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注射で脳まで届く微小チップが脳障害治療の新たな希望に

 手術で頭蓋骨を開くことなく、腕に注射するだけで埋め込むことができる脳インプラントを想像してみてほしい。血流に乗って移動し、標的とする脳の特定領域に自ら到達してそのまま埋め込まれるワイヤレス電子チップの開発に取り組んでいる米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが、マウスを使った実験で、厚さ0.2μm、直径5〜20μmというサブセルラーサイズのチップが、人の手を介さずに脳の特定領域を認識し、そこに移動できることを確認したとする研究成果を報告した。詳細は、「Nature Biotechnology」に11月5日掲載された。 このチップが標的部位に到達すると、医師は電磁波を使ってチップを起動させ、パーキンソン病や多発性硬化症、てんかん、うつ病などの治療に用いられているタイプの電気刺激を神経細胞に与えることができる。こうした電気や磁気などにより神経を刺激する治療法は、ニューロモデュレーションと呼ばれる。このチップはサイズが極めて小さいため、従来の脳インプラントよりもはるかに高い精度で刺激を与えることができると研究グループは説明している。 論文の上席著者であるMITメディアラボおよびMIT神経生物工学センターのDeblina Sarkar氏は、「この超小型電子デバイスは、脳の神経細胞とシームレスに一体化し、ともに生き、ともに存在することで、他に例のない脳とコンピューターの共生を実現する」と言う。同氏は、「われわれは、薬剤あるいは標準治療では効果が得られない神経疾患の治療にこの技術を利用することで、患者の苦しみを軽減するとともに、人類が病気や生物学的な限界を超えられる未来の実現に向けて全力で取り組んでいる」とニュースリリースの中で述べている。 この微小チップは、静脈注射前に生きた生体細胞と融合させておくことで免疫系の攻撃を受けることなく血液脳関門を通過できる。また、治療対象となる疾患に応じて、異なる種類の細胞を使うことで脳の特定領域を標的に定めることも可能であるという。 Sarkar氏は、「この細胞と電子機器のハイブリッドは、電子機器の汎用性と、生きた細胞が持つ生体内輸送能力や生化学的な検知力が融合されたものだ。生きた細胞が電子機器をカモフラージュすることで、免疫システムの攻撃を受けることなく血流中をスムーズに移動することができ、さらには侵襲的な処置なしに血液脳関門を通過することも可能になる」と言う。なお、研究グループによると、従来の脳インプラントは、手術のリスクに加えて数十万ドルもの医療費がかかるのが一般的だという。 Sarkar氏は、「これはプラットフォーム技術であり、複数の脳疾患や精神疾患の治療に使える可能性がある」と述べるとともに「この技術は脳だけに限定されるものではなく、将来的には身体の他の部位にも適用を広げることができる可能性がある」と期待を示している。

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ピロリ菌が重いつわりを長引かせる可能性、妊婦を対象とした研究から示唆

 妊娠中の「つわり」は多くの人が経験する症状であるが、中には吐き気や嘔吐が重く、入院が必要になるケースもある。こうした重いつわり(悪阻)で入院した妊婦164人を解析したところ、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)に対する抗体(IgG)が陽性である人は入院が長引く傾向があることが分かった。妊娠前や妊娠初期にピロリ菌のチェックを行うことで、対応を早められる可能性があるという。研究は、日本医科大学武蔵小杉病院女性診療科・産科の倉品隆平氏、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の豊島将文氏らによるもので、詳細は10月6日付けで「Journal of Obstetrics and Gynaecology Research」に掲載された。 妊娠悪阻は妊娠の0.3〜2%にみられる重度のつわりで、持続する嘔吐や体重減少により入院を要することも多い。進行すると電解質異常や肝・腎機能障害、ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症(意識障害やふらつきを伴う急性脳症)などを生じることがある。原因としてヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)や胎盤容積の大きさなどが知られるが、近年はピロリ菌感染との関連も指摘されている。しかし、日本人妊婦における感染と重症度や入院期間との関係は十分に検討されていない。本研究では、重度妊娠悪阻で入院した症例を対象に、入院時の各種指標とピロリ菌に対するIgG抗体の有無が入院期間に及ぼす影響を後ろ向きに検討した。 本研究では、2011年1月~2023年6月までに日本医科大学付属病院または日本医科大学武蔵小杉病院で入院治療を要した重度妊娠悪阻患者164人が含まれた。患者はまず、抗H. pylori IgG抗体の有無(陽性群 vs 陰性群)に基づき2群に分けられた。その後、すべての患者を長期入院群(21日以上)と短期入院群(21日未満)に分類して、二次解析が行われた。統計手法には、マン・ホイットニーのU検定、t検定、フィッシャーの正確確率検定、ロジスティック回帰分析が適宜用いられた。 解析対象164人中、抗H. pylori IgG抗体陽性の患者は23人(14.0%)、陰性は141人(86.0%)であった。これら2群の入院期間を比較したところ、抗H. pylori IgG抗体陽性群の入院中央値(範囲)は24日(6〜70日)であり、陰性群の中央値15日(2〜80日)と比べて有意に長かった(P=0.032)。 次に長期入院群と短期入院群を比較したところ、長期入院群では尿ケトン体強陽性(3≦)の割合(P=0.036)や抗H. pylori IgG陽性の割合(P=0.022)が有意に高かった。入院時の検査所見を比較すると、長期入院群では血清遊離サイロキシン(FT4)値が有意に高かったが、その他の検査項目に有意差は認められなかった。 多変量ロジスティック回帰分析の結果、単変量解析で有意だった因子を調整後も、入院長期化の独立したリスク因子として確認されたのは抗H. pylori IgG陽性のみであった(オッズ比〔OR〕 4.665、95%信頼区間〔CI〕 1.613~13.489、P=0.004)。尿ケトン体強陽性は入院期間延長の傾向を示したが、統計的有意差は認められなかった(OR 2.169、95%CI 0.97~4.85、P=0.059)。一方、尿ケトン体強陽性の有無で患者を層別すると、陽性群の入院中央値は19日(4〜80日)、陰性群の12日(2〜55日)であり、有意に入院期間が延長されていた(P=0.001)。 著者らは「今回の研究結果から、抗H. pylori IgG抗体の検査で、重度の悪阻で入院が長引きやすい妊婦を特定できる可能性が示唆された。抗体陽性の妊婦は、入院中により注意深く観察されることで、体調管理の助けになると考えられる。また、妊娠前からの準備(プレコンセプションケア)が、悪阻の予防策として有効かもしれない」と述べている。 また、著者らは、妊娠前のピロリ菌スクリーニングや除菌の有効性については現時点では仮説にすぎず、本研究はその可能性を示すにとどまると説明している。今後は、ガイドラインや保険制度の見直しを含め、前向き研究で有効性や費用対効果を検証することが重要だとしている。

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【訂正】RSVワクチン─成人の呼吸器疾患関連入院を抑制(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

