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“心が痛い”と“身体が痛い”

心療内科が痛みを診る:その理由心療内科が「疼痛」を診ることについては、馴染みのない方もいるかもしれないが、われわれにとっては自然なことである。当科で疼痛患者さんを多く診るようになったのは、当科の歴史的背景に起因する。初代教授である池見酉次郎先生は、早くから心と身体の結びつきに着目し、1961年に九州大学で精神身体医学研究施設を設立、1963年に「心療内科」という診療科名が冠された。「心療内科」が正式な標榜科として認可されたのは1996年であるから、それより30年以上前の話である。当初は過敏性腸症候群や気管支喘息、蕁麻疹など、内科的な分野を中心に研究が始まった。その後、当科の先輩である中井吉英先生(関西医科大学名誉教授/日本心療内科学会理事長)が慢性膵炎の研究の中で、腹痛についても積極的に取り組まれることとなる。また、ペインクリニックとの連携によって全身の痛みを扱うようになり、症例を重ねるうちに、さまざまな痛みに対して心身医学的アプローチが応用できることがわかってきた。こうした経緯から、当科は摂食障害、病的疲労、睡眠障害、生活習慣病などとともに、内科系でありながら慢性疼痛をもつ症例一般を治療対象とするようになってきている。心療内科のアプローチは身体医学とは異なる部分も含んでいる。身体医学では、ある時点での情報を重要視するが、心療内科では、その人の考え方、動き方、生き方(生活様式)の流れやそのルーツを重要視する。今はこういう状態だが以前はどうだったのか、何故そうなったのか、周囲の人たちとのつながりはどうなのか、など生活背景や流れに注目し、その患者さんの水面下にある苦悩を患者さんと一緒に対話するなかで見つけていき苦悩・苦痛の緩和をともに創造していくのである。画像を拡大する難治の慢性疼痛患者さんの傾向当科には全国から重症の疼痛を持つ患者さんが集まってくる。当科を受診する難治性の慢性疼痛患者さんを分析したところ、興味深いことに、厳しい被養育経験がトラウマになっているケースが多いことがわかってきた。厳しい体罰などの身体的虐待、言葉による心理的虐待、性的トラウマもあれば、親の過干渉や愛着障害もある。また、こういった患者さんには、大変な環境に過剰適応していくうちに「失感情症」という自らの気持ちを言葉で表現しにくい心理特性を持っている方が多い。さらに、病院を転々とし、医療に対し不信感を抱いている患者さんも多いのも特徴であろう。■失感情症と慢性疼痛の関係性われわれは日々の臨床経験を通して、失感情症が痛みに大きく影響していることを実感している。なぜ、そのようなことが起こるのだろうか?痛みの伝達には感覚系経路と情動系経路があることが知られている。感覚系は痛みの強さや位置を伝達し、情動系は不快感を伝え警報を鳴らす役割である。どんな痛みもこの感覚系と情動系の信号がミックスされている。情動系は脳の前部帯状回、島皮質、扁桃体、前頭前野を活性化する。この部位はまた、社会的ストレスによっても活性化されること(社会的痛みの体験)が明らかになっている。社会的ストレスに晒され不快情動系が活性化されていると、患者さんの頭の中で常に警報が鳴っている状態になると考えられ、社会的疎外感を感じている「いじめられ体験」にも通じる現象と考えられる。一方、失感情症の方は最近の脳画像研究で前部帯状回、島皮質などの上記の部位に異常があることがわかってきている。そのため、社会的ストレスが蓄積されると、不快情動の成分をしっかり体験しながらも感覚成分のみに注目がいき、身体的疼痛の訴えが強調され、「とにかく痛い、なんとかして」という切迫した訴え(破局化)につながると考えられる。自分の感情を自然に表現できない環境に育った失感情症の方は、「(心理的に)大丈夫です」といいながら、身体の痛みでSOSを出しているともいえる。実際、痛みという表面的な訴えの背景には不安・抑うつなどの否定的感情、虐待歴、社会的疎外感による心の痛みなど、患者さんの深い苦悩が存在することが多い。もうひとつ、医療不信についてお話しする。医療不信の方と信頼関係を構築して心境をうかがっていくと、両親との関係性に問題のある人間不信の方が多いことがわかる。医療不信は、身体的疼痛やそれに伴う心の苦しみを医師がきちんと診てくれないという思いから、ドクターショッピングを繰り返し成り立っていく。これは、子どもの頃、両親に一人の人間として自身の存在を大切にしてもらえなかった、という彼らの被養育体験からくる長年の人間不信の思いと共通する症例もある。久山町疫学研究における慢性疼痛と失感情症の調査からみえてきたこと失感情症と慢性疼痛の関連性については国際的なエビデンスはあるが、日本人に適用できるかどうかはまだ検証されていなかった。そこで本邦の心身症患者さんを対象とした検討を続ける一方で、一般住民を対象に慢性疼痛に関する心身医学的な疫学研究を行った。福岡県久山町の定期検診の際、40歳以上の一般住民において失感情症の質問紙TAS20のスコアと疼痛の有無の関係を調べたものである。被験者927名のなかで慢性疼痛(6ヵ月以上続く痛み)を有する割合は、失感情症なし群46%に対し、失感情症あり群では67%と、失感情症あり群で有意に多かった。さらに失感情症の程度を4分位し、慢性疼痛罹患リスクを解析した。罹患リスクは失感情症スコアが中央値を超えて重症化するにつれ上昇し、もっとも高い群(TAS20スコア 55以上)では、2.0倍(全体から急性疼痛あり群を除くと2.8倍)にも増加していた。さらに、慢性疼痛はQOL低下を招き、そこに失感情症を合併するとさらにQOLが低下することがわかった。また、慢性疼痛を有していても、失感情症がない場合は失感情症がある場合よりも生活満足度が高いという結果が出ている。画像を拡大する画像を拡大するTAS-20:トロント アレキシサイミア(失感情症)スケール日本人には、「つらくても表に出さずに耐え忍ぶ」「弱音は吐かない」といった国民性がある。これは日本文化では美徳とされるが、心身医学的な観点から言えば、失感情症につながるものであり、心身の健康という点からは決して喜ばしいものではない。QOL向上につながる失感情症のケアについては、今後さらに注目していくべきであると考える。慢性疼痛患者さんの診療におけるdos and don'ts慢性疼痛では、身体の訴えの強さと比較して基本にある身体的疼痛がみえにくいケースがある。そのような場合でも、始まりは社会的ストレスに伴った筋肉痛や関節痛などの機能性痛みが合併していたが、経過のなかで改善し、心理的苦悩の成分が残存していることがある。■まずは信頼関係の構築を心療内科では患者さんと医療者との信頼関係構築のため、初診の診療に時間をかける。一般の先生はわれわれのように長い時間をかけることはできないかもしれないが、せめて5分くらいは患者さんの顔を見て本人に自由に話していただく時間をとってほしい。そして患部を丁寧に診察する時間をつくっていただきたい。それだけでも患者さんは安心するものである。すぐに患者さんから話を聞き出すことができなくても、診察のたびに顔をみて話しかけていけば、徐々に信頼関係は構築されていく。そうすると、いざというときに患者さんの変化からSOSに気づくことができるし、治療効果を高めることにもつながる。もし一時的に状態が悪くなる時期があっても、「苦しい今をしのいで一緒に乗り越えていきましょう」と言えるような関係づくりが大切だと考える。■「痛くないはず」と思い込まないこと患者さんが強い痛みを訴えていても、医学的原因が判明しないことも少なくないが、それだけで、「痛くないはず」と治療者が思いこまないことは大切である。その際に、社会的疎外感だけでも身体的痛みのときと同様の苦しみを感じさせるという近年の知見を医学的情報として知っていることで病態評価が展開することがある。つまり、身体の痛みと感じている患者の体験は、身体の機能的異常とともに何らかの社会的疎外感を感じて苦しみが悪化しているのではないだろうかと考えて、生活環境の変化について、質問をしてみるとよい。そして患者さんには「最近は痛みに伴う心理的な要因を考慮した痛みの対処法が進んでいるから、専門の医師に相談してみてはどうか」とポジティブな言葉で専門医への紹介受診を促していただきたい。そうすれば「心が弱いから痛みが起こる」という誤解をすることなく、「がんばっている人の身体の痛みを社会的ストレスがより不快にする」という理解のもとに、患者さんは生活環境に合ったオーダーメイドの治療ステップへと進むことができるのである。■薬をむやみに切り替えないこと効かないからとすぐに薬を変更することは避けたいものである。プラセボ効果の反対で「ノセボ効果」という現象がある。「効かないだろう」という思い込みによって、効くはずの薬が効きにくくなってしまうのである。A先生に出してもらった薬はよく効いたが、同じ薬をB先生が出すと全然効かないというようなケースもある。同じ薬でも処方する医師への期待値によって効き方が違ってくる。その根底には医療あるいは医師への不信感がある。処方医に対して不信感があると薬の効果が減退してしまうのである。要するに、患者さんとの信頼関係が築けていない状況下では、どんなに薬を切り替えても適切な効果は期待できない。効果が出ずに投与量だけ増えている、というような場合には、まず患者さんとの信頼関係や服用のコンプライアンスを見直すところから始めてみてほしい。信頼関係なくしてよい治療は成り立たない。患者さんが安心して自分の気持ちを出せる場を提供し、信頼関係が築けたうえでその人に合うだろうという薬を少量から始める。そうすると、過去に効かなかった薬ですら効果が出る、ということも少なくない。患者さんと医療者との信頼関係が治療や予後に大きく影響するため、われわれは患者さんが話しやすい場をつくり、患者さんの人間としての全体像を知るように努めている。慢性疼痛においては、身体的な痛みについては標準的なアプローチは継続しながらも、対人交流不全の苦悩や、生活環境などによる社会的痛みや実存的な苦しみ(自尊心の問題)をターゲットとすることが効果的なことも多い。良好な患者ー医療者関係を築きながら、感情をうまく言葉にできず葛藤場面で適切な自己主張ができない患者さんの心身を疲弊させ、苦しめているものが具体的に何かを患者さんと一緒に探していくのである。慢性疼痛の心身医学的アプローチにより得られる知見が、今後一般診療にもさらに生かされ、患者・医療者がともに創り出す痛み治療に対して双方の満足感が増えることを期待したい。

