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111)逆転の発想で指導する認知症予防法【高血圧患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話 患者先生、最近物忘れが多くて、認知症にならないかと心配で……。 医師なるほど。食事の面では認知症にならないために、どんなことに気を配っておられますか? 患者魚がいいっていうんで、なるべく魚にしようと思っているんですが、なかなか摂れないので、サプリメントを飲んだり、ココナッツオイルがいいっていうんで、買おうかと思ったら売ってなくって……。 医師なるほど。高齢になると食が細くなり、栄養不足になりがちです。魚、野菜、果物など栄養が不足し、体重が減る傾向にあります。ところが、中年では……。 患者中年では? 医師栄養不足よりも過剰摂取が問題となります。甘いものなど高カロリーの食品、菓子パンなど飽和脂肪酸の多いものによる肥満、特に内臓脂肪の蓄積は、認知症のリスクとなります。 患者なるほど。摂りすぎもよくないですね。これから気をつけます(納得した顔)。●ポイント食べるのではなく、摂り過ぎないことでの認知症予防をわかりやすく説明します 1) Witte AV, et al. Proc Natl Acad Sci U S A.2009;106:1255-1260.

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中高年高血圧症例では足関節上腕血圧比測定を考慮する必要はあるか?(解説:冨山 博史 氏)-429

概要とコメント 本研究は、英国において1990年から2013年までプライマリケアで電子媒体に登録された、30~90歳の成人422万例の医療記録データを、前向き研究(平均観察期間7年)として解析した。前向き研究開始時に、末梢動脈疾患(PAD)非合併例は420万4,190例であり、PAD合併例は1万8,296例であった。前者では、経過中に4万4,239例(1.1%)でPADを発症し、収縮期血圧20mmHg上昇に伴い、PAD発症リスクは63%高まることが示された。 これまで血圧とPADの関係は、断面研究で検討した報告が多く1)、大規模な前向き研究が少ないため、PAD発症に対する血圧上昇のリスクとしての重要性は十分明らかでなかった。422万例を対象とした本前向き研究にて、血圧上昇がPAD発症の独立したリスクであることが示された。高血圧のPAD発症リスクとしての重要性を示す結果である。 一方、PAD合併例(1万8,296例)では、7年の経過観察中に7,760例(42.5%)で心血管イベント発症を認めた。その内訳では、従来の冠動脈疾患、脳卒中に加え、慢性腎臓病(24.4%)、心不全(14.7%)、心房細動(13.2%)の発症が多いことが新たに示された。PADでは、わが国の検討も含め20~40%の症例に腎動脈狭窄を合併することが報告されている2)。今後、こうした腎動脈狭窄のCKD発症への影響を検証する必要がある。また、PADでは血管床全体が硬化しており、中心血行動態異常が生じていると推察される。中心血行動態異常は心不全発症のリスクであり3)、今後、PADで心不全が発症する機序を明確にする必要がある。研究成果の臨床応用と限界 2007年に発表されたTASC IIでは、PAD発症リスクとしての高血圧の相対危険度(オッズ比:1.5~2)は、DM/喫煙(オッズ比:3前後)より弱いと述べている4)。本研究における重要な知見は、血圧上昇に伴うPAD発症のハザード比は70歳以上では1.4であるのに対し、40~69歳では1.8前後と上昇することである。さらに、本研究ではオッズ比は算出していないが、考察においてサブグループ解析の結果より、収縮期血圧20mmHg上昇によるPAD発症のリスクは、喫煙と同等と推察している。 一般に、PAD合併を考慮する(足関節上腕血圧比測定を考慮する)症例として、70歳以上、50~69歳でかつ喫煙または糖尿病を合併する症例が挙げられる4)。2013年、日本循環器学会「血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン」では、高血圧症例において足関節上腕血圧比測定を考慮する症例として、65歳以上、またはJSH2009脳心血管リスク層別化で高リスクの症例を推奨している5)。しかし、最近のガイドラインを踏まえても6)、どのような病態の高血圧症例で足関節上腕血圧比測定を考慮すべきか、十分に明確ではなかった。本研究の結果は、50~69歳で未治療高血圧例および血圧コントロール不良の症例においてもPAD合併を考慮し、適切な問診、下肢動脈触診を実施し、可能であれば足関節上腕血圧比を測定することの有用性を示唆する。 TASC IIでは、PAD症例は40~50%に冠動脈疾患、20~40%に脳卒中を合併すると報告している4)。本研究では7年の経過観察中に1万8,296例中3,415例(19%)で冠動脈疾患、脳卒中または心不全の発症を認めた。本結果は、PAD診断時にほかの心血管疾患合併のない症例でも、慎重な経過観察が重要であることを支持する。 本研究の限界として以下が挙げられる。 (1)PADの診断は間欠跛行で実施されているが、無症候性PAD(足関節上腕血圧比0.90未満だが無症状)の頻度は間欠跛行を有する症例の3~4倍とされる。近年、わが国を中心に、オシロメトリック法を用いて足関節上腕血圧比が簡便に測定されるようになり、無症候性PADを診断する機会が多くなってきた7)。本研究の結果をこうした無症候性PADに応用できるかは不明であり、また、疾患診断が電子記録媒体での評価であることも研究の限界である。 (2)本研究では、収縮期血圧・拡張期血圧上昇とPAD発症の関連は、正常血圧域から認められた。本研究の著者らは、血圧低下がPAD発症を予防すると推論を述べている。しかし、研究対象症例で降圧薬服用は観察開始時9.9%、終了時28.7%であり、積極的な血圧治療がPAD発症予防に有用であるかは検証できない。参考文献はこちら1)Meijer WT, et al. Arch Intern Med. 2000;160:2934-2938.2)Endo M, et al. Hypertens Res. 2010;33:911-915.3)Chirinos JA, et al. J Am Coll Cardiol. 2012;60:2170-2177.4)Norgren L, et al. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2007;33 Suppl 1:S1-75.5)日本循環器学会ほか.循環器病の診断と治療に関するガイドライン2013(2011-2012年度合同研究班報告)血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン(JCS 2013).6)Vlachopoulos C, et al. Atherosclerosis. 2015;241:507-532.7)Koji Y, et al. Am J Cardiol. 2004;94:868-872.

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EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)-428

 この結果をみて真っ先に連想したのは、高血圧治療薬で、利尿薬がCa拮抗薬、ACE阻害薬、α遮断薬などよりも優れた心血管合併症予防効果を証明したALLHAT試験である。利尿作用が心不全悪化を防いだために全体を有利に導き、心疾患合併症例における利尿薬の強さをみせた試験であった。 EMPA-REG試験でも、利尿作用を有するSGLT2阻害薬が虚血性心疾患で心機能が低下した症例での心不全死を抑制したと考えやすい。しかし、心血管死の内訳をみると必ずしもそうではないようである。心不全の悪化による死亡は10%前後にすぎず、心臓突然死や心原性ショックも広い意味での心不全死と捉えると40%を占めることになり、本剤の利尿作用の貢献も考えられる。しかし、「その他の心血管死」とはどのような内容なのかが明らかでない限り、エンパグリフロジンがどのような機序で心血管死を減らしたのかを推定するのは難しい。 しかし、本試験で重要なことは、致死的、非致死的を含めた心筋梗塞と脳卒中発症はいずれも抑制されていないことである。不安定狭心症は急性心筋梗塞と同等の病態であり、なぜこれを3エンドポイントから外したか不明だが、これを加えた4エンドポイントとすると有意性は消失する。したがって、本試験はSGLT2阻害薬の優位性を証明できなかったという解釈もできる。本試験の対象は、すでに高度な冠動脈疾患、脳血管障害、ASOを有していて循環器専門医に治療を受けているような糖尿病患者であり、実質的には2次予防効果を検証した試験での結果である。試験開始時に、すでにACE阻害薬/ARBが80%、β遮断薬が65%、利尿薬が43%、Ca拮抗薬が33%に処方されている。糖尿病治療にしてもメトホルミンが74%、インスリン治療が48%、SU薬も42%が処方されており、さらにスタチン薬81%、アスピリンが82%にも処方されており、かつ高度肥満という、専門病院レベルの合併症を持つ高度な治療抵抗性の患者を対象にしている。 このことから、一般診療で診る、単に高血圧や高脂血症などを合併した糖尿病症例に対する有用性が示されたわけではない。 本試験における、エンパグリフロジンの主要エンドポイント抑制効果は、利尿作用に加えて、HbA1cを平均7.5~8.1%に下げた血糖降下作用、そして体重減少、血圧降下利尿作用というSGLT2阻害薬が有する薬理学的な利点が、肥満を伴う超高リスク糖尿病例で理想的に反映された結果として、心血管死を予防したと考えるほうが自然であろうと考える。臨床試験という究極の適正使用だからこそ、本剤の特性がメリットに作用したのであろう。 本試験を日常診療に活用する点で注意しておくことは、1.本試験はすでに冠動脈疾患、脳血管障害の既往があり、近々心不全や突然死が発症する可能性が高い、きわめて超高リスクの糖尿病例を対象としており、診療所やクリニックでは診療する一般の糖尿病患者とは異なる点。2.本試験の結果は、臨床試験という究極の適正使用の診療下で行われた結果である点。3.心筋梗塞、脳卒中の再発予防には効果がなく、不安定狭心症を主要エンドポイントに追加すると有意性は消失してしまう点。したがって、従来の糖尿病治療薬同様、血糖降下治療に大血管疾患の発症予防効果は期待できないという結果を皮肉にも支持する結果となっている。 本試験が、高度の心血管合併症をすでに有している肥満の治療抵抗性の糖尿病症例の治療にとって、福音となるエビデンスであることは否定しないが、この結果を十分に批判的吟味することなく、一般臨床医に喧伝されることは大きな危険性をはらんでいるといえよう。本薬の基本的な抗糖尿病効果は利尿という点にあり、とくに口渇を訴えにくい高齢者では、脱水という重大な副作用と表裏一体であることは常に念頭に置くべきである。企業の節度ある適正な広報を願うばかりである。関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)リンゴのもたらした福音~EMPA-REG OUTCOME試験~(解説:住谷 哲 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)

