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神経障害性疼痛、ノルトリプチリンとモルヒネは単剤より併用が有効

 神経障害性疼痛に対し、三環系抗うつ薬を含む1次治療は必ずしも有効ではないため、2次治療としてオピオイドが推奨されている。カナダ・クイーンズ大学のIan Gilron氏らは、三環系抗うつ薬であるノルトリプチリンとモルヒネの併用療法ついて有効性および安全性を評価する目的で、各単独療法と比較する無作為化二重盲検クロスオーバー試験を行った。その結果、併用療法において便秘、口乾および傾眠の副作用発現頻度が高かったものの、有効性は各単独療法と比較して優れていることが明らかとなった。Pain誌2015年8月号の掲載報告。 研究グループは、2010年1月25日~2014年5月22日の間に単施設にて神経障害性疼痛患者52例を登録し、経口ノルトリプチリン、モルヒネおよび併用療法に1対1対1の比で無作為に割り付けた。各治療期間は6週間とし、用量は最大耐用量(MTD)に漸増した。 主要評価項目は、MTDにおける1日の平均疼痛(0~10で評価)、副次評価項目は他の疼痛、気分、QOLおよび副作用などであった。 主な結果は以下のとおり。・39例が少なくとも2つの治療期間を完遂した。・平均1日疼痛スコアはベースライン時5.3で、MTD時は併用療法が2.6、ノルトリプチリン単独療法が3.1(p=0.046)、モルヒネ単独療法が3.4(p=0.002)であった。・簡易疼痛調査票(BPI)スコアも、各単独療法に比べ併用療法で有意に低かった。・中等度~重度の便秘の発現率は、併用療法43% vs.モルヒネ単独療法46%(p=0.82)、vs.ノルトリプチリン単独療法5%(p<0.0001)であった。・中等度~重度の口渇の発現率は、併用療法58% vs.モルヒネ単独療法13%(p<0.0001)、vs.ノルトリプチリン単独療法49%(p=0.84)であった。

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セロトニン症候群を起こしやすい薬剤は

 フランス・トゥールーズ大学のDelphine Abadie氏らは、同国の市販後調査報告データベースに報告登録された症例よりセロトニン症候群の特徴を解析した。その結果、抗うつ薬とトラマドールによる発現頻度が高いだけでなく、薬物相互作用(DDI、薬力学的および薬物動態学的の両方)の重要性、さらに標準用量でのセロトニン作動薬単剤でさえもセロトニン症候群リスクが有意であることが示された。本検討は、セロトニン症候群に関する大規模な市販後調査データベースを基にした、英語で発表された初の検討となる。Journal of Clinical Psychopharmacology誌2015年8月号の掲載報告。 研究グループは、1985年1月1日~2013年5月27日のフランス市販後調査データベースで登録されたセロトニン症候群を後ろ向きに分析した。分析には、Sternbach、RadomskiまたはHunter SSの診断基準を満たした臨床的症状を呈した症例のみを組み込んだ。 主な結果は以下のとおり。・分析症例の大半(125例、84%)で、セロトニン作動薬の最近の変化(導入、用量増大または過剰摂取)が関与していた。・最も発現頻度が高いセロトニン作動薬は、抗うつ薬であった。その大半がセロトニン再取り込み薬阻害薬(SRI、42.1%)で、そのほかのセロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(9.1%、主にvenlafaxine)、三環系抗うつ薬(8.6%、主にクロミプラミン)、いくつかのモノアミン酸化酵素阻害薬(6.2%、主にmoclobemide)の関与はわずかであった。・非向精神薬の投与、概してオピオイド(14.8%、主にトラマドール)の関与も認められた。・大部分の症例(59.2%)は、薬力学的DDIから生じており、多くの場合SRI+オピオイド(大部分がパロキセチン+トラマドール)によるものであった。・一方で、セロトニン作動薬単剤でのセロトニン症候群の発現も顕著であった(40.8%)。その大半が標準用量のSRI(主にfluoxetine)またはvenlafaxineでの発現であった。・症例の5分の1(20.8%)で、重大な薬物動態学的DDIの関与が確認された。関連医療ニュース セロトニン症候群の発現メカニズムが判明 各抗うつ薬のセロトニン再取り込み阻害作用の違いは:京都大学 SSRI依存による悪影響を検証  担当者へのご意見箱はこちら

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オキシコドン徐放性製剤Xtampza ER、中~重度の慢性腰痛を改善

 オピオイド鎮痛薬は慢性腰痛の治療に用いられるが、一方では乱用が大きな懸念となっている。米国・Analgesic Solutions社のNathaniel Katz氏らは、オキシコドンの乱用防止製剤であるXtampza ER(オキシコドン徐放性製剤)の安全性および有効性を評価する第III 相臨床試験を行い、Xtampza ERは中等度~重度慢性腰痛患者において臨床的に有意な鎮痛効果を発揮することを示した。Pain誌オンライン版2015年8月6日号の掲載報告。 本研究は、二重盲検プラセボ対照ランダム化治療中止試験として実施された。  対象は成人の中等度~重度慢性腰痛患者(オピオイド治療歴の有無を問わず)で、非盲検用量設定期に参加した740例のうちXtampza ER(等価用量はオキシコドン塩酸塩として40mg/日以上160mg/日以下)の最適用量が決定した患者を、二重盲検期に移行してXtampza ER群(193例)またはプラセボ群(196例)に無作為に割り付け12週間投与した。 主な結果は以下のとおり。・有効性の主要評価項目については、プラセボ群とXtampza ER群とで12週後における平均疼痛強度のベースラインからの変化量に統計学的な有意差が認められた(変化量の差[平均±SE]:-1.56±0.267、p<0.0001)。・すべての感度解析で、主要評価項目の結果が裏付けられた。・副次評価項目については、Xtampza ER群はプラセボ群と比較し、患者満足度(Patient Global Impression of Change)が改善した患者が多く(PGIC:26.4 vs.14.3%、p<0.0001)、投与中止までの期間が長く(58 vs.35日、p=0.0102)、疼痛強度が30%以上改善した患者の割合(49.2 vs.33.2%、p=0.0013)および50%以上改善した患者の割合(38.3 vs.24.5%、p=0.0032)が多かった。・アセトアミノフェンのレスキュー使用は、プラセボ群よりXtampza ER群が少なかった。・Xtampza ERの有害事象プロファイルは他のオピオイドと一致しており、忍容性は良好で、安全性に関する新たな懸念は認められなかった。

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専門外のアドバイス(後半)【Dr. 中島の 新・徒然草】(075)

七十五の段 専門外のアドバイス(後半)前回は若くして消化器がんにかかった親戚の男性に、無謀にも脳外科医の私がアドバイスを試みたというお話です。今回はその続きで、助言の6から10までを紹介します。助言その6:過去を振り返って後悔しないこと 中島 「『あの時、検診をさぼらなかったら』とか、『もっと早く病院に行ってたら』とか思うでしょう」 男性 「すごく思います。早くみつけていれば早く治療できたのにって」 中島 「早期発見・早期治療って言うけど、僕は疑問だな」 男性 「違うんですか?」 中島 「『早くみつけて早く治療したので全快した』ということもあるけどね」 男性 「……」 中島 「実際のところ、最初から進行がんだったとか、いつまで経っても早期がんのままとか、そういうことも随分多いように思う」 男性 「知りませんでした」 中島 「早期発見・早期治療というのは人々に対する啓蒙活動としては正しいと思うけど、実際は必ずしもそうじゃない。だから過去を振り返って後悔しないこと」 男性 「わかりました」 この辺りは異論のある先生方も多いと思います。でも、既にがんが発覚して治療を開始している患者さんに対しては、このようにアドバイスすべきだと私は思います。助言その7:医療機関が近いことは大きなアドバンテージ 中島 「〇〇大学とか△△センターで治療するほうがいいのだろうか、と言ってたけど」 男性 「今からでも転院したほうがいいのかと思わないでもありません」 中島 「幸い家から近いところで治療できるのだから、僕ならここで治療を続けるね」 男性 「そうなんですか」 中島 「家の近くで手術も標準治療もしてもらえるのは無茶苦茶ラッキーだ」 男性 「そんなにラッキーですか?」 中島 「僕の患者さんで、がんの治療のために別の県まで通院しているという人もいるよ」 男性 「本当ですか、それ!」 中島 「関西にいると選択肢がありすぎて迷うかもしれんけど、地方では選択肢そのものがなかったりするわけ」 男性 「なるほど」 中島 「それでも家から近いところで治療するというのは体力も温存できるし、夜間休日に何かあったときも対応しやすいからね」 男性 「そんなふうには考えたこともありませんでした」 この男性は、自宅近くの中規模病院で治療しているのですが、やはり週刊誌の「いい病院特集」なんかを読んで気持ちが揺らいでいたようです。もちろん私も無責任にアドバイスしたわけではなく、同僚の内科医や外科医に「あそこの病院だったら大丈夫だよ」ということは確認したうえでのことです。助言その8:がん治療は長期戦になるので担当医への信頼が何より重要 中島 「担当の先生はどんな人?」 男性 「内科の〇〇先生も外科の△△先生も、どんな質問に対しても明解に答えてくれました」 中島 「説明に迷いがないということだね」 男性 「そうなんですよ!」 中島 「結局は人と人との関係だから、担当医を信頼できるかどうかということが最も大切だと僕は思う」 男性 「それはものすごく信頼しています」 迷いのない説明ができるというのは素晴らしいことですね。私も目指したいところ。助言その9:疼痛コントロールは重要 中島 「日本人は痛みを我慢する人が多いけど」 男性 「ええ」 中島 「疼痛コントロールにも定石があるから、痛いときは痛いと言うことが大切だ」 男性 「はい」 中島 「医療用麻薬も必要な時には躊躇わずに使うこと」 男性 「でも、麻薬には抵抗があるんですけど」 中島 「世界的にみると、日本は医療用麻薬の使用量がまったく足りていないらしい」 男性 「そうなんですか?」 中島 「痛みさえなければ食べることも歩くこともできるから、結局はそのほうが体にもいいんだ」 男性 「中毒になったりしませんか」 中島 「正しく使えば大丈夫、心配ない」 男性 「わかりました」 私も自分の術後疼痛に対してフェンタニルを投与された経験があるのですが、「あれ?もう退院できるかも」と思ったくらい、絶大な効果がありました。助言その10:今日を一生懸命に生きていれば、いつのまにか5年経っている 中島 「あんまり先のことも考えないほうがいいよ」 男性 「そうなんですか」 中島 「今日を一生懸命に生きることだけを考えるべきだ」 男性 「でも将来のこととか、すごく不安なんです」 中島 「毎日、その日に集中していたら、いつの間にか5年経っているよ」 男性 「わかりました!」 自分の知らないことを断言しちまった!でもホントですよね。ということで、専門外の医師でも病気になった友人・知人にアドバイスできることは沢山ありました。前回も言いましたが、「私」が聞かれたのですから、「私」が可能なかぎりの助言をすべきだと思います。読者の皆さんの参考になれば幸いです。最後に1句日々生きよ あっという間に 5年経つ

