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1.

小児期の肥満は成人後に診療数が多くなる

 小児期のBMIは、成人になってからの疾患リスクに影響を与えるのだろうか。このテーマについて、デンマーク・コペンハーゲン大学病院臨床研究予防センターのJulie Aarestrup氏らの研究グループは、小児約11万人を対象に調査し、その結果、小児期に肥満だった人では、成人してからの診断件数が多かったことが判明した。この結果は、Obesity誌オンライン版2025年11月18日号で公開された。小児期の肥満では女性のほうが成人後に診断件数が多くなる 研究グループは、15~60歳までの性別特異的な疾患診断パターンが、小児期のBMIによって異なるかどうかを調査するために、コペンハーゲン学校健康記録登録簿中の1962~96年生まれで体重・身長が測定された児童11万2,952例(女子5万5,603例)を対象に、7歳時のBMIを低体重(4.3%)、正常体重(83.1%)、過体重(9.2%)、肥満(3.5%)に分類した。病院ベースの診断は、全国登録データから取得し、BMI群ごとに頻度の高い疾患上位50種について、性別別の累積発生率を算出した。 主な結果は以下のとおり。・小児期肥満の人は、60歳までの病院での診断件数の推定値が高く、女性で18.2件(95%信頼区間[CI]:16.9~19.5)、男性で15.1件(95%CI:13.8~16.4)だった。・正常体重の人の診断件数の推定値は、女性で14.7件(95%CI:14.5~14.9)、男性で11.7件(95%CI:11.5~11.8)だった。・小児期肥満の女性と男性において、60歳までの診断で最も多かったのは、成人期の過体重(36.4%)と肥満(11.8%)だった。・小児期のBMI区分によるその他の疾患の差はわずかだった。 これらの結果から研究グループでは、「小児期に肥満だった成人は、病院ベースの診断数が最も多かった。成人期の過体重および肥満を除き、小児期のBMIグループ間における生涯にわたる疾患パターンはおおむね類似していた」と結論付けている。

2.

妊娠中の体重増加と母体および新生児の臨床アウトカムの関連/BMJ

 オーストラリア・モナシュ大学のRebecca F. Goldstein氏らは、世界のさまざまな地域および所得水準の妊産婦を対象とした観察研究のシステマティックレビューおよびメタ解析を行い、米国医学研究所(IOM)の推奨値を超える妊娠中の体重増加(GWG)は、アウトカムが不良となるリスクの増加と関連していることを示した。著者は、「今回の結果は、WHOが推進している世界各地の周産期アウトカムの改善に向けたGWG基準の最適化プロセスに役立つだろう」としている。BMJ誌2025年11月19日号掲載の報告。コホート研究40件、妊婦約161万人についてレビュー&解析 研究グループは、Embase、EBM Reviews、Medline、Medline In-Process、その他のデータベースを用い、2009年~2024年5月1日に発表された論文を検索した。適格基準は、18歳超の単胎妊娠の女性300例超を対象とし、妊娠前BMIカテゴリー別の総GWG、ならびに研究で定義されたBMIおよびGWG別のアウトカムが報告されている観察研究とした。言語は問わなかった。 主要アウトカムは、出生体重、帝王切開率、妊娠高血圧症候群、早産、在胎不当過小/過大児、低出生体重、巨大児、新生児集中治療室(NICU)入室、呼吸窮迫症候群、高ビリルビン血症、および妊娠糖尿病とした。 検索の結果、2万1,729件の研究が同定され、適格と判定された計40件のコホート研究(妊産婦計160万8,711例)がレビューに包含された。体重増加がIOM推奨値を下回ると、早産、低出生体重児などが増加 コホート全体で、低体重が6%(6万5,114例)、正常体重が53%(60万7,258例)、過体重が19%(21万5,183例)、肥満が22%(25万2,970例)であった(データ入手は114万252例、WHO分類およびアジア人のBMI分類の両方を含む研究で定義されたBMI分類に基づく)。妊娠終了時、GWGがIOM推奨値を下回っていたのは23%、上回ったのは45%であった。 WHOのBMI基準を用いたところ、IOM推奨値を下回るGWGは、出生体重の低下(平均差:-184.54、95%信頼区間[CI]:-278.03~-91.06)、帝王切開分娩(オッズ比[OR]:0.90、95%CI:0.84~0.97)、在胎不当過大児(0.67、0.61~0.74)、巨大児(0.68、0.58~0.80)の低いリスク、早産(1.63、1.33~1.90)、在胎不当過小児(1.49、1.37~1.61)、低出生体重児(1.78、1.48~2.13)、呼吸窮迫症候群(1.29、1.01~1.63)の高いリスクと関連していた。上回ると、帝王切開、妊娠高血圧症候群、在胎不当過大児などが増加 一方、IOM推奨値を上回るGWGは、出生体重の増加(平均差:118.33、95%CI:53.80~182.85)、帝王切開分娩(OR:1.37、95%CI:1.30~1.44)、妊娠高血圧症候群(1.37、1.28~1.48)、在胎不当過大児(1.77、1.62~1.94)、巨大児(1.78、1.60~1.99)、およびNICU入室(1.26、1.09~1.45)の高いリスク、早産(0.71、0.64~0.79)および在胎不当過小児(0.69、0.64~0.75)の低いリスクと関連していた。 アジア人のBMI基準では、GWGが推奨値を下回ると、妊娠高血圧症候群(OR:3.58、95%CI:1.37~9.39)および早産(1.69、1.25~2.30)の高いリスク、在胎不当過大児(0.80、0.72~0.89)の低いリスクと関連し、GWGが推奨値を上回ると帝王切開(1.37、1.29~1.46)および在胎不当過大児(1.76、1.42~2.18)の高いリスク、在胎不当過小児(0.62、0.53~0.74)および低出生体重(0.44、0.31~0.6)の低いリスクと関連した。

3.

