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アスピリンがよい?それともクロピドグレル?(解説:後藤信哉氏)

 筆者は1986年に循環器内科に入ったので、PCI後に5%の症例が血管解離などにより完全閉塞する時代、解離をステントで解決したが数週後に血栓閉塞する時代、薬剤溶出ステントにより1~2年後でも血栓性閉塞する時代を経験してきた。とくに、ステント開発後、ステント血栓症予防のためにワルファリン、抗血小板薬、線溶薬などを手当たり次第に試した時代を経験している。チクロピジンとアスピリンの併用により、ステント血栓症をほぼ克服できたインパクトは大きかった。チクロピジンの後継薬であるクロピドグレルは、急性冠症候群の1年以内の血栓イベントを低減した。アスピリンとクロピドグレルの併用療法は、PCI後の抗血小板療法の標準治療となった。 抗血小板併用療法により重篤な出血イベントリスクが増える。それでも1剤を減らして単剤にするのは難しい。単剤にした瞬間、血栓イベントが起これば自分の責任のように感じてしまう。やめる薬をアスピリンにするか、クロピドグレルにするかも難しい。クロピドグレルが特許期間内であれば、メーカーは必死でクロピドグレルを残す努力をしたと思う。資本主義の世の中なので、資金のあるほうが広報の力は圧倒的に強い。学術雑誌であってもfairな比較は期待できなかった。 クロピドグレルは特許切れしても広く使用され、真の意味で優れた薬剤であること(メーカーの広報がなくても医師が使用するとの意味)が示された。本研究ではPCI後標準期間の抗血小板併用療法施行後、アスピリンまたはクロピドグレルに割り振った。クロピドグレルの認可承認試験は、アスピリンとの比較における有効性・安全性を検証したCAPRIE試験であった。今回はPCI後、16ヵ月ほどDAPTが施行された後にランダム化した。冠動脈疾患の慢性期の単一抗血小板薬としてクロピドグレルによる死亡、心筋梗塞、脳梗塞がアスピリンよりも少ないことが示された。 筆者は特許中の薬剤を応援することがない。資本主義における、資本力による広報のトリックを完全に見破れる自信もない。しかし、特許切れして、なお有効性・安全性を示す薬は本物と思う。アスピリンは安価で優れた薬であった。筆者はアスピリンについて一冊の本を書いたほどである(後藤 信哉編. 臨床現場におけるアスピリン使用の実際. 南江堂;2006.)。しかし、クロピドグレルも数十年かけて優れた薬であることを示した。今度はクロピドグレルの本を書きたいほどである。

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メンタル不調の休職者、「復職させてもよいのでしょうか?」【実践!産業医のしごと】

メンタル不調の休職者、「復職させてもよいのでしょうか?」Qメンタルヘルス不調で休職中のAさんが復職を希望していますが、面談すると実際には体調が回復していないように見えます。休職期間はまだ十分に残っています。このような場合、復職を認める必要があるでしょうか? また、同様にメンタルヘルス不調で休職中のBさんが、休職期間満了時に復職を希望した場合はどうでしょうか?A1. 復職判断の基本的な考え方復職の可否を判断する際の核心は「治癒」の有無です。裁判例などで使用される「治癒」とは、医療者がイメージする治癒とは異なり、「元の業務を通常程度こなせる健康状態に戻ること」を意味します。一般的な私傷病休職制度では、休職期間内に「治癒」すれば復職可能ですが、期間満了までに「治癒」しなければ自然退職または解雇となります。2. 休職期間途中での復職申請(Aさんのケース)休職中のAさんが期間途中で復職を希望する場合の対応方法を考えてみましょう。通常、復職希望者は主治医による「復職可能」との診断書を提出します。しかし、復職可否の決定権は最終的に会社側にあります。診断書をそのまま受け入れるのではなく、内容を検討し、不明点があれば主治医と面談したり、産業医を通じて状況を確認したりすることも重要です。これらの確認後、確かに「治癒」したと判断できれば復職を認めます。しかし、合理的な疑念が残る場合は慎重に判断すべきです。一方で、不十分な回復のまま復職させることで会社側にも以下のようなリスクが生じます。不完全な業務遂行によって、職場に負担が生じる。回復途上で復職することで、復職した社員に負担が掛かり、症状が再発・悪化する。再休職の必要性が生じる。会社の安全配慮義務違反が問われる。したがって、休職期間途中の復職判断では「治癒」したかを適切に評価し、疑問点がある場合は残りの休職期間を活用して十分な回復を促すことが必要となります。3. 休職期間満了時の復職判断(Bさんのケース)Bさんのように休職期間満了時に復職を希望する場合も、基本的な判断基準は変わりません。主治医との連携や産業医を通じた情報収集、関係者による面談などを通じて「治癒」状態を確認します。ただし、期間中の復職拒否と満了時の復職拒否では、社員への影響が大きく異なります。期間中であれば休職期間が残されていますが、満了時に復職できなければ自然退職または解雇となります。そのため、会社側は休職期間満了時に復職を認めない判断をする場合、期間途中の場合よりも大きなリスクに直面します。過去には、休職期間満了時に従前の職務を支障なく行える状態になくても、「当初は軽易業務に就かせればほどなく通常業務へ復帰できる場合に、短期の復帰準備期間を提供するなどの配慮」を雇用者に求めた判例もあります。この点を考慮し、実務上は「治癒」について若干の疑問が残る場合でも、解雇による紛争を避けるため、復職を認めるケースもあります。4. 結論休職中の社員から復職希望があった場合、会社は「治癒」の有無を慎重に判断する必要があります。Aさんのような休職期間途中のケースでは「治癒」していないと判断されれば復職を認めず、残りの休職期間の取得を促すことは妥当な判断です。一方で、Bさんのような休職期間満了時のケースでは、同じ基準で「治癒」を判断しつつも、復職不可が雇用終了につながる重大性を考慮する必要があります。そのため、完全に「治癒」していなくても、程なく通常業務へ復帰できることが見込める場合は、紛争リスクを勘案して復職を認めるケースもあるでしょう。どちらの場合も、主治医の診断書だけに依存せず、会社として多角的な評価を行い、責任ある判断をすることが重要です。その際、医学的知見と職場環境の両方を理解している立場から、産業医の存在は重要です。難しい判断が求められる場合には、産業医の専門的見解が会社の意思決定を支え、法的リスクの軽減にも寄与します。会社は復職判断の各段階で産業医と緊密に連携し、活用することが望ましいでしょう。

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小児の採血・ルート確保【すぐに使える小児診療のヒント】第1回

