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HER2+乳がん2次治療、HR0.28でT-DXdがPFS延長(DESTINY-Breast03)/NEJM

 トラスツズマブおよびタキサン系薬剤による治療歴のあるHER2陽性の切除不能または転移のある乳がん患者において、抗HER2抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)はトラスツズマブ エムタンシン(同:カドサイラ)と比較し、病勢進行または死亡のリスクを有意に低下させることが認められた。スペイン・International Breast Cancer CenterのJavier Cortes氏らが、世界15ヵ国169施設で実施された無作為化非盲検第III相試験「DESTINY-Breast03試験」の中間解析結果を報告した。本試験での発現率はこれまでの臨床試験に比べ数値的に低かったもののトラスツズマブ デルクステカンの投与は間質性肺疾患の発現と関連しており、著者は「臨床使用においては慎重なモニタリングが不可欠」と注意を促したうえで、「トラスツズマブ デルクステカンは、トラスツズマブとタキサン系薬剤、ならびにペルツズマブによる治療歴のあるHER2陽性転移性乳がん患者に対する有効な新しい治療薬である」とまとめている。NEJM誌2022年3月24日号掲載の報告。主要評価項目はPFS、副次評価項目はOSとORR 研究グループは、2018年7月20日~2020年6月23日に、トラスツズマブとタキサン系薬剤による治療歴のあるHER2陽性の切除不能または転移性乳がん患者524例を、トラスツズマブ デルクステカン(5.4mg/kg、3週間間隔で静脈内投与)群とトラスツズマブ エムタンシン(3.6mg/kg、3週間間隔で静脈内投与)群に、ホルモン受容体の状態(陽性または陰性)、ペルツズマブ治療歴、内臓転移の有無を層別因子として1対1の割合に無作為に割り付けた。 主要評価項目は盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存(PFS)、主要な副次評価項目は全生存(OS)、その他の副次評価項目はBICRおよび治験担当医師判定による客観的奏効率(ORR)、治験担当医師判定によるPFS、および安全性であった。トラスツズマブ デルクステカンは病勢進行または死亡のリスクを72%低下 追跡期間中央値がトラスツズマブ デルクステカン群16.2ヵ月、トラスツズマブ エムタンシン群15.3ヵ月において、PFS期間中央値はトラスツズマブ デルクステカン群は未到達、トラスツズマブ エムタンシン群は6.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.6~8.2)であった。12ヵ月時点のPFS率はそれぞれ75.8%(95%CI:69.8~80.7)、34.1%(27.7~40.5)で、病勢進行または死亡のハザード比は0.28(95%CI:0.22~0.37、p<0.001)であった。 また、12ヵ月時のOS率は、トラスツズマブ デルクステカン群94.1%(95%CI:90.3~96.4)、トラスツズマブ エムタンシン群85.9%(80.9~89.7)で、死亡に関するハザード比は0.55(95%CI:0.36~0.86、p=0.007)であり、事前に規定した有意水準(p<0.000265)を満たさなかった。 ORRは、トラスツズマブ デルクステカン群79.7%(95%CI:74.3~84.4)、トラスツズマブ エムタンシン群34.2%(28.5~40.3)であった。 全Gradeの副作用発現率は、トラスツズマブ デルクステカン群98.1%、トラスツズマブ エムタンシン群86.6%、Grade3/4の副作用発現率はそれぞれ45.1%、39.8%であった。間質性肺疾患はトラスツズマブ デルクステカン群で27例(10.5%)、トラスツズマブ エムタンシン群で5例(1.9%)に認められ、いずれもGrade3以下であった。

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抗TNFα抗体製剤治療中のIBD患者、2回目の新型コロナワクチン接種後の免疫応答が低下

 抗TNFα抗体製剤は、炎症性腸疾患(IBD)などの免疫介在性炎症性疾患の治療に頻繁に用いられる生物学的製剤の1つだ。これまで抗TNFα抗体製剤は、肺炎球菌やインフルエンザワクチン接種後の免疫応答を減弱させ、重篤な呼吸器感染症リスクを増加させることが知られていた。しかし、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)ワクチンに対するデータは不足していた。英国・Royal Devon and Exeter NHS Foundation TrustのSimeng Lin氏らは、インフリキシマブ(抗TNFα抗体製剤)またはベドリズマブ(腸管選択的抗α4β7インテグリン抗体製剤)で治療中のIBD患者において、2回目の新型コロナウイルスワクチン接種後の抗体濃度やブレークスルー感染の頻度を比較した。Nature Communications誌2022年3月16日号の報告。 研究グループは、2020年9月22日~12月23日の間に、英国の92医療機関に来院したIBD患者7,226例を連続して登録した。そのうち新型コロナウイルス感染歴のないインフリキシマブ治療中の2,279例とベドリズマブ治療中の1,031例を対象とした。被験者はファイザー製BNT162b2ワクチン、アストラゼネカ製ChAdOx1 nCoV-19ワクチンのいずれかを接種し、2回目のワクチン接種から14~70日後に抗体が測定された。 主な結果は以下のとおり。・2回目のBNT162b2ワクチン接種後、インフリキシマブ治療群はベドリズマブ治療群と比べて抗SARS-CoV-2スパイク(S)受容体結合ドメイン(RBD)抗体の幾何平均濃度(SD)が低く、半減期が短かった(566.7 U/mL[6.2]vs.4,555.3 U/mL[5.4]、p<0.0001、26.8日[95%CI:26.2~27.5]vs.47.6日[45.5~49.8]、p<0.0001)。・ChAdOx1 CoV-19ワクチンでも同様に、インフリキシマブ治療群はベドリズマブ治療群と比べて抗S RBD抗体の幾何平均濃度が低く、半減期が短かった(184.7 U/mL[5.0]vs.784.0 U/mL[3.5]、p<0.0001、35.9日[34.9~36.8]vs.58.0日[55.0~61.3]、p<0.0001)。・新型コロナウイルスのブレークスルー感染は、インフリキシマブ治療群はベドリズマブ治療群と比べて頻度が高かった(5.8%[201/3,441]vs.3.9%[66/1,682]、p=0.0039)。・ワクチン接種前に新型コロナウイルス感染歴がある患者では、治療薬にかかわらず、より高く持続した抗体レベルが認められた。 著者らは「抗TNFα抗体製剤で治療中の、リスクを有する患者においては、個々に適したワクチン接種スケジュールの検討が必要な可能性がある」と述べた。

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BRCA変異陽性高リスク早期乳がん患者への術後オラパリブ、OSも改善(OlympiA)

 生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異陽性(gBRCAm)かつHER2陰性の高リスク早期乳がん患者に対する、オラパリブ(商品名:リムパーザ)の術後投与が、全生存期間(OS)を有意に延長した。本試験(第III相OlympiA試験)の主要評価項目は無浸潤疾患生存期間(iDFS)であり、主要解析結果は、2021年の米国臨床腫瘍学会年次総会で初めて発表され、NEJM誌に同時掲載されている。今回、2022年3月16日に行われた欧州臨床腫瘍学会のバーチャルプレナリーで、OSの最新の結果が発表された。・対象:根治的局所療法および術前/術後薬物療法が完了したgBRCAmかつHER2陰性の高リスク早期乳がん患者 1,836例・試験群:オラパリブ(300mg、1日2回)を1年間投与 921例・対照群:プラセボ(1日2回)を1年間投与 915例・評価項目:[主要評価項目]ITT集団におけるiDFS[副次評価項目]遠隔無再発生存期間(DDFS)、OS、QOL、安全性など 今回発表された主な結果は以下のとおり。・OSにおいて、オラパリブはプラセボと比較し、死亡リスクを32%低下させた(ハザード比:0.68、98.5%信頼区間:0.47~0.97、p=0.009)。・3年生存率は、プラセボ群89.1% vs.オラパリブ群92.8%であった。・4年生存率は、プラセボ群86.4% vs.オラパリブ群89.8%であった。・本試験におけるオラパリブの安全性および忍容性プロファイルは、過去の臨床試験のプロファイルと一貫していた。 また、2022年3月11日、AstraZenecaおよびMerck & Co., Inc., Kenilworth, N.J., U.S.A.(北米およびカナダ以外ではMSD)は、第III相OlympiA試験の結果に基づき、オラパリブがgBRCAmかつHER2陰性の高リスク早期乳がん患者に対する術後薬物療法として、米国で承認を取得したことを発表した。

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英語で「~だとわかった」は?【1分★医療英語】第21回

第21回 英語で「~だとわかった」は?I’d like to hear about the result of the blood test...(血液検査の結果を聞きたいのですが…)It turned out that you have diabetes.(検査の結果、あなたは糖尿病だとわかりました)《例文1》It turned out that the patient has lung cancer.(その患者は肺がんに罹患しているとわかった)《例文2》The blood test has turned out/come out to be negative.(血液検査の結果は陰性でした)《解説》“turn”という動詞には、単独では「向きを変える」などの意味がありますが、“I’m turning 40 next month.”(私は来月40歳になる)の使い方のように、「ある状態になる」といった意味もあります。“turn out”で、「〜だとわかる」「〜という結果になる」という意味になりますが、ここには「予想していた結果と異なる」というニュアンスが含まれます。同様に、“The patient turned out to be allergic to dye.”(その患者は造影剤にアレルギーがあることがわかった)などのように、対象を主語にして用いることもできます。用例としては、“The chemotherapy turned out to be effective for the patient.”([予測に反して]化学療法はその患者には有効であることがわかった)、“The patient, as it turned out, hadn’t taken his insulin for the last couple of days.”(その患者は[期待に反して]、この数日間インスリンを打っていなかったことがわかった)などもあります。一方、“come out”も「何かが明らかになる」という意味があり、こちらは予測と結果の関係によらずに使うことができます。“The result has just come out.”(ちょうど結果が出たところだ)のように使われます。講師紹介

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第105回 COVID-19後の長患いの予防や治療を見つける試験が進行中

