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十人十色の症状・経過を示す多発性硬化症、改訂GLで疾患修飾薬の使い方を示す/バイオジェン

 多発性硬化症(MS)・視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の診療環境は、近年大きく変化している。「多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017」の公開後、MSにおいては国際的な診断基準が改訂され(McDonald 2017診断基準)、フマル酸ジメチル(商品名:テクフィデラ)、シポニモド(同:メーゼント)、オファツムマブ(同:ケシンプタ)が発売された。それを受けて約6年ぶりの改訂となる「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023」が2023年9月に発刊された。 そこで、バイオジェンは2023年10月26日に「ガイドライン改訂からみるこれからの多発性硬化症診療」と題し、メディアセミナーを実施した。ガイドライン作成委員会の委員長を務める新野 正明氏(北海道医療センター臨床研究部 部長)が、MS患者が抱える悩みを含めたMS診療の現状と課題、ガイドライン改訂のポイントについて解説した。多様な症状・経過を示し、人生に大きく影響する MSは20~30代での発症が多く、仕事や結婚、出産など人生に大きな影響を及ぼす。同じ症状を呈するMS患者は2人としていないと言われるほど多様な症状を示し、その中には、ウートフ現象(温浴効果)、易疲労感、記憶力や集中力、判断力の低下などの見た目にはわからない症状もある。そのような背景から、MS患者は「学業や仕事に影響しないのだろうか?」「何に気を付ければ良いのだろうか?」「結婚・出産・子育てに影響しないのだろうか?」「いつまで薬を続ければ良いのだろうか?」「まわりにはなかなか理解してもらえない」といった悩みを抱えていると新野氏は指摘した。 このように多様な症状・経過を示し、患者の悩みの多いMSの診療課題として、新野氏は以下を挙げた。1)患者数が少なく、脳神経内科医でも経験することがそれほど多くない。そのため、専門とする医療機関が少なく、都市部に限られることが多い。2)長期にわたる診療・観察が必要であるが、担当医が異動により毎年交替することがあり、そのたびに方針が変更になることがある。3)2000年以降、疾患修飾薬(DMD)が8種類発売されたが、どのような使い分けが良いのか示されていない。4)どのような点に注意してフォローアップすれば良いか、情報が十分に共有されていない。DMDについてアルゴリズムを作成、使用方法を示す これらの課題に対応すべく、ガイドラインが改訂された。今回のガイドラインは3つの章からなり、中核箇所はMindsに準拠して作成された。第1章では、MSの診断では他の疾患との鑑別が重要となることから、NMOSDやMOG抗体関連疾患(MOGAD)などとの鑑別の手助けになるように、中枢神経系炎症性脱髄疾患診断のアルゴリズムが作成された。また、第1章の後半には各治療薬の概説や使用方法が具体的に掲載されたほか、診療において重要な「医療経済学的側面及び社会資源の活用」の項が追加された。 第2章では、MSやNMOSDを専門とする医師でも対応が分かれると考えられる重要臨床課題が5つ選定され、CQとして取り上げられた(MS:3つ、NMOSD:1つ、MOGAD:1つ)。今回設定されたMSに関するCQは以下のとおり。詳細はガイドラインを参照されたい。CQ1:再発寛解型MS(RRMS)の診断早期にナタリズマブないしオファツムマブで治療を開始するのは推奨されるか?(p114)CQ2:高齢MS患者において、DMDを中止することは推奨されるか?(p116)CQ3:二次性進行型MS(SPMS)患者に、オファツムマブとシポニモドのいずれが推奨されるか?(p118) 第3章では、診療上重要であり、エキスパートの間では一定のコンセンサスが得られると考えられる事項などがQ&Aとして取り上げられている。また、第2章と第3章の内容からRRMSの治療アルゴリズムも作成された。具体的には、「再発頻度・MRI活動性・EDSSが高くない、脳萎縮が強くない場合」には、アボネックス、ベタフェロン、コパキソン、フマル酸ジメチルのいずれかで治療を開始し、治療効果が不十分である場合は、ナタリズマブ、オファツムマブへの切り替えを速やかに検討することが記載されている。一方、「再発頻度やMRI活動性が高い、さらにはEDSSが高い、脳萎縮が強い場合」には、ナタリズマブ、オファツムマブによる治療開始を検討し、「再発頻度・MRI活動性・EDSSが高くない、脳萎縮が強くない場合」でも患者の意向等によってはナタリズマブやオファツムマブから開始することも検討することが記載されている。DMDの切り替え、効果不十分の判断は? それでは、DMDの切り替えの判断はどうすべきであろうか。これについても「Q2-6-1:どのような場合に、DMDの切り替えを検討すべきか?」という問いが設定されている。回答の内容としては「DMDの治療効果が不十分な場合や副作用により治療を継続できない場合、治療継続による副作用が懸念される場合には、切り替えを検討する」ことが記載され、治療効果不十分の判定については「DMDを開始した後も再発や障害度の進行が認められる場合や、MRIで新規病変や拡大病変が認められる場合」に治療効果不十分と判定することが記載されたと新野氏は解説した。 MRIの撮像頻度や障害度の進行の評価方法について、新野氏に質問したところ、「MRIについては、未治療の場合やDMD開始の判断をする場合には半年に1回、進行性多巣性白質脳症のリスクがある場合は3~4ヵ月に1回、安定している患者では1年に1回など、患者の状態によって判断する。身体障害については、EDSSの評価を年に1回程度もしくは再発時に実施するほか、歩行が重要な指標になるため、Timed 25-Foot Walk(25フィート歩行に要する時間)の評価、同じ距離を歩くのにかかる時間が延びていないか質問することも有用である。また、認知機能も非常に重要であるため、情報処理能力などを年に1回は評価する必要がある」との回答が得られた。 講演の最後に、新野氏は「患者さんはさまざまな悩みを抱えているため、医療者側の考えやエビデンスを押し付けるのではなく、患者さんの希望も聞きながら患者さんと一緒に治療方針を考えていく必要がある」とまとめた。

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軽度認知障害および早期認知症患者向けアプリの有用性を評価した

 順天堂大学の浜口 玲央氏らは、ライフクエストが開発した軽度認知障害(MCI)および早期認知症患者向けのスマートフォンアプリケーション「LQ-M/D App」の実現可能性、有用性、潜在的な効果を評価するため、本研究を実施した。Frontiers in Digital Health誌2023年9月12日号の報告。軽度認知障害および早期認知症患者向けアプリ使用患者20例で評価 「LQ-M/D App」は、認知機能、身体運動トレーニング、生活習慣の習得機能およびユーザーエンゲージメントを強化するために、アップデート後に追加された継続性向上機能を有するMCIおよび早期認知症患者向けのスマートフォンアプリケーションである。継続性向上機能としては、トレーニング内容の最適化、疾患教育機能、ファミリーアプリによる家族でのモニタリングの機能が含まれる。 単一施設によるアプリの使用状況、認知機能トレーニングおよび運動トレーニングの実施/中断、アンケート回答、認知機能評価に関するデータをレトロスペクティブに分析した。アプリ使用患者20例のうち、10例はアップデート前のバージョン、残りの10例はアップデート後のバージョンを使用した。 軽度認知障害および早期認知症患者向けアプリの有用性を評価した主な結果と結論は以下のとおり。・軽度認知障害および早期認知症患者向けアプリ「LQ-M/D App」は、効果的に使用されており、継続性向上機能がいくつかの点でアプリ使用にプラスの影響を及ぼすことが示唆された。・アプリの使用状況と認知機能との間に潜在的な関連が示唆されたが、データポイントのばらつきについては、慎重な解釈が求められる。・本研究の限界として、サンプルサイズの小ささ、単一施設試験である点、レトロスペクティブ研究である点が挙げられる。・今後、MCIおよび早期認知症のマネジメントに対する「LQ-M/D App」の有用性についてさらなる評価を行うためにも、より大規模なサンプルを用いた複数施設によるランダム化比較研究を行う必要がある。

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ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 1