小児の採血・ルート確保はじめまして。東京都立小児総合医療センターの吉井 れのと申します。皆さんは、子供の診察はお好きですか? 「子供は何を考えているかわからない」「どう接してよいのか、関係の作り方がわからない」「保護者と話すのが苦手でコワイ」「なんとなくちょっと…」など、苦手意識のある先生もいらっしゃると思いますが、診察しなくてはならない機会が突然訪れるかもしれません。このコラムでは、小児診療のポイントに加えて、保護者や子供との関わり方のコツもお伝えします。ぜひ、診療の場面での子供との出会いを楽しんでいただけると幸いです。今回は、他科や初期研修の先生からよくご相談いただく「小児の採血・ルート確保」について解説します。症例3歳、男児2日前からの発熱と嘔吐を主訴に受診。母親が「しんどそうで全然ご飯が食べられないんです! 先生、点滴してください!」と強く訴える。点滴の適応かどうかを確認そもそもこの子に点滴は必要でしょうか? まずは必要性の評価をしましょう。たとえば、体重減少や飲水の程度を参考にします。体重減少なし、飲水可、活気も保たれている → 点滴不要10%の体重減少があり、飲水不可、ぐったりしている → 点滴必要点滴は侵襲を伴う手技であることを忘れず、保護者の希望があるからといって安易に実施すべきではありません。必ず目の前にいる小児の状況や所見から判断しましょう。採血・ルートの確保小児の採血やルート確保は奥深いものです。患児の年齢や体格、性格、基礎疾患などによって「やりやすさ」は変わります。ここでは、一般的な小児に対する採血・ルート確保の手順についてコツを交えて解説します。成人への手技とは異なる部分がありますが、よくイメージして準備することが成功のカギです。「ポタポタ」採血乳幼児は肘窩の皮下脂肪が厚くて静脈を触知することが難しく、血管が細いことからも、手背の静脈を穿刺することが多いです。手背の静脈トランスイルミネーター(イーエスユー有限責任事業組合ホームページより)利き手ではない手で患児の手背を収めるように把持しつつ、皮膚を牽引して適度な圧をかけて23G注射針で穿刺をします。そして、針から滴る血液を、蓋を開けた採血管に直接採取します。これが、いわゆる「ポタポタ採血」です。点滴が留置できないような末梢の血管でも、血管に針先が当たりさえすれば容易に採血できるため、重宝する手段です。トランスイルミネーター(写真)は、小児の手に握らせると赤色の強い光で静脈を透過させ、細い血管も見えやすくなります。手がぷにぷにとして血管が同定しづらい1~3歳の小児ではとくに有用です。ルート確保採血と異なる点もありますが、ルート確保も基本は同じです。まずは、利き手ではない手で患児の手背を把持します。親指と人差し指で作った「C字」の空間に、患児の手背をはめ込むようなイメージです。親指を手前(できれば患児のMP関節より遠位)にしっかりと固定します。これは、(1)刺入部となる皮膚を張るため、(2)カニュレーションの際に自身の親指が邪魔にならないためです。血管が虚脱しないよう適度なテンションに調整しましょう。トランスイルミネーターを握っている患児の手を把持穿刺の前に消毒をして、留置針と穿刺部位の確認をします。ベベルの向きは正しいか外筒と内筒の差は何mmか(ジェルコ:2mm)選択した血管は留置する長さの分まっすぐに伸びているか穿刺の瞬間はためらわないことが大切です。小児の血管は、ぷちっと貫いたのがわかるくらい弾力があるため、血管にあたるまでゆっくり進めるよりは、スパッと貫くほうがよいでしょう。また、小児は今か今かと「チックンの瞬間」をうかがっています。どんなに押さえていたとしても、痛みを感じた瞬間に手を引いてしまいます。穿刺をためらうと、狙っていた場所と異なる場所を刺してしまったり、針先が当たっただけで抜けてしまい、もう一度刺さなければならなくなったりします。針先が血管に当たって逆血を確認したら、一度心を落ち着けましょう。私は深呼吸しています。針全体を水平近くまでしっかりと寝かせ、ほんの数mm(外筒と内筒の差分)だけ進めます。逆血が来ていることを確認し、人差し指を外筒のツマミに添えて、スッと外筒だけを進めて留置してください。先端が弁に引っかかり外筒が進みにくいことがありますが、内筒を抜いた状態で、外筒を優しく回すと進む場合が多いです。留置針留置後は、固定が終わるまで絶対に手を離さないでください。やっとの思いで取ったルートが、ホッと一息ついた瞬間に抜けてしまうことほど悲しいことはありません。重要なのは「準備」小児の採血・ルート確保は、血管が細く、穿刺できる部位が限られる小児が手技に協力してくれることが少ない一度応じてくれたとしても、失敗して再トライとなると嫌がってしまう(当然!)といった理由から、チャンスが限られます。この1回のチャンスをモノにするために最も大切なことは、センスでもコツでもなく、「準備」です。人員(少なくとも2人)アルコール綿直針(23G)採血スピッツ(ふたを外して準備)、毛細管防水シーツ手袋駆血帯トランスイルミネーター針捨てボックスガーゼ、止血用保護テープ<ルート確保の場合>留置針(24G ジェルコなど)点滴固定テープ(テガダームなど)シリンジ固定用シーネ など小児の採血・ルート確保グッズ利き手ではない手は、患児の手(または足)を把持するのに集中し、一度固定したら離さない気持ちで臨みます。基本的には採血の手技が片手操作となるため、すぐに手が届き操作しやすい場所に物品を準備しておくことが重要となります。いざ血管に針が当たり、逆血が勢いよくポタポタと出ているけれど、スピッツの蓋が外せなくてアタフタ…介助者も小児を抑えるのに必死で手が離せず、「誰か助けて!看護師さ~ん!」なんてことがないように。小児の採血やルート確保が上手な人は、往々にして「準備万端な人」といえるでしょう。今回は、小児の採血・ルート確保について紹介しました。特別な技術を必要とする部分は意外と少ないことがおわかりいただけたのではないでしょうか。小児診療では、患児や保護者にいかに処置に前向きになってもらうかを諦めない姿勢も重要です。次回は「処置の際の小児・保護者との関わり方」についてお話します。

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第259回 トランプ関税で2026年度診療報酬改定の財源確保に暗雲?国内では消費税率の減税論もくすぶり、医療費削減圧力はさらに増大の予感

