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第16回 新ガイドラインで総エネルギー摂取量の設定法はどう変わったか【高齢者糖尿病診療のコツ】

第16回 新ガイドラインで総エネルギー摂取量の設定法はどう変わったかQ1 高齢糖尿病患者の総エネルギー摂取量の決め方は?1)高齢者の栄養状態をどうとらえるか高齢糖尿病患者の栄養状態は個人差が大きく、低栄養と過栄養が混在しています。J-EDIT研究によると、高齢糖尿病患者の実際の総エネルギー摂取量は、男性で1,802±396kcal(31.0±6.8 kcal/kg体重)、女性で1,661±337kcal(33.7±6.9kcal/kg体重)であり、指示量よりも多くとっていました1)。この値は、これまで高齢者に指示していた標準体重当たりエネルギー指示量の25~30kcal/kg体重と乖離しています。一方、高齢糖尿病患者は低栄養を起こしやすく、体重減少やBMI低値となり、総エネルギー摂取量が低下している人もいます。これまでの考え方では、(身長)2×22で求めた標準体重に活動係数をかけて総エネルギー量を求めていました。その根拠は、高齢者を除いた一般住民の疫学調査から、死亡のリスクが最も低いBMIが22であることに基づいています。また、JDCSとJ-EDITの糖尿病患者のプール解析では、最も死亡リスクが低いBMIは22.5以上、25前後であるという結果でした。一方、75歳以上ではBMI 18.5未満の群の死亡リスクが8.1倍と75歳未満と比べて高くなり、後期高齢者では低栄養が死亡リスクに及ぼす影響が著しいことが示されました2)。高齢糖尿病患者ではサルコペニアやフレイルをきたしやすくなりますが、これらの成因には低栄養が大きく関わっており、とくにエネルギー摂取量とタンパク質摂取量の低下が関係しています。2)総エネルギー摂取量の設定の仕方は?上記のことから、高齢糖尿病患者の総エネルギー摂取量は過栄養だけでなく、低栄養やサルコペニア・フレイル予防の観点も考慮しながら決める必要があります。日本糖尿病学会は「糖尿病診療ガイドライン2019」で食事療法について改訂を行い、標準体重ではなくて、年齢を考慮した目標体重を用いた新たな総エネルギー摂取量の設定法を提案しました3)。総エネルギー摂取量(kcal/日)は目標体重(kg)にエネルギー係数(kcal/kg)をかけて求めます(表1)。目標体重の目安は65歳未満では従来通り[身長(m)]2×22ですが、前期高齢者は[身長(m)]2×22~25、後期高齢者も[身長(m)]2×22~25となっています。身体活動レベルと病態によるエネルギー係数(kcal/kg)は、(1)軽い労作:25~30、(2)普通の労作:30~35、(3)重い労作:35~のように設定します。肥満症やフレイルがある場合は、エネルギー係数を柔軟に変えることができるとされています。画像を拡大する3)目標体重当たりのエネルギー摂取と死亡の関係高齢糖尿病患者の追跡調査であるJ-EDIT研究では、目標体重当たりのエネルギー摂取量と6年間の死亡リスクとの間にU字型の関連が認められました(図1)4)。すなわち、約25kcal/kg体重未満の群と約35kcal以上の群で死亡リスクが上昇し、高齢糖尿病患者のエネルギー摂取量は25~35kcal/目標体重が最も死亡のリスクが低いという結果です。目標体重にかけるエネルギー係数は高齢者では25~35になることがほとんどですので、この結果は目標体重をもとにしたエネルギー量の設定が妥当であることを示唆しています。標準体重当たりの摂取エネルギー量の場合も、同様にU字型の関係が認められました。しかし、最も死亡リスクが小さい摂取エネルギー量は31.5~36.4kcal/kgであり、25~30kcal/kg標準体重で摂取エネルギー量を設定すると、摂取量不足になる可能性があります。また、目標体重当たりのエネルギー摂取と死亡の関係は、実体重と死亡との関係に近似していますので、これも目標体重当たりで考えた方がいいという理由の1つになります。画像を拡大する4)従来よりも指示量は増える? 実際に総エネルギー量を算出してみる目標体重による計算法では、従来の標準体重による計算法と比べて総エネルギー摂取量の指示量が多くなることが予想されます。身長150cm、体重53kgの76歳の女性で、目標体重が1.5×1.5×24=54.0kgとなったとき、軽い運動を行っている場合には30をかけてエネルギー摂取量は1,620kcalとなり、1,600kcalを処方することになります。従来であれば標準体重49.5 kgから28をかけて1,386kcalとなり、1,400kcalの食事を処方したと思われ、200~300kcal多い食事を処方することになります。こうした目標体重によるエネルギー量の設定法は、高齢者においてメタボ対策から低栄養・フレイル対策にシフトしていく観点からみると有用である可能性があります。しかし、現在の食事量や体重をみながら段階的に設定することと、身体機能、心理状態、体重、血糖コントロール状況、食事内容などの推移を見ながら、適宜変更していく必要があります。また、十分に摂取できない高齢者に対して、エネルギー摂取量を増やす方法についても個別に検討すべきであると思います。Q2 タンパク質摂取量はどのように決めますか?1)フレイル・サルコペニア予防の観点からは?フレイルやサルコぺニアの発症や進行を予防するためには、十分なタンパク質の摂取が大切です。欧州栄養代謝学会(ESPEN)のガイドラインでは、高齢者の筋肉の量と機能を維持するためには少なくとも1.0~1.2 g/kg体重/日のタンパク質摂取が推奨されています5)。また、急性疾患または慢性疾患がある高齢者では1.2~1.5 g/kg体重のタンパク質摂取が勧められています。高齢糖尿病女性の3年間の追跡調査でも1.0g/kg体重以上のタンパク質摂取の群の方が1.0g/kg体重未満の群と比べて膝進展力低下や身体機能低下が少ないという結果が得られています6)。2)タンパク質摂取を勧める理由タンパク質を十分にとる理由は、タンパク質中のアミノ酸であるロイシンが、筋肉のタンパク質合成に働くためです。ロイシンは肉類だけでなく、魚、乳製品、卵、大豆製品にも多いので、さまざまなタンパク質をバランス良くとるよう勧めることが大切です。なかなかタンパク質がとれない高齢者には、温泉たまご、魚の缶詰、プロセスチーズなどタンパク質やロイシンの多い食品を付加するような指導を行います。朝のタンパク質摂取の割合が低いとフレイル・サルコペニアになりやすいという報告もあるので、朝にタンパク質をとることを勧めるといいと思います。3)タンパク質摂取と腎機能との関係一方、タンパク質の摂取量を増やした場合には腎機能の悪化が懸念されます。しかしながら、高齢者のタンパク質摂取増加と腎機能低下との関係は明らかではありません。高齢者の追跡調査ではタンパク質摂取量とシスタチンCから求めたeGFRcys低下との関連は認められませんでした7)。顕性アルブミン尿がない2型糖尿病患者6,213人(平均年齢65歳)の追跡調査でもタンパク質摂取の最も低い群ではむしろ、CKDの悪化が見られています8)。高齢者のタンパク質制限に関してもエビデンスが乏しく、13のRCT研究のメタ解析ではタンパク質制限がeGFR低下を抑制しましたが9)、うち高齢者の研究は2件のみです。進行したCKDを合併した糖尿病患者のタンパク質制限は腎機能の悪化を抑制したという報告もありますが10)、MDRD trialのようにタンパク質制限群では死亡率の増加が認められた報告もあります11)。また、本邦の糖尿病を含むCKD患者にタンパク質制限を行った報告では65歳以上ではタンパク質摂取が最も多い群で死亡リスクが減少しています12)。したがって、重度の腎機能障害がなければ、フレイル・サルコぺニア予防のためには充分なタンパク質を摂ることが望ましいように思われます。腎症4期の患者では腎機能、骨格筋量、筋力などの変化をみながら、タンパク質制限か十分なタンパク質摂取の確保かを個別に判断する必要があります。また、高齢者ではタンパク質制限のアドヒアランスが不良であることが多いことにも注意する必要があります。1)Yoshimura Y, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012; Suppl: 29-40.2)Tanaka S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99: E2692-2696.3)日本糖尿病学会 編著.糖尿病診療ガイドライン2019.南江堂,東京, 31-55, 2019.4)Omura T, et al. Geriatr. Gerontol. Int. 2019;1–7.5)Deutz NE, et al. Clin Nutr. 2014; 33:929-936.6)Rahi B, et al. Eur J Nutr. 2016; 55:1729-1739.7)Beasley JM, et al. Nutrition. 2014; 30:794-799.8)Dunkler D, et al. JAMA Intern Med. 2013; 173:1682-1692.9)Nezu U, et al. BMJ Open. 2013 May 28 [Epub ahead of print].10)Giordano M, et al. Nutrition. 2014 Sep;30:1045-9.11)Menon V, et al. Am J Kidney Dis. 2009 Feb;53:208-17.12)Watanabe D, et al. Nutrients. 2018 Nov 13;10: E1744.

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心房細動後1年間の出血リスク、AIによる新予測モデルが有望(GARFIELD-AF)

 脳卒中リスクを有する心房細動患者において、ビタミンK拮抗薬(VKA)治療開始後1ヵ月のPT-INR連続測定値を使用したAIによる新予後予測モデルが、至適範囲内時間(TTR)による予測と比較して高い精度を有する可能性が示唆された。東海大学の後藤 信哉氏らが、GARFIELD-AFレジストリのデータにより検討した。Eur Heart J Cardiovasc Pharmacother誌オンライン版2019年12月10日号掲載の報告。 GARFIELD-AFレジストリは、脳卒中リスクのある心房細動患者における抗血栓療法のアウトカムを検討する、最大規模の国際的な多施設共同前向き観察研究。今回、研究者らは同レジストリのデータにおける、登録後30日以内のPT-INRの連続測定値を用いて、31日目から1年までの臨床転帰を予測するための新たなAIモデルを開発した。従来の多くの臨床リスク層別化モデルは、連続測定ではなく単一時点での測定に基づいているが、AIは多次元データセットから1次元の結果を予測することができる。このモデルは、長・短期記憶と1次元の畳み込み層を含む多層ニューラルネットワークで構築されている。 本解析では、VKAで治療され、処方が確認されてから最初の30日間に少なくとも3回PT-INRの測定が行われた、AFと新たに診断された患者が対象。アウトカムとして、31~365日の間に発生した大出血、脳卒中/全身性塞栓症(SE)、全死因死亡が用いられた。 主な結果は以下の通り。・ニューラルネットワークは、治療開始後0〜30日以内のPT-INR測定値によりトレーニングされ、解析コホート(3,185例)で31〜365日にわたって臨床アウトカムが得られた。・AIモデルの精度は、検証コホートで評価された(1,523例)。・大出血、脳卒中/SE、および全死因を予測するためのAIモデルのC統計量は、それぞれ0.75、0.70、および0.61であった。TTRでは、有意な差がみられなかった。

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早期前立腺がん、野菜摂取量増加で進行リスクへの影響は/JAMA

