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HER2低発現進行乳がん、T-DXdでPFSとOSが延長(DESTINY-Breast04)/NEJM

 HER2低発現の再発・転移のある乳がん患者において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は医師選択の化学療法と比較し、無増悪生存(PFS)期間および全生存(OS)期間を有意に延長させることが、第III相臨床試験「DESTINY-Breast04試験」で示された。米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのShanu Modi氏らが報告した。HER2の増幅や過剰発現を伴わない乳がんの中には、治療の標的となる低レベルのHER2を発現しているものが多く存在するが、現在用いられているHER2療法はこれら「HER2低発現」のがん患者には効果がなかった。NEJM誌オンライン版2022年6月5日号掲載の報告。T-DXdの有効性および安全性を医師選択化学療法と比較 研究グループは、2018年12月27日~2021年12月31日の期間に、1~2ラインの化学療法歴があるHER2低発現(IHCスコア1+、またはIHCスコア2+かつISH-)の再発・転移のある乳がん患者を、T-DXd群または化学療法群(カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ナブパクリタキセルのいずれかを医師が選択)に、2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、盲検化独立中央評価委員会(BICR)判定によるホルモン受容体(HR)陽性患者におけるPFS、主要な副次評価項目は全例におけるPFS、HR陽性患者および全例におけるOSであった。HR陽性例でも全例でも、T-DXdでPFSが約1.9倍、OSが約1.4倍に 無作為化された患者557例のうち、494例(88.7%)がHR陽性、63例(11.3%)がHR陰性であった。 HR陽性患者におけるPFS期間中央値はT-DXd群10.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.5~11.5)、化学療法群5.4ヵ月(4.4~7.1)であり(ハザード比[HR]:0.51、95%CI:0.40~0.64、層別log-rank検定のp<0.001)、OS期間中央値はそれぞれ23.9ヵ月(95%CI:20.8~24.8)、17.5ヵ月(15.2~22.4)であった(HR:0.64、95%CI:0.48~0.86、p=0.003)。 また、全例におけるPFS期間中央値はT-DXd群9.9ヵ月(95%CI:9.0~11.3)、化学療法群5.1ヵ月(4.2~6.8)であり(HR:0.50、95%CI:0.40~0.63、p<0.001)、OS期間中央値はそれぞれ23.4ヵ月(20.0~24.8)、16.8ヵ月(14.5~20.0)であった(HR:0.64、95%CI:0.49~0.84、p=0.001)。 Grade3以上の有害事象の発現率はT-DXd群52.6%、化学療法群67.4%であり、T-DXd群では薬剤関連間質性肺疾患/肺炎が12.1%(Grade5が0.8%)に発現した。

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初回入院統合失調症患者の再入院予防に対する抗精神病薬の有効性比較

 抗精神病薬治療は、統合失調症の最も主要な治療法であるが、その有効性を比較することは簡単ではない。国立台湾大学のYi-Hsuan Lin氏らは、アジア人初回入院統合失調症患者の再入院予防に対する抗精神病薬のリアルワールドでの有効性を比較するため、検討を行った。その結果、統合失調症の初回入院後に抗精神病薬の長時間作用型注射剤(LAI)による治療を行うことで、再入院予防に対する顕著なベネフィットが確認されたことから、初期段階でのLAI使用が再入院予防の重要な治療戦略であることを報告した。Schizophrenia Bulletin誌オンライン版2022年5月15日号の報告。 2001~17年の初回入院統合失調症患者(ICD-9-CM:295、ICD-10-CM:F20およびF25)を対象に、レトロスペクティブコホート研究を実施した。対象患者は台湾全民健康保険研究データベース(NHIRD)より特定し、退院後に使用された抗精神病薬を調査した。主要アウトカムは、精神病性障害による再入院リスクとし、調整済みハザード比(aHR)を算出した。経口リスペリドン使用患者を対象に、使用期間を対照期間とした個人内変動Coxモデルによる分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象は、台湾の初回入院統合失調症患者7万5,986例(男性の割合:53.4%、平均年齢:37.6±12.0歳、平均フォローアップ期間:8.9±5.0年)。・4万7,150例(62.05%)は、4年以内に1回以上の再入院が認められた。・経口リスペリドン使用期間と比較し、LAI抗精神病薬単剤治療期間では、精神病性障害による再入院リスクが最も低く、15~20%のリスク低下が認められた。・しかし、フォローアップ期間中のLAI使用率は低かった(10%未満)。

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RBDダイマー由来のCovid-19ワクチンZF2001の成人における有効性と安全性(解説:寺田教彦氏)

 ZF2001ワクチンは、組み換えタンパクCOVID-19ワクチンの1つで、SARS-CoV-2の受容体結合ドメイン(RBD)をベースにしたワクチンである。組み換えタンパクワクチンは抗原以外の物質で免疫の獲得を助ける物質であるアジュバントが添加されるが、ZF2001はアジュバントとして水酸化アルミニウムが含有されている。組み換えタンパクワクチンの技術はCOVID-19ワクチン以前からも用いられており、1986年にB型肝炎が承認されるなど、他のワクチンでも使用実績がある。 本邦で薬事承認され、予防接種法に基づいて接種されているCOVID-19ワクチンは、ファイザー社のmRNAワクチン(商品名:コミナティ)、武田/モデルナ社のmRNAワクチン(同:スパイクバックス)、アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチン(同:バキスゼブリア)、武田社の組み換えタンパクワクチン(同:ヌバキソビッド)があるが、このうち、ZF2001と同様の組み換えタンパクワクチンは武田社のヌバキソビッドである。 さて、本研究の内容である有効性と安全性について見てゆく。 ワクチンの有効性は、アップデートした解析では、主要エンドポイントのCOVID-19発症例が、ZF2001群は1万2,625例中158例、プラセボ群は1万2,568例中580例であり、発症予防効果は75.7%(95%信頼区間[CI]:71.0~79.8)だった。重症~致死的なCOVID-19症例は、ZF2001群で6例、プラセボ群で43例であり、重症化予防効果は87.6%(95%CI:70.6~95.7)だった。COVID-19の関連死はそれぞれ2例、12例であり、死亡に対する予防効果は86.5%(95%CI:38.9~98.5)だった。 ZF2001のCOVID-19に対する発症予防効果は70%以上を示し、有効性は示したと考えられる。世界各国で承認されているCOVID-19ワクチンは複数あり、ワクチンによる効果の差は気になるところではあるが、有効性は研究を実施した国の流行状況や流行株、政策などの影響を受けるため、ワクチンの効果を単純な数値のみで比較することは難しい。 副反応は、ZF2001群とプラセボ群で有害事象の発現率や重篤な有害事象の発生率は類似しており、ZF2001群での局所反応の発生率は18.8%で、全身反応の発生率は25.1%と低値だった。 上記の結果から、ZF2001のCOVID-19ワクチンとしての、立ち位置を考える。執筆時点としては、本邦において当ワクチンを新規に採用するメリットは乏しいと思われる。 本邦では、すでに多くの国民がファイザー社や武田/モデルナ社のmRNAワクチンやアストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンを接種しており、COVID-19流行の抑制に貢献してきた。本邦でも未接種者やブースター接種が未実施の方がいるが、ZF2001がこれらのワクチンに優先して接種されるとは過去の実績的に考えにくい。これらCOVID-19のmRNAワクチンやウイルスベクターワクチンは世界的に接種されてきた回数も多く、安全性や副反応、効果に十分なデータがある。ZF2001はこれらワクチンに比較すると接種後データは少なく、今後新規の副反応が報告される懸念は残るかもしれない。また、組み換えタンパクワクチンは、局所反応を含めた副反応が低い点やmRNAワクチンが接種できない未接種者にも接種可能になりうる点はあるが、本邦ではすでに武田社の組み換えタンパクワクチン(ヌバキソビッド)が採用されている。ヌバキソビッドの有効性と副反応のデータもNEJM誌に掲載をされている(Heath PT, et al. N Engl J Med. 2021;385:1172-1183.)が、執筆時点でZF2001がヌバキソビッドに明らかに勝る点も指摘が難しい。 次に世界的な観点から考える。本文でも指摘されているように、ZF2001などの組み換えタンパクワクチンは輸送・保存の安定性の点でmRNAワクチンよりも有利である。本邦でもmRNAワクチンを導入する際には、低温での保管が課題となっていた。今後ワクチン接種を進めてゆく国でも輸送や保管の簡便さは求められると考えられる。当ワクチンのCOVID-19に対する有効性と接種後の副作用結果からは、本研究に参加した国々を中心にZF2001の接種が進んでゆくと思われる。 複数のワクチンが選択可能な本邦では当ワクチンが臨床で必要とされる機会は乏しいと考えられるが、世界的には同ワクチンが接種に活用され、接種をされた地域でのCOVID-19流行の抑制に役立つことが期待される。 また、COVID-19に限らず今後も世界的な流行を起こす感染症は発生すると考えられ、複数の国でワクチン開発技術が発展することは望ましいことであろう。

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書き続けるコツ【Dr. 中島の 新・徒然草】(430)

