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低用量メトトレキサート、悪性黒色腫リスク増大と関連?

 メトトレキサート(MTX)は関節リウマチを含む炎症性疾患の治療で幅広く使用されているが、低用量MTX曝露は悪性黒色腫のリスク増大と関連することが、オーストラリア・アルフレッド病院のMabel K. Yan氏らが行ったシステマティック・レビューとメタ解析の結果、示された。ただし、著者は結果を踏まえて、「リスク増大の絶対値は取るに足らないもので、現実的な影響は無視できるものだ」としている。JAMA Dermatology誌オンライン版2022年8月31日号掲載の報告。 研究グループは、MTX曝露が悪性黒色腫のリスク増大と関連するかをシステマティック・レビューとメタ解析で調べた。 創刊~2022年5月12日のMEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、ClinicalTrials.govを検索して、適格試験を特定。低用量MTX曝露被験者と非曝露被験者を比較して悪性黒色腫のオッズ比(OR)またはリスク比(RR)を評価していたケースコントロール試験、コホート試験、無作為化臨床試験(RCT)を適格試験とした。言語については限定しなかった。 2人のレビュアーがそれぞれ試験特性とアウトカムデータを抽出。Meta-analysis of Observational Studies in Epidemiology(MOOSE)ガイドラインを用いて解析を行い、試験の質の評価は、RCTはコクランバイアスリスクツールを用い、コホート試験とケースコントロール試験についてはJoanna Briggs Institute Checklistを用いた。 ケースコントロール試験からのオッズ比と、コホート試験またはRCTからの相対リスクまたはハザード比(HR)をプールし、ランダム効果モデルメタ解析を行った。 事前に規定したアウトカムは、低用量MTX曝露被験者と非曝露被験者を比較した悪性黒色腫のオッズ比、ハザード比、リスク比であった。 主な結果は以下のとおり。・検索により、17試験(RCT 8、コホート試験5、ケースコントロール試験4)が適格として包含された。・主要解析には、12試験・悪性黒色腫1万6,642例がプールされた。MTXの適応症は、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患であった。残りの5試験は不明であった。・曝露群は非曝露群と比較して、悪性黒色腫のリスクがわずかに増大した(プール相対リスク:1.15、95%信頼区間[CI]:1.08~1.22)。しかし、この関連は、最大規模の試験を除外して行った感度解析では維持されなかった(1.11、1.00~1.24)。・類似のリスク推定値は、MTX曝露群vs.免疫調節薬単独群または免疫調節薬+MTX群を比較群とするサブグループ解析や、MTXの適応症が関節リウマチの場合に示唆された。・悪性黒色腫の地理的罹患率を用いて算出した有害必要数(number needed to harm:NNH)は、オーストラリアでは1万8,630例、北米では4万1,425例であった。■関連記事メトトレキサート、重症円形脱毛症に有効

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第2世代抗精神病薬のLAIによる日本人統合失調症入院患者の身体拘束リスクへの影響

 第2世代抗精神病薬(SGA)の長時間作用型注射剤(LAI)が、経口抗精神病薬と比較し、再発時の精神症状の軽減に有用であるかは、よくわかっていない。福島県立医科大学の堀越 翔氏らは、日本の単一医療施設における4年間のレトロスペクティブミラーイメージ観察研究を実施し、統合失調症入院患者への隔離・身体拘束といった制限的介入の頻度(時間)に対するSGA-LAIの有用性を検討した。その結果、SGA-LAI使用により制限的介入の頻度および措置入院回数の減少が認められ、著者らは、SGA-LAIは再発時の精神症状の軽減につながる可能性があることを報告した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2022年9月5日号の報告。 2013年11月~2018年1月にレトロスペクティブミラーイメージ観察研究を実施した。最初に101例からデータを収集し、包括基準を満たした統合失調症患者38例を分析に含めた。主要アウトカムは、SGA-LAI使用開始前後2年間の制限的介入の頻度(時間)とし、副次的アウトカムは、入院回数(合計、任意入院、措置入院)、在院日数とした。制限的介入の定義は、隔離および身体拘束とした。 主な結果は以下のとおり。・制限的介入の平均時間は、SGA-LAI使用前の43.7時間から使用後の3.03時間へ有意な減少が認められた(p=0.021)。・SGA-LAI使用前後で、入院回数および在院日数は、以下のように有意な減少が認められた。 ●入院回数:1.03回→0.61回(p=0.011) ●在院日数:130日→39.3日(p=0.003)・とくに、措置入院回数(0.50回→0.26回)の有意な減少が認められた(p=0.039)。

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FTD/TPI+BEV、切除不能大腸がんのOS延長(SUNLIGHT)/大鵬

 大鵬薬品工業、米国・大鵬オンコロジー、セルヴィエ社は、切除不能な進行・再発の大腸がん患者を対象とした第III相臨床試験SUNLIGHTの結果、トリフルリジン・チピラシル(商品名:ロンサーフ、以下FTD/TPI)とベバシズマブの併用群が、主要評価項目である全生存期間(OS)を延長したことを発表。 SUNLIGHT 試験は、2つの前治療を行った切除不能な進行・再発の大腸がんを対象に、FTD/TPI+BEVとFTD/TPI単剤を比較した国際第III相試験である。492例がFTD/TPI+BEVあるいはFTD/TPI単剤に1対1に無作為に割り付けられ、主要評価項目であるOSの優越性の検証を目的に試験を実施した。 その他、重要な副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、全奏効率(ORR)、病勢コントロー ル率(DCR)となっており、安全性、忍容性、生活の質(QOL)に与える影響についても評価している。 SUNLIGHT試験の主解析結果については、今後の国際学会での発表を予定している。

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PD-L1高発現の進行NSCLCに対する1次治療として、3年間にわたり抗PD-1抗体cemiplimabが有効(EMPOWER-Lung1試験)/ESMO2022

 PD-L1発現50%以上の進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対する抗PD-1抗体cemiplimabの1次治療は、3年間の追跡期間においてもプラチナダブレットと比べ、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を有意な改善を示した。トルコ・Istanbul University-CerrahpasaのMustafa Ozguroglu氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2022)で報告した。・対象:PD-L1(TPS)≧50%の未治療のStageIIIB/CおよびStageIV扁平上皮/非扁平上皮NSCLC・試験群:cemiplimab 350mgを3週ごとに最大108週間または増悪まで投与。増悪した場合は、cemiplimib継続かつ化学療法4サイクル追加のオプション・対照群:プラチナダブレット化学療法4〜6サイクル投与。増悪した場合は、cemiplimab単剤投与へのクロスオーバーのオプション・評価項目:[主要評価項目]OS、PFS[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、健康関連QOL、安全性 主な結果は以下のとおり。・ITT解析対象は試験群357例、対照群355例であり、対照群のcemiplimabへのクロスオーバー率は75%であった。・3年間フォローにおいて、試験群の対照群に対するOSおよびPFSのハザード比[HR](95%信頼区間[CI])はそれぞれ0.63(0.52~0.77、p=0.0001)、0.56(0.47~0.67、p=0.0001)であり、対照群での高いクロスオーバー率にもかかわらず、OS、PFSともに試験群での有意な改善効果が認められた。・PD-L1 50%以上のITT解析対象は、試験群284例、対照群281例であり、3年間フォローにおいて、試験群の対照群に対するOS、PFSのHR(95%CI)はそれぞれ0.57(0.46~0.71、p=0.0001)、0.51(0.42~0.62、p=0.0001)であった。・Grade3以上の有害事象の発現率は、試験群が45.8%、対照群が51.6%であった。 以上の結果を受け、Ozguroglu氏は「PD-L1が50%以上の進行期および転移のあるNSCLCに対して、cemiplimab単剤療法は1次治療の新たな選択肢になる」とまとめた。

