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1.

AF治療中に脳梗塞を招く潜在的要因とは

心房細動(AF)患者における経口抗凝固薬(OAC)投与は、脳梗塞予防の中心であるが、適切に治療されていても脳梗塞を発症する事例が存在する。こうしたブレークスルー脳梗塞(breakthrough ischemic stroke)の潜在的原因や、その後の予後への影響は十分に明らかになっていない。そこで、イタリア・University of L'AquilaのFederico De Santis氏らは、AFでOAC継続中に発症した脳梗塞患者を対象に、潜在的な原因と90日転帰との関連を検討した。その結果、潜在的な原因は約半数で認められ、90日以内の脳梗塞再発リスク上昇と関連していた。本研究結果は、Journal of Neurology誌オンライン版2026年8月17日号に掲載された。本研究は、欧州、北アフリカ、中東9ヵ国の脳卒中センター35施設のデータを用いた多施設共同後ろ向き観察研究で、2020年2月~2025年2月に、AFでOAC服用中に脳梗塞を発症した成人患者を対象に解析を行った。また、対象患者は、指標となる脳梗塞発症時にOACを継続的に服用している必要があり、直接経口抗凝固薬(DOAC)服用中の場合は「指標となる脳卒中発症前の7日間、服用を中断することなく、最後の服用が脳卒中症状発症の48時間前以内であること」、ビタミンK拮抗薬(VKA)服用中の場合は「最後の服用から脳卒中症状発症までの経過時間にかかわらず、国際標準化比(INR)が1.5以上であること」と定義された。ブレークスルー脳梗塞の潜在的原因は、OACと相互作用しうる併用薬、活動性がん、心原性塞栓以外の競合する脳梗塞病因とした。主要評価項目は90日以内の新規脳梗塞で、副次評価項目は90日時点のmodified Rankin Scale(mRS)スコア分布、心筋梗塞、全死亡、血管死(致死的な虚血性または出血性脳卒中、突然心臓死、心筋梗塞、またはそのほかの血管イベントによる死亡)、安全性評価項目は中等度~重度出血および頭蓋内出血とした。主な結果は以下のとおり。・解析対象1,649例の年齢中央値は80.4歳(四分位範囲[IQR]:73.2~85.6、女性860例[52.2%])であった。発症時の服用薬剤はDOAC1,275例(77.3%)、VKA374例(22.7%)であった。・ブレークスルー脳梗塞の潜在的原因が1つ以上認められた患者は724例(43.9%)で、潜在的原因が1つのみの患者は544例(33.0%)、複数の患者は180例(10.9%)であった。・潜在的原因の内訳は、OACと相互作用しうる併用薬が469例(28.4%)、心原性塞栓以外の競合する病因が401例(24.3%)、活動性がんが72例(4.4%)であった。併用薬ではプロトンポンプ阻害薬が450例(27.3%)と大半を占め、抗てんかん薬が31例(1.9%)、H2受容体拮抗薬が3例(0.2%)、デキサメタゾンが3例(0.2%)、ケトコナゾールが1例(0.1%)と続いた。・競合する病因では、頭蓋内/頭蓋外大血管アテローム性動脈硬化が240例(14.6%)で最も多かった。・潜在的原因の有無における結果は以下のとおり(その原因を有する患者vs.原因なしの患者)。・高血圧(87.3%vs.76.3%、p<0.001)・脂質異常症(58.1%vs.45.8%、p<0.001)・糖尿病(30.1%vs.24.3%、p=0.009)・心筋梗塞既往(29.3%vs.16.6%、p<0.001)・脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)の既往(28.7%vs.21.8%、p=0.001)・慢性心不全(21.1%vs.13.4%、p<0.001)・慢性腎不全(20.4%vs.13.0%、p<0.001)・末梢動脈疾患(7.3%vs.2.9%、p<0.001)・90日追跡時点で、新規脳梗塞は57例(3.5%)、心筋梗塞は21例(1.3%)、全死亡は334例(20.3%、うち血管死は215例[13.0%])、中等度~重度出血は55例(3.3%)、頭蓋内出血は28例(1.7%)に認められた。・OAC再開までの期間中央値は7日(IQR:3~12)であった。・主要評価項目である90日以内の新規脳梗塞は、潜在的原因を1つ以上有する患者で4.8%、潜在的原因なしの患者で2.4%であり、潜在的原因を有する患者でリスクが有意に高かった(ハザード比[HR]:2.04、95%信頼区間[CI]:1.18~3.53、p=0.011)。・一方、90日時点のmRSスコア分布のオッズ比は1.15(95%CI:0.97~1.37、p=0.106)で、90日以内の心筋梗塞(1.5%vs.1.1%、HR:1.70、95%CI:0.69~4.14、p=0.246)、90日以内の全死亡(22.7%vs.18.4%、HR:1.24、95%CI:0.99~1.55、p=0.057)、90日以内の血管死(13.7%vs.12.5%、HR:1.06、95%CI:0.80~1.40、p=0.697)は、潜在的原因の有無で有意差が認められなかった。・安全性評価項目についても、中等度~重度出血(4.0%vs.2.8%、HR:1.38、95%CI:0.80~2.38、p=0.245)および頭蓋内出血(2.1%vs.1.4%、HR:1.48、95%CI:0.69~3.18、p=0.310)は、潜在的原因の有無で有意差が認められなかった。・逆確率重み付け解析では、相互作用しうる併用薬あり818例となし831例が比較され、90日以内の新規脳梗塞は併用薬あり群4.3%、なし群4.0%で差はなかった(HR:1.08、95%CI:0.67~1.73、p=0.761)。一方、90日以内の心筋梗塞は併用薬あり群で2.3%、なし群で0.7%であり、併用薬あり群で有意に高かった(HR:3.26、95%CI:1.30~8.17、p=0.012)。本研究結果について著者らは、AFに対するOAC継続中に発症するブレークスルー脳梗塞では、薬物相互作用、心原性塞栓以外の脳梗塞病因、活動性がんといった同定可能で一部修正可能な潜在的原因が相当数で認められ、これらを体系的に同定し、積極的に管理することがブレークスルー脳梗塞の予防や2次予防の最適化につながる可能性があるとまとめている。

2.

70歳以上の1次予防、スタチンは有益か?/NEJM

 地域で暮らす70歳以上の高齢者を対象としたプラセボ対照無作為化試験で、アトルバスタチンは主要心血管イベントリスクを抑制したが(追跡期間中央値5.9年時点)、障害のない生存期間の延長には寄与しなかったことが示された。オーストラリア・モナシュ大学のSophia Zoungas氏らSTAREE Investigatorsが、同国の一般診療所(general medical practice)で行った「STAREE試験」の結果を報告した。高リスク成人において、スタチンが心筋梗塞や虚血性脳卒中のリスクを低減させることは十分に確立されているが、臨床ガイドラインにおいて、70歳以上の高齢者へのスタチン処方を強く推奨する記述はなく、とくに75歳以上の高齢者への処方を推奨するエビデンスは乏しい。また、認知症や障害への影響に対するエビデンスも不足していることから、研究グループは、主要心血管イベントおよび障害のない生存へのアトルバスタチンの影響を評価した。NEJM誌オンライン版2026年8月29日号掲載の報告。なお、本研究は2026年8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)で発表された。アトルバスタチン40mgを1日1回vs.プラセボ STAREE試験では、心血管疾患、糖尿病、認知症の既往がない、地域で暮らす70歳以上の高齢者を対象とした。 研究グループは被験者を、アトルバスタチン40mgを1日1回またはプラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、追跡評価した。 主要評価項目は2つで、心血管死、非致死的心筋梗塞または脳卒中、冠動脈血行再建術の複合(主要心血管イベントへの影響を評価)と、全死因死亡、認知症、持続的な身体機能障害の複合(障害のない生存への影響を評価)で、階層的に評価された。主要心血管イベントは有意に減少、障害のない生存期間は延長せず 2015年7月~2023年3月に9,971例が無作為化された(アトルバスタチン群4,984例、プラセボ群4,987例)。被験者の平均年齢(SD)は74.7±4.5歳で、女性は51.9%であった。 ベースラインで、被験者の大半は現在飲酒の習慣があり、喫煙歴なしと申告した。服用薬数中央値は2(四分位範囲:1~4)で、最も多かった薬剤は降圧薬(46.3%)、胃酸関連疾患の治療薬(27.1%)などであった。過去にスタチン服用歴ありと報告した被験者は5.2%。既往歴として多かったのはがん、うつ病であった。また、認知機能スコアは良好であることが示され、88.7%の被験者が日常生活動作(ADL)の自立度を評価する修正Katz Indexの6項目について、いずれも困難はないと報告した。 追跡期間中央値5.9年後において、主要心血管イベントの発生はアトルバスタチン群297例(1,000人年当たり10.9イベント)、プラセボ群412例(1,000人年当たり15.5イベント)であった(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.61~0.82、p<0.001)。 障害のない生存への影響を評価した、全死因死亡、認知症、持続的な身体機能障害の複合の発生は、アトルバスタチン群637例(1,000人年当たり21.6イベント)、プラセボ群676例(1,000人年当たり23.0イベント)であった(HR:0.94、95%CI:0.84~1.05、p=0.25)。 重篤な有害事象の発現は、アトルバスタチン群で131例(2.7%)、プラセボ群で129例(2.7%)に認められた。筋骨格系、肝胆道系、および糖尿病関連の有害事象はアトルバスタチン群でより多く認められた。

3.

PREVENT時代にCACスコアは何を加えるのか―予測能と臨床的有用性を巡って(解説:野間重孝氏)

 2026年ACC/AHA/Multisociety脂質異常症ガイドラインでは、動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease:ASCVD)の1次予防における10年リスク評価に、Predicting Risk of Cardiovascular Disease EVENTS(PREVENT)によるASCVD予測式が採用され、境界域リスク(3%以上5%未満)または中間リスク(5%以上10%未満)でスタチン開始の判断が定まらない場合には、冠動脈石灰化(coronary artery calcium:CAC)スコアを考慮することが推奨された1)。 本研究は、多民族動脈硬化研究(Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis:MESA)に登録されたASCVD既往のない45~79歳の6,098例を対象として、PREVENTにCACを加えた場合の予測能を検討したものである。10年間に366例(6.0%)が心筋梗塞または脳卒中を発症し、Harrell C統計量はPREVENT単独の0.73からCAC追加後には0.75となった。改善幅は0.02、カテゴリー別net reclassification improvement(NRI)は0.095であり、著者らは、全リスク層にCACを加えた場合の改善は限定的である一方、境界域および中間リスク群に対する選択的使用は支持されると結論している2)。 一見すると、これはCACの選択的使用を支持する素直な結果にみえる。しかし、本研究を評価するうえで重要なのは、NRI 0.095という数値そのものではなく、どのような患者群がいずれの方向に再分類されたことによって、NRIが正の値となったのかという点である。 ASCVDを発症した366例では、CAC追加による上方再分類18例に対して下方再分類は39例で、event-NRIは-0.057であった。一方、非発症者5,732例では、下方再分類1,097例に対して上方再分類は224例で、nonevent-NRIは+0.152となった2)。全体NRIが0.095という正の値を示したのは、主として非発症者の下方再分類によるものであり、これが集団全体のリスク順位を改善し、C統計量を0.02上昇させた背景にあると考えられる。 event-NRIが負となったのは主として、PREVENTリスク5%以上で、すでにスタチンを含む脂質低下療法を検討すべき群に属していた発症者が、境界域へ下方再分類されたためである。下方再分類された発症者39例のうち、この群が29例(74%)を占めた。これに対し、境界域の発症者では上方再分類14例、下方再分類10例であり、10年発症率もCACスコア0の1.9%から300以上の14.3%まで明瞭に分かれた2)。したがって、event-NRIが負であったことを、境界域におけるCACの有用性の否定と見なすべきではない。むしろこの結果は、CACの役割が全リスク層の再分類ではなく、治療判断の定まらない境界域における追加的な層別化にあることを示唆している。 ただし、わずかなCACが認められるだけで、直ちに高リスクと考えることも適切ではない。CACスコア0超100未満の発症率は3.9%であり、依然として境界域にとどまっていた。明瞭な上方再分類をもたらしたのは主としてCACスコア100以上である2)。したがって、CACスコア0は低リスク側への再分類を支持し、CACスコア100以上は積極的な脂質低下療法を支持する一方、CACスコア0超100未満では、なお他の危険因子と患者の意向を含めた判断が必要となる。 なお、PREVENTによって、年齢、血圧、脂質、糖尿病、喫煙、腎機能などに基づく基礎的リスクはすでに捉えられており、CAC追加によるC統計量の改善幅が0.02にとどまったことは必ずしも意外ではない。予測リスクと実際の発症率との整合性を示す較正勾配は、1が理想とされ、PREVENT単独で1.09、CAC追加後で0.92であった。いずれも信頼区間は1を含んでおり、少なくとも較正勾配からは、CAC追加による明瞭な改善は示されなかった2)。 今回の改善幅を評価するうえで、著者らはKhanらが2023年にJAMAへ報告した冠動脈疾患予測研究を比較対象として挙げている。同研究では、統合コホート方程式(pooled cohort equations:PCE)にCACを加えることにより、冠動脈疾患を評価項目としたC統計量が0.09上昇し、カテゴリー別NRIも0.19改善した3)。これに対して、本研究の主要評価項目は心筋梗塞と脳卒中の複合であり、両者を分けた成績は示されていない。PREVENT-ASCVDを評価するうえでは整合的な設定であるが、冠動脈の解剖学的指標であるCACの付加価値を検討する際には慎重な解釈を要する。今回の改善幅が小さかった背景には、予測モデルの違いだけでなく、アウトカムの定義の違いが関係した可能性もあり、両研究の結果を単純に比較することはできない。 本研究は予測モデルの性能を検討した観察研究であり、CACに基づく治療方針の変更がASCVDイベントを減少させることを示したものではない。検査費用、放射線被曝、偶発所見などを含めた臨床的なnet benefitも検討されていない。また、MESAはPREVENTの開発にも用いられ、CAC追加モデルも同じ集団内で評価されているため、独立した外部集団における検証が必要である2)。欧米より冠動脈疾患が少なく、脳卒中の比重が大きい日本では、冠動脈の指標であるCACのASCVD予測への付加価値は、本研究で示された以上に限定的となる可能性がある4)。 本研究が示したのは、CACの価値が失われたということではない。むしろ、その役割が「すべての人のリスク予測を改善する検査」ではなく、「治療判断の難しい患者を選択的に再層別化する検査」であることを明確にした点に、本研究の意義がある。集団全体の予測能と、個々の患者における意思決定上の有用性とは同じものではない。CACについて問うべきなのは、集団全体の予測能をどれほど高めるかだけではなく、治療判断の定まらない患者に対して、実際に判断を変えうる情報を提供できるかということであろう。

4.

