあるいは子宮がん)のうち、上記の乳がん、肺がん以外のがんでは未承認薬はなかった。・血液がんに対する未承認薬では、新投与経路医薬品や新剤形医薬品などの、同一の有効成分がすでに国内で承認されている抗がん剤が7剤あった。これらを除く新有効成分含有医薬品は、23剤だった。FDA既承認の新有効成分含有医薬品20剤中、2015年以降に承認された抗がん剤は12剤あり、うち8剤は国内での開発が進められている。・泌尿器がんに対する未承認薬では、FDA既承認の8剤中2015年以降に承認された5剤は、いずれも国内での開発が進められている。・日本未承認の65剤の抗がん剤のうち、薬剤費が判明している58剤中45剤において1ヵ月当たりの薬剤費が100万円以上であった。また、1ヵ月当たりの薬剤費が1千万円を超える抗がん剤は3剤で、血液領域のCAR-T細胞療法が2剤、骨軟部腫瘍(肉腫)の免疫賦活薬が1剤だった。■参考国立がん研究センタープレスリリース

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早期NSCLC、ニボルマブによる術前免疫療法が有望/NEJM

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)の治療法には、過去10年間、ほとんど進展がないという。米国ジョンズ・ホプキンス大学のPatrick M. Forde氏らは、ニボルマブによる術前補助療法は副作用が少なく、計画された手術を遅延させず、切除腫瘍の45%に病理学的奏効をもたらしたとの研究結果を、NEJM誌オンライン版2018年4月16日号で報告した。早期肺がん患者では、PD-1経路の遮断により、宿主免疫の適合能が増大し、腫瘍のクローン不均一性が減弱するため、抗腫瘍効果が増強する可能性がある。また、原発巣は、腫瘍特異的T細胞の増殖と活性化、および微小環境の全身的な監視の抗原源として活用される可能性があるため、術前免疫療法は興味深いアプローチとされる。安全性と実行可能性を検証するパイロット試験 研究グループは、早期NSCLCにおけるニボルマブによる術前補助療法の安全性と実行可能性を評価するパイロット試験を実施した(Cancer Research Institute-Stand Up 2 Cancerなどの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、全身状態(ECOG PS)が0/1で、未治療の外科的切除が可能な早期NSCLC(StageI、II、IIIA)の患者であった。ニボルマブ(3mg/kg)は2週ごとに2回投与し、初回投与から約4週後に手術が計画された。 主要エンドポイントは安全性と実行可能性とした。また、原発巣の病理学的奏効、PD-L1の発現、遺伝子変異負荷、遺伝子変異関連のネオアンチゲン特異的T細胞応答の評価も行った。なお、ネオアンチゲンは、がん細胞の遺伝子変異に由来する、細胞傷害性Tリンパ球の標的となる抗原である。 2015年8月~2016年10月の期間に、米国の2施設に22例が登録された。PD-L1発現の有無にかかわらず奏効 全体の平均年齢は66.9±8.3歳、女性が11例(52%)であった。腺がんが62%、StageII/IIIAが81%、喫煙者/元喫煙者が86%を占めた。小細胞肺がん(SCLC)が見つかった1例は治療を中止した。 術前ニボルマブ療法による未知の毒性作用は認められなかった。治療関連有害事象は23%(5/22例、95%信頼区間[CI]:7.8~45.4)にみられたが、Grade3以上は1件のみだった。22例中20例が、計画された2回の投与を完遂した。 治療関連の手術の遅延は認めなかった。2回目の投与から手術までの期間中央値は18日(範囲:11~29)であり、21例中20例(95%)で腫瘍の完全切除が達成された。 切除された20個の腫瘍のうち9個(45%)で病理学的奏効(残存する活動性腫瘍の割合が10%以内)が得られた。3例では、病理学的完全奏効(活動性腫瘍なし)が達成された(1例は肺門リンパ節に腫瘍が残存)。原発巣の病理学的退縮率中央値は-65%であった。また、病理学的奏効例のうち、PD-L1陽性は3例、陰性は2例で、不明が4例だった。 治療前の遺伝子変異負荷の平均値は、病理学的奏効例が非奏効例に比べ有意に高く(p=0.01)、変異負荷はPD-1遮断による病理学的奏効の深さの重要な決定因子と考えられた。 評価が可能であった9例中8例で、腫瘍および末梢血の双方のT細胞クローン数が、ニボルマブ投与後に増加していた。また、病理学的完全奏効が得られた原発巣における遺伝子変異関連のネオアンチゲン特異的T細胞クローンは、治療後2~4週に末梢血で急速に増殖しており、これらのクローンには、ニボルマブ投与前の末梢血では検出されなかったものも含まれた。 著者は、「術前免疫チェックポイント遮断療法は、現在、乳がんやNSCLCの第III相試験など、さまざまながん種で検討が進められており、早期がんの再発抑制や治癒における術前PD-1遮断療法の役割を明らかにするには、これらの試験の長期的なフォローアップが必要である」としている。