SGLT2阻害薬の腎保護作用:eGFR低下例・低アルブミン尿例でも新たな可能性/JAMA(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? SGLT2阻害薬は、2型糖尿病糖尿病関連腎臓病(DKD)、慢性腎臓病(CKD)、心不全患者などにおいて心・腎アウトカムを改善する明確なエビデンスがある。しかし、腎保護作用に関し、従来、ステージ4 CKD(G4)や尿アルブミン排泄量の少ない患者での有効性は不明瞭であり、推奨度は低かった。この点に注目し、SGLT2阻害薬が腎アウトカムに与える「クラス効果(class effect)」を高精度に評価することを目的とし、オーストラリアのBrendon L. Neuen氏らは、SGLT2阻害薬の大規模臨床研究(ランダム化二重盲検プラセボ対照試験:RCT)を、SGLT2 Inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists' Consortium(SMART-C:国際共同研究)として統合的にメタ解析した(JAMA誌オンライン版2025年11月7日号、ケアネット11月28日掲載)。本解析の結果、SGLT2阻害薬の腎保護作用は、ステージ4のeGFR低下群や低UACR群でも認められ、糖尿病の有無にかかわらず一貫した効果が確認された。この新たな知見は、腎機能の中等度以上低下群や低尿アルブミン群への適応拡大を示唆する。SMART-C研究の主な成績 解析対象は、SGLT2阻害薬のRCT10件、計7万361例(平均年齢64.8±8.7歳)。主要アウトカムはCKD進行(腎不全、eGFRの50%以上低下、腎死)とし、年間eGFR低下率、腎不全単独なども評価。治療効果は、逆分散加重メタ解析を用いて統合した。その主な結果は、CKD進行リスクを低下させた(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.57~0.68)。この効果は、ベースラインの推定糸球体濾過量(eGFR)に関係なく一貫して認められた(eGFR≧60mL/分/1.73m2の場合HR:0.61、45~<60の場合HR:0.57、30~<45の場合HR:0.64、<30の場合HR:0.71、傾向p値=0.16)。また、尿中アルブミン排泄(尿アルブミン・クレアチニン比[UACR])別でも効果は一貫しており(UACR<30mg/gでHR:0.58、30~300でHR:0.74、>300でHR:0.57、傾向p値=0.49)、低UACR群でも有効性が確認された。さらに、糖尿病の有無にかかわらず、すべてのeGFRおよびUACRサブグループにおいて、eGFR年間低下率を改善し、また、腎不全単独のリスクも減少させた(HR:0.66、95%CI:0.58~0.75)。なお、RAS阻害薬の使用率は、各サブグループ間で81~93%であった。また、論文記載のイベント率(SGLT2群25.4 vs.プラセボ群40.3/1,000人年)を基に筆者が算出した治療必要数(NNT)は、中央値3年で約22、高リスク群では16程度と推定された。SMART-C研究のインパクト 従来、SGLT2阻害薬は2型糖尿病やDKDを中心に使用されてきた。本研究の大きな意義は、糖尿病の有無、eGFR、UACRにかかわらず腎保護作用が一貫して認められた点である。現在、日本腎臓学会の「SGLT2阻害薬適正使用の推奨案」では、DKDで第1選択薬としてSGLT2阻害薬が明記されている。開始基準として、DKDではeGFR≧20mL/分/1.73m2での開始を推奨するものの、G5(eGFR<15)での新規開始は不可としている。さらに、DKDでは蛋白尿の有無にかかわらずSGLT2阻害薬は推奨されるが、非糖尿病CKDで蛋白尿陰性の場合は、G2(eGFR≧60)以下では慎重投与となっている(日本腎臓学会誌. 2023;65:1-10.)。一方、SMART-CではG4 CKD(eGFR15~29)でも、低UACR群でも腎保護効果が確認された。この結果は、本邦のガイドラインでは積極的に推奨されないCKD進行例や尿蛋白陰性例でも、SGLT2阻害薬の適応が拡大する可能性を示唆しており、将来的にガイドライン改訂に影響を与えると考えられる。いずれにしても、SMART-Cの成果は、SGLT2阻害薬を「血糖降下薬」から、「心・腎保護の基盤治療薬(foundation therapy)」と位置付ける根拠を提供した。とくに、糖尿病・心不全・CKDなどが複数併存する高リスク患者にとっても有益性が高いことが示され、実臨床/ガイドラインでの採用を裏付けるデータとなった。医療経済の面から、CKD進行イベント率から算出したNNTは約22、高リスク群では16程度と推定され、絶対的ベネフィットは大きい。また、発売10年が経過し、ジェネリック医薬品の登場によりコスト面でのハードルも低下する見込みである。 SMART-C研究には課題もある。この解析研究では、対象の約85%でRAS阻害薬が併用されている。つまり、ここで観察された腎保護効果はRAS阻害薬存在下で得られたものであり、SGLT2阻害薬の単独効果は未検証である。このことから、現時点においてSGLT2阻害薬による腎保護の介入は、RAS阻害薬の併用を前提とすることが望ましい。今後の検討事項としては、初期治療でのSGLT2阻害薬単独の腎保護効果を検証する必要がある。なお、SGLT2阻害薬の腎保護機序は、DKDでは主に糸球体過剰濾過の改善とされるが、それ以外にも諸説が提唱されている(Vallon V. Am J Hypertens. 2024;37:841-852)。かかりつけ医と腎臓専門医の役割 本邦の実臨床においてSMART-Cの結果をどのように導入するか。病態早期(G1~G2、eGFR≧60)やステージG3b(eGFR30~44)の中等症までのDKD/CKD患者でのSGLT2阻害薬導入は、かかりつけ医で可能と考えられる。初期投与後、2~4週でeGFRが一過性に10~20%低下する「initial dip」が観察されるが、これは糸球体過剰濾過腎では病態生理学的に許容範囲と考えられており、中長期的には緩徐なeGFRスロープ低下に移行する。一方、ステージG4(eGFR15~29)のDKD/CKDや複雑な腎病態を呈する症例でのSGLT2阻害薬開始は、腎臓専門医との病診連携が好ましい。この際、かかりつけ医は定期的モニタリングを担うことが望ましい。SGLT2阻害薬導入時の具体的な安全管理として、脱水・低血圧・利尿状況の確認、糖尿病合併例でのシックデイ時の休薬指導・ケトアシドーシス予防、急性腎障害のリスク管理、尿路感染症などへの対応が重要である。高齢者に多い高血圧性腎硬化症では、UACRは低値でeGFRは中等度に低下した虚血腎が病態のベースにある。こうした症例でもSMART-Cのベネフィットが再現できるか、また長期安全性や副作用リスクをどこまで担保できるかは、今後のリアルワールドデータの構築と検証が課題である。

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第40回 2050年には世界の3人に2人が都市住民に~「住む場所」が健康と寿命を左右する? 最新研究が示す都市の未来

便利だが、空気が悪くストレスがたまる都会。不便だが、自然豊かで空気がきれいな田舎。どちらが健康に良いかという議論は、古くから繰り返されてきました。しかし、世界中で急速な「都市化」が進む今、この問いはより複雑で、かつ切実なものになっています。2025年11月、Nature Medicine誌に掲載された論文1)は、都市での生活が私たちの健康に及ぼす影響について、社会的な不平等や気候変動といった視点を交えながら、多角的な分析を行っています。今回は、この論文を基に、都市という環境が私たちの体にどういった「見えない影響」を与えているのか、そしてこれからの都市生活において私たちが意識すべきことは何なのかを解説していきたいと思います。加速する都市化と、広がる「健康の格差」まず、私たちが直面している数字を見てみましょう。現在、人類の過半数がすでに都市部で暮らしており、その割合は2050年までに世界人口の3分の2に達すると予測されています。とくに、これからの都市化の主役は、高所得国ではなく、低・中所得国の都市です。都市は、創造性やイノベーションの中心地であり、経済的なチャンスや高度な医療サービスへのアクセスを提供する場所です。しかし一方で、都市は深刻な対立や暴力の場にもなりえます。さらに、急速で無秩序な都市の拡大は、非感染性疾患(糖尿病や心臓の病気など)、感染症、けがのリスクを高め、社会的な不平等を拡大させる要因にもなっています。この論文でとくに強調されているのが、都市内における「格差」の問題です。世界中で推定11億2,000万人もの人が、スラム街などの劣悪な環境で暮らしており、同じ都市に住んでいても、住むエリアによって健康状態や寿命に大きな開きがあることがわかっています。これは私の住むニューヨークエリアでも痛いほど感じることです。健康を決めるのは「病院」ではなく「街の構造」私たちは健康について考えるとき、「遺伝子」や「個人の生活習慣(何を食べるか、運動するか)」に目を向けがちです。しかし、この論文では、健康は「物理的環境」や「社会的環境」の複雑な相互作用によっても形作られると指摘されています。これを理解するために、少し深掘りしてみましょう。物理的環境大気汚染、騒音、猛暑、緑地の有無、住宅の質、交通機関の利便性などです。たとえば、歩道や自転車レーンが整備されている地域に住む人は、自然と身体活動量が増えますが、高速道路の近くに住む人は、排気ガスによる喘息や心臓病のリスクが高まります。社会的環境地域の安全性、暴力の有無、社会的孤立、人種差別、そして「ご近所付き合い」(社会的結束)などです。これらは心理的なストレスを通じて、私たちのホルモンバランスや免疫系に影響を与え、病気を引き起こす要因となります。重要なのは、これらの要因がバラバラに存在するのではなく、連鎖しているという点です。たとえば、所得の低い地域(社会的要因)には、工場や交通量の多い道路(物理的要因)が集中しやすく、結果としてそこに住む人々の健康が損なわれるという悪循環が生じています。つまり、健康を守るためには、単に病院を増やすといった介入だけでなく、都市計画そのものを見直す必要があるのです。「気候変動対策」は最強の「予防医療」この論文が提示するもう1つの重要な視点は、都市において気候変動対策が、一石二鳥になるという事実です。気候変動は、熱波による熱中症や洪水のリスクを高め、都市の住民の健康を脅かします。しかし、この対策として行われる政策の多くは、実は私たちの健康を改善することがわかってきました。たとえば、都市内の移動を自動車から徒歩や自転車、公共交通機関にシフトさせる「アクティブ・トランスポート」の推進は、温室効果ガスの排出を減らすだけでなく、大気汚染を改善し、人々の運動不足を解消します。また、街中に木々を植え、緑地を増やす「グリーンインフラ」の整備は、ヒートアイランド現象を緩和して気温を下げるだけでなく、住民のメンタルヘルスを改善し、ストレスを減らす効果も実証されています。論文ではさらに、住宅の断熱性能を高めることも、エネルギー効率を上げてCO2を削減すると同時に、寒さや暑さによる健康被害を防ぐ有効な手段であると述べられています。つまり、地球に優しい街づくりは、そのまま「体に優しい街づくり」になるのです。私たちが知っておくべきこと、できることでは、こうした研究結果を受けて、私たちはどうすればよいのでしょうか。まず、「住環境は健康リスクである」という認識を持つことです。自分が住んでいる場所の空気はきれいか、歩きやすいか、緑はあるか、安全か。引っ越しや住宅選びの際には、部屋の広さや家賃だけでなく、「健康に資する環境か」という視点を持つことが重要なのだと思います。次に、政策への関心です。自転車専用レーンの設置や公園の整備、大気汚染規制といった都市政策は、単なるインフラ整備ではなく、公衆衛生上の介入そのものです。政治的な意思がなければ、こうした健康的で公平な都市は実現できないでしょう。ただし、まだ解明されていないことも数多く残されています。たとえば、どのような政策に最も効果があるのか、特定の地域で成功したモデルは他の都市でも通用するのかといった点です。今後の研究では、都市間のデータを比較し、政策の効果が検証され続ける必要があるでしょう。都市化は避けられない未来です。しかし、その都市が私たちの寿命を縮める場所になるのか、それとも健康で豊かな生活を支える場所になるのかは、これからの都市計画と、それを監視・支持する私たちの意識にかかっているともいえます。人類が今後も健康に生き残り、繁栄するためには、環境に配慮した都市化以外に選択肢はないのかもしれません。 参考文献 1) Diez Roux AV, Bilal U. Advancing equitable and sustainable urban health. Nat Med. 2025;31:3634-3647.