四百三十の段 書き続けるコツ「中島先生、よくそんなに書き続けることができますね」「毎回、毎回、どこからネタを探してくるのですか?」などなど、ケアネットの読者に声を掛けられる事があります。実際は楽々と書いているわけではありません。締め切り間際までかかって、何とか原稿を完成させているのが現実です。結構、苦しんでおります。実際のところ、ネタは沢山あります。が、それをうまく料理できていない、というのが本当のところ。自分の秘密ノートには「このテーマで書こう」というメモは沢山ありますが、完成した1つの原稿まで持っていけないわけですね。たしかにテーマのリストを見れば「書こう」と思った内容は覚えています。でも、その時の感動は抜けてしまっており、原稿にするエネルギーが足りません。残念!やはりネタは新鮮なものが一番。感動したことや語りたいことがあれば、すぐに書く。そのタイミングが最も大きな駆動力となり、書き続けるコツになります。実はこの事を一番感じるのが臨床の仕事中。とくに病状説明、術前説明、それと手術記録ですね。言うまでもありませんが、病状説明は入院患者さんとそのご家族に対して行うもので、診断や治療方針とその根拠を述べます。画像を見せたりしながらわかりやすく、20〜30分かけるのが通常です。当然、カルテに記録を残します。術前説明は、これから行おうとしている手術について、どういう病気に対してどういう治療をするか、図を描きながら患者さんやご家族に説明を行います。これも何を言ったかをカルテに書き残します。手術については、その全過程の要点を言葉で書き残します。紙カルテの時代は図も入れていましたが、電子カルテになってからは文字だけになってしまいました。これら3つの記録は、多くの場合、同席したあるいは助手をしたレジデントが正式の記録を書くことになっています。でも、私は自分でも書かないと気がすみません。レジデントが何を書こうが書いてなかろうが、自分で独自に書くわけです。とはいえ、半日も空いてしまうと細部は忘却の彼方。なので、手術記録であれば麻酔覚醒の間にでも書いてしまいます。そうすれば、自分が大切だと思ったこと、なぜそのようにしたのかということ、などを書き漏らすことはありません。読者の皆様も同じではないでしょうか。このような普段の経験からわかるように、何か書くというのは、そのイベントが起きた直後がベスト。そうすれば、体感5分で片付け可能です。この原稿のネタも、帰宅途中の車の中で思いつきました。忘れないうちに、自宅に帰った直後に書いております。もし、継続的に何か書こうとしている人がいたら、ぜひ私の経験を参考にしてください。最後に1句 梅雨の夜 車中で浮かぶ ネタ1つ

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オリックスが株主優待廃止! 赤信号、皆で渡っても怖かった【医師のためのお金の話】第57回

株主優待銘柄として不動の人気を誇るオリックス。毎年株主に贈られる「ふるさと優待」と呼ばれるカタログギフトはあまりに有名です。そのオリックスが株主優待制度を2024年3月末で廃止すると発表し、全国の個人投資家に衝撃が走ったのは記憶に新しいですね。個人株主80万人に影響があるそうで、ネット上では株主優待目的でオリックス株を所有していた人たちの嘆きで溢れています。かく言う私も、オリックスの株主優待投資を考えていたクチ。破格の条件でとても魅力的ですから。3月初旬の株式市場の下落で損切りしましたが、株主優待をゲットするために現物つなぎ売りを検討したほどです。しかし、すんでのところでオリックスへの投資は自制しました。その理由は、あまりにも好条件の株主優待に一抹の不安を抱いたからです。株主優待制度の縮小は予想されていた2022年4月に、東証はプライム市場などの新しい区分を創設しました。東証の再編は、株主優待制度に大きな影響を及ぼします。なぜなら、多くの企業にとって「上場基準をクリアすること」が株主優待制度を維持する目的だったからです。今回の東証の再編では、従来よりも上場維持に必要な基準がかなり緩和されました。上場基準の1つに「株主数」があります。このため大規模な機関投資家だけではなく、たくさんの個人投資家も集める必要があります。そして、個人投資家の注意を引く“キラーアイテム”が株主優待制度だったのです。しかし、株主優待は日本独自の制度で、日本国内に在住する個人投資家にしか恩恵がありません。外国人の機関投資家から見れば株主優待制度は不平等極まりないものです。今回の東証再編では、上場企業が順守すべき原則を定めたコーポレートガバナンス・コードが重視されました。そこでは「株主平等の原則」が謳われています。国内の個人投資家、という一部の株主だけが優遇される株主優待制度にとっては逆風なのです。問題点は皆が株主優待制度に殺到したことここまで株主優待制度が置かれている状況を見てきました。オリックスが株主優待制度の廃止を決めたのは当然の成り行きだったようにも思えます。しかし、本当の問題はそこではありません。東証再編というのは、あくまでも株主優待制度の逆風の1つに過ぎないです。本当に注視するべき点は、「株主優待投資の過熱」にあります。私が株式投資を開始した2001年時点でも株主優待制度は存在しましたが、当時は株主優待に注意を払う人はあまりいません。あくまで株式投資の“オマケ”だったのです。そんな中、大の牛丼ファンの私は株主優待目的で吉野家HDに投資したワケですが、投資家界隈ではそうした投資は極めて少数派でした。しかし、今では株主優待投資は1つのジャンルを形成するほどに隆盛を極めています。この差は極めて大きいのです。株主優待制度に注目が集まったため、海外の機関投資家の目も厳しくなりました。逆に言えば、20年前のように株主優待投資がマイナーな存在であれば、今回のような事態は発生しなかった可能性があります。つまり、東証の再編は株主優待制度への逆風の1つの要素に過ぎないのです。猫も杓子も株主優待に殺到してしまったため、制度自体が崩壊の危機に瀕している、というのが真相ではないでしょうか。投資では周囲と同じ行動をしないのが得策前回の「実は損しているかも!? 株主優待は落とし穴がいっぱい」で、私は下記のような提案をしました。株主優待目的であれば比較的小さな会社の自社商品やサービスを株主優待にしている銘柄がよいかもしれません。しかし、この提案は本質的ではないかもしれません。なぜなら、あくまで株主優待投資を行う前提だからです。これでは現状を維持したまま、損失を最小限に抑える効用しかないとも言えます。本来なら、メジャーになり過ぎた株主優待投資からの脱出を考えるべきタイミングでしょう。皆が注目することに自分もコミットするのは望ましくありません。どうしても競争が激しくなってしまい、得るモノが少なくなりがちだからです。株式投資で結果を出すためには、恐怖や孤独感に苛まれながらリスクを取るしかありません。しかし、シンドイことはご勘弁という人は、周囲と同じ行動をしないだけでもリスクの大半を回避することができます。投資においては「多数派は負けやすい」ことを忘れないようにしましょう!

