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1.

白血球増多【日常診療アップグレード】第38回

白血球増多問題52歳男性。健康診断で白血球数14,000/μLと、白血球数の増加を認めたため二次健診で受診した。昨年度の健診では白血球数12,000/μLであった。症状はない。ヘモグロビンと血小板数には異常を認めない。既往歴に脂質異常症があり、アトルバスタチンを内服中である。20歳から20本/日の喫煙歴がある。バイタルサインと身体所見は正常である。白血球増多は喫煙のためと判断した。

2.

肥満手術、SADI-SはRYGBを凌駕するか/Lancet

 2007年以来、Roux-en-Y胃バイパス術(RYGB)に代わる肥満治療として、スリーブ状胃切除術+単吻合十二指腸バイパス術(SADI-S)が提案されている。フランス・Hospices Civils de LyonのMaud Robert氏らSADISLEEVE Collaborative Groupは、2年のフォローアップの結果に基づき、肥満治療ではRYGBよりもSADI-Sの有効性が高いとの仮説を立て、これを検証する目的で多施設共同非盲検無作為化優越性試験「SADISLEEVE試験」を実施。術後2年の時点で、RYGB群と比較してSADI-S群は優れた体重減少効果を示し、安全性プロファイルは両群とも良好であったことを報告した。研究の詳細は、Lancet誌2025年8月23日号で報告された。超過体重減少率を比較 本研究では、2018年11月~2021年9月にフランスの22の肥満治療施設で参加者を募集して行われた(フランス保健省の助成を受けた)。 対象は、年齢18~65歳、BMI値40以上、またはBMI値35以上かつ1つ以上の肥満関連合併症(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸、変形性関節症)を併発し、初回手術として、またはスリーブ状胃切除術後の再手術として、SADI-SまたはRYGBが予定されている患者であった。スリーブ状胃切除術以外の減量手術歴、炎症性腸疾患、1型糖尿病、未治療のヘリコバクター・ピロリ感染を有するなどの患者は除外した。 被験者を、SADI-Sを受ける群またはRYGBを受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、2年時点での超過体重減少率(%EWL)とした。%EWLは、([2年後受診時の体重-ベースライン体重]/[ベースライン体重-理想体重])×100の式で算出し、理想体重は各参加者のBMI値が25となる体重と定義した。%EWLが有意に良好、優越性を確認 381例を登録し、190例をSADI-S群、191例をRYGB群に割り付けた。全体の平均年齢は44.4(SD 10.64)歳(範囲:20~65)、265例(70%)が女性で、平均BMI値は46.2(SD 6.4)であった。ベースラインで119例(31%)が2型糖尿病、168例(44%)が高血圧、132例(35%)が脂質異常症、262例(69%)が閉塞性睡眠時無呼吸症候群を有しており、79例(21%)がスリーブ状胃切除術を受けていた。 ITT集団における2年時の平均%EWLは、RYGB群が-68.09(SD 28.70)%であったのに対し、SADI-S群は-76.00(26.65)%と有意に良好であり(平均群間差:-6.71%[95%信頼区間[CI]:-12.64~-0.80]、p=0.026)、SADI-S群の優越性の仮説が確証された。 per-protocol解析でも同様の結果が得られ、%EWLはSADI-S群で有意に優れた(平均%EWL:SADI-S群-76.55[SD 25.95]%vs.RYGB群-67.74[28.48]%、平均群間差:-7.39[95%CI:-13.25~-1.54]、p=0.014)。安全性プロファイルも良好 手術関連の早期(≦30日)合併症は、SADI-S群で10例(6%)、RYGB群で3例(2%)に発現し(p=0.042)、それぞれ4例および3例で早期の再手術を要した。また、手術関連の後期(>30日)合併症は、それぞれ18例(10%)および3例(2%)で発現した(p=0.0009)。平均入院期間は4.8日および2.8日(p<0.001)、30日以内の再入院は3例(2%)および5例(3%)(p=0.49)に発生した。 すべての手術患者を含む安全性評価集団における手術手技に関連した重篤な有害事象の発現件数は、SADI-S群で40件(吻合部縫合不全3件、重症下痢8件など)、RYGB群で35件(ヘルニア5件、重症腹痛5件[2件で診断に腹腔鏡検査を要した]など)であった。 著者は、「両群間で重篤な有害事象や合併症の発現に大きな差はなく、綿密なフォローアップを行えば栄養学的な追加リスクは生じない」「SADI-Sは、初回手術として、およびスリーブ状胃切除術後の再手術の選択肢として考慮することができ、とくにスリーブ状胃切除術を受けた経験がなく、2型糖尿病を有する患者において、より大きな体重減少と良好な代謝転帰をもたらすと考えられる」としている。

3.

ウォーキングはペースを速めるほど効果が大きい

 健康増進のために推奨されることの多いウォーキングだが、その効果を期待するなら、速度を重視した方が良いかもしれない。より速く歩くことで、より大きな健康効果を得られる可能性を示唆するデータが報告された。米ヴァンダービルト大学のLili Liu氏らの研究の結果であり、詳細は「American Journal of Preventive Medicine」に7月29日掲載された。 ウォーキングと健康アウトカムとの関係を調べたこれまでの研究は、主に白人や中~高所得者を対象に行われてきたが、本研究では主に低所得者や黒人に焦点が当てられた。データ解析の結果、1日15分の早歩きで死亡リスクが約20%低下することが示された。この結果を基にLiu氏は、「早歩きを含む、より高強度の有酸素運動を日常生活に取り入れた方が良い」と勧めている。 この研究では、2002~2009年に米国南東部12州で募集された、低所得者や黒人を中心とする約8万5,000人のデータが解析された。ベースラインでは、ゆっくりした歩行(犬の散歩、職場内での歩行、軽い身体活動など)の時間、および、速い歩行(早歩き、階段を上る、運動など)の1日当たりの平均時間が調査されていた。死亡に関する情報は2022年末まで収集され、中央値16.7年(範囲2.0~20.8)の追跡期間中に、2万6,862人の死亡が記録されていた。 年齢、性別、人種、教育歴、婚姻状況、雇用状況、世帯収入、保険加入状況などを調整後、全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクは1日15分の早歩きにより19%低下し(ハザード比〔HR〕0.81〔95%信頼区間0.75~0.87〕)、1日30分の早歩きでは23%低下していた(HR0.77〔同0.73~0.80〕)。それに対してゆっくりした歩行は、1日3時間未満では全死亡リスクが有意に低下せず、3時間以上の場合にわずか4%のリスク低下が認められた(HR0.96〔0.91~1.00〕)。このような関連は、調整因子としてBMI、喫煙・飲酒習慣、余暇時間の身体活動量、座位行動時間、食事の質などを追加してもほぼ同様であった。 今回の研究結果は、主に中~高所得の白人を対象に行われた先行研究の結果と一致している。Liu氏はジャーナルのプレスリリースの中で、「人々の居住地の近隣に、早歩きができるような環境を整備するための計画立案と投資が必要ではないか」と述べている。 ところで、早歩きはどのようなメカニズムで健康を増進するのだろうか? 研究者らは、早歩きのような有酸素運動は、心臓のポンプ作用、酸素供給力などを高めるように働くと解説している。また、そればかりでなく、早歩きを習慣として続けることは、肥満や脂質異常症、高血圧の予防にもつながるという。 著者らは、「われわれの研究結果は、健康状態を改善するための実行可能性が高く、かつ効果的な戦略として、早歩きを推奨することの重要性を強調するものだ」と結論付けている。

4.

