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治療の幅が拡大した再生不良性貧血

 2017年10月16日、ノバルティス ファーマ株式会社は、同社のエルトロンボパグ オラミン(商品名:レボレード)およびシクロスポリン(同:ネオーラル)が、2017年8月25日に再生不良性貧血へ適応が拡大されたことから、「再生不良性貧血のメディカルニーズに対応する“輸血フリー”実現に向けた最新治療戦略 ~9年ぶりの治療選択肢の登場で変わる新たな薬物療法~」をテーマに、都内においてメディアセミナーを開催した。いまだに機序は不明の難病 はじめに中尾 眞二氏(金沢大学 医薬保健研究域医学系 血液・呼吸器内科教授)が、「再生不良性貧血の病態と最新の治療」と題して、再生不良性貧血(AA)の病態、診療、治療の現在と展望について講演を行った。 一般に「貧血」とは赤血球が不足し、体内に十分な酸素が行き渡らない状態で、鉄欠乏性貧血が最も多くみられる。AAでは、造血幹細胞が外的に傷害され、赤血球、白血球、血小板がともに減少するが、その正確な機序はいまだ不明であるという。 血液が作られないことから、貧血からくるめまい、倦怠感、動悸・息切れ、易感染による発熱、出血傾向などが症状としてみられる。また、眼瞼が白くなる、体幹部の点状出血、壊疽ができるなどの身体所見も観察される。 AAの診断基準としては、好中球、ヘモグロビン、血小板の値、骨髄の低形成(細胞の密度が低い)、除外診断などの項目が挙げられ、各種検査により確定診断がなされる。そして、AAでは重症度を「1.軽症、2.中等症、3.やや重症、4.重症、5.最重症」の5つに分類し、各重症度によって異なった治療が行われる。予後の改善が図られ、今では5年生存率も90% AAの治療では、造血機能を改善する治療として、免疫抑制療法(抗胸腺細胞グロブリン[ATG]、シクロスポリン投与)、タンパク同化ステロイド療法、造血幹細胞移植、エルトロンボパグ療法が行われる。また、支持療法として成分輸血(重症度「3.やや重症」から必要)や顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、鉄キレート剤の投与も行われている。 60年ほど前までAAの患者の約半数は6ヵ月程度で亡くなるなど、予後がきわめて悪い疾患だったが、免疫抑制療法などの治療で現在は5年生存率が90%と向上し、寛解率も6割程度を維持しているという。 治療のポイントとして、血幹細胞が枯渇する前に治療を開始することが重要で、「免疫抑制療法で、軽症例からシクロスポリンが使用できるようになったことは意義が大きい」と中尾氏は語る。これにより、難治例の減少や医療費を抑えることもできると期待を寄せている。 ここで問題なのが、免疫抑制療法では、血球減少パターンで効果が異なることである。血小板減少と貧血が併存する場合に効果は発揮されるが、好中球減少と貧血の場合、効果はそれほどでもないという。 こうした、免疫抑制療法の治療抵抗性のある患者や高齢の患者への治療となるのが、エルトロンボパグ療法である。エルトロンボパグは、巨核球や骨髄前駆細胞の増殖や分化を促進することで血小板を作る。臨床試験によると、21例(非重症15例、重症6例)に25~100mgのエルトロンボパグを6ヵ月投与した結果、10例に一血球系統の増加がみられ、血小板輸血の6例中4例で、赤血球輸血の19例中9例で輸血が不要となった。副作用は、3例に染色体異常が出現したが重篤なものはなく、有害事象としては軽度なもので鼻咽頭炎、肝機能障害、蕁麻疹などが報告されている(承認時資料より)。 同氏は、「エルトロンボパグの登場で、輸血や骨髄移植の不要、奏効も期待できる」と今後の治療に期待を寄せる。実際、同氏が示した試案ではエルトロンボパグの適応として、「あらゆる治療を受けてきたが定期的な輸血が必要」な患者または「ATG療法が予定されている70歳以上で重症度3以上」の患者に適応度が高いと説明する。その一方で使用に際し、「晩期の副作用は未知の部分が多いので、定期検査を受けることが重要であり、若年者の初回ATG治療例では、エルトロンボパグを併用する必要があるかどうか、慎重に判断しなければならない」と注意を喚起し、レクチャーを終えた。 引き続いて、AAの患者会の患者と中尾氏の対談が行われた。その中で患者からは、「AAという疾患の詳しい説明がされず不安であったこと、見た目では健康にみえることで誤解され困っていること、AAという疾患が医師などの間でも十分知られておらず不便もあること」などが語られた。■参考再生不良性貧血.com■関連記事希少疾病ライブラリ 再生不良性貧血

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ロボット支援下腎摘の合併症頻度、コストは?/JAMA

 米国では2003~15年までに、根治的腎摘出術に占めるロボット支援下施術の割合が1.5%から27.0%へと大幅に増加したが、合併症の発生率増加との関連はみられなかったことが明らかになった。一方で、ロボット支援下根治的腎摘出術は腹腔鏡下根治的腎摘出術に比べ、手術時間が長く、いわゆるホスピタルフィーの病院コストの増大と関連していた。米国・スタンフォード大学のIn Gab Jeong氏らが、米国内416ヵ所の病院を対象に行ったコホート試験の結果で、JAMA誌2017年10月24日号で発表された。術後合併症の発生率や医療資源の使用を比較 研究グループは2003年1月~2015年9月にかけて、米国内416ヵ所の病院で行われた根治的腎摘出術について、Premier Healthcareデータベースを用いて後ろ向きコホート試験を行い、ロボット支援下根治的腎摘出術と腹腔鏡下根治的腎摘出術の実施率やアウトカムについて分析した。 主要アウトカムは、ロボット支援下根治的腎摘出術の実施傾向だった。副次アウトカムは、JCOG術後合併症規準(Clavien-Dindo分類)による周術期合併症の頻度、医療資源の使用(手術時間、輸血量、入院日数)、病院直接経費(direct hospital cost)だった。90日間の病院直接経費の平均値、ロボット支援下で約2,700ドル高額 被験者数は2万3,753例で、平均年齢は61.4歳、男性は58.1%だった。そのうち、腹腔鏡下根治的腎摘出術例は1万8,573例、ロボット支援下根治的腎摘出術例は5,180例だった。ロボット支援下根治的腎摘出術の割合は、2003年には2,676件中39件と1.5%だったのに対し、2015年には3,194件中862件と27.0%に増加した(傾向のp<0.001)。 重症度を問わないあらゆる術後合併症(Clavien-Dindo分類で1~5)の発生率は、加重補正分析において、ロボット支援下根治的腎摘出術22.2%、腹腔鏡下根治的腎摘出術23.4%と有意差はなかった(差:-1.2%、95%信頼区間[CI]:-5.4~3.0)。重度合併症(Clavien-Dindo分類で3~5)の発生率も、それぞれ3.5%と3.8%で有意差はなかった(同:-0.3%、-1.0~0.5)。 一方、手術時間が4時間超だった施術例の割合は、腹腔鏡下群25.8%に対し、ロボット支援下群は46.3%と有意に高率だった(リスク差:20.5%、95%CI:14.2~26.8)。 90日間の病院直接経費の平均値も、腹腔鏡下群1万6,851ドルに対し、ロボット支援下群は1万9,530ドルとより高額だった(差:2,678ドル、95%CI:838~4,519ドル)。その主な要因は、手術室経費(腹腔鏡下群:5,378ドル、ロボット支援下群:7,217ドル、差:1,839ドル、95%CI:1,050~2,628ドル)、手術用備品経費(それぞれ3,891ドル、4,876ドル、差:985ドル、95%CI:473~1,498ドル)にあった。室料・食事代、薬剤費は、ロボット支援下群が低額だったが有意差はなかった。

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妊娠歴有の女性から男性への輸血は死亡リスクが高い?/JAMA

 赤血球輸血を受けた患者において、妊娠歴がある女性ドナーからの輸血は男性ドナーからの輸血と比べ、男性レシピエントでは全死因死亡率の上昇との関連がみられ、女性レシピエントでは同様の関連は確認されなかった。また、妊娠歴のない女性ドナーからの輸血は、男女ともにレシピエントの死亡率上昇とは関連しなかった。オランダ・Sanquin ResearchのCamila Caram-Deelder氏らが、初回輸血レシピエントを対象にした後ろ向きコホート研究の結果を報告した。これまで、女性ドナーからの赤血球輸血は、男性ドナーと比較してレシピエントの死亡率が高いことが観察されていたが、ドナーの妊娠歴が関与するかは不明であった。JAMA誌2017年10月17日号掲載の報告。輸血患者の死亡率、男性ドナーと女性ドナーの妊娠歴の有無で評価 研究グループは、2005年5月30日~2015年9月1日に、オランダの主要6病院で初回輸血を受けた患者を登録し解析した(最終追跡日2015年9月1日)。主要解析は、単一ドナー(男性ドナーのみ、妊娠歴のない女性ドナーのみ、妊娠歴のある女性ドナーのみ)から赤血球輸血を受けた患者を対象とし、Cox比例ハザードモデルのライフテーブルや時間変数を用いて、各ドナーから受けた輸血と死亡との関連を調べた。主要評価項目は、追跡期間中の全死因死亡率とした。 主要解析対象となったレシピエントは3万1,118例(年齢中央値65歳[四分位範囲:42~77歳]、男性1万4,995例[48%]、女性1万6,123例[52%])で、計5万9,320単位の赤血球輸血を受けた。ドナーは、男性88%、妊娠歴のある女性6%、妊娠歴のない女性6%であった。妊娠歴がある女性からの輸血を受けた男性、死亡リスクが1.13倍 試験対象期間の死亡は、3万1,118例中3,969例であった(死亡率13%)。 男性レシピエントにおける赤血球輸血後の全死因死亡(件数/1,000人年)は、ドナーが妊娠歴のある女性の場合の101に対し男性ドナーの場合は80で、輸血当たりの時間依存性死亡ハザード比(HR)は1.13(95%CI:1.01~1.26、p=0.03)であった。一方、妊娠歴のない女性ドナーからの輸血と男性ドナーからの輸血を比較すると、全死因死亡は78 vs.80で、死亡HRは0.93(95%CI:0.81~1.06、p=0.29)であった。 女性レシピエントにおいては、妊娠歴のある女性ドナー vs.男性ドナーの全死因死亡は74 vs.62、死亡HRは0.99(95%CI:0.87~1.13、p=0.92)であり、妊娠歴のない女性ドナー vs.男性ドナーは74 vs.62、HRは1.01(95%CI:0.88~1.15、p=0.92)であった。 著者は、後ろ向きコホートで死因に関する情報がないことなどを研究の限界として挙げたうえで、「本研究の結果については、今後、さらなる研究で再現性を検証する必要があり、臨床的意義を明らかにするとともに、このような差異が起こるメカニズムを特定することが重要な課題である」とまとめている。

