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2型糖尿病合併慢性腎臓病におけるフィネレノン+エンパグリフロジン併用療法:アルブミン尿の著明な改善―CONFIDENCE研究は腎アウトカムの予測にも“CONFIDENT”といえるか?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? CONFIDENCE研究では、2型糖尿病(T2DM)に合併する慢性腎臓病(CKD)の初期治療において、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)であるフィネレノンと、SGLT2阻害薬(SGLT2i)であるエンパグリフロジンの併用療法が、それぞれの単独療法と比較して尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)を有意に低下させることが示された。これまで、フィネレノンとSGLT2iの併用療法をT2DMに伴うCKDの初期段階で評価したエビデンスは限られており、この点において本研究は新規性を有する。CONFIDENCE研究の背景 T2DMに伴うCKD患者に対する腎保護療法の第1選択は、ACE阻害薬やARBなどのRAS阻害薬である。これは、2000年代に実施されたRENAAL、IDNT、MARVAL、IRMA2といった大規模臨床試験によって裏付けられている。2015年以降、SGLT2iにおいて、EMPA-REG OUTCOME、CANVASなどの試験で心血管イベントや複合腎エンドポイント(EP)の改善が相次いで報告された。SGLT2iではさらに、DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYなどの試験により、非糖尿病性CKDに対しても心腎保護効果を有するエビデンスが蓄積されている。 一方、ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)については、2000年ごろにRALES(スピロノラクトン)やEPHESUS(エプレレノン)により、重症心不全や心血管死に対する有用性が示されたが、これらは腎関連のハードEPについては検討されていない。その後、新世代のnsMRAであるエサキセレノンおよびフィネレノンが開発された。このうち、エサキセレノンはT2DMに伴う早期CKD患者においてUACRの低下効果が認められているが、現在の適応は高血圧症のみであり、尿蛋白陽性例やeGFRが低下した症例では原則として使用できない。これに対しフィネレノンは、FIGARO-DKD、FIDELIO-DKD、そして両試験を統合解析したFIDELITYにおいて、心血管イベントおよび複合腎EPに対する有用性が示されている。なお、nsMRAとSGLT2i併用の同様の研究は、フィネレノンとダパグリフロジン併用でも行われ、UACRの相加的減少効果として報告されている(Marup FH, et al. Clin Kidney J. 2023;17:sfad249.)。 これらのエビデンスを踏まえ、2024年のKDIGOガイドラインでは、フィネレノンはRAS阻害薬およびSGLT2iに上乗せ可能な薬剤として、T2DMに伴うCKDの早期における心・腎保護の「新たな選択肢」として推奨されている(推奨の強さ:弱い、エビデンスレベル:高い、リスクとのバランスを考慮したうえでの判断)(Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。病態生理学的見地から、T2DMに合併するCKDにはミネラルコルチコイド受容体(MR)の過剰活性化が心・腎障害を惹起することから、MR抑制効果の優れたnsMRAに対する理論的期待は大きい。 CONFIDENCE研究は、以上の背景を踏まえ、フィネレノンとSGLT2iの併用療法の有効性および安全性を評価することを目的として実施された。登録症例数は約800例、観察期間は180日間である。腎疾患領域の臨床研究の課題 腎疾患領域における臨床研究の報告数は、循環器系や神経系など、他の医学分野と比較してきわめて少ない(Palmer SC, et al. Am J Kidney Dis. 2011;58:335-337.)。その主な要因としては、CKDにおいて治療目標となるバイオマーカーが乏しいこと、CKDステージ早期と末期で適切な腎予後のサロゲートEPを設定する必要があること、などが挙げられている。CKDにおける「真のEP」としては、透析導入、腎関連死、腎不全などがある。一方で、サロゲートマーカーとしては、血清クレアチニン(Cr)の倍加速度、推算糸球体濾過量(eGFR)、eGFRの40%以上の低下などが用いられ、これらは複合腎EPとして適宜設定される。UACRは、容易に短期間でも観察可能なサロゲートマーカーであり、研究費の削減や実施期間の短縮に資する利便性も高い。しかしながら、サロゲートEPは本来、真のEPと強く関連していなければ優れた予後予測因子とはいえない。この点において、UACRは早期のマーカーとしては、UACR>300mg/g・Crを超える腎疾患以外は適切な腎アウトカムの予測因子とまではいえない(濱野高行. 日本腎臓学会誌. 2018;60:577-580.)。 本論文の著者の1人であるHeerspink氏は、本試験で仮に複合腎EPを評価項目とする場合は4万例以上のサンプルサイズと長期観察が必要となること、またUACRは優れたサロゲートではないものの一定の予測的価値があること、などを踏まえ、UACRを主要評価項目として採用したと述べている。CONFIDENCE研究からのメッセージと今後の方向性 CONFIDENCE研究は、「腎アウトカムの予測にも“CONFIDENT”といえるか?」―この問いには議論が必要である。Agarwal氏はイベントリスクに対する媒介解析の結果から、フィネレノンを用いた早期介入による複合腎イベント低下の多くの部分がUACR抑制作用により媒介されていることから、アルブミン尿抑制の重要性を強調している(Agarwal R, et al. Ann Intern Med. 2023;176:1606-1616.)。また、2025年6月に開催された欧州腎臓学会においても、短期的なUACRの変化が長期的な腎保護効果と関連することに言及し、「併用療法の新時代が到来した」との論調の講演もあった(Liam Davenport. Medscape. June 5, 2025.)。 しかしながら、「フィネレノン+SGLT2iの早期導入によるUACR低下」を「長期的な腎アウトカムを改善すること」に全面的に外挿するのは無理がある。ちなみに、本研究でeGFRの初期低下(Initial drop or dip)に注目すると、14日目において併用群では−6.1mL/分/1.73m2の低下がみられた(SGLT2i単独群では−4.0mL/分/1.73m2)。この併用群におけるInitial drop後のeGFRスロープには、観察期間である180日目においては緩徐化がみられず、この点からは腎保護効果は支持されない。一方で、有害事象の観点からは、一定のメリットが示唆される。高カリウム血症の発現率は、併用群で25例(9.3%)、フィネレノン単独群で30例(11.4%)と、併用群で15~20%程度相対的に低下していた。これは、SGLT2iが高カリウム血症のリスクを抑制する可能性を示した先行研究の知見と一致しており、一定のベネフィットとして評価できる可能性がある。 今後、フィネレノンとSGLT2iの早期併用による腎保護効果の有無を明らかにするためには、長期間かつ大規模に複合腎EPを設定した追試検証が必要と思われる。

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毎日を快適に【Dr. 中島の 新・徒然草】(587)

