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妊娠後期の抗てんかん薬、薬剤ごとの児への影響は?/NEJM

 出生前に抗てんかん薬に曝露された児は、曝露されていない児より自閉症スペクトラム障害の発生率が高いことが示された。ただし、適応症やその他の交絡因子で調整すると、トピラマートとラモトリギンへの曝露児では実質上その関連がみられなくなったのに対し、バルプロ酸への曝露児ではリスクが高いままであった。米国・ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院のSonia Hernandez-Diaz氏らが、米国の2つの医療利用データベースを用いた解析結果を報告した。母親の妊娠中のバルプロ酸使用は、児の神経発達障害のリスク上昇との関連が示されている。一方で母親のトピラマート使用に関連した児の自閉症スペクトラム障害のリスクに関しては、限定的だが相反するデータが示されていた。NEJM誌2024年3月21・28日号掲載の報告。曝露群vs.非曝露群で、自閉症スペクトラム障害のリスクを比較 研究グループは、米国のメディケイド受給者の医療利用に関するデータを含むMedicaid Analytic eXtract-Transformed Medicaid Statistical Information System Analytic Files(MAX-TAF)の2000~18年のデータ、および民間医療保険に関するデータを含むMerative MarketScan Commercial Claims and Encounters Database(MarketScan)の2003~20年のデータを用い、妊婦とその児を同定した。 解析対象は、推定最終月経日の3ヵ月以上前から出産1ヵ月後まで保険に加入していた12~55歳の女性(とその児)を全体集団とし、てんかんと診断されている女性に限定した集団についても解析を行った。 妊娠19週目から出産まで(妊娠後期)にトピラマートの投薬を1回以上受けた妊婦とその児を曝露群(トピラマート群)、最終月経の90日前から出産まで抗てんかん薬の投薬を受けていない妊婦とその児を非曝露群とした。また、トピラマート群の陽性対照としてバルプロ酸、陰性対照としてラモトリギンの投薬を1回以上受けた妊婦とその児を設定した。 主要アウトカムは、児の自閉症スペクトラム障害の臨床診断(自閉症スペクトラム障害のコードが2回以上の受診で記載されていること)で、曝露群の児と非曝露群の児について自閉症スペクトラム障害のリスクを比較した。トピラマート群6.2%、バルプロ酸群10.5%、ラモトリギン群4.1%、非曝露群4.2% 解析対象の全体集団は429万2,539例で、このうち2,469例がトピラマート群、1,392例がバルプロ酸群、8,464例がラモトリギン群、非曝露群が419万9,796例であった。また、てんかんの診断を有する女性の限定集団は2万8,952例で、トピラマート群1,030例、バルプロ酸群800例、ラモトリギン群4,205例、非曝露群8,815例であった。 全体集団において、非曝露群の児(419万9,796例)における8歳時の自閉症スペクトラム障害の推定累積発症率は1.9%(95%信頼区間[CI]:1.87~1.92)であった。 てんかんと診断されている母親の限定集団では、8歳時の自閉症スペクトラム障害の推定累積発症率は、非曝露群4.2%に対して、トピラマート群6.2%、バルプロ酸群10.5%、ラモトリギン群4.1%であった。ベースラインの交絡因子を補正した傾向スコア加重ハザード比は、トピラマート群0.96(95%CI:0.56~1.65)、バルプロ酸群2.67(1.69~4.20)、ラモトリギン群1.00(0.69~1.46)であった。

2.

ADHDと6つの精神疾患リスクとの関連

 注意欠如・多動症(ADHD)とさまざまな精神疾患との合併率の高さは、観察研究や診断基準などから示唆されている。中国・重慶医科大学のYanwei Guo氏らは、ADHDと6つの精神疾患との潜在的な遺伝的関連性を調査するため、メンデルランダム化(MR)研究を実施した。BMC Psychiatry誌2024年2月5日号の報告。 2サンプルのMRデザインを用いて、ADHDと6つの精神疾患のゲノムワイド関連研究(GWAS)に基づき、遺伝的操作変数(IV)をシステマティックにスクリーニングした。主なアプローチとして、逆分散重み付け(IVW)法を用いた。 主な結果は以下のとおり。・IVW MR分析では、ADHDと自閉スペクトラム症リスクとの間に正の相関が認められた(オッズ比[OR]:2.328、95%信頼区間[CI]:1.241~4.368)。・ADHDは、統合失調症のリスク増加に対する正の関連も認められた(OR:1.867、95%CI:1.260~2.767)。・ADHDとチック症、知的障害、気分障害、不安症との関連は認められなかった。 著者らは「ADHDは、自閉スペクトラム症および統合失調症のリスク増加と関連していることが示唆されたことから、ADHD患者では、両疾患との合併をさらに注意し、タイムリーな介入や治療が必要であることが明らかとなった」としている。

3.

膵臓の治療が自閉症の子どもの症状を改善か

 意外に思うかもしれないが、自閉症がある子どもの膵臓に対する治療が、行動面の問題の軽減に有効である可能性が、米テキサス大学(UT)ヘルス・マクガバンメディカルスクールの精神医学および行動科学教授のDeborah Pearson氏らによる研究で示された。この研究結果は、「JAMA Network Open」に2023年11月30日掲載された。 研究グループは、食事からのタンパク質摂取とセロトニンやドーパミンなどの重要な神経伝達物質との関連がこの結果の重要ポイントだと説明している。これらの神経伝達物質がうまく働かないと、子どもの行動に影響が及ぶ。自閉症スペクトラム障害(ASD)のある子どもの多くはパスタやパンなどの炭水化物の多い食品を好む一方、タンパク質の多い食事には抵抗を示す。しかし、神経伝達物質の合成に必要なアミノ酸はタンパク質からしか得ることができない。 そこで研究グループは、膵酵素の補充により膵臓でのアミノ酸の産生量を増加させることが子どもの脳に有用であり、脳の神経伝達物質の不足に関連する問題行動の軽減につながるのではないかと考えた。Pearson氏は、「ASDのある子どもには、しばしば易刺激性(怒りっぽさ)などの不適応行動が併発する。そのような場合に、副作用のリスクが低い介入で対処できるかどうかを明らかにしたかった」と説明する。 研究は、3~6歳のASDがある子ども190人(平均年齢4.5歳、男児79%)を対象に実施された。まず、12週間にわたって実施された第一段階の研究では、ランダムに選ばれた92人の子どもの食事に1日3回、豚由来の高プロテアーゼ膵酵素(900mg、以下、膵酵素)をふりかけた。一方、残る98人の食事には偽の酵素(プラセボ)をふりかけた。この研究期間中、研究者や子どもの親には、どの子に何が与えられているのかは明かされなかった。 その結果、膵酵素を摂取した子どもでは、親の報告に基づいた子どもの易刺激性や多動性、従順性のなさ、不適切な発言が有意に減少したことが明らかになった。これに対し、プラセボを摂取した子どもでは、このような変化は認められなかった。 次の段階の研究では、24週間にわたって全員に毎日膵酵素が投与された。その結果、この期間も、子どもの親の報告に基づいた易刺激性や多動性、不適切な発言が有意に減少したほか、無気力、引きこもりの程度も低下していた。全研究期間を通じて、膵酵素投与と関連/無関連の重大な有害事象は1件も報告されなかった。 Pearson氏は、「今回の研究では、神経伝達物質の合成に必要なアミノ酸の産生を促すと考えられている膵酵素の補充がASDの未就学児の行動面の機能の改善に関連することと、その副作用は極めて少ないことが示された」と説明している。 なお、本研究は、研究で使用された膵酵素補充剤を開発しているCuremark社の資金提供を受けて実施された。

4.

双極性障害患者の原因別死亡率と併存する神経発達障害

 双極性障害患者の早期死亡に関するこれまで研究は、サンプルサイズが小さいため、限界があった。台湾・長庚記念病院のWei-Min Cho氏らは、台湾の人口の約99%を対象に、双極性障害患者の早期死亡および併存する神経発達障害、重度の双極性障害との関係を調査した。その結果、精神科入院頻度の高い双極性障害患者は、自殺死亡リスクが最も高く、自閉スペクトラム症の併存は自然死や偶発的な死亡のリスク増加と関連していることが示唆された。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2023年12月6日号の報告。 対象は、双極性障害患者16万7,515例および性別、年齢により1:4でマッチさせた対照群。データは、台湾の国民死亡台帳データベースとリンクされている国民健康保険データベースより抽出した。原因別死亡率(すべての原因による死亡、自然死、事故または自殺による不自然死)の調査には、時間依存性Cox回帰モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・性別、年齢、収入、居住地、身体的条件で調整した後、双極性障害患者における死亡リスクと最も関連していたのは自殺(ハザード比[HR]:9.15、95%信頼区間[CI]:8.53~9.81)であり、次いで不自然死(HR:4.94、95%CI:4.72~5.17)、偶発的な死亡(HR:2.15、95%CI:1.99~2.32)、自然死(HR:1.02、95%CI:1.00~1.05)であった。・原因別死亡リスクの増加に、注意欠如多動症の併存は影響していなかったが、自閉スペクトラム症を併発すると、とくに自然死(HR:3.00、95%CI:1.85~4.88)、偶発的な死亡(HR:7.47、95%CI:1.80~31.1)のリスクが増加することが示唆された。・原因別死亡率は、精神科入院頻度に応じて線形傾向を示し(各々、p for trend<0.001)、1年間に2回以上入院した双極性障害患者では、自殺死亡リスクが34.63倍(95%CI:26.03~46.07)に増加した。

5.

