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学会抄録のかたちにまとめる その2【「実践的」臨床研究入門】第64回

前回、これまでの連載で取り上げてきたクリニカル・クエスチョン(CQ)からリサーチ・クエスチョン(RQ)への変換とEZR(Easy R)による統計解析の総まとめとして、われわれの仮想研究を学会抄録のかたちにしました。その際にIMRAD形式と構造化抄録の違いを概説し、構造化抄録の典型的な構成要素として、Background、Objective、Design、Setting、Patients/Participants、Intervention/Exposure、Measurements、Results、Conclusionsの9つを挙げました。この9つに加えて、Limitation(研究の限界)を独立した見出しとして掲げる構造化抄録のパターンもあり、Annals of Internal Medicineをはじめとする一部のトップジャーナルが推奨する様式に採用されています。研究結果を批判的に吟味するうえでは、研究の限界を本文だけでなく、抄録の段階から明示しておくことが重要だと考えられています。では、Limitationには何を書けば良いのでしょう。「サンプル数が小さい」「単施設研究である」と一般論を並べるだけでは不十分です。読者が「研究結果をどの程度信用できるのか」「どの集団・どのセッティングに一般化できるのか」を判断する材料として、研究結果に系統的な歪み(バイアス)をもたらす要因を、その方向性や大きさの推定とともに示す必要があります。そこで、今回は「誤差」と「バイアス」の概念を整理して解説します。誤差とバイアス誤差(error)とは、観察された値と真の値(神のみぞ知る)との違いを指します。誤差は、その性質によって偶然誤差(random error)と系統誤差(systematic error、広義のバイアス)に分けられます(図1)。両者の違いは、誤差の方向性に一貫した偏りがあるかどうかにあります。偶然誤差はランダムに、つまり方向性はなく発生しますが、系統誤差は一定の方向性をもって発生します。身近な例として、聴診法による血圧測定を考えてみましょう。検者・時間・血圧計を一定にしても、被験者の血圧そのものが変動するため、測定値はばらつきます。これが偶然誤差です。一方、検者の聴力に難があったり、血圧計が故障していて常に低めに表示するのであれば、測定値は一定の方向に偏ります。これが系統誤差です。図1.誤差とバイアス画像を拡大する系統誤差と偶然誤差は、精度(信頼性)と正確度(妥当性)という概念と対応します。偶然誤差が小さい研究は精度が高く、系統誤差が小さい研究は正確度が高い、と整理できます。図2は射的の的を用いてこの関係を図示したものです。弾痕の散らばりが小さければ精度が高く、弾痕が的の中心(真の値)に近ければ正確度が高い、ということを示しています。臨床研究で目指すべき理想像は、精度も正確度もともに高い、図の右端の状態です。図2.精度(信頼性)と正確度(妥当性)の関係画像を拡大する精度は統計学的に評価できます。サンプルサイズを大きくすれば信頼区間が狭くなり、精度が向上します。一方、正確度は統計だけでは評価できません。研究デザインの段階から、対象者の選定、測定方法、測定条件を慎重に設計する必要があります。広義のバイアス(系統誤差)は、さらに「狭義のバイアス」と「交絡」とに分けて考えることができます。狭義のバイアスには、選択バイアスと情報バイアスが含まれます。両者の違いは、データ取得後の解析段階で制御できるかどうかです。交絡は、調整に必要な変数が測定されていれば多変量解析などによって解析段階でも制御可能です。しかし、狭義のバイアスは解析段階では制御不能であり、研究計画時に十分な対策を講じる必要があります。それでもなお残る限界については、論文のLimitationで誠実に開示するほかありません。なお交絡因子とその制御については、詳細は別稿に譲ります(連載第45回など参照)。

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肥満や食嗜好に関係する社会的要因は何か/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第69回年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 糖尿病では肥満を併存している人が多いが、肥満や食嗜好と社会的要因にはどのような関係があるのであろうか。本稿では、シンポジウム1「肥満合併糖尿病の臨床の最前線」より「肥満・食嗜好と健康の社会的決定要因との関連」をお届けする。SDOHから考える肥満症診療 肥満と関連する食嗜好や社会的要因にはどのようなものがあるだろう。このテーマについて、「肥満・食嗜好と健康の社会的決定要因との関連~日本人2万例のデータから~」をタイトルに小幡 佳也氏(大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学)が日本人2万例の大規模データを解析し、肥満・食嗜好・健康の社会的決定要因(Social determinants of health:SDOH)の関連について調査を行った。 健康は生物学的要因(遺伝、性、年齢など)だけでなく社会経済的状況や教育、居住する地域の社会的・物理的環境などによっても決まる。これらを“SDOH”と言い、多くの疾患との関連が知られている。肥満も例外ではない。肥満は、健康的な食習慣に関する知識不足や努力不足といった個人の自己責任によるものではなく、さまざまな社会的要因によって影響を受けるとされている。しかし、海外からの報告が多い一方で、わが国の大規模研究は少なく、エビデンスは限られている。また、食嗜好のずれや偏りが肥満と関連することが示唆されているが、SODHと食嗜好との関連に関するエビデンスも乏しい。そこで今回、小幡氏らのグループは、日本人において、SDOH・食嗜好・肥満、これらの関係性を明らかにするために横断研究を行った。 研究グループは、20~69歳の2万人に無記名でWEBアンケート調査を実施し、その内容を検討した。食嗜好の評価には、大阪大学で新たに開発した食嗜好質問表(Japan Food Preference Questionnaire:JFPQ)1)を使用した。これまで日本人に適した食嗜好の評価ツールは限られていたが、JFPQは、日本人になじみのある25食品で構成され、これらを栄養学的根拠に基づき、甘い/甘くない糖質群、甘い/甘くない脂質群、タンパク質群、食物繊維群に分類・スコア化することで、日本人の食嗜好を包括的かつ定量的に評価することができるのが特徴である。スコアが高いほど「嗜好性が高い」と判断される。大阪大学医学部附属病院では、患者にタブレット端末を用いて回答してもらうことで、結果を瞬時にレーダーチャートで表示し、栄養指導の現場などで活用しているという。 対象者は、男性7,417例、女性5,676例で平均年齢は47.6歳。平均BMIは22で、25以上の肥満割合は全体の約20%だった。 主な結果は以下のとおり。・食嗜好と肥満の関連について、男女ともに、甘くない脂質群の嗜好性が高いほどBMIが高値だった。食品別では、男女ともに脂質群に含まれる食品に加え、甘い糖質群に含まれるソフトドリンクの嗜好性、さらに男性では甘くない糖質群に含まれるそば・うどんの嗜好性が高いほどBMIが高値だった。また、食物繊維群、とくに野菜の嗜好性は低いほどBMIが高値だった。・SDOHと肥満との関連について、男性では、労働時間が長い、1週間当たりの夜12時以降の就寝回数が多い、学歴が低いことが、それぞれ独立してBMI値25以上と有意に関連していた。また、夜12時以降の就寝回数が多いことに加え、未婚、低所得がBMI値30以上と関連していた。女性では、非就労であることがBMI値25以上と関連し、労働時間が長いことがBMI値30以上と関連していた。また、夜12時以降の就寝回数が多い、中・低所得であること、低学歴であることもそれぞれ独立して肥満と有意に関連していた。・SDOHと食嗜好との関連について、男性では、肥満と関連した長時間労働、夜12時以降の就寝回数、未婚、低所得は糖質・脂質の嗜好性の高さと有意に関連し、低学歴は食物繊維の嗜好性の低さと有意な関連がみられた。女性では、肥満と関連した長時間労働、低所得が糖質・脂質の嗜好性の高さと有意に関連し、中所得が食物繊維の嗜好性の低さと関連がみられた。 これらの結果から研究グループは、「肥満と関連するさまざまなSDOHが、肥満と関連する食嗜好のずれや偏りとも関連を認められた。このことから、食嗜好は単なる個人の好みではなく社会的要因によっても影響を受けることが示唆され、そのずれや偏りが、肥満の形成に寄与している可能性がある」と結論付けている。 近年では米国糖尿病学会(ADA)や米国心臓協会(AHA)でもSDOHが注目されている一方で、日本糖尿病学会や日本肥満学会におけるSDOHの認知度や注目度は必ずしも高くない。しかし、糖尿病や肥満こそSDOHに注目することが重要である。SDOHを理解することは、一人ひとりの社会背景に応じた診療支援につながり、患者への陰性感情やスティグマの払拭にもつながると考えられる。 おわりに小幡氏は「今回の検討により、肥満と関連する食嗜好(食べたい気持ち)すら、社会的影響を受けていることが示唆された。このような疾患のより上流にあるSDOHをそのままにし、一人ひとりの意志や努力に働きかけるアプローチだけでは限界がある。人々が健康によい行動を取りやすい、支援的な社会環境に変えていくことが必要であり、医療や福祉を超えて、社会全体で取り組む必要がある。糖尿病や肥満の専門家である医師もこの重要性を認識し、日本人におけるさらなるエビデンスの蓄積や、効果的な具体策についての研究が求められる」と語った。

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肥満治療のついでにアルコール使用障害も治せる時代が来る? セマグルチド第III相試験の衝撃(解説:永井聡氏)

 肥満症や糖尿病治療の日常臨床では、アルコール使用障害(AUD)の患者にも多く遭遇する。“非”アルコール性である“代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)”では、GLP-1関連薬の効果が期待されている一方、アルコール関連肝疾患(ALD)では「お酒を控えて…」などの一言二言では、まず効果は期待できない。ALDの背景にあるAUDについて治療施設へ受診を勧めても受診が進まず、日常診療でもうまくいかないことが多い。 しかし、セマグルチド投与により「自然と飲酒量が減った」「酒への強い欲求がなくなった」といった事例が報告され、セマグルチド1.0mgのAUDに対する第II相臨床試験(48例、9週間投与)では、アルコール消費量や飲酒に対する「飲酒渇望(craving)」が減少することが報告されていた1)。 今回セマグルチド2.4mgを用いた第III相試験である26週のRCTがLancet誌に報告され、主要エンドポイントである「大量飲酒の日数」が有意に減少し、総アルコール摂取量、飲酒日当たりの飲酒量、飲酒渇望なども減少していた。  この効果は単なる「胃排泄遅延による物理的な飲酒量低下」ではなく、セマグルチドが脳内のドパミン報酬系(腹側被蓋野や側坐核など)に直接抑制的に作用し「飲んでもおいしくない」状態をつくり、アルコールへの強烈な「渇望」が抑制される中枢神経作用が関与していることが基礎研究を含め指摘されている。肥満症治療での「脂っこいものを食べたくなくなる」ことと同様の分子メカニズムと考えられている。 主要エンドポイントのNNTは4.3であり従来のAUD治療薬のNNT>7よりも高く、AUD治療に新たな選択肢として期待される。では、内科でもAUDが肥満症の“ついでに”治療できるようになるのか? というとそれは、まだ時期尚早である。本研究がAUD治療施設で標準的な認知行動療法とともにセマグルチドの投与が行われており、“単に”セマグルチドだけが投与されたわけではない。肥満症でも認知行動療法が重要であることと同様である。また、本研究は、BMI≧30が対象であり、非肥満AUD患者でも安全に同様の治療効果があるのかは明らかではない。26週の投与終了後も、大量飲酒が長期に抑制されるのかについても今後の検証が必要である。 肥満症においては薬物治療中止後の体重のリバウンドは、認知行動療法プログラム中止後よりもはるかに早いことが知られている2)。自由診療での“肥満”治療が、認知行動療法や食事・運動療法を欠いたGLP-1関連薬に“薬物依存”する“危うい現実”を踏まえれば、AUDに対する“安易な”GLP-1関連薬の展開は新たなGLP-1関連薬“依存症”を招きかねない。まさに“元の木阿弥”となってしまうであろう。 GLP-1関連薬は、AUD以外にも喫煙やその他さまざまな依存症への治療が期待されている。しかし野放図に処方されれば、新たな社会問題を来しかねない。肥満症も依存症治療も医学的社会的寛解を達成しうる妥当なパラダイムシフトを願うばかりである。

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第319回 「はや骨抜き」報道の診療所開業規制、「重点医師偏在対策支援区域」での開業支援も実効性に疑問

