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1日5分の中高強度身体活動増加で、総死亡の10%を予防/Lancet

 世界保健機関(WHO)は、週に150分の中高強度身体活動(moderate-to-vigorous intensity physical activity:MVPA)を推奨しているが、これを達成できるのは少数とされる。また、従来の研究の多くは身体活動データを参加者の自己申告に基づき収集しているが、これは計測機器で測定した場合に比べバイアスが生じやすいことが知られている。ノルウェー・Norwegian School of Sport SciencesのUlf Ekelund氏らは、計測機器を用いた研究のデータを収集・解析し、最も活動量の多い上位20%を除いた集団では、1日5分という、ごくわずかで現実的なMVPAの増加が、総死亡の10%を予防する可能性があり、さらに1日30分の座位時間の削減が、総死亡の7.3%を防ぐ可能性があることを示した。研究の成果は、Lancet誌2026年1月24日号で報告された。3ヵ国7件の前向きコホート研究のメタ解析 研究グループは、身体活動量と座位行動時間のわずかで現実的な変化が、集団レベルの死亡率に及ぼす影響の評価を目的にメタ解析を行った(特定の研究助成は受けなかった)。 解析には、腰部装着型の加速度計を使用して身体活動量と座位時間を測定した3ヵ国7件の前向きコホート研究(ABC、HAI[スウェーデン]、NHANES、REGARDS、WHS[米国]、NNPAS、Tromso[ノルウェー])の参加者の、個人レベルのデータを用いた。 活動量の変化による死亡の予防割合(潜在的影響割合[potential impact fraction:PIF])を、(1)最も活動量が少ない約20%の参加者(高リスクアプローチ)、および(2)最も活動量の多い約20%を除いた約80%の参加者(集団ベースアプローチ)において推算した。MVPAの10分増加で、総死亡の14.9%予防の可能性 7件のコホート研究の参加者13万5,046人(平均年齢63.9[SD 8.7]歳、女性8万2,451人[61%])を平均8.2(SD 1.9)年間追跡した。このうち4万327人の個人レベルのデータをメタ解析の対象とした。追跡期間中に4,895人が死亡した。平均MVPA時間は27.7分/日(計測機器装着時間の3.1%)だった。 高リスクアプローチ(平均MVPA時間2.2分/日)では、MVPAの1日5分の増加により総死亡数の6.0%(95%信頼区間[CI]:4.3~7.4)を回避でき、10分の増加で8.8%(7.0~10.4)を回避可能と推定された。 また、集団ベースアプローチ(平均MVPA時間17.4分/日)では、MVPAを1日5分増加させると、総死亡の10.0%(95%CI:6.3~13.4)を、10分の増加で14.9%(9.7~19.3)を、それぞれ回避できると推定された。座位時間60分削減で、総死亡の12.6%予防の可能性 座位時間に関する高リスクアプローチ(最も座位時間の長い約20%の集団、平均座位時間721分/日)に基づく推定では、座位時間の1日30分の削減で予防可能な総死亡の推定割合は3.0%(95%CI:2.0~4.1)で、60分の削減では5.5%(3.9~6.9)であった。 また、集団ベースアプローチ(最も座位時間の短い約20%を除く集団、平均座位時間 605分/日)に基づく推定では、座位時間の1日30分の削減で予防可能な総死亡の推定割合は7.3%(95%CI:4.8~9.6)、60分の削減では12.6%(8.4~16.4)だった。LPA、総身体活動の60分増加は、MVPAの5分増加とほぼ同等 一方、低強度身体活動(light-intensity physical activity:LPA)の1日60分の増加で予防可能な推定死亡割合は、高リスクアプローチで5.5%(95%CI:4.0~6.7)、集団ベースアプローチで8.9%(3.1~13.8)であった。 また、総身体活動(LPA時間+MVPA時間)の1日60分の増加で予防可能な推定死亡割合は、それぞれ5.5%(95%CI:4.1~6.8)および10.6%(5.7~14.9)だった。これらLPA、総身体活動の60分増加の効果は、MVPA時間の5分増加とほぼ同程度であった。 著者らは、「WHOの推奨目標値を下回るわずかな身体活動量の増加により、生存に関する有益性が得られることが示された」「座位時間の30分の削減は、現実の環境下で実現可能と考えられ、効果的な介入による8時間労働当たり座位時間の40~100分の削減の可能性を示唆する研究や、高齢者に対する座位行動変容介入で45分/日の座位時間の削減を示唆する研究などがある」「今後、総死亡以外の健康アウトカムについて検証する必要がある」としている。

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お金の心配が心臓の老化を早めて死亡リスクを高める

 家計のやりくりの心配が、既に知られている心臓病のリスク因子と同程度以上に、心臓の老化や死亡リスクに関係していることが報告された。米メイヨー・クリニック心臓血管研究センターのAmir Lerman氏らの研究によるもので、詳細は「Mayo Clinic Proceedings」12月号に掲載された。 この研究によると、経済的負担と食料不安が心臓の老化を加速させる最も大きな要因であって、それらに関連する心臓の老化は、糖尿病や高血圧、心筋梗塞の既往などの既に知られているリスク因子によって引き起こされる老化と似ているという。そして、そのような心臓の老化の結果として、心臓病の発症と心臓関連死のリスクが上昇するとのことだ。Lerman氏は、「われわれの研究は、心臓の老化と死亡率の上昇に対する、社会的要因の重要性を浮き彫りにしている」と話している。 Lerman氏らは、2018~2023年にメイヨー・クリニックで治療を受けた28万323人(平均年齢59.8±16.4歳、女性50.8%)を対象とする横断研究を実施。健康に影響を及ぼし得る社会的要因を質問票で把握するとともに、人工知能(AI)を援用した心電図データの解析により心臓年齢を評価して、両者の関連を調べた。社会的要因として調査した項目は、ストレス、運動習慣、教育歴、経済的負担、食料不安、居住環境、社会的つながりなど。米疾病対策センター(CDC)はこれらの非医学的因子も、人々の健康と死亡リスクに重大な影響を及ぼす可能性があるとしている。 解析の結果、心臓年齢が実際の年齢よりも高いこと(心臓の老化の進行)と、社会的要因との有意な関連が明らかになった。例えば経済的負担(β=-1.02〔95%信頼区間-1.03~-1.01〕)や食料不安(β=-0.74〔同-0.74~-0.733〕)は、調査した社会的要因の中で特に強い関連が認められた(いずれもP<0.001)。また社会的要因は、心臓の健康に影響を及ぼす疾患の存在や人口統計学的因子と比較して、心臓の老化への寄与度が高かった。 本研究についてLerman氏は、「既知のリスク因子のみでは心臓の病気のリスクを説明しきれないという事実や、人によって既知のリスクの影響の現れ方が異なるという事実からも、社会的要因の存在が示唆される。さらに言えば、医療従事者および患者がともにまだ意識していない、心臓の老化を進める社会的要因が存在する可能性もある」と語っている。 この研究では、死亡リスクとの関連も解析された。その結果、社会的要因は既知のリスク因子と同等以上の影響をもたらす可能性が示唆された。例えば、経済的負担は早期死亡のリスクの60%上昇と関連し(ハザード比〔HR〕1.6〔1.5~1.72〕)、居住環境の不安定さは18%のリスク上昇と関連していた(HR1.18〔1.07~1.3〕)。それに対して、心筋梗塞の既往があることは10%(HR1.1〔1.03~1.18〕)、喫煙は27%(HR1.27〔1.22~1.32〕)のリスク上昇だった。 Lerman氏は、「心臓の老化の最も重要なリスク因子を特定することにより、的を絞った予防的介入が可能になるとともに、患者中心の医療の推進、および心臓病の社会的要因の改善につながっていくのではないか」と述べている。

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第279回 救急搬送677万人のうち高齢者が6割超、救急需要は構造的増加/消防庁

