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「若者は管理職になりたがらない」は医師にも当てはまる?/医師1,000人アンケート

 「最近の若手は出世意欲がない」「管理職になりたがらない」と言われることがあり、20〜40代の会社員を対象とした調査1)では、約71%が出世を望んでいなかったという報告もある。これは医師にも当てはまる傾向なのだろうか?若手医師が管理職になりたいのかどうか、また仕事で重視することは何かを調査するため、CareNet.comでは20~30代の会員医師1,006人を対象に、管理職への昇進・昇格意向に関するアンケートを行った(実施:2025年9月18日)。なお、本アンケートにおける「管理職」とは、講師以上、医長以上(または相当)のポジションを指すこととした。管理職になりたい派は35.8%、なりたくない派は60.8% Q1では、将来的に管理職になりたいかどうかを聞いた。その結果、「とてもなりたい」が8.8%、「どちらかといえばなりたい」が27.0%、「どちらかといえばなりたくない」が35.6%、「まったくなりたくない」が25.2%であり、「とてもなりたい」と「どちらかといえばなりたい」を合わせた管理職になりたい派(35.8%)が少数派となった。なお、「すでに管理職に就いている」は3.3%で、すべて30代の医師であった。 年代別では、20代では管理職になりたい派が41.4%と多かったが、30代では34.5%に減っていた。病床数別では、20~99床の施設では管理職になりたい派は22.7%、100~199床は26.6%、20床以上は36.8%と、病床数が増えるほど管理職を志望する割合が高まった。管理職になりたい理由第1位「収入や待遇が改善する」 Q2では、Q1で「とても/どちらかといえばなりたい」と回答した管理職になりたい派(361人)に、管理職になりたい理由を聞いた。全体では、第1位が「収入や待遇が改善する(19.4%)」、第2位が「後進を育てたい(15.3%)」、第3位が「名誉や社会的評価が得られる(14.5%)」、第4位が「キャリアの安定につながる(12.8%)」、第5位が「研究や学会活動に有利(11.6%)」であった。 年代別では、20代では「名誉や社会的評価が得られる」が突出して多く第1位で、第2位が「収入や待遇が改善する」、第3位が「後進を育てたい」であった。30代では、「収入や待遇が改善する」「後進を育てたい」「キャリアの安定につながる」の順番であった。なお、「人脈形成ができる」を選んだ割合は20代のほうが30代よりもかなり多かった。管理職になりたくない理由第1位「業務量が増える」 Q3では、Q1で「どちらかといえば/まったくなりたくない」と回答した管理職になりたくない派(612人)に、管理職になりたくない理由を聞いた。全体では、第1位「業務量が増える(20.5%)」、第2位「ストレスが増える(20.0%)」、第3位「責任が増える(19.5%)」、第4位「収入と釣り合わない(15.8%)」、第5位「プライベートを重視したい(10.6%)」であった。20代・30代ともに上位3項目は「業務量が増える」「ストレスが増える」「責任が増える」が占めた。世代・出世意向で異なる「仕事で重視すること」 Q4では、全員を対象に仕事で重視することについて聞いた。全体では、第1位「収入が多いこと(20.7%)」、第2位「自分の専門や知識・技術を生かせられること(17.2%)」、第3位「休みをとりやすいこと(13.6%)」、第4位「医師として成長できること(12.3%)」、第5位「子育てや介護との両立がしやすいこと(11.1%)」であった。 年代別では、第1位は20代・30代ともに「収入が多いこと」であったが、20代の第2位は「医師として成長できること」、第3位は「自分の専門や知識・技術を生かせられること」、第4位は「多くの臨床経験が積めること」とモチベーションの高さがうかがわれた。30代の第2位は「自分の専門や知識・技術を生かせられること」であったが、第3位が「休みをとりやすいこと」、第4位が「子育てや介護との両立がしやすいこと」であり、ライフステージの変化を感じた。 出世意向別では、管理職になりたい派の第1位は「自分の専門や知識・技術を生かせられること」、第2位「収入が多いこと」、第3位「医師として成長できること」であった一方、なりたくない派の第1位は「収入が多いこと」、第2位「休みをとりやすいこと」、第3位「自分の専門や知識・技術を生かせられること」であった。 Q5では、フリーコメントとして、出世に関するご意見、理想の管理職像やキャリアパスなどを聞いた。管理職になりたい人のご意見(抜粋)・外科医を続けるためにはポジションが必要であり、後輩のためにも自分がポジションを確保しておくべきだと考える(30代・外科)・まだ不明確だが、後進の育成には興味があるので、ある程度の役職は必要だと思っている(30代・放射線科)・医師の待遇悪化がささやかれる今日この頃、自分の立場を守るためには、ある程度出世して社会的信用を得たり実績を出したりして、特定分野のプロフェッショナルになる必要性がある(30代・眼科)・まずは医師として自らの臨床力を極め、将来的には管理職として地域社会の医療を担える立場になりたい(20代・産婦人科)・多くの症例を経験して、実践的で全体を把握出来る管理職を目指したい(30代・耳鼻咽喉科)・収入よりも家族との時間の方が本当は重視したい思いはある(30代・精神科)管理職になりたくない人のご意見(抜粋)・管理職になるより一兵卒が性にあっている(30代・呼吸器内科)・出世は収入につながらないためあまり魅力に感じない(30代・乳腺外科)・大学病院での出世はまったく考えていない。収入が釣り合わないため。今後医師の収入が上がることは見込めないため、業務量が増えるだけになってしまう可能性がある(30代・脳神経外科)・それなりに時間的、経済的に余裕のある生活を送れるだけの給料がもらえるならそれで満足。それ以上は望まず、出世したいとはまったく思わない(20代・小児科)・出世希望は0ではないが、臨床以外の仕事が増えるのは望まない(30代・消化器内科)・以前は出世にこだわっていた時期もあるが、子どもが生まれてから優先順位ががらりと変わった(30代・呼吸器内科)・管理職は育児と両立できる気がしない(30代・小児科)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。出世願望のある若手医師は何割?/医師1,000人アンケート

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心血管疾患の発症前にはほぼ常に警告サインあり

 冠動脈疾患(CHD)や心不全(HF)、脳卒中などの心血管疾患(CVD)の発症前には、少なくとも1つの警告サインが現れているようだ。CVDの発症前には、以前よりCVDの主なリスク因子とされている高血圧、脂質異常症、高血糖、および喫煙の4つの因子のうちの少なくとも1つが99%以上の確率で存在していることが、新たな研究で示された。米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部のPhilip Greenland氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に9月29日掲載された。 研究グループは、この結果は、CVDは予兆なく発症することが多いという一般的な考え方を否定するものだとしている。Greenland氏は、「この研究は、CVDの発症前に1つ以上の最適ではないリスク因子にさらされる確率がほぼ100%であることを、極めて強い説得力をもって示している」と述べている。同氏は、「今後は、治療が容易ではなく因果関係もない他の要因を追求するのではなく、これらの修正可能なリスク因子をコントロールする方法を見つけることに、これまで以上に力を入れるべきだ」と同大学のニュースリリースの中で付け加えている。 この研究では、韓国国民健康保険サービス(KNHIS)コホート(934万1,100人、ベースライン時に20歳以上、追跡期間2009〜2022年)と、米国のアテローム性動脈硬化症(MESA)の多民族研究コホート(6,803人、ベースライン時に45〜84歳、追跡期間2000〜2019年)のデータが解析された。Greenland氏らは、追跡期間中にCHD、HF、または脳卒中を発症した人を特定し、発症前に高血圧、脂質異常症、高血糖、および喫煙の4つのリスク因子が最適ではないレベルだった割合を調べた。最適ではないレベルとは、1)収縮期血圧が120mmHg以上または拡張期血圧が80mmHg以上、あるいは降圧薬の使用、2)総コレステロールが200mg/dL以上または脂質低下薬の使用、3)空腹時血糖が100mg/dL以上または糖尿病の診断または血糖降下薬の使用、4)過去または現在の喫煙、である。 その結果、発症前に最適ではないレベルのリスク因子を1つ以上持っていた割合は、CHDではKNHISコホートで99.7%、MESAコホートで99.6%、HFではそれぞれ99.4%と99.5%、脳卒中では99.3%と99.5%と、いずれも極めて高率であることが判明した。この傾向は、年齢や性別に関係なく認められた。60歳未満の女性でのHFや脳卒中ではわずかに低かったが、それでも95%を超えていた。 Greenland氏らは、「心筋梗塞やCHDは先行する主要なリスク因子がない状態で発症するという説がますます一般的になりつつあるが、われわれの研究結果は総じて、この主張に疑問を投げかけるものだ」と結論付けている。同氏らはさらに、「特に血圧、コレステロール、喫煙などのリスク因子は、臨床診断閾値以下であっても、CVDリスクに対して継続的で用量依存的かつ累積的な影響を及ぼす」と指摘している。

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世界の疾病負担とリスク因子、1990~2023年の状況/Lancet