 監視療法で管理されている早期前立腺がん男性では、野菜摂取量を増やす行動的介入により、前立腺がんの進行リスクは抑制されないことが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のJ Kellogg Parsons氏らが行った「MEAL試験」(CALGB 70807[Alliance])で示された。研究の詳細は、JAMA誌2020年1月14日号に掲載された。米国臨床腫瘍学会の診療ガイドラインでは、野菜が豊富な食事は前立腺がんサバイバーの転帰を改善するとして積極的な摂取が推奨されている。一方、この推奨は専門家の意見や前臨床研究、観察研究のデータに基づいており、実践的な臨床エンドポイントに重点を置いた無作為化臨床試験は行われていなかった。TTPを評価する米国の無作為化試験 本研究は、米国の91の泌尿器科および腫瘍内科クリニックが参加した無作為化第III相試験であり、2011年1月~2015年8月の期間に患者登録が行われた(米国国立がん研究所[NCI]などの助成による)。 対象は、年齢50~80歳、ベースライン前の24ヵ月以内に前立腺生検(≧10コア)で前立腺腺がん(70歳未満:国際泌尿器病理学会[ISUP]のgrade group=1、70歳以上:ISUPのgrade group≦2)が証明され、ステージは≦cT2aで、血清前立腺特異抗原(PSA)<10ng/mLの男性であった。 被験者は、電話で毎日7サービング以上の野菜の摂取を促す行動的介入を受ける群(介入群)、または食事と前立腺がんに関する書面による情報を受け取る対照群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは無増悪期間(TTP)とした。増悪は、PSA≧10ng/mL、PSA倍加時間<3年、フォローアップ中の前立腺生検で悪性度の進行(腫瘍量の増加またはグレードの進行)と定義された。影響みられず、ただし検出力が不十分であった可能性も 478例(平均年齢64[SD 7]歳、平均PSA 4.9[2.1]ng/mL)が登録され、443例(93%、介入群226例、対照群217例)が主解析に含まれた。TTPイベントは245例(介入群124例、対照群121例)で発生した。 TTPには、両群間で差は認められなかった(補正前ハザード比[HR]:0.96、95%信頼区間[CI]:0.75~1.24、p=0.76、補正後HR:0.97、95%CI:0.76~1.25、p=0.84)。24ヵ月時のKaplan-Meier法による無増悪率は、介入群が43.5%(95%CI:36.5~50.6)、対照群は41.4%(34.3~48.7)であった(群間差:2.1%、95%CI:-8.1~12.2)。 24ヵ月のフォローアップ期間中に積極的な前立腺がん治療へ移行した患者は、介入群が6例(2.7%)、対照群は4例(1.8%)であった(p=0.75)。治療期間のHRは1.38(95%CI:0.39~4.90、p=0.61)だった。 フォローアップ期間24ヵ月の時点で、ベースラインからの全体の野菜サービング数(/日)の平均変化は、介入群が2.01と、対照群の0.37に比較して有意に増加した(p<0.001)。また、アブラナ科野菜のサービング数(0.50 vs.0.01/日、p<0.001)および食事中の総カロテノイド量(9,687.87 vs.324.73μg/日、p<0.001)の平均変化も、介入群で増加の程度が大きかった。 著者は、「これらの知見は、監視療法で管理されている早期前立腺がん患者では、前立腺がんの進行を抑制する目的での野菜摂取量を増やす行動的介入の使用を支持しないが、臨床的に重要な差を同定するには、この試験の検出力は不十分であった可能性がある」としている。

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NSCLC維持療法、ベバシズマブ+ペメトレキセドでPFS延長(COMPASS)/JCO

 非小細胞肺がん(NSCLC)患者について、初回薬物治療が奏効した後の維持療法の選択肢は何か。九州がんセンターの瀬戸 貴司氏らは、カルボプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブ併用導入療法後の維持療法におけるベバシズマブ+ペメトレキセドの有効性と安全性を評価する「COMPASS試験」(WJOG5610L)を行った。主要評価項目である全生存(OS)期間は統計学的有意差が認められなかったものの、無増悪生存(PFS)期間およびEGFR野生型患者におけるOSはベバシズマブ+ペメトレキセド併用維持療法で有意に延長することを示した。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2019年12月27日号掲載の報告。 研究グループは、EGFR19欠失またはL858R変異のない未治療の進行非扁平上皮NSCLC患者を対象に検討を行った。導入療法としてカルボプラチン(AUC6)+ペメトレキセド(500mg/m2)+ベバシズマブ(15mg/kg)を3週に1回、4サイクル投与後、病勢進行が認められなかった患者を、ベバシズマブ+ペメトレキセド群(ペメトレキセド併用群)またはベバシズマブ群に1対1の割合で無作為に割り付け、3週に1回、病勢進行または許容できない毒性発現まで投与した。 主要評価項目は、無作為化後のOSであった。 主な結果は以下のとおり。・2010年9月~2015年9月に、907例が導入療法を受け、このうち599例が無作為化された(ペメトレキセド併用群298例、ベバシズマブ群301例)。・OS中央値は、23.3ヵ月 vs.19.6ヵ月(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.73~1.05、片側層別log-rank検定のp=0.069)であった。・EGFR野生型サブグループでは、OSのHRが0.82(95%CI:0.68~0.99、片側非層別log-rank検定のp=0.020)であった。・PFS中央値は、5.7ヵ月 vs.4.0ヵ月(HR:0.67、95%CI:0.57~0.79、両側log-rank検定のp<0.001)であった。・安全性は、治療レジメンの以前の報告と一致していた。

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聴診器を消毒していますか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第155回

聴診器を消毒していますか?ぱくたそより使用ラエンネックが聴診器を発明してから、約200年が経ちましたが1)、臨床でまだまだ活躍している聴診器。形状や性能は進化しましたが、まさか自分が開発したものが200年先まで使われているとはラエンネックも予想していなかったでしょう。さて、聴診器を介して病原微生物がアウトブレイクすることはまれな現象と思いますが、明らかに接触感染対策が必要とされる患者さんでも、消毒されていないことがしばしばあります。聴診器が微生物によって汚染されるのは間違いないので、できる限りこまめに聴診器を消毒したいものです。聴診器、血圧計のマンシェット(カフ)などのノンクリティカル器具は、はっきりと目に見える汚染がなくとも、患者ごとにアルコール系消毒薬注で清拭を行うべきというのが世界的な常識です。さて、聴診器の消毒ってどのくらいの頻度で行われているのでしょうか? 過去の文献をいくつかひも解いてみると、ある事実が見えてきました。Bukharie HA, et al.Bacterial contamination of stethoscopes.J Family Community Med. 2004 Jan;11(1):31-3.サウジアラビアのとある病院のスタッフから集めた100本の聴診器を調査したところ、消毒頻度は毎日が21%、週に1回が47%、年に1回が32%という散々な結果でした。毎日消毒していない人が8割近くいるということになります。とくに医師30人のうち、15人(50%)は「一度も消毒したことがない」と回答していました。Merlin MA, et al.Prevalence of methicillin-resistant Staphylococcus aureus on the stethoscopes of emergency medical services providers.Prehosp Emerg Care. 2009 Jan-Mar;13(1):71-4.これも救急部からの報告で、50本の聴診器を前向きに調べたところ、スタッフの32%は最後にいつ聴診器を消毒したのかさえ覚えていなかったそうです。スタッフが覚えている日が古いほど、聴診器はMRSAに汚染されやすいと報告されました。Tang PH, et al.Examination of staphylococcal stethoscope contamination in the emergency department (pilot) study (EXSSCITED pilot study).CJEM. 2011 Jul;13(4):239-44.3施設の救急スタッフ100人の聴診器を調べた前向き観察コホート研究です。患者さんを診察する前後で消毒できていたのは、全体の8%だけだったそうです。Saunders C, et al.Factors influencing stethoscope cleanliness among clinical medical students.J Hosp Infect. 2013 Jul;84(3):242-4.医療先進国であるイギリスの医学校では、回答者の22.4%は聴診器を一度も消毒したことがなく、すべての患者診察の後に聴診器を消毒していたのは、わずか3.9%という結果でした。Sahiledengle B.Stethoscope disinfection is rarely done in Ethiopia: What are the associated factors?PLoS One. 2019 Jun 27;14(6):e0208365.エチオピア21施設576人の医療従事者に対する調査によると、39.7%は聴診器使用後に毎回消毒を実施していました。しかし、34.6%はまったく消毒していなかったそうです。消毒の習慣すらない人がかなり多いことが示されました。Bansal A, et al.To assess the stethoscope cleaning practices, microbial load and efficacy of cleaning stethoscopes with alcohol-based disinfectant in a tertiary care hospital.J Infect Prev. 2019 Jan;20(1):46-50.インドの三次医療施設における調査では、62人の医療従事者のうち53%が「消毒をしたことがない」と回答しました。消毒の習慣がない、ではなく、したことがないというのです。さて、いろいろな文献を紹介しましたが、要は「みんな聴診器ほとんど消毒しないじゃん!」ということです。時間もないし、面倒くさいんですね、たぶん。これらは、われわれも身につまされるデータではないでしょうか。1)Atalic B. 200th Anniversary of the Beginning of Clinical Application of the Laennec's Stethoscope in 1819. Acta Med Hist Adriat. 2019 Jun;17(1):9-18.

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認知症の有病率に関するメタ解析

 認知症は、重度の神経変性疾患であり、異なる病原性によりいくつかのサブタイプに分類することができる。中国・南京医科大学のQing Cao氏らは、地理的、年齢的、性別的観点から認知症の有病率を包括的に分析した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2019年12月26日号の報告。 1985年1月~2019年8月の期間の認知症に関する文献について、PubMedおよびEMBASEより検索を行った。地理、年齢、性別で層別化を行い、分析を行った。群間の有意差検定には、メタ回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・47件の研究が抽出された。・50歳以上の認知症のプールされた有病率は以下のとおりであった。 ●すべての原因による認知症 697人/万人(95%CI:546~864) ●アルツハイマー型認知症 324人/万人(95%CI:228~460) ●血管性認知症 116人/万人(95%CI:86~157)・100歳以上におけるすべての原因による認知症の有病率は、6,592人/万人であり、50~59歳(27人/万人)の2.415倍であった。・認知症患者数は、5歳ごとに約2倍になる。・全体の分析では、男性(561人/万人)よりも、女性(788人/万人)の認知症有病率が高かった。・60~69歳のアルツハイマー型認知症有病率は、女性(108人/万人)が男性(56人/万人)の1.9倍であった。・一方、60~69歳の血管性認知症有病率は、男性(56人/万人)が女性(32人/万人)の1.8倍であった。・認知症有病率は、アジア、アフリカ、南米よりも欧州、北米において高かった。

