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1.

リラグルチドの胃排出遅延は食欲抑制に直接影響せず

 GLP-1受容体作動薬の作用として胃排出遅延と食欲抑制は知られているが、両者に関連性はあるのだろうか。このテーマに関して、米国・モネル化学感覚研究所のMark I. Friedman氏らの研究グループは、リラグルチド投与群の症例の胃排出と満腹感の測定値およびエネルギー摂取量との相関関係を検討した。その結果、胃排出遅延は、リラグルチドの食欲抑制作用において直接的な役割をほとんど果たしていないことが示唆された。この結果はObesity誌オンライン版2026年7月2日号で公開された。リラグルチドの胃排出遅延は食欲抑制作用に数%だけ影響 研究グループは、GLP-1受容体作動薬リラグルチド投与中の胃排出遅延と食欲抑制との関連性評価を目的に、肥満患者を対象とした16週間の無作為化プラセボ対照リラグルチド試験の2次データ解析を実施した。ベースライン時および治療終了時において、コホート全体、および試験を完了したプラセボ群とリラグルチド投与群について、固形食の胃排出と満腹感の測定値およびエネルギー摂取量との相関関係を検討した。また、治療中に正常な胃排出、持続的な胃排出遅延、または一過性の胃排出遅延を示したリラグルチド投与群の参加者間で食欲に関する指標を比較した。 主な結果は以下のとおり。・全コホートにおいて、ベースライン時および試験終了時、胃排出はエネルギー摂取量と有意な相関を示し、ベースライン時には満腹感の指標の1つとも有意な相関を示した。・胃排出は、これらの食欲関連指標の変動のわずか4~6%にしか影響していなかった。・プラセボ群またはリラグルチド投与群のいずれか単独では、このような相関は認められなかった。・リラグルチド治療中に異なる胃排出パターンを示したサブグループ間において、食欲関連指標に差は認められなかった。 研究グループは、これらの結果から「胃排出の遅延は、リラグルチドによる食欲抑制に直接的な役割をほとんど果たしていないことが示唆された。今後の研究で、胃排出遅延や、ほかのGLP-1受容体作動薬による胃腸管への影響が、食欲に直接的または間接的に影響を与えるかどうかを検証する必要がある」と考察している。

2.

心筋梗塞を経験した人は認知機能の低下が速い

 心筋梗塞の既往がある人は認知機能の低下が速く、認知機能障害へ進行するリスクも高いことを示すデータが報告された。心筋梗塞を経験していない人と比較して、認知機能障害に進行するリスクが、1年当たり約5%高いという。米オハイオ州立大学のMohamed Ridha氏らの研究によるもので、詳細は「Stroke」に5月14日掲載された。 この研究は、脳卒中リスクの地理的・人種的差異を検討する疫学研究(REGARDS)のデータを用いて行われた。追跡開始時点(ベースライン)で認知機能障害が記録されていた人や、解析に必要なデータのない人などを除外し、2万923人(年齢中央値63歳〔四分位範囲57~70〕、女性57.2%)を、中央値10.1年(四分位範囲7.0~12.1)追跡して、認知機能の低下速度と認知機能障害の発生リスクを心筋梗塞の既往の有無で比較した。対象者は毎年1回、電話による6項目の課題から成る認知機能のスクリーニング(スコア範囲0~6)を受け、スコアが5点未満の場合に認知機能障害と判定された。 ベースラインにおいて、全体の10.4%に心筋梗塞の既往が認められた。その内訳は、自己申告があるが心電図異常は認められないケース(自己申告による心筋梗塞)が5.2%、自己申告と心電図異常がともに認められるケース(臨床的心筋梗塞)が1.3%、自己申告はないが心電図異常が認められるケース(無症候性心筋梗塞)が3.8%だった。 認知機能に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧、糖尿病、腎機能、冠動脈疾患、心房細動、教育歴、収入、抑うつ傾向、居住地域など)を調整後、心筋梗塞の既往のある人はその既往のない人よりも、認知機能障害のリスクが1年当たり4.8%高いことが示された(オッズ比〔OR〕1.048〔95%信頼区間1.025~1.072〕)。心筋梗塞を経験した自覚のない無症候性心筋梗塞のみを対象とした解析でも、ほぼ同様のリスク上昇が観察された(OR1.047〔同1.010~1.085〕)。 男女別に解析した結果、男性では、全ての心筋梗塞の既往が認知機能障害リスクと有意に関連していた。一方、女性では、自己申告による心筋梗塞と無症候性心筋梗塞は認知機能障害リスクとの関連が有意だったが、臨床的心筋梗塞については非有意だった。研究者らは、「無症候性心筋梗塞は女性に多いため、この結果は重要だ」としている。 論文の筆頭著者であるRidha氏は、これらの結果の総括として、「米国民の間では認知症や認知機能低下による負担が増大していることから、心筋梗塞のような心血管疾患が脳の健康にどのような影響を与えるかを理解することが欠かせない」と述べている。また、「心筋梗塞の既往のある患者を診る臨床医は、認知機能の低下を抑制するためにできることを伝える必要がある」と付け加えている。

3.

夏の理想的な水分補給は「4つのS」で/アボット

 糖尿病管理のための持続グルコース測定器「リブレ」や循環器疾患領域などの医療機器を全世界で開発・販売しているアボットは、夏の熱中症対策と高血糖リスクの関連について、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、「ペットボトル症候群」への警鐘と夏期の糖尿病患者への対応などが解説された。負の連鎖を起こす夏の「ペットボトル症候群」 「『理想的な水分補給』と血糖管理~夏の熱中症対策が“高血糖のリスク”になる?~」をテーマに、川名部 新氏(おばな内科クリニック 院長)が、夏期の脱水予防と血糖管理の重要性について講演した。 20歳以上の男女で「糖尿病が強く疑われる人」が年々増加している中で、糖尿病診療では近年、新しい血糖管理の指標として「血糖トレンド」が注目されている。血糖トレンドとは、24時間の中で血糖値がどのように変動しているかを示すものであり、血糖自己測定(SMBG)や持続グルコース測定(CGM)により、1日の血糖変動の可視化を行うことができる。より良い糖尿病のセルフケアには、血糖トレンドの変動幅を小さくすることが重要と考えられている。 わが国は、近年、夏の平均気温が上昇し、日中・日没後の暑さが厳しくなっている。こうした環境の中では、飲料水を摂る機会も多い。糖分の多い清涼飲料水を大量に飲み続けることで高血糖となり、強いのどの渇きが生じ、さらに甘い飲料水を飲んでしまい、高血糖が悪化するという悪循環に陥る「ペットボトル症候群」(清涼飲料水ケトーシス)が懸念されている。本症候群になりやすい人としては、糖尿病患者または糖尿病予備群、糖分入り飲料水を1日1L以上飲む習慣のある人、運動不足であまり汗をかかない人などがいる。 本症候群は3つの段階を経て起こる。初期段階では「強いのどの渇き」「多飲」「多尿」などが起こる。中期段階では「倦怠感」「集中力低下」「眠気」などが起こる。そして、症状が進行すると「脱水症状」「意識障害」などが起こり、救急搬送が必要となるケースもある。 実際、ペットボトル飲料について、スポーツドリンクでは角砂糖約8個分、経口補水液では約3個分、オレンジジュースでは約10個分に相当する糖分が含まれており、適量摂取が重要となる。また、カロリーゼロを謳う飲料でも「厳密にはゼロではなく、水と同じように飲むべきではない」と川名部氏は警鐘を鳴らす。  高血糖を抑え、脱水を予防する水分摂取として夏期の理想的な水分補給の「4つのS」を川名部氏は提言する。 Soon:のどが渇く前にこまめに飲む Sugar less:糖分を含む飲料は控える  Simple drink:飲み物は水かお茶を基本とする Salt:汗をかいたら塩分補給 ただ、過度の飲水による「水中毒への注意が必要」とも川名部氏は指摘するとともに、SGLT2阻害薬などのように尿量が多くなる糖尿病治療薬では、夏期には脱水のリスクもあるために用量の変更や他剤への切り替えの検討も必要であると語った。血糖値の現在地を血糖トレンドで患者に説明する 続いて持続グルコース測定器を用いた血糖管理について触れ、糖尿病診療と夏の血糖トレンドの関係について説明した。通常、健康な人の血糖変動はほぼフラットであり、1日を通じて変動幅が少ない。その一方で、糖尿病患者の血糖は、血糖トレンドの変動幅が大きく(食事後に急上昇する)、とくに清涼飲料水を摂取した後は変動幅がさらに大きくなる。 持続グルコース測定器を活用して血糖管理に成功した症例(50代・男性、BMI26.0)を提示した。一定の食品(たとえば菓子パン、甘いアイスココアなど)の摂取後には、血糖値が急上昇する。患者にこうした血糖変動を可視化した図で示すことで、血糖変動の大きい食事を減らす指導が可能となり、血糖変動幅を減少させることができたと紹介した。 別の症例(30代・男性、BMI34.7)は、糖分の多い清涼飲料水を過剰に摂取していた糖尿病患者で、救急搬送後にインスリン教育入院となった。そのインスリン治療に加え、血糖トレンドと血糖自己管理を理解させることで、現在、血糖値は安定し、退院後は川名部氏のクリニックでフォロー中という症例を紹介した。患者には、血糖値の現在地を血糖トレンドをカーナビになぞらえて指導することで、理解されやすいという。また、高血糖リスク予防のため、食事と運動指導として次の項目を指導していると紹介した。【食事編】・朝食を食べる・野菜は最初に、炭水化物は最後に食べる・間食はできるだけ控え、食べるなら食後に・甘いドリンクは控える・アルコールの飲み過ぎに注意する・よく噛んでゆっくり食べる(30回程度)【運動編】・座りっ放しに気を付け、立位の時間を増やす・家事で積極的に体を動かす・家の中でもこまめに運動をする(椅子を使ったスクワットなど)・エスカレーターやエレベーターより階段を使う・ウォーキングなどの運動は朝夕の涼しい時間帯に行う 最後に川名部氏は「夏の猛暑には熱中症に加え高血糖にも注意が必要」と述べ、「ペットボトル症候群に注意して、『4つのS』と『血糖トレンド』を意識して乗り切りましょう!」とまとめ、講演を終えた。

5.

