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本邦にあっては、2022年4月1日をもって民法第4条で定められた成人年齢が20歳から18歳に引き下げられる。それ故、2022年4月以降、他の多くの先進国と同様に本邦においても18歳未満を未成年者と定義することになる。未成年者の内訳は複雑で種々の言葉が使用されるが、児童福祉法第4条と旅客及び荷物運送規則第9条の定義に従えば、1歳未満は乳児、1~6歳未満は幼児、6~12歳未満(小学生)は小児、6~18歳未満(小学生、中学生、高校生)は包括的に児童と呼称される。しかしながら、12~18歳未満(中学生、高校生)に該当する名称は定義されていない。未成年者に対するRNAワクチンの海外治験は生後6ヵ月以上の乳児を含めた対象に対して施行されている。これらの海外治験では、本邦の幼児、小児の定義とは少し異なり5歳児は小児として取り扱われている。そこで、本論評では、海外治験の結果を正しく解釈するため、5~12歳未満を小児、12~18歳未満を(狭義の)児童と定義し、オミクロン株時代におけるこれらの世代に対するRNAワクチン2回接種ならびに3回目Booster接種の意義について考察する。小児、児童に対するRNAワクチン2回接種の予防効果 Pfizer社のBNT162b2(コミナティ筋注)の12~16歳未満の児童に対する感染予防効果は米国においてD614G株とAlpha株が混在した時期(2020年10月15日~2021年1月12日)に検証された(Frenck RW Jr, et al. N Engl J Med. 2021;385:239-250.)。接種量、接種間隔は16歳以上の治験の場合と同様に30μg筋注、21日間隔2回接種であった。結果は、2回目ワクチン接種1ヵ月後の中和抗体価が16~25歳の思春期層での値に対して1.76倍であった(非劣性)。感染予防効果も100%と高い値が報告された。 BNT162b2の5~12歳未満の小児に対する治験は米国を中心に世界4ヵ国で施行された(Walter EB, et al. N Engl J Med. 2021 Nov 9. [Epub ahead of print])。治験施行時期は2021年6月7日~9月6日であり背景ウイルスはDelta株が中心の時期であった。ワクチン接種量は12歳以上の場合と異なり1回10μgの筋注(接種間隔は21日)であった。2回目ワクチン接種1ヵ月後の中和抗体価は思春期層で得られた値の1.04倍であった(非劣性)。感染予防効果は90.7%であり、心筋炎、心膜炎などの特異的副反応を認めなかった。 Moderna社のmRNA-1273(スパイクバックス筋注)の12~18歳未満の児童に対する感染/発症予防効果は背景ウイルスとしてAlpha株が主流を占めた2020年12月9日~2021年2月28日の期間に米国で観察された(Teen COVE Trial)(Ali K, et al. N Engl J Med. 2021;385:2241-2251.)。ワクチン接種は成人と同量の100μg筋注が28日間隔で2回接種された。児童の中和抗体価は思春期層の1.08倍であり(非劣性)、有症候性の感染予防効果(発症予防)は93.3%でBNT162b2と同様に非常に高い有効性が示された。 6~12歳未満の小児に対するmRNA-1273の有効性は50μg筋注(成人量の半量)を28日間隔で2回接種する方法で検証された(Kid COVE Trial)。結果は正式論文として発表されていないがModerna社のPress Releaseによるとワクチン2回接種後の小児の中和抗体価は思春期層の1.5倍であった(非劣性)(Moderna Press Release. 2021年10月25日)。 以上の小児、児童におけるワクチン接種による中和抗体価と予防効果は2回目接種後2~3ヵ月以内のものであり、中和抗体価、予防効果の最大値を示すものと考えなければならない。今後、小児、児童にあっても接種後の時間経過によって中和抗体価、予防効果がどのように変化するかを検証しなければならない。オミクロン株感染の疫学、遺伝子変異、臨床的特徴 2021年11月9日に南アフリカ共和国において初めてオミクロン株(B.1.1.529)が検出されて以来、この新型変異株はアフリカ南部の国々を中心に世界的播種が始まっている。WHOは、11月26日、この新たな変異株をVOC(Variants of Concern)の一つに分類し、近い将来、Delta株を凌駕する新たな変異株として警戒を強めている(WHO TAG-VE. 2021年11月26日)。