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敗血症性ショックは指で評価!末梢灌流の評価が臓器障害を減らす【論文から学ぶ看護の新常識】第24回

敗血症性ショックは指で評価!末梢灌流の評価が臓器障害を減らす敗血症性ショックにおいて、今や重要な指標の1つとなっている「末梢灌流」。その臨床的有用性が注目されたきっかけは、Glenn Hernandez氏らが6年前に行った研究だった。今回は、JAMA誌2019年2月19日号掲載のこの報告を紹介する。末梢灌流状態と血清乳酸値を標的とした蘇生戦略が、敗血症性ショック患者の28日死亡率に与える影響:The ANDROMEDA-SHOCKランダム化比較臨床試験研究チームは、成人の敗血症性ショック時の末梢灌流を標的とした蘇生が、血清乳酸値を標的とする蘇生と比較して、28日死亡率を低下させるかどうかを検証することを目的に、多施設共同、非盲検ランダム化比較臨床試験を実施した。2017年3月から2018年3月にかけて南米5カ国28施設で行われ、最終追跡調査は2018年6月12日に完了した。対象は、敗血症性ショックと診断され、ICUに入室した成人患者424名。8時間の介入期間中に、毛細血管再充満時間(CRT)の正常化を目標とする群(末梢灌流群、212名)と、乳酸値を2時間あたり20%以上の割合で低下または正常化させることを目標とする群(乳酸値群、212名)に無作為に割り付けた。主要評価項目は、28日時点での全死因死亡率とした。副次評価項目は、90日時点での死亡、ランダム化後72時間時点での臓器機能不全(SOFAスコアによる評価)、28日以内の人工呼吸器非装着日数、腎代替療法非実施日数、昇圧薬非使用日数、集中治療室滞在期間および入院期間とした。主な結果は以下の通り。28日目までに、末梢灌流群では74名(34.9%)、乳酸値群では92名(43.4%)が死亡した。ハザード比:0.75(95%信頼区間[CI]:0.55~1.02)、p=0.06、リスク差:−8.5%(95%CI:−18.2%~1.2%)。末梢灌流を標的とした蘇生は、72時間後の臓器障害がより少ないことに関連していた。平均SOFAスコア:5.6 vs.6.6(SD:4.3 vs.4.7)、平均差:−1.00(95%CI:−1.97~−0.02)、p=0.045。末梢灌流群では、最初の8時間以内に投与された蘇生輸液の量がより少なかった。平均差:−408mL(95%CI:−705~−110)、p=0.01。その他の6つの副次評価項目に有意な差はなかった。敗血症性ショック患者において、毛細血管再充満時間の正常化を目標とした蘇生戦略は、血清乳酸値の正常化を目標とした戦略と比較して、28日時点での全死因死亡率を統計的に有意に低下させなかった。院内で誰もが遭遇しうる重篤な敗血症性ショック。その早期治療は極めて重要です。今回ご紹介する2019年発表の論文は、蘇生目標を「毛細血管再充満時間(CRT)の正常化」と「血中乳酸値の正常化」のどちらにおくべきかを比較した、重要な国際ランダム化比較試験です。結果として、主要評価項目である28日死亡率には統計的な有意な差は認めなかったものの、CRTを目標とした群では、72時間時点での臓器障害が有意に少なく、さらに蘇生初期の輸液量も少なかったという、興味深い結果でした。すなわち、特別な検査機器なしにベッドサイドで即座に判断できるCRTが、敗血症性ショック治療における重要な評価指針となる可能性が示されたのです。この研究におけるCRTの測定法は、右手人差し指の指先の腹(指紋側)をスライドガラスで10秒間圧迫し、色が戻るまでに3秒を超えた場合を異常と定義しています。日本で一般的に行われる「爪床を5秒以上圧迫し、色が戻るまでに2秒を超えると異常」とは異なる点には、ご注意を!本論文は2019年と少し古いですが、CRTの臨床的有用性を示唆した画期的な研究です。現在、さらに大規模な後続研究「The ANDROMEDA-SHOCK-2」が進行中であり、その結果が待たれます!論文はこちらHernandez G, et al. JAMA. 2019;321(7):654-664.

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重症アナフィラキシー、最もリスクの高い食品は?

 食物誘発性アナフィラキシーの症例 2,600 件以上を調査した研究において、喘息の病歴がある場合やピーナッツが誘因となった場合、アナフィラキシーの重症度がより高くなると予測されることが判明したという。ルーベ病院センター(フランス)のGuillaume Pouessel氏らによる本研究結果は、Clinical and Experimental Allergy誌2025年7月号に掲載された。 研究者らは、「フランス語圏アレルギー警戒ネットワーク(Allergy-Vigilance Network)」で2002~21年に記録された食物アナフィラキシー症例を後ろ向きに解析し、Ring-Messmer分類による致命的な症例(Grade4)と重篤な症例(Grade3)と比較し、重症度が高いことに関連するリスク要因を特定した。 主な結果は以下のとおり。・報告された2,621件の食物アナフィラキシー症例のうち、重症と判断された731件(Grade3:687件[94%]、Grade4:44件[6%])に死亡19件を加えた750件を解析対象とした。・全体の56.1%が成人(平均年齢28.3歳)、53.7%が男性だった。・重症例全体で頻度の高い誘因は、ピーナッツ(13.9%)、小麦(9.4%)、カシューナッツ(5.8%)、エビ(5.4%)、牛乳(4.8%)だった。・Grade4のアナフィラキシー症例は、成人よりも小児(18歳未満)に多く発生した(18例対26例)。・Grade4の症例はGrade3の症例と比較して、原因食物に対するアレルギー歴あり(71.1%vs.42.1%)、喘息診断あり(59.5%対30.4%)、原因食物がピーナッツ(34.1%対12.6%)である割合が高かった。・Grade4のアナフィラキシーを予測する因子は、喘息診断あり(オッズ比[OR]:3.41、95%信頼区間[CI]:1.56~7.44)、原因食物がピーナッツ(OR:3.46、95%CI:1.28~9.34)であった。 著者らは「本データは、重症食物アナフィラキシーのリスク因子、とくに喘息の既往歴と原因食物としてのピーナッツを特定した。これらの患者には、経口免疫療法や生物学的製剤などの個別化された管理戦略が必要となるだろう」としている。

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ER+/HER2-進行乳がんへのimlunestrant、日本人サブグループ解析結果(EMBER-3)/日本乳学会

