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4061.

うつ病に対する音楽療法~メタ解析

 音楽療法や音楽医学がうつ病に及ぼす影響およびその影響に関連する潜在的な因子を調査するため、中国・Bengbu Medical UniversityのQishou Tang氏らが、検討を行った。PLOS ONE誌2020年11月18日号の報告。 2020年5月までにうつ病に対する音楽による介入の有効性を評価した研究を、PubMed(MEDLINE)、Ovid-Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、EMBASE、Web of Science、Clinical Evidenceより検索した。標準化された平均差(SMD)の推定には、変量効果モデルおよび固定効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・55件のランダム化比較試験をメタ解析に含めた。・音楽療法は、対照群と比較し、抑うつ症状の有意な改善を示した(SMD:-0.66、95%CI:-0.86~-0.46、p<0.001)。音楽医学は、抑うつ症状軽減に対する強い効果が認められた(SMD:-1.33、95%CI:-1.96~-0.70、p<0.001)。・音楽療法の種類により、異なる効果が認められた。 ●レクリエーション音楽療法(SMD:-1.41、95%CI:-2.63~-0.20、p<0.001) ●音楽とイメージ誘導法(SMD:-1.08、95%CI:-1.72~-0.43、p<0.001) ●音楽支援リラクセーション(SMD:-0.81、95%CI:-1.24~-0.38、p<0.001) ●音楽イメージ療法(SMD:-0.38、95%CI:-0.81~0.06、p=0.312) ●即興音楽療法(SMD:-0.27、95%CI:-0.49~-0.05、p=0.001) ●音楽ディスカッション療法(SMD:-0.26、95%CI:-1.12~0.60、p=0.225)・音楽療法および音楽医学は、長期介入と比較し、短中期介入において強い効果が認められた。 著者らは「うつ病に対する音楽療法および音楽医学は、その種類により異なる効果が認められており、その効果は治療プロセスにより影響を受ける可能性がある」としている。

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AYA世代のがん発生率、42年間で3割増

 AYA世代(15~39歳)のがんは、通常のがん集団とは異なる点が多いが、その疫学的特徴と傾向についてのデータは不足している。今回、米国・Penn State Cancer InstituteのAlyssa R. Scott氏らが、米国人口ベースの後ろ向き横断研究を実施したところ、AYA世代におけるがんの発生率は42年間で29.6%増加しており、腎がんが最も高い増加率だった。JAMA Network Open誌2020年12月1日号の報告。AYA世代でがんと診断された患者の割合は診断時の年齢とともに増加 研究者らは、1973年1月1日~2015年12月31日のSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)データベースのレジストリデータ(SEER 9、SEER 18)を使用。最初の分析は、2019年1月1日~8月31日に実施された。 AYA世代におけるがんの増加を研究した主な結果は以下のとおり。・本研究は、1973~2015年に診断された合計49万7,452例のAYA世代がん患者を対象とし、女性29万3,848例(59.1%)、男性20万3,604例(40.9%)で、79.9%が白人だった。・AYA世代でがんと診断された患者の割合は、診断時の年齢とともに増加した(15~19歳:3万1,645例[6.4%]、35~39歳:19万7,030例[39.6%])。・15~19歳を除くすべてのAYA世代年齢サブグループで、男性と比較して女性のほうがより多くがんと診断されていた(1万4,800例[46.8%]vs.1万6,845例[53.2%])。・女性のAYA世代では、7万2,564例(24.7%)が乳がん、4万8,865例(16.6%)が甲状腺がん、3万3,828例(11.5%)が子宮頸部および子宮がんと診断されていた。・男性のAYA世代では、3万7,597例(18.5%)が精巣がん、2万850例(10.2%)が悪性黒色腫、1万9,532例(9.6%)が非ホジキンリンパ腫と診断されていた。・AYA世代のがんの発生率は、1973~2015年の42年間で29.6%増加し、10万人当たりの平均年間変化率(APC)は0.537(95%信頼区間[CI]:0.426~0.648、p<0.001)だった。腎臓がんにおけるAPCは、男性で3.572(95%CI:3.049~4.097、p<0.001)、女性で3.632(3.105~4.162、p<0.001)と、双方で最大の増加率となった。 著者らは、「AYA世代のがんは独特の疫学的パターンを持ち、健康への懸念が高まっている。1973年から2015年にかけて多くのがんサブタイプの発生率が増加していた。本結果は、この集団における明らかな健康上の懸念を理解し、対処するために重要だ」と結論している。

4063.

コロナ禍初期のがん治療キャンセル・変更患者、3人に1人

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが、がん患者にどれほど影響を与えているか。本稿では、オランダ・Netherlands Comprehensive Cancer Organisation(IKNL)のLonneke V van de Poll-Franse氏らが、コロナ禍において同国がん患者が、がん治療とフォローアップ治療(電話/ビデオ相談を含む)、ならびにウェルビーイングについてどのように認識しているかを調べ、一般健常者と比較評価した。その結果、がん患者の3人に1人がコロナ禍の最初の数週間でがん治療が変化したと報告し、長期アウトカムに関する監視が必要なことが示されたという。一方で、コロナ禍は、がん患者よりも一般健常者においてメンタルヘルスにより大きな影響を与えていることも報告された。JAMA Oncology誌オンライン版2020年11月25日号掲載の報告。 研究グループは2020年4~5月に、オランダのPROFILES(初期治療後の患者報告アウトカムおよび生存の長期評価)レジストリに参加しているがん患者、ならびに一般健常者を対象にオンラインアンケート調査を行った。 がん治療の変更(治療またはフォローアップの予約を延期/キャンセルまたは電話/ビデオ相談に変更)に関連する要因をロジスティック回帰分析により評価するとともに、生活の質、不安/抑うつおよび孤独に関して、患者集団ならびに患者と年齢および性別をマッチさせた健常者集団との差を回帰モデルで比較した。 主な結果は以下のとおり。・オンラインアンケートに回答した患者は4,094例(回答率48.6%)で、回答者の背景は男性が多く(2,493例、60.9%)、平均(±SD)年齢は63.0±11.1歳であった。・回答患者4,094例中、治療を受けたのは886例(21.7%)、フォローアップ治療を受けたのは2,725例(55.6%)であった。・390例(10.8%)が治療またはフォローアップの予約がキャンセルとなり、治療中の886例中160例(18.1%)およびフォローアップ中の2,725例中234例(8.6%)は電話/ビデオ相談に変更された。・全身療法、積極的監視または手術は、治療またはフォローアップの予約のキャンセルと関連していた。・若年齢、女性、併存疾患、転移性がん、SARS-CoV-2感染の懸念、および支持療法を受けることは、電話/ビデオ相談への変更と関連していた。・コロナ禍のため、身体的な愁訴または不安があってもすぐに連絡しなかった(一般開業医あるいは専門医/看護師に)と回答したのは、がん患者では一般開業医に連絡しなかったのが20.9%(852/4,068例)、専門医/看護師に連絡しなかったのが14.4%(585/4,068例)、健常者ではそれぞれ22.3%(218/979例)、14.7%(44/979例)であった。・電話/ビデオ相談を受けた患者のほとんどは対面を好んだが、151/394例(38.3%)は再び電話/ビデオ相談を利用した。・がん患者は健常者よりも、SARS-CoV-2感染を心配している人が多かった(22.4%[917/4,094例]vs.17.9%[175/977例])。・生活の質、不安およびうつは、がん患者と健常者とで類似していたが、孤独を報告する人は健常者が多かった(7.0%[287/4,094例]vs.11.7%[114/977例]、p=0.009)。

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発作性AFの第1選択、クライオバルーンアブレーションvs.抗不整脈薬/NEJM

 第1選択としてのクライオ(冷凍)バルーンによるアブレーションは、発作性心房細動患者の心房性不整脈再発予防において抗不整脈薬より優れており、重篤な手技関連有害事象は少ないことが示された。米国・クリーブランドクリニックのOussama M. Wazni氏らが、米国の24施設で実施した多施設共同無作為化試験「STOP AF First試験(Cryoballoon Catheter Ablation in Antiarrhythmic Drug Naive Paroxysmal Atrial Fibrillation)」の結果を報告した。薬物療法の効果が得られない症候性の発作性心房細動患者では、洞調律維持のため抗不整脈薬よりカテーテルアブレーションが有効である。しかし、第1選択としてのクライオバルーンアブレーションの安全性と有効性は確立されていなかった。NEJM誌オンライン版2020年11月16日号掲載の報告。クライオバルーンアブレーション群を抗不整脈薬群と比較検証 STOP AF First試験の対象は、症候性の発作性心房細動が再発した18~80歳の患者で、抗不整脈薬(クラスIまたはIII)による7日以上の治療歴などがある患者は除外した。 対象患者を、抗不整脈薬(クラスIまたはIII)群またはクライオバルーンアブレーション群に1対1の割合で無作為に割り付け、後者では無作為割付後30日以内にクライオバルーンを用いた肺静脈隔離術を施行した。ベースライン時、1、3、6ヵ月および12ヵ月時点で12誘導心電図を含む不整脈モニタリングを、また、毎週および3~12ヵ月は症状がある場合に電話モニタリングを、さらに6ヵ月および12ヵ月時点で24時間ホルターモニタリングを実施した。 有効性の主要評価項目は、12ヵ月時点の治療成功(手技不成功、心房細動手術または左房に対するアブレーション、90日以降の心房性不整脈再発・除細動・クラスI/III抗不整脈薬使用の各イベントの回避と定義)であった。安全性の主要評価項目は、クライオバルーンアブレーション群における手技関連およびクライオバルーンシステム関連の重篤な有害事象の複合エンドポイントとした。クライオバルーンアブレーション群の治療成功率74.6%、抗不整脈薬群45.0% 2017年6月~2019年5月までに225例が登録され、このうち治療を受けた203例(クライオバルーンアブレーション群104例、抗不整脈薬群99例)が解析対象となった。クライオバルーンアブレーション群における手術の成功率は97%であった。 12ヵ月時点の治療成功率(Kaplan-Meier推定値)は、クライオバルーンアブレーション群74.6%(95%信頼区間[CI]:65.0~82.0)、抗不整脈薬群45.0%(34.6~54.7)であった(log-rank検定のp<0.001)。 クライオバルーンアブレーション群で安全性の主要評価項目である複合エンドポイントのイベントが2件発生した(12ヵ月以内のイベント発生率のKaplan-Meier推定値は1.9%、95%CI:0.5~7.5)。