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悪性神経膠腫〔malignant glioma〕

1 疾患概要■ 定義脳には神経細胞と神経線維以外に、それらを支持する神経膠細胞があり、この神経膠細胞から発生する腫瘍を総称して「神経膠腫(グリオーマ:glioma)」という。細胞の種類により星細胞腫(アストロサイトーマ:astrocytoma)、乏突起膠腫(オリゴデンドログリオーマ:oligodendroglioma)、上衣腫(エペンディモーマ:ependymoma)などに分類される。さらに病理診断上は悪性度に応じてグレード(grade)が1~4までの4つに分かれており、成人の神経膠腫はほとんどがグレード2以上のものであり、びまん性神経膠腫と呼ばれる。グレード4の神経膠腫は膠芽腫(グリオブラストーマ:glioblastoma)と呼ばれ最も予後不良である。グレード2とグレード3の神経膠腫をまとめて低悪性度神経膠腫(lower grade glioma)と呼ぶが、必ずしも悪性度が低いわけではない。■ 疫学「脳腫瘍全国集計調査報告(2005~2008)」では、原発性脳腫瘍のうち神経膠腫全体の頻度は26.9%であった1)。神経膠腫のなかでは、グレード4の膠芽腫が約半数を占め、グレード2、3のlower grade gliomaが約40%の頻度である。Lower grade gliomaのうち、星細胞腫系と乏突起膠腫系がおよそ2:1となっており、以前の統計に比べて乏突起膠腫の頻度が増加している。グレードが上がるにつれて発症年齢も上がっていき、年齢中央値はグレード2のびまん性星細胞腫で38歳、乏突起膠腫で42歳、グレード3の退形成性星細胞腫で49歳、退形成性乏突起膠腫で54歳、グレード4の膠芽腫で63歳となっている。男女比は、膠芽腫で1.39:1、lower grade gliomaで1.34:1と男性にやや多い。■ 病因1)遺伝的素因神経膠腫のほとんどは孤発性に発生し、遺伝的な素因により発症する遺伝性腫瘍はまれである。神経膠腫を生じうる遺伝性腫瘍として、以下のような疾患がある。リ・フラウメニ症候群:生殖細胞系列にTP53遺伝子の異常を有し、家族性にがんを多発する。リンチ症候群:生殖細胞系列にミスマッチ修復遺伝子の異常を有しており、神経膠腫のみならず大腸がん、子宮体がん、卵巣がん、胃がんなどのリスクを有する。ターコット症候群のtype1はリンチ症候群の亜型で、神経膠腫と大腸がんを合併する。2)遺伝子異常腫瘍細胞は、前駆細胞に遺伝子異常が生じ、その結果生物学的な性格の変化を来して発生すると考えられている。神経膠腫においては、腫瘍の組織型別および悪性度別に生じている遺伝子異常に共通性と相違が認められており、その種類や生じる時期により、異なるタイプと悪性度の神経膠腫が発生するのではないかとの仮説が提唱されている。主な神経膠腫の遺伝子異常を図1に示す。図1 神経膠腫の遺伝子異常画像を拡大するびまん性神経膠腫の発生初期に起こる遺伝子異常の代表的なものとして、イソクエン酸脱水素酵素(IDH)遺伝子変異があげられる。網羅的な遺伝子解析の結果、lower grade gliomaおよびグレード2、3の星細胞腫から悪性転化した二次性膠芽腫に非常に高頻度にみられることが明らかになった。このIDH遺伝子変異を持つ細胞にTP53遺伝子変異やATRX遺伝子変異が加わると星細胞腫へ、第1番染色体短腕(1p)および第19番染色体長腕(19q)の全体が共に欠失する(1p/19q共欠失)変異が加わると乏突起膠腫に進展していくという仮説が広く受け入れられている。IDH変異のない膠芽腫では、EGFR遺伝子の増幅、第10番染色体の欠失、TERT遺伝子プロモーター領域の変異などが腫瘍形成に関与していると考えられている。小児悪性神経膠腫において、ヒストンテールをコードする遺伝子変異(H3F3A K27M/G34Rなど)が高頻度に認められることが判明し、この変異がエピゲノム制御を介して腫瘍化に関わっていることが示唆される。毛様細胞性星細胞腫(pilocytic astrocytoma)や類上皮膠芽腫(epithelioid glioblastoma)に高率に認められるBRAF遺伝子変異(BRAF V600E)なども重要な遺伝子異常で、この遺伝子を標的とした分子標的薬による治療が開発されている。3)外的因子放射線照射は脳腫瘍の発生と関連性が深いと考えられており、照射後数年~数十年後に神経膠腫が発生する事例の報告がある。■ 症状神経膠腫の症状としては、(1)腫瘍による脳の圧迫や脳浮腫に由来する頭蓋内圧亢進症状、(2)発生部位の脳機能障害による局所症状、(3)腫瘍に起因する痙攣発作がある。(1)頭蓋内圧亢進症状:頭痛や嘔気・嘔吐の症状が出現し、進行すると意識障害を来す。(2)局所症状:腫瘍の部位により麻痺、感覚障害、失語症、視野障害、認知機能低下などのさまざまな高次脳機能障害が起こりうる。進行の早い膠芽腫では局所症状が起こりやすく、脳腫瘍全国集計調査報告では膠芽腫の初発症状のうち57%が局所症状である1)。(3)痙攣発作:腫瘍が発生源となる部分発作から、二次性全般化を来して全身の強直間代性発作を起こすこともある。特にlower grade gliomaで痙攣発作の頻度が高く、lower grade gliomaの初発症状のおよそ半数が痙攣発作である1)。■ 分類神経膠腫はグリア細胞起源であり、その分化組織型により星細胞腫系、乏突起膠腫系に分かれる。また、疾患予後を表す指標である組織学的悪性度は世界保健機関(WHO)のグレード分類で予後が良い方から悪い方へグレードIからIVに分類される。WHO脳腫瘍分類第4版(2007年改訂)では病理組織所見に基づいて分類され、星細胞腫系、乏突起膠腫系およびそれらの混合腫瘍に分類された(表1)。表1 成人神経膠腫の分類(WHO2007)画像を拡大する2016年にWHO脳腫瘍分類の改訂が行われ、腫瘍組織の遺伝子検査を加味した分類がされるようになった。神経膠腫においては、lower grade gliomaの70~100%の頻度でみられるIDH変異、乏突起膠腫系腫瘍の特徴である1p/19q共欠失を付記し、形態学的診断、悪性度、分子情報を統合したintegrated diagnosis(統合診断)が取り入れられた(表2)。表2 成人神経膠腫の分類(WHO2016)画像を拡大するまた、小児脳幹部に好発する神経膠腫ではヒストンの遺伝子変異などの異常が明らかにされて、びまん性正中神経膠腫(diffuse midline glioma、H3K27M-mutant)という分類が新設された。さらに、2021年にWHO分類の改定が行われ、成人びまん性神経膠腫は以下の3種類に統合された(表3)。グレードの記載はローマ数字からアラビア数字に変更された。表3 成人神経膠腫の分類(WHO2021)画像を拡大する(1)星細胞腫IDH変異型(グレード2、3、4)グレードは病理組織学的に決定されるが、遺伝子解析の結果CDKN2A/B遺伝子のホモ接合型欠失があればグレード4に分類される。(2)乏突起膠腫IDH変異型, 1p19q共欠失(グレード2、3)乏突起膠腫の診断にはこの遺伝子型が必須となり、グレードは病理組織学的に決定される。(3)膠芽腫IDH野生型(グレード4)IDH野生型で、[1]病理での微小血管増殖または壊死、[2]TERT遺伝子プロモーター領域の変異、[3]EGFR遺伝子増幅、[4]7番染色体増加かつ10番染色体の全欠失のいずれかを伴えば膠芽腫と診断される。IDH野生型のグリオーマでこれらの所見を伴わない場合には、小児型のびまん性神経膠腫を考慮することになるが、この分類では診断困難な腫瘍群が出てくることが課題である。■ 予後神経膠腫の予後はグレード、組織型により異なり、最も予後の悪い膠芽腫では標準治療 である放射線治療およびテモゾロミド化学療法の併用療法を行っても生存期間中央値は15~20.3ヵ月と予後不良である1、2)。脳腫瘍全国集計調査報告(2005~2008年)によると、神経膠腫の5年生存率は、グレード4の膠芽腫で16%、グレード3の退形成性星細胞腫で43%、退形成性乏突起膠腫で63%、グレード2のびまん性星細胞腫で77%、乏突起膠腫で92%である(表4)1)。表4 組織型・グレード別予後画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 血液検査神経膠腫の有用な腫瘍マーカーは今のところない。悪性リンパ腫に対する腫瘍マーカーとして可溶性IL-2レセプターがあり、その他各種がんの腫瘍マーカーは転移性脳腫瘍の鑑別診断の補助となる。■ 髄液検査髄腔内播種がある場合、髄液細胞診で異型細胞が検出されることがある。■ 画像検査診断のためにはCT、MRIなどの画像検査が欠かせない。1)CT腫瘍の局在に加えて、腫瘍内の出血や石灰化の有無を確認する。神経膠腫で腫瘍内の石灰化があれば、乏突起膠腫を強く疑う。2)MRI腫瘍の詳細な解剖学的位置情報のみならず、多種類の撮像方法により、病巣の質的・生物学的情報も得ることができる。T2強調画像・FLAIR画像では、病巣の広がりと脳浮腫の領域を、T1強調画像ではガドリニウムによる造影検査を行うことで、血液脳関門の破綻のある腫瘍本体の局在情報が得られる。造影される神経膠腫は、膠芽腫をはじめとした高悪性度(high grade)の腫瘍を疑う。拡散強調画像では、腫瘍細胞密度の推定や急性期脳梗塞との鑑別を行う。拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging)を用いて、錐体路、視放線、言語関連線維(弓状束や上縦束など)などの白質線維の描出が可能である。灌流画像により腫瘍の血流・血液量の評価が可能で、腫瘍の悪性度の推定や膠芽腫と悪性リンパ腫の鑑別に有用である。さらに、MR spectroscopy (MRS)では、病巣に含有される分子の成分解析を行い、腫瘍性成分の多寡、嫌気性代謝の有無などの情報が得られ、疾患の鑑別の一助となる。3)PET病巣の代謝活性を直接評価するためにPET検査が有用である。脳はブドウ糖代謝が高度であることから、一般に用いられるブドウ糖をトレーサーとするFDG-PET検査での検出力は低く、アミノ酸代謝を反映するメチオニンPETがより検出力に優れているが、現在まだ保険適用となっていないため自費での検査となる。アミノ酸をトレーサーとするフルシクロビン(18F)PETは2021年に初発悪性神経膠腫に対して薬事承認されたが、いまだ保険収載されておらず、使用できる段階にはない。■ 病理診断診断確定のためには、手術摘出検体(生検含む)を用いた病理組織診断が必要である。■ 遺伝子解析2016年のWHO脳腫瘍分類改訂第4版以降は、IDH変異や1p/19q共欠失などの遺伝子解析が診断確定に必須となる。IDH変異のうち、IDH1遺伝子のR132H変異は免疫染色で高精度に検出できるが、他のIDH変異はサンガーシークエンスやパイロシークエンスなどの解析が必要である。1p/19q共欠失は、FISH法、マイクロサテライト法、MLPA法などで解析を行うのが一般的である。現在、保険収載を目指した1p/19qのFISHプローブの開発が進められている。IDH変異、1p/19q共欠失含め神経膠腫の遺伝子解析は保険適用となっておらず、現在は主要施設において研究の一環として実施されているのが実情であり、今後の課題である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)悪性神経膠腫に対する治療の柱は手術、放射線治療、化学療法であるが、腫瘍の組織型、グレードによりその選択は異なる。また、腫瘍治療電場療法(商品名:オプチューン)やウイルス療法(同:デリタクト)などの新規治療法が近年保険収載され、保険診療下に使用可能となった。初発膠芽腫の標準治療例について、図2に示す。