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女性研究者は性差に関する論文を多く書いていた(解説:折笠秀樹氏)-1018

 本研究では、計量書誌学(Bibliometrics)という珍しい手法が使われた。図書館情報学ではよく使われる手法のようだ。著者の性別を知るために、Web of Scienceという文献データベースでは、2008年から姓(Family name or Last name)と名(Given name or First name)を分けてデータベース化し始めたようである。けれども、名から性別をどう判別するのだろうか。基本は言語や国ごとに、名と性別を対応させたリストをデータベース化しているようである。しかしながら、イニシャルしか書いていない論文があるらしく、性別が判明しなかったのも25%近くあったようだ。 こうした計量書誌学的分析の結果、性別をテーマに挙げた研究論文で、女性研究者がファーストオーサーやラストオーサーになっている割合が多かった。女性著者は男性著者に比べて、1.26倍、性差に関する論文を執筆していたようなのだ。なぜ、女性は性差に関する論文を多く書くのだろうか。女性はマイノリティ扱いされたり、女性研究者の賞があったり、女性対象の学会があったりと、女性のほうが性差を意識する場が多いためではないだろうか。黒人もマイノリティ扱いされることがあるが、そのせいか、人種差については白人より黒人のほうが関心を持つ。特別な扱いをされることにより、自然に興味を持つようになると思われる。 雑誌別にみると、やはり産婦人科学や発生学に関する雑誌で、性別をテーマにした研究論文を多く掲載する傾向がみられた。国別では、何とアフリカが2倍以上も女性テーマの論文を執筆していた。アフリカの女性がどうして性差に興味が高いのだろうか。アフリカには黒人が多く、黒人研究者ではマイノリティ扱いされる。女性研究者も同じくマイノリティ扱いされる。このように、二重にマイノリティ扱いされる黒人女性研究者は、性差について強い関心を持つのだろう。 残念ながら、性別をテーマにした研究論文、インパクトファクターは低い傾向にあったようである。これは、女性著者の研究能力が低いことを意味しているわけではない。性別をテーマにした研究論文は、なかなか出版されない事情を反映したものだろう。

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八日目の蝉【なぜ人を好きになれないの?毒親だったから!?どうすれば良いの?(好きの心理)】