米国が中国に課す追加関税は累計145%、中国が米国に課す報復関税は125%こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。米国のトランプ大統領が4月2日に発表した全世界を対象とした相互関税が世界経済を大混乱に陥れています。株や債券で財産を運用している方々は、一喜一憂の毎日ではないでしょうか。原則すべての国に課せられる10%の基本税率は4月5日に、国ごとの上乗せ税率は4月9日にそれぞれ発動しました。日本は24%の税率になりましたが、トランプ大統領は発動からわずか13時間後、相互関税の措置を「報復措置を取っていない国については90日間停止する」と発表しました。相互関税の停止期間中、各国に課す関税率は10%のままで、上乗せ税率を今後どうするかについては国ごとに交渉が進められることになります。というわけで、当面、日本には10%の関税が課せられます。なお、自動車に課せられる追加関税25%(合計27.5%)は4月3日に発動しています。一方、トランプ大統領は「報復措置」をとった中国には追加関税を125%に引き上げると発表、両国の間の関税の応酬はさらに激しさを増しています。4月15日現在、米国が中国に課す追加関税は累計145%、中国が米国に課す報復関税は125%です。もはや何が何やらわかりません。相互関税の税率を決める上で考慮されたという「非関税障壁」とは当初、医薬品には関税がかけられないことになっており、日本の医薬品業界はとりあえず胸をなでおろしたようです。しかし、米国のバイオ産業専門誌などによると、トランプ大統領は先週、「大規模な医薬品関税を近いうちに導入する」と発言、4月14日にも「さほど遠くない」将来、輸入医薬品に関税を課す計画であると改めて表明しています。先はまったく読めません。ちなみに、現在、医薬品に関税はありません。世界貿易機関 (WTO)の前身に当たる関税及び貿易に関する一般協定(GATT)において1994年に決定、その方針が継続しているからです。米国の医薬品は中国など他国からの供給にその多くを依存しています。関税によって輸入を制限し、国内での製造拡大を目指す計画のようです。しかし、ものはおもちゃではなく薬です。製薬工場を作って稼働させることが一朝一夕にできるのでしょうか。仮に医薬品に高い関税がかけられた場合、米国内での薬の供給も心配です。というわけで、とりあえず日本の医療界に直接の影響はないように見えますが、いえいえ、そんなことはありません。気になるのは、相互関税の税率を決める上で考慮されたという「非関税障壁」です。非関税障壁は、関税以外の要因によって貿易の自由な流れを妨げる障壁や制約のことで、「輸出をしやすくするための為替操作」「輸出を促進するための政府の補助金」「不当に安い価格で販売するダンピング」「科学的な根拠に基づかない検疫の基準」などがそれにあたるとされます。今回、米国はそれらを計算し、日本は米国に対して46%の関税を課していることに相当するとしました。ちなみに、4月10日付の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」は「相互関税の税率の算定では、国ごとに米国の貿易赤字額を輸入額で割り、その数値を2で割ったものを用いたようだ。理論的な根拠が不明の非常識な数字」と書いています。米通商代表部、日本の非関税障壁の1つとして「医療機器や医薬品」に言及「理論的な根拠が不明」であることはさておいて、46%の関税を課していることに相当する「非関税障壁」として米国は、コメ、小麦、豚肉、サバ・イワシ、自動車、自動車充電施設などと共に「医療機器や医薬品」を挙げています。トランプ大統領が相互関税の税率を発表する直前の3月31日、米国の通商政策全般を担当する米通商代表部(USTR)が「外国貿易障壁報告書(National Trade Estimate Report on Foreign Trade Barriers)」を発表しました。その中で、日本の非関税障壁の1つとして「医療機器や医薬品」に言及しています。同報告書は毎年春に発表されているものですが、4月3日付の日本経済新聞によれば本年版は「日本の関税や非関税障壁について11ページにわたって詳述した。(中略)日本のページは24年から1ページ増えた」とのことです。同報告書は、2018年度の薬価制度改革で新薬創出加算の対象品目が減少したことや、2025年度の薬価の中間年改定がパブリックコメントなしに発表されたことなどを指摘、「米国は、日本の薬価制度やバイオ医薬品および医療機器産業にとって重要な他の政策について、より頻繁で意味のある意見を提供する機会の不足を懸念している。米国は日本が薬価制度に関連するいかなる措置を策定する際にも、米国の利害関係者を含むすべての利害関係者の意見を募集し、考慮すること、および新たな政策や措置の現在および将来について透明なプロセスを遵守することを引き続き要求する」と、米国の製薬企業等の意向をしっかりと汲んで政策決定を行うよう強く要望しています。本連載の「第251回 “タカる”厚生労働省(前編)『課税のような形で製薬企業に拠出義務』の創薬支援基金(仮称)構想、最終的に財源は国費と『任意』の寄付で決着」でも、昨年末に米国研究製薬工業協会(PhRMA)と欧州製薬団体連合会(EFPIA)が突然共同声明を出し、「岸田政権は、日本のエコシステムを回復し、ドラッグ・ロスを防止するための重要な第一歩を踏み出した」ものの、石破政権になってからの方針転換で2025年度中間年改定において革新的医薬品の薬価引下げのルールが拡大、「予期せぬ決定により、企業の中には、10年以上前から長らく策定してきた綿密な投資回収計画の見直しを迫られ、数百億円もの損失を被る可能性がある」と中間年改定の政策を強く批判したことについて書きました。そのPhRMAは、トランプ関税発表直後の4月8日に都内で定例記者会見を開いています。日本経済新聞などの報道によれば、その記者会見において米イーライ・リリー日本法人社長兼PhRMA在日執行委員会委員長のシモーネ・トムセン氏は「医薬品は米国にとって第2位の輸出部門だ。米国の対日貿易赤字680億ドルの一部は日本のネガティブな薬価制度によってもたらされている」と指摘、日米間の貿易を巡る協議に薬価制度改革が議題に上がるよう期待したとのことです。診療報酬財源の捻出法も税率低減のためのカードに使われれば改定の財源確保に多大な影響彼らの言い分にも一理あるでしょう。日本では診療報酬改定の度に薬価が切り下げられ、その財源を診療報酬の引き上げ分に充当してきました。中間年改定もその目的は医療費削減であり、頻繁な制度変更による製薬企業の投資意欲減退、革的新薬の開発意欲減退など、さまざまな問題点が内外の製薬企業等から指摘されています(ちなみに立憲民主党と国民民主党は、今国会に「中間年改定廃止法案」を提出しています)。今後、トランプ関税に対し日本は、赤沢 亮正経済再生大臣と林 芳正官房長官をトップとするタスクフォースが米国と税率軽減に向けた交渉を進めるとしています。当然、非関税障壁とされた薬価改定や薬事規制も議題に挙がるでしょう。仮に薬価改定による診療報酬財源の捻出法も税率低減のためのカードに使われることになれば、来年以降の診療報酬改定の財源確保に大きな影響が出ることになります。くすぶり始めた消費税の引き下げ論一方、物価高やトランプ関税などを背景に、野党のみならず与党においても「消費税減税」の議論が始まりそうな気配です。4月12日付の日本経済新聞朝刊は、「自公、くすぶる消費減税論」という記事を掲載、「夏の参院選をにらみ、与党で消費税の引き下げ論がくすぶっている。物価高対策として食料品を対象として減税する意見が出る」と書いています。消費税は医療費も含む社会保障のための重要な財源です。安易に減税すれば社会保障全体に影響が出ることは必至です。同記事は「税率を下げた場合、代替財源を捻出できないと赤字国債の増発につながる。このため自民党執行部は消費税の減税への慎重論が根強い」と書いていますが、石破 茂首相自身が減税に含みを持たせた発言をしたり否定したりと、相当考えがブレているようです。わずか1ヵ月前、本連載の「第253回 石破首相・高額療養費に対する答弁大炎上で、制度見直しの“見直し”検討へ……。いよいよ始まる医療費大削減に向けたロシアン・ルーレット」、「第254回 またまた厚労省の見通しの甘さ露呈?高額療養費制度、8月予定の患者負担上限額の引き上げも見送り、政省令改正で済むため患者団体の声も聞かず拙速に進めてジ・エンド」で、「医療費大削減に向けたロシアン・ルーレットはますます混迷の度合いを増した」と書きましたが、これまでの要素にトランプ関税、消費税減税も加わったことで、弾倉に込められる弾は1発や2発では済まない状況になってきたようです。

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AIによる個別支援が看護師のバーンアウトを軽減【論文から学ぶ看護の新常識】第11回