 アロマターゼ阻害薬単剤またはCDK4/6阻害薬との併用による治療中もしくは治療後に病勢進行が認められた、ESR1変異陽性のエストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性(ER+/HER2-)進行乳がん患者において、経口選択的ER分解薬(SERD)imlunestrant単剤療法が、標準内分泌療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に延長したことが第III相EMBER-3試験の結果として報告されている。今回、同試験の日本人サブグループ解析結果を、千葉県がんセンターの中村 力也氏が第33回日本乳学会学術総会で発表した。・対象:アロマターゼ阻害薬±CDK4/6阻害薬による治療中もしくは治療後(12ヵ月以内)に病勢進行が認められたER+/HER2-進行乳がん患者・試験群(imlunestrant群):imlunestrant単剤療法(1日1回400mg)・試験群(imlunestrant+アベマシクリブ群):imlunestrant(1日1回400mg)+アベマシクリブ(1日2回150mg)・対照群(標準内分泌療法群):治験医師がエキセメスタンまたはフルベストラントから選択・評価項目:[主要評価項目]治験医師評価によるPFS(ESR1変異陽性患者および全患者におけるimlunestrant群vs.標準内分泌療法群、全患者におけるimlunestrant+アベマシクリブ群vs.imlunestrant群)[重要な副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、安全性など・データカットオフ:2024年6月24日 主な結果は以下のとおり。・79例が1:1:1の割合で無作為化され、imlunestrant群に31例、imlunestrant+アベマシクリブ群に24例、標準内分泌療法群に24例が割り付けられた。・ベースラインの患者特性は3群でバランスがとれており、おおむねグローバルの全体集団と同様であったが、ESR1変異陽性患者の割合は若干低かった(imlunestrant群35%vs.imlunestrant+アベマシクリブ群17%vs.標準内分泌療法群25%)。また、CDK4/6阻害薬による治療歴を有する患者がグローバルでは6割程度だったのに対し、日本人集団では19%vs.29%vs.17%と少ない傾向であった。・ESR1変異陽性患者における治験医師評価によるPFS中央値は、imlunestrant群11.1ヵ月vs.標準内分泌療法群7.0ヵ月(ハザード比[HR]:0.26、95%信頼区間[CI]:0.05~1.31)であった。・全患者における治験医師評価によるPFS中央値は、imlunestrant群11.1ヵ月vs.標準内分泌療法群7.6ヵ月(HR:1.22、95%CI:0.59~2.50)、imlunestrant+アベマシクリブ群11.2ヵ月vs.imlunestrant群11.1ヵ月(HR:0.75、95%CI:0.34~1.66)であった。・測定可能病変を有する患者におけるORRは、全患者ではimlunestrant群13%(3/23例)vs.標準内分泌療法群5%(1/19例)、imlunestrant+アベマシクリブ群17%(3/18例)vs.imlunestrant群15%(3/20例)、ESR1変異陽性患者ではimlunestrant群29%(2/7例)vs.標準内分泌療法群0%(NA)であった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現率は、imlunestrant群10%vs.imlunestrant+アベマシクリブ群61%vs.標準内分泌療法群13%であり、グローバルと比較してimlunestrant+アベマシクリブ群での発現が多い傾向がみられた。同群における有害事象による減量・治療中止も日本人集団で多く(それぞれ61%、17%)、主に下痢やALT上昇によるものであった。・Grade3以上のTRAEでimlunestrant+アベマシクリブ群で多くみられたのは、ALT上昇(22%)、皮疹、白血球減少、好中球減少(いずれも13%)、下痢、AST上昇(いずれも9%)などであった。 中村氏は、ESR1変異陽性のER+/HER2-進行乳がんに対するimlunestrant単剤療法はグローバルと同様に日本人集団でもPFSの改善が確認されたとし、良好な安全性プロファイルを示したとまとめている。なお、OS解析は進行中である。ESR1変異の有無を問わない全患者に対するimlunestrant単剤療法と比較したimlunestrant+アベマシクリブ併用療法についても、グローバルと同様にPFSの数値的な改善がみられたとし、安全性はこれまでのアベマシクリブ+内分泌療法併用でみられたプロファイルと同様で、imlunestrant併用による追加の毒性は示されていないとしている。

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高齢者への不眠症治療、BZD使用で睡眠の質が低下

 高齢者の不眠症治療は、ベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)およびベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZRA)の頻繁な使用と関連しており、慢性的な使用により睡眠調節や認知機能に悪影響を及ぼすことが報告されている。しかし、高齢者の記憶において、きわめて重要であるNREM低周波波動(SO)および紡錘波に対するBZD/BZRAの影響については、ほとんどわかっていない。カナダ・Concordia UniversityのLoic Barbaux氏らは、BZD/BZRAの慢性的な使用が、睡眠メカニズム、脳波の相対的パワー、SOおよび紡錘波の特性、結合に及ぼす影響について調査した。Sleep誌オンライン版2025年6月17日号の報告。 高齢被験者101例(年齢:66.05±5.84歳、年齢範囲:55〜80歳、女性の割合:73%)を対象に、習慣化ポリソムノグラフィー(PSG)後2夜目のデータを解析し、睡眠良好群(28例)、不眠症群(26例)、BZD/BZRA慢性使用不眠症群(47例、ジアゼパム換算6.1±3.8mg/回、週3夜超)の3群に分類した。睡眠構造、脳波(EEG)相対スペクトル、関連する脳波活動について、SOおよび紡錘波、そしてそれらの時間的結合に焦点を当て、包括的に比較した。 主な結果は以下のとおり。・BZD/BZRA慢性使用不眠症群は、不眠症群および睡眠良好群と比較し、N3持続時間が短く、N1持続時間とスペクトル活動が高く、睡眠構造が乱れ、睡眠関連脳振動の同期性に変化が認められた。・探索的相互作用モデルでは、1回の使用量がより高用量での慢性的な使用が、睡眠の微小構造および脳波スペクトルのより顕著な乱れと相関していることが示唆された。 著者らは「BZD/BZRAの慢性的な使用は、睡眠の質の低下と関連していることが示唆された。このようなマクロレベル、微細構造レベルでの睡眠調節の変化は、高齢者におけるBZD/BZRAの使用と認知機能低下との関連性に影響を及ぼしている可能性がある」と結論付けている。

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血栓溶解療法後の早期tirofiban、脳梗塞の予後を改善/NEJM

 軽症~中等症の非心原性脳梗塞患者で、血栓回収療法が適応とならず、発症後4.5時間以内に静注血栓溶解療法を受けた患者において、その後1時間以内にプラセボを投与した群と比較して血小板糖蛋白IIb/IIIa受容体拮抗薬tirofiban投与群は、36時間以内の症候性頭蓋内出血のリスクがわずかに増加したものの、90日後の修正Rankinスケールで評価した機能的アウトカムが有意に改善されたことが、中国科学技術大学のChunrong Tao氏らASSET-IT Investigatorsが実施した「ASSET-IT試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年7月4日号で報告された。中国の第III相無作為化プラセボ対照比較試験 ASSET-IT試験は、脳梗塞における静注血栓溶解療法後の早期tirofiban投与の有効性と安全性の評価を目的とする第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2024年3月~9月に中国の38施設で参加者を登録した(Fundamental Research Funds for Central Universitiesの助成を受けた)。 年齢18歳以上、急性期非心原性脳梗塞と診断され、血栓回収療法が適応ではなく、NIHSSスコアが4~25点で、発症(または最終健常確認時刻)から4.5時間以内に静注血栓溶解療法(アルテプラーゼまたはtenecteplase)を受けた患者を対象とした。 これらの患者を、静注血栓溶解療法終了から1時間以内にtirofibanまたはプラセボを24時間で静注する群に無作為に割り付けた(静注血栓溶解療法終了から55分以内に無作為化を行い、無作為化から5分以内に投与を開始)。 有効性の主要アウトカムは、90日の時点での優れた機能的アウトカム(修正Rankinスケールスコアが0[まったく症状がない]または1[何らかの症状はあるが、日常的な活動はすべて行える]点と定義)の割合とした。安全性の主要アウトカムは、36時間以内の症候性頭蓋内出血(修正SITS-MOST基準で評価)および90日以内の死亡であった。90日以内の死亡に差はない 832例(年齢中央値69歳[四分位範囲[IQR]:59~76]、女性301例[36.2%]、NIHSSスコア中央値6点[IQR:5~9])を登録し、tirofiban群に414例、プラセボ群に418例を割り付けた。血栓溶解薬は、患者の75%でアルテプラーゼ、25%でtenecteplaseが使用された。 また、健常確認時刻から静注血栓溶解療法開始までの時間中央値は、tirofiban群155分(IQR:111~206)、プラセボ群170分(129~220)、静注血栓溶解療法終了から無作為化までの時間中央値は、それぞれ29分(12~47)および30分(13~47)だった。プラセボ群の1例が90日経過前に追跡調査から脱落した。 90日の時点で修正Rankinスケールスコア0/1点を達成した患者の割合は、プラセボ群が54.9%(229/417例)であったのに対し、tirofiban群は65.9%(273/414例)と有意に優れた(リスク比:1.20[95%信頼区間[CI]:1.07~1.34]、p=0.001)。 36時間以内の症候性頭蓋内出血は、tirofiban群で1.7%(7/414例)に発現し、プラセボ群では0%であった(リスク差:1.71[95%CI:0.45~2.97])。90日以内の死亡は、それぞれ4.1%(17/414例)および3.8%(16/417例)に認めた(リスク比:1.07[0.55~2.09])バーセルインデックス95~100点達成割合も良好 副次アウトカムである90日時の修正Rankinスケールスコア0~2(2点:軽度の障害[発症前の活動がすべて行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える])点の達成割合は、tirofiban群80.4%(333/414例)、プラセボ群72.7%(303/417例)であった(リスク比:1.11[95%CI:1.03~1.19])。 また、90日時のバーセルインデックス(0~100点)が95~100点(日常的な活動に支障を来す障害がない)の達成割合は、それぞれ77.1%(319/414例)および70.5%(294/417例)だった(リスク比:1.09[1.01~1.19])。 著者は、「本試験の知見は、プラセボに比べtirofibanは出血リスクを増加させる可能性があるものの、全般的な安全性プロファイルは血栓溶解療法を受ける患者で予想される範囲内であることを示唆する」「これらの結果の一般化可能性を制限する可能性のある要因として、(1)中国のみで実施された試験、(2)比較的軽症の脳卒中患者を登録、(3)心房細動の既往歴を有する患者を除外、(4)脳卒中の既往歴を有する患者の割合が高い、(5)適格例のかなりの数が試験への参加を拒否したため選択バイアスが生じた可能性がある点が挙げられる」としている。