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循環器内科 米国臨床留学記 第2回

第2回:日米における循環器専門医トレーニング 臨床と研究の両方において、日本の循環器医師のレベルは非常に高いと米国でも認識されていますので、お前はわざわざ米国でなんのためにトレーニングを繰り返しているんだといつも聞かれます。答えにはいつも困っています。日本の循環器の先生はどこの病院に行っても、遅くまで残業し、臨床や研究に励んでいました。そういった姿を見て、自分の中でも循環器医の心構えが育ったと思います。このように、日本の循環器は現状のトレーニングでも優れた医師が輩出されているわけですが、問題点がないわけではないと思います。今回は、日米の長所、短所を比較しながら、これからの専門医教育の課題を考えてみました。日本の循環器専門医教育の長所誰でも循環器医になれる! 日本の医者には、職業選択の自由があります。つまり、循環器を含め、どの医者もなりたい専門医になれる。他の国と比べても、これは非常に恵まれている点だと思います。米国に来て、循環器医になりたくても諦めている人などを見ると、本当に幸せなことだと痛感します。専門医の意義 米国>日本 日本では循環器専門医を取得した瞬間、一人前と見なされるというわけではありませんから、専門医を取ったからといって、医局を辞めて独立をする人は少ないでしょう。また、開業医においても、循環器専門医がなくても、循環器と標榜できるのが現状で、専門医を持つことの意義が低いような気がします。徒弟制度 徒弟制度には、修業年限はありません。師匠が少しずつフェードアウトし、気がつけば1人で手技をさせてもらっている。逆に言えば、何年経とうが、師匠が認めない限り、一人前とは認められない。人によって成長のスピードが違うことを考えると、何年間で一人前になると決められ、フェローシップ終了後に独立を義務付けられる米国の制度のほうがおかしいようにも思います。市中病院:インターベンションなどの臨床トレーニングのスピードが早い 一概に、日本の循環器専門医トレーニングと言っても、市中病院と大学病院で大きく異なると思います。研修医の頃、私の中で、循環器=インターベンションのイメージがありました。 実際、日本の市中病院では冠動脈造影、PCI(経皮的冠動脈インターベンション)に重きが置かれる傾向があると思います。多くの市中病院では若手に積極的にカテをさせて、5年目ぐらいには基本的なPCIを行えるようになることが多いと思います。また、緊急カテーテルのオンコールを5~6人の循環器医でうまく回すためには、早く一人前になってもらわないと困るという実情もあると思います。若い医師もPCIなどの経験が積める病院に集まる傾向があるようです。慶応大学の香坂先生らの報告(Am J Cardiol.2014;114:629-634.)によると、卒後10年以内の若い循環器医のトレーニングに対する満足度は、冠動脈造影、PCI、エコーなどの症例数と大きく関係することが示されています。大学病院系列:豊富で幅広い症例・専門家による指導 逆に、大学病院や国立循環器病研究センター病院(国循)などでPCIを5年目がメインで行うというのは少し難しいと思いますが、大学病院や国循のような大きな施設には市中病院にない大きなメリットがあります。 医師6-7年目を過ごした国立循環器病センター研究病院(NCVC)東京都済生会中央病院、NCVCというタイプの異なる二つの病院で、素晴らしい指導医や仲間に出会え、有意義な研修を送ることができました。 第一に、肺高血圧、重症心不全、遺伝性疾患などのまれな症例を診る機会もあり、幅広いトレーニングが期待できます。また、各サブスペシャルティの専門家から直接指導を受けられます。実際、私も不整脈に関する知識や手技をもっと重点的に修練したいと感じ、国循に移動しました。その国循で、レジデント達∗が心エコーやリハビリなどに関して、手厚い指導をトップクラスの先生から受けているのを見て、うらやましく感じたのを覚えています。 ∗国循では循環器の基礎的な訓練を3年間で受けます。初期研修を終えた、3年目以降で応募でき、レジデントといいます。立場的には米国で言うフェローに当たると思います。研究の機会 大学や国循では、基礎研究、臨床研究のチャンスもあります。各専門分野の指導者もおり、循環器学会やAHA、ACC、ESCなどの国際学会での発表や一流雑誌への掲載といった可能性もあり、研究者として大きく羽ばたけるチャンスがあります。日本の循環器専門医教育の問題点曖昧な施設基準・膨大な研修施設 日本には循環器フェローシッププログラムというものは存在しませんが、専門医となるには3年間以上認定施設でトレーニングを受ける必要があります。表1)に日本の専門医施設の基準を示しました。2名以上で指導が十分な体制とあります。何をもって十分とするのかそもそも曖昧です。日本循環器学会のホームページによると日本全国で1,000近くの循環器研修施設がありますが、人口が倍以上の米国で180しかないことを考えると、いかに日本の認定施設が米国に比して多いかがわかります。これだけあると、すべての施設で十分な教育ができているかは疑問の余地があります。研修施設に名乗りを上げないと、若い医師が獲得できないという事情もあると思います。Common diseaseへの偏り 一部の有名な市中病院を除くと、市中病院では、冠動脈疾患、不整脈、心不全、末梢血管、心エコー、リハビリテーションなどの循環器のサブスペシャルティの専門医を揃えることは難しく、結果として、循環器のcommon diseaseである冠動脈疾患や心不全に偏ったトレーニングにならざるを得ない側面もあると思います。さまざまな症例を経験することも大切です。市中病院から国循などに来ると、3年間のトレーニングで見たことがないような症例に出くわします。たとえ、将来的にその疾患を自ら治療する機会がないとしても、一度の経験がその後の臨床の助けになることがあります。ほぼ義務化された研究・大学院 大学にも問題点はあります。先ほど挙げましたが、手技などのトレーニングは大学自体で数多くこなすのは難しそうです。恵まれた医局に所属していれば、関連病院でその点は十分に挽回できるでしょう。また、医局では研究や博士号の取得はほぼ義務化されています。これはメリットでもありますが、臨床で研鑽を積みたい人にとっては、4年間の大学院生活はデメリットにもなりえます。米国のフェローシップの長所指導者の数の保障 米国ではプログラムディレクターに加えて、3人以上のKey Clinical Facultyが必要、つまり最低でも4人の指導教官が必要ということになります2)。また、フェロー3人に対して2人のKey Clinical Facultyが義務付けられているので、実際、University hospitalなどの施設では10人以上の指導教官がいることがほとんどです。手厚い教育・確保された症例数 先ほど述べましたように、米国には、180しか循環器フェローシッププログラムがなく、毎年850人しか循環器フェローになれません。そうすることで全米のCardiologistの数をコントロールしています。狭き門ですが、一度入ると手厚い教育が保障されます。どちらかというと、米国のフェローシップは日本の大学や国循のような特徴を有していると思いますが、それに加えて、経験症例数が確保されており、雑用が少なく、トレーニングに集中できる環境が整っています。米国のフェローシップの問題点狭き門=Cardiologistになれない? 第1回でお話ししましたが、循環器フェローシップは狭き門であり、Cardiologistになれない可能性があります。外国人は半分以下、米国人でも85%ほどしかCardiologistになれません。10年以上かけて苦労して内科医になったうえで、やりたいことができないのは、ある意味悲惨です。段階を超えて、次のトレーニングへ進めない サブスペシャルティがあることから、いくら優秀でも循環器フェローシップ中は基本的には高度なPCIやアブレーションのトレーニングを開始することはできません。トレーニングが終わったら一人前 フェローシップを卒業した瞬間、どんなに手技が下手でも、一人前と見なされます。同じ病院の先輩も含めて、もはや、誰も助けてくれません。インターベンションやEP(不整脈)のフェローを卒業したものの、就職先で使い物にならず、クビになるという話はよくあります。日本が取り入れたほうが良いと思われる点 現状でも、日本の循環器医は世界のトップクラスであり、結果としては問題ないのかもしれませんが、私の経験を基に、以下の点を今後の日本の循環器専門医トレーニングが検討すべき課題として挙げました。経験症例数の保障 冠動脈造影や心エコーの能力は症例数で決まるものではありませんが、専門医教育を評価するうえで、トレーニング中にどのくらいの症例が経験できるかは最低限保証されるべきだと思います。また、選ぶ側は症例数を基にどこのプログラムで研修を行うかを決める指標ともなります。学年当たりのフェローの数の明確化 症例数を保証するなら、おのずとフェローの数も明確にしなければならないと思います。同じ学年のフェローが増え過ぎると当然、症例数も減ります。ただ、無制限に人を受け入れなければいけない日本の医局制度と相いれるかは微妙なところです。フェローによるプラグラムの評価 フェローによるプログラムの評価は必須です。ただ、医局に所属している医局員が自分の医局のプログラムを批評するようなことは、日本では難しいのかもしれません。公的な機関による積極的なプログラムへの評価・指導 公的な機関がフェローの意見を聞き、教育体制が不十分なプログラムの指導や廃止をすることも必要です。終わりに 医局制度との絡みなど難しい問題はありますが、米国の良いところのみを参考にして、日本の良さを残した、日本独自の優れた専門医教育が発展してほしいと思います。 次回も、もう少し具体的にアメリカのトレーニングについて触れたいと思います。 参考文献 1) 日本循環器学会.日本循環器学会認定循環器専門医制度規則.日本循環器学会ホームページ.(参照 2015-09-21). 2) ACGME. ACGME Program Requirements for Graduate Medical Education in Cardiovascular Disease (Internal Medicine). Accreditation Council for Graduate Medical Education. (accessed 2008-08-25).

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転移性メラノーマにニボルマブ・イピリムマブ併用療法をFDAが承認

 ブリストル・マイヤーズ スクイブ社(NYSE:BMY/本社:米国・ニューヨーク/CEO:ジョバンニ・カフォリオ)は2015年10月1日、米国食品医薬品局(FDA)が、BRAF V600 野生型の切除不能または転移性の悪性黒色腫患者を対象とした、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)とイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)の併用療法を承認したと発表した。 今回の承認は、未治療の切除不能または転移性の悪性黒色腫患者において、オプジーボとヤーボイの併用療法を評価したCheckMate069試験のデータに基づいている。ニボルマブ・イピリムマブ併用群が有意に優れた結果 CheckMate 069試験は、未治療の切除不能または転移性悪性黒色腫の患者140名を登録した第Ⅱ相二重盲検無作為化試験で、BRAF 野生型とBRAF 変異陽性の双方の悪性黒色腫患者が含まれた。試験の主要評価項目は、BRAF野生型患者における奏効率(ORR)。追加的な有効性評価項目はBRAF V600野生型悪性黒色腫患者における医師評価による奏効期間とPFSであった。無作為化はBRAFの変異状態による層別化をもとに行われた。ニボルマブ・イピリムマブ併用群には、併用フェーズで、ニボルマブ1mg/kgとイピリムマブ3mg/kgを3週間に1回4サイクル実施した後、単剤フェーズで、ニボルマブ3mg/kgを隔週で投与した。一方、ヤーボイ単剤群には、ニボルマブ3mg/kgとプラセボを3週間に1回4サイクル投与した。BRAF野生型悪性黒色腫患者(109 名)において、併用群の奏効率は60%(95%信頼区間:48-71, p

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アルツハイマー病の焦燥性興奮に新規配合薬が有望/JAMA