幼児期初期の自閉症をAIが高精度で診断

 米ルイビル大学の研究グループが、特殊なMRI画像から生後24カ月から48カ月の幼児の自閉症を98.5%の精度で診断する人工知能(AI)システムを開発したと発表した。同大学神経学教授で米ノートン小児自閉症センター所長のGregory N. Barnes氏らによるこの研究結果は、北米放射線学会年次総会(RSNA 2023、11月26〜30日、米シカゴ)で発表された。 この研究グループの一員である同大学のMohamed Khudri氏は、「われわれの開発したアルゴリズムは、自閉症の子どもと正常に発達している子どもの脳のパターンを比べて異なるところを見つけ出すように訓練されており、その結果に基づいて自閉症かどうかを診断するものだ」と述べている。 このAIシステムは、拡散テンソル磁気共鳴イメージング(DT-MRI)と呼ばれる画像診断技術を用いたもの。DT-MRIは、白質路と呼ばれる脳内ネットワークに沿って水分子がどのように移動するのかを検出する特殊な技術である。AIシステムは、DT-MRIスキャンから脳組織画像を分離し、水分子の拡散パターンに基づいて脳領域間の結合レベルを調べる。その後、機械学習アルゴリズムが、その拡散パターンに基づいて自閉症の子どもと正常に発達した子どもの脳を比較するという仕組みだ。Barnes氏は、「自閉症は、主として脳内の神経回路や神経細胞間の不適切な結び付きが原因で生じる。DT-MRIは、自閉症の子どもにしばしば認められる社会的コミュニケーションの障害や反復行動などの症状に関連するこれらの異常な結合を捉えるものだ」と説明している。 Barnes氏らは、Autism Brain Imaging Data Exchange-IIから抽出した、生後24カ月から48カ月の幼児226人の脳のDT-MRI画像を用いて、このAIシステムの診断性能を検証した。対象児のうち100人は正常に発達していたが、126人は自閉症だった。その結果、このAIシステムは、97%の感度と98%の特異度で自閉症児を検出し、全体的な正確度は98.5%であることが示された。このことから、AIシステムが自閉症児と非自閉症児を非常に高い精度で区別できることが明らかになった。 Khudri氏は、「われわれのアプローチは、2歳未満の幼児における自閉症の早期発見に向けた、新たな進歩となるものだ。3歳になる前に治療的介入を行うことで、自閉症児がより高い自立性やIQを達成するなどの転帰改善につながると考えている」と述べている。Barnes氏は、「早期介入の背後にある考え方は、脳の可塑性、つまり治療によって機能を正常化する脳の能力を利用することだ」と説明する。 米疾病対策センター(CDC)が発表した2023年の自閉症に関する報告によると、自閉症児のうち3歳までに発達評価を受けているのは半数以下であり、自閉症の基準を満たす子どもの30%は8歳までに診断を受けていないという。Barnes氏は、自閉症の診断が遅れる理由として、検査センターのリソース不足などを挙げている。Khudri氏は、このAIシステムは、影響を受けている脳経路を特定し、それが及ぼしている影響の程度や介入の指針として利用できる重症度スコアに関するレポートを生成するため、診断の迅速化に役立つ可能性があるとの見方を示す。研究グループは、米食品医薬品局(FDA)からAIソフトウェアの認可を得るために、申請中であるという。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

6.

ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 1

今回のキーワード器用さ(協調運動)発達性協調運動症イメージ力(概念化)アート・サヴァン(サヴァン症候群)自分語り(社会性)自閉症のこだわり(反復性)創造性自己治癒皆さんは、子供の描く絵を見て、おもしろいと思ったことはありませんか? 大人の常識にとらわれない視点や発想にびっくりさせられることがありますよね。子供はどうやって絵を描くようになるのでしょうか? そもそも私たちヒトはなぜ絵を描くようになったのでしょうか? そして、私たちは絵を見てなぜ心を動かされることがあるのでしょうか?今回は、ピカソの傑作の1つである「泣く女」を取り上げます。シネマセラピーのスピンオフバージョン、「アートセラピー」としてお送りします。この絵を通して、描く能力、描く起源、そしてアートの本質に、発達心理学、進化心理学、比較認知科学、神経美学の視点から迫ります。それらを踏まえて、医療の現場で行われるアートセラピーの効果を一緒に考えてみましょう。子供はどうやって絵を描くようになるの?ピカソの「泣く女」は、まさに子供が描くようなおもしろい絵です。彼は、もともと絵がとてもうまかったわけですが、途中からこのような絵をあえて描くようになりました。それでは、ピカソが注目したように、子供はどうやって絵を描くようになるのでしょうか? ピカソと子供の絵の共通点から、描くために必要な能力(機能)を主に3つ挙げてみましょう。(1)器用さ―協調運動ピカソの「泣く女」の絵は、輪郭がくっきりと描かれています。その太さはまばらで途切れているところもあり、滑らかではないです。よく言えば大胆不敵、悪く言えば不器用です。発達心理学的には、子供は1歳以降にペンで殴りがきができるようになり、2歳半以降に横線、縦線、円の模倣ができるようになります1)。1つ目の能力は、ペンなどで描く線の位置をコントロールする器用さ、つまり協調運動です。子供は自由に線を描くという運動遊びを通して、器用になっていきます。やがて、それが字を書く器用さにつながっていきます。逆に、いつまでも線がうまく描けず、手先が不器用なままの場合は、発達性協調運動症と呼ばれます。比較認知科学の視点では、チンパンジーをはじめ大型類人猿も絵筆で殴りがきができます1)。とくにチンパンジーは、模倣はできませんが、お手本の線に印づけをしたり、塗りつぶすことはできます。このことから、チンパンジーは1、2歳の子供と同じくらいの器用さがあることがわかります。ちなみに、ピカソは、あるチンパンジーの殴りがきの絵をオークションで買い取ってアトリエに飾っていたという逸話があり、インスピレーションのもとにしていたようです。(2)イメージ力-概念化ピカソの「泣く女」の絵は、泣いてくしゃくしゃになった表情と涙にぬれてくしゃくしゃになったハンカチがあえて連続的に描かれています。女性の顔の上半分は正面顔で下半分は横顔で、複数の視点からみたイメージを重ね合わせています(キュビズム)。よく言えば立体的で斬新、悪く言えば視点やイメージが定まっていないです。発達心理学的には、幼児の絵は、顔は真正面を向いているのに横から見た椅子に座っていたり、物が展開図のよう描かれていることがよくあります。人を描こうとすると、胴体がなく、頭からいきなり手足が生えているような絵(頭足人)になります。4歳まで、顔など上下の向きがあるものを逆さまや横向き(回転画)にして描いてしまうこともあります1)。2つ目の能力は、あるものをざっくりとした形で思い描くイメージ力、つまり概念化です。子供は、見たものではなく、知っているものを描くわけですが、絵本などからの模倣学習によって、より特徴や構図を細かく捉えることができるようになっていきます。こうして、子供の絵が、より多くの人が理解できる「普通」の絵になっていくのです。比較認知科学の視点では、ヒトの子供は2歳半以降に目がないチンパンジーの顔の絵に目を描き入れることができるようになります。しかし、チンパンジーはまったくできず、顔の絵の輪郭線をなぞるだけでした1)。このことから、チンパンジーは「ない」ものを認識できない、つまり目や口などの形のざっくりとしたイメージ(概念)がもともと頭の中になく、見たものを丸ごと捉えていることが示唆されます。だからこそ、目の前に他のチンパンジーが何頭いるかの瞬間記憶(映像記憶)において、チンパンジーはヒトよりも長けていることもわかります。逆に言えば、ヒトはチンパンジーよりも瞬間記憶が劣っているわけですが、これは、イメージ力(概念化)を進化させた代償と言えるでしょう。実際に、秀でた瞬間記憶によって写実的な絵を描く「アート・サヴァン」(サヴァン症候群)と呼ばれる人がまれにいます。しかし、彼らのほとんどは、もともと自閉症で、抽象的な話(概念化)ができません。彼らは、概念化の能力と引き換えに、瞬間記憶の能力を手に入れたと捉えることができます。ちなみに、ゾウは鼻で絵筆を持って、花の絵を描くことができます。ただし、これは、ゾウ使いが巧みに耳を引っ張るなどして、そう描くようにトレーニング(連合学習)をしただけであることがわかっています2)。ゾウは、自発的に描いているわけではなく、その絵の形を認識できているわけでもありません。つまり、形のある絵を描くことができるのは、やはりヒトだけであると言えます。(3)自分語り―社会性ピカソの「泣く女」のモデルは、ピカソの愛人の1人です。ピカソは、結婚をして子供がいながら、次々と愛人をつくっていました。この愛人ともう1人の愛人が、ピカソのアトリエで鉢合わせた時の逸話は有名です。ピカソは「どちらがこの場を出ていくかはっきりさせて」とこの2人に迫られるのですが、なんと「君たちが争って決めたらいい」と答えたのです。そして間もなく、彼の目の前で女性同士の取っ組み合いのけんかが始まったのでした。当時ピカソは、戦争を象徴する「ゲルニカ」の制作の真っ最中でした。「ゲルニカ」は、祖国スペインでの戦争だけでなく、自分のアトリエで自分をめぐっての女性同士の戦いも同時に象徴していたとも言えるかもしれません。彼は数年後、また別の愛人にこの時のエピソードを「最高の思い出の1つだったな」と面白がって語っていたのでした。この絵の背景を知れば知るほど、「泣く女」の真実が浮き彫りになってきます。そして、ピカソがいかに自分語りに長けていたのかがわかります。発達心理学的には、4歳以降でエピソード記憶が発達し、たとえば遊園地で家族が手をつないで笑っているワンシーンなど、エピソードの絵を描くようになります。そして、親などに「見て見て」と言うようになります。もちろん、親は「いいねえ」「よく描いたねえ」と褒めます。それは、写真のような正確な事実ではなく、その子が感じたその子にとっての真実です。その絵は親にとって、ピカソの絵と比べることができない宝物になります。3つ目の能力は、自分が見たものを周りに伝えようとする自分語り、つまり社会性です。子供は、ただ描くだけでなく、自分が見たものを絵にして周りと共有しようとするようになります。こうして、ピカソと同じように、絵にストーリー性やメッセージ性という価値が生まれるのです。比較認知科学の視点では、先ほどの目がない顔の絵に目を描き入れる実験において、そもそもチンパンジーは、たとえイメージ力があり目がないことを認識できていたとしても、そもそも「目がないこと(いつもと違うこと)を伝えたい」「足りない目を補って褒められたい」という発想自体がない可能性も考えられます。つまり、絵は、言葉と同じように社会性があることがわかります。逆に言えば、絵は誰かに見てもらうために描くのです。誰かに見てもらうことを想定せずに描く場合は、独り言と同じであり、自閉症のこだわり(反復性)など特殊な精神状態に限られます。次のページへ >>