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オピオイド服用中のBZD、過剰摂取死リスク増大/BMJ

 オピオイド鎮痛薬服用中のベンゾジアゼピン系薬投与は、過剰摂取による死亡リスクの増大と用量依存的に関連することが、米国・ブラウン大学のTae Woo Park氏らによる症例コホート研究の結果、報告された。また薬剤種別の検討において、クロナゼパムと比較してtemazepam(国内未承認)の同死亡リスクが低いことも明らかにされた。BMJ誌オンライン版2015年6月10日号掲載の報告より。米国退役軍人を対象に症例コホート研究 研究グループは、退役軍人健康管理局(VHA)2004~2009年のデータを基に、オピオイド鎮痛薬を服用する主として男性の米国退役軍人(VA)を対象に検討を行った。用量、種類、服用スケジュールなどでみたベンゾジアゼピン系薬処方パターンと、過剰摂取による死亡リスクとの関連を調べた。 対象は、オピオイド鎮痛薬服用者で過剰摂取により死亡した全VA(2,400例)と、無作為に抽出したVHAの医療サービスを利用しオピオイド鎮痛薬を投与されているVA(42万386例)であった。 主要評価項目は、あらゆる過剰摂取による死亡(意図的か否かを問わず)、または薬物中毒によるものか判断不能の死亡で、National Death Indexの死亡情報で確認した。過剰摂取死の約半数で同時服用、用量依存にリスク増大 試験期間中、オピオイド鎮痛薬を服用していたVAのうち27%(11万2,069/42万386例)が、ベンゾジアゼピン系薬も服用していた。 過剰摂取による死亡の約半数(1,185/2,400例)が、ベンゾジアゼピン系薬とオピオイドを同時に処方されていた間に発生したものであった。 過剰摂取による死亡リスクは、ベンゾジアゼピン系薬処方歴とともに増大した。補正後ハザード比(HR)は、非処方との比較で、以前の処方歴あり群で2.33(95%信頼区間[CI]:2.05~2.64)、現在処方されている群では3.86(同:3.49~4.26)であった。 また、過剰摂取による死亡リスクは、ベンゾジアゼピン薬の1日用量増加とともに増大した。1日用量が>0~10mgとの比較において、>10~20mgのHRは1.69、>20~30mgは2.34、>30~40mgは2.65、>40mgは3.06であった。 薬剤種別にみると、クロナゼパムとの比較において、temazepamの過剰摂取による死亡リスクが最も低かった(HR:0.63、95%CI:0.48~0.82)。 ベンゾジアゼピン系薬の投与スケジュールと過剰摂取による死亡リスクとの関係はみられなかった。

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タペンタドールはオキシコドンより有効で安全か

 オピオイドは慢性腰痛の治療にしばしば用いられるが、副作用のため長期投与の有益性は限られている。タペンタドールは、オピオイド受容体作動作用およびノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有するオピオイド鎮痛薬で、他の強オピオイドと比較して有害事象の頻度が少なく重症度も低い可能性があることから、ポルトガル・リスボン大学のJoao Santos氏らはシステマティックレビューを行った。その結果、タペンタドール徐放性製剤は、プラセボおよびオキシコドンと比較して鎮痛効果があり、オキシコドンより安全性プロファイルおよび忍容性は良好であることが明らかとなった。ただし、著者は「鎮痛効果の差は大きくなく、治療中止率が高いことや、研究の結果に不均一性がみられることなどから、この結果の臨床的な意義は定かではない」とまとめている。Cochrane database of systematic reviews誌オンライン版2015年5月27日号の掲載報告。タペンタドールとプラセボまたはオキシコドンを比較 研究グループは、中等度から重度の疼痛に対するタペンタドール徐放性製剤の有効性、安全性および忍容性を評価することを目的として、慢性筋骨格系疼痛患者を対象にタペンタドールとプラセボまたは実薬(オキシコドン)を比較した無作為化試験について、2014年3月まで発表された論文を言語は問わず、電子データベース(CENTRAL、MEDLINE、EMBASE、Web of Science)を用いて検索した。また、製薬企業と連絡を取り追加情報を得た。 2人の研究者が独立して試験を選択し、バイアスリスクを評価するとともにデータを抽出して、タペンタドール徐放性製剤 vs.プラセボ、およびタペンタドール徐放性製剤 vs.オキシコドンを比較する2つのメタ解析を行った。有効性の主要評価項目は疼痛強度(11ポイントの数値的評価スケール)の変化量によって評価される鎮痛効果および有効率(疼痛強度が50%以上軽減した患者の割合)、安全性の主要評価項目は副作用による中止率であった。 タペンタドールの無作為化試験の主な結果は以下のとおり。・変形性関節症または腰痛患者を対象とした並行群間比較試験4件(計4,094例)が本レビューに組み込まれた。12週間の第III相試験3件と52週間の非盲検安全性評価試験1件で、対照薬は4件すべてがオキシコドン、そのうち3件ではプラセボも含まれた。対象患者は変形性膝関節症患者2件、腰痛患者1件、両方1件であった。・オキシコドン対照試験2件、プラセボ対照試験1件は有効率に関するデータがなかった。・2件の試験は、バイアスリスクが高いと判定された。・プラセボ群との比較の場合、タペンタドール群では12週時の疼痛強度が平均0.56ポイント(95%信頼区間[CI]:0.92~0.20)低下し、有効率は1.36倍増加(12週間における効果に関する治療必要人数:number needed to treat for an additional beneficial outcome[NNTB]=16、95%CI:9~57)したが、有効性の評価結果に関して中等度~高度の不均一性が認められた。・また、タペンタドール群で副作用による治療中止のリスクが2.7倍増加した(12週間における有害事象に関する治療必要人数:number needed to treat for an additional harmful outcome[NNTH]=10、95%CI:7~12)。・オキシコドン群との比較の場合、タペンタドール群では疼痛強度のベースラインからの低下量が0.24ポイント(95%CI:0.43~0.05)であり、有効率を評価した2件の研究では統計学的有意差はなかったものの有効率が1.46倍増加した(95%CI:0.92~2.32)。・また、タペンタドール群では、有害事象による治療中止のリスクが50%(95%CI:42%~60%)、有害事象の全リスクが9%(95%CI:4~15)、いずれも減少し、重篤な有害事象のリスクも有意差はないものの43%(95%CI:33~76)減少した。・しかしながら、主要評価項目を除く大部分の有効性に関する評価結果、および安全性に関する評価結果に、中等度から高度の不均一性が認められた。・サブグループ解析において、変形性膝関節症患者を対象とした研究、ならびに質が高く短期間の研究の統合解析で、タペンタドールは高い改善効果を示した。しかし、サブグループ間の効果量に統計学的な有意差は認められなかった。

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オキシコドン/ナルトレキソン徐放性製剤、中~重度の慢性腰痛を改善