ワクチン2回接種後14日以上経ってから新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)した約3,000人(3,090人)を調べたところ、感染後の長引く症状(COVID-19後遺症)の発現率はワクチン非接種感染者に比べて41%低いことが示されました1)。COVID-19後遺症、すなわちCOVID-19以外では説明がつかない4週間を超えて続く症状があったと答えた人の割合はワクチン接種済み群では9.5%、非接種群では14.6%でした。そのようなCOVID-19後の長患いを減らすワクチン以外の手段の検討も始まっています2)。Merck & Coの飲み薬molnupiravir(モルヌピラビル)がCOVID-19患者の入院を阻止したり回復を早めたりできるかどうかの検討を含む英国オックスフォード大学主催のPANORAMIC試験3)では治療後3ヵ月と6ヵ月の経過が調べられます。試験の主眼ではありませんがそれらのデータが集まれば同剤で後遺症が生じ難くなるかどうかを知ることができそうです。Pfizerの飲み薬paxlovid(パクスロビド)の試験2つでも被験者の6ヵ月間の追跡が含まれています。比較的軽症のCOVID-19患者にもっぱら使われるそれらの抗ウイルス薬の検討のみならずCOVID-19入院患者の治療の長期の効果も調べられています。世界保健機関(WHO)主催の国際試験SOLIDARITYのヘルシンキ大学担当部分がその一つで、COVID-19治療の先駆けremdesivir(レムデシビル)で治療されたCOVID-19入院患者の1年間の追跡結果がまもなく揃うと研究者は見込んでいます。SOLIDARITY試験の他の2つの治療の追跡もなされています。1つは免疫抑制を担う抗TNF薬infliximab(インフリキシマブ)、もう1つは血管の炎症を鎮めうるチロシンキナーゼ阻害剤imatinib(イマチニブ)です。退院したCOVID-19患者の長期経過を改善しうる治療を見つけることを目指す英国での大規模試験HEAL-COVID4)では心血管標的薬2つが検討されています。1つは抗凝固薬apixaban(アピキサバン)で、もう1つは血管の炎症を鎮めると考えられているコレステロール低下薬アトルバスタチン(atorvastatin)です。退院間近の患者に試験に参加するかどうかを尋ね、退院後1年間の再入院や死亡がそれら薬剤の使用で減らせるかどうかが調べられています。退院したCOVID-19患者の再入院は少なくなく、退院後半年足らずのうちに3人に1人近い29%は再入院する羽目に陥っており、およそ8人に1人(12%)は命を落としています4,5)。COVID-19患者が入院を終えた後の死亡の最も確からしい原因は心肺系への影響であろうとHEAL-COVID試験を率いるケンブリッジ大学の集中治療医Charlotte Summers氏は述べています。シカゴ大学の呼吸器医師Ayodeji Adegunsoye氏はCOVID-19で入院して酸素投与を必要とした患者の肺に感染後だいぶ経ってから瘢痕病変・線維化組織が増えうることを観察しており、そのような患者への免疫抑制剤sirolimus(シロリムス)の試験を始めています2)。線維化を促す細胞が肺に集まるのをシロリムスが防いでくれることを同氏は期待しています。参考1)Risk of Long Covid in people infected with SARS-CoV-2 after two doses of a COVID-19 vaccine: community-based, matched cohort study. medRxiv. February 24, 20222)Can drugs reduce the risk of long COVID? What scientists know so far / Nature3)PANORAMIC / UNIVERSITY OF OXFORD4)HEAL-COVID / HEAL-COVID5)Epidemiology of post-COVID syndrome following hospitalisation with coronavirus: a retrospective cohort study. medRxiv. January 15, 2021

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経口困難になったがん末期患者のモルヒネを持続皮下注へ切り替え【うまくいく!処方提案プラクティス】第46回

 今回は、がん末期患者の服薬負担を考慮して、モルヒネの内服薬から持続皮下注へ切り替えた症例を紹介します。一度は疼痛および服薬負担が解消され、患者さんに安心していただくことができましたが…。患者情報70歳、男性(施設入居)基礎疾患咽頭がん(骨転移、肺内転移)、糖尿病、脊柱管狭窄症、末梢動脈硬化症服薬管理施設管理処方内容1.モルヒネ硫酸塩水和物徐放カプセル30mg 2カプセル 朝夕食後2.ベタメタゾン錠0.5mg 1錠 朝食後3.ランソプラゾール口腔内崩壊錠30mg 1錠 朝食後4.ジアゼパム錠2mg 3錠 毎食後5.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 毎食後6.ナルデメジントシル酸塩錠0.2mg 1錠 夕食後7.エスゾピクロン錠1mg 1錠 就寝前8.モルヒネ塩酸塩水和物内服液10mg/5mL 疼痛時 1回1包本症例のポイントこの患者さんは、咽頭がんの進行に伴う突発的な疼痛と呼吸苦がありました。レスキュー薬としてモルヒネ塩酸塩水和物内服液を5〜6回/日服用していて、痛みはNRS(Numerical Rating Scale)6〜7から3程度まで改善していました。しかし、咽頭の閉塞による通過障害があり、内服薬を服用するのが心身共に苦しいという状態が続いていました。訪問診療の前日にこれらの訴えを本人からヒアリングし、現況の痛みも服薬の苦痛も緩和したい、そして施設で最期を迎えたいという希望を確認しました。訪問看護師やケアマネジャーと注射薬への切り替えも手ではないかと話し合い、現行のオピオイド内服薬から持続皮下注へのスイッチをどのように提案するかを検討しました。オピオイドの換算<現行>ベース薬モルヒネ硫酸塩水和物徐放カプセル 60mg/日レスキュー薬モルヒネ塩酸塩水和物内服液 50〜60mg/日1日オピオイド総量目安110〜120mg/日単純な等価換算では、モルヒネ注50〜60mg/日相当となりますが、この等価換算はあくまで目安です。切り替え後のコントロール目標や副作用の懸念、24時間サイクルでの投与設計の都合で約50mg/日を提案することとしました。<切り替え提案内容:モルヒネ塩酸塩注射液48mg/日>モルヒネ塩酸塩注射液200mg/5mL 2管 10mLモルヒネ塩酸塩注射液50mg/5mL 2管 10mL生理食塩液 28mL総量48mL 0.2mL/時間、LOT15分、レスキュー0.2mL/回、10日間相当*1日量4.8mL→モルヒネ約10mg/mL<切り替えタイミング>モルヒネ硫酸塩水和物徐放カプセル 夕方服用時刻から切り替え処方提案と経過翌日の訪問診療に同行し、患者は通過障害から内服が困難な状況にあり、心身共に苦痛があることを医師に共有しました。そこで、内服薬から持続皮下注への切り替えについて意向を確認しました。医師も介護士や訪問看護師の報告から切り替えを検討していたようですが、具体的に何をどの程度投与するのがよいか頭を悩ませていたところだったそうです。上記の処方提案を文書で提示したところ、選択薬剤、用量も含めて提案の内容で始めることになりました。また、内服薬に関してはすべて中止し、持続皮下注のモルヒネのみの管理とする指示もありました。すぐに訪問看護師とPCAポンプの手配と接続時間を確認し、当日の夕方から切り替えたところ、レスキューボタンの使用回数は平均4〜5回/日で、患者さんも内服時の苦痛がなくなり安心している様子でした。しかし、切り替えから1週間経過するとせん妄が強くなりました。PCAポンプの接続チューブを自己抜去するなどの危険行動があったため中止となり、外用薬での治療コントロールに切り替えることになりましたが、切り替えの翌日にお亡くなりになりました。一度は疼痛コントロールができ、服薬の負担も解消することができましたが、せん妄について十分な管理ができず、反省点の残る事例でした。日本緩和医療学会ガイドライン統括委員会編. がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン.金原出版株式会社;2020.

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COVID-19ワクチンの免疫性神経疾患リスクを検証/BMJ

 4種の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種後には、免疫性神経疾患(Bell麻痺、脳脊髄炎、ギラン・バレー症候群、横断性脊髄炎)の安全性シグナルは認められないが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に感染したワクチン未接種者ではBell麻痺、脳脊髄炎、ギラン・バレー症候群のリスクが増大していることが、英国・オックスフォード大学のXintong Li氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年3月16日号で報告された。英国とスペインの接種者800万人以上のコホート研究 研究グループは、COVID-19ワクチン、SARS-CoV-2感染症と免疫性神経疾患の関連の評価を目的に、人口ベースのコホート研究と自己対照ケースシリーズ研究を行った(英国国立健康研究所[NIHR]などの助成による)。 解析には、英国とスペインのプライマリケア診療記録のデータが用いられた。対象は、年齢18歳以上、ワクチン接種キャンペーンの開始日(英国2020年12月8日、スペイン2020年12月27日)から、データベースの利用終了日の1週間前(英国2021年5月9日、スペイン2021年6月30日)までの期間に、COVID-19ワクチンの初回接種を受け、少なくとも1回の接種を受けた集団であった。さらに、2020年9月1日以降に初めて逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法でSARS-CoV-2陽性となったワクチン未接種者と一般人口も、解析に含まれた。 主要アウトカムは、Bell麻痺、脳脊髄炎、ギラン・バレー症候群、横断性脊髄炎とされた。アウトカムは、初回ワクチン接種から21日とSARS-CoV-2検査陽性から90日までの発生率、および一般人口における2017~19年の自然発生率が推定された。間接的標準化罹患比を用いて観測値と予測値の比較が行われ、自己対照ケースシリーズでは補正後罹患率比が算出された。 ChAdOx1 nCoV-19(Oxford/AstraZeneca製)接種者437万6,535例、BNT162b2(Pfizer/BioNTech製)接種者358万8,318例、mRNA-1273(Moderna製)接種者24万4,913例、Ad26.CoV.2(Janssen/Johnson & Johnson製)接種者12万731例と、SARS-CoV-2陽性ワクチン未接種者73万5,870例および一般人口1,433万80例が、解析の対象となった。横断性脊髄炎は解析不可能 ワクチンの初回接種を受けた参加者(年齢中央値の幅:英国56~64歳、スペイン51~62歳)は、一般人口(年齢中央値:英国48歳、スペイン47歳)よりも高齢で、英国のSARS-CoV-2感染者(年齢中央値:41歳)はワクチン接種者よりも若かった。また、ワクチン接種者は一般人口に比べ、併存疾患(自己免疫疾患、がん、糖尿病、肥満、心疾患、腎不全)の割合が高かった。 全体として、ワクチン接種後のBell麻痺、脳脊髄炎、ギラン・バレー症候群の発生率は、一般人口で予測された自然発生率と一致しており、免疫性神経疾患のリスクの増大は認められなかった。また、自己対照ケースシリーズ研究は、統計学的検出力が限定的であったためBell麻痺についてのみ行われ、どのワクチンでも安全性シグナルはみられなかった。 一方、SARS-CoV-2感染者では免疫性神経疾患の発生率が予想以上に高く、標準化罹患比は、英国ではBell麻痺が1.33(95%信頼区間[CI]:1.02~1.74)、脳脊髄炎が6.89(3.82~12.44)、ギラン・バレー症候群は3.53(1.83~6.77)であり、スペインでは、それぞれ1.70(1.39~2.08)、3.75(2.33~6.02)、5.92(3.68~9.53)であった。 横断性脊髄炎はまれで(すべてのワクチン接種コホートで5件未満)、解析は不可能だった。 著者は、「これらの知見と同様に、SARS-CoV-2感染後に免疫性神経疾患のリスクが増大したとの報告がいくつかあるが、今回の結果は、どの先行研究よりもリスクが大きかった」としている。