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マイコプラズマ市中肺炎児、皮膚粘膜疾患が有意に多い

 かつて、その流行周期から日本では「オリンピック肺炎」とも呼ばれたマイコプラズマ肺炎について、ほかの起炎菌による市中肺炎(CAP)児と比べた場合に、皮膚粘膜疾患が有意に多く認められることを、スイス・チューリッヒ大学小児病院のPatrick M. Meyer Sauteur氏らが明らかにした。現行の診断検査では、肺炎マイコプラズマ(M. pneumoniae)の感染と保菌を区別できないため、皮膚粘膜疾患の原因としてマイコプラズマ感染症を診断することは困難となっている。今回の検討では、M. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患は、全身性の炎症や罹患率および長期にわたる後遺症リスクの増大と関連していたことも示されたという。JAMA Dermatology誌オンライン版2019年12月18日号掲載の報告。 研究グループはCAP児を対象に、改善した診断法を用いてM. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患の頻度と臨床的特性を調べる検討を行った。 2016年5月1日~2017年4月30日にチューリッヒ大学小児病院で登録されたCAP患者のうち、3~18歳の152例を対象に前向きコホート研究を実施。対象児は、英国胸部疾患学会(British Thoracic Society)のガイドラインに基づきCAPと臨床的に確認された、入院または外来患者であった。 データの解析は2017年7月10日~2018年6月29日に行われた。主要評価項目は、CAP児におけるM. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患の頻度と臨床特性とした。マイコプラズマ肺炎の診断は、口咽頭検体を用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で行い、ほかの病原菌によるCAPキャリアとM. pneumoniae感染患者を区別するため、酵素免疫測定法(ELISA)で特異的末梢血中IgM抗体分泌細胞の測定を行い、確認した。 皮膚粘膜疾患は、CAPのエピソード中に発生した、皮膚および/または粘膜に認められたあらゆる発疹と定義した。 主な結果は以下のとおり。・CAP児として登録された152例(年齢中央値5.7歳[四分位範囲:4.3~8.9]、84例[55.3%]が男子)において、PCR法でM. pneumoniae陽性が確認されたのは44例(28.9%)であった。・それら44例のうち、10例(22.7%)で皮膚粘膜病変が認められ、全例が特異的IgM抗体分泌細胞の検査結果で陽性であった。・一方、PCR法でM. pneumoniae陰性であったケースのうち、皮膚症状が認められたのは3例(2.8%)であった(p<0.001)。・M. pneumoniae誘発皮膚粘膜疾患は、発疹および粘膜炎(3例[6.8%])、蕁麻疹(2例[4.5%])、斑点状丘疹(5例[11.4%])であった。・2例に、眼粘膜症状(両側性前部ぶどう膜炎、非化膿性結膜炎)が認められた。・M. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患を有する患児は、M. pneumoniaeによるCAPを認めるが皮膚粘膜症状は認めない患児と比べ、前駆症状としての発熱期間が長く(中央値[四分位範囲]:10.5[8.3~11.8]vs.7.0[5.5~9.5]日、p=0.02)、CRP値が高かった(31[22~59]vs.16[7~23]mg/L、p=0.04)。また、より酸素吸入を必要とする傾向(5例[50%] vs.1例[5%]、p=0.007)、入院を必要とする傾向(7例[70%]vs.4例[19%]、p=0.01)、長期後遺症を発現する傾向(3例[30%]vs.0、p=0.03)も認められた。

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前糖尿病状態から糖尿病にならないために

 前糖尿病者において、肥満かどうかにかかわらず体重を増やさないことで糖尿病発症リスクを最小限にできることが、国立国際医療研究センターのHuan Hu氏らの研究で示唆された。体重を減らすことは肥満者が前糖尿病状態から正常血糖に戻るのに役立つ一方、体重を維持することは非肥満者が正常血糖に戻るのに役立つ可能性があるという。Clinical Nutrition誌オンライン版2019年12月25日号に掲載。 本研究では、最大8年間、毎年健康診断を受けた2万2,945人の前糖尿病者のデータを使用し、糖尿病に進行した人、前糖尿病のままの人、正常血糖に戻った人におけるBMIと腹囲の変化を調査した。糖尿病の発症は、米国糖尿病学会(ADA)の基準により定義した。観察期間中に糖尿病に進行しなかった人は、最後の健康診断データに基づいて、「前糖尿病のまま」または「正常血糖に戻った」と分類された。BMIと腹囲の変化は、広範囲の共変量を調整して、反復測定の線形混合モデルを使用して評価した。 主な結果は以下のとおり。・研究期間中、2,972人が糖尿病に進行し、4,706人が正常血糖に戻り、1万5,267人が前糖尿病のままであった。・糖尿病に進行した人の平均BMIは、糖尿病診断の7年前から1年前に大きく増加し(年間変化率:0.20 [95%信頼区間:0.15~0.24] kg/m2/年)、前糖尿病のままであった人(0.06 [0.04〜0.08] kg/m2/年)の約3倍(p<0.001)で、最初の健康診断時のBMIとは関係なかった。・正常血糖に戻った人における平均BMIの変化率は-0.04(-0.09〜0.002)kg/m2/年で、肥満者(-0.16 [-0.28〜-0.05] kg/m2/年)を除いてほぼ変化がなかった。・糖尿病を発症した人の腹囲の年間変化率は0.38(0.32〜0.45)cm/年で、前糖尿病者(0.05 [0.03〜0.08] cm/年)の約7倍だった(p<0.001)。・正常血糖に戻った人のうち、中枢性肥満ではない人は平均腹囲が変わらず(-0.02 [-0.06〜0.03]cm/年)、中心性肥満の人は減少がみられた(-0.40 [-0.47〜-0.32] cm/年)。

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第18回 冬の救急では、これを忘れずに!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)冬の救急では一酸化炭素中毒を鑑別に!2)疑ったら血液ガスで評価し酸素投与を!3)心電図も忘れずにチェック!【症例】34歳男性。ベトナムからの留学生で、飲食店のバイト中に気分が悪くなり休んでいた。控え室で症状は改善傾向にあったため仕事を再開していたが、嘔気、頭痛を認め同僚が救急要請。テキスト●搬送時のバイタルサイン意識清明血圧124/75mmHg脈拍102回/分(整)呼吸22回/分SpO299%(RA)体温36.5℃瞳孔2.5/2.5mm+/+既往歴、内服薬:定期内服薬なし忘れた頃にやってくる一酸化炭素中毒(CO中毒)CO中毒は冬に多い中毒で、急性中毒死亡原因の第1位、自殺遂行手段の第2位です。一酸化炭素は不完全燃焼の結果発生し、酸素の240倍もヘモグロビンと結合しやすいのが特徴です。CO-Hbを形成し、Hbの酸素運搬能を障害するため、低酸素血症となり呼吸困難をはじめとしたさまざまな症状を引き起こします1)。ピットフォールとして、通常のパルスオキシメーターでは見逃され、SpO2は保たれているように表示されます(CO-Hbを測定できるものもあります)。一般的な症状は表のとおりです。息切れや呼吸困難以外に、頭痛、嘔吐、めまい、意識障害など多彩な症状で来院するため、頻度が高くなる冬場には、常に意識して病歴を聴取する癖を持っておくとよいでしょう。表 CO中毒の症状画像を拡大するCO中毒かな?と思ったら火災現場からの搬送など疑わしい場合には、酸素を投与しつつ、血液ガスを確認します。環境が改善されていれば、時間とともにCO-Hbの数値は低下するため、絶対的な指標にはなりませんが、上昇が認められる場合には有用な所見となります。成人の正常時は0.1~1.0%程度、喫煙者では6%以上となり、ヘビースモーカーの場合には15%前後まで上昇します。妊婦や胎児では生理的に増加することが知られています。一般的に、非喫煙者では3%を超える場合、喫煙者では10~15%を超える場合にはCO中毒と診断します2)。CO中毒を疑った場合には高流量酸素の開始です。通常の空気ではCOの半減期は300分程度ですが、高流量酸素マスクを使用すると90分、100%高圧酸素では30分とされています1)。高圧酸素は施行できる施設が限られるため、高流量酸素マスクを取りあえず開始すればOKです。血液ガスだけでなく心電図もチェックCO中毒で心筋虚血を認めることがあります。中等症以上の症例の30%程度に心電図やトロポニンの上昇を認めることがあり、非侵襲的な検査でもあるため、中等症以上の症状を認める場合には、心電図を確認し、異常がないかをみておくとよいでしょう。CO中毒は、遅発性脳症など曝露後1~2週間ごろから記憶障害や失認などの症状を認めることがあります。過度に心配する必要はありませんが、経過を見ることも大切であり、何より早期に疑い対応する必要があります。鑑別に挙がらず、再度同様の環境に曝露されることは避けなければなりません。CO中毒、その原因は?今回の症例のように、火の取り扱いに伴う環境の問題のみであれば、換気などで再発を防止すればよいですが、その背景に練炭自殺などの希死念慮が関与している場合には、そちらの介入を行う必要があります。冒頭で述べたように自殺遂行手段として頻度が高く、症状が軽いから大丈夫といって帰すのではなく、うつ病など患者背景を意識した対応を行いましょう。1)Clardy PF, et al : Carbon monoxide poisoning. Post TW(Ed), UpToDate, Waltham, MA[Online] Available at: https://www.uptodate.com/contents/carbon-monoxide-poisoning(Accessed on December 14, 2019.)2)Ernst A, et al. N Engl J Med. 1998;339:1603-1608.

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第36回 本物?ニセモノ?下壁誘導Q波を見切るエクセレントな方法(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