※2025年11月26日に配信しました内容に一部誤りがございました。ここに訂正しお詫び申し上げます。 2025年11月末現在、世界的規模で予防が推奨されているウイルス感染症としてはインフルエンザ、新型コロナ(COVID-19)の進化・変異株に加え呼吸器合胞体ウイルス(RSV:Respiratory Syncytial Virus)が注目されている。インフルエンザ、新型コロナ感染症に対しては感染制御効果を有する薬物の開発が進んでいる。一方、RSV感染、とくに成人への感染に対しては治療効果を期待できる薬物の開発が遅れており、ワクチン接種による感染予防が重要である。RSVワクチンの種類 RSV感染症に対するワクチン開発には長い歴史が存在するが、新型コロナに対するワクチン生産を可能にした種々なる蛋白/遺伝子工学的手法がRSVのワクチン開発にも応用されている。米国NIHを中心にRSVの蛋白構造解析が粘り強く進められた結果、RSVが宿主細胞への侵入を規定する“膜融合前F蛋白(RSVpreF)”を標的にすることが、ワクチン生成に最も有効な方法であると示された。RSVにはA型、B型の2種類の亜型が存在し、両者のRSVPreFは蛋白構造上差異を認める。GSK社のアレックスビー筋注用(商品名)はA型、B型のF蛋白の差を考慮しない1価ワクチンであり、2023年9月に60歳以上の高齢者(50歳以上で重症化リスクを有する成人を含む)に対するRSV感染予防ワクチンとして本邦で薬事承認された。一方、Pfizer社のアブリスボ筋注用(商品名)はA型、B型のF蛋白の差を考慮した2価ワクチンであり、本邦では2024年1月に母子用、すなわち、妊娠24~36週の母体に接種し新生児のRSV感染を抑制するワクチンとして薬事承認された。2024年3月には60歳以上の高齢者に対してもアブリスボ筋注用の本邦での接種が追加承認された。上記2種類のRSVワクチンはProtein-based Vaccine(Subunit Vaccine)と定義されるものでF蛋白に関する遺伝子情報を人以外の細胞に導入しF蛋白を生成、それを人に接種するものである。一方、Moderna社のmRNAを基礎として作成された1価ワクチン、エムレスビア筋注シリンジ(mRESVIA)(商品名)はRSV膜融合前F蛋白を標的としたGene-based Vaccineで2025年5月に高齢者用RSVワクチンとして本邦でも薬事承認されたが、先発のアレックスビー筋注用、アブリスボ筋注用とのすみ分けをどのようにするかは現在のところ不明である。各RSVワクチンの基礎的特徴に関しては、ジャーナル四天王 「高齢者RSV感染における予防ワクチンの意義」、「“Real-world”での高齢者に対するRSVワクチンの効果」の2つの論評に記載してあるのでそれらを参照していただきたい。2価RSVワクチンの呼吸器疾患重症化(入院)予防効果 今回論評の対象としたLassen氏らの論文では、RSV下気道感染に誘発された種々の呼吸器疾患の重症化(入院)に対する2価RSVワクチン(Pfizer社のアブリスボ筋注用)の予防効果が検討された。対象はデンマーク在住の60歳以上の一般市民13万1,379例(デンマーク高齢者の約8.6%に相当)であり、2024年11月から12月にかけて集積された。この対象をもとに2価RSVワクチンのReal-worldでの現実的(Pragmatic)、研究者主導の第IV相無作為化非盲検並行群間比較試験が施行され、追跡期間は初回来院日の14日後から2025年5月31日までの約6ヵ月であった。最終的にワクチン接種者は6万5,642例、ワクチン非接種対照者は6万5,634例であった。解析の主要エンドポイントは種々なる呼吸器疾患患者の重症化(入院)頻度で、この指標に対するワクチンの予防効果は83.3%と臨床的に意義ある結果が得られた。本研究の特色は2価のRSVワクチン接種による単なるRSV感染予防効果ではなく、種々なる呼吸器疾患を基礎疾患として有する対象の重症化(入院)抑制効果を観察したもので、臨床的・医療経済的に意義ある内容である。 一方、1価のRSVワクチン(GSK社のアレックスビー筋注用)のRSV感染に対する予防効果はPapi氏らによって報告された(Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.)。Papi氏らは60歳以上の高齢者2万4,966例を対象としたアレックスビー筋注用に関する国際共同プラセボ対照第III相試験を施行した。アレックスビー筋注用のRSV感染に対する全体的予防効果は82.6%、重症化因子(COPD、喘息、糖尿病、慢性心血管疾患、慢性腎臓病、慢性肝疾患など)を有する対象におけるRSV感染予防効果は94.6%と満足のいく結果であった。しかしながら、Papi氏らの論文ではアレックスビー筋注用のRSV感染に起因する種々なる呼吸器疾患の重症化(入院)抑制効果については言及されていない。本邦におけるRSV感染症の今後を考える時、2価のRSVワクチンに加え1価のRSVワクチンを用いて呼吸器疾患を中心に種々なる基礎疾患を有する対象における重症化(入院)抑制効果を早期に解明する必要がある。 Lassen氏らは副次的・探索的解析として2価RSVワクチンによる心血管病変の重症化(入院)予防効果に関しても別論文で発表している(Lassen MCH, et al. JAMA. 2025;334:1431-1441.)。彼らの別論文によると脳卒中、心筋梗塞、心不全、心房細動による入院率には2価のRSVワクチン接種の有無により有意な差を認めなかった。すなわち、2価のRSVワクチンは呼吸器疾患の重症化(入院)を有意に抑制するが、心血管病変の重症化(入院)阻止には有効性が低いという興味深い結果が得られた。RSVワクチン接種に対する今後の施策 本邦においては、妊婦ならびに高齢者におけるRSVワクチン接種は公的補助の対象ではない(任意接種であり費用は原則自己負担。※妊婦については2026年4月から定期接種とすることが了承された)。しかしながら、完全ではないがRSVワクチンの臨床的効果(とくに、呼吸器疾患患者の重症化[入院]抑制効果)が集積されつつある現在、高齢者に対するRSVワクチンを定期接種とし公的補助の対象にすべき時代に来ているものと考えられる。 追加事項として、インフルエンザ、新型コロナに対するワクチンに関しても従来施行されてきた各ウイルスに対する単なる感染予防効果に加え、心肺疾患を中心に重症化(入院)阻止効果について前向きに検討されることを期待するものである。

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ESMO2025レポート 肺がん(後編)

レポーター紹介2025年10月17~21日に、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)がドイツ・ベルリンで開催された。善家 義貴氏(国立がん研究センター東病院)が肺がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説。後編では、Presidential symposiumの2演題とドライバー陰性切除不能StageIII非小細胞肺がん(NSCLC)の1演題、進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の1演題を取り上げ、解説する。前編はこちら[目次]Presidential symposium1.HARMONi-62.OptiTROP-Lung04ドライバー陰性切除不能StageIII NSCLC3.SKYSCRAPER-03ED-SCLC4.DeLLphi-303Presidential symposium1.進行扁平上皮NSCLCの初回治療として、化学療法+チスレリズマブと化学療法+ivonescimabを比較する第III相試験:HARMONi-6本試験は、StageIII~IVでEGFR、ALK遺伝子異常のない、未治療進行扁平上皮NSCLCを対象に、標準治療群としてカルボプラチン(AUC 5、Q3W)+パクリタキセル(175mg/m2、Q3W)+チスレリズマブ(PD-1阻害薬)と、試験治療群のカルボプラチン+パクリタキセル+ivonescimab(20mg/kg、Q3W)を比較する第III相試験で、中国のみで実施された。ivonescimabは、PD-1とVEGFを標的とする二重特異性抗体である。ivonescimab群と標準治療群にそれぞれ266例ずつ割り付けられ、患者背景は両群でバランスがとれていた。扁平上皮NSCLCでは一般的に抗VEGF抗体が使用されない、中枢病変や大血管浸潤、空洞のある患者や喀血の既往歴がある患者も含まれた。今回の発表は、事前に規定された中間解析の結果であり、観察期間中央値は10.28ヵ月であった。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、ivonescimab群/標準治療群で11.14ヵ月/6.9ヵ月(ハザード比[HR]:0.60[95%信頼区間[CI]:0.46~0.78]、p<0.0001)であり、ivonescimab群が良好であった。奏効割合(ORR)は75.9%/66.5%(p=0.008)とivonescimab群で高く、PD-L1の発現状況によらずivonescimab群が良好であった。Grade3以上の有害事象は、ivonescimab群/標準治療群で63.9%/54.3%に認められ、治療関連死亡や免疫関連有害事象(irAE)の頻度は両群で大差なく、ivonescimab群でVEGFに関連する毒性を認めたが、多くはGrade1~2であった。<結論>化学療法+ivonescimabは進行扁平上皮NSCLCにおいて、有意にPFSを延長し、今後の新規治療になりうる。<コメント>事前に規定された中間解析で観察期間が短いが、PFSは有意に化学療法+免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と比較し延長したことは評価したい。しかしながら、標準治療となるにはOSの延長が必要であり、さらなるフォローアップデータが求められる。2.EGFR-TKI治療後に増悪したEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対する、プラチナ製剤併用化学療法とsacituzumab tirumotecan (sac-TMT)を比較する第III相試験:OptiTROP-Lung04本試験は、第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)治療後の増悪例、もしくは第1、2世代EGFR-TKI治療増悪後にT790M陰性かつEGFR感受性変異陽性例に対して、化学療法(カルボプラチンまたはシスプラチン+ペメトレキセド)とsacituzumab tirumotecan(sac-TMT:TROP2標的抗体薬物複合体[ADC])(5mg/kg IV、Q2W)を比較する第III相試験である。本試験も中国のみで実施された。sac-TMT群、化学療法群にそれぞれ188例ずつ割り付けられた。患者背景は両群でバランスがとれており、初回治療で第3世代EGFR-TKIによる治療を受けた患者は、sac-TMT群/化学療法群で118例(62.8%)/117例(62.2%)、EGFR遺伝子サブタイプはEx19delが106例(56.4%)/118例(62.8%)、L858Rが84例(44.7%)/71例(37.8%)、脳転移ありは33例(17.6%)/36例(19.1%)であった。主要評価項目であるPFSの中央値は、sac-TMT群/化学療法群で8.3ヵ月(95%CI:6.7~9.9)/4.3ヵ月(同:4.2~5.5)であり、sac-TMT群で有意な延長を認めた(HR:0.49[95%CI:0.39~0.62])。さらにOSは、sac-TMT群/化学療法群で未到達(95%CI:21.5~推定不能)/17.4ヵ月(同:15.7~20.4)であり、こちらもsac-TMT群で有意な延長を認めた(HR:0.60[95%CI:0.44-0.82])。ORRはsac-TMT群/化学療法群で60.6%/43.1%(群間差17.0%[95%CI:7.0~27.1])であった。後治療は72.3%/85.5%で実施された。毒性について、有害事象の頻度は両群で差がなく、sac-TMT群の主な有害事象は貧血(85%)、白血球減少(84%)、脱毛(84%)、好中球数減少(75%)、胃炎(62%)であった。眼関連の有害事象を9.6%に認めたが多くはGrade1~2であり、ILDは認めなかった。<結論>sac-TMTはEGFR-TKI治療後に増悪した進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLCにおいて、化学療法と比較してPFS、OSを延長し有望な治療選択となる。<コメント>中国のみで実施された第III相試験で、薬剤の承認にglobal試験の必要性が問われる。今後は同対象への初回治療での試験が進行中であり、進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療は目まぐるしく変わっていくと予想される。ドライバー陰性切除不能StageIII NSCLC3.切除不能StageIII NSCLCに対する、プラチナ同時併用放射線治療後のデュルバルマブとアテゾリズマブ+tiragolumabを比較する第III相試験:SKYSCRAPER-03本試験は、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子異常を除く、切除不能StageIII NSCLCに対して、化学放射線治療(CRT)後に、標準治療であるデュルバルマブ群と試験治療群であるアテゾリズマブ+tiragolumab群を比較する第III相試験である。アテゾリズマブ+tiragolumab群/デュルバルマブ群にそれぞれ413/416例が割り付けられ、患者背景は両群でバランスがとれていた。白人は55.7%/59.6%、PD-L1<1%は49.4%/49.5%、1~49%は25.7%/28.1%、≧50%は24.9%/22.4%、扁平上皮がんは59.1%/59.9%であった。主要評価項目であるPD-L1≧1%集団のPFSの中央値は、アテゾリズマブ+tiragolumab群/デュルバルマブ群で19.4ヵ月/16.6ヵ月(HR:0.96[95%CI:0.75~1.23]、p=0.7586)、副次評価項目であるOSの中央値はアテゾリズマブ+tiragolumab群/デュルバルマブ群で未到達/54.8ヵ月(HR:0.99(95%CI:0.73~1.34)であり、いずれもアテゾリズマブ+tiragolumab群は延長を示せなかった。毒性については、両群で有害事象の頻度に差がなく、アテゾリズマブ+tiragolumab群で掻痒感、皮疹などが多く認められた。<結語>本試験は主要評価項目であるPFSの延長を示せず、新規治療とはならなかった。毒性は新規プロファイルのものはなかった。<コメント>2018年にCRT後のデュルバルマブが標準治療として確立されて7年経過するが、新規治療法の承認がされていない。近年、術前導入化学免疫療法が良好な成績を示しており、StageIII NSCLCの治療戦略は大きく変化している。SCLC4.ED-SCLCに対するプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬+タルラタマブの治療成績:DeLLphi-303(パート2、4、7)初回治療としてプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬(アテゾリズマブまたはデュルバルマブ)の併用療法を1サイクル実施したED-SCLC患者を対象に、導入療法と維持療法へのタルラタマブ上乗せの安全性、有効性を確認する第Ib相試験(パート2、4、7)が実施された。96例が登録され、PD-L1阻害薬の内訳はアテゾリズマブ56例(58.3%)、デュルバルマブ40例(41.7%)であった。全体で男性が67%、アジア人が16%、白人が74%、非喫煙者が7%であった。全体で、タルラタマブ開始時からのORR、奏効期間中央値はそれぞれ71%、11.0ヵ月であった。OS中央値は未到達で、1年OS割合は80.6%であった。毒性について、サイトカイン放出症候群(CRS)と免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は、いずれもサイクル1での発現が多く、ほとんどがGrade1/2であった。タルラタマブに関連した死亡は認められていない。<結論>標準治療であるプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬および維持療法としてのPD-L1阻害薬へのタルラタマブ上乗せは、有望な治療成績を示した。現在、初回治療におけるプラチナ製剤+エトポシド+デュルバルマブおよび維持療法としてのデュルバルマブと比較するDeLLphi-312試験(NCT07005128)が進行中である。<コメント>タルラタマブは2次治療、初回治療へ順次適応範囲を広げていく予定である。初回治療での化学療法+PD-L1阻害薬との併用は、有効性、安全性ともに問題なく、第III相試験の結果が待たれる。ADC製剤の開発も盛んに行われており、SCLCも治療が数年で目まぐるしく変わっていくと予想される。