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新型コロナ感染症におけるIgGモノクローナル抗体治療に対する疑問(解説:山口佳寿博氏)-1326

 新型コロナに対する治療の一環として、Spike蛋白のS1領域に存在する受容体結合領域(RBD)に対するIgGモノクローナル抗体(bamlanivimab[LY-CoV555]、Eli Lilly社)に関する第II相多施設二重盲検ランダム化対照試験(RCT)の結果が発表された(BLAZE-1 trial、Chen P, et al. N Engl J Med. 2020 Oct 28. [Epub ahead of print])。このモノクローナル抗体は、1人の患者の回復期血漿から分離されたS蛋白IgG1抗体の構造解析を基に作成された物質である。BLAZE-1 trialの結果を主たる根拠として、2020年11月9日、米国FDAはbamlanivimabの緊急使用を許可した(本邦:現時点では未承認)。S蛋白に対するモノクローナル抗体カクテル(REGN-COV2、Regeneron Pharmaceuticals社)は、10月初旬にトランプ大統領が新型コロナに感染した時に投与されたことから世間の注目を浴びるようになった。しかしながら、BLAZE-1 trialの結果は、本療法が他の療法に比べとくに有効であると結論できるほどの医学的根拠を示していない。それ故、本論評ではIgGモノクローナル抗体療法の源流である回復期血漿治療までさかのぼり、IgGモノクローナル抗体療法の問題点を整理したい。 患者の回復期に得られた血漿を新たな患者に輸血する方法はエボラ出血熱、SARS、MERS、鳥インフルエンザなど種々の感染症において施行されてきた。新型コロナにあっても、ニューヨーク州Andrew Cuomo知事は回復期血漿を新たな感染者に投与することを表明した(2020年3月24日)。これを受け、米国FDAは回復期血漿の緊急使用を後出しで承認した(3月25日)。米国における動向を受け、本邦の厚労省も回復期血漿投与を保険適用外治療として承認した。非盲検化観察研究では回復期血漿投与を有効とする報告が多いが、RCTによる検討結果は本療法の臨床的効果を必ずしも肯定するものではなかった。 インド39施設におけるRCT(PLACID Trial、中等症の患者が対象、対照群:229例、血漿投与群:235例)では、輸血後7日以内のウイルス陰性化率は血漿投与群で有意に高く臨床所見も改善することが示された(Agarwal A, et al. BMJ. 2020;371:m3939.)。しかしながら、経過観察中の中和抗体価、種々の炎症マーカー(LDH、CRP、D-dimer、Ferritin)、28日以内の重症化率、死亡率は両群間で有意差を認めず、回復期血漿投与の臨床的効果は非常に限られたものであることが示唆された。アルゼンチンの12施設で施行されたRCT(PlasmAr trial、肺炎を認めた中等症患者が対象、対照群:105例、血漿投与群:228例)では、血中のウイルスに対するIgG抗体価は輸血後2日目において血漿投与群で有意に高値であったものの、それ以降では対照群との間で有意差を認めなかった(Simonovich VA, et al. N Engl J Med. 2020 Nov 24. [Epub ahead of print])。輸血30日後の臨床所見、死亡率は両群で差がなく、血漿投与の臨床的に意義ある効果は確認されなかった。PlasmAr trialで得られた興味深い知見は、血漿として1回投与されたIgG抗体は2日前後で分解され長期に血中に残存しないことを示していることである。この結果は、IgGモノクローナル抗体投与時にも成立する事象であり、1回投与されたIgGモノクローナル抗体は2日前後で生体内において分解/処理されると考えなければならず、血漿投与あるいはIgGモノクローナル抗体投与が本当に1回のみでよいかに関して疑問を投げかける。 BLAZE-1 trialは米国41施設で施行された軽症・中等症患者(非入院)を対象としたRCTで、IgG単回投与量の差による臨床効果の差を解析している(対照群:143例、700mgのIgG投与群:101例、2,800mgのIgG投与群:107例、7,000mgのIgG投与群:101例)。試験開始11日目のウイルス量は2,800mgのIgGモノクローナル抗体投与群において対照群より有意に低下していたが、他の用量では対照群と差を認めなかった。2~6日目の臨床所見はIgG投与群全体(3つの投与群を一括)で対照に比べ有意に改善していた。さらに、入院または救急外来を受診した患者の割合は、対照群で6.3%であったのに対してIgG投与群全体では1.6%と少ない傾向を認めた(ただし、統計学的有意差検定の結果は論文中に示されていない)。以上の結果より、BLAZE-1 trialの著者らは、IgGモノクローナル抗体の投与量は2,800mgが至適であると結論した。 BLAZE-1 trialに加えbamlanivimabを用いた治験として、ACTIV-2(非入院の軽症・中等症患者220例を対象)、ACTIV-3(入院中の比較的重症患者300例を対象)、BLAZE-3(介護施設の入居者、職員を対象とした感染予防効果の検証)などが終了、中止、あるいは進行中である。しかしながら、多人数を対象とした第III相試験は計画されていない。以上のような現状であるにもかかわらず、米国FDAはIgGモノクローナル抗体、bamlanivimabの緊急使用を許可した。薬物投与の対象は非入院の軽症・中等症患者(12歳以上)にあって重症化危険因子(たとえば、65歳以上の高齢) を有するものであり、発症後10日以内に可及的速やかにbamlanivimabを700mg単回投与することが推奨された。一方で、入院あるいは酸素投与が必要な患者(重症例)は適用外であり、これらの患者へのIgGモノクローナル抗体投与は病状を逆に悪化させる可能性があるとFDAは警告している。 IgGモノクローナル抗体の緊急使用許可には種々の疑問点が存在する。(1)IgGモノクローナル抗体の単回投与では、おそらく数日以内にIgG抗体は生体内で分解/処理されるはずであり、コロナ感染初期に自然なIgG抗体価が上昇し難い患者に使用対象を絞るべきである(たとえば、免疫不全患者など)。(2)FDAの緊急使用許可の主たる根拠となったBLAZE-1 trialで決定された投与量は2,800mgである。それにもかかわらず許可されたのは700mgであった。この点に関しても十分な説明がなされていない。(3)IgGの生体内残存時間からは単回投与でよいかどうかに関して疑問が残る。初回投与数日後に2回目のIgGモノクローナル抗体を投与した場合の検討が必要と思われる。(4)FDAは重症例への投与によって病状が悪化することを懸念しているが、これは、投与されたIgGモノクローナル抗体によって“抗体依存性感染増強(ADE:Antibody-dependent enhancement of infection)”が発生する可能性を危惧したものと思われる。ADE発生の可能性を検討する目的でT細胞系反応(Th-1サイトカインとTh-2サイトカインのバランス)に関する解析を追加すべきである。 以上のようにIgGモノクローナル抗体療法には不明な要素が多々存在し、費用対効果の面からこのような高額治療を臨床の現場で施行すべきかどうかについて冷静な判断が求められている。

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SGLT1/2阻害薬sotagliflozin、心不全悪化の糖尿病患者に有効な可能性/NEJM

 心不全の悪化で入院した糖尿病患者において、退院前または退院直後にナトリウム・グルコース共輸送体1/2(SGLT1/2)阻害薬sotagliflozinによる治療を開始すると、心血管死と心不全による入院・緊急受診の総数が、プラセボに比べ有意に低下することが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のDeepak L. Bhatt氏らが行った「SOLOIST-WHF試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年11月16日号に掲載された。SGLT2阻害薬は、安定心不全患者において、心不全による入院および心血管死のリスクを低減すると報告されている。一方、非代償性心不全のエピソード後に間もなく開始したSGLT2阻害薬投与の安全性と有効性は知られていないという。32ヵ国306施設が参加したプラセボ対照無作為化第III相試験 研究グループは、心不全の悪化により入院した糖尿病患者の治療におけるsotagliflozinの安全性と有効性を評価する目的で、二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験を実施した(SanofiとLexicon Pharmaceuticalsの助成による)。32ヵ国306施設が参加し、2018年6月~2020年3月の期間に患者登録が行われた。 対象は、年齢18~85歳、心不全の徴候および症状がみられたため入院し、利尿薬の静脈内投与を受け、初回入院前に2型糖尿病と診断されるか、初回入院中に検査で2型糖尿病の診断を支持する証拠が得られた患者であった。被験者は、退院前または退院後3日以内にsotagliflozinもしくはプラセボの投与を受ける群に無作為に割り付けられた。sotagliflozinは、副作用を考慮しつつ400mg(1日1回)まで増量してよいとされた。 本試験は、出資者からの資金提供を失ったため早期中止となった。主要エンドポイントは、試験の検出力を高めるために、心血管死、心不全による入院・緊急受診の総数に変更された。退院前・後の投与はいずれも良好、心血管死・全死因死亡には差がない 1,222例が登録され、sotagliflozin群に608例、プラセボ群には614例が割り付けられた。全体の年齢中央値は70歳、女性が33.7%、白人が93.2%であった。79.1%が左室駆出率50%未満で、推定糸球体濾過量中央値は49.7mL/分/1.73m2、糖化ヘモグロビン中央値は7.1%、NT-proBNP中央値は1,799.7pg/mLであった。48.8%が退院前に試験薬の初回投与を受け、51.2%は退院後に受けた(中央値で退院後2日[IQR:1~3])。追跡期間中央値は9.0ヵ月。 主要エンドポイントのイベントは600件(sotagliflozin群245件、プラセボ群355件)発生した。100人年当たりの発生割合は、sotagliflozin群がプラセボ群よりも低かった(51.0件vs.76.3件/100人年、ハザード比[HR]:0.67、95%信頼区間[CI]:0.52~0.85、p<0.001)。事前に規定されたすべてのサブグループにおいて、主要エンドポイントはsotagliflozin群で良好な傾向が認められ、退院前(0.71、0.51~0.99)および退院後(0.64、0.45~0.90)の投与開始のいずれにおいても有意に優れた。 主要エンドポイントに、入院の原因となった心不全による緊急受診を重複して含めている懸念があったため、心不全による緊急受診を除外し、心血管死と心不全による入院の総数を検討したところ、主要エンドポイントと一致した結果(HR:0.68、95%CI:0.53~0.88)が得られた。 また、心不全による入院・緊急受診の発生割合(40.4% vs.63.9%、HR:0.64、95%CI:0.49~0.83、p<0.001)もsotagliflozin群で低く、主要エンドポイントの結果と一致していた。心血管死(10.6% vs.12.5%、0.84、0.58~1.22、p=0.36)および全死因死亡(13.5% vs.16.3%、0.82、0.59~1.14)には両群間に差はなかった。 変更前の主要エンドポイント(心血管死または心不全による入院)の結果(HR:0.71、95%CI:0.56~0.89)も、変更後の主要エンドポイントと一致していた。 投与中止の原因となった重篤な有害事象は、sotagliflozin群3.0%、プラセボ群2.8%で発現した。最も頻度の高い有害事象は、低血圧(sotagliflozin群6.0% vs.プラセボ群4.6%)、尿路感染症(4.8% vs.5.1%)、下痢(6.1% vs.3.4%)であった。急性腎障害はsotagliflozin群4.1%、プラセボ群4.4%で認められ、重篤な低血糖はsotagliflozin群で頻度が高かった(1.5% vs.0.3%)。 著者は、「本試験では、駆出率が保持された心不全患者におけるsotagliflozinの有益性の評価を行う予定であったが、試験の早期終了およびこのサブグループの患者数が少なかったことから、この点に関して確固たる結論を導き出すのは困難であった」としている。

