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自閉スペクトラム症に対する非定型抗精神病薬の有効性〜ネットワークメタ解析

 自閉スペクトラム症(ASD)患者は、社会的な交流や行動に関連する多様な症状を呈する。非定型抗精神病薬は、小児および成人ASD患者の易刺激性、攻撃性、強迫観念、反復行動などの苦痛を伴う症状の治療に広く用いられてきた。しかし、その効果と相対的な有効性は依然として明らかではなかった。チリ・Universidad de ValparaisoのNicolas Meza氏らは、ASDに対する非定型抗精神病薬の有効性を明らかにするため、ネットワークメタ解析を実施した。The Cochrane Database of Systematic Reviews誌2025年5月21日号の報告。 小児および成人ASD患者を対象とした短期フォローアップ調査において、易刺激性に対する非定型抗精神病薬の相対的ベネフィットを評価するため、ネットワークメタ解析を実施した。さらに、短期、中期、長期フォローアップにおける、小児および成人ASD患者のさまざまな症状(攻撃性、強迫行動、不適切な発言など)と副作用(錐体外路症状、体重増加、代謝性副作用など)に対する非定型抗精神病薬のベネフィット/リスクについて、プラセボ群または他の非定型精神病薬との比較を行い、評価した。CENTRAL、MEDLINEおよびその他10のデータベース、2つのトライアルレジストリーを検索し、リファレンスの確認、引用文献の検索、研究著者への連絡を行い、対象研究を選定した(最終検索:2024年1月3日)。ASDと診断された小児および成人を対象に、非定型抗精神病薬とプラセボまたは他の非定型抗精神病薬と比較したランダム化比較試験(RCT)を対象に含めた。重要なアウトカムは、易刺激性、攻撃性、体重増加、錐体外路症状、強迫行動、不適切な発言とした。バイアスリスクの評価には、Cochrane RoB 2ツールを用いた。易刺激性の複合推定値には頻度主義ネットワークメタ解析、その他のアウトカムにはランダム効果モデルを用いて、対比較統計解析を実施した。エビデンスの確実性の評価には、GRADEを用いた。 主な結果は以下のとおり。・17研究、1,027例をネットワークメタ解析に含めた。成人対象は1研究(31例)、残りの16研究(996例)は小児対象であった。非定型抗精神病薬には、リスペリドン、アリピプラゾール、ルラシドン、オランザピンが含まれた。・易刺激性についてのネットワークメタ解析では、小児ASDに対してリスペリドンとアリピプラゾールは、プラセボ群と比較し、短期的に易刺激性の症状軽減に有効である可能性が示唆された。ルラシドンはプラセボと比較し、短期的な易刺激性に対する効果に、ほとんどまたはまったく差はないと考えられる。【リスペリドン】平均差(MD):-7.89、95%信頼区間(CI):-9.37〜-6.42、13研究、906例、エビデンスの確実性:低【アリピプラゾール】MD:-6.26、95%CI:-7.62〜-4.91、13研究、906例、エビデンスの確実性:低【ルラシドン】MD:-1.30、95%CI:-5.46〜2.86、13研究、906例、エビデンスの確実性:中・その他のアウトカムについては、小児ASDにおける短期フォローアップ調査において、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較し、攻撃性に及ぼす影響が、非常に不確実であることが示唆された(リスク比[RR]:1.06、95%CI:0.96〜1.17、1研究、66例、エビデンスの確実性:非常に低)。バイアスリスクと重大な不正確さの懸念から、エビデンスの確実性は非常に低いと考えられる。・小児ASDにおける短期フォローアップ調査において、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較し、体重増加の発生に及ぼす影響が、非常に不確実であることが示唆された(RR:2.40、95%CI:1.25〜4.60、7研究、434例、エビデンスの確実性:非常に低)。短期的な体重増加についても、非常に不確実であった(MD:1.22kg、95%CI:0.55〜1.88、3研究、297例、エビデンスの確実性:非常に低)。いずれの研究においても、バイアスリスクと重大な不正確さの懸念から、エビデンスの確実性は非常に低いと考えられる。・小児ASDにおける短期的な錐体外路症状の発生に対する非定型抗精神病薬の及ぼす影響は、プラセボと比較し、非常に不確実であった(RR:2.36、95%CI:1.22〜4.59、6研究、511例、エビデンスの確実性:非常に低)。バイアスリスクと重大な不正確さの懸念から、エビデンスの確実性は非常に低いと考えられる。・小児ASDにおいて、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較、短期的に強迫行動を改善する可能性が示唆された(MD:-1.36、95%CI:-2.45〜-0.27、5研究、467例、エビデンスの確実性:低)。バイアスリスクと異質性への懸念から、エビデンスの確実性は低い。・小児ASDにおいて、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較、短期的に不適切な発言を減少させる可能性が示唆された(MD:-1.44、95%CI:-2.11〜-0.77、8研究、676例、エビデンスの確実性:低)。バイアスリスクと異質性への懸念から、エビデンスの確実性は低い。・他の非定型抗精神病薬の効果は評価不能であった。・利用可能な研究が不足していたため、成人ASDに関する知見は得られなかった。 著者らは「リスペリドンおよびアリピプラゾールは、プラセボと比較し、短期的に小児ASDの易刺激性の症状を改善する可能性が示唆されたが、ルラシドンは、ほとんどまたはまったくないと考えられる。その他の有効性および潜在的な安全性に関しては、中〜非常に低い確実性のエビデンスとなっていた。現在利用可能なデータでは、包括的なサブグループ解析を行うことはできなかった。非定型抗精神病薬による介入の有効性および安全性を十分な確実性をもってバランスを取るためには、より大規模なサンプルによる新たなRCTが必要である。とくに成人ASDを対象とした研究が求められる。また、研究著者は、対象集団と介入の特性を透明化し、可能な場合には患者別、個別のデータを提供する必要があり、さらにデータの統合プロセスにおける問題を回避するためにも、各アウトカムについての一貫した測定方法を確立する必要がある」と結論付けている。

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溶連菌咽頭炎への抗菌薬、10日間から短縮可能?

 本邦では、『気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言(改訂版)』1)において、A群溶血性レンサ球菌(GAS)が検出された急性咽頭・扁桃炎に対して、抗菌薬を投与する場合にはアモキシシリン内服10日間を検討することが推奨されている。ただし、海外では臨床的な治療成功については、短期治療(5~7日)が10日間の治療と同等であるいう報告もあり、短期治療の可能性が検討されている。 2022年にニュージーランドで実施された抗菌薬適正使用の取り組みの一環として、GAS咽頭炎に対する抗菌薬治療期間の短縮が、地域的に促進された。この介入により、抗菌薬の投与期間が10日間から5日間や7日間などへ短縮されるようになったが、治療成績に及ぼす影響は明らかになっていなかった。そこで、Max Bloomfield氏(Awanui Laboratories、Te Whatu Ora/Health New Zealand)らの研究グループは、後ろ向きコホート研究により治療期間の短縮の影響を検討した。その結果、治療期間を短縮しても治療成績に悪影響はみられなかった。本研究結果は、Open Forum Infectious Diseases誌2025年6月6日号に掲載された。 本研究では、ニュージーランド・ウェリントン地域の検査所において、咽頭ぬぐい液培養によりGAS陽性と報告された患者のうち、報告時点で抗菌薬が処方されていなかった患者を対象とした。対象患者を2022年の抗菌薬適正使用の取り組みの実施前と実施後で2群(介入前群851例、介入後群1,746例)に分類し、抗菌薬治療期間、GAS再陽性、再治療、予定外入院、感染に関連する入院、家庭内感染、急性リウマチ熱について解析した。 主な結果は以下のとおり。・抗菌薬10日間治療の割合は介入前群68.7%、介入後群41.0%であった。5日間治療はそれぞれ2.4%、21.2%であった。抗菌薬非投与はそれぞれ24.9%、28.0%であった。・主な抗菌薬の内訳は、penicillin Vが介入前群75.9%、介入後群80.9%であり、アモキシシリンがそれぞれ19.4%、11.1%、セファレキシンがそれぞれ0.9%、3.8%であった。・介入前後の治療成績は、いずれの評価項目も両群間に有意差はみられなかった。介入前後の治療成績は以下のとおり(介入前群vs.介入後群、調整オッズ比[aOR]、95%信頼区間[CI]、p値を示す)。 -GAS再陽性:3.5%vs.2.7%、0.78、0.48~1.25、p=0.30 -再治療(抗菌薬再処方):12.8%vs.12.9%、1.02、0.79~1.31、p=0.88 -予定外入院:0.1%vs.0.5%、3.98、0.50~31.84、p=0.19 -咽頭・頭頸部感染による入院:0.0%vs.0.2% -家庭内感染:6.3%vs.6.5%、0.96、0.69~1.36、p=0.86 -急性リウマチ熱:両群0例・治療期間別にみた再治療割合は、抗菌薬非投与の集団で高い傾向にあった。各治療期間の再治療割合は以下のとおり。 -10日間:11.4%(参照) -7日間:11.7%(aOR:1.01、95%CI:0.59~1.73、p=0.98) -5日間:12.7%(aOR:1.10、95%CI:0.75~1.64、p=0.63) -非投与:15.6%(aOR:1.80、95%CI:1.26~2.55、p<0.01)・治療期間別にみた家庭内感染割合は、5日間治療の集団で低い傾向にあった。各治療期間の家庭内感染割合は以下のとおり。 -10日間:7.0%(参照) -7日間:6.2%(aOR:0.81、95%CI:0.40~1.65、p=0.57) -5日間:4.0%(aOR:0.52、95%CI:0.28~0.97、p=0.04) -非投与:7.1%(aOR:1.04、95%CI:0.64~1.68、p=0.89)・GAS再陽性の割合は、治療期間による差はみられなかった。 本研究結果について、著者らは「本コホートでは、GAS咽頭炎に対する抗菌薬治療期間を短縮しても、治療成績に悪影響はみられなかった。また、他の研究では短期治療によりGASの除菌率が低下することが報告されているが、本研究では短期治療により家庭内感染は増加しなかった。これは新たな発見である」とまとめた。