第323回 学会で質問殺到、コロナの予防投薬は誰にいつする?

INDEXコロナ治療薬、今はどうなっている?NEJM誌掲載の“今”の予防方法学会セッションでも質問殺到コロナ治療薬、今はどうなっている?新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法上の5類に分類されてから3年以上が経過した。基礎疾患を有する高齢者にとってはいまだ脅威となる感染症だが、世間全般で見れば、もはやコロナ禍なぞどこ吹く風である。そしてやや酷な言い方をしてしまえば、コロナ禍中に世を賑わせた新型コロナに対する治療も“後退”を余儀なくされている。ご存じのようにコロナ禍中は、外資系のメガファーマを中心に国から特例・緊急承認を受け、その後に通常承認へと移行した治療薬も相次いだ。これまで何らかの形で承認されたのは以下の通りだ。抗ウイルス薬としては、第一弾で静脈注射のレムデシビル(商品名:ベクルリー)が登場し、経口薬のモルヌピラビル(ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)、エンシトレルビル(ゾコーバ)の順で上市された。また、これ以外にも中和抗体薬としてカシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ)を皮切りにソトロビマブ(ゼビュディ)、チキサゲビマブ/シルガビマブ(エバシェルド)、新型コロナによる肺炎に対して経口JAK阻害薬バリシチニブ(オルミエント)、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体のトシリズマブ(アクテムラ)も承認された。しかし、mRNAワクチンの登場に加え、感染主流株が病原性の低いオミクロン株系統へと移行した結果、治療の景色は一変した。まず、デルタ株からオミクロン株への変遷で、ウイルス表面のスパイクタンパク質の変異が大きかったことから中和抗体薬はほぼ無効になり、事実上の退場となった。オミクロン株系統では肺炎患者が大幅に減ったことからバリシチニブ、トシリズマブも活用機会も激減した。そしてもっとも主力となる経口抗ウイルス薬の4種類については、いずれも公的な費用対効果分析ではネガティブな評価を下され、薬価が引き下げとなった。NEJM誌掲載の“今”の予防方法そのような中で新型コロナの治療に関して比較的明るい話題としては、今年3月にエンシトレルビルが新型コロナ感染者との接触者に対する予防投与の適応で承認追加となったことぐらいだろう。この承認のもとになった臨床試験結果は今年5月にNEJM誌に論文1)が掲載されている。COVID-19患者の同居家族、エンシトレルビルで発症予防/NEJM本連載を過去から長らくお読みの方は、私個人がエンシトレルビルの緊急承認時の有効性にはかなり懐疑的だったことをご記憶の方もいるかもしれないが、この点は今でもほぼ変わっていない。一方でこの曝露後予防に関する結果については、ほぼ額面通りに受け止めている。以前、本連載で新型コロナの治療なども含め現在地を取りまとめたことがあった(第280回、第281回)が、その当時はこのエンシトレルビルに関して、いわばトップジャーナルでの掲載論文がほとんどないことがやや悩みだった。ほかの治療薬と比べて、エビデンス上、アンバランス感が否めなかったからだ。しかし、今回は堂々のNEJM誌掲載であり、一定の評価はしている。もっとも敢えて言うならば、この数字を適用すれば、新型コロナ感染者に接触した人が100人いる場合、何もせずにいれば9人が発症し、エンシトレルビルを5日間服用すればそれが3人に抑えられる計算になる。そしてうち91人はもともと発症しない。そのうえで適応が承認されたとはいえ予防投与の薬剤費は、5日間で4万9,630円の全額自己負担。個人的感想としては「高齢者で新型コロナ感染時に重症化因子となる基礎疾患が複数ある人などを除けば、効果の割にはかなり高額の自己負担が必要」とややネガティブな評価になる。これが現在の季節性インフルエンザに対する抗ウイルス薬・オセルタミビル(タミフルほか)くらいの薬価なら、かなりコスパが良いとなるのだが…。もっとも医療機関を受診して新型コロナ感染が判明した人の家族や同居者が予防投与を開始するか否かは、インフォームド・コンセント(IC)を行ったうえで本人たちの意思に委ねれば、おおむね解決できると言えるだろう。ただ、入院患者で発症した場合、院内感染対策として同室患者に処方するか否かという場面が生じた際には、医療機関にとってかなり悩ましいことになる。インフルエンザについては、多床室で感染者が発生した場合、少なからぬ病院では持ち出しで同室者にオセルタミビルを予防処方しているのが実態だ。それもこれもジェネリック品ならば、1カプセルの薬価は104.1~108円であり、予防内服は7~10日間で薬剤費は最大1人1,080円で済むからである。現在の多床室で一般的な4人部屋で考えると、最初にインフルエンザに感染した人は保険診療で対応し、残る3人を持ち出しで予防内服をさせても、支出は3,240円である。先発品を使ったとしても5,169円にとどまる。最悪、患者に事情を説明し、自己負担をお願いしたとしても「まあ、しょうがないか」と応じてくれる人もそれなりにいるだろう。しかし、エンシトレルビルではそうはいかないことは明らかだ。同じように4人部屋で1人感染者が発生し、ほかの患者への予防内服を病院持ち出しにすると、その金額はオセルタミビルの実に28倍超の14万6,670円となる。昨今の物価・人件費の高騰により、経営苦境が極度に顕在化している現状では、病院側がすんなり持ち出しをできる金額ではない。そして患者に負担をお願いするとしても約5万円という金額を即答で応じてくれる人は皆無ではないだろうか?学会セッションでも質問殺到実は先日、横浜市で開催された第41回日本環境感染学会総会・学術集会では「緊急企画・医療機関におけるCOVID-19伝播に対する抗ウイルス薬の予防投与」と題したセッションでこのことが話題となった。同セッションで登壇した泉川 公一氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 臨床感染症学分野 教授)は「理想的には同室者全員に投与することが望ましいとは思うが、より現実的には重症化リスクの重み付けなどを検討してもよいのかもしれない。たとえば糖尿病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患などの基礎疾患、あるいは免疫不全の有無などをスコアリングし、よりスコアの高い患者を優先的にという考え方、さらにこれに加えワクチン未接種者、施設入所者といったファクターも加味させてもよいのかもしれない」との見解を示した。理論上は筋が通っているものの、この時会場にいた人の中で、この発言に歯切れの悪さを感じたのは自分だけではないだろう。もちろんこれは泉川氏のせいではなく、薬価も含めて極めて悩ましい外部環境があるからである。また、同じくこのセッションに登壇した掛屋 弘氏(大阪公立大学大学院医学研究科 臨床感染制御学教授)は、「現状でエンシトレルビルを採用していない病院はあるかもしれないものの、予防投与の適応が承認された以上、病院としてはやはり準備(採用)しておくことは必要」との認識を強調。そのうえで予防投与の院内ルールの検討を行うべきとの見解を示した。掛屋氏によると、大阪公立大学医学部附属病院の場合、総務企画課、医事運営課、血液内科、感染制御部が合同で予防投与の運用検討会議を開催している。現在までの予防投与の院内ルール検討では、事務方から一律病院負担で広く予防投与することの了承は得られていないという。そのうえで掛屋氏は私案として病室での孤発例の場合は患者自己負担、クラスター発生時はその拡大を防ぐという意味での病院負担という考え方の一例を提示した。具体的には孤発、クラスターいずれのケースでも、まず陽性者確認の段階で接触者の抽出と個々の接触者の重症化リスク評価を実施。患者自己負担が原則の孤発ケースでは、接触者全員にエンシトレルビルによる予防投与の手段があること、予防投与を選択しなくても発症した場合は迅速に対応することを説明する。また、クラスター対応時の接触者の病室管理については、原則としては個室収容が望ましいものの、同室者の中で予防投与患者と非予防投与患者が混在した場合、予防投与のメリットが低減することを考慮し、予防投与した患者を優先的に個室収容するという対応もあり得るとした。このセッションでは会場からも数多くの質問が寄せられた。その一部を要約して紹介したい。―古い病院では、大部屋にトイレがなくて洗面所や休憩室も一緒な場合がある。この場合、予防投与の範囲をどう考えるべきか?「非常に難しいが、トイレですれ違ったなどのレベルでは感染が成立する可能性は低いと考えられるので、やはり同室の方(の予防)が中心になると思う」(掛屋氏)―ワクチンの追加接種歴があれば、曝露しても重症化リスクが低下する。重症化リスクではワクチン接種歴をどの程度加味するべきか?「原則、ワクチン接種歴は勘案しない。というのも従来から行われているインフルエンザの院内感染対策での予防内服の場合、ワクチン接種歴を考慮していない。また、ワクチン接種で100%予防できるわけではないので、改めて予防投与での判断要素とはしない」(登壇者:國島 広之氏[聖マリアンナ医科大学感染症学講座 主任教授])「私も基本的に國島先生と同じ考え。ケースバイケースで半年以内の接種有無、最新流行株のワクチン接種歴は聴取するかもしれないが、昨年の定期接種での65歳以上の新型コロナワクチン接種率は約10%と言われているので、ほぼ全員が接種していない前提で考えている」(掛屋氏)―(新型コロナ陽性の)スタッフと患者との接触では、その日に(そのスタッフの)受け持ちだった(患者)ということになると、かなり広範囲の患者(が対象)になってしまう。マスク着用の有無も含め、そこをどのように判断するのか「マスクをせずに接触する事態はあるかもしれないが、まずは私たちの側に明らかな非を作らないことが大事。今、一部にはもう皆でマスクを外しても良いのではないかという考えもあるようだが、むしろ院内感染リスクの観点では逆の考え方もあると思う」(掛屋氏)正直、これら質疑応答のやり取りにも絶対の正解はないのだろう。いずれにせよ技術革新、医療の進歩が新たなジレンマを生み出したことだけは確かである。参考1)Hayden FG, et al. N Engl J Med. 2026;394:1905-1915.