五百八十七の段 毎日を快適に急に暑くなりましたね。「梅雨はもう終わりかい!」と思っていたら、近畿地方ではすでに、2025年6月27日に梅雨明けになっていたみたいです。なんと1976年からの記録で、6月に梅雨が明けたのは初めて!こんなに短い梅雨だと、農作物の収穫の時に影響が出たりしないのでしょうか。ちょっと心配になってしまいます。さて、私が最近心掛けているのが「機嫌良く暮らす」ということ。ハリウッド映画のような豪邸に住み、高級車に乗るといった成功を達成したとしても、人間関係の悩みを抱えていたら幸せとはいえません。何といっても、日々を機嫌良く過ごすことが幸せの基本ではないでしょうか。そんなことを感じている中、最近体験した小さな幸せを4つ紹介したいと思います。まずは、夏用の室内スリッパを買ったこと。以前から、私は自宅ではスリッパを履いていました。裸足で歩くと、家具や壁の角に足の小趾をぶつけて、痛い思いをすることがあるためです。これまで履いていたものは冬物だったため、蒸し暑いうえに長年の使用で履き心地が悪くなっていました。そこで、アマゾンでメッシュ素材の夏用スリッパを購入したところ、足元が驚くほど涼しくなり、快適そのものです。おかげで自宅にいる時間の気分が良くなりました。次に調子良くなったのは、普段着を買い替えたことです。現役時代は自宅を出て職場に向かい、病院に着いたら白衣に着替えていました。帰宅したらすぐにパジャマになって寝るので、普段着の機会はほとんどありません。しかし退職後は自宅で過ごす時間が長くなり、買い物や散歩などちょっとした外出で、普段着が必要になりました。そこで、涼しげな素材のものをまとめて購入し、どんな日でも気持ちよく着て過ごしています。大したことではありませんが、気分が良くなりました。3つ目は、長年使っている口腔洗浄機(ジェットウォッシャー)を修理できたこと。口腔洗浄機というのは、ジェット水流の水圧を利用して、歯間や歯茎の隙間を洗浄する口腔ケアツールです。何年も使ってきたのですが、いつのまにかチューブの途中から水漏れするようになってしまいました。最初は水漏れ部位にテープを貼ったりしてごまかしていましたが、水漏れは1ヵ所ではないようで、使うたびにその辺がビショビショになってしまいます。いっそ新しいものを買おうとも思ったのですが、価格が4万円近くするうえに、チューブの不具合ごときで、本体を含めて丸ごと交換というのも、もったいない話。このチューブ問題は皆の共通の悩みのようで、YouTubeで調べてみると、いろいろな対策動画がアップされています。中には別のチューブを流用するというものもありました。このチューブは700円ほどと安いものですが、30分ほどかけて本体を分解して交換する必要があります。本体を分解などという大それたことをして、ちゃんと元通りに組み立てることができるのか、私にはまったく自信がありません。そう思いながら、さらに別の動画を見ていると、チューブ+先端部分の交換パーツが3,500円ほどで売られていることに気づきました。この交換だったら、ネジ2本を緩めて5分ほどで済むとのことで、私にもできそうです。というわけで、早速この交換パーツを購入してみました。作業は、ネジ2本を緩めて、パーツを交換して締め直すというだけ、本当に5分で終了。スイッチを入れてみると、水漏れもなく快調に動いています。というわけで、再び口腔洗浄の日々に戻ることができました。最後は愛用の靴のこと。長年履いているうちに靴底がすり減ったばかりか、一部がめくれ上がって、歩くたびにペランペランと地面に引っ掛かります。さすがにこのままでは歩きにくいため、リペアサービスに持ち込みました。「よくこんなに擦り減るまで履きましたね」と店員さんに驚かれたり、感心されたり。店から貸してもらったスリッパを履いて座って待っていると、30分ほどで靴底の交換が済みました。さすがに新品の靴底は快適です。足元がしっかりして、外出も楽しくなりました。これらはどれも些細なことですが、こうした工夫や修理を通じて、毎日を気分良く過ごしています。近ごろ流行っている「ウェルビーイング」とは、このことかもしれません。読者の皆さまの参考になれば幸いです。ということで最後に1句快適ぞ あれこれ直した 梅雨明けは

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診療科別2025年上半期注目論文5選(循環器内科編)

Pulsed Field or Cryoballoon Ablation for Paroxysmal Atrial FibrillationReichlin T, et al. N Engl J Med. 2025;392;1497-1507.<SINGLE SHOT CHAMPION試験>:心房細動へのアブレーション、パルスフィールドか冷凍バルーンか心房細動へのアブレーションは本邦でも普及しています。従来の高周波や冷凍バルーンによる熱的アブレーションは、組織特異性が低く心筋周辺組織への影響が問題でした。非熱的アブレーション法であるパルスフィールドアブレーションを評価した研究です。冷凍バルーンに比べ、パルスフィールドアブレーションが再発予防効果において非劣性を示しました。この新技術の普及に弾みがつくのか注目されます。Lorundrostat Efficacy and Safety in Patients with Uncontrolled HypertensionLaffin LJ, et al. N Engl J Med. 2025;392;1813-1823.<Advance-HTN試験>:治療抵抗性高血圧へのアルドステロン合成酵素阻害薬に注目コントロール不良の治療抵抗性高血圧への新規降圧薬であるアルドステロン合成酵素阻害薬のlorundrostat(ロルンドロスタット)を評価した研究です。24時間平均収縮期血圧を有意に低下させ、安全性も許容範囲内にあると報告されました。難治性高血圧の患者は一定数存在します。循環器領域で血圧管理は本質的な命題であり、降圧薬開発は永続的なテーマです。Efficacy and safety of clopidogrel versus aspirin monotherapy in patients at high risk of subsequent cardiovascular event after percutaneous coronary intervention (SMART-CHOICE 3): a randomised, open-label, multicentre trialChoi KH, et al. Lancet. 2025;405;1252-1263.<SMART-CHOICE 3試験>:PCI患者のSAPTはクロピドグレルかアスピリンかPCI患者のDAPT完了後の抗血小板薬の単剤療法(SAPT)は、従来から慣れ親しんだアスピリンなのか、P2Y12阻害薬のクロピドグレルなのかは古くて新しい課題です。韓国で虚血イベント再発高リスク患者を対象にして施行されたこの無作為ランダム化試験では、クロピドグレル群で出血を増加させずに全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合リスクの低下をもたらしたことを報告しました。Cardiac Arrest During Long-Distance Running RacesKim JH, et al. JAMA. 2025;333;1699-1707.<RACER 2研究>:マラソンでの心停止は減少も一定数発生、冠動脈疾患が最多マラソン中の心停止の発生率と転帰を調べた臨床研究。2012年にNEJM誌に発表されたRACER1研究の続報的な内容です。2010~23年の間に米国で公認されたフルマラソンとハーフマラソン443大会での走行中の心停止事故は、2000~10年を対象としたRACER 1と比して発生率は同じでしたが心臓死は半減していました。原因は冠動脈疾患が最多でした。日本では市民参加型マラソン大会が全国各地で開催されており、参考になるデータと思われます。Phase 3 Open-Label Study Evaluating the Efficacy and Safety of Mavacamten in Japanese Adults With Obstructive Hypertrophic Cardiomyopathy - The HORIZON-HCM StudyKitaoka H, et al. Circ J. 2024;89:130-138.<HORIZON-HCM試験>:閉塞性肥大型心筋症の治療を変革する新規薬剤の日本人データ閉塞性肥大型心筋症(HCM)の選択的心筋ミオシン阻害薬であるマバカムテンの治療効果を日本人で検証した臨床研究です。30週の時点での有効性・安全性・忍容性について報告しています。2024年12月25日論文掲載であり、2024年下半期ではなく今回の2025年上半期での紹介となりました。2025年3月の日本循環器学会年次集会で54週のデータも報告されています。本邦の実臨床でも使用可能となったばかりの新規薬剤であり、今後も注目していきたいところです。

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尿路感染症へのエコー(1):虚脱膀胱の観察【Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第1回