 アルツハイマー病が疑われ焦燥性興奮を呈する患者に対し、開発中の配合薬デキストロメトルファン臭化水素酸塩+キニジン硫酸塩の10週間投与により、興奮症状の軽減が認められたことが報告された。米国・Cleveland Clinic Lou Ruvo Center for Brain HealthのJeffrey L. Cummings氏らが行った第II相臨床試験の結果、示された。全体的に忍容性も良好だったという。JAMA誌2015年9月22/29日号掲載の報告より。患者220例を対象に、ベースラインからの症状変化を比較 研究グループは2012年8月~14年8月にかけて、米国42ヵ所の医療機関で、アルツハイマー病の可能性が高く、臨床的焦燥性興奮が認められ(臨床全般印象尺度[CGI]で焦燥性興奮スコアが4以上)、Mini-Mental State Examination(MMSE)スコアが8~28の患者220例を対象に、無作為化プラセボ対照二重盲検試験を行った。 同試験では、順次並行比較(sequential parallel comparison)デザインを採用し、第1段階(1~5週)では被験者を無作為に3対4に分け、デキストロメトルファン-キニジン(93例)またはプラセボ(127例)をそれぞれ投与した。第2段階(6~10週)では、第1段階のデキストロメトルファン-キニジンについては、そのまま投与を継続。一方プラセボ群については、反応状況(プラセボ効果あり・なし)によって層別化したうえで、無作為に1対1の割合で2群に分けてデキストロメトルファン-キニジン(59例)またはプラセボ(60例)を投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインからの神経精神症状評価尺度(NPI)焦燥性興奮/攻撃性ドメインのスコア[0(症状なし)~12(日々顕著な症状あり)]の変化だった。デキストロメトルファン-キニジン群で焦燥性興奮症状が有意に低減 試験を終了した被験者は194例(88.2%)で、デキストロメトルファン-キニジン群は152例、プラセボ群は127例だった。 試験の第1・2段階を総合した結果、ベースラインからのNPI焦燥性興奮/攻撃性ドメインのスコアは、デキストロメトルファン-キニジン群がプラセボ群に比べて有意に低下した(最小二乗法でのZ統計値:-3.95、p<0.001)。 第1段階では、同スコアはプラセボ群でベースライン7.0から5.3に低減したのに対し、デキストロメトルファン-キニジン群では7.1から3.8に低減した(最小二乗法平均値:-1.5、95%信頼区間[CI]:-2.3~-0.7、p<0.001)。 第2段階の同スコアは、プラセボ群でベースライン6.7から5.8に低減し、デキストロメトルファン-キニジン群では5.8から3.8に低減した(同:-1.6、-2.9~-0.3、p=0.02)。 有害事象としては、転倒発生率がプラセボ群3.9%に対しデキストロメトルファン-キニジン群で8.6%、尿路感染症がそれぞれ3.9%と5.3%の発症が報告された。重篤有害事象の発生率は、プラセボ群4.7%に対し、デキストロメトルファン-キニジン群が7.9%だった。なお、デキストロメトルファン-キニジンと認知機能低下、鎮静、臨床的に有意なQTc延長との関連はみられなかった。

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子宮頸がん、新規ワクチンに治療効果の可能性/Lancet

 HPV-16/18に関連する子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)に対し、HPV-16/18(E6/E7蛋白)を標的にする合成プラスミドVGX-3100を投与することで、病理組織学的な退縮がみられ、治療効果がある可能性が示された。米国・ジョンズホプキンス大学のCornelia L. Trimble氏らが、167例を対象に行った第IIb相のプラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果、報告した。CINの治療は切除とされているが、切除では生殖性の罹患状態が長期に続く可能性がある。そこで研究グループは、VGX-3100ワクチンに対宿効果があるかどうかを調べた。Lancet誌オンライン版2015年9月16日号で発表した。36週後のCIN1・正常病理への改善率を比較 試験は2011年10月19日~13年7月30日にかけて、7ヵ国36ヵ所の婦人科医療機関を通じて、HPV-16とHPV-18に関連するCIN2またはCIN3の認められる患者167例を対象に行われた。研究グループは被験者を、無作為に3対1の割合で2群に分け、一方の群(125例)にはVGX-3100(6mg)を、もう一方の群にはプラセボを、それぞれ0、4、12週目に筋注投与した。 主要有効性エンドポイントは、初回投与から36週後のCIN1または正常病理への退縮とした。 per-protocol解析と修正intention-to-treat(ITT)解析を、プロトコルの不備なく3回投与した患者を対象に、また少なくとも1回投与した患者を対象にそれぞれ行った。VGX-3100群のおよそ半数で退縮 試験実施計画適合集団のper-protocol解析では、病理組織学的な退縮が認められたのは、プラセボ群では36例中11例(30.6%)であったのに対し、VGX-3100群では107例中53例(49.5%)だった(絶対差:19.0ポイント、95%信頼区間[CI]:1.4~36.6、p=0.034)。 修正ITT解析では、同割合はプラセボ群40例中12例(30.0%)に対し、VGX-3100群114例中55例(48.2%)だった(同:18.2ポイント、1.3~34.4、p=0.034)。 なお、注射部位の紅斑発症が、プラセボ群42例中24例(57.1%)に対し、VGX-3100群は125例中98例(78.4%)と有意に高率だった(同:21.3ポイント、5.3~37.8、p=0.007)。 これらの結果を踏まえて著者は、「VGX-3100は、HPV-16/18に関連するCIN2/3に対し効果を示した初の治療的ワクチンである。VGX-3100は、CIN2/3の非外科的な治療オプションとして、同疾患治療の動向を変えうる可能性がある」と述べている。

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認知症に対する回想法、そのメリットは

 台湾大学のHui-Chuan Huang氏らは、認知症高齢者に対する回想法の有用性を明らかにすることを目的にメタ解析を行った。その結果、回想法の実施により認知機能および抑うつ症状の改善が認められ、その効果は地域で居住する患者よりも施設に入所している患者で大きいことを報告した。認知機能障害および抑うつ症状は認知症高齢者に一般的な症状である。過去に実施されたメタ解析は、解析対象とした試験のデータが古く、研究規模も小さかったため、認知機能および抑うつ症状に対する回想法の効果に関して一貫した結果が得られなかった。Journal of the American Medical Directors Association誌オンライン版2015年9月1日号の掲載報告。 研究グループは、最近の大規模無作為化対照試験(RCT)を含めたメタ解析を実施し、認知症高齢者における認知機能および抑うつ症状に対する回想法の即時効果と長期(6~10ヵ月)効果を検討した。PubMed、Medline、CINAHL、PsycINFO、Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)、ProQuest、 Google Scholar、中国データベース等の電子データベースを検索し、適格文献を選択した。主要アウトカムは、認知機能および抑うつ症状のスコアとした。認知症高齢者における認知機能と抑うつ症状に対する回想法の効果を検討している合計12件のRCTを解析対象とし、2人のレビュワーが独立してデータを抽出した。解析はすべてランダム効果モデルを用いて行った。 主な結果は以下のとおり。・認知症高齢者に対する回想法は、認知機能に対し効果量は小さく(g=0.18、95%信頼区間[CI]:0.05~0.30)、抑うつ症状に対しては中等度の効果量(g=-0.49、95%CI:-0.70~-0.28)を示した。・認知機能および抑うつ症状に対する回想法の長期効果は確認されなかった。・Moderator(変数)解析により、施設に入所している認知症高齢者は地域在住の認知症高齢者に比べ、抑うつ症状の改善が大きかった(g=-0.59 vs.-0.16、p=0.003)。・以上のように、回想法は認知症高齢者における認知機能および抑うつ症状の改善に有効であることが確認された・結果は、定期的な回想法の実施が認知症高齢者、とくに施設に入所している認知症患者の認知機能および抑うつ症状改善のためのルーティン・ケアに組み込む必要性を示唆するものであった。関連医療ニュース 重度アルツハイマー病に心理社会的介入は有効か:東北大 認知症患者への精神療法、必要性はどの程度か 認知症への運動療法、効果はあるのか  担当者へのご意見箱はこちら

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多発性硬化症〔MS : Multiple sclerosis〕、視神経脊髄炎〔NMO : Neuromyelitis optica〕