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抗精神病薬の選択戦略

 抗精神病薬の選択戦略と精神疾患患者の治療順守における臨床的および社会心理学的因子との関連について、ロシア・Bekhterev National Research Center for Psychiatry and NeurologyのM. Yu Sorokin氏らが調査を行った。Zhurnal Nevrologii i Psikhiatrii Imeni S.S. Korsakova誌2022年(122[1. Vyp. 2])号の報告。 本試験には、統合失調症スペクトラム障害(F20-29:67%)、気分(感情)障害(F30-39:15%)、神経症性障害およびパーソナリティ障害(F40-48+F60-69:9%)、器質性精神障害(F00-09:9%)の入院患者83例を含めた。患者の主観的な重症度を評価するVAS、locus control test、精神障がい者の内面化したスティグマ尺度(ISMI)、Treatment motivation assessment questionnaire(TMAQ)、Medication Compliance Scale(MCS)、簡易精神症状評価尺度(BPRS)、陰性症状評価尺度(SANS)、機能の全体的評定(GAF)尺度を用いて評価した。分析には、分散分析(p≦0.05)、エフェクトサイズ(Cohen's d/Cramer's V)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・使用された抗精神病薬の選択基準は、陽性症状、陰性症状、社会不適応性、自殺傾向、再発に依存していなかった。・外来での抗精神病薬の併用に対して、社会人口統計学的な差異との関連が認められた。 ●失敗体験における内面性の高さ(エフェクトサイズ:0.98) ●自己スティグマ(同:0.94) ●精神医学的固定観念の強さ(同:1.03) ●社会的自己隔離(同:1.08)・入院での非定型抗精神病薬使用との関連が認められた因子は以下のとおりであった。 ●患者の主観的重症度が軽度(エフェクトサイズ:0.7) ●医師との積極的な協力関係(同:1.08) ●成功体験における内面性の高さ(同:0.99) ●精神医学的固定観念の弱さ(同:1.19) ●社会的自己隔離(同:1.58)・持続性注射剤を選択した患者は、主に中等教育以上を受けていた(エフェクトサイズ:0.34)。 著者らは「選択された抗精神病薬の種類や剤型は、臨床的というよりも、患者の社会的および心理的因子と関連していた。持続性注射剤を含む非定型抗精神病薬の使用は、治療アドヒアランスのみならず、とくに治療に対する患者の動機付けにおける良好なプロファイルとも関連している」としている。

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早期乳がんへの術前/術後カペシタビン追加、DFSとOS改善~メタ解析

 早期乳がん(EBC)患者に対する術前/術後療法として、標準的な全身療法へのカペシタビンの追加投与が、無病生存期間(DFS)および全生存期間(OS)を改善した。ドイツ・German Breast Group(GBG)のMarion T van Mackelenbergh氏らは1万5,000例以上のEBC患者データのメタ解析結果を、European Journal of Cancer誌オンライン版3月16日号へ報告した。 clinicaltrials.govおよびpubmedにおいて、EBCに対する術前または術後療法としてのカペシタビンの使用、患者数100人以上の多施設共同無作為化試験、募集完了、主要アウトカムの評価済であることを条件に検索され、13試験が該当した。本解析の主要目的は無病生存期間(DFS)に対するカペシタビンの効果を調べることであり、副次目的は、遠隔転移DFS(DDFS)、全生存期間(OS)、病理学的完全奏効(術前補助療法としての試験)、カペシタビン関連毒性と治療効果の相互作用を分析することだった。 主な結果は以下のとおり。・15,993例のEBC患者の個々のデータが収集された。・解析対象患者全員を対象としたCox回帰分析では、カペシタビンを追加しても、カペシタビンなしの治療と比較してDFSに有意な変化は認められなかった(ハザード比[HR]:0.952、95%信頼区間[CI]0.895~1.012、p=0.115)。・他の薬剤の代わりにカペシタビンを投与した研究のサブセットでは、DFSへの影響はみられなかった(HR:1.035、95% CI:0.945~1.134、p=0.455)。・しかし、標準的な全身治療に加えてカペシタビンを投与した研究のサブセットでは、DFSが改善した(HR:0.888、95% CI:0.817~0.965、p=0.005)。・OSの改善は、コホート全体(HR:0.892、95% CI:0.824~0.965、p=0.005)およびカペシタビン追加のサブセット(HR:0.837、95% CI:0.751~0.933、p=0.001)で確認された。・サブグループ解析の結果、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の患者において、DFSおよびOSについて、カペシタビンによる治療すべて、また他の全身治療にカペシタビンを追加することの有効性が明らかになった。

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統合失調症患者の機能に対するブレクスピプラゾールの短期的および長期的効果

 米国・Zucker Hillside HospitalのChristoph U. Correll氏らは、統合失調症患者の機能に対するブレクスピプラゾールの短期的および長期的効果について評価を行った。The Journal of Clinical Psychiatry誌2022年3月1日号の報告。 次の(1)~(3)の試験データ(2011年7月~2016年2月に実施)を用いて、検討を行った。(1)入院患者を対象とした6週間のランダム化二重盲検プラセボ対照試験:3件、(2)52週間のランダム化二重盲検プラセボ対照長期試験(中間分析結果に基づき早期試験終了):1件、(3)すべての統合失調症患者(DSM-IV-TR基準)を対象とした52週間の非盲検延長試験:2件。経口ブレクスピプラゾール治療に割り当てられた患者に対するブレクスピプラゾールの投与量は、短期試験で2~4mg/日、長期試験で1~4mg/日であった。機能評価には、個人的・社会的機能遂行度尺度(PSP)および機能の全体的評定尺度(GAF)を用いた。治療反応は両尺度の10ポイント以上増加、寛解はPSPスコア71点以上またはGAFスコア61点以上と定義した。 主な結果は以下のとおり。・ブレクスピプラゾール群(831例)は、プラセボ群(490例)と比較し、ベースラインから6週目までのPSPスコアのより大きな改善が認められた(最小二乗平均差:3.20、95%信頼区間:1.82~4.58、p<0.0001、Cohen d=0.31)。PSPの4項目においても同様であった。・52週間の長期試験(早期終了に伴い完了率は低い)では、安定期統合失調症患者におけるGAFでの機能寛解の達成率は、ブレクスピプラゾール群で65.3%(95例中62例)、プラセボ群で47.1%(102例中48例)であり、NNTは6であった(95%信頼区間:4~22、p=0.0076)。・52週間の非盲検試験(177例)では、ブレクスピプラゾール群のPSPでの機能の治療反応の達成率は84.2%、寛解の達成率は41.8%であった。 著者らは「今回の大規模データセットの分析は、実薬対照群の欠如による制限は受けるものの、統合失調症患者の機能に対するブレクスピプラゾールでの短期的および長期的な臨床改善を示唆するものである」としている。

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NVAF患者における経皮的左心耳閉鎖術の有効性~初の全国規模データ(Terminator Registry)/日本循環器学会