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人工甘味料の種類別、心血管疾患リスクとの関連は/BMJ

 人工甘味料の摂取量の増加に伴って心血管疾患のリスクが上昇し、なかでもアスパルテームは脳血管疾患、アセスルファムカリウムとスクラロースは冠動脈性心疾患のリスクと関連することが、フランス・ソルボンヌ パリ北大学のCharlotte Debras氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年9月7日号に掲載された。NutriNet-Sante研究のデータを用いた前向きコホート研究 研究グループは、あらゆる食事(飲料、卓上甘味料、乳製品など)由来の人工甘味料(全体、種類別[アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース])と、心血管疾患(全体、脳血管疾患、冠動脈性心疾患)の関連の評価を目的に、住民ベースの前向きコホート研究を行った。 解析には、ウェブベースのNutriNet-Sante研究(2009~21年)の参加者(10万3,388人、平均[±SD]年42.2±14.4歳、女性79.8%、追跡期間中央値9.0年[90万4,206人年])のデータが用いられた(NutriNet-Sante研究はフランス保健省などの支援を受けた)。 人工甘味料の消費量で、非消費(6万5,028人[62.90%])、低消費量(1万9,221人[18.59%])、高消費量(1万9,139人[18.51%])の3つの群に分けられた。低消費量と高消費量は、男女別の中央値(男性16.44mg/日、女性18.46mg/日)を基準に分類された。 主要アウトカムは、人工甘味料と心血管疾患リスクの関連とされ、多変量補正後Coxハザードモデルを用いて評価が行われた。砂糖に代わる健康的で安全な物質とはいえない 人工甘味料の総摂取量の増加に伴い、心血管疾患のリスクが有意に上昇した(イベント数1,502件、ハザード比[HR]:1.09、95%信頼区間[CI]:1.01~1.18、p=0.03)。心血管疾患の絶対罹患率は、10万人年当たり高消費量群が346件、非消費群は314件だった。 また、とくに人工甘味料の総摂取量は脳血管疾患リスクと強い関連を示した(イベント数777件、HR:1.18、95%CI:1.06~1.31、p=0.002)。脳血管疾患の罹患率は、10万人年当たり高消費量群が195件、非消費群は150件だった。 人工甘味料の種類別では、アスパルテームの摂取が脳血管疾患リスクの増加と関連し(HR:1.17、95%CI:1.03~1.33、p=0.02)、罹患率は10万人年当たり高消費量群が186件、非消費群は151件であった。 また、アセスルファムカリウム(HR:1.40、95%CI:1.06~1.84、p=0.02)とスクラロース(1.31、1.00~1.71、p=0.05)は冠動脈性心疾患(イベント数730件)のリスクの増加をもたらし、アセスルファムカリウムの罹患率は10万人年当たり高消費量群が167件、非消費群は164件で、スクラロースはそれぞれ271件および161件だった。 著者は、「これらの結果は、人工甘味料が心血管疾患の予防のための修正可能なリスク因子である可能性を示唆する。多くの食品や飲料に含まれ、多くの人びとが毎日消費しているこれらの食品添加物は、砂糖に代わる健康的で安全な物質と考えるべきではなく、これはいくつかの保健機関の現時点での見解と合致する」としている。

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オープンソースの自動インスリン伝達システム、1型DM血糖コントロールを改善/NEJM

 7~70歳の1型糖尿病患者において、オープンソースの自動インスリン伝達(AID)システムはセンサー付きインスリンポンプと比較して、24週時に血糖値が目標範囲にある時間の割合が有意に高く、1日のうち血糖値が目標範囲内である時間は3時間21分延長したとの研究結果が、ニュージーランド・オタゴ大学のMercedes J. Burnside氏らが実施した「CREATE試験」で示された。研究結果は、NEJM誌2022年9月8日号で報告された。ニュージーランドの無作為化対照比較試験 CREATE試験は、1型糖尿病患者におけるオープンソースAIDシステムの有効性と安全性のデータの収集を目的とする非盲検無作為化対照比較試験であり、2020年9月~2021年5月の期間に、ニュージーランドの4施設で参加者の登録が行われた(ニュージーランド保健研究会議[HRC]の支援を受けた)。 対象は、年齢7~70歳、1型糖尿病の診断を受けてから1年以上が経過し、インスリンポンプ療法を6ヵ月以上受け、糖化ヘモグロビンの平均値<10.5%(91mmol/mol)の患者であった。 被験者は、オープンソースAIDシステムまたはセンサー付きインスリンポンプ(対照)を使用する群に無作為に割り付けられた。また、年齢7~15歳が小児、16~70歳は成人と定義された。 AIDシステムは、AndroidAPS 2.8(標準的なOpenAPS 0.7.0アルゴリズムを使用)の修正版で、試作段階のDANA-iインスリンポンプとDexcom G6持続血糖モニター(CGM)を組み合わせて用いた。ユーザーインターフェースは、Androidスマートフォンアプリケーション(AnyDANA-Loop)だった。 主要アウトカムは、155~168日目(試験の最後の2週間[23~24週])に、血糖値が目標範囲(70~180mg/dL[3.9~10.0mmol/L])にある時間の割合とされた。年齢による治療効果に差はない 97例が登録され、AID群に44例(小児21例[年齢中央値14.0歳、女児11例]、成人23例[40.0歳、15例])、対照群に53例(27例[11.0歳、13例]、26例[38.0歳、15例])が割り付けられた。ベースラインの平均糖化ヘモグロビン値は小児が7.5%、成人は7.7%だった。 血糖値が目標範囲にある時間の割合の平均値(±SD)は、AID群がベースラインの61.2±12.3%から24週時には71.2±12.1%へ上昇し、これに対し対照群は57.7±14.3%から54.5±16.0%へと低下しており、有意な差が認められた(補正後平均群間差:14.0ポイント、95%信頼区間[CI]:9.2~18.8、p<0.001)。また、AID群は、1日のうち血糖値が目標範囲内である時間が、対照群よりも3時間21分長かった。 血糖値が目標範囲にある時間の割合が70%以上で、かつ範囲外(<70mg/dL)にある時間の割合が4%未満の患者は、AID群が52.0%であったのに対し、対照群は11.0%であった(補正後平均群間差:36.9ポイント、95%CI:25.9~48.5)。また、年齢による治療効果の差はみられなかった(p=0.56)。 小児では、AID開始から2週間以内には介入効果が認められ、24週の試験期間中も維持された。また、AID群は、夜間(午前0時~午前6時)の血糖値が目標範囲にある時間の割合が76.8±15.8%と、日中(午前6時~午後12時)の64.3±11.7%に比べて高かった。対照群は、それぞれ57.2±21.4%および50.9±17.4%であった。成人のAID群も小児と同様に、夜間が85.2±12.7%と高かったのに対し日中は70.9±12.7%であった。対照群は、それぞれ53.5±20.1%および57.5±14.4%であり、夜間と日中で同程度だった。 重度の低血糖および糖尿病性ケトアシドーシスは両群とも発現せず、インスリン投与のアルゴリズムおよび自動制御に関連した有害事象もみられなかった。また、重篤な有害事象は、AID群で2件(輸液セットの不具合に起因する高血糖による入院と、糖尿病とは無関係の入院)、対照群で5件(インスリンポンプの不具合による高血糖が1件、糖尿病とは無関係のイベントが4件)認められた(いずれも小児)。 著者は、「この試験の参加者は、多くの実臨床研究に比べ、より典型的な1型糖尿病であり、オープンソースAIDの使用経験がなかったことから、さまざまな1型糖尿病患者が、このシステムから利益を得る可能性があることが示唆される」としている。

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ペムブロリズマブ、高リスク早期TN乳がんへの術前・術後療法に適応拡大/MSD

 MSD株式会社は2022年9月26日、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)について、「ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳における術前・術後薬物療法」の効能または効果で、国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得したことを発表した。 今回の承認は、ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの周術期の乳がん患者1,174例(日本人76例を含む)を対象とし、術前薬物療法としてのペムブロリズマブと化学療法との併用療法、および術後薬物療法としてのペムブロリズマブ単独療法の有効性と安全性を、術前薬物療法としてのプラセボと化学療法との併用療法、および術後薬物療法としてのプラセボ投与を対照として評価した国際共同第III相試験(KEYNOTE-522試験)の結果に基づいている。 本試験において、術前のペムブロリズマブと化学療法との併用療法および術後のペムブロリズマブ単独投与は、術前のプラセボと化学療法との併用療法および術後のプラセボ投与と比較して主要評価項目の1つである無イベント生存期間(EFS)を有意に延長した(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.48~0.82、p=0.00031)。安全性については、安全性解析対象例783例中774例(98.9%)(日本人45例中45例を含む)に副作用が認められた。主な副作用(20%以上)は、悪心495例(63.2%)、脱毛症471例(60.2%)、貧血429例(54.8%)、好中球減少症367例(46.9%)、疲労330例(42.1%)、下痢238例(30.4%)、ALT増加204例(26.1%)、嘔吐200例(25.5%)、無力症198例(25.3%)、発疹196例(25.0%)、便秘188例(24.0%)、好中球数減少185例(23.6%)、AST増加157例(20.1%)だった。 <製品概要>・販売名:キイトルーダ点滴静注100mg・一般名:ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)・効能・効果:ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳における術前・術後薬物療法・用法・用量:通常、成人にはペムブロリズマブ(遺伝子組換え)として1回200mgを3週間間隔または1回400mgを6週間間隔で30分間かけて点滴静注する。投与回数は、3週間間隔投与の場合、術前薬物療法は8回まで、術後薬物療法は9回まで、6週間間隔投与の場合、術前薬物療法は4回まで、術後薬物療法は5回までとする。・承認取得日:2022年9月26日