図2 初発膠芽腫標準治療画像を拡大する■ 手術神経膠腫が疑われたら、原則としてまず手術による腫瘍摘出が行われる。摘出標本による病理学的確定診断が極めて重要であり、その結果により術後の補助療法の内容や適否が決定される。神経膠腫の手術は、膠芽腫においてもlower grade gliomaにおいても摘出率を上げることにより予後改善が見込めるという報告が多く、最大限の摘出が望ましい3、4)。ただし、手術合併症により症状を悪化させてしまうと患者QOLを大きく損なうばかりか、生命予後をかえって悪化させてしまうため、症状を悪化させない範囲での最大限の摘出(maximal safe resection)を目指すべきである。手術支援技術が発展してきたため、術中ナビゲーション、電気生理モニタリング、覚醒下手術、術中蛍光診断(5-ALA)、術中MRIなどを駆使した精度の高い手術が可能となってきている。■ 放射線治療神経膠腫への放射線治療は、腫瘍細胞の浸潤性性格から浸潤領域を含む領域に照射することが必要であるため、正常神経細胞の機能障害を最小限とするべく、局所分割照射が行われる。グレード4の膠芽腫には、手術に引き続き後述のテモゾロミド併用放射線治療を60Gy/30回分割(1回線量2Gy)で施行する。照射範囲は腫瘍周囲のT2高信号域に若干のマージンを加えた範囲とすることが一般的である。高齢者の膠芽腫に対しては、40Gy/15回分割の放射線治療の非劣性が示され、寡分割照射が推奨される5)。また、高齢者や脆弱なフレイル患者に対して25Gy/5回分割照射の40Gy/15回分割照射に対する非劣性が示され、さらなる照射期間の短縮が治療選択肢となり得る6)。グレード3の退形成性神経膠腫には、総線量54~60Gyが照射される。摘出術後に引き続き照射を行うことが標準的であるが、予後良好な因子を持つ退形成性乏突起膠腫に対しては、照射を待機する試験的な治療も臨床試験では検討されている。グレード2の低悪性度神経膠腫の場合は、摘出度、年齢、腫瘍径、組織型などにより高リスク(high risk)例では放射線治療を行うことが推奨される。低リスク(low risk)例では術後早期の放射線治療は行わず、慎重に経過をみることが提案される。■ 化学療法わが国で神経膠腫に対して保険適用のある薬剤は、テモゾロミド(TMZ)、ニムスチン(ACNU、商品名:ニドラン)、ベバシズマブ(bevacizumab;BEV、同:アバスチン)、カルムスチン(BCNUウエハー、同:ギリアデル)、プロカルバジン(PCZ、同:プロカルバジン)、ビンクリスチン(VCR、同:オンコビン)などである。1)膠芽腫テモゾロミド(TMZ)18歳以上70歳以下の成人初発膠芽腫患者に対しては、手術後TMZを放射線治療期間中、ならびに放射線終了後投与するStuppレジメンが強く推奨される7)。TMZはリンパ球減少を生じやすく、その結果ニューモシスチス肺炎などの日和見感染のリスクが高まるため、ST合剤などの予防処置を行う。神経膠腫においては、O6-methylguanine-DNA methyltransferase (MGMT)遺伝子プロモーター領域のメチル化があるとTMZがより有効である8)。高齢者の膠芽腫において、短期照射の放射線治療にTMZの上乗せが有効かどうか検証した第III相臨床試験において、TMZ併用の有効性が示された9)。特にMGMTメチル化のある高齢者膠芽腫に対してはTMZ併用が勧められる。ベバシズマブ(BEV)血管新生の主因となる血管内皮増殖因子(VEGF)を阻害するヒト化モノクローナル抗体で、2013年6月に悪性神経膠腫に対して薬事承認された。初発膠芽腫に対して、AVAglioとRTOG0825の2つの第III相臨床試験が報告され、どちらも無増悪生存期間は延長するが、全生存期間は延長させないという結果であった10、11)。わが国では保険診療下で初発膠芽腫でのBEVの使用が可能であるが、全生存期間の延長が示されないことから必ずしも推奨されない。術後の残存腫瘍や浮腫によりperformance status(PS)を下げている患者には、浮腫軽減効果の強いBEV併用が期待できる可能性がある。一方、TMZ治療後の再発膠芽腫に対しては、国内外での臨床試験で高い奏効割合、無増悪生存期間と症状改善効果が示され、BEV単独療法は再発膠芽腫に対する有力な治療法と考えられる12、13)。これまでのところ、他剤との併用による効果増強は示されておらず、単独投与が基本である。BCNUウエハー手術時に摘出腔壁に留置してくるニトロソウレア系BCNUの徐放性ペレット剤(ギリアデル)が、2013年1月に承認された。初発および再発悪性神経膠腫に対する欧米での第III相臨床試験の結果は、BCNUウエハー留置による全生存期間が、初発時では悪性神経膠腫に対し、再発時にはサブ解析にて膠芽腫に対し、有意な延長が認められた。逆に、初発時の膠芽腫に、また再発時の悪性神経膠腫全症例には有意差はみられなかった。一方、BCNUウエハーの使用による有害事象としては、術後の脳浮腫が約25%で認められたほか、摘出腔内ガス発生、髄液漏、創感染、けいれん発作などが生じる可能性がある。現在、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)において、90%以上の摘出が見込まれる初発膠芽腫に対して術中ランダム化してBCNUウエハー留置の有効性を検証する第III相試験が行われている(JCOG1703)。2)グレード3神経膠腫グレード3神経膠腫に対しては、術後薬物療法が推奨される。退形成性星細胞腫に対して放射線治療に同時併用(concurrent)と維持療法(adjuvant)のTMZを併用するかどうかを検証したCATNON試験では、concurrent TMZは放射線治療単独に比べて無増悪生存期間(PFS)・全生存期間(OS)ともに差を認めなかったが、adjuvant TMZはPFS・OSともに有意に延長するという結果であった14)。退形成性乏突起膠腫(1p/19q共欠失腫瘍)に対する放射線治療単独と放射線治療とPCV療法(PCZ+CCNU+VCR)の併用療法を比較した欧米の2つの第III相試験において、PCV療法の併用がOSを有意に延長することが示された15、16)。わが国ではCCNUが未承認であるため、ACNUを代替薬として用いるPAV療法が行われている。また、放射線治療+PCV療法と、放射線治療+TMZを比較するCODEL試験が現在行われている17)。3)グレード2神経膠腫High riskのグレード2神経膠腫に対しては、放射線治療+PCV療法の併用療法が放射線治療単独に比べてOSを延長することが示された18)。同じくhigh riskのグレード2神経膠腫に対するTMZ単独療法と放射線治療の第III相試験では、両群に差を認めなかった19)。■ 腫瘍治療電場療法(オプチューン)脳内に特殊な電場を発生させて腫瘍増殖を抑制する治療法で、交流電場腫瘍治療システム(オプチューン)を用いる。頭皮に電極パッド(transducer arrays)を貼り、中間周波の交流電場(Tumor Treating Fields)を持続的に発生させて腫瘍細胞の分裂を阻害する。初発テント上膠芽腫に対して、手術とTMZ併用放射線治療後、TMZ維持療法時にオプチューンを併用することで有意にPFS・OSが延長することが示され、2018年にわが国でも承認された20)。装着のために髪の毛を頻繁に剃り、約1.2kgの装置を常時持ち運びする必要が生じるため日常生活が制限される可能性がある。装着時間が長いほど治療効果が高まるが、接触性皮膚炎などの皮膚トラブルに注意が必要である。4 今後の展望■ ウイルス療法腫瘍溶解ウイルス療法(oncolytic virus therapy)とは、腫瘍細胞だけで増えるように改変したウイルスを腫瘍細胞に感染させ、ウイルスそのものが腫瘍細胞を殺しながら腫瘍内で増幅していくという新しい治療法である。ウイルスが直接腫瘍細胞を殺すことに加え、腫瘍細胞に対するワクチン効果も誘発する。2021年6月、世界初の脳腫瘍に対するウイルス療法として、テセルパツレブ(デリタクト)が承認されたが、薬剤の供給が間に合わずまだ普及はしていない。■ がん遺伝子パネル、がんゲノム医療2019年6月にがん遺伝子パネル検査としてOncoGuide NCCオンコパネル(シスメックス社)とFoundationOne CDxがんゲノムプロファイル(中外製薬)が保険収載され、それぞれ114遺伝子、324遺伝子の遺伝子変異などを解析することが可能となった。神経膠腫においてもがん遺伝子パネル検査を行い、遺伝子異常に応じた分子標的薬治療につなげるがんゲノム医療が進んでいくことが期待される。5 主たる診療科脳神経外科、脳脊髄腫瘍科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本脳腫瘍学会オフィシャルホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)がん情報サイト「オンコロ」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報脳腫瘍ネットワーク(Japan Brain Tumor Alliance:JBTA)(患者とその家族および支援者の会)がんの子どもを守る会(患者とその家族および支援者の会)1)Brain Tumor Registry of Japan(2005-2008). Neurol Med Chir(Tokyo).2017;57:9-102.2)Wakabayashi T, et al. J Neurooncol. 2018;138:627-636.3)Sanai N, et al. J Neurosurg. 2011;115:3-8.4)Smith J.S, et al. J Clin Oncol. 2008;26:1338-1345.5)Roa W, et al. J Clin Oncol. 2004;22:1583-1588.6)Roa W, et al. J Clin Oncol. 2015;33:4145-4150.7)Stupp R, et al. N Engl J Med. 2005;352:987-996.8)Hegi M.E, et al. N Engl J Med. 2005;352:997-1003.9)Perry J.R, et al. N Engl J Med. 2017;376:1027-1037.10)Chinot O.L, et al. N Engl J Med. 2014;370:709-722.11)Gilbert M.R, et al. N Engl J Med. 2014;370:699-708.12)Friedman H.S, et al. J Clin Oncol. 2009;27:4733-4740.13)Nagane M, et al. Jpn J Clin Oncol. 2012;42:887-895.14)van den Bent M.J, et al. Lancet Oncol. 2021;22:813-823.15)Cairncross J.G, et al. J Clin Oncol. 2014;32:783-790.16)van den Bent M.J, et al. J Clin Oncol. 2013;31:344-350.17)Jaeckle K.A, et al. Neuro Oncol. 2021;23:457-467.18)Buckner J.C, et al. N Engl J Med. 2016;374:1344-1355.19)Baumert B.G, et al. Lancet Oncol. 2016;17:1521-1532.20)Stupp R, et al. JAMA. 2015;314:2535-2543.公開履歴初回2022年6月16日

