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肝硬変患者において肝硬変自体はCAD発症リスクの増加に寄与しない

 冠動脈疾患(CAD)は肝硬変患者に頻発するが、肝硬変自体はCAD発症リスクの上昇と有意に関連しない可能性を示唆する研究結果が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」に2024年11月21日掲載された。 CADは、慢性冠症候群(CCS)と急性冠症候群(ACS)に大別され、ACSには、不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、およびST上昇型心筋梗塞(STEMI)などが含まれる。肝硬変患者でのCADの罹患率や有病率に関しては研究間でばらつきがあり、肝硬変とCADの関連は依然として不確かである。 中国医科大学附属病院のChunru Gu氏らは、これらの点を明らかにするために、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。まず、PubMed、EMBASE、およびコクランライブラリーで2023年5月17日までに発表された関連論文を検索し、基準を満たした51件の論文を抽出した。ランダム効果モデルを用いて、これらの研究で報告されている肝硬変患者のCAD罹患率と有病率、およびCADの関連因子を統合して罹患率と有病率を推定した。また、適宜、オッズ比(OR)やリスク比(RR)、平均差(MD)を95%信頼区間(CI)とともに算出し、肝硬変患者と非肝硬変患者の間でCAD発症リスクを比較した。 51件の研究のうち、12件は肝硬変患者におけるCAD罹患率、39件はCAD有病率について報告していた。肝硬変患者におけるCAD、ACS、および心筋梗塞(MI)の統合罹患率は、それぞれ2.28%(95%CI 1.55〜3.01、12件の研究)、2.02%(同1.91〜2.14%、2件の研究)、1.80%(同1.18〜2.75、7件の研究)と推定された。CAD(7件の研究)、ACS(1件の研究)、MI(5件の研究)の罹患率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、いずれにおいても両者の間に有意な差は認められなかった。 肝硬変患者におけるCAD、ACS、およびMIの統合有病率は、それぞれ18.87%(95%CI 13.95〜23.79、39件の研究)、12.54%(11.89〜13.20%、1件の研究)、6.12%(3.51〜9.36%、9件の研究)と推定された。CAD(15件の研究)とMI(5件の研究)の有病率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、両者の間に有意な差は認められなかったが、ACS(1件の研究)の有病率に関しては、肝硬変患者の有病率が非肝硬変患者よりも有意に高いことが示されていた(12.54%対10.39%、P<0.01)。 肝硬変患者におけるCAD発症と有意に関連する因子としては、2件の研究のメタアナリシスから、糖尿病(RR 1.52、95%CI 1.30〜1.78、P<0.01)および高血圧(同2.14、1.13〜4.04、P=0.02)が特定された。一方、CAD有病率と有意に関連する因子としては、高齢(MD 5.68、95%CI 2.46〜8.90、P<0.01)、男性の性別(OR 2.35、95%CI 1.26〜4.36、P=0.01)、糖尿病(同2.67、1.70〜4.18、P<0.01)、高血圧(同2.39、1.23〜4.61、P=0.01)、高脂血症(同4.12、2.09〜8.13、P<0.01)、喫煙歴(同1.56、1.03〜2.38、P=0.04)、CADの家族歴(同2.18、1.22〜3.92、P=0.01)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH、同1.59、1.09〜2.33、P=0.02)、C型肝炎ウイルス(HCV、同1.35、1.19〜1.54、P<0.01)が特定された。つまり、肝硬変患者においては、肝硬変ではなく、古典的に知られている心血管リスク因子、NASH、およびCHCVがCADリスクの上昇と関連があった。 著者らは、「肝硬変の高リスク集団におけるCADのスクリーニングと予防方法を明らかにするには、大規模な前向き研究が必要だ」と述べている。 なお、1人の著者が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」の編集委員であることを明らかにしている。

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肝障害患者へのオピオイド【非専門医のための緩和ケアTips】第99回

肝障害患者へのオピオイドモルヒネは腎不全患者に投与する時は注意が必要というのは有名ですが、肝障害患者に対してはどのような注意が必要なのでしょうか? さまざまな基礎疾患の患者に対応する必要のある緩和ケア領域、肝障害について考えてみたいと思います。今回の質問在宅診療でアルコール性肝硬変のある大腸がん患者を診ているのですが、オピオイドを使用する場合、どのような注意点があるでしょうか? 肝障害があると薬剤の代謝も悪くなると思うので、心配です。今回も臨床的な質問をいただきました。実はこの肝障害患者へのオピオイドの使用は、あまりエビデンスが確立されていない分野です。医薬品インタビューフォームなどの情報を見ると、フェンタニルは「比較的用量調整不要とされるが、慎重に使用」と記載されており、それ以外のオピオイドは「投与量の調節が必要、もしくは使用を推奨しない」という記載となっています。肝障害患者に使用が推奨されていないのは、メサドン、コデイン、トラマドールです。とくにメサドンは「重度の肝疾患患者において、半減期が大幅に延びた」という報告があり、私も基本的には使用しません。一方、モルヒネやオキシコドンなどほかのオピオイドは減量したうえで慎重に投与することを検討します1)。ただし、先述のように確立されたエビデンスはなく、ほかの文献では「フェンタニルも投与量調整が必要」や「メサドンも投与量を調整すれば使用可能」とする報告もあり、迷うところです。臨床的には安全な範囲を見積もりながら慎重に投与し、効果と副作用を評価することになります。こういった機会でないとなかなか勉強することのない、薬剤の代謝について復習してみましょう。肝機能障害がある際に代謝が低下する理由はいくつかあるのですが、代謝酵素(CYP3A4など)の活性が半分程度まで低下することが大きく影響します。私も専門家ではないのでざっくりとした説明になりますが、CYPは種類があり、薬剤ごとに関与するCYPが異なります。このため、薬剤ごとに代謝の影響を確認する必要があるのです。「障害されている肝細胞が多いほど代謝機能が低下する」というのはイメージしやすいでしょう。今回の質問のように肝臓全体に影響があるアルコール性肝硬変の場合は肝細胞が広範に萎縮し、代謝機能が大きく低下するケースが多いでしょう。一方、肝細胞がんでは比較的肝細胞数が維持されることが多いとされます。こうした意味でも病態ごとに考える必要があるのです。今回は緩和ケアの専門家でもクリアカットにコメントしにくい、肝障害患者へのオピオイドについて考えてみました。まずは「重度肝障害患者に対しては、メサドン、コデイン、トラマドールは避ける」という点を押さえましょう。今回のTips今回のTips肝障害患者へのオピオイド投与。避ける薬剤を確認し、使用できる薬剤も慎重に投与量を考えよう。1)Pharmacokinetics in Patients with Impaired Hepatic Function: Study Design, Data Analysis, and Impact on Dosing and Labeling/FDA

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第263回 パーキンソン病の幹細胞治療の2試験の結果がひとまず有望

パーキンソン病の幹細胞治療の2試験の結果がひとまず有望幹細胞から作った神経細胞によるパーキンソン病治療の2試験の待望の結果が、時を同じくして先週16日にNature誌に報告されました1-4)。それら試験の被験者はおよそ安全に経過観察の2年間を過ごすことができ、移植された神経細胞はパーキンソン病で失われるドーパミン生成/放出神経細胞(DA神経)に成り代わって十分長く存続してドーパミンを作りうると示唆されました。2つのチームがめいめい実施したそれらの試験はともに小規模で、主な目的は安全性の検討です。被験者数は2試験合わせて19例ばかりで、震えがはっきりと減った被験者もいますが、プラセボ群がないことなどもあって効果の判定には不十分で、より大規模な試験での検討が今後必要です5,6)。両試験で神経を作るのに使われた幹細胞はおよそ無限に増え続けることができ、心身を形成するあらゆる細胞に分化しうる特別な能力を有します。2試験で移植された神経細胞の起源は幹細胞ですが、その出所が異なります。一方では受精後の胚から得られるヒト胚性幹細胞(hES細胞)、もう一方では成人の体細胞から人工的に生み出される人工多能性幹細胞(iPS細胞)から神経細胞が作られました。パーキンソン病はDA神経が失われることによる進行性の神経病態で、振戦、こわばり、動作緩慢を引き起こします。残念ながら根治療法はなく、2050年までに世界のパーキンソン病患者数はおよそ2,500万例に達すると予想されています7)。失われたDA神経をそれに代わる細胞の移植で補充してパーキンソン病治療を目指す取り組みの先駆けの報告は1980年代にさかのぼります8)。試されたのはDA神経が豊富とされる胎児の中脳腹側の細胞のパーキンソン病患者への移植です。胎児由来細胞が移植された脳領域では幸いにしてドーパミンの量が回復し、運動機能の改善が長続きしました。それらの結果はパーキンソン病の細胞移植の治療効果を裏付けるものですが、胎児脳組織はそう簡単に手に入るものではありませんし、手に入ったとしてその質はまちまちかもしれません。それに倫理的な懸念もあります。そういう課題の解決手段の1つとして幹細胞からDA神経を大量に作る試みが始まり、しばらくすると世界の多くのチームがヒト幹細胞からDA神経を生み出せるようになりました。研究はさらに進んでパーキンソン病を模す動物への移植実験で症状や動作の改善効果が示されるようになり、2020年にはパーキンソン病患者の初のiPS細胞治療例が報告されるに至ります9)。その1例の患者には自身の皮膚細胞由来のiPS細胞を分化させて作った前駆DA神経が2017~18年に脳の左側と右側に2回に分けて移植されました10)。移植細胞の存続がPET写真で確認され、移植後18ヵ月と24ヵ月時点での患者の症状は安定か改善していました。実用に堪える細胞を作る技術は原料がiPS細胞とhES細胞の場合のどちらでもその後改善し、今や複数例を集めての臨床試験が実施されるようになっています。今回発表された2試験の1つはわが国の京都大学医学部附属病院で実施された第I/II相試験で、iPS細胞から作った前駆DA神経がパーキンソン病患者7例の脳の両側の被殻に移植されました。移植細胞が拒絶されないように免疫抑制薬が15ヵ月間投与されました。2年間(24ヵ月)の経過観察で幸いにも重篤な有害事象は生じておらず、効果検討対象の6例のうち4例は薬の効果がない状態での運動症状検査値(MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコア)の改善を示しました。もう1つはBayerの子会社のBlueRock Therapeutics社が米国とカナダで実施した第I相exPDite試験で、パーキンソン病患者12例が参加し、京都大学の試験とは違ってhES細胞由来の前駆DA神経が脳に移植されました。移植場所は被殻で、京都大学での試験と同じです。やはり免疫抑制薬が投与されました。投与期間は1年間です。exPDite試験の18ヵ月間の安全性経過は日本での試験と同様におよそ問題はなく、移植細胞と関連する有害事象は生じていません。MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコアは高用量群でより下がっており、18ヵ月時点ではもとに比べて平均23点低くて済んでいました。脳の写真を調べたところドーパミン生成の上昇が認められ、免疫抑制薬の使用停止後も含む18ヵ月間の観察期間のあいだ、少なくともいくらかの移植細胞は存続したようです5)。京都大学での試験でも同様にドーパミン生成の増加を示す結果が得られています。昨年2024年9月にBlueRock社はexPDite試験のさらに長い24ヵ月(2年間)の経過を速報しています11)。安全性は引き続き良好で、移植細胞と関連する有害事象はありませんでした。MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコアの低下もおよそ維持されており、高用量投与群は24週時点を22点低下で迎えています。BlueRock社の前駆DA神経はbemdaneprocelと名付けられて開発されており、exPDite試験での良好な結果を頼りに早くも本年前半、すなわちこの6月末までに第III相試験が始まる見込みです12)。 参考 1) Tabar V, et al. Nature. 2025 Apr 16. [Epub ahead of print] 2) Sawamoto N, et al. Nature. 2025 Apr 16. [Epub ahead of print] 3) 「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」において安全性と有効性が示唆 / 京都大学医学部附属病院 4) Potential Treatment for Parkinson’s Using Investigational Cell Therapy Shows Early Promise / Memorial Sloan Kettering Cancer Center 5) ‘Big leap’ for Parkinson’s treatment: symptoms improve in stem-cell trials / Nature 6) Clinical trials test the safety of stem-cell therapy for Parkinson’s disease / Nature 7) Su D, et al. BMJ. 2025;388:e080952. 8) Lindvall O, et al. Arch Neurol. 1989;46:615-631. 9) Schweitzer JS, et al. N Engl J Med. 2020;382:1926-1932. 10) Novel Treatment Using Patient's Own Cells Opens New Possibilities to Treat Parkinson's Disease / PRNewswire 11) BlueRock Therapeutics’ Investigational Cell Therapy Bemdaneprocel for Parkinson’s Disease Shows Positive Data at 24-Months / BUSINESS WIRE. 12) BlueRock Therapeutics announces publication in Nature of 18-month data from Phase 1 clinical trial for bemdaneprocel, an investigational cell therapy for Parkinson’s disease / GlobeNewswire