 2010年以降、感染性・母子新生児・栄養関連(CMNN)疾患および多くの環境・行動リスク因子による疾病負担は大きく減少した一方で、人口の増加と高齢化が進む中で、代謝リスク因子および非感染性疾患(NCD)に起因する障害調整生存年数(DALY)は著しく増加していることが、米国・ワシントン大学のSimon I. Hay氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2023 Disease and Injury and Risk Factor Collaboratorsの解析で示された。Lancet誌2025年10月18日号掲載の報告。375の疾病・傷害、88のリスク因子について解析 研究グループは、死亡登録、各種調査、疾病登録および公表された科学論文を含む31万以上のデータソースを用い、375の疾病・傷害についてDALY、障害生存年数(YLD)、損失生存年数(YLL)を推定するとともに、88の修正可能なリスク因子が関与する疾病負担を算出した。疾病・傷害負担の推定に12万超のデータソースが、リスク因子推定に約5万9,000のデータソースが使用され、データ解析にはベイズメタ回帰モデリングツールのDisMod-MR 2.1や、新規ツールのDisMod-AT、時空間ガウス過程回帰モデル(ST-GPR)、比較リスク評価フレームワークなど、確立された方法が用いられた。 GBD 2023における疾病・傷害、リスク因子の推計値は、年齢(新生児早期から95歳以上までの25の年齢層)、性別(男性、女性、複合)、年次(1990~2023年までの各年)、および地域(204の国・地域を21の地域および7つのGBD super-regionに分類、加えて20ヵ国については660の地方自治体レベル)別に算出した。疾病・傷害ならびにリスク因子はそれぞれ4段階に分類した。NCDの負担は増加、虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病が主因 世界全体で総DALYは、2010年の26億4,000万(95%不確実性区間[UI]:24億6,000万~28億6,000万)から2023年は28億(95%UI:25億7,000万~30億8,000万)と6.1%(95%UI:4.0~8.1)増加した。一方で、人口増加と高齢化を鑑みた年齢標準化DALY率は12.6%(95%UI:11.0~14.1)減少しており、長期的に大きく健康状態が改善していることが明らかになった。 世界全体のDALYにおけるNCDの寄与は、2010年の14億5,000万(95%UI:13億1,000万~16億1,000万)から2023年には18億(95%UI:16億3,000万~20億3,000万)に増加したが、年齢標準化DALY率は4.1%(95%UI:1.9~6.3)減少した。DALYに基づく2023年の主要なレベル3のNCDは、虚血性心疾患(1億9,300万DALY)、脳卒中(1億5,700万DALY)、糖尿病(9,020万DALY)であった。2010年以降に年齢標準化DALY率が最も増加したのは、不安障害(62.8%)、うつ病性障害(26.3%)、糖尿病(14.9%)であった。 一方、CMNN疾患では顕著な健康改善がみられ、DALYは2010年の8億7,400万から2023年には6億8,100万に減少し、年齢標準化DALY率は25.8%減少した。COVID-19パンデミック期間中、CMNN疾患によるDALYは増加したが、2023年までにパンデミック前の水準に戻った。2010年から2023年にかけてのCMNN疾患の年齢標準化DALY率の減少は、主に下痢性疾患(49.1%)、HIV/AIDS(42.9%)、結核(42.2%)の減少によるものであった。新生児疾患および下気道感染症は、2023年においても依然として世界的にレベル3のCMNN疾患の主因であったが、いずれも2010年からそれぞれ16.5%および24.8%顕著な減少を示した。同期間における傷害関連の年齢標準化DALY率は15.6%減少した。主なリスク因子は代謝リスク、2010~23年で30.7%増加 NCD、CMNN疾患、傷害による疾病負担の差異は、年齢、性別、時期、地域を問わず変わらなかった。 リスク分析の結果、2023年の世界全体のDALY約28億のうち、約50%(12億7,000万、95%UI:11億8,000万~13億8,000万)がGBDで分析された88のリスク因子が主因であった。DALYに最も大きく影響したレベル3のリスク因子は、収縮期血圧(SBP)高値、粒子状物質汚染、空腹時血糖(FPG)高値、喫煙、低出生体重・早産の5つで、このうちSBP高値は総DALYの8.4%(95%UI:6.9~10.0)を占めた。 レベル1の3つのGBDリスク因子カテゴリー(行動、代謝、環境・職業)のうち、2010~23年に代謝リスクのみ30.7%増加したが、代謝リスクに起因する年齢標準化DALY率は同期間に6.7%(95%UI:2.0~11.0)減少した。 レベル3の25の主なリスク因子のうち3つを除くすべてで、2010~23年に年齢標準化DALY率が低下した。たとえば、不衛生な衛生環境で54.4%(95%UI:38.7~65.3)、不衛生な水源で50.5%(33.3~63.1)、手洗い施設未整備で45.2%(25.6~72.0)、小児発育不全で44.9%(37.3~53.5)、いずれも減少した。 2010~23年に代謝リスクに起因する年齢標準化負担の減少が小さかったのは、高BMI負担率が世界的に大きく10.5%(95%UI:0.1~20.9)増加したこと、顕著ではないがFPG高値が6.2%(-2.7~15.6)増加したことが主因であった。

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映画に学ぶ研究デザイン、主題と副題の構造から見た臨床試験【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第89回

映画は素晴らしい猛暑の夏もようやく勢いを失い、夜風に秋の気配を感じる季節となりました。静かな秋の夜長に私が好んで親しむのは映画です。映画の中で繰り広げられる人間模様・友情・恋愛・信頼・裏切り。これらは、登場人物の選択と行動を通じて、観る者に多くの示唆を与えてくれます。困難に直面した人々がいかに受け止め、いかに行動するか。その姿は、現実の私たちにとっても小さな指針となり得ます。映画は、単なる娯楽を超えて「人生の教科書」ともいえる存在です。映画の主題と副題映画を少し異なる視点で眺めると、そこには常に「主題」と「副題」があることに気付かされます。観客を惹きつける主題の背後で、静かに流れるもう一つの物語、それが作品に深みと余韻をもたらします。たとえば『ローマの休日』(1953年、監督:ウィリアム・ワイラー)。ヨーロッパの小国の王女とアメリカ人新聞記者の身分違いの恋を描いた名作です。「真実の口」や「スペイン広場のジェラート」など、印象的な場面の数々を通して、オードリー・ヘップバーンの魅力が存分に発揮されます。主題はロマンチックな恋愛劇ですが、その背後に「自由行動による精神的成長」という副題が潜みます。終盤の記者会見で、王女が「この街の思い出をいつまでも懐かしむことでしょう」と堂々と答える場面には、依存的だった少女が自立した女性へと成長する姿が象徴的に描かれています。次に『カサブランカ』(1942年、監督:マイケル・カーティス)。親ドイツ政権下のフランス領モロッコを舞台に、かつて愛し合った男女の再会を描いた作品です。「As Time Goes By」の旋律、「君の瞳に乾杯」の台詞、いずれも映画史に残る名場面です。主題は愛の再燃ですが、副題は「愛よりも義を選ぶ人間の尊厳と祖国への思い」です。酒場でドイツ軍士官が国歌を歌う中、「ラ・マルセイエーズを」と告げ、皆がフランス国歌を合唱する場面は、個人の愛と信念、そして自由への希求が交錯する名シーンです。さらに『国宝』(2025年邦画、原作:吉田 修一、監督:李 相日)。任侠の家に生まれながら、歌舞伎の道に生涯を賭けた男の半生を描きます。主演の吉沢 亮と横浜 流星が、血のにじむような努力で芸の世界を体現しています。ここでの副題は「血」です。それは遺伝や家系といった文字通りの“血”であり、逃れられぬ宿命の象徴でもあります。芸の美しさと血の呪縛、この二重性が作品全体を貫いています。主解析とサブ解析やや熱を帯びて3本の映画を紹介してしまいましたが、興味深いのは、この「主題と副題」の構造が、実は医学研究にも通じるという点です。臨床研究における「主解析(primary analysis)」は、映画の主題に相当します。「新薬Aは標準治療Bと比較して心血管イベントを減少させるか」といった主要仮説を、事前に定めた統計計画に基づき厳密に検証する中核部分です。一方で、「高齢者ではどうか」「女性ではどうか」「糖尿病合併の有無で異なるか」といった問いを掘り下げるのが「サブ解析(sub-analysis)」であり、これはまさに“もう一つの物語”を探る試みといえます。サブ解析の鍵は“prespecified”ただし、この副題的なサブ解析には慎重な姿勢が求められます。映画では脚本家の自由な発想が許されますが、科学研究では「後付けの脚本」は厳禁です。解析後に思い付いたサブ解析を「発見」として提示するのは、統計的な偶然を物語化する行為に等しいからです。100回試行すれば5回は偶然「有意」となる、その確率の罠に陥ってはなりません。「たまたま有意だった結果」を、あたかも当初から想定していたかのように語り出す研究者が現れたなら、査読者はすぐに見抜きます。価値あるサブ解析とは、研究計画書(プロトコル)に明示され、事前に意図された問いを持つものであり、それを示す形容が “prespecified” です。一方、事後的(post-hoc)なサブ解析の報告は、探索的研究として明示することが求められます。これは結果を見て新たな仮説を生成する段階であり、検証的研究とは明確に区別すべき性質のものです。近年の大規模臨床試験では、主解析と並行して事前登録されたサブ解析の重要性が増しています。たとえ主解析が有意でなくとも、「特定のサブグループで有効性が示された」ことが、その後の臨床実践を変える契機となる場合もあります。副次的な知見は主解析の理解を補い、現場への応用可能性を広げる意味を持ちます。これは、映画において脇役の一言や背景描写が、主題の理解を一層深めるのに似ています。もっとも、サブ解析が独り歩きして主解析を覆い隠してしまえば、研究の重心は失われます。主解析が映画の「結末」であるなら、サブ解析は「その余韻」といえるでしょう。余韻が強すぎれば結末はぼやけます。論文においても、主解析の明確な結論を中心に据え、サブ解析は補完的な位置付けとして提示することが重要です。研究者は映画監督映画において副題が主題を支え、作品に奥行きを与えるように、臨床研究におけるサブ解析も主解析を補い、データに立体感をもたらします。両者に共通する真理は、「副題は脚本の途中で思い付いてはいけない」ということです。副題は最初から物語の構造の一部として設計されているとき、初めてその輝きを放ちます。ローマの王女の成長も、『カサブランカ』の義も、そして臨床研究のサブ解析も――いずれも主題を支える副題として存在します。そう考えると、研究計画書とはまさに脚本であり、研究者とは科学という舞台を演出する映画監督なのかもしれません。

