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双極性障害患者の加齢に伴う白質の変化

 双極性障害(BD)では、加齢に伴う白質の変化が報告されている。しかし、この加齢に伴う変化が、疾患特有のものであるかはよくわかっていない。広島大学の増田 慶一氏らは、うつ病およびBD患者と健康対照者(HC)の加齢に伴う白質の変化を年齢別に調査し、年齢を制御することにより疾患特有の影響を評価した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2020年10月22日号の報告。 対象は、HC群96例(20~77歳)、うつ病群101例(25~78歳)、BD群58例(22~76歳)。54の白質路における拡散テンソル画像から得た異方性(fractional anisotropy:FA)を比較するため、年齢の線形効果および2次効果で制御した後、一般線形モデルを用いた。年齢に伴う影響および各群の相互の影響は、モデルにより評価した。 主な結果は以下のとおり。・加齢に伴う白質の有意な変化は、年齢の線形効果および2次効果で制御した後では、左側脳弓柱および脳弓体で認められ、年齢の2次効果で制御した後では、左側脳梁体で認められた。・BD群は、ほかの群と比較し、FAが有意に低かった。・各群における年齢による影響に違いは認められなかった。 著者らは「年齢で制御した後、BD群では有意なFAの低下が認められた。BDの白質異常は、年齢とともに進行するわけではなく、若年層で発生する可能性があることが示唆された」としている。

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転倒リスクを測定、立位年齢を1分で測定できる「StA2BLE」とは

 皆さんはご自身の転倒リスクについて意識したことがあるだろうか? 転倒はQOLの低下を招くばかりか要介護の原因となる。そのため、国の政策でも転倒予防が掲げられているが、アンメットメディカルニーズであることから抜本的な解決にはつながっていない。 10月26日にWeb開催された日本抗加齢協会主催『第2回ヘルスケアベンチャー大賞』において、転倒リスクを回避できる画期的な技術についてプレゼンテーションした、合同会社アントラクトの「StA2BLEによる転倒リスク評価と機能回復訓練事業」が大賞に選ばれた。プレゼンターを務めた島 圭介氏(横浜国立大学大学院工学研究院 准教授/アントラクトCEO)らの研究は、転倒リスクから身を守るだけではなく抗加齢につなげることを目標に設計されており、立位年齢TMが抗加齢分野において新しい指標として活用が期待されると多くの審査員から支持を得た。本稿では、見事に賞金100万円を手にした島氏への取材内容を交えてお届けする。 転倒リスクを身体と感覚の両側面から測定できる インターネットでたまたま公募を知ったことが今回の受賞のきっかけと話す島氏。同氏らは転倒リスクを回避するための技術として、立位機能アシスト&検査装置「StA2BLE」を開発した。StA2BLEとは、指先への感覚刺激の制御によって世界で初めて転倒リスクの可視化を実現し、身体/感覚機能を同時に評価する検査法で、「ただ目を閉じて立っているとふらつくが、壁に手をつくことで立っていられる」という原理を応用している。従来の体力テスト(握力や柔軟性など)では測定できないような転倒のリスクを身体と感覚の両側面から測定可能な点が特徴だ。 立位機能アシストはライトタッチと呼ばれる、人が何かに触れると姿勢が安定する現象を見えない壁(仮想壁)で作りだして転倒を予防する。これを利用することでいつでも・どこでも転倒予防ができるので、安定した立位、歩行が可能になる。 検査装置は仮想壁を取り払うことで転倒リスク評価につなげる技術で、ふらつきを誘発させてわずか1分間で転倒リスクを測定するものである。転倒リスクは過去に何回転倒したか、1年に何回転倒したかなどが鍵となるが、「立位年齢TMを知ることで自身への必要なサポートを意識することができる」と最終審査でPRした。 また、アントラクトでは技術提供だけではなく、立位年齢TMを測定後、理学療法的知見に基づき個々に応じた立位機能改善の訓練プログラム「筋制御トレーニング」「身体認識トレーニング」「感覚柔軟化訓練」の3つを提供しているのも特徴だ。若年者から高齢者まで有用なことから、この技術を入院前に実施し立位年齢TMを若返らせれば「入院中やその後のリスク回避につながる」とも説明した。転倒リスクが生命に影響する産業現場へ参入 現時点でこの技術を体験したのは全国各地で開催された健康イベントなどに参加した約1,400名だが、同氏は将来ビジョンとして「転倒予防が重要な産業現場」への導入件数の増加を目指している。これについては、「産業現場は転落・転倒リスクが生命に影響することから、就業前の体操などが元来導入されている。健康な人でも転倒リスクは日々の体調に左右されるので、この部分に着目し、就業前にStA2BLEで転倒リスク確認を行ってから就業することを推奨していきたい」と話した。今後の販路拡大の方法については模索中のようだが、「各疾患での利用価値を計るため、今後は疾患別の転倒リスクを層別化できるよう取り組みたい」と研究者としての意気込みを語った。 最後に同氏は「この取り組みは平均寿命の延伸、ひいては高齢者の労働力の確保、医療費の削減につながり、社会に大きく貢献できる。StA2BLEこそ転倒事故ゼロの社会を目指す世界でただ1つの方法論となりうる。われわれは工学、社会学、都市科学の専門家集団として結束力を高め、今後は国の事業にも積極的に参画したい」と今後の展望を述べるとともに「皆さまの隣にStA2BLEが来る世界を目指していきたい」と喜びを噛み締めた。 このほかの受賞は以下のとおり。・学会賞株式会社レストアビジョン「視覚再生遺伝子治療薬開発」・ヘルスケアイノベーションチャレンジ賞株式会社OUI「Smart Eye Cameraを使用した白内障診断AIの開発」株式会社Surfs Med「変形性膝関節症に対する次世代インプラントの開発」歯っぴー株式会社「テクノロジーで普及を拡張させる口腔ケア事業」・最優秀アイデア賞松本 成史氏(旭川医科大学)「メンズヘルス指標に有効な新規『勃起力』計測装置の開発」・アイデア賞佐藤 拓己氏(東京工科大学)「寿司を食べながらケトン体を高く保つ方法」松本 佳津氏(愛知淑徳大学)「長寿高齢社会を前提とした真に豊かな住空間をインテリアから考え、活用できる具体的な指標を作成する それは『豊かな人生』のデザイン」 ヘルスケアベンチャー大賞は、アンチエイジング領域においてさまざまなシーズをもとに新しい可能性を拓き社会課題の解決につなげていく試みとして、坪田 一男氏(日本抗加齢医学会イノベーション委員会委員長)らが2019年に立ち上げたもの。今年の応募総数は約40件に上り、ベンチャー企業や個人のアイデアによるビジネスプランを書類審査、1次審査、最終審査の3段階で評価し表彰した。

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ペムブロリズマブ+アキシチニブ、腎細胞がん1次治療のOS延長持続(KEYNOTE-426)/Lancet Oncol

 化学療法未治療の進行性腎細胞がん患者に対する、ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用とスニチニブ単独の有効性を比較したKEYNOTE-426試験の長期有効性・安全性を支持する結果が示された。同試験の中間解析では併用群が優れていることが示されているが、英国・Barts Cancer CentreのThomas Powles氏らは長期追跡の探索的解析を行い、その優れた有効性が維持されていたと発表した。結果を踏まえて著者は、「今回示された結果は、進行性腎細胞がんの標準治療としてのペムブロリズマブ+アキシチニブ併用による1次治療を、さらに支持するものである」とまとめている。Lancet Oncology誌オンライン版2020年10月23日号掲載の報告。 KEYNOTE-426試験は、16ヵ国129施設で実施中の国際共同無作為化非盲検第III相試験である。2016年10月24日~2018年1月24日に、化学療法未治療の局所進行または転移を有する淡明細胞型腎細胞がん患者(18歳以上)861例を登録し、ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用群(432例)、またはスニチニブ群(429例)に、地域およびIMDCリスク分類を層別因子として1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、ITT集団における全生存(OS)期間および無増悪生存(PFS)期間であった。初回中間解析で主要評価項目が達成されているため、今回の解析は名目上のp値で報告されている。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値30.6ヵ月におけるOS期間中央値は、ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用群で未到達、スニチニブ群では35.7ヵ月で、ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用群のOS延長効果が継続していることが観察された(HR:0.68、95%CI:0.55~0.85、p=0.0003)。・PFS期間中央値は、15.4ヵ月vs.11.1ヵ月であった(HR:0.71、95%CI:0.60~0.84、p<0.0001)。・主なGrade3以上の治療関連有害事象(発現率10%以上)は、高血圧(ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用群22% vs.スニチニブ群20%)、ALT上昇(13% vs.3%)、および下痢(11% vs.5%)であった。・初回中間解析以降、治療に関連した新たな死亡は報告されていない。