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未治療CLLへのアカラブルチニブ+オビヌツズマブ、6年PFSの結果(ELEVATE-TN)/Blood

 未治療の慢性リンパ性白血病(CLL)に対するアカラブルチニブ単独またはアカラブルチニブとオビヌツズマブ併用の有用性を評価した第III相ELEVATE-TN試験において、追跡期間中央値74.5ヵ月での成績を米国・Willamette Valley Cancer InstituteのJeff P. Sharman氏らが報告した。アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群の有効性と安全性は維持され、無増悪生存期間(PFS)は、高リスク患者を含めてchlorambucil+オビヌツズマブ群より延長していた。Blood誌オンライン版2025年4月8日号に掲載。 本試験は、未治療CLLを対象に、アカラブルチニブ単独およびアカラブルチニブ+オビヌツズマブをchlorambucil+オビヌツズマブと比較した無作為化多施設共同非盲検第III相試験である。主要評価項目は、独立判定委員会(IRC)評価によるアカラブルチニブ+オビヌツズマブ群のPFS(vs.chlorambucil+オビヌツズマブ群)、重要な副次評価項目は、IRC評価によるアカラブルチニブ単独群のPFS(vs.chlorambucil+オビヌツズマブ群)で、他の副次評価項目は、全奏効率、次治療までの期間、全生存期間(OS)などであった。 主な結果は以下のとおり。・535例がアカラブルチニブ+オビヌツズマブ群(179例)、アカラブルチニブ単独群(179例)、chlorambucil+オビヌツズマブ群(177例)に無作為化された。・PFS中央値は、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群およびアカラブルチニブ単独で未達、chlorambucil+オビヌツズマブ群では27.8ヵ月であった(いずれもp<0.0001)。推定72ヵ月全PFS率は順に78.0%、61.5%、17.2%であった。・アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はアカラブルチニブ単独群よりPFSを改善した(ハザード比[HR]:0.58、p=0.0229)。IGHV変異なし、17p欠失/TP53変異、Complex karyotypeを有する患者では、アカラブルチニブ単独群、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はchlorambucil+オビヌツズマブ群より有意にPFSが改善した(アカラブルチニブを含む両群でそれぞれp<0.0001、p≦0.0009、p<0.0001)。・OS中央値は3群とも未達であり、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はchlorambucil+オビヌツズマブ群より有意にOSが延長した(HR:0.62、p=0.0349)。推定72ヵ月OS率は、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群83.9%、アカラブルチニブ単独群75.5%、chlorambucil+オビヌツズマブ群74.7%であった。・4年経過以降に発現した有害事象はほとんどがGrade1~2で、有害事象、重篤な有害事象、注目すべき事象の発現割合は、アカラブルチニブを含む群で同程度であり、アカラブルチニブおよびオビヌツズマブの既知の安全性プロファイルと一致していた。

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手術を受けるなら週末の前より後の方が転帰は良好

 金曜日に手術を受ける予定の人は、可能であれば手術の日程変更を検討した方が良いかもしれない。新たな研究で、週末直前に手術を受ける人は、週末直後に手術を受ける人に比べて死亡や合併症のリスクが大幅に高まる可能性が示唆された。米ヒューストン・メソジスト病院のRaj Satkunasivam氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に3月4日掲載された。 病院や医療システムは、週末に最小限の人員で運営される傾向があることから、週末に患者が受ける医療の質は、平日よりも低くなる可能性が懸念されている。このような現象は、一般に「週末効果」と呼ばれている。 Satkunasivam氏らは、週末効果は、週末直前に手術を受け、手術後に病院で療養する人にも当てはまる可能性があると考えたと説明する。この点を明らかにするために同氏らは、カナダのオンタリオ州で2007年1月1日から2019年12月31日の間に一般的な外科手術を受けた患者42万9,691人(平均年齢58.6歳、女性62.8%)のデータを1年間追跡し、手術を週末の直前(通常は金曜日、または連休の前日)に受けた患者と直後(通常は月曜日、または連休の翌日)に受けた患者との間で転帰を比較した。手術は、冠動脈バイパス術、大腿動脈-膝窩動脈バイパス術、虫垂切除術、大腸切除術など25種類だった。主要評価項目は、手術から30日時点の死亡、合併症、および再入院の複合転帰とした。また、副次評価項目として、手術後90日時点および1年時点の死亡、合併症、および再入院のリスクを個別および複合的に評価したほか、入院期間や手術時間についても評価した。 42万9,691人の患者のうち、19万9,744人(46.5%)は週末直前に、22万9,947人(53.5%)は週末直後に手術を受けていた。解析の結果、週末直前に手術を受けた群では、週末直後に手術を受けた群に比べて、3つの時点の全てにおいて複合転帰が発生するオッズが高く、調整オッズ比は手術後30日時点で1.05(95%信頼区間1.02〜1.08)、90日時点で1.06(同1.03〜1.09)、1年後で1.05(同1.02〜1.09)だった。また、週末直前に手術を受けた群では、3つの時点の全てにおいて死亡のオッズも高く、調整オッズ比は、30日時点で1.09(同1.03〜1.16)、90日時点で1.10(同1.03〜1.17)、1年後で1.12(同1.08〜1.17)だった。 こうした結果を踏まえて研究グループは、「患者が曜日に関係なく優れたケアを受けられるようにするためには、医療システムが、この現象が医療現場にどのような影響を与えるかを評価することが重要だ」と述べている。 研究グループは、人員不足以外にも、週末前に病院の医療の質が低下する理由はいくつか考えられると指摘する。金曜日は月曜日に比べて経験年数の浅い若手外科医が担当する手術が多いこと、また、週末に働く医師は、より上級の同僚や専門医からのサポートを受けにくいことなどが、そうした理由の例である。さらに、週末に働く医療チームは、平日にケアを管理していたチームよりも患者に詳しくない可能性や、週末は、より適切な治療を行う上で有用となり得る検査へのアクセスが限られている可能性も考えられるという。 研究グループは、「これらの観察結果の根底にあるケアの違いを理解し、患者が曜日に関係なく質の高いケアを受けられるようにするためには、さらなる研究が必要だ」と結論付けている。

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第239回 女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会

