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COVID-19に特例承認のレムデシビル、添付文書と留意事項が公開

 2020年5月8日、ギリアド・サイエンシズ社(以下、ギリアド社、本社:米カリフォルニア州)は、特例承認制度の下、レムデシビル(商品名:ベクルリー)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として承認されたことを発表した。現時点では供給量が限られているため、ギリアド社より無償提供され、公的医療保険との併用が可能である。 本治療薬は5月1日に米国食品医薬品局(FDA)よりCOVID-19治療薬としての緊急時使用許可を受け、日本では5月4日にギリアド社の日本法人から厚生労働省へ承認申請が出されていた。レムデシビル投与、対象者の選定に注意 レムデシビルはエボラウイルス、マールブルグウイルス、MERSウイルス、SARSウイルスなど、複数種類の新興感染症病原体に対し、in vitroと動物モデルを用いた試験の両方で広範な抗ウイルス活性が認められている核酸アナログである。 添付文書に記載されている主なポイントは以下のとおり。・投与対象者は、酸素飽和度(SpO2)が94%(室内気)以下、酸素吸入を要する、体外式膜型人工肺(ECMO)導入または侵襲的人工呼吸器管理を要する重症患者。・警告には急性腎障害、肝機能障害の出現について記載されており、投与前及び投与中は毎日腎機能・肝機能検査を行い、患者状態を十分に観察する。・臨床検査値(白血球数、白血球分画、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数、クレアチニン、グルコース、総ビリルビン、AST、ALT、ALP、プロトロンビン時間など)について、適切なモニタリングを行う。・Infusion Reaction(低血圧、嘔気、嘔吐、発汗、振戦など)が現れることがある。・用法・用量は、通常、成人及び体重40kg以上の小児にはレムデシビルとして、投与初日に200mgを、投与2日目以降は100mgを1日1回点滴静注する。通常、体重3.5kg以上40kg未満の小児にはレムデシビルとして、投与初日に5mg/kgを、投与2日目以降は2.5mg/kgを1日1回点滴静注する。なお、総投与期間は10日までとする。ただし、これに関連する注意として、「本剤の最適な投与期間は確立していないが、目安としてECMO又は侵襲的人工呼吸器管理が導入されている患者では総投与期間は10日間までとし、ECMO又は侵襲的人工呼吸器管理が導入されていない患者では5日目まで、症状の改善が認められない場合には10日目まで投与する」「体重3.5kg以上40kg未満の小児には、点滴静注液は推奨されない」との記載があり、投与期間や体重制限などに注意が必要である。・小児や妊婦への投与は治療上の有益性などを考慮する。・主な有害事象は、呼吸不全(10例、6%)、急性呼吸窮迫症候群(3例、1.8%)、呼吸窮迫(2例、1.2%)、敗血症性ショック(3例、1.8%)、肺炎(2例、1.2%)、敗血症(2例、1.2%)、急性腎障害(6例、3.7%)、腎不全(4例、2.5%)、低血圧(6例、3.7%)など。 このほか、厚生労働省が発出した留意事項には、適応患者の選定について、以下を参考にするよう記載されている。■■■<適格基準> ・PCR検査においてSARS-CoV-2が陽性 ・酸素飽和度が94%以下、酸素吸入又はNEWS2スコア4以上・入院中 <除外基準>・多臓器不全の症状を呈する患者 ・継続的に昇圧剤が必要な患者 ・ALTが基準値上限の5倍超 ・クレアチニンクリアランス30mL/min未満又は透析患者 ・妊婦■■■ また、本剤を投与する医療機関において迅速なデータ提供を求めており、「本剤には承認条件として可能な限り全症例を対象とした調査が課せられているが、本剤については安全性及び有効性に関するデータをとくに速やかに収集する必要がある」としている。2つの臨床試験と人道的見地に基づき承認へ 今回の承認は、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が主導するプラセボ対象第III相臨床試験(ACTT:Adaptive COVID-19 Treatment Trial、COVID-19による中等度から重度の症状を呈する患者[極めて重症の患者を含む]を対象)、ならびにギリアド社が実施中のCOVID-19重症患者を対象とするグローバル第III相試験(SIMPLE Study:重症例を対象にレムデシビルの5日間投与と10日間投与を評価)の臨床データ、そして、日本で治療された患者を含むギリアド社の人道的見地から行われた投与経験データに基づくもの。 ギリアド社によると、2020年10月までに50万人分、12月までに100万人分、必要であれば2021年には数百万人分の生産量を目標としている(各患者が10日間投与を受けると想定して計算)。

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第4回 COVID-19診療医療機関の具体的な支援策が取りまとめられた

<先週の動き>1.COVID-19診療医療機関の具体的な支援策が取りまとめられた2.地域でのがん患者、透析患者、妊産婦などへの医療提供体制がまとまる3.医療・介護現場で足りないマスク、防護具、消毒薬の対策が進む4.新型コロナウイルスに対する新薬開発状況が明らかに1.COVID-19診療医療機関の具体的な支援策が取りまとめられた新型コロナウイルス感染による重症患者を診療する医療機関に対して、17日に開催された中央社会保険医療協議会 総会(第455回)において、具体的な支援策が打ち出された。中等症・重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の受入れに係る特例的な対応は以下の3点にまとめられている。1)重症COVID-19患者の治療に係る評価体外式心肺補助(ECMO)や人工呼吸器による管理が必要な重症患者などへの対応として、救命救急入院料、特定集中治療室管理料またはハイケアユニット入院医療管理料を算定する病棟において、2倍の点数を算定できる。また、急性血液浄化(腹膜透析を除く)を必要とする状態、急性呼吸窮迫症候群または心筋炎・心筋症のいずれかに該当する患者については21日間、ECMOを必要とする状態の患者については35日間まで、算定日数が延長される。2)患者の重症化等を防ぐための管理および医療従事者の感染リスクを伴う診療の評価中等症以上のCOVID-19患者については、患者の重症化や他患者および医療従事者への感染拡大を防ぐための管理の評価として、救急医療管理加算の2倍相当(1,900点)を算定可能になった。さらに、人員配置に応じて、追加的に二類感染症患者入院診療加算に相当する加算を算定できる。3)受入れに伴い必要な手続き等への柔軟な対応救命救急入院料、特定集中治療室管理料およびハイケアユニット入院医療管理料と同等の人員配置とした病床において、COVID-19患者または本来当該入院料を算定する病床において受け入れるべき患者を受け入れた場合には、運用開始日や人員配置など簡易な報告をした上で、該当する入院料を算定できる。なお、救命救急入院料について、COVID-19患者の受入れなどにより、当該医療機関内の特定集中治療室管理料などを算定する病棟に入院できない場合には、患者の同意を得た上で、入院経路を問わず算定可能。(参考)新型コロナウイルス感染症患者(中等症・重症患者)への診療報酬における対応について(中医協 第455回総会)2.地域でのがん患者、透析患者、妊産婦などへの医療提供体制がまとまる地域で医療提供体制を協議する上で配慮が必要となるがん患者、透析患者、障害児者、妊産婦、小児に係る対応について、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部が、都道府県などに向けて14日付で事務連絡を発出した。がん治療を受けている患者がCOVID-19に罹患した場合には、重症化する可能性を念頭に置き、がん治療を中断し、コロナに対応した医療機関への入院を原則とするなど、細心の注意を要する。日本透析医学会の報告によると、国内の透析患者の感染者数は累計47人だ。全体の死亡率は、8.5%(4/47人)と、基礎疾患のない患者と比較して高率であることも含め、適切な病床の確保などが望まれる。都道府県には、各学会から発出される情報を参考にし、医療機関への周知を行うなどの対応が求められている。(参考)新型コロナウイルス感染症に対応したがん患者・透析患者・障害児者・妊産婦・小児に係る医療提供体制について(厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部)透析患者における累積の新型コロナウイルス感染者数(2020年4月17日)(一般社団法人 日本透析医学会)3.医療・介護現場で足りないマスク、防護具、消毒薬の対策が進む厚生労働省は10日に「N95マスクは滅菌により2回までの再利用等が可能」とする事務連絡を出していたが、現場で増え続ける疑い症例への防護策として必要なマスクや防護具の不足に対して、新たな工夫をして乗り越えようとする動きが見られる。東京都医師会では、COVID-19の流行に伴うマスク不足を受け、「【縫わずに作れる!】簡易マスクの作り方」をホームページで公開している。フェイスシールドについても、100円ショップなどで入手可能なクリアファイルを利用して自作する代用案が動画サイトで共有されるなど、さまざまなアイデアが共有されている。消毒用アルコールについては、13日から若鶴酒造(富山県砺波市)が「砺波野スピリット77%」の発売開始、今月下旬からサントリースピリッツ大阪工場で医療機関等向けにアルコールの提供開始などが発表されており、不足が徐々に解消すると考えられる。また、17日に北里大学大村智記念研究所の片山 和彦教授らの研究グループが発表した「医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化効果について」により、一般の医薬部外品や生活雑貨の中でも、消毒用に使えるものが公開されている。(参考)N95 マスクの例外的取扱いについて(厚労省 事務連絡 令和2年4月10日/4月15日一部追記)消毒アルコール、酒で代替 品不足受け、業者次々参入―行政も柔軟対応・新型コロナ(時事通信)医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化効果について(学校法人 北里研究所)4.新型コロナウイルスに対する新薬開発状況が明らかに第94回 日本感染症学会学術講演会 特別シンポジウム(テーマ:COVID-19シンポジウム -私たちの経験と英知を結集して-)が18日に開かれた。最後の演題「臨床試験の進行状況と新知見」では、藤田医科大学の土井 洋平教授より、国内におけるファビピラビルの治療成績について観察研究の報告がされた。新型コロナウイルス感染患者300例に投与した結果、軽・中等症の患者で約9割、人工呼吸器が必要な重症・重篤患者で約6割に症状の改善が見られた一方、高尿酸血症や肝機能障害といった有害事象が17%で報告されたという。ほかにも、喘息治療に用いる吸入ステロイド薬シクレソニド(商品名:オルべスコ)、抗インフルエンザ薬のファビピラビル(同:アビガン)、エボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬レムデシビル(ギリアド・サイエンシズ)などが挙げられる。また、抗マラリア薬の一つで、新型コロナウイルスの治療薬として期待されるヒドロキシクロロキンについては、ブラジルで行われた治験で81例の被験者のうち11例が死亡し、臨床試験は6日目で中止となった。フランスでも同様の臨床試験に着手したが、副作用と心臓損傷のリスクのため直ちに中止になるなど、当初の期待通りとはいかないものもある。なお、日本感染症学会のCOVID-19シンポジウムについては、NHKチーフ・ディレクター市川 衛氏によるシンポジウム関連ツイートのまとめが掲載されている。(参考)アビガン投与2週間で重症者6割が改善、軽症者では9割…「それぞれの薬に長所と短所」(読売新聞)新型コロナ治療薬、開発急ピッチ 世界で治験650件(日経新聞)日本感染症学会ウェブセミナー COVID-19シンポジウムまとめ(市川衛@医療の「翻訳家」/@mam1kawa)