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身長-123【Dr. 中島の 新・徒然草】(350)

三百五十の段 身長-123米国大統領選挙はまだすったもんだしています。2000年の選挙でも、ブッシュ対ゴアで大揉めに揉めたんじゃないかな。あれから20年経っても全く進歩せず。トランプ氏はなかなか負けを認めませんが、この往生際の悪さが彼らしいともいえます。さて、ある日の総診外来。主訴はなんだか忘れましたが、妙に背の高い女性が現れました。背が高いだけでなくオーラがある。聞いてみるとバレリーナだそうです。どおりで姿勢がよく、存在感がありました。彼女によれば、バレリーナの適正体重は「身長-123」だとか。なので身長が167センチだとすれば体重はわずかに44キロ。毎日の食事摂取量を900kcalに抑えているそうです。患者「でも私はバレエ団のメンバーから外されたので、今は裏方の仕事をしています」中島「じゃあ、もう思う存分食べてもいいんじゃないですか?」患者「周囲に悪影響を及ぼさないよう、体形は保たないといけないんです」中島「厳しすぎる!」なんでまた急にバレエの話を始めたのか。それは、BBCのニュースで感動的なビデオを見たからです。アルツハイマーを患って、スペインの老人ホームに入居しているマルティナ・ゴンザレスさん。ヘッドフォンでチャイコフスキーの「白鳥の湖」を聴かせると、車いすに座ったまま両手で踊り始めました。彼女はキューバでバレエを学び、仲間とともに1960年代のニューヨークで公演を行ったそうですが、その時の記憶が戻ったのでしょう。認知症といえども、体の奥深くに刻み込まれた厳しい稽古の日々を消し去ることはできなかったということですね。残念なことに、このビデオ撮影からほどなくして彼女は亡くなりました。このビデオを見ていると、あたかもアルツハイマーという名の恐ろしい悪魔に苦しめられながらも精一杯生きようとするオデット姫を彼女が体現しているように思えます。是非、読者の皆さんも実際に御覧になって下さい。胸に迫る動画です。最後に1句秋湖(あきうみ)に 蘇りたる 白鳥や

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禁煙とうつ病~メタ解析

 禁煙は健康、とくにメンタルヘルスに好影響を及ぼす可能性がある。イラン・Baqiyatallah University of Medical SciencesのSohrab Amiri氏は、禁煙者におけるうつ病有病率を明らかにするため、検討を行った。Journal of Addictive Diseases誌オンライン版2020年10月21日号の報告。 PRISMAガイドラインを用いて、メタ解析を実施した。2020年7月までに英語で報告された研究を、PubMed、Scopusより検索した。うつ病の有病率に関連する結果を算出し、プールした。 主な結果は以下のとおり。・研究デザインの異なる49研究が抽出された。・禁煙者のうつ病有病率は18%(信頼区間[CI]:14~22%)であった。・うつ病の有病率が最も高かったのは、アジアと欧州、次いで米国であった。・禁煙者の大うつ病有病率は15%、うつ症状の有症率は17%であった。・禁煙者は、現在の喫煙者と比較し、うつ病のオッズ比が低かった(オッズ比:0.63、CI:0.54~0.75、I2=83.9%)。・出版バイアスは、ほとんど認められなかった。 著者らは「禁煙者のうつ病有病率は、非喫煙者や現在の喫煙者とは異なっていた。健康政策および禁煙を推奨するという観点から、メンタルヘルスへの好影響を考慮する必要がある」としている。

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監視下隔離中に新型コロナクラスター発生、その原因は/NEJM

 米国海軍入隊者1,848人について調べたところ、入隊時の定量PCR検査でSARS-CoV-2陰性だった入隊者のうち約2%が、入隊2週間後の検査で陽性に転じていた。また、入隊時の検査を拒否した入隊者のうち、同2週間後の検査で陽性だったのは2%未満であり、さらに、入隊2週間後の検査で陽性と判定された入隊者のうち、検査前から症状が認められたのは10%に満たず大半が無症状で、毎日の検温や体調モニタリングによるスクリーニングでは、SARS-CoV-2感染者は検出されなかったという。ゲノム解析では、6つの感染クラスターが確認された。米国・Naval Medical Research CenterのAndrew G. Letizia氏らが、若年成人におけるSARS-CoV-2感染制御のための有効な公衆衛生対策の研究が不十分であることから本検討を行い明らかにした。NEJM誌オンライン版2020年11月11日号掲載の報告。系統樹解析でクラスターや疫学的特徴を検証 研究グループは、自宅で2週間の隔離生活を行った後、休校中の大学構内で2週間の監視下隔離生活(マスク装着、ソーシャルディスタンス、体温・体調を毎日モニタリング)を送った米国海軍入隊者1,848人に協力を仰ぎ試験を行った。 被験者は、学校に到着直後と2日、7日後と隔離生活終了時の14日後に、それぞれ鼻腔スワブによる定量PCR検査を受けSARS-CoV-2感染の有無を調べた。また、検査協力を拒否した入隊者については、隔離生活終了の14日後のみ定量PCR検査を受けた。 感染が確認された被験者のウイルスゲノムについて系統樹解析を行い、クラスターの特定と、感染の疫学的特徴を検証した。ルームメイト、小隊内での感染を確認 大学到着2日後に定量PCR検査で陽性だったのは16人(0.9%)で、うち15人が無症状だった。同7日後または14日後には、さらに35人(1.9%)が陽性となった。14日後までに陽性だった51人のうち、定量PCR検査前1週間の間に症状が認められたのは5人(9.8%)のみだった。 同試験への自発的参加を拒否した入隊者で定量PCR検査結果が得られた1,554人のうち、14日後の検査で陽性だったのは26人(1.7%)だった。 毎日の体温・体調モニタリングの結果を踏まえて定量PCR検査を行った人からは、陽性者は確認されなかった。 32人の感染者から得た36のSARS-CoV-2ゲノムを解析したところ、18人について6つのクラスターを特定した。疫学的解析により、ルームメイトや同じ小隊内での感染など、複数の局地的感染の存在が確認された。

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発症時間不明かつDWI-FLAIRミスマッチ脳梗塞、アルテプラーゼ投与は有益/Lancet

 発症時間不明で、灌流/拡散ミスマッチやMRI拡散強調画像-フレアー画像(DWI-FLAIR)ミスマッチが認められる脳卒中患者において、アルテプラーゼの静脈内投与はプラセボ投与または標準治療と比較して、90日後の機能的アウトカムは良好であることが示された。ドイツ・ハンブルク大学エッペンドルフ医療センターのGotz Thomalla氏らによるシステマティックレビューとメタ解析の結果で、症候性頭蓋内出血リスクが高くてもすべての機能的アウトカムで、ネットベネフィットが観察されたという。アルテプラーゼによる死亡例はプラセボよりも多かったが、重度の障害または死亡の発生ケースは少なかった。発症時間不明の脳卒中患者は、以前は血栓溶解療法の除外対象とされていた。研究グループは、イメージバイオマーカーで救済可能な脳細胞範囲が特定された患者については、アルテプラーゼ静脈内投与が安全で有効であるかを確認するため本検討を行った。Lancet誌2020年11月8日号掲載の報告。90日後mRS 0~1の発生率を比較 研究グループは、2020年9月21日以前に発表された試験の個々の患者データを用いたシステマチックレビューとメタ解析を行った。発症時間不明の脳卒中で、MRI灌流-拡散画像、CT灌流画像、MRIでDWI-FLAIRミスマッチが認められた患者を対象に、アルテプラーゼ静脈内投与と標準治療またはプラセボ投与を比較した無作為化試験を適格とした。 主要アウトカムは、90日後の修正Rankinスケール(mRS)で0~1と定義した良好な機能的アウトカム(治療効果を推定するのに適した無条件混合効果モデルを用いて障害がないことを示す)だった。副次的アウトカムは、90日後のmRSの改善と、自立アウトカム(mRS 0~2)だった。安全性に関するアウトカムは、死亡、重度の障害または死亡(mRS 4~6)、症候性頭蓋内出血などだった。mRSスコア改善、自立アウトカムにも効果 適格基準を満たした4試験(WAKE-UP、EXTEND、THAWS、ECASS-4)、被験者総数843例について解析を行った。アルテプラーゼ投与群は429例(51%)、プラセボ投与または標準治療(対照)群は414例(49%)だった。 良好なアウトカムが認められたのは、対照群160例(39%)に対し、アルテプラーゼ群は199例(47%)だった(補正後オッズ比[OR]:1.49、95%信頼区間[CI]:1.10~2.03、p=0.011)。試験の異質性は低かった(I2=27%)。 アルテプラーゼ投与は、mRSスコア改善との有意な関連も認められた(補正後共通OR:1.38、95%CI:1.05~1.80、p=0.019)。自立アウトカムについても、アルテプラーゼ群が有意に高率だった(1.50、1.06~2.12、p=0.022)。 重度の障害または死亡は、対照群102例(25%)に対し、アルテプラーゼ群は90例(21%)と低率だったが有意差はなかった(補正後OR:0.76、95%CI:0.52~1.11、p=0.15)。死亡については、対照群14例(3%)に対しアルテプラーゼ群は27例(6%)だった(2.06、1.03~4.09、p=0.040)。また、症候性頭蓋内出血の発生は、対照群よりもアルテプラーゼ群で高率だった(11例[3%]vs.2例[<1%]、補正後OR:5.58[95%CI:1.22~25.50]、p=0.024)。