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身体能力低下の悪循環を断つ診療

 2018年4月19~21日の3日間、第104回 日本消化器病学会総会(会長 小池 和彦氏[東京大学医学部消化器内科 教授])が、「深化する多様性~消化器病学の未来を描く~」をテーマに、都内の京王プラザホテルにおいて開催された。期間中、消化器領域の最新の知見が、シンポジウム、パネルディスカッション、ワークショップなどで講演された。 本稿では、その中で総会2日目に行われた招請講演の概要をお届けする。フレイル、サルコペニアに共通するのは「筋力と身体機能の低下」 招請講演は、肝疾患におけるサルコペニアとの関連から「フレイル・サルコペニアと慢性疾患管理」をテーマに、秋下 雅弘氏(東京大学大学院医学系研究科 加齢医学 教授)を講師に迎えて行われた。 はじめに高齢者の亡くなる状態を概括、いわゆるピンピンコロリは1割程度であり、残りの高齢者は運動機能の低下により、寝たきりなどの介護状態で亡くなっていると述べ、その運動機能の低下にフレイルと(主に一次性)サルコペニアが関係していると指摘した。 フレイルは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表し、要介護状態に至る前段階として位置付けられている(ただし、可逆性はあるとされる)。また、サルコペニアは「高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下」と定義される。両病態はお互いに包含するものであり、とくに筋力と身体機能の低下は重複する。フレイル、サルコペニアは世界初のガイドラインなどで診療 診療については、『フレイル診療ガイド 2018年版』と『サルコペニア診療ガイドライン 2017年版』が世界で初めて刊行され、詳しく解説されている(消化器領域では『肝疾患におけるサルコペニアの判定基準』により二次性サルコペニアの診療が行われている)。 フレイルの診断は、現在統一された基準はなく、一例として身体的フレイルの代表的な診断法と位置付けられている“Cardiovascular Health Study基準”(CHS基準)を修正した日本版CHS(J-CHS)基準が提唱され、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度、身体活動の5項目のうち3つ以上の該当でフレイルと判定される。スクリーニングでは、質問形式で要介護認定ともシンクロする「簡易フレイルインデックス」など使いやすいものが開発されている。 一方、サルコペニアも同様に統一基準はないが、Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)によってアジア人向けの診断基準が作られ、年齢、握力、歩行速度、筋肉量により診断されるが、歩行速度など、わが国の実情に合わない点もあり注意が必要という(先の二次性サルコペニアの診断ではCT画像所見による筋肉量の測定がある)。 また、両病態とも筋肉量の測定など容易ではないが、外来で簡単にできる「指輪っかテスト」なども開発され、利用されている。 治療に関しては両病態ともに、レジスタンス運動を追加した運動療法や、十分な栄養を摂る栄養療法が行われる。詳細は先述のガイドラインなどに譲るが、「タンパク質」の摂取を例に一部を概略的に示すと、慢性腎不全の患者では腎臓機能維持の都合上、タンパク質の摂取が制限されるが、その制限が過ぎるとサルコペニアに進んでしまう。そのため、透析に進展させない程度のタンパク質の摂取を許すなど、患者のリスクとベネフィットを比較、検討して決めることが重要という。薬剤が6種類を超えるとハイリスク 続いて「ポリファーマシー」に触れ、ポリファーマシーはフレイルの危険因子であり、薬剤数が6種類を超えるとハイリスクになると指摘する(5種類以上で転倒のリスクが増す)。また、6種類以上の服用はサルコペニアの発症を1.6倍高めるというKashiwa studyの報告を示すとともに、広島県呉市のレセプト報告を例に85~89歳が一番多くの薬を服用している実態を紹介した。 消化器領域につき、「食欲低下」では非ステロイド性抗炎症薬、アスピリン、緩下薬などが、「便秘」では睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、三環系抗うつ薬などが、「ふらつき・転倒」では降圧薬、睡眠薬・抗不安薬、三環系抗うつ薬などが関係すると考えられ、「高齢者への処方時は、優先順位を決めて処方し、非専門領域についても注意してほしい」と語った。とくに「便秘」は抗コリン薬が原因になることが多いという。また、「GERD」についてはH2ブロッカーが認知機能を低下させる恐れがあるため注意が必要であり、第1選択薬のPPIでも漫然とした長期使用は避けるなど、必要に応じた使い方が望ましいという。 まとめとして、高齢者の生活改善では「規則正しい食事」「排泄機能の維持」「適切な睡眠習慣」が大切で、とくに「食事は服薬のアドヒアランス維持のためにも気を付けてもらいたい」とその重要性を指摘した。最後に秋下氏は「フレイル、サルコペニアは、身体的な負の悪循環を形成することを理解してもらいたい」と述べ、レクチャーを終えた。■参考第104回 日本消化器病学会総会■関連記事ニュース 初の「サルコペニア診療ガイドライン」発刊

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COPDの3剤併用療法、2剤併用と比較/NEJM

 COPDに対する3剤併用療法(吸入ステロイド+LAMA+LABA)は、2剤併用療法(吸入ステロイド-LABA、またはLAMA-LABA)よりも有益なのか。米国・グラクソ・スミスクラインのDavid A. Lipson氏らによる第III相無作為化二重盲検並行群間試験「IMPACT試験」の結果、3剤併用療法(フルチカゾン+ウメクリジニウム+ビランテロール)は、2剤併用療法(フルチカゾン-ビランテロール、またはウメクリジニウム-ビランテロール)よりも、中等度~重度のCOPD増悪を有意に抑制したことが示された。また、COPDによる入院も低減したという。NEJM誌オンライン版2018年4月18日号掲載の報告。COPD患者1万355例が参加、中等度~重度COPD増悪の年間発生率を評価 IMPACT試験は2014年6月~2017年7月に、37ヵ国から被験者を募り行われた。登録されたのは、40歳以上、症候性COPDが認められる(COPDアセスメントテスト[CAT]スコア[範囲0~40、高スコアほどより症候性、臨床的に意味のあるスコア差は最低2]が10以上)、FEV1が予測正常値の50%未満および前年に中等度~重度のCOPD増悪を経験、またはFEV1が予測正常値の50~80%および前年に中等度の増悪2回もしくは重度の増悪1回を経験している患者であった。 COPD患者1万355例が参加し、1日1回投与の、フルチカゾン(吸入ステロイド)100μg+ウメクリジニウム(LAMA)62.5μg+ビランテロール(LABA)25μgの3剤併用療法を受ける群と、フルチカゾン-ビランテロール(それぞれ100μg、25μg)かウメクリジニウム-ビランテロール(それぞれ62.5μg、25μg)の2剤併用療法を受ける群に無作為に割り付けられ、52週間にわたる試験が行われた。いずれの療法も、エリプタ吸入器を用いた単回投与で行われた。 主要評価項目は、試験薬投与期間中における中等度~重度COPD増悪の年間発生率であった。3剤併用0.91件/年、吸入ステロイド-LABA 1.07件/年、LAMA-LABA 1.21件/年 主要アウトカムは、3剤併用群が0.91件/年であったのに対し、フルチカゾン-ビランテロール群は1.07件/年(3剤併用療法群との率比[RR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.80~0.90、差:15%、p<0.001)、ウメクリジニウム-ビランテロール群は1.21件/年(0.75、0.70~0.81、25%、p<0.001)であった。 重度増悪による入院の年間発生件数は、3剤併用療法群0.13件であったのに対し、ウメクリジニウム-ビランテロール群は0.19件であった(RR:0.66、0.56~0.78、差:34%、p<0.001)。フルチカゾン-ビランテロール群は0.15件であった(RR:0.87、0.76~1.01、13%、p=0.06)。 肺炎の発生は、ウメクリジニウム-ビランテロール(LAMA-LABA)群よりも、吸入ステロイドを用いた群で高率に認められた。また、臨床的に診断された肺炎のリスク(初回イベント発生までの時間で解析)は、ウメクリジニウム-ビランテロール(LAMA-LABA)群との比較において、3剤併用療法群で有意に高率であった(ハザード比:1.53、95%CI:1.22~1.92、p<0.001)。