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7月13日開催、講習会『イノベーション委員会プログラム』【ご案内】

 日本抗加齢医学会の新たな試みとなる講習会『イノベーション委員会プログラム』が、7月13日(日)に日本橋ライフサイエンスハブで開催される。「アンチエイジングからイノベーションを起こす」をテーマに、医療現場の第一線で活躍する医師・研究者でありながら、実際にビジネスを立ち上げた“起業家ドクター”が多数登壇する。彼らのリアルな体験と挑戦、そして事業化へのヒントが凝縮された、ここでしか聞けない貴重な講演が行われる。 終了後には、登壇講師や関係者と直接話せる懇親会を同会場にて開催。講師への相談や名刺交換など、貴重なネットワーキングの場として活用することができる。 主催の日本抗加齢医学会 イノベーション委員会は「日々の診療や研究から課題解決のアイデアを形にしたい方、起業や事業化に興味がある方、医療×経営・ビジネスに関心がある方、医師や起業家と直接交流し人脈を広げたい方は、ぜひ参加登録をお願いしたい」と呼び掛ける。 開催概要は以下のとおり。開催日時:7月13日(日)10:00~15:00 ※講習会終了後に懇親会を実施開催場所:日本橋ライフサイエンスハブ    〒103-0022 東京都中央区日本橋室町1-5-5 室町ちばぎん三井ビルディング8階開催形式:現地開催参加費 :3万3,000円(日本抗加齢医学会会員 2万2,000円)申込締切:7月4日(金)まで■参加登録はこちら【プログラム】オープニングリマークス:坪田 一男氏(イノベーション委員会)座長:新村 健氏 (イノベーション委員会) 10:00~10:50 「大学発スタートアップの意義と実例」 森下 竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学 寄附講座)10:50~11:40 「未定」 坪田 一男氏(株式会社坪田ラボ)11:40~12:20 休憩 座長:坪田 一男氏(イノベーション委員会)12:20~13:10 「未定」 石見 陽(メドピア株式会社)座長:森下 竜一氏(イノベーション委員会)13:10~14:00 「究極のアンチエイジングとしての心筋再生医療は心不全治療に革命を起こせるか?」 福田 恵一氏(Heartseed株式会社)14:00~14:10 休憩14:10~15:00 「デジタル技術による持続可能な医療」 上野 太郎氏(サスメド株式会社)クロージングリマークス:森下 竜一(イノベーション委員会)15:00~ 懇親会(同会場内ホワイエにて)【主催】 日本抗加齢医学会 イノベーション委員会【お問い合わせ先】 日本抗加齢医学会事務局 TEL:03-5651-7500 E-mail:seminar@anti-aging.gr.jp 学会ホームページはこちら

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DVRd療法、移植適応・非適応によらず未治療多発性骨髄腫に使用可能に/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は25日、ダラツムマブ・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(商品名:ダラキューロ配合皮下注)について、医薬品添付文書改訂相談に基づく添付文書改訂により「用法及び用量に関連する注意」が追加された結果、ダラツムマブ+ボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン(DVRd)療法が、造血幹細胞移植(ASCT)が適応および適応とならない未治療の多発性骨髄腫に対する新たな治療選択肢として使用可能になることを発表した。 ASCT適応となる未治療の多発性骨髄腫におけるDVRd療法については海外第III相PERSEUS試験で、またASCT適応とならない未治療の多発性骨髄腫におけるDVRd療法については国際共同第III相CEPHEUS試験で、有効性および安全性が評価されている。PERSEUS試験では、DVRd群はVRd群と比較し病勢進行/死亡リスクが58%低く、CEPHEUS試験では、追跡期間中央値22.3ヵ月の時点でDVRd群の微小残存病変陰性率は53.3%であった。

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局所進行頭頸部がん、周術期ペムブロリズマブ上乗せが有効(KEYNOTE-689)/NEJM

 未治療の局所進行頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)に対し、標準治療へのペムブロリズマブ術前および術後補助療法の追加は、標準治療のみと比較し無イベント生存期間(EFS)を有意に改善した。ペムブロリズマブの術前補助療法は、手術施行に影響を与えず、新たな安全性に関する懸念は認められなかった。米国・ハーバード大学医学大学院のRavindra Uppaluri氏らKEYNOTE-689 Investigatorsが、日本を含むアジア、北米、欧州などの192施設で実施した第III相無作為化非盲検比較試験「KEYNOTE-689試験」の結果を報告した。局所進行HNSCC患者に対する手術と術後補助療法の標準治療に対し、周術期のペムブロリズマブ追加の有用性は不明であった。NEJM誌オンライン版2025年6月18日号掲載の報告。ペムブロリズマブの術前・術後補助療法追加の有効性および安全性を標準治療と比較 研究グループは、新たに診断された転移のない切除可能なIII期またはIV期の局所進行HNSCC(咽頭、下咽頭、口腔内)で、ECOG PSが0~1の18歳以上の患者を、標準治療+ペムブロリズマブ術前療法(2サイクル)+ペムブロリズマブ術後療法(15サイクル)(いずれも3週間ごとに200mg投与)群(ペムブロリズマブ群)と、標準治療群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。標準治療は、手術+術後補助放射線療法±シスプラチンとした。 主要評価項目は、PD-L1陽性でCPS≧10集団、PD-L1陽性でCPS≧1集団、および全患者集団における、RECIST v1.1に基づく盲検下独立中央判定によるEFSであった。ペムブロリズマブ追加でEFSが有意に改善 2018年12月~2023年10月に計1,044例がスクリーニングを受け、714例が無作為化された(ペムブロリズマブ群363例[CPS≧10集団234例、CPS≧1集団347例]、対照群351例[CPS≧10集団231例、CPS≧1集団335例])。ペムブロリズマブ群では321例(88.4%)、対照群では308例(87.7%)が手術を完了した。 初回中間解析時点(追跡期間中央値38.3ヵ月)で、CPS≧10集団におけるEFS中央値はペムブロリズマブ群59.7ヵ月(95%信頼区間[CI]:41.1~未到達)、対照群26.9ヵ月(18.3~51.5)、進行・再発・死亡のハザード比(HR)は0.66(95%CI:0.49~0.88、両側p=0.004)、3年EFS率はペムブロリズマブ群59.8%(95%CI:52.3~66.5)、対照群45.9%(38.0~53.4)であった。 CPS≧1集団でも同様に、EFS中央値はペムブロリズマブ群59.7ヵ月(95%CI:37.9~未到達)、対照群29.6ヵ月(19.5~41.9)、HRは0.70(95%CI:0.55~0.89、両側p=0.003)、3年EFS率はそれぞれ58.2%、44.9%であった。全集団ではそれぞれ51.8ヵ月(95%CI:37.5~未到達)、30.4ヵ月(21.8~50.1)、HRは0.73(95%CI:0.58~0.92、両側p=0.008)、3年EFS率は57.6%、46.4%であった。 Grade3以上の治療関連有害事象は、ペムブロリズマブ群で44.6%(161/361例)、対照群で42.9%(135/315例)に発現し、死亡はそれぞれ4例(1.1%)と1例(0.3%)であった。Grade3以上の免疫関連有害事象はペムブロリズマブ群で10.0%に認められた。