<先週の動き> 1.女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会 2.帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%減、7年間28万人の追跡研究/スタンフォード大 3.「マイナ保険証」一本化、後期高齢者は1年延期へ/厚労省 4.病院経営は破綻寸前、経常利益率最頻値がマイナス圏に/厚労省 5.救命救急センター「S」評価は33%、質向上へ従来の評価再開/厚労省 6.麻酔科医の心身疲弊を招く勤務体制に、第三者委が具体的改善計画を要求/高知県 1.女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会日本肥満学会は4月17日、成人女性における低体重や低栄養を背景に多様な健康障害が生じる状態を「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」と定義し、新たな疾患概念として確立する提言を発表した。対象は18歳以上で閉経前までの女性とし、今後は診断基準や予防・治療指針の整備を進める。FUSに該当する症状としては、骨密度の低下や月経異常、貧血、筋力低下、倦怠感、抑うつ、不安、睡眠障害、低血圧、低血糖、摂食障害、さらには将来の不妊リスクや胎児の低出生体重といった次世代への影響まで多岐にわたる。2023年の国民健康・栄養調査では、BMI18.5未満の女性が20代で24.4%、30代で17.9%と報告されており、先進国の中でもわが国は突出して高い。背景にはSNSやメディアの影響による強い「痩せ志向」や、貧困など社会的・経済的要因も複雑に絡んでいるとされている。学会では「肥満対策と同様に、低体重のリスクにも体系的に対応すべき」として、FUSを社会構造・教育・医療・産業界全体で共有すべき課題と捉えるべきだと提起しているほか、GLP-1受容体作動薬の美容目的での使用拡大にも強い懸念を示している。また、症状が単発で現れることも多く、従来の医療では見逃されやすいことから、健康診断でのスクリーニングや医師・栄養士・心理職との多職種連携による早期介入体制の構築も求めている。今後はメタボリックシンドロームのようにFUSの診断基準を整備し、政策的介入へとつなげたいとしている。「まずは、よく食べて、運動して、眠る。そして不調があれば医療へ」と、学会は社会全体での健康意識の見直しを呼びかけている。 参考 1) 閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題-新たな症候群の確立について-(日本肥満学会) 2) 女性の「痩せ」学会警鐘 20代の2割、新症候群の確立提言(日経新聞) 3) 健康害する女性の低体重・低栄養は「疾患」、肥満学会が位置付け…基準定め治療や予防法を確立(読売新聞) 4) 日本肥満学会ワーキンググループが提唱「成人女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」が新たな疾患概念に(日経メディカル) 5) 「SNSやメディア、貧困など原因」「肥満と比べ軽視されてきた」女性の“低体重・低栄養”巡り、肥満学会が新疾患の枠組み提言(弁護士JPニュース) 2.帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%減、7年間28万人の追跡研究/スタンフォード大帯状疱疹ワクチンに、認知症発症リスクの低減効果があることが、米スタンフォード大学などの研究チームによる28万人以上の高齢者を対象とした研究で明らかになった。この研究は、英国ウェールズにおけるワクチン接種開始時の制度を活用した「自然実験」の手法を取り、1933年9月2日以降に生まれた接種対象者と対象外の高齢者を比較したもの。7年間の追跡で、接種群の認知症発症率は非接種群より3.5%ポイント、相対的に20%低かった。この効果は教育歴や持病などの因子を考慮しても変わらず、とくに女性において顕著だった。認知症リスクの低下が、免疫機能の強化や帯状疱疹ウイルスの脳への影響防止による可能性があると示唆されているが、明確なメカニズムは未解明である。なお、従来の生ワクチン「Zostavax」での効果を示した今回の研究に対し、新型の不活化ワクチン「Shingrix」にも同様の効果があるかは今後の検証が必要とされている。専門家は「現行の薬理学的手段よりも有望」と評価し、ワクチン接種が認知症予防の新たな選択肢となる可能性が期待されている。 参考 1) Eyting M, et al. Nature. 2025 Apr 2.[Epub ahead of print] 2) 認知症の予防効果がある「身近なワクチン」とは?高齢者7年間の追跡調査で判明(ダイヤモンドオンライン) 3) 帯状疱疹ワクチンで認知症のリスクが低下、研究続々(ナショナルジオグラフィック) 4) “認知症”リスクが20%減-「帯状疱疹ワクチン」接種が認知症発症に与える影響 28万人以上を調査(ITmedia) 3.「マイナ保険証」一本化、後期高齢者は1年延期へ/厚労省政府は、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の利用促進を進めているが、利用率は依然として低迷している。とくに75歳以上の高齢者においては、昨年12月時点での利用率が24.57%に止まり、紛失への不安などから移行が進んでいない。このため厚生労働省は、75歳以上の全員に保険証の代替となる「資格確認書」を交付し、マイナ保険証への一本化を事実上2026年夏まで延期する方針を決定した。原因としては施設での管理の負担や利用者の混乱もあり、実際の運用が追いついていない現状がある。一方で、政府はマイナ保険証の価値を示す取り組みとして、今秋から全国で「マイナ救急」を導入する。救急隊が現場でマイナ保険証をカードリーダーで読み取ることで、患者の既往歴や薬剤情報を即座に把握し、適切な処置や搬送先の選定に役立てる仕組み。昨年度の実証では、意識が不明瞭な高齢者の適切な搬送に繋がる事例が報告されている。今年度は全国の5,334救急隊に拡大する予定で、端末の簡便化により、30秒~1分程度で情報閲覧が可能となる見込み。政府はこれを医療DX推進の鍵と位置付け、利用率向上のきっかけとしたい考え。さらに、スマートフォンでマイナ保険証機能を利用できる実証事業も6月に開始する予定で、順調なら9月にも全国展開される。診察券一体化システムへの補助も継続し、利便性の向上を図る。だが、制度変更の頻発や運用現場の負担には懸念の声も多く、高齢者層を中心とした受け入れの広がりには時間が必要とみられている。 参考 1) 利用率の低さ、状況変わるのか? マイナ保険証、75歳以上は一本化延期(中日新聞) 2) マイナ保険証の救急活用、秋に全国で 既往歴把握し搬送(日経新聞) 4.病院経営は破綻寸前、経常利益率最頻値がマイナス圏に/厚労省厚生労働省が、2024年度の医療機関の経常利益率を推計した結果、最頻値が病院運営医療法人で-1.0~0.0%、無床診療所運営法人で-3.0~-2.0%と、いずれも赤字圏内にあることが明らかになった。こうした厳しい経営状況は、福祉医療機構の2025年3月の病院経営動向調査でも裏付けられており、医業収支DIでは一般病院がわずかに改善したものの、精神科病院は-41と大幅に悪化していた。課題としては人件費増加や職員確保難が挙がっている。日本病院会も同日開催した研修会で、経営状況の悪化に警鐘を鳴らした。島 弘志副会長は「病院経営は破綻寸前、地域医療崩壊の危機」と述べ、2023年度には一般病院の黒字割合が前年度の79.4%から40.6%へ急落したことを紹介。これを受け、日本病院会など5団体は政府に対し、緊急的な財政支援や診療報酬体系の見直しなどを要望した。さらに、経営環境が予測困難で変動の激しい「VUCA(先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態)時代」への対応として、今後の病院経営には、利益と社会的価値の両立が求められると提言した。また、中小病院における経営改善には、業務の可視化・分析・改善に至る具体的なフローを実践し、データに基づいた行動変容を促す体制が必要とされた。現場では医療従事者の疲弊が進む中、迅速かつ柔軟な対応が地域医療の継続と再生の鍵を握る。行政・経営者・現場の連携と改革が急務となっている。 参考 1) 医療機関の経常利益率、「最頻値」がマイナスに 24年度、厚労省推計(MEDIFAX) 2) 医業収益DI、一般は改善も療養・精神は低下 WAM、3月調査(同) 3) 「病院経営は破綻寸前、地域医療崩壊の危機」、日本病院会が経営管理者向け研修会を開催(Gem Med) 4) 病院経営動向調査の概要(福祉医療機構) 5.救命救急センター「S」評価は33%、質向上へ従来の評価再開/厚労省厚生労働省は、全国の救命救急センターを対象とした2024年版の「充実段階評価」の結果を発表した。評価対象は2023年末までに運営を開始した全308施設で、最上位の「S」評価を獲得したのは102施設(33.1%)と、前年から1.2ポイント増加した。「A」評価は199施設(64.6%)で最多、「B」は7施設(2.3%)、最低評価の「C」は該当なしだった。評価は救急科専門医の配置、重篤患者の受け入れ数、トリアージ機能などを総合的に採点し、94点以上かつ是正項目がない場合に「S」が与えられる。とくに、日本医科大学付属病院、聖マリアンナ医科大学病院、神戸市立医療センター中央市民病院の3施設は満点の100点を獲得。神戸市立医療センター中央市民病院は11年連続での満点評価となった。コロナ禍の影響を受けた2020~23年の評価では一部項目が除外されたが、今回は全項目を対象とした従来型の評価が復活。なお、希望した17施設については、新型コロナの影響に関する個別ヒアリングを経た上で評価が決定された。本評価は、診療報酬上の「救急体制充実加算」の基準や、国からの運営補助金額にも影響を与える重要な指標であり、救命救急体制の質的向上や公平な支援配分に直結するものとして注目されている。 参考 1) 令和5年救命救急センターの評価結果(厚労省) 2) 救命救急センターの評価結果(令和5年)について(同) 3) 救急救命センターの充実段階評価、「S」評価が33% 100点満点は3施設 24年(CB news) 6.麻酔科医の心身疲弊を招く勤務体制に、第三者委が具体的改善計画を要求/高知県高知県立幡多けんみん病院(宿毛市)に勤務する麻酔科医の過重労働が明らかになったことを受け、高知県は外部有識者4人による第三者委員会を設置・調査を実施し、2025年3月に報告書を取りまとめ、公表した。これは2024年度に高知大学医学部から派遣された麻酔科医3人のうち2人が心身の不調を訴えたことが発端で、大学側は県に勤務状況の調査を依頼した。報告書によると、麻酔科医は一人で複数の患者の麻酔を同時に担い、集中治療室で重症患者への対応も行っていた。さらに、「宿日直許可」に基づく労働時間外の時間帯にも救急対応を強いられていた。これにより、同院は労働基準監督署から行政指導を受けている。報告書では、病院側に医師の働き方改革への理解不足、勤務実態の把握やメンタルケアの欠如を指摘し、「具体的な業務改善計画」の策定を求めた。高知大学は2025年度、派遣する麻酔科医を1人減らし2人とした。これにより、病院で行える手術数の減少が懸念されており、病院では非常勤医師の勤務日の増加や外科医による局所麻酔対応などで補おうとしている。年間約2,000件の手術のうち1,500件に麻酔科医が関与している現状で、人的資源の縮小は地域医療体制への影響が大きい。県は6月を目途に改善計画を策定し、高知大学への謝罪と説明を行う方針。同院の担当者は「医師の健康への配慮が不十分で申し訳ない」とコメント。高知大学は「地域医療の責務は認識している。改善が確認され次第、派遣増員を検討したい」としている。なお、第三者委員会の会議は非公開で行われた。 参考 1) 県立幡多けんみん病院における医師の勤務状況に関する第三者委員会について(高知県) 2) 県立幡多けんみん病院で過酷勤務 高知大派遣の麻酔科医が心身不調に 第三者委が改善要求(高知新聞) 3) 県立病院派遣の複数の麻酔科医不調訴え 業務改善求める報告書(NHK)

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第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?【統計のそこが知りたい!】