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【GET!ザ・トレンド】小さじ10分の1の血液で、アルツハイマー病前臨床段階でのアミロイドβを検出(2)

CareNet.com会員からの質問に田中 耕一氏が回答今回の測定原理において、測定物質にどのような性質があると検出しやすいのでしょうか?まずイオン化しやすいもの、そして電気信号として検出できる物質です。分子量が15万もある抗体のような大きな物質をそのまま測る場合、イオンになったとしても電気信号として検出されるのは難しいのです。今回は、タンパク質ではなく分子量が5千程度のペプチドをバイオマーカーにできたことが、成功の大きな理由だと思います。今回の測定技術は、がんの早期診断に応用できますか?がんは遺伝子が傷つくことで発症しますが、質量分析は、その遺伝子からできるタンパク質だけでなく、代謝物などをも含む様々な化合物がどのくらい体に含まれているかを、早期に確認できます。すでに多くの研究機関でがんの早期診断の研究がなされています。さらにそれは、血液に限らず、尿や唾液など受診者に負担の少ない検体にも応用可能だと思います。ノーベル賞を受賞した当時から現在までに、国内企業での研究事情はどのように変化したと思われますか? 医学分野との融合についてはいかがでしょうか?田中氏が所長を務める島津製作所田中耕一記念質量分析研究所かつては、「質量分析で微量なものを測れるはずがない」という考えが、日本に根強くあったように思います。医学分野においても、成果が十分に伝わっておらず、ご理解いただけなかったこともあります。一方、海外では、すでに医学部と分析機器メーカーの共同研究が活発に行われていました。ただ、そういった状況も、2000年頃から変化し始めました。今では日本でも、質量分析の応用研究は加速度的に進み出しています。医療者に伝えたいことをお聞かせください。今回の研究で用いた質量分析器の前で、田中氏と金子氏東大阪、東京の墨田区、大田区などには、世界に誇る技術を持った企業がたくさんありますが、どうもモノ作りの旗色が悪いですね。優れた技術を医療に活かすには、コミュニケーションが重要だと思います。話し合う機会がないと、せっかくの基礎研究や応用研究がモノ作りに結び付きにくい。お互いをつなげられれば、医学界にも、分析機器を含めた製造業にとっても、意義深い。先進国はすべて高齢化の課題を抱えていますが、医工連携で日本は課題解決先進国になれる可能性が大いにあり、世界の方々に日本発の製品や技術を喜んで取り入れていただけるようになると思っています。

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日本の初年度レジデント、長時間労働とうつ病との関連

 日本のレジデントは、メンタルヘルスの問題を抱えている人が少なくない。これまでの研究では、長時間労働がうつ病などのストレス反応の原因である可能性が報告されている。また、労働時間が80時間/週以上と80時間/週未満のレジデントを比較した研究も報告されている。しかし、多くのレジデントは、臨床研修、トレーニング、自己学習などのため、実質的には100時間/週以上の超長時間労働に至っている。このような超長時間労働に関する報告は、これまでほとんど行われていなかった。筑波大学の小川 良子氏らは、初年度レジデントの労働環境とストレスの程度を評価し、とくに超長時間労働群における長時間労働とうつ病との関連を調査した。BMC medical education誌2018年3月27日号の報告。 対象は、2011年に研修病院250施設に採用された初年度レジデント1,241例。レジデント開始時および3ヵ月時に、人口統計、うつ症状、研修状況(労働時間、睡眠、自由時間、夜勤シフトなど)に関するデータを収集するため、自己報告アンケートを用いた。うつ症状は、うつ病自己評価尺度(CES-D:Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・平均労働時間は、79.4時間/週であり、労働時間が100時間/週以上であったのは97例(7.8%)であった。・3ヵ月時において、臨床的に有意なうつ症状が報告されたのは、100時間/週以上労働していたレジデントの45.5%であった。この割合は、労働時間が60時間/週未満のレジデントよりも有意に高かった(p<0.001)。・多変量ロジスティック回帰分析では、うつ症状発症リスクは、労働時間が60時間/週未満のレジデントと比較し、80~99.9時間/週で2.83倍、100時間/週以上で6.96倍高かった。 著者らは「過度な長時間労働は、うつ症状発症と有意な関連が認められた。レジデントの労働時間を適切に管理することは、身体的および精神的な健康を維持し、レジデントによるケアの質を向上させるために重要である」としている。■関連記事長時間労働やシフト作業は認知症発症に影響するかうつになったら、休むべきか働き続けるべきか職場ストレイン、うつ病発症と本当に関連しているのか

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2型DMの死亡率、SGLT2 vs.GLP-1 vs.DPP-4/JAMA