自治体が二の足を踏み、開業規制は今のところほとんど進まずこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。今シーズン、東京ヤクルトスワローズからMLBのシカゴ・ホワイトソックスに移籍し、アメリカン・リーグの本塁打、打点の2部門でトップに立っていた村上 宗隆選手は、5月29日(現地時間)のデトロイト・タイガース戦で、2塁ゴロを打ち1塁へ走り抜けたところ、右太ももの裏側(ハムストリング)を負傷し途中交代しました。その後、故障者リスト入りしましたが、6月1日、再生医療の一種である「PRP療法」を行ったとの報道がありました。PRP(Platelet-Rich Plasma)は多血小板血漿のことです。血小板は周りの細胞に働きかけて組織の修復を促す働きを持っていることから、その作用を利用して損傷している組織の修復を促すというのがPRP療法です。患者自身から採血を行い、採取した血液から血小板を抽出・濃縮し、それを患部に注射して行います。ロサンゼルス・エンゼルス時代の大谷 翔平選手も2018年、右肘の内側側副靭帯を損傷したときにこの療法を受けています。日本でもスポーツ整形を専門とする医療機関などで、変形性膝関節症や腱・靭帯の痛みや損傷などに対して行われています。保険適用はなく、自費診療で行われていますが、その効果については、まだ定まった評価はないようです。何年か前、トレイルランニングが趣味の私の友人も膝を傷めて都内の整形外科でPRP療法を受けましたが、「何ヵ月かして痛みがなくなったが、PRPが効いたのかどうかは正直よくわからない」と話していました。私も左膝の靭帯を損傷し、保存療法の真っ最中です(受傷5週間でもまだ痛い)。村上選手の報道を聞いて一瞬受けてみようかと思いましたが、治療費が高額(施設によりますが1回5〜30万円)なこともあり断念しました。もし村上選手が驚異的な回復を見せ、7月のオールスターゲームのホームランダービーに出場するようなことになったら、再度検討してみようと思います。さて今回は、以前にも書いた外来医師過多区域での診療所の開業規制のその後について書いてみたいと思います。4月から外来診療を担う医師が多い東京都心や大阪市など、9つの二次医療圏を対象候補とする開業規制がスタートしましたが、どうやら自治体が二の足を踏み、「規制」は今のところほとんど進んでいないようです。外来医師過多区域は9つの二次医療圏が候補2026年4月1日からスタートした診療所の開業規制では、都道府県知事が「外来医師過多区域」を指定し、その区域で無床診療所を開設する者に対して事前届出(6ヵ月前までに都道府県へ)や協議・要請を行えるとしています。届出時に、地域でとくに必要とされている外来医療を提供する意向や、提供しない場合はその理由などを示さなければなりません。提供しない意向の場合、都道府県知事は協議の場への参加や説明を求めることになります。「外来医師過多区域」の基準は省令で、外来医師偏在指標が「全国平均値+標準偏差の1.5倍」以上、かつ可住地面積あたり診療所数が全国の上位10%以上に該当する場合とされており、厚労省からは以下の9つの二次医療圏が候補として示されています。1)東京都の区中央部(該当区市町村:千代田区、中央区、港区、文京区、台東区)2)東京都の区西部(新宿区、中野区、杉並区)3)東京都の区西南部(目黒区、世田谷区、渋谷区)4)京都府の京都・乙訓(京都市、向日市、長岡京市、大山崎町)5)大阪府の大阪市(大阪市)6)福岡県の福岡・糸島(福岡市、糸島市)7)東京都の区南部(品川区、大田区)8)東京都の区西北部(豊島区、北区、板橋区、練馬区)9)兵庫県の神戸(神戸市)「5月上旬時点で指定に動いた自治体は一つもなかった」と日経5月10日付の日本経済新聞電子版は「診療所の『開業規制』はや骨抜き? 自治体、対象区域の指定に二の足」と題する記事を掲載、規制の権限を持つ都道府県が「外来医師過多区域」の指定に二の足を踏んでいる状況を報じています。同記事によれば、「すべての都府県が今秋までに地域で不足する医療の内容などを公表し、27年度の開業までに対象区域の指定を間に合わせてほしい」と厚労省の担当者が考えているのに対し、「各地の動きは鈍い。筆者が5都府県に取材したところ、5月上旬時点で指定に動いた自治体は一つもなかった。今後の見通しについても、兵庫県が『秋までには公表したい』との認識を示すにとどまった」とのことです。指定に二の足を踏む理由について同記事は、「一つは対象区域の線引きだ。厚労省は地域医療の基本単位である『2次医療圏』ごとに候補地を選んだ。地域の医師会など利害関係者との調整に支障を来しかねない。例えば京都は京都市、向日市、長岡京市、大山崎町を含む『京都・乙訓』が候補となった。府の担当者は『京都市のほかは医師がたくさんいるわけではない。京都市内でも濃淡がある』と苦慮する。全域を指定しても一部に絞っても反発を招く恐れがある」と書いています。また、診療所の開設許可を政令指定都市や特別区が担う地域では、県は議論を主導しにくいという医療行政の実務上の問題点も同記事は指摘、「地域の綱引き次第では規制が骨抜きとなりかねない」と書いています。過疎地の診療所は「ただ同然も買い手なし」「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」には医師不足地域向けの対策も盛り込まれています。都道府県が指定する「重点医師偏在対策支援区域」で診療所を開業しようとする場合に、施設整備費、設備整備費、開業後の定着支援費などを補助する仕組みです。しかし、そもそもこれからも患者が激減していくであろう地域で、敢えて開業する医師が現れるでしょうか。5月27日付の産経新聞大阪版夕刊に「過疎地の診療所 承継支援 661件消滅 『ただ同然も買い手なし』」と題する記事が掲載されています。同記事は、「帝国データバンクによると、令和7年の全国の診療所の休廃業や解散は計661件で過去最高を更新。経営者の年齢分布では70代以上が全体の半数を超えており、高齢化と後継者不足を背景に今後も診療所の休廃業は高水準で発生し続けるとみている」と全国の傾向を報じるとともに、兵庫県三木市の私立口吉川診療所のケースを紹介、同診療所が3月の閉院以降、後継者が見つからず診療継続ができなくなっている状況をレポートしています。同記事によれば、同診療所は4年前から後継者を探してきたものの結局見つからずじまいで、「医療関係者向けの雑誌に『後継者募集』と記事を掲載したが問い合わせは数件のみ。前向きに購入を検討していた相手もいたが、糖尿病や高血圧症などに関する診療報酬の改定を受けて『採算が取れない』と断られた」と書いています。本連載の「第310回 診療所の開業規制いよいよスタート、厳密な意味での『規制』となっておらず実効性に疑問」では、「『外来医師過多区域』での規制、『重点医師偏在対策支援区域』での経済的インセンティブ、ともに設計が甘く、制度のための制度にしか見えないと感じるのは私だけでしょうか」と書きましたが、この時に危惧したとおり、国からの指示で官僚が現場も見ずに“鉛筆なめなめ”でつくった政策の限界が早くも露呈し始めたようです。

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あっけらかんとしている患者さんへの対応【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第50回

■外来NGワード「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」(患者のリスク認知や損失回避性に配慮していない)「このまま放っておくと大変なことになりますよ」(具体性に欠ける“脅し”であり、行動変容につながりにくい)「前より悪くなっていますね」(感応度逓減性を考慮せず、小さな変化の意味付けが不十分)■解説血糖コントロール指標であるHbA1cが6%台と良好であっても、わずかな変動に強く反応する人がいる一方で、8~10%と不良な状態であっても、1%程度の変化に無関心な患者さんも存在します。このような反応の違いは、行動経済学のプロスペクト理論によって説明することができます。プロスペクト理論では、人は結果を絶対値ではなく「参照点からの変化」として評価し、その価値は利得と損失で非対称なS字型の関数で表されます。すなわち、「人は同程度の利得よりも損失を強く評価する(損失回避性)一方で、損失が大きくなるにつれて感情の変化は次第に鈍くなる(感応度逓減性)」という特徴があります。そのため、慢性的にHbA1cが高い状態にある患者さんでは、血糖の悪化が日常化し、小さな変化に対する心理的反応が弱くなっている可能性があります。しかし、2型糖尿病においてHbA1cを1%低下させることにより、足病変は43%、腎症や網膜症などの合併症は37%、糖尿病関連死は21%、心血管イベントは14%減少することが報告されています。このような患者さんに対しては、単に数値の変化を指摘するのではなく、目標値を適切に再設定し、具体的かつ達成可能な短期目標を提示することが重要です。さらに、あいまいな医学的おどしではなく、将来のリスクを日常生活のイメージと結びつけて共有することで、行動変容を促せます。■患者さんとの会話でロールプレイ医師血糖コントロールの指標であるHbA1cの値が8.6%から9.1%まで上がっていますね。(具体的に数値の変化を伝え、患者の反応をうかがう)患者うーん、HbA1cが9%と言われても、とくに困ってないし、あまり気にしていません。(正直な気持ちを吐露)医師確かに、0.5%増えたと言われても、「たった、それだけ」と思うかもしれませんね。患者そうなんです。たった、0.5%だし…。それに、症状も何もなくて元気だし…。(感応度逓減性が疑われる言動)医師なるほど。今は、疲れやすいとか、のどがよく渇くとか、トイレの回数が多いなどで症状は感じておられないんですね。(尋ねながら、高血糖症状のポイントを説明)患者…あっ、そういえば仕事が忙しくて疲れていると思っていました。それに、お茶をよく飲むから、トイレの回数が多いと思っていました。(高血糖の症状を誤解していたことに気付く発言)医師確かに、そういった症状が高血糖によるものだと知らない人も多いですね。ただ…。患者ただ?医師ただ、今の状態が続くと、10年、いや数年後に眼や腎臓に高血糖の影響が出る可能性があります。患者えっ、そうなんですか。それなら、どうしたら?医師そんなに、大きく変える必要はありません。たとえば、今の状態からHbA1cを1%だけ下げるだけでも、足の切断リスクは43%、腎臓や眼の合併症は37%、糖尿病関連死は21%、心臓の合併症リスクは14%と、しっかり減りますよ。患者えっ、そうなんですか…1%くらいなら、できそうな気もします。医師いいですね。では、まずは無理のない範囲で、取り組めそうなことを一緒に決めてみましょうか。患者よろしくお願いします。■医師へのお勧めの言葉「今のHbA1cは目標よりも2%も高いです。1%というとちょっとの違いに感じますが、HbA1cを1%減らすだけで、足病変は43%、腎臓や眼の合併症は37%、心臓の合併症は14%もリスクが下がるんですよ!」 1)Stratton IM, et al. BMJ. 2000;321:405-412.2)Holman RR, et al. N Engl J Med. 2008;359:1577-1589.

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第298回 医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省

