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Dr.大山のがんレク!すべての医療者に捧ぐがん種別薬物療法講義(下巻)

第7回 頭頸部がん 第8回 食道がん 第9回 肝胆膵がん 第10回 婦人科がん 第11回 泌尿器がん 第12回 造血器腫瘍 第13回 脳腫瘍 第14回 緊急症 第15回 緩和ケア がん化学療法が一般的な治療となり、一般内科でもがん患者を診る機会が多くなりました。この番組では、がん種ごとに、基本的知識、ステージ、主な治療法、化学療法とその副作用をコンパクトに解説。下巻では7つのがんとオンコロジックエマージェンシー、緩和ケアを収録。すべての医療者が自信を持ってがん患者と向き合えるための知識を、腫瘍内科 大山優先生がレクチャーします!第7回 頭頸部がん 咽頭、口腔、鼻腔など発現部位によって予後や治療法が異なる頭頸部がん。技術的・機能的に可能な場合は外科的切除、不可能な場合はケモラジ、すなわち放射線治療と化学療法の合わせ技で対応します。発見前には舌の違和感や出血などで来院することもあり、治療後には口腔内の合併症など、一般医のフォローも必要ですので、ぜひポイントを押さえてください。 第8回 食道がん 食道がんの手術後には、吻合部が狭窄し、嚥下障害を起こすことがあります。唾液が飲み込めないなど、生活に支障を来す患者のQOL改善には一般内科医のフォローが必須!食道がんは気管、大動脈、心膜、椎体に接するため、浸潤しやすいのが恐ろしい点です。症状のある患者は進行している場合が多く、治癒率も高くないなど、基礎知識も押さえておきましょう。第9回 肝胆膵がん 肝胆膵がんは病態が多様で、患者ごとの治療選択がとても重要です。肝がんは慢性肝炎や肝硬変の進行具合によって治療が異なり、殺細胞薬はほとんど効果がないこと、膵がんは早期発見が難しく約4%の患者しか完治できないことなど、一般内科医でもこれだけは知っておきたい肝胆膵がんの基本的知識、治療方法、副作用をコンパクトに解説します。第10回 婦人科がん 今回は子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんをぎゅっとまとめてレクチャー。この3つは共通してカルボプラチンとパクリタキセルを使用した化学療法を行います。これだけでも覚えておきたいポイントです。そのほかHPV(ヒト乳頭腫ウイルス)など、一般内科医にも最低限知っておいてほしい婦人科がん知識をお伝えします!第11回 泌尿器がん 今回は腎がん、尿路上皮がん、前立腺がん、精巣がんをまとめてレクチャーします。泌尿器がんは患者によって進行のスピードや薬剤反応性などに大きな個人差があるのが特徴です。とくに前立腺がんは緩徐進行性のため治療不要となる場合があり、PSA検診の可否が問題となっています。新薬開発の目覚しい化学療法や、QOL確保のための膀胱温存療法、ホルモン療法など、一般内科医でも知っておきたいがん知識が満載です!第12回 造血器腫瘍 造血器腫瘍は遺伝子レベルで病型が細分化され、新薬の登場とともに、治療も複雑化しています。急性白血病や悪性リンパ腫でも、化学療法は比較的有効で、的確な治療と全身管理によって完治できるタイプもあります。初診時に見逃してはならない、メディカルエマージェンシーのポイントを解説します!第13回 脳腫瘍 脳腫瘍は原発性と転移性に分けられます。原発性の悪性腫瘍は境界が不明瞭なため完全摘出が難しく、手術後に化学放射線療法を行います。転移性脳腫瘍は、原発腫瘍の部位や状態によって治療方法が異なります。なかでも、EGFR遺伝子変異性肺がんのように化学療法高度感受性の原発腫瘍の場合は、転移巣も化学療法が有効となるケースがあります。このように最近は脳腫瘍でも長期予後が期待できる場合もあるので、脳腫瘍治療のエッセンスを一通り覚えておきましょう!第14回 緊急症 がん患者の容態悪化、Oncologic Emergencyに対応できますか?一般内科でも外来でがん治療中の患者に遭遇する機会が多くなりました。専門医でなくとも、抗がん剤の副作用や合併症に対応しなければなりません。今回は一般内科医でも是非知っておいてほしい、経過観察してはいけないがんの緊急症について解説します!第15回 緩和ケア 最終回はがん診療においては必須となる緩和ケア。とくに疼痛治療の要となるオピオイドについて、開始方法や副作用を説明します。一般内科でも疼痛ケアや術後のフォローなどを行う機会が増えています。これだけは知っておきたい緩和ケア知識をぜひチェックしてください。

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重症肥満への外科治療、そのリスクとベネフィット/JAMA

 肥満外科手術を受けた重症肥満患者は、内科的治療を受けた患者と比較すると臨床的に重大な合併症リスク増大と関連しているが、その半面、肥満関連の併存疾患のリスクが低いことが明らかにされた。ノルウェー・Vestfold Hospital TrustのGunn Signe Jakobsen氏らが中央値6.5年間追跡したコホート研究の結果で、JAMA誌2018年1月16日号で発表された。これまで、両者の有益なアウトカムおよび有害なアウトカムとの関連は、明らかにされていなかった。結果を踏まえて著者は、「臨床決定プロセスにおいて、合併症リスクは考慮されなければならない」とまとめている。主要アウトカム:高血圧症の寛解または新規発症 研究グループは、重症肥満(BMI値40以上、またはBMI値35以上で併存疾患1つ以上)で、肥満外科手術または生活習慣介入プログラムなどの内科的治療を受けた患者における、肥満関連の併存疾患の変化を評価した。 対象は、2005年11月~2010年7月のVestfold Hospital Trustの3次ケア外来センター受診記録(ベースラインデータ)と、2006年から死亡(または2015年12月)までのフォローアップデータがあった、重症肥満患者1,888例(連続包含患者は2,109例であったが221例は除外)。このうち肥満外科手術を受けていたのは932例(92%が胃バイパス術)、個別または集団プログラムによる生活習慣介入などの内科的治療を受けていたのは956例であった。 主要アウトカムは、ノルウェー処方データベースに基づく、高血圧症の寛解または新規発症であった。事前規定の副次アウトカムは、併存疾患(糖尿病、うつ、オピオイド使用)の変化であった。有害事象の評価は、ノルウェー患者レジストリおよび各検査室のデータベースから抽出した合併症について行った。外科手術は高血圧、糖尿病に有益だが、うつ病、オピオイド使用、再手術で高リスク 1,888例は平均年齢43.5歳(SD 12.3)、女性66%、ベースラインBMI平均値44.2(SD 6.1)で、100%が中央値6.5年(範囲:0.2~10.1)のフォローアップを完遂した。 手術群では、高血圧症の寛解が多い傾向が、また新規発症は少ない傾向が認められた。寛解に関する絶対リスク(AR)は31.9% vs.12.4%、絶対リスク差(RD)は19.5%(95%信頼区間[CI]:15.8~23.2)、相対リスク(RR)は2.1(95%CI:2.0~2.2)であった。また新規発症に関しては、AR 3.5% vs.12.2%、RD 8.7%(95%CI:6.7~10.7)、RR 0.4(95%CI:0.3~0.5)であった。 また、糖尿病寛解の尤度は、手術群のほうが大きいことが認められた。AR 57.5% vs.14.8%、RD 42.7%(95%CI:35.8~49.7)、RR 3.9(95%CI:2.8~5.4)であった。 うつ病の新規発症は、手術群でリスクが大きかった。AR 8.9% vs.6.5%、RD 2.4%(95%CI:1.3~3.5)、RR 1.5(95%CI:1.4~1.7)。 オピオイド新規使用は手術群のほうが多かった。AR 19.4% vs.15.8%、RD 3.6%(95%CI:2.3~4.9)、RR 1.3(95%CI:1.2~1.4)。 また、手術群のほうが、1回以上の消化器手術を受けるリスクが高かった。AR 31.3% vs.15.5%、RD 15.8%(95%CI:13.1~18.5)、RR 2.0(95%CI:1.7~2.4)。 フェリチン低値の患者の割合は、手術群で有意に高かった(26% vs.12%、p<0.001)。

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術後オピオイド処方と乱用の関連/BMJ

 オピオイドの乱用が世界的に急増している。手術を受けた患者の退院時のオピオイド投与の割合は、非手術例のほぼ4倍に達するが、医師による習慣的なオピオイド処方の、乱用への影響は不明だという。米国・ハーバード・メディカル・スクールのGabriel A. Brat氏らは、米国におけるオピオイドの不適正使用の大幅な増加には、術後にオピオイドを処方された患者への薬剤の補充(refill)および処方期間の延長が関連することを示し、BMJ誌2018年1月17日号で報告した。退院後の不適正使用を後ろ向きに評価 研究グループは、オピオイド未投与の手術患者において、術後のさまざまなオピオイドの処方パターンが、依存、過剰摂取、乱用に及ぼす影響を定量的に評価するレトロスペクティブなコホート研究を実施した(研究助成は受けていない)。 民間保険会社の非特定化されたデータベースを用い、2008~16年に同社の健康保険に加入していた3,765万1,619人のうち、オピオイドの投与を受けたことがない手術患者101万5,116例のデータを収集した。 主要評価項目は、国際疾病分類第9版(ICD-9)の依存、乱用、過剰摂取の診断コードで同定されたオピオイドの不適正使用とした。不適正使用は、退院後にこれらの診断コードが1回以上適用された場合と定義し、処方オピオイド関連の診断コードに限定した。退院後の経口オピオイドの使用は、処方薬の補充と総用量、および使用期間で定義した。予測因子としては、むしろ使用期間が重要 56万8,612例(56.0%)が術後にオピオイドの投与を受け、処方薬の90%が退院後3日以内に調剤されていた。不適正使用は5,906例(0.6%、183/10万人年)で同定され、このうち1,857例(0.2%)が術後1年以内に発生していた。 全体として不適正使用率は低かったが、オピオイド使用の増加とともに急速に上昇し、再処方が1回の患者の不適正使用の割合は、再処方されなかった患者のほぼ2倍であった。1回の再処方ごとに、補正済みの不適正使用のハザードは44.0%(95%信頼区間[CI]:40.8~47.2、p<0.001)上昇した。 また、オピオイドの使用期間が1週追加されるごとに、不適正使用の割合が平均34.2%(95%CI:26.4~42.6、p<0.001)上昇し、補正済みのハザードは19.9%(95%CI:18.5~21.4、p<0.001)上昇した。 不適正使用の予測因子としての強度は、使用期間と比較して処方された用量のほうが低く、使用期間が長期に及ぶ場合に限り、用量の重要度が高くなった。 著者は、「今回のデータは、術後の介入および行動変容の潜在的な手段を提示する知見として重要である」としている。

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オピオイドの適正使用推進にオキシコンチンTR発売/塩野義製薬

 塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:手代木 功)は、オキシコドン(商品名:オキシコンチン錠)の新剤形品として、乱用防止を目的とした「オキシコンチンTR錠」を2017年12月8日新発売した。 がん性疼痛治療において、オピオイド鎮痛薬は重要な役割を果たしており、近年では、地域包括ケアの進展により在宅医療の重要性も高まっていることから、オピオイド鎮痛薬の適正使用がこれまで以上に求められることが予想されている。また、米国においては2013年以降、米国食品医薬品局(FDA)が乱用防止特性を持つ薬剤の使用を推奨し、ガイダンスも出されるなどオピオイド鎮痛薬の適正使用が推進され、従来の製剤からの切り替えが進められている。オキシコンチンTR錠は錠剤の硬度を高くすることで粉末まで砕くことが困難であるとともに、水を含むとゲル化するという特性を持つ。これにより、オピオイド鎮痛薬の適正使用のさらなる推進と乱用の防止が期待されるという。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第41回