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非典型溶血性尿毒症症候群〔aHUS :atypical hemolytic uremic syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義非典型尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)は、補体制御異常に伴い血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)を呈する疾患である。TMAは、1)微小血管症性溶血性貧血、2)消費性血小板減少、3)微小血管内血小板血栓による臓器機能障害、を特徴とする病態である。■ 疫学欧州の疫学データでは、成人における発症頻度は毎年100万人に2~3人、小児では100万人に7人程度とされる。わが国での新規発症は年間100~200例程度と考えられている。わが国の遺伝子解析結果では、C3変異例の割合が高く(約30%)、欧米で多いとされるCFH遺伝子変異の割合は低い(約10%)。■ 病因病因は大きく、先天性、後天性、その他に分かれる。1)先天性aHUS遺伝子変異による補体制御因子の機能喪失あるいは補体活性化因子の機能獲得により補体第2経路が過剰に活性化されることで血管内皮細胞や血小板表面の活性化をもたらし微小血栓が産生されaHUSが発症する(表1)。機能喪失の例として、H因子(CFH)、I因子(CFI)、CD46(membrane cofactor protein:MCP)、トロンボモジュリン(THBD)の変異、機能獲得の例として補体C3、B因子(CFB)の変異が挙げられる。補体制御系ではないが、diacylglycerol kinase ε(DGKE)やプラスミノーゲン(PLG)遺伝子の変異も先天性のaHUSに含めることが多い。表1 aHUSの原因別の治療反応性と予後画像を拡大する2)後天性aHUS抗H因子抗体の出現が挙げられる。CFHの機能障害により補体第2経路が過剰に活性化する。抗H因子抗体陽性者の多くにCFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされている。3)その他現時点では原因が特定できないaHUSが40%程度存在する。■ 症状溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害による症状を認める。具体的には血小板減少による出血斑(紫斑)などの出血症状や溶血性貧血による全身倦怠感、息切れ、高度の腎不全による浮腫、乏尿などである。発熱、精神神経症状、高血圧、心不全、消化器症状などを認めることもある。下痢があってもaHUSが否定されるわけではないことに注意を要する。aHUSの発症には多くの場合、感染症、妊娠、がん、加齢など補体の活性化につながるイベントが観察される。わが国の疫学調査でも、75%の症例で感染症を始めとする何らかの契機が確認されている。■ 予後一般に、MCP変異例は軽症で予後良好、CFHの変異例は重症で予後不良、C3変異例はその中間程度と言われている(表1)。海外データではaHUS全体における慢性腎不全に至る確率、つまり腎死亡率は約50%と報告されている。わが国の疫学データではaHUSの総死亡率は5.4%、腎死亡率は15%と比較的良好であった。特に、わが国に多いC3 p.I1157T変異例および抗CFH抗体陽性例の予後は良いとされている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ TMA分類の概念TMAの3徴候を認める患者のうち、STEC-HUS、TTP、二次性TMA(代謝異常症、感染症、薬剤性、自己免疫性疾患、悪性腫瘍、HELLP症候群、移植後などによるTMA)を除いたものを臨床的aHUSと診断する(図1)。図1 aHUS定義の概念図画像を拡大する■ 診断手順と鑑別診断フローチャート(図2)に従い鑑別診断を進めていく。図2 TMA鑑別と治療のフローチャート画像を拡大する1)TMAの診断aHUS診断におけるTMAの3徴候は、下記のとおり。(1)微小血管症性溶血性貧血:ヘモグロビン(Hb) 10g/dL未満血中 Hb値のみで判断するのではなく、血清LDHの上昇、血清ハプトグロビンの著減(多くは検出感度以下)、末梢血塗沫標本での破砕赤血球の存在をもとに微小血管症性溶血の有無を確認する。なお、破砕赤血球を検出しない場合もある。(2)血小板減少:血小板(platelets:PLT)15万/μL未満(3)急性腎障害(acute kidney injury:AKI):小児例では年齢・性別による血清クレアチニン基準値の1.5倍以上(血清クレアチニンは、日本小児腎臓病学会の基準値を用いる)。成人例では、sCrの基礎値から1.5 倍以上の上昇または尿量0.5mL/kg/時以下が6時間以上持続のいずれかを満たすものをAKIと診断する。2)TMA類似疾患との鑑別溶血性貧血を来す疾患として自己免疫性溶血性貧血(AIHA)が鑑別に挙がる。AIHAでは直接クームス試験が陽性となる。消費性血小板減少を来す疾患としては、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を鑑別する。PT、APTT、FDP、Dダイマー、フィブリノーゲンなどを測定する。TMAでは原則として凝固異常はみられないが、DICでは著明な凝固系異常を呈する。また、DICは通常感染症やがんなどの基礎疾患に伴い発症する。3)STEC-HUSとの鑑別食事歴と下痢・血便の有無を問診する。STEC-HUSは、通常血液成分が多い重度の血便を伴う。超音波検査では結腸壁の著明な肥厚とエコー輝度の上昇が特徴的である。便培養検査、便中の志賀毒素直接検出検査、血清の大腸菌O157LPS抗体検査が有用である。小児では、STEC-HUSがTMA全体の約90%を占めることから、生後6ヵ月以降で、重度の血便を主体とした典型的な消化器症状を伴う症例では、最初に考える。逆に生後6ヵ月までの乳児にTMAをみた場合はaHUSを強く疑う。小児のSTEC-HUSの1%に補体関連遺伝子変異が認められると報告されている点に注意が必要である。詳細は、HUSガイドラインを参照。4)TTPとの鑑別血漿を採取し、ADAMTS13活性を測定する。10%未満であればTTPと診断できる。aHUS、STEC-HUS、二次性TMAなどでもADAMTS13活性の軽度低下を認めることがあるが、一般に20%以下にはならない。aHUSにおける臓器障害は急性腎障害(AKI)が最も多いのに対して、TTPでは精神神経症状を認めることが多い。TTPでも血尿、蛋白尿を認めることがあるが、腎不全に至る例はまれである。5)二次性TMAとの鑑別TMAを来す基礎疾患を有する二次性TMAの除外を行った患者が、臨床的にaHUSと診断される。aHUS確定診断のための遺伝子診断は時間を要するため、多くの症例で急性期には臨床的に判断する。表2に示す二次性TMAの主たる原因を記す。可能であれば、原因除去あるいは原疾患の治療を優先する。コバラミン代謝異常症は特に生後6ヵ月未満で考慮すべき病態である。生後1年以内に、哺乳不良、嘔吐、成長発育不良、活気低下、筋緊張低下、痙攣などを契機に発見される例が多いが、成人例もある。ビタミンB12、血漿ホモシスチン、血漿メチルマロン酸、尿中メチルマロン酸などを測定する。乳幼児の侵襲性肺炎球菌感染症がTMAを呈することがある。直接Coombs試験が約90%の症例で陽性を示す。肺炎球菌が産生するニューラミニダーゼによって露出するThomsen-Friedenreich (T)抗原に対する抗T-IgM抗体が血漿中に存在するため、血漿投与により病状が悪化する危険性がある。新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法や血漿輸注などの血漿治療は行わない。妊娠関連のTMAのうち、HELLP症候群(妊娠高血圧症に合併する溶血性貧血、肝障害、血小板減少)や子癇(妊娠中の高血圧症と痙攣)は分娩により速やかに軽快する。妊娠関連TMAは常位胎盤早期剥離に伴うDICとの鑑別も重要である。TTPは妊娠中の発症が多く,aHUSは分娩後の発症が多い。腎移植後に発症するTMAは、原疾患がaHUSで腎不全に陥った症例におけるaHUSの再発、腎移植後に新規で発症したaHUS、臓器移植に伴う急性抗体関連型拒絶反応が疑われる。aHUSが疑われる腎不全患者に腎移植を検討する場合は、あらかじめ遺伝子検査を行っておく。表2 二次性TMAの主たる原因a)妊娠関連TMAHELLP症候群子癪先天性または後天性TTPb)薬剤関連TMA抗血小板剤(チクロビジン、クロピドグレルなど)カルシニューリンインヒビターmTOR阻害剤抗悪性腫瘍剤(マイトマイシン、ゲムシタビンなど)経口避妊薬キニンc)移植後TMA固形臓器移植同種骨髄幹細胞移植d)その他コパラミン代謝異常症手術・外傷感染症(肺炎球菌、百日咳、インフルエンザ、HIV、水痘など)肺高血圧症悪性高血圧進行がん播種性血管内凝固症候群自己免疫疾患(SLE、抗リン脂質抗体症候群、強皮症、血管炎など)(芦田明ほか.日本アフェレシス学会雑誌.2015;34:40-47.より引用・改変)6)家族歴の聴取家族にTMA(aHUSやTTP)と診断された者や原因不明の腎不全を呈した者がいる場合、aHUSを疑う。ただし、aHUS原因遺伝子変異があっても発症するのは全体で50%程度とされている。よって家族性に遺伝子変異があっても家族歴がはっきりしない例も多い。さらに孤発例も存在する。7)治療反応性による診断の再検討aHUSは 75%の症例で感染症など何らかの疾患を契機に発症する。二次性TMAの原因となる疾患がaHUSを惹起することもある。実臨床においては二次性TMAとaHUSの鑑別はしばしば困難である。2次性TMAと考えられていた症例の中で、遺伝子検査によりaHUSと診断が変更されることは少なくない。いったんaHUSあるいは二次性TMAと診断しても、治療反応性や臨床経過により診断を再検討することが肝要である(図2)。■ 検査1)一般検査血算、破砕赤血球の有無、LDH、ハプログロビン、血清クレアチニン、各種凝固系検査でTMAを診断する。ADAMTS13-活性検査は保険適用となっている。STEC-HUSの鑑別を要する場合は便培養、便中志賀毒素検査、血清大腸菌O157LPS抗体検査を行う。一般の補体検査としてC3、C4を測定する。C3低値、C4正常は補体第2経路の活性化を示唆するが、aHUS全体の50%程度でしか認められない。2)補体関連特殊検査現在、全国aHUSレジストリー研究において、次に記す検査を実施している。ヒツジ赤血球を用いた溶血試験CFH遺伝子異常、抗CFH抗体陽性例において高頻度に陽性となる。比較的短期間で結果が得られる。診断のフローとしては、臨床的にaHUSが疑ったら溶血試験を実施する(図2)。抗CFH抗体検査:ELISA法にてCFH抗体を測定する。抗CFH抗体出現には、CFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされているため、遺伝子検査も並行して実施する。CFHR 領域は、多彩な遺伝子異常が報告されているが、相同性が高いことから遺伝子検査が困難な領域である。その他aHUSレジストリー研究では、血中のB因子活性化産物、可溶性C5b-9をはじめとする補体関連分子を測定しているが、その診断的意義は現時点で明確ではない。*問い合わせ先を下に記す。aHUSレジストリー事務局(名古屋大学 腎臓内科:ahus-office@med.nagoya-u.ac.jp)まで■ 遺伝子診断2020年4月からaHUSの診断のための補体関連因子の遺伝子検査が保険適用となった。既知の遺伝子として知られているC3、CFB、CFH、CFI、MCP(CD46)、THBD、diacylglycerol kinase ε(DGKE)を検査する。臨床的にaHUSと診断された患者の約60%にこれらの遺伝子変異を認める。さらに詳細な遺伝子解析についての相談は、上記のaHUSレジストリー事務局で受け付けている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)aHUSが疑われる患者は、血漿交換治療や血液透析が可能な専門施設に転送して治療を行う。TMA を呈し、STEC-HUS や血漿治療を行わない侵襲性肺炎球菌感染症などが否定的である場合には、速やかに血漿交換治療を開始する。輸液療法・輸血・血圧管理・急性腎障害に対する支持療法や血液透析など総合的な全身管理も重要である。1)血漿交換・血漿輸注血漿療法は1970年代後半から導入され、aHUS患者の死亡率は50%から25%にまで低下した。血漿交換を行う場合は3日間連日で施行し、その後は反応を見ながら徐々に間隔を開けていく。血漿交換を行うことが難しい身体の小さい患児では血漿輸注が施行されることもある。血漿輸注や血漿交換により、aHUS の約70%が血液学的寛解に至る。しかし、長期的には TMA の再発、腎不全の進行、死亡のリスクは依然として高い。血漿交換が無効である場合には、aHUSではなく二次性TMAの可能性も考える。2)エクリズマブ(抗補体C5ヒト化モノクローナル抗体、商品名:ソリリス)成人では、STEC-HUS、TTP、二次性 TMA 鑑別の検査を行いつつ、わが国では同時に溶血試験を行う。溶血試験陽性あるいは臨床的にaHUSと診断されたら、エクリズマブの投与を検討する。小児においては、成人と比較して二次性 TMA の割合が低く、血漿交換や血漿輸注のためのカテーテル挿入による合併症が多いことなどから、臨床的にaHUS と診断された時点で早期にエクリズマブ投与の開始を検討する。aHUSであれば1週間以内、遅くとも4週間までには治療効果が見られることが多い。効果がみられない場合は、二次性TMAである可能性を考え、診断を再検討する(図2)。遺伝子検査の結果、比較的軽症とされるMCP変異あるいはC3 p.I1157T変異では、エクリズマブの中止が検討される。予後不良とされるCFH変異では、エクリズマブは継続投与される。※エクリズマブ使用時の注意エクリズマブ使用時には髄膜炎菌感染症対策が必須である。莢膜多糖体を形成する細菌の殺菌には補体活性化が重要であり、エクリズマブ使用下での髄膜炎菌感染症による死亡例も報告されている。そのため、緊急投与時を除きエクリズマブ投与開始2週間前までに髄膜炎菌ワクチンの接種が推奨される。髄膜炎菌ワクチン接種、抗菌薬予防投与ともに髄膜炎菌感染症の全症例を予防することはできないことに留意すべきである。具体的なワクチン接種や抗菌薬による予防および治療法については、日本腎臓学会の「ソリリス使用時の注意・対応事項」を参照されたい。3)免疫抑制治療抗CFH抗体陽性例に対しては、血漿治療と免疫抑制薬・ステロイドを併用する。臓器障害を伴ったaHUSの場合にはエクリズマブの使用も考慮される。抗CFH抗体価が低下したら、エクリズマブの中止を検討する。4 今後の展望■ aHUSの診断2020年4月からaHUSの遺伝子解析が保険収載された。aHUSの診断にとっては大きな進展である。しかし、aHUSの診断・治療・臨床経過には依然不明な点が多い。aHUSレジストリー研究の成果がaHUS診療の向上につながることが期待される。■ 新規治療薬アレクシオンファーマ合同会社は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH) の治療薬として、長時間作用型抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤ラブリズマブ(商品名:ユルトミリス)を上市した。エクリズマブは2週間間隔の投与が必要であるが、ラブリズマブは8週間隔投与で維持可能である。今後、aHUSへも適応が広がる見込みである。中外製薬株式会社は抗C5リサイクリング抗体SKY59の開発を進めている。現在のところ対象疾患はPNHとなっている。5 主たる診療科腎臓内科、小児科、血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診療ガイド 2015(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 非典型溶血性尿毒症症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)aHUSレジストリー事務局ホームページ(名古屋大学腎臓内科ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Fujisawa M, et al. Clin and Experimental Nephrology. 2018;22:1088–1099.2)Goodship TH, et al. Kidney Int. 2017;91:539.3)Aigner C, et al. Clin Kidney J. 2019;12:333.4)Lee H,et al. Korean J Intern Med. 2020;35:25-40.5)Kato H, et al. Clin Exp Nephrol. 2016;20:536-543.公開履歴初回2020年04月14日

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第3回 COVID-19対策、全国の病院の医療提供状況を公開