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「リフィル処方箋の手引き」公表 処方箋の紛失や期間切れに注意!【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第97回

リフィル処方箋の運用が始まってから半年が経ちました。皆さんの薬局では、リフィル処方箋を受け付けたらすぐに対応できるように、手順書の整備・共有が行われていますか?2022年9月8日に、日本保険薬局協会(NPhA)が「リフィル処方箋の手引き(薬局版)Ver.1」を公表しました。手引きというと、文字が多くて小難しいんでしょ…と想像されるかもしれませんが、全然そんなことはなく、非常にコンパクトで見やすくまとめられています。誤解を恐れずに言えば、まだ手順書を作成していない薬局はこれでいいんじゃ…と思うほどのわかりやすさです。しかも、リフィル処方箋の説明や次回来局日の案内リーフレット案が付いているのもありがたいポイントです。ぜひ使えるものは使っちゃいましょう!今回はこの手引きの内容を見ていきましょう。<受け取り時の確認>手引きは薬剤師が処方箋を受け取ったときの確認事項から始まっています。まずこれがとても実務的でありがたいなと思います。具体的には、「リフィル可」欄にレ点があるかどうか、ある場合は使用回数・総使用回数などを確認します。「リフィル可」欄に手書きの記載があった場合は偽造を疑って処方元に確認することや、投与量の限度が定められている新薬や向精神薬、湿布薬などはリフィル処方箋による投薬ができないことなどの注意点も記載されています。<妥当性判断・処方箋への記載>受け取り時の確認項目をクリアし、かつ有効期間内であった場合、リフィル処方箋による調剤が適切かどうかを確認する妥当性判断に移ります。副作用や体調変化などのため、リフィル処方箋による調剤が不適当と判断した場合は、受診勧奨および処方医への情報提供が必要になります。適切と判断した場合は、処方内容を確認し、処方箋に調剤日や次回調剤予定日、薬局の名称・薬剤師名を記載します。薬局が記載する内容および記載箇所は、処方箋のイラストを用いて図示されています。<服薬指導>手引きに記載されているリフィル処方箋の服薬指導のポイントは通常の調剤の場合と大きく異なることはありませんが、参考にする生活習慣病の療養計画書が添付されているところに優しさを感じます。リフィル処方箋ならではの説明事項として、口頭・文書で次回の調剤可能な期間の前日に電話などで連絡することや、処方箋の有効期間が過ぎた場合や紛失した場合は再受診が必要となること、経過確認のため同じ薬局の利用を勧めることなどが挙げられています。リフィル処方箋を4月初めに早速受け付けた薬剤師によると、次回の来局予定がまさにゴールデンウイーク真っただ中!ということがあり、かなり焦ったそうです。次回の予定の確認は、患者さんだけでなく薬局側も慣れていないことなので注意が必要です。リフィル処方箋、健康保険証・マイナンバーカード、お薬手帳を持ってきてもらうことも忘れずに伝えましょう。<服薬指導後の対応>服薬指導後は、処方箋原本を返却し、写しを保管します。処方箋の返却は薬局側も慣れていないことなので注意が必要です。医療機関への情報提供や服薬期間中のフォローも通常と大きく異なることはありませんが、ポイントがわかりやすく記載されています。この手引きを読み、リフィル処方箋による調剤を行う場合も、リフィル処方箋による調剤が不適当で受診勧奨を行う場合も、どちらも薬剤師の判断が必要になるということを再認識しました。薬局を信じてくれた処方医や患者さんを巻き込むことなので、誠実かつ専門知識をもって対応することが求められているということを改めて感じ、身の引き締まる思いです。そして、ようやくこういう時代が来たんだな、と武者震いのような感覚も感じています。

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ドラマ「ドラゴン桜」(後編)【そんなんで結婚相手も決めちゃうの? 教育政策としてどうする?(学歴への選り好み)】Part 1

今回のキーワード学歴社会シグナリングランナウェイ遺伝子進化文化進化共進化大学助成金大学無償化前編で、学歴によって収入の割り増し(シープスキン効果)が起きることをご説明しました。中編では、だからと言ってその学歴差(教育格差)を縮めようとしても収入格差は縮まらない理由をご説明しました。そして、収入格差は「遺伝格差」が原因となっていることもご説明しました。さらに、どうやらこの学歴は、就職だけでなく、結婚においても、重んじられるようになってきているようです。今回は、引き続きドラマ「ドラゴン桜」を通して、このような学歴社会になってしまうそもそものメカニズム、そしてその行き着く先を、文化進化の視点で解き明かします。そこから、「遺伝格差」も踏まえて、これからの教育政策は教育政策をしないことであるという仰天の逆説を導き、学歴社会への今後の真の対策を考えてみましょう。なんで学歴社会になるの?桜木先生は、全校生徒の前で「東大に行け!」と力説しておきながら、「東大みたいなブランド、ありがたがっている連中…(略)みんなゲス野郎だ」と言い切りました。すると、矢島から「じゃあ、なんで東大行けって言ってるんだよ?」と突っ込まれるのです。桜木先生は、おもむろに答えます。「それはな、今のおまえには分からんだろ」「おまえらガキは、社会について何も知らないからな。いや、知らないと言うより、大人たちがわざと教えないんだ。その代わり、未知の無限の可能性だなんて、何の根拠もない無責任な妄想をおまえたちに植えつける。そんなもんに踊らされて、個性生かして他人と違う人生を送れると思ったら、大間違いだ。社会はそういうシステムになっちゃいない。それを知らずに放り出されたおまえたちに待っているのは不満と後悔の渦巻く現実だけだ!」と。桜木先生が説く「社会」とは、何でしょうか? それは、学歴社会です。学歴社会とは、社会において相手への評価(選り好み)に学歴が重んじられることです。ここから、このような学歴社会になってしまうメカニズムを、進化心理学の視点を交えて、大きく2つ挙げてみましょう。(1)シグナリング1つ目はシグナリングです。シグナリングとは、相手に自分のある情報を知らせるためにシグナル(信号)を出すことです。たとえば、鹿の角や猪の牙などの「武器」の大きさは、求愛をめぐるオス同士の序列(マウンティング)のシグナルになっています。彼らは草食動物であるため、その「武器」が狩りに使われることは実はありません。また、クジャクの飾り羽やカナリアのさえずりなどの「装飾」の美しさはメスへの求愛の誇示(セックスアピール)のシグナルになっています。人間について言えば、男性の論理性などの「男らしさ」はもともと狩りをするうえでの生存能力の高さのシグナルになっています。また、女性の共感性などの「女らしさ」はもともと子育てをするうえでの生殖能力の高さのシグナルになっています。なお、「男らしさ」「女らしさ」という言い回しは、あくまで原始の時代に求められた特性を便宜的に言い表したものです。多様化する現代社会において推奨されるものではありません。同じように、学歴は、前編でご説明した通り、知能の高さと性格の望ましさを証明している点で、現代の社会で就職先(さらには結婚相手)に対して自分がうまくやっていく能力(適応度)の高さを示すシグナルになっていることが分かります。(2)ランナウェイ2つ目はランナウェイです5)。ランナウェイとは、もともとオスのある特徴(シグナル)がその集団のメスから広く好まれるようになると、その特徴が生存で適応度を高めるかどうかとは関係なく、好まれ続ける(暴走する)ようになることです。たとえば、先ほどのクジャクの飾り羽やカナリアのさえずりは、オスに特有で、メスを惹き付けるためだけの特徴です。最初、その特徴は比較的に目立たなかったと考えられますが、求愛の「競争」によって、とても目立つように進化したのでした。なお、これらの特徴は、メスを惹き付ける点で生殖の適応度を高めてはいますが、天敵までも寄せ付けるくらい極端に目立つようになってしまったり、その「装飾」のために動きが鈍くなることで天敵から狙われやすくなってしまったら、生存の適応度を下げてしまうという代償があります。人間について言えば、男性の論理性は極端になると、理屈っぽさやこだわり(自閉スペクトラム症)という代償があります。実際に、この発症率は男性が女性の数倍高いです。一方、女性の共感性は極端になると、情緒不安定(境界性パーソナリティ障害)という代償があります。実際に、この発症率は女性が男性の数倍高いです。同じように、学歴は、当初はそのまま教育効果を表し、職業的に役立ち、生存の適応度を高めていました。しかし、社会でより好まれるようになってしまったことで、まさに学歴への選り好みが独り「走り」(独り歩き)して広まってしまい、ランナウェイの現象が起きてしまっていることが分かります。もはや、学歴は、クジャクの飾り羽と同じ「装飾」になってしまい、教育効果そのもので生存の適応度を高めることはなくなってしまったのでした。次のページへ >>

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ドラマ「ドラゴン桜」(後編)【そんなんで結婚相手も決めちゃうの? 教育政策としてどうする?(学歴への選り好み)】Part 2