AIによる個別支援が看護師のバーンアウトを軽減Gumhee Baek氏らの研究により、人工知能(AI)を活用して個別最適化された介入プログラムが、看護師のバーンアウト(燃え尽き症候群)を有意に軽減する効果をもつことが示された。Worldviews on Evidence-Based Nursing誌2025年2月号に掲載された。看護師のバーンアウトに対するAI支援型個別介入:3群ランダム化比較試験研究チームは、看護師のバーンアウト軽減に対するAI支援型個別介入の有効性を検討することを目的に、韓国の病院に勤務する看護師120名を対象に、単盲検・3群ランダム化比較試験(各群40名)を実施した。AI支援型個別介入群では、2週間のプログラムが2回実施され、次の4つのプログラムのうち1つがモバイルアプリケーションを通して提供された。1)マインドフルネス瞑想、2)アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)、3)ストーリーテリングとリフレクティブ・ライティング、4)笑い療法。介入内容は、人口統計情報、仕事関連の特性、仕事のストレス、ストレス反応、コーピング方法と、バーンアウトの3側面(顧客関連、個人的、仕事関連)に基づいて、AIアルゴリズムによって個別最適化されたプログラムが提供された。対象群1では、同じ4つのプログラムの中から参加者自身が希望するものを選択して実施した。対象群2の参加者には、バーンアウト軽減に関するオンライン情報のみが提供された。主要評価項目は、バーンアウトの3側面(顧客関連、個人的、仕事関連)とし、副次評価項目は、仕事のストレス、ストレス反応、コーピング方法が設定された。主な結果は以下の通り。顧客関連バーンアウト(F=7.725、p=0.001)および個人的バーンアウト(F=10.967、p<0.0001)は、AI支援型個別介入群において有意な軽減が認められた。時間効果および、時間×群の相互作用効果も、顧客関連バーンアウト(時間効果:F=16.773、p<0.0001、相互作用効果:F=5.638、p<0.0001)、個人的バーンアウト(時間効果:F=18.743、p<0.0001、相互作用効果:F=6.875、p<0.0001)において統計的に有意であり、AI支援型個別介入群で有意な効果が認められた。仕事関連バーンアウトについては、群間の有意差は認められなかったが、時間効果には統計的な有意差が認められた(F=12.685、p<0.0001)。ストレス反応は、AI支援型個別介入群および対照群1で有意な軽減が認められ、最も大きな減少を示したのは対照群1であり、次いでAI支援型個別介入群、対照群2の順だった(F=3.07、p=0.017)。AIで個別最適化されたプログラムの提供は、看護師の顧客関連および個人的なバーンアウトの軽減に有効であることが示された。看護師のバーンアウト軽減は、ケアの質の向上にも寄与する可能性がある。今回の研究では、AIを活用し個別最適化された介入が、看護師のバーンアウト、とくに顧客(患者)との関わりや個人的な感情に関わる側面において、有効である可能性が示されました。これは、テクノロジーを活用することで、忙しい看護師一人ひとりのニーズに合わせたメンタルヘルスサポートを提供できる可能性を示唆しており、非常に意義深い結果と言えるでしょう。研究で用いられたプログラム(マインドフルネス瞑想、ACT、ストーリーテリング、笑い療法)は、いずれも心理的なウェルビーイングを高める効果が知られていますが、AIによってパーソナライズされることで、その効果がさらに高まる可能性があります。とくに注目すべきは、対照群1(自身でプログラムを選択した群)でストレス反応の減少が最も大きかった点です。これは、自身のニーズに合わせて主体的にプログラムを選択することが、ストレス軽減に重要な要素であることを示唆しています。AIによる提案と、個人の選択の自由をどのように組み合わせるかが、今後の研究や実用化における重要なポイントとなるでしょう。看護師のバーンアウトは、個人の問題だけでなく、医療機関全体のケアの質や離職率にも影響を与える重要な課題です。今回の研究成果が、AI技術を活用した新たなメンタルヘルスサポートの展開につながり、看護師がより長く、質の高いケアを提供できる社会の実現に貢献することを期待しています。論文はこちらBaek G, et al. Worldviews Evid Based Nurs. 2025;22(1):e70003.

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強制的なランニングがストレスや抑うつ症状に及ぼす影響〜動物実験データ

 High mobility group box 1(HMGB-1)は主に有核細胞の核内に発現しているタンパクで、炎症性刺激時または細胞死に際して核内から細胞外に放出され、それが炎症応答を誘導し、敗血症や免疫疾患などの病態を増悪することが知られている。HMGB-1により媒介される炎症反応は、うつ病の病態生理学的メカニズムにおいて重要な役割を果たすと考えられる。Qian Zhong氏らは、海馬におけるHMGB-1の影響を評価し、うつ病の慢性予測不能軽度ストレス(CUMS)マウスモデルに対する強制的なランニング(FR)の抗うつ作用を調査した。Neuropsychobiology誌オンライン版2025年3月11日号の報告。 本研究では、FRまたは従来の広域スペクトル抗うつ薬であるfluoxetine(FLU)による単独または併用療法の潜在的なベネフィットを評価した。実験は、対照マウス、FR+FLUマウス、CUMS、CUMS+FRマウス、CUMS+FLUマウス、CUMS+FR+FLUマウスにより実施した。うつ病様行動の評価には、尾懸垂試験、強制水泳試験、ショ糖嗜好試験を用いた。実験後、海馬のHMGB-1および関連タンパク質、サイトカインレベルを測定した。 主な結果は以下のとおり。・4週間のFRにより、CUMSマウスにおけるうつ病様行動の有意な軽減が認められた。・また、HMGB-1関連炎症性タンパク質およびサイトカイン発現の減少が明らかとなった。・一方、FLUによるうつ病様行動の改善に対する作用は限定的であったが、海馬のHMGB-1関連炎症性タンパク質およびサイトカイン発現の減少が認められた。・FR+FLU併用は、統計学的に有意な抗うつ作用を示し、HMGB-1関連炎症性タンパク質およびサイトカイン発現の減少が認められた。また、FR単独と比較し、反応速度が向上した。 著者らは「FRは、HMGB-1関連の抗炎症反応の調節に対し潜在的なベネフィットをもたらす可能性がある。うつ病のマネジメントや治療において、身体活動の潜在的な役割が明らかとなった」としている。

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StageII/IIIのHR+HER2-乳がんの術後内分泌療法後、リアルワールドでの再発リスクと治療成績

 術後内分泌療法を受けたStageII/IIIのHR+HER2-早期乳がん患者における再発リスクをリアルワールドで検討した米国・Sarah Cannon Research InstituteのJoyce O'Shaughnessy氏らの後ろ向き研究の結果、リンパ節転移陰性患者も含め、再発リスクが依然として高いままであることが示された。Breast誌2025年6月号に掲載。 本研究では、ConcertAI Patient360データベース(1995年1月~2021年4月)を用いて、手術を受け術後内分泌療法を受けた18歳以上のStageII/IIIのHR+HER2-早期乳がん患者を後ろ向きに解析した。再発リスクは、改良されたSTEEP基準による無浸潤疾患生存(iDFS)を用いて評価した。サブ解析で、術後内分泌療法として非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(NSAI)を投与された患者とタモキシフェンを投与された患者のiDFS、遠隔無病生存、全生存を評価した。なお、CDK4/6阻害薬については、アベマシクリブが術後補助療法に承認されたのが2021年10月であり、本解析のデータベースのカットオフ日以後のため、投与された患者はいなかった。 主な結果は以下のとおり。・全解析コホート(3,133例)において、iDFSイベントリスクは5年時点で26.1%であり、10年時点で45.0%に上昇した。・StageIIの患者の5年時点および10年時点のiDFSイベントリスクは22.7%および40.5%、StageIIIの患者では40.4%および62.9%であった。また、リンパ節転移陰性患者では22.1%および36.9%、リンパ節転移陽性患者では28.9%および49.4%であった。 ・サブ解析において、NSAI±卵巣機能抑制療法がタモキシフェン±卵巣機能抑制療法に比べてiDFSの改善が認められ(ハザード比:0.83、95%信頼区間:0.69~0.98、p=0.031)、この傾向は閉経状態に関係なくみられた。 著者らは、「このリアルワールドエビデンス研究は、StageIIまたはIIIのHR+HER2-早期乳がん患者の再発リスクが、標準的な術後補助全身療法にもかかわらず、リンパ節転移陰性患者を含めて容認できないほど高いままであることを示しており、この患者集団に対する新たな治療戦略の開発を正当化する」と結論している。

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65歳未満の市中肺炎、GL推奨の短期治療の実施率~日本人約2万5千例の解析

 肺炎診療ガイドライン2024では、市中肺炎治療において、初期治療が有効な場合には1週間以内の短期抗菌薬治療を実施することが弱く推奨されている1)。しかし、その実施率は高くないことが示された。酒井 幹康氏(名城大学/豊田厚生病院)らの研究グループが、65歳未満の成人市中肺炎における短期治療の実施状況について、大規模レセプトデータベースを用いて検討した結果をJournal of Infection and Chemotherapy誌2025年5月号で報告した。 研究グループは、JMDCのレセプトデータベースを用いて、2013~22年に初めて市中肺炎と診断され、抗菌薬治療を開始した18~64歳の患者のデータを抽出した。主要評価項目は治療期間とし、入院患者と外来患者に分けて解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象患者は2万5,572例であり、年齢中央値は入院患者が51歳、外来患者が44歳であった。・1週間以内の短期抗菌薬治療が実施された割合は、入院患者が32%(1,087/3,367例)、外来患者が70%(1万5,614/2万2,205例)であった。10年間の年次推移の範囲は入院患者が31~35%、外来患者が67~72%であり、大きな変動はなかった。・併存疾患のない患者を対象としたサブグループ解析においても、1週間以内の短期抗菌薬治療が実施された割合は、入院患者が32%(403/1,274例)、外来患者が70%(7,089/1万191例)であり、全体集団と同様であった。 本研究結果について、著者らは「とくに入院患者では、治療期間の最適化を進めるため、抗菌薬による治療期間を再検討する必要性があるだろう」とまとめている。