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救急診療部のHCVスクリーニング、最適な方法とは/JAMA

 C型肝炎ウイルス(HCV)感染者の特定は公衆衛生上の優先課題であり、救急診療部(ED)は通常、他の医療施設を受診しないリスクの高い患者を多く受け入れるため、スクリーニングの重点領域となっている。しかし、EDにおけるHCVスクリーニングの最適な方法は明らかでないという。米国・Denver HealthのJason Haukoos氏らDETECT Hep C Screening Trial Investigatorsは「DETECT Hep C Screening試験」において、対象者選択的スクリーニング(targeted screening:TS)と比較して対象者非選択的スクリーニング(nontargeted screening:NTS)は、新規HCV患者の検出に優れるものの、診断から治療完了に至った患者は少数であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年7月9日号に掲載された。米国の都市部ED施設の無作為化臨床試験 DETECT Hep C Screening試験は、EDにおけるHCVスクリーニングの有効性を評価し、TSよりもNTSが新規HCVを多く検出するという仮説の検証を目的とする実践的な無作為化臨床試験であり、2019年11月~2022年8月に、米国の都市部の3つの大規模ED施設(365日24時間体制)で参加者の無作為化を行った(米国国立薬物乱用研究所[NIDA]の助成を受けた)。 年齢18歳以上で、EDを受診し、臨床的に病態が安定しており、医療に関する同意能力がある患者を対象とした。過去にHCVの診断を受けている患者や、ED滞在時間が60分未満と予測される患者は除外した。 対象とした患者を、NTS(リスクを問わず全患者でHCV検査を行う)群またはTS(リスク評価に基づき高リスク例でHCV検査を行う)群に無作為に割り付けた。TSのリスク評価の基準は、1945~65年生まれ、注射薬物や経鼻薬物の使用、規制のない環境でのタトゥーやピアス、1992年以前の輸血または臓器移植であった。 主要アウトカムは新規のHCV診断であり、HCV抗体検査が陽性で、HCV RNAが検出され、過去にHCVの診断を受けていないことと定義した。副次アウトカムとして、HCV検査の提案・受諾・完了、12週の時点での持続的ウイルス陰性化(SVR12)、18ヵ月時における全死因死亡などを評価した。NTS群、検査の提案は3.1倍、完了は2.1倍 14万7,498例(年齢中央値41歳[四分位範囲:29~57]、男性51.5%、黒人42.3%、ヒスパニック系20.9%、白人32.2%)を登録し、NTS群に7万3,847例、TS群に7万3,651例を割り付けた。 NTS群では、6万5,693例(89.0%)がHCV検査を提案され、1万6,563例(22.4%)がこれを受諾し、9,867例(59.6%)が検査を完了した。このうち416例(4.2%)がHCV抗体検査陽性で、154例(1.6%[95%信頼区間[CI]:1.3~1.8])でHCV RNAが検出されてHCVの新規診断が確定した。 TS群では、高リスクと判定された2万3,400例(31.8%)のうち2万982例(89.7%)がHCV検査を提案され、7,116例(30.4%)が受諾し、4,640例(65.2%)が検査を完了した。このうち348例(7.5%)がHCV抗体検査陽性で、115例(2.5%[95%CI:2.1~3.0])でHCV RNAが検出されてHCVの新規診断が確定した。 したがって、HCV検査の提案の割合はNTS群がTS群の3.1倍(89.0%vs.28.5%、群間差:60.5%[95%CI:60.1~60.9]、p<0.001)で、受諾の割合はTS群で高く(25.2%vs.33.9%、8.7%[8.0~9.4]、p<0.001)、最終的に検査を完了した患者の割合はNTS群がTS群の2.1倍(13.4%vs.6.3%、7.1%[6.8~7.4]、p<0.001)だった。 主要アウトカムである新規HCV診断の割合は、TS群が0.16%(115/7万3,651例)であったのに対し、NTS群は0.21%(154/7万3,847例)と有意に優れた(群間差:0.05%[95%CI:0.01~0.1]、相対リスク:1.34[1.05~1.70]、p=0.02)。治療完了やSVR12達成は両群とも減少、1.5年死亡率に差はない 新規HCV診断例のうち、その後治療に結び付いた患者は両群とも少なく、NTS群で19.5%(30/154例)、TS群で24.3%(28/115例)であった。治療としては、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)を開始した患者がそれぞれ15.6%(24例)および17.4%(20例)で、DAAを完了した患者は12.3%(19例)および12.2%(14例)であった。 また、SVR12を達成した患者の割合は、NTS群9.1%(14例)、TS群9.6%(11例)で、18ヵ月時の全死因死亡率は、それぞれ5.2%(8例)および4.3%(5例)だった。 著者は、「SVR12に至った患者の数は、新規HCV診断数から大幅に減少しており、これはHCV治療の革新的モデルの開発が緊急に必要であることを強く示唆する」「米国における現在のHCVの流行は注射薬物の使用が主な要因で、この集団のHCV有病率は30%を超えると推定されるため、注射薬物使用者は対象者選択的な介入の重要な対象であり、治療障壁の理解や彼らのニーズに合ったアプローチの開発など新たな戦略が求められる」としている。

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AI支援で脳画像を用いた認知症タイプの診断精度が向上

 新たに開発されたAIツールが、患者が罹患している認知症タイプの特定に役立つ可能性のあることが明らかになった。この「StateViewer」と呼ばれるAIツールにより、認知症を含む9種類の神経変性疾患症例の89%において疾患を特定できたという。米メイヨー・クリニック神経学人工知能プログラムのディレクターであるDavid Jones氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に6月27日掲載された。 研究グループによると、このツールは、患者が認知障害の一因となっている可能性のある病状を抱えている場合でも、医師が認知症を早期かつ正確に特定するのに役立つ可能性があるという。Jones氏は、「私のクリニックを訪れる全ての患者は、脳という複雑な器官によって形作られたそれぞれに異なる物語を抱えている。私を神経学へと導いたのはその複雑さであり、今もそれが、より明確な答えを求める私の原動力となっている」と話す。その上で同氏は、StateViewerは同氏の情熱の表れであり、「神経変性疾患のより早期の理解と適切な治療に加え、将来的にはこれらの疾患の経過を変えるための1歩につながる」と述べている。  Jones氏らが開発したStateViewerは、フルオロデオキシグルコース陽電子放出断層撮影(FDG-PET)画像を基に神経変性疾患の診断を支援する、AIを活用した臨床診断支援システムである。AIは、9種類の神経変性疾患のうちのいずれかの診断を受けたか、健常(異常なし)と判定されてから2.5年以内に撮影された3,671人(平均年齢68歳、女性49%)のFDG-PET画像で訓練・検証された。 StateViewerは患者のFDG-PET画像を読み込み、大規模データベースに登録されている認知症患者のPET画像と比較することで、特定の認知症タイプやその組み合わせに一致する脳のパターンを特定する。例えば、アルツハイマー病は、典型的には記憶と情報処理の領域に影響を及ぼす一方、レビー小体型認知症は、注意力や運動に関わる領域に影響を及ぼし、前頭側頭型認知症では言語や行動を司る領域に変化が見られるという。判定結果は、重要な脳の活動領域を色分けして可視化したブレインマップとして提示される。 StateViewerの性能を検証した結果、9種類の神経変性疾患を約89%の感度(0.89±0.03)で識別可能であり、ROC曲線下面積(AUC)は0.93±0.02と、優れた分類性能が示された。放射線科医がこのシステムを使ってFDG-PET画像を読影すると、現行の標準的な手順で読影した場合と比べて正しい診断を下す可能性が3.3倍高まった。 論文の筆頭著者でメイヨー・クリニックのデータ科学者であるLeland Barnard氏は、「このツールが医師にリアルタイムで正確な情報と支援を提供できることは、機械学習が臨床医学において果たし得る役割の大きさを明示している」と話している。 研究グループは、このツールの使用を拡大し、さまざまな臨床現場でその性能を検証することを計画している。