<先週の動き> 1.医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省 2.「やせ薬」目的で拡散するマンジャロ、個人売買の監視強化/厚労省 3.外来医師過多区域で新規開業対応を強化、9医療圏を候補に提示/厚労省 4.出生率1.14で過去最低、周産期・小児医療の集約化議論へ/厚労省 5.外科医への退職強要で大津市民病院側に100万円支払い命令/大津地裁 6.私物PCとクラウド利用に警鐘、患者情報1,365件漏えいの可能性/藤田医大 1.医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省厚生労働省は、医学部入試の「地域枠」について、卒業後に特定地域で原則9年以上勤務する現在の運用を見直す検討に入った。地域枠は、一般入試とは別に定員を設け、奨学金の貸与と引き換えに、卒後一定期間、都道府県知事が指定する医療機関などで勤務する仕組み。2025年度は医学部定員9,393人のうち1,847人と約2割をこの地域枠の学生が占めた。医師偏在対策の柱の1つだが、若手医師の20~30歳代は、専門医取得、海外留学、結婚・出産・育児、家族介護などの時期と重なる。10~18年度に地域枠で入学した4,917人のうち、入学時の条件を満たさなかった人は301人。その理由としては「個人的な理由」が最多だった。厚労省は有識者検討会で議論を進め、留学や専門医資格取得のための猶予期間、一時中断の柔軟化などを検討し、年内の取りまとめを目指す。地域枠をめぐっては、都道府県ごとの運用差も課題となっている。育児休業による中断は全都道府県で認められている一方で、留学は35、介護は31都道府県にとどまる。高知大学のように、臨床研修後の残り7年間を15年間のうちに終えればよいとする柔軟な制度や、自治医科大学のように卒業生同士の結婚に配慮し、一定条件で配偶者の出身都道府県勤務を認める例もある。山梨県では、県内勤務を条件に修学資金返還を免除する制度について、条件を満たさない場合に最大約842万円を求める違約金条項を廃止する方針が示された。同条項をめぐっては、消費者機構日本が差し止めを求め、甲府地裁が今年1月に「平均的な損害を超え不当」として差し止めを命じていた。県は控訴していたが、制度を見直し、県による面接、在学中の地域医療実習、勤務年数に応じた段階的な返還免除、貸与額の引き上げなどを導入する。地域医療を支える制度の実効性を保ちつつ、18歳時点の選択で30代までのキャリアを過度に拘束しない制度設計が問われている。 参考 1) 医師の「地域枠9年」緩和 厚労省検討 医学部入試 留学・子育てに配慮(日経新聞) 2) 山梨県 医師確保のための「地域枠」制度 違約金条項を廃止へ(NHK) 3) 山梨県が医学部の修学資金制度を見直し、「違約金」を廃止(朝日新聞) 4) 山梨、医師修学資金貸与の違約金を廃止 裁判踏まえ見直し(毎日新聞) 2.「やせ薬」目的で拡散するマンジャロ、個人売買の監視強化/厚労省糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)をダイエット目的で使用したり、SNSで個人間売買したりする動きが広がっているとして、厚生労働省が注意喚起と監視を強化する。上野 賢一郎厚生労働大臣は6月5日の閣議後の会見で、「マンジャロを個人間で売買することは違法」と明言。都道府県など関係機関と連携し、SNSを含むネットパトロールを強化し、法違反には厳正に対処する考えを示した。マンジャロは米・イーライリリーが開発したGIP/GLP-1受容体作動薬で、国内では2型糖尿病において効能・効果で承認され、医師の処方のもとで使用されている。その一方で、食欲を抑える作用が注目され、美容・ダイエット目的での使用を勧めるSNS投稿や美容クリニックの広告が拡散している。上野厚労相は「糖尿病治療以外で使用した場合の安全性、有効性は確認されていない。思わぬ副作用につながる可能性も否定できない」と述べ、適正使用を呼びかけた。6月2日には、大阪府警がマンジャロをSNS経由で無許可販売したなどとして、大阪府・奈良県の20~30代の男女3人を医薬品医療機器法(薬機法)違反の疑いで書類送検した。薬機法は、許可を受けていない者が業として医薬品を販売することを禁じており、違反すれば3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の対象となる。処方箋医薬品であるマンジャロは、許可業者であっても処方箋なしには販売できない。また、販売目的で保管する「貯蔵」も処罰対象となり得る。購入しただけの人を直接処罰する規定はないとされるが、余った薬を友人に有償で譲ったり、SNSで転売したりすれば無許可販売に問われる可能性がある。さらに、正規ルート外で入手した医薬品は偽造品や不適切な温度管理のリスクがあり、重い副作用が出ても医薬品副作用被害救済制度の対象外となる。医療者には、マンジャロが単なる「やせ薬」ではなく糖尿病治療薬であることを患者に説明し、安易な個人売買や自己判断での使用を避けるよう啓発する姿勢が求められる。 参考 1) マンジャロ個人間売買、厚労相「法違反は厳正に対処」 注意喚起強化(朝日新聞) 2) 糖尿病治療薬「マンジャロ」上野厚労相が適正な使用を呼びかけ(NHK) 3) 厚労相「法違反、厳正に対処」 マンジャロ個人売買の横行受け(毎日新聞) 4) 「やせ薬」危険な個人売買 糖尿病薬「マンジャロ」取引横行 許可なくSNSで販売疑い異例の立件(同) 5) マンジャロ無許可販売で書類送検、買う側には「罰則なし」? それでも弁護士が購入を勧めないワケ(弁護士ドットコム) 3.外来医師過多区域で新規開業対応を強化、9医療圏を候補に提示/厚労省厚生労働省は、2027年度から始まる第8次医療計画後期に向け、「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」を都道府県に通知した。今回の見直しは、都市部など診療所医師が集中する地域で新規開業への対応を強める一方で、医師不足地域では診療所の承継・開業支援を進めるもので、外来医療における偏在策が具体化しつつある。ガイドラインでは、外来医師偏在指標と可住地面積当たり診療所数を基に、とくに外来医師が多い「外来医師過多区域」の候補として、東京・区中央部、区西部、区西南部、区南部、区西北部、京都・乙訓、大阪市、福岡・糸島、神戸の9つの2次医療圏を提示した。外来医師過多区域では、無床診療所の新規開設希望者に対し、原則として開設6ヵ月前までの事前届出を求める。届出では、夜間・休日の初期救急、在宅医療、発熱外来、学校医・予防接種、警察医会への協力など、地域で不足する医療機能を担う意向の有無や内容を示す必要がある。要請や勧告に従わない場合には、内容の公表に加え、保険医療機関の指定期間を通常より短縮する対応も想定される。その一方で、制度は一律の開業抑制ではない。親の死亡に伴う急な診療所承継や、自治体の求めに応じて地域外来医療を担う場合などは、事前届出の猶予・免除の対象となり得る。また、診療所の全医師が育児や介護で夜間・休日対応ができない場合など、地域で不足する医療機能を担えない「やむを得ない事情」も例示された。医師不足地域では、国と都道府県による診療所の承継・開業支援が始まっている。2024年度補正予算で102億円、2026年度当初予算で20億円が措置され、施設整備、医療機器購入、職員給与や材料費などの運営経費を支援する。青森県では県内全6つの2次医療圏を重点医師偏在対策支援区域に定め、2025年度に19診療所が交付対象となった。承継10施設、新規開業9施設で、内科に加え産科や小児科の開業も含まれた。県内診療所数の減少幅は緩やかになっており、県や医師会からは支援事業を評価する声が出ている。外来医療の偏在対策は、開業の自由と地域に必要な医療機能の確保をどう両立させるかが焦点となる。都市部では新規開業医に地域で不足する医療機能への協力を求め、医師不足地域では経済的支援で承継・開業を後押しする「要請と支援」の両輪が動き出した。今後は、地域医療構想、かかりつけ医機能報告、外来機能報告のデータを活用しつつ、長期的な財源確保と、地域ごとの実効性ある協議が問われる。 参考 1) 外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン~第8次(後期)~」について(厚労省) 2) 開業規制の医師過多区域、5都府県の9圏域候補 国がガイドラインで示す(CB news) 3) 第8次後期外来医療計画のGLを通知、外来医師過多区域の取り組みを記載-厚労省(日本医事新報) 4) 第8次後期の外来計画でGL 過多区域の「特例」示す(MEDIFAX) 5) 重点区域の診療所支援、偏在是正に一定の効果 「長期的な財源確保」を(同) 4.出生率1.14で過去最低、周産期・小児医療の集約化議論へ/厚労省厚生労働省が公表した2025年人口動態統計(概数)で、わが国の出生数は前年比1万4,937人減の67万1,236人となり、10年連続で過去最少を更新した。合計特殊出生率は1.14で、3年連続の過去最低となった。出生数の減少率は2.2%と、近年の5%台からは縮小したが、死亡数158万9,489人との差である自然減は91万8,253人に達し、19年連続の人口減少となった。婚姻件数は48万9,119組で2年連続増加したが、この10年では14万組余り減っており、少子化の基調は変わっていない。都道府県別の出生率は、沖縄1.52、宮崎1.46、福井1.45が高く、東京0.96、北海道・宮城1.00と低かった。関東以北で低く、西日本で高い「西高東低」の傾向がみられた。この背景には、所得・雇用の不安定さ、出会いの少なさ、子育て費用、仕事と育児の両立困難、固定的な性別役割分担意識の地域差など、複数の要因が絡むとされる。政府は児童手当の拡充、子供誰でも通園制度、育児休業給付の充実、出産費用無償化などを進めるが、尾崎 正直官房副長官は「少子化に歯止めがかかっていない」との認識を示している。医療現場への影響はすでに顕在化している。国内の分娩取扱施設は2006年の3,098施設から2025年には1,856施設へ約4割減少し、診療所は初めて1,000施設を下回った。埼玉県本庄市では地域最後の分娩施設が少子化による経営難などを理由に分娩を休止し、妊婦健診は地域診療所、分娩は近隣施設で担うセミオープン型へ移行した。小児医療でも、低出生体重児や小児外科症例の減少により、NICU・GCUの空床、専門医・指導医育成の症例確保、こども病院の赤字が課題となっている。NICUは出生1万人当たり46.2床と、かつての整備目標を大きく上回る一方で、GCUの病床利用率が50%未満の地域周産期母子医療センターも多い。第9次医療計画に向けて、国は周産期・小児医療の病床数見直し、集約化、都道府県を越えた広域連携の検討を始める。少子化は単なる人口政策ではなく、分娩、小児救急、NICU、小児外科、思春期医療まで含む医療提供体制の再編問題である。安全性を維持しながら、患者・家族の移動負担や地域アクセスをどう支えるかが、今後の医療政策の焦点となる。 参考 1) 人口動態統計月報(概数)(令和7(2025)年12月分(年計を含む))(厚労省) 2) 13県で出生率上昇も…少子化に歯止めかからず 対策の拡充不可避 令和7年人口動態統計(産経新聞) 3) 出生率1・14、過去最低を更新 出生数は最少の67万人 令和7年人口動態統計(同) 4) 閉じる分娩施設、減る小児の症例数 世界最高水準を誇る医療の未来は(朝日新聞) 5) 少子化で経営成り立たず 地域最後のお産休止、空床増えるこども病院(同) 6) 去年の出生数67万人 過去最少 少子化対策ポイントは(NHK) 5.外科医への退職強要で大津市民病院側に100万円支払い命令/大津地裁大津市立大津市民病院に勤務していた外科医3人が、業績不振を理由に退職を強要され、パワーハラスメントを受けたとして、病院を運営する地方独立行政法人や前理事長、前院長に慰謝料や未払い退職金など計約2,900万円の支払いを求めた訴訟で、大津地裁は6月5日、原告のうち1人に対する退職強要を認め、病院側に慰謝料100万円の支払いを命じた。パワハラについては3人とも認めず、残る2人への退職強要も否定した。判決によると、前理事長らは2021年4~9月、外科などの業績不振を理由に「改善の兆しが見えないということで決断せざるを得ない」などと発言。同年9月の面談では、元副院長に対し、「外科の医師には退職してもらい、別の大学のチームに来てもらうよう頼む」趣旨の発言をした。田野倉 真也裁判官は、外科の経営低迷が元副院長らの責任とは認められないにもかかわらず、退職を求めた言動は「社会通念上相当と認められる退職勧奨の範囲を超えた」と判断。自由な退職意思の形成を妨げる退職強要に当たるとして、精神的苦痛と退職を余儀なくされたことへの慰謝料を認めた。その一方で、残る2人の医師については、問題となった面談に出席しておらず、前理事長らの意向を元副院長から伝えられたに過ぎないとして、退職を強要されたとは評価できないとした。また、原告側が主張したパワハラについても、3人いずれについても認定しなかった。前理事長が元副院長に対して名誉毀損を理由に550万円を求めた反訴も棄却された。今回の判決は、病院経営の改善や診療科再編を理由とする人事対応であっても、特定医師に退職を既定方針として繰り返し伝える行為は、適法な退職勧奨の範囲を超え得ることを示した。医師不足や経営悪化を背景に診療体制の見直しを迫られる医療機関では、業績評価の根拠、面談記録、本人の自由意思の確保、配置転換や業務改善の選択肢提示など、手続きの透明性が一層問われる。 参考 1) 大津市民病院の損賠訴訟 退職強要認め100万円支払命令 地裁判決(産経新聞) 2) 「退職の決定」何度も通知するパワハラ…市立病院側に医師1人に100万円の支払い命じる判決(読売新聞) 3) 大津市民病院の前理事長ら、医師に退職強要 100万円の損害賠償支払い命令、大津地裁(中日新聞) 6.私物PCとクラウド利用に警鐘、患者情報1,365件漏えいの可能性/藤田医大藤田医科大学病院は、6月3日に看護師の私物パソコン(PC)に保存されていた患者情報1,365件が外部に漏えいした可能性があると発表した。対象は、末期腎不全、腹膜透析、腎代替療法指導を受けた一部患者で、氏名、性別、生年月日、患者ID、病名、転帰、入退院日、検査データなどが含まれる。現時点で不正利用は確認されていないが、病院は対象患者への謝罪と経過報告、相談窓口の設置、全職員研修、個人情報の取扱実態調査を進める。今回の事案で注目すべきは、病院本体の電子カルテが直接侵害されたのではなく、職員が規定に反して患者情報を私物PCに保存し、自宅でサポート詐欺型の不正侵入を受けた点である。看護師は学会発表資料の作成などを目的に、2020年ごろからクラウドを介して患者情報を私物PCと共有していた。5月25日、自宅でウェブサイトを閲覧中に偽の警告画面が表示され、表示された連絡先やURLに応じた結果、第三者による遠隔操作を受けたとみられる。その後、ウイルス駆除名目の金銭請求、身に覚えのないクレジット請求、携帯電話アカウント変更通知などがあり、専門業者からサポート詐欺と情報漏えいの可能性を指摘された。医療機関のサイバー対策は、ランサムウェア対策のみを想定すれば足りる段階ではなくなっている。偽警告、遠隔操作、クラウド同期、私物端末、学会・研究用データの持ち出しが組み合わされば、重大な個人情報漏えいにつながる。とくに、匿名化が不十分な症例リストや検査データ、紹介状、退院サマリーを、発表準備や在宅作業のために個人端末へ移す運用は、診療所でも起こり得る。厚生労働省は5月29日に開かれた「医療等情報利活用ワーキンググループ」で示した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版(案)」は、病院だけでなく、一般診療所、歯科診療所、薬局、訪問看護ステーション、介護事業者も対象とする。医療情報を保存するシステムに限らず、医療情報を扱う情報システム全般が対象であり、私物PCやクラウド利用も管理外ではなくなっている。さらに令和8年度版チェックリスト案では、二要素認証、パスワード要件、端末・サーバ・ネットワーク機器の台帳管理、アクセス権限管理、USBなど外部記録媒体の制限、不要ソフトの停止、インシデント時の連絡体制、サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)の策定が重視されている。まず、クリニックなどでも「患者情報をどの端末、クラウド、USB、メールに置いているか」を確認し、私物PC端末への保存禁止、学会・研究用データの匿名化手順、クラウド共有の承認制、偽警告が出た際に電話しない・URLを開かないなどのセキュリティ教育が必要となる。サイバー対策はもはや医療情報システム部門だけの課題ではなく、診療情報の持ち出しルールと緊急時対応を明文化するなど、医療機関の経営者にとって重要な課題になっている。 参考 1) 個人情報漏洩に関するご報告とお詫び(藤田医科大病院) 2) 第32回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省) 3) 患者情報1,365件漏えいか 藤田医科大病院 相談窓口設置へ(読売新聞) 4) 藤田医科大病院で1,300件超の患者情報漏えい 私物PCでサポート詐欺被害(CB news) 5) 藤田医大病院 私用パソコンに保存 患者の個人情報流出か(NHK)

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高齢者の前立腺がん疑い、本当にすぐに検査すべき?【高齢者がん治療 虎の巻】第9回