1 疾患概要■ 概念・定義中枢神経系(脳・脊髄・視神経)に多巣性の限局性脱髄病巣が時間的・空間的に多発する疾患。脱髄病巣はグリオーシスにより固くなるため、硬化症と呼ばれる。白質にも皮質にも脱髄が生じるほか、進行とともに神経細胞も減少する。個々の症例での経過、画像所見、治療反応性などの臨床的特徴や、病理組織学的にも多様性があり、単一疾患とは考えにくい状況である。実際に2005年の抗AQP4抗体の発見以来、Neuromyelitis optica(NMO)がMultiple sclerosis(MS)から分離される方向にある。■ 疫学MSに関しては地域差があり、高緯度地域ほど有病率が高い。北欧では人口10万人に50~100人程度の有病率であるが、日本では人口10万人あたり7~9人程度と推定され、次第に増加している。平均発病年齢は30歳前後である。MSは女性に多く、男女比は1:2~3程度である。NMOは、日本ではおおむねMSの1/4程度の有病率で、圧倒的に女性に多く(1:10程度)、平均発病年齢はMSより約5歳高い。人種差や地域差に関しては、大きな違いはないと考えられている。■ 病因MS、NMOともに、病巣にはリンパ球やマクロファージの浸潤があり、副腎皮質ステロイドにより炎症の早期鎮静化が可能なことなどから、自己免疫機序を介した炎症により脱髄が起こると考えられる。しかし、MSでは副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できず、一般的には自己免疫疾患を悪化させるインターフェロンベータ(IFN-ß)がMSの再発抑制に有効である。また、いくつかの自己免疫疾患に著効する抗TNFα療法がMSには悪化因子であり、自己免疫機序としてもかなり特殊な病態である。一方、NMOでは、多くの例で抗AQP4抗体が存在し、IFN-ßに抵抗性で、時には悪化することもある。また、副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できるなど、他の多くの自己免疫性疾患と類似の病態と思われる。MSは白人に最も多く、アジア人種では比較的少ない。アフリカの原住民ではさらにまれである。さらに一卵性双生児での研究からも、遺伝子の関与は明らかである。これまでにHLA-DRB1*1501が最も強い感受性因子であり、ゲノムワイド関連解析(GWAS)ではIL-7R、 IL-2RAをはじめ、100以上の疾患感受性遺伝子が報告されている。また、NMOはMSとは異なったHLAが強い疾患感受性遺伝子 (日本人ではHLA-DPB1*0501) となっている。一方、日本人やアフリカ原住民でも、有病率の高い地域に移住した場合、その発病頻度が高くなることが知られており、環境因子の関与も大きいと推定される。その他、ビタミンD不足、喫煙、EBV感染が危険因子とされている。■ 症状中枢神経系に起因するあらゆる症状が生じる。多いものとしては視力障害、複視、感覚障害、排尿障害、運動失調などがある。進行すれば健忘、記銘力障害、理解力低下などの皮質下認知症も生じる。また多幸症、抑うつ状態も生じるほか、一般的に疲労感も強い。MSに特徴的な症状・症候としては両側MLF症候群があり、これがみられたときには強くMSを疑う。その他、Lhermitte徴候(頸髄の脱髄病変による。頸部前屈時に電撃痛が背部から下肢にかけて走る)、painful tonic seizure(有痛性強直性痙攣)、Uhthoff現象(入浴や発熱で軸索伝導の障害が強まり、症状が一過性に悪化する)、視神経乳頭耳側蒼白(視神経萎縮の他覚所見)がある。再発時には症状は数日で完成し、その際に発熱などの全身症状はない。また、無治療でも寛解することが大きな特徴である。慢性進行型になると症状は緩徐進行となる。NMOでは、高度の視力障害と脊髄障害が特徴的であるが、時に大脳障害も生じる。また、脊髄障害の後遺症として、明瞭なレベルを示す感覚障害と、その部位の帯状の締め付け感や疼痛がしばしばみられる。1)発症、進行様式による分類(1)再発寛解型MS(relapsing- remitting MS: RRMS):再発と寛解を繰り返す(2)二次性進行型MS(secondary progressive MS: SPMS):最初は再発があったが、次第に再発がなくても障害が進行する経過を取るようになったもの(3)一次性進行型MS(primary progressive MS: PPMS):最初から進行性の経過をたどるもの。MRIがなければ脊髄小脳変性症や痙性対麻痺との鑑別が難しい。2)症状による分類(1)視神経脊髄型MS(OSMS):臨床的に視神経と脊髄の障害による症状のみを呈し、大脳、小脳の症状のないもの。ただし眼振などの軽微な脳幹症状はあってもよい。MRI所見はこの分類には用いられていないことに注意。この病型には大部分のNMOと、視神経病変と脊髄病変しか臨床症状を呈していないMSの両方が含まれることになる。(2)通常型MS(CMS):大脳や小脳を含む中枢神経系のさまざまな部位の障害に基づく症候を呈するものをいう。3)その他、未分類のMS(1)tumefactive MS脱髄巣が大きく、周辺に強い浮腫性変化を伴うことが特徴。しばしば脳腫瘍との鑑別が困難であり、進行が速い場合には生検が必要となることも少なくない。(2)バロー病(同心円硬化症)大脳白質に脱髄層と髄鞘保存層とが交互に層状になって同心円状の病変を形成する。以前はフィリピンに多くみられていた。4)前MS状態と考えられるもの(1)clinically isolated syndrome(CIS)中枢神経の1ヵ所以上の炎症性脱髄性病変によって生じた初発の神経症候。CISの時点で1個以上のMS様脳病変があれば、80%以上の症例で再発し、MSに移行するが、まったく脳病変がない場合は20%程度がMSに移行するにとどまる。この時期に疾患修飾薬を開始した場合、臨床的にMSへの進行が確実に遅くなることが、欧米での研究で明らかにされている。(2)radiologically isolated syndrome(RIS)MRIにより偶然発見された。MSに矛盾しない病変はあるが、症状が生じたことがない症例。2010年のMcDonald基準では、時間的、空間的多発性が証明されても、症状がなければMSと診断するには至らないとしている。■ 予後欧米白人では80~90%はRRMSで、10~20%はPPMSとされる。日本ではPPMSが約5%程度である。RRMSの約半数は15~20年の経過でSPMSとなる。平均寿命は一般人と変わらないか、10年程度の短縮で、生命予後はあまり悪くない。機能予後としては、約10年ほどで歩行に障害が生じ、20年ほどで杖歩行、その後車椅子になるとされるが、個人差が非常に大きい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)MSでは「McDonald 2010年改訂MS診断基準」があり、臨床的な時間的、空間的多発性の証明を基本とし、MRIが補完する基準となっている。NMOでは、「Wingerchuk 2006年改訂NMO診断基準」が用いられる。また、MRIでの基準があり、BarkhofのMRI基準はMSらしい病変の基準、PatyのMRI基準はNMO診断基準で利用されている(図参照)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するNMOと同様の病態と考えられるが、臨床的には、NMO-IgG(抗AQP4抗体)陽性で、視神経炎のみ、あるいは脊髄炎のみの例や、抗AQP4抗体陽性で脳病変や脳幹、小脳のみで再発を繰り返す例などがあり、それらをNMO spectrum disorderと呼ぶこともある。■ 検査MSにおいては一般血液検査では炎症所見はなく、各種自己抗体も合併症がない限り異常はない。したがって、そのような検査は、各種疾患の除外、および自己免疫疾患を含めた再発抑制療法で悪化の可能性のある合併症のチェックと、再発抑制療法での副作用チェックの目的が大きい。髄液も多くは正常で、異常があっても軽微であることが特徴である。オリゴクローナルIgGバンド(OCB)の陽性率は欧米では90%を超えるが、日本人では約70%位である。MS特異的ではないが、IgG index高値は中枢神経系でのIgG産生、すなわち免疫反応が生じていることの指標となる。電気生理学的検査としては視覚誘発電位、体性感覚誘発電位、聴性脳幹反応、運動誘発電位があり、それぞれの検査対象神経伝導路の脱髄の程度に応じて異常を示す。MRIは最も鋭敏に病巣を検出できる方法である。MSの脱髄巣はMRIのT1強調で低または等信号、T2強調画像またはFLAIR画像で高信号域となる。急性期の病巣はガドリニウム(Gd)で増強される。脳室に接し、通常円形または楕円形で、楕円形の病巣の長軸は脳室に対し垂直である病変がMSの特徴であり、ovoid lesionと呼ばれる。このovoid lesionの検出には、矢状断FLAIRが最適であり、MSを疑った場合には必ず撮影するべきである。NMO病態では、CRP上昇や補体高値などの軽度の末梢血の全身性炎症反応を示すことがあるほか、大部分の症例で血清中に抗AQP-4抗体が検出される。抗体は治療により測定感度以下になることも多く、治療前の血清にて測定することが重要である。画像では、脊髄の中心灰白質を侵す3椎体以上の長大な連続性病変が特徴的とされる。また、他の自己免疫疾患の合併が多く、オリゴクローナルIgGバンドは陰性のことが多い。■ 鑑別疾患1)初発時あるいは再発の場合感染性疾患:ライム病、梅毒、硬膜外膿瘍、進行性多巣性白質脳症、単純ヘルペスウイルス性脊髄炎、HTLV-1関連脊髄炎炎症性疾患:神経サルコイドーシス、シェーグレン症候群、ベーチェット病、スイート病、全身性エリテマトーデス(SLE)、結節性動脈周囲炎、急性散在性脳脊髄炎、アトピー性脊髄炎血管障害:脳梗塞、脊髄硬膜外血腫、脊髄硬膜動静脈瘻(AVF)代謝性:ミトコンドリア病(MELAS)、ウェルニッケ脳症、リー脳症脊椎疾患:変形性頸椎症、椎間板ヘルニア眼科疾患:中心動脈閉塞症などの血管障害2)慢性進行型の場合変性疾患:脊髄小脳変性症、 痙性対麻痺感染性疾患:HTLV-I関連脊髄症/熱帯性痙性麻痺(HAM/TSP)代謝性疾患:副腎白質ジストロフィーなど脳外科疾患:脊髄空洞症、頭蓋底陥入症3 治療 (治験中・研究中のものも含む)急性増悪期、寛解期、進行期、それぞれに応じて治療法を選択する。■ 急性増悪期の治療迅速な炎症の鎮静化を行う。具体的には、MS、NMO両疾患とも、初発あるいは再発時の急性期には、できるだけ早くステロイド療法を行う。一般的にはメチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール/静注用)500mg~1,000mgを2~3時間かけ、点滴静注を3~5日間連続して行う。パルス療法後の経口ステロイドによる後療法を行う場合は、投与が長期にわたらないようにする。1回のパルス療法で症状の改善が乏しいときは、数日おいてパルス療法をさらに1~2クール追加したり、血液浄化療法を行うことを考慮する。■ 寛解期の治療再発の抑制を行う。再発の誘因としては、感染症、過労、ストレス、出産後などに比較的多くみられるため、できるだけ誘引を避けるように努める。ワクチン接種は再発の誘引とはならず、感染症の危険を減らすことができるため、とくに禁忌でない限り推奨される。その他、薬物療法による再発抑制が普及している。1)再発抑制法日本で使用できるものとしては、MSに関してはIFN-ß1a (同:アボネックス)、IFNß-1b (同:ベタフェロン)、フィンゴリモド(同:イムセラ、ジレニア)、ナタリズマブ(同:タイサブリ)がある。肝障害、自己免疫疾患の悪化、間質性肺炎、血球減少などに注意して使用する。また、NMOに使用した場合、悪化させる危険があり、慎重な病態の把握が重要である。(1)IFN-ß1a (アボネックス®) :1週間毎に筋注(2)IFN-ß1b (ベタフェロン®) :2日毎に皮下注どちらも再発率を約30%減少させ、MRIでの活動性病変を約60%抑制できる。(3)フィンゴリモド (イムセラ®、ジレニア®) :連日内服初期に徐脈性不整脈、突然死の危険があり、その他、感染症、黄斑浮腫、リンパ球の過度の減少などに注意して使用する。(4)ナタリズマブ(タイサブリ®) :4週毎に点滴静注約1,000例に1例で進行性多巣性白質脳症が生じるが、約7割の再発が抑制でき、有効性は高い。NMO病態ではIFN-ßやフィンゴリモドの効果については疑問があり、重篤な再発の誘引となる可能性も報告されている。したがって、ステロイド薬内服や免疫抑制薬(アザチオプリン 50~150mg/日 など)、もしくはその併用が勧められることが多い。この場合、できるだけ少量で維持したいが、抗AQP4抗体高値が必ずしも再発と結びつくわけでなく、治療効果と維持量決定の指標の開発が課題である。最近では、関節リウマチやキャッスルマン病に認可されているトシリズマブ(ヒト化抗IL-6受容体抗体/同:アクテムラ)が強い再発抑制効果を持つことが示され、期待されている。(5)その他の薬剤として以下のものがある。ミトキサントロン:用量依存性の不可逆的な心筋障害が必発であるため、投与可能期間が限定されるグラチラマー(同:コパキソン) :毎日皮下注射(欧米で認可され、わが国でも9月に製造販売承認取得)ONO-4641:フィンゴリモドに類似の薬剤(わが国で治験が進行中)ジメチルフマレート(BG12)(治験準備中)クラドリビン(治験準備中)アレムツズマブ(抗CD52抗体/同:マブキャンパス) (欧米で治験が進行中)リツキシマブ(抗CD20抗体/同:リツキサン) (欧米で治験が進行中)デシリズマブ(抗CD25抗体)(欧米で治験が進行中)テリフルノミド(同:オーバジオ)(欧米で治験が進行中)2)進行抑制一次進行型、二次進行型ともに、慢性進行性の経過を有意に抑制できる方法はない。骨髄移植でも再発は抑制できるが、進行は抑制できない。■ 慢性期の残存障害に対する対症療法疼痛はカルバマゼピン、ガバペンチン、プレガバリンその他抗うつ薬や抗てんかん薬が試されるが、しばしば難治性になる。そのような場合、ペインクリニックでの各種疼痛コントロール法の適用も考慮されるべきである。その他、痙性、不随意運動、排尿障害、疲労感、それぞれに対する薬物療法が挙げられる。4 今後の展望再発抑制に関しては、各種の疾患修飾療法の開発により、かなりの程度可能になっている。しかし、20~30%の患者では再発抑制効果が乏しいこともあり、さらに効果的な薬剤が求められる。慢性に進行するPPMS、SPMSでは、その病態に不明な点が多く、進行抑制方法がまったくないことが課題である。診断と分類に関して、抗AQP4抗体の発見以来、治療反応性や画像的特徴から、NMOがMSから分離される方向にあるが、今後も病態に特徴的なバイオマーカーによるMSの細分類が重要課題である。5 主たる診療科神経内科:診断確定、鑑別診断、急性期管理、寛解期の再発抑制療法、肢体不自由になった場合の障害者認定眼科:視力・視野などの病状評価、鑑別診断、治療の副作用のショック、視覚障害になった場合の障害者認定ペインクリニック:疼痛の対症療法泌尿器科:排尿障害の対症療法整形外科:肢体不自由になった場合の補助具などリハビリテーション科:リハビリテーション全般※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)公的助成情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)診療、研究に関する情報多発性硬化症治療ガイドライン2010(日本神経学会による医療従事者向けの治療ガイドライン)多発性硬化症治療ガイドライン2010追補版(上記の治療ガイドラインの追補版)患者会情報多発性硬化症友の会(MS患者ならびに患者家族の会)1)Polman CH, et al.Ann Neurol.2011;69:292-302.2)Wingerchuk DM, et al. Neurology.2006;66:1485-1489.3)日本神経学会/日本神経免疫学会/日本神経治療学会監修.「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会編.多発性硬化症治療ガイドライン2010. 医学書院; 2010.公開履歴初回2013年03月07日更新2015年10月06日