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推奨通りの脂質低下療法で何万もの脳卒中や心筋梗塞を回避可能か

 スタチンなどの脂質低下薬の使用が推奨される米国の患者数と実際にそれを使用している患者数との間には大きなギャップがあり、毎年何万人もの人が、脂質低下薬を服用していれば発症せずに済んだ可能性のある心筋梗塞や脳卒中を発症していることが、新たな研究で明らかにされた。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院疫学教授のCaleb Alexander氏らによるこの研究結果は、「Journal of General Internal Medicine」に6月30日掲載された。 Alexander氏らは、まず、米国国民健康栄養調査(NHANES)に2013年から2020年にかけて参加した40〜75歳までの米国成人4,980人のデータを解析した。このサンプルは、同じ年齢層の米国成人約1億3100万人を代表するように統計学的に重み付けされた。解析では、米国およびヨーロッパの脂質低下療法(LLT)に関する薬物治療ガイドラインが完全に実施された場合に、治療状況やアウトカムがどの程度改善されるかが予測された。解析は、米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)ガイドライン(2018年米国ガイドライン)、欧州心臓病学会(ESC)/欧州動脈硬化学会(EAS)ガイドライン(2019年EUガイドライン)、LDLコレステロール(LDL-C)低下のための非スタチン療法の役割に関するACC専門家決定方針(2022年米国決定方針)の3種類に基づいて行われた。 研究参加者の心血管リスクは、2018年米国ガイドラインを用いて、以下の順序で評価された;1)アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の有無、2)重度の原発性高コレステロール血症(LDL-Cが190mg/dL以上)、3)糖尿病で、LDL-Cが70~189mg/dL、4)現在LLTを実施中、5)糖尿病およびASCVDを伴わず、LDL-Cが70~189mg/dL。最後の項目については、Pooled Cohort Equations(PCE)を用いて10年間のASCVD発症リスクを推定し、低リスク、ボーダーラインリスク、中リスク、高リスクに分類した。また、臨床的心血管疾患(冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの自己申告)の既往が確認された者は「二次予防コホート」、それ以外は「一次予防コホート」と定義された。2019年EUガイドラインおよび2022年米国決定方針についても、2018年米国ガイドラインと同様の手法で層別化とリスク分類を行った。 NHANESの一次予防コホートに該当する1億1630万人のうち、現在LLTを受けている患者は23%であった。これに対し、LLTの適応基準を満たす患者(以下、適応患者)の割合は、2018年米国ガイドラインで47%、2019年EUガイドラインでは87%、2022年米国決定方針では47%と推定され、実施率は推奨に基づく想定を大きく下回っていることが示された。薬剤別に見ると、スタチンでは適応患者(適応率100%)のうち66%が治療を受けていたのに対し、エゼチミブでは適応患者(適応率31~74%)の4%のみが使用など、全ての治療法において、実施率は適応患者数を大きく下回っていた。 また、2018年米国ガイドライン通りにLLTが実施されていれば回避できたと推定される1年当たりの心血管系の有害イベント数は、冠動脈疾患による死亡で3万9,196件、非致死的な心筋梗塞で9万6,330件、冠動脈血行再建術で8万7,559件、脳卒中で6万5,063件に上った。さらに、ガイドラインごとに推定値に差はあるが、スタチン適応の患者全てが同薬を使用すれば平均LDL-C値は急激に低下し、心筋梗塞や脳卒中のリスクは最大で27%低下する可能性や、LLTでこれらのアウトカムを予防すれば、米国の医療費を年間253億~317億ドル(1ドル146円換算で3兆6900億~4兆6300億円)節約できる可能性のあることも示唆された。 研究グループは、患者教育およびスクリーニング方法の改善により、必要な人が確実にスタチンを使用できる体制の構築が重要であると強調している。

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中絶禁止措置による出生率への影響は格差拡大につながる(解説:前田裕斗氏)

 本研究は2021年9月1日から2022年8月25日までの間に中絶禁止措置を導入した14州において、出生率がどの程度変化したか、またどのような層が影響を強く受けたかについて検討したものである。疫学的に精巧な手法を用いており、詳しい説明は省くがごく簡単に言えば、対象とならなかった州の出生率のデータなどを用いて、各サブグループごとの出生率をモデル予測し、実際の観測値との差を取ることで中絶禁止措置の出生率に対する効果を見ている。これは地域ごとの時間による出生率の変動を考慮するためだ。 結果は15~44歳の女性1,000人当たり1.01追加の出生が中絶禁止措置によりもたらされ、その影響は若年・未婚・高卒など、社会的に脆弱性の高い層でとりわけ大きかった。日本でこのような中絶禁止措置が採られることは考えにくいが、思考実験として、もし行われたらどうなるだろうか。おそらく、社会的格差の大きい米国ほどではないが、同様の結果が得られるはずだ。格差の拡大はもちろん、子どものマルトリートメントにもつながる可能性が高い。この措置は宗教的な面も多分にあるが、たとえ少子化対策としてでも実施すべきではないことを疫学的に精緻に示した素晴らしい研究である。

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MRがこの1年で3,000人減少、かつての花形の職業は今…【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第156回

皆さんの肌感では、MR(医薬情報担当者)の情報提供活動は増えていますか? 減っていますか? 年に1度のMRの状況について調査した結果がMR認定センターより発表されました。かつての花形の職業に大きな変化が生じています。MR認定センターは7月15日、4月に実施したMRの実態や教育研修に関する調査結果をまとめた25年度版MR白書を公表。24年度のMR数は前年度より3073人減の4万3646人に減り、23年度(同2963人減)に続いて3000人規模の減少となった。要因としては「MRを多数雇用してきた企業での早期希望退職の影響が大きかった」と分析する。MR数は13年度以降、減少傾向が続き、今回の下げ幅は20年度(3572人減)に次ぎ大きかった。調査に回答した199社のうち20%以上MR数を減らした会社は19社に上った。(2025年7月16日 RISFAX)MRはここ10年ほどで役割や働き方がもっとも大きく変化した職業の1つといえるかもしれません。医薬品に添付文書が封入されなくなり、医薬品情報の入手はインターネット経由が主流になりました。過度な接待が注目を浴びて規制が設けられたり、製品説明会のお弁当額に上限が設けられたりもして、医師と気軽に話せる機会が減りました。さらに、新型コロナウイルス感染症の流行時は医療機関に訪問規制が設けられ、とうとう医師に会うこともままならなくなるなど、さまざまな環境の変化がありました。それに伴い、製薬会社のMRの役割や業務が変化しています。私が薬剤師として社会に出たのはもう20年も前になりますが、その頃のMRは薬学部の学生だけでなく、ほかの学部からも就職希望が殺到する花形の職業でした。今は花形ではないというわけではないのですが、いかんせん新卒採用が減り続けています。昨年度のMR認定試験合格者数は1,137人で、5年前の2分の1、10年前の4分の1程度に減っています。「MR白書」では、MR認定センターが製薬会社約200社にアンケート調査を実施し、MRを取り巻く環境や業務の実情、その変遷が取りまとめられています。この調査は毎年実施されており、「2001年の開始以来、歴史的にも調査規模としても製薬業界全体のMRの実態を示す静態調査」とMR認定センター自らがうたっているように、「MRや医薬品情報提供の今」が垣間見えます。2025年度版MR白書では、以下のようなことが報告されています。昨年に比べ、MR数は3,073名(6.6%)減であった。1,000名以上の大きな会社での早期希望退職の影響があったと考えられる。新卒採用をした会社は34.3%であった。コントラクトMRは横ばい。経験者で即戦力となるMRの役割は大きい。薬剤師資格を有するMRは、MR数と同様に減少傾向が続き、過去最低となった。製薬会社のMRがいなくなることはないでしょうが、これらの結果を見るとこれから先もMRは減少傾向となることは間違いないように思います。医師への食事提供ルールが来春から厳格化されるなど、さらなる自主規制が進められていますが、個人的には、未承認薬の情報提供の規制など、新しい医薬品や既存の医薬品の未承認薬効の情報開示などに関しては、私は今の規制はちょっと厳しすぎるのではないかとも思っています。2026年度には、新しいMR認定試験が開始されます。インターネットによる情報提供が定着してきた今、MRが何を担う職業になるのか、医薬品情報を使用する薬剤師としては少し気になるところです。