口の中の健康状態が生活習慣病リスクを高める可能性

 口の中の健康状態が良くないことと、高血糖や脂質異常症、腎機能低下など、さまざまな生活習慣病のリスクの高さとの関連性が報告された。藤田医科大学医学部歯科・口腔外科学講座の吉田光由氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Oral Rehabilitation」に4月17日掲載され、7月10日に同大学のサイト内にプレスリリースが掲載された。 この研究では、機能歯数(咀嚼に役立っている歯の数)や舌苔の付着レベルなどが、空腹時血糖値やHbA1c、血清脂質値などと関連していることが明らかになった。吉田氏はプレスリリースの中で、「われわれの研究結果は全体として、口腔機能の低下が生活習慣病のリスクとなり得ることを示唆している。よって良好な口腔の健康を維持することは、全身の健康を維持するための第一歩と考えられる」と述べている。 吉田氏らは、2021年と2023年に同大学病院で健診を受けた50歳以上の成人118人(男性80人、女性38人)のデータを解析に用いた。全身の健康状態については、空腹時血糖値、HbA1c、善玉コレステロール(HDL-C)、悪玉コレステロール(LDL-C)、尿素窒素(BUN)、推算糸球体濾過率(eGFR)で評価し、それぞれが基準値の範囲内か基準値を外れているかで2群に群分けした。一方、対象者の口腔の状態や機能については、機能歯数、最大舌圧、咀嚼機能、嚥下機能、舌苔指数、口腔乾燥度、および、口唇や舌の運動の滑らかさの指標である「口腔ダイアドコキネシス(OD)」という、計7種類の検査で把握した。なお、ODは、特定の音節を繰り返す速度と正確さを評価する。 解析の結果、全身の健康状態を表す検査値が基準値内か基準値外かで、口腔状態を表す検査の結果に、以下のような有意差が認められた。まず、糖代謝に異常がある(空腹時血糖値やHbA1cが高い)人は、機能歯数が少なくOD値が有意に低かった。また、脂質代謝に異常がある(HDL-Cが低い、LDL-Cが高い)人は、舌苔指数が有意に高くOD値が有意に低かった。さらに、腎機能が低下している(eGFRが低い、BUNが高い)人は、機能歯数が少なくて舌苔指数が高く、OD検査での「た」や「か」の発音の滑らかさが低下していた。 著者らは、「本研究は観察研究であるため、直接的な因果関係の解釈は制限される」とした上で、「認められた全身性疾患と口腔状態の関連性は、逆の方向性を表している可能性もある。つまり、全身の健康状態の悪化が口腔状態を悪化させるというよりも、口腔状態が良くないことが、全身性慢性疾患のリスクを高めるのではないか」と考察。そのメカニズムとして、「口腔ケアが十分でない場合、口の中で細菌が増殖したり、歯肉に炎症が生じたりする。それらが全身の健康状態に悪影響を及ぼすと考えられる」と解説している。 研究チームでは、「口の中の健康と全身性慢性疾患の関係をさらに深く理解するために、より多くの人々を対象とした大規模な研究が必要」としながらも、「口腔検査そのものは、隠れた病気の兆候を見つけ出す機会となり得る。健康診断の際に口腔検査も並行して行うことが、人々の健康増進につながるのではないか」と述べている。

5.

肥満症には社会全体で対応し、医療費を削減/PhRMA、リリー

 米国研究製薬工業協会(PhRMA)と日本イーライリリーは、「イノベーションによる健康寿命の延伸と国民皆保険の持続性:肥満症を例にして」をテーマにヘルスケア・イノベーションフォーラムを都内で共同開催した。 肥満症は、わが国でも患者数が増加し、健康障害と社会的スティグマ(偏見)を伴う、深刻な慢性疾患となっている。その一方で、肥満者の生活習慣のみがフォーカスされ、自己管理の問題と見なされる傾向がある。従来は、運動療法や食事療法など治療選択肢が少なかったこともあり、他の疾患と同じレベルの必要な治療が行われてこなかった。 しかし、近年では、治療薬という新たな治療選択肢が登場し、肥満症に関連する健康障害の改善のみならず、国民皆保険制度の持続可能性の向上にも寄与することが期待されている。 フォーラムでは、臨床、財務行政、厚生行政、製薬のパネリストが、肥満症をテーマに、医療政策の現状と課題、今後の医療イノベーションの役割について議論した。重篤な疾患の上流にある肥満症対策が医療費の軽減につながる はじめに日本イーライリリー 代表取締役社長のシモーネ・トムセン氏が、「肥満疾患の社会経済的負担は重大であり、数兆円規模で影響を与えている。早期介入を通じ、肥満関連健康障害を改善することは、財政的負担を軽減する大きな機会となる。このフォーラムを通じ、肥満症が適切に診療され、肥満症患者にとってより良い治療環境を実現するための第一歩を踏み出せることを願う」と挨拶した。 続いてシンポジウムでは、門脇 孝氏(虎の門病院院長)、岡本 薫明氏(元財務事務次官)、鈴木 康裕氏(国際医療福祉大学学長)、パトリック・ジョンソン氏(イーライリリーアンドカンパニー エグゼクティブ・バイスプレジデント)が登壇した。 シンポジウムでは、「なぜ今肥満症か?」、「日本の肥満症の課題と解決策」、そして「医療制度の持続性」について議論された。肥満症に焦点が当たっている理由として、肥満・肥満症が死に至る健康障害(心筋梗塞、脳卒中など)の上流に位置しており、気付かれにくいため健康障害を引き起こしやすいこと。そして、その健康障害が医療費などを圧迫することなどが挙げられた。 また、肥満症の課題としては、スティグマについて多くの意見が出され、ルッキズムもわが国では大きくなりつつあることが指摘された。肥満症を正しく理解し、患者の自己努力だけに委ねないよう、社会全体が取り組む必要があるという意見が出された。 そして、肥満症に関するエビデンスの創出についても、他の重篤な疾患の予防にもつながる本症への対策は、治療効果のエビデンスを研究することで健康のアウトカムだけでなく、経済的な効果も適切に検証する必要があるという提言が行われた。 また、エビデンスの観点では、患者など当事者の声が認識されていないことが大きな課題であり、これが社会的なスティグマにつながるとされ、今後は当事者の声を政策に反映していくことが、肥満症対策と政策推進の大きな鍵だとの提案がなされた。 医療制度の持続性については、医療にとどまらない予防、健康増進、健康診断が重要であり、社会・経済的に課題を抱えた肥満症の当事者も多く、こうした患者への切れ目のない支援が、社会全体で必要との意見が出された。とくに健康無関心層への啓発やメッセージ発信が必要との提言がされた。 最後にPhRMA日本代表のハンス・クリム氏が「政策決定者や医療界のリーダーは、バイオ医薬品イノベーションエコシステムが直面する課題に対処する必要がある。研究開発とイノベーションへの投資を促進し、患者が新規医薬品に迅速にアクセスできる政策が必要」と閉会の挨拶を述べ、フォーラムを終えた。

6.

高齢者の高血圧【日常診療アップグレード】第37回

高齢者の高血圧問題76歳女性。高血圧のため定期的に受診している。症状は何もない。既往歴に高血圧、脂質異常症、変形性関節炎がある。内服薬はリシノプリル、シンバスタチンである。自立した生活を送っている。血圧は136/82mmHg、脈拍は74/分である。収縮期血圧を130mmHg未満とするため、患者に相談することなく降圧薬を追加した。

7.