今回のキーワード反応性愛着障害毒親条件付きの愛情自分が許す子育て心理希望皆さんの中で、人を好きになれないと悩んでいる人はいませんか? なぜ好きになれないのでしょうか?逆に、なぜ好きになるのでしょうか? 人を好きになるにはどうすれば良いでしょうか? そもそもなぜ好きという気持ちは「ある」のでしょうか?これらの疑問を解き明かすために、今回は、映画「八日目の蝉」を取り上げます。この映画を通して、反応性愛着障害の理解を深め、好きの心理を進化心理学的に掘り下げ、いわゆる「毒親」を分析します。そして、より良い子育て心理、そしてより良いコミュニケーションを一緒に考えていきましょう。人を好きになれないとは?主人公は恵里菜。彼女は、生後6ヵ月で父親の元不倫相手に誘拐され、4年間、その女性に育てられていたのでした。そして、4歳の時、その女性は捕まり、もとの両親宅に戻ったのでした。しかし、21歳の大学生になっても、彼女は、人を好きになれません。ここから、彼女の心理を3つ探ってみましょう。(1)自分はだめだ -自己否定感恵里菜は「うちの家族は壊れちゃってた」「お父さんは誘拐犯の愛人として仕事を転々として、お酒ばっか飲んで」「お母さんも疲れちゃったんだと思うよ。ずっとパートに行って、全然うちにいなくなった。ご飯はいつもスーパーのお総菜と焼いてないパン」「嫌だったけどそういうものかなと思ってた」と語っています。彼女は、クリスマスなどの楽しい家族のイベントを経験しないで育っていたのでした。ところが、小学2年生の時に友達のお誕生日会で、その子の赤ちゃんからの成長ビデオを見せつけられ、その愛され方の違いにショックを受けるのでした。1つ目の心理は、自分はだめだと思うことです(自己否定感)。自分は大切にされていないと認識することで、自分自身を大切にしなくなり、自分には価値がないと思うようになることです。そこから、自分は頑張ってもどうせうまくいかないと思い込むようになります。(2)心を閉ざす -不信感恵里菜は、アルバイト仲間から飲み会に誘われても、無愛想に断ります。実は幼なじみだった千草が、恵里菜に近付いてきますが、なかなか心を開きません。大学の食堂では、いつも1人で食べています。その理由を千草に聞かれ、「楽だから」と答えています。また、恵里菜は妻子ある岸田に言い寄られて流されるままに交際を続けます。そして、彼に「私、よく分からないんだ。好きになるって、どういうこと?」「好きでいるのやめるってどういうこと?」と尋ねます。彼女は、信頼関係の築き方がよく分からず、近づくことも離れることもできないのでした。2つ目の心理は、心を閉ざすことです(不信感)。自分は大切にされてこなかったので、相手をどう大切にしていいのかよく分からないのでした。人を好きになることも、人から好かれることもあきらめてしまい、心を閉ざしているのでした(反応性愛着障害)。そして、自己否定感と不信感が相まって、人間関係を避けがちにもなっているのでした(回避性パーソナリティ)。(3)自分が悪い -罪悪感恵里菜は「母親も困っていたんじゃないかな」「私が近くにいると事件のことを思い出すみたいで」と言うと、千草から「困るって。なんで? あんたは何も悪くないじゃん」と言われます。その後に「そんなふうに言ってくれる人、今まで誰もいなかった」「岸田さんしかいなかった」「私、嫌だったからさ。母親が泣いたり怒鳴ったりするの、全部自分のせいだと思ってた」と打ち明けます。これが、岸田に心を許した理由でした。しかし、彼女は、岸田の子を妊娠しても、その事実を岸田に告げません。3つ目の心理は、自分が悪いと思うことです(罪悪感)。自分には価値がないので、自己主張ができません。結果的に、何事も人のせいにせず、自分のせいにして、抱え込むのです。なぜ人を好きになれないの?恵里菜が人を好きになれないのは、自分はだめで、心を閉ざし、自分が悪いと思っているからということが分かりました。それでは、なぜそうなったのでしょうか? 4歳以降の恵里菜を育てた実の母親の恵津子の心が鍵になります。 ここから、彼女の心理を3つ探ってみましょう。(1)揺れやすい ―情緒不安定恵津子は、幼い恵里菜の寝かしつけの時、「日記には本当のことを書きなさい」と絵本の読み聞かせを満面の笑顔でしています。その後に、恵里菜から「お星様の歌を歌って」と言われて歌い出しますが、歌が違うと繰り返し言われてしまいます。すると、恵津子は堪えられなくなり、突然「なんでなの?」と鬼の形相で叫び、泣き崩れます。最後は、恵里菜が「お母さん、ごめんなさい」と連呼するのです。このワンシーンだけを切り取れば、もはやホラー映画です。1つ目の心理は、心が揺れやすいことです(情緒不安定)。子どもの恵里菜としては、正直に言いなさいと言われて、そう言ったら、怒鳴られたわけです。これは、親の言っていることとやっていることが矛盾しており(ダブルバインド)、子どもを混乱させ、怯えさせます(心理的虐待)。親を求めて近付いていったら、逆に離れていったわけです。すると、子どもとしてみれば、逆説的ですが、親を求めて近付こうとすることをあえて最小限に抑える、つまり心を閉ざすことで、親との距離をある一定範囲内にとどめておこうとします。これは、何かあった時に逃げ込むべきところであるはずの親自身が、子どもに恐怖を与える張本人でもあるという逆説的で極限的な状況です。例えるなら、親は、もはや守ってくれる安心で安全な基地ではなく、逃れられない恐怖で危険な檻(おり)になっています。これが、恵里菜の自己否定感や不信感を生み出しました。同時に、この恐怖心を植え付けることは、結果的に親が子どもを従わせる無意識の心理戦略になっています(操作性)。(2)独りよがり ―条件付きの愛情恵津子は、戻ってきた4歳の恵里菜がなついてくれず、戸惑います。幼い恵里菜が家出をした時、交番で恵津子は「こんなに心配かけて。どんだけ悪い子なの?」「そんなに、うちが嫌いか?」「そんな悪い子はうちの子じゃないよ」と脅して、突き放します。父親が「いいよ。この子、怖がってる」と止めようとしているのにです。そもそも、恵里菜はその家が嫌だから家出をしたのに、追いかけてきたあげくに「うちの子じゃない」と言われると、混乱してしまいます。また、恵津子は、恵里菜が「そやなくて」「あんな」などの方言を使うと、毎回「それじゃなくて」「あのね」などとすかさず言い直して、直させています。さらに、大人になった恵里菜が、妊娠4ヵ月であることを恵津子に打ち明けた時、恵津子は即座に「堕ろしなさい。今すぐ一緒に病院に行ってあげる」「そんな子ども育てられるはずないでしょ」「父親もいないのに」と感情的に答えます。「ちゃんと恵里菜の話を聞こう」という父親の言葉かけには耳を傾けません。そして、「私だってね、ちゃんとふつうの母親になりたかったのよ」「恵里菜ちゃんのことをふつうに育てたかったの」と打ちひしがれます。2つ目の心理は、独りよがりで押し付けがましいことです(条件付きの愛情)。恵津子は、自分が生後4年間育てていない分、なおさら自分は母親らしくあるべきだ、恵里菜は早く自分の子どもらしくなるべきだというプレッシャーがありました。このプレッシャーは自分を追い詰めると同時に、子どもも追い詰めています。子どもの恵里菜としては、言うことを聞かなければ見捨てられると思い込みます。本来、親の愛情は、どんな時もどんなにしていても大切にされ守ってくれる無条件であるはずです。しかし、言うことを聞かない、「ふつう」ではないと急に見捨てられるという条件付きになっています。これは、恵里菜の罪悪感を生み出しました。同時に、この罪悪感を植え付けることも、結果的に親が子どもを従わせる無意識の心理戦略になっています(操作性)。(3)ひがみっぽい ―被害者感情恵津子は、恵里菜に「親だって思ってないくせに。私のこと、苦しめたいんでしょ」「私が親じゃなかったら、こんな目に遭わなかったのにって思ってるんでしょ」と言い放ちます。そして、包丁を恵里菜に向けて、「私が恵里菜ちゃんを大切かどうやって分かってくれるの!?」と迫ります。もはや脅迫です。最後には、「どうすればいいの? 恵里菜ちゃんに好かれたいの」と泣きじゃくります。恵里菜は、「お母さん、ごめんなさい」とまた謝ります。そして、哀れで気の毒になり、母親の手を握り、抱きしめます。もはや、どちらが母親か分からなくなります。3つ目の心理は、ひがみっぽいことです(被害者感情)。相手の話を聞かず、こんなにしているのにあなたは分かってくれない、ひどいことをするという一方的な自分の視点しかありません。子どもを愛することよりも、子どもから愛されることが第一になっています。また、恵津子は恵里菜に「(誘拐犯は)世界一、悪い女」と吹き込みます。そして、物事がうまくいかないのは「すべてあの女のせいだ」という被害者感情にとらわれ、すり替えられ、自分の問題点や改善点に目を向けられなくなっています。これが、恵里菜の罪悪感や同情を生み出しました。同時に、この同情を植え付けることも、結果的に親が子どもを従わせる無意識の心理戦略になっています(操作性)。ちなみに、恵里菜は、大学進学を機に、母親の強い反対を押し切って、一人暮らしを始めます。また、妊娠報告の際には、相手を「お父さんみたいな人」「家庭があって父親にはなってくれない人」と説明します。誘拐犯になった父親の不倫相手は、かつて父親の子を妊娠しますが、中絶して、子どもが産めない体になっていました。その不倫相手に自分を重ねた、とても挑発的な言い回しです。恵里菜には、支配的な母親に対しての抵抗や復讐心もあるようです。なぜ人を好きになるの?恵里菜が人を好きになれなくなったのは、実の母親の恵津子が揺れやすく、独りよがりで、ひがみっぽいからであることが分かりました。それでは、逆に、なぜ人を好きになるのでしょうか? 4歳以前の恵里菜を誘拐して育てた父親の不倫相手の希和子の心が鍵になります。ここから、彼女の心理を3つ探ってみましょう。(1)とにかく守りたい ―信頼感希和子は、赤ちゃんを見れば不倫をあきらめられると思い、赤ちゃんだけの留守の家に忍び込みました。後の裁判で「あの笑顔に慰められた」「この子を守る」「この子は許してくれている、そう思いました」と語っているように、衝動的に恵里菜を誘拐しました。そして、恵里菜に「薫」という中絶しなければ本来生まれるはずだった子どもの名前を新しく付けます。希和子は、薫(恵里菜、以下略)とともに逃避行を続ける中、「薫と一緒におれますように。明日も明後日もその次も。どうかどうか一緒におれますように」と祈ります。1つ目の心理は、とにかく守りたいことです(信頼感)。守るためにただ一緒にいたいという気持ちから、希和子は薫の存在をそのまま丸ごと受け止めています。薫にとって、安心で安全な基地になっています。対照的に、恵津子は、一緒にいないことが多く、突き放すこともあり、恵里菜をそのまま受け止めてはおらず、決して守ってはいませんでした。(2)全部あげる ―無条件の愛情希和子は、3歳の薫に「いろんなとこ行こう。いろんなものをママと一緒に見よう。きれいなもの全部。ママ、働くよ」と伝えます。その後、薫が4歳になり、警察の捜査が間近に迫っていることを悟った希和子は、写真館に行き、薫との記念写真を撮ります。そして、「薫、ありがとう。ママは薫と一緒で幸せだった」と言い、両手を合わせて膨らませて、何かを上げるしぐさをします。「なあに?」ときょとんとする薫に希和子は「ママはもういらない。何にもいらない。薫が全部持っていって。大好きよ」と言い残します。2つ目の心理は、全部あげることです(無条件の愛情)。「全部持って行って」という言い回しは、裏を返せば、「もうあげられない」という無念さも込められています。それくらい希和子は薫に自分のできるすべて、自分の全部をあげたかったのでした。いろいろ見せて、どきどきわくわくする思い出を一緒に積み重ねたかったのでした。希和子の愛情は無条件です。対照的に、恵津子は、家族のイベントをまったくしておらず、恵里菜に本当に大事なものはほとんど見せず、ほとんどあげていませんでした。(3)ただ幸せを願う ―コミットメント希和子は、最後に逮捕された時、薫を保護する女性刑事に「その子はまだご飯を食べていません。よろしくお願いします」と叫びます。後の裁判の時、希和子は「4年間、子育てをする喜びを味わわせてもらったことを秋山さん(恵津子)夫妻に感謝します」「お詫びの言葉もありません」と述べます。そして、懲役6年の刑で出所してから、薫との記念写真をわざわざ取りに行っています。3つ目の心理は、ただ幸せを願うことです(コミットメント)。逮捕された時、自分の身よりも、薫がお腹を空かせていることがまず気になるくらい、薫のことを一番に考えています。そして、その気持ちは、裁判の時も、出所してからもずっと変わりません。お詫びをはっきり言わなかったのは、薫と一緒にいた4年間はかけがえのない意味のあるものだったと確信しているからでしょう。