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トラスツズマブ デルクステカン、既治療HER2+胃がんのOS改善/NEJM

 既治療HER2陽性胃がん患者において、トラスツズマブ デルクステカン(DS-8201)は医師が選択した化学療法と比較し、客観的奏効率(ORR)および全生存期間(OS)を有意に改善した。安全性については、骨髄抑制および間質性肺疾患の副作用が顕著であった。国立がん研究センター東病院の設楽 紘平氏らが、日本の48施設および韓国の18施設で実施した無作為化非盲検第II相試験「DESTINY-Gastric01試験」の結果を報告した。トラスツズマブ デルクステカンは、抗HER2抗体と新規トポイソメラーゼI阻害薬を、切断可能なテトラペプチドベースのリンカーを介して結合させた抗体薬物複合体(ADC)である。第I相試験において既治療HER2陽性進行胃がんに対する有効性が示されていた。NEJM誌2020年6月18日号掲載の報告。トラスツズマブ デルクステカンと、医師が選択した化学療法(イリノテカンまたはパクリタキセル)を比較 研究グループは2017年11月~2019年5月の期間に、トラスツズマブを含む2つ以上の治療を受けていたHER2陽性(IHC 3+またはIHC 2+/ISH+)の進行・転移を有する胃腺がんまたは胃食道接合部腺がん患者188例を対象に試験を行った。被験者をトラスツズマブ デルクステカン群(6.4mg/kg、3週ごと)、または化学療法(医師がイリノテカンまたはパクリタキセルのどちらかを選択)群に2対1の割合で無作為に割り付け、追跡評価した。 主要評価項目は、独立中央委員会評価によるORR、副次評価項目はOS、奏効期間、無増悪生存期間(PFS)、確定した奏効(奏効が4週間以上持続)、安全性であった。 188例中187例が治療を受けた。内訳は、トラスツズマブ デルクステカン群125例、化学療法群62例(イリノテカン群55例、パクリタキセル群7例)。ORRは51% vs.14%、OSは12.5ヵ月 vs.8.4ヵ月と、いずれもADC群が有意に良好 ORRは、トラスツズマブ デルクステカン群51%、化学療法群14%であった(層別Cochran-Mantel-Haenszel検定のp<0.001)。OS中央値は、トラスツズマブ デルクステカン群12.5ヵ月、化学療法群8.4ヵ月で、トラスツズマブ デルクステカン群で有意に延長した(死亡のハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.39~0.88、両側p=0.01、事前に規定したO'Brien-Fleming法による死亡数に基づいた有意水準p=0.0202を下回った)。 主なGrade3以上の有害事象は、好中球数減少(トラスツズマブ デルクステカン群51%、化学療法群24%)、貧血(38%、23%)、白血球数減少(21%、11%)などであった。間質性肺疾患または肺臓炎(独立中央委員会による判定)の副作用が、トラスツズマブ デルクステカン群で12例に認められた(Grade1/2:9例、Grade3/4:3例)。治験薬に関連した死亡は、トラスツズマブ デルクステカン群でのみ1例(肺炎)報告された。

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ASCO2020レポート 消化器がん(上部消化管)

レポーター紹介今年のASCOは史上初めてオンラインのみでの開催となった。もちろん大規模な移動や集会は、新型コロナウイルスの感染伝播のリスクとなるためであるが、この傾向は今後も続くと思われる。すでに9月にマドリードで開催予定であったESMO2020も、virtualで行われることが決定している。移動時間や、時差を気にせず自室のPCでプレゼンテーションを見ることができる一方、ポスター会場での海外の研究者との直接のやりとりや、世界中のオンコロジストが集まる、あの会場の雰囲気を味わえなくなるのは寂しいものである。さて、上部消化管がん領域から、5演題ほど紹介したいと思う。HER2陽性胃がんに対するDESTINY-Gastric01試験は、HER2陽性胃がんに新たな標準治療を提供し、ほぼ同日に臨床系で最も権威があるといわれているNew England Journal of Medicineに掲載される1)など、最も注目すべき発表となった。Trastuzumab deruxtecan (T-DXd; DS-8201) in patients with HER2-positive advanced gastric or gastroesophageal junction (GEJ) adenocarcinoma: A randomized, phase II, multicenter, open-label study (DESTINY-Gastric01).HER2陽性胃がん、接合部腺がんに対するT-DXdのランダム化第II相試験Shitara K et al.T-DXdは、トポイソメラーゼI阻害薬(deruxtecan)を抗HER2抗体に結合(conjugate)させたADC(antibody-drug conjugate)製剤であり、HER2を発現した細胞に結合し、内部に取り込まれたderuxtecanが細胞障害を来し、効果を発揮する。Phase I試験では、トラスツズマブに不応となった患者に対して、43.2%の奏効割合を示し、有効性が期待されていた薬剤である。日本の第一三共株式会社が開発した薬剤という意味でも注目される。DESTINY-Gastric01試験では、フッ化ピリミジンと、プラチナ製剤と、トラスツズマブを含む2レジメン以上の治療歴のあるHER2陽性(IHC3+、IHC2+/ISH+)胃がんを対象に、187名が日本と韓国より登録された。125名がT-DXd群、62名が医師選択治療群(PC群)に割り付けられた。全例トラスツズマブの投与歴があり、タキサン系薬剤の投与歴は、T-DXd群とPC群で、84%と89%、ラムシルマブ投与歴は75%と66%、免疫チェックポイント阻害薬の投与歴は、それぞれ35%と27%であった。主要評価項目は奏効割合で、T-DXd群で42.9%、PC群で12.5%と有意にT-DXd群で良好であった。無増悪生存期間中央値も、5.6ヵ月と3.5ヵ月(HR=0.47)、生存期間中央値も12.5ヵ月と8.4ヵ月(HR=0.59、p=0.0097)と有意にT-DXd群が良好であった。一方T-DXd群では、主に血液毒性が多く認められ、Grade3以上の好中球減少を51%認めたが、発熱性好中球減少は6名(4.8%)であり、治療関連死は両群に1名ずつ認められ、肺炎であった。注目すべき有害事象として、肺臓炎をT-DXd群にて9.6%に認めたが、多くはGrade2以下であった。T-DXdはすでに2020年4月に乳がんに対して適応承認を取得しているが、治療歴のあるHER2陽性胃がん患者に対しても、適応承認申請中であり、近いうちに実臨床にて使用可能になると思われる。HER2陽性の肺がんや、大腸がんに対しても有効性が示されており、アストラゼネカと第一三共が提携を結び、日本以外の地域においても、他がんや、HER2陽性胃がんへの1次治療への開発などが期待されている。FOLFIRI plus ramucirumab versus paclitaxel plus ramucirumab as second-line therapy for patients with advanced or metastatic gastroesophageal adenocarcinoma with or without prior docetaxel: Results from the phase II RAMIRIS Study of the AIO.胃がん2次治療における、FOLFIRI+ラムシルマブと、パクリタキセル+ラムシルマブのランダム化比較第II相試験Lorenzen S et al.RAINBOW試験の結果、胃がんの2次治療は、パクリタキセルとラムシルマブの併用療法が標準治療である。1次治療不応後だけでなく、術後補助化学療法中や終了後6ヵ月以内の再発の場合もフッ化ピリミジン不応と考えて、2次治療であるパクリタキセルとラムシルマブが投与される。しかし近年、術後のドセタキセル+S-1療法や、欧米では、術前後のFLOT療法など、周術期の化学療法でタキサン系薬剤が用いられる傾向にあり、術後早期再発にてタキサン系薬剤以外の薬剤とラムシルマブの併用療法の評価を行う必要が生じてきた。もともと欧州で胃がんの2次治療のひとつであるFOLFIRIにラムシルマブを併用した治療と、標準治療であるパクリタキセル+ラムシルマブを比較するRAMIRIS試験が計画された。フッ化ピリミジンとプラチナを含む化学療法から6ヵ月以内に進行が認められた胃がん患者を対象とし、ドセタキセルの使用については許容され、調整因子とされた。PTX+RAM群に38名、FOLFIRI+RAM群に72名が割り付けられ、約65%の患者がタキサン使用歴ありだった。奏効割合は、FOLFIRI+RAM群は22%、PTX+RAM群は11%、タキサン使用歴あり患者に絞ると、25%と8%と、FOLFIRI+RAM群で良好な傾向であった。生存期間中央値は、それぞれの群で、6.8ヵ月と7.6ヵ月、無増悪生存期間中央値は3.9ヵ月と3.6ヵ月、タキサン使用歴ありだと、7.5ヵ月と6.6ヵ月、4.6ヵ月と2.1ヵ月であった。現在第III相試験が進行中であり、とくにタキサン使用歴のある患者についてはFOLFIRI+RAMが標準治療になる可能性がある。日本ではCPT-11+RAMの結果も報告されており、FOLFIRIである必要があるのかなどいくつかの疑問もあり、今後の結果が注目される。Perioperative trastuzumab and pertuzumab in combination with FLOT versus FLOT alone for HER2-positive resectable esophagogastric adenocarcinoma: Final results of the PETRARCA multicenter randomized phase II trial of the AIO.切除可能HER2陽性胃がんに対して、周術期FLOT単独とFLOTとトラスツズマブとペルツズマブの併用療法を比較するランダム化第II相比較試験~PETRARCA試験最終解析Hofheinz RD et al.欧米では、切除可能胃がんの標準治療は術前術後のFLOT療法であるが、HER2陽性胃がんに対する周術期の分子標的治療薬の上乗せ効果については明らかではない。また、トラスツズマブとペルツズマブの併用については、乳がんでは上乗せ効果が示され、標準治療となっているが、胃がんの初回治療での化学療法とトラスツズマブに、ペルツズマブの上乗せ効果をみたJACOB試験では、ペルツズマブの上乗せは良好な傾向を示したものの、有意差を示さず、ネガティブな結果であった。PETRARCA試験ではFLOT単独群とFLOT+トラスツズマブ+ペルツズマブ(FLOT+TP)群にランダムに割り付けられ、主要評価項目は病理学的完全奏効(pCR)割合とされた。FLOT群に41名、FLOT+TP群に40名が割り付けられ、pCR割合は12%、35%とFLOT+TP群で有意に良好であった(p=0.02)。無病生存期間中央値はFLOT群で26ヵ月、FLOT+TP群で未達であった(HR=0.576、p=0.14)。生存期間中央値は両群で未達、HRは0.558、p=0.24と、観察期間は不十分ながら、FLOT+TP群で良好な傾向であった。術前術後化学療法での有害事象はFLOT+TP群でGrade3以上の下痢(5% vs.41%)、疲労(15% vs.23%)が多かったが、術後合併症は両群で差はなく、R0切除割合はFLOT群で90%、FLOT+TP群で93%、術後60日以内死亡も両群で1名ずつであった。本試験は、少ない症例数ながら、周術期でのHER2陽性胃がんに対する分子標的治療薬が有用な可能性を示した。ペルツズマブを併用することで、トラスツズマブの耐性機序のひとつであるHER3からのシグナルを抑え、短期的な有効性が上昇することを示した。JACOB試験で有意な差が出なかったのは、後治療などで効果が薄まったためと考えられるが、短期的な腫瘍縮小効果が差を生み出せる周術期でどうなのか、今後の検討が期待されるSintilimab in patients with advanced esophageal squamous cell carcinoma refractory to previous chemotherapy: A randomized, open-label phase II trial (ORIENT-2).治療歴のある食道扁平上皮がんに対するsintilimabのランダム化第II相試験ORIENT-2試験Xu J et al.近年食道扁平上皮がんに対して免疫チェックポイント阻害薬の有効性が報告されており、ATTRACTION-3試験では、2次治療において、バイオマーカーにかかわらずタキサン系薬剤と比較してニボルマブが有意に生存期間を延長し、日本・韓国・台湾において、ニボルマブが食道扁平上皮がん既治療例に対して適応承認を得ている。KEYNOTE-181試験では、ペムブロリズマブが、CPS(combined positive score)10以上の食道がんにおいて、化学療法群と比較して生存期間延長を示し、米国では、CPS10以上の食道扁平上皮がんに対して適応承認が得られている。また、中国で行われた第III相試験であるESCORT試験では、抗PD-1抗体であるcamrelizumabが既治療例の食道扁平上皮がんに対して、化学療法群と比較して生存期間の延長を示している。ORIENT-2試験は、既治療例食道扁平上皮がんに対する、抗PD-1抗体であるsintilimab群と、医師選択化学療法群を比較した、ランダム化第II相試験であり、180名が登録され、それぞれの群に95名割り付けられた。医師選択化学療法では72名がイリノテカンで、15名がパクリタキセルを投与された。中国では、初回化学療法において、タキサン系とプラチナ系薬剤が併用されることが多く、そのため2次治療としてイリノテカンが用いられることが多い。主要評価項目である生存期間は、中央値がsintilimab群で7.2ヵ月、化学療法群で6.2ヵ月(HR=0.70、p=0.03)と有意にsintilimab群にて延長を認めた。奏効割合も12.6%と6.3%と、sintilimab群で良好な結果であったが、無増悪生存期間中央値では、sintilimab群で1.6ヵ月、化学療法群で2.9ヵ月という結果であった。曲線はクロスしており、後半でsintilimab群が持ち直し、HRでは1.0と両群で差を認めなかった。PD-L1の発現や、そのほかのサブグループの有効性の発表はなかったが、NLR(neutrophil-to-lymphocyte ratio)3未満の集団は、3以上の集団に比べて、sintilimabの有効性が上昇することが示された。安全性に新たな知見はなかった。sintilimabも過去の報告と同様の効果を食道扁平上皮がんに対して示したが、このラインではすでに複数のチェックポイント阻害薬が承認されており、差別化をどのように行うかが今後の課題と思われる。すでに初回化学療法での併用効果や、化学放射線療法との併用、周術期での効果など、食道扁平上皮がんにおける免疫チェックポイント阻害薬は、新たな局面を迎えている。Final analysis of single-arm confirmatory study of definitive chemoradiotherapy including salvage treatment in patients with clinical stage II/III esophageal carcinoma: JCOG0909.病期II/III食道がんに対する、根治的化学放射線療法と救済治療を含む単アームの検証的試験~JCOG0909最終解析Ito Y et al.切除可能食道がんに対する治療は、術前治療に引き続く食道切除術であり、日本では術前化学療法、欧米では術前化学放射線療法が主に行われている。食道扁平上皮がんは放射線感受性が高く、化学放射線療法のみでがんが消失、完全反応(CR)となるケースも少なくない。CRとなる患者は、比較的大きな侵襲となる食道切除術を行わずに根治が得られる可能性を考え、欧米でも、化学放射線療法を行い、CRが得られた患者に対して、切除を行う群と、慎重観察を行い、がんの再発が認められたら切除に行く群のランダム化比較試験が行われたりしている。ただ、化学放射線療法後にどのような基準で手術に行くのか、タイミングはいつがよいのか、その時のリスクがどの程度なのか、まだよくわかっていない。JCOG0909は、まず放射線線量50.4Gyにて、根治的化学放射線療法を行い、CRあるいは、腫瘍の縮小が良好な場合は治療継続と経過観察、明らかな遺残あるいは再発を来した場合は救済手術あるいは救済内視鏡を行うことをプロトコール治療に組み込んだ単アームの試験である。線量を60Gyとしていた時代に行われたJCOG9906では、救済手術での治療関連死が10%以上認められ、放射線後に行う救済手術のむつかしさが浮き彫りになった。JCOG0909ではその経験を踏まえ、線量を抑える代わりに、5-FUの投与量を増やし、また頻回に評価することで、腫瘍が増大する前に救済手術を試みるような設定がなされた。94名の食道扁平上皮がん患者が登録され、病期IIA/IIB/IIIの内訳は、22/38/34と比較的II期が多かった。完全奏効割合は58.5%と既報と比較して同等かやや低い傾向であったが、これは早めに救済手術に持ち込む戦略であることや、5-FUの増量により食道炎が増加し、CRの判定が遅れたことなどが影響していると思われる。5年の経過フォロー後の結果として、5年生存割合は64.5%、5年無増悪生存割合は48.3%と、既報の化学放射線療法のJCOG9906試験の36.8%と25.6%と比して大幅に改善された。術前化学療法と手術療法の組み合わせと比較しても、JCOG9907試験のB群の55%、44%と、引けを取らない結果であった。27名の患者で救済手術が行われ、R0切除となった21名では、3年生存48.3%と長期生存が得られている。食道気管肺の瘻孔形成による周術期死亡が認められたが、救済手術はおおむね安全に実施されていた。5年食道温存生存割合は54.9%と高い値を示し、根治的化学放射線療法により、食道温存をしたまま長期生存が期待できることを示した。また、仮に遺残や再発した場合でも切除可能な段階であれば、救済手術を行うことで、約半数の患者が長期生存を達成できることが示された。現在免疫チェックポイント阻害薬と根治的化学放射線療法の併用療法の検討が開始されており、より高いCR割合が得られるようになれば、まず化学放射線療法を行い、CRになれば、食道温存したまま経過観察、遺残すれば、救済手術を行う、という治療戦略が一般的になる可能性も秘めている。前向き試験の中で、救済手術の安全性と有効性をしっかりと示した例は世界的にもなく、食道がんの臨床に影響を与える結果と思われた。一方で、比較対象となる術前治療と手術のエビデンスであるJCOG9907などと比較して、II期が占める割合が多いため、治療成績については考慮する必要がある、食道がんの専門病院で、経験のある腫瘍内科医と、外科医が治療した結果のため、どこまで一般化できるのか、などの指摘もあるが、今後につながる内容であった。文献1.Shitara K, et al. N Engl J Med. 2020 May 29. [Epub ahead of print]

