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スタチンはくも膜下出血リスクを下げる?~日本のレセプトデータ

 スタチン使用によるくも膜下出血予防効果は、実験動物モデルやいくつかの臨床試験で検討されているが結論は得られていない。今回、東京理科大学の萩原 理斗氏らが日本のレセプトデータベースを用いて症例対照研究を実施したところ、スタチン使用がくも膜下出血リスクの減少と有意に関連していたことがわかった。Stroke誌オンライン版2025年7月8日号に掲載。 本研究では、2005年1月~2021年8月に新たにくも膜下出血(ICD分類第10改訂コードI60)と診断されて入院した患者を症例とし、症例1例につき4例の対照を無作為に選択し、incidence density samplingを用いて年齢、性別、追跡期間でマッチングした。スタチン曝露(使用頻度、期間)はくも膜下出血発症前に評価した。患者特性で調整された条件付きロジスティック回帰を使用して、スタチン使用とくも膜下出血リスクの関連を評価し、さらに、この関連が高血圧・糖尿病・脳血管疾患・未破裂頭蓋内動脈瘤の既往、降圧薬の使用によって差があるかどうか調査した。 主な結果は以下のとおり。・症例3,498例と対照1万3,992例が同定され、症例群の12.2%と対照群の12.7%でスタチンを使用していた。・患者特性による調整後、スタチン使用はくも膜下出血リスクの有意な低下と関連していた(調整オッズ比:0.81、95%信頼区間:0.69~0.95)。・この関連は高血圧と脳血管疾患の既往歴により有意な影響があった(相互作用のp値:どちらも0.042)。 著者らは「これらの結果は、スタチンがくも膜下出血予防に役割を果たす可能性を示唆しており、とくに高血圧または脳血管疾患既往歴のある患者においてその効果が顕著であった」と結論している。

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第20回 血液でわかる「臓器年齢」とは?長寿の鍵は脳と免疫、そして生活習慣にあり?

「○○歳だけど、それより若く見られる」、「実年齢より老けて見られるけれど、健康には自信がある」。私たちの「年齢」は、暦通りの年齢(実年齢)や外見だけでは測れない部分があります。近年の研究では、体の中にある臓器一つひとつに、実年齢とは異なる「生物学的な年齢」があり、それは臓器ごとにも異なることがわかってきています。そしてこのほど、イギリスの研究機関が報告した研究1)により、血液検査だけで11もの臓器の「年齢」を推定し、それが将来の病気のリスクや寿命と深く関わっていることが示唆されました。約4万5,000人もの大規模なデータを解析したこの研究は、私たちが健康で長生きするためのヒントを与えてくれます。「推定臓器年齢」が予測する未来の病気研究チームは、血液中に含まれる約3,000種類のタンパク質をAIで分析し、脳、心臓、肺、腎臓といった11の主要な臓器の生物学的な年齢、すなわち「臓器年齢」を推定するモデルを開発しました。この「臓器年齢」と実年齢との差(年齢ギャップ)を調べたところ、興味深い知見が次々と判明しました。たとえば、この研究で推定された「心臓年齢」が実年齢より1歳高いごとに、将来の心不全のリスクは83%も上昇していました。同様に、研究内で推定された「脳年齢」が高いことは、アルツハイマー病の強力な予測因子となっていました。とくに、脳が実年齢より著しく老化している人は、アルツハイマー病のリスクが3.1倍にもなり、これは病気の遺伝的リスクを持つ人(APOE4を1コピー持つ人)と同程度でした。逆に、脳が若い人はリスクが74%も減少し、これは遺伝的に病気になりにくい人と同等の保護効果でした。さらに、老化している臓器の数が増えれば増えるほど、死亡リスクは雪だるま式に増加して見られることもわかりました。「老化」臓器が8個以上ある人は、そうでない人に比べて死亡リスクが8.3倍にも跳ね上がっていたのです。あなたのライフスタイルが「推定臓器年齢」を大きく左右するでは、研究で推定されたこれらの「臓器年齢」は変えられない運命なのでしょうか?答えは「ノー」だと考察されています。この研究の中で評価された最も重要な知見の一つは、「推定臓器年齢」が日々のライフスタイルに密接に関連すると明らかにしたことです。研究では、以下のようなライフスタイルと推定臓器年齢の関連が示されました。臓器を「老化」させる習慣喫煙:多くの臓器の老化と関連していました。過度な飲酒:こちらも複数の臓器の老化を促進する要因でした。加工肉の摂取:日常的にソーセージやハムといった加工肉を食べる習慣は、臓器年齢を高める傾向がありました。不眠:睡眠不足や不眠の悩みは、臓器の老化にもつながっているようです。臓器を「若々しく」保つ習慣活発な運動:とくに、息が上がるような活発な運動は、多くの臓器を若々しく保つのに効果的な可能性があると考えられました。油の多い魚の摂取:いわしやサバなどの青魚に含まれる脂は、健康のアウトカムに関連すると知られていますが、臓器年齢の若返りにも貢献する可能性が示されました。鶏肉の摂取:赤身肉よりも鶏肉を選ぶことが、臓器の若さを保つ秘訣なのかもしれません。高学歴:教育レベルの高さも、臓器の若々しさと関連していました。これは、健康に対する知識やヘルスリテラシーの高さが反映されているのかもしれません。また、興味深いことに、グルコサミン、肝油(タラの肝油)、マルチビタミン、ビタミンCといったサプリメントや市販薬を摂取している人は、とくに腎臓、脳、膵臓が若い傾向にあることもわかりました。ただし、これらはあくまで関連性を示したもので、直接的な因果関係を証明するものではない点には注意が必要です。たとえば、こうしたものを飲んでいる人は普段から健康への意識が高い傾向があり、そうした傾向が臓器を若々しく維持するのに貢献していたのかもしれません。長寿の秘訣は「若い脳」と「若い免疫能」にあり?最後に、この研究は「どの臓器の若さが長寿に最も貢献するのか?」という問いにも答えようとしています。分析の結果、数ある臓器の中でも、「脳」と「免疫能」の推定年齢が、長寿と特に強く関連していることが示唆されました。脳だけ、あるいは免疫能だけが若い人でも死亡リスクは40%以上低下しましたが、脳と免疫の両方が若い人は、死亡リスクが56%低下することと関連していたのです。脳は全身の働きをコントロールする司令塔であり、免疫システムは病気から体を守る防御機構です。この2つのシステムの若さを保つことが、健康寿命を延ばすための鍵となりそうです。この研究は、血液という身近なサンプルから、私たちの体の内部で起きている老化のサインを読み解く新たな扉を開きました。「臓器年齢」を推定し、ライフスタイルを見直すことで、病気を未然に防ぎ、より健康な未来を自ら作り出す。そんな時代が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Oh HSH, et al. Plasma proteomics links brain and immune system aging with healthspan and longevity. Nat Med. 2025 Jul 9. [Epub ahead of print]

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ダイエット飲料より水の方が血糖・体重管理に有利

 体重を減らして血糖コントロールを良好にしたいなら、ダイエット飲料ではなく、水を飲むべきかもしれない。米国糖尿病学会学術集会(ADA2025、6月20~23日、シカゴ)で発表された小規模な研究の結果であり、水を飲むように割り当てられた女性はダイエット飲料を飲むように割り当てられた女性よりも、体重が大きく減り、糖尿病が寛解した患者も多かったという。主任研究者であり、糖尿病治療サポートツールなどを手掛けるD2Type Health社のCEOであるHamid Farshchi氏は、「われわれの研究結果は、ダイエット飲料は体重や血糖値の管理に悪影響を及ぼさないとする、これまでの米国での一般的な考え方に疑問を投げかけるものだ」と述べている。 米疾病対策センター(CDC)によると、米国人の約5人に1人が毎日ダイエット飲料を飲んでいるという。ダイエット飲料はカロリーについてはほぼゼロだが、本研究の発表者らは、健康への影響という点ではゼロとは言えない可能性があることを、研究の背景として指摘している。例えば、2023年7月に「Diabetes Care」誌に掲載された研究によると、人工甘味料を多く摂取している人は2型糖尿病を発症する可能性の高いことが明らかにされている。その論文の著者らは、人工甘味料が糖や脂質の代謝を妨げたり、腸内細菌叢を変化させたり、食欲を刺激したりする可能性があると推測していた。 今回報告された研究の対象は、過体重で2型糖尿病の女性81人。その半数は週に5回、昼食後に水を飲む群、残りの半数は水ではなくダイエット飲料を飲む群に割り当てられ、6カ月間の減量プログラムと、その後1年間の体重維持プログラムに参加した。 介入終了時点で、水を飲んだ群の女性は体重が6.82±2.73kg減少していたのに対して、ダイエット飲料を飲んだ群の女性の減量幅は4.85±2.07kgと有意に少なかった(P<0.001)。さらに、水を飲んだ群の女性の90%が糖尿病の寛解を達成したのに対し、ダイエット飲料を飲んだ群でのその割合は45%にとどまっていた(P<0.0001)。また、インスリン抵抗性や中性脂肪などの検査値も、水を飲んだ群では有意に改善していた。 Farshchi氏は、「水を飲むように割り当てられた女性の大半が、糖尿病の寛解を達成した。この結果は、血糖値と体重を効果的に管理しようとする場合、甘味飲料の代わりにダイエット飲料を飲むのではなく、水を摂取することの重要性を浮き彫りにしている。わずかな行動変化であっても、長期的には健康状態に大きな差を生む可能性がある」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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妊婦の有害転帰、心血管の健康と社会的孤立が複合的に影響か

