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トラネキサム酸、高用量で心臓手術関連の輸血を低減/JAMA

 人工心肺を用いた心臓手術を受けた患者では、トラネキサム酸の高用量投与は低用量と比較して、同種赤血球輸血を受けた患者の割合が統計学的に有意に少なく、安全性の主要複合エンドポイント(30日時の死亡、発作、腎機能障害、血栓イベント)の発生は非劣性であることが、中国国立医学科学院・北京協和医学院のJia Shi氏らが実施した「OPTIMAL試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2022年7月26日号に掲載された。中国4施設の無作為化試験 OPTIMAL試験は、人工心肺を用いた心臓手術を受けた患者ではトラネキサム酸の高用量は低用量に比べ、有効性が高く安全性は非劣性との仮説の検証を目的とする二重盲検無作為化試験であり、2018年12月~2021年4月の期間に、中国の4施設で参加者の登録が行われた(中国国家重点研究開発計画の助成による)。 対象は、年齢18~70歳、人工心肺を用いた待機的心臓手術を受ける予定で、本試験への参加についてインフォームド・コンセントを受ける意思と能力を持つ患者であった。患者はいつでも試験参加への同意を撤回できるとされた。 被験者は、高用量トラネキサム酸または低用量トラネキサム酸の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。高用量群では、麻酔導入後、トラネキサム酸30mg/kgがボーラス静注され、術中は維持量16mg/kg/時がポンプ充填量2mg/kgで投与された。低用量群は、トラネキサム酸10mg/kgがボーラス静注され、術中は維持量2mg/kg/時がポンプ充填量1mg/kgで投与された。 有効性の主要エンドポイントは、手術開始後に同種赤血球輸血を受けた患者の割合(優越性仮説)とされ、安全性の主要エンドポイントは、術後30日の時点での全死因死亡、臨床的発作(全般強直間代発作、焦点発作)、腎機能障害(KDIGO基準のステージ2または3)、血栓イベント(心筋梗塞、虚血性脳卒中、深部静脈血栓症、肺塞栓症)の複合であった(非劣性仮説、非劣性マージン5%)。副次エンドポイントには、安全性の主要エンドポイントの各構成要素など15項目が含まれた。輸血:21.8% vs.26.0%、安全性:17.6% vs.16.8% 3,079例(平均年齢52.8歳、女性38.1%)が無作為化の対象となり、このうち3,031例(98.4%)が試験を完了した。高用量群に1,525例、低用量群に1,506例が割り付けられた。追跡期間中に48例(高用量群23例、低用量群25例)が脱落し、安全性の主要複合エンドポイントの評価から除外された。 手術開始から退院までに、少なくとも1回の同種赤血球輸血を受けた患者は、高用量群が1,525例中333例(21.8%)であり、低用量群の1,506例中391例(26.0%)に比べ、有意に割合が低かった(群間リスク差[RD]:-4.1%、片側97.55%信頼区間[CI]:-∞~-1.1、リスク比:0.84、片側97.55%CI:-∞~0.96、p=0.004)。 また、安全性の主要複合エンドポイントが発現した患者は、高用量群が265例(17.6%)、低用量群は249例(16.8%)と、高用量群の低用量群に対する非劣性が確認された(群間RD:0.8%、片側97.55%CI:-∞~3.9、非劣性検定のp=0.003)。 同種赤血球輸血量中央値は、高用量群が0.0mL(四分位範囲[IQR]:0.0~0.0)、低用量群は0.0mL(0.0~300.0)と、高用量群で有意に少なかった(群間差中央値:0.0mL、95%CI:0.0~0.0mL、p=0.01)。一方、新鮮凍結血漿や血小板、クリオプレシピテートの輸注量には両群間に差はなかった。 術後の胸部ドレナージによる総排液量、出血による再手術、人工呼吸器の使用期間、集中治療室(ICU)入室期間、術後入院期間にも、両群間で差は認められなかった。また、心筋梗塞の30日リスクや、腎機能障害、虚血性脳卒中、肺塞栓症、深部静脈血栓症、死亡の発生率にも有意な差はみられなかった。 発作は、高用量群が15例(1.0%)、低用量群は6例(0.4%)で発現したが、トラネキサム酸の用量が増加しても発作が有意に多くなることはなかった(群間RD:0.6%、95%CI:-0.0~1.2、相対リスク:2.47、95%CI:0.96~6.35、p=0.05)。 著者は、「トラネキサム酸の高用量と低用量のどちらを用いるかは、開心心臓手術と非開心心臓手術における手術関連の出血リスクによって決まる可能性がある」としている。

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第117回 なぜその情報が必要か―安倍氏銃撃事件から医療者や報道陣が学ぶべきこと

参議院選挙最中の7月8日、奈良県奈良市の近鉄大和西大寺駅前で選挙応援中だった安倍 晋三元首相が凶弾に倒れた。殺人未遂(後に殺人に切り替え)の現行犯で逮捕された容疑者は、母親が宗教団体に入信し、その寄付が原因で家庭が崩壊。この団体と安倍元首相が親しいと考え、安倍元首相を標的にしたとしている。安倍元首相は現場で応急処置後に救急車とドクターヘリを使って奈良県立医科大学(以下、奈良医大)高度救命救急センターに搬送されたが、同日午後5時3分、死亡が確認された。日本国内では明治期の内閣制採用以降これまで64人の首相経験者がいるが、在任中あるいは退任後に殺害されたのは、安倍氏を含め7人。第二次世界大戦後では安倍氏が初めてである。今回、この件を医療・報道の側面から振り返りたい。まず、事件が発生したのは8日午前11時31分ごろ。奈良県選挙区の自由民主党公認候補の応援演説のため、奈良県入りした安倍氏は近鉄大和西大寺駅前の横断歩道中ごろにあるカードレールで囲まれた安全地帯で午前11時29分ごろから演説を開始。その直後、背後の車道に侵入してきた容疑者が安倍氏の背後約3mの距離から自作銃で発砲し、爆音と白煙が発生。一瞬後方を振り返った安倍氏だったが、容疑者がすぐさま2発目を発射した直後、避難するかのようにうずくまったまま倒れ込んだ。その後のタイムラインは以下のようになる。▽午前11時31分:奈良市消防局に通報▽午前11時32分:救急隊出動▽午前11時36分:消防局がドクターヘリを要請▽午前11時37分:救急隊などが現場に到着▽午前11時54分:現場から安倍元首相を搬送開始▽午後 0時 9分:平城京跡歴史公園で搬送をドクターヘリに引き継ぐ▽午後 0時20分:ドクターヘリが奈良県立医科大学到着安倍元首相が搬送される直前、現場の写真がネット上に公開されているが、そこで写っていた安倍元首相の顔面は蒼白。当時、駆け付けた現場近くのクリニックの医師の証言では、すでに看護師と思われる女性が心臓マッサージ中で自発呼吸はなく、ほぼ心肺停止状態。眼球結膜が真っ白でかなり出血していると考えられ、瞳孔も開きかけていたという。さらに周囲の呼びかけにはすでに反応がなく、痛覚を確認するための爪床刺激にも反応はなかった。この医師は、クリニックにあった自動体外式除細動器(AED)を装着させるも、解析の結果、適応はないと判断されたと語っている。適応がないということはすでに心停止ということになる。そこで心臓マッサージが再開されたという。同時に脳に血流が少しでも行くように医師が下肢挙上を行った。その後は上記のタイムライン通り。死亡確認後に行われた奈良医大による記者会見で、高度救命救急センター長で教授の福島 英賢氏が語った内容を箇条書きにする。救急隊接触時・搬送時にすでに心肺停止状態右頸部に約5cm間隔で2ヵ所の銃創らしきもの、左肩に射出口らしき傷処置中に体内から弾丸は未発見心臓および大血管の損傷による心肺停止と推定心室にも損傷対応は外来処置室で実施処置内容は蘇生的開胸による胸部止血と輸血輸血量は100単位以上一部止血をできたところもあったが、凝固能が失われさまざまなところから出血死因は失血死奈良県警が同日午後10時40分から翌日早朝にかけて約6時間半にわたって行った司法解剖の結果では、銃弾による傷は首と左上腕部の計2カ所。奈良医大の会見で射出口の可能性があると説明されていた左肩は射入口で、右頸部の銃創と思われた2か所のうち、片方については県警の司法解剖では銃創であるかは判別できなかったという。そのうえで死因は「左上腕部射創による左右鎖骨下動脈損傷にもとづく失血死」とされている。前述の奈良医大の会見での質疑については、SNS上で医療関係者を中心に“質問内容が稚拙”と批判も多かった。この印象はほぼ私も同じだが、その一部を改めて振り返り論評を加えたい。まず、記者と福島氏との間では同じようなやり取りが何度か繰り返されている。 記者A 無くなられた時間は5時3分ということですが、家族が到着されていたのは確か5時過ぎだったような気がするのですが、到着されていた時はすでにお亡くなりになられていたということでしょうか?福島氏救急隊接触時からずっと心肺停止状態であられました 記者B 今回、撃たれた現場で即死したという理解でよろしいでしょうか?福島氏撃たれた現場で心肺停止状態になったという表現になるかと思います 記者C 搬送された時点で手遅れという言い方をしてもよろしいでしょうか?福島氏すでにかなり大きな怪我があったことには違いありませんので、一般的にはそういうご理解になるのかもしれませんが、われわれとしては心肺停止状態ということで対応しています 当初の報道では救急隊の現場到着時に意識があったとも伝えられていたが、前述の現場で対応した医師の証言や会見を聞く限りでは、救急隊到着時から心肺停止状態だったことは間違いないようである。意識があったという報道は、おそらく銃撃のまさに直後の周囲の呼びかけに対してだったのだろう。本サイトの読者に対しては釈迦に説法だが、心停止、自発呼吸の停止、瞳孔散大の3点を医師が確認して死亡と判定されるまでは、心肺停止と定義されることが多い。一般人からすると、この状態は「死亡判定を受けていない事実上の死体」と捉えられがちで、海外の一部ではこの状態では報道上死亡扱いをすることも少なくない。その点で実は日本の報道のほうがきわめて厳格な扱いをしている。にもかかわらず、会見で上記のようなちぐはぐな応答が散見されたのは、おそらく記者の配置上の問題だろう。この「死亡」と「心肺停止」の定義について最も敏感と思われるのが、事件、事故、災害時を担当する社会部の警察担当記者、あるいは科学部記者。しかし、今回の事件の重大さを考えれば警察担当記者はおそらく奈良県警察本部に詰めていただろうし、事件時に科学部記者が出動することは少ない。つまり奈良医大の会見では、そのどちらでもない記者が大勢を占めていただろうと推定される。それゆえのちぐはぐさが上記のやり取りには表れていると思う。なお、SNS上では奈良医大に到着した昭恵夫人の様子を聞き出そうとしたかのような質問をした記者と、そのことには触れなかった福島氏のやり取りについて記者を批判しているケースが少なくない。私個人としてはどちらの立場も正しいと敢えて言及しておきたい。記者は聞けることは、真空ポンプで空気を吸い取るがごとくすべて聞くのが鉄則。初めから「どうせ答えてもらえないだろうから」と尻込みする記者は記者とは言えない。一方で患者を治療した際の医学的側面のみを語り、みだりにプライバシーや推定を語らない福島氏の立場も医療従事者として当然かつ正しい在り方である。メディア全般に不信感を持つ人にとってはこの評価は「身内びいき」と思われるかもしれないが、取材とは例えは悪いが「狐と狸の化かし合い」が常である。そのうえでこのやり取りの記者側の意図を私なりに推測すると、単純にどれだけ搬送時の安倍氏の状態がどれだけ深刻なものだったかを知りたかったということだろう。たぶん私が会見場にいたら、回答が得られたかどうかは別にして搬送時の推定失血量を聞いただろう。銃創の場合、発生から10分以内に開胸が行える医療機関への搬送ができるか否かが救命のカギを握る。また、循環血液量の30%以上の出血があれば生命の危機となる。以前官邸ホームページで公開されていた安倍氏の身長は175cm、体重は70kgだったことから、おおよその循環血液量は体重の約13分の1である5.8L。約1.7Lの出血で致命的だ。会見時に福島氏が説明した輸血量100単位以上について、記者から100単位以上とは何mLか問われ、福島氏は現時点でわからないと回答をしている。これはたぶん輸血したのが赤血球濃厚液(1単位140mL)、濃厚血小板液(10単位約200mL)、新鮮凍結血漿液(1単位約120mL)が入り混じって使われたからだろうと推察される。100単位を単純計算すれば、赤血球濃厚液換算で14L、濃厚血小板換算で2L、新鮮凍結血漿液で12Lとなる。治療時間5時間ということを加味しても搬送時点ですでに生命の危機の失血量だったことはほぼ確実と言って良いだろう。ちなみに事件発生当初、搬送時に意識があったと誤報(あくまで結果論だが)されたこともあり、私個人はなぜ奈良医大に搬送したのだろうと考えていた。もちろん奈良県内で重篤な患者を受け入れる三次救命救急施設3ヵ所のうち、ドクターヘリも有している奈良県立医科大学附属病院高度救命救急センターが最高位にあることから考えれば、常道ではある。ただ、繰り返しになるが銃創は発生から10分以内に開胸が行える医療機関への搬送が救命の鉄則。そうした中で同県内の三次救命救急施設3ヵ所のうち奈良県立病院機構奈良県総合医療センター救急・集中治療センターが現場から車で15分ほどだったことから、当初は私は上記のように思った。しかしながら、前述の奈良医大の会見を聞けば、極端な言い方をすれば事件現場で開胸して止血・輸血でも行わなければ、救命の可能性を見いだすことは難しかっただろうと考えた。また、輸血量からしても奈良医大のほうがそのストックが多かったと考えられるので、その点からも最終的には合点がいった。また、奈良医大の会見で、ある記者が心臓への損傷が疑われる際のAED使用や心臓マッサージを行うことの是非について尋ね、福島氏が一般論として正しい処置だと答えた件について、SNS上では記者に向けてやや批判めいた言説が目立つ。これは福島氏の答え次第では現場で処置した人が非難されかねないことを危惧した言説だろう。ただ、一般人ならば心臓に損傷の可能性がある時に本当にこうした処置をしていいものか悩むのはある意味当然である。というか、一般人はそうした知識がほとんどない。そうしたことを加味すれば、このやり取りは一般人に応急措置に対する知識を普及する上では有用なものだったと個人的には考えている。一方、今回の事件に関して私が1つだけ完全にNGと思った報道人の言動がある。安倍元首相に関する著作もある元民放記者が安倍氏の死亡時刻の1時間半ほど前に「安倍さんがお亡くなりになった」とのタイトルでSNSに投稿を行ったことだ。当然ながらこの投稿は批判されたが、元記者は正式な死亡発表後に「(投稿した時点で)家族にもすでに情報が伝わっていた」と強弁。しかし、最終的には提供された情報が誤っていた(その時点で家族は知らされていなかった)として謝罪している。そもそも人一人の死を外部にどのように伝えるかは例え公人でもあっても相当な慎重さが必要である。まして元民放記者の投稿時点で安倍元首相の妻である昭恵夫人は奈良に向けて移動中で、報道でも移動状況が逐次報じられていた。元民放記者はSNS投稿時点ですでに昭恵夫人が奈良に到着済みと聞いていたとの弁解を後に投稿していたが、リアルタイムの報道で得られる情報すら確認できていなかったのはお粗末としか言いようがない。元民放記者本人が弁解として書いていた「『確認された情報は出来るだけ早く報道する』というジャーナリズムの基本に立ち返って」という点は完全には否定しないが、たとえ家族の死亡確認後であってもそれをいつ報じるかの判断は各方面への影響を考えると容易ではない。一例を挙げると、公人の死去の報道は株式市場に影響を与えることもある。報道というのはそうしたことなども多角的に踏まえて行う仕事であり、いかように元民放記者が弁解しようが今回の行動は唾棄に値する。すでに一部の人はSNS上で見聞きしているかもしれないが、安倍氏の容体については当日の午後2~3時に「蘇生はほぼ不可能」という情報が永田町界隈に駆け回っていたことを一部の記者が死亡の公表後に明らかにしている。これは確かに事実で、筆者も耳にしている。しかしながら、例え家族による死亡確認後であってもそれを公にすることは、報道人としての確実な事実確認に加え、社会的にも心理的にも、いくつものハードルを超えなければならない。そのためこの元記者のような言動には私個人は驚きを隠せないのが本音ではある。