第41回:終末期を支える5つの薬剤監修:表題翻訳プロジェクト監訳チーム 終末期を過ごす形態は、大きく分けて4種類あると思います。入院医療では、一般病棟か緩和ケア病棟か。在宅医療では、自宅か施設か。緩和ケア病棟やDPC病棟は包括医療費なので、呼吸困難に対するオプソ内服や口腔内分泌に対するアトロピン点眼薬など、日本では保険外使用になっている下記に述べるような医薬品が比較的使いやすい環境です。一方、在宅の看取りに関しては、ケア提供者の経験や熱意が大きく影響します。家族にとっては初めての体験ばかりなので、現状に対する不安よりも、見えない今後に対する不安が大きいことが多いです。こうした点で、実際に身内を自宅で看取ったことのある家族は、大きな力になります。これからの時代は、政策的に施設看取りが求められている印象です。非DPC病棟や在宅医療でも、終末期医療に対する薬が「保険外使用だから」と使いにくい状況が改善されることを望みます。 以下、Am Fam Physician.3月15日号1)より終末期に関わる症状は、急性症状を治療するよりも予防するほうが容易であることが多いため、症状を予防する対策を立てるべきである。嚥下機能が低下してきたら、薬剤は舌下や皮下、直腸坐薬に切り替える。薬は少量から開始し、目的の効果が出るまで増量すべきである。適切な症状コントロールにより、終末期を安静にかつ尊厳を持って、快適に過ごすことができる。疼痛は、最期の1ヵ月頃に50%程度の人に現れる。身体的な痛みだけでなく、精神的、社会的、スピリチュアル面も考慮に入れるべきである。オピオイドは終末期の呼吸困難感や痛みを緩和に用いられる(Evidence rating B:オピオイドを呼吸困難に使用すべき)。せん妄は治療しうる病態により起こることもあり、その病態を特定して治療可能なら治療すべきである。せん妄に対しては、ハロペリドールやリスペリドンが効果的である(Evidence rating C)。嘔気・嘔吐に対しては、原因に即した薬物治療が行われるべきである。予期できる嘔気に対してはベンゾジアゼピンが効果的で、とくにオンダンセトロンは化学療法や放射線治療に伴う嘔気に対し効果的であり、消化管通過障害による嘔気にはデキサメサゾンやハロペリドールを使用すべき(Evidence rating B)であるが、オクトレオチド酢酸塩の効果は限定的である。便秘は痛みや吐き気、不安感、せん妄を引き起こすので、便秘の予防は終末期ケアのとても大切な部分であり、緩下剤を大腸刺激性下剤と併用して使うのが望ましい。熱を下げることは、患者の要望とケアの目標に基づいて行うべきである。口腔内の唾液分泌があると、呼吸する時に呼吸音が大きくなることがあり、死期喘鳴といわれる終末期によくみられる症状である。このことを事前に伝えておくと、家族や介護者の不安は軽減する。また、抗コリン薬は口腔内の分泌を緩やかにするといわれているが、質の高い研究はない。アトロピン点眼薬は、口腔気道分泌液を抑えることができる(Evidence rating C)。終末期を支える代表的な5つの薬剤を以下に挙げる。焦燥感や嘔気を抑えるハロペリドールの舌下熱を下げるアセトアミノフェンの坐薬不安を抑えるロラゼパムの舌下痛みや呼吸困難を抑えるモルヒネの舌下口腔内分泌を抑えるアトロピン点眼薬の舌下※Evidence rating B=inconsistent or limited quality patient-oriented evidence、Evidence rating C=consensus, disease-oriented evidence, usual practice, expert opinion, or case series.※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Albert RH. “End-of-Life Care: Managing Common Symptoms” Am Fam Physician. 2017 Mar 15;95:356-361.

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がん治療の末梢神経障害、皮膚障害に指針/日本がんサポーティブケア学会

 Supportive care。日本では支持療法と訳されることが多い。しかし、本来のSupportive careは、心身の異常、症状の把握、がん治療に伴う副作用の予防、診断治療、それらのシステムの確立といった広い意味であり、支持療法より、むしろ支持医療が日本語における適切な表現である。2017年10月に行われた「第2回日本がんサポーティブケア学会学術集会」のプレスカンファレンスにおいて、日本がんサポーティブケア学会(JASCC)理事長 田村和夫氏はそう述べた。『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き』発刊 JASCC神経障害部門部会長である東札幌病院 血液腫瘍科 平山泰生氏が『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き』発刊について紹介した。 がん薬物療法の進化によるがんの治療成績向上と共に、抗がん剤による副作用も対処可能なものが増えてきている。しかし、本邦における4,000例以上のがん患者の追跡調査では、化学療法終了後1ヵ月以内の神経障害の発生頻度は7割、6ヵ月以降でも3割であった。神経障害はいまだに患者を苦しめているのが現状である。 この神経障害に対する有効な薬物は明らかではない。JASCCが行った調査では、がん専門医の神経障害に対する処方は、抗けいれん薬(97%)、ビタミンB12(78%)、漢方薬(61%)、その他抗うつ薬、消炎鎮痛薬、麻薬など、さまざまな薬剤を用いており、薬剤の有効性かわからない中、医療現場の混乱を示唆する結果となった。 一方、米国では2004年にASCOによる「化学療法による末梢神経障害の予防と治療ガイドライン」が発行されている。しかし、ビタミンB12、消炎鎮痛薬などの記載がないなど日本の状況とは合致していない。そのため、本邦の現状を反映した臨床指針が望まれていた。 Mindsの作成法に準じて作られた『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き』では、この分野のエビデンスが少ないため、ガイドラインとは銘打たず"手引き"としている。同書には薬物の有効性に関するクリニカルクエスチョンも掲載されており、ビタミンB12、漢方、消炎鎮痛薬、麻薬など、日本でしか使われていないような薬剤についても記載がある。「がん薬物用法に伴う皮膚障害アトラス&マネジメント」出版を目指す JASCC皮膚障害部門部会長である国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科の山崎直也氏が「がん薬物用法に伴う皮膚障害アトラス&マネジメント」の出版について紹介した。 がん治療の外来への移行、抗がん剤開始時期の早期化、生存期間の延び、長期間にわたり社会と触れ合いながら治療を受けるがん患者が増えている。一方で、分子標的薬をはじめ、皮膚有害事象を発現する薬剤も増えている。このような社会で生きるがん患者にとって、アピアランスケアは非常に重要な問題である。 皮膚障害の治療に対するエビデンスは少なく、世界中が医療者の経験値で対応しているのが現状である。そのような中、昨年(2016年)がん患者の外見支援に関するガイドラインの構築に向けた研究班により「がん患者に対するアピアランスケアの手引き」が作成された。さらに、目で見てすぐわかる多職種の医療者に伝わるようなものをという考えから、JASCC皮膚障害部門を中心に「がん薬物用法に伴う皮膚障害アトラス&マネジメント」を作成している。 その中では、最近の分子標的薬の皮膚障害を中心に取り上げているが、治療進歩の速さを鑑み、免疫チェックポイント阻害薬についても収載。総論、発現薬剤といった基本的事項に加え、重要な重症度評価およびそれに対する診断・治療のポイントを、症状ごとに症例写真付きで具体的に説明している。年内には発売できる見込みだという。

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国民病「腰痛」とロコモの関係

 2017年9月7日、日本整形外科学会は都内において、10月8日の「骨と関節の日」を前に記者説明会「ロコモティブシンドロームと運動器疼痛」を開催した。今月(10月)には、全国各地で講演会などのさまざまな関連行事が予定されている。予防にも力を入れる整形外科 はじめに理事長のあいさつとして、山崎 正志氏(筑波大学医学医療系整形外科 教授)が、学会の概要と整形外科領域の説明を行った。 わが国において整形外科医師が関わる疾患は幅広く、関節、脊髄、骨粗鬆症、外傷など運動器疾患全般を診療の範囲としている。近年では、運動器の障害から要介護となるリスクが高まることからロコモティブシンドローム(運動器症候群、略称:ロコモ)の概念を提唱し、2010年に「ロコモチャレンジ! 推進協議会」を設立、運動器障害の予防、健康寿命の延長を期している。また、この「ロコモ」の認知度の向上にも注力し、学会では2022年までに認知度80%(2017年現在46.8%)を目標として掲げている。 山崎氏は「今回の講演では、国民の有訴率で男女ともに上位にある『腰痛』を取り上げた。運動器疾患に伴う疼痛であり、愁訴も多いので理解を深めていただきたい」とあいさつを終えた。腰痛にもトリアージが肝心 続いて、山下 敏彦氏(札幌医科大学医学部整形外科学講座 教授)が「国民病・腰痛の“原因不明”の実際とは?  痛みに関する誤解と診断・治療の最新動向」をテーマに講演を行った。 まず、ロコモの要因となる疾患と痛みの関係について触れ、主な原因疾患として変形性膝関節症(患者数2,530万人)、腰部脊柱管狭窄症(同600万人)、骨粗鬆症(同1,070万人)を挙げ、これらは関節痛、下肢痛、腰背部痛を引き起こすと説明。筋骨格系の慢性痛有病率は15.4%で、およそ1,500万人が慢性痛を有し、とくに腰、頸、肩の順に多いという1)。 こうした慢性痛による運動困難は筋力低下をもたらし、これがさらに運動困難を誘引、脊椎・関節の変性を惹起して、さらなる痛みを生む。また、痛みがうつ状態を招き、引きこもりにより脳内鎮痛を低下させて痛みの除去を困難にするといった、悪循環に陥ると指摘する。 次に痛みの中でも「腰痛」に焦点を当て、その原因を探った。従来、腰痛の原因は、その85%が不明とされていたが、近年の研究では78%の原因が特定可能で、22%は非特異的腰痛だとする2)。特定できる腰痛の原因は椎間関節性、筋・筋膜性、椎間板性の順に多く、心因性腰痛はわずか0.3%にすぎないという。そして、腰痛診断ではトリアージが大切であり、重篤な順に、がんや化膿性脊椎炎などの重篤な疾患による腰痛(危険な腰痛)、腰椎椎間板ヘルニアや椎体骨折などの神経症状を伴う腰痛(神経にさわる腰痛)、深刻な原因のない腰痛(非特異的腰痛も含む)となる。とくに危険な腰痛の兆候として「安静にしても痛みがある」、「体重減少が顕著である」、「発熱がある」の3点を示し、これに神経症状(足のしびれ・痛み、麻痺)が加われば、早急に専門病院などでの受診が必要とされる。多彩な治療で痛みに対処 運動器慢性痛の治療は、現状では完全な除痛が難しい。痛みの緩和とQOL・ADLの改善をゴールとして、薬物療法、理学療法、手術療法、生活指導、心理療法(認知行動療法)が行われている。 薬物療法では、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、アセトアミノフェン、ステロイド、プレガバリン、抗うつ薬、オピオイドが使用されるが、個々の痛みの性質に応じた薬剤の選択が必要とされる。 理学療法では、温熱療法、電気療法のほかストレッチや筋力増強訓練などの運動療法があり、運動は廃用性障害による身体機能不全の改善となるだけでなく、脳内鎮痛が働くことで痛みの緩和も期待されている。 手術療法は、機能改善や痛みの軽減を目的として変形性膝関節症の人工関節置換術などが行われているが、近年では術後の痛みの少なさ、早期離床が可能、入院期間の短縮、早い職場復帰などのメリットから最小侵襲手術(MIS)が行われている。 心理療法(認知行動療法)では、運動、作業、日記療法などが行われ、「腰痛でできないことよりも、できることを探す」ことで痛みを和らげ、患者さんが願う生活が過ごせることを目指している。 腰痛の予防では、各年代に合ったバランスのとれた食事、体操、水泳、散歩などの適度な運動、正座や中腰を避けるなどの生活様式の工夫などが必要とされる。 最後に山下氏は「慢性痛では、民間療法で済ませている人が多い。しかし、先述の危険な兆候があれば早期に医療機関、整形外科への受診をお勧めする。また、痛みで仕事、家事、学業、趣味・スポーツができない、毎日が憂鬱であれば整形外科を受診し、痛みの治療をしてもらいたい」と語りレクチャーを終えた。

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新生児薬物離脱症、オピオイド+向精神薬でリスク増/BMJ