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新たな作用機序の緑内障・高眼圧症点眼薬「セタネオ点眼液0.002%」【最新!DI情報】第52回

新たな作用機序の緑内障・高眼圧症点眼薬「セタネオ点眼液0.002%」今回は、緑内障・高眼圧症治療薬「セペタプロスト(商品名:セタネオ点眼液0.002%、製造販売元:参天製薬)」を紹介します。本剤は、FPおよびEP3受容体に結合・刺激することで眼圧を下降させる新たな作用機序の点眼薬であり、新たな緑内障・高眼圧症の治療選択肢として期待されています。<効能・効果>緑内障、高眼圧症の適応で、2025年8月25日に製造販売承認を取得し、2025年10月23日に発売されました。<用法・用量>1回1滴、1日1回点眼します。<安全性>重大な副作用として、虹彩色素沈着(0.3%)があります。その他の副作用として、結膜充血(29.6%)、睫毛の異常(睫毛が長く、太く、多くなるなど)(18.2%)、眼瞼部多毛(5%以上)、眼瞼色素沈着、眼瞼炎、点状角膜炎などの角膜障害、眼乾燥感、眼刺激(いずれも1~5%未満)、眼のそう痒感、結膜浮腫、眼脂(いずれも1%未満)、黄斑浮腫、眼瞼溝深化(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、緑内障や高眼圧症の治療に使用する点眼薬です。眼圧を調節する水分の排出を促進して眼圧を下げます。2.ソフトコンタクトレンズを装着している場合は、必ずレンズを外してから点眼してください。点眼後は5~10分以上間隔を空けてからレンズを再装着してください。3.点眼液が目の周りについたままになると、目の周りが黒ずむ、毛が濃くなる、まつげが長く太くなるなどの副作用が起こることがあります。濡らしたガーゼやティッシュで目の周囲をよくふき取るか、目を閉じて洗顔してください。<ここがポイント!>緑内障は、「視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患」と定義されています(緑内障診療ガイドライン)。緑内障は放置すると徐々に視野が狭まり、最終的には失明に至る可能性があり、わが国において中途失明の原因の第1位です。緑内障の視野障害の進行を抑制する唯一確実な治療法は眼圧の下降であり、眼圧下降薬による薬物治療が治療の中心となっています。第一選択薬としては、房水流出を促進するFP受容体作動薬やEP2受容体作動薬、房水産生を抑制するβ遮断薬が用いられます。治療は通常、単薬療法から開始されますが、効果が不十分な場合には多剤併用(配合点眼薬を含む)が行われます。ただし、多剤併用により点眼回数が増加すると、副作用の増加、アドヒアランスやQOLの低下などが懸念されるため、新たな作用機序を有する強力な眼圧下降薬の開発が進められてきました。本剤は、有効成分としてセペタプロストを含有する水性点眼薬です。セペタプロストは、プロドラッグであり、点眼後は主に角膜中で速やかに加水分解され、FPおよびEP3受容体に結合・刺激することで眼圧を下降させます。その眼圧降下作用は、ぶどう膜強膜流出路および線維柱帯流出路を介した房水流出促進によるものです。両眼が原発開放隅角緑内障または高眼圧症の患者を対象とした多施設共同無作為化評価者遮蔽並行群間比較試験(第III相検証試験)において、主要評価項目である点眼後4週におけるベースラインからの平均日中眼圧変化量(最小二乗平均値[LS Mean])は、本剤群で-5.77mmHg、ラタノプロスト点眼液群で-6.10mmHgでした。MMRM解析における投与群間差(本剤群-ラタノプロスト点眼液群)は0.32mmHg(95%信頼区間:-0.120~0.769mmHg)であり、信頼区間の上限値は非劣性マージンとして事前に規定した1.5mmHgを超えず、本剤群のラタノプロスト点眼液群に対する非劣性が検証されました。なお、信頼区間の上限値は0mmHg以上であったことから、本剤群のラタノプロスト点眼液群に対する優越性は検証されませんでした。

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フレイルのスクリーニング【日常診療アップグレード】第44回

フレイルのスクリーニング問題87歳女性。高血圧、慢性心不全、甲状腺機能低下症のため、定期受診をしている。最近1年間は変形性膝関節症による膝痛と体力低下のため、次第に介護が必要となっている。3ヵ月後に右膝全置換術を予定している。これらの症状により、1年前から週1回のゲートボールに参加できなくなった。その他の症状はない。使用中の薬剤はリシノプリル、フロセミド、レボチロキシン、ロキソプロフェンテープである。バイタルサインは正常。BMIは21。診察ベッドへの移動には介助が必要。心肺所見は正常。両膝に轢音と可動域制限を認めるが、下腿浮腫は認めない。CBC、生化学検査、甲状腺刺激ホルモン(TSH)は正常である。フレイルのスクリーニングを行った。