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第37回 どこにでもある薬のCOVID-19重症化予防効果を調べる試験がアフリカで始まった

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に効く薬を見つけるための数多の試験が世界のあちこちで実施されていますが、アフリカではこれまでほぼ皆無でした。しかしこの9月から、とても価値があるのにほとんど手つかずな使命を帯びた大規模試験がアフリカで始まっています1)。その使命とは、COVID-19患者が重症化して入院せずに済むようにする安くてどこでも手に入る薬を見つけ出すことです。ANTICOVという名称のその試験2,3)では、今さらという感がありますが、世界保健機関(WHO)のSolidarity試験や英国でのさらに大規模なRecovery試験でCOVID-19入院患者にはっきりと無効だったマラリア薬・ヒドロキシクロロキンが最初に検討される試験薬の一つとなっています4)。ANTICOVはいまのところコンゴ共和国でのみ進行中ですが、やがては13ヵ国で軽度~中等度のCOVID-19患者2,000~3,000人が参加する予定です。C型肝炎薬ソホスブビル、駆虫薬nitazoxanideやイベルメクチン、痛風薬コルヒチンなどの多数の薬の検討が予定されていますが、まず試されるのは上述のヒドロキシクロロキンとHIV薬・カレトラ(ロピナビル/リトナビル)です4)。理由はどうあれ病院に来た患者にCOVID-19検査を受けてもらい、感染が確認されて酸素飽和度(SpO2)94%以上などの選択基準を満たした患者を試験に招待します。試験参加を了承した患者は対照薬・アセトアミノフェン(パラセタモール)か試験薬のいずれかを決められた期間服用し、アプリへの入力や電話への回答で症状が毎日記録されます。主要転帰はこの上なく明確で、薬の割り当てから3週間(21日間)以内に酸素飽和度が93%以下に陥ることです。そうなったら服用薬が効かなかったと判断され、国によってはWHO主催の入院患者対象Solidarity試験などに参加することができます。先週のScienceのニュース1)によると、コンゴ共和国に続いて今週にはケニアで患者募集が始まります。300人のデータが揃った時点で最初の中間解析が実施され、その後は新たに加わった300人のデータが揃うたびに途中解析が順次実施されます4)。試験で検討される薬は今後追加され、中間解析で有効か無効の判定基準を満たした薬は試験を卒業していきます。ANTICOV試験でまず検討されるヒドロキシクロロキンは入院患者に明らかに無効だったことに加えて予防効果や軽症への効果もなかったとする報告もあり、ヒドロキシクロロキンから始めるなんてことは自分ならしないと英国のSolidarity試験を率いた医師の一人Martin Landray氏は言っています1)。しかしANTICOV試験のガーナ担当を率いるJohn Amuasi氏は試す価値があると考えています。同剤を標準薬とするアフリカの国は依然として多く3)、ANTICOV試験で無効と判明すればその効果への期待を断つことができるのです。それに、利益相反を考慮の上でこれまでの試験一揃いを解析した最近の報告では早めのヒドロキシクロロキン投与に軍配が上がっており5)、効果の望みは全くないというわけではなさそうです。ヒドロキシクロロキンは先鋒にふさわしくなさそうとはいえ、Landray氏はANTICOVのような試験の価値を認めています。誰もがいかなるときにも使えていざという時に大量に供給可能な治療薬は見つけておく必要があるからです。参考1)First-of-its-kind African trial tests common drugs to prevent severe COVID-19/Science2)ANTICOV/DNDi3)Largest clinical trial in Africa to treat COVID-19 cases before they become severe is launched in 13 countries/DNDi4)ANTICOV試験プロトコール5)Mechanism of action of chloroquine/hydroxychloroquine for COVID-19 infection /EurekAlert

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認知症診断後1年以内の自殺リスク

 重度の認知症であれば、自殺を実行するための機能が損なわれることで自殺を防ぐことができるが、初期および軽度の認知症の場合、認知機能が比較的保たれているため、疾患の進行による将来への不安を醸成し、自殺の実行を助長する可能性がある。韓国・延世大学校のJae Woo Choi氏らは、認知症診断を受けてから1年以内の高齢者の自殺リスクについて調査を行った。Journal of Psychiatry & Neuroscience誌オンライン版2020年10月29日号の報告。アルツハイマー型認知症は自殺リスクが高かった 国民健康保険サービスのシニアコホートデータを用いて、2004~12年に認知症と診断された高齢者3万6,541例を抽出した。認知症の定義は、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコア26以下および臨床的認知症評価尺度(CDR)スコア1以上またはGlobal Deterioration Scale(GDS)スコア3以上とし、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、その他/特定不能の認知症を含めた。性別、年齢、併存疾患、インデックス年で1:1の傾向マッチングを行い認知症でない高齢者を対照群として抽出し、2013年までフォローアップを行った。認知症診断後1年以内の自殺による死亡の調整済みハザード比(aHR)を推定するため、時間依存的Cox比例ハザードモデルを用いた。 認知症診断を受けてから1年以内の高齢者の自殺リスクの調査の主な結果は以下のとおり。・認知症診断後、最初の1年間で46例の自殺が確認された。・認知症高齢者は、対照群と比較し、自殺リスクが高かった(aHR:2.57、95%信頼区間[CI]:1.49~4.44)。・アルツハイマー型認知症(aHR:2.50、95%CI:1.41~4.44)またはその他/特定不能の認知症(aHR:4.32、95%CI:2.04~9.15)の高齢者は、対照群と比較し、自殺リスクが高かった。・他の精神疾患を合併していない認知症患者(aHR:1.96、95%CI:1.02~3.77)および合併している認知症患者(aHR:3.22、95%CI:1.78~5.83)は、対照群と比較し、自殺リスクが高かった。・統合失調症(aHR:8.73、95%CI:2.57~29.71)、気分障害(aHR:2.84、95%CI:1.23~6.53)、不安症または身体表現性障害(aHR:3.53、95%CI:1.73~7.21)と認知症を合併している患者は、認知症を合併していない各疾患の患者と比較し、自殺リスクが高かった。 著者らは「本研究は、自殺率の高い韓国の高齢者を対象とした試験であり、異なる背景を有する集団に本結果をそのまま当てはめるには、注意が必要である」としながらも「認知症診断後1年以内での自殺リスクの上昇が認められた」としている。

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高用量オメガ3脂肪酸、高リスク患者のMACE発生を抑制せず/JAMA

 スタチン治療中の心血管高リスクの患者において、通常治療に加えてのEPAとDHAのカルボン酸製剤(オメガ-3CA)の摂取はコーン油摂取と比較して、主要有害心血管イベント(MACE)の複合アウトカムの発生に有意差はなかったことが示された。オーストラリア・モナシュ大学のStephen J. Nicholls氏らが多施設共同二重盲検無作為化試験「STRENGTH試験」の結果を報告した。EPAとDHAのオメガ-3脂肪酸が心血管リスクを抑制するかは明らかになっていない。一方で、オメガ-3CAはアテローム性脂質異常症や心血管高リスクの患者の脂質および炎症マーカーに対して好ましい効果があることが文書化されていた。著者は、「今回の結果は、MACE抑制を目的とした高リスク患者でのオメガ-3CAの使用を支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌オンライン版2020年11月15日号掲載の報告。22ヵ国のスタチン治療中患者を対象に、コーン油と比較 オメガ-3CAまたはコーン油摂取について比較した試験は、北米、欧州、南米、アジア、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカの22ヵ国・675の大学または地域病院で、スタチン治療中で心血管リスクが高く、高トリグリセライド血症およびHDLコレステロール(HDL-C)が低値の患者を対象に行われた。2014年10月30日~2017年6月14日に登録が行われ、試験は2020年1月8日に終了、最終患者の受診は2020年5月14日であった。 被験者は、スタチン等の通常の治療に加えて、4g/日のオメガ-3CAを摂取する群(6,539例)または不活性比較群として機能することを目的としたコーン油を摂取する群(6,539例)に、無作為に割り付けられた。 有効性の主要評価項目は、心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・冠動脈血行再建術・入院を要した不安定狭心症の複合(MACE)であった。有益性の可能性が見込めず試験は早期に中止 1,384例の患者に主要エンドポイントのイベントが発生した時点(計画では1,600件)で行われた中間解析の結果、オメガ-3CAがコーン油よりも臨床的有益性を認める可能性は低いことが示され、試験は早期に中止となった。 治療中であった1万3,078例の患者(平均年齢62.5[SD 9.0]歳、女性35%、糖尿病70%、LDL-C中央値75.0mg/dL、トリグリセライド中央値240mg/dL、HDL-C中央値36mg/dL、高感度CRP中央値2.1mg/dL)において、1万2,633例(96.6%)が主要エンドポイント発生に関する試験を完了した。 主要エンドポイントの発生は、オメガ-3CA群785例(12.0%)、コーン油群795例(12.2%)であった(ハザード比[HR]:0.99[95%信頼区間[CI]:0.90~1.09]、p=0.84)。 消化器系の有害事象の発現が、オメガ-3CA群(24.7%)でコーン油群(14.7%)よりも高頻度に観察された。