 有害な妊娠転帰(APO)は妊婦の約20%に発生し、その発生率は年々増加傾向にある。今回、妊娠中の心血管健康(CVH)はAPOに影響を及ぼす、とする研究結果が報告された。研究は東北大学大学院医学系研究科の大瀬戸恒志氏、石黒真美氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に5月29日掲載された。 APOは、妊娠中や分娩中、または産褥期に起こる好ましくない事象や合併症のことを指す。APOの病態は心血管疾患(CVD)との類似性が指摘されており、将来のCVD発症を予測することから「妊娠はストレステスト」とも表現される。そのため、CVDに対する予防策がAPOの発症予防にも有効かどうかの注目が高まっている。2022年、米国心臓協会はCVHを評価するための指標「Life’s Essential 8(LE8)」を提案した。LE8はCVDの予防のため、危険因子を管理し、人々の健康向上に寄与すると期待される。しかし、LE8を使用した包括的なCVH評価が出生前のケアで有益かどうかは依然として不明である。また、CVHの低さは抑うつ症状や社会的孤立と関連することが報告されている。しかし、これまでの研究では、精神的健康や社会的決定要因がCVHとAPOとの関係にどのような影響を与えるかは十分に検討されていない。このような背景から、著者らは日本人妊婦を対象に、LE8を用いて評価したCVHがAPOに及ぼす影響を評価する前向きコホート研究を実施した。さらに、心理的ストレス、社会的孤立、および収入における影響が加わることで生じる変化についても検討した。 本研究では、東北メディカル・メガバンク計画三世代コホート調査に参加した妊婦1万4,930人のデータを解析した。妊娠中のCVHの状態はLE8の8つの項目(食習慣・身体活動・喫煙・睡眠・Body mass index・血清脂質・血糖・血圧)を用いて評価した。APOは、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、早産、在胎不当過小児を含む複合アウトカムと定義した。 研究参加者のCVHを評価した結果、「高」が2,891人(19.4%)、「中等度」が1万1,498人(77.0%)、「低」が541人(3.6%)だった。そのうちAPOを発症した妊婦は、CVHが「高」、「中等度」、「低」の妊婦でそれぞれ、380人(13.1%)、1,772人(15.4%)、162人(29.9%)含まれた。「高」CVHを基準としたロバスト誤差分散を用いたポアソン回帰分析では、「中等度」CVH(相対リスク〔RR〕1.15、95%信頼区間〔CI〕1.03~1.28)および「低」CVH(RR 2.14、95%CI1.78~2.58)がAPOと関連していた(P<0.001〔傾向検定〕)。 心理的ストレス、社会的孤立、収入のサブグループ解析では、社会的孤立を報告した参加者においては、CVHレベルの低さがAPOとより強く関連することが示されたが、相互作用は統計的に有意ではなかった(P=0.247)。「低」CVHの妊婦のうち、社会的孤立を報告していた妊婦では、報告しなかった妊婦よりも出産時のAPOの有病率が高かった(36.4% vs. 27.4%)。この傾向は「高」CVHの妊婦では認められなかった(13.6% vs. 13.1%)。 本研究について著者らは、「今回の研究では、CVHレベルの低さとAPOの有病率の間に正の関連が認められた。また、社会的孤立を感じている妊婦では、そうでない妊婦と比較して、CVHレベルの低さとAPOとの関連が顕著であることが示された。これらの結果は、LE8がAPOのリスク評価に有用である可能性を示唆するとともに、社会的孤立を感じている低CVHの妊婦に対する支援策の必要性を示している」と述べている。 本研究は先行研究の約5倍の症例数が含まれているが、限界点として、CVH計測のタイミングが参加者間で異なっていたこと、妊娠経過が妊娠中の行動に影響を与えていた可能性があることなどを挙げている。

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推奨通りの脂質低下療法で何万もの脳卒中や心筋梗塞を回避可能か

 スタチンなどの脂質低下薬の使用が推奨される米国の患者数と実際にそれを使用している患者数との間には大きなギャップがあり、毎年何万人もの人が、脂質低下薬を服用していれば発症せずに済んだ可能性のある心筋梗塞や脳卒中を発症していることが、新たな研究で明らかにされた。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院疫学教授のCaleb Alexander氏らによるこの研究結果は、「Journal of General Internal Medicine」に6月30日掲載された。 Alexander氏らは、まず、米国国民健康栄養調査(NHANES)に2013年から2020年にかけて参加した40〜75歳までの米国成人4,980人のデータを解析した。このサンプルは、同じ年齢層の米国成人約1億3100万人を代表するように統計学的に重み付けされた。解析では、米国およびヨーロッパの脂質低下療法(LLT)に関する薬物治療ガイドラインが完全に実施された場合に、治療状況やアウトカムがどの程度改善されるかが予測された。解析は、米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)ガイドライン(2018年米国ガイドライン)、欧州心臓病学会(ESC)/欧州動脈硬化学会(EAS)ガイドライン(2019年EUガイドライン)、LDLコレステロール(LDL-C)低下のための非スタチン療法の役割に関するACC専門家決定方針(2022年米国決定方針)の3種類に基づいて行われた。 研究参加者の心血管リスクは、2018年米国ガイドラインを用いて、以下の順序で評価された;1)アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の有無、2)重度の原発性高コレステロール血症(LDL-Cが190mg/dL以上)、3)糖尿病で、LDL-Cが70~189mg/dL、4)現在LLTを実施中、5)糖尿病およびASCVDを伴わず、LDL-Cが70~189mg/dL。最後の項目については、Pooled Cohort Equations(PCE)を用いて10年間のASCVD発症リスクを推定し、低リスク、ボーダーラインリスク、中リスク、高リスクに分類した。また、臨床的心血管疾患(冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの自己申告)の既往が確認された者は「二次予防コホート」、それ以外は「一次予防コホート」と定義された。2019年EUガイドラインおよび2022年米国決定方針についても、2018年米国ガイドラインと同様の手法で層別化とリスク分類を行った。 NHANESの一次予防コホートに該当する1億1630万人のうち、現在LLTを受けている患者は23%であった。これに対し、LLTの適応基準を満たす患者(以下、適応患者)の割合は、2018年米国ガイドラインで47%、2019年EUガイドラインでは87%、2022年米国決定方針では47%と推定され、実施率は推奨に基づく想定を大きく下回っていることが示された。薬剤別に見ると、スタチンでは適応患者(適応率100%)のうち66%が治療を受けていたのに対し、エゼチミブでは適応患者(適応率31~74%)の4%のみが使用など、全ての治療法において、実施率は適応患者数を大きく下回っていた。 また、2018年米国ガイドライン通りにLLTが実施されていれば回避できたと推定される1年当たりの心血管系の有害イベント数は、冠動脈疾患による死亡で3万9,196件、非致死的な心筋梗塞で9万6,330件、冠動脈血行再建術で8万7,559件、脳卒中で6万5,063件に上った。さらに、ガイドラインごとに推定値に差はあるが、スタチン適応の患者全てが同薬を使用すれば平均LDL-C値は急激に低下し、心筋梗塞や脳卒中のリスクは最大で27%低下する可能性や、LLTでこれらのアウトカムを予防すれば、米国の医療費を年間253億~317億ドル(1ドル146円換算で3兆6900億~4兆6300億円)節約できる可能性のあることも示唆された。 研究グループは、患者教育およびスクリーニング方法の改善により、必要な人が確実にスタチンを使用できる体制の構築が重要であると強調している。

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MASLDの目標体重は?【脂肪肝のミカタ】第7回

MASLDの目標体重は?Q. MASLD治療の現状と体重の目標設定は?代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)に対して、本邦で推奨されている治療は食事・運動両面からの体重減量が基本である。そのほか、提案されている治療として併存疾患(2型糖尿病、肥満症、脂質異常症)に対する治療が挙げられる。高度の肥満症では、減量手術も選択肢となる1-3)。減量目標として、本邦を含むアジアでの非肥満MASLD症例も多いことを踏まえ、2024年に欧州肝臓学会ガイドラインでは、BMIに応じた体重減量の基準が設定された。具体的には、BMI 25.0kg/m2以上の症例では従来通り、体重5%以上の減量で脂肪化が改善し、7%以上の減量で炎症や線維化が改善するとされた。BMI 25.0kg/m2未満では体重3~5%の減量が妥当とされた(図1)2)。(図1)MASLDの体重減量の目標画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂

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糖負荷後1時間血糖値は死亡予測マーカーになるか/東北大学

 将来起こりうる心疾患や悪性腫瘍を予防したいとは誰もが思う。これらを予測する生物学的マーカーについては、長年さまざまな研究が行われている。今回、この予測マーカーについて、東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝・内分泌内科学分野の佐藤 大樹氏らの研究グループは、岩手県花巻市大迫町の平均62歳の住民を対象に糖摂取後の血糖値と寿命の関係を調査した。その結果、ブドウ糖負荷後1時間血糖値(1-hrPG)が170mg/dL未満の群では、1-hrPG170mg/dL以上の群と比較して、心臓疾患などの死亡が少ないことが明らかになった。この研究結果は、PNAS NEXUS誌2025年6月2日号に掲載された。死亡予測にブドウ糖負荷後1時間血糖値170mg/dLが目安になる可能性 研究グループは、大迫町研究を基に前向きコホート研究として、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を受けた993人の参加者を対象に糖負荷試験などの検査結果と死亡の関係を調査した。OGTT中に測定されたものを含む血液パラメーターを収集し、各パラメーターの中央値に基づいて研究対象を2つのグループに分け、両グループにおける追跡期間中の死亡率を分析した。さらに、正常耐糖能(NGT)の参加者595人を抽出し、1-hrPGと死亡率および死亡原因との関連性を分析した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間14.3年間では、評価したすべてのパラメーターのうち1-hrPGが、全原因死亡率と最も有意に関連していた。・NGTの参加者にフォーカスした場合、HarrellのC一致指数分析では、1-hrPG170mg/dL以上が全原因死亡率と最も強く関連していることが示された(0.8066)。・カプランマイヤー曲線では、3年目以降の追跡期間中、1-hrPG170mg/dL以上群の死亡率が、1-hrPG170mg/dL未満群のほぼ2倍であることが示された。・心血管疾患と悪性腫瘍は、高1-hrPG群の死亡率上昇に強く寄与していた。・1-hrPG170mg以上群は、NGTを有する参加者においては将来の死亡予測の強力な因子となる。・動脈硬化性疾患と悪性腫瘍は、共に死亡率の上昇に寄与していた。

