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人工甘味料スクラロースの摂取は空腹感を高める

 スプレンダのようなカロリーなしの人工甘味料の使用により食事のカロリーが増えることはないが、体重増加につながる可能性はあるようだ。新たな研究で、砂糖の代替品は食欲と空腹感を刺激し、食べ過ぎにつながる可能性のあることが明らかになった。米南カリフォルニア大学(USC)糖尿病・肥満研究センター所長のKathleen Page氏らによるこの研究結果は、「Nature Metabolism」に3月26日掲載された。 Page氏は、「スプレンダの主成分であるスクラロースは、摂取してもその甘さから予想されるカロリーを伴わないため脳を混乱させるようだ。体が、摂取した甘さに見合うカロリーを期待しているのにそれを得られない場合、時間の経過とともに、脳がそれらの物質を求める仕組みに変化が生じる可能性がある」とUSCのニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、米国人の約40%が砂糖の摂取量を減らす手段として、定期的に砂糖の代替品を摂取しているという。「しかし、このような砂糖の代替品は、本当に体重の調整に役立つのだろうか。それらの摂取は、体と脳にどのような影響を与えるのだろうか。また、その影響は人によって異なるのだろうか」とPage氏は疑問を呈する。 今回の研究では、18〜35歳の試験参加者75人(女性43人)を対象にクロスオーバー試験を実施し、スクラロースの摂取が、食欲のコントロールに関与する脳視床下部の活動、ホルモンレベル、空腹感に及ぼす影響を調査した。試験参加者は、ショ糖(砂糖の主成分)で甘くした飲み物、スクラロースでショ糖と同程度に甘くした飲み物、および水をランダムな順序で2日から2カ月の間隔を空けて摂取した。飲み物の摂取前と摂取後には、採血、MRIスキャン、空腹感の評価が行われた。 その結果、ショ糖摂取後に比べてスクラロース摂取後には、視床下部の血流が有意に増加し、空腹感も有意に高まることが示された。また、水の摂取後との比較でも、視床下部の血流は有意に増加したが、空腹感のスコアに有意な差は認められなかった。一方、ショ糖の摂取後にはインスリンやグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)など、血糖値を調節するホルモンレベルの上昇が認められたが、この上昇は視床下部の血流低下と関連していた。さらに、スクラロースの摂取後には、視床下部と動機付けや身体感覚処理に関わる脳領域との機能的な結び付きが強まることも確認された。Page氏は、「この結果は、スクラロースが渇望や摂食行動に影響を与える可能性があることを示唆している」と述べている。 Page氏は、「体はインスリンなどのホルモンを使ってカロリーを摂取したことを脳に伝え、空腹感を軽減させる。しかし、スクラロースにそのような効果は認められなかった。肥満の試験参加者では、このようなスクラロース摂取後とショ糖摂取後のホルモン反応の違いはより顕著だった」と述べている。 研究グループは、「今後の研究では、脳とホルモンの活動のこうした変化が人の体重に長期的な影響を及ぼすかどうかを調べるべきだ」と述べている。

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2026年度改定で「処方箋料」「後発品調剤加算」は終焉か【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第151回

2025年4月は診療報酬・調剤報酬の改定がなく、比較的穏やかな新年度の幕開けでした。とはいえ、長期収載品の選定療養化が始まったのに医薬品の供給がいまだに安定していないということなどもあり、相変わらず大変な状況の薬局も多いと思います。もしここに改定が重なっていたら大変だったでしょう。原則的に診療報酬・調剤報酬の改定は2年に一度行われるため、次回の改定は2026年4月に予定されています。あと1年を切った今、議論が開始されました。財務省が51年目を迎える「医薬分業」のインセンティブに斬り込んでいる。23日の財政制度等審議会財政制度分科会で“医薬分業元年”と呼ばれる74年から実施してきた、医療機関側の処方箋料に対する手厚い評価には「政策的意義を含め、再考の余地がある」と主張。医薬分業率はすでに80%に達しており「相当な進捗を見せている」との認識を示した。そもそも財務省は、すでに数量シェアで80%を達成している後発品の使用促進に関しても「後発品調剤体制加算」のようなインセンティブは役割を終えているとの立場。今回、後発品と同じく政策的に強力な後押しをしてきた医薬分業の根幹のひとつとも言える処方箋料に目を付けた格好だ。(2025年4月24日付 RISFAX)個人的には、「ついにこの議論をするときが来たか」という感想をもっています。医薬分業をめぐっては、1974年にそれまで6点だった医療機関の処方箋料を10点、さらには50点に引き上げることで、医師側へ強力なインセンティブを付加し、処方箋を発行して薬局で調剤するという政策誘導を図ってきました。その経緯から、1974年を医薬分業元年と呼んだりもします。財務省はこうした経緯を示したうえで、医薬分業推進の背景にあった薬価差はすでに縮減傾向が続いており、医療機関が薬価差益を追及するという問題は改善したという認識を示しました。また、薬局の役割についても「広く認識されるに至っている」とし、現在の医薬分業の進捗を踏まえて「院外の処方箋料の適正な水準を検討すべき」と要求したと報じられています。また、後発品使用促進のインセンティブにも言及し、数量シェアが9割に迫る状況を踏まえ、後発品調剤体制加算をはじめとする調剤報酬体系の見直しを行うべきとも提案したとのことです。一方で、薬局の対人業務に対する評価の重点化を進めるべき、という意見も出されました。全体的に、過去を踏襲するのではなく未来に向けて新たに見直すという姿勢が見受けられます。このRISFAXの記事は、2026年度改定が医薬分業のインセンティブを考え直す場になるという内容で書かれていますが、実際はもっと広く議論されており、2026年度改定は「病院と診療所では経営状況や費用構造などが異なる」「高齢化による伸びに抑える」といった過去を踏襲するのではなく、未来に向けたメリハリある改定の実施を目指しているようです。薬局で処方箋を受ければ点数がもらえる時代が本当に終わろうとしています。対人業務が評価されることは間違いなさそうですが、薬局そのものの価値がどの程度評価されるのか。また、この議論の中で薬剤師会などが過去にとらわれず未来に向けた主張をどのように展開するのか、よくよく見ていきたいと思います。