6.

チルゼパチドvs.セマグルチド、日本における肥満症患者の体重減少効果は?(SURMOUNT-5サブ解析)

 日本における肥満症の薬物療法適応基準を満たす集団において、チルゼパチドはセマグルチドと比較して72週時点での体重変化率が有意に大きく、体重、BMI、腹囲のいずれにおいても減少幅が有意に大きいことが示された。千葉大学大学院医学研究院の北本 匠氏らによるこの研究成果は、Current Medical Research and Opinion誌2026年7月11日号に掲載された。 本研究は、国際共同試験であるSURMOUNT-5のサブ解析として実施された。日本における肥満症の薬物療法適応基準を満たす参加者(BMI 27~34.9、高血圧、脂質異常症のいずれかを有し、さらに肥満関連健康障害[ORHD]を2つ以上有する、またはBMI≧35かつORHDを 1つ以上有する)を対象とした。評価期間はベースラインから72週とし、体重変化率、減量目標達成率、腹囲・BMI・心代謝リスク因子の変化、有害事象を評価した。 主な結果は以下のとおり。・組み入れられた750例のうち383例が基準を満たし、チルゼパチド群(15 mgまたは最大耐用量)190例、セマグルチド群(2.4 mgまたは最大耐用量)193例に割り付けられた。・72週時点での体重変化率の最小二乗平均値(LSM)は、チルゼパチド群で-20.1%(標準誤差:0.76%)、セマグルチド群で-12.9%(同0.74%)であり、LSM差は-7.2%(95%信頼区間:-9.3%〜-5.1%、p<0.001)とチルゼパチド群で有意に大きかった。・減量目標達成率でも、≧10%、≧15%、≧20%、≧25%、≧30%のいずれの閾値においても、チルゼパチド群においてより多くの参加者が達成した。腹囲の減少はベースラインから4週目以降、BMIの減少は12週目以降にチルゼパチド群で有意に大きな差が認められ、いずれも72週を通じて維持された。・安全性プロファイルはSURMOUNT-5試験の全体集団と概ね一致しており、消化器系の事象が最も多く認められた。 本サブ解析は、日本における肥満症の薬物療法適応基準となる集団において、チルゼパチドがセマグルチドと比較して体重、BMI、腹囲のいずれにおいても有意に大きな減少をもたらすことを示した。 著者らは「日本では肥満症の定義がBMI≧25と国際基準よりも低く設定されており、本解析はその基準に即した実臨床に近い集団での比較データを提供するものである。消化器系有害事象を中心とした安全性プロファイルは全体集団と一致しており、忍容性に大きな差異は認められなかった。今後は日本人集団を対象とした長期的な心血管アウトカムや体重減少の維持に関するさらなる検討が求められる」としている。

7.

猛暑の散歩【Dr. 中島の 新・徒然草】(641)

六百四十一の段 猛暑の散歩暑いですね。自宅のエアコンも効かないくらい暑い!フィルター掃除をすれば少しはマシになるかな。そう思ってやってみると……。今度は寒いくらい効くようになりました。メモによると、去年も一昨年も7月にフィルター掃除をやっていたみたい。毎年、同じ時期に同じことをやっているとは。なんだか情けないです。さて、外来患者さんからよく聞くのが「外を歩けない」という愚痴。春先は散歩を日課にしていたのに、だんだん暑くなって歩けたもんじゃない、とのこと。確かに炎天下の中を歩いたりしたらむしろ危険です。脱水症や熱中症になりかねません。そこで、いつも私のしているアドバイスは「家の中を歩きましょう」というもの。これは以前の「1日8,000歩」のなかでも述べましたが、運動不足を解消する画期的なアイデアです。やり方は簡単、エアコンの効いた室内を歩くだけ。豪邸でなくてもOKです。私の自宅は3LDKですが、リビング→台所でUターン→リビング→洋室でUターン→リビングという経路で、1周が約100歩です。これで8周歩けば800歩、12周なら1,200歩と、いくらでも距離を伸ばすことが可能。家の中を歩くメリットはたくさんあります。 暑くても寒くても平気、雨でも雪でも平気これが最大のメリットですね。気候や天気に左右されません。夏でも冬でも自由自在です。 いつでも始めて、いつでも終えることができる 思いついた時に開始、ゼロ秒スタートです。外に出るために着替える必要すらありません。また、外なら30分かけて行ったら30分かけて帰る必要があります。しかし、家の中ならいつでも終了可能。 ながら歩きができるイヤホンをつけてYouTubeを聴くもよし、歩きながら英文の暗唱をするのもよし。外で何か聴いていたら自転車や車にひかれそうになりますが、家の中ならその心配はありません。 朝でも夜でもOK朝は犬に吠えられたり、夜は物騒だったり。ちょっと散歩するのも何かと大変ですが、家の中ならそういう心配は皆無です。とはいえ、ワンルームの場合は家の中を歩くのも難しいかもしれません。そういう時はエアコンの効いたショッピングモールとか地下街がお勧めです。梅田地下街、いわゆる「梅田ダンジョン」は地下通路の総延長が12~14キロあるそうなので、距離に不足なし。ただ、実際に歩いてみるとわかりますが、やたら疲れます。前からやって来る大勢の人をよけながら歩くせいでしょうか。途中で休もうにもベンチすらありません。やはり、ちょっと歩いては休み、また歩いては麦茶を飲む、そんな家の中がベストですね。ということで、最強の家の中歩き。患者さんにも読者の皆さまにもお勧めしたいと思います。最後に1句 猛暑日も 平気で歩く 家の中

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高齢者DLBCL診療における治療強度の考え方【高齢者がん治療 虎の巻】第11回