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急性期虚血性脳卒中へのtenecteplase、標準治療となる可能性/Lancet

 カナダの標準的な血栓溶解療法の基準を満たす急性期虚血性脳卒中の患者において、tenecteplase静注療法は、修正Rankinスケール(mRS)で評価した身体機能に関してアルテプラーゼ静注療法に対し非劣性で、安全性にも差はなく、アルテプラーゼに代わる妥当な選択肢であることが、カナダ・カルガリー大学のBijoy K. Menon氏らが実施した「AcT試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年6月29日号に掲載された。カナダのレジストリ連動型無作為化対照比較試験 AcT試験は、急性期虚血性脳卒中における、血栓溶解療法による再灌流の達成に関して、tenecteplaseの標準治療に対する非劣性の検証を目的とする、医師主導の実践的なレジストリ連動型非盲検無作為化対照比較試験であり、2019年12月~2022年1月の期間に、カナダの22ヵ所の脳卒中施設で参加者の登録が行われた(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、後遺障害の原因となる神経障害を引き起こす虚血性脳卒中と診断され、症状発現から4.5時間以内に来院し、カナダのガイドラインで血栓溶解療法の適応となる患者であった。 被験者は、tenecteplase静注療法(0.25mg/kg、最大25mg)またはアルテプラーゼ静注療法(0.9mg/kg[0.09mgをボーラス投与後、残りの0.81mg/kgを60分で注入]、最大90mg)を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、intention-to-treat(ITT)集団における治療後90~120日のmRSスコア0または1の患者の割合とされた。この達成割合の群間差の95%信頼区間(CI)下限値が-5%を超える場合に、非劣性と判定された。主要アウトカム:36.9% vs.34.8%、口舌血管性浮腫はまれ 1,577例(年齢中央値74歳[IQR:63~83]、女性755例[47.9%])がITT集団に含まれ、tenecteplase群が806例、アルテプラーゼ群は771例であった。全体の症状発現から無作為化までの期間中央値は2時間(IQR:1.5~3.0)だった。主要アウトカムの追跡期間中央値は97日(IQR:91~111)であった。 データカットオフ日(2022年1月21日)の時点で、治療後90~120日にmRS 0または1を達成した患者の割合は、tenecteplase群が36.9%(296/802例)、アルテプラーゼ群は34.8%(266/765例)で、両群間の補正前リスク差は2.1%(95%CI:-2.6~6.9)であり、事前に規定された非劣性の閾値を満たした。 効果の方向性はtenecteplase群で良好であったが、tenecteplase群の優越性はみられなかった(p=0.19)。副次アウトカムにも両群に差はなかった。また、事前に規定されたサブグループのすべてで、主要アウトカムに関して治療効果の異質性は観察されなかった。 安全性解析では、24時間以内の症候性頭蓋内出血の発現割合(tenecteplase群3.4%[27/800例]vs.アルテプラーゼ群3.2%[24/763例]、群間リスク差:0.2、95%CI:-1.5~2.0)や、治療開始から90日以内の死亡の割合(15.3%[122/796例]vs.15.4%[117/758例]、-0.1、-3.7~3.5)には、意義のある差は認められなかった。 口舌血管性浮腫(tenecteplase群1.1% vs.アルテプラーゼ群1.2%)や、輸血を要する頭蓋外出血(0.8% vs.0.8%)はまれであった。また、追跡期間中の画像検査で、頭蓋内出血はそれぞれ19.3%(154/800例)および20.6%(157/763例)でみられた。 著者は、「tenecteplaseは、アルテプラーゼに比べ投与法が容易で使い勝手がよく、安価となる可能性がある。この研究の結果は、これまでのエビデンスと合わせて、症状発現から4.5時間以内の急性期虚血性脳卒中における血栓溶解療法の世界標準をtenecteplase 0.25mg/kgに切り換える、説得力のある根拠となるものである」としている。

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オラパリブのgBRCA変異陽性HER2-早期乳がんへの術後薬物療法、日本人解析結果(OlympiA)/日本乳癌学会

 gBRCA変異陽性、HER2陰性、再発高リスクの早期乳がん患者に対する術後薬物療法としてのオラパリブをプラセボと比較した国際共同第III相OlympiA試験において、主要解析(データカットオフ:2020年3月)で無浸潤疾患生存期間(iDFS)および遠隔無再発生存期間(DDFS)の有意な延長が示され、さらに第2回中間解析(データカットオフ:2021年7月)で全生存期間(OS)の有意な延長が示されている。今回、主要解析(データカットオフ:2020年3月)における日本人患者集団の有効性と安全性について、聖路加国際病院の山内 英子氏が第30回日本乳癌学会学術総会で発表した。オラパリブの再発高リスク早期乳がんの日本人患者における術後薬物療法としてのベネフィット・対象:局所治療および6サイクル以上の化学療法が終了したgBRCA変異陽性、HER2陰性 (HR陽性またはトリプルネガティブ)の再発高リスクの早期乳がん患者 1,836例(日本人140例)・試験群:オラパリブ(300mg、1日2回)を1年間投与 921例(日本人64例)・対照群:プラセボ(1日2回)を1年間投与 915例(日本人76例)・評価項目:[主要評価項目]iDFS[副次評価項目]DDFS、OS、安全性など 再発高リスクの早期乳がん患者に対する術後薬物療法としてのオラパリブをプラセボと比較したOlympiA試験における日本人患者集団の主な結果は以下のとおり。・再発高リスクの早期乳がん患者の患者背景は、日本人集団と全体集団とも両群間でバランスがとれていた。ただし、白金製剤を含む化学療法による前治療は、国内で承認されていないため海外とは大きな差があった。・オラパリブによるIDFSのベネフィットは、日本人集団(HR:0.50、95%CI:0.18~1.24)と全体集団(HR:0.58、95%CI:0.46~0.74、p<0.0001)とで同様だった。・オラパリブによるDDFSのベネフィットも、日本人集団(HR:0.41、95% CI:0.11~1.16)と全体集団(HR:0.57、95%CI:0.44~0.74、p<0.0001)とで同様だった。・主なGrade3以上の有害事象は、貧血、好中球減少、白血球減少で、貧血については本研究では輸血を必要とした症例はなかった。・日本人集団における有害事象の発現状況は、オラパリブにおける既知の安全性情報、全体集団と同様だった。 山内氏は、「OlympiA試験は国別のサブグループ解析に対する検出力を有してなかったが、今回の日本人集団における有効性および安全性の結果は、gBRCA変異陽性HER2陰性再発高リスク早期乳がんの日本人患者における術後薬物療法としてのオラパリブの臨床的ベネフィットを裏付けるものであった」と結論した。