官民学で肥満対策に取り組む千葉市の事例/千葉市、千葉大、ノボ

 国民の健康維持や医療費の削減などのため、肥満や過体重に対するさまざまな取り組みが行われている。今回、千葉市とノボ ノルディスク ファーマは、官民学連携による肥満・肥満症対策の千葉モデルの実施について「肥満・肥満症対策における課題と実態調査から見る官民学連携による千葉モデルの展望」をテーマに、メディアセミナーを開催した。セミナーでは、千葉市との連携の経緯やその内容、肥満症に関する講演、肥満症に関係する課題や今後の取り組みなどが説明された。官民学で千葉市から始まる新しい健康作りの流れ 同社が2024年9月に実施した全国47都道府県9,400人へのアンケート調査「肥満と肥満症に関する実態調査」によれば、「太っていることが原因で他人からネガティブなことを言われた内容」について、「体型が好ましくない」(57.6%)、「運動不足である」(45.5%)、「だらしない、怠惰である」(34.5%)の順で多かった。また。「『肥満』を解消するために医療機関を受診しなかった理由」では、「肥満は自己責任だと思うから」(39.8%)、「医療機関に行くとお金がかかるから」(35.4%)、「相談するほどの肥満だと思っていないから」(25.0%)の順で多く、肥満や肥満症に関するスティグマ(偏見)、社会的偏見の存在が確認されたという。 そこで、こうした課題に対し、2024年10月に千葉市と肥満および肥満症に関する環境を整備し、千葉市がより健康な社会を実現するモデル都市になることを目指すことを目的に協定を締結した。具体的には、地域住民・保健医療関係者の肥満・肥満症の理解向上、関連疾患の分析、子供の健康応援などの事項について連携を行うとされている。 はじめに千葉市長の神谷 俊一氏が、千葉市は最重要政策の柱の1つに「市民一人ひとりの健康寿命を伸ばし、誰もが豊かに暮らせる地域社会を作ること」を掲げていること、そのために「市民の健康に関する意識の向上を図り、行動変容を促し、健康作りに取り組みやすい社会環境を作る行動の後押しとしたい」と語り、今後は、三者が相互に協力しながら、市民の健康増進に取り組んでいき、「千葉市から始まる新しい健康作りの流れが全国へ波及していく第一歩となることを願う」と抱負を語った。肥満者の約4割が医師に相談は不要と回答 続いて基調講演として「肥満および肥満症 千葉市民の実態調査結果を踏まえて」をテーマに千葉大学学長の横手 幸太郎氏が、肥満症診療の要点と実態調査の内容などを解説した。 「わが国では20歳以上の肥満者は男性31.7%、女性21.0%とされ、年々BMI35以上の高度肥満も増えている」と疫学を示した上で、肥満と肥満症、メタボリックシンドロームは、概念が個々で異なり、肥満はBMI25以上、肥満症は、肥満(BMIが25以上)かつ、(1)肥満による耐糖能異常、脂質異常症、高血圧などの11種の健康障害(合併症)が1つ以上ある、または(2)健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合に肥満症と診断されている。また、肥満症は治療が必要な疾患とされ、治療では食事、運動、行動、薬物療法、外科的療法が行われている。 そして、肥満・肥満症の原因としては、自己責任だけでなく、現在の研究では、遺伝的要因、職業要因などさまざまな要因により起こることが指摘されており、肥満・肥満症になることでスティグマや経済的問題、睡眠不足やメンタルヘルスなどの疾患など課題もあると説明した。 次に2025年3月に千葉市が市民に行った「肥満および肥満症に関する実態調査」について触れ、この調査は、千葉市民の男女2,400人(年齢20~70代)にインターネットで調査したもので、肥満症の認知について、「知っている」という回答は16.9%に止まり、医師への相談意向についても「思う・やや思う」で31.0%だった。その理由としては「相談するほど肥満だと思っていない」が43.4%で1番多かった。また、「肥満の人への印象」では、「運動不足である」が45.5%で1番多かった。 これらの調査を踏まえて横手氏は、「肥満はリスクであり、肥満症は病気である。一方、肥満・肥満症は自己責任だけでなくさまざまな要因が関連している。今回実施した千葉市民の肥満・肥満症に関する実態調査でも、千葉市民における肥満・肥満症に対する正しい理解の不足、そしてスティグマが存在することが明らかになった。予防だけでなく、治療を通して長きにわたる良い管理をして健康を保つためにも、スティグマの払拭が必要。自分で抱えることなく、それを社会でサポートして、リスクを認知し、どうやってそれを乗り越えて元気で長生きを実現するかが必要であり、今千葉市でこうした動きが出ている」と語り、講演を終えた。子供の健康応援を全世界で実施 次に「プロジェクトの進捗」について、同社の広報・サステナビリティ統括部の川村 健太朗氏が、今回の連携で行われている施策を紹介した。 3月4日「世界肥満デー」に合わせた疾患啓発として、千葉市の『市政だより』やSNSで肥満や肥満予防に関する記事の発信のほか、先述の実態調査を行ったこと、市民公開講座を実施したこと、大阪万博での発表などの取り組みが紹介された。 とくに3回にわけて行われた「ロゴ・スローガンの開発ワークショップ」では、官民学連携による新しい肥満・肥満症対策の取り組みが議論され、「みんなで気づく、みんなで動く。千葉市肥満と肥満症をほっとかない! プロジェクト」のローンチとロゴが決定されたことを紹介した。 最後に「今後に向けて」をテーマに同社の医療政策・渉外本部長の濱田 いずみ氏が同社の今後の取り組みを説明した。 肥満症の克服には社会的な連携が必要であること、そして、幼児期から思春期に肥満の子供は、成人後に肥満になる可能性が5倍高く、不安障害やうつ病のリスクも高いことが研究で示されていることから、今回の連携協定では「子供の健康応援」が含まれ、子供が健康に育つために運動と食事改善、地域に根ざした多様なアプローチなど仕組み作りを行うという。この取り組みは、世界5ヵ国(カナダ、スペイン、ブラジル、南アフリカ、日本)で展開しており、千葉市もその一環であることが説明され、「今後も肥満症を始めとする深刻な慢性疾患の克服に全社を挙げて取り組んでいく」と決意を述べた。

8.

薬物療法【脂肪肝のミカタ】第9回

薬物療法Q. 併存疾患に対する薬物療法は?併存疾患に対する薬物療法として、糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)、肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬)、脂質異常症治療薬(スタチン、ぺマフィブラート)が肝臓の採血所見、画像所見、組織所見の改善に繋がるという報告は複数発表されている。チアゾリジン誘導体やビタミンEの肝臓の組織改善作用に関しては、近年は賛否両論がある1-3)。いずれの薬剤もMASLDに対する治療薬ではないことを把握した上で処方する必要がある。将来的な治療方針として、MASLD最大のイベントである心血管イベントの抑制まで視野に入れた治療が期待される。心血管イベント抑制作用における高いエビデンスを有する糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)の併用を視野に入れた薬剤開発が期待される(図1)4,5)。(図1)心血管系イベントにおける糖尿病治療薬の長期インパクト(2型糖尿病を対象とした海外データ)画像を拡大するQ. 今後期待される薬物療法は?最近の臨床試験の対象は、肝硬変(Stage 4)を除外した線維化進行例(Stage 2~3)である1,2)。主要評価項目も以前は肝臓の線維化改善を重視していたが、最近は活動性改善も同時に重視する傾向にある。2024年3月、経口の甲状腺ホルモン受容体β作動薬(resmetirom)がStage 2~3の線維化が進行したMASHを対象に初の治療薬として米国食品医薬品局で承認されたが2)、本邦では臨床試験が行われておらず、現時点では使用することができない。2024年11月、米国肝臓学会で、Stage 2~3の線維化が進行したMASHを対象としたGLP-1受容体作動薬セマグルチドの72週の第III相プラセボ対照試験(ESSENCE Study)の成績が報告された。肝炎活動性と線維化を共に改善し、主要評価項目を達成したことが報告された(図2)6)。本臨床試験は本邦でも行われており、今後の上市が期待されている。(図2)MASH(Stage 2~3)を対象としたGLP-1受容体作動薬の治療効果[ESSENCE Study]画像を拡大する最後に、MASLDの新薬開発における将来の展望として、まずはメタボリックシンドローム由来の心血管イベントを抑制することが課題である。よって、食事/運動療法や糖代謝改善薬は肝臓の線維化進行度に関わらず重要である。さらに、肝臓の炎症や線維化が進行してくると肝疾患イベントが抑制されることも課題となる。肝臓の脂肪化、炎症、線維化を改善する薬剤を開発し、併用していく時代になると考えている(図3)。(図3)MASLD新薬開発における将来の展望画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂. 4) Marso S, et al. N Engl J Med. 2016;375;311-322. 5) Zinman B, et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. 6) Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.