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子ども向けネット動画にジャンクフードの宣伝が氾濫

 YouTubeで動画を見ている子どもは、キャンディーや加糖飲料、ファストフード、甘いスナックや塩辛いスナックなどのジャンクフードを宣伝するメッセージを頻繁に目にしていることが、新たな研究で明らかにされた。この研究によると、6~8歳の子どもの75%、3~5歳の子どもの36%が、自分のモバイル端末で自由に選んだYouTubeまたはYouTube Kidsの動画を視聴中にジャンクフードの宣伝にさらされていたという。米コネチカット大学ラッド・センター・フォー・フードポリシー・アンド・ヘルス(以下、ラッド・センター)のJennifer Harris氏らによるこの研究結果は、「Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics」に6月25日掲載された。 Harris氏は、「こうした宣伝目的の動画に登場する食品ブランドの半数以上は、米国の食品業界が自主規制プログラムである『子ども向け食品・飲料広告イニシアチブ(Children’s Food and Beverage Advertising Initiative)』参加企業のものだ」と指摘。「これらの企業は、子どもに対しては健康的な選択肢のみの宣伝に限定すると誓っているにもかかわらず、子どものインフルエンサーたちが、こうした企業のブランドの商品、例えばキャンディーや加糖飲料、甘いスナックや塩辛いスナックなどを頻繁に宣伝している」と述べている。 Harris氏らは今回の研究で、3〜8歳の子ども101人(3〜5歳53人、6〜8歳48人)が自宅で30分間YouTube動画を視聴する様子を、Zoomを通して観察した。その結果、上述の通り、6~8歳の子どもの75%、3~5歳の子どもの36%が動画の視聴中に食品ブランドの宣伝にさらされていることが判明した。曝露回数は、6〜8歳で平均8.7回、3〜5歳で4.1回であり、YouTubeで7.7回、YouTube Kidsで3.8回であった。 また、子どもの目にふれる食品の74%は、キャンディー、加糖飲料、ファストフード、甘い/塩辛いスナックであった。それらの食品の61%は、プロモーションとエンターテインメントの境目を意図的に曖昧にした形で動画のコンテンツ内に組み込まれており、サムネイルによる露出は23%、広告としての表示は17%にとどまっていたという。 さらに、こうした食品が登場していた動画の77%はライフスタイル系の動画で、71%はインフルエンサーなどの登場人物がその商品を実際に食べる、または食べようとしている様子を見せるものだったという。 連邦取引委員会(FTC)は、企業やインフルエンサーに対し、特に幼い子ども向けの動画でこうした一般的なステルスマーケティング(宣伝の意図を隠した宣伝)の手法をやめるよう呼びかけているとHarris氏らは指摘している。論文の筆頭著者であるラッド・センターのマーケティング・イニシアチブ部門長のFrances Fleming-Milici氏は、「まだとても幼い子どもたちが、YouTubeやYouTube Kidsで不健康な商品の宣伝にさらされている。こうした宣伝の多くはお気に入りの動画の中で小道具やストーリーの一部として組み込まれ、広告であることが分かりにくくなっている」と指摘し、「3歳という幼い子どもが、こうしたプラットフォームで過ごす時間はますます長くなっている。そのような状況を考慮すると、子どもの健康に有害な影響を与える商品のステルスマーケティングから彼らを守るための政策が必要だ」と付け加えている。 さらに、研究グループは、FTCが義務付けているにもかかわらず、食品や飲料のブランドが登場するどの動画においても、企業がそのコンテンツのスポンサーとなっていることが明示されていなかった点も問題点として指摘している。

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Lp(a)による日本人のリスク層別化、現時点で明らかなこと/日本動脈硬化学会

 第57回日本動脈硬化学会総会・学術集会が7月5~6日につくば国際会議場にて開催された。本稿ではシンポジウム「新たな心血管リスク因子としてのLp(a)」における吉田 雅幸氏(東京科学大学先進倫理医科学分野 教授)の「今こそ問い直すLp(a):日本におけるRWDから見えるもの」と阿古 潤哉氏(北里大学医学部循環器内科学 教授)の「二次予防リスクとしてのLp(a)」にフォーカスし、Lp(a)の国内基準として有用な値、二次予防に対するLp(a)の重要性について紹介する。Lp(a)に対する動き、海外と日本での違い リポ蛋白(a)[Lp(a)]が「リポスモールa」などと呼ばれていた1990年代、心血管疾患との関連性に関する多くのエビデンスが報告され、測定の第一次ブームが巻き起こっていた。あれから30年。現在の日本でのLp(a)測定率は、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクが高い患者でも0.42%に留まっている1)。いったいなぜ、測定のブームは衰退し、Lp(a)に関する研究の進展に年月を要しているのか。これについて吉田氏は「Lp(a)は霊長類にしかないリポ蛋白であり、動物実験を行うのが難しい分子である。また、進化の過程でプラスミノーゲン(PMG)遺伝子の部分的重複からアポAが進化する過程で、非常に複雑な構造になった。また、KIV2のサブタイプが2~40と多く存在することで、個人差が大きくなり検査が行いにくい側面がある。さらにSNPのような遺伝的要素も影響している」と説明し、治療薬開発の難しさにも言及した。 加えて、順天堂大学の三井田 孝氏が指摘しているように、測定キットの違いによる測定値のばらつき、測定値の国際標準化がなされていない点などもLp(a)測定の足かせになっている。 世界的な動向としては、米国、欧州、中国でコンセンサスステートメントが発表されており、「30mg/dL(75nmol/L)未満:低リスク、30~50mg/dL(75~125nmol/L):中リスク、50mg/dL(125nmol/L)超:ハイリスク」と濃度によってどのように治療を考えるべきかが示されている。その一方で、「日本動脈硬化学会ではこれらを検討できていない」とコメントした。国内最新研究から明らかになったこと そこで、吉田氏らは日本人のLp(a)濃度分布やLp(a)のASCVDとの関連を明らかにするため、多施設共同後ろ向きコホート研究(LEAP研究)を行った。 本研究は、研究参加施設(東京科学大学、国立循環器病研究センター、大阪医科薬科大学、金沢大学、慈恵会医科大学、杏林大学、順天堂大学)において血清Lp(a)が測定された外来・入院患者6,173例を対象に実施。各施設で得られたLp(a)測定値は、測定キット間の誤差を標準化するため、三井田氏らの校正式に基づきnmol/Lへ換算して集計された。その結果について、「本研究において使用されていたキットは積水メディカルとニットーボーメディカルの2種で、nmol/L換算すると中央値は20.88nmol/Lであった。また、冠動脈疾患(CAD)を有する群、ASCVDを有する群、家族性高コレステロール血症(FH)を有する群では、いずれもLp(a)が有意に高値であった。一方、糖尿病(DM)を有する群では有意に低値であった。この基礎疾患の違いによる結果は先行研究でも報告されているとおりであった」とコメントした。また、感度・特異度・ROC曲線から、低値群:25nmol/L未満、中値群:25~75nmol/L、高値群:75nmol/L超の3つにリスク層別化して比較したところ、CAD、ASCVD、CKDを基礎疾患として有する群では段階的に有病率が増加し、Lp(a)値と疾患頻度の関連が示された。 同氏は本研究の限界として「後ろ向き研究であったため、今後は前向きに検討していく必要がある。また、三井田氏が“mg/dLで表示することは計量学的な誤りがある”と指摘するように、単位はnmol/L表記が望ましいのではないかと議論されている」と述べ、「われわれの今回の研究対象は比較的リスクの高い集団であったため、この点も考慮しながら、日本動脈硬化学会のコンセンサスステートメントを作成していきたい」と締めくくった。 なお、日本動脈硬化学会ホームページにおいてLp(a)検査値標準化ツールが掲載されたため、積水メディカル、ニットーボーなどで測定された検査値であれば、このツールを用いて容易にmg/dLをnmol/Lへ変換することができる。Lp(a)高値を発見せねば、2次予防への治療介入の意義 続いて阿古氏は、2014年に報告されたCADにおけるメンデルランダム研究2)やLp(a)と血栓性疾患や脳血管疾患の間に因果関係があるか検討した研究3)などの結果を踏まえ、「Lp(a)はLDL-Cと同様にCVDにおける真のリスク因子に分類されており、弁膜症や血栓性疾患などの動脈硬化性疾患の独立したリスク因子としても認識されている。また近年では、2次予防におけるLDL-CおよびLp(a)とCVDリスクの関係を検討した研究報告4)も出てきており、心血管疾患の1次予防のみならず2次予防においてもその役割は重要」とLp(a)高値症例に対して治療介入を行う意義を強調した。さらに、近赤外分光法血管内超音波検査(NIRS-IVUS)などの血管内イメージングからも、Lp(a)の上昇によって(破れやすい)プラークの割合が増加5)、LDL-C同様にLp(a)もプラーク性状に影響6)していることが見いだされており、「Lp(a)測定がプラークの性状にも影響を与えている可能性を示唆している」と述べた。 現在、世界各国では再発イベントなどがある患者、イベントの家族歴を有する患者、ASCVDリスクが高い患者などへLp(a)測定が推奨されている。同氏はこの状況を受け、「われわれの研究結果1)から、国内のLp(a)高リスク患者への測定が進んでいないのは明らか」と、今こそLp(a)への介入が重要であることを訴える。 30年前と違い、Lp(a)低下薬の第III相試験(Lp(a)HORIZON、OCEAN(a)、ACCLAIM-Lp(a)など)が着々と進められている状況を見据え、同氏は「国内でも2次予防としてLp(a)測定を推奨し、Lp(a)高値の患者に対してLDL-C目標値を厳格にしていくことが必要なのではないだろうか」と締めくくった。■参考文献1)Fujii E, et al. J Atheroscler Thromb. 2025;32:421-438.2)Jansen H, et al. Eur Heart J. 2014;35:1917-1924.3)Larson SC, et al. Circulation. 2020;141:1826-1828.4)Madsen CM, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2020;40:255-266.5)Erlinge D, et al. J Am Coll Cardiol. 2025;85:2011-2024.6)Shishikura D, et al. J Clin Lipidol. 2025;19:509-520.