 新生児の薬物離脱症について、オピオイドのみの子宮内曝露を受けた児に比べて、ベンゾジアゼピン系薬などの向精神薬の曝露も同時に受けた児では、リスクや重症度が増大する可能性が示唆された。なかでも、オピオイド+ガバペンチンの子宮内曝露群では、オピオイド単独曝露群に比べ、同発症リスクが約1.6倍増加した。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のKrista F. Huybrechts氏らが、2000~10年のメディケイドデータを用いた分析抽出(Medicaid Analytic eXtract:MAX)コホート内コホート試験を行った結果で、BMJ誌2017年8月2日号で発表した。妊娠中のオピオイド処方と合わせた向精神薬の使用は一般的にみられるが、安全性に関するデータは不足している。出産時前後にオピオイド服用の妊婦20万人超を追跡 研究グループはMAXコホートから、出産前後にオピオイドの処方を受けていた妊婦20万1,275例とその生産児を抽出して観察試験を行った。 抗うつ薬、非定型抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系薬、ガバペンチン、非ベンゾジアゼピン系催眠鎮静剤(Z薬)などの向精神薬が、出産時前後、オピオイドと同時期に妊婦に処方された場合と、オピオイドのみを処方された場合について、新生児薬物離脱症のリスクを比較した。新生児薬物離脱症リスク、抗精神病薬やZ薬併用では増加みられず 新生児薬物離脱症の絶対リスクは、オピオイド単独曝露群では1.0%だったのに対し、オピオイド+ガバペンチン曝露群の同リスクは11.4%だった。 オピオイド非単独曝露群において、新生児薬物離脱症の傾向スコアを補正した相対リスクは、抗うつ薬併用群が1.34(95%信頼区間[CI]:1.22~1.47)、ベンゾジアゼピン系薬併用群が1.49(同:1.35~1.63)、ガバペンチン併用群が1.61(同:1.26~2.06)、抗精神病薬併用群は1.20(同:0.95~1.51)、Z薬併用群は1.01(同:0.88~1.15)だった。 また、薬物離脱症状の程度もオピオイド単独曝露群と比べ、向精神薬同時曝露群は、より症状が重くなる傾向がみられた。

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双極性障害患者の自殺、治療パターンを分析

 カナダ・Sunnybrook Health Sciences CentreのAyal Schaffer氏らは、双極性障害(BD)患者の服薬自殺の特性を他の自殺者と比較し、評価を行った。International journal of bipolar disorders誌2017年12月号の報告。 1998~2012年までのカナダ・トロントにおける、全自殺死亡者3,319例から検死データを抽出した。人口統計、既往歴、直近のストレス要因、自殺の詳細部分について、5つのサブグループで分析した。自殺のサブグループは、BDの服薬自殺、BDの他の方法による自殺、非BDの服薬自殺、非BDの他の方法による自殺、単極性うつ病の服薬自殺とした。BDと非BDの服薬自殺の間ならびにBDと単極性うつ病の服薬自殺の間において、致死的および当時の物質使用に対する毒物学的結果を比較した。 主な結果は以下のとおり。・BD自殺死亡者における服薬自殺は、性別(女性)、過去の自殺企図、薬物乱用の併存と、有意に関連していた。・BDおよび非BDの服薬自殺両群において、オピオイドが最も共通した致死的薬物であった。・BDおよび非BDの服薬自殺両群において、ベンゾジアゼピンおよび抗うつ薬が死亡時に最も共通していた薬剤であり、BD群の23%では、気分安定薬または抗精神病薬なしで抗うつ薬が用いられていた。・BD群において、気分安定薬を用いていた患者は31%のみであり、カルバマゼピンが最も用いられていた。・抗うつ薬、気分安定薬、抗精神病薬を用いていなかった患者は、BD群の15.5%であった。・BDの服薬自殺群は、単極性うつ病の服薬自殺群と比較し、前の週に精神科またはERを受診していた割合が高かった。■関連記事双極性障害の診断遅延は避けられないのか双極性障害、リチウムは最良の選択か双極性障害に対する抗けいれん薬の使用は、自殺リスク要因か

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うつ病患者へのベンゾジアゼピン併用、リスクとベネフィットは

 ベンゾジアゼピン(BZD)は、うつ病患者に対し、より早期に抑うつ症状を改善したい場合や不安症状を軽減したい場合に短期間用いられ、抗うつ薬治療の継続を改善する。しかし、ベンゾジアゼピンは、数週間の使用でも依存性を含むリスクと関連している。米国・ノースカロライナ大学チャペルヒル校のGreta A. Bushnell氏らは、抗うつ薬とベンゾジアゼピンの併用の傾向を調査するため、抗うつ薬を服用しているうつ病成人を対象に、併用期間の評価、長期ベンゾジアゼピン使用の推定および、その決定要因の検討を行った。JAMA psychiatry誌オンライン版2017年6月7日号の報告。うつ病患者のベンゾジアゼピン併用処方には慎重な検討が必要 このコホート研究には、US commercial claims databaseを用いた。2001年1月~2014年12月に抗うつ薬療法を開始した成人うつ病患者(18~64歳)のうち、診断の前年に抗うつ薬またはベンゾジアゼピンを使用していなかった患者を対象とした。併用処方の定義は、新規抗うつ薬処方と同日に新規ベンゾジアゼピンの処方を行った場合とした。主要アウトカムは、抗うつ薬とベンゾジアゼピンの併用処方率および併用期間の6ヵ月継続率とした。 うつ病患者の抗うつ薬とベンゾジアゼピンの併用の傾向を調査した主な結果は以下のとおり。・抗うつ薬治療を開始した成人うつ病患者76万5,130例(年齢中央値:39歳、四分位範囲:29~49歳、女性:50万7,451例[66.3%])のうち、ベンゾジアゼピンの併用処方を行った患者は、8万1,020例(10.6%)であった。・2001~14年までの併用処方開始率の平均年増加率は、0.49%であった(95%CI:0.47~0.51%)。2001年の6.1%(95%CI:5.5~6.6%)から、2012年には12.5%(95%CI:12.3~12.7%)と増加したが、2014年は11.3%(95%CI:11.1~11.5%)と落ち着いていた。・同様の所見は、年齢層および医師のタイプによって明らかであった。・抗うつ薬治療期間は、併用処方患者と非併用処方患者で同様であった。・併用処方患者のうち、12.3%(95%CI:12.0~12.5%)は長期間ベンゾジアゼピンを使用していた(64.0%は初期に中止)。・長期ベンゾジアゼピン使用の決定要因は、ベンゾジアゼピン初期投与の長さ、長時間作用型ベンゾジアゼピンを初回に処方、最近のオピオイド処方であった。 著者らは「抗うつ薬治療を開始したうつ病患者では、10人に1人の割合でベンゾジアゼピン併用処方を行っていた。6ヵ月後の抗うつ薬治療に、有意な差は認められなかった。ベンゾジアゼピンに関連するリスクを考えると、抗うつ薬治療開始時のベンゾジアゼピン併用処方には、慎重な検討が必要である」としている。■関連記事ベンゾジアゼピンと認知症リスク~メタ解析うつ病患者のベンゾジアゼピン使用、ミルタザピン使用で減少:千葉大ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は