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認知症リスク低減効果が高い糖尿病治療薬は?~メタ解析

 糖尿病治療薬の中には、血糖値を下げるだけでなく認知機能の低下を抑える可能性が示唆されている薬剤がある一方、認知症の発症・進展は抑制しないという報告もある。今回、国立病院機構京都医療センターの加藤 さやか氏らは、システマティックレビュー・ネットワークメタアナリシスにより、9種類の糖尿病治療薬について2型糖尿病患者の認知症リスクの低減効果があるのかどうか、あるのであればどの薬剤がより効果が高いのかを解析した。その結果、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬が認知症リスクの低減効果を示し、その効果はこの順に高い可能性が示唆された。Diabetes, Obesity and Metabolism誌オンライン版2025年10月22日号に掲載(2026年1月号に掲載予定)。 本研究では、PubMed、Cochrane Library、医中誌Webを開始時から2023年12月31日まで検索し、糖尿病治療薬の認知症への効果を評価した英語または日本語で報告された試験を選定した。 主な結果は以下のとおり。・67試験(408万8,683例)が対象となり、単剤療法と対照群(糖尿病治療薬の使用なし、プラセボ)の比較が3試験、単剤療法と追加療法の比較が1試験、リアルワールドデータベース研究が63試験であった。・解析の結果、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬が、対照群(プラセボ、糖尿病治療薬の使用なし、他の糖尿病治療薬)と比較して認知症リスクが低減し、その効果はこの順で高い可能性が示唆された。・インスリンは認知症リスクの上昇と関連していた。・メトホルミン、SU薬、グリニド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬は、認知症リスクとの有意な関連は認められなかった。

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CKDへのSGLT2阻害薬、糖尿病・UACRを問わずアウトカム改善/JAMA

 慢性腎臓病(CKD)患者におけるSGLT2阻害薬の効果については不確実性が存在し、欧米のガイドラインでは糖尿病の状態や尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)に基づき推奨の強さが異なる。英国・オックスフォード大学のNatalie Staplin氏らSGLT2 Inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists’ Consortium(SMART-C)は、SGLT2阻害薬は糖尿病の有無やUACRの値にかかわらず、腎機能や入院、死亡のアウトカムに関して明確な絶対的便益(absolute benefit)を有するとメタ解析の結果を報告した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年11月7日号で発表された。8件の無作為化臨床試験のメタ解析 研究グループは、糖尿病の有無およびUACR(200mg/g以上、200mg/g未満)で層別化した臨床試験の参加者において、SGLT2阻害薬の使用が有効性や安全性のアウトカムに及ぼす相対的および絶対的な影響の評価を目的にメタ解析を行った。 対象は、腎疾患での使用の適応を有するSGLT2阻害薬について検討し、腎アウトカムの経過やベースラインのアルブミン尿のデータを記録した8件の無作為化臨床試験であった。 主要アウトカムとして、SGLT2阻害薬の使用が臨床的な有効性と安全性に及ぼす影響を評価した。糖尿病の有無にかかわらず、有効性のアウトカムが改善 SGLT2阻害薬とプラセボを比較した試験の参加者5万8,816例(平均年齢64[SD 10]歳、女性35%、糖尿病4万8,946例、非糖尿病9,870例)を解析の対象とした。 プラセボ群と比較してSGLT2阻害薬群では、次の4つの有効性のアウトカムが糖尿病の有無を問わず改善した(非糖尿病患者の総死亡を除く)。(1)腎疾患進行率が低下(糖尿病患者:SGLT2阻害薬群33件/1,000人年vs.プラセボ群48件/1,000人年、ハザード比[HR]:0.65[95%信頼区間[CI]:0.60~0.70]、非糖尿病患者:32件vs.46件、0.74[0.63~0.85])(2)急性腎障害(AKI)の発生率が低下(糖尿病患者:14件vs.18件、0.77[0.69~0.87]、非糖尿病患者:13件vs.18件、0.72[0.56~0.92])(3)総入院の発生率が低下(糖尿病患者:202件vs.231件、0.90[0.87~0.92]、非糖尿病患者:203件vs.237件、0.89[0.83~0.95])(4)総死亡の発生率が低下(糖尿病患者:42件vs.47件、0.86[0.80~0.91]、非糖尿病患者:42件vs.48件、0.91[0.78~1.05])アルブミン尿による層別化は不要 このようなSGLT2阻害薬の糖尿病の有無別のHRは、さらにUACR 200mg/g以上とUACR 200mg/g未満に分けて検討した場合も同様に良好であった。 たとえば、UACR 200mg/g以上で絶対リスクが高い場合でも、このサブグループでは腎疾患進行(糖尿病患者のHR:0.65[95%CI:0.59~0.71]、非糖尿病患者のHR:0.71[95%CI:0.60~0.84])に対するSGLT2阻害薬の絶対的便益が明らかに大きいと推定された。また、UACR 200mg/g未満の患者では、他の有効性のアウトカム、とくに入院(0.91[0.88~0.94]、0.89[0.82~0.98])に関して明らかな絶対的便益を認めた。 さらに、非心不全の患者集団や、推定糸球体濾過量が60mL/分/1.73m2未満の患者の解析でも、このSGLT2阻害薬の絶対的便益が保持されていた。 著者は、「これらのデータは、CKD患者におけるSGLT2阻害薬の使用に関するガイドラインの推奨から、アルブミン尿の値による患者の層別化を削除することを支持し、より広範な使用の根拠となるものである」としている。

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低用量アスピリン処方が2型糖尿病患者の初回イベントリスク低下と関連――AHA

