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第89回 がんが大変だ!線虫がん検査に疑念報道、垣間見えた“がんリスク検査”の闇(後編)

大々的に持ち上げて報道してきたマスコミにも衝撃こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。暮も押し迫ってまいりました。週末は大掃除の合間を縫って、東京・新宿の紀伊国屋ホールに演劇を観に行ってきました。演出家、横内 謙介氏が主催する劇団扉座の創立40周年記念公演、「ホテルカリフォルニア」です。最近、テレビでもよく見るようになった六角 精児氏が所属する劇団で、演目はカリフォルニアとはほぼ無関係、横内氏や六角氏らが卒業した神奈川県立厚木高校を舞台とした、1970年代後半の高校生を描いた青春群像劇です。60歳前後となった劇団員が真面目に高校生を演じるのがバカバカしく、笑えました。個人的には、劇中劇として一瞬演じられた、つかこうへい氏の代表作「熱海殺人事件」の場面がオリジナルかと見紛うほどの完コピぶりに感心しました。横内氏のつか氏への深いリスペクトが伝わってきました。さて、先週に続き今週もがんの検査について書いてみたいと思います。前回書いたように、日本のがん検診は今、深刻な状況に置かれています。そんな中、週刊文春12月16日号が、「15種類のがんを判定できる」と全国展開中のHIROTSUバイオサイエンスの線虫がん検査キット「N-NOSE (エヌノーズ)」が、「『精度86%』は問題だらけ」と報道、医療界のみならず、大々的に持ち上げて報道してきたマスコミにも衝撃を与えています(同社のCMに出ている、ニュースキャスター・東山 紀之氏も驚いたことでしょう)。線虫ががん患者の尿に含まれるにおいに反応することを活用「N-NOSE」は九州大学助教だった広津 崇亮氏が設立したHIROTSUバイオサイエンスが2020年1月に実用化したがんのリスク判定の検査です。がんの「診断」ではなく「リスク判定」と言っている点が、この検査の一つの肝とも言えます。「N-NOSE」は、すぐれた嗅覚を有する線虫(Caenorhabditis elegans)が、がん患者の尿に含まれるにおいに反応することを活用、わずかな量の尿で15種類のがんのリスクを判定する、というものです。これまでに約10万人が検査を受けているとのことです。健康保険適用外で、料金は検体の回収拠点を利用した場合で1万2,500円(税込)です。事業スタート当初は同社と契約した医療機関で検査受付を行っていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大などを理由に、利用者に直接検査キットを送り、検体を運送業者に回収してもらうか拠点に持ち込むシステムが中心となっています。最近の報道では、今年10月、九州各地にこの持ち込み拠点を増設したそうです。また、同社は11月に記者会見を開き、膵がんの疑いがあるかどうかを調べる手法を開発したと発表しています。カウンターを使って手作業で線虫の数をカウント週刊文春の報道では、線虫がん検査で「がんではない」と判定された女性で乳がんが見つかったケースなど、同検査で陰性でもがんと診断される患者が何人もいた事実を紹介、その上で検査方法や、同社が公表している感度(がんのある者を陽性と正しく判定する割合)、特異度(がんのない者を陰性と正しく判定する割合)の信憑性に疑問を投げかけています。検査方法について同誌は、「寒天を敷いたシャーレの左側に薄めた尿を置き、真ん中に線虫を50匹程度置く。するとがん患者の尿には線虫がよってくとされる。(中略)検査員がカウンターを使って手作業で線虫の数をカウント。左右に分かれた線虫の数を比べ、がんか否かの判定をする」と書いています。私も知らなかったのですが、「手作業」とは驚きです(最近、オートメーション化が始まったそうです)。同社のホームページや同社を紹介するさまざまなメディア報道では、線虫の集団ががん患者の尿に集まっている写真がよく使われていますが、週刊文春は「『こんなにはっきりと分かれるのをみたことがない』、こう断言するのは、H社(同社)の社員だ」と書いています。「20人分のがん患者の尿を送付したものの、3人分しかがん患者と特定できず」さらに同誌は、ある医療機関から提供された尿検体の実験で「線虫が50匹の場合、左右に分かれた線虫の差は、300回以上行われた検査の中で、1回を除き10匹以下」であった事実や、ブラインド(がんかどうか結果がわからない状態)で検査した場合、「感度は90%だったが、(中略)特異度はわずか10%だ」とも指摘、「ある検査員が健常者の尿をブラインドで検査した場合は陽性と出たが、非ブラインドで同じ尿を検査すると健康であるという判定もされている」という元社員の声も紹介しています。極めつけは、「陽性率もコントロールしている。今年1月に作成された『判定ルール』を見てみると、<陽性率15%以内>との記載がある」として、倉敷市の病院が20人分のがん患者の尿を送付したものの、3人分、15%しかがん患者と特定できなかったと伝えている点です。17人のがんが見過ごされていたことになります。それが事実とするなら、がんの診断ではなくリスク判定とは言え、医療に使う以前の問題と言えそうです。線虫がん検査に3つの疑問ということで、「N-NOSE」という線虫がん検査について、医学的な側面から疑問点を少し整理してみました。1)検査と言えるレベルのものなのか?臨床検査には、「分析学的妥当性」「臨床的妥当性」「臨床的有用性」という3つの評価基準があります。分析学的妥当性とは、検査法が確立しており、再現性の高い結果が得られることを言います。「N-NOSE」の場合、週刊文春報道を読む限り、分析学的妥当性があるとは思えません。そもそも、線虫が尿の中の何の成分に反応してがんを嗅ぎ分けているのか、HIROTSUバイオサイエンスは公表していません。ひょっとしたら、彼らもわかっていないのかもしれません。これでは第三者が再現することができず、分析学的妥当性を評価できません。臨床的妥当性とは、検査結果の意味付けがしっかりとなされているかどうかです。「N-NOSE」で言えば、「線虫が何匹集まった場合に、がんである可能性は何%〜何%である」という評価法が確立していて、その検査をやる意義があるということです。しかし、そもそも分析的妥当性も曖昧なのに、臨床的妥当性を求めるのは酷と言えるかもしれません。2)臨床的に役に立つものなのか?最後の臨床的有用性は、その検査の結果によって「今後の疾患の見通しについて情報が得られる」「適切な予防法や治療法に結び付けることができる」など、臨床上のメリットがあることを指します。「N-NOSE」について言えば、特異度が非常に低い値を示すことは、がんの検査として偽陽性を多く出し過ぎる危険性があります。週刊文春の報道では「見落とし」の数も相当あるようです。また、被験者としては、15種類のがんのうち「何かのがんがありそうだ」と言われても、そこから通常のがん検診に行けばいいのか、内視鏡検査やCT検査を受ければいいのか戸惑うばかりではないでしょうか。現状では臨床的有用性についても大きな疑問符が付きます。そもそも、分析学的妥当性、臨床的妥当性、臨床的有用性を証明するデータを、きちんとしたプロトコールによって行った臨床試験等で出し、それが評価されれば、保険診療において使用が認められますし、海外でも用いられるかもしれません。しかし、こうした「がん(病気)のリスクを判定する」と喧伝する検査の多く(類似のものに「アミノインデックス」や「テロメアテスト」などがあります)は、お金と時間が膨大にかかる臨床試験を敢えて避け、日本だけの一般向け検査でお茶を濁しているようで、気になります。3)がんリスク判定は「判定」できているのか?臨床的有用性の話と関連しますが、「がんのリスク判定」とは一体何なのでしょう。検査会社は、医師が行う「診断」を業として行うことはできないので、リスク判定という曖昧な表現になっていると思われますが、これも無責任です。同社のホームページには、「N-NOSEは、これまでの臨床研究をもとに検査時のがんのリスクを評価するもので、がんを診断する検査ではありません。そのため、検査で『がんのリスクが検出されなかった方』でもがんに罹患していないとは言い切れませんし、 検査で『がんのリスクが高いと判定された方』でも、必ずしもがんに罹患していることを示すものではありません」と長々とエクスキューズが書かれています。また、ある人の実際の「N-NOSE」の結果を見せてもらったことがあるのですが、留意事項として、「体調がすぐれないとき」「疲労が激しいとき」「長期の睡眠不足や徹夜明けのとき」「アルコール摂取時やアルコールの影響が残っているとき」など、8つの項目の時に「正確な評価を行うことができない可能性がある」と書かれていました。これでは、いったいいつ検査をすれば、正確な評価をしてもらえるのかわかりません。とくに私を含め中高年はだいたい体調がすぐれず、疲れているのでほぼ判定は不可能ではないかと思ってしまいます。このようにエクスキューズの連発となってしまうのは、先に述べた分析学的妥当性が曖昧で、検査の再現性が低いからだと考えられます。もう一つ気になったのは、人の体調で検査結果がこれだけ変動するというのだから、線虫の“体調”によっても変動するのではないか、という点です。線虫の1匹1匹の診断能力の質の担保は、しっかりと行われているのでしょうか。ちなみに同社が根拠とする臨床研究ですが、ホームページにはそれらしき関連論文が海外文献も含めて列挙されています。しかし、ダブルブラインドにより、がんの有無を明確に見分けた、というような決定的とも言える成果を発表した論文はないようです。線虫が尿の中の何の成分に反応し、がんを判別するかについての論文もありません。健常者をまどわせ、がん患者のがんを見落とす危険性代表取締役の広津氏は週刊文春の取材に対し、「この検査を作ったのは五大がん検査を受ける人を増やしたかったからです」と話しています。五大がん検査とは、国が推奨する5つのがん検診のことです。しかし、がん検診を受けるきっかけを与えるにしては、無用の心配を被験者にさせたり、見落としによって手遅れになったりと、リスクが多過ぎます。また、検査を受けた人がアコギな医療機関に食いものにされる危険性もあります。提携医療機関の中には、「N-NOSE」陽性の人に対し、自費でのPET-CT検査を勧めるところもあると聞きます。「N-NOSE」はあくまでリスク判定であるため、そこで陽性の判定が出ても、すぐに保険診療とはなりません。一度、自費検査を挟み、病気が見つかってはじめて保険診療となるわけです。「N-NOSE」は手軽なように見えて、医療機関において保険診療を受けるまで、2度手間、3度手間となってしまいます。そう考えると、健常者を惑わせるだけの検査では、と思えてきます。「N-NOSE」は、医療機器でもなく診断薬でもありません。医師が診断のために使う検査でもなく、保険診療にも使われていません。つまり、薬機法や医師法、健康保険法など、厚生労働省所管の法律外にある検査法なのです。宗教団体などが売る、“ありがたい壺”のように、何か大きな問題が起こるまで行政が口を挟むことはないかもしれません。自費でわざわざがんのリスク検査を受けて、「リスクが低い」という結果からがんを見落とす人が出ないことを願います。そして何よりも、がん検診の受診者が増えるよう、国や自治体はもっと知恵を絞ってほしいですし、日本医師会の言うところの“かかりつけ医”は自分の患者にがん検診を勧めるアクションを起こしてほしいと思います。