9.

腰痛の重症度に意外な因子が関連~日本人データ

 主要な生活習慣関連因子と腰痛の重症度・慢性度との関連について、藤田医科大学の川端 走野氏らが日本の成人の全国代表サンプルで調査したところ、脂質異常症が腰痛重症度に関連し、喫煙が腰痛の重症度および慢性度の両方に関連していることが示された。PLoS One誌2025年7月30日号に掲載。 本研究では、無作為に抽出した20~90歳の日本人5,000人を対象に全国横断調査を実施。2,188人から有効回答を得た。現在の腰痛の有無、腰痛の重症度(痛みなし/軽度または中等度/重度)、慢性腰痛の有無により層別解析を行った。主な生活習慣関連因子は、BMI、飲酒、喫煙、運動習慣、併存疾患(脂質異常症、糖尿病、高血圧)、体型に関する自己イメージなどで、多変量ロジスティック回帰分析により各因子との関連の有無を評価した。 主な結果は以下のとおり。・現在腰痛ありは、BMI(オッズ比[OR]:1.04、95%信頼区間[CI]:1.00~1.07)、飲酒(OR:1.37、95%CI:1.04~1.80)、喫煙(OR:1.63、95%CI:1.21~2.20)、脂質異常症OR:1.51、95%CI:1.06~2.13)と関連していた。・腰痛の重症度は、喫煙(OR:1.77、95%CI:1.19~2.64)、運動不足(OR:1.55、95%CI:1.10~2.15)、脂質異常症OR:1.64、95%CI:1.06~2.55)と関連していた。・慢性腰痛ありは、喫煙(OR:1.70、95%CI:1.23~2.34)のみ有意に関連していた。

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第279回 経口GLP-1薬orforglipronで体重が12%ほど減少~投資家落胆

経口GLP-1薬orforglipronで体重が12%ほど減少~投資家落胆1日1回服用の経口GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)orforglipron高用量が、72週間の第III相ATTAIN-1試験で太り過ぎか肥満の患者の体重を平均12.4%減らしました1)。orforglipronはLillyが開発しています。ATTAIN-1試験には高血圧症、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)、心血管疾患などの体重関連の持病を有している太り過ぎか肥満の成人3,127例が参加しました。先立つ第III相ACHIEVE-1試験は2型糖尿病患者を対象としましたが2)、今回のATTAIN-1試験に糖尿病患者は含まれません。ATTAIN-1試験のorforglipron投与群の被験者はまず全員が1mgを服用し、低(6mg)、中(12mg)、高(36mg)の3つ維持用量へと段階的に服用量を増やしました。orforglipron低、中、高用量の72週時点のベースライン時と比べた体重低下率はそれぞれ7.8%、9.3%、12.4%で、プラセボ群の0.9%低下を有意に上回り、試験の主要評価項目を達成しました。しかし競争が激しいGLP-1薬界隈では目標を達成しただけで十分とは限らず、今回の試験結果に投資家はかなり落胆したようで3)、Lillyの米国ニューヨーク証券取引所での株価は木曜日の取引で1割超下落しました。先立つ第II相試験でのorforglipron 36mg投与群の36週時点の体重は13.5%低下しました4)。第II相試験は今回の第III相試験と同様に糖尿病ではない太り過ぎか肥満の成人を募っています。現在の肥満薬市場を切り開いたNovo NordiskのGLP-1薬セマグルチドの経口剤は、64週間の第III相OASIS 4試験の解析で、多ければ16.6%の体重低下を示しています5,6)。そのような背景があって投資家の多くはATTAIN-1試験でorforglipron高用量群の体重は14~15%ほど減るだろうと期待していましたが、実際はその予想にほんの2%ばかり届きませんでした3)。糖尿病患者を募った先立つ第III相ACHIEVE-1試験に比べて安全性も若干不調なようで、10例に1例ほどの10.3%が有害事象のためにorforglipron高用量服薬を止めています。GLP-1薬につきものの胃腸症状はやはり多く、高用量投与群の4例に1例ほどの24%に嘔吐が生じました。そんなこんなでLillyの株価はだいぶ下落しましたが、過剰反応だと見る向きもあります。効果に関して議論はあるでしょうが、体重減少が2%ほど不足したばかりにorforglipronの需要に大した影響が出るかどうかは不明であり、今回の発表を受けてのLillyの株価下落は買い時だろうとアナリストの1人は言っています3)。ともあれLillyは今年中に世界の国々でのorforglipronの承認申請を始めます。Novo Nordiskのセマグルチド25mg経口薬による体重管理の開発はorforglipronに比べてだいぶ先行しており、今年2月に米国FDAにすでに承認申請されています5)。この5月初めまでにFDAはその承認申請を受理しており、審査結果は今年中に判明する見込みです7)。ちなみにATTAIN-1試験結果の発表を受けて、Novo Nordiskの株価は木曜日に7%ほど上昇しています。 参考 1) Lilly's oral GLP-1, orforglipron, delivers weight loss of up to an average of 27.3 lbs in first of two pivotal Phase 3 trials in adults with obesity / PR Newswire 2) Rosenstock J, et al. N Engl J Med. 2025 Jun 21. [Epub ahead of print] 3) Lilly's obesity pill lags Novo's Wegovy injection in key trial / Reuters 4) Wharton S, et al. N Engl J Med. 2023;389:877-888. 5) Novo Nordisk:Financial report for the period 1 January 2025 to 31 March 2025 6) Novo Nordisk:Investor presentation First three months of 2025 7) FDA accepts filing application for oral semaglutide 25 mg, which if approved, would be the first oral GLP-1 treatment for obesity / PR Newswire

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肥満・過体重の減量に、cagrilintide/セマグルチド配合薬が高い効果/NEJM

