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重症急性膵炎〔Severe acute pancreatitis〕

1 疾患概要■ 概念急性膵炎は、膵内で病的に活性化された膵酵素が膵を自己消化する膵の急性炎症である。炎症が膵内にとどまって数日で軽快する軽症例が多いが、一部は炎症が全身に波及して、多臓器障害や血液凝固障害を引き起こす重症急性膵炎となる。急性膵炎から慢性膵炎への移行は10%前後であり、多くの急性膵炎は可逆性で膵に後遺障害は残さない。■ 疫学急性膵炎の2016年における発症頻度は10万人当たり61.8人で、増加傾向にある。男女比は2:1で、発症時の平均年齢は男性で59.9歳、女性で66.5歳である。重症度は、軽症が76.4%、重症が23.6%となる。重症急性膵炎発症時の平均年齢は63.1歳で、男性で60.2歳、女性で69.4歳である。■ 発症機序・成因食べ物を消化する膵酵素は、膵腺房細胞で生成され、食間では消化機能のない不活性型として蓄えられている。摂食により膵酵素の中のトリプシノーゲンが膵管を介して十二指腸内に放出され、エンテロキナーゼの作用により活性型であるトリプシンに転換され、食物を消化する。この膵酵素の活性化が種々の病的要因により膵内で起こり、膵が自己消化されるのが急性膵炎である。膵内外での炎症反応はサイトカインカスケードを活性化し、高サイトカイン血症によるSIRS(systemic inflammatory response syndrome)を来す。重症例では高度のSIRS反応の結果、炎症メディエーターによる血管内皮細胞の障害から全身末梢血管の透過性が亢進し、組織浮腫と血管内脱水を来す。そして、臓器還流障害から肺や腎臓などの臓器障害が起こり、さらに免疫系や凝固系の障害や播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を合併する。また、高度の血管内脱水にともなって全身の末梢血管に血管攣縮を来たし虚血状態を生じ、膵では膵壊死が起こる。発症後期には、膵および膵周囲の壊死部に感染を生じ死亡に至る例がみられる。感染を起こすのは大腸菌などの腸管由来の細菌がほとんどである。健常人では、腸内細菌に対するバリアを備えているが、急性膵炎では腸管壁の透過性が亢進し細菌毒素が腸管粘膜を通過して腸管外へ移行するbacterial transformationが引き起こされる。さらに、全身免疫機能低下が加わり感染を惹起させる。アルコール性と胆石性が2大成因であり、成因が特定できない特発性がそれに次ぐ。男性ではアルコール性(43%)が多く、発症年齢は40~50歳代が多い。女性では胆石性(38%)が多く、発症は60歳以上の高齢者が多くなっている。その他の成因としては、膵腫瘍、手術、内視鏡的膵胆管造影(ERCP)、高脂血症、膵管形成異常、薬剤性などがある。重症急性膵炎の成因は、アルコール性(35%)、胆石性(30%)、特発性(19%)の順である。■ 症状急性膵炎では、ほとんどの例で上腹部を中心とした強い腹痛と圧痛を認める。その他には、嘔気・嘔吐、背部への放散痛、食思不振、発熱などもしばしば認められる。重症急性膵炎では、ショック、呼吸不全、乏尿、脳神経症状、腹部膨隆(イレウス、腹水)、SIRS(高・低体温、頻脈、頻呼吸)などの重要臓器機能不全兆候がみられる。■ 予後2016年の全国調査における急性膵炎患者の死亡率は1.8%であり、軽症例で0.5%、重症例で6.1%であった。重症急性膵炎の死亡率は2011年の調査時の10.1%より約4割減少した。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)急性膵炎の診断は、上腹部痛と圧痛、膵酵素の上昇、および膵の画像所見のうち2項目を満たし、他の膵疾患や急性腹症を除外する診断基準によって行われる(表1)。急性膵炎診療ガイドライン2015に記載されている臨床指標のPancreatitis Bundles 2015(表2)と診療のフローシート(図1)にそって、診断と治療を行う。重症急性膵炎は死亡率が高いので重症例を早期に検出する目的で、急性膵炎診断後、直ちに重症度判定を行い、経時的に重症度判定を繰り返す必要がある。急性膵炎の重症度判定基準(表3)は、9つの予後因子と造影CTによる造影CT Gradeからなり、各1点の予後因子の合計が3点以上か、造影CT Gradeが2以上の場合重症と診断される(図2~4)。それぞれ単独で重症と診断される例より、両者の組み合わせで重症となる例では死亡率が高い。急性膵炎は病理学的には、浮腫性膵炎、出血性膵炎と壊死性膵炎に分類されるが、臨床的には膵および膵周囲の病変は改訂アトランタ分類によって分類される(表4、図5)。発症4週間を経過すると炎症により障害された組織を取り囲む組織の器質化が進み、4週以降は壊死を伴わない液体貯留は仮性嚢胞となるが、壊死を伴う場合には内部に壊死を含む被包化壊死となりWON (wall-off necrosis)と呼ばれる。表1 急性膵炎の診断基準(厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班)1.上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある2.血中または尿中に膵酵素の上昇がある3.超音波、CTまたはMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある上記3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。 ただし、慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含める。注:膵酵素は膵特異性の高いもの(膵アミラーゼ、リパーゼなど)を測定することが望ましい表2 Pancreatitis Bundles 20151.急性膵炎診断時、診断から24時間以内、および、24~48時間の各々の時間帯で、厚生労働省重症度判定基準の予後因子スコアを用いて重症度を繰り返し評価する。2.重症急性膵炎では、診断後3時間以内に、適切な施設への転送を検討する。3.急性膵炎では、診断後3時間以内に、病歴、血液検査、画像検査などにより、膵炎の成因を鑑別する。4.胆石性膵炎のうち、胆管炎合併例、黄疸の出現または増悪などの胆道通過障害の遷延を疑う症例には、早期のERCP+ESの施行を検討する。5.重症急性膵炎の治療を行う施設では、造影可能な重症急性膵炎症例では、初療後3時間以内に、造影CTを行い、膵造影不良域や病変の拡がりなどを検討し、CT Gradeによる重症度判定を行う。6.急性膵炎では、発症後48時間以内は十分な輸液とモニタリングを行い、平均血圧*65mmHg以上、尿量0.5mL/kg/h以上を維持する。7.急性膵炎では、疼痛のコントロールを行う。8.重症急性膵炎では、発症後72時間以内に広域スペクトラムの抗菌薬の予防的投与の可否を検討する。9.腸蠕動がなくても診断後48時間以内に経腸栄養(経空腸が望ましい)を少量から開始する。10.胆石性膵炎で胆嚢結石を有する場合には、膵炎沈静化後、胆嚢摘出術を行う。*:平均血圧=拡張期血圧+(収縮期血圧-拡張期血圧)/3図1 急性膵炎の基本的診療方針画像を拡大する表3 急性膵炎の重症判定基準(厚生労働省難治性疾患に関する調査研究班 2008年)画像を拡大する図2 浮腫性膵炎(矢印)のCT所見画像を拡大する図3 造影CT所見における膵造影不良域(矢印)画像を拡大する図4 重症急性膵炎の造影CT所見。腎下極以遠まで炎症の進展を認める画像を拡大する表4 急性膵炎に伴う膵および膵周囲病変の分類(改訂アトランタ分類)画像を拡大する図5 重症急性膵炎の造影CT所見。薄壁被膜で被包化された左側腹部広範に広がる液貯留腔画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 輸液急性膵炎と診断したら入院治療を行い、意識状態・体温・脈拍数・血圧・尿量・呼吸数・酸素飽和度などをモニタリングする。膵外分泌刺激を回避するために絶食とし、初期輸液と十分な除痛を行う。急性膵炎では発症初期より血管内脱水を起こすので、乳酸リンゲル液などの細胞外液による十分な輸液を行う。ショックまたは脱水状態の患者には、短時間の急速輸液(150~600mL/時間)を行うが、過剰輸液にならないように十分に注意する。脱水状態でない患者には、130~150mL/時間の輸液をしながらモニタリングを行う。平均動脈圧(拡張期血圧+(収縮期血圧―拡張期血圧)/3)が65mmHg以上と尿量0.5 mL/kg/時間以上が確保されたら、急速輸液を終了し輸液速度を下げる。■ 薬物療法急性膵炎の疼痛は激しく持続的であり、非麻薬性鎮痛薬であるブプレノルフィン(商品名:レペタン)などにより十分にコントロールする。軽症例では予防的抗菌薬は必要ないが、重症例や壊死性膵炎では発症後72時間以内に予防的に抗菌剤を投与することが推奨されている。ガベキサートメシル酸塩などの蛋白分解酵素阻害薬の経静脈的投与による生命予後や合併症発生に対する明らかな改善効果は証明されていない。■ 栄養療法経腸栄養を行うことは腸管からのbacterial transformationを減少させるので、感染予防策として腸管合併症のない重症例では入院後48時間以内に開始することが望ましい。原則としてTreitz靭帯を超えて空腸まで挿入した経腸栄養チューブを用いることが推奨されるが、空腸に経腸栄養チューブが挿入できない場合は十二指腸内や胃内に栄養剤を投与しても良い。腹痛の消失、血中膵酵素値などを指標として経口摂取の開始時期を決める。■ Abdominal compartment syndrome(ACS)の診断と対処腹腔内圧(intra-abdominal pressure:IAP)が12mmHg以上をIAH(intra-abdominal hypertension)、腹腔内圧が20mmHg以上かつ新たな臓器障害/臓器不全が発生した場合をACS(abdominal compartment syndrome)と診断する。重症急性膵炎の4~6%にACSが発症する。通常膀胱内圧で測定するIAP 12mmHg以上が持続または反復する場合は、内科的治療(消化管内減圧、腹腔内減圧、腹壁コンプライアンス改善、適正輸液と循環管理)を開始して、IAP 15mmHg以下を管理目標とする。IAP>20mmHgかつ新規臓器障害を合併した患者に対して、内科的治療が無効である場合のみ外科的減圧術を考慮する。■ 特殊治療十分な食輸液にもかかわらず、循環動態が安定せず、利尿が得られない重症例やACS合併例に対しては持続的血液濾過(continuous hemofiltration:CHF)/持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration:CHDF)を導入すべきである。しかし、上記以外の重症急性膵炎にルチーンに使用することは推奨されない。膵の支配動脈から動注することにより、膵の炎症の鎮静化や進展防止および感染予防を目的とする蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法は、重症急性膵炎または急性壊死性膵炎の膵感染低下、死亡率低下において有効性を示す報告があるが有用性は確立していない。動注療法は保険適応がないため臨床研究として実施することが望ましい。動注療法の真の有効性と安全性を検証するより質の高いランダム化比較試験(RCT)が必要である。■ 胆石性性膵炎における胆道結石に対する治療急性胆石性膵炎のうち、胆管炎合併例や胆道通貨障害の遷延を疑う症例では、早期にERCP/内視鏡的乳頭切開術(endoscopic sphincterotomy:ES)を施行すべきである(図6)。しかし、上記に該当しない症例に対する早期のERCP/ES施行の有用性は否定的である。急性胆石性膵炎の再発予防のため、手術可能な症例では膵炎鎮静化後速やかに、胆嚢摘出術の施行が推奨される。図6 胆石性膵炎の診療方針画像を拡大する■ 膵局所合併症に対するインターベンション治療壊死性膵炎では保全的治療が原則であるが、感染性膵壊死ではドレナージかネクロセクトミーのインターベンション治療を行う。できれば発症4週以降の壊死巣が十分に被包化されたWONの時期に、経皮的(後腹膜経路)もしくは内視鏡的経消化管的ドレナージをまず行い(図7)、改善が得られない場合は内視鏡的または後腹膜的アプローチによるネクロセクトミーを行う。図7 単純X線所見。被包化壊死(WON)と胃内にダブルピッグテイルプラスチックステントを留置画像を拡大する4 今後の展望遅滞ない初期輸液や経腸栄養などの重症化阻止や感染予防のための方策を講じた急性膵炎診療ガイドラインの普及により、急性膵炎特に重症急性膵炎の死亡率は大きく低下した。今後、急性膵炎発症や重症化の機序のさらなる解明、ガイドラインのさらなる普及、後期合併症対策の改良などが期待される。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。1)Masamune A, et al. Pancreatology. 2020;20:629-636.2)武田和憲、他. 厚生労働科学研究補助金難治性疾患国副事業難治性膵疾患に関する調査研究、平成17年度総括・分担研究報告書. 2006;27-34.3)急性膵炎診療ガイドライン2015(第4版)、金原出版.2015.4)Banks PA, et al. Gut. 2013;62:102-111.公開履歴初回2021年02月11日