 オキシコドンの乱用防止製剤であるナルトレキソン含有オキシコドン徐放性製剤ALO-02は、中等度~重度の慢性腰痛を有意に改善し、安全性プロファイルは他のオピオイドと類似していることが、米国・Carolinas Pain InstituteのRichard L Rauck氏らによる第III相臨床試験で示された。Pain誌オンライン版2015年5月16日号の掲載報告。 研究グループは、中等度から重度の慢性腰痛に対するALO-02の有効性および安全性を検討する目的で多施設二重盲検プラセボ対照無作為化試験を行った。 非盲検用量調整期として全例にALO-02を投与した後、治療効果判定基準を満たす患者を二重盲検治療期に移行しAOL-02固定用量群またはプラセボ群に割り付けた。 評価項目は1日平均腰痛強度で、11段階の数値的評価スケールを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングされた663例中、410例が非盲検用量調整期にALO-02の投与を受け、そのうち281例が二重盲検治療期に移行した(ALO-02群147例、プラセボ群134例)。・治療期の最終2週間における平均疼痛スコアの無作為化時(ベースライン)からの変化量は、プラセボ群と比較してALO-02群が有意に大きかった(p=0.0114)。・治療期の最終2週間における週間平均疼痛スコアのスクリーニング時からの改善が30%以上を達成した患者の割合は、ALO-02群57.5%、プラセボ群44.0%であった。・治療期における有害事象の発現率は、ALO-02群56.8%およびプラセボ群56.0%であった。・治療期においてALO-02に関連した有害事象で発現頻度が高かったのは悪心、嘔吐および便秘で、従来のオピオイド治療と変わらなかった。

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手術中の疼痛緩和で患者満足度は向上するのか

 周術期の治療と患者満足度には、どのような関連があるのだろうか。米国・シダーズ・サイナイメディカルセンターのDermot P. Maherらの研究によれば、術中の鎮痛は、疼痛管理に関する患者満足度および病院全体に対する患者満足度のいずれとも関連していなかった。関連が示唆されたのは、人口統計学的要因、入院前の薬物療法および麻酔回復室での疼痛スコアであったという。Pain Medicine誌2015年4月号の掲載報告。 本研究は、都市部の教育機関かつ3次医療のレベル1外傷センター1施設で行われた。米国患者満足度調査(HCAHPS)による評価に関する基準を満たしている外科入院患者連続2,758例を対象に、4つのHCAHPS質問項目に対する回答と周術期要因19項目との関連を後ろ向きに解析した。 主な結果は以下のとおり。・「病院全体の評価はどれくらいですか」の回答が「9」または「10(最高)」は、入院期間(短い)、手術時間(長い)、術中オピオイド使用量(少ない)、術前ミダゾラム投与量(多い)、術後麻酔回復室(PACU)在室時間(短い)、PACUでの最終疼痛スコア(低い)と関連していた。・「この病院をあなたの家族に勧めますか」の回答が「必ず勧める」は、PACUでの最終疼痛スコア(低い)と関連していた。・「どのくらいの頻度で病院スタッフはあなたの疼痛をケアしましたか」の回答が「はい、いつも」は、入院期間(短い)、長期ベンゾジアゼピン使用者(割合が低い)、長期非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)使用者(割合が高い)、PACU在室時間(短い)と関連していた。・「あなたの痛みはどのくらいの頻度でよくコントロールされましたか」の回答が「はい、いつも」は、長期オピオイド使用者(割合が低い)、長期ベンゾジアゼピン使用者(割合が低い)、長期NSAIDs使用者(割合が高い)、手術時間(長い)、PACUでの最終疼痛スコア(低い)、PACUでの初回疼痛スコア(低い)と関連していた。・HCAHPSの回答との関連は、手術の種類(診療科別)によって異なっていた。

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慢性腰痛は神経障害性疼痛の有無で治療薬を使い分け

 慢性腰痛の治療にプレガバリン(商品名:リリカ)やオピオイドが用いられることがあるが、これまで両者の有効性を比較した研究はない。独立行政法人 国立長寿医療研究センター 整形外科脊椎外科医長の酒井 義人氏らは高齢患者において検討し、全体の有効率に差はないものの神経障害性疼痛や下肢症状の有無で、効果に違いがみられることを示した。著者は、「鎮痛か日常生活動作(ADL)の改善かなど、治療の主たる目的を明確にしておくことが大切」とまとめている。European Spine Journal誌オンライン版2015年2月15日号の掲載報告。 対象は65歳以上の慢性腰痛で治療を継続している患者65例で、プレガバリン投与期とオピオイド投与期を実施し、いずれも4週間投与した後、疼痛およびADLについて視覚アナログスケール(VAS)、日本整形外科学会腰痛治療判定基準(JOAスコア)、ローランド・モリス障害質問票(RDQ)、簡易版マックギル疼痛質問票(SF-MPQ)、EuroQOL-5D、高齢者用うつ尺度(GDS)を用い評価した。また、神経障害性疼痛スクリーニング質問票も神経障害性疼痛の評価に用いた。 主な結果は以下のとおり。・有効率は、プレガバリン73.3%、オピオイド83.3%で、有意差は認められなかった。・効果発現までの平均日数は、プレガバリン10.2日、オピオイド6.1日で、有意差はなかった。・プレガバリンは神経障害性疼痛、オピオイドは非神経障害性疼痛を伴う腰痛患者で、より有効であった。・ADLの改善は、プレガバリンよりオピオイドで大きかった。・プレガバリンは下肢症状を有する腰痛患者、オピオイドは下肢症状を有さない腰痛患者で、より効果的であった。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第17回

第17回:慢性腰痛に対してのオピオイド~短期間は有効だが、長期間投与の効果と安全性ははっきりしない監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 慢性腰痛は、外来で多い訴えの1つです。慢性腰痛を持つ患者さんが疼痛コントロールに苦しんで受診されることが多く、総合診療外来医師、整形外科医師が治療に難渋していることも多いです。 2011年4月にトラムセット(トラマドール+アセトアミノフェン合剤)が承認されてから、NSAIDsで対応困難なケースなどに対して、わが国でもオピオイドの使用が以前よりも身近なものになってきています。また、他のオピオイド内服もしくは、パッチ剤(フェンタニル剤)を貼付されているケースも散見します。 オピオイドは疼痛コントロールに有効といわれますが、便秘や嘔気といった副作用などに悩み、長期に投与してよいものかと考えることがたびたびあります。長期使用の安全性は明らかになっておらず1), 2)、個人的には慎重に使用したいと考えます。日本では、慢性腰痛に対して、日本ペインクリニック学会が作成した神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン3)もあり、参考になると思います。 以下、American Family Physician 2014年8月15日号1)、The Cochrane database of systematic reviewsオンライン版 2013年8月27日版2)よりオピオイドは、慢性腰痛の治療に有効か?randomized controlled trialsのMeta-analysis 慢性腰痛には、オピオイドが短期間の疼痛の緩和と機能改善に多少有効であると一般的に考えられている。しかしながら、長期間のオピオイド使用でのデータは、ほとんど存在していない。長期間のオピオイド使用については、議論の分かれるところである。医師は、患者に疼痛の緩和を求められるが、長期間のオピオイドを使う際には投薬調節と安全性への配慮も求められる。トラマドールとプラセボを比較した5つの研究には、方法論的なバイアスがあったが、概して患者はプラセボより多くの痛みが減り、機能的なアウトカムもより改善することを示した。痛みの改善はSMD(標準化平均差)、-0.55( 95% CI -0.66~-0.44、low quality evidence)、機能の改善は SMD、-0.18( 95% CI -0.29~-0.07、moderate quality evidence)であった。2つの研究では、経皮ブプレノルフィンとプラセボを比較した。ブプレノルフィンの2つの研究では、エビデンスレベルは低く、プラセボより痛みが減るが、機能は改善しないことが判明した。痛みの改善はSMD、-2.47( 95% CI -2.69~-2.25、very low quality evidence)、機能の改善はSMD、-0.14( 95% CI -0.53~0.25、very low quality evidence) であった。5つの強オピオイドの研究では、痛みが減り、機能改善することが判明した。痛みの改善はSMD、-0.43( 95% CI -0.52~-0.33、moderate quality evidence)機能の改善はSMD、-0.26(95% CI -0.37~-0.15、moderate quality evidence)であった。いずれのトライアルも研究の質は低~中等度で、中断率が高く、観察期間が短く、機能改善の定義が限定されている。オピオイドの長期使用に関するトライアルは、さまざまなリスクを総合的に評価するなど慎重に行うべきである。慢性腰痛に対するオピオイドの長期間の効果と安全性を示しうるRCTはない。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) HENRY C. BARRY. Am Fam Physician. 2014; 90: 259B-C. 2) Chaparro LE, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2013; 8: CD004959. 3) 日本ペインクリニック学会神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン作成ワーキンググループ 編. 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン. 真興交易医書出版部. 2011. 

