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γ-GTPが高い、アルコール性肝障害の可能性は?

 大塚製薬主催のプレスセミナー(5月22日開催)において、吉治 仁志氏(奈良県立医科大学消化器内科学 教授)が「肝機能異常を指摘されたときの対処法」について講演し、アルコール性肝障害を疑うポイントやかかりつけ患者に対する対応法ついて解説を行った。病院の受診を検討すべきタイミングなどの基準、また減酒治療を検討する基準は? 肝機能障害は“人間ドック受診者の3人に1人が指摘を受ける項目”と言われており、臓器治療としては断酒治療が最も有効だが、ハードルが高い患者さんには「断酒をいきなり強く求めると治療が続かないことが多く、その場合まずは減酒から始める」と吉治氏は話した。医学界では各学会が「熊本宣言 HbA1c7%未満」「stop-CKD eGFR60未満」などのスローガンを掲げて市民に対して疾患啓発を行っている一方で、肝機能については提言が存在しなかった。そこで、日本肝臓学会は6月15、16日に開催される『第59回日本肝臓学会総会』にて“Stop CLD(Chronic liver disease) ALT over 30U/L”(ALTが30を超えたらかかりつけ医を受診しましょう)を『奈良宣言』として掲げることにしたという。この数値の根拠ついて「この値は特定健診基準や日本人間ドック協会のALTの保健指導判定値であり、日本のみならず脂肪肝がとくに問題になっている米国でも医師への相談基準」とコメントした。 このほかに、「飲酒習慣スクリーニングテスト」(AUDIT:The Alcohol Use Disorders Identification Test)において15点超ではアルコール依存症が疑われるが「それを満たさない段階(8~14点)でも減酒支援を行う必要がある」とも話した。健診で「γ-GTPが高い」と言われた。アルコール性肝障害の可能性は? γ-GTPはアルコールだけではなく、脂肪が蓄積した脂肪肝の状態、胆汁の流れが悪くなった場合(胆石・膵臓がんなど)でも上昇するが、アルコールに起因する場合は、AST(GOT)やALT(GPT)も異常値が出るのでそれらの数値を併せて確認することが基本となる。なお、“アルコール性”の定義は『長期(通常は5年以上)にわたる過剰の飲酒が肝障害の原因と考えられる病態』で、以下のような条件を満たすものを指す。<アルコール性の定義を満たす条件>1)過剰の飲酒とは、1日平均純エタノール60g以上の飲酒(常習飲酒家)をいう。ただし女性やALDH2欠損者では、1日40g程度の飲酒でもアルコール性肝障害を起こしうる。2)禁酒により、血清AST、ALTおよびγ-GTPが明らかに改善する。3)肝炎ウイルスマーカー、抗ミトコンドリア抗体、抗核抗体がいずれも陰性である。 また、アルコール性肝障害は性差も関わる。近年、女性の飲酒率は増加傾向だが、男性との体格差があるため、同じ飲酒量ではより過剰になってしまうことにも注意が必要だ。同氏は「実際に女性は男性に比べて2/3程度の飲酒量で肝障害が出現することも明らかになっている」と話した。 このような疾患を予防するためには“正確な飲酒量の把握”が最も重要で、本人の過少申告を防ぐためにも家族・知人から聴取することが必要不可欠となる。そのほかにも「肝機能の低下が他臓器の治療介入にも影響を及ぼすことから早期治療を促すことも大切」と説明した。アルコール性肝障害は将来的にどんなリスクがある? 日本人のアルコール関連死因の中で肝・消化器関連は87%と最も多い。しかもコロナの影響を受け、在宅時間の長さに伴い飲酒量も増えて肝・膵疾患が著明に増加している1)。ほんの10年前までは肝硬変や肝がんの原因と言えばウイルス性肝炎が8~9割を占めていたが、治療方法が確立した昨今ではB型/C型肝炎以外の疾患によるものが半数以上を占め、アルコールが起因している例が増えている2)。また、肝炎治療によりウイルスを排除できた後でもアルコール摂取によって、肝がん発症リスクが増加することも報告3)されている。 また、アルコールによってサルコペニアが進行すると言われているが、一方で「サルコペニアが肝疾患患者の生命予後を悪化させてしまう。このような状況において、診療ガイドがない点が長年の課題だったが、2022年に『アルコール性肝障害(アルコール関連肝疾患)診療ガイド』がついに発刊された」と話した。 なお、海外ではアルコール性肝障害=アルコール依存症を想起することが問題視されていることから、国内でも将来的には「アルコール・リレイテッド」と表現されるようになるかもしれない。減酒治療をするにはどこに受診したらよい? 受診先について同氏は「断酒・禁酒をすることが一番の治療法であるため、精神科の先生に相談することがベストであるが、かかりつけ医はいるけれど健診結果の専門的な相談まではできていないという場合も多いと思われる。2021年から一般内科医も日本アルコール・アディクション医学会および日本肝臓学会が主催するeラーニング研修を受けることで、飲酒量低減薬を処方することが可能になった。そのため、医師の皆さまには、かかりつけ患者に健診結果でALTが30超であった場合には相談するように呼び掛けてほしい。そして、飲酒量が男性で60g/日以上、女性で40g/日以上かつAST・γ-GTP異常がある場合にはアルコール性肝障害を疑って専門医へコンサルテーションするようにお願いしたい」と述べ、「近隣の肝臓専門医は日本肝臓学会のホームページより検索することが可能なので、専門医紹介時にぜひ活用いただきたい」と締めくくった。

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がん死亡率、ファストフード店の多さと関連

 住居地を選ぶ際にスーパーや飲食店へのアクセスの良さを考慮する人は少なくない。今回、米国・オーガスタ大学のMalcolm Seth Bevel氏らは米国における飲食店へのアクセス条件が肥満関連のがん死亡率と関係するのかどうかを調査した。近年、野菜などの生鮮食料品が入手困難な地域はFood Desert(食の砂漠)と呼ばれ、一方でファストフード店が多く集中し生鮮食品を取り扱う店が少ない地域はFood Swamp(食品沼)と呼ばれている。 今回の横断研究では、2012年、2014~15年、2017年、2020年の米国農務省(USDA)のFood Environment Atlasと、2010~20年の米国疾病予防管理センター(CDC)の18歳以上の成人の死亡率データを使用し、Food DesertとFood Swampの両スコアと肥満関連のがん死亡率との関連について調査した。解析には年齢調整した混合効果モデルが用いられ、Food Swampの指標として、食料品店や野菜などの直売所の数に対するファストフードやコンビニの店舗数の比率を計算しスコア化した。Food SwampとFood Desertのスコアが高ければ(20.0~58.0)、その郡は健康的な食品資源が少ないと判定された。また、肥満と関連する13種類のがん(子宮内膜がん、食道腺がん、胃噴門部がん、肝臓がん、腎がん、多発性骨髄腫、髄膜腫、膵臓がん、大腸がん、胆嚢がん、乳がん、卵巣がん、甲状腺がん)による死亡率を人口10万人あたり71.8以上で「高い」とし、人口10万人あたり71.8未満で「低い」と分類した。 主な結果は以下のとおり。・米国3,142郡のうち、合計3,038郡(96.7%)がこの分析に含まれ、そのうち758郡(25.0%)で肥満関連のがん死亡率が高かった(四分位範囲[IQR]の“最も高い”範囲)。・これらの特定の郡ではほかの郡と比べ、非ヒスパニック系黒人住民の割合が高く(3.26%[IQR:0.47~26.35] vs.1.77%[IQR:0.43~8.48])、65歳以上でもその割合が高かった(15.71%[IQR:13.73~18.00] vs.15.40%[IQR:12.82~18.09])。・また、肥満関連のがん死亡率が高い郡は、低い郡と比較して以下の特徴が挙げられた。 貧困率が高い(19.00%[IQR:14.20~23.70] vs.14.40%[IQR:11.00~18.50]) 肥満率が高い(33.00%[IQR:32.00~35.00] vs.32.10%[IQR:29.30~33.20]) 糖尿病の罹患率が高い(12.50%[IQR:1:1.00~14.20] vs.10.70%[IQR:9.30~12.40])・これらの郡では、Food Desert(7.39%[IQR:4.09~11.65] vs.5.99%[IQR:3.47~9.50])およびFood Swamp(19.86%[IQR:13.91?26.40] vs.18.20%[IQR:13.14~24.00])に居住する人の割合が高かった。・相関分析の結果、Food DesertとFood Swampの両スコアが肥満関連がん死亡率と正の相関関係があり、Food Desertと肥満関連のがん死亡率との間の相関がわずかに高いことが示唆された(Food Desert:ρ=0.12、Food Swamp:ρ=0.08)。しかし、Food DesertとFood Swampの指数スコアはユニークであると決定付けられ、低い係数が与えられた。・Food Swampスコアが高い郡では、肥満関連のがん死亡のオッズが77%増加した(調整オッズ比:1.77、95%信頼区間:1.43~2.19)。また、Food DesertとFood Swampのスコアの3つのレベル(低-中-高)と肥満関連のがん死亡率との間には、正の用量反応関係も観察された。

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糖質過剰摂取は糖尿病患者のみならず万人にとって生活習慣病リスクを高める危険性がある?―(解説:島田俊夫氏)