講師紹介<今回のPoint>高齢者DLBCLでは暦年齢のみで判断せず、G8などのスクリーニングと高齢者機能評価(GA)でfit/unfit/frailを評価し、治療強度を検討する。層別化に応じて、fitには治癒を目指す標準治療、unfitにはR-miniCHOPなどの減量レジメンを検討する。frailでは治療目標を再確認し、低強度治療または緩和的治療を含めて個別に判断する。Pola-R-CHP療法は初発DLBCLの標準治療の一つであるが、80歳を超える患者では臨床試験のエビデンスが限られる。心機能、併存症、本人の希望を確認し、減量投与を含めて慎重に検討する。<症例>82歳、男性。2ヵ月前から頸部リンパ節腫大と食欲低下、体重減少を認め、近医から紹介された。頸部リンパ節生検の結果、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)と診断され、免疫染色の結果、Non-GCB型(Hans分類)に分類された。PET-CTを撮影したところ、腹腔内リンパ節にも病変を認め、臨床病期はLugano分類でStage III、LDH高値、ECOG Performance Status(PS)1で、国際予後指標(International Prognostic Index:IPI)はhigh-intermediate riskだった。併存症は高血圧症、持続性心房細動、慢性心不全、2型糖尿病で、抗凝固薬、利尿薬、経口血糖降下薬を内服していた。退職後は自宅近くの畑仕事を日課としており、発症前のADLは自立、買い物や通院も自力で可能だった。最近は倦怠感のため畑に出る頻度が減っているが、身の回りのことは自立している。G8は11点、Charlson Comorbidity Index(CCI)は慢性心不全1点、糖尿病1点の計2点であった。本人は「また畑に出られるようになりたい。治る可能性があるなら、できる治療は受けたい」と話している。一方、家族は「年齢も心臓も心配なので、強い治療は避けたほうが良いのではないか」と不安を示している。高齢者DLBCLの治療方針悪性リンパ腫は高齢者に好発する代表的な造血器腫瘍であり、本邦では年間約3万6,000人が新たに診断され、その多くを70代から80代の患者が占めます1)。組織型としてはDLBCLが最も多く、高齢DLBCL患者を診療する機会は年々増加しています。DLBCLは高齢者であっても、薬物療法によって治癒が目指せる疾患ですが、若年者に比べて予後が不良であることが多く、その背景には生物学的要因や臨床的要因が複雑に絡み合っていると考えられています。『造血器腫瘍診療ガイドライン第3.1版(2024年版)』には、高齢者DLBCLに対する標準治療として、80歳未満に対しては若年者と同様の治療法が、80歳以上の高齢者に対しては、用量あるいはコース数を減らしたR-CHOP療法が妥当な治療選択肢の一つであると記載されています2)。高齢者機能評価(GA)に基づく治療強度の決定高齢者DLBCLでは、暦年齢のみで治療強度を決定するのではなく、患者個々の予備能を評価したうえで治療方針を定めることが重要です。『高齢者のがん薬物療法ガイドライン 改訂第2版』でも、初発高齢者DLBCLの治療方針の判断にGAを行うことが弱く推奨されています3)。GAは、身体機能(ADL・IADL)、併存症、認知機能、栄養状態、社会的サポートなどを多面的に評価する手法であり、これにより患者をfit(標準治療に忍容性がある)、unfit(標準治療は困難だが減量治療は可能)、frail(緩和的対応が中心)に層別化します。簡便なスクリーニングには本症例でも用いられているG8などが、より包括的な評価には総合的なGAが活用されます。fitと判断される患者には、若年者と同様に治癒を目指した標準治療が推奨されます。一方、unfitやfrailと判断される患者では、毒性を軽減しつつ一定の有効性を確保する目的で減量レジメンが選択され、なかでもR-miniCHOP療法が代表的な選択肢です。Peyradeらによる第II相試験では、80歳以上のDLBCL患者に対し、標準量の約半量に減量したR-miniCHOP療法が、忍容性良好でありながら治癒も期待できることが示され、高齢者に対する標準的選択肢の一つとして位置付けられています4)。Pola-R-CHP療法という新たな選択肢近年、初発DLBCLに対する治療は大きく変化しました。第III相POLARIX試験では、R-CHOP療法のビンクリスチンを抗体薬物複合体であるポラツズマブ ベドチン(商品名:ポライビー)に置き換えたPola-R-CHP療法が、従来のR-CHOP療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、本邦でも初発DLBCLに対する標準治療の一つとして位置付けられるようになりました5)。サブグループ解析では、60歳以上の高齢者やIPI高リスク群、Non-GCB(ABC)型などでPola-R-CHP療法の相対的な有用性が示唆されています。本症例のような高齢・Non-GCB型のDLBCLは、Pola-R-CHP療法の効果が期待される集団と考えられます。ただし、POLARIX試験の対象は18〜80歳であり、80歳を超える高齢者は含まれていません。したがって、本症例のような80歳を超える患者にどこまで適応を広げてよいかは、現時点で明確なエビデンスがありません。近年は80歳以上を含む実臨床でのデータ(リアルワールドデータ)が少しずつ報告されつつあり6)、ポラツズマブ ベドチンに併用するCHPを適切に減量することで、80歳以上でもPola-R-CHP療法を安全に実施しうる可能性が示されています。一方で、心機能低下例などアントラサイクリンの使用が難しい症例も少なくなく、適応は個々の予備能と併存症を踏まえて慎重に判断する必要があります。本症例への治療方針本症例を改めて整理すると、82歳と高齢であり、PS 1、ADLは自立していますが、G8 11点、CCI 2点で、機能的にはおおむねunfitに近い状態と評価できます。本人は治癒を目指した治療を希望していますが、持続性心房細動や慢性心不全といった心疾患を有し、ドキソルビシンによる心毒性のリスクには十分な注意が必要です。また、組織型はNon-GCB型であり、Pola-R-CHP療法の上乗せ効果が期待しやすい点は、治療選択の後押しとなります。以上を踏まえると、治療開始前に心エコーなどで心機能を評価し、ドキソルビシンの使用が許容される場合には、CHPを適切に減量したPola-R-CHP療法も選択肢となります。ただし、80歳を超える患者はPOLARIX試験の対象外であることから、現時点では実臨床データに基づく慎重な判断が必要です。もし心機能低下が明らかな場合には、ドキソルビシンを含まないレジメンも検討する必要があります。いずれの場合も、本人・家族の意向と予備能を共有しながら、治療強度を個別に最適化していく姿勢が重要です。G-POWER研究:日本の高齢DLBCLに合ったGAを目指して高齢DLBCLに対するGAの活用は国際的に進んでいますが、海外のデータをそのまま日本の実臨床に当てはめることには限界があります。生活環境、家族支援、医療アクセス、入院・外来治療の体制、介護保険を含む社会制度は国によって異なるためです。現在、国内において70歳以上の高齢DLBCL患者を対象に、GAの意義を明らかにする多施設前向き観察研究(G-POWER研究)が進められています7)。本研究では、G8、ADL、IADL、認知機能、うつ状態、併存症、Clinical Frailty Scaleなどを評価し、初回治療の内容、有害事象、治療完遂、予後との関連を検討します。日本の高齢DLBCL患者において、どのGA項目が治療選択や有害事象予測に本当に役立つのかを明らかにすることは、今後の実臨床に直結する課題です。GAを「評価して終わり」にせず、治療を支える具体的な介入につなげるためにも、本邦独自のエビデンス構築が期待されます。 1) がん情報サービス:全国がん登録 2) 日本血液学会編. 造血器腫瘍診療ガイドライン第3.1版 2024年版. 金原出版. 2024. 3) 日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会編. 高齢者のがん薬物療法ガイドライン 改訂第2版. 南江堂. 2026. 4) Peyrade F, et al. Lancet Oncol. 2011;12:460-468. 5) Tilly H, et al. N Engl J Med. 2022;386:351-363. 6) Yamada T, et al. Ann Hematol. 2025;104:5191-5200. 7) UMIN-CTR:臨床登録試験情報(G-POWER研究)

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第70回 あなたの体は何歳ですか?「老化時計」が明かす、臓器ごとに進む老いの正体

この100年で人間の平均寿命はおよそ2倍になりました。ところが、健康に過ごせる期間(健康寿命)は同じペースでは延びておらず、心臓病やがん、認知症、身体の障害などを抱えて暮らす人はむしろ増えています。この「長生きするけれど健康ではない」というギャップを埋める鍵として注目されているのが、老化の速さそのものを数値で測る「生物学的時計」です。今回はそんな概念を取り扱った論文をもとに最新の知見をシェアしていきます1)。老化は「一定のスピード」では進まないかつて老化は、誰の体でも年齢とともに一定の速さで進むものと考えられてきました。しかし近年の大規模な研究で、その常識は覆されつつあります。血液中のタンパク質やDNAの変化を数万人規模で追跡すると、老化は一定ではなく、人生のなかで何度か「波」となって加速することがわかってきたのです2)。論文の中では、成人期におよそ3つの大きな転換期があると指摘されています。目安は「30~40歳ごろ」「60~70歳ごろ」「80歳前後」。この時期に体内の分子レベルの変化が一気に進むことが、複数の独立した研究で繰り返し確認されています。つまり老化は坂道をなだらかに下るというより、階段を数段まとめて下りるようなイメージに近いのです。この転換期は、生活を見直したり対策を打ったりする「介入の窓」にもなりうると期待されています。脳と免疫の「若さ」が寿命を左右するもう1つの重要な発見が、同じ人の体の中でも臓器ごとに老化のスピードが違うということです。心臓は実年齢より若いのに、肝臓は老けている、といったことが実際に起こります。英国の大規模データを用いた研究では、ある臓器が実年齢より「老けている」人ほど、その臓器に関連する病気や死亡のリスクが高いことが示されました。とくに3つ以上の臓器で老化が進んでいる人では、その傾向がはっきりと強まります。また、脳の生物学的な老化が進んでいる人では、アルツハイマー病を発症するリスクが約3.1倍に上ったと報告されています。逆に、脳や免疫が「若い」状態を保っている人は長生きしやすい傾向がありました3)。老化時計を活用することで、症状が出るより何年も前に、リスクの高い人を見つけ出せる可能性もあるわけです。老化時計は遅らせられる?では、この時計の進み方は変えられるのでしょうか。論文によれば、運動、適度なカロリー制限、オメガ3脂肪酸やビタミンDの摂取などが、DNAの老化の指標をわずかに遅らせる可能性が報告されています4)。また、少し有名な話になりましたが、帯状疱疹ワクチンの接種者で認知症が少なく、老化が緩やかだったという研究も複数あります5)。糖尿病や肥満の治療に使われるGLP-1受容体作動薬にも、老化を遅らせる働きの可能性が指摘されています。ただし、過度な期待は禁物です。これらの効果は示されているとしてもまだ「わずか」で、長期的に寿命や健康寿命を本当に延ばすのかは未確認です。また、市販されている老化測定検査は測定方法がバラバラで標準化されておらず、同じ人が受けても結果が大きく食い違うことがあります。現時点では、個人が一度の検査結果に一喜一憂する段階にはありません。大切なのはおそらく、特別な検査を受けることよりも、運動・睡眠・食事といった昔から知られた生活習慣が、体の「老化時計」の進み方に確かに影響するという事実です。ただし、ここでご紹介した「老化時計」は、病気になってから治す「後追いの医療」から、リスクを早期に見つけて防ぐ「先手の医療」へと転換する、次の大きな一歩になろうとしているのもまた事実だと思います。1)Wyss-Coray T, et al. Biological aging clocks in health and disease. Nat Med. 2026;32:2383-2394.2)Oh HS, et al. Organ aging signatures in the plasma proteome track health and disease. Nature. 2023;624:164-172.3)Balachandran A, et al. Pace of aging associations of healthspan and lifespan in older adults in the US and UK. Nat Aging. 2025;5:1132-1142.4)Belsky DW, et al. DunedinPACE, a DNA methylation biomarker of the pace of aging. eLife. 2021;11:e73420.5)Kim JK, et al. Association between shingles vaccination and slower biological aging: evidence from a U.S. population-based cohort study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2026;81:glag008.