尿路感染症へのエコー(1):虚脱膀胱の観察本連載では、私のこれまでの臨床経験を基に、在宅診療におけるエコーの有効な使い方について、詳しく解説します。とくに、在宅診療で即実践できるスキルに焦点を当て、日常診療の現場で役立つ技術をお伝えします。使用するのは、持ち運び可能なワイヤレスのポケットエコーで、タブレットやスマートフォンにリアルタイムで画像を表示できるため、非常に便利です。発熱のフレームワークを知る在宅医療において最も頻繁に診療依頼を受ける理由の第1位は「発熱」です。そして、発熱の原因としてとくに多いのは以下の3つです。1位肺炎・気管支炎・誤嚥性肺炎高齢者では、年齢による免疫力の低下により発症しやすく、とくに在宅医療の現場では重要な要因となります。2位皮膚軟部組織感染症創傷感染や蜂窩織炎など、皮膚に関連する感染症も頻繁にみられます。3位尿路感染症高齢者では無症候性のことも多く、発熱をきっかけに診断されることが少なくありません。在宅医療では、発熱があると往診を求められるケースが多いですが、病院のようにレントゲンやCTを気軽に利用することはできません。そこで、画像検査の選択肢としてエコー(超音波検査)を活用することが重要になります。ただし、何でもエコーを用いるのではなく、適切に取り入れながら使用することが大切です。本連載では発熱の原因の3位に挙げた尿路感染症と胆道系感染症の2つに焦点を当てます。これらは、高齢者の菌血症の原因として最も多く、在宅での対応が難しくなるケースが多いため、エコーを用いることで診断および治療方針の決定に役立ちます。まずは、尿路感染症による発熱患者の評価におけるエコーの活用法を5段階のステップに分け、第1~3回で解説していきます。本連載を通じて、発熱の診断におけるエコーの有効性を理解し、実践的なスキルを身につけていただければと思います。虚脱膀胱を描出する「膀胱なんて簡単に描出できる」と思われる先生も多いかもしれませんが、なかには描出が難しかったということもあるのではないでしょうか。通常であれば尿を溜めておくよう指示を出すこともできますが、在宅の患者に急に呼び出された場合は、排尿後であったということもあります。では、早速ですが手技をみていきましょう。ポイントは「ズボンをギリギリまで下げて、恥骨のすぐ上にプローブを当てること」です。膀胱が虚脱すると、そのスペースに腸管が入り込んでしまい、観察しにくくなります。しかし、恥骨の境界から追うことで、虚脱した膀胱でもエコーで容易に描出することができます。また、観察する際は1断面だけから判断せずに短軸・長軸の両方で観察すること、男女の解剖学的な構造物の差を理解することも重要です。それでは、次回は「尿管口からの尿ジェットの観察」「カラードプラによる腎盂・尿管の観察」について紹介します。

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腰痛リスクが低下する1日の歩行時間は?

 ウォーキングと慢性腰痛リスクとの関連性を調査した前向きコホート研究の結果、慢性腰痛の予防においては歩行時間のほうが歩行強度よりも重要な要素である可能性が示された。1日の歩行時間が長いほど慢性腰痛のリスクが低く、1日の歩行時間が101分超の参加者は78分未満の参加者と比較して慢性腰痛リスクが23%低かったことを、ノルウェー科学技術大学のRayane Haddadj氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2025年6月13日号掲載の報告。 定期的な身体活動は慢性腰痛を軽減する可能性が示唆されているが、ウォーキングと慢性腰痛リスクとの関連性は明らかではない。そこで研究グループは、ノルウェーの人口ベースのHUNT4研究(2017~19年)の参加者1万1,194人を対象に、加速度計を用いて計測した1日の歩行時間と歩行強度(MET)が、その後の慢性腰痛の発症リスクと関連するかどうかを調べた。追跡期間は約4.2年で、慢性腰痛は過去12ヵ月間に3ヵ月以上継続した腰痛と定義した。 主な結果は以下のとおり。●参加者の平均年齢は55.3歳で、女性は6,564人(58.6%)であった。●追跡期間中に1,659例(14.8%)が慢性腰痛を報告した。●1日の歩行時間は慢性腰痛のリスクと逆相関していた。歩行時間が78分/日未満(第1四分位)の参加者と比較した場合の相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 ・78~100分/日のRR:0.87(95%CI:0.77~0.98) ・101~124分/日のRR:0.77(95%CI:0.68~0.87) ・125分以上/日のRR:0.76(95%CI:0.67~0.87)●歩行時間と慢性腰痛リスクとの関連性は、65歳以上でより強く認められた。●性別との関連性は認められなかった。●歩行強度が高いことも慢性腰痛リスクの低下と関連していたが、1日の歩行時間で調整するとこの関連性は弱まった。

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日本人うつ病におけるブレクスピプラゾールの費用対効果

 うつ病患者の約半数は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)で十分な治療反応が得られていない。このような患者では、ブレクスピプラゾール補助療法が治療候補となりうる。大塚製薬のYilong Zhang氏らは、日本におけるSSRI/SNRI治療抵抗性うつ病患者に対するブレクスピプラゾール補助療法の費用対効果を検証した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2025年5月27日号の報告。 日本の公的医療保険制度の観点から、SSRI/SNRI治療抵抗性うつ病患者を対象に、SSRI/SNRIの補助療法としてブレクスピプラゾールまたはプラセボを併用した際の費用対効果を分析した。追加の解析では、ブレクスピプラゾール投与開始時期を、8週目(早期追加)および14週目(後期追加)に追加した場合の比較も行った。ブレクスピプラゾールの臨床試験に参加した患者コホートより、合計67週間にわたりフォローアップ調査を行った。 主な結果は以下のとおり。・ブレクスピプラゾールの早期追加群は、プラセボ群または後期追加群と比較し、費用対効果が良好であった(支払い意思額[WTP]閾値:500万円/QALY)。・ブレクスピプラゾールの早期追加群は、プラセボ群と比較し、増分費用15万5,762円、0.037QALYの延長が認められ、増分費用対効果比(ICER)は430万円/QALYであった。・ブレクスピプラゾールの早期追加群は、後期追加群と比較し、総費用3,663円、0.008QALYの延長が認められ、ICERは46万円/QALY相当であった。・本研究の限界として、モデリングの対象範囲が試験期間に限定されていたため、ブレクスピプラゾールの長期的なベネフィットが考慮されていない点、早期追加群と後期追加群との比較におけるQALYの増加に関する不確実性が挙げられる。 著者らは「SSRI/SNRI治療抵抗性のうつ病患者に対するブレクスピプラゾールは、とくに早期実施した場合、費用対効果の高い補助療法であることが確認された」と結論付けている。

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がん診療に明日から役立つtips満載、第15回亀田総合病院腫瘍内科セミナー【ご案内】

 2025年7月20日(日)に、第15回亀田総合病院腫瘍内科セミナーが御茶ノ水での現地開催とWeb上のLIVE配信のハイブリッド形式で開催される。白井 敬祐氏(ダートマス大学腫瘍内科)、中村 能章氏(Department of Oncology, University of Oxford)、佐田 竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科感染制御学)を講師として迎え、がん診療における臨床推論、救急対応、感染症、コミュニケーション方法など幅広い領域を扱う。亀田総合病院腫瘍内科スタッフによる、ベッドサイドで役立つ「実臨床における思考過程」を解説する講座も用意されており、がん診療において明日から役立つtipsを学ぶことができる内容となっている。 開催概要は以下のとおり。開催日時:2025年7月20日(日)9:30~17:00※セミナー終了後には、御茶ノ水周辺で懇親会を予定(現地参加者のみ対象)場所:御茶ノ水ソラシティ対象:医学生、初期研修医、後期研修医、総合内科医 のほか、がん診療に興味を持っているすべての医療従事者定員:現地40人(数席追加予定)、オンライン200人受講料:現地参加・オンライン参加いずれも2,000円※現地参加の方には,昼食(お弁当)を用意※懇親会は無料で参加可能※いずれも事前振り込み申込締切:7月11日(金)※キャンセルポリシー7月11日(金)まで:全額返金(手数料申込者負担)7月12日(土)から:返金不可■参加登録はこちら◆セミナー参加者への特典◆・開催後に期間限定でオンデマンド配信を視聴可能・大山氏、白井氏、佐田氏も現地で講演予定。今後のキャリアなどに関する相談も可能(現地参加者のみ)。【プログラム】※スケジュールや講演内容は、一部変更になる可能性があります。9:00 開場9:30~10:20がん薬物療法のエッセンス(亀田総合病院腫瘍内科 部長 大山優)10:30~11:20チーム医療の31のTipsとがん診療で(以外でも)使える(かもしれない)裏技~すぐ怒る医者VSつっけんどんな看護師~(米国ダートマス大学腫瘍内科 教授 白井敬祐)11:30~12:00腫瘍×循環器~EFだけじゃだめですか~(亀田総合病院腫瘍内科 木村恵理)12:05~12:20 研修プログラム説明12:20~13:00 昼食13:00~13:30Oncologic Emergency~腫瘍救急24時~(亀田総合病院腫瘍内科 藤森賢)13:40~14:10がん患者のAdvance Care Planning(亀田総合病院腫瘍内科 横溝加奈子)14:20~15:10抗腫瘍療法における感染症診療update(大阪大学大学院医学系研究科感染制御学 佐田竜一)15:20~15:50症例から学ぶ腫瘍免疫~irAEの多彩な世界~(亀田総合病院腫瘍内科 小口億人)16:00~16:50My Journey in Oncology:がんの克服を目指して(Department of Oncology, University of Oxford 中村能章)17:00 閉会18:00~20:00 @御茶ノ水付近懇親会(途中参加・退室可能)【お問い合わせ先】亀田総合病院腫瘍内科事務局e-mail:oncology.medical@kameda.jp