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ムーンライト【マイノリティ差別の解消には?】

今回のキーワードアイデンティティ印象形成のバイアスモラルパニック同調性べき思考ノーマライゼーション社会的インクルージョン多様化皆さんは、マイノリティ差別について考えたことはありますか? マイノリティは、医療の現場での障害者も含まれます。なぜ差別はあるのでしょうか? なぜマイノリティなのでしょうか? そして、どうすれば良いでしょうか? これらの疑問に、答えるために、今回は映画「ムーンライト」を取り上げます。この映画は、2017年のアカデミー賞作品賞の受賞作品でもあり、みなさんの中でもご存じの方が多いでしょう。主人公のシャロンは、アフリカ系アメリカ人で同性愛者。父親はいなくて、母親は薬物依存症の果てに売春をしています。貧困地区で生まれ育ち、経済的に貧しく、学校ではいじめられ、いつも独りぼっち。自尊心も自信もありません。そんな荒んだ世界で心の支えとなったのは、たまたま親代わりの存在になった麻薬ディーラーのフアンとテレサ。そして、唯一の友人でバイセクシャルのケヴィン。しかし、ケヴィンは、いじめ首謀者によって、シャロンのいじめに無理矢理に加担させられます。シャロンは、ケヴィンに裏切られたとの思いから、悲しみが怒りとなり、いじめ首謀者に仕返しの暴行をします。その後、彼は少年院を経て、フアンと同じ麻薬ディーラーになっていくのです。彼の少年期、思春期、成人期のそれぞれのエピソードを通して、ストーリー自体は大きな山場もなく進んでいきます。ハッピーエンドにも悲劇にもなりません。シャロンが彼なりに大人になる様、そしてマイノリティとして生きる現実を淡々と描いています。だからこそ、彼の一貫した悲しげな表情や切なくて純粋な思いが際立ち、見ている私たちを惹き付けていきます。それでは、これから、マイノリティの眼差し、マイノリティへのマジョリティ(社会)の眼差し、そしてマジョリティの陥りがちな心理を通して、マイノリティ差別の源やその解決策に迫っていきましょう。マイノリティであるシャロンやケヴィンの眼差しとは?シャロンは、大人になるまで、人種、ジェンダー、家庭環境、貧困など様々な葛藤を抱えています。そして、大人になり、反社会的な職業に就いています。ケヴィンも、大人になって、決して恵まれた暮らしをしていません。2人とも、マジョリティ(多数派)の生き方ではありません。そんなマイノリティの彼らにも、彼らなりの眼差しがあります。主に3つあげてみましょう。1)それでも受け入れる自分の生き方-アイデンティティ少年期、シャロンが自分の境遇に気付き、社会で受け入れられないことに葛藤します。そのことを察したフアンは、シャロンに「自分の道は自分で決めろ」「周りに決めさせるな」と告げ、人生の様々な教訓を教えます。フアンは、シャロンにとって良き理解者であり、強い男のロールモデルでした。思春期までのなよなよとした雰囲気から一転して、大人になったシャロンは、筋肉トレーニングにより屈強な肉体を持ち、ダイヤのピアスとゴールドの歯形を付けています。麻薬の取り引きでは、相手に言いがかりを付けて、威圧もしています。そんな様変わりしたシャロンの姿を10年ぶりに見たケヴィンは「予想外だよ」と言います。するとシャロンは、「どんな予想をしてたんだよ?」と言い返すのです。シャロンは生きる術を身に付け、これが自分なりの生き方だと納得しています。たとえどんなに恵まれていなくても、マイノリティであってもマジョリティであっても、それが自分の生き方だと受け入れていく心のあり方を私たちは教えられます(アイデンティティ)。2)それでも感じる幸せ-リフレーミング大人になったケヴィンは、ひょんなことから料理に目覚めて、コックになり、レストランを開きます。しかし、子どもをつくった女性とは別れ、車を買うお金もなく、生活状況は決して恵まれていません。そんなケヴィンにシャロンは「クソみたいな人生だな」と冗談を言います。しかし、ケヴィンは「その通りだな」と言い、幸せそうな表情を浮かべるのです。そして、幼い自分の子どもの写真を大切そうに見せるのです。ケヴィンは、自分の思い描いていた人生を歩んでいないですが、それでも自分の人生は幸せなものだと感じています。たとえどんな状況であっても、マイノリティであってもマジョリティであっても、その状況の何かに幸せを見いだす心のあり方を私たちは教えられます(リフレーミング)。3)それでも大切にし続ける何か-コミットメントケヴィンは、自分のレストランに訪ねてきてくれたシャロンのために、料理を丁寧につくります。そのことに喜びを感じています。その後に、ケヴィンのアパートで2人きりになったシャロンは「あの夜のことを今でもずっと覚えている」と告げます。それは、高校生だった2人が、ある夜、海辺で寄り添いキスをして、ケヴィンがシャロンに手淫をしたことでした。そして、シャロンは、「今までおれに触れた相手は1人しかいない」と打ち明けるのです。すると、ケヴィンはシャロンを優しく抱きしめます。かつてシャロンは、ケヴィンに裏切られた思いから、全てを忘れようと変わっていきました。しかし、ケヴィンとのその思い出は決して忘れられずに、ずっと一途に秘めたままにしていたのでした。それが、彼の心の支えでした。10年経っても、シャロンにとって、ケヴィンは大切な親友であり恋人のままだったのです。シャロンの見かけは変わりましたが、彼の思いや本質は変わっていなかったのです。たとえ大きなことではなくても、マイノリティであってもマジョリティであっても、何かを大切にし続ける心のあり方を私たちは教えられます(コミットメント)。マイノリティへのマジョリティの眼差しとは?シャロンの同級生たちは、シャロンがゲイであることや母親が売春をしていることで、いじめます。シャロンはマイノリティであっても彼なりの眼差しを持っている一方、マイノリティへのマジョリティ(社会)の眼差しは、残念ながら、否定的なものになりがちです。それが極端な場合は、差別に発展します。実際に、ある心理実験では、人の印象において、相手がマイノリティであるというだけでその相手への評価が否定的になるという結果が得られています(印象形成のバイアス)。「寄らば大樹の陰」ということわざは、これを分かりやすく言い表しています。それでは、そもそもなぜでしょうか?その答えを進化心理学的に考えることができます。原始の時代に、体と同じように、私たちの心(脳)も進化しました。当時に生存の確率を高めたのは、猛獣や飢餓の脅威から身を守るために、ヒトは協力し合って、1つの集団になることです。そのために、周り(集団)に調子を合わせ、マジョリティの考え(集団規範)に従う心理が進化しました(同調性)。さらには、そうしないメンバーはつながりを脅かす脅威となるため排除する心理も進化しました(排他性)。そうして生き残った種の子孫が、現在の私たちなのです。しかし、私たちが生きる現代の文明社会では、原始の時代のように同調性や排他性の心理を発揮しなくても、法や科学によって生存が守られるようになりました。しかし、この原始の時代の心理は残ったままなのでした。よって、この名残の心理によって、私たちは無意識のうちにマイノリティ差別に陥るおそれがあると言えるでしょう。ここで誤解がないようにしたいのは、同調性や排他性の心理が、進化の産物だからと言って、差別が肯定されるわけでは全くないです。例えば、私たちが甘いものをつい口にしてしまうのは原始の時代に生存のために進化した嗜好です。だからと言って、飽食の現代に甘いものを食べ過ぎて糖尿病になることを私たちは決して良しとはしないでしょう。ここで強調したいのは、原始の社会から環境が大きく変わってしまった現代の文明社会において、甘いものへの嗜好を知ることで糖尿病にならないようにするのと同じように、同調性や排他性の心理をよく知ることでマイノリティ差別に陥らないようにすることができるのではないかということです。 マジョリティの心理の危うさとは?同調性や排他性の心理をよく知るために、ここから、マジョリティの心理の危うさを掘り下げてみましょう。マジョリティとは、多数派、つまり社会そのものです。分かりやすく言うと、普通の人です。つまり、普通の人が普通であるために陥りがちなマジョリティの心理を主に3つあげてみましょう。1)体裁や世間体を気にしすぎる-他者配慮1つ目は、体裁や世間体を気にしすぎることです(他者配慮)。普通の人ほど、普通であるために、親や会社などの周りの目を気にして、普通の人が望む生き方に沿っていこうとします。例えば、それは、男性も女性も適齢期に結婚し、子どもをもうけること。父親となった男性は社会的地位や経済力が安定していること。母親となった女性は、家事や育児をきっちりこなし、美しいままであること。子どもは2人いて、有名私立の学校に通っていることです。まさに絵に描いたように全てが恵まれた理想の家族の風景です。しかし、果たしてそれは、自分が本当に望んでいる生き方でしょうか? そうなら良いのです。しかし、そうではないとしたら? 実は男性は、給料が少なくても自分のやりたい仕事をしたいとしたら? 女性はもっとばりばり仕事をしたいとしたら? 子どもには気の合う友達が多くて家に近い公立に行かせたいとしたら?つまり、マジョリティ(社会)がうらやましいとされる価値観に囚われて、世間体や体裁ばかりを気にして、中身がない状況です。そうなると、「自分はこうだ」「これが自分の生き方だ」というアイデンティティが一貫しなくなり、最終的に自分の生き方に満足や納得ができなくなるおそれがあります。2)比べてばかりで不安-比較癖2つ目は、周りと比べてばかりで不安になってしまうことです(比較癖)。普通の人ほど、普通であるために、自分が周りから「望ましい生き方」をしていると思われたいとの思いが強いです。例えば、それは、学校、職場、隣近所でちやほやされたり、うらやましがられることです。しかし、現実的には、自分だけでなく相手もそう思われたいとの思いがあります。よって、自分が相手よりも優位に立とうとお互いが「望ましい生き方」をしていると自慢し合うことになります。さらに、相手を自分よりも優位に立たせないために、相手の生き方を肯定しにくくなります。これは、他人の人生を肯定してしまうと、自分の人生を否定してしまう気分になるからです。こうして、水面下では勝ち負けの競争になっていきます。いわゆる「マウンティング」です。「勝ち組」「負け組」という表現はそれを端的に表しています。また、普通でありたいと思うことは、裏を返せば、普通ではなくなることに過剰に不安を感じやすくなることでもあります。例えば、もし父親がリストラされたら? 母親が姑と揉めたら? 子どもが不登校になったら? このように、現実的には、普通ではない状況になることはいくらでも起こりえます。それに耐えられなくなります。さらに、どんなに優位であっても、「上には上がいる」と思えば、気持ちは満たされなくなります。結果的に、「自分の人生はいつまでも満たされない」という否定的な決め付けをしてしまいがちになります(認知行動療法のスキーマ、交流分析の脚本)。このように、周りの目を絶対化して、いつも相手と比べて一喜一憂してしまい、疲れ果ててしまうのです。自分が幸せであると感じることよりも、周りから自分が幸せそうに見えていることの方が大事になってしまいます。そして、そのために誰かが不幸せであることをつい喜んでしまいます。これは、裏を返せば、先ほど触れたアイデンティティという絶対的な自分の生き方という眼差しを持っていないからでもあります。そもそも自分の生き方に納得していれば、そこに幸せを感じるので、周りの評価や周りの不幸せは必ずしも重要ではなくなるでしょう。3)こうあるべきと不寛容-べき思考3つ目は、自分も周りもこうあるべきとの思いが強くなることです(べき思考)。普通の人ほど、自分だけでなく自分の属する集団の他の人たちも「望ましい生き方」をしてほしい、するべきだとの思いが強くなります。例えば、それは家族から始まり、親戚、地域、そして国へと広がります。逆に、「望ましい生き方」をしていない人には、自分たちの集団のつながり(集団規範)が脅かされると感じやすくなります(モラルパニック)。これは先ほどに触れた同調性と排他性の心理です。しかし、現実的には、マイノリティがいます。マイノリティは、普通の人(マジョリティ)が考える「望ましい生き方」をしているわけではないです。ここに、差別の源があるのです。普通の人が、陥りがちな発想は、「差別は普通ではないことである」「差別する人は普通の人ではない」「私は普通の人だから差別をするはずがない」です。しかし、皮肉にも、「普通」の生き方をするべきと思う人(マジョリティ)ほど、「普通」とされる生き方をしない人(マイノリティ)に寛容ではなくなり、差別の意識が起きやすくなってしまうというわけです。この、べき思考が強すぎれば、相手の言い分に聞く耳を持たず、折り合いが見いだせなくなり、結果的に自分の言い分も相手に分かってもらえずに、相互理解が難しくなります。例えば、それがナショナリズムやヘイトスピーチです。そもそも自分の大切にしているものがはっきりしていて自分の生き方に自信を持っているのであれば、相手の大切にしているものも理解して相手の生き方も大切にできるでしょう。そして、生き方や幸せの形は、人それぞれと思えるでしょう。これまでのマイノリティ差別の解消への取り組みは?これまでの障害者をはじめとするマイノリティ差別の解消のために、バリアフリーやユニバーサルデザインなどのインフラの整備や経済的支援の整備がすでに進められてきました。これらは、マイノリティが、マジョリティと同じく普通の生活ができるようにするハード面の取り組みです(ノーマライゼーション)。ここで誤解がないようにしたいのは、ノーマライゼーションとは、マイノリティが、ノーマルな生活(マジョリティの普通の生活)を送れるようにするという意味であり、ノーマルな人にするという意味ではないです。そして、学校教育での合理的配慮や障害者枠による就労などの制度の整備やLGBT(性的少数者)の婚姻などの法の整備も進められようとしています。これらは、マイノリティが、マジョリティの教育や就労の制度に含まれて社会参加の機会を均等に得ることができるようにするソフト面の取り組みです(社会的インクルージョン)。このノーマライゼーションと社会的インクルージョンは、マイノリティ差別の解消への大きな前進です。ただ、これらだけでは限界があります。なぜなら、いくらマイノリティへのハード面やソフト面の取り組みがなされたとしても、先ほど紹介したマイノリティ差別の根っこであるマジョリティの心理の危うさがあるからです。それでは、どうすれば良いでしょうか? これからのマイノリティ差別の解消への私たちの心のあり方は?先ほどマイノリティ差別をしがちなマジョリティの心理として、体裁や世間体を気にしすぎる、比べてばかりで不安がる、こうあるべきと不寛容になりやすいという3つをあげました。ここから気付くマイノリティ差別の解消のための私たちの心のあり方があります。それは、逆に体裁を気にしすぎない、比べてばかりにならない、こうあるべきとならないことです。そして、そのために必要な心のあり方は、最初に紹介したシャロンやケヴィンの眼差しにあります。それは、マイノリティであってもマジョリティであっても、自分が納得した生き方をしていること、その生き方自体にすでに幸せを感じていること、そしてその生き方のために大切にし続ける何かがあることです。これらを踏まえると、ノーマライゼーション、社会的インクルージョンからさらに一歩進んだ発想が見えてきます。それは、社会の多様化だけでなく、個人の多様化です。例えば、私たちは、人生の中で様々な選択肢があり、自分なりの生き方ができます。決断によって人生を変えていくこともできます。一方で、私たちは生き続ければ間違いなくいずれ高齢者になります。たいてい認知症も発症します。精神疾患が5大疾病に入れられたように、ストレス社会でうつ病などの精神疾患にもなりやすくなっています。妊娠中や出産後は心身ともに困難が増えます。病気や事故ですぐに体が不自由になる可能性もあります。つまり、マジョリティがマジョリティであり続けるわけでは必ずしもないということに気付くことです。それは、マジョリティのマイノリティ化です。すると、もはや自分がマジョリティに入っているかどうかは重要ではなく、そもそもマジョリティかマイノリティかの区別も重要ではなくなるでしょう。これまでは、「インクルージョン(包摂)」という言葉が示すようにマイノリティをマジョリティ側に「入れてあげる」という発想でした。これからは、マジョリティがマイノリティ側に「広がっていく」という発想を持つことが重要ではないでしょうか? これが、差別の解消への私たちの心のあり方の最終的な答えです。月明かりのもとで輝くものは?少年期のシャロンは、フアンから「月明かり(ムーンライト)に照らされて、黒い肌が青く見えるんだ」と教えられます。これは、人生の様々な選択肢や岐路という「月明かり」によって、私たち自身が様々な「色」に輝くことができるという映画のメッセージでもあるように思われます。私たちがそれぞれに違った「色」であるために、マジョリティやマイノリティの区別なく、それぞれが一生懸命に生きることを受け止める社会であってほしいという願いでもあるでしょう。マイノリティというあえて目立たない部分に光りを当てたことに、この映画の醍醐味があります。そして、この映画が2017年にアカデミー賞作品賞に選ばれたことに、現代的な意味があると言えるでしょう。1)曽和信一:ノーマライゼーションと社会的・教育的インクルージョン、阿吽社、20102)本間美智子:集団行動の心理学、サイエンス社、2011年