第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?臨床研究や医学論文を読んでいる方々にとって、“PICO”と“PECO”は馴染み深いフレームワークです。しかし、意外にその意味や活用方法を改めて考える機会は少ないかもしれません。これらのフレームワークは、適切な臨床研究の設計やエビデンスの解釈においてとても重要となります。今回は、PICOとPECOの概要と、その意義や具体的な活用法について解説します。■PICOとはPICOは、臨床研究の設計や系統的レビュー、臨床診療ガイドラインの作成時に用いられるフレームワークであり、以下の要素で構成されています。P(Patient/Population/Problem)対象となる患者、集団、問題I(Intervention)介入や治療法C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PICOの各要素の詳細P(Patient/Population/Problem)対象とする患者群の特性(年齢、性別、疾患の種類やステージなど)を明確にします。たとえば、「高血圧症の成人」や「2型糖尿病の患者」など、研究の対象となる集団を具体的に設定します。I(Intervention)研究で評価する治療法や介入を明確にします。具体例として、「新規の降圧薬」や「食事療法」といったものが挙げられます。C(Comparison)介入の効果を比較する対照群を示します。プラセボや標準治療、他の治療法などが比較対象となる場合があります。対照群が存在しない場合(例:観察研究など)もあります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。主要アウトカムとして設定されるものには、死亡率、再発率、副作用などが含まれます。■PICOの具体例たとえば、「新しい降圧薬Aの効果と安全性を検討する臨床試験」のPICOのフレームワークは次のようになります。P高血圧症の成人I降圧薬ACプラセボO血圧の変化、薬の副作用PICOのフレームワークを用いることで、研究の焦点を明確にし、適切な研究デザインやエビデンスの解釈に役立てることができます。■PECOとはPECOとはPICOの変形で、とくに疫学研究や予防に関連する研究でよく用いられます。PECOは以下の要素で構成されます。P(Population)対象となる集団E(Exposure)曝露やリスク因子C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PECOの各要素の詳細P(Population)対象となる集団を明確にします。年齢、性別、地域、疾患の有無などの基準で集団を定義します。E(Exposure)曝露やリスク因子を示します。たとえば、「喫煙習慣」や「運動不足」といった生活習慣に関するものや、「化学物質への曝露」などが含まれます。C(Comparison)比較対象群を設定します。非曝露群や別の曝露水準を持つ群が対照群となります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。発症率や死亡率、生活の質などが主なアウトカムとなります。■PECOの具体例たとえば、「喫煙と肺がんの関連を調査するコホート研究」のPECOのフレームワークは次のようになります。P成人(男女)E喫煙者C非喫煙者O肺がんの発症率PECOのフレームワークは、観察研究においてリスク因子や曝露とアウトカムの関連性を明らかにするために役立ちます。■PICO/PECOの活用例1)PICO/PECOのフレームワーク系統的レビューとメタアナリシスにおいて、研究課題を明確に定義するための重要なステップとなります。研究課題を具体的に設定することで、適切な文献の検索と選定が行えるようになります。たとえば、糖尿病患者における新規治療薬の効果を評価する系統的レビューを行う場合、PICOのフレームワークを使うことで、次のような課題が設定できます。P2型糖尿病患者I新規治療薬XCプラセボまたは標準治療O血糖コントロール、体重変化、副作用上記の課題に基づき、関連する研究を選定し、統合した解析を行うことが可能です。2)臨床診療ガイドラインの作成臨床診療ガイドラインを作成する際にも、PICO/PECOのフレームワークは重要です。エビデンスに基づく推奨を作成するためには、まず適切な研究課題を設定する必要があります。たとえば、骨粗鬆症患者へのビタミンDサプリメントの効果を評価するためのガイドラインを作成する場合、次のようなPICOのフレームワークが考えられます。P骨粗鬆症患者IビタミンDサプリメントCプラセボまたは無治療O骨折リスクの低下、副作用上記の課題を基に関連文献を検索し、エビデンスに基づく推奨を行います。3)個別の臨床研究設計臨床研究のデザイン段階でPICO/PECOを活用することで、研究目的を明確にし、適切な対象者の選定やアウトカムの設定が可能です。これにより、バイアスの少ない信頼性の高い結果が得られます。このように、PICOとPECOのフレームワークは、臨床研究の設計、系統的レビューやメタアナリシスの実施、ガイドラインの作成など、医療統計において不可欠なツールです。これらのフレームワークを効果的に活用することで、明確な研究課題の設定と適切なエビデンスの解釈が可能となり、患者にとって有益な医療を提供するための指針となるだけではなく、論文を読む際にもこのPICOとPECOのフレームワークを知っておくと論文の理解が深まります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第4回 アンケート調査に必要なn数の決め方第5回 臨床試験で必要なn数(サンプルサイズ)「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問2 何人くらいの患者さんを対象にアンケート調査をすればよいですか?

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後方循環系の軽症脳梗塞、発症後4.5~24時間のrt-PA療法が有効/NEJM

 血栓除去術が予定されていない、主として後方循環系の軽症脳梗塞を発症した中国人患者において、発症後4.5~24時間のアルテプラーゼ(rt-PA)療法は標準薬物治療と比べて、90日時点の機能的自立の割合が高かった。中国・the Second Affiliated Hospital of Zhejiang UniversityのShenqiang Yan氏らEXPECTS Groupが中国の30ヵ所の脳卒中センターで行った多施設共同前向き無作為化非盲検アウトカム盲検試験の結果を報告した。後方循環系の虚血性脳卒中の発症後4.5~24時間に静脈内血栓溶解療法を用いることの有効性およびリスクは、十分に検討されていなかった。NEJM誌2025年4月3日号掲載の報告。アルテプラーゼvs.標準薬物治療で、90日時点の機能的自立を評価 研究グループは、後方循環系の脳梗塞を発症し、CT画像診断で早期の広範な低吸収域を認めず血栓除去術が予定されていない患者を、発症後4.5~24時間にアルテプラーゼ療法(0.9mg/kg体重、最大用量90mg)または標準薬物治療(Chinese Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute Ischemic Stroke 2018に基づく抗血小板療法およびその他の治療)を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、90日時点で評価した機能的自立(修正Rankinスケールスコア[範囲:0~6、高スコアほどより障害が重度であることを示す]が0~2と定義)とした。重要な安全性アウトカムは、無作為化後36時間以内の症候性頭蓋内出血および90日以内の死亡とした。90日時点の機能的自立、アルテプラーゼ群89.6%、標準薬物治療群72.6% 2022年8月~2024年5月に、計234例が無作為化された(アルテプラーゼ群117例、標準薬物治療群117例)。 ベースラインの両群特性はほぼバランスが取れており、年齢中央値は64歳(四分位範囲[IQR]:55~74)、女性が34.6%であった。既往歴は高血圧がアルテプラーゼ群70.9%と標準薬物治療群62.4%、糖尿病がそれぞれ34.2%と32.5%であった。発症前の修正Rankinスケールスコアは0の被験者が両群ともに97.4%で、無作為化前のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア(範囲:0~42、高スコアほど神経学的障害の重度が高いことを示す)中央値は、両群ともに3(IQR:2~6)と、大半の被験者が軽症脳梗塞であった。 発症から無作為化までの時間中央値は564分(IQR:390~834)であった。 90日時点で、機能的自立の患者割合はアルテプラーゼ群(89.6%)が標準薬物治療群(72.6%)より有意に高かった(補正後リスク比:1.16、95%信頼区間[CI]:1.03~1.30、p=0.01)。 36時間以内の症候性頭蓋内出血は、アルテプラーゼ群で2/116例(1.7%)、標準薬物治療群で1/115例(0.9%)に発現した(補正後リスク比:1.98、95%CI:0.18~21.56)。90日以内の死亡は、それぞれ6/115例(5.2%)と10/117例(8.5%)であった(0.61、0.23~1.62)。 著者は、「今回の試験の結果は、血管内血栓除去術が選択できない場合、この延長された時間枠内(発症後4.5~24時間)にアルテプラーゼ治療を用いることを支持するものである」と述べている。

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マラソン中の心停止、発生は横ばいだが突然死は大幅に減少/JAMA

 米国では2010~23年に2,900万人以上がマラソンおよびハーフマラソンを完走しており、これは2000~09年の約3倍に相当するという。米国・エモリー大学のJonathan H. Kim氏らは、近年の長距離ランニングレースイベントにおける心停止の発生率と転帰を調べ、米国の長距離ランニングレースへの参加者は増加したが、心停止の発生率は一定していることを明らかにした。心停止による死亡率は大きく減少しており、十分な発生関連データがあった症例では、原因として冠動脈疾患(CAD)が最も多くみられたという。JAMA誌オンライン版2025年3月30日号掲載の報告。米国2010~23年のマラソンおよびハーフマラソンでの心停止の発生と転帰を調査 研究グループは、米国で行われた2010~23年のマラソンおよびハーフマラソンにおける心停止の発生と転帰を明らかにするため、レース完走者の記録およびメディア記事、レース主催者への直接的なコンタクト、全米陸上競技連盟(USA Track & Field)のインシデントレポートおよび生存者または近親者へのインタビューによる包括的なケースレビュー(観察的ケースシリーズ)を行った。 2010年1月1日~2023年12月31日の米国のマラソンおよびハーフマラソンのコホートデータをRace Associated Cardiac Event Registryから得て、ケースプロファイル・レビューを行い、原因および生存に関連した因子を調べ、発生および原因のデータを参照基準とした過去のデータ(2000~09年)と比較した。 主要アウトカムは、心停止発生率および死亡率とした。速やかな除細動器へのアクセスが生存率を向上か 米国の2010~23年の長距離ランニングレースのレース完走者2,931万1,597人(男性44.5%、マラソン完走者23.2%、ハーフマラソン完走者76.8%)において、心停止の発生は176件(男性127人、女性19人、性別不明30人)であった。心停止発生率は0.60件/10万人(95%信頼区間[CI]:0.52~0.70)であり、2000~09年(0.54件/10万人[95%CI:0.41~0.70])と比較して変化は認められなかった。 一方で、突然死の発生率(2010~23年0.20件/10万人[95%CI:0.15~0.26]vs.2000~09年0.39件/10万人[0.28~0.52])および致死的ケースの発生率(34%vs.71%)は、大幅な低下がみられた。 心停止は、男性(1.12件/10万人[95%CI:0.95~1.32])のほうが女性(0.19件/10万人[0.13~0.27])よりも多く、またマラソン参加中(1.04件/10万人[0.82~1.32])のほうがハーフマラソン参加中(0.47件/10万人[0.38~0.57])よりも発生が多かった。 心停止の原因が明確に特定できたランナーでは、肥大型心筋症よりもCADが最も多い原因であった。心肺蘇生時間の短縮と初期の心室頻脈性不整脈が生存と関連していた。 結果を踏まえて著者は、「効果的な緊急アクション計画による、速やかな除細動器へのアクセスが、生存率を改善していると思われる」としている。