 非弁膜症性心房細動(NVAF)患者において、長期的な抗凝固療法に代わる治療法として経皮的左心耳閉鎖術(LAAC)が世界的に行われている。ビタミンK拮抗薬と比較して、死亡率と出血イベントは有意に少なく、QOLは大きく改善されているが、欧米からのデータが中心で、日本におけるデータは十分ではない。第86回日本循環器学会学術集会(2022年3月11日~13日)で原 英彦氏(東邦大学医療センター大橋病院)が国内23施設による初の大規模観察研究TERMINATOR Registryから最初の集計結果を報告した。 2019年にLAAC用デバイス「WATCHMAN」が日本で承認され、現在はその後継となる新型デバイス「WATCHMAN FLX」が登場している。そこで本研究は、NVAFで血栓塞栓リスクの高い日本人患者を対象に、左心耳閉鎖デバイス(WATCHMAN generation-2.5、WATCHMAN FLX)によるLAACの長期実臨床成績を明らかにすることを目的に実施された。主要評価項目は死亡、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、後遺症を残す脳卒中、全身性塞栓症または開心術や重大な血管内インターベンションを要する左心耳閉鎖デバイスもしくは手技関連事象とされた。 主な結果は以下の通り。・2019年9月~2021年8月に各施設でLAACを受けた743例が対象。平均年齢:74.9(±8.8)歳、持続性/永続性心房細動:61.9%、平均CHA2DS2スコア:3.2(±1.2)、平均CHA2DS2-VAScスコア:4.7(±1.5)、平均HAS-BLEDスコア:3.4(±1.0)、Clinical Frailty Scale:3.4(±1.3)、DOACの不適切低用量処方が11.2%で確認された。・植込み成功率は98.9%、4.2%でデバイスリリースの基準であるPASSクライテリアを満たしていなかった。37.3%でpartial recaptureが行われた。・術後の有害事象については、心タンポナーデ:0.9%、心嚢液貯留:1.1%、デバイス脱落:0.2%、仮性動脈瘤:0.1%と全体的に低発生率だった。・デバイスごとの留置手技時間はWATCHMAN gen2.5:53±36分、WATCHMAN FLX:57±30分とほぼ同等で、両デバイスとも30mm以上のサイズが多く使用されていた。・死亡(原因不明)は0.9%、脳卒中は2.2%、出血イベントは5.7%、デバイス関連血栓(DRT)は2.8%で発生。ただし、DRTによる脳卒中はすべてmRS<2であった。・経口抗凝固薬の使用量は、退院時と比較し45日後には減少し、6ヵ月後にはさらに減少していた。 原氏は日本におけるLAACのリアルワールドデータは高い成功率を示し、6カ月間のフォローアップデータにおいてDRTなどの有害事象は他の研究と同等の低い発生率を示したとして、今後はより長期のフォローアップにより、この治療法が心房細動による心原性脳塞栓症を防ぎ、かつ出血イベントを減らすことができるかどうかを示していく必要があるとした。

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HER2+乳がんへの術後化学療法+トラスツズマブへのペルツズマブ追加、N-でベネフィットのある患者は?(APHINITY)

 APHINITY試験はHER2陽性乳がんの術後化学療法+トラスツズマブへのペルツズマブの上乗せを検証した第III相試験で、HER2陽性乳がん患者全体とリンパ節転移のある患者で無浸潤疾患生存(iDFS)が大幅に改善することが報告されている。今回、米国・ダナファーバーがん研究所のRichard D. Gelber氏らは、リンパ節転移陰性(N-)でペルツズマブ追加によるベネフィットが得られるサブグループ、リンパ節転移陽性(N+)でde-escalationを考慮すべきサブグループについて検討した。European Journal of Cancer誌オンライン版2022年3月18日号に掲載。 著者らは、STEPP(subpopulation treatment effect pattern plot:サブグループ別治療効果パターンプロット)を用いて、臨床的複合リスクスコア、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の割合、HER2コピー数(FISH)によるサブグループについて、全体およびリンパ節転移の有無別に、6年iDFS率のカプラン-マイヤー差(ペルツズマブ群-プラセボ群:Δ±SE)を推定した。 その結果、6年iDFS率の絶対増加の平均は、患者全体で2.8±0.9、N+患者で4.5±1.2、N-患者で0.1±1.1だった。増加が最大だったのは、臨床的複合リスクが中等度(全体:5.3±1.9、N+:6.9±2.3、N-:4.0±3.0)、TILの割合が最大(全体:6.3±1.7、N+:7.4±2.4、N-:3.2±1.7)、HER2コピー数が中等度(全体:2.8±1.9、N+:7.4±2.5、N-:-1.3±1.9)の患者だったが、サブグループ別治療効果の異なったパターンを示す明らかなエビデンスはなかった。 今回の検討では、N-におけるSTEPPでペルツズマブ追加によって明らかにベネフィットがあるサブグループを特定できず、N+におけるSTEPPでde-escalationが妥当なサブグループを特定できなかった。臨床的複合リスクスコアよりTILの割合のほうが、ペルツズマブの治療効果を予測できるようであった。

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コロナワクチンの有効性、AZ製vs.ロシア製vs.中国製/Lancet

 アルゼンチンにおいて使用された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する3種類のワクチンは、いずれもSARS-CoV-2感染とCOVID-19による死亡を減少させ有効であることが認められた。アルゼンチン保健省のAnalia Rearte氏らが、60歳以上を対象とした診断陰性デザイン(test-negative design)による症例対照研究の結果を報告した。アルゼンチンでは、2021年1月よりrAd26-rAd5(Sputnik製)、ChAdOx1 nCoV-19(AstraZeneca製)およびBBIBP-CorV(Sinopharm製)を用いたCOVID-19ワクチン接種キャンペーンが開始されていた。Lancet誌オンライン版2022年3月15日号掲載の報告。2021年1月~9月に報告された60歳以上のCOVID-19疑い約128万例を解析 研究グループは、2021年1月31日~9月14日にNational Surveillance System(SNVS 2.0)に報告された60歳以上のCOVID-19疑い例を登録し、RT-PCR検査でSARS-CoV-2感染が確認された患者を症例、確認されなかった患者を対照として、3種類のCOVID-19ワクチン(rAd26-rAd5、ChAdOx1 nCoV-19、BBIBP-CorV)の有効性を評価する診断陰性デザインを用いた症例対照研究を行った。ワクチン未接種者は登録可能とし、ワクチン接種プログラム開始前に発症したCOVID-19疑い例は除外した。 SARS-CoV-2感染のオッズ比(OR)はロジスティック回帰モデルで評価し、RT-PCR検査でCOVID-19と確認された患者の死亡リスクは補正後の比例ハザード回帰モデルを用い、交絡因子(症状発現日の年齢、性別、居住地域、症状発現日の疫学週、COVID-19既往有無)を補正して評価した。また、感染および死亡の推定値を組み合わせ、COVID-19による死亡に対するワクチンの予防効果を間接的に評価した。さらに、ウイルスベクターワクチンの1回目接種の経時的な有効性も評価した。 解析対象は計128万2,928例で、そのうちrAd26-rAd5解析が68万7,167例(53.6%)、ChAdOx1 nCov-19解析が35万8,431例(27.6%)、BBIBP-CorV解析が23万7,330例(18.5%)であった。死亡への2回接種の有効率、ロシア製93.1%、AZ製93.7%、中国製85.0% 2回接種による感染予防効果は3種類のワクチンすべてで高く、補正後ORはrAd26-rAd5で0.36(95%信頼区間[CI]:0.35~0.37)、ChAdOx1 nCoV-19で0.32(0.31~0.33)、BBIBP-CorVで0.56(0.55~0.58)であった。 2回接種による死亡予防効果は、感染予防効果より高く、補正後ハザード比(HR)はrAd26-rAd5で0.19(95%CI:0.18~0.21)、ChAdOx1 nCoV-19で0.20(0.18~0.22)、BBIBP-CorVで0.27(0.25~0.29)であった。死亡に対する間接的なワクチン2回接種の有効率は、rAd26-rAd5で93.1%(95%CI:92.6~93.5)、ChAdOx1 nCoV-19で93.7%(93.2~94.3)、BBIBP-CorVで85.0%(84.0~86.0)であった。ウイルスベクターワクチンの1回目接種後の有効性は、経時的に安定していた。

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乳がんサバイバーの倦怠感、長期的な経過の特徴/JCO

 早期乳がん1次治療後の倦怠感の長期的な経過は個人差が大きい。フランス・Gustave RoussyのInes Vaz-Luis氏らが乳がんサバイバーにおける倦怠感の長期的な経過の特徴を調査した結果から、がん関連の倦怠感の多次元的な性質とその危険因子の複雑さが示唆された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2022年3月15日号に掲載。 本研究は、2012~15年に治療を受けたStage I~IIIの乳がん患者を対象とした全国的な大規模前向き研究(CANcer TOxicity)を使用して、倦怠感に関する詳細な縦断的解析を実施した。倦怠感は、診断時、診断後1、2、4年に調査し、ベースラインでの臨床的、社会人口統計学的、行動的、腫瘍関連、治療関連の特徴を入手した。 調査の結果、総合的倦怠感が重度だった4,173例において、その経過について3つの群が特定され、各群の重度の総合的倦怠感のリスク推定値は以下のとおりであった。1)持続的にリスクが高い群:患者の21% 診断時94.8%(95%CI:86.6〜100.0)、4年後64.6%(95%CI:59.2〜70.1)2)リスクが悪化する群:患者の19% 診断時13.8%(95%CI:6.7~20.9)、4年後64.5%(95%CI:57.3~71.8)3)リスクが低いままの群:患者の60% 診断時3.6%(95%CI:2.5~4.7)、4年後9.6%(95%CI:7.5~11.7) また、重度の身体的倦怠感、重度の精神的倦怠感、重度の認知疲労的倦怠感では、社会人口学的要因、臨床的要因、治療関連要因の影響は異なり、重度の総合的倦怠感とは分類が異なった。リスクが悪化する原因としては、うつ病などの感情的な苦痛、ホルモン療法などが示唆された。 著者らは「本研究の結果は、重度の倦怠感のリスクが高い早期乳がん患者を特定し、個別の介入を促進することに役立つ」としている。