学歴社会を推し進めるのは?厳密に言えば、先ほどの動物の選り好みは、その遺伝子が集団に広がっていくために長い年月がかかります。一方で、人間の学歴への選り好みは、比較的短期間で広がっています。一体何が推し進めているのでしょうか?それは、文化です。人間がほかの動物と決定的に違うのは、環境を変えられることです。そして、変えられたその環境からまた影響を受けるという相互作用を起こすことです。その環境の代表が文化なのです。このようにある行動をする遺伝子がその集団に広がっていく遺伝子進化と同じように、ある行動をする文化がその集団に広がっていくことを、文化進化と呼んでいます6)。この文化の起源は、私たち人類が部族をつくった約300万年前です。当時から、人類は狩りや育児の仕方を次世代に伝えるようになりました。これは、部族(集団)としては文化であり教育です。部族メンバー(個人)としては経験であり学習です。そして、これが、行動遺伝学における「環境」の起源と言えるでしょう。つまり、約300万年前以降の人類のほとんどの行動は、本能(遺伝)+文化(環境)から成り立っていると言えます。逆に言えば、約300万年以前の人類やほかのすべての動物の行動は、ほぼ本能(遺伝)だけとも言えます。なお、定住して家を作るようになった約1万数千年前から、人類は、部族だけでなく、家族単位でも生活圏(縄張り)を区切るようになりました。こうして、コミュニケーションの癖、生活習慣、好みなどの嗜癖の多様化がさらに進んだのでした。これは、家族文化とも言えます。これが、行動遺伝学における「家庭環境」の起源と言えるでしょう。この点でも、飲酒習慣や素行などは、本能(遺伝)+家族文化(家庭環境)+文化(家庭外環境)と言えるでしょう。なお、中編でも触れましたが、家族文化(家庭環境)は知能と収入に当初は影響を与えます。しかし、その影響力は、成人して最終的になくなるか、あったとしてもとても限られたものになります。学歴社会の行き着く先は?人間は、環境を変え、そして変えられた環境(文化)から影響を受けると、今度は長い時間の中で、人間(遺伝子)が淘汰されていくという相互作用も起こります。つまり、遺伝子進化と文化進化は共進化しています。ここから、共進化の例を3つ挙げます。そして、学歴社会が私たち人間に与える影響、つまり学歴社会の行き着く先を予測してみましょう。(1)調理する文化数十万年前に、人類が火を使うようになってから、食べ物を調理することで、消化しやすくなりました。このような環境では、消化能力が強くない人も生き残れます。すると、消化能力が弱い人類が増えていき、ますます調理をする文化が広がっていきます。こうして、現在のほとんどの人間は、生肉や腐ったものを食べるとお腹を壊すようになったのです。言い換えれば、調理の文化(環境)から影響を受けて、消化能力が強い遺伝子が淘汰され、なくなっていったのでした。(2)牛乳を飲む文化実は、世界中の成人の70%近くは、牛乳を飲んでも吸収できないです。もちろん、母親のおっぱいを飲む乳児は、牛乳も吸収できます(ただし推奨年齢は1歳を過ぎてから)。しかし、5歳を過ぎると、母親のおっぱいに含まれる乳糖(牛乳の成分と同じ)を分解する酵素がつくられなくなるため、牛乳を飲んでも吸収できなくなるのです。場合によっては、腹痛や下痢を起こします(乳糖不耐症)。一方で、残りの30%強の人は、大人になっても牛乳を吸収できて栄養にすることができます。そのわけは、約1万数千年前に農耕牧畜が広がってから、その人たちの祖先が、その家畜の搾乳を栄養として利用する地域にいたからです。先ほどの調理をする文化と同じように、牛乳を飲んで栄養にして生きていく文化の淘汰圧がかかったために、大人になっても牛乳を飲んで吸収できる遺伝子を持つ人が増えていったのでした。なお、チーズやヨーグルトなどの乳製品は、加工の過程で乳糖の割合が減っていくため、食べて吸収できる人が増えます。これは、牛乳が飲めない人たちが生きて行くための新たな文化的な適応であったと言えます。(3)お酒を飲む文化哺乳類の多くは、腐った果実(=果実酒)を食べると、分解する能力が低いためすぐに酔っ払います。ところが、ゴリラとチンパンジーはなかなか酔っ払わないことが分かっています。このことから、もともとの約1千万年前のゴリラとチンパンジーと人類との共通の祖先は、当時から「アルコール」を分解して栄養にすることができたと考えられています。そのわけは、彼らは、木から下りて地上で長い間を過ごすようになっていたため、地上に落ちて腐った果実(アルコール)も貴重な食料源として分解して消化するような遺伝的な適応をしたからでしょう。その後、約数万年前に、人類はアルコールを作るようになりました。同時に、当時からアルコール依存症が問題になっていたことが考えられます。すると、アルコールを飲まない(あまり飲めない)人が仕事仲間として、そして結婚相手としてより選ばれていくことが推測されます。このような当時の文化の淘汰圧によって、飲んだアルコールを分解できない遺伝子を持つ人が再び増えていったのでしょう。実際に、お酒があまり飲めない人は、とくに東アジアで多いのです。お酒を飲んで出てくる赤ら顔は「オリエンタルフラッシュ(東洋人の赤ら顔)」とも呼ばれます。そのわけは、もともと東アジアで稲作が盛んで、早くから米酒が醸造されていたことで、アルコール依存症が当時から社会問題になっていたからであると考えることができます。この詳細については、関連記事をご参照ください。以上を踏まえて、学歴社会の行き着く先が見えてきます。それは、学歴を重んじる文化の淘汰圧がかかると、知能が高くなる遺伝子を持つ人が増えていくことです。そして、牛乳(またはお酒)が飲める人と飲めない人がそれぞれいるのと同じように、知能の高い人と高くない人の集団が二極化していくことです。これは、知能における「遺伝格差」が広がることを意味します。一見、知能が高い人が増えるのはそれ自体むしろ良いことのように思われます。しかし、その知能とは、試験問題を解くことに特化した「知能」(情報処理能力)です。何か新しいものを生み出す創造性ではありません。AI化が進む私たちの日常生活にも共感的なコミュニケーションが求められる社会生活にも役に立つとは限らない、時代遅れの「知能」です。さらに問題なのは、その知能の高い人が高くない人を搾取する社会の仕組み(学歴社会)は変わらないどころか、強化される危うさもあるということです。この状態を前編では学歴階級社会とご説明しました。これは、牛乳が飲める人が飲めない人を搾取するのと大差ないくらい、実は不公平なものに思えてきます。この点で、中編でも触れた教育格差の名の下に、これまでの大学への助成金に加えて今後の学生への大学無償化を進めてしまえば、国は教育をする側だけでなく受ける側も含めた両方に資金援助をして、ますます教育ビジネス(前編を参照)に加担することになります。そればかりか、このように収入格差を縮めようと良かれと思って教育格差を是正しようとする取り組みは、皮肉にも、逆に学歴インフレ(前編を参照)を引き起こし、学歴を重んじる文化の淘汰圧を高めることになります。こうして、知能における「遺伝格差」をますます広げ、結果的に収入格差が広がった学歴階級社会をさらに「発展」させてしまうことになります。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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ドラマ「ドラゴン桜」(後編)【そんなんで結婚相手も決めちゃうの? 教育政策としてどうする?(学歴への選り好み)】Part 3