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第44回 女子医大プロポフォール事件、阪大・国循論文不正事件に新展開

コロナ禍でも事件は動くこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。さて、前回は旭川医大のドタバタについて書きましたが、もっと大きな“老害”舌禍事件がオリンピック・パラリンピック絡みで起きました。報道等によると、森 喜朗氏に引導を渡せる人がいないとのこと。一国民としてはやれやれ、としか言いようがないですね。さて、旭川医科大学で病院長解任が起きた同じ週に、昨年この連載で取り上げたいくつかの事件が新展開を迎えていましたので、今回はそのフォローをしておきたいと思います。女子医大プロポフォール事件、麻酔医2人在宅起訴2014年2月、東京女子医科大学病院に入院中の2歳の男児が術後に死亡した事件で、東京地検は1月26日、ICUで術後管理にあたった麻酔科医2人を業務上過失致死罪で在宅起訴しました。起訴されたのは同病院の中央集中治療部の副運営部長だった61歳の准教授と、同じく後期研修医だった39歳の医師です。起訴状によると2人は、2014年2月18~21日、首の腫瘍を取り除く手術を受け人工呼吸器をつけていた男児に対して鎮静剤プロポフォールを投与した際、心電図に異常がみられるなど容体に変化があったにもかかわらず投与を中止せず、男児を急性循環不全で死亡させた、とされています。この事件については、本連載の「第30回 東京女子医大麻酔科医6人書類送検、特定機能病院の再承認にも影響か」で詳しく取り上げました。事故当時、プロポフォールはICUで人工呼吸器をつけた子供への投与は添付文書上「禁忌」でしたが、厚生労働省は「禁忌はあくまで原則」との見解を示しており、警視庁はプロポフォールの投与自体は過失とはせず、安全管理を怠ったことに焦点をあて、昨年10月21日に書類送検に踏み切りました。この時、起訴を求める「厳重処分」の意見も全員に付けられました。事件から7年、やっと公判へ書類送検されたのは麻酔科医6人でしたが、在宅起訴に至ったのは上記の2人で、残りの4人は関与の度合いなどを考慮した結果、起訴猶予となりました。事故が起こったのが2014年2月。遺族は同年5月に業務上過失致死罪に当たるとして被害届を提出、翌2015年2月には麻酔科医ら5人を傷害致死罪で刑事告訴しています。警視庁が書類送検したのは事件から6年以上経った2020年10月で、事件から実に7年を迎えようという2021年1月末に在宅起訴となったわけです。1月26日のNHKニュースは死亡した男児の母親のコメントを報じました。それは次のようなものです。「6人全員を起訴してほしかったという思いはありますが、このうちの2人が起訴されたことは大きな一歩であり、ようやく一筋の光が差してきたように感じます。裁判では、息子の容体を適切に管理しなかった理由を含めて当時何があったのか、真摯に、自分のことばで話してほしい」。これからやっと公判が始まります。東京女子医大病院は最近、コロナ対応で頑張る姿が報道されていますが、特定機能病院の再承認にはまだまだ時間がかかりそうです。大阪大・国循論文不正事件、臨床試験の根拠となった有名論文も不正認定次は大阪大学と国立循環器病研究センターの論文不正事件です。2020年8月に大阪大学医学部附属病院に以前所属し、国循で室長も務めていた医師が2013~16年に発表した肺がん治療などに関する論文5本に捏造や改ざんが認定された問題で、調査委員会は1月30日、別の論文2本にも捏造と改ざんの不正があったと発表しました。大阪大はこのうち1本を根拠に実施していた臨床研究の中止を決めました。この事件については、本連載の「第22回 大阪大論文不正事件の“ナゾ” NHKスペシャル「人体」でも取り上げられた臨床研究の行方は?」で詳しく書きました。2010年8月の段階では、捏造・改ざんがあったとされる5本の論文のうち、調査委員会が、社会的影響がとくに大きいと考えたのは、肺がんの手術の際に心不全の治療に用いられる「hANP(ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド)」 を使うと合併症が抑えられる、とした2013年の論文でした。この後の2015年、同医師はhANPを投与した患者群で肺がんの再発が有意に少ないことをプロスペクティブな検討で発見した論文を筆頭筆者として発表しました1)。一連の研究成果をもとに、がんの転移を防ぐ作用を期待して、大規模な臨床研究(「非小細胞肺がん手術適応症例に対する周術期hANP投与の多施設共同ランダム化第II相比較試験(JANP study)」)がスタートしました。この臨床研究は将来の実用化も目指して、保険診療が一部使える「先進医療」の制度を利用していました。全国10施設で実施され、患者335人が参加。うち160人にhANPが投与されました。既に参加者の募集もhANPの投与も終わり、観察期間中でした。有名論文でも捏造と改ざん今回新たに捏造と改ざんの不正があったと発表されたのは、この2015年の論文と、2017年にOncotarget誌に掲載された論文の計2本。調査委員会の調べでは、動物実験のデータが書き直されており、正しいデータで計算し直すと肺がんの転移や再発を防げる根拠にはならなかったとのことです。調査委員会は筆者の同医師が不正に関与したと指摘し、国立循環器病センターの名誉研究所長も不正には関与していないものの、著者としての責任があるとしました。前回も書きましたが、2015年の、hANPが肺がんの転移や再発が有意に少ないことを明らかにした論文は研究者に与えられるさまざまな賞を受賞しており、2017年にNHKで放送されたNHKスペシャル「人体」の中でも「世界初!心臓からの“メッセージ”で『がん転移予防』」として、JANP studyが始まったことも含め、大きく取り上げています。この論文不正は、2017年12月、大阪大と国循に、同医師が筆頭著者または責任著者として発表した21本の論文に「ねつ造や改ざんが認められる」とする申し立てが届いたことがきっかけで発覚しました。「先進医療」が認められたことで後戻りできず前回のこの連載では、2015年の有名論文は申し立てに入っていないことがナゾだと書きましたが、結局、この論文にも捏造・改ざんがあったわけです。また、30日の調査委員会の記者会見では、2015年の有名論文には2018年8月に大量の訂正が出されていたことも明らかにされました。2月4日付の朝日新聞によると、調査委員長の仲野 徹・阪大教授は「先進医療が関係なかったらあっさり(撤回を)決断できたかもしれない」と話したとのことです。2018年の大量訂正にもかかわらず論文を撤回できなかったのは、厳しい審査を経て臨床試験が先進医療制度を利用できるようになったことが影響した、というわけです。この流れから見えて来るのは、画期的な研究成果を基に、大規模臨床研究が計画され、しかもそれが「先進医療」という仕組みで実施されたことで、簡単には後戻りできなくなってしまった研究者や組織の姿です。hANP投与を受けた160人に重大な健康被害は確認されていないとのことですが、いずれにせよ、臨床研究に対する信頼が大きく損なわれたことは間違いありません。報道等によれば、大阪大学は今後、臨床研究に関わる研究で不正疑惑が出た場合、調査委員会等による確定前でも研究中止等の対応ができるようにする、とのことです。さてもう一つ、三重大病院臨床麻酔部事件でも新展開があったのですが、ちょっと長くなり過ぎたので回を改めたいと思います。参考1)Nojiri T et al, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 2015 Mar 31;112;4086-91.