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入院時の呼吸管理、裁判で争点になりやすいのは?【医療訴訟の争点】第11回

症例入院中の患者は時に容体が急変することがある。今回は、入院中の呼吸管理を適切に行うべき注意義務違反の有無が争われた神戸地裁令和5年8月4日判決を紹介する。<登場人物>患者44歳・男性(肥満体型)10代に統合失調症を発症し、以後、悪性症候群での入退院を繰り返していた。原告患者の母被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成29年(2017年)2月15日定期受診で被告病院を受診。視線が定まらず、会話は疎通不良、動作が緩慢で四肢の固縮があり、自力歩行が不可能。体温は37.7℃で、採血の結果、クレアチンキナーゼ(CK)値は1,880IU/L。悪性症候群として、被告病院に入院。抗精神病薬を継続し、輸液で治療が開始された。2月16日体温は36℃台に下がり、採血の結果、CK値は1,557IU/Lまで低下した。自力歩行、意思疎通が可能となった。2月17日精神症状は改善し、CK値は1,102IU/Lまで下がり、輸液終了。3月6日院内での単独行動が可能とされ、院外もスタッフまたは家族付き添いのもとで外出可能とされた。5月16日入院から3ヵ月経過。体のこわばり、動きにくさの訴えあり。呂律が回らず、話が聞き取りにくい状態であったが、表情は穏やかで、会話は可能。5月21日硬い表情でスタッフステーションに来所して発言するものの、呂律が回らず発言が支離滅裂で理解不能となり、精神症状が不安定な状態。5月22日発言はまったく要領を得ず、突然敬礼をする、女性の浴室に入ろうとする、ほかの患者の病室に入って扉やベッドを蹴る、布団をかぶったまま病棟内を歩くなどの不穏行動。隔離処置のため、保護室に入室。5月29日朝から表情は固く、身体の緊張は強く、呼吸は促迫気味であり、多量の発汗がみられた。血液検査の結果、CK値は1万9,565IU/Lであった。亜昏迷の持続、四肢の固縮、発汗を認めたため、医師は患者の隔離を終了して個室病室に移動させたうえ、行動の予測が困難で、点滴の自己抜去のリスクが高いことを考慮し、体幹部および両上肢を拘束、生体モニター装着の上、輸液による治療を開始した。5月30日体温は37.8℃、採血の結果、CK値は1万1,763IU/Lであった。午後8時15分頃、頬の筋緊張や舌根沈下がみられた。5月31日朝看護師の声かけに対し、眼球が上転しかかったまま反応せず、ベッドをギャッチアップして飲水を促すと、「あ、あぁ…」と声を出した。吸い飲みを使用しても、嚥下できずに吐き出してしまう状態であった。誤嚥の可能性が高いことから、朝食は不食となった。午前10時体温が38.4℃まで上昇。経鼻胃管チューブが留置され、弾性ストッキングを装着。午後2時5分清拭を行うため、看護師が訪室。看護師は清拭を開始する前に、患者の全身状態を目視で観察し、清拭を行う旨を告げた。看護師が患者の身体に触れると、患者は両下肢を挙上したため、看護師は、身体の力を抜くように声をかけ、両下肢を押して降ろさせた。その後の清拭中は、患者の身体の緊張は取れていた。下半身の清拭の途中、原告(患者の母)が、患者の顔色が悪いのではないか、息をしていないのではないか、などと看護師らに声をかけた。看護師は、原告(患者の母)の発言に対して応答はせずに、前日の申し送りに舌根沈下があったという記載があったことを想起し、呼吸を楽にする下顎挙上の姿勢をとらせるべく、枕を背中側に挿し入れるとともに、ベッドを操作して腰部および膝部に当たるところをそれぞれギャッチアップした。胸郭の挙上を確認したため、清拭の作業を再開した。その後、看護師が患者の着衣を整えるなどの作業をした後、患者の顔を見ると、顔色が土気色に変わっていたため、ベッド脇のテレメーターのボタンを押して作動させたところ、心拍数40台/分(午後2時15分~17分)であった。抑制帯を外し、橈骨動脈を確認したところ、脈拍が確認されたが、呼吸は確認できなかった。午後4時20分患者に救命処置を行うも改善せず、死亡。実際の裁判結果裁判では投薬する薬剤の選択の判断の合理性なども争われたが、本稿では入院中の呼吸管理に関する部分を取り上げることとする。患者の入院中の呼吸管理につき、裁判所は以下のとおり判示し、注意義務違反があると判断した。裁判所は、被告病院スタッフの義務につき、以下のことを指摘し、「被告病院スタッフには、舌根沈下が確認された5月30日午後8時15分以降、そうでなくとも遅くとも5月31日に入った時点で、訪室時に呼吸数やSpO2値を観察する、あるいは、生体モニターの数値を頻繁に確認するなどして、呼吸状態を含む本件患者の全身状態をより厳格に監視し、異常が確認された場合には、直ちに処置を行うべき義務があった」とした。