南アフリカ共和国では第1例検出からわずか1ヵ月の間にオミクロン株はDelta株を中心とする従来の変異株を凌駕する勢いで増加している(CoVarints.org and GISAID. 2021年12月10日)。南アフリカ共和国での感染発生初期の感染者数倍加速度(Doubling time)はDelta株で1.9日であったのに対しオミクロン株では1.5日に短縮されていた(Karim SSA, et al. Lancet. 2021;398:2126-2128.)。12月14日、WHOはアフリカ南部、欧州、北米、南米、東アジア、豪州に位置する世界76ヵ国でオミクロン株が検出されていることを報告した(WHO COVID-19 Weekly Epidemiological Update. 2021年12月14日)。米国では、12月1日にオミクロン感染第1例が報告されて以来、海外からの旅行者以外に市中感染例も認めている。米国CDCは12月8日までに集積された43名のオミクロン株感染者の疫学的特徴を報告しているが、感染者のうち20名(46.5%)は米国が承認しているワクチンの2回接種を、14名(32.6%)はワクチンの3回目Booster接種を終了していたという驚愕の事実が浮かび上がっている(CDC. MMWR Early release vol. 70. 2021年12月10日)。すなわち、オミクロン株感染者の79%までがワクチン接種者であり、Breakthrough infection(BI)あるいはDecreased humoral immune response-related infection(DHIRI)が非常に高い確率で発生していることを示唆した。BI、DHIRIは初感染者のみならず再感染者の数を増加させる。この原因は、下述したごとく、オミクロン株が有する高度の液性免疫回避変異のためにワクチン接種後の中和抗体価の上昇が従来の変異株に較べて有意に抑制されているためである。 本邦では、12月15日までに空港検疫において海外渡航者32名にオミクロン株感染が確認されている(国立感染症研究所. 2021年12月15日)。これらの症例のうち入院した16名にあって1歳未満の1名を除く15名全員がワクチン2回接種を終了していた。感染と経済の両立を考えた場合、海外渡航者を永久に締め出すことはできず医療体制が整った所で水際での“鎖国”を緩和していかなければならない。それ故、2022年の冬場から春にかけて欧州、米国などに遅れること数ヵ月で本邦でもオミクロン株の本格的播種が始まるものと覚悟しておかなければならない。この場合、オミクロン株の単独播種以外にDelta株との共存播種の可能性も念頭に置く必要がある。 オミクロン株は今までの変異株に較べ多彩な遺伝子変異を有することが判明しており、ウイルス全長での遺伝子変異は45~52個、S蛋白での遺伝子変異は26~32個と想定されている(WHO Enhancing Readiness for Omicron. 2021年11月28日)。オミクロン株ではウイルスの生体細胞への侵入を規定するS1、S2領域に従来の変異株よりも多い5種類以上の変異が確認されている(N501Y、Q498R、H655Y、N679K、P681Hなど)(米国CDC Science Brief. 2021年12月16日)。これらの変異の結果、オミクロン株の感染性/播種性はDelta株を含めた従来の変異株をはるかに凌駕する。 オミクロン株にあっては、液性免疫回避を惹起するReceptor binding domain(RBD)の複数個の遺伝子変異が報告されており、特に重要な変異はK417N、T478K、E484Aの3つである。417、484位の変異はBeta株、Gamma株にも認められ、478位の変異はDelta株でも確認されているが、Delta株を特徴づける452位の変異はオミクロン株では存在しない。いずれにしろ、従来の変異株よりも多い液性免疫回避変異の結果、オミクロン株はワクチン、Monoclonal抗体薬に対して高い抵抗性を示し、オミクロン株感染におけるBI、DHIRIの発生機序として作用する。 コロナ感染症の重症化(入院/死亡)は主としてCD8-T細胞に由来する細胞性免疫の賦活によって規定される(Karim SSA, et al. Lancet. 2021;398:2126-2128.)。T細胞性免疫の発現に関与するウイルス全長に存在するEpitope(抗原決定基)数は500以上であり(Tarke AT, et al. bioRxiv. 2021;433180.)