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アトピー性皮膚炎患者は近い将来、スマートフォン(以下、スマホ)のアプリに自分の皮疹の画像を投稿することで、その重症度を知ることができるようになるかもしれない。慶應義塾大学医学部皮膚科学教室・同大学病院アレルギーセンターの足立剛也氏らが、患者が撮影した画像からアトピー性皮膚炎の重症度を評価するAIモデル「AI-TIS」を開発したことを発表した。この研究結果は、「Allergy」に5月19日掲載された。 足立氏は、「多くのアトピー性皮膚炎患者が、自分の皮疹の重症度を評価するのに苦労している。われわれが開発したAIモデルを使えば、スマホだけで疾患をリアルタイムで客観的に追跡することが可能になり、病状管理の改善につながる可能性がある」と慶應大学のニュースリリースで述べている。 研究グループによると、アトピー性皮膚炎は再発を繰り返す傾向があり、長期にわたる監視と治療の調整が必要になる。しかし、患者から報告される皮膚のかゆみや睡眠不足などの症状は、肉眼で見た皮疹の状態と必ずしも一致するわけではないという。 足立氏らは、皮疹の重症度を解析・評価するAIモデルを構築するために、日本のアトピー性皮膚炎患者2万8,000人以上が使用している投稿型アプリに蓄積された5万7,429枚の画像データから、自己申告のかゆみスコアが記録された9,656枚(900人分)の画像を抽出した。まず、身体部位の検出、皮膚病変の検出、および重症度の評価のアルゴリズムを880枚の画像セットで学習させて統合した。このモデルは、全身画像ではなく代表的な皮疹画像を解析対象とするため、紅斑、浮腫/丘疹、ひっかき傷を基に局所的な重症度を0〜9点で評価する3項目重症度(Three Item Severity;TIS)スコアが採用された。次に、別の220枚の画像セットでモデルの性能を評価した。 その結果、このモデルの身体部位の同定率は98%、皮疹部位の同定率は100%であり、重症度評価についても認定皮膚科医やアレルギー専門医によるスコアと強い相関を示した。一方、残る8,556枚の画像を用いて、AIモデルと患者の自己評価によるかゆみスコア(Itch-NRS-5)との関係を検討したところ、相関は低いことが示された。研究グループは、「これは、AI-TISによる皮疹の重症度の客観的評価とItch-NRS-5によるかゆみの主観的評価が、必ずしも一致しないことを示唆する結果である」としている。 足立氏らは今後、より多様なスキンタイプ(肌の色や質)と年齢層のデータに加え、皮疹の他の臨床スコアリングシステムからの追加機能も組み込んで、AIモデルをトレーニングする予定であるという。同氏らは、「本研究で開発されたAIモデルは、アトピー性皮膚炎患者が皮膚の状態を客観的に評価し、適切なタイミングで適切な治療を受けることを促進する可能性を秘めている。本研究は、AIを活用した皮膚評価の今後の進歩の基盤となり、患者ケアと臨床研究の両方を向上させるだろう」と述べている。