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サヴァン症候群の「天才的能力」はギフテッドなのか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第244回

【第244回】サヴァン症候群の「天才的能力」はギフテッドなのか?photoACより使用サヴァン症候群については医師であればご存じの人が多いと思いますが、ある能力が異常に亢進する症候群です。一瞬見ただけで景色を写真記憶してそれを絵画にして描き出す能力、年月日から曜日を即座に言える能力、耳にした音楽をすべて再現できる能力…。見方によっては、才能を授けられた「ギフテッド」のように思われるかもしれません。Kawamura M, et al.Savant Syndrome and an "Oshikuramanju Hypothesis".Brain Nerve. 2020 Mar;72(3):193-201.この論文はサヴァン症候群の「おしくらまんじゅう仮説」を記したもので、なるほどと考えさせられた総説です。サヴァン症候群の根底にあるのは、特定の脳の機能低下ですが、別の機能が亢進するという状態になります。これが天才的な能力として目の当たりにされるわけです。脳の中では、それらの機能があたかも「おしくらまんじゅう」のようにひしめき合っていて、ある機能が失なわれたときにほかの機能がせり出してくるのではないか、ということです。この機序は獲得性サヴァン症候群においての見解です。反面、生まれながらにしてサヴァン症候群の場合、自閉スペクトラム症のように、器質的な原因があるケースが多いです。私もサヴァン症候群と思われる人とその家族にインタビューをした経験がありますが、コミュニケーションに少し苦労されている人が多かった印象です。国内の特別支援学校での調査によれば、ほとんどのサヴァン症候群児童は男性であり、これは自閉症児が男性に多いことに関係していると推察されています1)。サヴァン症候群の名が知られるようになったのは、映画「レインマン」(1988年)によるところが大きいです。自閉スペクトラム症の兄をダスティン・ホフマンが、その弟をトム・クルーズが演じています。また、「グッド・ドクター」という韓国ドラマの主人公の医師もサヴァン症候群として描かれていますね。日本でも山崎 賢人さんが主演でリメイクされました。1)有路 憲一, 他. サヴァン症候群の実態調査とその実践的価値. 信州大学総合人間科学研究. 2017;11:195-217.

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自閉スペクトラム症とADHDの認知プロファイル~メタ解析

 これまでの研究によると、神経発達の状態は、ウェクスラー式知能検査(最新版はWAIS-IV、WISC-V)における特有の認知プロファイルと関連している可能性がある。しかし、自閉スペクトラム症または注意欠如多動症(ADHD)患者の認知プロファイルをどの程度反映できているかは、はっきりしていなかった。英国・ニューカッスル大学のAlexander C. Wilson氏は、同検査による自閉スペクトラム症とADHDの認知プロファイルの評価を調査する目的でメタ解析を実施した。その結果、ウェクスラー式知能検査の成績パターンは、診断目的で使用するには感度および特異度が不十分であるものの、自閉スペクトラム症では、言語的および非言語的推論の相対的な強さと処理速度の低さの認知プロファイルと関連していることが示唆された。一方、ADHDでは、特定の認知プロファイルとの関連性は低かった。Archives of Clinical Neuropsychology誌オンライン版2023年9月29日号の報告。 2022年10月までに公表された研究をPsycInfo、Embase、Medlineより検索した。自閉スペクトラム症またはADHDと診断された小児または成人を対象に、WAIS-IVまたはWISC-Vを用いて認知パフォーマンスを評価した研究を検索対象に含めた。検査のスコアはメタ解析を用いて集計した。主な結果は以下のとおり。・18件のデータソースより報告された、ニューロダイバーシティ(神経多様性)1,800例超のスコアを分析した。・自閉スペクトラム症の小児および成人は、言語的および非言語的推論において典型的な範囲内のパフォーマンスを発揮していたが、処理速度スコアは平均より約1 SD低く、作業記憶スコアはわずかに低かった。これは、自閉スペクトラム症における「spiky」の認知プロファイルの根拠と考えられる。・ADHDの小児および成人のパフォーマンスは、ほとんどが年齢で予想されるレベルであったが、作業記憶スコアはわずかに低かった。 結果を踏まえて著者は、「自閉スペクトラム症では、自身の長所や困難を特定しサポートするための認知評価が、とくに有益である可能性がある」としている。

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自閉スペクトラム症と統合失調症の精神症状の比較

 自閉スペクトラム症(ASD)患者は、明らかな精神症状を発現する傾向があり、これらの症状は、統合失調症患者でみられる症状と類似している。獨協医科大学のMomoka Yamada氏らは、ASD、統合失調症、非精神疾患の初診患者における精神症状の違いについて、調査を行った。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2023年8月21日号の報告。 初診患者のデータは、2019年6月~2021年5月の獨協医科大学病院精神科の診療記録よりレトロスペクティブに収集した。分析には、精神症状の簡易評価ツールであるPRIME Screen-Revised(PS-R)の評価データを有する254例を含めた。すべての精神科診断には、DSM-V診断基準が用いられていた。 主な結果は以下のとおり。・混乱や妄想的気分は、ASDで15.6%(7/45例)、統合失調症で41.5%(44/106例)、非精神疾患で1.1%(1/88例)に認められ、知覚異常は、ASDで11.1%(5/45例)、統合失調症で40.6%(43/106例)、非精神疾患で2.3%(2/88例)に認められた。・傾向分析では、これらの精神症状は、非精神疾患<ASD<統合失調症と増加していた。・多変量調整多項ロジスティック回帰分析では、ASDおよび非精神疾患と統合失調症との比較を行った。・より高い年齢、知覚異常の発現は、ASD診断を受けていないことと関連し、男性、混乱や妄想的気分がないこと、知覚症状がないことは、非精神疾患と関連していた。 著者らは、本結果は暫定的なものであるとしながらも、陽性症状を詳細に評価することで、ASDと統合失調症の鑑別が容易になる可能性があるとまとめている。