今回のキーワード器用さ(協調運動)発達性協調運動症イメージ力(概念化)アート・サヴァン(サヴァン症候群)自分語り(社会性)自閉症のこだわり(反復性)創造性自己治癒皆さんは、子供の描く絵を見て、おもしろいと思ったことはありませんか? 大人の常識にとらわれない視点や発想にびっくりさせられることがありますよね。子供はどうやって絵を描くようになるのでしょうか? そもそも私たちヒトはなぜ絵を描くようになったのでしょうか? そして、私たちは絵を見てなぜ心を動かされることがあるのでしょうか?今回は、ピカソの傑作の1つである「泣く女」を取り上げます。シネマセラピーのスピンオフバージョン、「アートセラピー」としてお送りします。この絵を通して、描く能力、描く起源、そしてアートの本質に、発達心理学、進化心理学、比較認知科学、神経美学の視点から迫ります。それらを踏まえて、医療の現場で行われるアートセラピーの効果を一緒に考えてみましょう。子供はどうやって絵を描くようになるの?ピカソの「泣く女」は、まさに子供が描くようなおもしろい絵です。彼は、もともと絵がとてもうまかったわけですが、途中からこのような絵をあえて描くようになりました。それでは、ピカソが注目したように、子供はどうやって絵を描くようになるのでしょうか? ピカソと子供の絵の共通点から、描くために必要な能力(機能)を主に3つ挙げてみましょう。(1)器用さ―協調運動ピカソの「泣く女」の絵は、輪郭がくっきりと描かれています。その太さはまばらで途切れているところもあり、滑らかではないです。よく言えば大胆不敵、悪く言えば不器用です。発達心理学的には、子供は1歳以降にペンで殴りがきができるようになり、2歳半以降に横線、縦線、円の模倣ができるようになります1)。1つ目の能力は、ペンなどで描く線の位置をコントロールする器用さ、つまり協調運動です。子供は自由に線を描くという運動遊びを通して、器用になっていきます。やがて、それが字を書く器用さにつながっていきます。逆に、いつまでも線がうまく描けず、手先が不器用なままの場合は、発達性協調運動症と呼ばれます。比較認知科学の視点では、チンパンジーをはじめ大型類人猿も絵筆で殴りがきができます1)。とくにチンパンジーは、模倣はできませんが、お手本の線に印づけをしたり、塗りつぶすことはできます。このことから、チンパンジーは1、2歳の子供と同じくらいの器用さがあることがわかります。ちなみに、ピカソは、あるチンパンジーの殴りがきの絵をオークションで買い取ってアトリエに飾っていたという逸話があり、インスピレーションのもとにしていたようです。(2)イメージ力-概念化ピカソの「泣く女」の絵は、泣いてくしゃくしゃになった表情と涙にぬれてくしゃくしゃになったハンカチがあえて連続的に描かれています。女性の顔の上半分は正面顔で下半分は横顔で、複数の視点からみたイメージを重ね合わせています(キュビズム)。よく言えば立体的で斬新、悪く言えば視点やイメージが定まっていないです。発達心理学的には、幼児の絵は、顔は真正面を向いているのに横から見た椅子に座っていたり、物が展開図のよう描かれていることがよくあります。人を描こうとすると、胴体がなく、頭からいきなり手足が生えているような絵(頭足人)になります。4歳まで、顔など上下の向きがあるものを逆さまや横向き(回転画)にして描いてしまうこともあります1)。2つ目の能力は、あるものをざっくりとした形で思い描くイメージ力、つまり概念化です。子供は、見たものではなく、知っているものを描くわけですが、絵本などからの模倣学習によって、より特徴や構図を細かく捉えることができるようになっていきます。こうして、子供の絵が、より多くの人が理解できる「普通」の絵になっていくのです。比較認知科学の視点では、ヒトの子供は2歳半以降に目がないチンパンジーの顔の絵に目を描き入れることができるようになります。しかし、チンパンジーはまったくできず、顔の絵の輪郭線をなぞるだけでした1)。このことから、チンパンジーは「ない」ものを認識できない、つまり目や口などの形のざっくりとしたイメージ(概念)がもともと頭の中になく、見たものを丸ごと捉えていることが示唆されます。だからこそ、目の前に他のチンパンジーが何頭いるかの瞬間記憶(映像記憶)において、チンパンジーはヒトよりも長けていることもわかります。逆に言えば、ヒトはチンパンジーよりも瞬間記憶が劣っているわけですが、これは、イメージ力(概念化)を進化させた代償と言えるでしょう。実際に、秀でた瞬間記憶によって写実的な絵を描く「アート・サヴァン」(サヴァン症候群)と呼ばれる人がまれにいます。しかし、彼らのほとんどは、もともと自閉症で、抽象的な話(概念化)ができません。彼らは、概念化の能力と引き換えに、瞬間記憶の能力を手に入れたと捉えることができます。ちなみに、ゾウは鼻で絵筆を持って、花の絵を描くことができます。ただし、これは、ゾウ使いが巧みに耳を引っ張るなどして、そう描くようにトレーニング(連合学習)をしただけであることがわかっています2)。ゾウは、自発的に描いているわけではなく、その絵の形を認識できているわけでもありません。つまり、形のある絵を描くことができるのは、やはりヒトだけであると言えます。(3)自分語り―社会性ピカソの「泣く女」のモデルは、ピカソの愛人の1人です。ピカソは、結婚をして子供がいながら、次々と愛人をつくっていました。この愛人ともう1人の愛人が、ピカソのアトリエで鉢合わせた時の逸話は有名です。ピカソは「どちらがこの場を出ていくかはっきりさせて」とこの2人に迫られるのですが、なんと「君たちが争って決めたらいい」と答えたのです。そして間もなく、彼の目の前で女性同士の取っ組み合いのけんかが始まったのでした。当時ピカソは、戦争を象徴する「ゲルニカ」の制作の真っ最中でした。「ゲルニカ」は、祖国スペインでの戦争だけでなく、自分のアトリエで自分をめぐっての女性同士の戦いも同時に象徴していたとも言えるかもしれません。彼は数年後、また別の愛人にこの時のエピソードを「最高の思い出の1つだったな」と面白がって語っていたのでした。この絵の背景を知れば知るほど、「泣く女」の真実が浮き彫りになってきます。そして、ピカソがいかに自分語りに長けていたのかがわかります。発達心理学的には、4歳以降でエピソード記憶が発達し、たとえば遊園地で家族が手をつないで笑っているワンシーンなど、エピソードの絵を描くようになります。そして、親などに「見て見て」と言うようになります。もちろん、親は「いいねえ」「よく描いたねえ」と褒めます。それは、写真のような正確な事実ではなく、その子が感じたその子にとっての真実です。その絵は親にとって、ピカソの絵と比べることができない宝物になります。3つ目の能力は、自分が見たものを周りに伝えようとする自分語り、つまり社会性です。子供は、ただ描くだけでなく、自分が見たものを絵にして周りと共有しようとするようになります。こうして、ピカソと同じように、絵にストーリー性やメッセージ性という価値が生まれるのです。比較認知科学の視点では、先ほどの目がない顔の絵に目を描き入れる実験において、そもそもチンパンジーは、たとえイメージ力があり目がないことを認識できていたとしても、そもそも「目がないこと(いつもと違うこと)を伝えたい」「足りない目を補って褒められたい」という発想自体がない可能性も考えられます。つまり、絵は、言葉と同じように社会性があることがわかります。逆に言えば、絵は誰かに見てもらうために描くのです。誰かに見てもらうことを想定せずに描く場合は、独り言と同じであり、自閉症のこだわり(反復性)など特殊な精神状態に限られます。次のページへ >>

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ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 2