 私たちは生きるために食物を食べることでエネルギーを獲得している。その主要なエネルギー源は3大栄養素であり、その中でも代表的なエネルギー源が糖質である。 糖質の摂り過ぎは糖尿病患者では禁忌だということは周知されている。しかし健康人においてさえ、糖の摂り過ぎには注意が必要だとの警鐘を告げる論文も散見され、その中には糖質過剰摂取1,2)が3大死因に密接に関連し、生活習慣病を引き起こす可能性について言及した論文も少なくない。しかしながら、エビデンスレベル不ぞろいの論文が混在しており、玉石混交の中で可能な限り厳密に分析・評価し、糖質過剰摂取に関する情報の真実を明らかにすべく行われた、中国・四川大学のYin Huang氏らにより解析されたUmbrella Review(包括的Review)が、BMJ誌の2023年4月5日号に期せずして掲載された。一読に値するとの思いで取り上げた。Umbrella Reviewの概略 今回のUmbrella Reviewのデータソースは、検索により、観察研究のメタアナリシスにおける74のユニークなアウトカムと無作為化対照試験のメタアナリシスでの9アウトカムを含む、8,601のユニークな論文から73のメタアナリシスと83の健康アウトカムを特定した。健康に関するアウトカム83項目中、食事由来の糖質摂取と有意な関連を認めた45項目の内訳、内分泌/代謝系18項目、心血管系10項目、がん7項目、その他10項目(神経精神、歯科、肝臓、骨、アレルギーなど)に関して有害性が確認された。 食事の砂糖消費量の最高と最低では、体重の増加(加糖飲料)(クラスIVエビデンス)および異所性脂肪の蓄積(加糖)(クラスIVエビデンス)と関連していることを示唆した。低品質のエビデンスでは、1食分/週の砂糖入り飲料消費の増加は、痛風の4%リスク(クラスIIIエビデンス)増加と関連し、250mL/日の砂糖入り飲料消費の増加は、冠動脈疾患(クラスIIエビデンス)および全死因死亡(クラスIIIエビデンス)のそれぞれ17%および4%のリスク増加と関連することを示した。さらに、低品質のエビデンスでは、フルクトース消費量が25g/日増加するごとに、膵臓がんのリスクが22%増加(クラスIIIエビデンス)することを示した。 現時点では糖質過剰摂取の有害性をすなおに受け入れることが賢い選択だと考えるが、全面的に信じることはせず、多少の疑問を残しておくことが大事である。糖質の過剰摂取が肥満を招くことは欧米ではすでに受け入れられており、糖尿病のみならず肥満是正に糖質制限食が好んで使用されていることを考えれば、今回の解析結果は理にかなっている。その反面、長期にわたる糖質制限食に関しては議論の多いところであり3,4)、安全性への不安が根強く残っていることも忘れてはならない。現時点では、長期の糖質制限食への不安が払拭されない限りは、この結果を無条件に受け入れるのは時期尚早ではないかと考える。

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アナモレリン投与、日本人5,000例のリアルワールドデータ/日本臨床腫瘍学会

 グレリン様作用薬アナモレリン(商品名:エドルミズ)は、2021年1月に非小細胞肺がん(NSCLC)、胃がん、膵臓がん、大腸がんに伴う悪液質治療として国内で保険承認された。2023年3月16~18日に開催された第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)において、室 圭氏 (愛知県がんセンター 副院長/薬物療法部長)が国内の患者約5,000例を対象とした市販後全例調査(PMS)の中間解析結果を発表した。アナモレリンの市販後全例調査の解析で新たな安全性の懸念は認められず 市販後全例調査では、2021年4月21日以降にアナモレリンを投与された全患者が登録された。アナモレリン治療開始後の観察期間は1年であった。1年より前に治療を中止した場合、観察期間の終了日は最終投与日とした。中間解析は2022年7月21日時点のデータに基づいて行われ、対象となったのは4,672例であった。 アナモレリンの市販後全例調査の主な結果は以下のとおり。・安全性の評価対象患者は4,672例で2,960 例(63.4%)が男性、年齢中央値は72歳、1,791例(38.3%)が75歳以上であった。1,955例(41.8%)がPS 2~4、BMIの中央値は18.9kg/m2、2,751例(58.9%)が低BMI(20kg/m2未満)であった。・がん種の内訳はNSCLCが1,282例、胃がん1,140例、膵臓がん1,238例、大腸がん964例だった。・アナモレリンの投与期間中央値は36日、治療期間は1~22日(1,742例、37.3%)、23~43日(850例、18.2%)、44~64日(416例、10.0%)、65~85日(1,48例、31.9%)、86日以上(125例、2.7%)だった。・有害事象は12.6%(587/4,672例)で発生し、Grade3以上は2.8%(131/4,672例)だった。承認時に安全性評価項目としてピックアップされた毒性では、高血糖4.2%(198/4,672例)、肝機能障害1.1%(53/4,672例)、伝導障害0.7%(34/4,672例)の頻度で発生した。・12週間後、体重は平均1.4kg増加、FAACTスコアは4.9ポイント改善した。・食事摂取量について、投与3週間後には57%、12週間後には65.2%の患者が「増加した」と回答した。・12週間後のPSは改善が14.8%(197/4,672例)、維持が67.0%(893/4,672例)だった。 室氏は「市販後全例調査による解析の結果、新たな安全性の懸念は認められず、承認時の臨床試験において報告された体重および食欲の改善が確認された。これらのデータは中間解析の結果であり、さらなるデータの蓄積と解析が必要だ」と述べた。

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第140回 医学部不正入試、1億6千万円の支払いで和解へ/順天堂大学

<先週の動き>1.医学部不正入試、1億6千万円の支払いで和解へ/順天堂大学2.がん誤診で膵臓全摘出後に患者死亡、患者遺族が提訴/大分3.病院のサイバーセキュリティ対策、ガイドライン最新版6.0に/厚労省4.パブリックコメント殺到、経口中絶薬の審議見送りに/厚労省5.レセプト請求は2024年9月までに原則オンライン化へ/厚労省6.少子化対策で、出産費用も保険適用を検討/政府1.医学部不正入試、1億6千万円の支払いで和解へ/順天堂大学順天堂大学医学部において、女性と浪人生に対する不当な選抜基準を設けていたことに関して、平成29年度・平成30年度の入学試験で不利益な扱いを受けた受験生への入学検定料などの返還を求めていた消費者機構日本と順天堂大学の間で、和解が3月20日に成立した。和解では、大学側が消費者機構日本に1億6,000万円あまりを支払う内容。この和解案に基づき、消費者機構日本から医学部受験で不合格となった女子学生や浪人生、1,184人に対して入学検定料など相当額の損害賠償金が5月中旬に分配がされる。今回は、消費者裁判手続特例法に基づいた裁判で、回収金額は過去最高額となった。(参考)順天堂大学 入学検定料等に係る返還訴訟の和解について(消費者機構日本)順天堂大医学部、不正入試で和解 1184人分の受験料返還(東京新聞)医学部不正入試の順天堂大、1億6675万円支払いで和解…1183人と消費者機構に(読売新聞)2.がん誤診で膵臓全摘出後に患者死亡、患者遺族が提訴/大分昨年、大分県立病院で、膵臓がんの疑いと診断され、膵臓全摘出術を受けた患者が死亡した男性の遺族が県に対して、病院側の対応が問題だとして3,300万円の損害賠償を求めていた裁判が、大分地方裁判所で始まった。3月24日に第1回口頭弁論が開かれ、病院側は争う姿勢をみせている。訴状によれば、昨年5月に画像検査から膵尾部がんを疑われた59歳の男性が、大分県立病院で翌月に膵臓全摘出術を受けたが、術後の病理組織検査でがんではなかったと判明。患者はその後、術後合併症を併発し、回復しないまま退院したが、同年11月に自宅で死亡した。原告側は緊急性のない手術につき術前検査をもとに治療方針を決めず、患者に治療方法を選ぶ機会を十分に与えなかったとして、注意義務違反だと主張している。(参考)すい臓全摘出したが「がんではなかった」 大分県立病院を遺族が提訴(朝日新聞)がん誤診で膵臓全摘、死亡 遺族が賠償提訴、病院側争う姿勢 大分(毎日新聞)がん疑いで膵臓を全摘出、病変なし判明で退院した男性が自宅で死亡…遺族が賠償提訴(読売新聞)県立病院で「がん」ではないすい臓を摘出 死亡した男性の親族 3300万円の損害賠償 大分(大分放送)3.病院のサイバーセキュリティ対策、ガイドライン最新版6.0に/厚労省相次ぐ病院に対するサイバー犯罪に対応するため、厚生労働省は3月23日に「健康・医療・介護情報利活用検討会」の「医療等情報利活用ワーキンググループ」を開催した。この中で、昨年春にバージョンアップされた「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」をさらに6.0にアップデートするため、今後パブリックコメントを募集し、その意見も踏まえ5月中旬に最終版を正式に公表するとした。また、2023年6月以降の都道府県による立ち入り検査では、サイバーセキュリティ対策実施の有無をチェックほか、「医療機関やシステムベンダーに対して、「サイバーセキュリティ対策に関するチェックリスト」を事前に提示するなど最初に行うべき事項は明確化することを承認した。(参考)病院への相次ぐサイバー攻撃でVPNへの関心高まる バックアップへの対策も進む、厚労省調査で判明(CB news)医療情報ガイドライン6.0版、5月中旬に公表 厚労省がWGに改定スケジュール提示(同)医療機関等のサイバーセキュリティ対策、「まず何から手を付ければよいか」を確認できるチェックリストを提示-医療等情報利活用ワーキング(Gem Med)第16回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)「病院における医療情報システムのサイバーセキュリティ対策に係る調査」の結果について(同)4.パブリックコメント殺到、経口中絶薬の審議見送り/厚労省国内初の経口中絶薬について、厚生労働省が専門部会の開催前に実施したパブリックコメントに、通常の100倍に相当する約1万2,000件の意見が集まったため、3月24日に予定されていた審議は延期された。同省は、多くの意見を分析する時間が必要となったため延期とした。対象となったのはイギリスの製薬会社ラインファーマが薬事申請している「メフィーゴパック」。海外では経口中絶薬は70ヵ国以上で承認されているが、国内では未承認。妊娠9週までが対象。今後、意見を踏まえた議論を経て、承認に向けた最終的な議論がなされる見込み。(参考)経口中絶薬の審議見送り 意見1万件超、分析に時間 厚労省(時事通信)「飲む中絶薬」審議を見送り 厚労省「パブコメの分析、間に合わず」(朝日新聞)「飲む中絶薬」にパブコメ殺到の背景 通常の100倍超…審議は延期(同)飲む中絶薬の承認審議延期 意見公募の対応で、厚労省(日経新聞)ミフェプレックス(MIFEPREX)(わが国で未承認の経口妊娠中絶薬)に関する注意喚起について(厚労省)5.レセプト請求は2024年9月までに原則オンライン化へ/厚労省厚生労働省は社会保障審議会医療保険部会を3月23日に開催し、オンライン請求の割合を100%に近付けていくためのロードマップ案を提示した。同省としては、規制改革実施計画に盛り込まれた社会保険診療報酬支払基金での審査・支払業務の円滑化のため、オンライン請求を行っていない医療機関の実態調査の結果をもとに、オンライン請求100%を目指して取り組む。具体的には、現在オンライン請求を行なっている医療機関が70%と増加する一方で、光ディスクと紙レセプトが減少している。令和5年4月から原則としてオンライン資格確認が導入されるのに合わせて、オンライン請求が可能な回線が全国の医療機関に整備されるタイミングでもあり、オンライン資格確認の特例加算の要件緩和により、今年4月から12月末までにオンライン請求を開始する場合には、加算を算定することが可能となっていることを広報していくことを明らかにした。現行、光ディスクなどを使って請求している医療機関や薬局に対して、経過措置期間を設けて、2024年9月末までに原則としてオンライン請求をするように求めていく。(参考)光ディスクでのレセプト請求、原則オンライン化へ 24年9月末までに、厚労省(CB news)オンライン請求の割合を100%に近づけていくためのロードマップ[案](厚労省)第164回社会保障審議会医療保険部会(同)6.少子化対策で、出産費用も保険適用を検討/政府新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2022年の出生数(速報値)が79万9,728人と過去最少を記録するなど今後の社会保障の持続可能性が危ぶまれている中、岸田内閣は、少子化対策で新たにまとめる子ども政策に、分娩費用について健康保険の適用方針も検討していることが明らかとなった。3月10日に菅義偉前首相が、少子化対策の一環で出産費用を保険適用として、自己負担分は国の予算で負担するなどで、実質無償化を民放番組で訴えたのがきっかけ。政府はこの4月1日以降の出産について出産育児一時金を50万円に引き上げるなど拡充を行なっているが、今後、具体化に向け議論を開始するとみられる。(参考)出産費に健康保険 将来適用方針で調整(FNN)出産費用、将来の保険適用検討 個人負担を軽減(日経新聞)出産費用を巡る「岸田路線」と「菅路線」(毎日新聞)