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薬物過剰摂取のリスクを高める薬物は

 米国・テキサス大学健康科学センター・サンアントニオ校のBarbara J. Turner氏らは、非がん性疼痛に対してオピオイド等を投与された患者を対象に後ろ向きコホート研究を行った。結果、オピオイドならびにベンゾジアゼピン系薬の長期投与は薬物過剰摂取と関連しており、オピオイドのリスクはうつ病患者で最も高いこと、うつ病患者では抗うつ薬の長期使用が過剰摂取のリスクを低下させるが、非うつ病患者ではすべての抗うつ薬使用が過剰摂取のリスクを高めることを報告した。Journal of general internal medicine誌オンライン版2015年2月4日号の掲載報告。 本検討で研究グループは、オピオイド、ベンゾジアゼピン系薬、抗うつ薬およびゾルピデムの処方と、精神障害患者の薬物過剰摂取の関連について調べた。対象は、HMO(健康維持機構)加入者で登録期間が1年以上、2009年1月~2012年7月の間に、非がん性疼痛に対してSchedule IIまたはIIIオピオイドを2つ以上処方された18~64歳の患者であった。評価は、オピオイドを初めて処方された後の薬物過剰摂取による初回入院または通院をアウトカムとした。予測変数として6ヵ月ごとおよび過剰摂取発現の直前6ヵ月のオピオイド使用(1日平均モルヒネ等価量)、ベンゾジアゼピン系薬使用(1日投与量)、抗うつ薬使用(1日投与量)、ゾルピデム使用(1日投与量)を算出するとともに、精神障害(うつ病、不安症/PTSD、精神病)、疼痛関連症状、物質使用障害(アルコール、他の薬物)について調べた。 主な結果は以下のとおり。・薬物過剰摂取例は、計1,385例(0.67%)であった(発生頻度421/10万人年)。・薬物過剰摂取の補正後オッズ比(AOR)は、1日オピオイド量とともに単調に上昇した。・同AORは非うつ病またはオピオイド使用患者との比較で、うつ病かつオピオイド高用量使用(1日100mg以上)患者が最も高かった(AOR:7.06)。・うつ病患者の抗うつ薬長期使用(91~180日)は、短期使用(1~30日)あるいは未使用との比較で、薬物過剰摂取のAORが20%低かった。・非うつ病患者では、抗うつ薬使用により薬物過剰摂取のAORが増加した。未使用との比較において短期使用で最も高かった(AOR:1.98)。・全対象において薬物過剰摂取のAORはベンゾジアゼピン系薬の使用期間とともに増大し、91~180日間で未使用の2.5倍以上となった。関連医療ニュース 抗精神病薬の有害事象との関連因子は なぜSSRIの投与量は増えてしまうのか ベンゾジアゼピン処方、長時間型は大幅に減少  担当者へのご意見箱はこちら

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小児救急での鎮静プロトコルは有効か/JAMA

 急性呼吸不全で人工呼吸器を装着した小児に対し看護師による目標指向型の鎮静プロトコルを行っても、通常ケアと比較して呼吸器装着期間は短縮しなかったことが示された。検討は米国・ペンシルベニア大学のMartha A. Q. Curley氏らが、31ヵ所の小児ICU(PICU)で2,449例を対象に行った集団無作為化試験の結果、報告した。探索的副次アウトカムの評価からは、挿管中の覚醒患者の割合は介入群で有意に高率であった一方、疼痛や興奮のエピソードも介入群で有意に高率であるなど、説明が困難な介入との関連が示されたという。これまでに、鎮静プロトコルは成人の救急疾患ではアウトカムを改善するが、小児への有効性については不明であった。JAMA誌2015年1月27日号掲載の報告より。31ヵ所のPICUで急性呼吸不全、人工呼吸器装着の小児2,449例集団無作為化試験 試験は2009~2013年に全米31ヵ所のPICUで行われ、急性呼吸不全で人工呼吸器装着の小児(生後2週間~17歳)2,449例が登録され、オピオイド中止後72時間まで、または28日時点もしくは退院時まで行われた。 介入PICU群(17ヵ所、1,225例)には、目標指向型の鎮静、覚醒評価、抜管準備テスト、8時間ごとの鎮静調整、鎮静離脱などを含む鎮静プロトコルが行われた。一方、対照PICU群(14ヵ所1,224例)には通常ケアに基づく鎮静が行われた。 主要アウトカムは、人工呼吸器装着期間とした。副次アウトカムは、急性呼吸不全からの回復までの期間、人工呼吸器離脱までの期間、神経学的検査、PICU入室および入院の期間、院内死亡率、鎮静関連の有害事象、鎮静薬曝露の評価(覚醒、疼痛、興奮)、離脱症状の発生率などだった。人工呼吸器装着期間に有意差なし、有害事象の発生は因果関係が混迷 結果、人工呼吸器装着期間は、両群で有意差は示されなかった。介入群の中央値6.5日(IQR:4.1~11.2)、対照群の同6.5日(同:3.7~12.1)であった。 鎮静関連の有害事象(疼痛および鎮静管理不十分、臨床的に明らかな離脱症状、不意の気管内チューブ等の抜去など)も両群間で有意な差はみられなかった。 介入群では、抜管後喘鳴を経験した患者がより多かった(7%vs. 4%、p=0.03)が、ステージ2以上の褥瘡は少なかった(<1%vs. 2%、p=0.001)。 探索的分析の結果、介入群患者のほうが対照群患者よりも、オピオイド投与日数が短く(中央値9日[IQR:5~15] vs. 10日[同:4~21]、p=0.01)、使用された鎮静薬の種類が少なく(中央値2種[IQR:2~3] vs. 3種[2~4]、p<0.001)、また挿管中の覚醒の頻度が高かった(報告があった試験日割合中央値86%[IQR:67~100] vs. 75%[50~100]、p=0.004)。 一方で介入群患者のほうが対照群患者よりも、スコア4以上の疼痛を報告した日の割合が高く(同中央値50%[IQR:27~67]vs. 23%[0~46]、p<0.001)、興奮を報告した日の割合も高かった(同中央値60%[IQR:33~80]vs. 40%[13~67]、p=0.003)。

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ブプレノルフィン経皮吸収型製剤、慢性腰痛患者の睡眠も改善

 ブプレノルフィン経皮吸収型製剤(BTDS、商品名:ノルスパンテープ)は、中等度~重度の慢性腰痛に対する鎮痛効果を示すことが知られている。米国・Optum社のAaron Yarlas氏らは、臨床試験成績の事後解析を行い、同製剤がオピオイド使用歴の有無を問わず中等度~重度慢性腰痛患者の睡眠の質および睡眠障害を改善することを明らかにした。著者は、「睡眠に関するBTDSの恩恵は、4週以内に現れ12週間にわたって維持される」とまとめている。Pain Practice誌オンライン版2015年1月20日号の掲載報告。 研究グループは、中等度~重度慢性腰痛患者の睡眠に対するBTDS治療の影響を検討する目的で、無作為化二重盲検比較試験2件について解析した。試験1は、オピオイド未使用患者を対象としたBTDS 10mcg/時および20mcg/時とプラセボとの比較試験(541例)、試験2は、オピオイド使用歴のある患者を対象としたBTDS 20mcg/時と5mcg/時の比較試験(441例)であった。 評価項目は、睡眠の質や睡眠障害などについて患者が自己報告するMedical Outcomes Study Sleep Scale(MOS睡眠スケール)で、12週間の二重盲検期におけるMOS睡眠スケールスコアの変化と疼痛減少の程度との関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・12週後のMOS睡眠スケールスコアが得られたのは、試験1が369例、試験2が274例であった。・いずれの試験においても、対照薬群と比較して試験薬群で、MOS睡眠スケールの睡眠問題(Sleep Problems Index:SPI)スコアおよび睡眠障害(Disturbance)スコアが有意に改善した(p<0.05)。・この有意な改善は、二重盲検期の4週目までに認められた。・疼痛軽減は、睡眠改善の予測因子であった。

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単一成分のヒドロコドン徐放性製剤、慢性疼痛に有効

 ヒドロコドン徐放性製剤「Zohydro」(国内未承認)は、米国FDAに最初に承認された単一成分のヒドロコドン徐放性製剤である。米国・カンザス大学メディカルセンターのSrinivas Nalamachu氏らは多施設非盲検臨床試験において、中~重度の慢性疼痛を有しオピオイドの効果が不十分もしくは忍容性がなかった患者に対し、本剤の長期投与が概して安全かつ有効であったことを示した。著者は、ヒドロコドンの速放性製剤を服用している患者やアセトアミノフェンによる肝毒性が懸念される患者にとって新しい治療選択肢となりうるとまとめている。Journal of Pain Research誌オンライン版2014年11月21日の掲載報告。 本試験は、6週間以内のヒドロコドン徐放性製剤への変更・用量調整期と48週間の維持期で構成されて行われた。 対象は変形性関節症、腰痛、神経障害性および筋骨格系の慢性疼痛患者638例で、ヒドロコドン徐放性製剤を1日2回投与した(範囲:20~300mg)。 主要評価項目は安全性であり、副次的評価項目は長期有効性(平均疼痛スコアの変化量:0~10で評価)であった。 主な結果は以下のとおり。・試験開始時のヒドロコドン等価用量平均値は68.9±62.2mg/日で、維持期開始時には139.5±81.7mg/日まで増量した。・主な有害事象は変更・用量調整期/維持期でそれぞれ、便秘11.3%/12.5%、悪心10.7%/9.9%、嘔吐4.1%/9.7%、傾眠7.7%/4.2%であった。・試験中に4例が死亡したが、本試験の治療とは関係していないと考えられた。また、試験終了13ヵ月後に1例の死亡が報告された。・変更・用量調整期において84%の患者で臨床的に意味のある疼痛改善(平均疼痛スコアが30%以上改善)を認め、維持期においては平均疼痛スコアの平均値は安定していた。

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術後TAPの単回投与+持続注入追加の効果は?