講師紹介<今回のPoint>高齢者のPSA高値では、前立腺がんの早期発見という利益だけでなく、前立腺生検の負担や過剰診断の不利益も考える必要がある。PSAが軽度〜中等度に上昇している場合には、PHIなどのバイオマーカーやMRIを活用することで、前立腺生検に進むべきかをより慎重に判断できる可能性がある。高齢者では、期待余命、フレイル、併存疾患、患者の価値観を踏まえたshared decision making(SDM)が重要である。<症例>78歳、男性。検診でPSA 6.9ng/mLを指摘され、クリニックを受診。一昨年に狭心症発作に対して冠動脈ステント留置術を受けており、糖尿病、高血圧の薬に加えて抗血小板薬を内服している。PSA高値について総合病院での精査を提案すると、「症状なんて何にもない。おしっこの悩みもないのに、精密検査は絶対に受けなければならないのか?」と話され、精査については躊躇される気持ちがあった。この患者に対して、すぐに侵襲的な検査である前立腺生検を勧めるべきでしょうか。それとも、患者と相談し、慎重に経過をみることを選択肢に持つべきでしょうか。“PSA高値=すぐ前立腺生検”でよいのか?PSA検査と、それに続く前立腺生検の目的は、前立腺がんを見つけて、必要な患者を根治に導くことです。しかし、高齢男性においては、「がんを見つけること」そのものが、必ずしも患者の利益につながるとは限りません。PSAスクリーニングの有効性を示した代表的な試験として、欧州で行われたERSPC trialがあります1)。この試験では、PSAスクリーニングにより前立腺がん死亡リスクが低下することが示されました。しかし、この16年間の追跡結果では、前立腺がん死を1人減らすためには570人にスクリーニングを行い、18人の前立腺がんを診断する必要があると報告されています。この数字を見ると、PSA検査には確かに意義がある一方で、多くの方が検査や精査の対象となることがわかります。とくに高齢者では、前立腺がんを見つける利益だけでなく、検査による負担や過剰診断の不利益もあわせて考える必要があります。さらに、PSA高値の患者に対して行われる前立腺生検は、決して無害な検査ではありません。血尿は4〜66%、直腸出血は1〜37%、発熱は0.6〜17%に認められると報告されています。多くは軽微ですが、膀胱洗浄を要する血尿は0.4%、処置を要する直腸出血は0.3%、敗血症は0.1〜3.1%とされており2)、まれながら重篤な合併症も起こり得ます。高齢者では、一度の感染や入院をきっかけにADLが低下することもあります。抗血小板薬や抗凝固薬を内服している患者では、出血リスクへの配慮も必要です。したがって、高齢者のPSA高値をみたときには、前立腺生検へ進む前に、その検査によって「本当に患者にとって利益が得られるものなのか」を一度立ち止まって考えることが大切です。高齢者では「見つけること」の不利益も考える前立腺がんには、生命予後にほとんど影響しない、いわゆる“おとなしいがん”が少なくありません。剖検研究では、ラテント前立腺がんの頻度は加齢とともに上昇し、80歳以上では約6割に認められると報告されています3)。高齢者に対するPSA検査や前立腺生検は、このような臨床的に問題とならないがんまで見つけてしまう可能性があります。ここで問題になるのが過剰診断です。過剰診断そのものは患者に症状を起こさないかもしれませんが、いったん「がん」と診断されると、不安や医療機関受診の負担、さらには将来的な過剰治療へつながることがあります。前立腺がん診療では、次回(前立腺がんに対する監視療法)で述べるように過剰治療への懸念もありますが、その前段階として「調べすぎ」「見つけすぎ」も高齢者では重要な課題です。もちろん、これは「高齢者には前立腺生検をすべきではない」という意味ではありません。臨床的に重要な生命予後に関わる前立腺がん(significant cancer)が疑われる患者では、適切な検査を進める必要があります。重要なのは、すべての前立腺がんを早期に見つけることではなく、転移性がんやsignificant cancerを見逃さず、一方で不必要な生検や過剰診断を減らすことです。PSAだけで判断せず、新規バイオマーカーとMRIも活用するこのような利益と不利益のバランスを考えるうえで、PSA値だけで判断するのではなく、PHI(Prostate Health Index)などの新規バイオマーカーやMRIを組み合わせて評価するという考え方もあります。とくにPSAが軽度〜中等度に上昇している高齢者では、すぐに前立腺生検へ進むのではなく、泌尿器科専門医のもとでリスクを段階的に評価し、前立腺生検が本当に必要かを患者と相談しながら判断することが重要です。PHIは、PSA高値患者における臨床的に意義のある前立腺がん、すなわちsignificant cancerのリスク評価に役立つ指標です4)。PHIが27未満の場合、91%が非がんまたはGleason score 6以下であったと報告されています5)。一方で、PHIが36以上ではGleason score 7以上のsignificant cancerのリスクが高まるとされています6)。これらの報告を踏まえると、PSAが軽度に上昇している高齢者、とくに複数の併存疾患を有しているケースでは、PHIが低い場合には慎重なPSAフォローを選択し、PHIが高い場合にはMRIなどの追加評価を検討するという段階的な考え方が成り立ちます。この段階的な評価において、MRIは前立腺生検へ進むべきかを判断するうえで重要な役割を担います。PI-RADSに基づくMRI評価は、significant cancerの検出を高める一方で、生命予後に大きく影響しにくい前立腺がんの過剰診断を減らすことにも役立ちます7)。PROMIS trialでは、significant cancerの検出において、mpMRIの感度は93%、特異度は41%、陰性的中率は89%と報告しています8)。また、MRIを先行することで約27%の患者が前立腺生検を回避でき、生命予後に大きく影響しにくい前立腺がんの診断を減らしながら、significant cancerの検出精度を高められる可能性が示されました。したがって、PSAが軽度〜中等度に上昇している高齢者では、「PSA高値だからすぐ生検」ではなく、PHIなどの新規バイオマーカーでリスクを見積もり、必要に応じてMRIを行い、その結果を踏まえて前立腺生検を検討するという段階的なアプローチも選択肢の1つとなり得ます。高齢者のPSA高値で考えるポイントさらに、高齢者のPSA高値を見たとき、最初に考えるべきことは「前立腺がんがあるか」だけではありません。期待余命はどのくらいかフレイルや認知機能低下はないか併存疾患や内服薬はどうか仮に前立腺がんが見つかった場合、生検やその後の治療に耐えられるか患者本人はどこまで検査や治療を望んでいるかこれらを踏まえたうえで、PHIやMRIを活用し、前立腺生検へ進むべきかを患者と相談しながら判断することが大切です。PSA値に応じて考える、高齢者への段階的アプローチ高齢者にPSA検査を行った後の対応としては、次のような段階的アプローチもあります。<PSA 4ng/mL未満の場合>日本泌尿器科学会の検診ガイドラインの考え方を参考に、PSA値に応じて1〜3年ごとの再検を検討します。ただし、再検を勧める際にも、その時点での期待余命やフレイルを再評価することが大切です。(図1)PSA<4ng/mLのフォローアップ戦略画像を拡大する<PSA 4〜10ng/mL、軽度PSA高値の場合>PHIでリスク層別化を行い、PHI高値であればMRIを検討します。MRIでPI-RADS3以上の病変があれば前立腺生検を考慮し、PI-RADS2以下で臨床的な疑いが低い場合にはPSAフォローを継続する、という流れも一つの選択肢になります。(図2)PSA 4〜10ng/mLに対するフォローアップ戦略画像を拡大する<PSA 10〜20ng/mL、中等度PSA高値の場合>MRIをより積極的に検討し、MRI所見やPSAの推移、患者の全身状態を踏まえて前立腺生検の要否を判断します。(図3)PSA10〜20ng/mLに対するフォローアップ戦略画像を拡大するもちろん、これらはあくまで一つの考え方であり、すべての患者に機械的に当てはめるものではありません。大切なのは、前立腺生検を避けること自体が目的なのではなく、本当に生検が必要な患者を見極めることです。終わりに高齢者の前立腺がん疑いでは、PSA高値をみたときにすぐ前立腺生検へ進むのではなく、期待余命、フレイル、併存疾患、患者の価値観を踏まえて、検査の利益と不利益を慎重に考える必要があります。PHIなどの新規バイオマーカーやMRIを活用し、significant cancerを見逃さず、不必要な前立腺生検や過剰診断を減らすことが重要です。高齢者のPSA高値では、患者と相談しながら、一人ひとりに合った検査戦略を考えることが大切です。 1) Hugosson J, et al. Eur Urol. 2019;76:43-51. 2) 日本泌尿器科学会編. 前立腺がん検診ガイドライン2018年版. 2018. p.111-116. 3) Bell KJL, et al. Int J Cancer. 2015;137:1749-1757. 4) Catalona WJ, et al. J Urol 2011;185:1650-1655. 5) Tosoian JJ, et al. Prostate Cancer Prostatic Dis. 2017;20:228-233. 6) White J, Shenoy BV, et al. Prostate Cancer Prostatic Dis. 2018;21:78-84. 7) 高橋 哲. 臨床泌尿器科. 2022;76:770-777. 8) Ahmed HU, et al. Lancet. 2017;389:815-822.

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バージンオリーブオイルが脳に良い可能性とその理由

 バージンオリーブオイル(VOO)は、腸や脳に良い影響を及ぼす可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。一方、一般的により安価で販売されている精製オリーブオイルには、そのような効果が認められないという。ルビーラ・イ・ビルジーリ大学(スペイン)のJiaqi Ni氏らの研究によるもので、詳細は「Microbiome」に1月24日掲載された。論文の筆頭著者である同氏は、「全てのオリーブオイルが認知機能に良い影響を与えるわけではない」と述べている。 Ni氏らは、55~75歳で過体重・肥満およびメタボリックシンドロームを有する656人(平均年齢65.0±4.9歳、女性47.9%)の食生活を調査して2年間追跡。ベースライン時と追跡調査時に神経心理学的検査を行い、ベースライン時の食事調査や便検体を用いた腸内細菌叢の検査結果との関連を検討した。食事調査の項目には、オリーブオイルのタイプ別摂取量も含まれていた。 解析の結果、VOOを習慣的に摂取していた人は、追跡期間中に認知機能の維持との関連や、腸内細菌叢の多様性の高さが認められたが、精製オリーブオイルを摂取していた人ではそのような変化は認められなかった。なお、腸内細菌叢の多様性の高さは、腸の健康状態および代謝が良好であることを示唆している。 研究チームでは、VOO摂取によるそれらの変化に、Adlercreutzia属という特定の腸内細菌が関係している可能性を見いだした。Adlercreutziaは、VOO摂取と認知機能の変化との関連を媒介している可能性が示唆された。つまりVOOの脳への有益な影響の一部は、腸内細菌叢を変化させることによるものであると考えられた。 では、なぜVOOは精製オリーブオイルよりも、好ましい影響を及ぼすのだろうか? それは両者の製造方法の違いにあると言える。VOOは、有益な成分を保持できるような機械的手法で製造される。一方、精製オリーブオイルは、不純物を取り除く、保存期間を延ばす、安定した風味を出すといった意図で加工が加えられる。それらの処理によって、オリーブオイルに含まれている、抗酸化物質、ポリフェノール、ビタミンなどの体に良い成分が減ってしまう。 論文の上席著者である同大学のJordi Salas-Salvadó氏は、「今回の研究は、摂取する脂質の『質』が『量』と同じくらい重要であるという考え方を裏付けるものだ。VOOは心臓を保護するだけでなく、加齢に伴う脳機能の低下を防ぐのにも役立つ」と総括。また、「これらの効果をもたらす腸内細菌を特定することが、認知機能を維持するための新たな栄養戦略を確立することにつながる可能性がある」と付け加えている。

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つなぐべきか、つながざるべきか、それが問題だ(解説:山地杏平氏)

 弁膜症の外科手術を行う際には、左主幹部病変であれば50%以上、その他の主要冠動脈であれば70%以上の狭窄を合併している場合、冠動脈バイパス術(CABG)を同時に施行することが推奨されます。また、中等度大動脈弁狭窄症など、本来であれば単独では手術適応とならない弁膜症であっても、CABGが必要な症例では同時手術が検討されることもあります。 開胸するのであれば、冠血行再建も同時に行うという考え方はリーズナブルだと思います。とくに内胸動脈グラフトや、近年良好な成績が報告されている静脈グラフトを用いることで、将来的な冠動脈イベントの抑制が期待されます。 一方で、せっかく作成したグラフトも長期的には閉塞することがあります。グラフトを冠動脈遠位部へ吻合すると、ネイティブ冠動脈近位部の病変が進行し、完全閉塞へ至ることも少なくありません。そのような状況でグラフトが閉塞すると、慢性完全閉塞病変に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が必要になったり、場合によってはグラフトそのものへの治療が必要になったりすることもあります。そのため、「どの病変にグラフトをつなぐべきか」という問題は、長期予後を考えるうえできわめて重要です。 このような背景の下、弁膜症手術時に冠動脈病変を認めた場合、冠動脈造影による解剖学的狭窄度に基づいてバイパスを行うべきか、それともangiography-derived fractional flow reserve(FFR)による生理学的評価に基づいてバイパスを行うべきかを検討したFAVOR IV-QVAS試験が、2026年にLancet誌に報告されました。 本試験では、angiography-derived FFRを用いた群において、作成されるグラフト数が減少し、人工心肺時間および大動脈遮断時間が短縮されました。さらに、30日以内の死亡、心筋梗塞、脳卒中、予定外血行再建、透析導入を含む主要複合エンドポイントは、FFR群で7.8%、冠動脈造影群で13.4%と有意に低下しました。 この結果はどちらかというと当たり前かとは感じます。CABGは周術期リスクを伴う一方で、遠隔期の冠動脈イベントを抑制することを目的とした治療です。そのため、短期成績のみを評価した場合には、介入を減らした群のほうが有利な結果を示す可能性があります。本試験の意義を正しく評価するためには、グラフト開存率や5年以上の遠隔期成績に関する今後の解析を待つ必要があります。 PCI領域ではFFRをはじめとする生理学的評価が広く普及しており、FAME試験やFAME 2試験をはじめとする多くの研究によって、解剖学的評価のみに基づく治療戦略よりも優れた臨床成績が示されてきました。現在の日本の保険診療においても、PCI施行前には何らかの虚血評価を行うことが求められています。しかし、重症三枝病変に対してCABGを行う際、「どの冠動脈にグラフトを吻合するべきか」という問題については、依然として議論の余地があります。たとえ病変がFFR陽性であっても、ネイティブ冠動脈の血流が比較的保たれている場合には、グラフト閉塞のリスクが高くなる可能性があります。実際、経験豊富な心臓外科医の中には、「FFR陽性であっても、この程度の狭窄であればグラフトは長期的に開存しにくい」と判断する場合があります。 PCIにおいては「その病変を治療すべきか」が主な論点であるのに対し、CABGでは「その病変にグラフトをつないだ際に長期的に機能するか」という別の視点が加わります。そのため、PCIの適応判断に有用であるFFRを、そのままCABGの吻合部位選択に応用できるかどうかについては、まだわかっていないように思います。FFRは虚血の有無を評価する指標としてきわめて優れていますが、グラフトの長期開存性を規定するのは、むしろ実際の血流需要かもしれません。その意味では、将来的にはFFRだけでなく、冠血流予備能(CFR)や冠血流量そのもの、さらには術中のエコーでのグラフト血流評価など、より「流量」に着目した指標の重要性が明らかになる可能性があるかもしれません。 FAVOR IV-QVAS試験の、長期予後やグラフト開存率に関する追加データ次第では、冠動脈バイパス術においても「狭窄があるからバイパスする」のではなく、「実際に虚血や血流障害を生じている血管のみを治療する」ということになるかもしれません。