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複合性局所疼痛症候群患者では広範痛についても評価が必要

 複合性局所疼痛症候群(CRPS)患者では、10%を超える患者が広範痛(widespread pain)を有していることが明らかとなった。英国・エンツリー大学病院のThomas Birley氏らによる後ろ向き研究からの報告で、結果を踏まえて著者は、「CRPS患者の臨床評価においては日常的に、さらなる痛みについて問診をすることが支持される」とまとめている。Pain Practice誌オンライン版2013年6月24日号の掲載報告。 CRPS患者における広範痛の有病率を調べる目的で、2007年7月~2012年9月の間に第3次疼痛医療センターに紹介されブダペスト基準に従いCRPSと診断された連続症例について、紹介状や医療記録を後ろ向きに評価した。 対象は、CRPS患者190例(うち149例は女性)および特定不能のCRPS患者26例であった(平均年齢44歳、罹病期間中央値18ヵ月)。 主な結果は以下のとおり。・3分の1の患者は、CRPSに先行する事象が起こる前にすでに、現在CRPSに罹患した肢に日常的な痛みとは違う痛みを経験していた。・21例(11.1%)が広範痛の経験を有していたが、医療機関からの紹介状にはほとんど記載されていなかった。・CRPSの誘因となった外傷のタイプや、ブダペスト基準の他覚所見および自覚症状の頻度は、広範痛の有無による差がみられなかった。・すべての患者は広範痛を日常生活の質に影響を与える重要な要素と考えており、ほとんどの患者にとって広範痛の重症度はCRPSの痛みと同程度であった。・CRPSに併発する局所的な痛み(多くは頭痛/片頭痛、腰痛、過敏性腸症候群)を有する患者もいた。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・無視できない慢性腰痛の心理社会的要因…「BS-POP」とは?・「天気痛」とは?低気圧が来ると痛くなる…それ、患者さんの思い込みではないかも!?・腰椎圧迫骨折3ヵ月経過後も持続痛が拡大…オピオイド使用は本当に適切だったのか?  治療経過を解説