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第113回 コロナ禍で浮き彫りになった「医療制度改革の課題」

新型コロナウイルスの感染者数が減少傾向にある中、マスク着用の屋外での緩和や、外国人観光客の入国規制の緩和など、経済活動も徐々に動き始めている。医療においては、これまでのコロナ禍を通じて、課題が浮き彫りになってきた。医療界ではどのような認識でいるのか。病院団体の中核組織である日本病院会の相澤 孝夫会長は「コロナ禍で明らかになったことは、平時にできていないことは緊急時だからといって急にできることではないということである。平時にできていなかったことは何かを明らかにし、できるようにしておくことが我が国の喫緊の課題であり、新興感染症対策としても重要である」と述べている。改革が医療の根本的課題解決に役立っていなかった相澤会長は『日本病院会雑誌』2022年4月号の「巻頭言」の中で、「我が国は将来の社会構造の変化を予測して、社会保障と税の一体改革とそれに引き続く全世代型社会保障改革を推進してきた」としたうえで、「その改革の一環として医療制度改革も行われてきたが、コロナ禍によりその改革が我が国の抱える医療の根本的課題の解決には役立っていないことが明白となった」と指摘。明白になったこととして以下の3つを挙げた。(1)患者がその病態に見合った的確な入院医療を適切な病院で受けることができる病院間の役割分担と目詰まりのない円滑な患者の転送システムや病・病連携ができていなかった。病床機能報告に基づいて病床(棟)機能分化を推進してきた地域医療構想は、各病院の機能や役割を明確にすることには役立たず、むしろ混乱を招いてしまった。(2)コロナ感染症への対応において、適切な医療提供体制を構築しなければならない地域範囲としての圏域は、市町村圏域、保健所圏域、都道府県圏域、二次医療圏域などがさまざまに入り乱れており不明確であったために、圏域内における諸病院の連携を構築することが難しかった。このため、感染症患者の円滑な流れをつくることができなかった。(3)疾病を治す医療だけではなく、治し支える医療としての総合的医療を必要とする高齢患者に対する入院医療のビジョンがなかった。とくに後期高齢者の医療需要は今後も急速な増加が続くにもかかわらず、医療計画においてその対応は記載されていない。適切な医療圏域、新たな病院類型と機能、高齢者医療ビジョン以上のことから、相澤会長は以下の3点を提言した。医療提供体制を構築するための適正な医療圏域を設定すること。病床(棟)機能分化ではなく、病院の役割分担を明確にした新たな病院類型とその病院が発揮すべき機能を明確にすること。高齢者医療に関する医療計画を策定することを盛り込んだ新たな医療制度改革が必要である。新たな感染症が世界に広まりつつある中、コロナ禍をきっかけに浮き彫りとなった医療制度改革の課題を、国は真摯に受け止めて、医療界とともに解決を目指してほしい。

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オリゴ転移乳がん1次治療、SBRT/外科的切除追加でPFS改善せず(NRG-BR002)/ASCO2022

 オリゴ転移乳がんの1次治療で、標準薬物療法に定位放射線治療(SBRT)もしくは外科的切除によるmetastases directed treatment(MDT)を追加しても、生存ベネフィットを得られないことが、第IIR/III相NRG-BR002試験で示された。米国・シカゴ大学のSteven J. Chmura氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2022 ASCO Annual Meeting)で発表した。 オリゴ転移乳がんに対しては、アブレーションにより無増悪生存(PFS)および全生存(OS)が改善されることが後ろ向き研究で示されているが、第III相試験のエビデンスはほとんどない。このNRG-BR002試験は、オリゴ転移乳がんの1次治療として、標準薬物療法にSBRT/外科的切除でのMDTを追加することによる生存へのベネフィットを検討した無作為化第IIR/III相試験である。・対象:標準的画像診断で頭蓋外転移が4つ以下で、原疾患がコントロールされているオリゴ転移乳がん・試験群(併用群):標準薬物療法(化学療法、内分泌療法、抗HER2療法)+全転移巣へのMDT・対照群(薬物療法群):標準薬物療法のみ・主要評価項目:第IIR相 PFS、第III相 OS 主な結果は以下のとおり。・第IIR相への登録は129例、うち125例が適格だった(薬物療法群:65例、併用群:60例)。年齢中央値54歳、転移数は1つが60%、ERおよび/またはPR陽性かつHER2陰性が79%、トリプルネガティブが8%だった。無作為化後の治療について、併用群におけるMDTはSBRT93%、外科的切除2%、プロトコール外の治療5%、標準薬物療法は薬物療法群で化学療法28%、内分泌療法83%、併用群で化学療法27%、内分泌療法68%だった。追跡期間中央値は35ヵ月。・PFS中央値は、薬物療法群23ヵ月、併用群19.5ヵ月で差は認められなかった(HR:0.92、70%CI:0.71~1.17、片側log-rank p=0.36)。・OS中央値は両群とも未達で、36ヵ月OSは薬物療法群71.8%(95%CI:58.9~84.7)、併用群68.9%(同:55.1~82.6)だった(片側log-rank p=0.54)。・治療失敗に関する解析では、薬物療法群でのindex領域/併用群での照射領域以外の新たな転移の発生率はどちらも40%程度だった。また、これらの領域内での新たな転移は、併用群(7%)のほうが薬物療法群(29%)より少なかった。・ベースライン時の循環腫瘍細胞の有無別にみたPFSは同程度だった(HR:1.04、95% CI:0.54~2.02)。・治療関連有害事象は、Grade4が薬物療法群で1例、Grade3が薬物療法群で6例(10%)、併用群で3例(5%)に発現した。 本試験では、MDT追加によるPFS改善を示すことができなかったため、第III相試験は中止される予定である。Chmura氏は「本試験で定義されたオリゴ転移乳がん患者はPFSおよびOSが長く、SBRTは標準薬物療法群と同様に安全で、有害事象発現率も低かった」と追加した。

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RAS/BRAF野生型大腸がんの1次治療はmFOLFOXIRI/PANか、mFOLFOX6/PANか(TRIPLETE)/ASCO2022

 RAS/BRAF野生型の切除不能進行・再発大腸がんに対する1次治療で、mFOLFOXIRI と抗EGFR抗体パニツムマブ(PAN)との併用療法(mFOLFOXIRI/PAN)は、mFOLFOX6とPANとの併用療法(mFOLFOX6/PAN)に比べて奏効率(ORR)に差がなく、下痢などの有害事象(AE)の発現率高いことが、GONOグループが実施した第III相無作為化試験(TRIPLETE試験)で示された。イタリア・Azienda Ospedaliera大学のChiara Cremolini氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2022)で発表した。RAS/BRAF野生型の切除不能進行・再発大腸がん患者の1次治療を検証 ダブレット(FOLFOX/FOLFIRI)と抗EGFR抗体(セツキシマブまたはPAN)の併用療法は、RAS/BRAF遺伝子野生型の切除不能進行・再発大腸がん患者の1次治療の治療選択肢となっている。一方、RAS野生型大腸がんを対象に、トリプレット(mFOLFOXIRI)とPANの併用療法の有用性を検証した第II相無作為化試験(VOLFI試験)では、mFOLFOXIRI / PAN はFOLFOXIRIに比べて良好な奏効率(87% vs 61%, p=0.004)を示し、無増悪生存期間(PFS)は同等との結果が得られている。同試験では、RAS/BRAF野生型の切除不能進行・再発大腸がん患者の1次治療をダブレットからトリプレットに強化した際の付加価値について検証した。・対象:未治療のRAS/BRAF野生型の切除不能進行・再発大腸がん患者・試験群:mFOLFOXIRI/PANを最大12サイクル投与後、5-FU/ロイコボリン(LV)/PANを増悪(PD)まで投与、218例・対照群:mFOLFOX6/PANを最大12サイクル投与後、5-FU/LV/PANをPDまで投与、217例・評価項目:[主要評価項目]ORR[副次評価項目]早期腫瘍縮小、腫瘍縮小率、PFS、全生存期間(OS)、転移巣のR0切除率など RAS/BRAF野生型の切除不能進行・再発大腸がん患者の1次治療をダブレットからトリプレットに強化した際の付加価値について検証した主な結果は以下のとおり。・試験開始時の患者背景(試験群/対照群)は、ECOG PS0(84%/80%)、同時性転移(87%/88%)、肝臓のみの転移(39%/37%)、原発腫瘍の部位が左側(88%/88%)、ミスマッチ修復機構欠損[dMMR](3%/1%)であった。・主要評価項目であるORRは試験群で73%、対照群では76%であり(オッズ比[OR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.56~1.34、p=0.526)、両群間に有意差は認められなかった。・転移巣のR0切除率は試験群で25%、対照群で29%であり(OR:0.81、95%CI:0.53~1.23、p=0.317)、両群間に有意差は認められなかった。・早期腫瘍縮小、腫瘍縮小率、PFS、OSについても、両群間に有意な差は示されなかった。・Grade3/4のAE発現率(試験群/対照群)は、下痢(23%/7%)、好中球減少症(32%/20%)、発疹(19%/29%)などであった。