キシリトールが心血管イベント増加と関連/ESC2026

 人工甘味料のキシリトールは食品や口腔ケア製品などに広く使用されているが、一般集団における長期的な心血管安全性に関するエビデンスは限定的である。今回、カナダ・マギル大学のThomas M. Zheng氏らの研究グループが、北米と欧州の2つの大規模前向き観察コホートのデータを用いて解析した。その結果、血中キシリトール濃度が高い一般集団において、主要心血管イベント(MACE)リスクが有意に上昇することが示された。本研究結果は、ドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)において8月29日に発表された。 研究グループは、カナダの「Canadian Longitudinal Study on Aging(CLSA)」から7,651例(追跡期間6年)、および欧州の「European Prospective Investigation into Cancer(EPIC)-Norfolk研究」から1万59例(追跡期間30年)の計1万7,710例の非標的メタボロミクス(untargeted metabolomics)データを解析した。血中キシリトール濃度により四分位群(Q1~Q4)に分類し、初回MACE(心筋梗塞、脳卒中、死亡の複合)発症リスクとの関連を評価した。解析にはCox比例ハザードモデルを用い、年齢、性別、BMI、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙状況などの従来の心血管リスク因子を補正した調整ハザード比(aHR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象者1万7,710例(平均年齢60.9歳)において、追跡期間中にCLSAコホートで2,950例、EPIC-Norfolkコホートで5,670例のMACEが発生した。・従来の心血管リスク因子を調整後、血中キシリトール濃度最高四分位群(Q4)は最低四分位群(Q1)と比較して、MACEリスクが有意に高かった。-CLSAコホートにおけるaHR:1.47(95%CI:1.15~1.86、p=0.002)。-EPIC-NorfolkコホートにおけるaHR:1.18(95%CI:1.09~1.27、p<0.0001)。・中間四分位群(Q2・Q3)を含めた解析においても、両コホートで血中キシリトール濃度が高くなるほどMACE発生率が高まる用量依存的な関連が示唆された。・サブグループ解析においても、ベースライン時の患者背景や既存の心血管メタボリック因子にかかわらず、一貫したMACEリスクの増加が認められた。 著者らは、過去の研究で示されたキシリトールの血小板凝集・血栓形成促進作用に触れ1)、明白な心血管リスク因子を持たない1次予防対象者においてもキシリトールが残留リスクを及ぼす可能性があると指摘している。発表者であるMarco Witkowski氏は、「人工甘味料は砂糖より健康に良いと考え消費されており、規制当局からも一般に安全と見なされている。しかし、一般集団における今回の長期的な知見は、われわれがキシリトールの心血管系の安全性についていかに知見が不足しているかを浮き彫りにしている」と、ESCのリリースの中で述べている。そのうえで、製品中のキシリトール含有量が増加し続ける現状を踏まえ、さらなる検証が必要であると結論付けている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

5.

PREVENT-ASCVD式に石灰化スコア追加、予測能への影響/JAMA

 45~79歳の米国成人において、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の10年リスク推定式であるPredicting Risk of cardiovascular disease EVENTs(PREVENT)-ASCVDに、冠動脈石灰化(CAC)スコアを追加しても、すべてのリスク群全体でモデルの識別能および再分類能の改善はわずかであり、一部の群では変化がみられなかった。米国・ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部のXiaoning Huang氏らが、同国6施設で実施された縦断的コホート研究「Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis:MESA試験」の解析結果を報告した。 米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)による2026年版の脂質異常症ガイドラインでは、PREVENT-ASCVD式を用いて推定されたASCVDの10年リスクが3%以上10%未満の場合はCACスコアの選択的使用が新たに推奨されているが、ASCVDリスク予測においてPREVENT式とCACスコアを併用することの有用性は明らかではなかった。著者は、「再分類の結果では、PREVENT-ASCVD式でボーダーライン~中等度リスクの患者に対し、CACスコアを選択的に活用することが支持される」とまとめている。JAMA誌オンライン版2026年8月26日号掲載の報告。MESA試験登録45~79歳の6,098例について解析 MESA試験は、心血管疾患(CVD)およびそのリスク因子を調査するために設計され、2000~02年のベースライン検査で臨床的なCVDを有していない45~84歳の成人6,814例が登録された。 研究グループは、ベースラインで79歳を超えていた参加者、PREVENT式で検証範囲外のリスク因子値を示した参加者などを除外した6,098例を解析対象集団として、CACスコアの追加前後におけるPREVENT-ASCVD式を用いたASCVDの10年リスクを分類した。 主要評価項目は、致死的および非致死的ASCVDリスク推定に関する性能指標で、Harrell C統計量、キャリブレーション、および純再分類改善度(NRI)を用いて評価した。PREVENT-ASCVD式にCACスコア追加で識別能はわずかに改善 解析対象6,098例のベースラインの患者背景は、平均年齢61.4歳(SD 9.6)、女性52%で、PREVENT-ASCVD式によるASCVDの10年リスクの平均値は6.4%(SD 4.8)、CACスコア>0が49%であった。 10年間の追跡期間中に、366例(6%)がASCVDイベントを発症した。 PREVENT-ASCVD式のHarrell C統計量は0.73(95%信頼区間[CI]:0.70~0.75)であった。PREVENT-ASCVD式にCACスコアを追加した場合、Harrell C統計量の変化は0.02(95%CI:0.01~0.03)、分類のNRIは0.095(95%CI:0.053~0.137)であった。 キャリブレーションの勾配は、PREVENT-ASCVD式のみで1.09(95%CI:0.93~1.25)、CACスコアを追加すると0.92(95%CI:0.81~1.03)であった。 ボーダーラインリスク集団においては、ASCVD発症率は、CACスコアが0の群で1.9%、>0~100未満の群で3.9%、100以上300未満の群で7.4%、300以上の群で14.3%であった。

6.

2型糖尿病・糖尿病予備群、更年期症状の負担が大きい可能性

 2型糖尿病または糖尿病予備群の女性では、更年期の症状がより強く現れる可能性を示唆するデータが報告された。乙支大学校(韓国)のYou Lee Yang氏らの研究によるもので、詳細は「Menopause」に8月4日付で掲載された。2型糖尿病または糖尿病予備群の女性は、非糖尿病群に比べて、更年期に経験する自覚症状の数が多く、重症度のスコアも高いという。 この研究は、韓国の40~64歳の女性296人(平均年齢55.02±5.55歳)を対象に行われた。空腹時血糖値とHbA1cに基づき、220人が2型糖尿病または糖尿病予備群と判定され、これを「糖尿病群」とし、残りの76人を「非糖尿病群」とした。更年期症状は、身体的・心理的症状を5段階のリッカート尺度(全くないは0点、非常に強いは4点)で答えてもらう質問票により把握した。 その結果、更年期症状の数は、非糖尿病群が15.88±11.70であるのに対して、糖尿病群は20.30±12.20であり、有意に多かった(P=0.003)。また、症状の重症度も、非糖尿病群の26.11±23.09に対して、糖尿病群は36.53±29.27と有意にスコアが高かった(P=0.005)。 閉経前・閉経移行期・閉経後という三つのステージに分けて比較した場合も、全てのステージで糖尿病群の方が更年期症状の数が多かった。ただし、有意差が認められたのは閉経後のみだった(P=0.006)。症状の重症度も同様に、全てのステージで糖尿病群のスコアが高かったが、有意差が認められたのは閉経後のみだった(P=0.008)。 米国に拠点を置く更年期学会(The Menopause Society〔旧:北米更年期学会〕)のメディカルディレクターであるStephanie Faubion氏は、「この研究は、糖尿病を患う女性は更年期症状の負担がより強いことを示唆している」と述べている。同氏は、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの心血管代謝関連のリスク因子が、血管運動症状の頻度が高いことと関連するという先行研究にも言及している。また、血管運動症状の負担が大きい女性は、心血管代謝リスクのプロファイルがあまり良好でない傾向があるという。なお、Faubion氏は今回の研究には関与していない。 今回の研究結果は、中年女性の糖尿病治療に、更年期症状の評価・管理を組み込むことの重要性を示している。さらにFaubion氏は、「この研究は糖尿病のある女性における更年期症状への対処の重要性を強調するだけでなく、閉経移行期は全ての女性において、心血管疾患のリスク因子を評価・治療する重要な機会であることをも認識させるものだ」と付け加えている。

7.

LDL-C<55mg/dLでもMACE再発、リスク因子は?/ESC2026

動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の2次予防では、超高リスク患者においてLDL-C<1.4mmol/L(55mg/dL)の達成が推奨されている。一方で、LDL-Cを良好に管理しても動脈硬化の進展や心血管イベントの再発は起こりうる。今回、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後にLDL-C<1.4mmol/Lを達成した冠動脈疾患(CAD)患者におけるASCVD再発の臨床的特徴を検討した結果、主要心血管イベント(MACE)は6.2%に発生し、動脈硬化性疾患(polyvascular disease:PVD)がMACEと強く関連する一方、PCI後2ヵ月時点の治療中LDL-C<1.0mmol/L(40mg/dL)の達成はMACEリスク低下と関連していたことが明らかになった。本研究結果は、国立循環器病研究センター 循環器内科の片岡 有氏が8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)の2次予防のセッションで発表、Journal of Clinical Lipidology誌2026年8月号にも掲載された。本研究は、2017年1月1日~2022年8月31日にPCIを受けたCAD患者を対象とした多施設共同後ろ向き観察研究である。PCI後2ヵ月時点のLDL-Cデータがない患者、3年時点の臨床フォローアップがない患者、PCI後2ヵ月以内にMACEを発症した患者、非動脈硬化性のCAD患者などを除外。PCI後2ヵ月時点でLDL-C<1.4mmol/Lを達成した患者を解析対象とし、MACE発生例と非発生例の臨床背景、脂質低下療法、リスク因子管理を比較した。主要評価項目は、心臓死、非致死的心筋梗塞、非責任病変に対する臨床的適応による冠動脈血行再建からなるMACEとした。主な結果は以下のとおり。・解析対象は780例で、平均年齢70.1歳、男性81.7%であった。高血圧は73.7%、脂質異常症は65.2%、2型糖尿病は37.1%、慢性腎疾患は50.3%に認められ、心筋梗塞既往は11.9%、多枝病変は31.0%であった。・観察期間中央値1,632日(四分位範囲[IQR]:1,011~2,502)で、MACEは48例(6.2%)に発生した。内訳は、心臓死1.1%、非致死的心筋梗塞1.4%、非責任病変に対する臨床的適応による冠動脈血行再建4.7%であった。・LDL-C<1.4mmol/L達成後に発生したMACEの81.2%(39/48例)は、PCI後2年以内に発生した。また、心臓死9例はすべてPCI後6ヵ月以内に発生した。・MACE発生例では、非発生例と比較してPVDの割合が高かった(72.9%vs.17.3%、p<0.001)。下肢閉塞性動脈疾患(LEAD)もMACE発生例で多く(54.2%vs.4.0%、p<0.001)、CAD+脳血管疾患(CVD)+LEADの併存も高頻度であった(12.5%vs.1.6%、p<0.001)。一方、従来の冠危険因子および多枝病変などの臨床的特徴に有意差はみられなかった。・PCI後2ヵ月時点で、全体の94.8%がスタチン、73.3%が高強度スタチンで治療されていた。エゼチミブの使用はMACE発生例で非発生例より少なかった(45.8%vs.63.2%、p=0.023)。PCSK9阻害薬の使用割合は、MACE発生例4.1%、非発生例5.1%であった(p=0.770)。・PCI後2ヵ月時点で治療中LDL-C<1.0mmol/Lを達成していた割合は、MACE発生例で非発生例より低かった(16.7%vs.33.2%、p=0.018)。治療中LDL-CはMACE発生例で数値的に高かった(44.1±10.5 vs.41.6±9.3mg/dL、p=0.074)。・多変量Cox解析では、PVDがMACE発生と独立して関連していた(ハザード比[HR]:10.74、95%信頼区間[CI]:5.65~20.39、p<0.001)。一方、PCI後2ヵ月時点の治療中LDL-C<1.0mmol/Lの達成はMACEリスク低下と独立して関連していた(HR:0.37、95%CI:0.17~0.80、p=0.010)。・脂質低下療法の強度を追加調整したモデルでも、PVD(HR:11.02、95%CI:5.80~20.93、p<0.001)およびLDL-C<1.0mmol/L(HR:0.39、95%CI:0.18~0.85、p=0.019)の関連は一貫していた。・PVDの表現型別では、CAD単独を基準とした場合、CVD併存はMACEリスク上昇と有意に関連しなかった(HR:1.63、95%CI:0.46~5.75、p=0.447)。一方、LEAD併存はMACEリスク上昇と強く関連し(HR:21.03、95%CI:10.74~41.17、p<0.001)、CVD+LEAD併存でも同様であった(HR:23.75、95%CI:8.51~66.26、p<0.001)。・PVDを有する162例では、32.1%がLDL-C<1.0mmol/Lを達成していた。PVD患者において、PCI後2ヵ月時点の治療中LDL-C<1.0mmol/Lの達成はMACE発生頻度の低下と関連し(Log-rank p=0.032)、多変量解析でもMACEリスク低下と独立して関連していた(HR:0.36、95%CI:0.14~0.87、p=0.024)。本研究結果について著者らは、LDL-C<1.4mmol/Lを達成したCAD患者においても心血管リスクは残存しており、とくにPVDはMACE発生と独立して関連していたとまとめた。また、PCI後2ヵ月時点の治療中LDL-C<1.0mmol/LがMACEリスク低下と関連していたことから、CAD患者におけるASCVD再発予防では、さらに低いLDL-C目標を考慮しうると結論付けた。