<先週の動き> 1.救急搬送677万人のうち高齢者が6割超、救急需要は構造的増加/消防庁 2.2026改定の「短冊」提示、かかりつけ医評価は小幅修正 要件は拡大/厚労省 3.マイナ保険証の利用率レセプトベースで49.5%に/厚労省 4.出生数急減、少子化の加速で自治体の7割が「地域社会の維持に影響」/厚労省 5.東大教授が収賄容疑で逮捕、国際卓越研究大の認定 相次ぐ不祥事でガバナンス焦点/東大 6.77日連続勤務の果てに若手医師自殺、病院側を提訴/千葉県 1.救急搬送677万人のうち高齢者が6割超、救急需要は構造的増加/消防庁総務省消防庁は1月20日に「令和7年版救急・救助の現況」を発表した。これによると、2024年の救急車出動件数は772万件、救急搬送人員は677万人と、いずれも3年連続で過去最多を更新した。119番通報から現場到着までの平均時間は全国で9.8分と前年より0.2分短縮したが、通報から医療機関へ引き継ぐまでの時間は平均44.6分で、コロナ禍前の2019年と比べると約5分長い水準が続いている。需要増に対して受け入れ調整や搬送がボトルネックとなり、救急体制の逼迫が慢性化している実態が浮き彫りとなった。救急搬送者の63.3%は65歳以上で、とくに75歳以上が全体の約半数を占めた。内訳では75~84歳が24.9%、85歳以上が24.8%とほぼ同水準で、高齢者救急が構造的に増加している。その一方で、乳幼児の搬送は大幅に減少しており、救急需要の中心が明確に高齢者へ移行していることがわかる。傷病程度別では「軽症(外来診療)」が減少する一方、「中等症(入院)」や「重症」は増加しており、単なる軽症要請だけでなく、医療的介入を要する症例が増えている点も特徴的。事故種別では「急病」が最多で、転倒などの一般負傷や転院搬送も増加した。東京都では救急出動が約93万件に達し、救急要請の約2割が不要不急とされる。不要不急の要請の増加は、現場到着や搬送調整の遅延を招き、真に緊急性の高い患者の救命に影響しかねない。かかりつけ医や開業医にとっては、高齢患者の増悪予防、転倒・脱水・感染症流行期の早期対応、救急要請の判断基準の共有が一層重要となる。また、電話相談「#7119」や救急受診ガイドの周知、夜間・休日の受療行動の整理を通じ、救急の適正利用を地域で支える役割が求められている。救急需要が構造的に増え続ける中、外来・在宅での1次対応力が救急医療の持続性を左右する局面に入ったといえる。 参考 1) 令和7年版 救急・救助の現況(消防庁) 2) 救急搬送者数が3年連続で過去最多更新 24年は677万人 総務省消防庁(CB news) 3) 救急車の到着9.8分 出動件数は最多更新(MEDIFAX) 2.2026改定の「短冊」提示、かかりつけ医評価は小幅修正 要件は拡大/厚労省厚生労働省は、1月23日に開いた中央社会保険医療協議会(中医協)総会で2026年度診療報酬改定に向けた「個別改定項目」(いわゆる「短冊」)を示した。2026年度診療報酬改定の個別改定項目では、かかりつけ医・開業医に関わる外来医療の評価は「小幅修正」にとどまり、制度的な位置付けの明確化は先送りされた。2025年度に開始した「かかりつけ医機能報告制度」と診療報酬を直接ひも付ける見直しは行われず、機能強化加算の点数も据え置かれた。支払い側や財務省が求めていた機能に応じた初・再診料の差別化は反映されず、支払側からはメリハリ不足との指摘もある。その一方で、開業医の日常診療に直結する運用面での変更は多い。機能強化加算では、災害時の診療継続を想定した業務継続計画(BCP)の策定が新たな要件として追加され、外来・在宅データ提出加算の提出を促す記載が盛り込まれた。さらに、外来医師過多区域で新規開業し、保険医療機関指定期間が3年とされた医療機関は、機能強化加算を算定できない仕組みが導入され、都市部での開業戦略に影響を与える。生活習慣病管理料では、事務負担軽減策として療養計画書への患者署名が不要となる方針が示された。一方で、包括評価である管理料(I)については、少なくとも6ヵ月に1回以上の血液検査実施が要件化され、検査実施の管理がより厳格化される。糖尿病診療では、眼科・歯科との連携を評価する新たな加算が設けられ、地域連携の実績が収益に結び付く構造が強まる。また、在宅自己注射指導管理料については、糖尿病以外の薬剤でも併算定が可能となり、慢性疾患を多く抱える患者への対応の幅が広がる。特定疾患療養管理料では、胃・十二指腸潰瘍患者に禁忌とされる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を投与している場合、算定不可とする案が示され、処方内容と管理料算定の整合性が改めて問われる。病診連携では、特定機能病院からの「逆紹介」を受けた患者の初診を評価する新加算が創設され、診療所や200床未満病院が患者を受け入れるインセンティブが強化された。連携強化診療情報提供料も対象が拡大される一方、算定頻度は「月1回」から「3ヵ月に1回」へと整理される。物価・賃上げ対応として初・再診料は引き上げられるが、病院への配分が相対的に厚く、診療所ではベースアップ評価料の活用による職員賃上げの実行力が経営上の鍵となる。今回の改定は大きな制度転換こそ見送られたものの、かかりつけ医には「体制整備」「データ提出」「地域連携」を前提とした診療の質と説明責任が一層求められる内容といえる。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会(厚労省) 2) かかりつけ医の報酬、26年度改定は小幅 メリハリ欠く(日経新聞) 3) 生活習慣病管理料の療養計画書は患者署名を不要とする方針(日経メディカル) 4) 厚労省が個別改定項目を提示 機能強化加算とかかりつけ医機能報告制度のひも付けは行わず(同) 3.マイナ保険証の利用率レセプトベースで49.5%に/厚労省厚生労働省は、2025年11月のマイナ保険証利用率が49.5%だったと公表した。厚労省はこれまで用いてきた「オンライン資格確認件数ベース」ではなく、レセプト件数ベースで初めて算出。レセプト件数ベースは、実際に診療を受けた患者数に近い指標であり、利用実態をより正確に反映するとされている。利用率は前月から2.22ポイント、前年同月比では約30ポイント上昇しており、制度移行後も着実に浸透が進んでいることが示された。参考値として示されたオンライン資格確認件数ベースでは、25年12月時点で47.7%だった。マイナ保険証を通じて取得された情報の閲覧利用件数は、25年11月分で診療情報が約6,094万件、薬剤情報が約2,296万件、特定健診等情報が約3,062万件に上った。これらは患者の同意を前提に医療機関や薬局が活用した実績であり、外来診療や薬物療法における情報連携が一定程度機能していることを示す。その一方で、薬剤情報や健診情報の閲覧件数は前月から減少しており、必ずしも「取得した情報を十分に使い切れていない」現場の実態もうかがえる。デジタル庁によると、マイナ保険証の利用登録件数は9,000万件を超え、マイナンバーカード保有者の約9割、総人口比でも約73%に達しているなど登録は広がる一方、実際の利用はまだ途上といえる。国は今後、薬剤重複投与の防止や高額療養費の窓口負担軽減といったメリットの周知を強化する方針。医療現場では、スマートフォン対応マイナ保険証に対応した施設が約8.4万に拡大しているものの、患者側のスマホ登録は約500万件にとどまる。かかりつけ医・開業医にとっては、利用率が「5割」に近づいた今、単なる資格確認手段としてではなく、薬剤・健診情報を診療にどう活かすかが問われる段階に入った。今後の評価制度やDX加算の在り方を見据え、現場での活用度が差別化要因になりつつある。 参考 1) マイナ保険証利用率49.48%、昨年11月 レセプト件数ベースで初めて公表 厚労省(CB news) 2) マイナ保険証、利用登録9,000万件超え 年内「9割超え」目指す(Impress Watch) 4.出生数急減、少子化の加速で自治体の7割が「地域社会の維持に影響」/厚労省厚生労働省は1月23日に2025年11月分の「人口動態統計速報」を公表した。これによると、2025年1~11月の出生数は64万5,255人と前年同期比で2.5%減少した。外国人を含む数値で、日本人のみの通年出生数は、過去最少だった2024年の約68万人をさらに下回る見通し。1899年の統計開始以降初めて2024年は70万人を割り込み、少子化は加速局面に入ったといえる。未婚・晩婚化の進行や子育て費用の負担感が主因とされ、婚姻数は2025年1~11月で1.1%増加したものの、出生数の回復には結び付いていない。こうした少子化を背景に、人口減少が地域社会に及ぼす影響も深刻化している。日本経済新聞社が実施した全国首長調査では、自治体の約7割が「人口減少が地域社会の維持に影響している」と回答した。2~3年後の人口動向については、8割超の自治体が「人口減が進む」と見通し、2割は「想定以上のスピード」と答えた。とくに四国、中国、東北など地方部で危機感が強い。影響が最も大きい分野は「地域コミュニティー」で、祭りや住民活動の維持が困難とする自治体は7割超に上る。公共交通網への影響も顕著で、全国の7割以上が「すでに影響が出ている」と回答し、担い手不足と財政制約が限界に近付いている。人口減対策としては「子育て支援」を挙げる自治体が最多で、医療費無償化や保育・給食の無償化が効果的施策として重視されている。少子化の進行は将来の医療需要や地域医療体制にも影響が及ぶ可能性があり、医療政策と地域政策を横断した対応が求められている。 参考 1) 人口動態統計速報(令和7年11月分)(厚労省) 2) 25年1~11月出生数64万5千人(共同通信) 3) 25年出生数、通年で最少の可能性 24年の約68万人を下回る見通し(産経新聞) 4) 自治体の7割、急速な人口減で地域社会の維持「困難」 全国首長調査(日経新聞) 5.東大教授が収賄容疑で逮捕、国際卓越研究大の認定 相次ぐ不祥事でガバナンス焦点/東大警視庁は2026年1月24日、東京大学大学院医学系研究科の教授(皮膚科学、62歳)を収賄容疑で逮捕した。報道によれば、民間団体との共同研究で便宜を図った見返りとして、共同研究先の一般社団法人から高級クラブや性風俗店を含む接待(約30回、計約180万円相当)を受けた疑いがある。国立大学法人の教職員は刑法上「みなし公務員」に当たり、金銭に限らず接待などの利益供与も収賄の対象となり得る。認否は明らかにされていない。共同研究は、同大学側に設置された社会連携講座で、大麻草由来成分の1つであるカンナビジオール(CBD)の皮膚疾患への有効性などを検討する目的だったとされる。運営費は民間側が負担する枠組みで、研究内容の選定や実施方針に影響し得る立場の研究者が接待を受けた点は、臨床研究の中立性・利益相反管理への不信を招きやすい。また、同講座を巡っては2025年にトラブルが表面化し、同大学が検証や制度見直しに動いた経緯が報じられている。研究資金の受入れや対外契約を伴う「社会連携講座」は医療系でも増えている一方、ガバナンスの脆弱性が露呈すれば、研究者個人のみならず大学・医局・附属病院全体の信頼や共同研究の継続性に波及する。同大学は国の「国際卓越研究大学」認定を巡り継続審査となっており、不祥事が続く中で、研究資金・外部連携の管理体制やコンプライアンス強化の実効性が問われる局面を一段と厳しくする。 参考 1) 東大大学院教授収賄疑い 法人側 接待の場で教授に研究の要望か(NHK) 2) 東京大学でまたも汚職事件 10兆円ファンドの支援、組織改革が左右(日経新聞) 3) 東大大学院教授を収賄容疑で逮捕 風俗店などで180万円分の接待か(朝日新聞) 4) 銀座のクラブに吉原のソープ 収賄容疑の東大大学院教授が受けた接待(同) 5) 国際卓越研究大に東京科学大と京大 「本命視」の東大、なぜ継続審査(同) 6.77日連続勤務の果てに若手医師自殺、病院側を提訴/千葉県千葉県松戸市の市立病院に勤務していた男性医師が2023年に自殺したのは、病院側が労働環境の管理を怠り、過重な長時間労働を強いたことが原因だとして、遺族が病院を運営する松戸市を相手取り、約1億8,900万円の損害賠償を求めて山形地裁に提訴した。男性医師は2021年に大学を卒業後、臨床研修を経て2023年4月に同病院へ勤務を開始した。訴状などによると、勤務開始直後から業務負担は極めて重く、2023年4月の時間外労働は約150時間、5月は約198時間に達した。4月3日からは77日間連続で勤務し、休日は一切なかったとされる。入院患者の診療に加え、専門外来や救急当番にも従事し、労働時間はいわゆる「過労死ライン」とされる月100時間を大きく超える状態が続いていた。6月中旬には適応障害を発症し休職したが、7月初旬に職場復帰した後も業務量は軽減されず、同月26日に自殺した。遺族は、長時間労働と連続勤務が強い心理的負荷となり、精神障害の発症となり自殺に至ったと主張。病院側には業務量調整や健康管理を行う「安全配慮義務」があったにもかかわらず、これを怠ったとしている。報道によれば、この事案については労災認定されたとされる。病院側は「係争中のためコメントは差し控える」としている。 参考 1) 医師「過労自殺」と病院側を提訴 両親、1億8,900万円賠償求め(共同通信) 2) 松戸市の病院勤務医が77日連続勤務後に自殺 山形市の遺族が市を提訴し1億9,000万円求める(山形放送)