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実臨床でのGLP-1RAの減量効果は治験の成績ほどでない

 減量目的で使われているGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の実臨床における有効性は、治験段階で認められたほどには高くないようだ。米クリーブランドクリニックのHamlet Gasoyan氏らの研究によるもので、詳細は「Obesity」に6月10日掲載された。 GLP-1RAは、血糖降下作用とともに、食欲抑制作用などを介して減量効果を発揮する薬。セマグルチド(商品名はウゴービ)やチルゼパチド(同ゼップバウンド)などがあり、それらが承認される根拠となった治験では、15~21%の体重減が報告されていた。しかし今回の研究では、実際に処方された患者の1年後の体重変化は、平均9%弱の減少にとどまっていた。研究者によると、実臨床では治療を中止する人や、治験で使われた用量より少ない量が処方されているケースが多いことが、有効性低下の理由として考えられるという。 この研究では、クリーブランドクリニックでGLP-1RAによる肥満治療を受けている患者7,881人を対象に追跡調査が行われた。そのうち6,109人にセマグルチドが処方され、1,772人にはチルゼパチドが処方されていた。1年後の体重減少率は8.7%だった。ただし、早期(3カ月以内)に治療を中止した患者の体重減少率は3.6%だったのに対し、後期(3カ月を超え12カ月以内)に中止した患者では6.8%減少。さらに、治療を継続していた患者は11.9%減少しており、治療期間が減量効果に影響を及ぼしている可能性が示された。 また、低用量(セマグルチドは1mg以下、チルゼパチドでは7.5mg以下)が処方されていた患者が81%を占めていた。高用量が処方されて、かつその治療を継続していた患者では、体重減少率がセマグルチドで13.7%、チルゼパチドでは18.0%に達していた。 全体的に見ると、治療を継続していること、高用量が処方されていること、セマグルチドでなくチルゼパチドが処方されていること、そして患者が女性であることが、1年後に体重が10%以上減少していることと有意に関連していた。なお、患者が治療を中止する理由としては、副作用や薬剤の品不足、薬剤費、医療保険の問題などが多く認められた。 このほかに本研究によって、GLP-1RAの糖尿病予防効果も見いだされた。肥満治療開始時点で前糖尿病状態だった895人のうち、治療を継続した患者の67.9%は血糖値が正常化した。また治療を早期に中止した患者でも33.1%、後期に中止した患者では41.0%が正常化していた。反対に2型糖尿病に進展したのは、治療を継続した患者の1.7%、治療を早期に中止した患者の6.5%、後期に中止した患者の4.4%だった。 Gasoyan氏は、「2型糖尿病は肥満者に最も多い合併症の一つであり、肥満に伴う糖尿病の予防は非常に重要だ。われわれの研究は、GLP-1RAによる肥満治療を開始後、特に早期に治療を中止した場合に、体重と血糖管理の双方において、それらの改善効果が限られたものになってしまうことを示している」と述べている。なお、現在、GLP-1RAによる肥満治療を患者が中止してしまう理由を、より詳細に把握するための追跡研究が続けられている。

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診療科別2025年上半期注目論文5選(糖尿病・代謝・ 内分泌内科編)

Oral Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in High-Risk Type 2 DiabetesMcGuire DK, et al. N Engl J Med. 2025;392:2001-2012.<SOUL試験>:2型糖尿病への経口セマグルチド、主要CVイベントリスク低減50歳以上の2型糖尿病患者を対象に経口セマグルチドとプラセボを比較したRCTで、セマグルチドは主要な心血管イベントのリスクを有意に低減し(ハザード比:0.86)、同種注射薬と同様の臨床的効果が示唆されました。Efficacy and safety of once-weekly tirzepatide in Japanese patients with obesity disease (SURMOUNT-J): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled phase 3 trialKadowaki T, et al. Lancet Diabetes & Endocrinology. 2025;13:384-396.<SURMOUNT-J試験>:日本人肥満症患者で、チルゼパチドが顕著な減量効果肥満症を有する非糖尿病日本人において、チルゼパチドは顕著な減量効果(約20%低下)を有することが示されました(プラセボ対照のRCT)。欧米人・中国人をそれぞれ対象としたRCTと同様の結果でした。Finerenone with Empagliflozin in Chronic Kidney Disease and Type 2 DiabetesAgarwal R, et al. N Engl J Med. 2025 Jun 5. [Epub ahead of print] <CONFIDENCE試験>:顕性アルブミン尿期の2型DM、フィネレノン+エンパグリフロジンが有効顕性アルブミン尿期の2型糖尿病患者にフィネレノンとエンパグリフロジンをそれぞれ単独または併用投与したRCTで、180日後の尿中アルブミン-クレアチニン比低下に統計学的に有意な相加効果が認められました。ただし、長期的な効果の持続性や臨床的アウトカムは不明です。Phase 3 Trial of Semaglutide in Metabolic Dysfunction-Associated SteatohepatitisSanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.<ESSENCE試験>:MASHを有する肥満者へのセマグルチド、肝臓の組織学的アウトカム改善MASHと中等度以上の肝線維症を有する肥満者(2型糖尿病患者約56%)において、セマグルチド(注射剤)は72週間の追跡期間で肝臓の組織学的アウトカムを統計学的に有意に改善しました。臨床的なアウトカム評価を目的(追跡期間240週)として本試験は継続されており、その結果が発表されるまでは過剰期待しないように気をつけましょう。Blood pressure reduction and all-cause dementia in people with uncontrolled hypertension: an open-label, blinded-endpoint, cluster-randomized trialHe J, et al. Nature Medicine. 2025;31:2054-2061.<血圧管理と認知症リスク>:高血圧患者への厳格な血圧管理が認知症リスク低減高血圧症と糖尿病は認知症の主要なリスクファクターです。中国で行われた高血圧患者(糖尿病患者約9%)を対象とした48ヵ月間のRCTで、厳格な血圧管理(130/80mmHg未満)により認知症のリスクが統計学的に有意に低下しました(リスク比:0.85)。

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第19回 最新研究が警鐘!「いつものあの食べ物」に潜む健康リスクとは

普段、私たちが何気なく口にしているハムやソーセージ、甘いジュースや菓子パン。手軽で美味しいこれらの食品が、実は私たちの健康に静かな影響を及ぼし続けている…。2025年6月に医学雑誌Nature Medicine誌に発表された論文1)は、加工肉、砂糖入り飲料、トランス脂肪酸といった「超加工食品」の成分が、さまざまな病気のリスクを高めることを改めて浮き彫りにしています。今回は、この研究の結果を、私たちの生活に身近な例を交えながら解説していきます。「少しだけ」でも危ない? 加工肉・甘い飲み物・トランス脂肪酸の新常識この研究がとくに注目されるのは、非常に慎重な分析手法を用いている点です。多くの研究結果を統合し、あえて控えめに見積もってもなお、健康への悪影響が確認された点に大きな意義があります。ここからは、この研究で分析された、加工肉、甘い飲み物、トランス脂肪酸、それぞれのリスクについてみていきましょう。(1)加工肉のリスクまず研究では、ハムやソーセージ、ベーコンなどの加工肉を日常的に食べることが、2型糖尿病や大腸がんのリスクを高めると結論付けています。具体的には、毎日わずかな量(0.6〜57g)を食べるだけでも、2型糖尿病のリスクが平均で11%以上、大腸がんのリスクが平均で7%以上高まることが示されました。さらに衝撃的なのは、そのリスクの増え方かもしれません。摂取量が増えるほどリスクは上がり続けますが、とくに「0から1のところ」でリスクが最も急激に上昇することがわかりました。これは、「少しなら安全」という考えが通用しない可能性を示唆しています。たとえば、平均的に約50gの加工肉を毎日食べる人は、2型糖尿病のリスクは約30%、大腸がんのリスクは約26%増加すると試算されています。これは、標準的なサイズのホットドッグ1本、ソーセージ2〜3本、ベーコン(スライス)2枚程度に当たります。アメリカに住む私には耳の痛い話で、日本でもこのぐらいの量はさまざまな食事を通して登場しているかもしれません。(2)砂糖入り飲料のリスク炭酸飲料やスポーツドリンク、甘い缶コーヒーやジュースといった砂糖入り飲料も同様です。これらの飲料を日常的に飲むことで、2型糖尿病や心筋梗塞などの虚血性心疾患のリスクが高まるという結果が報告されています。こちらも比較的少量の摂取からリスクは上昇し、1日当たり250g(大きめのコップ1杯強)の摂取で、2型糖尿病のリスクは約20%増加すると報告されています。喉が渇いたときに、水やお茶の代わりに甘い飲み物を選ぶ習慣がある方は、注意が必要かもしれません。(3)トランス脂肪酸のリスクまた、今回の研究では、「食べるプラスチック」とも呼ばれるトランス脂肪酸についても分析されました。マーガリンやショートニング、それらを使ったパン、ケーキ、ドーナツ、揚げ物などに含まれることのある成分です。結果は、トランス脂肪酸の摂取が虚血性心疾患のリスクを明確に高めることを裏付けています。摂取エネルギーのわずか0.25〜2.56%をトランス脂肪酸から摂るだけで、リスクは平均3%以上高まりました。現在はWHOもそのリスクを訴え、世界中で使用を制限する動きが広がっています。この研究結果は、その動きの正しさを改めて後押しするものといえるでしょう。なぜ体に悪いのか、その仕組みとは?では、なぜこれらの食品は体に良くないのでしょうか。論文では、いくつかのメカニズムが指摘されています。たとえば加工肉は、塩分や飽和脂肪酸が多いだけでなく、保存のために使われる亜硝酸ナトリウムなどの添加物が、体内で有害物質に変化する可能性が指摘されています。また、砂糖入り飲料の過剰な糖分は、体内の炎症を引き起こしたり、内臓脂肪を増やしたりします。さらに、これらの超加工食品は、共通して腸内環境のバランスを崩し、悪玉菌を増やしてしまう可能性なども指摘されています。少しの気配りで未来の健康を守る今回の研究結果は、加工肉、砂糖入り飲料、トランス脂肪酸の摂取を控えるべきだという、これまでの食事ガイドラインを科学的に強く支持するものとなっています。これらの食品が広く消費され、関連する病気が多いことを考えると、決して軽視はできません。もちろん、この研究にも限界はあります。食生活の自己申告に基づく観察研究であること、他の生活習慣の影響を完全に排除できないことなどです。しかし、私たちの健康を守るための重要なヒントを与えてくれているとも思います。日々の食事の選択が、10年後、20年後の自分の健康がどうあるかを左右します。普段の買い物や食事の際に、砂糖入り飲料を水やお茶に変えてみたり、加工食品を新鮮な食材に置き換えてみたりと、日々の食生活を少し見直してみてもいいかもしれません。その小さな一歩が、未来の健康への大きな投資となるのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Haile D, et al. Health effects associated with consumption of processed meat, sugar-sweetened beverages and trans fatty acids: a Burden of Proof study. Nat Med. 2025 Jun 30. [Epub ahead of print]