ヒトはなんで絵を描くの?絵を描くために必要な能力は、器用さ(協調運動)、イメージ力(概念化)、自分語り(社会性)であることがわかりました。言い換えれば、子供が絵を描くのは、器用になりたいから、イメージしたいから、誰かに伝えたいからです。それでは、そもそもヒトはなぜ絵を描くようになったのでしょうか?ここから、絵を含むアートの起源を3つの段階に分けて迫ってみましょう。(1)きれいに石器をつくる―協調運動約300万年前に、人類は部族の集団をつくって助け合うようになりました。約250万年前には、獲物の肉を切る時に石器を使うようになりました。また、持ちやすさや丈夫さの観点から、石器(握斧)の形は、左右対称の涙型に洗練されていきました。これが、アートの起源です。1つ目の段階は、きれいに石器をつくることです。まず石器を使うためには、切る位置を見定めて指先の力を加減しながら正確に刃を打ち込む必要があります3)。そして、さらに石器をきれいにつくるためにも、同じような能力が必要になります。これは、器用さ(協調運動)の起源です。その形の美しさは、同時にその持ち主(主に男性)の生存能力として異性へのアピールになったでしょう。これは、生殖の適応度を高めます。ちなみに、ニワシドリという鳥のオスは、メスを向かい入れるために、「庭師」のように、花、木の実、貝殻、石などで巣の周りに、立派な「庭」をつくることで知られています4)。この「美的センス」は、人類の石器と同じように、メスに対してオスが適応度の高いことを示すシグナリングであると考えられています。シグナリングの詳細については、関連記事1をご覧ください。(2)ものにイメージを重ね合わせる―概念化約20万年前に、人類は言葉を話すようになり、言葉によって世界を細かく分けることができるようになりました。約9万年前に、貝の首飾りを信頼のシンボルとして見立て、一緒に埋葬するようになりました4)。約8万年前に、人類は石片に格子模様を刻むようになり、オーカ(着色剤)で顔をはじめとするボディペインティングをして、異性へのセックスアピールをするようになりました。これらは、見た目においてのシンボルの起源です。このようにシンボルを用いるようになってから、助け合うための相手の視点に立つ心理(心の理論)は、人間だけでなく、動物をはじめあらゆる自然に向けられ、それらとも協力関係を築こうとしたでしょう。これがアニミズムであり、トーテミズムです。ものに心が宿るという発想から、石片や動物の骨・角・象牙などが、形の似ている動物に見立てられて彫り込まれたでしょう。つまり、最初の彫刻アートは、最初から動物をイメージして作ったのではなく、最初はそう見えたからそれを補うように彫り込んでいったのです。2つ目の段階は、ものにイメージを重ね合わせることです。先ほど紹介したように、目がない顔の絵に目を描き入れる幼児のように、すでに「ある」ものを手がかりに「ない」ものを補ってイメージを膨らませていくことです。これは、イメージ力(概念化)の起源です。やがて、誰かが作ったものを別の誰かが真似して、より洗練されたものになったでしょう。3万数千年前には、動物の頭と人間の体を組み合わせた半人半獣の象牙アート「ライオンマン」が作られました。まさに、模倣から創造です。なお、概念化は、イメージ力(視覚的な認知能力)だけでなく、言語能力(聴覚的な認知能力)もあります。この起源については、関連記事2をご覧ください。(3)集団で共有する―社会性約5万年前に、洞窟の中で壁画が描かれるようになりました。実際の壁画には、岩肌の凸凹や亀裂を利用してウシやシカなどの輪郭がきれいに描かれています。埋まった小石は目として描かれています。このような壁画も、最初から凸凹や亀裂があえて利用されたのではなく、最初はその凸凹や亀裂があるおかげで、やっとウシやシカの形がイメージされるようになったと考えられます。その壁画を目の前にして、部族のメンバーが集まり、狩猟の場所を占ったり、狩猟の仕方などの生活の知恵や部族の掟を次の世代に伝えていったのでしょう。そして、それらの言い伝えは、より洗練された壁画としてまた描き直されていったのでしょう。3つ目の段階は、部族集団で共有することです。言葉に加えて、壁画があることによって、より具体的にイメージすることができて、やり方や仕組みの理解がしやすくなります。私たち現代人も、言葉だけでなく、イラストや図があった方がより頭に入りやすいです。これは、部族集団の適応度を高めます。そして、これが文化という社会性の起源です。実際に、壁画が描かれるようになった約5万年前から、先ほどの「ライオンマン」のようなアートをはじめ、道具、建築、音楽、文学、宗教、政治などの文化が爆発的に発展していきました。これは、「文化のビッグバン」と呼ばれています。なお、文化は、形として残る遺跡(視覚的な文化)と、言葉によって伝わる言い伝え(聴覚的な文化)に分けることもできます。言い伝えの起源の詳細については、言い伝えを噂話と置き換えて、関連記事3をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 3

なんでピカソの絵はすごいの?絵を含むアートの起源は、きれいに石器をつくる、ものにイメージを重ね合わせる、集団で共有することであることがわかりました。つまり、発達(個体発生)と進化(系統発生)の両方の視点からも、絵を描くために必要な能力(機能)は、協調運動、概念化、社会性であると言えます。それでは、最初の質問に戻ります。なぜピカソの絵はすごいのでしょうか? 神経美学の視点から、2つの要素を挙げてみましょう。(1)美しい要素がある「泣く女」の絵は、正面顔と横顔、顔のしわとハンカチのしわなどが連続的に組み合わされているなど、実は配置のバランスが驚異的にうまいと指摘されています5)。また、赤と緑、青とオレンジ、黄色と紫などお互いの色を強烈に引き立てる補色を効果的に使っており、色使いもうまいと指摘されています5)。1つ目は、美しい要素があることです。美しさは、見た目、聴き心地、道徳的行い、数理方程式などさまざまあります。これらの美の体験に共通して反応を見せる唯一の部位は、脳の眼窩前頭皮質であることがわかっています6)。絵画の美と道徳の美が、同じ脳の部位の反応であることからも、やはり絵画にはそもそも社会性があることがわかります。(2)めちゃくちゃな要素がある「泣く女」の絵は、「何これ!?」と思わせるような、普通にはありえない描線や構図です。さらに、描かれたモデルの気持ちについ思いを馳せて「ピカソは常軌を逸している!」などと私たちを思わせます2つ目は、めちゃくちゃな要素があることです。めちゃくちゃさは、間違いや無秩序などです。このように、合理的で理性的な思考に揺さぶりをかけられた時、脳の背外側前頭前皮質が反応することがわかっています6)。先ほどにご紹介した実験で、目のない顔に違和感を待つことも、まさにこの部位の反応です。つまり、ピカソの絵がすごいわけは、美しさとめちゃくちゃさの絶妙なバランスによって私たちの心を動かすからです。これは、特定の決まりごと(コンテキスト)を守りつつ、あえてそれにフィットする新しい何かを生み出しています。まさに、創造性です。当時に誕生した美術館は、このピカソの感性に目を付け、価値づけしたのでした。ちなみに、即興演奏をしている時のジャズミュージシャンの脳活動は、先ほどの背外側前頭前皮質が抑制されていることが確認されています。つまり、創造性を発揮するためには、あえてその脳の部位が抑制される必要があるわけです。そして、その創造性を理解するためには、その脳の部位が逆に刺激される必要があるというわけです。アートセラピーの効果とは?ピカソの絵のすごさの答えから、アートとは、必ずしも美しくなければならないわけではなく、私たちの心を動かす何かがあるということです。それは、一言で言えば、おもしろさであり、そのおもしろさを見出す、見る側の感性でもあるでしょう。この点で、アートセラピーとは、ただ何かを描いたりつくったりする自己満足でなく、そのできた何かに周りの人がおもしろみを見いだし相互作用する社会性が必要であることがわかります。ピカソの絵であろうと、子供の絵であろうと、そして患者さんの絵であろうと、その作品に何らかのメッセージ性を感じ取り意味づけして共有することが、つくった人の自己治癒となり、さらには見た人の自己成長となると言えるのではないでしょうか?1)「ヒトはなぜ絵を描くのか」P17、P28、P34、P59、P67:齋藤亜矢、岩波書店、20142)「チンパンジーの絵から 芸術の起源を考える」:斎藤亜矢、日本心理学会、20183)「病の起源2 読字障害/糖尿病/アレルギー」P26、NHK出版、20094)「脳は美をどう感じるか」P105、P124:川畑英明、ちくま新書、20125)「ピカソは本当に偉いのか?」P55、P162:西岡文彦、新潮新書、20126)「神経美学」P25、P130、P143:石津智大、共立出版、2019<< 前のページへ■関連記事ドラマ「ドラゴン桜」(後編)【そんなんで結婚相手も決めちゃうの? 教育政策としてどうする?(学歴への選り好み)】Part 1NHKドラマ「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」(後編)【言葉は噂をするために生まれたの!?(統語機能)】NHKドラマ「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」(中編)【そもそもなんで私たちは噂好きなの?じゃあこれから情報にどうする?(メディアリテラシー)】Part 1