 術後鎮痛に腹横筋膜面(TAP)ブロックの単回投与が用いられているが、持続投与の有用性を検討した比較試験はこれまでなかった。米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のJustin W. Heil氏らは、腹部のヘルニア患者を対象に小規模な無作為化三重盲検プラセボ対照比較試験を行い、ロピバカイン(商品名:アナペイン)によるTAPブロックとして、術前単回注入にさらに術後持続注入を追加して有用性を検討した。その結果、効果がなかったことが示された。ただし著者は、「検出力が不足しているためさらなる研究が必要」とまとめている。Pain Medicine誌2014年11月号(オンライン版2014年8月19日号)の掲載報告。 本研究に登録されたのは、片側鼠径ヘルニア患者19例、臍ヘルニア患者1例、計20例であった。 術前、ロピバカイン0.5%(20mL)単回注入によるTAPを行ってカテーテルを留置。2群に無作為化した後、手術を行い、携帯用注入ポンプを用いてロピバカイン0.2%または生理食塩液を術後2日目の夜まで持続注入した。 疼痛(数値的評価スケールによる:0~10)ならびに経口オピオイドの使用などを術後0~3日目に評価し、術後day1の体動時痛を主要評価項目とした。 主な結果は以下のとおり。・術後1日目の疼痛スコア(mean±SD)は、ロピバカイン投与群(10例)3.0±2.6、プラセボ群(10例)2.8±2.7であった(95%信頼区間:-2.9~3.4、p=0.86)。・副次的評価項目も、両群間で有意差はなかった。

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過食性障害薬物治療の新たな可能性とは

 過食性障害に対する薬理学的アプローチについて、米国・ノースカロライナ大学のKimberly A. Brownley氏らが現状を紹介している。これまでに、食欲過剰、気分調節、衝動制御に関連する神経伝達物質を標的とした検討が行われており、なかでもグルタミン酸シグナル伝達回路に着目した研究に新たな可能性があることを示唆している。Drugs誌オンライン版2014年11月27日号の掲載報告。 Brownley氏らによれば、米国において、過食性障害は最も頻度の高い摂食障害で、生涯有病率は成人女性で最大で3.5%、成人男性で2.0%、思春期で1.6%と報告されているという。過食性障害は、過食を制御できないという感覚を伴う頻繁な暴食症状を特徴とし、その結果として著しい心理的苦痛を患者に与える。また、過食性障害は肥満そしてうつ病などの精神医学的症状を高頻度に併発し、実質的な役割障害と関連する。 現在、米国FDAにより認可された過食性障害治療薬はない。一方で、動物およびヒトを対象とした研究により、脳の報酬系領域内のドパミン、オピオイド、アセチルコリン、セロトニンが神経回路において調節異常を来している可能性が示唆されており、今日に至るまで、食欲過剰、気分調節、衝動制御に関連する複数の神経伝達物質を標的としたさまざまな薬剤の有効性が、過食性障害治療の分野で研究されてきているという。 これまでに得られている主な知見は以下のとおり。・抗うつ薬、抗けいれん薬の中に、過食症状の発生抑制に有効なものがあったが、治療の主要目的である食欲抑制を達成できた患者は限られていた。・臨床的に意味のある体重減少、あるいはプラセボに比べ有意な体重減少の達成に関しても、効果の高いもの(トピラマート)から低いもの(フルボキサミン)まで、ばらつきがあった。・全体的にみて、過食性障害に対する薬理学的アプローチに関する文献は限られており、適切なフォローアップによる多面的検証試験(multiple confirmatory trials)が実施された薬剤は非常に少なく、年齢、性別、多人種の患者集団からなる大規模サンプルを用いて評価された薬剤はほとんどない。・さらに、これまでの研究は、試験デザインや本疾患の患者集団に共通して認められるプラセボに対する高い反応性により、適切に実施されてこなかった。・いくつかの新しい薬剤がさまざな研究段階にあるが、扁桃体と外側視床下部をつなぐグルタミン酸シグナル伝達回路に着目した最近の動物実験により、新しい研究や薬剤開発の可能性が示唆されている。・新しくFDAに認可された長期肥満治療薬の研究、食欲や気分に影響を与える成分を含有するサプリメントや栄養食補助食品のさらなる開発も、有意義な取り組みになると思われる。関連医療ニュース 抗精神病薬による体重増加や代謝異常への有用な対処法は:慶應義塾大学 統合失調症患者の体重増加、遺伝子との関連を検証 情動障害患者よりも統合失調症患者で有意に体重を増加:オランザピンのメタ解析  担当者へのご意見箱はこちら

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がん疼痛緩和治療にステロイドがもたらすもの

 オピオイド治療中のがん患者で、その痛みに炎症が重要な役割を占めると考えられる場合、抗炎症効果を期待して、コルチコステロイドを用いることが多い。しかし、そのエビデンスは限られている。そこでノルウェー大学のOrnulf Paulsen氏らは、メチルプレドニゾロンの疼痛緩和効果の評価を行った。試験は、ステロイドの進行がん患者を対象とした疼痛緩和効果の評価としては初となる、多施設無作為二重盲検比較で行われた。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2014年7月7日号の掲載報告。 対象は、中等度から重度の疼痛でオピオイド治療を受けている18歳以上、直近24時間の平均NRSスコア4点以上のがん患者。登録患者は、メチルプレドニゾロン32mg/日群(以下MP群)とプラセボ群(以下PL群)に無作為に割り付けられ、7日間治療を受けた。 主要評価項目は7日時点の平均疼痛強度(NRSスコア、範囲0~10)。副次的評価項目は鎮痛薬使用量(経口モルヒネ換算)、疲労感および食欲不振 、患者満足度である。 主な結果は以下のとおり。・592例がスクリーニングされ、そのうち50例が無作為に割り付けられ、47例が解析対象となった。・患者の平均年齢は64歳、Karnofsky スコアの平均は66であった。・主ながん種は前立腺がん、肺がん、胃・食道がん、婦人科がんであった。・ベースラインのオピオイド使用量(経口モルヒネ換算)は、MP群269.9mg、PL群は160.4mgと差があった。・7日時点の平均疼痛強度はMP群3.60、PL群3.68と両群間で差は認められなかった(p=0.88)。・ベースラインからのオピオイド使用量の変化はMP群1.19 、PL群 1.20と両群間に差はなかった(p=0.95)。・疲労感はMP群では17ポイント改善、PL群で3ポイント悪化と、MP群で有意に改善した(p=0.003)。・食欲不振はMP群で24ポイント減少、PL群では2ポイント増加 と、MP群で有意に改善した(p=0.003)。・患者の全体的な治療満足度はMP群5.4ポイント、 PL群2.0ポイントと、MP群で有意に良好であった(p=0. 001)。・有害事象は両群間に差は認められなかった。 当試験では、メチルプレドニゾロン32mg/日によるオピオイドへの疼痛緩和追加効果は認められなかった。しかしながら、コルチコステロイド治療を受けた患者は、臨床的に有意な疲労感軽減、食欲不振の改善が認められ、患者満足度も高かった。今回の試験は、両群患者のベースラインにおいて、とくにオピオイド使用量に違いがあり、サンプルサイズも小さいものであった。今後は長期的な試験で臨床的利点を検証すべきであろう。

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人間失格【傷付きやすい】[改訂版]