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『はたらく細胞』コラボ漫画で疾患啓発を全国に【足の血管を守ろうPROJECTインタビュー・後編】

『はたらく細胞』コラボ漫画で疾患啓発を全国に【足の血管を守ろうPROJECTインタビュー・後編】<お話を伺った先生方>仲間 達也氏(左)東京ベイ・浦安市川医療センター 循環器内科 副部長鈴木 健之氏(中)東京都済生会中央病院 循環器内科/TECC2021大会長宇都宮 誠氏(右)TOWN訪問診療所城南院院長/東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科――漫画『はたらく細胞』とタイアップした経緯について教えてください。これまで、TECCで若手育成などさまざまなことを試みてきた中で、ここからさらに自分たちの使命として何ができるかと考えたとき、末梢動脈疾患(PAD)の啓発を社会貢献活動の一環として取り組むのはどうかという話になりました。その中で『はたらく細胞』とタイアップすることになったわけです。この漫画は、ヒトの体内で起こっていること、たとえば傷口から侵入した細菌を白血球が攻撃するなどの生体防御を、擬人化された細胞たちによってわかりやすく伝えています。認知度の高い作品とタイアップすることで、「われわれが専門とするPADやEVTをわかりやすく伝えることができるのではないか」という思いから、講談社へ企画を持ちかけました。医療のプロであるわれわれと、漫画企画・編集のプロである講談社が何度も打ち合わせを重ねた結果として、とても素晴らしい作品が出来上がったと思います。――完成した漫画作品はどんな内容ですか?漫画の内容は、原作の世界観を大事にしながら、PADという疾患の重要性や病態を自然と理解できるストーリーになっています。個人的に一番の見どころは、チーム医療が垣間見えるラストシーンですね。あと、かわいらしい「血小板ちゃん」が、文句を言う赤血球集団に激ギレしているシーンも好きです(笑)。生活習慣の重要性がよく伝わると思います。私はよく、患者さんに「治療が成功しても50%の成功だよ」と言っています。「残りはあなたが今後の生活習慣を改善することで100%になります」とね。ここだけの話、今回の漫画はハッピーエンドなので、前回話したような足や指をなくすなどのシビアな事実は表現しきれていません。漫画だけではPADの深刻さや悲惨な一面を伝えにくい部分もあるので、医療者からは、「皆が漫画のようにうまく治療できるわけではない」と、漫画を読んだ患者さんにやんわり伝えていただいてもいいかなと思います。漫画と現実のギャップを埋めるというか。そうですね。実際は、糖尿病や透析の患者さんで足を膝上・膝下で切断しなきゃいけなくなる人や、足が痛くて歩けないまま原因不明で寝たきりになってしまう人も少なくありませんから。正しい情報が広く伝わって、適切な治療につながってくれたら、PADによるいろんな不幸を防げるのではないかと思います。全国の医療機関に配られる予定の漫画は、患者さんが手に取るだけではなくて、まずは医療者一人ひとりに読んでもらいたいという思いがあります。漫画はあくまでもきっかけとして、自分たちに何ができるのか、足の血管の詰まりを放置したらどうなるのか、ぜひ興味を持って学んでいただきたいですね。われわれがこのような形で地域の先生方にメッセージを発すると同時に、循環器や血管系の専門医の皆さんにも、TECCの活動を通して、PADに対して真剣に取り組んでいただくように訴えていく必要があると考えています。また、紹介が来たら常にオープンに受けて、使命感をもって取り組むべき疾患であることも啓発していきたいです。医療者側へ、そして患者さんへ、双方向での活動が実って初めて、世の中に大きいムーブメントを生み出すことができると思います。現在、この漫画を全国の医療機関に紙媒体で配りたいと考え、クラウドファンディングを実施中です。医療者や患者さんにぜひ直接読んでいただきたいと考えています。現実的には、PADの罹患リスクが高い人は主に高齢者なので、患者さんに同行するご家族などに漫画を読んでもらうことになるかもしれないですね。子供や孫に読んでもらえれば、「うちのお父さん(おじいちゃん)、もしかして…?」と、循環器科の受診につながるかもしれません。また、PADの患者さんは、どちらかというと自分の健康に興味がない、もしくは糖尿病などで視力が悪く、自分の体の状況がよく見えない人などが多いので、なかなか危機感を持ってもらえず、情報が届きにくい層なんですよね。漫画が全国にじわじわと浸透した結果、「『はたらく細胞』を読んだ」と循環器科外来を受診する患者さんが増えるかもしれないし、かかりつけのクリニックに漫画が置いてあって、患者さんから「私の足は大丈夫なの?」と医師に尋ねてくれるかもしれない。あるいは、看護師さんが読んで、「自分たちでもチェックしよう」などと働きかけてくれるかもしれない…。もしかしたら、自分たちの想像とはまったく違う形で、全国の皆さまに影響をもたらしてくれるかもしれない。医療系の学会や研究会が、これまで行ったことがないようなチャレンジなので、結果は未知数ですが、それが楽しみでもあります。私としては、この漫画を通じて1人でも足を失う患者さんが減ったら良いなと思います。――最後に、今後の展望と活動にかける先生方の思いを聞かせてください。今回、一般向けの情報発信を試みる中で最も難しいと感じたのが、循環器内科を受診すればどこでも足の血管を診てくれるわけではないという点です。循環器内科医にもそれぞれで専門領域があります。PADの診察や足の血管治療が得意な人もいれば、あまり詳しくない人もいます。だからこそ、TECCとしてまずは専門医向けに情報発信を始めたという経緯があります。なので、引き続きTECCの活動も頑張りつつ、かかりつけ医にも広く伝えていくことが大事だと考えています。この漫画をきっかけに、今まではあまりPADに注目していなかった循環器や血管系の先生方にも、「漫画とコラボした病気だ」と興味を持ってもらえるのではないかと期待しています。将来的に、若手の医師が「自分もPADの診療やEVTをやってみようかな」と考えてくれるようになったらとてもうれしいです。循環器のメインストリームは心臓ですので、われわれのようにPADに注力している医師は「少し変わっている」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、われわれがアクティブにいろいろな活動に取り組み、とくに社会貢献活動に参入したということは、一般市民へのPADの啓発だけでなく、循環器領域においてPAD診療の価値を高めることにつながると思っています。これから循環器領域の診療を志す若い医師たちに、PADという専門領域がもっともっと、魅力的に映ってほしいですね。そのような意味でも、大きな意義があることだと思います。今回、医療者・一般人問わず、なるべく多くの人に活動を知ってもらいたいと考えて、プロジェクトの準備を進めてきました。地域医療が1つのチームとなれるかというミッションもあると感じています。もし、われわれの活動に興味を持っていただけたら、ぜひTECCのホームページを見に来てください。今後、PADを正しく治療できる医療機関を探せるシステムなども作ろうと取り組んでいるところです。患者さんにとって一番身近なかかりつけ医の皆さんにも役立つ取り組みをこれからも考えていきたいです。ぜひ、クラウドファンディングへのご賛同・ご支援もよろしくお願いいたします。

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「不退転の覚悟で挑む大きな医療政策とは?」衆議院議員・松本 尚氏インタビュー(後編)