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クロピドグレルは奇跡の薬(解説:後藤信哉氏)-1316

 近年でこそ分子標的薬は珍しくない。クロピドグレルは薬効標的不明のまま広く臨床使用された薬剤である。冠動脈、脳血管、末梢血管疾患の広い適応を目指したCAPRIE試験の成功により世界の抗血小板薬の市場を席巻した。チカグレロルは、プラスグレルと同様クロピドグレルの薬効標的P2Y12 ADP受容体クローニングに開発された。とくに、チカグレロルはP2Y12 ADP受容体の分子標的薬ともいえる。急性冠症候群を対象としたPLATO試験では、急性期治療方針決定前にランダム化する画期的方法を用いた。約10%の症例が緊急冠動脈バイパス術となり、重篤な出血イベントの総数が増えた。チカグレロルにより惹起される出血数は希釈されたので、試験の結果を雑駁にみると「クロピドグレルよりも血栓イベントが減少し、出血イベントが増えない」ようにみえた。 本研究は米国の実臨床の後ろ向きコホート研究である。症例の対象はPLATO trialに類似しているので、PLATO trialと同様にチカグレロル群にて血栓イベントが少なく、出血イベントも少ないことが期待された。しかし、実際には1年以内の死亡、虚血イベントはチカグレロルとクロピドグレルでは差がなかった。出血イベントは有意差はないが、チカグレロル群の数が多かった。 PLATO試験は急性症候群の標準治療をチカグレロルに転換するインパクトを欧州で示した。しかし、後ろ向き観察研究とはいえ、本研究で示されたクロピドグレルと同様の血栓イベント予防効果と多めの出血というのが本当のところと思う。PLATOに参加しなかった日本を中心に施行したPLATO mirror trialのPHILOではチカグレロル群では出血、血栓イベントともにクロピドグレル群よりも多めであった。最近出版されたTICA-KOREA trialもクロピドグレルの優越性を示している。特許切れにより市場価格が10分の1以下になる米国でもチカグレロルを選択することは困難になるだろう。 単一のランダム化比較試験の結果にて特許期間内のマーケット維持を図るメガファーマの戦略も破綻がみえる。有効、安全、安価となればクロピドグレルは奇跡の薬といえるかもしれない。

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PALB2病的変異を有する遺伝性乳がん、日本での臨床的特徴は/日本癌治療学会

 PALB2はBRCA2と相互作用するDNA修復に関連する分子で、PALB2遺伝子変異は乳がん、卵巣がんのリスクを増加させ、すい臓がんとの関連も指摘される。PALB2生殖細胞系列病的遺伝子変異(pathogenic or likely-pathogenic germline variant: PGV)を有する女性の70歳までの乳がんリスクは約35~50%、生涯の乳がんリスクは約5~8倍とされるが1)、その臨床的特徴に関する知見は限られる。樋上 明音氏(京都大学乳腺外科)らは、日本人乳がん患者約2,000例を調査し、PALB2 PGV症例の頻度と臨床的特徴について、第58回日本癌治療学会学術集会(10月22~24日)で報告した。PALB2に病的変異を有する乳がんの頻度は他国より低い傾向 対象は、2011年4月~2016年10月に京都大学医学部附属病院および関連施設で同意取得した1,995例。末梢血DNAを用いて乳がん関連11遺伝子についてターゲットシークエンスを行った先行研究2)のデータを元にPALB2に病的変異を認めた症例について乳がんの状況、診断時年齢、他がんの既往・家族歴等の臨床情報を後方視的に調査した。  PALB2に病的変異を認めた症例について調査した主な結果は以下のとおり。・1,995例のうち9例にPALB2遺伝子に病的変異を認めた(0.45%)。・診断時の年齢中央値は49歳(42~73歳)。サブタイプはLuminal typeが5例(55.6%)、Luminal HER2 typeが1例(11.1%)、TNBCが2例(22.2%)、DCISが1例(11.1%)であった。・第3度以内の悪性腫瘍の家族歴を有する症例は4例(44.4%)。乳がん・卵巣がんの家族歴があったのは1例で、2人の姉が乳がん、もう1人の姉に境界悪性卵巣腫瘍、母に子宮がんを認めた。膵臓がんの家族歴は1例であり、その症例では大腸がんの家族歴も認めた。その他の症例では肝細胞がん、肺がん、胃がん、大腸がんの家族歴があった。・9例のうち4例、3バリアントはClinVarでは未報告のものであった。・非保有者との間で、サブタイプの割合に差はみられなかった。・BRCA1/2PGV症例と比較して、PALB2PGV症例では若年発症者が少なく、乳がん・卵巣がんの家族歴を有する割合が少ない傾向がみられた。・9例についてCanRisk(家族歴、生活習慣や遺伝子変異、マンモグラフィ密度などによる乳がんまたは卵巣がんの発症リスクの計算モデル)3)を用いたリスク評価を行ったところ、BRCA1/2 遺伝子変異を有する可能性が5%以上(NCCNガイドラインにおける遺伝学的検査の評価対象基準)となったのは2例のみ(22.2%)であった。 樋上氏は、日本の先行研究4)においてPALB2遺伝子病的変異を有する乳がん患者の頻度が0.40%と本結果と同程度であったことに触れ、他国における結果(ポーランド:0.93%5)、中国:0.67~0.92%6,7))と比較し低い傾向を指摘。未報告のバリアントがみられたことも踏まえ、バリアントの地域差がある可能性について言及した。 また、NCCNガイドラインにおける遺伝的検査の評価対象基準8)を今回の9症例で検討したところ、4例は該当しなかった。同氏は「BRCA1/2と比較して発症年齢が高く、乳がん・卵巣がんの家族歴が少ないため、散発性乳がんに近く、ハイリスク症例の拾い上げが難しい」とし、パネル検査の増加に伴う診断症例の増加や、PALB2 PGV症例に対するPARP阻害薬適応についての研究が進む中、拾い上げ基準やサーベイランスの最適化が重要と考察している。■参考文献・参考サイトはこちら1)Yang X,et al. J Clin Oncol. 2020 Mar 1;38:674-685.2)Inagaki-Kawata Y, et al. Commun Biol 3:578, 2020.3)CanRisk Web Tool4)Momozawa Y, et al. Nat Commun. 2018 Oct 4;9:4083.5)Cybulski C, et al. Lancet Oncol. 2015 Jun;16:638-44.6)Zhou J, et al. Cancer. 2020 Jul 15;126:3202-3208.7)Wu Y, et al. Breast Cancer Res Treat. 2020 Feb;179:605-614.8)NCCN Guidelines for Detection, Prevention, & Risk Reduction「Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast and Ovarian Version 1.2021」

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添付文書改訂:フォシーガ適応に慢性心不全/フルティフォームに小児用量/メマリー副作用に徐脈性不整脈/ネオーラル内用液適応に川崎病【下平博士のDIノート】第62回

