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新型タバコの発がんリスク【新型タバコの基礎知識】第11回

第11回 新型タバコの発がんリスクKey Points1件のモデル研究で、発がんリスクが大きい順に“紙巻タバコ>>加熱式タバコ>>電子タバコ”と推定されたが、解釈には注意が必要。日本で大流行している加熱式タバコのリスクは、欧米で流行している電子タバコよりもかなり大きいと考えられる。新型タバコの健康リスクのうち、データがないことを理由として評価が先送りにされそうなのが発がんリスクです。通常、がんの発症までには数10年の年月がかかる場合が多く、リスクの正確な評価には時間がかかるからです。しかし、タバコの健康リスクを考えるうえで重大なリスクである発がんリスクに関する考察を、先送りにするわけにはいかないのではないでしょうか。化学物質による発がんリスクを評価する標準的な手法として、個々の化学物質のユニットリスク(単位濃度μg/m3に生涯曝露された際の発がん確率)とその摂取量(濃度)の積からリスクを推定するという方法があります。タバコの煙に含まれる有害化学物質の情報(第5回参照)に基づき、紙巻タバコ、加熱式タバコ、電子タバコなど各種のタバコ製品による発がんリスクをモデル式により推定した研究があります1)。この研究では、発がんリスクが大きい順に、“紙巻タバコ>>加熱式タバコ>>電子タバコ”と推定されました。紙巻タバコを1日15本吸った場合の生涯の発がんリスクは10万人当たり2,400人であったのに対し、加熱式タバコを1日15スティック吸った場合には10万人当たり57人の発がんリスク、電子タバコを1日30L(平均的吸入量)吸った場合には10万人当たり9.5人の発がんリスクだと推定されました。つまり、新型タバコに替えると発がんリスクが大きく減るとの結果です。ただし、この結果を鵜呑みにはできません。そもそも、紙巻タバコと比較することは正しいことなのか? という点がありますが、これについては後述します。鵜呑みにできない理由としては、少なくとも3つあります:[理由その1]この研究では、タバコ会社が選択的に報告したデータが主に使用されています。過去の紙巻タバコに関する研究結果から、一部の有害物質だけの情報を用いて推定したタバコのリスクは、実際よりも非常に少なく見積もられてしまう可能性があると考えられます。タバコ会社は、加熱式タバコの方が少なかったという化学物質を選択的に報告している可能性も否定はできません(第6回参照)。加熱式タバコには、発がん性があると考えられる物質も含め、推定モデルに含まれていない未知の成分が多く存在しているのです。[理由その2]リスクを少なく見積もってしまう原因となる、有害物質の複合曝露の影響がこの推定モデルでは考慮されていません。複合曝露の影響を完全に解明することは不可能です(図)。そのため、タバコから出る特定の有害物質の量を測定するというリスクの推定方法には、どうしても解決できない限界として複合曝露の問題が残り続けます。画像を拡大する[理由その3]現実世界でのタバコの吸い方は単純ではありません。紙巻タバコを1日15本吸っていた人が、モデルの設定で想定しているように、加熱式タバコにスイッチしたら1日15スティック吸うようになるとは限りません。加熱式タバコにスイッチすると紙巻タバコの時よりも吸う回数が増えるとの報告もあります2)。また、そもそもスイッチできるとも限りません。2017年に日本で実施したインターネット調査では、加熱式タバコを吸っている人の約70%は紙巻タバコとの併用でした3)。こういった理由から、現実世界における加熱式タバコによる発がんリスクは、冒頭のモデル研究が推定するよりもかなり大きい可能性があると考えています。過去の紙巻タバコの研究から、1日の喫煙量が多いことよりも、喫煙期間が長いことの方が、より大きな肺がんリスクになると考えられます4,5)。加熱式タバコにスイッチして有害物質の量を仮に減らせたとしても、長期間吸っていたら発がんリスクは大きくなると推測されるのです。さらには、新型タバコの発がんリスクを考える上でキーになる物質は、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類の可能性があります。前述の推定モデルには、この観点も抜けています。動物実験および細胞実験の結果から、タバコ煙の発がん性物質のなかでも、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等を含むアルデヒド類が、他の発がん性物質よりも発がんに強く関与していると報告されています6)。もともとアルデヒド類はタバコ煙のタールに占める比重が高いため、煙に多く含まれるアルデヒド類の関与が大きいとする結果は妥当だろうと考えられます。紙巻タバコと比べ、新型タバコでどれだけリスクを低減できる可能性があるのか推定する場合には、もともと多く含まれていて有害性の高い物質であるアルデヒド類に注目していく必要があります。加熱式タバコや電子タバコでは他の有害物質と比べて、アルデヒド類が比較的多く検出されていることから、加熱式タバコや電子タバコではアルデヒド類を介した有害性が大きいだろうと考えられるのです。また、有害化学物質の絶対量が重要だとも考えられます。紙巻タバコと比べた相対的なデータ、すなわち%だけをみていては、絶対量の問題に気付かないかもしれません。もともと非常に少なく、リスクの程度の小さい化学物質であれば、量が2倍になっても半分になってもたいした影響はないでしょう。気を付けないと、そういう数字のマジックにも騙されてしまう可能性があります。ただし、今回取り上げたモデル研究から分かることで、とくに日本で重要な観点があります。日本で大流行している加熱式タバコの発がんリスクは、欧米で流行している電子タバコよりもかなり大きいと推計された、という点です。そもそもの問題:新型タバコのリスクを何と比較するか本連載では、新型タバコのリスクについてみてきましたが、そもそもの問題として、加熱式タバコがタバコ製品でなければ、市場に出てくることすらなかったはずです。タバコ製品だけはたばこ事業法のもと“タバコ”として扱われ、発がん性物質などの有害物質が検出されても、問題になるわけでもなく、それはタバコだから、となるわけです。新型タバコで検出される有害物質の量は紙巻タバコと比べて低いかもしれませんが、それは有害物質の塊である紙巻タバコと比較するからです(第10回参照)。新型タバコを、化粧品や食品などタバコ以外の商品と比較すれば、明らかに新型タバコの方が有害だと考えられます。タバコ会社は紙巻タバコから加熱式タバコへスイッチすることを積極的に勧めていますが、せっかく紙巻タバコをやめるなら、新型タバコもやめて、もっと安全な選択をしてもらいたいと願っています。第12回は、「新型タバコを吸っている患者に伝えたいこと」です。1)Stephens WE. Tob Control. 2018; 27: 10-17.2)Simonavicius E, et al. Tob Control.2019;28:582-94.3)Tabuchi T, et al. Tob Control.2018;2:e25-e33.4)Leffondre K, et al. Am J Epidemiol. 2002; 156: 813-823.5)Flanders WD, et al. Cancer Res. 2003; 63: 6556-6562.6)Weng MW, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018; 115: E6152-E6161.

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アルコール使用障害治療におけるAlcohol Quality of Life Scale(AQoLS)日本語版の検証

 Alcohol Quality of Life Scale(AQoLS)は、西洋において健康関連QOL(HR-QoL)に対するアルコール使用障害(AUD)の影響を評価する際に有用な尺度として用いられている。久里浜医療センターの樋口 進氏らは、AQoLS日本語版の心理測定特性について評価を行った。Quality of Life Research誌オンライン版2019年10月4日号の報告。 日本においてAUDの日常的な治療を受けている患者を対象に、3ヵ月間の観察コホート研究を実施した。HR-QoLは、AQoLS日本語版(34項目、7ディメンション)を用いて評価を行った。心理測定スケールは、相関法を用いて分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・132例の患者データを分析した。・AQoLS日本語版の項目間およびスケールの相関は、中程度から強度であった。・確認的因子分析の結果では、AQoLS日本語版の仕組みはサポートされたが、いくつかの項目と因子との間に相互依存的証拠が認められた。・内的整合性は、クロンバックのα係数が0.73~0.97で比較的良好で、ベースライン時と2週間後の間のスコアの級内相関係数は、0.65~0.82であった。・収束的妥当性、弁別的妥当性、既知のグループの妥当性は、サポートされた。・グループ内での変化の評価では、AQoLS日本語版の総スコアとドメインは、経時的なHR-QoLの有意な改善を一貫して示した(すべてのケースにおいてp<0.001)。・AQoLS日本語版総スコアの臨床的に重要な最少差推定値は、グループレベルの変化で13.2~18.2、グループレベルの差で2.4~15.7であった。 著者らは「AQoLS日本語版は、HR-QoLの信頼できる有効な指標であり、日本においてAUDの日常的な治療にベネフィットを与えることができる」としている。

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最近の話題:肺がんIO-IO CheckMate-227【侍オンコロジスト奮闘記】第82回

第82回:最近の話題:肺がんIO-IO CheckMate-227ニボルマブ+低用量イピリムマブ、NSCLCのOS有意に改善(Checkmate-227)/ESMO2019Hellmann MD, et al. Nivolumab plus Ipilimumab in Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2019 Sep 28.[Epub ahead of print]

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ジムの継続率はわずか●%【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第150回

ジムの継続率はわずか●%いらすとやより使用ライ●ップがCMに流れ始めた頃から、徐々に浸透してきた「ジム」。最近、仕事帰りにジムに通って汗を流している医師も多いでしょう。しかし、こういうのって「長続きしない」のが世の常で。「なかなか痩せない」と言いながら、寝る前におやつを食べているなんて、ザラです。Sperandei S, et al.Adherence to physical activity in an unsupervised setting: Explanatory variables for high attrition rates among fitness center members.J Sci Med Sport. 2016 Nov;19(11):916-920.リオデジャネイロから興味深い報告がありました。フィットネスセンターに通っている人が、いつまで継続できるかを調べたものです。2005年1月~14年6月の間に、フィットネスセンターに通っていた5,240人の来店記録を参照して、12ヵ月または退会まで追跡し、トレーニング継続率を算出しました。Kaplan-Meier曲線を描いてみると、驚きの結果が得られました(図)。まず、新規会員になった人の63%が3ヵ月までにトレーニングをやめてしまったのです。3ヵ月……いくらなんでも意志が弱すぎるんじゃあ!(千鳥のノブ風)画像を拡大するトレーニング継続率は、6ヵ月で13.6%、1年だとわずか3.7%にまで減少しました。おいおい、やる気あんのかよ、というレベルです。もちろん、一概に日本と比較できるデータではありませんが、思っているより早期ドロップアウトって多いんだなぁと身につまされました。「そういえば最近ジムに行っていないなぁ」というそこのアナタ! 本当に続けられますか!?