5月29日時点で、被告病院の医師は、患者の亜昏迷、発汗を認めており、血液検査の結果、CK値が高値の1万9,565IU/Lであったことを確認し、統合失調症のカタトニア(緊張病)で「悪性症候群のリスクが高い状態であった」と診断していたこと患者に輸液が開始され、両上肢及び体幹部を拘束した上、生体モニターが装着されるなどの厳重な処置が開始されていた状態であったため、全身状態が悪化して、重篤な症状に至る危険性が高まっていたといえること患者は、輸液が開始された後も全身状態が快方へ向かっておらず、5月31日には経口摂取不能となり、経鼻胃管チューブが挿入されたこと5月30日の夜には、気道狭窄の原因となり得る舌根沈下が確認されていたこと本件患者が肥満体型であるため、舌根沈下が生じた場合、呼吸不全に陥る可能性があることその上で裁判所は、被告病院の看護師が当日の看護に当たって、呼吸状態については息苦しそうではないかに注意を払う程度のものに止まっていたことを指摘し、「客観的には、患者の全身状態を厳格に観察、管理するという意識を欠くものであった」とした上で、「看護師らは、清拭開始時及び清拭の途中で原告から患者の呼吸状態について指摘された際に、本件患者の呼吸数、SpO2を測定して呼吸状態を確認すべきであったにもかかわらず、ギャッチアップ後に胸郭挙上を確認したのみで異常がないものと速断し、本件患者の全身状態の異常に気付くことなく作業を継続したものであり、被告主張の、医療制度上の制約、被告における診療体制等の事情を考慮しても、この点で、被告病院スタッフには、過失があった」として注意義務違反を認めた。なお、被告病院は、患者の体型からして、睡眠時無呼吸症候群に類するものとして、一時的に呼吸が停止することも考えられ、下顎挙上の姿勢をとった後に胸郭挙上を確認しているとして、一般的な医療水準に照らして十分な対応をしている旨を主張した。しかし、裁判所は「患者の全身状態が相当悪化していた点を前提とする限り、不規則な呼吸が主に体型によるもので、身体状況の異常を示す徴表には当たらないと安易に扱うべきではないといえるのであり、本件患者の体型を考慮しても、被告病院スタッフのこの点に関する注意義務を免れさせ得るものではない」として被告病院の主張を排斥した。注意ポイント解説本件は、患者の呼吸管理の過失(注意義務違反)の有無が争われた事案である。裁判所は、上記のとおり、訪室時に呼吸数やSpO2を観察する、あるいは、生体モニターの数値を頻繁に確認するなどして、呼吸状態を含む本件患者の全身状態をより厳格に監視する義務を認めた。これは、生体モニターが装着されるなどしているような全身状態が悪化する恐れがある状況において、さらに舌根沈下という呼吸停止を来たしうる状態が確認されていること、要するに一般的に見て危険な状態であるからこその処置がされている状況下において、さらに生死に直結し得る状態が確認されたということで、呼吸状態を含む全身状態を監視する義務を認めたものと考えられる。本判決の事案は、統合失調症のカタトニアで悪性症候群のリスクが高い状態であったという特殊性があるものの、ICUに入っている場合や生体モニター装着で管理がなされている場合のような一般に症状悪化の危険性が高い状況下において、呼吸停止・心不全・その他臓器不全などの死に直結し得るような個別の危険症状が別途確認された場合には、同様に当てはまるものと考えられる。また、上記のとおり、本判決は、「本件患者の全身状態が相当悪化していた点を前提とする限り、不規則な呼吸が、主に体型によるもので、身体状況の異常を示す徴表には当たらないと安易に扱うべきではない」としている。このことからすると、患者の体型などの個性ないし素因が原因で危険が生じうるとしても、危険性がある以上は、状態確認を行う義務が軽減されないことが示されている点も留意する必要がある。医療者の視点昨今の医療訴訟を鑑みると、日々の診療において常に訴訟リスクを意識せざるを得ない状況にあります。とくに入院患者の管理では、生体モニターを装着するような重症例において、呼吸状態や全身状態の厳密な観察と適切な対応が求められます。本症例のように、患者の体型や基礎疾患に起因する特性があったとしても、それを根拠に観察義務が軽減されるわけではありません。私たち医療者は、悪化の徴候を早期に捉え、適時適切に対応できるよう、常に注意深く患者を観察する責任があります。そのためには、バイタルサインの確認や生体モニターの数値を頻回にチェックし、異常を見逃さない姿勢が不可欠です。Take home message生体モニター装着で管理がなされるような、状態悪化の危険性が高い状況下において、呼吸停止・心不全・その他臓器不全などの死に直結し得るような個別の危険症状が別途確認された場合には、状態の変化に適時適切に対応できるよう、患者の状態変化について注意深く観察する必要がある。キーワード呼吸管理、状態観察義務、悪性症候群、カタトニア