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若年性認知症と紛らわしい、初老期のADHD【外来で役立つ!認知症Topics】第8回

認知症専門クリニックの当院を訪れる患者さんの平均年齢は75歳、偏差は10歳くらいかと思う。だから40~65歳の患者さんが来られると、「若年性認知症か?」とまずは疑う。実際にはそれもあるが、複雑部分発作のようなてんかん性疾患や、睡眠時無呼吸症候群だと診断される人も少なくない。ところがここ数年、認知機能についても脳画像などの生物学的な診断指標についても問題なく、最終的に正常と診断する例が増えてきた印象がある。そこでこうした患者さんには、何か共通する背景があるのではないかと思うようになった。理系の学校卒、技術職で働いてきた人で、いわゆる理屈屋さんの傾向があるか?とまず思い当たった。そこで「そもそもどうして来院されたのですか?」と改めて尋ねると、「実は自分でも悪いとは思っていない。上司(あるいは女房)が認知症かどうか専門医に調べてもらうように言ったから」という回答が多いことがわかった。たまたまこの頃、「60歳以上の注意欠如・多動症ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)にご注意を」という主旨の英文記事1)を読んだ。「60歳以上のADHD」という言葉に、「ほーっ」と感心した。実は20年ほど前に「大人になったADHD」という言葉を知ったとき、まず驚いたものだ。というのは、子供の頃の同級生や知友を思い浮かべても、ADHDは児童期には目立っても成長とともに改善し、多くの場合、成人になると治るものとずっと私は思っていたからである。ADHDは大人になってから表面化することもその専門家である岩波 明氏によると、「ADHDは、成人の3〜4%が持っているといわれており、診断を受ける大人が増えている。とくに症状が軽い場合、また周囲の環境によっては見過ごされることもある。しかし大人になると、就職や結婚などによって行動の範囲や人間関係が複雑になるため、それに対処しきれなくなったときに問題が表面化し、症状に気付くことがある」と述べられている。そして注意に関わる特徴として、「注意を持続するのが難しい」、「ケアレスミスが多い」、「片付けが苦手・忘れ物が多い」などを指摘されている2)。それを思い出した上で、60歳以上のADHDの特徴を丁寧に読み返してみた。(1)スイスチーズ記憶:覚えているものもあるが、スコンと抜けるものもある、いわゆる斑ぼけ。(2)気を逸らされるとやりかけの仕事を忘れてしまう。(3)物を定位置に戻さない。(4)くり返し、真っ白になる。(5)家計などの金銭収支を合わせられない。(6)周りに配慮せずしゃべり過ぎる。(7)他者を遮る。(8)他者と安定した関係が保てない。とあった。こうした目で認知症疑いの受診者を見直してみると、先ほどは最終的に知的正常とした中にも、ADHDと考え直すケースが少なくないと考えた。だから最近では、テストが正常であっても、ADHDでは?と思い直して、そのチェックのためにAQ(自閉症スペクトラム指数)3)を施行している。上記の症状のうち、とくに(1)~(5)は認知機能がらみである。一方で(6)~(8)は、従来からのいわゆる「キャラ」関連であろう。そもそもどうして初老期以降になってADHDが顕在化するのか? 答えはわからないのだが、やはり加齢化による機能低下は重要だろう。認知症は、以前は「痴呆症」と呼ばれたように、知性や知識の病である。ところで精神現象を包括する語に「知情意」がある。「情」とは心、「意」とは意欲である。ADHD の素因がある人は、年齢を重ねた時に、ミニメンタルステート検査(MMSE)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDSR)などで定量化しやすい知のみならず、情意についても、ほころびを生じやすいのではなかろうか。(6)~(8)は、本来の傾向が、この情意のほころびによって強められた現れなのかもしれない。こうしたことで、当事者の周囲が見て取る「知情意」の変化が認知症の初期症状と捉えられ、認知症専門外来という話になるのかもしれない。初老期のADHD治療さて治療においては、まず自分にはどんな問題があるかを、初老期になった当事者に自覚してもらう必要がある。上記報告1)はこれを簡潔に述べている。(1)先送りにしがちだ。(2)苛つきやすい自分をコントロールする必要がある。(3)制限時間を意識した段取りと進行が求められる。(4)落ち着かなさ、雑念が頭の中を駆け巡る、しゃべり過ぎ。などは過活動の残骸と考えよう。またADHDに適応がある薬物には、メチルフェニデート(商品名:コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)、リスデキサンフェタミン(ビバンセ)の4剤がある。いずれも副作用など危険性も高く、その処方にはADHDに精通した医師の関わりが求められているだけに、医師なら誰でもとはいかないだろう。終わりに、初老期以降のADHDと思しき人の病識、あるいは自覚について。それがある人と、まったくといっていいほどない人にきれいに二分されるという印象がある。筆者がADHD疑いと思っても本人が否定する場合は、本人と近しい人にもAQをやってもらう。それと本人の回答が明らかに乖離することが、こうしたケースの特徴のようだ。参考1)Nadeau K. A Critical Need Ignored: Inadequate Diagnosis and Treatment of ADHD After Age 60. ADDITUDE. 2022 July 14.2)NHK健康チャンネル 大人の「注意欠如・多動症(ADHD)」とは?特徴や治療を解説!(2023年7月21日)3)若林明雄ほか. 自閉症スペクトラム指数(AQ)日本語版の標準化. 心理学研究. 2004;75:78-84.

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論文発表と映画製作の共通点から猫談義を楽しむ【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第62回

第62回 論文発表と映画製作の共通点から猫談義を楽しむ自分は映画が大好きです。映画監督ほどすばらしい仕事はないと思います。映画は、文学、音楽、演技、美術、デザイン、映像技術などの要素が組み合わさって作り上げられます。複数の芸術形式の融合を指揮する映画監督には総合力が求められます。いつかは映画監督としてメガホンを握ってみたいと夢見ております。論文発表と映画製作にはいくつか共通点があるように思います。論文発表も映画製作にも明確な構成が必要です。論文は導入、方法、結果、考察などのセクションで構成され、映画はプロローグ、展開、クライマックス、エピローグなどのセクションで構成されます。論文発表と映画製作には、訴えたいテーマがあることも共通です。論文は特定の研究問題を解決すること、映画はストーリーを通してメッセージを伝えることがテーマです。論文発表と映画製作は共に、創造性が求められる活動です。論文では新しい知見やアイデアを提案し、映画ではストーリーや映像表現を通じて観客を魅了する創造的なアプローチが必要です。完成までのプロセスにも共通点があります。論文では研究計画、データ収集、解析、執筆などのステップがあります。映画では脚本の執筆、撮影、編集、音楽の追加などの工程を経て完成します。医療の現場は人間の生と死をあつかう場所なのでドラマに満ちています。ですから映画の題材に病気や医療が使われることが多いのも当然です。医学領域の研究活動と映画製作には共通項が多いことも影響しているかもしれません。そこで医療関係者に観てもらいたい傑作映画を紹介しましょう。『だれもが愛しいチャンピオン』(原題:Campeones)、監督:ハビエル・フェセル、2018年製作、スペイン映画主人公は短気な性格のプロバスケットボールのコーチです。問題を起こしチームを解雇され、社会奉仕活動として障がい者バスケットボールのチーム「アミーゴス」のコーチを命じられます。選手たちの自由過ぎる言動に困惑しながら、純粋さや情熱、優しさに触れて一念発起します。コーチと選手が互いに支え合い成長していきます。チームは全国大会で快進撃します。実際の障がい者600人の中からオーディションで選ばれた10名の「俳優」が出演します。主演のひとり、ダウン症のヘスス・ビダルがスペインの映画賞であるゴヤ賞の新人賞を受賞したそうですが、その演技力を引き出した監督の手腕は賞賛に値します。この映画の日本公開には、日本障がい者バスケットボール連盟、日本自閉症協会、日本ダウン症協会などが後援しています。知的障がい者というタブー視される内容を描きながらネガティブな面がなく、爽やかな作品に仕上がっています。さすがラテンの国スペインです。説教くさいメッセージはないので気軽にご覧ください。自然に笑いながら、自然に胸が熱くなる、そんな作品です。医療と映画の相性は良いのですが、それよりも映画に欠かせない存在が猫です。美しい外観を持ち、しなやかで優雅な動きをする猫は、画面上で目を引く存在となります。猫の予測不能な行動や愛らしいしぐさは観客の関心を引きます。身近で親しみやすい猫は、映画に頻繁に登場するキャラクターです。では、画面を横切る猫が絶妙な映画を紹介しましょう。『ゴッドファーザー』(原題:The Godfather)、監督:フランシス・フォード・コッポラ、出演:マーロン・ブランド、アル・パチーノ、1972年製作イタリア系組織犯罪集団マフィアの内情を世に知らしめた名作です。マーロン・ブランドが演じるマフィアのボス、ドン・コルレオーネは、相手が貧しく微力な者でも、助けを求めてくれば親身になってどんな困難な問題でも解決します。映画の冒頭に、相談を聞くためのオフィスで、ドン・コルレオーネが手の中で猫をもてあそんでいます。コルレオーネ役のマーロン・ブランドに、猫は手を伸ばしたり、体の向きをくねくね変えたり、甘えきっています。マーロン・ブランドも猫が喜ぶポイントをまさぐり、猫好きの本性は明らかです。しかし、ドンとしての仏頂面を崩しません。リラックスした猫が、厳しいマフィアの行動原理を際立たせるシーンです。ここで猫を登場させるコッポラ監督は流石です。『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(原題:A Street Cat Named Bob)、監督:ロジャー・スポティスウッド、出演:ルーク・トレッダウェイ、ルタ・ゲドミンタス、2016年製作ホームレス同然の貧しいストリートミュージシャンが1匹の野良猫との出会いによって再生していく姿を描く作品です。これは本当にオススメの映画なので、ネタバレしないように詳しく述べません。ボブが実話に基づく猫であることが驚きです。日本やハリウッドの映画は、動物が登場するとメロメロの甘い展開になることが常ですが、辛口な展開はイギリス映画を感じさせます。監督のロジャー・スポティスウッドは、『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』のメガホンも取っている実力派です。『猫が教えてくれたこと』(原題:Nine Lives: Cats in Istanbul/Kedi)、2016年製作これはドキュメンタリー映画で、上映時間も79分と手頃です。猫と人間たちの幸せな関係をとらえたドキュメンタリーです。ヨーロッパとアジアの文化をつなぐイスタンブールの街で暮らす野良猫が主人公です。生まれも育ちも異なる7匹の猫たちと人間たちが紡ぎ出す触れ合いは感動を与えてくれます。あなたの心が乾燥し、癒しが必要ならばご覧ください。必ずや効能を発揮します。論文発表と映画製作という情報発信の共通性を論じるつもりが、結局は猫好き談義になってしまいました。お許しください。