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統合失調症や双極性障害の認知機能に対する睡眠の影響

 精神疾患患者では、精神病性障害だけでなく睡眠障害や認知機能障害を併発し、機能やQOLに影響を及ぼす。ノルウェー・オスロ大学のJannicke Fjaera Laskemoen氏らは、統合失調スペクトラム障害(SCZ)および双極性障害(BD)において睡眠障害が認知機能障害と関連しているか、この関連性が睡眠障害のタイプ(不眠症、過眠症、睡眠相後退[DSP])により異なるか、この関連性が健康対照者と違いがあるかについて検討を行った。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2019年10月5日号の報告。 対象は、ノルウェー精神障害研究センター(NORMENT)研究より抽出された797例(SCZ457例、BD340例)。睡眠障害は、うつ病症候学評価尺度(IDS-C)の項目に基づき評価した。いくつかの認知ドメインとの関連は、別々のANCOVAを用いてテストした。認知障害との関連性が睡眠障害のタイプにより異なるかをテストするため、three-way ANOVAを実施した。 主な結果は以下のとおり。・いくつかの共変量で調整した後、睡眠障害を有する患者では、睡眠障害のない患者と比較し、処理速度や認知抑制が有意に低いことが明らかとなった。・睡眠障害と認知機能との関連性は、SCZとBDで類似しており、不眠症と過眠症のいずれにおいても、処理速度や認知抑制への有意な影響が認められた。・健康対照者では、睡眠障害と認知機能に関連性は認められなかった。 著者らは「精神疾患患者における睡眠障害は、認知機能障害の一因となりうる。精神疾患患者の治療では、睡眠障害の治療が認知機能を保護するために重要であることを示唆している」としている。

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メラノーマ・腎がん・肺がんに対するニボルマブの5年生存率/JAMA Oncol

 進行メラノーマ、腎細胞がん(RCC)、非小細胞肺がん(NSCLC)に対する抗PD-1抗体ニボルマブ治療の5年生存率が報告された。米国・Johns Hopkins Bloomberg-Kimmel Institute for Cancer ImmunotherapyのSuzanne L. Topalian氏らが米国内13施設270例の患者を包含して行った第I相の「CA209-003試験」の2次解析の結果で、著者は「長期生存と関連する因子を明らかにすることが、治療アプローチおよびさらなる臨床試験開発の戦略に役立つだろう」と述べている。ニボルマブは進行メラノーマ、RCC、NSCLCおよびその他の悪性腫瘍に対する治療薬として米国食品医薬品局(FDA)によって承認されているが、これまで長期生存に関するデータは限定的であった。JAMA Oncology誌2019年10月号(オンライン版2019年7月25日号)掲載の報告。 研究グループは、ニボルマブ投与を受ける患者の長期の全生存(OS)を分析し、臨床的および検査所評価で腫瘍部位とOSの関連を明らかにするため、第I相の「CA209-003試験」の2次解析を行った。同試験は米国内13の医療センターで行われ、2008年10月30日~2011年12月28日に登録された、ニボルマブ投与を受ける進行メラノーマ、RCC、NSCLCの患者270例が包含された。 被験者は、ニボルマブ(0.1~10.0mg/kg)を2週間ごとに8週間のサイクルで投与され、完全奏効した場合、容認できない毒性作用が認められた場合、患者が中止を申し出た場合を除き、病勢進行まで最長96週間投与された。 解析は、オリジナルのプロトコールの規定、およびその後の2008~12年にプロトコール改正で組み込まれた方法に基づき、統計的解析は、2008年10月30日~2016年11月11日に行われた。安全性とニボルマブの活性を評価。OSは、最短フォローアップ期間58.3ヵ月の事後解析のエンドポイントであった。 主な結果は以下のとおり。・解析に含まれた270例のうち、107例(39.6%)がメラノーマ(男性72例[67.3%]、年齢中央値61歳)、34例(12.6%)がRCC(26例[76.5%]、58歳[35~74])、129例(47.8%)がNSCLC(79例[61.2%]、65歳[38~85])の患者であった。・推定5年OS率は、メラノーマ患者34.2%、RCC患者27.7%、NSCLC患者15.6%であった。・多変量解析の結果、肝臓転移(オッズ比[OR]:0.31、[95%信頼区間[CI]:0.12~0.83]、p=0.02)、骨転移(0.31[0.10~0.93]、p=0.04)が5年生存率の低下と独立して相関する可能性が示された。一方で、ECOG PSの0が、独立的に5年生存率の上昇と関連していた(2.74[1.43~5.27]、p=0.003)。・OSは、治療関連有害事象のない患者(OS中央値5.8ヵ月[95%CI:4.6~7.8])と比較して、あらゆるGradeの治療関連有害事象を有する患者(19.8ヵ月[13.8~26.9])およびGrade3以上の患者(20.3ヵ月[12.5~44.9])において、有意な延長が認められた(ハザード比に基づく両群間比較のp<0.001)。

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早産児、主要併存疾患なし生存の割合は?/JAMA

 スウェーデンにおいて、1973~97年に生まれた早産児のほとんどは、成人期初期から中年期まで主要併存疾患を伴わず生存していたが、超早産児については予後不良であった。米国・マウントサイナイ医科大学のCasey Crump氏らが、スウェーデンのコホート研究の結果を報告した。早産は、成人期における心代謝疾患、呼吸器疾患および神経精神障害との関連が示唆されてきたが、主要併存疾患を有さない生存者の割合については、これまで不明であった。JAMA誌2019年10月22日号掲載の報告。1973~97年に生まれた約260万人を18~43歳まで追跡 研究グループは、1973年1月1日~1997年12月31日の期間にスウェーデンで生まれ、妊娠週数のデータがあり、2015年12月31日(18~43歳)まで生存と併存疾患に関する追跡調査を受けた全国住民256万6,699例について解析した。 主要評価項目は、超早産(22~27週)、極早産(28~33週)、後期早産(34~36週)、早期正期産(37~38週)で生まれた人と、満期正期産(39~41週)で生まれた人の主要併存疾患のない生存率であった。 併存疾患は、思春期および若年成人に一般的に現れる神経精神障害等を評価するAdolescent and Young Adult Health Outcomes and Patient Experience(AYA HOPE:思春期および若年成人の健康転帰と患者の体験)Comorbidity Indexを用いて定義するとともに、成人期の死亡率を予測する主要慢性疾患等を評価するCharlson Comorbidity Index(CCI)を用いて定義した。AYA HOPE併存疾患なし54.6%、CCI併存疾患なし73.1% 解析対象集団のうち、48.6%が女性、5.8%が早産で、追跡期間終了時の年齢中央値は29.8歳(四分位範囲12.6歳)であった。 追跡期間終了時でのAYA HOPE併存疾患なしの生存者の割合は、全早産出生者で54.6%(超早産22.3%、極早産48.5%、後期早産58.0%)、早期正期産で61.2%、満期正期産で63.0%であった。この割合は、満期正期産出生者と比較して全早産出生者で有意に低下した(補正後率比:超早産0.35[95%信頼区間[CI]:0.33~0.36、p<0.001]、全早産0.86[95%CI:0.85~0.86、p<0.001]、補正率比の差:超早産-0.41[95%CI:-0.42~-0.40、p<0.001]、全早産-0.09[95%CI:-0.09~-0.09、p<0.001])。 また、CCIで評価した併存疾患を有することなく生存していた人の割合は、全早産73.1%、超早産32.5%、極早産66.4%、後期早産77.1%、早期正期産80.4%、満期正期産81.8%であった(補正後率比 超早産:0.39[95%CI:0.38~0.41、p<0.001]、全早産:0.89[95%CI:0.89~0.89、p<0.001]、補正後率比の差 超早産:-0.50[95%CI:-0.51~-0.49、p<0.001]、全早産:-0.09[95%CI:-0.09~-0.09、p<0.001])。

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EGFR-TKI併用療法、これまでのまとめ【忙しい医師のための肺がんササッと解説】第10回