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COVID-19、ABO血液型により重症化に違い/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が重症化し呼吸不全を来すリスクについて、ゲノムワイド関連分析(GWAS)を行い調べたところ、3p21.31遺伝子座と9q34.2遺伝子座の変異との関連性が明らかになった。9q34.2遺伝子座は血液型の遺伝子座と一致しており、血液型A型の人は、他の血液型の人に比べ重症化リスクが1.45倍高く、一方で血液型O型の人は重症化リスクが0.65倍低いことが示されたという。COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2に感染した患者にばらつきがみられることから、ドイツ・Christian-Albrechts大学のDavid Ellinghaus氏らの研究グループ「The Severe Covid-19 GWAS Group」が、イタリアとスペインの患者を対象にGWASを行い明らかにした。NEJM誌オンライン版2020年6月17日号掲載の報告。イタリア・スペインの7ヵ所の病院の患者を対象に試験 研究グループは、欧州におけるSARS-CoV-2流行の中心地、イタリアとスペインの7ヵ所の病院を通じて、COVID-19患者で重症化(呼吸不全)が認められた1,980例について、GWAS試験を行った。 品質管理や外れ値の除外後、イタリアでは患者835例とその対照1,255例、スペインではそれぞれ775例と950例について、最終的な解析を行った。 合計858万2,968個の一塩基多型を解析し、2つのケースコントロールパネルについてメタ解析を行った。重症化リスク、A型は45%増、O型は35%減 COVID-19による呼吸不全との関連性(ゲノムワイドの有意水準でp<5×10-8)を示す、2遺伝子座の2つの一塩基多型、3p21.31遺伝子座のrs11385942と9q34.2遺伝子座のrs657152を検出した(それぞれのオッズ比[OR]:1.77[95%信頼区間[CI]:1.48~2.11、p=1.15×10-10]、1.32[95%CI:1.20~1.47、p=4.95×10-8])。 3p21.31遺伝子座に関連する遺伝子は、SLC6A20、LZTFL1、CCR9、FYCO1、CXCR6、XCR1だった。 一方9q34.2遺伝子座は、血液型ABOの遺伝子座と一致した。血液型に特異的な解析の結果、A型の人の重症化リスクが他の血液型の人に比べ高率だった(OR:1.45、95%CI:1.20~1.75、p=1.48×10-4)。一方で血液型O型の人は、他の血液型の人に比べ重症化リスクが低率だった(0.65、0.53~0.79、p=1.06×10-5)。

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第12回 夏本番!冷やし中華ならぬ「抗体検査始めました」の怪