フォシーガ:SGLT2阻害薬で初の心不全適応<対象薬剤>ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠(商品名:フォシーガ錠5mg/10mg、製造販売元:アストラゼネカ)<改訂年月>2020年11月(予定)<改訂項目>[追加]効能・効果慢性心不全。ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。<Shimo's eyes>SGLT2阻害薬は、近年、心血管予後や腎予後の改善に関する報告が次々となされています。本剤は、20ヵ国410施設で左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者を対象に実施した無作為化二重盲検第III相試験「DAPA-HF試験」の探索的解析結果において、推奨治療への追加が、糖尿病の有無にかかわらず心血管死または心不全増悪のリスクをプラセボと比較して有意に低下させたことが示されました。今回の改訂により、わが国で初めての心不全適応を持つSGLT2阻害薬となります。作用機序は不明ですが、製造販売元のアストラゼネカは、体液量調節を介した血行動態に対する作用などが心不全の改善に寄与する可能性に言及しています。本剤は、HFrEF患者であれば、糖尿病合併の有無によらず、標準治療に併用して使用することができます。なお、左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)における本剤の有効性および安全性は確立していません。参考アストラゼネカのSGLT2阻害剤フォシーガ、DAPA-HF試験サブ解析で心不全悪化または心血管死の発現率の低下を示すフルティフォーム:新たに小児適応が追加<対象薬剤>フルチカゾンプロピオン酸エステル・ホルモテロールフマル酸塩水和物吸入薬(商品名:フルティフォーム50エアゾール56吸入用/120吸入用、製造販売元:杏林製薬)<改訂年月>2020年6月<改訂項目>[追加]用法および用量小児:通常、小児には、フルティフォーム50エアゾール(フルチカゾンプロピオン酸エステルとして50μgおよびホルモテロールフマル酸塩水和物として5μg)を1回2吸入、1日2回投与する。<Shimo's eyes>本剤は、ステロイド吸入薬(ICS)フルチカゾンプロピオン酸エステル(商品名:フルタイド)と、長時間作用型β2刺激薬(LABA)ホルモテロールフマル酸塩(同:オーキシス)の配合吸入薬です。小児適応のある吸入薬は成人と比べるとまだ少ないですが、今回の改訂により小児気管支喘息の新たな治療選択肢が増えました。なお、高用量製剤(フルティフォーム125)には小児への適応がないので注意しましょう。小児は1回2吸入、1日2回の投与となっており、それ以上の増量はできません。また、5歳未満の小児では臨床試験が未実施のため注意喚起がされています。ボンベをうまく押せない場合は吸入補助器具(フルプッシュ)、吸気の同調が難しい場合にはスペーサーを用いるなど、適正に使用できるようにしっかりサポートしましょう。参考杏林製薬 添付文書改訂のお知らせメマリー:重大な副作用に徐脈性不整脈が追加<対象薬剤>メマンチン塩酸塩製剤(製品名:メマリー錠・OD錠 5mg/10mg/20mg、製造販売元:第一三共)メマンチン塩酸塩ドライシロップ(同:メマリードライシロップ2%、製造販売元:第一三共)<改訂年月>2020年6月<改訂項目>[新設]重大な副作用不整脈(頻度不明):完全房室ブロック、高度な洞徐脈などの徐脈性不整脈が現れることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。<Shimo's eyes>国内で本剤との関連性が否定できない重篤な徐脈性不整脈関連の報告が集積したことから、「重大な副作用」の項に「完全房室ブロック、高度な洞徐脈などの徐脈性不整脈」が追記されました。めまい、気を失う、立ちくらみ、脈が遅くなる、息切れ、脈が飛ぶというような症状が現れていないかどうかの聞き取りが重要です。速やかな投与中止が求められる副作用ですので、異常が見られた場合はすぐに処方医に報告・相談しましょう。参考PMDA メマンチン塩酸塩の「使用上の注意」の改訂について第一三共 使用上の注意改訂のお知らせネオーラル内用液:効能・効果に川崎病の急性期が追加<対象薬剤>シクロスポリン製剤(製品名:ネオーラル内用液10%、製造販売元:ノバルティス ファーマ)<改訂年月>2020年2月<改訂項目>[追加]効能または効果川崎病の急性期(重症であり、冠動脈障害の発生の危険がある場合)[追加]用法および用量〈川崎病の急性期〉通常、シクロスポリンとして1日量5mg/kgを1日2回に分けて原則5日間経口投与する。<Shimo's eyes>川崎病は、主に乳幼児が罹患する原因不明の血管炎症候群です。冠動脈が侵襲されることによる冠動脈病変(CAL)の合併が知られており、CALは突然死や心筋梗塞を引き起こすことがあります。急性期の標準治療として、静注用免疫グロブリン(IVIG)の単回静脈内投与とアスピリンの経口投与の併用療法が行われます。しかし、約20%の患児は十分な効果を得られず、CAL合併のリスクが高くなることが指摘されています。そこで、川崎病の過剰な炎症反応を免疫抑制薬で制御することで、CALの進行を抑制できるのではないかという考えから、本剤の国内第III相医師主導治験が行われました。その結果、CALの合併割合が、標準治療群の31.0%(27例/87例)に対し、本剤併用群では14.0%(12例/86例)と有意に低下したため、川崎病のIVIG不応例またはIVIG不応予測例には、従来の標準治療に本剤を併用できることになりました。なお、発病後7日以内に投与を開始することが望ましいとされています。参考ノバルティス ファーマ 添付文書改訂のお知らせ

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臨床家・研究者として直面したニューヨークのコロナパンデミック【臨床留学通信 from NY】第14回

第14回:臨床家・研究者として直面したニューヨークのコロナパンデミック前回は、留学した大学関連病院で、メタ解析の方法を勉強して臨床研究を進めていることについてお話ししました。しかし、メタ解析だけでは米国にいるメリットを生かせません。そのため、渡米後3ヵ月程して業務に慣れた頃からは、日本から引き続き行っている単施設研究やPCI レジストリを用いた研究をまとめつつ、新たな臨床研究の模索を始めました。そんな中、先に渡米して循環器内科で活躍している同年代の人のツテで、心不全を専門としているギリシャ出身の循環器内科医とつながることができました。いくつかのメタ解析を用いた研究を通じてやり取りをした後、National Inpatient Sample、National Readmission Database、United Network Organ SharingといったNDBを用いた研究をする機会も得ることができ、非常に勉強になっています1)。米国の内科レジデントは当院の場合、1年目は2~4週間、2年目、3年目は概ね10週間ずつのElective rotationがあります。日本の研修医でいう選択期間に当たり、苦手な科目のRotationをしたり、場合によっては大学関連病院にいながら大学病院のClinical rotationを2週間単位で取ったりと、経営母体が同一のためフレキシブルに選択できます。私の場合、多くの時間をResearch electiveとしました。選択期間中に研究が許されるのも、米国ならではというところです。COVID-19対応のFront line providerとしての経験を還元したい臨床研究という名目で、平日昼間に研究室に出入りできるというのが、仕事をもらう上では重要になります。実際、Mount Sinai HospitalのDr. Roxana Mehranに大変お世話になり、いくつか研究をさせてもらっています2,3)。さらにそこから、Cardiovascular Research FoundationのDr. Gregg Stoneとも面識を得ることができました4,5)。そのきっかけも、先に渡米している日本人の助けがあってこそであり、渡米している人の中での繋がりの大切さを実感します。そういったInterventional Cardiologyのフィールドにおけるビッグネームの方々と仕事をする機会を通じて、リサーチについて勉強できる上、推薦状をもらうことができ、そういったこと1つひとつが米国でのキャリア形成に非常に助けになると考えます。また、Mount Sinai医科大学のPublic healthの方とも仕事をする機会に恵まれています。今年は、state databaseを用いた研究を模索している中でCOVID-19に見舞われ、統計ソフトも従来用いていたSPSSではなく慣れないSASとなり、なかなか進まないのですが、そこは気持ちを切り替えて、COVID-19研究にシフトチェンジしました。COVID-19パンデミックの中心となったニューヨークで、Front line providerとして働いた経験を何か還元できないかと模索しています。基本的にフルタイムの臨床をやりながらですが、自分の米国における価値を高めるためのさまざまな勉強を続けています。参考1)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?term=toshiki+kuno+briasoulis&sort=date2)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?term=roxana+mehran&sort=date3)https://doi.org/10.1016/S0735-1097(19)31899-64)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?term=gregg+stone&sort=date5)http://www.onlinejacc.org/content/75/11_Supplement_1/192Column画像を拡大するCOVID-19が増加傾向です。欧州各地では、再びロックダウンに踏み切っており、日本の状況も懸念しています。ニューヨークにもじわじわと第2波が押し寄せている感がありますが、10月の段階では、自然史博物館は予約制で行くことができました。平時ならば観光スポットであるこうした博物館も、今はSocial Distanceを保つために人数を制限していることから、じっくり観て回ることができます。

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内視鏡検査・治療法の選択肢広がる―『大腸ポリープ診療ガイドライン2020』