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スタチンとARBの併用で認知症リスクは低下するのか

 高血圧と脂質異常症は、認知症の修正可能な危険因子であり、スタチンと降圧薬の併用は保護的な効果をもたらす可能性がある。しかし、特定の薬剤の組み合わせに関するエビデンスは依然として限られている。オーストラリア・タスマニア大学のEyayaw Ashete Belachew氏らは、アンジオテンシンII(Ang-II)産生を増加させる降圧薬(Ang-II産生促進薬)とスタチンの併用と、Ang-II産生を減少させる降圧薬(Ang-II産生抑制薬)とスタチンの併用を、認知症リスクとの関連について比較検討した。International Journal of Geriatric Psychiatry誌2026年8月号の報告。 オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の大規模な地域住民コホートである45 and Up Studyのデータを用いて、プロスペクティブに検討を行った。対象は、高血圧および脂質異常症を有し、スタチンと降圧薬を併用している45歳以上の患者であった。対象患者を、スタチンとAng-II産生促進薬(アンジオテンシンII受容体拮抗薬[ARB]、サイアザイド系利尿薬、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬[DHP-CCB])の併用群と、スタチンとAng-II産生抑制薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬[ACEI]、β遮断薬[BB]、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬[非DHP-CCB])の併用群に分類した。薬剤への曝露は、服薬期間割合(PDC、80%以上)に基づき判定した。1対1の傾向スコアマッチングを用いて、両群のベースライン特性をマッチングさせた。食事、身体活動、併存疾患、併用薬で調整したハザード比(HR)を推定するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・マッチングを行った3万4,610例(各群1万7,305例、平均年齢65.8±8.8歳、平均フォローアップ期間12.4±5.1年)を対象とした解析において、スタチンとAng-II産生促進薬の併用群は、スタチンとAng-II産生抑制薬の併用群と比較し、認知症リスクの12%低下(HR:0.88、95%信頼区間[CI]:0.79~0.98)および全死亡リスクの13%低下(HR:0.87、95%CI:0.82~0.93)との関連が認められた。・ロスバスタチンまたはアトルバスタチンとAng-II産生促進薬の併用は、シンバスタチンとAng-II産生促進薬の併用と比較し、より大きな有益性を示した(各々、HR:0.43[95%CI:0.36~0.50]、HR:0.74[95%CI:0.64~0.84])。・これらの効果は男女ともに一貫して認められた。しかし、保護的な関連は65~74歳の年齢層でのみ観察された。また、ARBを含む併用療法は、ACEIを含む併用療法と比較し、より優れた有益性を示した。・死亡を競合リスクとして考慮したモデルを含む感度分析においても、これらの結果は頑健であった。 著者らは「スタチンとAng-II産生促進薬の併用は、認知症リスクの低下と関連していた。とくに、ロスバスタチンまたはアトルバスタチンとARBの併用で、より大きな有益性が確認された。このことは、認知機能への有益性が治療選択の判断材料となりうることを示唆している。今後は、ランダム化比較試験によってこれらの知見を検証し、その根底にあるメカニズムを解明する必要がある」としている。

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GLORY-2:肥満症に対するmazdutideの減量効果と真の治療ゴール(解説:永井聡氏)

 mazdutideはEli Lilly社によって創製されたオキシントモジュリン由来のペプチドアナログであり、グルカゴン(GCG)/GLP-1受容体デュアルアゴニストである。GLP-1受容体介在性の食欲抑制効果に加え、GCG受容体を介した脂肪分解および肝臓でのエネルギー消費亢進による減量効果が期待されており、現在、中国の製薬企業が同国内での治験を進めている。 GLORY-2試験は、BMI30以上の肥満を有する中国人患者を対象とした第III相試験である。60週間にわたるmazdutide 9mgの週1回皮下投与により、プラセボ群と比較して−15.15%の体重減少を達成した。直接比較試験ではないものの、チルゼパチドに迫る強力な減量効果を示している。安全性に関しては、GLP-1関連薬に共通する嘔気・嘔吐などの消化器症状が高頻度に認められたが、本薬特異的な重篤な有害事象は報告されていない。 現時点において、mazdutideは中国以外での開発予定はない。しかし、同クラスのGCG/GLP-1受容体デュアルアゴニストとしては、survodutideが日本や欧米を含めてグローバルで開発中である。すでに強力な減量効果を持つチルゼパチドが上市されている中、「経口薬でもなく、減量率も同等レベルの新規注射薬」には、それほどのインパクトがないと感じられるかもしれない。 ここで改めて強調したいのは、「肥満」と「肥満症」の違いである。単なる美容目的や「減量のみ」を目的としたGLP-1関連薬の不適切使用は社会的な問題となっており、メディアでも多く取り上げられている。過度な減量の裏には、消化器症状などの副作用や、るい痩(筋肉量減少)のリスクが潜んでいる。しかし、われわれの日常的な「適正な肥満症治療」の現場においても、無意識のうちに「体重が何キロ減ったか」という成果ばかりを強調してしまってはいないだろうか。日進月歩で新薬の開発が進むGLP-1関連薬の領域は、ともすれば「減量率の競争」に陥りつつあるのが現実である。 体重減少のみを目的とするならば、極端に言えば「たまたま血圧が高い肥満者に、単なる減量目的で薬剤を投与している」ことと大差なくなってしまう。肥満症治療において真に求められるのは、高血圧、脂質異常症、MASLD/MASHといった肥満関連合併症の改善であり、さらにその先にある長期的な心血管イベントの抑制、生命予後の改善、そしてQOLの向上であるはずだ1)。 この点において、mazdutideは単なるGLP-1受容体作動薬とは異なり、GCG受容体を介して肝臓でのエネルギー消費亢進と脂肪の分解・酸化を直接的に促すという強みを持つ。本試験でも肝内脂肪の著明な低下が示されており、MASLD/MASHを合併する肥満症への効果が強く期待される。興味深いことに、最近、GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドがアルコール使用障害に対しても臨床的有用性を示すことが報告され、注目を集めている2)。mazdutideのようなデュアルアゴニストは、その特長を生かし、「アルコール使用障害」と「肝内脂肪の改善・線維化抑制」に対する同時治療を可能にするポテンシャルを秘めているかもしれない。 これからの肥満症治療は、単一の減量指標にとらわれず、患者個々の病態に沿った薬剤の「使い分け」が求められる時代となるだろう。そのためにも、日常診療においては単なる「減量率の競争」から脱却し、患者さんの声にしっかりと耳を傾けながら、その人にとっての「真の治療ゴール」は何かを共に考え、対話を重ねて治療を進めていただきたい。もちろん、現時点ではmazdutideが長期的な生命予後やQOLを改善するという直接的なエビデンスは確立されておらず、今後のさらなるデータ蓄積が待たれる。

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5人に1人はLp(a)高値、CVD死を見落とさないために~Lp(a)の今をインタビュー(前編)