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11月26日開催、『第3回アンチエイジングセミナーin広島』【ご案内】

 2023年11月26日(日)、『第3回アンチエイジングセミナーin広島』が開催される。参加登録は医師、歯科医師、研究者、メディカルスタッフほか、医療関係者であれば可能で、参加費は無料。なお、申込締切は11月20日(月)で、定員120名に達し次第、締め切りとなる。 “実践のため抗加齢医学の現在地を知るセミナー”と題し、各領域のエキスパートが講演を行う。「男性更年期の診療は実際にどのように行われているか」「女性の健康を左右する因子にどう挑むか」「寿命にかかわる歯の健康と乳酸菌の関係性」「血管の若返り法」など、アンチエイジングにとって重要なテーマを取りそろえており、最新の知識を学び、予防医療への未来へ一歩リードできるようなセミナーを目指している。 主催の日本抗加齢医学会 連携委員会は「広島からアンチエイジング医学の仲間の輪をより広げていくため、知り合いや関係者などアンチエイジングに興味のある方をお誘い合わせの上、参加登録をお願いしたい」と呼び掛ける。 開催概要は以下のとおり。開催日時:11月26日(日)13:00~16:00開催場所:TKPガーデンシティPREMIUM広島駅前 ホール4A     (広島県広島市南区大須賀町13-9 ベルヴュオフィス広島4階)開催形式:会場開催(WEB配信はなし)参加方法:無料(事前参加登録制)申込締切:11月20日(月)または定員120名になり次第終了■参加登録はこちら【プログラム】 座長:井手下 久登氏(いでした内科・神経内科クリニック) 講演1.「男性更年期外来のリアル」     池岡 清光氏(医療法人池岡診療所池岡クリニック 院長) 講演2.「女性は生命長寿!しかし晩年には健康格差は大となる~その実態と対策~」     太田 博明氏(川崎医科大学産婦人科 特任教授/総合医療センター産婦人科 特任部長) 講演3.「L8020乳酸菌とオーラルケア」     二川 浩樹氏(広島大学大学院医系科学研究科 口腔生物工学分野 教授) 講演4.「ヒトは本当に血管から老いる:酸化ストレスの役割」     東 幸仁氏(広島大学 原爆放射線医科学研究所 教授)【主催】 日本抗加齢医学会 連携委員会【お問い合わせ先】 日本抗加齢医学会事務局 〒103-0024 東京都中央区日本橋小舟町6-3 日本橋山大ビル4F TEL:03-5651-7500 FAX:03-5651-7501 E-mail:seminar@anti-aging.gr.jp 学会ホームページはこちら

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第188回 コロナ後遺症の新たな生理指標、セロトニン欠乏が判明

コロナ後遺症の新たな生理指標、セロトニン欠乏が判明新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)は患者数が莫大なだけに盛んに研究されて新たな成果が次々に発表されています。先週はそういうコロナ後遺症とタウリンの欠乏の関連を示した報告を紹介しましたが、その報告の10日前にはタウリンと同様にアミノ酸の1つであるトリプトファンの吸収低下を一因とするセロトニンの減少とコロナ後遺症の関連を裏付ける研究成果がCell誌に発表されています1,2)。神経伝達物質の1つであるセロトニン減少の発端となりうるのは腸の新型コロナウイルスです。腸に居座る新型コロナウイルスがトリプトファン吸収を抑制し、トリプトファンを原料とするセロトニン生成が減ると示唆されました。新型コロナウイルスが腸に長居しうることは糞便のウイルスRNA解析で示されました。その解析によるとコロナ後遺症患者の糞中からはそうでない患者(新型コロナウイルスに感染したものの長引く症状は生じなかった患者)に比べて新型コロナウイルスRNAが有意に多く検出されました。新型コロナウイルスを含むウイルス感染はインターフェロン(IFN)伝達を誘発することが知られています。さらには、コロナ後遺症患者の1型IFN増加の持続も先立つ研究で確認されています。腸に似せた組織(腸オルガノイド)やマウスでの検討の結果、その1型IFNがセロトニンの前駆体であるトリプトファン吸収を抑制することでセロトニンの貯蔵量を減らすようです。また、新型コロナウイルスが居続けることで続く炎症は血小板を介したセロトニン輸送の妨害やセロトニン分解酵素MAO(モノアミン酸化酵素)の亢進を介してセロトニンの流通を妨げうることも示されました。実際、コロナ後遺症患者では血中のセロトニンが乏しく、コロナ後遺症の発現の有無をセロトニンの量を頼りに区別しうることが確認されています。さて研究はいよいよ大詰めです。コロナ後遺症患者の大部分が被る疲労、認知障害、頭痛、忍耐の欠如、睡眠障害、不安、記憶欠損などの神経/認知症状とセロトニン欠乏を関連付けるとおぼしき仕組みが判明します。その仕組みとは迷走神経の不調です。中枢神経系(CNS)の外を巡るセロトニンは血液脳関門(BBB)を通過できませんが、迷走神経などの感覚神経を介して脳に作用します。ウイルス感染を模すマウスでの実験の結果、末梢のセロトニンを増やすことや感覚神経を活性化するTRPV1作動薬(カプサイシン)の投与で認知機能が正常化しました。続いて、感覚神経の種類を区別するタンパク質の刺激実験から末梢のセロトニン不足と脳の働きの低下の関連は感覚神経の一員である迷走神経伝達の不足を介すると示唆されました。その裏付けとして迷走神経に豊富に発現するセロトニン受容体(5-HT3受容体)の作動薬がウイルス感染を模すマウスの海馬神経反応や認知機能障害を正常化することが示されました。それらの結果を総括し、セロトニン不足が迷走神経伝達を弱めて認知機能を害するのだろうと結論されています。さて、そうであるなら選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に属するフルオキセチン(fluoxetine)やフルボキサミン(fluvoxamine)などのセロトニン増加薬がコロナ後遺症に有効かもしれません。その可能性は今回の研究でも検討されており、ウイルス感染を模すマウスの記憶障害がフルオキセチンでほぼ解消しました。新型コロナウイルスに感染して間もない患者へのSSRIの試験はいくつか実施されています。その効果の程は今のところどっちつかずですが、それらの試験と同様にコロナ後遺症の神経/認知症状へのセロトニン伝達標的治療の効果も調べる必要があります。幸い、その試みはすでに始まっています。臨床試験登録サイトClinicaltrials.govを検索したところ、コロナ後遺症へのフルボキサミンの試験が進行中です3)。結果一揃いは再来年2025年3月中頃に判明する見込みです。コロナ後遺症の治療といえばこれまでのところ患者が訴える症状が頼りでした。今やセロトニンやタウリンの減少などの生理指標が明らかになりつつあり、見つかった生理指標を頼りに患者を治療や試験に割り当てられそうだと著者は言っています2)。参考1)Wong AC, et al. Cell. 2023;186:4851-4867.2)Viral persistence and serotonin reduction can cause long COVID symptoms, Penn Medicine research finds3)Fluvoxamine for Long COVID-19

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せん妄のリスク因子として糖尿病、脳血管疾患ほかを特定~認知症入院患者