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根性より水分!〜令和の夏を生き抜く医学的戦略〜【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第86回

地球温暖化を実感する毎日暑い!暑い!暑すぎです。もはや「暑い」では生ぬるく、「熱い」と書きたくなる今日このごろです。この原稿を執筆しているのが7月10日ですが、私が住む滋賀県草津市でも最高気温は連日35度を超える猛暑が続いています。私は幼少期を石川県金沢市で過ごしました。小学生のころ、絵日記を兼ねた夏休み帳に気温と天気を欠かさず記録していました。真面目な子供だったのです(エッヘン)。その頃の記憶をたどってみると、7月下旬に30度超えの日がしばらく続くのが真夏でした。それでも最高気温はせいぜい33度ほど。8月になると30度を超える日もありますが、最高気温が28~29度にとどまるのが普通でした。エアコンはありませんでしたが、庭に水でも撒けば快適に昼寝することができました。エアコンの必要性を感じないというか、エアコンなる装置の存在すら知らなかったのが正直なところです。もう四季ではない、五季だ!かつて日本には、春夏秋冬という美しい四季がありました。これは過去の思い出です。最近はどうも様子が変です。春は短く、秋はどこかに失踪しました。夏が巨大化して長居します。昨年、大手アパレル企業が年間の販売計画を「四季」ではなく、「五季」で考えると発表し話題になりました。日本の四季の区分は、春は3~5月、夏は6~8月、秋は9~11月、冬は12~2月という気象庁の定義があり、それぞれ3ヵ月間に等分されます。五季の提案は、春が3~4月(2ヵ月)、夏が5~7月(3ヵ月)、猛暑が8~9月(2ヵ月)、秋が10~11月(2ヵ月)、冬が12~2月(3ヵ月)です。独立した季節として猛暑を設けたのです。確かに今の夏は、猛獣のように暴れています。実は夏場に多い急性心血管疾患五季はアパレル業界の販売戦略上の提案ですが、気候変動は循環器領域の疾患の発生にも影響します。心筋梗塞などの心臓病は、一般には冬場に多くみられますが、実は夏場に発症する場合も多いことがわかってきました。猛暑下では、高齢者だけでなく50歳以下の若年者も突然発症する危険があります。夏場に発症する心臓病の多くは、暑さによる脱水症状が誘因です。猛暑が密かに牙をむくのは、熱中症だけではないのです。こういった気温などの環境要因と疾患の発症率の関係については多くの研究が報告されています。JAHA誌に2025年5月に掲載された「Temperature Exposure and Acute Cardiovascular Disease Risk in New York City(ニューヨーク市における気温曝露と急性心血管疾患リスク)」というタイトルの興味深い論文があります1)。これによると、最高気温・最低気温・平均気温が高いほど虚血性脳卒中の確率が高くなり、日中の気温差が小さいほど心筋梗塞の確率が高くなるそうです。地球温暖化に伴い、単に気温が上昇するだけでなく、気温差の減少も見込まれるので、心血管イベントの増加が懸念されるとしています。根性だけでは乗り切れない予防策を考えてみましょう。「水を飲む」──シンプルですが、それだけに侮れません。のどが渇く前に飲む。外で働く人も、屋内にいても、冷房に当たっていても油断禁物です。汗は気付かぬうちに蒸発していきます。とにかく、こまめに。のどが渇く前に飲む。トイレが近くなるのを気にしてはいけません。「トイレが近くなるから控えよう」は命取りです。むしろ「出る」ということは「うるおっている」という証です。出るものが出ているうちは、体もうるおっているのです。今や、夏の代名詞である甲子園も変わりつつあります。日本高校野球連盟によれば、選手の暑さ対策のため、今年の夏の大会から開会式を夕方午後4時から実施することを決めました。開会式の後は午後5時半から1試合、開幕試合のみを行います。試合を午前と夕方に分けて行う2部制を、大会1日目から6日目まで実施します。昭和の根性一本槍では、もはや命が持ちません。球児たちも、今ではまず水分補給と塩分チャージです。昭和生まれはどうも「我慢=美徳」という文化の中で育ってきました。「昔はエアコンなんかなくても平気だった」「水は飲まずに部活を乗り切った」、そんな武勇伝は今では語り草です。気候が変われば時代も変わるのです。令和の猛暑は、昭和の夏とは別物です。根性論だけでは倒れます。冷房を使うのは「甘え」ではありません。命を守る行動です。日傘も帽子も、身を守る武装つまり鎧(よろい)です。男性の日傘も、最近は「日陰を持ち歩くダンディ」として注目されつつあります(たぶん)。五季を乗りこなせ!私たちはいま、「四季に生きる」時代から、「五季を乗りこなす」時代へと移行しています。そしてこの第五の季節「猛暑」は、静かに血液を濃くし、心筋梗塞という形で命を奪う危険すら秘めているのです。だからこそ、今日の1杯の水、1回の涼み時間、ちょっとした休憩が、命を守る戦略になるのです。それは「甘え」ではなく「戦略」です。最後に一句。「水ひとつ 命を守る 猛暑かな」あなたのその一口が、心臓を守り、今年の夏を乗り切る小さな一歩になるかもしれません。どうか、「我慢」より「安全に」を合言葉に。根性論への皮肉の一句。「我慢する 美徳が死因 この猛暑」参考1)Krasnov H, et al. Temperature Exposure and Acute Cardiovascular Disease Risk in New York City: Case Time Series. J Am Heart Assoc. 2025;14:e039503.

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異物除去(1):異物の確認【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q145

異物除去(1):異物の確認Q145手などの表皮の皮内、皮下に異物を混入させて受診するケースがある。肉眼で異物を確認できることもあるが、既知の評価方法では、レントゲンやエコーで評価する場合もある。ほかにも異物を目視できるデバイスがあるだろうか。

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MASLDの目標体重は?【脂肪肝のミカタ】第7回

MASLDの目標体重は?Q. MASLD治療の現状と体重の目標設定は?代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)に対して、本邦で推奨されている治療は食事・運動両面からの体重減量が基本である。そのほか、提案されている治療として併存疾患(2型糖尿病、肥満症、脂質異常症)に対する治療が挙げられる。高度の肥満症では、減量手術も選択肢となる1-3)。減量目標として、本邦を含むアジアでの非肥満MASLD症例も多いことを踏まえ、2024年に欧州肝臓学会ガイドラインでは、BMIに応じた体重減量の基準が設定された。具体的には、BMI 25.0kg/m2以上の症例では従来通り、体重5%以上の減量で脂肪化が改善し、7%以上の減量で炎症や線維化が改善するとされた。BMI 25.0kg/m2未満では体重3~5%の減量が妥当とされた(図1)2)。(図1)MASLDの体重減量の目標画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂