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第261回 ほぼほぼ生き残り確定の零売薬局(後編) 憲法違反の指摘や「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」導入の提案など零売規制への反対相次ぐ

衆議院厚生委員会の附帯決議で法律の方針が180度転換こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。前回、久しぶりに零売について書いたので、以前利用した零売薬局を久しぶりに訪れてみました(「第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)」参照)。以前と同様、腰痛用にロコアテープを購入、ついでに「零売薬局が規制でなくなる、と聞いたのですが?」と店頭の薬剤師(女性)に聞いてみました。すると、「そういう話は我々も聞いていますが、法律やルールに則ってやっていますので、なくならないと思います。実際、ニーズも高く都内の店舗もここ数年で増やしていますし」との答え。国会での細かな議論については知らないようでしたが、最前線の薬剤師に規制への危機感は感じられませんでした。さて、厚生労働省が今回の薬機法等改正法案で「原則禁止」にしようと目論んでいた零売が、衆議院厚生委員会において「セルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないよう」「国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう」といった附帯決議が採択されたことで法律の方針が180度転換、生き残りに向けて光が見えてきました。その背景にはいったい何があったのでしょうか。「法改正が将来にわたり違憲のそしりを受けないか慎重に審議すべき」と立民議員まず考えられるのは「憲法違反」の可能性です。前回書いたように、今年1月、零売規制が薬剤師の権利を侵害するなどとして、薬剤師らが国を相手取り訴訟を起こしました。原告の薬剤師の一人は記者会見で、裁判で「これまで国から出された通知には法的根拠がないことの確認を求める。さらに、零売の規制は憲法上の『職業選択の自由』や『表現の自由』を侵害し、国民の医薬品アクセスも阻害するものと主張」するとしていました。担当弁護士も「当該改正法が憲法違反に該当すると考える余地がある」と説明しました。また、4月11日付の薬事日報によれば、4月9日の衆院厚労委員会において立憲民主党の早稲田 夕季議員は、零売は「緊急時の手段として非常に有益で、法制化してまで対処する必要があるのか疑問」と訴えるとともに、零売に関する行政訴訟を5月に控えていることを踏まえ、「法改正が将来にわたり違憲のそしりを受けないか慎重に審議すべき」と話したそうです。こうした意見に対して、福岡 資麿厚生労働相は「緊急時等のやむを得ない場合に薬剤師と相談した上で、必要最小量の数量を販売する本来の趣旨に則って経営している薬局はこれまで通り継続できる。必要最小限かつ合理的な規制措置で行っていきたい」、「施行に向けて関係者の意見を聞きながら、省令やガイドライン等の策定により周知を図りたい」、「零売は国民の緊急時に医薬品へのアクセスを確保するために必要な制度だ。改正法が成立した際にはこの考えのもとで運用し、求められる対応も分かりやすい形で示したい」などと答えたとのことです。法案提出時の「原則禁止」の“勢い”が完全に削がれた答弁と言えます。うがった見方をすれば、法案提出後に内閣法制局に再確認して、「憲法違反」の可能性を指摘されたのかもしれません。厚労省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、いわゆる零売を公式に認めたのは2005年厚労省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、いわゆる零売を公式に認めたのは、2005年とそんなに昔のことではありません。それ以前は法令上での明確な規定がなく、一部薬局では医療用医薬品の販売がごく普通に行われていました。零売を容認するきっかけとなったのが2005年4月の薬事法改正です。医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品の薬局での販売を条件付きで認める通知を発出しました。同年3月30日の厚労省から発出された「処方せん医薬品等の取扱いについて」(薬食発第0330016号 厚生労働省医薬食品局長通知)は、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」は、「処方せんに基づく薬剤の交付を原則」とするものであるが、「一般用医薬品」の販売による対応を考慮したにもかかわらず、「やむを得ず販売せざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で」、薬剤師が患者に対面販売できるとしました。零売に当たっては、1)必要最小限の数量に限定、2)調剤室での保管と分割、3)販売記録の作成、4)薬歴管理の実施、5)薬剤師による対面販売――の順守も求められることになりました。2005年4月施行の薬事法改正は、処方箋医薬品の零売を防ぐことも目的の一つでした。それまでの「要指示医薬品」と、全ての注射剤、麻薬、向精神薬など、医療用医薬の約半分以上が新たに「処方箋医薬品」に分類されたわけですが、逆に使用経験が豊富だったり副作用リスクが少なかったりなど、比較的安全性が高い残りの医薬品が「処方箋医薬品以外の医薬品」(ただし原則処方箋必要)に分類され、零売可能となったわけです。現在、日本で使われる医療用医薬品は約1万5,000種類あり、このうち半分の約7,500種類は処方箋なしでの零売が認められています。鎮痛剤、抗アレルギー薬、胃腸薬、便秘薬、ステロイド塗布剤、水虫薬など、コモンディジーズの薬剤が中心で、抗生剤や注射剤はありません。また、比較的新しい、薬効が強めの薬剤も含まれません(H2ブロッカーはあるがPPIはない等)。その後、通知によって不適切な広告・販売等で零売を行う薬局を牽制2005年の通知の内容は2014年3月18日に厚労省から発出された「薬局医薬品の取扱いについて」(薬食発0318第4号 厚生労働省医薬食品局長通知)に引き継がれました。