今回のキーワード愛着障害境界性パーソナリティ障害空虚感情緒不安定自己愛依存「そんなに傷付く!?」みなさんが患者さんや学生さんと接している時、「そんなに傷付く!?」とびっくりしてしまったことはありませんか?世の中にはいろんな人がいます。気が強い人もいますし、逆に感じやすい人もいます。できることなら誰とでもうまくやっていきたいですよね。でも、うまくいかなくなった時、どう考えたら良いでしょうか? どう接したら良いでしょうか?「大人とは、裏切られた青年の姿である」今回は、この感じやすい心について、2010年の映画「人間失格」を取り上げてみました。原作は、永遠の青年文学と言われる太宰治の代表作であり、また彼の人生そのものであるとも言われています。いまだに多くの人たち、特に迷える若者たちの心をわしづかみにしています。彼の名言の1つに「大人とは、裏切られた青年の姿である」という文があります。この「裏切られた」という感傷的な表現をあえて使い、裏切るか裏切らないか、つまり人を信じることについて敏感になっているのは、そもそも人間不信が根っこにあり、人に対しての信頼感が揺いでいることがうかがえます。主人公はなぜ傷付きやすいのか? なぜ人間不信があるのか? そして、私たちはなぜ彼が気になるのか? これらの疑問も踏まえて、これからストーリーを追って詳しく探っていきましょう。トラウマ―心の傷まずは、冒頭の幼少期のシーンです。主人公の葉蔵が独りつぶやきます。「生まれて、すいません」と。いきなりの謎です。なぜ、子どもがそんなことを言うことができるのでしょうか? その謎の答えは、映画では描かれていません。しかし、原作で告白されています。実は、葉蔵にはトラウマ(心的外傷)があったのです。そのうちの1つは、家の女中や下男から性的虐待を受けていた可能性があることです。原作では「哀しい事を教えられ、犯されていました」という表現だけのため、どの程度なのか、または象徴的な言い回しなのかなどの解釈が分かれるところです。もう1つは、家族のような存在である女中や下男たちがお互いの悪口を陰で言い合っているのを幼少期から聞かされました。一貫して信じたい人を信じられなくさせる矛盾した二重の縛り、ダブルバインドです。さらに、太宰本人は実際に幼少期に、育ての母親とも言える女中と突然別離させられています(喪失体験)。だからでしょうか? 作品中では葉蔵の母親は登場しません。しかし、彼は物分かりが良すぎたのです。そして、それらを全て受け入れたのでした。そして、子ども心ながら「生き残りたい」「これ以上誰にも見捨てられたくない」という思い込みから、その究極の答えとして、自分を抑圧して本心を言えずに言われたままに従う良い子、そしてみんなの気を引く道化役を死に物狂いで演じ始めました。これが、彼の人間不信、自己否定の原点であったようです。だからこそ、生存の謝罪が口から突いて出てきたのでした。代償性過剰発達―研ぎ澄まされた能力生き残るためのサバイバーとしての必死の演技は、葉蔵に特別な能力を開花させました。それは、嫌われないようにそして演技がばれないようにするため、常に彼は相手の顔色を伺い、表情、動作、言動に敏感になっていきました。そして、観察力、感受性が研ぎ澄まされていったのです(代償性過剰発達)。ちょうど視覚障害者の聴覚が敏感になるように、生きづらさを代わりの能力で補いカバーしようとして、その能力が過剰に発達することです。自分の生き死にがかかっていることのない普通の家庭で育った子どもは、このような能力は備わらず、無邪気なままです。数々の太宰作品はなぜ感性が鋭く描かれているのかにも納得がいきます。学校での彼は、笑い者として実に見事に演じ、常にお茶目で人気者でした。ある時、学校の体育の時間にいつものように面白おかしく失敗してクラスメートたちみんなの笑いを誘うことに大成功をおさめます。しかし、その演技はよりによって、あるサエないクラスメートの竹一にだけこっそり見破られるのです。その瞬間、葉蔵は心の底から震え上がります。道化役に全てを捧げていた彼にとっては自分が自分でなくなるような感覚でしょうか。次に彼のとった行動は、竹一を自分の友人として味方につけて、取り込んだのでした。そもそも竹一ももしかしたら「さえない生徒」を演じていたのかもしれません。葉蔵と同じように観察力が鋭いのであれば、演技で人を欺くことができます。二人はそんな同じ匂いに惹き合ったようにも見えます。失体感症―失われる空腹感原作では、幼少期から葉蔵は空腹感を感じない体質であると描かれています。この原因は、トラウマによる不安や葛藤を押し殺す抑圧の心理メカニズムにより、空腹感などの身体的欲求などの感覚までもが押し殺され鈍くなっている状態が考えられます(失体感症)。私たちにも、周りへ気を使い過ぎると(過剰適応)、体の感覚が鈍くなる症状として現れます。さらに、自分の感情そのものにも鈍くなってしまう場合もあります(失感情症)。愛着障害―結べなくなる絆太宰が母親代わりの女中を喪失した外傷体験の代償は、計り知れません。もともと父親は地元の名士で議員でもあり、多忙でほとんど家を空けており、お世話をする女中たちや下男たちや兄姉たちとのかかわりがほとんどで、親からの愛情によるかかわりが乏しかったことが伺えます。そもそも、親、特に母親という特別な存在から無二の愛情を受けることで、子どもは自分が特別な存在であると実感します。自分にとって親が特別であり、同時に親にとっても自分が特別であること、この特別な結びつきの感覚こそ信頼感を育み、愛着という強く固い絆を生み出します。その絆の安心感を基に、やがて成長した青年は、様々な人たちと巡り会い、自分が選び同時に選ばれるというプロセスを経て、親友や恋人などとの新たな絆を作ろうとします。そして、選び取ること、選び取られることの大切さを知り、その特別な絆を深めようとします。葉蔵は、もともとこの愛着という絆がうまく育まれていなかったのでした(愛着障害)。愛着障害により、そもそも相手を信頼する時に安心感がないのです。その代わりに、「いつか捨てられるんじゃないか」「裏切られるんじゃないか」という強い恐れ(見捨てられ不安)が常に彼を支配していました。その後も、多くの女性が彼を求め、その女性たち全てが彼の居場所となりました。しかし、同時に、彼の心そのものはどこにも居場所がありませんでした。なぜなら、彼は、戦場のような場所で過ごした幼少期の体験によって、安心できる「居場所」という感覚そのものがなかったからです。そして、自分が選び抜いた誰か特別な人に愛情(愛着)を持つという発想そのものがなかったからです。空虚感―全てが空しい映画では、原作には登場しない中原中也との出会いが描かれます。最初は、絡み酒です。中原中也は「おまえは何の花が好きだ」「戦争の色は何色だ」と吹っかけてきます。その強がりは、彼の作風に反映されている不安や寂しさの裏返しであることが垣間見えます。見捨てられ不安で蝕まれた心は、世界が広がる青年期の多感な時期を迎えると、空しさで空っぽになってしまいます(空虚感)。自分の弱さや存在の危うさに敏感で繊細な点で、葉蔵と中原中也は似た者同士で、やがて惹き合っていきます。中原中也は、葉蔵にとって憧れであり、唯一の友情らしき感覚を味あわせてくれる存在でした。葉蔵が大切にしていた画集を質入れした直後に、中原中也が買い取り、葉蔵に渡すシーンは印象的です。しかし、葉蔵と中原中也はお互いに通じるものがあったのにもかかわらず、中原中也は自殺してしまいます。この出来事は、葉蔵の空虚感をさらに助長させていきます。操作性―巧みな人使い見捨てられ不安や空虚感があると、人はそれを満たすため、自分から人に働きかけて自分の思い通りにしようとして、人の気を惹くのがうまくなります(操作性)。葉蔵が従姉に優しくする場面が印象的ですが、何をしたら相手が喜ぶか完全に心得ています。その後も、持ち前のルックスに加えて、この操作性で次々と女性と関係を持つようになります。細かいところにも目が行き届くため、キャバレーであえて目立たない女給の常子にさり気なくお礼を言い、惚れられます。原作でも「女は引き寄せて、突っ放す」と語られています。情緒不安定―感受性の鋭さの裏返し子持ちの未亡人の静子と同棲するようになった時です。その娘から「本当のお父ちゃんがほしいの」という何気ない無邪気な言葉に、葉蔵は傷付き、打ちのめされます。彼は、感受性があまりに強くて繊細なため、子どもの言うことだから仕方がないとは思えないです。葉蔵の鋭い感受性は、裏を返せば、傷付きやすさを意味しています(情緒不安定)。その時に「裏切られた」「自分の敵だ」と感じたのでした。その後、静子が娘に「お父ちゃんは好きでお酒を飲んでいるのではないの」「あんまり良い人だから」と葉蔵を幸せそうにかばう会話を盗み聞きして、決意します。そして、そのまま立ち去り、二度と戻って来ることはありませんでした。その真意は、「自分のような馬鹿者は平和な家庭を壊してしまう」という自己否定、この幸せに自分は入れないという疎外感や嫉妬心(人間不信)、そして自分が消え去ることでこの幸せに水を差して懲らしめたいという懲罰欲などの複雑な思いが絡んでいそうです。スプリッティング(分裂)―貫けない愛情葉蔵は、「敵か味方か」「完璧な家庭でなければ別れる」と極端に白黒付けようとする感覚に囚われています(スプリッティング、分裂)。良い感情と悪い感情がバランスよく保てず、その中間のグレーゾーンであるちょうど良い「ほどほど」の関係性やささやかな「ほどほど」の幸せを実感するのでは物足りず、納得いかないのです。彼が求めるのは、究極的な信頼であり、究極的な幸福でした。発想が極端なのです。だからこそ、その後に出会うタバコ屋の良子とあっさり結婚してしまうのもうなずけます。良子は、葉蔵が酔っ払い断酒を破ったと打ち明けているのに、「だめよ、酔ったふりなんかして」「お芝居がうまいのね」といっこうに信じず、葉蔵に「信頼の天才」と言わしめたのでした。しかし、のちに妻の良子が不幸にも顔見知りにレイプされている現場に遭遇しても、彼は何とも声をかけられず、その場を立ち去ってしまいます。その後は、良子とは情緒的な交流なく、表面的に接することしかできません。彼は、完璧な信頼や幸福を失うという凄まじい恐怖におののいているばかりで、けっきょくその現実に向き合えず、良子と辛さを分かち合えず、逃げ出してしまいます。持ち前の意気地のなさとスプリッティングにより、たとえ不幸があっても何とか現状を維持して乗り越えていこうとするバランス感覚が欠けているのでした。パーソナリティの偏り葉蔵は、家財を遊びの軍資金にするため次々と質入れしています。そして、財産を食い潰す放蕩ぶりが仇となり、父親の引退をきっかけに、経済的に困窮し、落ちぶれていきます。現実が行き詰れば、空虚感はやがて自殺衝動を駆り立てます。そして、初めて自分が恋した常子と共に入水自殺を図ります。しかし、常子だけ死なせてしまい、自分は生き延びるのです。実際に、太宰も何度も自殺を企てています。そして、毎回違う女性が一緒でした。彼の自殺衝動は、本気で死を決しているというよりは、「生と死のギリギリの境をさ迷うスリルをあえて味わいたい」「そのスリルを通して生きている実感を噛みしめたい」という無意識の心理が働いているようです。他人を巻き込み、手の込んだことをするのは、逆に、生への執着を確かめたいからとも言えます。この心理は、昨今、話題になるリストカットや過量服薬などの自傷行為につながる心の揺らぎと言えます。葉蔵は、情緒不安定、空虚感、見捨てられ不安、スプリッティング、操作性、自殺衝動などの症状が揃っており、境界性パーソナリティ障害(情緒不安定性パーソナリティ障害)があると言えます。ただ、パーソナリティとは、あくまでその人のものごとの捉え方(認知)や感情の偏りなので、その良し悪しは周りとの相性や見方によって二面性があるとも言えます(表1)。表1 葉蔵の情緒不安定の二面性マイナス面プラス面「情緒不安定」「単純」「短絡的」「愛が重い」「感受性豊か」「観察力が鋭い」「純粋」「繊細(ナイーブ)」「愛が深い」自己愛―何ごとも自分の思いどおりにしたい葉蔵は、幼い頃から召使いを何人も抱えるお屋敷に住み、端正な顔立ちで何人もの幼なじみの女の子たちにチヤホヤされて過ごしてきました。