『2022 EAS Lp(a) Consensus Statement』を皮切りに、2025年3月にはLp(a) Global Summitにて『Lp(a)検査と管理に関するブリュッセル国際宣言』が採択された。さらに同年8月の『2025 ESC/EAS Focused Update』、翌2026年3月の『ACC/AHA脂質異常症ガイドライン』改訂へと続き、国際的にLp(a)測定の推奨強化へ向けた大きな潮流が生まれている。では、日本における現在のLp(a)測定のあり方は、諸外国と比較してどのような状況にあるのだろうか。日本版コンセンサスステートメントの発出を目前に控え、国内でLp(a)測定を普及・啓発していくうえで留意すべきポイントとは――。今回、Lp(a)研究の第一人者であるFlorian Kronenberg氏(オーストリア・インスブルック医科大学 遺伝疫学研究所 教授/所長)が来日。ケアネットの単独インタビューに応じ、Lp(a)測定の臨床的意義や最新の知見について語った。※本編は2回にわたってお届けします。後編「Lp(a)測定での4つの重要プロセス、Lp(a)研究の第一人者がアドバイス」は8月27日公開予定です。INDEXLp(a)がこれほどまで注目される理由Lp(a)が心血管リスクを高めるメカニズムLp(a)高値の驚くべき頻度、Lp(a)の特性と啓発すべき対象者とはCVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組み―Lp(a)がこれほどまで注目される理由欧州全体において、心血管疾患(CVD)が死因第1位であるという深刻な問題は広く認識されています。同時に、これらの死亡の多くは予防可能であることが分かっています。ところがCVD有病率の3分の1はコレステロールが原因である一方で、Lp(a)測定の理解、家族性高コレステロール血症(FH)への治療介入不足が原因で十分にコントロールできていないこと、一般市民における認知不足などが課題となっています。われわれは2025年3月24~25日にベルギー・ブリュッセルで開催された「Lp(a) Global Summit」において『Lp(a)検査と管理に関するブリュッセル国際宣言』を行いました1)。その宣言および複数のガイドライン推奨も踏まえて、欧州委員会(EU)は「EU Safe Hearts Plan(欧州心血管疾患対策計画)」において、加盟国に対してスクリーニング項目に何を含めるべきかなど、非常に明確な指針を打ち出し、そこにはLp(a)高値やFHのスクリーニングが盛り込まれました。それと同時に、上述の課題解決のためにもEUは国民自身が「リスクを知る」ことを非常に重要視しています。リスクを認識すれば、健康へのモチベーションやヘルスリテラシーが向上し、最終的には治療アドヒアランスの向上につながると捉えています。上記計画の中では何度もLp(a)やFHについて言及されており、加盟国がプログラムを実装できるよう委員会がサポートしています。具体的な認知向上への取り組みについては後述します(CVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組み)。―Lp(a)が危険な理由、そのメカニズムと心血管リスクの過小評価Lp(a)濃度と心血管リスクには明確な相関関係があることが知られており、Lp(a)濃度が高くなればなるほど、心筋梗塞や脳卒中リスクが比例して高くなります。とくに125nmol/L(50mg/dL)を超えると、リスクが格段に跳ね上がります。その理由は、Lp(a)粒子1個あたりの動脈硬化惹起性が、通常のLDL粒子と比較して格段に高いためです。構造を見るとLDL粒子に似ていますが、Lp(a)には「アポリポ蛋白(a)」という特別なタンパク質が結びついており、さらに、多くの「酸化リン脂質(OxPL)」を搬送しているため、非常に動脈硬化を起こしやすい性質を持っているのです2,3)。(図1)注意すべきLDL様粒子の構造4)画像を拡大するただし、これまでの研究結果5)から、Lp(a)が高値であっても従来の一般的なリスク因子(高血圧、糖尿病、過体重、不健康な生活習慣など)に早期介入することで、CVDの絶対的生涯リスクが大きく低減することが示されています。たとえば、従来のリスク因子を多く持っている人でも、Lp(a)が低ければ、生涯の心血管イベントの絶対リスクは25%程度に留まります。一方で、同じように従来の一般的なリスク因子を多く持ち、Lp(a)が150mg/dLの高値である場合、生涯の絶対リスクは68%にまで跳ね上がってしまいます。もし、医師がその患者のLp(a)の数値を知らなければ、心血管リスクを劇的に「過小評価」してしまうことになります。しかし、従来の危険因子を持たずLp(a)濃度のみが高い人の場合、心血管イベントの生涯リスクは、欧州一般人口における心血管疾患死亡の平均リスクよりも低いんです。人々が過度に不安になるのを避けるためにも、また健康的なライフスタイルを継続し、可能な限り危険因子を増やさないよう心掛けてもらうためにも、この点は伝えるべきです。これに対し、従来の危険因子を有し、かつLp(a)が高い人に対しては、危険因子プロファイルの改善に徹底的に取り組むよう助言すべきです。(図2)Lp(a)濃度が高くても、心血管疾患リスク増加と必ずしも関連しない画像を拡大する(表1)UK Biobankデータ[図2参照]に基づく、Lp(a)と従来リスク因子の有無による介入方法画像を拡大する―Lp(a)高値の驚くべき頻度、特性や啓発すべき対象者とはLp(a)を啓発するにあたり、医療者(医師)側にも認識不足というギャップがあるため、医師と一般公衆の双方への啓発が必要です。現在、Lp(a)はさまざまなコンセンサスステートメントやガイドラインに織り込まれるようになり、「成人は生涯に少なくとも一度は必ずLp(a)を測定すべきだ」という方針が示されています。というのは、Lp(a)高値の頻度は“5人に1人”と言われており、決して“珍しい状態”ではないからです。たとえば、FHの発症頻度は地域によって異なりますが250~350人に1人と言われています。それに比べ、Lp(a)高値の人は周りを見渡せば必ず身近に該当者がいるレベルです。つまり、患者自身がLp(a)高値だと知ることは、適切な対処ができるという意味で「特権」とも言えるのです。次に、『生涯に1度の測定』が推奨される理由は、遺伝的にほぼ90%決定付けられ、生活習慣(食事や運動)によって数値を下げることはできないからであり、一般的には、信頼性が高く十分に標準化された測定法が用いられていることを前提とすれば、多くの場合、生涯に一度の測定で十分です。Lp(a)値には±20%程度の変動がみられますが、これは測定技術上の変動、検体採取方法(前分析条件)、および一部の生理学的変化に関連するものであるため、この変動を過大評価すべきではありません。ただし、以下の患者では、Lp(a)の再測定が推奨されます。◯腎機能障害の患者Lp(a)値が上昇。とくにネフローゼ症候群では、Lp(a)値が3~4倍に上昇することがある◯肝機能障害のある患者Lp(a)は肝臓で産生されるため、肝機能障害の場合にはLp(a)値が低下するこのほかにも、再測定の意義が問われることが多い対象者について、私見を交えながらお伝えしますと、以下のようになります。(表2)現時点での患者背景ごとの再測定の是非画像を拡大する―CVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組みこれまでに説明してきたとおり、CVDとの戦いにおいて最も重要な柱となるのは、Lp(a)などのリスク因子のスクリーニングです。Lp(a)やコレステロール、血圧などの値は、心筋梗塞や脳卒中を発症するよりもかなり前の段階から、高値を示しているため、これらのリスク因子を早期に検出し、対処することがきわめて重要なのです。そのLp(a)測定に関する認知向上には多くの方法があります。Lp(a)に関する国内のコンセンサスステートメントを作成すること(日本でも数週間以内に利用可能になる予定)Lp(a)を、より幅広い医師を対象とした脂質異常症あるいは心血管疾患診療に関するガイドラインに組み込むこと(これは、脂質代謝および脂質管理・治療というより広い文脈の中にLp(a)を位置付けることを含む)さまざまな診療科・専門領域の学会・学術集会でLp(a)に関する講演の実施、また、Lp(a)測定を提供することLp(a)を説明するための、医師向けおよび患者向けの優れた情報資材を作成することLp(a)およびASCVDリスクに関する典型的な症例[Lp(a)の重要性を強く印象付けるもの]を紹介しながら、メディアでの注目を集めること患者団体と連携し、Lp(a)の重要性が伝わるような症例を紹介・発信することLp(a)アンバサダーグループを構築すること繰り返し、繰り返し、繰り返し…あらゆる機会を捉えて発信し続けることアンバサダーグループは、Lp(a)とともに生きる経験を持ち、Lp(a)について十分な教育を受けた人々です。私たちはFH EuropeおよびLp(a) International Task Forceにおいて、この取り組みを行っています。そして、世界中の人々に啓発を促すため、私自身は年間70回ほど、Lp(a)について講演を行っています。後編に続く―――。 参考 Kronenberg F, et al. Eur Heart J. 2022;43:3925-3946. Kronenberg F,et al. Atherosclerosis. 2023;374:107-120. 1) FH Europe Foundation:Say YES to better cardiovascular health across the world 2) Kronenberg F, et al. J Int Med. 2013;273:6-30. 3) Koschinsky ML, et al. Atherosclerosis. 2022;349:92-100. 4) Koschinsky ML, et al. Pharmacol Res. 2023;194:106843. 5) Kronenberg F, et al. Curr Atheroscler Rep. 2024;26:75-82.

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多内分泌代謝性卵巣症候群は心筋梗塞や脳卒中のリスクと関連

 若年女性に見られる卵巣関連の内分泌・代謝疾患である多内分泌代謝性卵巣症候群(polyendocrine metabolic ovarian syndrome;PMOS)は、心筋梗塞や脳卒中のリスク上昇と関連している可能性がある。新たな大規模研究で、PMOSの女性では、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)イベントの発生リスクが、PMOSではない女性と比べて4倍以上高いことが明らかになった。米ペンシルベニア大学病院産婦人科のAnuja Dokras氏らによるこの研究結果は、7月20日付で「The Lancet Obstetrics, Gynaecology, & Women's Health」に掲載された。 Dokras氏は、「この研究結果は、臨床医がPMOS患者の心血管の状態を綿密に追跡・評価することの重要性を示している。また、PMOS患者自身が心血管の健康維持を心がけるとともに、喫煙、運動不足、肥満、高LDLコレステロール(LDL-C)値、糖尿病、高血圧といったリスク因子を管理することも重要である」と述べている。 PMOSでは多くの場合、卵巣内に発育途中の小卵胞が複数見られる。また、アンドロゲンの過剰産生により排卵障害や月経異常、不妊症のほか、代謝異常や心血管疾患のリスクが高まる。研究グループによると、PMOSは妊娠可能年齢の女性の約10~13%に認められるが、そのうちの最大70%は自分がPMOSに罹患していることに気付いていないという。 今回の研究では、Optum社の匿名化医療保険請求データベース(Clinformatics Data Mart Database)を用いて、ASCVDの既往がない18~50歳の女性を対象に、PMOSとASCVDイベントとの関連を検討した。対象者のうち、41万3,450人(平均年齢31.1歳)がPMOSと診断されていた。定期健康診断のICDコードを有し、年齢およびPMOS診断月をPMOS群の女性と一致させた女性206万7,250人を対照群とした。ASCVDは、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患と定義した。 その結果、ASCVDイベント全体の発生のハザード比(HR)はPMOS群で対照群よりも高く、年齢などの交絡因子で調整後もHRは4.40だった。疾患別に解析すると、心筋梗塞や脳卒中のリスクは約2.5倍、脳卒中発症の前兆となる一過性脳虚血発作(TIA)のリスクは約3.4倍、末梢動脈疾患のリスクは約4倍であることも示された。媒介分析では、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、肥満などの心血管疾患リスク因子だけでは、PMOSとASCVDとの関連の約3分の1しか説明できないことが示唆された。 PMOSは、もともとは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と呼ばれていたが、2026年5月、国際的なコンセンサスプロセスを経て、PCOSはPMOSへ名称変更された。Dokras氏は、「『多嚢胞性』という言葉は、この疾患の実態を正確に表していなかった。今回の研究で示したように、PMOSの影響は婦人科領域にとどまらない。新しい名称は、内分泌系の複数のホルモンが関与する疾患であることを示している。この名称変更により、臨床医がより包括的な医療を提供できるようになることを期待している」と述べている。

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第308回 手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS