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SGLT2阻害薬、自己免疫性リウマチ性疾患のリスクは?/BMJ

 韓国の大規模な2型糖尿病成人コホートにおいて、SGLT2阻害薬はスルホニル尿素(SU)薬と比較し自己免疫性リウマチ性疾患のリスクを11%低下させることが、韓国・成均館大学校のBin Hong氏らによる後ろ向きコホート研究の結果で示された。SGLT2阻害薬は、その潜在的な免疫調節能により自己免疫疾患への転用候補の1つと考えられているが、自己免疫病態に関与する発症経路における重要な細胞や分子に対する阻害作用が臨床的に意味を有するかどうかは依然として不明であった。著者は、「今回の結果は、SGLT2阻害薬が自己免疫疾患のリスク低減に寄与する可能性を示唆しているが、潜在的な有益性は、既知の有害事象や忍容性に関する懸念と慎重に比較検討する必要があり、他の集団や状況における再現性の検証、ならびに自己免疫性リウマチ性疾患患者を対象とした研究が求められる」と述べている。BMJ誌2025年10月15日号掲載の報告。2型糖尿病成人約200万例を対象に解析 研究グループは、韓国の人口の98%をカバーする国民健康保険サービスのデータベース(2012~22年)を用い、2014年9月1日(韓国におけるSGLT2阻害薬の保険適用開始日)~2022年12月31日にSGLT2阻害薬またはSU薬を新規に投与された2型糖尿病成人(18歳以上)について解析した。 主要アウトカムは、自己免疫性リウマチ性疾患で、ICD-10診断コードおよび韓国の希少難治性疾患登録(RIDR)プログラムへの登録を用いて特定した。副次アウトカムは、炎症性関節炎(関節リウマチ、乾癬性関節炎または脊椎関節炎の複合)および結合組織疾患であった。また、残余交絡を評価するため、陽性対照アウトカムとして性器感染症、陰性対照アウトカムとして帯状疱疹を用いた。 傾向スコアに基づく正規化逆確率重み付けを用いて交絡因子を調整し、加重イベント数、発生率、10万人年当たりの発生率差とその95%信頼区間(CI)を算出するとともに、Cox比例ハザード回帰モデルを用いてハザード比(HR)とその95%CIを推定した。 自己免疫性リウマチ性疾患の診断歴がなくベースラインで研究対象薬剤を使用していないSGLT2阻害薬新規使用者55万2,065例、およびSU薬新規使用者148万92例が特定された。傾向スコア重み付け後、SGLT2阻害薬開始群103万88例(平均年齢58.5歳、男性59.9%)とSU薬開始群100万2,069例(平均年齢58.5歳、男性60.1%)が解析対象となった。SGLT2阻害薬群はSU薬群と比較しリスクが11%低下 追跡期間中央値は、SGLT2阻害薬開始群9.1ヵ月(四分位範囲:3.8~25.2)、SU薬開始群7.8ヵ月(3.1~23.5)であった 新たに自己免疫性リウマチ性疾患と診断された患者は、SGLT2阻害薬開始群で790例、SU薬開始群で840例確認された。加重発生率はそれぞれ51.90/10万人年と58.41/10万人年であり、率差は-6.50/10万人年(95%CI:-11.86~-1.14)、HRは0.89(95%CI:0.81~0.98)であった。 SGLT2阻害薬に関連する自己免疫性リウマチ性疾患のリスク低下は、年齢、性別、SGLT2阻害薬の種類、ベースラインの心血管疾患、およびBMIで層別化したサブグループ間でおおむね一貫していた。 副次アウトカムについては、炎症性関節炎のHRが0.86(95%CI:0.77~0.97)、結合組織疾患のHRは0.95(95%CI:0.79~1.14)であった。 対照アウトカムに関しては、性器感染症のHRは2.78(95%CI:2.72~2.83)、帯状疱疹のHRは1.03(95%CI:1.01~1.05)であった。

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第33回 帯状疱疹ウイルスが脳を蝕む可能性? 1億人超のデータが示す結果と「ワクチン」という希望

多くの人が子供の頃にかかる「水ぼうそう」。その原因ウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が、治った後も体内に静かに潜み続け、数十年後に「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」として再活性化することはよく知られています。しかし、この身近なウイルスが、将来の認知症リスクと深く関わっているかもしれない。そんな可能性を示唆する大規模な研究結果が、権威ある医学誌Nature Medicine誌に発表されました1)。アメリカの1億人を超える医療記録を分析したこの研究は、帯状疱疹の発症やその予防ワクチンが、認知症リスクにどう影響するのかを、かつてない規模で明らかにしています。この記事では、その研究結果の内容と私たちの健康維持にどう活かせるのかを解説していきます。神経に潜むウイルス「VZV」と帯状疱疹水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は、ほとんどの成人が体内に持っている非常に一般的なウイルスです。初めての感染では「水ぼうそう」として発症しますが、症状が治まった後もウイルスは神経節(神経細胞が集まる場所)に潜伏し、生涯にわたって体内に存在し続けます。そして、加齢やストレス、免疫力の低下などをきっかけに、この潜んでいたウイルスが再び活性化することがあります。これが「帯状疱疹」で、体の片側に痛みを伴う水ぶくれが現れるのが特徴です。VZVは神経を好むウイルスであるため、帯状疱疹後神経痛のような長期的な痛みを引き起こすこともあります。近年、このVZVのような神経に入り込むウイルスが、認知症の発症に関与しているのではないかという証拠が集まりつつありました。VZVが脳内で炎症を引き起こしたり、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβのような異常タンパク質の蓄積を促したりする可能性が、実験室レベルの研究で示唆されていたのです。しかし、これが実際どれほどのリスクになるのかは、はっきりとはわかっていませんでした。1億人の記録が示す「帯状疱疹と認知症」の密接な関係今回の研究チームは、この疑問に答えるため、アメリカの巨大な電子カルテデータベースに着目しました。7,000以上の病院やクリニックから集められた、1億人以上の匿名化された個人の医療記録を、2007~23年にわたって追跡調査したのです。研究チームは、最新の機械学習技術を駆使し、年齢、性別、人種、持病、服用薬、生活習慣(喫煙など)、さらには医療機関へのアクセス頻度など、認知症リスクに影響しうる約400もの因子を厳密に調整しました。これにより、「帯状疱疹(VZVの再活性化)」という要因が、他の要因とは独立して認知症リスクにどれだけ影響するかを、高い精度で評価することを試みました。その結果、驚くべき関連性が次々と明らかになりました。まず、帯状疱疹を経験した人は、そうでない人と比べて、将来的に認知症と診断されるリスクが高いことが示されました。さらに興味深いことに、帯状疱疹を1回経験した人に比べ、2回以上繰り返した人では、認知症リスクが7〜9%も高かったのです。これは、ウイルスの再活性化による体への「負担」が大きいほど、認知症リスクも高まる可能性を示唆しています。しかし、この研究はリスクだけでなく、希望の光も示しています。帯状疱疹を予防するためのワクチンを接種した人は、接種していない人と比較して、認知症リスクが明らかに低かったのです。とくに、より効果の高い不活化ワクチン(商品名:シングリックス)を2回接種した場合では、認知症リスクが27%低減していました。とくに注目すべきは、過去に使用されていた生ワクチンの効果に関する分析です。このワクチンは帯状疱疹予防効果が時間とともに薄れることが知られていますが、研究チームがワクチン接種後15年間にわたって追跡したところ、帯状疱疹予防効果の低下と、認知症リスク低減効果の消失が、見事に相関していました。これは、「ワクチンでVZVの再活性化を抑えること」こそが、認知症リスク低減のメカニズムであることを裏付ける結果と言えます。加えて、帯状疱疹になりやすいとされる高齢者や女性においては、ワクチン接種による認知症リスクの低減効果が、全体集団よりもさらに大きい傾向が見られました。これらの結果は、さまざまな角度から帯状疱疹が認知症の進行に関わる「修正可能なリスク因子」である可能性を強く示唆しています。ただし、この研究は非常に大規模で説得力がありますが、いくつかの限界点も認識しておく必要があります。最大の点は、これが「観察研究」であるということです。つまり、「帯状疱疹の予防」と「認知症リスクの低減」の間に強い関連性を示しましたが、ワクチン接種が原因となって認知症を防いだ、という因果関係を完全に証明したわけではありません。研究チームは、考えうる他の要因の影響を統計的に最大限排除しようと試みていますが、未知の因子が影響している可能性はゼロではありません。また、電子カルテのデータに依存しているため、診断の精度や記録の網羅性にも限界があります。私たちの生活にどう活かす?この研究は、認知症予防の新たな可能性を提示するものです。認知症の原因は複雑で、遺伝や生活習慣など多くの要因が絡み合っていますが、帯状疱疹もその一つとして無視できない存在である可能性があるのです。今回の研究結果は、帯状疱疹ワクチンが認知症を「直接」予防すると断定するものではありませんが、ワクチンが帯状疱疹の発症を効果的に抑えることは明らかになっており、その結果として認知症リスクを低減する可能性が強く示唆されました。とくに日本でも現在主流となっている不活化ワクチン(シングリックス)は、高い予防効果が長期間持続すると明らかになっています。そのため、50歳以上の方は、帯状疱疹そのものの予防(さらに、厄介な神経痛の予防)という観点からも、認知症リスクを下げる観点からも、ワクチン接種について相談する価値があると言えるでしょう。また、過去に帯状疱疹を経験したことがある方は、この研究結果を踏まえ、他の認知症リスク因子(高血圧、糖尿病、喫煙、運動不足など)の管理にも、より一層注意を払うことが勧められるということなのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Polisky V, et al. Varicella-zoster virus reactivation and the risk of dementia. Nat Med. 2025 Oct 6. [Epub ahead of print]