そんな家柄、経済力、容姿に恵まれてしまったら、何ごとも自分の思い通りにしたいという気持ち(自己愛)が強く、思い通りにならなくなった時に、そのギャップで傷付きやすさも強まります。実際に、太宰も名誉欲しさに芥川賞の推薦を選考委員の大御所に懇願したという逸話はあまりにも有名です。葉蔵は、定職に就かず、ヒモのような生活を続け、「きっと偉い絵描きになってみせる」「今が大事なとこなんだ」といつまでも叶わぬ夢を追い、不健康なこだわりを持ち続けて、健康的なあきらめができないのです。幸せの青い鳥を追い続ける「青い鳥症候群」とも呼ばれ、現代でもある程度の年齢を重ねても「いつかビッグになる」と言い続ける男性や「いつか白馬の王子様が迎えに来る」と言い続ける女性が当てはまりそうです。ただ、自己愛のパーソナリティも二面性があり、高過ぎる理想と現実のギャップに苦しむ一方、自分を大切に思う気持ちが向上心として生きる原動力になることもあります(表2)。依存―すがりつき、のめり込み、歯止めが利かない葉蔵の空虚感は、果てしない底なし沼であり、人間関係ではけっきょく満たされません。この満たされない心は、やがてお酒や薬物で満たされるようになります。バーで居候していた時は、いつも酔っ払い、痩せていきます。何かにすがり、のめり込み、歯止めが利かないのです。健康的な人の「もうこれぐらいで止めておこう」という節度、限度の加減がないのです。例えば、「もっと命がけで遊びたい」「生涯に一度のお願い」「そこを何とか頼む」などの葉蔵のセリフが分かりやすいです。このようにある一定の枠組み(決めごと)から外れやすい性格傾向は、依存と呼ばれます。人間関係に溺れるだけでなく、アルコールに溺れ、やがて、睡眠薬、麻薬にも溺れていき、依存の対象が広がっていきます。依存のパーソナリティも二面性があります(表2)。人間関係に溺れるためには、相手をしてくれるだれかがいなければなりません。そのため、とても甘え上手になっていきます。さらに、特にアルコール、薬物などの依存物質を乱用してしまうと、やがて止めることだけで手足が震えたり自律神経が乱れたりする離脱症状(いわゆる禁断症状)と呼ばれる体が欲して言うことを聞かなくなる症状が現れ、アルコール依存症や薬物依存症に陥っていきます。最終的に、アルコールと薬物で体がボロボロになってしまった葉蔵は、後見人の平目の助けにより、入院隔離されます。ようやく、断酒、断薬が強制的ながら徹底されるのです。依存症の患者は、もともと枠組みが外れやすいということがあるので、生活や考え方の枠付けを徹底する治療を行います。例えば、規則正しい生活リズムや「ダメなものはダメ」というルールを守ることです。表2 葉蔵のパーソナリティの偏りの特徴特徴マイナス面プラス面情緒不安定性感じやすく、常に生きるか死ぬかの極限にいる。感受性が豊かで、観察力が鋭く、気配りに長けている。自己愛性高過ぎる理想と現実のギャップに苦しむ。自分を大切に思う気持ちが、向上心として生きる原動力になる。依存性すがりつき、のめり込み、溺れやすい。甘え上手共依存―依存されることに依存する病葉蔵の、美形に加えて、陰のある物憂げな表情や、漂う孤独の匂い、弱弱しくよろめきそうなたたずまいは、女性に助けてあげたいという気にさせる魅力や魔力が潜んでいるようです。これは、実際の太宰のポートレートを見てもそう感じさせます。また、雰囲気だけでなく、「金の切れ目が縁の切れ目ってのはね、解釈が逆なんだ」とさりげなく知性を披露するインテリぶりや、言葉少なげで独特の間があることは、守ってあげたいという女性の母性本能をさらにくすぐるようです。実際に、彼が巡り会う女性は、人一倍世話焼きで母性本能が強いです。「いいわよ、お金なんか」という下宿先の世話焼きな礼子、「うちが稼いであげてもダメなん?」という女給の常子、居候させマンガの仕事の依頼をとってきてあげる静子、「信頼の天才」である良子、キスされて麻薬を渡してしまう寿、そして母性本能に溢れる鉄など強烈なキャラが多いです。彼女たちに共通するのは、特別に華があるわけではなく、どこか訳ありで陰や引け目があり、彼女たちは自分に対する自己評価が低く劣等感がありそうです。このような劣等感のある女性が「この人の苦しみを分かってあげられるのは私だけ」と優越感に浸ることができるからこそ、葉蔵はもてはやされるのです。世話焼きとしてお世話をすることで、「私はこんなにこの人の役に立っている」と、自己評価を保とうとします。葉蔵の方も、そんな劣等感や母性本能の強い匂いのする女性をあえて嗅ぎ分けています。このように、必要とされることを必要とする、言い換えれば、依存されることに依存する状態は、共依存と呼ばれます。ややこしいですが、これも一つの依存の形です。そして、実際に、依存症の人が依存症であり続けることができる大きな原因として、その人のパートナーや家族が共依存であり、依存症の治療の妨げになっていることがよくあります。ただ、この共依存のパーソナリティも二面性があり、その良し悪しは人それぞれとも言えます(表3)。表3 葉蔵を取り巻く女たちの共依存の二面性マイナス面プラス面「お節介」「過保護」「過干渉」「押しつけがましい」「甘やかし」「世話焼き」「母性本能に溢れる」「面倒見がいい」「尽くす」「献身的」「優しい」退行―幼少期の生き直し父親の死に伴い、一切の面倒を見るという兄の働きかけにより、葉蔵は故郷の津軽に帰り、療養生活という名目で、年老い世話係の鉄と二人で暮らすことになります。父親にゆかりのある人ということで、どうやら昔の父親の愛人のようです。もともと子どもに恵まれなかった鉄は、葉蔵に強い母性的な無二の愛情を注ぎます。「こんな僕でも許してくれるのか」と言う葉蔵に対して、鉄は優しくそして力強く言い放ちます。「いいんだ」「神様には私が謝るので」「何があっても私が護(まも)る」と。その後に、駐在とのやり取りで、鉄が葉蔵をかばう様子は母そのものです。母性本能の強い鉄と過ごす日々は、葉蔵に安らぎを与えてくれました。どんどんと子ども返り、赤ちゃん返りしていきます(退行)。童心に返ったように無邪気に海岸ではしゃぎ、子守唄で心地良くなります。胎内回帰の寝像のポーズは、子宮の中にいる心地良さを表しているようです。退行を通して、かつて手に入らなかった愛着を育み、幼少期を生き直そうとしているようです。客観視―自分を俯瞰(ふかん)して見つめ直す視点原作では、鉄との愛着を育む他愛のない日々が綴られ、締めくくられます。そして、葉蔵は最後に語ります。「今の自分には幸福も不幸もありません」「ただ、一切は過ぎていきます」と。最後は、「現実は何も解決してくれない」という受身の虚しさに堕ちていく退廃的な美学を描こうとしているようです。諸行無常の響きさえ聞こえてきそうなエンディングです。実際に、太宰はこの作品の完成後に自殺を遂げています。一方、映画ではもう一つのエンディングが用意されていました。原作とは一味違った展開です。葉蔵は、鉄の愛情に育まれてついに巣立つのです。愛情に満たされた、平穏でのどかな故郷から東京に出発する電車の中では、軍人たちの間で戦争に入っていくという緊張感ある会話がなされ、現実世界に引き戻されています。その後、突然、乗客が過去に出会った全ての人たちに変わり、楽しく騒ぎます。まるで走馬灯のように過去を振り返る幻想的なシーンです。その中には、子ども時代の自分と向き合うシーンがあります。それは、過去から現在に至る自分を俯瞰(ふかん)して見つめ直す視点が身に付いたことを象徴しているようです。そして、葉蔵はつぶやきます。「今の自分には幸福も不幸もありません」「ただ、一切は過ぎていきます」と。そこには、かすかな希望が見えます。スプリッティングという両極端なものごとの捉え方による「阿鼻叫喚」な生き様を乗り越えて、安定した情緒で「現実を見つめ直して受け入れていく」という、淡々として自分を客観視できる能動的な人生へと回復していく可能性をほのめかしているようにも思えます。コミュニケーションのコツ臨床現場などで、患者さんやその家族が私たちに対して「よくしてくれる」とか「ちゃんとしてくれない」とかと感じる(転移)と、それが態度に表れることがあります。そんな態度を見た私たちも彼らを「良い人だ」とか「困った人だ」と感じてしまい(逆転移)、最悪のシナリオは、関係がとても悪くなり、関係を続けることが難しくなることです(巻き込まれ)。これは、教育の現場で、学生が相手でも同じです。もしも患者や学生が、葉蔵のような情緒不安定なパーソナリティの偏りがある人だった時、どうすればいいでしょうか?その人は、相手が良い人と思ったらすぐに大好きになり、いつもべったりになります(理想化)。一方、期待し過ぎるあまりちょっとした行き違いが起こると、すぐに裏切られたと思い込み、大嫌いになって、絶交します(幻滅)。このように、すぐに近付いたり、すぐに遠ざかったりして、安定していないのです。そのような時、私たちがその人の不安定な対人距離をよく理解すると、コミュニケーションのコツが見えてきます。巻き込まれコミュニケーションのコツは、3つあります。まず、相手をよく知ることです。相手の心(認知パターン)をよく理解し、次の動き(行動パターン)を予測することです。「世の中に怖いものはない。怖いものがあるとすれば、それは理解がないことだ」(キュリー夫人)という名言がありますが、ものごとは、得体が知れないと不気味ですが、正体が知れると面白味があるものです。私たちは、むしろ興味を持って、「不思議な人だな」とじっくり観察する心の余裕を持つことが大切です。次に、こちらがどっしりと構え、その人の動きに振り回されないことです。つまり、もともとあるべき一定の心の間合い(心理的距離)をとり続けることです。例えば、その人に好かれているから、または文句を言われるからとの理由で特別扱いをして対応を変えないこと、つまり間合いを詰めないことです。近付きすぎたら一歩退きますが、逆に、遠ざかっても見放さず、温かく見守り続けることです。この間合いが、長い目で見ると本人に安心感を与えます。スタッフで足並みを揃えるのも大事です(標準化)。また、たとえ「傷付いた」と言われても、むやみに動揺せず、「この人はこういう人なんだ」と受け流すことです(客観視)。しかし、だからと言って見限らず、見捨てず、見守ることです。相手を怖がってとにかく距離を置くのと、相手をよく理解して必要だから距離を置くのでは、その心の余裕は全く違います。もう1つは、その人は私たちに何かと期待し過ぎる傾向があるので、私たちが自分にできることとできないことの線引き(限界設定)をして、その人になるべく前もって伝えることです。「言った、言わない」のドツボにはまらないために、誠実に、さりげなく書面にするのも得策です。これらのコツは、「巻き込み」「巻き込まれ」を防ぐために、私たちのためだけでなく、その人のためにもなります。表4 コミュニケーションのコツ相手をよく知る相手の心(認知パターン)をよく理解する。次の動き(行動パターン)を予測する。じっくり観察する心の余裕を持つ。心の間合いどっしりと構えて対応を変えない(心理的距離)。スタッフ同士で足並みを揃える(標準化)。「この人はこういう人なんだ」と受け流す(客観視)線引きできることとできないことを線引きする(限界設定)。前もって伝える。書面にする。「人間失格」を乗り越えて「人間合格」になる私たちは10代から20代の間の多感な青年期に、勉強、部活、仕事、恋愛を通して、人間関係の幅や深みが一気に広がり、世界が開けていきます。そして、気付かないうちに人の心を傷付けたり、逆に傷付けられたりする経験を通して、人をどこまで信じていいのか不安や迷いが生まれます。そんな時期に、その感受性を過激に、そして必死に体現してくれるこの「人間失格」の葉蔵は、さ迷える私たちに衝撃を与え、重なり合い、そして自分の状況を振り返らせ、人を信じることとはどうあるべきかを気付かせてくれます。この作品を足がかりとして、その青年期の信じることの危うさを乗り越えた私たちは、ほどよい信頼感や自信(自己肯定感)を実感できる「大人」に成長しているのではないでしょうか?そんな私たちは「人間合格」と胸を張ることができるのではないでしょうか?1)「人間失格」(集英社文庫) 太宰治2)「愛着障害」(光文社新書) 岡田尊司3)「境界性パーソナリティ障害」(幻冬舎新書) 岡田尊司4)「リストカット」(講談社現代新書) 林直樹