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第295回 注目の試験でGLP-1薬のアルツハイマー病治療効果示せず

注目の試験でGLP-1薬のアルツハイマー病治療効果示せずGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は肥満、糖尿病、それらと密接に関わる心血管疾患や腎疾患の治療を進歩させました。また、GLP-1薬が他の数々の疾患治療にも有益なことを示唆する研究成果が続々と発表されています。とくに、アルツハイマー病などの神経変性疾患の治療はGLP-1薬の新たな用途として有望視されていましたが、Novo Nordisk社が先週月曜日に速報した2つの第III相試験結果はその期待に沿うものではありませんでした。evokeとevoke+という名称のそれら2試験のどちらでも残念なことにセマグルチド経口投与のアルツハイマー病進展を遅らせる効果がみられなかったのです1)。セマグルチドなどのGLP-1薬が神経変性疾患を予防しうることは示唆されていたものの、すでにそうなってしまってからでは手遅れと多くの研究者は感じていたようです2)。Novo Nordisk社でさえ試験が成功する見込みは薄い(low likelihood of success)と悟っていました1)。しかしそれでもアルツハイマー病へのセマグルチドの可能性の検討は責務と感じていたと同社の最高科学責任者(CSO)のMartin Holst Lange氏は言っています。過去何十年もアルツハイマー病は多岐にわたり研究されてきましたが、如何せん飛躍的な進歩には至っていません。救いの手がまったく間に合っていないアルツハイマー病のそのような状況をNovo Nordisk社は見過ごすことはできなかったのです。アルツハイマー病にGLP-1が有益そうな報告が増えていることにも背中を押され、さかのぼること5年前の2020年12月にNovo Nordisk社はその責任を果たすための第III相試験の決定を発表します3)。明けて翌春2021年5月にevoke試験とevoke+試験が始まり4,5)、初期段階のアルツハイマー病患者のべ4千例弱(3,808例)が組み入れられ、2試験とも被験者は最大14 mg/日のセマグルチドを連日服用する群かプラセボ群に1対1の比で割り振られました。2試験とも約2年間(104週間)の主要な治療期間とその後の約1年間(52週間)の延長期間の経過を調べる算段となっていました。しかし、今回速報された2年間の経過の解析結果で両試験ともアルツハイマー病進展の有意な抑制効果が示せず、1年間の延長は中止となりました。発表によると、セマグルチドはアルツハイマー病と関連する生理指標一揃いを改善しましたが、その作用はどちらの試験でもアルツハイマー病の進展を遅らせる効果には繋がりませんでした。具体的には、知能や身のこなしを検査する臨床認知症評価尺度(CDR-SB)の104週時点の点数のベースラインとの差の比較で、セマグルチドがプラセボより優越なことが示せませんでした。目当ての効果は認められなかったとはいえ、evoke/evoke+試験からは貴重な情報の数々が得られそうです。たとえばその1つは脳での抗炎症作用です。先立つ試験で示唆されているような体重減少とは独立した手広い抗炎症作用がセマグルチドにあるかどうかが、糖尿病や肥満ではない多数の被験者が参加したそれら2つの大規模試験で明らかになりそうです2)。それに、試験には脆弱な患者が多く参加しており、脂肪に加えて筋肉も減らすセマグルチドなどのGLP-1薬がそういう患者に安全かどうかも知ることができそうです。evoke/evoke +試験のより詳しい結果一揃いが今週3日に米国サンディエゴでのClinical Trials on Alzheimer’s Disease(CTAD)の学会で発表されます1)。また、結果の全容が来春2026年3月のAlzheimer’s and Parkinson’s Diseases Conferences(AD/PD)で報告される予定です。 参考 1) Evoke phase 3 trials did not demonstrate a statistically significant reduction in Alzheimer's disease progression / Novo Nordisk 2) Popular obesity drug fails in hotly anticipated Alzheimer’s trials / Science 3) Novo Nordisk to enter phase 3 development in Alzheimer’s disease with oral semaglutide / Novo Nordisk 4) EVOKE試験(ClinicalTrials.gov) 5) EVOKE Plus試験(ClinicalTrials.gov)

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75歳以上における抗凝固薬と出血性脳卒中の関連~日本の後ろ向きコホート

 高齢者における抗凝固薬使用と出血性脳卒中発症の関連を集団ベースで検討した研究は少ない。今回、東京都健康長寿医療センター研究所の光武 誠吾氏らが、傾向スコアマッチング後ろ向きコホート研究で検討した結果、抗凝固薬を処方された患者で出血性脳卒中による入院発生率が高く、ワルファリン処方患者のほうが直接経口抗凝固薬(DOAC)処方患者より発生率が高いことが示唆された。Aging Clinical and Experimental Research誌2025年11月13日号に掲載。 本研究は、北海道のレセプトデータを用いた後ろ向きコホート研究で、2016年4月~2017年3月(ベースライン期間)に治療された75歳以上の高齢者を対象とした。曝露変数はベースライン期間中の抗凝固薬処方、アウトカム変数は2017年4月~2020年3月の出血性脳卒中による入院であった。共変量(年齢、性別、自己負担率、併存疾患、年次健康診断、要介護認定)を調整した1対1マッチングにより、抗凝固薬処方群と非処方群の入院発生率を比較した。 主な結果は以下のとおり。・71万7,097例中、6万6,916例(9.3%)が抗凝固薬を処方されていた。・傾向スコアマッチング後、抗凝固薬処方群(383.2/100万人月)が非処方群(252.2/100万人月)より出血性脳卒中による入院発生率が高かった(ハザード比[HR]:1.64、95%信頼区間[CI]:1.39~1.93)。・1種類の抗凝固薬を処方された患者(6万1,556例)において、マッチング後、ワルファリン処方群がDOAC処方群より出血性脳卒中による入院発生率が有意に高かった(HR:1.67、95%CI:1.39~2.01)。 著者らは「本研究の結果は、高齢者への抗凝固薬、とくにワルファリンの処方において、出血性脳卒中リスクを最小限にすべく慎重な検討が必要であることを強調している」とまとめている。

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日本の外科医における筋骨格系障害の有病率

 わが国では外科医の業務に関連した筋骨格系障害(MSD)に対する認識は限定的である。今回、自治医科大学の笹沼 英紀氏らが日本の一般外科医におけるMSDの有病率、特徴、影響を調査した。その結果、日本の外科医におけるMSD有病率はきわめて高く、身体的・精神的健康に影響を及ぼしていることが示唆された。Surgical Today誌オンライン版2025年11月14日号に掲載。 本研究では、日本の大学病院ネットワークに所属する一般外科医136人を対象に電子アンケートを実施した。Nordic Musculoskeletal Questionnaireの修正版を用いて、人口統計学的特性、作業要因、MSD症状、心理的苦痛、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用状況とそれらの影響を評価した。 主な結果は以下のとおり。・慢性MSDは37.7%、急性MSDは51.9%に確認された。・これらの障害は、外科医の業務(30.0%)および日常生活(39.0%)に頻繁に影響を与え、休業(5.2%)や医療介入(28.6%)につながっていた。・両タイプのMSDはNSAID使用と心理的苦痛に有意に関連し、とくに頸部痛はNSAID使用と強く関連した。・週当たりの低侵襲手術実施件数は急性MSDと有意に関連したが、慢性MSDとは関連しなかった。 この結果から、著者らは「高いMSD有病率と、頸部痛とNSAID依存の強い関連は、この重要な労働力を守るために、外科診療における人間工学的介入と予防戦略の差し迫った必要性を強調している」と提言している。

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日本人不眠症患者におけるレンボレキサント切り替え後のベネフィット評価

 デュアルオレキシン受容体拮抗薬であるレンボレキサントは、成人の不眠症治療薬として日本で承認されている。久留米大学の小曽根 基裕氏らは、多施設共同SOMNUS試験のデータを用いて、日本人不眠症患者における前治療からレンボレキサントへ切り替え後の睡眠日誌に基づく睡眠パラメーター、自己申告による睡眠の質、不眠症の重症度、健康関連の生活の質(QOL)について報告を行った。Sleep Medicine X誌2025年9月25日号の報告。 SOMNUS試験は、プロスペクティブ多施設共同非盲検試験である。本試験のデータより抽出した、Z薬(単剤療法コホート:25例)、スボレキサント(単剤療法コホート:25例、併用コホート:21例)、ラメルテオン(併用コホート:19例)からレンボレキサントに切り替えた4つのコホートにまたがる90例の患者を対象に、最大14週間までのデータを解析した。 主な結果は以下のとおり。・すべての患者において、レンボレキサントへの切り替え後、睡眠日誌に基づく睡眠パラメーター(主観的入眠潜時、主観的入眠後覚醒時間、主観的総睡眠時間、主観的睡眠効率)の有意な改善が認められた。・2週、6週、14週時点において、不眠症重症度指数(Insomnia Severity Index)の合計スコアの有意な低下が認められた(2週目:-2.6±3.81、6週目:-4.4±5.13、14週目:-5.3±4.80、各々:p<0.0001)。・自己申告による睡眠の質と朝の覚醒度も、すべての時点で一貫しており、有意な改善を示した。・Short Form-8の身体項目サマリースコアと精神項目サマリースコアは良好な傾向を示し、試験終了時までにすべての患者において顕著な改善が認められた。・治療関連有害事象(TEAE)の発生率は47.8%であり、そのほとんどは軽度または中等度であった。・重篤なTEAEは発現せず、最も多く認められたTEAEは傾眠であった。 著者らは「これらの知見は、以前の不眠症治療からレンボレキサントへの切り替えが、睡眠パラメーター、不眠症の重症度、健康関連のQOLの改善に有用であり、良好な安全性プロファイルを有することを示唆している」と結論付けている。