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乾癬へのアダリムマブの有効性 ―米国市販後10年調査の中間報告

 中等症~重症の尋常性乾癬患者を対象としたアダリムマブ(商品名:ヒュミラ)の実臨床における長期安全性と有効性を評価する10年間の市販後調査(ESPRIT)が進行中であるが、最初の5年間において未知の有害事象は認められず、死亡者数も予想を下回っており、安定した有効性が得られていることが、米国・ベイラー大学のAlan Menter氏らによる中間解析で明らかになった。Journal of the American Academy of Dermatology誌2015年9月号の掲載報告。 市販後調査の登録は2008年9月26日に開始され、2013年11月30日時点のデータについて解析が行われた。 解析対象は、市販後調査開始前の臨床試験も含めたすべてのアダリムマブ投与患者(全投与群)。すなわち、承認前の臨床試験から継続してアダリムマブが投与され、登録開始後にアダリムマブを少なくとも1回は投与された患者と、市販後調査の登録開始前4週間以内にアダリムマブの投与が開始された新規投与患者群であった。 主な結果は以下のとおり。・全投与患者群は6,059例、このうち新規投与患者群は2,580例であった。・登録期間中央値は全投与患者群765日、新規投与患者群677日であった。・全投与患者群において、重篤な治療関連有害事象の発現頻度(登録期間外も含む)は4.3件/100人年で、重篤な感染症は1.0件/100人年、悪性腫瘍0.9件/100人年、非黒色腫皮膚がん0.6件/100人年、黒色腫0.1件未満/100人年であった。・標準化死亡比は、0.30(95%信頼区間:0.19~0.44)であった。・医師の総合評価(PGA)で、消失またはほぼ消失と判定された患者の割合は、全投与患者群において12ヵ月後57.0%、60ヵ月後64.7%であった。

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生命を脅かす疾患 「低ホスファターゼ症」に光明

 アレクシオンファーマ合同会社(以下、アレクシオン)の主催により、「周産期・乳児期で生命を脅かす危険性が高い“低ホスファターゼ症”初の治療薬登場で変わる治療現場」をテーマに、メディアセミナーが2015年9月17日、東京都千代田区で開催された。冒頭で、同社社長ヘルマン・ストレンガー氏より低ホスファターゼ症(Hypophosphatasia:HPP)治療薬、ストレンジックの日本における開発経緯について説明が行われた。日本におけるストレンジックの開発経緯 同社が先月発売したストレンジックの日本における開発は、2012年、日本でHPP患者を持つ母親からアレクシオンに、薬の必要性を切実に願う手紙が届いたことがきっかけであった。これにより、日本人HPP患者の国際共同治験参加が実現し、2015年8月、世界に先駆けて日本で発売されることとなった。HPPとは? 次に、藤原 幾磨氏(東北大学大学院 医学系研究科 環境遺伝医学総合研究センター 小児環境医学分野 教授)より、「低ホスファターゼ症とストレンジック」と題した講演が行われた。 HPPは、アルカリホスファターゼ(以下、ALP)をコードするALPL遺伝子の変異により、ALP活性が低下することが原因のきわめてまれで重篤な、進行性、全身性代謝性疾患である。日本における患者数は100~200人1)で、「小児慢性特定疾病」、「指定難病」に認定されている。HPPの症状と病型 HPPでは、ALPの活性低下に伴い、その基質であるPPiの蓄積による骨石灰化障害、PLPの蓄積によるビタミンB6依存性痙攣など、生命に関わる症状が引き起こされる。HPPは、「周産期型」、「乳児型」、「小児型」、「成人型」、「歯限局型」に加え、「周産期良性型」(周産期型で従来よりも症状が軽度で予後良好な例)を含めた6病型に分類されている。病型によって特徴的かつ多彩な臨床症状(骨石灰化障害に伴う呼吸不全、頭蓋骨早期癒合症、腎石灰化や重度の腎不全、筋肉/関節痛、運動機能障害など)を全身に発現し、最も重篤な周産期重症型では、生存期間の中央値が4ヵ月であったという報告もある2)。HPPの診断 これらの臨床症状を回避し、予防するためには、早期かつ正確にHPPを診断することが重要である。その際、「ALP活性値の低下」を確認することが、HPPの診断、類似疾患との鑑別に不可欠だが、藤原氏は、「患者の年齢や検査施設によってALP基準値が異なるため、配慮が必要だ」と注意を促した。HPP治療薬、ストレンジックとは? ストレンジックは、HPP患者に対する初めての治療薬で、HPPの原因であるALP活性の低下に対する酵素補充療法である。本剤の投与により、HPP患者の生存率(投与168週時)84%、24週という早期にくる病様症状や、胸郭石灰化促進による肺機能の改善、運動能力や身体機能の改善が認められ、身体障害、疼痛の軽減によるADL、QOLの改善が示唆された。 藤原氏は、「当院で実施した治験でも、著明な長管骨彎曲や骨化不全がみられた患者に、ストレンジックを投与したところ、骨病変の著しい改善がみられ、現在では歩くことができるようになっている」、「ストレンジック発売前は、HPP患者を発見しても辛く、悔しい思いをすることが多かったが、心待ちにしていた薬剤の登場と、その効果に喜んでいる」と述べた。HPP患者家族、喜びの声 最後に、原 弘樹氏(低フォスファターゼ症の会 代表)より「患者会の紹介と、ご家族の闘病」についての講演が行われた。 「低フォスファターゼ症の会」は、大阪大学の大薗 恵一氏が会の顧問を務めており、2008年より患者、医師、製薬会社、行政の架け橋として、精力的に活動を続けている。今回、患者家族を代表して、ハウ氏(低フォスファターゼ症の会 副代表)夫妻から闘病の様子が語られた。 ハウ氏の子息は、1997年に生まれた。先天性代謝異常スクリーニングでは、異常が見つからず、翌年、発熱した際に血液検査をしたところカルシウム高値であることが発覚し、その後「低ホスファターゼ症の乳児型」と診断された。首、腰がなかなかすわらないという悩みから始まり、気管支炎や肺炎による入院、乳歯早期脱落による入れ歯、頭蓋骨早期癒合症の手術、歩行困難のため車いす移動など、大変な日々だった、とハウ氏は当時を振り返った。 昨年、治験に参加し、ストレンジックを投与したところ、2ヵ月ほどで運動能力の向上がみられ、腰の痛みも治まってきたという。ハウ氏は、「現在、息子は高校3年生となり、力をつけたいという本人の要望から、親子で筋肉トレーニングを始め、今では家の手伝いができるほど力がついてきた、今後は、持久力をつけて自転車に挑戦するのが目標。頑張る息子の姿を大変うれしく思う」と喜びを語った。 原氏は、「会の結成当時は治療法がなく、自分たちの無力さ、無念さで苦しい思いをたくさんしてきた」、「世界に先駆けて日本で承認、販売されたことに対して、感謝の気持ちでいっぱい。ここまで成し遂げられたのは、“日本人の魂”だと感じた」と述べ、会を締めくくった。 ストレンジックによって、1人でも多くの“幼い命”が救われることを期待したい。参考文献1) 難病情報センター. 低ホスファターゼ症. (参照2015.9.30)2) Taketani T, et al. Arch Dis Child. 2014; 99: 211-215.