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僧帽弁逆流症、MTEER後の予後予測にNT-proBNPが有用

 一次性(器質性)僧帽弁逆流症(Primary Mitral Regurgitation:PMR)に対する経皮的僧帽弁接合不全修復術(MitraClipによるMTEER)を受ける患者のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)を用いた予後予測の真価は不明である。今回、PRIME‐MR Investigatorsのドイツ・ケルン大学のPhilipp von Stein氏らは、MTEERを受けたPMR患者のNT-proBNPが、3年以内の死亡または心不全入院と独立して関連していたことを明らかにした。European Journal of Heart Failure誌オンライン版2025年6月18日号掲載の報告。 PRIME-MRは、MTEER治療を受けたPMR患者3,083例を対象とした、後ろ向き国際多施設レジストリ。本研究では、NT-proBNPとPMR患者の臨床転帰との関連性を評価し、死亡リスク層別化ツールであるMitral Regurgitation International Database(MIDA)スコアの付加価値として検討した。対象患者はNT-proBNPの追跡調査が可能な1,382例(年齢中央値:81歳、女性:47%、NYHA心機能分類III/IV:82%、EuroSCORE IIのスコア中央値:4.1%)で、患者はベースラインのNT-proBNP三分位に基づき、T1(第1三分位)、T2(第2三分位)、T3(第3三分位)の3群に層別化された。主要評価項目は3年以内の死亡または心不全入院であった。 主な結果は以下のとおり。・1,102例の追跡調査(中央値:2.41年)において、NT-proBNPの中央値は1,991pg/mL(T1:578pg/mL、T3:6,285pg/mL)で、384例(48.5%)が主要評価項目に到達、NT-proBNPの高三分位群で達成率が高かった(T1:40.0%、T2:46.8%、T3:58.1%)。・T1患者は、T2およびT3患者と比較してイベント発生率が有意に低く、同様にT2患者はT3患者と比較してイベント発生率が有意に低かった。・対数変換されたNT-proBNPは、NYHAクラス、ヘモグロビン、クレアチニン、心房細動で調整後、主要評価項目を独立して予測した(調整ハザード比[HR]:1.17、95%信頼区間[CI]:1.07~1.28、p<0.001)。・修正MIDAスコア(中央値:9)を有する1,041例において、当初、修正MIDAスコアは主要評価項目と関連していた(調整HR:1.10、95%CI:1.04~1.17、p=0.002)が、NT-proBNP値で調整すると有意性は失われた。一方、NT-proBNPは依然として独立した予測因子であった(調整HR:1.20、95%CI:1.07~1.34、p=0.002)。 研究者らは「NT-proBNPを臨床評価に組み込むことで、PMR患者のリスク層別化が改善され、NT-proBNPが低い場合の早期介入による臨床転帰の最適化が期待される」としている。

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バレット食道の経過観察、カプセルスポンジ検査が有用/Lancet

 英国・ケンブリッジ大学のW Keith Tan氏らDELTA consortiumは、食道全体から細胞を採取するデバイス(カプセルスポンジ)とバイオマーカーを組み合わせて、患者を3つのリスク群に層別化する検査法を開発し、英国の13施設にて2つの多施設前向きプラグマティック実装試験の一部として評価した結果、このリスク分類に基づく低リスクのバレット食道患者の経過観察では、内視鏡検査の代わりにカプセルスポンジを使用可能であることを明らかにした。内視鏡検査による経過観察はバレット食道の臨床標準であるが、その有効性は一貫していなかった。Lancet誌オンライン版2025年6月23日号掲載の報告。臨床・カプセルスポンジいずれも陰性を低リスク群と定義 研究グループは、integrateD diagnostic solution for EarLy deTection of oesophageal cAncer (DELTA)研究およびNHSイングランド(National Health Service England[NHSE])の実装パイロット研究に参加した、非異形成バレット食道と診断され英国のガイドラインに従って経過観察を受けている18歳以上の連続症例を対象に、カプセルスポンジ検査を実施した。 採取したすべての検体はISO-15189認定検査施設にて中央評価し、年齢・性別・バレット食道長に基づく臨床バイオマーカーと、カプセルスポンジバイオマーカー(HE染色[正常、異形成、意義不明の異型]、ならびにp53染色[正常、不明瞭、過剰発現])に基づき、低リスク(両バイオマーカー陰性)、中リスク(臨床バイオマーカー陽性、カプセルスポンジバイオマーカー陰性)、高リスク(臨床バイオマーカーに関係なくカプセルスポンジバイオマーカー陽性[異形成またはp53過剰発現、あるいはその両方])に分類した。 主要アウトカムは、各リスク分類群における、治療を要する高度異形成またはがんの診断とした。低リスク群の高度異形成またはがんの有病率は0.4% 2020年8月~2024年12月に910例が登録された(DELTA研究505例、NHSE研究405例)。910例のうち138例(15%)が高リスク、283例(31%)が中リスク、489例(54%)が低リスクであった。 高リスク群において、あらゆる異形成またはがんの陽性的中率は37.7%(95%信頼区間[CI]:29.7~46.4)であった。高リスク群の中でも腺異型とp53異常の両方を有する集団は、高度異形成またはがんのリスクが最も高かった(低リスク群に対する相対リスク:135.8、95%CI:32.7~564.0)。 低リスク群における高度異形成またはがんの有病率は0.4%(95%CI:0.1~1.6)であり、あらゆる異形成またはがんの陰性的中率は97.8%(95%CI:95.9~98.8)、高度異形成またはがんの陰性的中率は99.6%(98.4~99.9)であった。 DELTA研究コホートにて機械学習アルゴリズムをテストしたところ、デジタル病理ワークフローの一環として機械学習アルゴリズムを用いることでp53病理診断を要する症例の割合を32%にまで減少させることができ、かつ陽性症例の見逃しはなかったことが示された。

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インスリン未治療の2型糖尿病、efsitora vs.グラルギン/NEJM