 動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の既往のない成人2型糖尿病患者に対する低用量アスピリン(LDA)の処方が、心筋梗塞や脳卒中、全死亡リスクの低下と関連しているとする、米ピッツバーグ大学医療センターのAleesha Kainat氏らの研究結果が、米国心臓協会(AHA)年次学術集会(AHA Scientific Sessions 2025、11月7~10日、ニューオーリンズ)で発表された。追跡期間に占めるLDA処方期間の割合が高いほど、より大きなリスク低下が認められるという。 AHA発行のリリースの中でKainat氏は、「これまでのところ、ASCVD一次予防でのLDAの有用性は証明されていない。しかし、2型糖尿病はASCVDのリスク因子である。本研究では、2型糖尿病を有し、かつASCVDリスクが中等度以上に高い集団における、一次予防としてのLDA投与の意義を検討した」と、研究背景を述べている。 この研究は、ピッツバーグ大学関連の医療機関(35以上の病院、400以上の診療所)の患者データを用いて行われた。AHAおよび米国心臓病学会(ACC)によるASCVDリスク評価スコアにより、向こう10年間でのASCVDリスクが中等度から高度と判定された、成人2型糖尿病患者1万1,681人(平均年齢61.6歳、女性46.2%)を解析対象とした。出血ハイリスク患者は除外されている。 約8年間の医療記録に基づき、LDA処方の有無、およびLDA処方期間の長さ(8年間のうち30%未満にLDAが処方されていた群、同30~70%の群、70%超の群)と、10年にわたる追跡期間中の心筋梗塞、脳卒中、および全死亡の発生率との関連を検討した。解析に際しては、傾向スコアマッチングにより背景因子を一致させた。なお、対象全体の88.6%にLDAが処方され、53.2%にスタチンが処方されていた。 解析の結果、LDAが処方されていない患者を基準として、LDAが処方されていた患者は心筋梗塞の累積発生率が低く(61.2%対42.4%)、脳卒中(24.8%対14.5%)や全死亡(50.7%対33%)も同様に、LDAが処方されていた患者の発生率の方が低かった。また、LDA処方によるそれらイベントの発生率低下は、LDA処方期間が最も長い群で最も顕著に見られた。サブグループ解析からは、LDA処方とイベント発生率低下の関連はHbA1cにかかわりなく観察されたが、HbA1cが良好な群でより顕著な関連が認められた。 Kainat氏は、「この結果にわれわれは少なからず驚いた。ASCVD既往がなくLDAが処方されていた2型糖尿病患者は、10年間の追跡期間中の心筋梗塞、脳卒中、および全死亡リスクが大きく抑制されており、LDAが長期間継続的に処方されていた患者でその影響が顕著だった」と述べている。ただし、「出血ハイリスク者を解析から除外しており、出血イベントの発生率を比較していないことは、結果解釈上の大きな限界点である」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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若年女性の4人に1人が低体重:運動習慣が与える影響はBMIで異なる

 日本では若年女性(18~29歳)の約20〜25%が低体重(BMI:18.5未満)で、将来的な健康リスクを抱え、社会問題となっている。「やせ=美」という社会的/文化的理想(やせ理想)の内在化が強く、これが「健康ではなく、見た目のためのやせ志向」を助長している可能性がある。順天堂大学・室伏 由佳氏らは、運動習慣が身体満足度に与える影響を、「やせ理想の内在化」と「自尊心」を通じて評価し、とくに低体重女性と標準体重女性(BMI:18.5~25未満)でその違いを検討することを目的とした研究を行った。本研究結果は、BMC Public Health誌2025年11月20日号に発表された。 2023年5月、日本全国のオンラインモニターを通じ、18~29歳の女性を対象に調査を行った。最終解析には低体重400例(平均BMI:17.4)と標準体重189例(平均BMI:20.6)の計589例が含まれた。「運動習慣」は、日本の国民健康・栄養調査の定義に倣い、「過去1年以上、週2回以上、1回30分以上の運動を実施」で判定した。また、主観的な身体満足度、外見に対する社会文化的態度、自尊心も評価した。 主な結果は以下のとおり。・両群とも約50%の参加者が定期的な運動習慣(平均週2.5日)があると報告した。低体重群では、運動習慣が「やせ理想の内在化」を軽減させ、「自尊心」を向上させることで身体満足度が向上していた。・一方、標準体重群では、運動習慣が「やせ理想の内在化」を軽減させ、身体満足度を向上させたものの、「自尊心」には有意な影響を与えなかった。 研究者らは「両群ともに、運動習慣の有無に大きな差はなかったが、運動の心理的効果(身体満足度への影響)は、低体重群と標準体重群で異なった。この結果は、BMIによって運動習慣が身体満足度に影響を与える経路が異なり、若年女性の身体満足度向上のためには、BMIに応じて異なるアプローチが必要であることを示唆している。低体重女性に対しては、運動習慣を通じて『やせ理想の内在化』を軽減させ、『自尊心』を向上させることが重要である。一方、標準体重女性に対しては、運動習慣とは別に直接『自尊心』を向上させる介入がより効果的である可能性がある。近年の研究では、身体活動が不十分で食事摂取量が少ない若年女性は、肥満者と同様の代謝プロファイルを示し、将来的に糖尿病発症リスクが高まることが明らかになっている。本研究は、日本の若年女性における低体重問題に対処するための多面的アプローチの一環として、運動習慣の役割を明確にした点で意義がある」とした。

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10人に1人が糖尿病疑い、男性は3割が肥満/国民健康・栄養調査2024

 厚生労働省は2025年12月2日、「令和6年国民健康・栄養調査」の結果概要を発表した。この調査は、健康増進法に基づき毎年実施され、2024年10〜11月に日本全国から無作為に選ばれた約1万世帯が、身体・栄養摂取状況、生活習慣についての調査に回答した。結果の要点は以下のとおり。【糖尿病】推計有病者は約1,100万人、治療中は約7割にとどまる・HbA1c値と自己申告に基づく推計によると、「糖尿病が強く疑われる者」は約1,100万人と推計され、1997年以降、一貫して増加している。一方、「糖尿病の可能性を否定できない者」は約700万人で、こちらは2007年をピークに減少傾向を示した。・20歳以上の「糖尿病が強く疑われる者」の割合は12.9%(男性17.7%、女性9.3%)、「糖尿病の可能性を否定できない者」は男女とも8.2%であった。「糖尿病を指摘された経験がある者」のうち現在治療を受けている者の割合は67.4%と3分の2にとどまり、とくに30〜40代において相対的に未治療率が高かった。【体格】若年女性のやせと高齢者の低栄養傾向が並存・20歳以上で適正体重を維持している者(BMI:18.5以上25未満、65歳以上は20超25未満)は60.7%で、20〜60代男性では肥満者(25以上)が34.0%、40〜60代女性では20.2%であった。・一方、20〜30代女性のやせ(18.5未満)は16.6%と依然として高い割合を示し、さらに65歳以上の低栄養傾向(20以下)は19.5%と、高齢者の栄養リスクも顕著であり、若年層のやせと高齢者の栄養不良が同時に進む様相が明確になった。【食習慣】減塩・野菜・果物の摂取は依然として目標未達・主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を「1日2回以上、ほぼ毎日」摂っている者は52.8%で、男女とも20代が最も低かった。・食塩摂取量は依然として多く、平均9.6g/日(男性10.5g、女性8.9g)で、「健康日本21」が掲げる目標値7gを大きく上回った。・野菜摂取量は平均258.7g/日(男性268.6g、女性250.3g)で目標値の350gに届かず、果物は平均78.1gと、こちらも目標値200gの半分以下だった。【身体活動・睡眠】運動習慣は約3割、歩数は目標をほぼ達成・「運動習慣のある者」(30分以上の運動を週2回以上、1年以上継続)は34.6%(男性38.5%、女性31.5%)、男女とも30~40代でとくに低かった。・歩数の全国平均は7,071歩/日(男性7,763歩、女性6,495歩、年齢調整値7,231歩)で、年齢調整後の目標値7,100歩をおおむね達成した。一方、65歳以上では男女とも平均歩数が大きく減少した。・睡眠では、「睡眠で休養がとれている」と回答した者が79.6%、睡眠時間が適正範囲(成人6〜9時間、60歳以上6〜8時間)なのは56.0%であった。【喫煙・飲酒】加熱式タバコが4割超、60代男性は2割が問題量の飲酒・「習慣的に喫煙している者」は14.8%(男性24.5%、女性6.5%)で、うち加熱式タバコの割合が男性41.4%、女性44.2%に達し、紙巻タバコとの併用者も一定数存在した。・生活習慣病のリスクを高める量の飲酒(純アルコール摂取量が男性40g/日以上、女性20g/日以上)をしている者の割合は全体で11.4%(男性13.9%、女性9.3%)。とくに60代の男性(21.6%)と50代の女性(18.4%)で割合が高かった。

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代謝異常を伴う脂肪肝「MASLD」、慢性腎臓病の独立リスクに