もう一度人生をやり直すとしても、同じことをすると確信しているからでしょう。そこには、法律的な善し悪しは別にして、信念(コミットメント)があります。はっきりお詫びをしてしまったら、それが間違いだったと認めることになります。原作では、薫との4年間の思い出を心のよりどころにして、希和子が生き続ける様子が描かれています。かつて子どもの産めない体になった希和子は、恵津子から「がらんどう」と言われました。その後の希和子は、もはや決して「がらんどう」ではないことが分かります。その4年間が希和子の生きた証になったのでした。対照的に、恵津子は、自分の思い通りになるという自分の幸せを第一にしてしまい、恵里菜の幸せを第一にしていませんでした。人を好きになるとは? 人を好きになるには?4歳まで恵里菜を育てた希和子は、とにかく守りたくて、全部あげたくて、ただ幸せを願っていることが分かりました。そんな希和子との空白の記憶を、恵里菜は千草と回想旅行をする中、少しずつ思い出していきます。そして、ラストシーンでは、恵里菜に劇的な心の変化が起こります。彼女は、人を好きになりはじめるのです。ここから、その心理を3つ探ってみましょう。そして、人を好きになるにはどうすれば良いか考えてみましょう。(1)自分は大丈夫 ―自己肯定感恵里菜は、かつて希和子と仮住まいをしていた小豆島を訪ねた時、「薫ちゃ~ん、ご飯やで」「薫、ブランコしよ」「薫、気い付けて遊べや」「薫、早うおいでや」と周りの大人や子どものみんなから声をかけられていた記憶を蘇らせます。そして、写真館の主人に、希和子が恵里菜との記念写真を年月が経って取りに来た事実を聞かされます。その写真には、恵里菜を抱いた希和子の涙をこらえた笑顔が映っていました。1つ目の心理は、自分は大丈夫だと思うことです(自己肯定感)。もともと、自分はだめだという自己否定感を抱いていました。しかし、自分が希和子に心から愛されていた記憶を思い出しただけでなく、たとえ会えなくても今もどこかで自分の幸せをただ願っている眼差しを感じたのです。自分は大切にされていると認識できたことで、自分自身を大切にするようになっていきます。そこから、自分は何かあっても大丈夫だと思えるようになったのです。ちなみに、大人になった恵里菜のボーイッシュな服装は、かつて小豆島で着ていたお下がりの男の子用の服装に重なります。恵里菜の一人暮らしのアパートが和室であるのも、かつての小豆島の仮住まいに重なります。恵里菜が自転車で坂を下る時に脚を開くしぐさは、かつて希和子の自転車に乗せられて脚を開いていたポーズに重なります。希和子との記憶は、すでに恵里菜の心や体に染みついていたということに私たちは気付かされます。人を好きになるには、まず自分を好きになっていることがポイントになります。たとえば、自分のポジティブな面に目を向けることです。また、恵里菜が恵津子から距離を置いているように、逆にネガティブな面には目を向けないことです。(2)心を開く ―信頼感恵里菜は、もともと「世界一悪いあの女(希和子)がうちをめちゃくちゃにしたんだ」と思っていました。しかし、ラストシーンでは、恵里菜は「憎みたくなんかなかった」「お母さんのことも、お父さんのことも、あなた(希和子)のことも」「この島に本当は戻りたかった」「そんなこと考えちゃいけないと思ってた」と千草に打ち明けます。そして、「私、なんでだろう。もうこの子(生まれてくる子)が好きだ。まだ顔を見ていないのに」と泣きながら笑顔で言います。2つ目の心理は、心を開くことです(信頼感)。もともと、不信感から周りへの憎しみが強まっていたのでした。しかし、自分を大切に思えるようになったことで、周りの人も大切に思えるようになったのです。心を開き、「憎い」から「ありがとう」に変わったのでした。人を好きになるには、自分の理解者と一緒にいることがポイントになります。たとえば、恵里菜が千草と一緒にいたように、家族以外に友人などの仲間、カウンセラーでも良いですし、さらには新しい出会いを受け入れることでもあります。(3)自分が許す ―寛容の精神恵里菜は、かつて千草に「なんで母親になれるって思うの? なれるわけない。子育てなんてできるわけない」「だって、知らないもん。どんなふうにかわいがって、叱って、どんなふうに仲良くなっていいか分かんない。母親になんかなれない」と打ち明けていました。しかし、ラストシーンでは、写真館から走り出し、「私、働くよ。働いて、いろんなもの見せてあげるんだ。かわいい服、着させて、おいしいもの食べさせて、何にも心配いらないよって教えてあげる。大丈夫だよって。世界で一番好きなんだよって何度も言うよ」と力強く言います。千草から「生まれたら、お父さんとお母さんに見せに行こうよ」と聞かれると、「かわいがってくれるかな」と笑顔で言います。3つ目の心理は、自分が許すことです(寛容の精神)。もともと、恵里菜は憎しみや罪悪感を抱いていました。しかし、周りを大切に思えるようになったことで、今度は自分が周りに何かしてあげたいと思えるようになったのです。恵里菜の言動から、そのエネルギーに満ち溢れた躍動感も伝わってきます。恵里菜は、親や誘拐犯を赦し、自分自身を赦し、自分の境遇を前向きに受け入れるように変わったのです。人を好きになるには、相手をよく知り、理解することがポイントになります。たとえば、恵里菜が恵津子のことを理解したように、「親には親の事情があった」「親も完璧ではなかったけど、親なりに自分を頑張って育ててくれた」「親を反面教師として、自分はより良い親になれる」とポジティブに思えることです。先ほどにも触れましたが、距離はとったままで、とくに仲良くするわけではないです。自分の心の平和を得ることを一番の目的とすることです。なぜ好きという気持ちは「ある」の?これまで、人を好きになれない心理となれる心理の特徴とその原因である親の心理を掘り下げてきました。それでは、そもそもなぜ好きという気持ちは「ある」のでしょうか? その心理を2種類に分けて、進化心理学的に考えてみましょう。(1)子育てしたい ―無条件に好き哺乳類が約2億年前に誕生してから、その母親は子どもを哺乳する、つまり乳を与えて育てるというメカニズムを進化させました。これは、自分の栄養を与えるという自己犠牲の上に成り立っています。飽食の現代では想像しにくいですが、常に飢餓と隣り合わせの原始の時代、それでも母親は命がけで自分の栄養を子どもに分け与えて、子孫を残してきました。人類が約700万年前に誕生してから、母親と父親と子どもたちが一緒に暮らす家族をつくり、父親も猛獣などの天敵や自然環境から命がけで子どもを守りました。そうする種がより生き残りました。1つ目は、子育てしたいという心理です。これは、自己犠牲や命がけという点で、本来、無条件です。そして、原始的である点で、食欲や性欲などの身体的な欲求と並ぶ精神的な欲求、エゴイズムの1つとも言えます。この心理は、これまで「母性」と呼ばれていました。ただし、「母性」という言葉は、母親や女性に限定的なニュアンスが伴います。実際には、この心理は、母親だけでなく、父親や祖父母をはじめ、血のつながっていない養父母を含めた養育者全般にもあります。よって、これは、子育て心理と言い換えることができるでしょう。ただし、食欲や性欲が旺盛な人もそうじゃない人もいるのと同じように、子育て心理も程度の違いがあります。希和子は、この心理が旺盛であったために、誘拐してまで恵里菜を無条件に愛そうとしました。犯罪行為である点では決して許されないのに、同時に、私たちはその行為に心打たれるのは、希和子の愛が無条件だからでしょう。子育て心理は、理屈では割り切れない要素があります。また、この心理は、情の深さや献身さにもつながっているという点で、希和子が恵里菜の父親との不倫関係を解消できなかった原因にもなった言えるでしょう。一方、恵津子は、子育て心理が旺盛ではなかったことが分かります。なぜでしょうか? その心理の程度の違いは、3つの要因が考えられます。1つ目の要因は、子育て期間です。この心理は、生まれてから子育てをすること自体を通して高まるものです。また、子どもから愛情を求められることを通して高まるものです。恵津子は、その大事な期間を恵里菜が4歳になるまで奪われていました。2つ目の要因は、世代間連鎖です。まさに恵里菜は、恵津子と同じように、この心理が危うくなっていました。恵里菜は、希和子との記憶を思い出していなければ、生まれてくる子に対して、恵津子と同じような仕打ちをしていたでしょう。同じように、恵津子の母親は、恵津子ほどではないにしても、子育て心理が旺盛ではなかった可能性も考えられます。3つ目の要因は、もともとの気質です。最近の研究では、子育て心理の程度の違いの要因として、遺伝子の配列の違いが報告されています。ちょうど食欲や性欲の程度の違いも、遺伝的な違いがあるのと同じです。子育て心理は、遺伝的にも文化的にも受け継がれていると言えます。(2)つながりたい ―条件付きで好き人類が約300~400万年前に草原(サバンナ)に出てから、家族は、よりいっそう猛獣に狙われたり、食料が獲れないという自然の脅威に直面しました。そのため、血縁によってつながった村(社会)をつくり、助け合いました(社会脳)。そして、そうする種がより生き残りました。2つ目は、つながりたいという心理です。これは、助け合いにならなければつながらないという点で、条件付きです。家族以外の人間関係においては、無条件に好きにはなれないです。たとえば、職場や学校の人間関係においては、お互いに協力するからこそ、つながっています。友人関係や夫婦などのパートナーシップにおいても、お互いに協力したり一緒にいて心地良いからこそ、つながっています。恵津子は、自分が満足しなければ、恵里菜を好きになれない点で、条件付きだったということです。18世紀の産業革命以前の封建社会では、誘拐という特殊な事情がなくても、恵津子のような条件付きの愛情は、とくにめずらしくなかったと考えられます。その理由は、産業革命以前は、個人よりも社会に重きが置かれていました。貧困の状況では、「間引き」「口減らし」「子捨て」さえもありました。恵津子のように、恐怖心、罪悪感、同情を植え付けて、子どもを従わせることは、むしろ社会にとっては好都合でした。しかし、約200年前の産業革命により、個人主義が広がりました。さらに、1990年以降の情報革命により、個人主義が強まったことで、社会よりも個人に重きが置かれるようになりました。そして、昨今、条件付きの愛情を注ぐ恵津子のような親は、毒親と呼ばれるようになりました。子どもを毒する、つまり害を及ぼす親という意味です。彼らは、子どもが幸せになることよりも、自分が幸せになることを第一にします。たとえば、子どもはペットのような自分の所有物であるという感覚を持っています。まるで親友であるかのように子どもに愚痴を垂れ流します。恵津子の場合は誘拐犯の悪口でした。実際によくあるのが、母親が父親や姑の悪口を子どもに吹き込みます。逆に、子どもが自分の考えに従ってくれないと不安になります。子どもを従わせるために、「親不孝者」「恩知らず」「親への態度が悪い」という言い回しを親自らが多用します。これは、親子関係の問題を、本質(内容)ではなく、見かけ(形式)ですり替えています。「八日目の蝉」とは?恵里菜と再会して間もない千草が「蝉って何年も土の中にいるのにさ」「たった7日で死んじゃうなんてあんまりだよね」と言うと、恵里菜は「ほかのどの蝉も7日で死んじゃうんだったら、別に寂しくない。だってみんな同じだし。でも、もし8日目の蝉がいたら、仲間みんな死んじゃって。そのほうが悲しいよ」と言います。回想旅行をする最中、千草が「八日目の蝉は、ほかの蝉には見られなかった何かを見られるんだもの。もしかして、それすごくきれいなものかもしれないよね」と言うと、恵里菜は「そうかもね」と静かにうなずきます。恵里菜は、「八日目」という状況を「ふつう」じゃないこととしてネガティブにとらえていました。それが、「ふつう」じゃなくても、「ふつう」じゃないからこそ、自分ならではのものが見れるとポジティブにとらえ直しています。それは、ひと言で言えば、希望でしょう。私たちも、病気や事故などの災難に遭い、「八日目」を迎えた時、「ふつう」じゃないと絶望するか、それでも希望を見いだすかは、私達自身の心のあり方次第であるということに、この映画を通して気付かされるのではないでしょうか? そして、その心のあり方こそが、人を好きになることにつながっていくのではないでしょうか?■関連記事(外部サイト含む)2019年サンプルスライド 「反応性愛着障害」積木崩し真相Mother(続編)【虐待】Mother(中編)【母性と愛着】1)乳幼児のこころ:遠藤利彦ほか、有斐閣アルマ、20112)愛着障害:岡田尊司、光文社新書、20113)「毒親」の正体:水島広子、新潮新書、2018