 インスリン治療歴のない2型糖尿病成人患者において、insulin efsitora alfa(efsitora)週1回固定用量投与はインスリン グラルギン(グラルギン)1日1回投与と比較し、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の改善に関して非劣性であることが示された。米国・Velocity Clinical Research at Medical CityのJulio Rosenstock氏らQWINT-1 trial investigatorsが、米国、アルゼンチン、メキシコの71施設で実施した52週間の第III相無作為化非盲検treat-to-target試験「QWINT-1試験」の結果を報告した。これまでのtreat-to-target試験では、基礎インスリンの用量調整は少なくとも週1回、空腹時血糖値に基づいて行われてきたが、efsitoraは週1回投与の基礎インスリンであり、インスリン治療歴のない2型糖尿病成人患者において有用である可能性があった。NEJM誌オンライン版2025年6月22日号掲載の報告。52週時のHbA1c変化量に関し、efsitoraのグラルギンに対する非劣性を評価 研究グループは、インスリン治療歴のない2型糖尿病の成人患者(18歳以上、HbA1c値7.0~10.0%、BMI値45.0以下)を、efsitora週1回皮下投与群(efsitora群)またはインスリン グラルギンU100の1日1回皮下投与群(グラルギン群)に1対1の割合で無作為に割り付け、52週間投与した。 efsitora群では、週1回100Uから投与を開始し、目標空腹時血糖値を80~130mg/dLとして、必要に応じて4週間ごとに150U、250U、400Uのいずれかの固定用量に調整した。グラルギン群では、同様の目標血糖値で、従来の投与アルゴリズムに従って週1回以上の頻度で用量調整を行った。 主要エンドポイントは、52週時のHbA1c値のベースラインからの変化量で、非劣性マージンは群間差の両側95%信頼区間(CI)の上限が0.4%とした。最小二乗平均変化量は-1.19%vs.-1.16%、群間差-0.03%(95%CI:-0.18~0.12) 2023年1月14日~2024年7月17日に1,148例がスクリーニングされ、適格基準を満たした795例が無作為化された(efsitora群397例、グラルギン群398例)。 HbA1c値は、efsitora群ではベースラインの8.20%から52週時には7.05%に低下し(最小二乗平均変化量:-1.19%)、グラルギン群では8.28%から7.08%に低下した(最小二乗平均変化量:-1.16%)。推定群間差は-0.03%(95%CI:-0.18~0.12)であり、efsitoraのグラルギンに対する非劣性が示されたが、優越性は示されなかった(p=0.68)。 臨床的に重要な低血糖(54mg/dL未満)または重症低血糖(レベル3:治療のために介助を必要とする)の発現頻度は、efsitora群のほうがグラルギン群に比べて低かった(efsitora群0.50件/人年vs.グラルギン群0.88件/人年、推定発生率比:0.57[95%CI:0.39~0.84])。 52週時における平均インスリン総投与量は、efsitora群で289.1U/週、グラルギン群で332.8U/週(推定群間差:-43.7U/週、95%CI:-62.4~-25.0)、用量調整回数の中央値はそれぞれ2回および8回であった。

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両側乳がん、ホルモン受容体の有無でDFSに差~多施設後ろ向き研究

 両側乳がんはきわめて少なく、臨床的特徴に関するデータは限られている。今回、トルコ・Dr. Abdurrahman Yurtaslan Ankara Oncology Training and Research HospitalのBerkan Karabuga氏らが、両側乳がんを同時性(SBBC)と異時性(MBBC)に分けて臨床病理学的特徴や生存アウトカムを検討したところ、無病生存期間(DFS)は2群間で有意差はなかったが、5年全生存(OS)率はMBBC群のほうが有意に高かった。また、両側乳がん全体として、ホルモン受容体(HR)陰性がDFS短縮の独立したリスク因子として特定された。Medicina誌2025年6月号に掲載。 この多施設後ろ向き研究では、2015~24年に6施設で治療および追跡調査された125例をSBBCとMBBCに分け、臨床病理学的特徴、DFS、5年OS率などを評価した。 主な結果は以下のとおり。・DFSはSBBC群で5.7年、MBBC群で5.6年であった(p=0.95)。・5年OS率はMBBC群(95.2%)がSBBC群(80.7%)より高かった(p = 0.035)。・コホート全体で、HR陰性がDFSを短縮する独立したリスク因子であった(ハザード比:0.55、95%信頼区間:0.31~0.98、p=0.04)。・SBBC群とMBBC群において、HRの有無、浸潤性小葉がんの存在、再発/転移の状況、2つの原発腫瘍での分子サブタイプの不一致に関して有意差が認められた。

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衝突被害軽減ブレーキは歩行者の重傷事故リスクを低減させる

 乗用車に搭載されている衝突被害軽減ブレーキ(AEB)は、警告音や自動のブレーキ制御によって、衝突事故の回避や被害の軽減を支援する装置である。国内では、2021年11月から国産の新型車にAEBの搭載が義務化されている。今回、AEBは事故発生時に歩行者の重傷度を軽減する可能性があるとする研究結果が報告された。東京大学医学部・大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学の稲田晴彦氏らの研究によるもので、詳細は「Accident Analysis & Prevention」に5月10日掲載された。 2023年のWHOの報告では、交通事故による年間死亡者数は119万人(人口10万人あたり15人)と推定されている。これらの死亡者のうち、約30%は歩行者および自転車利用者が占めているが、日本国内でも同様の傾向が見られる。2024年に警察庁交通局の発表したデータによると、2023年の衝突事故後30日以内に死亡した3,263人のうち、1,211人(37%)が歩行者であり、500人(15%)が自転車利用者だった。こうした交通事故の被害軽減のため、自動車メーカーはAEBのような衝突回避システムを搭載した車両の開発・普及を進めてきた。過去には、AEBが歩行者や自転車利用者の事故の重傷度を軽減することがシミュレーション研究では示されているものの、現実世界の事故データを用いた研究ではサンプルサイズや効果推定値の信頼区間の問題から決定的な結論を出すには至っていない。このような背景を踏まえ、筆者らは、AEBが交通事故における歩行者と自転車利用者の負傷重傷度を軽減しているかどうかを検証するために、警察庁の報告データを用いた横断研究を実施した。 警察に報告された交通事故に巻き込まれた歩行者と自転車利用者数に関するデータは、公益財団法人交通事故総合分析センターを通じて入手した。本研究では、2016年~2019年までの車両対歩行者および車両対自転車のうち、車両の運転手に主な過失が認められた負傷事故データに限定した。対象車種はオプションでAEBシステムを搭載するベストセラーの6車種(具体的な車種名は非公開)とした。 調査期間中、4,131人の歩行者と6,659人の自転車利用者が対象6車種のいずれかで負傷事故に巻き込まれていた。歩行者4,131人のうち、2,760人がAEB搭載車、1,371人がAEB非搭載車と衝突事故を起こしていた。歩行者の「死亡または重傷」の割合は、AEB搭載車で16.7%(461/2,760)非搭載車で21.3%(292/1,371)だった。自転車利用者については、この割合は、AEB搭載車、非搭載車でそれぞれ8.0%(350/4,392)、8.1%(184/2,267)だった。 次に、AEBの有無と事故による負傷重傷度(死亡または重傷)との関連を検討した。車種、運転者の性・年齢、回避操作時の速度、歩行者または自転車利用者の性・年齢、時間帯、天候、路面状況を調整し、多変量ロジスティック回帰分析を行った。その結果、歩行者ではAEBと「死亡または重傷」との関連性を示す調整オッズ比は0.80(95%信頼区間 0.64~0.996)であり、衝突車両にAEBが搭載されていた場合、歩行者の「死亡または重傷」のオッズが20%低減することが示された。一方自転車利用者では、この調整オッズ比は0.91(95%信頼区間 0.74~1.14)であり、AEBと「死亡または重傷」の間に有意な関連は認められなかった。 本研究の結果について著者らは、「本研究より、AEBシステムは、現実世界の歩行者に対して、衝突が避けられない場合でも傷害の重傷度を軽減する可能性が示唆された。今後の研究では、自転車利用者を検知する新しいAEBシステムの効果を評価するとともに、運転者の特性による効果の違いについても検討する必要がある」と述べている。

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国を滅ぼしかねない(?)ベンゾジアゼピン系、その減らし方(解説:岡村毅氏)