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エナジードリンクの過剰摂取は脳卒中リスクを高める?

 エナジードリンクは活力や元気をもたらすかもしれないが、飲み過ぎは深刻な脳卒中リスクを招く可能性があるとして、医師らが警鐘を鳴らしている。「BMJ Case Reports」に12月9日掲載された英ノッティンガム大学病院のMartha Coyle氏とSunil Munshi氏による症例報告によると、毎日8缶のエナジードリンクを飲む習慣があった健康で体力もある50代の男性が、その危険性を、身をもって知ることになった。報告によると、この男性は極めて高い血圧が原因で軽度の脳卒中を起こし、永久的なダメージを受けた。男性の血圧はエナジードリンクを飲む習慣をやめた後、正常に戻ったという。 英国のノッティンガム大学病院NHSトラストで治療を受けたこの男性は、「エナジードリンクを飲むことで、自分にどんな危険が及んでいるのか全く認識できていなかった」と当時を振り返っている。また、「8年たった今でも、左側の手と指、足とつま先にしびれが残っている」と言う。 症例報告によると、この男性は突然の左半身の脱力、しびれ、バランス感覚の低下、歩行障害、嚥下障害、言語障害で病院に搬送された。入院時の血圧は、収縮期血圧(SBP)が254mmHg、拡張期血圧(DBP)が150mmHgで、健康な人の血圧(SBP 120mmHg、DBP 80mmHg以下)を大きく上回っていた。脳画像検査からは、感覚や運動機能に関わる脳の部位である視床で脳卒中が起きていたことが明らかになったという。 搬送後、男性には降圧薬の投与が開始され、収縮期血圧は170mmHgまで低下した。しかし、自宅に戻ると再び血圧が上昇し、医師が薬を増量しても下がらなかった。そこで、いくつかの質問をしたところ、彼は平均で1日8缶のエナジードリンクを飲んでいることを打ち明けた。 医師らによると、男性が飲んでいたエナジードリンクには1缶当たり160mgのカフェインが含まれており、1日のカフェイン摂取量は合計1,200~1,300mgになる。なお、推奨されているカフェインの1日当たりの最大摂取量は400mg以下とされている。男性は、医師からエナジードリンクの摂取をやめるよう強く勧められ、それに従ったところ、血圧は正常に戻り、処方薬も不要になった。 医師らは症例報告の中で、エナジードリンクに潜む危険性を理解している人は少ないことを指摘している。Coyle氏らは、「2018年には英国の大手スーパーマーケットが、肥満や糖尿病、虫歯の対策として16歳未満へのエナジードリンク販売を自主的に禁止した。しかし、虚血性脳卒中や出血性脳卒中を含む心血管疾患のリスクが上昇する可能性については、あまり検討されていない」と述べている。 今回の報告によると、エナジードリンクには高濃度のカフェインが含まれているが、他の成分にも“隠れカフェイン”が含まれている。例えば、ガラナにはコーヒー豆の2倍の濃度のカフェインが含まれているという。また、カフェインと、タウリンやガラナ、高麗人参、グルクロノラクトン、砂糖など他の成分との相互作用が血圧に強い影響を及ぼし、脳卒中リスクを高める可能性があると医師らは指摘している。こうしたことを踏まえて医師らは、「原因不明の高血圧がある患者には、エナジードリンクの摂取について確認すべきだ。生活指導にはエナジードリンクという心血管リスク因子についての話も含める必要がある」と注意を促している。 研究グループは、今回の報告が単一症例のみに基づいたものであることを認めつつも、彼らが抱く懸念には医学的に妥当性があると説明し、「現時点のエビデンスは決定的なものではない。しかし、蓄積されつつある研究文献、脳卒中や心血管疾患に関連する高い疾病負担と死亡率、すでに十分に立証されている糖分の多い飲料による健康被害を考慮すると、エナジードリンクの販売規制強化や広告キャンペーン(その多くが若年層をターゲットとしている)の見直しは、将来の脳血管および心血管の健康に有益である可能性がある」と結論付けている。

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ウォーキングや家事がメタボの人の命を救う

 家事や散歩などの軽強度運動が、メタボリックシンドロームなどに該当する人の死亡リスク低下につながっている可能性が報告された。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のJoseph Sartini氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に1月7日掲載された。 この研究から、心血管・腎・代謝(CKM)症候群に該当する人では軽強度運動に充てる時間が毎日1時間多いことが、14年間での死亡リスクが14~20%低いことと関連していることが明らかになった。CKM症候群とは、過体重、高血圧、脂質異常、高血糖、腎機能低下などがあって、心筋梗塞や脳卒中、心不全などのリスクが高くなっている状態のこと。米国成人の約9割が、CKM症候群の構成因子を一つ以上持っている。 CKM症候群の構成因子は併存することが多く、併存する場合は互いに悪影響を及ぼしあって心不全などのリスクがより高くなることが知られている。軽度の高血糖や脂質異常などが併存し、動脈硬化が進行しやすい状態であるメタボリックシンドロームも、CKM症候群に含まれる。 一方、軽強度運動とは、Sartini氏によると「息切れせずにできる運動のことであり、ヨガ、軽いウォーキング、ストレッチ、家事などが該当する」という。同氏は、「軽強度運動は軽視されがちだが、CKM症候群の人の心臓の健康改善に役立ち、特に病期(ステージ)が進行している人では潜在的なメリットがより大きい」と話している。 この研究では、2003~2006年の米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した成人7,246人のデータを用いて、軽強度運動の実施状況とCKM症候群のステージとの関連が検討された。CKM症候群のステージは0~4に分類される。ステージ0は、健康上のリスク因子がない状態、ステージ1は過体重や糖尿病前症に該当する状態であり、ステージ2はCKM症候群の構成因子が複数併存するか、腎機能低下が進行している状態。ステージ3は、腎機能低下がより進行していて心臓病や脳卒中の高リスク状態で、心臓病や脳卒中などを既に発症後の場合はステージ4に該当する。 NHANESでは、ウェアラブルデバイスにより最大7日間の身体活動が把握されていた。解析の結果、軽強度運動がCKM症候群のステージの低さ、および、中央値14.4年の追跡期間中の死亡リスクの低さと有意に関連していた。例えば、1日の軽強度運動の時間が1時間長いごとに、死亡リスクが14~20%低下するという関連が認められた。 また、CKM症候群のステージが高い人では軽強度運動を行う時間が長いほど、メリットがより大きいことも明らかにされた。具体的には、軽強度運動を1日に90分行っている人と2時間の人を比べた場合(わずか30分の違いでの比較)、ステージ2では死亡リスクに2.2%の差があり、ステージ4では4.2%の差が見られた。 論文の上席著者である同大学院のMichael Fang氏は、「ウォーキングやガーデニングといった軽強度運動が心臓の健康に有益であるというエビデンスが増えているが、心臓病の高リスク者や既に心臓病を発症している人での長期的なメリットについては、これまで検証されていなかった」と、研究背景を説明している。また本研究には関与していない、米ウエストバージニア大学のBarone Gibbs氏も、「軽強度運動は、エネルギーの消費増大、血液循環の改善などを介して健康の維持・増進につながると考えられるが、高強度運動に比べると分かっていないことが多い。生理学的なメカニズムと潜在的なメリットについて、さらなる研究が求められる」と語っている。

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鼻毛を抜くと鼻前庭炎のリスク?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第298回