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EU・英国の2023年がん死亡率、肺がんは減少も女性で増加の国あり/Ann Oncol

 イタリア・ミラノ大学のMatteo Malvezzi氏らは、欧州連合(EU)に加盟する27ヵ国全体および、EUのなかで人口が多い5ヵ国(ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポーランド)、英国の2023年のがん死亡率の予測を発表した。本調査は毎年実施され、2023年の重点調査は肺がんとされた。EU加盟27ヵ国における2023年のがん死亡率は、2018年と比べて男性では6.5%、女性では3.7%減少すると予測された。また、EU加盟27ヵ国における2023年の肺がんによる死亡率は、2018年と比べて男性では10.2%減少すると予測されたが、女性では1.2%増加すると予測された。本調査結果は、Annals of Oncology誌オンライン版2023年3月5日号に掲載された。 1970~2018年における、EU加盟27ヵ国および英国の死亡に関するデータ(イタリアは2017年まで、フランスは2016年まで)について、世界保健機関(WHO)のデータベースを用いて検索し、最も一般的な10種のがん(胃がん、大腸がん、膵臓がん、肺がん、乳がん、子宮がん[頸部および体部]、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、白血病)およびすべてのがんによる死亡数を調査した。2023年のがん死亡率の予測にあたり、予測人口はEU統計局(Eurostat)のデータを用いた。 主な結果は以下のとおり。・EU加盟27ヵ国における2023年のがん死亡数は126万1,990人と予測された。年齢調整死亡率(ASR)は、男性123.8人/10万人(2018年と比べて6.5%減少)、女性79.3人/10万人(同3.7%減少)であった。・EU加盟27ヵ国では、がん死亡率のピークであった1988年と比べて、1989~2023年の期間に約586万2,600人のがん死亡が回避されたと推定された。・EU加盟27ヵ国では、ほとんどのがん種において2023年のASRは2018年と比べて、良好な減少傾向が示された。しかし例外として、膵臓がんは男性で0.2%の減少にとどまり、女性では3.4%増加すると予測された。また、肺がんは女性において1.2%増加すると予測された。・英国では、すべてのがん種において2023年のASRは2018年と比べて、男女ともに減少すると予測された。・重点調査とした肺がんについて、2023年のASRと2015~19年のASRを比べた結果、EU加盟27ヵ国において男性では全年齢層で減少が予測され、女性では若年層(25~44歳)で35.8%の減少(ASR:0.8人/10万人)、中年層(45~64歳)で7.0%の減少(ASR:31.2人/10万人)が予測されたが、高齢層(65歳以上)では10%の増加(65~74歳のASR:102.2人/10万人、75歳以上のASR:118.2人/10万人)が予測された。・肺がんについて、国別に2023年のASRと2015~19年のASRを比べた結果、フランス、イタリア、スペインにおいて女性のASRの増加が予測された(それぞれ13.9%、5.6%、5.0%増加)。 また、EU加盟27ヵ国における男女別にみた、各がんの2023年のASRの予測値と2018年からの変化率は以下のとおり。【男性のASR(人/10万人)、変化率】肺がん:29.76、-10.24%大腸がん:14.65、-5.46%前立腺がん:9.49、-6.52%膵臓がん:8.19、-0.17%胃がん:5.27、-12.66%膀胱がん:4.32、-9.73%白血病:3.65、-12.61%全がん:123.75、-6.45%【女性のASR(人/10万人)、変化率】肺がん:13.63、+1.15%乳がん:13.58、-4.63%大腸がん:8.11、-8.70%膵臓がん:5.88、+3.39%子宮がん(頸部および体部):4.61、-4.56%卵巣がん:4.26、-6.94%胃がん:2.29、-18.84%白血病:2.18、-12.91%膀胱がん:1.10、-0.37%全がん:79.31、-3.72%

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胆道がんのアンメットニーズ充足へ、デュルバルマブ適応追加/AZ

 アストラゼネカは、抗PD-L1抗体デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)が2022年12月23日に「治癒切除不能な胆道癌」「切除不能な肝細胞癌」「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」を適応症とした承認を取得したことを受け、「進行胆道がん治療におけるイミフィンジの役割とは~免疫チェックポイント阻害剤による胆道がん治療の変革~」をテーマとして、2023年2月7日にメディアセミナーを開催した。 胆道がんの1年間の罹患数は2万2,201例(2018年)、死亡数は1万7,773例(2020年)と報告されている1)。一般的に、胆道がんは予後不良であり、手術による切除例や切除不能例を含めた胆道がん全体での5年生存率は、20~30%とされている1)。多くの場合、胆道がんは進行期になってから診断され、遠隔転移が認められてから診断される割合は全体の4割に上るという報告もある2)。また、遠隔転移のある場合、1年生存率は14~16%と非常に予後が悪いことも報告されている3)。このように、胆道がんはアンメットメディカルニーズの高いがんといえる。 セミナーの前半では、アストラゼネカが実施した「胆道がん患者調査」の結果4)について、調査を監修した古瀬 純司氏(神奈川県立がんセンター総長)が解説した。セミナーの後半では、古瀬氏が「胆道がんに対する治療選択と薬物療法」をテーマとして、胆道がんの薬物治療の変遷や、治癒切除不能な胆道がん患者を対象にデュルバルマブの有用性を検証した国際共同第III相試験「TOPAZ-1試験」を中心に解説した。胆道がんの認知度向上が早期発見・支援には重要 アストラゼネカは、胆道がん患者の診断~治療の過程での経験や治療に伴う生活の変化を明らかにすることを目的として、全国の胆道がん患者203例を対象にアンケート調査を実施した4)。 胆道がんの年間罹患数は2万2,201例(2018年)と報告されているが1)、胆道がん患者調査では、胆道がん患者の80%は診断される前に胆道がんを知らなかったという。このように胆道がんの認知度が低いこと、胆道がんには特徴的な症状が乏しいことから、「体調の変化があって自ら受診した」ことで診断がついた患者の割合は34%にとどまった。実際に、診断される前の症状として多く挙げられたものは、「みぞおちや右わき腹の痛み(36%)」「食欲不振(34%)」「体重減少(33%)」であり、いずれも胆道がんに特徴的な症状ではなかった。胆道がんに多いとされる「黄疸」を挙げた割合は25%であった。また、体調の変化があってから1週間以内に受診した患者の割合は25%にとどまり、1週間以上経過してから受診した理由として「重大な病気だとは思わなかった(52%)」「普段の生活に影響がない程度だった(45%)」が多く挙げられ、早期診断の難しさを反映する結果であった。 早期診断に向けて、古瀬氏は「胆道がんに多い黄疸の症状に気付いたらすぐに受診してほしい。消化器症状が出たときには胃の異常を疑うだけでなく、患者が『膵臓がん、胆道がんはないでしょうか』と医師に聞くくらい、胆道がんの認知を向上させたい」と語った。 胆道がんの認知度の低さは、早期発見の障壁となるだけでなく、患者が病気について周囲に知らせることや治療についての困りごとの相談の障壁にもなる。胆道がん患者調査において、胆道がんと診断されたことを身近な人に知らせることの障壁となった理由として多く挙げられたものは、「相手が胆道がんという病気をあまり知らなかった(35%)」「胆道がんがどのような疾患か説明するのが難しかった(28%)」「相手に説明できるほど自分自身が胆道がんについて理解できていなかった(26%)」であり、認知度の低さに関する理由が上位を占めた。 古瀬氏は、本調査結果についての結論を以下のとおりまとめた。・胆道がんは初期症状や特有の症状に乏しく、受診につながりにくいため早期発見の取り組みが必要である。・セカンドオピニオン、治療内容について、患者はとくに情報を求めている。・治療のみならず、日常生活の変化を支える情報提供・サポート体制が必要である。・胆道がんの認知度の低さが、患者の周囲への打ち明けにくさにつながるため、疾患の認知度向上が重要である。デュルバルマブが胆道がん1次治療の新たな選択肢に 本邦の胆道癌診療ガイドラインおよび肝内胆管癌ガイドラインでは、切除不能胆道がん、切除不能肝内胆管がんに対する1次治療の薬物療法として、「ゲムシタビン+シスプラチン併用療法」「ゲムシタビン+S-1併用療法」「ゲムシタビン+シスプラチン+S-1併用療法」が推奨されている5,6)。2019年以降、免疫チェックポイント阻害薬・がんゲノム医療の時代となってきたが、これまで胆道がんにおける免疫チェックポイント阻害薬は、2次治療以降の位置付けであった。そこで、新たな1次治療の開発が行われており、その1つが治癒切除不能な胆道がん患者を対象にデュルバルマブの有用性を検証した、国際共同第III相試験「TOPAZ-1試験」である。デュルバルマブは、本試験の結果をもとに「治癒切除不能な胆道癌」を適応症とした承認を取得している。 TOPAZ-1試験7-9)は、治癒切除不能な胆道がん患者685例を対象に、1次治療として「デュルバルマブ+ゲムシタビン+シスプラチン(デュルバルマブ+GC群)」または「プラセボ+ゲムシタビン+シスプラチン(プラセボ+GC群)」に1:1に無作為に割り付け、3週間間隔で最大8サイクル投与し、その後デュルバルマブまたはプラセボを4週間間隔で、疾患進行または許容できない毒性が認められるまで投与した試験である。主要評価項目は全生存期間(OS)、主要な副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)であった。その他の副次評価項目として、客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)などが評価された。 有効性について、中間解析時においてデュルバルマブ+GC群はプラセボ+GC群に比べて、OSが有意に延長し、優越性が検証された(OS中央値:12.8ヵ月vs.11.5ヵ月、ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.66~0.97、p=0.021[両側有意水準0.0300])。24ヵ月時点の全生存率は、デュルバルマブ+GC群24.9%、プラセボ+GC群10.4%であった。ORRはそれぞれ26.7%、18.7%であり、デュルバルマブ+GC群が有意に高率であった(オッズ比:1.60、95%CI:1.11~2.31、p=0.011)。奏効が認められた患者のDoR中央値はそれぞれ6.4ヵ月、6.2ヵ月であった。12ヵ月以上奏効が持続した患者の割合はそれぞれ26.1%、15.0%であった。 安全性に関して、Grade3または4の有害事象の発現率はそれぞれ73.7%、79.2%であった。この結果について、古瀬氏は「デュルバルマブ上乗せにより懸念される有害事象はなかった」と述べた。ただし、「免疫チェックポイント阻害薬に共通することとして、免疫介在性有害事象が認められる。一つひとつの事象の頻度は高くないが、注意が必要である」とも述べた。 米国のNCCNガイドライン第5版には、すでに「デュルバルマブ+GC療法」が切除不能な胆道がんに対するpreferred regimensの1つとして記載されており10)、古瀬氏は「本邦のガイドラインも改訂作業に入っており、遠からず掲載されるだろう」と語った。■参考文献1)公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計20222)九州大学病院がんセンター. 九州大学病院のがん診療 胆道がん3)大阪国際がんセンター. 胆のう・肝外胆管がん4)アストラゼネカの「胆道がん患者調査」で判明、胆道がんの認知度の低さが周囲に病気を知らせることや困りごとを相談するハードルになっている5)日本肝胆膵外科学会、胆道癌診療ガイドライン作成委員会編. エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン 改訂第3版. 医学図書出版;2019.6)日本肝癌研究会編. 肝内胆管癌診療ガイドライン 2021年版. 金原出版;2020.7)承認時評価資料:Imfinzi社内資料(一次治療の進行胆道癌患者を対象とした国際共同第III相試験[TOPAZ-1試験]、2021)8)承認時評価資料:Imfinzi社内資料(一次治療の進行胆道癌患者を対象とした国際共同第III相試験[TOPAZ-1試験]:日本人集団、2021)9)Oh DY, et al. NEJM Evid. 2022;1:1-11.10)National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology Hepatobiliary Cancers Version 5, 2022