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不眠症へのベンゾジアゼピン中止のための介入策の効果は?/BMJ

 ベンゾジアゼピン系および類似の催眠鎮静薬(BSH)を中止するための介入について、有効性に関するエビデンスの確実性は低く、患者教育、薬剤の見直し、薬剤師主導の教育的介入がBSHを中止する患者の割合を増加させる可能性はあるが、現状ではエビデンスの確実性が低いため、さらなる質の高い研究が求められるという。カナダ・McMaster UniversityのDena Zeraatkar氏らが、システマティックレビューとメタ解析の結果を報告した。多くの患者が、転倒、認知機能障害、依存などのリスクがあるにもかかわらず、不眠症の治療にBSHを使用している。しかし、BSHの代替療法に関する知識は限られており、その有害性が明確ではなく、中止を支援する最適な戦略に関するエビデンスは不十分であることが報告されていた。BMJ誌2025年6月17日号掲載の報告。無作為化比較試験49試験、計3万9,336例についてメタ解析 研究グループは、5つのデータベース(MEDLINE、Embase、CINAHL、PsycInfo、CENTRAL)を検索し、不眠症にBSHを使用している成人を対象に、BSHの減薬または中止を目的とした介入、医療機関でこれらの介入を実施するための戦略と、通常ケアあるいはプラセボを比較した無作為化試験について、2024年8月まで発表された論文(言語は問わず)を特定した。さらに、特定された研究論文と類似のシステマティックレビューの引用文献も調査した。 複数の評価者がそれぞれ独立して、検索結果の確認、データ抽出、バイアスリスク評価を行った。類似の介入をグループ化して、制限最尤法を用いた頻度論的ランダム効果メタ解析を実施し、GRADEアプローチを用いてエビデンスの確実性を評価した。 検索の結果、3万件以上が抽出され、このうち適格基準を満たした58報(49試験、計3万9,336例)が解析対象となった。患者教育、薬剤見直し、薬剤師主導の教育的介入はBSH中止を増加させる可能性があるもエビデンスの確実性は低い 介入は、「減量」「患者教育」「医師教育」「患者および医師教育の併用」「認知行動療法」「薬剤の見直し」「マインドフルネス」「動機づけ面接」「薬剤師主導の教育的介入」「薬剤を用いた減量および中止」のカテゴリーに分類された。 確実性「低」のエビデンスでは、通常ケアと比較しBSHを中止する患者の割合(1,000例当たり)が、「患者教育」で144例(95%信頼区間:61~246)、「薬剤の見直し」で104例(34~191)、「薬剤師主導の教育的介入」で491例(234~928)それぞれ増加する可能性が示唆された。 確実性「中」のエビデンスでは、「患者教育」は身体機能、精神的健康、不眠症の徴候や症状に対して、ほとんどまたはまったく影響を与えない可能性が高いことが示唆された。「薬剤の見直し」や「薬剤師主導の教育的介入」に関しては、これらの他のアウトカムに関するエビデンスは得られなかった。 その他の介入が患者のBSH中止に有効であるという説得力のあるエビデンスは確認されなかった。また、いずれかの介入が脱落の増加を引き起こしたという、確実性「高」または「中」のエビデンスはなかった。 さらに、確実性「低」のエビデンスとして、複数の要素を組み合わせた介入が、単一の要素による介入と比較してBSHの中止を促進する可能性があることが示唆された。

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腹部脂肪は乾癬リスクを高める?

 乾癬患者の多くは過体重であり、体脂肪レベルの増加が乾癬リスクを高めると考えられているが、新たな研究で、体全体の脂肪よりも腹部の脂肪の方が乾癬発症のより強い警告サインである可能性が示された。この傾向は男性よりも女性で顕著だったという。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)セント・ジョンズ皮膚科学研究所の皮膚科医であるRavi Ramessur氏らによるこの研究結果は、「Journal of Investigative Dermatology」に5月27日掲載された。 Ramessur氏は、「乾癬の発症には、体幹部の脂肪、特にウエスト周りの脂肪が重要な役割を果たしているようだ。この結果は、乾癬を発症しやすい人や乾癬が重症化しやすい人の特定方法や乾癬の予防・治療戦略の立て方に重要な示唆を与える」と話している。 乾癬は皮膚の炎症性慢性疾患で、赤く盛り上がった発疹(紅斑)と、それを覆う銀白色の鱗屑がフケのようにポロポロと剥がれ落ちること(落屑)を主な特徴とし、かゆみを伴うこともある。乾癬は肥満と因果関係があることが示唆されており、特に重症例においてその関連は強いとされている。しかし、乾癬リスクが体脂肪の分布状況により異なるのかは明らかになっていない。 Ramessur氏らは、UKバイオバンク参加者33万6,806人(うち乾癬患者9,305人)のデータを分析して25種類の脂肪の指標を調べ、それぞれが乾癬とどのように関連しているかを検討した。脂肪の指標には、体重、BMIやウエスト周囲径などの人体測定指標、生体電気インピーダンス法で測定された体脂肪量、体脂肪率などの体組成指標、MRIやDXA(X線吸収測定法)で評価された脂肪量や脂肪分布のデータがあった。 その結果、乾癬との関連で最も大きな効果サイズを示した5つの指標のうちの4つ(ウエストヒップ比、腹部脂肪率、総腹部脂肪組織指数、およびウエスト周囲径)は、中心性肥満の指標であることが明らかになった。また、体内総脂肪量の指標の中で最も効果サイズが大きかったのは、生体電気インピーダンス法で測定された体脂肪率であった。これらの結果は、中心性肥満が乾癬のリスク要因として重要であることを強調している。さらに、中心性肥満と乾癬の関連は、男性よりも女性で顕著であることも示された。 Ramessur氏は、「さまざまな体脂肪の指標において乾癬との強い関連が一貫して見られ、特に女性においてその影響が顕著であることには驚かされた。両者の関連は、乾癬の発症に寄与する未解明の生物学的メカニズムが存在する可能性を示唆しており、さらなる研究が必要だ」と述べている。 本研究の付随論評を執筆した米ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院乾癬・光線療法治療センター所長のJoel Gelfand氏は、「本研究結果は、オゼンピックやゼップバウンドなどのGLP-1受容体作動薬が乾癬予防の手段となり得ることを示唆するものだ」との見解を示す。同氏は、「乾癬と肥満の強い関係、そしてGLP-1受容体作動薬が乾癬の罹患率を低下させ得るという新たな可能性は、乾癬に対する同薬剤の治療効果を検討するための大規模臨床試験の実施を促すものだ。皮膚と関節の症状だけに焦点を当てる現行の乾癬治療は、乾癬と肥満、心血管代謝疾患の密接な関係についての理解が進む中で今や時代遅れと言える」と付随論評の中で述べている。