<先週の動き>1.COVID-19対策、全国の病院の医療提供状況を公開2.COVID-19軽症患者の病院以外での療養が開始3.BCGの接種ミスによる健康被害発生4.国内の病院で相次ぐ新型コロナウイルスの院内感染事例5.医療と介護の連結解析データ、10月から第三者提供される見通し1.COVID-19対策、全国の病院の医療提供状況を公開新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、4月8日、政府が全国の入院病床を有する病院(20床以上)の医療体制を毎日把握するシステムをβ版として公開した。全国各地の医療機関が、外来・入院・救急・透析・化学療法での受け入れ制限などを行っているか否かが開示され、地図上で確認できる。5月からは本格稼働を開始予定で、今後さらに、空床情報、人工呼吸器の稼働数、PCR検査の判定の状況、医師・看護師と事務職員の数など、届け出をもとに、各医療機関の緊急患者の受け入れや入院の余裕があるかを把握できるようになる見込み。(参考)新型コロナウイルス感染症対策関係:全国医療機関の医療提供体制の状況を公開しました(β版)(政府CIOポータル)政府、8000病院一元把握 医療崩壊防止へ自治体に情報(日本経済新聞)2.COVID-19軽症患者の病院以外での療養が開始新型コロナウイルス感染者の増加に伴い、4月に入って救急医療現場での医療崩壊が危惧されており、東京、神奈川、大阪、愛知など全国の10都県で、新型コロナウイルス入院患者のうち、軽症・無症状の患者向けに施設を確保している。東京都では4月7日から患者受け入れが開始され、大阪府でも13日からホテルなどの宿泊施設への受け入れが開始される見通し。軽症者や無症状の人の療養のために、看護師2人が24時間常駐し、日中は医師が待機して、患者の健康管理を行う。今回の対策は、医療機関における重症患者の治療を優先し、軽症者についてはホテルなど療養先を振り分けて、医療崩壊を防ぐ狙いで行われる。(参考)軽症者受け入れ4600室止まり 10都県 感染爆発の備えに懸念(日本経済新聞)3.BCGの接種ミスによる健康被害発生BCGの接種実施国では新型コロナウイルス関連肺炎の発生件数が少ないという報道により、BCGがCOVID-19に有効だとする説が浮上し、日本でも接種を求める動きが増えている。しかし先日、わが国の医療機関において、成人に対してBCGの予防接種を皮下注射で行ない、発熱や蕁麻疹、血尿といった健康被害が生じている。BCGは管針法による経皮接種が絶対であり、通常のワクチンと同様に皮下注射を行なってはならない。BCGワクチンの添付文書には、「本剤は、経皮接種用の濃厚なワクチンであり、もし皮内等に注射すると強い局所反応を呈するので、絶対に注射してはならない」との記載があり、当然これに従って接種を行うべきである。ちなみにメーカーによると、3月末には通常の3倍出荷され、新型コロナウイルス関連報道により、これまでとは異なった出荷動向だという。なお、BCGの新型コロナウイルスへの効果は検証中であり、現時点では定期予防接種の対象外患者に対して接種した場合、健康被害が発生したとしても、PMDAによる医薬品副作用被害救済制度の給付対象とならないので注意が必要だ。(参考)乾燥BCGワクチン(経皮用・1人用)添付文書(PMDA)新型コロナ予防しようと…BCGワクチン接種ミス 成人に“絶対禁止”の皮下注射(毎日新聞)最近の BCG ワクチンと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する報道に関連して ~乳児へのBCGワクチンの優先接種のお願い~(日本小児科学会)4.国内の病院で相次ぐ新型コロナウイルスの院内感染事例4月に入ってから、大学病院を含む急性期病院だけでなく、介護施設を含め、複数の医療機関において、院内感染事例の報告が相次いでいる。多くは患者を介しての感染と考えられるが、送別会などの開催により、医療従事者間でのクラスター発生報告もあり、残念でならない。介護施設などから救急搬送を受け入れる病院側としては、警戒態勢をとっていても完全に防ぐのは困難なので、対応するスタッフを媒介する院内での感染を水際で対策していくしかない。当然だが、院内感染が発生した場合は、外来・救急の受け入れ中止、予定手術の延期など、地域医療や患者への影響が甚大だ。すでに多くの医療機関や介護施設では面会禁止などの対処をとっており、医療従事者はこれまで以上に感染防止策を徹底すべきだ。海外では、介護施設で新型コロナウイルスの集団感染が発生し、適切な対応をしなかった場合、入所者の3分の1が死亡したという報告(NEJM)もあり、注意が必要である。(参考)新型コロナ 医療者153人感染 「院内」複数で 10都道府県集計(毎日新聞)コロナ院内感染疑い、全体の1割 検査徹底で封じ込めを(日経新聞)McMichael TM, et al. N Engl J Med. 2020 Mar 27. [Epub ahead of print]5.医療と介護の連結解析データ、10月から第三者提供される見通し厚生労働省では、介護保険法の改正、医療医保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律」(以下、「改正法」と表記)が、第198回通常国会において成立し、10月1日の施行に向けて、データベースの供の準備に入った。改正介護保険法にも、匿名データの第三者提供について規定を設けており、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)と介護保険総合データベース(介護DB)の連結解析データの提供開始のために、必要な事項(提供対象者の範囲、データ利用者側の講ずべき安全管理措置義務、利用料など)の規定整備が進む。従来は、大学教員や行政関係者など、一部の研究目的でしかデータが得られなかったが、今後、医療・介護連結データを利用して、医療・介護サービスの質の向上やアウトカムの検証などが可能になると考えられる。また、2022年4月にはDPCデータベースについても、NDB・介護DBと連結することが目標となっており、今後、このデータベースから医薬品の研究開発、疫学研究、医療経済研究などが進むことが予見される。(参考)要介護認定情報・介護レセプト等情報の提供に関する有識者会議(第8回)資料(厚労省)「医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律」の施行に向けた検討について(報告)(厚労省 老健局老人保健課)「要介護認定情報・介護レセプト等情報の提供に関するガイドライン」改正について(同)

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進行性腎障害伴う安定冠動脈疾患に侵襲的戦略は有効か/NEJM

 進行性腎障害を伴う安定冠動脈疾患で、中等度~重度の虚血を呈する患者の治療において、侵襲的戦略は保存的戦略に比べ、死亡および非致死的心筋梗塞のリスクを低減しないことが、米国・ニューヨーク大学のSripal Bangalore氏らの検討(ISCHEMIA-CKD試験)で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2020年3月30日号に掲載された。安定冠動脈疾患患者における血行再建術の効果を評価する臨床試験では、通常、進行性の慢性腎臓病患者は除外される。また、1992年の腎移植候補の患者26例の無作為化試験では、血行再建術は薬物療法に比べ心血管死および心筋梗塞のリスクが低いと報告されているが、この30年間で、これらの治療法は劇的に進歩しており、あらためて侵襲的戦略の有益性の検証が求められている。30ヵ国118施設が参加した医師主導無作為化試験 本研究は、30ヵ国118施設が参加した国際的な医師主導の無作為化試験であり、2014年4月~2018年1月の期間に患者登録が行われた(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成による)。 対象は、進行性腎障害および中等度~重度の心筋虚血を呈する患者であった。被験者は、薬物療法に加え、冠動脈造影と、実行可能な場合は血行再建術(経皮的冠動脈インターベンション[PCI]または冠動脈バイパス手術[CABG])を受ける群(侵襲的戦略群)、または薬物療法のみを受ける群(保存的戦略群)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、死亡と非致死的心筋梗塞の複合とした。主な副次アウトカムは、死亡、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症または心不全による入院、心停止からの蘇生の複合であった。推定3年イベント発生率:36.4% vs.36.7% 777例が登録され、侵襲的戦略群に388例、保存的戦略群には389例が割り付けられた。全体の年齢中央値は63歳(IQR:55~70)、男性が68.9%を占めた。 ベースライン時に、57.1%が糖尿病で、53.4%が透析を受けていた。透析患者を除く推定糸球体濾過量(eGFR)中央値は23mL/分/1.73m2であった。37.8%が重度の虚血だった。 追跡期間中央値2.2年(IQR:1.6~3.0)の時点で、主要アウトカムのイベントは、侵襲的戦略群123例、保存的戦略群129例で発生し、推定3年イベント発生率はそれぞれ36.4%および36.7%であり、両群間に有意な差は認められなかった(補正後ハザード比[HR]:1.01、95%信頼区間[CI]:0.79~1.29、p=0.95)。 主な副次アウトカムの結果も、主要アウトカムとほぼ同様であった(侵襲的戦略群38.5% vs.保存的戦略群39.7%、補正後HR:1.01、95%CI:0.79~1.29)。 ベイズ解析では、侵襲的戦略群で主要アウトカムのHRが10%以上低下(補正後HR<0.90)する確率は19%で、10%以上増加(補正後HR>1.10)する確率は24%だった。 また、侵襲的戦略群は保存的戦略群に比べ、脳卒中(補正後HR:3.76、95%CI:1.52~9.32、p=0.004)および死亡/透析開始(1.48、1.04~2.11、p=0.03)の発生率が高かった。 著者は、「イベント発生率は予測よりも低く、また侵襲的戦略群における血行再建術の施行率は50.2%、保存的戦略群におけるイベントの確認以外の理由による血行再建術の施行率は11.0%と低かったことから、侵襲的戦略の有益性を示すには、この試験の検出力は十分ではなかった」としている。

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ISCHEMIA試験、狭心症関連の健康状態の比較/NEJM

 中等度〜重度の虚血を認める安定虚血性心疾患を有する進行性慢性腎臓病(CKD)患者において、初期の侵襲的治療戦略(血管造影+血行再建術+ガイドラインに基づく薬物療法)は、保存的治療戦略(ガイドラインに基づく薬物療法)と比較し、狭心症関連の健康状態に対して実質的または持続的な有益性を示さなかった。米国・ミズーリ大学カンザスシティー校のJohn A. Spertus氏らが、「ISCHEMIA-CKD試験」の副次目的である狭心症関連の健康状態の評価に関する解析結果を報告した。ISCHEMIA-CKD試験の主要目的である予後(死亡または心筋梗塞)への影響についても、侵襲的治療戦略は保存的治療戦略と比較して、イベントの有意なリスク低下は確認されていなかった。NEJM誌オンライン版2020年3月30日号掲載の報告。約700例で狭心症関連の健康状態を評価 研究グループは、中等度〜重度の虚血を認める安定虚血性心疾患を有し、推定糸球体濾過率<30mL/分/1.73m3または透析中の進行性CKD患者を、侵襲的治療戦略群または保存的治療戦略群に無作為に割り付け、無作為化前、1.5ヵ月、3ヵ月、6ヵ月時、その後は6ヵ月ごとにシアトル狭心症質問票(Seattle Angina Questionnaire:SAQ)を用いて健康状態を評価した。 本副次解析の主要評価項目は、SAQサマリースコア(スコア範囲:0~100、高得点ほど狭心症の頻度が低く機能とQOLが良好)であった。侵襲的治療戦略の効果の推定には、ベイズ理論の混合効果累積確率モデルを使用し、intention-to-treat解析を行った。保存的治療戦略と侵襲的治療戦略で健康状態の予後に有意差なし ISCHEMIA-CKD試験では777例が無作為化を受け、そのうち705例について健康状態の評価が行われた。 被験者の約半数(49%)は、無作為化前に狭心症を発症していなかった。 3ヵ月時における、侵襲的治療戦略群と保存的治療戦略群との間のSAQサマリースコア推定平均差は2.1ポイント(95%確信区間[CrI]:-0.4~4.6)で、侵襲的治療戦略群のほうが好ましいことが示された。同推定平均差は、ベースラインにおける狭心症の頻度が毎日または毎週の患者で最大(10.1ポイント、95%CrI:0.0~19.9)、同頻度が毎月の患者で最小であり(2.2ポイント、95%CrI:-2.0~6.2)、狭心症がない患者ではほとんど差はなかった(0.6ポイント、95%CrI:-1.9~3.3)。 6ヵ月時では、全例における両群の差は減少していた(0.5ポイント、95%CrI:-2.2~3.4)。 なお、著者は研究の限界として、血管造影前に無作為化されたものの侵襲的治療戦略が必要と予測される患者は除外されていた可能性があること、左冠動脈主幹部病変や心不全を有する患者などは除外されていることなどを挙げている。

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COVID-19の診療情報特設サイトを開設/日本プライマリ・ケア連合学会

 日本プライマリ・ケア連合学会(理事長:草場 鉄周)は、4月1日に同連合学会のホームページ上で「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療所・病院におけるプライマリ・ケアのための情報サイト」を開設した。 特設サイトでは、COVID-19に関する臨床診療で必要な最新情報が網羅されている。 主な内容は下記の通りであり、診療の合間などに参照していただきたい。■主な掲載内容・新型コロナウイルスCOVID-19について 感染経路、潜伏期間、主に国内の患者数について・診療に役立つ情報〔診療の手引き・ガイド〕新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療所・病院のプライマリ・ケア初期診療の手引き ほか〔臨床診断サポートツール〕DynaMed、UpToDate ほか〔患者さん・一般の方への啓発〕新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)/3つの密を避けましょう!(厚生労働省)、やってみよう! 新型コロナウイルス感染症対策 みんなでできること(文部科学省) ほか・感染予防と対策 感染症対策専門家会議、高齢者・介護施設、透析、海外渡航、妊婦、こども、学校、保育園・関連情報国内 厚生労働省、国立感染症研究所、国立国際医療研究センター(NCGM)/国際感染症センター(DCC)、内閣官房 ほか・関連情報海外 世界保健機関(WHO)、European Centre for Disease Prevention and Control(欧州CDC) ほか・文献

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SGLT2阻害薬の手術前の休薬は3~4日、FDAが承認

 2020年3月17日、米国食品医薬品局(FDA)は、2型糖尿病治療として使用されるすべてのSGLT2阻害薬において、術前休薬に関する添付文書の変更を承認した。手術前のSGLT2阻害薬休薬後は血糖値を注意深く監視 当局は、「カナグリフロジン(商品名:カナグル)、ダパグリフロジン(同:フォシーガ)、エンパグリフロジン(同:ジャディアンス)は少なくとも予定手術の3日前、エルツグリフロジン(国内未承認)は少なくとも4日前に休薬する必要がある」とプレスリリースを配信した。また、手術前のSGLT2阻害薬休薬後は血糖値を注意深く監視し、適切に管理すべき、と記している。 「患者の経口摂取が通常に戻り、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)・その他の危険因子が解決したら、SGLT2阻害薬を再開できるだろう」と当局は付け加えている。 今回の変更の承認理由は、手術により患者がDKAを発症するリスクが高まるためである。DKAの症状は、吐き気、嘔吐、腹痛、疲労感、呼吸困難など。 このほか、SGLT2阻害薬の副作用は各薬剤によって異なるが、尿路・性器感染症、低血糖、急性腎障害、会陰の壊死性筋膜炎、下肢切断リスクの上昇などが報告されている。当局は、重度の腎機能障害もしくは末期腎不全の患者、透析治療中の患者、薬物過敏症患者には、SGLT2阻害薬を使用しないよう求めた。