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ERCP検査で十二指腸穿孔を来し死亡したケース

消化器最終判決判例タイムズ 579号26-51頁概要胆嚢の精査目的でERCP検査を施行した67歳男性。10回前後にわたる胆管へのカニューレ挿管がうまくいかず、途中で強い嘔吐反射や蠕動運動の亢進がみられたため検査終了となった。検査後まもなくして腹痛が出現、当初は急性膵炎を疑って保存的治療を行ったが、検査翌日になって腹腔内遊離ガスが確認され緊急開腹手術が行われた。ところが手術翌日から急性腎不全となり、さらに縫合不全、腹壁創離開、敗血症などを合併し、検査から約2ヵ月後に死亡した。詳細な経過患者情報某大学附属病院で数回にわたり健康診断を行い、肥満症(身長165cm、体重81.5kg)、動脈硬化症、高尿酸血症、左上肢筋萎縮症と診断された67歳男性。過去の健康診断でも胆嚢を精査するよう指摘されていた経過1979年4月10日腹部超音波検査では高度の肥満により鮮明な画像が得られなかった。テレパーク経口投与による胆嚢造影検査でも不造影となり、胆石や胆嚢がんなどの異常が疑われた。4月24日静注法による胆嚢造影検査を追加したが、やはり不造影に終わった。4月27日11:40ERCP開始。左側臥位とし側視鏡型式ファイバースコープを経口挿入、十二指腸下行部までは順調に到達した。この時点で蠕動運動が始まったため、鎮痙剤ブトロピウム(商品名:コリオパン1A)を静注。蠕動が治まったところで乳頭開口部を確認し、胆管造影を試みたが失敗、カニューレは膵管にしか進められなかった。2名の担当医師により前後約10回にわたって胆管への挿管が試みられたがいずれもうまくいかず、そうしているうちに再び蠕動運動の亢進が出現した。さらに、強い嘔吐反射が2度にわたって生じたことや、検査担当医自身も疲労を感じたことから胆管造影を断念。12:30スコープを抜管して検査終了となった(検査時間約50分)。担当医によれば、検査中穿孔の発生を疑わせる特段の異常はなく、造影剤が十二指腸から漏れ出た形跡や検査器具による損傷を思わせる感触もなかった。13:00患者は検査後の絶飲食および安静の指示を守らず、自家用車を運転して勝手に離院。13:30その帰途で腹痛を覚え、タクシーで帰院。腹部に圧痛・自発痛がみられたが腹膜刺激症状は認められず、検査後の膵炎を考慮してガベキサートメシル(商品名:エフオーワイ)、コリオパン®を投与。14:00腹痛が治まらなかったので、ペンタゾシン(商品名:ペンタジン)、コリオパン®を筋注し、約10分後にようやく腹痛は治まった。16:00担当医師は病院にとどまるように説得したが、患者は聞き入れず、「腹痛が再発したら来院すること」を指示して帰宅を許可した。19:00腹痛が再発したため帰院。当直医によりペンタジン®筋注、エフオーワイ®の点滴が開始された。20:00腹部X線写真にて上腹部付近に異常な帯状のガス影がみつかったが、その原因判断は困難であった。22:00担当医師らが協議した結果、消化管穿孔による腹膜炎で生じるはずの横隔膜下遊離ガス像が明確でないこと、検査担当医には腸管穿孔の感触がなかったこと、腹膜炎の徴候であるデファンスやブルンベルグ徴候がなかったことから、急性膵炎の可能性が高いと考えた(この時アミラーゼを測定せず)。4月28日翌日になっても腹痛が持続。10:40再度腹部X線撮影を実施したところ、横隔膜下に遊離ガス像を確認。11:00下腹部試験穿刺にて膿を確認。13:50緊急開腹手術施行。十二指腸第2部と第3部の移行部(尾側屈曲部)に直径1cmの穿孔があり、十二指腸液が漏出していた。穿孔部は比較的フレッシュで12~24時間以内に形成されたものと思われ、腹腔内の洗浄に加えて穿孔部の縫合閉鎖を行った。また、膵頭部は腫大しており、周囲の脂肪組織や横行結腸間膜に膵液による壊死性変化がみられた。胆嚢は異常に拡張し、内腔には3個の結石が確認され、胆嚢摘除術が追加された。なお、体表には打撲、皮下出血などの外傷所見はみられなかった。16:40手術終了。4月29日手術翌日から急性腎不全を発症。4月30日BUN 47.3、K 6.3と上昇がみられたためシャント作成、血液透析開始。5月5日縫合不全を併発。5月13日腹壁開腹創全離開、感染症増悪、敗血症を併発。5月22日頭蓋内出血および数回にわたる腹腔内出血を起こす。6月16日各種治療の効果なく多臓器不全に進行し、肺機能不全により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.ERCP検査に際しスコープ操作に細心の注意を払う義務を怠った2.漫然と長時間にわたってERCP検査を施行し、ついには操作を誤って十二指腸を穿孔させた。その結果、急性腎不全、敗血症、頭蓋内出血などを起こし、汎発性腹膜炎により死亡した病院側(被告)の主張1.スコープの操作にあたっては確立された手技にしたがって慎重に実行し、不必要、不用意あるいは乱暴な操作を行ったことはなく、器具損傷の感触もなかったまた、スコープ自体は十二指腸の湾曲に沿った形で滑り易くなっていて、さらに腸管の柔軟性、弾力性、および腸管内面の粘滑性に照らすと、スコープの挿入によって腸管穿孔を生じるほどの強い力が働くことはないし、嘔吐反射によって腸管穿孔が生じるとも考えがたい2.十二指腸穿孔の原因は、穿孔部位の解剖学的関係から交通事故などによる外的鈍力の作用によるものである(ただし外傷所見は確認されていない)3.そして、十二指腸穿孔はただちに死に結びつくものではなく、予後を悪化させて死の転帰に至らしめた最大かつ根本的な要因は急性腎不全であり、その原因は本人の腎不全に陥りやすいという身体的理由と、医師の指示を無視した患者自身の自由勝手な行動にある裁判所の判断1.ERCP検査中に、蠕動亢進、嘔吐反射の反覆がみられたにもかかわらず穿孔を生じうるスコープ操作を継続したため、十二指腸が穿孔したと推認される2.