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日本における緊急事態宣言下のマタニティハラスメントとうつ病との関連

 妊娠への差別として知られるマタニティハラスメントは、先進国において広まったままである。しかし、マタニティハラスメントによるメンタルヘルスへの影響を調査した研究は、十分とはいえない。北里大学の可知 悠子氏らは、日本における妊娠中のマタニティハラスメントとうつ病との関連を調査した。Journal of Occupational Health誌2021年1月号の報告。 日本において一部地域の緊急事態宣言が続く2020年5月22日~31日に妊婦(妊娠確認時に就業していた女性)359人を対象に横断的インターネット調査を実施した。マタニティハラスメントは、国のガイドラインで禁止されている16事項のいずれかを受けた場合と定義した。うつ病の定義は、エジンバラ産後うつ病自己評価票日本語版(EPDS)スコア9以上とした。分析には、ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・就業していた妊婦の24.8%は、上司や同僚からマタニティハラスメントを受けていた。・人口統計、妊娠状態、作業状態、COVID-19への恐怖で調整した後、マタニティハラスメントを経験した妊婦では、経験しなかった妊婦と比較し、うつ病を発症する可能性が高かった(オッズ比:2.48、95%信頼区間:1.34~4.60)。・この関連は、COVID-19に伴うテレワークの有無に影響されなかった。 著者らは「就業していた妊婦の約4分の1は、マタニティハラスメントを経験しており、経験しなかった女性よりもうつ病の有病率が高かった。テレワークを通じて、オフィスから物理的に離れたとしても、マタニティハラスメントによるうつ病への影響は減少しなかった。妊婦のメンタルヘルスと雇用を守るために、雇用主は法律を順守し、マタニティハラスメントを防止する措置を講ずる必要がある」としている。

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低・中所得国は、がん手術後の転帰が不良/Lancet

 がん患者の80%が手術を必要とするが、術後の早期の転帰に関する低~中所得国(LMIC)の比較データはほとんどないという。英国・エディンバラ大学のEwen M. Harrison氏らGlobalSurg Collaborative and NIHR Global Health Research Unit on Global Surgeryの研究グループは、とくに疾患の病期や合併症が術後の死亡に及ぼす影響に着目して、世界の病院のデータを用いて乳がん、大腸がん、胃がんの術後転帰を比較した。その結果、(1)LMICでは術後の死亡率が高いが、これは病期が進行した患者が多いことだけでは十分に説明できない、(2)術後合併症からの患者救済能力(capacity to rescue)は、有意義な介入のための明確な機会をもたらす、(3)術後の早期死亡は、一般的な合併症の検出と介入を目指した、周術期の治療体制の強化に重点を置いた施策によって抑制される可能性があることなどが示された。Lancet誌2021年1月21日号掲載の報告。82ヵ国428病院の前向きコホート研究 研究グループは、全身麻酔または脊髄幹麻酔(neuraxial anaesthesia)下に施行される皮膚の切開を要する手術を受けた原発性の乳がん、大腸がん、胃がんの成人患者を対象に、国際的な多施設共同前向きコホート研究を実施した(英国国立健康研究所[NIHR]グローバル健康研究ユニットの助成による)。 主要転帰は、術後30日以内の死亡または重度合併症とした。マルチレベルロジスティック回帰により、病院および国別の患者における3段階のネストモデル内の関連性を解析した。病院レベルのインフラストラクチャー効果は、3要因媒介分析で評価した。 2018年4月~2019年1月の期間に、82ヵ国の428病院から1万5,958例(乳がん8,406例[52.7%]、大腸がん6,215例[38.9%]、胃がん1,337例[8.4%])が登録された。高所得国(31ヵ国)が9,106例、高中所得国(23ヵ国)が2,721例、低・低中所得国(28ヵ国)が4,131例であった。低・低中所得国で、胃がん、大腸がん、合併症による死亡率が高い LMICは高所得国に比べ、より進行した病変を持つ患者が多かった。30日死亡率は、胃がんが低・低中所得国(補正後オッズ比[aOR]:3.72、95%信頼区間[CI]:1.70~8.16)で高く、大腸がんは高中所得国(2.06、1.11~3.83)および低・低中所得国(4.59、2.39~8.80)で高かった。乳がんでは死亡率の差は認められなかった。 重度合併症の発現後に死亡した患者の割合は、低・低中所得国(aOR:6.15、95%CI:3.26~11.59)および高中所得国(3.89、2.08~7.29)で高かった。 合併症発現後の術後死亡は、60%が患者要因で、40%は病院または国の要因で説明が可能であった。LMICでは、一貫して利用可能な術後ケア施設がないことが、重度合併症100件当たり7~10件以上という高い死亡率と関連していた。また、がんの病期だけでは、国別の死亡率や術後合併症発現の早期のばらつきは、ほとんど説明がつかなかった。 著者は、「LMICでは、周術期死亡率が過度に高く、これががん生存の劣悪さに寄与している。術後の一般的な合併症の発現後に、回避可能な死亡を防ぐには、LMICの医師の主導により、実践的な周術期介入を緊急に評価する必要がある」としている。

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副反応は大丈夫?新型コロナワクチンの疑問に答えるLINEボット