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尿路感染症へのエコー(2):尿管結石と水腎症【Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第2回

尿路感染症へのエコー(2):尿管結石と水腎症前回、ポケットエコーを用いて膀胱の全貌を観察し、膀胱虚脱を描出できるようになるための手技について解説しました。今回は、「尿路結石を指摘できる」「水腎症がわかる」という目標を設定してポケットエコーの手技を解説していきます。尿管結石を指摘できる尿ジェットという言葉を聞いたことがあるでしょうか? おそらく聞いたことがない人がほとんどではないでしょうか。尿ジェットというのは、腎臓で産生された尿が膀胱に流れてくる現象を表す言葉です。膀胱と腎臓の間に尿管が走っており、その尿管と膀胱がつながる場所が背側に存在します。これを尿管膀胱移行部といいます。尿管膀胱移行部から膀胱内へ尿が移動する際は持続的にゆっくり溜まるのではなく、間欠的に噴出(尿ジェット)します(図1)。そのため、尿管結石の痛み方も持続痛ではなく、間欠痛が特徴になっています。そして、移行部が尿管結石の詰まりやすい箇所となります。図1 腎臓から膀胱への尿の移動画像を拡大するでは、実際のエコーの手技を見ていきましょう。飲水量が多くなると尿ジェットの頻度は上昇し、飲水量が少ないときは尿ジェットの頻度は減少します。動画でお見せしたとおり、尿ジェットが出ている部分が移行部であるため、尿管膀胱移行部の観察により尿路結石を特定することができます(図2赤矢印)。図2 尿ジェットと尿管結石の関係画像を拡大する水腎症がわかるつづいて、水腎症をカラードプラで確認する方法を紹介します。まず、動画を見ていきましょう。ここでは腎臓をきれいに描出し、腎盂をしっかりと観察してカラードプラを当てていきます。いかがでしょうか? 手技は意外と簡単だったのではないでしょうか。動画の被験者は健康成人であるため、わかりにくい部分もあったかもしれません。実際に尿管結石による水腎症の症例では、カラードプラが乗っていない部分があり、腎盂が拡張していることがわかります(図3)。図3 水腎症のエコー像画像を拡大するそれでは、次回は「腎臓の圧痛の見方」「腎臓を長軸にきれいに描出する方法」について紹介します。

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第276回 幼い子が昼寝すると夜に眠れなくなるという心配は杞憂らしい

幼い子が昼寝すると夜に眠れなくなるという心配は杞憂らしい夜に眠れなくなるかもしれないと心配して、親は子に昼寝しないようにするかもしれません。フランスでの試験結果によるとその心配はどうやら不要で、幼い子のしばしの昼寝は夜の眠りに差し障ることなく睡眠総量を増やすようです1,2)。赤ちゃんや幼い子はたいてい昼寝します。その習慣は記憶の発達に不可欠なようです。3~5歳ぐらいになると昼寝の習慣はたいていなくなります。しかしその時期はまちまちなので、多くの親は子の昼寝の扱いに悩まされます。昼寝が夜の睡眠を妨げたり貴重な学習時間が減ったりしてしまうのではないかと懸念する親や先生もいます。そこでフランスのリヨン大学のStephanie Mazza氏らは、同国の6つの幼稚園の子を募って幼い子の昼寝がはたして夜の睡眠に実害を及ぼすかどうかを調べました。手関節につける睡眠計を2~5歳の85人に渡し、平均8日弱(7.8日間)の睡眠時間が測定されました。その記録と親の睡眠日誌から、昼寝1時間当たり平均して夜の睡眠時間が13.6分短縮し、入眠時間(sleep onset latency)が6分ほど延長しました。24時間の総睡眠時間はというと、昼寝した日には45分ほど長くなっていました。米国睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine)や世界保健機関(WHO)によると、3~5歳の小児は1日に少なくとも10時間の睡眠が必要です3,4)。今回の試験の小児の1日当たりの平均睡眠時間は9時間20分であり、必要な時間に40分ほど足りていませんでした。しかし昼寝した日は総睡眠時間が45分ほど多いので、学会やWHOが指南する最低必要量にだいたい到達します。昼寝は就寝をいくらか遅らせるかもしれないものの睡眠総量を増やすことを今回の試験結果は示唆しており、親は6歳前の子が昼寝を依然として必要としていたとしても気に病む必要はない、とMazza氏は言っています2)。同氏によると、子の昼寝は問題視するに及ばず、貴重な休息時間とみなすべきです。刺激的な環境で過ごす子にとってはとくにそうでしょう。ところで大人はどうなのかというと、昼寝が認知機能不良の印らしいとする報告がある一方で、有益らしいことも示唆されています。とくに、計画的な昼寝は認知や記憶の検査成績を良くするらしく、頭の働きを最適化する手段となりうるようです5)。一方、何らかの基礎疾患の現れとして昼間の過度の眠気や昼寝が生じることもあるようです。過度の眠気や昼寝は心血管疾患やその危険因子6-10)、腎臓の不調11)、はては死亡率上昇12)などと関連することが示されており、それら事態の発見や対策の手がかりとしても役立つようです。 参考 1) Reynaud E, et al. Research Square. 2025 Jul 1. 2) Why you shouldn't worry a nap will stop your child sleeping at night / NewScientist 3) Paruthi S, et al. J Clin Sleep Med. 2016;12:1549-1561. 4) Guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age / WHO 5) Leong RLF, et al. Sleep Med Rev. 2022;65:101666. 6) Blachier M, et al. Ann Neurol. 2012;71:661-667. 7) Newman AB, et al. J Am Geriatr Soc. 2000;48:115-123. 8) Wannamethee SG, et al. J Am Geriatr Soc. 2016;64:1845-1850. 9) Tanabe N, et al. Int J Epidemiol. 2010;39:233-243. 10) Zonoozi S, et al. BMJ Open. 2017;7:e016396. 11) Ye Y, et al. PLoS One. 2019;14:e0214776. 12) Leng Y, et al. Am J Epidemiol. 2014;179:1115-1124.

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コーヒー摂取量と便秘・下痢、IBDとの関連は?

 コーヒーは現在世界で最も広く消費されている飲料の1つであり、米国では成人の約64%が毎日コーヒーを飲み、1日当たり約5億1,700万杯のコーヒーが消費されているという。コーヒーに含まれるカフェインが消化器症状に与える影響は、世界中で継続的に議論されてきた。カフェイン摂取と排便習慣、および炎症性腸疾患(IBD)との関連性を調査した中国医学科学院(北京)のXiaoxian Yang氏らによる研究結果が、Journal of Multidisciplinary Healthcare誌2025年6月27日号に掲載された。 研究者らは、2005~10年の国民健康栄養調査(NHANES)のデータを利用し、カフェイン摂取量を導き出した。排便習慣(便秘・下痢)およびIBDはNHANESの自己報告データに基づいて定義された。ロジスティック回帰モデルを用いて、カフェイン摂取量と慢性便秘、慢性下痢、IBDとの関連を評価した。年齢、性別、人種、教育レベル、社会経済的地位、喫煙状況、飲酒状況、BMIなどの潜在的な交絡因子を調整した。 主な結果は以下のとおり。・計1万2,759例の成人が対象となった。この中には腸機能正常(n=1万785)、慢性下痢(n=988)、慢性便秘(n=986)が含まれていた。・カフェイン摂取量と慢性下痢には、正の関連性が認められた。1日当たりのカフェイン摂取量が1単位(100mg)増加するごとに、慢性下痢のリスクは4%増加した(オッズ比[OR]:1.04、95%信頼区間[CI]:1.00~1.08)。・カフェイン摂取量と慢性便秘には、統計的に有意な関連性は認められなかった(OR:0.97、95%CI:0.93~1.02)ものの、U字型の非線形関係が認められた。便秘のリスクが最も低くなるのは1日当たり2.4単位(204mg)摂取した場合だった。これ未満の場合は、カフェイン摂取量が1単位増加するごとに慢性便秘のリスクが18%減少したが、これを超えると摂取量が1単位増加するごとにリスクが6%増加した。・カフェイン摂取量とIBDの間には有意な関連性は認められなかった。・サブグループ解析と相互作用検査の結果、60歳以上の高齢者において、カフェイン摂取量が増加するごとに慢性便秘のリスクが14%減少した(OR:0.86、95%CI:0.77~0.95)。 研究者らは「適量のカフェイン摂取は排便に役立つ可能性があるが、過剰なカフェイン摂取は慢性便秘を引き起こす可能性がある。また、高齢者の適切なカフェイン摂取は慢性便秘の予防に役立つ可能性があった。これらの結果から、臨床実践においては、排便の状態に応じてカフェイン摂取量を適切に調整することが推奨される可能性がある」とした。

