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巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)〔GCA : giant cell arteritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis:GCA)は、大動脈とその分枝の中~大型動脈に起こる肉芽腫性血管炎である。頸動脈の頭蓋外の動脈(とくに側頭動脈)が好発部位のため、以前は、側頭動脈炎(temporal arteritis:TA)といわれた。発症年齢の多くは50歳より高齢であり、しばしばリウマチ性多発筋痛症(PMR)を合併する。1890年HunchingtonらがTAの症例を報告し、1931年にHortonらがTAの臨床像や病理学的特徴を発表したことからTAとしての古い臨床概念が確立し、また、TAは“Horton’s disease”とも呼ばれてきた。その後1941年Gilmoreが病理学上、巨細胞を認めることから“giant cell chronic arteritis”の名称が提唱された。この報告により「巨細胞性動脈炎(GCA)」の概念が確立された。GCAは側頭動脈にも病変を認めるが、GCAのすべての症例が側頭動脈を傷害するものではない。また、他の血管炎であっても側頭動脈を障害することがある。このためTAよりもGCAの名称を使用することが推奨されている。■ 疫学 1997年の厚生省研究班の疫学調査の報告は、TA(GCA)の患者は人口10万人当たり、690人(95%CI:400~980)しか存在せず、50歳以上では1.48人(95%CI: 0.86~2.10)である。人口10万人当たりの50歳以上の住民のGCA発症率は、米国で200人、スペインで60人であり、わが国ではTA(GCA)は少ない。このときの本邦のTA(GCA)の臨床症状は欧米の症例と比べ、PMRは28.2%(欧米40~80%)、顎跛行は14.8%(8~50%)、失明は6.5%(15~27%)、脳梗塞は12.1%(27.4%)と重篤な症状はやや少ない傾向であった。米国カリフォルニア州での報告では、コーカシアンは31症例に対して、アジア人は1例しか検出されなかった。中国やアラブ民族でもGCAはまれである。スカンジナビアや北欧出身の家系に多いことが知られている。■ 病因病因は不明であるが、環境因子よりも遺伝因子が強く関与するものと考えられる。GCAと関連が深い遺伝子は、HLA-DRB1*0401、HLA-DRB1*0404が報告され、約60%のGCA症例においてどちらかの遺伝子を有する。わが国の一般人口にはこの2つの遺伝子保持者は少ないため、GCAが少ないことが推定される。■ 症状全身の炎症によって起こる症状と、個別の血管が詰まって起こる症状の2つに分けられる。 1)全身炎症症状発熱、倦怠感、易疲労感、体重減少、筋肉痛、関節痛などの非特異的な全身症状を伴うので、高齢者の鑑別診断には注意を要する。2)血管症状(1)頸部動脈:片側の頭痛、これまでに経験したことがないタイプの頭痛、食べ物を噛んでいるうちに、顎が痛くなって噛み続けられなくなる(間歇性下顎痛:jaw claudication)、側頭動脈の圧痛や拍動頸部痛、下顎痛、舌潰瘍など。(2)眼動脈:複視、片側(両側)の視力低下・失明など。(3)脳動脈:めまい、半身の麻痺、脳梗塞など。(4)大動脈:背部痛、解離性大動脈瘤など。(5)鎖骨下動脈:脈が触れにくい、血圧に左右差、腕の痛みなど。(6)冠動脈:狭心症、胸部痛、心筋梗塞など。(7)大腿・下腿動脈:間歇性跛行、下腿潰瘍など。3)合併症約30%にPMRを合併する。高齢者に起こる急性発症型の両側性の頸・肩、腰の硬直感、疼痛を示す。■ 分類側頭動脈や頭蓋内動脈の血管炎を呈する従来の側頭動脈炎を“Cranial GCA”、大型動脈に病変が認められるGCAを“Large-vessel GCA”とする分類法が提唱されている。大動脈を侵襲するGCAは、以前、高安動脈炎の高齢化発症として報告されていた経緯がある。GCA全体では“Cranial GCA”が75%である。“Large-vessel GCA”の中では、大動脈を罹患する型が57%、大腿動脈を罹患する型が43%と報告されている(図)。画像を拡大する■ 予後1998年の厚生省全国疫学調査では、治癒・軽快例は87.9%であり、生命予後は不良ではない。しかし、下記のように患者のQOLを著しく阻害する合併症がある。1)各血管の虚血による後遺症:失明(約10%)、脳梗塞、心筋梗塞など。2)大動脈瘤、その他の動脈瘤:解離・破裂の危険性に注意を要する。3)治療関連合併症:活動性制御に難渋する例では、ステロイドなどの免疫抑制療法を反復せねばならず、治療関連合併症(感染症、病的骨折、骨壊死など)で臓器や関連の合併症にてQOLが不良になる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1990年米国リウマチ学会分類基準に準じる。5項目のうち3項目を満足する場合、GCAと分類する(感度93.5、特異度91.2%)。厚生労働省の特定疾患個人調査票(2015年1月)は、この基準にほぼ準拠している。5項目のうち3項目を満足する場合に、GCAと診断される(表1)。画像を拡大する■ 検査1)血液検査炎症データ:白血球増加、赤沈亢進、CRP上昇、症候性貧血など。CRP赤沈は疾患活動性を反映する。2)眼底検査必須である。虚血性視神経症では、視神経乳頭の虚血性混濁浮腫と、網膜の綿花様白斑(軟性白斑)を認める。3)動脈生検適応:大量ステロイドなどのリスクの高い免疫抑制治療の適応を決めるために、病理学的検討を行うべきである。ただし、進行性の視力障害など、臨床経過から治療を急ぐべきと判断される場合は、ステロイド治療開始を優先し、側頭動脈生検が治療開始の後でもかまわない。側頭動脈生検の実際:症状が強いほうの側頭動脈を局所麻酔下で2cm以上切除する。0.5mmの連続切片を観察する。病理組織像:中型・大型動脈における(1)肉芽腫性動脈炎(炎症細胞浸潤+多核巨細胞+壊死像)、(2)中膜と内膜を画する内弾性板の破壊、(3)著明な内膜肥厚、(4)進行期には内腔の血栓性閉塞を認める。病変は分節状に分布する(skip lesion)。動脈生検で巨細胞を認めないこともある。4)画像検査(1)血管エコー:側頭動脈周囲の“dark halo”(浮腫性変化)はGCAに特異的である。(2)MRアンギオグラフィー(MRA):非侵襲的である。頭蓋領域および頭蓋領域外の中型・大型動脈の評価が可能である。(3)造影CT/3D-CT:解像度でMRAに優る。全身の血管の評価が可能である。3次元構築により病変の把握が容易である。高齢者・腎機能低下者には注意すること。(4)血管造影:最も解像度が高いが、侵襲的である。高齢者・腎機能低下者には注意すること。(5)PET-CT(2015年1月現在、保険適用なし):質的検査である。血管壁への18FDGの取り込みは、血管の炎症を反映する。ただし動脈硬化性病変でもhotになることがある。5)心エコー・心電図など:心合併症のスクリーニングを要する。■ 鑑別診断1)高安動脈炎(Takayasu arteritis:TAK)欧米では高安動脈炎とGCAを1つのスペクトラムの中にある疾患で、発症年齢の約50歳という違いだけで分類するという考えが提案されている。しかし、両疾患の臨床的特徴は、高安動脈炎がより若年発症で、女性の比率が高く(約1:9)、肺動脈病変・腎動脈病変・大動脈の狭窄病変が高頻度にみられ、PMRの合併はみられず、潰瘍性大腸炎の合併が多く、HLA-B*52と関連する。また、受診時年齢と真の発症年齢に開きがある症例もあるので注意を要する。現時点では発症年齢のみで分けるのではなく、それぞれGCAとTAKは1990年米国リウマチ学会分類基準を参考にすることになる。2)動脈硬化症動脈硬化症は、各動脈の閉塞・虚血を来しうる。しかし、新規頭痛、顎跛行、血液炎症データなどの臨床的特徴が異なる。GCAと動脈硬化症は共存しうる。3)感染性大動脈瘤(サルモネラ、ブドウ球菌、結核など)、心血管梅毒細菌学的検査などの感染症の検索を十分に行う。4)膠原病に合併する大動脈炎など(表2)画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の目標は、(1)全身炎症症状の改善、(2)臓器不全の抑制、(3)血管病変の進展抑制である。ステロイド(PSL)は強い抗炎症作用を有し、GCAにおいて最も確実な治療効果を示す標準治療薬である。■ 急性期ステロイド初期量:PSL 1mg/kg/日が標準とされるが、症状・合併症に応じて適切な投与量を選択すること。2006~2007年度の診療ガイドラインでは、下記のように推奨されている。とくに、高齢者には圧迫骨折合併に注意する必要がある。1)眼症状・中枢神経症状・脳神経症状がない場合:PSL 30~40 mg/日。2)上記のいずれかがある場合:PSL 1mg/kg/日。■ 慢性期ステロイド漸減:初期量のステロイドにより症状・所見の改善を認めたら、初期量をトータルで2~4週間継続したのちに、症状・赤沈・CRPなどを指標として、ステロイドを漸減する。2006~2007年度の診療ガイドラインにおける漸減速度を示す。1)PSL換算20mg/日以上のとき:2週ごとに10mgずつ漸減する。2)PSL換算10~20mg/日のとき:2週ごとに2.5mgずつ漸減する。3)PSL換算10mg/日以下のとき:4週ごとに1mgずつ、維持量まで漸減する。重症例や活動性マーカーが遷延する例では、もう少しゆっくり漸減する。■ 寛解期ステロイド維持量:維持量とは、疾患の再燃を抑制する必要最小限の用量である。2006~2007年度の診療ガイドラインでは、GCAへのステロイド維持量はPSL換算10mg/日以下とし、通常、ステロイドは中止できるとされている。しかし、GCAの再燃例がみられる場合もあり、GCAに合併するPMRはステロイド減量により再燃しやすい。■ 増悪期ステロイドの再増量:再燃を認めたら、通常、ステロイドを再増量する。標的となる臓器病変、血管病変の進展度、炎症所見の強度を検討し、(1)初期量でやり直す、(2)50%増量、(3)わずかな増量から選択する。免疫抑制薬併用の適応:免疫抑制薬はステロイドとの併用によって相乗効果を発揮するため、下記の場合に免疫抑制薬をステロイドと併用する。1)ステロイド効果が不十分な場合2)易再燃性によりステロイド減量が困難な場合免疫抑制薬の種類:メトトレキサート、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロホスファミドなど。■ 経過中に注意すべき合併症予後に関わる虚血性視神経症、脳動脈病変、冠動脈病変、大動脈瘤などに注意する。1)抗血小板薬脳心血管病変を伴うGCA患者の病変進展の予防目的で抗血小板薬が用いられる。少量アスピリンがGCA患者の脳血管イベントおよび失明のリスクを低下させたという報告がある。禁忌事項がない限り併用する。2)血管内治療/血管外科手術(1)各動脈の高度狭窄ないし閉塞により、重度の虚血症状を来す場合、血管内治療によるステント術か、バイパスグラフトなどによる血管外科手術が適応となる。(2)大動脈瘤やその他の動脈瘤に破裂・解離の危険がある場合も、血管外科手術の適応となる。4 今後の展望関節リウマチに保険適用がある生物学的製剤を、GCAに応用する試みがなされている(2015年1月現在、保険適用なし)。米国GiACTA試験(トシリズマブ)、米国AGATA試験(アバタセプト)などの治験が行われている。わが国では、トシリズマブの大型血管炎に対する治験が進行している。5 主たる診療科リウマチ科・膠原病内科、循環器内科、眼科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 巨細胞性動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)今日の臨床サポート 巨細胞性動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)J-STAGE(日本臨床免疫学会会誌) 巨細胞性動脈炎(医療従事者向けのまとまった情報)2006-2007年度合同研究班による血管炎症候群の診療ガイドライン(GCAについては1285~1288参照)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Grayson PC, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1329-1334.3)Maksimowicz-Mckinnon k,et al. Medicine. 2009;88:221-226.4)Luqmani R. Curr Opin Cardiol. 2012;27:578-584.5)Kermani TA, et al. Curr Opin Rheumatol. 2011;23:38-42.