 日本人のがん死亡数を部位別にみると、大腸がんは女性で1位、男性で3位となっている(男女合わせると第2位)。 早期発見・早期の適切な治療により完治を目指せるが、欧米諸国と比較すると検診受診率が大幅に低く、死亡数は増加が続いている。今年6月に6年ぶりに改訂された日本消化器病学会編『大腸ポリープ診療ガイドライン2020』(改訂第2版)では、新たなスクリーニング手法として大腸カプセル内視鏡検査、内視鏡治療法としてcold snare polypectomy(CSP)が加わり、検査・治療における選択肢が広がっている。ガイドライン作成委員長を務めた田中 信治氏(広島大学病院内視鏡診療科 教授)に、大腸ポリープ診療ガイドライン2020の改訂のポイントについてインタビューを行った(zoomによるリモート取材)。 今回の大腸ポリープ診療ガイドライン2020の改訂ではCQ(clinical question)として推奨文を明記するのは「診療において複数の選択肢がある」18項目に絞り、すでに結論が明らかなものはBQ(background question)として整理された(57項目)。また、エビデンスが存在せず、今後の研究課題であるものとして3項目のFRQ(future research question)が設定されている。大腸ポリープ診療ガイドライン2020に大腸カプセル内視鏡検査が掲載 大腸カプセル内視鏡検査が2014年1月に保険収載され、今回の大腸ポリープ診療ガイドライン2020にも掲載されている。検査に伴う苦痛がなく、病変発見の感度・特異度も高く非常に有用だが、カプセル自体が高額であり、保険適用の範囲は限定的となっていた。しかし、ガイドライン投稿後の2020年4月には適用が拡大され、高血圧症や慢性閉塞性肺疾患、高度肥満症等を有し、身体的負担により大腸内視鏡が実施困難であると判断された患者が新たに対象となり適応がやや拡大された1)。 田中氏は「検診を受診しない理由として、身体的な負担感の大きさや恥ずかしさを挙げる人も多い」と話し、腸内を空にするための前処置は必要なもののカプセルを飲むだけで簡便であり、手術や薬物療法なども含めたがん診療全体の医療経済学的バランスを評価した上で、便潜血で異常が出た場合の精査には活用可能にしていくべきではないかと考えていると展望を示した。ポリープ型腺腫は5mm以下でも切除を弱く推奨、新たな手技としてCSPを追加 ポリープ型腺腫の内視鏡切除に関して、旧版の大腸ポリープ診療ガイドラインでは6mm以上の病変は切除を推奨するものの5mm以下については原則経過観察とされていた。しかし改訂版では、5mm以下の場合も切除を弱く推奨、と変更されている。なお、陥凹型腫瘍では大きさにかかわらず切除が強く推奨される。 欧米ではポリープ型腺腫でも大きさによらない内視鏡切除が標準的だが、日本の場合は診断がしっかりなされており、良性の判断も高い精度で行われていることが背景にある。田中氏は、「腺腫の数が多すぎて一度にとりきれない、あるいは検診施設の状況などでとりきれないといったケースもありえる」とし、5mm以下の病変では経過観察も容認されるという位置づけで、ケースバイケースの判断をして欲しいと話した。 また、大腸ポリープ診療ガイドライン2020の変更点として、内視鏡治療の新しい手技としてcold foceps/snare polypectomyが加わったことがある。後出血や合併症が少なく、穿孔リスクが低く、手技としても非常に簡便なため、広く使われるようになってきている。cold snare polypectomyは10mm未満の非有茎性腺腫に適応となるが、粘膜下層は切除できないためがん(と陥凹型病変)に対しては禁忌となる。同氏は「CSPの適応を決めるためには、術前の内視鏡診断が非常に重要」とし、画像強調拡大観察やpit pattern診断はほぼ必須の時代となってきていると話した。診断や治療後サーベイランスに有用な指標の活用を 画像強調観察併用拡大内視鏡検査について、診断における有用性を示すエビデンスが蓄積されてきている。今回の大腸ポリープ診療ガイドライン2020ではNBI拡大観察における統一的な診断指標として、日本発のJNET分類が掲載された。この分類はBLI併用拡大観察でも使用が可能で、治療法選択のための指針とすることができる。 内視鏡切除後のサーベイランスの考え方については、3年以内のサーベイランスが弱く推奨されているが、日本発のエビデンスはまだ十分ではなく、Japan Polyp Studyの長期データが待たれる。しかし海外のデータではあるが、初回の治療病変の臨床病理学的所見に基づくadvanced neoplasiaの累積発生率がオッズ比として報告されており、大腸ポリープ診療ガイドライン2020改訂版ではこの結果も掲載されている。田中氏は「初回の治療病変の臨床病理学的所見に基づくリスク評価にぜひ活用してほしい」と話し、内視鏡・臨床病理学的所見のほか、家族歴や炎症性腸疾患等の既往歴、治療歴といった1人1人の背景に基づく判断が重要とした。 内視鏡的粘膜切除術 (EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)、hot polypectomyに今回のcold polypectomyが加わり、治療の選択肢が増えたことで、より術前診断の重要性が増していると同氏。不要な手術や、再発への必要以上の不安をなくすために、まずは術前精査をしっかり行って、正しい診断・それに基づいた適切な治療につなげていってほしいと話した。

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ホルモン補充療法の乳がんリスク、治療法と期間で異なる/BMJ

 英国・ノッティンガム大学のYana Vinogradova氏らの同国コホート内症例対照研究で、ホルモン補充療法(HRT)の乳がんリスクのレベルは、HRTの種類により異なり、併用療法および長期投与で高いことが示された。ただし、メタ解析と比較し、長期のHRTに関連した乳がんのリスク増加は小さく、治療の中止でリスクは顕著に低下することも示されている。先行研究では、長期的なHRTは乳がんのリスク増加と関連しており、治療中止後はリスク増加が減るものの数年間はリスクが高いままであることが、また最近の大規模メタ解析ではHRTに関連した乳がんリスクが予想よりも高いことが示されていた。BMJ誌2020年10月28日号掲載の報告。治療法と期間別に乳がんリスクをコホート内症例対照研究で評価 研究グループは、異なるHRTの種類および投与期間と乳がんリスク増大との関連を評価するため、英国のプライマリケア研究データベース、QResearchおよびClinical Practice Research Datalink(CPRD)のデータを用いたコホート内症例対照研究を行った。これらのデータベースは、入院、死亡、社会的剥奪およびがん登録(QResearchのみ)と連携している。 解析対象は、1998~2018年の期間に乳がんの初回診断を受けた50~79歳の女性9万8,611例(症例群)、およびこの集団と年齢、一般診療、index dateを一致させた女性45万7,498例(対照群)であった。 主要評価項目は、一般診療記録、死亡記録、入院記録、がん登録に基づく乳がんの診断とし、HRTの種類ごとに患者背景、喫煙状況、アルコール摂取、併存疾患、家族歴、他の処方薬で補正したオッズ比(OR)を算出し評価した。長期のエストロゲン単独療法とエストロゲン+プロゲステロン併用療法で増加 症例群3万3,703例(34%)および対照群13万4,391例(31%)が、index dateの1年前にHRTを受けていた。 HRT使用歴なしと比較し、最近(過去5年未満)の長期(5年以上)使用者では、エストロゲン単独療法(補正後OR:1.15、95%信頼区間[CI]:1.09~1.21)およびエストロゲン+プロゲステロン併用療法(1.79、1.73~1.85)のいずれも乳がんのリスク増加と関連していた。併用するプロゲステロンについては、乳がんのリスク増加はノルエチステロンが最も高く(1.88、1.79~1.99)、ジドロゲステロンが最も低かった(1.24、1.03~1.48)。 過去(5年以上前)のエストロゲン単独療法の長期使用、および過去の短期(5年未満)エストロゲン+プロゲステロン併用療法は、乳がんのリスク増加との関連は認められなかった。しかし、過去の長期エストロゲン+プロゲステロン併用療法では乳がんのリスクは高いままであった(補正後OR:1.16、95%CI:1.11~1.21)。 HRT使用歴なしと比較した乳がん発症例の増加(1万人年当たり)は、最近のエストロゲン単独療法使用者では3例(若年女性)~8例(高齢女性)、最近のエストロゲン+プロゲステロン併用療法使用者では9例~36例、過去のエストロゲン+プロゲステロン併用療法使用者では2例~8例と予測された。 結果を踏まえて著者は、「われわれの研究は、英国におけるさまざまなHRTの使用と乳がんリスク増大に関する一般化可能な新たな推定値を提供するものである」と述べている。