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チャットボットもトラウマ的な話に不安を感じる

 ChatGPTのようなチャットボットも、人間と同じように、戦争、犯罪、事故などの悲惨な話にさらされると不安を感じる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。また、マインドフルネスに基づくリラクゼーション法により、そのような不安が軽減されることも確認されたという。チューリッヒ大学(スイス)精神病院のTobias Spiller氏らによるこの研究結果は、「npj Digital Medicine」に3月3日掲載された。Spiller氏は、「特に、立場的に弱く、影響を受けやすい人が関わる場合には、メンタルヘルスにおけるこうした大規模言語モデルの使用について話し合うべきだ」とThe New York Times紙に語った。 この研究でSpiller氏らは、GPT-4が、トラウマ体験の話に接することで不安感が増すのか、また、そのようにして誘発された不安がマインドフルネスに基づくリラクゼーション法により軽減されるのかを調べた。不安のレベルは、状態・特性不安検査(State-Trait Anxiety Inventory;STAI)を用いて評価された(20〜80点)。 まず、ベースラインとして、STAIによる質問のみをプロンプトとして入力し、基準となるGPT-4の不安レベルを評価したところ、STAIの平均スコアは30.8点であることが示された。これは、人間では「不安なし、または低い不安」(20〜37点)に相当する。 次に、不安を誘発するために、個人のトラウマ体験に関する約300語のテキストを提示し、再びSTAIの各項目で不安レベルを評価した。その結果、STAIの平均スコアは67.8点と著しく上昇していた。これは、人間では「高い不安レベル」(45〜80点)に相当する。トラウマ体験の内容別にスコアを見ると、事故に関する物語では61.1点、軍事的なことに関する物語では77.2点であった。 最後に、個人のトラウマ体験およびマインドフルネスに基づくリラクゼーションに関する、それぞれ約300語のテキストを提示してから不安の評価を行った。リラクゼーションに関するテキストは、例えば、「深呼吸をして海風の香りを吸い込む。熱帯のビーチで、足の裏にクッションのように柔らかくて温かな砂を感じている自分を想像する」などの内容だった。 その結果、全体的なSTAIの平均スコアは44.4点になり、トラウマ体験に関するテキストでの平均スコアから約33%の低下が認められた。リラクゼーションのテキストの内容別にスコアを見ると、GPT-4自身が考え出したリラクゼーションプロンプトが平均35.6点と最も低く、冬の景色に関するプロンプトが平均54点と最も高かった。この点について論文の筆頭著者である米イェール大学の臨床神経科学者であるZiv Ben-Zion氏は、「GPT-4自身が作成したプロンプトが最も効果的であり、不安レベルはほぼベースラインまで軽減した」と話している。 ただし、人工知能(AI)をメンタルヘルスの有用なツールと考える人がいる一方で、倫理的な懸念を抱く人もいる。テクノロジーを痛烈に批判する著書を執筆したNicholas Carr氏は、「米国人は、人との交流をスクリーン越しに行う孤独な国民となった。今やコンピューターと話すことで憂うつな気分を和らげることができると自分に言い聞かせている」と語る。同氏は、「人間の感情とコンピューターの出力の境界線を、たとえ比喩的にでも曖昧にすることは、倫理的に問題があるように思われる」とThe New York Times紙への電子メールで述べたという。 一方、米ダートマス大学のAIアドバイザーであるJames Dobson氏は、「AIツールへの信頼を確保するには、チャットボットがどのように訓練されているかについて十分な透明性を確保することが必要だ。言語モデルへの信頼は、それがどのように作られているのかを知ることにかかっている」との見方を示している。

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AIが早産児の完全静脈栄養を改善

 新生児集中治療室で治療を受けている早産児のうち、消化器系の発達が不十分で腸管で栄養を適切に吸収できない児には、点滴で栄養を与えられることがある。これを、完全静脈栄養(TPN)という。TPNの処方は医師が行うが、残念ながら、処方の適切性を判断するのは困難であり、間違いも起きやすい。こうした中、人工知能(AI)が、早産児の栄養管理を改善し、児が正常に成長し発達する可能性を高めるのに役立つことが、新たな研究で示唆された。米スタンフォード大学小児科准教授のNima Aghaeepour氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」に3月25日掲載された。 新生児の約10%は、予定日より3週間以上前に早産で生まれる。研究グループによると、予定日より8週間以上早く生まれた場合、腸管から栄養を吸収する準備ができていないため、TPNが必要になることが多い。しかし、早産児が十分なカロリーを摂取しているかどうかを判断するための血液検査は存在しない上に、早産児は、必ずしも空腹時に泣いたり、満腹になると落ち着き、満足を示すわけでもない。そのため、TPNが適切に行われているかどうかの判断は難しい。Aghaeepour氏は、「世界中で、TPNは新生児集中治療室における医療ミスの最大の原因だ」と指摘する。 この問題を解決するためにAghaeepour氏らは、5,913人の早産児に対する7万9,790件のTPNの処方箋と、児の状態(治療やその効果など)に関する情報をリンクさせてAIアルゴリズムを訓練し、早産児に必要な栄養素とその量を予測することができるようにした。このアルゴリズムにより、無限のバリエーションを持ち得るTPN処方が15種類の標準的な処方に絞り込まれた。Aghaeepour氏は、「この15種類の処方は、医師、薬剤師、栄養士が推奨する内容とほぼ同じであることが判明した。しかし、AIによるこれらの処方を使えば、処方のスピードと安全性を大幅に向上できる可能性がある」と語る。 また、このAIアルゴリズムにより、早産児の医療データを用いて、15種類の処方のうちどれが必要なのかを予測できることも示された。さらに、児の成長や健康状態の変化に応じて、例えば「No.8の処方箋を5日続けた後、No.3を1週間、次いでNo.14を数日間」という具合に、毎日、推奨する処方箋を調整できることも確認された。 AIによるTPNの処方と実際の処方を比較するために、10人の新生児科医に、早産児の過去の臨床情報と、実際にその児が受けたTPN処方、およびAIが推奨したTPN処方を誰が作成したかを告げずに提示し、より良いと思う方を尋ねた。その結果、医師はAIが生成した処方の方を一貫して好ましく評価することが示された。 さらに、AIに過去の患者の電子カルテ情報を提示し、早産児が実際に受けたTPNがAIの推奨と大きく異なっていた事例について調べた。その結果、そのような児では、死亡率、敗血症、腸疾患のリスクが、AIの推奨と一致していた児よりも有意に高いことが判明した。最後に、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のリアルワールドデータ(3,417人の早産児に処方された6万3,273件のTPN)を用いて検討しても、AIアルゴリズムは同様の予測能を示すことが確認された。 このような有望な結果が得られたものの、研究グループは、AIアルゴリズムが何かを見落としていないかどうかを確認するために、AIの推奨事項を医師や薬剤師が確認する必要があると指摘している。共著者の1人である、米スタンフォード・メディシン・チルドレンズ・ヘルスのエグゼクティブ・ディレクター兼最高薬剤責任者であるShabnam Gaskari氏は、「AIによる推奨は、電子カルテに追加された情報に基づいているため、記録に不足があると推奨は正確ではなくなる。よって、最終的には臨床医が推奨内容を検討する必要がある」と説明している。 研究グループは次の段階として、通常の方法でTPNを受けた早産児と、AIが推奨するTPNを与えられた早産児を比較する臨床試験の実施を計画している。

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ヤマアラシのトゲ外傷の1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第280回

ヤマアラシのトゲ外傷の1例皆さんは、ヤマアラシに遭遇したことはないでしょうか? 私はないです。Pandey AK, et al. A Rare, Atypical Case of Porcupine Quill Shot in the Glenoid Fossa: Case Report and Review of Literature. Indian J Otolaryngol Head Neck Surg. 2025 Jan;77(1):500-504.この論文は、顎関節窩にヤマアラシの針が刺さるという、きわめてまれな症例です。若い男性患者が森の中でバイクに乗っていた際、ヤマアラシと遭遇しました。ドラクエみたい。「ビビったヤマアラシが、自己防衛のために針を発射した」と論文には書かれています。かつてヤマアラシはトゲを飛ばして敵を攻撃すると考えられていましたが、実際はそのようなことはなく、触るとトゲは体から抜け落ちるそうです。刺さると痛いとは思いますが、ちょっとこの導入部の記載は修正が必要かもしれません。(インドの雑誌にわざわざ修正要請の手紙は出しませんが…)まあ、とにかくヤマアラシに襲われた患者は、左前腕と顔に8〜10本の針が刺さったそうです。しかし、左耳前部に深く刺さった3.5cmの針は、重度の痛みと開口障害を引き起こしたそうで、救急部門を受診することになりました。頭頚部CT検査により、耳前部から顎関節に達する透過性の高い鋭利な物体が確認され、この針が口を開ける際の下顎頭の動きを妨げていることが判明しました。患者は局所麻酔下で緊急手術を受け、鉗子を用いて慎重に取り出されました。感染予防のため、アモキシシリン+クラブラン酸+メトロニダゾールが投与され、破傷風トキソイドも適用されました。その後の経過観察で、患者の開口状態は正常に戻り、痛みも軽減し、合併症は残りませんでした。ヤマアラシの針は中空でケラチンでできており、後方に向いた鋭い「かえし」があります。刺さるとなかなか抜けません。針の長さは通常15〜30cm程度ですが、最大約50cmまで成長することもあるそうです。ほぼ凶器。読者の皆さんがもし道端でヤマアラシに遭ったら、トゲは飛んでこないかもしれないが、刺さったら大変だと思って、できるだけ触らないようにしましょう。

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通院費増で遺伝子変異に関連した治験への参加率が低下、制度拡充が必要/国立がん研究センター