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第15回 アナタの心電図は“男女”どっち?【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第15回:アナタの心電図は“男女”どっち?皆さんは心電図に「性差」があるのをご存知ですか? 男性と女性では、波形にいくつかの違いがあるのです。今回は、それを見極めるために、ST部分の“男女差”についてDr.ヒロが解説します。症例提示81歳、男性。糖尿病、高血圧、睡眠時無呼吸症候群(CPAP治療中)で通院中。以前から徐脈を指摘されており、不定期にめまいを認める。以下に定期外来での心電図を示す(図1)。(図1)定期外来時の心電図画像を拡大する【問題1】心電図(図1)の所見として誤っているものはどれか。1)洞(性)徐脈2)時計回転3)ST低下4)右軸偏位5)陰性T波解答はこちら4)解説はこちらいつ・どんな時でも系統的な判読が大事です(第1回)。1)○:“レーサー(R3)・チェック”をしましょう。R-R間隔は整、心拍数は42/分(検脈法:10秒)です。遅くてもP波はコンスタントで、向きも“イチニエフの法則”を満たします。「めまい」は徐脈に関連した症状かもしれず、精査対象となる可能性があります。2)○:「回転」は移行帯の異常です。胸部誘導の上からR波(上向き)とS波(下向き)のバランスを見ていきます。「R>S」となるのがV5とV6誘導の間であり、「時計回転」の診断でOKです。3)○:ST偏位は、J点に着目して、基線(T-Pライン)からのズレを見るのでした(第14回)。V5、V6誘導で「ST低下」があります(水平型)。4)×:I誘導:上向き、aVF(またはII)誘導:下向きは「左軸偏位」でしたね(第8回)。具体的な数値は、“トントン法Neo”を利用すると「-40°」です(トントン・ポイントは-aVRとIIの間で後者寄りです)。5)○:T波の「向き」を“スタート”の“ト”でチェックします。aVR誘導以外は上向きなのが基本です。全体をくまなく見渡して、aVL、V5、V6誘導で「陰性T波」を指摘して下さい。問題を続けましょう。次が今回の本題、男女に特徴的なST部分の“型”に関する問いです。【問題2】この高齢男性のST部分は男性型か、女性型か述べよ。解答はこちら女性型解説はこちら「ST部分」には、明確な性差が存在します。つまり男女で波形が異なる訳です。ただし、生物学的な“男・女”と100%完全には一致しません。前回扱った若年男性の心電図は、「男性型」の典型で、V1~V4誘導の“猛々しい”「ST上昇」が特徴です(この所見は女性では珍しい)。ただ、加齢と共に低下傾向を示し、高齢になると「女性型」を示すこともまれではありません。このST部分の性差について理解しておきましょう。皆さんは、心電図波形に「性差」があるって知っていましたか?…実際、男性か女性かまで意識して心電図を読んでいる方は、あまり多くないのではと推察します。しかし、純然たる“違い”があることが古くから知られており、とりわけ「ST部分」に現れやすいとされています*1。はじめに言っておくと、今回の話もあくまでも“雑談”です。細部まで逐一暗記しようとせず、『ふーん、そうなのかぁ』程度に思ってもらえば大丈夫。注目するのはV1~V4(前胸部)誘導のJ点とST角度(ST angle)の2点。「J点」はQRS波の“おわり”で、いわゆる“変曲点”です(第14回)。もう一つの「ST角度」という名前は聞き慣れないかもしれないので、図2で説明しましょう。(図2)J点とST角度の関係画像を拡大する男女別のST部分の差を3つに分類したSurawicz先生によると、J点を認識し、そこを通り基線に平行な線Aを引きます。次に、J点と点B(J点から60ms[1.5mm]先のST部分で“ST60”と称される)を結ぶ線がなす角度(図中のC)を表します。ST部分の“傾き”と理解すれば良いでしょう。では、この2つを用いてST部分を1)女性型(F型)、2)男性型(M型)、3)不定型(I型)の3つに分類する方法*2を紹介します(図3)。(図3)J点・ST角度によるST型分類画像を拡大するまずは、V1~V4誘導でJ点レベルが最高となる誘導に注目します。V1~V4誘導のいずれでもJ点が「0.1mV」、つまり、基線からの上昇が1mm未満なのが「F型」(ST角度は不問)です。今回の心電図(図1)も、これに相当します。残る2つ(M型、I型)では、4誘導のどこかで1mm以上のST上昇(J点)があるわけですが、今度は「ST角度」も見渡してみて下さい。角度が一番キツい(最大となる)誘導で、その角度が20°以上だったら「M型」、それ未満なら「I型」とします。具体的な数値は忘れてかまいませんが、若年男性ほど角度が急峻、つまり「M型」となる傾向なんです。ボクの経験上、ST角度はおおむねT波高が一番のところで最大となるため、ざっと見てJ点が1mm以上であれば、T波が最も高くツンと立った誘導を使ってST角度を調べるスタンスでOKです。『そんなこと言われても、どれを選ぶか悩むよなぁ~』というアナタ!…ならエイヤッとV2誘導の“一択”でJ点レベルとST角度を調べる感じで大丈夫かも(前回学んだように、多くのケースでJ点(ST)レベルが最大となりますから)。性別によってST部分に差があって、こうやって見るんだと知ってもらえたらボク的には十分。あくまでも厳格な心電図診断というよりは、“趣味”の世界みたいなものなので、がんじがらめにならずに楽しみましょう!この分類法のルールさえわかったら、皆さんも心電図を見て、どの型になるか言えますでしょ? 上記で説明したそれぞれのST型を以下に示したので、作図法も確認してみて下さい(図4)。I型とM型ではいずれもV3誘導でT波高が最大に見えるため、そこにフォーカスしてST角度を測りました。(図4)SurawiczらによるST型の3区分を作図画像を拡大するさて、現実にはどの型が多いのでしょうか?…Circulationという有名誌に前述のSurawicz先生が年齢・性別ごとの違いを報告しているので、そのグラフを以下に示します(図5)。(図5)性別・年齢によるSTパターン画像を拡大するまず、女性のほうはシンプル。全年代にわたって8割方がF型です。残り2割、成人の場合ではM型とI型が半分ずつ占めています。一方の男性はどうでしょう? 思春期以降、40歳くらいまではM型ないしI型で9割近くを占め、“若さ”の象徴的な「ST上昇」が目立ちます。ただ、よーく見ると、成人以降、M型は徐々に減り、代わりにF型がぐんぐん増えてきます(I型は1~2割のままほぼ一定)。50歳前後でF型はM型を凌駕し、最終的に今回の症例のような高齢男性では、7割がF型となる様子が読み取れます。心電図が年をとった結果、生物学的には男性でも、心電図は“女性”…そんなことが珍しくないというワケ。この“理由”はと言えば、皆さんお察しの通り「性ホルモン」の影響が強いようです。“力こぶ”を連想させるST-T部分はテストステロンの影響を受けるため、加齢によって“更年期”を迎え、最終的には枯渇してゆく…。そんな様子には、はかなさすら漂います…。ですから、STEMI(ST上昇型急性心筋梗塞)の診断を考えた場合、F型が増加するのは嬉しいです(つくづく、うまくできてるなぁと思います)。でも、高齢でも2~3割の男性はM型ないしI型ですから、注意が必要ですね。最後に、こうしたST型の分類は、あくまでも正常QRS-T波形を想定したもので、脚ブロックや心室肥大などのいわゆる「二次性ST変化」をきたす波形には適用できないので、ご注意あれ!今回は、あまり真面目に語られることのない、性別による心電図波形の違いについて扱いました。やや雑学的はハナシですが、ボクが医学生の頃、友達と面白いなぁと話した日々を懐かしく思いました。Take-home MessageJ点(STレベル)とST角度には性差が現れやすい(3つの区分あり)男性に特徴的な加齢に伴うST型の変化を知っておこう1)Bidoggia H, et al. Am Heart J. 2000;140:430–436.2)Surawicz B, et al. J Am Coll Cardiol. 2002;40:1870–1876.【古都のこと~南禅寺水路閣】時は明治、東京遷都で意気消沈した京都リバイバルのカギであった琵琶湖疎水事業。施工責任者は田邉朔郎(さくろう)。史上初ジャパン・オリジナルの大規模土木建設の重積が、大卒間もない一青年*の肩にいかほどに感じられたか…。南禅寺(左京区)の敷地内に同居する水路閣もその一部。赤レンガ・花崗岩によるモダンな風貌、アーチ型橋脚の見事な曲線美に圧倒されました。老朽化が叫ばれていますが、130年たった今でも文明開化当時の“勢い”が感じられるボクのお気に入りスポットです。*:後に東京・京都帝国大学の教授となった