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進行膵がん、TCR-T細胞療法が転移巣に著効した1例/NEJM

 米国・Earle A. Chiles Research InstituteのRom Leidner氏らが、KRAS G12Dを標的としたT細胞受容体(TCR)遺伝子治療により腫瘍縮小が得られた転移のある進行膵がん患者について報告した。膵管腺がんは現在の免疫療法に抵抗性を示し、依然として致死率が最も高いという。研究グループは以前、転移のある大腸がん患者の腫瘍浸潤リンパ球からKRAS G12Dを標的としたHLA-C★08:02拘束性TCRを同定し、自家KRAS G12D反応性腫瘍浸潤リンパ球を用いた治療により内臓転移の客観的縮小が観察されたことを報告し(N Engl J Med.2016;375:2255-2262.)、この腫瘍浸潤リンパ球由来のKRAS G12D反応性TCRが、HLA-C★08:02とKRAS G12Dを発現している腫瘍を有する患者の、TCR遺伝子治療として使用できる可能性が示唆されていた。NEJM誌2022年6月2日号掲載の報告。KRAS G12Dを標的としたHLA-C★08:02拘束性TCRを発現するT細胞を移植 患者は71歳女性で、67歳時に膵頭部腺がんと診断され、2018年に術前補助化学療法(FOLFIRINOX療法)、幽門輪温存膵頭十二指腸切除、術後FOLFIRINOX療法、カペシタビン併用放射線療法を実施した。 2019年まで再発なく経過したが肺転移が確認され、無症状で両肺に転移が進行したことから、2020年にピッツバーグ大学で実施された腫瘍浸潤リンパ球療法の臨床試験に参加するも、6ヵ月以内に肺転移の拡大が観察された。分子ゲノム研究の結果、PD-L1発現率(TPS)1%未満、KRAS G12D変異、マイクロサテライト安定、HLA-C★08:02発現などが確認されたことから、2021年6月、KRAS G12Dを標的とする2種類の同種HLA-C★08:02拘束性TCRを発現するよう別々のバッチでレトロウイルスによって形質導入した自家末梢血T細胞による治療を行った。肺転移巣は1ヵ月後で62%、6ヵ月後で72%縮小 細胞注入の5日前にトシリズマブ600mg単回静注、5日前と4日前にシクロフォスファミド30mg/kg/日静注による前処置を行った後、16.2×109個の自家T細胞を単回注入し(0日目)、細胞注入の18時間後に高用量IL-2(60万IU/mL、8時間毎静注)の投与を開始(予定していた6回の投与のうち、6回目は低血圧のため投与は行われず)。11日目に退院し、外来で骨髄増殖因子と血液製剤の投与を受けた。 細胞注入1ヵ月後の最初の追跡調査において、CTにより肺転移巣が62%縮小していることが観察され、RECIST v1.1に基づく部分奏効が得られた。この効果は最新の追跡調査時の細胞注入6ヵ月後も持続しており、RECIST v1.1に基づく腫瘍縮小は72%であった。 また、注入されたTCR改変T細胞は、注入の約1ヵ月後で循環血中の全T細胞の約13%、3ヵ月後で3.3%、6ヵ月後でも2.4%を占めていた。

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IDH1変異陽性AML、ivosidenib併用でEFS延長/NEJM

 イソクエン酸脱水素酵素1(IDH1)をコードする遺伝子に変異のある急性骨髄性白血病と新たに診断された患者の治療において、ivosidenibとアザシチジンの併用療法はプラセボとアザシチジン併用と比較して、無イベント生存期間(EFS)を有意に延長し、発熱性好中球減少症や感染症の発現頻度は低いものの好中球減少や出血は高いことが、スペイン・Hospital Universitari i Politecnic La FeのPau Montesinos氏らが実施した「AGILE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2022年4月21日号で報告された。20ヵ国155施設の無作為化プラセボ対照第III相試験 研究グループは、IDH1変異陽性急性骨髄性白血病の治療における、アザシチジン治療へのivosidenib追加の安全性と有効性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験を行い、2018年3月~2021年5月の期間に、20ヵ国155施設で参加者を登録した(Agios PharmaceuticalsとServier Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 対象は、18歳以上、新規のIDH1変異陽性急性骨髄性白血病と診断され、強力な導入化学療法が適応とならず、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)performance-statusスコア(0~4点、点数が高いほど機能障害度が高い)が0~2点の患者であった。 被験者は、ivosidenib(500mg、1日1回、経口投与)+アザシチジン(75mg/m2体表面積、28日サイクルで7日間、皮下または静脈内投与)、またはプラセボ+アザシチジンの投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントはEFSであり、無作為化の時点から、治療不成功(24週までに完全寛解が達成されない)、寛解後の再発、全死因死亡のいずれかまでの期間と定義された。完全寛解、客観的奏効、IDH1変異消失の割合も良好 146例が登録され、ivosidenib群に72例(年齢中央値76.0歳[範囲:58.0~84.0]、女性42%、二次性25%)、プラセボ群に74例(75.5歳[45.0~94.0]、49%、28%)が割り付けられた。 追跡期間中央値12.4ヵ月の時点におけるEFSは、ivosidenib群がプラセボ群に比べ有意に長かった(治療不成功、寛解後の再発、死亡のハザード比[HR]:0.33、95%信頼区間[CI]:0.16~0.69、p=0.002)。また、無イベント生存割合は、ivosidenib群が6ヵ月時40%、12ヵ月時37%で、プラセボ群はそれぞれ20%および12%と推定された。 追跡期間中央値15.1ヵ月時の全生存期間中央値は、ivosidenib群が24.0ヵ月と、プラセボ群の7.9ヵ月に比し有意に延長した(死亡のHR:0.44、95%CI:0.27~0.73、p=0.001)。 完全寛解の割合は、ivosidenib群が47%(95%CI:35~59)であり、プラセボ群の15%(8~25)よりも高率だった(オッズ比[OR]:4.8、95%CI:2.2~10.5、p<0.001)。また、完全寛解の期間中央値はそれぞれ未到達(95%CI:13.0~評価不能)および11.2ヵ月(95%CI:3.2~評価不能)、12ヵ月時の完全寛解割合は88%および36%、完全寛解までの期間中央値は4.3ヵ月(範囲:1.7~9.2)および3.8ヵ月(1.9~8.5)であった。 客観的奏効(完全寛解、血球数の回復を伴わない完全寛解、部分寛解、形態学的に白血病ではない状態)の割合は、ivosidenib群が62%(95%CI:50~74)と、プラセボ群の19%(95%CI:11~30)に比べ有意に高かった(OR:7.2、95%CI:3.3~15.4、p<0.001)。奏効期間中央値は、それぞれ22.1ヵ月(95%CI:13.0~評価不能)および9.2ヵ月(6.6~14.1)だった。 完全寛解または部分的な血球数の回復を伴う完全寛解の検体におけるIDH1変異消失の割合は、ivosidenib群が52%、プラセボ群は30%であり、骨髄単核細胞からのIDH1変異消失のデータがある患者におけるIDH1変異消失を伴う完全寛解の割合は、それぞれ33%および6%(p=0.009)であった。 全グレードの有害事象は、両群で貧血(ivosidenib群31%、プラセボ群29%)、発熱性好中球減少(28%、34%)、好中球減少(28%、16%)、血小板減少(28%、21%)、悪心(42%、38%)、嘔吐(41%、26%)の頻度が高く、出血イベント(41%、29%)と感染症(28%、49%)も高頻度に認められた。Grade3以上の有害事象では、貧血(25%、26%)、発熱性好中球減少(28%、34%)、好中球減少(27%、16%)、肺炎(23%、29%)、感染症(21%、30%)の頻度が高かった。全グレードの分化症候群は、14%および8%に認められた。 著者は、「ivosidenib+アザシチジン併用療法は、優れたIDH1変異消失割合とともに持続的で深い奏効をもたらし、健康関連QOLや輸血依存離脱も良好であったことから、変異型IDH1蛋白を標的とする治療の有用性が明らかとなった」とまとめ、「今後、ベネトクラクスをベースとする治療との比較や、これらのレジメンの併用を評価する試験が期待される」としている。

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回復期患者血漿、ワクチン未接種のコロナ外来患者に有効か?/NEJM

 多くがワクチン未接種の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の外来患者において、症状発現から9日以内の回復期患者血漿の輸血は対照血漿と比較して、入院に至る病態悪化のリスクを有意に低減し、安全性は劣らないことが、米国・ジョンズ・ホプキンズ大学のDavid J. Sullivan氏らが実施した「CSSC-004試験」で確認された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年3月30日号に掲載された。米国23施設の無作為化対照比較試験 本研究は、COVID-19外来患者の重篤な合併症の予防における回復期患者血漿の有効性の評価を目的とする二重盲検無作為化対照比較試験であり、2020年6月3日~2021年10月1日の期間に、米国の23施設で参加者の登録が行われた(米国国防総省などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性で、COVID-19の症状発現から8日以内の外来患者であり、病態悪化のリスクやワクチン接種の有無は問われなかった。 被験者は、回復期患者血漿または対照血漿の輸血を受ける群(両群とも約250mLを単回投与)に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、登録後24時間以内に約1時間をかけて輸血された後、30分間の経過観察が行われた。 対照血漿には、2019年に献血で得られたか、2019年12月以降にSARS-CoV-2陰性と判定された集団から得られた血漿が用いられた。 主要アウトカムは、輸血から28日以内のCOVID-19関連入院とされた。相対リスクが54%低下 1,225例(SARS-CoV-2陽性の判定はRNA検出が87%、抗原検出が13%)が無作為化の対象となり、このうち実際に輸血を受けた1,181例(年齢中央値43歳、65歳以上7%、50歳以上35%、女性57%[3例の妊婦を含む]、症状発現から輸血までの期間中央値6日)が修正intention-to-treat解析に含まれた(回復期患者血漿群592例、対照血漿群589例)。 ワクチンは、未接種が回復期患者血漿群83.3%、対照血漿群81.7%、部分接種がそれぞれ4.6%および5.3%、完全接種は12.2%および13.1%であった。 28日以内のCOVID-19関連入院は、回復期患者血漿群が592例中17例(2.9%)で認められ、対照血漿群の589例中37例(6.3%)と比較して有意に良好で(絶対リスク低下率:3.4ポイント、95%信頼区間[CI]:1.0~5.8、p=0.005)、相対リスクが54%低下した。1回の入院を回避するのに要する治療必要数は29.4例だった。 回復期患者血漿群の12例と対照血漿群の26例で、病態の悪化により酸素補給が行われた。対照血漿群の3例が、入院後に死亡した。 両群を合わせた入院患者54例のうち53例はワクチン未接種で、残りの1例は部分接種であり、完全接種はなかったため、ワクチン接種者における有効性の評価はできなかった。 Grade3/4の有害事象は89件発現し、回復期患者血漿群が34件、対照血漿群は55件であった。非入院患者では、16件のGrade3/4の有害事象が認められ、それぞれ7件および9件だった。 著者は、「これらの結果は、とくにワクチン配布に不均衡がみられる医療資源が乏しい地域において、公衆衛生上の重要な意味を持つ」とし、「将来のCOVID-19の世界的流行を想定すると、回復期患者血漿を迅速に投与できる輸血センターの設立が考慮すべき課題となるだろう。また、現在の世界的流行においても、モノクローナル抗体に対する耐性を持つSARS-CoV-2変異株が伝播し続けていることから、とくに地域で得られた最近の血漿には、循環する株に対する抗体が含まれるため、COVID-19回復期患者血漿の入手と配布の能力の開発が、有益性をもたらす可能性がある」と指摘している。