第10回 EGFR-TKI併用療法、これまでのまとめ1)Stinchombe TE, Janne PA, Wang X, et al. Effect of Erlotinib Plus Bevacizumab vs Erlotinib Alone on Progression-Free Survival in Patients With Advanced EGFR-Mutant Non-Small Cell Lung Cancer A Phase 2 Randomized Clinical Trial. JAMA Oncol. 2019 Aug 8. [Epub ahead of print]2)Noronha V, Patil VM, Joshi M, et al. Gefitinib Versus Gefitinib Plus Pemetrexed and Carboplatin Chemotherapy in EGFR-Mutated Lung Cancer. J Clin Oncol. 2019 Aug 14. [Epub ahead of print]3)Nakagawa K, et al. Ramucirumab plus erlotinib in patients with untreated, EGFR-mutated, advanced non-small-cell lung cancer (RELAY): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial.Lancet Oncol. 2019 Oct 4.[Epub ahead of print]EGFR変異陽性例に対する初回治療は、オシメルチニブがOSでも有効性を示した(Ramalingam S, ESMO2019)ことでおおむね片が付いたとみる向きが多いが、次なる方向性として併用療法やcell-free DNAを組み合わせたアプローチなどが模索されている。今回は最近の報告を基に併用療法についてまとめてみた。1)について米国から報告された第II相試験。88例をエルロチニブ+/-ベバシズマブに1:1で無作為化。プライマリーエンドポイントであるPFSは17.9ヵ月 vs.13.5ヵ月と併用群で延長していたが、統計学的な有意差なし(HR:0.81、p=0.39)。ORRは同等(81% vs.83%)、驚くべきことにOSは併用群で劣る傾向(32.4ヵ月 vs.50.6ヵ月、HR:1.41、p=0.33)であった。後治療としてオシメルチニブが併用療法群で10例・単剤群で13例投与されている(これらを省いたOSデータは示されていない)。2)について細胞傷害性抗がん剤との併用インドから報告された単施設の(!)第III相試験。350例をゲフィチニブ+/-化学療法(カルボプラチン+ペメトレキセド)に1:1で無作為化。PS 2が21%と多く含まれている。プライマリーエンドポイントであるPFSは16ヵ月 vs.8ヵ月と併用群で有意に延長していた(HR:0.51、p<0.001)。ORR(75% vs.63%)、OS(中央値未到達vs.17ヵ月、HR:0.45、p<0.001)も併用群で有意に上回っていた。後治療として単剤群のうち、カルボプラチン+ペメトレキセドを受けたものは32.4%とやや低めである。解説血管新生阻害薬との併用については、本邦から報告されたゲフィチニブ+/-ベバシズマブの第II相試験(JO25567)での良好なPFSを基に複数の第III相臨床試験が計画された。昨年・本年のASCOで本邦からの第III相試験が報告され、PFS延長が確認されたことは周知のとおり(Saito, Lancet Oncol. 2019、Nakagawa, Lancet Oncol. 2019)。今後、中国やEUからも第III相試験の報告が予想されている。今回の第II相試験は残念ながらnegativeな結果に終わったが、著者らも触れているように単剤群の治療成績が予想よりよかったことも影響しており、血管新生阻害薬併用によるPFS延長は十分確認されたと考えられる。ただし、より重要なのは、JO試験に引き続いてOSの延長が認められなかったことであろう。それほど毒性の強い治療でもないので後治療に差があるわけではないと思うのだが、この理由は明らかになっておらず、今後の開発にやや不安を残したといえる。オシメルチニブとの併用を含めた主だった試験のまとめは以下のとおり。細胞傷害性抗がん薬との併用は、古くTRIBUTE試験などで検討されてきたが、EGFR変異陽性例に絞った検討はNEJグループが牽引してきた経緯がある(Sugawara S, Ann Oncol2015, Oizumi S, ESMO Open2018)。第III相試験については昨年のASCOで報告され(Furuya N, ASCO2018)、本年インドからも同様の結果が示された。PFSは延長して当然な一方で、2つの第III相試験ともにOS延長が示されたことは重要である(ただしインドの試験では低い後治療の割合がOSの大きな差に影響している可能性はあり)。主だった試験のまとめは以下のとおり。以上が現状のまとめとなる。元々のコンセプトとして、前者はEGFR-TKIの効果増強を意図している一方で、後者は腫瘍のheterogeneityに対して異なる機序の薬剤の相乗効果を狙っている。また、血管新生阻害剤併用の場合には後治療として化学療法(+免疫チェックポイント阻害剤)が使用可能であるのに対して、細胞傷害性抗がん剤併用後の増悪に対しては単剤化学療法が標準と考えられることから、これら併用療法のPFSを単純に比べることはあまり意味がなさそうである。一方でこれら試験結果を待っている間に、オシメルチニブというgame changerが登場したため、結果の解釈はより難しくなった。現在、オシメルチニブを用いても同様の治療戦略が成り立つのかを検討すべく、さまざまな計画がなされている(Yu H, ASCO2019)。以上、簡単にEGFR-TKI併用療法の現状をまとめた。今後オシメルチニブを軸に治療開発がなされると考えられるが、エンドポイントをどう設定するかは非常に重要な問題である。クロスオーバーの影響を考慮すべき治療の場合、PFSでは不十分な可能性があるが、そうなると相当大規模な症例数が必要となる。長期奏効の指標としてX年無再発率のような新しい指標を検討すべきなのか、乳がんのホルモン治療やICIで近年検討されているように「試験治療開始から化学療法開始までの期間(=どの程度の期間化学療法を回避できたか)」や「治療休止期間」のような患者のQOLをより反映したソフトエンドポイントも興味深く、ドライバー変異陽性肺がんもこうした新規エンドポイントを検討すべき時代になっているのかもしれない。また、オシメルチニブ単剤でも良好なPFSが得られる状況において、果たして併用療法が本当に意義のあるPFS延長を示せるのかも気になる点である(実際、オシメルチニブ+ベバシズマブの試験ではPFSはそれほど延びていない)。図表(ppt)はこちら。右クリックでダウンロードできます。

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性機能に対するボルチオキセチンの影響~ランダム化比較試験

 性機能障害はうつ病患者においてよくみられるが、抗うつ薬の一般的な副作用として認められるtreatment-emergent sexual dysfunction(治療に起因する性機能障害)の評価は、一部の患者において抑うつ症状の治療と混同される可能性がある。米国・Takeda Development Center AmericasのPaula Jacobsen氏らは、ボルチオキセチンの性機能に対する影響を評価するため、健康なボランティアを対象に、性機能障害を誘発することが知られているパロキセチンおよびプラセボとの比較を行った。The Journal of Sexual Medicine誌2019年10月号の報告。 本研究は、フェーズIVランダム化多施設二重盲検プラセボ対照4アーム固定用量head-to-head試験として実施された。性機能が正常な18~40歳の健康なボランティア(自己報告によるChanges in Sexual Functioning Questionnaire Short-Form[CSFQ-14]において男性は47点超、女性は41点超)に、ボルチオキセチン(1日1回10mgおよび20mg)、パロキセチン(1日1回20mg)、プラセボを5週間投与し、性機能障害の比較を行った。治療コンプライアンス不良を調整する2つの修正された完全分析セットを事前に指定した。主要エンドポイントは、5週間後のパロキセチンと比較したボルチオキセチンのCSFQ-14総スコアの変化とした。副次エンドポイントは、プラセボと比較したボルチオキセチンのCSFQ-14スコアの変化、CSFQ-14サブスケール、患者の全体的な印象度とした。 主な結果は以下のとおり。・対象は361例(平均年齢:28.4歳)。内訳は、白人約57%、黒人またはアフリカ系米国人34%、アジア系4%であった。・ボルチオキセチン10mgでは、パロキセチンよりも治療に起因する性機能障害が有意に少なかった(平均差:+2.74点、p=0.009)。・ボルチオキセチン20mgでは、パロキセチンよりも治療に起因する性機能障害が少なかったが(平均差:+1.05点)、統計学的に有意な差は認められなかった。・とくにパロキセチンおよびボルチオキセチン20mgでは、コンプライアンス不良が結果に影響を及ぼしている可能性が示唆された。・パロキセチンは、プラセボよりも治療に起因する性機能障害が有意に多かったが、ボルチオキセチンでは認められなかった。・ボルチオキセチンは、パロキセチンよりもCSFQ-14で測定した性機能障害の3つのフェーズおよび5つのディメンションにおいて良好な結果が認められた。・本試験では、健康なボランティアを対象とすることにより、結果に影響を及ぼすうつ症状の状態などのリスクが軽減された。 著者らは「健康なボランティアにおいて、ボルチオキセチンはパロキセチンよりも治療に起因する性機能障害が少なく、性機能障害が懸念されるうつ病患者のマネジメントにおいてボルチオキセチンが選択薬となりうることが示唆された」としている。■「ボルチオキセチン」関連記事ボルチオキセチン治療中のうつ病患者における睡眠と抑うつ症状との関係