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世界の死亡パターン、過去30年の傾向と特徴/Lancet

 米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2023 Causes of Death Collaboratorsは、過去30年の世界における死亡のパターンを、改善された推定法を用いて調査し、COVID-19パンデミックのような重大イベントの影響、さらには低所得地域での非感染性疾患(NCD)の増加といった世界で疫学的転換が進んでいることを反映した、より広範な分野にわたる傾向を明らかにした。死因の定量化は、人々の健康を改善する効果的な戦略開発に向けた基礎的な段階である。GBDは、世界の死因を時代を超えて包括的かつ体系的に解析した結果を提供するものであり、GBD 2023では年齢と死因の関連の理解を深めることを目的として、70歳未満で死亡する確率(70q0)と死因別および性別の平均死亡年齢の定量化が行われた。Lancet誌2025年10月18日号掲載の報告。1990~2023年の292の死因について定量化 GBD 2023では、1990~2023年の各年について、204の国と地域および660のサブナショナル(地方政府)地域における年齢・性別・居住地・暦年ごとに分類した292の死因の推定値を算出した。 ほとんどの死因別死亡率の算出には、GBDのために開発されたモデリングツール「Cause of Death Ensemble model:CODEm」が用いられた。また、損失生存年数(YLL)、死亡確率、死亡時平均年齢、死亡時観測年齢および推定平均年齢も算出した。結果は件数と年齢標準化率で報告された。 GBD 2023における死因推定法の改善点は、COVID-19による死亡の誤分類の修正、COVID-19推定法のアップデート、CODEmモデリングフレームワークのアップデートなどであった。 解析には5万5,761のデータソースが用いられ、人口動態登録および口頭剖検データとともに、サーベイ、国勢調査、サーベイランスシステム、がん登録などのデータが含まれている。GBD 2023では、以前のGBDに使用されたデータに加えて、新たに312ヵ国年の人口動態登録の死因データ、3ヵ国年のサーベイランスデータ、51ヵ国年の口頭剖検データ、144ヵ国年のその他のタイプのデータが追加された。死因トップは2021年のみCOVID-19、時系列的には虚血性心疾患と脳卒中が上位2つ COVID-19パンデミックの初期数年は、長年にわたる世界の主要な死因順位に入れ替わりが起き、2021年にはCOVID-19が、世界の主要なレベル3のGBD死因分類の第1位であった。2023年には、COVID-19は同20位に落ち込み、上位2つの主要な死因は時系列的には典型的な順位(すなわち虚血性心疾患と脳卒中)に戻っていた。 虚血性心疾患と脳卒中は主要な死因のままであるが、世界的に年齢標準化死亡率の低下が進んでいた。他の4つの主要な死因(下痢性疾患、結核、胃がん、麻疹)も本研究対象の30年間で世界的に年齢標準化死亡率が大きく低下していた。その他の死因、とくに一部の地域では紛争やテロによる死因について、男女間で異なるパターンがみられた。 年齢標準化率でみたYLLは、新生児疾患についてかなりの減少が起きていた。それにもかかわらず、COVID-19が一時的に主要な死因になった2021年を除き、新生児疾患は世界のYLLの主要な要因であった。1990年と比較して、多くのワクチンで予防可能な疾患、とりわけジフテリア、百日咳、破傷風、麻疹で、総YLLは著しく低下していた。死亡時平均年齢、70q0は、性別や地域で大きくばらつき 加えて本研究では、全死因死亡率と死因別死亡率の平均死亡年齢を定量化し、性別および地域によって注目すべき違いがあることが判明した。 世界全体の全死因死亡時平均年齢は、1990年の46.8歳(95%不確実性区間[UI]:46.6~47.0)から2023年には63.4歳(63.1~63.7)に上昇した。男性では、1990年45.4歳(45.1~45.7)から2023年61.2歳(60.7~61.6)に、女性は同48.5歳(48.1~48.8)から65.9歳(65.5~66.3)に上昇した。2023年の全死因死亡平均年齢が最も高かったのは高所得super-regionで、女性は80.9歳(80.9~81.0)、男性は74.8歳(74.8~74.9)に達していた。対照的に、全死因死亡時平均年齢が最も低かったのはサハラ以南のアフリカ諸国で、2023年において女性は38.0歳(37.5~38.4)、男性は35.6歳(35.2~35.9)だった。 全死因70q0は、2000年から2023年にかけて、すべてのGBD super-region・region全体で低下していたが、それらの間で大きなばらつきがあることが認められた。 女性は、薬物使用障害、紛争およびテロリズムにより70q0が著しく上昇していることが明らかになった。男性の70q0上昇の主要な要因には、薬物使用障害とともに糖尿病も含まれていた。サハラ以南のアフリカ諸国では、多くのNCDについて70q0の上昇がみられた。また、NCDによる死亡時平均年齢は、全体では予測値よりも低かった。対象的に高所得super-regionでは薬物使用障害による70q0の上昇がみられたが、観測された死亡時平均年齢は予測値よりも低年齢であった。

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すでに承認されている経口薬が1型糖尿病の進行を抑制

 関節リウマチや脱毛症などの自己免疫疾患の治療薬としてすでに承認されている経口薬であるバリシチニブが、1型糖尿病の進行抑制に役立つのではないかとする研究結果が、欧州糖尿病学会年次総会(EASD2025、9月15~19日、オーストリア・ウィーン)で発表された。 この報告は、セントビンセント医学研究所(オーストラリア)のMichaela Waibel氏らの研究によるもので、新たに1型糖尿病と診断された人がバリシチニブを連日服用すると、インスリン分泌が維持され血糖変動が安定したという。さらに、同薬の服用を中止した後は、インスリン分泌量が減少して血糖変動の安定性が失われ、糖尿病が進行し始めるという変化が見られたとのことだ。 Waibel氏は、「これは本当に素晴らしい前進だ。これまでの1型糖尿病の治療はインスリン療法に大きく依存していたが、その依存度を軽減し、患者が日常の治療から解放される時間を提供できる、初めての経口での疾患修飾療法と言える。さらにこの薬は、長期合併症のリスクを低下させる可能性もある」と話している。 1型糖尿病は、免疫系が膵臓のインスリン分泌細胞(β細胞)を誤って攻撃することで発症する。発症とともにインスリン分泌量が低下し、最終的には分泌が停止するため、患者は生涯にわたって、血糖値を管理するためインスリン療法を続ける必要がある。一方、バリシチニブは、免疫系を刺激する信号を抑制する作用があり、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、脱毛症などの自己免疫疾患の治療薬としてすでに承認されている。これらの理論的な背景を基に研究チームは、バリシチニブが1型糖尿病の診断後早期の患者のβ細胞を保護する可能性があるのではないかと考えた。 今回の研究には、過去100日以内に1型糖尿病と診断された10~30歳の91人が参加。無作為にバリシチニブ群またはプラセボ群に割り付けられ、48週間にわたり毎日服用した。その結果、バリシチニブ群では対照群に比べてβ細胞機能が維持され、血糖値の変動が少なく、インスリンの必要量も少なかった。さらに、48週が経過しバリシチニブの服用を中止すると、血糖コントロールは72~96週目にプラセボ群とほぼ同じレベルまで悪化した。また、バリシチニブ群の患者も最終的には、プラセボ群と同量のインスリンを必要とする状態となった。 これらの結果からWaibel氏は、「1型糖尿病患者のβ細胞機能を維持することが示された有望な薬剤はいくつかあるが、それらの中でバリシチニブは経口投与が可能という点で小児を含む多くの患者が使用しやすく、明らかに有効であるという点で際立っている」と解説。「この薬の効果が長年にわたって持続するか、また、より早期に治療を開始することで1型糖尿病の診断を回避または遅らせることができるかを判断するため、さらなる試験を継続することが正当化される」と述べている。さらに、「この薬の有効性が証明されれば、遺伝的に1型糖尿病のリスクがある人を特定し予防的介入を行うことで、1型糖尿病発症を抑止できるようになるかもしれない」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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2型糖尿病の全死亡、亜鉛欠乏で増加