 新型コロナウイルス感染症が社会を覆い尽くしたこの2年。世の中の常識や既定路線にも大小の揺らぎが生じ、来し方行く末を考えた人は少なくないだろう。今秋の衆議院選挙で、千葉県の小選挙区において初出馬ながら当選を果たした松本 尚氏(59歳)は、救急医療(外傷外科)専門医であり、国内のフライトドクターの第一人者としてその名前を知る人も多いはずだ。34年の医師のキャリアを置き、新人代議士として再出発を切った松本氏に、キャリア転換に至ったいきさつや、医療界と政界それぞれに対する思いや提言について伺った。 「コロナ禍、僕がいるべき場所は医療現場でも地方行政でもなく、国会だった」衆議院議員・松本 尚氏インタビュー(前編)はこちら。*******――医療政策を考える際、課題は医療界と政界の乖離。両者が協働する上ではコミュニケーションが不可欠だが? そこには結構難しい問題が横たわっている。今回のコロナ禍でも、それが浮き彫りになった。新型コロナについて専門的知見からの分析が必要になり、多くの“医療者”がさまざまなメディアに出て発言した。もちろん、言うべきことをきちんと弁えている人もいたが、中にはテレビなどに出ること自体に舞い上がってしまっているような人もいたのではないか。そこに関して、僕はコロナ禍以前からメディアの取材を受ける機会が多かったので、ニュートラルに話すことができたが、それは意識的にやらなければならないこと。とくに感染症という限定的な領域で白羽の矢が立ち、メディア取材に慣れていない医療者は、なおさら意識的に注意しなければならなかったと思う。 重要なのは、その発言内容はコンセンサスが得られていることなのかどうか、というところだろう。コンセンサスが得られている内容であれば、メディアを問わず、テレビだったらどのチャンネルでもおおむね同じ内容が伝えられないとおかしいはずだが、実際は人によりてんでバラバラ。ということは、個々人がそれぞれ自分の考えを聞かれるままに述べているだけということになる。それは、あなたの個人的見解なのか、多くの医療者の一致した見解なのか、そこを明確にしなかったのが問題だ。 一般の人は、メディアが伝えることを拡大・誇張して聴きがち。結局、どれが正しいかもわからない。だから医療者側にもコミュニケーション上の問題があったと思う。取材の中には、個人的見解を問われる場合もある。しかしその場合でも、コンセンサスが得られている情報と切り分けるために、「あえて言うなら、これは自分の意見だが」と繰り返し断りながら、誤解を生じさせない意見の出し方を工夫していかないと、間違った話がひとり歩きしてしまう可能性がある。 コロナ報道を巡っては、アカデミアの先生方もそれぞれの意見を述べていたが、学問としてはそれでよいのかもしれない。ただ、これも臨床医と同様で、学問的な論戦を公の場に持ち込んでも、世間は学問としてはみてくれない。コンセンサスが得られていない学問的主張を公のメディアに持ち込んでも、その情報の精査は一般の人にできない。そこを切り分けない主張が、今回のコロナ禍で散見されたのは確かだ。 自戒も込めて医療者側の課題を挙げるなら、そこにあると思う。医療界から一歩出たところでのコミュニケーションでは、その専門性を前面に出すべきではない、ということに尽きる。専門家というのは、一般の人に伝えるべき情報と専門家の中で議論すべき情報を取捨選択できるのが本物だろう。そこを切り分けずに皆が各々主張するものだから、情報の混乱が起こった側面がある。テレビなどの情報量が限られるメディアでも、専門的な用語の羅列に終始している人もいたが、その時点で視聴者は、理解できずに「専門家が何か難しいことを言っている」という受け止めでしかない。最後に頭に残っているのは、何もわかっていないコメンテーターの薄っぺらな感想だけ。そんな報道を繰り返しているメディア側にも確かに問題はあった。 政治家とのコミュニケーションについても同様だ。感染対策を医学的側面だけで考えれば、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の専門家たちが提唱してきた、人の流れをとにかく抑制するということは間違っていない。しかし、社会的側面を考えると、その一本鎗だけでは経済は回らない。人の流れを抑えつつも継続し、その上でどう感染制御するかを考えるのが肝要。結局、政治家たちは医学的知見に対し何も抗弁できない。だがそれは、政治的には健全なコミュニケーションの在り方ではない。 私の役目は、相反する両者の意を汲んで落としどころを見つけること。先生方から医学的知見を聞き、政治家たちには「先生方はこういう理由でこのように言っているので、ここまでは我慢が必要です」とかみ砕いてポイントが伝えられる。いわば「接着剤」として、僕が媒介できる存在になりたい。今後別の何かが起こっても、国会議員の中にそういう役割ができる人がいなければならないと思うし、次に何が起きても対処できるよう、あらかじめルールを整備しておくことの重要性は、コロナ禍を通じてより明確になった。僕は議員なので、「ロー・メーカー(立法者)」としてルールを作ることが、これからの自分の責務だと自覚している。――これから代議士として目指すところは? いつどこで国民が健康危機に見舞われても、しっかり対応できる医療体制を作ることが、ロー・メーカーとしての僕の役目。法だけでなく、有事に1つの方向に進んでいくためのルールや組織体、そういうものを作りたいという思いがある。 日本の医療界というのは、「モザイク状態」と表現すべきだろうか。医師会があり、病院団体があり、各々の病院の運営母体も私立があれば公的もある。大学もまたしかり。そうしたモザイク状態が、たとえば今回のようなコロナ禍に直面すると、機動的にヒト・モノが集められなかった。せめて、非常時であるという認識を皆が持った時、医療全体が1つにまとまって、同じ方向に進んでいくためのルール、組織体を作りたい。それがあれば、国がどんな状況に陥ろうとも、国民の健康だけは守れるようになるのでは、また、そうならなければならないと考える。それが今、僕が代議士としてやるべき究極の仕事だと自覚している。もちろん、小選挙区から選出された以上は、地元の暮らしや人々のことも疎かにはできない。しかし、最終的に目指すのはそうした国全体を包括した医療の仕組み、枠組み作りのところにあると思う。もちろん大きな構想なので、1期では完遂できないことも承知している。そうなると、大事なのは次の選挙でも勝つということ。衆院議員は、任期満了すれば4年だが、いつ何時、解散総選挙ということになってもおかしくない。極端に言えば、明日解散、ということもあり得る。しかし、僕は来年で60歳になる。そこから先、どんなに頑張っても10~15年が活動の限界だろう。その間に何度選挙があるかわからないが、自分の年齢に照らした限界を見据え、そこまでには何としても形にしなければならないと思っている。――朝の辻立ちなど、代議士の活動は独特。医師時代とは大きく違うのでは? 今朝も、地元で辻立ちをしてから永田町へ来た。毎日この繰り返し。だが、決して無理しているわけではない。選挙に落ちれば、その瞬間から僕は1人の私人。一度現場を離れた以上、臨床医はできないという覚悟で臨んでいる。それでも、代議士として自分がどうしても成し遂げたい仕事があるから、それを達成するためであれば、寒かろうと暑かろうと辻立ちするし、どんな人にも頭を下げる。強がりではなく、まったく苦にならない。それくらい腹を括って決めたことだから。――なぜそこまでして代議士なのか? 国のために仕事がしたかったから。どんな理屈や理由を考えても、最後はそこに尽きる。最後は国のために尽くしたい、貢献したいという思い。それを実現するための入り口は、僕の場合は医療ということになる。現場は離れたが、医療を通じて国に貢献したいという思いは強くある。――医療界を統治する仕組み作り、かなり壮大だが? これまでの話でも、「コンセンサスの重要性」がキーワードだったと思うが、例えば、国家的有事が起きた時、医療界のさまざまな組織・団体の人たちのコンセンサスを得た、ある1つの「組織体」の下に結集する。さまざまな団体の壁を超え、一段高いところにある組織として、政府とも協議し、あらかじめ決めたルールに従って国民全体の医療体制を提供していく、そういうイメージを思い描いている。今はそういう構想を僕が持っていることを周りに知ってもらい、仲間を増やしていく段階。そこで知恵を集め、どんなメンバーが必要で、どんな「組織体」が良いのかを具体的に議論していきたい。その地道な積み重ねの先に、大きな医療政策の実現があると信じている。 今は、政府も国民もコロナが最重要懸案という共通認識を持っている。こういう時こそ、政策実現に向けた第一歩を進めるチャンスだと思う。この状況が落ち着いて来ると、問題意識の在り方も変わってくる。「喉元は過ぎたが、まだなお熱い」ということを、何度も繰り返し伝えていかなれければならない。そこを訴え続けるのも代議士の重要な仕事だろう。 コロナワクチン1つとっても、国民への説明が足りていない部分が多くあると感じる。追加接種がもっぱらの話題だが、その必要性を疑問視する人も多くいる。高齢者はリスクを自覚して積極的に接種する人がほとんどだが、30~40代でも懐疑的な人は一定層いる。若い世代となれば、副反応が怖くて打たないという人も多い。もう少し、そこは踏み込んだ説明と後押しが必要だと感じているし、それも僕に課せられた責務だろう。<了>

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重症COVID-19患者への高流量酸素療法、気管挿管を低減/JAMA

 重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の治療において、鼻カニューレを用いた高流量酸素療法は従来型の低流量酸素療法と比較して、侵襲的機械換気の必要性を低減し、臨床的回復までの期間を短縮することが、コロンビア・Fundacion Valle del LiliのGustavo A. Ospina-Tascon氏らが実施した「HiFLo-Covid試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2021年12月7日号に掲載された。コロンビアの3病院の無作為化試験 本研究は、コロンビアの3つの病院の緊急治療室と集中治療室が参加した非盲検無作為化試験であり、2020年8月13日~2021年1月12日の期間に参加者の無作為化が行われ、2021年2月10日に最終的な追跡調査を終了した(Centro de Investigaciones Clinicas, Fundacion Valle del Liliの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染の疑いまたは確定例(鼻咽頭ぬぐい液を用いた逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法による)で、動脈血酸素分圧(PaO2)/吸気酸素濃度(FIO2)比<200の急性呼吸不全が認められ、呼吸窮迫の臨床的徴候を伴う患者であった。 被験者は、高流量鼻カニューレ酸素療法を受ける群または従来型の酸素療法を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要複合アウトカムは、無作為化から28日以内における気管挿管の必要性と臨床的回復までの期間とされた。臨床的回復は、修正7段階順序尺度(1[退院し、日常生活動作が完全に回復]~7[死亡])で評価した、ベースラインから2段階以上の改善(低下)と定義された。入院期間や死亡には影響がない 199例(年齢中央値60歳、女性65例[32.7%])が登録され、高流量酸素療法群に99例、従来型酸素療法群に100例が割り付けられた。高流量酸素療法群は中央値で6日間(IQR:3~9)連続の酸素療法を受け、従来型酸素療法群では65.7%(65/99例)が中央値で6日(4~7)までに酸素療法からの離脱に成功した。ステロイド全身性投与はそれぞれ93.9%および92.0%で行われた。 28日以内に気管挿管が行われた患者の割合は、高流量酸素療法群が34.3%(34/99例)と、従来型酸素療法群の51.0%(51/100例)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.39~0.96、p=0.03)。また、28日以内の臨床的回復までの期間中央値は、高流量酸素療法群が11日(IQR:9~14)、従来型酸素療法群は14日(11~19)で、臨床的回復の達成割合はそれぞれ77.8%(77/99例)および71.0%(71/100例)であり、有意な差が認められた(HR:1.39、95%CI:1.00~1.92、p=0.047)。 8項目の副次アウトカムのうち、7日以内の気管挿管(高流量酸素療法群31.3% vs.従来型酸素療法群50.0%、HR:0.59、95%CI:0.38~0.94、p=0.03)、14日以内の気管挿管(34.3% vs.51.0%、0.63、0.41~0.97、p=0.04)、28日時点での機械換気なしの日数中央値(28日[IQR:19~28]vs.24日[14~28]、オッズ比:2.08、95%CI:1.18~3.64、p=0.01)は、いずれも高流量酸素療法群で良好であった。一方、腎代替療法なしの日数や入院期間、死亡には、両群間に差はみられなかった。 重篤な有害事象として、心停止が高流量酸素療法群2例(2.0%)、従来型酸素療法群6例(6.0%)で発現した。また、細菌性肺炎の疑い例がそれぞれ13例(13.1%)および17例(17.0%)、菌血症が7例(7.1%)および11例(11.0%)で認められた。 著者は、「HiFLo-Covid試験は、高流量酸素療法の生理学的な効果を前提に構築されたが、呼吸の代謝作用の測定や推定、食道内圧のモニタリング、経肺圧の動的測定、分時換気量の測定、1回換気量の不均一分布の推定は行っていない。したがって、この試験では、高流量酸素療法は肺損傷の進行の防止や呼吸努力の軽減、ガス交換の向上に関与するメカニズムを改善するとの仮定の下で、臨床アウトカムのみが評価されている」としている。

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モデルナ製ワクチン、追加接種でオミクロン株への中和抗体が37倍に増強

 米国・モデルナ社は12月20日付のプレスリリースで、新型コロナウイルスワクチンのオミクロン株に対する効果について、予備的試験データを公表した。それによると、同社ワクチンの初回接種(1、2回目)ではオミクロン株への中和抗体価が従来の変異株より低下していたが、3回目接種を受けた後では中和抗体価が約37倍まで増強されたという。 今回発表されたのは、疑似ウイルスを用いた中和抗体価測定試験のデータ。モデルナ製ワクチンを2回接種した20例について、3回目接種を受けた後ではオミクロン株に対する中和抗体価が大幅に上昇し、被験者のGMT(幾何平均値)は、50μg(日本の追加接種に承認された用量の0.25mLに相当)接種により、ブースター接種前の約37倍となった。また、初回接種の用量100μg(同0.5mLに相当)を接種した別の20例のGMTは、約83倍まで増強されたという。追加接種による有害事象の頻度や症状は、初回接種時と同様だったが、接種用量が多いほうがより多くの副反応が起こる傾向が見られたという。 モデルナ社は、世界的に拡大が懸念されているオミクロン株の状況に鑑み、オミクロン株に特化したワクチン開発は継続し、2022年初頭には臨床試験を実施する予定だが、感染予防のファーストラインは、現在使用されているワクチンのブースター接種であるとの見解を示している。

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第91回 オミクロン株がより広まりやすいことに寄与しうる特徴