 新しい脂肪肝の概念「MASLD;代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」が、慢性腎臓病(CKD)の独立したリスク因子であることが国内研究で示された。単一施設の約1.6万人の健康診断データを解析したもので、MASLDの早期発見や管理の重要性が改めて示された。研究は京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の大野友倫子氏、濱口真英氏、福井道明氏、朝日大学病院の大洞昭博氏、小島孝雄氏らによるもので、詳細は10月17日付で「PLOS One」に掲載された。 日本では食生活の欧米化に伴い肥満が増加し、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の有病率も上昇している。NAFLDは主に内臓脂肪やインスリン抵抗性と関連し、糖尿病や心血管疾患などの代謝異常を伴うことが多い。2020年には、こうした代謝背景を重視する形でNAFLDはMAFLDとして再定義され、日本の大規模コホート研究ではCKDの独立したリスク因子であることが報告された。さらに2023年、国際的専門家パネル(Delphiコンセンサス)により、より包括的でスティグマの少ない概念としてMASLDへと名称が変更され、少なくとも1つの心血管代謝リスク(BMI、血糖値、HDL-C値など)を伴う脂肪肝と定義された。本研究は、この新しい定義によるMASLDがCKD発症の独立したリスク因子となるかを明らかにすることを目的に、人間ドック受診者を対象とした縦断的コホート解析として実施された。 本研究では、岐阜県の朝日大学病院で実施されているNAFLDの縦断的解析(NAGALA Study)に基づき、1994~2023年の間に人間ドックを受けた1万5,873人を解析対象とした。ベースライン時点で肝疾患を有する者、またはCKD(推算糸球体濾過量〔eGFR〕<60mL/分/1.73m2、もしくはタンパク尿〔+1~+3〕が少なくとも3か月持続)と診断された者は除外した。参加者はアルコール摂取量、心血管代謝リスク、脂肪肝の有無によりグループ1~8までのカテゴリーに分類された。主要評価項目は、5年間の追跡期間中におけるCKDの新規発症率とし、ロジスティック回帰分析によりMASLDとCKD発症との関連を評価した。 解析対象の9,318人(58.7%)が男性で、平均年齢は43.7歳だった。追跡期間中のCKD新規発症率は、アルコール摂取が閾値以下で心血管代謝リスクおよび脂肪肝を認めないグループ1で最も低く(4.7%)、MASLDと診断されたグループ8で最も高かった(9.5%)。 次に、ベースライン時の年齢、性別、eGFR、喫煙習慣、運動習慣で調整した多変量解析を実施した。その結果、グループ1と比較して、MASLDと診断されたグループ8でのみCKD新規発症のオッズ比(OR)が有意に上昇した(OR 1.37、95%信頼区間〔CI〕1.12~1.67、P=0.002)。さらに、年齢(OR 1.04、95%CI 1.03~1.05、P<0.001)およびベースライン時のeGFR(OR 0.88、95%CI 0.87~0.89、P<0.001)も、CKDの有意な予測因子として同定された。 著者らは、「MASLDは、これまでのNAFLDを包含する新しい疾患概念として、CKD発症リスクを独立して高める可能性がある。特に日本に多い『非肥満型MASLD』では、腎機能低下リスクに注意が必要だ。今後は、筋肉量の影響を受けない腎機能指標を用いたリスク評価や、個別化された介入の検討が求められる」と述べている。 なお、本研究の限界点としては、参加者が岐阜県の人間ドック受診者に限られ、選択バイアスの可能性があること、食事内容や食後血糖などのデータが欠如している点などを挙げている。

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選択的アミリン受容体作動薬eloralintide、週1回投与で有意な減量効果/Lancet

 米国・Endeavor HealthのLiana K. Billings氏らは、同国46施設で実施した第II相無作為化二重盲検プラセボ対照用量漸増試験において、肥満または過体重かつ肥満関連併存疾患を有する非2型糖尿病の成人に対する新規選択的アミリン受容体作動薬eloralintideが、48週間にわたり臨床的に意義のある用量依存的な体重減少をもたらし、忍容性は良好であったことを報告した。アミリンをベースとした治療法は、有望な肥満治療薬として注目を集めている。著者は、「eloralintideが肥満治療薬として有用である可能性を支持する結果である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年11月6日号掲載の報告。eloralintide各種用量の週1回投与の有効性と安全性を、プラセボと比較 研究グループは、18~75歳の非2型糖尿病で、BMI値30以上または27以上30未満かつ少なくとも1つの肥満関連併存疾患(高血圧、脂質異常症、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、高尿酸血症または痛風、多嚢胞性卵巣症候群、尿失禁、変形性関節症、慢性腰痛または膝痛、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患[MASLD]または代謝機能障害関連脂肪肝炎[MASH]、慢性腎臓病[CKD])を有する患者を、プラセボ群またはeloralintide 1mg、3mg、6mg、9mg、6→9mgまたは3→6→9mg群に2対1対1対1対2対1対2の割合で無作為に割り付け、週1回、48週間皮下投与した。 主要エンドポイントは48週後のベースラインからの体重変化率で、無作為化された全患者を有効性の解析対象集団とした。また、無作為化され少なくとも1回治験薬を投与された全患者を対象に安全性を評価した。48週後の体重平均変化率はプラセボ群-0.4%、eloralintide群-9~-20% 2024年2月5日~2025年8月14日に263例が登録され、eloralintide(1mg群28例、3mg群24例、6mg群28例、9mg群54例、6→9mg群24例、および3→6→9mg群52例)またはプラセボ群(53例)に無作為に割り付けられた。患者背景は、平均年齢49.0歳(SE 12.6)、平均体重109.1kg(22.8)、BMI値39.1(6.8)、女性204例(78%)、白人205例(78%)であった。 有効性解析対象集団(263例)において、48週後のベースラインからの体重の平均変化率(効果推定値)は、プラセボ群-0.4%(95%信頼区間:-2.2~1.4)に対し、eloralintide群では1mg群-9%(-12.6~-6.3)、3mg群-12%(-14.9~-9.8)、6mg群-18%(-20.7~-14.5)、9mg群-20%(-22.7~-17.5)、6→9mg群-20%(-22.7~-17.0)、および3→6→9mg群-16%(-18.6~-14.1)であった。 eloralintide群の主な有害事象は、悪心(1mg群11%、3mg群13%、6mg群64%、9mg群33%、6→9mg群54%、3→6→9mg群25%、プラセボ群14%)および疲労(0%、13%、29%、43%、46%、21%、12%)であった。

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糖尿病を予防するにはランニングよりも筋トレの方が効果的?

 糖尿病の発症予防のために運動をするなら、ランニングよりもウエートリフティングの方が適しているのかもしれない。その可能性を示唆する研究結果が、「Journal of Sport and Health Science」に10月30日掲載された。米バージニア工科大学運動医学研究センターのZhen Yan氏らが行った動物実験の結果であり、高脂肪食で飼育しながらランニングをさせたマウスよりもウエートリフティングをさせたマウスで、より好ましい影響が確認されたという。 論文の上席著者であるYan氏は、「私たちは誰でも長く健康な人生を送りたいと願っている。そして、運動を習慣的に続けることが、その願いの実現のためにメリットをもたらすことは誰もが知っている。ランニングなどの持久力をつける運動と、ウエートリフティングなどのレジスタンス運動(筋トレ)は、どちらもインスリン感受性を高めるというエビデンスが、ヒトを対象として行われた数多くの研究で示されてきている」と話す。 しかし、糖尿病の発症を防ぐという点で、それらの運動のどちらが優れているのかという疑問に対しては、まだ明確な答えが得られていない。そこでYan氏らは、これら二つのタイプの運動の効果を直接的に比較するため、マウスを用いた研究を行った。 ウエートリフティングをさせる1群は、餌の容器に蓋をして、その上に重りを載せたゲージ内で飼育した。この群のマウスが餌を食べるためには、肩の部分に取り付けられた小さな首輪を使って重りをどかす必要があり、その動作がヒトのウエートリフティングのトレーニングに相当するという仕組み。著者らによると、この方法はマウスにウエートリフティングをさせるために開発された初の手法だという。なお、研究期間中に蓋の重りを徐々に重くしていった。 別の1群は回転ホイールのあるゲージで飼育し、ランニングをさせる群とした。このほかに、特に運動をさせない1群も設けた。これら3群は、高脂肪食で飼育した。 8週間後、運動をさせた2群のマウスは、運動をさせなかった群に比較して、ともに脂肪量の増加が少なかった。ただし、ウエートリフティングをさせたマウスの方が、その抑制効果がより大きかった。また、ウエートリフティングをさせたマウスのインスリン抵抗性は、運動をさせなかったマウスよりも低く(インスリンの感受性が高く)、血糖値が高くなりにくい状態だった。これに対して、ランニングをさせたマウスのインスリン抵抗性は、運動をさせなかったマウスと同程度に高かった。 Yan氏は、「健康上のメリットを最大化するには、『できるだけ持久力を高める運動と筋トレの両方を行うべき』というのが、われわれの研究からの重要なメッセージだ」と述べている。また、「本研究の結果は、何らかの理由で持久力を高める運動ができない人にとって朗報と言える。筋トレは糖尿病予防という点で、持久力のための運動と同等、あるいはそれ以上の効果を期待できる」と付け加えている。