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医師によるうつ病の重症度評価と患者本人の苦痛の乖離に、幼少期の逆境体験などが関与

 医師が臨床的に評価した重症度よりも強い苦痛を感じているうつ病患者には、幼少期の逆境体験や自閉症傾向などが多く見られるとする、国立精神・神経医療研究センターの山田理沙氏、功刀浩氏(現在の所属は帝京大学医学部精神神経科学講座)らの研究結果が、「Clinical Psychopharmacology and Neuroscience」に5月30日掲載された。著者らは、「うつ病の重症度評価において、患者の主観的な苦痛の強さを把握することが、より重要なケースが存在する」と述べている。 近年、患者中心の医療の重要性が認識されるようになり、精神科医療でも治療計画の決定などに患者本人の関与が推奨されるようになってきた。これに伴い、うつ病の重症度についても、医師が評価スケールなどを用いて判定した結果と、患者への質問票による評価結果が一致しないケースのあることが分かってきた。ただ、そのような評価の不一致に関連する因子はまだ明らかにされていない。 研究の対象は、2017年10月~2020年2月に国立精神・神経医療研究センター病院気分障害センターの外来を受診した、17歳以上の大うつ病性障害(MDD)患者60人および双極性障害(BD)患者40人、計100人〔年齢中央値33歳(四分位範囲24~46)、男性52%〕。診断は、米国精神医学会の診断基準の第4版(DSM-4)に即して行われた。 医師によるうつ病の重症度評価には「ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD-17)」、患者自身の主観的評価には「ベック抑うつ質問票(BDI)」を用いた。両者の評価結果の関連を検討したところ、有意な正相関(r=0.624、P<0.001)が認められた。 次に、HAMD-17とBDIの回帰直線からBDIスコアまでの乖離の程度の四分位数で、全体を以下の3群に分類。BDIスコアが回帰直線より高値であり、その乖離幅の大きい25%の群を、医師の評価よりも主観的な苦痛の大きい群(BO群)とした。反対に、BDIスコアが回帰直線より低値であり、その乖離幅の大きい25%の群を、医師の評価よりも主観的な苦痛が少ない群(BU群)とし、残りの50%は両者の評価が一致している群(BC群)とした。これら3群間に、年齢、性別や疾患(MMD、BD)の分布、自殺未遂の既往、治療薬、教育歴、およびHAMD-17などに有意差はなかった。 医師の重症度評価と患者の主観的評価に関連する可能性のある因子としては、幼少期の逆境体験(CTQ-6)、成人用対人応答性尺度(SRS-A)、問題への対処行動の傾向(WCCL)を評価した。それらの評価結果をBO群、BU群、BC群で比較すると、一部のスコアに有意な群間差が認められた。 例えばCTQ-6については、合計スコア、および精神的虐待を表す下位尺度が、BU群よりBO群の方が高値だった。下位尺度のうち身体的虐待および情緒的ネグレクトについては、3群間に有意差がなかった。また、SRS-Aについては、合計スコアと自閉症傾向を表す下位尺度などが、BC群やBU群よりBO群の方が高値だった。WCCLに関しては、自責スコアはBC群やBU群よりBO群が高く、希望的観測と回逃・避避のスコアはBC群よりBU群の方が低かった。 著者らは本研究の限界点として、サンプル数が十分でなく比較的若年の患者が多いこと、大半の患者が既に薬物療法が開始された状態で検討していること、BD患者の躁症状については主観的評価を行っていないことなどを挙げている。その上で、「幼少期の逆境体験や自閉症傾向、問題に対して自責の念を抱きやすい傾向などを有するうつ病患者は、臨床医が客観的に評価するよりも大きな苦痛を感じている可能性がある」と結論付け、「そのような懸念のある患者では、主観的評価を積極的に行うべきではないか」と提言している。

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伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】Part 1

今回のキーワード連合学習指差し意図共有自閉症サイン言語音声言語メラビアンの法則左脳皆さんは、どうやって赤ちゃんが言葉を覚えていくのか不思議に思ったことはありませんか? そもそも私たち人間がどうやって言葉を話すようになったのか疑問に思ったことはありませんか? さらに、言葉そのものよりも、なぜ見た目や口調の方が相手に影響を与えるのでしょうか? なぜ言葉と利き手を司る優位半球が同じ左脳なのでしょうか?これらの謎を解くために、今回は、伝記「ヘレン・ケラー」を取り上げ、言葉の意味を理解する象徴機能のメカニズムを解き明かし、その起源に迫ります。なお、厳密にいえば言葉には、発語、象徴、統語の主に3つの機能があります。今回は、象徴にフォーカスしています。発語の機能の詳細については、関連記事1をご覧ください。象徴機能とは?ヘレン・ケラーは、今から100年以上前の偉人です。彼女は、1歳半の時に感染症(髄膜炎)にかかってしまい、その後遺症で「見えない、聞こえない、話せない」という三重苦を背負うことになります。そして、言葉を覚えることが困難なまま、家の中で暴れ回っていました。やがて彼女が6歳になった時、ついに家庭教師のサリバン先生に巡り会います。サリバン先生は、一生懸命ヘレンに指文字を教え込み、やがてヘレンは指文字がものや動作と関連付けられていることを理解し、いくつかの名詞と動詞を覚えました。しかし、ケーキに触れたり嗅いだり味わったりすれば「c-a-k-e」という指文字を綴ることができるのに、ケーキが食べたい時はその指文字を使わずに、身振りで表現していたのです。なぜなのでしょうか?その訳は、「ケーキに触れる→c-a-k-eの指文字を綴る」というパターン学習(連合学習)をしただけだったからです。しかし、c-a-k-eという指文字がケーキというものを表す記号(象徴)であり、それを使って逆に「ケーキが欲しい」という自分の欲求を伝える、つまり「c-a-k-eの指文字を綴る→ケーキに触れる」ということがわからなかったのでした。このように、ものごとやできごとを記号(象徴)に置き換えて、目の前にそれがなくても記号(象徴)によって認識することを象徴機能と呼んでいます。つまり、「もの→記号」なら「記号→もの」と理解することです(刺激等価性)。何が奇跡なの?サリバン先生は、根気強くヘレンに指文字を教えていきます。そして、運命の時が来ます。2人が出会って1ヵ月後、サリバン先生はヘレンを井戸に連れていき、水を流します。そして、ほとばしった水がヘレンの手に当たった時、彼女ははっとします。そして、おもむろに「わーたー(water)」と唸るように言葉を絞り出したのでした。さらに、自分から「w-a-t-e-r」と指文字を綴り、水を求めるのでした。この時、ヘレンは初めてすべてのものには名前があり、それを指文字で表していることに気付くのです。つまり、「もの→記号」なら「記号→もの」を理解したのでした。それを可能にさせたのも、ヘレンが病気になる前にすでに覚えた「water」の発音をその瞬間に思い出したからでした。「waterという発音(記号)→水(もの)」が理解できたからこそ、「w-a-t-e-rの指文字(象徴)→水(もの)」も理解できるようになったのでした。この時を境に、ヘレンは身の回りのあらゆるものの名前を次々と質問するようになります。いわゆる幼児の「なになに期」が遅れて爆発的にやってきたのでした。さらに、サリバン先生が自分の口の中にヘレンの指を入れさせて発音の仕方を教えることで、話せるようにもなっていきます。やがて大学に進学するまでになり、生涯、講演活動を通して世界の福祉のあり方に働きかけました。彼女は、三重苦を背負いながら、世界を変える人になったのでした。まさに奇跡です。と同時に、そんなヘレンを子供の頃から支え続けたサリバン先生こそ、タイトルの「奇跡の人」(The Miracle Worker)であるといえるでしょう。次のページへ >>