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開発中の塩基編集治療薬、単回投与でPCSK9およびLDL-Cを低下/NEJM

 LDLコレステロール(LDL-C)を管理する現行の治療モデルの限界を打ち破るために開発中のVERVE-102の第I相試験の結果が、米国・Verve Therapeutics(Eli Lillyの完全子会社)のScott B. Vafai氏らによって報告された。単回投与により、PCSK9およびLDL-C値が用量依存的に持続的かつ顕著に低下したことが示されたという。PCSK9機能喪失型変異を有する人は有さない人よりも、LDL-C値が低く、アテローム動脈硬化性心血管疾患を呈する人が少ないことが知られている。VERVE-102は、肝臓でのPCSK9産生を永続的に抑制するようデザインされた、体内で塩基編集を行う治療薬であり、アデニン塩基編集タンパク質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)と、PCSK9を標的とするガイドRNA(gRNA)から構成され、これらがN-アセチルガラクトサミンを含む脂質ナノ粒子(LNP)に封入されている。NEJM誌オンライン版2026年5月25日号掲載の報告。35例に6用量のいずれかを投与した第I相試験 第I相試験は非盲検の単回投与漸増デザインにて行われた。  研究グループは、ヘテロ接合型家族性高コレステロール血症または早発性冠動脈疾患(PCAD)を有する成人患者に、6用量のVERVE-102(総RNA量の範囲:0.3~1.0mg/kg)のうち、いずれか1用量を静脈内投与した。  本試験の目的は、安全性の評価と血中PCSK9値およびLDL-C値の変化を評価することであった。  35例がVERVE-102の静脈内投与を受けた。内訳は、0.3mg/kgが4例、0.45mg/kgが6例、0.6mg/kgが4例、0.7mg/kgが8例、0.8mg/kgが6例、1.0mg/kgが7例であった。  本報告では、中間解析の結果が報告された。15例で少なくとも1年間、血中のPCSK9値、LDL-C値の低下を確認 平均年齢は52歳(範囲:27~66)、男性が24例(69%)、29例(83%)がヘテロ接合型家族性高コレステロール血症を有し、うち9例がPCADも有していた。PCADのみは6例(17%)。アジア人は6例(17%)で、黒人1例(3%)、白人30例(86%)(参加者自身による複数の人種の申告が可能)であった。ベースラインの平均LDL-C値は129mg/dL。32例(91%)がベースラインでスタチン治療を受けており、うち25例(71%)は強化スタチン療法を受けていた。 全被験者の追跡評価期間中央値は約9ヵ月で、2026年2月27日のデータカットオフ時点で、少なくとも28日間の追跡評価を受けていた(最終試験来院は投与後28日~18ヵ月)。 用量制限毒性は認められなかった。軽度~中等度の注入に伴う反応が7例(すべてGrade1または2で7例)、ALT値の一時的な上昇(正常範囲上限の2倍以上となるも8日目までに2倍未満に低下)が3例(0.7mg/kg群1例、1.0mg/kg群2例)に観察された。また、胃食道逆流症の被験者1例で誤嚥性肺炎が発生した。 血中PCSK9値の用量依存的な低下がみられ、平均低下率は、0.3mg/kg投与群で51%、1.0mg/kg投与群で88%であった。LDL-C値の平均低下率は、0.3mg/kg投与群の9%から1.0mg/kg投与群の62%にわたり、1.0mg/kg群では絶対値で78mg/dLの低下が認められた。  これらの低下は、被験者15例で少なくとも1年間にわたって持続的に認められた。

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ACC/AHA脂質異常症GLで格上げの石灰化スコア、30分の心臓ドックで評価/CVIC

 心臓画像診断を専門とする医療法人社団CVIC心臓画像クリニック飯田橋(以下、CVIC)は、30分で心血管リスクを可視化する新サービス「スピーディー心臓ドック」の提供を開始した。これは冠動脈石灰化スコア、大動脈石灰化スコア、心血管バイオマーカー検査を組み合わせたもので、非造影CTおよび血液検査によって行われる。この中に含まれる冠動脈石灰化スコアは、近年その重要性が明らかになっており、米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)の合同委員会が関連学会とともに2026年3月に公開した『脂質異常症管理ガイドライン2026年版』1)において、推奨度が引き上げられた。そこで、CVICは2026年5月27日にメディアラウンドテーブルを開催し、CVIC理事長の寺島 正浩氏が、突然死を防げない日本の健診制度の課題、心血管病予防における画像診断の役割について解説した。最初の発作が最後の発作、突然死の半数以上は症状なし 寺島氏がまず指摘したのは、一般的な健康診断だけでは冠動脈疾患のリスクを十分に把握しにくく、心臓突然死を防ぐことが難しいという問題である。日本の健診で広く行われている心電図や胸部X線は、低コストで簡便なスクリーニング検査として有用である一方、冠動脈の狭窄や動脈硬化の進展を直接評価する検査ではない。 米国のフラミンガム研究では、突然死の50%以上はまったく症状がなかったことが報告されている。また、急性心筋梗塞の68%は50%未満の軽度冠動脈狭窄から生じていたという報告もある。寺島氏は、この突然性が心臓病の問題であると述べる。 一方で、心筋梗塞の多くは予防可能でもある。INTERHEART研究に基づき、喫煙、脂質異常、高血圧、糖尿病、内臓脂肪、ストレス、食事、運動、飲酒といった9つの修正可能な危険因子により、心筋梗塞リスクの9割が説明されることを紹介した。寺島氏は、9割予防可能な病気で死亡する人が後を絶たないことを指摘。その背景には「自分は大丈夫と考え、行動変容に至らない人が多いことがある」と述べた。数字は忘れても自分の画像は忘れない そこで重要になるのが、リスクの「可視化」である。寺島氏は、血圧、LDL-C、血糖値といった数値は忘れてしまうが、冠動脈や大動脈に石灰化がある画像を見れば、その画像は忘れないと指摘する。実際に、画像を提示することで、真剣に治療に取り組むようになった症例を多く経験してきたとのことだ。また、2018年のVIPVIZA試験では頸動脈エコーの結果を視覚的なレポートとして提示することで、治療効果が増大することも報告されている。クラス1推奨に引き上げられた冠動脈石灰化スコア ACC/AHAの『脂質異常症管理ガイドライン2026年版』では、動脈硬化性疾患のリスク評価方法が変更され、PREVENT-ASCVD方程式が採用された。また、PREVENT-ASCVD方程式で中等度リスク、ボーダーラインリスクと判定され、脂質低下療法の開始・強度について判断が難しい場合に、冠動脈石灰化スコアを用いてリスクを再分類することがクラス1推奨として位置付けられた。 冠動脈石灰化スコアは、非造影CTで冠動脈壁の石灰化を定量化する指標である。冠動脈石灰化スコアによる石灰化の分類は、0をなし、1~99を軽度、100~299を中等度、300~999を高度、1000~を超高度とする。このスコアが、冠動脈疾患死亡率や心血管病死亡率と強く関連する。 さらにCVICでは、冠動脈だけでなく大動脈の石灰化にも注目する。大動脈石灰化は冠動脈石灰化よりも先に出現する早期の動脈硬化マーカーとされ、冠動脈石灰化スコアが0であっても60%で大動脈石灰化が認められるとのことだ。30分で完了する「スピーディー心臓ドック」 今回発表された「スピーディー心臓ドック」は、こうした心血管リスク評価を短時間で実施するサービスである。所要時間は来院から検査終了まで約30分。検査方法は非造影CTによる冠動脈・大動脈評価と採血で、検査内容は冠動脈石灰化スコア、大動脈石灰化スコア、心血管バイオマーカー検査で構成される。心血管バイオマーカーは、NT-proBNP、高感度心筋トロポニン、apoB、高感度CRPの4項目である。 寺島氏は、通常の健診では測定されないこれらの項目を組み合わせることで、より詳細な心血管リスクを把握できると説明した。CVICでは、以下をすべて満たす場合を「パーフェクトスコア」とし、心血管リスクがきわめて低い状態として示している。冠動脈石灰化スコア0大動脈石灰化スコア0NT-proBNP<55pg/mLapoB<65mg/dL(または70mg/dL)心筋トロポニンT<0.003ng/mL高感度CRP<0.02mg/dL 講演では、実際の症例も紹介された。そのなかで紹介された60歳女性は、LDL-C、HDL-C、TG、総コレステロールは、健康診断の正常値の範囲に収まっていたという。冠動脈石灰化スコアも0であったが、大動脈石灰化スコアをみると約700であり、中等度の石灰化が認められた。また、apoBも106mg/dLと軽度高値であった。寺島氏は「大動脈石灰化スコアをとることで、このような方が見つかることがある。可視化することで、行動変容につながっていくのではないかと期待している」と語った。Q&A――石灰化スコアは不可逆とのことであるがどれくらいの頻度で実施すべきか? 1回測定したらその後は不要とする意見があるなど、議論が分かれているが、一般的には5年ほどの間隔を空けて測定するのがよいのではないかとされている。しかし、CVICとしては、冠動脈石灰化スコアが100以上、ないしは300以上の方は、2~3年に1回は検査を実施したほうがよいと考えている。このような方のなかで、生活習慣を気にしない方は次回の測定でスコアが2倍になっている場合もある。一方で、生活習慣が改善されてスコアの変動がみられないという方もいる。このような経過を追うために、石灰化スコアを活用するのもよいのではないか。 石灰化は不可逆であるからこそ、早めの対策が重要である。9つの修正可能な危険因子を修正することで、動脈硬化の進行を遅らせることができる。 なお、「スピーディー心臓ドック」は自費検査で、CVICは通常価格を8万8,000円としているが、2026年10月末日まで3万3,000円で提供する予定とのことだ。

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「肥満症治療薬中止後のリバウンド」が気になる患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第49回

■外来NGワード「元に戻らないように、気を付けなさい」(あいまいな医学的アドバイス)「リバウンドするかしないかは、あなたの生活習慣の問題です」(患者責任に帰結させ、自己スティグマを強める)「ちゃんと続けないと意味がありませんよ」(努力不足のニュアンスとなり、動機付けを低下させる)■解説肥満症治療薬の1つであるインクレチン関連注射薬は、投与期間が最大68週間とされており、治療開始時から中止を見据えた計画が必要です。そのため、投与中止後のリバウンドを懸念する患者さんは少なくありません。実際、システマティックレビューおよびメタ解析によると、薬物療法中止後には体重が再増加(リバウンド)することが示されています。その程度は、認知行動療法を用いた体重管理プログラムと比較して、薬物療法中止後の体重の再増加(リバウンド)はより速いとされています。その報告によると、平均すると体重は月0.4kg程度増加し、改善していた代謝指標も約1.4年でベースラインに近付きます。こうした体重の再増加(リバウンド)は、生活習慣介入、手術、薬物療法といった減量手段に関わらず生じる現象です。その背景には、体脂肪から分泌されるレプチンによる「脂肪定常説」や除脂肪量の減少によるエネルギー消費量の減少などが関与すると考えられています。したがって、肥満症治療薬中止後のリバウンドを予防には、減量中からリバウンド対策をしておくことが大切です。具体的には、体重測定の習慣化、無理のない運動の継続、満足感を得られる食事とつい食べてしまう習慣対策、そして、リバウンドが始まる休薬後の対策が鍵となります。■患者さんとの会話でロールプレイ医師減量の方は順調なようですね。患者はい。ありがとうございます。けど、この薬、止めたらリバウンドしませんかね。それが今から心配で…。医師なるほど。そうでしたか。その点を気にされる方はとても多いですし、この薬を止めた後、体重が少しずつ戻ることはよく知られています。患者やっぱり…。(残念そうな顔)医師大丈夫です。今から、そのリバウンド対策をしておくといいですよ。患者それはどんな対策ですか。(興味津々)医師どんなダイエット法でも、リバウンドする人には特徴が3つあります。患者その3つって、何ですか?医師まずは、体重計に乗らなくなります。順調に体重が減っているときは体重計に喜んで乗るんですが、少し体重が増えてくると、だんだん乗りたくなりますね。患者確かに…。体重が減っているときは面白くて、1日に何回も体重計に乗りますが、停滞していると乗らなくなりますね。まずは、体重計に乗る習慣を続けるということですね。2つ目は?(メモメモ)医師2つ目は、運動をしなくなることです。逆に、運動習慣がある人はリバウンドしにくいことがよく知られています。患者なるほど。運動を継続するということですね。3つ目は?医師極端な食事療法を行わないことです。極端な食事療法では、食事に満足できず、何かをつまんでしまいます。患者なるほど。減量中に、少しの量で満足できる食事をみつけないといけませんね。医師そうですね。他にも注意点があるのですが、次回、お話しましょう!患者ぜひ、お願いします。(嬉しそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「薬の服用を止めた後にリバウンドしないためのコツは、毎日体重計に乗る、運動を習慣化する、少しの量で満足できる食事を探すことです」 1) West S, et al. BMJ. 2026 Jan 7;392:e085304. 2) Berg S, et al. Obes Rev. 2025 Aug;26(8):e13929. 3) Budini B, et al. EClinicalMedicine. 2026 Mar 4;93:103796. 4) van Baak MA, et al. Curr Obes Rep. 2025 Mar 31;14:28.