<先週の動き> 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症動向調査によると乳幼児を中心に流行する手足口病が、東北各県で高い水準となっている。青森県では8月3~9日の患者報告数が257人で、6週間ぶりに減少したものの、1定点医療機関当たり7.56人と警報基準の5人を上回った。県内6保健所管内のうち5管内が警報レベルで、青森市・東津軽では10.33人、八戸市・三戸では9.14人だった。その一方で、岩手県では同期間の患者数が415人と前週から69人増加。1定点当たり15.37人で10週連続の増加となり、警報基準の3倍を超えた。一関27.0人、中部26.5人、県央25.0人など、10管内中7管内が警報レベルとなっている。宮城県も1定点当たり10.45人と今季最多を更新し、4週連続で警報基準を超えた。同じく福島県でも9.71人と2週連続で今季最多となり、警報レベルが4週続いている。全国では7月27日~8月2日の定点当たり報告数は6.03人。2週連続で減少したものの、25都道県で警報基準を超えており、依然として広範な流行が続いている。手足口病はエンテロウイルスなどによる感染症で、多くは軽症だが、まれに脳炎などの中枢神経合併症を来す。飛沫や接触のほか便を介して感染し、症状消失後も数週間にわたり便中へウイルスが排泄されることがある。医療現場では乳幼児の発熱、口腔内病変、手足の発疹に加え、意識障害、けいれんなど重症化を示唆する症状に注意が必要である。家庭や保育施設では石けんと流水による手洗い、タオルの共用回避、おむつ交換時の排泄物処理の徹底が求められる。 参考 1) 手足口病の減少続くも、感染性胃腸炎やコロナは増転【感染症動向調査第31週:7月27日~8月2日】(Medical Tribune) 2) 青森「手足口病」感染者数減少も依然5保健所管内で警報レベル(NHK) 3) 岩手県内「手足口病」患者数さらに増加 警報基準の3倍余に(同) 4) 福島県内 「手足口病」今季最多に お盆休みの感染対策徹底を(同) 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省8月13日に千葉県を中心に発生した記録的豪雨で、県内の医療機関にも浸水や停電などの被害が広がっている。厚生労働省によると、14日午前10時時点で大規模病院を含む22医療機関から被害報告があり、千葉市、柏市、八千代市などを中心に影響が確認された。内閣府は多数の住民が生命・身体に危害を受ける、またはその恐れがあるとして、千葉県の21市4町、計25市町に災害救助法を適用した。厚労省は14日、被災者の保険診療や診療報酬に関する特例措置を通知した。避難時にマイナンバーカードや資格確認書を紛失、または自宅に残した場合でも、氏名、生年月日、連絡先に加え、被用者保険では事業所名、国保・後期高齢者医療では住所などを申し立てれば保険診療を受けられる。医療機関は可能な限り保険者を確認した上でレセプト請求するが、特定できない場合も住所や事業所名、連絡先などを記載して請求できる。被災者受け入れに伴う診療報酬上の特例も適用される。許可病床数を超えて患者を受け入れても減額措置を適用せず、DPC病院も従来通り診断群分類点数表による算定が可能となる。患者急増や災害支援への職員派遣によって看護配置や夜勤時間などの施設基準が一時的に満たせなくなった場合も、一定範囲では変更届を不要とする。また、被災医療機関からの転院患者については、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算定から除外できる場合があり、ICU・HCUにやむを得ず本来の対象外患者を収容した場合も特例が設けられた。そのほか、避難所で継続的な診療が必要な通院困難患者には、条件を満たせば在宅患者訪問診療料の算定も認められる。その一方で、保団連は医療機関や介護施設、在宅人工呼吸器・酸素療法、人工透析患者への電力・水供給の早期確保、医薬品・医療材料の供給、被災者の医療費窓口負担免除などを政府に要望した。豪雨災害では直接的な外傷だけでなく、停電・断水による透析や在宅医療の継続困難、慢性疾患治療の中断も重要な課題となる。 参考 1) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に係る災害救助法の適用について(内閣府) 2) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害の被災者に係るマイナ保険証又は資格確認書の提示等について(厚労省) 3) 千葉豪雨 県内の22の医療機関から被害報告 厚労省(テレビ朝日) 4) 千葉の大雨、死者8人に…被災者の“医療費免除”と“最大850万円の支給”を医師団体が国に緊急要望(弁護士JPニュース) 5) 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用-厚労省(Gem Med) 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省厚生労働省は、地域ごとに使用を推奨する医薬品を定める「地域フォーミュラリ」の普及を本格化させる。今秋をめどに、医療関係者らを対象とした全国説明会を開き、制度への正確な理解を広げる方針。地域フォーミュラリは、高血圧、脂質異常症、胃潰瘍などの治療薬について、有効性、安全性、費用、供給状況などを踏まえ、地域で推奨する医薬品をリスト化する仕組み。院内フォーミュラリと異なり、病院だけでなく診療所や薬局も含む地域全体で運用する。医師の処方権を制限するものではなく、標準的な薬物療法の共有、後発医薬品の適正使用、医薬品の安定供給を目的とする。日本フォーミュラリ学会によると、2026年2月時点で18都道府県30地域に導入が済んでおり、31地域が準備中。大阪府八尾市ではスタチンなど10薬効群、茨城県つくば地域では14薬効群について策定している。学会も31薬効群の「モデルフォーミュラリ」を公開しており、各地域はこれを参考に独自の事情を加味して策定できる。2026年度診療報酬改定では、医科・調剤の施設基準に、地域の医療機関、薬局、関係団体と医薬品の品目情報を共有し、安定供給に向けた事前の取り決めを行うことが望ましいとの考え方が盛り込まれた。現時点では努力目標だが、国が地域フォーミュラリを政策的に後押しする姿勢が鮮明になった。厚労省は全都道府県に医師会や薬剤師会などが参画する検討会の設置を求める。普及の背景には医療費適正化に加え、後発薬の供給不安や災害対応がある。健保連は2019年、高血圧、脂質異常症、糖尿病で後発薬への切り替えが進めば、全国で年間3,100億円の薬剤費削減につながると試算している。また、地域で使用薬をある程度集約すれば、薬局の在庫負担軽減や供給途絶時の代替、災害時の備蓄・配送にも役立つ。今後は、地域の実情を反映しながら、医師の処方判断とどう両立させるかが普及の鍵となる。 参考 1) 地域フォーミュラリ、厚労省が「全国説明会」今秋、医療関係者ら向けも(MEDIFAX) 2) 高血圧・脂質異常症・胃潰瘍…地域ごとに異なる「使用が推奨される医薬品」、リスト作りを国が推進(読売新聞) 3) 報酬改定も策定を後押し、広がる地域フォーミュラリ(日経メディカル) 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー日本イーライリリーは、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注)の薬価が8月1日付で25%引き下げられたことを受け、「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」とする声明を発表した。今回の引き下げは、販売額が想定を上回った医薬品の価格を調整する「持続可能性特例価格調整」の適用によるもの。厚生労働省によると、同薬の保険診療での年間販売額は1,000~1,500億円規模に達している。薬価は2.5mg製剤で1本1,443円、15mg製剤で8,658円となった。リリーは、日本の価格は従来からG7で最も低い水準にあり、今回の引き下げにより同規模の経済圏でも最低水準になるとしている。同社は低価格化により、適応外となる痩身目的での不適正使用、海外からの医療ツーリズム、利益目的の買い占めや海外転売が拡大し、本来治療を必要とする2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性があると警告。政府に海外転売を厳格に規制する措置を求めている。チルゼパチドは週1回投与のGIP/GLP-1受容体作動薬で、食欲を抑制する作用も有する。わが国では2023年に2型糖尿病治療薬として発売されたほか、2025年には肥満症治療薬として別製品が発売されている。その一方で、糖尿病治療用製剤を美容・ダイエット目的で自由診療に使用する例が広がっており、適応外使用に伴う健康被害や、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる可能性も指摘される。リリーは、今回の薬価引き下げについて、研究開発や国内投資の予見可能性を損ない、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスにつながる恐れもあると主張している。高額な革新的医薬品による医療費増大への対応と、適正使用、安定供給、創薬イノベーションをどう両立させるか、薬価政策のあり方が改めて問われている。 参考 1) マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明を発表~国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠~(日本イーライリリー) 2) 糖尿病薬マンジャロ「インドより安い」 不適正使用の助長に懸念(日経新聞) 3) 英アストラゼネカCSO 革新医薬への支出「先進国で公平負担を」(同) 4) リリー、マンジャロ薬価引き下げは「不当に不利益な対応」(AnswersNews) 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国米国のトランプ大統領は8月10日、小児のワクチン接種方針を見直す大統領令に署名した。麻しん、おたふく風邪、風しんを予防するMMR混合ワクチンについて、それぞれを別の機会に接種することを推奨するとともに、すべての小児に一律で推奨するワクチンを従来の17種類から11種類に縮小する方針を示した。A型・B型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、インフルエンザ、新型コロナワクチンなどは、医師と保護者による個別判断に移行するとしている。トランプ氏はワクチン接種数の増加と自閉症との関連を示唆しているが、米国小児科学会は「数百万人を対象とした多くの研究で関連がないことが示されている」と反論し、今回の見直しを「危険で誤解を招く」と批判している。WHOも、ワクチンと自閉症との因果関係を示す証拠はなく、MMRを単独接種に分ける医学的利点を裏付ける根拠もないとしている。さらに、麻しん・風しん・おたふく風邪の単独ワクチンは現在米国内では入手ができず、分割接種には製造体制の整備が必要となる。接種回数や受診回数の増加により、接種完遂率が低下するとの懸念も強い。米国では今年、8月6日時点で麻疹患者が2,465人に達しており、専門家はワクチン忌避の拡大がさらなる流行につながる可能性を警告している。なお、接種義務の決定権は各州にあり、大統領令のみでただちに接種スケジュールや保険適用が変更されるわけではない。 参考 1) 米、混合ワクチンを個別接種に 推奨対象も削減(共同通信) 2) 「ワクチンと自閉症が関連」が持論のトランプ氏、混合ワクチンを別々に接種する方針打ち出す…感染リスク拡大の恐れ(読売新聞) 3) 米医師ら、トランプ氏の大統領令に懸念 家庭でのワクチン離れにつながるか(CNN) 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井沢井製薬は、後発医薬品22成分46品目について、在庫がなくなり次第、順次販売を中止すると医療関係者に通知した。大半は安定供給体制の構築と生産効率改善を目的とした製品構成の見直しによるもので、一部は協業する日医工グループ製品などへ統合する。対象にはアテノロール、アマルエット配合錠、アルファカルシドール、エバスチン、クアゼパム、テルミサルタンOD錠、ドネペジル、ニフェジピン、フルボキサミン、ブロナンセリン、メマンチンなど、日常診療で処方される薬剤も多数含まれる。沢井製薬は各品目について代替品・代替候補品を提示している。たとえばアマルエット配合錠はアムロジピンとアトルバスタチンの単剤、セチリジンOD錠は通常錠、ドネペジル錠は同社OD錠への切り替えが候補とされている。在庫消尽時期は品目ごとに異なり、多くは2027年4月だが、プロブコールは2026年10月、ザルトプロフェンやプロピベリン20mgは同年11月、ニフェジピンカプセルは2028年3月とされる。その一方で、アテノロールやアルファカルシドール、クアゼパムなどはすでに供給停止中となっている。経過措置期間の満了は2028年3月の予定。背景には後発薬業界の構造的な供給問題がある。日本製薬団体連合会の調査では、医療上の必要性が高い2,882品目のうち255品目、約9%で将来の供給継続が困難と回答された。主因は薬価低下や製造設備の老朽化であり、なかには全身麻酔薬や注射用抗菌薬など重要薬も含まれている。臨床現場では今後、単なる銘柄変更だけでなく、剤形や規格、配合剤から単剤への変更が必要となるケースもあり、処方時には院内採用品や地域薬局の在庫状況を含めた確認が求められる。 参考 1) 販売中止品目のお知らせ(沢井製薬) 2) 沢井製薬、後発薬46品目を販売中止へ 供給安定へ製品構成見直し(日経新聞) 3) 沢井製薬が46品目、高田製薬が31品目を販売中止に(日経メディカル) 4) 重要度高い薬「供給継続できず」1割 低薬価や老朽化で、日薬連調査(日経新聞) 5) 医療用医薬品供給状況報告(厚労省)

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「よく転ぶようになった」と言う80歳女性、現処方6剤のうち見直すべきは?【高齢者処方のデザイン】第5回

【症例】患者80歳・女性80歳女性。10年前にうつ病と診断され、前医からアミトリプチリン50mg/日を継続投与されている。既往に高血圧、軽度認知機能低下、脂質異常症、変形性膝関節症、10年前からの便秘症があり、降圧にヒドロクロロチアジド(HCTZ)12.5mgとアムロジピン5mg、便秘に酸化マグネシウム 約1.0g/日、脂質異常症にアトルバスタチン10 mg、変形性膝関節症の疼痛時にアセトアミノフェン500mg 頓用が処方されている。家族に付き添われて来院し、「半年で2回転倒した」「口がいつも乾く」「便が出にくい」「立ちくらみがする」と訴える。本人は「最近忘れっぽい」と自覚するが、抑うつ症状は安定している。診察上、臥位血圧138/82に対し起立3分で108/64と起立性低血圧を認め、脈拍上昇は乏しい。eGFR 55、Na 138、K 3.9、ALT 21、補正Ca 9.2。MMSE 24/30。【Before:前医の処方箋】A)アミトリプチリン 25mg 1日2回 朝食後・就寝前B)ヒドロクロロチアジド 12.5mg 1日1回 朝食後C)アムロジピン 5mg 1日1回 朝食後D)酸化マグネシウム 330mg 1日3回 毎食後E)アトルバスタチン 10mg 1日1回 夕食後F)アセトアミノフェン 500mg 疼痛時頓用A)アミトリプチリン 25mg 1日2回 朝食後・就寝前B)ヒドロクロロチアジド 12.5mg 1日1回 朝食後C)アムロジピン 5mg 1日1回 朝食後D)酸化マグネシウム 330mg 1日3回 毎食後E)アトルバスタチン 10mg 1日1回 夕食後F)アセトアミノフェン 500mg 疼痛時頓用この6剤の中で、まず見直すべき薬はどれか? 1) 2023 American Geriatrics Society Beers Criteria Update Expert Panel. J Am Geriatr Soc. 2023;71:2052-2081. 2) Boustani M, et al. Aging Health. 2008;4:311-320. 3) Coupland C, et al. BMJ. 2011;343:d4551. 4) Mori H, et al. J Clin Biochem Nutr. 2019;65(1):76-81. 5) Musini VM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014:CD003824. 講師紹介

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日本人Lp(a)の実態解明、2つのカットオフ値を提案(LEAP研究)

 日本人のLp(a)濃度分布やLp(a)の心血管疾患(CVD)との関連を明らかにするために国内で実施されている多施設共同後ろ向き観察研究(LEAP研究)。2025年の第57回日本動脈硬化学会総会・学術集会での発表時には、日本人におけるLp(a)濃度分布と冠動脈疾患(CAD)をはじめとする併存疾患の関連性について、具体的に示されていなかった。今回、本研究の筆頭著者である山田 知明氏(東京科学大学病院 医療情報部)らはそれらを明らかにし、Journal of Atherosclerosis and Thrombosis誌2026年8月1日号で報告した。 Lp(a)は動脈硬化の独立したリスク因子として世界的に注目されている一方、日本国内では測定機会が限られており、日本人集団における正確な濃度分布やリスクの閾値(カットオフ値)に関する実臨床データは十分に明らかになっていない。そこで本研究グループは、国内6施設(東京科学大学、国立循環器病研究センター、大阪医科薬科大学、金沢大学、東京慈恵会医科大学、杏林大学)においてLp(a)が測定された6,173例を対象に解析を行った。本研究の測定患者は除外基準を設けず全例登録され、また、2種類の免疫学的測定キット(日東紡、積水メディカル)が用いられていたLp(a)測定値を既報の変換式に基づき「nmol/L」単位に標準化したうえで解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・6,173例のうち男性は58.3%で、年齢中央値は63歳であった。・有病率は家族性高コレステロール血症(FH)18.5%、CAD25.7%、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)28.3%、糖尿病(DM)30.1%であり、全体としてCVDリスクが高い集団であった。・測定値を標準化した後のLp(a)中央値は20.88nmol/L(75パーセンタイル:61.7nmol/L、90パーセンタイル:137.1nmol/L)であり、右に裾が長い分布を示した。・Lp(a)中央値は、DMを除くいずれの併存疾患において、併存群は非併存群と比較して有意に高値であった。ただし、DMにおいては、併存群は非併存群と比較して有意に低値であった。 ● CAD:31.5nmol/L vs.19.4nmol/L(p<0.05) ● ASCVD:33.8nmol/L vs.18.7nmol/L(p<0.05) ● 慢性腎臓病(CKD):31.4nmol/L vs.19.2nmol/L(p<0.05) ● DM:16.5nmol/L vs.23.5nmol/L(p<0.05) ● FH:53.0nmol/L vs.18.0nmol/L(p<0.05)・FHの遺伝型別(非FH<ヘテロ接合体<ホモ接合体)でLp(a)値が高くなる段階的な傾向が観察された。・ROC解析において、CADおよびASCVD発症に対するLp(a)のAUCはそれぞれ0.60、0.59であった。・感度・特異度の均衡から第1のカットオフ値25nmol/L(注意・リスク評価を考慮する水準)を、特異度0.90を超える閾値として第2のカットオフ値125nmol/L(高リスク水準)を日本人基準として提案した。・年齢、性別、LDL-C、DM、CKDを調整した多変量解析においても、Lp(a)25~125nmol/L群、および125nmol/L超群は、25nmol/L未満群と比較してCADおよびASCVDに対する独立した有意なリスク因子であることが確認された。 山田氏は、日本動脈硬化学会が5月に開催したプレスセミナーにおいて、「大規模データをnmol/L単位へ標準化し、日本人のLp(a)分布および各種動脈硬化性疾患との関連を可視化した初めての取り組み」であることを強調し、「これまで不明であった日本人でのLp(a)の実態、FHとの明確な関連を示すことができた点は非常に意義深い」とコメント。また、「解析により提案されたカットオフ値25nmol/Lは、(一次予防・一般人口における絶対的なリスク境界というよりも)二次予防や併存疾患を有する集団における『スクリーニングや個別リスク評価を考慮すべき注意信号』としての役割を持つ。一方、125nmol/Lを超える高リスク群に対しては、積極的な介入やFHに準じたカスケードスクリーニング(血縁者診断)を行う重要な基準となる」とも説明した。 最後に、「現状、国内のLp(a)の測定機会は限られているが、脂質異常症や動脈硬化性疾患リスクを持つ患者に対し少なくとも“生涯に1回”の測定が行われるよう、日常診療や健診での啓発と普及を進めていきたい。また、健康成人を含む一次予防に対する研究も実施段階であり、今後詳細を明らかにしていきたい」と結んだ。