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慢性疼痛患者に対する医療用大麻、オピオイドとの比較

 慢性疼痛患者では、抑うつや不安を高率に合併している。オピオイド(OP)の処方は、疼痛の薬理学的治療において一般的な方法の1つであるが、米国および世界のいくつかの国において、疼痛管理のための医療用大麻(medical marijuana:MM)が増加している。イスラエル・アリエル大学のDaniel Feingold氏らは、OPおよびMMを処方された疼痛患者の、抑うつおよび不安レベルの比較を行った。Journal of affective disorders誌オンライン版2017年4月21日号の報告。 対象は、OP処方慢性疼痛患者(OP群)474例、MM処方慢性疼痛患者(MM群)329例、OPとMMの両方を処方された慢性疼痛患者(OPMM群)77例。抑うつおよび不安は、こころとからだの質問票(PHQ-9)および全般性不安障害尺度(GAD-7)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・抑うつの有症率は、OP群57.1%、MM群22.3%、OPMM群51.4%であった。・不安の有症率は、OP群48.4%、MM群21.5%、OPMM群38.7%であった。・交絡因子で調整した後、OP群はMM群と比較し、抑うつ(調整オッズ比:6.18、95%CI:4.12~9.338)および不安(調整オッズ比:4.12、95%CI:3.84~5.71)が陽性になる可能性が有意に高かった。・また、OPMM群はMM群と比較し、抑うつの傾向がよりみられた(調整オッズ比:3.34、95%CI:1.52~7.34)。 著者らは「本検討は、横断的研究であり、因果関係を推論することはできない」としたうえで、「MM群と比較しOP群では、抑うつおよび不安レベルが高いことから、とくに抑うつや不安リスクのある慢性疼痛患者に対する最適な治療法を決定する際には、本所見を考慮する必要がある」としている。関連医療ニュース とくにうつ病患者は要注意?慢性疼痛時のオピオイド使用 検証!「痛み」と「うつ」関係は?:山口大学 たった2つの質問で、うつ病スクリーニングが可能

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オピオイド依存、代替維持療法で全死亡リスク減/BMJ

 オピオイド依存症患者に対する、メサドン(商品名:メサペイン)やブプレノルフィン(商品名:レペタン)を用いた代替維持療法は、全死因死亡および過剰摂取死亡のリスクを大きく低下させる。スペイン・国立疫学センターのLuis Sordo氏らが、コホート研究を対象にしたシステマティックレビューとメタ解析により明らかにした。検討では、メサドンの治療導入期と治療中止直後は、死亡リスクが高いことも明らかにされた。著者は、「こうしたリスクを減らすためには、公衆衛生と臨床戦略の両輪で対処する必要がある」と述べたうえで、「今回の所見は重要であると思われるが、さらなる検討で、死亡リスクとオピオイド代替療法の比較ならびにそれぞれの治療期との比較における潜在的交絡や選択的バイアスを明瞭にすることが求められる」とまとめている。BMJ誌2017年4月26日号で発表された。19コホートを包含したメタ解析で検討 検討は、2016年9月時点でMedline、Embase、PsycINFO、LILACSを検索して行われた。適格とした試験は、オピオイド依存症患者が参加する前向きまたは後ろ向きコホート試験で、メサドンもしくはブプレノルフィンを用いたオピオイド代替療法の開始・中止後の追跡調査期間中の全死因死亡または過剰摂取死亡について報告していた試験とした。 2人のレビュワーがそれぞれデータを抽出し、試験の質を評価。治療中・治療中止後の死亡率は、メサドン群とブプレノルフィン群を統合して算出し、多変量ランダム効果メタ解析にて評価した。 結果、解析には適格基準を満たした19コホートが包含された。メサドン治療群は12万2,885例(治療期間1.3~13.9年)、ブプレノルフィン治療群は1万5,831例(1.1~4.5年)であった。死亡リスクは代替療法で低下するが、メサドン開始4週間は高い プール全死因死亡率は、メサドン治療中・中止後(解析包含コホート16件)よりも、ブプレノルフィン治療中・中止後(同3件)のほうが低かった。 同死亡率は1,000人年当たり、メサドン治療中11.3、同中止後36.1(補正前中止後/治療中の発生率比:3.20、95%信頼区間[CI]:2.65~3.86)、ブプレノルフィン治療中4.3、同中止後9.5(2.20、1.34~3.61)であった。 一方プール傾向分析で、メサドン治療中の全死因死亡率は、開始当初4週間で激減すること、治療中止後2週間以降は漸減することが示された。ブプレノルフィン治療に関しては、治療中・中止後ともに増減は示されなかった。 過剰摂取死亡率についても同様の傾向がみられた(解析包含コホート:メサドン11件、ブプレノルフィン1件)。1,000人年当たりの死亡発生は、メサドン治療中2.6、中止後12.7(補正前中止後/治療中の発生率比:4.80、95%CI:2.90~7.96)、ブプレノルフィン治療中1.4、中止後4.6であった。

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オピオイドとベンゾジアゼピンの併用はリスクか?/BMJ

 米国・スタンフォード大学のEric C Sun氏らは、民間医療保険の支払いデータから、オピオイドとベンゾジアゼピン系薬の併用使用の傾向、および併用使用とオピオイド過剰摂取との関連を調べるレトロスペクティブな分析を行った。その結果、2001~13年の間に両薬の併用は1.8倍に急増しており、併用がオピオイド過剰摂取の全リスクに有意に関与していることが明らかになったと報告した。多くの国で、処方オピオイドの使用増大と、その結果としてオピオイド中毒や過剰摂取が起きている可能性が公衆衛生上の懸念として増している。米国では、オピオイドの致死的過剰摂取の30%でベンゾジアゼピン系薬の併用が認められており、同併用の増大がオピオイド関連死の増大を招いているのではないかと懸念されている。しかし、これまでに行われたオピオイドとベンゾジアゼピン系薬の併用に関する試験は退役軍人を対象としたもので、一般集団である民間保険加入者の使用傾向や影響については明らかにされていなかったという。BMJ誌2017年3月14日号掲載の報告。2001~13年の民間保険加入者の使用傾向とリスクを分析 検討は、民間保険加入者の医療サービス利用データを収集・提供するデータベースMarketscanから医療費支払いデータを入手して行った。同データベースは、保険加入者600万人分から始まり、今日では3,500万人分のデータが収集されている。同データベースの包含集団は、女性が多く、米国南部の住民が多く西部の住民が少ないという特色を有している。研究グループは、2001年1月1日~2013年12月31日の医療費支払いデータを入手して、レトロスペクティブに分析した。 対象期間中に、医療サービスと処方薬についてカバーされる保険プランに継続加入しており、1回以上オピオイドの処方記録のあった18~64歳の31万5,428例について、ベンゾジアゼピン系薬とオピオイドの併用(それぞれの薬物の処方の重複が1日以上ある場合と定義)を特定。併用者の年間割合を算出し、救急救命室(ER)の年間受診率とオピオイド過剰摂取による入院患者の年間割合について評価した。併用者のER受診・過剰摂取の入院リスク発生はオピオイド単独使用者の2.14倍 オピオイド使用者でベンゾジアゼピン系薬を併用していたのは、2001年は9%であったが、2013年には17%に増大していた(80%増)。この増大の主因は、オピオイドの間欠的使用者における併用の増大(7%→13%)によるものだった。対照的にオピオイド常用者の併用率は、2001年でも46%と高値ではあったが、増加することなく推移していた。 オピオイドのみ使用者と比較して、併用者はER受診やオピオイド過剰摂取による入院のリスクが有意に高かった(補正後オッズ比:2.14、95%信頼区間[CI]:2.05~2.24、p<0.001)。また、同リスクについて、オピオイドの間欠的使用者の補正後オッズ比は1.42(1.33~1.51、p<0.001)、常用者は1.81(1.67~1.96、p<0.001)であった。 この関連について因果関係があるものとして試算すると、オピオイドとベンゾジアゼピン系薬の併用を解消することで、オピオイド使用に関連したER受診およびオピオイド過剰摂取による入院のリスクは、15%(95%CI:14~16%)減少可能であると示された。

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「カイジ」と「アカギ」(後編)【ギャンブル依存症とギャンブル脳】