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潰瘍性大腸炎の予後因子、思考を説明できるAIで特定

 潰瘍性大腸炎(UC)は慢性の炎症性腸疾患であり、その病態生理は多岐にわたる。そのため、症例ごとに最適な治療法を選択することが大切だ。今回、全国規模のレジストリを説明可能な人工知能(日立製作所)を用いて解析することで、難治性UCの予後因子を特定できることが報告された。レジストリ登録時の偽ポリープが存在することが、寛解と有意に負の相関を示したという。研究は東海大学医学部消化器内科の佐野正弥氏らによるもので、詳細は「Annals of Medicine」に5月5日掲載された。 UCは、重度の下痢、血便、激しい腹痛、発熱を特徴とし、再発と寛解を繰り返す難治性の炎症性腸疾患だ。UCの寛解を目指す場合、コルチコステロイド(CS)の導入が有効とされるが、CSには長期使用による有害事象のリスクがあり、早晩にCSに依存しない薬剤への切り替えが不可欠と考えられる。そのため、従来の研究では、どの治療がどの疾患型に対してより高い寛解率をもたらすかが検討されてきた。しかし、UCの疾患の多様性が影響し、包括的な予測モデルの開発は困難となっている。このような背景を踏まえ、著者らは、全国の医療記録に基づく機械学習モデルを用いて、難治性UCの予後因子を特定することとした。 解析対象は2003年4月から2012年3月(日本で生物学的製剤が普及する前)の期間に、全国レジストリに登録された新規UC症例7万9,096名とした。この中から3年分のデータがあり、初回診断時のMayoスコアが3以上で、登録以来CSを使用している4,003名(うち1,373名が3年以内に寛解達成)を最終的な解析対象とした。機械学習にはポイントワイズ線形モデル(PWLモデル)を用いて、3年後の寛解誘導と患者の層別化を予測した。モデルのパフォーマンスを示すスコアとして、曲線下面積(AUC)とF値を用いた。 長期寛解(3年以上持続)を予測するために、登録時、登録後1年、登録後2年までのデータに基づき開発された3つのPWLモデルが評価された。登録時、登録後1年目、登録後2年目のAUCはそれぞれ0.628、0.641、0.774であり、増加が認められた。また、登録後2年後までのテストデータセットにおける、適合率、再現率、F値はそれぞれ0.55、0.70、0.62だった。 次にk-means+法を用いて患者を予測される寛解率の高いグループと低いグループに分類した。さらに、登録時データのみを使用して寛解に関連する重要な因子の相関係数を調べたところ、偽ポリープ(0.695)、腹痛(0.689)、S字結腸炎(0.578)、5-ASAの使用(0.513)などいくつかの因子が相関していることが分かった。これらの因子の重み値は、偽ポリープ(-0.056)、腹痛(-0.054)で負の値を、S字結腸炎(0.054)、5-ASAの使用(0.049)で正の値を示した。登録後1年目までのデータを解析した結果、重要な因子として、偽ポリープ(0.982)、手術(0.964)、血球成分除去療法(0.940)が特定された。重み値は偽ポリープ(-0.159)が負の相関を示し、手術(0.094)と血球成分除去療法(0.109)が正の相関を示した。登録後2年までのデータでは、偽ポリープ(0.893)、2年目の日常生活(0.743)、1年目におけるCSの使用(0.736)が重要な因子となっていた。 本研究の結果について著者らは、「登録後2年目までの臨床データを組み込むことで、過学習のリスクなしにモデルの精度が向上した。さらに、3つ全ての予測モデルにおいて、登録時の偽ポリープの存在が寛解導入の成功を阻害することが示された。UCのように炎症と寛解を繰り返す疾患では、長期予後を予測する際に時系列データの影響を考慮する必要があるが、従来の統計手法には一定の限界がある。このような背景から、PWLモデルは予後予測とその影響因子の特定に有効なのではないか」と述べている。

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降圧薬服用は、朝でも夜でもお好きなほうに―再び(解説:桑島巖氏)

 「降圧薬の服用は朝か夜か?」の問題については、2022年にLancet誌上で発表されたTIME studyのコメントで発表しているが、今回JAMA誌に発表されたGarrisonらのBedMed randomized clinical trial論文でもまったく同じコメントを出さざるを得ない。 TIME studyと同様、本研究でも降圧薬の時間薬理学を理解していれば、服薬は朝(6~10時)でも夜(20~0時)でもどちらも同じ結果(心血管イベント、心血管死)をもたらすというのは当然の結論である。降圧薬の心血管予防効果は24時間にわたる降圧効果の持続と相関することはすでに知られており、現在処方されている降圧薬のほとんどは血中濃度に依存して降圧効果を発揮するが、24時間以上持続する降圧薬はアムロジピンとサイアザイド系、非サイアザイド系降圧利尿薬のみである。ACE阻害薬やARBはいずれも24時間持続性がない。 本試験はオープン試験(PROBE法:結果の評価はブラインド)であることから、診療現場では、患者の降圧が不十分であれば複数の降圧薬を併用することになる。本研究においてはACE阻害薬、ARBが各々30%前後使用されているが、カルシウム拮抗薬や利尿薬あるいは配合剤(combination pill)も高頻度で使用されていることから、これらの持続性の高い降圧薬の併用により、朝服用でも夜服用でも持続的降圧が得られたために、エンドポイントに差が認められなかった。TIME studyと同じ結果であるのは当然である。 現場では、患者さんの飲み忘れがないような選択をすることが重要である。

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既治療進行胃がんに対するCLDN18.2特異的CAR-T細胞療法(satri-cel)と医師選択治療との比較:第II相試験(解説:上村直実氏)

 切除不能な進行胃がんおよび食道胃接合部がん(以下、胃がん)に対する化学療法のレジメはHER2陽性(20%以下)とHER2陰性(約80%)に区別されている。HER2陰性の進行胃がんに対する標準的1次治療はフルオロピリミジンとプラチナベースの化学療法であるFOLFOXやCAPOXなどが推奨されてきたが、全生存期間(OS)の中央値が12ヵ月未満であり、無増悪生存期間(PFS)の中央値は約6ヵ月程度と満足できる成績ではなかった。最近になって、標準化学療法にドセタキセルを上乗せしたFLOT療法(3剤併用化学療法)さらに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)や抗claudin-18.2(CLDN18.2)抗体のゾルベツキシマブ(商品名:ビロイ)を組み合わせた新しい併用療法の有効性が報告されている。しかしながら、これらのレジメを用いた国際的共同試験におけるOSの中央値は12~18ヵ月程度にとどまっているのが現状である。 今回、既治療のCLDN18.2陽性進行胃がん症例を対象として自家CLDN18.2特異的キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法(satri-cel)の有効性と安全性の評価を目的とする非盲検無作為化実薬対照比較第II相試験の結果が2025年6月のLancet誌に掲載された。CAR-T細胞療法は、患者自身の免疫細胞であるT細胞に遺伝子導入して作成されたCAR-T細胞を患者に再び投与する治療法であり、日本でも2019年から悪性リンパ腫再発後の治療が保険適用となっているが、固形がんに対するCAR-T細胞療法に関するランダム化比較試験は本研究が世界初の報告である。 少なくとも2回の前治療が奏効せず、腫瘍組織がCLDN18.2陽性であった症例を対象として、CAR-T群と担当医が選択した標準治療群を比較した結果、主要評価項目のPFS中央値(3.25ヵ月vs.1.77ヵ月)およびOS中央値(7.92ヵ月vs.5.49ヵ月)は共にCAR-T群が有意に延長した。一方、安全性に関しては、CAR-T群はGrade3以上の有害事象が99%にみられ、血球減少、消化器症状、頻脈、肝障害、電解質異常、蛋白尿、皮疹、腹痛、体重減少など広範な臓器にわたり30〜90%の頻度で出現していたが、「サイトカイン放出症候群」の重篤化により死亡した症例は皆無であった。 種々の治療法によっても手術不能胃がん患者の生存率の飛躍的向上が認められていない現状では、新たな治療法であるCAR-T細胞療法に期待したいところである。しかしながら、報告された第II相試験の結果からは臨床現場における有効性と安全性を担保できるものとはいえず、今後予定されている精緻な研究デザインによる第III相試験の結果を待つ必要があると思われた。

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後発薬の供給が需要に追いつくのはなんと2029年!?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第154回

ここ数年の後発医薬品の不足問題は、薬局にとって大きな負担になっています。しかし、まだまだ後発医薬品の供給不足は続きそうです。後発薬(ジェネリック医薬品)メーカーの業界団体である日本ジェネリック製薬協会は18日、後発薬の安定供給に向けた業界の対応方針の中間報告書について報道向け説明会を開いた。川俣知己会長(日新製薬代表取締役社長)は、後発薬の供給が需要に追いつくのは2029年度になるとの予測を示した上で、「(予測より前の)27年度には供給不安の解消を目指す」と強調。加盟企業に設備投資の前倒しを要請するとした。(2025年6月18日付 日本経済新聞)後発医薬品は、医療費の増大を抑えるために2002年ごろから加算などで使用が後押しされ、市場が伸びてきました。ようやく患者さんが後発医薬品を使用することに対して抵抗がなくなってきた今、使いたいのに使えない…というなんとも皮肉な状況が続いています。「もうそろそろどうにかしてほしい」という医療者の叫びが飛び交う中、ようやく出てきた供給不足解消の予測はなんと「2029年」。まだまだこの状況は続くのだなと落胆の気持ちを隠せません。冒頭の記事でも、日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)から会員会社に対し、2027年度を目標に事業計画を見直し、増産施設への投資を前倒しするよう要請すると報じられています。しかし、これは現状の使用量がすでに頭打ちとなっていることが前提となっており、今後さらにシェアが拡大すれば供給不足の解消が後ろ倒しになる可能性もあるとのことなので、予断は許されない状況です。ただ、製薬会社は民間の会社なんですよね。各社の事業計画の見直しに関しては、あくまでGE協会からの「お願い」であって、実施に踏み切るかは各社の判断によります。各社さまざまな事情があるでしょうし、新たな借入金が発生する場合もあるでしょう。現実的に前倒しになることは期待できないように思います。一方で、製造所を変更するための一変申請は、今まで申請から承認まで1年程度かかっていたものを、1.5ヵ月で承認することができるという「医療用医薬品の品目統合等に伴う製造方法等の変更手続に係る手続の迅速化について」という通知が今年の2月に発出されるなど、製薬企業が増産を検討したり、製薬企業同士が品目を集約したりしやすくするための措置が始まっています。薬局にとっては日々の業務に直結することですので1日も早い解消を強く望みますが、期待しすぎずに供給不安の解消を待ちたいと思います。