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一般集団よりも2型DM患者でとくに死亡率が高いがん種は?

 2型糖尿病の高齢患者のがん死亡率を長期的に調査したところ、全死因死亡率の低下とは対照的にがん死亡率は上昇し、とくに大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、子宮内膜がんのリスクが増加していたことを、英国・レスター大学のSuping Ling氏らが明らかにした。Diabetologia誌オンライン版2023年1月24日掲載の報告。 これまで、年齢や性別などの人口統計学的要因が2型糖尿病患者の心血管アウトカムに与える影響は広く研究されているが、がん死亡率への影響については不十分であった。そこで研究グループは、人口統計学的要因や肥満や喫煙などのリスク因子が2型糖尿病患者のがん死亡率に与える長期的な傾向を明らかにするため、約20年間のデータを用いて調査を行った。 対象は、1998年1月1日~2018年11月30日に2型糖尿病と新規で診断され、英国の診療データベース「Clinical Practice Research Datalink」に登録された35歳以上の13万7,804例であった(年齢中央値63.8歳、女性44.6%、白人83.0%、非喫煙者46.9%、正常体重者11.7%、BMI中央値30.6kg/m2)。年齢、性別、人種、貧困状態(複数の剥奪指標ランク)、BMI、喫煙の有無で調整し、全死因、全がん、がん部位別の死亡率を一般集団と比較した。 主な結果は以下のとおり。・2型糖尿病患者119万4,444人年(中央値8.4年[四分位範囲:5.0~12.2年])の追跡で、3万9,212例(28.5%)が死亡した。・全死因死亡率は、1998年~2018年にすべての年齢(55歳、65歳、75歳、85歳)で減少した。・全がん死亡率は55歳と65歳で減少したが、75歳と85歳で増加した。また、白人、現在/過去の喫煙者で増加したが、他の人種や非喫煙者では減少傾向にあった。・全がん死亡率の平均年間変化率(AAPC)は、55歳で-1.4%(95%信頼区間[CI]:-1.5%~-1.3%)、65歳で-0.2%(-0.3%~-0.1%)、75歳で+1.2%(+0.8%~+1.6%)、85歳で+1.6%(+1.5%~+1.7%)であった。また、AAPCが高かったのは、女性+1.5%(男性+0.5%)、最貧困層+1.5%(最富裕層+1.0%)、重度肥満者+5.8%(普通体重者+0.7%)であった。・一般集団と比較した2型糖尿病患者の標準化死亡比(SMR)は、全死因1.08(95%CI:1.07~1.09)、全がん1.18(1.16~1.20)、大腸がん2.40(2.26~2.54)、肝臓がん2.13(1.94~2.33)、膵臓がん2.12(1.99~2.25)、子宮内膜がん(女性のみ)2.08(1.76~2.44)、胆嚢がん1.36(0.99~1.83)、乳がん(女性のみ)1.09(1.01~1.18)、肺がん1.04(1.00~1.08)であった。 研究グループは、上記の結果から「2型糖尿病の高齢患者では、全死因死亡率の低下とは対照的にがん死亡率は上昇し、とくに大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、子宮内膜がんが増加していた。高齢者、貧困層、喫煙者における個別のがん予防と早期発見のための戦略が必要である」とまとめた。

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13種のがん発生率と生活習慣・遺伝的因子の関係

 19万人以上のUKバイオバンクのデータを用いて、世界がん研究基金(WCRF)による生活習慣のアドバイスを遵守することが13種類のがんのリスクとどのような関係があるのか、また遺伝的リスクによってこれらの関連性が異なるのかを調査するため、前向きコホート研究が実施された。南オーストラリア大学のStephanie Byrne氏らによるInternational Journal of Epidemiology誌オンライン版2023年1月18日号への報告。 2006~10年にかけて37~73歳の参加者の生活習慣を評価し、2015~19年までがんの発生率を追跡調査した。解析対象は、悪性腫瘍の既往がない19万5,822人。13のがん種(前立腺がん、大腸がん、閉経後乳がん、肺がん、悪性黒色腫、非ホジキンリンパ腫、腎臓がん、子宮がん、膵臓がん、膀胱がん、口腔・咽頭がん、卵巣がん、リンパ性白血病)とがん全体について多遺伝子リスクスコア(PRS)を計算し、WCRFの勧告からライフスタイル指数を計算。両者の加法的・乗法的交互作用が評価された。 ライフスタイル指数は体型(BMI、腹囲)、身体活動、全粒粉・果物・野菜摂取、赤肉・加工肉摂取、アルコール消費、喫煙状況について2018 WCRF/米国がん研究財団(AICR)のスコアリングシステムに基づき評価され、スコアが高いほど推奨事項への忠実度が高いとされる。 主な結果は以下のとおり。・192万6,987人年(追跡期間中央値:10.2年)で1万5,240件のがんが発生した。・交絡因子で調整後、ライフスタイル指数の高さはがん全体のリスク(1標準偏差増加当たりのハザード比:0.89、95%信頼区間:0.87~0.90)および、大腸がん(0.85、0.82~0.89)、閉経後乳がん(0.85、0.81~0.89)、肺がん(0.57、0.54~0.61)、腎臓がん(0.78、0.72~0.85)、子宮がん(0.82、0.74~0.89)、膵臓がん(0.79、0.72~0.87)、膀胱がん(0.72、0.65~0.79)、口腔・咽頭がん(0.78、0.71~0.86)のリスク低下と関連していた。・ライフスタイル指数と悪性黒色腫、非ホジキンリンパ腫、卵巣がん、リンパ性白血病との間に関連はみられず、前立腺がんリスクとの間には、逆方向の関連性がみられた(1.04、1.01~1.08)。・PRSが高いほどがん全体および口腔・咽頭がんと卵巣がんを除く評価したすべてのがん種のリスクが高い傾向がみられた。とくに膵臓がん(1.51、1.36~1.66)、リンパ性白血病(1.50、1.33~1.69)、悪性黒色腫(1.39、1.32~1.47)、大腸がん(1.36、1.31~1.42)、前立腺がん(1.36、1.32~1.40)で高かった。・大腸がん、乳がん、膵臓がん、肺がん、膀胱がんのリスクにはライフスタイル指数とPRSの加法的相互作用がみられ、推奨されるライフスタイルは、遺伝的リスクの高い人ほど絶対リスクの変化と関連していた(すべてでp<0.0003)。 著者らは、WCRF推奨の生活習慣は、ほとんどのがんについて有益な関連性がみられたとし、さらにいくつかのがんでは遺伝的リスクの高い集団で保護的な関連が大きいと結論づけた。そのうえで、これらの知見は遺伝的にそれらのがんに罹患しやすい人々や、がん予防のための標的戦略にとって重要な意味を持つとまとめている。

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注目高まる、緩和目的の放射線治療と神経ブロック【非専門医のための緩和ケアTips】第34回