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LDL-C上昇の成人が世界で46億人に増加、高齢化で疾病負担増/JAMA

 心血管疾患は、早期死亡の主要な原因であり、LDL-C値の上昇は介入可能なリスク因子とされる。LDL-Cに関連する疾病負担を評価することは、心血管疾患の予防および治療戦略を策定するうえできわめて重要と考えられる。米国・ワシントン大学のChristian Razo氏らGBD 2023 LDL Cholesterol Collaboratorsは、世界疾病負担(GBD)研究の一環として、1990~2023年におけるLDL-C値上昇(35~54mg/dLとの比較)に起因する虚血性心疾患および虚血性脳卒中の疾病負担を、世界、地域、国ごとに推定し、人口増加、高齢化、曝露量の変化などが疾病負担の傾向に及ぼす影響を定量化した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年7月29日号で報告された。204の国と地域で、LDL-C関連の死亡数、DALYを評価 研究グループは、204の国と地域における人口レベルのLDL-C曝露量、およびそれに関連する健康損失を推定した(ゲイツ財団の助成を受けた)。平均LDL-C値は、161ヵ国の806件の研究に基づいて推算した。また、相対リスクは、38件の無作為化臨床試験を対象としたメタ解析から導出した。 1990~2023年に、年齢25歳以上の成人について、死亡および障害調整生存年(DALY)の集団寄与危険割合(PAF)を年齢層別および性別に推定し、95%不確実性区間(UI)を算出した。 主要評価項目は、虚血性心疾患および虚血性脳卒中によるLDL-Cに起因する死亡数およびDALYのPAF、件数、発生率(全年齢および10万人当たりの年齢調整値)とした。LDL-C上昇の成人が、25億人から46億人に増加 1990~2023年に、LDL-C値が54mg/dL以上の25歳以上の成人数は、約25億人(95%UI:24億~26億)から約46億人(95%UI:43億~47億)へと増加した。 1990年以降、LDL-C値上昇による死亡数とDALYは約39%増加した。2023年に、LDL-C値の上昇は、360万人(95%UI:220万~540万)の死亡(世界の総死亡数の6.0%)と、9,070万DALY(95%UI:5,890万~1億2,330万)(総DALYの3.2%)の原因となった。 2023年に、LDL-Cが寄与したDALYの33%が、LDL-C値54~116mg/dLの人々であり、残りの67%は同値が116mg/dL以上であった。LDL-C関連の心血管疾患死亡率は大幅に減少 全世界の全年齢層では安定していたものの、1990年以降、LDL-C値上昇に起因する心血管疾患による年齢調整死亡率が45.6%、DALY率は39.5%減少しており、年間減少率は0.45%だった。 また、男女とも、DALY率は年齢の上昇に伴って着実に増加した。2023年に、LDL-C関連DALYは女性(3,570万、95%UI:2,240万~5,180万)に比べ男性(5,500万、95%UI:3,730万~7,530万)で高かった。1990~2023年に、LDL-Cによる年齢層別のDALY率は、全年齢層および男女とも世界的に減少した。人口増加と高齢化が、LDL-Cの負担増加を牽引 2023年に、LDL-Cの寄与による年齢調整DALY率は東ヨーロッパ(2,252.6/10万人、95%UI:1,507.4~3,038.2)で最も高く、高所得のアジア太平洋地域(322.0/10万人、95%UI:208.7~446.6)で最も低かった。世界のLDL-Cによる健康負担の3分の1(34%)は、インドと中国で発生していた。 人口増加と高齢化が、LDL-Cによる負担の増加を牽引していた。また、LDL-Cへの曝露およびリスク補正後DALY率には顕著な地域格差がみられ、その傾向は社会人口統計学的特性指数(SDI)が中位の国へと転換していた。公平なスクリーニングと対象を絞った介入の拡大が急務 これらの結果を踏まえて著者は、「LDL-C値の上昇を予防・管理することは、世界的に心血管疾患による死亡を回避し、健康寿命を延ばすことにつながる」「LDL-Cの管理法は進歩しているものの、1990年以降、人口増加と高齢化により、その絶対的な負担は増加し続けており、その傾向はSDI中位国への転換が進んでいる」とまとめている。 また、「国連の持続可能な開発目標(SDGs)の期限が迫る中、これらの知見は、医療へのアクセスを改善し、生涯にわたって心血管の健康を促進するために、偏りのない公平なスクリーニングと対象を絞った介入の拡大が、緊急に必要であることを強調するもの」と指摘している。

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脂質異常症治療の30年を振り返って【温故知新30年】

講師紹介1. 30年前の脂質異常症治療1976年頃、スタチンを開発した遠藤章氏が、HMG-CoA阻害効果を持つ結晶粉末(後のコンパクチン)を内藤氏のところに持参し、私たちが扱っていたラットの肝細胞で効果を検討してくれという依頼があった。しかし、コンパクチンはラットの肝細胞では全く効果がないことが判明した。その後、機会を得て、1980年に米国・シカゴ大学への留学が決まった。米国では、動脈硬化研究は極めてホットな研究分野(欧米での死亡率のトップは虚血性心疾患であった)であり、しのぎを削っての競争世界であった。一方、1976年にBrown & GoldsteinのLDL-受容体(LDL-R)発見の論文が掲載された。また、同じ年に遠藤氏のコンパクチンが発表されていた。シカゴ大学の研究室ではLDL-Rの話題は極めて活発化しており、1981年の研究室内のプログレス・ミーティングで日本でのコンパクチンが話題になり、それを手に入れることはできないかとボスから尋ねられた。しかし、筆者には手に入れることはかなわず、筆者も指示されたサルでの実験はできなかった。筆者は1982年に帰国し、大学で脂質異常症の治療を始めた。その当時はもっぱらフィブラート系薬剤とニコチン酸系薬剤がわずかながら効果があるということで、食事療法や運動療法とともに、これらの薬剤を用いた治療を行っていた。また、1985年にプロブコールが発売され、そのコレステロール低下効果は驚くべきものがあったが、これらが本来の目的である動脈硬化予防に効果があるのかは疑問符がついたままであった。約40年以上前のことである。2. この30年でどのように診療が進歩したのか(30年前~10年前)30年前、すなわち1996年頃は1994年に4Sという二次予防試験、1995年にはWOSCOPSという一次予防試験が発表され、もっぱらスタチンの動脈硬化性疾患の予防効果検証の時代であった。我が国では、米国に遅れて1989年にプラバスタチンが発売されたが、発売に至るには険しい道のりがあった。プラバスタチンの効果検証の第II相試験(ダブルブラインド)において立て続けに試験対象者に脳出血の報告があったのである。やむなくこの2例に限ってオープンするという苦渋の決断になり、オープンしたところその2例とも対照薬であることが判明し、試験は継続・完了し、プラバスタチンの有効性並びに安全性も証明され、発売に至ったのである。その当時、わが国でもWOSCOPSと同様のプラバスタチンの試験を行いたいと検討をしていたが、法律家の委員の先生から我が国では慎重にすべきという助言をいただき臨床試験はできなかった。このスタチンを用いた4SやWOSCOPSが発表されると、その後続々とさまざまな対象者に対する大規模臨床試験が発表され、特に”Lower the Better”というような試験が発表されると、二次予防を熱心にしている循環器専門医が中心となって、スタチンを使用するようになった。しかし、スタチンだけではLDL-Cの低下効果は十分ではないことが指摘されていた。その後、コレステロール吸収を抑制するエゼチミブが2007年に発売され、スタチンとエゼチミブを併用することにより、より低下効果が高まり、これも大規模臨床試験で有効性が明らかになった。最近ではその配合剤も発売されこれらの薬剤が汎用されるようになった。3. この30年でどのように診療が進歩したのか(10年前~現在)2016年に、PCSK9モノクローナル抗体という新たな発想による治療薬が発売されるに及んで、最近ではLDL-Cは際限なく(つまり血中では0mg/dL近くまで)下げられること、並びにそれで安全であることも示され、新たな世界に入った感がある。この注射薬は2週間に1回の注射で十分であることが示され、患者の自己注射も可能となった。さらに、インクリシランというPCSK9の合成を抑制するsiRNAも2023年に薬剤として発売され、6ヵ月に1回の注射で十分な効果を発揮することが示され、まさに画期的であった。このほかにも、これまで2週間に1回程度のLDL-アフェレーシスしか選択肢のなかったホモ型家族性高コレステロール血症(Ho-FH)に対する治療薬としてMTP阻害薬であるロミタピドが2016年に発売されたが、Ho-FHの症例数が少ないのと(約30万人に1人の発症率といわれ、発見率も低い)、下痢などの副作用があり、脂肪食の摂取制限などの課題もあり、十分な使用実績がない。しかし、LDL-Cの低下効果は十分認められ、症例の発掘と副作用の軽減化が課題となっている。4. 私にとってのパラダイムシフトこのような治療薬のエビデンスの集積があり、日本動脈硬化学会でも脂質異常症治療のガイドライン(GL)作りが開始され、私は1997年に初めて動脈硬化性疾患診療GLに携わることとなった。そして2002年にはGL作成委員長を拝命し、以後2012年の改定まで3回の改訂作業に携わった。これまで触れてきたように、その間に多くの薬剤開発がなされ、その都度治療エビデンスも蓄積しており、それに対応すべく改定作業が行われてきた。その過程で、GLには薬剤が関与している関係から私のCOIの問題を感ずるようになった。その頃、日本医学会や日本医療機能評価機構におけるMindsというGLの指針が出てきたことにより、私の立場(その当時多くの製薬会社の協賛で寄付講座を持っていた)から、第一線を退くこととした。また、その当時は日本医学会の副会長に任命されており、さらには日本専門医機構の理事長を拝命することにより、いずれの学会の立場から離れるべきという立場となった。とはいえ、自身のクリニックでは高コレステロール血症の治療を行う立場でもあり、批判的に薬剤を使用する立場となった。そのことにより、実臨床で疑問に思うことも多々あり、GLの在り方、専門医の在り方なども深く考えるようになった。そのなかで、脂質異常症の治療薬はほぼ完成したという考えに至ったところに、新たな発想の薬剤が開発され、まだまだ今後の発展がありうると実感している。5. 次の5年で脂質異常症診療はこう変わる今後の5年では、現在の脂質異常症治療薬の使い方の徹底がなされるべきであるとともに、アンメットニーズを抉り出し、それに応じた診療を開発すべきであり、できると思う。1つは高コレステロール血症患者で治療すべき患者の選択であり、選択した患者のうちどの薬剤で、どの程度治療すべきなのか、つまりプレシジョンメディスンを実臨床で行えるようになると思う。そして、今後、さらに長期的にLDL-Cを低下させる治療法が開発され、遺伝子情報から比較的早くから一生のうち1ないし2回くらい治療すれば済むというワクチン的なLDL-C低下療法が筆者の夢である。さらには、食事の吸収に関する遺伝子が発見され、それに関連した治療薬が開発されることにより、肥満も含めて、食事療法が必要なくなる(?)という将来を筆者は夢見ている。