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日本食の死亡率や認知症リスクへの影響~大崎コホート研究

 長寿国である日本。その要因として日本人の食生活が影響しているといわれている。しかし、日本食の健康に対するベネフィットは、十分に解明されていない。2007年、宮城県大崎市の日本人住民を対象とした大崎コホート研究において、日本食パターンと心血管疾患による死亡率との関連が世界で初めて発表された。以来、本報告の著者らは、日本食パターンと健康への影響に関するエビデンスを蓄積するため、日本食インデックス(JDI)を開発し、日本食の健康への影響について検討を行ってきた。東北大学の松山 紗奈江氏らは、これまでの6報の論文をレビューし、日本食の健康への影響および将来の研究への影響について議論を深めるため本報告を行った。その結果、日本食パターンを高率で実践している人では、死亡率だけでなく、機能障害や認知症リスクの減少も認められることが確認された。Nutrients誌2022年5月12日号の報告。 JDIスコア(四分位:Q1[最低]~Q4[最高])と各アウトカムとの関連を報告した。各アウトカムに対し、Q1と比較した多変量ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。【すべての原因による死亡率】・Q2:0.92(95%CI:0.85~1.00)・Q3:0.91(同:0.83~0.99)・Q4:0.91(同:0.83~0.99)【機能障害】・Q2:0.94(同:0.81~1.09)・Q3:0.90(同:0.77~1.05)・Q4:0.79(同:0.68~0.92)【認知症】・Q2:0.88(同:0.74~1.05)・Q3:0.87(同:0.73~1.04)・Q4:0.79(同:0.66~0.95)

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コロナ治療薬2剤、重大な副作用にアナフィラキシー追記/使用上の注意の改訂指示

 厚生労働省は6月14日、新型コロナウイルス感染症治療薬のモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)とニルマトレルビル・リトナビル(同:パキロビッドパック)について、「重大な副作用」の項に「アナフィラキシー」を追記する使用上の注意の改訂指示を発出した。モルヌピラビルの副作用、因果関係が否定できない症例が2例 アナフィラキシー関連の国内および海外症例を評価し専門委員の意見も聴取した結果、モルヌピラビルとニルマトレルビル・リトナビル両薬剤ともに因果関係が否定できない国内および海外症例が集積したため、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。 調査の結果は以下のとおり。<モルヌピラビル> 国内は8例(うち医薬品との因果関係が否定できない症例:2例)で、死亡は4例(同:0例)、海外は11例(同:1例)で、死亡は2例(同:0例)だった。<ニルマトレルビル・リトナビル> 国内1例(同:1例)、海外3例(同:3例)で死亡例はなかった。

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10~18歳2型DMにデュラグルチド週1回投与は有効か/NEJM

 10~18歳の2型糖尿病において、GLP-1受容体作動薬デュラグルチドの週1回投与(0.75mgまたは1.5mg)は、メトホルミン服用や基礎インスリンの使用を問わず、26週にわたる血糖コントロールの改善においてプラセボよりも優れることが、米国・ピッツバーグ大学のSilva A. Arslanian氏らによる検討で示された。BMIへの影響は認められなかった。NEJM誌オンライン版2022年6月4日号掲載の報告。デュラグルチド0.75mg、1.5mgを週1回投与 研究グループは、10歳以上18歳未満の2型糖尿病で、BMIが85パーセンタイル超、生活習慣の改善のみ、もしくはメトホルミン治療(基礎インスリン併用または非併用)を受ける154例を対象に、26週にわたる二重盲検プラセボ対照無作為化試験を行った。 被験者を無作為に1対1対1の割合で3群に割り付け、それぞれプラセボ、デュラグルチド0.75mg、デュラグルチド1.5mgを週1回皮下注射で投与した。被験者はその後26週の非盲検の延長試験に組み込まれ、プラセボ群だった被験者に対し、デュラグルチド(0.75mg、週1回)を26週間皮下注射で投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから26週までの糖化ヘモグロビン値の変化だった。副次エンドポイントは、糖化ヘモグロビン値7.0%未満達成、および空腹時血糖値とBMIのベースラインからの変化など。安全性についても評価が行われた。糖化ヘモグロビン値7.0%未満、プラセボ群14%に対しデュラグルチド群51% 計154例が無作為化を受けた。26週時点の平均糖化ヘモグロビン値は、プラセボ群が0.6ポイント上昇したのに対し、デュラグルチド群では、0.75mg群で0.6ポイント、1.5mg群で0.9ポイント、いずれも低下した(対プラセボ群のp<0.001)。  また26週時点で、糖化ヘモグロビン値7.0%未満を達成した患者の割合は、プラセボ群14%に対しデュラグルチド群では51%と有意に高率だった(p<0.001)。 空腹時血糖値も、プラセボ群で上昇(17.1mg/dL)したのに対し、デュラグルチド群では低下が認められた(-18.9mg/dL、p<0.001)。一方でBMIについては、両群間で差は認められなかった(プラセボ群0.0、デュラグルチド統合群-0.1、p=0.55)。 有害事象は、胃腸有害イベントの発生頻度が最も多く、26週にわたってデュラグルチド群でプラセボ群よりも高率に認められた。 デュラグルチドに関する安全性プロファイルは、成人で報告されたものと一致していた。

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KRAS G12C変異陽性NSCLCへのadagrasib、臨床的有効性示す/NEJM

 プラチナベースの化学療法と抗PD-1/抗PD-L1抗体による治療を受けたKRAS G12C変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対して、経口adagrasibは、臨床的有効性を示し新たな安全性シグナルは認められなかった。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のPasi A. Janne氏らによる、進行固形がん患者を対象に行われている「KRYSTAL-1第I-II相試験」の一部である第II相コホート116例を対象とした検討の結果で、NEJM誌オンライン版2022年6月3日号で発表された。「KRYSTAL-1試験」の第I相-1b試験でKRAS G12C阻害薬adagrasibの臨床的活性および忍容可能な有害事象プロファイルは確認されていた。奏効率、奏効期間、無増悪生存などを検証 同試験第II相コホートでは、プラチナベースの化学療法と抗PD-1または抗PD-L1抗体による治療を受けたKRAS G12C変異陽性のNSCLC患者を対象に、adagrasib(600mg経口投与、1日2回)の投与を評価した。 主要評価項目は、盲検化された独立中央レビューで評価した客観的奏効(OR)。副次評価項目は、奏効期間、無増悪生存(PFS)、全生存(OS)および安全性などだった。奏効期間中央値は8.5ヵ月、無増悪生存期間は6.5ヵ月 2021年10月15日時点で、計116例の適格被験者がadagrasibによる治療を受けており(追跡期間中央値は12.9ヵ月)、うち98.3%が化学療法と免疫療法両方の既治療者だった。 ベースラインで測定可能病変のあった112例中、ORが認められたのは48例(42.9%)だった。奏効期間中央値は8.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.2~13.8)、PFS期間中央値は6.5ヵ月(4.7~8.4)だった。 2022年1月15日時点(追跡期間中央値:15.6ヵ月)で、OS中央値は12.6ヵ月(95%CI:9.2~19.2)だった。 中枢神経系統に安定した転移を認めた既治療患者33例において、頭蓋内OR率は33.3%(95%CI:18.0~51.8)だった。 治療関連の有害事象は97.4%で認められ、うちGrade1/2が52.6%、Grade3以上が44.8%(Grade5の2例を含む)報告された。投薬中止となった患者は6.9%だった。

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モデルナ2価ワクチン候補、オミクロン株に対する抗体反応で優越性確認

 2022年6月13日、Moderna(米国)はオミクロン株を含む2価追加接種ワクチン候補 mRNA-1273.214について、同社の承認済みのワクチンmRNA-1273(商品名:スパイクバックス筋注)の追加接種と比較して、オミクロン株に対する抗体反応で優越性が示されたことを発表した。Moderna2価追加接種ワクチン候補の副反応はmRNA-1273と同程度 mRNA-1273.214は、mRNA-1273の有効成分と変異株であるオミクロン株を標的とするワクチンの有効成分候補を含有する、Moderna の2価追加接種ワクチン候補である。 ベースラインの血清反応陰性被験者において、mRNA-1273.214は、mRNA-1273の追加接種(50μg)と比較した場合、オミクロン株に対する中和抗体反応など第II/III相臨床試験のすべての主要評価項目を達成した。 事前に規定した優越性基準である中和幾何平均抗体価比(GMR)および対応する97.5%信頼区間[CI]は1.75(1.49~2.04)であり、mRNA-1273.214の追加接種により、オミクロン株に対する中和幾何平均抗体価(GMT)についてベースライン値の約8倍の増加が確認された。また、祖先ウイルスであるSARS-CoV-2(D614G)に対するGMRは1.22(1.08~1.37)であり、主要評価項目である祖先ウイルスSARS-CoV-2に対する非劣性が達成された。 安全性については、mRNA-1273.214を50μg追加接種したときの忍容性はおおむね良好であり、副反応はmRNA-1273を50μg追加接種したときと同程度だという。 Modernaは数週間以内に、今秋の追加接種でのmRNA-1273.214の使用許諾に向けた承認申請を予定している。

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呼吸器内科の必携本【Dr.倉原の“俺の本棚”】第55回

【第55回】呼吸器内科の必携本はい、書評に自分の著書ほうりこんできたよー倉原。すいません。『ポケット呼吸器診療』が呼吸器内科をローテートしている研修医や若手医師に、オススメしている本ランキング第1位になっているそうで(当社調べ)、この連載の最終回に自著を宣伝させていただこうと思いました。4年以上続いたこの連載も、第55回でおしまいとなります。(´;ω;`)ブワッ『ポケット呼吸器診療2022』倉原 優/著. シーニュ. 2022年3月発売私は呼吸器内科が専門ですが、覚えたことをところてん式に忘れるくらい頭が悪い人間なので、何かしらメモを残しておかないといけません。その膨大なメモを本にしたのが『ポケット呼吸器診療』です。すぐに見たいよねーという情報をできるだけコンパクトに掲載して、それでいて持ち運びができるサイズにすること。そして毎年アップデート出版すること。これを自らに課しています。勉強することをやめるわけにはいかないので、かなりプレッシャーです。自分で実際に使ってみて、使いにくいなあと思ったところは削除したり、こんなことが書いてあったらいいのになあということは積極的に掲載しています。非常に自己中心的なマニュアルなのです、実は。刊行している出版社の社長の熱量がなかなかすごくて、「患者さんのためになる本を出すぞ」オーラが私とよくマッチしています。私は、普段から医学書を無茶苦茶たくさん買っていて、オススメしたい本はまだ山ほど眠っています。月1回の連載で、そこから厳選してたくさんの医学書を紹介してきました。医学書は読めば読むほど、「ああこのテーマではこういう切り口もあるんだなあ」と執筆する側としても非常に勉強になります。私も、とうとう不惑の40歳になりました。人生の渋い味を出していけるよう、頑張っていきたいと思います。ケアネットでは複数の連載が続く予定ですので、これからもケアネットと倉原 優をよろしく応援お願い申し上げます。おやいかん、ほとんど自分の話と挨拶で終わってしまった。ではまたいずれ!『ポケット呼吸器診療2022』著者倉原 優出版社名シーニュ定価2,200円(税込)サイズ17.2×10.5×1cm刊行年2022年