今回のキーワードカジノを含む統合型リゾート(IR)行動経済学システム化報酬予測ニアミス効果損失回避欲求自助グループ(GA)なぜギャンブルは「ある」の? -ギャンブル脳ギャンブルをするのは男性が多いという理由について、因果関係、上下関係、契約関係を重視するという男性ならではのシステム化の心理があることが分かりました。それでは、そもそもなぜギャンブルは「ある」のでしょうか?その答えは、原始の時代に生きるか死ぬかの「ギャンブル」をして生き抜く遺伝子が現代の私たち(特に男性)に引き継がれているからです。これは、ギャンブル脳と呼ばれています。そして、これによって日常生活に支障を来している場合が、ギャンブル依存症と言えます。また、ギャンブル脳を含め人の心理行動と経済活動の関係を研究するのが、行動経済学です。ここから、このギャンブル脳を、3つの要素に分けて、その進化心理学的な起源を探ります。そして、その行動経済学的な応用を紹介しましょう。(1)「想像するだけでワクワクする」a. 報酬予測1つ目は、「想像するだけでワクワクする」という報酬予測(動機付けサリエンス)です。これが、心を奪われるという心理につながっていきます(渇望)。例えば、「勝った時の興奮が忘れられない」「あのスリルをもう一度味わいたい」「ルーレットが回っている瞬間が最も興奮する」という気持ちです。これは、ギャンブルに限らず、例えば「旅行は計画している時が一番楽しい」「遠足の前日は眠れない」など、初めてで不確定ですが、楽しいことが予測される非日常の直前の心理が当てはまるでしょう。この報酬予測の心理を引き出すには、すでにその快感(報酬)の体験をしていることが前提です。この点で、パチンコや競馬などと違い、宝くじにおいては、基本的に勝ちの快感の体験を味わうことはできません。よって、その代わりに、宝くじの当選額を億単位まで増額し射幸心を煽った上で、当選の疑似体験をCMで植え付けることが盛んに行われます。実際に、サルによる動物実験でも実証されていますが、確実な報酬よりも、不確実な報酬の「待ち時間」に、最も脳内で快楽物質(ドパミン)が放出されていることが分かっています。そして、この不確実で大きな報酬の繰り返しによって、「待ち時間」の快楽物質(ドパミン)の放出がより早く、より多くなっていきます。逆に言えば、「待ち時間」のあとの実際の快感(報酬)は、「待ち時間」の最中の快感(報酬)よりも相対的に目減りしていきます。簡単に言えば、実際に勝った喜びの快感が麻痺していき、「もっともっと」という心理が強まっていきます(耐性)。さらに、この相対的な快感の目減りにより、日常生活で他の喜びも麻痺していきます。ちなみに、パーキンソン病の患者が治療薬であるドパミン刺激薬を内服すると、8%がギャンブル依存症になることがアメリカでは報告されています。また、ドパミン部分作動薬のアリピプラゾールによってギャンブル行動が悪化したケースも報告されています。同じように、注意欠如・多動性障害(ADHD)の治療薬である精神刺激薬のメチルフェニデートも、ギャンブル行動の悪化が懸念されます。そもそも、ADHDの特徴である衝動性は、ギャンブル障害のリスク因子でもあります。b. 強めるのはこの報酬予測をより強めるには、自分がギャンブルの過程にかかわることです(直接介入効果)。例えば、スロットマシンで、3つ数字が揃うのを何もせずにじっと待っているよりも、スロットのスタートとストップのタイミングを決められるようにした方が、よりのめり込んでしまいます。また、パチンコの出玉率は、台ごとに1段階から6段階までの設定が可能で、「勝ちやすい台」「負けが込む台」という偶発性がわざと演出されています。台選びによって少しでも勝敗を左右させる余地があると、まるであたかも自分の運命を自分で選んでいる感覚になるからです。競馬予想で言えば、馬や騎手の過去の成績や現在の状態の下調べを入念にすればするほど、予想への思い入れが強くなり、期待感が増していく心理が当てはまります。よって、勝負の結果にそのまま関与できる賭け麻雀、賭けポーカー、賭けゴルフなどは、より依存性が強いギャンブルであり、ほとんど全ての国で禁止されています。c. 進化心理学的な起源原始の時代、生きるか死ぬかの最中、獲物が罠にかかる直前、獲物を仕留めようとする直前に、より興奮する種がより生き残ったのでしょう。なぜなら、その「待ち時間」に仕留めた時の喜びをすでに噛みしめていた方が、より粘るからです。農耕牧畜の安定した文明社会では、そのような生きるか死ぬかの状況はなくなりました。しかし、その興奮を求める心理は残ったままなのでした。まさに「ハンターの血」が騒ぐとも言うべき狩猟本能です。原始時代の狩猟採集社会では、獲物はとても希少で限られていました。ところが、現代のギャンブル産業では、あたかも無限の「獲物」があるかのように演出できるようになりました。そんな中、「ハンター」の心理が過剰になり、制御ができなくなった状態が、ギャンブル障害です。d. 行動経済学的な応用この報酬予測の心理は、ギャンブル産業だけでなく、ビジネスの様々な場面で応用されています。例えば、それはあえて行列をつくり並ばせることです。飲食店に「行列のできる~」という触れ込みで駆け付ける人は、待っている間に、すでに想像してその味を噛みしめて、期待感を高めています。遊園地のアトラクションで並ぶ人は、その待ち時間が長ければ長いほど、その価値があると思い込んでいきます。高級デパートの買い物を楽しむ人は、あえて少ない支払い担当の店員がいる売り場で待たされてじらされたり、あえて支払いの手続きが多かったりすると、お買い上げの瞬間のテンションを上げていきます。ちなみに、このテンションの欲求が病みつきになったのが、オニオマニア(買い物依存症)です。また、部下とのコミュニケーションの場面などで、褒めるべき時に、毎回正確に褒めるよりも、何回かに1回はあえて褒めない方が、逆に褒められたい気持ちを煽ることができます。ただし、これを連発すると、気分屋に思われて、信頼関係がうまく築けなくなる危険性があります。また、これを依存的で自尊心の低い人に悪用すると、マインドコントロールに陥る危険性があります。動機付け(報酬予測)を高める直接介入効果としては、あえて選ばせる、あえて言わせることです。例えば、プレゼンテーションをする時に、選択式のクイズを設けたり、参加者にどんどん質問したり、どんどん意見を言わせたり、グループワークを取り入れて発表してもらったりするなどの参加型にした方が、より満足度(報酬)が高くなります。禁煙外来やアルコール依存症外来でも、説教や非難によって患者を受け身にさせるよりも、本人に禁煙や断酒のメリット(報酬)を考えてもらい、本人からその決意を引き出すかかわり方が効果的であることが分かります。(2)「あと少しだったのに」a. ニアミス効果2つ目は、「あと少しだったのに」というニアミス効果です。これが、「惜しい」「次こそは」「もう1回」という心理につながっていきます。実際に、ケンブリッジ大学の心理実験では、スロットマシンの「当たり」の時と同じように、「僅差のハズレ」の時も脳の報酬系の活動が高くなることが実証されています。ご褒美は、少なすぎる状況では、もちろん快感は得られにくく、やめてしまいます。逆に、多すぎる状況では、快感が鈍って飽きてきます。つまり、時々の少し足りない状況で、「もっと」という興奮が高まり、熱中するというわけです。これは、すでにパチスロ業界では応用されているようです。例えば、「7-7-7」のように同じ数字が3つ揃えば大当たりですが、あえて「7-7-6」「7-7-8」が出る頻度を30%程度に設定すると、客をその台に引き留めやすくなると言われています。当たり率は、不正がないように機器の1つ1つが厳密に審査されていますが、ハズレの数字の何が出るかの操作をするのはグレーゾーンのようです。確率論的に考えると、僅差の数字の揃いであっても、バラバラの数字の揃いであっても、ハズレはハズレであり、次に当たりが出る確率が上がることは全くないです。宝くじでも、分かりやすく応用されています。それが前後賞です。これは良心的です。ただ、例えば「6億円が出やすい土曜日」「この店で6億円の当たりが出ました」とまことしやかに宣伝されるのはどうでしょうか?「じゃあ、この曜日のこの店ならもしかして・・・」とつい思ってしまうでしょうか? これは、事実には違いないでしょうが、よくよく考えると、実はとても滑稽な宣伝文句です。なぜなら、単純な確率論なので、その事実に基づいて宝くじを買った人の当たる確率が上がることは全くないからです。そして、逆に確率が上がるとしたら、公営ギャンブルで不正が働いているわけで大問題になってしまうからです。b. 強めるのはこのニアミス効果をより強めるには、ギャンブルを何度もやりやすい状況をつくることです。例えば、カジノでは、アルコールは無料で、窓がなく昼か夜か分からず、音響効果も加わり、陶酔空間を演出させています。また、ラスベガスやマカオでは、カジノ直結の高級ホテルを格安にして、レストラン、バー、プール、エステ、劇場、遊園地、ショッピングモールなどありとあらゆる施設を気軽に利用できるようにして、お祭り気分を味わわせます。さらには、上客にはカジノまでの往復の航空チケットを無料にすることもあります。これらは、「コンプ」(complimentary)と呼ばれています。直訳すると「褒め言葉」となりますが、まさに、このようなおもてなしで気持ち良くなってもらって、カジノでたくさんお金を落としてもらうのです。そして、カジノの売り上げによって、他の不採算の施設費をカバーします。これが、カジノを含む統合型リゾート(IR)というビジネスモデルのからくりです。c. 進化心理学的な起源原始の時代、獲物を惜しくも捕り損なった時、その直後にもう一踏ん張りして、その瞬間に全てを賭ける種が生き残ったでしょう。なぜなら、獲物も追われ続けて疲れているので、次に仕留められる確率が上がるからです。しかし、現代に行われるギャンブルでは、「獲物」を仕留める確率は、当然のことながら一定です。パチンコやスロットもコンピュータで正確に制御されており、毎回完全にリセットされます。そして、この心理が発揮されることを逆手に取って、あたかもあと少しで「獲物」が仕留められるかのように演出できるようになりました。そんな中、「ハンター」の心理が過剰になり、制御できなくなった状態が、ギャンブル障害です。d. 行動経済学的な応用このニアミス効果や「コンプ」(おもてなし効果)は、ギャンブル産業だけでなく、コミュニケーションの場面でも応用できます。例えば、部下を叱る時に、「仕事ができていない」「きみはだめだ」と言うよりも、「あともうちょっとで完璧な仕事ができたのに」「きみは惜しい」と言う方が、仕事への意欲を引き出せます。逆に、褒める時に、「完璧な仕事ができた」「きみはすごい」と言うよりも、「良い仕事をした」「だけどここがクリアできたら完璧だった」と言う方が、仕事への意欲を維持させます。つまり、赤点で全く褒めないのではなく、満点で全く叱らないのでもなく、どちらにしても90点程度の「惜しい」という評価をすることが有効であるというわけです。また、女性が男性からデートのお誘いを受ける時に、快諾するよりも、思わせぶりにしつつもなかなかOKを出さない方が、男性のテンションを上げ、女性への好意を増すでしょう。これは、男性が「女性を口説き落とすことに喜びを感じる」という心理も納得がいきます。さらに、「コンプ」の発想を理解すれば、どんな相手とも日々気持ち良くさせる声かけをして気に入ってもらえている方が、コミュニケーションがスムーズになると分かるでしょう。(3)「損を取り返したい」a. 損失回避欲求3つ目は、「損を取り返したい」という損失回避欲求です。前回紹介したカイジの仲間の坂崎のように、「負けた分を取り返す」ためにさらにギャンブルに深追いする心理です(負け追い行動)。もともと人間の脳は利得よりも損失に大きな反応を示し、その反応の大きさ(価値)は金額に正比例せずに緩やかに頭打ちになっていくことが分かっています(グラフ1、プロスペクト理論)。つまり、得するより損することに敏感で、さらなる大損よりも現在の損に囚われてしまいやすいということです。b. 強めるのはこの損失回避欲求をより強めるには、時間の経過によって先々の利得の価値が下がって、目先の報酬の価値が上回ることです(遅延報酬割引)。例えば、真面目にこつこつ働いて借金を返して、将来に確実にすっきりするよりも、不確実なギャンブルに賭けて手っ取り早く借金をチャラにして今すっきりしたいという心理です。そう思うのは、ギャンブルの繰り返しによる脳への影響として、理性的な報酬回路(前頭葉)よりも、衝動的な報酬回路(扁桃体)の働きが優位になってしまうからです。先ほどの報酬予測の説明でも触れましたが、ギャンブルの繰り返しによって、報酬が得られるかもしれない「待ち時間」への快感が鋭くなり、逆に、実際のその報酬や日常生活での他の報酬への快感は鈍くなります。さらには、最近の脳画像研究では、報酬だけでなく、罰にも鈍くなることが分かっています。よって、この快感への鈍さを代償するためにますますやり続け、ますます高額の賭け金を出すと同時に、負け(罰)をますます顧みなくなります。つまり、ギャンブルによる先々の大きな損には目が向きにくくなり、目先の損得にばかり目が行き、「一発逆転」や「一か八か」という心理で、より短絡的になっていくのです。c. 進化心理学的な起源原始の時代は、いつもその日暮らしです。「今ここで」という状況でぎりぎりで生きていました。このような極限状況の中、得るよりも失うことに敏感な種が生き残るでしょう。なぜなら、たくさん食料を得ても、冷蔵庫がないので、保存はできずに腐らせてしまうだけだからです。逆に、少しでも奪われたり腐らせたりして食料を失えば、その直後に自分や家族の飢餓の苦しみや死が待っています。借金のようにどこかから借りてくることはできません。つまり、食料をたくさん得れば得るほど、正比例して幸せというわけではないでしょう。逆に、食料を失えば失うほど、正比例して不幸せ(恐怖)というわけでもないでしょう。そもそも食料はたくさんあるわけではないので、失った食料が多かろうと少なかろうと飢餓の苦しみや死には変わりがないからです。こうした種の生き残りが現在の私たちです。よって、現代の「食料」であるお金の価値は、正比例せずに緩やかに頭打ちになるというわけです。実際に、収入と満足度の関係性がそうです。しかし、現代の文明社会では、ギャンブルで負ければ、限りなく「食料」を失うことができます。しかし、その損失に正比例して苦痛を感じるわけではありません。借金をして一時しのぎをすることもできます。つまり、現代の「食料」を量産できる貨幣と借金の制度による文明社会で、「ハンター」が、損を取り返そうとし続けた結果が、ギャンブル障害です。d. 行動経済学的な応用この損失回避欲求の心理は、ギャンブルだけでなく、ビジネスの様々なところで応用されています。例えば、宣伝文句では、「買ったらお得」よりも「買わなきゃ損」の方がインパクトがあります。人は、「得しますよ」と言われるより「損しますよ」と言われる方が耳を傾けます。本日限定のオマケを付けるという商法は、オマケを付けるという点では得ですが、明日に買えばオマケが付かないという点で損であり、とても有効です。子どものしつけや教育にしても健康検診にしても、「放っておくと取り返しのつかないことになります」と言われると、半分脅しのようにも聞こえるくらい効果があります。さらに、依存症の治療でも応用できそうです。例えば、禁煙促進の研究報告では、禁煙が継続できたら単純に報酬をあげるよりも、失敗したら罰金を課す方式を追加したところ、禁煙成功率が有意にあがったということです。ギャンブル依存症にはどうすれば良いの?これまで、ギャンブルの起源を、進化心理学的に解き明かしてきました。それでは、ギャンブル依存症にはどうすれば良いでしょうか?このギャンブル対策への答えも進化心理学的な視点で考えてみましょう。そもそも生物の原始的な行動パターンは、接近か回避です(図1)。食料や生殖のパートナーへの接近を動機付けるのが快感や快楽です(ドパミン)。その一方、天敵や危険な状況からの回避を動機付けるのが不安や恐怖です(ノルアドレナリン)。快感になる状況を想像して快感になることが報酬予測(動機付けサリエンス)です。その一方、不安になる状況を想像して不安になることを予期不安と言います。過剰な予期不安がパニック障害の症状の1つとして治療介入が必要であると理解できるように、過剰な報酬予測はギャンブル依存症の症状の1つとして治療介入が必要であると言えます。つまり、パニック障害と同じように、ギャンブル依存症は病気であり、単純に自己責任として切り捨てるべきではないということです。つまり、ギャンブル依存症の治療には、本人と社会の両方に責任があります。この点を踏まえると、最も重要なポイントは、できるだけギャンブルには、個人として近付かない、社会として近付かせないということです。これは、ギャンブルに限らず、アルコールや薬物など依存症の治療の全般に言えることでもあります。それでは、ここから、個人と社会の2つの視点で、その治療や対策を考えてみましょう。(1)個人―ギャンブルに近付かない個人の視点として、ギャンブルに近付かないために、主に3つの取り組みが有効です。1つ目は、ギャンブルを断つ決意をして、ギャンブル関連の情報を身近に触れない取り組みを自らすることです。例えば、ギャンブルについての雑誌、スポーツ紙、テレビ番組を見ないことです。パチンコや競馬場などの近くは避けて通ることです。2つ目は、ギャンブルに近付かない代わりに、別のより健康的な「ギャンブル」に近付く、つまり目を向けることです。例えば、それは、新しい仕事であったり、新しい人間関係です。3つ目は、近付かない状態を維持するために、自助グループ(GA)に参加し続けることです。これはアルコール依存症の自助グループ(AA)と同じように、自分と同じ仲間とつながっていることは、ギャンブルに近付くことを引き留めます。ちなみに、ギャンブル依存症への治療薬としては、日本では保険適応外ですが、ナルトレキソン(オピオイド拮抗薬)があります。ちょうどアルコール依存症への治療薬として2013年に日本で発売開始されたアカンプロサートと同じ抗渇望薬に当たります。(2)社会社会の視点として、ギャンブルに近付かせないための最も手っ取り早い方法は、全面禁止です。これは、文明社会が始まった古代から、その当時の統治者が行ってきた長い歴史があります。しかし、この問題点は、けっきょく隠れてやる人々が現れ、それにまつわるトラブルが繰り返され、取り締まりきれないということです。私たちは、その現実を歴史から学ばなければなりません。よって、落としどころは、ギャンブルを娯楽としてある程度認めつつも、厳しい制限をかけることです。その制限とは、主に3つの取り組みがあげられます。これは、個人の対策の何倍にも増して有効で重要なことです。1つ目は、ギャンブルへの行動コストを上げることです。行動コストとは、行動をするために、時間、労力、金銭などのかかる費用(コスト)です。一番分かりやすいのは、場所制限です。ギャンブルができる場所が限られている、または遠くて気軽には足を運べないという場所が望ましいです。また、ギャンブル産業への入場料の徴収も有効です。実際に、海外のカジノでは自国民が入場する場合にのみ入場料を徴収して、あえて敷居を高くして、ギャンブル依存症の対策をしています。時間制限も有効です。これは、営業時間をもともと健康的な活動時間帯の9時から5時までに限定することです。逆に、判断力が鈍る夜間にはギャンブルをさせないことです。2つ目は、ギャンブル行動の見える化です。見える化とは、その名の通り、ギャンブルをどれだけしているか本人に見えるようにすることです。そのためにも、まず個人のギャンブルを管理するため、「タスポ」(タバコ購入のための成人識別ICカード)よりもさらに厳格な身分証明書の発行が必要です。年齢制限はもちろんのこと、損失合計金額などの表示による注意喚起が有効です。また、損失金額が加速している場合は、ギャンブル依存症のリスクを警告して、ギャンブル専門の医療機関や自助グループ(GA)の紹介をすることも有効です(責任ギャンブル施策)。さらに、本人の届け出によって、ギャンブルができないようにするシステムも有効です(自己排除システム)。これは、ちょうどアルコール依存症の人が、お酒を飲むと気持ち悪くなる抗酒剤をあえて内服し続けることに似ています。3つ目は、手がかり刺激を制限することです。手がかり刺激とは、ギャンブルを想像してしまうようなきっかけの刺激です。ちなみに、ギャンブルの手がかり刺激への反応は、最近の脳画像研究によっても裏付けられています。例えば、パチンコ、宝くじ、競馬などのCMや雑誌・新聞の宣伝が分かりやすいでしょう。これほど多くのギャンブルの宣伝が日本では当たり前のようにされているのは世界的に見れば異常です。駅前にだいたい1つはある、ど派手で目立つパチンコ店もそうです。また、手がかり刺激への反応性をそもそも高めないために、未成年にはなるべく触れさせないことも有効です。なぜなら、ギャンブルも、アルコールやタバコと同じように、発達段階の未成年の脳への刺激(嗜癖性)が特に強いからです。海外では、映画の喫煙シーンがR指定になるくらいです。 最後に、ギャンブルとは?カイジの仲間の坂崎が大負けからの大当たりで大逆転になりそうでならないシーン。その瞬間に、彼は「溶ける溶ける…!」「限りなく続く射精のような…この感覚っ…!」「ある意味桃源郷…!」と叫びます。快感と恐怖が入り交じり、完全にシビれてしまいます。ここで気付かされるのは、坂崎が最高の快感を得たその場所は、本当の「桃源郷」ではなく、生死のかかったギャンブルという修羅場であったということです。本来、快感や快楽は桃源郷にあり、不安や恐怖は修羅場にあると私たちは思いがちです。しかし、これまでのギャンブル脳の心理をよく理解すれば、実は、最高の快感は桃源郷にはありません。なぜなら、桃源郷では、全てが理想的に満たされ続けており、快感(ドパミン分泌)が鈍っているからです。簡単に言うと、桃源郷には、その状態に飽きてしまって、わくわくはありません。もちろん、修羅場では、全く満たされていないため、快感(ドパミン分泌)はほとんどありません。つまり、最高の快感は、桃源郷に苦労して向かっている修羅場の中でこそ感じるものであるということです。それが、生きている実感であり、生きる原動力です。原始の時代と違い、現代は「ギャンブル」のような生活をしなくても無難に生きていけるようになりました。そうなるとそこは、桃源郷でも修羅場でもない退屈なところです。何もしなければ、わくわくして生きている実感はないでしょう。つまり、その実感を得るためには、私たちはそれぞれの「桃源郷」を目指して、必死に「修羅場」をかいくぐることをあえてすることが必要になります。ギャンブルの心理の本質を理解した時、私たちは、「カイジ」や「アカギ」から、ギャンブルのマイナス面だけでなく、生き方としてのプラス面も含めて、より多くのことを学ぶことができるのではないでしょうか? 1)福本伸行:人生を逆転する名言集、竹書房、20092)松本俊彦ほか:物質使用障害とアディクション 臨床ハンドブック、星和書店、20133)臨床精神医学、行動嗜癖とその近縁疾患、アークメディア、2016年12月号4)蒲生裕司・宮岡等編:こころの科学「依存と嗜癖」、日本評論社、2015年7月号5)帚木蓬生:ギャンブル依存症国家・日本、光文社新書、20146)岡本卓、和田秀樹:依存症の科学、化学同人、2016