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HTLV-1関連脊髄症〔HAM:HTLV-1-associated myelopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy:HAM)は、成人T細胞白血病・リンパ腫(Adult T-cell leukemia/lymphoma:ATL)の原因ウイルスであるヒトTリンパ球向性ウイルス1型(human T-lymphotropic virus type 1:HTLV-1)の感染者の一部に発症する、進行性の脊髄障害を特徴とする炎症性神経疾患である。有効な治療法に乏しく、きわめて深刻な難治性希少疾病であり、国の指定難病に認定されている。■ 疫学HTLV-1の感染者は全国で約100万人存在する。多くの感染者は生涯にわたり無症候で過ごすが(無症候性キャリア)、感染者の約5%は生命予後不良のATLを発症し、約0.3%はHAMを発症する。HAMの患者数は国内で約3,000人と推定されており、近年は関東などの大都市圏で患者数が増加している。発症は中年以降(40代)が多いが、10代など若年発症もあり、男女比は1:3と女性に多い。HTLV-1の感染経路は、母乳を介する母子感染と、輸血、臓器移植、性交渉による水平感染が知られているが、1986年より献血時の抗HTLV-1抗体のスクリーニングが開始され、以後、輸血後感染による発症はない。臓器移植で感染すると高率にHAMを発症する。■ 病因HAMは、HTLV-1感染T細胞が脊髄に遊走し、そこで感染T細胞に対して惹起された炎症が慢性持続的に脊髄を傷害し、脊髄麻痺を引き起こすと考えられており、近年、病態の詳細が徐々に明らかになっている。HAM患者では健常キャリアに比べ、末梢血液中のプロウイルス量、すなわちHTLV-1感染細胞数が優位に多く、また感染細胞に反応するHTLV-1特異的細胞傷害性T細胞や抗体の量も異常に増加しており、ウイルスに対する免疫応答が過剰に亢進している1)。さらに、脊髄病変局所で一部の炎症性サイトカインやケモカインの産生が非常に高まっており2)、とくにHAM患者髄液で高値を示すCXCL10というケモカインが脊髄炎症の慢性化に重要な役割を果たしており3)、脊髄炎症のバイオマーカーとしても注目されている。■ 症状臨床症状の中核は進行性の痙性対麻痺で、両下肢の痙性と筋力低下による歩行障害を示す。初期症状は、歩行の違和感、足のしびれ、つっぱり感、転びやすいなどであるが、多くは進行し、杖歩行、さらには車椅子が必要となり、重症例では下肢の完全麻痺や体幹の筋力低下により寝たきりになる場合もある。下半身の触覚や温痛覚の低下、しびれ、疼痛などの感覚障害は約6割に認められる4)。自律神経症状は高率にみられ、とくに排尿困難、頻尿、便秘などの膀胱直腸障害は病初期より出現し、初めに泌尿器科を受診するケースもある。また、起立性低血圧や下半身の発汗障害、インポテンツがしばしばみられる4)。神経学的診察では、両下肢の深部腱反射の亢進や、バビンスキー徴候などの病的反射がみられる4)。■ 分類HAMは病気の進行の程度により、大きく3つの病型に分類される(図)。1)急速進行例発症早期に歩行障害が進行し、発症から2年以内に片手杖歩行レベルとなる症例は、明らかに進行が早く疾患活動性が高い。納の運動障害重症度(表)のレベルが数ヵ月単位、時には数週間単位で悪化する。急速進行例では、髄液検査で細胞数や蛋白濃度が高いことが多く、ネオプテリン濃度、CXCL10濃度もきわめて高い。とくに発症早期の急速進行例は予後不良例が多い。2)緩徐進行例症状が緩徐に進行する症例は、HAM患者の約7~8割を占める。一般的に納の運動障害重症度のレベルが1段階悪化するのに数年を要するので、臨床的に症状の進行具合を把握するのは容易ではなく、疾患活動性を評価するうえで髄液検査の有用性は高い。髄液検査では、細胞数は正常から軽度増加を示し、ネオプテリン濃度、CXCL10濃度は中等度増加を示す。3)進行停滞例HAMは、発症後長期にわたり症状が進行しないケースや、ある程度の障害レベルに到達した後、症状がほとんど進行しないケースがある。このような症例では、髄液検査でも細胞数は正常範囲で、ネオプテリン濃度、CXCL10濃度も低値~正常範囲である。■ 予後一般的にHAMの経過や予後は、病型により大きく異なる。全国HAM患者登録レジストリ(HAMねっと)による疫学的解析では、歩行障害の進行速度の中央値は、発症から片手杖歩行まで8年、両手杖歩行まで12.5年、歩行不能まで18年であり5)、HAM患者の約7~8割はこのような経過をたどる。また、発症後急速に進行し2年以内に片手杖歩行レベル以上に悪化する患者(急速進行例)は全体の約2割弱存在し、長期予後は明らかに悪い。一方、発症後20年以上経過しても、杖なしで歩行可能な症例もまれであるが存在する(進行停滞例)。また、HAMにはATLの合併例があり、生命予後に大きく影響する。6)2 診断 (検査・鑑別診断も含む)HAMの可能性が考えられる場合、まず血清中の抗HTLV-1抗体の有無についてスクリーニング検査(EIA法またはPA法)を行う。抗体が陽性の場合、必ず確認検査(ラインブロット法:LIA法)で確認し、感染を確定する。感染が確認されたら髄液検査を施行し、髄液の抗HTLV-1抗体が陽性、かつ他のミエロパチーを来す脊髄圧迫病変、脊髄腫瘍、多発性硬化症、視神経脊髄炎などを鑑別したうえで、HAMと確定診断する。髄液検査では細胞数増加(単核球優位)を約3割弱に認めるが、HAMの炎症を把握するには感度が低い。一方、髄液のネオプテリンやCXCL10は多くの患者で増加しており、脊髄炎症レベルおよび疾患活動性を把握するうえで感度が高く有益な検査である7)。血液検査では、HTLV-1プロウイルス量がキャリアに比して高値のことが多い。また、血清中の可溶性IL-2受容体濃度が高いことが多く、末梢レベルでの感染細胞の活性化や免疫応答の亢進を非特異的に反映している。また、白血球の血液像において異常リンパ球を認める場合があり、5%以上認める場合はATLの合併の可能性を考える。MRIでは、発症早期の急速進行性の症例にT2強調で髄内強信号が認められる場合があり、高い疾患活動性を示唆する。慢性期には胸髄の萎縮がしばしば認められる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)疾患活動性に即した治療HAMは、できるだけ発症早期に疾患活動性を判定し、疾患活動性に応じた治療内容を実施することが求められる。現在、HAMの治療はステロイドとインターフェロン(IFN)αが主に使用されているが、治療対象となる基準、投与量、投与期間などに関する指針を集約した「HAM診療ガイドライン2019」が参考となる(日本神経学会のサイトで入手できる)。(1)急速進行例(疾患活動性が高い)発症早期に歩行障害が進行し、2年以内に片手杖歩行レベルとなる症例は、明らかに進行が早く疾患活動性が高い。治療は、メチルプレドニゾロン・パルス療法後にプレドニゾロン内服維持療法が一般的である。とくに発症早期の急速進行例は治療のwindow of opportunityが存在すると考えられ、早期発見・早期治療が強く求められる。(2)緩徐進行例(疾患活動性が中等度)緩徐進行例に対しては、プレドニゾロン内服かIFNαが有効な場合がある。プレドニゾロン3~10mg/日の継続投与で効果を示すことが多いが、疾患活動性の個人差は幅広く、投与量は個別に慎重に判断する。治療前に髄液検査(ネオプテリンやCXCL10)でステロイド治療を検討すべき炎症の存在について確認し、有効性の評価についても髄液検査での把握が望まれる。ステロイドの長期内服に関しては、常に副作用を念頭に置き、症状や髄液所見を参考に、できるだけ減量を検討する。IFNαは、300万単位を28日間連日投与し、その後に週2回の間欠投与が行われるのが一般的である。(3)進行停滞例(疾患活動性が低い)発症後長期にわたり症状が進行しないケースでは、ステロイド治療やIFNα治療の適応に乏しい。リハビリを含めた対症療法が中心となる。2)対症療法いずれの症例においても、継続的なリハビリや排尿・排便障害、疼痛、痙性などへの対症療法はADL維持のために非常に重要であり、他科と連携しながらきめ細かな治療を行う。4 今後の展望HAMの治療は、その病態から(1)感染細胞の制御、(2)脊髄炎症の鎮静化、(3)傷害された脊髄の再生、それぞれに対する治療法開発が必要である。1)HAMに対するロボットスーツHAL(医療用)HAMに対するロボットスーツHAL(医療用)のランダム化比較試験を多施設共同で実施し、良好な結果が得られている。本試験により、HAMに対する保険承認申請がなされている。2)感染細胞や過剰な免疫応答を標的とした新薬開発HAMは、病因である感染細胞の根絶が根本的な治療となり得るがまだ実現していない。HAMにおいて、感染細胞は特徴的な変化を来しており、その特徴を標的とした治療薬の候補が複数存在する。また神経障害を標的とした治療薬の開発も重要である。治験が予定されている薬剤もあり、今後の結果が期待される。3)患者登録レジストリHAMは希少疾病であるため、患者の実態把握や治験などに必要な症例の確保が困難であり、それが病態解明や治療法開発が進展しない大きな要因になっている。患者会の協力を得て、2012年3月からHAM患者登録レジストリ(HAMねっと)を構築し、2022年2月時点で、約630名の患者が登録している。これにより、HAMの自然史や患者を取り巻く社会的・医療的環境が明らかになると同時に、治験患者のリクルートにも役立っている。また、髄液ネオプテリン、CXCL10、プロウイルス量定量の検査は保険未承認であるがHAMねっと登録医療機関で測定ができる。HAMねっとでは患者向けの情報発信も行っているため、未登録のHAM患者がいたら是非登録を勧めていただきたい。5 主たる診療科脳神経内科6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター HTLV-1関連脊髄症(HAM)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)HAMねっと(HAM患者登録サイト)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)HTLV-1情報サービス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省「HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)に関する情報」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)JSPFAD HTLV-1感染者コホート共同研究班(医療従事者向けのまとまった情報)日本HTLV-1学会(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報NPO法人「スマイルリボン」(患者とその家族および支援者の会)1)Jacobson S. J Infect Dis. 2002;186:S187-192.2)Umehara F, et al. J Neuropathol Exp Neurol. 1994;53:72-77.3)Ando H, et al. Brain. 2013;136:2876-2887.4)Nakagawa M, et al. J Neurovirol. 1995;1:50-61.5)Coler-Reilly AL, et al. Orphanet J Rare Dis. 2016;11:69.6)Nagasaka M, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2020;117:11685-11691.7)Sato T, et al. Front Microbiol. 2018;9:1651.8)Yamano Y, et al. PLoS One. 2009;4:e6517.9)Araya N, et al. J Clin Invest. 2014;124:3431-3442.公開履歴初回2017年10月24日更新2022年2月16日

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敗血症の早期蘇生プロトコル戦略、開発途上国では?/JAMA