 国内でも新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が月内にもはじまる見込みだが、新しいワクチンであることから副反応等を理由に、接種をためらう人も多い。 こうした状況を憂慮した医師を中心に、ワクチンに関するよくある質問に答えるLINEのチャットボットを利用した情報提供がはじまった。 この「コロワくんの相談室」はLINEに友達追加することで、無料で利用できる。 ・ワクチンの接種方法 ・ワクチンの効果 ・ワクチンの仕組み ・ワクチンの副反応という画面のメニューから、自分の知りたい内容を選んでいくと、ボットが事前に用意された回答を提示する。回答の下には関連する厚生労働省サイトや、回答の根拠となる論文誌へのリンクもつけられており、医療従事者が患者に説明する際にも利便性が高そうだ。 このボットは、米国マウントサイナイ医科大学に勤務する内科医、山田 悠史氏の発案でつくられたもの。氏は米国でいち早くワクチンを接種し、自身のSNSを使って日本人向けにワクチンに関する情報を提供してきた。しかし、多くの情報を発信しても質問が絶えず、誤った情報も多く出回っている状況を改善したいとボット開設を思い立ち、日本の医師やエンジニアの協力を得て、発案からわずか2週間で完成させたという。 ワクチン接種が進む米国でも、ワクチンに関する相談窓口となるコールセンターができたものの、多くの問い合わせからパンク状態が続き、副反応を疑った患者が医療機関に押し寄せるなど、混乱が続いているという。山田氏は「医師が発信する正しい情報を多くの人に届けることで日本のワクチン接種が進み、医療現場の負担軽減につながれば」とする。 現在は賛同・協力するメンバーが運営費用を負担している状況で、ボットのリリースとあわせ、クラウドファンディングを使った資金調達も行っている。〈医師サポーター〉代表:山田 悠史(マウントサイナイ医科大学 老年医学・緩和医療科)副代表:高橋 宏瑞(順天堂大学医学部 総合診療科)内科一般担当:原田 洸(岡山大学病院 総合内科・総合診療科)感染症担当:小林 孝照(アイオワ大学 感染症科)呼吸器担当:田中 希宇人(川崎市立川崎病院 呼吸器内科)小児・アレルギー担当:堀向 健太(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 小児科)公衆衛生担当:仁科 有加(OECD 雇用労働社会政策局 医療課)免疫学担当:石原 純(インペリアルカレッジロンドン バイオエンジニアリング専攻 講師/免疫創薬研究室主宰)産婦人科担当:稲葉 可奈子(関東中央病院 産婦人科)監修:紙谷 聡(エモリー大学 小児感染症科/米国立アレルギー感染症研究所主導 ワクチン治療評価部門)<技術開発サポーター>金子 穂積(Sun Asterisk CTOs’)坂元 麻貴子(xenodata lab. CDO)大山 晋輔(Spir CEO)◆LINEボットの利用・クラウドファンディングへの参加は下記より◆https://corowakun-supporters.studio.site/#project

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第46回 COVID-19ワクチンをほとんどが接種済みのイスラエル、高齢者の感染がおよそ半減

【修正のお知らせ:文献2)を見直して一部表現を修正しました。ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。文献2)は当初GitHubで公開されており、記事作成後の2月9日にMedRxivに掲載されました。】新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)予防ワクチン普及が進むイスラエルでその普及のおかげとみられる高齢者全般の感染減少が認められています1)。イスラエルでは去年12月20日からファイザーの2回投与ワクチンBNT162b2の接種が始まり、まずは高リスク集団への接種が優先されました。優先対象の60歳以上の高齢者は2月6日までに9割近く(89.9%)が1回目、ちょうど8割(80%)は2回目の接種も済ませており、その2月6日までの21日間にそれら高齢者のSARS-CoV-2感染はおよそ半減(49%減少)しました。また、COVID-19入院も4割近く(36%)減少しました2)。ワクチン接種率がまだ半分に満たない45%ほどの59歳未満の年齢層の同時期の感染減少は18%ほどで、COVID-19入院は11%ほど増加していました。イスラエルは1月にロックダウンを実施しているので感染や入院の減少はすべてワクチンのおかげとは言い切れないかもしれません。しかしイスラエルのワイツマン科学研究所(Weizmann Institute)の計算科学者Eran Segal氏は高齢者の感染や入院の減少はワクチンのおかげと考えています1)。というのも、高齢者の感染や入院はワクチン接種率がまだ比較的低い若い人とは対照的により大幅かつ速やかに減少しているからです。それに、1月の早くにワクチン1回目の接種を済ませた高齢者の割合が85%超の都市では60歳を過ぎた高齢者とそれより若い人の減少の差が最も顕著でした1)。また、ワクチン接種が始まる前の去年9月のロックダウンのときには今回のような減少傾向は認められておらず、ワクチンは確かに効き始めているとSegal氏は言っています。ワクチン普及の効果はイスラエルの医療従事者への接種データ解析でも確認されています。その解析はBNT162b2の1回目が接種された医療従事者50万人超を対象とし、第III相試験結果によると予防効果がほとんどあるいは全く期待できない接種後12日までの感染率(PCR検査陽性率)は0.57%でした。一方、接種後13~24日の感染率は12日までの感染率の約半分の0.27%であり、1回目接種後13~24日の感染予防効果はおよそ51%と結論されました3)。英国の医療従事者へのBNT162b2接種の解析でも同様の効果が示されています。ワクチンが接種された約13,000人と非接種の約33,000人が比較され1)、ワクチン接種1回目から12日を経た医療従事者の感染率は非接種医療従事者に比べて53%低く抑えられていました1,4,5)。参考1)Vaccines are curbing COVID: Data from Israel show drop in infections / Nature2)Patterns of COVID-19 pandemic dynamics following deployment of a broad national immunization program. medRxiv. February 09, 20213)The effectiveness of the first dose of BNT162b2 vaccine in reducing SARS-CoV-2 infection 13-24 days after immunization: real-world evidence. medRxiv. January 29, 20214)COVID Vaccines: What we know so far(Tim Spector氏等が設立した健康科学企業ZOEのYouTubeチャンネル)5)Vaccine after effects more likely if you had COVID before(上記オンラインセミナーの予告).

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代謝改善手術、2型糖尿病で長期効果が明らかに/Lancet

 2型糖尿病患者の長期管理において、代謝改善手術(metabolic surgery)は従来の内科的治療と比較して、10年時の糖尿病寛解率が高く、糖尿病関連合併症も少ないことが、イタリア・Fondazione Policlinico Universitario Agostino Gemelli IRCCSのGeltrude Mingrone氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2021年1月23日号に掲載された。従来の肥満減量手術(bariatric surgery)の観察研究では、糖尿病の寛解が長期に持続する可能性が示唆されているが、これらの知見を2型糖尿病の広範な患者集団に外挿することは困難だという。また、これまでに、2型糖尿病への代謝改善手術の無作為化対照比較試験で、5年を超えるデータは得られていなかった。単施設の無作為化対照比較試験の10年の結果 本研究は、2型糖尿病患者の管理において、代謝改善手術と内科的治療+生活様式への介入の有用性を比較する単施設(イタリア、ローマ市の3次病院)の非盲検無作為化対照比較試験であり、今回は10年間のフォローアップの結果が報告された(イタリアFondazione Policlinico Universitario Agostino Gemelli IRCCSの助成による)。 対象は、年齢30~60歳、BMI≧35で、5年以上持続する2型糖尿病が認められ、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値≧7.0%の患者であった。被験者は、内科的治療、腹腔鏡下Roux-en-Y胃バイパス術(RYGB)、開胸的胆膵路転換術(BPD)を受ける群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、2年の時点での糖尿病寛解(HbA1c<6.5%、空腹時血糖値<5.55mmol/L、継続的な薬物療法を1年以上受けていない)とされた。intention to treat(ITT)集団で、10年の時点での糖尿病寛解の持続性を解析した。再発例も10年後に良好な血糖コントロール達成 2009年4月30日~2011年10月31日の期間に60例が登録され、3つの群に20例ずつが割り付けられた。平均年齢は、内科的治療群43.5歳、BPD群43.6歳、RYGB群43.9歳、女性がそれぞれ50.0%、50.0%、60.0%であった。平均BMIは、44.6、44.4、44.2、HbA1cは8.5%、8.9%、8.6%だった。 57例(95.0%)が10年のフォローアップを終了した。ITT解析には58例(内科的治療群18例、BPD群20例、RYGB群20例)が含まれた。 外科的治療を受けた患者40例のうち、15例(37.5%)が10年を通じて糖尿病寛解を維持していた。ITT集団における10年寛解率は、内科的治療群が5.5%(95%信頼区間[CI]:1.0~25.7、手術へクロスオーバー後に寛解を達成した1例を含む)、BPD群は50.0%(29.9~70.1)、RYGB群は25.0%(11.2~46.9、p=0.0082)であった。 2年の時点で寛解を示した34例中20例(58.8%)で、フォローアップ期間中に高血糖の再発が認められた(BPD群52.6%[95%CI:31.7~72.7]、RYGB群66.7%[41.7~84.8])。しかしながら、これらの再発例はすべて、10年の時点で適切な血糖コントロールが維持されていた(平均HbA1c:6.7%[SD 0.2])。 また、BPD群およびRYGB群は、内科的治療群に比べ糖尿病関連合併症が少なかった(相対リスク:0.07、95%CI:0.01~0.48)。 重篤な有害事象の頻度はBPD群で高かった(BPD群の内科的治療群に対するオッズ比[OR]:2.7[95%CI:1.3~5.6]、RYGB群の内科的治療群に対するOR:0.7[95%CI:0.3~1.9])。 著者は、「代謝改善手術を受けた患者の3分の1以上が米国糖尿病学会の糖尿病治癒の定義(薬物療法を必要とせずに高血糖の寛解が5年以上持続)を満たした。これは、2型糖尿病は治癒可能な疾患であること示している」とし、「臨床医と施策立案者は、肥満および2型糖尿病患者の管理において、代謝改善手術が適切に考慮されるようにすべきだろう」と指摘している。