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救急退院後の早期死亡、入院率や疾患との関連は?/BMJ

 米国では、救急診療部を受診したメディケア受給者の多くが、致死的疾患の既往の記録がないにもかかわらず、退院後早期に死亡していることが、ハーバード大学医学大学院のZiad Obermeyer氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2017年2月1日号に掲載された。米国の救急診療部受診者は毎年20%近くも増加し、その結果として毎日、膨大な数の入院/退院の決定がなされている。また、入院率は病院によってかなりのばらつきがみられるが、その患者転帰との関連は不明だという。入院後と退院後の早期死亡を後ろ向きコホート研究で評価 研究グループは、救急診療部退院後の早期死亡の発生状況を調査し、病院と患者の評価可能な特徴によってリスクのばらつきの原因を探索するために、レトロスペクティブなコホート研究を行った(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 解析には、2007~12年の救急診療部受診を含むメディケアプログラムの医療費支払い申請のデータを用いた。メディケア受給者のうち、医療費が平均的な20%の集団をサンプルとした。入院患者および退院患者の週間死亡率を算出した。 健常な地域住民に限定するために、介護施設入居者、90歳以上、緩和治療やホスピスケアの受療者、致死的疾患の診断(例:救急診療部を受診し心筋梗塞と診断、受診の前年に悪性腫瘍と診断など)を受けた患者は除外した。 主要評価項目は、救急診療部退院から7日以内の死亡とし、入院患者として入院、転院、緩和治療やホスピス入居で退院した患者は評価から除外した。入院率が低い病院は患者の健康状態が良好だが、退院後早期死亡率が高い 2007~12年に救急診療部を退院した1,009万3,678例(受診時の平均年齢:62.2歳、女性:59.5%、白人:76.2%)のうち、1万2,375例(0.12%)が退院後7日以内に死亡し、全国的な年間早期死亡数は1万93例であった。死亡時の平均年齢は69歳、男性が50.3%、白人が80.9%を占めた。 早期死亡例の死亡証明書に記載された主な死因は、アテローム動脈硬化性心疾患(13.6%)、急性心筋梗塞(10.3%)、慢性閉塞性肺疾患(9.6%)、糖尿病合併症(6.2%)、うっ血性心不全(3.1%)、高血圧合併症(3.0%)、肺炎(2.6%)であった。8番目に頻度の高い死因は麻薬の過量摂取(2.3%)であったが、退院時の診断名は筋骨格系(腰痛15%、体表損傷10%)が多かった。 救急診療部受診者の5段階入院率別(0~22%、23~33%、34~41%、42~50、51~100%)の解析では、入院患者の死亡率はどの病院も最初の1週間が最も高く、その後急速に低下したが、退院患者の死亡率は病院の入院率によってばらつきがみられた。入院率が最も高い病院は退院直後の死亡率がその後の期間に比べて低かったのに対し、入院率が最も低い病院の退院患者は早期死亡率が高く、その後急速に低下した。 退院後7日死亡率は、入院率が最も低い病院が0.27%と最も高く、入院率が最も高い病院(0.08%)の3.4倍であった。しかしながら、入院と退院を合わせた全救急診療部受診者の7日死亡率は、最低入院率病院が最高入院率病院より71%(95%信頼区間[CI]:69~71)も低かった。したがって、入院率が低い病院は患者の健康状態が全般に良好だが、ベースラインの健康状態だけでは、入院率の低い病院の退院後早期死亡率の高さを説明できないと考えられた。 多変量解析では、入院と退院を合わせた全救急診療部受診者の7日死亡率は、高齢者、男性、白人、低所得者、受診費用が低い救急診療部、受診者数の少ない救急診療部で高く(すべて、p<0.001)、退院患者に限ると、男性と受診費用が低い救急診療部は逆に7日死亡率が低くなった(いずれも、p<0.001)。 異常な精神状態(リスク比:4.4、95%CI:3.8~5.1)、呼吸困難(3.1、2.9~3.4)、不快感/疲労(3.0、2.9~3.7)は、他の診断名の患者に比べ早期死亡率が高かった。 著者は、「これらの早期死亡の予防の可能性を探索するために、さらなる研究を進める必要がある」とし、「早期死亡に関連する退院時の診断、とくに異常な精神状態、呼吸困難、不快感/疲労のような疼痛を伴わない症候性の疾患は、特有の臨床的特徴(signature)である」と指摘している。