 医療資源が限られる開発途上国において、大半がHIV陽性で敗血症と低血圧症を有する成人患者への、輸液および昇圧薬投与による早期蘇生プロトコル戦略では、標準治療と比較して院内死亡が増大したことが示された。米国・ヴァンダービルト大学のBen Andrews氏らがザンビア共和国で行った無作為化試験の結果で、著者は「さらなる試験を行い、異なる低中所得国の臨床設定および患者集団における、敗血症の患者への静脈内輸液と昇圧薬投与の影響を明らかにする必要がある」とまとめている。開発途上国における敗血症への早期蘇生プロトコルの効果は、これまで明らかにされていなかった。JAMA誌オンライン版2017年10月3日号掲載の報告。ザンビアの212例を対象に、無作為化試験で標準治療と比較 研究グループは、輸液、昇圧薬、輸血による早期蘇生プロトコルが、敗血症と低血圧症を有するザンビアの成人患者において、標準治療と比べて死亡率を低下させるかを調べた。2012年10月22日~2013年11月11日に、ザンビア国立病院(1,500床)の救急部門を受診した敗血症および低血圧症を有する成人患者212例を対象に無作為化試験が行われ、2013年12月9日までデータが収集された。 被験者は、1対1の割合で(1)敗血症のための早期蘇生プロトコルの介入を受ける群(107例)、または(2)標準治療を受ける群(105例)に無作為に割り付けられた。(1)は静脈内輸液ボーラス投与と、頸静脈圧、呼吸数、動脈血酸素飽和度のモニタリング、および平均動脈圧65mmHg以上を目標値とした昇圧薬投与の治療、輸血(ヘモグロビン値7g/dL未満)を、(2)は担当医の裁量の下で血行動態管理を行った。 主要アウトカムは院内死亡率で、副次アウトカムは、投与を受けた輸液量、昇圧薬投与の状況などであった。早期蘇生プロトコル群の院内死亡発生が1.46倍に 無作為化を受けた212例のうち3例が適格条件を満たしておらず、残る209例が試験を完了し解析に包含された。209例は、平均年齢36.7歳(SD 12.4)、男性117例(56.0%)、HIV陽性187例(89.5%)であった。 主要アウトカムの院内死亡の発生は、敗血症プロトコル群51/106例(48.1%)、標準治療群34/103例(33.0%)であった(群間差:15.1%[95%信頼区間[CI]:2.0~28.3]、相対リスク:1.46[95%CI:1.04~2.05]、p=0.03)。 救急部門受診後6時間で投与を受けた輸液量は、敗血症プロトコル群は中央値3.5L(四分位範囲:2.7~4.0)、標準治療群は同2.0L(1.0~2.5)であった(群間差中央値:1.2L、95%CI:1.0~1.5、p<0.001)。 昇圧薬の投与を受けたのは、敗血症プロトコル群15例(14.2%)、標準治療群2例(1.9%)であった(群間差:12.3%、95%CI:5.1~19.4、p<0.001)。

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日本初、ワルファリンでの出血傾向を迅速に抑える保険適用製剤

 ワルファリン服用者の急性重篤出血時や、重大な出血が予想される手術・処置の際に、出血傾向を迅速に抑制する日本初の保険適用製剤として、乾燥濃縮人プロトロンビン複合体(商品名:ケイセントラ静注用)が9月19日に発売された。発売に先立ち、15日に開催されたCSLベーリング株式会社による記者発表において、矢坂 正弘氏(国立病院機構九州医療センター脳血管センター 部長)が、本剤の開発経緯や臨床成績、位置付けについて講演した。その内容をお届けする。ケイセントラは厚生労働省への早期開発要望により開発 ワルファリンは直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)より適応が広く、腎機能が低下している高齢者など幅広い患者に使用できる。しかし、ワルファリン投与中は頭蓋内出血を発症しやすく、大出血時には休薬などの処置に加え、ビタミンKの投与、新鮮凍結血漿の投与が行われる。これらの投与に関して矢坂氏は、ビタミンKは緊急止血には間に合わず、新鮮凍結血漿は800mL~1Lの投与が必要だが心不全を防ぐためにゆっくり投与せざるを得ず、また輸血による感染症のリスクもあったことを指摘した。 今回発売されたケイセントラは乾燥濃縮人プロトロンビン複合体であり、1996年にドイツで承認されて以降、欧州各国で承認され、2017年1月時点で米国を含む42の国と地域で承認されている。日本では、2011年に厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会」の開発要望募集で日本脳卒中学会が早期開発要望書を提出し、厚生労働省がCSLベーリング社に開発を要請、今年3月に「ビタミンK拮抗薬投与中の患者における、急性重篤出血時、又は重大な出血が予想される緊急を要する手術・処置の施行時の出血傾向の抑制」を効能・効果として承認された。30分以内の速やかなPT-INRの是正効果においてケイセントラの非劣性が確認された ケイセントラの臨床試験成績について、矢坂氏はまず、海外で実施された2つの第III相試験を紹介した。1つは、ビタミンK拮抗薬投与中に急性重篤出血を来した患者を対象に、全例にビタミンKを静脈内投与し、ケイセントラ投与もしくは血漿投与に無作為に割り付け、止血効果と速やかなPT-INRの是正効果を比較した無作為化非盲検非劣性多施設共同試験である。本試験で、投与終了後30分以内にPT-INRが1.3以下に低下した患者の割合は、ケイセントラ群が62.2%で血漿群の9.6%に対して非劣性が確認された。また、投与開始から24時間までの止血効果が有効であった患者の割合についても、ケイセントラ群が72.4%と血漿群の65.4%に対して非劣性が確認された。 もう1つは、ビタミンK拮抗薬投与中で緊急の外科手術または侵襲的処置を要する患者を対象とした無作為化非盲検非劣性多施設共同試験で、全例にビタミンKを投与し、ケイセントラ投与もしくは血漿投与に無作為に割り付けた。試験の結果、投与終了後30分以内にPT-INRが1.3以下に低下した患者の割合は、ケイセントラ群55.2%、血漿群9.9%、また投与開始から外科手術または侵襲的処置終了までの間に止血効果が有効であった患者の割合は、ケイセントラ群89.7%、血漿群75.3%と、どちらも血漿群に対しケイセントラの非劣性が確認された。 また、日本人を対象とした国内の第III相試験では、ビタミンK拮抗薬療法に起因する抗凝固状態で急性重篤出血を来した、あるいは外科手術または侵襲的処置を要する患者に対して、ビタミンKとケイセントラ投与により、PT-INR中央値はベースラインの3.13から、投与終了後30分で1.15に減少した。 最後に矢坂氏は、「ワルファリンは幅広い適応を持っているので今後も使われていく薬剤だが、注意すべきは出血性合併症」と述べ、ケイセントラの発売で「ワルファリン治療中の大出血時、緊急手術が必要な場合にワルファリン作用の緊急是正に使用できるようになり、非常に期待される」と締め括った。

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抗凝固薬の中和薬:マッチポンプと言われないためには…(解説:後藤 信哉 氏)-715

 手術などの侵襲的介入時におけるヘパリンの抗凝固効果はプロタミンにより中和可能であり、経口抗凝固薬は外来通院中の症例が使用しているので、ワルファリンの抗凝固効果は新鮮凍結血漿により即座に、ビタミンKの追加により緩除に中和できることを知っていても、中和薬の必要性を強く感じる場合は少なかった。止血と血栓は裏腹の関係にあるので、急性期の血栓、止血の両者を管理する必要のある症例の多くは入院症例であり、その多くは調節可能な経静脈的抗凝固療法を受けていた。 モニタリングせずに使用する経口抗トロンビン、抗Xa薬(いわゆるNOACs、DOACs)は、血栓イベントリスクの高い機械弁、僧帽弁狭窄症では使われていない。緊急手術が必要な状態になった場合、重篤な出血が薬剤により惹起されたとき、薬剤投与を中止して止血できるまで、どの程度の時間が必要であるかがわからない。プロトロンビンを濃縮した血液製剤などを使うと直感的に止血を実感できる。本研究ではトロンビンの酵素作用を直接阻害するダビガトランに中和抗体を作用させれば、即座に抗トロンビン効果は消失することを示した。臨床的な止血効果をおそらく医師は現場で実感したと想定するが、臨床試験にて有効性を数値で示すことはできなかった。 血液凝固カスケードは液相の反応が広く知られるが、現実の血液凝固の重要部分は活性化血小板膜上にて起こる。Xaは血小板上のプロトロンビナーゼ複合体の形成に未知の複雑なメカニズムで作用するので、Xaのおとりではプロトロンビン時間が正常化しても血栓イベントは増えるような結果であった。ダビガトランの抗体の作用は、Xa阻害薬の中和薬よりは作用が直線的である。それでも、「抗凝固薬を不必要に多用して、自然歴ではない出血イベントを多発させ、抗凝固薬の中和薬を多用する」のは、マッチポンプ的で患者にも社会にも不利益をもたらす。抗Xa薬の中和薬よりは直線的だがダビガトラン抗体に価値があるのかどうか、現時点では筆者にもわからない。 放置すれば近未来ほぼ確実に血栓イベントが起こる症例に、抗凝固薬を限局的に使用する世界が筆者には効率的に思える。

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心不全の鉄補充治療において、経口剤ではフェリチンが上昇せず運動耐容能も改善しない(解説:原田 和昌 氏)-701

 心不全はしばしば心臓外の臓器に合併症(併存症)を持つ。欧州心不全学会の急性、慢性心不全の診断と治療ガイドライン2012年版には、「ほとんどの併存症は心不全の状態が不良であることや予後不良因子と関係する。したがって貧血など一部の併存症はそれ自体が治療対象となる」と記載された。 併存症は高齢者心不全においてとくに重要であり、2016年に上梓されたわが国の高齢心不全患者の治療に関するステートメントでは、「感染症、貧血、腎不全、脳梗塞、認知症、骨折や関節症などによるロコモティブ症候群、甲状腺疾患、閉塞性肺疾患、悪性疾患などの併存症の多くが独立した心不全の予後規定因子である」と表現された。 なかでも貧血は重要な併存症である。貧血の治療には輸血、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)や鉄剤の投与などがあるが、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者にESAを投与したRED-HF試験では有効性を示すことができなかった。一方、HFrEF患者の約半数に鉄欠乏がみられること、貧血よりもむしろ鉄欠乏が生活機能の低下や死亡の独立した予測因子になることが報告されている。鉄剤の静脈内投与が心不全の再入院を低下しQOLを改善したことから(FAIR-HF試験、CONFIRM-HF試験)、欧州の心不全治療ガイドライン2016年版は鉄の静脈内投与を推奨した(クラスIIa)。実際HFrEF患者の鉄欠乏は、ミトコンドリア機能低下、筋のサルコメア構造の異常、左室収縮機能と関係することが示されている。 鉄欠乏を伴うHFrEF患者に経口で高用量鉄補充療法を行っても運動耐容能は改善しないことが、IRONOUT HF試験で示された。鉄欠乏は他の試験と同様に、貯蔵鉄を表す血清フェリチン値15~100ng/mLまたはトランスフェリン飽和度<20%で定義した。経口鉄補充は16週時のフェリチンを有意に増加しなかったが、これはカルボキシマルトース鉄静注を用いたFAIR-HF試験で24週時にフェリチンが有意に増加したのとは対照的であった。 高齢者の貧血では潜在的な出血や食事からの鉄の摂取不足が原因となることが多く、経口の鉄補充が有効であることも多い。しかし、慢性炎症では肝臓で産生されるhepcidinが増加し、腸管からの鉄吸収が阻害されるため経口の鉄補充はあまり有効ではない。心不全でもNYHA 1、2度の時期よりhepcidinが増加していることが報告されており、抗血栓治療とならんで鉄欠乏の原因ではないかと推測されている。 Lewis氏、Braunwald氏らが本試験にて何を証明しようとしたのかはよくわからないが、実際hepcidinが高いとフェリチンが上昇しないという関係がしっかりと示されており、経口的な鉄補充が有効でないという結果は当然と考えられる。貯蔵鉄の上昇なしに最大酸素摂取量の改善はありえない。ちなみに、わが国で静注のカルボキシマルトース鉄製剤は認可されていない。