鼻毛を抜くと鼻前庭炎のリスク?鼻毛処理と疾患リスクに関する論文は少なく、このコラムでは過去に「鼻毛と喘息の関係」を取り上げました。Lipschitz N, et al. Nasal vestibulitis: etiology, risk factors, and clinical characteristics: A retrospective study of 118 cases. Diagn Microbiol Infect Dis. 2017 Oct;89(2):131-134.2008年10月~2015年1月までの約6年間に、イスラエル・Sheba Medical Centerに鼻前庭炎で入院した118入院例(115人)を後ろ向きに解析しています。入院適応は、外来での抗菌薬治療に反応しなかった症例、顔面蜂窩織炎の進行例、鼻前庭膿瘍が見られた例でした。したがって、本研究の対象は軽症例ではなく、いわば「外来治療で治まらなかった症例」の集団です。平均年齢44.33歳(8~96歳)、男性64例・女性51例で性差なし。65歳以上は10.17%のみで、小児は8歳の1例のみでした。糖尿病は12例(10.17%)、免疫抑制状態は3例(慢性骨髄性白血病1例、全身性エリテマトーデス1例、抗リン脂質抗体症候群1例)のみで、これらの患者も合併症なく経過しました。小児例が少ない点について著者らは、鼻ほじりや鼻かみの頻度が高い小児でもっと多くてもよいはずだと考察していますが、明確な説明はついていません。患者が申告した先行する習慣・行為は以下のとおりです。 鼻毛抜き:17例(14.41%) 鼻を強くかむ:11例(9.32%) 鼻ほじり:10例(8.47%) 鼻ピアス:4例(3.39%)感染部位には左右差があり、右側40.68%、左側33.05%、正中26.27%と右側優位でした(p<0.0001)。右利き優位の集団で、右手による鼻ほじりが多いことを反映していると考察されています。問診で「どちらの手でほじりますか」と聞く機会はないかもしれませんが、右側優位という知見は覚えておいてよいでしょう。膿瘍から培養が行われたのは18例で、15例から菌が分離されました。MSSAが13例(81.25%)で、MRSAが1例、Prevotella属1例でした。症状出現から入院までの期間は平均5.28日(1~30日)。入院前に外来で抗菌薬を投与されていたのは39.83%で、最多はアモキシシリン・クラブラン酸(76.6%)でした。当然ながら、入院後は、点滴治療に切り替えています。本研究は対照群を設定しておらず、一般集団における鼻毛抜きの習慣の頻度は不明です。したがって、鼻毛抜きが真のリスク因子であるかどうか、つまり鼻毛を抜く人は抜かない人に比べて鼻前庭炎を発症しやすいのかどうかは、本研究からは結論できません。とはいえ、鼻毛を抜く行為が毛包に微小外傷を生じさせ、それが細菌の侵入門戸となりうるという機序には生物学的妥当性があります。

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肥満症治療薬、投与中止後は体重が急増/BMJ

 英国・オックスフォード大学のSam West氏らは、過体重または肥満の成人における体重管理薬(weight management medication:WMM)中止後の体重増加を定量化し比較する目的でシステマティックレビューおよびメタ解析を実施し、WMM中止後は体重が急激に増加し、心代謝マーカーに対する有益な効果が逆転することを明らかにした。また、WMM中止後の体重増加は、行動的体重管理プログラム(BWMP:低エネルギー食と身体活動の増加を支援する肥満管理の基礎)後と比べて速かった。著者は、「より包括的な体重管理アプローチを伴わない短期の薬剤使用には、注意が必要であることを示唆している」とまとめている。きわめて効果的なWMMの開発は肥満治療に変革をもたらしたが、これまでのシステマティックレビューは、BWMPとより低強度の管理プログラムまたは管理なしの場合の体重増加や心代謝マーカーの変化を定量化し比較したものしかなかった。BMJ誌2026年1月7日号掲載の報告。体重管理薬中止後の体重増加に関するシステマティックレビューとメタ解析を実施 研究グループは、臨床試験登録簿およびデータベース(Medline、Embase、PsycINFO、CINAHL、Cochrane、Web of Science)を用い、2025年2月までに公表された研究を検索した。 適格研究は、過体重または肥満の成人(18歳以上)を対象とし、WMMを8週以上使用かつ治療中止後4週以上の追跡調査を行っている無作為化比較試験、非無作為化試験または単群試験、前向き・後ろ向き観察研究で、WMMはセマグルチド、チルゼパチド、リラグルチドなどのインクレチン関連薬を含む、現行のまたは過去に体重減少目的で承認された薬剤、もしくは同クラスの効果を有すると考えられる薬剤とした。また、比較試験の場合、比較対照は行動介入、プラセボなどあらゆる非薬物介入とした。 2人の独立した評価者が研究のスクリーニング、データ抽出を行い、無作為化比較試験についてはCochrane Risk of Bias 2ツール、非無作為化試験についてはROBINS-Iツールを用いてバイアスリスクを評価した。 主要アウトカムは、WMM中止時からの体重増加、副次アウトカムは心代謝マーカーの変化で、混合効果モデル、メタ回帰モデルおよびtime-to-eventモデルを用いて解析した。中止後の体重は月平均0.4kg増、心代謝マーカーは1.4年以内でベースラインに戻る 9,288件の論文をスクリーニングし、このうち37研究(介入群63、参加者9,341例)が解析対象となった。平均治療期間は39週間(範囲:11~176)、平均追跡期間は32週間(範囲:4~104)であった。 体重増加の月平均値は0.4kg(95%信頼区間[CI]:0.3~0.5)であった(無作為化比較試験における混合モデルでは対照群との比較において月平均0.3kg増加[95%CI:0.2~0.4])。すべての心代謝マーカーで、WMM中止後1.4年以内にベースラインレベルに戻ると予測された。 体重増加は、初期の体重減少とは関係せず、WMM中止後のほうがBWMP後より速かった(月平均0.3kg、95%CI:0.22~0.34)。推定値と精度は、いずれの感度解析においても強固であった。

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Orforglipronは抗肥満薬として2型糖尿病を合併した肥満症に対して有効である(解説:住谷哲氏)

 GLP-1はG蛋白質共役受容体(G-protein coupled receptor:GPCR)の1つであるGLP-1受容体に結合して細胞内にシグナルを伝達するが、そのシグナルにはGタンパク質依存的シグナルとβアレスチン(arrestin)依存的シグナルとがある。前者はcAMPなどのセカンドメッセンジャーを介して細胞内Ca濃度を上昇させることでGLP-1作用を発揮する。後者は従来GLP-1受容体の脱感作を誘導すると考えられてきたが、近年その他の多様な細胞内シグナル伝達を担っていることが明らかになりつつある。 本試験で用いられたorforglipronは、もともと中外製薬で中分子医薬品として創薬されたOWL833が2018年にEli Lillyに導出されて臨床開発が継続されてきた薬剤であり、GLP-1受容体に結合してGタンパク質依存的シグナルのみを活性化しβアレスチン依存的シグナルを活性化しないことが知られている。このようにGPCRを介したGタンパク質依存的シグナルとβアレスチン依存的シグナルとを選択的に活性化させる分子はバイアスドリガンド(biased ligand)と呼ばれる1)。 本試験はorforglipronの体重減少効果を主要評価項目として、2型糖尿病を合併した肥満患者を対象として実施された。結果は、36mgの投与による72週後の体重変化量は-9.6%であった。これはATTAIN-1で示された2型糖尿病を合併しない肥満患者における体重変化量の-11.2%と比較するとやや小さかった2)。参考までにこれまで報告されているGLP-1受容体作動薬の体重減少効果については、リラグルチド3mgの-6.0%、セマグルチド2.4mgの-9.6%、チルゼパチド15mgの-14.7%、経口セマグルチド14mgの-4.7%、同25mgの-7.3%と比較するとセマグルチド2.4mgとほぼ同等の体重減少効果が認められたことになる。 現在わが国では、GLP-1受容体作動薬のセマグルチドとGIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチドが抗肥満薬として承認されているが、いずれも注射薬である。一方で、米国FDAは経口セマグルチド25mgを昨年12月に抗肥満薬として承認して、本年より発売開始予定である。経口セマグルチドはペプチドホルモンであるためバイオアベイラビリティが低く、服薬方法にかなりの制約があるのが難点であるが、orforglipronはその問題点をクリアしている。したがって、服薬アドヒアランスの点ではorforglipronに一日の長があるといえよう。いずれにせよ熾烈な抗肥満薬開発競争は、まだまだ続きそうである。