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難治性高コレステロール血症、evinacumabでLDL-C半減/NEJM

 難治性高コレステロール血症患者の治療において、アンジオポエチン様蛋白3(ANGPTL3)の完全ヒト化モノクローナル抗体であるevinacumab(高用量)はプラセボに比べ、LDLコレステロール値を50%以上低下させることが、米国・マウント・サイナイ・アイカーン医科大学のRobert S. Rosenson氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年11月15日号に掲載された。ANGPTL3は、リポタンパク質リパーゼや血管内皮リパーゼを阻害することで、脂質代謝の調節において重要な役割を担っている。ANGPTL3の機能喪失型変異を有する患者は、LDLコレステロールやトリグリセライド、HDLコレステロールが大幅に低下した低脂血症の表現型を示し、冠動脈疾患のリスクが一般集団より41%低いと報告されている。evinacumabは、第II相概念実証研究の機能解析で、LDL受容体とは独立の機序でLDLコレステロールを低下させる作用が示唆されている。皮下投与で3用量、静脈内投与で2用量とプラセボを比較 本研究は、難治性高コレステロール血症患者におけるevinacumabの安全性と有効性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験であり、20ヵ国85施設が参加した(Regeneron Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢18~80歳、難治性高コレステロール血症を有するヘテロ接合性または非ヘテロ接合性の原発性家族性高コレステロール血症で、エゼチミブの有無を問わず、最大耐用量のPCSK9阻害薬またはスタチンに抵抗性の患者であった。難治性高コレステロール血症は、アテローム性動脈硬化による心血管疾患がある場合は70mg/dL以上、ない場合は100mg/dL以上と定義された。 被験者は、evinacumabまたはプラセボを皮下または静脈内投与する群に無作為に割り付けられた。皮下投与では、450mg/週、300mg/週、300mg/2週、プラセボに1対1対1対1の割合で、静脈内投与では、15mg/kg/4週、5mg/kg/4週、プラセボに1対1対1の割合で割り付けられた。 主要エンドポイントは、ベースラインから16週のLDLコレステロールの変化率とした。HDLコレステロールも用量依存性に低下 272例が登録され、皮下投与例(163例、平均年齢54±13.2歳、女性62%、ヘテロ接合性72%)ではevinacumab 450mg群に40例、同300mg/週群に43例、同300mg/2週に39例、プラセボ群には41例が、静脈内投与例(109例、54.6±11.0歳、56%、81%)では、15mg/kg/4週群に39例、5mg/kg/4週群に36例、プラセボ群には34例が割り付けられた。全例がPCSK9阻害薬の投与を受けており、44%が最大耐用量のスタチン、30%がエゼチミブの投与を受けていた。 16週の時点で、皮下投与例におけるベースラインからのLDLコレステロール値の変化率の最小二乗平均値の差は、450mg群とプラセボ群が-56.0ポイント、300mg/週群とプラセボ群が-52.9ポイント、300mg/2週群とプラセボ群は-38.5ポイントであった(いずれもp<0.001)。また、静脈内投与例における変化率の最小二乗平均値の差は、15mg/kg/4週群とプラセボ群が-50.5ポイント(p<0.001)、5mg/kg/4週群とプラセボ群は-24.2ポイントの差であった。皮下投与例、静脈内投与例とも、2週後にはevinacumab治療への反応が認められ、16週まで維持された。 脂質値は、evinacumabの皮下投与および静脈内投与が、プラセボに比べて実質的に低下した。リポ蛋白(a)を除き、アテローム性リポ蛋白はevinacumabの用量依存性に低下した。 皮下投与例におけるHDLコレステロールの16週時のベースラインからの変化は、450mg群が-27.9%、300mg/週群が-30.3%、300mg/2週は-19.5%であり、プラセボ群は-1.7%であった。また、静脈内投与例では、15mg/kg/4週群が-31.4%、5mg/kg/4週群は-14.9%であり、プラセボ群は1.9%だった。 治療期間中の有害事象の発生率は各群54~84%の範囲であり、重篤な有害事象の発生率は3~16%の範囲であった。治療中止の原因となった有害事象は、3~6%で発生した。 著者は、「これらの結果は、ANGPTL3の阻害による、心血管疾患に対する潜在的な有益性を支持するものである」と結論し、「evinacumabで観察されたHDLコレステロール低下の重要性はまだ十分に解明されていないが、自然発生的な遺伝学的ANGPTL3欠損症の患者では、低HDLコレステロールは心血管疾患のリスク増大とは関連がなかったと報告されている」と指摘している。

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SGLT1/2阻害薬sotagliflozin、CKD併存の糖尿病に有効な可能性/NEJM

 2型糖尿病と慢性腎臓病(CKD)(アルブミン尿の有無は問わない)が併存する患者の治療において、ナトリウム・グルコース共輸送体1/2(SGLT1/2)阻害薬sotagliflozinはプラセボに比べ、心血管死、心不全による入院、心不全による緊急受診の複合リスクを低下させるが、とくに注目すべき有害事象の頻度は高いことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のDeepak L. Bhatt氏らが行った「SCORED試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年11月16日号で報告された。糖尿病とCKDが併存すると、心不全や虚血性イベントのリスクがいっそう高まる。糖尿病の有無にかかわらず、CKD患者へのSGLT2阻害薬の使用を支持する無作為化試験のデータがあるが、これらの試験は患者選択基準で推定糸球体濾過量の低下に加え顕性アルブミン尿の発現を求めている。一方、CKDが併存する糖尿病患者の治療におけるsotagliflozinの有効性と安全性は十分に検討されていないという。44ヵ国750施設が参加したプラセボ対照無作為化第III相試験 本研究は、CKDが併存する糖尿病患者におけるsotagliflozinの有効性と安全性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、44ヵ国750施設が参加し、2017年12月~2020年1月の期間に患者登録が行われた(SanofiとLexicon Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、2型糖尿病(糖化ヘモグロビン値≧7%)で、CKD(推定糸球体濾過量25~60mL/分/1.73m2)を伴い、心血管疾患のリスクを有する患者であり、アルブミン尿の有無は問われなかった。被験者は、標準治療に加え、sotagliflozin(200mg、1日1回)またはプラセボの投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。sotagliflozinは、許容されない副作用の発現がなければ400mg(1日1回)まで増量可とされた。 本試験は、目標イベント数に達する前に、資金不足で早期中止となった。主要エンドポイントは、早期中止決定時に、心血管死、心不全による入院、心不全による緊急受診の複合に変更された。心血管死に差はない、変更前の複合主要エンドポイントは良好 1万584例が登録され、5,292例がsotagliflozin群(年齢中央値69歳[IQR:63~74]、女性44.3%)に、5,292例がプラセボ群(69歳[63~74]、45.5%)に割り付けられた。治療期間中央値は、それぞれ14.2ヵ月(IQR:10.3~18.9)および14.3ヵ月(10.3~18.9)で、追跡期間中央値は16ヵ月だった。 主要エンドポイントのイベント発生率は、sotagliflozin群が100人年当たり5.6件、プラセボ群は7.5件(ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.63~0.88、p<0.001)であった。心不全による入院と心不全による緊急受診の複合の発生率は、sotagliflozin群が100人年当たり3.5件、プラセボ群は5.1件(0.67、0.55~0.82、p<0.001)であった。心血管死(2.2件vs.2.4件/100人年、0.90、0.73~1.12、p=0.35)には有意差が認められなかった。 変更前の複合主要エンドポイントである心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合(HR:0.84、95%CI:0.72~0.99)および心血管死、心不全による入院の複合(0.77、0.66~0.91)は、いずれもsotagliflozin群で良好だった。 有害事象や治療中止の原因となったイベントの発生割合は両群間に差はなく、重篤な有害事象の発生割合も同程度であった(sotagliflozin群23.4%、プラセボ群25.2%)。sotagliflozin群はプラセボ群に比べ、とくに注目すべき有害事象のうち、下痢(8.5% vs.6.0%、p<0.001)、糖尿病性ケトアシドーシス(0.6% vs.0.3%、p=0.02)、性器真菌感染症(2.4% vs.0.9%、p<0.001)、体液量減少(5.3% vs.4.0%、p=0.003)の頻度が高かった。 著者は、「sotagliflozinの有効性と安全性を評価するには、さらに長期の検討を要する」としている。

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医師が選ぶ「2020年の顔」TOP5!(文化・芸能人、コメンテーター部門)【ケアネット医師会員アンケート結果発表】