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90日超のVTE経口抗凝固療法、最適薬は?/JAMA

 静脈血栓塞栓症(VTE)で入院後に長期経口抗凝固療法を受けた患者の探索的解析において、90日超の処方・投与についてアピキサバン(商品名:エリキュース)はワルファリンと比較して、再発VTEによる入院の発生割合をわずかだが有意に低下した。一方で、大出血による入院の発生割合に有意差はなかった。また、アピキサバンvs.リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)またはリバーロキサバンvs.ワルファリンのいずれの比較においても有意差はなかったという。米国・ブリガム&ウィメンズ病院/ハーバード大学医学大学院のAjinkya Pawar氏らが検討結果を報告した。VTE治療ガイドラインでは、経口抗凝固薬を用いた治療は90日以上と推奨されているが、90日超の継続投与での最適な薬剤に関するエビデンスは限定的であった。JAMA誌2022年3月15日号掲載の報告。アピキサバンvs.リバーロキサバンvs.ワルファリンの探索的解析 研究グループは、再発VTE、大出血による入院、および死亡のアウトカムについて、抗凝固療法開始90日後のアピキサバン、リバーロキサバン、ワルファリンの処方・投与を比較する探索的後ろ向きコホート試験を行った。fee-for-service Medicare(2009~17年)および2つの民間健康保険(2004~18年)のデータベースを用い、VTEで入院・退院後に経口抗凝固療法を開始し90日超の投与が継続された成人6万4,642例を対象に、VTE治療開始90日後の処方薬アピキサバン、リバーロキサバン、ワルファリンについてアウトカムを比較した。 主要アウトカムは、再発VTEによる入院、大出血による入院で、傾向スコア重み付け法にて補正を行い解析した。患者は90日間の治療後も、治療中止、アウトカム発生、死亡、試験登録抹消またはデータが入手できる限り、エピソードの追跡を受けた。重み付けCox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推算し評価した。再発VTE入院についてのみ、アピキサバン群vs.ワルファリン群で有意差 試験には、アピキサバン群9,167例(平均年齢71[SD 14]歳、女性5,491例[59.9%])、リバーロキサバン群1万2,468例(69[14]歳、7,067例[56.7%])、ワルファリン群4万3,007例(70[15]歳、2万5,404例[59.1%])が包含された。 再発VTEに関する追跡期間中央値は109(IQR:59~228)日間、大出血に関しては同108(58~226)日間であった。 傾向スコア重み付けで補正後、再発VTE入院の発生率について、アピキサバン群はワルファリン群と比較して有意に減少したが(9.8 vs.13.5/1,000人年、HR:0.69[95%CI:0.49~0.99])、リバーロキサバン群とでは有意差は認められなかった(9.8 vs.11.6、0.80[0.53~1.19])。また、リバーロキサバン群とワルファリン群で有意差はなかった(11.6 vs.13.5、0.87[0.65~1.16])。 大出血入院の発生率は、アピキサバン群44.4/1,000人年、リバーロキサバン群50.0/1,000人年、ワルファリン群47.1/1,000人年で、アピキサバン群vs.ワルファリン群のHR(95%CI)は0.92(0.78~1.09)、アピキサバン群vs.リバーロキサバン群では0.86(0.71~1.04)、リバーロキサバン群vs.ワルファリン群では1.07(0.93~1.24)であった。

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関節型若年性特発性関節炎〔pJIA:Polyarticular Juvenile Idiopathic Arthritis〕