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GLP-1受容体作動薬、高齢者はBMI低下の一方でサルコペニア加速

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、グルコースレベルを効果的に低下させ大幅な体重減少を促進することから、糖尿病や肥満症の治療薬として広く使用されている。一方、サルコペニアは筋肉量と筋力の低下を特徴とする進行性の疾患で、とくに高齢者に多くみられ、2型糖尿病の高齢者では、サルコペニアの有病率が非糖尿病患者に比べて2~3倍高いとされる。こうした背景から、GLP-1RAセマグルチドによる治療を受けた2型糖尿病の高齢者における筋肉量・筋力・筋機能の変化を調査したShijiazhuang People's Hospital(中国・河北)のQingjuan Ren氏らによる研究が、Drug Design, Development and Therapy誌オンライン版2025年7月3日号に掲載された。 2022年1月~12月にShijiazhuang People's Hospitalでセマグルチド治療を開始した2型糖尿病の高齢患者(65歳以上)を対象とした。年齢、性別、BMI(ベースライン時)、糖尿病罹患期間、併存疾患に基づいて傾向スコアマッチングを行った。対照群はベースライン時の特性は試験群と同等で、GLP-1RAやDPP-4阻害薬の投与を受けていなかった。ベースライン時と6ヵ月ごとに参加者の筋肉量・筋力・筋機能を評価し、24ヵ月追跡した。 主な結果は以下のとおり。・セマグルチドによる治療を受けた220例と対照群212例が解析対象となった。参加者のサルコペニアの有病率は27.7%であった。・両群の特性はベースライン時には有意差を認めなかったが、24ヵ月後にはセマグルチド治療群は対照群と比較して、BMIと筋肉量が有意に減少した。・セマグルチド治療群では、全例においてBMIが試験期間を通じて継続的に減少した。・セマグルチド治療群では、骨格筋量指数(SMI)の減少傾向は6ヵ月目から現れ、12ヵ月目から有意な減少となった。握力は男性では当初改善したがその後低下し、女性では低下し続けた。歩行速度は男女ともに有意に低下した。・多変量解析により、セマグルチドの投与量、ベースライン時のSMI、歩行速度が筋力低下の独立した予測因子であることが同定された。 研究者らは「セマグルチドの使用は、高齢の2型糖尿病患者において体重を効果的に減少させる一方で、筋肉量・筋力・筋機能を低下させた。この影響は高用量使用において、また元々サルコペニアを有する患者において、とくに顕著だった。セマグルチド投与時は高齢患者個々のリスクとベネフィットを評価し、適切なモニタリングと介入を実施することがきわめて重要である」とした。

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2型糖尿病のHbA1cコントロールにピアサポートアプリが有効か

 糖尿病患者の血糖管理においてHbA1cは重要な指標となるが、今回、デジタルピアサポートアプリの活用により2型糖尿病患者のHbA1cが統計学的に有意に低下する可能性が示唆された。アプリ内のチャットを通じたコミュニケーションが患者個人の意思決定や行動に影響を与えている可能性があるという。研究は北里大学大学院 医療系研究科の吉原翔太氏によるもので、詳細は「JMIR Formative Research」に5月20日掲載された。 HbA1cは過去2~3か月間の平均血糖値を反映し、糖尿病合併症のリスクを予測するためのゴールドスタンダードとされている。しかし、2型糖尿病患者にとっては、健康的な行動を自ら採用し維持することが困難な場合もあり、HbA1cの適切な管理が難しい患者も少なくない。ピアサポートは、共通の経験や課題を持つ個人同士が互いに支援し合うことと定義されており、2型糖尿病患者の健康的な行動を促進するための効果的な戦略となる可能性が示唆されている。デジタルヘルスの技術進歩により、ピアサポートもアプリ上で行うことが可能となりつつある。しかし、このようなアプリが2型糖尿病の管理に及ぼす影響については、十分な検討がなされていない。このような背景を踏まえ、著者らは2型糖尿病患者のHbA1cコントロールに対するデジタルピアサポートアプリの効果を検証するために、前向きの単群パイロット研究を実施した。 本研究は、「TRY! YAMANASHI! 実証実験サポート事業」の一環として、2021年12月から2022年6月にかけて実施された。解析対象は、スマートフォンを所有する、山梨県内の医療機関を受診した2型糖尿病患者とした。参加者は医師からデジタルピアサポートアプリ「みんチャレ」(エーテンラボ株式会社)を紹介され、アプリ内の糖尿病管理グループに登録した。介入期間は3ヵ月間とし、参加者は糖尿病の標準治療に加え、このアプリの使用を奨励された。このアプリは、参加者がチャット機能を通じて活動記録や懸念を共有し、相互の関与と励ましによってHbA1c値の改善を図ることを可能にした。主要評価項目は、ベースラインからのHbA1cの変化量とした。 本研究には、21名の参加者(年齢中央値56歳)が含まれ、うち13名(61.9%)が女性だった。3ヵ月間の介入の結果、参加者のHbA1cはベースラインの7.1(±0.6)%から6.9(±0.1)%へと有意に減少した(P<0.05、ウィルコクソンの符号順位検定)。同様に、体重も70.7(±12.7)kgから69.9(±12.4)kgに減少した(P<0.05、ウィルコクソンの符号順位検定)。血圧に関しては、128.2(±12.5)mmHgから126.0(±12.9)mmHgへとわずかに減少したものの、統計的に有意ではなかった。また、1日1時間以上の身体活動を行う参加者の割合は、23.5%から58.5%へと増加した(P<0.05、マクネマー検定)。 本研究について著者らは、「2型糖尿病の標準治療に加え、デジタルピアサポートアプリを使用することで健康的な行動が促進され、患者のHbA1c値が改善する可能性があることが示唆された。この結果は、リマインダーやチャット機能といったアプリの特定の機能に起因している可能性がある。チャットを通じたコミュニケーションは、個人の意思決定や行動に影響を与え、健全な行動を維持するためのオンラインコミュニティ内での行動規範形成に寄与している可能性もある」と述べている。 本研究の限界点については、サンプル数の少ない単群介入研究であったこと、主要評価項目にHbA1c値を採用したため、行動変化と検査値の間にタイムラグがあることなどを挙げている。

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主治医は大病院です! さぁ困った!【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第8回