本物?ニセモノ?下壁誘導Q波を見切るエクセレントな方法(後編)だいぶ遅くなりましたが、皆さま、新年明けましておめでとうございます。2018年8月末から隔週で続けていた本連載を2020年1月からは1回/月ペースでお届けすることになりました。引き続き“価値ある”レクチャーを展開していく所存ですので、今年も“ドキ心”をよろしくお願いします。さて、今回も 昨年に引き続き、下壁誘導(II、III、aVF)のQ波をどう考えるか、Dr.ヒロと一緒に心電図の“技巧的”な記録法を学びましょう。第35回と同じ症例を用いて解説し「異常Q波」のレクチャーを終えたいと思います。では張り切ってスタートです!症例提示48歳、男性。糖尿病にてDPP-4阻害剤を内服中。泌尿器科より以下のコンサルテーションがあった。『腎がんに対して全身麻酔下で左腎摘除術を予定しています。自覚症状はとくにありませんが、術前心電図にて異常が疑われましたので、ご高診下さい』174cm、78kg(BMI:25.6)。血圧123/72mmHg、脈拍58/分・整。喫煙:15~20本×約30年(現在も喫煙中)。術前検査として記録された心電図を示す(図1)。(図1)術前外来の心電図画像を拡大する【問題1】心エコーでは左室下壁領域の壁運動低下があった(第35回参照)。本症例の「陳旧性下壁梗塞」の有無について、Q波の局在、ST-T変化の合併以外に、心電図上の注目ポイントを述べよ。解答はこちら平常時と深吸気時記録の比較解説はこちら症例は前回と同じ、腎がんに対して摘除術が予定された中年男性です。“ニ・サン・エフ”のいわゆる下壁誘導に「異常Q波」ありと読むのでした。“周囲確認法”的にはST-T異常も伴わず、本人に問診しても強い胸痛イベントの記憶もないため、フェイクQ波だと思いたいところではあります。しかし、心エコーで局所壁運動異常、背景に糖尿病もあるため、「無症候性心筋虚血(梗塞)」の線も捨てきれないという悩ましい状況なわけです。あくまでも術前ですから、冠動脈CT、心臓MRI(CMR)や核医学(RI)などの“大砲検査”に無制限に時間をかければいいというものでもありません。あくまでも腎がんの手術をつつがなく終えてもらうことが当座の目標です。大がかりでコストもかさむ検査をする前に、実は“一手間”かけて心電図をとるだけで、下壁Q波が本物かニセモノかを見抜ける場合があるのです。“深呼吸でQ波が消える?”いつか、皆さんにこの“ドキ心”レクチャーで紹介しようと思っていた論文*1があります。イタリアからの報告で、既知の冠動脈疾患(CAD)がない50人(平均年齢68歳、男性54%)を対象としています。これらの男女は見た目“健康”ですが、複数の冠危険因子、脳梗塞や末梢動脈疾患(PAD)の既往があり、下壁誘導にQ波が見られるという条件で選出されています(II:18%、III:98%、aVF:100%)。ちなみに、海外ではこうした“下壁Q波”は、一般住民でも1%弱(0.8%)に認められるそうです*2。全例に心エコーとCMRを行い、下壁にガドリニウム(Gd)遅延造影が見られた時に“本物”の下壁梗塞と認定されました。と、ここまでは至極普通なのですが、この論文がすごいのは、以前からささやかれていた「ニセモノの下壁Q波は深呼吸で“消える”」という、いわば“都市伝説”レベルの話が検証されているのです! 皆さん、こんな話って聞いたことありますか?方法はとても簡単です。安静時と思いっきり息を吸った状態(deep inspiration)の2枚、心電図を記録します。深吸気時でも変わらずQ波なら、それこそ真の「異常Q波」と見なし、下壁梗塞のサインと考えるのです。ちなみにQ波が“消える”とは、完全に消失することではなく、診断基準(第33回)を満たさなくなるという意味とご理解ください。このシンプルなやり方に“アダ名”をつけるのが、Dr.ヒロの得意技(笑)。言いやすい“深呼吸法”と名付けました。“本物なQ波の確率を高める所見はあるか?”この研究、実際の結果はどうだったのでしょうか? CMRで本当に下壁梗塞が検出されたのは50人中10人(20%)でした。単純にQ波が3つの誘導中2つ以上、それもほとんどサンエフ(III、aVF)だけなら、 “打率”は2割と低いわけです。単純に下壁梗塞の有無で各種因子が比較されましたが、有意なものはありませんでした。「有意」(p<0.05)に届かなかったものの“おしい”感じだったのは、1)男性、2)II誘導にQ波あり、3)ST-T所見の合併ありの3つです。性別(男性)は確かに冠危険因子の一つですし、背景疾患も含めて意識したいところです。ただ、これは“決定打”にはなりません。残りの2つも大事です。その昔「II誘導にQ波があったら高率に下壁梗塞あり」と習った記憶がありますが、この論文では半数弱(40%)にとどまりました(「なし」の場合の13%より確かに高率でしたが)。もう一つのST-T所見の合併、これは「ST上昇」や「陰性T波」であることが多いです。以前取り上げた心筋梗塞の「定義」を述べた合意文書でも、「幅0.02~0.03秒」の“グレーゾーン”でも、「深さ≧1mm」かつ「同誘導で陰性T波」なら本物の可能性が高まると述べられています。常日頃から漏れのない判読を心がけている立場としては、Q波「だけ」で考えないのは当然で、“周囲確認法”として多面的に考えることで“打率”が向上すると思っています(有意にならなかったのは、サンプル数が少ないためでしょうか)。“深呼吸法の実力やいかに”さて、いよいよ“深呼吸法”のジャッジです。次の図2をご覧ください。(図2)“深呼吸法”の識別能力画像を拡大する図中の「IQWs」とは、「下壁Q波」(Inferior Q-waves)の意味で、「MI」は「心筋梗塞」(myocardial infarction)です。“深呼吸法”で異常Q波が「残った」10人中、本物が8人。 なんと“打率”が8割にアップしました。よく見かける2×2分割表を作成し、感度、特異度を求めるとそれぞれ80%、95%になるわけです。しかも、特筆すべきは心エコーでの局所壁運動異常(asynergy)は各50%、88%であったこと。あれっ? 深吸気した心電図のほうが心エコーより“優秀”ってこと?…そうなんです。もちろん、単純に感度・特異度の値だけで比較できるものではありませんが、論文中ではいくつかの検討が加えられ、最終的に「“深呼吸法”は心エコーよりも下壁梗塞の診断精度が良かった」というのが、本論文の結論です。どうです、皆さん! “柔よく剛を制す”ではないですが、心電図を活用することで心エコー以上の芸当ができるなんて気持ちいいですよね。“判官贔屓”(はんがんびいき)と言われそうですが(笑)。ここで下壁誘導のQ波についてまとめておきましょう。■下壁誘導Q波の“仕分け方”■心筋梗塞の既往(問診)、冠危険因子の確認は必須III誘導「のみ」なら問題なし(お隣ルール)II誘導のQ波、ST-T所見の有無も参考に(周囲確認法)深吸気で“消える”Q波はニセモノの可能性大(深呼吸法)“実際に深呼吸法やってみた”心電図に限りませんが、新しい事柄を知った時、すぐに“実践”してみることで、その知識は真に定着するというのがボクの信条の一つです。早速、症例Aと症例Bを用いて“深呼吸法”を試してみました。【症例A】68歳、男性。他院から転医。糖尿病、脂質異常症、高血圧症あり。既往に心筋梗塞あり。【症例B】63歳、男性。術前心電図異常で紹介。高血圧症あり。以前から階段・坂道で息切れあり。臨床背景からは、【症例A】は本物な感じがしますが、【症例B】は、にわかに判断は難しいような気がします。皆さんはどう思いますか? 実際に“深呼吸法”も含めて行った心電図の様子を示します(図3)。(図3)自験例で“深呼吸法”やってみた画像を拡大するまず、安静時の心電図を見てみましょう。【症例A】では、II誘導を含めて下壁誘導すべてにQ波がありますが、陰性T波の随伴はありません(a)。一方の【症例B】は、Q波はIII、aVF誘導のみですが(QS型)、III誘導に陰性T波ありという状況です(c)。さて、“深呼吸法”の結果はどうでしょうか。息を深く吸うことで、幅・深さともに若干おとなしくなることにご注目ください。しかも、「息こらえ」のためか筋電図ノイズが混入して見づらくなるという特徴がありますよ。【症例A】ではII、III、aVF誘導ともQ波が残るので、がぜん”本物”度が増します。一方の【症例B】はどうでしょう?…III誘導は「QS型」のままですが、aVF誘導ではQ波がほぼ消えて「qr型」となったではありませんか! こうなると、もはや“お隣ルール”に該当せず、III誘導のみの“問題がない”パターンであることが露呈しました。実際の“正解”をまとめます。【症例A】は50歳時に右冠動脈中間部を責任血管とする急性下壁梗塞の既往があり、一方の【症例B】では、心エコーはほぼ正常で冠動脈CTでも有意狭窄はありませんでした。何度か述べているように、心電図だけですべてを判断するのは危険ですし、【症例B】のように一定のリスク、胸部症状や本人希望などに沿った総合的な判断から冠動脈精査を行うことは決して悪くないです。ただ、“深呼吸法”は実ははじめから“大丈夫”の太鼓判を押してくれていたことになります。ウーン、改めてすごいな。“おわりに”話を冒頭の症例に戻します。この方は心エコーとRI検査で左室下壁に異常があり、 “深呼吸法”でもII、III、aVFそれぞれでQ波は顕在でした。この患者さんの冠動脈造影(CAG)の結果 (図4)を見ると、左冠動脈には狭窄はありませんでしたが、右冠動脈の中間部で完全閉塞(図中赤矢印)、いわゆる“CTO”(Chronic Total Occlusion)と呼ばれる「慢性閉塞性病変」でした(左冠動脈造影で側副血行路を介して右冠動脈末梢が造影されています[図中黄矢印])。つまり、今回の中年男性は“本物”の下壁梗塞だったのです。(図4)48歳・男性のCAG画像を拡大するところで話は変わりますが、皆さんは「ブルガダ心電図」*3をご存じでしょうか。多くの臨床検査技師さんは、V1~V3誘導で「ST上昇」を見たら、「第1肋間上」での記録も残してくれ、これはだいぶ浸透しています。そこで提案。「下壁、とくにIII・aVF誘導にQ波があったら“深吸気”時の記録を追加する」をルーチンにしませんか?…とまぁ、とかく“欲張り”なDr.ヒロなのでした。Take-home Message下壁誘導の「異常Q波」を見たら、本物かニセモノか考えよう!冠危険因子、既往歴、II誘導のQ波やST-T変化の随伴とともに深呼吸法が参考になるはず。*1Nanni S, et al. J Electrocardiol. 2016;49:46-54.*2Godsk P, et al. Europace. 2012;14:1012-1017.*3『遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)』【古都のこと~智積院~】令和2年最初の『古都のこと』は、智積院(ちしゃくいん)から始めます。ここは「東山七条」と呼ばれるゾーンで、有名な三十三間堂や京都国立博物館のすぐ近くです。「あれっ、~寺じゃないの?」…そうなんです。ボクもそう思いました。正式名称は五百仏山根来寺(いおぶさん ねごろじ)智積院。一時退廃していた真言宗の「中興の祖」とされる興教大師が修行の場を根来山に移してから「学山」として栄え*1、室町時代後期(南北朝時代)に創建された学頭寺院の名称が「智積院」です。いわゆる「お坊さんの“学校”」なんですね。でも、これは和歌山県の話です。現在の東山の地に移ったのは、「根来衆」の“黒歴史”*2が関係しています。徳川家康から秀吉を祀る豊国神社と祥雲禅寺*3の地を拝領してからは、江戸時代以降「学問寺」としての位置を取り戻しました。さらに、明治時代の廃仏毀釈や根本道場(勧学院)・金堂*4の火難など不幸の歴史を辿りながら明治33年(1900年)に智山派総本山となった歴史を知ると、“学問”がつなぐ絆の強さに感動します。広大な敷地にボクは大学のキャンパスに漂う“自由”の気風をイメージし、既に離れた母校を懐かしみました。また、素敵な庭園とともに、敷地内にある宝物館には、国宝である長谷川等伯らによる障壁画『桜図』『楓図』(国宝)*5が拝める特典もありますよ。勧行体験のできる宿坊がリニューアル(2020年夏頃)したらまた来たいなぁと思うDr.ヒロなのでした。*1:弘法大師入定(高僧の死)後300年、荒廃した高野山に大伝法院(学問所で学徒の寮も兼ねた)を創建、宗派内の対立で同じ和歌山県内の根来山に修行の場を移し、教学「新義(真言宗)」を確立した。*2:いつしか“書物”を“火縄銃”に持ち替えた僧兵は種子島伝来の鉄砲を操ったという。天正13年(1585年)、豊臣秀吉による“根来攻め”により山内の堂塔が灰燼に帰し、当時の智積院住職であった玄宥(げんゆう)僧正が難を逃れたのが京都東山であった。*3:秀吉が夭逝した愛児鶴松(棄丸)の菩提を弔うため建立した。*4:宗祖弘法大師(空海)の生誕1200年の記念事業として昭和50年(1975年)に再建された。*5:中学・高校時代に誰しも一度や二度は図説で見たであろう“金ピカ”の障壁画に出会える。安土桃山時代らしい絢爛豪華さで、自分が想定したよりもスケールが大きくビックリ!