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軽微な難聴で認知症リスク上昇、APOE ε4保有者で顕著

 加齢に伴う難聴は、認知症の修正可能なリスク因子の1つとされるが、脳構造の変化や遺伝的背景との相互作用については不明な点が多かった。米国・テキサス大学サンアントニオ校のFrancis B. Kolo氏らの研究によると、中年期以降の軽微ないし軽度の難聴であっても、脳容積の減少、白質高信号量の増加、認知症発症リスクの上昇と有意に関連していることが明らかになった。とくにアルツハイマー病のリスク遺伝子であるAPOE ε4アレル保有者において、正常聴力者よりも、軽微以上の難聴者のほうが、認知症発症リスクが約3倍も高いことが示された。JAMA Network Open誌2025年11月5日号に掲載。 本研究では、Framingham Offspring Study参加者を対象に、第6回検査(1995~98年)で実施された純音聴力検査のデータをベースラインとして解析を行った。解析は目的に応じて以下の2つの重複するサンプルを用いて行われた。・サンプル1(脳構造・認知機能解析群):1,656例(平均年齢58.1歳[範囲 29.7~85.6])。聴力検査後の第7~8回検査でMRIおよび神経心理学的検査を実施し、脳の構造的変化と認知機能の推移を評価した。・サンプル2(認知症発症リスク解析群):935例(平均年齢67.6歳[60.0~85.6])。聴力検査時点で60歳以上の参加者を対象に、最長15年間にわたる認知症発症の有無を追跡した。 難聴の定義は、良聴耳の平均聴力レベルに基づき、正常(0~16dB)、軽微(16~26dB)、軽度(26~40dB)、中等度以上(>40dB)とした。 主な結果は以下のとおり。【サンプル1の解析結果】・軽度以上の難聴がある群は、正常~軽微の難聴がある群と比較して、全脳容積が有意に小さく(β:-4.10[標準誤差[SE] 1.76]、p=0.02)、遂行機能も低下していた(β:-0.04[SE 0.01]、p=0.009)。・軽微以上の難聴がある群では、正常聴力群と比較して、白質高信号量の増加が有意に高かった(β:0.03[SE 0.01]、p=0.03)。【サンプル2の解析結果】・15年間の追跡期間中に118例(12.7%)が認知症を発症した。軽微以上の難聴がある群は、正常聴力群と比較して、認知症の発症リスクが高かった(ハザード比[HR]:1.71、95%信頼区間[CI]:1.01~2.90、p=0.045)。・APOE ε4アレルを1つ以上保有する人における解析では、軽微以上の難聴がある群は、正常聴力群と比較して、認知症発症リスクが高かった(HR:2.86、95%CI:1.12~7.28、p=0.03)。一方、APOE ε4非保有者では、難聴による有意なリスク上昇は認められなかった。・軽微以上の難聴がある人において、補聴器を使用していない群では、正常聴力群と比較して、認知症リスクが有意に高かった(HR:1.72、95%CI:1.02~2.91、p=0.043)。補聴器を使用している群ではリスクの有意な上昇は認められなかった。とくにAPOE ε4保有者において、補聴器を使用していない群では、正常聴力群と比較して、認知症リスクの有意な上昇が認められた(HR:2.82、95%CI:1.11~7.16、p=0.03)。 本研究により、中年期以降の難聴は、たとえ軽度であっても脳容積の減少および認知症リスクと関連していることが示された。とくにAPOE ε4保有者においてその影響が大きいことから、著者らは、遺伝的リスクの高い集団に対する早期の聴覚スクリーニングと、補聴器による介入が認知症予防戦略として重要であると結論付けている。

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アブレーション後のAF患者、長期DOAC投与は必要か/NEJM

 1年以上前に心房細動に対するカテーテルアブレーションが成功している脳卒中リスク因子を有する患者において、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)リバーロキサバンの投与は抗血小板薬アスピリンと比較して、3年後の時点での脳卒中、全身性塞栓症、新規潜因性塞栓性脳卒中の複合アウトカムの発生率を低減せず、大出血の頻度は同程度だが、小出血および臨床的に重要な非大出血の発生率が高いことが示された。カナダ・McGill UniversityのAtul Verma氏らOCEAN Investigatorsが国際的な臨床試験「OCEAN試験」の結果を報告した。NEJM誌オンライン版2025年11月8日号掲載の報告。6ヵ国の前向き無作為化試験 OCEAN試験は6ヵ国56施設で実施した研究者主導型の前向き非盲検(アウトカム評価者盲検)無作為化試験であり、2016年3月~2022年7月に参加者の無作為化を行った(Bayerなどの助成を受けた)。 試験登録の1年以上前に、非弁膜症性心房細動に対するカテーテルアブレーションに成功し、CHA2DS2-VAScスコア(0~9点、高スコアほど脳卒中のリスクが高い)が1点以上(女性および血管疾患がリスク因子の患者では2点以上)の患者1,284例(平均年齢66.3[SD 7.3]歳、女性28.6%、平均CHA2DS2-VAScスコア2.2[SD 1.1]点、同スコア3点以上の患者の割合31.9%)を対象とした。 これらの参加者を、アスピリン(施設の所在地域の入手可能状況に応じて70~120mg/日)群643例、またはリバーロキサバン(15mg/日)群641例に無作為に割り付け、3年間追跡した。 有効性の主要アウトカムは、脳卒中、全身性塞栓症、新規潜因性塞栓性脳卒中(MRI上で大きさが15mm以上の新規梗塞が1つ以上と定義)の複合とした。主要アウトカムの構成要素にも差はない 主要アウトカムのイベントは、リバーロキサバン群で5例(0.8%、0.31件/100人年)、アスピリン群で9例(1.4%、0.66件/100人年)に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(相対リスク:0.56、95%信頼区間[CI]:0.19~1.65、3年時の絶対リスク群間差:-0.6%ポイント、95%CI:-1.8~0.5、p=0.28)。 副次アウトカムである脳卒中(リバーロキサバン群0.8%vs.アスピリン群1.1%、相対リスク:0.72、95%CI:0.23~2.25)、全身性塞栓症(0%vs.0%)、新規潜因性塞栓性脳卒中(0%vs.0.3%、0)の発生率は両群間に差がなかった。また、15mm未満の新規脳梗塞の頻度にも差はみられなかった(3.9%vs.4.4%、0.89、0.51~1.55)。主要複合安全性アウトカムも同程度 3年の時点で致死的出血および大出血の複合(主要複合安全性アウトカム)は、リバーロキサバン群で10例(1.6%)、アスピリン群で4例(0.6%)に発現した(ハザード比[HR]:2.51、95%CI:0.79~7.95)。致死的出血の報告はなく、大出血がそれぞれ10例(1.6%)および4例(0.6%)にみられた(2.51、0.79~7.95)。 一方、臨床的に重要な非大出血(リバーロキサバン群5.5%vs.アスピリン群1.6%、HR:3.51、95%CI:1.75~7.03)および小出血(11.5%vs.3.1%、3.71、2.29~6.01)は、リバーロキサバン群で高頻度であった。 著者は、「脳卒中および新規潜因性塞栓性脳卒中の発生率は、両群とも予想を大きく下回った。全体の96%の患者では、3年後のMRIで新規脳梗塞を認めなかった」「心房細動アブレーションが成功し、脳卒中リスク因子を有する患者では、脳卒中の発生はまれであり、抗凝固療法継続の有益性はみられなかった」「本試験の参加者と同程度の脳卒中リスクを有するアブレーション成功後の心房細動患者では、アスピリンまたは抗凝固療法のいずれかを継続することが妥当と考えられるが、患者は抗凝固療法には臨床的に重要な出血リスクの増加が伴うことを認識すべきだろう」としている。

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認知症になりやすい遺伝的背景のある糖尿病患者も生活習慣次第でリスクが著明に低下