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夏至に思う【Dr. 中島の 新・徒然草】(586)

五百八十六の段 夏至に思う先週2025年6月21日は夏至でした。言うまでもなく、昼が一番長い1日です。大阪の日の入りは19時14分。これから徐々に日が短くなるわけですが、夏が始まったばかりなので変な感覚です。夏至について驚かされるのは中国。米国本土が4つの時間帯を使っているのに対し、中国は北京時間という1つの時間帯しか使っていません。そうすると、夏至の北京の日没が19時47分であるのに対し、中国の西端付近にあるカシュガル市では、日の入りが22時26分になるそうです。ということは、普通なら床に就くはずの時刻になっても外は明るいまま。これでは生活実態に合わず、さぞかし不便なことでしょう。だからカシュガルでは、北京時間と共に、2時間の時差のある新疆(しんきょう)時間を使っているとのこと。2つの時間帯を併用するとは、何と器用な人たち!ついそう思ってしまいます。が、これは日本で西暦と和暦を使い分けるみたいなものかもしれません。遠い昔、昭和の頃はもっぱら和暦を使っていました。私なんか、昭和のそれぞれの年に思い出があります。数字の末尾が5年違いだったので、西暦と和暦の換算も簡単でした。しかし、平成になると、徐々に西暦を使う機会が増えたように思います。私の記憶では、平成の前半くらいまでは、西暦を使ったり和暦を使ったり。でも、平成の後半から、西暦と和暦の換算が徐々に難しくなってきました。さらに令和の現在、診断書やカルテの本文は、もっぱら西暦を使うようになりました。あえて和暦を使うのは「令和7年度」のように、4月始まりの制度を扱う時くらい。こちらのほうは、「2025年度」と言うよりも「令和7年度」と言ったほうが、しっくりきます。気が付けば、私もいつのまにか昭和・平成・令和の3つの時代を生きてきました。昭和というと、頑固親父や根性論が幅をきかせていた時代。最近は昭和がやたらネガティブに語られがちですが、エネルギーが溢れていた時代でもありました。平成は大きな自然災害や衝撃的な事件も多く、また経済的にはバブル崩壊以降の長い不況の印象があります。一方で、デジタル化やインターネットで、知らないうちに世の中が便利になりました。そして令和も、もう7年目。新しい時代に入ったばかりだと思っていたのに、もうそんなに経つのかと驚きます。コロナ禍やAIの普及など、平成の時にはまったく予想もしていませんでした。とくに国際情勢の不安定さや流れの速さには、世界中が翻弄されっぱなし。せめて日本の社会は、少しずつでも良い方向に進んでほしいですね。そのために、私にも貢献できることがあるのだろうか。忙しい毎日ではありますが、たまにはそんなことも考えたりしているところです。最後に1句夏至が過ぎ 住み良き社会 実現へ