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低リスク前立腺がん、監視療法の転帰に人種は影響するか/JAMA

 監視療法を受けた低リスク前立腺がん患者について、アフリカ系米国人は非ヒスパニック系白人と比較して、病勢進行および根治的治療の10年累積発生率が統計学的に有意に増加したが、転移または前立腺がん特異的死亡率は増加しなかった。米国・VHA San Diego Health Care SystemのRishi Deka氏らが、後ろ向きコホート研究(追跡調査期間中央値7.6年)で明らかにした。これまでの研究で、低リスク前立腺がんのアフリカ系米国人は、非ヒスパニック系白人に比べ進行性の疾患が隠れている可能性が懸念されるとして、監視療法が安全な選択肢であるかは不明であった。JAMA誌2020年11月3日号掲載の報告。低リスク前立腺がん患者約9,000例を、中央値7.6年追跡 研究グループは、米国の国立退役軍人保健局(VHA)において、2001年1月1日~2015年12月31日の期間に低リスク前立腺がんと診断され、監視療法で管理されたアフリカ系米国人および非ヒスパニック系白人を対象に、後ろ向きコホート研究を実施した。最終追跡調査日は2020年3月31日。 監視療法は、診断後の最初の1年以内に根治的治療を行わず、少なくとも1回の追加生検の実施と定義した。 主要評価項目は、中間リスク以上への進行、根治的治療、転移、前立腺がん特異的死亡、および全死因死亡であった。 解析対象は全体で8,726例、アフリカ系米国人が2,280例(26.1%)(年齢中央値63.2歳)、非ヒスパニック系白人が6,446例(73.9%)(65.5歳)で、追跡期間中央値は7.6年(四分位範囲:5.7~9.9、範囲:0.2~19.2)であった。アフリカ系米国人で、病勢進行と根治的治療の10年累積発生率が有意に高い アフリカ系米国人と非ヒスパニック系白人における各評価項目の10年累積発生率は、病勢進行が59.9% vs.48.3%(群間差:11.6%、95%信頼区間[CI]:9.2~13.9、p<0.001)、根治的治療が54.8% vs.41.1%(13.4%、11.0~15.7、p<0.001)で有意差が認められた。 一方、転移は1.5% vs.1.4%(0.1%、-0.4~0.6、p=0.49)、前立腺がん特異的死亡は1.1% vs.1.0%(0.1%、-0.4~0.6、p=0.82)、全死因死亡は22.4% vs.23.5%(1.1%、-0.9~3.1、p=0.09)で有意差はみられなかった。 著者は、転移の臨床評価の方法や時期が事前定義されていないなど、研究の限界があると述べたうえで、「死亡リスクを明確に評価するためには、より長期の追跡調査が必要である」とまとめている。

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リアルワールドにおけるSGLT2阻害薬の有用性(解説:住谷哲氏)-1315

 SGLT2阻害薬のCVOTとしては腎関連エンドポイントを主要評価項目としたCREDENCEを除けば、エンパグリフロジンのEMPA-REG OUTCOME、カナグリフロジンのCANVAS Program、ダパグリフロジンのDECLARE-TIMI 58、ertugliflozinのVERTIS-CVの4試験がこれまでに報告されている。またそれらのメタ解析もすでに報告され、2型糖尿病患者の心不全による入院の抑制および腎保護作用はほぼ確立した感がある。しかしランダム化比較試験であるCVOTの結果を解釈するときに常に問題となるのは、試験結果の一般化可能性(generalizability)である。 一般化可能性は有用性(effectiveness)と言い換えてもよいが、この点を補完する目的で最近ではリアルワールドデータが注目されている。ダパグリフロジンのCVD-REAL、エンパグリフロジンのEMPRISE(中間解析のみ報告あり)がこれまでに報告されているが、それぞれ製薬企業主導の解析であり、すべてのSGLT2阻害薬を対象としたものではない。その点でエンパグリフロジン、カナグリフロジンおよびダパグリフロジンのリアルワールドにおける有用性を検討した本論文は興味深い。 本論文はカナダの研究機関のネットワークであるCNODES(Canadian Network for Observational Drug Effect Studies)からの報告である。DPP-4阻害薬を対照としてSGLT2阻害薬のリアルワールドにおけるeffectivenessを検討したものであるが、リアルワールドデータから因果関係を推測するためにはbiasをいかに処理するかが問題となる。とくに「驚くほどの有効性」(surprisingly beneficial drug effects)を示すことにつながるとされるimmortal time biasの処理が重要であるが、本論文ではprevalent new user design(これを開発したのが共著者のSamy Suissaである)を用いてこの点をクリアしている。結果は、MACE、心不全による入院、全死亡のすべてがSGLT2阻害薬投与群においてDPP-4阻害薬投与群に比較して有意に減少していた。MACE、心不全による入院の減少は、年齢(70歳以上かそれ未満か)、ASCVDの既往の有無、心不全の既往の有無、投与されたSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジン)にかかわらず一貫して認められた。一方で全死亡の抑制についてはASCVDの既往を有する患者において、有意ではないがより顕著である傾向が認められた。 心血管イベント抑制の観点からは、DPP-4阻害薬に対するSGLT2阻害薬の優越性はリアルワールドにおいてもほぼ確実であろう。最近発表されたertugliflozinのVERTIS-CVの結果が他のSGLT2阻害薬のCVOTの結果と異なっていたことから、各SGLT2阻害薬の薬剤特異的効果の存在が議論されている。しかしリアルワールドにおいてはエンパグリフロジン、カナグリフロジンおよびダパグリフロジンの薬剤特異的効果は認められなかった。各薬剤間でのhead to headの試験が実施されるまではSGLT2阻害薬のクラスエフェクトと考えるのが妥当と思われる。

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高齢者AML VIALE-A試験 Oncologyインタビュー【Oncologyインタビュー】第23回