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統合失調症スペクトラム障害と感情精神病の発症リスク要因は

 統合失調症スペクトラム障害(SSD)と感情精神病(AP)には、特徴的で共通の発症前リスク要因として、産科合併症、小児期の精神病理、認知障害、運動障害などがあることが示された。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のKristin R. Laurens氏らが、システマティックレビューにより明らかにした。こうした共通の発症前リスクを特定することは、病因学的仮説を改良し、ターゲットを絞った予防的介入に実行に役立つ可能性がある。BMC Psychiatry誌2015年8月25日号の掲載報告。 検討では、SSDおよびAP発症のリスク要因および先行条件に関する利用可能なエビデンスを統合し、最も強く支持する要因を特定し、残存するエビデンスギャップに注目した。Medlineを用いて、プロスペクティブな出生、集団、ハイリスク、ケースコントロールコホートについて系統的に文献検索を実施するとともに、全文が入手可能な英語の発表済み論文について、補足的に手動検索を行った。適格/除外の判断とデータ抽出は2名が並行して実施した。成人精神科診断により確定診断された症例および対照群の曝露因子に3つのリスク要因カテゴリー、4つの先行条件カテゴリーを採用。利用可能なデータからエフェクトサイズおよび発生頻度を抽出し、試験デザインにかかわらずエビデンスの強さを総合して質的評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・検索で特定された1,775試験のうち、127試験がレビューの対象となった。・SSD発症例は、胎児期から青年期にわたり、さまざまな種類の軽微な発病前発達不全とリスク曝露を認めた。・最も重大なもの(あるいは最も一貫して認められたもの)として、産科合併症、妊娠中の疾患(とくに感染症)、他の母体の身体的要因、情緒発達に負の影響のある家庭環境、精神病理および精神症状、認知および運動障害が挙げられた。・APにおいて、このような曝露因子の多様性を関連付けるエビデンスの蓄積は相対的に少なく、いまだ検証されていない事項も多いが、これまでに最も一貫性のある、または強いエビデンスは産科合併症、精神病理、認知指標、運動障害であった。・SSDとAPの直接比較を行っているいくつかの検討において、SSDはAPに比べてエフェクトサイズが大きく、有意な関連を示す報告がより多かった。・SSDとAPに共通するリスク要因は、産科合併症、小児期の精神病理、認知指標および運動障害などであったが、リスク要因および先行条件について一般的なものと特別なものとを識別するには、APに関する利用可能な前向きデータが不足しており限定的であった。 結果を踏まえ、著者らは「さらなる検討が必要だが、明らかになったリスク要因の存在は、SSDやAPに対する予防的介入に活用可能な目標の明確化に役立つ」とまとめている。関連医療ニュース 統合失調症の同胞研究、発症と関連する脳の異常 統合失調症患者の脳ゲノムを解析:新潟大学 統合失調症患者を発症前に特定できるか:国立精神・神経医療研究センター  担当者へのご意見箱はこちら

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脳出血再発抑制に降圧は有効。それでもRCTは必要(解説:石上 友章 氏)-425

 マサチューセッツ総合病院のAlessandro Biffi氏らは、脳出血のサバイバー(90日以上生存者)を対象にして、その再発抑制に関する降圧治療の影響を調べて報告した。その結果、『降圧治療』および『血圧管理の質』が、脳葉型(lobular type)脳出血、非脳葉型(non-lobular type)脳出血のいずれのタイプの脳出血においても、再発抑制に有効であることが明らかになった。『血圧管理の質』については、米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)による脳出血の2次予防の推奨血圧(非糖尿病者:SBP<140mmHg、DBP<90mmHg、糖尿病者:SBP<130mmHg、DBP<80mmHg)を基準にして、二項変数として「適切」、「不十分」とした。 この結果は、ガイドライン遵守による降圧治療の正当性をリアルワールドの実臨床データで証明するとともに、細動脈硬化によらない脳葉型の脳アミロイド血管障害(Cerebral Amyloid Angiopathy:CAA)によるとされる脳出血であっても、降圧治療が有効であることを示すことができた。 脳内出血サバイバーを対象にした単施設のコホート試験であることから、本研究は著者らが本文中に明言するように、試験結果の解釈は仮説提示に留まっている。観察研究は、さまざまなバイアスリスク(選択バイアス、実行バイアス、検出バイアス、症例減少バイアス)を持っている。本研究では、『小脳出血』を脳葉型、非脳葉型に分類できないという理由から除外しているが、もしデータ化しているのであれば、重要な情報となりうることから、解析に含めることが望ましかった。量反応関係の証明については、『降圧・アウトカム』間に、図に示すような関係が認められているが、降圧に限定した解析では、交絡因子をどれだけ解消することができたのか疑問が残る。本研究を仮説提示に留めるとするのであれば、より多くの情報を用いて仮説化していく試みがあってもよかった。本邦でも、MINDSの診療ガイドライン作成マニュアルでは、観察研究のエビデンスの強さの評価にあたっては、『弱(C)』から始めることが推奨されている。したがって、本研究によって明らかにされたCQに対する回答は、本論文の掉尾を飾る下記の一文に集約されるだろう。“These data suggest that randomized clinical trials are needed to address the benefits and risks of stricter BP control in ICH survivor.”画像を拡大する

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これからのうつ病治療、どんな介入を行うべきか

 うつ病は、運動不足と関連しており慢性的な身体健康状態に影響を及ぼしている可能性があるが、うつ病に対する心理学的介入と、身体活動促進のための行動変容技術(たとえば行動活性化療法[BA]など)を組み合わせた介入は、ほとんど行われていない。英国・エクセター大学医学部のClaire Pentecost氏らは、心理療法アクセス改善(IAPT)プログラム内で予備的な無作為化比較試験を実施し、参加者の募集やデータ収集に困難はあったものの、被験者は概してBAおよび身体活動促進(BAcPAc)の自助パンフレットに関心を持ち、身体活動促進に意欲を示したことを明らかにした。無作為化比較試験の実施に当たってはいくつかの課題も浮き彫りとなり、著者らは「大規模臨床試験を行うためには、これらの課題をよく理解し解決する必要がある」とまとめている。Trials誌オンライン版2015年8月20日号の掲載報告。 研究グループは、成人うつ病患者60例を、BAのみまたはBA+身体活動促進(BAcPAc)のいずれかに基づいた自助プログラムに無作為化し、ベースラインおよび4ヵ月後に評価した。研究方法や介入方法の許容性および実現性を検討するため、参加者およびpsychological wellbeing practitioner(PWP)から質的データを収集するとともに、費用などに関するデータも収集した。 主な結果は以下のとおり。・4ヵ月後に評価し得た症例は、44例(73%)であった。・加速度計を用いた身体活動データは、44例中28例(64%)で収集された。・20例(33%)が少なくとも1回は治療を受けた。・インタビューデータは、参加者15例およびPWP9名について分析した。・既存のIAPTサービス内で無作為化比較試験を実施することの課題として、スタッフの高い離職率、参加者のスケジュール管理の問題、PWPおよび参加者が認知機能に関する治療を優先させること、BA実施プロトコルの逸脱が明らかになった。・BAcPAc療法は、概して患者とPWPに受け入れられた。関連医療ニュース うつ病へのボルダリング介入、8週間プログラムの成果は 日本人治療抵抗性うつ病患者へのCBT併用試験とは:FLATT Project 軽度うつ病患者の大うつ病予防効果を検証するRCTは実施可能か

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AZ、2015年欧州がん学会においてオンコロジー研究の進展を発表

 アストラゼネカ(本社:英国ロンドン、最高経営責任者(CEO):パスカル・ソリオ[Pascal Soriot]、以下、アストラゼネカ)は、同社のグローバルバイオ医薬品研究開発部門であるメディミューンとともに、オーストリア、ウィーンで開催された2015年欧州がん学会(ECC)(2015年9月25~29日)において、AZD9291、durvalumab、olaparibのデータを含む19本の口頭およびポスター発表により、過去に発表された結果の確認・補完的解析ならびに新たなデータが提供されたと発表した。既治療NSCLC患者におけるAZD9291 既治療NSCLC患者を対象としたAURA第II相試験(AURA延長試験・AURA2試験)の解析データ(抄録 # 3113)により、過去の学会で報告されたAZD9291の結果が確認された。400超例の既治療EGFR T790M患者の統合データにより客観的奏効率 (ORR)は66%(95%信頼区間(CI): 61~71%)と示された。ORRは、人種、活性化変異タイプおよび脳転移の有無を問わずAZD9291治療を受けたすべてのサブグループにおいて概ね一貫していた。初期のPFS中央値は9.7ヵ月(95% CI: 8.3ヵ月~算出不能 [NC])、奏効期間(DoR)の中央値は算出不能であった(95% CI: 8.3ヵ月~NC)。 安全性プロファイルも過去のデータと合致していた。主な有害事象(AE)は下痢が42%(グレード3以上: 1%)および発疹が41%(グレード3以上: 1%)であった。高血糖、間質性肺疾患(ILD)およびQT延長の報告は過去に発表されたデータと合致していた。ILDおよび肺炎が3%(グレード3以上: 2%)、高血糖が1%(グレード3以上: 0%)、QT延長が4%(グレード3以上: 1%)であった。患者の4%が薬剤関連AEによりAZD9291を中止した(治験担当医による評価)。 AURA第II相試験の解析(抄録 # 3083)により、脳転移の有無を問わず、EGFR T790M変異陽性NSCLC患者におけるAZD9291の一貫した活性が示された。臨床症例によりAZD9291は脳における抗腫瘍活性を持つ可能性があることが示されている。BLOOM(NCT02228369)試験によりAZD9291が脳における抗腫瘍活性を有する可能性をさらに検討している。がん免疫治療プログラムの進展 メディミューンは、免疫治療が奏効する可能性が最も高い患者を同定するバイオマーカー研究の進展を明示。本研究は、腫瘍におけるPD-L1およびINF-γの発現増加と抗PD-L1抗体であるdurvalumabの効果に関連性があることを示している(抄録 # 15LBA)。この新研究はNSCLCに対するdurvalumab臨床開発プログラムの一環であり、本年のWCLCおよび他学会において検討されたPACIFIC(NCT02125461)、ATLANTIC(NCT02087423)、ARCTIC(NCT02352948)、MYSTIC (NCT02453282)およびNEPTUNE(NCT02542293)試験が含まれる。アストラゼネカ株式会社のプレスリリースはこちら

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朝食を抜きがちで運動不足の一人暮らしの男子大学生は太る【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第52回