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術前化療で乳房温存療法が適応になる割合は(BrighTNess)/JAMA Surgery

 StageII~III乳がんでは乳房温存療法を可能にするべく術前化学療法が実施されることが多い。今回、米国・Brigham and Women's HospitalのMehra Golshan氏らは、BrighTNess試験の2次解析からトリプルネガティブ(TN)乳がん患者において術前化学療法により53.2%が乳房温存療法の適応になったことを報告した。また、北米では乳房温存治療適応患者でも乳房温存率が低く、生殖細胞系BRCA(gBRCA)変異のない患者での両側乳房切除率が高いことがわかった。JAMA Surgery誌オンライン版2020年1月8日号に掲載。 本研究は、多施設二重盲検無作為化第III相試験(BrighTNess)において事前に示されていた2次解析である。BrighTNess試験には、北米、欧州、アジアにおける15ヵ国145施設において、手術可能なStageII〜IIIのTN乳がんで術前化学療法開始前にgBRCA変異検査を受けた女性634例が登録された。登録患者をパクリタキセル+カルボプラチン+veliparib、パクリタキセル+カルボプラチン、パクリタキセル単独に無作為に割り付け、12週間投与後、ドキソルビシン+シクロホスファミドを4サイクル投与した。乳房温存療法の適応については、術前化学療法の前後に外科医が臨床およびX線写真により評価した。データは2014年4月1日~2016年12月8日に収集し、2018年1月5日~2019年10月28日に2次解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・634例(年齢中央値:51歳、範囲:22〜78歳)のうち、604例で術前化学療法前後の評価が可能であった。・ベースラインで乳房温存療法が不適応と判断された141例のうち、75例(53.2%)が術前化学療法後に適応となった。・全体として、術前化学療法後、乳房温存療法の適応と判断された502例のうち、342例(68.1%)が実際に乳房温存療法を受けた。このうち、乳房温存療法が非適応から適応に変わった75例では42例(56.0%)が実際に温存治療を受けた。・欧州およびアジアの患者は、北米の患者より乳房温存療法実施率が高かった(オッズ比:2.66、95%CI:1.84~3.84)。・gBRCA変異陰性で乳房切除術を受けた患者の対側乳房予防切除実施率は、北米の患者が70.4%(81例中57例)と、欧州およびアジアの患者の20.0%(30例中6例)に比べて高かった(p<0.001)。

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高濃度PM2.5への長期曝露、脳卒中リスクを増大/BMJ

 大気中の相対的に高濃度の微小粒子状物質(PM2.5)への長期の曝露により、低濃度PM2.5への長期曝露に比べ、初発脳卒中とそのサブタイプの発生率が増加することが、中国・北京協和医学院のKeyong Huang氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2019年12月30日号に掲載された。北米や欧州では、大気中のPM2.5への長期曝露は、相対的に低濃度(典型的には、≦25μg/m3)であっても、脳卒中の発生と関連することが示されている。一方、大気中の高濃度PM2.5への長期曝露(通常、低~中所得国でみられる)と脳卒中の発生との関連を示すエビデンスはないという。PM2.5長期曝露と脳卒中の関連を評価するコホート研究 研究グループは、大気中のPM2.5への長期曝露が、脳卒中の発生に及ぼす影響を調査する目的で、地域住民ベースの前向きコホート研究を行った(National Key Research and Development Program of Chinaなどの助成による)。 解析には、中国の15省で実施されたPrediction for Atherosclerotic Cardiovascular Disease Risk in China(China-PAR)計画のデータを用いた。ベースライン時に脳卒中のない11万7,575人が解析に含まれた。 主要アウトカムは、全脳卒中、虚血性脳卒中、出血性脳卒中の発生とした。高曝露量はリスクが53%増加 ベースラインの全体の平均年齢は50.9(SD 11.8)歳で、41.0%が男性であった。PM2.5への曝露量で4群(31.2~54.5μg/m3、54.6~59.6μg/m3、59.7~78.2μg/m3、78.3~97.0μg/m3)に分けて、脳卒中の発生を比較した。 参加者の居住地住所における2000~15年の長期的なPM2.5曝露量の平均値は64.9μg/m3(範囲:31.2~97.0)であった。追跡期間90万214人年の間に、3,540例の初発脳卒中が発生し、そのうち63.0%(2,230例)が虚血性脳卒中、27.5%(973例)は出血性脳卒中であった。 曝露量が最も低い群(<54.5μg/m3)と比較して、最も高い群(>78.2μg/m3)は初発脳卒中のリスクが増加しており(ハザード比[HR]:1.53、95%信頼区間[CI]:1.34~1.74)、虚血性脳卒中(1.82、1.55~2.14)および出血性脳卒中(1.50、1.16~1.93)についても増加が認められた。 PM2.5濃度が10μg/m3増加するごとに、初発脳卒中のリスクが13%(HR:1.13、95%CI:1.09~1.17)増加し、虚血性脳卒中のリスクは20%(1.20、1.15~1.25)、出血性脳卒中のリスクは12%(1.12、1.05~1.20)増加した。 長期的なPM2.5への曝露と初発脳卒中には、ほぼ直線的な曝露-反応関係が認められ、これは全脳卒中および2つのサブタイプのいずれにおいてもみられた。 著者は、「これらの知見は、中国だけでなく他の低~中所得国でも、大気汚染や脳卒中予防に関連する環境および保健双方の施策の開発において、意義のあるものである」としている。

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筋トレですべてを解決する本【Dr.倉原の“俺の本棚”】第26回

【第26回】筋トレですべてを解決する本Testosterone(テストステロン)さんというTwitter界では有名な社長が書いた本です。2020年1月現在、Twitterフォロワー数が100万人に迫るバケモノアカウントです。『筋トレが最強のソリューションである マッチョ社長が教える究極の悩み解決法』Testosterone/著.U-CAN.2016私は筋トレがキライですし、自己啓発本もキライです。しかし、テストステロン社長の本だけは違った。タイトルから勘違いされることが多いですが、決して筋トレのノウハウ本ではなく、筋トレを通じていかに良い人生を送るかという、これまで開拓されてこなかったジャンル。私たち勤務医だけでなく、働く人たち全員がぶち当たる悩みを解決するための手段として、彼は筋トレを紹介しています。1ページに1つの格言が載っていて、それを解説していくという文章構成になっています。「○○で悩んでいませんか? それ実は筋トレで解決します」というパターンで進んでいくので、なかやまきんに君のギャグを見続けているような錯覚を覚えるでしょう。しかし、そのプロセスはどこぞのコンサルよりもはるかに説得力があるものです。そして、なぜか不思議なことに、読むと元気になって無性に筋トレがしたくなってくるのです。私が「イイネ!」と思ったものを2ツイート分抜粋して、紹介します。“人生はメンタルゲームだ。心が実現可能とみなせばどんな事でも実現可能だ。常識が君の心に歯止めをかける。心が限界を感じれば成長はそこまでだ。心が限界を感じなければ成長は一生止まらん。常識に惑わされるな。自己暗示をかけてリミッターをはずせ。「常識で俺を測るんじゃねえ」という態度で生きろ。”“周囲の期待に応えようと自分を偽るな。自分らしく生きて、それでもまだ君の事を好きだと言ってくれる人を大切にして生きればいい。自分偽って好かれたって仕方ないだろ? 一匹狼上等だ。自分を偽るのではなく、心の底から変わりたいって思う日が来る。その時は勇気を出して頑張れ。手始めに筋トレから。”悩みごとを溜め込みがちな医師の皆さんは、ぜひ手に取って読んでみてください。「今日は元気出ないなぁ」というときに、パラパラとめくると、クスっと笑って元気が出る本です。松岡修造さんの日めくりカレンダーに近いものがある。この本を出版したあと、テストステロン社長は「超 筋トレが最強のソリューションである 筋肉が人生を変える超・科学的な理由」など、多数の著書を刊行しています。いずれも似たような内容ですが、手始めに一冊というのであれば、処女作である本書をオススメします。筋トレと自己啓発本がキライな私が面白いと言っているのだから、筋トレや自己啓発本が好きな人はツボるはずです。『筋トレが最強のソリューションである マッチョ社長が教える究極の悩み解決法』Testosterone/著出版社名U-CAN定価本体1,200円+税サイズB6判刊行年2016年

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統合失調症患者の代謝機能に対する18種類の抗精神病薬の比較

 抗精神病薬による治療は、代謝異常と関連しているが、各抗精神病薬によりどの程度代謝の変化が起こるのかはよくわかっていない。また、代謝調節不全の予測因子や代謝の変化と精神病理学的変化との関連も不明である。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのToby Pillinger氏らは、抗精神病薬による代謝系副作用の比較に基づきランク付けを行い、代謝調節不全の生理学的および人口統計学的予測因子の特定を試み、抗精神病薬治療による精神症状の変化と代謝パラメータの変化との関連について調査を行った。The Lancet Psychiatry誌2020年1月号の報告。 MEDLINE、EMBASE、PsycINFOより、2019年6月30日までに報告された統合失調症の急性期治療に対する18種類の抗精神病薬とプラセボを比較した盲検ランダム化比較試験を検索した。体重、BMI、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド、グルコースの濃度に関して、治療誘発性の変化を調査するため、ランダム効果ネットワークメタ解析を実施した。代謝の変化と年齢、性別、民族性、ベースライン時の体重、ベースライン時の代謝パラメータレベルとの関連を調査するため、メタ回帰分析を実施した。症状の重症度変化と代謝パラメータの変化との相関を推定することで、代謝の変化と精神病理学的変化との関連を調査した。 主な結果は以下のとおり。・6,532件の引用のうち、ランダム化比較試験100件(2万5,952例)が抽出された。・治療期間の中央値は、6週間であった(四分位範囲:6~8)。・プラセボと比較した各パラメータの平均差は以下の範囲であった。 ●体重増加:ハロペリドール:-0.23kg(95%CI:-0.83~0.36)~クロザピン:3.01kg(95%CI:1.78~4.24) ●BMI:ハロペリドール:-0.25kg/m2(95%CI:-0.68~0.17)~オランザピン:1.07kg/m2(95%CI:0.90~1.25) ●総コレステロール:cariprazine:-0.09mmol/L(95%CI:-0.24~0.07)~クロザピン:0.56mmol/L(95%CI:0.26~0.86) ●LDLコレステロール:cariprazine:-0.13mmol/L(95%CI:-0.21~-0.05)~オランザピン:0.20mmol/L(95%CI:0.14~0.26) ●HDLコレステロール:ブレクスピプラゾール:0.05mmol/L(95%CI:0.00~0.10)~amisulpride:-0.10mmol/L(95%CI:-0.33~0.14) ●トリグリセライド:ブレクスピプラゾール:-0.01mmol/L(95%CI:-0.10~0.08)~クロザピン:0.98mmol/L(95%CI:0.48~1.49) ●グルコース:lurasidone:-0.29mmol/L(95%CI:-0.55~-0.03)~クロザピン:1.05mmol/L(95%CI:0.41~1.70)・グルコース増加の予測因子は、ベースライン時の多い体重(p=0.0015)および男性(p=0.0082)であった。・民族性においては、非白人は、白人と比較し、総コレステロールのより大きな増加と関連していた(p=0.040)。・症状重症度の改善は、以下のパラメータ変化との関連が認められた。 ●体重増加:(r=0.36、p=0.0021) ●BMI増加:(r=0.84、p<0.0001) ●総コレステロール増加:(r=0.31、p=0.047) ●HDLコレステロール減少:(r=-0.35、p=0.035) 著者らは「代謝性副作用に関して抗精神病薬間で顕著な差が認められた。プロファイルが良好であった薬剤は、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、cariprazine、lurasidone、ziprasidoneであり、不良であった薬剤は、オランザピンとクロザピンであった。抗精神病薬誘発性の代謝変化に関する予測因子は、ベースライン時の多い体重、男性、非白人であり、精神病理学的改善は代謝障害との関連が認められた。本知見を考慮し、治療ガイドラインを更新する必要があるが、抗精神病薬を選択する際には、患者、介護者、主治医の臨床状況を鑑み、個別に治療選択肢を検討すべきである」としている。