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COVID-19標準治療薬を決めるべく国際共同治験を実施/国立国際医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内発生の初期から本感染症患者の診療にあたってきた国立国際医療研究センター(NCGM)は、3月23日にメディア勉強会を開催し、アメリカ国立衛生研究所(NIH)と共同で抗ウイルス薬remdesivir(ギリアド・サイエンシズ)の医師主導治験を行うと発表した。勉強会ではNCGMの国際感染症センター長の大曲 貴夫氏が、治験の概要と今後の展開について説明した。どれがCOVID-19の標準治療薬として有望か 大曲氏は冒頭で高齢男性のCOVID-19症例を呈示し、「発症から重症化への進行が速いのが特徴」と述べ、人工呼吸器をつけて容体が好転し装置を外すまで1ヵ月を要したという。また、COVID-19では、致死率が高齢になるほど上がるとの中国の報告を示した。 現在、わが国で検討中の候補薬は、抗HIV薬ロピナビル・リトナビル(商品名:カレトラ)、インフルエンザ治療薬ファビピラビル(同:アビガン)、吸入ステロイド薬シクレソニド(同:オルベスコ)、セリンプロテアーゼ阻害薬ナファモスタット(同:フサンほか)/カモスタット(同:フオイパンほか)、抗ウイルス薬remdesivir(日本未承認)の5剤であり、ウイルスの増殖を抑える機能を持つ治療薬が期待されている。今後、「薬剤の不用意な使用を控えるために、まず標準治療薬を決めることが重要」と同氏は治験の意義を説明した。 今回、治験で使用されるremdesivirは、ウイルスRNA産生の減少を引き起こし、RSウイルス、コロナウイルスなどの1本鎖RNAウイルスに対し抗ウイルス活性を示すことが見いだされている。実際、2019年のエボラ出血熱流行時に使用され、安全性プロファイルも確立されている。また、SARS-CoV-2を含む複数のコロナウイルスでの抗ウイルス活性も示されているという。アダプティブCOVID-19治療試験の概要 remdesivirの治験は、本剤の安全性および有効性を検証する他施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較臨床試験で実施され、「アダプティブCOVID-19治療試験」(ACTT)と呼称されている。また、試験の特徴としては、アダプティブであるので、別の治療法が有効であると判明した場合、その治療法が新たな試験的治療法と比較するための対照群となる点である。 ACTTは、日本だけでなくアメリカ、韓国、シンガポールなど約75の医療機関で実施される国際多施設共同試験であり、当初の被験者数は440例とされている(ただし新治療群の追加により再計算もあり得る)。主要評価項目は15日における被験者の臨床状態で判断され、その評価項目は死亡、入院(5態様)、入院なし(2態様)など8項目で評価される。 試験の選択基準では、COVID-19感染を示唆する症状で入院している患者で試験手順などを順守・同意する患者などが対象となる(ALT/AST高値、eGFR50未満または透析者、妊娠または授乳中などの患者は除外される)。 治験介入は2群で実施、被験者は無作為化され実薬またはプラセボの投与を受ける。実薬は1日目に200mg負荷用量を静脈内投与され、入院期間中に100mg維持用量が1日1回静注投与される。治験の結果は、ギリアド・サイエンシズ社から公表される予定。 今回の治験以外にもNCGMでは、COVID-19の包括的治療・研究開発戦略として症状により段階的にシクレソニド、remdesivir、ファビピラビル、ナファモスタット、 救命治療(免疫調整薬など)などによる治療の研究を行う。 大曲氏は、最後に本症の患者登録による観察研究に触れ「1人1人の患者登録が大事になる。患者からの細かい情報が今後の研究を進展させるので、登録をお願いしたい」と期待をこめた。

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施設看護師から腎機能を聴取し抗菌薬の適正用量を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第17回

 今回は、患者さんの腎機能を考慮した処方提案についてです。腎排泄型の薬剤の投与量を提案するためには腎機能を評価する必要があります。しかし、その腎機能を評価するための検査値や体重、処方薬の追加の理由は処方箋からのみでは把握できません。今回は処方提案に至るまでの情報収集や連携方法について紹介します。患者情報80歳、女性(施設入居)基礎疾患:高血圧症、便秘症既 往 歴:とくになし処方内容<往診医からの処方>1.アムロジピン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.酸化マグネシウム錠500mg 1錠 分1 朝食後3.酪酸菌配合錠 4錠 分2 朝夕食後<初めて受診した病院からの新規処方>1.レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 朝食後※病院からの処方箋には、検査値や体重・身長などの情報はなし。本症例のポイントある日の午前、施設スタッフより抗菌薬を本日中に配薬してほしいと電話連絡があり、レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 7日分の処方箋FAXが届いていました。第一印象として、高齢者に対する処方としてはレボフロキサシンの用量が多く、そもそもどこの感染なのかなども含めて情報が不足しているため注意が必要と感じました。そこで、この施設では日中は看護師が常勤していて、病院受診の際は看護師が同行していることを知っていたため、担当看護師に状況を確認することにしました。看護師に確認したのは、採血結果の腎機能に関わる項目(血清クレアチニン、BUN)と直近の身体測定の結果、今回の受診契機と診察時の状況です。その結果、昨夜から発熱、頻尿、倦怠感が強く生じて継続したため、本人および家族から病院受診の希望があり受診したとのことでした。複雑性膀胱炎が疑われ、本来であれば入院加療が必要な状態でしたが、本人と家族は施設に戻って治療することを希望したため、今回の処方薬になったそうです。また、受診時の採血と直近の身体測定の結果は、血清クレアチニン:0.8mg/dL、BUN:13.6mg/dL、身長:148cm、体重:45kgであったという情報も得ることができました。以前紹介した推算CCrの計算方法で腎機能を評価したところ、推算CCr:39.84mL/minと年齢相応に腎機能が低下していました。レボフロキサシンの腎機能に合わせた推奨用量処方提案と経過今回の処方用量では過剰投与になり、中毒症状であるめまいや痙攣などの神経症状、アキレス腱炎、低血糖などが懸念されることから減量が望ましいと判断し、医師に相談することにしました。また、この患者さんは便秘症にて酸化マグネシウムを朝食後に服用していたことから、効果減弱の相互作用を考慮して服用時点を昼食後で調整してよいかどうかも併せて確認することにしました。電話で、「患者さんのレボフロキサシンの用量について確認があります。維持用量を250mgに減量してはいかがでしょうか。80歳と高齢で、本日の採血結果を基に腎機能を評価したところ、推算CCrは50mL/min未満と年齢相応の低下がありました。現在の500mgを維持用量として継続した場合、中毒症状が出現する恐れもあるので減量が望ましいと考えます。初回負荷投与量500mg、維持用量250mgでいかがでしょうか。また、朝食後に施設の往診医から処方されている酸化マグネシウムを服用しているので、レボフロキサシンの効果減弱を避けるため、レボフロキサシンの服用時点を昼食後に変更してもよろしいでしょうか」と相談しました。医師からは、「症状がやや重めなのでFull Doseがいいかと思いましたが、腎機能をそこまで調べていませんでした。初回500mg、以降250mgに調整しましょう。用法は昼食後でよいです。初診なので酸化マグネシウムを服用していたことを把握できていませんでした。情報提供ありがとうございます」というお返事をいただきました。そこで、施設看護師にレボフロキサシンを減量かつ昼食後服用へ変更することをフィードバックし、同日中に配薬しました。患者さんにもその旨を説明し、レボフロキサシンを開始したところ、翌日には解熱して倦怠感や頻尿も改善していきました。また、レボフロキサシン服用期間中および終了後も下痢などの消化器症状、めまいなどの神経症状もなく経過しました。1)「透析患者に対する投薬ガイドライン」,白鷺病院.2)クラビット錠添付文書