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結節性硬化症の白斑、mTOR阻害薬の有効性を確認

 結節性硬化症(TSC)の白斑病変に対する、局所ラパマイシン(mTOR阻害薬、別名:シロリムス)治療の有効性と安全性が確認された。大阪大学医学部皮膚科 講師/医局長の金田 眞理氏らが患者6例について行った前向きベースライン対照試験の結果、報告した。著者はその改善機序として、「今回示された効果は、TSCメラニン形成細胞におけるメラニン形成障害の改善によりもたらされることを強く支持するものであった」と述べている。これまでTSC患者の、腫瘍に対する哺乳類ラパマイシン標的蛋白質複合体1(mTORC1)の効果については多くの検討が行われてきたが、白斑への効果については不明であった。JAMA Dermatology誌2015年7月号の掲載報告。 研究グループは、TSC白斑に対する局所ラパマイシンの有効性について、客観的に評価し、またラパマイシンによる白斑の改善機序を明らかにする検討を行った。 対象は、2011年8月4日~2012年9月27日に大阪大学医学部皮膚科で、太陽光の曝露、非曝露を問わずTSC患者で白斑が認められた6例であった。1日2回、12週にわたってラパマイシンゲル0.2%を病変部に塗布。治療開始時と終了時にそれぞれ組織学的検査と血液検査を行い、また完了時に血中ラパマイシン値を分析した。 TSC白斑に対するラパマイシン治療の客観的評価を、分光測色計によるδ-L(Lは色の明るさを示す)で行った。評価は、治療開始時と終了時(12週)、終了後4週(16週)および12週(24週)に行った。 主な結果は以下のとおり。・白斑の改善(δ-Lで評価)は、有意に認められた。12週時点(平均[SD]:2.501[1.694]、p<0.05)、16週時点(1.956[1.567]、p<0.01)、24週時点(1.836[1.638]、p<0.001)であった。・効果は、太陽光曝露群で顕著に認められたように思われたが、非曝露群と比較して有意な差(δ-Lで評価)は観察されなかった。12週時点(平均[SD]:1.859[0.629]と3.142[2.221])、16週時点(1.372[0.660]と2.539[2.037])、24週時点(1.201[0.821]と2.471[2.064])。・有害事象はみられず、血中にラパマイシンが検出された患者は1例もなかった。・白斑の電子顕微鏡分析で、局所ラパマイシン治療がTSCメラニン形成細胞におけるメラノソーム数を均一とする有意な改善が認められた。治療前の斑平均値[SD]:25.71[21.90](範囲:5~63)、治療後:42.43[3.60](範囲:38~49)、p<0.001)。・さらにラパマイシン治療は、TSCメラニン形成ノックダウン細胞におけるメラノソームを、減少していた値(平均値[SD]:16.43[11.84])から正常値(42.83 [14.39]、p<0.001)へと有意な回復をもたらした。

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ハイリスク医療機器の臨床試験の質・量、市販前後で変化/JAMA

 米国FDAの市販前承認(PMA)を受け上市したハイリスク医療機器の臨床試験は、市販前と市販後では量・質ともに変化がみられ、承認後3~5年で市販後試験を完了していたのは約13%であったことなどが明らかにされた。イェール大学医学部のVinay K. Rathi氏らが、2010~2011年に承認されたハイリスク(生命補助・維持または不当なリスクをもたらしうる)医療機器について調べ、報告した。JAMA誌2015年8月11日号掲載の報告より。2010~2011年にPMAで上市したハイリスク医療機器を評価 研究グループは、製品ライフサイクルにおける、ハイリスク医療機器の臨床エビデンス生成の特徴を明らかにする検討を行った。2014年10月時点でClinicalTrials.govを検索して、2010~2011年にPMAで上市したハイリスク医療機器のすべての臨床試験を特定し、FDA文書についても可能な限り入手した。 試験をタイプ別(FDA承認のための試験[市販前試験重視]、FDAが要請した市販後臨床試験[PAS]、メーカー/研究者主導型)、市販前または市販後試験それぞれの状況(完了、進行中、中止/不明)、試験デザイン(試験の登録、比較対照、主要有効性エンドポイントの追跡期間など)で特徴付けて評価した。試験の質・量が市販前と市販後で変化 2010~2011年にPMAで上市したハイリスク医療機器は28個あり、それらに関する286件の臨床試験を特定した。そのうち市販前試験が82件(28.7%)、市販後試験は204件(71.3%)であった。 全試験286件をタイプ別に分類すると、市販前試験非重視タイプは52件(18.2%)、市販前試験重視は30件(10.5%)、PASが33件(11.5%)、FDA非要請PAS(メーカー/研究者主導型市販後試験)は171件(59.8%)であった。 試験状況は、PASを要請されていた33件のうち完了は6件(18.2%)、メーカー/研究者主導型市販後試験171件のうち完了は20件(11.7%)であった。 また、市販後調査が特定できなかった装置は5個(17.9%)、3件以下であった装置は13個(46.4%)あった。 被験者登録中央値は、市販前試験非重視タイプの試験で65例(四分位範囲[IQR]:25~111)、市販前試験重視タイプで241例(147~415)、PASでは222例(119~640)、メーカー/研究者主導型市販後試験タイプは250例(60~800)であった。 全試験のうち約半分が比較対照を設定していなかった。市販前試験重視タイプで13/30件(43.3%)、市販後試験完了タイプ16/26件(61.5%)、市販後試験継続中タイプ70/153例(45.8%)であった。 主要有効性エンドポイント追跡期間中央値は、市販前試験重視タイプで3.0ヵ月(IQR:3.0~12.0)、市販後試験完了タイプ9.0ヵ月(0.3~12.0)、市販後試験継続中タイプは12.0ヵ月(7.0~24.0)であった。 なお、市販前試験非重視タイプ52件を除外した209件で試験の特徴付けを行った場合、市販前試験重視タイプの試験は30件(14.4%)、市販後試験完了タイプは26件(12.4%)、市販後試験進行中タイプは153件(73.2%)であった。 著者は、「ハイリスク医療機器の安全性や有効性を明らかにする臨床エビデンスの生成は、主として市販前に試験されていた状況から、製品ライフサイクルを通しての継続的な試験にシフトしている」と述べている。

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早期乳がんにおける術後補助療法としてのビスホスホネート:無作為化試験からの個々のデータのメタ分析(解説:矢形 寛 氏)-402

 ビスホスホネートは、転移抑制、とくに骨転移の予防に効果を示す可能性が指摘されているが、臨床試験によって結果が一定していない。しかし、サブセット解析では、閉経後または高齢女性に対してはベネフィットが示唆されている。そこで、術後補助療法としてのビスホスホネートのリスクとベネフィットを明らかにするため、Early Breast Cancer Trialists’Collaborative Group(EBCTCG)のグループによってメタ分析が行われた。主要評価項目は、再発、遠隔再発と乳がん死である。主要サブグループ調査項目は、遠隔転移部位(骨とそれ以外)、閉経状態(閉経後[自然および人工]とそれ以外)、ビスホスホネートのクラス(アミノ基を含有するもの[ゾレドロン酸、イバンドロン酸、パミドロン酸]とそれ以外[クロドロン酸])である。 26試験の参加女性1万8,766例のうち、2~5年のビスホスホネートの試験1万8,206例(97%)のデータが得られ、中央観察期間(5.6年)で3,453例の初回再発と、その後の2,106例の死亡が確認された。全体として、再発減少は(RR 0.94、95%[CI]:0.87~1.01、2p=0.08)、遠隔再発は(0.92、0.85~0.99、2p=0.03)、乳がん死は(0.91、0.83~0.99、2p=0.04)と、わずかに有意差が認められたのみであったが、骨転移の減少は明らかであった(0.83、0.73~0.94、2p=0.004)。 閉経前ではいずれも治療効果が認められなかったが、閉経後女性(1万1,767例)では、再発(RR 0.86、95%[CI]:0.78~0.94、2p=0.002)、遠隔再発(0.82、0.74~0.92、2p=0.0003)、骨転移(0.72、0.60~0.86、2p=0.0002)、乳がん死(0.82、0.73~0.93、2p=0.002)ともに大きな減少効果が認められた。絶対的な効果の違い(10年)は、骨転移2.2%、乳がん死3.3%である。 年齢でみると、45歳未満では効果がなく、55歳以上では明らかに有効であった。閉経状態と年齢による差は類似しており、どちらがより有意かは明らかにできなかった。ビスホスホネートのクラス、治療のスケジュール(治療の強度や期間)、エストロゲン受容体の状態、リンパ節、腫瘍グレード、化学療法の併用による効果の違いはなかった。乳がん以外のがん死は有意差が認められなかった。骨折の情報は1万3,341例(71%)からのみ得られ、5年の骨折リスクは6.3%から5.1%にわずかに減少した(RR 0.85、95%[CI]:0.75~0.97、2p=0.02)。最も効果がみられたのは2~4年の間であった。5年以降での効果はあまりないようであるが、情報が不完全であるためかもしれない。対側乳がんの発生率は疫学データとは異なり、無作為化試験では有意差がみられなかった。 ビスホスホネートは、治療開始時に閉経後(自然閉経と人工閉経)であった女性にのみ、転移抑制効果と乳がん死の抑制に明らかな効果が認められることが示された。今までも複数のメタ分析の報告がみられ、結果がまちまちであったが、本研究は最も信頼性の高いものと思われる。まず、ビスホスホネート開始時に閉経後であることが重要である。次に、乳がんの進行度やサブグループには関係なく、効果は一定であることから、再発リスクの低い乳がんではビスホスホネートの効果はきわめて小さく、逆にリスクの高い乳がんでは、それだけ絶対的な有効性が高まるであろう。さらに、顎骨壊死などの有害事象は、より強力なビスホスホネートの使い方で頻度が上がるため、内服治療や6ヵ月ごとのゾレドロン酸投与が推奨され、期間もやみくもに長く行われるべきではない。ビスホスホネートのレジメンによる違いについては、今後進行中の試験によって、より明確になってくるであろう(SWOG0307、SUCCESS、HOBOE-premenopausal、TEAM-IIb)。