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癒着関連の再入院リスク、腹腔鏡 vs.開腹/Lancet

 腹腔鏡手術により癒着に関連した再入院の発生は減少するが、癒着に関連した再入院の全体的な負荷は高いままであることを、オランダ・Radboud University Medical CenterのPepijn Krielen氏らが、後ろ向きコホート試験「SCAR試験」の結果、明らかにした。癒着は腹部手術後の長期的な合併症の最も一般的な要因で、腹腔鏡手術により癒着形成が減少する可能性はあるものの、低侵襲手術の長期的な癒着関連合併症への影響は不明なままであった。著者は、「今後、腹腔鏡手術がさらに増加すると母集団レベルでの影響はさらに大きくなる可能性があり、術後の癒着関連合併症の発生を減少させるためには次のステップが必要である」とまとめている。Lancet誌2020年1月4日号掲載の報告。腹部/骨盤内手術例7万2,270例について、癒着に関連した再入院を解析 研究グループは、2009年6月1日から2011年6月30日の期間で、Scottish National Health Serviceの検証済みデータを用いて後ろ向きコホート試験を実施した。対象は、年齢を問わず腹腔鏡または開腹による腹部/骨盤内手術を受けた患者7万2,270例で、2017年12月31日まで追跡調査を行った。 主要評価項目は、5年時の腹腔鏡手術および開腹手術における癒着に直接関連した再入院の発生。再入院については、癒着に直接関連した障害(例:癒着剥離、癒着性小腸閉塞)による再入院、癒着に関連した可能性がある障害(例:分類不能の小腸閉塞)による再入院、癒着による合併症の可能性がある手術(例:虫垂切除後の結腸右半切除術)のための再入院に分類した。 統計解析は、手術の解剖学的部位別の再入院サブグループ解析を行い、Kaplan-Meier法によりサブグループ間の差異を評価した。また、術式が癒着関連再入院の独立した有意なリスク要因であるかを検討するために多変量Cox回帰解析を行った。癒着に直接関連した再入院は、開腹手術に比べ腹腔鏡手術で約30%減少 7万2,270例のうち、2万1,519例(29.8%)が腹腔鏡手術を、5万751例(70.2%)が開腹手術を受けていた。7万2,270例において、術後5年以内の再入院は、癒着に直接関連した障害による入院が2,527例(3.5%)、癒着に関連した可能性がある障害による入院が1万2,687例(17.6%)、癒着による合併症の可能性がある手術のための入院が9,436例(13.1%)であった。 癒着に直接関連した再入院の発生は、腹腔鏡手術群2万1,519例中359例(1.7%[95%信頼区間[CI]:1.5~1.9])、開腹手術群5万751例中2,168例(4.3%[4.1~4.5])であった(p<0.0001)。癒着に関連した可能性がある障害による再入院の発生は、腹腔鏡手術群2万1,519例中3,443例(16.0%[15.6~16.4])、開腹手術群5万751例中9,244例(18.2%[17.8~18.6])であった(p<0.005)。 多変量解析の結果、腹腔鏡手術群は開腹手術群と比較して、癒着に直接関連した再入院が32%減少(ハザード比[HR]:0.68、95%CI:0.60~0.77)、癒着に関連した可能性がある再入院が11%減少(0.89、0.85~0.94)した。術式、悪性腫瘍、性別および年齢も同様に、癒着関連再入院の独立したリスク因子であった。

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PM2.5短期曝露、心血管疾患の入院増加と関連/BMJ

 中国において、微小粒子状物質(PM2.5)への曝露は、短期間で現在の規制濃度内であっても、出血性脳卒中を除くすべての主要心血管疾患による入院の増加と関連していることが明らかにされた。中国・華中科技大学のYaohua Tian氏らが、中国の主要184都市で実施した研究結果を報告した。疫学研究では、PM2.5による大気汚染と心血管疾患との正の関連性が報告されてきたが、ほとんどが先進国で実施されたもので、大気汚染レベル、構成、資源が大きく異なる発展途上国でのPM2.5汚染と心血管疾患との関連性は明確にはなっていなかった。BMJ誌2019年12月30日号掲載の報告。中国184都市の心血管疾患入院患者計9百万例で、PM2.5との関連を解析 研究グループは、PM2.5への短期曝露に関連する原因別主要心血管疾患入院リスクを推定する目的で時系列研究を行った。対象は、2014年1月1日~2017年12月31日に、都市従業者基本医療保険(Urban Employee Basic Medical Insurance)の全国データベースに記録された、184都市における心血管疾患入院患者883万4,533例である。 主要評価項目は、人口統計学的グループ別での、1次診断が虚血性心疾患、心不全、心調律異常、虚血性脳卒中および出血性脳卒中による入院(1日当たりの都市別件数)で、PM2.5と心血管疾患との関連を推定した。PM2.5と心血管疾患による入院との都市特異的関連性は過分散一般化加法モデルで推定し、ランダム効果メタ解析により都市別推定値を統合した。1日10μg/m3上昇で、同日の心血管疾患(脳出血を除く)による入院率が増加 研究期間中の入院件数/日(平均±SD)は、心血管疾患47±74件、虚血性心疾患26±53件、心不全1±5件、心調律異常2±4件、虚血性脳卒中14±28件、出血性脳卒中2±4件であった。 PM2.5が全国平均で10μg/m3上昇したとき、同日の入院率は心血管疾患0.26%(95%信頼区間[CI]:0.17~0.35)、虚血性心疾患0.31%(0.22~0.40)、心不全0.27%(0.04~0.51)、心調律異常0.29%(0.12~0.46)、虚血性脳卒中0.29%(0.18~0.40)増加し関連が認められたが、出血性脳卒中(-0.02%、-0.23~0.19)との関連はなかった。 PM2.5全国平均値と心血管疾患との関連性はわずかに非線形を示し、50μg/m3未満では急勾配、50~250μg/m3で緩やかな勾配、250μg/m3以上でプラトーとなった。 心血管疾患による入院率は、PM2.5濃度が最大15μg/m3の日と比較して、15~25μg/m3の日は1.1%(95%CI:0~2.2)、25~35μg/m3の日は1.9%(0.6~3.2)、35~75μg/m3の日は2.6%(1.3~3.9)、75μg/m3以上の日は3.8%(2.1~5.5)、いずれも有意に増加した。 試算によれば、中国における心血管疾患による入院数は、PM2.5の年間平均濃度の規制限度が中国グレード2(35μg/m3)、中国グレード1(15μg/m3)、およびWHO(10μg/m3)を達成すれば減少することが示され、因果関係を慎重に仮定し推算すると、同国の心血管疾患による年間平均入院件数はそれぞれ、3万6,448件(95%CI:2万4,441~4万8,471)、8万5,270件(5万7,129~11万3,494)、9万7,516件(6万5,320~12万9,820)減少する可能性が示された。

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第33回 大豆製品摂取と乳がん、月経との影響を患者さんに聞かれたら【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 以前、乳がんのホルモン療法中の患者さんに、「納豆や豆乳などの大豆製品を摂取しても大丈夫?」と聞かれたことがあります。多くの乳がんはエストロゲンの作用で増殖しますので、大豆イソフラボンが女性ホルモン様作用を有すると聞いて疑問に思ったようです。似たような趣旨で、月経痛への影響を懸念される患者さんもいらっしゃいました。確かに、大豆に含まれるイソフラボンは、αおよびβエストロゲン受容体に結合できる17‐β‐エストラジオールと構造が類似しており、エストロゲン活性を有することが知られています1)。エストロゲンとの構造類似から植物エストロゲンと呼ばれることもありますが、実際のところ影響はあるのでしょうか。今回は大豆製品の疑問に関連する研究を紹介します。血清エストロゲン濃度や月経痛への影響は不明まず、豆乳摂取による血清エストロゲン濃度への影響についてです。閉経前の日本人女性を対象として、連続した3月経周期に毎日400mLの豆乳(約109mgのイソフラボンを含有)を摂取する豆乳補充食群(31例)と、対照の通常食群(29例)にランダムに割り付けて調査した岐阜大学の研究があります。結果として、各群間で血清エストロゲン濃度の変化や月経周期の長さに統計的な有意差はありませんでした2)。後に、同じ研究グループは19~24歳の日本人女性276例を対象に、月経痛と大豆製品、脂肪、食物繊維摂取との関係性についても横断研究をしています。食物繊維摂取量は有意に月経痛スケールと逆相関でしたが、大豆製品、脂肪の摂取量は月経痛スケールとの相関が見いだされませんでした3)。食物繊維のほうが月経痛に有用という何とも言い難い結果ですが、食品から大豆製品を通常摂取する分には月経周期や月経痛への影響はあまりなさそうです。大豆消費と乳がんのリスクは逆相関多目的コホート研究(JPHC研究)は、生活習慣とがんなどの生活習慣病との関連について日本の人口ベースで長期追跡調査を行い、これまでに多くの成果を発表しています。その中の1つで、大豆製品およびそこから摂取されるイソフラボン量と乳がんの発生率を調査したものがあります。同研究では、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県石川の4地域に在住している40〜59歳の女性2万1,852人を約10年間追跡しています。その結果、みそ汁とイソフラボンの摂取が乳がんリスクと逆相関することが示唆されました。イソフラボン摂取量が最低四分位数のものと比較して、第2四分位、第3四分位、最高四分位数の乳がんリスク比はそれぞれ0.76(95%信頼区間[CI]:0.47~1.2)、0.90(95%CI:0.56~1.5)、0.46(95%CI:0.25~0.84)でした。とくに、みそ汁を1日2杯以上飲む群では乳がんリスクが低い傾向にありました4)。乳がん内分泌療法中の患者の再発リスクも低下2002年8月~2003年7月の間に乳がんの手術を受け、その後内分泌療法を行っている患者524例を対象に中央値5.1年追跡し、大豆イソフラボンの食事摂取と乳がんの再発および死亡との関連を調べた研究もあります。アンケートにより食事状況を調査し、ハザード比(HR)を推定し、ER/PRのステータスと内分泌療法別(タモキシフェンまたはアナストロゾール)により層別化しています。閉経前患者では、全体の死亡率(30.6%)は大豆イソフラボンの摂取とは相関がありませんでした(HR:1.05、95%CI:0.78~1.71、最高四分位[>42.3mg/日]vs.最低四分位[<15.2mg/日])が、閉経後患者では最低四分位と比較して、最高四分位の再発リスクは有意に低いという結果でした(HR:0.67、95%CI:0.54~0.85)。閉経後ER+/PR+の患者およびアナストロゾールによる治療を受けている患者でも、大豆イソフラボンの食事摂取量が多いと再発リスクが低下していました5)。ほかにも、35件の研究のメタ解析では、大豆摂取が閉経前後双方において乳がん再発リスクと逆相関することも示唆されていますし6)、HER2の発現状態によらず大豆摂取が乳がんリスクと逆相関するとする中国人女性を対象とした研究もあります7)。また、前向き研究のメタ解析で、大豆イソフラボン摂取量が10mg/日増加するごとに、乳がんのリスクが3%(95%CI:1~5%)減少する用量依存性も示唆されています8)。大豆イソフラボンは理論的には乳がんなどのリスクを上げるように思いますが、これらの文献ではそうとも言えないようです。さまざまな情報を入手するにつれ不安に思われる患者さんもいらっしゃいますので、回答の参考になれば幸いです。1)Vitale DC , et al. Eur J Drug Metab Pharmacokinet. 2013;38:15-25.2)Nagata C , et al. J Natl Cancer Inst. 1998 2;90:1830-1835.3)Nagata C , et al. Eur J Clin Nutr. 2005;59:88-92.4)Yamamoto S, et al. J Natl Cancer Inst. 2003;95:906-913. 5)Kang X, et al. CMAJ. 2010;182:1857-1862.6)Chen M, et al. PLoS One. 20140;9:e89288.7)Baglia ML, et al. Int J Cancer. 2016;139:742-748.8)Wei Y, et al. Eur J Epidemiol. 2019 Nov 21. [Epub ahead of print]