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ASCO2025 レポート 肺がん

レポーター紹介ASCO Lung、Lung ASCOと呼ばれるほど、肺がんに関しては当たり年であった2024年のASCOとは異なり、2025年のASCOは肺がんのPlenary演題もないなど、やや小ぶりな前評判であった。ただ、実際に演題が発表されてみると、DeLLphi-304試験では小細胞肺がん(SCLC)の二次治療において初めて全生存期間(OS)を延長したタルラタマブの成績が報告され、肺がんのコミュニティとしてはPlenaryセッションでもよかったのではとの声も聞こえてきた。さらに日本では未承認であるが、進展型SCLC(ES-SCLC)の維持療法として、lurbinectedinが、無増悪生存期間(PFS)、OSともに延長を示したIMforte試験にも注目が集まった。IMforte試験の演者はスペインのLuis Paz-Ares先生で、くしくもPARAMOUNT試験において非小細胞肺がん(NSCLC)におけるペメトレキセドの維持療法をASCOで発表したのもPaz-Ares先生であり、印象的であった。これらの日常診療を変えうる発表に加え、将来につながる発表が、周術期領域、抗体医薬品の開発に関連して複数発表されている。周術期領域においては、EGFR遺伝子変異陽性肺がんに対してNeoADAURA試験の結果が、ALK遺伝子転座陽性肺がんに対してALNEO試験の結果が報告された。抗体医薬品の開発は引き続き盛んであり、抗体薬物複合体(ADC)、T-cell Engager(TCE)、さらにはCAR-T療法など、今後に期待が持たれる発表が、とくに中国から続いた。そんななか、新薬を使うのでも、手術をするのでもなく、免疫チェックポイント阻害薬の投与タイミングにより、治療効果に大きな違いをもたらした臨床試験の結果が中国から発表された。免疫チェックポイント阻害薬の奥の深さを感じるとともに、このようなタイムリーな研究成果が中国から報告されることに、新規薬剤の開発だけでなく、臨床試験の実施体制としても中国の成熟が感じられた。[目次]DeLLphi-304試験IMforte試験NeoADAURA試験ALNEO試験CheckMate 816試験HERTHENA-Lung02試験抗体医薬品の展開Time-of-Day試験最後にDeLLphi-304試験再発SCLCに対する治療選択肢の1つとして期待されているDLL3とCD3を標的としたTCEであるタルラタマブの有効性と安全性を評価した第III相試験がDeLLphi-304試験である。本試験は、プラチナ製剤ベースの初回化学療法を終了後、病勢進行を経験した再発SCLC患者を対象に、タルラタマブ(0.3mgで開始後、10mgを2週ごと投与)と化学療法(トポテカン、lurbinectedin、アムルビシン)を比較する国際共同多施設無作為化比較試験で、全体で509例が登録された。主要評価項目はOS、副次評価項目にはPFSや奏効割合(ORR)、安全性が設定された。主要評価項目であるOSにおいて、タルラタマブ群は化学療法群と比較して有意な生存期間延長を示し、OSの中央値はタルラタマブ群で13.6ヵ月、化学療法群で8.3ヵ月であり、ハザード比は0.60(95%CI:0.47~0.77)、p<0.001と統計学的に有意であった。PFSについても良好な傾向が認められ、中央値は4.2ヵ月と3.7ヵ月、ハザード比は0.71(95%CI:0.59~0.86)であった。ORRについても40%と17%とタルラタマブ群で良好であった。安全性の観点では、タルラタマブ群に特徴的なサイトカイン放出症候群(CRS)は56%にみられたが、大半はGrade1~2で管理可能であり、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)などの神経学的有害事象も既知のプロファイルと一致した。治療関連死亡はなかった。今回のDeLLphi-304試験の成功により、20年以上にわたって進展のなかった再発SCLC治療において、新たな標準治療の登場が視野に入った意義深い試験結果である。DLL3はSCLCに特異的かつ高発現する治療標的として注目されており、新たなモダリティとしてTCEが治療の基軸になる状況が現実となった。今後、初回治療や限局型への展開、あるいは他がん腫への応用など、免疫系を活用した治療開発の広がりが期待される。IMforte試験ES-SCLCでは一次治療後の病勢進行率が高く課題とされてきた。lurbinectedinはアルキル化作用を持つ転写阻害剤であり、プラチナ製剤ベース化学療法後に病勢進行したSCLC患者において抗腫瘍活性が示されてきた。IMforte試験は、ES-SCLC患者において一次導入化学療法(アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド)後に病勢進行しなかった患者を対象として、アテゾリズマブによる維持療法にlurbinectedinを上乗せすることの意義を検証する国際共同多施設無作為化非盲検第III相試験である。患者はlurbinectedin(3.2mg/m2)とアテゾリズマブ(1,200mg)を3週ごとに併用投与する試験治療群、またはアテゾリズマブ(1,200mg)を3週ごとに単独投与する標準治療群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目はIRF-PFS(独立画像判定によるPFS)およびOSとされた。試験治療群には242例、標準治療群には241例が登録された。試験治療群はIRF-PFSにおいて標準治療群に対して、PFS中央値5.4ヵ月と2.1ヵ月、ハザード比0.54(95%CI:0.43~0.67)、pNeoADAURA試験EGFR遺伝子変異陽性の切除可能なNSCLCに対する術前治療として、オシメルチニブ単剤または化学療法併用の有効性と安全性を検証する第III相試験がNeoADAURA試験である。本試験は、StageII~IIIB(N2)に相当する切除可能EGFR遺伝子変異陽性(Exon19delまたはL858R)NSCLCを対象に、術前オシメルチニブ単剤群、オシメルチニブ+化学療法併用群、化学療法単独群を比較する国際共同無作為化試験で、全体で358例が登録された。主要評価項目はmajor pathologic response(MPR)であり、副次評価項目には無イベント生存期間(event-free survival;EFS)、病理学的完全奏効割合(pCR)、ORR、手術実施率、R0切除率、安全性などが含まれた。MPRにおいては、化学療法群で2%であったのに対して、オシメルチニブ単剤、併用群では25%、26%であり、オシメルチニブ併用による統計学的な優越性が確認された。pCRにおいては、化学療法群が2%であったのに対して、併用群で4%、オシメルチニブ単剤群で9%という結果であった。R0切除率はいずれの群でも90%以上と高率であり、手術遅延や手術不能例も少なく、安全に根治切除に導ける治療であることが示唆された。まだイベント数が少ない状態ではあるがEFSについても報告され、化学療法群に対して、ハザード比は併用療法群で0.50、オシメルチニブ単剤群で0.73であった。術後治療としては全例にオシメルチニブによる補助療法が予定されており、長期予後の追跡が期待される。ADAURA試験で術後オシメルチニブの有効性が示されて以来、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの治療パラダイムは大きく変化したが、本試験は術前段階からEGFR-TKIを導入することの意義を検討している。免疫チェックポイント阻害薬において病理学的奏効割合は高めだが画像上の奏効は50%程度にとどまっているという課題を有しており、画像上の高い奏効割合が期待できるEGFR-TKIの立ち位置については、今後さまざまな議論が展開されることになる。ALNEO試験ALNEO試験では、アレクチニブ600mgを1日2回術前に投与し、手術後も術後療法として継続することの有効性と安全性を検討する第II相試験である。主要評価項目はBICRによるMPRとされた。本試験にはイタリアの20施設が参加し、2021年5月から2024年7月にかけて患者が登録された。33例が登録され、全例が術前治療を完了し、28例が手術を受け、26例が術後療法を開始した。手術を受けなかった5例のうち、2例は患者の拒否、2例は臨床的判断、1例は臨床的進行のためであった。術後療法を受けなかった2例は、いずれもR0切除が得られなかったことがその理由であった。主要評価項目であるBICRによるMPRは42%(95%CI:28~58)であり、信頼区間の下限が事前に設定された閾値の20%を超えたことから、統計学的にも有意な結果であった。pCRは12%であった。副次評価項目として、ORRは67%であった。特筆すべきは、同時に報告されたNeoADAURA試験やこれまでのオシメルチニブによる術前治療において、pCRが0~10%未満にとどまっているのに対して、アレクチニブにおいては若干高めのMPRやpCRが報告されており、同じドライバー陽性肺がんにおいても標的や薬剤によって病理学的奏効に違いがあることが示唆されている点にある。今後、術前治療にドライバー遺伝子変異に伴うTKIを中心とした治療が導入されていくことが期待されているが、他の標的、他の薬剤による病理学的効果を含む効果についても注目したい。CheckMate 816試験すでに実臨床に導入されているCheckMate 816試験は、切除可能なStageIB(腫瘍径4cm以上)~IIIAのNSCLC患者(TNM分類第7版による)を対象とした第III相試験で、既知のEGFR遺伝子変異またはALK転座がない患者が登録された。患者はニボルマブ360mgと化学療法を3週間ごとに3サイクル併用するニボルマブ群、または化学療法単独を3週間ごとに3サイクル行う化学療法群に1:1の割合で割り付けられた。主要評価項目は、独立中央病理審査(BIPR)によるpCRおよびEFSで、OSは有意水準αも割り付けられた主要な副次評価項目として設定され、今回、最低5年間の追跡期間で最終解析が行われた。ニボルマブ群は化学療法群に対して、ハザード比0.72(95%CI:0.523~0.998)、p=0.0479と統計学的に有意なOSの改善を示し、5年OS割合も65%と55%であり、10%の上乗せを示した。ニボルマブと化学療法の併用は、肺がん特異的生存期間においても化学療法単独と比較して継続的な効果を示した。安全性プロファイルはこれまでの報告と一貫していた。CheckMate 816試験は、切除可能な固形がんにおいて、術前化学免疫療法のみ(3サイクル)が統計学的に有意なOSのベネフィットを示すことを検証した唯一の第III相試験であり、術前+術後化学免疫療法によるKEYNOTE-671試験に続いて、周術期免疫チェックポイント阻害薬においてOSの延長を示した重要な試験となった。術前のみ、術前+術後いずれの免疫チェックポイント阻害薬による補助療法においてもOSの延長が示された状況は肺がんにおいてのみであり、術前+術後の治療方法しか存在しない他のがん腫との明らかな違いが生じている。今後その違いに基づき、さらなる議論が展開されることは間違いないと考えられる。HERTHENA-Lung02試験HERTHENA-Lung02試験は、第3世代EGFR-TKI後に病勢進行した局所進行または転移を有するEGFR変異陽性NSCLC患者を対象とした国際共同多施設無作為化非盲検第III相試験である。患者は、HER3-DXd(5.6mg/kg、3週ごと)群または標準治療(シスプラチンまたはカルボプラチンを3週ごとに4サイクル投与後、ペメトレキセド維持療法実施)群に1:1の割合で割り付けられた。主要評価項目は、BICRによるPFSとされ、主要な副次評価項目はOS、それ以外の副次評価項目として安全性、頭蓋内PFS、HER3タンパク発現と有効性の関連性評価とされた。本試験には586例の患者が登録され、HER3-DXd群に293例、標準治療群に293例が割り付けられた。HER3-DXd群のPFS中央値は5.8ヵ月であったのに対し、標準治療群は5.4ヵ月であり、ハザード比は0.77(95%CI:0.63~0.94)、p=0.011で、統計学的に有意な結果であった。ただ、中央値での差異は0.4ヵ月にとどまっていた。さらに、今回OSの解析結果として、OSの中央値がHER3-DXd群、標準治療群それぞれで16.0ヵ月、15.9ヵ月、ハザード比0.98(95%CI:0.79~1.22)であり、OSについてはNegative trialであることが明らかになった。ポジティブな結果が多かった今年のASCOにおいて、期待されていたADCについてNegativeな結果が報告されたことのインパクトは大きかった。DXd(デルクステカン)ベースのADCとしては、昨年TROP2-ADCであるDato-DXdが、同様の肺がん二次治療において、全体集団でのOSでNegativeであったことが報告されている。Dato-DXdについてはTROP2の発現についてAIも用いたタンパク発現の評価方法TROP2 QCS-NMR(Normalized Membrane Ratio of TROP2 by Quantitative Continuous Scoring)が効果予測になりうることが報告されている。そのため、HER3-DXdにおいても、HER3の発現について今後同様の試みがされることに期待したい。抗体医薬品の展開BL-B01D1(iza-bren)は、EGFRとHER3の二重特異性ADCであり、新規のトポイソメラーゼI阻害薬(Ed-04)をペイロードとしている。EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対しては、63.2%のORRを示したことがすでに報告されている。今回は、上記以外のドライバー遺伝子変異を持つNSCLC患者83例が登録され、EGFR exon20挿入変異・Uncommon mutation(14例)、HER2変異(19例)、ALK/ROS1/RET融合(24例)、KRAS/BRAF/MET変異(26例)を有する患者が登録された。全患者のORRは46.2%、PFS中央値は7.0ヵ月であった。ORRはそれぞれ、EGFR exon20挿入変異・Uncommon mutation 69.2%、HER2変異52.9%、KRAS/BRAF/MET変異40%、KRAS G12C変異44.4%、ALK/ROS1/RET融合34.8%であった。ABBV-400(Telisotuzumab Adizutecan、Temab-A)はc-Met標的抗体(Telisotuzumab)とトポイソメラーゼIペイロードを組み合わせたものである。今回、プラチナベース化学療法およびTKIによる治療を受けた進行固形がん患者を対象とし、3ライン以上の治療歴のあるEGFR変異非扁平上皮NSCLCコホートのデータが報告された。その結果、ORRは63%であり、耐性変異の有無にかかわらず幅広い効果が確認された。ABBV-706は、高悪性度神経内分泌腫瘍(NENs)に発現しているSEZ6(Seizure-Related Homolog Protein 6)を標的としたTop1阻害薬をペイロードとしたADCである。NEN全体を対象としたコホートでは、ORRが36.9%、PFS中央値が7.62ヵ月であり、LCNECに限定した解析結果では、ORRが33.3%、PFS中央値が5.78ヵ月であることが報告された。低酸素応答性CEA CAR-T細胞療法の再発NSCLCに対する第I相試験についても報告された。ORRは47%、DCRは87%であり、一定の効果が示されたが、奏効期間(DoR)中央値は2ヵ月であり、この点についてはまだまだ改善の余地があることが示された。PRを達成した患者では、ベースライン血清CEAレベルが有意に高いなどのサブグループ解析も報告された。Time-of-Day試験Time-of-Day(ToD)試験は、進行NSCLC患者における化学免疫療法を、早めの時間(15:00より前)と遅い時間(15:00以降)で投与した場合の比較を行った無作為化第III相試験である。概日リズムは睡眠、疾患、治療に影響を与えることが知られており、前臨床試験では概日リズムと免疫細胞機能・分布の関連性、および免疫療法の有効性への影響が示唆されていた。また、20報以上の後ろ向き研究のメタ解析では、免疫チェックポイント阻害薬の投与が「遅い時間」よりも「早い時間」に行われた場合に効果の改善が示されている。StageIIIC~IV期のNSCLC患者210例が、標準化学療法と免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブまたはsintilimab)の初回4サイクルについて、早めの時間(15:00より前)または遅い時間(15:00以降開始)に無作為に割り付けられた。主要評価項目はBICRによるPFS、副次評価項目はOS、BICRによるORR、全血リンパ球サブセット解析であった。早い時間に投与した場合のPFS中央値は11.3ヵ月であったのに対し、遅い時間では5.7ヵ月であり、ハザード比は0.42(95%CI:0.31~0.58)、p<0.0001で、統計学的に有意に早い時間に投与することの優越性が示された。OSにおいても、中央値がNot reachedと16.4ヵ月、ハザード比は0.45(95%CI:0.30~0.68)、p<0.0001であり、明らかに早い時間の投与で延長することが示された。有害事象発現割合については、若干の違いは認めるものの大きな違いは認められなかった。循環T細胞の解析では、早い時間群でCD8+T細胞とCD4+T細胞の有意な増加が示された一方で、遅い時間群では減少傾向がみられ、今回の試験結果を裏打ちする情報として示された。高額の薬剤を用いて新たな治療方法が模索されるなかで、投与時間の調整のみで大きなPFS、OSの違いをもたらした結果が、中国で実施された臨床試験から得られたことを会場の参加者は驚きをもって受け止めた。今後おそらくいくつかの追試が実施されるとともに、最適な投与時間のカットオフ(15時が最適か)についても検討が進められる見込みである。最後に今年のASCOは、肺がんによるPlenary演題はなかったものの、Plenaryであってもおかしくないインパクトを有する演題は複数発表された。注目すべきは、抗体医薬品を中心とした新たな薬剤の発表が続いたことだけでなく、周術期や免疫チェックポイント阻害薬の投与タイミングなど、肺がんの治療開発が実に幅広い領域で展開していることである。引き続き目が離せない状態が続くと考えられる。