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第38回 高電位(差)の基準、いくつ知ってる?(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第38回:高電位(差)の基準、いくつ知ってる?(後編)「高電位(差)…」のタイトルにも関わらず、前回はQRS波の「高さ」よりも「向き」(電気軸)に注目した内容になってしまいました(笑)。前回と同じ症例を用いて、いよいよ“高すぎる”QRS波の考え方について解説します。謎の言葉“ライオン“や“エステ”などが登場しますが、読み進めると真相が明らかになるでしょう。では、さっそくDr.ヒロのレクチャーにご注目あれ!症例提示35歳、男性。腎移植後の急性拒絶反応のため、血液透析を再導入。その後、10年以上維持透析中。特別な自覚症状はなし。血圧150/90mmHg、脈拍82/分。Hb:11.9g/dL、BUN:67mg/dL、Cre:14.2mg/dL、K:4.8mEq/L。定期検査として施行された心電図を示す(図1)。(図1)定期検査の心電図[再掲]画像を拡大する【問題1】代表的な左室高電位の診断基準を念頭に置き、心電図(図1)がそれらに該当するか考察せよ。解答はこちら該当しない解説はこちら今回も前回と同じ、若年ながら維持透析がなされている男性の心電図を扱います。タイトル通り、今回のメインテーマは「QRS波高」について考えること。Dr.ヒロの系統的判読の語呂合わせでは、“クルッと”の“ル”で、R波“スパイク・チェック”の部分に該当します。「向き」「高さ」そして「幅」の3つを確認しましょう。「高さ」では、“高すぎる”と“低すぎる”の条件に該当しないかを確認するのが主なプロセスです。今回の例では“低すぎる”のほうは一見して考えにくく(細かな数値ではなく“常識”としてわかるセンスが欲しい)、主に“高すぎる”かどうかについて焦点を当てて見ていくことにします。“答えなき質問で負けん気に火がつく”心電図でQRS波高が“高すぎる”、すなわち「(左室)高電位」(increased QRS voltage)と診断するための基準ですが、果たして皆さんはいくつ言えるでしょうか? 2個?3個?それとも5個ですか? 基準に登場する細かな数値を必死で覚えようとするあまり、心電図が嫌いになるようでは本末転倒なので、最終的にはボク流のオススメな考え方に着地して安心してもらうつもりです。前フリとして、少ーしだけ昔話を。10年ほど前のことですが、今でも昨日のことのように思い出されるエピソードがあります。当時、ボクはピチピチ!?の大学院生でした。循環器レジデントも終え、臨床にもある程度手応えを感じ、心電図に関しても以前のような“劣等生”ではなくなっていた頃です。病棟だったか研究室だったかは忘れましたが、心電図や不整脈に詳しいX先生から試問を受けました。【X先生】「高電位の診断基準は? 10個は言えるわな。」【Dr.ヒロ】「えっ?10個ですか! V1のS波とV5のR波を足して35mmとか、V5かV6でしたっけ、20…いくつでしたかね…」【X先生】「V5が26mm、V6は20mmな*1。そいでほかは?」【Dr.ヒロ】「え? まだあるんですか…」【X先生】「あるよ。何言ってんのよ。肢誘導とかもあるだろ。先生は心電図のごくごく表面しか知らないな。あのなぁ、本当のプロになりたかったらな、こんなん10個は空で言えないと失格なんだよ!」そう言って、正解は教えないままその先生はボクの元を去りました。*1:今回紹介する基準とは若干違います。欧米の文献と日本人の違いなどもあるのでしょうか。前置きが長くなりましたが、こんな経緯があったためか、「高電位(差)」という言葉を聞くと、今でも無性にチャレンジスピリットが湧いてくるんです! ですから、今回のレクチャーはいつも以上に熱いです(笑)。早速はじめましょう。次のリスト(図2)を見てください。(図2)こんなに覚えられない!…「左室肥大」の診断基準画像を拡大するボクが事あるごとに参照しているガイドライン的文献1)からの引用です。タイトルは「左室肥大の診断基準」ですが、その大半が「左室高電位」の条件で占められていることがわかるでしょう。はじめに言っておきますが、これを必死で覚える必要はありません(誰も本気でしようと思わないでしょうが)。当然、項目一つ一つを解説することも、皆さんに覚えてもらうこともボクの本意ではありません。なので、この中の“定番商品”に値する有名な3つの診断基準パッケージから紹介していきます。“最も有名な『そこのライオン』基準”まずは“そこのライオン”から。「また!何言ってんの、この人?」って思った方、英字を見てください。ね、“そこの(Sokolow)ライオン(Lyon)でしょ(笑)。■Sokolow-Lyon基準2)■ “そこのライオン”(1)SV1+RV5(or V6) ≧ 35mm(2)RaVL ≧ 11mmこの基準は有名です。(1)は先ほどの会話にも登場していましたが、ボクが最初に覚えたもので、この和を「Sokolow-Lyon(S-L) index」と呼びます。『V1のS波(深さ)とV5のR波(高さ)を足して35mmね。心電図ってそうやって読むのか。なんか高尚だなぁ』、そんな風に感じた記憶があります。実際はV5でもV6でもいい(大きいほうを採用)のですが、V5が用いられることが多いかもしれません。このような“◯+△”型のクライテリアは、もとは「RI+SIII」2)に始まり、一般的に「左室パターン」(第17回)のQRS波形を呈する“イチエル・ゴロク”(I、aVL、V5、V6)のどれかと“その反対側”から構成されると考えると理解しやすいです。肢誘導界の円座標を頭に思い描けば、IIIは“Iの反対側”ですし、胸部誘導ではV5・V6の反対側と言ったらV1ですよね。この“反対側”では、左室のど真ん前に位置する”イチエル・ゴロク”(側壁誘導)でR波として表現される左室成分がS波として反映されているのだと考えれば良いのです。心電図(図1)で見てみましょう。「SV1」、「RV5」、そしてS-L indexが「R+S:3.88mV」と表示されています。これがそうです。「3.88mV」を長さに直せば「38.8mm」となるので、このSokolow-Lyon基準では「左室高電位」に該当します。“そこのライオンで気をつけること“Sokolow-Lyon基準の原典3)はなんと、70年前の論文です。それが今もなお生き続けていることは称賛すべきですが、S-L indexに関しては、いくつか問題点が指摘されています。何と言っても、対象の「年齢」や「性別」が考慮されていないという点です。25歳の男性も80歳の女性も同じ35mm(3.5mV)で判定するのです。冷静に考えると、これってオカシイですよね。健診の心電図や心エコーでの計測値だって、年齢・性別に応じた基準値が設けられています。今回の症例は若年ながら病気を有していますが、同年代の大半の男性はそうではなく、健康だと思います。「RV5(or RV6)」は左室の“パワー”(起電力)を反映するものですから、本人も心臓も元気みなぎる若年男性では、ピンッと立ったスパイクとなり、高率に基準(1)を満たしてしまうことが知られています。左室高電位は左室肥大の条件の一つです。その病的意義を考えると、若くて健康な男性に「左室肥大(疑い)」を頻発させてしまうこの基準は、あまり現実にそぐわないのかもしれません。同様なことが男女問わずアスリート(競技者)にも言われています*2。*2:普段、日本で診療しているとあまり意識されないかもしれませんが、「人種」も考慮すべき一因です。それを解決する一つの方法として、若い男性についてはカットオフを35mmではなく「50mm」にしたほうがいいという声があります4)。国内の心電計メーカーでも同様な点を踏まえて、年齢・性別に応じた高電位差の基準として、20~30歳前後の男性では50mm前後を自動診断の閾値として採用しているところがあるようです。ですから、今回の心電図(図1)では、左室高電位の基準に満たないというのがボクの見解になります。では、一方の(2)「RaVL≧11mV」ではどうでしょうか? 前回のレクチャーで述べましたが、今回のように「左脚前枝ブロック」(LAFB)の心電図では、「肢誘導が“縦に伸びる”」ことに注意する必要があるのでした。つまり、肢誘導のQRS波高が本来よりも“かさ増し”されている場合があるのです。そのため、IやaVLを含む高電位基準はそのままでは使えない可能性が高いです。そこで、LAFBでは、胸部誘導を用いるほう方がいいという意見5)はもっともかもしれません(あまり浸透していませんが)。もう一つは、“そこのライオン”基準をmodifyするやり方で、“2割増し”の「13mm」をカットオフにする考え方1)。ボク自身はこれがお気に入りです。今回の心電図では、RaVLは「11mm基準」にも該当しませんが、この点は知っておくと“物知り”だと思われること確実です。若かりし頃のボクは、基準(2)を覚えたのが嬉しくて、LAFBなのに「11mm」基準のまま“フェイク”の「左室高電位」を乱発していた日々が恥ずかしく思い出されます*3。読者の皆さんもご注意あれ。*3:投稿した論文でreviewerに指摘された記憶も…(笑)“こなれた男女は意外とふくよか?”2つ目のユニークな基準は、“こなれた男女、サイズは3L”です。正式にはCornell基準ですが、ここでもボク流を受容する大きな心を持ってくださいね(笑)。ニューヨークからの報告ですから、なんかオシャレ、いや~こなれてマス。■Cornell基準6)■ “こなれた男女、サイズは3L”(i)SV3+RaVL > 28mm(男性)(ii)SV3+RaVL > 20mm(女性)“男女”は性別ごとに基準が違いますよ、ということ。今回取り上げる中で唯一「性差」が考慮されている点は評価できるのですが、実際には驚くぐらい浸透していません(ボクもよく忘れます)。この基準を涼しい顔で言える人はタダモノではないはず! なお、女性に関しては「+2mm」して「22mm」のほうがいいという議論もあり、なおややこしいことになっています7)。(図1)の男性では、「SV3=17mm」、「RaVL=9mm」なので、一応セーフでしょうか。ちなみに、“サイズは3L”は「SV3+RaVL」を思い出しやすくするためにつけています。ただ、V3誘導がaVL誘導の“反対側”とはイメージしにくいため、個人的にはこうもしないと覚えられません…。“浪費エステはポイント制“紹介する3つ目はRomhiltとEstesの二氏らによる診断基準です。ボク流に言うと“浪費エステはポイント制”です。だんだん無理くり感が…。■Romhilt-Estesスコア8)■ “浪費エステ”(A)肢誘導:R波(or S波)≧ 20mm(B)SV1(or V2) ≧ 30mm(C)RV5(or V6) ≧ 30mmこの“浪費エステ”は「左室肥大」を診断するために開発されたスコアリングシステム(それが“ポイント制”とした意味です)で、そこからQRS波高に関連する部分を抜き出しています(残りの条件に関しては、次回述べる予定)。(A)~(C)いずれか一つを満たすときに「3点」とします*3。これまでと少し数値が異なる点がややこしいでしょうか。でも、これが一つの“完成品”なので文句は言えません。*3:最高13点。4点以上で「probable/likely」、5点以上で「definite/present/certainly」とされる。今回の心電図は(A)~(C)のいずれも該当しません。“最近の心電計と現実的な対応”さて、ここまでの話、いかがですか? 『とっても覚えられないよ(泣)』なんて方も少なくないと予想します。それでも、“そこのライオン”と“こなれた男女”そして“浪費エステ”の3つの診断基準で7個…。前述のX先生の要望には及びません。ただ、これだけでも多くの人にとって、長期間正しく暗記できるレベルを越えていると思います。やはり“記憶”に関してはコンピュータに任せましょう(Dr.ヒロでいう“カンニング法”)。最近の心電計の波形認識・診断システムには、たくさんの左室高電位基準が網羅されており、心電計が「高電位」と言ったら素直にそうなのかと認める姿勢も悪くないとボクは思います。心電図(図1)でも、「高電位(左室に対応する誘導)V1、V5」と表記されていますね。これは普段から最後に自動診断にも必ず目を通すクセをつけておくことで決して忘れません。ただ、先ほど述べた年齢・性別の影響や、S-L indexだけ満たして、ほかはすべて該当しない時に、それを「高電位」と診断するかどうかの最終判断が、われわれ“人間”の仕事です。もう一つ。ボクの教科書は、原則、数値の暗記にこだわらないスタンスなので、次のやり方を紹介しておきましょう9)。この手法、“(ブイ)シゴロ密集法”とでも名付けましょうか。“シゴロ”はV4、V5、V6のことで、このR波が3つとも空をつんざくほどの勢いで直上の誘導領域まで届いているときに「左室高電位」と診断する方法です。別症例の心電図(図3)を見てください。(図3)左室高電位はブイシゴロに注目!画像を拡大する赤太枠で囲った部分にご注目あれ! この心電図は閉塞性肥大型心筋症で通院中の80歳、女性のものです。たしかに“(ブイ)シゴロ密集法”陽性で、典型的なST-T変化も伴いますので、バリッバリの「左室肥大」が疑われます。この場合、今回述べた「左室高電位」基準をほぼすべて満たしますが、これを得意のエイヤッでV4~V6誘導だけの“見た目”で診断しちゃえというのがDr.ヒロ流。こうすることで細かな数値と決別することができるんです。この感覚で、もう一度心電図(図1)を見直してみましょう。するとV6誘導がおとなしめなので、その意味でも「該当しない」と言っていいのではないでしょうか。“おわりに”以上、話し出すとキリがないのですが、2回に分けて “高すぎる”QRS波形の考え方についてお送りしました。最後の最後で一言。私たちは普段「高電位」のことを“ハイ・ボル(テージ)”(high voltage)などと呼んでしまいがちですが、ボクの調べた限りでは“和製英語”のようです(間違ってたらゴメンナサイ)。「increased QRS voltage」というのが正しいそう。知らなかった方は気を付けてくださいね。次回は、“Romhilt-Estes”(浪費エステ)のスコアを用いて「左室肥大」について考えてみましょう。では! …とまぁ、とかく“欲張り”なDr.ヒロなのでした。Take-home MessageQRS波高が“高すぎる”の診断基準はたくさんあり、可能な範囲で代表的なものをおさえておこう。数値を覚えるのが苦手なら、“(ブイ)シゴロ密集法”がオススメかも!?1):Hancock EW, et al. Circulation. 2009 Feb 19.[Epub ahead of print]2):Gubner R, et al. Arch Intern Med.1943;72:196-209.3):Sokolow M, et al. Am Heart J. 1949;37:161-186.4):Macfarlane PW, et al. Adv Exp Med Biol.2018;1065:93-106.5):Bozzi G, et al. Adv Cardiol.1976;16:495–500.6):Casale PN, et al. Circulation. 1987;75:565-572.7):Dahlöf B, et al. Hypertension.1998;32:989-997.8):Romhilt DW, et al. Estes EH Jr. Am Heart J.1968;75:752-758.9):杉山裕章. 心電図のみかた、考え方[応用編]. 中外医学社;2014.p.125-149.【古都のこと~梅宮大社】京都の梅を語りましょう。『古都のこと』でも既にいくつか紹介していますが*1、今回は右京区梅津の梅宮大社(うめのみやたいしゃ)です。松尾大社からも徒歩で行ける距離にあります。元々は山城国にあり*2、平城京を経て嵯峨天皇の皇后であった橘嘉智子により平安時代前期に現在の場所に遷座されたとのこと。御祭神として酒解神(さかとけのかみ)を本殿に祀ります。文字通り“酒造の神様”ですね*3。訪れたのは、梅産祭(うめうめまつり)が休日に重なった日でしたが、新型コロナウイルスの影響で、恒例の梅ジュース・清酒の振る舞いも中止になっていました。参拝者も少なく、どんよりとした気分が立ちこめていましたが、境内および四季折々の花が美しい回遊式庭園のある神苑には、至る所で紅白梅が元気に花を咲かせていました。桜とは異なる種類の春の訪れ。来年こそは、この感動をより多くの方々と共有したいなぁと心の底から思いました。*1:北野天満宮を筆頭に、岡崎別院、随心院でも扱った。*2:綴喜(つづき)群井出町付近とされる。橘諸兄(もろえ)の母県犬養三千代(あがたいぬかいみちよ)が橘氏の氏神として創祀したと伝わる。三千代は藤原不比等の夫人となったため、藤原氏の摂政・関白の家筋が橘氏長者も代行し、春日神社(藤原氏の氏神)同様に梅宮大社にも崇敬を捧げた。*3:他に橘嘉智子が梅宮神に祈願し皇子(仁明天皇)を授かったことから、授子安産の神徳もあるとされる。本殿横の「またげ石」を跨ぐと子を授かると伝わる。

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冠動脈疾患における抗血栓療法にフォーカスしたガイドラインを公開/日本循環器学会

 日本循環器学会は2020年3月13日、「2020年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法」を学会ホームページに公開した。本ガイドラインは、2019年に発表された「急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)」と「安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018年改訂版)」の2つのガイドラインの抗血栓療法に関して、発表後に多くの重要なエビデンスや新たな概念が発表されたことから、この内容にのみ焦点を当て作成された。ガイドラインには周術期の抗血栓療法に関する項目が新設 今回の冠動脈疾患患者における抗血栓療法にフォーカスしたガイドラインでは、諸外国と異なっていると言われるわが国の虚血と出血のリスクバランスを考慮し、国内の臨床試験や大規模臨床研究を数多く引用し作成された。今回のアップデートにおける特徴は以下のとおり。1)2019年4月に欧米誌に同時掲載された学術研究コンソーシアムによる高出血リスク患者についてのコンセンサスドキュメント(Academic Research Consortium for High Bleeding Risk:ARC-HBR)を治療戦略のガイドとして採用2)ARC-HBRの評価基準を基に、低体重、フレイル、心不全、透析などのリスク因子を加味した「日本版HBR評価基準」を作成3)急性冠症候群(ACS)と安定冠動脈疾患を併せて冠動脈疾患全般における抗血栓療法とし、また実臨床に即して時系列に沿って項立て4)ガイドラインの必須項目に限定した簡易なフローチャートを作成5)「周術期の抗血栓療法」に関する項目が新設 出血リスクの評価方法については、2018年改訂版のガイドラインでは、ACS、安定冠動脈疾患ともにPRECISE-DAPTスコアが採用されたが、最近、提唱された高出血リスク(HBR)の概念が、出血リスクが高いと言われる東アジアでより実践的と考えられることから、本ガイドラインではHBRの概念が基本戦略として採用された。 今回の冠動脈疾患患者における抗血栓療法にフォーカスしたガイドラインでは他にも、Loadingのタイミングや薬剤選択が明記され、また、HBRをガイドにした抗血栓薬の投薬期間を定められた(短期DAPT後はP2Y12阻害薬単剤を推奨)。さらに、心房細動後のde-escalationについてはエビデンスに基づくものになっている。

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COVID-19への初期診療の手引きが完成/日本プライマリ・ケア連合学会