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第30回 住環境を踏まえた服薬指導、できてますか?【週刊・川添ラヂオ】

動画解説WHOによる健康の定義は肉体的にも、精神的にも、社会的にも満たされた状態とされています。つまり薬を必要としている患者さんの健康を支えるために、薬剤師はその3つの因子について知る必要があるのです。実は患者さんには心配事があるかもしれない、居住環境に問題があるのかもしれない。目に見える身体だけではなく、患者さんの心や、環境因子にも関心を寄せる事が大切です。

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大腸治療ガイドライン2019年 薬物療法の改訂【消化器がんインタビュー】第4回

第4回 大腸治療ガイドライン2019年 薬物療法の改訂解説:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 山崎健太郎氏本年(2019年)1月に改訂された大腸治療ガイドライン2019における改訂ポイントを、薬物療法に焦点を当て静岡がんセンター 山崎健太郎氏が解説

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加齢で脆くなる運動器、血管の抗加齢

 2月18日、日本抗加齢医学会(理事長:堀江 重郎)はメディアセミナーを都内で開催した。今回で4回目を迎える本セミナーでは、泌尿器、内分泌、運動器、脳血管の領域から抗加齢の研究者が登壇し、最新の知見を解説した。年をとったら骨密度測定でロコモの予防 「知っておきたい運動器にかかわる抗加齢王道のポイント」をテーマに運動器について、石橋 英明氏(伊奈病院整形外科)が説明を行った。 厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2016)によると、65歳以上の高齢者で介護が必要となる原因は、骨折・転倒によるものが約12%、また全体で関節疾患も含めると約5分の1が運動器疾患に関係するという。とくに、高齢者で問題となるのは、気付きにくい錐体(圧迫)骨折であり、外来でのFOSTAスコアを実施した結果「25歳時から4cm以上も身長が低下した人では、注意を払う必要がある」と指摘した。また、「骨粗鬆症治療薬のアレンドロン酸、リセドロン酸、デノスマブによる大腿骨近位部骨折の予防効果も、近年報告されていることから、積極的な治療介入が望ましい」と同氏は語る。 そして、「50代以降で骨の検査をしたことがない人」「体重が少ない人」など6つの条件に当てはまる人には、「骨粗鬆症の早期発見のためにも、骨密度検査を受けさせたほうがよい」と提案する。また、筋力は「加齢、疾患、不動、低栄養」を原因に減少し、40歳以降では1年間に0.5~1%減少すると、筋力低下についても注意喚起。この状態が続けばサルコぺニアに進展する恐れがあり、予防のため週2~3回の適度な運動とタンパク質などの必須栄養の摂取を推奨した。 そのほかロコモティブシンドローム防止のため日本整形外科学会が推奨するロコモーショントレーニング(スクワット、片脚立ち運動など)は、運動機能の維持・改善になり、実際に石橋氏らの研究(伊奈STUDY)1)でも、運動機能の向上、転倒防止に効果があったことを報告し、レクチャーを終えた。血管からみた認知症予防の最前線 同学会の専門分科会である脳血管抗加齢研究会から森下 竜一氏(同会世話人代表、大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学寄付講座 教授)が、「血管からみるアンチエイジング」をテーマに、血管の抗加齢や認知症診断の最新研究について説明した。 はじめに最近のトピックスである食後高脂血症(食後中性脂肪血症)について触れ、多くの人々が6時間後に中性脂肪がピークとなるため1日の大部分を食後状態で過ごす中で、食後の中性脂肪値を抑制することが重要だと指摘する。実際、食後高脂血症は動脈硬化を促進し、心血管疾患のリスク因子となる研究報告2)もある。また、即席めんやファストフードに多く含まれる酸化コレステロールについて、これらはとくに肥満者や糖尿病患者には酸化コレステロールの血中濃度を上昇させ、動脈硬化に拍車をかけると警鐘を鳴らしたほか、食事後の短時間にだけ、人知れず血糖値が急上昇し、やがてまた正常値に戻る「血糖値スパイク」にも言及。こうした急激な血糖値の変動が高インスリン血症をまねき、過剰なインスリン放出が認知症の原因とされるアミロイドβを蓄積させると指摘する。 そして、認知症については、軽度認知障害(MCI)の段階で発見、早期治療介入により予防する重要性を強調した。その一方で、認知症の評価法について現在使用されている簡易認知機能検査(MMSE)、アルツハイマー病評価スケール(ADAS)などでは、検査に時間要すだけでなく、被験者の心理的ストレス、検査者の習熟度のばらつきなどが問題であり、スクリーニングレベルで使用できる簡便性がないと指摘する。そこで、森下氏らは、被験者の目線を赤外線で追うGazefinder(JCVKENWOOD社)を使用した視線検出技術を利用する簡易認知機能評価法の研究を実施しているという。最後に同氏は「今までの認知症の評価法のデメリットを克服できる評価法を作り、疾患の早期発見・予防に努めたい」と展望を述べ、講演を終えた。■参考文献1)新井智之、ほか. 第2回日本予防理学療法学会学術集会.2015.2) Iso H, et al. Am J Epidemiol. 2001;153:490-499.■参考脳心血管抗加齢研究会日本抗加齢医学会

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気候変動と認知症入院リスクとの関連

 人間が引き起こす気候変動がここ数十年で加速しており、健康への悪影響が懸念されている。しかし、高齢者の神経疾患に対する気候変動の影響は、まだよくわかっていない。米国・ハーバード公衆衛生大学院のYaguang Wei氏らは、ニューイングランドにおける認知症の入院と夏季、冬季の平均気温および気温変動との関連について検討を行った。Environment International誌オンライン版2019年2月26日号の報告。 認知症の入院と夏季、冬季の平均気温および気温変動との関連を推定するため、時間依存共変量Cox比例ハザードを用いた。各地域の気温は、衛星画像データを利用した予測モデルを用いて推定した。 主な結果は以下のとおり。・夏季(ハザード比[HR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.96~1.00)または冬季(HR:0.97、95%CI:0.94~0.99)の気温が平均よりも高かったとき、認知症関連入院リスクは低下した。一方、気温変動の大きい地域の高齢者では、認知症関連入院リスクが上昇した。・性別、人種、年齢、メディケア二重資格による交互作用(Effect modification)は、サブグループにおける脆弱性を調査するために考慮された。 著者らは「本結果より、平均気温より低いとき、および気温変動が大きいときに、認知症関連入院リスクの上昇が示唆された。気候変動は、認知症の進行やそれに伴う入院コストに影響を及ぼす可能性がある」としている。■関連記事なぜ、フィンランドの認知症死亡率は世界一高いのか統合失調症患者の入院、1日の気温差が影響気温31℃超で気分症状が再発!入院も増加(3月18日 記事の一部を修正いたしました)

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死産後の妊娠間隔と出産転帰に関連性はあるのか/Lancet

 3つの高所得国では、死産から12ヵ月以内の受胎は63%と一般的であり、この間隔での次回妊娠は、不良な出産アウトカムのリスク増大とは関連しないことが、オーストラリア・カーティン大学のAnnette K. Regan氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年2月28日号に掲載された。世界保健機関(WHO)は、次回の妊娠における不良な出産アウトカムのリスクを低減するために、次の受胎までは、生児出産後は2年以上、流産または人工妊娠中絶後は6ヵ月以上の間隔をあけるよう推奨しているが、死産後の次回受胎までの至適な期間の推奨はないという。在胎期間22週以上で死産に終わった女性の単胎妊娠が解析対象 研究グループは、死産後の妊娠間隔と、次回妊娠における不良な出産アウトカムとの関連を検討する目的で、国際的なコホート研究を実施した(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]とノルウェー研究評議会[RCN]の助成による)。 解析には、フィンランド(1987~2016年)、ノルウェー(1980~2015年)、オーストラリア(主に西オーストラリア州、1980~2015年)のデータを用いた。対象は、直近の妊娠が在胎期間22週以上で死産に終わった女性の単胎妊娠とした。 妊娠間隔は、妊娠終了(出産日)から次回妊娠開始(次回出産日から出産時の在胎期間を減じた日)の期間と定義し、6ヵ月未満、6~11ヵ月、12~23ヵ月、24~59ヵ月、60ヵ月以上に分けて検討が行われた。 各国の妊娠間隔別の死産、早産、在胎不当過小出産のオッズ比(OR)を算出し(母親の年齢、経産回数、出産の年代、前回の妊娠の在胎期間で補正)、固定効果を用いたメタ解析を行い、統合ORを推算した。死産後の妊娠の37%は6ヵ月以内に妊娠、生児出産後の推奨妊娠間隔とアウトカムに差はない 前回の妊娠が死産であった女性において、1万4,452件の単胎出産が同定された。死産後の妊娠間隔中央値は9ヵ月(IQR:4~19)と、前回が生児出産の女性の妊娠間隔25ヵ月(15~42)に比べ有意に短かった(p<0.0001)。9,109件(63%)は死産後12ヵ月以内、5,393件(37%)は6ヵ月以内の妊娠であった。3ヵ国で、死産後の妊娠間隔はほぼ同様であった。 死産後の妊娠女性1万4,452件の出産のうち、1万4,224件(98%)が生児出産で、228件(2%)が死産であり、2,532件(18%)が早産、1,284件(9%)は在胎不当過小出産であった。 妊娠間隔24~59ヵ月(WHOが推奨する生児出産後の妊娠間隔)と比較して、死産後12ヵ月以内の妊娠では死産のオッズは増加しておらず(妊娠間隔6ヵ月未満の補正OR:1.09、95%信頼区間[CI]:0.63~1.91、6~11ヵ月の補正OR:0.90、95%CI:0.47~1.71)、早産(0.91、0.75~1.11、0.91、0.74~1.11)および在胎不当過小出産(0.66、0.51~0.85、0.64、0.48~0.84)にも有意な増加は認められなかった。 国別の比較では、59ヵ月未満の妊娠間隔と、死産、早産、在胎不当過小出産との関連の差は小さかった。 また、前回の死産の在胎期間別(22~27週、28~36週、37週以上)の解析では、妊娠間隔と次回の死産(p interaction=0.60)、早産(p interaction=0.69)、在胎不当過小出産(p interaction=0.18)の関連にも差はみられなかった。 著者は、「これらのデータは、死産後に妊娠を計画している女性および死産後まもなく意図せずに妊娠した女性に、次回妊娠における不良なアウトカムのリスクは高くないと助言する際に活用でき、今後、高所得国における死産後の妊娠間隔の推奨を決める際には、有益な情報となる可能性がある」としている。

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テストステロンが血栓塞栓症、心不全、心筋梗塞に関連/BMJ