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フィネレノン、CKD有するHFmrEF/HFpEFに有効~3RCT統合解析(FINE-HEART)/日本循環器学会

 心不全患者のほぼ半数が慢性腎臓病(CKD)を合併している。心不全とCKDは、高血圧、肥満、糖尿病といった共通のリスク因子を持ち、とくに左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者ではその関連がより顕著である。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)や交感神経系の活性化、炎症、内皮機能障害、線維化、酸化ストレスといった共通の病態生理学的経路を有する。したがって、心不全患者、とくにHFpEF患者において、腎保護が治療成功の鍵となっている。 心不全とCKDを合併した約1万9,000例の患者におけるフィネレノンの効果を評価するため、3件の大規模無作為化比較試験(RCT)の統合解析「FINE-HEART試験」が実施され、2024年の欧州心臓病学会で発表された。その結果、心不全とCKDを合併した患者において、原因不明死を含めると、フィネレノンは心血管死を12%有意に減少させることが示され、腎疾患の進行、全死因死亡、心不全による入院などが有意に減少したことが示された。3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials 1にて、富山大学の絹川 弘一郎氏によりアンコール発表された。 本試験では、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のフィネレノンの効果を検証した以下の3件のRCTのデータが統合された。・FINEARTS-HF試験:2型糖尿病を含む左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)/HFpEF患者6,001例を対象とした試験。・FIDELIO-DKD試験:糖尿病性腎臓病患者5,662例を対象とした腎アウトカム試験(左室駆出率が低下した心不全[HFrEF]患者は除外)。・FIGARO-DKD試験:糖尿病性腎臓病患者7,328例を対象とした心血管アウトカム試験(HFrEF患者は除外)。 FINE-HEART試験の対象者の90%以上が、心不全、CKD、2型糖尿病の1つ以上を有する高リスクCKM(心血管・腎・代謝)背景を持っていた。本試験の主要評価項目は心血管死であり、副次評価項目は複合心血管イベント、心不全による初回入院、全死因死亡などが含まれた。 主な結果は以下のとおり。・FINE-HEART試験は、1万8,991例(平均年齢67±10歳、女性35%)で構成された。参加者の約90%が、推定糸球体濾過量(eGFR)の低下および/またはアルブミン尿のいずれかを伴うCKD進行リスクが高かった。・心血管死について、プラセボ群と比較して、フィネレノン群は、原因不明死を除くと、心血管死の有意ではない減少と関連していた(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.78~1.01、p=0.076)。ただし、原因不明死を含めると、フィネレノン群は心血管死を12%有意に減少させた(HR:0.88、95%CI:0.79~0.98、p=0.025)。・原因不明死を含めた場合の心血管死に対するフィネレノンの効果は、患者のCKM負担の程度かかわらず一貫していた。また、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬といったベースラインの併用薬の有無にかかわらず、フィネレノンの効果は一貫していた。・フィネレノンは、複合腎アウトカム、心不全による初回入院、心血管死または全死因死亡、心房細動の新規発症を有意に減少させた。・HFmrEF/HFpEF患者7,008例(36.9%)を解析した結果、フィネレノン群ではプラセボ群と比較して、心血管死または心不全による入院が有意に減少した(HR:0.87、95%CI:0.78~0.98、p=0.008)。また、心不全による入院(HR:0.84、95%CI:0.74~0.94、p=0.003)、心房細動の新規発症(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97、p=0.030)を有意に減少させた。・フィネレノンは忍容性が良好であり、プラセボ群より重篤な有害事象の発現率が低かった。MRAの性質上、フィネレノン群で高カリウム血症が多くみられたが、高カリウム血症に関連する死亡は認められなかった。低カリウム血症は少なかった。収縮期血圧低下がよくみられ、血圧への影響は今後さらに検討が必要とされている。急性腎障害の増加は認められなかった。 フィネレノンは、CKMリスクを有する患者に対して、心血管・腎アウトカムを改善し、安全性も高い有望な治療選択肢であることが本試験により示された。絹川氏は「フィネレノンは心血管死を12%有意に減少させた。FIDELIO試験とFIGARO試験では、心血管死は有意に減少しなかったため、これはFINE-HEART試験で新たに得られた知見だ。また、FIDELIO試験とFIGARO試験では、フィネレノンによるeGFRの初期低下が観察されたが、これも今後の検討課題となる」と述べた。(ケアネット 古賀 公子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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急性冠症候群のDCB治療後DAPT、段階的漸減レジメンで十分か/BMJ

 薬剤コーティングバルーン(DCB)による治療を受けた急性冠症候群患者では、有害臨床イベントの発生に関して、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を段階的に減薬(de-escalation)するレジメンは12ヵ月間の標準的なDAPTに対し非劣性であることが、中国・Xijing HospitalのChao Gao氏らREC-CAGEFREE II Investigatorsが実施した「REC-CAGEFREE II試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2025年3月31日号で報告された。中国の無作為化非劣性試験 REC-CAGEFREE II試験は、DCBを受けた急性冠症候群患者において、抗血小板薬療法の強度を弱めることは可能かの評価を目的とする医師主導型の非盲検評価者盲検無作為化非劣性試験であり、2021年11月~2023年1月に中国の41病院で患者を登録した(Xijing Hospitalの助成を受けた)。 年齢18~80歳で、パクリタキセルを塗布したバルーンによるDCB治療のみを受けた急性冠症候群患者1,948例(平均年齢59.2歳、男性74.9%)を対象とした。被験者を、DAPTを段階的に減薬する群(975例)、または標準的なDAPTを投与する群(973例)に無作為に割り付けた。 段階的DAPT減薬群では、アスピリン+チカグレロル(1ヵ月)を投与後、チカグレロル単剤(5ヵ月)、引き続きアスピリン単剤(6ヵ月)の投与を行った。標準的DAPT群では、アスピリン+チカグレロルを12ヵ月間投与した。 主要エンドポイントは、有害臨床イベント(全死因死亡、脳卒中、心筋梗塞、血行再建術、BARC type 3または5の出血)とした。絶対リスク群間差の片側95%信頼区間(CI)の上限値が3.2%未満の場合に非劣性と判定した。出血リスクは低い 全体の30.5%が糖尿病で、8.8%が脳卒中の既往、13.2%が心筋梗塞の既往、32.2%が経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の既往を有しており、20.6%は出血リスクが高かった。治療を受けた病変の60.9%が小血管で、17.8%にステント内再狭窄を認めた。DCBの直径の平均値は2.72(SD 0.49)mmだった。 12ヵ月の時点で、主要エンドポイントである有害臨床イベントは、段階的DAPT減薬群で87例(8.9%)、標準的DAPT群で84例(8.6%)に発現した。発生率の群間差は0.36%(95%CI:-1.75~2.47)で、95%CI上限値は3.2%未満であり、段階的DAPT減薬群の標準的DAPT群に対する非劣性が示された(非劣性のp=0.01)。 BARC type 3または5の出血の発生は、段階的DAPT減薬群で少なかった(4例[0.4%]vs.16例[1.6%]、群間差:-1.19%[95%CI:-2.07~-0.31]、p=0.008)。また、患者志向型複合エンドポイント(全死因死亡、脳卒中、心筋梗塞、血行再建術)の発生は、両群で同程度だった(84例[8.6%]vs.74例[7.6%]、1.05%[-1.37~3.47]、p=0.396)。階層的な臨床的重要性を考慮したwin ratioが優れる 全死因死亡、脳卒中、心筋梗塞、BARC type 3出血、血行再建術、BARC type 2出血というあらかじめ定義された階層的複合エンドポイントについて、win ratio(勝利比)法による階層的な臨床的重要性を考慮すると、標準的DAPT群(勝率10.1%)に比べ段階的DAPT減薬群(14.4%)で勝率が有意に高かった(勝利比:1.43[95%CI:1.12~1.83]、p=0.004)。 著者は、「ITT集団では、標準的DAPT群に比べ段階的DAPT減薬群で、患者志向型複合エンドポイントの発生率が1%高く、BARC type 3または5の出血の発生率が1%低かったことから、虚血リスクと出血リスクにはトレードオフが存在する可能性が示唆される」としている。

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高齢者の不眠症に最も効果的な運動は?