 日本プライマリ・ケア連合学会(理事長:草場 鉄周)は、3月11日の同連合学会のホームページ上で「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療所・病院のプライマリ・ケア初期診療の手引き」を公開(ダウンロード可能)した。 本手引きは、病院などの療資源の制限されたセッティングでの診療を想定し、理想的な感染管理と現実との間の妥協点の例を案として示すことを目的として、同連合会の予防医療・健康増進委員会の感染対策プロジェクトチームの監修で作成された。一番身近で患者を診る医療者が知っておくべきことを網羅 すでに同じような手引きやマニュアルは、ほかの学会などからも提示されているが、本手引きでは、図表を多用し、感冒症状との鑑別や在宅療養、医療者の感染防御、血液透析施設、訪問診療、高齢者施設などでの感染防御にも触れているのが特徴。 主な手引きの内容は以下のとおり。1.はじめに2.新型コロナウイルス感染症は症状が長く続く3.高齢者と基礎疾患患者の致命率が高い4.感冒様症状への対処法をあらかじめ地域住民や患者に伝える5.感冒様症状の患者には一定期間の在宅療養を促す6.在宅療養における家族内感染リスクの説明7.感冒様症状の患者からの電話相談への対応8.感冒様症状の患者が来院した場合のトリアージと動線分離9.診療時の感染予防策10.診療(診察及び検査等)の実際(軽症かつ発症初期の患者への対応、感染症を疑うときなど)11.医療機関職員の体調管理12.血液透析施設における感染対策13.訪問診療における感染対策14.高齢者施設における感染対策15.感染者の人権擁護及び風評被害対策●参考資料及びウェブサイト また、本手引きは「重要な情報更新があり次第、できるだけ迅速な改定を予定する」としている。

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プロピオン酸血症〔PA:Propionic acidemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義生体内で生じる各種の不揮発酸が代謝障害によって蓄積し、代謝性アシドーシスを主徴とする各種の症状・異常所見を呈する疾患群を「有機酸代謝異常症」と総称する。主な疾患は、分枝鎖アミノ酸の代謝経路上に多く、中でもプロピオン酸血症(Propionic acidemia:PA)は最も代表的なものである。本疾患では、3-ヒドロキシプロピオン酸、メチルクエン酸などの短鎖カルボン酸が体液中に蓄積し、典型的には重篤な代謝性アシドーシスを主徴とする急性脳症様の症状で発症するほか、各種臓器に慢性進行性の病的変化をもたらす。■ 疫学新生児マススクリーニング試験研究(1997~2012年、被検者数195万人)による国内での罹患頻度は約45,000人に1人と、高頻度に発見された。ただし、これには後述する「最軽症型」が多く含まれ、典型的な症状を示す患者の頻度は約40万人に1人と推計されている。■ 病因(図)バリン・イソロイシン代謝経路上の酵素「プロピオニオニル-CoAカルボキシラーゼ(PCC)」の活性低下に起因する、常染色体劣性遺伝性疾患(OMIM#606054)である。PCCはミトコンドリア基質に発現しており、αサブユニットとβサブユニットからなる多量体である。各サブユニットは、それぞれPCCA遺伝子(MIM*232000、局在13q32.3)とPCCB遺伝子(MIM*232050、局在3q22.3)にコードされている。図 プロピオン酸血症に関連する代謝経路画像を拡大する■ 症状典型的には新生児期から乳児期にかけて、重度の代謝性アシドーシスと高アンモニア血症が出現し、哺乳不良、嘔吐、呼吸障害、筋緊張低下などから、けいれんや嗜眠~昏睡など急性脳症の症状へ進展する。初発時以降も同様の急性増悪を繰り返しやすく、特に感染症罹患が契機となることが多い。コントロール困難例では、経口摂取不良が続き、身体発育が遅延する。1)中枢神経障害急性代謝不全の後遺症として、もしくは代謝異常が慢性的に中枢神経系に及ぼす影響によって、全般的な精神運動発達遅滞を呈することが多い。急性増悪を契機に、あるいは明らかな誘因なく、両側大脳基底核病変(梗塞様病変)を生じて不随意運動が出現することもある。2)心臓病変急性代謝不全による発症歴の有無に関わらず、心筋症や不整脈を併発しうる。心筋症は拡張型の報告が多いが、肥大型の報告もある。不整脈はQT延長が本疾患に特徴的である。3)その他汎血球減少、免疫不全、視神経萎縮、感音性難聴、膵炎などが報告されている。■ 分類1)発症前型新生児マススクリーニングで発見される無症状例を指す。そのうち多数を占めるPCCB p.Y435C変異のホモ接合体は、特段の症状を発症しないと目されており、「最軽症型」と呼ばれる。2)急性発症型呼吸障害、多呼吸、意識障害などで急性に発症し、代謝性アシドーシス、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、高乳酸血症などの検査異常を呈する症例を指す。3)慢性進行型乳幼児期からの食思不振、反復性嘔吐などが認められ、身体発育や精神運動発達に遅延が現れる症例を指すが、経過中に急性症状を呈しうる。■ 予後新生児期発症の重症例は、急性期死亡ないし重篤な障害を遺すことが少なくない。遅発例も急性発症時の症状が軽いとは限らず、治療が遅れれば後遺症の危険が高くなる。また、急性代謝不全の有無に関わらず、心筋症、QT延長などの心臓合併症が出現・進行する可能性があり、特に心筋症は慢性期死亡の主要な原因に挙げられている。一方、新生児マススクリーニングで発見された87例(最長20歳まで)の予後調査では、患者の大半が少なくとも1アレルにPCCB p.Y435C変異を有しており、疾患との関連が明らかな症状の回答はなかった。したがって、この群の予後は総じて良好と思われるが、より長期的な評価(特に心臓への影響)には、さらに経過観察を続ける必要がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1)一般血液・尿検査急性期には、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスをはじめ、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、汎血球減少などが認められる。高乳酸血症や血清アミノトランスフェラーゼ(AST・ALT)、クレアチニンキナーゼの上昇を伴うことも多い。2)タンデム質量分析法(タンデムマス、MS/MS)による血中アシルカルニチン分析プロピオニルカルニチン(C3)の増加を認め、アセチルカルニチン(C2)との比(C3/C2)の上昇を伴う。これはメチルマロン酸血症と共通の所見であり、鑑別には尿中有機酸分析が必要である。C3/C2の上昇を伴わない場合は、異化亢進状態(=アセチルCoA増加)に伴う非特異的変化と考えられる。3)ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC/MS)による尿中有機酸分析診断確定に最も重要な検査で、3-ヒドロキシプロピオン酸・プロピオニルグリシン・メチルクエン酸の排泄が増加する。メチルマロン酸血症との鑑別には、メチルマロン酸の排泄増加が伴わないことを確認する。4)PCC酵素活性測定白血球や皮膚線維芽細胞の破砕液を粗酵素源として測定可能であり、低下していれば確定所見となるが、実施しているのは一部の研究機関に限られる。5)遺伝子解析PCCA、PCCBのいずれにも病因となる変異が報告されている。遺伝学的検査料の算定対象である。※ 2)、3)は「先天性代謝異常症検査」として保険診療項目に収載されている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性代謝不全の治療タンパク摂取を中止し、輸液にて80kcal/kg/日以上を確保する。有機酸の排泄促進に静注用L-カルニチンを投与する。未診断の段階では、ビタミンB12反応性メチルマロン酸血症の可能性に対するヒドロキソコバラミン(商品名:フレスミンS)またはシアノコバラミン(同:同名、ビタミンB12ほか)の投与をはじめ、チアミン(同:塩酸チアミン、メタボリンほか)、リボフラビン(同:強力ビスラーゼ、ハイボンほか)、ビオチン(同:同名)などの各種水溶性ビタミン剤も投与しておく。高アンモニア血症を認める場合は、安息香酸ナトリウムやカルグルミン酸を投与する。速やかに改善しない場合は、持続血液透析(CHD)または持続血液透析濾過(CHDF)を開始するか、実施可能施設へ転送する。■ 亜急性期〜慢性期の治療急性期所見の改善を評価しつつ、治療開始から24~36時間以内にアミノ酸輸液を開始する。経口摂取・経管栄養が可能になれば、母乳や育児用調製粉乳などへ変更し、自然タンパク摂取量を漸増する。必要エネルギーおよびタンパク量の不足分は、イソロイシン・バリン・メチオニン・スレオニン・グリシン除去粉乳(同:雪印S-22)で補う。薬物療法としては、L-カルニチン補充を続けるほか、腸内細菌によるプロピオン酸産生の抑制にメトロニダゾールやラクツロースを投与する。■ 肝移植・腎移植早期発症の重症例を中心に生体肝移植の実施例が増えている。食欲改善、食事療法緩和、救急受診・入院の大幅な減少などの効果が認められているが、移植後に急性代謝不全や中枢神経病変の進行などを認めた事例の報告もある。4 今後の展望新生児マススクリーニングによる発症前診断・治療開始による発症予防と予後改善が期待されているが、「最軽症型」が多発する一方で、最重症例の発症にはスクリーニングが間に合わないなど、その効果・有用性には限界も看取されている。また、臨床像が類似する尿素サイクル異常症では、肝移植によって根治的効果を得られるが、本疾患では中枢神経障害などに対する効果は十分ではない。これらの課題を克服する新規治療法としては、遺伝子治療の実用化が期待される。5 主たる診療科小児科・新生児科が診療に当たるが、急性期の治療は、先天代謝異常症専門医の下、小児の血液浄化療法に豊富な経験を有する医療機関で実施することが望ましい。成人期に移行した患者については、症状・病変に応じて内分泌代謝内科、神経内科、循環器内科などで対応しながら、小児科が並診する形が考えられる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本先天代謝異常学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本マススクリーニング学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)タンデムマス・スクリーニング普及協会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)先天代謝異常症患者登録制度JaSMIn(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)島根大学医学部小児科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)福井大学医学部小児科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立成育医療研究センター研究所マススクリーニング研究室(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報有機酸・脂肪酸代謝異常症の患者家族会「ひだまりたんぽぽ」(患者とその家族および支援者の会)1)日本先天代謝異常学会編集. 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン. 診断と治療社;2019.2)山口清次編集. よくわかる新生児マススクリーニングガイドブック. 診断と治療社; 2019.公開履歴初回2020年03月02日

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世界のCKD患者、27年間で3割増/Lancet

 2017年の世界の慢性腎臓病(CKD)の推定有病率は9.1%で、1990年から29.3%増大していたことが明らかにされた。また、同年の全世界のCKDによる推定死亡者数は120万人に上ることも示され、CKDの疾病負荷は、社会人口指数(SDI)五分位のうち低いほうから3つに該当する国に集中しているという。イタリア・Mario Negri研究所のBoris Bikbov氏ら「GBD Chronic Kidney Disease Collaboration」研究グループが、システマティックレビューとメタ解析の結果を報告した。ヘルスシステムの計画策定には、CKDを注意深く評価する必要があるが、CKDに関する罹患率や死亡率といったデータは乏しく、多くの国で存在すらしていないという。研究グループは、世界的、および地域、国ごとのCKDの疾病負荷の状況、さらには腎機能障害に起因した心血管疾患および痛風の疾病負荷を調べるGlobal Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study 2017を行った。Lancet誌オンライン版2020年2月13日号掲載の報告。CKDの罹患率や有病率を透析や腎移植に関するデータから推算 研究グループは、PubMedやEmbaseを基にシステマティックレビューを行い、1980年以降に発表された研究結果を選び出した。また、2017年までに報告された腎代替療法に関する年間レジストリから、透析や腎移植に関するデータを抽出した。 それらのデータを基に、Cause of Death Ensembleモデル(CODEm)とベイズ・メタ回帰分析ツールを用いて、CKDの罹患率や有病率、障害生存年数(YLD)、死亡率、損失生存年数(YLL)、障害調整生存年数(DALY)を推算した。比較リスク評価アプローチにより、腎機能障害に起因する心血管疾患の割合や痛風の負荷についても推算した。1990~2017年でCKD有病率は3割増加した 2017年の全世界のCKDによる推定死亡者数は、120万人だった(95%不確定区間[UI]:120万~130万)。1990~2017年にかけて、CKDによる世界の全年齢死亡率は41.5%(95%UI:35.2~46.5)増加したが、年齢調整死亡率に有意な変化はなかった(2.8%、-1.5~6.3)。 2017年のステージを問わない全世界の推定CKD症例数は6億9,750万例(95%UI:6億4,920万~7億5,200万)で、全世界の有病率は9.1%(95%UI:8.5~9.8)だった。その3分の1は、中国(1億3,230万例、95%UI:1億2,180万~1億4,370万)とインド(1億1,510万例、1億680万~1億2,410万)で占められていた。また、バングラデシュ、ブラジル、インドネシア、日本、メキシコ、ナイジェリア、パキスタン、ロシア、米国、ベトナム各国のCKD症例数がいずれも1,000万例超だった。195ヵ国のうち79ヵ国において2017年のGBDにおけるCKDの有病症例が100万例超だった。 全世界の全年齢CKD有病率は、1990年から29.3%(95%UI:26.4~32.6)増加した一方で、年齢調整有病率は安定的に推移していた(1.2%、-1.1~3.5)。 CKDによる2017年のDALYは3,580万DALY(95%UI:3,370万~3,800万)で、その約3分の1は糖尿病性腎症によるものだった。また、CKDの疾病負荷のほとんどが、SDIの五分位のうち低いほうから3つに該当する国に集中していた。 腎機能障害に起因する心血管疾患関連死は140万例(95%UI:120万~160万)、心血管疾患DALYは2,530万例(2,220万~2,890万)と推定された。 結果を踏まえて著者は、「腎疾患は、世界の人々の健康に重大な影響を与えており、世界の罹患や死亡の直接的な要因であり、心血管疾患の重大なリスク因子となっている」と述べ、「CKDの多くは予防および治療が可能であり、世界のヘルス政策の意思決定で最も注目に値するものである。とくに低・中SDIの国や地域では注視すべきである」とまとめている。