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クロノタイプに合わせた運動で効果がより高まる可能性

 運動が健康に良いことは広く知られている。しかし、自分のクロノタイプ(朝型か夜型か)を意識して運動する時間帯を決めると、その効果がさらに高まる可能性を示唆するデータが報告された。血圧や血糖値、LDL(悪玉)コレステロールなど、心臓病のリスク因子がより良好になるという。ラホール大学(パキスタン)のArsalan Tariq氏らの研究の結果であり、詳細は「Open Heart」に4月14日掲載された。研究者らによると、クロノタイプに合わせて運動をすることで睡眠の質の向上も認められ、それも心臓病のリスク因子の改善に寄与している可能性があるとのことだ。 この研究には、心臓病のリスク因子を一つ以上持っている40~60歳の成人150人が参加した。参加者はまずクロノタイプを把握した後に、自分のクロノタイプと一致する時間帯、もしくは一致しない時間帯に運動を行う2群にランダムに割り付けられた。運動の時間帯は、午前8時~11時の間、または午後6時~9時の間のいずれかだった。参加者全員が研究者の監督下で1回40分の中強度の有酸素運動(速歩など)を週5回、12週間にわたり実施した。 計60回の運動を完遂した134人の主な特徴は、平均年齢48.6±8.1歳、男性58.2%、BMI28.7±3.4だった。解析の結果、運動の時間帯がクロノタイプに一致していたか否かにかかわらず全体的に、心臓病のリスク因子、有酸素運動能力、睡眠の質が改善していた。しかし、クロノタイプに一致した時間帯に運動をした群は、血圧、心拍数、血糖値、コレステロール、有酸素運動能力、睡眠の質が、より大きく改善していた。 例えば、クロノタイプに一致しない時間帯に運動をした群の収縮期血圧の低下幅は5.5mmHgだったのに対して、クロノタイプに一致した時間帯に運動をした群は10.8mmHg低下していた(P=0.002)。高血圧患者に限って解析すると、7.1対13.6mmHgという差が認められた(P<0.001)。これらの結果に基づきTariq氏は、「個人の生体リズムに合わせて調整された時間帯に行う運動は、臨床や公衆衛生における実用的な介入戦略となり、より高い効果や継続意欲の向上につながる可能性がある」と結論付けている。 Tariq氏らの報告について、米レノックス・ヒル病院のスポーツ心臓専門医であるChristopher Tanayan氏は、「運動する時間帯をクロノタイプに合わせることで血糖コントロールが改善されることを示した先行研究と一致する結果である」と論評。同氏によると、これらの研究結果は、運動のタイミングがクロノタイプと一致することで、身体がより効率的に働くことを反映している可能性が高いという。「クロノタイプを考慮に入れることで、ホルモン分泌が盛んな時間に運動を行え、その結果、より高い負荷をかけることが可能になって運動によるメリットも大きくなるのではないか」と同氏は解説している。

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第297回 改正健康保険法が成立、出産無償化とOTC類似薬負担増を導入/国会

<先週の動き> 1.改正健康保険法が成立、出産無償化とOTC類似薬負担増を導入/国会 2.診療報酬改定目前、キャンセル料を巡る混乱で厚労相が陳謝/厚労省 3.AIの悪用リスク踏まえ病院のサイバー対策強化を/厚労省 4.直近100日の薬剤情報を表示、ワクチン接種歴も/デジタル庁 5.糖尿病薬の個人間取引に警告 X投稿の7割超がマンジャロ/東京都 6.東京女子医大2歳児死亡事故、ICU責任医に有罪判決/東京地裁 1.改正健康保険法が成立、出産無償化とOTC類似薬負担増を導入/国会改正健康保険法など医療保険制度改革の関連法は5月29日の参議院本会議で、与党自民党や日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。柱は、正常分娩の実質無償化と、市販薬と成分や効能が似る「OTC類似薬」を処方された患者への追加負担の導入である。政府は給付と負担を見直し、現役世代の社会保険料負担を軽減すると説明しているが、患者団体や野党からは受診控えや家計圧迫への懸念がされている。出産費用については、現在は正常分娩が公的医療保険の対象外で、出産育児一時金50万円の支給で対応している。しかし、都市部を中心に費用が一時金を上回るケースが目立つため、厚生労働省が全国一律の基本単価を設定し、公的保険から医療機関へ全額給付する仕組みに改める。改正法の公布後2年以内、遅くとも2028年夏ごろまでの施行を目指す。すべての妊婦を対象に定額の現金給付も設ける。帝王切開は、従来通り保険診療で原則3割負担となり、正常分娩でも個室料などは自己負担となる。当面は医療機関の判断で出産育児一時金を継続できる経過措置も置き、産科経営や地域の周産期医療体制への影響に配慮する。OTC類似薬では、保湿薬、抗アレルギー薬、解熱鎮痛薬、胃腸薬など77成分、約1,100品目を対象とする案が示されている。薬剤費の4分の1を公的保険の給付対象から外し、患者の1~3割負担に上乗せする。2027年3月の開始を目指す。政府は市販薬を購入する人との公平性や、必要性の低い受診の抑制を狙う。その一方で、がんや難病の患者、子供、低所得者、医師が通年処方を必要と判断する患者などには追加負担を求めない方針であり、具体的な範囲は今後、専門家の意見を踏まえて定めるとしている。改正法には、75歳以上の後期高齢者の保険料や窓口負担の算定に、上場株式の配当など金融所得を反映させる仕組みの強化も盛り込まれた。さらに高額療養費制度について、将来の見直し時に、長期療養者の家計への影響を考慮することも明記した。参院厚生労働委員会は、OTC類似薬の対象を薬剤以外の診療行為に広げないよう検討することや、必要な受診が抑制されないよう影響を検証し、必要に応じて見直すことなど19項目の付帯決議を採択した。立憲民主党、公明党、共産党、れいわ新選組などは反対し、国民皆保険の維持と患者負担増の線引きが今後の焦点となる。 参考 1) 健康保険法等の一部を改正する法律案について(厚労省) 2) 「OTC類似薬」処方された患者に追加負担求める法律が成立(NHK) 3) 改正健康保険法が成立…OTC類似薬の患者追加負担、出産費用の実質無償化など柱(読売新聞) 4) 出産費用を無償に、改正法成立 厚労省が全国一律価格を設定へ(日経新聞) 5) 健保法等改正案 参院厚労委で賛成多数で可決 29日の参院本会議での採決を経て成立へ(ミクスオンライン) 2.診療報酬改定目前、キャンセル料を巡る混乱で厚労相が陳謝/厚労省厚生労働省は6月1日に診療報酬を改定する。物価高と賃上げへの対応が柱で、外来の初診料本体は2,910円に据え置く一方で、物価上昇分20円と職員の基本給引き上げに充てるベースアップ評価料170円が上乗せされ、初診時の患者負担は少なくとも190円引き上げられる。また、2026年3月以前からベースアップ評価料を算定していた医療機関でも、現行60円から230円へ引き上げられ、これらの上乗せは1年後にさらに拡大する予定となっている。薬局でも調剤基本料が立地や規模に応じて10~20円引き上げられ、3ヵ月に1回、物価上昇対応分として10円が加算できる。薬局版のベースアップ評価料も新設され、処方箋1回につき40円が上乗せされる。また、後発医薬品がある先発品を患者が希望する場合に、保険の窓口負担とは別に支払う選定療養費は、先発品と後発品の価格差の4分の1から2分の1へ引き上げられる。その一方で、注目された診察予約のキャンセル料について、厚労省は5月29日、「対象は『予約料』を設定し、選定療養として地方厚生局に届け出ている医療機関に限られる」と通知を訂正した。予約を受け付けていても予約料を徴収していない通常診療では、キャンセル料は取れない。対象は2024年8月時点で全国928施設にとどまる。徴収できるのは、患者都合による診察直前のキャンセルに限られ、窓口やウェブサイトなどで事前に説明し、患者の同意を得る必要がある。3月の通知では対象が選定療養に限られることが明確でなく、すべての医療機関でキャンセル料を取れるとの誤解が広がった。上野 賢一郎厚労相は「現場に混乱を生じさせた」と陳謝した。医療機関には、価格改定や人件費対応の一方で、患者説明と同意、掲示、届出の適正な運用が求められる。 参考 1) 診察予約キャンセル料 一定条件で請求可能に 厚労省が周知へ(NHK) 2) 診察キャンセル料めぐり厚労相謝罪 6月から一部医療機関で徴収可へ(朝日新聞) 3) 診察キャンセル料は一部病院のみ 厚労省が通知訂正、周知不足陳謝(共同通信) 4) 診療報酬、来月1日に改定 キャンセル料徴収可に 初診190円上げ(日経新聞) 3.AIの悪用リスク踏まえ病院のサイバー対策強化を/厚労省厚生労働省は5月27日、都道府県を通じ、医療機関に高性能AIの悪用リスクを踏まえたサイバーセキュリティ対策の再確認を求める事務連絡を発出した。AI技術の急速な進展により、脆弱性探索や攻撃手法の自動化が進み、攻撃のスピードや規模が拡大する恐れがあるための措置。医療分野は国民の生命・健康を支える重要インフラであり、電子カルテや医療機器、院内ネットワークが停止すれば診療継続に重大な支障が生じるとして、厚労省は経営層のリーダーシップによる対策強化を求めている。通知では、米Anthropic社が4月に公表した「Claude Mythos Preview」など、脆弱性の発見・修正能力を高めたフロンティアAIモデルの登場を例示。内閣官房国家サイバー統括室などが5月18日に発出した重要インフラ向け注意喚起を踏まえ、医療情報システムの安全管理ガイドラインを要約し、医療機関が優先的に確認すべき事項を整理した。重点項目では、サイバーセキュリティを経営課題に位置付け、責任者や意思決定体制、連絡系統を明確にすることを求めている。さらに、電子カルテ、医療機器、院内ネットワークなど重要システムの把握とリスク評価、ネットワーク分離やアクセス制御、外部委託・クラウド利用時の責任分担の明確化を要請するほか、機器の棚卸し、セキュリティパッチの迅速な適用、サポート終了機器の見直しも明記した。ランサムウェア対策では、オフラインを含むバックアップの取得・保管と復旧訓練、不審メール対応、感染兆候の早期検知体制を挙げた。インシデント発生時には、初動対応、影響範囲の確認、厚労省やベンダーとの連携、原因分析と再発防止策が必要とした。全職員への定期的な教育、標的型攻撃訓練、医療機器メーカーとの情報共有、調達段階からのセキュリティ要件確認も求めている。厚労省は、サイバー攻撃を想定したBCP(事業継続計画)の策定・見直しや、システム停止時の紙運用など代替手段の確保も促し、チェックリストを用いた点検を呼びかけている。 参考 1) 「高性能AIの悪用リスクを踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化について(医療機関等向け注意喚起)」(厚労省) 2) 最新AI攻撃の対策確認を要請 医療機関に厚労省(毎日新聞) 3) 医療機関は最新AI対策の確認を サイバー攻撃悪用で厚労省(東京新聞) 4.直近100日の薬剤情報を表示、ワクチン接種歴も/デジタル庁デジタル庁は、マイナポータルの「薬」のページをリニューアルし、直近100日以内に受け取った薬の情報を確認できるようにした。従来は診療報酬明細書、いわゆるレセプト情報を基にしていたため、反映は前月分までに限られ、実臨床で使うにはタイムラグが大きかった。今回の改善により、電子処方箋に対応する薬局や医療機関で薬を受け取った場合、原則として当日中に情報が表示される。画面には「最近の薬」「最近の処方箋」が新設され、受け取った日付、薬局名、薬剤名、用法・用量が確認できる。政府によると、現在は薬局の89%が電子処方箋に対応している。その一方で、厚生労働省は6月から、ワクチン接種歴や副反応疑い事例を集約する新たな予防接種データベースの運用を始める。対象は公費助成を受けられる定期接種ワクチンで、接種したワクチンの種類や接種日などを市区町村から収集し、2028年春までに全国民の情報を集める計画である。国民はマイナポータルなどを通じて、自身の接種歴を確認できるようになる。6月以降の情報が中心で、5月以前の接種分の提供は任意となる。新データベースは、接種情報に加えて死亡情報、副反応疑い事例、レセプト情報とも連結される予定であり、2028年度から研究者らがワクチンの有効性や安全性、副反応疑い事例の発生頻度を活用し、分析しやすくする。今後、麻しん、風しんなどの流行時には、本人が接種歴を確認し、未接種であれば接種行動につながることも期待されている。医療者にとっては、問診時の服薬歴・接種歴確認の精度向上が見込まれる。救急外来、入院時、周術期、ポリファーマシー対策、ワクチン接種相談などで活用の余地は大きい。ただし、情報の反映範囲や過去接種歴の欠落、患者本人の閲覧・提示への依存といった限界もある。マイナポータル情報を補助線として使いつつ、従来の問診、お薬手帳、紹介状、薬剤師との連携を組み合わせる運用が求められる。 参考 1) 薬の画面で最近の薬や処方せんの情報を確認できるようになりました(デジタル庁) 2) 100日以内に受け取った薬の情報確認 マイナポータル改善、電子処方箋対応なら当日表示(産経新聞) 3) ワクチン接種歴、マイナポータルなどで確認可能に…新DB6月に運用開始・「効果」「副反応」分析にも活用へ(読売新聞) 5.糖尿病薬の個人間取引に警告 X投稿の7割超がマンジャロ/東京都東京都が2025年度、X(旧ツイッター)上で医薬品の不正販売が疑われる投稿に警告した497件のうち、約75%に当たる375件が、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)など糖尿病薬の取引に関するものだったことがわかった。都は公式アカウント「東京都庁薬務課」から、販売をうたう投稿に対し「医薬品であるマンジャロを許可等なく販売等することは医薬品医療機器等法に違反します。直ちに販売を中止して下さい」とリプライで警告している。マンジャロは2型糖尿病治療薬として承認されている一方で、近年は体重減少効果への関心から、ダイエットや美容目的での使用が広がっている。医療用医薬品を入手するには原則として医師の診察と処方が必要で、個人が許可なく販売する行為は、たとえ1回であっても医薬品医療機器等法に違反する恐れがある。東京都は、フリマサイトやオークションサイト、SNSでの医薬品販売に注意を呼びかけており、改善がない場合はX側に投稿削除を要請している。糖尿病薬をめぐっては、適応外使用や自己判断での使用による健康被害も懸念される。厚生労働省も、添付文書に基づく適切な使用がなされない場合、思わぬ健康被害につながる可能性があるとして注意喚起している。とくにGLP-1受容体作動薬などの使用では、消化器症状、低血糖リスク、既往歴や併用薬への配慮が必要であり、医師の管理を離れた流通は安全性の面で大きな問題となる。都による警告件数は、2023年度は62件、2024年度は78件だったが、2025年度は検索業務を外部委託したことで大幅に増えた。糖尿病薬関連に関して2023・24年度はいずれも2件にとどまっており、今回の急増はマンジャロ人気とSNS上の流通拡大を映している。Xから秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」に誘導するケースも確認されており、都は2026年度からテレグラム上でも警告を始める方針。医療者には、処方時の適正使用説明に加え、患者がSNS経由で医薬品を入手しないよう啓発する役割も求められる。 参考 1) 薬の不正販売疑い投稿、糖尿病薬が7割超 昨年度 都が「X」で確認・警告(日経新聞) 2) 「直ちに販売を中止して下さい」東京都庁薬務課、「マンジャロ」めぐりXで警告 歓迎の声相次ぐ(J-CASTニュース) 6.東京女子医大2歳児死亡事故、ICU責任医に有罪判決/東京地裁東京女子医科大学病院で2014年、手術後の2歳男児に鎮静剤プロポフォールが長時間・高用量で投与され死亡した医療事故を巡り、東京地裁は5月29日、業務上過失致死罪に問われた当時ICUの現場責任者の麻酔科医に禁錮1年6月、執行猶予3年を言い渡した。その一方で、当時後期研修医だった医師については無罪とした。プロポフォールは手術麻酔や鎮静に広く使われるが、添付文書では集中治療における人工呼吸中の小児への投与が禁忌とされている。裁判では、投与と死亡の因果関係、当時の医療水準からみた注意義務違反の有無が争点となった。判決では、医師の裁量で禁忌薬を使用する余地はあり得るとしつつ、本件では「投与量・投与時間が目安を大きく超え、心電図異常も継続していたことから、副作用リスクが高まった段階で投与を中止すべきだった」と認定。「通常の専門医であれば到底行わない高用量、長時間投与」として、責任者の過失を重くみた。その一方で、後期研修医については、当時は専門医資格を持たず、鎮静薬選択を日常的に担う立場ではなかったとして、死亡を具体的に予見できたとは認められないと判断した。判決は、チーム医療において職位、専門性、権限に応じて刑事責任を分けた点でも注目される。医療現場への示唆は大きい。禁忌薬や安全性が十分確認されていない医療行為を行う場合、医学的合理性、家族への説明と同意、リスク監視、投与量・時間の記録、異常時の中止基準を組織として明確化する必要がある。女子医大は事故後、特定機能病院の承認を取り消されており、厚生労働省は2016年、特定機能病院に対し安全性未確立の薬剤使用時の院内審査体制を義務付けた。今回の判決は、個人の裁量に依存せず、病院全体で高リスク医療を管理する体制整備の重要性を改めて示したものといえる。 参考 1) 2歳児死亡、麻酔科医に有罪 元研修医は無罪、東京女子医大(東京新聞) 2) 東京女子医大病院で2歳児死亡 医師1人に無罪判決、もう1人は有罪(朝日新聞) 3) 東京女子医大の2歳児死亡、元准教授に有罪判決 元研修医は無罪(日経新聞) 4) 東京女子医大 鎮静剤投与で2歳児死亡 責任者の医師に有罪判決(NHK)