 高齢者の不眠症の改善に最も効果的な運動は、レジスタンストレーニング(筋トレ)であるとする論文が発表された。ただし、筋トレだけでなく、有酸素運動などの有効性も確認されたという。マヒドン大学ラマティボディ病院(タイ)のKittiphon Nagaviroj氏らによる研究の結果であり、詳細は「Family Medicine and Community Health」に3月4日掲載された。 加齢とともに睡眠の質が低下する。高齢者の12~20%が不眠症に悩まされているという報告もある。不眠症はうつ病や不安症、その他の精神疾患と関連のあることが明らかになっており、さらにメタボリックシンドロームや高血圧、心臓病などの身体疾患との関連も示されている。 高齢者の不眠症に対する治療としては、安全性の観点から認知行動療法などの非薬物療法が優先されるが、専門スタッフの不足や時間を要することなどのため、実臨床で行われることは少ない。一方、運動が不眠症改善、および不眠症に併存しやすい前記の疾患のリスク抑制に有効であるとするエビデンスが蓄積されてきている。ただし、運動の種類によって不眠症に対する効果が異なるのか否かという点は、これまで明らかにされていない。そこでNagaviroj氏らは、過去の研究報告のデータを統合した解析によりこの点について検討した。 著者らは、Medline、Embase、CINAHLなどの文献データベースに2022年10月までに収載された論文を対象として、60歳以上の成人における運動と睡眠の質との関連を検討したランダム化比較試験の報告を検索。25件の報告を解析対象として抽出した。 これらの研究の参加者数は合計2,170人で平均年齢70.38±4.56歳、女性71.85±21.86%であり、20件(80%)は一般住民対象、5件(20%)は介護施設居住者を対象として実施されていた。アジアでの研究が過半数(56%)を占め、次いで北米と南米が各16%、欧州が12%だった。運動介入期間は平均14週間で、1回に50分強の運動を週に2~3回行っていた。運動の種類は、有酸素運動(速歩、サイクリング、水泳、ダンス、ガーデニングなど)、レジスタンストレーニング(ウェイトや体重を利用した筋トレ)、バランス運動(つま先立ちなど)、柔軟性運動(ヨガ、ピラティスなど)、およびこれらを組み合わせた複合運動として行われており、運動強度は軽度から中等度とした研究が半数以上だった。 複数の異なる介入研究で得られた結果を統計学的手法により比較可能とする、ネットワークメタ解析の結果、ピッツバーグ睡眠品質指数(PSQI)の改善効果が最も高い運動はレジスタンストレーニングであり、PSQIが5.75点低下していた(PSQIは低い方が睡眠の質が高いことを意味する)。有酸素運動は3.76点、複合運動は2.54点の低下(改善)を示した。 この結果に基づき著者らは、「睡眠の質の改善には運動の中でも特に、レジスタンストレーニングと有酸素運動が有益である」と結論付けている。

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新型コロナパンデミックが園児の発達に影響

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは、園児の発達をさまざまな面で遅らせているとする研究結果が報告された。パンデミック発生後(2021〜2023年)の園児は、パンデミック発生前(2018〜2020年)の園児と比べて、言語・認知発達、社会的コンピテンス、コミュニケーション能力、一般知識の平均スコアが有意に低いことが明らかになったという。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院社会福祉学分野のJudith Perrigo氏らによるこの研究結果は、「JAMA Pediatrics」に3月10日掲載された。 この研究でPerrigo氏らは、2010年から2023年にかけて米国の園児47万5,740人(平均年齢6歳、男児51.1%)を対象に反復横断パネル研究を実施し、COVID-19パンデミックが園児の発達に与えた影響を調査した。発達状況は、Early Development Instrument(EDI)により、1)身体的健康およびウェルビーイング、2)社会的コンピテンス、3)感情的成熟度、4)言語・認知発達、5)コミュニケーション能力・一般知識の5領域について評価された。 その結果、2018〜2020年のパンデミック前コホート(11万4,359人)と比較して、2021〜2023年のパンデミック後コホート(8万5,827人)では、言語・認知発達(平均変化−0.45、95%信頼区間−0.48~−0.43)、社会的コンピテンス(同−0.03、−0.06~−0.01)、コミュニケーション能力・一般知識(同−0.18、−0.22~−0.15)が有意に低下していた。その一方で、感情的成熟度は有意に上昇していた(同0.05、0.03~0.07)。身体的健康およびウェルビーイングについては、有意な変化は見られなかった。 Perrigo氏らは、「言語と認知発達、コミュニケーション能力・一般知識の領域については特に影響が深刻だった。これはおそらくCOVID-19の公衆衛生対策によって必要となった学校閉鎖とオンラインでの学習環境が原因と考えられる。こうした措置により、子どもが、仲間や保護者ではない大人と日常的に関わる機会も制限された。このことが、本研究で観察された社会的コンピテンスのわずかな低下の説明になるかもしれない」と述べている。 その一方で、パンデミック中に園児の感情的成熟度は高まっていた。この点について研究グループは、「パンデミック中に、COVID-19による死者数、経済的負担、健康不安、ニュース報道などの大人にとってのストレス要因にさらされることが増えたことが、本研究で認められた感情的成熟度の上昇の原因かもしれない」と述べている。 研究グループは、こうしたネガティブな発達の傾向の多くはパンデミックが発生する前から存在していたが、その一部はパンデミック中に低下のペースが減速した」と指摘。「パンデミック発生後、コミュニケーション能力や一般知識、言語・認知発達、身体的健康の変化率は依然として低下しているものの、パンデミック発生前の期間よりも低下率が緩やかになった」と述べる。その上で、「これらの結果は、既存の課題とパンデミックによってもたらされた新たなストレス要因に幼児が対処するための政策の必要性を強調している」と結論付けている。

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食道がんリスクが平均赤血球容積でわかる?