 JMJD1C遺伝子変異で予測した遺伝的内因性テストステロンは、とくに男性において、血栓塞栓症、心不全および心筋梗塞にとって有害であることを、中国・香港大学のShan Luo氏らが、UK Biobankのデータを用いたメンデル無作為化試験の結果、明らかにした。テストステロン補充療法は世界的に増大しているが、心血管疾患でどのような役割を果たすのか、エビデンスは示されていない。そうした中、最近行われたメンデル無作為化試験で、遺伝的予測の内因性テストステロンが、虚血性心疾患や虚血性脳卒中と、とくに男性において関連していることが示されていた。検討の結果を踏まえて著者は、「内因性テストステロンは、現在の治療法でコントロール可能であり、血栓塞栓症や心不全のリスク因子は修正可能である」と述べている。BMJ誌2019年3月6日号掲載の報告。UK Biobank40~69歳の英国人男女39万2,038例のデータを用いて評価 研究グループは、内因性テストステロンが血栓塞栓症、心不全、心筋梗塞と因果関係を有するのかを明らかにするため、無作為化試験「Reduction by Dutasteride of Prostate Cancer Events(REDUCE)」の被験者から遺伝的予測の内因性テストステロンを入手。UK Biobankのデータを用いて、それらテストステロンと血栓塞栓症、心不全および心筋梗塞との関連性を評価し、「CARDIoGRAMplusC4D 1000 Genomes」でゲノムワイドベースの関連性検証試験を行った。 被験者数は、REDUCE試験は50~75歳の欧州系の男性3,225例、UK Biobankは40~69歳の英国人男女39万2,038例、CARDIoGRAMplusC4D 1000 Genomesは17万1,875例(約77%が欧州直系)であった。 主要評価項目は、自己申告と、病院エピソードおよび死亡記録に基づく血栓塞栓症、心不全、心筋梗塞の発生であった。JMJD1C遺伝子変異を活用、女性では関連性認められず UK Biobankの被験者のうち、血栓塞栓症の発生は1万3,691例(男性6,208例、女性7,483例)、心不全は1,688例(それぞれ1,186例、502例)、心筋梗塞は1万2,882例(1万136例、2,746例)であった。 男性において、JMJD1C遺伝子変異で予測した遺伝的内因性テストステロンは、血栓塞栓症(対数変換テストステロン値[nmol/L]の単位増加当たりのオッズ比[OR]:2.09、95%信頼区間[CI]:1.27~3.46、p=0.004)、心不全(7.81、2.56~23.81、p=0.001)と明らかな関連性が認められたが、心筋梗塞との関連性は認められなかった(1.17、0.78~1.75、p=0.44)。ただし検証試験では、被験者全体において、JMJD1C遺伝子変異による遺伝的予測の内因性テストステロンと心筋梗塞の、明らかな関連性が認められた(1.37、1.03~1.82、p=0.03)。 女性においては、いずれも明らかな関連性はみられなかった(ORは血栓塞栓症:1.49[p=0.09]、心不全:0.53[p=0.47]、心筋梗塞:0.91[p=0.80])。 アウトカムと関連する遺伝子変異において、過剰な不均一性は観察されなかった。一方で、潜在的なSHBG遺伝子多面的変異で予測した遺伝的内因性テストステロンが、アウトカムと関連しないことも示された。

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女性で研究助成採択率が低いのは、研究レベルが低いわけではなかった(解説:折笠秀樹氏)-1017

 研究助成の採択率は、男性研究者のほうが高いといわれていた。それを大規模な調査で裏付けた結果が得られた。それ以上に、どうして女性研究者の採択率が低くなるか、その原因の一端も見えた気がする。 カナダ政府へのグラント申請2万3,918件について、その中身を調べた。全体の採択率は、男性で16.4%、女性で14.6%であった。その差は1.8%だが、年齢や研究分野で合わせると、その実質差は0.9%であった。男女差は意外に小さいなという印象を持った。 カナダ政府のグラントには、FoundationグラントとProjectグラントの2種類あるそうだ。Foundationグラントは、たぶん基盤整備などへの研究助成であり、Projectグラントは具体的な研究へのグラントなのだろう。Foundationグラントでは、申請者の研究実績(論文など)の資質を審査するだけのようである。言ってみれば、研究者の人物評価が主のようである。一方、Projectグラントでは、それよりも研究内容の評価が主のようである。 人物評価によるFoundationグラントでは、男性の採択率13.9%に対して、女性の採択率は9.2%であった。一方、研究内容評価によるProjectグラントでは、男性の採択率13.5%に対して、女性の採択率は12.0%であった。論文などの実績だけで評価すると男性優位だが、研究内容で評価するとその差はほぼなくなっていた。「臨床」分野に限ると、むしろ女性研究者の採択率のほうが高かった(女性12.1%、男性10.4%)。 これは何を意味しているのだろうか。女性はどうしても研究空白期などが多いため、男性研究者に比べて研究実績は少なくなる。しかしながら、女性のほうが研究テーマの提案で劣るということは決してなかったということだろう。若手研究者も同じように研究実績は少ない。若手研究者のためのグラントは別途設けられていることが多いが、女性研究者などのマイノリティーについても別枠を設けたほうが、もっと素晴らしい研究が世に出てくるのではないだろうか。

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医療に関するYouTube動画の質【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第135回

医療に関するYouTube動画の質 いらすとやより使用 将来なりたい職業ランキングに必ず登場するのがユーチューバー。大きく稼げる可能性はありますが、安定的な収入が得られるわけではないので、個人的には子供に勧めたくない職業です。 Loeb S, et al.Dissemination of Misinformative and Biased Information about Prostate Cancer on YouTube.Eur Urol. 2018 Nov 27. [Epub ahead of print]さて、がんのYouTube動画は非常に多いです。今はまさに動画最盛期。あまたの医療系動画が存在し、玉石混交の状況です。本日紹介する研究は、がんのYouTube動画に関する報告です。全体の動画のうち、75%が医学的なメリットに関するもので、比較的良心的なものが多かったようです。しかしながら、正しい医学用語を用いているのは全体の54%であり、現行のガイドラインに準拠しているものも半数程度だったそうです。全体の77%に誤った情報やバイアスの強い情報が含まれていました。がんだけでなく、難病の特発性肺線維症でも同様の報告があります1)。コンテンツの質を評価したスコアは、財団/医療団体や医療専門家によって制作された動画のほうが、業界が制作した動画よりも高かったので、「誰が何のために作ったか」というのが質を大きく左右するようです。ウェブサイトでは比較的良心的なものが増えてきましたが、動画の世界はまだ“野放し”の状態です。ぜひとも、この分野にもメスを入れていただきたいと思います。残念ながら、私は人前でしゃべるのが苦手なので、ユーチューバーにはなれません。しくしくしく。1)Goobie GC, et al. Ann Am Thorac Soc. 2019 Jan 4. [Epub ahead of print]

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クロザピンとアリピプラゾールの併用療法は統合失調症患者の再入院リスクが最も低い

 統合失調症の再発予防に対する抗精神病薬多剤併用療法の有効性は疑問であり、複数の薬剤を使用することは、一般的に身体的健康状態に悪影響を及ぼすと考えられる。スウェーデン・カロリンスカ研究所のJari Tiihonen氏らは、精神医学的再入院と特定の抗精神病薬の組み合わせに関する研究を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2019年2月20日号の報告。クロザピンとアリピプラゾールの併用療法はクロザピン単剤療法より優れている 1996年1月~2015年12月に行われたフィンランドの全国コホート研究のデータを用い、統合失調症患者6万2,250例を対象に、クロザピンなど29種の抗精神病薬単剤療法および多剤併用療法のタイプについて、精神医学的再入院リスクの評価を行った。データ分析期間は、2018年4月24日~6月15日であった。再入院リスクは、選択バイアスを最小にするため、個別(within-individual)分析を用いて調査した。主要アウトカムは、個別の多剤併用療法 vs.単剤療法の精神医学的再入院のハザード比(HR)とした。 クロザピンなど29種の抗精神病薬単剤療法および多剤併用療法のタイプについて、精神医学的再入院リスクを評価した主な結果は以下のとおり。・対象患者6万2,250例中、3万1,257例が男性(50.2%)であり、年齢中央値は、45.6歳(四分位範囲:34.6~57.9歳)であった。・クロザピンとアリピプラゾールの併用療法は、精神医学的再入院リスクが最も低く、単剤療法の最良アウトカムであるクロザピン単剤療法よりも優れており、すべての多剤併用期間を含む分析においては14%(HR:0.86、95%CI:0.79~0.94)の差が認められ、90日未満の治療期間を除く多剤併用分析においては18%(HR:0.82、95%CI:0.75~0.89、p<0.001)の差が認められた。・初回エピソード統合失調症患者において、クロザピンとアリピプラゾールの併用療法は、クロザピン単剤療法と比較し、精神医学的再入院リスクの差がより大きかった。すべての多剤併用期間を含む分析においては22%(HR:0.78、95%CI:0.63~0.96)の差が認められ、90日未満の治療期間を除く多剤併用分析においては23%(HR:0.77、95%CI:0.63~0.95)の差が認められた。・総計レベルでは、抗精神病薬多剤併用療法は、単剤療法と比較し、精神医学的再入院リスクが7~13%低かった(範囲:[HR:0.87、95%CI:0.85~0.88]~[HR:0.93、95%CI:0.91~0.95]、p<0.001)。・精神医学的再入院リスクの低い治療法ベスト10の中で、唯一の単剤療法の薬剤はクロザピンであった。・すべての原因および身体的な入院、死亡率、その他の感受性分析に関する結果は、主要アウトカムと一致していた。 著者らは「クロザピンとアリピプラゾールの併用療法は、精神医学的再入院リスクが最も低く、統合失調症治療に特定の薬剤による多剤併用療法が適している可能性が示唆された。多剤併用療法は、単剤療法で効果不十分となった時点で行われるため、その効果は過小評価されている可能性もある。本結果は、すべての多剤併用療法が有用であることを示すわけではないが、統合失調症維持治療に対する抗精神病薬多剤併用療法を非推奨とする現在のガイドラインは、推奨の分類を修正すべきである」としている。■関連記事抗精神病薬の高用量投与は悪か統合失調症患者の再入院、ベンゾジアゼピンの影響を検証:東医大統合失調症患者の強制入院と再入院リスクとの関連~7年間のレトロスペクティブコホート研究