治療で除去されたヒト組織を使った香港大学の研究の結果、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン(Omicron)株は去年2020年のSARS-CoV-2元祖やデルタ株に比べておよそ70倍も早く気管支で増えることができました1)。オミクロン株が人から人により広まりやすいゆえんかもしれません。一方、肺でのオミクロン株の複製はよりゆっくりでSARS-CoV-2元祖の10分の1足らずでした。もしオミクロン株感染がより軽症であるとするなら肺で増え難いことがその一因かもしれません。スパイクタンパク質に無数の変異を有するオミクロン株の感染しやすさが他のSARS-CoV-2を上回ることにはヒト細胞のACE2との相性の良さも寄与しているようです。SARS-CoV-2代理ウイルス(pseudovirus)を使った実験の結果、SARS-CoV-2がヒト細胞に感染するときの足がかりとなる細胞表面受容体であるACE2へのオミクロン株スパイクタンパク質の結合はデルタ株やSARS-CoV-2元祖のどちらにも勝りました2,3)。著者によるとオミクロン株代理ウイルスの感染しやすさは調べた他のSARS-CoV-2変異株のどれをも上回りました。重症度はどうかというと、南アフリカ最大の保険会社の先週14日の発表を含む同国からの一連の報告ではオミクロン株感染入院率がデルタ株に比べて一貫して低く、オミクロン株感染は比較的軽症らしいと示唆されています4)。その保険会社Discovery Healthの解析ではオミクロン株感染が同国で急増した先月11月中旬(15日)から今月12月初旬(7日)のおよそ8万件近くを含む21万件超のSARS-CoV-2感染症(COVID-19)検査情報が扱われ、オミクロン株感染者の入院率は同国での昨年2020年中頃のD614G変異株流行第一波に比べて29%低いことが示されました5,6)。それに、入院した成人がより高度な治療や集中治療室(ICU)に至る傾向も今のところ低く5)、入院後の経過も比較的良好なようです。とはいえ、他国の状況を鑑みるにオミクロン株感染は軽症で済むとまだ断定はできないようです。英国の大学インペリアル・カレッジ・ロンドンの先週16日の報告7,8)によると、同国イングランドでのオミクロン株感染の重症度はデルタ株と異なってはおらず、南アフリカからの報告とは対照的に入院が少なくて済んでいるわけではありません4)。ただしイングランドでの入院データはまだ十分ではありません。いずれにせよオミクロン株感染の重症度はまだ症例数が少なすぎて結論には至っておらず4)、さらなる調査が必要なようです。オミクロン株感染の増加が医療を圧迫する恐れ今後の研究で幸いにしてオミクロン株感染の重症化や死亡のリスクが低いと判明したとしてもその感染数が莫大ならとどのつまり重症例も多くなります。その結果医療への負担は大きくなり、他の病気の治療に差し障るかもしれません4)。たとえば英国バーミンガム大学が率いた研究では、オミクロン株流行で入院が増えることで同国イングランドのこの冬(今年12月~来年4月)の待機手術およそ10万件が手つかずになりうると推定されました9,10)。待機手術を受け入れる余力を残しておく必要があると著者は言っています。参考1)HKUMed finds Omicron SARS-CoV-2 can infect faster and better than Delta in human bronchus but with less severe infection in lung / University of Hong Kong 2)mRNA-based COVID-19 vaccine boosters induce neutralizing immunity against SARS-CoV-2 Omicron variant. medRxiv. December 14, 2021 3)Preliminary laboratory data hint at what makes Omicron the most superspreading variant yet / STAT4)How severe are Omicron infections? / Nature5)Discovery Health, South Africa’s largest private health insurance administrator, releases at-scale, real-world analysis of Omicron outbreak based on 211 000 COVID-19 test results in South Africa, including collaboration with the South Africa / Discovery Health6)Covid-19: Omicron is causing more infections but fewer hospital admissions than delta, South African data show / BMJ7)Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis8)[Summary] Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis9)COVIDSurg Collaborative.Lancet. December 16, 2021 [Epub ahead of print] 10)Omicron may cause 100,000 cancelled operations in England this winter / Eurekalert

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有害事象を追記、COVID-19ワクチンに関する提言(第4版)公開/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:四柳 宏氏[東京大学医学部教授])は、12月16日に同学会のホームページで「COVID-19ワクチンに関する提言」の第4版を公開した。 今回の提言では、昨今のオミクロン株拡大の懸念を踏まえ「COVID-19ワクチンついて、その有効性と安全性に関する科学的な情報を解説し、接種を判断する際の参考にしていただくために作成いたしました。第3版のあとに明らかになったことや今後の課題について追記し、第4版として公開いたします。COVID-19の終息に向かって、COVID-19ワクチンが正しく理解され、安全性についても慎重に検証しながら、接種がさらに進んでゆくことを願っています」と今後のさらなるCOVID-19の予防に期待を寄せている。第4版の主な改訂点・COVID-19ワクチンの開発状況をアップデート・モデルナのCOVID-19ワクチンモデルナ筋注の臨床試験結果を追記・実社会での有効性をアップデート・変異株とワクチンの効果でデルタ株、オミクロン株を追記・ワクチンの効果の持続性で「ワクチンで誘導される免疫の減衰」と「実社会でのワクチン効果の推移」を追記・ワクチンの安全性で「海外の臨床試験における有害事象」をアップデート・わが国での臨床試験における有害事象の「モデルナのCOVID-19ワクチンモデルナ筋注」、「アストラゼネカのバキスゼブリア筋注」、「mRNAワクチン接種後の心筋炎・心膜炎」、「ウイルスベクターワクチン接種後の血栓塞栓イベント」をアップデート・国内での接種の方向性で「妊婦への接種」、「免疫不全者への接種」、「3回目のブースター接種」、「5~11歳の小児への接種」などを追記

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「僕がいるべき場所は医療現場より国会だった」衆議院議員・松本 尚氏インタビュー(前編)

 新型コロナウイルス感染症が社会を覆い尽くしたこの2年。世の中の常識や既定路線にも大小の揺らぎが生じ、来し方行く末を考えた人は少なくないだろう。今秋の衆議院選挙で、千葉県の小選挙区において初出馬ながら当選を果たした松本 尚氏(59歳)は、救急医療(外傷外科)専門医であり、国内のフライトドクターの第一人者としてその名前を知る人も多いはずだ。34年の医師のキャリアを置き、新人代議士として再出発を切った松本氏に、キャリア転換に至ったいきさつや、医療界と政界それぞれに対する思いや提言について伺った。*******松本 尚氏「ここにいることはとても不思議。半年前まで僕は1人の医師だったのだから」 ――医師としてコロナ対応にも追われたと思うが、そんな中で代議士へのキャリア転換を果たした。このタイミングは偶然、それとも必然? ……(しばし考え)やはり、コロナ禍がなかったら(衆院選への出馬は)していなかったかもしれない。振り返ってみてそう思う。僕の活動を支援してくれた旧知の医師が、今回の選挙後に言ってくれたことが印象的だった。「20年前、松本先生が日本医科大学北総病院に赴任したこと、その後、北総にドクターヘリが導入されたこと、地域の救急医療に従事してきた活動のすべては、ここが到達点だったのではないか」という内容だった。自分はあくまでその場その場で、与えられた仕事を一生懸命やってきただけなのだけれど、第三者から見た僕の20年間というのは、そのような総括もできるのかと思った。確かに、選挙区の中にもドクターヘリで治療された経験があるという人も結構いて、選挙活動の時に、家族や友人、場合によってはご自身が運ばれたと言う人もいた。直接伝えてくださった方だけでも本当にたくさん。あるいはドクターヘリ普及の過程では、消防の方とも協力してやってきた。そういった方々の応援も心強かった。もちろん、普段から北総病院に通院している人が、そこの医師だからという理由で応援してくれる人も少なくなかった。そうした20年間の積み重ねの上に、今回のコロナ禍があり、その中で心を決めたという側面は確かにあるなと自身でも思えた。したがって、(転身の)タイミングとしては偶然とも言え、必然とも言える。 決断を後押しした1つとして、新型コロナ感染症の対応時、千葉県庁にいたことが大きい。ある意味、それもまた偶然だったかもしれないが、行政側に身を置いてコロナ対策を俯瞰的立場で見た時に、あまりに課題が多いことを痛感したからだ。もっとも、選挙区のポストが空いたことも僕にとっては大きな偶然の1つ。 しかし、考えてみれば今ここにいることはとても不思議だ。半年前まで、僕は1人の医師だったのだから。――さかのぼるが、そもそも政治家を志すことになった具体的な転機は? 7~8年くらい前だろうか。もともと僕は保守的な思想信条を持っていたが、民主党が政権交代した時(2009~2012年)に、政治に対する関心を強く持たざるを得なかった。あの当時、日本全体がそうだったように、僕自身もある種の政治が変わる高揚感、何か大きく世の中が変わるんじゃないかという期待感があった。新政権とうまくつながることで、世の中の変革をより体感できるのではないかという思いで、ツテをたどって当時の文科副大臣に会いに行ったこともあった。しかし、現実は何も変わらなかった。その時点で、改めて自分の主義主張というものを見つめ直した。さらには、国をもっと良くするためにどうすべきなのかを考える時に差し掛かっていることも実感した。そろそろ僕らがそれを考える世代だと。 この時期、僕自身はテレビの医療監修など、臨床以外に活動の幅を広げ始めたころだったように記憶している。代議士になった自分が言うのもなんだが、議員の中には、与野党問わず資質を疑いたくなるような人物も確かにいる。発言内容が稚拙だったり、当選回数が多いというだけで閣僚になったりするような議員も少なくないことがよくわかる。当時の僕は、そういった議員の姿をさまざまなメディアで見るにつけ、自分のほうがよほど真剣に国のことを考え、実行できるのではないかと思った。しかも自分と同じ世代だとしたら、なおさらだ。さらに、医学の領域で地道にやってきたことが評価されるようになってくると、それを政策に生かすとしたらどうすべきかという視点でも考えるようになった。自分が積み上げてきた経験を活かせば、ここ(国政)だったらもっと良い仕事ができるのではと心密かに思うようになった。したがって、二度の政権交代が政治への関心を持つ大きなきっかけの1つだったかもしれない。 そのころ、千葉の自民党県連で公募があった。これだと思い立ち、大学の卒業証明書や戸籍謄本を取り寄せ、準備を進めた。公募に必要な書類の中に、「政治について」というテーマで2,000文字の論文があった。もちろん書き上げていざ挑戦、と思ったのだが……これが1文字も書けなかった。ネットや新聞の文言を継ぎ接ぎすれば、何がしかの文章を作ることはできる。しかしそれは、当然ながら中身のない薄っぺらなものでしかない。だからと言って、自分の言葉はなかなか出て来ない。それが、7~8年前の苦い経験。松本 尚氏「政策立案側と立法側の乖離。そこに、医師であり議員である僕がいれば」 ――歳月を経て、再びの挑戦となった今回は違った。 奇しくも、レポートのテーマは前回と同じだったが、今度はスムーズに書き上げることができた。この数年間、もちろんたくさんの勉強をした。多くの本を読み、歴史を学び、一般メディアにも寄稿した。医学論文にとどまらず、さまざまな文章を意識して執筆するよう心掛けてきた。それらも自身の訓練になっていたのだろう(ホームページ「論説」を参照)。公募論文を書き終えたところで、これは行けるという確信が持てた。それくらい、ある意味で世の中のタイミングと自分の機が熟すタイミングがうまく重なったのだろうと思う。――転身を決める大きな理由となった行政側でのコロナ対応の経験についても伺いたい。 今回、コロナを巡るさまざまな地方行政の問題、あるいは国の政策としてのコロナ対策の問題があることが、千葉県庁で対策に携わった目線から考えるところが多かった。あえて厳しいことを言うが、政府には大局に立った絵も描けていなかったし、そもそも、初っ端からリスクコミュニケーションでつまずいていると感じていた。その場しのぎの対策に追われるものだから、国民は一体誰の言うことを聞いたらいいのかわからないという状況に陥った。もう少しきちんとした危機管理ができていないとダメではないかと、早い段階から旧知の議員にも個人的には伝えていた。一体この国はどうなっているのかと思った時、少なくとも県庁にいてもダメだった。ならば医療現場にいる場合かというと、それも違った。現場は、とにかく懸命にコロナ診療をこなしていくことで精いっぱい。その中に入って一緒にやることもできるが、それが僕の役目なのかというと、そうじゃない。当時、千葉県庁の対策室で災害医療コーディネーターとしての役割を与えられた僕は、全体を見ながらコントロールすることだと自覚していたが、実質は機能不全状態だった。その経験から、もっと上に行くしかないとその時に痛感した。 あれは第1波のころだっただろうか。のちの第5波などに比べたら、“さざ波”程度だったと今なら思えるが、コロナ患者が一気に増えて病床が足りず、第5波の時と同じくらい切実な状況だった。感染者数がピーク時は、患者のトリアージをせざるを得なかった。トリアージの判断基準になるスコアを決め、その点数に沿って厳密に対応していた。保健所からは、「状況は理解できるが、それでも何とか(入院できるように)してほしい」という訴えがあったが、「こちらもルールに則ってやっている」と断るしかない。はじめは県庁職員が対応をしていたが、医療者でもないのに矢面に立たせているのは申し訳ないと思い、「対策室でやっていることの最終的なすべての責任は僕が取るので、断る際も怖がらずに対応に当たってほしい」と伝えた。 当時は状況が状況だけに気も張っていて、その対応が精いっぱいだったので腹を括ってやっていた。しかし、後になって冷静になって考えると、本当はそうじゃなかったのではないかと思うようになった。災害時のトリアージそれ自体は間違っていない。そう理屈ではわかっているものの、本当は医療を受けたい人が受けられないというのは、やはり間違っているという思いが強くなった。誰もが初めて直面した新型コロナウイルス感染症だったが、緊急事態宣言の出し方ひとつとっても、もっと違うやり方があったのではないか、もっと上手にルールが作れなかったのかという思いに至った。ならば何をすべきか。それは、次のパンデミックに備えたルールづくりだろう。 コロナ対応で頑張っていたのは当然、医療者も同様だ。県庁でコロナ対策の専門部会メンバーとの会議で、医療者側からの意見はとても重要で、コーディネーター役の僕としても首肯する場面が多かったが、それを政策まで落とし込む術がない。なぜなら、その落とし込みをする側に医師がいないから。医師と政策側には、どうしても埋めがたい乖離がある。「現場はこうだ」と言っても「ルールはこうですから」の平行線。やはり、そこをうまく橋渡しする役目の人が不可欠だと痛感した。千葉県庁では、医師である僕にその役目を任せてほしかったが、残念ながらそうはならなかった。そして恐らく、国でも同じ問題に直面しているのではないかというのは、容易に想像できた。 政策立案側と立法側の間の乖離。そこに、医師であり議員である僕がいれば、両者の事情を理解しながら仕事ができるのではないかと考えた。ここがもしかしたら、僕が方向転換を決めた大きなきっかけだったではないかと、今振り返ってみてそう思う。<後編に続く>