抗体保有率、東京都0.10%こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。6月19日、やっとプロ野球が開幕しました。新型コロナウイルス陽性が判明した巨人の坂本・大城両選手も開幕試合になんとか間に合ったようです。私も何試合かテレビ中継を観ましたが、やはり無観客試合はどうもしっくりきません。打撃音やキャッチングの音、選手の声が聞こえるのはいいのですが、応援なしだとなんだか草野球を観ているようで、プロらしさがあまり伝わってきません。ある中継では、「応援音声再現中」と、バックに過去に録音した応援の音を流していましたが、あれもどうなんでしょう。今年も早く神宮球場の「生ビール半額ナイター」に行きたいものです。さて、今回気になったのは、新型コロナウイルスの抗体検査に関するいくつかのニュースです。6月16日、厚生労働省は3都府県で6月1日から実施していた新型コロナウイルスの抗体保有調査の結果を公表しました。この調査は日本での抗体保有状況の把握のため、2020年6月1~7日にかけて東京都・大阪府・宮城県の一般住民それぞれ約3,000名を無作為化抽出して行われたものでした。対象者は本調査への参加に同意した一般住民(東京都1,971人、大阪府2,970人、宮城県3,009人、計7,950人)。この調査では、陽性判定をより正確に行うため、2種の検査試薬(アボット社・ロシュ社)の両方において陽性が確認されたものを「陽性」としたとのことです。その結果、抗体保有率は、東京都:0.10%(2人)、大阪府:0.17%(5人)、宮城県:0.03%(1人)でした。抗体を持っていた人の割合を、人口に対する報告感染者数の割合(5月31日時点)と比べてみると、東京で2.6倍、大阪で8.5倍、宮城で7.5倍でした。各地で無症状や医療機関を受診しないまま回復した感染者が一定数いた可能性が示唆されます。ただ、米ニューヨーク州が5月上旬に公表した住民1万5,000人を対象にした抗体検査の結果(12.3%)と比べると、日本の低さが際立ちます。これまでの感染状況を考えると当たり前と言えば当たり前の結果ですが、日本ではまだまだパンデミックの余地は残されている、と言えるでしょう。抗体検査は医療機関にとっては割のいい“臨時収入”この報道に先立つ6月12日のNHKニュースでは、「導入相次ぐ『抗体検査』 期待の一方 誤解や課題も」というタイトルで、企業やプロ野球チームなどで抗体検査の導入が進んでいる実態を伝えています。報道では、過去にウイルスに感染したかどうかを調べるため、企業や個人などで抗体検査を受ける動きが広がっている状況を伝えた上で、抗体検査が陰性証明として使えるわけではないこと、抗体陽性が感染防止につながるわけではことなど、抗体検査に関する誤解についてわかりやすく解説していました。麻疹や風疹のように、新型コロナ感染症も1回感染して抗体価が上がればもうかからない、と誤解している人は意外に多いようです。このニュースで興味深かったのは、地域の診療所などの医療機関が自費での抗体検査を始めていることでした。ニュースで紹介されていた東京の銀座のクリニックでは、5月中旬から抗体検査を始め、1ヵ月で検査を受けた人は200人にのぼったとのことです。検査費用は1万1,000円ということですから、抗体検査だけで200万円の売上になります(原価はわかりませんが、仮に中国製だとすると安価でしょう)。外来患者が減った医療機関にとっては、割のいい“臨時収入”といったところでしょうか。少し気になって、ネットで調べてみると、「新型コロナウイルスの抗体検査始めました」とホームページで告知している診療所や病院があるわ、あるわ。中にはサイトに「抗体検査が陽性であればワクチン接種したのと同じ状態ですから、再感染はしにくくなるといわれています」と書いている医療機関もありました。当然ながらどこも保険外で、検査費用は8,000円〜1万円が相場のようです。抗体あっても感染防止できるかは不明夏の到来とともに、冷やし中華のように医療機関のメニューに加わった新型コロナウイルスの抗体検査。本当に医療機関側は受診者の役に立つ、と考えて実施しているのでしょうか。そもそも、新型コロナウイルスの場合、血液中で感染防御に働く「中和抗体」がどのくらいの期間維持されるのか、抗体量がどの程度なら再感染が防げるかなど、多くのことがまだわかっていません。風疹や麻疹のように抗体ができたから大丈夫、とはいかないですし、インフルエンザのようにA型にかかったから今年はもうA型は大丈夫、ともならないのです。さらに、抗体は発症してから1週間程度で作られるため、人に感染させる可能性が高いとされる発症前後は抗体検査に引っかかりません。つまり、「個人が感染の有無を調べるための検査」というよりも、先述の厚労省の調査のように「地域での感染状況を公衆衛生学的に調べるための検査」なのです。新型コロナが存在しない2019年の検体からも陽性がもう1点、気になるのが市中の医療機関で行われている検査の精度です。現時点において、国内で承認された新型コロナウイルス感染症に対する抗体検査向けの検査試薬は存在しません。厚労省の調査で使用されたアボット社・ロシュ社のキットを含めてどれもが「研究用試薬」という位置付けです。両社のキットが厚労省の調査で採用されたのは、米食品医薬品局 (FDA)が性能を確認して緊急使用許可(EUA)を出した抗体検査のうち、日本国内で入手可能なものだったからです。少なくともこの2つのキットにはFDAのお墨付きがあるわけです。しかし、国内では、米国のEUA承認といった一定の評価がなされていない、性能がよく分からない検査試薬が数多く出回っているようです。ちなみにキットの開発企業は米国・ドイツ・中国・台湾とさまざまで、数としては中国が比較的多いようです。冷やし中華のように、「うちも始めました」とPRしている医療機関の多くは、イムノクロマト法で測定できる(専用装置を必要としない)簡易抗体検査キットを採用していると見られます。しかし、これらの簡易キットの検査性能については、感度にバラツキがある、偽陽性が多い(新型コロナウイルスが存在しなかった2019年の検体からも陽性が出たとのことです)など多くの疑問点がすでに指摘されています。政府の専門家会議も、5月に出した提言で「国内で法律上の承認を得たものではなく、期待されるような精度が発揮できない検査が行われている場合があり、注意を要する」としています。厚労省サイト「新型コロナウイルス感染症に関する検査について」では、AMED研究班が日本赤十字社の協力を得てとりまとめた「抗体検査キットの性能評価」が公表されていますので、興味のある方はそちらを参照してください。おそらく、厚労省も全国で未承認の新型コロナウイルスの簡易抗体検査キットが自由診療で使われていることを把握しているでしょう。コロナ禍による外来収入減を補うためのものとしてしばらく“お目こぼし”が続くか、あるいは「意味のない検査は止めるように」といった通知が発出され規制対象となるか、今のところ先行きは不透明です。もっとも、私なら抗体検査は受けず、そのお金で冷やし中華を10杯食べるほうを選択しますが。

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新型コロナが流行しやすい気候条件とは?

 世界的な危機をもたらしている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、気候変動や季節性と感染拡大との潜在的な関連を調査することは、予防・監視戦略に役立つ可能性がある。米国・メリーランド・スクール・オブ・メディスン大学のMohammad M Sajadi氏らは、特定の緯度、温度、湿度が観測された地域でのCOVID-19の集団発生分布は、季節性の呼吸器系ウイルスの挙動と一致していたことを明らかにした。研究者らは、気象モデリングを使用すれば、COVID-19の拡大リスクが高い地域の推定ができ、監視や封鎖のもと公衆衛生へ注力することが可能になるとしている。JAMA Network Open誌2020年6月11日号掲載の報告。 この研究ではCOVID-19の感染状況に関わらず、世界50都市の気候データを調査。感染拡大のあった都市を10例以上の死亡者が報告された地域と定義し、COVID-19が拡大した都市には、武漢(中国)、東京(日本)、大邱(韓国)、ゴム(イラン)、ミラノ(イタリア)、パリ(フランス)、シアトル(米国)、マドリード(スペイン)の8都市が該当した。これらの都市と感染拡大や影響がなかった42都市を比較した。データ集積は2020年1月~3月10日に行われた。気候データ(緯度、2ヵ月の平均気温、平均比湿、および平均相対湿度)は気象再解析データERA5から取得した。 主な結果は以下のとおり。・2020年3月10日時点、感染が拡大していた8つの都市は、いずれも北緯30~50°の狭い帯状範囲に位置していた。・それらの都市では一貫して類似の天候パターンを有し、平均気温は5〜11°C、低比湿(3〜6g/kg)で、低絶対湿度(4〜7g/m3)である点が一致していた。・ただし、近接した感染地域を予測するには、実社会での証明が不足していた。たとえば、中国・武漢(北緯30.8°)では発症者数8万757例で3,136人が死亡した。一方、ロシア・モスクワ(北緯56.0°)は発症者数10例で死亡者は0例、ベトナム・ハノイ(北緯21.2°)は発症者数31例、死亡者は0例だった。

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武漢に派遣の医療者、PPE適切使用で新型コロナ感染せず/BMJ

 中国・中山大学附属第一病院のMin Liu氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期の武漢市の病院に、広州市の病院から派遣された医療従事者を対象に感染状況の調査を行った。その結果、派遣中にCOVID-19関連症状を発症した者はなく、広州市へ帰還後の検査でも全員が、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陰性であった。これは、適切な個人用防護具(PPE)の使用によるものと考えられるという。研究の成果は、BMJ誌2020年6月10日号に掲載された。武漢市では、SARS-CoV-2感染爆発の早期には、医療従事者の感染頻度がきわめて高く、その主な原因は、不適切な個人用防護具の使用とされている。2つの病院から派遣された医療従事者の横断研究 研究グループは、COVID-19患者の治療に最前線で携わる医療従事者において、適切な個人用防護具の使用による保護効果を検証する目的で、横断研究を行った(中国中山大学附属第一病院の助成による)。 対象は、2020年1月24日~4月7日の期間中に、6~8週間にわたり、広州市の2つの病院(中山大学附属第一病院、南方医科大学南方医院)から武漢市に派遣された医療従事者420人(医師116人、看護師304人)であった。これらの研究参加者は、COVID-19で入院した患者に医療を提供するために、適切な個人用防護具を支給され、検査や処置がエアロゾルを発生させる手技(aerosol generating procedures:AGP)に携わった。 さらに、抗体検査の精度を検証するために、COVID-19への曝露歴のない医療従事者77人と、COVID-19から回復した患者80例が登録された。データの収集には、オンライン質問票が用いられた。 主要アウトカムは、COVID-19関連症状(発熱、咳、呼吸困難)およびSARS-CoV-2感染のエビデンス(鼻咽頭拭い液中のウイルス特異的核酸が陽性、または血清検体中のIgM/IgG抗体が陽性)とした。個人用防護具の調達と配布を優先、十分な訓練が必要 420人の医療従事者の平均年齢は35.8歳で、女性が68.1%(286/420人)であった。67.6%が、集中治療、呼吸器、感染症以外の専門科に所属していた。これらの参加者には、標準化された個人用防護具(防護服、マスク、グローブ、ゴーグル、フェイスシールド、ガウンなど)が支給された。 全員が武漢市の最前線の4つの病院で、重症または重篤なCOVID-19患者の治療に当たった。救急医療を必要とする患者が80%以上で、10~15%は機械的換気を要した。参加者は、週に平均5.4日、4~6時間の交代勤務で働き、集中治療室(ICU)の勤務時間は週に平均16.2時間だった。 420人の参加者全員がCOVID-19患者と直接接触し、少なくとも1回、AGP(気管挿管、非侵襲的な機械的換気、胃内挿管、痰の吸引、エアロゾル吸入、気管切開術、切開された気管の治療、咽頭拭い液の採取、口腔ケアなど)を行った。 6~8週の派遣期間中に、COVID-19関連症状を報告した参加者は1人もいなかった。また、武漢市から自宅へ戻ってからの逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査では、すべての参加者でSARS-CoV-2特異的核酸が陰性で、血清検査ではIgG抗体およびIgM抗体が陰性(95%信頼区間:0.0~0.7%)であった。 COVID-19への曝露歴のない医療従事者77人では、SARS-CoV-2への血清反応は認められず、COVID-19から回復した患者80人の血清検査では、SARS-CoV-2のIgM抗体またはIgG抗体のいずれかの力価が高かった。 著者は、「SARS-CoV-2への曝露のリスクが高いにもかかわらず、参加者は適切に保護されており、SARS-CoV-2感染はなく、防御免疫の発現も認めなかった」とまとめ、「保健システムにおいては、個人用防護具の調達と配布を優先し、その使用について十分な訓練を行う必要がある」としている。

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第12回 新型コロナ接触確認アプリ(COCOA)利用開始、DLは240万件超

<先週の動き>1.新型コロナ接触確認アプリ(COCOA)利用開始、DLは240万件超2.唾液で新型コロナウイルスの抗原検査が可能に3.初の“デジタル薬”? 禁煙治療アプリが承認4.厚労省が医療人材の求人情報サイト「医療のお仕事 Key-Net」を開設5.医師の時間外労働「年960時間+別枠420時間」を提言(日本医師会)1.新型コロナ接触確認アプリ(COCOA)利用開始、DLは240万件超厚生労働省は、新型コロナウイルスに感染した人と濃厚接触した疑いがある場合に通知を受けられるスマートフォン向けのアプリを、19日午後、インターネット上に公開した。このアプリを事前にダウンロードし、Bluetoothをオンにしておくことにより、15分以上1メートル以内の距離にいる場合、接触した相手として記録する。アプリは21日17:00時点で約241万回ダウンロードされており、14日経過するとデータの記録を消去するなど、個人のプライバシー保護に配慮したものとなっている。(参考)新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA) COVID-19 Contact-Confirming Application(厚労省)2.唾液で新型コロナウイルスの抗原検査が可能に加藤 勝信厚生労働大臣は、19日の会見で、唾液を使った新型コロナウイルス抗原検査についての検査試薬が承認されたことを明らかにした。痛みもなく、採取時に医療従事者の感染リスクも少なく、約30分で判定が可能となっている。感度はPCR検査と同程度とされており、PCRを補完するものとして期待されている。ただし、専用の機器が必要であり、現在対応できる検査機器は約800台と限りがある。今後、全国の医療機関での導入が進むかは予算措置などにもよると考えられる。(参考)全自動検査機器における新型コロナウイルス抗原検査試薬製造販売承認の取得について(みらかグループ)3.初の“デジタル薬”? 禁煙治療アプリが承認19日に開催された第2回 薬事・食品衛生審議会(医療機器・体外診断薬部会)において、ニコチン依存症治療アプリが医療機器として承認されることが了承された。このアプリは、禁煙外来に受診している紙巻きタバコを吸っている人が対象で、禁煙治療薬と併用する。禁煙指導患者に対して、禁煙の継続率を高めるために医師が処方するもので、医療機器として申請されており、日本国内で初めて承認された。今後、高血圧や糖尿病といった生活習慣病に対する治療アプリ利用が国内で増えるきっかけとなる可能性が高い。(参考)医師が処方する「治療用アプリ」として国内初の薬事承認へ(CureApp)第2回 薬事・食品衛生審議会(医療機器・体外診断薬部会)議題(厚労省)4.厚労省が医療人材の求人情報サイト「医療のお仕事 Key-Net」を開設新型コロナウイルス感染拡大に伴う医療人材不足に対して、厚労省は19日に、医療人材募集情報と求職者のマッチングを行うウェブサイト「医療のお仕事 Key-Net」を開設した。すでにサイトは一般に公開されており、全国の医療機関・保健所などの人材募集情報が掲載されている。医療機関などへの問い合わせや応募、面接までオンラインで完結するが、本サイトを通じて採用する者に対しては、厚労省の提示する研修(無料・数時間程度)を受講することが条件となっている。対象職種は、医師、保健師、助産師、看護師、准看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、薬剤師、救急救命士および事務職。(参考)医師・看護師・医療人材の求人情報サイト「医療のお仕事 Key-Net」の開設について(厚労省)5.医師の時間外労働「年960時間+別枠420時間」を提言(日本医師会)日本医師会は、17日の記者会見において「医師の特殊性を踏まえた働き方検討委員会」(委員長:岡崎 淳一元厚生労働審議官)が作成した答申を公表した。これによると、2024年度から開始予定の「罰則付き」時間外の上限時間の適用を猶予する内容である。実施に当たっては、大学附属病院の診療科によっては960時間が適用される場合があり、960時間では地域医療の支援は不可能となることなどから、地域医療支援機能を維持するために、960時間が上限の場合には、副業・兼業のために別枠として1週あたり8時間、年間420時間まで認める制度を導入する必要があるとされる。実施に当たって、対応が間に合わない部分については医療機関の判断に任せることを提言した。(参考)「医師の特殊性を踏まえた働き方検討委員会 答申」(日本医師会)