 入院中の認知症高齢者におけるせん妄の発生率および関連するリスク因子を特定するため、中国・中日友好病院のQifan Xiao氏らは本調査を実施した。その結果、入院中の認知症高齢者におけるせん妄の独立したリスク因子として、糖尿病、脳血管疾患、ビジュアルアナログスケール(VAS)スコア4以上、鎮静薬の使用、血中スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)レベル129U/mL未満が特定された。American Journal of Alzheimer's Disease and Other Dementias誌2023年1~12月号の報告。せん妄の5つのリスク因子に基づく予測ノモグラム 対象は、2019年10月~2023年2月に総合病棟に入院した65歳以上の認知症患者157例。臨床データをレトロスペクティブに分析した。対象患者を、入院中のせん妄発症の有無により、せん妄群と非せん妄群に割り付けた。患者に関連する一般的な情報、VASスコア、血中CRPレベル、血中SODレベルを収集した。せん妄の潜在的なリスク因子の特定には単変量解析を用い、統計学的に有意な因子には多変量ロジスティック回帰分析を用いた。ソフトウェアR 4.03を用いて認知症高齢者におけるせん妄発症の予測グラフを構築し、モデルの検証を行った。 入院中の認知症高齢者におけるせん妄の発生率および関連するリスク因子を調査した主な結果は以下のとおり。・認知症高齢者157例中、せん妄を経験した患者は42例であった。・多変量ロジスティック回帰分析では、入院中の認知症高齢者におけるせん妄の独立したリスク因子として、糖尿病、脳血管疾患、VASスコア4以上、鎮静薬の使用、血中SODレベル129U/mL未満が特定された。・せん妄の5つのリスク因子に基づく予測ノモグラムをプロットしたROC曲線分析では、AUCが0.875(95%信頼区間:0.816~0.934)であった。・予測モデルはブートストラップ法で内部検証し、予測結果と実臨床結果はおおむね一致していることが確認された。・Hosmer-Lemeshow検定により、予測モデルの適合性と予測能力の高さが実証された。 著者らは「本予測モデルは、入院中の認知症高齢者におけるせん妄を高精度で予測可能であり、臨床応用する価値がある」と述べている。

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サヴァン症候群の「天才的能力」はギフテッドなのか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第244回

サヴァン症候群の「天才的能力」はギフテッドなのか?photoACより使用サヴァン症候群については医師であればご存じの人が多いと思いますが、ある能力が異常に亢進する症候群です。一瞬見ただけで景色を写真記憶してそれを絵画にして描き出す能力、年月日から曜日を即座に言える能力、耳にした音楽をすべて再現できる能力…。見方によっては、才能を授けられた「ギフテッド」のように思われるかもしれません。Kawamura M, et al.Savant Syndrome and an "Oshikuramanju Hypothesis".Brain Nerve. 2020 Mar;72(3):193-201.この論文はサヴァン症候群の「おしくらまんじゅう仮説」を記したもので、なるほどと考えさせられた総説です。サヴァン症候群の根底にあるのは、特定の脳の機能低下ですが、別の機能が亢進するという状態になります。これが天才的な能力として目の当たりにされるわけです。脳の中では、それらの機能があたかも「おしくらまんじゅう」のようにひしめき合っていて、ある機能が失なわれたときにほかの機能がせり出してくるのではないか、ということです。この機序は獲得性サヴァン症候群においての見解です。反面、生まれながらにしてサヴァン症候群の場合、自閉スペクトラム症のように、器質的な原因があるケースが多いです。私もサヴァン症候群と思われる人とその家族にインタビューをした経験がありますが、コミュニケーションに少し苦労されている人が多かった印象です。国内の特別支援学校での調査によれば、ほとんどのサヴァン症候群児童は男性であり、これは自閉症児が男性に多いことに関係していると推察されています1)。サヴァン症候群の名が知られるようになったのは、映画「レインマン」(1988年)によるところが大きいです。自閉スペクトラム症の兄をダスティン・ホフマンが、その弟をトム・クルーズが演じています。また、「グッド・ドクター」という韓国ドラマの主人公の医師もサヴァン症候群として描かれていますね。日本でも山崎 賢人さんが主演でリメイクされました。1)有路 憲一, 他. サヴァン症候群の実態調査とその実践的価値. 信州大学総合人間科学研究. 2017;11:195-217.

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過去30年間における世界の頭痛有病率~世界疾病負荷研究

 近年、頭痛は世界的な健康課題として大きく注目されている。この懸念は、とくに低~中所得国で顕著であり、青少年や若年成人における有病率の増加に現れている。このような頭痛の急増により、頭痛患者のQOLは常に低いものとなっている。しかし、世界的な影響にもかかわらず、若年層を対象に頭痛の影響を調査した包括的な研究は、いまだ十分ではない。中国・上海交通大学のXin-Yu Li氏らは1990~2019年の30年間にわたり、15~39歳における頭痛の世界的な有病率を定量化するため、本研究を実施した。結果を踏まえて著者らは、片頭痛と緊張性頭痛(TTH)は世界の健康において大きな課題であるとし、その影響の強さは国によって違いがあり、女性、30~39歳、社会人口統計学的指数(SDI)が高い集団においては、とくに影響が大きいと指摘している。The Journal of Headache and Pain誌2023年9月18日号の報告。 研究は、1990~2019年の30年間にかけて実施された。204の異なる国と地域を対象に、とくに片頭痛とTTHの影響を評価した。包括的な評価では、年齢、性別、年、地域性、SDIなどのさまざまな人口統計学的要因と、頭痛の罹患率、有病率、障害調整生存年(DALY)との関連を分析した。 主な結果は以下のとおり。・2019年の世界における片頭痛の推定患者数は5億8,176万1,847.2例(95%不確定区間[UI]:4億8,830万9998.1~6億9,629万1,713.7)であり、1990年から16%の増加が認められた。・2019年のTTHの推定患者数は、9億6,480万8567.1例(同:8億958万2,531.8~11億5,523万5,337.2)であり、1990年から37%の増加が認められた。・片頭痛の有病率は、南アジアで最も高く、1億5,449万169.8例(同:1億3,029万6,054.6~1億8,246万4,065.6)であった。・高SDI地域では、1990年(人口10万人当たり2万2,429例)と2019年(人口10万人当たり2万2,606例)のいずれにおいても、最も顕著な片頭痛有病率が示された。・SDI分類のうち、中SDI地域は、1990年(2億1,013万6,691.6例)と2019年(2億8,757万7,250例)のいずれにおいても、TTH患者数が最も高かった。・過去30年間で片頭痛患者数が最も顕著に増加したのは、東アジアであった。・全体として、片頭痛およびTTHの疾患負荷とSDIとの間に、正の相関が認められた。 著者らは「片頭痛とTTHのマネジメントを現代医療のパラダイムに組み込むことは不可欠であり、このような戦略的統合は、頭痛に関連するリスク因子や治療介入の重要性について一般集団が認識を深めることに寄与する可能性がある」としている。

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日本で認知症の評価に使用される神経心理学的検査の現状

 国立長寿医療研究センターの前島 伸一郎氏らは、認知症専門医が臨床現場で使用する評価ツール、その使用理由、評価に関連する因子を調査する目的で、認知症専門医へのアンケート調査を実施した。その結果、認知症患者に対する神経心理学的検査は、「病態生理の把握」と「診断補助」が主な目的であるにもかかわらず、多くの評価法が診断時間内に短時間で実施可能なスクリーニング法として選択されていた。また、生活に支障を来す認知症患者の治療において、今後の課題は、専門医が重要視する介護負担やQOLの評価が十分に行われていない点であることが明らかとなった。Geriatrics & Gerontology International誌オンライン版2023年9月25日号の報告。 2021年9月15日~10月20日に、日本国内の認知症専門医1,858人を対象にアンケート調査を実施した。アンケートは、郵送またはWebアドレスからアクセス可能なWebフォームを用いて行った。 主な結果は以下のとおり。・1,858人中574人(32.2%)がアンケートに回答した。・ほぼすべての回答者が、神経心理学的検査の主な目的は、病態生理の把握、診断補助であると回答した。・ほとんどの回答者が、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)の評価を重要な要素として特定していた。・最も一般的に使用されている検査は、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、ミニメンタルステート検査(MMSE)であり、スクリーニングツールとして用いられていた。・MMSE、時計描画テスト(CDT)、立方体透視図模写テスト(CCT)は、一般的な評価として専門医が直接実施していた。・QOLと介護負担に関しては、あまり評価されていなかった。