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わかる統計教室 第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比 セクション1

インデックスページへ戻る第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比皆さんは、以下のような調査データをみたとき、この調査の結果をどのように解釈していますか。シリーズ第2回では、ある状況下に置かれた人と置かれなかった人で、ある疾患と診断されるリスク比(相対危険度)と、リスク比とよく似た指標として用いられるオッズ比を取り上げます。リスク比、オッズ比とは何か、そしてその違いは何か、さらに有意差の算出方法をマスターし、データを正しく理解することを目標に、5つのセクションに分けて学習します。セクション1 分割表とリスク比■分割表を作るリスク比やオッズ比、そして有意差を算出するには、分割表を作成するところから始まります。今回も、「簡単」な事例で覚えていきましょう。それがマスターへの近道です。下表1は、10例の患者について、「不整脈の有無」「喫煙の有無」を調べたものです。データは、「喫煙」を1、「非喫煙」を0、不整脈が「ある」を1、「ない」を0としています。この表1から、不整脈について喫煙者と非喫煙者を比較したとき、両者に差があるかどうかを明らかにしてみましょう。この表1をただ眺めていても傾向がわからないので、まずは、このデータを喫煙の有無別、不整脈の有無別に並べ替えてみましょう。次に、この表2から何がわかるのかを考えてみましょう。まず喫煙者が5例、そのうち不整脈があるのは3例です。そして、非喫煙者は5例、そのうち不整脈があるのは1例です。次に、喫煙者の有無別に、不整脈のある割合を計算してみましょう。喫煙者における不整脈のある割合は3÷5で60%、非喫煙者における不整脈のある割合は1÷5で20%です。すると、不整脈のある割合は、喫煙者が60%、非喫煙者が20%で、喫煙者のほうが40%高いことがわかります。このことから、「喫煙者と非喫煙者を比較したとき、不整脈において差があるといえる」ということがわかるのです。ただし「差がある」かどうかは、有意差検定をする必要がありますが、それはこれからの話にしておきましょう。■分割表では左側に原因(喫煙など)、上側に結果(不整脈など)を書く!それでは、先ほど集計した結果を表にしてみてみましょう。下の表3のような表を分割表(contingency table)といいます。分割表を作成するときに大事なのは、行と列に入れる項目です。表3では、表の行(左側)に喫煙の有無、列(上側)に不整脈の有無としていますが、行と列を入れ替えて、表の行(左側)に不整脈の有無、列(上側)に喫煙の有無にすると表4になります。実は、この表4はダメな分割表です。なぜダメなのでしょう。因果関係を考える場合、原因と結果があります。原因と結果の関係を調べるために分割表を作る場合、行(左側)に原因、列(上側)に結果の項目を置くというルールがあります。この例では、最初の表3が正しい分割表ですので、注意してください!■リスク比とは?しっかり理解してほしい点は、この表3の「ある」を横計で割って得られた「割合」がリスクだということです。リスクとは、そのままの意味で「危険」や「恐れ」ということです。今回のケースでの“リスク”は、不整脈になる“危険”や“恐れ”が喫煙の有無によって、どの程度あるのかがわかる、ということです。では、リスクを喫煙者、非喫煙者でそれぞれ計算してみましょう。喫煙者が不整脈となるリスクは3÷5で60%、同様に非喫煙者が不整脈となるリスクは20%です。次に、リスクの差を計算してみましょう。60%-20%で40%なので、「リスクは喫煙者が非喫煙者を40%上回っている」ということがわかります。今度は、喫煙者のリスクを非喫煙者のリスクで割ってみましょう。60%÷20%で3になります。この値が「リスク比(Risk Ratio)」です。このようにリスク比は、とても簡単に求められますが、大切なことはリスク比の求め方ではなく、その解釈の仕方です。この例では、リスク比3ということから、「喫煙者が不整脈となるリスク(割合)は非喫煙者に比べ3倍である」と解釈できるということです。次回は、同じく簡単な事例を基に、間違った解釈をされることの多い「オッズ比」について解説します。今回のポイント1)分割表は左側に原因(喫煙など)、上側に結果(不整脈など)を書く!2)リスク比で大切なことは、その解釈の仕方!インデックスページへ戻る

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104)脱水予防は、「水」か「お茶」で!【高血圧患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話医師この新しい薬(SGLT2阻害薬)の副作用として、膀胱炎など尿路感染症になるリスクが高まることが報告されています。患者他にはどんな副作用がありますか?医師糖分とともに水分も身体から出ていきます。つまり、脱水予防が大切です。とくに、薬を飲み始めてから最初の1ヵ月間は、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高まることも報告されていますので、水分を積極的に摂取するように注意してください。患者はい。水分なら、何でもいいですか?医師いいえ。糖分が入っているコーラ、ジュース、砂糖入りの缶コーヒーやスポーツドリンクは控えてください。患者血糖値も上がりますしね。医師そうです。それに、ナトリウムを含んでいるダイエット飲料ではなく、できればお茶か水にしてください。患者はい。わかりました。●ポイントSGLT2阻害薬投与時には、脱水予防のためにお茶か水を積極的に摂取することを上手に説明します※お茶については、緑茶や紅茶以外のカフェインのないものを選ぶようにしましょう。1)Chao EC, et al. Nat Rev Drug Discov. 2010; 9: 551-559.

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双極性障害の自殺予防、どうすべきか

 双極性障害は自殺企図および自殺死リスクの増加と関連している。国際双極性障害学会(ISBD)では、双極性障害における自殺企図・自殺死に関する疫学、神経生物学および薬物治療に関して現存の文献を検討し、タスクフォース報告書としてまとめた。その中で筆頭著者のカナダ・トロント大学のAyal Schaffer氏らは、推定自殺率が過去の報告よりも低かったことを報告した。そのほか、最も多い自殺の方法や全体的なリスクなどを明らかにしたうえで、「こうした理解が、双極性障害における自殺予防に対する認識の高まりや、より有効な治療法の開発につながる」と述べ、「リスク低減や治療進展のために、遺伝学的知見の再現研究や治療オプションの、より信頼できる前向きデータが必要である」と指摘している。Australian & New Zealand Journal of Psychiatry誌オンライン版2015年7月16日号の掲載報告。 著者らは、1980年1月1日~2014年5月30日までの双極性障害患者における自殺企図または自殺死に関する論文を対象に、システマティックレビューを行った。対象とした研究は、双極性障害における自殺企図または自殺死の発生率、特徴、遺伝学的/非遺伝学的生物研究、双極性障害に特化した薬物療法の論文などで、自殺率について加重統合解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・双極性障害における統合自殺率は、164/10万人年(95%信頼区間 :5~324)であった。・性別に特化した自殺率データにより、男女比は1.7対1と算出された。・双極性障害患者は全自殺の3.4~14%を占めていた。方法としては服薬自殺、首つり自殺が最も多かった。・疫学研究の報告によると、双極性障害患者の23~26%に自殺企図が認められ、臨床サンプルにおいてより高率であった。・双極性障害では自殺企図および自殺死における遺伝学的関連が多く認められるが、それを再現する研究はほとんど行われていなかった。・リチウムあるいは抗けいれん薬を用いた治療データにより、自殺企図および自殺死の予防効果が強く示唆された。ただし、自殺に対する相対的な効果の確定にはさらなるデータが必要である。・抗精神病薬あるいは抗うつ薬を用いた治療の、自殺予防効果の可能性に関するデータは限定的なものであった。関連医療ニュース 双極性障害の自殺、どの程度わかっているのか 統合失調症患者の自殺企図、家族でも気づかない:東邦大学 自殺念慮と自殺の関連が高い精神疾患は何か  担当者へのご意見箱はこちら

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Stage IIIA/N2のNSCLC、術前化学放射線療法は有用か/Lancet