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ダイヤモンド・プリンセス104例からの知見(自衛隊中央病院)/Lancet Infect Dis

 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から搬送された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断された104例について臨床的特徴を分析した単一施設・後ろ向き研究の結果が発表された。自衛隊中央病院のチームによるもので、これまで同病院のサイトで公開されたまとめを論文化したものが、2020年6月12日にLancet Infectious Diseases誌オンライン版に掲載された。 2020年2月11日~25日に自衛隊中央病院に入院したCOVID-19感染者を対象とし、臨床記録、検査データ、放射線検査の所見を分析した。追跡期間は、退院もしくは2月26日のどちらか早い日まで。期間中にダイヤモンド・プリンセス号の乗客・乗員3,711人が船内の検疫における咽頭スワブのPCR検査を受け、SARS-CoV-2陽性となった患者のうち、合意のとれた104例が対象となった。 ダイヤモンド・プリンセス号から搬送されたCOVID-19感染者の重症度は、以下のように定義した。・臨床徴候および症状なし:無症候性・重い肺炎(呼吸困難、頻呼吸、SpO2<93%、および酸素療法の必要性)あり:重症・上記以外:軽症 追跡終了時に、無症候性を含むさまざまな重症度の患者における入院時の臨床的特徴を比較し、無症候性と臨床症状のある患者の疾患の進行に関連する要因について、単変量解析を用いて特定した。 ダイヤモンド・プリンセス号から搬送されたCOVID-19感染者の臨床的特徴を分析した主な結果は以下のとおり。・参加者の年齢は25~93歳、年齢中央値は68歳(IQR:47〜75)だった。・男性が54例(52%)、東アジアからの参加者が55例(53%)と最も多かった。・観察期間は3~15日(中央値10日、IQR:7〜10)だった。・52例(50%)に何らかの併存症があった。・重症度は以下の通り(いずれも入院時/全観察期間)だった。  無症候性:43例(41%)/33例(32%)  軽症:41例(39%)/43例(41%)  重症:20例(19%)/28例(27%) 入院時に無症候性だった43例のうち、観察期間終了時まで無症状だった33例と症状の発現した10例を比較したところ、最後まで無症状だった33例中17例は入院時の胸部CTの所見に異常が見られ(原著論文で検査画像を提示)、うち3例は酸素療法を必要とするまで悪化した。症状発現の有無に性別、年齢、併存症による有意差は見られなかった。 観察期間終了時における軽症例(43例)と重症例(28例)との比較では、重症例のほうが高齢(60歳 vs.73歳、p=0.028)で、入院時の胸部CT異常の割合(65% vs.86%、p=0.062)とリンパ球減少の割合(23% vs.57%、p=0.0055)も重症例のほうが高かった。 まとめとして自衛隊中央病院チームは、ダイヤモンド・プリンセス号から搬送されたCOVID-19感染者の分析結果からは、LDH高値が有症状の予測因子となり、高齢、胸部CT画像のすりガラス影、リンパ球減少が疾患進行の潜在的リスク因子だと示唆している。

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COVID-19流行期の小児炎症性多臓器症候群、その臨床的特徴は?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生率が高い地域では、通常とは異なる発熱や炎症の症候群を呈する子供の症例が報告されている。そこで、英国・Imperial College Healthcare NHS TrustのElizabeth Whittaker氏らは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による感染症流行期の小児炎症性多臓器症候群(PIMS-TS)の判定基準を満たした入院患児の調査を行い、発熱や炎症から心筋障害、ショック、冠動脈瘤の発現まで、さまざまな徴候や症状とともに、重症度にも違いがみられることを明らかにした。JAMA誌オンライン版2020年6月8日号掲載の報告。58例の臨床的特徴を抽出し、他の炎症性疾患と比較 研究グループは、PIMS-TSの判定基準を満たした入院患児の臨床所見や検査値の特徴を調査し、これらの特徴を他の小児炎症性疾患と比較する目的で、症例集積研究を行った(英国国立健康研究所[NIHR]などの助成による)。 2020年3月23日~5月16日の期間に、イングランドの8つの病院に入院したPIMS-TS患児58例を対象とした。最終フォローアップ日は2020年5月22日。 診療記録を精査することで、臨床所見や検査値の特徴を抽出し、2002~19年に欧米の病院に入院した川崎病(1,132例)、川崎病ショック症候群(45例)、毒素性ショック症候群(37例)の臨床的特徴と比較した。感染率78%、年齢が高く、炎症マーカーが高値 58例の年齢中央値は9歳(IQR:5.7~14)で、女児が33例(57%)であった。SARS-CoV-2のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査では15例(26%)が陽性で、SARS-CoV-2のIgG検査では46例中40例(87%)が陽性であった。全体として、58例中45例(78%)で現在または過去のSARS-CoV-2感染のエビデンスが得られた。 全患児に、発熱と非特異的症状(嘔吐26/58例[45%]、腹痛31/58例[53%]、下痢30/58例[52%])が認められた。発疹は58例中30例(52%)に、結膜充血は58例中26例(45%)にみられた。 検査値の評価では、著明な炎症が認められた。たとえば、C反応性蛋白(CRP)中央値(58例全例で測定)は229mg/L(IQR:156~338)で、フェリチン(58例中53例で評価)中央値は610μg/L(359~1,280)であった。 58例の患児のうち、29例がショック(心筋機能障害の生化学的エビデンスを伴う)を来し、強心薬および蘇生輸液を要した(29例中23例[79%]が機械的換気を受けた)。13例は米国心臓協会(AHA)の川崎病の定義を満たし、23例はショックや川崎病の特徴を伴わない発熱および炎症所見を有していた。8例(14%)には、冠動脈拡張と冠動脈瘤が発現した。 PIMS-TSを川崎病および川崎病ショック症候群と比較したところ、臨床所見や検査値の特徴に違いが認められた。たとえば、PIMS-TSは、これら2つの炎症性疾患に比べ年齢中央値が高く(PIMS-TS:9歳[IQR:5.7~14]vs.川崎病:2.7歳[1.4~4.7]vs.川崎病ショック症候群:3.8歳[0.2~18])、CRP中央値(229mg/L[IQR:156~338]vs.67mg/L[40~150]vs.193mg/L[83~237])などの炎症マーカーが高値を示した。 著者は、「これらの知見は、重篤なPIMS-TSで入院した患児の臨床的特徴を示しており、この明らかに新しい症候群の実態を理解するのに役立つだろう」としている。

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職場における新型コロナ感染予防ガイドを改訂/日本産業衛生学会

 日本渡航医学会と日本産業衛生学会は2020年5月より両学会のサイト上で、産業医を中心とした産業保健従事者向けに「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド」を公開している。6月3日には感染状況などの変化を踏まえ、改訂した第2版を公開した。 このガイドでは、産業保健職の役割や感染症流行時におけるリスクコミュニケーションなどの基本事項を押さえたうえで、国内の新型コロナウイルス感染症の流行状況を5つのフェーズに分け、各フェーズにおける主要な対応をまとめている。 続けて、職域における感染予防対策の基本として、個人の感染予防(手指衛生および咳エチケット)、従業員の感染管理(従業員の健康状態のモニタリング方法、相談および受診の目安)を詳細に紹介。従業員の中に「疑い者」が出た場合、職場復帰の目安として1) 発症後に少なくても 8 日が経過している、2) 薬剤を服用していない状態で、解熱後および症状消失後に少なくても3日が経過している、という両方の条件を満たすこと、と定義した。また、「医療機関には原則として『陰性証明書や治癒証明書』の発行を求めてはならない」という注意も示されている。 事業所内の消毒方法や消毒時の注意点、職域においてソーシャルディスタンシングを保つためのツールやヒント、従業員に濃厚接触者や感染者が発生した場合の対応方法や保健所との連携法、出張者や駐在員への対応法など、51ページにおよぶ内容は実践的で多岐に渡るテーマが網羅されている。在宅勤務の広がりに伴う従業員のメンタルヘルス対策についても言及している。 企業に向けてアドバイスを行う産業医・産業保健職はもちろんのこと、実際の対策にあたる企業の総務・労務担当者にとっても役立つ内容が多い。

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新型コロナ抗原検査、発症2~9日は陰性でもPCR不要に/厚労省

 新型コロナウイルス感染症への感染を調べる抗原検査について、厚生労働省は6月16日付でガイドラインを改定した。この改定による大きな変更点は、発症2~9日目の患者に限り、抗原検査で陰性となった場合でも、追加のPCR検査が不要となったことだ。 抗原検査は、検査キットを使い、わずか30分程度で感染の有無を判断できる迅速性がメリットだが、偽陰性が生じるリスクがある。このため従来のガイドラインでは、陽性の場合は診断が確定できるものの、陰性の場合には確定診断のために改めてPCR検査を実施することになっていた。この煩雑なフローにより、当初はPCR検査の不足分を補う検査として期待されていたものの、実際には抗原検査が診療現場に広がったとは言い難い状況だった。 しかし今般、川崎市健康安全研究所や東邦大学医療センター大森病院、国立国際医療研究センター、それに自衛隊中央病院において、院内陽性者の発症後日数と PCR検査および抗原検査の結果を調査したところ、いずれも発症2~9日以内の症例では保有するウイルス量が多く、PCR検査と抗原検査の結果の一致率が高いとの研究結果が示された。このため改定ガイドラインでは、「新型コロナウイルス感染症を疑う症状発症後2日目から9日目以内の者(発症日を1日目とする)については、本キットで陰性となった場合は追加の検査を必須とはしない」と変更された。