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熱中症による入院患者、多い服用薬は?/MDV

 高温環境により体温調節機能が破綻して発症する熱中症。今年もこの対策が必要な季節が到来した。昨年までの天気予報では「猛暑日」(35℃以上)の表現が多用されていたが、2026年4月17日に気象庁が最高気温40℃以上の名称を「酷暑日」と正式決定し、これまで以上に熱中症対策の重要性が高まっている。 熱中症の重症例では中枢神経障害や循環不全、急性腎障害(AKI)などの多臓器障害を引き起こし、とくにAKIでは脱水や循環血液量減少、横紋筋融解症などを要因とし、集中治療や腎代替療法を要する場合もある。発症予防はもちろんのこと、重症化予防を行うためには患者背景や併存疾患、服用薬剤から重症化リスクをあらかじめ把握しておくことが極めて重要となる。 そこで、メディカル・データ・ビジョン(MDV)は自社が保有するDPCデータを基に、熱中症入院患者における事前処方薬の状況などの調査を行った。熱中症入院患者における事前処方薬の状況 対象期間:2022年4月~2025年5月対象:熱中症入院患者1万1,323例(総入院件数1万1,520件)結果:・処方割合が最も高かったのは精神安定剤(7.6%)で、次いでアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB、単剤7.4%)、β遮断薬(単剤6.2%)、ループ利尿薬(単剤5.4%)となった。・抗ヒスタミン薬、抗不安薬、SGLT2阻害薬、ビグアナイド系薬などでも一定割合で認められた。・いずれの薬剤群も熱中症入院患者全体に占める処方割合は10%未満であり、単一薬剤群への偏りは認められなかった。・熱中症入院患者では高血圧、糖尿病、精神・神経疾患などの慢性疾患治療薬が処方されているケースが多く、その背景は多岐にわたっていた。<処方薬上位5つの薬効群>◯精神安定剤:実患者数*859(7.6%)、入院数**871(7.6%)◯ARB(単剤):同842(7.4%)、同855(7.4%)◯β遮断薬(単剤):同704(6.2%)、同717(6.2%)◯ループ利尿薬(単剤):同608(5.4%)、同618(5.4%)◯抗ヒスタミン薬(全身用):同402(3.6%)、同408(3.5%)*入院日以前100日間での処方患者数/熱中症で入院患者数**入院日以前100日間での処方患者数/熱中症で入院数 このほか、熱中症かつAKI合併患者での事前処方薬の推移や重症熱中症における腎代替療法の実施状況についても検証されている。

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後天性視床下部性肥満症、MC4R作動薬がBMI改善/NEJM

 4~66歳の後天性視床下部性肥満症患者において、メラノコルチン4受容体(MC4R)作動薬setmelanotideはプラセボと比較して、有意な体重減少および食欲の低下をもたらすことが示された。米国・フロリダ大学のJennifer L. Miller氏らが日本を含む6ヵ国29施設で行われた第III相二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。後天性視床下部性肥満症は、視床下部の損傷や疾患(鞍上部腫瘍またはその外科的切除など)に伴う広範な視床下部機能障害により急速かつ持続的な体重増加を来す。setmelanotideは後天性視床下部性肥満症患者を対象とした第II相試験で、著明な体重減少をもたらすことが認められていた。NEJM誌2026年7月9日号掲載の報告。4歳以上の患者を対象、52週時点のBMI値の平均変化率を評価 本試験はカナダ、ドイツ、日本、オランダ、英国、米国で行われた。対象は、年齢4歳以上の視床下部性肥満症で、急速かつ持続的なBMI値の増加を認め(18歳未満の被験者:95パーセンタイル以上、18歳以上の被験者:30以上)、かつ視床下部の腫瘍、病変または損傷の既往がある患者とした。 研究グループは被験者をsetmelanotide(1.5~3.0mg)またはプラセボを投与する群に2対1の割合で無作為に割り付け、用量漸増期間後52週間にわたり1日1回皮下投与を行った。 主要エンドポイントは、用量漸増期間後52週時点のベースラインからのBMI値の平均変化率とした。副次エンドポイントは、12歳以上の被験者で評価した1日当たりの最大空腹感スコア(hunger score、範囲:0~10、高スコアほど空腹感が強いことを示す)の週平均での変化量などであった。setmelanotide群-16.5%、プラセボ群3.3%で有意な差 2023年4月26日~2025年3月18日に、合計120例がsetmelanotide群(81例)またはプラセボ群(39例)に無作為化された。被験者背景は、平均年齢(±SD)が19.9±13.8歳(範囲:4~66歳)、18歳以上被験者の平均BMI値は41.2±9.7、18歳未満被験者の平均BMIのZスコアは3.61±1.66であった。 52週時点のBMI値の最小二乗平均(LSM)変化率は、setmelanotide群-16.5%(95%信頼区間[CI]:-19.3~-13.8)、プラセボ群3.3%(95%CI:-0.6~7.2)であった(p<0.001)。1日当たりの最大空腹感スコアの週平均でのLSM変化量は、setmelanotide群-2.73(95%CI:-3.28~-2.18)、プラセボ群-1.45(95%CI:-2.23~-0.67)であった(p=0.009)。 有害事象の発現は、setmelanotide群100%、プラセボ群90%で報告された。重篤な有害事象の発現頻度は、それぞれ28%、8%であった。setmelanotide群で最も多くみられた有害事象は、皮膚の色素沈着、悪心、嘔吐、頭痛であった。

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肥満症治療薬を比較、1年後の体重減少効果などは?~ネットワークメタ解析/BMJ

 肥満治療では、近年、減量効果の高い薬物の導入が進み、治療の様相が急速に変化するとともに医療費も急増している。また、肥満は複雑な慢性疾患との認識が高まり、治療成功の尺度を減量のみに依存することは、有益性と有害性を過度に単純化するだけでなく、スティグマを助長する恐れが指摘されている。中国・四川大学のKailei Nong氏らは、各種の肥満治療薬は1年後の体重減少効果がさまざまで、全般的に効果が大きいほど有害事象や投与中止のリスクも高く、ほとんどの薬剤は生活の質(QOL)に意義のある改善をもたらさず、心血管系への有益性を認めるものはほとんどないことを示した。研究の成果は、BMJ誌2026年7月8日号で報告された。ネットワークメタ解析による最新エビデンス 研究グループは、過体重または肥満の成人における肥満治療薬の有益性と有害性に関する最新のエビデンスの概要を提示し、施策立案者や臨床医、患者の意思決定に資することを目的に、関連文献の系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(Noncommunicable Chronic Diseases-National Science and Technology Major Projectなどの助成を受けた)。 2025年11月12日の時点で、医学関連データベースに登録された文献を検索した。対象は、1つ以上の薬剤を、ライフスタイルの是正、プラセボ、または他の薬剤と比較し、試験期間が12週間以上の無作為化対照比較試験とした。チルゼパチド、CagriSemaで約15%の減量効果 ネットワークメタ解析には、19種類の薬剤を評価し、追跡期間が12~172週間の262件の試験(参加者9万9,791例)が含まれた。全体の年齢中央値は49.0歳、女性の割合中央値は63.3%、BMI中央値は34.7、体重中央値は96.8kgであり、追跡期間中央値は26週間だった。102件の試験が、バイアスリスクが低いと判定された。 エビデンスの確実性が「中」から「高」の試験において、ライフスタイル是正単独の群と比較して、1年後の時点で有意な体重減少が得られた薬剤は次のとおりであった。 最も減量効果が高かったのは、チルゼパチド(平均差:-14.9%、95%信頼区間[CI]:-16.0~-13.9)およびcagrilintide-セマグルチド(商品名:CagriSema)(-14.8%、-16.9~-12.7)であった。 経口セマグルチド(平均差:-10.9%、95%CI:-12.7~-9.1)、orforglipron(-9.9%、-12.4~-7.5)、皮下セマグルチド(-9.8%、-10.6~-9.1)、phentermine-トピラマート(-8.1%、-9.7~-6.5)は、減量効果が中等度であった。 また、エビデンスの確実性が「非常に低」から「低」の試験において、新規薬剤(ecnoglutide、mazdutide、retatrutide)の高い減量効果(平均差の幅:13.1~14.6%)の可能性が示された。有害事象による投与中止、消化器症状、疲労 エビデンスの確実性が「中」から「高」の試験において、有害事象による投与中止のリスクが最も高かったのは、orforglipron(リスク比:4.2、95%CI:2.3~7.6)であり、次いでnaltrexone-bupropion(2.3、1.8~2.9)、リラグルチド(2.2、1.8~2.9)、phentermine-topiramate(2.2、1.6~3.1)、CagriSema(2.1、1.4~3.4)、経口セマグルチド(1.9、1.1~3.3)の順であった。 また、消化器系有害事象のリスクは、naltrexone-bupropion(リスク比:4.2、95%CI:3.0~5.8)で最も高く、次いで経口セマグルチド(3.6、2.5~5.3)、orforglipron(3.2、2.0~5.2)、チルゼパチド(3.1、2.4~3.9)の順だった。 疲労のリスクは、とくにnaltrexone-bupropion(リスク比:8.9、95%CI:2.1~37.4、年間1,000人当たり331人の絶対増加)で高く、orforglipron(3.4、95%CI:1.9~6.0、100人の増加)とCagriSema(3.2、2.6~4.0、92人の増加)でも高かった。死亡、心筋梗塞の減少は皮下セマグルチドのみ チルゼパチドは、脂肪量を最も大幅に減少させた(平均差:-25.7%、95%CI:-30.8~-20.6)が、除脂肪量も大きく低下した(-8.3%、-12.9~-3.7)。 皮下セマグルチドのみが、全死因死亡率(リスク比:0.81、95%CI:0.72~0.93)および心筋梗塞(0.72、0.61~0.85)の減少と関連しており、これらの推定値は主に高リスク集団を対象とした心血管アウトカム試験によるものだった。 また、皮下セマグルチド(リスク比:0.43、95%CI:0.21~0.84)とチルゼパチド(0.49、0.27~0.88)は、心不全のリスクを低減させた。チルゼパチドは、心不全による入院のリスクが最も低かった(0.47、0.24~0.91)。QOLを改善した薬剤はない、有益性と有害性のトレードオフを考慮すべき エビデンスの確実性が「中」から「高」の43件の試験(参加者4万5,663例)において、1年後のQOL(SF-36で評価)が、確立された最小重要差(minimally important difference、ベースラインから10点の改善)を超えて改善した薬剤はなく、ライフスタイル是正単独群との変化量の平均差はすべて5点未満であった。 薬剤の投与量や主な患者特性に関するサブグループ解析では、長期間の試験(皮下セマグルチド)における大幅な体重減少を除き、治療の相対的な効果に、信頼に足る差は認めなかった。 著者は、「チルゼパチドとCagriSemaは、最大の体重減少を達成したが、全般的に、より大きな利益には、投与中止、消化器症状、疲労、除脂肪体重の減少のリスクが伴った」「体重減少を認めたにもかかわらず、どの薬剤も1年後のQOLが改善しなかった」とまとめている。 また、「これらの知見に基づき、臨床現場での判断においては、患者との共同意思決定の枠組みの中で、有益性と有害性のトレードオフを考慮すべきである」と指摘している。