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食事の飽和脂肪酸を減らすことは心疾患の高リスク者に有益

 心疾患のリスクが高い人は、飽和脂肪酸の摂取量を減らすことで健康にプラスの効果を得られる可能性のあることが、新たなシステマティックレビューで示された。心疾患リスクの高い人が食事中の飽和脂肪酸の量を減らした場合、心筋梗塞や脳卒中の発症数が減少することが明らかになったという。一方、心疾患のリスクが低い人では、5年間の追跡期間で同様の効果は明確には確認されなかった。詳細は、「Annals of Internal Medicine」に12月16日掲載された。 このシステマティックレビューでは、合計6万6,337人が参加した17件の臨床試験のデータを分析し、飽和脂肪酸の摂取量を減らすことが心臓の健康やコレステロール値、全死因死亡にどのような影響を与えるのかを調べた。なお、飽和脂肪酸はバターやステーキ、ピザ、アイスクリーム、多くの加工食品や加工肉などに含まれている。米連邦政府の食事ガイドラインでは、飽和脂肪酸は1日の総摂取カロリーの10%未満に抑えることが推奨されている。一方、米国心臓協会(AHA)ではより厳しい基準となる6%未満に抑えることを推奨している。 その結果、ベースラインの心血管リスクが低い人では、飽和脂肪酸の摂取量を減らしても全死因死亡、心血管疾患による死亡、非致死的な心筋梗塞、致死的または非致死的な脳卒中の絶対リスクの減少は、臨床的に重要な閾値(5年で1,000人当たり、致死的なアウトカムが5件、非致死的なアウトカムが10件)を下回っており、ベネフィットはほとんどないことが示された。一方、リスクが高い人では、閾値を上回る絶対リスクの減少が見込まれ、飽和脂肪酸の摂取量を減らすことで臨床的に意味のあるベネフィットの得られることが示唆された。 また、飽和脂肪酸を脂の多い魚やキャノーラ油に含まれるような多価不飽和脂肪酸に置き換えた人では、「悪玉」とされるLDLコレステロール値が低下し、心疾患のリスクも低下することが示された。 専門家らは、多くの人にとって高コレステロールを防ぐための最善の食事に関するアドバイスは、飽和脂肪を控えることだとしている。本研究には関与していない専門家の1人で、米タフツ大学心血管栄養研究所所長のAlice Lichtenstein氏は、「病気のない人を相手に、まだ発症していない疾患を評価することはできない。しかし、重要なのは予防することだ」と述べている。 飽和脂肪酸の摂取制限を推し進める動きは1960年代に始まり、何十年にもわたって食の選択に影響を与えてきた。ただし、研究者らは、飽和脂肪酸が含まれている全ての食品が同じように健康に影響を及ぼすわけではないと指摘している。例えば、ホットドッグなどの加工肉にはナトリウムも多く含まれており、血圧を上昇させる。一方、牛乳やヨーグルトなど一部の乳製品は、血糖コントロールや体重管理の改善に関連することが示されている。 Lichtenstein氏は、1つの研究結果だけを根拠に栄養に関わる政策を変更すべきではないと注意を促している。同氏は、「より広範なエビデンスがない中で、1件のシステマティックレビューのみが政策に大きな影響を与えるようなことがあってはならない」と話している。

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糖尿病状態が寛解すれば心臓の健康が守られる

 2型糖尿病の合併症の中で心血管疾患などについては、糖尿病の診断基準に至らない軽度の高血糖状態である「前糖尿病」の段階でも増加することが知られている。しかし前糖尿病が寛解(血糖値が正常化)すると、そのリスクが有意に低下することを示すデータが報告された。心血管死や心不全入院などが半減するという。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のAndreas Birkenfeld氏らの研究によるもので、詳細は「The Lancet Diabetes & Endocrinology」に12月12日掲載された。 前糖尿病では心血管疾患や心不全のリスクが高いため、主として減量を目指した食事療法や運動療法などの生活習慣改善が推奨されている。ただし、そのような生活習慣改善が、心血管疾患などのリスクの抑制につながるのかという点については、依然として十分なエビデンスがない。単に生活習慣を改善するだけでなく、それによって前糖尿病状態が寛解することが重要であるとする考え方もある。これらを背景としてBirkenfeld氏らは、糖尿病予防に関する2件の研究(米国で行われたDPPOSと中国で行われたDaQingDPOS)のデータを事後解析し、前糖尿病寛解の予後への影響を検討した。 DPPOSでは2,402人中275人(11.5%)が、介入の1年後に寛解に到達していた。中央値20年の追跡で、寛解に到達していた参加者の心血管死または心不全入院の発生率は1,000人年当り1.74であったのに対し、寛解に至らなかった参加者は同4.17であり、前者の方が有意に少なかった(P=0.013)。結果に影響を及ぼし得る因子を調整後、寛解に到達した参加者のリスクは5割以上低いことが分かった。同様の結果はDaQingDPOSでも確認され、寛解に到達していた参加者ではやはり、5割以上のリスク低下が示された。 これらの結果を基に著者らは、「前糖尿病の寛解達成は、その後数十年間にわたる心血管死や心不全入院のリスク半減と関連していた。前糖尿病に対する介入において、寛解達成を目標とすることが、心血管疾患予防への新たなアプローチとなる可能性がある」と結論付けている。 本研究の背景についてBirkenfeld氏は、「長年にわたり、前糖尿病の人は体重を減らし運動量を増やして健康的な食生活を送ることで、心臓の発作や早期死亡を予防できると言われてきた。そのような生活習慣の改善は確かに有益だが、それによって前糖尿病の人の心臓発作が減り死亡率が低下するというエビデンスはなかった」と語っている。実際、研究者によると近年は、前糖尿病の人の生活習慣改善では心臓病のリスクは低下しないと考えられるようになってきていたという。 このような状況の中で見いだされた今回の研究結果のインパクトについてBirkenfeld氏は、「現在の予防医学における最大の仮説の一つに疑問を投げかけるものだ」とコメントしている。その上で同氏は、「心臓発作や早期死亡を防ぐために今後は、血圧管理、コレステロール管理、禁煙と並び前糖尿病を寛解に導くことが、第4の主要な一次予防策として位置付けられていくのではないか」と述べている。

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診療科別2025年下半期注目論文5選(糖尿病・代謝・内分泌内科編)

Antidiabetic agents and dementia risk in type 2 diabetes: A systematic review and network meta-analysisKato S et al. Diabetes Obes Metab. 2026;28:256-264.<400万例以上対象のメタ解析>:糖尿病治療薬の種類と認知症リスク対象文献数67件(全408万8,683例)のネットワークメタアナリシスにて、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬が認知症リスク低下(オッズ比:0.69~0.86)、インスリンはリスク増加(オッズ比:1.26)と統計学的に有意に関連していました。ただし、観察研究が主体の解析なので因果関係を確定することはできません。Tirzepatide as Compared with Semaglutide for the Treatment of ObesityAronne LJ, et al. N Engl J Med. 2025;393:26-36.<SURMOUNT-5試験>:糖尿病のない肥満者への減量効果、チルゼパチドがセマグルチドに優れる糖尿病のない肥満者751例において、セマグルチド注(1.7mg/週または2.4mg/週)とチルゼパチド(10mg/週または15mg/週)による72週後の体重変化はそれぞれ-13.7%、-20.2%であり、チルゼパチドのほうが統計学的に有意に強度の減量効果がありました。Oral Semaglutide in an East Asian Population With Overweight or Obesity, With or Without Type 2 Diabetes: The OASIS 2 Randomized Clinical TrialKadowaki T, et al. JAMA Internal Medicine. 2025;185:1206-1217.<OASIS 2試験>:過体重または肥満の東アジア人で経口セマグルチドの体重減少効果を確認肥満関連合併症を有するBMI≧27.0の日本人・韓国人201例を対象とした68週間のRCTで、セマグルチド経口薬(50mg/日)はプラセボと比較し、統計学的に有意な体重減少効果(2群間差-13.1%ポイント)がありました。Cardiovascular Outcomes with Tirzepatide versus Dulaglutide in Type 2 DiabetesNicholls SJ, et al. N Engl J Med. 2025;393:2409-2420.<SURPASS-CVOT試験>:心血管疾患を有する肥満2型DM、MACEリスクはチルゼパチドがデュラグルチドに非劣性心血管疾患を有する肥満2型糖尿病患者1万3,165例を対象とした4年間(中央値)のRCTでチルゼパチド(最大15mg/週)とデュラグルチド(1.5mg/週)によるMACE(主要心血管イベント)リスクへの影響が検証されました。その結果、チルゼパチドはデュラグルチドと比較して非劣性でした。Parathyroidectomy and Cardiometabolic Risks in Patients With Primary HyperparathyroidismTsur N, et al. JAMA Netw Open. 2025;8:e2544623.<原発性副甲状腺機能亢進症と心代謝リスク>:副甲状腺摘出後は2型糖尿病のみリスク低下原発性副甲状腺機能亢進症は高血圧症、2型糖尿病、心血管疾患、脳血管障害のリスク上昇(調整ハザード比:1.07~1.28)と統計学的に有意に関連していました。副甲状腺摘出後は2型糖尿病のみリスクが有意に低下する(調整ハザード比:0.56)可能性が示されました。ただし、観察研究なので効果を確定することはできません。

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2型糖尿病/肥満者の体重減少、GLP-1RA vs.SGLT2i vs.頭蓋磁気刺激

 2型糖尿病患者および肥満者の体重減少に寄与する薬剤以外の有効な治療方法にはどのようなものがあるであろう。イタリア・ミラノのIRCCSマルチメディカ内分泌・栄養・代謝疾患科のAnna Ferrulli氏らの研究グループは、肥満および2型糖尿病患者を対象に、GLP-1受容体作動薬セマグルチド(0.5mg/週)、SGLT2阻害薬、および肥満に対する新たな治療法として登場した反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)の有効性を比較した。その結果、rTMS治療は、セマグルチドと同等の体重減少効果を示すことがわかった。この結果はObesity誌オンライン版2025年12月26日号に公開された。反復経頭蓋磁気刺激とセマグルチドの効果は同等 研究グループは、SGLT2阻害薬治療を受けた40例、セマグルチド治療を受けた37例、rTMS治療を受けた30例を後ろ向きに解析した。rTMSは週3回、5週間実施したほか、全患者は中程度のカロリー制限(-300kcal/日)に関する食事指導を受けた。 主な結果は以下のとおり。・12ヵ月後の体重減少量では、rTMS群(-8.2±1.0kg)とセマグルチド群(-5.7±0.9kg)に有意差は認められなかった。・SGLT2阻害薬群の減少量(-2.0±0.7kg)は、セマグルチド群およびrTMS群と比較して有意に少なかった(それぞれp=0.01、p<0.0001)。・SGLT2阻害薬群では6ヵ月目から12ヵ月目にかけて体重が再増加した一方で、セマグルチド群およびrTMS群では体重が漸減した。 以上の結果から研究グループは、「rTMS治療は、セマグルチド(0.5mg/週投与)と同等の体重減少効果を示し、肥満および2型糖尿病治療における有望な介入法となる」と結論付けている。