 肥満または過体重の成人において、プラセボと比較してcagrilintide/セマグルチド配合薬(以下、CagriSema)は、有意で臨床的に意義のある体重減少をもたらし、消化器系有害事象の頻度が高いものの多くは一過性で軽度~中等度であることが、米国・アラバマ大学バーミングハム校のW. Timothy Garvey氏らREDEFINE 1 Study Groupが実施した「REDEFINE 1試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年6月22日号で報告された。22ヵ国の第IIIa相無作為化対照比較試験 REDEFINE 1試験は、非糖尿病の肥満または過体重の成人における固定用量のcagrilintide(長時間作用型アミリン類似体)とセマグルチド(GLP-1受容体作動薬)の配合薬による減量効果の評価を目的とする第IIIa相二重盲検無作為化プラセボ/実薬対照比較試験であり、2022年11月~2023年6月に22ヵ国で参加者を登録した(Novo Nordiskの助成を受けた)。 糖尿病がなく、BMI値30以上、またはBMI値27以上で少なくとも1つの肥満関連合併症を有し、減量を目的とする食事制限に1回以上失敗したと自己報告した成人を対象とした。 被験者を、CagriSema(各0.25mgで開始、4週ごとに増量して16週までに各2.4mgとし、これを維持量として52週間投与)、セマグルチド単剤(2.4mg)、cagrilintide単剤(2.4mg)、プラセボの皮下投与(週1回)を受ける群に、21対3対3対7の割合で無作為に割り付け68週間投与した。全例にライフスタイルへの介入を行った。 主要エンドポイントは、プラセボ群との比較におけるCagriSema群のベースラインから68週までの体重の相対的変化量と、5%以上の体重減少の2つであった。また、検証的副次エンドポイントとして、20%以上、25%以上、30%以上の体重減少について評価した。2つの単剤群との比較でも有意な減量効果 3,417例を登録し、2,108例をCagriSema群、302例をセマグルチド群、302例をcagrilintide群、705例をプラセボ群に割り付けた。全体の平均年齢は47.0歳、女性が67.6%で、白人が72.0%であった。ベースラインの平均体重は106.9kg、平均BMI値は37.9、平均ウエスト周囲長は114.7cmであり、最も頻度の高い肥満関連合併症は脂質異常症と高血圧症で、32.1%が糖尿病前症だった。 ベースラインから68週までの体重の推定平均変化率は、プラセボ群が-3.0%であったのに対し、CagriSema群は-20.4%と有意な減量効果を示した(推定群間差:-17.3%ポイント、95%信頼区間[CI]:-18.1~-16.6、p<0.001)。セマグルチド群の体重の推定平均変化率は-14.9%(-5.5%ポイント[-6.7~-4.3]、p<0.001)、cagrilintide群は-11.5%(-8.9%ポイント[-10.1~-7.7]、p<0.001)であり、いずれもCagriSema群のほうが有意に優れた。 また、5%以上の体重減少の達成割合は、プラセボ群の31.5%に比べCagriSema群は91.9%であり有意に高率であった(推定群間差:60.4%ポイント[95%CI:56.4~64.5]、p<0.001)。 20%以上の体重減少(53.6%vs.1.9%、p<0.001)、25%以上の体重減少(34.7%vs.1.0%、p<0.001)、30%以上の体重減少(19.3%vs.0.4%、p<0.001)の達成割合についても、CagriSema群はプラセボ群と比較し有意に優れた。 さらに、ベースラインから68週までの推定平均変化量は、ウエスト周囲長がCagriSema群-17.5cm、プラセボ群-4.0cm(p<0.001)、収縮期血圧はそれぞれ-9.9mmHgおよび-3.2mmHg(p<0.001)、SF-36の身体機能スコアは7.1点および3.6点(p<0.001)と、いずれもCagriSema群で有意に良好だった。これまでで最も高水準の減量効果 悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛などの消化器系の有害事象の頻度が、プラセボ群(39.9%)に比べCagriSema群(79.6%)で高かったが、その多くが一過性で重症度は軽度~中等度であった。注射部位反応(12.2%vs.3.0%)と胆嚢関連障害(4.1%vs.1.0%)もCagriSema群で多かった。 重篤な有害事象(9.8%vs.6.1%)、恒久的な投与中止に至った有害事象(5.9%vs.3.5%)、恒久的な投与中止に至った消化器系有害事象(3.6%vs.0.6%)も、CagriSema群で多く発現した。同群で2例(自殺、原発不明がん)が死亡した。 著者は、「CagriSema群で観察された体重減少は、既存の減量介入でこれまでに達成されたものの中で最も高い水準にある」「プラセボ群に比べ同群では糖化ヘモグロビン値も改善しており、これはベースライン時に糖尿病前症であった集団における血糖値が正常化した患者の割合(87.7%vs.32.2%)に反映している」「同群では、体重減少が最大値に到達する前に血圧の改善が起き、68週まで持続しており、降圧の程度は降圧薬の臨床試験に匹敵するものだった」としている。

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日本人の肥満基準、BMI 25以上は適切?

 現在の日本における肥満の定義はBMI 25kg/m2以上とされているが、これは約30年前の横断研究の結果に基づくものである。そのため、現在における妥当性については議論の余地がある。そこで、京都府立医科大学大学院の笠原 健矢氏らの研究グループは、大規模な長期コホート研究のデータを用いて、現在の日本人における最適な肥満の基準値を検討した。その結果、BMI 22kg/m2を対照とした場合、2型糖尿病や慢性腎臓病(CKD)はBMI 25kg/m2付近でハザード比(HR)が2を超える一方で、冠動脈疾患(CAD)や脳卒中などのHRが2を超えるのは、BMI 30kg/m2超であった。本研究結果は、Metabolism誌オンライン版2025年7月15日号に掲載された。 本研究は、2008~23年にかけてパナソニック社の健康診断を受けた40歳以上の16万2,136人を対象とした。ベースライン時のBMIと追跡期間中における疾患(2型糖尿病、CKD、高血圧症、CAD、脳卒中、脂質異常症)の発症との関連について、制限付き3次スプラインを用いた多変量Cox比例ハザードモデルにより評価した。BMI 22kg/m2を対照とした場合の各疾患のHRが2となるBMIを推定した。 主な結果は以下のとおり。・各評価疾患の平均追跡期間は6~8年であった。・BMI 22kg/m2を対照とした場合、それぞれの疾患のHRが2となるBMI(kg/m2)は、以下のとおりであった。 -糖尿病:24.6 -CKD:25.0 -高血圧症:26.8 -CAD:30.8 -脳卒中:32.0 -高トリグリセライド血症:32.3・これらの結果は、性別や年齢で層別化したサブグループ解析においても同様であった。

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糖尿病患者では血清脂質レベルと黄斑体積が相関か

 糖尿病(DM)の深刻な合併症として、糖尿病網膜症(DR)が挙げられるが、今回、糖尿病患者で血清中の脂質レベルと網膜黄斑体積が関連するという研究結果が報告された。DMがあるとDRがなくても網膜黄斑体積が減少し、また、DMがなくても血清脂質が高いと体積は減少することが示された。さらに、DRがあり、かつ血清脂質が高いと網膜黄斑体積が病的に増加する可能性が示唆されたという。研究は慶應義塾大学医学部眼科の虫賀庸朗氏、永井紀博博士、および同眼科にも籍を置く藤田医科大学東京先端医療研究センターの小沢洋子教授らによるもので、詳細は「PLOS One」に6月4日掲載された。 血糖値のコントロールがDRの進行予防に有効であることは以前から報告されているが、近年では、脂質異常症の管理にも注目が集まっている。国内の「糖尿病網膜症診療ガイドライン」では、脂質異常症を適切に管理することでDRの進行を予防できる可能性が示唆されている。しかし、血清中の脂質レベルと網膜神経組織との潜在的な関係は依然として明らかになっていない。このような背景を踏まえ、著者らは視力の判定基準となる黄斑部の網膜組織体積と血清中脂質濃度の関係を評価することを目的として、健常対照群、DM患者、DMでDRを合併している患者を比較する横断的観察研究を実施した。 本研究は2020年10月1日から2022年9月30日にかけて実施され、解析対象にはDM患者29名と、年齢をマッチさせた健常者12名の計41名が含まれた。解析は全参加者の右目41眼を対象に行った。網膜黄斑部の厚みは、光干渉断層撮影(OCT)を用いて撮影された。撮影は訓練を受けた視能訓練士によって行われ、各スキャンは4回の平均化で画像の質を高めた。撮影後、直径3mmの範囲内で網膜神経線維層(RNFL)、神経節細胞層(GCL)、神経網膜層(NRL)の厚みや体積が自動的に測定され、画像および自動解析の精度は、2名の網膜専門医により確認された。血液採取はOCTの実施と同日に行われ、HbA1c、総コレステロール(TC)、低密度リポ蛋白コレステロール(LDLC)、マロンジアルデヒド修飾LDL(MDA-LDL)、高密度リポ蛋白コレステロール(HDLC)が測定された。 全参加者41名の平均年齢は49.1歳であり、うち男性は23名であった。DM患者29名のうち、14名(14眼)にはDRは認められず(DM群〔DRなし〕)、15名(15眼)にはDRが認められた(DM群〔DRあり〕)。DM群(DRなし)では、対照群と比較して、GCL(P=0.023)およびNRL(P=0.013)の平均体積が有意に減少していた。DM群(DRあり)では、対照群との比較でGCLの体積が有意に減少していた(P=0.067)。 血液検査の結果、MDA-LDLの平均値は、DM群(DRなし)およびDM群(DRあり)で、対照群より有意に高かった(それぞれP=0.046、P=0.021)。一方、HDLC平均値はDM群(DRなし)およびDM群(DRあり)で対照群より低かった(それぞれP=0.004、P<0.001)。 次に各層の黄斑体積と血清中脂質レベルとの相関を解析した。対照群では、TC値はGCL(P=0.014)およびNRL(P=0.041)体積と負の相関を示した。一方、DM群(DRあり)群では、TC値はRNFL(P=0.001)およびNRL(P=0.013)体積と正の相関を示した。さらに、対照群ではLDLC値がGCL体積と負の相関を示し(P=0.005)、RNFL(P=0.060)およびNRL(P=0.051)体積とも同様の負の相関傾向が認められた。しかし、DM群(DRあり)群では、LDLC値はRNFL(P=0.002)、GCL(P=0.034)、およびNRL(P=0.002)体積と正の相関を示した。また、対照群ではMDA-LDL値がGCL(P=0.055)およびNRL(P=0.052)体積と負の相関傾向を示したが、DM群(DRあり)では、MDA-LDL値はRNFL(P<0.001)およびNRL(P=0.006)体積と正の相関を示した。 本研究について著者らは、「網膜黄斑部の体積は、糖尿病により減少し、糖尿病がなくても血清脂質が高いと減少する可能性が示唆された。ただし、糖尿病網膜症発症後に血清脂質が上昇すると、逆に黄斑部の体積が増加する可能性があることが分かった。これは、糖尿病網膜症の患者の場合、血液網膜関門の破壊が進行しているため、網膜内に脂質の蓄積が起こり、結果として黄斑部の体積が増加するというメカニズムが考えられる」と述べている。 なお、本研究は千寿製薬株式会社と聖路加国際病院での共同研究として開始され、その後千寿製薬株式会社と藤田医科大学での共同研究として引き継がれた。