 亜鉛不足が心不全の予後に関連することはいくつかの研究より報告されているが、今回、台湾・Chi Mei Medical CenterのYu-Min Lin氏らは、2型糖尿病患者における亜鉛欠乏が全死亡および心血管系合併症リスクを有意に高めることを明らかにした。 本研究はTriNetXが保有するデータベースを用いて、後ろ向きコホート研究を実施。亜鉛測定が行われていた18歳以上の2型糖尿病患者を亜鉛欠乏群(血清亜鉛<70μg/dL)と対照群(70~120μg/dL)に分類し、傾向スコアマッチング(PSM)を行った。主要評価項目は全死亡および心血管疾患の複合アウトカム(脳血管合併症、不整脈、炎症性心疾患、虚血性心疾患、その他の心疾患[心不全、非虚血性心筋症、心停止、心原性ショック]、血栓性疾患)で、各ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・適格患者2万3,041例のうち亜鉛欠乏患者は9,503例、亜鉛正常値患者は1万3,538例で、PSM後、各群に7,886例が割り付けられた。・対照群と比較した場合、亜鉛欠乏群での全死亡はHR:2.08(95%CI:1.72~2.51、p<0.001)、心血管アウトカムの複合はHR:1.15(95%CI:1.08~1.24、p<0.001)といずれの発生率も高かった。・亜鉛欠乏群では、不整脈(HR:1.20、95%CI:1.10~1.32、p<0.001)、炎症性心疾患(HR:1.54、95%CI:1.07~2.21、p<0.001)、そのほかの心機能障害(HR:1.23、95%CI:1.08~1.40、p<0.001)の発生率も上昇した。 本結果を踏まえ研究者らは、「2型糖尿病患者の管理において、血清亜鉛値をモニタリングし、対処することの潜在的な臨床的重要性を強調する」としている。

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肥満症への胃バイパス手術の長期的効果は良好

 肥満症の治療に胃や腸の外科的手術が登場し半世紀以上が経った。術後の患者の健康状態や効果などに違いはあるのだろうか。このテーマについて、米国・ブリガムヤング大学運動科学部のTaggert J. Barton氏らの研究グループは、胃バイパス手術の健康への長期的な効果について評価を行った。その結果、術後10年を経てもBMIの低下が維持されていたことが判明した。この研究結果はObesity誌オンライン版2025年10月8日号に掲載された。代謝・肥満手術群は身体活動により体力を維持する必要がある 研究グループは、代謝・肥満手術(MBS)関連の減量が健康に及ぼす長期的な影響を探るために前向き試験「the Utah Obesity Study」の一部から、MBS患者群(82例)と対照となる非手術群(88例)のデータを収集した。フィットネスは修正ブルースプロトコルを用いた最大・亜最大トレッドミル試験で評価した。亜最大運動試験は手術前(ベースライン)および11.5年後に実施した。170例の参加者から抽出したサブグループ(97例)は、ベースラインから2年後および6年後に最大トレッドミルテストも実施した。体重とBMIは各訪問時に記録した。群間比較におけるトレッドミル走行時間は、性別と体重で調整した。 主な結果は以下のとおり。・事前の推測のとおり、全フォローアップ時点で手術群は非手術群よりBMIおよび体重が低かった(p<0.0001)。・性別、ベースライン時のトレッドミル時間、体重で調整した11.5年間のトレッドミル時間は、全フォローアップ時点で手術群が非手術群より有意に長かった(p<0.01)。・しかし、手術群の体力面での優位性は時間の経過とともに徐々に低下した。 以上の結果から、研究グループは「MBS患者において、当初は体重減少によって劇的な体力面でのメリットが得られたが徐々に低下した。しかし、10年以上経過しても非手術群よりも高い値を維持した。身体活動を重視することは、肥満手術後の体力改善を維持するのに役立つ可能性がある」と結論付けている。

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下垂体性ADH分泌異常症〔Pituitary ADH secretion disorder〕

1 疾患概要■ 定義抗利尿ホルモン(ADH)であるバソプレシン(AVP)は、視床下部の視索上核および室傍核に存在する大細胞性AVPニューロンで産生されるペプチドホルモンである。血漿浸透圧の上昇または循環血漿量の低下に応じて下垂体後葉から分泌され、腎集合管における水の再吸収を促進することで体液恒常性の維持に重要な役割を果たす。下垂体性ADH分泌異常症には、AVP分泌不全により多尿を呈する中枢性尿崩症と、低浸透圧環境下にも関わらずAVP分泌が持続し低ナトリウム血症を呈する抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)が含まれる。■ 疫学わが国における中枢性尿崩症の患者数は約5,000~1万人程度と推定されている1)。一方、SIADHの患者数は不明であるが、低ナトリウム血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、全入院患者の2~3%で認められる。軽度の低ナトリウム血症を呈する患者を含めると、とくに高齢者では相当数に上ると推定されている1)。■ 病因中枢性尿崩症とSIADHの主な病因をそれぞれ表1および表2に示す。特発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体後葉に器質的異常を認めないが、一部はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に由来する可能性がある。続発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体の腫瘍や炎症、手術、外傷などによりAVPニューロンが障害され、AVP産生および分泌が低下することで発症する。SIADHの原因としては、中枢神経疾患、肺疾患、異所性AVP産生腫瘍、薬剤などが挙げられる。表1 中枢性尿崩症の病因特発性家族性続発性(視床下部-下垂体系の器質的障害):リンパ球性漏斗下垂体後葉炎胚細胞腫頭蓋咽頭腫奇形腫下垂体腫瘍(腺腫)転移性腫瘍白血病リンパ腫ランゲルハンス細胞組織球症サルコイドーシス結核脳炎脳出血・脳梗塞外傷・手術表2 SIADHの病因中枢神経系疾患髄膜炎脳炎頭部外傷くも膜下出血脳梗塞・脳出血脳腫瘍ギラン・バレー症候群肺疾患肺腫瘍肺炎肺結核肺アスペルギルス症気管支喘息腸圧呼吸異所性バソプレシン産生腫瘍肺小細胞がん膵がん薬剤ビンクリスチンクロフィブレートカルバマゼピンアミトリプチンイミプラミンSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)■ 症状中枢性尿崩症では、口渇、多飲、多尿を認め、尿量は1日1万mLに達することもある。血液は濃縮され高張性脱水に至り、上昇した血漿浸透圧により渇中枢が刺激され、強い口渇が生じて大量の水を飲むことになるが、摂取した水は尿としてすぐに排泄される。SIADHでは、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など低ナトリウム血症に伴う症状が出現する。急速に血清ナトリウム濃度が低下した場合には重篤な症状が早期に出現するが、慢性の低ナトリウム血症では症状が軽度にとどまることがある。■ 予後中枢性尿崩症は、妊娠時や頭蓋内手術後の一過性発症を除き自然回復はまれであるが、飲水が可能な状態であれば生命予後は良好である。一方で、渇感障害を伴う場合や飲水が制限される場合には高度の高張性脱水を呈し、重篤な転機をたどることがある。実際、渇感障害を伴う尿崩症患者はそうでない患者に比べ、血清ナトリウム濃度150mEq/L以上の高ナトリウム血症の発症頻度が有意に高く、さらに重症感染症による入院や死亡率も有意に高いと報告されている2)。続発性中枢性尿崩症やSIADHの予後は、原因となる基礎疾患に依存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」3)に記載された診断の手引きを表3および表4に示す。表3 中枢性尿崩症の診断の手引きI.主症候1.口渇2.多飲3.多尿II.検査所見1.尿量は成人においては1日3,000mL以上または40mL/kg以上、小児においては2,000mL/m2以上2.尿浸透圧は300mOsm/kg以下3.高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05mL/kg/分で120分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2)。4.水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300mOsm/kgを超えない。5.バソプレシン負荷試験(バソプレシン[ピトレシン注射液]5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿)で尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する(注3)。III.参考所見1.原疾患の診断が確定していることがとくに続発性尿崩症の診断上の参考となる。2.血清ナトリウム濃度は正常域の上限か、あるいは上限をやや上回ることが多い。3.MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4)。IV.鑑別診断多尿を来す中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。1.心因性多飲症:高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。2.腎性尿崩症:家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性[腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症)、薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの]に分類される。バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。[診断基準]確実例:Iのすべてと、IIの1、2、3、またはIIの1、2、4、5を満たすもの。[病型分類]中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である。1.特発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの。2.続発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの。3.家族性中枢性尿崩症:原則として常染色体顕性遺伝形式を示し、家族内に同様の疾患患者があるもの。(注1)著明な脱水時(たとえば血清ナトリウム濃度が150mEq/L以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり、避けるべきである。多尿が顕著な場合(たとえば1日尿量が1万mLに及ぶ場合)は、患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する。多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や、デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には、水制限試験にて尿濃縮力を評価する。(注2)血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149mEq/Lのときの推定血漿バソプレシン濃度が1.0pg/mL未満(中枢性尿崩症)。(注3)本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり、バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない。なお、デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり、バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない。(注4)高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある。表4 SIADHの診断の手引きI.主症候脱水の所見を認めない。II.検査所見1.血清ナトリウム濃度は135mEq/Lを下回る。2.血漿浸透圧は280mOsm/kgを下回る。3.低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない。4.尿浸透圧は100mOsm/kgを上回る。5.尿中ナトリウム濃度は20mEq/L以上である。6.腎機能正常7.副腎皮質機能正常8.甲状腺機能正常III.参考所見1.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。2.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。3.血漿レニン活性は5ng/mL/時間以下であることが多い。4.血清尿酸値は5mg/dL以下であることが多い。5.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。IV.鑑別診断低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群2.ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症、塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群、下痢、嘔吐、利尿剤の使用3.細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)[診断基準]確実例:IおよびIIのすべてを満たすもの。中枢性尿崩症では、多尿の鑑別診断として、浸透圧利尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以上)と低張性多尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以下)を区別する必要がある。実臨床では、糖尿病に伴う浸透圧利尿の頻度が高い。低張性多尿の場合は、高張食塩水負荷試験、水制限試験およびバソプレシン負荷試験、デスモプレシン試験により、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症を鑑別する。SIADHでは、低ナトリウム血症と低浸透圧にもかかわらずAVP分泌の抑制がみられないことが診断上重要である。血清総蛋白や尿酸値の低下など血液希釈所見を伴うことが多い。SIADHは除外診断であり、低ナトリウム血症を呈するすべての疾患が鑑別対象となる。とくに続発性副腎皮質機能低下症は、SIADHと同様に細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症を呈し臨床像も類似するため、両者の鑑別は極めて重要である。3 治療中枢性尿崩症の治療にはデスモプレシンを用いる。水中毒を避けるため、最小用量から開始し、尿量、体重、血清ナトリウム濃度を確認しながら投与量および投与回数を調整する。その際、少なくとも1日1回はデスモプレシンの抗利尿効果が切れる時間帯を設けることが、水中毒による低ナトリウム血症の予防に重要である。SIADHの治療では、血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下で中枢神経症状を伴い迅速な治療を要する場合には、3%食塩水にて補正を行う。ただし、急激な補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)の危険性があるため、血清ナトリウム濃度を頻回に測定しつつ、補正速度は24時間で8~10mEq/L以下にとどめる。血清ナトリウム濃度が125mEq/L以上の軽度かつ慢性期の症例では、1日15~20mL/kg体重の水分制限を行う。水分制限で改善が得られない場合には、入院下でAVPV2受容体拮抗薬トルバプタンの経口投与を検討する。4 今後の展望わが国においてAVP濃度は従来RIA法で測定されているが、抗体が有限であること、測定のためにアイソトープを使用する必要があること、さらに結果判明まで数日を要することなど、複数の課題を抱えている。近年、質量分析法によるAVP測定が試みられており、これらの課題を克服できるのみならず、高張食塩水負荷試験の所要時間短縮につながる可能性が報告されており4)、次世代の検査法として期待されている。一方、SIADHの治療においては、ODSの予防を重視した安全な低ナトリウム血症治療を実現するため、機械学習を用いた治療予測システムの開発が進められている5)。現在は社会実装に向けた精度検証が進行中であり、将来的には実臨床における安全かつ効率的な治療選択を支援するツールとなることが期待される。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報中枢性尿崩症(CDI)の会(患者とその家族および支援者の会) 1) 難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72) 2) Arima H, et al. Endocr J. 2014;61:143-148. 3) 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班. 日内分泌会誌. 2023;99:18-20. 4) Handa T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30.[Epub ahead of print] 5) Kinoshita T, et al. Endocr J. 2024;71:345-355. 公開履歴初回2025年10月17日