主治医は大病院です! さぁ困った!Point多疾患併存では多職種連携、専門医とプライマリ・ケア医(かかりつけ医)の連携が重要。予後予測や再入院予測ツールをうまく使って患者の状態の概要を把握しよう。患者の身体機能や価値観や嗜好を聞き取り、治療やケアの方針決定に役立てよう。患者側の能力と治療による負荷のバランスから手掛かりを探ろう。症例84歳男性が某大学病院救急外来に失神したと来院した。少し離れて別居している息子が付き添いで一緒に来院した。かかりつけ医は大学病院だという。心筋梗塞でステント留置後、心房細動、慢性心不全で循環器内科にかかり、COPDで呼吸器内科に、陳旧性多発ラクナ梗塞と認知症で脳神経内科に、変形性膝関節症と腰部脊柱管狭窄症で整形外科に、大腸がん(手術適応はなく経過観察)で消化器外科にかかり、なんと5科にまたがり通院中であった。ここ1年で心不全の増悪で3回入院している。内服処方は抗凝固薬・抗血小板薬含め合計15剤もあり、失神を起こしやすい薬剤も数種類含んでいた。すべての薬剤を俯瞰的にみてくれる「かかりつけ医」は不在の状況であった。貧血を認めるものの以前とは大きく変化はなかった。頭部CTで軽度の左慢性硬膜下血腫を認め、脳神経外科にコンサルトするも、血腫の大きさや全身状態から入院や手術の適応はないとのこと。ダメ元で他科のDr.と相談するも「それはうちでの入院の適応じゃないですねぇ」と予想どおりのお返事。本人は以前の入院時に体幹抑制された経験から入院したくないとの希望だが、息子は憔悴した様子で「家は段差も多くて、年々歩き方もぎこちなくなり、また転倒しそうなので、何とか入院させてほしいのですが…」と入院を希望し、苛立ち始めている。主科が決まらず方針は絶賛迷走中。救急で担当した研修医、上級医は途方に暮れていた。おさえておきたい基本のアプローチマルモってなんだ!?主治医が大病院であるときに起きやすい問題にはどんなものがあるだろうか。慢性疾患で在宅ケア・緩和ケアへの移行を考慮する事例。慢性疾患が複数あり(多疾患併存)、各科に担当医がいて(ポリドクター)方針がまとまらない事例。ポリドクターのために起こるポリファーマシー(たとえば別の担当医の薬剤に対する副作用に薬剤が処方されるなど)。老年医学のアプローチが必要だが介入できていない事例。主治医が多忙ゆえに多職種連携がうまく機能していない事例。上記に加え心理・社会・家族問題が絡み合う複雑・困難な事例などだ。ここでは、主に多疾患併存とそこから起きる問題を論ずる。皆さんは多疾患併存という言葉があることはご存じだろうか? 筆者自身それについて学生時代に講義を受けた記憶はなく、最初「マルチモビディティ」と聞いたらなんか強そうだなというイメージをもった。マルサなら国税局査察部、マルボウなら暴力団の事案を取り扱う警視庁組織犯罪対策部、マルモはマルチモビディティ(多疾患併存:multimorbidity)のこと。歴史をひもとくと、おおよそ2003年ごろから急激に出版物でみられるようになった。多疾患併存の定義は、長期にわたり2つ以上の慢性疾患が併存している状態である1)。「疾患とその合併症のことでしょう?」と誤解されがちだ。たとえば、糖尿病が悪化して、末梢神経障害や網膜症、腎障害を合併した事例の場合は中心に糖尿病、そのほかは治療コントロール不良で発症した合併症という関係だから、多併存疾患とは異なる。多疾患併存の場合、罹患期間の長短あれども慢性疾患が併存している状態を指す。言葉は知らなくても、多疾患併存の患者は皆さんの外来にもよく来るはずだ。日本では外来患者に多疾患併存患者が占める割合は52.3%にのぼり、ポリファーマシーとの強い相関を認める2)。併存疾患が2つの多疾患併存患者は全く慢性疾患のない患者と比較しER受診は1.28倍、併存疾患が4つ以上で2.55倍になり、また入院も多疾患併存患者全体では2.58倍高くなる3)。多疾患併存患者の医療コストは、概して倍以上に膨れ上がっており、今後多疾患併存患者への対応は医療経済における大きな課題だ。家庭医をかかりつけ医にするメリット多疾患併存患者は俯瞰的・総合的にみてくれるかかりつけ医の存在が大きい。家庭医の定義ともいえるACCCAは保たれているだろうか(表1)。今後高齢化社会が進み、大病院志向の患者が途方に暮れる機会も増えてくるだろう。表1 家庭医をもつメリットと大病院を主治医にもつデメリット画像を拡大する多疾患併存患者で困難な症例では、家庭医をかかりつけ医にもつのが一番よい。疾患の性格上、大病院にかからざるを得ない場合は、予後に最も影響を与え中心となる慢性疾患の担当医に主治医の役割を果たしてもらうか、多疾患併存患者対応が得意な医師(場合によっては別の病院や診療所の医師でもよい)にかかりつけ医となってもらうことがお勧めだ。責任の所在がわからないと、患者や家族はたらい回しにされたと感じ不快に思うだろう。現代の医原病ともいえる。マルモ(Multi-morbidity)のアプローチ法多疾患併存患者のアプローチ法は、Up to dateやNICE guideline、米国老年学会でそれぞれ紹介されているが、筆者はアリアドネの原則をお勧めする4)(図1)。ギリシア神話の逸話(テセウスを迷宮から脱出させるのにアリアドネが糸で手助けした)より、そのように名付けられた由緒正しい(?)アプローチ法だ。日本ではさしづめ、蜘蛛の糸アプローチもしくは、芥川アプローチとでもいえようか(いや全然違うし、ネーミングに絶望感が漂っている泣)。図1 アリアドネの原則画像を拡大するまず、このアプローチのポイントは、実現可能な治療目標を、患者、医師、多職種間で共有していくことだ。多疾患併存の患者のケアに乗り出すきっかけは、併存する疾患、もしくはそれらの治療薬の相互作用が生じてしまったときだ。実現可能な治療目標を考えるときに、まず患者の心身状態や治療の相互作用を評価するところから始まる。その評価には、性格などの心理的問題、住環境や社会的サポートのレベル、孤独などの社会的環境、患者自身の疾患への理解も影響する。次に、患者の嗜好を考慮に入れたうえで、患者の健康問題への治療介入の優先順位を付ける。多疾患併存の患者では、各科担当医がそれぞれの疾患に対し治療方針を立てるが、それらが競合することはしばしばある。治療の優先順位付けには、患者の予後のみならず、患者の価値観、嗜好も考慮に入れねば、治療目標を患者、医療者の双方が納得して共有することはできない。そして、優先順位を付けた治療介入を患者に最適化したマネジメントまで高める。この段階では介入によって予測される利益が有害事象より勝っているかに注目する。こうして評価、問題の優先順位付け、マネジメントを実行し、必ずフォローアップする。また、新たな状況の変化(たとえば、新たな病気への罹患や周囲の環境の変化)によって、再度評価からアプローチが必要になる。多疾患併存患者へのアプローチは流動的に千変万化するんだ。女心と秋の空、そして多併存疾患患者は状況が変わりやすい。ここまでアプローチの原則について解説してきたが、思い起こせば何十年も前から出来上がった多疾患併存患者の複雑な事例だ。救急外来での一期一会で解決できるようなことはめったにない。しかし、少しでも問題を解きほぐす手助けなら救急外来でもできるはずだ。そのために重要なポイントを学んでおこう。落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「既往症も内服薬もたくさんあったので難治性の便秘かと思って経過観察にしたら、大腸がんでした」多疾患併存患者が救急外来に今までになかった症状で来院すると、併存疾患や内服薬の影響ではないかと思考がとらわれやすい。多疾患併存患者では一般外来において診断エラーが1.83倍起こりやすいとの報告がある5)。とくに、高齢患者には多疾患併存患者の割合が多く、悪性腫瘍の見逃しは避けたいところだ。Point多疾患併存患者は診断エラーが起こりやすい!「多疾患併存患者の状態や治療の評価って、忙しい救急外来で何をしたらよいのでしょう?」多疾患併存患者の状態評価を、多忙な救急外来でどのようにしていけばよいのか? 前述のとおり、多疾患併存患者は高齢者に多いので、高齢者総合評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)は全体像の評価に有効だろう。しかし、忙しい救急外来で初診患者にくまなく行うことは難しい。ここではより簡略化したstart up CGAを紹介する(表2)。評価可能なものからやってみて、必要があれば外来主治医や入院担当医に引き継いで評価してもらおう。表2 start up CGA画像を拡大するPoint救急外来では多疾患併存患者の包括的評価はstart up CGAで簡潔に行うべし「多疾患併存患者の評価には心理・社会的問題も大事らしいけど、どのように評価すれば…?」多疾患併存患者の状態には心理・社会的問題も大きな影響を及ぼす。多疾患併存患者に精神疾患を合併すると救急外来への頻回受診が大きく増加すると報告されている6)。また、ホームレスの多疾患併存の患者の割合は一般人口の60代に相当し、救急外来受診率も一般人口と比べて60倍近くあると報告されている7)。救急外来で心理的問題を評価するにはMAPSO問診やPHQ-4が使いやすいだろう。また、社会的問題の把握にはsocial vital signs(HEALTH+P)がもれなく把握できて有用だよ8,9)(表3)。表3 social vital signs(HEALTH+P)(https://drive.google.com/file/d/1MZJRnd8ruUpE4kNjNO6ZmOOQ_50s_Yee/view)より改変画像を拡大するPoint多疾患併存患者の心理・社会的問題の評価にはMAPSO問診、PHQ-4やHEALTH+Pを使うべし多疾患併存患者の治療目標には予後予測が大事って聞くけど、どうすればいい?それぞれの慢性疾患が下降期(たとえば、急性増悪による入退院を繰り返す状態)でなければ、10年間の予測死亡率を算出する有用なツールがある。ePrognosisというサイト内でSuemoto indexが計算できる10)。サイトで患者の診療セッティングと、居住地で米国以外を選択すると入力画面が表示される。それぞれの項目を選択すると算出してくれる。一方、慢性疾患下降期で急性増悪を繰り返す場合、再入院を予測するツールとしてLACE indexがある11)。表4に算出方法を示す。A-scoreの重症か否かの判断は救急外来からの入院かどうかでする。4点以下が低リスク、5〜9点が中等度のリスク、10点以上が高リスクと判断する。表4 LACE index画像を拡大する終末期では予後に最も影響する疾患の予後予測ツールを用いるのがよい。一方で、複数臓器の障害ではPalliative Prognostic Scoreで30日死亡率をある程度予測可能だ12)。いずれの予測ツールも、ある程度イメージをつけるためと割り切って利用する。そこから、主治医や多職種で話し合い、在宅医療へ移行したり、advance care planningにつなげたりすればよいのだ。Point疾患ステージに合う予後予測ツールで状況を把握してよりきめ細やかなケアにつなげよう「前回救急受診した患者がまた来院しました。どうやら受診科、内服薬が多かったため、いくつかを勝手にやめていたようです」多疾患併存患者では治療負担(treatment burden)の増大が、自分の能力(capability)の許容量を越えてしまい病状が悪化することがある。かぜのときに毎食前に漢方薬を飲むだけでも飲み忘れてしまう筆者からすれば、毎食後に10剤近く間違えずに内服できる人はマジリスペクトです。内服薬だけでお腹いっぱいになってご飯が食べられない人、よくみるよねぇ。多疾患併存患者かつ内科病棟入院患者の約4割が薬剤関連の問題が原因で入院し、とくに薬剤の副作用やアドヒアランスの問題がきっかけだった13)。また、救急外来から入院した多疾患併存患者の約半数に治療上の対立を認めた(たとえば抗凝固薬を内服した患者に消化管出血を認めたなど)14)。お薬手帳にところせましと並べられた大量の薬剤名の記載をみると、カルテへの記録も面倒くさくなる。しかし、とくに多疾患併存患者では丁寧にチェックしないと足元をすくわれる。「くすりもリスク」、整理できる薬剤は主治医や処方医に依頼して減らすことで、患者の内服アドヒアランスも向上し有害事象も減って患者も医療者もハッピーになること請け合いだ。また、患者の能力に見合わない過度な生活習慣の指導がなされていることがある。多疾患併存患者にはガイドラインどおりにすべての生活指導を行うと、それがかえって治療負担となり逆にアドヒアランスが悪くなることがある。想像してみても、生活するために毎日朝から晩まで仕事をしながら、毎食後に血糖を測定しながら、毎日8,000歩を歩いて、週3で有酸素運動、食事は塩分制限…となると、患者も医療者もアンハッピーになる。優先順位に従い実現可能な生活習慣から指導するようにしよう。患者の生活を守るために生活指導をするのであって、生活指導して患者の生活が台なしになったのならとても笑えないのだ。Point内服アドヒアランスや薬剤有害事象に目を光らせ、治療対立が起きないように注意しよう「有害事象があったから薬剤中止ね。え? 薬が一包化されてる!?」薬剤有害事象が起きたので、その薬剤中止を患者に説明し主治医にも報告、まではよかったが、詰めが甘〜い! キャラメルマキアートの上の部分くらい甘〜い!! あなたがもし一包化されたものから色と印字を手がかりに目的の薬剤のみ取り出すことができるなら、海賊王にだってなれるはず!? 独居や老老介護で、周囲のサポートが得られない場合には絶望しかない。「〇〇えもん、たすけて〜」、「大丈夫だよ、□□太くん。多職種連携〜」。そう、こんなときのための多職種連携。ケアマネジャーやソーシャルワーカーから薬剤師や看護師、ヘルパーに連絡を取り、これ以上の薬剤有害事象を防ごう。とくに大病院の主治医で、訪問診療をした経験がない場合、どんなに想像力をたくましくしても、自宅で患者がどんな生活して、どんなことで困っているのかは診察室からは計り知れないものだ。実際に、自宅で患者と会っているケアマネジャーやヘルパー、訪問看護師の声に耳を傾けよう。ちなみに、多疾患併存患者に多職種連携とテレメディスンとを組み合わせることで救急外来で一泊入院するのと比較して22%コスト削減できたという15)。安い、早い、うまい! 多職種連携って本当に素晴らしいですね!Point多職種との連携を密にして、重要な指示をチームでもれなく伝えて不要な受診を防ごうワンポイントレッスン患者の対応能力と治療負担のバランス患者の対応能力(capability)と治療負担(treatment burden)のバランスに注目するとアプローチしやすい。どのようなバランスかを図2、表5に示す。図2 患者の対応能力と治療負担のバランス画像を拡大する表5 患者の対応能力と治療負担患者の対応能力を上げて、治療負担を減らす方向に働きかけることで崩れかけたバランスをもち直すことができる。どの要素が負担になっているのか、もしくは対応能力が足りないのかを把握することで、複雑な事例のなかでレバレッジポイントを見出し問題解決の糸口がつかめる。何事もバランスが大事だ。遊びも勉強も大事。お金も大事だが、学際的な仕事をすることも大事。給料が安いなんて文句言わないで、勉強できる環境で仕事ができることをありがたいと思おう、ネ、〇〇センセ!?勉強するための推奨文献 Farmer C, et al. BMJ. 2016;354:i4843. Muth C, et al. BMC Med. 2014;12:223. Muth C, et al. J Intern Med. 2019;285:272-288. Boyd C, et al. J Am Geriatr Soc. 2019;67:665-673. Mercer S, et al., eds. ABC of Multimorbidity. John Wiley& Sons. 2014. 佐藤健太 著. 慢性臓器障害の診かた、考えかた 中外医学社. 2021. 参考 1) NICE guideline 2016 2) Aoki T, et al. Sci Rep. 2018;8:3806. 3) Soley-Bori M, et al. Br J Gen Pract. 2020;71:e39-e46. 4) Muth C, et al. BMC Med. 2014;12:223. 5) Aoki T, Watanuki S. BMJ Open. 2020;10:e039040. 6) Gaulin M, et al. CMAJ. 2019;191:E724-E732. 7) Bowen M, et al. Br J Gen Pract. 2019;69:e515-e525. 8) Mizumoto J, et al. J Gen Fam Med. 2019;20:164-165. 9) Terui T, et al. J Gen Fam Med. 2020;21:92-93. 10) Suemoto CK, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017;72:410-416. 11) Wang H, et al. BMC Cardiovasc Disord, 14:97, 2014 12) Maltoni M, et al. J Pain Symptom Manage. 1999;17:240-247. 13) Lea M, et al. PLoS One. 2019;14:e0220071. 14) Markun S, et al. PLoS One. 2014;9:e110309. 15) Pariser P, et al. Ann Fam Med. 2019;17:S57-S62. 執筆