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Burnt-out MASLD、肝癌切除後予後を左右する新たな高リスク表現型か

 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)では、病態の進行に伴って肝脂肪が消失する「Burnt-out MASLD」と呼ばれる状態に至ることがある。今回、肝細胞癌(HCC)患者931例を対象とした研究で、Burnt-out MASLDを有する患者では肝切除後の再発および生存予後の悪化と独立して関連することが示された。術後のリスク層別化に役立つ新たな高リスク表現型として注目される。研究は、埼玉医科大学国際医療センター消化器外科(肝胆膵外科)の渡邉幸博氏らによるもので、詳細は5月29日付の「Liver International」に掲載された。 MASLDは、肥満や2型糖尿病の増加を背景に、近年ではHCCの主要な原因の一つとして注目されている。一方、MASLDは脂肪沈着や線維化の程度がさまざまで、病態の幅が広いことも特徴だ。中でも、病態の進行に伴って肝脂肪が減少し、高度線維化や肝硬変を伴う「Burnt-out MASLD」は、その代謝性の背景が見えにくく、従来は原因不明の肝硬変として扱われることもあった。しかし、Burnt-out MASLDが単に進行した肝障害を反映した状態なのか、それともHCC術後の再発や生存に影響する独自の病態なのかは明らかではなかった。こうした背景から著者らは、MASLD関連HCC患者におけるBurnt-out MASLDの臨床的意義を検討した。 著者らは、2007~2025年に埼玉医科大学国際医療センターでHCCに対する根治的肝切除を受けた連続症例(931例)を対象に後ろ向き解析を行った。背景肝(がん以外の肝組織)の病理所見については、2人の肝病理専門医が独立して評価し、脂肪沈着と線維化の程度を組み合わせて4つの表現型に分類した。Burnt-out MASLDは、高度線維化(F3~F4)と脂肪沈着5%未満を特徴とし、他の慢性肝疾患の原因を除外した上で定義した。主要評価項目として、4つの表現型と無再発生存期間(RFS)および全生存期間(OS)との関連を多変量Cox比例ハザードモデルで解析した。副次評価項目では、Clavien-Dindo分類に基づく術後合併症を評価した。 解析の結果、Burnt-out MASLDを有する患者は、他の病因群と比べても最も予後不良だった。Burnt-out MASLD群の3年/5年RFSはそれぞれ21%/14%、3年/5年OSは65%/43%で、non-burnt-out MASLDに加え、肝炎ウイルスやアルコールに関連するHCCと比べても最も低かった。 MASLD関連HCC患者に限定した解析では、脂肪沈着が保たれ線維化が軽度な群を基準とした場合、Burnt-out MASLDはHCC再発リスクの上昇(ハザード比〔HR〕 1.87、95%信頼区間〔CI〕 1.10~3.17、P=0.020)および全死亡リスクの上昇(HR 3.38、95%CI 1.57~7.28、P=0.002)と独立して関連していた。一方、脂肪減少のみを認める群や、高度線維化のみを認める群では、無再発生存期間や全生存期間との有意な関連は認められず、脂肪減少と高度線維化が併存するBurnt-out MASLDのみが高リスク表現型として抽出された。 肝機能が保たれた患者や高度線維化症例に限定した解析においても、概ね同様の傾向が確認され、Burnt-out MASLDの不良予後は単なる肝機能低下や線維化の進行だけでは説明できなかった。一方、Burnt-out MASLDは術後合併症や90日死亡率の増加とは関連しなかった。 著者らは、脂肪減少のみ、あるいは高度線維化のみではなく、両者が併存するBurnt-out MASLDがHCC切除後の予後に影響する独立した高リスク表現型であることが示されたと報告した。Burnt-out MASLDの把握は、MASLD関連HCC患者における術後のリスク層別化やフォローアップ戦略の最適化につながる可能性があるとしている。 なお、本研究は単施設の後ろ向き解析であり、結果の一般化には制限がある。また、一部の生活習慣因子や分子情報は解析に含まれておらず、Burnt-out MASLDの病態機序については今後の検討が必要とされる。

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中年期の筋トレ習慣が糖尿病リスク低下につながる

 中年期を通して筋力トレーニングを続けている人は、2型糖尿病(T2DM)のリスクが42%低いことが明らかになった。さらに、筋トレとともに有酸素運動を行い、テレビ視聴時間が短い人では、より大きなリスク低下が認められた。浙江大学(中国)のTianyue Zhang氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に6月22日掲載された。 有酸素運動によるT2DMのリスク抑制に関しては豊富なエビデンスがあるのに対して、筋トレのエビデンスは多くなく、特に長期間の前向き研究に基づく知見は少ない。Zhang氏らはこの点について、米国の看護師健康調査(NHSおよびNHS II)と医療従事者対象調査(HPFS)のデータを用いた検討を行った。 14万3,715人(平均年齢56.0±10.5歳、女性78.3%)を19.2±5.0年追跡したところ、1万38人がT2DMを新規発症していた。 筋トレの週当たりの実施時間で、対象者を5群(0時間、0~0.5時間、0.5~1時間、1~2時間、2時間以上)に分けてT2DMリスクを比較したところ、筋トレを週2時間以上実施している群は、交絡因子(年齢、性別、人種、喫煙・飲酒・有酸素運動の習慣、摂取エネルギー量、食事の質、糖尿病家族歴、閉経前/後など)を調整後、筋トレを行っていない群に比べて、T2DMリスクが27%低いことが示された(ハザード比〔HR〕0.73〔95%信頼区間0.66~0.81〕)。また、筋トレ時間が長いほど、T2DMリスクが低いという関連も認められた(傾向性P<0.001)。 次に、追跡期間中のトレーニング量の変化との関連を検討した結果、中年期を通じて週0.5時間以上のトレーニングを維持していた群(一貫して「高」の群)は、一貫して「低」の群に比べてT2DMリスクが42%低かった(HR0.58〔同0.45~0.74〕)。トレーニング量が「低」から「高」に増加していた群(HR0.79〔0.66~0.94〕)、「高」から「低」に減少していた群(HR0.82〔0.67~0.99〕)も有意なリスク低下が見られた。しかし、追跡期間中のトレーニング量が変動していた群と一貫して「低」の群の間で、T2DMリスクに有意差は認められなかった(HR1.02〔0.86~1.21〕)。 続いて、有酸素運動や座位行動(テレビ視聴時間)を考慮した解析を実施。筋トレを週に1時間以上、有酸素運動を15MET時/週以上、テレビ視聴時間は1日2時間未満という3条件を満たす群は、いずれも満たさない群に比べて、T2DMリスクが62%低いことが分かった(HR0.38〔0.34~0.42〕)。 Zhang氏らは、これらの結果は、糖尿病予防の生活習慣に関する推奨事項に筋トレを重要な要素として含めることを支持するものだとしている。 本報告について、米ノースウェル・ヘルスのShirin Jaggi氏は、「この研究により、筋トレが糖尿病予備群や2型糖尿病の予防に非常に重要な役割を果たしていることが明確になった」と論評。また、今回の研究結果はトレーニング量だけでなく、長期的に継続することの重要性を示唆しているとの見方を示し、「30分であれ、1時間であれ、2時間であれ、トレーニングの時間をその時間まで伸ばしたら、その状態を維持することが大切だ」と述べている。

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診療科別2026年上半期注目論文5選(糖尿病・代謝・内分泌内科編)