患者には交通事故その他鈍的外傷を受けたと認めるに足る事実(体表の打撲傷、十二指腸周辺の合併損傷など)がなく、万一交通事故に遭遇していたのであれば検査や診療に当たった医師などに告知するはずである3.担当医らは腹痛が出現した後も、事態に対する重大な認識をまったくもっておらず、十分な経過観察をしようとする姿勢がみられなかった。仮に患者の自由勝手な行動がなかったとしても、適切な診断や早急な開腹手術が実施された可能性はきわめて低い担当医はERCP検査の危険性などを十分に認識していたにもかかわらず、必ずしも慎重、冷静な心身の状態なくして胆管へのカニューレ挿入を10回も試み、老齢で薄い十二指腸壁をこすり、過進展させ、また、蠕動運動の亢進や嘔吐反射の反覆にもかかわらず検査を続行し、結果回避義務を違反して穿孔を生じさせた結果死亡した。ただし、医療に対する協力を怠り不注意な問題行動をとった点は患者側の過失であり、損害額の2割は過失相殺するのが相当である。原告側合計5億1,963万円の請求に対し、3億1,175万円の判決考察本件は医療過誤裁判史上、過去最高の賠償額ということで注目を集めたケースです(なお2審判決では1億4,000万円とかなり減額され、現在も最高裁で係争中です)。病院側は本件で生じた十二指腸の穿孔部位が、スコープなどの器具で発生することの多い「腹腔側穿孔」ではなく、交通事故などの鈍的外力の時によくみられる「後腹膜腔穿孔」であったことを強調し、スコープ操作が原因の十二指腸穿孔ではなく、「患者が検査後の医師の指示を守らず、自由勝手な行動をとって病院から離れた時に、きっと交通事故でも起こして腹部を打撲した結果十二指腸が穿孔したのだろう」と主張しました。しかし、患者さんは検査後に交通事故などでケガをしたとは申告していませんし、開腹手術時にも外傷所見は認められませんでしたので、未確認の鈍的外力が原因とするのは少々無理な主張ではないかと思います。それ以外にも病院側の対応にはさまざまな問題点があり、それらを総合して最終判断に至ったと思われます。たとえば、開腹手術後には「若い者がやったことだから大目にみてくれ」と上司から説明があったり、検査担当医も「穿孔を生じさせ申し訳ない」と謝意を述べていながら、訴訟へ発展した後になって「交通事故など鈍的外傷による穿孔である」とERCP検査による穿孔を真っ向から否定し始めました。また、腹痛発症当初は「急性膵炎」と診断してエフオーワイ®などの投与を行っていましたが、検査当日にアミラーゼ検査をまったく実施しなかったことや、2回目の帰院時には、ほかの関連病院へ入院させる途中で容態が悪化し、やむなく大学附属病院に入院処置をとった点も、「事態に対する重大な認識の欠如」という判断を加速させたようです。そもそも本件では本当に無理な内視鏡操作が行われていたのでしょうか。その点については担当医にしかわからないことだと思いますが、胆管へのカニューレ挿入がなかなかうまくいかず、試行錯誤しながらも10回挿管を試みたのは事実です。その間に十二指腸の蠕動運動が始まったり、強い嘔吐反射が反覆したことも確認されていますので、やはり腸管が穿孔してしまうほどの外力が加わったと認定されてもやむを得ないように思います。担当医らは「無理な操作はしていない」とくり返し主張しましたが、胆管へ10回も挿管を試みたということは多少意地になって検査を遂行したという側面もあるのではなかと推測されます。裁判記録によれば、担当医は消化器内科の若手医師でERCPを当時約200例以上こなしていましたので、この検査にかけてはベテランの域に達していたと思います。そして、検査がうまくなるにつれ、難しい病気を診断したり、同僚の医師がうまくいかないような検査をやり遂げることができれば、ある意味での満足感や達成感が得られることは、多くの先生方が経験されていると思います。しかし、いくら検査に習熟していたといっても、自らが行った医療行為によって患者さんが不幸な転帰をとるような事態は何としても避けなければなりませんので、検査中は常に細心の注意を払う必要があると思います。と同時に、たとえ検査の目的が達成されなくても、けっして意地を張らずに途中で検査を中止する勇気を持たなければならないと痛感しました。最近の統計(日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol.42 308-313, 2000)によると、1993~1997年のERCP検査の偶発症は189,987件中190例(0.112%)であり、急性膵炎がもっとも多く、穿孔、急性胆道炎などがつづきます。そのうち死亡は12例(0.0063%)で、急性膵炎による死亡6名、穿孔による死亡3名という内訳です。このような統計的数字をみると、過去3回の大規模調査でも偶発症発生頻度はほとんど変化はないため、偶発症というのは(検査担当医にかかわらず)一定の確率で発生するものだという印象を受けます。しかし、昨今の社会情勢をみる限り、検査前までは健康であった患者さんに内視鏡偶発症が発生した場合、けっして医療側が無責ということにはならないと思います。このような場合、裁判所の判決に至るよりも和解、あるいは示談で解決する場合が多いのですが、本件のように当初は謝意を示していながら裁判となったとたんに前言を翻したりすると、交渉が相当こじれてしまうと思われますので、医療側としては終始一貫した態度で臨むことが重要であると思います。なお、ここ数年はMRIを用いた膵胆管造影(MRCP)の解像度がかなり向上したため、スクリーニングの目的ではまずMRCPを考えるべきであると思います。消化器