しかし、本通知の趣旨を逸脱した不適切な広告・販売方法が散見されるとして、2022年8月5日、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」(薬生発0805第23号 厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)が発出され、「処方箋がなくても買える」、「病院や診療所に行かなくても買える」といった不適切な広告・販売方法等で零売を行う薬局を問題視、牽制してきました。その延長線にあるのが今回の薬機法等改正案というわけです。とはいうものの、そもそも明確な法規制がなく、昔から“既得権”として行われ、薬の販売方法として一定の役割を担っていた零売を、原則禁止としてしまうのは無理があるように感じます。厚労省もそのことは重々わかっていたからこそ、これまで法律ではなく通知による“緩い”コントロールに留めてきたのでしょう。重大な健康被害があったわけでもないのに、法規制は明らかに“行き過ぎ”の感は否めません。今年に入って零売規制への批判高まる零売生き残りの光が見えてきたもう一つの背景として考えられるのは、マスコミなど世間からの批判の声です。薬機法等改正案が国会に提出される直前の2月5日、日本総研は調査部主任研究員の成瀬 道紀氏によるレポート「零売規制の妥当性を問う」を公表しました。同レポートは、「零売は、病院や診療所を受診せずとも処方箋医薬品以外の医療用医薬品を入手でき、患者にとって利点がある。とりわけ、処方箋医薬品以外の医療用医薬品は、OTC医薬品(市販薬)よりも費用対効果が高い製品が多い」とそのメリットを説く一方、「零売は販売時に医師の関与がないため、薬剤師による患者指導が不十分な場合は、患者の健康に悪影響を与え得る懸念が指摘されている」と問題点にも言及、その上で、「今求められるのは、第1に、薬剤師の職能の尊重である。もちろん、薬剤師自身が自己変革に取り組む努力も不可欠である。第2に、医療用医薬品というわが国特有の区分を廃止してダブルスタンダードを解消し、処方箋医薬品以外の医薬品はOTC医薬品として薬局で薬剤師が堂々と販売できるようにすることである」と提言しました。ちなみに、日本総研の成瀬氏は3月13日に開かれた参議院予算委員会公聴会に公述人として出席、「零売の原則禁止は改正案から削除すべき項目であり、改正すべきは関連通知」と述べています。「零売という言葉は明治時代には存在し、当時は薬局間での薬の売買の方法だった」3月17日付の日本経済新聞朝刊も、「自分の病は自分でも診よう」と題する大林 尚編集委員の記事を掲載、処方箋医薬品以外の医療用医薬品(いわゆる現在、零売可能な医薬品)について、「7千種類の類似薬は原則、処方箋不要にしてOTC薬にひっくるめる」という成瀬氏の改革案を紹介しています。それによって、「患者は安くて効き目のよい薬を身近に入手できる。これは、類似薬を健康保険の適用から外す保険制度改革と表裏の関係にある。最大の効用は年間1兆円の保険医療費の節約だ。医師はその資格にふさわしい病の治療に専念し、患者は処方箋目的の『お薬受診』をやめる。医療機関に入る初診・再診料や処方箋料、また調剤薬局に取られる技術料のムダも省ける」と書くとともに、「ところが厚労省は供給側重視を鮮明にしている。類似薬に処方箋を求める規制について行政指導から法で縛る制度への格上げをもくろみ、今国会に関連法案を出した。与野党を問わず、政治家がこの規制強化の不合理さを主体的に理解すれば法案修正は可能である。硬い岩盤をうがつべく、立法府の力をみせてほしい」と、零売規制が時代に逆行した政策だと指摘しています。さらにAERA DIGITALも3月20日、「『零売薬局』なら処方箋ナシで『病院の薬』が買える ニーズがあるのになぜ『規制強化』が進むのか」と題する記事を配信しています。同記事は零売が規制強化に向かう現状をリポートするとともに、「零売という言葉は明治時代には存在し、当時は薬局間での薬の売買の方法だった」という歴史についても言及、金城学院大薬学部の大嶋 耐之教授の「昔の薬剤師は、街のお医者さん的な存在で、薬だけではなく病気や健康に関するさまざまな相談を聞いてアドバイスをしてくれた。利用者のセルフメディケーション(自分自身の健康に責任を持ち、軽度な不調は自分で手当てすること)にも貢献していたんです。そうした関係が成り立っているなら、零売は『患者にとって良いこと』とも言えると思います」というコメントを紹介、「規制強化の動きの一方で、零売のメリットを訴える声もある。▽医療費削減につながる▽病院で処方される薬より安い場合があり、経済的負担が軽減する▽どうしても医療機関に行けないときに助けてもらえる、など」と零売擁護を訴えています。日本総研は「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」を提案こう見てくると、零売規制は、単に「薬局に処方箋医薬品以外の医療用医薬品を売らせるかどうか」という単純な問題ではなく、医師や薬剤師の役割分担、国民のセルフメディケーションの意識改革、無駄な医療費削減等にも関わる大きな問題だということがわかります。ことは、OTC類似薬の保険適用外しとも関連してきます。前述したように日本総研の成瀬氏は、レポート「零売規制の妥当性を問う」で医療用医薬品という日本特有の区分を廃止し、処方箋医薬品以外はOTC医薬品とする諸外国と同様のシンプルな制度とすることを提案、「医療用医薬品という区分が廃止され、ダブルスタンダードが解消されれば、零売という概念そのものがなくなる」と書いています。もっとも、それが実現した時に重要な役割を担うはずの薬剤師の団体、日本薬剤師会自体は薬機法等改正法案に賛成し、零売にも否定的で弱腰な点が気になりますが……。「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」は一見大胆なようですが、とても理にかなった提案だと思います。薬機法等改正案成立後の政省令や通知類、そして社会保障改革に関する自民党、公明党、日本維新の会の3党協議で検討が進められるOTC類似薬の保険外しなど(「第253回 石破首相・高額療養費に対する答弁大炎上で、制度見直しの“見直し”検討へ……。いよいよ始まる医療費大削減に向けたロシアン・ルーレット」参照)、医薬品を巡る今後の議論の行方に注目したいと思います。