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第113回 規制改革推進会議答申で気になったこと(後編)PPIもやっとスイッチOTC化?処方薬の市販化促進に向け厚労省に調査指示

処方薬の市販化促進を進めるため厚労省に調査を指示こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連載を読んでくれている友人から、「今年はMLBの話題が少ないね」と言われてしまいました。確かに少ないです。理由の一つはご存じのようにロサンゼルス・エンジェルスの絶不調です。約1ヵ月前は今年こそポストシーズンに行けるかもと思い、秋の“米国取材”の準備を始めていました。しかし5月後半から負けが続き、ジョー・マドン監督解任、14連敗とバッド・ニュースが続きました。6月9日(現地時間)は大谷 翔平選手の久しぶり“2刀流”の活躍で、なんとか連敗は止まったものの、その後も勝ったり負けたりとチームの調子は今ひとつです。観戦していると、野手陣の守備や走塁が日本の高校野球以下の時があって気になります(特にジョー・アデル外野手!)。この守りでは、甲子園でも1回戦止まりでしょう・・・。救いは、まだ残り100試合近くあることです。ポストシーズン進出を願って、エンジェルスとダルビッシュ有投手のいるサンディエゴ・パドレスの応援を続けたいと思います。さて、今回も前回に引き続き、規制改革推進会議答申で気になったことについて書いてみたいと思います。今回は、薬関連(処方薬の市販化、SaMD)についてです。欧米と比べ、まったく進んでいない医療用医薬品のOTC化規制改革推進会議は今年の答申、「規制改革推進 に関する答申~コロナ後に向けた成長の「起動」~」1)において、「患者のための医薬品アクセスの円滑化」の項目で、処方薬の市販化促進を進めるため、厚生労働省に次のように調査を指示しました。「厚生労働省は、医療用医薬品から一般用医薬品への転用に関する申請品目(要指導[一般用]新有効成分含有医薬品)について、申請を受理したもののいまだ「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」で検討されていないものの有無を確認するとともに、令和2年度以前の申請に対していまだ結論が出されていないものについて、(ア)その件数、(イ)申請ごとに、その理由、(ウ)(イ)のうち厚生労働省及びPMDAの事業者に対する指摘に対して事業者によって適切な対応が行われていないために審査が進まないとするものについては当該指摘の内容、(エ)申請ごとに、当該申請品目の成分に関して、海外主要国における一般用医薬品としての販売・承認状況及び承認年度を調査する。」国はかねてからセルフメディケーションを推進すると言っているのに、緊急避妊薬や抗潰瘍薬など、欧米と比べ医療用医薬品のOTC化がまったく進んでいないことに業を煮やした上での対応と言えます。実際、米国などに旅行に行くと、日本では市販されていない医薬品がOTCとして普通に売られていることに驚くことがあります。だからといって大きな薬害が起こった、という報道は聞いたことがありません。日本の医療用から要指導・一般用への転用が、他国と比べて慎重過ぎて大きく遅れているのは確かなようです。日本OTC医薬品協会が“塩漬け品目”を調査実は、同様の指示は昨年の答申の中の「重点的に取り組んだ事項」で、「一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大」として掲げられていましたが、検討はその後も進んでいませんでした。今回の規制改革推進会議の議論の過程では、2022年4月27日に開かれた「医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」で スイッチOTCの選択肢拡大について議論されています。この場では、日本OTC医薬品協会が、新規性を有する品目における審査状況の調査結果(いわゆる“塩漬け品目”の実態)を報告。それを受け、厚労省による実態調査の早急な実施を22年度の答申に盛り込むことが提案され、今回の答申に至ったのです。同調査は、「スイッチOTC等新規性を有する品目について承認申請を行ったものの審査が開始されていないまたは審査中のまま停止している品目(塩漬け品目)」の実態を明らかにする目的で、同協会加盟者に実施されました。回答した16社から得られた結果によると、スイッチOTC(これまでにない医療用成分を配合する医薬品で厚労省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議の審議対象)では10~15年経過が1品目、5~10年経過が4品目、5年以内が1品目あったとのことです。さらに報告では、これまでに評価検討会議でスイッチOTC化を拒否された項目と論点が示され、「いわゆる『塩漬け品目』では、これまでに拒否された理由と共通するような照会事項が多いと推測される」と、通り一遍の否決理由を批判しました2)。4年前にはプロトンポンプ阻害薬を巡り学会と内科医会で意見分かれる塩漬け品目の存在は、厚労省の「意図的な無為」によって生じていると考えられます。理由の一つとして言われるのは、スイッチOTCが増えることで医療機関の患者数が減ることを嫌う、日本医師会や診療所開業医からの反対です。かつてこんなことがありました。2018年3月に開かれた厚労省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」において、スイッチOTCの候補として要望があった成分のうち、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールなどプロトンポンプ阻害薬(PPI)3成分について、日本消化器病学会と日本臨床内科医会で意見が大きく分かれたのです。日本消化器病学会は3成分のOTC化を「可」とし、「14日以内の短期使用であれば特段注意すべき点はなく、OTCとすることに問題はない」としました。一方、日本臨床内科医会は「不可」とし、理由としてPPIの有害事象や重大疾患のマスク作用、薬物相互作用の懸念などを挙げ、「これらの問題点を薬剤師がきちんと理解し販売できるか、購入数の制限がきちんと担保されるか、という第1類医薬品の販売体制も問題」と反対しました。ちなみにこの時、日本医師会常任理事の鈴木 邦彦氏(当時)も、「PPIはあまりに強力な薬。安易にOTC化するべきでない」と強く反対しています。結局、PPIはその後もOTC化されず、先述の日本OTC医薬品協会の塩漬け品目に掲載されるに至ったわけです。開業医や日本医師会の反対は「リフィル処方」に似た構造専門学会等がOKを出しているのに、開業医や日本医師会が「危ない。薬剤師に任せられない」と反論する状況、似たような話を最近どこかで聞きませんでしたか? そうです、2022年診療報酬改定で導入されたリフィル処方を巡る動きです。リフィル処方については、「第105回 進まないリフィル処方に首相も『使用促進』を明言、日医や現場の“抵抗”の行方は?」でも書いたように、現場の開業医たちの反対がことのほか強いようです。そこから透けて見えるのは、患者の再診回数減少に対する危機感です。スイッチOTCはリフィル処方よりも深刻かもしれません。再診どころか初診すら減る可能性があるからです。仮にPPIがスイッチOTC化されれば、消化性潰瘍や逆流性食道炎の初診患者が激減するでしょう。ただ、患者にとっては薬局で薬を買うだけで治るならば、そうしたいのが山々でしょう。国にとってもセルフメディケーションで十分対応できる病気ならば、保険診療の頻度を減らし、医療費を抑えたいというのが本音でしょう。今回の規制改革推進会議の調査指示をきっかけに、厚労省の日本医師会などに対する“忖度”が解消され、医療用医薬品から一般用医薬品への転用が加速するかもしれません。厚労省の調査結果を待ちたいと思います。SaMDは緩く迅速に承認しようという流れ規制改革推進会議の答申で気になった薬関連のもう一つは、SaMD(Software as a Medical Device:プログラム医療機器)についてです。答申では「質の高い医療を支える先端的な医薬品・医療機器の開発の促進」の項で、SaMDの承認審査制度の見直しや、審査手続きの簡素化、SaMDに関する医療機器製造業規制などの見直しを求めています。例えば、機械学習を用いるものは、SaMDアップデート時の審査を省略または簡略できるよう提言、2022年度中の結論を求めています。全体として、「緩く迅速に承認しよう」という方針に見えます。しかし、本連載の「高血圧治療用アプリの薬事承認取得で考えた、『デジタル薬』が効く人・効かない人の微妙な線引き」でも書いたように、こと「治療用」のSaMDについては、拙速で承認を急ぐよりもその効果や有用性の検証をもっと厳密に行い、効く人と効かない人の線引きをきちんとすることのほうが重要ではないでしょうか。ところで、治療用のSaMDは、処方しても通常の薬剤と異なり、薬剤師や薬局の介入は基本的にはありません。患者がアプリをスマートフォンなどにインストールして、プログラムをスタートさせるだけです。ゆえに、リフィル処方やスイッチOTCのような「診察回数が減る」「薬剤師に任せられない」といった問題は起こらないでしょう。その意味では、開業医や日本医師会にとってSaMDはそれほどやっかいな存在ではないはずです。しかし、よくよく考えると、SaMDがどんどん進化していけば「医師もいらない」ということになりかねません。もし、国がそんな未来までを見据えてSaMDに前のめりになっているとしたら、それはそれで恐ろしいことです。参考1)規制改革推進に関する答申 ~コロナ後に向けた成長の「起動」~/規制改革推進会議2)医療用医薬品から要指導・一般用医薬品への転用(スイッチOTC化)の促進/日本OTC医薬品協会