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【CASE REPORT】非器質的疼痛とオピオイド治療 症例経過

運動器慢性疼痛の分類通常、器質的な「痛み」は侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に分類され、それ以外のものはしばしば心因性疼痛と分類される。心因性疼痛の定義は明確でなく、器質的疼痛でないものの中に機能性疼痛症候群、中枢機能障害性疼痛と心因性疼痛などが存在するという考え方を提唱するものもある(図1)。機能性疼痛症候群は、King's College LondonのSimon Wesselyが提唱した機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome :FSS)という概念に含まれるものである。FSSは諸検査で器質的あるいは特異的な病理所見を明らかにできない持続的で特徴的な身体愁訴を呈する症候群で、それを苦痛と感じて日常生活に支障を来しているために、さまざまな診療科を受診する。愁訴としては「さまざまな部位の痛み」「種々の臓器系の症状」「倦怠感や疲労感」が多く、代表例として過敏性腸症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛症、脳脊髄液減少症、間質性膀胱炎、慢性骨盤痛などがある。FSSの病態のうち、不安、痛み、睡眠、食欲などの症状に脳内の神経伝達物質が関与していると考えられている。これらの中で中枢機能障害性疼痛(central dysfunctional pain)は痛みを主訴とするものであり、線維筋痛症はその代表例である。また整形外科で時々遭遇する術後疼痛症候群は、「痛み」の原因を特定することが難しい。痛みの機序には「侵害受容性疼痛」「神経障害性疼痛」「中枢機能障害性疼痛(機能性疼痛症候群)」のように分類されるが、ヒトの「痛み」はあくまで主観的なものであり、完全に分類することができるわけではない。さらに、ほとんどの痛みはこれらが複雑に絡み合った混合性疼痛であると考えられる。痛みに含まれるこれらの構成要素のバランスを考えることは、痛みの治療選択の大きな助けになる1)。画像を拡大する不適切なオピオイド処方例症例経過37歳女性 肩腱板断裂手術後難治性疼痛転倒し発症した肩腱板断裂に対して肩関節鏡視下に腱板縫合術が行われた。術後肩関節周囲部痛が出現し、肩の可動域訓練が行えなかった。再度、肩関節の手術が行われたが、疼痛は変わらなかった。その後CRPS(複合性局所疼痛症候群)を疑い、術後難治性疼痛と診断され、NSAIDsにて効果が無かったことからオピオイドであるププレノルフィン貼付薬(商品名:ノルスパンテープ)5mgの投与が開始された。しかし、効果が無かったことから同剤が20mgまで増量された。その後も鎮痛効果が認められないため、当科を紹介受診した。肩関節の専門医の診察でも肩関節周囲部痛を説明できる器質的疾患は認められなかった。また、本人の申告では患側の上肢はまったく使用できず、常に三角巾にて固定が必要ということであったが、筋萎縮、骨萎縮は認められず、交感神経の異常を示唆する皮膚温・発汗・皮膚のツルゴール・皮膚色の異常を認めなかった。骨シンチでも異常を認めなかった。厚生労働省CRPS判定指標2)では、CRPSの診断には至らなかった。当院では、「痛み」の原因が器質的疼痛(侵害受容性疼痛および神経障害性疼痛)ではなく、心因性疼痛、機能性疼痛、中枢機能障害性疼痛を含めた非器質的疼痛と判断した。よって、ププレノルフィン貼付薬は不適切と判断し、1週間毎に15mg、10mg、5mg、0mgと減量した。さらに、「痛み」を受容しながら運動療法を行うための認知行動療法的アプローチを行った。当院での診察の経過中に精神疾患罹患があることが判明した。ププレノルフィン貼付薬を減量しても疼痛は変化しなかったが、認知行動療法的アプローチを導入したことで運動療法、可動域訓練が行えるようになり、患側上肢が日常生活動作で使用できるようになり、肩関節の可動域もほぼ正常化した。参考文献1)三木健司ほか.Practice of Pain Management.2012;3: 240-247. 2)住谷昌彦ほか.Anesthesia 21 Century.2008;10: 1935-1940.症例解説へ >>