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第16回 その腹痛、重症?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)発症様式に要注意! 安易に胃腸炎と診断するな!2)お腹が軟らかくても安心するな! 血管病変を見逃すな!3)陥りやすいエラーを知り、常に意識して対応を!【症例】66歳女性。来院当日の就寝前に下腹部痛を自覚した。自宅で様子をみていたが、症状改善せず救急外来を受診。担当した医師は、お腹は軟らかいので消化管穿孔はないと判断し一安心。しかし、痛みの訴えが強いためルートを確保し、アセトアミノフェンを点滴から投与し、まずは腹部単純CT検査をオーダーし、ほかの患者を診ることとしたが…。●搬送時のバイタルサイン意識1/JCS血圧148/92mmHg 脈拍102回/分(整) 呼吸24回/分 SpO298%(RA)体温35.9℃ 瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧、脂質異常症内服薬アムロジピン(商品名:アムロジン)、アトルバスタチン(同:リピトール)腹痛診療は難しい!?腹痛は、救急外来、一般外来どちらでも頻度の高い症候です。ところが、問題なく帰宅とした患者さんが再受診することも珍しくありません。救急外来を受診し、72時間以内に再受診した患者のうち、最も頻度の高い症候が「腹痛」であったと報告されています1)。「心窩部痛で来院して、その後虫垂炎と判明した」「胃腸炎だと思ったら糖尿病ケトアシドーシスだった」「急性膵炎だと思ったらアルコール性ケトアシドーシスだった」など、誰もが経験あるでしょう。さらに、急性心筋梗塞、大動脈解離、腹部大動脈瘤切迫破裂、上腸間膜動脈塞栓症、精巣捻転、女性であれば異所性妊娠や卵巣捻転など、見逃してはならない疾患も複数存在するため、心して診療する必要があります。重篤な腹痛の見極め方救急外来など、発症早期に受診する場において、確定診断するのは簡単ではありませんが、目の前の患者が重篤なのか、緊急性が高いのかを判断することは、意外と難しくありません。危険な疼痛を見逃さないために着目するポイントは、表の6つです。腹痛を例に1つずつ確認していきましょう。表 危険な疼痛を見逃すな ―常に意識すべき6つのこと―1)痛みの訴えが強い場合は要注意!患者さんが痛みを強く訴えている場合には、慎重に対応する必要があります。当たり前のようですが、バイタルサインが安定しているケースで、検査で異常を見いだせない場合は、「大げさだなぁ」と思ってしまいがちです。また、発症早期の場合には検査上、異常がないことはよくあることです。さらに、今回の症例のように、単純CT検査ではなかなか腸管や血管の病変の詳細な評価が困難なことは容易に想像がつくでしょう。初療をしつつ、痛みはなるべく早期に取り除くようにしましょう。苦痛を取り除き、詳細な病歴を聴取し、十分な身体所見をとるのです。鎮痛薬を使用することで診断が遅れることはありません。むしろ適切な判断ができるでしょう2,3)。絞扼性腸閉塞、上腸間膜動脈塞栓症は、単純CTや造影CT検査で異常がなく問題なしと判断され、見逃される典型です。患者さんの訴えを重視し、対応しましょう。2)突然発症の疼痛は要注意!Sudden onsetの病歴はきわめて重要です。腹痛では大動脈解離、上腸間膜動脈閉塞症、腹部大動脈瘤切迫破裂などが代表的です。来院時にバイタルサインや痛みが安定しているようでも、発症様式が“突然”であった場合には、注意する必要があることはあらためて理解しておきましょう。大動脈解離や腹部大動脈瘤切迫破裂では、失神を主訴に来院することもあります。失神は瞬間的な意識消失発作でしたね(第13~15回を参照)。どちらの疾患も裂け止まっていると、バイタルサインも症状も落ち着いているものです。発症様式から具体的な疾患を想起し、意識して所見をとりにいきましょう。鑑別に挙げなければ、血圧の左右差を確認することもないですし、腹部の拍動、さらにはエコーで見るべきところを見忘れてしまいます。3)増強する疼痛は要注意!アセトアミノフェンの静注薬が使用可能となり、来院早期から鎮痛薬を使用することが多くなったのではないでしょうか。患者さんの痛みを早期に取り除くことは、望ましい対応ですが、1つ注意点があります。“鎮痛薬の使用は原則1回まで!”、これを意識しておきましょう。使いやすく投与時間が短い(15分)ため、繰り返し使用したくなりますが、一度使用し効果が乏しい場合には、その時点で“まずい”と判断し、対応する必要があります。もちろん、鎮痛薬使用前に評価は行いますが、同時に複数の患者を診ることが多いのが通常でしょうから、痛みは速やかにとりつつ、効果が乏しければ1時間様子をみるなどせず、次のアクションに移りましょう。絞扼性腸閉塞や上腸間膜動脈閉塞症では、痛みが持続し、増強していきます。時間が経てば誰でも判断可能ですが、その前の状態で拾い上げるためには、「経静脈的な鎮痛薬でも効果が乏しい」ということを意識しておくとよいでしょう。4)非典型的な経過は要注意!腹痛で見逃されやすい代表疾患の1つに虫垂炎があります。発症早期で疑いながらも診断へ至らないことも多いですが、胃腸炎と誤診されることも少なくありません。異所性妊娠も同様に胃腸炎と誤診されやすいことも合わせて覚えておいてください。これを防ぐのは意外と簡単です。胃腸炎の典型例を知ること、これだけでだいぶ違うでしょう。胃腸炎には満たすべき条件が3つ存在します。それが(1)嘔吐・腹痛・下痢の3症状あり、(2)上から下の順に(1)の症状が出現、(3)摂取してからの時間経過が合致、です4)。虫垂炎は心窩部痛→嘔気・嘔吐→右下腹部痛が典型的です。異所性妊娠も腹痛の後に嘔吐を認めることが多いでしょう。その他、腸閉塞や急性膵炎、胆管炎や尿管結石などなど、意識すれば拾い上げられる疾患は多岐にわたります。(3)は中毒との鑑別に有用です。食べた物によって消化管の症状が生じるには最低でも30分、通常数時間のタイムラグが生じます。食事中に、または食べてすぐに嘔吐などの症状を認める場合には、中毒を疑い、混入物などに気を配ったほうがいいでしょう。5)Common is common!腹痛を訴える30代の女性が、顔面に蝶形紅斑様、四肢の関節痛の症状を認めたら何を考えるでしょうか。蝶形紅斑とくれば全身性エリテマトーデス(SLE)と考えがちですが、それ以上に頻度の高い疾患が存在します。それが伝染性紅斑、いわゆる「りんご病」です。疫学は非常に重要であり、それを無視してしまうと、診療は複雑化し、さらに患者は不安をあおられます。頻度の高い疾患の非典型的症状と、頻度の低い疾患の典型的症状は、どちらが遭遇する頻度が高いかといえば、一般的には前者です。今回の例でいえば、伝染性紅斑は成人に起こると、発熱、関節痛がメインに出て、小児で認められるようなレース状皮疹を認める頻度は下がります。子供の間で流行していると、そこから接触時間の長い母親や保育士さんへ感染するのです。それに対して、SLEは名前こそ有名ですが、救急外来でSLEの初発症状に出くわすことはまれです。頻度の高い疾患から考え、対応し、確定できれば、重篤な疾患もルールアウトできるのですから、きちんと“common disease”を理解しておくことは重要なのです。「お子さんの学校で、りんご病流行っていませんか?」「息子さん、最近りんご病にかかりませんでしたか?」と問診し、「YES」と回答があればその時点で診断確定でしょう。抗核抗体をとりあえず提出、膠原病の可能性を患者に伝えてしまうと、患者は不安で仕方なくなってしまうでしょう。腹痛患者に皮疹を認める場合には、網状皮斑(livedo)であれば、ショックと考え焦る必要があります。その他、腹痛に加え関節痛、紫斑を認めれば、IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)も考えましょう。6)病歴・身体診察・Vital signsは超重要!病歴(History)、身体診察(Physical)、Vital signs、これらは常に超重要です。Hi-Phy-Vi(ハイ・ファイ・バイ)を軽視し、検査を行うとまず見逃します。意識すべき病歴は前述のとおりであり、ここでは身体診察、Vital signsのポイントをコメントしておきましょう。(1)身体診察診察上、腹膜炎を示唆するカッチカチの腹部所見であれば、悩むことは少ないでしょう。それに対して、本症例のように腹部が軟らかい場合には判断を誤りがちです。漏れているのが消化液の場合(消化管穿孔など)には腹部がカッチカチとなりますが、血液の場合(腹部大動脈瘤切迫破裂や異所性妊娠)には軟らかいままです。腹部が軟らかいのに反跳痛を認める場合には、これらの疾患を積極的に疑い、エコーなど精査を迅速に進めましょう。(2)Vital signs呼吸数、意識にとくに注目しましょう。発熱がないから、頻脈でないから、血圧が保たれているからと、重症度を見誤ることがあります。内服薬の影響、糖尿病・アルコール多飲者・パーキンソン病などでは、自律神経障害の影響などによって、見た目の重症度がマスクされることがあります。呼吸数や意識状態に影響する薬剤を常時内服している人はまれであるため、頻呼吸を認める、意識障害を認める場合には“まずい”サインと認識し、精査を進めましょう。本症例の66歳の女性は、突然発症ではなかったものの、痛みの程度は強く、アセトアミノフェン投与後も症状は大きく変化しませんでした。単純CT検査では明らかな閉塞機転は見いだすことができず、対応に困って研修医から相談があった一例です。エコーでは、初診時に認めなかった少量の腹水を認め、その他腹痛を説明しうる所見が認められなかったため、来院後の経過から「絞扼性腸閉塞の疑い」として外科へコンサルトし緊急手術となりました。検査は以前と比較しオーダーしやすくなりました。しかしそのために、検査で異常を見いだせないと患者の訴えを無視してしまいがちです。Hi-Phy-Viに重きを置き、検査前確率を意識して適切な検査のオーダーと解釈を心掛けましょう。1)Soh CHW, et al. Medicina (Kaunas). 2019;55. pii:E457. doi:10.3390/medicina55080457.2)Ranji SR, et al. JAMA. 2006;296:1764-1774.3)坂本 壮. medicina.2019;56:1620-1623.4)坂本 壮. 見逃せない救急・見逃さない救急. プライマリ・ケア. 2019;4.(in press)