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クローン病患者の便意切迫感を改善するミリキズマブ/リリー・持田製薬

 日本イーライリリーと持田製薬は、ミリキズマブ(商品名:オンボー)のクローン病(CD)に対する適応追加にあたり、4月10日にメディアセミナーを開催した。 今回適応拡大されたミリキズマブは、2023年6月に同じ炎症性腸疾患の潰瘍性大腸炎の治療薬として発売され、今回、中等症~重症の活動期CDの治療(既存治療で効果不十分な場合に限る)の適応が追加された。 セミナーでは、同社が行ったCD患者へのアンケート結果やミリキズマブの適応拡大における第III相臨床試験VIVID-1試験の概要が説明された。クローン病患者が苦しんでいる日常生活 「クローン病の疾患概要と課題、便意切迫感の影響と実態に関する調査結果について」をテーマに日比 紀文氏(慶應義塾大学医学部 名誉教授)が、病態などの説明と持田製薬が行った患者アンケートの概要を述べた。 CDは、免疫異常などの関与で起こる肉芽腫性炎症性疾患であり、わが国には約7万例の患者が推定され、男性に多く、わが国では10代後半からの発症が多いという。主な症状としては、下痢、腹痛、発熱などがある。また、潰瘍性大腸炎と異なり、大腸のほかにも胃や小腸でも病変が認められ、縦走潰瘍、敷石像などが内視鏡で観察される。また、全層性の炎症で、瘻孔や狭窄もあり、痔ろうなど腸管合併症も認められる。そして、CDの病型分類では、小腸大腸型で1番患者数が多く、小腸型と大腸型では同じ割合で患者がいる。 CDの症状に対する患者と医師の認識の差について、「QOLに最も影響を与える症状」では、患者が「便意切迫感」(65%)が1番多かったのに対し、医師では「腹痛」(82%)だった1)。 この患者が挙げる便意切迫感は、「突然かつ緊急に感じる排便の必要性」と定義され、患者のQOLを著しく悪化させている。そこで、日比氏と持田製薬は、2025年1~2月にアンケートを実施し、CDにおける便意切迫感の影響と実態に関する調査結果を発表した。 調査は、CD患者100人、一般人431人、医師106人にインターネットで実施された。質問で「便意切迫感に襲われた経験がある人(98人)に頻度」を聞いたところ、「1日1回以上」と回答した人が42.8%だった。また、CD患者100人に「便意切迫感にどの程度困っているか」を聞いたところ、「日常生活を普通に過ごせないくらい」が14.0%、「困っているが普通の生活を努力して維持できる」が62.0%と全体で約75%の患者が困っていると回答していた。そのほか、日常生活の便意切迫感で困っていることでは「トイレの待ち時間に不安を感じる」が54.0%、人生において便意切迫感で困っていることでは「仕事・学校を辞めた」が24.0%と患者に多大な影響を及ぼしていることがうかがえた。CDの症状や便意切迫感について、「どのように理解され、対応してほしいか」を患者に聞いたところ、「困るときがあるので、求められたら手を差し伸べてほしい」が45.0%で1番多い回答だった。 以上から「便意切迫感の課題」として、患者は日常生活だけでなく人生のイベントに影響を受けていること、日常生活の維持に患者の努力があること、本音では患者は「便意切迫感から解放されたい」と思っていること、この「便意切迫感」は、周囲には伝えきれていないことを示した。