Orforglipron for maintenance of body weight reduction: the double-blind, randomized phase 3b ATTAIN-MAINTAIN trialArrone LJ, et al. Nat Med. 2026 May 13. [Epub ahead of print]<ATTAIN-MAINTAIN>:orforglipronは、チルゼパチド・セマグルチドによる減量維持に有用SURMOUNT-5研究(糖尿病のない肥満症者対象)でチルゼパチド・セマグルチドにより5%以上減量した人を対象に、注射薬から経口GLP-1受容体作動薬orforglipronへ切り替えたところ、52週後の減量維持率はプラセボ群より有意に高く、体重リバウンド予防への有用性が示されました。一方で消化器系副作用の多さが今後の課題です。Tirzepatide for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea and ObesityMalhotra A, et al. N Engl J Med 2024;391:1193-205.<SURMOUNT-OSA>:チルゼパチドは閉塞性睡眠時無呼吸を改善する肥満(BMI≧27)を伴う中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸患者において、52週間のチルゼパチド投与により体重が最大約20%減少しAHIが最大約29回/時間減少しました。2026年5月にチルゼパチドが本邦でも閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療薬としても承認されました。本論文は2024年発行ですが、保険適用に伴い改めて取り上げました。処方条件については最適使用推進ガイドラインを確認しましょう。Finerenone in Type 1 Diabetes and Chronic Kidney DiseaseHeerspink HJL, et al. N Engl J Med 2026;394:947-57.<FINE-ONE>:フィネレノンは1型糖尿病の腎症進展抑制に有用1型糖尿病で微量~顕性アルブミン尿期の腎症を合併している患者において、フィネレノンは6ヵ月間で尿中アルブミン/クレアチニン比を顕著に減少させました。ただし、短期間の介入であること、代用エンドポイントを指標としていることから長期的な臨床効果や安全性(とくに高カリウム血症のリスク)の評価は今後の課題です。Intensive LDL Cholesterol Targeting in Atherosclerotic Cardiovascular DiseaseLee YJ, et al. N Engl J Med 2026;394:1365-75.<Ez-PAVE>:心血管疾患合併者では、LDL-Cの超厳格管理により心血管リスクが低減する心血管疾患を有する韓国人では、LDL-Cの目標値を55mg/dL未満に設定すると、70mg/dL未満を目標とした場合よりもイベントリスクがさらに低下しました。ただし、非盲検試験であるため効果が過大評価されている可能性がある点と、低リスク者における有効性は未確立である点に注意が必要です。Histological efficacy of anti-diabetic agents in MASH and the mediating role of weight loss: A network meta-analysisBanerjee M, et al. Diabetes Obes Metab. 2026;28:287-295.<ネットワークメタアナリシス>:SGLT2阻害薬とインクレチン関連薬はMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)を改善するSGLT2阻害薬およびインクレチン関連薬は生検で確定診断されたMASHにおいて線維化を改善することが示されました。その効果には体重減少が大きく寄与していることが示唆されましたが、それ以外の直接的な作用の可能性も想定されています。2026年6月にセマグルチドが日本初のMASH治療薬として承認されました。処方条件については最適使用推進ガイドラインを確認しましょう。

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飲酒するとうま味のあるスナックが食べたくなるのはなぜ?

 飲酒をすると、ポテトチップスやナッツ類、フライドポテト、ピザなどのうま味のある食品を食べたくなることがあるが、それには生物学的な理由があるようだ。新たな研究で、アルコール摂取により誘導されると考えられているホルモンのFGF21(線維芽細胞増殖因子21)を介してうま味への選好が高まり、食事内容が変化する可能性が示された。研究グループは、うま味の強い超加工食品が豊富な食環境では、この作用が過食につながる可能性があると見ている。シドニー大学(オーストラリア)チャールズ・パーキンス・センターのAmanda Grech氏らによるこの研究は、「Obesity Reviews」に5月19日掲載された。 FGF21は、タンパク質摂取量が少ない状況下では血中濃度が上昇し、タンパク質の摂取行動に影響することが示唆されている。FGF21はまた、甘味への嗜好を低下させる一方で、うま味への嗜好を高める作用を有する。研究グループによると、加工度の低い食品を中心とした伝統的な食生活では、体はうま味を肉などのタンパク質が豊富な食品と結び付けていた。しかし、うま味が高タンパクではない食品にも存在するようになった現代の食環境では、うま味とタンパク質のこのような対応関係が崩れている可能性があるという。そこでGrech氏らは、オーストラリアの全国健康調査参加者のうち、成人9,337人の食事データを用いて、食事摂取パターンと飲酒の関連を検討した。対象者の3,082人が調査当日に飲酒していたと回答した。 解析の結果、飲酒は炭水化物エネルギー比率の低下、および甘味食品摂取量の減少と量依存的に関連する一方、うま味食品摂取量の増加と関連していた。うま味食品の摂取量は、飲酒者で276.1gであったのに対し、非飲酒者で235.6gであり、両群間の差は有意であった。また、うま味食品のうち、超加工食品や高脂肪肉の割合が高いほど食事全体のタンパク質/脂質比は低下することも示唆された。研究グループは、超加工食品のような人工的にうま味を付加した食品が、タンパク質を求める体の仕組みの中で、うま味は強いもののタンパク質含有量は低い食品を選ばせる「タンパク質のおとり(protein decoy)」として機能する可能性を示唆している。その結果、こうした食品の摂取量が増え、それに伴い、脂肪、炭水化物、総エネルギー摂取量が増加する可能性があるという。 論文の上席著者であるチャールズ・パーキンス・センターのDavid Raubenheimer氏は、「アルコールとともにポテトチップスを食べたくなる、いわゆるアペリティフ効果や、楽しい夜遊びの締めくくりにピザを、あるいは翌朝にフルブレックファーストを食べたくなる現象は、アルコールが食欲、特にタンパク質に関する調節機構を変化させることによって生じている可能性がある」との見方を示す。さらに、「本研究は、食事中のタンパク質量が少ない場合、体はアルコールによって誘導されるタンパク質への欲求を満たすために、総摂取量を増加させることでそれを埋め合わせようとする可能性を示唆している。アルコールは、超加工食品のようなうま味を付加された低タンパク質食品が容易に入手できる環境では、過食に寄与する可能性がある」と述べている。 一方、論文の共著者であるチャールズ・パーキンス・センター生命環境学分野のStephen Simpson氏は、「これらの結果は、アルコールが体重増加に及ぼす影響が人によって異なる理由の説明にもなる。アルコールは総エネルギー摂取量に対して異なる影響を及ぼし、その差は食事環境、特に未加工食品が中心か超加工食品が中心かによって左右される。これは単にアルコール自体のカロリーの問題ではない」と述べている。 研究グループは、ビールやワインを飲む場合には、栄養密度の高いホールフードのスナックを手元に用意することを推奨している。Raubenheimer氏は、「飲酒する場合には、このホルモン相互作用を意識することが重要だ。ローストしたひよこ豆、スモークサーモン、赤身の冷製肉、エビやかきなどのタンパク質が豊富なホールフードを手元に用意することで、超加工食品へ手が伸びるのを防ぐことができる」とアドバイスしている。

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加糖飲料の摂取は肝細胞がん・肝内胆管がんのリスク増加と関連

 11件の長期追跡研究に参加した150万人以上の成人の食事データを解析した研究で、加糖飲料の日常的な摂取は肝細胞がん(HCC)および肝内胆管がん(ICC)のリスク増加と関連することが示された。米国立がん研究所(NCI)のCody Watling氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に6月10日掲載された。 肝がんは世界で3番目に多いがん死亡の原因である。肝がんの主な組織型で最も多いのはHCCで、肝がん全体の75〜85%を占めている。研究の背景情報によると、HCCの主なリスク因子には、B型肝炎ウイルス(HBV)またはC型肝炎ウイルス(HCV)の慢性感染、過度の飲酒、喫煙、アフラトキシン類汚染食品の摂取、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)、糖尿病、肥満などの代謝性疾患が含まれるが、HCCの35%は既知のリスク因子では説明できないという。肝臓は主要な代謝器官であり、解毒において重要な役割を果たしていることから、食事などの外因性因子による影響を受けやすいと考えられる。 こうした点を踏まえて今回の研究では、がん発症を長期追跡した11件の前向きコホート研究のデータを用いて、人工甘味料入り飲料(ASB)および加糖飲料(SSB)の摂取と、肝がん全体、HCCおよびICCの発症リスクとの関連を検討した。ASBにはダイエットソーダやダイエットコーラ、その他の低カロリー甘味飲料が含まれた。一方、SSBにはコーラ、炭酸飲料、カフェインレス炭酸飲料、ジュース類などが含まれた。 11件のコホート研究のうち、10件は米国のコホート、残る1件はヨーロッパのコホートを対象としたもので、いずれの研究参加者もベースライン時点でがんの既往がなかった。研究参加者は1980~2009年に各コホート研究へ登録され、その後、2000~2019年まで追跡された。追跡期間中央値は11.4~31.4年で、参加者の総計は151万8,411人(平均年齢57.8歳、女性58.2%)に上った。 追跡期間中央値17.8年の間に、2,811人(HCC:1,699人、ICC:444人)が肝がんを発症した。解析の結果、ASBの摂取量が1日1杯増加しても肝がん全体、HCCおよびICCの有意なリスク増加は認められなかった。また、SSB摂取量が1日1杯増加しても肝がん全体のリスクとの関連は認められなかったが、HCC(ハザード比1.10、95%信頼区間1.03~1.18)およびICC(同1.15、1.00~1.32)のリスク増加と関連していた。糖尿病の有無による有意な効果修飾は認められなかった。 ただし研究グループは、この結果はSSBが肝がんの原因であることを証明するものではないと強調している。それでもなお、SSBの摂取が長期的な健康リスクと関連するというこれまでの証拠を補強するものだとの見方を示している。