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第307回 特定健診は初の6割台 メタボ該当・予備群は880万人で横ばい/厚労省

<先週の動き> 1.特定健診は初の6割台 メタボ該当・予備群は880万人で横ばい/厚労省 2.熊本地震で病院船が初出動 DMAT・JMATなど災害医療チームも活動/熊本県 3.OTC類似薬「薬剤費25%」が患者負担に、長期処方での配慮対象は限定的/厚労省 4.医療・介護AIに重点投資 AX・DX推進本部を設置/厚労省 5.国立大学の経営危機、東大にも波及 研究力低下への懸念強まる/東大ほか 6.正常な脳組織を誤って摘出 50代女性が自発呼吸不能の重篤状態/京大 1.特定健診は初の6割台 メタボ該当・予備群は880万人で横ばい/厚労省厚生労働省は、2024年度の特定健康診査・特定保健指導の実施状況を公表した。特定健診の対象者は約5,142万人、受診者は約3,161万人で、実施率は61.5%となり、前年度から1.6ポイント上昇した。2008年度の制度開始時は38.9%で、今回初めて6割を超えた。国は2029年度までに70%以上の実施を目標としている。性別では男性65.9%、女性57.0%で、男性が8.9ポイント高かった。年齢別では45~49歳が66.8%で最も高く、60歳未満ではおおむね6割台を維持した一方で、65~69歳は52.8%、70~74歳は47.5%まで低下した。保険者別では健康保険組合83.8%、共済組合83.3%に対し、全国健康保険協会60.6%、市町村国保38.8%と大きな差がみられた。特定保健指導は、対象者約524万人のうち約148万人が終了し、実施率は28.3%。前年度から0.7ポイント上昇し過去最高を更新したものの、2029年度目標の45%以上とはなお大きな開きがある。保険者別では単一健康保険組合が46.1%で最も高く、小規模市町村国保が45.3%で続いた。メタボリックシンドロームの該当者・予備群は約880万人で、2008年度比では17.2%減少しており、減少幅は前年度から横ばい推移となった。また、特定健診受診者の31.1%は高血圧症、糖尿病、脂質異常症の治療薬を1種類以上服用していた。受診率は着実に改善しているが、年齢や保険者による格差の縮小に加え、健診後の保健指導や必要な治療へ確実につなげることが今後の課題となる。 参考 1) 2024年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況(厚労省) 2) 特定健診、実施率は61.5%に上昇 24年度、保健指導は28.3%(MEDIFAX) 3) 特定健診実施率、初の6割超え24年度 29年度までに7割以上目標 厚労省(CB news) 2.熊本地震で病院船が初出動 DMAT・JMATなど災害医療チームも活動/熊本県政府は8月5日、7月28日に発生した令和8年熊本地震で多数の医療機関が被災した熊本県八代市の八代港で、防衛省による民間船舶(PFI船)を活用した医療提供(船舶活用医療)を初めて実施した。熊本県知事が8月1日に国へ要請したもので、2021年成立の「災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する法律」に基づく初の船舶活用医療となる。内閣府、防衛省、熊本県に加え、日本赤十字社、DMAT、JMATなどが連携。船内では発熱などの内科診療、熱中症や軽傷への対応、薬の処方などを行い、併せて被災者への入浴支援も実施した。8月5日午後2時から医療提供を開始し、初日の医療利用者は13人、活動した医療従事者は23人だった。その一方で、「はくおうII」への乗船者は187人、うち182人が入浴支援を利用した。台風13号の接近に伴い、同船は6日午前6時に八代港を出港し、医療提供も一時中断している。被災地ではDMAT、DPAT、日赤救護班、災害支援ナース、JMATなども活動を継続している。透析は一時13施設で実施が困難となったが、8月6日時点で実施困難な2施設についても他院での透析が手配済みとなった。船舶は陸上の医療機関やライフラインが被災した際にも、医療、衛生、生活支援を一体的に提供できる新たな災害医療拠点として期待される一方で、今回の台風による中断は、気象条件に左右される運用上の課題も示した。 参考 1) 令和8年熊本地震に係る被害状況等について(内閣府) 2) 令和8年熊本地震における船舶活用医療の実施について(同) 3) 熊本の被災地にあすから「病院船」、防衛省の船舶活用し初の取り組み…内科診療や熱中症治療・薬の処方も(読売新聞) 4) 防衛省チャーター舶「はくおうII」が入浴や医療提供 断水や猛暑に苦しむ熊本の被災者支援(産経新聞) 5) 避難者支援で医療チームが相次ぎ活動 熊本地震 DMAT・DPAT・災害支援ナースなど(CB news) 3.OTC類似薬「薬剤費25%」が患者負担に、長期処方での配慮対象は限定的/厚労省厚生労働省は8月5日、「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会」で中間とりまとめを了承した。2027年3月から、市販薬と成分・投与経路が同一で1日最大用量も異ならないOTC類似薬について、薬剤費の25%相当を保険給付の対象外とし、通常の1~3割の自己負担とは別に「特別料金」として患者が負担する。8月時点の対象は77成分1,042品目で、解熱鎮痛薬、抗アレルギー薬、湿布、保湿剤など日常診療で使用頻度の高い薬剤が含まれる。ただし、一定の患者や使用場面には配慮措置を設ける。がんや指定難病の患者、公費負担医療の対象者は、原疾患や治療に関連する症状への処方であれば追加負担の対象外とする一方で、花粉症など原疾患と無関係な症状への処方は対象となる。18歳未満の子供や入院中・退院時の処方も対象外。外来・在宅でも、生検、処置、手術など侵襲的医療行為に伴い新たに処方する薬は原則14日分まで対象外とする。長期使用の扱いも焦点となる。内服薬は年間おおむね50週の処方が目安で、診療情報提供書、お薬手帳、オンライン資格確認の薬剤情報などで処方歴を確認する。初診で過去の処方歴が確認できない場合は、少なくとも6ヵ月間の症状の持続・反復と薬剤使用を確認した上で、医師が通年使用を必要と判断する。外用薬はさらに条件が厳しく、湿布などの鎮痛消炎外用薬は長期使用でも原則追加負担となる。ただし2028年度末までは、画像検査で重度の変形性膝関節症などが確認され、医師が毎日の継続使用を必要と判断する場合に限り対象外とする。アトピー性皮膚炎に対するヘパリン類似物質や尿素の通年使用は対象外となる。また、医療用薬とOTC薬で効能・効果が一致しない場合は追加負担を求めない。たとえばフェキソフェナジンは、OTCにない蕁麻疹や皮膚疾患に伴うそう痒への使用では対象外となる一方で、アレルギー性鼻炎では原則対象となる。7月にOTC薬が発売された睡眠薬ラメルテオンも対象成分に追加された。今回の制度変更は現場にも大きく影響する。医療機関には対象外と判断した根拠を診療報酬請求書などに記載することが求められる方向で、処方箋様式の変更や電子カルテ、レセコン改修も見込まれる。検討会でも、医師や薬剤師の確認業務が過度に複雑にならない簡素な運用を求める声が相次いだ。厚労省は8月6日から中間とりまとめへのパブリック・コメントを実施しており、8月20日が締め切りとなっている。全国保険医団体連合会(保団連)は、慢性疾患でも配慮対象にならないケースが多いうえ、対象外か否かを判断する医療現場の負担が大きいとして、医療関係者らに厚労省のパブコメへ意見を提出するよう呼びかけている。意見はe-Govのパブリック・コメントから提出できる。厚労省は今後、さらに医療保険部会や中医協で議論し、今秋に省令・告示、関連通知などを取りまとめる予定。 参考 1) 第4回OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会(厚労省) 2) 「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた中間とりまとめ」について(同) 3) 入院患者は追加負担対象外 OTC類似薬で厚労省案 がんの主たる疾患や副作用の薬も(産経新聞) 4) OTC類似薬の技術的検討会が中間取りまとめ 湿布薬は慢性・重度の変形性膝関節症は除外 対象1042品目(ミクスオンライン) 5) OTC類似薬保険除外 厚労省が配慮措置(中間とりまとめ)のパブコメ募集開始 8月20日まで(保団連) 6) 湿布は長期使用でもOTC類似薬の追加負担に 厚労省検討会で了承(朝日新聞) 7) OTC類似薬の患者特別負担の詳細固まる、アトピーへの「ヘパリン類似物質・尿素」通年処方は特別負担対象外-厚労省技術的検討会(Gem Med) 8) OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた中間とりまとめ」に関する意見公募の実施について(パブリック・コメント) 4.医療・介護AIに重点投資 AX・DX推進本部を設置/厚労省厚生労働省は8月5日、医療・介護・福祉分野でAIやデジタル技術の活用を推進する「厚生労働省ヘルスケアAX・DX推進本部」の初会合を開いた。本部長を務める上野 賢一郎厚労相は、従来の医療DXに加え、AIトランスフォーメーション(AX)も省を挙げて戦略的、総合的に推進する方針を示し、各部局に2027年度予算の概算要求へ必要な事業や経費を盛り込むよう指示した。推進本部は、これまで各部局で進めてきたAI・DX関連施策を一元的に把握し、全省的に加速させる司令塔として4日に発足した。本部長に厚労相、副本部長に事務次官、厚生労働審議官、医務技監などを置き、関係部局長が参加するほか、「AI for ヘルスケア成長戦略室」を新設し、迫井 正深医務技監を室長として、具体的施策の検討や関係省庁との調整を行う。背景には、政府が日本成長戦略で「AI・半導体」を17の戦略分野の1つに位置付けたことがある。医療・介護ではAIロボットなどの「フィジカルAI」、医療・介護・福祉では領域特化型の「バーティカルAI」の開発・導入を進める。政府はフィジカルAIで2040年に世界シェア3割超、市場規模20兆円、バーティカルAIでは2030年までに世界で5兆円超の市場獲得を目標に掲げる。看護記録などの文書作成や福祉相談業務を支援するAIの普及、研究開発・実証、AI活用に必要なデータ基盤の整備などが想定される。創薬・先端医療でも、AIやデータ活用による研究開発プロセスの高度化・効率化を推進する。政府は成長戦略で新設した、予算要求上限を設けない「『強く豊かな日本』投資枠」も活用し、官民投資を促す方針。厚労省は今後、8月末の概算要求に向けて施策を具体化する。 医療DXが電子化や情報連携を中心としてきたのに対し、今後は診療・看護・介護など実務そのものをAIで変革するAXへ政策領域が広がることになる。 参考 1) 第1回厚生労働省ヘルスケアAX・DX推進本部 資料(厚労省) 2) 医療や介護のAI活用を支援 厚労省が推進本部設置(日経新聞) 3) 厚労省 ヘルスケアAX・DX推進本部が初会合 上野厚労相「日本成長戦略実現に向け概算要求へ」(ミクスオンライン) 4) 政府が医療・介護分野でAI活用推進へ「ヘルスケアAX・DX推進本部」初会合(CB news) 5.国立大学の経営危機、東大にも波及 研究力低下への懸念強まる/東大ほか東京大学が2026年度に2年連続の最終赤字となる見通しであることがわかった。国立大学法人化した2004年度以降、2年連続の赤字は初めて。25年度は数十億円、26年度は約40億円の赤字を見込み、大学の「貯金」に当たる繰越金も数年で枯渇する可能性がある。財務状況が改善しなければ、研究者数の削減など研究・教育体制の縮小も避けられないという。東大の年間収入は約3,000億円で国立大学最大規模。24年度は運営費交付金や補助金が約969億円、附属病院収入が約585億円、企業との共同研究や大型研究事業などの外部資金が約1,160億円だった。その一方で、実験機器・材料などの物件費は約1,794億円、人件費は約1,105億円に上る。人事院勧告に伴う給与上昇で人件費は5年間で約100億円増加し、物価高による研究機器や資材価格の上昇も経営を圧迫している。背景には国立大学法人全体の構造問題がある。国からの運営費交付金は26年度で1兆971億円と、法人化した04年度から1,445億円減少。科研費は増えたものの、その増加は649億円にとどまり、基盤的経費の減少を補えていない。わが国の大学の研究開発費も2000年から23年までに1.2倍にとどまり、米国の2.1倍、中国の16.5倍と大きな差がある。大学病院の経営難も大学本体に影響する。国立大学病院44施設のうち25年度は31病院が赤字となる見通しで、経常赤字は計244億円。高度医療や希少疾患診療では高額医薬品・資材の使用が避けられず、診療収入だけではコスト増を吸収しにくい。東大は国際卓越研究大学への認定を目指しているが、文部科学省による審査が継続中となっており、認定見送りとなれば財政改善はさらに厳しくなる。国立大学の研究力と高度医療を維持するため、安定した基盤財源の確保が改めて問われている。 参考 1) 東大が2年連続赤字へ 「貯金」数年で枯渇、研究者の削減不可避(日経新聞) 2) 国立大学法人モデル、岐路に 東大も自立運営困難 収入増、規制が足かせ 研究開発費は20年横ばい(日経新聞) 6.正常な脳組織を誤って摘出 50代女性が自発呼吸不能の重篤状態/京大京都大学医学部附属病院は8月7日、50代女性の脳腫瘍摘出手術で、腫瘍ではない正常な脳組織を誤って摘出し、脳幹などを損傷する医療事故があったと発表した。患者は術後、自発呼吸ができず人工呼吸器による管理が続き、手足も動かない重篤な状態となっている。病院によると、患者はめまいやふらつきはあったものの、手術前は生活に大きな支障はなく通常の生活を送っていた。検査により小脳橋角部に約3cmの良性腫瘍「髄膜腫」が疑われ、7月末に全身麻酔下で開頭手術を受けた。執刀したのは40代の脳神経外科医で、医師として20年以上の経験があり、同様の手術を約100例担当していた。手術中には、摘出した組織の一部を調べる術中病理診断が行われ、「腫瘍ではない」との結果が2度示された。それでも執刀医は、腫瘍の端の組織を採取したため腫瘍成分が含まれていなかった可能性があるなどと判断し、摘出を継続したという。約10時間の手術後も患者の意識や呼吸が十分に回復しなかったためMRI検査を実施したところ、本来摘出する予定だった腫瘍は残存しており、右小脳扁桃や呼吸機能に関わる脳幹の側面から背側にかけて大きな損傷があることが判明した。脳幹には呼吸など生命維持に不可欠な機能を担う神経中枢が集まっており、患者は現在も人工呼吸器を必要としている。京大病院は医療事故として患者と家族に謝罪し、厚生労働省や京都府警など関係機関にも報告した。高折 晃史病院長は「患者と家族に心よりおわび申し上げる」と陳謝。病院側は、執刀医の判断ミスや思い込みが影響した可能性にも言及しており、今後、外部有識者を含む事故調査委員会を設置し、手術中の判断過程や安全確認体制を検証し、原因究明と再発防止を進める方針だ。 参考 1) 脳腫瘍摘出術中の誤認による摘出部位誤り事例について(京大医学部附属病院) 2) 京都大病院、正常部位摘出し脳幹損傷 患者は重篤な状態(日経新聞) 3) 京大病院で医療事故 脳腫瘍の手術で誤って正常な脳の一部摘出(NHK) 4) 京都大病院が脳腫瘍手術で誤って正常な組織摘出、50代女性患者は呼吸に関わる脳幹損傷・人工呼吸器装着つづく(読売新聞)