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高齢者糖尿病患者の低血糖対策と治療/日本糖尿病学会

 5月12~14日に神戸市で「第65回 日本糖尿病学会年次学術集会」(会長:小川 渉氏/神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学 教授)が「知の輝きち技の高みへ」をテーマに開催された。 本稿では「シンポジウム 加齢を踏まえた糖尿病管理の最前線」より「高齢者糖尿病患者における低血糖の課題」(演者:松久 宗英氏/徳島大学先端酵素学研究所糖尿病臨床・研究開発センター 教授)の概要をお届けする。高齢者は低血糖になりやすい 超高齢化が進むわが国では、高齢の糖尿病患者は適切な自己管理行動をなかなかとることができず、糖尿病治療のハードルは高い。とくにわが国では世界的にみて糖尿病関連死亡について、重症低血糖の割合が高いことが指摘されている。 過去に日本糖尿病学会の糖尿病治療による重症低血糖調査委員会が行った調査(193施設、798症例)によれば、重症低血糖の発生率は年間2万件と推計され、低血糖による死亡や重篤な合併症(認知症など)が約5%に合併することが報告されている。とくに前駆症状が6割の患者に発生しているのに低血糖が発生していることが問題となっている。 また、2型糖尿病で重症低血糖を発症した患者の臨床的特徴では、70歳以上、HbA1c7.5%を下回ることが示唆され、約6割以上の患者にインスリンが、約3割の患者にSU薬の使用が報告されている1)。 実際、リアルワールドでは、80歳以上の患者に対し約2割の患者にSU薬が使用され、リスクの高い治療がされているという報告がある。 低血糖状態になるとインスリン分泌が抑制され、アドレナリン/ノルアドレナリン分泌が亢進し、グルカゴン分泌も亢進され、高齢者では一気に自律神経症状(心悸亢進、発汗、蒼白など)、中枢神経症状(頭痛、眠気、痙攣・昏睡など)へと進展する。また、高齢者にインスリンを投与すると、低血糖応答の閾値が低下していることにより、容易に意識障害になりやすく、SU薬の服用では夜間低血糖の発生へとこれに伴う心機能の悪化も懸念されている。低血糖がもたらす併存症を悪化させるスパイラル 次に高齢者に多い認知症や心不全など併存症との関係について、糖尿病があることで低血糖などが併存症に影響を及ぼし、負のスパイラルに陥りやすく、健康寿命への影響を与えることが知られている。 海外のARIC研究などでは、ADLの悪化が高まるほど、重症低血糖の頻度が高まることが報告され、重症低血糖を起こした患者では腎機能の低下や心機能の低下も多いことが報告されている。 認知機能との関係を研究したACCORD-MINDでは、認知機能検査で指標とされるdigit symbol substituion test(DSST)が低い人ほど、重症低血糖を起こしやすいことが示唆されている。その他、重症低血糖では大腿骨骨折が増加することを示す研究もあり、加齢によるリスクの拡大が健康寿命や生命予後の短縮となることが知られている2)。低血糖対策はCGMで行い、治療ではさらなる適正化を 高齢者の低血糖対策としては、日本糖尿病学会で示している「高齢者糖尿病の血糖コントロール値(HbA1c値)」をもとに目標数値を目指し治療を行い、リスクが高い患者には持続グルコースモニタリング(CGM)を活用して治療を行うことが期待される。 CGMを利用すればTime in range(TIR)で日内・夜間の血糖動態の把握に有用であり、血糖変動を可視化して理解することができる。とくにTime below range(TBR)を可視化することで、低血糖の値や頻度を示すことは患者さんにとって日常生活で有用な指標となる。一方で、CGMの使用がインスリンやSU薬の使用を減少させるかという課題では、まだ到達できていないのが現状であり、インスリンの使用量は減少しなかったとされている。また、CGMは2022年の診療報酬改定で使いやすくなったとはいえ、アラート機能ある機器の使用には保険適応上の制約があることもあり、今後の課題である。 高齢者における糖尿病治療では、低血糖のリスク軽減、高血糖の抑制、インスリン減量、シンプル化をすることが重要である。同時に血糖自己測定(SMBG)からCGMへの変更を行い、基礎インスリンと経口血糖薬(DPP-4阻害薬/SGLT2阻害薬)、頻回インスリン療法を実施することで、治療の適正化を行っていきたい。

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転移の有るホルモン感受性前立腺がんに対するエンザルタミド投与によるOSの改善(ENZAMET)/ASCO2022

 転移を有するホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)に対し、アンドロゲン遮断療法(ADT)とエンザルタミドの併用療法は、ADTと非ステロイド系抗アンドロゲン剤(NSAA)の併用療法に比べ、全生存期間(OS)を有意に改善することが、米国臨床腫瘍学会年次総会(2022 ASCO Annual Meeting)においてオーストラリア・Monash大学のDavis Ian氏から報告された。 同試験(ENZAMET)は、オーストラリア・ニュージーランドを中心に実施された国際共同の無作為化第III相試験であり、2019年に中間解析結果として、エンザルタミドのOS改善が報告されていた。今回はその長期追跡結果報告である。・対象:mHSPC症例(1,125例)・試験群:エンザルタミド(160mg/日 連日投与)+ADT (Enza群)・対照群:NSAA+ADT (NSA群)・評価項目:[主要評価項目] OS[副次評価項目] 無増悪生存期間、安全性、QoLなど[探索的評価項目] 腫瘍量別によるOS、転移発生の時期ごとのOS、DTX併用の有無によるOSなど 主な結果は以下のとおり。・観察期間中央値は68ヵ月であった(データカットオフは2022年1月)。・OS中央値はEnza群では未到達、NSA群は73.2ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.70(95%信頼区間[CI]:0.58~0.84)、p<0.0001とEnza群で有意に良好であった。5年OS率はEnza群67%、NSA群57%であった。・治療期間中央値はEnza群で57.8ヵ月、NSA群は22.6ヵ月で、NSA群の76%は後治療としてエンザルタミドまたはアビラテロンの投与を受けていた。Enza群では26%がアビラテロンの後治療を受けていた。・主治医判断によるドセタキセル(Dtx)の併用は45%の症例(503例)であり、6サイクルまでの投与が実施された。・事前に規定されたサブグループ解析では、Dtx投与を受けたグループのOS HRは0.82で、受けていないグループでは0.60であった。(p=0.09) また、高腫瘍量グループのOSHRは0.79、低腫瘍量のグループでは0.54であった。(p=0.06)・探索的解析として、Dtx投与の有無を転移の時期(同時性か異時性か)と腫瘍量を考慮したOSのカプランマイヤー曲線を作成した。それによると、同時性転移でかつ高腫瘍量のグループでは、早期からDtx併用の有効性がみられた。 演者は、「エンザルタミド+ADT療法は臨床的に意味のあるOSの改善を示した。これは特にDTXが必要ないと判断された低腫瘍量の症例で最も有用だと考えられる。また、高腫瘍量で同時性転移を有する症例では、DTX併用投与が必要と思われる。」と結んだ。

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I型SMAに対するエブリスディ:3年間の新たな成績

 第63回日本神経学会学術大会にて、症候性I型脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)の乳児を対象にエブリスディの有効性および安全性を検討した、FIREFIS試験の3年間の新たな成績が発表された。 SMAは、脊髄の運動神経細胞が選択的に障害されることによって、体幹や手足の近位部優位の筋力低下や筋萎縮などの症状が現れる。新生児~乳児期(生後0~6ヵ月)に発症するI型は重症型で、一人で坐位を保つことができず、無治療の場合は、1歳までに呼吸筋の筋力低下による呼吸不全の症状をきたす。また、治療をせず、人工呼吸器の管理を行わない状態では、90%以上が2歳までに死亡する。 今回発表されたFIREFISH試験は、I型SMAの乳児(登録時点で月齢1~7ヵ月)を対象にエブリスディの有効性と安全性を評価している。試験は用量設定パートと用量設定パートで選択された用量の安全性有効性評価パートの2パートで構成されている。プールされた母集団には承認用量を3年以上投与した乳児が含まれている。今回の長期成績は、非盲検継続投与期間1年間の成績を含む、3年間の成績である。エブリスディを投与した乳児のうち推定91%が3年後に生存していた。また、BSID-III(Bayley Scales of Infant and Toddler Development - Third Edition)の粗大運動スケールの評価で、エブリスディを投与した評価可能な乳児48名のうち32名で、24ヵ月目以降、支えなしで座位を少なくとも5秒間保持する能力を乳児が維持していた。さらに、4名が新たにその能力を獲得した。嚥下能力に関しても、エブリスディを投与した乳児のほとんどが、36ヵ月目まで経口摂取と嚥下の能力を維持していた。 主な有害事象は、発熱(60%)、上気道感染(57%)、肺炎(43%)、便秘(26%)、鼻咽頭炎(24%)、下痢(21%)、鼻炎(19%)、嘔吐(19%)および咳嗽(17%)。主な重篤な有害事象は、肺炎(36%)、呼吸窮迫(10%)、ウイルス性肺炎(9%)、急性呼吸不全(5%)および呼吸不全(5%)であった。肺炎を含む有害事象の発現および重篤な有害事象の発現は経時的に低下し、12ヵ月の投与期間毎に約50%ずつ減少し、投与開始1年目から3年目の間に78%減少していた。全体として、有害事象および重篤な有害事象は基礎疾患を反映したものであり、休薬や投与中止に至った薬剤関連の有害事象は認められなかった。 今後の展開について、FIREFISH試験の5年間の追跡と並行して、リアルワールドデータを集める臨床研究も立ち上がっている。

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