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第82回 着任1年で医療事故8件の医師に1億円超の損害賠償請求

<先週の動き>1.着任1年で医療事故8件の医師に1億円超の損害賠償請求2.来春から不妊治療の保険適用、1回30万円の助成制度は廃止3.診療報酬改定、医師らの賃金増に0.43%の引き上げで調整4.医学部の地域枠、最大842万円と高額な違約金に批判5.大阪ビル放火事件でクリニック院長・患者など24人が死亡1.着任1年で医療事故8件の医師に1億円超の損害賠償請求兵庫県・赤穂市民病院の脳神経外科において、2019年7月に着任した医師によって行われた手術後に8件の医療事故が発生していたことが明らかになった。このうち2020年1月に手術を受けた70代女性は、腰椎の手術中に神経の一部を切断され、両足麻痺で歩行ができなくなるほどの後遺障害があるなどで、執刀医に対して約1億1,500万円の損害賠償を求め神戸地裁に訴えた。いずれの事故についても病院側は事実関係を認めているが、訴訟を受けた以外の7件については「外部有識者の検証を踏まえて検討した結果、医療過誤ではないと判断した」と説明。なお、当医師は20年3月以降、手術の執刀などを禁止される処分を受け、21年8月末に同病院を依願退職している。(参考)腰椎手術のドリルで神経切断、歩けなくなった女性が医師ら提訴…着任1年で医療事故8件(読売新聞)赤穂市民病院の医療事故 8件の事実関係認める、医療過誤は1件と判断(神戸新聞)男性医師手術、医療事故8件 兵庫・赤穂市民病院(日経新聞)2.来春から不妊治療の保険適用、1回30万円の助成制度は廃止厚生労働省は15日、中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を開催し、体外受精などの不妊治療について、治療開始時に女性が43歳未満であることを条件に2022年4月から保険適用とすることを認め、事実婚の場合も対象とすることを了承した。具体的な価格設定については年明けに議論される。なお、体外受精や顕微授精に原則1回30万円を給付する国の助成制度は、年度をまたぐ場合を除き22年3月末で終了する。今回認められたのは日本生殖医学会が示したガイドラインで推奨度が高い「体外受精」「顕微授精」などであり、回数についても40歳未満の女性なら6回まで、40歳以上43歳未満なら3回までとなる。今後は、保険適用外となった治療法を医療機関の申請があれば保険診療と併用ができる「先進医療」に位置付けるかどうかなど、個別に議論される見込み。(参考)事実婚カップルも対象に 不妊治療の保険適用(日経新聞)不妊治療の保険適用、女性は43歳未満 厚労省、事実婚も対象へ(朝日新聞)不妊治療技術のうち学会が推奨度A・Bとするものを保険適用、推奨度Cは保険外だが先進医療対応を検討―中医協総会(Gem Med)3.診療報酬改定、医師らの賃金増に0.43%の引き上げで調整政府は2022年度の診療報酬改定について、焦点となっていた医師らの技術料や人件費にあたる「本体部分」の改定率0.43%の引き上げで最終調整を行っている。その分「薬価」を引き下げ、診療報酬全体ではマイナス改定とする方針。今回の診療報酬改定にあたって、保険者などの支払い側はマイナス改定、医師会側はプラス改定をそれぞれ求めてきたが、政府は新型コロナウイルスの影響で、医師会の求めるような大幅のプラス改定は難しいとの立場を崩していない。(参考)診療報酬「本体」0.43%引き上げ 政府最終調整(産経新聞)診療報酬本体0.43%上げ 22年度改定、全体はマイナスに(日経新聞)4.医学部の地域枠、最大842万円と高額な違約金に批判医師不足に悩む地方自治体で、医学生に将来的な地域医療への貢献を求める「研修資金貸与制度」に、違約金制度を導入した山梨県に対する報道があった。2018年衛生統計によれば、山梨県内の医師数は2,016人で、人口10万人当たり246.8人と全国平均258.8人を下回り、全国で30位。さらに県内での医師偏在も問題となっており、新しく導入されたのが「違約金制度」だ。2020年度の入学者からは、「山梨県地域枠等医師キャリア形成プログラム」に基づいて、卒業後15年間のうち9年間は県内の特定公立病院などにおいて臨床研修や勤務が義務付けられるほか、これらの義務違反に対した場合、年10%の利息を付して修学資金の返還が求められる内容となっており、一部の関係者からは医師の人権侵害だという批判が上がった。(参考)医学部地域枠、学生へムチ「違約金」最大842万円 人権侵害の声も(朝日新聞)資料 山梨県地域枠等医師キャリア形成プログラム(山梨県)山梨県の医師確保事業 医師修学資金について(同)5.大阪ビル放火事件でクリニック院長・患者など24人が死亡17日、大阪府北区の「西梅田こころとからだのクリニック(心療内科/精神科)」にて火災が発生し、28人が病院に搬送され、このうち24人が死亡した。身元が判明した中にはクリニック院長の西澤 弘太郎氏も含まれる。警察は、通院していた61歳の男性が可燃性の液体を持ち込んだ可能性があるとみて捜査。市内の自宅からは、容量1.5Lのガソリンタンクが押収され、タンク内の液体は少量使用されていたという。大阪市消防局によれば、死亡者の多くは外傷がなく一酸化炭素中毒と考えられる。なお、直近の消防署定期検査で防火上の不備は認められておらず、設置されていなかったスプリンクラーも法令上で設置義務はなかった。今回、唯一の避難経路である出入り口付近で出火したため、外に出られなかったとみられる。犠牲となった多くの医療従事者と患者さんのご冥福をお祈りするとともに、このような事件が二度と起こらないよう対策を望む。(参考)大阪 ビル火災 現場検証 微量の油検出 61歳男 殺人と放火疑い(NHK)容疑者宅からガソリンタンク押収 現場からはライター 大阪ビル放火(毎日新聞)大阪・北新地ビル火災 院長の死亡確認(産経新聞)