 健康診断などでよく見る平均赤血球容積(MCV)は貧血の種類を判別する指標だが、食道がんの予測因子としても使えるようになるかもしれない。静岡県立総合病院消化器外科の佐藤真輔氏、静岡社会健康医学大学院大学の菅原照氏らの研究によるもので、食道がんの発症リスクが高血圧の既往や生活習慣などとともにMCVでも予測できる可能性があるという。研究の詳細は「PLOS One」に2月11日掲載された。 食道がんは予後不良のがんであり、2020年には世界で54万人が食道がんで死亡している。症例の多くは扁平上皮がんであり、日本や中国を含む東アジアでの発症率が特に高くなっている。食道の扁平上皮がんのリスク因子は飲酒と喫煙であることが報告されている。 MCVの数値も、多量の飲酒や喫煙により増加することが報告されていることから、食道がん発症の潜在的なバイオマーカーであることは示唆されていた。しかし、これまでの報告は、症例対照研究または単施設研究であったため、研究グループは大規模な日本国内のデータベースを使用し、より信頼性の高い後ろ向きコホート研究を行うこととした。 本研究では、静岡県市町国保データベース(SKDB)を利用した。解析データセットには、2012年4月~2020年9月までのSKDBより、適格性を満たす58万2,342人が含まれた。食道がんの発生は1,562人(0.27%)であり、ICD-10コードのC15によって特定された。共変量については、年齢、性別、BMI、現在の喫煙状況、飲酒状況、併存疾患、血液検査値とした。 対象患者全体の主な特徴は平均年齢が67.9±11.3歳、男性が42%だった。一方、食道がんを発生した患者の平均年齢は71.4±8.13歳であり、男性が80%を占めた。 単変量および多変量のCox比例ハザード回帰分析を実施した結果、高血圧、喫煙、収縮期血圧、飲酒、アルコール使用障害、BMI、LDLコレステロール、MCVが食道がん発症のリスク因子となった。 MCVの値を四分位範囲別に分類し、食道がんの累積発生率をみたところ、MCVの値が高くなるにつれて、食道がんの累積発生率も高くなっていた。また、条件付き推論ツリー解析によって求められた食道がん発症予測のカットオフ値は104.086fLであった。 本研究について、研究グループは、「喫煙と飲酒状況が詳細に分かるのであれば、これらは食道がんの予測因子として非常に有用だろう。しかし、喫煙や飲酒に関する自己申告は必ずしも正確ではない。そのような状況ではMCVの値が有用な予測因子となる可能性がある。また、喫煙や飲酒がリスク因子であることが知られている食道以外のがんに関しても、MCVはがん発症の指標となるかもしれない」と総括した。 予想されるMCVの運用については、「MCVが104fLを超える場合に、内視鏡検査を実施するのが適切と考える。採血のみで簡便に判定できるMCVは、患者負担の観点からも有用な指標となりうる」と述べた。 なお、本研究の限界点については、特定の地域のデータに基づいているため結果は一般化できないこと、データに含まれる飲酒量や喫煙量は自己申告に基づくため、想起バイアス・社会的望ましさバイアスの影響は排除できないこと、などを挙げている。

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鉄欠乏症心不全患者に対するカルボキシマルトース第二鉄の静注は、心不全入院と心血管死を有意に減少させなかった:The FAIR-HF2無作為化臨床試験-心不全治療において貧血は難題-(解説:佐田政隆氏)

 心不全では貧血を伴うことが多く、貧血は心不全の重要な予後規定因子である。心不全による貧血の進行の機序としては、慢性炎症、腎機能低下、体液貯留による血液希釈、鉄欠乏などが想定されているが、「心・腎・貧血症候群」として近年、問題視されており、その病態の悪循環を断つためにいろいろな介入方法が試みられているが、特効薬がないのが現状である。 鉄欠乏は心不全患者の半数以上に合併し、心不全症状や運動耐容能の低下、心不全入院、心血管死と関連することが報告されている。鉄欠乏状態を評価するため、2つの指標が用いられている。フェリチンは体内の鉄を貯蔵するタンパク質で、血液中のフェリチンの量を測定することで体内の鉄の貯蔵量を推定することができる。一方、血清鉄は、トランスフェリンというタンパク質に結合して搬送され、血清鉄/総鉄結合能✕100(%)が鉄飽和度(TSAT)と呼ばれ、血液中の鉄と結合しているトランスフェリンの割合を指し、鉄の過不足を判断する指標として用いられる。心不全患者の鉄欠乏の基準として、血清フェリチン<100ng/mL、または血清フェリチン100~300ng/mLかつTSAT<20%と定義されており、このような患者を対象にして鉄補充の有効性と安全性をみる数々の臨床研究が行われてきた。6分間歩行や最大酸素摂取量といったソフトエンドポイントでは有効性を示した報告が多いが、心血管死と心不全入院といったハードエンドポイントでは、有効性を示すことができなかった研究がほとんどである。 今回のFAIR-HF2研究でも、カルボキシマルトース第二鉄の静注は主要評価項目である心血管死+心不全入院を36ヵ月の経過観察期間中に、減らす傾向はあったが有意差を示すことはできなかった。患者のQOLや患者自身による全体的な健康評価の改善に寄与することは確認された。 このような状況下、2025年3月28日発表の日本循環器学会・日本心不全学会の心不全診療ガイドラインにおいて、「鉄欠乏を有するHFrEF/HFmrEF患者に対する心不全症状や運動耐容能改善を目的にした静注鉄剤を考慮する」ことが推奨クラスIIaとされている。しかし、鉄過剰は酸化ストレスの増加をもたらし、脱力感や疲労感を生じさせ、発がん性との関係も報告され、重症の場合は、肝硬変や糖尿病、勃起不全、皮膚色素沈着、糖尿病といったヘモクロマトーシス様の症状を呈する。漫然と鉄剤を投与するのではなく、血清フェリチンやTSATによる細目なモニターが重要である。 心不全患者では慢性炎症のためヘプシジンが上昇しており、フェロポルチンといったマクロファージ中の鉄の有効利用を促進するタンパク質の分解が生じ、鉄利用が障害されている。このため、単なる鉄剤の投与が貧血の改善につながらないことが多い。最近、貧血治療薬として経口のHIF-PH阻害薬が各社から発売され、保存期慢性腎臓病患者と透析患者で、ヘモグロビン上昇作用はESA製剤に非劣性であることが報告されている。HIF-PH阻害薬は、ヘプシジンの低下、鉄の利用促進作用があることも報告されており、今後、心腎貧血症候群の悪循環を断ち切って、心不全患者の予後改善効果のエビデンスがRCTで示されることが期待される。

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週2回貼付のアルツハイマー型認知症治療薬「リバルエンLAパッチ25.92mg/51.84mg」【最新!DI情報】第37回