学歴社会にどうすればいいの?桜木先生は、全校生徒の前で「そういう世の中が気に入らねえんだったら、自分でルールを作る側に回れ」と言い放ちます。彼が言う「ルール」とは、まさに学歴社会という文化そのものでもあります。「ルールを作る側に回れ」とは、高い学歴を手に入れることであり、さらには学歴(知能)が高い人が高くない人から搾取しない新しい仕組みを作り直すことをほのめかしていると読み取ることもできます。それでは、そのためには、どうすればいいでしょうか? 文化的に促進したものは文化的に抑制できるという文化進化の特性を踏まえて、学歴社会への国家的な真の対策を大きく3つ挙げてみましょう。(1)収入格差そのものを縮める1つ目の取り組みは、収入格差そのものを縮めることです。なぜなら、問題なのは、中編でもご説明しましたが、教育格差ではなく、収入格差そのものだからです。そのための税制などの社会政策を進め、収入格差をコントロールすることです。実際に、高卒に対しての大卒の収入は、アメリカは1.7倍で、日本は1.4倍強でしたが、実はフィンランドは1.25倍です。フィンランドをはじめとする北欧諸国は、もともと福祉国家であり、収入格差が小さいことで有名です。このように、社会政策として、シープスキン効果を働きにくくすれば、学生が高い学歴に選り好みをすることは減るでしょう。(2)一般職の公務員は高卒者とする2つ目の取り組みは、一般職(専門職を除く)の公務員は高卒者とすることです。すでに、大学における教育効果はとても限定的であるとご説明してきました。一般職の公務員が大卒者である必要がないのです。能力(知能)や適正(性格)を知りたいのであれば、能力テストや適正テストを適宜すれば良いです。もちろん、大学教育がない分、職場教育を充実させることができます。大学教授による目的が曖昧な授業よりも、職場教育に特化した講師による目的がはっきりした研修講義のほうが、より実践的で教育効果が期待できるでしょう。このように、まず公的機関において、高卒者の採用の促進とその後の職場教育のモデルを示せば、一般企業においても高い学歴に選り好みをすることは減るでしょう。(3)大学教育への資金援助を減らす3つ目の取り組みは、大学教育(研究を除く)への資金援助を減らすことです。これは、教育政策として教育政策をしないという仰天の逆説です。たとえば、大学への助成金を段階的に減らしていくことです。また、学生への大学無償化などの政策はしないことです。結果的に、少子化のなか、大学はダウンサイジングを迫られるでしょう。しかし、これは、一般企業としてはごく当たり前のことです。効果が期待できないことに、投資することはできないからです。ただし、奨学金制度はむしろ充実させる必要があります。なぜなら、奨学金の対象は、もともと学力が高くて真面目な学生であるため、専門職や研究職においての教育の効果が期待できるからです。一方で、大学無償化の対象は、学力が高くて真面目な学生であるとは限らなくなるため、経営難の大学の延命に利用されるだけになってしまうからです。このように、大学は、「淘汰」されることで、専門職と研究職のための教育に特化した本来のあるべき姿に戻ることができます。大学は、国立研究所として位置付けられ、浮いた大学助成金は研究予算に回すことができます。そして、大卒者が減り、世の中の大半の人が高卒者になれば、社会において高い学歴に選り好みをすることは減るでしょう。すでに中編で、一般教養を学ぶ場が大学である必要がないことをご説明しました。そもそも大学の教育関係者は、実は研究職が専門で、教職を専門とはしておらず、教えることには実は長けているわけではないという現実もあります7)。もちろん、高校教育までは、職業訓練をしたり、社会性(社会適応能力)を高める場所として必要です。人生の正解とは?第1シリーズのラストシーン。桜木先生は、最後に東大特進クラスの生徒たちに言い残します。「入学試験の問題にはな、正解は常に1つしかない。その1つに辿り着けなかったら、不合格。こりゃ厳しいもんだ。だがな、人生は違う。人生には、正解はいくつもある。大学に進学するのも正解。行かないのも正解だ。スポーツに夢中になるのも、音楽に夢中になるのも、友達ととことん遊び尽くすのも、そして誰かのためにあえて遠回りするのも、これすべて正解だ。だからよ、おまえら生きることに臆病になるな」「おまえら、自分の可能性を否定するなよ。受かったやつも、落ちたやつもだ。おまえら、胸を張って堂々と生きろ」と。あれだけ最初に「東大に行け」と言っておきながら、最後は「(東大に)行かないのも正解だ」と言い切っています。また、彼自身が弁護士であり受験コンサルタントとして知能が高い側にいるはずなのに、「自分でルール(学歴社会にならない仕組み)を作る側に回れ」と言っていました。この点で、彼はトリックスターとも言えます。それを物語るのは、元暴走族上がりで東大に合格しながら進学しなかったという異色の経歴であり、弁護士として王道を歩まない彼自身の不器用な生き様であり、彼らしい世の中への反逆精神でしょう。しかし、現実的には、官僚や教育関係者など学歴(知能)が高い人たちは、その恩恵を受ける側なので、学歴社会の不公平さをうすうす分かっていたとしても、桜木先生のようにあえてその立場が危うくなることは言わないですし、あまり知りたいとも思わないでしょう。政治家も、今まで通り教育政策を充実させると言っておいたほうが聞こえが良くて支持が集まるので、その反対のことは言えないでしょう。では、このままの学歴社会でいいんでしょうか? 知能における「遺伝格差」によって、本人の努力ではどうしようもなく搾取される側になってしまっていいんでしょうか? その「遺伝格差」によって、親の「努力」(教育費をかけること)でもどうしようもなく自分の子どもが搾取される側になってしまっていいんでしょうか?もちろん、どんな社会にするかは政治が決めることです。しかし、政治をする政治家を決めるのは、やはり私たちです。となると、私たち一人一人がまず暴走(ランナウェイ)しつつある学歴社会という文化進化の危うさを理解することです。そして、逆にその文化(環境)を変えていくことで、知能における「遺伝格差」を広げないようにする必要があることを理解することです。すると、遺伝自体は変えられなくても、その遺伝と相互作用して顕在化させるかを左右する環境を変えることができます。これは、逆転の発想です。実際に福祉国家であるスウェーデンは、収入への遺伝の影響が小さいことが分かっています。つまり、収入格差の抑制が知能における「遺伝格差」の抑制につながっているというわけです。このような社会を実現するために、私たちは、遺伝と真摯に向き合う時期に来ています。貧富の差(収入格差)があるのは、「努力が足りなかったからだ」という自己責任論ばかりを唱えるのをそろそろやめる時期に来ています。遺伝の影響力はないとする考えほうが逆に遺伝の影響力を強める結果を招いているという逆説にそろそろ気付く時期に来ています。そして、遺伝の価値は、私たちの文化(環境)が決めているという側面に気付くことです。なぜなら、進化心理学の視点で考えれば、私たちの心は、学歴などによる不平等で不公平な社会ではなく、助け合いによるある程度平等で公平な社会をもともと望むからです。それは、私たちの心の原型が形づくられた原始の時代の部族社会をイメージすれば、分かるでしょう。もちろん、まったくの平等社会にはしないことです。なぜなら、旧ソ連がそうだったように、そんな社会は、こんどは努力をしなくなるという負の側面が出てくるからです。以上を踏まえて、桜木先生が最後に言い残したように、正解を求める生き方ではなく、どんな生き方でも正解と思えることが望ましいでしょう。そのために、私たち一人一人が、学歴という体裁ではなく、相性という中身によって、仕事もパートナー(結婚相手)も選んでいける時代にしていくことではないでしょうか? そんな心のあり方を育むことこそがこれからの教育であり、そんな生き方を促すことこそがこれからの社会と言えるのではないでしょうか?5)「進化と人間行動」P235:長谷川寿一ほか、東京大学出版会、20226)「文化がヒトを進化させた」P22:ジョセフ・ヘンリック、20197)「大学の常識は、世間の非常識」P119、P181:塚崎公義、祥伝社新書、2022<< 前のページへ■関連記事酔いがさめたら、うちに帰ろう。(前編)【アルコール依存症】

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英語で「慎重に観察します」は?【1分★医療英語】第47回

第47回 英語で「慎重に観察します」は?His hemoglobin is trending down. Could you monitor his blood pressure?(ヘモグロビンが低下傾向です。血圧を見ておいてもらえますか?)Sure, I will keep a close eye on his vital signs.(わかりました。バイタルサインを慎重に観察しておきますね)《例文1》We must keep a careful eye on that patient.(あの患者さんは慎重に観察しないといけないですね)《例文2》You’ve put on a lot of weight. You need to keep an eye on what you eat.(体重がかなり増えていますね。食べているものに気を配るようにしましょう)《解説》今回ご紹介する“keep an eye on”は「〜を注意して見ておく」「〜から目を離さないようにする」といった意味合いのある表現で、医療機関でもよく用いられる表現の一つです。たとえば、バイタルサインや病状の不安定な患者さんがいるときには、医療チーム内で「慎重に観察しましょう」というコミュニケーションが取られるでしょうが、そんな時にピッタリの表現です。“monitor”や“watch”などの単語にも置き換えは可能ですが、より「注意深く」というニュアンスが含まれるので、好まれて用いられます。さらに、その注意深さを重ねて強調したい時には、“eye”の前に“close”(慎重な)を付けて“keep a close eye”としたり、“careful”(注意深い)を付けて“keep a careful eye”としたりします。こうすることで、さらに念入りに観察しなければならない、というニュアンスが出ます。これらの場合、冠詞の“an”が“a”に変わることにも注意してください。講師紹介

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第131回 感染症後の体調不良(sickness behavior)を誘発する脳神経を同定