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伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】Part 2

象徴機能はどうやって発達するの?ヘレンは、三重苦になる前に、すでに象徴機能が発達していたため、その後に奇跡を起こすことができました。それでは、この機能はどうやって発達するのでしょうか? ここから、象徴機能の発達を3つの段階に分けて説明しましょう。(1)まねによる共感赤ちゃんは、生後6ヵ月を過ぎると、「バンザイ」「バイバイ」「オツムテンテン」などの動きをまねするようになります。これは、赤ちゃんが親の動きのインプットと自分の動きのアウトプットを「ものまね神経」(ミラーニューロン)という同じ脳内の神経ネットワークで処理するようになるからです。この時、親の動作と同時に気持ちも脳内に「鏡」(ミラー)のように映し出されることで、共感性も発達します。1つ目の発達は、まねによる共感です。この共感性は、親が赤ちゃんの気持ちを汲み取った表情や声かけをすることで高まります(ミラーリング)。このメカニズムの詳細については、関連記事2をご覧ください。(2)指差しによる意図共有赤ちゃんは、生後9ヵ月を過ぎると親が指を差した方向や視線を向けた方向と同じ方向を見るようになり、1歳を過ぎると自分で指を差して親に注意を向けさせ、注意を向ける対象を親(相手)と赤ちゃん(自分)で共有することができるようになります(共同注視)。そして、親の意図に気付いたり、自分の意図を伝えることが可能になります。2つ目の発達は、指差しによる意図共有です。これは、当たり前のことのように思いますが、実は人間にしかできません。その訳は、指差しで示された方向とは、指差しした相手からの方向だからです。指差しがわかるということは、相手の位置に自分の身を置く想像ができる、つまり相手の視点に立つという人間ならではの能力が発達したことを意味します。(3)ごっこ遊びによる想像1歳後半から、食べるふりをしたり、葉っぱを皿に見立てたり、おままごとをするようになります(ごっこ遊び)。そして、相手と同じ想像の世界を共有することが可能になります。3つ目の発達は、ごっこ遊び(象徴遊び)による想像です。ちなみに、最初のまねによる共感の発達がうまく行かない場合、その後に続く指差しによる意図共有やごっこ遊びによる想像の発達もできなくなります。これが自閉症です。自閉症に言葉の遅れがあるのは、もともと言語能力(知能)が低いからではなく、ベースとなる共感性が低いため、その後に言語に必要な象徴機能が発達しにくくなるからであることがわかります。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】Part 3

象徴機能はどうやって進化したの?象徴機能は、まねによる共感、指差しによる意図共有、ごっこ遊びによる想像によって発達することがわかりました。それでは、この機能はどうやって進化したのでしょうか? ここから、象徴機能の進化を3つの段階に分けて説明しましょう。(1)まねによる共感約700万年前に人類は、アフリカの森で誕生しましたが、約300万年前には森が減って草原に取り残されてしまいました。この時、猛獣から子供を守り食料を獲るために、男性も女性と一緒に子育てをして家族をつくるようになりました。まだ言葉がなかった当時、その助け合いの確認として、お互いのしぐさや発声のまねをし合ったのでしょう。そして、それを心地良く感じるように進化したのでしょう。1つ目の進化は、まねによる共感(ミラーリング)です。この共感の核は同調です。ミラーリングの起源の詳細は、関連記事3をご覧ください。なお、サルなどの類人猿も「ものまね神経」(ミラーニューロン)があり、共感します。ただし、サルは痛み、恐れ、怒りなどの不快感情に限定されています。その理由は、サルは、ほかのサルの不快さを素早く感じ取って自分の身に降りかかるかもしれない危険を事前に避けることができればよいだけで、人間のように喜びや安らぎなどの同調の快感情まで共感する必要がないからです。(2)サイン言語による意図共有人類は、その後に家族をもとに血縁で集まった部族をつくるようになりました。この時、助け合いをよりスムーズにするため、相手の表情だけでなく、しぐさや発声の意図を察知するようになったのでしょう(心の理論)。そして、特定のしぐさや発声を部族内で文化として共有(学習)するようになったのでしょう。2つ目の進化は、サイン言語による意図共有です。サイン言語とは、ジェスチャーをはじめ、表情や声の調子などを含む非言語的コミュニケーションです。たとえば、しぐさの代表は指差しです。また、発声の代表は、「は?」のように質問する時に語尾を上げることです。これらは世界共通のサイン言語です。なお、ベルベットモンキー(サルの一種)は、天敵のヒョウ、タカ、ヘビが来た時にそれぞれ違う警戒音を発するサイン言語を持っています。そうすることで、周りか、空か、足元かのどこに注意を向けるか(意図)を仲間と瞬時に共有することができます。昨今は、ほかのいくつかのサルも同じように警戒音を発し分けていることが発見されています1)。ただし、これは生まれながらのもので、人間のように学習するわけではありません。また、人間に最も近いチンパンジーも、さまざまなしぐさや唸り声によるサイン言語が確認されています2)。有名なのは、手のひらを相手の前に差し出す物乞いのジェスチャーです。野生のチンパンジーは指さしをしないですが、飼育下のチンパンジーは指差しをすることも確認されています。ただし、頭にバケツをかぶっている人に対しても指差しをすることから、「water」と発する前のヘレンと同じように、「指差し→指した餌がもらえる」という連合学習をしただけであることがわかります2)。つまり、彼らは一方的に要求するだけで、相手と意図を共有して働きかけることはできないことがわかります。教わること(連合学習)はできても、教えること(意図共有)はできないわけです。ちなみに、人間だけに白目があるのは、白目によって黒目(視線)の位置がわかることから、視線に指差しと同じ意図共有の機能を持たせるように進化したためであるといわれています。だからこそ、意図共有をしようとしない自閉症は指差しをしないと同時に視線が合わないのです。また、女性が男性よりも人差し指が長いのは(指比)、共感性の高い女性の方が進化の歴史の中で指差し(意図共有)をより多くしていたことで、人差し指が長くなるように進化した可能性が考えられます。逆に、自閉症の人差し指が短いのは3)、直接要因として胎児期にテストステロン(男性ホルモン)の分泌が多いからですが、究極要因としては自閉症(超男性脳)と関連する遺伝子によって、進化の歴史の中で指差しとして使わない人差し指が短くなるように「退化」しつつあるととらえることができます。(3)音声言語による想像約20万年前に現生人類は、歌声の発声をもとに発語が可能になりました。この詳細については、関連記事1をご覧ください。この時、すでにある程度確立していたサイン言語に、発声した音素を当てはめていったのでしょう(言語併合)。たとえば、最も使う体の部分は指差しをする「手(te)」ですが、この世界祖語は「tik」であり、さまざまな言語で似たような発音をします。そして、音声によって、夜や洞窟などの暗闇の中でも、コミュニケーションができるようになりました。この時、目の前にないものや状況も相手と共有するようになりました。3つ目の進化は、音声言語による想像です。なお、これまでにチンパンジーに絵文字や手話を教える研究が何度もされてきました。しかし、「water」と発する前のヘレンと同じように、チンパンジーは「バナナを見る(もの)→バナナの絵文字(記号)」という学習はできるのですが、逆にバナナの絵文字(記号)を使って「バナナちょうだい」と訴えようとはしなかったのです4)。チンパンジーをはじめ、人間以外の動物は目の前にある実物が世界のすべてであり、やはり絵文字や手話などの記号(象徴)を使って目の前にないものを想定(想像)するができないのでした。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】Part 4