週2回貼付のアルツハイマー型認知症治療薬「リバルエンLAパッチ25.92mg/51.84mg」今回は、持続放出性リバスチグミン経皮吸収型製剤「リバスチグミン(商品名:リバルエンLAパッチ25.92mg/51.84mg、製造販売元:東和薬品)」を紹介します。本剤は、わが国初の持続放出性のアルツハイマー型認知症の貼付薬であり、介護者の負担軽減やアドヒアランスの改善が期待されています。<効能・効果>軽度および中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制の適応で、2025年3月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはリバスチグミンとして1回25.92mgから開始し、原則として4週後に維持量である1回51.84mgに増量します。本剤は背部、上腕部、胸部のいずれかの正常で健康な皮膚に貼付します。原則として開始時は4日間貼付し、1枚を3~4日ごとに1回(週2回)貼り替えます。なお、貼付期間は4日間を超えないようにし、週2回行う本剤の貼り替えのタイミング(曜日)は原則固定します。<安全性>重大な副作用として、QT延長(1%未満)、狭心症、心筋梗塞、徐脈、房室ブロック、洞不全症候群、脳卒中、痙攣発作、食道破裂を伴う重度の嘔吐、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃腸出血、肝炎、失神、幻覚、激越、せん妄、錯乱、脱水(いずれも頻度不明)があります。その他の副作用は、接触性皮膚炎、適用部位紅斑、適用部位そう痒感(5%以上)、食欲減退、期外収縮、悪心、嘔吐、適用部位浮腫、適用部位皮膚炎、適用部位発疹、適用部位水疱、適用部位腫脹、体重減少(1~5%未満)、貧血、不眠症、幻視、易怒性、不整脈、心房粗動、高血圧、腹痛、蕁麻疹、適用部位皮膚剥脱、適用部位湿疹、適用部位蕁麻疹、しゃっくり、耳鳴(1%未満)、尿路感染、好酸球増加症、糖尿病、血尿、疲労、肝機能検査異常など(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、軽度および中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行を遅らせる薬です。2.この薬は、皮膚から有効成分が吸収される貼り薬(パッチ剤)です。3.初めに貼り替える曜日を決めて、1週間に2回、1回1枚、同じ時間に薬を貼り替えてください。4.背中、上腕、胸のいずれかの健康な皮膚に貼ってください。5.貼る場所は毎回変え、同じ場所に貼らないでください。6.貼り忘れに気付いたときは、気付いた時点で新しい薬を貼り、次からはいつもと同じスケジュールで貼り替えてください。<ここがポイント!>アルツハイマー型認知症は、認知症の原因の約6割を占める緩徐進行性の疾患で、記憶障害や複数の認知機能障害が特徴です。この認知機能の低下は、コリン作動性神経機能の低下と関連するといわれており、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が現在の治療の中心です。日本では、これらの薬剤は内服薬と貼付薬で販売されており、通常、1日1~2回の投薬が必要です。アセチルコリンエステラーゼおよびブチリルコリンエステラーゼの阻害薬であるリバスチグミンは、2011年4月に1日1回貼付の貼付薬として承認されました。貼付薬は投薬状況が可視化されるため、内服薬に比べて介護者の負担を軽減することができます。服薬管理の負担を一層軽減するために、さらなる投薬頻度の低減が求められていました。リバルエンLAパッチは、日本初の持続放出性リバスチグミン経皮吸収型製剤であり、週2回の貼付が特徴です。従来の毎日1回の貼付薬に比べ、アドヒアランス向上が期待されます。外国人健康成人57例を対象に、本剤の51.84mg製剤を週2回(4日間と3日間の交互)またはリバスチグミン貼付薬(1日1回貼付)の18mg製剤を1日1回、上背部に11日間反復経皮投与したとき、リバスチグミン貼付薬に対する本剤の幾何平均値の比は、Cmax96-264で1.051(90%信頼区間[CI]:0.984~1.124]、Cmin96-264で1.078(0.978~1.189]、Ctau_264で1.086(1.018~1.158)およびAUC96-264で1.136(1.073~1.203)でした。このことから、51.84mg製剤の週2回投与がリバスチグミン貼付薬の18mg製剤の1日1回投与と同程度の曝露量を示すことが確認されました。軽度および中等度アルツハイマー型認知症患者を対象とした無作為化二重盲検並行群間比較試験(国内第III相試験:NDT-2101試験)において、24週時のADAS-Jcogのベースラインからの変化量の最小二乗平均値は、本剤群で-0.54(95%CI:-1.150~0.065)、リバスチグミン貼付薬群で0.30(-0.306~0.900)で、変化量の群間差は-0.84(-1.695~0.016)でした。群間差の95%CIの上限が事前に設定した非劣性限界値1.1を下回ったことから、リバスチグミン貼付薬群に対する本剤群の非劣性が検証されました。

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脂肪性肝疾患の新たな分類とMASLDの概念・診断基準【脂肪肝のミカタ】第1回

脂肪性肝疾患の新たな分類とMASLDの概念・診断基準Q. 脂肪性肝疾患(SLD)の新たな分類とMASLD診断基準とは?2023年、欧米において脂肪性肝疾患(steatotic liver disease:SLD)の新たな分類が報告された。従来使用されてきた、fattyやalcoholicという表現が不適切であることから、病名変更が必要となり、エタノール摂取量を基準に大きく3つのグループに分類された。具体的には、以下の3群である(図1)1-3)。代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD)代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MASLD and increased alcohol intake:MetALD)、アルコール関連肝疾患(alcohol-associated [alcohol-related] liver disease:ALD)(図1) 脂肪性肝疾患(SLD)の新たな分類画像を拡大するこれらの英語病名は、欧州肝臓学会(EASL)/米国肝臓病学会(AASLD)/ラテンアメリカ肝疾患研究協会(ALEH)の専門家の意見を収集し、専門家が回答した意見を統計学的に分析・再評価を繰り返して、最終的に新しい診断基準や概念に関する合意を得たものである(Delphi consensus)。MASLDは、画像診断または組織学的に診断される脂肪性肝疾患(steatotic liver disease, SLD)のうち、心代謝系危険因子(cardiometabolic risk factor:CMRF、表1)を1つ以上有し、飲酒量はエタノール換算で女性<140g/週、男性<210g/週(女性<20g/日、男性<30g/日)かつ他の原因が関わるSLDを除く疾患である(図2)。(表1)MASLD診断における心代謝系危険因子(成人)5項目画像を拡大する(図2)MASLD診断のフローチャート画像を拡大する肥満、耐糖能異常、脂質異常症、血圧異常などの生活習慣病と相互に関連し、肝線維化の進行を来し、肝硬変や肝がんへと進展する。病状の進行には、環境要因と遺伝的要因が影響する。併存疾患として、心血管イベントや肝臓以外の悪性腫瘍なども関連し、全身疾患と考える必要がある。しかし、4人に1人がSLDと言われる時代において、全症例を組織学的に診断することは不可能である。よって、診断フローチャートのはじめに、画像診断と記載されたことは(図2)、将来的に非侵襲的な腹部超音波検査を含む画像診断の時代にシフトする可能性を示していると言える。Q. NAFLDからMASLDとなり、何が変わるのか?MASLDと非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)の対象の一致率は海外からの報告では99%である4)。本邦におけるメタボリック症候群(Mets)の腹囲基準は、男性≧85cm、女性≧90cmであるが、今回のSLDを診断する上でのCMRFにおける腹囲基準は、男性>94cm、女性>80cmと異なっている(表1)1-3)。しかし、本邦におけるMetsの腹囲基準を採用して検討してもその一致率は97%であることが確認された5)。結論的には、MASLDとNAFLD、そして組織学的診断に基づく代謝機能障害関連脂肪肝炎(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis:MASH)と非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis, NASH)は、概ね同じ概念であることが確認され、これまでNAFLD/NASHから創出された疫学、診断、治療に関するエビデンスは従来通り採用できることが確認された(図3)4,5)。(図3)NAFLDとMASLDの対象の比較画像を拡大するCMRFとしての腹囲基準はあくまでMASLD診断のための基準であり、本邦のMets基準とは区別して捉える必要がある。今後、CMRFの基準が、本邦でどれくらいの心血管系イベントリスクに繋がるのか検証することと、更なる妥当なカットオフ値が存在するのか検討していく必要がある。1)NAFLD Nomenclature consensus group. J Hepatol. 2023;79:1542-1556.2)NAFLD Nomenclature consensus group. Hepatology. 2023;78:1966-1986.3)NAFLD Nomenclature consensus group. Ann Hepatol. 2024;29:101133.4)Younossi ZM, et al. J Hepatol. 2024;80:694-701.5)Suzuki K, et al. Hepatol Res. 2024;54:600-605.

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呼吸器病の漢方治療ガイド プライマリ・ケアで役立つ50処方

呼吸器疾患の漢方がわかると診察力が大幅アップ外来医師必携の漢方処方ガイド。総論として、漢方の概念や考え方、診察方法、漢方薬の成り立ちと副作用、西洋薬と漢方薬の違い、呼吸器疾患に頻用する漢方薬の特徴、各論では、かぜ症候群、インフルエンザ、COVID-19などのウイルス感染症の急性期や遷延期治療、喘息、慢性閉塞性肺疾患、副鼻腔気管支症候群、逆流性食道炎、嚥下性肺炎、非定型抗酸菌症、肺に関する漢方治療を解説。さらに本書で解説のある50処方の適応イラストを掲載。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する呼吸器病の漢方治療ガイド プライマリ・ケアで役立つ50処方定価3,850円(税込)判型A5判(並製)頁数136頁(写真・図・表:119点)発行2025年4月著者加藤 士郎(筑波大学附属病院臨床教授)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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