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プライマリケアで利用可能な、新たな肝臓のリスク予測モデル/BMJ

 スウェーデン・カロリンスカ研究所のRickard Strandberg氏らの研究チームは、プライマリケアで容易に入手できるバイオマーカーを用いて、肝臓の不良なアウトカムのリスク予測モデル「CORE(cirrhosis outcome risk estimator)」を開発。観察研究により、COREは一般集団の肝関連アウトカムの予測において、現時点で第1選択として推奨される検査法であるFIB-4を上回る性能を発揮し、肝疾患リスク患者を層別化する新たな手段となりうることを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年9月29日号に掲載された。COREで主要有害肝アウトカムの10年リスクを評価 研究チームは、プライマリケア環境で主要有害肝アウトカム(major adverse liver outcome:MALO)の発生を予測する新たなリスクモデルとしてCOREを開発し、その妥当性の検証目的で住民ベースのコホート研究を実施した(特定の助成は受けていない)。 モデル開発には、既知の肝疾患歴がなく、プライマリケアまたは産業保健健診で血液検査を受けたスウェーデンのAMORISコホート(48万651例)のデータを用いた。また、外的妥当性の検証は、フィンランドのFINRISKとHealth2000(2万4,191例)、および英国のUK Biobank(44万9,806例)のデータを用いて行い、FIB-4スコアと比較した。 COREは、年齢、性別、AST値、ALT値、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)値で構成された。 代償性・非代償性肝硬変、肝細胞がん、肝移植、肝関連死の複合アウトカムをMALOとし、その10年リスクを評価した。識別能、較正能、臨床的有用性が優れる 追跡期間中央値28年の時点で、7,168件のMALOイベントが観察された。10年時のMALO発生リスクは0.27%であった。 訓練データにおける10年後の受信者動作特性曲線下面積(ROC-AUC)は、FIB-4が79%(95%信頼区間[CI]:78~80)であったのに対し、COREは88%(95%CI:87~89)を達成し、識別能が優れることが示された。検証コホートにおける10年後のCOREのROC-AUC(FINRISK:81%[95%CI:77~87]、UK Biobank:79%[78~80])は訓練データよりも低かったが、FIB-4のROC-AUCは73%(データを入手できたUK Biobankの値)と訓練データのCOREよりも低かった。 COREの較正能は3つのコホートのすべてで良好であり、リスクの予測値と観察値に良好な一致を認めた。また、決定曲線分析では、あらゆるリスク閾値においてCOREはFIB-4よりも高い純利益(net benefit)をもたらすことが示され、優れた臨床的有用性が確認された。 著者は、「一般集団にはMALOのリスクの高い人々(とくに2型糖尿病や肥満者)が多く、肝硬変や肝細胞がんなどの重大な合併症が発生する前に患者を発見するには、安価でプライマリケアで容易に可能な非侵襲的検査が求められる」「COREは、将来のMALO予測に関してFIB-4を上回る性能を示し、プライマリケアにおいてMALOリスクを有する臨床的に重要な患者を特定するための有望な第1選択の検査法となる可能性がある」としている。

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地中海式ダイエットは歯周病も予防する?

 地中海式ダイエットは、心臓病や神経変性疾患、がんなどさまざまな健康問題の予防に役立つことが示唆されているが、歯周病の重症度とも関連することが、新たな研究で明らかにされた。地中海式ダイエットの遵守度が低い人や赤肉の摂取頻度が高い人では、歯周病が重症化しやすい傾向があることが示されたという。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のGiuseppe Mainas氏らによるこの研究結果は、「Journal of Periodontology」に9月15日掲載された。 地中海式ダイエットは、果物、野菜、全粒穀物、ナッツ類、豆類、オリーブ油などの健康的な脂肪の摂取を重視し、魚、鶏肉、脂身の少ない肉、乳製品を適度に摂取する一方で、赤肉、菓子類、甘い飲み物、バターなどを控える食事法である。Mainas氏は、「われわれの研究結果は、バランスの取れた地中海式ダイエットが歯周病や全身性炎症を軽減し得ることを示唆している」とKCLのニュースリリースの中で述べている。 本研究では、KCLの口腔・歯科・頭蓋顔面バイオバンク研究に参加した195人の患者のデータを分析し、食事と歯周病、歯茎および全身の炎症との関連を検討した。対象者は、完全な歯科検診を受け、血液サンプルを提供し、食物摂取頻度調査票(FFQ)に回答した。研究グループは、FFQへの回答内容から地中海式ダイエットの遵守度を評価した。また、血液サンプルから、炎症マーカーであるC反応性蛋白(CRP)、歯周病に関与する酵素であるMMP-8(マトリックスメタロプロテアーゼ-8)、炎症や免疫応答に関与するさまざまなサイトカイン(インターロイキン〔IL〕-1α、IL-1β、IL-6、IL-10、IL-17)の血清レベルを測定した。 195人のうち112人は地中海式ダイエットの遵守度が高い群に分類された。多変量解析の結果、地中海式ダイエットの遵守度が高い群では低い群に比べて、重度の歯周病(ステージⅢ、Ⅳ)のオッズが有意に低いことが明らかになった(オッズ比0.35、95%信頼区間0.12〜0.89)。食品群別に検討すると、赤肉の摂取頻度の高さは重度の歯周病と独立して関連していた(同2.75、1.03〜7.41)。さらに、歯周病の重症度は炎症マーカー(CRP、IL-6)と関連しており、IL-6との関連は交絡因子を調整後も有意だった。一方で、野菜や果物などの植物由来の食品を多く摂取すると、炎症マーカーが低くなる傾向が認められた。 Mainas氏は、「歯周病の重症度、食事、そして炎症の間には関連性がある可能性があるため、患者の歯周病に対する治療方針を決める際には、これらの側面を総合的に考慮する必要がある」と話している。 研究グループは、タンパク質を多く含む食事は有害な細菌の増殖を促す口腔環境を作り出す可能性があると指摘する。論文の上席著者でKCL歯周病学教授のLuigi Nibali氏は、「バランスの取れた食事が歯周組織の健康状態を維持する上で役割を果たしていることを示唆するエビデンスが増えつつある。われわれの研究は、栄養価が高く植物性食品を多く含む食事が歯肉の健康改善に寄与する可能性があることを示している。しかしながら、人々が歯肉の健康を管理するための個別化されたアプローチを開発するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。