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「肥満のスティグマ」が気になる患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第48回

■外来NGワード「肥満は自己責任の病気です」(スティグマを助長する発言)「減量できないのは、意志が弱いからです」(意志が弱いと強調)「もっと、努力しないと」(努力不足を責める発言)■解説「スティグマ(stigma)」とは、特定の人や集団に対して否定的な評価や差別的なレッテルを貼ることを指します。語源はギリシャ語の「烙印」に由来します。スティグマは、実際に経験する「経験的スティグマ」と、スティグマに対する恐れである「予期的スティグマ」に大別され、さらに「社会的スティグマ」「罪悪的スティグマ」「自己スティグマ」といった側面があります。社会的スティグマとしては、「採用や昇進で不利に扱われた」「太っているからだらしない」「検査値が悪いのは肥満のせいだ」などと言われることがあります。また、体型について指摘されることを避けるために人前に出ることを控えたり、スポーツジムや医療機関の受診をためらったりする場合があります。罪悪的スティグマとしては、「自己管理ができていないと非難された」「食べ過ぎや運動不足と決めつけられた」「努力不足とみなされた」といった経験が挙げられます。また、生活習慣のせいにされることを懸念して、食事内容を過少に申告することもあります。自己スティグマとしては、「自分は意志が弱くてだめな人間だ」と自己評価を低くしたり、受診や相談をためらったり、「自分は痩せられない」と思い込んだりすることが見られます。これらのスティグマは相互に関連しており、受療行動の抑制や生活習慣改善への動機低下を介して、長期的な健康アウトカムに影響を及ぼす可能性があります。そのため、臨床現場ではスティグマを軽減するための配慮あるコミュニケーションが求められます。■患者さんとの会話でロールプレイ患者先生、この間、ある人から「あなた太っているわね」って言われて…「私、意志が弱くて、だめなんですよね」…(「太っている=自己管理ができていない」と認識)。医師そう感じられる方は多いですね。でも、肥満症は「自己責任」だけではなく、体質・遺伝・ホルモン・心理的ストレスなど、いろんな要因が重なって起こる“病気”の1つなんですよ。患者えっ、そうなんですか? でも周りから「食べすぎ」「運動不足」って言われると、「意志が弱い」って、自分を責めてしまって…。医師なるほど。それが「スティグマ(偏見)」の典型ですね。実際、大半の太っている人が「自分のせい」だと感じているという調査もありますが、肥満症という病気は慢性疾患の1つで、糖尿病や高血圧と同じように適切な診断と治療が必要なんですよ。患者えっ、そうなんですか。肥満症の治療って、薬を飲むことですか?医師場合によってはお薬も使いますが、生活の中でできる範囲から一緒に取り組むのが基本になります。患者なるほど。どんなことに気を付けたらいいですか?医師体重増加は30kcal、もったいないからと、ちょこっとだけ余分なものを食べることから始まります。患者その一口が…ですね。30 kcalというとどのくらいですか?医師クッキー1枚とか、チョコ1かけになりますね。これがその一覧です(表をみせながら説明)。患者そのくらいなら我慢できそうです。医師まずは、余分なものを食べない習慣を取り入れてもらうと、チリも積もれば山となるので、少しずつ体重が減ると思いますよ!患者はい。わかりました。頑張ってやってみます。(うれしそうな顔)何より大切です。■医師へのお勧めの言葉「意志が弱いと思っている方にダイエット法がありますよ!」「体重増加は、もったいないと思って食べる、その1口、30 kcalから始まっています。まずは余分なものを食べないことから始めてみませんか?」

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働き盛り世代の心房細動が腎機能低下の加速と関連/京大

 日本の就労世代を対象とした全国規模のコホート研究において、新規に確認された心房細動(AF)は、eGFR低下の加速およびeGFRが30%以上低下するリスクの増加と関連していたことを、京都大学の森 雄一郎氏らが示した。JAMA Network Open誌2026年5月14日号掲載の報告。 AFは心不全や慢性腎臓病(CKD)の合併症としてよく知られているが、就労世代の成人では単独の所見として健康診断で偶然見つかることもある。若年~中年層のAFは将来的な心不全リスク上昇と関連することが知られている一方、その後の腎機能低下と関連するかどうかは明らかになっていない。そこで研究グループは、就労世代におけるAF確認後の腎機能推移を検討するため、後ろ向きコホート研究を実施した。 研究では、2015年4月1日~2023年3月31日の全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康診断記録(心電図およびeGFR)と保険請求データを用いた。対象は、ベースライン時に洞調律で、AFや心血管疾患、末期腎不全の既往歴のない35~59歳の健康診断受診者であった。その後約1年間の外来受診歴および次回健診時の心電図所見から新たにAFが確認された個人を、確認されなかった個人と1対5で傾向スコアマッチングした。主要アウトカムは線形混合効果モデルを用いて推定したeGFRの年間低下率、副次アウトカムはCox比例ハザードモデルを用いて評価したeGFRの30%以上の低下とした。参加者を、全死因死亡イベント、腎代替療法開始、保険資格喪失、2023年3月31日のうち最も早い時点まで追跡した。 主な結果は以下のとおり。●解析対象は、マッチング後の14万1,060例(新規AF群2万3,510例、非AF群11万7,550例)であった。平均年齢49.8歳、男性81.8%、追跡期間中央値4.73年。●新規AF群では、非AF群と比較してeGFRの年間低下率が有意に大きかった。 ・新規AF群 -1.23mL/分/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:-1.26~-1.21) ・非AF群 -0.94mL/分/1.73m2/年(95%CI:-0.95~-0.93) ・群間差 -0.29mL/分/1.73m2/年(95%CI:-0.32~-0.26)(p<0.001)●AF確認前のeGFR低下は両群ともに-0.99mL/分/1.73m2/年であり、AF確認後に腎機能低下が加速した可能性が示唆された。●新規AFは、eGFRが30%以上低下するリスク増加と関連していた(ハザード比:2.91、95%CI:2.72~3.11、p<0.001)。●7年時点でのeGFRの30%以上低下の累積発生率は、新規AF群で11.0%(95%CI:10.2~11.7)、非AF群で4.9%(95%CI:4.7~5.2)であった。●女性および糖尿病患者ではAF確認後のeGFR低下がさらに顕著であった。一方、ベースラインの蛋白尿の有無による有意な交互作用は認められず、蛋白尿の有無にかかわらず同様にeGFRが低下していた。●その後の健康診断でもAFが再確認された群は、洞調律へ復帰していた群と比較してeGFR年間低下率が有意に大きかった(-1.55 vs.-1.15mL/分/1.73m2/年、p<0.001)。 研究グループは「これらの結果は、就労世代のAF管理では腎機能も重要であることを示唆している。AFがCKD進行に及ぼす累積的な影響やAF治療による腎保護効果についてはさらなる研究が必要」としている。

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日本のがん死亡率低下も、大腸がん・膵がん・子宮頸がんは依然高水準