新型コロナの国内発生と流行、緊急事態宣言、東京五輪延期…本当にいろいろあった2020年―。今年を振り返ってみて思い浮かぶのは誰の顔でしょうか。ケアネットでは医師会員にアンケートを実施。535人の先生方にご協力いただき、選ばれた「今年の顔」は?今回は、文化・芸能人部門とコメンテーター部門のTOP5をご紹介します!医療人部門、政治家部門はこちら!文化・芸能人部門(敬称略)第1位 志村 けん最も多くの人が挙げたのが、新型コロナウイルス感染症で今年3月に死去した志村けんさんでした。幅広い年齢層に親しまれた偉大なコメディアンの突然の訃報は、大きく深い悲しみをもたらしただけでなく、国民レベルで新型コロナへの向き合い方を改める契機になるほどのインパクトを与えました。  「志村 けん」を選んだ理由(コメント抜粋)突然のことでとても驚いた。コロナの恐ろしさを身近に感じた。(40代 腎臓内科/大分県 他多数)新型コロナウイルスの危険性が一般に認知されるきっかけとなった。(30代 内科/東京都 他多数)お笑いのレジェンド。いつまでもいる人だと思っていた。(40代 脳神経外科/兵庫県 他多数)第2位 三浦 春馬まさに今を生きていた現役俳優の急逝も、多くの方の記憶に残ったようです。芸能界ではこの後、三浦さんのほかにも自ら命を絶つ人が相次ぎました。さまざまな憶測がメディアで報じられましたが、本当のこと、真相は誰にもわかりません。ただただ、彼らが持ち合わせた才能や輝きが失われたことが惜しまれます。 「三浦 春馬」を選んだ理由(コメント抜粋)自殺対策をやっている身としては印象的だった。(30代 精神科/福岡県 他多数)コロナ禍で自殺する人が増え、衝撃的だった。(20代 麻酔科/三重県 他多数)同世代の有名俳優だったから。(30代 臨床研修医/東京都)第3位 フワちゃん今回、唯一明るさを感じられたのが「フワちゃん」のランクインでした。お笑いタレントでYouTuberの彼女は、突き抜けた破天荒キャラが受けて今年大ブレイク。動けばバラエティー番組に取り上げられ、喋ればネットニュースの記事になるようなフルスロットルの活躍ぶりでした。実は、帰国子女で英語が堪能だったり、文学部で中国哲学を学んでいたり、という意外な二面性も。 「フワちゃん」を選んだ理由(コメント抜粋)ブームで、テレビで見ない日はなかった。(20代 糖尿病・代謝内分泌科/青森県 他多数)どの番組にも出演している印象(40代 消化器内科/京都府 他多数)インパクトがすごい(30代 病理診断科/東京都)第4位 竹内 結子 「竹内 結子」を選んだ理由(コメント抜粋)人気女優で、よくドラマを観ていた(40代 内科/東京都 他多数)突然の訃報で、あまりに衝撃だった(30代 呼吸器内科/茨城県 他多数)青春の一幕だった(40代 消化器内科/愛知県)第5位 渡部 建 「渡部 建」を選んだ理由(コメント抜粋)良くも悪くもニュースでよく見かけた(30代 内科/千葉 他複数)「不倫」で真っ先に思い浮かんだ(40代 小児科/沖縄)コメンテーター部門(敬称略)第1位 忽那 賢志新型コロナの最前線で診療に当たる臨床家の忽那先生が、「コメンテーター」として最も評価されたのは意外な感もありますが、Yahoo!ニュースでの詳細かつ明快なコロナ解説記事や、メディアに対する丁寧な取材対応をご覧になった先生方には、納得の第1位なのでしょう。CareNet.comにも不定期ですが連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」掲載中ですので、この機会にぜひ! 「忽那 賢志」を選んだ理由(コメント抜粋)しっかりした科学的根拠に基づき、コメントに信頼性がある(50代 耳鼻咽喉科/三重県 他多数)臨床に従事しているので、コメントに偏りがない(40代 精神科/滋賀県 他多数)現場で得た知見を的確に提供してくれた印象(40代 糖尿病・代謝内分泌科/京都府 他複数)第2位 尾身 茂今年のメディア登場回数において、群を抜いた存在であることは間違いないでしょう。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長や分科会長として、医療者の知見や懸念を政府へ根気強く訴えると共に、国民に対してもわかりやすくかつ的確にメッセージを発信し続けてくださいました。 「尾身 茂」を選んだ理由(コメント抜粋)慎重ながら、必要時には信頼できるコメントが目立った(40代 血液内科/宮城県 他多数)コロナ対策に真摯に向き合っている姿勢(50代 産婦人科/大分県 他複数)コロナ関連で最もまともな発言、啓蒙をされていた(30代 整形外科/神奈川県)第3位 二木 芳人新型コロナを巡っては、多くの医療人がメディアでさまざまなコメントを述べてきましたが、ワイドショー番組などでも、出演者らの挑発(?)に乗ることなく、冷静に自身の見解を述べる姿に、医療人としての信頼性を感じた人も多かったのではないでしょうか。当たり前だけど大事なことをわかりやすく伝えられるコメントスキルも高評価だったようです。 「二木 芳人」を選んだ理由(コメント抜粋)コメントがとても受け入れやすくわかりやすい(30代 膠原病・リウマチ科/岡山県)落ち着いたトーンに好感(50代 消化器外科/茨城県)感染症対策にとどまらず、日本を俯瞰的に見ている(60代 循環器内科/佐賀県)第4位 岩田 健太郎 「岩田 健太郎」を選んだ理由(コメント抜粋)クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号を巡る対応とコメント(30代 救急科/北海道 他多数)コロナ関連で、データに基づいた解説をしてわかりやすかった(40代 病理診断科/島根県 他複数)第5位 岡田 晴恵 「岡田 晴恵」を選んだ理由(コメント抜粋)メディアでの露出がとても多かった印象(50代 内科/広島県 他多数)良くも悪くも発言がよく取り上げられていた(50代 耳鼻咽喉科/広島県)★アンケート概要★アンケート名 :『2020年振り返り企画!さまざまな分野の「今年の人」を挙げてください』実施日    :2020年11月12日~19日調査方法   :インターネット対象     :CareNet.com会員医師有効回答数  :535件

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機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―新薬・エビデンス続々、心理的ケアの認知高まる

 4人に1人―、これがわが国の機能性消化管疾患の現状と見られている。機能性消化管疾患は、過敏性腸症候群(IBS)のほか、IBS関連疾患群(機能性便秘、機能性下痢、機能性腹部膨満)を含む。中でも、IBSは消化器内科受診者の約3割を占めるという数字もあり、社会的関心は確実に高まっている。今年6月に発刊された『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020』(改訂第2版)は、2014年の初版以来の改訂版。新薬に加え、既存製剤についてもエビデンスの蓄積により治療可能性が広がっているほか、疾患研究の進展により、病態に関与する生物学的要因や心理社会的因子などを総合的にとらえる概念としての「脳腸相関」の重要性がさらに明確になったことを裏付ける項目もある。ガイドライン作成委員長を務めた福土 審氏(東北大学行動医学分野・心療内科)に、改訂のポイントについてインタビューを行った(zoomによるリモート取材)。薬物治療のエビデンスが充実、心理的治療も推奨度を強化 IBSの疫学、病態、予後と合併症に関する項目は、初版のガイドラインではCQ (clinical question)に位置付けていたが、改訂版では、ほかのガイドライン1,2)同様、BQ:background questionとして収載し、初版で明確になっている結論をさらに強化する知見を追記した。その一方、2014年以降に集積された知見を新たにCQに、エビデンスが乏しく、今後の研究課題とするものはFRQ(future research question)とした。このたびの改訂版は、CQ26項目、BQ11項目、FRQ3項目で構成されている。 初版からの変更点のうち、主だったものを挙げると、診断基準については、初版ではRome IIIだったが、2016年に国際的診断基準がRome IVとなったため、改訂版においてもRome IVを採用した。この変更にはさまざまな議論があったが、最終的にはBQとなった。 IBSの鑑別診断については、大腸内視鏡以外の臨床検査(大腸以外の内視鏡、画像検査、糞便・血液・尿による検体検査)の位置付けが初版では弱い推奨だったが、サイエンスレベルの向上により、今回は強い推奨となっている。 治療薬については、粘膜上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチド)の便秘型IBSへの有用性がRCTやメタアナリシスで相次いで示され、リナクロチドが保険適用されたため、エビデンスレベルがBからAに変更され、強く推奨された。一方、2018年に慢性便秘症に承認されたエロビシキバットも便秘型IBS治療に推奨している。Rome IVの考え方では、便秘型IBSと機能性便秘は同じスペクトラムの中にあり、慢性便秘症の部分集合である。わが国では、ルビプロストンとエロビシキバットの保険適用に際しては、慢性便秘症の診断を要することに留意したい。 抗アレルギー薬を巡ってはさまざまな議論があったが、改訂版では強い推奨、かつエビデンスレベルAとした。わが国では、現段階ではIBSの保険適用ではないものの、抗アレルギー薬治療によるエビデンスが蓄積されつつあることを受けて変更された。抗菌薬については、初版では弱い非推奨(エビデンスレベルC)だったが、リファキシミンが米国で認可され、ジャーナル誌やメタアナリシスでも効果が追認されたため、このたびの改訂でエビデンスレベルAとなった。ただ、残念ながらわが国では保険適用ではない点は明記した。 麻薬については、依存性と使用により、かえって腹痛が増強する麻薬性腸症候群を作り出す危険があり、改訂版では弱い非推奨(エビデンスレベルC)としている。なお、米国では非麻薬性のオピオイドμ/κ受容体刺激薬・δ受容体拮抗薬エルクサドリンが下痢型IBS治療薬として認可されている。 今回の改訂において、心理的治療は強い推奨となった(エビデンスレベルB)のは注目すべき点である。2014年当時は、IBSに対する心理的治療に対し懐疑的な研究論文もあったが、国際的に必要な重症度の患者には心理的ケアを行うということが徐々に定着しつつある。難治性や、心身症の特性を持つIBS患者に対する心理療法の有効性が繰り返し報告され、標準化される方向性が定まってきた。 改訂版の作成過程において結論が見出せなかったのは、抗精神病薬や気分安定化薬の使用、糞便移植、そして重症度別のレジメンの有用性である。これらに関しては、明瞭かつ直接的な効果が確認できなかったので、FRQと位置付けた。次の5年間や今後の研究の進展で変わっていくべき課題と考えている。IBS治療は着実に進歩、プライマリケア医の診断・治療に期待 国内に関しては、IBS治療はかなり進歩していると感じる。10年前には使えなかった製剤も使えるようになり、患者の改善の実感も得られてきているものと考える。薬物に関しては、いかに抗うつ薬を活用し、治療していくかという国際的なトレンドがある。日本においてもその潮流が強まるだろう。 現状は、プライマリケア医で大腸内視鏡検査が可能であれば実施し、できなければ総合病院に紹介されて検査という流れが一般的であると思われる。総合病院にIBSの診断・治療に前向きな消化器内科医がいれば問題はないが、炎症性腸疾患や大腸がんを専門にしている場合は、抗うつ薬の投与や心理療法に戸惑いを感じる医師もいるだろう。その場合は、心療内科に紹介して治療を進めるのが良い。そのような形で効率良く病診連携できるのが望ましい。 IBSはプライマリケア医が十分対応できる疾患である。開業医の方には、リスクを踏まえて慎重かつ早めに診断し、最初の段階でしっかり診断・治療できれば患者にも喜ばれ、医師側も患者をケアできているという実感が得られると考える。また、IBSは診断から最初の2~3年ががんのリスクが高い。その時期を過ぎればリスクはかなり低下する。これらのエビデンスを踏まえて検査の頻度やチェック項目を考えるのは、担当医師の裁量範囲である。