 Stage IIIA/N2の非小細胞肺がん(NSCLC)の治療では、術前の化学療法に放射線療法を併用しても、さらなるベネフィットは得られないことが、スイス・Kantonsspital WinterthurのMiklos Pless氏らSAKK Lung Cancer Project Groupの検討で示された。局所進行Stage III病変は治癒の達成が可能な最も進行したNSCLCであるが、最終的に患者の60%以上ががんで死亡する。Stage IIIA/N2の標準治療は同時併用化学放射線療法と手術+化学療法で、後者については術後または術前化学療法+手術が、手術単独よりも生存期間において優れることが示されているが、術前化学放射線療法+手術の第III相試験はこれまで行われていなかった。Lancet誌オンライン版2015年8月11日号掲載の報告より。術前放射線療法の逐次的追加の有用性を評価 研究グループは、術前放射線療法の追加により局所病変の奏効率や完全切除率が改善することで、無イベント生存期間(EFS)が延長し、全生存期間(OS)の延長の可能性もあるとの仮説を立て、これを検証するために無作為化第III相試験を行った(Swiss State Secretariat for Education, Research and Innovation[SERI]などの助成による)。 対象は、年齢18~75歳、T1~3N2M0、Stage IIIA/N2の局所進行NSCLCであり、全身状態が良好(ECOG PS:0、1)で、主要臓器機能が正常な患者であった。 被験者は、術前化学療法(シスプラチン100mg/m2+ドセタキセル85mg/m2、3週ごと)を3サイクル施行後に、術前放射線療法(総線量44Gy、22分割、3週間)を行う群(化学放射線療法群)、または同一レジメンの術前化学療法のみを行う群(化学療法単独群)に無作為に割り付けられた。術前化学放射線療法群は終了後21~28日に、術前化学療法単独群は21日に手術が予定された。 主要評価項目はEFS(割り付け時から再発、進行、2次がん、死亡のうち最初のイベント発生までの期間)とし、intention-to-treat解析を行った。 2001~2012年までに、スイス、ドイツ、セルビアの23施設に232例が登録され、化学放射線療法群に117例(年齢中央値60.0歳、女性33%、PS0 71%、喫煙者91%)が、化学療法単独群には115例(59.0歳、33%、69%、96%)が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は52.4ヵ月だった。 本試験は、3回目の中間解析(イベント発生数134件)の結果を踏まえ、独立データ監視委員会の勧告により無効中止となった。奏効率は優れたが、EFSとOSに差なし 化学療法の完遂率は、化学放射線療法群が92%(108/117例)、化学療法単独群は90%(103/115例)であり、比較的高かった。化学放射線療法群の16%(19/117例)が放射線療法を開始できなかったが、予定線量の完遂率は96%(94/98例)だった。 化学療法を受けた患者では毒性作用が高頻度にみられ、Grade 3/4の発現率は化学放射線療法群が45%(49/110例)、化学療法単独群は60%(73/121例)であった。しかし、治療関連有害事象で化学療法が永続的に中止となった患者はそれぞれ4%(5/117例)、6%(7/115例)のみであった。放射線誘発性のGrade 3の嚥下障害が7%(7/98例)に認められた。 抗腫瘍効果は、化学放射線療法群で完全奏効(CR)が4例(3%)、部分奏効(PR)が67例(57%)にみられ、客観的奏効率は61%であったのに対し、化学療法単独群ではCRが2例(2%)、PRが48例(42%)で客観的奏効率は44%であり、両群間に有意な差が認められた(p=0.012)。 手術は、化学放射線療法群が85%(99/117例)、化学療法単独群は82%(94/115例)で行われた。完全切除率は両群間に有意な差はなく(p=0.06)、病理学的完全奏効(16 vs. 12%)やリンパ節転移のdownstaging(N2からN1/N0へ)(64 vs. 53%)も同等であった。術後30日以内に、化学療法単独群の3例が死亡した。 EFS中央値は、化学放射線療法群が12.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.7~22.9)、化学療法単独群は11.6ヵ月(95%CI:8.4~15.2)であり、両群間に差を認めなかった(ハザード比[HR]:1.1、95%CI:0.8~1.4、p=0.67)。また、OS中央値も、化学放射線療法群が37.1ヵ月(95%CI:22.6~50.0)、化学療法単独群は26.2ヵ月(95%CI:19.9~52.1)と、両群間に差はなかった(HR:1.0、95%CI:0.7~1.4)。 著者は、「Stage IIIA/N2 NSCLCに対する術前化学療法+手術はきわめて良好な予後をもたらし、術前放射線療法を追加してもそれ以上のベネフィットは得られなかった」とまとめ、「これまでの知見も考慮すると、放射線療法と手術のいずれか1つの局所治療と化学療法の組み合わせは、Stage IIIA/N2 NSCLCの患者に施行可能であり、標準治療とみなすべきと考えられる」と指摘している。

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Vol. 4 No. 1 HFpEF駆出率の保たれた心不全に対する診断と治療を考える