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心原性ショックへの体外式膜型人工肺、低体温管理は死亡率を改善せず /JAMA

 難治性心原性ショックに対し静脈-動脈方式の体外式膜型人工肺(VA-ECMO)を導入した患者において、早期に24時間中等度低体温(33~34度)管理を行っても正常体温(36~37度)管理と比較し、生存率は改善しなかった。フランス・CHRU NancyのBruno Levy氏らが、同国の20施設で実施した無作為化臨床試験「Hypothermia During ECMO trial:HYPO-ECMO試験」の結果を報告した。標準治療と標準治療+ECMOを比較した無作為化臨床試験はないにもかかわらず、難治性心原性ショックの管理におけるECMOの使用が世界的に増加しているが、心原性ショック時のVA-ECMOの最適な方法は不明であった。今回の結果について著者は、「95%信頼区間(CI)が広く、臨床的に重要な差が存在する可能性もあり、今回の結果で結論付けるべきではないと考えられる」との見解を示した。JAMA誌2022年2月1日号掲載の報告。VA-ECMO導入後6時間未満の患者で、24時間低体温管理vs.正常体温管理 研究グループは、2016年10月~2019年7月の期間に、心原性ショックに対してVA-ECMOを導入後6時間未満の適格患者374例を、24時間中等度低体温(33~34度)管理群(168例)または厳格な正常体温(36~37度)管理群(166例)に割り付けた。最終追跡調査年月は2019年11月であった。 主要評価項目は30日死亡。副次評価項目は、7日・60日・180日死亡、30日・60日・180日時点の死亡/心臓移植/左室補助人工心臓植込みへの移行/脳卒中の複合アウトカム、30日・60日・180日時点での人工呼吸器または腎代替療法を必要としない日数などを含む31項目であった。有害事象の評価には、重度出血、敗血症、VA-ECMO導入中の赤血球輸血単位数なども含まれた。30日死亡率は42% vs.51%で有意差なし 無作為化された374例のうち、334例(平均[±SD]年齢58±12歳、女性24%)が試験を完遂し、主要解析に組み込まれた。 30日死亡は、低体温管理群で71例(42%)、正常体温管理群で84例(51%)に認められ、補正後オッズ比(OR)は0.71(95%CI:0.45~1.13、p=0.15)、リスク差は-8.3%(95%CI:-16.3~-0.3)であった。また、30日時点の複合アウトカムの補正後ORは0.61(95%CI:0.39~0.96、p=0.03)、リスク差は-11.5%(95%CI:-23.2%~0.2%)であった。 31の副次評価項目のうち、30項目については両群間で有意差はみられなかった。 有害事象の発現率は、中等度または重度出血が低体温管理群41%、正常体温管理群42%、感染症が両群ともに52%、菌血症がそれぞれ20%および30%であった。

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第87回 弔問した訪問診療医を患者家族が銃殺、在宅医療現場に波紋

<先週の動き>1.弔問した訪問診療医を患者家族が銃殺、在宅医療現場に波紋2.抗原検査キット、優先度の通知で一般販売見合わせの可能性3.オンライン診療報酬は対面と特例対応の中間に、制限は撤廃か4.オンライン資格確認で患者情報を取得した場合の加算が新設5.今年度の診療報酬改定、看護必要度の心電図モニター管理を削除1.弔問した訪問診療医を患者家族が銃殺、在宅医療現場に波紋1月27日夜、埼玉県ふじみ野市で在宅診療を行っていた医師・鈴木 純一氏(44)が、その前日に死亡確認した女性患者(92)の息子・渡辺 宏容疑者(66)に銃殺される事件が発生した。司法解剖の結果、鈴木氏の死因は胸に銃弾1発を受けたことによる心臓破裂だった。散弾銃の弾は体内を貫通しており、至近距離から撃たれ即死だったとみられている。県警の調べによると、容疑者から「焼香に来てほしい」との連絡を受け、事件当日21時頃に患者宅を訪問した医療関係者7人に対し、容疑者は心臓マッサージなどの蘇生措置を求めたという。鈴木氏が丁寧に説明して対応を断わったところ、容疑者は散弾銃を2丁持ち出し、少なくとも3回発砲。容疑者は鈴木氏を撃った後、続けて理学療法士の男性(41)を撃ち、同行していた医療相談員の男性に催涙スプレーをかけ、別の医療相談員にも発砲したと供述しており、理学療法士は上半身に重傷を負った。亡くなった鈴木氏は、10年ほど前から地域医療の担い手として懸命に働き、患者や同僚からの信頼も厚かった。東入間医師会によると、同氏は2市1町における在宅医療の8割に当たる約300人の患者と関わっていたという。昨年9月、デルタ株の感染拡大により入院できず自宅療養するコロナ患者の自宅を訪問診療する鈴木氏をNHKが取材していたこともあり、死を悼む声が広がっている。(参考)容疑者、前日死亡の母の蘇生依頼 断られ発砲か 埼玉立てこもり(毎日新聞)母親の蘇生断られた後に発砲か 立てこもり容疑者、名指し呼び出しも(朝日新聞)死亡医師は即死、至近距離から胸に銃弾 計画的な犯行か…ふじみ野の立てこもり、医師ら指定し呼び出す(埼玉新聞)立てこもり事件で犠牲の医師鈴木純一さん、地域医療の担い手として信頼厚く(日刊スポーツ)立てこもり事件 亡くなった医師 コロナ患者など在宅医療支える(NHK)2.抗原検査キット、優先度の通知で一般販売見合わせの可能性厚労省は27日、オミクロン株の急拡大により、抗原定性検査キットの需要が急速に伸びていることを受け、流通側・発注側の双方に事務連絡を通知した。流通側には行政検査を行う医療機関や地方自治体からの発注、地方自治体からの委託を受けて抗原定性検査キットを配布する薬局からの発注を優先するよう定め、大量発注によって安定供給に支障を来す恐れがある場合には、複数回に分割して納品することなどを示した。また、発注側には上記優先度などを踏まえ、実需を超えた発注は控えるよう要請している。この方針を受け、薬局など抗原検査キットの一般販売を行ってきた店舗では、一時販売見合わせなどを検討している。(参考)新型コロナ抗原検査キット供給の優先付けを事務連絡 厚労省、実需を超えた発注控えて(CBnewsマネジメント)抗原検査キット 医療機関など優先供給で薬局の販売に影響も(NHK)新型コロナウイルス感染症オミクロン株の発生等に伴う抗原定性検査キットの適正な流通に向けた供給の優先付けについて(事務連絡 令和4年1月27日)新型コロナウイルス感染症オミクロン株の発生等に伴う抗原定性検査キットの発注等について(同)3.オンライン診療報酬は対面と特例対応の中間に、制限は撤廃か厚労省は26日に中医協総会を開催し、オンライン診療の診療報酬について、対面診療の点数(初診料:288点)とコロナ特例対応における点数(同214点)の中間にすることを公益裁定で決めた。現行のオンライン診療料を廃止し、2022年度診療報酬改定で新たに、初・再診料を新設する。新型コロナウイルス対応として初診からのオンライン診療が特別に許可されているが、診療報酬が対面より低いこともあり、これまでのところ実施している医療機関は約6%にとどまるなど、普及していない。なお、現行のオンライン診療料の算定要件であった医療機関と患者との間の時間・距離要件や、オンライン診療の実施割合の上限は撤廃される見込み。(参考)オンライン診療 診療報酬上の評価は「対面診療と特例対応の中間程度に」 公益裁定で(ミクスオンライン)オンライン初診料、初診料(288点)とコロナ特例(214点)の中間に、オンライン資格確認を加算で後押し―中医協総会(6)(Gem Med)コロナ禍のオンライン診療はわずか6%… 「直接診たことない」と断られるケースも(東京新聞)4.オンライン資格確認で患者情報を取得した場合の加算が新設28日に行われた中医協総会において、オンライン資格確認を用いて患者情報を取得して診療した場合は、「電子的保健医療情報活用加算」の算定が可能となることが承認された。厚労省によると、2021年10月からオンライン資格確認の本格運用を開始したものの、運用を開始した医療機関や薬局などは11%にとどまっており、導入を加速させるのが狙い。医療機関・薬局と患者の間で、薬の処方情報や特定検診情報などの情報共有が進み、医療の質向上が期待されている。(参考)22年度診療報酬改定 オンライン資格確認で「電子的保健医療情報活用加算」新設 導入促す(ミクスオンライン)オンライン資格確認等システム、まず「カードリーダー申し込み施設の準備完了」を最優先支援―社保審・医療保険部会(Gem Med)オンライン資格確認 三師会による「オンライン資格確認推進協議会」設置へ(ドラビズon-line)5.今年度の診療報酬改定、看護必要度の心電図モニター管理を削除26日の中医協総会で、急性期病棟の「重症度、医療・看護必要度」について見直しが行われ、「心電図モニターの管理」を削除することを公益裁定で決定した。これまで、急性期一般入院病床において、心電図モニターを装着している患者は重症度が高いとされてきたが、厚労省は入院患者の状態に応じた適切な評価を行う観点から、重症度、医療・看護必要度の評価項目や該当患者割合の基準について見直しを行ってきた。診療側はこの見直し案について反対していたが、公益側委員の裁定により、モニター管理は削除することが決定した。このほか、A項目の「点滴ライン同時3本以上」であったのを「注射薬剤3種類以上の管理」に変更し、「輸血血液製剤」を投与している患者について点数を1点から2点に変更することになった。今後、重症患者に対して高度な医療を提供する医療機関については「急性期充実体制加算」を新設して、高度医療機関に対して評価を行い、急性期一般入院料1から2・3等へ機能分化を促されることで、急性期病院の再編などが進む可能性がある。(参考)一般病棟用の重症度、医療・看護必要度に係る評価項目及び該当患者割合の基準について(中央社会保険医療協議会 総会)2022年度診療報酬改定 看護必要度は「心電図モニターの管理」削除へ 機能分化を促進(ミクスオンライン)心電図モニター管理削除など看護必要度の厳格化、コロナ禍でやるべきことだろうか?―日病・相澤会長(Gem Med)