感染症は病原体を直接の原因とはしない食欲低下、水分を摂らなくなる(無飲症)、倦怠感、痛み、寒気、体温変化などのとりとめのない種々の症状や生理反応を引き起こします。ともすると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状の一因かもしれないそういう体調不良(sickness behavior)に寄与する脳の神経がマウス実験で同定されました1)。よく知られているとおり人体は絶えずある種の均衡を保とうとし、体温、食欲、睡眠などを調節しています。われわれが日々健康に生きられるのも恒常性と呼ばれるその均衡のおかげです2)。しかし病気になってその均衡が崩れると上述したような一連の症状や生理的反応が生じます。sickness behaviorの少なくとも幾らかは脳幹に端を発することが先立つ研究で示唆されています3)。今は米国バージニア州のJanelia Research Campusに籍を置くAnoj Ilanges氏やその同僚はさらに突き詰めて脳幹のどこがsickness behaviorの発端なのかを同定することを目指しました。最初にIlanges氏らは細菌感染と同様にsickness behaviorを引き起こす細菌毒素・リポ多糖(LPS)をマウスに注射し、続いて脳のどこが活性化するかをFOSと呼ばれるタンパク質を頼りに探りました。FOSは神経発火の後で発現することが多く、神経活動の目安となります2)。そのFOSがLPS注射マウスの脳幹で隣り合う2つの領域・孤束核(NTS)と最後野(AP)に多く認められました。LPSに反応するとみられるそれら2領域を活性化したところLPSがなくともsickness behaviorが生じ、NTS- AP領域こそsickness behaviorに寄与する神経の在り処であることが確かになりました。さらなる研究によりそれら神経はタンパク質(神経ペプチド)ADCYAP1を発現していることも判明し、ADCYAP1発現神経を活性化するとNTS- AP領域の活性化の時と同様にLPSが誘発するsickness behaviorが再現されました。また、それらADCYAP1発現神経を阻害するとLPS投与後に見られる食欲低下、無飲症、運動低下を解消とはいかないまでも和らげることができました。sickness behaviorに寄与するのはNTS- AP領域の神経のみというわけではなさそうで、今回の報告と同様にNatureに掲載された別のチームの最近の研究では発熱、食欲低下、暖を取る行動などのsickness behavior症状に視床下部の神経が不可欠なことが示されています4)。今回の研究で対象外だった睡眠障害や筋痛などの他のsickness behaviorの出どころの検討も興味深いところです2)。NTS-AP領域は脳と各臓器の連絡路・迷走神経からの信号を直接受け取り、血中に放たれたタンパク質などの体液性信号を感知することが知られています。今回の研究ではsickness behaviorを引き起こすNTS-AP神経の反応がどの生理成分を頼りにしているのかはわからず仕舞いでした。ウイルスや非細菌感染症でもNTS-AP神経が果たして活性化するのかどうかも調べられていません。ロックフェラー大学在籍時に今回の研究を手掛けたIlanges氏は今の職場であるJanelia Research Campusで続きに取り組む予定であり、他の研究者の加勢も期待しています。Ilanges氏等の今回の結果は何らかの理由でsickness behaviorが解消しない患者の治療の開発に役立ちそうです。たとえば慢性的に不調の患者の食欲を回復させる薬が実現するかもしれません。また、広い意味では感染症への対抗に脳の役割が不可欠なことを示した今回の成果を契機にADYAP1発現神経活性化後の脳の反応、sickness behaviorの持続の調節の仕組み、COVID-19の罹患後症状などの感染後慢性症状へのNTS-AP経路の寄与の検討5)などのさまざまな研究が今後続いていくでしょう2)。参考1)Ilanges A, et al.Nature.2022;609:761-771.2)Research Pinpoints the Neurons Behind Feeling Ill / TheScientist3)Konsman JP, et al. Trends Neurosci.2002;25:154-9. 4)Osterhout JA, et al.Nature.2022;606:937-944.5)Infection Activates Specialized Neurons to Drive Sickness Behaviors / Genetic Engineering & Biotechnology News.

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1・2回目ファイザーワクチンなら、3回目はモデルナで感染予防効果増/東大

 ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンによる1次接種(1回目および2回目接種)完了者が、3回目のブースター接種としてファイザー製ワクチンを接種するよりも、モデルナ製ワクチンを接種するほうがその後の新型コロナウイルス感染率が低いことを、東京大学大学院医学系研究科の大野 幸子氏らが発表した。これまで1次接種とブースター接種のワクチンの組み合わせによって効果が異なる可能性が示唆されていたが、実際の感染予防効果の差は明確ではなかった。Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2022年9月18日号掲載の報告。 本研究は、山口県下関市のワクチン接種記録システム(VRS)と新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)を用いて行われた。解析対象は、2021年11月22日までにファイザー製ワクチンによる1次接種を完了した16歳以上の15万4,925人で、2022年4月15日まで追跡を行った。年齢(16~44歳、45~64歳、65~84歳、≧85歳に分類)、性別、2回目接種からの日数を調整した年齢層別Cox回帰分析およびランダム効果メタ解析による推定ハザード比の統合を行った。 主な結果は以下のとおり。・ファイザー製ワクチンによるブースター接種群は6万2,586人(40.4%、年齢中央値:69歳)、モデルナ製ワクチンによるブースター接種群は5万1,490人(33.2%、同:71歳)、ブースター接種なし群は4万849人(26.4%、同:47歳)であった。・新型コロナウイルス感染の割合は、ファイザー製ワクチンによるブースター接種群が1.4%、モデルナ製ワクチンによるブースター接種群が0.7%、ブースター接種なし群が4.9%であった。・ファイザー製ワクチンによるブースター接種群を基準とした新型コロナウイルス感染の統合ハザード比は、モデルナ製ワクチンによるブースター接種群が0.62(95%信頼区間[CI]:0.50~0.74)、ブースター接種なし群が1.72(同:1.22~2.22)であった。・モデルナ製ワクチンによるブースター接種群の感染予防効果は、年齢カテゴリ間で同様の傾向であった。 同氏らは、「本研究では、ファイザー製ワクチンによる1次接種完了者において、モデルナ製ブースターワクチンを接種した群の方が新型コロナウイルス感染のリスクが低いことが示された。本研究結果は、今後のワクチン確保・流通の政策立案や個人の意思決定に寄与すると考えられる」とまとめた。

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閉経後乳がん術後内分泌療法の延長、6年vs.3年(DATA)/ESMO2022

 術後に2~3年のタモキシフェン投与を受け、無病状態にあったホルモン受容体(HR)陽性の閉経後乳がん患者において、続いてアナストロゾールを投与した場合の効果を複数の期間で検討した結果が報告された。オランダ・マーストリヒト大学病院のVivianne Tjan-Heijnen氏が、第III相非盲検無作為化比較試験(DATA試験)の最終解析結果を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。・対象:ER+および/またはPR+、2~3年の術後タモキシフェン投与を受け、再発のない閉経後乳がん患者1,660例・試験群:アナストロゾール(1mg/日)を6年間投与 827例アナストロゾール(1mg/日)を3年間投与 833例・評価項目:[主要評価項目]無作為化後3年以降の調整無病生存率(aDFS)[副次評価項目]調整全生存期間(aOS)[層別化因子]リンパ節転移の状態、ホルモン受容体・HER2の発現状況、タモキシフェンの投与期間 主な結果は以下のとおり。・2006年6月~2009年8月にオランダの79施設から1,660例が登録され、6年群(827例)または3年群(833例)に無作為に割り付けられた。・調整追跡期間中央値は10.1年であった。・ベースライン時の特性は両群でバランスがとれており、ER+およびPR+が6年群75.8% vs.3年群76.0%、pN1が52.5% vs.54.9%だった。・10年aDFSは6年群で69.1% vs.3年群で66.0%となり、統計学的に有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.72~1.01、p=0.073)。・10年aDFSのサブグループ解析の結果、ER+およびPR+の患者において、6年群で70.8% vs.3年群で64.4%(HR:0.77、95%CI:0.63~0.93)だったのに対し、ER+またはPR+の患者では、63.7% vs.70.9%(HR:1.22、95%CI:0.86~1.73)だった(相互作用のp=0.018)。さらに、ER+およびPR+かつリンパ節転移陽性の患者では68.7% vs.60.7%(HR:0.74、95%CI:0.59~0.93、p=0.011)、ER+およびPR+かつリンパ節転移陽性かつ腫瘍サイズ≧2cmの患者では70.0% vs.56.4%(HR:0.64、95%CI:0.47~0.88、p=0.005)だった。・aOSは6年群で80.9% vs.3年群で79.2%となり、統計学的に有意な差は認められなかった(HR:0.93、95%CI:0.75~1.16、p=0.53)。・aOSのサブグループ解析の結果、ER+およびPR+の患者においては6年群で82.7% vs.3年群で78.7%(HR:0.83、95%CI:0.65~1.07)、ER+またはPR+の患者では、75.2% vs.81.0%(HR:1.33、95%CI:0.86~2.05)だった(相互作用のp=0.051)。 Tjan-Heijnen氏は結論として、ホルモン受容体陽性乳がんのすべての閉経後女性において、アロマターゼ阻害薬による5年以上の延長治療を行うことは推奨できないとした。ただし、ホルモン受容体の状態(ER+およびPR+)、リンパ節転移の状態(リンパ節転移陽性)については、延長治療を行うにあたっての予測因子となる可能性があるとしている。