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遺伝性出血性毛細血管拡張症〔HHT:hereditary hemorrhagic telangiectasia〕

1 疾患概要■ 概念と疫学血管新生に重要な役割を持つTGF-β/BMPシグナル経路の遺伝子異常により、体のいろいろな部位に血管奇形が形成される疾患である。わが国では「オスラー病(Osler disease)」で知られているが、世界的には「遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)」の病名が使われる。常染色体優性遺伝をするため、子供には50%の確率で遺伝するが、世代を超えて遺伝することはない。その頻度は5,000~8,000人に1人とされ、世界中で認められる。性差はなく、年齢が上がるにつれ、ほぼ全例で何らかのHHTの症状を呈するようになる。■ 病状繰り返し、誘因なしに鼻出血が起り、特徴的な皮膚・粘膜の毛細血管拡張病変(telangiectasia)が鼻腔・口唇・舌・口腔・顔面・手指・四肢・体幹などの好発部位に認められ、脳・肺・肝臓の血管奇形による症状を呈することもある。消化管の毛細血管拡張病変から慢性の出血が起こる。鼻出血や慢性の消化管出血による鉄欠乏性貧血が認められる。脳の血管奇形(頻度10%)により、脳出血や痙攣が起こる。肺の動静脈奇形(頻度50%)により呼吸不全、胸腔内出血、喀血、右→左シャントによる奇異性塞栓症で脳膿瘍や脳梗塞が起こる。肝臓の血管奇形(頻度70%)が症候性になることは少ないが、高齢者、とくに後述の2型のHHTの女性では、心不全、胆道系の虚血、門脈圧亢進症を呈することがある。頻度は低いが、脊髄にも血管奇形が起こり(頻度1%)、出血による対麻痺や四肢麻痺を呈する。 原発性肺高血圧症や肝臓の血管奇形による高心拍出量による心不全から二次性の肺高血圧症をまれに合併する。HHTは知識と経験があれば、問診・視診・聴診のような古典的な診療で診断可能な疾患であり、まずはこの疾患を疑うことが肝要である。■ 病因と予後家族内の親子・兄弟に同じ病的遺伝子変異があっても、必ずしも同じ症状を呈するわけではない。現在までにわかっているHHTの原因遺伝子は、Endoglin、ACVRL1、SMAD4遺伝子の3つであり、これら以外にも未知の遺伝子があるとされる。Endoglin変異によるHHTを1型(HHT1)といい、ACVRL1変異によるHHTを2型(HHT2)という。1型のHHTには、脳病変・肺病変が多く、2型のHHTには肝臓病変が多いが、1型に肝臓病変が、2型に脳病変・肺病変が認められることもある。遺伝子検査を行うと、1型と2型のHHTで約90%を占め、SMAD4遺伝子の変異は1%以下である。1型と2型の割合は地域・国によって異なり、わが国では1型が1.4倍多い。約10%で遺伝子変異を検出できないが、これは遺伝子変異がないという意味ではない。SMAD4遺伝子の変異によりHHTの症状に加え、若年性ポリポーシスを特徴とするため「juvenile polyposis(JP)/HHT複合症候群(JPHT)」と呼ばれる。このポリポーシスは発がん性が高いとされ、定期的な経過観察が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ HHTの臨床的診断基準2000年に提唱された臨床的診断基準(表)には、以下の4項目がある。(1)繰り返す鼻出血(2)粘膜・皮膚の毛細血管拡張病変(3)肺、脳・脊髄、肝臓などにある血管奇形と消化管の毛細血管拡張病変(4)第1度近親者(両親・兄弟姉妹・子供)の1人がHHTと診断されているこれら4項目のうち、3つ以上あると確診(definite)、2つで疑診(probable)、1つ以下では可能性は低い(unlikely)とされる。この診断基準は、16歳以上の患者に関しては、その信頼性は非常に高いが、小児では無症状のことが多いため使えない。画像を拡大する遺伝子検査は、Endoglin、ACVRL1、SMAD4遺伝子の変異の検査を行う。成人のHHTの確定診断に遺伝子検査は必ずしも必要なく、臨床的診断基準の3~4項目があれば確定する。遺伝子検査では、約10%に遺伝子変異はみつからないが、これによりHHTが否定された訳ではない。家族内で発端者の遺伝子変異がわかっている場合、遺伝子検査は、その家族、とくに無症状の小児の診断に有用である。発端者の既知遺伝子変異がその家族にない場合に、はじめてHHTが否定される。オスラー病の疑いまたは確定した患者に対して、肺、脳、肝臓のスクリーニング検査を行うことが勧められる。通常、消化管と脊髄のスクリーニング検査は行われない。臨床的診断基準で、家族歴と鼻出血または毛細血管拡張症の2項目でHHT疑いの場合、内臓病変のスクリーニング検査を行い、3項目にしてHHTの確診にする場合もある。■ 部位別の特徴1)肺動静脈奇形まず酸素飽和度を検査する。次にバブルを用いた心臓超音波検査で右→左シャントの有無の検査する。同時に肺高血圧のスクリーニングも行う。これで肺動静脈奇形が疑われれば、肺の非造影CT検査(thin slice 3mm以下)を行う。バブルを用いた心臓超音波検査では、6~7%の偽陽性があるため、超音波検査を行わず、最初から非造影CT検査を行う場合も多い。コイル塞栓術後の経過観察には造影CT検査や造影のMR検査を行う場合がある。肺高血圧(平均肺動脈圧>25mmHg)が疑われれば、心臓カテーテル検査が必要であり、原発性肺高血圧と二次性肺高血圧を鑑別する。2)脳動静脈奇形頭部MR検査(非造影検査と造影検査)を行う。MRアンギオグラフィーも行う。脳動静脈奇形や陳旧性の脳出血・脳梗塞も検査する。T1画像、T2画像、FLAIR画像、T2*画像を得る。造影T1画像は3方向thin sliceで撮像し、小さな脳動静脈奇形を検出する。通常、小児例では造影検査は行わない。3)脊髄動静脈奇形頻度が1%とされ、スクリーニング検査は行われない。検査をする場合、全脊髄のMR検査になる。4)肝臓血管奇形スクリーニング検査として、腹部超音波検査が勧められる。拡張した肝動脈や門脈、胆道系などを検査する。Dynamic CT検査で、動脈相と静脈相の2相の撮像を行えば、arterio-venous shunt、arterio-portal shuntの検出・鑑別が可能である。シャントがあると太い肝動脈(>10mm)が認められる。肝動脈を含め腹腔動脈に動脈瘤がしばしば認められる。Porto-venous shuntがあれば、脳MR検査のT1強調画像で、マンガンの沈着による基底核、とくに淡蒼球に左右対称性の高信号域が描出される。5)消化管病変通常、スクリーニング検査は行われない。上部消化管に毛細血管拡張病変が多い。上部消化管と下部消化管の検査にはファイバー内視鏡を用い、小腸の検査はカプセル内視鏡で行う。鼻出血の程度では説明できない高度の貧血がある場合には、消化管病変の検査を行う。中年以降の患者の場合、悪性腫瘍の合併の可能性も念頭において、その検査適応を考える。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点では、HHTに対する根治的な治療はなく、種々の症状への対症療法が主となっている。1)鼻出血出血の予防に必ず効く方策はなく、どんな治療も対症療法であることを患者に説明する。エストロゲンやトラネキサム酸の内服、軟膏塗布、点鼻スプレーなどが試みられるが、トラネキサム酸以外の有用性は証明されていない。現実的には、通気による鼻粘膜の外傷をできるだけ減らすために、1日数回、鼻孔にワセリン軟膏を塗布し、湿潤(乾燥させない)が勧められる。抗VEGF薬のベバシズマブは国外で試されているが、その点鼻の効果は、生理的食塩水の点鼻と同じであった。外科的治療には、コブレーターやアルゴンレーザーによる焼灼法、鼻粘膜皮膚置換術、外鼻孔閉塞術が行われるが、どの治療も根治性はない。出血時の対応法として、通常の鼻出血ではボスミンガーゼ挿入が効果的であるが、HHTでは病変の血管が異常なためボスミンガーゼ挿入にはあまり効果がなく、逆にガーゼの抜去時に再出血を惹起するので勧められない。出血側の鼻翼を指で外から圧迫するのが効果的とされ、それでも止血できない場合、サージセルなどを挿入し、止血する。鼻出血による鉄欠乏性貧血には、鉄剤を内服投与し、内服できない場合は静注投与する。鼻出血が継続する限り、データ上、貧血が改善しても、鉄剤投与の継続が必要である。悪心・吐気などの消化器症状の少ない経口鉄剤(商品名:リオナ)が最近認可された。高度貧血には積極的な輸血を行う。心不全があれば、高度の貧血はさらに心不全を悪化させる。定期的な血液検査で貧血のチェックが必要である。2)脳動静脈奇形無症候性の脳動静脈奇形の侵襲的治療に否定的な研究結果(ARUBA study)が報告されて以来、脳動静脈奇形の治療は症例ごとに検討されるようになった。MR検査で、脳動静脈奇形が認められれば、カテーテルによる脳血管撮影が行われ、詳細な検討を行い、治療戦略を練る。治療方法には、開頭による外科的摘出術・カテーテル塞栓術・定位放射線療法がある。HHTにおける脳動静脈奇形の出血率は、非HHTの脳動静脈奇形よりも低いとされ、自然歴やそれぞれの治療に伴うリスクを鑑み、治療方針を立てる。3)肺動静脈奇形栄養動脈が径3.0mm以上の場合、コイルや血管プラグを用いた塞栓術が第1選択となる。3.0mmより小さい病変でも、治療が可能な場合は、塞栓術の対象とされる。塞栓術においてはシャント部の閉塞が必要であり、栄養動脈の近位塞栓を避ける。非常に大きな病変や複雑な構造の病変で、塞栓術に適さない場合は外科的な切除術が選択される。治療後は、5年に1度、CT検査で経過をみる。妊娠する可能性のある女性は、妊娠前のコイル塞栓術が強く勧められる。スキューバ・ダイビングは禁忌とされ、肺動静脈奇形の治療後も勧められない。4)肝臓血管奇形塞栓術は適応とならず、逆にリスクが大きく禁忌である。症候性の心不全・胆道系の虚血・門脈圧亢進症などは、利尿剤など積極的な内科的管理が行われる。内科的治療が、困難な状況では、肝移植が考慮される。5)消化管病変予防的な治療は行わない。出血例では、内視鏡下でアルゴンプラズマ凝固(APC)が行われる。高度貧血には積極的な輸血を行う。4 今後の展望HHTは、その認知度が低いため、診断・治療が遅れることが多い。本症は常染色体優性遺伝し、年齢とともに必ず発症するが、スクリーニングにより脳と肺病変は発症前に対応ができる病変でもある。この疾患の認知度を上げることが重要であり、さらに国内での診療体制の整備、公的助成の拡充が必要とされる。遺伝子検査は、2020年から保険収載されたが、検査が可能な施設は限定されている。将来的には、発症を遅らせる・発症させない治療も期待される。TGF-β/BMPシグナル経路の遺伝子変異により血管新生に異常が起こる疾患であり、抗血管新生薬のベバシズマブの効果が期待されているが、副作用の中には重篤なものもあり、これらのHHTへの適応が模索されている。同様に抗血管新生のメカニズムの薬剤であるサリドマイドの限定的な投与も考えられる。5 主たる診療科疾患の特殊性から、単一の診療科でHHT診療を行うことは困難である。したがって複数科の専門家による治療チームが担当し、その間にコーディネーターが存在するのが理想的であるが、現実的には少ない診療科による診療が行われることが多い。そのなかでも脳神経外科、放射線科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、循環器内科、小児科、遺伝子カウンセラーなどが窓口になっている施設が多い。HHT JAPAN (日本HHT研究会)では、HHTを診察・加療を行っている国内の47施設をweb上で公開している。HHTの多岐にわたる症状に必ずしも対応できる施設ばかりではないが、その場合は、窓口になっている診療科から、症状に見合う他の診療科・他院へ紹介することになっている。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究情報難病情報センター:オスラー病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾患情報センター:遺伝性出血性末梢血管拡張症(オスラー病)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)HHT JAPAN (日本HHT研究会)(医療従事者向けのまとまった情報)脳血管奇形・血管障害・血管腫のホームページ(筆者のホームページ)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)オスラー病のガイドライン(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本オスラー病患者会(患者とその家族および支援者の会)公開履歴初回2017年07月11日更新2022年01月27日