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高齢統合失調症患者における認知症発症の神経病理学的根拠

 統合失調症患者は、そうでない人よりも認知症発症リスクが高いことが、臨床研究で報告されている。しかし、過去の神経病理学的研究では、統合失調症患者におけるアルツハイマー病の発症率は対照群と差異がないことが示唆されている。これらの一貫性のない結果は、アルツハイマー病以外の認知症を包含したことが原因である可能性があるが、高齢統合失調症患者を対象とした現在の神経病理学的分類に基づく臨床病理学的研究は、ほとんど行われていなかった。名古屋大学の荒深 周生氏らは、高齢統合失調症患者における認知症発症の神経病理学的根拠を調査するため、本研究を実施した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2023年9月14日号の報告。高齢統合失調症患者の認知症に2つのタイプ 高齢統合失調症患者32例を対象に、標準化された病理学的手法を用いて、システマティックに脳検査を実施した。認知症に関連する神経病変の重症度の分析には、標準化された半定量的評価法を用いた。神経病理学的基準を満たす患者を除外した後、認知症を発症した患者と発症しなかった患者の臨床病理学的変数を比較し、潜在的な差を特定しようと試みた。 高齢統合失調症患者における認知症発症の神経病理学的根拠を調査した主な結果は以下のとおり。・病理学的基準を満たした統合失調症患者は7例であり、その内訳は、アルツハイマー病3例、嗜銀顆粒性認知症(AGD)2例、レビー小体型認知症1例、AGD/進行性核上性麻痺(PSP)1例であった。・神経病理学的所見が認められなかった統合失調症患者25例のうち、10例は認知症に罹患していたが、残りの非認知症患者15例と比較し、臨床病理学的所見に差は認められなかった。 著者らは、「高齢統合失調症患者では、2つのタイプの認知症がみられる。すなわち、1つは神経変性疾患併発タイプ、もう1つは現在の分類に基づく病理学的基準を満たさないタイプ」であるとし、「高齢統合失調症患者における認知症発症の神経生物学的側面を理解するためには、認知症発症を従来の認知症関連神経病理の併存疾患として分析するだけでは不十分であり、さらなる臨床病理学的研究が必要である」とまとめている。

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人違いの秋【Dr. 中島の 新・徒然草】(500)

五百の段 人違いの秋先週金曜日に広島に行ってきました。国立病院総合医学会という学会があったからです。小雨は降ったものの暑くもなく寒くもない、ちょうどいい気候でした。午前中は「医療従事者の心理的安全を確保するための工夫」というタイトルでの講演。午後からは「若手医師フォーラム」のディスカッサントです。今回は若手医師フォーラムについてお話ししましょう。これは毎年恒例のもので、卒後10年以下の若手医師が症例報告や研究発表を英語で行います。合計で8演題ですが、採点による上位2名は表彰されて豪華副賞が授与されるというものでした。4名のディスカッサントに2つずつの演題が割り当てられており、それぞれが質問をして場を盛り上げるという仕組みです。例年はディスカッサントの専門を考慮して、私には脳外科かせいぜい神経内科といった関連領域の演題しか割り当てられなかったのですが、今年はランダムです。私には膠原病と感染症が割り当てられてしまい、学会前に大急ぎで勉強する羽目になりました。隣に座っていたディスカッサントの先生は、専門が肝臓であるにもかかわらず脳動脈瘤の研究が当たってしまい「私は適当なことしか聞けないので、中島先生も質問をお願いします」と頼まれてしまいました。皆さんそれぞれに苦労されたようです。私自身も、にわかにリウマトイド血管炎やアスペルギルス性感染性心内膜炎を勉強しなくてはなりません。幸い前日くらいに、いくつかの質問を準備することができてホッとしました。リウマトイド血管炎の発表をしたのは卒後4〜5年前後の先生でしたが、single-cell spatial transcriptome analysisを使った野心的な研究です。生まれて初めて耳にする実験方法ですが、一通り勉強してみると「世の中は進んでいるなあ」と感心させられました。自分がまったく知らない分野も、勉強してみると何かと興味深いものです。たまたまですが、演者の名字が私の同級生の名字と一緒だったので、セッションの後で「ひょっとしてお父さんは○井×彦先生?」と彼女に尋ねてみると「阪大生の時代からよく聞かれたんですが、そうではありません。私の父はサラリーマンです」という答えでした。先入観のせいか、顔なんかよく似ていたような気がしたのですが……さて、英語での発表というのは誰にとってもハードルの高いもので、非常に上手な演者もいれば、そうでない演者も混在していました。が、こういうことは挑戦することが大切だと思います。そして、たとえうまくいかなかったとしても、そのことを勉強のモチベーションにつなぐべきですね。かくいう私も久しぶりの英語でのやり取りを何とか無難にこなしたものの、やはり勉強の必要性を感じさせられました。新たに英語の勉強を再開しましたが、こういうのは目標が必要です。オンライン英会話とか、英検・TOEICの受験とか、何か目標を見つけなくてはなりません。何らかの本番を設定して、迫りくる恐怖に怯えながら勉強するか、思うようにいかなかった悔しさをバネに勉強するか、あるいは両方ともでしょうか。引き続き精進を重ねたいと思います。次回は自分自身が発表した「医療従事者の心理的安全を確保するための工夫」について述べたいと思います。最後に1句秋深し 知人の娘は 別の人

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日本人薬物乱用頭痛に対するフレマネズマブの有効性~多施設共同RCT事後分析

 慢性片頭痛(CM)患者は、急性頭痛薬を服用していることが多く、その結果として薬物乱用(MO)状態に至ることが少なくない。静岡赤十字病院の今井 昇氏らは、MOの有無を問わない日本人CM患者に対するフレマネズマブの有効性を評価するため、第IIb/III相試験の事後分析を実施した。その結果、フレマネズマブはMOの有無にかかわらず、日本人CM患者の片頭痛予防に有効であり、MOの軽減にも有益であることが示唆された。Neurology and Therapy誌オンライン版2023年9月11日号の報告。 多施設共同二重盲検並行群間第IIb/III相試験では、患者を月1回フレマネズマブ皮下投与群(初回投与量:675mg、2回目・3回目投与量:225mg)、四半期ごとフレマネズマブ皮下投与群(初回投与量:675mg、2回目・3回目投与:プラセボ)、プラセボ群(いずれの投与もプラセボ)に1:1:1でランダムに割り付け、3ヵ月間投与を行った。本事後分析では、MOの有無を問わず日本人CM患者(1ヵ月当たりの使用:急性頭痛薬15日以上、片頭痛特異的急性治療薬10日以上、10日以上の併用)のデータを分析した。アウトカムには、オリジナルのエンドポイントである中等度以上の平均頭痛日数、平均頭痛日数が50%以上減少した患者の割合、MOのない状態に変化した患者の割合を含めた。 主な結果は以下のとおり。・登録患者479例のうち、ベースライン時にMOが認められた患者は320例(66.8%)であった。・1ヵ月当たりの平均頭痛日数は、MOの有無にかかわらず、フレマネズマブ群においてプラセボ群よりも有意な減少が認められた。【MOあり】月1回群:-2.0±0.6(p=0.0012)、四半期ごと群:-1.8±0.6(p=0.0042)【MOなし】月1回群:-1.6±0.8(p=0.0437)、四半期ごと群:-1.5±0.8(p=0.0441)・平均頭痛日数が50%以上減少した患者の割合は、MOの有無にかかわらず、フレマネズマブ群においてプラセボ群よりも有意な減少が認められた。【MOあり】月1回群:28例/108例、25.9%(p=0.0040)、四半期ごと群:25例/99例、25.3%(p=0.0070)、プラセボ群:12例/111例、10.8%【MOなし】月1回群:18例/50例、36.0%(p=0.0132)、四半期ごと群:21例/60例、35.0%(p=0.0126)、プラセボ群:7例/49例、14.3%・MOのない状態に変化した患者の割合は、フレマネズマブ群のほうがプラセボ群よりも有意に高かった(月1回群:50例/108例、46.3%[p=0.0115]、四半期ごと群:44例/99例、44.4%[p=0.0272]、プラセボ群:33例/111例、29.7%)。