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サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2019)レポート

レポーター紹介2019年12月10日~14日まで5日間にわたり、サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2019)が開催された。乳がんだけを取り扱う世界最大の学会である。1977年より開催されており、90ヵ国を超える国々から研究者や医師、医療従事者が参加する。臨床試験のみならず、トランスレーショナルリサーチや基礎研究の演題も口演として聴講できるのが特徴である。ここ数年は欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で大きな演題が発表されるようになった影響もあり、SABCSでは臨床試験についてはサブグループ解析や追跡調査の結果が取り上げられることが多かったが、2019年は今後の日常臨床に大きく影響を及ぼす演題が複数取り上げられた。とくにHER2陽性転移乳がんの演題は非常に重要なものが2題発表された。後に取り上げるDS-8201aの第II相試験の結果は、国内で開発された薬剤であるということもあり、ほぼ半数の演者が国内の研究者であった。すべての演題が興味深いものであったが、なかでも興味深かった6演題を紹介する。T-DM1既治療HER2陽性乳がんにおけるtrastuzumab deruxtecan(DESTINY-Breast01試験)trastuzumab deruxtecan(DS-8201a、T-DXd)は抗HER2抗体であるトラスツズマブにトポイソメラーゼ阻害薬であるexatecanの誘導体を結合した新しい抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)製剤である。1抗体当たりおよそ8分子の殺細胞性薬剤が結合しており、高比率に結合されている。すでに第I相試験の結果は発表・論文化されており、高い有効性が示されていて、期待されている薬剤の1つである。本試験はT-DM1既治療のHER2陽性進行乳がんを対象として行われた単群第II相試験である。第I相試験ではDLTを認めなかったものの、毒性の懸念からPART 1では用量の再設定が行われ、5.4mg/kgが至適投与量とされた。主要評価項目は独立中央判定委員会によるRECIST v1.1を用いた奏効率、副次評価項目として病勢制御率や臨床的有用率、無増悪生存期間、全生存期間、安全性などが置かれた。184例が5.4mg/kgで投与され、全員が女性であった。ホルモン受容体陽性が52.7%、HER2ステータスはIHC3+が83.7%、IHC2+または1+でISH陽性が16.3%であった。全例がトラスツズマブおよびT-DM1による治療歴を有した。主要評価項目である独立中央判定委員会による奏効率(objective response rate:ORR)は60.9%と非常に高い効果を示した。病勢制御率(disease control rate:DCR)は97.3%、6ヵ月以上の臨床的有用率(clinical benefit rate:CBR)は76.1%であった。奏効期間の中央値は14.8ヵ月であり、3次治療以降としては非常に長い奏効期間を有した。65.8%がペルツズマブによる治療歴を有し、ペルツズマブ治療歴のない症例でより奏効率が高い傾向を示した。無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)の中央値は16.4ヵ月、全生存期間(overall survival:OS)の中央値は未到達であった。有害事象(adverse event:AE)はGrade3以上の治療関連AEが57.1%(薬剤との因果関係ありが48.8%)、SAEが22.8%(同12.5%)、治療関連死は4.9%(同1.1%)であった。とくに注目されているAEである肺障害は全Gradeで13.6%と高頻度に発生していた。多くはGrade1または2であったが、2.2%がGrade5であり、やはり注意が必要なAEであるといえよう。総じて毒性が強く、とくに肺障害に注意が必要なものの、非常に高い奏効率と奏効期間を有する薬剤であるといえる。本試験の結果は同日New England Journal of Medicine(NEJM)誌オンライン版に掲載された。筆者は本薬剤の開発の初期段階から関わってきたが、実際に自分が使って感じている実感と本臨床試験の結果は合致している。米国食品医薬品局(FDA)は本試験の結果をもって、2019年12月20日にT-DXdを迅速承認した。国内でも2019年9月に承認申請がなされており、早期に承認されて日本の患者さんに本薬剤が早く届くことを期待している。HER2陽性乳がんにおけるカペシタビン+トラスツズマブに対するtucatinibもしくはプラセボの上乗せ効果を比較する第III相試験(HER2CLIMB試験)tucatinibは経口チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)でHER2のキナーゼドメインを阻害する。ラパチニブはEGFRも阻害するが、tucatinibはHER2特異性が高い。本試験は、トラスツズマブ、ペルツズマブおよびT-DM1による治療歴を有するHER2陽性転移乳がんを対象とした第III相試験でtucatinibまたはプラセボをカペシタビン+トラスツズマブ療法に併用した。ベースラインでの脳MRIが必須とされており、脳転移があっても治療後で落ち着いている、もしくは早急な局所治療を必要としない場合は登録可能とされた。2対1の割合で割り付けが行われ、tucatinib群に410例、プラセボ群に202例が登録された。主要評価項目は最初に登録された480例における独立中央判定委員会によるPFSで、RECIST v1.1を用いて評価された。副次評価項目としてOS、脳転移のある症例のPFS、測定可能病変を有する症例でのORRとされた。脳転移症例は両群で50%弱の割合であった。主要評価項目評価対象症例におけるPFS中央値は7.8ヵ月vs.5.6ヵ月(ハザード比:0.51、95%CI:0.42~0.71、p<0.00001)でありtucatinib群で有意に良好であった。全登録症例におけるOS中央値は21.9ヵ月vs.17.4ヵ月(ハザード比:0.66、95%CI:0.5~0.88、p=0.0048)であり、こちらもtucatinib群で有意に良好であった。脳転移症例におけるPFS中央値は7.6ヵ月vs.5.4ヵ月(ハザード比:0.48、95%CI:0.34~0.69、p<0.00001)であり、脳転移症例においても同様の有効性を示した。奏効率は41% vs.23%でこちらもtucatinib群で有意に良好であり、すべての副次評価項目でtucatinib群が良好な結果であった。Grade3以上のAEはtucatinib群で55%に対しプラセボ群で49%であり、両群間で大きな差は認められなかった。頻度の高いAEは下痢、手足症候群、悪心、倦怠感、嘔吐などであり、HER2-TKIやカペシタビンでよくみられるAEが多かった。本試験の結果は同日NEJM誌オンライン版に掲載された。本試験はペルツズマブ、T-DM1既治療例を対象として行われた初めてのHER2-TKIの試験である。本試験ではPFSのみならずOSにおいても有意に良好であった。また、脳転移に特化したエンドポイントでも有効性を示しており、HER2陽性乳がんで多い脳転移症例に対しても期待される薬剤である。ただ、残念ながら日本からは本試験には参加していない。アロマターゼ阻害薬で進行したホルモン受容体陽性HER2陰性転移乳がんに対するパルボシクリブ+内分泌療法vs.カペシタビンの第III相試験(PEARL試験)2019年のASCOで韓国のグループより閉経前ホルモン受容体陽性HER2陰性転移乳がんに対するエキセメスタン+パルボシクリブ+LHRHa vs.カペシタビンの第II相試験結果(KCSG-BR 15-10)が発表されたことは記憶に新しい。PEARL試験は閉経後ホルモン受容体陽性HER2陰性転移乳がんの2次治療としてホルモン療法+パルボシクリブをカペシタビンと比較した第III相試験である。ホルモン療法としてはエキセメスタンとフルベストラントが選択され、それぞれ別のコホートとして試験が行われた。コホート1(エキセメスタン)、コホート2(フルベストラント)でそれぞれ300例が1対1の割合でホルモン療法+パルボシクリブもしくはカペシタビンに割り付けられた。主要評価項目はコホート2におけるフルベストラント+パルボシクリブのカペシタビンに対するPFSの優越性(ESR1の変異の有無によらない)、およびESR1変異のない症例におけるホルモン療法(エキセメスタン/フルベストラント)+パルボシクリブのカペシタビンに対するPFSの優越性の2つであった。1つ目の主要評価項目であるフルベストラント+パルボシクリブの優越性については、PFS中央値が7.5ヵ月vs.10ヵ月(ハザード比:1.09、95%CI:0.83~1.44、p=0.537)であり、優越性は示されなかった。2つ目の主要評価項目であるESR1変異のない症例におけるホルモン療法+パルボシクリブの優越性についても、PFS中央値が8.0ヵ月vs.10.6ヵ月(ハザード比:1.08、95%CI:0.85~1.36、p=0.526)であり、優越性は示されなかった。KCSG-BR 15-10試験ではエキセメスタン+パルボシクリブ+LHRHaはカペシタビンに対して良好なPFSを示した。KCSG-BR 15-10試験は第II相試験であるため単純に比較することはできないが、本試験が閉経後かつアロマターゼ阻害薬で進行した症例を対象にしているのに対し、KCSG-BR 15-10試験ではTAMの治療歴がある症例しか含まれておらずホルモン感受性が異なっていると考えられること、1次治療と2次治療の違い、などが結果の違いの原因となっていると考察できる。転移乳がんに対するデュルバルマブvs.化学療法のランダム化第II相試験(SAFIR02-IMMUNO試験)デュルバルマブは免疫チェックポイント阻害薬の1つで、PD-L1を阻害する。局所進行肺がんの化学放射線治療後の維持療法として使用されている。抗PD-L1抗体ではアテゾリズマブがアルブミン結合パクリタキセルとの併用において、PD-L1発現のあるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の初回治療としての有効性を示し標準治療となっている。本試験ではHER2陰性転移乳がんを対象として化学療法に対する維持療法としてのデュルバルマブの有効性を検討した第II相試験である。3コース目の化学療法前に腫瘍検体を採取し、その後CR/PR/SDを達成した症例が対象となった。腫瘍検体で標的分子が検出されている際には分子標的治療の臨床試験に参加し、検出されなかった症例が本試験の対象となった。主要評価項目はPFSであった。デュルバルマブ維持療法へスイッチする群と、治療を変更せずに化学療法を行う群に199例が2対1の割合で割り付けられた。PD-L1発現についてSP142抗体を用いて評価され、TNBCでは52.4%、ホルモン受容体陽性では14.9%が陽性であった。PFS中央値は2.7ヵ月vs.4.6ヵ月(ハザード比:1.40、95%CI:1.00~1.96、p=0.047)であり、化学療法群で良好な傾向であった。また、サブグループ解析ではホルモン受容体陽性で化学療法群が良好であった。OS期間においては21.7ヵ月vs.17.9ヵ月(ハザード比:0.84、95%CI:0.54~1.29、p=0.42)であり両群間に差を認めなかった。一方、サブグループ解析ではTNBCで21ヵ月 vs.14ヵ月、PD-L1陽性で26ヵ月vs.12ヵ月と、デュルバルマブで良好な傾向を認めた。乳がんに対しても活発に免疫チェックポイント阻害薬の開発が行われており、本試験もその1つである。All comerで行われた試験であったが、今後の開発はホルモン受容体ステータスやPD-L1の発現など、バイオマーカーでの絞り込みが必須と考えられる。また、ホルモン受容体陽性乳がんではこれまで免疫チェックポイント阻害薬の開発は成功しておらず、その生物学的背景の解明も重要である。ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんの術後ホルモン療法に対するS-1の追加効果を検証した第III相試験(POTENT試験)2017年のSABCSで日本と韓国のグループから術前化学療法で残存腫瘍があった症例に対するカペシタビンの上乗せ効果が示され(CREATE-X試験)、日本の研究者にとって大きな自信につながったことは記憶に新しい。POTENT試験はホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんを対象として、低リスク症例を除いた症例群に対してS-1の上乗せ効果をみた第III相試験である。本試験ではStageIからIIIBを対象とし、リンパ節転移陽性もしくはリンパ節転移陰性かつ中間リスクもしくは高リスクの症例を対象とした。1,959例がホルモン療法+S-1群とホルモン療法単独群に1対1の割合で割り付けられた。主要評価項目は無浸潤疾患生存(invasive disease-free survival:IDFS)とされた。5年IDFSにおいて、S-1群で86.9%に対し、ホルモン療法単独群では81.6%(ハザード比:0.63、95%CI:0.49~0.81、p<0.001)であり、S-1群で良好な結果であった。本試験は中間解析で有効性の閾値を超えたため、早期有効中止となっている。AEについては、S-1群で増加傾向にあり、Grade3以上のものとしては好中球減少(7.5%)や下痢(1.9%)に注意が必要であるが、総じてコントロールは可能と考えられた。本試験は先進医療Bとして行われており、今後は保険承認の手続きを目指していくと思われる。2017年にはCREATE-X試験、2018年にはAERAS試験、そして本試験と、ここのところSABCSでは毎年日本から口演が発表されている。日本の研究者として大変誇らしいとともに、少しでも日本からのエビデンス発信に貢献していきたい。APHINITY試験全生存期間の中間解析APHINITY試験はHER2陽性乳がんの術後化学療法におけるトラスツズマブ療法へのペルツズマブの上乗せを検証した第III相試験である。4,805例のHER2陽性乳がん患者が登録され、ペルツズマブ群(2,400例)とプラセボ群(2,405例)に1対1の割合で割り付けられた。主要評価項目はIDFSであり、OSは副次評価項目に含められた。4年IDFSは92.3% vs.90.6%(ハザード比:0.81、95%CI:0.66~1.00、p=0.045)であり、絶対リスク減少は2%に満たないもののペルツズマブ群で良好であった。また、本試験は当初リンパ節転移のない症例も登録されていたが、イベントが少ないことから途中でプロトコールが改訂され、リンパ節転移陽性症例のみが適格となった。今回のOS期間の2回目の中間解析では、6年生存率は94.8% vs.93.9%(ハザード比:0.85、95%CI:0.67~1.07、p=1.07)であり、両群間に差を認めなかった。IDFSのフォローアップデータは、6年IDFSで90.6% vs.87.8%(ハザード比:0.76、95%CI:0.64~0.91)とペルツズマブ群で良好であったが、リンパ節転移の有無(すなわちベースラインリスクの違い)でサブグループ解析を行うと、リンパ節転移陽性では6年IDFSで87.9% vs.83.4%(ハザード比:0.72、95%CI:0.59~0.87)とペルツズマブの上乗せ効果を認めたのに対し、リンパ節転移陰性では95.0% vs.94.9%(ハザード比:1.02、95%CI:0.69~1.53)と上乗せ効果は認めなかった。ホルモン受容体ステータスによらずペルツズマブの上乗せ効果が認められた。トラスツズマブの登場によりHER2陽性乳がんの予後は劇的に改善しており、術後ペルツズマブの追加によりリンパ節転移陽性例に対してはIDFSの改善が期待される。ただし、中間解析時点ではOSの上乗せ効果は認めないため、最終解析の結果が待たれる。リンパ節転移陰性例に対しては原則として術後ペルツズマブの上乗せは不要であろう。