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第17回 米国10代で肥満症治療薬「セマグルチド」使用が50%急増、期待と懸念が交錯

アメリカの若者の間で深刻化する肥満。この問題に対し、新しい治療の選択肢として登場したGLP-1受容体作動薬の肥満症治療薬セマグルチド(商品名:ウゴービ[Wegovy])の使用が、10代の若者たちの間で急増しています。ロイター通信が報じた最新のデータによると、その使用率は昨年1年間で50%増加しました1)。これは、長年有効な対策が限られていた若年層の肥満治療における大きな転換点であると同時に、専門家の間では期待と懸念の意見が交錯しています。深刻化する肥満と「最後の手段」としての新薬このニュースの背景には、米国の若者をめぐる深刻な健康問題があります。現在、米国の12~19歳の約23%、約800万人が肥満であるとされ、この割合は1980年の5%から大幅に増加しています。肥満は将来の糖尿病や心臓病のリスクを高めるため、長年、食事療法や運動といったライフスタイルの改善が推奨されてきましたが、それだけでは効果が不十分なケースが少なくありませんでした。こうした状況の中、製薬大手ノボ ノルディスク ファーマの開発したセマグルチドが、2022年後半に12歳以上の青少年への使用を承認されました。この薬には強力に食欲を抑える効果があり、臨床試験で高い有効性が示されています。米国小児科学会(AAP)も2023年1月に、12歳以上の肥満の子供に対し、生活習慣の改善と並行して減量薬を使用することを推奨するガイドラインを発表しています2)。こうした流れが、医師や患者家族の間でセマグルチドに対する信頼感を高め、使用の拡大につながったとみられています。50%増でも「氷山の一角」、使用率が示す現実ロイターが報じた分析によれば、セマグルチドの処方率は2023年の青少年10万人当たり9.9件だったのが、昨年(2024年)には14.8件と50%増加し、今年(2025年)の最初の3ヵ月では17.3件にまで伸びています。このデータは、全米130万人の12~17歳の電子カルテを分析したものです。しかし、この数字はまだ「氷山の一角」にすぎないという指摘もあります。実際、肥満の青少年は10万人当たり推定2万人いるとされており3)、現在の処方率はそのごくわずかにすぎません。残る長期的な安全性への懸念使用が拡大する一方で、懸念の声も上がっているのは事実です。とくに、体の発達において重要な時期にある青少年への長期的な影響については、まだデータが十分ではないという懸念です。また、これらの薬は使用を中止すると体重が元に戻る可能性があり、長期にわたって使い続ける必要があるかもしれないという課題も指摘されています。製造元のノボ ノルディスク ファーマは、臨床試験においてセマグルチドが「成長や思春期の発達に影響を与えるようにはみえなかった」として、その安全性と有効性に自信を示していますが、十分なエビデンスがあるとはいえません。確かにセマグルチドの登場は、これまで有効な手段が乏しかった青少年の肥満治療に大きな希望をもたらしています。しかし一方で、長期的な安全性や費用、そして「痩せ薬」として安易に使用されている現状への懸念など、社会が向き合うべき課題は少なくありません。この新しい治療法が、今後どのように若者たちの健康に影響を与えるのか、慎重に見守っていく必要があるでしょう。 参考文献・参考サイト 1) Terhune C, et al. Wegovy use among US teens up 50% as obesity crisis worsens. Reuters. 2025 Jun 4. 2) Hampl SE, et al. Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Treatment of Children and Adolescents With Obesity. Pediatrics. 2023;151:e2022060640. 3) CDC. Childhood Obesity Facts. 2024 Apr 2.

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臨床研修マッチング対策LIVE!【7/2まで配信】

公開終了のお知らせ本ウェビナーのアーカイブ動画は【公開期間終了】にともない、現在はご視聴いただけません。今後ご視聴を希望される方は、下記より「ケアネット公式医学生専用LINE」へお友だち登録いただき、チャットにて「ウェビナー視聴希望」とご連絡ください。公式LINEでは、8月より無料のWeb模試サービスもスタート予定です。国試対策に役立つ情報を随時配信中。ぜひこの機会にご登録ください!医学生LINE登録はこちら「医学生コーナー」

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片頭痛に有効な運動介入は?

 トルコ・Ege UniversityのYunus Emre Meydanal氏らは、さまざまな種類の運動およびその組み合わせが、片頭痛発作および併存疾患に及ぼす影響を検討するため、パイロット研究を実施した。これまで、有酸素運動とレジスタンス運動との組み合わせは、片頭痛患者においてより顕著な症状改善が得られる可能性が示唆されていた。Headache誌オンライン版2025年5月20日号の報告。 本研究は、Ege University Hospitalにおいて、2022年9月〜2024年3月にかけて片頭痛患者24例を対象に、並行群間ランダム化比較試験のパイロット研究として実施した。対象患者は、有酸素運動群、複合運動群(有酸素運動とレジスタンス運動の組み合わせ)、対照群にランダム化した。ベースライン期間に1ヵ月間の頭痛日誌による調査を行った後、両介入群とも同じ有酸素運動を週3日、12週間行った。複合運動群には、有酸素運動に加え、首、背中上部、肩の筋肉をターゲットとした5種類のレジスタンス運動を行った。測定は、ベースライン時、3ヵ月の介入期間後、2ヵ月のフォローアップ期間後に実施した。主要アウトカムは、1ヵ月当たりの片頭痛日数とした。副次的アウトカムには、不安および抑うつレベル、有酸素能力、身体活動レベル、片頭痛関連の生活の質(QOL)とした。 主な結果は以下のとおり。・介入期間後、有酸素運動群および複合運動群(各々、p<0.001)では、1ヵ月当たりの片頭痛日数の有意な減少が認められたが、対照群(p=0.166)では変化が認められなかった。・片頭痛の頻度は、複合運動群において、有酸素運動群と比較し、統計学的に有意な減少が認められた(p=0.027)。・介入期間後、両介入群ともに有酸素運動能力(各々、p<0.001)および身体活動レベル(有酸素運動群:p<0.001、複合運動群:p=0.001)の有意な改善が認められたが、対照群(有酸素運動能力:p=0.747、身体活動レベル:p=0.05)では認められなかった。・両介入群において、抑うつスコアに対する有意な影響は認められなかったが、複合運動群では、介入前後で不安スコアの有意な減少が認められた(p=0.037)。・両介入群において、片頭痛関連QOLの有意な改善が認められたが(有酸素運動群:p=0.018、複合運動群:p=0.001)、両群間で差は認められなかった(p=0.934)。・対照群では、抑うつスコア(p=0.593)、不安スコア(p=0.438)、片頭痛関連QOL(p=0.081)の有意な変化は認められなかった。 著者らは「片頭痛患者に対する有酸素運動群および複合運動群は、副作用なしに1ヵ月当たりの片頭痛日数を減少させ、複合運動群ではその減少がより大きいことが示唆された」と結論付けている。