第34回 注目高まる、緩和目的の放射線治療と神経ブロックがん疼痛に対し、医師がまず試みるのはオピオイドなどの薬物療法でしょう。一方、薬物療法だけではなかなか緩和できない痛みがあることも事実です。そのような時に強い味方になるのが「放射線治療」と「神経ブロック」です。あまりなじみのない方も多いかもしれませんが、最近注目されている分野です。今日の質問オピオイドで鎮痛を試みても、がん疼痛がなかなか緩和しない患者さん。本人はつらそうですし、私たちも無力感が募ります。こういった難治性のがん疼痛はどのように対応したらよいのでしょうか?緩和ケアを実践する立場として切実な問題ですよね。こうした薬物療法で緩和できないがん疼痛は、「難治性がん疼痛」としてアプローチする必要があります。そこで重要になるのが薬物以外の介入です。その代表が、「放射線治療」と「神経ブロック」です。放射線治療はがん治療において広く使われていますが、がん疼痛を緩和する目的でも活用できます。とくに骨転移の痛みに対して非常に重要です。放射線治療の難点を挙げれば、「専門とする医師が少ない」ことと「放射線治療の装置が必要となるためにがん拠点病院のような大規模の病院でしか提供できない」ことです。さらに、放射線治療は通院で行うことが多いため、「通院の負担をある程度許容できる患者さんである」ことも条件です。ただし、症状緩和を目的とした放射線治療は照射回数を少なくするなど負担軽減の工夫も可能です。直接、放射線治療医に相談してみるとよいでしょう。続いて紹介するのが、神経ブロックです。最も有名なのが、膵臓がんにおける難治性がん疼痛に対して行うものです。CTで事前にターゲットになる神経叢を評価し、透視下で実施するケースが多いでしょう。痛みを伝える神経に直接アプローチするため、高い鎮痛効果を期待できます。神経ブロックも放射線同様に、術者が少ないことが課題です。麻酔科の先生が対応していることが多いのですが、専門に取り組んでいる方はなかなかいないのが現状です。このように放射線治療も神経ブロックも提供体制に課題を抱えており、自分の診療地域の状況を把握しておく必要があります。提供体制の課題の背景には、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。医師育成や地域の配分、キャリア選択など、いろいろな論点があるのですが、まずはこういった難治性がん疼痛に対する知識を身に付けることが重要です。その上で、自分が診療しているエリアにおいては、どの医療機関がどういった連携や提供体制を整備しているのか、情報収集しましょう。これらの難治性がん疼痛に対する治療は、今後、整備が進むことが予想されます。とくにがん拠点病院においては、地域連携も含めたしっかりした提供体制の構築が求められることになりそうです。先日開催された日本緩和医療学会の学術集会においても、難治性がん疼痛に対する放射線治療および神経ブロックの提供体制を向上させる議論が活発に行われました。今後の動きに注目していただければと思います。今回のTips今回のTips放射線治療と神経ブロックもがん疼痛には大切な治療法。自分の地域の提供体制を確認してみよう。

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固形がんの第I相試験、20年間で奏効率2倍に/Lancet

 2000~19年に行われた固形がんに関する第I相臨床試験の奏効率は、治療関連の死亡率を増大することなく2倍近くになっていることが判明した。一方で、同期間の奏効率の改善は、がんの種類、治療薬、試験デザインなどさまざまな要因によるばらつきも認められたという。米国・国立がん研究所(NCI)のDai Chihara氏らが、がん治療評価研究プログラム(Cancer Therapy Evaluation Program:CTEP)の患者データを分析し明らかにした。Lancet誌2022年8月13日号掲載の報告。治療関連死、Grade3-4毒性、奏効率を評価 研究グループは、2000年1月1日~2019年5月31日に行われたNCIが資金を提供した研究者主導の固形がんに関する第I相臨床試験のCTEPから患者データを集めて分析した。治療関連死(「おそらく」・「十中八九」・「明確に」治療に起因するGrade5の毒性による)、治療中の全死亡(がん種にかかわらずプロトコール治療中の死亡)、Grade3-4の毒性、全奏効の程度(完全奏効および部分奏効)、対象期間中(2000~05年、2006~12年、2013~19年)の完全奏効率、および経時的傾向を評価した。 また、がんの種類別、治療薬別奏効率や、がん種別奏効の経時的傾向についても分析した。 患者のベースライン特性(年齢、性別、全身状態、BMI、アルブミン濃度、ヘモグロビン濃度)および試験登録期間、治療薬、試験デザインと全奏効率との単変量解析を、修正ポアソン回帰モデルに基づくリスク比を用いて評価した。全期間全奏効率は約12%、完全奏効率は約3% 被験者総数1万3,847例、試験薬数261、465件のプロトコールについて解析を行った。そのうち、単剤療法は144件(31%)で併用療法は321件(69%)だった。 全体の治療関連死亡率は、全期間で0.7%(95%信頼区間[CI]:0.5~0.8)だった。治療関連死亡リスクに、全期間で変化はなかった(p=0.52)。試験期間中の治療中の全死亡リスクは、8.0%(95%CI:7.6~8.5)だった。 最も多く認められたGrade3-4有害イベントは血液学的なもので、1万3,847例のうち、Grade3-4の好中球減少症2,336例(16.9%)、リンパ球減少症1,230例(8.9%)、貧血894例(6.5%)、血小板減少症979例(7.1%)が、それぞれ報告された。 全試験の全奏効率は、全期間で12.2%(95%CI:11.5~12.8、1,133/9,325例)、完全奏効率は2.7%(2.4~3.0、249/9,325例)だった。全奏効率は2000~05年の9.6%(95%CI:8.7~10.6)から2013~19年の18.0%(15.7~20.5)に、完全奏効率は同じく2.5%(2.0~3.0)から4.3%(3.2~5.7)にそれぞれ上昇した。 全奏効率は、単剤療法が3.5%(95%CI:2.8~4.2)に対し併用療法が15.8%(15.0~16.8)と高率だった。 試験薬のクラス別全奏効率は、疾患により異なった。また、抗血管新生薬は、膀胱がん、大腸がん、腎臓がん、卵巣がんで高い全奏効率と関連していた。DNA修復阻害薬は、卵巣がん、膵臓がんで高い全奏効率と関連していた。 全奏効率の経時的傾向も疾患により大きく異なり、膀胱がん、乳がん、腎臓がん、皮膚がんは著しく改善したが、膵臓がんと大腸がんでは全奏効率は低いまま変わらなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「第I相臨床試験への参加について、試験前に患者に情報を提供したうえで意思決定を求めることが非常に重要だ」と述べながら、「今回の試験結果は、固形がんの最新の第I相臨床試験の有望なアウトカムをアップデートするものである」とコメントしている。

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ASCO2022 レポート 消化器がん(上部・下部消化管)