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2型糖尿病患者は敗血症リスクが2倍

 2型糖尿病患者は、生命を脅かすこともある敗血症のリスクが2倍に上るとする研究結果が、欧州糖尿病学会年次総会(EASD2025、9月15~19日、オーストリア・ウィーン)で発表された。西オーストラリア大学のWendy Davis氏らの研究によるもので、特に60歳未満の患者はよりリスクが高いという。 研究者らが研究背景として示したデータによると、敗血症に罹患した患者の10%以上は死に至るという。また、2型糖尿病患者は、敗血症による死亡または重篤な状態へ進行するリスクが、糖尿病でない人に比べて2~6倍高いことがこれまでにも報告されている。ただし、最新のデータは限られていた。 今回の研究では、オーストラリアの一般住民、約15万7,000人のコミュニティーで実施された縦断的観察研究(フリーマントル糖尿病研究フェーズII)の参加者の敗血症罹患率が調査された。2008~2011年の研究参加登録の時点で2型糖尿病を有していた成人患者1,430人を特定した上で、年齢、性別、居住地域をマッチングさせた2型糖尿病でない5,720人の対照群を設定。登録時点における平均年齢は66歳で、男性52%であり、2型糖尿病群では敗血症による入院歴が2.0%に見られ、対照群でのその割合は0.8%だった。 平均10年間の追跡期間中に、2型糖尿病群の169人(11.8%)と対照群の288人(5.0%)が敗血症に罹患していた。年齢、性別、敗血症による過去の入院歴、2型糖尿病以外の慢性疾患などの潜在的な交絡因子を調整した後、2型糖尿病群は敗血症を発症するリスクが対照群の2倍に上ることが明らかになった。特に、年齢が41~50歳の集団では、2型糖尿病を有している場合に敗血症リスクが14.5倍高くなることが分かった。 また、2型糖尿病患者では、喫煙習慣がある場合に敗血症リスクが83%上昇することも示された。Davis氏は、「われわれの研究により、喫煙、高血糖、糖尿病の合併症など、修正可能な敗血症のリスク因子がいくつか特定された。これは、敗血症リスクを抑えるために、患者自身でも実行可能な対策が存在していることを強調するものと言える」と話し、「2型糖尿病患者が敗血症を防ぐ最善の方法は、禁煙、高血糖の是正、そして糖尿病に伴う細小血管および大血管の合併症を予防することだ」と付け加えている。 2型糖尿病が敗血症のリスクを押し上げるメカニズムとしては、研究者らによると、高血糖が免疫機能を低下させることの影響が考えられるという。実際、2型糖尿病患者は、尿路感染症や皮膚感染症、肺炎などの感染症にかかりやすく、それらの感染症から敗血症へと進展することがある。また、糖尿病により生じていることのある血管や神経のダメージが、敗血症のリスクをより高める可能性もあるとのことだ。ただし研究者らは、今回の研究手法では2型糖尿病と敗血症の間の直接的な因果関係の証明にはならないことを、留意点として挙げている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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事例33 糖尿病にグルベス配合錠の査定・復活【斬らレセプト シーズン4】

解説事例は、調剤薬局レセプトと突き合わせて点検を行う「突合点検」の結果、C事由(医学的理由による不適当)が適用されて査定となりました。よく見ると、約1年前のレセプトに対する査定です。保険者による再審査の結果に基づいて「突合点検」が実施されたものと推測できます。最近、保険者による審査に基づく査定が増えているように思われます。必ず当院に責があるのかを見定めないと減収につながりますので注意が必要です。事例の過去カルテを参照しました。他院からの紹介初診であり、診療情報提供書にて「グルベス配合錠継続使用」の依頼があり投与していました。しばらくしてグルベス配合錠をいったん停止してMDI(multiple daily injections)に切り替えていました。査定のあった2024年5月には患者の希望によりBOT(Basal Supported Oral Therapy)への切り替えを行っていました。その月には、「ヒューマログ(自己注射薬)」と改めて投与された「グルベス配合錠」を併用する院外処方箋が発行されていました。カルテには、「BOTへの変更希望あり。グルベス再開。リスク軽減のためにヒューマログ併用」と記録されていました。さらに、該当月以降を確認すると、糖尿病に関わる薬剤は「グルベス配合錠」単独でした。「グルベス配合錠」の添付文書には、「2型糖尿病治療の第1選択薬として用いないこと」とあります。しばらく投与のない「グルベス配合錠」が「ヒューマログ」との併用として突然に処方されたと捉えられ、第1選択薬として用いられたと判断されたようです。当時のカルテの写しと、「グルベス配合薬」は第1選択薬ではなく再開であること、ヒューマログはBOTへの移行途上の一時的併用であったことを説明して再審査請求したところ復活しています。

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国が進める医療DX、診療や臨床研究の何を変える?~日本語医療特化型AI開発へ

 内閣府主導の国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」では、分散したリアルワールドデータの統合とデータに基づく医療システムの制御を目指し、日本語医療LLM(大規模言語モデル)や臨床情報プラットフォームの構築、患者・医療機関支援ソリューションの開発などを行っており、一部はすでに社会実装が始まっている。2025年9月3日、メディア勉強会が開催され、同プログラム全体のディレクターを務める永井 良三氏(自治医科大学)のほか、疾患リスク予測サービスの開発および受診支援・電子カルテ機能補助システムの開発を目指すグループの代表を務める鈴木 亨氏(東京大学医科学研究所)・佐藤 寿彦氏(株式会社プレシジョン)が講演した。厚労省主導の医療DXとの関係、プログラムの全体像 厚生労働省主導の医療DXが、診療行為に必要最低限の3文書(健康診断結果報告書、診療情報提供書、退院時サマリー)6情報(傷病名、感染症、薬剤アレルギーなど、その他アレルギーなど、検査、処方)に絞って広く全国規模で収集・利活用(全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DX)を目指すものであるのに対し、本プログラムではデータ取得対象は限定されるものの電子カルテデータに加えPHR、介護データ、医療レセプトや予後データなど含めたデータを収集し、臨床情報プラットフォーム構築や医療機関支援ソリューションの開発などを行うことを目的としている。2つのプロジェクトは、将来的には相互に連携していくことが期待される。 具体的には、SIPでは大きく以下の5つの課題が設定されており、医療機関・大学・関連企業からそれぞれ研究開発責任者が選任されている1)。課題A:研究開発支援・知識発見ソリューションの開発(臨床情報プラットフォーム構築と拠点形成、PHRによる突然死防止・見守りサービス開発など)課題B:患者・医療機関支援ソリューションの開発(受診支援・電子カルテ機能補助システムの開発、症例報告・病歴要約支援システム開発を通じた臨床現場支援など)課題C:地方自治体・医療介護政策支援ソリューションの開発課題D:先進的医療情報システム基盤の開発(ベンダーやシステムの垣根を超えた医療情報収集、僻地診療支援のためのクラウド型標準電子カルテサービスの開発など)課題E:大容量リアルタイム医療データ解析基盤技術の開発(大規模医療文書・画像の高精度解析基盤技術の開発) 同プログラムは2023年からの5年計画で進められており、可能なものから随時社会実装を進めつつ、今後は医療データプラットフォームの中核的病院への導入などを目指している。医療テキスト800億トークンを学習させた日本語医療LLMを構築 さらに令和5年度補正予算により生成AIの活用プロジェクトが開始され、日本語医療LLMの開発が進み、上記の各プロジェクトにおける応用が始まっている。現在世界中で使われている主なLLMでは、たとえばOpenAIのGPT-3の学習に使われた言語として日本語は0.11%に過ぎず、これらのLLMをベースに医療LLMを構築・利用した場合、・診断を行うLLMにおいて、日本人の症例や日本の疫学ではなく、英語圏の症例や疫学がベースに出力される・治療法を推奨するLLMにおいて、日本の医療/保険制度や法律に合わない出力がされるといった問題が生じうる。また、データ主権の観点からも、現在各国で政府主導の自国語LLM開発が進んでいる背景がある。 国立情報学研究所の相澤 彰子氏らは、さまざまな実臨床での利用に展開するためのベースモデルとして、医療テキスト800億トークンを学習させた日本語医療LLMのプレビュー版をすでに構築、医師国家試験で77~78%のスコア(注釈:尤度ベースと呼ばれる正解の算出方法に基づく)を達成した。開発したモデルは、推論時に利用するパラメータ数が220億と比較的軽量であるにも関わらず、700億クラスの海外モデルに匹敵する性能を示した。 この医療LLMはSIPの各プロジェクトへの組み入れが始まっており、診療現場の会話からカルテを下書きし鑑別疾患を提示するシステムや、感染症発生届の下書き支援システムなどの開発が行われている。また、計算機科学者と医師がタッグを組む形で、循環器用医療LLM、がん病変CT画像用医療LLM、健診支援医療LLMの開発がそれぞれ進められているという。電子カルテを活用した臨床情報プラットフォームや診断困難例サーチシステムがすでに始動 電子カルテには、診療録、検査データ、手術レポートなどの多くの情報が集積しているが、それらを匿名化・統合した状態で臨床研究に活用するには人的・時間的に大きな負担がかかっていた。SIPの課題A1として取り組まれている「臨床情報プラットフォーム構築による知識発見拠点形成」では、CLIDAS研究2)と称して多施設から複数のモダリティの診療データを標準化・収集するシステムを構築。国内11大学・2ナショナルセンターの電子カルテはすでに統一・連携されている。循環器領域では、PCI後のスタチン強度と予後の関係について3)など、CLIDASデータを用いた研究成果がすでに発表、論文化されているものもあり、今後も本データの臨床研究への活発な活用が期待される。 鈴木氏が責任者を務める課題A-3「臨床情報プラットフォームと連携したPHRによるライフレコードデジタルツイン開発」グループでは、NTTグループ約10万人の健診データ・約15年の追跡データを活用し、東京大学医科学研究所のスーパーコンピュータで疾患リスク予測モデルのアルゴリズム構築に着手。健診データを元に将来の疾患リスク(糖尿病・高血圧症・脂質異常症・心房細動)、検査や予防法の推奨などを提示する疾患リスク予測サービスの開発を行っている。将来的には、AIを用いた保健指導への展開も視野に開発中という。 佐藤氏が責任者を務める課題B-2「電子問診票とPHRを用いた受診支援・電子カルテ機能補助システムの開発」グループでは、日本内科学会地方会のデータ化された症例報告(約2万5千例)を基に、鑑別診断の際に参考となる疾患や病態を検索できるシステム(診断困難例ケースサーチ J-CaseMap)をすでに社会実装済で、日本内科学会会員は無料で利用できる。そのほか、電子カルテと連携した知識支援チャットボット(富士通と連携)や、再診時電子問診票、医療特化AI音声認識システムが開発中となっている。