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ファイザーブースター接種、年齢層別の効果は/NEJM

 イスラエルで新型コロナワクチンBNT162b2(Pfizer-BioNTech製)の3回目接種(ブースター接種)を受けた16歳以上について調べた結果、全年齢でCOVID-19感染および重症の発生率についてブースター接種者のほうが非接種者よりも大幅に低かったことが、イスラエル・Weizmann Institute of ScienceのYinon M. Bar-On氏らにより報告された。イスラエルでは先行して実施された60歳以上へのBNT162b2ブースター接種の結果が有望であったことを受け、2回目接種から5ヵ月以上経つ若い年齢層にもブースターを接種するキャンペーンが拡大されていた。NEJM誌オンライン版2021年12月8日号掲載の報告。16歳以上469万6,865人のブースター接種者のデータを解析 研究グループは、2021年7月30日~10月10日のイスラエル保健省のデータベースから、5ヵ月以上前に2回目接種を終えた16歳以上469万6,865人のデータを抽出し、解析を行った。 主要解析では、ブースター接種後12日以上経過した人(ブースター群)とブースター接種を受けていない人(非ブースター群)の、COVID-19の感染、重症化、死亡の発生率を比較した。2次解析では、ブースター群とブースター接種後3~7日の人(ブースター直後群)で比較。Poisson回帰モデルを用いて潜在的交絡因子を補正後に率比を比較した。いずれの年齢でも、ブースター群の感染、重症化の発生率が大幅に減少 確認された感染の発生率は、ブースター群のほうが非ブースター群よりも低く、率比でみると約10分の1であった。比較検討した5つの年齢群(16~29歳、30~39歳、40~49歳、50~59歳、60歳以上)では、最小が30~39歳の9.0分の1、最大は16~29歳の17.2分の1であった。また、ブースター群はブースター直後群よりも低く、最小は30~39歳の4.9分の1、最大は16~29歳の10.8分の1であった。 補正後率比の差(10万人日当たりの感染件数)は、主要解析(ブースター群vs.非ブースター群)では最小が60歳以上の57.0、最大は30~39歳の89.5であり、2次解析(ブースター群vs.ブースター直後群)では最小が60歳以上の34.4、最大は50~59歳の38.3だった。 高年齢群(40~59歳、60歳以上)における重症化に関する検討では、60歳以上の重症化の発生率は主要解析、2次解析いずれもブースター群が低く、率比でみると主要解析(ブースター群vs.非ブースター群)は17.9分の1(95%信頼区間[CI]:15.1~21.2)、2次解析(ブースター群vs.ブースター直後群)は6.5分の1(5.1~8.2)であった。また、40~59歳では、それぞれ21.7分の1(10.6~44.2)、3.7分の1(1.3~10.2)であった。補正後率比の差(10万人日当たりの感染件数)は、60歳以上では主要解析(ブースター群vs.非ブースター群)で5.4、2次解析(ブースター群vs.ブースター直後群)で1.9であり、40~59歳ではそれぞれ0.6、0.1であった。 60歳以上の死亡に関する検討では、率比でみると主要解析(ブースター群vs.非ブースター群)で14.7分の1(95%CI:10.0~21.4)、2次解析(ブースター群vs.ブースター直後群)で4.9分の1(3.1~7.9)、いずれもブースター群が低かった。補正後率比の差(10万人日当たりの死亡件数)は、それぞれ2.1、0.8であった。

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COVID-19ワクチンと季節性インフルエンザワクチン同時接種における安全性と免疫原性(解説:小金丸博氏)

オリジナルニュース新型コロナとインフルワクチンの同時接種は安全か/Lancet(2021/11/29掲載) COVID-19ワクチンと季節性インフルエンザワクチンの同時接種における安全性や免疫原性を検討した研究がLancet誌オンライン版(2021年11月11日号)に報告された。英国で行われた多施設共同ランダム化比較第IV相試験であり、2種類のCOVID-19ワクチン(アストラゼネカ社製とファイザー社製)と3種類の季節性インフルエンザワクチンによる6通りの組み合わせで検討された。その結果、同時接種によって接種後7日間以内の全身反応(発熱、悪寒、関節痛、筋肉痛、疲労、頭痛、倦怠感、嘔気など)の有意な増加はなく、両ワクチンに対する抗体反応も維持されることが示された。2通りのワクチンの組み合わせで95%信頼区間の上限があらかじめ規定された非劣性マージンをわずかに超える全身反応を認めたものの、許容できる範囲と考察されている。 COVID-19ワクチンは比較的高率に発熱などの全身性副反応を認め、他のワクチンとの同時接種によって副反応が増加することが懸念されている。本研究で認めた全身性反応の多くは軽度~中等度であり、ワクチンに関連していると評価された重篤な有害事象は頭痛と視力障害を認め、片頭痛と診断された1例のみだった。安全性に関して大きな懸念がないことが示されたことによって、今後、日本でも同時接種に関する議論が進むことを期待したい。 6通りのワクチンの組み合わせで免疫応答に問題がないことも示された。ただし、SARS-CoV-2中和抗体やT細胞応答(細胞性免疫)は評価されておらず、それらの評価は今後の課題となる。 本研究は、COVID-19ワクチン2回目接種と季節性インフルエンザワクチンの同時接種について検討されたものである。今後行われる可能性が高いのは3回目以降のCOVID-19ワクチン接種との同時接種であり、それについては追加の検討が必要である。 日本では現在COVID-19ワクチンの3回目接種(ブースター接種)が開始されているが、インフルエンザワクチンを含め他のワクチン接種とは2週間の間隔を空けることと規定されている。COVID-19ワクチンとインフルエンザワクチンを同時に接種することが可能になれば、患者や医療機関の負担を軽減することにつながる。今回の研究結果は同時接種を支持する結果であり、今後の同時接種スケジュールの確立に向けて有用な知見といえる。

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第88回 厚労省よ、コロナQ&Aで示すべき心筋炎の資料はこっちなのでは!?

世界的にオミクロン株の市中感染が広がる中、各国とも新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)ワクチンの3回目接種の準備を前倒しで進めている。しかし、以前の本連載でも触れたが、日本で主力となっているファイザー製ワクチン「コミナティ筋注」は現在の年内調達量から考えて、医療従事者以外の優先接種に回せる十分量がないのが現実。この現状で“救世主”として登場したのが職域接種を中心に使用され、現時点で国内在庫が1,500万回分程度残っているとされるモデルナ製ワクチン「モデルナ筋注」だ。これについて厚生労働省の薬事食品衛生審議会・医薬品第二部会は12月15日、追加免疫である3回目接種の用法・用量追加を特例承認することを了承。翌16日に厚生労働省が特例承認した。ちなみにこれを機に商品名を「スパイクバックス筋注」へと変更した。これでファイザー製ワクチンに加えてモデルナ製ワクチンも3回目接種に使えることになり、3回目分の在庫は厚くなる。しかも、今回のモデルナ製ワクチンの追加免疫の用法・用量は1回0.25mLと従来の半量になる。つまり単純計算で在庫量は2倍だが、バイアルからの採取の手間などの関係から、最終的な在庫量は約2,200万回分程度と見積もられている。現状のファイザー製ワクチンの推定在庫量は約1,100万回だが、このうち約164万回が2回目接種待機者分、さらに約400万回程度が当面の優先接種対象の医療従事者用で必要であること、加えてまったくの初回接種者用の確保も考えると、高齢者などに使える3回目接種分は概算で最大約500万回分しかなかった。今回モデルナ分が加わることで、ざっと約2,700万回分が確保できたことになる。追加接種はあくまでmRNAワクチンという括りなので、ファイザー2回接種者が追加接種でモデルナを選択することも、その逆も可能である。医療従事者の次に来る優先接種対象である高齢者が約3,300万人と考えると、在庫の数字上、当面は問題ないことになる。だが、まだまだ「仏作って魂入れず」ではないだろうか?以前も書いたことだが、モデルナ製ワクチンは従来接種量が多かったこともあって副反応も強く、若年者ですらかなりの苦痛を経験したケースは少なくない。ネット上でもそうした書き込みはあちこちで散見される。しかも、若年者が中心とはいえ、モデルナ製ワクチンでは副反応で心筋炎の発症頻度がファイザー製ワクチンと比べかなり高いことも指摘されている。この印象の悪さゆえなのだろう。Yahoo!ニュースでモデルナ製ワクチンの3回目接種の特例承認を伝えた記事の中で最もコメント数が多いと思われる以下の記事のコメント欄は、上位にネガティブコメントが目立つ。「モデルナ製ワクチン、3回目接種を特例承認…18歳以上が対象」(読売新聞オンライン)厚生労働省が設けた「新型コロナワクチンQ&A」ページでは「ワクチンを接種すると心筋炎や心膜炎になる人がいるというのは本当ですか。」の項目で必死に説明しているのは承知している。しかし、ここでの説明は何とも間の悪いものなのだ。このQ&Aの内容の肝は「確かに新型コロナワクチン接種者ではごくまれに心筋炎が発生するが、新型コロナ感染時に心筋炎が発生する確率はそれを格段に上回るもので、明らかにワクチン接種のベネフィットが上回っている」という点のはず。ところが、ここで示している表は、単にワクチン接種者では若年者ほど心筋炎の報告が多く、それもモデルナ製ワクチンで突出していることを視覚的に理解させるだけになっている。少しでもインターネットに長けた高齢者ならば、Yahoo!ニュースのコメント欄や厚労省のページのぱっと見で、このようなネガティブ情報ばかりが目に付くモデルナ製ワクチンを選択するだろうか?実はモデルナ製ワクチンによる心筋炎の頻度が、新型コロナ感染時の心筋炎に比べ、大幅に頻度が低いという情報を視覚的に表示している好例がある。それはこの心筋炎に関するQ&Aのほぼ最下部に位置する「10代・20代の男性と保護者へのお知らせ~新型コロナワクチン接種後の心筋炎・心膜炎について~」というPDFファイルになったパンフレットだ。この冒頭に出てくる棒グラフで一目瞭然である。本来Q&Aで示すべきはこちらのグラフなはずだ。また、11月12日に合同開催された第72回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会・第22回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の資料の53ページにはコロナ禍前のNDB((レセプト情報・特定健診等情報データベース)から見られる心筋炎関連事象の発生件数が示してあり、この数字から前述のパンフレットにより近い年齢層の40歳未満での100万人当たりの心筋炎発生数を算出すると62.1となる。いずれと比べてもmRNAワクチンによる心筋炎は明らかに頻度が低い。本来はこれらをすべて棒グラフで一覧化させ前述のQ&Aの項目に一目でわかるよう示すのが適切な情報伝達というものではないだろうか?これはトリックでも何でもなく科学的データの一覧性を整えただけだ。せっかく接種を推進する意思がありながら、なぜこうも工夫ができないのだろう。その辺が見ていて何とも歯がゆいのである。

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エブリスディドライシロップ:初の経口脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬