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災害診療に影響大なエネルギー、電気よりも…

 病院などの医療・福祉施設は、災害時に診療機能の継続が急務となる。また、高齢者を含む災害弱者を預かる責務を負うため、電気や水道、ガスなどのライフライン確保が求められる。この時、災害時の病院を稼働させるために忘れてはならないものーそれは石油である。 2020年1月23日、「防災の専門家と考える自然災害時の施設のリスクと備えを学ぶセミナー」が開催され、野口 英一氏(戸田中央医科グループ災害対策室長)が「自然災害時の社会的重要インフラ機能障害と対応策-業務機能継続の観点から-」について講演した(主催:全国石油商業組合連合会)。電気復旧、早くても7~14日は要する 気象庁が公開する、気象庁震度階級関連解説表(震度階とライフライン・インフラ等への影響1))には、『震度5弱程度以上の揺れがあった地域では、停電が発生することがある』と、統計的データに基づいた内容が示されている。 これを踏まえ、野口氏は過去の事例として、1995年に発生した阪神淡路大震災時の診療機能に係る被害状況(診療可能状況 神戸市内等182病院)2)を提示。「震災当日は手術や人工透析など、水道設備が必要な部門ほど対応に苦慮していた」と当時を振り返り、診療機能の低下要因として、上水道や電気、そしてガスの供給不能を挙げた。 当時は水道や都市ガスの完全復旧に約2ヵ月以上も要した。それに比べ、電気は震災後7日目に復旧するという目を見張る早さだったという。しかし、ほかの災害時にも同様の復旧が見込めるわけではなく、たとえば、2019年10月に発生した台風19号による被害では、電気の復旧に約2週間も要している。このことから、同氏は「阪神淡路大震災当時は電力会社の活躍が大きかった。しかし、ほかの震災では電力不足が一番の問題であった」と述べ、災害時に備えて「復旧までの期間は自家発電装置活用による施設ごとの対応が重要」と強調した。医療機器を稼働させるのに必要な電力量は? 災害時に電力が必要な医療活動はさまざまあるが、とくにトリアージや救急患者の手術などが優先活動として挙げられる。同氏は「トリアージには1kVA、救急患者手術には30kVA、救急患者入院には12kVAの電力を要する」とし、この状況下で利用される医療機器について「シリンジポンプは家電製品と同レベルの消費電力なので問題ないが、X線の平均消費電力は医療機器で最も高く、IH調理器の約12倍に相当する。」とコメント。一方で、被災者や入院患者の状態に最も影響するのは空調設備であるものの、「これが一番制限されてしまう」と述べた。発電に必要なのは石油 災害時の電力供給に重要な役割を担うのが自家発電装置であるが、これを稼働させるには石油の備蓄も重要である。仮に自家発電装置で72時間も電力を持続させるには、施設内に大型の石油保管用地下タンクが必要となる。都市部で地下タンクの設置は厳しいため、最寄りの石油販売業者から取り寄せなければならないが、これに対し同氏は「東日本大震災時は石油出荷拠点のほとんどが被災し、出荷不可能な日が続いた」と述べ、「災害時の石油需要は医療施設だけではない。緊急車両や災害対応車両用、避難所の給油・暖房用としてもニーズがある。医療施設には給油の優先ルールがないため、本来であれば自施設での72時間分の燃料備蓄が望まれる。しかし、消防法の規制などで備蓄が難しい場合には、外部から確実に調達できる方法が必要であり、そのためには日頃から地域の石油販売業者との関係性が大切」と、罹災に備えた地域交流の重要性を訴えた。

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MRSA、バンコマイシン/ダプトマイシンへのβラクタム系追加投与は?/JAMA

 MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)菌血症患者に対し、バンコマイシンまたはダプトマイシン静脈投与による標準治療にβラクタム系抗菌薬を追加投与しても、90日時点の複合アウトカムおよび全死因死亡について、有意な改善は認められないことが示された。オーストラリア・Peter Doherty Institute for Infection and ImmunityのSteven Y C Tong氏らが、約350例の患者を対象に行った無作為化試験で明らかにした。MRSA菌血症による死亡率は20%超となっている。これまで標準治療+βラクタム系抗菌薬による介入が死亡率を低下することが示されていたが、検出力が十分な無作為化試験による検討はされていなかった。JAMA誌2020年2月11日号掲載の報告。標準治療に加えβラクタム系抗菌薬を7日間投与 研究グループは2015年8月~2018年7月にかけて、4ヵ国27病院でMRSA菌血症が確認された成人患者352例を対象に、非盲検無作為化試験を開始し、2018年10月23日まで追跡した。 被験者を無作為に2群に分け、一方には標準治療(バンコマイシンまたはダプトマイシン)に加えβラクタム系抗菌薬(flucloxacillin、クロキサシリン、セファゾリンのいずれか)を静脈投与した(174例)。もう一方の群には、標準治療のみを行った(178例)。 合計治療日数については担当臨床医の判断とし、またβラクタム系抗菌薬投与は7日間とした。 主要エンドポイントは、90日時点における死亡、5日時点の持続性菌血症、微生物学的再発、微生物学的治療失敗の複合エンドポイントとした。 副次アウトカムは、14日、42日、90日時点の死亡率と、2日、5日時点の持続性菌血症、急性腎障害(AKI)、微生物学的再発、微生物学的治療失敗、抗菌薬静脈投与期間などだった。主要エンドポイント発生はともに約4割 試験は当初440例を登録する予定だったが、同試験のデータ・安全性モニタリング委員会は安全性への懸念から、試験の早期中止を勧告。無作為化を受けた被験者は352例であった。被験者の平均年齢は62.2歳、女性は34.4%、試験を完了したのは345例(98%)だった。 主要エンドポイントの発生は、βラクタム群59例(35%)、標準治療群68例(39%)だった(絶対群間差:-4.2ポイント、95%信頼区間[CI]:-14.3~6.0)。事前に規定した副次評価項目9項目のうち、7項目で有意差がなかった。 90日全死因死亡は、βラクタム群35例(21%)vs.標準治療群28例(16%)(群間差:4.5ポイント、95%CI:-3.7~12.7)、5日時点の持続性菌血症発生率はそれぞれ11% vs.20%(-8.9ポイント、-16.6~-1.2)であり、また、ベースライン時に透析を受けていなかった被験者におけるAKIの発生率は23% vs.6%(17.2ポイント、9.3~25.2)だった。 結果について著者は、「安全性への懸念から試験が早期に中止となったこと、介入を支持する臨床的に意義のある差異が検出されなかったことを考慮して、所見を解釈すべきであろう」と述べている。

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新型コロナウイルス受診の目安を発表/厚生労働省

 国内での新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される中、先日開催された内閣の新型コロナウイルス感染症専門家会議で議論された「新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安」が、2月17日に厚生労働省より発表された。主な目的は、国民の新型コロナウイルスへの不安の鎮静化と検査や診療による医療機関への過度な集中を防ぐためのものである。 具体的な相談・受診の目安として、「風邪の症状や37.5℃以上の発熱が4日以上続く」「強いだるさや息苦しさがある」、また、「高齢者や基礎疾患(糖尿病、心不全など)があり、前記の2つの症状が2日程度続く」という人は、各都道府県に設置されている帰国者・接触者センターへの相談を要請している。 同省では、同時に「国民の皆さまへのメッセージ」として風邪や季節性インフルエンザ対策と同様に各自の咳エチケットや手洗いなどの実施による感染症対策の励行のほか、症状がある人には「帰国者・接触者相談センター」への相談を呼び掛けている。また、国民向けに啓発資料として「マスクについてのお願い」「一般的な感染症対策について」「手洗いについて」「咳エチケットについて」なども掲載されている。 なお、症状に不安がある場合など、一般的な問い合わせ先も掲載されている。・厚生労働省 相談窓口 電話番号:0120-565653(フリ―ダイヤル) 受付時間9:00~21:00(土日・祝日)・電話でのご相談が難しい方 FAX:03-3595-2756新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安1.相談・受診の前に心がけていただきたいこと○発熱等の風邪症状が見られるときは、学校や会社を休み外出を控える。○発熱等の風邪症状が見られたら、毎日、体温を測定して記録しておく。2.帰国者・接触者相談センターに御相談いただく目安○以下のいずれかに該当する方は、帰国者・接触者相談センターに御相談ください。 ・風邪の症状や37.5℃以上の発熱が4日以上続く方 (解熱剤を飲み続けなければならない方も同様です) ・強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある方○なお、以下のような方は重症化しやすいため、この状態が2日程度続く場合には、帰国者・接触者相談センターに御相談ください 。 ・高齢者 ・糖尿病、心不全、呼吸器疾患(COPD等)の基礎疾患がある方や透析を受けている方 ・免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方 (妊婦の方へ) 妊婦の方については、念のため、重症化しやすい方と同様に、早めに帰国者・接触者相談センターに御相談ください。 (お子様をお持ちの方へ) 小児については、現時点で重症化しやすいとの報告はなく、新型コロナウイルス感染症については、目安どおりの対応をお願いします。○なお、現時点では新型コロナウイルス感染症以外の病気の方が圧倒的に多い状況であり、インフルエンザ等の心配があるときには、通常と同様に、かかりつけ医等に御相談ください。3.相談後、医療機関にかかるときのお願い○帰国者・接触者相談センターから受診を勧められた医療機関を受診してください。複数の医療機関を受診することはお控えください。○医療機関を受診する際にはマスクを着用するほか、手洗いや咳エチケット(咳やくしゃみをする際に、マスクやティッシュ、ハンカチ、袖を使って、口や鼻をおさえる)の徹底をお願いします。(厚生労働省 新型コロナウイルス感染症についてのサイトより引用)