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CDC「手術部位感染予防のためのガイドライン」18年ぶりの改訂

 米国疾病管理予防センター(CDC)は、「手術部位感染予防のためのガイドライン」を1999年以来18年ぶりに改訂し、エビデンスに基づく勧告を発表した。手術部位感染治療のための人的および財政的負担の増加を背景に、専門家の意見を基に作成された1999年版から、エビデンスベースの新たなガイドラインに改訂された。著者らは「これらの勧告に基づく手術戦略を用いることで、手術部位感染のおよそ半分が予防可能と推定される」と記している。手術部位感染予防のためのガイドラインはコアセクションと人工関節置換術セクションで構成 CDCの医療感染管理諮問委員会(HICPAC)は、1998年から2014年4月の間に発表された論文を対象にシステマティックレビューを実施し、5,000超の関連論文を特定。さらにスクリーニングを行った結果、170の論文を抽出し、エビデンスを評価・分類した。 新しい手術部位感染予防のためのガイドラインは、外科手術全般の手術部位感染予防のための勧告(30件)を含む「コアセクション」と人工関節置換術に適用される勧告(12件)を含む「人工関節置換術セクション」によって構成されている。 改訂された手術部位感染予防のためのガイドラインで更新された勧告の中で主なものは以下のとおり。・手術前、少なくとも手術前夜には、患者は石けん(抗菌性もしくは非抗菌性)または消毒薬を用いたシャワーや入浴(全身)をすべきである。・予防抗菌薬は、公開されている臨床実践ガイドラインに基づいた適用のときのみに投与する。そして、切開が行われるときに、血清および組織における抗菌薬の殺菌濃度が確保されるタイミングで投与する。・帝王切開においては、皮膚切開の前に適切な予防抗菌薬を投与する。・術前の皮膚処置は、禁忌の場合を除き、アルコール系消毒薬を使用して行う。・清潔および準清潔手術では、手術室内で閉創した後はドレーンが留置されていても、予防抗菌薬を追加投与しない。・手術部位感染予防のために、外科切開部に抗菌薬の局所的な適用は行わない。・周術期の血糖コントロールを実施し、すべての患者で血糖の目標レベルを200mg/dL未満として、正常体温を維持する。・全身麻酔を受けており気管内挿管がある正常な肺機能を有する患者では、手術中および手術直後の抜管後に、吸入酸素濃度を増加させる。・手術部位感染予防のために、手術患者への必要な血液製剤輸血を控える必要はない。 新しい手術部位感染予防のためのガイドラインはJAMA surgeryオンライン版2017年5月3日号に掲載された。

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中等度リスクの患者に対する外科的大動脈弁置換術と経カテーテル大動脈弁留置術の比較(SURTAVI研究)(解説:今井 靖 氏)-681

 大動脈弁狭窄症治療のゴールドスタンダードは外科的大動脈弁置換術であるが、高齢や心臓以外の合併疾患等の理由により開心術に耐えられないと判断された患者に対しては、対症療法しか手段がなかった。そのようななかで経カテーテル大動脈弁留置術(TAVR/TAVI)が登場し、外科手術がハイリスクと考えられる重症大動脈弁狭窄症に対して実施されるようになった。 本邦においても2013年承認され、経カテーテル的大動脈弁置換術関連学会協議会事務局の資料(2017年5月現在)によれば、118施設において実施されている。厚生労働省において使用が認可されたデバイスは以下の4種であり、・エドワーズライフサイエンス株式会社 サピエンXT 承認取得日:平成25年6月21日・日本メドトロニック株式会社 コアバルブ 承認取得日:平成27年3月25日・エドワーズライフサイエンス株式会社 サピエン3 承認取得日:平成28年3月11日・日本メドトロニック株式会社 コアバルブ Evolut R 承認取得日:平成28年11月8日トレーニングされた内科・外科共同のハートチームに限定して手技の実施が許可されている。 この経カテーテル大動脈弁留置術(TAVR/TAVI)は、前述の通り、外科手術のリスクの高い大動脈弁狭窄症患者において外科的弁置換の代替療法として容認されている一方、中等度リスクの患者におけるアウトカムについては、いまだ明らかではなかった。 今回ご紹介させていただく論文は中等度リスク患者に焦点を当てた研究であり、TAVRシステムの1つを販売しているメドトロニック社が資金提供し実施された研究である。87施設において合計1,746症例に2群へのランダム割り付けを実施、そのうち約1,600例にいずれかの治療がなされた。平均年齢は79.8±6.2歳で中等度の手術リスク(STSスコアにて4.5±1.6%)。24ヵ月の時点でプライマリエンドポイントの発生率はTAVR群で12.6%であり、外科的弁置換術群では14.0%であった(非劣性)。外科的弁置換において急性腎機能障害AKI、心房細動、輸血を要する例が多かった。しかしながらTAVR群では大動脈弁閉鎖不全残存、ペースメーカー植込みを要する例が多かった。外科手術と比較してTAVRのほうが圧較差は小さくなり、弁口面積もより広く確保できた。24ヵ月における弁機能不全は両群とも認められなかった。 中等度リスクの重症大動脈弁閉鎖不全患者において、術後合併症は治療ごとに傾向は異なるものの、TAVRは外科治療に劣らない代替治療であることが示された。今後、このようなエビデンスに基づいて中等度リスク症例へも適応が拡大される可能性は十分に考えられるが、一方で外科的大動脈弁置換術が非常に安定した成績が得られること、とくに本邦においてTAVR/TAVIのシステムが非常に高価であり高コストであることを十分に念頭に置くべきと考える。

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コッツン外傷の恐怖(その2)【Dr. 中島の 新・徒然草】(168)

百六十八の段 コッツン外傷の恐怖(その2)前々回は「高齢者のコッツン外傷には注意しろ」、前回は「私の経験したコッツン外傷の恐怖」について述べました。すなわち、受診時に意識清明で頭部CT異常なしの高齢者が数時間後に急変し、巨大脳内血腫ができていたという私自身の恐怖の体験から、「次こそ何とかしてやるぞ」と心に誓った話です。ところが、世の中そんなに甘くはなく、病気のほうが1枚も2枚も上手だったのです。大学病院から別の民間病院に異動した私は、ほどなく前回とそっくりな状況の患者さんに遭遇しました。「頭を打ったが意識清明、頭部CTは異常なし」という高齢者です。「こういう人こそ危ないんだ。ちょっとでも異常があったら、すぐCTを撮影しよう」と入院させ、スタッフには厳重に観察するよう指示しました。この患者さん、数時間経たないうちに呂律がまわらなくなってきたので、即座にCTを撮影しました。すると予想どおりに右大脳半球に脳内血腫ができています。「よっしゃあああ!」と右側の開頭血腫除去を行い、術直後のCTできれいに血腫がなくなっているのを確認した私は、達成感とともに帰宅しました。ところが、数時間後に瞳孔不同が出現し、今度のCTでは左側に大きな脳内血腫が認められたのです。「これは難しいな。でも諦めずに血腫除去しよう」左側を開頭し、何とか血腫除去を行った私は、術直後のCTで血腫の大半が除去されていることを確認して帰宅しました。「やれやれ、大変な1日だった。ともかく救命はできたかな」そう思いながら寝ていた深夜に、再び呼び出しの電話が鳴りました。スタッフ「先生、今度は右側の瞳孔散大です!」中島「なにっ! すぐ行くからCTを撮っておいてくれ」慌てて病院に駆け付けた私が見たのは、再び右側の別の部位にできた巨大脳内血腫でした。もはや、できることは何もありません。灯を落とした深夜のICUで、茫然とCTを見つめつつ、「なんでこんな事になってしまったのだろう」と、自問自答するのみでした。その後、何百という頭部外傷に対応し、今回のような遅発性外傷性脳内血腫にも何例か遭遇しました。いわゆる "talk and die(喋った後に死ぬ)"と呼ばれる病態です。治療成績は惨憺たるもので、そのたびにいろいろと考えを巡らせました。血腫が巨大化するのは、頭蓋内で凝固異常もしくは線溶亢進が起こっているからではないか。それなら、血腫ができる前に凝固因子を補充して血液を固めるか、線溶を抑え込んで固まった血液が溶けないようにするか、どちらかで対応すればいいのではないか。あるいは、凝固因子補充と線溶抑制の両方を実行すればなんとかなるかもしれない。しかし、単に新鮮凍結血漿を輸血して凝固因子(フィブリノゲンなど)を補充しても、同時に線溶因子(プラスミノゲンなど)も補充されるので、せっかく固まった血液が片っ端から溶かされてしまう。もしフィブリノゲンだけ補充する手段があれば、うまくいくかもしれない。これらは定説ではなく、あくまでも私が頭の中で考えた理屈にすぎません。でも、少しずつでも工夫を重ねることが、より多くの人を救命する手がかりになるものと思っていろいろ考えるわけです。現在では、早め早めにCT撮影をして、事が起こったら即座に血腫除去をしていますが、それでも助かる人はごく少数、まさしく "talk and die" です。もし読者の皆さんの中で、私の経験を踏み台にして画期的な診断法や治療法を考案してくれる人がいれば、これほど嬉しい事はありません。恐怖の "talk and die" を克服できる日が、いつか来ることを期待したいと思います。最後に1句工夫して 恐怖を重ね 30年

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中等度リスクASへのTAVR、自己拡張型デバイスも有用/NEJM