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揚げ物はやはり糖尿病や高血圧リスクに~兄弟比較の前向き試験

 揚げ物は健康に悪影響を与える可能性があるが、腸内細菌叢との関連や、それが心代謝性疾患に及ぼす影響は十分に明らかになっていない。中国・浙江大学のYiting Duan氏らは、2つの大規模前向きコホートを用いた解析により、揚げ物の摂取に関連する腸内細菌叢は糖尿病や高血圧リスクの増大と関連し、その関連は遺伝的・環境的背景を共有する兄弟姉妹間の比較においても同様の関連性が確認されたことを報告した。American Journal of Clinical Nutrition誌2025年7月2日号掲載の報告。 研究グループは、WELL-Chinaコホート(ベースライン:2016~19年、6,637人)と蘭渓コホート(ベースライン:2017~19年、3,466人)を分析し、揚げ物の摂取と腸内細菌叢の組成に関係があるかどうか、揚げ物に関連する腸内細菌叢は肥満や体脂肪の分布および心代謝性疾患の発症率と関連しているかどうかを調査した。 揚げ物(揚げパン、油淋鶏、フライドポテトなど)の摂取頻度を食物摂取頻度調査(FFQ)で聴取し、月1回未満、月1〜3回、月4回以上の3グループに分類した。ベースライン時に便サンプルを採取して腸内細菌の種類とバランスを解析し、揚げ物摂取と有意に関連した腸内細菌属の相対量をもとに構成された腸内細菌スコア(FMI:fried food consumption-related microbiota index)として数値化した。BMI、ウエスト・ヒップ比、体脂肪量、血圧、血糖値、HbA1cなども測定した。参加者はベースラインから心代謝性疾患の発症、死亡、または2024年6月24日のいずれか早い日まで追跡された。 多変量線形回帰を用いてFMIと肥満および脂肪分布との関係を調査し、Cox比例ハザードモデルを用いてFMIと糖尿病や主要心血管イベントなどの心代謝性疾患の発症との関連性を検証した。Between-Withinモデルを用いて兄弟姉妹で比較することで、遺伝や家庭環境の影響を最小限に抑えて検証した。 主な結果は以下のとおり。・揚げ物の摂取頻度が高い群と低い群を比較すると、両コホートともに特定の細菌属の構成比に差が認められ、25種の微生物属が揚げ物の摂取頻度と有意な関連を示した。・揚げ物の摂取頻度が月1回未満の参加者よりも、摂取頻度が高い参加者ほど高いFMIを示し、特定の細菌属の構成比に差があった。・両コホートのメタアナリシスでは、FMIは、BMI、ウエスト・ヒップ比、内臓脂肪などとの間に正の相関関係が認められた。兄弟姉妹間の比較でも同様の傾向が認められた。・FMIが高い群では、糖尿病(オッズ比[OR]:1.28)、メタボリックシンドローム(OR:1.21)、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)(OR:1.21)、脂質異常症OR:1.12)、高血圧(OR:1.09)の有病率が高かった。兄弟分析では、高血圧(OR:1.37)、メタボリックシンドローム(OR:1.27)、糖尿病(OR:1.48)で同様の関連が確認された。・FMIが増加するごとに糖尿病発症リスク(ハザード比[HR]:1.16、95%信頼区間[CI]:1.07~1.27)および主要心血管イベント発症リスク(HR:1.16、95%CI:1.06~1.26)の増大が認められた。

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加熱式タバコの使用が職場における転倒発生と関連か

 運動習慣や長時間座っていること、睡眠の質などの生活習慣は、職場での転倒リスクに関係するとされているが、今回、新たに「加熱式タバコ」の使用が職場における転倒発生と関連しているとする研究結果が報告された。研究は産業医科大学高年齢労働者産業保健センターの津島沙輝氏、渡辺一彦氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に6月6日掲載された。 転倒は世界的に重大な公衆衛生上の懸念事項である。労働力の高齢化の進む日本では、高齢労働者における職場での転倒の増加が深刻な安全上の問題となっている。この喫緊の課題に対し、政府は転倒防止のための環境整備や、労働者への安全研修の実施などの対策を講じてきた。しかし、労働者一人ひとりの生活習慣の改善といった行動リスクに着目した戦略は、これまで十分に実施されてこなかった。また、運動習慣や睡眠などの生活習慣が職場での転倒リスクと関連することは、複数の報告から示されている。一方で、紙巻タバコや加熱式タバコなどの喫煙習慣と転倒リスクとの関連については、全年齢層を対象とした十分な検討がなされていないのが現状である。このような背景を踏まえ、著者らは加熱式タバコの使用と職業上の転倒との関連を明らかにすることを目的として、大規模データを用いた全国規模の横断研究を実施した。 本研究では、「日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題および社会全般に関する健康格差評価研究(JACSIS Study)」のデータを用いた。主要評価項目は過去1年間の職場における転倒、副次評価項目は転倒関連骨折とした。発生率と95%信頼区間(CI)は、ロバスト分散を用いた2階層のマルチレベル・ポアソン回帰モデルにより推定された。 本研究の解析対象は18,440人(平均年齢43.2歳)であり、女性は43.9%含まれた。全体のうち、7.3%が過去1年間に職場における転倒を経験し、2.8%で転倒関連骨折を報告していた。年齢や性別などの交絡因子、喫煙状況、飲酒習慣、睡眠といった行動因子を調整した結果、職場における転倒発生率は、現在喫煙している人の方が、非喫煙者より高かった(IR 1.36、95%CI 1.20~1.54、P<0.05)。この傾向は、加熱式タバコのみ使用している人(IR 1.78、95%CI 1.53~2.07、P<0.05)、紙巻きたばこと加熱式タバコの両方を使用している人(IR 1.64、95%CI 1.40~1.93、P<0.05)で顕著だった。転倒関連骨折においても同様の傾向が示された。その他の生活習慣では、極端な睡眠時間(0~5時間または10時間以上)、併存疾患(高血圧、脂質異常症、糖尿病)、睡眠薬または抗不安薬の常用、などが転倒発生率の上昇と関連していた。年齢別にみると、喫煙と転倒および転倒関連骨折との関連は若年労働者(20~39歳)で顕著だった。特に加熱式タバコを使用している若年層でこの傾向がより強くみられた。 本研究について責任著者である財津將嘉氏は、「本研究では、若年労働者においても加熱式タバコを含む喫煙が職場での転倒や関連骨折と関連していることが明らかとなった。実際に観察された転倒の半数以上は若年層で発生しており、従来高齢者に焦点が当てられてきた転倒予防策を、若年層にも広げる必要性が示唆された。若年労働者は転倒リスクの高い職場に配属されやすく、年齢や職場環境の影響を考慮することが重要である。また、禁煙を促すナッジ戦略も有効と考えられる」と述べている。