 2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の使用は、DPP-4阻害薬使用、プラセボ、未治療と比べて、死亡率が有意に低いことが示された。また、DPP-4阻害薬の使用は、プラセボ、未治療よりも、死亡率は低下しないことも示された。英国・Imperial College Healthcare NHS Foundation TrustのSean L. Zheng氏らによるネットワークメタ解析の結果で、JAMA誌2018年4月17日号で発表された。2型糖尿病治療について、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬を比較した臨床的な有効性は明らかになっていなかった。ネットワークメタ解析で、全死因死亡を評価 研究グループは、発刊から2017年10月11日までのMEDLINE、Embase、Cochrane Library Central Register of Controlled Trials、および公表されているメタ解析を検索し、2型糖尿病患者が登録され、追跡期間が12週間以上、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬を相互に比較またはプラセボ、未治療と比較した無作為化試験を選定した。 1人の研究者がデータのスクリーニングを行い、2人の研究者が重複抽出して、ベイジアン階層ネットワークメタ解析を行った。 主要アウトカムは全死因死亡で、副次アウトカムは心血管(CV)死、心不全(HF)死、心筋梗塞(MI)、不安定狭心症、脳卒中であった。安全性のエンドポイントは、有害事象および低血糖症の発現であった。対照群と比較して、SGLT2阻害薬群、GLP-1受容体作動薬群は有意に低下 236試験、無作為化を受けた被験者17万6,310例のデータが解析に組み込まれた。 対照(プラセボまたは未治療)群と比較して、SGLT2阻害薬群(絶対リスク差[ARD]:-1.0%、ハザード比[HR]:0.80[95%確信区間[CrI]:0.71~0.89])、GLP-1受容体作動薬群(ARD:-0.6%、HR:0.88[95%CrI:0.81~0.94])は、全死因死亡率が有意に低かった。DPP-4阻害薬群との比較においても、SGLT2阻害薬群(-0.9%、0.78[0.68~0.90])、GLP-1受容体作動薬群(-0.5%、0.86[0.77~0.96])は死亡率が低かった。 DPP-4阻害薬群は、対照群との比較で全死因死亡率の有意な低下が認められなかった(0.1%、1.02[0.94~1.11])。 SGLT2阻害薬群(−0.8%、0.79[0.69~0.91])、GLP-1受容体作動薬群(−0.5%、0.85[0.77~0.94])は、対照群との比較において、CV死についても有意に減少した。 SGLT2阻害薬群は、HFイベント(−1.1%、0.62[0.54~0.72])、MI(−0.6%、0.86[0.77~0.97])についても、対照群と比べて有意に少なかった。 GLP-1受容体作動薬群は、SGLT2阻害薬群(5.8%、1.80[1.44~2.25])、DPP-4阻害薬群(3.1%、1.93[1.59~2.35])と比べて、試験中止となった有害事象の発現リスクが高かった。

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高価な新薬が安い従来薬に敗れた日:高尿酸血症治療薬フェブキソスタットの屈辱(解説:桑島巌氏)-850

 心血管リスクが高い例では痛風を合併することが多く、以前は尿酸生成抑制薬アロプリノール(商品名:ザイロリック、サロベール、アロシトールなど)が尿酸低下効果も確実でありよく処方され、現在ではすでに後発品も登場している。 しかし、2011年に新薬フェブキソスタット(商品名:フェブリク)が登場すると、新薬に乗り換える臨床医が急増した。アロプリノールの尿酸低下作用は確実でしかも廉価であったにもかかわらず、なぜ薬価の高いフェブリクの処方が増えた理由については常に疑問に感じており、私自身はフェブリクを処方した経験はほとんどない。 そこにきて今回、フェブリクの心血管疾患の有害事象に対する非劣性を従来薬アロプリノールと比較、証明する目的で行われたCARES試験の驚きの結果が発表された。 痛風を合併している心血管高リスク症例6,190例を対象として、フェブキソスタット治療群とアロプリノール群にランダム化され、中央値32ヵ月追跡した。その結果、複合心血管イベントに関してはフェブキソスタットのアロプリノールに対する非劣性は認められたものの、2次エンドポイントである総死亡、心血管死のリスクは有意に高かったという結果であった。 フェブキソスタットは日本の帝人ファーマによって開発され、米国では武田薬品によって発売されているが、本試験は米国Takeda Development Center Americasの支援によって行われた試験である。 本試験のlimitationとして両群とも途中脱落例が異常に多いことが挙げられているが、その理由は明らかではない。両群における脱落率に差はないという。 この結果は非常に重大であり、高リスク合併例での本剤の処方について対応が必要だろう。

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抗精神病薬誘発性体重増加に対するトピラマート治療のメタ解析

 抗精神病薬治療を行っている統合失調症患者において、体重増加は最も困難な問題の1つである。体重減少に関するトピラマートの有効性を検証するため、いくつかのメタ解析が行われているが、方法論的な問題があり、結果は確立されていない。台湾・台北医学大学のKah Kheng Goh氏らは、統合失調症患者の体重減少に対するトピラマート使用に関するランダム化比較試験のメタ解析を行った。International journal of psychiatry in clinical practice誌オンライン版2018年3月20日号の報告。 二重盲検ランダム化プラセボ対照試験10件、オープンラベルランダム化比較試験7件より、合計905例の統合失調症患者が抽出された。主な結果は以下のとおり。・トピラマート治療を行った患者には、大幅な体重の減少およびBMIの低下がみられた。・過体重人口の割合が低い国の患者では、BMIの低下がより有意であった。・体重変化の報告において、最も効果的であると報告された研究は、中東および南アジアでの研究であった。次いで、東アジア、欧州、米国であった。・トピラマート群は、対照群と比較し、精神病理学的症状の改善が有意に優れていた。・全体的な副作用に関しては、両群間で差は認められなかった。 著者らは「抗精神病薬治療を行っている統合失調症患者において、トピラマートは、体重増加および精神症状の軽減に対し、対照群よりも有意に優れていた。今後、トピラマート増強の効果については、厳密な方法論および徹底した評価を用いた、より大規模かつ正確な研究調査が求められる」としている。■関連記事オランザピン誘発性体重増加のメカニズムオランザピン誘発性体重増加を事前に予測するには:新潟大学抗精神病薬誘発性の体重増加に関連するオレキシン受容体

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糖尿病網膜症の日本人患者への強化スタチン療法:EMPATHY試験

 冠動脈疾患の既往歴のない、糖尿病網膜症合併高コレステロール血症患者に対するスタチン単独によるLDL-C低下療法は、通常治療と強化治療とで心血管イベントまたは心血管関連死に有意差は認められなかった。慶應義塾大学の伊藤 裕氏らが、EMPATHY試験の結果を報告した。著者は、「今回の結果は当初の予想より両群におけるLDL-Cの差が少なかった(36ヵ月時で27.7mg/dL)ため」との見解を示したうえで、「高リスク患者に対するtreat-to-target治療におけるLDL-C<70mg/dL達成のベネフィットについては、さらなる研究が必要である」とまとめている。Diabetes Care誌オンライン版2018年4月6日号掲載の報告。 EMPATHY試験は多施設共同試験で、PROBE(Prospective Randomized Open Blinded-Endpoint)法が用いられた。糖尿病網膜症および高コレステロール血症を合併し、かつ冠動脈疾患の既往歴のない30歳以上の2型糖尿病患者を、強化脂質管理群(LDLコレステロール<70mg/dLを目標、2,518例)と通常脂質管理群(LDL-C:100~120mg/dLを目標、2,524例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、心血管疾患発症または心血管疾患死であった。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間は37±13ヵ月であった。・36ヵ月時のLDL-Cは、強化脂質管理群76.5±21.6 mg/dL、通常脂質管理群104.1±22.1mg/dLであった(p<0.001)。・主要評価項目のイベントは、強化脂質管理群で129例、通常脂質管理群153例に発生した(ハザード比[HR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.67~1.07、p=0.15)。・両群のLDL-Cの差とイベント減少率との関係は、糖尿病患者の一次予防研究と一致していた。・探索的解析の結果、強化脂質管理群で脳イベントが有意に少ないことが示された(HR:0.52、95%CI:0.31~0.88、p=0.01)。・安全性は両群で差はなかった。