 ビリー・アイリッシュにXannyという曲があるが、これはベンゾジアゼピン系抗不安薬(米国での商品名はXanaxなど)の怖さを歌っている。プリンスやジュース・ワールドといった世界的アーティストの命をも奪ってしまったオピオイドの蔓延は、米国人の平均寿命さえも低下させており、トランプ現象を生み出したともいわれている。オピオイドほどではないにせよ、同時に使用されることも多いベンゾジアゼピン系の蔓延もまた米国の薬物依存の深刻さを表していると言えよう。古くからあるが、いまだに最先端の話題である。 本論文は、睡眠薬として使われているベンゾジアゼピン系薬剤をやめるためのさまざまな方法の効果を比較し、メタ解析したものだ。要するに「ベンゾジアゼピン系薬剤の処方はなるべく避けるべきなのに処方されている。じゃあ、やめるための方法の優劣をここらでまとめておこうじゃないか」ということだ。詳しくない人には、「なんでダメなものを処方するのだ?」という疑問があると思うので説明しよう。 まず、ベンゾジアゼピン系薬剤とはかつては俗にマイナートランキライザーと呼ばれ、睡眠薬の定番であった。ただ、ベンゾジアゼピン系は薬効が複数あり、ややこしいのだ。薬効は、(1)眠らせる(2)不安をとる(3)痙攣を止める(4)筋弛緩を起こす、という複数の効果を持つ。このうち(1)が強いものが睡眠薬として使われる。(2)の不安をとるものとしてはエチゾラム(商品名:デパスなど)が代表的であり、(3)の痙攣を止めるものとしてはジアゼパム(商品名:セルシンなど)が代表的である。ただし(4)が起きてしまうので、肩こりや腰痛にも効いてしまう。過剰に投与すると、あるいは高齢者では、昼間に薬効が残ってふらつくこともある。夜間にトイレに行き、階段から落ちるなんてことも起きる。ややこしいうえに危ないのである。 さらに耐性が生じるので、基本的にはだんだん効かなくなる。効かなくなると増やすしかない。そうするとやはりふらついたり、日中もぼんやりしたりする。 また闇で売られている、いわゆるレイプドラッグといわれるものは、だいたいベンゾジアゼピン系である。処方する側としては、恐ろしや、である。 現代では新たに処方されることはあまりないし、1剤にとどめるべきである。ベンゾジアゼピン系を2剤出していたら、よほどの理由があるか、ダメな医者かのどちらかである。 じゃあ何で処方するのだ、と思うかもしれないが、2つの理由がある。 第1の理由は、患者さんにとっては良い薬と認識されていることがある。切れ味がよいのである。長年ベンゾジアゼピン系てんこ盛りでよく寝ている(と自覚している)患者さんに、「危ないので減薬しましょう」などと言っても、「なんだ、全然眠れなくなったぞ。四の五の言わずにさっさと出せよ!」などとすごまれる、なんてことも起きる。 第2の理由は、かつては精神科の敷居が高く、不眠症程度では専門家が関与することがなかった。精神科にはベンゾジアゼピン系の依存症になってしまった人も来るので、精神科医は自分から処方することは実はあまりない。怖さを知っているからだ。ただ、忙しいかかりつけ医が、「よく効くなあ、患者さんも喜んでいるし」と綿々と処方していることも多かった。 というわけで、今ではさすがに新たに処方されることはあまりないが、ずっとのんでいる人や高齢者に対して、どうやって減らすかというのは臨床的には大問題である。 本論文の結果であるが、徐々に減らす、医師に対する教育、医師と患者双方への教育、認知行動療法、マインドフルネスは残念ながら効果はなさそうである。患者さんへの教育、薬剤師主導の減薬(薬局でパンフレットを見せるなど)、処方検討会議(医師と薬剤師など)は低いながら効果があるようだ。 注意しないといけないのは、この論文が扱っているのは「睡眠薬としての」ベンゾジアゼピン系だということだ。現代では、睡眠薬の第1選択はもはやレンボレキサントなどのオレキシン受容体拮抗薬に移っている。睡眠薬の世界では、もう勝負あった感がある。 ただし問題は抗不安薬としての使用である。生きづらさへの短絡的な解決になっているような場合はなかなかやめられず、依存症になっている事例も多い。このようなケースは単なる睡眠薬のように一筋縄ではいかないことは最後に強調しておこう。

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診療科別2025年上半期注目論文5選(消化器内科編~肝胆膵領域)

Immune-mediated adverse events and overall survival with tremelimumab plus durvalumab and durvalumab monotherapy in unresectable hepatocellular carcinoma: HIMALAYA phase 3 randomized clinical trialLau G, et al. Hepatology. 2025 May 16. [Epub ahead of print]<HIMALAYA試験>:肝細胞がんSTRIDE療法、imAEが治療効果の指標となる可能性近年注目される肝細胞がんの複合免疫療法について、HIMALAYA試験ではSTRIDE療法が生存期間を有意に延長することを示しました。本研究では、STRIDE群で免疫介在性有害事象(imAE)を経験した患者に良好な生存が認められ、imAEが治療効果の指標となる可能性が示唆されました。Phase 3 Trial of Semaglutide in Metabolic Dysfunction-Associated SteatohepatitisSanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.<ESSENCE試験>:MASHへのセマグルチド、肝組織の改善と顕著な体重減少示す世界が注目する第III相試験において、800例のMASH患者を対象にセマグルチドが肝組織の改善と顕著な体重減少を両立させる効果を初めて明確に示しました。セマグルチドは糖尿病や肥満症の患者に広く使用されており、本結果は将来的なMASHへの保険適用取得に向けて大きく前進する意義深い成果です。Multi-zonal liver organoids from human pluripotent stem cellsReza HA, et al. Nature. 2025;641:1258-1267.<iPS細胞から「ミニ肝臓」作製>:3層構造の再現に成功ヒトのiPS細胞から、本物と同様の3層構造を持つ約0.5mmの「ミニ肝臓」を作り出すことに成功しました。肝臓の異なる機能を担う層(Zone)の再現に成功し、重度肝不全ラットへの移植で生存率が改善されました。iPS細胞からミニ臓器を作る技術は、肝臓病の解析や治療法開発への応用が期待されています。The impact of neoadjuvant therapy in patients with left-sided resectable pancreatic cancer: an international multicenter studyE. Rangelova, et al. Ann Oncol. 2025;36:529-542.<切除可能な左側膵がんに対する術前化学療法>:術前化学療法は有意に生存期間を改善左側切除可能膵がんにおいて、術前化学療法は初回手術単独より生存期間を有意に延長し、とくに腫瘍径が大きい例やCA19-9高値例で効果が顕著であり、今後の前向き試験が期待されます。Phase 3 Trial of Cabozantinib to Treat Advanced Neuroendocrine TumorsChan JA, et al. N Engl J Med. 2025;392:653-665.<CABINET試験>:進行性神経内分泌腫瘍に対するカボザンチニブ、PFSを有意に延長カボザンチニブは進行性膵外・膵神経内分泌腫瘍(NET)に対し、プラセボと比べて有意に無増悪生存期間(PFS)を延長し、客観的奏効も一部で認められました。安全性についても、既知の範囲で管理可能と考えられました。

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第270回 「骨太の方針2025」の注目ポイント(後編) 「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」に強い反対の声上がるも、「セルフメディケーション=危険」と医療者が決めつけること自体パターナリズムでは?