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鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)とSGLT2阻害薬の併用が慢性腎臓病(CKD)治療の基本となるか(解説:浦信行氏)

 CKDに対する腎保護効果に関して、従来はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の使用が基本であった。また、一層の腎保護効果を期待してこの両者の併用も分析されたことがあったが、作用機序が近いこともあって相加効果は期待し難かった。 最近はMRAやSGLT2阻害薬の腎保護効果が次々と報告されるようになり、それぞれ複数の薬剤で有意な効果が報告されている。この両者の併用効果に関しては、2型糖尿病に伴うCKDを対象としたフィネレノンとエンパグリフロジン併用のCONFIDENCE試験が先行して行われ、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)で相加効果が確認されている。フィネレノンは従来のMRAとはMRへの結合の際の立体構造の変化が異なると報告され、その結果、高K血症の発症が少ないとされたが11.4%に認めた。エンパグリフロジンとの併用で9.3%に減少すると報告されたが、期待されたほど少なくはなかった。 このたびは、MRAのbalcinrenoneとSGLT2阻害薬のダパグリフロジン併用の腎保護効果を、2型糖尿病の有無にかかわらずUACR陽性のCKDで検討した(MIRO-CKD試験)。その結果は2025年11月27日配信のジャーナル四天王に概説されているが、ダパグリフロジン単独群より22.8~32.8%のUACRの有意な減少効果を示した。また、サブ解析では2型糖尿病の有無にかかわらず同等の効果を示し、腎機能障害の程度にかかわらず同等の効果を示している。問題は高K血症であるが6~7%にとどまり、ダパグリフロジン単独群の5%と大差がなく、対象324例で重症例はなかった。その機序は不明だが、尿中Na/K比に有意な変化はなかったことからbalcinrenoneによるK排泄の変動が大きくなかったと考えられるが、MRに対する他MRAとの相違の有無などの可能性は考察されていない。今後は、より多数例でより長期の試験が望まれ、ハードエンドポイントでの評価が望まれる。

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夕食時間が蛋白尿に影響、時間帯や患者特性は?

 蛋白尿や微量アルブミン尿は、心血管疾患および全死亡リスク上昇との関連が報告されている。また、いくつかの研究で、夕食時間の遅さと蛋白尿との関連が報告されているが、患者特性などは明らかにされていない。そこで今回、りんくう総合医療センター腎臓内科の村津 淳氏らは、夕食時間の遅さが蛋白尿を来すことを明らかにし、とくに低BMIの男性で強く関連することを示唆した。本研究結果はFront Endocrinol誌2025年11月10日号に掲載された。 研究者らは、夕食時間の遅さと蛋白尿の出現との関連を評価するため、りんくう総合医療センターの健康診断データを用い、推定糸球体濾過量(eGFR)60mL/分/1.73m2以上で腎疾患の既往のない2,127人(男性1,028人、女性1,099人)を対象に横断研究を実施。週3日以上、就寝前2時間以内に夕食を取った参加者を夕食時間が遅い群と定義した。夕食時間による蛋白尿の影響は、臨床的関連因子(年齢、性別、喫煙歴、飲酒歴、既往歴など)を調整したロジスティック回帰モデルを用いて評価した。また、これまでに報告された横断研究では、蛋白尿の有病率はBMI(kg/m2)とJ字型関係を示していることから、今回、男女別でBMIと腹囲を各3群に区分。BMIは、男性では22.3未満、22.3~24.9、24.9以上に分け、女性では20.3未満、20.3~23.0、23.0以上と分けた。腹囲(cm)は、男性は83.0未満、83.0~90.1、90.1以上、女性は75.0未満、75.0~83.5、83.5以上として評価した。 なお、「蛋白尿陽性」は尿試験紙法で蛋白尿±以上と定義した。その理由として、尿蛋白±が微量アルブミン尿に相当し、糸球体障害の早期段階や心血管リスクの上昇を反映することから、早期腎障害も評価に含めるためとしている。 主な結果は以下のとおり。・夕食時間が遅かったのは、男性297人(28.9%)、女性176人(16.0%)であった。・多変量調整後のロジスティック回帰分析の結果、夕食時間の遅さは男性の蛋白尿の出現率に有意に関連し、臨床的関連因子調整後も低BMI(BMI24.9kg/m2未満)の男性で有意であった(調整オッズ比は、それぞれ3.57[1.34~9.48]、3.15[1.22~8.13])。・BMI、腹囲が共に低いほど蛋白尿と有意な関係を認めた。・BMIが24.9kg/m2以上の高BMIではこの関連は認められなかった。

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eGFRcysとeGFRcrの乖離は死亡・心血管イベントと関連/JAMA

 外来患者において、eGFRcys(シスタチンC値を用いて算出した推定糸球体濾過量)の値がeGFRcr(クレアチニン値を用いて算出した場合)の値より30%以上低い患者は、全死因死亡、心血管イベントおよび腎代替療法を要する腎不全の発現頻度が有意に高いことが示された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のMichelle M. Estrella氏らChronic Kidney Disease Prognosis Consortium Investigators and Collaboratorsが、Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium(CKD-PC)の患者データのメタ解析結果を報告した。eGFRの算出にクレアチニン値を用いた場合とシスタチンC値を用いた場合でeGFR値が異なる可能性があるが、これまでその差異の頻度および重要性は明らかになっていなかった。今回の解析では、外来患者の約11%および入院患者の約35%で、eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低い患者が認められることも示されている。JAMA誌オンライン版2025年11月7日号掲載の報告。eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低い患者の割合および特色を評価 研究グループは2024年4月~2025年8月に、CKD-PCの被験者で、ベースラインでシスタチンC値とクレアチニン値を同時に測定し、臨床アウトカムの情報が得られた患者のデータを集約し、個人レベルのメタ解析を行った。eGFRcys値とeGFRcr値の不一致率を評価し、不一致率がより高いことと関連する特色を明らかにし、また不一致率と有害アウトカムの関連を評価した。 主解析では、負の大きなeGFR値の差(eGFRdiff)を評価した(eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低いことと定義)。副次(従属的)アウトカムは、全死因死亡、心血管死、アテローム動脈硬化性疾患、心不全、腎代替療法を要する腎不全などであった。外来患者の11.2%が該当、全死因死亡などが高いことと関連 23の外来患者コホート82万1,327例(平均年齢59[SD 12]歳、女性48%、糖尿病13.5%、高血圧症40%)と2つの入院患者コホート3万9,639例(67[16]歳、31%、30%、72%)のデータが包含された。 外来患者において、11.2%が負の大きなeGFRdiffを有していた。負の大きなeGFRdiffは、コホート間でばらつきがみられた(範囲:2.8%~49.8%)。外来患者全体の平均eGFRcr-cys値(クレアチニン値とシスタチンC値を用いて算出)は86(SD 23)であった。 入院患者では、34.2%が負の大きなeGFRdiffを有していた。全体の平均eGFRcr-cys値は63(SD 33)であった。 外来患者の平均追跡期間11(SD 4)年において、負の大きなeGFRdiffは、eGFRdiffが-30%~30%であった場合と比較して、全死因死亡(28.4 vs.16.8/1,000人年、ハザード比:1.69、95%信頼区間:1.57~1.82)、心血管死(6.1 vs.3.8、1.61、1.48~1.76)、アテローム動脈硬化性疾患(13.3 vs.9.8、1.35、1.27~1.44)、心不全(13.2 vs.8.6、1.54、1.40~1.68)、腎代替療法を要する腎不全(2.7 vs.2.1、1.29、1.13~1.47)の発現頻度がいずれも高かった。

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トランスジェンダー女性のホルモン治療は心血管リスクを高めない