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明解!Dr.浅岡の楽しく漢方

冷え症や生理痛に悩んでいるの東洋医学の概念「気・血・水」。今回はこの中の「血」にスポットをあてます。「血」の異常、東洋医学では『お血』と『血虚』の2種に大別されます。お血とは血の巡りが悪くて、その結果様々な症状を引き起こすこと。血虚とは貧血、ではなくて血によって運ばれる栄養分が体のすみずみにまで配られないことによって現れる症状のこと。女性にとってとても辛い冷え症や生理痛・・・この症状でお悩みの方は少なくないはず。東洋医学では、こんな症状の治療にこの「血」の概念をあてはめて考えます。お腹が痛い ―お腹と心の深い関係―今回のテーマは腹部疾患。なかでも西洋医学的には解決が難しい『過敏性腸症候群』を中心に解説します。「断腸の思い」「ガッツ(腸)がある奴」の例えの通り、古来よりお腹と精神との関りは明白。ということは「お腹の調子が悪い=気持ちに問題がある」と考えられませんか?こんな時、漢方治療はとても効果的。下痢に下痢止め、便秘に下剤、ではなくて東洋医学的に患者さんの「状態」を踏まえて診断します。お腹が痛い患者さんに対し、気持ちや心の問題をよく考えることはとても大事なこと。“気”の概念を中心に、考えてみましょう。足腰に力が入らない東洋医学の概念の中で「五臓」という言葉があったのを覚えていますか?「心・肺・肝・脾・腎」でもこれは解剖学的な臓器のことではありませんでしたね。今回はその中から「腎」に効く処方をご紹介。腎臓疾患ではありませんのでお間違いなく!では一体何か? → 「腎」とは、生物が生まれつき持っている精気、つまりenergyのこと。「腎」の力が失われると、足腰に力が入らなくなったり、夜中におしっこが近くなったりする。こんな患者さんに優れた効果を発揮する漢方処方をお教えします。

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下痢型過敏性腸症候群治療剤「YM060」口腔内崩壊錠、国内承認申請

アステラス製薬は8日、下痢型過敏性腸症候群治療剤「イリボー錠」の追加剤形として開発しているYM060(一般名:ラモセトロン塩酸塩)口腔内崩壊錠に関し、男性における下痢型過敏性腸症候群の効能・効果について厚生労働省に承認申請を行ったと発表した。YM060口腔内崩壊錠は、アステラス製薬の製剤技術の1つであるWOWTAB技術を適用した過敏性腸症候群治療剤。同剤は、口腔内の唾液で速やかに崩壊し、水なしでも服用が可能であるため、高齢者や嚥下機能が低下した患者、また、水分摂取を控えている患者にも有用であるなど、服用者の様々なニーズに対応できるという。イリボー錠は、同社によって創製されたセロトニン5-HT3受容体拮抗剤。セロトニンは、神経伝達物質の1つで、消化管の運動に大きく関係しており、ストレスなどによって遊離が促進されたセロトニンが、腸管神経に存在する5-HT3受容体を活性化することにより、消化管運動を亢進させ、便通異常を引き起こす。また、腸が受けた刺激によってもセロトニンが遊離し、求心性神経終末の5-HT3受容体に結合することで、脳に痛みを伝える。イリボー錠は、5-HT3受容体を選択的に阻害することで、消化管運動亢進に伴う便通異常(下痢・排便亢進)を改善するとともに、大腸痛覚伝達を抑制し、腹痛及び内臓知覚過敏を改善することが期待できるとのこと。詳細はプレスリリースへhttp://www.astellas.com/jp/corporate/news/detail/-ym060.html

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IBS患者の結腸鏡検査におけるCO2注入は苦痛軽減に有効か?