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ESMO2019レポート 消化器がん

レポーター紹介胃がんに対する術前化学療法の意義―PRODIGY試験とRESOLVE試験切除可能な進行胃がんに対する治療は本邦では、S-1、CapeOx、SOX、S-1+ドセタキセル(DS)による術後補助化学療法が標準的治療の位置付けである。欧州では、FLOT4試験の結果、術前術後に3剤併用療法を行うことが標準となった。今回、アジアから2つの術前治療に関する第III相試験が発表された。PRODIGY試験は、韓国で実施されたcT2-3N+M0またはcT4NanyM0に対する術前DOS療法+手術+術後S-1療法(以下、CSC群)の、手術+術後S-1療法(以下、SC群)に対する優越性を検証する第III相無作為化比較試験である。計530例が登録され、最終的な解析対象(FAS)は484例であった。年齢中央値は両群とも58歳、食道胃接合部原発が5%程度含まれていた。CSC群におけるGrade3以上の治療関連有害事象として、好中球減少12.6%、発熱性好中球減少9.2%、下痢5.0%を認め、術前治療中の治療関連死は0.8%であった。手術におけるR0切除割合は、CSC群(238例)96.4% vs.SC群(246例)85.8%(p<0.0001)であった。CSC群では病理学的完全奏効(CR)が10.4%(p<0.0001)で認められた。主要評価項目の3年無増悪生存期間(PFS)は、CSC群66.3% vs.SC群60.2%(HR:0.70、95%CI: 0.52~0.95、p=0.0230)であった。ITT解析でもHR:0.69、6ヵ月のランドマーク解析でもHR:0.71と一貫した結果であった。RESOLVE試験は、中国で行われたcT4a/N+M0またはcT4bNanyM0に対する、術後XELOX、術後SOX、術前SOX+手術+術後SOXの3群比較試験である。計1,094例が登録され、年齢中央値は59~60歳、食道胃接合部原発が35~38%含まれていた。術後化学療法実施割合は、各群66~70%であった。3年無病生存(DFS)は、術後XELOX群と比較して、術前術後SOX群で優越性が示され(54.78% vs.62.02%、HR:0.79、95%CI:0.62~0.99、p=0.045)、術後SOX群の非劣性が示された(54.78% vs.60.29%、HR:0.85、95%CI:0.67~1.07、Non-Inferiority margin:1.33)。以上、中国および韓国から2つの第III相試験が報告され、術前化学療法の優越性が検証された。試験の質も大きな問題はないと考えられ、本邦の実地臨床にも外挿できる可能性が高いと考えられる。ただ、中国の試験はcT4と局所進行症例の中でもより進行した集団が対象であること、韓国の試験は優越性を示すも、PFS曲線はほぼR0切除率の差がPFSの差につながっていることが示唆されることを考慮すれば、すべての切除可能胃がんで術前化学療法が必要とは言い切れないだろう。ただ、発表からは術前化学療法の有害事象も許容範囲内で、術後合併症の発生割合も同程度であったことから、大きなデメリットが感じられない。本邦では、JCOG1509試験、JCOG1704試験の2つの胃がんにおける術前化学療法を検討する前向き試験が実施中である。前者はcT3-4N+M0(肉眼型大型3型および4型を除く)を対象に術前S-1+オキサリプラチン(OX)療法の優越性を無治療群と比較する第III相試験、後者はBulky Nがあるものを対象にしたDOS療法を評価する第II相試験である。これらの試験の結果を待つか、中国・韓国のエビデンスを外挿するか、もう少し国内での議論が必要かもしれない。BRAF V600E変異型大腸がんに対する新規分子標的治療―BEACON試験切除不能BRAF V600E変異陽性大腸がんは、大腸がんの約5%に認められ、きわめて予後不良である。大腸がん治療ガイドラインでは、1次治療においてFOLFOXIRI+ベバシズマブ療法が推奨レジメンの1つとなっているが、2次治療以降には有効な治療が乏しいのが現状である。BRAF変異陽性メラノーマや非小細胞肺がんではBRAF阻害薬+MEK阻害薬の有効性が示されており、同様の治療戦略が大腸がんでも期待されていた。BEACON試験は、BRAF V600E変異を有する切除不能・進行再発大腸がんにおいて、1次治療もしくは2次治療後に腫瘍進行を認めた患者を対象とした無作為化第III相試験である。対象患者665例は、エンコラフェニブ+ビニメチニブ+セツキシマブの3剤併用療法群、エンコラフェニブ+Cmabの2剤併用療法群、FOLFIRI+Cmab療法またはIRI+Cmab療法のコントロール群の3群に、1:1:1で無作為に割り付けられた。OS期間中央値は、3剤併用療法群vs.コントロール群で9.0ヵ月vs.5.4ヵ月(p<0.0001)、2剤併用療法群vs.コントロール群で8.4ヵ月vs.5.4ヵ月(p<0.0003)、最初の331例のORRは3剤併用療法群vs.コントロール群で26% vs.2%(p<0.0001)、2剤併用療法群vs.コントロール群で20% vs.2%(p<0.0001)であり、主要評価項目を達成した。相対用量強度(RDI)は3剤併用療法群では、エンコラフェニブ 91%、ビニメチニブ 87%、Cmab 91%、2剤併用療法群では、エンコラフェニブ 98%、Cmab 93%、コントロール群では74~85%であった。Grade3以上の有害事象割合は、3剤併用療法群58%、2剤併用療法群50%、コントロール群61%であり、3剤併用療法群で下痢10%、貧血11%が高く、全Gradeの有害事象において2剤併用療法群で筋肉痛(13%)、関節痛(19%)、頭痛(19%)などの頻度がやや高かった。QOLに関してはQLQ-C30、FACT-Cにおいては差を認めなかった。以上から、3剤併用療法群において良好な有効性を認め、高いRDIを維持しながらも、管理可能な有害事象のプロファイルとQOLの維持を認めた。以上から、今後切除不能BRAF V600E変異陽性大腸がんにおいて、本併用療法は2次治療以降の標準治療として臨床導入されることが期待される。3剤併用療法で有効性がやや高く、有害事象も2剤併用療法とプロファイルが異なるだけでQOLに差がないことからまずは3剤併用でトライしてみることが勧められる。Grade3以上の消化器毒性は3剤併用療法で高いことから、その場合には2剤併用療法もオプションとなりえるだろう。今後メラノーマ同様に1次治療や補助療法での有効性にも期待したいところである。現状、臨床現場でも困っている患者さんのために、早急な薬事承認に期待したいが、まだ1年程度先になるだろう。それまでは、拡大治験の実施や患者申出制度の利用に活路を見いだしたいところである。ハイリスクStageII結腸がんに対する補助療法―ACHIEVE-2試験リンパ節転移のないStageII結腸がんでは、臨床病理学的な再発ハイリスク因子を持つ場合にのみ術後補助化学療法が推奨され、レジメンはCAPOX/FOLFOX療法やフルオロピリミジン単独療法が6ヵ月間行われる。StageIIIにおいて、IDEA collaborationの結果から、CAPOX/FOLFOX療法の3ヵ月投与が治療選択肢として確立されたことからハイリスクStageII結腸がんでも同様の検討が行われた。2019年ASCOでIDEA collaborationに参加した6つの臨床試験のうち、4つの試験(SCOT、TOSCA、ACHIEVE-2、HORG)の統合解析が発表され、主要評価項目である5年無病生存率(DFS)は非劣性が証明されず、negative studyであった。しかし、CAPOX群では3ヵ月と6ヵ月で大きな差を認めず、ハイリスクStageII症例の術後補助化学療法を行う場合でも、CAPOXなら3ヵ月への短縮が可能と結論付けていた。今回のESMOでは、本邦での試験であるACHIEVE-2試験の結果が発表された。514例が登録され、ハイリスク因子はT4 36%、低分化腺がん10~13%、郭清リンパ節転移個数不十分13%、腸閉塞発症19~20%、脈管侵襲陽性87~88%であった。観察期間中央値約36ヵ月の時点で、3年DFSは3ヵ月群88.2% vs.6ヵ月群87.9%であった(HR:1.12、95%CI:0.80~1.57)。レジメン別解析では、FOLFOX群(n=82)3ヵ月群88.6% vs.6ヵ月群85.7%、CAPOX群(n=432)3ヵ月群88.2% vs.6ヵ月群88.4%であった。サブグループ解析では、T4群では3ヵ月群76.2% vs.6ヵ月群79.7%(HR:1.28、95%CI:0.84~1.95)であった。本試験結果の解釈は非常に悩ましい。もともとIDEA collaborationは、統合解析が主体となっていることから、個々の試験の解釈をするときは、統合解析の結果と合わせて評価することが必要である。3年DFSで大きな差はないが、HRが1.12と少し1を超えている点は気になるところである。とくに、T4集団での解析では少数例の検討とはいえ、HR:1.28と1を大きく超えている。全体の3年DFSがlow risk StageIIIよりも悪いことも鑑みると、T4集団ではCAPOX 6ヵ月を選択することが妥当という印象を持った。スペシャルセッションの最後には、登壇者からStageII CCの補助療法のアルゴリズムが提案されたが、私自身はあまり納得のいくものではなかった。国内でのコンセンサス形成には少し時間がかかると思われた。まとめ今回のESMOでも、多くの新しいエビデンスに巡り合うことができた。胃がん、大腸がんでは肺がんなどに比べ新薬の登場が遅れており、その間に周術期治療の開発がトピックスとなっている印象を受けた。日本人の発表やディスカッサント登壇も多く、世界と一緒に新しい治療方針を議論している実感が得られた。腫瘍医としての矜持を持ち、目の前の患者さんにこの新しいエビデンスをどう適用させるかが肝要である。その過程で、また新たなクリニカルクエスチョンが生じ、それに答えるべく臨床試験に取り組む…この繰り返しの結果が今日までのがん治療の進歩であり、令和の時代にも継続していかねばならないだろう。

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NSCLCのALK検査、リキッド・バイオプシーも有用(BFAST)/ESMO2019