1 疾患概要■ 定義・分類若年性特発性関節炎(JIA)は16歳未満に発症し6週間以上持続する原因不明の慢性関節炎の総称である。発症から6ヵ月までの臨床像から、(1)全身型、(2)少関節炎、(3)rheumatoid factor(RF)陰性多関節炎、(4)RF陽性多関節炎、(5)乾癬性関節炎、(6)腱付着部炎関連関節炎、(7)分類不能型の7病型に分類され1)、また治療の視点から、全身型、関節型、症候性の3つに整理されている(図1)。図1 JIAの病型分類と関節型JIAの位置付け画像を拡大する6歳未満に発症した原因不明の慢性関節炎は、発症から6ヵ月以内の臨床症状や検査所見から7病型に分類される。また、治療の観点から、全身型JIA、関節型JIA、症候性JIAの3つに分類するが、このうち関節型JIAとは、主に少関節炎JIA、RF陰性およびRF陽性多関節炎JIAを指し、全身型JIAで発症し、全身症状が消退しても関節炎が遷延するものも含まれる。関節型JIAとは、主に(2)少関節炎JIAと(3)RF陰性および(4)RF陽性多関節型JIAの3病型を指す。少関節炎JIAと多関節炎JIAは炎症関節の数で区分されており、前者は4関節以下、後者は5関節以上と定義されている。また、(1)全身型JIAの約20%は、その後、全身症状(発熱、皮疹など)を伴わず関節炎が遷延する経過をとるため(全身型発症多関節炎)、関節型JIAに含められている。■ 疫学わが国のJIAの有病率は小児10万人当たり8.8~11.6と報告され、推定患者数は2,893人である。また、JIAの病型の比率2)は、全身型41.2%、少関節炎20.2%、RF陰性多関節炎13.7%、RF陽性多関節炎18.2%であることから、関節型JIAの患者数は約1,700人程度と推定される。■ 病因関節型JIAの病因は不明であるが、抗核抗体陽性例が多い少関節炎JIAやRF陽性多関節炎JIAは自己免疫疾患の1つと考えられている。また、後述する生物学的製剤biologic disease modifying anti-rheumatic drugs(bDMARDs)の有効性から、関節型JIAの病態形成にTNFやIL-6などの炎症性サイトカインや、T細胞活性化が関与していることは明らかである。■ 症状1)関節症状関節は腫脹・発赤し、疼痛やこわばり、痛みによる可動域制限を伴う。関節炎は、少関節炎JIAでは大関節(膝、足、手)に好発し、多関節炎JIAではこれに小関節(指趾、頸椎など)が加わる。しかし、小児では本人からの関節症状の訴えは少ない。これは小児では痛みを具体的に説明できず、痛みを避ける動作や姿勢を無意識にとっているためと考えられる。そのため、起床時の様子や午前中の歩行容姿、乳児ではおむつ交換時の激しい啼泣などから、保護者が異常に気付くことが多い。2)関節外症状関節症状に倦怠感や易疲労感を伴う。関節症状と同様、倦怠感は起床時や午前中に強いが、午後には改善して元気になる。そのため、学校では午前中の様子をさぼりや無気力と誤解されることがある。微熱を伴うこともあるが高熱とはならず、皮疹もみられない。少関節炎JIAを中心に、JIAの5~15%に前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)がみられる。関節炎発症から6年以内に発症することが多く、発症リスクとして、4歳未満発症と抗核抗体陽性が挙げられている。また、発症早期には自覚症状(眼痛、羞明)に乏しい。そのため、早期診断には眼症状がなくても定期的な眼科検診が欠かせない。■ 予後適切な治療により長期寛解が得られれば、JIAの約半数は無治療寛解(off medication寛解)を達成する。ただその可能性は病型で異なり、少関節炎JIAやRF陰性多関節炎では過半数が無治療寛解を達成するが、RF陽性多関節炎JIAや全身型発症多関節炎JIAでは、その達成率は低い(図2)。完治困難例の関節予後は不良であり、不可逆的な関節破壊による機能障害が進行し、日常生活に支障を来す。しかし、わが国では2008年にJIAに対する最初のbDMARDsが認可され、今後は重篤な機能障害に至る例は減少することが期待されている。少関節炎JIAに好発するぶどう膜炎は治療抵抗性であり、ステロイド点眼で寛解しても減量や中止後に再燃を繰り返す。そのため、眼合併症(帯状角膜変性、白内障、緑内障など)が経過とともに顕在化し、視機能が障害される。ぶどう膜炎についても、2016年にbDMARDsの1つであるアダリムマブ(adalimumab:ADA)が非感染性ぶどう膜炎で認可され、予後の改善が期待されている。図2 JIAの病型別累積無治療寛解率画像を拡大する鹿児島大学小児科で治療した全身型89例および多関節型JIA196例、合計285例のうち、すべての治療を中止し、2年間寛解状態を維持したものを、無治療寛解と定義し、その累積達成率を病型毎に検討した。その結果、JIA285例全体の累積無治療寛解率は罹病期間5年で33.1%であったが、病型別の達成率では、RF陽性多関節炎JIAと全身型発症多関節型JIAで低値であった。* 全身型で発症し、全身症状消失後も関節炎が遷延する病型**全身型で発症し、疾患活動期には関節炎と全身症状を伴う病型2 診断 (検査・鑑別診断も含む)持続する原因不明の関節炎がJIAの必須要件であるが、特異的な所見に乏しいために診断基準は確立されていない。したがって、臨床症状や検査所見を参考にJIAの可能性を検討し、鑑別疾患を除外して初めて診断される。■ 臨床症状関節炎は固定性・持続性で、しばしば倦怠感や易疲労性を伴う。関節症状(関節痛、こわばり感)は起床時や朝に強く、時間とともに改善する。高熱や皮疹はみられない。■ 検査所見抗環状シトルリン化ペプチド抗体(anti-cyclic citrullinated peptide antibody :ACPA)が陽性であればRF陽性多関節炎JIAの可能性が高い。一方RFは、RF陽性多関節炎JIAでは必須であるが、他のJIA病型では陰性であり、むしろシェーグレン症候群や混合性結合組織病での陽性率が高い。したがって、ACPAやRFが陰性でもJIAを否定できず、少関節炎JIAやRF陰性多関節炎JIAの可能性を検討する必要がある。MRIや関節エコー検査における肥厚した関節滑膜や炎症を示唆する所見は、関節型JIAの早期診断に有用であるが、JIAに特異的な所見ではない。一方、X線検査による関節裂隙の狭小化や骨糜爛などの破壊像はJIAに特異性が高いものの、早期診断には役立たない。MMP-3の増加は関節炎の存在や関節破壊の進行予知に有用である。しかし、健康幼児のMMP-3はほとんどが測定感度以下であるため、正常値であっても慎重に判断する。また、MMP-3の評価にはステロイドの影響を除外する必要がある。■ 鑑別疾患小児の関節痛に対する鑑別疾患を、疼痛部位や臨床経過、随伴症状、検査所見を含めて図3に示す。図3 疼痛部位や経過、臨床所見からみた小児の関節痛の鑑別疾患画像を拡大する年齢別には、乳幼児では悪性疾患(白血病)や自己炎症性疾患、年長児では他の膠原病やリウマチ性疾患、線維筋痛症、悪性疾患(骨肉腫)などを中心に鑑別する。一方、感染症や若年性皮膚筋炎との鑑別は全年齢にわたって必要である。関節炎に発熱や皮疹を伴う場合は、皮膚筋炎や全身性エリテマトーデスなどの膠原病疾患だけでなく、全身型JIAやブラウ症候群などの自己炎症性疾患を鑑別する。特に白血病や悪性疾患については、JIAとして治療を開始する前に除外しておくことは重要である。白血病を含む小児腫瘍性疾患1,275例を検討した報告では、発症時に関節炎を伴う例が102例(8%)存在し、これを関節型JIA 655例と比較したところ、「男児」、「単関節炎」、「股関節炎」、「全身症状」、「夜間痛や背部痛」が悪性疾患のリスク所見であった。特に白血病の初期は末梢血が正常であることが多く、骨髄検査で除外しておくことが必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療目標関節型JIAの治療目標は関節炎病態に寛解を導入し、破壊性関節炎の発生や進行を抑止することである。一方、JIAの約半数は、治療寛解を長期維持した後に治療中止が可能で、その後も再燃せずに無治療寛解を維持する(図2)。そのため、関節型JIAにおいても、その最終的な治療目標は永続性のある無治療寛解(完治cure)であり、この点がRAとの最も大きな違いである。■ 治療評価1)診察時の評価関節痛や倦怠感、朝のこわばりの持続時間などで評価する。小児では訴えが不明確で評価が難しため、保護者からもたらされる日常生活の情報(歩行容姿や行動量などの変化)が参考になる。理学所見では、活動性関節炎(関節腫脹や圧痛)の数や、関節可動域の変化で評価する。検査では、炎症指標(CRP、赤沈、血清アミロイドA)やMMP-3、関節エコー所見などが参考になる。2)疾患活動性の総合評価27関節を評価するJuvenile Arthritis Disease Activity Score(JADAS)27が臨床評価に用いられている(図4)3)。RAで用いられるDAS28と異なり、少関節炎JIAで好発する足関節炎の評価が可能である。JADAS27の評価項目はVisual analog scale (VAS、0-10cm)による(1)医師および(2)患児(または保護者)の評価、(3)活動性関節炎数(0-27)、(4)標準化赤沈値([1時間値-20]/10、0-10)の4項目からなり、その合計スコア値(0-57)で評価する。なお、活動性関節炎とは、関節の腫脹または圧痛がある関節、圧痛がない場合は伸展屈曲負荷をかけた際に痛みがある関節と定義されている。また、JADAS27から標準化赤沈値を除いたスコア値を用いて、疾患活動性を寛解、低度、中等度、高度の4群にカテゴリー化するcut-off値も定義されている。3)寛解の種類と定義臨床寛解(clinical inactive disease)の定義は、(1)活動性関節炎、(2)活動性のぶどう膜炎、(3)赤沈値およびCRP値の異常、(4)発熱、皮疹、漿膜炎、脾腫、リンパ節腫脹がなく、(5)医師による総合評価が最小値で、(6)朝のこわばりが5分以下の6項目をすべて満たした状態である。また、この臨床寛解を治療により6ヵ月以上維持していれば治療(on medication)寛解、治療中止後も1年以上臨床寛解を維持していれば、無治療(off medication)寛解と分類される。図4 JADASを用いた関節型JIAの疾患活動性評価画像を拡大する医師および患児(または保護者)による総合評価、活動関節炎数、標準化赤沈値の集計したスコア値で疾患活動性を評価する。JADASには評価関節の数により、JADAS71、JADAS27、JADAS10の3つがあるが、臨床現場ではJADAS27が汎用されている。JADAS27では、DAS28で評価しない頸椎、両股関節、両足関節を評価する一方、DAS28で評価する両側の4-5MP関節、両肩関節は評価しない。疾患活動性を寛解、低活動性、中等度活動性、高度活動性の4群に分類する場合、標準化ESR値を除いた3項目の合計スコア値を用いる。その際のスコア値は、関節炎数が4関節以下の場合は、それぞれ0~1、0~1.5未満、1.5~8.5未満、8.5以上、関節炎数が5関節以上の場合は、それぞれ0~1、0~2.5未満、2.5~8.5未満、8.5以上と定義されている。■ 治療の実際(図5)4)関節型JIAの3病型のいずれも、以下の手順で治療を進める。また、治療開始後の臨床像の変化を、症状、理学所見、検査値、関節エコー、JADAS27などで評価し、治療の有効性と安全性を確認しながら治療を進める。図5 関節型JIAの治療手順画像を拡大する治療目標は無治療寛解である。予後不良因子のあるhigh risk群では、初期治療からNSAIDsにcsDMARDs(第1選択薬はMTX)を併用し、無効であれば生物学的製剤bDMARDsの追加併用を検討する。1)初期治療(1)1stステップ関節痛に対し、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を開始するとともに、予後不良因子(RF、ACPA、関節破壊像、日常生活に重要な頸椎・股・手関節などの関節炎)の有無を検討する。JIAに保険適用のあるNSAIDsは、イブプロフェン(30~40mg/kg/日、分3、最大2,400mg/日)とナプロキセン(10~20mg/kg/日、分2、最大1,000mg/日)に限られている。また、NSAIDsで疼痛コントロールが不十分でQOLが著しく低下している場合、少量ステロイド薬(glucocorticoid:GC)を併用することがある。ただ、GCはその強い抗炎症作用でCRP値や関節痛を改善させても、関節炎病態を寛解させない。そのためGCは2ndステップの治療効果が確認されるまでの橋渡し的な使用に限定すべきであり、漫然と継続してはならない。予後不良因子がある場合は、速やかに2ndステップの治療を開始する。予後不良因子がない場合はNSAIDsのみで経過を診るが、2週間経過しても改善が得られなければ、2ndステップの治療に移行する。(2)2nd ステップ従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(conventional synthetic disease modifying anti-rheumatic drugs:csDMARDs)をNSAIDsに追加併用する。第1選択薬はメトトレキサート(methotrexate:MTX)であり、globalな標準投与量は有効血中濃度(ピーク値5.8×10-7moles/L以上)が得られる10~15 mg/m2/週(分1、空腹時投与)である5)。しかし、わが国でのJIAでの承認投与量は4~10mg/m2/週であるため、MTX10mg/m2を週1回、空腹時に分1で投与するのが一般的な投与法である。また、副作用軽減を目的にフォリアミン5mgをMTX投与翌日に投与する。このMTXの投与量10mg/m2は、平均的な体格の小学生1年生で8mg、中学生1年生で15mgに相当する。RAでの上限投与量が16mgであることを考えれば、成人より相対的に高用量であるが、これは小児では、MTXの腎排泄が成人と比べて早いためである。そのため、小児では腎障害や骨髄抑制の発生は少ない。また、高齢者に多いMTXによる肺障害も極めてまれである。小児での主な副作用は嘔気や気分不良で、中学生以降の年長児ではほぼ必発である。そのため、訴えの強い小児では制吐剤の併用、就寝前の服用、剤型の変更などを検討する。なお、DMARDsには既感染の結核やB型肝炎ウイルス(HBV)を再活性化させる可能性がある。そのため、投与開始前に結核(T-spotや胸部Xp/CT)やHBV関連抗原/抗体(HBsAg、HBsAb、HBcAb)の検査を行って感染の有無を確認する。また、トキソプラズマやサイトメガロウイルス、ニューモシスチス肺炎や他の真菌感染症(β-D-glucan)の有無を検討しておくことも必要である。MTX開始後2ヵ月経過しても十分な効果が得られない場合、MTXを他のcsDMARDs (サラゾスルファピリジン[sulfasalazine]やイグラチモド[iguratimod/商品名:ケアラム]など)へ変更する選択肢もある。しかし、海外でその推奨度は低く、またcsDMARDsの効果発現までさらに数ヵ月を要すること、わが国ではJIAに保険適用のあるcsDMARDsはMTX以外にはないこともあり、他のcsDMARDsへの変更は現実的ではない。したがって、次の治療ステップである生物学的製剤(bDMARDs)の追加併用を検討する。(3)3rdステップ関節型JIAに保険適用のあるbDMARDsは、TNF阻害薬のエタネルセプト(Etanercept :ETA)とアダリムマブ(Adalimumab:ADA)、IL-6阻害薬のトシリズマブ(Tocilizumab :TCZ/同:アクテムラ)、T細胞選択的共刺激調整剤のアバタセプト(Abatacept:ABT/同:オレンシア)の4製剤のみである(表)。表 関節型JIAに保険適用のある生物学的製剤画像を拡大するa)TNF阻害薬ETNはTNF受容体(TNF-R2)とヒトIgG1Fcとの融合蛋白製剤であり、血中のTNFα/βと結合することで標的細胞表面上のTNF R2との結合を阻害し、TNFによる炎症誘導シグナルの伝達を抑制する。半減期が短く、0.4mg/kgを週2回皮下注で投与する。JIAで認可された剤形はETNを凍結乾燥させたバイアル製剤のみであり、家族が投与前に溶解液を調合する必要があった。その後、2019年にETN注射液を容れた目盛付きシリンジ製剤(同:エタネルセプトBS皮下注シリンジ「TY」が、また2022年にはエタネルセプトBS皮下注シリンジ「日医工」)がバイオシミラー製剤としてJIAで保険適用を取得し、利便性が向上した。ADAはTNF-αに対する完全ヒト型モノクローナル抗体で、中和抗体として標的細胞上のTNFα受容体へのTNF結合を阻害する。また、TNF産生を担う活性化細胞膜上に発現したTNFαとも結合し、補体を介した細胞傷害性(ADCC)によりTNF産生を抑制する。投与量は固定量で、体重30kg未満では20mgを、体重30kg以上では40mgを、2週毎に皮下注で投与する。わが国のJIA375例を対象とした市販後調査では、投与開始24週後のDAS寛解(DAS28-4/ESR<2.6)達成率は、治療開始時の21.7%から74.7%に増加し、また難治性のRF陽性多関節炎JIAや全身型発症多関節炎JIAにおいても、それぞれ61.9%、80.0%まで増加した。この市販後調査は、前向きの全例調査であることから、臨床現場(real world)での治療成績と考えられる。b)IL-6阻害薬TCZはIL-6受容体に対するヒト化モノクローナル抗体である。細胞膜上のIL-6受容体および流血中のsoluble IL-6受容体と結合し、IL-6のシグナル伝達を阻害し、炎症病態を制御する。4週ごとにTCZ 8mg/kgを点滴静注で投与する。RAに保険適用のある皮下注製剤や、TCZと同じ作用機序をもつサリルマブ(sarilumab/同:ケブザラ)はJIAでは未承認である。多関節型JIA132例を対象とした市販後調査(中間報告)では、投与開始28週後の医師による全般評価は、著効53%、有効42%であり、あわせて90%を超える例が有効と判断された。また、投与前と投与28週後の関節理学所見の変化を57例で検討すると、疼痛関節数(平均)は5.3から1.5へ、腫脹関節数(平均)は5.6から1.6へ減少し、赤沈値も32mm/時間から5mm/時間へと改善した。c)T細胞選択的阻害薬ABTはcytotoxic T lymphocyte associated antigen-4(CTLA-4)とヒトIgG1-Fcとの融合蛋白(CTLA-4-Ig)であり、抗原提示細胞(antigen presenting cell:APC)のCD80/86と強力に結合する。そのため、APCのCD80/86とT細胞のCD28との結合で得られる共刺激シグナルが競合的に遮断され、T細胞の過剰な活性化が抑制される。1回10mg/kgを4週ごとに点滴静注で投与する。皮下注製剤はJIAでは未承認である。1剤以上のcsDMARDに不応な関節型JIA190例を対象とした海外での臨床試験では、ACRpedi 50/70/90改善の達成率は投与4ヵ月時点でそれぞれ50/28/13%であった。また、引き続き行われた6ヵ月間のdouble blind期間においてABT群はプラセボ群と比較して有意な寛解維持率を示した。さらにその後の長期投与試験では、4年10ヵ月の時点でのACRpedi 50/70/90改善達成率はそれぞれ34/27/21%であり、有効性の長期継続が確認された。2)bDMARDs不応例の治療bDMARDs開始後は、その有効性と安全性を監視する。初めて導入したbDMARDsの投与開始3ヵ月後のDAS28が2.49以下であれば、2年以上の寛解が期待できるとした報告がある。しかし、臨床所見やJADASやDAS28スコアの改善が不十分で、bDMARDs不応と思われる場合は、治療変更が必要である。その際は、作用機序の異なる他のbDMARDsへのスイッチが推奨されている。Janus kinase(JAK)阻害薬は、分子標的合成(targeted synthetic:ts)DMARDsに分類され、bDMARDs不応例に対するスイッチ薬の候補である。JAKは、IL-2、 IFN-γ、IFN-αs、IL-12、IL-23、IL-6などの炎症性サイトカインの受容体に存在し、ATPと結合してそのシグナルを伝達する。JAK阻害薬はこのATP結合部位に競合的に結合し、炎症シグナル伝達を多面的に阻害することで抗炎症作用を発揮する。また、低分子化合物であるため内服で投与される。Rupertoらは、多関節炎JIA225例(関節型JIA184例、乾癬性関節炎20例、腱付着部炎関連関節炎21例)を対象にトファシニチブ(tofacitinib:TOF/同:ゼルヤンツ)の国際臨床試験を行った。まず18週にわたりTOF5mgを1日2回投与し、ACR30改善達成例を実薬群72例とプラセボ群70例の2群に分け、その後の再燃率を44週まで検討した。その結果、TOF群の再燃率は29%と低く、プラセボ群の53%と有意差を認めた(hazard比0.46、95%CI 0.27-0.79、p=0.0031)。現在、JIAに保険適用のあるJAK阻害薬はないが、バリシチニブ(baricitinib)の国際臨床試験がわが国でも進行中である。4 今後の展望疫学研究では、JIAを含む小児リウマチ性疾患の登録が進められている(PRICURE)。臨床研究では、前述のように関節型JIAに対するJAK阻害薬のバリシチニブの国際臨床試験が進行中である。5 主たる診療科小児科であるが、わが国の小児リウマチ専門医は約90名に過ぎず、また専門医のいる医療機関も特定の地域に偏在している。そのため、他の領域に専門性を持つ多くの小児科専門医が、小児リウマチ専門医と連携しながら関節型JIAの診療に携わっている。日本小児リウマチ学会ホームページの小児リウマチ診療支援MAPには、小児リウマチ診療に実績のある医療機関が掲載されている。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本小児リウマチ学会 小児リウマチ診療支援MAP(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 若年性特発性関節炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児リウマチ性疾患国際研究組織(PRINTO)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報JIA家族会「あすなろ会」(患者とその家族および支援者の会)1)Petty RE, et al. J Rheumatol. 2004;31: 390-392.2)武井修治,ほか. 小児慢性特定疾患治療研究事業の登録・管理・評価・情報提供に関する研究, 平成19年度総括・分担研究報告書2008.2008.p.102-111.3)Consolaro A, et al. Arthritis Rheum. 2009;61:658-666.4)小児リウマチ調査検討小委員会. 全身型以外の関節炎に対する治療、若年性特発性関節炎初期診療の手引き2015. メディカルレビュー社;2015.p.59-66.5)Wallace CA, et al. Arthritis Rheum. 1989;32:677-681.公開履歴初回2022年3月23日