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アブレーションはお嫌いですか?(解説:香坂俊氏)-847

 あまり知られていないことなのだが、心房細動(AF)のリズムコントロール(※)が「長期的な予後を改善した」という研究結果は「存在しない」。以前であればこうしたことは問題でなく、まぁ理に叶っていて、かつ安全性が担保されていれば(つまり、makes senseでsafety guaranteedなら)そんな治療をやってみてもいいんじゃないかという、かなりおおらかな雰囲気の中医療は行われていた。※調律を細動から洞調律に戻す治療。カテーテルによる肺静脈焼灼隔離(アブレーション)や抗不整脈薬を用いた治療などはすべてここに含まれる ただ、EBMの時代になり、徐々に医療行為に予後改善の証明が要求されるようになった。そして、このEBM的な視点から捉えると、AFのカテーテルアブレーションというのはかなり微妙な治療であり、症状が強い患者さんに対しては抜群の力を発揮するのだが、そこを拡大解釈し、あまりQOLが阻害されていない患者さんにアブレーションを行っていくのは(若干)問題なのではないかと指摘されていた。 日本の現場で、こういったことを持ち出すと、「香坂先生はアブレーションが嫌いなんでしょう」などと揶揄されるのだが、日本は世界でも珍しい「供給が需要を生む」(日経新聞 4月26日朝刊第5面)というスタイルを取っているために鷹揚に構えることができるのだが、こうしたところに規制が厳しい医療システムではそうそう平穏にいかないことが多い。たとえば米国でAFアブレーションを行おうとすれば、かなり患者の症状に関して具体的な記載が求められる。CASTLE-AF試験の衝撃 ここに一石を投じる臨床試験の結果が発表された。それが、CASTLE-AF試験であり、以下その概略を記す:・AFを合併した治療抵抗性の心不全患者(NYHA II-IVでEF35%以下、ICD植込み症例)をランダム化:AFアブレーションを行うか、そのまま薬物療法を続けるか。・合計363例が登録され、179例がアブレーションを施行され、184例が薬物療法を続行した。・その結果、アブレーション群で全死亡・心不全入院の複合リスクが約4割減少した(追跡期間3年間で主要複合エンドポイントの発生は28.5%対44.6%)。 日本の循環器医療からすると、何を今さら、という風に思われる向きもあるかもしれないが、このCASTLE-AF試験の結果は驚くべきものである。2006年に発表されたAF-CHFという抗不整脈時代の臨床試験の名残もあり、有意な差がでるかどうかはいいところ半信半疑というところだったのだが、死亡や心不全入院というハードエンドポイントが4割減少というのは桁外れの効果である。 まだ小規模RCTの結果ではあるものの、今後重症心不全(NYHA II-IVでEF35%以下)を合併したAFに対しては「予後改善」をターゲットとしてアブレーションを行っていくことができるようになった。重要なポイントとして、アブレーションで完全にAFが消失しなくとも、AFの期間(AF burden)が短くなるだけで予後が改善する傾向がみられているということが挙げられる(必ず手技が成功しなくてはいけないわけではない)。 心不全でないAFに対する予後はいつ評価されるのか? 実はこちらも現在北米でRCTが進められており、その名もCABANAという。こちらの試験ははるかに大きな規模で行われ、通常の心機能が保たれているAF患者群に対してファーストラインにアブレーションを行ったらどうなるかというところを検証している。こちらは今年の5月に米国のHeart Rhythm Societyで発表される予定であり、はたしてCASTLE-AFの結果を再現できるかどうかというところが注目される。

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国内初となるCAR-T細胞医療CTL019を承認申請/ノバルティス

 ノバルティス ファーマ株式会社(代表取締役社長:綱場 一成)は、2018年4月23日、2つの適応について、キメラ抗原受容体T細胞医療(CAR-T細胞医療)であるCTL019(国際一般名:tisagenlecleucel)の再生医療等製品製造販売承認申請を行った。今回の申請は、小児を含む25歳以下のCD19陽性再発又は難治性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALL)、および成人のCD19陽性再発又は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療を対象としている。本申請は日本国内における初めてのCAR-T細胞医療の製造販売承認申請となる。 今回の承認申請は、ペンシルベニア大学と協働で行われているノバルティスの国際多施設共同第II相ELIANA試験およびJULIET試験に基づいて行われた。 CTL019は、昨年8月、小児を含む25歳以下の再発・難治性ALLを適応症として、初めてFDA承認を取得したCAR-T細胞医療であり、ノバルティスは同年10月に2つ目の適応症である成人のDLBCLに対する承認申請を行った。また、昨年11月、ノバルティスは欧州において、小児・若年成人のALLおよび成人のDLBCLに対する販売承認申請をEMAに提出した。今回、日本での承認申請は、米国、欧州に続くものとなる。 なお、CTL019は2016年5月、日本国内において、CD19陽性B細胞性急性リンパ芽球性白血病、CD19陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、CD19陽性濾胞性リンパ腫の適応に対して、希少疾病用再生医療等製品の指定を受けている。■参考CAR-T療法、難治性・再発B細胞性ALLに承認/FDA

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麻疹のワクチン免疫がうつ病で減弱?