朝食を抜きがちで運動不足の一人暮らしの男子大学生は太る FREEIMAGESより使用 この後ろ向きコホート研究は、男子大学生が肥満にならないようにするためにはどうしたらいいか、ヒントを与えてくれます。 これは京都大学で2000~07年に行われた研究です。被験者は、健康診断を毎年受けている法学部3回生です。私は関西出身なので、大学生のことを「年生」ではなく「回生」と呼んでいました。京都大学もおそらく「回生」と呼んでいる学生が多いのでは? Goto M, et al. Lifestyle risk factors for overweight in Japanese male college students. Public Health Nutr. 2010 Oct;13(10):1575-80. 余談はさておき、この研究に登録されたのはBMIが22.0以上の4,634人の男性学生でした。平均年齢は21.5歳。「あっ! この研究にオレも入ってるかも!」と思った読者がいるかな、とふと思ったのですが、法学部出身の人はこの連載を読んでないですよね。1年間のフォローアップで、BMIが5%以上増加したのは598人(12.9%)の生徒でした。BMI増加の独立リスク因子とされたのは、運動不足(オッズ比[OR]1.33、95%信頼区間:1.11~1.60)、アルコール摂取量が少ないこと(OR 1.30、95%信頼区間:1.08~1.57)、朝食をよく抜くこと(OR 1.34、95%信頼区間:1.12~1.61)、高脂肪食を好むこと(OR 1.36、95%信頼区間:1.04~1.78)、一人暮らし(OR 1.23、95%信頼区間:0.99~1.52)でした。該当するリスク因子数に応じて層別化を行うと、健康的な生徒と比較した場合、リスク因子最多の生徒ではBMI増加のオッズ比が6.22(95%信頼区間:2.58~15.0)でした。アルコールを飲まないほうが太るというのが「ハテナ?」と思いましたが、アルコール摂取で肥満のリスクが上昇するというコンセンサスはないのですね。知りませんでした。むしろ、アルコール摂取をしない大学生は、他のカロリー摂取源として食事を多く取るという可能性があるとかないとか。他の研究だと、早食いする大学生は体重が増えやすいという報告もあります1)。私も大学の頃はかなり早食いでしたが、子どもができてからゆっくり食べるようになりました。ところで、京都の大学に通っていると、ラーメン屋に行く頻度が多いと思います(それが統計学的に有意かどうかは神のみぞ知る)。私は研修医時代を京都で過ごしたのですが、週1回くらいの頻度でラーメン屋に通っていました。「いいちょ」という店が大好きで、ラーメンとチャーハンを毎回セットで頼んでいました。そのせいもあってか、当時は現在より体重が5kgも多かったのです。ちなみに、昼食に頻繁にラーメンを食べると日本人はトランスアミナーゼが増えるという報告があります2)。参考文献1)Yamane M, et al. Obesity (Silver Spring). 2014;22:2262-2266.2) Iwata T, et al. Tohoku J Exp Med. 2013;231:257-263.インデックスページへ戻る

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思春期うつ病、パロキセチンとイミプラミンの試験を再解析/BMJ

 思春期大うつ病に対して、パロキセチンおよび高用量イミプラミンはいずれも有効性は示されず、有害性を増大することが明らかにされた。英国・バンガー大学のJoanna Le Noury氏らが、「SmithKline Beecham's Study 329」の再解析の結果、報告した。BMJ誌オンライン版2015年9月16日号掲載の報告。SmithKline Beecham's Study 329のプライマリデータを引き出し再解析 無作為化試験に関しては、試験データの大半にアクセスできず偏向報告の検出を困難なものとしている。また、ミスリードの結論が発表されても、プライマリデータへのアクセス不可が、それを確定的なものと思わせている。 研究グループは、思春期大うつ病に対するパロキセチンおよびイミプラミンの有効性、安全性をプラセボと比較した「SmithKline Beecham's Study 329」(2001年にKeller氏らにより発表)も、そうした試験の1つだとして、「RIAT(restoring invisible and abandoned trials)イニシアチブ」に基づく再解析を行った。無作為化試験の完全データセットへのアクセスが可能かを確認し、また再解析の結果が、根拠に基づく医療として臨床的意義があるのかを検証した。 GSK社に対してRIATレコメンデーションや交渉を行い、Webサイトで入手可能となったファイナル臨床報告などのデータを用いて再解析を行った。 被験者は、北米12ヵ所の大学附属の精神科センターで、1994年4月20日~98年2月15日に集められたオリジナル試験の青年275例であった。被験者は12~18歳で、少なくとも8週間の大うつ病を有していた。除外基準は、精神障害や内科的疾患の併存、および自殺傾向であった。 二重盲検無作為化プラセボ対照法により、被験者は、パロキセチン(20~40mg)、イミプラミン(200~300mg)またはプラセボの8週投与を受ける群に無作為に割り付けられ評価を受けた。 事前規定の主要有効性変数は、ベースラインから8週時点(急性期治療フェーズ終了時)までの、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)総スコア、治療反応者の割合(HAM-Dスコア8以下またはベースライン時HAM-Dスコアより50%低減)の変化であった。また事前規定の副次アウトカムは、ベースラインから終了時までの、K-SADS-Lのうつ評価項目、臨床全般印象度(CGI)、自律機能性チェックリスト、自己知覚尺度、SIP(sickness impact scale)の変化、および反応性予測因子、さらに維持フェーズ期間における再発患者数であった。また有害経験について、主として記述的統計を用いて比較を行った。コーディングについては事前規定されていなかった。プライマリデータおよびプロトコルによる分析の必要性を例示する結果に 結果、パロキセチンとイミプラミンの有効性は、あらゆる事前特定の主要アウトカムおよび副次有効性アウトカムについて、プラセボと比較して、統計学的または臨床的な有意差は示されなかった。 HAM-Dスコアは、パロキセチン群10.7ポイント低下(最小二乗法による平均値、95%信頼区間[CI]:9.1~12.3)、イミプラミン群9.0ポイント低下(7.4~10.5)に対して、プラセボ群9.1ポイント低下(7.5~10.7)であった(p=0.20)。 一方、臨床的に顕著な有害性の増大が、パロキセチン群では自殺念慮や自殺行動およびその他の重大有害事象についてみられ、イミプラミン群では心血管の問題についてみられた。 これら再解析の結果を踏まえて著者は、「パロキセチン、高用量イミプラミンの両者とも、思春期大うつ病への有効性は示されなかった。また両薬で有害性の増大が認められた」と結論している。そのうえで、「試験のプライマリデータへのアクセスは、発表済みの有効性および安全性に関する結論を盲目的に信ずるべきではないなど、臨床および研究のいずれにとっても重大な意義をもたらすものである。今回のStudy 329の再解析は、エビデンスベースの厳密さを増すためにプライマリ試験データやプロトコルを入手することの必要性を例示するものであった」と述べている。

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待機的THRより股関節骨折手術は死亡リスクが高い/JAMA

 待機的人工股関節全置換術(THR)患者と比べて股関節骨折手術患者は、年齢、性別および術前併存疾患を補正後の術後院内死亡リスクが有意に高いことが明らかにされた。カナダ・マックマスター大学のYannick Le Manach氏らによる、フランスの大規模コホートを対象とした検討の結果、明らかにされた。股関節骨折手術後患者は、待機的THR患者と比べて死亡や重大合併症のリスクが高いことは知られていたが、この術後リスクの増大が、高年齢や併存疾患の影響を受けているかは不明であった。今回の検討で、死亡の相対リスクは5.88倍であったという。著者は、「さらなる検討により、この差の原因を明らかにする必要がある」と述べている。JAMA誌2015年9月15日号掲載の報告。フランス国内69万995例について評価 研究グループは、年齢、性別および周術期合併症補正後、股関節骨折手術群と待機的THR群で院内死亡率に差があるかどうかを調べる検討を行った。 2010年1月~13年12月のFrench National Hospital Discharge Databaseから、フランスの病院に入院した45歳以上の股関節手術患者を包含。ICD-10コードで、術後の患者の併存疾患や合併症を調べた。年齢、性別、術前併存疾患で適合した患者を、待機的THR群または股関節骨折手術群に、多変量ロジスティックモデルと貪欲適合アルゴリズム法を用いて1対1に無作為に割り付け評価した。 主要評価項目は、術後院内死亡率であった。 フランス国内864センターから総計69万995例の適格患者が包含された。待機的THR群(37万1,191例)のほうが、年齢が若く、男性が多く、併存疾患が少なかった。死亡リスク5.88倍、重大術後合併症リスク2.50倍 結果、股関節骨折手術群(31万9,804例)は、術後1万931例(3.42%)が退院前に死亡。一方、待機的THR群の死亡は669例(0.18%)であった。 適合集団(23万4,314例)の多変量解析の結果、股関節骨折手術群のほうが、死亡リスクが高い[1.82% vs.0.31%、絶対リスク増:1.51%(95%信頼区間[CI]:1.46~1.55%)、相対リスク[RR]:5.88(95%CI:5.26~6.58)、p<0.001]、重大術後合併リスクが高い[5.88% vs.2.34%、絶対リスク増:3.54%(95%CI:3.50~3.59%)、RR:2.50(95%CI:2.40~2.62)、p<0.001]ことが示された。

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EMPA-REG OUTCOME試験:リンゴのもたらした福音(解説:住谷 哲 氏)-422