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年齢別、コロナ後遺症の発生頻度

“コロナ後遺症(罹患後症状)”どのくらいの頻度で報告されている?[年齢別]6.0%およそ新型コロナウイルス感染後、3ヵ月以上続く何らかの症状があった人の割合20人に1人5.0%4.7%およそ30人に1人3.8%4.0%およそ40人に1人およそ45人に1人3.0%2.7%2.3%2.0%およそ125人に1人およそ1.0%500人に1人およそ330人に1人0.2%0.3%0~5歳6~11歳0.8%0.0%12~17歳18~34歳35~49歳50~64歳65歳以上出典:CDC「Update: Epidemiologic Characteristics of Long COVID」2023 Sep 12.米国の「2022 National Health Interview Survey」データよりCopyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第186回 手術不要の狙いどおりの脳深部刺激がヒトに初めて施された

手術不要の狙いどおりの脳深部刺激がヒトに初めて施された手術で脳内に移植した電極による脳深部刺激(DBS)はパーキンソン病などの重度の運動疾患や強迫性障害(強迫症)などの気分障害の治療手段として世界で広く使われています。用途の拡大も期待され、たとえば治療抵抗性うつ病やアルツハイマー病へのDBSの試験が実施されています。しかし脳手術につきものの危険性や合併症がDBSの可能性を狭めています。手術不要のDBSの実用化を目指し、頭の外側からの磁気や電気を送る手段が多くの臨床試験で検討されてきました。そのような経頭蓋磁気/電気刺激を基底核や海馬などの脳の奥深くの領域に到達させるにはそれらを覆う脳領域も広く一緒に刺激してしまうことが避けられず、余計な副作用の心配があります。そこで英国のImperial College Londonの認知症研究者Nir Grossman氏らは脳に置いた電極が発する電場によって脳の奥深くのみを遠隔刺激しうる手段を編み出し、その意図どおりの効果を示したマウス実験成果を2017年に報告しました1)。Grossman氏らがtemporal interference(TI)と呼ぶその手術不要の手段はマウスの海馬をそれに被さる領域に手出しすることなく刺激することができました。検討はその後さらに進み、先週Nature Neuroscience誌に発表された臨床試験の結果、いまやTIはマウスと同様にヒトの脳の奥深くも刺激しうることが裏付けられました2)。Grossman氏らはまず死者の脳を使った検討で電場が海馬のみ相手しうることを確認し、続いて健康な20例を募ってTIによる海馬刺激を試みました。被験者には顔と名前の組み合わせを記憶する課題をしてもらい、その最中の被験者の脳にTIを施しました。海馬は言わずもがな記憶や学習を司る脳領域であり、被験者がした課題は海馬の働きを必要とします3)。fMRIで被験者の脳の活動を測定したところ、TIは海馬の活性のみ調節し、記憶の正確さが改善しました。Nature Neuroscience誌に時を同じくして発表された別の報告4)ではヒトの線条体をTIによって活性化し、運動記憶機能が改善したことが確認されています。スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)が率いた研究の成果です。Grossman氏らの成果はまったく新しいアルツハイマー病治療の道を切り開くものです。初期段階のアルツハイマー病患者へのTIの臨床試験が早くもGrossman氏の指揮の下で始まっており、被験者集めが進行中です5)。アルツハイマー病で侵された脳領域の活動がTIを繰り返すことで正常化し、記憶障害の症状が改善することを期待しているとGrossman氏は述べています3)。参考1)Grossman N, et al. Cell;169:1029-1041.2)Violante IR, et al. Nat Neurosci. 2023 Oct 19. [Epub ahead of print]3)Surgery-free brain stimulation could provide new treatment for dementia / Imperial College London4)Wessel MJ, et al. Nat Neurosci. 2023 Oct 19. [Epub ahead of print]5)Recruiting to a new landmark trial to treat dementia by sending electrical currents deep into the brain.

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金の話をする人間は卑しいのか?猫と暮らすQALYを考える【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第65回

費用対効果分析の意義世界的なインフレの波が日本にも押し寄せています。日本で物価が上がっていることを実感する機会が増えてきました。しかし、世界の先進国と比べると上昇率はまだ緩やかなのかもしれません。私は2023年8月末にオランダ・アムステルダムで開催された欧州心臓病学会(ESC2023)に参加しました。会場のキオスクで昼食を購入して驚きました。おいしくもないハンバーガーが、14.5ユーロでした。1ユーロが158円でしたので、日本円に換算すると2,291円となります。日本では500円ほど、絶対に1,000円を超えることはない質感でした。円安と日本の国力の低下を痛感しました。出費には、それに見合う対価が求められます。費用対効果、いわゆるコスパです。費用対効果分析は医療の現場でも意義を増し、この分野に特化した学問領域が進化しています。治療に掛かる費用は、安ければ良いというわけではありません。安価でも効かない薬や質の悪い医療では、「安物買いの銭失い」となります。一方で、効果が高くとも、法外に高額な治療では手が届かず、公的医療の枠組みを超えてしまいます。費用に見合う効果のバランスが取れていることが鍵となります。あらゆる疾患に共通する治療効果指標「QALY」医療における費用対効果を分析する場合に、効果をどのように測定するかが問題です。風邪を引いた場合には解熱することが求められ、がんの治療ならば再発せずに長生きすることが求められ、変形性膝関節症では痛みなく日常生活が可能となることが効果として求められます。風邪・がん・変形性膝関節症と、疾患ごとにバラバラの効果指標で費用対効果を算出すると、その解釈も疾患ごとにバラバラとなります。あらゆる疾患に共通する効果指標としてQALYが考案され国際的に活用されています。これは、Quality-Adjusted Life Yearの略語で、「クオリー」と呼ばれ日本語では「質調整生存年」と訳されます。瀕死の病の状態から、医療により同じ1年間を長生きすることができたとしても、思うままにできる元気な1年間と、寝たきりで身動きがとれない1年間では、多くの人は前者のほうが望ましいと考えます。生存期間で見ればどちらも1年ですが、前者は後者よりも質の高い状態なので、治療により得られる1年間の価値も大きくなります。このように、生存している期間に加えて質も同時に反映する評価指標がQALYです。QALYの値は、1(完全な健康)から0(死亡)までの値を取ります。完全な健康状態で過ごした1年間は1QALYであり、人がその年の価値の100%を得ることができたと解釈します。完全な健康状態ではない状態で生きた1年間は、価値の量が低下します。たとえば、効用が0.5の状態で1年間生きた場合、0.5QALYが得られます。この人は、その年に得られる最高の価値の量の50%しか得ていないという意味です。言い換えれば、0.5の健康状態で1年間を生きる価値の量は、完全な健康状態で半年間を生きることと同程度の価値の量があることを意味します。QALYは1QALY、2QALYと数えることができ、0.8の状態で10年間生存すれば0.8×10=8QALYとなります。ICER:1QALY延ばすために要するコスト従来からある標準的な治療と効果が高いと期待される新規治療と比べた場合に、QALYを1単位獲得するのにいくらコストが掛かるかを表す指標をICER(Incremental Cost-Effectiveness Ratio)と呼びます。要は、1QALYを延ばすために要するコストで、この値が医療行為を社会に導入する是非の基準となります。たとえば、新たな治療により比較対照と比べて500万円余分に掛かるけれども、2年間の延命が期待できれば、ICERは500万円/2年=250万円/年となります。これは、追加的に1年間生きるのにあと250万円のコストが掛かるということになります。イギリスでは、1QALY当たりに認めるコストの目安として2万~3万ポンドと設定しています。日本円に換算すると、1QALYを得るのに必要なコストは500万円程度までは容認されるという考えです。ICERが500万円/QALYを超える医薬品は、薬価の引き下げが検討されるなど医療政策に活用されています。今、議論に向き合わなければならないこのように医療の経済的な側面について考えることは、「金の話なんて、卑しいからするな」と感じる方もいるかもしれません。「人の命は地球よりも重い」という言葉がありますが、本当にそうでしょうか。医療費はだれかが負担しなければならないことは間違いありません。今を生きる私たちが費用を負担していないのであれば、いつか誰かがツケを支払わねばなりません。おそらく子や孫の世代です。一般の社会でも、支払い能力を考えずにただ金を使いまくる人間は愚か者と考えられています。国がなんとかしてくれると思考を放棄するのは「ドラ息子」の所業です。あえて目を背けたい事柄だからこそ、歯を食いしばって向き合う必要があります。今を生きる世代の人間は、次の世代や次の次の世代を巻き込むことは避けるべきであり、そのための議論を放棄してはならないと考えます。この困難な話題について原稿を書いていると、わが家の「ドラ息子」ともいえる愛猫の「レオ」が遊んでくれとやってきました。ゴロゴロいってスリスリしてきます。猫と暮らすことの費用対効果を考えてみます。猫の飼育コストには、食事、猫用品(トイレ、ベッド、おもちゃなど)、健康ケア(ワクチン、予防医療、獣医さんへの診療費)などが含まれます。遊んだり、トイレの世話をしたり、愛情を注いだりするために時間とエネルギーを費やすことも経費です。効果については、猫は癒しや楽しみを提供してくれます。彼らの愛らしい行動や一緒に過ごす時間は、ストレス軽減や幸福感向上に寄与します。猫と遊ぶことは、同居する人間にとってもアクティビティの機会になります。猫を飼うことは責任感を養う機会でもあります。猫と暮らす1年は2QALY、いや5QALY以上の価値があります。今回も結局は猫自慢の話になってしまいました。