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新型コロナ感染妊婦、転帰良好で母子感染はまれ/BMJ

 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に感染し入院した妊婦のほとんどは、妊娠中期後半~後期で、重症ではなくアウトカムは良好であり、母子感染はまれであることが明らかにされた。英国・オックスフォード大学のMarian Knight氏らが、同国でのCOVID-19で入院した妊婦を対象に、SARS-CoV-2感染の要因とその予後、ならびに母子感染について検討する前向きコホート研究の結果を報告した。なお、感染が認められ入院した妊婦の半数以上が黒人、アジア系および他の少数民族であったことから、著者はその割合の高さについて「早急な調査と解明が必要である」との見解を示している。BMJ誌2020年6月8日号掲載の報告。全英でSARS-CoV-2感染が認められ入院した妊婦427例について解析 研究グループは、英国の産科全194施設が参加しているUK Obstetric Surveillance System(UKOSS)のデータを用い、2020年3月1日~4月14日の期間にSARS-CoV-2感染が確認され入院した妊婦427例を対象に前向きコホート研究を実施した。 主要評価項目は、妊婦の入院率および新生児の感染率とし、妊婦の死亡率、レベル3の集中治療室(CCU)への入室率、胎児死亡率、帝王切開分娩率、早産率、死産率、早期新生児死亡率、新生児室への入室率についても検討した。妊婦の転帰は良好、母子感染はきわめてまれ SARS-CoV-2感染妊婦の推定入院率は、4.9/1,000人(95%信頼区間[CI]:4.5~5.4)であった。 妊娠中にSARS-CoV-2感染が認められ入院した妊婦427例中、233例(56%)が黒人・アジア系・他の少数民族で、281例(69%)が過体重または肥満、175例(41%)が35歳以上、145例(34%)に合併症があった。解析時点で161例(38%)は妊娠継続中であり、266例(62%)が出産または妊娠中断(生児出産259例、流産4例、死産3例)に至った。266例中196例(73%)が正期産であった。 人工呼吸管理を必要としたのは41/427例(10%)、死亡は5例(1%)であった。 新生児265例(双子6組を含む)中12例(5%)がSARS-CoV-2 RNA陽性で、このうち6例の感染が確認されたのは産後12時間以内であった。 なお、本研究は進行中であり、全感染率や無症候性感染に関するデータについてはまだ提示されていない。

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COVID-19対応で市民へ9つの提言/日本感染症学会・日本環境感染学会

 6月15日、日本感染症学会(理事長:舘田 一博氏)と日本環境感染学会(理事長:吉田 正樹氏)は、連名で新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」という)に関して一般市民向けに「第一波を乗り越えて、いま私たちに求められる理解と行動」と題する提言を発表し、ホームページで公開した。 今回の提言では、本年初頭からのCOVID-19の感染流行とわが国のたどった経過を振り返るとともに、先に発表された「新型コロナウイルス感染症に対する注意事項」とあわせて市民が知っておいてほしいCOVID-19の特徴や今後の生活様式などについて9項目が提示されている。 とくに危惧される第二波について、到来は不明としながらも「11月以降の秋から冬にかけて増加することを想定しておかなければならない」と指摘、その際には「決してパニックになることなく、冷静に対応していくことが極めて重要」と注意を促している。また、社会問題化している医療者・感染者への差別や偏見についても「社会全体としての連携・協力が必須」とし、学会でも引き続き活動を行うと表明している。 提言の最後には、「世界的な広がりを見せるCOVID-19を抑え込むには、私たち一人一人の理解と行動が極めて重要」と市民への協力を求めている。求められる理解と行動の9項目1.COVID-19の世界的な感染の広がりはまだ続いています。2.会話や発声による感染伝播のリスクが明らかになりました。3.いわゆる“3密”を避ける生活様式が求められています。4.高齢者は重症化するリスクが高いことに注意しなければなりません。5.PCR等遺伝子検査に加え、抗原検査、抗体検査が検討されています。6.無症状感染者を介して水面下で感染が広がるリスクがあります。7.メリハリをつけた感染対策が求められています。8.第二波は来るのか? 来るとすればいつ頃、どのくらいの規模で?9.差別や偏見のないように。

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新型コロナ、日本人の抗体保有調査の結果を発表/厚労省

 2020年6月16日、厚生労働省は3都府県で6月1日より実施していた新型コロナウイルスの抗体保有調査の結果を発表。その結果、大半の人が抗体を保有していないことが明らかになった。本調査は日本での抗体保有状況の把握のため、2020年6月1~7日にかけて東京都・大阪府・宮城県の一般住民それぞれ約3,000名を無作為化抽出して行われた。対象者は本調査への参加に同意した一般住民(東京都1,971名、大阪府2,970名、宮城県3,009名、計7,950名)。 本調査では陽性判定をより正確に行うため、2種の検査試薬(アボット社、ロシュ社)の両方において陽性が確認されたものを「陽性」とした。 主な結果は以下のとおり。・各自治体の抗体保有率は、東京都:0.10%(2人)、大阪府:0.17%(5人) 、宮城県:0.03%(1人)だった。・5月31日時点での累積感染者数は、東京都:5,236人(0.038%)、大阪府:1,783人(0.02%)、宮城県:88人(0.004%)だった。 ・上記を踏まえると、各自治体の抗体保有者は累積感染者数と比較すると多いが、依然として大半の人が抗体を保有していなかった。・モコバイオ社の試薬による測定値は参考値として記載されており、それぞれ、東京都:1.07%、大阪府:1.25%、宮城県:1.20%だった。 なお、厚生労働省は「本事業は国全体として過去に新型コロナウイルスに感染した人の割合を推定するものであり、個別に現在の感染を診断するための調査ではない。現時点でこれらの抗体の性質(体内での持続期間や、2回目の感染から守る機能があるかどうか)は確定していない」としている。