 2型糖尿病患者が心臓や血管に良い生活習慣を続けた場合、認知機能の低下を防ぐことができる可能性が報告された。特に、認知症リスクが高い遺伝的な背景を持つ人では、この効果がより大きいという。米テュレーン大学のYilin Yoshida氏らの研究によるもので、詳細は米国心臓協会(AHA)年次学術集会(AHA Scientific Sessions 2025、11月7~10日、ニューオーリンズ)で発表された。 AHA発行のリリースの中でYoshida氏は、「2型糖尿病患者は認知機能低下のリスクが高く、これには複数の因子が関連している。例えば、肥満、高血圧、インスリン抵抗性などが認知機能低下に関連していると考えられる。そして、それらの因子をコントロールすることは、心臓や血管の健康状態を維持・改善することにもつながる」と述べている。 この研究では、英国の一般住民を対象とした大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者のうち、認知症でない4万人以上の成人2型糖尿病患者を対象に、認知症の遺伝的リスクと、心臓や血管の健康状態を調査した。後者の「心臓や血管の健康状態」の調査では、AHAが提唱している「Life’s Essential 8(健康に欠かせない8項目)」の遵守状況を調べた。具体的には、Life’s Essential 8に含まれている4項目の生活習慣と4項目の検査値をそれぞれスコア化した上で、不良、中程度、良好という3群に分類した。なお、Life’s Essential 8の8項目は以下のとおり。1. 健康に良い食習慣2. 積極的な身体活動3. タバコを吸わない4. 健康的な睡眠5. 適正体重の維持6. コレステロールのコントロール7. 血糖値のコントロール8. 血圧のコントロール この研究参加者の健康状態を13年間にわたって追跡したところ、840人が軽度認知障害となり、1,013人が認知症を発症していた。心臓や血管の健康状態が中程度または良好な人は不良の人に比べて、軽度認知障害または認知症を発症するリスクが15%低かった。また、心臓や血管の健康状態は、認知機能にとって重要な脳の灰白質という部分の体積と強い関連があった。 これらの関連は、対象者の遺伝的な認知症リスクを考慮に入れた解析により、いっそう明確に示された。つまり、認知症リスクが高い遺伝的な背景を持つ人では、そのリスクが低い、または中程度の人に比べて、心臓や血管の健康状態が良好であることで、軽度認知障害または認知症を発症するリスクが顕著に抑制されていた。より具体的には、心臓や血管の健康状態が不良の同世代の人に比べた場合に、軽度認知障害のリスクは27%低く、認知症のリスクは23%低かった。 研究グループの一員である同大学のXiu Wu氏は、「運命は遺伝子で規定されるものではない。心臓と血管の健康を最適な状態に維持することで、遺伝的に認知症リスクが高い2型糖尿病患者であっても、脳の健康を守ることができる」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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AIがわずかな精子を検出、不妊カップルが妊娠成功

 19年にわたり不妊治療を受けていたカップルの男性の精子から、高度な人工知能(AI)を用いたシステムにより2匹の運動能力のある精子を特定。これを卵子に注入したところ、2つの胚が発育し、それを母親に移植した結果、妊娠が成功したとする研究結果が報告された。研究グループは、「この新しい技術は、男性が無精子症である他の不妊カップルにも役立つ可能性がある」と述べている。米コロンビア大学不妊治療センター所長のZev Williams氏らによるこの研究結果は、「The Lancet」11月8日号に掲載された。 研究の背景情報によると、不妊症の約40%は男性側の要因によるもので、精液中に精子がほとんど存在しないか、全く検出できない無精子症や極少精子症がその約10〜15%を占めている。このようなカップルの多くが、長年にわたり不妊治療の失敗、侵襲的処置、精神的苦痛を繰り返し経験する。現在の不妊症の標準治療は、精巣内精子採取術(TESE)や熟練した胚培養士による手作業での精子探索を経て顕微授精(ICSI)を行うというものだが、これらは時間がかかり、侵襲的である上に成功率も限られている。Williams氏は、「精子数が極めて少ない男性の精液から生存可能な精子を特定し、採取するより良い方法を見つけることが、この分野では長年の課題となっていた」と話す。 こうした課題を解決するためにWilliams氏らは、AIとマイクロ流体技術を組み合わせて精液サンプルからわずかな精子を高速で探索し、リアルタイムで検出・採取する、非侵襲的なSperm Tracking and Recovery(STAR)システムを開発した。STARシステムは、高性能画像技術を使って精液サンプルをスキャンし、1時間以内に110万枚以上の画像を解析できる。検出された精子は、マイクロ流体デバイスにより自動的に分離される。 今回の研究では、19年の不妊治療歴を有するカップルに対し、このSTARシステムを初めて臨床で応用した例が報告された。カップルのうち、男性(39歳)は、包括的な検査から、Y染色体およびホルモン値は正常だが両側精巣の萎縮と小結石が認められ、過去に受けた複数回の広範囲な精子検査ではごくわずかな精子しか見つかっていなかった。一方、女性(37歳)には、卵巣予備能の著しい低下が見られた。 Williams氏らは、男性から採取した精液サンプル(3.5mL)を洗浄し、800μLのバッファーに懸濁し、STARシステムで処理した。その結果、通常の顕微鏡検査では精子は検出されなかったのに対し、STARシステムは、約2時間で250万枚の画像を解析し、7匹の精子を検出した。これらの精子のうち、運動性が正常だった2匹と2個の卵子を用いてICSIを行ったところ、両方とも分割期胚に発育。それらを3日目に移植したところ、移植13日目に妊娠反応が陽性となり、妊娠8週時点で胎児の心拍も確認された。 Williams氏は、「男性の要因による不妊症のカップルの多くは、生物学的な子どもを授かる可能性はほとんどないと告げられる。しかし、胚を作るのに必要なのは、たった1匹の健康な精子だけだ」と強調する。研究グループは、このSTARシステムは、精巣から精子を外科的に採取する手順や、技術者が精液サンプルを手作業で丹念に検査し、生存可能な精子を見つけて捕獲する手順に取って代わる可能性があると述べている。 研究グループは現在、より大規模な臨床試験を実施して、STARシステムの有効性を評価している最中である。(HealthDay News 2025年11月5日)

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1型糖尿病患者の妊娠中の血糖管理にクローズドループ療法は有効である(解説:小川大輔氏)

 1型糖尿病の治療法として、インスリン頻回注射やインスリンポンプが使用されているが、近年は持続血糖モニタリングのデータを利用してインスリンの注入量を自動的に調節するクローズドループ型のインスリン注入システム(クローズドループ療法)が用いられるようになっている。クローズドループ療法は、成人や小児の1型糖尿病の血糖管理に有効であることが報告されているが、妊娠中の1型糖尿病に対しては報告が少なく一定の見解が得られていない。今回1型糖尿病患者の妊娠中の血糖管理におけるクローズドループ療法の効果を検討したCIRCUIT試験の結果が発表された1)。 妊娠中の血糖のコントロール目標は、空腹時血糖値95mg/dL未満、かつ食後2時間値120mg/dL未満と、通常より厳格な管理が求められている2)。そして妊娠中の糖尿病の治療は食事療法と運動療法が基本となり、それでも血糖コントロールが不十分な場合はインスリン療法を行う。妊娠糖尿病(妊娠中に初めて発見された糖代謝異常)は食事療法と運動療法のみで血糖値を管理できることが多いが、薬物療法が必要となった場合は通常の糖尿病治療と異なり、経口血糖降下薬を用いることはなく直ちにインスリン療法を行う。1型糖尿病合併妊娠の場合、ペンによるインスリン注射やインスリンポンプを継続し、妊娠週数と共にインスリン需要量が増加するため、血糖値をモニタリングしながらインスリン投与量の調節を行うことになる。 このCIRCUIT試験は、1型糖尿病で妊娠中の血糖管理におけるクローズドループ療法の有効性を検討した試験である。クローズドループ療法は標準治療と比較して、妊娠16週から34週までの妊娠中の目標血糖値(63~140mg/dL)達成時間の割合(TIR)を有意に改善させたことが報告された。通常のクローズドループ療法ではTIRが70~180mg/dLに設定されているが、この試験は対象が妊娠中ということで通常より厳格な目標が設定されている。それでもクローズドループ療法ではTIRが65.4%と良好な血糖コントロールが得られていたことは注目に値する。主な有害事象としては、重症低血糖がクローズドループ療法で1例、糖尿病性ケトアシドーシスがクローズドループ療法で2例、標準治療で1例報告されたが、対象の症例数が少なく(クローズドループ療法44例、標準治療44例)今後の検討が必要である。 今回の研究により、1型糖尿病患者の妊娠中の血糖管理におけるクローズドループ療法の有効性が示された。今後、1型糖尿病合併妊娠の血糖管理にクローズドループ療法を用いる頻度が増え、妊娠に伴う合併症の発生が低減することを期待したい。ただ本試験では、日本では未承認のタンデム社製Control-IQインスリンポンプが使用されている点には注意が必要である。

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第271回 18.3兆円補正予算案、医療・介護1.4兆円を計上 病床削減基金と賃上げ支援を両立へ/政府

