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5α-還元酵素阻害薬と前立腺肥大症、男性型脱毛症 前立腺肥大症や男性型脱毛症は中高年以降の男性が罹患する代表的疾患であるが、発症の要因の1つとしてジヒドロテストステロン(DHT)の関与が知られている。テストステロンは5α-還元酵素によってより活性の強いDHTに変換され、前立腺においてはテストステロンの90%がDHTに変換されている。そのため、5α-還元酵素に対して競合的阻害作用を持つ5α-還元酵素阻害薬が、前立腺肥大症や男性型脱毛症の治療薬として使用されている。 5α-還元酵素には2種類のアイソフォームがあり、type 1は肝臓、皮膚、毛嚢などに分布し、男性化に関与するtype 2は外陰部の皮膚、頭部毛嚢、前立腺などに分布している。type 1、type 2の双方を阻害する薬剤がデュタステリド(商品名:アボルブ、ザガーロ)であり、type 2のみを阻害する薬剤がフィナステリド(商品名:プロペシア)である。フィナステリドはRCTであるProstate Cancer Prevention Trial(PCPT)により、前立腺がんの発症リスクを低下させることが知られており、最近では、前立腺がんによる死亡リスクも低下させる可能性が示唆されている(Goodman PJ, et al. N Engl J Med. 2019;380:393-394.)。5α-還元酵素阻害薬の副作用としては性機能不全(勃起不全、射精障害)や女性化乳房があり、1%前後の割合で発症する。5α-還元酵素阻害薬によるインスリン抵抗性の増強 10~20例と少数例ではあるが、ヒトを対象とした臨床研究においてtype 1、type 2の双方の5α-還元酵素を阻害するデュタステリドはインスリン抵抗性を増強させ、肝臓での脂肪蓄積を引き起こすことが報告されている(Upreti R, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99:E1397-E1406.、Hazlehurst JM, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:103-113.)。しかし、type 2の5α-還元酵素のみを阻害するフィナステリドにおけるインスリン抵抗性の増強作用は確認されていなかった。5α-還元酵素阻害薬と糖尿病の発症 このような背景の下で、大規模臨床データベースを用いて5α-還元酵素阻害薬の投与と2型糖尿病の発症についての関連を検討した成績がBMJ誌に掲載された(Wei L, et al. BMJ. 2019;365:l1204.)。英国の大規模臨床データベース(Clinical Practice Research Datalink:CPRD 2003-14)と台湾の医療保険請求に基づくデータベース(Taiwanese National Health Insurance Research Database:NHIRD 2002-12)を用いて解析が行われている。 英国におけるCPRDでは、デュタステリド投与群8,231例、フィナステリド投与群3万774例、対照としてα1遮断薬であるタムスロシン(商品名:ハルナール)を投与した1万6,270例を抽出して、プロペンシティースコアマッチングを行い、各群1,251例、2,445例、2,502例として2型糖尿病の発症についてCox比例ハザードモデルを用いて検討されている。追跡期間中央値5.2年の間における2型糖尿病の発症率は1万人年当たりで、デュタステリド群76.2(95%信頼区間:68.4~84.0)、フィナステリド群76.6(95%信頼区間:72.3~80.9)、タムスロシン群60.3(95%信頼区間:55.1~65.5)であり、デュタステリド、フィナステリドのいずれの投与群でもハザード比で1.32、1.26と2型糖尿病の発症リスクが増大することが確認された。 台湾におけるNHIRDの結果もCPRDに一致するもので、デュタステリド、フィナステリドのいずれの投与群でもハザード比で1.34、1.49であり、2型糖尿病の発症リスクが高まるという。 日本においては、男性型脱毛症における5α-還元酵素阻害薬の使用は保険診療ではないため、どの程度の人たちに使用されているのかはわからないが、前立腺肥大症の患者には一定の割合で使用されており、5α-還元酵素阻害薬の副作用として耐糖能障害や脂肪肝などインスリン抵抗性に基づく病態が惹起されることを再認識すべきではないかと思われる。