 がんの臨床試験(治験)では、地域の医療機関が参加条件に該当した患者を治験実施施設に紹介することが一般的だ。患者は自宅から離れた治験実施施設に通わねばならないケースも多く、時間的・経済的負担が生じる。国立がん研究センター中央病院 先端医療科の上原 悠治氏、小山 隆文氏らは、施設までの通院費と治験の参加可能性が関連するかを検討する後ろ向きコホート研究を行った。 2020~22年に、がん遺伝子パネル検査後に国立がん研究センター中央病院に治験目的で紹介された進行固形腫瘍患者1,127例を対象に、通院費と治験参加状況の関連を調査した。主要評価項目は遺伝子変異に関連した治験への参加、副次評価項目は遺伝子変異とは関連しない治験への参加だった。多変量ロジスティック回帰分析により、移動費用と治験参加率との関連を評価した。本研究の結果はESMO Real World Data and Digital Oncology誌オンライン版2025年2月25日号に掲載された。 主な結果は以下のとおり。・1,127例のうち、127例(11%)は遺伝子変異に関連した治験に参加し、114例(10%)は遺伝子変異とは関連しない治験に参加した。・通院費(公共交通機関の往復料金)の中央値は17ドル(約2,000円:2022年、研究開始時の為替レート[1ドル=120円]で計算)だった。多変量解析の結果、通院費が100ドル(約1万2,000円)以上の患者は、100ドル未満の患者と比較して、遺伝子変異に関連する治験に参加する割合が有意に低いことが示された(7%vs.13%、オッズ比[OR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.30~0.88)。・遺伝子変異に関連する治験への参加する割合は、通院費が100ドル未満、100~200ドル未満、200ドル以上と増加するにつれ低下した(13%vs.9%vs.6%、OR:0.70、95%CI:0.28~1.52、OR:0.46、95%CI:0.22~0.85)。・通院費は遺伝子変異とは関連しない治験へ参加する割合には影響を与えなかった。遺伝子変異に関連する治験の参加者は初回診察予約から治験参加までの期間の中央値が、遺伝子変異とは関連しない治験の参加者よりも短かった(21日vs.31日、p=0.006)。 この結果を受けた上原氏のコメントは以下のとおり。 「現在、国立がん研究センターでは、治験参加者への『被験者負担軽減費』として通院の負担を軽減する制度がある。しかし、当制度は参加者の居住地にかかわらず一律で、遠方に住む参加者は交通費の負担が重くなる傾向にある。本邦で治験を実施している多くのがんセンターや大学病院でも、こうした負担軽減費の相場は1回の通院あたり7,000~1万円程度となっており、通院費が遠方から治験を検討している患者の大きな負担となっていることが予想された。 米国の場合、2018年に出た米国食品医薬品局(FDA)のガイダンス1)で、通院費、宿泊費等の合理的な費用を支給することは治験参加者に対して不当な影響を及ばさない(=治験に参加する強い誘引にならない)旨が示されており、全額支給を行う医療機関も増えてきている。同様の制度を本邦で検討する際、実際に高額な通院費が治験に入る際の障壁になっていないかどうか検討するために計画したのが本研究だ。 結果として、がんの遺伝子変異に関連する一治験において、通院費負担が大きくなるほど参加する割合が低下することが確認された。遺伝子変異とは関連しない一治験では傾向が見出されなかったのは、遺伝子変異に関連する治験に比べて治験参加までの期間が長く、その間に病態が進行して参加できなくなる、などの背景があったと考察している。 本邦における治験へのアクセスの地域格差を解消するため、この結果をもとに、参加者の居住地に応じた被験者負担を軽減する制度の必要性が感じられた。今後は、患者個々の社会的因子を考慮した通院費の負担感など、より詳細な因子を調査することも検討している。また、オンライン診療などを活用する分散型臨床試験(DCT)の導入が別のアプローチの解決策となる可能性がある。」

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非専門医による診療機会を考慮、成人先天性心疾患診療ガイドライン改訂/日本循環器学会

 成人先天性心疾患診療ガイドラインが7年ぶりに改訂され、3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会で山岸 敬幸氏(東京都立小児総合医療センター 院長/日本循環器学会 理事/日本小児循環器学会 理事長)が改訂点などを解説した。成人先天性心疾患の発生頻度 先天性心疾患は出生数に占める割合として1.3~1.5%で推移し、近年の少子化に伴い、その発症数は減少している。その一方で、診断技術の進歩や手術成績の向上により、患者の約90%が成人に達するようになり、生存期間中央値は、軽症84.1歳、中等症75.4歳、重症53.3歳と報告され、成人先天性心疾患の患者数は年間約1万例のペースで増加している1)。小児期には保護者に連れられて定期的に通院していた患者が、就学や就職などを契機に通院を中断し、成人期に不整脈や心不全などを発症して一般の循環器内科に受診するケースが増加しているため、成人先天性心疾患専門医以外の循環器医にも理解が必要な領域になっている。自然歴、後期合併症 本来、先天性心疾患は軽症でも、手術による修復後でも、生涯にわたって医療・管理を受けることが推奨される。というのは、先天性心疾患に対する手術は、一部の単純先天性心疾患を除いて根治術ではなく、あくまで正常な血行動態に近づける修復術であり、術後の異常として遺残症(residual disease:術前から認められ術後も持続する異常)、続発症(sequela:手術に伴って新たに生じる異常)、そして合併症(complication:修復手術に伴って予期せず生じる異常)があり、生涯にわたって管理を要する。また、小児期に手術適応にならない症例や、早期診断されずに未修復で成人になる症例もある。このような現状から、山岸氏は「今回の改訂に際し、専門医でなくとも標準的な診療を提供できるための指針となるよう、基本的な内容をわかりやすく記述するスタイルを維持した。診療に必要な情報を簡潔かつ明確に伝えることを優先し、小児科から成人診療科へのシームレスな移行と生涯的な管理に役立つことを目的とした」とガイドラインの構成について説明した。 現在、日本において成人先天性心疾患学会に認定されている専門医は全都道府県で登録されているものの、多くの成人先天性心疾患患者にフォローが必要な状況を考慮すると、その数は患者数に比して圧倒的に少ない。同氏は、「循環器診療に携わるすべての医療者に成人先天性心疾患患者の対応をしていただきたい」と説明した。 また、今回、同時に改訂された心不全診療ガイドライン2)に準じた心不全のステージ分類(図2、p.20)や症状(表4、p.21)が第2章の「心不全」の項に記載されているが、成人先天性心疾患にこの分類を当てはめることは容易ではなく、元々の形態や機能の異常を有するため、術前・術後にかかわらず、多くがステージBに相当する。また、特有の心不全症状があり、「たとえば、修正大血管転位症にみられる体心室右室や、単心室手術後のFontan循環が挙げられる。体心室右室は左室と構造が異なり、長期間にわたり体循環を支えることができないため、小児期には無症状であったとしても加齢に伴い心不全のリスクが高まる。Fontan循環も小児期には元気でも、潜在的な体うっ血と低心拍出が持続し、成人期に心不全として顕在化する。成人先天性心疾患では、このような心不全があることを非専門医にもおさえてもらいたい」と解説した。「なお、現状で推奨とエビデンスレベルを示せる病態は少ないが、感染性心内膜炎のように推奨表が掲載されているものもあるので、エビデンスレベルは高くはないが、併せて参照されたい」とコメントした。診断、内科的治療 続いて、成人先天性心疾患の診断と病態評価(第3章参照)については、「体心室右室の診断などでも心エコー検査が重要。心房・心室・大血管の心エコー法診断(表10、p.31)を用いることが有用」と説明した。心臓MRIは近年では有用なツールとして汎用されており、推奨表はないものの、適応が示された(表13、p.37)。心臓カテーテル検査については推奨表が記載され(推奨表2、p.38)、電気生理学的検査についても推奨とエビデンスレベルが示された(推奨表3、p.39)。 成人先天性心疾患の心不全は、数多くみられる成人の後天性心不全と異なり、右心不全が多いことが特徴で、これまでに蓄積されている薬物治療のエビデンスをそのまま当てはめることができない。そのため、心不全診療ガイドラインなどを参考にしながら、体心室右室やFontan循環といった先天性心疾患特有の病態を踏まえた内容が内科的治療(第4章、p.40)に盛り込まれた。肺高血圧症の最重症型であるEisenmenger症候群は、従来、治療法がなく対症療法により経過観察されてきたが、昨今、治療についてのエビデンスが集積しつつあり、推奨とエビデンスレベルが示されている(推奨表10、p.50)。非チアノーゼ型先天性心疾患・チアノーゼ型先天性心疾患 各論では、心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、Fallot四徴症など、個々の疾患について、可能な限り解剖図が挿入され、推奨とエビデンスレベルが示された。最近、多くのFontan術後患者が成人になり、高齢化して明らかになってきた疾患として、FALD(Fontan-associated liver disease、Fontan関連肝疾患)が注目されているため、その診断およびフォローアップについて解説されている。 最後に山岸氏は「体系的にガイドラインとしてまとめることは難しい領域であるが、推奨が付けられる範囲でまとめ、専門医でなくとも標準的な診療を提供するための指針となるように作成した」と成人先天性心疾患の専門医以外の協力も仰ぎたい点を強調した。今回、Heart View誌2025年3月号3)にもガイドラインを踏まえたベストプラクティスとして特集が組まれており、「ぜひ一緒に読んでほしい」と締めくくった。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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症候性発作性AFのアブレーション、パルスフィールドvs.クライオバルーン/NEJM

 症候性発作性心房細動患者において、パルスフィールドアブレーション(PFA)はクライオバルーンアブレーション(CBA)と比較し、植込み型心臓モニターを用いた持続的リズムモニタリングによる評価で、心房性頻脈性不整脈の初回再発の発生率に関して非劣性であることが示された。スイス・ベルン大学のTobias Reichlin氏らSINGLE SHOT CHAMPION Investigatorsが、スイスの3次医療機関2施設で実施した医師主導の無作為化非劣性試験「SINGLE SHOT CHAMPION試験」の結果を報告した。肺静脈隔離術は発作性心房細動の有効な治療法で、PFAは非熱的アブレーション法のため心筋以外への有害作用はほとんどない。持続的リズムモニタリングを用いて評価したアウトカムに関するPFAとCBAの比較データは不足していた。NEJM誌オンライン版2025年3月31日号掲載の報告。アブレーション後の心房性頻脈性不整脈の再発を植込み型心臓モニターで評価 研究グループは、過去24ヵ月以内に12誘導心電図またはホルター心電図で30秒以上持続する症候性発作性心房細動が確認され、現在の心房細動治療ガイドラインに従って肺静脈隔離術の適応を有する18歳以上の成人患者を、PFA群またはCBA群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 PFA群では、多電極のペンタスプライン型PFAカテーテル(Farapulse、Boston Scientific製)、CBA群ではクライオバルーン(Arctic Front、Medtronic製)を用い、全例に植込み型心臓モニター(Reveal LinQ、Medtronic製)を留置して持続的リズムモニタリングを行った。 主要エンドポイントは、ブランキング期間以降のアブレーション後91~365日における30秒以上持続する初回心房性頻脈性不整脈(心房細動、粗動または頻拍)の再発とし、非劣性マージンは、再発の累積発生率の群間差(PFA群-CBA群)の両側95%信頼区間(CI)の上限20%ポイントとした。 安全性エンドポイントは、30日以内の手技関連合併症(心嚢穿刺を要する心タンポナーデ、24時間以上持続する横隔神経麻痺、介入を要する重篤な血管合併症、脳卒中/一過性脳虚血発作、左房食道瘻、死亡)の複合とした。再発率はPFA群37.1%vs.CBA群50.7%、PFAの非劣性が示される 2022年9月20日~2023年11月16日に計210例が無作為化された(PFA群105例、CBA群105例)。 主要エンドポイントのイベントはPFA群39例、CBA群53例に認められ、Kaplan-Meier法による累積発生率はそれぞれ37.1%および50.7%、群間差は-13.6%(95%CI:-26.9~-0.3、非劣性のp<0.001、優越性のp=0.046)であった。 30日以内の手技関連合併症は、PFA群で1例(1.0%)に脳卒中、CBA群で2例(1.9%)に心嚢穿刺を要する心タンポナーデが発現した。 なお著者は、検討したPFAはFarapulseシステムのみを使用しており、他のPFAシステムには当てはまらない可能性があること、追跡調査期間が1年と短期であることなどを研究の限界として挙げている。