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第37回 高電位(差)の基準、いくつ知ってる?(前編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第37回:高電位(差)の基準、いくつ知ってる?(前編)ボクが提唱する「系統的判読」。“クルッと”の部分では、Q波に続いてスパイク状のR波をチェックします。ここは「向き」「高さ」「幅」の3項目を見ますが、今回と次回で「高さ」、とくに“高すぎる”異常を取り上げます、まずはこれまでの復習も兼ねて、伏線となる知識をDr.ヒロがレクチャーします!症例提示35歳、男性。腎移植後の急性拒絶反応のため、血液透析を再導入。その後、10年以上維持透析中。特別な自覚症状はなし。血圧150/90mmHg、脈拍82/分。Hb:11.9g/dL、BUN:67mg/dL、Cre:14.2mg/dL、K:4.8mEq/L。定期検査として施行された心電図を示す(図1)。(図1)定期検査の心電図画像を拡大する【問題1】心電図(図1)において、QRS電気軸を求め、定性的評価も加えよ。解答はこちら「-50°」、左軸偏位解説はこちら今回は、若年ながら長期間の血液透析を受けている男性の心電図を扱います。レクチャーのポイントとして2つ用意しました。まずは1つ目、電気軸。“ドキ心”のでは、Dr.ヒロが開発した“トントン法”あるいはその進化版(Neo)を利用して求めますよ。忘れている方は、第9回と第11回を見直してくださいね。“QRS電気軸の求め方を覚えてますか?”久しぶりに登場した「QRS電気軸」ですが、皆さんの印象はどうですか?“難しい”や“ニガテ“という声も聞くので、簡単に復習しておきましょう。定性的な評価というのは「~軸偏位」という呼び方のことですね。I誘導とaVF誘導のQRS波の「向き」を見ればいいのです。aVFの代わりにII誘導(時にIII誘導も)が用いられますが、ニサンエフはみんな“ご近所”なので肢誘導界(第5回)における方向性は、ほぼ同じです。今回の心電図(図1)では、QRS波はIが上向き、aVFもIIも共に下向きとなっているので、このパターンは「左軸偏位」と呼ぶのでした(第8回)。次の円座標をもう一度復習しておきましょう(図2)。(図2)肢誘導の世界とQRS電気軸画像を拡大する次に定量的な議論はできますか? これは電気軸の角度を「~°」と具体的な数値として求めることを意味します。一般的には自動診断で表示される値を見るでしょうか。今回は図1のQRS軸部分を伏せておきましたが、「QRS軸:-47°」と記録されており、これを転記するのも一手です(Dr.ヒロ流に言うと“カンニング法”)ただ、この方法、「本当に機械は正しいのだろうか」という一抹の不安があります。とくに、さまざまなQRS波形が混在するような心電図の場合、ボクは心電計の電気軸推定の精度は万全ではないという印象を持っています。やはり“人の目”が入ることが大切で、そのための知恵を持っておく必要があります。ドキ心で言うならば、それは“トントン法”やそれの進化バージョンである“トントン法Neo”ですね。肢誘導界の乗っている前額断[冠状断]の円座標をaVL誘導から時計回りに目で追ってみましょう。aVL → I → 「-aVR」 → II → aVF → III ・・・このような並びは「カブレラ配列」(Cabrera sequence)と呼ばれますが、この配列の名前を覚えなくとも円座標さえ頭に描ければ、それで十分です。(図3)リバイバル! トントン法Neo画像を拡大する「-aVR」とはaVRを上下反転させた誘導で、これを導入すると各肢誘導を見事に30°ずつ対応させることができます。トントン法では、上向き・下向きが等しくなる“トントン・ポイント”(TP)を見つけるのがミソでしたが、QRS軸の向きの逆転は「-aVR」(+30°)と「II」(+60°)の間で起きており、TPは10°刻みでよりトントンに近い「-aVR」寄り、すなわち「+40°」と予想されます(第11回)。あとは、±90°方向転換させることでIが上向きになる方向を選ぶと…「-50°」が求める電気軸となります。「へぇ~、すごいじゃん!」…そう思ってもらえたら嬉しいです。【問題2】以下のうち、心電図(図1)の正しい診断を選べ。1)完全右脚ブロック2)完全左脚ブロック3)左脚前枝ブロック4)左脚後枝ブロック5)仮装脚ブロック解答はこちら 3)解説はこちらさて2問目。オマケ問題を出題しました。ここでもまだテーマの「QRS波高」は登場せず、「向き」と「幅」に関連する事項を問うています。選択肢には「~ブロック」が5つもあって ややこしいですよね。さらに「洞ブロック」や「房室ブロック」など…心電図の世界では、このようにさまざまな“ブロック塀”が学習者の行く手を阻みます(笑)。若かりし頃、ボクもだいぶ苦労したなぁと思い返します。最も有名なのは1)と2)で、「心室内伝導障害」の“2大スター”です。QRS幅がワイド(120ms以上)になり、いわゆる「脚ブロック」と言えば、普通はこの2つを指します。でも今回の心電図のQRS幅は100ms前後(自動計測値103ms)であり、該当しません。また、一つだけやや毛色が変わった5)のブロック。この用語を知っていますか? 詳細は省きますが、これは「右脚ブロック」と「左脚ブロック」とが“チャンポン”されたようなまれな異常で、一部の心疾患で見られます。心電図としても面白い波形なので、いずれ機会があったら扱いましょう。ここで扱いたいのは、前問で解説した軸偏位と深い関係性のある「束枝ブロック」で、代表的な3)と4)について説明したいと思います。“刺激伝導系のおさらい”話がQRS波の「高さ」から脱線して恐縮ですが、これも次回の本論の“伏線”として大事な事項なんです。「左脚前枝ブロック」(LAFB)と「左脚後枝ブロック」(LPFB)は、いわゆる「束枝ブロック」(fascicular block)と呼ばれるものです。ここで今一度、「脚(きゃく)」についての解剖学的な基礎知識を整理します。刺激伝導系は、房室結節、ヒス(His)束を越えて心室内で右脚と左脚に分かれ、左脚はさらに左室前上方を走る「前枝」と後側方に向かう「後枝」という2本の束枝(fascicle)に枝分かれします1)。前者の伝導が途切れたのが「左脚前枝ブロック」(LAFB)、後者なら「左脚後枝ブロック」(LPFB)と言います。実はもう一つ、「中隔枝」*という脚枝があるそうです。“3本目”の束枝、あるいは「後枝」から分かれて、文字通り心室中隔につながる“電線”との理解で良さそうです(個々人でバリエーションがある)。ただ、事の心電図に関しては、「左脚は2分枝」と考えたほうが理解しやすく、冠動脈と同じく、脚も「右1本、左2本」という構造なんだと理解することをオススメします。なお、教科書などによっては「ヘミブロック」(hemiblock)と記載されている場合がありますが、これも束枝ブロックとほぼ同義と考えて良いと思います。*:ときどき「“左脚中隔枝ブロック”の心電図所見」などという記載を目にしますが、マニアック過ぎて大半の人は“見なかった”ことにしてOKだと思っています。“左軸偏位の程度分類は?”実臨床で問題になる束枝ブロックの大半は「LAFB」なので、こちらだけ診断できれば十分でしょう(慣れると「後枝」のほうはほぼ“その逆”と理解できる)。「LAFB」の診断ポイントは“高度の”左軸偏位に尽きると言っても過言ではありません。この「高度の」部分が理解できるかが大切です。以前、「-30~0°」のゾーンを「軽度の左軸偏位」と言いました(第8回)。では、残りの「中等度」、そして「高度」はどこで区切るのでしょうか。本来なら「-90°」まで30°ずつ刻めば良いのですが、Dr.ヒロのオススメは「-45°」(数字としては大きくなることに注意)を「高度」と「中等度」の境界とするルールです。つまり、-30~0° … 軽度   -45~-30° … 中等度   -90~-45° … 高度ということです。「中等度」に関しては、ボク自身は単に「左軸偏位」と呼んでいますけどね。これを理解すると、「LAFB」では、「高度」(-45°以下)の左軸偏位がマストということになります。なので、正確に言うと、自分で電気軸が求められない人は「LAFB」と原理的に診断できないのです(半定量的な議論はできるかもしれませんが)。その点“トントン法Neo”がいかにすごい手法か、実感してもらえるんじゃないかな~。“左脚前枝ブロックの心電図診断”さて、皆さんがお持ちの教科書で「左脚前枝ブロック」の診断基準を確認してみましょう。 QRS電気軸の範囲が示されている時点で初学者への“殺傷能力”はハンパないのですが、ほかにいくつかの条件が書かれていると思います。代表的な診断基準を踏まえ、ボク流にアレンジしたものを以下に示します。■左脚前枝ブロック(LAFB)の診断■1. 高度の左軸偏位:-90°<QRS電気軸≦-45°2.(I)aVLで「qR型」(上向き:左室パターン)3.(II)III(aVF)で「rS型」(下向き:右室パターン)ほかに若干の注意事項はあるものの、メインは上の3つ1~3です。慣れてないと相当複雑に感じますよね。でも大丈夫。あくまでも1が診断の肝と強調しておきます。2はイチエル(I、aVL)、3はニサンエフ(II、III、aVF)に関するものです。ここで確認。「左軸偏位」である以上、QRS波はI誘導が上向き、そしてaVF(IIも)は下向きなはずですよね? かつて「正常なQRS波形は2パターンしかない!」と述べた時に紹介した「左室パターン」と「右室パターン」の話を思い出してください(第17回)。「左室パターン」とは、側壁誘導のイチエルゴロク(I、aVL、V5、V6)で見られる「qR型」波形で、左室興奮を間近で観察するため立派な上向き「R波」が特徴でした。一方、「右室パターン」とは、右室興奮の反映ではなく、左室興奮を側壁誘導の反対側(右室側≒右方)から眺めた下向きの「rS型」QRS波形のことでした。これはちょうど左室パターン(qR型)を上下逆さまにした波形になっています。「LAFB」にはこの2つの波形がそのまま登場します。つまり上向きのI(およびaVL)では「qR型」(左室パターン)となり、下向きのII・aVF(およびIII)が「rS型」となるのです。ね、覚える必要などないでしょ?(図2)を見てもらうと、今回の心電図が見事にこの基準を満たしているんです。細かいことを言うと、かっこ書きした「aVL」が「qR型」でその対側**の「III」が上下反転させた「rS型」というのが実は必須条件で、軸偏位との兼ね合いで解説したIやII・aVFは「“ご近所”は波形が似てる」というルールで理解するというのが根源的な理解なのですが。まぁ、でも都合良く考えた者勝ちですね。**:心筋梗塞の診断で用いる「対側誘導」を思い出しましょう。ちなみに、この「LAFB」の心電図診断について、拙著では“覚えなくていい診断基準”の代表として取り上げています2)。“関連知識も少々”「LAFB」の診断ができるようになれば、ひとまず今回の目的は達成ですが、最後に次回につながる関連知識を述べて終わります。一般的に病的意義がさほど高くないと言われる「LAFB」ですが、心電図的には興味深い点(a~d)があります。【左脚前枝ブロック(LAFB)の関連知識】(a)QRS幅は正常~軽度延長(120msは越えない)(b)肢誘導のQRS波高が“伸びる”(c)胸部誘導のQRS波形にも影響が及ぶことも(d)「下壁梗塞」では診断できない!まず、(a)。「LAFB」の場合、後枝経由の伝導があるため、右脚・左脚ブロックのようにQRS幅がワイド(≧120ms[0.12秒])とはなりません。ただ、一部に遅延伝導があるのは事実であり、パッと見“ややワイド”くらいになることもしばしばです(たくさん見るとわかってくるでしょう)。2つ目の(b)。「LAFB」では、心室内の電気の流れが正常でなくなるため、QRS波高に影響が出ます。とくにaVLが代表的で、心筋重量増加がなくても縦方向に“伸びる”傾向があり、いわゆる「左室高電位(差)」の診断時に注意が必要になるのです3)。この点を次回取り上げます。(c)については、「LAFB」の波形変化は基本的に肢誘導の乗っている前額断(冠状断)で完結して欲しいのですが、ときに胸部誘導(水平断)にも異常が波及します***。そして、最後(d)。下壁領域の心筋梗塞になると、ニサンエフで「異常Q波」が出ますが(第35回)、このQ波が深くなってキツめの左軸偏位を呈しても、「LAFB」とは言いません。原理的に下壁誘導のQRS波形が「rS型」にならないため、上記診断(1)~(3)を意識すれば誤診することはないですが…(仮にあっても)「診断できない」というのが真実のようです。***:R波の増高不良(V1~V3)や時計回転(V5、V6でR波高が小さく深いS波あり)など…これを知っている方は完全な“物知り”です。以上、軽視されがちな「LAFB」について、どこよりも熱いレクチャーをお届けしました。次回は同じ症例を用いて、QRS波高について考えたいと思います。お楽しみに!Take-home Message具体的なQRS電気軸の数値が知りたければ、“トントン法Neo”がベストな方法かも!?「左脚前枝ブロック」は強い左軸偏位が最大の特徴!1:Elizari MV, et al. Circulation. 2007;115:1154-1163.2:杉山裕章. 心電図のはじめかた. 中外医学社;2017.p.25-37.3:Hancock EW, et al. Circulation. 2009 Mar 17.[Epub ahead of print]【古都のこと~御香宮神社】2月初旬の休日、雪の舞う早朝に家を出て職場で残務を終え、予定通り伏見に向かう頃には晴れていました。お目当ては御香宮神社。“ごこうぐう”とも“ごこうのみや”とも読みます。創建年は不明ですが、元は「御諸(みもろ)神社」と称していました。平安時代の貞観4年(862年)に境内から「香」の良い水が湧き出たことを奇瑞に、清和天皇より「御香宮」の名を賜ったのだそう。今でも手水舎に「御香水」*1が使用されているので、それで手を清めます。うーん、冷たい。そしてクンクン(笑)。ここは神功皇后*2を主祭神とし、安産・子育ての御神徳があるとされます。実際、子供を授かったであろうカップルにも何組か出会いました。そんな母性的な反面、御香宮は“天下人”にも愛されたのでした。豊臣秀吉が伏見城の築城の際、城内に鬼門除けの神として勧請し*3、後に徳川家康が元の位置に戻して本殿を造営しています*4。たしかに造り・装飾は “ド派手”、言い換えれば豪壮華麗の桃山様式です。拝殿にお参りをしたら、忘れずに社務所に立ち寄りましょう。伏見奉行であった小堀遠州(政一)ゆかりの素敵な石庭に出会えます。城南宮(第35回)でも登場した中根金作*5の手にかかったものだそう。床の間で再び神功皇后の人形に拝礼し、何かホッコリ、伏見を満喫して帰途に就きました。*1:社名の由来となった清泉「石井の御香水」は伏見の七名水の一つ。徳川家も産湯に使ったとされる。昭和61年(1986年)、「名水百選」にも選ばれた。*2:日本第一安産守護之大神。応仁天皇の母。*3:拝殿が御車寄の拝領というのは伝え誤りとされるが、表門は伏見城大手門(重要文化財)の遺構。*4:慶長10年(1605年)、板倉勝重を請奉行として着手建立された。重要文化財。*5:中根造園研究所前所長

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長期透析中AF患者へのDOAC、臨床的メリットは

 脳卒中リスク低減のため、心房細動(AF)には直接経口抗凝固薬(DOAC)が推奨されているが、長期間に渡って透析治療を受けている患者は出血リスクが高く、臨床的メリットは不明である。米国・マウントサイナイ・ベスイスラエル病院の工野 俊樹氏らは、長期透析中のAF患者に対するDOACの有効性および安全性についてネットワークメタ解析の手法を用いて調査を行った。Journal of American College of Cardiology誌オンライン版2020年1月28日号に掲載。DOACが長期透析中のAF患者の血栓塞栓症のリスク低下と関連しない 本調査では、2019年6月10日までにMEDLINEおよびEMBASEに登録された文献データを検索。その結果、AFのある長期透析患者に関する16件の観察研究(7万1,877例)が特定され、うち2件がDOACについて調査を行っていた。有効性のアウトカムは、虚血性脳卒中/全身性血栓塞栓症(SE)および全死因死亡、安全性のアウトカムには大出血だった。ただし、ダビガトランとリバロキサバンのアウトカムは、主要な出血イベントに限定されていた。 長期透析中AF患者へのDOACの有用性について調査した主な結果は以下の通り。・アピキサバンとワルファリンは、抗凝固薬なしと比べ脳卒中/SEの有意な減少と関連していなかった(アピキサバン5mg;ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.30〜1.17、アピキサバン2.5mg;HR:1.00、95%CI:0.52~1.93、ワルファリン;HR:0.91、95%CI:0.72~1.16)。・アピキサバン5 mgは、死亡リスクが有意に低かった(vs.ワルファリン;HR:0.65、95%CI:0.45~0.93、vs.アピキサバン2.5 mg;HR:0.62、95%CI:0.42~0.90、vs.抗凝固薬なし;HR:0.61、95%CI:0.41~0.90)。・ワルファリンは、アピキサバン5mg/2.5mgおよび抗凝固薬なし、よりも大出血のリスクが有意に高かった(vs.アピキサバン5mg;HR:1.41、95%CI:1.07~1.88、vs.アピキサバン2.5mg;HR:1.40、95%CI:1.07~1.8、vs.抗凝固薬なし;HR:1.31、95%CI:1.15~1.50)。・ダビガトランおよびリバロキサバンは、アピキサバンおよび抗凝固薬なしよりも重大な出血リスクが有意に高かった。 今回のネットワークメタ解析では、DOACが長期透析中のAF患者の血栓塞栓症のリスク低下と関連しないことを示しており、ワルファリン、ダビガトラン、およびリバロキサバンは、アピキサバンおよび抗凝固薬なしと比べ有意に高い出血リスクと関連していた。著者らは、「透析中のAF患者の抗凝固薬に関してはアピキサバンの有効性と安全性を調べたランダム化試験が必要であり、ワルファリンとの比較だけではなく抗凝固薬なしとの比較も必要である」と述べている。

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