 日本では全がんの年齢調整死亡率(ASR)が着実に低下している一方で、大腸がん、膵がん、子宮頸がんなど一部のがん種では依然として国際的に高い死亡率が続いていることが明らかになった。胃がんと肝がんでは大幅な改善が認められたものの、予防や検診による死亡率低下が期待されるがん種において十分な成果が得られていない実態が浮き彫りとなった。国立がん研究センターの片野田 耕太氏らによる本研究の結果はJapanese Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2026年3月5日号に掲載された。 研究では、国際がん研究機関(IARC)のGlobal Cancer Observatoryデータベースおよび各国の人口動態統計を用い、日本、韓国、米国、英国、カナダ、オーストラリアなどの高所得国における1980~2024年のがん死亡率の推移を比較した。解析対象は全がんに加え、胃がん、大腸がん、肝がん、膵がん、肺がん、乳がん、前立腺がん、子宮頸がん、子宮体がんだった。肝がん・胃がんは日本の成功事例 歴史的に日本で死亡率が高かった胃がんと肝がんについては、長期的に大幅な減少がみられ、欧米諸国との国際格差は大幅に縮小した。とくに女性の肝がん死亡率については、日本が欧米諸国を下回る水準にまで低下した。著者らはこの背景として、B型・C型肝炎ウイルス検査の全国的な実施、妊婦へのHBs抗原検査、さらには直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の普及といった一連の肝炎対策が有効に機能したと考えられ、WHOが掲げる2030年までのC型肝炎排除目標に向け、国際的なモデルケースになり得る、としている。 一方、胃がんも日本における死亡率は低下し続けているものの、韓国の減少速度には及ばなかった。日本ではヘリコバクター・ピロリ除菌の保険適用拡大など1次予防が進む一方、韓国では内視鏡検診を中心とした2次予防が強力に推進されている。また、韓国では国家健康保険制度により検診データが一元管理されているのに対し、日本では職域検診の精度管理やデータ統合に課題が残ることが示唆された。大腸がん・膵がん・子宮頸がんは深刻な高水準 大腸がん死亡率は1980年代には欧米のほうが高かったが、その後減少が進んだ。これに対し日本では明確な低下傾向がみられず、近年では比較対象国の中でも高い水準となっている。韓国も近年減少傾向に転じており、日本との差が広がっている。 膵がんは、日本において男女とも死亡率の上昇が続いており、国際的にみても高い水準が際立っている。早期発見が困難で予後不良な疾患であるが、喫煙や2型糖尿病が重要なリスク因子であり、禁煙や糖尿病管理といった1次予防の重要性が改めて示された。 子宮頸がんにおいても、日本の相対的な立ち位置は悪化した。欧米諸国や韓国では死亡率が大幅に減少した一方、日本では高止まりが続いている。HPVワクチンの積極的勧奨の中止と再開の経緯もあって接種率はいまだ不十分であり、ワクチン接種と検診の双方を速やかに強化する必要性が示された。乳がん・肺がんでも改善が緩やか 女性の乳がん死亡率は欧米では着実に低下している一方、日本では増加傾向が続き、差は縮小している。男性の肺がんでも欧米に比べて死亡率低下が緩やかであり、近年では日本の死亡率が欧米を上回る状況となっている。一部のがんでは予防を強化する必要性 本研究により、日本の全がんのASRは他国と同様に引き続き低下していることが示された。とくに、かつて日本の死亡率の高さの要因となっていた胃がん、肝がんで持続的な低下がみられ、欧米諸国との差は縮小し、女性の肝がんでみられるように一部では逆転している。一方で、日本は大腸がん、膵がん、および子宮頸がんにおいて依然として最も高い死亡率を示している。女性の乳がんおよび男性の肺がんでは、日本における低下の遅れ、あるいは継続的な増加により、死亡率が欧米諸国の水準に近づいている。これらのがんの多くでは、1次予防および2次予防の方法が確立されており、胃がん、肝がんで達成された死亡率低下を再現するために、予防対策を強化する必要性が示唆される。

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過体重・高齢の持続性AFの減量、重症度スコア改善につながらず/JAMA

 過体重を呈する持続性心房細動(AF)の高齢患者では、低カロリー食と行動支援プログラムを併用した介入は、安全上の懸念なく有意かつ持続的な体重減少をもたらすが、AF症状の重症度・負担や心臓リモデリング、追加のリズムコントロール介入の必要性には影響を及ぼさないことを、英国・オックスフォード大学のMatteo Sclafani氏らが、「LOSE-AF試験」の結果で示した。過体重はAFの強力なリスク因子であり、欧米の診療ガイドラインでは、肥満とAFを併発するすべての患者に対して減量が推奨されている。一方、既存のエビデンスは比較的若年のAF患者(平均年齢約60歳)に基づくものであり、より高齢の患者では、減量はサルコペニアやフレイルを招く恐れがあるため治療的価値が制限される可能性が示唆されていた。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年5月20日号で報告された。英国の研究者主導型無作為化試験 LOSE-AF試験は、英国の2施設で実施した研究者主導型の非盲検無作為化試験(英国国立健康研究所[NIHR]オックスフォード生物医学研究センター[BRC]などの助成を受けた)。2018年11月~2025年4月に、年齢60~85歳、BMI値27以上で、持続性AFと診断され、直流カルディオバージョン(DCCV)が適応の患者118例(平均年齢68[SD 6]歳、女性33%)を登録した。 被験者を、8ヵ月間の低カロリー食と行動支援プログラムを受ける群(介入群、59例)、または通常治療を受ける群(対照群、59例)に無作為に割り付けた。 ベースラインの平均体重は、介入群103.2(SD 16.2)kg、対照群101.9(16.8)kg、BMI値はそれぞれ34.6(SD 4.8)および34.1(5.4)、平均心拍数は78(SD 17)および76(15)拍/分、CHA2DS2VAScスコア中央値は2(四分位範囲[IQR]:2~3)点および2(1~3)点であった。 また、DCCV治療歴のある患者は、介入群47%および対照群27%、AFアブレーション治療歴のある患者はそれぞれ20%および17%であり、AF罹患期間中央値は9.6(IQR:4.2~54)ヵ月および13.1(5~49)ヵ月であった。 心房細動重症度尺度(AF Severity Scale:AFSS)の平均症状重症度スコア(0~35点、高スコアほど症状が重度)は介入群13.8(SD 5.9)点および対照群12.8(5.9)点、AFSSの平均症状負担スコア(3.25~30点、高スコアほどAF症状の全般的な負担が大きい)は24.4(SD 3.7)点および24.2(4.0)点だった。9.7%の減量、症状重症度に差はない 8ヵ月の時点で、ベースライン補正後平均体重は、介入群が92.6(SD 0.85)kgと対照群99.4(0.85)kgに対し有意に低かった(推定群間差:-6.9kg、95%信頼区間[CI]:-9.2~-4.5、 p<0.001)。体重減少率は、介入群が9.7%、対照群は3.1%であった(p<0.001)。 一方、この体重差にもかかわらず、主要アウトカムである8ヵ月時のAFSSの症状重症度スコア(臨床的に意義のある差は4点とした)のベースライン補正後平均値は、介入群が7.9(SE 0.84)点、対照群は8.9(0.84)点であり、両群間に有意差を認めなかった(群間差:-0.9点、95%CI:-3.3~1.4、p=0.43)。減量は有効な治療戦略ではない 8ヵ月時の身体機能検査(PPTスコア[0~36点、高スコアほど身体機能が良好]:介入群32.6[SE 0.44]点vs.対照群32.6[0.44]点、群間差:0点、95%CI:-1.2~1.2、p=0.99)と、AFSS症状負担スコア(15.8[1.08]点vs.15.0[1.08]点、群間差:0.8点、95%CI:-2.2~3.8、p=0.59)に関して両群間に有意な差はなく、心臓MRIパラメーターや血圧、脂質プロファイルの変化に関しても差を認めなかった。 また、追跡期間中のAF再発率(ハザード比[HR]:1.04、95%CI:0.69~1.58、p=0.85)や、再DCCV(HR:0.64、95%CI:0.35~1.16、p=0.14)、再AFアブレーション(HR:1.00、95%CI:0.48~2.10、p>0.99)の施行率も両群で同程度であった。試験への参加に関連した重篤な有害事象は発現しなかった。 著者は、「過体重の持続性AF高齢患者では、食事療法による適度な減量は有効な治療戦略ではなかった」としている。 また、「AFSSスコアは、主に心拍の状態に起因する症状の変化を捉えるよう設計されているため、AFの負担の変化とは関連のない、減量によるより広範な症状の改善効果を検出する感度は限定的であった可能性がある」と指摘している。

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GLP-1Rを介さず肥満を改善?GIPR/GCGR標的薬の可能性

 体重減少にGLP-1受容体(GLP-1R)作動薬は本当に必要なのか――人気の肥満症治療薬の前提となっている考え方の一つに疑問を投げかける、新たな減量アプローチに関する研究成果が報告された。マウスやラットを用いた初期段階のこの研究により、GLP-1Rではなく、GIPおよびグルカゴンの受容体(GIPR/GCGR)を標的とする薬剤でも、GLP-1Rと同等の体重減少効果が得られる可能性が示唆された。米インディアナ大学ブルーミントン校化学科のRichard DiMarchi氏らによるこの研究結果は、「Molecular Metabolism」に4月15日掲載された。 DiMarchi氏はSTAT Newsの取材に対し、「われわれはGLP-1Rの重要性に強くとらわれてきた」と語った。一方、この新アプローチは、GLP-1Rを標的にしていない。同氏は、「われわれは、これを引き算による足し算と呼んでいる。つまり、何かを取り除くことで、より良い結果が得られる可能性があるということだ」と説明している。 複数の受容体を標的とする多重作動薬は、肥満および2型糖尿病治療において高い有効性を示す薬剤クラスとして注目されている。例えばGIPR/GLP-1Rを標的とする二重作動薬であるチルゼパチドは、GLP-1R作動薬のセマグルチドと比較してより大きな体重減少効果を示している。さらに、レタトルチドのようなGIPR/GCGR/GLP-1R三重作動薬では、24%前後の体重減少が報告されている。一方で、GLP-1R作動薬は吐き気や嘔吐などの副作用を伴い、そのため使用可能な用量が制限されることがある。こうした背景から、GLP-1R作動薬を用いずに、GIPRおよびGCGRの活性化のみで肥満を改善できるかが検討されている。 本研究では、GIPR、GCGR、GLP-1Rの選択的作動薬、二重作動薬、および三重作動薬が、食餌誘導性肥満マウス(野生型およびGLP-1R欠損マウス)における体重および血糖制御に与える影響が評価された。 その結果、選択的GIPR作動薬と選択的GCGR作動薬を併用すると、肥満モデルマウスにおいて体重減少と血糖改善が認められた。また、GLP-1R/GIPR/GCGR三重作動薬のレタトルチド投与により、GLP-1R欠損肥満マウスの体重が正常化した。さらに、GIPR/GCGR二重作動薬BWB3054は、GLP-1Rに対する活性は100倍以上低いにもかかわらず、レタトルチドと同等レベルの環状アデノシン一リン酸(cAMP)を産生し、肥満モデルマウスにおいてもレタトルチドと同程度の体重減少効果を示した。 安全性についても検討が行われた。サルを用いた試験では、高用量の新薬を投与しても苦痛の兆候は認められなかった。一方で、チルゼパチドなどの既存の薬剤では、サルでは高用量に対する忍容性が認められなかった。 ただし、動物実験の結果がそのままヒトに当てはまるとは限らない。また、GLP-1R作動薬は、心血管系への有益な効果が知られているが、新たな薬剤が同様の効果を持つか否かについては不明である。 本研究について、米ミシガン栄養肥満研究センターのディレクターであるRandy Seeley氏は、「この研究結果は有用で印象的だ。体重減少の仕組みについての新しい見方を提示している」と述べている。

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心血管疾患2次予防、LDL-C 55mg/dL未満の達成後も高Lp(a)は強力な残余リスクに/EAS2026

 欧州心臓病学会(ESC)などのガイドラインでは、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の2次予防において、LDL-C 55mg/dL未満への厳格な管理を推奨している1)。しかし、依然として残る心血管リスク因子として、遺伝的要因の強いリポ蛋白(a)[Lp(a)]が注目されている。現在、具体的なLp(a)低下療法が確立されていない中、LDL-Cを徹底的に低下させることでLp(a)によるリスクをどこまで軽減できるか、とくに日本人患者における検証は不十分であった。 ギリシャ・アテネで開催された欧州動脈硬化学会(EAS2026)にて、国立循環器病研究センターの片岡 有氏らの研究グループがこの課題に関する多施設共同研究「Lp(a)-JAPAN study」の成果を発表した。なお、本研究はEuropean Heart Journal誌オンライン版2026年5月24日号に同時掲載された。 本研究は、2017年1月1日~2022年8月31日の期間に、国内3施設において経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行され、3年以上の臨床フォローアップが可能であった冠動脈疾患(CAD)患者1,581例を対象とした。PCIから2ヵ月後のLDL-CおよびLp(a)測定値を基準として、その後の予後との関連を評価した。主要評価項目はMACE(心臓死、非致死性心筋梗塞、非責任病変への臨床的に誘発された冠血行再建術)の発生率とした。追跡期間の中央値は5.1年であった。 主な結果は以下のとおり。・解析対象の1,581例の平均年齢は68.3歳、女性23.6%、Lp(a)値の中央値は12.8mg/dLであった。・LDL-C 55mg/dL以上の患者(1,069例)におけるMACE発生率は21.3%であった。そのリスクはLp(a)レベルの上昇に伴って有意に増加した(100人年当たり、Lp(a) 30mg/dL未満で3.9、30〜50mg/dL未満で7.9、50mg/dL以上で11.0、log-rank p<0.001)。・LDL-C 55mg/dL未満を達成した患者(512例)におけるMACE発生率は4.3%と有意に低かった(p<0.001)。しかし、Lp(a)レベルの高値は、MACEの高リスク患者を明確に特定した(100人年当たり、Lp(a) 30mg/dL未満で1.4、30〜50mg/dL未満で4.7、50mg/dL以上で7.5、p<0.001)。・5年標準化MACE発生率では、Lp(a) 30mg/dL未満の群の5.0%に対し、Lp(a) 30〜50mg/dL未満の群では17.0%(調整ハザード比[aHR]:3.80、95%信頼区間[CI]:1.78~8.11、p<0.001)、Lp(a) 50mg/dL以上の群では33.4%(aHR:6.90、95%CI:3.53~13.46、p<0.001)と高値を示した。・ROC曲線分析の結果、将来のMACE発生を予測するLp(a)の閾値(カットオフ値)は28.2mg/dL以上であることが判明した(p<0.001)。 研究グループは、ガイドラインが推奨する厳格なLDL-C低下療法がLp(a)に起因する心血管リスクを部分的に軽減するものの、完全に消失させることはできず、Lp(a)が独立した重大な残余リスク因子であることを実証したと結論付けた。  現在海外で進行中の新規Lp(a)低下薬(RNA薬など)の臨床試験では、登録基準となるLp(a)の閾値が一律で高く設定されている(60~80mg/dLに相当)。しかし、本研究で判明した日本人CAD患者におけるリスク閾値(28.2mg/dL)は欧米人より大幅に低い。そのため、欧米人より低いLp(a)レベルでも脆弱性を持つ集団を対象とした新たな臨床試験を行う必要があると論文内で指摘されている。

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