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薬剤師連携で精神疾患患者の薬理学的介入を最適化できるか

 臨床薬剤師との連携による服薬レビュープロセスは、精神疾患および身体的合併症を有する高齢患者に対する薬物療法の最適化につながる可能性がある。スロベニア・マリボル大学のMatej Stuhec氏らは、服薬レビューにおける臨床薬剤師の推奨が、薬剤数の変化、潜在的に不適切な薬剤(PIM)の使用、潜在的な薬物間相互作用(DDI)、治療ガイドラインの順守などにどのような影響を及ぼすかを評価した。Frontiers in Pharmacology誌2025年9月1日号の報告。 本研究は、スロベニアの精神科病院において、レトロスペクティブ非介入研究として実施された。対象は、2013〜18年に服薬レビューのために紹介され、身体的合併症(心不全、動脈性高血圧、糖尿病)に関連する治療変更を少なくとも1回受けた65歳以上の精神疾患入院患者100例。臨床薬剤師は、Pharmaceutical Care Network Europeの定義によるタイプ3の服薬レビュー(高度な服薬レビュー)を実施した。服薬レビュー完了後すぐに、病院の電子システムに推奨事項を記録した。服薬レビュー前と退院時における電子システムから抽出されたアウトカムのデータをシステマティックにレビューした。主要アウトカムは、介入前後の薬剤数、PIMの使用、DDIの変化とした。DDIは、Lexicomp Onlineデータベースを用いて特定し、Xタイプ(禁忌)およびDタイプ(重篤)に分類した。副次的アウトカムは、心不全、動脈性高血圧、糖尿病の治療ガイドラインの順守とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は78.1±6.78歳であった。・総薬剤数は6.6%減少した(1,144→1,068、p<0.001)。また、承認率は59.2%であった。・レビュー後、XタイプDDIは75.8%減少し(33→8、p<0.001)、DタイプDDIは56.9%減少した(188→81、p<0.001)。・PIM数も有意に減少し(p<0.001)、Priscus Listに基づくと29.5%減少し(308→217)、Beers Criteriaに基づくと17.5%減少した(343→283)。・身体的合併症の治療ガイドラインの順守率は有意に改善した(3.3〜13.2%→50.0〜72.6%、p<0.001)。 著者らは「臨床薬剤師との連携による服薬レビュープロセスは、薬剤数、PIM、DDIを効果的に減少し、治療ガイドラインの順守率も有意に向上させることが示された」としている。

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妊娠糖尿病予防、とくに有効な介入手段は?/BMJ

 英国・リバプール大学のJohn Allotey氏らi-WIP Collaborative Groupは、被験者個人データ(IPD)に基づくメタ解析を行い、妊娠中のライフスタイル介入は、診断基準によるばらつきはあったが妊娠糖尿病を予防しうることを示した。妊娠中の身体活動と食事に基づく介入は、妊娠中の体重増加の抑制に効果的であることは示されているが、妊娠糖尿病への影響や、どのような介入が最も効果的かについてはエビデンスにばらつきがあった。BMJ誌2026年1月7日号掲載の報告。ライフスタイル介入の妊娠糖尿病への影響を2段階IPDメタ解析で検証 研究グループは、ライフスタイル介入の妊娠糖尿病への影響を評価するため、母体のBMI、年齢、出産回数、民族性、教育レベル、介入によって異なるかどうかを検討し、有効性に基づき介入を順位付けした。 主要な電子データベース(1990年1月~2025年4月)を利用し、妊娠中のライフスタイル介入(身体活動ベース、食事ベース、あるいは両者による)の妊娠糖尿病への影響に関する無作為化試験を対象にメタ解析を行った。 主要アウトカムは、あらゆる基準および英国国立医療技術評価機構(NICE)の基準で定義した妊娠糖尿病。その他のアウトカムは、国際糖尿病・妊娠学会(IADPSG)および修正IADPSG基準で定義した妊娠糖尿病などとした。 2段階IPDメタ解析で、要約オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)、相互作用(サブグループの影響)を、絶対リスク減少値と共に推算した。非IPD試験からの集計データは、可能な限りにおいてメタ解析に加えた。介入効果は、ネットワークメタ解析法を用いて順位付けした。あらゆる診断基準で定義した妊娠糖尿病が減少 無作為化試験104報(女性被験者3万5,993例)が解析対象に含まれた。IPDは68%の被験者(2万4,391例、54試験)について得られた。 ライフスタイル介入により、あらゆる診断基準で定義した妊娠糖尿病が減少した。IPD試験を含んだ解析では10%(OR:0.90[95%CI:0.80~1.02]、絶対リスク減少値:1.3%[95%CI:-0.3~2.6])、IPDおよび非IPD試験の統合解析では20%(OR:0.80[95%CI:0.73~0.88]、絶対リスク減少値:2.6%[95%CI:1.6~3.6])の減少が示された。一方、NICE基準を用いた場合は、減少がみられなかった(OR:0.98[95%CI:0.84~1.13])。 ライフスタイル介入により、IADPSG基準で定義した妊娠糖尿病についても減少が認められた。IPD試験を含んだ解析では14%(OR:0.86[95%CI:0.75~0.97]、絶対リスク減少値:2.7%[95%CI:0.6~5.0])、IPDおよび非IPD試験の統合解析では18%(OR:0.82[95%CI:0.72~0.93]、絶対リスク減少値:3.5%[95%CI:1.3~5.7])の減少が示された。母親の教育レベルを鑑み、集団形式で訓練された担当者による身体活動ベースの介入を 効果は、教育レベルを除き、母体特性によるばらつきはなかった。 すべての教育レベルの女性が介入によりベネフィットを得ていたが、その有益性は低教育レベルの女性では低かった(低vs.中の相互作用のOR:0.68[95%CI:0.51~0.90]、低vs.高の相互作用のOR:0.71[95%CI:0.54~0.93])。 有益性は、介入特性でばらつきはみられなかったが、集団形式(OR:0.81[95%CI:0.68~0.97]、絶対リスク減少値:2.5%[95%CI:0.4~4.3])、新たに訓練を受けたファシリテーター(OR:0.82[95%CI:0.69~0.96]、絶対リスク減少値:2.4%[95%CI:0.5~4.2])による場合の効果が大きかった。 妊娠糖尿病の予防に関する介入を順位付けした結果、身体活動ベースの介入が最も上位であった(平均ランク:1.1、95%CI:1~2)。 これらの結果を踏まえて著者は、「実施戦略では、母親の教育レベルによる不均衡に対処する必要があり、妊娠糖尿病予防の介入は集団形式とし、介入担当者のトレーニングを行うこと、介入は身体活動ベースを検討することが必要である」とまとめている。

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うつ病や不安症はストレスを通じて心臓病のリスクを高める

 うつ病や不安症の患者は心臓発作や脳卒中などのリスクが高く、そのメカニズムとしてストレス反応や炎症が関与しているとする研究結果が報告された。米マサチューセッツ総合病院のShady Abohashem氏らの研究によるもので、詳細は「Circulation: Cardiovascular Imaging」に12月17日掲載された。 この研究では、マサチューセッツ総合病院ブリガム・バイオバンクの2010~2020年のデータが用いられた。解析対象者数は8万5,551人で、中央値3.4年(四分位範囲1.9~4.8)の追跡期間中に3,078人(3.6%)が主要心血管イベント(MACE〔心筋梗塞、心不全、脳卒中など〕)を発症していた。 解析の結果、うつ病と診断されている人ではそうでない人よりも、MACEリスクが24%高いことが明らかになった(ハザード比〔HR〕1.24〔95%信頼区間1.14~1.34〕、P<0.001)。また、不安とうつ病が併存している場合には35%のリスク上昇という、より強い関連が認められた(HR1.35〔同1.23~1.49〕、P<0.001)。この関連は、人口統計学的因子、社会経済的因子、生活習慣、心血管疾患の既往を調整した後も有意だった。 解析対象者のうち、ストレスによる神経活動への影響を評価可能な画像検査を1,123人が受け、心電図検査を7,862人が受けていて、1万2,906人は炎症反応のバイオマーカーであるC反応性蛋白(CRP)が測定されていた。それらのデータを解析すると、うつ病と診断されている人はストレスに関連のある脳領域である扁桃体の活動が亢進していて(β=0.16、P=0.006)、神経系が過剰に働いていることを示唆する心拍変動の低下も見られ(β=-0.20、P<0.001)、炎症反応の亢進を意味するCRPの上昇(β=0.14、P<0.001)も認められた。不安症と診断されている人にも同様の傾向が見られた。 Abohashem氏は、「これらの結果は臨床医が心血管疾患のリスクを評価する際に、メンタルヘルスを不可欠な要素として捉える必要があることを、改めて認識させるものだ。一方、患者にとっては、慢性的なストレスや不安、あるいはうつ病に対処することが、単にメンタルヘルス上の優先事項であるというだけでなく、心臓の健康を守るためにも優先すべきだと認識することは、治療の励みになるのではないか」と述べている。 また、論文の上席著者である同院のAhmed Tawakol氏は、「うつ病と不安症はいずれも心臓病や脳卒中のリスク上昇と関連している。そして、より重要なことは、喫煙などの生活習慣や社会経済的要因、および糖尿病や高血圧といった古くから知られているリスク因子を考慮しても、その関連性が依然として強固であった点だ」と、本研究結果の意義を強調している。ただし本研究は観察データに基づく解析であるため、うつ病や不安症と心血管イベントとの因果関係を証明するものではないことが、留意点として挙げられる。

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アスピリンに「アレルギー反応に伴う急性冠症候群」の重大な副作用追加/厚労省