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死亡リスクの予測、BMI vs.体脂肪率

 体組成の評価指標としてBMIが広く用いられているが、筋肉質な人を過体重や肥満に分類したり、BMIは正常でも体脂肪率が高い「正常体重肥満」のリスクを見逃したりする可能性が指摘されている。そこで、米国・フロリダ大学のArch G. Mainous氏らの研究グループは、20~49歳の成人を対象に、死亡リスクの予測においてBMIと体脂肪率のいずれが優れているか検討した。その結果、体脂肪率のほうが15年間の全死亡および心疾患死亡のリスク予測において優れている可能性が示された。本研究結果は、Annals of Family Medicine誌オンライン版2025年6月24日号に掲載された。 本研究は、米国の国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)の1999~2004年のデータを用いた後ろ向きコホート研究である。対象は、ベースライン時に20~49歳であった成人4,252人(男性2,821人、女性1,431人)とした。BMI、生体電気インピーダンス法を用いて推定した体脂肪率、胴囲(waist circumference)と、15年間の全死亡、心疾患死亡、がん死亡との関連を評価した。BMIは18.5~24.9kg/m2を正常、25kg/m2以上を過体重/肥満と定義した。体脂肪率については、先行研究に基づき男性は27%以上、女性は44%以上を不健康とした。胴囲については、男性は40インチ超、女性は35インチ超を不健康とした 主な結果は以下のとおり。・調整後解析において、BMIに基づく過体重/肥満の群は、正常の群と比較して全死亡リスク(ハザード比[HR]:1.246、95%信頼区間[CI]:0.845~1.837)および心疾患死亡リスク(HR:2.227、95%CI:0.833~5.952)の統計学的に有意な上昇はみられなかった。・不健康な体脂肪率群は、健康な体脂肪の群と比較して、全死亡リスク(HR:1.780、95%CI:1.282~2.471)および心疾患死亡リスク(HR:3.620、95%CI:1.552~8.445)が有意に高かった。・不健康な胴囲の群も同様に、健康な胴囲の群と比較して、全死亡(HR:1.593、95%CI:1.123~2.259)および心疾患死亡(HR:4.007、95%CI:1.941~8.271)のリスクが有意に高かった。・がん死亡リスクについては、BMI、体脂肪率、胴囲のいずれの指標とも有意な関連は認められなかった。 著者らは「体脂肪率は測定が容易な体組成指標であり、BMIと比較して若年成人における長期的な死亡リスクと強い関連がある可能性が示された」と結論付けている。

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第275回 食べても太らない体が脂肪細胞の一工夫で可能になるかも

食べても太らない体が脂肪細胞の一工夫で可能になるかも飽食の時代にあって食べ過ぎないようにすることは至難の業で、いまや世界の8人に1人ほどが肥満と推定されています1)。いっそのこと、いくら食べても太らない体になりたいと思ったことがある人は少なくないでしょう。そんな夢のような体になることが、FGF21というタンパク質を作るように脂肪細胞をあつらえる治療でやがては可能になるかもしれません。内分泌ホルモンとしてのFGF21は、細胞へのさまざまな負荷に応じて主に肝細胞から分泌されて全身を巡ります。FGF21は2型糖尿病や脂肪肝などの代謝疾患への有望な効果が示されていることから、治療薬としてかなり期待されています。FGF21の信号はFGF受容体1c(FGFR1c)とβ-Klothoが組み合わさったヘテロ二量体受容体を介して伝わります。FGFR1cは体中の組織で広く発現します。一方、FGFR1cと対を成すβ-Klothoの発現は主に脳、肝臓、脂肪組織に限られ、それらの組織がFGF21の主な職場のようです。実際、体内を巡るFGF21の中枢神経系(CNS)や脂肪組織での作用は、エネルギー消費の向上やインスリン感受性の改善に不可欠なことがマウスでの検討で示されています。また、FGF21が老化関連経路を繕う効果の裏付けは膨大で、それゆえFGF21は長寿促進ホルモン(pro-longevity hormone)とも呼ばれます。たとえば肝臓でFGF21を発現し続けるようにしたマウスがより長生きになることが示されています。どうやらFGF21は飢えへの順応に携わるさまざまな反応に貢献して長生きできるようにします。飢えへの順応はより長生きになることと関連することが知られており、FGF21を省くとタンパク質制限食の寿命延長効果が失われます。世界のほとんどの人々の代謝の老化が飢えとは対極の食べ過ぎ絡みであることを踏まえると、FGF21の肥満環境での役割を調べる価値は大きいようです。そこで米国のテキサス州の大学UT Southwestern Medical Centerの研究者らは、必要に応じて脂肪組織でFGF21を多く発現させることができるマウスを使い、現代人の食生活を模す高脂肪食の負荷の下での代謝や寿命へのFGF21の作用を調べました2,3)。そのマウスが成体期になってから脂肪細胞でのFGF21を増やしたところ、寿命がより長くなって2.2年ほどになりました。手を加えていない対照群マウスの寿命は1.8年ほどでした。加えて、FGF21発現マウスはどうやらエネルギー消費上昇のおかげで食べても太らない体になっており、体重をより増やした対照群マウスに比べて少食になってはいないのに痩身を維持しました。FGF21発現マウスは血糖制御、インスリン感受性、コレステロール値の改善も示しました。FGF21の増加は内蔵脂肪の炎症を防ぐ効果もあるらしく、炎症性の免疫細胞や炎症性の脂質のセラミドが内蔵脂肪に蓄積するのを防ぎました。成体期のFGF21を増やすことが健全な脂肪組織を醸成してセラミドを減らしてマウスが健康に歳を取ってより長生きできるようになることを示したそれらの結果は、寿命を延ばすのみならずより生きやすくもする治療を目指す取り組みの基礎となると著者は言っています。内臓脂肪組織狙いのFGF21遺伝子治療の代謝改善などの効果がマウスでの検討ですでに示されており4)、案外近い将来に臨床試験での検討が始まるかもしれません2)。 参考 1) One in eight people are now living with obesity / WHO 2) Gliniak CM, et al. Cell Metab. 2025;37:1547-1567. 3) Hormone may hold key to longer life, improved metabolic health / UT Southwestern Medical Center 4) Queen NJ, et al. Mol Ther Methods Clin Dev. 2020;20:409-422.