 わが国では、うつ病あるいは双極性障害(BD)で治療を受けている患者が100万人を超えると言われているが、うつ病が幼児期のワクチン接種による免疫原性を損なう可能性については知られていない。今回、米国・Laureate Institute for Brain ResearchのBart N. Ford氏らの研究の結果、青年期または成人期に大うつ病性障害(MDD)を発症した場合、ワクチンによる麻疹免疫が損なわれ、麻疹の感染リスクと重症度を高める可能性が示唆された。Psychological Medicine誌オンライン版2018年3月19日号に掲載。 本研究では、麻疹に対するIgG抗体を、固相免疫測定法で定量した。対象は、BDの64例(発症年齢:16.6±5.6)、現在MDD(cMDD)の85例(同:17.9±7.0)、MDD歴があるが寛解した(rMDD)82例(同:19.2±8.6)、比較対照群の非うつ病(HC)202例で、全員、米国で麻疹ワクチンが導入された1963年以降に生まれている。 主な結果は以下のとおり。・HC群と比較して、cMDD群およびrMDD群は、麻疹血清が陽性である可能性が低かった。 cMDD群 p=0.021、調整オッズ比:0.47、信頼区間:0.24~0.90 rMDD群 p=0.038、調整オッズ比:0.50、信頼区間:0.26~0.97・現在治療を受けているMDD患者は、未治療のMDD患者と比較して、罹病期間がより長く、麻疹血清が陽性である可能性が低かった。

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強化脂質低下療法はベース値が高いほど有益/JAMA

 米国・Inova Heart and Vascular InstituteのEliano P. Navarese氏らは、被験者約27万例を含む34件の無作為化試験のメタ解析において、LDLコレステロール(LDL-C)低下療法の強化は非強化と比べて、ベースラインのLDL-C値がより高い患者で、総死亡(total mortality)および心血管死のリスクを低下させることを明らかにした。また、ベースラインのLDL-C値が100mg/dL未満では、この関連性は確認されず、著者は「LDL-C低下療法で最も大きなベネフィットが得られるのは、ベースラインのLDL-C値が高い患者である可能性が示唆された」とまとめている。JAMA誌2018年4月17日号掲載の報告より。無作為化試験34件、約27万例のデータをメタ解析 研究グループは、電子データベース(Cochrane、MEDLINE、EMBASE、TCTMD、ClinicalTrials.gov、major congress proceedings)を用い、2018年2月2日までに発表された、スタチン、エゼチミブおよびPCSK9阻害薬の無作為化試験を検索し、研究者2人がデータを抽出するとともにバイアスリスクを評価した。試験介入群は、「強化療法」(強力な薬理学的介入)、または「非強化療法」(弱作用、プラセボまたは対照)に分類された。 主要評価項目は総死亡率および心血管死亡率とし、ランダム効果メタ回帰モデルおよびメタ解析を用い、ベースラインのLDL-C値と死亡、主要心血管イベント(MACE)などの低下との関連性を評価した。 検索により計34試験が特定され、強化療法13万6,299例、非強化療法13万3,989例、計27万288例がメタ解析に組み込まれた。関連が確認されたのは、ベースラインLDL-C値100mg/dL以上の場合のみ 全死因死亡率は、強化療法群が非強化療法群よりも低かったが(7.08% vs.7.70%、率比[RR]:0.92、95%信頼区間[CI]:0.88~0.96)、ベースラインLDL-C値によってばらつきがみられた。 メタ回帰分析において、強化療法はベースラインLDL-C値が高いほど全死因死亡率もより低くなる関連が認められた(ベースラインLDL-C値の40mg/dL上昇当たりのRRの変化:0.91、95%CI:0.86~0.96、p=0.001/絶対リスク差[ARD]:-1.05症例/1,000人年、95%CI:-1.59~-0.51)。同様の関連は、メタ解析では、ベースラインLDL-C値が100mg/dL以上の場合にのみ確認された(相互作用のp<0.001)。 心血管死亡率も同様に、強化療法群が非強化療法群よりも低く(3.48% vs.4.07%、RR:0.84、95%CI:0.79~0.89)、ベースラインLDL-C値によってばらつきがみられた。メタ回帰分析において、強化療法はベースラインLDL-C高値ほど心血管死亡率減少との関連が示され(ベースラインLDL-C値の40mg/dL上昇当たりのRRの変化:0.86、95%CI:0.80~0.94、p<0.001/ARD:-1.0症例/1,000人年、95%CI:-1.51~-0.45)、同様の関連はメタ解析では、ベースラインLDL-C値100mg/dL以上の場合にのみ確認された(相互作用のp<0.001)。 メタ解析において、全死因死亡率が最も減少したのは、ベースラインLDL-C値が160mg/dL以上の患者を対象とした試験であった(RR:0.72、95%CI:0.62~0.84、p<0.001、1,000人年当たり死亡は4.3減少)。強化療法は、ベースラインLDL-C値が高いほど、心筋梗塞、血管再建術およびMACEのリスクもより減少する関連が認められた。