映画『国宝』は過活動膀胱の行動療法のヒントにもこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。前回、映画『国宝』(監督:李 相日)について書きましたが、一つ書き忘れたことがあります。それは映画の上映時間についてです。『国宝』の上映時間はなんと174分、ほぼ3時間です。ハリウッドも含め、最近の映画ではとても珍しいことです。観る側は“タイパ(タイムパフォーマンス)”を気に掛け、一方で配給会社は観客の回転数も重視するようになった今、よく東宝が3時間の上映時間を認めたものです。とは言え、かつての長尺の傑作映画には、前段の長い前フリ部分が映画全体に深みをもたらしている作品が少なくありません。『ゴッドファーザー』しかり、『ディア・ハンター』しかりです。『国宝』も仮に2時間だったら主人公たちの若い頃のシーンも相当割愛しなければならなかったでしょう。その意味でも174分は必然の上映時間だったのかもしれません。それにしても、中高年の観客が多いはずなのに、上映中、トイレに立つ人がほとんどいなかったのも驚きでした。私も通常、2時間程度しかもたない頻尿なのですが、席を立つこともなくなんとか乗り切れました。何かに集中している時は尿意を忘れるというのは本当ですね。映画『国宝』は過活動膀胱の行動療法のヒントにもなりそうです。さて、今回も前回に引き続き、6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025~『今日より明日はよくなる』と実感できる社会へ~」(骨太の方針2025)について書いてみたいと思います。前回は、社会保障関係費について、骨太に「高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」と明記されたことで、2026年度診療報酬改定からは高齢化による伸びに加え、経済・物価対応による増加分も考慮されるだろう、と書きました。今回は、「骨太の方針2025」のもう一つの注目点であった、自民党・公明党・日本維新の会の「3党合意」の内容がどの程度反映されたか(6月6日に公表された「骨太の方針2025(原案)」にどう加筆されたか)について書きます。3党合意で検討の期限と数値目標が明記されたのは「OTC類似薬」「病床削減」「電子カルテ」の3項目自民党、公明党、日本維新の会の3党が6月11日に合意した社会保障改革案には、1.OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し2.新たな地域医療構想に向けた病床削減3.医療DXを通じた効率的で質の高い医療の実現4.地域フォーミュラリの全国展開5.現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底6.生活習慣病の重症化予防とデータヘルスの推進の6項目が盛り込まれました。このうち、検討の期限と数値目標が明記されたのは「OTC類似薬」「病床削減」「電子カルテ(医療DX)」の3項目で、具体的な文言は以下のようなものでした。OTC類似薬2025年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現が可能なものについて、2026年度から実行。セルフメディケーション推進の観点から、夏以降、当初の医師の診断や処方を前提にしつつ、症状の安定している患者にかかる定期的な医薬品・検査薬のスイッチOTC化に向けて、制度面での必要な対応を含め、更なる実効的な方策を検討する。国内でスイッチOTC化されていない医薬品(約60成分)を2026年末までにOTC化病床削減人口減少等により不要となると推定される、約11万床の一般病床・療養病床・精神病床といった病床について、次の地域医療構想までに削減を図る電子カルテ現時点の電子カルテ普及率が約50%であることに鑑み、普及率約100%を達成するべく、5年以内の実質的な実現を見据え電子カルテを含む医療機関の電子化を実現する骨太には3党合意にあった「医薬品(約60成分)を2026年末までにOTC化」、「11万床削減」といった数値目標は盛り込まれずこの3党合意を踏まえ、6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025」では、「第3章 中長期的に持続可能な経済社会の実現」の「2.主要分野ごとの重要課題と取組方針」の中の「(1)全世代型社会保障の構築」に、合意内容が次のように列記されています。持続可能な社会保障制度のための改革を実行し、現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減を実現するため、OTC類似薬の保険給付の在り方の見直しや、地域フォーミュラリの全国展開、新たな地域医療構想に向けた病床削減、医療DXを通じた効率的で質の高い医療の実現、現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底、がんを含む生活習慣病の重症化予防とデータヘルスの推進などの改革について、引き続き行われる社会保障改革に関する議論の状況も踏まえ、2025年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現が可能なものについて、2026年度から実行するそして本文の脚注には3党合意を踏まえ以下のように書かれています。OTC類似薬医療機関における必要な受診を確保し、こどもや慢性疾患を抱えている方、低所得の方の患者負担などに配慮しつつ、個別品目に関する対応について適正使用の取組の検討や、セルフメディケーション推進の観点からの更なる医薬品・検査薬のスイッチOTC化に向けた実効的な方策の検討を含む病床削減2年後(2027年)の新たな地域医療構想に向けて、不可逆的な措置を講じつつ、調査を踏まえて次の地域医療構想までに削減を図るただし、3党合意にあった「医薬品(約60成分)を2026年末までにOTC化」、「11万床削減」といった、より具体的な数値目標は脚注にも記されませんでした。その理由は、より大局的な予算編成の方向性を示す「骨太」の性格もありますが、病床数については、地域の実情を踏まえた調査や必要病床数の再精査がこれから行われるためでもあるでしょう。なお、6月11日の3党合意の文書には、11万床削減した場合1兆円程度の医療費削減につながるとした「厚生労働省の調査に基づく日本維新の会の試算」が別紙で添付されていますが、その実現性や根拠に疑問の声が多く上がりました。そうしたことも「11万床削減」が未記載になった理由かもしれません。「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」には医療機関側から反対の声こうした骨太の個別政策に対して、医療機関側から一番反対の声が上がったのは、予想通り「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」でした。日本医師会の松本 吉郎会長は6月18日の定例記者会見で、「骨太の方針2025」について、「歳出改革の中での引き算ではなく、物価・賃金対応分を加算するという足し算の論理となり、年末の予算編成における診療報酬改定に期待できる書きぶりとなった」と評価するコメントを出しました。一方で「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」についてはさまざまな懸念があると説明、「OTC類似薬を保険適用から除外した場合、たとえば院内での処置等に用いる薬剤、薬剤の処方、在宅医療における薬剤使用に影響することが懸念されるが、これは絶対に避けなければならない」と述べるとともに、3党合意や「骨太の方針2025」の脚注に記された、「医療機関における必要な受診を確保し、子供や慢性疾患を抱えている方、低所得の方の患者負担などに配慮しつつ」の一文などを踏まえた慎重な検討が必要であると強調したとのことです。「スイッチOTC化やセルフメディケーションを拙速に進めることは、自己判断による誤用で重篤な疾患の発見が遅れる恐れがある」と日医会長松本会長は6月22日の日本医師会の定例代議員会でも「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」について同じ趣旨の発言を繰り返しました。スイッチOTC化がどんどん進み、かつ処方薬から外される流れが進めば、医師への受診回数が激減することに対する危機感からと考えられます。6月23日付のミクスオンラインなどの報道によれば、松本会長は6月22日の定例代議員会で「スイッチOTC化やセルフメディケーションを拙速に進めることは、自己判断による誤用で重篤な疾患の発見が遅れる恐れがある。特に、高齢者などでは、医師との対話の機会が減少し、病歴や服薬歴の記録が途切れ、診療の精度が落ち健康リスクが高まる」と指摘、「適正使用されず、乱用の増加も懸念される。セルフメディケーションは、セルフケアの一つの手段であり、ヘルスリテラシーと共にあるべき。国においては、国民の安心・安全を第一に考えて進めて行っていただきたい」と述べたそうです。また代表質疑では、宮川 政昭常任理事が「やみくもなセルフメディケーションの推進、社会保険料の削減を目的としたOTC類似薬の保険適用除外やスイッチOTC化を進めることは、必要な時に適切な医療を受けられない国民が増え、国民皆保険制度の根幹を揺るがしかねないと危惧している」と話し、問題点として、医療機関の受診控えによる健康被害が増加すること、国民の経済的負担が増加すること、薬の適正使用が難しくなることを挙げたとのことです。 本当に「セルフメディケーション=危険」なのか?「セルフメディケーションを推進すれば、健康被害が増える」というロジックはいかがなものでしょう。そもそも現状、処方箋を発行する医師は薬の説明をほぼ薬局薬剤師に丸投げし、その薬局薬剤師も印刷された薬剤情報提供書を右から左へ受け渡しているだけ、というところが少なくありません(私の近所の薬局も)。OTCよりも危険な処方薬ですらきちんと説明が行われず、ポリファーマシーによる健康被害が頻発している状況をさておいて、「セルフメディケーション=危険」と医療者が決めつけること自体がパターナリズムに近いものを感じます。各種スイッチOTCにしても、薬剤師が店頭できちんと説明しているはずですから、国民のヘルスリテラシーは徐々に向上していてもおかしくないはずですが、それでも向上していないとすれば、それは薬剤師や製薬会社がそこに注力してこなかったことにも責任があるのではないでしょうか。一連のOTC類似薬の議論を聞きながら、医療者はもう少し患者(国民)を信頼・信用してもいいのではと思う今日この頃です。