2021年8月12日、脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬としては初の経口治療薬となるエブリスディドライシロップ60mg(一般名:リスジプラム)の販売が開始された。SMAとは?SMAは、脊髄の運動神経細胞が選択的に障害されることによって起こる神経原性の筋萎縮症を表す。SMAは運動神経細胞生存(Survival Motor Neuron:SMN)タンパクの欠損につながる5番染色体の変異によって起こる。SMA患者では、SMN1遺伝子の機能不全により、結果として十分な量・機能性のSMNタンパクが作られず、体幹や手足の近位部優位の筋力低下や筋萎縮などの症状が現れる。日本におけるSMA罹患率は、乳児期~小児期に発症するSMAで10万人あたり1~2人、推定患者数は1,000人前後と報告されている1)。SMAは発症年齢と最高到達運動機能により下記の通り0~IV型に分類される。0型胎児期に発症し、運動機能は獲得しない。I型新生児~乳児期(生後0~6カ月)に発症する重症型で、一人で坐位を保つことができない。II型幼児期(~1歳6カ月)の発症で、首がすわり、一人で坐位を保つことができるが、支えなしでは歩くことができない。III型1歳6カ月以降の発症で、歩くことはできるが、転びやすい、歩けない、立てないなどの症状が次第にあらわれる。IV型20歳以降の発症であり、運動機能を正常に獲得するが、徐々に筋力低下や筋萎縮がみられ、その進行はI~III型に比べ緩徐である。I型は無治療の場合、1歳までに呼吸筋の筋力低下による呼吸不全の症状をきたす。薬物治療をせず、人工呼吸器の管理を行わない状態では、90%以上が2歳までに死亡する。II型は呼吸器感染、無気肺を繰り返す例もあり、その際の呼吸不全が予後を左右することとなる。III型、IV型は生命的な予後は良好である、とされている。このように、SMAでは発症年齢の早いI型、II型の予後は良好とはいえないため、早期診断が求められる。また、治療開始が早ければ早いほど有効性が高いため、早期診断に加えて早期に治療を開始することも重要である。SMAの治療SMAはつい最近まで薬物治療という選択肢が存在していなかった。しかし、2017年に核酸医薬品であるヌシネルセン(商品名:スピンラザ髄注12mg)が発売され、SMA治療が大きく変わった。2020年にはアデノ随伴ウイルスベクターを用いた静脈投与による遺伝子治療であるオナセムノゲンアベパルボベク(商品名:ゾルゲンスマ点滴静注)が2歳未満の患者を適応として薬価収載された。オナセムノゲンアベパルボベクは1回1時間かけて点滴する静脈注射あり、発症前または発症後のできるだけ早期に1回投与し、再投与は行わない。一方、ヌシネルセンによる髄注治療は、定期的な投与が必要であり、投与のたびに入院が必須となる。そのため、髄注による治療は患者本人だけでなく、家族などの介助者や医療従事者の負担も大きいことが課題となっていた。エブリスディ投与によりSMNタンパク質の産生量が増加そこに2021年、SMA治療薬として初の経口薬であるエブリスディが登場した。エブリスディは経口投与によって、SMN2 pre-mRNAの選択的スプライシングを修飾することで、機能性SMNタンパク質の産生量を増加させる。エブリスディは経口薬のため在宅治療が可能であり、患者本人、患者家族の負担を減らすことが期待される。エブリスディの有効性及び安全性はI型SMA患者を対象としたFIREFISH試験とII型/III型SMA患者を対象としたSUNFISH試験で検討された。FIREFISH試験では1~7ヵ月齢のI型SMA患者にエブリスディを投与した結果、投与12ヵ月に人工呼吸管理を受けずに生存していた患者の割合は85.4%であり、自然歴に基づいて設定された達成基準、42%と比較して有意に高いことが示された。さらに、投与12ヵ月後における経口摂取能力を有する患者割合が82.9%であったことも報告されている。一方、SUNFISH試験は2~25歳のII型/III型SMA患者を対象としており、小児に限らず幅広い年齢の患者を対象とした臨床試験となっている。いずれの試験においてもSMNタンパク質量はエブリスディ投与によりベースラインから約2倍高くなっていた。それぞれの試験での副作用発現率は17.1%、13.3%であった。両試験とも投与中止に至った副作用は認められなかった。エブリスディが変えるSMA治療:未来への展望初の経口治療薬であるエブリスディの登場により、既存治療に伴う通院や入院による患者や患者家族の負担軽減が期待できる。さらに、器質的に髄注が困難など、さまざまな事情で治療を受けることができていない患者においても、薬物治療を受けられる可能性が出てきた。注目の新薬、エブリスディの登場により、今後のSMA治療が大きく変わっていくことが期待される。1)難病情報センター.脊髄性筋萎縮症(指定難病3).(2021年11月24日参照)

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新型コロナを5類相当にすべき?すべきでない?医師が考えるその理由

 日本国内での新型コロナの感染状況は小康状態が続く中、ワクチン接種は進み、経口薬の承認も期待される。一方で、オミクロン株についてはいまだ不明な点が多く、国内での感染者数も少しずつ増加している。「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を5類相当に格下げすべき」。これまで何度か話題に上ったこの意見について、医師たちはどのように考えているのか? CareNet.comの会員医師1,000人を対象にアンケートを行った(2021年12月3日実施)。新型コロナウイルス感染症は5類でも2類でもない特例的な枠組み 新型コロナウイルス感染症は現在、感染症法上「新型インフルエンザ等感染症」という特例的な枠組みに位置付けられ1)、入院勧告や外出自粛要請などが可能で、医療費が公費負担となる1~2類感染症に近い対応がとられている2)。その法的位置付けについて、今年初めまでは「指定感染症」に位置付けられていたこと、一部報道などでは“2類相当”との言葉が先行するケースもみられたことなどから、混乱が生じている側面がある。 「COVID-19の現行の感染症法上の位置付けについて、どの程度認識しているか」という問いに対しては、最も多い63%の医師が「何となく理解している」と回答し、「よく理解している」との回答は28%に留まった。新型コロナの位置付け変更「今すぐではないが今後状況をみて」が45% COVID-19を5類感染症相当の位置付けに変更すべきか? という問いに対しては、「今後状況の変化に応じて5類相当の位置付けに変更すべき」と回答した医師が45%と最も多く、「1~5類の分類に当てはめず、特例的な位置付けの中で状況に応じて変更すべき(25%)」、「現状の位置付けのまま、変更すべきではない(16%)」と続き、「今すぐに5類相当の位置付けに変更すべき」と答えた医師は13%だった。 COVID-19患者あるいは発熱患者の診療有無別にみると、「いずれも診療していない」と回答した医師で、新型コロナウイルス感染症を「今すぐに5類相当の位置付けに変更すべき」との回答が若干少なく、「現状の位置付けのまま、変更すべきではない」との回答が若干多かったが、全体的な回答の傾向に大きな違いはみられなかった。 また、どのような状況になれば新型コロナウイルス感染症を5類相当に変更すべきかという問いに対しては、「経口薬が承認されたら」という回答が最も多く、「第6波がきても重症者が増加せず、医療ひっ迫が起こらなかったら」という回答が続いた。新型コロナの5類相当への変更は行政の関与がほとんどなくなることを意味 新型コロナウイルス感染症を「今すぐに5類相当に」と回答した理由としては、「保健所を通さず診療所で診察できるようにして重症者を手厚く治療できるようにした方がいい」等、病院や医師判断での入院・治療ができるようにした方がよいのではないかという意見が目立った。 「今後状況の変化に応じて5類相当に」と回答した理由としては、「変異株が新たに報告されるたびに警戒を強めなければならない状況では、今5類にするのは危険。疫学的に理解が広まり、治療法(経口薬)が確立されれば検討の余地あり」等、経口薬の広まりや変異株の出現状況等に応じていつかは変更すべきとする意見が多かった。 「1~5類の分類に当てはめず、特例的な位置付けの中で状況に応じて変更すべき」と回答した理由としては、「5類への引き下げは行政の関与がほとんどなくなることを意味するため、その選択肢はありえない」といった意見や、フレキシブルに対応するため既存の枠組みに当てはめないほうがよいのではないかといった意見がみられた。 「現状の位置付けのまま、変更すべきではない」と回答した理由としては、「公費で診療にしないと診察にこない患者がいる」「自費となると治療薬が高額で治療を受けられなくなる人がでてくる」等、自費負担となることの弊害を挙げる意見や、万が一の場合に行動制限等の強い措置がとれるようにしておく必要を指摘する意見があがった。 アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。新型コロナウイルス感染症、感染症法上の現在の扱いは妥当?…会員1,000人アンケート

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モデルナ製ワクチンの追加接種を承認、「スパイクバックス」に名称変更も/厚労省

 厚生労働省は12月16日、モデルナ社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて用法・用量の追加を特例承認した(国内の申請者は武田薬品工業)。先行して承認されたファイザー製ワクチン同様、国内の18歳以上に対し、3回目のブースター接種(追加免疫)への使用が可能になる。ただし、追加接種では0.25mLと従来の半量になる(2回目までの初回免疫では0.5mL)。併せて、販売名が「モデルナ筋注」から「スパイクバックス筋注」に名称変更されることも周知された。モデルナ製ワクチンが名称変更でスパイクバックス筋注に 国内における追加接種は、現在、2021年12月1日から22年9月30日までを接種可能時期としており、▽2回目接種を完了した日から、原則8ヵ月以上経過▽18歳以上▽日本国内での初回接種(1・2回目接種)またはそれに相当する接種を完了―のすべてを満たす人が対象となっている。しかし、現在拡大が懸念されているオミクロン株のリスクを考慮し、諸外国では接種間隔を短縮したり、18歳以下にも対象を拡大したりする動きがある。<モデルナ製ワクチン添付文書情報> ※今回の主な追加・変更箇所を抜粋3.3 製剤の性状販売名:スパイクバックス筋注(旧販売名:COVID-19ワクチンモデルナ筋注)6. 用法及び用量初回免疫:1回0.5mLを2回、通常、4週間の間隔をおいて、筋肉内に接種する。追加免疫:1回0.25mLを筋肉内に接種する。7. 用法及び用量に関連する注意7.2 追加免疫7.2.1 接種対象者18歳以上の者。SARS-CoV-2の流行状況や個々の背景因子等を踏まえ、ベネフィットとリスクを考慮し、追加免疫の要否を判断すること。7.2.2 接種時期通常、本剤2回目の接種から少なくとも6ヵ月経過した後に3回目の接種を行うことができる。7.2.3 初回免疫として他のSARS-CoV-2ワクチンを接種した者に追加免疫として本剤0.25mLを接種した臨床試験は実施していない。

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ファイザー製ワクチン、ブースター接種で死亡リスク9割減/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)mRNAワクチンのBNT162b2(Pfizer/BioNTech製)の、2回接種から少なくとも5ヵ月後にブースター接種を受けた人は、ブースター接種を受けていない人と比較して、COVID-19による死亡リスクが90%低下した。イスラエル・Clalit Health ServicesのRonen Arbel氏らが、同国半数超の国民が加入する健康保険データを基に解析を行い報告した。SARS-CoV-2のデルタ(B.1.617.2)変異株の出現と、BNT162b2ワクチンの経時的な有効性の低下により、早期にワクチンを接種した集団においてCOVID-19の再流行が発生したことから、イスラエルの保健省は2021年7月30日にBNT162b2ワクチンの3回目接種(ブースター接種)を承認したが、ブースター接種でCOVID-19による死亡率が低下するかどうかのエビデンスが必要とされていた。NEJM誌オンライン版2021年12月8日号掲載の報告。ブースター群と非ブースター群の計84万例超でCOVID-19死を比較 研究グループは、イスラエル国民の半数以上が加入している同国最大の医療保険組織「Clalit Health Services」のデータを用い、ブースター接種が承認された7日後の2021年8月6日時点で50歳以上であり、少なくとも5ヵ月前にBNT162b2ワクチンの2回目の接種を受けた人を対象として、2021年9月29日までの間のブースター接種者(ブースター群)と非接種者(非ブースター群)のCOVID-19による死亡について検討した。試験終了日において、ブースター接種後7日までの人は、非ブースター群に含めた。 時間依存共変量を用いるCox比例ハザード回帰モデルにより社会人口統計学的要因と併存疾患を補正し、ブースター接種の有無と死亡との関連を解析した。 解析対象は、適格基準を満たした84万3,208例であった。ブースター接種で死亡リスクが90%低下 84万3,208例中75万8,118例(90%)が、54日間の試験期間中にブースター接種を受けた。 COVID-19による死亡は、ブースター群で65例(0.16/10万人/日)、非ブースター群で137例(2.98/10万人/日)に認められた。非ブースター群に対するブースター群のCOVID-19による死亡の補正後ハザード比は、0.10(95%信頼区間[CI]:0.07~0.14、p<0.001)であった。 なお、著者は試験期間が54日間と短期であること、高齢者(60歳以上)が若年者(60歳未満)より早くブースター接種を開始していることが生存率に影響している可能性があること、重篤な有害事象に関するデータが不足していること、BNT162b2ワクチンのみの結果であること、などを研究の限界として挙げている。