 過敏性腸症候群(IBS)患者では結腸鏡検査に伴う苦痛が有意に大きく、検査時の二酸化炭素(CO2)注入が苦痛軽減に効果的であることが示唆された。北海道大学の今井氏らがJournal of gastroenterology and hepatology誌オンライン版2012年6月13日号に報告した。 結腸鏡検査には痛み・不快感が伴うが、CO2注入がその痛みと不快感を有意に低下させることが報告されている。しかし、これまでIBS患者の結腸鏡検査について検討した報告はなかった。本試験では、IBS患者における結腸鏡検査に伴う苦痛の重症度と、CO2注入の有効性について検討した。 本試験は、結腸鏡検査の被験者を対象とした無作為化二重盲検比較試験であり、分析対象者はIBS/空気群18例、IBS/CO2群19例、対照/空気群25例、対照/ CO2群26例の計88例であった。患者の症状は、視覚的評価スケール(VAS)により評価された。 主な結果は以下のとおり。・結腸鏡検査後の膨満感と、検査中から検査後1時間の痛みに関する平均重症度はIBS群でより高く、これらの症状はCO2群でより早期に軽減された。・結腸鏡検査のCO2注入は、検査後15分から1時間の間、IBS群でより効果的であった。

48.

linaclotideが慢性便秘症状を有意に改善:2つの無作為化試験の結果より

 米国で新規開発された便秘型過敏性腸症候群および慢性便秘の経口治療薬である、C型グアニリル酸シクラーゼ受容体作動薬のlinaclotideについて、有効性と安全性を検討した2つの無作為化試験の結果が報告された。米国・ベス・イスラエル医療センターのAnthony J. Lembo氏らが、約1,300人の慢性便秘患者について行ったもので、NEJM誌2011年8月11日号で発表した。linaclotide 145μg/日と290μg/日を12週間投与 研究グループは、慢性便秘患者1,276人について、12週間にわたり、2つの多施設協同無作為化プラセボ対照二重盲検試験(試験303と試験01)を行った。研究グループは被験者を無作為に3群に分け、linaclotide 145μg/日、linaclotide 290μg/日、プラセボを、それぞれ1日1回、12週にわたり投与した。 主要有効性エンドポイントは、週3回以上の自発的な排便(CSBM)と、12週のうち9週以上で試験開始時点よりも自発的排便回数が週1回以上増加したことが認められた、の2つとした。有害事象についてもモニタリングされた。主要有効性エンドポイント達成、linaclotide群16~21%に対しプラセボ群は6%以下 その結果、主要有効性エンドポイントに達したのは、試験303と試験01それぞれで、linaclotide 145μg群については21.2%と16.0%、linaclotide 290μg群は19.4%と21.3%だった。これに対しプラセボ群は3.3%と6.0%であり有意に低率だった(linaclotide群とプラセボ群の全比較についてP<0.01)。 1週間の排便回数、腹部不快感、鼓脹などを評価した副次エンドポイントについては、いずれのlinaclotide群とも、その割合はプラセボ群より有意に高率だった。 なお、有害事象については下痢を除き全試験群で同程度であった。両linaclotide群で下痢による試験中止は4.2%だった。 研究グループは、「これら2つの大規模な第III相試験において、linaclotideは慢性便秘患者の腸・腹部症状を改善し、重度の便秘を有意に軽減した。さらなる試験により、linaclotideの潜在的な長期リスクおよびベネフィットを評価する必要がある」と結論している。

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アステラス製薬、米国アイアンウッド社とLinaclotide(リナクロチド)に関するライセンス契約締結

アステラス製薬株式会社は10日、米国の医薬品会社アイアンウッド社と同社が米国にて便秘型過敏性腸症候群および慢性便秘の治療薬として開発中の「Linaclotide(リナクロチド、一般名)」について、日本およびインドネシア、韓国、フィリピン、台湾、タイ(以下「契約地域」)での開発、販売に関する独占的なライセンス契約を締結したと発表した。リナクロチドは、1日1回投与の経口C型グアニル酸シクラーゼ(GC-C)受容体作動薬。本化合物は、腸粘膜上皮細胞上のGC-C受容体と結合し、細胞内の環状グアノシン一リン酸(cGMP)産生を亢進させ、腸内腔の水分分泌と腸内移送を亢進し、便秘を改善する。また、細胞外に分泌したcGMPにより腹痛を軽減させるという特徴を併せもっている。アイアンウッド社は現在、米国において便秘型過敏性腸症候群ならびに慢性便秘を対象とした第3相臨床試験を実施しているとのこと。今回の契約により、同社は契約地域におけるリナクロチドの独占的開発・販売権を取得する。また同社は、契約地域におけるリナクロチドの臨床開発、承認取得、販売に関する全ての費用を負担するという。なお、日本での臨床開発は今後実施される予定。詳細はプレスリリースへhttp://www.astellas.com/jp/corporate/news/detail/linaclotide.html

50.