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第92回 0号カプセルを飲んだ経験ありますか?模擬モルヌピラビル服用実験

前回取り上げた新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の軽症者向けとして世界初の経口薬のモルヌピラビル(商品名・ラゲブリオ)。実はこの添付文書を眺めていた時から私は非常に気になっていたことがあった。それはカプセル剤であるこの薬のサイズがあまりにも大きいことである。大きさは長径が21.7mm、短径7.64mm。つまり0号カプセルと言われるものである。1日2回、1回当たりの服用量は4カプセル服用なので1日の服用合計は8カプセル。ちなみに医薬品医療機器総合機構のデータベースで検索してみると日本国内のカプセル剤は約850品目あり、0号カプセルを使っているのはうち16品目。多くが抗がん剤である。裏を返せば服用しなければ命にかかわるようなもので、つまるところ市販化に当たって極端な言い方をすれば99%薬効に重点が置かれて開発されたものだろうと推察できる。モルヌピラビルの場合、治療薬が少ない新型コロナという社会的ニーズに合わせた速度戦の結果、こうなったのだろう。私自身はこれまでこの0号カプセルを服用したことはおろか目にしたことすらない。こうなると試さないと気が済まない性分だ。幸い知人の薬剤師からAmazonで入手可と聞いて早速注文。翌日届いたそれで模擬モルヌピラビル服用実験をしてみることにした。箱には「セルロースホワイトカプセル」となっていて、取り出した見た目はやや下衆な表現だが「大きな蛆虫」のよう。私の小指の第一関節分くらいはある。箱には「ノンカロリーカプセル」と半ばどうでも良い情報もご丁寧に印字されている。水を用意して1カプセル目を口にする。普段、錠剤を飲む感覚で口に水を含み飲み込む。飲み込む際にカプセルが喉の入口に軽く触れて「うっ」となる。たぶん水の量が少なかったのだろうと思い、2カプセル目は水を口一杯パンパンになるまで注ぎ込んで飲み込む。水を口に注いでいる間に口蓋のあちこちにカプセルがぶつかるのが気持ち悪い。いざ飲み込むと、喉にぶつからずに飲む込むことができた。3カプセル目は2カプセル目と同様。4カプセル目は2~3カプセル目と同様に服用したつもりだったが、飲み込む際に一瞬、また喉の入口に触れてドキッとする。その直後、大量の水が喉に突撃してくるような感じになり飲み込むことができた。しかし、飲み終わると大きなゲップが出てしまい、その後1~2分間は喉元がピクピクとけいれんする。喉には相当の負担だったようだ。そんなこんなをSNSに投稿すると、薬剤師の皆さんから「顔を下に向けて飲むと良いですよ」とアドバイスされる。ということで、夜に一気に4カプセルを口に放り込み、水を口に含んでやや俯いて飲み込んだ。確かに何の苦もなく飲める。ふと考え込んでから、下を向くとカプセルが浮力で口の中の喉に近い部分に浮き上がってくるから飲みやすいのだろうと理解できた。翌日は朝の段階で4カプセルを口に入れ、下を向かずに飲み込んでみる。飲み込むことはできたが、やはり口の中に水を含んでいる最中、4個のカプセルが互いにピンボールゲームのようにあちらこちらにぶつかって何とも気分が悪い。で、それで懲りずに今度は具合のかなり悪い人が飲む想定で、ベッドに横になったまま口に4カプセルを含み、350mlの小さなペットボトルのお茶で流し込もうとしたが、喉にカプセルが直撃して思いっきりむせてしまった。布団はビシャビシャで結局すべてのカプセルを吐き出してしまった。悔しいのでそれを一つ一つもう一度口に入れ、寝たまま服用にもう一度トライ。なんとか飲み込めたもののまるでカプセルが喉に張り付いたかのような違和感があり、その後もお茶をゴクゴク飲んだ。気を取り直して、今度はよくありがちな上半身をベッドから起こした姿勢で4カプセルを下を向かずに飲む。これは普通に椅子に座って4カプセル一気飲みした時と同様の飲み難さ。ということで同じ姿勢のまま再び顔を下向きにして飲み込む。やっぱりこれが一番楽である。結局、2日目の朝だけで16カプセルも飲んでしまい、合わせて大量のお茶も飲んだせいかかなりお腹いっぱいで昼食はパスした。まあ、この点では「ノンカロリー」という商品のキャッチも意味を持ち始めたかもしれない。名付けて「ノンカロリー0号カプセルダイエット」とでも言おうか。ちなみに私だけでは何なので、共通テストを終え、都内の民営自習室に籠って勉強をしている娘を自習室近傍のお店での昼食に誘い、0号カプセルを渡して飲ませてみた。私がカプセルをテーブル上に置いて「実験のつもりで飲んでみな」と言うと、「えっ、何このデカいの。中に毒仕込んだりしてないよね?」との反応。親を何だと思ってるんだ。「今話題のある薬と同じ大きさなんだよね」とだけ教えておく。しばらく怪訝そうに手に持ったカプセルを眺めていた娘が、「それもしかしてさ、あの不気味な赤いカプセルの薬? あのコロナの」とのたまう。おお、勘所が良い。ということで、その辺の種明かしやこれまで父親の私がすでに実験していたことを伝えると、「おお、やってみる」とのこと。ややトンデモなところだけは私に似たようだ。娘が口にカプセルを1個放り込み水を口内に注ぐ。頬を膨らましたまま目を白黒させ、次第に眉間にしわを寄せ始めた。飲み込んだと思いきや、「うー、ダメ。口の中に残っている」と言う。もう一度口に水を含んでトライするもこの時は終始、眉間にしわを寄せたまま、結局飲み込めず。3度目の正直でやっと飲み込めた。もっとも本人によると「もう半分溶け始まっていたのか、口の中でカプセルの変形が始まっていた」とのこと。飲み終わった感想は「この大変さを考えると、やっぱりコロナにかからないにこしたことないね」と。そして「薬の飲みやすさって一番最後に考えられることなんだね」と言う。親バカ半分かもしれないが、子供の感じ方は面白い。余談にはなるが、娘が小学校5年生の時、医薬品に関連したテレビCMで「超品質」(分かる人にはわかってしまうが)というキャッチフレーズが使われ、「これどういう意味?」と聞かれ、説明したことがある。聞いた本人の反応は「人は後ろめたいことほどカッコよく言うんだね」というものだった。さてモルヌピラビルの件に話を戻そう。この0号カプセルを飲み込むのは嚥下機能が低下した高齢者では相当つらいだろうと思う。そして発熱で弱っている人や咳がある人は普通に飲めるだろうか?別にメルクを批判しているわけではない。今は緊急時なのである程度有効性があるものを世に出すのは大きな意味があるし、メルクは賞賛に値する。まあ、その意味では開発側も飲み難さ承知の苦渋の思いで、世に出したのではないだろうか?それでもなお現場で情報提供するMSDの皆さんには、この飲みにくさをどうするべきか、具体的に言えば顔を下向きにするとカプセル剤は飲みやすいというごく単純な情報であっても、よくある吸入薬の動画解説と同じように積極的な情報提供をしてほしいと思う。同じことは実際に患者に接する医療従事者の皆さんにも訴えたい。私がこう言いたいのはこの件で過去のある出来事を思い出したからでもある。今から四半世紀前に私はあるHIV感染者と知り合った。いわゆる非加熱血液製剤により不幸にもHIVに感染させられてしまった被害者だ。その人が私の前に500円玉のような、トローチみたいな粒を差し出し、「かじって飲んでみて下さい」と言った。訳も分からず、とりあえず口に含んでバリバリ歯で噛み砕いた。一言で言えば「不味い」、本来なら大量に口にすることはない化学調味料を一気に口の中一杯に突っ込まれたような感覚だった。私のまずそうな表情を見て取ったのだろうが、その人は顔色一つ変えずこう言った。「それHIVの薬ですよ。私たちは『エイズ野郎』と周囲に蔑まれ、いつもビクビクしながら生きている。少しでも前向きになるために治療をするわけですが、そのためということでこんなもの飲まされているんです。これを飲むたびにヒトとしての存在を否定されているかのようです。わかります?」この時、私が口にしたのはジダノジン(ddI、商品名・ヴァイデックス)だった。新型コロナに対する差別問題は以前ほど耳にしなくなった。とはいえ、テレビに出演する一般人の元感染者のほとんどがモザイクで顔を隠している状況は、減ったとはいえ差別が現存することをうかがわせる。そんな状況下で感染者がこの薬を服用した時どんな思いに至るだろうと考えずにはいられない。飲みやすくするための方法について積極的な情報提供を訴えるのは、ただでさえ感染という現実で苦しんでいる彼らにこれ以上の苦痛を味あわせないためである。同時に今回の1件で改めて考えたのが、新型コロナの法的取扱いに関する議論である。巷では感染症法上の位置付けを5類相当にすべきという声もある。奇しくもケアネットでも医師1,000人へのアンケートを公表している。いずれは5類になるだろうことは多くの医師が認識しているだろうし、このアンケートで最も多かった「今後状況の変化に応じて5類相当に」という回答も直近でと言うよりは「将来的に」という比較的ロングスパンの認識だろうと思う。また、「どのような状況になれば、5類相当に変更すべきと考えますか?」という質問では「経口薬が承認されたら」という回答が最も多いが、それについても今のモルヌピラビルのことを意味しているわけではないだろうとも思う。そもそも今でも新型コロナの治療は従来の感染症とはかけ離れ過ぎた現実がある。モルヌピラビル登場までに適応を取得した5種類の薬剤のうち2種類は抗体医薬品であり、デキサメタゾンを除けば、どれもかなりの高薬価。とりあえず現状は有効性が認められたものは総動員する過渡期で、まだまだ「牛刀で鶏を割く」がごとし。というか田んぼのあぜ道に無理やりレーシングカーを走らせているようなアンバランスさがあると言ってもいいかもしれない…。「葦の髄から天井を覗くな!」とお叱りを受けるかもしれないが、少なくとも私自身はこの0号カプセルで提供するしかなかったモルヌピラビルの現実が、まだまだ新型コロナの5類は無理と暗示しているように思うのだ。

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熱傷診療ガイドライン改訂第3版が発刊

 前回の改訂より5年が経過したことを機に『熱傷診療ガイドライン 改訂第3版』が7月に発刊された。今回の改訂目的は、本邦における熱傷入院診療の標準治療を示すことで、本書で扱う熱傷は、「十分な診療リソースを利用できる環境にある本邦のような高所得国における」「概ね受傷後4週間以内」「入院治療が必要な程度にある重症度」。また、今回の改訂では、改訂第2版公開以降の新知見を十分な時間をかけ検討し、これまでの版で盛り込むことができなかった電撃傷・化学損傷などの特殊熱傷、鎮痛・鎮静、輸血、深部静脈血栓症対策のみならず、リハビリテーション、リエゾン・終末期・家族対応などを取り上げ、診療指針が示されている。対象とする患者集団小児から成人にいたる全年齢の患者において、おおむね受傷後4週間程度、集中治療室、熱傷ケアユニット、一般病棟で入院治療を必要とする重症度の熱傷。外来通院のみで治療が可能な重症度の熱傷は対象としていない。熱傷のなかには、気道損傷、化学損傷、電撃傷を含む。対象とする利用者(本ガイドラインの使用者)医師、看護師、薬剤師、理学療法士など、熱傷診療にかかわるすべての医療従事者。治療の環境は、熱傷専門施設に限らず、本邦における日常診療を想定して患者に対し十分な診療リソースを利用できる環境とした。13領域69題のCQ 本書のclinical question(CQ)は2019 年 4 月にパブリックコメントを募集し、第45回日本熱傷学会総会学術集会で学会員の意見を求めた。得られた意見を参考にCQの修正を行い、ガイドライン作成グループで最終的に13領域69題のCQが決定された。―――・CQ 1 重症度評価・CQ2 気道損傷・CQ3 初期輸液療法・CQ4 初期局所療法・CQ5 外科的局所療法・CQ6 熱傷感染・CQ7 栄養・CQ8 特殊熱傷・CQ9 鎮痛・鎮静・CQ10 輸血・CQ11 深部静脈血栓症・CQ12 リハビリテーション・CQ13 リエゾン―――