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冠動脈疾患へのPCI、FFRガイド下vs.IVUSガイド下/Lancet

 血管造影に基づく冠血流予備量比(FFR)ガイド下で血行再建の決定やステント最適化を行う包括的な経皮的冠動脈インターベンション(PCI)戦略は、血管内超音波(IVUS)ガイド下PCIと比較して、12ヵ月時の死亡、心筋梗塞または再血行再建術の複合アウトカムに関して非劣性が認められたことを、中国・the Second Affiliated Hospital of Zhejiang University School of MedicineのXinyang Hu氏らが、同国22施設で実施した医師主導の無作為化非盲検非劣性試験「FLAVOUR II試験」の結果で報告した。FFRガイド下での血行再建術の決定またはIVUSを用いたステント留置の最適化は、血管造影のみを用いたPCIと比較し優れた臨床的アウトカムが得られるが、血行再建の判断とステント最適化の両方を単一の手法で行った場合の臨床アウトカムの差は依然として不明であった。著者は、「今回の結果は、FFRガイド下PCIの役割と適応に関して、今後のガイドラインに影響を与えることになるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年3月30日号掲載の報告。1年後の死亡・心筋梗塞・再血行再建術の複合を比較 研究グループは、虚血性心疾患の疑いがあり、冠動脈造影で2.5mm以上の心外膜冠動脈に50%以上の狭窄が認められる18歳以上の患者を、血管造影によるFFRガイド下PCI群またはIVUSガイド下PCI群に1対1の割合で無作為に割り付けた。割り付けはWebベースのプログラムを用いて行い、試験実施施設および糖尿病の有無で層別化した。 両群とも、事前に規定されたPCI基準とPCI至適目標に基づいて、血行再建術の決定とステント留置の最適化が行われた。 主要アウトカムは、ITT集団における12ヵ月時点の死亡、心筋梗塞または再血行再建術の複合とし、非劣性マージンは累積発生率の群間差(絶対差)が2.5%ポイントとした。FFRガイド下はIVUSガイド下に対して非劣性 2020年5月29日~2023年9月20日に1,872例が登録された。このうち33例が同意撤回または医師の判断で登録中止となり、923例がFFRガイド下PCI群に、916例がIVUSガイド下PCI群に無作為化された。患者背景は、年齢中央値66.0歳(四分位範囲[IQR]:58.0~72.0)、男性1,248例(67.9%)、女性591例(32.1%)などであった。 FFRガイド下PCI群では標的血管990本中688本(69.5%)、IVUSガイド下PCI群では標的血管984本中797本(81.0%)で血行再建術が実施された。 追跡期間中央値12ヵ月(IQR:12~12)において、主要アウトカムのイベントは、FFRガイド下PCI群で56例、IVUSガイド下PCI群54例で確認され(6.3%vs.6.0%、絶対群間差:0.2%[片側97.5%信頼区間[CI]上限:2.4]、ハザード比[HR]:1.04[95%CI:0.71~1.51])であり、FFRガイド下PCIのIVUSガイド下PCIに対する非劣性が認められた(非劣性のp=0.022)。 全死因死亡率は、FFRガイド下PCI群1.8%、IVUSガイド下PCI群1.3%であり、群間差は確認されなかった(絶対群間差:0.4%[95%CI:-0.7~1.6]、HR:1.34[0.63~2.83]、p=0.45)。狭心症の再発率も両群とも低く、それぞれ923例中26例(2.8%)、916例中35例(3.8%)であった。

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iPS細胞移植、パーキンソン病患者の脳内でドパミン産生を確認/京大

 京都大学医学部附属病院と京都大学iPS細胞研究所とが連携して実施した、パーキンソン病患者を対象に、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を脳内の被殻に両側移植する第I/II相臨床試験において、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞は生着し、ドパミンを産生することが確認され、腫瘍形成などの重篤な有害事象は認められなかった。本結果により、パーキンソン病に対する安全性と臨床的有益性が示唆された。本結果はNature誌オンライン版2025年4月16日号に掲載された。 パーキンソン病では、中脳黒質のドパミン神経細胞が減少し、それによって動作緩慢、筋強剛、静止時振戦を特徴とする運動症候群を発症する。薬物療法は、初期の段階では運動症状を効果的に緩和するが、長期経過により運動合併症や薬剤誘発性ジスキネジア(不随意運動)など対応が困難な問題が生じる。そのため、失われたドパミン神経細胞を補充する細胞治療が代替治療法として検討されてきた。欧米では、ヒト中絶胎児の脳を移植する治験が行われてきたが、倫理的問題や安定した供給の困難さが指摘されてきた。 京都大学iPS細胞研究所の高橋 淳氏らの研究グループは、これまでにヒトiPS細胞からドパミン神経細胞を誘導する方法を開発し、サルのパーキンソン病モデルにおいて脳内でドパミンを産生し、運動症状を改善することを確認してきた。 2018年8月より開始した本試験「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」では、50~69歳の7例のパーキンソン病患者を対象に、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を脳内の被殻に両側移植した。主要評価項目は安全性および有害事象の発生とし、副次評価項目は運動症状の変化およびドパミン産生として、24ヵ月にわたって観察した。3例の患者は低用量移植(片側半球当たり2.1~2.6×106個の細胞)を受け、4例の患者は高用量移植(片側半球当たり5.3~5.5×106個)を受けた。安全性の評価は7例、有効性の評価は1例がCOVID-19感染のため6例で行われた。 主な結果は以下のとおり。・重篤な有害事象は発生しなかった。軽度~中等度の有害事象は73件発生した。・治療上の調整が必要でない限り、患者の抗パーキンソン病治療薬の投与量は維持されたが、その結果ジスキネジアが増加した。・MRIによる評価では、移植組織の異常増殖は認められなかった。・国際パーキンソン病・運動障害学会統一パーキンソン病評価尺度(MDS-UPDRS)パートIIIによる評価において、OFFスコアの改善が6例中4例、ONスコアの改善が5例に認められた。6例全体の平均変化量は、OFFスコアが-9.5(-20.4%)、ONスコアが-4.3(-35.7%)であった。・ホーエン・ヤールの重症度分類では4例の患者が改善した。・18F-DOPA PETでは、被殻のドパミン取り込み(Ki値)が平均44.7%増加し、高用量移植群でより顕著に認められた。 本結果は、iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞のパーキンソン病患者への移植が安全かつ有効である可能性を示した初の報告となる。著者らは「将来的には、細胞移植と遺伝子治療、薬物療法、リハビリテーションを組み合わせることで、有効性を高める戦略が考えられる。さらに、iPS細胞を用いた自家移植も有望な選択肢となる可能性がある」とまとめている。

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抗血小板薬併用療法のde-escalationの意味わかる?(解説:後藤信哉氏)

 最近、急性冠症候群に対するPCI後の抗血小板薬併用療法のde-escalationという言葉がしばしば使われる。筆者には初めから言葉に対して違和感があった。de-escalationだから、放置しておくとescalationしてしまうのを、escalationしない方向に向けようという意味だろうか? 急性冠症候群は致死的疾患である。心筋梗塞になることを予防する必要があった。抗血小板薬併用療法にて血栓イベントリスクを低減させる努力が続けられた。当初から、抗血小板薬併用療法の有効性・安全性は12ヵ月の試験にて検証された。抗血小板薬開発に詳しい読者ならご存じのように、抗血小板薬併用療法の期間延長を目指す試験も施行された。疾病として血栓イベントリスク低減を目指すことは間違っていないが、長期の抗血小板薬併用療法では重篤な出血イベントリスクも増えてしまう。そこで、方向を変えてde-escalationを目指すグループも生まれた。 本試験は12ヵ月が標準治療であった抗血小板薬併用療法を、最短1ヵ月のfull dose抗血小板薬併用療法+5ヵ月のチカグレロル単剤+6ヵ月のアスピリン単剤群と比較した。12ヵ月の適応を取得した抗血小板薬開発企業にとってはまさにde-escalationを強いられる。使用するデバイスはpaclitaxel-coated balloonsなので、de-escalationできるのは急性冠症候群一般でなくpaclitaxel-coated balloonsの症例のみとde-escalationの対象を限局できるのが、製薬企業の容認できる部分だろうか? 中国1国で施行したランダム化比較試験であり、「paclitaxel-coated balloons」で治療を受けた症例であれば、と限局した条件ではあるが、抗血小板薬併用療法は1ヵ月でよいことを示唆した点は評価できる。

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HBc抗体、単独陽性の解釈【1分間で学べる感染症】第24回

画像を拡大するTake home messageHBc抗体が単独で陽性である場合には、1)ウインドウ期、2)既感染(遠隔期)、3)慢性感染(潜伏HBV感染)、4)偽陽性の4つの可能性を考えよう。B型肝炎ウイルス(HBV)感染の血清学的マーカーのうち、単独のHBc抗体陽性に遭遇することがたびたびあります。一見解釈が難しそうに思えるこの結果ですが、次の4つのシナリオを考えることでしっかり理解することができます。1. ウインドウ期急性B型肝炎の回復過程で、HBs抗原が消失し、HBs抗体がまだ出現していない時期です。このHBs抗原の消失とHBs抗体の出現までの間は「ウインドウ期」と呼ばれ、HBc抗体のみ陽性となる可能性があります。この場合は、IgM型HBc抗体が陽性となることが多いです。2. 既感染(遠隔期)過去にHBVに感染し、時間の経過と共にHBs抗体が抗体価の低下によって陰性化する場合があり、HBc抗体のみが陽性となる状態です。とくに高齢者や免疫力が低下した人でみられることがあります。一度HBVに感染しているため、抗がん剤や免疫抑制薬の種類による再活性化のリスクを考慮し、HBV DNAの定期的モニタリングが推奨されます。3. 慢性感染(潜伏HBV感染)HBVに感染し、肝組織内に存在している状態です。HBs抗原が検出されない場合、通常のスクリーニングでは見逃されることがあります。HBV DNAが血清中で検出限界以下または低力価で検出されることがあります。慢性肝疾患や肝がんのリスクが増加する可能性があるため、長期的なフォローアップが必要です。4. 偽陽性近年の酵素免疫測定法(EIA)の精度向上により偽陽性率は低下していますが、自己免疫疾患での交差反応を中心に、一定の割合で発生することがあります。再検査、ほかのHBVを組み合わせることにより、次のステップにつなげることができます。以上、HBc抗体が単独陽性となった場合は、1)ウインドウ期、2)既感染(遠隔期)、3)慢性感染(潜伏HBV感染)、4)偽陽性の4つのうちのいずれかの可能性があります。患者のリスクを踏まえて適切に解釈できるよう心掛けましょう。1)Wang Q, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2017;2:123-134