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リキッドバイオプシー検査、ドライバー遺伝子変異では8割の一致率/日本肺癌学会

 液性検体(血漿や尿など)を検査等に利用する、リキッドバイオプシーの医療現場での普及が急速に進んでいる。がん治療においては、低侵襲で簡便な検査による早期発見や組織採取が難しい部位のがんでの診断等に応用が期待される。 こうした状況を背景に、11月に行われた第61回日本肺癌学会学術集会では「リキッドバイオプシーの可能性」と題したシンポジウムが開催された。この中で、国立がん研究センター東病院の善家 義貴氏は「リキッドバイオプシーの有効性に関する前向き観察研究(LC-SCRUM-Liquid)」について、最新情報を共有した。 LC-SCRUMは肺がんの遺伝子変異をスクリーニングし、治療薬開発につなげることを目的とした産学連携プロジェクトであり、現在全国200施設が参加し、現在、非小細胞肺がん(NSCLC)患者1万例を組み入れ、進行中だ。この試験の付随研究として実施されたLC-SCRUM-Liquidは、1)現行の組織採取による次世代シークエンス(NGS)遺伝子検査と血中遊離DNA(cfDNA)を用いたNGS解析の肺癌遺伝子異常の検出精度の比較2)リキッドバイオプシーによる遺伝子検査で特定遺伝子の異常を確認した場合、分子標的治療が有効かどうかという2点の検証を目的とした。 LC-SCRUM-Liquid には39都道府県159施設が参加、患者の組み入れ基準はLC-SCRUMに準じており、主なものは以下の通り。・20歳以上のNSCLC患者・StageIIIまたはIV・手術・放射線療法不適で、化学療法を実施または予定され、2レジメンまでの薬物療法歴・検査用組織を採取した4週以内に血漿(cfCNA)を採取・組織はオンコマイン(OCA v3)、cfCNAはGuardant360を用いて解析、ターゲットとする遺伝子はEGFR/KRAS/BRAF/ERBB2/MET/ALK/ROS1/RETとした。・腫瘍組織はOncomine Comprehensive Assay version 3 (OCA:Thermo Fisher Scientific社) を、cfDNAはGuardant 360(G360:Guardant Health社)を用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・2017年12月~2020年10月に887例が登録され、非適格者等を除いた832例が解析対象となった。・年齢中央値は68(SD:25~91)歳、男性が60%、腺がんが77%、初回治療例が92%だった。・検査受診から結果が返ってくるまでの日数中央値は組織検査が23(8~55)日、cfCNA検査が15(7~27)日だった。・組織検査は主に肺(59%)とリンパ節(22%)から、気管支鏡(69%)による生検で採取された。・遺伝子異常の検出率はEGFR(組織26% vs.cfCNA 24%)、KRAS(14% vs.12%)の順で高く、約半数で何らかのドライバー遺伝子が検出された。・腫瘍組織検査陽性に対し、cfCNA検査も陽性となった一致率を見ると、EGFR:78%、KRAS:76%、BRAF:80%、ERBB2:71%と遺伝子変異は高かったが、MET:57%、ALK:44%、ROS1:8%、RET:54%など融合遺伝子では低かった。・cfDNAのみで陽性となった患者の60%は, 組織検体不良が原因であった。・もっとも多かったEGFR変異陽性例で分子標的治療の効果を見たところ、組織検査のみ陽性(43例)で奏効率(ORR)60%、cfCNA検査のみ陽性(40例)で70%、両方で陽性(36例)で69%と、ほぼ同等の結果だった。 善家氏は「リキッドバイオプシーによるコンパニオン診断は現時点では保険承認されていないが、今回の試験によってその精度を確認できた。今後の承認に向け、一致率が高く、治療薬が存在するEGFR/ALKについてはすでにアンブレラ試験を開始し、RET/ROS1についても12月中に開始予定だ。ただし、融合遺伝子の検出精度については引き続き検討が必要だろう」とまとめた。

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心筋ミオシン活性化薬、心不全イベント・心血管死リスク低減/NEJM

 駆出率35%以下の症候性慢性心不全患者において、選択的心筋ミオシン活性化薬のomecamtiv mecarbilはプラセボと比較して、心不全・心血管死の複合イベント発生リスクを有意に抑制したことが示された。心血管死リスクのみについては、抑制効果はみられなかった。米国・サンフランシスコ退役軍人医療センターのJohn R. Teerlink氏らGALACTIC-HF研究チームが、8,256例を対象に行った第III相プラセボ対照無作為化比較試験の結果を報告した。omecamtiv mecarbilは、駆出率が低下した心不全患者の心機能を改善することが示されていたが、心血管アウトカムへの影響については確認されていなかった。NEJM誌オンライン版2020年11月13日号掲載の報告。 駆出率35%以下の症候性慢性心不全患者を対象に試験 研究グループは、症候性慢性心不全で駆出率が35%以下の患者(外来・入院)8,256例を対象に試験を行った。被験者を無作為に2群に分け、一方にはomecamtiv mecarbilを(薬物動態学的に用量を決め、25mg、37.5mg、50mgのいずれかを1日2回)、もう一方にはプラセボを、心不全の標準治療に加えそれぞれ投与した。 主要アウトカムは、初回心不全イベント(心不全による入院/救急受診)または心血管死の複合とした。心不全・心血管死発生率、omecamtiv mecarbil群37.0% vs.プラセボ群39.1% 追跡期間中央値21.8ヵ月において、主要複合アウトカムの発生はomecamtiv mecarbil群1,523/4,120例(37.0%)、プラセボ群1,607/4,112例(39.1%)だった(ハザード比[HR]:0.92、95%信頼区間[CI]:0.86~0.99、p=0.03)。 全体で心血管死はomecamtiv mecarbil群808例(19.6%)、プラセボ群798例(19.4%)だった(HR:1.01、95%CI:0.92~1.11、p=0.86)。カンザスシティ心筋症質問票(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire)の症状スコア合計の、ベースラインからの変化についても、両群で有意差はなかった。 ベースラインから24週までの、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド値の変化は、omecamtiv mecarbil群がプラセボ群に比べ10%低く、心臓トロポニンI値の中央値は4ng/L高かった。 心虚血および心室性不整脈イベントの発現頻度は、両群で同程度だった。

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統合失調症スペクトラム障害の急性期入院患者に対する心理学的介入~メタ解析

 統合失調症スペクトラム障害患者へ心理的介入を実施するうえで、精神科急性期病棟に入院している期間は重要である。しかし、この期間での心理的介入効果は明らかになっていない。英国・ロンドン大学シティ校のK. Barnicot氏らは、精神科急性期病棟に入院している統合失調症スペクトラム障害患者に対する心理的介入について評価を行うため、メタ解析を実施した。Clinical Psychology Review誌オンライン版2020年10月17日号の報告。 統合失調症スペクトラム障害患者を対象に精神科急性期病棟で実施された心理的介入のランダム化比較試験(RCT)を、Embase、Medline、PsycInfoのデータベースよりシステマティックに検索した。群間における介入後のアウトカムの比較およびフォローアップ時の再発・再入院率を明らかにするため、変量効果メタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・29件のRCTをメタ解析に含めた。・心理的介入は、対照群と比較し、介入後の陽性症状、社会的機能、治療コンプライアンスの改善をもたらし、再発・再入院リスクを低下させた。・特定の心理的介入の効果は以下のとおりであった。【重要アウトカムに対する効果】強度80%超 ●心理教育【いくつかのアウトカムに対する効果】強度80%未満 ●アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT) ●認知行動療法(CBT) ●メタ認知療法(MCT) 著者らは「精神科急性期病棟に入院している統合失調症スペクトラム障害患者に対し、心理的介入は有効である可能性がある。しかし、バイアスリスクが高いまたは不明なエビデンスが多く、一部の分析は不十分であった。さらなる研究では、より厳密に設計されたRCTのデータを用いたメタ解析が求められる」としている。

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SGLT2阻害薬フォシーガ、日本で慢性心不全の承認取得/AZ・小野