<先週の動き> 1.18.3兆円補正予算案、医療・介護1.4兆円を計上 病床削減基金と賃上げ支援を両立へ/政府 2.OTC類似薬を保険から外さず 選定療養型の負担上乗せを検討/厚労省 3.インフルエンザが記録的ペースで拡大、39都道府県で警報レベルに/厚労省 4.医師偏在是正へ、自由開業原則が転換点に 都市部抑制が本格化/政府 5.病院7割赤字・診療所も利益率半減の中、診療報酬改定の基本方針まとまる/厚労省 6.介護保険の負担見直し本格化 現役世代の保険料増に対応/厚労省 1.18.3兆円補正予算案、医療・介護1.4兆円を計上 病床削減基金と賃上げ支援を両立へ/政府政府は11月28日、2025年度補正予算案(一般会計18.3兆円)を閣議決定した。電気・ガス料金支援や食料品価格対策など物価高対応に加え、AI開発や造船業を含む成長投資、危機管理投資を盛り込んだ大型編成となった。歳入の6割超を国債追加発行で賄う一方、補正予算案は今後の国会審議で与野党の議論に付される。野党は「規模ありきで緊要性に疑問がある項目もある」とし、効果の精査を求める姿勢。厚生労働省関連では、総額約2.3兆円を計上し、その中心となる「医療・介護等支援パッケージ」には1兆3,649億円を充てる。医療現場では物価高と人件費上昇を背景に病院の67%超が赤字に陥っており、政府は緊急的な資金投入を行う。医療機関への支援では、病院に対し1床当たり計19.5万円(賃金分8.4万円・物価分11.1万円)を交付し、救急を担う病院には受入件数などに応じて500万円~2億円の加算を認める。無床診療所には1施設32万円、薬局・訪問看護にも相応の支援額を措置し、医療従事者の賃上げと光熱費上昇分の吸収を図る。介護分野では、介護職員1人当たり最大月1.9万円の「3階建て」賃上げ支援を半年分実施する。処遇改善加算を前提とした1万円に、生産性向上の取り組みで5千円、職場環境改善で4千円を積み増す仕組みで、慢性的な人材不足に対応する狙いとなっている。一方で、今回の補正予算案は「病床適正化」を強力に後押しする構造転換型の性格も持つ。人口減少に伴い全国で11万床超が不要になると見込まれるなか、政府は「病床数適正化緊急支援基金」(3,490億円)を新設し、1床削減当たり410万4千円、休床ベッドには205万2千円を支給する。応募が殺到した昨年度補正を踏まえ、今回はより広範な病院の撤退・統合を促す政策的メッセージが込められている。日本医師会は「補正は緊急の止血措置に過ぎず、本格的な根治治療は2026年度診療報酬改定」と強調するとともに、「医療機関の経営改善には、物価・賃金上昇を踏まえた恒常的な財源措置が不可欠」と訴えている。補正予算案は12月上旬に国会へ提出される予定で、与党は成立を急ぐ。一方で、野党は財源の国債依存や事業の妥当性を追及する構えで、賃上げ・病床再編など医療政策の方向性が国会審議で問われる見通し。 参考 1) 令和7年度厚生労働省補正予算案の主要施策集(厚労省) 2) 令和7年度文部科学省関係補正予算案(文科省) 3) 25年度補正予算案18.3兆円、政府決定 物価高対策や成長投資(日経新聞) 4) 補正予算案 総額18兆円余の規模や効果 今後の国会で議論へ(NHK) 5) 厚生労働省の今年度の補正予算案2.3兆円 医療機関や介護分野への賃上げ・物価高対策の「医療・介護等支援パッケージ」に約1.3兆円(TBS) 6) 令和7年度補正予算案が閣議決定されたことを受けて見解を公表(日本医師会) 7) 介護賃上げ最大月1.9万円 医療介護支援に1.3兆円 補正予算案(朝日新聞) 2.OTC類似薬を保険から外さず、選定療養型の負担上乗せを検討/厚労省厚生労働省は、11月27日に開催された「社会保障審議会 医療保険部会」において、市販薬と成分や効能が近い「OTC類似薬」の保険給付の在り方について、医療費適正化の一環として保険適用から外す方針を変更し、自己負担を上乗せとする方向を明らかにした。日本維新の会は自民党との連立政権合意書には、「薬剤の自己負担の見直しを2025年度中に制度設計する」と明記されていたため、維新側からは「保険適用から外すべき」との主張もあった。しかし、社会保障審議会・医療保険部会や患者団体ヒアリングでは、負担増による受診控えや治療中断への懸念が強く示され、11月27日の部会では「保険給付は維持しつつ、患者に特別の自己負担を上乗せする」案が厚労省から提示され、異論なく事実上了承された。追加負担の設計にあたっては、選定療養の仕組みを参考に、通常の1~3割負担に加え一定額を患者が負担するイメージが示されている。一方で、18歳以下、指定難病やがん・アレルギーなど長期的な薬物療法を要する患者、公費負担医療の対象者、入院患者などについては、特別負担を課さない、あるいは軽減する方向での配慮が必要との意見が相次いだ。低所得者への配慮と、現役世代の保険料負担抑制のバランスが論点となる。どの薬を特別負担の対象とするかも課題である。OTC類似薬といっても、有効成分が同じでも用量や効能・効果、剤形などが市販薬と異なる場合が多く、「単一成分で、用量・適応もほぼ一致し、市販薬で代替可能な医薬品」に絞るべきとの指摘が出ている。日本医師会からは、製造工程の違いによる効果の差や、個々の患者の病態に応じた代替可能性の検証が不可欠とされ、制度が複雑化して現場負担が過度に増えないよう、シンプルな設計を求める声も挙がった。同じ部会では、「効果が乏しいとのエビデンスがある医療」として、急性気道感染症の抗菌薬投与に加え、「神経障害性疼痛を除く腰痛症へのプレガバリン投与」を医療費適正化の重点として例示する案も提示された。高齢化と医療高度化で膨張する医療費のもと、OTC類似薬の特別負担導入と低価値医療の抑制を組み合わせ、保険財政の持続可能性を確保しつつ、必要な受診や治療をどう守るかが、今後の診療報酬改定・制度改革の大きな焦点となる。 参考 1) OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方について(厚労省) 2) OTC類似薬“保険給付維持 患者自己負担上乗せ検討”厚労省部会(NHK) 3) OTC類似薬、保険適用維持へ 患者負担の追加は検討 厚労省(朝日新聞) 4) OTC類似薬の保険給付維持、厚労省が軌道修正 患者に別途の負担求める方針に(CB news) 3.インフルエンザが記録的ペースで拡大、39都道府県で警報レベルに/厚労省全国でインフルエンザの流行が急拡大している。厚生労働省によると、11月17~23日の1週間に定点約3,000ヵ所から報告された患者数は19万6,895人で、1医療機関当たり51.12人と今季初めて50人を突破。前週比1.35倍と増勢が続き、現在の集計方式で最多を記録した昨年末(64.39人)に迫る水準となった。都道府県別では宮城県(89.42人)、福島県(86.71人)、岩手県(83.43人)など東北地方を中心に39都道府県で「警報レベル」の30人を超えた。愛知県で60.16人、東京都で51.69人、大阪府で38.01人など大都市圏でも増加している。学校などの休校や学級・学年閉鎖は8,817施設と前週比1.4倍に急増し、昨季比で約24倍と際立つ。流行の早期拡大により、ワクチン接種が十分に行き届く前に感染が広がった可能性が指摘されている。また、国立健康危機管理研究機構が、9月以降に解析したH3亜型からは、新たな「サブクレードK」が13検体中12検体で検出され、海外でも報告が増えている。ワクチンの有効性に大きな懸念は現時点で示されていないが、感染力がやや高い可能性があり、免疫のない層が一定数存在するとの見方がある。小児領域では、埼玉県・東京都などで入院児が増加し、小児病棟の逼迫例も報告される。インフルエンザ脳症など重症例も散見され、昨季と同様の医療逼迫が年末にかけ迫る可能性が指摘されている。専門家は、学校での換気や症状時のマスク着用、帰宅時の手洗い徹底に加え、ワクチン接種の早期検討を促している。新型コロナの感染者は減少傾向にあるが、インフルエンザの急拡大に備え、社会全体での感染対策と医療体制の確保が急務となっている。 参考 1) 2025年 11月28日 インフルエンザの発生状況について(厚労省) 2) インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(同) 3) インフル全国で流行拡大、感染者は前週の1.35倍 新たな変異も(朝日新聞) 4) インフルエンザの患者数 1医療機関当たり 今季初の50人超え(NHK) 5) インフル感染19万人、2週連続で「警報レベル」 コロナは減少(産経新聞) 4.医師偏在是正へ、自由開業原則が転換点に 都市部抑制が本格化/政府政府は、深刻化する医師偏在を是正するため、医療法などを改正する法案を衆議院本会議で可決した。今国会中の成立が見込まれている。改正案では、都市部に集中する外来医師数を抑制し、医療資源の維持が難しい地域への医師誘導を強化する内容で、開業規制の導入は戦後初の本格的措置となる。背景には、2040年前後に85歳以上の高齢者人口が急増し、救急・在宅医療需要が著しく高まる一方、生産年齢人口は全国的に減少し、地域により医療提供体制の崩壊リスクが顕在化している構造的問題がある。改正案では、都道府県が「外来医師過多区域」を指定し、当該区域で新規開業を希望する医師に対し、救急・在宅などの不足機能への従事を要請できる仕組みを導入する。