 非小細胞肺がん(NSCLC)の遺伝子変異検査で、血液を検体とするリキッド・バイオプシーの有用性を評価した前向き臨床試験の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で、米国・Rogel Cancer Center/University of MichiganのShirish M. Gadgeel氏より発表された。 BFAST試験は、血液検体のみを用いた6つのコホートからなる国際共同の前向き第II/III相試験である。今回はその中からALK陽性コホートのみ発表された。その他のコホートはRET陽性、ROS1陽性、TMB陽性、Real World Dataなどであり、血液検査(cfDNA)はFMI社によって実施された。・対象:Stage IIIB/IVの未治療のNSCLC。試験全体で2,219例をスクリーニング、ALK陽性は119例(5.4%)で、87例が本試験に登録された。・試験群:ALK陽性コホートにおいては、アレクチニブ600mg×2回/日投与・評価項目:[主要評価項目]治験担当医評価(INV)による奏効率(ORR)[副次評価項目]INVによる奏功期間(DOR)と無増悪生存期間(PFS)。独立評価委員(IRF)によるORR、DOR、PFS[探索的検討項目]脳転移を有する患者群の主治医判定によるORR 必要症例数算定などのために、同じくアレクチニブの国際共同試験であるALEX試験の結果をリファレンスとした(ALEX試験は腫瘍組織検査)。アレクチニブの用量が日本の承認用量とは異なるため、日本からはこのコホートへの登録はなかった。 主な結果は以下のとおり。・登録患者のベースライン特性は、年齢中央値55歳、脳転移有り40%などで、既報のALEX試験と大きな差はなかった。・追跡期間中央値12.6ヵ月。・INVによるORRは87.4%(95%信頼区間[CI]:78.5~93.5)、IRFによるORRは92.0%(95%CI:84.1~96.7)であった。・脳転移を有する患者群(35例)でのINVによるORRは91.4%、脳転移なしの患者群(52例)では84.6%であった。病勢進行(PD)の症例は各群1例と0例であった。・INVによるDORは中央値未到達で、6ヵ月時点でのイベントフリーは63例でありその割合は90.4%であった。・INVによるPFSも同様に中央値未到達であり、12ヵ月時点でのPFSは78.4%(95%CI:69.1~87.7)であった。・Grade3/4の有害事象(AE)は35%、AEによる治療中止は7%、用量減量は8%であった。主なAEは便秘などの消化器症状、浮腫、倦怠感、筋肉痛などであり、既報のアレクチニブの安全性プロファイルと差はなかった。 発表者のGadgeel氏は「血液サンプルでの遺伝子検査(NGS)は、ALK陽性NSCLC患者の治療方針決定に臨床的な意味がある事を示した」と述べた。

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sacubitril-バルサルタンでも崩せなかったHFpEFの堅い牙城(解説:絹川弘一郎氏)-1126

 sacubitril-バルサルタンのHFpEFに対する大規模臨床試験PARAGON-HFがESC2019のlate breakingで発表されると聞いて、5月のESC HFのミーティングで米国の友人と食事していた時、結果の予想をした記憶がある。私はESCで出てくるんだから有意だったんじゃないの、と言い、別の人はHFpEFには非心臓死が多いからmortalityの差は出ないよね、と言ったりしたものであった。相変わらず私の予想は外れ、ただ外れ方としてp=0.059という悩ましいprimary endpointの差であった。7つイベントが入れ替わったら有意だったそうである。ただ、入れ替わりってどういうこと?とも言え、読み方としてはやはりこれだけ大規模にやって有意でないものは有意でないとしか言えない。さらに言うと、CHARM-preservedでもTOPCATでも心不全再入院だけでいうと有意に抑制しているというデータもあり、心血管死亡に対して一定の(有意でないにしても)抑制がないと、これまでカンデサルタンもスピロノラクトンもダメと烙印を押してきた経緯に反する。 PARAGON-HFでは心血管死亡はそれこそ1本の線に見えるほど2群に差がなく、やはり有効でないと結論付けるのが妥当であろう。Solomon氏は対照群にバルサルタンを選ばなきゃよかったみたいなことを言い訳がましく言っていたが、まさにそれはそのとおりかと思う。HFpEFの中にRAS阻害薬がよく効くサブグループがいるようで、それがCHARM-preservedやTOPCATの一定の結果に関係しているかもしれない。一方で対プラセボでもまったく有効性のかけらもなかったI-preserveがどうしてなのかも考える必要がある。そのヒントは平均のLVEFと虚血性心疾患の割合である。平均のLVEFはCHARM-preserved 54%、I-preserve 60%、TOPCAT 56%、PARAGON-HF 57%、虚血性心疾患の割合はCHARM-preserved 56%、I-preserve 24%、TOPCAT 58%、PARAGON-HF 35%。つまり虚血性心疾患の割合が多く、またLVEFが低めの患者が多く含まれているほど実薬の有効性が高くなっている。CHARM-preservedでHFmrEF(昔はmid-rangeを分けてなかった)はHFrEF同様カンデサルタンが有効であったと報じられているし、このPARAGON-HFでもEF<57%では有意にsacubitril-バルサルタンが有効であった。 私は、虚血性心疾患からHFrEFに至る途中のmid-rangeに近いHFpEFはRAS阻害薬が有効であろうし、そしてその場合はPARADIGM-HFと同じくACE阻害薬よりsacubitril-バルサルタンがもっと有効であると思う。真のHFpEFとは何なのか、という議論が本当は必要であるが、虚血でないLVEF>60%のHFpEFに対して、もうHFrEFに対するGDMTの外挿では歯が立たないことが決まったような気がしている。

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CABG後のグラフト不全の予防に、抗血小板薬2剤併用が有効/BMJ

 冠動脈バイパス術(CABG)を受けた患者では、アスピリンへのチカグレロルまたはクロピドグレルの追加により、アスピリン単独に比べ術後の大伏在静脈グラフト不全の予防効果が大きく改善されることが、カナダ・ウェスタン大学のKarla Solo氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年10月10日号に掲載された。アスピリンは、CABG後の大伏在静脈グラフト不全の予防に推奨される抗血小板薬である。一方、アスピリンへのP2Y12阻害薬または直接経口抗凝固薬の追加の利点については不確実性が残るという。グラフト不全と出血を評価するネットワークメタ解析 研究グループは、CABGを受けた患者の大伏在静脈グラフト不全の予防における経口抗血栓薬の有用性を評価する目的で、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 2019年1月25日現在、医学関連データベース(Medline、Embase、Web of Science、CINAHL、the Cochrane Library)に登録された文献を検索した。 対象は、CABG後の大伏在静脈グラフト不全の予防として、経口抗血栓薬(抗血小板薬または抗凝固薬)の投与を受けた年齢18歳以上の患者が参加する無作為化対照比較試験であった。 有効性の主要エンドポイントは大伏在静脈グラフト不全、安全性の主要エンドポイントは大出血とされた。副次エンドポイントは、心筋梗塞と死亡であった。2種の抗血小板薬2剤併用で、中等度の確実性を有するエビデンス 1979~2019年に発表された20件の無作為化対照比較試験に関する21編の論文が、ネットワークメタ解析に含まれた(4,803例、9種の介入[8種の実薬とプラセボ])。8種の実薬は、クロピドグレル、アスピリン、ビタミンK拮抗薬、チカグレロル、リバーロキサバン、アスピリン+チカグレロル、アスピリン+リバーロキサバン、アスピリン+クロピドグレルであった。 アスピリン単独と比較して、アスピリン+チカグレロル(オッズ比[OR]:0.50、95%信頼区間[CI]:0.31~0.79、治療必要数[NNT]:10例)、アスピリン+クロピドグレル(0.60、0.42~0.86、19例)の2種の併用療法は、大伏在静脈グラフト不全を有意に抑制することを支持する、中等度の確実性を有するエビデンスが得られた。 大出血、心筋梗塞、および死亡については、アスピリン単独と個々の抗血栓療法の差に関して、強力なエビデンスは認められなかった。 非推移性(intransitivity)の可能性を排除できないものの、試験間の異質性(heterogeneity)と非整合性(incoherence)は、すべての解析で低かった。また、グラフトごとのデータを用いた感度分析では、有効性の推定値に変化はなかった。 著者は「CABG後の抗血小板薬2剤併用療法は、重要な患者アウトカムへの安全性と有効性プロファイルのバランスをみながら、患者に合わせて調整する必要がある」とし、「今後のガイドラインの改訂では、CABGを受けた患者の抗血栓療法による管理を最適化する必要があり、2種の抗血小板薬2剤併用療法は、多くの患者で考慮されるべきであろう」と指摘している。

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卵巣がん、オラパリブ+ベバシズマブ維持療法の第III相試験(PAOLA-1/ENGOT-ov2)/ESMO2019

 フランス・レオンベラールセンターのIsabelle Ray-Coquard氏は、進行卵巣がんでプラチナ製剤+タキサン系抗がん剤+ベバシズマブでの1次治療が奏効した患者に対するPARP阻害薬オラパリブとベバシズマブの併用とベバシズマブ単剤での維持療法を比較した第III相PAOLA-1(ENGOT-ov2)試験の結果を発表。オラパリブ・ベバシズマブ併用はベバシズマブ単剤と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に延長すると報告した。PAOLA-1(ENGOT-ov2)は無作為化二重盲検比較。・対象:FIGO臨床病期分類でStage III~IVの高グレード漿液性がん、類内膜がん卵管がん、腹膜がんと診断され、プラチナ製剤+タキサンベースの化学療法にベバシズマブ3サイクル以上を施行し、完全奏効(CR)あるいは部分奏効(PR)と判定された患者806例・試験群:オラパリブ(300mg×2/日)+ベバシズマブ(15mg/kg、3週ごと)(537例)・対照群:プラセボ+ベバシズマブ(同上)(269例)・評価項目:[主要評価項目]研究グループ判定のPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、無作為化から2度目の増悪または死亡までの期間(PFS2)、最初の後治療開始から死亡までの期間(TFST)、2度目の後治療開始から死亡までの期間(TSST)、QOL、安全性および忍容性。患者は1次治療における効果とBRCA変異の状態で層別化された。 主な結果は以下のとおり。・治験担当医評価によるPFS中央値(ITT集団)は、試験群が22.1ヵ月、対照群が16.6ヵ月で、試験群で有意な延長が認められた(ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]0.49~0.72、p<0.0001)・暫定PFS2中央値は試験群が32.3ヵ月、対照群が30.1ヵ月であった(HR:0.86、95%CI:0.69~1.09)、OS中央値は未到達。・TFST中央値は試験群が24.8ヵ月、対照群が18.5ヵ月であった(HR:0.59、95%CI:0.49~0.71、p<0.0001)。・予め定めた年齢、Stage、PS、腫瘍減量手術時期、腫瘍減量手術の結果、1次治療の反応性のサブグループ解析ではいずれも試験群が優位であった。・BRCA遺伝子変異を有する症例でのPFS中央値は試験群が37.2ヵ月、対照群が21.7ヵ月(HR:0.31、95%CI:0.20~0.47)、BRCA遺伝子変異なしの症例では試験群が18.9ヵ月、対照群が16.0ヵ月(HR:0.71、95%CI:0.58~0.88)であった。・BRCA変異を含む相同組換え修復異常(HRD)を有する症例でのPFS中央値は試験群が37.2ヵ月、対照群が17.7ヵ月であった(HR:0.33、95%CI:0.25~0.45)。・BRCA変異を含まないHRDを有する症例でのPFS中央値は試験群が28.1ヵ月、対照群が16.6ヵ月であった(HR:0.43、95%CI:0.28~0.66)。・HDRなしあるいは不明の症例でのPFS中央値は16.9ヵ月、対照群が16.0ヵ月であった(HR:0.92、95%CI:0.72~1.17)。・治療関連有害事象発現率は試験群が99%、対照群が96%、Grade3以上は試験群が57%、対照群が51%であった。主な項目は試験群が疲労感/無力症、悪心、高血圧、対照群が高血圧、疲労感/無力症、関節痛であった。・健康関連QOLのスコアは両群で差を認めなかった。

