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急性期虚血性脳卒中に対する静脈内血栓溶解療法では、施行後の高強度のモニタリングが標準とされ、患者だけでなく看護師の負担がとくに大きく、果たして症候性脳出血のリスクが低い患者にも必要かとの疑問が生じている。中国・復旦大学のCraig S. Anderson氏らOPTIMISTmain Investigatorsは、「OPTIMISTmain試験」において、血栓溶解療法を受けた軽度または中等度の神経学的障害を有する患者では、モニタリングの頻度を低くした低強度モニタリングは高強度の標準モニタリングに対し、不良な機能的アウトカムの発生に関して非劣性であるとの弱いエビデンスを確認し、重篤な有害事象の発現にも差はないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年5月21日号に掲載された。8ヵ国のstepped-wedgeクラスター無作為化非劣性試験 OPTIMISTmain試験は、低強度モニタリングのプロトコールの標準モニタリングのプロトコールに対する非劣性を検証する、実践的なstepped-wedgeクラスター無作為化対照比較非劣性試験であり、2021年4月~2024年9月に8ヵ国(高所得国4ヵ国、低・中所得国4ヵ国)の120病院(クラスター)で患者を登録した(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、急性期虚血性脳卒中と診断され、静脈内血栓溶解療法の開始から2時間以内の神経学的障害が軽度または中等度(NIHSSスコア[0~42点、高点数ほど重症度が高い]が10点未満)で、臨床的に安定した患者を対象とした。 参加病院はプロトコールの実施について、4つの期間の3つの実施順序に無作為に割り付けられ、各病院で標準モニタリング(対照)から低強度モニタリング(介入)へと段階的に切り換えを行った。 低強度モニタリングのプロトコールでは、血栓溶解療法後24時間までの神経学的評価とバイタルサインの評価の頻度を低くし、15分ごと2時間、2時間ごとに8時間(標準モニタリングでは30分ごとに6時間)、その後は4時間ごと(標準モニタリングでは1時間ごと)に行った。 主要アウトカムは、90日後の時点における不良な機能的アウトカムとし、修正Rankinスケールスコア(0[症状なし]~6[死亡]点)の2~6点と定義した。非劣性マージンは、ITT集団におけるリスク比(RR)1.15に設定した。不良な機能的アウトカム、低強度モニタリグング群31.7%vs.標準モニタリグング群30.9% 114病院で4,922例を登録し、低強度モニタリング群に2,789例、標準モニタリング群に2,133例を割り付けた。全体の平均年齢は65.9(SD 13.2)歳、性別を報告した4,916例中1,890例(38.4%)が女性であり、民族を報告した4,913例中2,523例(51.4%)がアジア系だった。ベースラインのグラスゴー・コーマ・スケールスコア中央値は15点(四分位範囲[IQR]:15~15)、NIHSSスコア中央値は4点(IQR:2~7)であり、頻度の高いリスク因子は高血圧(61.3%)と糖尿病(24.9%)であった。 90日の時点で修正Rankinスケールスコアが2~6点であった不良な機能的アウトカムの患者は、低強度モニタリング群が2,552例中809例(31.7%)、標準モニタリング群は1,963例中606例(30.9%)であり(RR:1.03[95%信頼区間[CI]:0.92~1.15]、非劣性のp=0.057)、低強度モニタリング群の非劣性を示唆する弱いエビデンスが得られた。 7日目または退院時のいずれか早い時点でのNIHSSスコアは、低強度モニタリング群が1.9点、標準モニタリング群は2.1点であった(平均群間差:-0.11点[95%CI:-0.36~0.13])。低強度モニタリングは導入の検討に値する 症候性頭蓋内出血は、低強度モニタリング群で2,783例中5例(0.2%)、標準モニタリング群で2,122例中8例(0.4%)に発現した(RR:0.57[95%CI:0.15~2.13])。また、重篤な有害事象の発現は、それぞれ2,789例中309例(11.1%)および2,133例中240例(11.3%)と両群で同程度だった。 著者は、「この介入は、多くの国で集中治療室(ICU)の外部で行うことが許容され、実行は可能であり、結果として看護業務の流れに柔軟性をもたらし、集中治療の医療資源を解放するという有益性を認めたことから、各国の病院は急性期脳卒中の治療体制を改善するために、このアプローチの導入を検討してよいだろう」としている。