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治療が変わる!希少疾病・難病特集 ~血友病~

かつて第VIII因子(FVIII)製剤投与が中心だった血友病治療だが、FVIII製剤には「短い半減期」、あるいは「インヒビターの出現」という問題の存在が明らかとなった。そのため、半減期を延長したFVIII製剤(アディノベイト)が登場すると同時に、FVIII補充ではなく、別機序でFVIII活性を補う、抗活性型第IX因子(FIXa)/第X因子(FX)バイスペシフィック抗体のエミシツマブ(ヘムライブラ)が開発され、今日、世界で頻用されている。これに続く新薬として現在、以下のように、単鎖干渉(si)RNA核酸医薬と抗TFPI抗体、遺伝子治療薬の3種類の開発が進んでいる。siRNA核酸医薬としては、肝臓におけるアンチトロンビンを標的とするフィツシラン(fitusiran)が、唯一、臨床応用に向けて開発が進んでいる。第II相試験における脳静脈洞血栓症による死亡1例を受け、2017年9月に試験中止となるも同年12月の再開を経て、現在は "ATLASプログラム"という複数の第III相試験が進んでおり、2021年上半期には終了予定だという [Sanofi Press Relase 2020 June 19 ] 。抗TFPI抗体は、アンチトロ ンビンと並ぶ主要な抗凝固因子であるTFPI(組織因子経路インヒビター)の阻害を介して止血を改善する。コンシズマブ(concizmab)が先頭を切って第III相試験に入ったが、2020年3月には3例で非致死性血栓塞栓症が報告されたため試験は中止。同年8月には再開されたものの、終了予定時期は明らかにされていない [Novo Nordisk Press Release 2020 Aug. 13] 。あとを追っていたBAY1093884は、第II相試験が血栓症増加のため中止となり [THSNA2020抄録]、2019年9月に安全性を理由とした開発中止が発表された [2019 Bayer Annual Report] 。一方、マルスタシマブ(marstacimab [PF-06741086])は第II相試験で血栓症を含む重篤有害事象が観察されなかったため、2020年11月、第III相試験が開始された。終了予定時期は不明である [Pfizer Press Rleasae 2020 Nov 23]。遺伝子治療の研究も進んでおり、血友病の原因である「血液凝固因子の異常」そのものへの介入を試みられている。 Fidanacogene elaparvovec(PF-06838435)は、血友病B患者に対する第IX因子遺伝子導入薬であり、2018年7月に第III相試験が始まっている [Pfizer Press Release 2018 Jul 16] 。血友病Aに対しては、第VIII因子遺伝子を導入するvaloctocogene roxaparvovec(BMN 270)が今年に入り、第III相試験の予備解析による有意な有用性を報告した [BioMarin Press Release 2021 Jan 10] 。追いかける形となったSPK-8011もすでに予備的第III相試験が走っており、2021年中には本格的な第III相試験が始まる予定である [Spark Therapeutics Press Release 2020 Jul 12] 。

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第34回 数値で測定できないデータの標準偏差とは?【統計のそこが知りたい!】

第34回 数値で測定できないデータの標準偏差とは?ある薬剤の効果に関する試験を行った結果、得られたデータの散らばりの程度を数値で示すことができれば、その値を比較することによって薬剤を評価することができます。その散らばりの程度を示す数値のことを「標準偏差(standard deviation:SD)」と言います。標準偏差は平均値と比べて、「どれだけばらついているか?」「差が大きいか?」を求めた数値で、最小値がゼロ、データの「バラツキの程度」が大きいほど値は大きくなります。この標準偏差は、数量データで用いることが多いイメージですが、数値で測定できないデータ(カテゴリーデータ)でも算出できます。今回は、カテゴリーデータの標準偏差について解説します。■カテゴリーデータの標準偏差の公式データには、大きく分けて、数量データとカテゴリーデータがあります。・数量データ:数値として足したり引いたりできるデータ(例:血圧値、体温)・カテゴリーデータ:数値で測定できないデータ(例:喫煙の有無、性別)たとえば、問診票などの「喫煙あり、喫煙なし」の2値のカテゴリーデータは「1、0」データに変換することにより、下記の公式で標準偏差を求めることができます。 表1のデータは、ある問診票の「喫煙あり、喫煙なし」を調べたものです。このデータを喫煙あり:1、喫煙なし:0の「1、0」データに変換したときの分散と標準偏差を求めてみましょう。表1 問診表の喫煙の有無のデータ 喫煙している人の割合は、全体5人に対して3人なので、 3÷5=0.60.6を前述の公式に当てはめると 分散=0.6(1-0.6)=0.24 標準偏差=√0.24=0.49となります。ちなみに、公式を使わずに計算すると表2のように、データの平均値は0.6、分散は0.24になりました。表2 表による喫煙の有無の標準偏差の算出 標準偏差も計算すると0.49となり、公式を使用した場合と同じ計算結果になります。■カテゴリーデータに関する留意点上記の問題のように、「喫煙あり・喫煙なし」や「男・女」などで評価されたカテゴリーデータの基準を「名義尺度」と言います。大小関係はなく、お互いを比較する際に同じであるかどうかだけが重要となります。カテゴリーデータを評価する基準にはもう1つあり、それを「順序尺度」と言います。たとえば、治療満足度を患者さんに聞いて、「満足・やや満足・どちらともいえない・やや不満・不満」というように5段階で評価されたデータです。このような順序尺度は比較する際、同じであるかどうかに加えて、大小関係も有するデータとなります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第1回 「標準偏差」と「標準誤差」の使い分けは「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定セクション2 量的データは平均値と中央値を計算せよセクション3 データのバラツキを調べる標準偏差

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統合失調症患者に対する補助的ヨガトレーニング

 統合失調症患者の認知機能障害改善に対するヨガトレーニングの許容性および有効性に関連する要因を特定するため、インド・Dr. Ram Manohar Lohia HospitalのTriptish Bhatia氏らは、検討を行った。Acta Neuropsychiatrica誌オンライン版2020年12月9日号の報告。 インド人統合失調症患者の認知機能に対するヨガトレーニングの影響を検討した2つの臨床試験でのデータを分析した。分析に使用した臨床試験は、21日間のランダム化比較試験(286例、3、6ヵ月のフォローアップ)および21日間の非盲検試験(62例)であった。ヨガトレーニング後の認知機能(注意力、顔の記憶)改善とベースライン特性(年齢、性別、社会経済状況、教育状況、教育期間、症状重症度)との関連を調査するため、多変量解析を用いた。許容性に関連する要因は、スクリーニングされた参加者と試験に登録された参加者、試験完了者と非完了者の人口統計学的変数を比較することで特定した。 主な結果は以下のとおり。・試験に登録された参加者は、スクリーニング時に試験を拒否した参加者よりも年齢が若かった(t=2.952、p=0.003)。・試験への登録または完了に関連する他の特性は認められなかった。・有効性に関しては、顔の記憶の尺度において、認知機能の改善効果および持続性と教育期間との関連が認められた。・その他のベースライン特性とヨガトレーニングとの関連は認められなかった(148例)。 著者らは「若年の統合失調症患者では、ヨガトレーニングは許容される。また、心理社会的特性の個人差も認められず、特定の認知機能改善に役立つであろう。そのため、統合失調症患者の補助療法として、ヨガトレーニングを組み込むことは有用であると考えられる。重要な点として、ヨガトレーニングは、すべての年齢の統合失調症患者の認知機能を改善する可能性があることが挙げられる」としている。

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悪性胸膜中皮腫の1次治療、ニボルマブ+イピリムマブがOS改善/Lancet