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大腸がん術後補助化学療法、ctDNAによる評価(A GERCOR-PRODIGE)/ESMO2019

 フランス・European Georges Pompidou HospitalのJulien Taieb氏は、StageIIIの結腸がんでの術後補助化学療法では血液循環腫瘍DNA(ctDNA)が独立した予後予測因子であり、ctDNAが陽性か否かにかかわらず、術後補助化学療法は6ヵ月のほうが無病生存期間(DFS)が良好な傾向が認められたと欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で報告した。 今回の結果はIDEA FRANCE試験に参加した患者の血液検体を用いたA GERCOR-PRODIGE試験に基づくもの。IDEA FRANCE試験は、大腸がんの術後補助化学療法としてのFOLFOX療法またはCapeOX療法の投与期間について、3ヵ月間と6ヵ月間を比較した6つの前向き第III相無作為化試験を統合解析したIDEA collaborationに含まれる試験の1つ。 IDEA collaboration では全体として6ヵ月投与群に対する3ヵ月投与群の非劣性は確認されなかった。とくにCapeOX療法の患者の低リスク群では、3ヵ月投与は6ヵ月間投与と同様の有効性を示した。ただ、FOLFOX療法の患者の高リスク群では、6ヵ月間投与群でより高いDFSが得られたという結果になっている。 A GERCOR-PRODIGE試験の対象はIDEA FRANCE試験参加者のうち805例。検体採取は化学療法施行前にEDTA採血管を用いて行われている。検体の解析はWIF1遺伝子と神経ペプチドY(NPY)のメチル化マーカーをデジタルPCRによって解析した。最終的に805例のうち、ctDNA陰性群は696例、ctDNA陽性群は109例であった。 主な結果は以下のとおり。・2年DFS率はctDNA陽性群が64.12%、ctDNA陰性群が82.39%でctDNA陽性群は予後不良であった(ハザード比[HR]:1.85、95%信頼区間[CI]:1.31~2.61、p<0.001)。・多変量解析では、ctDNA陽性(HR:1.85、95%CI:1.31~2.61、p=0.0005)、N2(≧4)(HR:2.09、95%CI:1.59~2.73、p<0.0001)は予後不良因子であった。・治療期間別にみると、6ヵ月投与は3ヵ月投与に比べ予後が良好だった(HR:0.6、95%CI:0.45~0.78、p=0.0002)・ctDNA陽性・陰性別と治療期間の関係では、ctDNA陽性群で治療期間3ヵ月間でのDFS率が最も低かった(p<0.0001)。・T4またはN2(≧4)あるいはその両方を有する高リスクStage IIIではctDNA陽性群のDFS率が有意に低かった(p<00001)。・T1-3かつN1(1-3)の低リスクStage IIIではctDNA陽性群とctDNA陰性群の間でDFS率に有意差は認めなかった(p=0.07)。 今回の結果についてTaieb氏は「術後補助化学療法の3ヵ月間はとりわけctDNA陽性結腸がん患者では不十分なアウトカムに関連している可能性がある」と述べている。

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またも敗北した急性心不全治療薬―血管拡張薬に未来はないのか(解説:絹川弘一郎氏)-1124

 急性心不全に対する血管拡張薬は、クリニカルシナリオ1に対しては利尿薬も不要とまで一時いわれたくらい固い支持があるクラス1の治療である。シナリオ2でもほどほど血圧があればafterloadを下げることは古くから収縮不全に悪かろうはずがないと考えられてきて、そもそもV-HeFT IやV-HeFT IIはvasodilatorがHFrEFの長期予後を改善するのではないかという(今では顧みられない)コンセプトで始まり、レニンアンジオテンシン系にたどり着いた歴史的経緯がある。 現在は急性心不全の血行動態改善に血管拡張薬が強く推奨されてはいるものの、予後改善効果は期待しないというのが硝酸薬に対する立ち位置である。ASCEND-HFでnesiritideが、急性期の呼吸困難感がprespecifiedの有効性基準に達しなかったからダメというのも厳しい見方であったと思うが、それはそれで急性期の効果を1次エンドポイントにしていた。しかし、その後の臨床試験では結局6ヵ月程度の予後改善効果を求めるというスタンスにいつの間にか変化してきていて、ularitideは予後改善効果がないということでボツになったようである。それで唯一残っていた急性心不全に対する血管拡張薬がserelaxinである。 serelaxinは妊娠中に働くrelaxinの遺伝子組み換え製剤であり、血管拡張作用以外にこれでもかというくらい心血管系に対するベネフィットが報告されてきた。カルペリチドとその辺はよく似ているが、それはさておきRELAX-AHFという580/581例をエントリーした決して数が少ないとは言えない試験で、実は急性期の呼吸困難感をLikert scaleで評価した、どちらかというと客観性がより高いと思われる項目で有意差を達成できていなかった。ただ、180日までの死亡が少ないようだということで、RELAX-AHF-2というこの試験で再評価することになった。今回は3,274/3,271例という本当の大規模で施行され、180日の心血管系死亡を減らせるかを1次エンドポイントにした(後で5日までの心不全悪化も加えている)。残念ながら、より大規模にしてprimaryにセットすると予後改善効果が消えてしまうという心不全あるあるの罠にはまったようで、この薬も終わってしまった。もともとLikert scaleで有意差がない時点で予後改善をいう資格なしと思っていた。同時期にわが国においてもRELAX-AHF-Asiaという試験が走っていたのであるが、これも露と消えてしまった。 要するに硝酸薬で大抵なんとかなっているんだから、それよりずっと高い薬を承認してくれというなら、硝酸薬は予後改善しなくてもいいけど高い薬は予後改善してくれということのようであるが、私見ではそもそも最初の2~3日の治療が半年後の予後を変えるというコンセプトになじめないので、このようなコンセプトで急性心不全の新薬を開発することはやめたほうがいいのではないかと思っている。いずれにせよ、わが国のカルペリチドを残して世界中から硝酸薬以外の急性心不全に対する血管拡張薬は消滅しつつあるし、今後の期待も当面ない。

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SGLT2阻害薬は糖尿病薬から心不全治療薬に進化した(解説:絹川弘一郎氏)-1125

 ESC2019にはPARAGON-HF目当てで参加を決めていたが、直前になってDAPA-HFの結果が同じ日に発表されることとなり、パリまでの旅費もむしろ安いくらいの気持ちになった。もう少し発表まで時間がかかると思っていたのでESCでの発表は若干驚きであったが、プレスリリースで聞こえてきたprimary endpoint達成ということ自体は想定内であったので、焦点は非糖尿病患者での振る舞い一点といってもよかった。 なぜ、HFrEFに有効であることに驚きがなかったか、それはDECLAREのACC.19で発表された2つのサブ解析による。1つが陳旧性心筋梗塞の有無による層別化、もう1つがHFrEF/HF w/o known EF/no history of HFの3群間の比較である。ともに心血管死亡と心不全再入院というDECLAREのco-primary endpointに対する解析である。陳旧性心筋梗塞を有する群で明らかに早期からイベント抑制効果が認められ、EMPA-REG OUTCOMEやCANVASで心血管疾患の既往を有する患者で知られてきたSGLT2阻害薬の心不全予防効果が投与早期から現れるということは、言い換えると大半が虚血性心疾患であり、そしてそれは陳旧性心筋梗塞の患者であるということである。 心筋梗塞からHFrEFへ至る遠心性リモデリングは以前から研究された心不全モデルであり、β遮断薬やRAS阻害薬、MRAの有効性の根拠を与えるものである。そして、それはもう1つのサブ解析でHFrEFの患者だけ取り出すとより明確な形で示された。HFrEF患者のイベント発生数は他と比較して群を抜いて多く、そしてダパグリフロジンはHFrEF患者でやはり早期からきわめて明確にイベント抑制を果たした一方で、HFrEF以外の群では早期からカプランマイヤーが分離することはなかった。 この2つのサブ解析を見ると、今まで報じられてきたSGLT2阻害薬の投与初期からのイベント抑制は、実は大半陳旧性心筋梗塞またはHFrEFあるいはその両方を有する患者からの導出とすら言えるのではないかと思われる。DECLAREのサブ解析ではno history of HFの患者の、すなわちstage A/Bの患者ではほとんどイベントが起きておらず、また(とてもたくさんの患者がエントリーされて比較的長期間フォローされているにもかかわらず)ダパグリフロジンの効果は目に見えないほどである。EMPA-REG OUTCOMEでは心不全の既往がある患者でエンパグリフロジンの有効性が有意でなかったが、その後のCANVASではむしろ心不全の既往がある患者のほうでカナグリフロジンがはっきり有効であった。DECLAREの結果を合わせたメタ解析の結果を見れば、心不全患者に対する治療効果はすでに異論のないところであろう。 ここまで見てくると、SGLT2阻害薬はβ遮断薬やRAS阻害薬と同じカテゴリーで論じる必要がある薬剤と考えるべきであるし、そのメカニズムについていまだ明確ではないものの心筋梗塞から虚血性心筋症に至るHFrEFモデルでの解析が待たれる。こうして、ESC2019の前からHFrEFでは間違いなくダパグリフロジンが効くという確信があった。そして事実そうなったのであるが、これが糖尿病患者に限定した効果でないことも今回DAPA-HFで示されたことの意義は絶大である。非糖尿病患者でもSGLT2は近位尿細管に存在するわけで、とくにup-regulateされていない状況でもSGLT2阻害薬による浸透圧利尿効果は有用であるということのようである。 一方で、これまでの結果からやや予想し難いデータがあり、それは腎保護作用である。DAPA-HFにおいてはworsening renal functionについてプラセボより少なめではあったが有意差がなかった。これまでSGLT2阻害薬による腎保護作用は一貫して認められてきたところであり、ここは糖尿病性腎症の進展予防という観点で腎保護作用があると考えれば非糖尿病患者ではその有効性が認め難いのかもしれず、この辺りに関しては今後出てくるサブ解析を待ちたい。いずれにせよ、わが国の心不全ガイドラインのHFrEF治療薬にsacubitril-バルサルタンとイバブラジンと、そしてSGLT2阻害薬を書き加える日が近い。この余勢を駆ってHFpEFまで攻め込めるかどうか、今までのデータからは微妙であるが、これも今後続々と出てくる結果に期待したい。陳旧性心筋梗塞を有するEF<60%くらいまでは、PARAGON-HFと同様にSGLT2阻害薬が有用であろうと予想する。