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MRワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第1回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ワクチンで予防できる疾患、VPD(Vaccine Preventable Disease)は、数えられるほどしかない。しかし、世界ではいまだに多くの子供や大人(時に胎児も)が、ワクチンで予防できるはずの感染症に罹患し、後遺症を患ったり、命を落としたりしている。わが国では2012~2013年の風疹大流行(感染者約17,000人)に引き続き1)、2018~2019年にも流行した(感染者5,000人以上)。その影響もあり、日本は下記期間において世界3位の風疹流行国となっている2)(図1、表1)。風疹ワクチンのもっとも重要な目的は先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrom:CRS)の予防である。それには、風疹が流行しないよう、風疹含有ワクチン接種により集団免疫を高めることが何より重要である。図1 2019年3月~2020年2月(1年間)の風疹発生数と発生率(100万人当たり)画像を拡大する表1 風疹患者数(上位10ヵ国)Global Measles and Rubella Monthly Update (Accessed on April 24, 2020)より引用画像を拡大する一方、麻疹は、世界で約14万人の命を奪う(2018年推計)ウイルス感染症である。麻疹の死亡率は先進国でさえも約1,000人に1人といわれており、重症度の高い感染症である。感染力も強いため、風疹と同様、予防接種により高い集団免疫を獲得する必要がある。しかし、日本国内での麻疹の散発的流行はいまだ絶えない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る緊急事態宣言が解除された今なお、予防接種は不要不急だと考え接種を控えるケースが見受けられる。しかし「ワクチンと新型コロナウイルスと検疫」でも述べられているように、予防接種(特に小児)は適切な時期に受けることが重要であり、接種を延期する必要はない。過度な制限や自粛により、予防できるはずの感染症に罹患してしまうことは避けなければならない3)。麻疹・風疹の概要VPDの第1弾として、「麻疹・風疹」を取り上げる。麻疹・風疹ワクチンともに、経済性、安全性、有効性に優れており費用対効果も高い。日本国内における麻疹・風疹の感染流行の首座は、小児よりも青年・成人である。そのため、あらゆる年代、あらゆる受診機会に触れるプライマリケア医からの啓発が、非常に重要かつ効果的である。麻疹について1)麻疹の概要感染経路:空気感染、飛沫感染、接触感染潜伏期:10~12日周囲に感染させうる期間:症状出現1日前~解熱後3日間感染力(R0:基本再生産数):12-18感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:解熱後3日経過するまで)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、一人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。2)麻疹の臨床症状麻疹の特徴は、感染力の強さと重症度の2つである。空気感染する感染症は、麻疹以外では結核と水痘がある。感染力を表すR0(アールノート)は、インフルエンザが1-2、COVID-19が1.3-2.5(5月時点)なので、麻疹はこれらの約10倍に相当する極めて強い感染力をもつ。典型的な麻疹の臨床経過は、10~12日程度の潜伏期ののち、3つの病期を経る。感染力がもっとも強いカタル期(2~4日間)には、高熱、上気道症状、目の充血、コプリック斑などが出現する。その後、一旦解熱し、再度高熱(二峰性発熱)と全身性の紅斑(発疹期)が拡がる(3~5日間)。発疹が出て3~4日後に徐々に解熱し回復する(回復期)。麻疹に対する免疫をもたない人が感染すると、約3割に合併症が生じ、肺炎や脳炎、中耳炎、心筋炎などを来す。肺炎や脳炎は2大死亡原因と言われ、乳児では麻疹による死亡例の6割が肺炎に起因する。まれではあるが罹患してから数年後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重篤な合併症を来すこともある。病歴や臨床症状から疑い、血清学的検査(IgM抗体、IgG抗体など)やPCR検査(咽頭、尿など)などにより確定診断をする(詳細は「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第7版」4)を参照)。特異的な治療法はないため、対症療法が中心である。3)麻疹の疫学麻疹の感染者は、全数報告が開始された2008年が約1万1,000例だったが、2009年以降は、毎年数十~数百例の報告数である。2016年は165例、2017年は186例、2018年282例と続き、2019年は744例と多かった。かつては5歳未満の小児が主な感染者であったが、2011年頃からは20~30代の患者が半数以上占めている5)。2019年は感染者の56%が20~30代であり、主な感染者は接種歴のない乳児を除いて、30代をピークとした成人であることがわかる(図2、3)。図2 年齢群別接種歴別麻疹累積報告数 2019年第1~52週(n=744)画像を拡大する図3 年齢別麻疹累積報告数割合 2019年第1~52週(n=744)国立感染症研究所 感染症発生動向調査 2020年1月8日現在より引用画像を拡大する4)麻疹の抗体保有率抗体保有率は麻疹の感受性調査として、ほぼ毎年国立感染症研究所より報告されている。抗体価はあくまで免疫能の一部を表しているに過ぎないため、抗体価が基準を満たせば良い、という単純な話ではない(総論第4回 「抗体検査」参照)。しかし、年代と抗体保有率との相関性をみることで、ある程度の傾向が把握できるため紹介する。麻疹の抗体保有率(PA法16倍以上:図4赤線)は1歳以上の全年代で95%以上を維持しているが、修飾麻疹を含めた発症予防可能レベルは128倍以上が望ましい6)(図4:緑線)。10代と60代以上で128倍の抗体価を下回る人が多く、注意が必要である。また、すべての年代で128倍未満のものがいることから、輸入麻疹による感染拡大の危機は常につきまとうことになる。図4 麻疹の抗体価保有状況 2019年感染症流行予測調査より(2020年2月暫定値)国立感染症研究所 2019年感染症流行予測調査(2020年2月暫定値)より引用画像を拡大するわが国は2015年3月27日にWHOによる麻疹排除認定を受けた。麻疹排除認定の定義とは「質の高いサーベイランスが存在するある特定の地域、国等において、12ヵ月間以上継続した麻疹ウイルスの伝播がない状態」とされている。これは土着の麻疹ウイルスが国内流行しなくなった状態を意味するだけであり、土着でない、海外から持ち込まれた“輸入麻疹”は、麻疹排除認定後も、2020年現在まで国内で散発的にみられている(図5)。近年の代表的な事例として、2018年には海外からの旅行者を発端とした沖縄での集団感染(101例)や、2019年にはワクチン接種率の低い三重県の宗教団体関係者を中心とした集団感染(49例)などがある。その感染力の高さから4次や5次感染を来した事例も複数報告されている7)。その他、医療関係者、教育関係者、空港職員などが感染した事例も多く、不特定多数の人に接触しうる職種は特に、あらかじめワクチン接種により免疫を獲得しておくことが重要である。図5 麻疹累積報告数の推移 2013~2020年第15週 (2020年4月15日現在)国立感染症研究所 感染症発生動向調査より引用画像を拡大する麻疹はアジア・アフリカ諸国を始め、世界各国で流行が続いており、2019年は40万人以上が罹患したと報告されている。一方で、わが国への出入国者数は年々増加し、年間5,000万人を超えている。つまり、日本全体が麻疹に対する強固な集団免疫を獲得しないと、世界各国とのアクセスが容易な現代においては、“ふと”やってくる輸入麻疹を防げないのである。風疹について1)風疹の概要感染経路:飛沫感染、接触感染潜伏期:14~21日周囲に感染させうる期間:発疹出現前後1週間感染力(R0:基本再生産数):5-7感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:発疹が消失するまで)2)風疹の臨床症状風疹は、比較的予後の良い急性ウイルス感染症である。しかし、妊婦が風疹に罹患すると、その胎児に感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)が発生する可能性がある(後述)。風疹の主な感染様式は、風邪やインフルエンザと同様に飛沫感染であり、感染力は比較的強い(R0は5-7)。風疹の臨床経過について。2~3週間の潜伏期の後、軽い発熱と淡い全身性発疹が同時に出現する。その他、耳下や頸部リンパ節腫脹も特徴的で、関節痛を伴うこともある。発疹は3~5日程度で消失するため、風疹は“三日はしか”とも言われる。風疹ウイルスに感染した成人の約15%は不顕性感染(感染していても症状がでない)であり、たとえ症状がでても軽度なことも多い。そのため、自分が感染していることに気付かず、他人に感染させてしまう可能性がある。診断方法:臨床症状から疑い、血清検査(IgMやIgGなど)にて確定診断を行う。治療:CRSも含め、風疹に特異的な治療法はなく対症療法が中心となる。そのため、ワクチンがもっとも有効な予防方法となる。予後は基本的には良好だが、時に血小板減少性紫斑病や脳炎を合併することがある。3)先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)冒頭で述べたように、日本では2012~13年および2018~19年に風疹が流行した。2012~13年には17,000人以上の風疹感染者と45人のCRSが、2018~19年には5,000人以上の風疹感染者と5人のCRSが届出された。妊婦の風疹感染により流産や胎児死亡が起こりうることから、より多くの妊婦と胎児が風疹感染の犠牲となった可能性がある。CRSとは、風疹に対する免疫が不十分な妊婦が、妊娠中に風疹に罹患し、経胎盤感染により胎児が罹患する症候群である。3大症状は難聴、先天性心疾患、白内障であり、その他、肝脾腫、糖尿病、精神運動発達遅滞などを来す。妊婦(風疹に対する免疫が不十分な場合)の風疹感染によるCRS発生率は妊娠週数によって異なり、妊娠初期の感染は80%以上と非常に高率である(妊娠4~6週で100%、7~12週で約80%、13~16週で45~50%、17~20週で6%、20週以降で0%8))。2012~13年に発生したCRS45人の追跡調査で、11人が死亡していたことがわかり、致死率は24%と報告された。そのほとんどが重度の先天性疾患が死因となった1)。一方、CRS児の母親の年代は14~42歳と幅広く、風疹含有ワクチン接種歴が2回確認された母親はいなかった(接種歴1回が11例、なしが19例、不明が15例)。妊娠可能年齢の女性に対する風疹ワクチンの2回接種がいかに重要であるかがわかる。また、4例の母親には妊娠中に感染症状がなかった(31例は症状あり、10例は不明)ことから、不顕性感染によるCRSであったことが推測される。CRSもワクチンで予防できるVPDである。また、風疹流行は、妊婦にとって脅威である。妊娠可能年齢の女性やそのご家族には、積極的に風疹ワクチン2回の接種歴を確認し、不足回数分の接種を推奨いただきたい。4)風疹の疫学と抗体保有率近年の風疹流行の首座は成人(感染者の9割以上)であり、中でも20~50代の男性が約7~8割を占める9)。これらの年代は働き盛り、かつ子育て世代でもあることから、職場や家族内感染が主な感染源と推定された10)。一方、女性の感染者では妊娠可能年齢の20~30代が女性感染者全体の6割を占め、CRS予防の観点からも、憂慮すべきデータである。抗体保有率も上記の年代で低いことがわかる(図6)。風疹抗体価についてはHI法8倍以上(図6:赤線)で陽性とされるが、感染予防には16倍以上(図6:黄線)、さらにはCRS予防には32倍以上(図6:青線)が望ましい。男性については30~50代において抗体価が低いことがよくわかる。近年の風疹流行の首座の年代である。この年代で抗体価が低いのは、後述する過去の予防接種制度の煽りを受けたことが原因であり、昨年度から全国で開始された「風疹第5期定期接種」の対象年齢(1962~1979年生まれ)が含まれる。一方、女性では、HI法8、16倍以上の抗体保有率は高いものの、CRS予防に望ましい32倍以上(図6:青線)の抗体保有率は妊娠可能年齢(10~40代)では7~8割にとどまる。やはり小児期に2回の定期接種が義務付けられていなかった年代が含まれており、男性のように成人に対する定期接種制度はないため、日常診療における接種歴の確認が重要となる。図6 男女別の風疹抗体保有率 2018年画像を拡大する国立感染症研究所 年齢別/年齢群別の風疹抗体保有状況、2018年より引用画像を拡大する妊娠可能年齢の女性やその家族には、あらかじめ風疹ワクチンでの予防措置を講じておくことが非常に重要である。ワクチンの概要(効果・副反応、生または不活化、定期または任意、接種方法) 1)麻疹・風疹ワクチン(表2)画像を拡大する効果(免疫獲得率)麻疹ワクチン:1回接種により免疫獲得率93~95%以上、2回接種で97~99%3)風疹ワクチン:1回接種による免疫獲得率は95%、2回接種では約99%11)副反応:一部(10~30%)に軽度の麻疹様発疹や風疹様症状(発熱、発疹、リンパ節腫脹、関節痛など)を伴うことがあるが、いずれも軽度で数日中に消失する一過性のものである。その他、ワクチン接種による一般的な副作用以外に、MRワクチンに特異的な副反応報告はない。禁忌:発熱や急性疾患に罹患中の人、妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往がある人注意事項:生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。ただし、この期間に妊娠しても、母体や胎児に問題が生じた報告はない。また、輸血製剤またはガンマグロブリン製剤投与後は6ヵ月の間隔をあけてから接種する。麻疹風疹(MR)ワクチンは、2006年から小児に対して2回の定期接種(1期、2期)が定められた。1期(1歳)の接種率は目標の95%以上を維持しているが、2期(5~6歳)についてはいまだ93~94%で推移している12)。あらゆる機会を利用してキャッチアップを行うことにより、すべての人が生涯で計2回のワクチン接種が受けられるような啓発や取り組みが喫緊の課題である。2)麻疹の緊急ワクチン接種麻疹患者との接触者で、麻疹に対する免疫がない人は、接触後72時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性がある(緊急ワクチン接種)4)。1歳未満の乳児でも、生後6ヵ月以降であれば曝露後接種は可能である(自費)。しかし、この場合は母親からの移行抗体によりワクチンウイルスが中和されてしまう可能性もあるため、必ず1歳以降で2回の定期接種を受ける必要がある。3)接種のスケジュール(小児/成人)麻疹・風疹ワクチンは、いずれも1歳以上で生涯計2回接種することで、麻疹・風疹ウイルスに対する免疫能を高率に獲得できる。血清検査で診断された罹患歴がなければ、不足回数分の接種を推奨する。ウイルス抗体価の測定は必須ではない。理由は前述の「抗体検査」で述べられたとおりであり、改定された日本環境感染学会のワクチンガイドラインでも同様の考えに基づくアルゴリズムが提示されている13)。抗体価は参考値として測定することはあっても、あくまで接種歴の方が重要度としては高い。よって、抗体価を測定せずに、接種歴の情報を元に接種回数を決めてよい。接種歴がわからない(もしくは、接種した記憶はあるが、記録がない)場合は、接種しすぎることによる害はないため「接種歴なし」として、1ヵ月以上の間隔をあけて、2回の接種を推奨する。4)小児期に2回の麻疹・風疹ワクチン接種が定期接種となった年代麻疹・風疹(それぞれ単独)ワクチン:2000年4月2日生まれ以降の人(表3)は、小児期に麻疹・風疹含有ワクチンが定期接種化されている年代である。ただし、1990年4月2日生まれ~2000年4月1日生まれまでの人(特例措置の年代)の接種率は80%台と低かった。どの年代においても接種歴の確認が重要である。特例措置:麻疹または風疹ワクチンの2回目を、中学1年生(第3期)と高校3年生相当(第4期)に対象者を拡大して5年間の期間限定で接種が行われた。表3 出生年月日および性別別の早見表:麻疹(上段)、風疹(下段)画像を拡大する5)成人に対する風疹第5期定期接種14)1962年4月2日生まれ以降~1979年4月1日生まれの年代(41~58歳)は、小児期の予防接種制度の影響で、小児期に風疹含有ワクチンを2回接種する機会がなかった。そのため、先述したように風疹抗体保有率が低く、風疹流行の首座となってしまった。この世代に対して、2019年度から全国で該当者(風疹含有ワクチンの接種歴がなく罹患歴もないなど)には無料で風疹の抗体価測定を行い、抗体価が不足している場合(HI法8倍以下)は、無料でMRワクチンを接種できる“風疹第5期定期接種”が開始された。しかし、2020年4月時点でクーポン券を使用した抗体検査実施率は16.2%、予防接種実施割合は3.4%と低迷している15)。プライマリケア医による能動的な情報提供、啓発が望まれる。日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)繰り返しになるが、麻疹・風疹ともに、罹患歴がなければ1歳以上で生涯2回の接種が必要である。接種歴がないまたは不明の場合は、接種しすぎることによる害はないため、任意接種であれば、1ヵ月あけて2回の接種を推奨する。麻疹または風疹のいずれか一方のみの接種を希望する人がいた場合、2回の接種歴が記録で確認できなければ、MRワクチンでの接種を推奨する。下記、MRワクチン接種を負担なく啓発できる工夫について何点かご紹介する。1)外来における工夫(1)小児の受診時受診理由に関わらず、母子手帳の提出をルーチン化する。電話予約時に一言添える、受付時や看護師の予診時などに提出をお願いする。これを習慣化すると、受診者全体に徐々にその文化が根付いていく。医師が診療前後に母子手帳の接種記録を確認し、不足しているものがあれば推奨する。ワクチンスケジュールの知識がある看護師などが担当してもよい。(2)カルテ記録プロブレムリストに「ヘルスメンテナンス」または「予防接種歴」を追加する。医師自身がリマインドできるシステムを作る。外来で扱う主要なプロブレムが落ち着いたときに、患者さんに一言接種歴の確認をするだけでも良い。余裕ができたときに、不足しているワクチンについて紹介、接種の推奨をする。(3)ポスターを掲示するワクチン接種についてのポスターを待合室に掲示する。リーフレットとして配布してもよい15)。2)積極的にワクチン接種を推奨したい対象者(1)妊娠可能年齢の女性とその家族あらゆる感染症は、妊婦の流産早産に関連しうる。CRSを含めたVPDとそのワクチンについて情報提供する。特に、妊娠中は接種が禁忌となる生ワクチン(風疹・麻疹・水痘・ムンプス)について、妊娠前にあらかじめ免疫をつけておくことが重要であることを情報提供する。妊娠希望の女性に対して、MRワクチン接種の助成がある自治体も多い。自治体によっては、そのパートナーにも助成を出しているところもある。あらかじめ自身の自治体の助成制度の確認を行い、該当者がいれば渡せるように当該ページを印刷しておくとよい。(2)風疹第5期定期接種の対象者(41~58歳:2020年4月中旬時点)接種率の低さから、自宅に風疹対策のクーポン券(無料で受けられる風疹抗体検査の受診券)が届いていても、それに気付いていない、またはその重要性を知らず放置している例も多いことが考えられる。定期接種の対象である年代については、受付などで、対象者であることを示す札や目印を作成し、受診時に医療スタッフから制度利用の推奨・案内をできるようにしておくとよい。自宅に定期接種のクーポン券が届いていないかどうか事前に確認し、検査を推奨する。届いていなければ地域の保健所に問い合わせるよう促せば対応してくれる。(3)海外渡航予定のある人海外では麻疹流行国が多数ある。渡航先に関わらず、海外渡航時はルーチンワクチンをキャッチアップする良い機会である。あれば母子手帳をもとに、なければ麻疹を含めたVPDについてしっかり話し合う。長期出張の場合は会社からの補助がでないか、家族同伴の場合は家族の予防接種状況も含めて、安心かつ安全な海外渡航となるよう、サポートする。(4)不特定多数の人と接触する職業(空港など)・医療職・教育関係者などこれらの職業の人は、感染リスクが高く、感染した場合の公衆衛生学的なインパクトも大きい。これらの職業に携わる人には、積極的にワクチン接種歴の確認をし、不足回数分の接種を推奨する。今後の課題・展望世界では、世界保健機関(WHO)などにより、麻疹および風疹排除を加速させる活動が進められている(Global Vaccine Action Plan 2011-2020)。わが国では、2015年に認定された麻疹排除認定を取り消されることがないよう、小児定期接種の高い接種率(1、2期ともに95%以上)を目指すと同時に、海外から麻疹ウイルスを持ち込まれても、国内流行につながらない高い集団免疫を目標にしなければいけない。風疹については、2014年3月に厚生労働省が「風疹に関する特定感染症予防指針」を策定した。この指針は、早期にCRSの発生をなくし、2020年度までに風疹排除(適切なサーベイランス制度のもと、土着株による感染が1年以上確認されないこと)を達成することを目標としている(なお、2020年1~4月の風疹感染者数は73人とCRSが1人、4~5月は3人、CRSは0人15,17))。プライマリケア医には、既存の制度(自治体の助成制度や風疹第5期定期接種など)の積極的利用の促進、また、日常診療内で幅広い年代に対する能動的な啓発および接種歴の確認・推奨を行うことが望まれる。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省1)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告(IASR;Vol.39:p33-34.)2)Global Measeles and Rubella Monthly Update(pptx). Measeles and Rubella Surveillansce Data WHO (Accessed on March,2020)3)新型コロナウイルス感染症に対するQ&A 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会(2020年4月20日更新)4)医療機関での麻疹対応ガイドライン第7版 国立感染症研究所 感染症疫学センター (2018年4月17日)5)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹[2019年2月現在](IASR Vol.40.p.49-51.)6)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹の抗体保有状況2018年(IASR.Vol.40.p.62-63.)7)多屋馨子. モダンメディア. 2019;65:29-37.8)Ghidini A,et al. West J Med. 1993;159:366-373.9)風疹および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第3版(国立感染症研究所 2018年1月24日)10)風疹流行に関する緊急情報:2019年12月25日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)11)風疹Q&A[2018年1月30日改定](国立感染症研究所)12)麻疹風疹予防接種の実施状況(厚生労働省)13)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版(日本環境感染学会)14)風疹の追加的対策 専用ページ(厚生労働省)15)風疹に関する疫学情報 2020年4月8日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター )16)予防接種啓発ツール(厚生労働省)17)風疹に関する疫学情報 2020年6月3日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)講師紹介

