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18世紀の天才作曲家モーツァルトの音楽はてんかん患者の発作と関連する脳波特徴・てんかん型放電を彼が尊敬した同時代の作曲家ハイドンの音楽とは違って男女問わず抑制しました1)。モーツァルトの音楽はてんかん発作を防ぐのに役立つかもしれません2)。その試験でのてんかん型放電の変化は手術に先立って脳に電極が設置された患者の脳活動を頼りに測定されました。その結果、モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタK448(K448)」を聴いた患者のてんかん型放電は32%低下しました。一方、ハイドンの「交響曲第94番」では逆にてんかん型放電は45%上昇しました。ただし、ハイドンの「交響曲第94番」への反応は男女差があり、女性患者のてんかん型放電はモーツァルトの音楽を聴いたときと同様に減少し、男性では上昇しました。音楽を聴くとドパミンが放出されることから、モーツァルトのてんかんへの効果は音楽の情緒作用と関連すると考えられてきました。しかし心地よさを求める脳の報酬系からのドパミン放出で音楽のてんかんへの効果は説明できないようです。というのも今回の試験に参加した患者は取り立てて音楽通というわけではなく、聴いた2つの音楽への感じ方に違いはなく、ハイドンに比べてモーツァルトの音楽でより心地よくなったとは考えられないからです2)。音楽の脳への効果はまだまだ研究が必要ですが、その仕組みはどうあれモーツァルトの音楽を聴くことがてんかん患者の発作を減らすのに有望そうなことは20年も前から知られています。ちょうど1年ほど前に報告された少人数ながら待望の無作為化試験ではてんかん患者の発作がモーツァルトのまさにK448を聴くことで減りました3)。被験者の1人にはとくに効果的だったらしく、K448を毎日聴いた3ヵ月間発作を経験せずに済みました。K448を聴くことの効果はマウス実験でも示されています。その実験は側頭葉てんかん発作への抗てんかん薬とK448の組み合わせの効果を予測することを目当てに実施され、マウスにK448を聴かせるとより少ない用量の抗てんかん薬で発作の重症度が緩和することが示されました4)。てんかんは深刻な神経疾患であり、世界でおよそ5,000万人が患います5)。その多くが辛い発作を経験し、しばしば抗てんかん薬を必要とします。しかしおよそ3人に1人(30%)は服薬しても発作をうまく抑えることができず、てんかん患者が症状とうまく折り合いをつけてより調子よく暮らせる手段を絶えず探し続けねばなりません。モーツァルトを毎日聴くことはその手段の一つとなりうると上述の無作為化試験を率いたカナダの医師Marjan Rafiee氏は示唆しています5)。Rafiee氏等による無作為化試験の結果は有望ですが被験者数は13人と小規模であり、今後の課題としてより多くの患者を長期間追跡する大規模試験を実施する必要があります。参考1)Stillova K,et al.Eur J Neurol. 2021 May;28:1463-1469.2)The 'Mozart effect' shown to reduce epileptic brain activity, new research reveals / Eurekaler3)Rafiee M,et al.Epilepsia Open.2020 May 27;5:285-294.4)Xu CL,et al.CNS Neurosci Ther.2021 Feb 28. [Epub ahead of print]5)Mozart may reduce seizure frequency in people with epilepsy / Eurekalert