山本 一博 氏鳥取大学医学部病態情報内科HFpEFとは左室駆出率が保持された心不全(HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction)という概念が定着してきたのはこの10年程度と日が浅く、いまだ全容は明らかとなっていない。疫学調査の結果から明らかにされている特徴は、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction)と比較して高齢者と女性の占める割合が高いことである。地域住民を対象とした調査のなかで心不全患者のEFの分布をみると二峰性を示し、2つの峰の間にある“谷”に当たる位置のEFの値は、HFrEFとHFpEFを臨床的に分けているEFのカットオフポイントにあたる1)。このような結果をみるとHFrEFとHFpEFは異なる病態として扱うべきと考えられる。HFpEFの診断HFpEF診断の基本は心不全であることの臨床診断左室駆出率が保持されているが、左室拡張機能障害が認められるである。1. 心不全の臨床診断心不全に伴う自覚症状や他覚所見には、心不全に特異的なものがない。現在のところ血中Bタイプナトリウム利尿ペプチド(BNPないしNT-proBNP)の濃度が上昇している場合は、心不全に基づく症状や所見の可能性が高いと判断することになる。この基準値であるが、BNPでは100pg/mL、NT-proBNPであれば400pg/mLが目安になると思われる。2. 左室流入血流速波形を用いた拡張機能評価に関する誤解以前より左室流入血流速波形が拡張機能の指標として用いられてきたが、ここに大きな認識の誤りがある。左室駆出率が低下している症例においてE/Aは左室充満圧と正比例しE波の減衰時間(DT)は左室充満圧と負の相関を示すことから2)、拡張機能障害のために二次的に生じている左室充満圧上昇の検出を通じて間接的に左室拡張機能障害の評価に左室流入血流速波形は用いうる。一方、HFpEFのように左室駆出率が保持されている症例では、E/AやDTは左室充満圧と相関しない2)。つまり、左室流入血流速波形をワンポイントで計測しても、拡張機能障害のために二次的に起きてくる左室充満圧上昇の有無を判断することは不可能である。では、左室流入血流速波形のみを用いて直接的に拡張機能を評価できるか? 答えは「NO」である。E/Aの低下は拡張機能障害を表すかのようにいわれているが、これを裏づけるデータはほとんどない。1980年代にKitabatakeらが心疾患患者においてE/Aの低下やDTの延長が認められることを報告し3)、その後、左室拡張機能障害、特に弛緩障害が起きるとE/Aが低下しDTが短縮するという研究結果が報告されたこともあり、E/Aの低下とDTの延長を認めれば左室弛緩障害を有していると判断できると信じ込まれてきた。確かに左室弛緩障害が起きるとE/Aは低下しDTは延長するとはいえるが、E/Aが低下しDTが延長していれば弛緩障害が存在するとはいえない。これまでに行われてきた多くの臨床研究の結果をみると、E/Aと左室弛緩評価のゴールドスタンダードである時定数Tauとの間には相関を認めないとする報告がほとんどである。最近わが国で集められた臨床データをみても、E/Aが低下している症例であってもTauは異常値ではない症例が少なくないことが示されている4)。3. 左室駆出率が保持された患者における拡張機能評価これについては、確立した指標がない。現段階で受け入れられている、左室充満圧上昇の検出に用いうる指標としてパルスドプラ法で記録する左室流入血流速波形のE波と、組織ドプラ法で記録する急速流入期の僧帽弁輪部運動のピーク速度e’の比(E/e’)の上昇肺静脈血流速波形および左室流入血流速波形の心房収縮期波の幅の差の増加左房径/容積の増加E波とe’波の開始時間の差であるTE-e’、連続波ドプラにおいて左室流入血流速波形と左室流出路波形を同時記録して求める等容性弛緩時間IVRTの比(IVRT/TE-e’)の低下Valsalva法により急速前負荷軽減を行った際のE/Aの過大な低下などが挙げられるが、いずれの指標も単独で用いうるほどの信頼性はない。また、心エコー図検査は安静時にデータ収集を行っているので、これらを用いて診断できるのは病期がある程度進行し安静時から左房圧が上昇している患者のみである。安静時に左房圧は上昇しておらず、労作時に拡張機能障害により急激な左房圧上昇を来すために運動耐容能が低下している患者も少なくなく(図1)、このような患者を診断するには左室拡張機能(主に左室弛緩とスティフネス)を直接的に評価する必要がある。図1 労作時の左室拡張末期容積および拡張末期圧の変化のシェーマ画像を拡大する左室弛緩を直接的に評価しうる指標としてe’が挙げられる。e’は左室弛緩障害により減高し、簡便に記録できるので臨床的にも有用性が高い。また、弛緩障害はe’波の開始を遅らせるため、E波の開始とe’波の開始の時間差であるTE-e’もTauと相関すると報告されている。左房容積は左房圧と相関をするので、純粋に拡張機能だけを反映しているとはいえないが、左室拡張機能障害による慢性的な左房負荷を反映して左房が拡大することから、拡張機能評価における左房容積は糖尿病評価におけるHbA1cのような位置づけにあるとも考えられている5)。American Society of Echocardiographyから出されているガイドラインにおいて、拡張機能障害の有無を検出するfirst lineの指標として用いられているのはe’と左房容積である6)。一方、HFpEF発症には左室弛緩障害以上に左室スティフネス亢進が寄与しており、その評価が重要であると考えているが、確立した非侵襲的評価法がない。われわれは拡張期の左室壁心外膜面の動きに着目した7)。線形弾性理論に基づくと、“やわらかい”物質と“硬い”物質に圧を加えた場合、圧を加えた面の反対面の動きが前者に比べ後者では大となる。この法則を左室自由壁の拡張期の動きに当てはめ(図2)、かつ簡便化した定量的指標がであり、心筋スティフネス係数と有意な負の相関関係にある。DWS低値は糖尿病患者においてHFpEF発症の独立した危険因子であること8)、HFpEF患者においてDWSは、年齢、性、E/e’、左室駆出率、左室重量係数、肺動脈圧、血中BNP濃度とは独立した予後規定因子であることも明らかにした9)。ただし、まだ広く受け入れられている指標ではないので、今後の検討が必要である。間接的に左室拡張機能障害の存在を示唆する形態的な異常所見が左室肥大である。ただし、HFpEF症例の60%では左室肥大は存在しないので、左室肥大が存在しないからといって拡張機能障害を否定することはできない。図2 「やわらかい」左室自由壁と「硬い」左室自由壁のM-モード画像を拡大するHFpEFの治療基礎疾患として高血圧を有する患者では血圧コントロールが必須である。虚血性心疾患患者では、虚血が自覚症状の原因と判断されれば血行再建を行う。心房細動で心室レートが過剰に亢進している場合には、これを抑える薬剤を用いる。このような基礎疾患に対する治療ないし対症療法を除き、HFpEFに特異的な治療として有効性が確立しているものは現段階ではない。1. 利尿薬HFpEFの自覚症状に体液貯留が関与している場合は、自覚症状軽減を目的として、つまり代表的な対症療法として利尿薬を用いる。利尿薬の選択については、わが国で実施したJ-MELODIC試験の結果を考慮すると、短時間作用型のフロセミドよりも長時間作用型のアゾセミドを選択するほうが好ましい10)。利尿薬は、現在認識されているように単に自覚症状を軽減することだけを目的として使用する薬剤なのか否かを検討する余地がある。心不全入院歴がなく、かつ心不全症状を認めない患者において利尿薬を中断すると、1年以内に再開せざるをえなくなる患者が少なくない11)。われわれの検討において、HFpEF患者を多く含むクリニカルシナリオ1の病態を呈する急性心不全は冬季発症が多く(本誌p.17図を参照)、冬季に発症が増える危険因子はループ利尿薬を服用していないことであるという結果が導かれた12)。心不全増悪のほとんどは心拍出量の低下ではなくうっ血によるものであり、その原因となる左室充満圧上昇はある程度進行しなければ臨床所見として捉えることができない13)。したがって、現在のように症状を基準として利尿薬の投与を中止した場合、まだ左室充満圧が上昇している状況、つまり心不全発症リスクが十分に低下していない状況での利尿薬中止に至る。心不全の増悪を繰り返すことが、結果的に病態の悪化を招くことは広く知られているところであり、このような病態の“揺れ”を招かない心不全コントロールを行うには、安易な利尿薬の中止は避けるべきかもしれない。2. レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の阻害これまでの介入試験の結果に基づき、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の阻害はHFpEFには有効性が期待できないと結論づけられているが、果たしてその結論を安易に受け入れてよいものであろうか?アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)はHFpEFに対して無効であるという結果を提示したI-PRESERVE試験のサブ解析は、投与開始前のNT-proBNP値が低い患者ではARBは有用であることを示唆している14)。I-PRESERVE試験より軽症の患者を多く含むCHARM-Preserved試験では、ARBは心不全悪化による入院リスクを有意に低下させている15)。PEP-CHF試験では追跡1年経過後に多くの症例が割付治療から逸脱していたため90%の症例が割付治療を行っていた割付後1年目の時点での解析を行うと、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)投与群で1次エンドポイント発生率は低下傾向を認め、心不全入院は有意に減少し、NYHA心不全機能分類および6分間歩行も有意に改善した16)。さらに最近発表された大規模観察研究では、ACEIないしARBの服用はHFpEFの予後改善に結びつくとの結果が示されている17)。アルドステロンの作用を抑制するミネラロコルチコイド受容体拮抗薬のHFpEFにおける有用性を検討したTOPCAT試験は2014年に結果が発表された18)。スピロノラクトンは設定された1次エンドポイント(心血管死、突然死、心不全入院)の低下をもたらさなかったが、心不全入院は有意に減少させている。TOPCAT試験の対象患者もNYHAⅡ度の比較的軽症の患者が多い。以上の介入試験の主論文の結論からは、ARB、ACEI、ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬はHFpEFに無効という意見が導かれるが、日常診療においてHFpEF患者の抱える大きな問題の1つが高い再入院率であることなども念頭においたうえでこのようなサブ解析の結果を眺めると、これらの薬剤に効果を期待できる患者群が存在すると推察すべきではないかと考える。3. β遮断薬HFrEF治療で有用性が確立しているβ遮断薬のHFpEFにおける効果を検討した介入試験はほとんど行われていなかったが、わが国で実施したJ-DHF試験の結果を2013年に発表した。カルベジロール投与群と非投与群の比較ではイベント発生率に差異を認めなかったが、カルベジロール群をカルベジロール投与量中間値の7.5mg/日で分けて検討したところ、7.5mg/日より大の投与群では心血管死ないし心血管系の原因による入院という複合エンドポイント発生率を有意に低下させていた(本誌p.18図を参照)19)。この結論はDobreらの観察研究から導かれた結論とも一致しており20)、現在進行中のβ-PRESERVE試験の結果が待たれる。4. 非心臓因子に着目した薬物治療HFpEFの重症化には非心臓因子も関与しており、その点に焦点をあてる治療法の有用性にも期待がかかる。しかしこれまでのところ、肺血管抵抗低下作用のあるphosphodiesterase-5阻害薬のシルデナフィル、貧血改善目的で使用されるエリスロポエチンには有用性が確認されなかった。おわりに以上、HFpEFの診断と治療について概説した。治療法については、ARBとneprilysin阻害薬の作用を有するLCZ696、イバブラジンなどの効果を検討する臨床試験が進行中であり、それらの結果に期待したい。文献1)Dunlay SM et al. Longitudinal changes in ejection fraction in heart failure patients with preserved and reduced ejection fraction. Circ Heart Fail 2012; 5: 720-726.2)Yamamoto K et al. Determination of left ventricular filling pressure by Doppler echocardiography in patients with coronary artery disease: critical role of left ventricular systolic function. J Am Coll Cardiol 1997; 30: 1819-1826.3)Kitabatake A et al. Transmitral blood flow reflecting diastolic behavior of the left ventricle in health and disease--a study by pulsed Doppler technique. Jpn Circ J 1982; 46: 92-102.4)Yamada S et al. Limitation of echocardiographic indexes for the accurate estimation of left ventricular relaxation and filling pressure: interim results of SMAP, a multicenter study in Japan (in Japanese). Jpn J Med Ultrasonics 2012; 39: 449-456.5)Douglas PS. The left atrium: a biomarker of chronic diastolic dysfunction and cardiovascular disease risk. J Am Coll Cardiol 2003; 42: 1206-1207.6)Nagueh SF et al. Recommendations for the evaluation of left ventricular diastolic function by echocardiography. J Am Soc Echocardiogr 2009; 22: 107-133.7)Takeda Y et al. Noninvasive assessment of wall distensibility with the evaluation of diastolic epicardial movement. J Card Fail 2009; 15: 68-77.8)Takeda Y et al. Competing risks of heart failure with preserved ejection fraction in diabetic patients. Eur J Heart Fail 2011; 13: 664-669.9)Ohtani T et al. Diastolic stiffness as assessed by diastolic wall strain is associated with adverse remodelling and poor outcomes in heart failure with preserved ejection fraction. Eur Heart J 2012; 33: 1742-1749.10)Masuyama T et al. Superiority of long-acting to short-acting loop diuretics in the treatment of congestive heart failure. Circ J 2012; 76: 833-842.11)Walma EP et al. Withdrawal of long-term diuretic medication in elderly patients: a double blind randomised trial. BMJ 1997; 315: 464-468.12)Hirai M et al. Clinical scenario 1 is associated with winter onset of acute heart failure. Circ J 2015; 79: 129-135.13)Gheorghiade M et al. Assessing and grading congestion in acute heart failure: a scientific statement from the acute heart failure committee of the heart failure association of the European Society of Cardiology and endorsed by the European Society of Intensive Care Medicine. Eur J Heart Fail 2010; 12: 423-433.14)Anand IS et al. Prognostic value of baseline plasma amino-terminal pro-brain natriuretic peptide and its interactions with irbesartan treatment effects in patients with heart failure and preserved ejection fraction: findings from the I-PRESERVE trial. Circ Heart Fail 2011; 4:569-577.15)Yusuf S et al. Effects of candesartan in patients with chronic heart failure and preserved left-ventricular ejection fraction: the CHARMPreserved Trial. Lancet 2003; 362: 777-781.16)Cleland JGF et al. The perindopril in elderly people with chronic heart failure (PEP-CHF) study. Eur Heart J 2006; 27: 2338-2345.17)Lund LH et al. Association between use of renin-angiotensin system antagonists and mortality in patients with heart failure and preserved ejection fraction. JAMA 2012; 308: 2108-2117.18)Pitt B et al. Spironolactone for heart failure with preserved ejection fraction. N Engl J Med 2014; 370: 1383-1392.19)Yamamoto K et al. Effects of carvedilol on heart failure with preserved ejection fraction: the Japanese Diastolic Heart Failure Study (J-DHF). Eur J Heart Fail 2013; 15: 110-118.20)Dobre D et al. Prescription of beta-blockers in patients with advanced heart failure and preserved left-ventricular ejection fraction. Clinical implications and survival. Eur J Heart Fail 2007; 9: 280-286.