 中等度リスクの重度大動脈弁狭窄症(AS)患者を対象に、外科的大動脈弁置換術(SAVR)と経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)の有効性と安全性を比較したSURTAVI試験の結果、TAVRはSAVRに対し非劣性であることが認められた。また、有害事象は両手技で異なるものの、TAVRは中等度リスクの重度AS患者においてもSAVRの代替治療となり得ることが示唆された。米国・メソジスト・ドゥベーキー心臓血管センターのMichael J Reardon氏らが報告した。これまで、外科手術による死亡リスクが高い重度AS患者においては、TAVRがSAVRの代替治療となっていたが、中等度リスク患者での転帰はよく知られていなかった。NEJM誌オンライン版2017年3月17日号掲載の報告。中等度リスクの症候性重度AS患者約1,700例で、TAVRと外科手術の臨床転帰を比較 SURTAVI試験は、多施設共同無作為化非劣性試験として、2012年6月19日~2016年6月30日に、米国、欧州およびカナダの87施設において行われた。対象は、症候性の重度ASで、手術のリスクが中等度の患者(米国胸部外科学会死亡リスク予測因子[STS-PROM]基準で30日死亡リスクが3~15%、併存疾患、フレイル[高齢者の虚弱]、障害などにより判定)1,746例。TAVR群またはSAVR群に無作為に割り付け、24ヵ月間追跡した。TAVRは自己拡張型生体弁が用いられた。 主要評価項目は、24ヵ月時の全死因死亡および介護が必要な脳卒中(disabling stroke)の複合エンドポイントで、TAVRのSAVRに対する非劣性をベイズ法(非劣性マージンは0.07)で解析した。主要評価および副次評価項目の統計解析は修正intention-to-treat集団で実施された。TAVRは外科手術に対して非劣性であることを確認 無作為化された1,746例(TAVR群879例、SAVR群867例)中、治療を受けた1,660例(それぞれ864例、796例)が解析対象となった。平均(±SD)年齢は79.8±6.2歳、STS-PROMスコアは4.5±1.6%であった。 主要評価項目である24ヵ月時の複合エンドポイントの推定発生率は、TAVR群12.6%、SAVR群14.0%であった(両群の差のベイズ法による95%信用区間:-5.2~2.3%、非劣性の事後確率>0.999)。SAVR群では急性腎不全、心房細動、輸血が、TAVR群より多く発生した一方、TAVR群では残存大動脈弁逆流やペースメーカー植込みの頻度が高かった。TAVR群ではSAVR群と比較して、圧較差の低下が大きく弁口面積も拡大した。両群とも、24ヵ月時に生体弁の構造的劣化は認められなかった。

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ある日の救急外来【Dr. 中島の 新・徒然草】(164)

百六十四の段 ある日の救急外来年度末の土曜日のこと。夕方に救急外来をのぞくと、患者さんやその御家族でごったがえしていました。当院では、研修医2名が1・2次救急のファーストタッチを担当しています。日直から当直への交代時間はとうに過ぎたはずですが、研修医4名が、ショックバイタルの下血患者さんをはじめとした数名の救急患者さんに対応していました。中島「とにかくバイタルを何とかしろ!」研修医「はい」なんと言っても最重症は下血の患者さん。4人とも表情はテンパっていましたが、内視鏡オンコール医の「すぐ行くから腹部造影CTをやっといてくれ」を目標にして、何とか輸液と輸血でバイタルの立て直しを図っていました。そうこうしているうちにレジデントが応援に駆けつけ、ようやく血圧が100を超え始めました。このチャンスを逃さず、すかさず造影CTへ向かいます。残念ながらほかに用事があったので、私が見ることができたのはここまででした。翌朝、その後の経過を電子カルテで確認しました。造影CTでは、上行結腸から肝彎曲部の腸管内出血が疑われたようです。駆けつけた内視鏡オンコール医が大腸内視鏡で出血点を確認し、クリップ3つで止血に成功し、うまく救命することができました。この患者さんに人手を取られた結果、待たされたほかの患者さんから、いささか不平不満が出たようです。怒っている人ほど医学的には後回しになりがち、というのはよくある救急外来の景色。ただひたすらに頭を下げるのみです。年度末のこの時期、いつも研修管理委員会で問題になるのが、研修医の修了認定。内外の委員から「彼女の社会人としての資質はどうなのか?」「彼は患者さんやほかの職員に対する態度がなっていない」などと言われがちです。しかし、今回の救急室での対応を見るかぎり、合格点をあげてもいいのではないかと思いました。巣立っていく彼らの未来に幸多きことを祈ります。最後に1句出血の ショックを凌いで さあCT! 