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ドイツで産んでみた(2) 早産で緊急入院【空手家心臓外科医のドイツ見聞録】第7回

困ったときの必殺技「泣き落とし」前回から続いて、ドイツでの双子が生まれた経験から知ることができた、ドイツの医療について書いていきます。妻が双子を妊娠していることがわかり、まずはかかりつけの産婦人科医を決めました。Greifswaldは大学を中心にできている街で、若い人が多かったこともあり、産婦人科の予約を取ることはかなり大変でした。予約が3ヵ月後とか平気で言われたのですが…なんとか受付へ直接乗り込んで、泣き落とすことで割り込み予約をさせてもらいました。(ドイツはお堅いイメージがあるかも知れませんが、経験上、泣き落としはかなり有効です。役所で、試験会場で、何度も何度も泣き落としで窮地を乗り切ってきました)かかりつけの産婦人科医をみつけ、次は定期検診をしてくれるエコー専門医を紹介してもらいました。初期の段階から双胎間輸血症候群が疑われたため、1~2週間に1度の頻度でエコーをしてもらいに通い続けました。毎回1時間以上かけて、丁寧に丁寧に診てくれる先生でした。そして「何かあったら、すぐに大学病院へいけ」と指示されました。病院のご飯の評判は大学の街であるGreifswaldの医療はすべて大学病院を中心として展開されています。お互いの連携も密に取られている印象でした。大学の先生たちは開業医の先生方の性格や診療のクセなどもよく理解していて、いつ受診してもサクサク話が進んでいきました。Greifswald大学病院です。みえている建物全部が病院で、この奥にもさらに病棟が広がっています。デカくて最新の設備が整っていて機能的ですが、建物内は無機質で愛想がありません。大学ではナースもドクターもとても親切でした。しかし、ご飯がちょっと…な感じでした。妻が切迫早産で1週間ほど緊急入院となったことがありました。その際、調理された料理が出るのは昼だけで、朝夕は病棟の片隅にあるビュッフェ(?)のようなコーナーにある、チーズとパンを自由に取ってきて食べるだけでした。ドイツ語が話せないにもかかわらず、妊娠ライフを淡々と過ごしていた妻だったのですが、このときばかりは「ご飯が美味しくないなんて酷すぎる」といって泣いていました…。やむなく、私が毎日米を炊いて、病院に持っていきました。朝5時に起きて米をタッパーに詰めて、お味噌汁を水筒に入れて、毎日勤務前に届けました。帰宅時も病院に寄って、タッパーを回収して、もう一度米を炊いて持っていきました。時にインスタントラーメンを買って届けたりもしました。毎日ヘロヘロになりながら過ごしていました。今にして思えばいい思い出ですけど。次回は出産後のドイツの育児システムについて、書きたいと思います。

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MASTER DAPT試験とその解釈、出血イベント定義の難しさ(解説:中川義久氏)

 MASTER DAPT試験は、テルモ製のUltimasterステントを留置後に、高出血リスク患者における最適な抗血小板療法を検証した試験である。2021年欧州心臓病学会での発表と同時にNew England Journal of Medicine誌に論文が公表されるという快挙を達成した。日本発のステントを用いた研究であり、日本人医師としては悪い気はしないというか、爽快感もあるのが率直な感想である。このMASTER DAPT試験は、ステント留置から1ヵ月が経過した時点でDAPTから単剤治療に変更する群(短縮群)と、さらに最低2ヵ月以上DAPTを継続する群(継続群)にランダマイズし、割り付けから335日経過時点で両群の安全性と有効性を以下の3つの項目で評価している。(1)純臨床有害事象(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、大出血の複合)(2)主要心臓・脳有害事象(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合)(3)大出血・臨床的に重要な非大出血 統計学的な比較検定の方法として、(1)と(2)は非劣性検定、(3)については優越性検定を用いて評価が行われている。結果として(1)と(2)は非劣性が達成され、(3)は優越性が示された。そして、出血性合併症リスクの高い患者において、DAPT期間の短縮は予後の改善につながることを示したと結論している。この3つの評価項目と比較方法は研究開始前に定められたもので、それに従い解析された結果に異議を挟むものではない。しかし、あえて評価項目の設定について考察させていただきたい。MASTER DAPT試験の出血イベントの定義は、BARCの出血基準に従ってなされている。BARCはARC(Academic Research Consortium)が提案する出血の基準で以下に紹介する。BARCの出血基準●タイプ0:出血なし●タイプ1:医学的に問題とならない(not actionable)、患者が予定外の検査、入院、治療のため医療機関を受診する要因とならない出血。患者が医療専門家に相談せず、患者自身の判断により治療を中止した場合も含む。●タイプ2:明白で、医学的に対応すべき(actionable)出血徴候で(例:臨床状況から想定される以上の出血。画像検査のみで検出される出血を含む)、タイプ3、4、5の基準には該当しないが、下記の基準の1つ以上を満たすもの:(1)医療専門家による非外科的介入を要するもの、(2)入院またはケアレベルの引き上げを要するもの、(3)評価を要するもの。●タイプ3:明白な出血+3g/dL以上のヘモグロビンの低下または、明白な出血に伴う輸血●タイプ4:CABG関連出血●タイプ5:致死的出血 評価項目(1)の純臨床有害事象においては、出血イベントは、「BARCタイプ3、タイプ5」の大出血としている。一方、評価項目(3)での出血イベントは、BARCタイプ2の「臨床的に重要な非大出血」と、タイプ3またはタイプ5の「大出血」を併せたものとしている。実際のMASTER DAPT試験の出血イベントを見ると、短縮群ではBARCタイプ2の出血の累積発生率が継続群に比較して低かった(4.5%対6.8%、差:-2.25%ポイント、95%CI:-3.59~-0.90)。一方で、大出血の累積発生率は両群とも同程度であった。つまり、MASTER DAPT試験の出血イベント評価におけるポジティブ(優越性)な結果は、BARCタイプ2の「臨床的に重要な非大出血」の差によりもたらされている。BARCタイプ2は、定義が少し緩い基準で、やや客観性に欠ける点が指摘されている。さらに、BARCタイプ2の出血イベント減少の臨床的な価値を、実臨床の現場でどのように解釈するかがポイントとなる。 ここでは詳しくは述べないが、同じく短期間DAPTについて検討した、STOPDAPT-2 ACS試験の結果も欧州心臓病学会で発表された。その結果として、短期間DAPTは標準的DAPTに対する非劣性証明を達成することができなかった。STOPDAPT-2 ACS試験での出血イベントの定義は、「TIMI Major or Minor」である。この「TIMI Major or Minor」は「BARCタイプ3、タイプ4、タイプ5」に相当する。BARCタイプ4のCABG関連出血はかなり少ないので、「BARCタイプ3、タイプ5」が「TIMI Major or Minor」とほぼ等価値の評価基準となる。つまり、STOPDAPT-2 ACS試験では、BARCタイプ2のレベルの出血を、イベントとはカウントしていない。仮定の話をするのはルール違反であるが、もしBARCタイプ2をSTOPDAPT-2 ACS試験の評価項目に加えていれば解析結果が異なる可能性もある。 このように、臨床研究の評価は微妙なバランスの上に構成されている。研究結果の解釈においては個々のイベント定義が重要であることを理解いただきたい。仮定の話を展開することは適切ではないことは重々理解しているが、あえて私的な考察を述べたことお許しいただきたい。

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COVID-19に有効な治療は?抗体薬4剤を含むメタ解析/BMJ

 非重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、カシリビマブ/イムデビマブはほぼ確実に入院を減少させ、bamlanivimab/etesevimab、bamlanivimab、ソトロビマブは入院を減少させる可能性があるが、回復期血漿、IVIg、他の抗体および細胞治療は、いかなる意味のあるベネフィットをも与えない可能性がある。カナダ・マックマスター大学のReed Ac Siemieniuk氏らが、COVID-19の試験に関するデータベースを基にリビング・システマティック・レビューとネットワークメタ解析を行い明らかにした。BMJ誌2021年9月23日号掲載の報告。2021年7月21日時点でRCTを対象にネットワークメタ解析 研究グループは、2021年7月21日時点のWHOのCOVID-19データベースと中国のデータベース6件を用い、COVID-19の疑いや可能性が高い患者または確定診断を受けた患者を対象に、抗ウイルス抗体治療、血液製剤、標準治療またはプラセボを比較した無作為化臨床試験を抽出した。 2人のレビュアーが独立して試験の適格性を判断し、重複データを削除後、ベイズ変量効果モデルを用いたネットワークメタ解析を行った。改訂版コクランバイアスリスクツールv.2.0を用いて各試験のバイアスリスクを評価し、GRADEシステムを用いてエビデンスの確実性(質)を評価した。なお、メタ解析は、無作為化された患者数が100例以上、または治療群当たりのイベント数が20以上の介入を対象とした。カシリビマブ/イムデビマブ、非重症COVID-19患者の入院リスクを低下 2021年7月21日時点で、抗ウイルス抗体治療または細胞治療を評価した無作為化試験47件が特定された。内訳は、回復期血漿21件、免疫グロブリン(IVIg)5件、臍帯間葉系幹細胞治療5件、bamlanivimab 4件、カシリビマブ/イムデビマブ4件、bamlanivimab-etesevimab 2件、control plasma 2件、末梢血非造血濃縮幹細胞治療2件、ソトロビマブ1件、抗SARS-CoV-2 IVIg 1件、血漿交換療法1件、XAV-19ポリクローナル抗体1件、CT-P59モノクローナル抗体1件、INM005ポリクローナル抗体1件。 抗ウイルス抗体治療に割り付けられた非重症患者は、プラセボ群と比較して入院リスクが低下した。オッズ比(OR)ならびにリスク差(RD)は、カシリビマブ/イムデビマブが0.29(95%信頼区間[CI]:0.17~0.47)および-4.2%(エビデンスの質:中)、bamlanivimabが0.24(0.06~0.86)および-4.1%(エビデンスの質:低)、bamlanivimab/etesevimabが0.31(0.11~0.81)および-3.8%(エビデンスの質:低)、ソトロビマブが0.17(0.04~0.57)および-4.8%(エビデンスの質:低)であった。 他のアウトカムに関しては重要な影響はなかった。また、モノクローナル抗体薬の間に顕著な差は確認されなかった。他の介入は、非重症のCOVID-19患者においてすべてのアウトカムについて意味のある影響が認められなかった。 抗ウイルス抗体薬を含め、重症または重篤なCOVID-19患者の転帰に重要な影響を及ぼす介入はなかったが、カシリビマブ/イムデビマブは血清陰性患者の死亡率を低下させる可能性が示唆された。