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DNRを救急車で運んだの?【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第5回

DNRを救急車で運んだの?PointDNRは治療中止ではない。終末期医療の最終目標は、QOLの最大化。平易な言葉で理知的に共感的に話をしよう。適切な対症療法を知ろう。症例91歳男性。肺がんの多発転移がある終末期の方で、カルテには急変時DNRの方針と記載されている。ところが深夜、突如呼吸困難を訴えたため、慌てて家族が救急要請した。来院時、苦悶様の表情をみせるもののSpO2は97%(room air)だった。研修医が家族に説明するが、眠気のせいか、ついつい余計な言葉が出てしまう。「DNRってことは、何も治療を望まないんでしょ? こんな時間に救急車なんて呼んで、もし本物の呼吸不全だったら何を期待してたんですか? 大病院に来た以上、人工呼吸器につながれても文句はいえませんよ。かといって今回みたいな不定愁訴で来られるのもねぇ。なんにもやることがないんだから!」と、ここまでまくしたてたところで上級医につまみ出されてしまった。去り際に垣間見た奥さんの、その怒りやら哀しみやら悔しさやらがない交ぜになった表情ときたらもう…。おさえておきたい基本のアプローチDo Not Resuscitation(DNR)は治療中止ではない! DNRは意外と限定的な指示で、「心肺停止時に蘇生をするな」というものだ。ということはむしろ、心肺停止しない限りは昇圧薬から人工呼吸器、血液浄化法に至るまで、あらゆる医療を制限してはならないのだ。もしわれわれが自然に想像する終末期医療を表現したいなら、DNRではなくAllow Natural Death(AND)の語を用いるべきだろう。ANDとは、患者本人の意思を尊重しながら、医療チーム・患者・家族間の充分な話し合いを通じて、人生の最終段階における治療方針を具体的に計画することだ。それは単なる医療指示ではなく、患者のQuality of Life(QOL)を最大化するための人生設計なのである。落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「延命しますか? しませんか?」と最後通牒を患者・家族につきつけるのはダメ医療を提供する側だからこそ陥りやすい失敗ともいえるが、「延命治療を希望しますか? 希望しませんか?」などと、患者・家族に初っ端から治療の選択肢を突きつけてはならない。家族にしてみれば、まるで愛する身内に自分自身がとどめを刺すかどうかを決めるように強いられた心地にもなろう。患者は意識がないからといって、家族に選択を迫るなんて、恐ろしいことをしてはいないか? 「俺が親父の死を決めたら、遠くに住む姉貴が黙っているはずがない。俺が親父を殺すなんて、そんな責任追えないよぉ〜」と心中穏やかならぬ、明後日の方向を向いた葛藤を強いることになってしまうのだ。結果、余計な葛藤や恐怖心を抱かせ、得てして客観的にも不適切なケアを選択してしまいがちになる。家族が親の生死を決めるんじゃない。患者本人の希望を代弁するだけなのだ。徹頭徹尾忘れてはならないこと、それはANDの最終目標は患者のQOLの最大化だということだ。それさえ肝に銘じておけば、身体的な側面ばかりでなく、患者さんの心理的、社会的、精神的側面をも視野に入れた全人的ケアに思い至る。そして、治療選択よりも先にたずねるべきは、患者本人がどのような価値観で日々を過ごし、どのような死生観を抱いていたのかだということも自ずと明らかになろう。ANDを実践するからには、QOLを高めなければならないのだ。Point最終目標はQOLの最大化。ここから焦点をブレさせない「患者さんは現在、ショック状態にあり、昇圧剤および人工呼吸器を導入しなければ、予後は極めて厳しいといわざるを得ません」いきなりこんな説明をされても、家族は目を白黒させるばかりに違いない。情報提供の際は専門用語を避けて、できるだけ平易な言葉遣いで話すべきだ。また、人生の終末を目前に控えた患者・家族は、とにかく混乱している。恐怖、罪悪感、焦り、逃避反応などが入り組んだ複雑な心情に深く共感する姿勢も、人として大切なことだ。だが、同情するあまりにいつまでも話が進まないようでは口惜しい。実は、患者家族の満足度を高める方法としてエビデンスが示されているのは、意外にも理知的なアプローチなのだ。プロブレムを浮き彫りにするためにも、言葉は明確に、1つ1つの問題を解きほぐすように話し合おう。逆に、心情を慮り過ぎて言葉を濁したり、楽観的で誤った展望を抱かせたり、まして具体的な議論を避ける態度をとったりすると、かえって信頼を損なうことさえある。表現にも一工夫が必要だ。すがるような思いで病院にたどり着いた患者・家族に開口一番、「もはや手の施しようがありません」と言おうものなら地獄へ叩き落された心地さえしようというもの。何も根治を望んで来たわけではないのだから、「苦痛を和らげる方法なら、できることはまだありますよ」と、包括的ケアの余地があることを伝えられれば、どれだけ救いとなることだろう。以上のことを心がけて、初めて患者・家族との対話が始まるのだ。こちらにだって病状や治療方針など説明すべきことは山ほどあるのだが、終末期医療の目的がQOLの向上である以上、患者の信念や思いにしっかりと耳を傾けよう。もし、その過程で患者の嗜好を聞き出せたのならしめたもの。しかしそれも、「うわー、その考え方にはついていけないわ」などと邪推や偏見で拒絶してしまえば、それまでだ。患者の需要に応えられたときにQOLは高まる。むしろ理解と信頼関係を深める絶好の機会と捉えて、可能な限り患者本人の願いを実現するべく、家族との協力態勢を構築していこう。気持ちの整理がつくにつれ、受け入れがたい状況でも差し引きどうにか受容できるようになることもある。そうして徐々に歩み寄りつつ共通認識の形成を試みていこう。その積み重ねが、愛する人との静かな別れの時間を醸成し、ひいては別離から立ち直る助けともなるのだ。Point平易かつ明確な言葉で語り掛け、患者・家族の願いを見極めよう「DNRでしょ? ERでできることってないでしょ?」より穏やかな死の過程を実現させるためにも、是非とも対症療法の基本はおさえておこう。訴えに対してやみくもに薬剤投与と追加・増量を繰り返しているようでは、病因と戦っているのか副作用と戦っているのかわからなくなってしまうので、厳に慎みたい。その苦痛は身体的なものなのか、はたまた恐怖や不安など心理的な要因によるものなのか、包括的な視点できちんと原因を見極めるべきだ。対症療法は原則として非薬物的ケアから考慮する。もし薬剤を使用するなら、病因に対して適正に使用すること。また、患者さんの状態に合わせて、舌下錠やOD錠、座薬、貼付剤など適切な剤型を選択しよう。続くワンポイントレッスンと表で、使用頻度の高い薬剤などについてまとめてみた。ただし、終末期の薬物療法は概してエビデンスに乏しいため、あくまでも参考としていただけるとありがたい。表 終末期医療でよく使用する薬剤PointERでできることはたくさんある。適切な対症療法を学ぼうワンポイントレッスン呼吸困難呼吸困難は終末期の70%が経験するといわれている。自分では訴えられない患者も多いので、呼吸数や呼吸様式、聴診所見、SpO2などの客観的指標で評価したい。呼吸困難は不安などの心理的ストレスが誘因となることも多いため、まずは姿勢を変化させたり、軽い運動をしたり、扇風機で風を当てたりといった環境整備を試すとよいだろう。薬剤では、オピオイドに空気不足感を抑制する効果がある。経口モルヒネ30mg/日未満相当ならば安全に使用できる。もし不安に付随する症状であれば、ベンゾジアゼピンが著効する場合もある。口腔内分泌物口腔内の分泌物貯留による雑音は、終末期患者の23〜92%にみられる。実は患者本人にはほとんど害がないのだが、そのおぞましい不協和音は死のガラガラ(death rattle)とも呼ばれ、とくに家族の心理的苦痛となることが多い。まずは家族に対し、終末期に現れる自然な経過であることを前もって説明しておくことが重要だ。どうしても雑音を取り除く必要がある場合は、アトロピンの舌下滴下が分泌物抑制に著効することがある。ただし、すでに形成した分泌物には何の影響もないため、口腔内吸引および口腔内ケアも並行して実践しよう。せん妄せん妄も終末期患者の13〜88%に起こる頻発症状だ。ただし、30〜50%は感染症や排尿困難、疼痛などによる二次的なものである。まずは原因の検索とその除去に努めたい。薬剤投与が必要な場合は、ハロペリドールやリスペリドンなどの抗精神病薬を少量から使用するとよいだろう。睡眠障害睡眠障害はさまざまな要因が影響するため、慎重な評価と治療が不可欠である。まずは昼寝の制限や日中の運動、カフェインなどの刺激物を除去するといった環境の整備から取り掛かるべきだろう。また、睡眠に悪影響を及ぼす疼痛や呼吸困難などのコントロールも重要である。薬物は健忘、傾眠、リバウンドなどの副作用があるため、急性期に限定して使用する。一般的には非ベンゾジアゼピン系のエスゾピクロンやラメルテオンなどが推奨される。疼痛疼痛は終末期患者の50%が経験するといわれている。必ずしも身体的なものだけではなく、心理的、社会的、精神的苦痛の表出であることも多いため、常に包括的評価を心掛けるべきだ。このうち、身体的疼痛のみが薬物療法の適応であることに注意しよう。まずは潜在的な原因の検索から始め、その除去に努めよう。終末期の疼痛における環境整備やリハビリ、マッサージ、カウンセリングなどの効果は薬物療法に引けを取らないため、まずはこのような支持的療法から試みるとよいだろう。薬物療法の際は、軽度ならば非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェン、そうでなければオピオイドの使用を検討する。ちなみに、かの有名なWHOの三段階除痛ラダーは2018年の時点でガイドラインから削除されているから注意。現在では、患者ごとに詳細な評価を行ったうえで、痛みの強さに適した薬剤を選択することとなっている。たしかに、あの除痛ラダーだと、解釈次第ではNSAIDsと弱オピオイドに加えて強オピオイドといったようなポリファーマシーを招きかねない。末梢神経痛に対しては、プレガバリンやガバペンチン、デュロキセチンなどが候補にあがるだろう。勉強するための推奨文献日本集中治療医学会倫理委員会. 日集中医誌. 2017;24:210-215.Schlairet MC, Cohen RW. HEC Forum. 2013;25:161-171.Anderson RJ, et al. Palliat Med. 2019;33:926-941.Dy SM, et al. Med Clin North Am. 2017;101:1181-1196.Albert RH. Am Fam Physician. 2017;95:356-361.執筆

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