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完全人工膵臓実現へのさらなる一歩(解説:住谷哲氏)-1167

 数年前に米国FDAは、世界初のclosed-loop insulin delivery systemであるMiniMed 670G(Medtronic)を認可した。これは基礎インスリン分泌basal insulin deliveryのみを自動化したものでhybrid closed-loop systemと呼ばれている。本試験で用いられたのは、基礎インスリン分泌に加えて高血糖時の補正インスリンcorrection bolusも自動化した新しいclosed-loop systemである。 人工膵臓artificial pancreasはグルコース濃度を感知するセンサー、投与インスリン量を計算するアルゴリズム、インスリンを注入するポンプの3つから成る。本試験で用いられたのはそれぞれDexcom G6 CGM(Dexcom)、Control-IQ Technology(Tandem Diabetes Care)、t:slim X2インスリンポンプ(Tandem Diabetes Care)を組み合わせたシステムである。Control-IQ Technologyの基礎となったアルゴリズムinControlは米国・バージニア大学で開発され、後にTypeZero Technologiesに引き継がれたが、同社は近年Dexcomと合併した。t:slim X2インスリンポンプは唯一のタッチパネル式のインスリンポンプであり、その使いやすさから市場を伸ばしている。人工膵臓開発の分野は競争が熾烈で、これら複数の企業と米国のバージニア大学が共同で実施したInternational Diabetes Closed Loop(iDCL)trialが本試験である。 コントロール群はDexom G6とインスリンポンプを組み合わせたSAP(sensor-augmented pump、低血糖時に基礎インスリン注入を中断する機能は装備していない)を使用した。したがって本試験はSAPとclosed-loop systemとの比較になる。主要評価項目は目標血糖値(70~180mg/dL)を維持した時間とした。結果は予想どおりclosed-loop群で主要評価項目が改善していた。重篤な低血糖の頻度も両群で差はなかった。 完全人工膵臓が実現すれば、機器を装着するだけで指先を穿刺する血糖測定なし、インスリン注射なしで、ほぼ正常な血糖値を維持することが可能となるだろう。今回用いられたシステムでは、自己血糖測定による補正が不要なDexcom G6を用いることで患者は指先の穿刺から開放された。さらに基礎インスリン注入に加えて高血糖時の補正インスリン注入が自動化されたが、食事前のprandial bolusは現在でも患者自身が制御する必要がある。しかし昨今の人工知能の急速な進歩を考えると、遠くない将来にこの点も解決されるだろう。

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左冠動脈主幹部狭窄、PCIはCABGより5年臨床転帰不良/Lancet

 左冠動脈主幹部病変の血行再建術では、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は冠動脈バイパス術(CABG)に比べ、5年時の臨床転帰が不良であることが、デンマーク・オーフス大学病院のNiels R. Holm氏らが行った「NOBLE試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年12月23日号に掲載された。PCIは近年、左冠動脈主幹部病変を有する患者の血行再建において、標準治療のCABGに代わり使用機会が増えている。本研究では、追跡期間中央値3.1年の時点で、これら2つの介入法の死亡率は類似するが、PCIでわずかに高かったと報告されている。主要有害心/脳血管イベントを評価する非劣性試験 本研究は、欧州北部9ヵ国の36の病院が参加した非盲検無作為化非劣性試験であり、2008年12月9日~2015年1月21日の期間に患者登録が行われた(Biosensorsの助成による)。今回は、追跡期間中央値5年時の成績が報告された。 対象は、安定狭心症/不安定狭心症、急性冠症候群で、左冠動脈主幹部の入口部、mid-shaftまたは分岐部に、目視で>50%の狭窄または冠血流予備量比(FFR)≦0.80の病変を有し、これ以外の非複雑病変が3つ以下の患者であった。 被験者は、PCIまたはCABGを受ける群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、主要有害心/脳血管イベント(MACCE)であり、全死因死亡、手技に伴わない心筋梗塞、再血行再建術、脳卒中の複合とした。PCIのCABGに対する非劣性は、MACCEが275件発生後のハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)上限値が1.35を超えない場合と定義された。副次エンドポイントは、全死因死亡、手技に伴わない心筋梗塞、再血行再建術であった。死亡に差はないが、心筋梗塞と再血行再建術はCABGで良好 1,201例が登録され、PCI群に598例、CABG群には603例が割り付けられた。両群とも592例ずつがintention-to-treat解析の対象となった。追跡期間中央値4.9年の時点で、主要エンドポイントの評価に十分な検出力を持つイベント数に達した。 ベースラインの年齢中央値は、PCI群66.2歳(IQR:9.9)、CABG群66.2歳(9.4)で、女性がそれぞれ20%および24%含まれた。糖尿病がPCI群16%、CABG群15%に認められた。血行再建術の臨床的適応は、安定狭心症がPCI群82%、CABG群83%であった。左冠動脈主幹部狭窄が分岐部の患者はPCI群81%、CABG群81%であった。また、SYNTAXスコアの平均値は、それぞれ22(SD 8)点および22(7)点だった。 Kaplan-Meier法によるMACCE発生の推定値は、PCI群が28%(165イベント)、CABG群は19%(110イベント)であった。HRは1.58(95%CI:1.24~2.01)であり、PCIの非劣性は示されず、CABGの優越性が確認された(p=0.0002)。 また、全死因死亡の発生率はPCI群9%、CABG群9%(HR:1.08、95%CI:0.74~1.59、p=0.68)であり、両群間に差は認めなかった。一方、手技に伴わない心筋梗塞の発生率はそれぞれ8%および3%(2.99、1.66~5.39、p=0.0002)、再血行再建術の発生率は17%および10%(1.73、1.25~2.40、p=0.0009)と、CABG群で有意に良好であった。なお、脳卒中の発生率はそれぞれ4%および2%(1.75、0.86~3.55、p=0.11)だった。 SYNTAXスコアが低い集団(1~22点、52%)のMACCE発生率は、PCI群27%、CABG群14%(HR:2.05、95%CI:1.41~2.98、p=0.0001)と、CABG群で良好であった。一方、同スコアが中間の集団(23~32点、40%)では、PCI群30%およびCABG群25%(1.24、0.87~1.77、p=0.30)、同スコアが高い集団(≧33点、9%)では、それぞれ33%および25%(1.41、0.68~2.93、p=0.40)であり、両群間に差はみられなかった。 著者は、「左冠動脈主幹部病変がみられ、これ以外の狭窄の数が限定的な患者の血行再建術においては、ハートチーム(heart team)による治療が適切と考えられる場合は、PCIとCABGの死亡率はほぼ同様の可能性がある。多枝病変で、とくに糖尿病を合併する場合は、CABGのほうが死亡率が低いため好ましく、PCIは急性冠症候群で好ましい手技と考えられる。PCIとCABGの双方が適応の患者では、個々の手技に関連する便益とリスクに関する十分な情報が必要となる」としている。

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