 2026年1月13日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、アスピリンやアスピリン含有製剤の「重大な副作用」の項に「アレルギー反応に伴う急性冠症候群」が追加された。 アスピリンならびにアスピリン含有製剤について、アレルギー反応に伴う急性冠症候群関連症例を評価した結果、因果関係が否定できない症例が集積したことから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。なお、一般用医薬品として販売されているものについても「相談すること」の項に同様の改訂がなされた。 対象医薬品は以下のとおり。<医療用医薬品>1.アスピリン(血栓・塞栓形成の抑制の効能を有する製剤、商品名:バイアスピリン) 2.アスピリン・ダイアルミネート(同:バファリン配合錠A81ほか)3.アスピリン・ボノプラザンフマル酸塩(同:キャブピリン配合錠)4.アスピリン・ランソプラゾール(同:タケルダ配合錠)5.クロピドグレル硫酸塩・アスピリン(同:コンプラビン配合錠ほか)6.アスピリン(解熱鎮痛消炎の効能を有する製剤、同:アスピリン原末「マルイシ」ほか)<一般用医薬品>1.アスピリン含有製剤(同:バファリンAほか)2.アスピリンアルミニウム含有製剤(同:新アスナミンZほか) このほか、2型糖尿病治療薬のイメグリミン(同:ツイミーグ)の重大な副作用の項に「重度の食欲減退、嘔吐」が、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症治療薬のブロスマブ(同:クリースビータ皮下注)の重大な副作用に「高カルシウム血症」などが追記された。

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“血小板の大きさ”が知らせる腎臓の危険信号、糖尿病患者の追跡調査で判明

 病院で行う通常の血液検査では、白血球数や赤血球数、血小板数などとともに「平均血小板容積(MPV)」という指標も測定されることが多い。今回、日本の2型糖尿病患者を対象とした追跡研究で、このMPVが腎機能悪化のリスク把握に役立つ可能性が示された。MPVが高い人ほど腎臓の状態が悪化しやすい傾向が確認されたもので、身近な指標から早期のリスク評価につながる可能性が注目される。研究は、福島県立医科大学腎臓高血圧内科の渡辺秀平氏、田中健一氏、風間順一郎氏らによるもので、詳細は11月27日付で「Journal of Diabetes Investigation」に掲載された。 糖尿病は世界的に多くみられる疾患で、糖尿病性腎症をはじめとする合併症により予後が悪化する。2023年には、新規慢性透析導入患者の38.3%が糖尿病性腎症によるもので、糖尿病患者の腎機能悪化が透析につながる深刻な問題であることが示された。MPVは血小板の大きさを示す指標で、心血管疾患や糖尿病性微小血管合併症との関連が報告されているが、腎機能悪化との関係は十分に検討されていない。こうした背景を踏まえ、本研究では、福島コホート研究のデータを用い、MPVと腎イベント(腎機能低下や透析導入)の関連を後ろ向きに解析し、リスク予測への活用可能性を評価した。 本研究では、福島県立医科大学病院で実施された福島コホート研究より、2012年6月~2014年7月に登録された2型糖尿病患者1,076人を対象とした。患者はベースライン時のMPV値に基づき、Q1~Q4の四分位群に分類した。主要評価項目は腎イベントとし、推定糸球体濾過量(eGFR)がベースラインから50%以上低下するか、腎代替療法が必要となる末期腎不全への進行と定義した。副次評価項目は新規心血管イベントの発症とした。 連続変数の群間比較にはKruskal-Wallis検定を、割合の差はカイ二乗検定で評価した。MPV四分位ごとのイベント無再発生存率はKaplan-Meier法とlog-rank検定で比較した。MPVと腎イベントまたは心血管イベントとの関連は、潜在的交絡因子を調整したCox比例ハザード回帰モデルを用いて検討した。 コホートの平均年齢は66.0歳で男性は56.7%含まれた。中央値5.3年の追跡期間中、参加者1,076人のうち97人が腎イベントを発症した。Kaplan-Meier曲線では、MPVの四分位群間で無イベント生存率に有意な差が認められた(P=0.018)。 腎イベントの発生率は四分位群間でQ2が最も低かったため、Q2群を基準群とした。Q2群を基準とした場合、Q4群の参加者は単変量Coxモデルで有意に腎イベントリスクが高く、年齢・性別、既往歴、検査値、降圧薬使用などの交絡因子を調整した多変量解析でも有意性は維持された(調整HR 2.05、95%CI 1.13~3.72)。また、MPVを連続変数として解析すると、1 fL増加ごとに腎イベントリスクは32%上昇した(95%CI 1.04~1.68)。 心血管イベントは追跡期間中に124人で発症した。腎イベントと同様、心血管イベントの発生率もQ2群で最も低かった。Q2群を基準とした多変量解析では、MPVの上昇が心血管イベントリスクの上昇と有意に関連していた(調整HR 1.66、95%CI 1.01~2.72)。MPVが1 fL増加するごとに心血管イベントリスクは27%上昇した(95%CI 1.04~1.55)。 著者らは、「日本人の2型糖尿病患者において、MPVの上昇は腎イベントおよび心血管イベントの両方と独立して関連していた。MPVは、このリスクの高い集団における腎疾患進行を予測するための、簡便で有用なバイオマーカーとして役立つ可能性がある」と述べている。 なお、MPVと腎イベント発症リスクについて「J字型」の相関が示されたことについては、低MPVが造血能低下や骨髄機能障害を示している可能性を指摘し、「MPVが高い場合と低い場合では、それぞれ異なるメカニズムを介して腎疾患の進行に寄与する可能性があるのでは」と述べている。

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2型糖尿病患者は難聴の有病率が高い

 2型糖尿病と難聴リスクとの関連が報告された。罹病期間が長い糖尿病患者は難聴有病率が高いことなどが示されている。バルセロナ大学(スペイン)のMiguel Caballero-Borrego氏、Ivan Andujar-Lara氏の研究によるもので、詳細は「Otolaryngology-Head and Neck Surgery」11月号に掲載された。 慢性高血糖に伴う神経や血管の障害は全身性であることから、聴覚系にも影響を及ぼす可能性がある。これまでにも、糖尿病患者では内耳毛細血管の超微細構造に変化が生じているという報告など、糖尿病と難聴の関連性を示すエビデンスが報告されている。ただし、実臨床での研究結果には一貫性が見られず、糖尿病罹病期間や性別などにより関連性が異なるのではないかとの考え方もある。Caballero-Borrego氏らはこれを背景として、システマティックレビューとメタ解析による検討を行った。 論文検索にはPubMed、Scopusを用い、2019年1月~2024年4月に収載された論文を対象とした。包括基準は、糖尿病と難聴との関連を検討したコホート研究、横断研究、症例対照研究で、英語またはスペイン語の論文とし、糖尿病以外の要因による聴覚障害の可能性を否定できない研究、1型糖尿病患者のみを対象とした研究、聴力検査の信頼性が低いと判定される研究などは除外した。 一次検索で8,354件の論文がヒットし、重複削除、タイトルと要約に基づくスクリーニング、全文精査を経て17件を抽出した。これらの研究の参加者数は糖尿病群が計3,910人、対照群が4,084人であり、糖尿病群の難聴の有病率は40.6~71.9%の範囲だった。 有病率を比較可能な4件の研究(糖尿病群2,358人、対照群3,561人)を統合した解析で、糖尿病群の難聴有病率は有意に高いことが明らかになった(オッズ比〔OR〕4.19〔95%信頼区間1.22~14.37〕)。また、糖尿病群の純音聴力閾値は対照群より有意に高く(3.19dB〔同1.08~5.19〕)、低音域(1.11dB〔0.62~1.57〕)および高音域(2.3dB〔1.97~2.63〕)も同様に、糖尿病群の方が有意に高かった。 HbA1cと難聴の重症度との関連も示された。例えば中等度難聴の糖尿病群は対照群に比し平均HbA1cが0.57%(0.1~1.05)高値であり、より重度の難聴の糖尿病群は対照群に比し0.95%(0.02~1.87)高値だった。また、糖尿病の診断後10年以上経過している患者は10年未満の患者に比べ、難聴有病率が有意に高いことも分かった(OR2.07〔1.45~2.94〕)。一方、性別は難聴の有病率に有意な影響を与えていなかった。 著者らは、「糖尿病における難聴は、潜在的に生じている可能性のある細小血管症の結果として現れるのではないか。つまり、糖尿病患者に見られる聴力の低下は早期の警告サインと考えられる。よって糖尿病患者に聴力低下を認めた場合、より綿密なモニタリングを行うとともに、難聴への進行リスクを最小限に抑えるため、治療内容を再検討する必要があるだろう」と述べている。

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炭酸脱水酵素阻害薬は睡眠時無呼吸症候群を改善(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