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コロナ感染者の献血、症状消失から4週間経過で可能に

 新型コロナウイルス感染症の感染が拡大し、コロナ禍が収束する見通しが依然立たない中、医療現場に不可欠な血液の確保が難しくなっている。その理由の一端は、言うまでもなく献血者の減少である。献血は「不要不急の外出ではない」と声高に訴えても、現況においてはなかなか人々に響かないのが実情だろう。厚生労働省は、7月27日の薬事・食品衛生審議会(血液事業部会安全技術調査会)で、新型コロナウイルス感染症と診断された人であっても、症状消失から4週間経過すれば、献血を可能とする方針を固めた。新たなルールは9月8日より適用される。コロナ感染者の献血を症状回復後も不可としているのは日本のみ 日本赤十字社のデータによると、新型コロナウイルス感染により献血を断ったケースは、献血後情報で判明したもの(462件)および献血受付時に判明したもの(680件)を合わせると、2021年5月末現在で1,142人に上る。このうち約3分の1は成分献血の複数回献血者であり、年間換算すると新型コロナの流行により数千回分の献血協力が失われていることになるという。 献血血液による新型コロナウイルス感染については、輸血用血液からの感染報告はこれまでにない。また、諸外国においては、新型コロナウイルス感染後に献血可能になるまでの日数に差がある(症状消失後14~180日)ものの、症状回復後も献血不可としているのは日本のみである。こうした状況を鑑み、新型コロナ既感染者については、症状消失後(無症候の場合は陽性となった検査の検体採取日から)4週間以上経過し、治療や通院を要する後遺症がなく、問診等により全身状態が良好であることを確認できれば、献血受け入れ可能とすることとした。 新型コロナに関連したその他の献血受け入れ基準としては、mRNAワクチンを含むRNAワクチン接種者(1回目および2回目も同様)は、48時間経過後からの献血が可能となっている。なお、現時点ではアストラゼネカ社のワクチン接種後の採血制限期間については検討中となっており、接種者の献血を受け入れていないので注意が必要だ。

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病棟マスターになれる医学書【Dr.倉原の“俺の本棚”】第44回

【第44回】病棟マスターになれる医学書指示簿、入院サマリー、手技や手術の記録、コンサルテーションの仕方、対応に困る患者の対処法、維持輸液の処方、カンファレンスの症例プレゼンテーションの喋り方、保険の自己負担、死亡診断書(死体検案書)の書き方、介護保険意見書の書き方、DPCの仕組み、各診断・治療の保険点数、文献検索の方法……研修医になってから、何度ググったかわかりませんよね。どこの医学書にも、こういうノウハウが全然書いてないんだもの。誰かわかりやすくまとめてくれないかな~と、医局の机に突っ伏しているそこのアナタ!『総合内科病棟マニュアル 病棟業務の基礎(赤本)』筒泉 貴彦, 山田 悠史, 小坂 鎮太郎/編. メディカルサイエンスインターナショナル. 2021年え……?そんな医学書あるんですか?はい、あるんです!それが、『総合内科病棟マニュアル』の赤本です。上記のような総論的なことだけでなく、病棟の患者さんや病棟の看護師さんから相談されることが多い、コモンな徴候から輸血・ステロイド・ワクチン・血糖管理まで、臓器横断的な項目がこの赤本にムギュっと凝縮されています。密度がすごいです、密度が。情熱の密度がすご過ぎて、ページをめくる手がヤケドしてしまいますわ、ホント!「赤血球輸血したらどのくらいヘモグロビンの改善が予想されますか?」「ステロイドの副作用を予防するエビデンスは?」こういうこともしっかり書かれています。これを読めば、病棟マスターになれる気がしますね。そして、7月に青本が出ます。青本は、疾病や病態の各論的なことが書かれています。このクオリティで続編が出るとか、どないなってんねんレベルです。赤本が縦斬り!青本が横斬り!で、難解な医学の世界を"サイコロステーキ先輩※"にしてやりましょう。※『鬼滅の刃』に登場する隊士。敗北・死亡フラグを立てて、あっという間に回収してあの世へ旅立つ弱さから、「お前さんをボッコボコにしてやんよ」と言いたいときに使う。『総合内科病棟マニュアル 病棟業務の基礎(赤本)』筒泉 貴彦, 山田 悠史, 小坂 鎮太郎/編出版社名メディカルサイエンスインターナショナル定価本体4,400円+税サイズB6変刊行年2021年

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ASCO2021 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介これまでは高齢がん患者を対象とした臨床試験が乏しいといわれてきたが、徐々に高齢者を対象とした第III相試験のデータが発表されつつある。ASCO2021では、高齢者進展型小細胞肺がんに対するカルボプラチン+エトポシド併用療法(CE療法)とカルボプラチン+イリノテカン併用療法(CI療法)のランダム化比較第II/III相試験(JCOG1201/TORG1528:#8571)、高齢者化学療法未施行IIIB/IV期扁平上皮肺がんに対するnab-パクリタキセル・カルボプラチン併用療法とドセタキセル単剤療法のランダム化第III相試験(#9031)、76歳以上の切除不能膵がんに対する非手術療法の前向き観察研究(#4123)など、高齢者を対象とした臨床研究の結果が複数、発表されている。これら治療開発に関する第III相試験の情報はさまざまな場所で得られると思われるため詳述はせず、ここでは老年腫瘍学に特徴的な研究を紹介する。高齢者の多様性を示すかのように、今回の発表内容も多様であった。高齢がん患者に対する高齢者総合的機能評価および介入に関するランダム化比較試験(THE 5C STUDY)高齢者総合的機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)は、患者が有する身体的・精神的・社会的な機能を多角的に評価し、脆弱な点が見つかれば、それに対するサポートを行う診療手法である。NCCNガイドライン1)をはじめ、高齢がん患者に対してCGAを実施することが推奨されている。これまで、がん領域では高齢者の機能の「評価」だけが注目されることが多かったが、最近では、「脆弱性に対するサポート」まで含めた診療の有用性を評価すべきという風潮になっている。昨年のASCOでは、「高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療」の有用性を評価するランダム化比較試験が4つ発表され、その有用性が検証されつつある。今回、世界的にも注目されていた第5のランダム化比較試験、THE 5C STUDY2)がシンポジウムで発表された。画像を拡大する主な適格規準は、70歳以上、がん薬物治療が予定されている患者(術前補助化学療法、術後補助化学療法は問わず、また分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬も対象)、PS:0~2など。標準診療群は「通常の診療」、試験診療群は「高齢者総合的機能評価および介入(CGAに加え、通常の腫瘍治療に加えて老年医学の訓練を受けたチームによるフォローアップ)を行う診療」である。primary endpointはEORTC QLQ-C30のGlobal health status(項目29および30)で評価した健康関連の生活の質(HR-QOL)であり、key secondary endpointは手段的日常生活動作(Instrumental Activities of Daily Living:IADL)。primary endpointについてはパターン混合モデルを使用した(0、3、6ヵ月目)。カナダの8つの病院から351例の参加者が登録され、治療開始翌日以降に介入が行われた(患者の要望に合わせた研究であるため)。HR-QOLスコアの変化は両群で差がなく(p=0.90)、またIADLも両群間で差はなかった(p=0.54)。筆者はlimitationとして、CGAを実施したタイミングが悪かったことを挙げている。本研究では、患者の利便性を考えて、「治療開始時」または「治療開始後」にCGAを実施していたが、一般的には、治療方針を決定する前にCGAを実施すれば、患者の脆弱性を考慮して適切な治療を選択できると考えられている。しかし、今回は治療開始時または治療開始後にCGAを実施された患者が多かったため、CGAの意義が乏しかった可能性があるという理屈である。その他、COVID-19により、十分な介入ができなかったこと、またHR-QOLが影響を受けた可能性があること、そもそも「高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療」の有用性を評価するためのアウトカムとしてEORTC QLQ-C30のGlobal health statusが適切でなかった可能性などをlimitationに挙げている。昨年のASCOで発表された研究では「高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療」の有用性が示されたが、残念ながら、本試験ではその有用性は検証できなかった。しかし、研究デザインに問題があること、またひと言で「高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療」といっても、その内容はさまざまであることなどから、本試験がnegative studyであるからといって、その有用性が否定されたわけではないだろう。個人的には、筆者がlimitationで挙げているとおり、治療開始「前」にCGAを実施できていれば、より適切な治療が選択され、その結果、介入もより効果的になって、本試験の結果も変わっていたのではないかと想像してしまう。高齢者総合的機能評価と局所進行頭頸部扁平上皮がんの治療方針単施設の後ろ向き研究ではあるが、THE 5C STUDYのlimitationと関係するため、ここで紹介する。要は、治療開始「前」に高齢がん患者を包括的に評価することで、適切な治療を選択できる可能性があるという発表である3)。局所進行頭頸部扁平上皮がん(LA-HNSCC)を伴う高齢者を対象として、2016~18年の間に通常の診療を受けた集団(通常診療コホート)と、2018~20年の間にCGAを実施された集団(CGAコホート)を比較し、実際に受けた治療(標準治療、毒性を弱めた治療、緩和目的の治療、ベストサポーティブケア)、治療完遂割合、奏効割合などを評価した。通常診療コホート96例、CGAコホート81例の計197例の患者が対象となった。CGAコホートでは、通常診療コホートと比較して、標準治療を受ける患者が多かったが(36% vs.21%、p=0.048)、治療完遂割合(84% vs.86%、p=0.805)や奏効割合(73.9% vs.66.7%、p=0.082)に有意な差は認めなかった。これまでは、CGAを実施することで過剰な治療を防ぐことができるという、いわば脆弱な患者を守る方向で議論されることが多いと感じていた。しかし、本研究では、CGAを実施することで標準的な治療を受けることができた患者が増え、またベストサポーティブケアを受ける患者が少なくなるということが示されたことで、CGAにより、過小な治療を受けていた患者が適切な治療を受けられることが示唆されたといえる。つまり、治療開始「前」に高齢がん患者を包括的に評価することは大事という話。Choosing Unwisely(賢くない選択):高齢者における骨髄異形成症候群の確定診断Choosing Wiselyとは科学的な裏付けのない診療を受けないように賢い選択をしましょうという国際的なキャンペーンだが、本研究ではChoosing Unwiselyとして、高齢者に対して骨髄異形成症候群(MDS)の正確な診断をすること、を挙げている4)。MDSに正確な診断(Complete Diagnostic Evaluation:CDE)をするためには、骨髄生検、蛍光 in situ ハイブリダイゼーション、染色体分析が必要だが、この意義があるか否かを2011~14年のメディケアデータベースを用いて検討した。対象は、2011~14年の間に66歳以上でメディケアを受けている患者のうち、MDSの診断を受けており、1種類以上の骨髄細胞減少を有し、MDS診断前後16週間に輸血を受けていない集団(1万6,779例)。CDEが臨床的に正当化されない患者の要因の組み合わせを特定するために、機械学習の手法であるCART(Classification and Regression Tree)分析を行い、CDEの有無による生存率の比較を行うためにCox比例ハザード回帰分析を行った。結果、1種類の血球減少(例:貧血のみ)を有する集団のうち、66~79歳の57.7%(1,156例)、80歳以上の46.0%(860例)がCDEを受けていた。また、血球減少がない患者3,890例のうち、866例がCDEを受けていた。背景因子を調整後の解析では、CDEを受けたことによる生存率の向上は認められなかった(p=0.24)。筆者は、高齢者のMDSに対して不要なCDEを減らすことを提案している。COVID-19患者の全米データベースの「がんコホート」高齢者に限定した研究ではないが、知っておくべきデータだと思うので簡単に紹介する。米国国立衛生研究所(NIH)が運営している全米COVIDコホート共同研究(National COVID Cohort Collaborative:N3C)のデータベースのうち、がん患者のみのコホートが公表された5,6)。N3Cコホートから合計37万2,883例の成人がん患者が同定され、5万4,642例(14.7%)がCOVID-19陽性。入院中のCOVID-19陽性患者の平均在院日数は6日(SD 23.1日)で、COVID-19の初回入院中に死亡した患者は7.0%、侵襲的人工呼吸が必要な患者は4.5%、体外式膜型人工肺(ECMO)が必要な患者は0.1%であった。生存割合は、10日目で86.4%、30日目で63.6%であった。65歳以上の高齢者(HR:6.1、95%CI:4.3~8.7)、併存症スコア2以上(HR:1.15、95%CI:1.1~1.2)などが全死因死亡のリスク増加と関連していた。18~29歳を基準とした場合、30~49歳のHRは1.09(0.67~1.76)、50~64歳では1.13(0.72~1.77)に対して、65歳以上ではHR:6.1と異常に高いことから、これまで以上に、高齢がん患者ではCOVID-19に注意を払う必要があると感じた。もちろん、併存症スコアが上昇するにつれ死亡割合が上昇していることから、暦年齢は併存症スコアに関連している可能性があり、暦年齢だけの問題ではない可能性はある。参考1)NCCN GUIDELINES FOR SPECIFIC POPULATIONS: Older Adult Oncology2)Comprehensive geriatric assessment and management for Canadian elders with Cancer: The 5C study.3)Impact of comprehensive geriatric assesment (CGA) in the treatment decision and outcome of older patients with locally advanced head and neck squamous cell carcinoma (LA-HNSCC).4)Choosing unwisely: Low-value care in older adults with a diagnosis of myelodysplastic syndrome.5)Outcomes of COVID-19 in cancer patients: Report from the National COVID Cohort Collaborative (N3C).6)Sharafeldin N, et al. J Clin Oncol. 2021:Jun 4. [Epub ahead of print]