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テストステロン処方前、ガイドラインに沿った診断は12%

 テストステロン製剤を処方された男性の多くが、事前に必要な検査を受けていない可能性があることが、新たな研究で示された。テストステロン製剤の処方前に、ガイドラインに沿った診断検査を受けていたのは12%にとどまっていたという。米ミシガン大学アナーバー校内科学分野のMaria Papaleontiou氏らによるこの研究結果は、米国内分泌学会年次学術集会(ENDO 2026、6月13~16日、米シカゴ)で発表された。 Papaleontiou氏はニュースリリースで、「本研究結果は、患者ケアを改善し、不適切なテストステロン製剤の処方を削減できる機会があることを示している。長期的には、これらの知見が診療の質改善の取り組みや臨床意思決定支援ツールの開発につながり、ガイドラインに沿った一貫性のあるテストステロン製剤処方の促進に寄与する可能性がある」と述べている。 研究チームは、2020~2025年にミシガン大学医療センターで性腺機能低下症と診断され、テストステロンを処方された男性200人(平均年齢52.5歳)をランダムに抽出し、診療記録を分析した。男性での性腺機能低下症は、精巣の機能低下に伴い十分な量のテストステロンを産生できなくなる状態をいう。 対象者に多く認められた併存疾患は、肥満(63%)、高血圧(52%)、うつ病(40%)、糖尿病(28%)、関節炎(28%)であった。テストステロン製剤を処方された患者のうち、午前5~10時の検査で2回、低テストステロン値(総テストステロン値300ng/dL未満、遊離テストステロン70pg/mL未満、または生物学的利用可能テストステロン値の低値)が確認され、LH(黄体形成ホルモン)および/またはFSH(卵胞刺激ホルモン)の測定が行われ、テストステロン療法の禁忌がないことが確認されていた患者は12%にとどまっていた。 また、初回のテストステロン製剤処方前の1年以内に前立腺特異抗原(PSA)検査を受けていた患者は62%、全血球計算(CBC)を受けていた患者は77%であった。さらに、テストステロン製剤処方前の併存疾患として、閉塞性睡眠時無呼吸症候群が55%、前立腺がんが4%に認められ、1.5%ではPSA値が4ng/mLを超えていた。テストステロン製剤を処方した医師の内訳は、プライマリケア医が45%、泌尿器科医が35.5%、内分泌科医が18%、その他の診療科医が1.5%であった。処方されたテストステロン製剤では、クリームやジェルなどの外用剤(68.5%)が最も多かった。 Papaleontiou氏らは、「テストステロン製剤の処方をガイドラインに沿ったものに改善することで、臨床的にテストステロン療法を必要としない可能性がある患者における回避可能なリスクを防ぐことができる」との見方を示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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診療科別2026年上半期注目論文5選(消化器内科編~肝胆膵領域)

Phase 3 Results of Bepirovirsen Treatment for Chronic Hepatitis B Virus InfectionHou J, et al. N Engl J Med. 2026;394:2395-2406.<B-Well 1/B-Well 2試験>: bepirovirsenが慢性B型肝炎の新たな治療選択肢となる可能性bepirovirsenはHBV転写産物を標的とするアンチセンス核酸医薬です。第III相試験では、核酸アナログ中止後も持続する機能的治癒(HBs抗原消失+HBV DNA陰性)を約20%で達成し、慢性B型肝炎治療における治癒を目指す新たな選択肢として期待される結果となりました。Clinical Care Pathway for the Risk Stratification and Management of Patients With Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver DiseaseKanwal F, et al. Gastroenterology. 2026;171:164-183.<米国消化器病学会(AGA)による提言>:MASLD診療におけるスクリーニング・診断・治療最適化のための臨床ケアpathwayMASLD治療薬が実臨床で使用可能となる時代を見据え、FIB-4とVCTEを活用したリスク層別化と専門医連携の新たな診療モデルを提案しています。どのようなMASLD患者に治療介入すべきかを見極めるための実践的なpathwayであり、MASLD診療の新たな方向性を示す重要な提言です。Neoadjuvant GOLP in Resectable High-Risk Intrahepatic Cholangiocarcinoma Shi GM, et al. N Engl J Med. 2026;394:983-995.<切除可能肝内胆管がんに対する術前治療>:術前GOLP療法は切除可能高リスク肝内胆管がんの予後改善に寄与する切除可能高リスク肝内胆管がんに対する術前GOLP療法は、手術単独群と比較してevent-free survivalを有意に改善しました。胆道がん領域では術前治療のエビデンスが限定的でしたが、本結果により高リスク症例に対する新たな治療戦略として期待されます。Risk of Pancreatic Cancer in Glycemically Defined New-Onset Diabetes: A Prospective Cohort StudyChari ST, et al. Gastroenterology. 2026;170:106-117.<新規糖尿病患者における膵がんリスク評価>:新規糖尿病は膵がん早期診断の重要な契機となる新規糖尿病患者において、血糖変動パターンを用いた層別化により膵がん高リスク群を抽出可能であることが示されました。膵がんは早期診断がきわめて困難ですが、日常診療で頻繁に遭遇する新規糖尿病患者を契機としたサーベイランス戦略の重要性を支持する結果となっています。Validation of a Serum-Based Biomarker Signature for Detection of Early-Stage Pancreatic Ductal AdenocarcinomaLucas AL, et al. Gastroenterology. 2026;170:375-384.<膵がん早期診断バイオマーカー>:血清バイオマーカーは早期膵がん診断精度向上に寄与する血清バイオマーカーを組み合わせた診断モデルは、早期膵がんに対して高い診断性能を示しました。CA19-9単独では限界がある中、多項目バイオマーカーを用いた診断モデルは、今後の膵がんスクリーニングおよび早期診断への応用が期待されます。

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高齢肥満者の肥満関連リスク減少、日本含む7ヵ国データを解析/Lancet

 肥満および高血圧、脂質異常症に対して有効な治療法が存在するようになり、先進国の肥満高齢者は降圧薬や脂質低下薬の使用率が高くなっている。その恩恵を受けて肥満関連リスクが低下していると考えられるが、若年の肥満成人の心血管代謝リスクは依然として高いままであった。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのMajid Ezzati氏らNCD Risk Factor Collaboration(NCD-RisC)が行った、日本を含む7ヵ国・110の健康サーベイのデータ解析の結果で示された。著者は、「長期的な心血管疾患およびその他の合併症を予防するため、公衆衛生・医療システムプログラムでは、これら若年層を対象とした早期の生活習慣への介入、スクリーニング、および適切な場合は薬物療法による介入を実施すべきである」と述べている。Lancet誌オンライン版2026年7月1日号掲載の報告。日本を含む7ヵ国の1990~2024年の健康サーベイデータを解析 研究グループは、先進国における肥満者と標準体重(標準BMI値)者の代謝特性を明らかにし、肥満者の肥満関連リスクが低下しているかを評価するため、各国住民ベースの健康サーベイデータを用いた解析を行った。具体的には、1990~2024年に7ヵ国(日本、韓国、台湾、タイ、フィンランド、英国、米国)で行われた110の健康サーベイに参加した20~79歳・97万8,425人の参加者データを用いた。 主要アウトカムは、収縮期血圧(SBP)、非HDLコレステロール(non-HDL-C)、HDLコレステロール(HDL-C)の平均値、および降圧薬、脂質低下薬の使用者の割合であった。 これらアウトカムについて、(1)標準体重(BMI値20.0以上25.0未満)の参加者における経時的変化、(2)肥満者(クラスI肥満者[BMI値30.0以上35.0未満]、クラスIIまたはIII肥満者[BMI値35.0以上])と過体重者(25.0以上30.0未満)と標準体重者間の変化を評価するために、グラフによる提示と傾向分析を行った。肥満の中高年者における脂質低下薬や降圧薬の使用がリスク収束に 平均non-HDL-C値と平均SBP値は、とくに40歳以上の参加者で低下していた(タイの一部の性・年齢群を除く)。すべての国、年齢層および肥満者・過体重者のBMI区分を統合した場合、標準体重者との平均non-HDL-C値の差の10年当たりの変化量は、女性は-0.05mmol/L(95%信頼区間[CI]:-0.07~-0.03)、男性は-0.07mmol/L(95%CI:-0.09~-0.05)であった。同様に平均SBP値は、女性で-0.7mmHg(95%CI:-1.0~-0.4)、男性で-0.6mmHg(95%CI:-0.9~-0.4)であった。 これらの値の低下は、標準体重者と比べて肥満者(とくにクラスII/III肥満者)で大きく、40歳以上では肥満者と標準体重者の値の差が縮小していた。その結果として、英国、米国、タイ、韓国、日本では、肥満の高齢者の平均non-HDL-C値と平均SBP値は、標準体重の高齢者と同程度か、良好である場合もみられた。そして、こうした傾向は、標準体重の中高年者と比べて肥満の中高年者における脂質低下薬や降圧薬の使用が大きく増加したことに伴っていた。 すべての国、年齢層および肥満者・過体重者を対象に、標準体重者と比較した脂質低下薬使用率の差の増加に関する統合推定値は、10年当たり女性で1.5%ポイント(95%CI:1.0~2.1)、男性で1.6%ポイント(95%CI:1.0~2.2)であった。同様に降圧薬については、女性で0.7%ポイント(95%CI:0.3~1.0)、男性で2.0%ポイント(95%CI:1.3~2.8)であった。 HDL-C値については、肥満者よりも標準体重者で大きく上昇し、両者間の乖離が進んでいた。 40歳未満では、肥満または過体重者と標準体重者の間のギャップにほとんど変化がみられなかった。若年成人ではBMI値を問わず、脂質低下薬や降圧薬を使用する人が少なかった。

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