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KRASG12C阻害薬ソトラシブ、パニツムマブ併用でmCRC患者に有用性示す(CodeBreaK101)/ESMO2022

 CodeBreaK100試験によって、KRASG12変異のある固形がん患者に対するKRASG12C阻害薬ソトラシブの有用性が報告されている。CodeBreaK101試験は、KRASG12変異陽性で転移のある大腸がん(mCRC)患者を対象に、ソトラシブ単剤療法およびほかの抗がん療法と併用した場合の安全性、忍容性、薬物動態、および有効性を評価することを目的としている。大腸がんにおいてはKRASG12変異のある患者は全体の3%ほどとなっている。 9月に行われた欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)では、国立がんセンター東病院の久保木 恭利氏が、mCRC患者40例を対象にソトラシブと抗EGFR抗体薬パニツムマブの併用療法の有用性をみた第I相CodeBreaK101試験の初期データにおいて、有望な抗腫瘍効果が示されたとの結果を報告した。・対象:KRAS変異陽性のmCRC 患者40例(女性75%、年齢中央値57.5歳)。フルオロピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカン、血管新生阻害薬の前治療または後治療歴・試験群:ソトラシブ960mg/日を経口投与+パニツムマブ6mg/kgを2週間ごとに点滴静注・評価項目:[主要評価項目]安全性[副次評価項目]抗腫瘍活性(奏効率[ORR]、病勢コントロール率[DCR]、無増悪生存期間[PFS]、全生存期間[OS]など)、薬物動態(PK) 主な結果は以下のとおり。・2022年3月25日までに登録された40例が対象となった(女性75%、年齢中央値58歳)。・Gradeを問わない治療関連有害事象は37例(93%)に発現した。Grade3の有害事象は9例(22.5%)に発現し、中断や減薬に至った有害事象はソトラシブ6例(15%)、パニツムマブ10例(25%)だった。Grade4以上や治療中止に至った有害事象はなかった。・最も多い有害事象は痤瘡型皮膚炎で全体の50%に発現したが、大半がGrade2までだった。・安全性に関する所見は、ソトラシブおよびパニツムマブの既知のプロファイルと一致していた。・ORRは30%(95%CI:16.6~46.5)、DCRは93%(95%CI:79.6~98.4)であった。35例(88%)で腫瘍の縮小が確認された。ソトラシブの薬物動態は単剤療法で観察されたものと一致していた。 著者らは「今回のデータは、対象患者におけるソトラシブとパニツムマブの併用療法の安全性と忍容性をさらに証明するもので、ソトラシブ単剤療法よりも3倍高いORRを示し、この併用療法の今後の開発を支持するものである。今後、奏効期間、PFS、OSなどの長期追跡データも発表される予定であり、さらに併用療法と医師選択の化学療法を比較するCodeBreaK300試験も進行中だ」としている。

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夜間ブルーライトカット眼鏡による片頭痛予防効果

 片頭痛は有病率の高い一次性頭痛であり、現役世代で発症しやすいことから、生産性の低下による社会的損失につながることが問題視されている。国際頭痛分類第3版(ICHD-3、ベータ版)の診断基準では、片頭痛の発作時には過敏、とくに光過敏が認められ、光が頭痛の誘発因子であることが示唆されている。獨協医科大学の辰元 宗人氏らは、片頭痛発作の悪化につながる内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)への光刺激を減少させる夜間のブルーライトカット(Blue Cut for Night:BCN)眼鏡を開発し、その効果を検証した。その結果、ipRGCへの光刺激を減少するBCN眼鏡の使用は、片頭痛発作の軽減に有用である可能性が示唆された。Internal Medicine誌オンライン版2022年8月20日号の報告。 片頭痛患者10例を対象に、BCN眼鏡の使用を4週間実施した。BCN眼鏡の使用前後の頭痛日数とHeadache Impact Test-6(HIT-6)スコアを比較した。 主な結果は以下のとおり。・頭痛日数は、BCN眼鏡を使用する前の8.7±5.03日から、使用4週間後には7.0±4.37日へ減少する傾向が認められた。・副作用は認められなかった。

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重症心不全への完全磁気浮上型遠心ポンプ、5年生存率は良好/JAMA

 重症心不全患者に対する左室補助人工心臓(LVAD)療法において、完全磁気浮上型遠心ポンプLVAD(HeartMate 3)は、5年後の複合アウトカムおよび全生存が良好であることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMandeep R. Mehra氏らが米国の69施設で実施した無作為化非劣性試験「MOMENTUM 3試験」の延長試験で示した。MOMENTUM 3の本試験では、2年後の後遺障害を伴う脳卒中またはデバイス交換の再手術のない生存に関して、HeartMate 3のHeartMate II(軸流ポンプLVAD)に対する優越性が認められ、米国食品医薬品局(FDA)は、本試験でLVAD療法を継続している患者の追跡調査を5年後まで延長することを条件に、2018年、HeartMate 3を永久植込み治療(destination therapy:DT)として承認している。著者は、「今回の結果は、完全磁気浮上型遠心ポンプ式LVADの使用を支持するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2022年9月8日号掲載の報告。遠心ポンプ群vs.軸流ポンプ群、2年間の無作為化非劣性試験終了後、3年間追跡 MOMENTUM 3試験はLVADを要する重症心不全患者を対象とし、心臓移植へのブリッジまたはDTかを問わず、HeartMate 3(遠心ポンプ群)またはHeartMate II(軸流ポンプ群)を植え込む群に無作為に割り付け追跡評価した。2年間の無作為化非劣性試験が終了し、2年後の追跡調査時にLVAD療法を継続していた患者について、さらに3年間(植え込み後5年まで)追跡調査を実施した。 主要評価項目は、後遺障害を伴う脳卒中(修正Rankin尺度スコア>3)またはデバイス交換の再手術のない生存(移植、回復またはLVAD療法)、その他の評価項目は全生存率などであった。 無作為化非劣性試験で植込み術を受けた1,020例(遠心ポンプ群515例、軸流ポンプ群505例)のうち、2年後もLVAD療法を継続していたのは536例(遠心ポンプ群289例、軸流ポンプ群247例)であった。5年無イベント生存率54.0% vs.29.7%、5年全生存率58.4% vs.43.7% 536例中、59例は主試験終了と延長試験開始の間にギャップが生じたため2年以降のデータを収集できず、477例(遠心ポンプ群258例、軸流ポンプ群219例)の2年以降のデータが解析に含まれた(年齢中央値62歳、女性86例)。なお、477例のうち295例(遠心ポンプ群178例、軸流ポンプ群117例)は2019年6月~2021年4月の期間に同意を得て延長試験に登録され、他の182例からは限定的なデータが提供された。 後遺障害を伴う脳卒中またはデバイス交換の再手術のない5年無イベント生存率のKaplan-Meier推定値は、遠心ポンプ群54.0%、軸流ポンプ群29.7%であった(ハザード比[HR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.45~0.67、p<0.001)。 5年間の追跡期間中に、遠心ポンプ群は515例中156例(30.3%)、軸流ポンプ群は505例中184例(36.4%)が死亡した。Kaplan-Meier法による5年全生存率は、それぞれ58.4%および43.7%であった(HR:0.72、95%CI:0.58~0.89、p=0.003)。 重篤な有害事象の頻度は、遠心ポンプ群が軸流ポンプ群より有意に低かった(デバイス血栓症:0.010 vs.0.108イベント/患者年、脳卒中:0.050 vs.0.136イベント/患者年、出血:0.430 vs.0.765イベント/患者年)。

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SGLT2阻害薬とGLP1受容体作動薬の処方率、人種・民族間で格差/JAMA