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日本人の妊娠関連VTEの臨床的特徴と転帰が明らかに

 妊娠中の女性は静脈血栓塞栓症(VTE)リスクが高く、これは妊産婦死亡の重要な原因の 1 つである。妊婦ではVTEの発症リスク因子として有名なVirchowの3徴(血流うっ滞、血管内皮障害、血液凝固能の亢進)を来たしやすく、妊婦でのVTE発生率は同年齢の非妊娠女性の6〜7倍に相当するとも報告されている1)。そこで今回、京都大学の馬場 大輔氏らが日本人の妊婦のVTEの実態を調査し、妊娠関連VTEの重要な臨床的特徴と結果を明らかにした。 馬場氏らは、メディカル・データ・ビジョンのデータベースを用いて、2008年4月~2023年9月までにVTEで入院した可能性のある妊婦1万5,470例を特定。さらに、抗凝固療法が実施されていない患者や画像診断検査が施行されていない患者などを除外し、最終的に妊婦でVTEと確定診断され抗凝固療法を含めた介入が行われた410例の臨床転帰(6ヵ月時のVTE再発、6ヵ月時の出血イベント、院内全死因死亡)などを評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は33歳、平均BMIは23.8kg/m2であった。・対象患者の既往歴は、糖尿病19例(4.6%)、出血の既往17例(4.1%)、先天性凝固異常17例(4.1%)、消化性潰瘍13例(3.2%)、高血圧症10例(2.4%)、脂質異常症7例(1.7%)などであった。・410例中110例(26.8%)は、肺塞栓症(PE)であり、300例(73.2%)は深部静脈血栓症(DVT)のみであった。・VTE発症時の妊娠週数の中央値は31週であった。・VTEの発生率は二峰性分布を示し、126例(30.7%)が妊娠初期(0~妊娠13週)にVTEを発症し、236例(57.6%)が妊娠後期(妊娠28週以降)にVTEを発症し、PEは妊娠後期に多くみられた。・抗凝固療法に関しては、374例(91.2%)には未分画ヘパリンが、18例(4.4%)には低分子量ヘパリン(LMWH、ダルテパリン:2例、エノキサパリン:16例)が投与された。・急性期治療について、血栓溶解療法は2例(0.5%)、下大静脈フィルター留置は17例(4.1%)が受けた。人工呼吸器管理は8例(2.0%)、ECMOは5例(1.2%)に使用された。・ 6ヵ月の追跡期間中、17例(4.1%)でVTEの再発が認められ、3例(0.7%)で頭蓋内出血および消化管出血を含む出血が発生した。・入院中に4例(1.0%)が死亡し、そのうち3例には帝王切開などの外科手術の既往があった。 本研究の限界として、データベースが急性期病院のデータに限定されているため、他の医療機関で治療された患者データが含まれていないこと、詳細な臨床データ(バイタルサイン、PE重症度、検査結果など)が不足していること、PEの過小診断の可能性、入院中のVTE再発を除外したことにより急性期の再発が過小評価されている可能性が挙げられている。 最後に、研究者らは「今回の検討にて、循環器系および産科の医師にとって参考となる妊娠関連のVTEの実態が明らかになった。また、その治療において、LMWHが欧米のガイドラインで推奨されているにもかかわらず、国内ではVTEに対するLMWHの使用が保険適用外であるため、未分画ヘパリンが大半に選択されている実情も明らかになった。この問題は今後対処されるべき」と結んでいる。

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1型糖尿病薬zimislecelが膵島機能を回復/NEJM

 1型糖尿病の患者において、同種多能性幹細胞由来の完全分化型膵島細胞療法薬zimislecel(VX-880)は、生理的膵島機能の回復をもたらし、血糖コントロールを改善し、治療関連有害事象やインスリン投与量管理の負担などのインスリン補充療法の短所を解消する可能性があることが、カナダ・トロント大学のTrevor W. Reichman氏らVX-880-101 FORWARD Study Groupが実施した「VX-880-101 FORWARD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年6月20日号に掲載された。第I/II相試験の予定外の中間解析結果 VX-880-101 FORWARD試験は、1型糖尿病患者におけるzimislecelの安全性と有効性の評価を目的とする、北米と欧州の施設が参加した進行中の第I/II/III相試験であり、今回は事前に予定されていなかった第I/II相部分の中間解析の結果が報告された(Vertex Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 年齢18~65歳の1型糖尿病で、低血糖を自覚しにくく(低血糖の発症を感知する能力が低下している)、過去1年間に少なくとも2回の重症低血糖イベントを経験し、5年以上インスリン依存状態にある患者を対象とした。 パートAでは、zimislecelの半量(0.4×109細胞)を門脈へ単回投与し、必要な場合は初回投与から2年以内に残りの半量を単回投与することとした。パートBとパートCでは、zimislecelの全量(0.8×109細胞)を単回投与した。全例に、グルココルチコイドを含まない免疫抑制療法を行った。 パートAの主要エンドポイントは安全性であった。パートCの主要エンドポイントは、zimislecel投与後90~365日に重症低血糖イベントの発生がなく、180~365日における複数回の受診時にHbA1c値が7%未満であること、またはHbA1c値がベースラインから1%ポイント以上低下していることとした。被験薬関連の重篤な有害事象はない 少なくとも12ヵ月の追跡期間を終了した14例(平均糖尿病罹患期間22.8年[範囲:7.8~47.4]、平均総インスリン投与量/日39.3単位[範囲:19.8~52.0])を解析の対象とした。2例がzimislecelの半量投与を受け(パートA)、12例(平均年齢42.7歳、女性4例)は全量投与を受けた(パートB:4例、パートC:8例)。パートAの1例は、初回投与後9ヵ月の時点で2回目の半量投与を受け、その約3ヵ月後に同意を撤回した(有害事象が原因ではない)。 C-ペプチドは、ベースラインでは14例全例が検出不能であったが、zimislecel投与後は全例で検出されたことから、移植細胞の生着と膵島機能の回復が証明された。 有害事象の重症度はほとんどが軽度または中等度であった。頻度の高い有害事象は、下痢(11例[79%])、頭痛(10例[71%])、悪心(9例[64%])、新型コロナウイルス感染症(7例[50%])、口腔内潰瘍形成(7例[50%])、好中球数減少(6例[43%])、皮疹(6例[43%])であった。 試験の中止に至った有害事象は認めなかった。経過観察のために入院期間の延長に至った重篤な有害事象として好中球数減少が3例に発現し、重篤な急性腎障害が2例にみられた。担当医によってzimislecel関連またはその可能性が高いと判定された重篤な有害事象はなかった。 2例が死亡した。1例(パートB)は、手術に伴う頭蓋底損傷に起因する重篤なクリプトコッカス髄膜炎が原因で、担当医により免疫抑制薬関連死と判定された。もう1例(パートA)は、既存の神経認知障害の進行に起因するアジテーションを伴う重度認知症が原因であった。この症例には、試験登録前の交通事故による重度の外傷性脳損傷の既往歴があり、この事故は重症低血糖イベントが原因だった。全量単回投与の全例でHbA1c値<7%、10例でインスリン非依存 パートB/Cの12例では、重症低血糖イベントは発現せず、365日目の受診時にすべての患者でHbA1c値が7%未満であった。ベースラインから365日目までに、HbA1c値は平均1.81%ポイント低下した。 持続血糖測定器(CGM)を用いて、血糖値が目標範囲(70~180mg/dL)内にある時間の割合を評価したところ、ベースラインで70%を超える患者はなく、平均値は49.5%(範囲:19.0~66.2)であった。これに対し、150日目には全例が70%以上を達成し、その後の追跡期間を通じて全例でこの良好な血糖コントロールの状態が持続した。365日時の血糖値が目標範囲内にある時間の割合の平均値は93.3%(範囲:79.5~96.9)だった。 外因性インスリンの使用は、追跡期間中に12例全例で減量または中止されていた。ベースラインから365日目までに、インスリン使用量の平均値は92%低下した。150日目までに10例(83%)がインスリン非依存を達成し、この10例は365日の時点で外因性インスリンを使用していなかった。 著者は、「この結果は、多様な患者集団を対象とする、より大規模で長期にわたる試験においてzimislecelのさらなる検討を進めることを支持する」「これらの知見は、多能性幹細胞から膵島を作製し、1型糖尿病の治療に使用することは実質的に可能であるとのエビデンスを提供するものである」としている。

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