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「働き方改革」のカギは体内リズム

 3月15日の「世界睡眠デー」を前に、「目覚め方改革プロジェクト」※1主催のメディアセミナーが2月19日に都内にて開催された。 この春、わが国では「働き方改革」がスタートし、オンとオフのメリハリのついた生活がますます重要視されるようになる。今回のセミナーではそうした背景を受け、日中のパフォーマンス向上を切り口に、体内リズムの重要性が語られた。働き方改革の第一歩 はじめに、内村 直尚氏(久留米大学 医学部 神経精神医学講座 教授)が、「パフォーマンスを左右する目覚めと体内リズム」をテーマに、日中のパフォーマンスと体内リズムの関係や、体内リズムの整え方について説明した。 日本人の5人に1人は、「日中、眠気を感じた」や「睡眠全体の質に満足できなかった」など、睡眠に関する問題を抱えている。こうした問題の背景には、単純な睡眠時間の不足だけでなく、「体内リズムの乱れ」が関わっている。実際に、体内リズムが乱れている人は、整っている人と比べて日中の眠気度が高いことなどが研究データにより示された。こうした体内リズムの乱れによる睡眠の問題は、心身の不調や疲労度の増加などを引き起こし、日中のパフォーマンスを低下させることも紹介された。 この乱れた体内リズムを整えるためには、休日でも起きる時間を一定に保つこと、朝目覚めたら日光をよく浴びること、などが有効だという。内村氏は、「体内リズムを整え、良い眠り・目覚めをもたらすことが、働き方改革の第一歩だ」と強調した。目覚めの良い朝を迎えるために 続いて、岡田 邦夫氏(特定非営利活動法人健康経営研究会 理事長)が、「健康経営の第一人者に聞く~いまビジネスパーソンが取り組むべき睡眠課題~」をテーマに、働き方改革における睡眠の課題とその対処法を解説した。 日本人は世界で2番目に長時間労働者が多いが、労働生産性は世界22位、熱意ある労働者の比率は世界132位、そして自社を信用していない労働者の出現率は世界第1位である。つまり、日本人は長く働いているわりに生産性や熱意が低く、まして会社への信頼も薄い。 こうした労働のパフォーマンスの低さには、長時間労働による睡眠不足が影響していると考えられ、実際に日本人は世界で2番目に睡眠時間が短い。この睡眠不足によるわが国の経済的損失は、1,380ドルにも及ぶという。 また最近の調査結果から、ストレスにより心身の状態が不調な人は、日中の眠気などの睡眠リスクが高いことが示された。こうした人は、産業医の診療により健康状態の改善を図ることが重要だ。岡田氏は、わが国の労働生産性を高めるためには、企業と産業医がそれぞれの役割を果たし、目覚めの良い朝を迎える環境を整えることが重要だ、と締めくくった。 こうした考えのもと、東海旅客鉄道株式会社は職場に「睡眠自己管理プログラム」を導入した。このプログラムでは、就寝・起床時刻や勤務時間などの簡単なデータを記入すると、睡眠に関する医学的根拠に基づいたアドバイスが出力される。そして、そのアドバイスを参考に、個々人が自らの睡眠を管理していく。清水 紀宏氏(東海旅客鉄道株式会社 総合技術本部 技術開発部 技術計画チーム 担当部長)はこのような取り組みを通して、実際に職場での仕事のパフォーマンス向上を実感しているという。体内リズムを整えるアスパラプロリン 最後に、協力企業から只野 健太郎氏(大塚製薬株式会社)より、体内リズムを整えるはたらきを持つ食品素材「アスパラプロリン」が紹介された。只野氏は、アスパラプロリンで体内リズムを整えることにより、日中のパフォーマンス向上に貢献できるのでは、と期待を語った。※1:睡眠や体内リズム研究の専門家により2018年に設立され、「目覚め方および体内リズムを整えることの重要性」の認知向上のための情報を発信している。

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日光角化症の治療薬4剤を比較/NEJM

 頭部の多発性日光角化症に対する治療において、治療終了後12ヵ月時では外用薬4剤のうち5%フルオロウラシルクリームが最も有効だという。オランダ・マーストリヒト大学医療センターのMaud H.E. Jansen氏らが、多施設共同単盲検無作為化試験の結果を報告した。日光角化症は、白人で最も頻度が高い皮膚前がん病変であるが、現在のガイドラインでは治療法について明確な推奨はなされていない。NEJM誌2019年3月7日号掲載の報告。フルオロウラシル、イミキモド、MAL-PDTおよびインゲノールの有効性を比較 研究グループは、オランダの4病院の皮膚科で、日光角化症に対する治療によく用いられる外用薬4剤の有効性を評価する目的で単盲検無作為化試験を行った。対象は、頭頸部の多発性日光角化症(25~100cm2の連続した1領域に5個以上の病変がある)と臨床的に診断された患者で、2014年11月~2017年3月に計624例が登録され、5%フルオロウラシルクリーム、5%イミキモドクリーム、アミノレブリン酸メチル光線力学的療法(MAL-PDT)、0.015%インゲノールメブテートゲルの4群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、最後の治療後12ヵ月までの追跡調査期間中に治療失敗がなかった患者の割合(治療失敗は、ベースラインからの日光角化症病変数減少が75%未満と定義。最後の治療後3ヵ月時または初回治療成功後12ヵ月時に評価)で、修正intention-to-treat解析とper-protocol解析の両方を実施した。治療終了後12ヵ月時で、フルオロウラシルクリームの治療成功率が最も高い 治療終了後12ヵ月時の累積治療成功率は、フルオロウラシル群74.7%(95%信頼区間[CI]:66.8~81.0)、イミキモド群53.9%(95%CI:45.4~61.6)、MAL-PDT群37.7%(95%CI:30.0~45.3)、インゲノール群28.9%(95%CI:21.8~36.3)であり、フルオロウラシル群で有意に高かった。 フルオロウラシル群に対する治療失敗のハザード比は、イミキモド群2.03(95%CI:1.36~3.04)、MAL-PDT群2.73(95%CI:1.87~3.99)、インゲノール群3.33(95%CI:2.29~4.85)であった(すべての比較でp≦0.001)。予期しない有害事象は認められなかった。 なお、本試験では適格患者の約半数が試験への参加を辞退しており、男女比が適格患者は4対1であったのに対し参加患者は9対1であったこと、用法用量による治療のアドヒアランスに差があったことなどの点で、結果は限定的であると著者は述べている。

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糖尿病患者の身体活動継続に行動介入は有効か/JAMA

 2型糖尿病患者において、行動介入戦略は、標準ケアと比較し身体活動の持続的な増加と座位時間の減少をもたらすことが示された。イタリア・ローマ・ラ・サピエンツァ大学のStefano Balducci氏らが、ローマの糖尿病クリニック3施設で実施した無作為化非盲検試験(評価者盲検優越性試験「Italian Diabetes and Exercise Study 2:IDES_2」)の結果を報告した。身体活動/座位行動の変化が、2型糖尿病患者で長期的に持続されうるかは不明であった。JAMA誌2019年3月5日号掲載の報告。行動介入群と標準ケア群で、身体活動と座位時間を比較 研究グループは、行動介入戦略により身体活動の増加が持続し座位時間が減少するかを検証する目的で、2012年10月~2014年2月に、あまり運動をせずいつも座ってばかりの生活をしている2型糖尿病患者300例を、行動介入群または標準ケア群に、施設、年齢および糖尿病治療で層別化して1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ3年間治療した(追跡調査期間2017年2月まで)。 全例に対して、米国糖尿病学会ガイドラインの推奨に準じたケアを行うとともに、行動介入群(150例)では、3年間毎年、糖尿病専門医による個別の理論的なカウンセリングを1回と認定運動療法士による個別の理論的・実践的カウンセリングを隔週8回実施した。標準ケア群(150例)は、一般医の推奨(日常の身体活動を増やし座位時間を減らすこと)のみとした。 複合主要評価項目は、身体活動量、軽強度ならびに中~強強度の身体活動時間、座位時間とし、加速度計によって測定した。行動介入により、持続的な身体活動の増加と座位時間の減少を確認 無作為化された300例(平均[±SD]年齢61.6±8.5歳、女性116例[38.7%])のうち、267例(行動介入群133例、標準ケア群134例)が試験を完遂した。追跡期間中央値は3年であった。 行動介入群と標準ケア群でそれぞれ、身体活動量(代謝当量[MET]、時間/週)は13.8 vs.10.5 MET(両群差:3.3、95%信頼区間[CI]:2.2~4.4、p<0.001)、1日の中~強強度の身体活動時間は18.9 vs.12.5分/日(6.4、5.0~7.8、p<0.001)、軽強度の身体活動時間は4.6 vs.3.8時間/日(0.8、0.5~1.1、p<0.001)、座位時間は10.9 vs.11.7時間/日(-0.8、-1.0~-0.5、p<0.001)であった。 両群の有意差は試験期間中持続していたが、1日の中~強強度の身体活動時間については、両群の差が6.5分/日から3年目には3.6分/日に低下した。セッション外での有害事象は、行動介入群で41例、標準ケア群で59例確認された。行動介入群におけるセッション中の有害事象は30件報告され、大半は一般的な筋骨格系の外傷/不快感と軽度の低血糖であった。 著者は、研究の限界として、食事に関する情報が解析データに含まれていないこと、加速度計の使用が標準ケア群での身体活動を増進する可能性があることなどを挙げたうえで、「今回の結果を一般化し臨床現場で介入を実施するには、さらなる検証が必要である」とまとめている。