 トランスジェンダー女性が、男性から女性への性別移行のために女性ホルモンの一種であるエストラジオールを使用しても、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まることはないことが、新たな研究で示された。それどころか、トランスジェンダー女性に対するホルモン治療は、生まれつきの性別と性自認が一致するシスジェンダー男性と比べて、心臓や血管に対する保護的な効果がある可能性が示されたという。アムステルダム大学医療センター(オランダ)のLieve Mees van Zijverden氏らによるこの研究の詳細は、「European Heart Journal」に11月4日掲載された。 生まれつきの性別と性自認が一致しないトランスジェンダーの人は、胸の膨らみや低音の声など、自認する性により近い身体的特徴を得るためにホルモン治療を受けることを選択する人が多い。しかし過去の研究では、そのようなホルモン治療はトランスジェンダー女性の心血管イベントリスクの上昇と関連することが示唆されている。 Van Zijverden氏らは今回、Amsterdam Cohort of Gender Dysphoria(ACOG)のデータを用いて、トランスジェンダー女性2,714人、およびトランスジェンダー男性1,617人の健康状態を、一般人口と比較した。 その結果、エストラジオールを使用しているトランスジェンダー女性では、シスジェンダー男性と比べて心筋梗塞のリスクが50%低く(標準化罹患比0.50、95%信頼区間0.32〜0.71)、脳血管障害リスクは同程度であり(同0.94、0.72〜1.19)、静脈血栓塞栓症リスクは81%高い(同1.81、1.33〜2.35)ことが明らかになった。一方、トランスジェンダー男性では、シスジェンダー女性と比べて心筋梗塞リスクが約4倍高く(同4.20、2.72〜6.01)、脳血管障害リスクは55%高く(同1.55、1.01〜2.20)、静脈血栓塞栓症リスクは同程度(同1.00、0.53〜1.61)であった。 論文の上席著者でアムステルダム大学医療センター内分泌学教授のMartin den Heijer氏は、「先行研究では、トランスジェンダー女性の心筋梗塞や脳卒中のリスクがシスジェンダーの男性と比べて高い可能性が示唆されていた。われわれは、この結果に納得できなかった。今回の研究では、エストラジオールを使用しているトランスジェンダー女性において、心筋梗塞や脳梗塞のリスク上昇は認められなかった」とニュースリリースの中で説明している。同氏は、「エストラジオールには、心臓や血管を保護する作用があると考えられているが、今回の研究結果はそうした知見に合致するものだ」と指摘し、「今回の研究によって、長い間われわれを悩ませてきたパラドックスが解決された」と話している。 研究グループは、「全体として、これらの結果は、シスジェンダーの男性と女性の心血管リスクと一致していた。一般的に男性は女性よりも心臓の問題を抱えるリスクが高く、生殖器の違いがその一因となっている」と説明している。Van Zijverden氏は、「トランスジェンダー男性では、テストステロンの使用が血圧の軽度の上昇やコレステロール値の悪化を引き起こすことがあり、それによって心血管疾患のリスクが高まると考えられている」と説明している。 研究グループはまた、トランスジェンダー男性における心血管リスクの上昇には、ホルモン以外の要因も関与している可能性を指摘している。「そのため、今回の研究では、教育レベルや就労経験、収入などの生活習慣要因や社会経済的要因も考慮に入れて分析した。しかし、これらの要因ではリスク上昇のごく一部しか説明できないことが判明した」とvan Zijverden氏は説明する。同氏は、「トランスジェンダー男性のリスク上昇およびトランスジェンダー女性のリスク低下の正確な原因を明らかにするため、さらなる研究が必要だ」との見解を示している。

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断続的断食は成人の認知機能に影響しない

 食事を摂取する時間と断食する時間を定期的に繰り返す断続的断食(インターミッテントファスティング)を行っても、成人の思考力、記憶力、問題解決能力などの知的機能が鈍ることはないことが、新たな研究で明らかになった。オークランド大学(ニュージーランド)心理学准教授のDavid Moreau氏とザルツブルク大学(オーストリア)生理学部のChristoph Bamberg氏によるこの研究結果は、「Psychological Bulletin」に11月3日掲載された。 Moreau氏は、「本研究により、全体的には、短期間の断食が知的機能を低下させるという一貫したエビデンスは存在しないことが明らかになった。断食を行った人の認知機能の成績は、直前に食事をした人と驚くほど似通っていた。これは、食物を摂取していない状態でも認知機能は安定していることを示唆している」と米国心理学会(APA)のニュースリリースで述べている。 Moreau氏はまた、「ここ数年、断食が流行しているが、『空腹になると本来の自分ではなくなる』などの頻繁に耳にする言葉に言い表されているように、食事を摂取しないことで頭脳の明晰さが大きく損なわれるのではないかという懸念が広がっている」と言う。 この研究でMoreau氏らは、空腹時と満腹時の認知機能を比較した63件の研究データを統合して解析した。これらの研究の対象者数は総計3,484人、効果量(比較対象となった指標の件数)は222件、断食の時間の中央値は12時間であった。解析の結果、断食群と満腹群との間で認知機能について意味のある差は認められなかった。 この結果についてMoreau氏は、「断食は、本質的に思考力を低下させるという広く信じられている仮説に反する結果であり、ある意味、驚きではあった」と話す。同氏は、「多岐にわたるさまざまな課題において、認知機能は驚くほど安定していた。食事を抜くとすぐに思考力が低下すると思っている人は多いが、われわれが得たエビデンスを総合すると、その考え方は支持されないようだ」とコメントしている。 ただし、12時間を超える長時間の断食では認知機能がやや低下する傾向が認められ、また、成人と比べて子どもでは短時間でも認知機能の低下が顕著であった。Moreau氏は、「年齢は強力かつ顕著な調整因子であり、断食中に子どもの成績は顕著な低下を示した。これは朝食を取ることが若年層の認知機能に有益であることを示した過去の研究結果と一致する」と話している。同氏はさらに、「この研究結果は、発達中の脳はエネルギー不足に対して非常に脆弱であり、小児において断食による介入を評価する際には特別な配慮が必要であることを示唆している」と付け加えている。 それでも研究グループは、全体的には、断続的断食の活用を支持する結果であったとの見方を示している。Moreau氏は、「最も重要なのは、この結果が含意する、安心感をもたらすメッセージだ。つまり、短期間の断食中でも認知機能は安定しており、健康な成人であれば、一時的な断食が頭脳の明晰さや日常の作業をこなす能力に影響を与えることを心配する必要はまずないということだ」と述べている。

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【訂正】RSVワクチン─成人の呼吸器疾患関連入院を抑制(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