 2019~20年の米国における2型糖尿病患者へのSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の処方率は低く、白人や非ヒスパニック/ラテン系と比較して、とくに他の人種やヒスパニック/ラテン系の患者で処方のオッズ比が有意に低いことを、米国・カリフォルニア大学のJulio A. Lamprea-Montealegre氏らが、米国退役軍人保健局(VHA)の大規模コホートデータ「Corporate Data Warehouse:CDW」を用いた横断研究の結果、報告した。2型糖尿病に対する新しい治療薬は、心血管疾患や慢性腎臓病の進行リスクを低減することができるが、これらの薬剤が人種・民族にかかわらず公平に処方されているかどうかは、十分な評価がなされていなかった。著者は、「これらの処方率の差の背景にある要因や、臨床転帰の差との関連性を明らかにするために、さらなる研究が必要である」とまとめている。JAMA誌2022年9月6日号掲載の報告。2型DM患者約120万例について2019~20年の処方率を人種・民族別に検討 研究グループは、成人2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の処方における人種・民族による差異を調査する目的で、CDWのデータを用い、2019年1月1日~2020年12月31日の期間にプライマリケア診療所を2回以上受診した2型糖尿病成人患者を対象に解析した。 医療給付申請時またはVHA施設の受診時に質問票で確認した、自己申請に基づく人種・民族別に、研究期間中のSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の処方(あらゆる有効処方箋)率を評価した。なお、SGLT2阻害薬はertugliflozin、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、GLP-1受容体作動薬はセマグルチド、リラグルチド、albiglutide、デュラグルチドを評価対象とした。 解析対象は、119万7,914例(平均年齢68歳、男性96%、アメリカ先住民/アラスカ先住民1%、アジア人/ハワイ先住民/他の太平洋諸島民2%、黒人/アフリカ系アメリカ人20%、白人71%、ヒスパニック/ラテン系7%)であった。処方率は全体で8~10%、白人以外の人種、とりわけヒスパニック/ラテン系で低い 全対象における処方率は、SGLT2阻害薬10.7%、GLP-1受容体作動薬7.7%。人種・民族別ではそれぞれ、アメリカ先住民/アラスカ先住民で11%、8.4%、アジア人/ハワイ先住民/他の太平洋諸島民11.8%、8.0%、黒人/アフリカ系アメリカ人8.8%、6.1%、白人11.3%、8.2%であった。また、ヒスパニック/ラテン系では11%、7.1%、非ヒスパニック/ラテン系では10.7%、7.8%であった。 患者およびシステムレベルの因子を調整後のSGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の処方率は、白人と比較して、他のすべての人種で有意に低かった。白人との比較で処方オッズが最も低かったのは黒人であった(SGLT2阻害薬の補正後オッズ比[OR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.71~0.74]、GLP-1受容体作動薬の補正後OR:0.64[95%CI:0.63~0.66])。 また、ヒスパニック/ラテン系の患者は、非ヒスパニック/ラテン系の患者と比較して、処方オッズが有意に低かった(SGLT2阻害薬の補正後OR:0.90[95%CI:0.88~0.93]、GLP-1受容体作動薬の補正後OR:0.88[95%CI:0.85~0.91])。

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第117回 電子カルテの規格統一で、医療のデジタル化推進へ/厚労省

<先週の動き>1.電子カルテの規格統一で、医療のデジタル化推進へ/厚労省2.医療データ活用、本人同意なしでの利活用について討議へ/規制改革推進会議3.高額レセプトが過去最多に、高額な薬剤費が影響/健保連4.2021年度の介護費が11兆円突破、過去最高に/厚労省5.地域医療構想で、病院・診療所別の医師の偏在も可視化へ/厚労省6.マイナンバー普及が低い自治体への交付金給付をゼロに/政府1.電子カルテの規格統一で、医療のデジタル化推進へ/厚労省厚生労働省は、2030年までに「医療DX令和ビジョン2030」を推進のために、9月22日に「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームの初会合を開いた。この専門会議は、2つのタスクフォースからなり、「電子カルテ・医療情報基盤」では、全国の医療機関での電子カルテの導入を目指すため、電子カルテの規格統一など基盤整備を行い、患者さんが最適な治療を受けられることを目指す。「診療報酬改定DX」タスクフォースでは、診療報酬の改定に関する作業を大幅に効率化し、人材の有効活用や費用の低減化を目指す。(参考)全国で電子カルテの規格統一へ「質の高い医療提供が可能に」 厚労省(テレビ朝日)医療デジタル化へ初会合 厚労省の推進チーム(産経新聞)医療デジタル化 厚労省 作業チーム新設へ 情報共有仕組み検討(NHK)第1回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料診療報酬改定DXが開始!医療機関にもたらすメリットとは(PHC)2.医療データ活用、本人同意なしでの利活用について討議へ/規制改革推進会議政府は9月22日に規制改革推進会議の作業部会を開き、医療データ活用について検討に入った。新薬の開発や、地域医療のために医療データ活用を行う上で、現行の個人情報の規制では、データ活用が進まないため、欧米の事例などを参考に、制度の見直しに着手した。一方、9月20日に内閣府が、次世代医療基盤法に基づく事業者であるNTTデータと一般社団法人ライフデータイニシアティブが、患者の同意を得ずにデータ収集を行なっていたことを明らかにした。すでに両者は医療機関からの情報収集や第三者への匿名加工医療情報の提供は取りやめているが、内閣府は両者に対して来月4日までに、原因を調べ、再発防止策を報告するよう命じた。(参考)医療データ活用、本人同意を議論 規制改革推進会議(日経新聞)認定事業者が患者通知なしの医療情報収集  施行後初、原因など調査へ(MEDIFAX)患者通知なく医療情報収集 NTTデータ、9万人分(日経新聞)3.高額レセプトが過去最多に、高額な薬剤費が影響/健保連9月21日に健康保険組合連合会(健保連)は、2021年度の月額1,000万円以上に達した高額レセプトの発生状況について報告した。2021年度は、前年度より152件増加(対前年度比11%増)の1,517件と過去最高を記録した。これは脊髄性筋萎縮症の新薬「ゾルゲンスマ」(1患者当たり約1億6,708万円)など高額な医薬品の承認が影響したためとしている。医療費の上位100位のうち半数以上の56件が高額医薬品によるレセプトであり、がん治療薬の「キムリア」(1患者当たり約 3,265万円)が多かった。また、疾患別では100件のうち49件ががん、循環器系疾患が22件、血液疾患3件など上位を占めていた。(参考)令和3年度 高額レセプト上位の概要を発表(健保連)高額レセプト過去最多1,517件、21年度健保連、高額医薬品が過半数(CB news)4.2021年度の介護費が11兆円突破、過去最高に/厚労省厚生労働省は9月21日に2021年度の介護費用を発表した。これによると、介護保険で2021年度にかかった介護費用全体(介護給付費と自己負担)で総額11兆291億円となり、過去最多を更新した。2000年から始まった介護保険制度は発足当初と比べ、約2.5倍と大幅に増加している。今後も高齢化の進行に伴い、介護費の増加が見込まれている。(参考)令和3年度 介護給付費等実態統計の概況(令和3年5月審査分~令和4年4月審査分)(厚労省)介護費用総額11兆円を突破 2021年度 過去最多(朝日新聞)介護費用11兆291億円 21年度最多更新、高齢化で利用増(日経新聞)5.地域医療構想で、病院・診療所別の医師の偏在も可視化へ/厚労省厚生労働省は、9月21日に第8次医療計画等に関する検討会の下部組織の開「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」を開催し、各都道府県が2次医療圏ごとに医師の偏在対策に利用できるように、医師確保計画の見直しに着手することを明らかにした。これまで各都道府県は、地域医療構想に向けて医療機関の機能分化を進めてきたが、医師の偏在を見直すために、2次医療圏を医師偏在指標によりそれぞれ上位3分の1の医師多数区域や下位3分の1の医師少数区域、その他の中間区域に分け、医師多数区域は、圏域外からの医師確保は行わず、逆に医師少数区域に医師を派遣するなどを求めるほか、診療科別医師数のデータを活用し、医療機関ごとに医師の偏在も可視化することで、各都道府県みずからに実効性のある医師確保策に取り組むように働きかける。(参考)第7回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ資料(厚労省)診療科別の医師偏在指標、次期確保計画で見送りへ 厚労省方針、「現時点で困難」(CB news)2次医療圏毎に病院・診療所別の「医師が多い、少ない」を可視化、地域の医師確保対策に極めて有益―地域医療構想・医師確保計画WG(GemMed)6.マイナンバー普及が低い自治体への交付金給付をゼロに/政府政府は、来年度から新たに設ける「デジタル田園都市国家構想交付金」について、各自治体のマイナンバーカードの普及率をもとに、給付をすることを決めた。これまでの補助金と異なり、各自治体が給付の申請には、全国の自治体の中で、全国平均以上の普及率を要求することとしている。国の来年度の予算の概算要求で総額1,200億円を求めており、各自治体は来年度からの補助金の給付を受けるため、マイナンバーの普及に努力を促す仕組みとなる。この方針について、群馬県の山本知事は会見で「上から恫喝するみたいなアプローチは間違っている」との意見も出されるなど、政府の方針も見直される可能性もある。(参考)政府 マイナンバーカードの普及状況 交付金配分に反映方針(NHK)マイナカード低迷なら交付金ゼロ 自治体に「全国平均以上」要求(中日新聞)マイナンバーカード取得率で交付金制限 群馬・山本知事「上から恫喝みたいなアプローチは間違い」(群馬テレビ)

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