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フィネレノン、HFpEFの心血管死・心不全入院リスク減~プール解析(FINE-HEART)

 米国・ブリガム&ウィメンズ病院のJohn W Ostrominski氏らが、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のフィネレノン(商品名:ケレンディア)の3件の大規模試験(FIDELIO-DKD、FIGARO-DKD、FINEARTS-HF)をプール解析した「FINE-HEART」から、フィネレノンは左室駆出率(LVEF)の保たれた心不全(HFpEF)の心血管死または心不全による入院を13%減少させることを示唆した。JACC:Heart Failure誌2025年8月号掲載の報告。 本研究は3試験をプール解析し、LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF)あるいはHFpEF患者におけるフィネレノンの安全性・有効性を評価した。主要評価項目は、フィネレノンとプラセボの心血管死または心不全による入院に対する治療効果で、試験別に層別化したCox比例ハザード回帰モデルを用いた。副次評価項目は、心血管死、心不全による入院、新規発症心房細動、および全死亡であった。 主な結果は以下のとおり。・解析対象1万8,991例のうち、7,008例(36.9%)がHFmrEF/HFpEF(平均年齢71±10歳、女性44%)であった。・追跡期間中央値2.5年において、フィネレノン群はプラセボ群と比較し、心血管死または心不全による入院を減少させた(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.78~0.96、p=0.008、試験全体の交互作用のp=0.24)。・主要なサブグループおよびベースラインの推定糸球体濾過量(交互作用のp=0.47)、尿アルブミン/クレアチニン比(交互作用のp=0.62)、HbA1c(交互作用のp=0.93)において、フィネレノン群で一貫した効果が認められた。・フィネレノン群は、心不全による入院(HR:0.84、95%CI:0.74~0.94、p=0.003)および新規発症の心房細動(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97、p=0.030)を減少させたが、心血管死および全死亡率の統計学的に有意な減少は認められなかった。・フィネレノン群ではプラセボ群と比較して高カリウム血症の発生率が高く、低カリウム血症は低かった。・重篤な有害事象の発生率は両群で同程度であった。 研究者らは、「HFmrEFまたはHFpEFの参加者データをプール解析したことで、高リスクで不明瞭な点が多いHFpEF患者に対するフィネレノンの安全性と有効性に対する理解が深まる可能性がある。心血管・腎臓・代謝リスクと広範囲にわたり、HFmrEF/HFpEF患者へのフィネレノンの使用が支持される」としている。

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デスモプレシン、重大な副作用にアナフィラキシー追加/厚労省

 厚生労働省は2025年6月24日、男性の夜間頻尿や中枢性尿崩症治療薬として使用される脳下垂体ホルモン薬のデスモプレシン酢酸塩水和物(以下、デスモプレシン)と甲状腺・副甲状腺ホルモン薬のチアマゾールに対して、添付文書の改訂指示を発出した。副作用の項に重大な副作用を新設し、デスモプレシンの経口剤と点鼻剤の両剤形においてアナフィラキシーの追記が、チアマゾールには急性膵炎の追記がなされた。なお、デスモプレシンの点鼻剤には、合併症・既往歴等のある患者の項にもアナフィラキシーの発現について追記がなされた。 対象製品は以下のとおり。デスモプレシン酢酸塩水和物(経口剤) ミニリンメルトOD錠25μg、同50μg ミニリンメルトOD錠60μg ミニリンメルトOD錠120μg、同240μg<重大な副作用> アナフィラキシーデスモプレシン酢酸塩水和物(点鼻剤) デスモプレシン点鼻スプレー2.5μg「フェリング」 デスモプレシン・スプレー10協和 ほか<合併症・既往歴等のある患者> 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。アナフィラキシーが発現するおそれがある。<重大な副作用> アナフィラキシー 本剤のアナフィラキシー関連症例を評価した結果、デスモプレシン(注射剤)とアナフィラキシーとの因果関係が否定できない症例が集積したこと(令和7月4月8日改訂指示通知)から、経口剤および点鼻剤の使用上の注意を改訂することが適切と判断された。ただし、中枢性尿崩症の効能を有する点鼻剤(デスモプレシン点鼻スプレー2.5μg「フェリング」)については代替薬がなく、禁忌を設定した場合に医療現場で不利益を被る可能性が考えられたため、点鼻剤については「禁忌」の項への追記は行わず、「合併症・既往歴等のある患者」の項にのみの追記とし、治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しない旨の注意喚起を追記することが適切と判断された。チアマゾール メルカゾール錠2.5mg、同5mg メルカゾール注10mg<重大な副作用> 急性膵炎 上腹部痛、背部痛、発熱、嘔吐などの症状、膵酵素異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。 急性膵炎関連症例および疫学文献などを評価した結果、本剤と急性膵炎との因果関係が否定できない症例が集積したこと、本剤と急性膵炎との関連を示唆する疫学文献が複数報告されていることから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。

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進行肛門扁平上皮がん、標準治療vs. retifanlimab上乗せ/Lancet

 プラチナ製剤化学療法中に病勢進行した進行肛門管扁平上皮がん(SCAC)において、retifanlimabは抗腫瘍活性を示すことが報告されている。英国・Royal Marsden Hospital NHS Foundation TrustのSheela Rao氏らPOD1UM-303/InterAACT-2 study investigatorsは、本疾患の初回治療における、カルボプラチン+パクリタキセル療法へのretifanlimab上乗せを前向きに評価する、第III相の国際多施設共同二重盲検無作為化対照試験「POD1UM-303/InterAACT-2試験」を行い、臨床的ベネフィットが示され、安全性プロファイルは管理可能であったことを報告した。著者は、「結果は、retifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル併用療法が、進行SCAC患者に対する新たな標準治療と見なすべきであることを示すものであった」とまとめている。Lancet誌2025年6月14日号掲載の報告。日本を含む12ヵ国70施設で試験 POD1UM-303/InterAACT-2試験は、EU、オーストラリア、日本、英国、米国の12ヵ国70施設で行われた。対象者は、18歳以上、切除不能の局所再発または転移のあるSCACでECOG performance status が0または1、全身療法歴なし、HIVのコントロール良好(CD4陽性Tリンパ球数200/μL超、ウイルス量検出限界未満)な患者を適格とした。 被験者は、標準治療のカルボプラチン+パクリタキセルに加えてretifanlimab 500mgまたはプラセボを4週ごと静脈内投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、最長1年間投与された。プラセボ群の被験者は、病勢進行が確認された場合にretifanlimab単独投与への切り替えが可能であった。 主要評価項目は、RECIST 1.1に基づく独立中央判定の無増悪生存期間(PFS、すなわち無作為化の日から最初に記録された病勢進行またはあらゆる原因による死亡の日まで)とした。有効性はITT集団で評価した。PFS中央値はretifanlimab群9.3ヵ月、プラセボ群7.4ヵ月、HRは0.63 2020年11月12日~2023年7月3日に、376例が適格性の評価を受け、308例がretifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群(154例)またはプラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群(154例)に無作為化された。222/308例(72%)が女性で、86/308例(28%)が男性であった。 PFS中央値は、retifanlimab群9.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.5~11.3)、プラセボ群7.4ヵ月(7.1~7.7)であった(ハザード比[HR]:0.63[95%CI:0.47~0.84]、片側p=0.0006)。 重篤およびGrade3以上の有害事象は、retifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群(47.4%および83.1%)がプラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群(38.8%および75.0%)より発現頻度が高かった。最も多かったGrade3以上の有害事象は、好中球減少症(それぞれ35.1%vs.29.6%)および貧血(19.5%vs.20.4%)であった。 致死的有害事象4例がretifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群で発現したが、治療に関連したものは1例(汎血球減少症)のみであった。また、プラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群では致死的有害事象が1例発現したが、治療に関連していなかった。

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