最後に日比氏は、「今後は日常生活の中で『便意切迫感』に不安にならない環境作りが大切だ」と指摘し、「その実現には、周囲の偏見や誤解をなくすことが重要だ」と語った。臨床試験でミリキズマブは便意切迫感を改善 「クローン病に対する新しい治療選択肢について」をテーマに、久松 理一氏(杏林大学医学部消化器内科学 教授)が、ミリキズマブの特徴と第III相臨床試験VIVID-1(AMAM)試験の概要について説明した。 「令和5年クローン病治療指針(内科)」2)では、軽症~中等症~重症まで3段階に分けて使用する薬剤が示されている。ミリキズマブは、既存治療で効果不十分な場合に、中等症以上の病変で使用することができる治療薬。 本剤は、抗IL-23p19モノクローナル抗体製剤として、腸管炎症の原因となるサイトカインを作る免疫細胞に指令を出すIL-23に付着し、指令を阻害することでサイトカイン産生を阻む機序を持つ。使用に際しては、治療開始時に寛解導入療法として点滴静注製剤1回900mgを4週間隔で3回投与し、その後は維持療法として皮下注製剤1回300mgを4週間隔で投与する。 そして、今回適応拡大で行われた第III相臨床試験VIVID-1(AMAM)試験では、CD患者を対象に(1)患者報告型アウトカム(PRO)による12週における臨床的改善かつ52週における内視鏡的改善、(2)PROによる12週における臨床的改善かつ52週におけるCrohn’s disease activity index(CDAI)による臨床的寛解の2つを主要評価項目として、プラセボに対するミリキズマブの優越性を評価した。 試験対象は、ステロイド系薬剤、免疫調節薬などに対し効果不十分、効果減弱または不耐の中等症~重症の活動性CD患者1,152例(日本人28例を含む)。 試験の結果、12週時点でPROによる臨床的改善かつ52週時点で内視鏡的改善を達成した患者の割合は、ミリキズマブ群(579例)で38.0%に対し、プラセボ群(199例)で9.0%だった。また、12週時点でPROによる臨床的改善かつ52週時点でCDAIによる臨床的寛解を達成した患者の割合は、ミリキズマブ群(579例)で45.4%に対し、プラセボ群(199例)で19.6%だった。 そのほか、52週時点の排便回数・腹痛スコアのベースラインからの変化量は、ミリキズマブ群(579例)は-3.28であったのに対し、プラセボ群(199例)は-1.39だった。腹痛スコアも52週のミリキズマブ群(579例)は-1.16だったのに対し、プラセボ群(199例)は-0.52だった。 では、既存の治療薬との効果の違いはあるのか。ウステキヌマブとの比較で、52週時点でのCDAIによる臨床的寛解を達成した患者の割合は、ミリキズマブ群(579例)が54.1%でウステキヌマブ群(287例)の48.4%に対し非劣性であった。同じく52週時点での内視鏡的改善を達成した患者の割合は、ミリキズマブ群が48.4%、ウステキヌマブ群が46.3%だった。 安全性については、死亡事例はなく、主な有害事象としては、貧血、関節痛、頭痛などが報告された。 最後に久松氏は「ミリキズマブは、中等症~重症の活動期CD患者の臨床症状、粘膜炎症および患者報告アウトカムをいずれも改善したこと、排便回数、腹痛および便意切迫感の有意な改善が認められたこと、CD患者を対象とした臨床試験で新たな有害事象の懸念は認められなかったこと」に言及して講演をまとめた。