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多職種連携在宅移行支援は費用対効果に優れる?【論文から学ぶ看護の新常識】第21回

多職種連携在宅移行支援は費用対効果に優れる?多職種が連携して行う在宅移行支援の費用対効果を検証した研究で、同支援は高い確率で費用対効果に優れることが示された。Romain Collet氏らの研究で、International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年5月3日号に掲載された。多職種連携在宅移行支援の費用対効果:システマティックレビューとメタアナリシス研究チームは、多職種が連携して行う在宅移行支援の費用対効果に関するエビデンスを収集、評価、統合することを目的にシステマティックレビューとメタアナリシスを実施した。Medlineを含む4つのデータベースを、創設時から2024年7月まで検索した。研究対象は、病院に入院し自宅へ退院した成人患者を対象に、多職種による在宅移行支援の費用対効果を通常ケアと比較したランダム化比較試験であり、効果指標として、生活の質(QOL)または質調整生存年(QALY)を報告している研究を対象とした。結果は、経済的な視点と追跡期間によって層別化し、エビデンスの確実性はGRADEアプローチを用いて評価した。主要評価項目は、増分純貨幣便益(INMB)とした。主な結果は以下の通り。13件の試験、4,114例の患者が対象に含まれた。12ヵ月間の追跡評価(医療提供者の視点):多職種連携在宅移行支援は、通常ケアと比較して医療費を削減したものの、そのエビデンスの確実性は「低い」ものであった(平均差:−3,452ユーロ、95%信頼区間[CI]:−8,816~1,912)。QALYには両群に差は認められなかった(平均差:0.00、95%CI:−0.03~0.04)。費用対効果の確率は、支払意思額が0ユーロ/QALYの場合で90%であり、支払意思額が高くなっても84%とわずかに減少するのみであった(確実性は「中等度」)。6ヵ月間の追跡評価(医療提供者の視点):費用対効果の確率は、支払意思額0ユーロ/QALYの場合で43%、10万ユーロ/QALYで87%の範囲にあり、支払意思額が5万ユーロ/QALYで80%を超えた(確実性は「低い」~「中等度」)。社会的視点:社会的視点では、費用対効果の確率はより低くなった。これは主に、相反する結果を示した研究の数が限られていたためである。多職種連携在宅移行支援は、費用対効果が高い可能性が示された。高齢化が進み、複数の疾患を抱える患者さんが増える中で、病院から自宅へのスムーズな移行を支えるケアの重要性はますます高まっています。とくに退院直後は、患者さんの状態が不安定になりやすく、適切な支援がなければ再入院のリスクも高まります。本研究は、医師、看護師、リハビリ専門職、栄養士、ソーシャルワーカーといった多様な専門職が連携して行う在宅移行支援(多職種連携在宅移行支援)が、費用対効果の観点からみてどうなのかを、質の高い統計手法で包括的に評価したものです。結果の解釈には、質調整生存年(QALY)という指標が鍵になります。「完全に健康な状態で1年間過ごすこと」を「1QALY」として、医療によってどれだけの「健康な時間」が増えたかを測る世界共通の指標です。研究結果として、12ヵ月間の追跡で医療費を削減する可能性が示唆されました。さらに、支払意思額(WTP)が0ユーロ/QALY、つまりQALYの改善という価値をまったく考慮しなかったとしても、費用削減だけで元が取れる確率が90%というのは注目すべき点です。この結果は、質の高い在宅移行支援が、結果的に医療資源の効率的な利用につながる可能性を示しています。一方で、研究チームも指摘している通り、エビデンスの確実性にはまだ課題があり、とくに社会全体の視点からの評価は研究数が少なく、結論を出すには至っていません。また、介入内容の多様性や対象患者、医療システムの差による影響も大きく、どのような状況で、どのような介入が最も費用対効果が高いのかを明らかにするには、さらなる質の高い研究が求められます。しかしながら、この研究は、多職種連携による在宅移行支援の経済的な価値を明らかにする重要な一歩です。今後の政策決定や医療現場での実践において、費用対効果を考慮した質の高いケアモデルの構築を促進する上で、非常に参考になる研究と言えるでしょう。論文はこちらCollet R, et al. Int J Nurs Stud. 2025 May 3. [Epub ahead of print]

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非喫煙者の肺がん、よく料理する人ほどリスク高い?

 家庭内空気汚染が非喫煙者における肺がんの潜在的な原因であるというエビデンスが蓄積され、空気中の粒子状物質、家庭用家具から発生する揮発性有機化合物、調理煙への曝露が肺がんリスクを高める可能性がある。今回、英国・レスター大学のBria Joyce McAllister氏らが、家庭内空気汚染の1つである調理煙への曝露と非喫煙者の肺がんとの潜在的関連について高所得国で検討し、関連性が認められたことを報告した。1日1食調理する女性に対し1日3食調理する女性の肺がんのオッズ比(OR)は3.1と発症リスクが高かった一方、換気フード使用のORは0.49と予防効果が示唆された。BMJ Open誌2025年6月20日号に掲載。 世界では肺がんの10~25%が非喫煙者に発症すると推定されている。低中所得国では、非喫煙者における肺がんの環境リスク因子、とくに暖房や調理用バイオマスの燃焼による家庭内空気汚染が広く調査されてきたが、高所得国においても近年エビデンスが発表され始めている。本研究では、Embase、Scopus、Cochrane library、CINAHLをそれぞれの開始時から2024年3月まで検索し、高所得国における家庭内空気汚染とその非喫煙者の肺がんへの影響に焦点を当てた症例対照研究を対象に系統的レビューを実施した。抽出された研究は、曝露評価や報告方法が異なりメタ解析が不可能であったため、ナラティブシンセシスを行った。 主な結果は以下のとおり。・解析には3件の研究の計3,734人が含まれた。すべての研究は台湾または香港で実施され、伝統的な中華料理の調理法を用いる中国人女性が対象であった。・Chenらの研究では、生涯の調理煙への曝露を測定する「調理時間・年」によって肺がんリスクを評価し、曝露が最高レベルの場合のORは3.17(95%信頼区間[CI]:1.34~7.68)であった。・Yuらの研究では、調理煙への曝露の指標として「調理皿・年」を使用し、曝露が最高レベルの場合のORは8.09(95%CI:2.57~25.45)であった。一方、Koらの研究では、調理年数よりも毎日の調理皿数のほうがリスク指標として重要であることが示され、1日1食調理する女性に対する1日3食調理する女性のORは3.1(95%CI:1.6~6.2)であった。・換気フードは非喫煙者の肺がんの予防効果があり、調整ORは0.49(95%CI:0.32~0.76)であった。 この3件の研究のレビューの結果から、著者らは「高所得国における調理煙への曝露と非喫煙者の肺がん発症リスクに関連がある可能性が示唆された。これは、低中所得国における調理煙曝露と非喫煙者の肺がんとの関連を示す多くのエビデンスを裏付けるものであり、曝露のリスクを明確に裏付けている」とした。

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