レポーター紹介はじめに2022年6月3日~7日に、2022 ASCO Annual Meetingが開催された。世の中は徐々に渡航を緩和しつつあるが、残念ながら今年も日本からvirtualでの参加になってしまった。今年も消化管がん分野において標準治療を変える発表が複数報告されたが、その中でもとくに重要と考える発表をここで報告する。食道がん・胃がん昨年の2021 ASCO Annual Meetingでは、食道がん・胃がんにおいて免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の有効性を検証する大規模臨床試験の結果が複数報告されたが、今年は大きな結果の報告は乏しかった。一方でClaudin18.2(CLDN18.2)に対するchimeric antigen receptor(CAR)T細胞の安全性・有効性の報告など、今後の治療開発につながる報告が行われており、これらを中心に報告を行う。CLDN18.2-redirected CAR T-cell therapy(CT041)Claudinは4つの膜貫通ドメインと2つの細胞外ループを持つ分子量23kDの小さな4回膜貫通タンパク質であり、隣り合う細胞の両側から細胞接着部位に集積し、タイトジャンクションの細胞膜密着構造と膜内のストランド構造を形成している。Claudin18.2は、胃腸腺がんの80%、膵臓がん、胆管がん、卵巣がん、肺がんでは60%と複数のがんで高発現しているとされている。抗Claudin18.2抗体薬であるzolbetuximab(IMAB362)が無作為化第II相試験(FAST試験)で無増悪生存期間(PFS)の有意な改善を認めており、現在国際共同第III相試験であるSPOTLITE試験が進行中である。CAR T細胞療法では、患者からT細胞を採取し、遺伝子医療の技術を用いてCAR(キメラ抗原受容体)と呼ばれる特殊なタンパク質を作り出すことができるようT細胞を改変する。そして厳重な品質管理の下で増幅し、リンパ球除去化学療法の後に患者に投与を行う。CT041(CLDN18.2-redirected CAR T-cell therapy)は免疫染色でCLDN18.2陽性(2+/3+を≧40%の腫瘍細胞で認める)の前治療歴のある進行胃がん症例に対して行われた第Ib/II相試験である。報告の時点で14例の症例が登録され、最も多いGrade3以上の有害事象はlymphodepletionに伴うリンパ球減少であったが、Dose limited toxicities(DLTs)となるものは存在しなかった。Cytokine release syndromeも認められたが、多くの症例はGrade1~2であり、許容されるものであった。有効性では奏効率(ORR)が57.1%、病勢制御率(DCR)が78.6%、PFS中央値が5.6ヵ月、全生存期間(OS)中央値が10.8ヵ月と、全例2つ以上の前治療を受けていることを考えると非常に有望な結果であり、現在第II相パートが進行中である。大腸がん今年のASCOにおける大腸がん分野の最大のトピックは、本邦から報告された切除不能・転移性大腸がんに対して、最適な1次治療を前向きに検証する第III相試験である、PARADIGM試験である。そのほか、StageII結腸がんの術後補助化学療法実施の要否を、血漿循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いて前向きに検証する無作為化第II相試験であるDYNAMIC試験と、米国のMemorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)が行ったミスマッチ修復異常を認める(dMMR/MSI-H)直腸がんに対する抗PD-1抗体の有効性の報告が、発表と同時にNew England Journal of Medicineにpublicationされた。今回はこれらの結果を報告する。PARADIGM試験切除不能転移再発大腸がんに対する1次治療の標準はFOLFOX/FOLFIRI等の化学療法と、抗EGFR抗体もしくはVEGF抗体であるベバシズマブの併用であり、生存期間中央値がおおよそ30ヵ月と報告されている。過去に行われた6つの無作為化試験の統合解析では、RAS野生型かつ左側大腸がん(下行結腸・S状結腸・直腸)症例には抗EGFR抗体薬の併用が、RAS変異型もしくはRAS野生型かつ右側大腸がん(盲腸・上行結腸・横行結腸)症例にはベバシズマブの併用が有意に優れていることが示されていたが1)、前向きの検証試験の報告は行われていなかった。PARADIGM試験は、周術期のオキサリプラチン(フッ化ピリミジン単剤は許容)を含む前治療のない切除不能転移再発大腸がんを対象に、mFOLFOX6+パニツムマブ(Pmab群)とmFOLFOX6+ベバシズマブ(Bmab群)を1対1に無作為化割り付けした第III相試験である。主要評価項目は左側大腸がん症例における全生存期間(OS)であり、それが有意であれば全症例で全生存期間を解析する計画であった。合計802例(Pmab群400例、Bmab群402例)が有効性の解析対象であり、そのうち左側大腸がん症例が312例、292例であった。左側大腸がん症例における、OS中央値はPmab群で37.9ヵ月、Bmab群で34.3ヵ月(ハザード比[HR]:0.82、p=0.03)と有意にPmab群が優れていたが、生存曲線は24ヵ月あたりまでほぼ重なっており、それ以降Pmab群が上回る結果であった。全症例におけるOS中央値はPmab群36.2ヵ月、Bmab群31.3ヵ月(HR:0.84、p=0.03)とPmab群が有意に優れた結果であった。また右側大腸がん症例の解析では、OS中央値がPmab群で20.2ヵ月、Bmab群で23.2ヵ月(HR:1.09)と治療成績に大きな差はないが、Pmab群のメリットが乏しく、過去の無作為化試験の統合解析と同様の結果であった。PFSは、左側大腸がん症例においてPmab群が中央値で13.7ヵ月、Bmab群が13.2ヵ月(HR:0.98)、全症例において中央値で12.9ヵ月、12.0ヵ月(1.01)と両群で差を認めない結果であった。一方、ORRは左側大腸がん症例においてPmab群が80.2%、Bmab群が68.6%、全症例において74.9%、67.3%であり、Depth of Response(DoR)もPmab群で優れていた。FIRE-3試験2)などと同様にORR、DoRの改善が結果的にOSの改善につながった可能性が考察できる。2次治療以降の化学療法実施割合も両群で差を認めなかった。これまでESMOガイドラインや本邦のガイドラインは、RAS野生型左側大腸がん症例は化学療法+抗EGFR抗体薬を推奨し、NCCNのガイドラインは前向き試験のデータがないことから化学療法+抗EGFR抗体薬、化学療法+ベバシズマブを併記していた。PARADIGM試験の結果でRAS野生型左側大腸がん症例には化学療法+抗EGFR抗体薬が第1選択であることが前向きに検証されたことで、切除不能転移再発大腸がんの1次治療における標準治療がようやく整理されたことになる。DYNAMIC試験StageII結腸がんは手術のみで80%治癒する対象であり、現在の臨床では臨床病理学的にhigh risk(T4、低分化がん、脈管侵襲など)とされる症例のみに術後補助化学療法が行われている。一方、治癒切除後のctDNA陽性症例はその後80%以上再発するとされており、この対象に対する術後補助化学療法の意義も臨床試験では証明されていない。DYNAMIC試験は治癒切除が行われたStageII症例を対象に、術後4週と7週にctDNAの検査を行い、ctDNA陽性であれば術後補助化学療法をctDNA陰性であれば経過観察を行う試験治療群と、臨床病理学的特徴によって術後補助化学療法の実施を決める標準治療群に2対1に無作為化割り付けを行う第II相試験である3)。主要評価項目は2年無再発生存(RFS)率である。合計455例が無作為化され、解析対象は試験治療群で294例、標準治療群で153例であった。両群ともにhigh riskの症例が40%であったが、実際に術後補助化学療法が行われた症例が試験治療群で15%、標準治療群で28%(p=0.0017)と試験治療群で有意に少なく、オキサリプラチンbasedの術後補助化学療法を行った症例の割合が試験治療群で62%、標準治療群で10%(p<0.0001)と試験治療群で有意に高い結果であった。これは、試験治療群で術後再発のリスクがより高い症例に、より強力な化学療法が実施されたことを意味している。最も再発リスクが高いとされるT4症例でも試験治療群で術後補助化学療法の実施が少なく、ctDNA陽性が従来の臨床病理学的な再発リスクとは独立している可能性が示唆された。主要評価項目である2年RFS率は、試験治療群で93.5%、標準治療群で92.4%と両群の差は+1.1%(95%CI:-4.1~6.2%)と信頼区間の下限が事前に設定した-8.5%を下回っており、試験治療群の非劣性が確認された。サブグループ解析では、T4症例における試験治療群の再発が少ない(HR:1.88)結果であった。試験治療群におけるctDNA陽性・陰性症例の比較では、2年RFS率がctDNA陽性群で86.4%、陰性群で94.7%(HR:1.83)と差が認められた一方で、ctDNAと臨床病理学的なhigh risk/low riskを組み合わせると、ctDNA陰性かつlow riskとctDNA陽性でHRが3.69、ctDNAとT stageを組み合わせると、ctDNA陰性かつT3とctDNA陽性でHRが2.62と、ctDNAと従来の臨床病理学的なriskを組み合わせることでさらに精度の高い再発予測が可能である可能性が示された。本試験により、StageII症例においてctDNA陽性・陰性によって術後補助化学療法の実施を決めることにより、術後補助化学療法の対象を減らしても治療成績が劣らないことが示された。一方でctDNA陽性症例に術後補助化学療法を行う意義、ctDNA陰性に術後補助化学療法を行わない意義はまだ検証されておらず、今後の前向き試験による検証結果が待たれる。ミスマッチ修復異常を認める(dMMR/MSI-H)直腸がんに対する抗PD-1抗体薬の有効性切除不能転移再発のdMMR/MSI-H大腸がんに対して抗PD-1抗体薬のペムブロリズマブがすでに1次治療の第1選択として確立しており4)、いくつかの少数例の検討では切除可能なdMMR/MSI-H大腸がんにも抗PD-1抗体薬の有効性が報告されている5)。局所進行直腸がんに対する標準治療は化学療法、放射線療法、手術の併用であるが、術後の直腸機能の低下が大きな問題であり、化学療法、放射線療法で完全奏効(cCR)に至った症例には、手術を行わず経過を見ていくWatch and Wait(W&W)が普及しつつある。dMMR/MSI-H直腸がんは直腸がんの5~10%(本邦の報告では2%程度)に認められる、まれな対象であるが、今回MSKCCが行っているStageII/IIIのdMMR/MSI-H直腸がんに対する抗PD-1抗体薬の有効性を見る第II相試験の結果が、試験の途中で報告された。試験治療として抗PD-1抗体薬であるdostarlimabを6ヵ月行った後に、画像と内視鏡でcCRと判定された症例にはW&Wを行い、遺残が認められた症例には化学放射線療法を実施し、それでも遺残がある症例には救済手術を行う計画であった。目標症例数は30例であったが、14例まで登録が行われ、全例が6ヵ月のdostarlimabでcCRと判定された。観察期間中央値は6.8ヵ月と短いが、現時点で再増大を認める症例は認めなかった6)。長期的な観察を行わなければPD-1抗体薬のみで治癒に至るかの結論は出ないが、臓器横断的にdMMR/MSI-H固形がんに検討すべき画期的な結果であり、発表と同時にNew England Journal of Medicineにpublicationされた。おわりに食道がん、胃がん、dMMR/MSI-H大腸がんの1次治療におけるICIの有効性が大規模臨床試験で検証され、標準治療としてすでに実臨床に組み込まれている。今後は、周術期治療における有効性の検証結果が報告されてくるものと思われ、またDYNAMIC試験のようなctDNAを用いた術後再発モニタリングは、大腸がんのみならず固形がん全般で主流になってくるものと考える。また、胃がんのような固形がんに対してCAR T細胞療法の有効性が示されるなど次の治療開発が進捗する兆しが認められ、今後の報告に期待したい。1)Arnold D, et al. Ann Oncol. 2017;28:1713-1729.2)Heinemann V, et al. Lancet Oncol. 2014;15:1065-1075.3)Tie J, et al. N Engl J Med. 2022 Jun 4. [Epub ahead of print]4)Andre T, et al. N Engl J Med. 2020;383:2207-2218.5)Chalabi M, et al. Nat Med. 2020;26:566-576.6)Cercek A, et al. N Engl J Med. 2022 Jun 5. [Epub ahead of print]

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ナノリポソーム型イリノテカン、膵がん2次治療の新しい選択肢/日本臨床腫瘍学会

 膵がん治療においては、1次治療でゲムシタビンを含む化学療法を行った場合、2次治療の選択肢はFOLFIRINOX療法もしくはS-1単独療法の2つが選択肢であった。 昨年、イリノテカンをリポソームのナノ粒子に封入したオニバイドが発売されたことで、膵がんの2次治療に新しい選択肢が加わった。長期間新薬の承認がなかった膵臓がん領域における新規治療薬の実力は? 日本臨床腫瘍学会メディカルセミナーにおいて、国立がん研究センター東病院の今岡 大氏がオニバイドの海外第III相試験であるNAPOLI-1試験について解説した。 NAPOLI-1試験ではゲムシタビンを含む化学療法後に増悪した遠隔転移を有する膵がん患者417例を対象に、オニバイド+5-FU/LV群と5-FU/LV群を比較した。 主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は治験担当医指標化に基づく無増悪生存期間(PFS)などであった。 主な結果は以下のとおりである。 OS中央値はオニバイド+5-FU/LV群で6.1ヵ月、5-FU/LV群で4.2ヵ月であり、オニバイド+5-FU/LV群で有意な延長が検証された。[ハザード比0.67(95%CI:0.49~0.92)] また、PFS中央値はオニバイド+5-FU/LV群で3.1ヵ月、5-FU/LV群で1.5ヵ月であり、PFSにおいてもオニバイド+5-FU/LV群で有意な延長が検証されている。[ハザード比0.56(95%CI:0.41~.75)]待望の新治療、気を付ける点は? 医療従事者だけでなく患者からのニーズも高かった新しい治療選択肢であるオニバイドであるが、適切な副作用マネジメントが必要である。 NAPOLI-1試験での副作用は5-FU/LV群で134例中93例、69.4%に対してオニバイド+5-FU/LV群では117例中107例、91.5%に認められている。オニバイド+5-FU/LV群での主な副作用は下痢、悪心、嘔吐であった。 Grade3以上の有害事象はオニバイド+5-FU/LV群で117例中90例、76.9%で認められ、主なGrade3以上の有害事象は好中球減少症や疲労、下痢などであった。 対応について、適切な支持療法を行うとともに、患者の状態を見極めて適宜オニバイドの減量を考慮する。その際の投与量について添付文書に記載されており、それらを参考に投与量を決定できる点もイリノテカンとの違いだと今岡氏は述べている。

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NAFLDを併存する糖尿病患者の重症低血糖リスクは?