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循環器内科 米国臨床留学記 第28回

第28回 米国でのトレーニング後の進路米国で臨床留学をした人たちにとって悩ましいのはその後の進路です。ほとんどの日本人医師は米国臨床留学をJ1 clinical visa(臨床用のJ1 clinical visa)で行っています。J visaはいわゆるトレーニング用のビザでレジデンシーやフェローの間、延長することができ、基本7年間まで延長して使用することができます。私の専門の循環器・不整脈は内科の中でも最もトレーニングが長く、3年の内科、3年の循環器に加えて2年の不整脈(EP)で合計8年となりますが、ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates:外国医学部卒業生のための教育委員会)という団体に申請をすれば8年目まで延長が可能となりました。レジデンシーやフェローシップトレーニングを終えた日本人の選択肢は日本への帰国かattending doctor(指導医)として米国に残るかの二択となります。2 years rule外国人医師がJ visaでトレーニングを終えた後は基本的に2年間の本国への帰国が義務付けられています。これを終えない限り、グリーンカード(永住権)の申請もできません。これはJ visaの保持者は米国にトレーニング目的で来ているため、米国で学んだことを出身国へ還元する必要があるという解釈に基づいています。多くのインド人やパキスタン人は、端から移住目的で来ており、自国へ帰るつもりなどはありませんので、最初から帰国する必要がないH visaというものを使うか、J waiver(後述)を用いて米国に残っています。本国に2年帰った後、再渡米することも可能ですが、物理的に本国へ帰れない医師もたくさんいます。シリアやイラク出身の友人たちは治安が問題で帰国が困難です。また、米国で結婚してしまい、宗教、治安上の理由などで配偶者を自国に連れて帰ることができないこともあります。治安には問題のない日本人ですが、一度米国を出ると就職活動が難しく、再度ビザの取得が必要となり、就職で大変不利となります。ですから、日本人でもトレーニング後、そのまま米国に残る医師が結構います。その場合、J waiverを行う必要があります。J waiverとはwaiverとは権利を放棄するという意味ですが、この場合2年間の帰国義務を免除してもらうという意味になります。その代わりにunderserved area と言われる米国でも医師が少ない地域やVA(退役軍人病院)などで働くことが義務付けられます。Conrad 30 Waiver Programという法律があり、各州のState Medical Board(医療を管轄する公的部門、厚労省に値する)にwaiverが必要な外国人30人ずつをスポンサーする権利が与えられています。医師が足りない地域で主に必要なのは、プライマリケアやホスピタリスト、小児科医などですので、30のポジションは優先的にこれらの分野の医師に割り当てられます。たとえば、人気の高いカリフォルニアやニューヨークでは循環器などの専門医にConrad 30の余りが回ってくる可能性は非常に低いため、専門性の高い分野の医師がカリフォルニアでwaiverを行うことはほぼ不可能です。J waiverで3年過ごした後はグリーンカードの申請が可能となります。waiver以外の手段O visaというものを用いて、一時的にwaiverを免れることは可能です。O visaは、大学などの機関では、科学、芸術、教育、ビジネス、またはスポーツの分野で「卓越した能力を有する者」に発給されるビザで、医師の場合は、論文などを発表していることが必要となります。実際のところは、研究や論文の実績がそれほどなくても、その分野で有名な 医師からの推薦状などがあれば残れるようです。O visaは1年ごとに何度も更新できますが、waiverを免れることはできないので、グリーンカードの取得前には結局O visaからJ waiverに戻る必要があります。トレーニング後の日本人医師日本以外の諸外国から来ている医師のほとんどはアメリカに残ります。その大きな理由が収入だと思われます。正確なデータがないので詳細はわかりませんが、日本人医師の1/3から1/2ほどはトレーニング後、すぐに帰国していると思われます。元々、日本の教育に還元しようという思いで来ている先生方は、指導医とならずに研修終了後にすぐに帰っているようです。一方で、研究のやりやすさ、生活と仕事のバランスの良さ、そして給料の高さ(どの分野でも米国の医師の給料は日本の医師より高いと思われます)などが理由で米国に残る先生もたくさんいます。また、米国でのトレーニングの経験が必ずしも日本で評価されないという点も帰国をためらう理由として挙げられます。医局に所属せずに留学している先生がほとんどであり、その場合、新たに医局に入るか、市中病院に戻るしかありません。臨床留学経験者を好んで採用する病院は少数であり、留学経験を評価してくれる受け入れ先を見つけるのは容易ではありません。とは言っても、米国臨床留学後、日本より高い割合で自分の国に戻るという国はないと思います。これは、医療の面に限らず、日本が素晴らしい国であることの証明だと思います。日本に帰るたびに、公私を問わず、日本の優れたサービスに感銘を受けます。私も8年米国に住みましたが、生活全般における米国のいい加減なシステムや医療費の高さなど不満は尽きません。高過ぎる医療費が主な原因ですが、アメリカで臨床を行っている医師ですら、アメリカでは病院に行きたくないと異口同音に言います。また、家庭の事情(家族が帰国を希望、子供を日本で育てたいなど)も大きいと思われます。文化の違いですからやむを得ませんが、ガムを噛みながらラウンドをするレジデントなどを見るたびに、米国で自分の子供を育て続けることに不安を覚えます。家族の希望、収入面、日本での就職先など、さまざまなことを考慮しなければならず、 トレーニング修了後、いつ帰国するかというのはどの家庭にとっても非常に難しい問題です。

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ニボルマブ・イピリムマブ併用、TMB高レベルNSCLCの1次治療でPFS改善(CheckMate-227)/AACR2018

 米国がん研究会議年次集会(AACR2018)で発表されたニボルマブとイピリムマブの第Ⅲ相臨床試験CheckMate-227の結果によると、高腫瘍変異負荷(TMB、>10変異/Mb)の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の1次治療において、標準化学療法と比較して、ニボルマブ・イピリムマブ併用療法が有意に無再発生存率(PFS)を改善した。 CheckMate-227は、未治療のStageIVまたは再発NSCLCの1次治療における大規模オープンラベル無作為化比較試験。試験群はニボルマブ単独、ニボルマブ+イピリムマブまたはニボルマブ+プラチナ・ダブレット化学療法の3種、対照群はプラチナ・ダブレット化学療法単独である。同総会で発表された初の評価項目は、高TMB患者におけるPFSであった。高TMB患者299例のうち139例がニボルマブ+イピリムマブ群に、160例が化学療法PT-DC単独群に割り付けられた。 最低11.5ヵ月以上のフォローアップの結果、ニボルマブ+イピリムマブ群は、プラチナ・ダブレット化学療法単独群と比較して、PFSリスクが42%改善。1年PFS率は43%対13%となった。奏効率はニボルマブ+イピリムマブ群45.3%、PT-DC群では26.9%であった。 ニボルマブ+イピリムマブは良好な忍容性を示し、安全性プロファイルは同レジメンの以前の報告と同様であった。Grade3/4の治療関連有害事象は、ニボルマブ+イピリムマブ群の31%に対して、プラチナ・ダブレット化学療法単独群では36%であった。全生存率(OS)データは未達成。 この研究は、New England Journal of Medicineに同時に掲載された。■参考AACR2018ニュースリリースCheckMate227試験(N Engl J Med)CheckMate227試験(Clinical Trials.gov)■関連記事ニボルマブ・イピリムマブ併用、TMB高レベルNSCLCの1次治療でPFS優越性示す(CheckMate227)

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オラパリブ、BRCA変異陽性乳がんにおける全生存期間の最新データを発表/AACR2018