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冠動脈疾患と心房細動の合併例への薬物療法【日常診療アップグレード】第35回

冠動脈疾患と心房細動の合併例への薬物療法問題78歳女性。定期検査のため来院した。無症状である。既往歴に高血圧症と脂質異常症があり、冠動脈疾患のため3年前にステントを留置している。アスピリン、カルベジロール、ロサルタン、アトルバスタチンを内服している。心拍の不整を除きバイタルサインに異常を認めない。その他の所見は特記すべきものはない。腎機能は正常である。心電図で心房細動を認めた。アスピリンを中止し、アピキサバンを開始した。

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ミトコンドリアDNA疾患女性、ミトコンドリア置換で8児が健康出生/NEJM

 ミトコンドリアDNA(mtDNA)の病的変異は、重篤でしばしば致死的な遺伝性代謝疾患の主要な原因である。子孫の重篤なmtDNA関連疾患のリスクを低減するための生殖補助医療の選択肢として着床前遺伝学的検査(PGT)があるが、高レベルのmtDNAヘテロプラスミーまたはホモプラスミー病原性mtDNA変異を有する女性についてはミトコンドリア提供(mitochondrial donation:MD)が検討されてきた。英国・ニューカッスル大学のRobert McFarland氏らは、英国におけるミトコンドリア生殖医療パスウェイにおいて、MDによる前核移植により8人の子供が誕生したことを報告した。NEJM誌オンライン版2025年7月16日号掲載の報告。英国で導入されたミトコンドリア生殖医療パスウェイ 英国では2017年に、英国在住の病原性mtDNA変異を有する女性に、規制環境下で実施可能な情報に基づく生殖選択肢を提供することを基本原則とした「NHSミトコンドリア生殖医療パスウェイ」が導入された。 パスウェイは、ミトコンドリア生殖アドバイスクリニック(MRA-C)とミトコンドリア生殖補助技術クリニック(MART-C)で構成されており、利用を希望する女性とそのパートナーは詳細な臨床評価を受ける。 これまでに196例がMRA-Cに紹介され、紹介情報不足または誤診の4例を除く192例が適格とされた。このうち診察予約前に23例が離脱し、評価保留中の6例を除く163例の女性がMRA-Cで評価され、希望しなかったまたは選択しなかった30例を除く133例の女性がMART-Cで診察を受けた。 70例がMART-Cで生殖医療の選択を行い、うち36例にPGTが提案され、PGTを実施し得た28例において13人の生児が生まれた。また、32例がMD提供を選択し当局で承認されたが、3例は胚の遺伝子検査でヘテロプラスミーが高かったため移植が行われなかった。ミトコンドリア提供で誕生した8人の子は健康で、現時点で正常に発達 これまでに、22例が前核移植を開始または完了し、8人の生児が生まれ(1卵性双生児1組を含む)、1例が妊娠継続中。 8人の子供は出生時、全例健康で、血中mtDNAヘテロプラスミーは臨床的に閾値未満(多くは検出限界以下)であった。1人に高脂血症と不整脈が発生したが、妊娠中に母親が高脂血症であったことに関連しており、いずれの症状も治療が奏効した。他の1人に乳児ミオクロニーてんかんが発生したが、自然寛解した。 本報告時点では、すべての子供が正常に発達していることが確認されている。

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MASLDの目標体重は?【脂肪肝のミカタ】第7回

MASLDの目標体重は?Q. MASLD治療の現状と体重の目標設定は?代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)に対して、本邦で推奨されている治療は食事・運動両面からの体重減量が基本である。そのほか、提案されている治療として併存疾患(2型糖尿病、肥満症、脂質異常症)に対する治療が挙げられる。高度の肥満症では、減量手術も選択肢となる1-3)。減量目標として、本邦を含むアジアでの非肥満MASLD症例も多いことを踏まえ、2024年に欧州肝臓学会ガイドラインでは、BMIに応じた体重減量の基準が設定された。具体的には、BMI 25.0kg/m2以上の症例では従来通り、体重5%以上の減量で脂肪化が改善し、7%以上の減量で炎症や線維化が改善するとされた。BMI 25.0kg/m2未満では体重3~5%の減量が妥当とされた(図1)2)。(図1)MASLDの体重減量の目標画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂

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Lp(a)による日本人のリスク層別化、現時点で明らかなこと/日本動脈硬化学会