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医師1,000人の意見割れる! 時間外労働規制に賛成か、反対か

 1年半以上にわたり続けられてきた「医師の働き方改革」の議論がいよいよ大詰めを迎えている。この間、学会や関連団体は提言を行い、特例の上限時間に反対を唱える医師有志らによる署名活動も巻き起こっている。実際に、現場で働く医師1人ひとりは現行の枠組み案をどのように受け止めているのか。ケアネットでは、CareNet.comの医師会員を対象にアンケート調査を実施し、1,000人にその時間外労働の実情や意見を聞いた。 厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」は2019年3月13日、20回目となる検討会を開催し、月内にとりまとめ予定の報告書案を提示した。この報告書案には、勤務間インターバル9時間・当直明けは18時間確保、それらが難しい場合には随時代償休息(時間単位での休息)を付与といった健康確保措置のほか、大きく3つの枠組みを設けた時間外労働の上限規制案が盛り込まれている:・原則「月45時間・年360時間以下」・臨時的な必要がある場合に「月100時間未満・年960時間以下」・特例(指定医療機関および集中的な技能習得が必要な医師)では「月100時間未満・年1,860時間以下」 アンケートは、2019年3月1~13日、ケアネット会員の医師を対象にインターネット上で実施した。回答者の内訳は、年代別では30代が31%で最も多く、40代(26%)、50代(23%)、60代(11%)と続く。病床数別では、200床以上が64%で最も多く、以下、0床(13%)、100~199床(12%)、20~99床(5%)、1~19床(3%)。 このうち、現在提案されている上限規制案に、賛成か、反対かを尋ねたところ、48%が「賛成(どちらかといえば賛成を含む)」と答えた。その理由として、「現実的な内容で、今後段階的に改善を図る上で適当な水準」「規制しないと医師が体力的に疲弊する」などスタートとしては妥当とするコメントが多くみられた。一方、「反対(どちらかといえば反対を含む)」(52%)と答えた医師からは、「規制を作ることには賛成だが、時間枠が広すぎて反対」「特例とはいえ、過労死基準をはるかに超える上限規制は意味がない」など、特例の上限として提案されている“年1,860時間”に対する懸念の声が多くあがっている。 “年1,860時間”は過労死基準を超えて長すぎるために「反対」とする意見がある一方で、「人員が足りず時間外を制限されてしまっては成り立たない」ために反対する声もみられた。現在の時間外労働について聞いた質問では、年1,860時間を超える時間外労働をしていると答えた医師は6.5%。現実問題として負担の集中している現場があることが浮き彫りとなり、時間外規制だけにとどまらない、偏在解消や受診行動を変えるためのアプローチなど、実効性のある対策を求める声があがっている。 また、これらの時間外規制には、アルバイトの勤務時間を含むとされているが、75%の医師がこのことを「知らなかった」と回答。「若手のバイト医師がいなくては病院が回らない」など、アルバイトが制限されることを危惧する意見が上がっている。厚労省では現在、一般労働者の副業・兼業の労働時間管理についての検討がスタートしている。医師においても、規制の適用が開始される2024年4月までを目途に、副業の労働時間管理や健康確保措置の在り方が検討される見通しとなっている。 今回の調査の詳細と、具体的なエピソードやコメントはCareNet.comに掲載中。■関連記事申告や支払いなしの残業ゼロへ、労務管理の徹底求める~働き方改革残業年960時間、特例2,000時間の中身とは~厚労省から水準案宿日直や自己研鑽はどう扱う?~医師の働き方改革「働き方改革」は医師を救う?勤務医1,000人のホンネと実情

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Dr.林の笑劇的救急問答14

第1回 意識障害1 低血糖 忘れたころに やってくる第2回 意識障害2 目は口ほどにモノを言う第3回 意識障害3 この所見 しんぱいだなぁ第4回 意識障害4 酔っぱらいをなめんなよ! テーマは「意識障害」。意識障害はレベルの違い、症状の出方など、さまざまな状態で来院・搬送されてきます。また、その原因となる疾患も多岐にわたります。まずは患者の状態と緊急性を見極め、早急な対処することが重要です。そのうえで、原因を突き止めるためにやるべきこと、診るべきこと、そしてやってはいけないことは何か。ピットフォール満載の爆笑症例ドラマとDr.林のわかりやすい講義でしっかりとお教えします。第1回 意識障害1 低血糖 忘れたころに やってくる今回は意識障害。意識障害の患者が来たらまず、やるべきことは?そう、バイタルサインの確認。バイタルが安定していたら、“頭”-CTと行きたいところですが、まずは治し得る原因を否定しておくことが大切です。そのためのDO「DONT」をしっかりと覚えておきましょう。第2回 意識障害2 目は口ほどにモノを言う意識障害は系統立てて、診ていくことが重要です。それらをしっかりと把握しておきましょう。また、今回の講義では、 JCSやGCSの意識レベルの判定をどうやって行うのか、Dr.林ならではの例を挙げて、しっかりとお教えします。これでもう、判断に迷うことはありません!第3回 意識障害3 この所見 しんぱいだなぁ意識障害の鑑別は多岐にわたり、その中の1つに内分泌代謝疾患があることを忘れないようにしましょう。甲状腺機能低下、甲状腺機能亢進、副腎不全をそれぞれの診断と治療について、しっかりとお教えします。そして特筆すべきは「心配だなぁ」。これは粘液水腫性昏睡の診断に必要な所見を意味します。Dr.林ならではの暗記法。さて、その内容は?第4回 意識障害4 酔っぱらいをなめんなよ!酔っぱらいも意識障害で運ばれてくることも。そんなとき、“ただの酔っぱらい”となめてかかったら大変なことになることもありますよ。今回は、アルコールに関連する意識障害、とくにアルコール離脱症状、大酒家突然死症候群、エタノール中毒などについて詳しく解説します。

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インスリンアナログとヒトインスリンのどちらを使用すべきか?(解説:住谷哲氏)-1016

 はじめに、わが国におけるインスリン製剤の薬価を見てみよう。すべて2018年におけるプレフィルドタイプのキット製剤(300単位/本、メーカー名は省略)の薬価である。インスリンアナログは、ノボラピッド注1,925円、ヒューマログ注1,470円、アピドラ注2,173円(以上、超速効型)、トレシーバ注2,502円、ランタス注1,936円、インスリングラルギンBS注1,481円、レベミル注2,493円(以上、持効型)。ヒトインスリンは、ノボリンR注1,855円、ヒューマリンR注1,590円(以上、速効型)、ノボリンN注1,902円、ヒューマリンN注1,659円(以上、中間型)。つまり、わが国でインスリン頻回注射療法(MDI)を最も安く実施するための選択肢は、インスリンアナログのインスリングラルギンBS注とヒューマログ注の組み合わせになる。さらにわが国においてはインスリンアナログとヒトインスリンの薬価差はそれほどなく、ヒューマログ注とヒューマリンR注のようにインスリンアナログのほうが低薬価の場合もある。したがって、本論文における医療費削減に関する検討はわが国には適用できない。それに対して米国では、インスリンアナログはヒトインスリンに比較してきわめて高価であり(本論文によると米国では10倍の差のある場合もあるらしい)、インスリンアナログをヒトインスリンに変更することでどれくらい医療費が削減できるかを検討した本論文が意味を持つことになる。 医療費削減は重大な問題であるが、医療費を削減した結果、臨床的アウトカムが悪化すれば本末転倒である。そこで本論文ではインスリンアナログからヒトインスリンに変更後におけるHbA1c、重症低血糖および重症高血糖の頻度を検討している。HbA1cはヒトインスリンに変更後0.14%(95%CI:0.05~0.23、p=0.003)増加したが、これは臨床的にはほとんど意味のない変化と見なしてよい。重症低血糖および重症高血糖の頻度にも変更前後で有意な差は認められなかった。つまりヒトインスリンへの変更によって、臨床的アウトカムの悪化なしに医療費の削減が可能であることが示されたことになる。 確かに、インスリンアナログがヒトインスリンに比較して臨床的アウトカムを改善するエビデンスは現時点で存在しない。RCTにおいては、インスリンアナログであるグラルギンはヒトインスリンであるNPHに比較して夜間低血糖を有意に減少させた1)。しかしreal-worldにおいては、NPHとインスリンアナログとを比較するとHbA1c、重症低血糖による救急外来受診または入院の頻度には差がなかったとする報告もある2)。さらに、持効型インスリンアナログ間の比較であるDEVOTEでは、デグルデクはグラルギンに比較して有意に夜間低血糖を減少させたが、両群における3-point MACEには有意な差がなかった3)。 インスリンアナログはヒトインスリンと比較して優れている、と考えている医療従事者は多い。しかし上述したように、インスリンアナログを使用することで低血糖の頻度が減る可能性はあるが、心血管イベントなどの臨床的アウトカムを改善するエビデンスはない。したがってヒトインスリンで十分であるが、米国とは異なりインスリンアナログが安価に使用できるわが国においては、あえてヒトインスリンに固執する必要性もないと思われる。

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