 2型糖尿病と併存する肝硬変では低血糖が起こりやすいことが知られているが、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)ではどうなのだろうか。今回、韓国・延世大学校医療院のJi-Yeon Lee氏らの研究によって、2型糖尿病患者におけるNAFLDと重症低血糖との関連が調査された。その結果、2型糖尿病を有するNAFLD患者は、肥満かどうかにかかわらず、救急搬送または入院を必要とする重症低血糖のリスクが26%増加することが報告された。2月23日、JAMA Network Openに掲載。 韓国の国民健康保険制度を用いた人口ベースの後ろ向きコホート研究において、2009年1月1日~2012年12月31日までの間に健康診断を受け、2型糖尿病と診断された20歳以上の個人が登録された。対象者は2015年12月31日まで追跡され、データは2019年1月1日~2021年2月2日に分析された。なお、B型・C型肝炎キャリア、肝硬変または肝臓・膵臓がん患者、アルコールの過剰摂取者は除外された。 重症低血糖は、低血糖の一次診断を伴う入院および救急科の受診として判断された。ベースラインの脂肪肝指数(FLI)を、NAFLDの代理マーカーとして使用した。 主な結果は以下のとおり。・2型糖尿病の参加者194万6,581例のうち、112万5,187例(57.8%)が男性だった。・追跡期間の中央値5.2年(IQR:4.1~6.1)の間に、4万5,135例(2.3%)が1回以上の重症低血糖イベントを経験した。・重症低血糖を起こした患者は、起こしていない患者に対して年齢が高く(平均年齢67.9歳[SD:9.9]vs.57.2歳[12.3]、p<0.001)、平均BMIが低かった(24.2[3.43]vs.25.1[3.4]、p<0.001)。・NAFLD患者は肥満状態を考慮しなくとも低血糖になる傾向があったが、BMIを含む複数の共変量調整をしたところ、FLIと重症低血糖の間にJ字型の関連があった(第5十分位数:調整されたハザード比[aHR]=0.86、95%CI:0.83-0.90/第9十分位数:aHR=1.02、95%CI:0.96-1.08/第10十分位数:aHR=1.29、95%CI:1.22-1.37)。・低血糖の推定リスクは、NAFLD患者でより高かった(aHR=1.26、95%CI:1.22-1.30)。また、この関連性は女性(aHR=1.29、95%CI:1.23-1.36)および低体重(aHR=1.71、95%CI:1.02-2.88)でより顕著だった。 研究者らは、「2型糖尿病を有するNAFLD患者は、肥満状態とは無関係に重症低血糖の高リスクと関連していた。2型糖尿病患者の低血糖に対する脆弱性を評価する場合は、NAFLDの存在を考慮する必要がある」と結論付けた。

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医療マンガ大賞2021「膵臓がんの母」受賞者描き下ろし作品(フクラアカリガエル氏)

医療マンガ大賞2021「膵臓がんの母」受賞者描き下ろし作品(フクラアカリガエル氏)ケアネット部門受賞者・フクラアカリガエル氏からのコメント大切な家族の“命に関わる決断”とは、当事者にしかわからない葛藤や苦悩があることと思います。今回、SNS医療のカタチの先生方が選んだ、膵臓がんを患う母と息子との最期の時間が書かれた原作エピソードを読ませていただき、私自身が同じ状況に置かれたらきちんと向き合えるのか、と考えるきっかけになりました。しかし、漫画を描き終えた今も納得のいく答えは出ていません。この作品は、がん患者さんご本人だけでなく、支えているご家族の心も穏やかでありますようにという気持ちを込めて描きました。最後までご覧いただきありがとうございました。

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不安に感じる心毒性とは?ー読者アンケートの結果から【見落とさない!がんの心毒性】第9回

本連載では、がん治療時におさえておくべき心毒性・心血管リスクとその対策について、4名のエキスパートを迎え、2021年4月より第1回~第8回まで総説編として現在のがん治療における心毒性トピックを解説してきました。近年の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤など新しいがん治療薬が開発される中で、心血管系合併症(心毒性)に対して診療を行う腫瘍循環器学は、今後ますます注目される領域です。今年の春より実際の心毒性症例に基づく症例問題を掲載する予定ですが、その前に、肺がん、乳がん、消化器がん、造血器腫瘍、放射線の治療に携わるCareNet.com会員医師(計1,051名)を対象に行った『心毒性に対するアンケート』(実施期間:2021年8〜9月)の結果をご紹介しながら、実臨床で苦慮されている点をあぶり出していきたいと思います。(表1)CareNet.comにて行ったアンケートの結果画像を拡大する(表2)上記を基に向井氏が作成画像を拡大するがん治療における心毒性は心不全、虚血性心疾患、高血圧症、不整脈、血栓塞栓症に分類されますが、実臨床で腫瘍医の先生方がお困りの疾患はやはり、第一位は心不全、第二位は血栓塞栓症でした。実際に腫瘍循環器外来に院内から紹介される疾患も同様の結果ではないでしょうか。心不全については、第2回アントラサイクリン心筋症(筆者:大倉 裕二氏)、第3回HER2阻害薬の心毒性(筆者:志賀 太郎氏)がそれぞれの心筋症の特徴やその対応の詳細な解説をしています。今、上記の表の結果を踏まえ、少し振り返ってみましょう。アントラサイクリン心筋症ではやはり、「3回予防できる」という言葉が強く印象に残りました。現在さらに新しいがん治療において心不全を呈する可能性の高い治療も増加しており、腫瘍循環器領域において治療に関する新たなエビデンスが確立することが期待されていますさらに、第二位の血栓塞栓症は、第8回がんと血栓症(草場 仁志氏)で解説しました。がん関連血栓症はがんの増殖・転移と深い関係があり、がん診療の各ステージにおいて最も頻度が高く、常に頭に置く必要のある代表的な心毒性です。過去の研究から胃がんと膵臓がんは血栓塞栓症の高リスク因子と報告されているが、アンケートの結果から、実地診療でも消化器領域と肝胆膵領域で血栓塞栓症への関心が高いことがうかがわれました。2018年にがん関連血栓症の中で、静脈血栓塞栓症に対して直接経口抗凝固薬のエビデンスが確立され、抗凝固療法は大きく変化しています。その一方で、動脈血栓塞栓症に対するエビデンスは未だ不足しており治療に関しても未だ不明な点が少なくありません。(図1)は、外来化学療法中の死亡原因を示しています。第一位はがんの進展によるものですが、第二位はがん関連血栓塞栓症でした。そして、抗凝固療法における出血の合併症など腫瘍循環器医が対応すべき多くの問題が残っています。(図1)画像を拡大する1)Khorana AA, et al. J Thromb Heamost. 2007;5:632-634.講師紹介

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がん治療における遺伝子パネル検査、データ利活用の最前線/日本癌治療学会

 実臨床で得られた診療データをその後の研究に活かしていくという、「データ利活用」の動きが世界中で活発になっている。第59回日本癌治療学会学術集会(10月21~23日)では会長企画シンポジウムとして「大規模データベースを活用したがん治療の新展開――医療データの臨床開発への利活用」と題した発表が行われた。 冒頭に中島 直樹氏(九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター)が「データ駆動型の医療エビデンス構築の現在と未来」と題した講演を行い、日本の医療データの問題点として「収集後の名寄せが困難(マイナンバーの医療分野利用の遅れなど)」「医療情報の標準化の遅れ」「改正個人情報保護法によるハードル」を挙げた。そして、これらの問題の解決策として2018年に制定された次世代医療基盤法によるデータ収集と連携のプラットフォームに触れ、状況が変わりつつあることを紹介した。 続いて、谷口 浩也(愛知県がんセンター病院 薬物療法部)が、「産学連携ゲノム解析研究SCRUM/CIRCULATE-Japan Registryの医薬品医療機器承認への活用」と題した発表で、 国立がんセンターを中心とした産学連携全国がんゲノムスクリーニングプロジェクト「SCRUM-Japan」内の「SCRUM-Japan Registry」プロジェクトにおける、臨床研究データを蓄積し、外部の医薬品メーカーに提供、主に希少疾病の新薬開発における比較対照として活用して承認申請に結びつける取り組みを紹介した。「データの質を保つために参加施設を本体研究より絞り、患者背景の均一化などを工夫してきた。悉皆性の確保、参加施設のモチベーションの維持、コスト負担などが今後の課題だ」とした。 さらに、河野 隆志氏(国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター=C-CAT)が「保険診療で行われるがん遺伝子パネル検査のデータの診療・研究・開発への利活用」と題した演題でC-CATのデータ利活用の現状を紹介。C-CATには2019年6月~2021年8月までに2万1,030例の遺伝子パネル検査の結果が集積。がん種は男性では肺がんよりも膵臓がんが多く、女性では乳がんと卵巣/卵管がんがほぼ同数などとなっている。「遺伝子パネル検査を受けるのは標準治療終了後の患者さんに限られるため、一般的ながん種別の罹患率とは異なり、悪性度の高いがんが多くなる傾向がある」(河野氏)という。これまで、「診療検索ポータル」という検索サイトを立ち上げ、患者背景ごとに適合する進行中の治験を検索できるようにしてきた。 さらに今年の10月から「利活用検索ポータル」として、研究・開発目的としてC-CATデータを提供するサイトをオープン。1万8,000例ほどから、がん種や遺伝子変異の種類、薬剤名、奏効率や有害事象などの条件で検索し、詳細なデータを閲覧できる。 利用者はC-CATによる審査・登録後、がんゲノム医療中核拠点病院、大学等の研究機関であれば無償、製薬メーカーは有償で利用できるようになる。「特定の遺伝子変異の患者データ等の把握が容易になり、治験などが活発になることを期待している。登録は審査が必要となり時間がかかるため、最低限の情報を確認できる『登録件数検索』機能を用意しており、興味がある方はぜひ一度見ていただきたい」(河野氏)とした。

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がんと血栓症、好発するがん種とリスク因子は?【見落とさない!がんの心毒性】第8回