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薬物有害事象による救急受診、原因薬剤は?/JAMA

 米国において2013~14年の薬物有害事象による救急外来受診率は、年間1,000例当たり4件で、原因薬剤として多かったのは抗凝固薬、抗菌薬、糖尿病治療薬、オピオイド鎮痛薬であった。米国疾病予防管理センターのNadine Shehab氏らの分析の結果、明らかになった。米国では、2010年の「患者保護および医療費負担適正化法(Patient Protection and Affordable Care Act :PPACA)」、いわゆるオバマケアの導入により、国家的な患者安全への取り組みとして薬物有害事象への注意喚起が行われている。結果を受けて著者は、「今回の詳細な最新データは今後の取り組みに役立つ」とまとめている。JAMA誌2016年11月22・29日号掲載の報告。薬物有害事象による救急外来受診率は、年間1,000人当たり約4件 研究グループは、全国傷害電子監視システム-医薬品有害事象共同監視(NEISS-CADES)プロジェクトに参加している米国の救急診療部58ヵ所における4万2,585例のデータを解析した。主要評価項目は、薬物有害事象による救急受診ならびにその後の入院に関する加重推定値(以下、数値は推定値)であった。 2013~14年における薬物有害事象による救急外来受診は、年間1,000人当たり4件(95%信頼区間[CI]:3.1~5.0)で、そのうち27.3%が入院に至った。入院率は65歳以上の高齢者が43.6%(95%CI:36.6~50.5%)と最も高かった。65歳以上の高齢者における薬物有害事象による救急外来受診率は、2005~06年の25.6%(95%CI:21.1~30.0%)に対して、2013~14年は34.5%(95%CI:30.3~38.8%)であった。高齢者では抗凝固薬、糖尿病治療薬、オピオイド鎮痛薬、小児では抗菌薬 薬物有害事象による救急外来受診の原因薬剤は、46.9%(95%CI:44.2~49.7%)が抗凝固薬、抗菌薬および糖尿病治療薬であった。薬物有害事象としては、出血(抗凝固薬)、中等度~重度のアレルギー反応(抗菌薬)、中等度~重度の低血糖(糖尿病治療薬)など、臨床的に重大な有害事象も含まれていた。また傾向として2005~06年以降、抗凝固薬および糖尿病治療薬の有害事象による救急外来受診率は増加したが、抗菌薬については減少していた。 5歳以下の小児では、原因薬剤として抗菌薬が最も多かった(56.4%、95%CI:51.8~61.0%)。6~19歳も抗菌薬(31.8%、95%CI:28.7~34.9%)が最も多く、次いで抗精神病薬(4.5%、95%CI:3.3~5.6%)であった。一方、65歳以上の高齢者では、抗凝固薬、糖尿病治療薬、オピオイド鎮痛薬の3種が原因の59.9%(95%CI:56.8~62.9%)を占めた。主な原因薬剤15種のうち、抗凝固薬が4種(ワルファリン、リバーロキサバン、ダビガトラン、エノキサパリン)、糖尿病治療薬が5種(インスリン、経口薬4種)であった。また、原因薬剤に占めるビアーズ基準で「高齢者が常に避けるべき」とされている薬剤の割合は、1.8%(95%CI:1.5~2.1%)であった。 なお、本研究には致死性の薬物有害事象、薬物中毒や自傷行為などは含まれていない。

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皮下埋め込み型ブプレノルフィン、舌下製剤に非劣性/JAMA

 オピオイド依存症維持治療薬としてのブプレノルフィン(商品名:レペタン)について、同薬の皮下埋め込み型製剤(buprenorphine implants)は従来の舌下製剤との比較において、レスポンダー維持の尤度は劣らなかったことが、米国・マウントサイナイ・アイカーン医科大学のRichard N. Rosenthal氏らによる無作為化試験の結果、示された。米国ではオピオイド依存症が社会的問題となっている。それに対して心理社会的介入やプラセボ投与よりも、薬物療法によって依存症を安定的に維持するほうが、不適切なオピオイド使用や死亡などの低下に結び付くことが示され、現在3種の薬物の使用が承認されている。ブプレノルフィンはその1つだが、アドヒアランス改善などのため治療薬としての革新が求められていた。JAMA誌2016年7月19日号掲載の報告。舌下製剤投与に対する非劣性を検討 研究グループは、オピオイド依存症維持治療薬としてのブプレノルフィンについて、オピオイドの節制使用を保つ患者において、6ヵ月間の皮下埋め込み型製剤使用が毎日服用の舌下製剤に比べて非劣性であるかを調べた。 2014年6月26日~2015年5月18日に米国内21地点で、外来患者を対象に実薬対照二重盲検ダブルダミー法による無作為化試験を行った。6ヵ月以上にわたり毎日服用の舌下ブプレノルフィン処方を受けており、同薬8mg/日以下の服用で90日間以上オピオイドの安定的使用が維持され、担当医によって臨床的に安定していることが確認されている患者を対象とした。 被験者を、舌下ブプレノルフィン+プラセボ皮下埋め込み型製剤4個を埋設する群(舌下投与群)、または舌下ブプレノルフィン+塩酸ブプレノルフィン皮下埋め込み型製剤80mgを4個埋設する群(24週間の有効性を期待して、皮下埋め込み群)に無作為に割り付け検討した。 主要エンドポイントは、両群のレスポンダーの割合の違いで、オピオイド尿検査(月1回および無作為に4回)結果陰性が6ヵ月のうち4ヵ月以上であること、および自己報告で評価した。非劣性の確認は、95%信頼区間(CI)の下限値が-0.20より大きい場合(p<0.025)とした。 副次エンドポイントは、オピオイド尿検査の陰性、節制使用の累積割合、およびオピオイドの不適切使用の初回発生までの期間などであった。安全性は、有害事象報告で評価した。レスポンダーの両群差8.8%、皮下埋め込み群の非劣性を確認 被験者177例(平均年齢39歳、女性40.9%)のうち、87例が皮下埋め込み群に、90例が舌下投与群に無作為化された。試験を完了したのは165例(93.2%、皮下埋め込み群81例、舌下投与群84例)だった。 主要解析には、皮下埋め込み群84例、舌下投与群89例が組み込まれた。レスポンダーは、皮下埋め込み群は81/84例(96.4%)、舌下投与群は78/89例(87.6%)で、両群差は8.8%(片側検定97.5%CI:0.009~∞、非劣性のp<0.001)であった。 6ヵ月にわたってオピオイドの節制使用が維持されたのは、皮下埋め込み群72/84例(85.7%)、舌下投与群64/89例(71.9%)であった(ハザード比:13.8、95%CI:0.018~0.258、p=0.03)。 埋め込み手技に非関連および関連した有害事象の報告は、皮下埋め込み群でそれぞれ48.3%、23%、舌下投与群で52.8%、13.5%であった。 なお結果について著者は、「対照群でも予想以上にレスポンダーが高率であった」と指摘し、より幅広い集団による他の設定で有効性を評価するさらなる試験が必要だと述べている。

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慢性疼痛へのLAオピオイドと全死因死亡リスク/JAMA

 非がん性慢性疼痛に対する長時間作用型(LA)オピオイドの処方は、抗けいれん鎮痛薬や低用量抗うつ薬の処方と比較して、過剰摂取以外の原因を含む全死因死亡リスクを有意に増大することが、米国・ヴァンダービルト大学のWayne A. Ray氏らによる検討の結果、示された。絶対リスクの差はわずかであった。著者は、「今回の結果を、治療の有害性や有益性を評価する際に考慮すべきである」と述べている。LAオピオイドは、無作為の過剰摂取リスクを増大し、心臓・呼吸器系およびその他による死亡も増大させる可能性が示唆されていた。JAMA誌2016年6月14日号掲載の報告。抗けいれん鎮痛薬/低用量抗うつ薬投与群と死亡発生を比較 研究グループは、中等度~重度の非がん性慢性疼痛を有する患者の全死因死亡について、LAオピオイド処方 vs.代替療法を比較する検討を行った。1999~2012年にテネシー州メディケイド被保険者の非がん性疼痛患者で、緩和・終末期ケア対象者ではなかった患者集団を対象とした。LAオピオイドの新規処方患者群と、傾向スコアで適合した抗けいれん鎮痛薬または低用量抗うつ薬(low-dose cyclic antidepressants)の新規処方患者群(対照群)を後ろ向きに評価した。 主要評価項目は、死亡診断書で確認した全死因および死因別の死亡。LAオピオイド群と対照群の補正後ハザード比(HR)、リスク差(1万人年当たりでみた過剰な死亡発生)をそれぞれ算出して比較した。全死因死亡1.64倍、治療初期30日間では4.16倍 評価に包含した対象期間中の新規処方は、各群2万2,912例であった(平均年齢48±11歳、女性60%)。最も多かった慢性疼痛の診断名は腰痛(75%)で、筋骨格痛(63%)、腹痛(18%)と続いた。患者の96%超で前年に短時間作用型オピオイドの処方歴があり、他の鎮痛薬や向精神薬(筋弛緩薬[63%]、NSAIDs[70%]、ベンゾジアゼピン系薬[52%]、SSRI/SNRI抗うつ薬[45%]など)の処方歴のある患者も多かった。 処方された試験薬で最も多かったのは、モルヒネSR(55%)、ガバペンチン(40%)、アミトリプチリン(36%)であった。 LAオピオイド群は、追跡期間平均176日で死亡185例、対照群は同128日で87例であった。全死因死亡HRは1.64(95%信頼区間[CI]:1.26~2.12)で、リスク差は68.5例(95%CI:28.2~120.7)であった。LAオピオイド群の死亡リスク増大の要因は、院外死亡が有意に過剰であったことによる(154 vs.60例、HR:1.90[95%CI:1.40~2.58]、リスク差:67.1例[95%CI:30.1~117.3]、p<0.001)。 院外死亡のうち無作為の過剰摂取による死亡を除くその他の要因(心血管系、呼吸器系によるものなど)の死亡発生は120 vs.53例で、HRは1.72(95%CI:1.24~2.39)、リスク差は47.4例(95%CI:15.7~91.4)であった(p=0.001)。なお、このうち心血管死(79 vs.36例)はHRが1.65(95%CI:1.10~2.46)、リスク差は28.9例(同:4.6~65.3)であった(p=0.02)。 治療初期30日間の死亡発生は53 vs.13例で、HRは4.16(95%CI:2.27~7.63)、リスク差は200例(同:80~420)に上った。

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naltrexone、刑事犯罪者のオピオイド依存再発を抑制/NEJM

 オピオイド依存症歴のある成人刑事犯罪者に対し、徐放性naltrexoneはオピオイド使用再開の抑制効果があることが明らかにされた。米国・ニューヨーク大学のJoshua D. Lee氏らが、通常治療と比較した無作為化試験の結果、報告した。徐放性naltrexoneは、μオピオイド受容体完全拮抗薬の月1回投与の徐放性注射剤で、オピオイド依存症の再発防止効果はすでに確認されているが、刑事犯罪者への効果に関するデータは限定的であったという。NEJM誌2016年3月31日号掲載の報告。依存症歴のある犯罪者308例を対象に無作為化試験、naltrexone vs.通常治療 試験は2009年2月~13年11月に米国5地点で非盲検にて行われた。437例をスクリーニングし308例を、徐放性naltrexone(商品名:Vivitrol)を投与する群と通常治療(簡単なカウンセリングと地域治療プログラムへの紹介)群の2群に無作為に割り付けて、24週間介入を行い、オピオイド依存症再発防止について比較した。 被験者は、オピオイド依存症歴のある成人の刑事犯罪者(米国刑事裁判制度で被告人になった者など)で、オピオイド維持療法ではなくオピオイドからの離脱を選択し、無作為化を受ける時点で、オピオイド使用に対する自制ができていた人とした。 主要アウトカムは、オピオイド依存症再発までの期間とした。再発の定義は、28日間で10日以上使用した場合とし、自己申告または2週間ごとの尿検査の結果(陽性または未確認の場合はオピオイドを5日間使用とみなす)で評価した。また、治療後フォローアップを、27、52、78週時点で行った。依存症再発までの期間、naltrexone群が有意に延長、ただし治療中断後1年で同等に naltrexone群に153例、通常治療群に155例が割り付けられた。 24週の治療期間中、naltrexone群のほうが通常治療群よりも、再発までの期間が有意に延長し(10.5 vs.5.0週、p<0.001、ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.36~0.68)、再発率は有意に低く(43 vs.64%、p<0.001、オッズ比[OR]:0.43、95%CI:0.28~0.65)、尿検査陰性の割合が有意に高かった(74 vs.56%、p<0.001、OR:2.30、95%CI:1.48~3.54)。 しかし、78週(治療終了後約1年)時点の評価では、尿検査陰性の割合について有意差はみられなくなっていた(両群とも46%、p=0.91)。 その他の事前に規定した副次アウトカム(自己申告でのコカイン、アルコール、静注薬物の使用、非安全な性行為、再収監)は、naltrexone群で低率であったが有意ではなかった。 78週以上の観察において、過量服薬行為の報告はnaltrexone群は0件、通常治療群は7件であった(p=0.02)。 これらの結果を踏まえて著者は、「刑事犯罪者に対し、徐放性naltrexoneの投与は、通常治療を行った場合と比べて、オピオイド依存症の再発率が低かった。再発防止効果は、治療中断後に減弱した」とまとめている。

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