本邦における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の疫学と治療の現状 本邦における閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA:Obstructive Sleep Apnea)の人口当たりの発症頻度は男性で3~7%(40~60代に多発)、女性で2~5%(閉経後に多発)と報告されており、男女合わせて500万例以上、総人口の約4%にOSA患者が存在すると考えられている。本邦における成人OSAに対する有効な治療法としては経鼻/経口の持続陽圧呼吸(CPAP:Continuous Positive Airway Pressure)が中心的位置を占める。CPAP不適あるいは不認容の非肥満(BMI<30kg/m2)患者に対する植込み型舌下神経(XII神経)電気刺激も有効な方法である。その他、比較的軽症のOSA患者に対するマウスピースや特殊な原因に対する耳鼻科的・口腔外科的手術/処置が有効な場合もある。いずれにしろ、OSA患者に施行されている治療はCPAPに代表される機械的治療が中心であり、現在のところ、有効性が確認され、かつ、保険適用を受けた薬物治療は存在しない。 本邦におけるOSA患者に対するCPAPの導入率はCPAP必要患者の15%前後と低く、米国の70%を大きく下回っている。その意味で、本邦におけるOSA患者に対する治療は不十分であり、OSAを“扇の要”として関連する種々の疾患(病的肥満、糖尿病、治療抵抗性高血圧、冠動脈疾患、心房細動、心不全、脳卒中、大動脈解離、認知症など)の管理に少なからず影響を与えている(OSAを頂点とするMetabolic Domino現象)。さらに、OSA患者では明確な機序不明であるがメラノーマ、腎臓がん、膵臓がんなどの悪性腫瘍の発生率が高いことも注意すべき事項の1つである。以上の諸点を鑑みると、今回論評の対象としたRanderath氏らの論文で明らかにされた内服の炭酸脱水酵素(CA:Carbonic Anhydrase)阻害薬のOSA抑制効果は近未来のOSAに対する治療を質的に変化させる可能性がある。抗糖尿病薬GIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチド(商品名:マンジャロ)もOSAを改善することが報告されている(Malhotra A, et al. N Engl J Med. 2024;391:1193-1205.)。しかしながら、チルゼパチドは、あくまでも肥満の軽減を介して2次的に無呼吸頻度を低下させるものであり、OSA自体を1次的に改善させるものではない。それ故、チルゼパチドは今回の論評には含めない。 睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)には中枢性のもの(CSA:Central Sleep Apnea)も存在するが、その頻度はOSAに比べ有意に低いこと(SAS全体の10%以下)、発症機序に不明な点が多いことなどから本論評においては詳細な評価を割愛した。炭酸脱水酵素(CA)と睡眠時無呼吸の関係 CAは生体細胞に広く分布し、細胞内代謝の結果として産生されるCO2とH2Oとの反応を触媒しH2CO3を産生する。H2CO3はH+とHCO3ーに自然解離し、HCO3ーはクロライド・シフトを介して細胞外に排出、H+は細胞内の蛋白に吸着され細胞内pHは一定に維持される(生理的pH下ではγ-グロブリン以外の蛋白は陰イオンとして存在しH+と結合)。生体には臓器特異的に15~16種類に及ぶCAのアイソザイムが存在することが報告されており、各臓器において細胞内pHの恒常性維持に寄与している。このような細胞内環境下でCAの活性を阻害すると、細胞内でのCO2処理が遅延し細胞内CO2濃度が上昇、細胞内アシドーシスが招来される。その結果として、脳幹部(延髄、橋)に局在する呼吸中枢神経群(延髄表層に存在するCO2感受性の中枢化学受容体を含む)のCO2感受性が亢進し、換気応答が活性化される。さらに、細胞内アシドーシスは咽頭/喉頭に存在する上気道筋群の筋緊張を維持する。以上の機序を介して、CAの阻害は睡眠時の閉塞性無呼吸の発生を1次的に抑制するとされているが、これ以外の未知の機序が関係する可能性も指摘されている。CA阻害薬の分類と臨床 臨床的に使用可能なCA阻害薬には点眼薬と内服薬の2種類が存在する。点眼薬(商品名:ドルゾラミド、ブリンゾラミドなど)は主として眼圧低下と緑内障治療薬として使用される。内服薬のうち1954年に緑内障治療薬としてFDAに承認された歴史的薬剤であるアセタゾラミド(商品名:ダイアモックス)は静注薬としても使用可能であり、緑内障以外にてんかん、メニエール病、急性高山病、尿路結石症の発作予防など幅広い保険適用を獲得している。最近認可された内服CA阻害薬として本論評の対象としたスルチアム(商品名:オスポロット)が存在するが、スルチアムは、本邦においては精神運動発作(てんかん)のみに使用が限定されている。CA阻害薬のOSAに対する治療効果-大規模研究の結果 SAS(OSA、CSA)発症にかかわる重要な因子としてCAが関与する化学反応が長年注目されてきたが確証が得られるには至らなかった。しかしながら、2020年、Christopher氏らはアセタゾラミド内服薬のSAS抑制効果に関して28研究(OSA:13研究、CSA:15研究)を基にメタ解析を施行した(Schmickl CN, et al. Chest. 2020;158:2632-2645.)。彼らの解析結果によると、アセタゾラミド内服(36~1,000mg/日)によってSAS患者の無呼吸/低呼吸指数(AHI:Apnea-Hypopnea Index)が37.7%(絶対値として13.8/時)低下すること、さらには、AHIの低下はOSA患者とCSA患者でほぼ同等であることが示された。アセタゾラミドによる無呼吸抑制効果は投与量依存性を示し、薬剤量が高いほど顕著であった。Christopher氏らの解析結果は、アセタゾラミドの内服がOSAのみならずCSAの治療にも有効である可能性を示している。 本論評の対象としたRanderath氏らの論文は、OSAに対するCA阻害薬スルチアムの効果を解析した第II相二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定試験(FLOW試験)の結果を報告した(欧州5ヵ国、28病院における治験)。対象は未治療、中等症以上のOSA患者298例で、プラセボ群(75例)、スルチアム100mg群(74例)、同200mg群(74例)、同300mg群(75例)の4群に振り分けられた。観察期間は、薬物投与量が一定になってから12週間(薬剤投与開始から15週間)と設定された。スルチアムの1日1回就寝前投与は、AHI、夜間低酸素血症、日中の傾眠傾向(Epworth Sleepiness Scaleによる評価)などOSAに付随する重要な症状を用量依存的に改善した。スルチアム投与によって重篤な有害事象は認められなかったが、知覚異常を中心とする中等症以下の多彩な有害事象が発生した。“治療効果と副反応”の比はスルチアム200mgの連日投与で最も高く、この用量がOSA治療に最も適していると結論された。 以上のように、OSA治療におけるCA阻害薬の有効性が実証されつつあり、本邦においてもCPAPにかわる新たな治療法としてCA阻害薬の内服治療の有効性を検証する臨床治験が早急に実施されることを期待するものである。この問題に関連して、2025年4月、本邦の塩野義製薬は米国Apnimed社と合弁会社を設立し(Shionogi-Apnimed Sleep Science)、睡眠時無呼吸症候群に対するスルチアムを含めた新たな薬物治療戦略を世界レベルで開始しており、今後の動向が注目される。

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第301回 アルブミンの抗カビ作用を発見

血中のありふれたタンパク質であるアルブミンの抗カビ作用が発見されました1,2)。ケカビ(Mucorales)の類いの真菌が引き起こすムコール症は、場合によっては死に至りもする日和見感染症で、打つ手は限られ、発症の仕組みはあまりわかっていません。死と隣り合わせでもあり、患者全体の死亡率は50%を超え、播種性患者の死亡率は100%近くになります。ムコール症は組織の甚大な壊死を特徴とし、そのため抗真菌薬は感染病巣に到達できず、ひどく外観を損ねる手術をしばしば必要とします。他の真菌感染症と異なり、ムコール症はもっぱら代謝不調患者に発生します。具体的には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う免疫代謝不調、制御不良の糖尿病、アシドーシス、鉄過剰症、栄養失調などがムコール症を生じ易くします。半世紀以上も前3)からヒトの血清のケカビ阻止効果が報告されています。ギリシャのクレタ大学のAntonis Pikoulas氏らの新たな検討でもその効果が改めて確認され、健康なヒトの血清はケカビの増殖を防いだのに対して、ムコール症患者の血清のその効果はほぼ皆無でした。アルブミンは血清に最も豊富なタンパク質で、血管内、間質、粘膜表面で生理機能を担います。興味深いことに、ムコール症を生じ易くする種々の免疫代謝失調患者に低アルブミンがよく認められます。そこでPikoulas氏らはムコール症へのアルブミンの働きを詳らかにすることを思い立ち、まず初めに血清アルブミン濃度とムコール症の生じやすさやその経過との関連にあたりました。ムコール症を生じ易いことが知られる血液がん患者を調べたところ、実際に肺ムコール症に陥った患者のほとんどのアルブミンは、細菌性肺炎やアスペルギルス・フミガーツス(A. fumigatus)による肺炎患者に比べて有意に乏しいことが示されました。糖尿病やCOVID-19を主な危険因子とする肺ムコール症患者などでも同様の結果が得られ、さらには重度の低アルブミン(2.5g/dL以下)が調べたどのムコール症集団でも転帰不良と関連しました。アルブミンこそどうやらケカビ阻止に寄与するらしく、アルブミンを省いた健康なヒトの血清はケカビ阻止活性が低下していました。一方、A. fumigatus阻止活性は保たれていました。そして、アルブミンこそケカビの増殖を防ぐ作用を担うことが精製アルブミンやマウスを用いた実験で明らかになります。精製アルブミンはケカビの増殖に限って阻止し、他の主な病原性細菌や真菌への有意な活性はありませんでした。アルブミンを欠くマウスはムコール症に限って生じ易くなり、その血清にアルブミンを与えるとケカビを阻止できるようになりました。アルブミンがケカビを阻止する仕組みにはアルブミンを結合した遊離脂肪酸(FFA)の流通が貢献しています。アルブミンは抗真菌活性を失わせるFFAの酸化を防ぎ、アルブミンが結合したFFAはケカビのタンパク質合成を阻止することで病原因子の発現を制してケカビを無毒化します。ムコール症患者ではその仕組みが機能していないらしく、血清のFFAがより酸化されていました。FFAがケカビのタンパク質合成に限って阻止する仕組みの詳細が今後の研究で明らかになるだろうと著者は言っています。参考1)Pikoulas P, et al. Nature. 2026 Jan 7. [Epub ahead of print]2)Blood protein thwarts deadly fungal disease / Nature3)Gale GR, et al. Am J Med Sci. 1961;241:604-612.

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