がん患者における血栓症は、頻度が多いにも関わらず見逃されやすい病気です。慎重な身体診察と適切な検査を行うことで、早期診断、早期治療を行うことが重要です。近年、がん患者の血栓症の発症頻度は増加傾向にあり、がん関連血栓症(CAT :Cancer-Associated Thrombosis)と呼ばれて注目されています。とくに、深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PTE)を合わせた静脈血栓塞栓症(VTE :venous thromboembolism)の頻度が高く、入院中のがん患者では約20%に起こると報告されています1)。主な原因は、がんや治療による血液凝固能の異常な活性化、長期臥床や血管の圧迫などによる血流のうっ滞、検査や治療による血管内皮障害により静脈血栓が形成されやすくなることです。さらに、診断率の向上、がん治療の長期化、がん患者の高齢化、心血管毒性を有する抗がん剤の使用なども増加の一因と考えられています。一方、がん患者の動脈血栓塞栓症の頻度は1%以下ですが、脳梗塞、心筋梗塞、末梢動脈疾患などの重篤な病態の原因となり注意が必要です。本稿では、VTEの診断と治療のポイントを解説します。症状と診断VTEを診断するための重要なポイントは、症状を見逃さないように注意深く病歴を聴取し、全身の診察を怠らないことです。DVTの症状では、四肢の腫脹、疼痛、皮膚の色調変化が重要ですが、時に症状に乏しく突然のPTEを来たして診断されることもあります。PTEの症状では、呼吸困難、胸痛が多く、そのほかに咳嗽、喘鳴、動悸、失神などが見られます。急性PTEは致死率が高いため、Dダイマー上昇などの検査所見からVTE を疑うことも重要です。(表1)にDVT、PTEの診断を予測する代表的な「Wellsスコア」「改訂ジュネーブスコア」を示します。「Wellsスコア」では合計点数が3点以上では高リスクで精査が必要ですが、2点以下(低or中リスク)でDダイマー陰性であればDVTの可能性は低くなります2)。「改訂ジュネーブスコア」においてPTEの頻度は1点以下で7.7%(95%信頼区間[CI]:5.2~10.8)、2~4点で29.4%(%同:26.6~33.1)、5点以上では64.3%(同%:48.0~78.5) と予測されています3)。日本のガイドラインでも、問診・診察・Dダイマー検査を行い、DVTが疑われる場合は下肢静脈超音波検査・造影CT、PTEの場合は胸部造影CTなどで確定診断を行うことを推奨しています4)。(表1)DVT、PTE診断における代表的なスコア画像を拡大するVTEのリスク因子がん患者におけるVTE発症のリスク因子は(表2)に示すように患者・がん・治療関連の因子に大別されます。先天性血栓素因やVTEの既往などの一般的な患者関連リスク因子に加えて、がん関連またはがん治療関連リスク因子が報告されています。がんの原発部位別にみると、膵臓がん、胃がん、脳腫瘍でVTEのリスクが高く、組織型、進行度も重要です。また、大手術や中心静脈カテーテル留置もリスクを上げます5)。化学療法中のがん患者は、非がん患者と比べるとVTE発症のリスクが6~7倍上昇すると報告され6)、とくに血管新生阻害薬、血液がんの治療に用いる免疫調整薬、ホルモン療法(タモキシフェンなど)では注意が必要です。(表2)がん患者のVTE発症リスク因子画像を拡大する管理法・治療法VTEの標準治療は抗凝固療法です。本邦で使用可能な抗凝固療法には点滴製剤である未分画ヘパリン(海外では低分子ヘパリンが推奨)、経口製剤としてワルファリン、直接経口抗凝固薬(DOAC)のアピキサバン、エドキサバン、リバーロキサバンなどがあり、経口製剤単独もしくは点滴製剤と組み合わせて治療を行います。DOACは、がん患者を対象とした大規模臨床試験(Hokusai-VTE Cancer7)、CARAVAGGIO8)、SELECT-D9))において、VTE再発や重篤な出血に関して低分子ヘパリンと比較して遜色ない良好な成績が示されたことから、海外の最新のガイドラインではがん患者の急性VTEに対する治療として推奨されています10)。しかし、がん患者では抗がん剤と抗凝固薬との薬物相互作用(例:ワルファリンと5−FU)、抗凝固療法による出血リスクの上昇など、患者ごとに慎重な抗凝固療法の適応判断と薬剤選択を検討する必要があります。抗凝固療法の継続期間は、がん患者では再発リスクの観点から3ヵ月以上の長期的な使用が推奨されています。(表3)DOAC3剤とワルファリンの注意点画像を拡大するそのほかの治療として、血行動態が不安定となるような重症PTEに対して血栓溶解療法(商品名:クリアクター)や外科的血栓除去術を行うこともあります。また抗凝固療法が困難な症例や、抗凝固療法を行っているにもかかわらずVTEが増悪する症例に対しては下大静脈フィルターを留置し突然死を予防することもあります。VTEを発症した症例において、がん治療を中断・中止すべきかどうかは、個々の例の状況に応じて、腫瘍内科医と循環器内科医とが緊密に連携して検討する必要があります。1)Lecumberri R, et al. Thromb Haemost. 2013;110:184-190.2)Wells PS, et al. Lancet.1995;345:1326-1330.3)Klok FA, et al. Arch Intern Med. 2008;168:2131-2136.4)日本循環器学会編. 日本循環器学会編. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン)2017年改訂版)5)Ay C, et al. Thromb Haemost. 2017;117:219-230.6)Blom JW, et al. JAMA. 2005,;293:715-722.7)Raskob GE, et al. N Engl J Med. 2018;378:615-624.8)Agnelli G, et al. Engl J Med. 2020;382:1599-1607.9)Young AM, et al. J Clin Oncol. 2018;36:2017-2023.10)Stevens SM, et al. Chest. 2021 Aug 2.[Epub ahead of print]講師紹介

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がん種別5年・10年生存率ランキング、最新版を公表/全がん協調査

 11月10日、全国がんセンター協議会加盟32施設の診断治療症例について、部位別5年生存率、10年生存率の最新データが公表され、全部位の5年生存率は68.9%、10年生存率は58.9%だった。部位別にみると、10年生存率ランキングが最も高かったのは前立腺がんで99.2%、最も低かったのは膵臓がんで6.6%だった。がん種別に10年生存率を最新版と過去とを比較できる 本調査は国立がん研究センターの「施設をベースとしたがん登録情報の収集から活用・情報発信までの効果と効率の最大化モデル構築のための研究」研究班が、全国がんセンター協議会の協力を得て、加盟32施設の診断治療症例について部位別5年生存率、10年生存率を集計したもの。同研究班は、1997年診断症例より部位別臨床病期別5年生存率、1999年診断症例より施設別5年生存率を公表し、2012年からはグラフを描画する生存率解析システム「KapWeb」を開設、2016年からはより長期にわたる生存率を把握するため10年生存率を公表している。 がん診療連携拠点病院の中のがんセンターなど、限られた施設のデータではあるが、10年生存率を最新版と過去とを比較できるのは現時点で本調査のみとなっている。また、がん種、病期、治療法などさまざまな条件設定での10年生存率、診断からの経過日数を指定したうえでのサバイバー生存率をグラフ描画できるのは現時点でKapWebのみとなっている。<データベース概要>対象施設:全国がんセンター協議会加盟32施設(2021年現在)収集症例:1997~2013年までに全がん協加盟32施設で診断治療を行った87万6,679症例集計対象:[5年生存率]2011~13年に診断治療を行った症例のうち、集計基準を満たした15万1,568症例[10年生存率]2005~08年に診断治療を行った症例のうち、集計基準を満たした12万649症例<がん種別5年生存率>全部位および部位別の5年相対生存率は以下のとおり。※( )内の数値は、前回2010~12年症例の5年相対生存率。・全部位:68.9%(68.6%)・食道:50.1%(48.9%)・胃:75.4%(74.9%)・大腸:76.8%(76.5%)・肝:38.6%(38.1%)・胆のう・胆管:28.7%(28.9%)・膵臓:12.1%(11.1%)・喉頭:80.4%(82.0%)・肺:47.5%(46.5%)・乳(女):93.2%(93.6%)・子宮頸:75.9%(75.7%)・子宮体:86.2%(86.3%)・卵巣:64.3%(65.3%)・前立腺:100.0%(100.0%)・腎臓など:71.0%(69.9%)・膀胱:67.7%(68.5%)・甲状腺:93.0%(92.6%)<がん種別10年生存率>全部位および部位別の10年相対生存率は以下のとおり。※( )内の数値は、前回2004~07年症例の10年相対生存率。・全部位:58.9%(58.3%)・食道:34.4%(31.8%)・胃:67.3%(66.8%)・大腸:69.7%(68.7%)・肝:17.6%(16.1%)・胆のう・胆管:19.8%(19.1%)・膵臓:6.6%(6.2%)・喉頭:64.2%(63.3%)・肺:33.6%(32.4%)・乳(女):87.5%(86.8%)・子宮頸:68.2(68.7%)・子宮体:82.3%(81.6%)・卵巣:51.0%(48.2%)・前立腺:99.2%(98.8%)・腎臓など:63.3%(62.8%)・膀胱:63.0%(61.1%)・甲状腺:86.8%(85.7%) 5年生存率および10年生存率ともに、前回公表データと比較した場合多くの部位で生存率の上昇を認める一方、一部低下している部位も含めて、臨床的に意味のある変化は認められていない。

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ホルモン感受性と年齢別、乳がん後の2次原発がんリスク

 乳がんサバイバーの2次原発がん(SPC)リスクは、ホルモン受容体(HR)の状態と初発がんの診断年齢によって大きく異なる可能性が示唆された。米国がん協会のHyuna Sung氏らによるCancer誌オンライン版2021年5月18日号掲載の報告より。 解析には、米国のSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)の12のレジストリのデータが用いられた。研究者らは1992~2015年までに20~84歳で診断された43万1,222人の乳がんサバイバー(1年以上の生存)を特定。SPCリスクは、標準化された発生率(SIR)および1万人年当たりの過剰絶対リスク(EAR)として測定した。ポアソン回帰モデルを用いてホルモン受容体の状態ごとのSIRが解析された。 主な結果は以下のとおり。・平均8.4年の追跡期間中に、HR陽性乳がんサバイバー(35万2,478人)で4万940件(絶対リスク:139.9/1万人年)、HR陰性乳がんサバイバー(7万8,744人)で9,682件(絶対リスク:147.3/1万人年)のSPCが発生した。・一般集団と比較すると、新たながん診断リスクはHR陽性乳がんサバイバーで 20%(SIR:1.20、95%信頼区間[CI]:1.19~1.21、EAR:23.3/1万人年)、HR陰性乳がんサバイバーでは44%高く(SIR:1.44、95%CI:1.41~1.47、EAR:45.2/1万人年)、ホルモン受容体の状態間のリスク差は統計的に有意であった。・一般集団と比較して、乳がんサバイバーでは7つのがん(急性非リンパ球性白血病、肉腫、乳がん、口腔/咽頭がん、子宮体がん、肺がん、結腸がん)のリスクが高かった。甲状腺がん、小腸がん、膵臓がん、膀胱がんおよび皮膚の黒色腫のリスクは、HR陽性乳がんサバイバーでのみ上昇し、食道がん、卵巣がん、および腹膜がんのリスクは、HR陰性乳がんサバイバーでのみ上昇した。 ・診断時の年齢別の1万人年あたりの総EARは、晩期発症(50~84歳)のHR陽性乳がん:15.8(95%CI:14.1~17.5、SIR:1.11)晩期発症のHR陰性乳がん:29.0(95%CI:25.0~33.0、SIR:1.22)早期発症(20~49歳)のHR陽性乳がん:41.3(95%CI:39.2~43.5、SIR:2.24)早期発症のHR陰性乳がん:69.4(95%CI:65.1~73.7、SIR:2.24)・二次原発の乳がんは各サバイバーグループの総EARの73~80%を占めていた。・乳がんを除くと、SPC で1万人年あたりのEARが大きかったのは、早期発症HR陰性乳がんサバイバーの卵巣がん、早期および晩期発症HR陰性乳がんサバイバーの肺がん、および晩期発症HR陽性乳がんサバイバーの子宮体がんであった。 著者らはこの結果を受けて、乳がんサバイバーのケア計画において、がん予防と早期発見戦略のためのより的を絞ったアプローチが必要であるとまとめている。

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