 リンゴを手に取ったために、アダムとイブは楽園から追放された。ニュートンは、リンゴが木から落ちるのを見て万有引力の法則を発見した。どうやら、リンゴは人類にとって大きな変化をもたらす契機であるらしい。今回報告されたEMPA-REG OUTCOME試験の結果も、現行の2型糖尿病薬物療法に変革をもたらすだろう。 優れた臨床試験は、設定された疑問に明確な解答を与えるだけではなく、より多くの疑問を提出するものであるが、この点においても本試験はきわめて優れた試験といえる。本試験は、FDAが新たな血糖降下薬の認可に際して求めている心血管アウトカム試験(cardiovascular outcome trial:CVOT)の一環として行われた。SGLT2(sodium-glucose cotransporter 2)阻害薬であるエンパグリフロジンが、心血管イベントリスクを増加しないか、増加しないならば減少させるか、が本試験に設定された疑問である。短期間で結果を出すために、対象患者は、ほぼ100%が心血管疾患を有する2型糖尿病患者が選択された。かつ、心血管疾患を有する2型糖尿病患者に対する標準治療に加えて、プラセボとエンパグリフロジンが投与された。その結果、3年間の治療により心血管死が38%減少し、さらに、総死亡が32%減少する驚くべき結果となった。しかし、奇妙なことに、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中には有意な減少が認められず、心不全による入院の減少が、心血管死ならびに総死亡の減少と密接に関連していることを示唆する結果であった。さらに、心血管死の減少は、治療開始3ヵ月後にはすでに認められていることから、血糖、血圧、体重、内臓脂肪量などのmetabolic parameterの改善のみによっては説明できないことも明らかになった。つまり、インスリン非依存性に血糖を降下させるエンパグリフロジンが、血糖降下作用とは無関係に患者の予後を大きく改善したことになる。この結果の意味するところを、われわれはじっくりと咀嚼する必要があるだろう。 エンパグリフロジンが心血管死を減少させたメカニズムは何か? これが本試験の提出した最大の疑問である。残念ながら本試験は、この疑問に解答を与えるようにはデザインされておらず、新たなexplanatory studyが必要となろう。科学史における多くの偉大な発見は、瞥見すると突然もたらされたようにみえるが、実際はそこに至るまでに多くの知見が集積されており、そこに最後の一歩が加えられたものがほとんどである。したがって本試験の結果も、これまでに蓄積された科学的知見の文脈において理解される必要がある。ニュートンも、過去の多くの巨人達の肩の上に立ったからこそ、はるか遠くを見通せたのである。この点において、われわれは糖尿病と心不全との関係を再認識する必要がある。 糖尿病と心不全との関係は古くから知られているが、従来の糖尿病治療に関する臨床試験においては、システマティックに評価されてきたとは言い難い1)。これは、FDAの規定する3-point MACE(Major adverse cardiac event:心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)および4-point MACE(3-point MACEに不安定狭心症による入院を加えたもの)に、心不全による入院が含まれていないことから明らかである。糖尿病と心不全との関係は病態生理学的にも血糖降下薬との関係においても複雑であり、かつ現時点でも不明な点が多く、ここに詳述することはできない(興味ある読者は文献2)を参照されたい)。血糖降下薬については、唯一メトホルミンが3万4,000例の観察研究のメタ解析から心不全患者の総死亡を抑制する可能性のあることが報告されているだけである3)。 本試験においては、ベースラインですでに心不全と診断されていた患者が約10%含まれていたが、平均年齢が60歳以上であること、すべての患者が心血管病を有していること、糖尿病罹病期間が10年以上の患者が半数を占めること、約半数の患者にインスリンが投与されていたことから、多くの潜在性心不全患者または左室機能不全(収縮不全または拡張不全)患者が含まれていた可能性が高い。筆者が考えるに、これらの患者に対して、エンパグリフロジンによる浸透圧利尿が心不全の増悪による入院を減少させたと考えるのが現時点での最も単純な推論であろう。これは、軽症心不全患者に対するエプレレノン(選択的アルドステロン拮抗薬)の有用性を検討したEMPHASIS-HF試験4)において、総死亡の減少が治療開始3ヵ月後の早期から認められている点からも支持されると思われる。興味深いことに、ベースラインで約40%の患者がすでに利尿薬を投与されており、エンパグリフロジンには既存の利尿薬とは異なる作用がある可能性も否定できない。 本試験の結果から、エンパグリフロジンは2型糖尿病薬物療法の第1選択薬となりうるだろうか? 筆者の答えは否である。EBMのStep4は「得られた情報の患者への適用」とされている。Step1-3は情報の吟味であるが、本論文の内的妥当性internal validityにはほとんど問題がない。しいて言えば、研究資金が製薬会社によって提供されている点であろう。したがって、この論文の結果はきわめて高い確率で正しい。ただし、本論文のpatient populationにおいて正しいのであって、明日外来で目前の診察室の椅子に座っている患者にそのまま適用できるかはまったく別である。つまり、外的妥当性applicabilityの問題である。そこでは医療者であるわれわれの技量が問われる。その意味において、本論文は糖尿病診療におけるEBMを考えるうえでの格好の教材だろう。 薬剤の作用は多くの交互作用のうえに成立する。そこで注意すべきは、本試験が心血管病の既往を有する2型糖尿病患者における2次予防試験であることである。2次予防で有益性の確立した治療法が1次予防においては有益でないことは、心血管イベント予防におけるアスピリンを考えると理解しやすい。心血管イベント発症絶対リスクの小さい1次予防患者群においては、消化管出血などの不利益が心血管イベント抑制に対する有益性を相殺してしまうためである。同様に、心不全発症絶対リスクの小さい1次予防患者においては、性器感染症やvolume depletionなどの不利益が、心不全発症抑制に対する有益性を相殺してしまう可能性は十分に考えられる。さらに、エンパグリフロジンの長期安全性については現時点ではまったく未知である。 薬剤間の交互作用については、メトホルミン、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬、β遮断薬、スタチン、アスピリンなどの標準治療に追加することで、エンパグリフロジンの作用が発揮されている可能性があり、本試験の結果がエンパグリフロジン単剤での作用であるか否かは不明である。それを証明するためには、同様の患者群においてエンパグリフロジン単剤での試験を実施することが必要であるが、その実現可能性は倫理的な観点からもほとんどないと思われる。 糖尿病治療における基礎治療薬(cornerstone)に求められるのは、(1)確実な血糖降下作用、(2)低血糖を生じない、(3)体重を増加しない、(4)真のアウトカムを改善する、(5)長期の安全性が担保されている、(6)安価である、と筆者は考えている。現時点で、このすべての要件を満たすのはメトホルミンのみであり、これが多くのガイドラインでメトホルミンが基礎治療薬に位置付けられている理由である。本試験においても、約75%の患者はベースラインでメトホルミンが投与されており、エンパグリフロジンの総死亡抑制効果は、前述したメトホルミンの持つ心不全患者における総死亡抑制効果との相乗作用であった可能性は否定できない。 ADA/EASDの高血糖管理ガイドライン2015では、メトホルミンに追加する薬剤として6種類の薬剤が横並びで提示されている。メトホルミン以外に、総死亡を減少させるエビデンスのある薬剤のないのがその理由である。最近の大規模臨床試験の結果から、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬)の心血管イベント抑制作用は、残念ながら期待できないと思われる。本試験の結果から、心血管イベント、とりわけ心不全発症のハイリスク2型糖尿病患者に対して、エンパグリフロジンがメトホルミンに追加する有用な選択肢としてガイドラインに記載される可能性は十分にある。EMPA-REG OUTCOME試験は、2型糖尿病患者の予後を改善するために実施された多くの大規模臨床試験が期待した成果を出せずにいる中で、ようやく届いたgood newsであろう。参考文献はこちら1)McMurray JJ, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2014;2:843-851.2)Gilbert RE, et al. Lancet. 2015;385:2107-2117.3)Eurich DT, et al. Circ Heart Fail. 2013;6:395-402.4)Zannad F, et al. N Engl J Med. 2011;364:11-21.関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)

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EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)-423

 2015年9月14日から、ストックホルムで開催された欧州糖尿病学会(EASD)に参加した。今大会でEMPA-REG OUTCOME試験の結果が発表されるとあって、世界中から集まった糖尿病の臨床医や研究者の注目を集めていた。私も当日、発表会場に足を運んだが、超満員でスクリーンの文字がよく見えない位置に座るしかなかった。しかし、EMPA-REG OUTCOME試験の結果は同日論文に掲載されたため、内容を確認することができた1)。 2008年以降、米食品医薬品局(FDA)は新規の糖尿病治療薬に対し、心血管系イベントに対する安全性を評価する、ランダム化プラセボ対照比較試験の実施を義務付けている。そして、SGLT2阻害薬ではエンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジンで心血管系の安全性試験が行われている。この3製剤の中で、エンパグリフロジンの試験(EMPA-REG OUTCOME)が最も早く終了し、今回の発表となった。 この試験は、心筋梗塞・脳梗塞の既往や心不全などのある、心血管イベントの発症リスクの高い2型糖尿病患者を対象に、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)10mgあるいは25mgを投与し、プラセボと比較して心血管イベントに対する影響を検討した研究である。主要アウトカムは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞のいずれかの初回発現までの期間で、結果の解析はエンパグリフロジン群(10mg群と25mg群をプールしたもの)のプラセボ群に対する非劣性を検定した後に優越性を検定する、とデザインペーパーに記載されている2)。 日本を含む世界42ヵ国、約7,000人がこの試験に参加し、追跡期間の中央値は3.1年であった。主要エンドポイントは、エンパグリフロジン群(10mgと25mgの合計)がプラセボ群より有意に低かった(hazar ratio:0.86、95%CI:0.74~0.99)。また、非致死的心筋梗塞と非致死的脳梗塞では有意差が付かなかったが、心血管死は有意に低下していた(3.7% vs.5.9%、Hazard ratio:0.62、95%CI:0.49~0.77)。また、全死亡も有意に低下しており(5.7% vs.8.3%、Hazard ratio:0.68、95%CI:0.57~0.82)、生命予後を改善することが示唆された。 おそらく多くの方々がこの結果を評価するであろう。これまでの糖尿病治療薬でこれほど心血管イベントを抑制した薬剤はなく、世界中の医療関係者を驚かせた。また、高血圧症や脂質異常症の標準治療をされたうえでも心血管死を減少したというのは特筆すべき結果である。 本稿ではあえて気になった点を列記する。(1)主要エンドポイントはエンパグリフロジン10mg群および25mg群ではいずれも有意差が付いていない。おそらく症例数が少ないことによるものであろう。(2)心血管死の発症は著明に抑制されていたが、一方で心筋梗塞や脳梗塞の発症は抑制されておらず、とくに脳梗塞は、むしろ増加する傾向を認めている点には注意が必要である。(3)心血管死や心不全による入院は試験開始直後から減少しているが、この点をどう解釈するか。これほど早く薬剤の臨床効果が出現するものだろうか。 また、なぜSGLT2阻害薬エンパグリフロジンを投与すると、試験開始早期より心血管死を抑制できたのであろうか。HbA1cはプラセボ群よりたかだか0.5%程度しか低下していない。これまでに行われた糖尿病治療薬の試験でも今回のような効果は認められたことはなく、血糖コントロールの改善が寄与したとは考えにくい。また、血圧に関しても収縮期血圧はおよそ4mmHgの低下を認めるが、血圧低下だけでは十分に説明できない。脂質に関しても、HDLコレステロールの増加はわずか2mg/dL程度であり、むしろLDLコレステロール値は上昇している。1つの機序としては、心血管死と心不全に対する効果が早くかつ大きいことや、これまでの心不全に関する試験においても今回と同様の結果が認められることから、SGLT2阻害薬の利尿作用が関係している可能性がある。また、別の機序として、複数の治療目標を同時に積極介入したSteno-2試験の結果に類似することから、SGLT2阻害薬が血糖のみならず血圧、脂質、肥満などをトータルに改善したことが結果につながったのかもしれない。いずれにしても、この心血管イベント抑制のメカニズムは推測の域を超えない。 この効果がエンパグリフロジンだけに認められる結果なのか、それともほかのSGLT2阻害薬でも認められるのか。今後のカナグリフロジン(CANVAS試験)やダパグリフロジン(DECLARE-TIMI58試験)の結果を待たなければ断言できないが、現時点ではクラスエフェクトと考えるほうが妥当であろう、そうEASDで発表者の一人が質疑応答で返答していた。 EMPA-REG OUTCOME試験により、SGLT2阻害薬の心血管イベントに対する効果のみならず、さらに興味深い結果が得られた。これまで日本では、「若くて肥満のある患者が良い適応だ」とうたわれてきた。しかし、主要アウトカムのサブグループ解析で、高齢者(65歳以上)や非肥満者(BMI 30以下)のほうが、むしろ効果が高いという結果をみると、SGLT2阻害薬の対象となる患者の範囲は案外広いのかもしれない。また、「利尿薬との併用はしてはいけない」ともいわれてきたが、この研究では実に約43%の症例で利尿薬が併用されていたにもかかわらず、体液減少による有害事象の増加は認められなかった。EMPA-REG OUTCOME試験はこれまでの常識を覆す、インパクトのある試験であることは間違いない。参考文献はこちら1)Zinman B, et al. N Engl J Med. 2015 Sep 17. [Epub ahead of print]2)Zinman B, et al. Cardiovasc Diabetol. 2014;13:102.関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:リンゴのもたらした福音(解説:住谷 哲 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)

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