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人生の「裏道」にはお宝が埋まっている!?【医師のためのお金の話】第51回

株式投資には「人の行く裏に道あり花の山」という投資格言があります。投資家は群集心理のために、他の人が注目しているホットな銘柄に投資しがちです。しかしこの格言は、「むしろ他人と反対のことをやったほうが成功する確率が高い」と説いています。私も他人と同じ行動とならないよう心掛けて株式投資をしたところ、約8年でいわゆる「億り人」になりました。他人と真逆の行動になることも多いので精神的プレッシャーはキツイですが、得られる果実は大きいと感じています。この格言は株式投資の真理の一端を捉えていますが、実は日常生活でも有効なことが多いです。株式投資だけにとどめておくのはもったいない…。今回は「人の行く裏に道あり花の山」のおトクな使い方を伝授しましょう!秋の紅葉シーズンはどのような行動が最適?今年の秋の紅葉シーズンは晴天に恵まれました。新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が減少したことも相まって、全国各地の紅葉スポットは混雑したようです。しかし医療従事者としては、人混みに出て感染するわけにはいかないのが悩ましいところです。ここで登場するのが「人の行く裏に道あり花の山」の考え方です。人混みを避けつつ紅葉見物するには混雑する週末を避ける必要があります。「そんなこと言われても、週末しか休めないよ」という声が聞こえてきそうですね。しかし裏道とて「タダ」では通れません。ここでは平日に紅葉狩りに行くという代償が必要です。有給休暇のハードルは高いと思われがちですが、強いキモチがあれば意外と取れちゃうものです。本当に紅葉狩りに行きたいのならサクッと有給休暇を取得しましょう!ちなみに私は平日に休みまくって各地の紅葉狩りを楽しみました。週末は観光客でごった返す有名スポットも、平日ならさほど混雑せずに堪能できます。心の持ち方だけで快適な紅葉狩りを楽しめるのです。裏道を行くには代償が必要紅葉狩り以外にも、高級ホテルに宿泊する際には、できるだけ平日になるように旅程を調整しています。週末をできるだけ避けて高級ホテルに宿泊するという、人と異なる選択をすることで安価に快適な旅行を実現できるのです。この場合も平日に有給休暇を取得する必要がありますが、裏道を行くからには何らかの代償は払わざるを得ません。有給取得は高いハードルかもしれませんが、株式投資で裏道を行くために必要な極度の精神的プレッシャーまでは必要ない、と割り切りましょう。このように投資や日常生活でうまくやっていくには「人の行く裏に道あり花の山」の考え方がポイントになりますが、「フリーランチ」というわけにはいかず、何らかの代償は支払う必要があります。周囲の人と同じ選択をしてコスパの悪い人生を歩むのか、はたまた何らかの代償を支払いながらも素晴らしい成果を得続けるのか…。あなたならどちらを選びますか?

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コロナワクチン3回目、7種のワクチンを比較/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン、ChAdOx1(AstraZeneca製、ChAd)またはBNT162b2(Pfizer-BioNtech製、BNT)の2回接種後の追加接種として、7種のCOVID-19ワクチン接種による免疫原性を調べたところ、ChAd 2回接種群では7種すべてで、BNT 2回接種群では6種で、抗体および中和反応の増加が認められた。英国・サウサンプトン大学病院のAlasdair P. S. Munro氏らが、2,878例を対象に行った第II相多施設共同無作為化試験「COV-BOOST試験」の結果を報告した。Lancet誌オンライン版12月2日号掲載の報告。ワクチン2回接種後、70日・84日以降に7種ワクチンを追加接種 COV-BOOST試験は、年齢30歳以上でChAdを2回接種後70日以上、またはBNTを2回接種後84日以上経過しており、検査で確認されたSARS-CoV-2感染歴がない人を対象とした。18ヵ所の試験センターをA~Cの3グループに分け、各グループで被験者を無作為化した。 グループAでは被験者を4群(1対1対1対1)に分け、NVX-CoV2373(Novavax製、NVX)を規定量、NVXを規定の半分量、ChAd、4価髄膜炎菌結合型ワクチン(MenACWY)を接種した。 グループBでは被験者を5群(1対1対1対1対1)に分け、BNT、VLA2001(Valneva製、VLA)を規定量、VLAを規定の半分量、Ad26.COV2.S(Janssen製、Ad26)、MenACWYを接種した。 グループCでは被験者を4群(1対1対1対1)に分け、mRNA1273(Moderna製、m1273)、CVnCov(CureVac製、CVn)、BNT半分量、MenACWYを接種した。 被験者および試験スタッフは、割り付けを知らされなかった。 主要アウトカムは、安全性と反応原性、およびELISA法測定による抗スパイクIgG抗体の免疫原性。副次アウトカムは、ウイルス中和と細胞応答の評価などだった。唯一、BNT 2回接種後のVLA投与でスパイクIgG抗体増加せず 2021年6月1日~30日に3,498例がスクリーニングを受け、2,878例が試験の適格基準を満たし、COVID-19ワクチンまたはコントロールワクチンの接種を受けた。ChAd 2回接種者の年齢中央値は、若年群が53歳(IQR:44~61)、高齢群が76歳(73~78)であり、BNT 2回接種者はそれぞれ51歳(41~59)、78歳(75~82)であった。ChAd 2回接種者は、女性が46.7%、白人95.4%で、BNT 2回接種者はそれぞれ53.6%、91.9%だった。 7種のワクチンのうち、反応原性の増加が認められたのは、ChAdまたはBNTを2回接種後のm1273、BNTを2回接種後のChAdおよびAd26の3種のワクチンだった。 ChAd 2回接種者では、コントロール群に対するスパイクIgG抗体の幾何平均比(GMR)は、VLA半分量群が1.8(99%信頼区間[CI]:1.5~2.3)と最小で、m1273群が32.3(24.8~42.0)と最大だった。野生型細胞反応性に関するスパイクIgG抗体の対コントロール群GMRは、ChAd群が1.1(95%CI:0.7~1.6)と最小で、m1273群が3.6(2.4~5.5)と最大だった。  BNT 2回接種者では、スパイクIgG抗体の対コントロール群GMRはVLA半分量群が1.3(99%CI:1.0~1.5)と最小で、m1273群が11.5(9.4~14.1)と最大だった。VLA(半分量と規定量)群はいずれも99%CI上限値が、事前に規定した最低ラインの1.75に至らなかった。野生型細胞反応性に関する対コントロール群GMRは、VLA半分量群が1.0(95%CI:0.7~1.6)と最小で、m1273群が4.7(3.1~7.1)と最大だった。これらの結果は、年齢30~69歳と、70歳以上で類似していた。 最も頻度の高い局所および全身性の有害事象は倦怠感と痛みで、70歳以上よりも30~69歳で報告例が多かった。重篤な有害事象はまれであり、ワクチン群とコントロール群で同程度だった。報告された重篤な有害事象は24件で、内訳はコントロール群とVLA群が各5件、Ad26群とBNT半分量群とChAd群とNVX群とNVX半分量群で各2件、VLA半分量群とBNT群とCVn群とm1273群が各1件だった。

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ファイザーの経口コロナ治療薬、最終結果でも重症化89%減、オミクロン株にも有効か

 米国・ファイザーは12月14日付のプレスリリースで、開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)新規経口治療薬であるnirmatrelvir(PF-07321332)/リトナビル配合剤(商品名:Paxlovid)について、第II/III相臨床試験(EPIC-HR)の最終データを公表した。それによると、Paxlovidを投与した高リスクの成人患者において、入院または死亡のリスクが、プラセボに比べ89%減少したという。これは、先月同社が公表した中間解析のデータとも一致している。 Paxlovidは、ファイザー社が新たに開発した抗ウイルス薬nirmatrelvirと、既存の抗HIV薬リトナビルとの合剤。今回、最終結果が公表されたEPIC-HR試験では、全登録患者(2,246例)のうち、発症3日以内に治療を開始(投与群)した場合、登録後28日目までに入院した患者は0.7%(5/697例が入院、死亡例なし)だったのに対し、プラセボ群では、入院または死亡した患者は6.5%(44/682例が入院、その後9例死亡)で、Paxlovidは入院または死亡のリスクを89%減少させた(p<0.0001)。 また、nirmatrelvirについては、以前に同定された懸念すべき変異株(VOC)に対し、in vitroにおいて一貫した抗ウイルス活性を示しており、現在拡大が懸念されているオミクロン株に関連した3CLプロテアーゼについても強力に阻害したという。これは、nirmatrelvirがオミクロン株への強固な抗ウイルス活性を有する可能性を示唆しており、ファイザー社では、追加研究でデータ収集を進めていく方針。

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広い範囲で有効なアスピリンでもCOVID-19には効かないみたい(解説:後藤信哉氏)

 アスピリンには抗炎症効果がある。また、アスピリンは心筋梗塞などの血栓イベント予防効果もある。COVID-19はウイルス感染なので炎症が起こる。COVID-19では血栓症も増える。抗炎症効果、抗血栓効果のあるアスピリンはCOVID-19の予後改善効果があると期待された。 話は変わるが筆者はOxford大学と密接に共同研究している数少ない日本の研究者であると思う。Oxford大学は多くのカレッジからなる。臨床研究を主導するのはNuffield Department of Population Health(旧称 Clinical Trial Service Unit:CTSU)である。彼らの臨床医学における実証的ポリシーは揺るがない。バイアスをなくすために大規模ランダム化比較試験により臨床的仮説を徹底的に検証する。COVID-19 pandemicと同時に、少しでも効きそうな治療法についてランダム化比較試験を行うRECOVERY試験を開始した。本研究を主導したMartin Landray教授は筆者の長年の共同研究相手である。RECOVERY試験は次々と成果を生み出している。本年のエリザベス女王の誕生日にLandray教授はRECOVERY試験の貢献により女王陛下のknightに任命され、Sir. Martin Landray教授になった。臨床医学の貢献に対してSirの称号と名誉を与える英国の対応は日本でも真似できるかもしれない。 COVID-19の症例でもアスピリンは28日間の観察期間における血栓性イベントを5.3%から4.6%に減少させ、重篤な出血イベントを1.0%から1.6%に増加させた。つまり、簡易なランダム化比較試験でもアスピリン群ではしっかり薬剤を服用していたと想定される。しかし、死亡率には差がなかった。経過中の人工呼吸器の装着にも差がなかった。カプランマイヤーカーブを見ると、わずかにアスピリン群の予後が良いようにも見える。しかし、14,892例のランダム化比較試験では、アスピリンによる予後改善効果は否定されてしまった。 COVID-19は本当に厄介な病気である。

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