高齢者および合併のため強力な寛解導入療法が適用できない急性骨髄性白血病(AML)に対しては治療選択肢が限定されている。そのような中、上記患者に対するBCL-2阻害薬ベネトクラクスと脱メチル化薬アザシチジン併用療法の有望な結果を示した第III相VIALE-A試験の結果がNew England Journal of Medicine誌に発表された。著者の一人である愛知県がんセンターの山本一仁氏に試験の実施背景、結果、臨床応用について聞いた。―試験に至る背景(AMLの状況)について教えていただけますか。高齢者の急性骨髄性白血病(AML)では、治療侵襲が高い3+7療法*のような強力寛解導入療法ができません。こういった場合、低用量Ara-C、わが国ではCAG療法**を行っていますが、生存期間は数ヵ月~1年前後だと思います。さらに、こういった治療すら適用できず、輸血などBSCとなるケースも少なくありません。このように、高齢者のAMLは非常に予後が限られているのが現状です。*3+7療法:3日間のアントラサイクリン系抗がん剤と7日間のシタラビンを組み合わせた治療法**CAG療法:14日間の低用量(100mg/m2)Ara-C、アクラルビシン、G-CSFを組み合わせた治療法―高齢者AMLの治療法の進化について教えていただけますか。高齢者AMLの治験は以前から行われていますが、治療成績の向上はみられませんでした。試験の対象患者にもよりますが長期生存は1~2割程度です。治療の成績向上は喫緊の課題だといえます。その点、分子標的薬は高い忍容性と有効性が期待できますので、高齢者AMLの良い適用になると思われます。―VIALE-A試験では、アザシチジンとベネトクラクスを併用していますが、この併用にはどのような意味があるのでしょうか。がん細胞はアポトーシス阻害が促進しており、抗アポトーシス蛋白であるBCL-2およびBCL-2ファミリーは、そこに大きな役割を担っています。AMLをはじめとする多くの造血器腫瘍でもBCL-2が過剰発現しています。ベネトクラクスはBCL-2を選択的に阻害する分子標的薬です。しかし、ベネトクラクス単剤では十分な効果が得られていません。その理由として、MCL-1など他のBCL-2ファミリーの抗アポトーシス蛋白が働いていることが基礎データでわかっています。それを補うために、ベネトクラクスにアザシチジンや低用量Ara-Cを上乗せする方法が検討されました。Ara-CはDNA合成を阻害することでアポトーシスを誘導します。すでにVIALE-C試験としてAra-Cとベネトクラクスとの併用試験が行われています。一方、アザシチジンは、明確な機序は解明されていませんが、エピジェネティックの異常を修復してアポトーシスを促進するとされます。欧米ではすでにアザシチジンの高齢者AMLへの有効性が認められ、高齢者AMLの治療の標準薬となっています。多くの第III相試験の対照薬となっているほどです。このアザシチジンとベネトクラクスの併用は第I/II相試験で有効性が報告されており、今回は第III相試験で有用性を確認することとなったものです。VIALE-A試験の概要多施設無作為化二重盲検第III相試験対象:75歳以上または75歳以下で合併症を有し標準的な寛解導入療法が実施できないAML試験群:アザシチジン(75mg/m2 day1~7)+べネトクラクス(100mg day1、200mg day2~3、day28までに400mgまで増量)+プラセボ 28日ごと。day28以降は400mgから開始対照群:アザシチジン 75mg/m2 day1~7 28日ごと評価項目:[主要評価項目]OS、[副次評価項目]CR+CR-i率主な結果2017年2月6日~2019年5月31日、579例がスクリーニングされ、433例が無作為割り付けの対象に、431例がITT解析の対象となった。上記431例はアザシチジン+べネトクラクス群286例とアザシチジン群145例に無作為に割り付けられた。追跡期間中央値は20.5ヵ月であった。OS中央値は14.7ヵ月対9.6ヵ月と、アザシチジン+べネトクラクス群で良好であった(HR:0.66、95%CI:0.52~0.85、p<0.001)。複合CR率は66.4%対28.3%、p<0.001。―この試験結果は、どのように解釈できますか。9.6ヵ月というアザシチジンのOSは標準的なものです。この5ヵ月の延長は重要だと思います。単に期間が延長したというだけではありません。このレジメンでは、患者さんの活動度が保たれ、普通の活動ができる良好なQOLが維持されています。そういう点でも、意味のある生命予後の改善だと思います。―それは、この併用レジメンの忍容性の高さから来ることなのでしょうか。この併用では、好中球減少やFNの頻度が高くなりますが、つらい有害事象は少なく、QOLへの影響は少ないと思います。また、この併用レジメンは、アザシチジン投与の1週間だけ入院していただきますが、その後の3週間は退院して過ごしていただきます。患者さんの状況によっては、外来治療さえ可能かもしれません。―この有効性の結果は、3+7療法に比べても遜色ない数字でしょうか?3+7療法のCR、CR-i率は、欧米だと6割、日本だと7割くらいです。ですので、CR+CR-i率については、3+7療法とほとんど変わらないと思います。しかし、このレジメンでは経時的にOSが下がってしまい、若年者に比べ予後は不良です。OSを改善するための寛解維持療法の開発が、今後の課題だといえます。―試験の結果をどう臨床応用していけばよいでしょうか。アザシチジン+ベネトクラクスはOSが延びますので、当然ながら、高齢者や合併症で強力な寛解導入療法が使えない患者さんへの有望な治療選択肢になると思います。ただし、好中球減少、FN、腫瘍崩壊症候群(TLS)のリスクがありますので、十分な観察と用量を1日ずつ上げていくなどの規則を順守していけば、寛解導入療法として安全に行えるのではないかと思います。一方で、今回の試験のサブ解析ではTP53変異例でも効果を示していますので、予後不良の患者さんでも、CRを得るには良い治療法ではないかと思っています。今後は若年者への適応拡大を行うような検討をすべきだろうと思います。―読者の方々にメッセージをお願いします。長い間、高齢者のAMLの治療は改善を得られませんでした。AMLの3+7療法は30年前のレジメンです。そのような中、今回の試験のように、有効な分子標的薬による治療が開発されています。まだまだ検討は必要ですが、今後出てくるさまざまな分子標的薬が、治療成績を改善していくことが期待されます。原著Azacitidine and Venetoclax in Previously Untreated Acute Myeloid Leukemia.N Engl J Med.2020;383:617-629.

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がん患者、抗凝固薬の中止時期を見極めるには/日本癌治療学会

 がん患者は合併症とどのように付き合い、そして医師はどこまで治療を行うべきか。治療上で起こりうる合併症治療とその中止タイミングは非常に難しく、とりわけ、がん関連血栓症の治療には多くの腫瘍専門医らは苦慮しているのではないだろうかー。 10月23日(金)~25日(日)にWeb開催された第58回日本癌治療学会学術集会において、会長企画シンポジウム「緩和医療のdecision making」が企画された。これには会長の弦間 昭彦氏の“decision makingは患者の治療選択時に使用される言葉であるが、医療者にとって治療などで困惑した際に立ち止まって考える機会”という思いが込められている。今回、医師のdecision makingに向けて発信した赤司 雅子氏(武蔵野赤十字病院緩和ケア内科)が「合併症治療『生きる』選択肢のdecision making-抗凝固薬と抗菌薬-」と題し、困惑しやすい治療の切り口について講演した。本稿では抗凝固療法との向き合い方にフォーカスを当てて紹介する。医師のバイアスがかからない意思決定を患者に与える がん治療を行いながら並行して緩和医療を考える昨今、その場に応じた1つ1つの細やかな意思決定の需要性が増している。臨床上のdecision makingは患者のリスクとベネフィットを考慮して合理的に形成されているものと考えられがちであるが、実際は「多数のバイアスが関係している」と赤司氏は指摘。たとえば、医師側の合理的バイアス1)として1)わかりやすい情報、2)経験上の利益より損失、3)ラストケース(最近経験した事柄)、4)インパクトの大きい事象、などに左右される傾向ある。これだけ多数のバイアスのかかった情報を患者に提供し、それを基にそれぞれが判断合意する意思決定は“果たして合理的なのかどうか”と疑問が残る。赤司氏は「患者にはがん治療に対する意思決定はもちろんのこと、合併症治療においても意思決定を重ねていく必要がある」と述べ、「とくに終末期医療において抗凝固薬や抗菌薬の選択は『生きる』という意味を含んだ選択肢である」と話した。意思決定が重要な治療―がん関連血栓症(CAT) 患者の生死に関わる血栓症治療だが、がん患者の血栓症リスクは非がん患者の5倍も高い。通常の血栓症の治療期間は血栓症の原因が可逆的であれば3ヵ月間と治療目安が明確である。一方、がん患者の場合は原因が解決するまでできるだけ長期に薬物治療するよう現時点では求められているが、血栓リスク・出血リスクの両方が高まるため薬剤コントロールに難渋する症例も多い。それでも近年ではワーファリンに代わり直接経口抗凝固薬(DOAC)が汎用されるようになったことで、相互作用を気にせずに食事を取ることができ、PT-INR確認のための来院が不要になるなど、患者側に良い影響を与えているように見える。 しかし、DOACのなかにはP糖タンパクやCYP3A4に影響する薬物もあることから、同氏は「終末期に服用機会が増える鎮痛剤や症状緩和の薬剤とDOACは薬物相互作用を起こす。たとえば、アビキサバンとデキサメタゾンの併用によるデキサメタゾンの血中濃度低下、フェンタニルやオキシコドン、メサペインとの相互作用が問題視されている。このほか、DOACの血中濃度が2~3倍上昇することによる腎機能障害や肝機能障害にも注意が必要」と実状を危惧した。DOACの調節・中止時の体重換算は今後の課題 また、検査値指標のないDOACは体重で用量を決定するわけだが、悪液質が見られる場合には筋肉量が低下しているにも関わらず、浮腫や胸水、腹水などの体液の貯留により体重が維持されているかのように見えるため、薬物投与に適した体重を見極めるのが難しい。これに対し、同氏は「自施設では終末期がん患者の抗凝固療法のデータをまとめているが、輸血を必要としない小出血については、悪液質を有する患者で頻度が高かった。投与開始時と同量の抗凝固薬を継続するのかどうか、検証するのが今後の課題」と話した。また、エドキサバンのある報告2)によると、エドキサバンの血中濃度が上昇しても大出血リスクが上昇するも脳梗塞/塞栓症のリスクは上昇しなかったことから、「DOACの少量投与で出血も塞栓症も回避することができるのでは」とコメント。「ただし、この報告は非がん患者のものなので、がん患者への落とし込みには今後の研究が待たれる」とも話した。 さらに、抗凝固薬の中止タイミングについて、緩和ケア医とその他の医師ではそのタイミングが異なる点3)、抗凝固薬を開始する医師と中止する医師が異なる点4)などを紹介した。 このような臨床上での問題を考慮し「半減期の短さ、体内での代謝などを加味すると、余命が短め週の単位の段階では、抗凝固療法をやめてもそれほど影響はなさそうだが、薬剤選択には個々の状況を反映する必要がある」と私見をまとめ、治療の目標は「『いつもの普段の自分でいられること』で、“decision making”は合理的な根拠を知りながら、その上で個別に考えていくことが必要」と締めくくった。