 未治療の切除不能な悪性胸膜中皮腫(MPM)の治療において、ニボルマブ+イピリムマブ療法は標準的化学療法と比較して、全生存(OS)期間を4ヵ月延長し、安全性プロファイルは同程度であることが、オランダ・ライデン大学医療センターのPaul Baas氏らが行った「CheckMate 743試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2021年1月30日号で報告された。MPMの承認済みの全身化学療法レジメンは、生存に関する有益性は中等度であり、転帰は不良だという。ニボルマブ+イピリムマブ療法は、非小細胞肺がんの1次治療を含む他の腫瘍で臨床的有益性が示されている。日本を含む21ヵ国103施設が参加する無作為化第III相試験 本研究は、ニボルマブ+イピリムマブ療法はMPMのOSを改善するとの仮説の検証を目的とする非盲検無作為化第III相試験であり、2016年11月~2018年4月の期間に、日本を含む21ヵ国103施設で患者登録が実施された(Bristol Myers Squibbの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、未治療の組織学的に確定された切除不能MPMで、全身状態(ECOG PS)が0/1の患者であった。 被験者は、ニボルマブ(3mg/kg、2週ごと、静脈内投与)+イピリムマブ(1mg/kg、6週ごと、静脈内投与)を投与する群(最長2年間)、またはプラチナ製剤(シスプラチン[75mg/m2、静脈内投与]またはカルボプラチン[AUC=5mg/mL/分、静脈内投与])+ペメトレキセド(500mg/m2、静脈内投与)を3週ごとに投与する群(最大6サイクル)(化学療法群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目はOS期間(無作為化から全死因死亡の日まで)とした。副次評価項目は、無増悪生存(PFS)期間、客観的奏効率、奏効期間などであった。安全性の評価は、少なくとも1回の投与を受けた全患者で行った。PFS期間、客観的奏効率は同程度 605例が登録され、ニボルマブ+イピリムマブ群に303例、化学療法群には302例が割り付けられた。全体の年齢中央値は69歳(IQR:64~75)、467例(77%)が男性であった。また、456例(75%)が上皮型MPMだった。 事前に規定された中間解析(データベースロック日:2020年4月3日、フォローアップ期間中央値:29.7ヵ月[IQR:26.7~32.9])では、OS期間中央値は、ニボルマブ+イピリムマブ群が18.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:16.8~21.4)と、化学療法群の14.1ヵ月(12.4~16.2)と比較して有意に延長した(ハザード比[HR]:0.74、96.6%CI:0.60~0.91、p=0.0020)。また、1年OS率は、ニボルマブ+イピリムマブ群が68%(95%CI:62.3~72.8)、化学療法群は58%(51.7~63.2)であり、2年OS率はそれぞれ41%(35.1~46.5)および27%(21.9~32.4)だった。 シスプラチン(13.7ヵ月)とカルボプラチン(15.0ヵ月)で、OS期間中央値に差はみられなかった。また、OS期間のHR(化学療法群との比較)は、非上皮型(0.46、95%CI:0.31~0.68)が上皮型(0.86、0.69~1.08)よりも良好であったが、OS期間中央値(非上皮型18.1ヵ月vs.上皮型18.7ヵ月)には組織型の違いによる差はなかった。 PFS期間中央値は両群でほぼ同等であった(ニボルマブ+イピリムマブ群6.8ヵ月、化学療法群7.2ヵ月、HR:1.00、95%CI:0.82~1.21)が、2年PFS率はニボルマブ+イピリムマブ群で高かった(16% vs.7%)。 客観的奏効率は、ニボルマブ+イピリムマブ群が40%、化学療法群は43%であり、ニボルマブ+イピリムマブ群で完全奏効(CR)が5例(2%)に認められた。病勢コントロール率(CR+部分奏効[PR]+安定[SD])は、ニボルマブ+イピリムマブ群が77%、化学療法群は85%で、奏効までの期間中央値はそれぞれ2.7ヵ月および2.5ヵ月であった。また、奏効期間中央値は、それぞれ11.0ヵ月および6.7ヵ月だった。 Grade3/4の有害事象は、ニボルマブ+イピリムマブ群が30%(91/300例)、化学療法群は32%(91/284例)で報告された。治療関連死は、ニボルマブ+イピリムマブ群が3例(1%、肺臓炎、脳炎、心不全)、化学療法群は1例(<1%、骨髄抑制)で発現した。 著者は、「これらの知見は、未治療の切除不能MPMの治療における、画期的医薬品(first-in-class)とされるニボルマブ+イピリムマブ療法の使用を支持するものである」としている。これらの結果に基づき、このレジメンは2020年10月、米国食品医薬品局(FDA)により承認された。

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術後チューインガムは消化管機能を回復させる【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第180回

術後チューインガムは消化管機能を回復させるpixabayより使用子どもがチューインガムにハマっています。私は、噛んだあといちいちゴミ箱に捨てないといけない煩わしさと、なぜかガムを食べると下痢をしてしまうので、チューインガムを噛むことはほとんどありません。駅のホームには、モラルのない人たちが吐き出したガムが黒い点々になって残っています。嘆かわしい。チューインガムといえば、以前「チューインガムを噛んで細くし、それを冷蔵庫で冷却して、自慰目的で尿道内に挿入していた」という男性の症例を過去に紹介しました(【第123回】膀胱内のチューインガムを摘出したビックリアイデア)今回は、なんとあのコクランから、腸閉塞予防のためのチューインガムのレビューが出ているので紹介したいと思います。Short V, et al.Chewing gum for postoperative recovery of gastrointestinal function. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Feb 20;2:CD006506.実は、昔からチューインガムが腸の機能を回復させる可能性が指摘されています。胃がんや大腸がんといった消化器系の手術後に有効とされており、腸閉塞のリスクを軽減することができます。このコクランレビューは、ガムを噛む群と噛まない群に分けて、術後の放屁までの時間、排便再開までの時間、入院期間などを比較した研究を解析したものです。驚くべきことに81研究が登録されました(せいぜい数研究だと思っていた……)。この結果、術後にガムを噛んでもらうことでおならがだいたい10時間くらい早く、便も半日くらい早く出ることがわかりました。消化管の機能回復が早かったということです。そのおかげで、なんと入院期間も短くなったそうです。術後の患者さんがクチャクチャとガムを噛んでいるシーンは想像しにくいですが、リスクが軽減できるならぜひ噛んでもらいたいところですね。製薬会社の皆さん、術後機能回復用チューインガムの発売、どうでしょうか。少し窒息・誤嚥リスクが高いですかね。

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統合失調症の薬理学的マネジメント~日本の専門医のコンセンサス

 従来の統合失調症ガイドラインは、臨床的に重要な問題を解決するための方法を必ずしも提供しているわけではない。慶應義塾大学の櫻井 準氏らは、精神科専門医を対象に、統合失調症の治療オプションに関する調査を行った。Pharmacopsychiatry誌オンライン版2021年1月12日号の報告。 日本臨床精神神経薬理学会の認定精神科医141人を対象に、統合失調症治療における19の臨床状況について、9段階で治療オプションの評価を行った(同意しない「1」~同意する「9」)。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬の第1選択薬は、主要な症状により以下のように異なっていた。【陽性症状】●リスペリドン:7.9±1.4●オランザピン:7.5±1.6●アリピプラゾール:6.9±1.9【陰性症状】●アリピプラゾール:7.6±1.6【抑うつ、不安症状】●アリピプラゾール:7.3±1.9●オランザピン:7.2±1.9●クエチアピン:6.9±1.9【興奮、攻撃性】●オランザピン:7.9±1.5●リスペリドン:7.5±1.5・顕著な症状のない患者の再発予防に対する第1選択薬として、アリピプラゾール(7.6±1.0)が選択された。・社会的統合のために選択された薬剤は、アリピプラゾール(8.0±1.6)、ブレクスピプラゾール(6.9±2.3)であった。・錐体外路症状の懸念がある患者に対する第1選択薬は、クエチアピン(7.5±2.0)、アリピプラゾール(6.9±2.1)であった。 著者らは「これらの臨床的推奨は、特定の状況における特定の抗精神病薬使用に関する専門医のコンセンサスを表しており、エビデンスとの間の現在のギャップを補完するものであろう」としている。

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アカラブルチニブ、慢性リンパ性白血病でイブルチニブに対する非劣性示す/アストラゼネカ

 アストラゼネカは、2021年1月25日、第III相ELEVATE-RR試験の肯定的な結果概要に基づき、選択的ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬アカラブルチニブ(商品名:カルケンス)が、治療歴を有する高リスク慢性リンパ性白血病(CLL)の成人患者において、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)のイブルチニブに対する非劣性を示したことを発表した。 ELEVATE-RR試験は、欧米において最も一般的な種類の白血病であるCLLの成人患者を対象に、2種類のBTK阻害薬を比較する初めての第III相試験である。同試験では、安全性に関する重要な副次評価項目も達成しており、アカラブルチニブは、イブルチニブと比較して心房細動の発現率が統計的に有意に低いことが示された。さらに階層的検定を行ったところ、Grade3以上の感染症およびリヒター形質転換に差は認められなかった。その一方で、全生存期間に関して数値的に良好な傾向が認められた。 本試験のデータは、今後の医学学会で公表するとともに、欧米の保健当局に対しても提出する予定。