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第11回 クラスター発生の永寿総合病院、「支援・寄付一覧」から見えてきたものは?

院長がホームページで謝罪こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。さて、東京では、都民に警戒を促すための“東京アラート”が解除され、ロードマップも「ステップ3」に移行、あとは6月18日の都知事選公示を待つだけとなりました。しかし、案の定、14日(日)と15日(月)には、都内で新たに50人近くの新型コロナウイルス感染者が確認されています。このロードマップ、患者数や医療機関の状況を勘案したものというよりは、小池百合子都知事の政治日程を優先したものだったのでは…と勘ぐりたくもなります。もっとも、お笑い芸人の不倫報道や、都知事選関連の報道を見ていると「ウィズ・コロナ」の日常が徐々に始まっている、ということなのでしょう。さて、今回気になったのは、新型コロナウイルスによる国内最大規模のクラスターが発生した永寿総合病院(東京都台東区)のサイトに6月2日に掲載された「永寿総合病院への励ましやご支援ありがとうございます」のお知らせと、続いて6月8日に掲載された湯浅 祐二院長による「診療再開にあたって」の一文です。同病院で新型コロナウイルス感染症が発生したのは3月20日前後。発熱のあった2人の入院患者を起点として院内感染が起きました。対応が後手に回った結果、医療体制が危機的状況に陥り、これまでに計214人が感染し、入院患者43人が死亡しています。感染症対策はしっかりと行っていたが不十分だった感染が明らかになって約2カ月半超、6月8日掲載の「診療再開にあたって」の文章の冒頭で湯浅院長は、「入院中の患者様及び職員に多数の感染が発生し、私どもに求められている地域医療の中核病院としての役割を果たせない状況となり、地域の皆様をはじめ、多くの方々に大きな不安を与えてしまいましたことを大変申し訳なく思っております」と謝罪、亡くなった患者やその家族に対してお詫びの言葉を述べた上で、同病院で発生した新型コロナウイルス感染症の集団感染の経緯や今後の対策について報告しています。詳細は同病院サイトをお読みいただきたいと思いますが、43人という多数の死亡者を出したことについては、「お亡くなりになった患者様のうち約半数が、血液疾患で入院中の方々で、その他にも進行した悪性腫瘍を有する方、抗がん剤治療中の方、様々な疾患のあるご高齢の方が多く、アビガンやフサンなどの薬剤を早期より使用しましたが、救命することができませんでした。特効薬のない現状では、個々の免疫力が病状の経過を大きく左右することを痛感いたしました」と、がん患者が多かったことが要因の1つだと分析しています。さらに、院内の感染症対策については、「当院は、病床400床の全26科からなる急性期総合病院であり、これまでは、こうした施設に求められる感染防止対策を着実に実行していると考えておりました。インフェクションコントロールドクターの資格を持つ医師3名や感染制御専門の資格を持つ看護師、薬剤師、検査技師などからなる感染制御チームも精力的に活動しておりました。それにもかかわらず今回のような新型コロナウイルス感染症の急速な拡大が起きた原因につきまして、厚生労働省クラスター対策班による分析結果を踏まえて重点を整理し、今後の対策について記すことにいたします」としたうえで、「感染拡大の原因と今後の対策」について「新型コロナウイルス感染症の早期診断」「基本的感染予防策」「職員間の感染予防策」「病棟の利用方法」の4つの側面から詳述しています。PCR検査設備を持たないために迅速な診断ができなかったこと、これまでも職員のマスク着用と手指消毒を励行してきたが不十分な点があったことなど、同病院の反省点や教訓は、他の医療機関にとっても今後の新型コロナウイルス感染症対策に参考になるでしょう。多種多様な支援者、ジャニーズの名前もさて、同じく同病院のサイトに6月2日に掲載された「永寿総合病院への励ましやご支援ありがとうございます」というお知らせも、とても興味深い内容となっています。このお知らせには「ご支援・ご寄附の内訳」の一覧表が添付されているのですが、その支援者や支援物資の多種多様さには、ある種の感動さえ覚えました。300件を超える支援は、地元の医療機関や企業、個人からのマスクや寄付金に始まり、地域の飲食店からの弁当やお菓子、東京都以外の企業からのマスクやフェイスシールド、そして遠くは沖縄県の個人からの現金の寄付もあります。また、ジャニーズグループや中居 正広氏など、何人かの芸能人と思しき人の名前もあります。一覧表からは、最大規模のクラスターを発生させたにもかかわらず、同病院を支えていかなければ、と考えた地元の人たちの熱意が伝わってきます。さらには同病院の院内感染の報道を見て、支援を行った人が全国にたくさんいたこともわかります。おそらく、この一覧表を作ったのは同病院の事務方の職員でしょう。院内感染対策に忙殺される中、日々届く支援物資や寄付とその送付者(支援者)を、1件も漏らすまいと記録していったに違いありません。そうした、診療とは直接関係ないところで行われた愚直な作業は、同病院の真面目な経営姿勢の表れだと言えるかもしれません。湯浅院長は「診療再開にあたって」の最後を、「永寿総合病院を、感染症に負けない、皆様に安心して医療を受けていただける病院として再生させ、発展させてまいりたいと思っております。今後ともご支援下さいますよう、心よりお願い申し上げます」と結んでいます。同病院が信頼を回復できる日は、意外と近いのかもしれません。

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入院を契機にADLが低下した患者の処方薬見直し【うまくいく!処方提案プラクティス】第22回

 今回は、入院を契機にADLが低下し、それまでの服用薬を見直した事例を紹介します。患者さんの生活様式が変わることでそれまで必要だった薬剤が不要になるケースもありますので、処方薬を点検して、現在の状態と処方薬の必要性が合致しているかを確認しましょう。患者情報90歳、女性(施設入居)基礎疾患:心房細動、高血圧、骨粗鬆症訪問診療の間隔:2週間に1回副作用歴:エドキサバン服用による歯茎と鼻出血のため服用中止処方内容1.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1カプセル 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後4.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 週1回土曜日5.スボレキサント錠15mg 1錠 分1 夕食後6.酸化マグネシウム錠330mg 1錠 分1 夕食後7.経腸成分栄養剤(2−2)液 750mL 分3 朝昼夕食後(入院中の新規開始薬)本症例のポイント患者さんは施設入居中に急性巣状腎炎と細菌性誤嚥性肺炎を発症し、入院することになりました。入院前は車いすで生活していたものの、トイレや食事も自分で行っていましたが、入院中はほぼベッド上で過ごし、トイレや食事介助が必要になるなどADLが低下しました。また、食事摂取が進まず、嚥下機能も低下したため、末梢静脈栄養が行われましたが、退院に向けた内服への切り替えとして経腸成分栄養剤(2−2)液が開始されました。退院後の訪問診療の同行の際に気になる点がいくつかあったため、まとめることにしました。1.嚥下機能低下により錠剤の服用が困難嚥下機能が低下し、錠剤の服用が困難となりました。とくにアレンドロン酸錠を起床時に上体を起こして飲むことが難しく、無理な服用から食道潰瘍のリスクにもつながる懸念がありました。注射薬への変更、もしくは骨折リスクが低いようであれば中止を提案することにしました。なお、ビスホスホネート製剤を中止した場合、活性型ビタミンD3製剤単独での治療効果も限定的であることから両剤とも中止が望ましいと考えました。2.降圧薬の服用により低血圧に入院前の血圧は、おおむね収縮期/拡張期:130〜140/70〜80で推移していましたが、ADL低下に伴い食事摂取がほとんどなくなり、血圧の低下がありました。このまま服用を続けると低血圧を起こして転倒のリスクもあるため、降圧薬の中止が妥当と判断しました。3.日中の傾眠からスボレキサントを変更スボレキサントは湿度と光の影響を受けるため粉砕不可ですので、代替薬を考えることにしました。また、看護師より日中の傾眠が強くて食事摂取が安定しないので、もう少しマイルドな薬に変更できないかという相談もありました。そこで、睡眠−覚醒リズムの改善と昼夜のメリハリ、夜間睡眠に加えて朝や日中の症状改善効果のあるラメルテオン錠を粉砕して対応することを検討しました。処方提案と経過訪問診療同行時に、医師に上記3点について口頭で相談したところ、内服薬を少なくすることで誤嚥のリスクも減らすことができるから夕食後の薬のみにまとめよう、と了承を得ました。降圧薬に関しては、食事摂取量が安定してきたところで再度血圧評価をして、再開についてはそこで再検討することになりました。内服薬変更後の血圧推移は、収縮期/拡張期:120〜130/70〜80の幅で推移しており、夜間の中途覚醒や入眠障害などもなく経過しました。食事摂取量は、経腸成分栄養剤(2−2)液を70〜80%ほど摂れるようになってきました。現在、引き続き食事摂取量や血圧推移、内服薬の服用状況をモニタリングしています。Avenell A, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014:CD000227.Reid IR, et al. Lancet. 2014;383:146-155. 矢吹拓 編. 薬の上手な出し方&やめ方. 医学書院;2020.