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医師への謝礼金額がICD/CRT-Dデバイスの選択に大いに影響/JAMA

 植込み型除細動器(ICD)や両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)の初回埋め込み手術の94%が、デバイスメーカーから謝礼金を受けている医師によって行われており、さらに、採用されているのはメーカーから執刀医への謝礼金額が最も高いものである可能性が明らかになったという。米国・Yale-New Haven HospitalのAmarnath R. Annapureddy氏らが、3年間で14万5,900例の患者を対象に行った横断調査の結果を報告した。米国では議会法によって2010年に、医薬品等のメーカーから医師への謝礼金については透明性を確保するため報告開示が義務付けられ(Physician Payments Sunshine Act)、ホームページ「The Facts About Open Payments Data」で詳細情報を入手することができるようになっている。これまでの研究で、医師への謝礼がジェネリック医薬品よりも先発医薬品を処方する可能性を高めることが報告されていたが、デバイスを巡っての研究は行われていなかった。JAMA誌2020年11月3日号掲載の報告。医師への謝礼金最高額のデバイス使用率を期待使用率と比較 研究グループは、デバイスメーカーから医師へ支払われた謝礼金と、ICDまたはCRT-Dの初回埋め込み術を受けた患者のデバイス選択との関連を調べる横断研究を行った。対象は、2016年1月1日~2018年12月31日に、主要デバイスメーカー4社が製造したICDまたはCRT-Dの初回埋め込み術を受けた患者。米国心血管データレジストリ(National Cardiovascular Data Registry:NCDR)のICDレジストリと、Open Payments Programのデータをリンクし、調査した。 患者を、執刀医がメーカーから謝礼金を受けていたか否かで2コホートに層別化し、さらに謝礼金授受があった患者コホートを、執刀医が最高額の謝礼金を受け取っていたデバイスメーカー別(A~D社)に4群に分類した。各群で、実際に最高額の謝礼金が医師に支払われていたメーカー製デバイスが使われていた患者の割合(使用率)を算定し、そのうえで、被験者全体の該当デバイスの使用割合(期待使用率)との絶対差を求めた。医師への謝礼金最高額のデバイス使用率、期待使用率との差は15~31% 3年間で、14万5,900例の患者がICDまたはCRT-Dの埋め込み術を受けていた。被験者の年齢中央値は65歳、女性は29.6%だった。被験者がICD/CRT-Dの初回埋め込み術を行った施設は1,763ヵ所で、執刀医は4,435人だった。執刀医のうち、デバイスメーカーから謝礼金を受けていたのは4,152人(94%)で、金額は2ドル~32万3,559ドル(中央値:1,211ドル、四分位範囲:390~3,702ドル)だった。 執刀医に最高額の謝礼金を支払ったメーカー製デバイスが使われていた各群の患者の割合(使用率)は、A群のA社製使用率は45.4%、B群のB社製使用率は54.7%、C群のC社製使用率は47.7%、D群のD社製使用率は38.5%だった。 いずれも同一群における他社製デバイスの使用率より高率で、患者は個々のメーカーからというよりも、執刀医に最高額の謝礼金が支払われているメーカーからデバイスを受ける可能性が大幅に高かった。各群の使用率と、期待使用率との絶対差は、A群は22.4%(95%信頼区間[CI]:21.9~22.9)、B群は14.5%(14.0~15.0)、C群は18.8%(18.2~19.4)、D群は30.6%(30.0~31.2)だった。

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COVID-19パンデミック前後、遠隔皮膚科診療は3倍増に

 本邦のコロナ禍における受診動向の変化については、2020年8月6日の「第10回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」で、「令和2年4月~6月の電話診療・オンライン診療の実績の検証について」が発表され耳目を集めた。電話またはオンライン診療の受診者は10歳未満が最も多く、ほかの年齢では発熱での受診が最多であったが、10歳未満の受診は湿疹が最多(22.7%)で、受診科目は内科、小児科に次いで皮膚科が3番目だったことなどが報告されている。 本論は、COVID-19感染者数が米国に次いで現在世界第2位の、インド・R.D. Gardi Medical CollegeのShashank Bhargava氏らが、ウェブベースでグローバルに皮膚科医に診療形態の変化について行ったサーベイ調査の結果である。COVID-19パンデミック前後で、teledermatology(遠隔皮膚科診療:TD)の活用が3倍増になったことなどが報告されている。International Journal of Women's Dermatology誌オンライン版2020年10月12日号掲載の報告。 研究グループは、COVID-19パンデミックによる皮膚科診療の変化の大きさについては、十分に研究がされていないとして、同パンデミックの皮膚科診療への即時的および長期的影響を評価する検討を行った。評価対象には、臨床活動、診療行為の頻度および種類、TDの使用などを含んだ。Googleフォームでサーベイツールを作成し、2020年4月1日~20日に、とくに皮膚科専門医のソーシャルメディアサイトの研究者に電子的に配布された。 主要アウトカムは、対面診療、病院サービス、TD、処置の提供に関する回答者の割合。また、パンデミック時および将来的なTDの利用について、オッズ比(OR)に与える可能性がある要因をロジスティック回帰モデルで調べた。 主な結果は以下のとおり。・サーベイに応じた皮膚科医は733例であった。アジア系が47.6%、北米18.7%、中南米17.9%、欧州13.9%、その他1.9%であった。診療歴は10年以下が45.0%を占め、都市部従事者が78.6%、開業医47.2%などであった。・対面診療の提供に関する割合は、パンデミック前100%に対し、パンデミック中は46.6%に減っていた。病院サービスは52.8% vs.27%、処置100% vs.25.6%といずれも減っていた(いずれもp<0.001)。・一方で、TDは、3倍増となっていた(26.1%vs. 75.2%)(p<0.001)。・TD利用率は、パンデミック中および将来利用予測ともに、診療地域と有意に関連しており、とくに北米の回答者で最も高かった(いずれもp<0.001)。・パンデミック中のTD利用は、従前からのTD利用、操作能力、およびとくに色素性病変が疑われる場合の生検と正の相関性がみられた(いずれもp<0.001)。・パンデミック前のTD利用は、パンデミック中のTD利用の最も強力な予測因子であった(OR:16.47、95%信頼区間[CI]:7.12~38.06)。・サーベイ参加者のうち3分の2以上(68.6%)が、将来的にTDを利用するだろうと回答した。・将来的なTD利用予測についてOR増大が最も大きかった要因は、国内のCOVID-19感染者数が1,000例を超えた場合だった(OR:3.80、95%CI:2.33~6.21)。

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双極性うつ病に対する補助的ブライトライト光療法~メタ解析

 双極性障害の効果的な補助療法の1つとして、ブライトライト光療法(BLT)が報告されている。これまでのメタ解析では、光療法による補助療法が、双極性うつ病の重症度を有意に改善させることが示唆されている。しかし、メタ解析に含まれた多くの研究は、ケースコントロール研究であり、不眠症治療と組み合わせたBLTに焦点が当てられていた。大分大学の平川 博文氏らは、双極性うつ病に対する補助的BLTに関するランダム化比較試験(RCT)を抽出し、メタ解析を実施した。Brain and Behavior誌オンライン版2020年10月9日号の報告。 EMBASE、MEDLINE、Scopus、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature、Clinicaltrials.govの電子データベースより、2019年9月19日までに英語で発表された、薬物治療中の双極性うつ病患者に対する補助的BLTの有効性を検討したRCTを検索した。文献スクリーニング、データ抽出、方法論的質の評価は、独立した2人の研究者により実施された。主要アウトカムは、治療反応率と寛解率とした。メタ解析には、Review Manager 5.3ソフトウェアを用いた。 主な結果は以下のとおり。・4研究より、双極性うつ病患者190例(BLT群:94例、対照群:96例)を評価し、光療法の効果を検証した。・メタ解析では、双極性障害の治療反応率に対する光療法の有意な効果が確認された(リスク比:1.78、95%CI:1.24~2.56、p=0.002、I2=17%)。・しかし、寛解率に対する有意な効果は確認されなかった(リスク比:2.03、95%CI:0.48~8.59、p=0.34、I2=67%)。・重篤な悪影響は報告されていなかった。・躁転率は、BLT群で1.1%、対照群で1.2%であった。 著者らは「BLTは、双極性うつ病患者のうつ症状を軽減するうえで、効果的な治療法である」としている。

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