※2025年11月26日に配信しました内容に一部誤りがございました。ここに訂正しお詫び申し上げます。 2025年11月末現在、世界的規模で予防が推奨されているウイルス感染症としてはインフルエンザ、新型コロナ(COVID-19)の進化・変異株に加え呼吸器合胞体ウイルス(RSV:Respiratory Syncytial Virus)が注目されている。インフルエンザ、新型コロナ感染症に対しては感染制御効果を有する薬物の開発が進んでいる。一方、RSV感染、とくに成人への感染に対しては治療効果を期待できる薬物の開発が遅れており、ワクチン接種による感染予防が重要である。RSVワクチンの種類 RSV感染症に対するワクチン開発には長い歴史が存在するが、新型コロナに対するワクチン生産を可能にした種々なる蛋白/遺伝子工学的手法がRSVのワクチン開発にも応用されている。米国NIHを中心にRSVの蛋白構造解析が粘り強く進められた結果、RSVが宿主細胞への侵入を規定する“膜融合前F蛋白(RSVpreF)”を標的にすることが、ワクチン生成に最も有効な方法であると示された。RSVにはA型、B型の2種類の亜型が存在し、両者のRSVPreFは蛋白構造上差異を認める。GSK社のアレックスビー筋注用(商品名)はA型、B型のF蛋白の差を考慮しない1価ワクチンであり、2023年9月に60歳以上の高齢者(50歳以上で重症化リスクを有する成人を含む)に対するRSV感染予防ワクチンとして本邦で薬事承認された。一方、Pfizer社のアブリスボ筋注用(商品名)はA型、B型のF蛋白の差を考慮した2価ワクチンであり、本邦では2024年1月に母子用、すなわち、妊娠24~36週の母体に接種し新生児のRSV感染を抑制するワクチンとして薬事承認された。2024年3月には60歳以上の高齢者に対してもアブリスボ筋注用の本邦での接種が追加承認された。上記2種類のRSVワクチンはProtein-based Vaccine(Subunit Vaccine)と定義されるものでF蛋白に関する遺伝子情報を人以外の細胞に導入しF蛋白を生成、それを人に接種するものである。一方、Moderna社のmRNAを基礎として作成された1価ワクチン、エムレスビア筋注シリンジ(mRESVIA)(商品名)はRSV膜融合前F蛋白を標的としたGene-based Vaccineで2025年5月に高齢者用RSVワクチンとして本邦でも薬事承認されたが、先発のアレックスビー筋注用、アブリスボ筋注用とのすみ分けをどのようにするかは現在のところ不明である。各RSVワクチンの基礎的特徴に関しては、ジャーナル四天王 「高齢者RSV感染における予防ワクチンの意義」、「“Real-world”での高齢者に対するRSVワクチンの効果」の2つの論評に記載してあるのでそれらを参照していただきたい。2価RSVワクチンの呼吸器疾患重症化(入院)予防効果 今回論評の対象としたLassen氏らの論文では、RSV下気道感染に誘発された種々の呼吸器疾患の重症化(入院)に対する2価RSVワクチン(Pfizer社のアブリスボ筋注用)の予防効果が検討された。対象はデンマーク在住の60歳以上の一般市民13万1,379例(デンマーク高齢者の約8.6%に相当)であり、2024年11月から12月にかけて集積された。この対象をもとに2価RSVワクチンのReal-worldでの現実的(Pragmatic)、研究者主導の第IV相無作為化非盲検並行群間比較試験が施行され、追跡期間は初回来院日の14日後から2025年5月31日までの約6ヵ月であった。最終的にワクチン接種者は6万5,642例、ワクチン非接種対照者は6万5,634例であった。解析の主要エンドポイントは種々なる呼吸器疾患患者の重症化(入院)頻度で、この指標に対するワクチンの予防効果は83.3%と臨床的に意義ある結果が得られた。本研究の特色は2価のRSVワクチン接種による単なるRSV感染予防効果ではなく、種々なる呼吸器疾患を基礎疾患として有する対象の重症化(入院)抑制効果を観察したもので、臨床的・医療経済的に意義ある内容である。 一方、1価のRSVワクチン(GSK社のアレックスビー筋注用)のRSV感染に対する予防効果はPapi氏らによって報告された(Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.)。Papi氏らは60歳以上の高齢者2万4,966例を対象としたアレックスビー筋注用に関する国際共同プラセボ対照第III相試験を施行した。アレックスビー筋注用のRSV感染に対する全体的予防効果は82.6%、重症化因子(COPD、喘息、糖尿病、慢性心血管疾患、慢性腎臓病、慢性肝疾患など)を有する対象におけるRSV感染予防効果は94.6%と満足のいく結果であった。しかしながら、Papi氏らの論文ではアレックスビー筋注用のRSV感染に起因する種々なる呼吸器疾患の重症化(入院)抑制効果については言及されていない。本邦におけるRSV感染症の今後を考える時、2価のRSVワクチンに加え1価のRSVワクチンを用いて呼吸器疾患を中心に種々なる基礎疾患を有する対象における重症化(入院)抑制効果を早期に解明する必要がある。 Lassen氏らは副次的・探索的解析として2価RSVワクチンによる心血管病変の重症化(入院)予防効果に関しても別論文で発表している(Lassen MCH, et al. JAMA. 2025;334:1431-1441.)。彼らの別論文によると脳卒中、心筋梗塞、心不全、心房細動による入院率には2価のRSVワクチン接種の有無により有意な差を認めなかった。すなわち、2価のRSVワクチンは呼吸器疾患の重症化(入院)を有意に抑制するが、心血管病変の重症化(入院)阻止には有効性が低いという興味深い結果が得られた。RSVワクチン接種に対する今後の施策 本邦においては、妊婦ならびに高齢者におけるRSVワクチン接種は公的補助の対象ではない(任意接種であり費用は原則自己負担。※妊婦については2026年4月から定期接種とすることが了承された)。しかしながら、完全ではないがRSVワクチンの臨床的効果(とくに、呼吸器疾患患者の重症化[入院]抑制効果)が集積されつつある現在、高齢者に対するRSVワクチンを定期接種とし公的補助の対象にすべき時代に来ているものと考えられる。 追加事項として、インフルエンザ、新型コロナに対するワクチンに関しても従来施行されてきた各ウイルスに対する単なる感染予防効果に加え、心肺疾患を中心に重症化(入院)阻止効果について前向きに検討されることを期待するものである。

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第295回 注目の試験でGLP-1薬のアルツハイマー病治療効果示せず

注目の試験でGLP-1薬のアルツハイマー病治療効果示せずGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は肥満、糖尿病、それらと密接に関わる心血管疾患や腎疾患の治療を進歩させました。また、GLP-1薬が他の数々の疾患治療にも有益なことを示唆する研究成果が続々と発表されています。とくに、アルツハイマー病などの神経変性疾患の治療はGLP-1薬の新たな用途として有望視されていましたが、Novo Nordisk社が先週月曜日に速報した2つの第III相試験結果はその期待に沿うものではありませんでした。evokeとevoke+という名称のそれら2試験のどちらでも残念なことにセマグルチド経口投与のアルツハイマー病進展を遅らせる効果がみられなかったのです1)。セマグルチドなどのGLP-1薬が神経変性疾患を予防しうることは示唆されていたものの、すでにそうなってしまってからでは手遅れと多くの研究者は感じていたようです2)。Novo Nordisk社でさえ試験が成功する見込みは薄い(low likelihood of success)と悟っていました1)。しかしそれでもアルツハイマー病へのセマグルチドの可能性の検討は責務と感じていたと同社の最高科学責任者(CSO)のMartin Holst Lange氏は言っています。過去何十年もアルツハイマー病は多岐にわたり研究されてきましたが、如何せん飛躍的な進歩には至っていません。救いの手がまったく間に合っていないアルツハイマー病のそのような状況をNovo Nordisk社は見過ごすことはできなかったのです。アルツハイマー病にGLP-1が有益そうな報告が増えていることにも背中を押され、さかのぼること5年前の2020年12月にNovo Nordisk社はその責任を果たすための第III相試験の決定を発表します3)。明けて翌春2021年5月にevoke試験とevoke+試験が始まり4,5)、初期段階のアルツハイマー病患者のべ4千例弱(3,808例)が組み入れられ、2試験とも被験者は最大14 mg/日のセマグルチドを連日服用する群かプラセボ群に1対1の比で割り振られました。2試験とも約2年間(104週間)の主要な治療期間とその後の約1年間(52週間)の延長期間の経過を調べる算段となっていました。しかし、今回速報された2年間の経過の解析結果で両試験ともアルツハイマー病進展の有意な抑制効果が示せず、1年間の延長は中止となりました。発表によると、セマグルチドはアルツハイマー病と関連する生理指標一揃いを改善しましたが、その作用はどちらの試験でもアルツハイマー病の進展を遅らせる効果には繋がりませんでした。具体的には、知能や身のこなしを検査する臨床認知症評価尺度(CDR-SB)の104週時点の点数のベースラインとの差の比較で、セマグルチドがプラセボより優越なことが示せませんでした。目当ての効果は認められなかったとはいえ、evoke/evoke+試験からは貴重な情報の数々が得られそうです。たとえばその1つは脳での抗炎症作用です。先立つ試験で示唆されているような体重減少とは独立した手広い抗炎症作用がセマグルチドにあるかどうかが、糖尿病や肥満ではない多数の被験者が参加したそれら2つの大規模試験で明らかになりそうです2)。それに、試験には脆弱な患者が多く参加しており、脂肪に加えて筋肉も減らすセマグルチドなどのGLP-1薬がそういう患者に安全かどうかも知ることができそうです。evoke/evoke +試験のより詳しい結果一揃いが今週3日に米国サンディエゴでのClinical Trials on Alzheimer’s Disease(CTAD)の学会で発表されます1)。また、結果の全容が来春2026年3月のAlzheimer’s and Parkinson’s Diseases Conferences(AD/PD)で報告される予定です。 参考 1) Evoke phase 3 trials did not demonstrate a statistically significant reduction in Alzheimer's disease progression / Novo Nordisk 2) Popular obesity drug fails in hotly anticipated Alzheimer’s trials / Science 3) Novo Nordisk to enter phase 3 development in Alzheimer’s disease with oral semaglutide / Novo Nordisk 4) EVOKE試験(ClinicalTrials.gov) 5) EVOKE Plus試験(ClinicalTrials.gov)

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