 選択的SGLT2阻害薬フォシーガ(一般名:ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物)について、標準治療を受けている慢性心不全に対する追加承認を、2020年11月27日に取得したことをアストラゼネカと小野薬品工業が発表した。慢性心不全治療薬として国内で最初に承認されたSGLT2阻害剤となる。本承認は、2型糖尿病合併の有無にかかわらず、左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)を対象とした第III相DAPA-HF試験の結果に基づく。添付文書の「効能又は効果に関連する注意」には、左室駆出率が保たれた慢性心不全(HFpEF)における本薬の有効性及び安全性は確立していないため、HFrEFに投与する旨、記載されている。フォシーガは心血管死および心不全悪化リスクを低下、HFpEF患者については検証中 フォシーガは、心血管死または心不全による入院を含む心不全の悪化による複合リスクを統計学的に有意に低下させた、初めてのSGLT2阻害薬である。第III相DAPA-HF試験において、標準治療との併用で主要複合評価項目をプラセボと比べて26%低下させた。また、主要複合評価項目の構成項目である心血管死および心不全の悪化の両方において、全体的にリスクを低下させた。試験期間中、フォシーガ投与群では患者21例ごとに1件の心血管死、心不全による入院、または静脈注射による心不全治療につながる緊急受診を回避した。また、本試験における安全性プロファイルは、これまでの安全性プロファイルと一致していた。 DAPA-HF試験は、フォシーガの心血管および腎に対する効果を評価する“DapaCare”という臨床プログラムの一部で、腎については第III相DAPA-CKD試験において慢性腎臓病患者の治療を検証している。さらに、第III相DELIVER試験においてHFpEF患者の治療についても検証中であり、2021年後半に結果が出ると見込んでいる。フォシーガ添付文書に追加記載された内容■効能又は効果慢性心不全ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。■効能又は効果に関連する注意左室駆出率が保たれた慢性心不全における本薬の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療、左室駆出率等)を十分に理解した上で、適応患者を選択すること。

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第33回 日医・中川会長「社会保障のやさしさがない」75歳以上の患者負担、議論保留

<先週の動き>1.日医・中川会長「社会保障のやさしさがない」75歳以上の患者負担、議論保留2.地域医療構想、一人当たり医療費の地域差半減を/経済財政諮問会議3.年末年始に連絡可能な新型コロナ相談窓口の公表などを都道府県に要請/厚労省4.常勤医師の不在、秋田の介護老人保健施設の開設取り消し5.生殖補助医療の民法特例法案が成立、提供卵子でも産んだ母親と親子に6.外来機能報告制度、医療計画の見直しで2022年から開始1.日医・中川会長「社会保障のやさしさがない」75歳以上の患者負担、議論保留12月2日、「第15回 国民医療推進協議会総会」がテレビ会議システムにて開催され、後期高齢者の患者負担割合2割への引き上げについて、「慎重に対応するよう、強く要望する」との決議文が採択された。この日の総会には、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会など41団体が参加した。日医・中川会長は「このような時期に後期高齢者の患者負担割合を1割から倍にするという議論事態が社会保障としてのやさしさをまったく感じられない」と強調した。これにより、12月4日に開催される予定であった全世代型社会保障検討会議が取りやめになった。政府が求める年収170万円以上の人を対象とする方針に対し、公明党は年金生活者である高齢者にとっては負担が大き過ぎるとして、年収240万円以上とするよう求めていた。政府は今週明けに、「全世代型社会保障検討会議」を開いて結論を出す予定だが、来年は引き上げの対象範囲や実施時期などで、さらに議論が重ねられる見込み。(参考)国民医療推進協議会 後期高齢者の患者負担割合で決議「慎重に対応を」(ミクスonline)75歳以上の医療費2割負担 対象範囲めぐり調整難航(NHK)2.地域医療構想、一人当たり医療費の地域差半減を/経済財政諮問会議政府は4日、「経済財政諮問会議」を開催した。社会保障について、経済・財政一体改革の推進により、一人当たり医療・介護費の地域差縮減を求める資料が提示された。地域医療構想の実現には、後発医薬品の使用割合の上昇などを必須目標として医療費適正化計画が盛り込まれ、目標達成のために都道府県へのインセンティブ強化、毎年度の医療費見込みの改訂、保険者協議会の役割強化などを求めている。田村厚生労働大臣からは、2024年度からの第4期医療費適正化計画に向け、都道府県の意見を聞きながら、国と地方が連携し医療費の適正化のために取り組む事項や効果的なPDCA管理ができる新たな仕組みなどについて検討を行い、医療等データの利活用、介護ロボット、ICTなどの活用推進を通して、医療・福祉サービスの生産性向上などを検討することが発表された。2022年度以降の後期高齢者の増加による社会保障費の急増対策として、今後もさまざまな政策立案が進むだろう。(参考)諮問会議 医療費の地域間格差是正はデータの可視化から 医療費適正化計画に後発品使用割合など明示(ミクスonline)令和2年 第18回 経済財政諮問会議 議事次第・資料(内閣府)3.年末年始に連絡可能な新型コロナ相談窓口の公表などを都道府県に要請/厚労省厚生労働省は2日に、新型コロナウイルス感染症対策推進本部などから各都道府県ならびに保健所設置市に対して、年末年始は例年の対応以外に、発熱患者などへの診療・検査を担う医療機関や救急・入院患者の受け入れ医療機関について、十分な医療提供体制を整備できるよう、各地の医療機関や医師会などと事前に調整を行っておくことを求める事務連絡を発出した。年末年始の受診、電話相談、受診調整に対応可能な医療機関を事前に調整のうえ、確保しておくこと。また、発熱患者等が円滑に相談できるよう、年末年始に連絡可能な相談窓口などの公表を行うことを要請している。発熱患者などが医療機関を受診した場合の流れについては、2020年10月16日付けの事務連絡も参考にするように求めている。(参考)年末年始に向けた医療提供体制の確保に関する対応について(令和2年12月2日 事務連絡)(厚労省)次のインフルエンザ流行に備えた発熱患者等が医療機関を受診した場合の流れについて(令和2年10月16日 事務連絡)(同)4.常勤医師の不在、秋田の介護老人保健施設の開設取り消し3日、秋田県は、介護老人保健施設「男鹿の郷」が、2億4,000万円の介護報酬を不正受給していたため、施設の開設許可を取り消した。処分を受けた施設は、介護保険法により老健施設で定められる常勤医師の勤務時間(1週間当たり32時間以上)に従わず、2018年2月から今年6月まで、医師の勤務時間が十数時間と短時間であったにもかかわらず、常勤と偽って請求し、不正受給を受けていた。(参考)介護報酬2億4千万円を不正受給 男鹿の老人保健施設(秋田魁新報)5.生殖補助医療の民法特例法案が成立、提供卵子でも産んだ母親と親子に第三者から精子や卵子の提供を受けて、生殖補助医療によって子供を授かった場合の親子関係を定める民法特例法案が4日、衆院本会議で可決・成立した。生殖補助医療によって、親子関係が不安定にならないよう法律で定めるのが狙いで、議論を重ねてきた。法案成立により、卵子提供では産んだ女性が母、精子提供では夫が父となる。親子関係部分の施行は公布から1年後から。なお、生まれた子が自分の出自を知る権利や、代理母出産をめぐる規制については、今後おおむね2年をめどに必要な法制上の措置を講じるとされた。海外で認められている生殖補助医療の対象の範囲に同性パートナーや独身女性を含むのかなど、今回の法案には含まれなかった論点についてはさらに議論が必要となる。(参考)社説:生殖医療法成立 ルール整備の出発点にしたい(読売新聞)生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律案(衆議院)6.外来機能報告制度、医療計画の見直しで2022年から開始3日に開催された「医療計画の見直し等に関する検討会」で、外来機能報告制度について「外来機能の明確化・連携、かかりつけ医機能の強化等に関する報告書」が取りまとめられ、2022年度から開始されることが承認された。現在、各医療機関について医療機能情報提供制度もあるが、患者側から見ると、外来医療の機能についての情報が十分に得られにくいこと、再診患者の逆紹介が十分に進んでいないことなどがある。一部の医療機関の外来患者が多くなることによる、患者の待ち時間や勤務医の外来負担などの課題を解消するため、地域での協議で各医療機関が「手上げ」して、「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関」を明確化することになった。対象となる医療資源を重点的に活用する外来としては(1)医療資源を重点的に活用する入院の前後の外来(2)高額等の医療機器・設備を必要とする外来(3)特定の領域に特化した機能を有する外来(紹介患者に対する外来等)が想定されている。病床機能報告と同様に、外来機能報告制度にも診療レセプト情報や特定健診等情報データベース(NDB)を活用して、国から各医療機関に対して、当該医療機関の「医療資源を重点的に活用する外来」に関する実施状況のデータを提供することになっている。今回の報告書は、次回の社会保障審議会医療部会に報告され、医療法等の改正となる見込み。(参考)外来機能の明確化・連携、かかりつけ医機能の強化等に関する報告書(厚労省)第24回 医療計画の見直し等に関する検討会(同)

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蟻の一穴が全身の代謝と機能不全を改善するとは(SGLT2阻害薬とHFrEFの話)(解説:絹川弘一郎氏)-1322