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COVID-19に対する薬物治療の考え方 第7版を公開/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:舘田 一博氏[東邦大学医学部教授])は、2月1日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬について指針として「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第7版」をまとめ、同会のホームページで公開した。 本指針は、COVID-19の流行から約1年が経過し、薬物治療に関する知見が集積しつつあり、これまでの知見に基づき国内での薬物治療に関する考え方を示すことを目的に作成されている。 現在わが国でCOVID-19に対して適応のある薬剤はレムデシビルである。デキサメタゾンは重症感染症に関しての適応がある。また、使用に際し指針では、「適応のある薬剤以外で、国内ですでに薬事承認されている薬剤をやむなく使用する場合には、各施設の薬剤適応外使用に関する指針に則り、必要な手続きを行う事とする。適応外使用にあたっては基本的にcompassionate useであることから、リスクと便益を熟慮して投与の判断を行う。また、治験・臨床研究の枠組みの中にて薬剤を使用する場合には、関連する法律・指針などに準じた手続きを行う。有害事象の有無をみるために採血などで評価を行う」と注意を喚起している。 抗ウイルス薬などの対象と開始のタイミングについては、「発症後数日はウイルス増殖が、そして発症後7日前後からは宿主免疫による炎症反応が主病態であると考えられ、発症早期には抗ウイルス薬、そして徐々に悪化のみられる発症7日前後以降の中等症・重症の病態では抗炎症薬の投与が重要となる」としている。 抗ウイルス薬などの選択について、本指針では、抗ウイルス薬、抗体治療、免疫調整薬・免疫抑制薬、その他として分類し、「機序、海外での臨床報告、日本での臨床報告、投与方法(用法・用量)、投与時の注意点」について詳述している。紹介されている治療薬剤〔抗ウイルス薬〕・レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注液100mgなど)・ファビピラビル〔抗体治療〕・回復者血漿・高度免疫グロブリン製剤・モノクローナル抗体〔免疫調整薬・免疫抑制薬〕・デキサメタゾン・バリシチニブ・トシリズマブ・サリルマブ・シクレソニド〔COVID-19に対する他の抗ウイルス薬(今後知見が待たれる薬剤)〕インターフェロン、カモスタット、ナファモスタット、インターフェロンβ、イベルメクチン、フルボキサミン、コルヒチン、ビタミンD、亜鉛、ファモチジン、HCV治療薬(ソフォスブビル、ダクラタスビル)今回の主な改訂点・レムデシビルのRCTを表化して整理・レムデシビルの添付文書改訂のため肝機能・腎機能を「定期的に測定」に変更(抗体治療薬の項目追加)・バリシチニブ+レムデシビルのRCT結果を追加・トシリズマブのREMAP-CAP試験などの結果を追加・シクレソニドの使用非推奨を追加

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TNF阻害薬効果不十分のRA、トシリズマブvs.リツキシマブ/Lancet

 TNF阻害薬で効果不十分の関節リウマチ患者において、RNAシークエンシングに基づく滑膜組織の層別化は病理組織学的分類と比較して臨床効果とより強く関連しており、滑膜組織のB細胞が低発現または存在しない場合は、リツキシマブよりトシリズマブが有効であることを、英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のFrances Humby氏らが、多施設共同無作為化非盲検第IV相比較試験「rituximab vs tocilizumab in anti-TNF inadequate responder patients with rheumatoid arthritis:R4RA試験」の16週間の解析結果、報告した。生物学的製剤は関節リウマチの臨床経過を大きく変えたが、40%の患者は十分な効果を得られないことが示唆されており、その機序はいまだ明らかになっていない。関節リウマチ患者の50%以上は、リツキシマブの標的であるCD20 B細胞が滑膜組織に存在しない、または少ないために、IL-6受容体阻害薬のトシリズマブのほうが有効である可能性が考えられていた。Lancet誌2021年1月23日号掲載の報告。滑膜組織のB細胞発現で分類し、リツキシマブとトシリズマブの有効性を比較 研究グループは欧州5ヵ国(英国、ベルギー、イタリア、ポルトガル、スペイン)の19施設において、「ACR/EULAR関節リウマチの分類基準2010年」を満たし、英国のNICEガイドラインに従いリツキシマブによる治療の対象となる18歳以上の関節リウマチ患者を登録。ベースラインの滑膜生検におけるB細胞発現(組織学的にB細胞が多い「B細胞rich」または少ない「B細胞poor」に分類)を層別因子として、リツキシマブ群(1,000mgを2週間隔で2回点滴投与)またはトシリズマブ群(8mg/kgを4週間隔で点滴投与)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。また、層別化の精度を高めるため、ベースライン滑膜生検組織についてRNAシークエンシングを行い、B細胞の分子シグネチャーで再分類した。 主要評価項目は、臨床的疾患活動性指標(CDAI)のベースラインからの50%改善(CDAI 50%)とした。RNAシークエンシングでB細胞poorの場合、トシリズマブが有意に奏効 2013年2月28日~2019年1月17日に164例が組織学的に分類され、リツキシマブ群(83例、51%)またはトシリズマブ群(81例、49%)に割り付けられた。 組織学的なB細胞poorの患者集団では、CDAI 50%を達成した患者の割合はリツキシマブ群(45%、17/38例)とトシリズマブ群(56%、23/41例)で有意差は認められなかった(群間差:11%、95%信頼区間[CI]:-11~33、p=0.31)。しかし、RNAシークエンシングによるB細胞poorの患者集団では、CDAI 50%を達成した患者の割合はリツキシマブ群(36%、12/33例)と比較してトシリズマブ群(63%、20/32例)で有意に高かった(群間差:26%、95%CI:2~50、p=0.035)。 有害事象の発現率はリツキシマブ群70%(76/108例)、トシリズマブ群80%(94/117例)(群間差:10%、95%CI:-1~21)、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ7%(8/108例)、10%(12/117例)であり(3%、-5~10)、いずれも両群で有意差はなかった。

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パンデミック再び、ICUで苦悩するコロナ治療・その2【臨床留学通信 from NY】第17回

第17回:パンデミック再び、ICUで苦悩するコロナ治療・その2前回でも書きましたが、レジデントのローテーションで、12月上旬から中旬にコロナの第2波がニューヨークにやってきたタイミングでICU勤務をしました。そこでは、4月のパンデミック時と何も変わっていない、コロナという病気で重症化してしまうと本当に打つべき手がないということを実感しました。レムデシビルは軽症であれば効くのかもしれませんが、重症になってしまうとウイルスそのものより全身の炎症がメインであり、もはや効かない印象です1)。当院はECMOがないため、必要があれば他院への転院となりますが、100%酸素の人工呼吸器設定で酸素飽和度が80%辺りになると、残るは腹臥位に変えるかどうかくらいですが、医療従事者数人がかりでコロナ患者の体位を変えるのは本当に大変です。有効性ははっきりしないものの、どうしようもない低酸素の人に対し一酸化窒素を使うこともあります2)。RCTでは当初否定的でしたが、回復期血漿療法は継続して使用しており、最近になってNEJMに有効性を証明した論文が発表されました3、4)。トリシズマブに関しては、ネガティブスタディが出たこともあって第1波のころと異なりこの冬は下火となっていましたが5)、Mount Sinaiから人工呼吸器治療を受けていない患者であれば人工呼吸器もしくは死亡を回避する可能性が高いというデータが発表された6)ため、プラクティスが再び変わるかもしれません。サンクスギビング後の第2波は、2020年末にかけて一気に増えることはありませんでしたが、病院としてはクリスマス後や年始の増加に備え、いつでもICUを増やせる体制で臨みました。そんな訳で、レジデントとして最後のクリスマスと年末年始は、ICUで休みなしの勤務となりました。勤務は朝7時から夜7時半までをロングコール、朝7時から夕方4時前後までをショートコール、夜間7時から朝7時半~9時までをナイトフロートと呼び、それらをレジデント4人によるシフトで回し、計16人のICU患者をカバーしました。シフト制とはいえ、例えばロングコールをした後、24時間の休憩後にナイトフロートを3~4日連続勤務し、24時間弱の休憩を挟んで昼間のシフトに戻ったりするので、体力的にかなりつらく、ナイトフロート中は実質寝られません。卒後1年目のインターンが患者の約半分ずつを担当し、私はレジデントとして彼らを管理・監督をします。Physician AssistantたちもICU管理のために専門的に教育されてはいますが、慣れ・不慣れの程度が人によって異なるため、彼らを監督しなければいけないこともあります。日中はアテンディングと呼ばれる指導医の人が1人ずつ回診していくのですが、朝8時過ぎから昼の12時、場合によっては13~14時近くまで行ったうえ、患者1例ずつディスカッションをして治療方針を決めていきます。1症例ごとプレゼンテーションするのはインターンの役目ですが、それをうまくできるようにサポートする必要があります。どうしても重症な症例が多いので時間が掛かり、その合間にも容赦なくICU入院者が来るため、そこをいかにまとめるかがレジデントの仕事となります。参考1)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32827627/2)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33347987/3)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2033700?query=featured_home4)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33232588/5)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa20288366)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2030340?query=featured_homeColumn画像を拡大する私はICU配属だったこともあり、医療従事者の中でも比較的早い1月7日に2回目のワクチンを接種しました。さらにわれわれの施設では、1月11日から高齢者や教職員、交通機関の職員に対してもワクチン接種を開始したのですが、供給不足となってしまって一時中止しています。一刻も早くパンデミックからの収束を願います。写真は、昨年末に撮影したロックフェラーセンターのクリスマスツリーです。今年は“密”を避けるため、遠目からの観賞となりました。