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orforglipronはSGLT2阻害薬を超えた存在になるか?:ACHIEVE-2試験から(解説:永井聡氏)

 orforglipronは、空腹時の服用や飲水制限といった条件が不要で、食後投与が可能な経口GLP-1受容体作動薬である。本剤の2型糖尿病に対する実薬対照RCTとしてはすでにACHIEVE-3試験が発表されており、低用量(12mg)でも経口セマグルチド14mgに対して有意なHbA1c低下を示し「勝利」を収めている1)。 今回取り上げるACHIEVE-2試験は、メトホルミンでコントロール不十分な2型糖尿病患者を対象に、orforglipron(3/12/36mgカプセル)とSGLT2阻害薬ダパグリフロジン10mgを比較した国際多施設共同試験である。結果は、orforglipronが全用量においてダパグリフロジンに対し血糖降下作用の非劣性および優越性を示し、再び「完全勝利」となった。PIONEER 2試験において経口セマグルチド14mgがエンパグリフロジン25mgを凌駕したことを踏まえれば2)、この結果は想定内とも言えるが、実臨床に与える影響は小さくない。 本邦の2型糖尿病の薬物治療アルゴリズム3)では、病態に応じた薬剤選択(肥満)の推奨薬として、メトホルミン、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の順に記載されている。SGLT2阻害薬が優先される理由は、豊富な心血管・腎臓への保護効果のエビデンスに加え、既存の経口GLP-1受容体作動薬が服用条件に制約があるのに対し、処方や内服が容易であるためである。しかし、他の降圧薬等と一包化も可能で服薬条件に縛られないorforglipronの登場は、血糖降下作用と利便性の両面でSGLT2阻害薬を上回る存在になりうる。現在実施中の心血管アウトカム試験(ACHIEVE-4)の結果次第では、将来的に推奨順位が逆転する可能性もある。 一方で、試験結果の解釈は慎重にすべき点もある。第一に、orforglipron群は盲検化されたがダパグリフロジン群は非盲検であったため、新薬への「期待バイアス」が生じた可能性は否めず、orforglipronの臨床効果は過大評価となった可能性である。第二に、消化器症状による脱落率の高さである。本試験では、ダパグリフロジン群の6%に対し、orforglipron群では15%以上と高率であった。継続できなければ期待される恩恵にあやかれない。第三に、DECLARE-TIMI 58やDAPA-CKDなどで確立された長期安全性や心腎保護、二次予防の観点では、依然としてダパグリフロジンに軍配が上がることである。新薬への「期待バイアス」は患者だけではなく処方する医師にも起こりうる。さらに盲点となるのが薬物相互作用である。CYP3A4に関連する薬剤(クラリスロマイシンやイトラコナゾール)などではorforglipronとの併用注意・併用回避が必要な場合があり、多剤併用中の高齢者への処方はとくに注意が必要である。 ともあれ、かつて脂質異常症の治療は食事療法が主体であったが、ストロングスタチンの登場により、厳格な食事指導が緩和された歴史がある。糖尿病においても食事療法が基本であることに変わりはないが、強力な食事制限なしに血糖値と体重の改善をもたらすorforglipronは、まさに糖尿病領域における「ストロングスタチン」となる可能性がある。日進月歩でGLP-1関連薬は次々と新薬開発が進むが、個々のライフスタイルに合わせた処方や早期介入が進むことで、糖尿病寛解が夢物語でなくなることを願うばかりである。

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AHA/ACC脂質異常症GL改訂、スタチンによる1次予防の対象が大幅に拡大/JAMA

 米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)による2026年版の脂質異常症ガイドラインでは、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の推定リスクおよび1次予防においてスタチンが適応となる集団について新たな推奨事項が提示された。米国・ピッツバーグ大学のTimothy S. Anderson氏らは、2018年版から2026年版への変更により、ASCVDの1次予防を目的とするスタチン療法の対象となる米国の人口が推定2,150万人拡大し、結果として30~79歳の非妊娠成人の半数以上が現在、1次予防におけるスタチンの適応となっており、新たな適応集団の多くは、ASCVDの推定10年リスクが3%未満(平均値3.1%)であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年7月20日号に掲載された。2026年版の変更が公衆衛生に及ぼす影響を検討 研究グループは、2026年版AHA/ACC脂質異常症ガイドラインに基づくスタチン療法による1次予防が、公衆衛生に及ぼす影響の評価を目的に、米国の国民健康栄養調査(NHANES)の全国的な代表的データを用いて検討を行った(米国国立老化研究所[NIA]の助成を受けた)。 対象は、2017~23年にNHANESに参加し、ASCVDを有さず、年齢30~79歳の非妊娠成人の横断的サンプルとした。データの解析は、2026年3~5月に行った。 主要評価項目として、1次予防におけるスタチン療法の適応基準の変更の影響を、2026年版と2018年版のガイドラインを比較することで評価した。8.6%がASCVDリスクとは独立にスタチンの適応、適応外は37.9% 加重サンプルには、米国の成人1億5,450万人(加重平均年齢51歳、女性52.0%、白人62.2%、ヒスパニック系16.4%、黒人10.5%、アジア系6.3%)を代表する4,366人のNHANES参加者が含まれた。 2026年版ガイドラインに基づくと、このうち860万人(5.5%、95%信頼区間[CI]:4.7~6.6)が、未治療でLDLコレステロール(LDL-C)値<70mg/dLであり、スタチンは推奨されない集団であった。2,760万人(17.8%、95%CI:16.3~19.5)は、すでにスタチンの投与を受けていた。 また、1,330万人(8.6%、95%CI:7.6~9.8)は、それぞれLDL-C値≧190mg/dL(360万人[2.3%、95%CI:1.6~3.3])、40~75歳で糖尿病(780万人[5.0%、95%CI:4.3~5.8])、40~75歳でステージ3以上の慢性腎臓病(200万人[1.3%、95%CI:0.9~1.8])であり、ASCVDリスクとは独立にスタチン投与の適格基準を満たし、いずれもストロングスタチンが推奨された。 残りの1億510万人(68.0%、95%CI:65.9~70.0)が、ガイドラインの推定ASCVDリスクに基づく判定基準によりスタチン適応の可否が決まる集団であった。 10年ASCVDリスクが高(≧10%)の集団は320万人(2.0%、95%CI:1.5~2.7)であり、中(5~<10%)が1,140万人(7.4%、95%CI:6.5~8.4)、境界型(3~<5%)が1,290万人(8.4%、95%CI:7.2~9.7)、低(<3%)は7,760万人(50.2%、95%CI:47.7~52.7)であった。 10年ASCVD低リスク集団のうち、LDL-C値<160mg/dLで、30年リスク<10%の集団(5,850万人、37.9%、95%CI:35.8~40.0)はスタチン適応外であるが、これ以外の参加者はストロングまたは中強度スタチンが推奨された。スタチンによる1次予防の対象が大幅に拡大 8,750万人(56.6%、95%CI:54.2~58.9)が2026年版ガイドラインに基づきスタチンの適応となり、このうち新たに適応となったのは2,150万人(13.9%、95%CI:12.5~15.5)であった。 また、70~79歳の93.5%および60~69歳の85.0%が、スタチンによる1次予防の対象となるのに対し、30~39歳では11.1%と少なかった。 従来からスタチン療法が推奨されていた集団に比べ、新たにスタチンの適応となった集団は、全般に若年層であり、リスクも低かった(推定10年ASCVDリスクの平均値:新規スタチン適応集団3.1%[95%CI:2.7~3.5]、従来スタチン適応集団6.1%[95%CI:5.8~6.4])。 著者は、「2026年版の脂質異常症ガイドラインは、主に低リスクの集団を対象に、スタチンによる1次予防が推奨される米国の成人集団を大幅に拡大している」とまとめている。また、「今回の解析では、現在、薬物療法を受けている患者の大多数が、2026年版ガイドラインでもスタチンの『強い』または『中等度』の適応を保持していることを確認した」としている。

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チルゼパチドvs.セマグルチド、日本における肥満症患者の体重減少効果は?(SURMOUNT-5サブ解析)

 日本における肥満症の薬物療法適応基準を満たす集団において、チルゼパチドはセマグルチドと比較して72週時点での体重変化率が有意に大きく、体重、BMI、腹囲のいずれにおいても減少幅が有意に大きいことが示された。千葉大学大学院医学研究院の北本 匠氏らによるこの研究成果は、Current Medical Research and Opinion誌2026年7月11日号に掲載された。 本研究は、国際共同試験であるSURMOUNT-5のサブ解析として実施された。日本における肥満症の薬物療法適応基準を満たす参加者(BMI 27~34.9、高血圧、脂質異常症のいずれかを有し、さらに肥満関連健康障害[ORHD]を2つ以上有する、またはBMI≧35かつORHDを 1つ以上有する)を対象とした。評価期間はベースラインから72週とし、体重変化率、減量目標達成率、腹囲・BMI・心代謝リスク因子の変化、有害事象を評価した。 主な結果は以下のとおり。・組み入れられた750例のうち383例が基準を満たし、チルゼパチド群(15 mgまたは最大耐用量)190例、セマグルチド群(2.4 mgまたは最大耐用量)193例に割り付けられた。・72週時点での体重変化率の最小二乗平均値(LSM)は、チルゼパチド群で-20.1%(標準誤差:0.76%)、セマグルチド群で-12.9%(同0.74%)であり、LSM差は-7.2%(95%信頼区間:-9.3%〜-5.1%、p<0.001)とチルゼパチド群で有意に大きかった。・減量目標達成率でも、≧10%、≧15%、≧20%、≧25%、≧30%のいずれの閾値においても、チルゼパチド群においてより多くの参加者が達成した。腹囲の減少はベースラインから4週目以降、BMIの減少は12週目以降にチルゼパチド群で有意に大きな差が認められ、いずれも72週を通じて維持された。・安全性プロファイルはSURMOUNT-5試験の全体集団と概ね一致しており、消化器系の事象が最も多く認められた。 本サブ解析は、日本における肥満症の薬物療法適応基準となる集団において、チルゼパチドがセマグルチドと比較して体重、BMI、腹囲のいずれにおいても有意に大きな減少をもたらすことを示した。 著者らは「日本では肥満症の定義がBMI≧25と国際基準よりも低く設定されており、本解析はその基準に即した実臨床に近い集団での比較データを提供するものである。消化器系有害事象を中心とした安全性プロファイルは全体集団と一致しており、忍容性に大きな差異は認められなかった。今後は日本人集団を対象とした長期的な心血管アウトカムや体重減少の維持に関するさらなる検討が求められる」としている。

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