、遺伝子変異の数が多いオミクロン株(45~52ヵ所)でもCD8-T細胞反応を惹起するEpitopeの78%は維持されている(Pfizer and BioNTech. BUSINESS WIRE 2021年12月8日)。ウイルスに感染した細胞は賦活化されたCD8-T細胞によって処理され、その後の免疫過剰反応の発現を抑制する。細胞性免疫は液性免疫とは異なり変異株の種類によらず少なくとも8ヵ月以上は維持される(Barouch DH, et al. N Engl J Med. 2021;385:951-953.)。それ故、オミクロン株感染においても有意な細胞性免疫回避は発生せず重症化が従来の変異株感染時を大きく上回ることはない。以上の遺伝子学的事実より、オミクロン株時代における現状ワクチンの第一義的接種意義は”感染予防”から”重症化予防”にシフトしていることを理解しておくべきである。オミクロン株時代にあって未成年者全員にワクチン接種は必要か? ワクチン接種後の中和抗体価に代表される液性免疫とそれに規定される感染予防効果が2回接種後の時間経過に伴い低下することが明らかにされた結果(Levin EG, et al. N Engl J Med. 2021;385:e84. , Chemaitelly H, et al. N Engl J Med. 2021;385:e83.)、Delta株抑制を目的としてRNAワクチンの3回目Booster接種が世界各国で開始されている。イスラエルの解析ではBNT162b2の2回接種後に比べ3回目接種後(2回目接種から5ヵ月以上経過)のDelta株に対する感染予防効果は8.3倍、重症化(入院/死亡)予防効果は12.5倍と著明に上昇することが報告された(Barda M, et al. Lancet. 2021;398:2093-2100.)。しかしながら、3回目接種以降の経過観察期間は2ヵ月にも満たず、3回目ワクチン接種の効果がどの程度持続するかは不明である。さらに、これらの観察結果は現在問題となりつつあるオミクロン株を対象としたものでないためReal-Worldでの意義は不明である。 Pfizer社の記者会見によると、BNT162b2の2回接種後のオミクロン株に対する中和抗体価はコロナ原株に対する値の1/25まで低下したものの3回目接種によってオミクロン株に対する中和抗体価はコロナ原株に対する値の1/2まで回復した(Pfizer and BioNTech. BUSINESS WIRE, 2021年12月8日)。一方、英国での暫定的検討によると、BNT162b2の2回接種4~6ヵ月後のオミクロン株に対する発症予防効果は35%と低いが3回目Booster接種2週後には75.5%まで上昇した(UKHSA Technical Briefing 31)。ただし、3回目Booster接種によって底上げされたオミクロン株に対する発症予防効果がどの程度の期間持続するかは解析されていない。また、重症化予防効果についても解析されていない。 米国FDAはDelta株感染の拡大を阻止するために16歳以上の年齢層に対するBNT162b2の3回目Booster接種を認可している(Moderna社のmRNA-1273のBooster接種は18歳以上)。本邦でも18歳以上の成人に対するBNT162b2、mRNA-1273の3回目Booster接種が特例承認され、12月初旬より医療従事者からBNT162b2を用いた3回目Booster接種が開始されている。では、オミクロン株時代に、18歳未満の未成年者(児童、小児、幼児、乳児)に対してはいかなるワクチン政策を導入すべきなのであろうか? 現状では、海外治験によって、オミクロン株ではないが従来の変異株に対する児童、小児におけるワクチン2回接種の効果が報告されている。幼児、乳児におけるワクチン接種に関しては現在Pfizer社、Moderna社主導で治験が進行中である。未成年者におけるコロナ感染症の71%までは家族内感染、幼稚園/保育所/学校/塾での感染が12%と報告されている(日本小児学会 デ-タベ-スを用いた国内発症小児COVID-19症例の臨床経過に関する検討)。未成年者がオミクロン株に感染しても重症化する可能性は低いが児童、小児にあっては家から離れた学校などで感染する機会が存在する。それ故、オミクロン株時代にあっても少なくとも2回のワクチン接種を、また、必要に応じて3回目以降のBooster接種を考慮すべきであろう(米国は、10月29日、5歳以上の小児に対するPfizer社ワクチン10μgの2回接種を認可)。一方、幼児、乳児に関しては、彼らに対する直接的ワクチン接種を考える前に親/年長の家族ならびに保育所職員など大人に対する3回目のBooster接種を含めたオミクロン株感染予防対策を徹底すべきであろう。