 アストラゼネカ(本社:英国ケンブリッジ)およびメルク・アンド・カンパニー(本社:米国ニュージャージー州ケニルワース)は、2018年4月15日、米国がん研究会議年次集会(AACR2018)において、転移を有する乳がんにおけるオラパリブ(商品名:リムパーザ)の最終全生存期間(OS)の結果を示す第III相OlympiAD試験のデータを発表した。 本試験は生殖細胞系列BRCA変異陽性(gBRCAm)HER2陰性転移乳がんにおいてオラパリブと化学療法(医師の選択によりカペシタビン、エリブリンまたはビノレルビンのいずれかを使用)を比較検討し、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を達成した。 AACRで発表された結果には、副次評価項目である全生存期間(OS)の最新結果が含まれている。本試験により統計学的に有意な差異を示していないが、OS中央値はオラパリブ治療群の19.3ヵ月に対し化学療法治療群は17.1ヵ月であった(HR:0.90、95%CI:0.66~1.23、p=0.513)。最終OSデータカットオフ時点において(64%maturity)、約13%の患者はオラパリブによる治療を継続していたが、化学療法を継続している患者はいなかった。 事前に定義されたサブグループ解析の結果は、治療群間の統計学的有意差を示さなかった全体解析の結果と一貫していた。最大の差は化学療法を受けなかった転移患者に見られ、OS中央値の差はオラパリブ群において7.9ヵ月であった(HR:0.51、95%CI:0.29~0.90、名目p=0.02、中央値22.6ヵ月対14.7ヵ月)。 オラパリブの安全性プロファイルは初回の解析時と一貫しており、治療期間の延長に伴う関連蓄積毒性は見られなかった。重篤な有害事象(Grade3以上)は、オラパリブ投与群患者の38%において報告されたのに対し、化学療法投与群では49.5%で報告された。

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第1回 意識障害 その1 客観的な意識の評価方法【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+意識障害の認識意識障害のアプローチにおいて、重要なことは何でしょうか。原因検索、バイタルサインの改善、安定化はもちろんですが意外と忘れがちなことがあります。それは、「目の前の患者は意識障害」だと認識することです。当たり前のようですが、この当たり前のことができておらず、対応が遅れる、または重症度を見誤ってしまうことが少なくありません。とくに初診患者や高齢者の患者ではありがちです。発熱のせい、認知症のせい、難聴のせいなど、「普段からこんなものだろう」と軽度の意識障害は軽視されがちです。必ず、普段の意識状態と比較して判断するようにしましょう。また、主治医や家族への確認、以前のカルテ記載の検索も怠らずに行いましょう。そして、患者の以前の状態をよく知る家族や施設職員からの、「普段とは違います」というコメントを軽視してはいけません。逆に、見当識障害や失語が認められても、普段と同様であれば焦る必要はないでしょう。認知症や脳卒中後が代表的です。救急の現場において、緊急性が高い病態、重篤な病態を見逃さないようにするためには、症状や検査異常が急性のものか、慢性のものかを判断することが大切です(コラム(1)参照:急性か慢性か、それが問題だ!)。軽度であっても突然、もしくは急性発症の意識障害は早期に対応する必要があるのに対して、慢性経過の意識障害であれば原因検索は必要ですが、1分1秒を争う病態ではありません。意識障害の評価意識障害患者を診たら、まずは客観的な指標で程度を評価しましょう。意識障害の評価では、Glasgow Coma Scale(GCS)(表1)、Japan Coma Scale(JCS)(表2)が有名です。画像を拡大する画像を拡大する救急外来では他科の先生方へコンサルトすることも多く、「様子がおかしい」という表現では相手に患者さんの状況をうまく伝えられません。また、意識障害の経時的な変化は鑑別に大きく影響するため、その時々の意識障害の程度を把握し、記載しておくことも重要です。たとえば初診時にはE3V4M5/GCSであった意識状態が、薬剤などの介入がなく自然にE4V5M6/GCSへ改善したのであれば、低血糖や脳卒中は否定的です。この場合には、痙攣などが鑑別の上位に挙がるでしょう。そして、GCS、JCSはそれぞれの長所、短所を理解したうえで使用する必要があります(表3)。画像を拡大するここでは、GCS、JCSを評価する際の注意点を理解しておきましょう。どちらも開閉眼の有無が点数に大きく反映されますが、診察時に閉眼していたからといってGCSはE3以下、JCSは2桁以上というわけではありません。呼び掛けたその後が問題です。閉眼していたとしても、呼び掛け問診にきちんと応じることができる場合にはGCSではE4、JCSでは1桁ということになります。それに対して、開眼するものの、問診中に(話し掛けているにもかかわらず)閉眼してしまう場合には意識障害と捉える必要があります。私は、15秒程度開眼を維持することができなければ、意識障害ありと判断し対応しています。そのほかにもGCS、JCSの短所を解消すべく開発されたECS(Emergency Coma Scale)(表4)というものがあります。画像を拡大する救急外来で使用するために作成されたものであり、まばたきや睫毛反射の有無(まばたきが可能であれば、脳幹網様体の機能は正常)や、脇を閉じているか否かで除脳硬直、除皮質硬直を区別して分類している点が特徴です。現在、国内の救急隊はJCSを使用し、海外の論文などではGCSを採用しているのが現状であるため、ECSはわが国の救急外来では普及していないのが現状ですが、評価項目や作成に至った経緯は参考になるため、興味がある方は調べてみてください。さて、前置きが長くなりましたが、実際の症例をみてみましょう。72歳男性の意識障害の原因は何でしょうか? 多くの方が急性期脳梗塞、その中でも心原性脳塞栓症を考えるでしょう。それでは、その可能性はどの程度でしょうか? 100%ですか? それとも70%、50%…また、鑑別すべき疾患は何でしょうか? 迷わず血栓溶解療法を行ってよいのでしょうか?意識障害にかかわらず、患者さんが訴える症状や症候に対してアプローチする際には、患者さんごとにアプローチを変えていては、時間が限られている救急外来では見落としの原因となってしまいます。そこで次回は、「意識障害の具体的なアプローチ」を学んでいきましょう!コラム(1) 急性か慢性か、それが問題だ!バイタルサインや検査値の異常を拾いあげることは重要ですが、緊急性を判断するためには、その異常がいつからかを把握することが大切です。Na 126mEq/Lという結果をみて、低ナトリウム血症と判断することは簡単ですが、治療の緊急度は数値の絶対値以上に変化のスピードが重要です。1ヵ月前の検査結果で125mEq/Lであれば、著明な症状が出る可能性は低く、緊急性は高くありません。それに対して、数日前のNa値が135mEq/Lであれば、急性の変化であり、緊急性が高くなります。胸部の異常陰影や心電図変化、Hb値なども同様です。急性か慢性かを判断し、緊急性の適切な判断を行いましょう。(次回は5月23日の予定)

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