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自己免疫性溶血性貧血〔AIHA: autoimmune hemolytic anemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)は、赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体が産生され、抗原抗体反応の結果、赤血球が傷害を受け、赤血球の寿命が著しく短縮(溶血)し、貧血を来す。AIHAは、自己抗体の性状によって温式抗体によるものと、冷式抗体によるものに2大別される。温式抗体(warm-type autoantibody)による病型を単に自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と呼ぶことが多い。冷式抗体(cold-type autoantibody)による病型には、寒冷凝集素症(cold agglutinin disease:CAD)と発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria:PCH)とがある。温式抗体は体温付近で最大活性を示し、原則としてIgG抗体である。一方、冷式抗体は体温以下の低温で反応し、通常4℃で最大活性を示す。IgM寒冷凝集素とIgG二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が代表的である。時に温式抗体と冷式抗体の両者が検出されることがあり、混合型(mixed type)と呼ばれる。■ 疫学AIHAの推定患者数は100万人対3~10人、年間発症率は100万人対1~5人で、病型別比率は、温式AIHA90.4%、CAD7.7% 、PCH1.9%とされている。温式AIHAの特発性/続発性は、ほぼ同数に近いと考えられる。特発性温式AIHAは、小児期のピークを除いて二峰性に分布し、若年層(10~30歳で女性が優位)と老年層(50歳以後に増加し70代がピークで性差はない)に多くみられる。全体での男女比は1~2:3で女性にやや多い。CADのうち慢性特発性は40歳以後にほぼ限られ男性に目立つが、続発性は小児ないし若年成人に多い。PCHは、現在そのほとんどは小児期に限ってみられる。■ 病因自己抗体の出現機序として次のように整理されている。1)免疫応答機構は正常だが患者赤血球の抗原が変化して、異物ないし非自己と認識される。2)赤血球抗原に変化はないが、侵入微生物に対して産生された抗体が正常赤血球抗原と交差反応する。3)赤血球抗原に変化はないが、免疫系に内在する異常のために免疫的寛容が破綻する。4)すでに自己抗体産生を決定付けられている細胞が、単または多クローン性に増殖または活性化され、自己抗体が産生される。■ 症状1)温式AIHA臨床像は多様性に富み、発症の仕方も急激から潜行性まで幅広い。とくに急激発症では発熱、全身衰弱、心不全、呼吸困難、意識障害を伴うことがあり、ヘモグロビン尿や乏尿も受診理由となる。急激発症は小児や若年者に多く、高齢者では潜行性が多くなるが例外も多い。受診時の貧血は高度が多く、症状の強さには貧血の進行速度、心肺機能、基礎疾患などが関連する。黄疸もほぼ必発だが、肉眼的には比較的目立たない。特発性でのリンパ節腫大はまれである。脾腫の触知率は32~48%で、サイズも1~2横指程度が多い。温式AIHAの5~10%程度に直接クームス試験が陰性のものがあり、クームス陰性AIHAと呼ばれる。クームス試験が陽性にならない程度のIgG自己抗体が赤血球に結合しており、診断には赤血球結合IgG定量が有用である。クームス陽性AIHAと同様にステロイド反応性は良好である。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併する場合をエヴァンス症候群と呼び、特発性AIHAの10~20%程度を占める。2)寒冷凝集素症(CAD)臨床症状は溶血と末梢循環障害によるものからなる。感染に続発するCAD は、比較的急激に発症し、ヘモグロビン尿を伴い貧血も高度となることが多い。マイコプラズマ感染では、発症から2~3週後の肺炎の回復期に溶血症状を来す。血中には抗マイコプラズマ抗体が出現し、寒冷凝集素価が上昇する時期に一致する。溶血は2~3週で自己限定的に消退する。EBウイルス感染に伴う場合は症状の出現から1~3週後にみられ、溶血の持続は1ヵ月以内である。特発性慢性CADの発症は潜行性が多く慢性溶血が持続するが、寒冷曝露による溶血発作を認めることもある。循環障害の症状として、四肢末端・鼻尖・耳介のチアノーゼ、感覚異常、レイノー現象などがみられる。これは皮膚微小血管内でのスラッジングによる。クリオグロブリンによることもある。皮膚の網状皮斑を認めるが、下腿潰瘍はまれである。脾腫はあっても軽度である。3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)現在ではわずかに小児の感染後性と成人の特発性病型が残っている。以前よくみられた梅毒性の定型例では、寒冷曝露が溶血発作の誘因となり、発作性反復性の血管内溶血とヘモグロビン尿を来す。寒冷曝露から数分~数時間後に、背部痛、四肢痛、腹痛、頭痛、嘔吐、下痢、倦怠感に次いで、悪寒と発熱をみる。はじめの尿は赤色ないしポートワイン色調を示し、数時間続く。遅れて黄疸が出現する。肝脾腫はあっても軽度である。このような定型的臨床像は非梅毒性では少ない。急性ウイルス感染後の小児PCHは5歳以下に多く、男児に優位で、季節性、集簇性を認めることがある。発症が急激で溶血は激しく、腹痛、四肢痛、悪寒戦慄、ショック状態や心不全を来したり、ヘモグロビン尿に伴って急性腎不全を来すこともある。発作性・反復性がなく、寒冷曝露との関連も希薄で、ヘモグロビン尿も必発とはいえない。成人の慢性特発性病型はきわめてまれである。気温の変動とともに消長する血管内溶血が長期間にわたってみられる。■ 分類AIHAは臨床的な観点から、有意な基礎疾患ないし随伴疾患があるか否かによって、続発性(2次性)と特発性(1次性、原発性)に、また臨床経過によって急性と慢性とに区分される。基礎疾患としては全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患とリンパ免疫系疾患が代表的である。マイコプラズマや特定のウイルス感染の場合、卵巣腫瘍や一部の潰瘍性大腸炎に続発する場合などでは、基礎疾患の治癒や病変の切除とともにAIHAも消退し、臨床的な因果関係が認められる。 ■ 予後温式AIHAで基礎疾患のない特発例では、治療により1.5年までに40%の症例でクームス試験の陰性化がみられる。特発性AIHAの生命予後は5年で約80%、10年で約70%の生存率であるが、高齢者では予後不良である。続発性の予後は基礎疾患によって異なり、リンパ系疾患に比べてSLEなどの自己免疫性疾患に続発する場合のほうが良好である。CADは感染後2~3週の経過で消退し、再燃しない。リンパ増殖性疾患に続発するものは基礎疾患によって予後は異なるが、この場合でも溶血が管理の中心となることは少ない。小児の感染後性のPCH は発症から数日ないし数週で消退する。強い溶血による障害や腎不全を克服すれば一般に予後は良好であり、慢性化や再燃をみることはない。梅毒に伴う場合の多くは、駆梅療法によって溶血の軽減や消退をみる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)(図1 AIHAの診断フローチャート)最初に溶血性貧血としての一般的基準を満たすことを確認し、次いで疾患特異的な検査によって病型を確定する。溶血性貧血の診断基準と自己免疫性溶血性貧血の診断基準を表1と表2に示す。画像を拡大する血液検査や臨床症状から溶血性貧血を疑った場合は、直接クームス試験を行い、陽性の場合は特異的クームス試験で赤血球上のIgG と補体成分を確認する。補体のみ陽性の場合は、寒冷凝集素症(CAD)や発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)の鑑別のため、寒冷凝集素価測定とDonath-Landsteiner(DL)試験を行う。寒冷凝集素は、凝集価が1,000 倍以上、または1,000 倍未満でも30℃以上で凝集活性がある場合には病的意義があるとされる。スクリーニング検査として、患者血清(37~40℃下で分離)と生食に懸濁したO型赤血球を混和し、室温(20℃)に30~60分程度放置後、凝集を観察する。凝集が認められない場合は病的意義のない寒冷凝集素と考えられる。凝集がみられた場合には、さらに温度作動域の検討を行う。凝集素価が低値でもアルブミン法などで30℃以上での凝集が認められる場合は低力価寒冷凝集素症とする。DL 抗体の検出は、現在外注で依頼できる検査機関がないことから、自前の検査室で行う必要がある。直接クームス試験が陰性であったり、特異的クームス試験で補体のみ陽性の場合でも、症状などから温式AIHA が疑われる場合やほかの溶血性貧血が否定された場合は、赤血球結合IgG 定量を行うとクームス陰性AIHA と診断できることがある。温式AIHAと寒冷凝集素症が合併している場合は、混合型AIHA の診断となる。表1 溶血性貧血の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)臨床所見として、通常、貧血と黄疸を認め、しばしば脾腫を触知する。ヘモグロビン尿や胆石を伴うことがある。2)以下の検査所見がみられる。(1)へモグロビン濃度低下(2)網赤血球増加(3)血清間接ビリルビン値上昇(4)尿中・便中ウロビリン体増加(5)血清ハプトグロビン値低下(6)骨髄赤芽球増加3)貧血と黄疸を伴うが、溶血を主因としない他の疾患(巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、赤白血病、congenital dyserythropoietic anemia、肝胆道疾患、体質性黄疸など)を除外する。4)1)、2)によって溶血性貧血を疑い、3)によって他疾患を除外し、診断の確実性を増す。しかし、溶血性貧血の診断だけでは不十分であり、特異性の高い検査によって病型を確定する。表2 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)溶血性貧血の診断基準を満たす。2)広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性である。3)同種免疫性溶血性貧血(不適合輸血、新生児溶血性疾患)および薬剤起因性免疫性溶血性貧血を除外する。4)1)~3)によって診断するが、さらに抗赤血球自己抗体の反応至適温度によって、温式(37℃)の(1)と、冷式(4℃)の(2)および(3)に区分する。(1)温式自己免疫性溶血性貧血臨床像は症例差が大きい。特異抗血清による直接クームス試験でIgGのみ、またはIgGと補体成分が検出されるのが原則であるが、抗補体または広スペクトル抗血清でのみ陽性のこともある。診断は(2)、(3)の除外によってもよい。(2)寒冷凝集素症(CAD)血清中に寒冷凝集素価の上昇があり、寒冷曝露による溶血の悪化や慢性溶血がみられる。直接クームス試験では補体成分が検出される。(3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)ヘモグロビン尿を特徴とし、血清中に二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が検出される。5)以下によって経過分類と病因分類を行う。急性推定発病または診断から6ヵ月までに治癒する。慢性推定発病または診断から6ヵ月以上遷延する。特発性基礎疾患を認めない。続発性先行または随伴する基礎疾患を認める。6)参考(1)診断には赤血球の形態所見(球状赤血球、赤血球凝集など)も参考になる。(2)温式AIHAでは、常用法による直接クームス試験が陰性のことがある(クームス陰性AIHA)。この場合、患者赤血球結合IgGの定量が有用である。(3)特発性温式AIHAに特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が合併することがある(エヴァンス症候群)。また、寒冷凝集素価の上昇を伴う混合型もみられる。(4)寒冷凝集素症での溶血は寒冷凝集素価と平行するとは限らず、低力価でも溶血症状を示すことがある(低力価寒冷凝集素症)。(5)自己抗体の性状の判定には抗体遊出法などを行う。(6)基礎疾患には自己免疫疾患、リウマチ性疾患、リンパ増殖性疾患、免疫不全症、腫瘍、感染症(マイコプラズマ、ウイルス)などが含まれる。特発性で経過中にこれらの疾患が顕性化することがある。(7)薬剤起因性免疫性溶血性貧血でも広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性となるので留意する。診断には臨床経過、薬剤中止の影響、薬剤特異性抗体の検出などが参考になる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 温式AIHAの治療(図2 特発性温式AIHAの治療フローチャート)画像を拡大する特発性の温式AIHAの治療では、副腎皮質ステロイド薬、摘脾術、免疫抑制薬が三本柱であり、そのうち副腎皮質ステロイド薬が第1選択である。特発性の80~90%はステロイド薬単独で管理が可能と考えられる。1)急性期:初期治療(寛解導入療法)ステロイド薬使用に対する重大な禁忌条件がなければ、プレドニゾロン換算で1.0mg/kgの大量(標準量)を連日経口投与する。高齢者や随伴疾患があるときは、減量投与が勧められる。約40%は4週までに血液学的寛解状態に達する。AIHAでは輸血はけっして安易に行わず、できる限り避けるべきとするのが一般的であるが、薬物治療が効果を発揮するまでの救命的な輸血は、機を失することなく行う必要がある。その場合、生命維持に必要なヘモグロビン濃度の維持を目標に行う。安全な輸血のため、輸血用血液の選択についてあらかじめ輸血部門と緊密な連携を取ることが勧められる。2)慢性期:ステロイド減量期ステロイド薬の減量は、状況が許すならば急がず、慎重なほうがよく、はじめの1ヵ月で初期量の約半量(中等量0.5mg/kg/日)とし、その後は溶血の安定度を確認しながら2週に5mgくらいのペースで減量し、10~15mg/日の初期維持量に入る。減量期に約5%で悪化をみるが、その際はいったん中等量(0.5mg/kg/日)まで増量する。3)寛解期:維持療法・治療中止時期ステロイド薬を初期維持量まで減量したら、網赤血球とクームス試験の推移をみて、ゆっくりとさらに減量を試み、平均5mg/日など最少維持量とする。直接クームス試験が陰性化し、数ヵ月以上経過しても再陽性化や溶血の再燃がみられず安定しているなら、維持療法をいったん中止して追跡することも可能となる。4)増悪期:再燃時、ステロイド不応例維持療法中に増悪傾向が明らかならば、早めに中等量まで増量し、寛解を得た後、再度減量する。ステロイド薬の維持量が15mg/日以上の場合、また副作用・合併症の出現があったり、悪化を繰り返すときは、2次・3次選択である摘脾や免疫抑制薬、抗体製剤の採用を積極的に考える。ステロイドによる初期治療に不応な場合は、まず悪性腫瘍などからの続発性AIHAの可能性を検索する。基礎疾患が認められない場合は、特発性温式AIHAとして複数の治療法が考慮されるが、優先順位や適応条件についての明確な基準はなく、患者の個別の状況により選択され、いずれの治療法もAIHAへの保険適用はない。唯一、摘脾とリツキシマブについては短期の有効性が実証されており、摘脾が標準的な2次治療として推奨されている。(1)摘脾脾臓は感作赤血球を処理する主要な臓器であり、自己抗体産生臓器でもある。わが国では特発性AIHAの約15%(欧米では25~57%)で摘脾が行われており、短期の有効性は約60%と高い。ステロイド投与が不要となる症例や20%程度に治癒症例もみられることから、ステロイド不応性AIHAの2次治療として推奨されている。(2)リツキシマブステロイド不応性温式AIHAに対する新たな治療法として注目されている。短期の有効性について多くの報告はあるが、まだ保険適用ではない。標準的治療としては375mg/m2を1週間おきに4回投与する。80%の有効率が報告されている。安全性に関しても大きな問題はない。短期間のステロイド投与を併用した低用量のリツキシマブ(100mg、4週ごと投与)も試みられている。(3)免疫抑制薬ステロイドに次ぐ薬物療法の2次選択として、シクロホスファミドやアザチオプリンなどが用いられる。主な作用は抗体産生抑制で、有効率は35~40%で、ステロイド薬の減量効果が主である。免疫抑制、催奇形性、発がん性、不妊症など副作用に注意が必要であり、有効であったとしても数ヵ月以上の長期投与は避ける。■ 冷式AIHAの治療保温が最も基本的である。室温、着衣、寝具などに十分な注意を払い、身体部分の露出や冷却を避ける。輸血や輸液の際の温度管理も問題となる。CADに対する副腎皮質ステロイド薬の有効性は温式AIHAに比しはるかに劣るが、激しい溶血の時期には短期間用いて有効とされることが多い。貧血が高度であれば、赤血球輸血も止むを得ないが、補体(C3d)を結合した患者赤血球が溶血に抵抗性となっているのに対し、輸注する赤血球はむしろ溶血しやすい点に留意する。摘脾は通常適応とはならない。リンパ腫に伴うときは、原疾患の化学療法が有効である。マイコプラズマ肺炎に伴うCADでは適切な抗菌薬を投与するが、溶血そのものに対する効果とは別であり、経過が自己限定的なので、保存療法によって自然経過を待つのが原則である。特発性慢性CADの治療として、リツキシマブ単独療法やリツキシマブ+フルダラビン併用療法が報告されている。■ PCHの治療小児で急性発症するPCHは、寒冷曝露との関連が明らかではないが、保温の必要性は同様である。急性溶血期を十分な支持療法で切り抜ける。溶血の抑制に副腎皮質ステロイド薬が用いられ、有効性は高い。小児PCHでは、摘脾を積極的に考慮する状況は少ない。貧血の進行が急速なら赤血球輸血も必要となるが、DL抗体はP特異性を示すことが多く、供血者赤血球は大多数がP陽性なので、溶血の悪化を招く恐れもある。急性腎不全では血液透析も必要となる。4 今後の展望AIHAの治療では、リツキシマブが登場したことで、ステロイド不応例などでの治療選択の幅が広がった。今後、自己抗原反応性T細胞などを対象にした疾患特異的な治療法の開発が期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報特発性造血障害に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 自己免疫性溶血性貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成26年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班.(参照2015.4.17)2)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成28年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班. (参照2017)公開履歴初回2015年05月26日更新2017年04月04日

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リバーロキサバン、VTE再発リスクを有意に低下/NEJM

 6~12ヵ月間の抗凝固薬投与を完了した静脈血栓塞栓症(VTE)患者において、リバーロキサバンの治療用量(20mg)または予防用量(10mg)はいずれも、アスピリンと比較し、出血リスクを増加させることなく再発リスクを有意に低下させることが認められた。31ヵ国244施設で実施された無作為化二重盲検第III相試験「EINSTEIN CHOICE」の結果を、カナダ・マックマスター大学のJeffrey I Weitz氏らが報告した。抗凝固療法の長期継続はVTEの再発予防に有効であるが、出血リスクの増加が懸念されることから、6~12ヵ月以上の抗凝固療法には抵抗感も強い。長期治療時の出血リスクを減少するため、低用量の抗凝固薬あるいはアスピリンの使用が試みられているが、どれが効果的かはこれまで不明であった。NEJM誌オンライン版2017年3月18日号掲載の報告。リバーロキサバン2用量とアスピリンの有効性および安全性を比較 研究グループは、2014年3月~2016年3月に、ワルファリンまたは直接経口抗凝固薬(DOAC)による6~12ヵ月の治療を完了した18歳以上のVTE患者3,396例を、リバーロキサバン20mg、10mgまたはアスピリン100mgの各投与群(いずれも1日1回)に1対1対1の割合で無作為に割り付け、12ヵ月間投与した。 有効性の主要評価項目は、致死的または非致死的な症候性再発性VTE、安全性の主要評価項目は大出血(2g/dL以上のヘモグロビン低下、2単位以上の赤血球輸血または致死的)とした。解析にはCox比例ハザードモデルを使用し、診断(深部静脈血栓症/肺塞栓症)で層別化も行った。リバーロキサバンで症候性再発性VTEの相対リスクが約70%減少 3,365例がintention-to-treat解析に組み込まれた(治療期間中央値351日)。 致死的/非致死的症候性再発性VTEの発生は、リバーロキサバン20mg群が1,107例中17例(1.5%)、リバーロキサバン10mg群が1,127例中13例(1.2%)、一方、アスピリン群では1,131例中50例(4.4%)であった(リバーロキサバン20mg群 vs.アスピリン群のハザード比[HR]:0.34、95%信頼区間[CI]:0.20~0.59/リバーロキサバン10mg群 vs.アスピリン群のHR:0.26、95%CI:0.14~0.47、いずれもp<0.001)。 大出血の発生率は、リバーロキサバン20mg群0.5%、リバーロキサバン10mg群0.4%、アスピリン群0.3%、重大ではないが臨床的に問題となる出血はそれぞれ2.7%、2.0%および1.8%であった。有害事象の発生率は3群すべてにおいて同程度であった。 本研究では、治療用量での抗凝固薬長期投与を必要とする患者は除外されていた。また、試験期間が最大12ヵ月と短かった。著者は「より長期にわたる継続投与の有益性を検証するさらなる試験が必要である」とまとめている。

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フレッシュな赤血球輸血だと手術合併症も少ない?