象徴機能の進化の歴史から解ける謎は?象徴機能は、まねによる共感、サイン言語のよる意図共有、音声言語による想像によって進化したことがわかりました。つまり、個体発生的にも系統発生的にも、サイン言語→音声言語の順番であり、サイン言語が音声言語のベースになっていることがわかります。この象徴機能の進化の視点から、解ける謎を2つ挙げてみましょう。(1)メラビアンの法則の割合の違いの謎メラビアンの法則とは、心理学者メラビアンの実験から、相手への影響度は、見た目(非言語的コミュニケーション)が5割強、口調(準言語的コミュニケーション)が3割強、話の内容(言語的コミュニケーション)が1割弱という割合であるという法則です。そもそも、なぜこのような割合の実験結果になったのでしょうか?この割合の違いは、グラフ1の非言語的コミュニケーションが約300万年前、準言語的コミュニケーションが約200万年前、言語的コミュニケーションが約20万年前という起源の古さにだいたい一致しています。なお、準言語的コミュニケーションの起源が約200万年前である根拠は、リズムの起源として、関連記事3をご覧ください。つまり、このだいたいの一致から、メラビアンの法則の割合の違いの原因は、それぞれのコミュニケーションの起源の古さに違いがあるからであると考えることができます。これは、能力の古さと身に付けやすさ(嗜癖性)の関係から説明することができます。この詳細については、関連記事4をご覧ください。(2)利き手と言葉の優位半球が同じ左脳である謎私たちの利き手(多くは右手)の優位半球は左脳です。そして、言語の優位半球も左脳です。よくよく考えると、なぜ同じなのでしょうか?この答えも、象徴機能の進化の歴史から説明できます。それは、人類は、もともと右利き(左脳が支配)が多く、指さしなどのジェスチャー(サイン言語)を主に右手で行っていたからです。すると、象徴機能が必然的に左脳で進化し、そのまま音声言語も引き継いで左脳で進化したというわけです。なお、左脳は象徴機能を司ってより逐次的で微細的(ミクロ)であるのに対して、右脳は空間認識を司ってより直情的で粗大的(マクロ)です。この脳の側性化は、2億5千万年前の魚類まで遡ることができます。当時の三葉虫の化石の傷痕は、右側に多い傾向にありました5)。このことから、三葉虫を補食する多くの魚類は、後ろから追いかけるとき、三葉虫を自らの視界の左側(三葉虫にとっては右側)に保って仕留めていたことになります。つまり、当時から、右脳が優位に働いて左側にあるエサに飛びついていたことが推測されています。そして、当時は、もう一方の左脳に側性化された機能がなかったため、その後に象徴機能などの新しい機能が入り込む余地があったと推測されています。ちなみに、チンパンジーも右利きが多いです2)。太古の昔の魚類が左側に注意が向きやすいのと同じように、私たちも文字を書くときには左側から始めます。プロフィール写真も顔の左側がカメラに向くように撮ることが多いです。赤ちゃんを抱くときも左側に抱くことが多いです。さらに気になるのは、空間認識としての脳の側性化がなぜ左脳ではなく右脳であるのかの謎です。これについては、地球の自転などの何らかの自然環境によることが推定されますが、はっきりしたことはわかっていません。1)こころと言葉 進化と認知科学のアプローチP43:長谷川寿一、東京大学出版会、20082)言葉は身振りから進化した―進化心理学が探る言語の起源P44、P87、P92、P93:マイケル・コーバリス、勁草書房、20083)自閉症児における第2指, 第4指長比に関する検討:大澤 純子ほか、J-STAGE、20054)ことばの発達の謎を解くP43:今井むつみ、ちくまプリマー新書、20135)ことばの起源P192、P194:ロビン・ダンバー、青土社、2016<< 前のページへ■関連記事NHK「おかあさんといっしょ」(前編)【歌うと話しやすくなるの?(発声学習)】アンパンマン【その顔はおっぱい?】映画「RRR」【なぜ歌やダンスがうまいとモテるの?(ラブソング・ラブダンス仮説)】そして父になる(続編・その2)【子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?(科学的根拠に基づく教育(EBE))】

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リチウム濃度の高い水道水を摂取した母親の子どもは自閉症リスクが高い

 リチウム含有量が多い地域の水道水を摂取していた妊婦では、含有量が少ない地域の水道水を摂取していた妊婦と比べて、子どもが自閉症(ASD)になる確率が高いとする研究結果が報告された。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)David Geffen School of Medicine神経学教授のBeate Ritz氏らが実施したこの研究は、「JAMA Pediatrics」に4月3日掲載された。 リチウムはアルカリ金属元素に分類される元素で、地殻内部に広範に分布している。リチウムには精神安定作用があることから、うつ病や双極性障害の治療に用いられることもある。しかし、妊娠中の女性に対する使用については、流産や子どもに先天性の異常が生じるリスクが否定できないことから、統一見解が得られていない。その一方で、飲料水中からのリチウムの摂取が成人での精神神経疾患発症との関連を示した研究報告もある。 Ritz氏らは今回、2000年から2013年の間にデンマークで出生したASD児8,842人(男児79.3%)と、生年と性別を一致させた対照4万3,864人(男児79.2%)を対象に、妊娠中の母親の飲料水を通したリチウム曝露が子どものASDと関連するのか否かを検討した。妊娠時に母親が住んでいた場所の住所をジオコード化したものを、デンマークの151カ所の水道施設のリチウム測定値を基に推定した飲料水中のリチウム濃度(範囲0.6~30.7μg/L)とリンクさせた。 母親の飲料水を通じたリチウム曝露量の四分位数で対象者を4群に分類して比較すると、子どものASD発症の調整オッズ比は、曝露量の最も少なかった群(7.4μg/L未満)を1とすると、2番目に多かった群(7.4〜12.7μg/L)で1.26(95%信頼区間1.17〜1.36)、3番目に多かった群(12.7〜16.8μg/L)で1.24(同1.14〜1.34)、最も多かった群(16.8μg/L超)で1.46(同1.35〜1.59)であることが明らかになった。 Ritz氏は、「デンマークでは、出産前の母親の飲料水を通じたリチウム曝露が、子どものASDリスクの増加と関連していることが明らかになった。この結果は、飲料水を通したリチウム曝露が胎児の神経系の発達に悪影響を及ぼしている(神経毒性)可能性を示唆しており、さらなる調査が必要だ」と述べている。同氏によると、脳の発達や自閉症にはWntシグナルと呼ばれる生物学的経路が関与しており、この経路がリチウムの影響を受けることが動物モデルで示されているという。 リチウムは、土壌や岩石から飲料水の中へと溶出する。しかし、将来的には、不適切に処理されたリチウム電池の廃棄物が原因で、飲料水中のリチウム濃度が上昇する可能性がある。それなら、水道水の代わりにペットボトル入りの飲料水を飲めば良いと考える人もいるだろうが、「それは、この問題の解決にはならない」とRitz氏は言う。同氏によると、「ペットボトル入りの飲料水の多くは水質検査を行っていない。中には、通常の飲料用の水源からそのまま容器に詰めたものもある」という。 米レインボー・ベビー&チルドレンズ病院レインボー自閉症センターのディレクターであるMax Wiznitzer氏は、この結果を慎重に捉えるよう注意を促す。同氏は、「精神疾患のためにリチウムを服用している妊婦を調査した研究では、自閉症との関連は示されていない」と指摘する。 Wiznitzer氏は、「興味深い関連性ではあるが、因果関係が証明されているわけではない。水道水に含まれる少量のリチウムにADSを引き起こすような生物学的に妥当なメカニズムがあるのかどうかを確認する必要がある。ただし、双極性障害の女性に対するリチウムの薬理学的投与によってASDリスクが増加することは、現状では報告されていない」と話している。

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妊娠中の抗うつ薬使用、リスクとベネフィットは?~メタ解析