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オオアリクイに殺された男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第49回

オオアリクイに殺された男性 Wikipediaより使用 「オオアリクイ」(写真)と聞くと、私のような30代のオッサンは『ドラゴンクエスト3』を思い出すのですが、いかがでしょう。え? そんなゲーム知らない? たしか、オオアリクイは序盤のほうで出てくるモンスターだったような気がします。アリアハン大陸西側によく出没します。ハイハイ、そんなことはどうでもいいですね。 Haddad V Jr, et al. Human death caused by a giant anteater (Myrmecophaga tridactyla) in Brazil. Wilderness Environ Med. 2014;25:446-449. この論文はオオアリクイに襲われた2人の不幸な親子について報告したケースシリーズです。そのうち親のほうは死亡しています。オオアリクイは本来人間に対して攻撃的な態度は取らないそうですが、視力が極端に弱いため、危険を感じたときは前脚の鋭い鉤爪で防衛行動に出るらしいです。まるで目隠しされた切り裂きジャック。どうやらこの論文の犠牲者は、親子で狩りをしていたようです。一緒に連れて行った狩猟犬がワンワンとオオアリクイを追い詰めたときに、この惨劇は起こりました。もともとオオアリクイを仕留めるために猟銃を撃つ予定だったのでしょうか、しかし誤射でかわいい愛犬に当たってしまうのがコワかったのでしょう、なかなか放銃できませんでした。そのためいっそのことオオアリクイをナイフで仕留めてやろうと考えましたが、そうこうしているうちにオオアリクイにつかまってしまいました。鋭い鉤爪が彼の鼠径部に食い込みました。息子がオオアリクイからどうにか父親をひっぺはがしたとき、彼の鼠径部からは大量に出血がみられたそうです。これが致命傷となりました。父親は出血性ショックで亡くなりました。皆さんも、オオアリクイを見かけたときには鉤爪に注意してください。『ドラゴンクエスト3』のように「たたかう」ではなく、できれば「にげる」を選択してください。インデックスページへ戻る

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家庭内暴力・多量飲酒女性、救急での短期動機付け介入の効果は?/JAMA

 パートナーによる家庭内暴力(Intimate partner violence:IPV)や過度の飲酒経験のある女性に対して、緊急外来部門(ED)での短期動機付け介入は、評価対照群との比較でそれらの発生日数を有意に減らさなかったことが、米国・ペンシルベニア大学のKarin V. Rhodes氏らによる無作為化試験の結果、明らかにされた。著者は、「結果は、こうした設定での短期動機付け介入を、支持しないものであった」と結論している。これまで、ED訪問時に提供したIPVや過度の飲酒に対する短期動機付け介入の効果について統合した検証は行われていなかった。JAMA誌2015年8月4日号掲載の報告より。600例を対象に無作為化試験 試験は、2011年1月~2014年12月に、2ヵ所の米国の都市部にある大学病院のEDで行われた。被験者はIPVを受けており、飲酒量が女性の安全限界値(National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism規定量)を上回っている18~64歳の女性600例であった。 全員に社会福祉サービスを紹介して、2対2対1の割合で、短期介入群(242例)、評価対照群(237例)、非接触対照群(121例)に無作為に割り付けた。 短期介入群には、EDで修士レベルのセラピストによる20~30分のマニュアルに基づく動機付け介入(患者の変化の様子を記録・モニタリング)すると、電話によるフォローアップ(10日後)が行われた。評価対照群には短期介入群と同数の評価を行い、非接触対照群には3ヵ月時点で1回だけ評価を行った。 主要評価項目は、事前に規定した過度の飲酒とIPVの発生で、12週間にわたって双方向の音声応答システムを使って評価した。介入群の12週時点のオッズ比、IPVは1.02、過度の飲酒は0.99 600例のうち、80%が黒人女性で平均年齢は32歳であった。 2回以上音声システムコールをした人は89%であった。3ヵ月時点でインタビュー評価を完遂した人は78%、6ヵ月時点は79%、12ヵ月時点は71%であった。 12週間の追跡期間中、介入群と対照群の週ごとの評価において、IPV(オッズ比[OR]:1.02、95%信頼区間[CI]:0.98~1.06)、過度の飲酒(同:0.99、0.96~1.03)の発生はいずれも有意な差はみられなかった。 ベースラインから12週時点までに、あらゆるIPVを経験した女性の数は、介入群は57%(134/237例)から43%(83/194例)に減少し、評価対照群は63%(145/231例)から41%(77/187例)の減少であった(絶対差:8%)。同様に過度の飲酒については、介入群は51%(120/236例)から43%(83/194例)に減少し、評価対照群は46%(107/231例)から41%(77/187例)の減少であった(絶対差:3%)。 12ヵ月時点での評価では、介入群の43%(71/165例)と評価対照群の47%(78/165例)が、過去3ヵ月間にIPVを受けなかったと報告した。また、飲酒量を減らしたと回答した人はそれぞれ19%(29/152例)、24%(37/153例)であった。

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ASPECT-cUTI試験:複雑性尿路感染症におけるセフトロザン/タゾバクタムの治療効果~レボフロキサシンとの第III相比較試験(解説:吉田 敦 氏)-401

 腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症の治療は、薬剤耐性菌の増加と蔓延によって選択できる薬剤が限られ、困難な状況に直面している。セファロスポリン系の注射薬であるセフトロザンとタゾバクタムの合剤である、セフトロザン/タゾバクタムは、βラクタマーゼを産生するグラム陰性桿菌に効果を有するとされ、これまで腹腔内感染症や院内肺炎で評価が行われてきた。今回、複雑性尿路感染症例を対象とした第III相試験が行われ、その効果と副作用が検証され、Lancet誌に発表された。用いられたランダム化比較試験 成人に1.5 gを8時間ごとに投与を行った、ランダム化プラセボ対照二重盲検試験であり、欧州・北米・南米など25ヵ国で実施された。膿尿があり、複雑性下部尿路感染症ないし腎盂腎炎と診断された入院例を、ランダムにセフトロザン/タゾバクタム投与群と高用量レボフロキサシン投与群(750mg /日)に割り付けた。投与期間は7日間とし、微生物学的に菌が証明されなくなり、かつ、治療開始5~9日後に臨床的に治癒と判断できた状態をエンドポイントとした(Microbiological modified Intention-to-treat:MITT)。同時に、合併症・副作用の内容と出現頻度を比較した。レボフロキサシンに対して優れた成績 参加した1,083例のうち、800例(73.9%)で治療開始前の尿培養などの条件が満たされ、MITT解析を行った。うち656例(82.0%)が腎盂腎炎であり、2群間で年齢やBMI、腎機能、尿道カテーテル留置率、糖尿病・菌血症合併率に差はなかった。また776例は単一菌の感染であり、E. coliがほとんどを占め(629例)、K. pneumoniae(58例)、P. mirabilis(24例)、P. aeruginosa(23例)がこれに次いだ。なお、開始前(ベースライン)の感受性検査では、731例中、レボフロキサシン耐性は195例、セフトロザン/タゾバクタム耐性は20例に認めた。 結果として、セフトロザン/タゾバクタム群の治癒率は76.9%(398例中306例)、レボフロキサシン群のそれは68.4%(402例中275例)であり、さらに尿中の菌消失効果もセフトロザン/タゾバクタム群が優れていることが判明した。菌種別にみても、ESBL産生大腸菌の菌消失率はセフトロザン/タゾバクタムで75%、レボフロキサシンで50%であった。合併症と副作用に及ぼす影響 セフトロザン/タゾバクタム群では34.7%、レボフロキサシン群では34.4%で何らかの副作用が報告された。ほとんどは頭痛や消化器症状など軽症であり、重い合併症(腎盂腎炎や菌血症への進行、C. difficile感染症など)はそれぞれ2.8%、3.4%であった。副作用の内容を比べると、下痢や不眠はレボフロキサシン群で、嘔気や肝機能異常はセフトロザン/タゾバクタム群で多かった。今後のセフトロザン/タゾバクタムの位置付け セフトロザン/タゾバクタムは抗緑膿菌作用を含む幅広いスペクトラムを有し、耐性菌の関与が大きくなっている主要な感染症(複雑性尿路感染症、腹腔内感染症、人工呼吸器関連肺炎)で結果が得られつつある。今回の検討は、尿路感染症に最も多く用いられているフルオロキノロンを対照に置き、その臨床的・微生物効果を比較し、セフトロザン/タゾバクタム群の優位性と忍容性を示したものである。 しかしながら、ベースラインでの耐性菌の頻度からみれば、レボフロキサシン群の効果が劣るのは説明可能であるし、尿路の基礎疾患(尿路の狭窄・閉塞)による治療効果への影響についても本報告はあまり言及していない。そもそも緑膿菌も、さらにESBL産生菌も視野に入れた抗菌薬を当初から開始することの是非は、今回の検討では顧みられていない。また、腸管内の嫌気性菌抑制効果も想定され、これが常在菌叢の著しいかく乱と、カルバぺネム耐性腸内細菌科細菌のような耐性度の高いグラム陰性桿菌の選択に結び付くことは十分ありうる。実際に、治療開始後のC. difficile感染症はセフトロザン/タゾバクタム群でみられている。 セフトロザン/タゾバクタムをいずれの病態で使用する場合でも、その臨床応用前に、適応について十分な議論がなされることを期待する。販売し、いったん市場に委ねてしまうと、適応は不明確になってしまう。本剤のような抗菌薬は、適応の明確化のみならず、使用期間の制限が必要かもしれない。

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全盲者の概日リズム調整に新規メラトニン受容体作動薬が有効/Lancet