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初発統合失調症の抗精神病薬早期減量に伴う治療中止や入院リスク

 初回エピソード統合失調症患者に対する抗精神病薬の早期減量が、治療中止や精神科入院リスクに及ぼす影響について、韓国・蔚山大学校のSung Woo Joo氏らが調査を行った。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2022年3月1日号の報告。 対象は、韓国・Health Insurance Review Agencyデータベースを用いて抽出された初回エピソード統合失調症患者1万6,153例。診断後6ヵ月時点での減量幅により3群に分類した(非減量群、50%以下減量群、50%超減量群)。非減量群を参照群とし、診断6ヵ月後より1年間のフォローアップ期間中における抗精神病薬の減量に関連する治療中止および精神科入院リスクを評価するため、最初の3ヵ月間の1日平均オランザピン換算量(10mg未満、10~20mg、20mg超)で層別化されたCox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・50%超減量群では、すべてのサブグループにおいて治療中止リスクが高かった。 ●平均オランザピン換算量10mg未満/日(ハザード比[HR]:1.44、95%信頼区間[CI]:1.24~1.67、p<0.01) ●平均オランザピン換算量10~20mg/日(HR:1.60、95%CI:1.37~1.86、p<0.01) ●平均オランザピン換算量20mg超/日(HR:1.62、95%CI:1.37~1.91、p<0.01)・平均オランザピン換算量10mg未満/日のサブグループでは、抗精神病薬50%以下の減量と治療中止リスクの増加との関連が認められた(HR:1.20、95%CI:1.09~1.31、p<0.01)。・50%超減量群では、平均オランザピン換算量10mg未満/日のサブグループでのみ、入院リスクの増加との関連が認められた(HR:1.48、95%CI:1.21~1.80、p<0.01)。 著者らは「本結果より、精神科入院リスクを抑制するためには、一定量の抗精神病薬治療が必要であり、抗精神病薬の大幅な減量は、治療中止リスクを上昇させる可能性が示唆された」としている。

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安定冠動脈疾患の診断と治療~JCSガイドラインフォーカスアップデート版発表/日本循環器学会