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HER2+胃・胃食道接合部腺がん患者におけるトラスツズマブ デルクステカン(DESTINY-Gastric01)/ASCO2020

 HER2高発現の胃・胃食道接合部(GEJ)腺がんにおける抗HER2抗体複合体トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)のオープンラベル多施設無作為化第II相試験DESTINY-Gastric01の結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で、国立がん研究センター東病院の設樂 紘平氏により発表された。今回はHER2陽性(IHC 3+またはIHC 2+/IS+)で、トラスツズマブを含むレジメンで進行したプライマリコホートの報告。・対象:2ライン以上の前治療歴があるHER2陽性(IHC 3+またはIHC 2+/IS+)胃/GEJ腺がん・試験薬:T-DXd 6.4mg/kg 3週ごと(T-Dxd群)・対照薬:医師選択による化学療法(イリノテカンまたはパクリタキセル)(PC群)・評価項目:[主要評価項目]独立中央委員会(ICR)評価による奏効率(ORR)[副次評価項目]全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、ICR評価の確定ORR(4週間持続)、奏効期間(DoR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・全66施設(日本48、韓国18)から患者187例が登録され、T-DXd群(n=125)またはPC群(n=62)に2:1に無作為に割り付けされた。・前治療レジメン数中央値は2、86%がタキサン、72%がラムシルマブ、33%がPD-(L)1阻害薬の治療を受けていた。・データカットオフ時の治療継続は、T-DXd群22.4%、PC群の4.8%であった。・ORRは、T-DXd群51.3%、PC群は14.3%と、有意にT-DXd群で高かった(p<0.0001)。・確定ORRは、T-DXd群42.9%、PC群は12.5%であった。・DCRは、T-DXd群82.5%に対し、PC群62.5%であった(P=0.0005)、DoR中央値は、T-DXd群11.3ヵ月に対し、PC群3.9ヵ月であった。・OS中央値は、T-DXd群12.5ヵ月に対し、PC群8.4ヵ月と、T-DXd群で有意に延長した(HR:0.59、95%CI:0.39〜0.88、p=0.0097)。・PFS中央値は、T-DXd群5.6ヵ月に対し、PC群3.5ヵ月であった(HR:0.47、95%CI:0.31〜0.71)。・両群で一般的なGrade3以上の有害事象(AE)は、好中球減少、貧血、および白血球数減少であり、T-DXd群でより頻度が多かった。薬物関連死亡は、肺炎による1件がT-DXd群で発現した。T-DXdによるILDは9.6%に発現し、内訳はGrade1 3例、Grade2 6例、Grade3 2例、Grade4 1例、Grade5なし、であった。

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新型コロナ、医療者のメンタルヘルスをどう守る?/日本精神神経学会提言と会員アンケート

 日本精神神経学会は、新型コロナウイルス感染症に関連し、学会員を主な対象としたメンタルヘルス関連の提言を行っている。これまでに出された提言は以下の3つ。1)親子・学校・女性のメンタルヘルスのサポート役割を担う学会員向け2)働く人のメンタルヘルスケアや産業保健体制に関する提言3)「コロナ関連自殺」予防について 精神科・心療内科を専門とする学会員に向け、新型コロナウイルス感染症がメンタルヘルスにおよぼす影響や、診療にあたっての注意点をまとめている。産業医として企業に対して感染予防対策や新しい働き方に関連するアドバイスをする際に役立つ内容も多い。「メンタルヘルスの専門家として今知っておくべきこと」を中心にまとめられているが、提言には「医療者自身のメンタルヘルスをいかに保つか」という内容も多く含まれている。 2)の提言内では「特に医療や介護現場などではメンタルヘルス不調の発生が強く危惧される」とし、個人防護服(PPE)を着たままの診療による身体的疲労や緊張の継続による精神的疲労の双方が懸念され、さらに新型コロナの専門病棟ではこれら疲労に加え、対応人員不足やPPE不足などへの危惧が継続的に発生している、と指摘。「当初は責任感や緊張感から普通に勤務できているように見えていても、対応期間が長引くにしたがい心身の疲弊症状として、抑うつ症状などの精神症状や不眠や頭痛などの身体化症状が顕在化」する、と警告している。こうしたメンタルヘルス不調を念頭に置いた産業保健活動が求められるが、そうした体制の確立が難しい小規模事業者などに対しては、早期から行政が介入・支援することが必要だ、と訴えている。 3)の提言内でも「このたびの感染防止対応は、ほとんどの医療スタッフにとって通常経験したことのない、複雑に絡み合う複数のストレス要素を伴っています。心身の不調が起きるのが当然といえば当然です。(略)会員の皆様も、精神医学やメンタルヘルスに精通しているからといって例外ではないのだということを忘れないでください」と注意を促している。会員アンケートでもストレス傾向が明らかに 2020年5月中旬、ケアネットが医師会員1,000人を対象に行ったメンタルヘルスをテーマにしたアンケート(新型コロナは日常診療にどう影響?勤務医1,000人に聞いたストレス・悩みの理由)からも、医療者が大きなストレス下に置かれていることが明らかになった。「COVID-19感染リスクに自身・スタッフがさらされることに不安を覚える」と答えた回答者は57.4%と6割近く、「COVID-19感染リスクに自身・スタッフがさらされることに不安を覚える」(57.4%)、「学会や勉強会などの直接的なコミュニケーションの機会が失われた」(55.6%)といった回答も半数を超えた。 医療現場のストレスマネジメントに詳しい国際医療福祉大学大学院 心療内科学教授の中尾 睦宏氏は、この結果を踏まえ、専門家の立場からアドバイスを寄せた。「アンケートには『臨床心理士を配置した』『メンタル相談の専門窓口を設けた』といった回答が寄せられており、医療現場の素早い対応は評価できる。しかし、医療者には責任感が強く、弱音を吐くことが苦手な人も多い。オンラインのミーティングや勉強会などの正しい情報共有に加え、カジュアルなコミュニケーションや愚痴を吐き出しやすい環境づくりが長期的なメンタルヘルス対策につながるはず」と述べている。【会員医師アンケート】新型コロナは日常診療にどう影響?1,000人に聞いたストレス・悩み【アンケート結果を解説】今、医療者が知るべき・やるべきメンタル対策

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COVID-19血漿療法試験、中国103例の報告/JAMA

 重症/重篤の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の治療において、標準治療に回復期血漿療法を併用するアプローチは標準治療単独と比較して、28日以内の臨床的改善(生存退院、重症度の低減)を増加させなかったとの研究結果が、中国医学科学院のLing Li氏らによって報告された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2020年6月3日号に掲載された。回復期の患者の血漿を使用する回復期血漿療法は、これまでにもさまざまな感染症の治療に用いられており、COVID-19の治療選択肢となる可能性があるが、その使用を支持するエビデンスは十分でない。また、ドナーの選択や血漿の質の管理、レシピエントの適応などは標準化されておらず、これらについてもエビデンスに基づく根拠はないという。7施設が参加の無作為化試験、患者登録が進まず早期中止 本研究は、中国武漢市の7つの医療センターが参加した非盲検無作為化試験であり、2020年2月14日~4月1日の期間に実施された(中国医学科学院 技術革新基金などの助成による)。最終フォローアップ日は2020年4月28日だった。 対象は、年齢18歳以上、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査で確定されたCOVID-19で、重症(呼吸困難または低酸素血症、あるいは双方)または重篤(ショック状態、臓器不全、機械的換気を要する病態)の患者であった。 被験者は、標準治療+回復期血漿療法(血漿療法群)または標準治療のみを行う群(対照群)に無作為に割り付けられた。標準治療は、症状コントロールや支持療法から成り、中国のCOVID-19治療ガイドラインに準拠した。血漿療法では、ABO式血液型適合回復期血漿が、患者の体重によって4~13mL/kg投与された。 主要アウトカムは、28日以内の臨床的改善(生存退院または疾患重症度尺度[1~6点、1点は退院、6点は死亡]の2点の低下)とした。 本試験は200例の登録を予定していたが、COVID-19流行の封じ込めにより、3月下旬には患者数が減少したため登録が進まず、2020年4月1日、103例を登録した時点で早期中止となった。重症例では有意差あり、PCR陰性化率は高い 103例の年齢中央値は70歳(IQR:62~78)、男性が60例(58.3%)であった。血漿療法群に52例(重症例23例、重篤例29例)、対照群には51例(22例、29例)が割り付けられた。101例(98.1%)が試験を完遂した。 試験参加時に89.2%の患者が平熱で、体温の中央値は36.5℃(IQR:36.2~36.7)だった。血漿療法群の注入血漿量中央値は200mL(IQR:200~300)で、96%が1回で注入された。 28日以内の臨床的改善の割合は、血漿療法群が51.9%(27/52例)、対照群は43.1%(22/51例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(群間差:8.8%、95%信頼区間[CI]:-10.4~28.0、ハザード比[HR]:1.40、95%CI:0.79~2.49、p=0.26)。 重症例における28日以内の臨床的改善の割合は、血漿療法群が91.3%(21/23例)と、対照群の68.2%(15/22例)に比べ有意に良好であった(HR:2.15、95%CI:1.07~4.32、p=0.03)のに対し、重篤例ではそれぞれ20.7%(6/29例)および24.1%(7/29例)であり、有意な差はみられなかった(0.88、0.30~2.63、p=0.83)(交互作用のp=0.17)。 28日死亡率には両群間に差はなかった(血漿療法群15.7% vs.対照群24.0%、オッズ比[OR]:0.65、95%CI:0.29~1.46、p=0.30)。また、無作為割り付けから死亡までの期間にも差がなかった(HR:0.74、0.30~1.82、p=0.52)。重症例では、血漿療法群に死亡例はなく、対照群では2例が死亡した。重篤例ではそれぞれ8例(28.6%)および10例(35.7%)が死亡した。 無作為割り付け時から28日までの退院例の割合(51.0% vs.36.0%、HR:1.61、95%CI:0.88~2.93、p=0.12)にも、両群間に有意な差はなかった。重症例の28日退院率は、血漿療法群で91.3%に達したが、対照群の68.2%との間に有意な差はなかった(p=0.07)。 一方、PCR検査の結果が陰性化した患者の割合は、24時間後(44.7% vs.15.0%、OR:4.58、95%CI:1.62~12.96、p=0.003)、48時間後(68.1% vs.32.5%、4.43、1.80~10.92、p=0.001)、72時間後(87.2% vs.37.5%、11.39、3.91~33.18、p<0.001)のいずれにおいても、血漿療法群で高かった。重症例では、24時間後と48時間後に有意な差はなかったが、72時間後には有意差が認められ(p<0.001)、重篤例ではいずれの時間にも有意差がみられた(p=0.01、p=0.003、p<0.001)。 血漿療法群の2例で注入関連の有害事象が発現した。重症例の1例では、注入から2時間以内に悪寒と発疹が、重篤例の1例では、6時間以内に息切れ、チアノーゼ、重症呼吸困難がみられたが、いずれも支持療法により改善した。 著者は、「本試験は早期に中止となったため、臨床的に重要な差の検出力が低い可能性があり、これらの知見の解釈には限界がある」としている。

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