279.

高齢者のNSAIDs使用実態が明らかに

 オーストラリア・シドニー大学のDanijela Gnjidic氏らによる調査の結果、高齢者において、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は適切に使用されていない可能性が報告された。シドニー在住の高齢男性を対象に横断的に調査したところ、その使用実態が、NSAIDsを高齢者に安全に使用するための臨床ガイドラインと一致していないことが明らかになったという。著者は「ガイドラインの勧告と現実世界で起きていることの差異をさらに検討しなければならない」とまとめている。Pain誌2014年9月号(オンライン版2014年6月20日号)の掲載報告。 研究グループは、シドニー在住の70歳以上の男性1,696例を対象に、疼痛有病率、NSAIDsの使用パターンや使用期間、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用、薬物相互作用の発生などについて調査した。 主な結果は以下のとおり。・NSAIDsを定期的に使用していた(NSAIDs常用者)は8.2%(139例)、必要に応じて使用していた(頓用者)は2.9%(50例)であった。・NSAIDs常用者の平均治療期間は4.9年で、ガイドラインで推奨されている使用期間(短期使用)より長いことが示された。・ガイドラインではPPIの併用が推奨されているが、NSAIDs常用者における併用率は25.2%にすぎなかった。・NSAIDs常用者は頓用者と比較して、オピオイド鎮痛薬を使用している傾向が有意に高かった(p<0.0001)。・NSAIDs常用者は頓用者と比較して、慢性疼痛(p<0.0001)、最近の疼痛(p=0.0001)、慢性の侵入的な疼痛(p<0.0001)を有している可能性が有意に高かった。

280.

高齢腰痛患者の7割強が受診前から鎮痛薬を服用

 高齢の腰痛患者は一般開業医(GP)を受診することが多い。その際、鎮痛薬を処方される可能性が高いが、オランダ・エラスムス大学医療センターのWendy T M Enthoven氏らによる前向きコホート研究(BACE研究)の結果、GPを受診した高齢腰痛患者の7割強は、すでに受診前から鎮痛薬を使用していることが明らかになった。追跡期間中に鎮痛薬の使用は減少したが、3ヵ月後および6ヵ月後もまだかなりの患者が鎮痛薬を使用していたという。Pain Medicine誌オンライン版2014年8月4日号の掲載報告。 研究グループは、腰痛を主訴にGPを受診した55歳超の患者を対象に、ベースライン時、3ヵ月後および6ヵ月後の鎮痛薬の使用状況を評価した。 過去3ヵ月以内に腰痛のために薬剤を使用していた場合、薬剤名、使用量、使用頻度、および処方薬かOTCの別を質問した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象675例中、484例(72%)がベースライン時に鎮痛薬を使用していた。・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(57%)が、パラセタモール(以下、アセトアミノフェン)(49%)より高頻度であった。・アセトアミノフェンの多くがOTC(69%)、NSAIDsはほとんどが処方薬(85%であった。・ベースラインで重度の疼痛(数値的評価尺度で7ポイント以上)を有していた患者は、アセトアミノフェン、オピオイドおよび筋弛緩薬の使用が多かった。・慢性疼痛(3ヵ月超の腰痛)を有する患者は、アセトアミノフェンを使用することが多かったのに対して、疼痛の期間が短い患者はNSAIDsが多かった。・追跡期間中、薬剤の使用は全体的に減少したが、3ヵ月後および6ヵ月後もそれぞれ36%および30%の患者が依然として鎮痛薬を使用していた。

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