 EMPEROR-Reducedは心血管死亡を抑制できず、DAPA-HFほどのインパクトは正直なかったが、メタ解析しても本質的違いは認められず、SGLT2阻害薬は完全にクラスエフェクトかどうかは微妙だが、この2剤(とカナグリフロジンも?)を考えている限り、HFrEFのNYHA IIには必ず使用すべきものとなった。あらためて言うまでもないが、糖尿病の有無にはまったく関係ない。まず、EMPEROR-ReducedとDAPA-HFの違いを説明する。EMPEROR-ReducedでEF30~40%の患者で全然イベントが減っていない。これが差をもたらしている。DAPA-HFでのEF別解析を見ると微妙にEF40%近くでHRが1の方向に向かっており、DECLARE-TIMI58のサブ解析(ちなみにこの京大加藤先生のCirculationは素晴らしいの一言、読んでいない人は一読を!)でも示されているようにSGLT2阻害薬はどうやらHFrEF(あとはMI後―これはHFrEFと考え方は同じ―これもDECLARE-TIMI58のサブ解析でCirculationになってる)の薬剤であるようだが、さすがにEF35%で効きませんと言われたらびっくりである。これはEMPEROR-Reducedのエントリー基準が悪い。EFが30%以上の患者ではイベント発生率を均てん化するという目的でNT-proBNP高値(EF31~35%で1,000以上、36~40%で2,500以上)の患者しかエントリーしないとしてしまった。おそらくその場合NYHA的には重症であろうし、腎機能低下例も多いはずで、DAPA-HFはこのような訳のわからないことはしていない。EFもBNPも予後のサロゲートマーカーであり、イベント発生率を調整するために全体でEF<40%プラスNT-proBNP>600などとするのは最近一般化しているが、今回あまりにいじり過ぎで失敗したといえよう。そもそも1,000とか2,500になんの根拠があるのか全然わからない。なお、DAPA-HFとのメタ解析を見てもNYHA III-IVにはSGLT2阻害薬は予後改善効果がほとんどないので、あまりBNPが高い症例は不向きである。そのための薬剤はvericiguatとomecamtiv mecarbilが待っている。 上記でも触れたようにSGLT2阻害薬はそんなに重症でないNYHA IIのHFrEF患者がスイートスポットである。ある意味ARNIと同じくらい(もちろん、併用すべき)。EF別のDAPA-HFの解析を見てもEF<15%ではあまり効いていない。心筋梗塞後の少しEFが低下した症例などはミッドレンジEF40~50%でも効くかもしれない(これは今後検証される予定)。私はSGLT2阻害薬をHFrEF治療のファーストラインドラッグ(ARNI/β遮断薬/MRAに加えて)と考える理由は、この薬剤の有効性のメカニズムが交感神経系やRAAS系とほとんどオーバーラップしていないながら、HFrEFの予後改善の作法どおり、リバースリモデリングを起こしているからである。まずカプランマイヤー曲線を見ても投与直後から心不全入院を抑制するメカニズムはいろいろ考えてもやはり利尿しかない。交感神経系については利尿後に心拍数が上がらないところからある程度の抑制的作用があると思われるが、さほど強い交感神経抑制作用は今まで報告はないようである(仮にあってもβ遮断薬が要りませんということはありえない、ちなみにCANVASではβ遮断薬不使用でイベント抑制効果が消える)。RAAS系についてはこの利尿期にむしろわずかながら活性化されることは私たちも示しているが、他のグループも同様の結果を得ている(だからARNIとMRAは入れておく必要あり)。つまり、今までの神経体液性因子のストーリーとは別の作用点があるはずである。また遠隔期の予後改善効果を利尿一本やりではやはり無理がある。さらに急性期の利尿効果は(自明ともいえるが)血糖依存性であることはわれわれも示しており、non-DMの患者でのEMPEROR-Reducedの解析を見ると最初の3ヵ月心不全入院のカプランマイヤー曲線が分離していないことは非糖尿病心不全患者での急性期利尿作用の貢献度が相対的に低いことは感じられる。 ケトン体増加による心筋代謝改善については一定の役割はあると思われる。しかし、問題もある。糖尿病を有しないHFrEFで糖代謝依存になっているときにケトン体が代替燃料というのはわかりやすいが、そうたくさんはケトン体は増えていない。一方糖尿病患者ではSGLT2阻害薬でケトン体は増えるものの、インスリン抵抗性で糖代謝が減少しているときにそれで糖代謝が改善するというVerma論文のロジックがよくわからない。さらに糖尿病とHFrEFが共存するとき、代謝がどうなっているのか、ほとんど知られていない。心筋代謝は百人いれば百の説があるくらい混乱を極めており、まだまだこれからの分野である。 近位尿細管細胞のATP消費抑制とhypoxia改善によるHIF-1α減少と腎保護効果に合わせてエリスロポエチンとヘモグロビンの増加についてはHIF-2α増加を介するといわれてきているが、ヘモグロビンの増加自体は0.5程度であり、以前のRED-HF試験の結果(ダルベポエチンで1.5増加させた)を見てもその程度で心不全の予後は改善しない。補助的には効いているかもしれないが、ヘモグロビン値はHIF-2αシグナリングのマーカーと考えるのが良いと思われる。HIF-2αの活性化はSGLT2阻害薬による擬似飢餓状態のシグナリングSIRT1から来るようである(SIRT1シグナリングからオートファジーの活性化とか酸化ストレス障害の抑制とかなってくるとホント?感が強くなってくるが)。ここが臨床的に検証されるのはとても困難であろうし、この擬似飢餓状態シグナリングが心筋細胞でも生じるというのが必要であるが、少なくともエリスロポエチンとヘモグロビンとヘマトクリットが増えているという部分は間違いない事実であり、mediation解析でも心血管死を説明するのにヘモグロビンが最強の因子であるわけで、擬似飢餓状態のシグナリングが一番魅力的な仮説のように思われる。SGLT2阻害薬は近位尿細管にのみ直接作用点があるにしてはその蟻の一穴を通して全身への波及効果が力強く、糖尿病治療薬から脱皮して、今までに遭遇したことのないCKD治療薬(DAPA-CKD)と心不全治療薬となったようである。

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がん治療の進歩で注意すべき心血管リスクとその対策/日本医療薬学会

 近年、腫瘍循環器学という新しい概念が提唱されている。10月24日~11月1日にWeb開催された第30回日本医療薬学会総会のシンポジウム「腫瘍循環器(Onco-Cardiology)学を学ぼう~タスクシェア・シフト時代にマネジメントする薬剤師力の発揮~」において、腫瘍循環器領域の第一人者である向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター成人病ドック科主任部長)が「腫瘍循環器学とは?臨床現場で薬剤師に求めること」と題し、腫瘍循環器学における新たな視点について語った。がん治療の進歩で注意すべき心血管リスクも変化 がん患者の心血管リスクは、がん治療時の急性期/慢性期心毒性をピークに回復・寛解期には一度低下傾向を示す。しかし、転移・再発に対するがん治療の開始やがんサバイバーとして生き長らえる中で、潜在的心血管リスクの増悪による晩期心毒性によりリスクは再び上向きに転じることが報告1)されている。向井氏はその1つとして、28種がんのがんサバイバーの治療経過と心臓病による死亡リスクの検討2)から、がん診断後から5~10年の時点で全領域のがんサバイバー、なかでも乳がん、皮膚がん(メラノーマ)、前立腺がん患者などの死亡リスクが上昇する報告を示した。同氏は「新規薬剤によるがん治療の進歩とそれに伴う生存率上昇の反面、心毒性が増加していることが影響している」と述べ、最新のがん治療にも心血管リスクが潜んでいる点を指摘した。投与終了後の経過観察は生涯必要 がん治療による心毒性・心血管リスクの歴史は1970年代に遡る。殺細胞系抗がん剤アントラサイクリンによる心筋症が明らかになって以降、2000年代には分子標的薬のトラスツズマブにより生じる心筋症が、近年では免疫チェックポイント阻害薬による劇症心筋炎と心血管合併症が問題になっている。さらに、血管新生阻害薬(抗VEGF薬)は心毒性リスクが投与用量に比して増加し、かつ経時的に変化する特徴があり、投与初期には毛細血管攣縮による血圧上昇、数ヵ月後に毛細血管循環障害(密度希薄化)による高血圧症や尿蛋白が出現する。その後、年単位の治療が継続されることでプラーク形成による血栓症・出血が発生し、3~5年の長期治療によって心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な心血管疾患発症に至る。このような症例を実際に目の当たりにした同氏は「がん治療が進歩する一方でこれまでにない晩期合併症が増加している」と危惧した。 心毒性発症の原因は多様性を示し、がん自体の作用、心血管疾患の既往、ゲノムの関与、そしてがん治療が影響していることから、「心毒性に対し循環器医の介入はもちろんのこと実際に薬剤を扱う薬剤師も、近年頻度が増加しているがん関連血栓症や動脈硬化血管障害(虚血性心疾患)、不整脈などを幅広く理解しておく必要がある」とも述べた。がんと循環器疾患の共通点、危険因子と発症機序 がんの危険因子を列挙すると循環器疾患の危険因子との共通項目が非常に多く、たとえば、喫煙、飲酒、食塩摂取、運動不足などが挙げられる。また、がんと動脈硬化発症の機序において、腫瘍が増殖する際の血管新生に影響を及ぼすVEGFは、循環器領域ではプラーク形成にかかわる血管新生や血管内皮障害を起こす。そのほかにもがんの進展と動脈硬化の発症メカニズムには多くの共通点が指摘されており3)、同氏は「遠い存在であったがんと循環器は共通の性格を持つ疾患である」とし、「いずれも生活習慣病として、遺伝子的因子、エピジェネティク因子、環境因子、生活習慣などが原因で酸化ストレス、炎症、増殖、アポトーシス、血管新生などを生じ動脈硬化やがんに発展する。心不全や血栓症などの晩期心毒性はこれらの危険因子を抑えることで発症予防につながることが期待されている」と話した。薬剤師によるがんサバイバーへの貢献に期待 このようにがんと循環器のリスクの共通性が解明される一方、増加するがんサバイバーへの対応は現在模索中である。しかし、がん診療をがん発症予防、診断と治療計画、がん治療、がんサバイバーの4つのステージに分けて考えた時、どのステージにおいてもこれから薬剤師が活躍すると同氏は期待を寄せる。とくにがん治療が終わった後のがんサバイバーは、自分を知っていてくれるかかりつけ薬剤師に調剤薬局やドラッグストアで接することになる。そこでは、がんサバイバーが直面する晩期合併症、なかでも晩期心毒性に対応するためにがん診療における薬薬連携による情報交換と幅広い理解が求められている。 最後に同氏は「腫瘍循環器学を学び、がんと循環器の共通点を知りタスクシフト・シェア時代に対応することで、がんサバイバーの不安を軽減し支援することができるよう薬剤師の皆さまに“薬剤師力”を発揮していただきたい」と締めくくった。

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