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せん妄経験と退院後の認知症発症との関連

 高齢者の急性疾患におけるせん妄発症は、退院後の認知症発症と関連があるかについて、ブラジル・サンパウロ大学のFlavia Barreto Garcez氏らが調査を行った。Age and Ageing誌オンライン版2019年9月30日号の報告。 2010~16年に3次医療の大学病院老年病棟に連続的に入院した60歳以上の急性疾患高齢者を対象に調査を行った。包括基準は、入院時のベースライン認知機能に低下が認められず、退院後12ヵ月間の臨床的フォローアップを実施した患者とした。すべての患者について標準化された包括的な高齢者評価結果を含む入院データは、ローカルデータベースより収集した。事前の認知機能低下は、病歴、CDR、IQCODE-16に基づき特定した。せん妄の評価には、簡易版CAMを用い、退院後12ヵ月後の認知症発症は、医療記録のレビューに基づいて特定した。せん妄と退院後の認知症発症との関連は、競合リスク比例ハザードモデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は309例(平均年齢:78歳、女性:186例[60%])、そのうち66例(21%)でせん妄が発症していた。・24ヵ月(フォローアップ中央値)後、認知症を発症した患者は、せん妄経験患者で21例(32%)、せん妄未経験患者で38例(16%)であった(p=0.003)。・可能性のある交絡因子で調整した後、せん妄は、退院後の認知症発症と独立して関連が認められた(サブハザード比:1.94、95%CI:1.10~3.44、p=0.022)。 著者らは「入院中にせん妄を経験した急性疾患高齢者の3人に1人は、退院後のフォローアップ期間中に認知症を発症していた。せん妄は、予防可能な認知機能低下の独立したリスク因子であり、せん妄予防の重要性が示唆された」としている。

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新型タバコにおけるハーム・リダクションってなに?(2)【新型タバコの基礎知識】第10回

第10回 新型タバコにおけるハーム・リダクションってなに?(2)Key Points米国では、電子タバコによる急性肺障害が報告され、症例数は1,000例を超え、死亡が18例に達している。電子タバコがハーム・リダクションとなるために必要な前提条件はまだ揃っていない。電子タバコによる急性肺障害が話題になっています。米国での発見例は氷山の一角だと考えられていますが、2019年10月4日までの米国CDCによる報告1)で、症例数は1,000例を超え、死亡が18例に達しています。病態としては、リポイド肺炎、急性好酸球性肺炎や間質性肺炎、過敏性肺臓炎などが考えられています。電子タバコの多様な使用方法やさまざまなフレーバー、大麻由来成分(Tetrahydrocannabinol;THC)の添加など、患者背景に多くの違いがあり、単一の病態でもないことから、現時点での原因の特定は困難です。NEJM誌では17例(死亡例2例含む)における病理像の報告がなされ2)、外来性の油成分によるリポイド肺炎はほとんどみられなかったとのことです。原因物質は不明ですが、新型タバコに含まれる未知の物質の可能性も示唆されています。日本では電子タバコ使用者は比較的少なく、加熱式タバコを使っている人が非常に多くなっています。新型タバコによる急性健康障害に関する実態把握が必要ですが、研究体制は整備できていません。肺炎や喘息等の呼吸器疾患の臨床研究や観察研究を実施している研究者グループの方々と、新型タバコ研究のセットアップおよび支援・協働をしたいと考えていますので、該当の方がいらっしゃれば、ぜひご連絡ください。さて、今回は、「新型タバコにおけるハーム・リダクションってなに?」のパート2です。今回は新型タバコのなかでも電子タバコに注目します。実は、電子タバコについてだけでも本が一冊書けてしまうぐらい情報が集積してきており、問題も複雑化しています。世界的には、加熱式タバコよりも電子タバコが普及しているのです。日本では、ニコチン入りの電子タバコの販売が許可されていない事情もあり、電子タバコはあまり普及していません。しかし、2018年以降電子タバコブランドBluの積極的な販売キャンペーンが展開されるなど、日本でも普及してくる可能性もあるでしょう。電子タバコは製品間の品質のばらつきが大きく、健康被害を一律に評価するのは難しい状況です。冒頭で言及したような急性影響についても分かっていないことばかりであり、長期使用による健康影響はもちろんわかっていません。一方で、電子タバコでは吸引することとなる有害化学物質が紙巻タバコよりも少ないという点に着目して、“ハーム・リダクション(害の低減)”に電子タバコが活用できると訴えている専門家もいます。タバコ問題の場合のハーム・リダクション戦略としては、どうしてもタバコをやめられない人に対して、タバコの代わりにニコチン入り電子タバコを吸ってもらったら、有害物質への曝露を減らせるのではないか、というものです。しかし、この通りにうまくいくのか、世界的に専門家の間でも意見が割れていて、決着がついていません。なぜなら、ハーム・リダクションとなるためのそもそもの前提事項がまだ分かっていないからです。以下に、まだ決着のついていない前提事項を整理します。(1)電子タバコは、紙巻タバコと比べて害が少ないと確定していない電子タバコでは、有害物質の多くが紙巻タバコよりも少ないことは確かですが、一部の化学物質は紙巻タバコよりも多く、総合した場合の有害性が本当に電子タバコの方が低いのか、製品が新しく追跡期間も短いことから、十分に検証できていません。2015年に英国の公衆衛生専門機関が「電子タバコは喫煙よりも約95%害が少ない」と報告しましたが、これに対してはLancet誌等で根拠が十分でないとの反論が起きるなど、論争が巻き起こっています。現在の米国での事態を受けて、よりいっそう議論は複雑化しています。(2)電子タバコによって紙巻タバコがやめられるのか分かっていない電子タバコに紙巻タバコをやめられるようにする禁煙効果があるのかについて、世界的に論争が起きています。まだ実験的研究の段階で、その効果を検証した研究が少なく、結論が出るには至っていません。多くの現場からの研究結果を統合した研究も実施されてきていますが、禁煙効果を支持する結果と支持しない結果がさまざまな研究グループから報告されており、まだしばらく決着はつきそうにありません。(3)電子タバコによる他の問題も指摘されている世界的にはオシャレでカッコいいデザインの電子タバコが若者を中心として普及してきています。電子タバコがもともとタバコを吸わない人へと広がり、ニコチン依存への入り口(ゲートウエイ)として機能してしまうと懸念されているのです。ほかに、電子タバコのデバイスが爆発して大けがを負った事例や、火災となってしまった事例も報告されています。総合的に比較して電子タバコの導入のメリットがデメリットよりも大きくないと、ハーム・リダクションとはなりえません。もし、導入によってハーム(害)が総合して増えるようなこととなれば、単に問題を増やしただけになってしまいます。分かっていないことが多い中で、われわれの社会は難しい判断を迫られているといえるでしょう。タバコ問題においてハーム・リダクションが可能となるための理論的根拠として、根拠(1):タバコやニコチンを使用し続ける人々がどうしてもいるであろうと考えられること根拠(2):ニコチン依存がほとんどのタバコの使用の根底にある一方で、ほとんどの健康被害を引き起こすのは、タバコ煙のニコチン以外の成分だと考えられていることの2つがよく挙げられます。筆者は根拠(1)については同意します。たとえ、タバコを法律で禁止することができたとしても、タバコを使い続ける人はいるでしょう。ただし、法律で禁止することができれば、タバコを吸う人の数は大幅に減らせるものと考えられ、ゆくゆくはそうなってほしいと願っています。しかし一方で、根拠(2)については同意しません。なぜなら、ニコチン依存の害を軽視した考え方だからです。ニコチン依存症の恐ろしさについては、第9回記事を参照ください。第11回は、「新型タバコの発がんリスク」です。1)US Centers for Disease Control and Prevention (CDC)「Outbreak of Lung Injury Associated with E-Cigarette Use, or Vaping」2)Butt YM,et al. N Engl J Med. 2019 Oct 2. [Epub ahead of print]

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