開業6ヵ月前の事前届出制を新設し、要請への不従事が続く場合は医療審議会で理由説明を求め、公表や勧告、保険医療機関指定期間の短縮(6年→3年)を可能とする強力な運用が盛り込まれた。一方、医師が不足する地域については「重点医師偏在対策支援区域」を創設し、診療所承継・開業支援、地域定着支援、派遣医師への手当増額など、経済的インセンティブを付与する。財源は健康保険者の拠出とし、現役世代の保険料負担の上昇が避けられない可能性も指摘されている。また、保険医療機関の管理者には、一定の保険診療経験(臨床研修2年+病院での保険診療3年)を要件化し、医療機関の質の担保を強化する。加えて、オンライン診療の法定化、電子カルテ情報共有サービスの全国導入、美容医療の届出義務化など、医療DXを基盤とした構造改革も並行して進める。今回の法改正は、「医師の自由開業原則」に制度的な調整を加える大きな転換点であり、診療所の新規開設や地域包括ケアとの連携、勤務環境整備に大きな影響を与えるとみられる。 参考 1) 医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について(厚労省) 2) 医師の偏在対策 医療法改正案が衆院本会議で可決 参院へ(NHK) 3) 医師偏在是正、衆院通過 開業抑制、DXを推進(共同通信) 5.病院7割赤字・診療所も利益率半減の中、診療報酬改定の基本方針まとまる/厚労省2026年度診療報酬改定に向け、厚労省は社会保障審議会医療部会を開き、令和8年度診療報酬改定の基本方針(骨子案)を明らかにした。これに加えて、医療経済実態調査、日本医師会からの要望が出そろい、改定論議が最終局面に入った。骨子案は4つの視点を掲げ、このうち「物価や賃金、人手不足等への対応」を「重点課題」と位置付ける。物価高騰と2年連続5%超の春闘賃上げを背景に、医療分野だけ賃上げが遅れ、人材流出リスクが高まっているとの認識だ。一方で、24年度医療経済実態調査では、一般病院の損益率(平均値)は-7.3%、一般病院の約7割が赤字と報告された。診療所も黒字は維持しつつ損益率は悪化し、医療法人診療所の利益率は前年度のほぼ半分に低下している。急性期ほど材料費比率が高く、物価高と医薬品・診療材料費の上昇が経営を直撃している構図が鮮明になった。日本医師会の松本 吉郎会長は、26年度改定では「単年度の賃金・物価上昇分を確実に上乗せする」対応を現実的選択肢とし、基本診療料(初再診料・入院基本料)を中心に反映すべきと主張する。ベースアップ評価料は対象職種が限定されており、現場の賃上げに十分つながっていないとの問題意識だ。さらに、改定のない奇数年度にも賃金・物価動向を当初予算に自動反映する「実質・毎年改定」を提案し、物価スライド的な仕組みの恒常化を求めているが、財源にも制約があるため先行きは不明。厚生労働省が示した骨子案には、物価・賃金対応に加え、「2040年頃を見据えた機能分化と地域包括ケア」「安心・安全で質の高い医療」「効率化・適正化による制度の持続可能性」を並列して掲げる。後発品・バイオ後続品の使用促進、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し、費用対効果評価の活用など、負担増や給付適正化を通じた現役世代保険料抑制も明記されており、医療側が求める「救済一色」とはなっていない。医療部会では、病院団体から「過去2年分の賃上げの未達分も含めた上積み」や、医療DXとセットでの人員配置基準の柔軟化を求める声が上がる一方、保険者・経済界からは「視点1だけを重点課題とするのは違和感」「経営状況に応じたメリハリ配分を」との意見も出された。地域医療については、在宅医療・訪問看護や「治し支える医療」の評価、過疎地域の実情を踏まえた評価、かかりつけ医機能の強化などを通じ、2040年の高齢化ピークと医療人材不足に耐え得る体制構築をめざす。しかし、医療経済実態調査が示すように、一般病院も診療所もすでに利益率は薄く、「診療所の4割赤字から7割赤字の病院へ財源を振り替えても地域医療は守れない」とする日本医師会の主張も重くのしかかる。補正予算での物価・賃金対応は「大量出血に対する一時的な止血」に過ぎず、26年度本体改定でどこまで「根治療法」に踏み込めるかが焦点となる。この骨子案をもとにして、12月上旬に基本方針が正式決定され、年末の改定率、来年以降の中医協個別項目論議へと舞台は移る。医療機関の経営と人材確保に直結するため、次期改定に向けて「真水」の財源確保と、DX・タスクシフトを含む構造改革のバランスに注視する必要がある。 参考 1) 令和8年度診療報酬改定の基本方針 骨子案(厚労省) 2) 2026年度診療報酬改定「基本方針」策定論議が大詰め、「物価・人件費高騰に対応できる報酬体系」求める声も-社保審・医療部会(Gem Med) 3) 医療人材確保が困難さを増す中「多くの医療機関を対象にDX化による業務効率化を支援する」枠組みを整備-社保審・医療部会(同) 4) 日医・松本会長 26年度改定で賃金物価は単年度分上乗せが「現実的」 27年度分は大臣折衝で明確化を(ミクスオンライン) 5) 厚労省・24年度医療経済実態調査 医業費用の増加顕著 急性期機能高いほど材料費等の上昇が経営を圧迫(同) 6) 24年度の一般病院の損益率は▲7.3%、一般診療所は損益率が悪化-医療経済実態調査(日本医事新報) 6.介護保険の負担見直し本格化 現役世代の保険料増に対応/厚労省高齢化による介護給付費の増大を背景に、厚生労働省は介護保険サービス利用時に「2割負担」となる対象者の拡大を本格的に検討している。介護保険は、現在、原則1割負担で、単身年収280万円以上が2割、340万円以上が3割負担とされているが、所得基準を280万円から230~260万円へ引き下げる複数案が示され、拡大対象者は最大33万人に達する。介護保険の制度改正によって、年間で40~120億円の介護保険料の圧縮効果が見込まれ、財政面では国費20~60億円、給付費80~240億円の削減に寄与するとされる。現役世代の保険料負担が増す中で、所得や資産のある高齢者に応分の負担を求める狙いがある。一方、新たに2割負担となる利用者では、1割負担時に比べ最大月2万2,200円の負担増が生じるため、厚労省は急激な負担増を避ける「激変緩和策」として、当面は増額分を月7,000円までに抑える案を提示。預貯金額が一定額以下の利用者(単身300~700万円、または500万円以下など複数案)については申請により1割負担を据え置く仕組みも検討されている。資産要件の把握には、特別養護老人ホームの補足給付で用いられている金融機関照会の仕組みを参考に、自治体が認定証を交付する方式が想定されている。介護保険の自己負担率引き上げは、2015年の2割導入、2018年の3割導入以降も議論が続いてきたが、高齢者の負担増への反発で3度先送りされてきた。政府は、2025年末までに結論を出す方針を示し、現役世代の急速な負担増への対応は喫緊の課題となっている。26年度からは少子化対策による医療保険料上乗せも始まり、改革の遅れは賃上げ効果を相殺し国民負担をさらに押し上げる懸念が指摘される。今回の試算と緩和策の提示により、年末の社会保障審議会での議論が加速するとみられる。 参考 1) 介護保険料40~120億円圧縮 2割負担拡大巡り厚労省4案(日経新聞) 2) 介護保険料120億円減も 2割負担拡大で厚労省試算(共同通信) 3) 介護保険サービス自己負担引き上げで増額の上限を検討 厚労省(NHK)

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英語で「血尿」ってどう言う?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第40回

医学用語紹介:血尿 hematuria今回は「血尿」について説明します。医療現場ではhematuriaという専門用語が使われますが、患者さんとの会話ではどのような一般的な英語表現を使えばよいでしょうか?講師紹介

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がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版 第3版

がん診療の現場で役立つ、せん妄に関する指針を3年ぶりに改訂!せん妄はがん医療の現場において高頻度で認められる病態であり、超高齢社会を迎えた日本では今後さらに、せん妄の予防と対策が重要となる。今版では、予防ではラメルテオンとオレキシン受容体拮抗薬に関する臨床疑問を、症状緩和では抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬・抗ヒスタミン薬の併用に関する臨床疑問を追加した。また総論の章には、臨床現場で重要となるアルコール離脱せん妄や術後せん妄をはじめとした7項目の解説が新たに追加されている。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するがん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版 第3版定価3,300円(税込)判型B5判頁数264頁発行2025年9月編集日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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