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AZ製ワクチン接種後の血栓症の診療の手引き・第2版/日本脳卒中学会・日本血栓止血学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が始まり、全国で一般市民に対しても接種が急速に進んでいる。その一方で、2021年3月以降、アストラゼネカ社アデノウイルスベクターワクチン(商品名:バキスゼブリア)接種後に、異常な血栓性イベントおよび血小板減少症を来すことが報道され、4月に欧州医薬品庁(EMA)は「非常にまれな副反応」として記載すべき病態とした。また、ドイツとノルウェー、イギリスなどからもバキスゼブリア接種後に生じた血栓症のケースシリーズが相次いで報告され、ワクチン接種後の副反応として血小板減少を伴う血栓症が問題となった。この血栓症は、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)と類似した病態と捉えられ、VITTやVIPITという名称が用いられた(本手引きでは血小板減少症を伴う血栓症[TTS]を用いる)が、本症の医学的に適切な名称についてはいまだ議論があるところである。 海外では、国際血栓止血学会、米国血液学会などからTTSに関する診断や治療の手引きが公開されており、WHOからも暫定ガイドラインが発表された。海外と医療事情が異なるわが国には、これまで本疾患に対する診療の手引きは存在しなかったため、日本脳卒中学会と日本血栓止血学会は、COVID-19ワクチンに関連した疾患に対する診断や治療をまとめ、日常診療で遭遇した場合の対応方法を提言するために2021年6月に「アストラゼネカ社COVID-19ワクチン接種後の血小板減少症を伴う血栓症の診断と治療の手引き・第2版」(2021年6月)を作成、公開した。まれだが発症すると致死的なTTS TTSの特徴は1)ワクチン接種後4~28日に発症する、2)血栓症(脳静脈血栓症、内臓静脈血栓症など通常とは異なる部位に生じる)、3)血小板減少(中等度〜重度)、4)凝固線溶系マーカー異常(D-ダイマー著増など)、5)抗血小板第4因子抗体(ELISA法)が陽性となる、が挙げられる。TTSの頻度は1万人~10万人に1人以下と極めて低いが、これまでに報告されたTTSの症例は、出血や著明な脳浮腫を伴う重症脳静脈血栓症が多く、致死率も高い。また、脳静脈血栓症以外の血栓症も報告されているので、極めてまれな副反応であるが、臨床医はTTSによる血栓症を熟知しておく必要がある。目次はじめに1 TTSの診断と治療の手引きサマリー 1)診断から治療までのフローチャート 2)候補となる治療法2 TTSの概要 1)TTSとは 2)ワクチン接種後TTSの発症時期と血栓症の発症部位3 TTSとHITとの関連4 TTSの診断 1)TTSを疑う臨床所見  2)検査 3)診断手順 4)鑑別すべき疾患と見分けるポイント5 TTSの治療 1)免疫グロブリン静注療法 2)ヘパリン類 3)ヘパリン以外の抗凝固薬 4)ステロイド 5)抗血小板薬 6)血小板輸血 7)新鮮凍結血漿 8)血漿交換 9)慢性期の治療おわりに 付1)血栓症の診断 付2)脳静脈血栓症の治療 血栓溶解療法(局所および全身投与)/血栓回収療法/開頭減圧術/抗痙攣薬 付3)COVID-19ワクチンとは 文献 同手引きでは「おわりに」で「TTSは新しい概念の病態であり、確定診断のための抗体検査(ELISA法)の導入、治療の候補薬の保険収載、さらにはワクチンとの因果関係の解明など、多くの課題が残されている。今後、新たな知見が加わる度に、本手引きは改訂していく予定」と今後の方針を記している。

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エビデンスに基づく皮膚科新薬の治療指針

すぐに臨床に役立ち、新薬の動向と今後の展望も得られる皮膚科領域でこの数年間に上市された新薬あるいは今後上市が確実な新薬などの上手な使い方、情報を伝授。疾患別に「どんな薬か」「どこが新しいのか」「対象はどんな患者さんか」をはっきり示し、薬の臨床データのエビデンスや問題点もきっちり記載している。 臨床に役立つのはもちろん、皮膚科疾患における新薬の動向と今後の展望も情報として得られる。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    エビデンスに基づく皮膚科新薬の治療指針定価9,680円(税込)判型B5判頁数352頁発行2021年6月編集宮地 良樹(岡社会健康医学大学院大学学長/京都大学名誉教授)椛島 健治(京都大学皮膚科教授)電子版でご購入の場合はこちら

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AZ製ワクチン、血小板減少症を伴う血栓症5例の共通点/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアデノウイルスベクターワクチンChAdOx1 nCoV-19(AstraZeneca製)の接種により、まれではあるが重篤な血栓症が発生する。ノルウェー・オスロ大学病院のNina H. Schultz氏らは、ChAdOx1 nCoV-19初回接種後7~10日に血小板減少症を伴う静脈血栓症を発症した5例について詳細な臨床経過を報告した。著者らは、このような症例を「vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia(VITT):ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症」と呼ぶことを提案している。NEJM誌2021年6月3日号掲載の報告。初回接種後、血小板減少症を伴う静脈血栓症を発症した5例の臨床経過 ノルウェーでは、ChAdOx1 nCoV-19の接種が中止された2021年3月20日の時点で、13万2,686例が同ワクチンの初回接種を受け、2回目の接種は受けていなかった。ChAdOx1 nCoV-19の初回接種後10日以内に、32~54歳の健康な医療従事者5例が特異な部位の血栓症と重度の血小板減少症を発症し、そのうち4例は脳内大出血を来し、3例が死亡した。【症例1】37歳女性。接種1週間後に頭痛を発症、翌日救急外来受診。発熱と頭痛の持続、重度の血小板減少症が確認され、頭部CTで左横静脈洞およびS状静脈洞に血栓を認めた。低用量ダルテパリンの投与を開始、翌日に小脳出血と脳浮腫を認め、血小板輸血と減圧開頭術を行うも、術後2日目に死亡。【症例2】42歳女性。接種1週間後に頭痛発症、3日後の救急外来受診時には意識レベル低下。横静脈洞とS状静脈洞の静脈血栓症と、左半球の出血性梗塞を認めた。手術、ダルテパリン投与、血小板輸血、メチルプレドニゾロン、免疫グロブリン静注が行われたが、2週間後に頭蓋内圧上昇および重度の出血性脳梗塞により死亡。【症例3】32歳男性。接種1週間後に背部痛を発症し救急外来受診。喘息以外に既往なし。重度の血小板減少症と、胸腹部CTで左肝内門脈および左肝静脈の閉塞と、脾静脈、奇静脈および半奇静脈に血栓を認めた。免疫グロブリンとプレドニゾロンで治療し、12日目に退院。【症例4】39歳女性。接種8日後に腹痛、頭痛で救急外来受診。軽度の血小板減少症、腹部エコー正常により帰宅するも、2日後に頭痛増強で再受診。頭部CTで深部および表在性大脳静脈に大量の血栓と、右小脳出血性梗塞を確認。ダルテパリン、プレドニゾロン、免疫グロブリンで治療し、10日後に退院(退院時、症状は消失)。【症例5】54歳女性。ホルモン補充療法中であり、高血圧の既往あり。接種1週間後、左半身片麻痺等の脳卒中症状で救急外来受診。造影静脈CTでは全体的な浮腫と血腫の増大を伴う脳静脈血栓症を認め、未分画ヘパリン投与後に血管内治療により再開通したが、右瞳孔散大が観察され、ただちに減圧的頭蓋骨半切除術を行うも、その2日後にコントロール不能の頭蓋内圧上昇がみられ治療を中止。全例、ヘパリン投与歴はないがPF4/ヘパリン複合体に対する抗体価が高い 免疫学的検査および血清学的検査等の結果、5例全例に共通していたのは、血小板第4因子(PF4)-ポリアニオン複合体に対する高抗体価のIgG抗体が検出されたことであった。しかし、いずれの症例もヘパリン曝露歴はなかった。 そうしたことから著者は、これらの症例を特発性ヘパリン起因性血小板減少症のまれなワクチン関連変異型として、VITTと呼ぶことを提案。そのうえで、「VITTは、まれではあるが健康な若年成人に致命的な影響を与える新しい事象であり、リスクとベネフィットを徹底的に分析する必要がある。なお、今回の研究結果からVITTは、ChAdOx1 nCoV-19の安全性を評価した過去の研究結果よりも頻繁に起こる可能性があることが示唆される」と述べている。

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