『Noisy Roommate(厄介な同居人) 過敏性腸症候群(IBS)』に関する2万人の実態調査

 2009年10月6日、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)に関して行われた2万人の実態調査の結果を受けて、下痢型IBS治療薬ラモセトロン(商品名:イリボー)の販売会社であるアステラス製薬によるプレスセミナーが、島根大学医学部内科学第二 木下 芳一氏(写真)を迎えて開催された。 木下氏は結果紹介に先立ち、IBSの特徴について触れた。IBSの臨床上の特徴としては(1)検査をしても器質的疾患がないこと(2)腹部症状と便通異常が強く苦痛があること(3)慢性、反復性の経過をたどること(4)ストレスの関与があることが多いこと、の4点を挙げた。高血圧症に代表されるようなSilent Killerのように直接死因となることはないながら、IBSを含む機能性消化管疾患は、患者を不快にし、QOLを低下させる『Noisy Roommate(厄介な同居人)』であると表現した。 IBSの推定患者数はおよそ1,200万人とも言われ、日本人の10人に1人が罹患している計算になるが、病気という認識がないために体質の問題とあきらめている人が多く、IBS患者のおよそ8割が適切な治療を受けていないのが現状である。そこで、下痢型及び混合型で下痢を主訴とする、20歳~79歳までの男性20,000人のIBS該当者を対象に、日本で初めての大規模な実態調査を行った。 調査結果によると、下痢系IBS(下痢型および混合型で下痢を主訴とする)該当者は全体の8.9%にのぼり、特に20代においては11.2%と、若年層に多い傾向がみられた。また、朝の通勤・通学途中や仕事での作業時などで下痢、腹痛症状が発現することが多く、発現した場合、困る度合いも高いことがわかった。 にもかかわらず、下痢系IBS該当者の63.5%が『自身は病気ではないと思う』と答えており、症状に対する疾患認識は低かった。しかしながら腹部の症状について医師に問診してほしいと思う人はおよそ8割であり、医師に問診された場合に本当のことを話せるか、との問いにも、8割以上の人が『話せる』と回答した。 この調査結果から木下氏は、「腹部症状については、医師が問診しても患者さんが答えにくいのではないか、と思われていたが、実際の患者さんは『医師に聞いてほしいし、聞かれたらきちんと答える』と考えていることが明らかになった。診療にあたる医師には、ぜひ問診をしてほしい」と訴えた。 一方、IBSの診療にあたる医師側の悩みとしては、『診断に時間がかかる』、『除外診断が難しい』など、主に診断に関することが多いことが紹介された(316名の医師を対象とした調査結果より)。そこで木下氏から、IBSを含む消化器症状に関する患者さんの状況を簡単に把握できるよう、15の質問項目からなる『出雲スケール』というスクリーニング、治療評価のサポートツールが紹介された。この質問票は、日本人に多く見られる主要な消化器症状が網羅されており、医師が上部から下部までの消化器症状を一度に把握することが可能となっている。氏は、「この質問票により、患者さんが消化器症状でどのくらい困っているか、『困っている度』を簡単に把握することができます。また、薬物治療の評価ツールとしても使えることから、積極的にこの質問票を広めていきたい」と語った。 木下氏によると、IBSは様々な原因が絡み合って起こるため、治療の中心は薬物による対症療法となる。昨年10月に発売されたラモセトロンは、男性の下痢型IBSに対し、下痢だけでなく下腹部痛、下腹部不快感にも有効であり、1日1回で服薬コンプライアンスも高い薬剤であると語った。 最後に、木下氏は「IBSはQOLに著しい影響を及ぼす厄介な『Noisy Roommate』であり、今後一層の疾患啓発と受診の促進が望まれる」とまとめた。

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過敏性腸症候群の治療剤「アシマドリン」に関するライセンス契約を締結

 小野薬品工業株式会社は2日、タイオガ社(米国カリフォルニア州サンディエゴ市)が過敏性腸症候群の治療剤として米国で開発中のアシマドリン(一般名)を、日本・韓国・台湾で独占的に開発・販売する権利を取得したと発表した。 アシマドリンは経口投与が可能な低分子化合物で、3 種類あるオピオイド受容体(μ、κ、δ)のうち消化管の痛みや運動に関与していると言われるκ受容体に選択的に作用し、腹痛をはじめとする種々の腹部症状を改善する薬剤。 過敏性腸症候群の患者(約600 名)を対象に米国で実施されたフェーズIIb 試験では、アシマドリンは中等度以上の腹痛を訴える下痢型の過敏性腸症候群の患者の腹痛・腹部不快感、便意切迫感を改善し排便回数を減少させるなど、統計学的にも有意な治療効果を示したとのこと。また、これまでに安全性上、特に問題となるような有害事象は認められていないという。 なお、タイオガ社は来年の第1 四半期に米国でフェーズIII試験を開始する予定。また、小野薬品工業は来年の上半期中にも国内においてフェーズI試験を開始する予定とのこと。詳細はプレスリリースへ(PDF)http://www.ono.co.jp/jpnw/PDF/n09_0902.pdf

52.

下痢型過敏性腸症候群治療剤イリボー錠が新発売

アステラス製薬株式会社は、下痢型過敏性腸症候群治療剤イリボー錠2.5μg/5μg(一般名:ラモセトロン塩酸塩)について、「男性における下痢型過敏性腸症候群」を効能・効果として、10月7日に国内で新発売した。イリボー錠は、5-HT3受容体を選択的に阻害することで、消化管運動亢進に伴う便通異常(下痢・排便亢進)を改善するとともに、大腸痛覚伝達を抑制し、腹痛及び内臓知覚過敏を改善する。詳細はプレスリリースへhttp://www.astellas.com/jp/corporate/news/detail/post-31.html

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下痢型過敏性腸症候群治療剤「イリボー錠」、製造販売承認を取得

アステラス製薬株式会社は、下痢型過敏性腸症候群治療剤「イリポー錠(ラモセトロン塩酸塩)について、「男性における下痢型過敏性腸症候群」を効能・効果として、製造販売承認を取得したと発表した。「イリボー綻」は、5-HT3受容体を選択的に阻害することで、消化管運動充進に伴う便通異常(下痢・排便宜進)を改善するとともに、大腸痛覚伝達を抑制し、腹痛及び内臓知覚過敏を改善する。詳細はプレスリリースへ(PDF)http://www.astellas.com/jp/company/news/2008/pdf/080717_1.pdf

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