 第57回日本動脈硬化学会総会・学術集会が7月5~6日につくば国際会議場にて開催された。本稿ではシンポジウム「新たな心血管リスク因子としてのLp(a)」における吉田 雅幸氏(東京科学大学先進倫理医科学分野 教授)の「今こそ問い直すLp(a):日本におけるRWDから見えるもの」と阿古 潤哉氏(北里大学医学部循環器内科学 教授)の「二次予防リスクとしてのLp(a)」にフォーカスし、Lp(a)の国内基準として有用な値、二次予防に対するLp(a)の重要性について紹介する。Lp(a)に対する動き、海外と日本での違い リポ蛋白(a)[Lp(a)]が「リポスモールa」などと呼ばれていた1990年代、心血管疾患との関連性に関する多くのエビデンスが報告され、測定の第一次ブームが巻き起こっていた。あれから30年。現在の日本でのLp(a)測定率は、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクが高い患者でも0.42%に留まっている1)。いったいなぜ、測定のブームは衰退し、Lp(a)に関する研究の進展に年月を要しているのか。これについて吉田氏は「Lp(a)は霊長類にしかないリポ蛋白であり、動物実験を行うのが難しい分子である。また、進化の過程でプラスミノーゲン(PMG)遺伝子の部分的重複からアポAが進化する過程で、非常に複雑な構造になった。また、KIV2のサブタイプが2~40と多く存在することで、個人差が大きくなり検査が行いにくい側面がある。さらにSNPのような遺伝的要素も影響している」と説明し、治療薬開発の難しさにも言及した。 加えて、順天堂大学の三井田 孝氏が指摘しているように、測定キットの違いによる測定値のばらつき、測定値の国際標準化がなされていない点などもLp(a)測定の足かせになっている。 世界的な動向としては、米国、欧州、中国でコンセンサスステートメントが発表されており、「30mg/dL(75nmol/L)未満:低リスク、30~50mg/dL(75~125nmol/L):中リスク、50mg/dL(125nmol/L)超:ハイリスク」と濃度によってどのように治療を考えるべきかが示されている。その一方で、「日本動脈硬化学会ではこれらを検討できていない」とコメントした。国内最新研究から明らかになったこと そこで、吉田氏らは日本人のLp(a)濃度分布やLp(a)のASCVDとの関連を明らかにするため、多施設共同後ろ向きコホート研究(LEAP研究)を行った。 本研究は、研究参加施設(東京科学大学、国立循環器病研究センター、大阪医科薬科大学、金沢大学、慈恵会医科大学、杏林大学、順天堂大学)において血清Lp(a)が測定された外来・入院患者6,173例を対象に実施。各施設で得られたLp(a)測定値は、測定キット間の誤差を標準化するため、三井田氏らの校正式に基づきnmol/Lへ換算して集計された。その結果について、「本研究において使用されていたキットは積水メディカルとニットーボーメディカルの2種で、nmol/L換算すると中央値は20.88nmol/Lであった。また、冠動脈疾患(CAD)を有する群、ASCVDを有する群、家族性高コレステロール血症(FH)を有する群では、いずれもLp(a)が有意に高値であった。一方、糖尿病(DM)を有する群では有意に低値であった。この基礎疾患の違いによる結果は先行研究でも報告されているとおりであった」とコメントした。また、感度・特異度・ROC曲線から、低値群:25nmol/L未満、中値群:25~75nmol/L、高値群:75nmol/L超の3つにリスク層別化して比較したところ、CAD、ASCVD、CKDを基礎疾患として有する群では段階的に有病率が増加し、Lp(a)値と疾患頻度の関連が示された。 同氏は本研究の限界として「後ろ向き研究であったため、今後は前向きに検討していく必要がある。また、三井田氏が“mg/dLで表示することは計量学的な誤りがある”と指摘するように、単位はnmol/L表記が望ましいのではないかと議論されている」と述べ、「われわれの今回の研究対象は比較的リスクの高い集団であったため、この点も考慮しながら、日本動脈硬化学会のコンセンサスステートメントを作成していきたい」と締めくくった。 なお、日本動脈硬化学会ホームページにおいてLp(a)検査値標準化ツールが掲載されたため、積水メディカル、ニットーボーなどで測定された検査値であれば、このツールを用いて容易にmg/dLをnmol/Lへ変換することができる。Lp(a)高値を発見せねば、2次予防への治療介入の意義 続いて阿古氏は、2014年に報告されたCADにおけるメンデルランダム研究2)やLp(a)と血栓性疾患や脳血管疾患の間に因果関係があるか検討した研究3)などの結果を踏まえ、「Lp(a)はLDL-Cと同様にCVDにおける真のリスク因子に分類されており、弁膜症や血栓性疾患などの動脈硬化性疾患の独立したリスク因子としても認識されている。また近年では、2次予防におけるLDL-CおよびLp(a)とCVDリスクの関係を検討した研究報告4)も出てきており、心血管疾患の1次予防のみならず2次予防においてもその役割は重要」とLp(a)高値症例に対して治療介入を行う意義を強調した。さらに、近赤外分光法血管内超音波検査(NIRS-IVUS)などの血管内イメージングからも、Lp(a)の上昇によって(破れやすい)プラークの割合が増加5)、LDL-C同様にLp(a)もプラーク性状に影響6)していることが見いだされており、「Lp(a)測定がプラークの性状にも影響を与えている可能性を示唆している」と述べた。 現在、世界各国では再発イベントなどがある患者、イベントの家族歴を有する患者、ASCVDリスクが高い患者などへLp(a)測定が推奨されている。同氏はこの状況を受け、「われわれの研究結果1)から、国内のLp(a)高リスク患者への測定が進んでいないのは明らか」と、今こそLp(a)への介入が重要であることを訴える。 30年前と違い、Lp(a)低下薬の第III相試験(Lp(a)HORIZON、OCEAN(a)、ACCLAIM-Lp(a)など)が着々と進められている状況を見据え、同氏は「国内でも2次予防としてLp(a)測定を推奨し、Lp(a)高値の患者に対してLDL-C目標値を厳格にしていくことが必要なのではないだろうか」と締めくくった。■参考文献1)Fujii E, et al. J Atheroscler Thromb. 2025;32:421-438.2)Jansen H, et al. Eur Heart J. 2014;35:1917-1924.3)Larson SC, et al. Circulation. 2020;141:1826-1828.4)Madsen CM, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2020;40:255-266.5)Erlinge D, et al. J Am Coll Cardiol. 2025;85:2011-2024.6)Shishikura D, et al. J Clin Lipidol. 2025;19:509-520.

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日本人の妊娠関連VTEの臨床的特徴と転帰が明らかに

 妊娠中の女性は静脈血栓塞栓症(VTE)リスクが高く、これは妊産婦死亡の重要な原因の 1 つである。妊婦ではVTEの発症リスク因子として有名なVirchowの3徴(血流うっ滞、血管内皮障害、血液凝固能の亢進)を来たしやすく、妊婦でのVTE発生率は同年齢の非妊娠女性の6〜7倍に相当するとも報告されている1)。そこで今回、京都大学の馬場 大輔氏らが日本人の妊婦のVTEの実態を調査し、妊娠関連VTEの重要な臨床的特徴と結果を明らかにした。 馬場氏らは、メディカル・データ・ビジョンのデータベースを用いて、2008年4月~2023年9月までにVTEで入院した可能性のある妊婦1万5,470例を特定。さらに、抗凝固療法が実施されていない患者や画像診断検査が施行されていない患者などを除外し、最終的に妊婦でVTEと確定診断され抗凝固療法を含めた介入が行われた410例の臨床転帰(6ヵ月時のVTE再発、6ヵ月時の出血イベント、院内全死因死亡)などを評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は33歳、平均BMIは23.8kg/m2であった。・対象患者の既往歴は、糖尿病19例(4.6%)、出血の既往17例(4.1%)、先天性凝固異常17例(4.1%)、消化性潰瘍13例(3.2%)、高血圧症10例(2.4%)、脂質異常症7例(1.7%)などであった。・410例中110例(26.8%)は、肺塞栓症(PE)であり、300例(73.2%)は深部静脈血栓症(DVT)のみであった。・VTE発症時の妊娠週数の中央値は31週であった。・VTEの発生率は二峰性分布を示し、126例(30.7%)が妊娠初期(0~妊娠13週)にVTEを発症し、236例(57.6%)が妊娠後期(妊娠28週以降)にVTEを発症し、PEは妊娠後期に多くみられた。・抗凝固療法に関しては、374例(91.2%)には未分画ヘパリンが、18例(4.4%)には低分子量ヘパリン(LMWH、ダルテパリン:2例、エノキサパリン:16例)が投与された。・急性期治療について、血栓溶解療法は2例(0.5%)、下大静脈フィルター留置は17例(4.1%)が受けた。人工呼吸器管理は8例(2.0%)、ECMOは5例(1.2%)に使用された。・ 6ヵ月の追跡期間中、17例(4.1%)でVTEの再発が認められ、3例(0.7%)で頭蓋内出血および消化管出血を含む出血が発生した。・入院中に4例(1.0%)が死亡し、そのうち3例には帝王切開などの外科手術の既往があった。 本研究の限界として、データベースが急性期病院のデータに限定されているため、他の医療機関で治療された患者データが含まれていないこと、詳細な臨床データ(バイタルサイン、PE重症度、検査結果など)が不足していること、PEの過小診断の可能性、入院中のVTE再発を除外したことにより急性期の再発が過小評価されている可能性が挙げられている。 最後に、研究者らは「今回の検討にて、循環器系および産科の医師にとって参考となる妊娠関連のVTEの実態が明らかになった。また、その治療において、LMWHが欧米のガイドラインで推奨されているにもかかわらず、国内ではVTEに対するLMWHの使用が保険適用外であるため、未分画ヘパリンが大半に選択されている実情も明らかになった。この問題は今後対処されるべき」と結んでいる。

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