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糖負荷後1時間血糖値は死亡予測マーカーになるか/東北大学

 将来起こりうる心疾患や悪性腫瘍を予防したいとは誰もが思う。これらを予測する生物学的マーカーについては、長年さまざまな研究が行われている。今回、この予測マーカーについて、東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝・内分泌内科学分野の佐藤 大樹氏らの研究グループは、岩手県花巻市大迫町の平均62歳の住民を対象に糖摂取後の血糖値と寿命の関係を調査した。その結果、ブドウ糖負荷後1時間血糖値(1-hrPG)が170mg/dL未満の群では、1-hrPG170mg/dL以上の群と比較して、心臓疾患などの死亡が少ないことが明らかになった。この研究結果は、PNAS NEXUS誌2025年6月2日号に掲載された。死亡予測にブドウ糖負荷後1時間血糖値170mg/dLが目安になる可能性 研究グループは、大迫町研究を基に前向きコホート研究として、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を受けた993人の参加者を対象に糖負荷試験などの検査結果と死亡の関係を調査した。OGTT中に測定されたものを含む血液パラメーターを収集し、各パラメーターの中央値に基づいて研究対象を2つのグループに分け、両グループにおける追跡期間中の死亡率を分析した。さらに、正常耐糖能(NGT)の参加者595人を抽出し、1-hrPGと死亡率および死亡原因との関連性を分析した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間14.3年間では、評価したすべてのパラメーターのうち1-hrPGが、全原因死亡率と最も有意に関連していた。・NGTの参加者にフォーカスした場合、HarrellのC一致指数分析では、1-hrPG170mg/dL以上が全原因死亡率と最も強く関連していることが示された(0.8066)。・カプランマイヤー曲線では、3年目以降の追跡期間中、1-hrPG170mg/dL以上群の死亡率が、1-hrPG170mg/dL未満群のほぼ2倍であることが示された。・心血管疾患と悪性腫瘍は、高1-hrPG群の死亡率上昇に強く寄与していた。・1-hrPG170mg以上群は、NGTを有する参加者においては将来の死亡予測の強力な因子となる。・動脈硬化性疾患と悪性腫瘍は、共に死亡率の上昇に寄与していた。

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13年ぶり改定「尋常性白斑診療ガイドライン第2版」、ポイントは

 2012年の初版発表以降13年ぶりに、「尋常性白斑診療ガイドライン第2版2025」が公表された。治療アルゴリズムや光線療法の適応年齢の変更、2024年発売の自家培養表皮「ジャスミン」を用いた手術療法の適応の考え方などについて、ガイドライン策定委員会委員長を務めた大磯 直毅氏(近畿大学奈良病院皮膚科)に話を聞いた。治療アルゴリズムは疾患活動性の評価方法、全身療法の位置付けに変化 治療アルゴリズムの大きな変更点としては、疾患活動性を評価するための方法が明確になった点が挙げられる。尋常性白斑の疾患活動性に関連する臨床症状の評価および定量化のための方法として、2020年にVSAS(Vitiligo Signs of Activity Score)が発表された1)。VSASでは、1)紙吹雪様脱色素斑、2)ケブネル現象、3)低色素性境界部の3つの臨床症状を定義し、これらを基に評価が可能となっている。大磯氏は、「以前は主に病歴の聴取から進行期/非進行期を判断していたが、臨床症状から区別ができるようになったことは大きい。治療方針を決めるうえで進行期/非進行期の判断は重要なので、活用してほしい」と話す。 また今版のアルゴリズムでは、進行期・非分節型・15歳以上の症例については、はじめにステロイドミニパルスなどの全身療法を検討することが推奨されている。初版での光線療法や外用療法に続く位置付けから変更されたもので、同氏は「ある程度症状の強い進行期の患者さんに対しては、早めに全身療法を行い、進行を抑制することが重要」とした。光線療法の適応を10歳以上に引き下げ 今回、光線療法の適応が16歳以上から10歳以上に引き下げられた。欧州では光線療法の機器を用いて安全に受けることができる年齢という意味で7歳以上とされていた。紫外線療法を10歳未満で行うと将来的に老人性色素斑(日光黒子)が生じやすいという経験的な知見などを考慮し、今版では10歳以上とされた。 照射回数については、日光角化症リスクなどを評価した2020年に韓国から発表されたデータ2)を基に、委員会での検討を経て累積照射回数は200回までと推奨が記載されている。自家培養表皮「ジャスミン」発売、手術療法適応の考え方は? 自家培養表皮を使用した手術療法は、「健常部のダメージが少なく、理論的には拒絶反応も起こらないため安全性が担保される点がメリット」と大磯氏は話し、今後実臨床でのデータが蓄積することに期待を寄せた。適応となるのは、非進行期(12ヵ月以上非進行性)で外用療法や光線療法に抵抗性の12歳以上で、局所免疫のない患者だが、局所免疫があるかないかを評価する方法が現状ではない。そのため同氏は、「一部を植皮して生着を確認したうえで行うことが望ましいが培養表皮の製造には費用がかかるので、スクリーニングとして水疱蓋移植やミニグラフトで色素が定着するかどうかを確認したうえで行うこととなるのではないか」と述べた。外用療法の現状とJAK阻害薬への期待 尋常性白斑に対し保険適用のある外用薬は非常に限られており、「臨床医の先生方は困っておられることと思う」と大磯氏。ステロイドに関して本ガイドラインで示された推奨度は・非分節型(顔面・頸部を除く)1A・非分節型(顔面・頸部)2A・分節型および分類不能型 2Bで、「成人・小児ともに、非分節型の尋常性白斑に対してストロング(III群)のステロイド外用薬を1日1回塗布することを基本とし、年齢や部位に応じて強さをベリーストロング(II群)またはミディアム(IV群)に変更する」とされた。 欧米では、JAK阻害薬ルキソリチニブの外用薬が尋常性白斑に対して保険適用されている。同氏は今後日本でも使えるようになれば選択肢が広がり、外用療法がしやすくなると話し、承認への期待を寄せた。

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医師にも経営能力とリーダーシップが不可欠な時代のソリューション