 2022年3月11~13日に開催された第86回日本循環器学会学術集会で、中埜 信太郎氏(埼玉医科大学国際医療センター 心臓内科)が3月11日に発行された『2022年JCSガイドラインフォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療』について概要を説明した。本フォーカスアップデート(FU)は、2019年に発表された「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)」と「安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018年改訂版)」の2つから新たな知見をまとめて作成。最近の大規模研究のエビデンスに基づき、安定冠動脈疾患(CAD)の管理全般に求められる指針の提供を主たる目的としている。英語版も同時に発行された。 近年、「ISCHEMIA試験」を含めた保存的治療や血行再建に関する大規模試験によるエビデンスの創出がきっかけとなり、欧州や米国、さらには本邦の冠動脈疾患診療ガイドラインが次々と改訂された。これらのエビデンスがとりわけ「安定した中等度以上の心筋虚血を呈する冠動脈疾患」に与えた影響は甚大である。しかしながら、中埜氏はこれら大規模試験の結果の一部だけを切り取り「一人歩きさせてはいけない」と注意を促した。 試験で除外された病態(左室収縮障害、重度の心不全、急性冠症候群に近い状態、進行した慢性腎臓病、左冠主幹部病変等)には、臨床的に問題となる多くの症例が含まれているため、注意が必要だ。同様に、複雑化した冠動脈疾患に対するガイドラインを活用するためには、「どのような患者のどのようなフェイズ(急性vs慢性、安定vs不安定など)に適用されるべきか」を強く意識して、該当する患者に適用することが求められる。 本FUは第1~5章で構成される。主な対象疾患は「閉塞性安定CAD(無症状を含む)」であり、1年以上前にACSや血行再建がある例も考慮している。各章では、診断ワークアップや経過観察中における不安定狭心症などのACSに近い病態への監視について繰り返し注意喚起している。なお、心不全・左室機能障害、高度CKDなどのサポートするエビデンスの少ない高イベントリスク群に関しては、特別な考慮が必要な疾患として第5章にまとめて記載されている。 以下に各章のポイントを示す。《第1章》ベースラインの系統的評価・CADが疑われる患者の年齢、性別、症状から検査前確率(PTP)をまず評価。続いて臨床的尤度(CL)を加味した修正PTPを推測して、次の最適な検査を導く。(推奨クラスI、エビデンスレベルA)・きわめて低いPTPならさらなる検査を保留してもよい。・患者報告アウトカム(PRO)を評価し、リスク層別化と重症度変化の一助とする。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)※定期的な評価にも推奨される《第2章》非侵襲的画像検査の選択・非侵襲的検査の選択は、PTPと施設における検査の使用状況の二軸で考える。・PTPが中等度以上では冠動脈CT(CCTA)または機能的イメージング(SPECT、負荷CMR、負荷心エコー)を施行する。(推奨クラスI、エビデンスレベルA)・CCTAはCADの診断(主に非閉塞性CAD、LMCAの否定)に有用。確定的な所見が得られない場合は、補完的に機能的イメージングやFFR-CTを考慮する。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)・機能的イメージングは(主にPTPが高い患者の)虚血や心筋生存能、イベントリスクの評価に有用。・無症状に近い低PTP患者へのオプションは、運動耐容能・運動反応性の評価を目的とした負荷心電図、またはイベントリスクの予測を目的とした冠動脈カルシウム(CAC)スキャンを考慮する。(推奨クラスIIb、エビデンスレベルB)・非侵襲的画像検査でLMCA/LMCA相当の病変が示唆された場合、あるいは診断過程で症状増悪がある、または薬剤抵抗性の症状が続く場合は侵襲的冠動脈造影(CAG)を考慮する。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)《第3章》CAGと血行再建の適応とタイミング・CAGは、非侵襲的検査を経た後の血行再建を行う可能性を視野に入れて検討する。フレイル度が高い、認知機能が低い患者など、血行再建が不向きな患者にはリスク評価目的のみのCAGは行うべきでない。(推奨クラスIII Harm、エビデンスレベルB)・非侵襲的検査とCAG所見が合致しない場合、確認のためFFR/NHPRs測定を考慮する。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)・非侵襲的検査で結論が得られない場合、もしくは心不全でCADを疑う所見があり、血行再建によるベネフィットが得られる可能性がある場合はCAGを考慮する。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルC)・広範な心筋虚血をもたらす冠動脈病変に対し、共同意思決定(SDM)に基づく血行再建を行う。(推奨クラスI、エビデンスレベルB)・至適内科治療(OMT)のみだと薬の量や数が増えてしまうケースもあり、血行再建のリスク・ベネフィットに関しては十分な情報提供と議論を要する。安定CADでは必ずしも緊急的に行う必要はないことから、患者個々の価値観や趣向と合うように共同で意思決定を行う。《第4章》OMT・診断過程の早期(侵襲的検査の検討前)に、症状緩和・イベント予防に必要な薬剤を投与し、並行して生活習慣の是正にも取り組む。・血行再建の有無にかかわらず、診断確定後は薬物治療の最適化を継続する。・心血管イベントを避けるため、低用量アスピリンによる抗血栓療法と、目標値を明確にした脂質低下療法を行う。(推奨クラスI、エビデンスレベルA)・LDL-コレステロールは初期値から50%以上の低下かつ絶対値として70mg/dL未満を目標とする。《第5章》高リスク患者に対する特別な考慮・高リスク群は現場で問題になるが、エビデンスが圧倒的に不足しており、個別対応が求められる。大きな課題として残っている現状。・心不全・左室機能不全に対しては「STICH長期成績」「ISCHEMIAサブ解析」などの臨床試験がアップデートされた。治療は、『2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療』を参考に、通常の心不全治療に順守する。・高度CKD患者への血行再建のベネフィットは未確立だが、予後予測には核医学検査が有用。「SHARP」「ISCHEMIA-CKDサブ解析」の臨床試験がアップデートされた。・フレイル・高齢者では、余命やQOL等を総合的に判断して血行再建を決定する。PCI関連の臨床試験がアップデートされ、経橈骨動脈アプローチ(TRA)が推奨されている。

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歳を取ると本当に筋肉痛は遅れてやってくるのか【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第206回

歳を取ると本当に筋肉痛は遅れてやってくるのかpixabayより使用筋肉痛には、「即発性」と「遅発性」の2種類があります。その名の通り、運動直後に起こるものが「即発性」で、翌日~翌々日にアイタタタタ…と出てくるのが「遅発性」です。私も、何度か子供の運動会ではりきって体を動かしたことがあるのですが、翌日ではなく翌々日に筋肉痛がやってくることがあります。専門用語でカッコよく書くと、遅発性筋痛(Delayed Onset Muscle Soreness:DOMS)と呼ぶのですが、ここでは筋痛ではなく筋肉痛と書かせていただきます。遅発性筋肉痛は、運動してから1~3日後に起こりますが、これは筋の微細な損傷によるものと思われています。筋の損傷がひどいほど強い筋肉痛が出るのかどうかは、まだよくわかっていません。筋線維には直接痛みを感じる神経があるわけではないので、筋肉周囲の炎症やむくみが広がって筋膜に達するまで時間がかかるため、遅れて筋肉痛がやってくるとされています。俗に、「歳を取ると筋肉痛が遅れてやってくる」と言われています。私も実際そう感じているのですが、実際のところはどうなのでしょうか?野坂和則. 遅発性筋肉痛のメカニズムと意義と予防・対処法. 上原記念生命科学財団研究報告集. 2006; 19: 77-79.野坂による研究では、18~22歳の被験者と60~70歳代被験者にダンベル運動をさせて、筋肉痛の発生を観察しています。これによれば、筋肉痛の発現タイミングに年齢による差はなかったとされています。しかし、若年者の遅発性筋肉痛については、幼稚園児や小学校低学年では遅発性筋肉痛が生じにくく、小学校高学年から生じやすくなることも明らかとなっています。片山憲史. 習慣と加齢による遅発性筋痛の発生パターンに関する磁気共鳴画像による検討. 明治鍼灸医学. 2004; 35: 11-20.一方、運動不足の人ではやはり遅れてやってくるという見解があります。片山の研究によれば、普段から運動をしていない人は、体育会系のクラブやサークル活動などで自己トレーニングを週3回以上継続している人と比較すると、年齢による影響を受けやすい(歳を取るほど遅発性筋痛が出やすい)と報告されています。つまり、「運動不足の人間は、歳を重ねるほど、その後強い筋肉痛を起こしやすい」ということが言えるのかもしれません。起こってしまった筋肉痛に対する治療としてはエビデンスの高いものはなく、よく行われている冷却やマッサージが有効とされています1)。本当に冷やすほうがよいのか、温めるのがよいかは論争が続いています2)。1)Nahon RL, et al. Physical therapy interventions for the treatment of delayed onset muscle soreness (DOMS): Systematic review and meta-analysis. Phys Ther Sport . 2021 Nov;52:1-12.2) Petrofsky J, et al. The Efficacy of Sustained Heat Treatment on Delayed-Onset Muscle Soreness. Clin J Sport Med. 2017 Jul;27(4):329-337.

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第104回 心筋炎経験者へのCOVID-19ワクチン接種は安全らしい

心筋炎を経た人への新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種はどうやら安全らしいことがフランスでの試験1)で示唆されました。世間一般での心筋炎の有病率は10万人当たり10~106人、全世界での年間の発現数は180万件と推定されています2,3)。心筋炎の主な原因はウイルス感染で、SARS-CoV-2感染(COVID-19)患者にも認められることがあり、とくに若い男性に多く生じるようです。米国の20歳未満の若者を調べた試験によるとCOVID-19と診断された12~17歳の男性の心筋炎の発現率は100万人当たり450人と推定されています4)。COVID-19ワクチン接種に伴う心筋炎も稀ながら報告されており、その発現率は10万人当たり2.1人ほどです1)。COVID-19 mRNAワクチン接種後の心筋炎もCOVID-19に伴う心筋炎と同様に若い男性により生じ易いようで、2021年5月までに米国FDAに報告されている有害事象記録によると2回目接種後の心筋炎の発現率は12~29歳の男性では100万人当たり40.6人、30歳以上の男性では100万人当たり2.4人となっています3)。それらの年齢層の女性での割合は100万人当たりそれぞれ4.2人と1人でした。そのようにCOVID-19やそのワクチン接種後の心筋炎の生じやすさの把握は進んでいる一方で心筋炎を経た人のCOVID-19ワクチン接種後に心筋炎がどれだけ再発しやすいかは分かっていません。そこでフランスのリヨンの病院のIyad Abou Saleh氏等はCOVID-19ワクチンを接種しても心筋炎は再発しやすくならないとの仮説を立て、同病院で先立つ5年間に急性心筋炎と診断された142人に電話をかけてその仮説を検証しました1)。それら142人からCOVID-19ワクチン接種の有無、接種したとすればそのワクチンの種類、接種回数、副反応があったかどうか等を尋ねた結果、接種済みの55人に心筋炎再発を含む深刻な有害事象は幸いにも認められませんでした。非接種16人の大半の12人(75%)は心筋炎再発を恐れて接種しないままであり、果たして心筋炎再発の心配がワクチン回避の主な理由となっていました。今回の結果は心筋炎の経験がある人のCOVID-19ワクチン接種を促すかもしれないとAbou Saleh氏は言っています。今回の結果を参考にするうえで注意することがあります。接種されていたのはほとんどがPfizer/BioNTechのmRNAワクチンBNT162b2であり(ワクチン接種済みの55人中53人)、他のワクチンの参考にはならないかもしれません1)。参考1)COVID-19 vaccination is safe in patients with previous myocarditis / Eurekalert2)ACC issues clinical guidance on cardiovascular consequences of COVID-19 / Eurekalert3)2022 ACC Expert Consensus Decision Pathway on Cardiovascular Sequelae of COVID-19 in Adults. J Am Coll Cardiol. 2022 Mar 16.4)Risk of Myocarditis from COVID-19 Infection in People Under Age 20: A Population-Based Analysis. medRxiv. July 27, 2021.

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