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メトホルミンの使用が過体重・肥満成人の認知症・死亡リスク低下と関連

 メトホルミンが処方されているBMI25以上の過体重または肥満の成人では、BMIカテゴリーにかかわらず、認知症および全死亡のリスクが低いことを示すデータが報告された。台北医学大学(台湾)のYu-Liang Lin氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes, Obesity and Metabolism」に8月6日掲載された。 メトホルミンは多くの国で2型糖尿病の第一選択薬として古くから使用されており、血糖降下以外の副次的作用に関するエビデンスも豊富。同薬の副次的作用の一つとして、認知症のリスクを抑制する可能性が示唆されている。Lin氏らは、メトホルミンが処方されることの多い過体重または肥満を有する患者における、認知症罹患率および全死亡率に関する長期的なデータを解析し、同薬の使用がそれらのリスク低下と関連しているか否かを検討した。 この研究には、世界各地の医療機関の電子医療記録を統合したリアルワールドのデータベース(TriNetX global federated health research network)が用いられた。過体重・肥満に該当する患者をBMIに基づき後述の4群に分類。BMIカテゴリーごとに、傾向スコアマッチングにより患者特性の一致するメトホルミン使用群とメトホルミン非使用群を設定し、カプランマイヤー法を用いて10年間の追跡期間中の認知症罹患率と全死亡率を比較した。 解析対象者数は、BMI25~29.9のカテゴリーが13万2,920人、同30~34.9が14万2,723人、35~39.9が9万4,402人、40以上が8万2,732人だった。解析の結果、追跡期間中の認知症罹患率と全死亡率は、全てのBMIカテゴリーでメトホルミン使用群の方が有意に低いことが示された。具体的には、認知症罹患のハザード比(95%信頼区間)は前記のBMIカテゴリーの順に、0.875(0.848~0.904)、0.917(0.885~0.951)、0.878(0.834~0.924)、0.891(0.834~0.953)であり、全死亡については0.719(0.701〜0.737)、0.727(0.708〜0.746)、0.717(0.694〜0.741)、0.743(0.717〜0.771)であった。 著者らは、「多施設の大規模なデータを統合したコホート研究において、メトホルミンの使用は過体重・肥満者における認知症および全死亡リスクの低下と関連していた。この保護効果は全てのBMIカテゴリーで有意だったが、カテゴリー間に差が認められた」と結論付けている。また、「これらの結果は、メトホルミンが過体重・肥満者の認知症リスクを抑制する可能性を示唆している。その根底にあるメカニズムを探るために、さらなる研究が必要とされる」と付け加えている。

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糖尿病性足壊疽の治療期間【1分間で学べる感染症】第35回

画像を拡大するTake home message糖尿病性足壊疽の治療期間は、外科的介入の有無とその程度により決定する。糖尿病性足壊疽(Diabetic Foot Infection)は、糖尿病患者において一般的かつ重要な合併症です。感染が深部まで波及し、骨髄炎を合併するケースもあり、適切な治療期間の判断は臨床経過と予後に直結します。実際の治療期間は、感染の深さ、外科的処置の内容、組織の血流状態、病原体の同定、宿主因子など、複数の要素を加味して決定されます。糖尿病性足壊疽の抗菌薬治療期間については、明確なエビデンスは限られていますが、これまでの研究と専門家のコンセンサスを基に、柔軟かつ個別性のある判断が求められます。ここでは、主に感染の深さと外科的介入の有無に基づいて、抗菌薬治療期間の目安を整理していきましょう。パターン1)骨髄炎あり・手術介入なし(6週間)骨髄炎(osteomyelitis)が存在しながら、手術やデブリードマンが行われていない場合、原則として6週間の抗菌薬治療が推奨されます。これは、骨組織への薬剤到達が困難であり、完全に感染を除去するためには長期間の治療が必要とされるためです。培養感受性に基づいた適切な抗菌薬の選択が必要です。パターン2)骨髄炎あり・デブリードマン介入あり(切断なし)(3~6週間)外科的デブリードマンにより感染組織が部分的に除去されているが、根治的切断には至っていない場合は、3~6週間の治療が推奨されています。近年、3週間と6週間の治療を比較したランダム化比較試験において、明確な差を認めなかったことから、感染制御状況や創部の治癒経過によっては短縮可能な症例があることが示唆されています。ただし、治療期間の短縮には慎重な判断と十分な経過観察が必要です。パターン3)骨髄炎なし・皮膚軟部組織感染症のみ(10~21日)感染が骨に波及しておらず、皮膚や皮下組織・筋膜などの軟部組織感染症のみである場合、10~21日間の抗菌薬治療が標準的とされています。2021年の研究では、10日間と21日間の治療を比較したところ、重症でない症例においては10日間の短期療法でも良好な臨床成績が得られたことが報告されています。ただし、感染の重症度や全身状態、創部の大きさによって、柔軟に調整する必要があります。パターン4)皮膚軟部組織感染症あるいは骨髄炎・根治的足切断あり(0~48時間)感染部位が完全に切除された、いわゆる根治的切断(definitive amputation)が行われた場合、抗菌薬の投与期間はきわめて短く、0~48時間で済むことがあります。これは、感染源の除去が完全であると判断された際の周術期抗菌薬投与に相当し、治療というよりも予防的意味合いが強いケースに該当します。ただし、術中の所見や培養結果、病理検査に基づいて再評価が必要です。感染が残存している可能性がある場合には、より長期間の治療が必要になるため、術中診断が鍵を握ります。糖尿病性足壊疽の治療期間は一律ではなく、感染の深さ、外科的介入、病態の安定性に応じて個別化されたアプローチが求められます。抗菌薬の使い過ぎによる耐性菌出現や、逆に短すぎる治療による再発のリスクを避けるためにも、これまでの臨床試験と専門家のコンセンサスを理解したうえで、治療方針を柔軟に調整することが大切です。1)Lipsky BA, et al. Clin Infect Dis. 2012;54:e132-e173.2)Rossel A, et al. Endocrinol Diabetes Metab. 2019;2:e00059.3)Tone A, et al. Diabetes Care. 2015;38:302-307.4)Gariani K, et al. Clin Infect Dis. 2021;73:e1539-e1545.5)Pham TT, et al. Ann Surg. 2022;276:233-238.6)Cortes-Penfield NW, et al. Clin Infect Dis. 2023;77:e1-e13.

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