 医療機関の経営環境が厳しさを増すなか、医師にも経営能力が求められている。順天堂大学の猪俣 武範氏は、眼科の臨床・研究の傍ら病院管理学研究室の准教授も務める。米国でMBAを取得し順天堂医院の経営にも携わる猪俣氏が提案する、多忙な医師が効率的に経営能力を身に付けるための解決策とは?――――――――――――――――――― 今、わが国の病院経営は危機的な状況にあります。診療報酬は抑制される一方、慢性的な人手不足で医療現場は疲弊し、病院の6割は赤字だと報じられています。医師も経営をしっかり学ばなければならない時代になったといえるでしょう。 より良い医療提供には収益を上げる必要があり、「経営」が不可欠です。しかし、病院経営者は医師法により医師が務めることが多いですが、残念ながら医師は経営のプロではありません。医学部では経営知識を学ぶ機会が少なく、現在の病院経営は、経営層の個人的資質や努力、事務職員の頑張りに依存しているのが現状です。医療チームを引っ張るリーダーシップは学んで身に付けられる 経営能力やリーダーシップが求められるのは病院経営者に限りません。実は、医師であれば、キャリアの各ステージであらゆる場面で経営能力やリーダーシップが必要とされています。 まずチーム医療では、管理職としてチームメンバーを管理する狭義のマネジメント能力が要求されます。外来や手術室を効率的に回すには患者数や所要時間などのデータを解析し、改善策を講じる必要があるでしょう。患者の管理はビジネスでいえば顧客管理ですし、患者の満足度を高めリピーターを増やすマーケティング手法も当然知っておくべきです。 クリニックを開業したら、否応なくクリニックの経営の舵取りをせねばなりません。大学で研究するにしても、研究プロジェクトを立案し収支を管理し成果を上げなくてはいけないという意味ではマネジメント能力が不可欠です。 医師にリーダーシップが求められるのは、わかりやすい例では、チーム医療を進める場面です。「あの人はリーダーシップがありますね」などと言うことも多く、リーダーシップはその人の生まれついた資質のように捉えている人もいると思いますが、リーダーシップ理論は学問としても確立されており、学習で身に付けることができます。米国でMD/MBAプログラムが急増した理由 実際、米国ではMD/MBAプログラムが増加傾向にあります。1990年に6校だったのが、20年間で約10倍に増加しました。米国で医師になるためには、4年制の通常の大学を卒業した後、4年制のメディカルスクール(医学部)に行くわけですが、デューク大学のように後半のメディカルスクールを5年に延長してMD(Medical Doctor)とMBAを同時に取得するコースもあります。 MBAは、Master of Business Administrationの略で、ビジネススクール(経営大学院)を修了すると得られる学位です。MBAのプログラムでは、人・モノ・金・情報という経営資源に関する体系的な学習、具体的には人事管理、財務会計、オペレーション、マーケティングなどのビジネススキルを学びます。さらに、リーダーシップ、コミュニケーション、チームワークなどのソフトスキルも習得していきます。ソフトスキルとは、いわば「解のない問題を解く能力」であり、ビジネスの現場で必須となるスキルです。そして、先述したように、それは医療現場でも同じなのです。 私自身は眼科医ですが、眼免疫の研究のためにハーバード大学に3年半留学した際に、ボストン大学にも通い、MBAを取得しました。研修医の頃から、医師もビジネスをきちんと学ぶべきだと考えており、眼科医としての研究留学の際にビジネススクールに並行して進学しようと密かに準備していました。 2015年の帰国後も、順天堂大学で眼科医として臨床を続けていますが、順天堂医院の第三者機能認証のリーダーを務めるなど病院経営にも携わるようになり、研究面でもデジタルヘルス、ビッグデータ解析などのスタートアップを創業するなど、MBAで学んだビジネススキルを存分に活かしています。「順天堂大学 医療MBAエグゼクティブコース」が提供する最大の価値とは? 冒頭で述べたような問題意識と私自身の経験から、3年前に立ち上げたのが「順天堂大学病院管理学研究室 医療MBAエグゼクティブコース」です。病院経営層や医療経営を学びたい医師などを対象に、医療経営に特化してMBAスキルを効率的に学べるプログラムになっています。経営を本格的に学ぼうと思えばビジネススクールにしっかり通ってMBAを取得するのが一番いいのでしょうが、時間も費用もかなりかかり現役臨床医にはハードルが高いと思います。そこでこのコースでは、MBAスキルを医療経営に活かすために最も重要な、コアとなる部分を凝縮して極力手軽に学べるように工夫しました。 経営戦略、アカウンティング、ファイナンス、マーケティングなど主要なビジネススキルは当然押さえていますが、リーダーシップ、コミュニケーション、ネットワーキングなどのソフトスキルを重視しているのも特徴です。それは、私自身がMBA取得の課程で得た最大の価値であり、実際に日々の業務に最も役立っていると感じているからでもあります。 「順天堂大学病院管理学研究室 医療MBAエグゼクティブコース」は今年3年目を迎えますが、受講生同士のつながりも活発で、1期生、2期生を交えたアルムナイのコミュニティもできています。医療界で同じような境遇にあり、似たような課題を持つ人々とのコミュニケーション、ネットワーキングはそれ自体が得難い価値だといえます。微力ですが、今後もこのコースを通じて、日本の医療の課題解決に貢献していきたいと考えています。(談)―――――――――――――――――――「順天堂大学病院管理学研究室 医療MBAエグゼクティブコース」 参加申し込みはこちら猪俣 武範氏 順天堂大学 病院管理学・眼科准教授/医学博士/MBA 2006年順天堂大学医学部医学科卒業。2012年順天堂大学大学院眼科学にて医学博士号ならびに日本眼科学会認定眼科専門医取得。2012年からハーバード大学医学部スケペンス眼研究所へ留学。留学中にはボストン大学経営学部Questrom School of BusinessでMBA取得。2019年12月より順天堂大学医学部眼科学講座准教授として、臨床、研究、教育、経営に携わる。同大学AIインキュベーションファーム副センター長、病院管理学研究室准教授併任。2020年に順天堂大学発ベンチャーInnoJin株式会社を創業し代表取締役社長。

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わが国の乳房部分切除術後の長期予後と局所再発のリスク因子~約9千例の後ろ向き研究/日本乳学会

 近年の乳がん治療の進歩によって、乳房部分切除術後の局所再発率と生存率が変化していることが推測される。また、乳房部分切除術の手技は国や解剖学的な違いによって異なり、国や人種の違いが局所再発リスクのパターンに影響する可能性がある。今回、聖路加国際病院の喜多 久美子氏らは、日本のリアルワールドデータを用いた多施設共同コホート研究で、近年の日本における乳房部分切除術後の局所再発率と予後、局所再発のリスク因子を検討し、第33回日本乳学会学術総会で報告した。本研究より、発症時若年、腫瘍径2cm以上、高Ki-67、脈管侵襲、術後療法や放射線療法を受けていないことが局所再発のリスク因子であり、術後療法はすべてのサブタイプで局所再発リスク低減に寄与することが示唆されたという。 本研究は多施設共同後ろ向きコホート研究で、2014~18年に国内25施設でStage0~III乳がんで乳房部分切除術を受けた患者を登録した。評価項目は、局所再発率、無病生存期間(DFS)、全生存期間(OS)であった。  主な結果は以下のとおり。・計8,897例を登録し、平均年齢は57.1歳、99.8%がアジア系であり、59.4%がT1、51.0%がStage I、70.2%がER+/HER2-であった。治療は化学療法が31.1%、放射線療法は86.7%で実施されていた。切除断端陽性は7.3%にみられた。・追跡期間中央値は6.6年で、10年局所再発率は4.6%、DFS率は86.2%、OS率は94.1%であった。・局所再発率はStage I、DCIS、II、IIIの順に良好で、最も良好なサブタイプはER+/HER2-であった。・切除断端陽性と放射線治療なしは局所再発と有意に関連していた。・多変量解析の結果、以下の因子で局所再発リスクとの関連がみられた。 - 発症時40歳未満・腫瘍径2cm以上・高Ki-67:ER+/HER2-で高リスクと関連 - ER+:全集団で低リスクと関連 - 脈管侵襲:トリプルネガティブで高リスクと関連 - 術後療法:すべてのサブタイプで低リスクと関連 - 術前化学療法:ER+/HER2-で高リスクと関連 - 放射線療法:すべてのサブタイプで低リスクと関連 - 内分泌療法(ER+/HER2-のみ):低リスクと関連 喜多氏は「直接比較はできないが、ヒストリカルデータと比較して局所再発率は改善しており、治療や放射線療法の進歩、術前画像診断技術の向上によるのではないか」と考察した。また、ER+/HER2-で術前化学療法を受けた患者で局所再発率が高かったことから、「EBCTCGメタ解析でも同様の傾向が観察されたため、とくにER+/HER2-において術前化学療法後の局所再発を減少させるため、慎重な手術計画が必要かもしれない」と指摘した。最後に喜多氏は、「近年におけるわれわれのデータはわが国の乳房部分切除術の予後が以前より改善していることを示しており、毎年多くの新規全身療法が導入されるなか、最適な手術戦略を検討する際には最新データを反映させる必要がある」と述べ講演を終えた。

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