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若年性アルツハイマー病におけるアミロイドおよびタウPETの陽性率

 米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のHanna Cho氏らは、若年性アルツハイマー病患者におけるベースライン時のアミロイドβ(Aβ)およびタウ蛋白のPET検査の評価を目的に、プロスペクティブ観察研究として長期若年性アルツハイマー病研究「LEADS試験」を実施した。その結果、臨床的な若年性アルツハイマー病患者の72%でアミロイドPETとタウPETの両方が陽性であり、アミロイドPETが陽性の患者では皮質領域全体での高いタウPETシグナルが認められた。Alzheimer's & Dementia誌オンライン版2023年9月10日号の報告。 軽度認知障害(MCI)またはアルツハイマー病と診断された65歳未満の患者を対象に、ベースライン時の18F-florbetabenアミロイドPETおよび18F-florbetapirタウPETの結果を分析した。若年性アルツハイマー病患者のAβ陽性および陰性の評価には、専門家による読影と画像定量化の組み合わせに基づいたフロルベタベン スキャンを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者321例中243例(75.5%)は、アミロイドPETにより若年性アルツハイマー病に割り当てられた。243例のうち231例(95.1%)はタウPET陽性であった。・タウPETシグナルは、頭頂部優位なパターンで皮質領域全体での上昇がみられ、若年および女性の患者においてより高かった。 著者らは、「本研究のデータは、若年性アルツハイマー病の診断精度を高めるためのバイオマーカーの重要性を強調するものである」とし、とくに発症年齢のより若い患者や女性ではタウPETシグナルがより高いことなどから、「今後の治療戦略に影響を及ぼす可能性がある」とまとめている。

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長時間睡眠で認知障害リスク増、特定のアミノ酸不足でさらに増~日本人での研究

 睡眠時間とアミノ酸摂取量は、独立して認知機能の低下と関連している。今回、国立長寿医療研究センターの木下 かほり氏らは、60歳以上の地域住民における睡眠時間と認知障害発症の長期的な関連と食事による19種類のアミノ酸摂取量の関与を調べた。その結果、長い睡眠時間(8時間超)が認知障害発症率と有意に関連し、さらに、長時間睡眠者でシスチン、プロリン、セリンの摂取量が少ない人は認知障害を発症しやすいことがわかった。BMC Geriatrics誌2023年10月11日号に掲載。 本研究は地域ベースの縦断的研究で、ベースラインで認知障害のない60〜83歳の成人623人のデータを分析した。睡眠時間は自己申告質問票から、アミノ酸摂取量は3日間の食事記録から取得した。認知障害はMMSE(ミニメンタルステート検査)スコアが27以下と定義した。ベースラインの睡眠時間で、短時間睡眠群(6時間以下)、中程度睡眠群(7~8時間)、長時間睡眠群(8時間超)に分類し、認知障害発症率について中程度睡眠を基準とした短時間睡眠と長時間睡眠でのオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を推定した。また、19種類のアミノ酸の摂取量の性別層別四分位数(Q)で、Q1を低摂取量群、Q2~Q4を中~高摂取量群とし、各睡眠時間群の認知障害発生率について中~高摂取量を基準とした低摂取量でのORと95%CIを推定した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間は 6.9±2.1年だった。・認知障害の調整後OR(95%CI)は、短時間睡眠群が0.81(0.49~1.35、p=0.423)、長時間睡眠群が1.41(1.05~1.87、p=0.020)だった。・とくに長時間(8時間超)睡眠者では、認知障害がシスチン(調整後OR:2.17、95%CI:1.15~4.11、p=0.017)、プロリン(調整後OR:1.86、95%CI:1.07~3.23、p=0.027)、セリン(調整後OR:2.21、95%CI:1.14~4.29、p=0.019)の低摂取と有意に関連していた。 著者らは「地域在住の60歳以上の成人において、睡眠時間が長い人は認知機能が低下する可能性が高い」とし、「長時間の睡眠をとる人は、穀物を減らし、豆類、野菜、魚介類、肉、卵、牛乳、乳製品を多く含む食事を取り入れて、シスチン、プロリン、セリンの欠乏に注意することが重要かもしれない」と考察している。

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「人生をエンジョイ」する人は認知症発症リスクが低い~JPHC研究

 人生をエンジョイすることは、自身の環境と楽しく関わる能力と関連しており、これは認知症リスクとも関連しているといわれている。順天堂大学の田島 朋知氏らは、日本の地域住民における人生のエンジョイレベルと認知症発症との関連を調査した。The Journals of Gerontology. Series B, Psychological Sciences and Social Sciences誌オンライン版2023年9月18日号の報告。 対象は、Japan Public Health Center-based(JPHC)研究に参加した5年間のフォローアップ調査時点で45~74歳の日本人3万8,660例。心理的状態およびその他の交絡因子の特定には、自己記入式アンケートを用いた。認知症発症は、2006~16年の日本の介護保険(LTCI)制度に基づき評価した。Cox比例ハザードモデルを用いた、ハザード比[HR]および95%信頼区間[CI]を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値9.4年の間に認知症を発症した患者は4,462例であった。・人生のエンジョイレベルは、認知症リスクとの反比例が認められた。・多変量HRは、エンジョイレベルが低い人と比較し、中程度の人で0.75(95%CI:0.67~0.84、p<0.001)、高い人で0.68(同:0.59~0.78、p<0.001)であった。・人生のエンジョイレベルの増加と認知症リスク低下との関連性は、低~中程度の精神的ストレスを抱えている人で最も強かった。・精神的ストレスレベルが高い人では、脳卒中後の身体障害性認知症において関連性が明らかであったが、脳卒中歴のない身体障害性認知症では認められなかった。 結果を踏まえ、著者らは「人生のエンジョイレベルが高い人は、とくに低~中程度の精神的ストレスを抱える人において、認知症発症リスクが低いことが示唆された。認知症リスクを軽減するためにも、精神的ストレスをマネジメントし、人生をエンジョイすることが重要である」としている。

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