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日本におけるCOVID-19第2波によるうつ病リスク

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる社会的混乱は今も続いており、これが国民の社会的抑制につながっている。北里大学の深瀬 裕子氏らは、COVID-19によるメンタルヘルス関連のリスク因子を明らかにし、具体的な対処方法について検討を行った。BMC Psychiatry誌2021年1月12日号の報告。 日本でCOVID-19の第2波が起こっていた2020年7月に、Webベースの調査を実施した。人口統計、こころとからだの質問票(PHQ-9)、怒りの状態、怒りのコントロール、コーピング尺度(Brief COPE)を測定した。設定変数によるPHQ-9スコアの多変量ロジスティック回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象者2,708人のうち、18.35%がうつ病であった。・ロジスティック回帰分析では、抑うつ症状発症の予測因子は、以下のとおりであった。●基礎疾患あり(オッズ比[OR]:1.96、95%信頼区間[CI]:1.32~2.92)●無職(OR:1.85、95%CI:1.22~2.80)●マイナスの経済状況の経験(OR:1.33、95%CI:1.01~1.77)●怒りの状態(OR:1.17、95%CI:1.14~1.21)●怒りのコントロール(OR:1.08、95%CI:1.04~1.13)・一方、抑うつ症状発症のORが1未満であった因子は以下のとおりであった。●年齢が高い(OR:0.97、95%CI:0.96~0.98)●世帯収入800万円以上の高収入(OR:0.45、95%CI:0.25~0.80)●既婚(OR:0.53、95%CI:0.38~0.74)・対処戦略と抑うつ症状との関連について、ORは以下の順であった。●プランニング(OR:0.84、95%CI:0.74~0.94)●機器的サポートの利用(OR:0.85、95%CI:0.76~0.95)●自粛(OR:0.88、95%CI:0.77~0.99)●行動の放棄(OR:1.28、95%CI:1.13~1.44)●自己非難(OR:1.47、95%CI:1.31~1.65) 著者らは「日本ではロックダウンは行われなかったが、COVID-19パンデミックに伴う長期的な心理的苦痛によって、抑うつ症状の有症率は、パンデミック前の2~9倍に増加した。社会的混乱への対処または回避する方法を、1人または他者と実践することは、メンタルヘルスの維持に役立つが、人口統計的影響が対処戦略より強く、高リスク因子を有する人への治療が求められる」としている。

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小児アトピー性皮膚炎、精神障害との関連は?

 小児アトピー性皮膚炎(AD)と精神障害との関連について、デンマークで行われた大規模な調査結果が発表された。デンマーク・コペンハーゲン大学のI. Vittrup氏らによる検討で、病院でADと診断された児において、病院で精神障害を診断されるリスクは高くなかったが、治療リスクは高く、AD児における精神的問題は一過性で可逆的であり、軽度~中等度である可能性が示唆されたという。これまで、成人ADは不安症やうつ病との関連が示されているが、小児ADは注意欠陥多動性障害(ADHD)との関係が示唆されているものの、他の精神障害との関連性はほとんどわかっていなかった。British Journal of Dermatology誌オンライン版2021年1月16日号掲載の報告。 研究グループは、1995年1月1日~2012年12月31日にデンマークで誕生したすべての児を対象に、小児におけるADと小児精神障害の診断および治療との関連を調べた。病院でADと診断された児(1万4,283例)と、ADと診断されなかった児を1対10の割合で適合抽出して分析した。 評価項目は、向精神薬の使用、病院で診断されたうつ病、不安症、ADHD、または自傷行為、不慮の死/自殺、および精神科医または心理学者への受診(コンサルテーション)であった。 主な結果は以下のとおり。・病院でのAD診断と有意な関連が観察されたのは、抗うつ薬(補正後ハザード比[aHR]:1.19、95%信頼区間[CI]:1.04~1.36)、抗不安薬(1.72、1.57~1.90)、中枢神経系の交感神経作用薬(1.29、1.18~1.42)であった。・精神科医(aHR:1.33、95%CI:1.16~1.52)または心理学者の(1.25、1.11~1.41)受診も、ADとの関連性がみられた。・一方で、うつ病(aHR:0.58、95%CI:0.21~1.56)、不安症(1.47、0.98~2.22)、自傷行為(0.88、0.27~2.88)は関連性が認められなかった。・しかし、ADHDはADとの顕著な関連が認められた(aHR:1.91、95%CI:1.56~2.32)。・絶対リスクは概して低かった。

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COVID-19入院患者、ACEI/ARB継続は転帰に影響しない/JAMA

 入院前にアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の投与を受けていた軽度~中等度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者では、これらの薬剤を中止した患者と継続した患者とで、30日後の平均生存・退院日数に有意な差はないことが、米国・デューク大学臨床研究所のRenato D. Lopes氏らが実施した「BRACE CORONA試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2021年1月19日号で報告された。アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)は、COVID-19の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の機能的な受容体である。また、RAAS阻害薬(ACEI、ARB)は、ACE2をアップレギュレートすることが、前臨床試験で確認されている。そのためCOVID-19患者におけるACEI、ARBの安全性に対する懸念が高まっているが、これらの薬剤が軽度~中等度のCOVID-19入院患者の臨床転帰に及ぼす影響(改善、中間的、悪化)は知られていないという。ブラジルの29施設が参加した無作為化試験 本研究は、軽度~中等度のCOVID-19入院患者において、ACEIまたはARBの中止と継続で、30日までの生存・退院日数に違いがあるかを検証する無作為化試験であり、2020年4月9日~6月26日の期間にブラジルの29の施設で患者登録が行われた。最終フォローアップ日は2020年7月26日であった。 対象は、年齢18歳以上、軽度~中等度のCOVID-19と診断され、入院前にACEIまたはARBの投与を受けていた入院患者であった。被験者は、ACEI/ARBを中止する群、またはこれを継続する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、無作為化から30日までの期間における生存・退院日数(入院日数と、死亡からフォローアップ終了までの日数の合計を、30日から差し引いた日数)とした。副次アウトカムには、全死亡、心血管死、COVID-19の進行などが含まれた。全死亡、心血管死、COVID-19の進行にも差はない 659例が登録され、ACEI/ARB中止群に334例、継続群には325例が割り付けられた。100%が試験を完了した。全体の年齢中央値は55.1歳(IQR:46.1~65.0)、このうち14.7%が70歳以上で、40.4%が女性であり、52.2%が肥満、100%が高血圧、1.4%が心不全であった。無作為化前に中央値で5年間(IQR:3~8)、16.7%がACEI、83.3%がARBの投与を受けていた。β遮断薬は14.6%、利尿薬は31.3%、カルシウム拮抗薬は18.4%で投与されていた。 入院時に最も頻度が高かった症状は、咳、発熱、息切れであった。発症から入院までの期間中央値は6日(IQR:4~9)で、27.2%の患者が酸素飽和度(室内気)94%未満であった。入院時のCOVID-19の臨床的重症度は、57.1%が軽度、42.9%は中等度だった。 30日までの生存・退院日数の平均値は、中止群が21.9(SD 8)日、継続群は22.9(7.1)日であり、平均値の比は0.95(95%信頼区間[CI]:0.90~1.01)と、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.09)。また、30日時の生存・退院の割合は、中止群91.9%、継続群94.8%であり、生存・退院日数が0日の割合は、それぞれ7.5%および4.6%だった。 全死亡(中止群2.7% vs.継続群2.8%、オッズ比[OR]:0.97、95%CI:0.38~2.52)、心血管死(0.6% vs.0.3%、1.95、0.19~42.12)、COVID-19の進行(38.3% vs.32.3%、1.30、0.95~1.80)についても、両群間に有意な差はみられなかった。 最も頻度が高い有害事象は、侵襲的人工呼吸器を要する呼吸不全(中止群9.6% vs.継続群7.7%)、昇圧薬を要するショック(8.4% vs.7.1%)、急性心筋梗塞(7.5% vs.4.6%)、心不全の新規発症または悪化(4.2% vs.4.9%)、血液透析を要する急性腎不全(3.3% vs.2.8%)であった。 著者は、「これらの知見は、軽度~中等度のCOVID-19入院患者では、ACEI/ARBの適応がある場合に、これらの薬剤をルーチンに中止するアプローチを支持しない」としている。

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