 非24時間睡眠覚醒障害の全盲者における概日リズムの乱れの同調に、tasimelteonが有効であることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のSteven W Lockley氏らの検討で示された。ヒトの概日周期は24時間よりも長く、明暗の周期に反応することでペースメーカー(体内時計)を24時間に同調させているが、非24時間睡眠覚醒障害ではこの同調機能が損なわれて入眠や起床時間が徐々に遅くなり、注意力や気分の周期的変動が発現し、就学や就業など社会的な計画的行動の維持が困難となる。全盲者の55~70%に概日リズムの脱同調がみられるという。tasimelteonは、松果体ホルモンであるメラトニンの2つの受容体(MT1、MT2)の作動薬で、先行研究で、晴眼者への経口投与により概日リズムを変移させ、また非24時間概日活動リズムのラットに注射したところこれを同調させたことが示されていた。Lancet誌オンライン版2015年8月4日掲載の報告。概日リズムの同調を2つのプラセボ対照無作為化試験で評価 研究グループは、非24時間睡眠覚醒障害の全盲者における概日リズムの同調とその維持に関するtasimelteonの有効性および安全性を評価する2つのプラセボ対照無作為化試験(SET試験、RESET試験)を行った(Vanda Pharmaceuticals社の助成による)。 SET試験の対象は、年齢18~75歳、メラトニンの主要代謝産物である6-sulfatoxymelatoninの尿中排泄リズムで評価した概日周期(τ)が24.25時間以上(95%信頼区間[CI]:24.0~24.9)の全盲者とした。被験者は、tasimelteon(20mg、24時間ごと)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 SET試験でオープンラベル群に登録された患者と、SET試験の選択基準は満たさないがRESET試験の基準は満たす患者などが、RESET試験のスクリーニングの対象となった。RESET試験は、tasimelteon導入期に反応(同調の達成)がみられた患者を対象とし、tasimelteonの投与を継続する群またはtasimelteonを中止してプラセボに切り換える群に無作為に割り付けた。 SET試験の主要評価項目はintention-to-treat集団における概日リズムの同調の達成率とし、臨床効果(1ヵ月時、7ヵ月時の同調達成、Non-24 Clinical Response Scaleによる臨床的改善)の達成率の評価も行った。RESET試験の主要評価項目は同調非達成率であった。安全性は、全例の有害事象および検査値異常などで評価した。同調達成後にプラセボに切り換えると達成率が低下 SET試験では、2010年8月25日~2012年7月5日の間に、391例の全盲者がスクリーニングを受けた。米国の27施設とドイツの6施設に84例(22%、平均年齢50.7歳、男性58%)が登録され、tasimelteon群に42例、プラセボ群にも42例が割り付けられた。τ値の評価前に、tasimelteon群の2例、プラセボ群の4例が有害事象やプロトコル逸脱などで試験を中止した。 概日リズム同調達成率は、tasimelteon群が20%(8/40例)であり、プラセボ群の3%(1/38例)に比べ有意に優れていた(群間差:17%、95%CI:3.2~31.6、p=0.0171)。また、臨床効果の達成率は、tasimelteon群が24%(9/38例)と、プラセボ群の0%(0/34例)に比し有意に良好であった(群間差:24%、95%CI:8.4~39.0、p=0.0028)。 RESET試験のスクリーニングは、2011年9月15日~2012年10月4日に58例で行われ、48例(83%)がτ値の評価を受け、オープンラベルのtasimelteon導入期に登録された。このうち24例(50%)で概日リズムの同調が達成され、20例(34%、平均年齢51.7歳、男性60%)が無作為化試験に登録された。tasimelteonを継続する群に10例が、プラセボに切り換える群にも10例が割り付けられた。 概日リズム同調達成率は、tasimelteon継続群が90%(9/10例)、プラセボ群は20%(2/10例)であり、有意な差が認められた(群間差:70%、95%CI:26.4~100.0、p=0.0026)。 いずれの試験にも死亡例はなく、全治療期間を通じた有害事象による治療中止率はtasimelteon群が6%(3/52例)、プラセボ群は4%(2/52例)であった。SET試験中に最も高頻度に発現した治療関連副作用は、頭痛(tasimelteon群17%[7/42例] vs.プラセボ群7%[3/42例])、肝酵素上昇(10 vs.5%)、悪夢/異常な夢(10 vs.0%)、上気道感染症(7 vs.0%)、尿路感染症(7 vs.2%)であった。 著者は、「tasimelteonの1日1回投与は、全盲者の非24時間睡眠覚醒障害における概日リズムの同調に有効であったが、この改善効果を維持するにはtasimelteonの継続投与が必要であった」とまとめ、「本試験は、米国FDAおよび欧州医薬品庁(EMA)が非24時間睡眠覚醒障害に対するtasimelteonの適応を承認する際の基本的なデータとなった。これは、多くの全盲者が罹患する消耗性疾患の治療における進歩であり、概日リズム障害治療の新たなアプローチである」としている。

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性別で異なる、睡眠障害とうつ病発症の関連:東京医大

 不眠症状、日中の眠気、短い睡眠時間、あるいは睡眠覚醒スケジュール後退などの睡眠関連障害は、うつ病のリスクファクターとなることが知られている。一般的に、うつ病は男性より女性に多いが、睡眠関連障害については必ずしも同様の性差が示されるわけではない。うつ病の発症過程における睡眠関連障害の影響には性差があると考えられるが、この問題に注目した研究はこれまでほとんどなかった。東京医科大学の守田 優子氏らは、睡眠関連障害を有する日本人若年成人のうつ病発症に及ぼす性差について検討を行った。その結果、睡眠関連障害がうつ病発症に及ぼす影響には性差が認められ、女性では睡眠覚醒スケジュール後退の影響が大きいことを報告した。結果を踏まえて著者らは「睡眠関連障害に起因するうつ症状の軽減・予防には性別に基づくアプローチが必要である」と指摘している。Chronobiology International誌2015年8月号の掲載報告。 研究グループは、上記の睡眠関連障害を有する日本人若年成人のうつ病発症率の性差を明らかにし、うつ病関連因子における性差について検討した。被験者2,502例(男女比は1,144対1,358、年齢範囲:19~25歳)を対象に、人口統計学的変数、睡眠関連変数(就寝時間、起床時間、睡眠潜時、入眠困難・睡眠維持困難頻度など不眠の諸症状、日中の眠気)、うつ病自己評価尺度(CES-D: Center for Epidemiologic Studies Depression)の12項目バージョンからなるwebアンケート調査を実施した。 主な結果は以下のとおり。・うつ病発症率における女性の優位性は、睡眠覚醒スケジュール後退という項目でのみ示された(χ2(1) : 15.44、p<0.001)。・男性においては、日中の眠気(オッズ比[OR] :2.39、95%信頼区間[CI]: 1.69~3.39、p<0.001)および入眠困難(同3.50、2.29~5.35、p<0.001)がうつ病と有意に関連していた。・女性においては、睡眠覚醒スケジュール後退(OR: 1.75、95%CI:1.28~2.39、p<0.001)、日中の眠気(同:2.13、1.60~2.85、p<0.001)、入眠困難(同:4.37、3.17~6.03、p<0.001)がうつ病と有意に関連していた。・以上の結果は、若い世代では睡眠覚醒スケジュール後退がうつ病発症に与える影響は女性で大きく、とくに夜型の生活スタイルである場合にうつ病になりやすいこと、そして、このことは女性特有の速く短い内因性のサーカディアンリズムに起因する可能性があることを示唆するものであった。・以上より、若年成人におけるうつ症状の軽減あるいは予防には、性別に基づいた睡眠関連障害治療アプローチが必要であることが示唆された。関連医療ニュース 2つの新規不眠症治療薬、効果の違いは 注意が必要な高齢者の昼寝 睡眠薬使用は自動車事故を増加させているのか

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病院での手指衛生を向上させる介入とは? ―システマティックレビューとネットワークメタアナリシスによる解析―(解説:吉田 敦 氏)-400

 医療関連感染を少なくする最も有効な手段は、スタッフの手指衛生を向上させることである。しかしながら、それが遵守されていない病院は多い。WHOは2005年に、病院での手指衛生の向上を目的とした一連のキャンペーン「Clean Care is Safer Care 清潔なケアがより安全なケア」(WHO-5)を開始した1)。これは以下の5点、(1)組織変革、(2)トレーニング/教育、(3)評価とフィードバック、(4)作業場でのリマインダー、(5)組織的な安全風土、を骨子とし、それらを組み合わせたものである。今回、WHO-5が実際の手指衛生行動を変容させたかについて、システマティックレビューとメタアナリシスによる解析が行われ、BMJ誌に発表された。スタディ抽出とレビュー 1980年から2009年の間に、Medline、Embaseなどの文献ソースに蓄積されたスタディの中から、病院医療従事者の手指衛生のコンプライアンス向上に関する介入が行われ、かつ、一定の質的評価がなされたものを解析した。この中にはランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、介入前後の比較試験、時系列解析が含まれる。さらに、介入と医療従事者に関して偏りなく均一であると考えられる報告の中で、手指衛生のコンプライアンスが直接観察できたものについてネットワークメタアナリシスを行った。さらなる介入により、行動変容が大きく 検索した3,639スタディのうち、41が解析対象としての基準を満足した(ランダム化比較試験6、時系列解析32、非ランダム化比較試験1、介入前後の比較試験2)。2つのランダム化比較試験を用いたメタアナリシスでは、WHO-5に「手指衛生に関するゴール設定」を加えると、コンプライアンスが向上することが判明した。同時に時系列解析を一対比較したところ、22個の比較解析のうち18解析で、介入後にコンプライアンスが向上したという結果を得た。 一方、ネットワークメタアナリシスでは、WHO-5の効果そのものには不確実な部分が存在するものの、「手指衛生に関するゴール設定」「報酬・インセンティブ」「アカウンタビリティ(個人・組織レベルでの責任)」を加えると、より向上が認められた。また19スタディでは臨床的な結果が得られていたが、手指衛生の向上後に感染率が減少したものの、それは微生物によって差があった(例:MRSAでは減少率が大きく、C. difficileはそれに比べ小さかった)。なお、介入にかかったコストは1,000ベッド・日当たり225ドルから4,669ドルであった。有効な介入とは?その評価は? 今回の解析では、WHO-5自体は手指衛生の向上に有効であったものの、実際上ゴール設定など、ほかの方策を組み合わせることが望ましい結果であった。この意味では、複合的かつ合目的な、そして個人の前向きな問題意識・責任感・行動変容を引き出すような戦略が求められているといえよう。一方で、介入の効果の評価にあたっては、必要なデータはまだまだ不足している。今後の蓄積と介入によって、新たな方向性が見えてくる可能性は十分ある。参考文献はこちら1)World Health Organization. WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care. In WHO Guidelines Approved by the Guidelines Review Committee. 2009. 新潟県立六日町病院から邦訳刊行あり。「世界保健機関 医療における手指衛生ガイドライン:要約 最初の世界的患者安全の挑戦 清潔なケアがより安全なケア」

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テリパラチド連日投与の市販後調査中間解析結果

 近畿大学医学部 奈良病院 整形外科・リウマチ科の宗圓 聰氏らは、骨折リスクが高い日本人骨粗鬆症患者における、テリパラチド連日投与の有効性および安全性を検討する観察研究Japan fracture observational study(JFOS)について、試験デザイン、患者背景および中間解析結果を報告した。その中で、日常診察下におけるテリパラチドの有効性プロファイルは臨床試験ならびに欧州・米国で行われた観察研究の結果と類似していることを提示した。Current Medical Research & Opinion誌オンライン版2015年7月20日号の掲載報告。 研究グループは、骨折の危険が高い骨粗鬆症患者(男性/女性)に1日1回テリパラチドを投与し、3、6および12ヵ月後に評価した。 本中間解析は、臨床骨折、骨密度(BMD)、I型プロコラーゲン-N-プロペプチド(P1NP)、腰背部痛、健康関連QOL(HRQOL)および有害事象についての予備的報告である。 主な結果は以下のとおり。・1,810例(女性90.1%)が登録された。・本研究の対象は、他の観察研究でテリパラチドが投与された骨粗鬆症患者と比較し、年齢は高いが骨粗鬆症のリスク因子は少なかった。・臨床骨折の発生率は、6ヵ月後2.9%、12ヵ月後3.7%であった。・12ヵ月後の平均BMDは、ベースラインと比較して腰椎で8.9%、大腿骨近位部で0.8%増加した。・6ヵ月後の血清P1NP濃度中央値は、ベースラインと比較して187.7%高値であった。・12ヵ月後の疼痛スコア(視覚アナログスケールによる評価)はベースラインより低下し、HRQOLスコアは上昇した。・新しい有害事象は観察されなかった。