 妊娠中の抗うつ薬使用は数十年にわたり増加傾向であり、安全性を評価するため、結果の統計学的検出力および精度を向上させるメタ解析が求められている。フランス・Centre Hospitalier Universitaire de Caen NormandieのPierre Desaunay氏らは、妊娠中の抗うつ薬使用のベネフィットとリスクを評価するメタ解析のメタレビューを行った。その結果、妊娠中の抗うつ薬使用は、ガイドラインに従い第1選択である心理療法後の治療として検討すべきであることが示唆された。Paediatric Drugs誌オンライン版2023年2月28日号の報告。 2021年10月25日までに公表された文献を、PubMed、Web of ScienceデータベースよりPRISMAガイドラインに従い検索した。対象研究は、妊娠中の抗うつ薬使用と、妊婦、胎芽、胎児、新生児、発育中の子供などの健康アウトカムの関連を評価したメタ解析とした。研究の選択およびデータの抽出は、2人の独立した研究者により重複して実施した。研究の方法論的質の評価にはAMSTAR-2ツールを用いた。各メタ解析の重複部分は、修正された対象エリアを算出することにより評価した。4段階のエビデンスレベルを用いて、データの統合を行った。主な結果は以下のとおり。・51件のメタ解析をレビューに含め、1件を除くすべてのリスク評価を行った。・各リスクの有意な増加は以下のとおりであった。 ●主な先天性奇形(メタ解析8件:SSRI、パロキセチン、fluoxetine) ●先天性心疾患(11件:パロキセチン、fluoxetine、セルトラリン) ●早産(8件) ●新生児の適応症状(8件) ●新生児遷延性肺高血圧症(3件)・分娩後出血の有意なリスク増加および、死産、運動発達障害、知的障害の有意なリスク増加については高いバイアスリスクで、限られたエビデンスが認められた(各々1件のみ)。・自然流産、胎児週数や出生時低体重による児の小ささ、呼吸困難、痙攣、摂食障害のリスク増加および、早期抗うつ薬曝露による自閉症のその後のリスク増加に関して、矛盾した不確実なエビデンスが確認された。・妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症のリスク増加および、ADHDのその後のリスク増加に関するエビデンスはみられなかった。・重度または再発性のうつ病の予防について、1件の限られたエビデンスのみで、抗うつ薬使用のベネフィットが評価されていた。・新生児の症状(小~大)を除きエフェクトサイズは小さかった。・結果の方法論的な質は低く(AMSTAR-2スコア:54.8±12.9%[19~81%])、バイアスリスク(とくに適応バイアス)が高いメタ解析に基づいていた。・修正された対象エリアは3.27%であり、重複はわずかであった。・妊娠中の抗うつ薬治療は、第2選択として用いられるべきであることが示唆された(ガイドラインに従い心理療法後に検討)。・ガイドラインを順守し、パロキセチンやfluoxetineの使用をとどまらせることで、主要な先天性奇形リスクを防ぐことが可能である。・今後の研究では、不均一性やバイアス減少のため、母体の精神疾患と抗うつ薬の投与量を調整し、曝露のタイミングで分析を実行することが求められる。

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「マザリーズ」への関心の程度で自閉症の診断が可能に?

 母親などが、高いトーンで、ゆっくりと、抑揚をつけて乳幼児に話しかける話し方を「マザリーズ」という。このようなマザリーズへの関心の程度が、自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断や予後の指標となり得ることが、乳幼児を対象にした研究で示された。米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)神経科学分野のKaren Pierce氏らが実施したこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に2月8日掲載された。 この研究では、生後12〜48カ月の乳幼児653人(平均月齢26.45カ月、男児73.51%)を対象に、乳幼児がマザリーズへ注意を向ける程度をASD診断の指標にできるのかどうか、また、それが社会的スキルや言語能力と関連しているのかどうかを調べた。マザリーズに注意を向ける程度は、Pierce氏らが開発したアイトラッキングテストにより測定した。これは、対象者に2本の動画を一つの画面に提示し、どちらをどれだけ見るのかを視線でコントロールさせることで、動画に対する対象者の関心を定量化するものである。提示される2本の動画のうちの1本は常にマザリーズを話す女優の動画(以下、「マザリーズ」)とし、もう1本は、1)高速道路を走る車とその騒音(以下、「高速道路」)、2)音楽とともに動く抽象的な形や数字(以下、「図形や数字」)、3)「マザリーズ」と同じ女優が同じセリフを抑揚のない口調で話すもの(以下、「抑揚のない口調」)のいずれかとした。 その結果、ASDのない児は一様にテスト時間の80%以上を「マザリーズ」の視聴に費やしたのに対して(「高速道路」とともに提示した場合で中央値82.85%、「形や数字」とともに提示した場合で中央値80.75%)、ASD児が「マザリーズ」に費やした時間の割合は0〜100%とさまざまだった。また、「高速道路」または「形や図形」と「マザリーズ」を提示した場合に「マザリーズ」の視聴に費やした時間が30%未満だった児では、この検査法だけで正確にASDを有すると診断できることが明らかになった(特異度と陽性的中率は、「高速道路」とともに提示した場合で98%と94%、「形や数字」とともに提示した場合で96%と94%)。これに対して、「マザリーズ」を「抑揚のない口調」とともに提示した場合のASD児とそれ以外の児の間で「マザリーズ」に注意を向ける程度の差はわずかであった。さらに、「マザリーズ」への関心が最も低かったASD児では、言語能力と社会的スキルも低かった。 このアイトラッキングテストは、まだ臨床の現場で利用されるには至っていないが、Pierce氏は、「ASDに対する早期治療は、成長に伴い遭遇する問題への対処や、場合によってはその克服に役立つことが示されている」と述べ、このテストが将来、ASDの診断と治療を早期に開始するための手段として活用されることに期待を寄せている。 Pierce氏によると、親が子どものASDの初期兆候を見つけることは可能であるという。同氏は、「生後12〜48カ月の子どもが親の語りかけに興味を示さないように見える場合、それはASDの警戒すべき初期兆候の可能性がある。このような兆候が認められた場合には、資格のある専門家とともに経過観察する必要がある」と説明している。 一方、この研究結果をレビューした、米国精神医学会(APA)のCouncil on Children, Adolescents and Their Families(小児、青少年、およびその家族の評議会)の会長を務めるAnish Dube氏は、「アイトラッキング技術は、ASDの早期発見に役立つツールになるだけでなく、言語の発達遅延のリスクが高い乳幼児や早期介入が必要な乳幼児の特定にも役立つかもしれない」との見方を示す。その上で、「親は子どもの行動に常に関心を持ち、子どもが取り得るさまざまな正常および異常な行動について知り、親とのやりとりも含めてその行動に疑問を感じた場合には、専門家のアドバイスを求めるべきだ」と助言している。

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オキシトシンは本当に「愛情ホルモン」?

 「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンは、これまで考えられてきたほど社会的絆の形成に必要不可欠なものではない可能性のあることが、プレーリーハタネズミを用いた研究で示された。研究論文の上席著者である米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)ワイル神経科学研究所のDevanand Manoli氏は、「この研究結果は、オキシトシンが複雑な遺伝的プログラムの一つに過ぎないことを示すものだ」と述べている。この知見は、「Neuron」に1月27日掲載された。 プレーリーハタネズミは、一度つがいになると、その相手と生涯を共に過ごす数少ない哺乳類であるため、社会的絆を生物学的に研究するのに適している。1990年代に実施された研究では、プレーリーハタネズミにオキシトシン受容体の活性化を阻害する薬剤を投与すると、つがいを形成できないことが示されており、このことからオキシトシンは愛着の形成に必要不可欠なホルモンだと考えられるようになった。 今回の研究では、遺伝子編集技術を用いてオキシトシン受容体遺伝子が欠損したプレーリーハタネズミを作製し、その個体が他の個体との関係を維持できるかどうかを観察した。すると意外にも、遺伝子改変したハタネズミも正常な個体と同じようにつがいを形成できることが明らかになった。Manoli氏は、「パートナーと密接に過ごして他の異性を拒絶することや、父母で子育てすることなどのオキシトシンに依存すると思われていた主要な行動特性は、オキシトシン受容体がなくても全く損なわれることはないように見えた」と話している。 また、オキシトシンは出産時に陣痛を起こして分娩を促進し、出産後には乳汁の分泌を促す働きを持つと考えられている。しかし、本研究では、遺伝子改変された雌のプレーリーハタネズミでも出産と授乳が可能であることが示され、半数の雌は、離乳まで子を育て上げることができた。研究論文の共著者の1人である米スタンフォード・メディシンのNirao Shah氏は、「オキシトシンと出産および授乳との関連性は、つがい形成との関連性よりもはるか以前から唱えられてきたが、今回の研究結果はこの通念を覆すものだ。医学の教科書には、オキシトシンが射乳反射に介在すると書かれているのが通常だが、それだけではないようだ」と述べている。 人間の間に絆が生まれる機序は、社会的愛着の形成を妨げる、自閉症や統合失調症などの精神疾患の治療において鍵になると考えられてきた。オキシトシンを用いた精神疾患の治療に関する臨床試験に期待が寄せられているが、現状では、一貫した結果は得られていない。 動物実験の結果がそのままヒトにも当てはまるわけではないが、今回の結果は、オキシトシンのような単一の因子が社会的愛着の全体を担っていると単純に考えることはできないことを強く示唆している。Manoli氏は、「つがいの形成、出産、授乳などの行動は生存に極めて重要であるため、それを可能にする経路は複数存在する可能性が高い。オキシトシン受容体によるシグナリングはその一つと考えられるが、必ずしも不可欠なものではないようだ」と述べている。

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