 大手術を受ける患者は濃厚赤血球輸血(packed red blood cell、以下PRBC)の投与を受ける機会も多い。しかし、PRBCの経年程度(輸血前の保存期間)が、周術期の手術成績に与える影響はいまだ明らかになっていない。 当試験には2009~14年にジョンズホプキンス大学病院で、肝・膵臓および結腸直腸の外科的切除術を受け、1単位以上の赤血球輸血を受けた1,365例の患者が登録された。そこからPRBCの保存期間、臨床病理的特徴、そして周術期の結果を入手し多変量解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・合計5,901単位のPRBCが輸血され、1患者当たりの中央値は2単位であった。・保存期間35日未満のPRBCを受けた患者(新鮮なPRBC群)は936例(58.6%)、保存期間35日以上の投与を受けた患者(古いPRBC群)は429例(32.4%)であった。・全体の周術期合併症は32.8%であった。・古いPRBC群の手術合併症発生率は42.7%、新鮮なPRBC群では28.3%と、古いPRBC群で有意に高かった(p<0.01)。・交絡因子調整後も古いPRBCは周術期合併症のリスク増加に関連していた(RR:1.02、p=0.03)。 古いPRBCの使用は、肝・膵臓および結腸直腸手術術後合併症の独立した予測因子であり、術後合併症のリスク上昇に寄与する可能性が示唆された。

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血管止血デバイスの安全性評価に有用な監視システム/NEJM

 DELTA(Data Extraction and Longitudinal Trend Analysis)と呼ばれる前向き臨床登録データサーベイランスシステムを用いた検証により、血管止血デバイスの1つであるMynxデバイスが、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の有害事象増加と関連しており、最初の1年以内で他の血管止血デバイスと有意差がみられることが明らかとなった。米国・Lahey Hospital and Medical CenterのFrederic S. Resnic氏らが、PCI後の有害事象増加が懸念されているデバイスの安全性モニタリングについて、DELTAシステムを用いた戦略が実現可能かを評価したCathPCI DELTA試験の結果、報告した。これまで、医療機器の市販後の安全性を保証する過程は、有害事象の自主報告に依存しており、安全性の評価と確認が不完全であった。NEJM誌オンライン版2017年1月25日号掲載の報告。Mynxデバイスの安全性に関する傾向スコア解析を実施 DELTAは、オープンソースのデータベース管理および統計解析ツールを結合する統合ソフトウェア・コンポーネントで、臨床登録と他の詳細な臨床データから安全性シグナルを前向きにモニターするサーベイランスシステムである。 研究グループは、DELTAシステムを使用し、CathPCI Registryに登録された患者を対象に、Mynxデバイスの安全性を他の承認済み血管止血デバイスと比較する傾向スコア解析を実施した(Mynxは、シースを抜く際に大腿動脈の穿刺部を、生体に吸収されるポリエチレングリコールで止血するデバイス)。 主要評価項目は、全血管合併症(穿刺部出血、穿刺部血腫、後腹膜出血、その他の処置を要する血管合併症)、副次評価項目は治療を要する穿刺部出血および施術後輸血であった。他の血管止血デバイスと比較し、Mynxデバイスで血管合併症リスクが有意に増加 2011年1月1日~2013年9月30日の間に、大腿部アプローチによるPCI後にMynxデバイスを使用した患者7万3,124例のデータが解析された。 Mynxデバイスは、他の血管止血デバイスと比較して、全血管合併症のリスクが有意に増加した(絶対リスク1.2% vs.0.8%、相対リスク:1.59、95%信頼区間[CI]:1.42~1.78、p<0.001)。同様に、穿刺部出血(同:0.4% vs.0.3%、1.34、1.10~1.62、p=0.001)、および輸血(1.8% vs.1.5%、1.23、1.13~1.34、p<0.001)も有意なリスク増加が確認された。 Mynxデバイスによる血管合併症に関する警告(増加が有意であることが最初に認められたこと)は、モニタリング開始後12ヵ月以内に発生した。相対リスクは、事前に定義した3つのサブグループ(糖尿病、70歳以上、女性)でより高かった。 FDAの指示により追加された2014年4月1日~2015年9月30日の間の別の4万8,992例を対象とした解析でも、すべての評価項目に関して最初の12ヵ月以内に警告が確認された。

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上部消化管出血患者のリスク評価スコア5種を比較/BMJ

 上部消化管出血患者のリスク評価は、Glasgow Blatchfordスコアが治療の必要性や死亡に関する予測精度が最も高い。英国・グラスゴー王立診療所のAdrin J Stanley氏らが、複数のシステム(admission Rockall、AIMS65、Glasgow Blatchford、full Rockall、PNED)について予測精度と臨床的有用性を比較する国際多施設前向き研究を行い明らかにした。ただし、Glasgow Blatchfordスコアも、その他のエンドポイントに関しては臨床的有用性には限界があるという。上部消化管出血患者の管理では、リスク評価スコアを用いて外来管理か緊急内視鏡検査、またはより高度な治療を実施するかを決定することが推奨されているが、これまで、予測精度や普遍性、リスクを判断する最適閾値などが不明のままであった。BMJ誌2017年1月4日号掲載の報告。上部消化管出血患者の5つのリスク評価スコアを比較 研究グループは、欧州・北米・アジア・オセアニアの大規模病院6施設において、2014年3月~2015年3月の12ヵ月間にわたり上部消化管出血患者連続3,012例について評価した。 主要評価項目は、複合評価項目(輸血、内視鏡治療、画像下治療[IVR]、外科手術、30日死亡率)、内視鏡的治療、30日死亡率、再出血、在院日数で、内視鏡検査前のリスク評価スコア(admission Rockall、AIMS65、Glasgow Blatchford)と内視鏡検査後のリスク評価スコア(full Rockall、progetto nazionale emorragia digestive[PNED])を比較するとともに、低リスク患者と高リスク患者を特定するための最適スコア閾値を求めた。Glasgow Blatchfordスコアが介入や死亡の予測に最も有用 結果、介入(輸血、内視鏡治療、IVR、手術)の必要性または死亡を予測するうえで最も有用なのは、Glasgow Blatchfordスコア(GBS)であった。ROC曲線下面積(AUROC)は、GBSが0.86であったのに対し、full Rockallは0.70、PNEDは0.69、admission Rockallは0.66、AIMS65は0.68であった(すべてのp<0.001)。また、GBS 1点以下が、介入不要の生存を予測する最適閾値であった(感度98.6%、特異度34.6%)。 内視鏡治療の予測には、AIMS65(AUROC:0.62)やadmission Rockall(0.61)と比較して、GBS(0.75)が適していた(両比較のp<0.001)。GBS 7点以上が、内視鏡治療を予測する最適閾値であった(感度80%、特異度57%)。 死亡の予測には、PNED(0.77)およびAIMS65(0.77)が、admission Rockall(0.72)およびGBS(0.64)より優れており最も予測に有用であった(p<0.001)。死亡を予測する最適閾値はPNED 4点以上、AIMS65は2点以上、admission Rockallは4点以上、full Rockallは5点以上であった(感度65.8~78.6%、特異度65.0~65.3%)。 再出血や在院日数の予測に役立つスコアは、なかった。 著者は、上部消化管出血発症時にすでに入院中の患者は除外されていることや、患者の31%は内視鏡検査が未実施であったことなどを研究の限界として挙げている。そのうえで、「救急部門でのGBS利用が多くの国々で拡がることにより、上部消化管出血患者の最大19%は外来患者として安全に管理できる可能性がある」とまとめている。

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CORONARY試験:冠動脈バイパス術後5年目成績はオフポンプとオンポンプでは同等(解説:大野 貴之 氏)-629

 オフポンプ冠動脈バイパス手術(CABG)は、人工心肺を使用した心停止下CABGと比較すると、熟達するまでの執刀経験は多く必要であることは否定できない。しかし、“心臓を動かしたまま”手術するといっても、スタビライザーを使用し、冠動脈末梢吻合部は静止した状態で吻合施行するので、慣れればそんなに難しい手技ではない。 オンポンプCABGとオフポンプCABGを比較した最初のランダム試験は、2,203例を対象としたROOBY試験である1)。この試験では、執刀医の資格はオフポンプCABG経験数20例以上と少なく(平均50例)、レジデントも含まれていた。追跡期間1年で心臓死はオフポンプ群で有意に高値であった。これは、オフポンプ群の12.4%が術中オンポンプに移行(conversion)しており、平均吻合数もオンポンプ群と比較して少ないことから、オフポンプCABGの手技が未熟であったことが影響している。一方、CORONARY試験は4,752例を対象としたオンポンプCABGとオフポンプCABGを比較したランダム試験で、執刀医の資格はレジデント終了後2年以上かつオフポンプCABGを100例以上経験していることである。 術後早期成績の報告では、輸血率、再開胸率、腎不全率および呼吸器合併症はオフポンプ群において低率であったが、再血行再建率はオフポンプ群ではやはり高率(0.7% vs.0.2%:p=0.01)であった2)。 2015年、Deppe氏らは51本のランダム試験を統合した1万6,904例のメタ解析でオフポンプCABGはオンポンプCABGと比較して、脳梗塞発症、腎機能障害、縦隔炎発症は低いが、グラフト不全、再血行再建術は高いと報告している。心筋梗塞、死亡に関しては有意差を認めなかった3)。 今回、CORONARY試験の追跡期間5年結果を報告した論文では、オフポンプ群とオンポンプ群で死亡・脳梗塞・心筋梗塞・腎不全・医療費、QOLは両群で同等であった。再血行再建術もオフポンプ群66例(2.8%)、オンポンプ群52例(2.3%)と同等であった。 オフポンプCABGは、技術的に熟達するために多くの経験数は必要であるが、慣れればオンポンプCABGと同等に安全で有効な手術である。

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