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統合失調症再発予防、遠隔医療に改善の余地あり

 チェコ共和国・国立精神保健研究所のF. Spaniel氏らは、統合失調症患者に対する遠隔医療プログラムが入院回数を減らすかについて検討を行い、有効性は認められなかったことを報告した。著者らは「先行研究で、この予防的戦略の失敗は、精神科医と患者両者のアドヒアランス不良にあることが示唆されている。統合失調症の3次予防は大きな課題であり、患者と治療に当たる精神科医の両者のより積極的な参加の下、戦略を実施する必要がある」と指摘している。Journal of Psychiatric and Mental Health Nursing誌オンライン版2015年7月14日号の掲載報告。 研究グループが検討した遠隔医療プログラムは、統合失調症再発予防支援情報技術(ITAREPS:Information Technology Aided Relapse Prevention Programme in Schizophrenia)で、遠隔医療により統合失調症の週単位のモニタリングと治療を可能とするものである。同プログラムが入院回数を減らす効果があるのか、18ヵ月間にわたる多施設非盲検無作為化並行群間試験を行った。対象は、統合失調症または統合失調感情障害の外来患者で、プログラム介入群(74例)と対照群(72例)に無作為に割り付けて追跡した。介入群では、システムによって再発の前駆症状が通知された場合、治験責任医師が抗精神病薬の用量を増大した。 主な結果は以下のとおり。・intention to treat解析の結果、介入群と対照群間の無入院生存率の有意差はみられなかった(Kaplan-Meier法によるハザード比[HR]:1.21、95%信頼区間[CI]:0.56~2.61、p=0.6)。・多変量Cox比例ハザードモデルによる事後解析において、13の潜在的予測因子を除けば、ITAREPS関連変数のみが入院リスクを増大していることが示された(薬理学的介入のないアラート数のHR:1.38、p=0.042/ 患者のITAREPSアドヒアランス不良のHR:1.08、p=0.009)。・本研究では、精神科医のアドヒアランス不良が示されており、前駆症状の初期段階で薬理学的介入が欠如していたことが、再発リスクに影響したと考えられる。・今回および先行の遠隔医療プログラムITAREPS無作為化対照試験においても、統合失調症の再発予防における実質的な改善は、現状の臨床設定では困難であることが示唆された。・将来的な統合失調症の予防戦略には、従来の外来診療では検出不可能である潜在的な前駆症状の発生を捉えて、迅速に薬理学的介入を行うことが求められる。・ITAREPS試験では、再発予防遠隔医療システムと訪問看護サービスによるソリューションが、それらの要求に応えられる可能性が示唆された。関連医療ニュース 統合失調症の再発予防プログラムを日本人で検証:千葉大学 統合失調症患者の再発を予測することは可能か? 統合失調症の再発、コスト増加はどの程度  担当者へのご意見箱はこちら

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がんを疑う症状があっても気付きにくいのは?

 社会経済的地位(SES)が低い人々では、がんが後期のステージで診断されるリスクが高い。これに対してはさまざまに解釈されているが、最近注目されているのは、がんが疑われる症状に関する患者の知識の低さであり、これが治療の遅れにつながるという。英国・サリー大学のKatriina L Whitaker氏らは、実際にがんの典型的な症状を経験している人々における「がんを疑うこと」の差を調査した。その結果、今回対象とされた集団では、全体的にがんを疑うレベルが低かったが、なかでも低学歴の人々でより低かった。このことから著者らは、初期症状の見逃しが診断時のステージの差につながっている可能性があるとしている。European journal of cancer誌オンライン版2015年8月8日号に掲載。 50歳以上のがんと診断されていない9,771人に、長引く咳や嗄声など、がんを疑う症状10項目を含む症状のリストと共に健康調査票を送付した。回答者に、過去3ヵ月間にいずれかの症状を経験したかどうかを尋ね、もし経験していた場合には「何がそれを引き起こしたと思うか?」と尋ねた。回答として、がんを挙げた場合には「がんを疑った」として点を付けた。SESは学歴により分類した。 主な結果は以下のとおり。・半数近くの回答者(3,756人中1,790人)ががんを疑う症状を経験していたが、考えられる原因として、がんを挙げたのは1,790人中63人(3.5%)だけであった。・学歴の低さは、「がんを疑うこと」の低さと関連していた。考えられる原因としてがんを挙げたのは、大学教育を受けた回答者で7.3%、大学未満の回答者では2.6%であった。・多変量解析によると、低学歴は「がんを疑うこと」の低さと関連する、独立した唯一の人口統計学的変数であった(オッズ比0.34、信頼区間:0.20~0.59)。

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やはり優れたワルファリン!(解説:後藤 信哉 氏)-399

 BMJ誌は、NEJM誌、JAMA誌とは別の方向の研究を掲載する傾向がある。 本研究は新薬でもなく、仮説検証研究でもない。「Get With The Guidelines (GWTG)-Stroke program」という、文字通りガイドライン遵守率を上げようとする病院群における観察研究の結果である。 筆者はこのGWTGを直接知らないが、米国の健康維持機構(HMO:health management organization)の1つと理解している。筆者は米国に4年住んでいたので、国民皆保険により患者の医療機関選択が自由な日本と、「医療もビジネス」と考え、保険があっても自由に医療機関を選択できない米国の差異を体感していた。 自由主義経済の米国では、保険会社も医療機関を選択する。診療ガイドラインを遵守する医療機関の治療成績が良いのであれば、多くの保険会社が医療コストがトータルで低くなるガイドラインを遵守する病院と契約を結ぶ国が米国である。ガイドライン遵守を売り文句にした医療機関は「われわれのグループはガイドラインを遵守するので、医療コストが低いです。ぜひ、われわれと契約してください」と、保険会社と折衝することになる。そのときに、保険会社を説得するデータとして、本論文のようなデータベースを蓄積することが病院には得になる。 日本の医療は明らかにpublic sectorであるが、米国の医療は基本競争原理の働くprivate sectorである。private sectorゆえにevidence basedの世界に通用するevidence集積のインセンティブが各医療機関に働く。金持ち優遇と批判を受けながら米国の医療システムが分厚く崩れないのは、fairな競争原理に支えられているゆえであろう。 脳卒中のため入院した心房細動症例の脳卒中リスクは高い。ワルファリンが使用されていない心房細動にて、脳卒中で入院した1万2 ,552例を対象とした研究というデザインも面白い。「ガイドラインを遵守する」ことを売り物にしている病院でも、このリスクの高い症例群の12%には、退院時になんらかの理由によりワルファリンを使えなかった。脳卒中を発症するまでワルファリンを使用していなかった心房細動例でも、初回発症後はワルファリンを使用した群において在宅可能期間が長く、心血管イベントの発症率も低かった。 本研究は米国の保険医療データベースである。基本、自由診療の米国ではメディケアを受け、Get With The Guidelines (GWTG)-Stroke programに参加した病院は、米国すべてではない。日本の保険診療は国民皆保険である。日本で保険病名として、「心房細動」があり、「脳梗塞」の病名にて入院した症例のうち、退院時に「ワルファリン」が処方された症例と処方されていない症例の、その後の2年間の「入院」の有無を調べるのは、レセコンデータをみるだけで簡単にできる。 医療がpublic sectorで、保険システムの宣伝をしなくても皆が保険料を払ってくれる国民皆保険制度は、システムとしては素晴らしいが、米国人から見れば「fairではない」、「科学的根拠がない」などと言われる隙がある。TPPなどにより「非関税障壁」が取り払われる前に、世界の人が理解できる科学の論理により、医療を構築できると良いと筆者は考える。

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双極性障害の自殺、どの程度わかっているのか

 双極性障害患者の自殺企図や自殺死には多くの要因が影響を及ぼしている。国際双極性障害学会(ISBD)では、こうした要因の存在やその影響度に関する文献をまとめた自殺に関するタスクフォース報告書を発表した。筆頭著者であるカナダ・トロント大学のAyal Schaffer氏らは、「研究の対象やデザインが不均一性であるため、これら要因の影響度を再検討し確定するさらなる研究が必要である。このことが最終的には、双極性障害患者のリスク層別化の改善につながる」と述べている。Australian & New Zealand Journal of Psychiatry誌オンライン版2015年7月14日号の掲載報告。 ISBDは、「双極性障害」と「自殺企図または自殺」をキーワードに1980年1月1日から2014年5月30日までに発表された論文を対象として、システマティックレビューを行った。双極性障害患者の自殺企図や自殺死に関連すると思われる要因について、すべての報告を調査した。要因を、(1)社会人口統計学的、(2)双極性障害の臨床的特徴、(3)併存疾患、(4)その他の臨床変数、の4つに分類し分析した。 主な結果は以下のとおり。・20の特異的要因が自殺企図や自殺死にどのように影響するかを調査した141件の研究を特定した。・要因については、それぞれのエビデンスのレベルや一致の程度にばらつきがあった。・その中で少なくとも1件の研究で、以下の要因について影響があることが認められた。性別、年齢、人種、婚姻状況、宗教、発症年齢、罹患期間、双極性障害のサブタイプ、初回エピソードの極性、現在/最近のエピソードの極性、優位極性、気分エピソードの特徴、精神病、精神疾患の併存、パーソナリティ特性、性的機能不全、自殺や気分障害の一親等家族歴、自殺企図歴、若年期のトラウマ、心理社会的要因。関連医療ニュース 双極性障害、退院後の自殺リスクが高いタイプは 双極性障害とうつ病で自殺リスクにどの程度の差があるか うつ病と双極性障害を見分けるポイントは  担当者へのご意見箱はこちら

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