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肥満や脂質異常症がCKDリスクを増大か/東大

 日本のメタボリックシンドロームの基準値を外れる内臓脂肪蓄積や脂質異常症、肥満は尿蛋白の発現リスクが高く、HDLコレステロール低値は腎機能低下と関連していることを、東京大学の吉田 唯氏らが明らかにした。Internal Medicine誌オンライン版2025年4月12日号掲載の報告。 高血圧や高血糖と慢性腎臓病(CKD)との関連は多く報告されているが、肥満や内臓脂肪蓄積、脂質異常症とCKDの関連に関しては見解の一致が得られていない。そこで研究グループは、大規模な職域健診データを解析し、日本のメタボリックシンドロームの基準値(ウエスト周囲径[男性≧85cm、女性≧90cm]、トリグリセライド値≧150mg/dL、HDLコレステロール値<40mg/dL)およびBMI値25以上とCKDの発症・進行との関連を調査した。 対象は、2015~22年にパブリックヘルスリサーチセンターが実施した健康診断を受け、血清クレアチニンを2回以上測定していた30万8,174人であった。eGFRの低下率とBMI、HDLコレステロール、トリグリセライドとの関連を調べるために多変量ロジスティック回帰分析を実施した。さらに、ポアソン回帰分析を使用して、ベースライン時に尿蛋白が認められなかった集団における尿蛋白の新規発現とeGFRの低下との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。●ベースライン時の年齢中央値は46歳で、男性が60%であった。 ●HDLコレステロール低値は、その後の比較的急速なeGFRの低下(≧5%/年)と関連していた(調整オッズ比[aOR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.97~0.99、p<0.0001)。●ウエスト周囲径、HDLコレステロール値、トリグリセライド値がメタボリックシンドロームの基準から外れている場合、基準内の集団よりも尿蛋白の新規発現が多かった。 ・ウエスト周囲径高値のaOR:1.36(95%CI:1.28~1.45)、p<0.0001 ・HDLコレステロール低値のaOR:1.21(95%CI:1.08~1.36)、p=0.0012 ・トリグリセライド高値のaOR:1.09(95%CI:1.02~1.17)、p<0.0001●BMI値が高いほど尿蛋白の新規発現が多かった。 ・BMI値25以上のaOR:1.40(95%CI:1.32~1.49)、p<0.0001 ・BMI値30以上のaOR:1.64(95%CI:1.49~1.80)、p<0.0001 ・BMI値35以上のaOR:1.82(95%CI:1.52~2.19)、p<0.0001 これらの結果より、研究グループは「脂質異常症と肥満のある患者では、腎機能障害の早期発見と経過観察が重要である」とまとめた。

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統合失調症に対するアリピプラゾール+CBTの有用性〜ランダム化比較試験

 統合失調症患者に対するアリピプラゾールと認知行動療法(CBT)併用療法の認知機能および心理状態に及ぼす影響を評価するため、中国・The Second People's Hospital of Guizhou ProvinceのJun Yan氏らは、ランダム化比較試験を実施した。Acta Neuropsychiatrica誌オンライン版2025年3月27日号の報告。 対象は、統合失調症患者78例。従来の看護治療を行い3ヵ月間のアリピプラゾール投与を行った対照群(39例)、CBT(1回/週、各セッション60分)と3ヵ月間のアリピプラゾール投与を行ったCBT併用群(39例)のいずれかに分類した。治療前後の症状重症度を両群間で比較した。精神症状の評価には、簡易精神症状評価尺度(BPRS)を用いた。認知機能は、神経心理検査アーバンズ(RBANS)を用いて評価した。QOLの評価には、General Quality of Life Inventory-74(GQOLI-74)を用いた。最終分析では、治療後の両群間における有効性および合併症を評価した。 主な結果は以下のとおり。・両群ともに、有意な改善が認められた。BPRSおよび陽性陰性症状評価尺度(PANSS)スコアの低下、RBANS、一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES)、GQOLI-74スコアの上昇が認められた。・CBT併用群は、対照群よりも大きな改善を示した。・CBT併用群の総改善率は89.74%(35例)であり、対照群71.79%(28例)よりも高かった。・合併症の発生率は、CBT併用群で33.33%(13例)、対照群で38.46%(15例)であった。 著者らは「統合失調症に対するアリピプラゾールと組み合わせたCBTは、患者の認知機能および心理状態に有意なベネフィットをもたらすことが示唆された」と結論付けている。

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整形外科における術後せん妄、幅広い20のリスク因子が明らかに~メタ解析

 術後せん妄(POD)は、外科手術を受けた患者によくみられる術後合併症である。発症率は診療科によって異なるが、とくに整形外科患者のPOD発症率は一般病棟入院患者と比較し大幅に高い。せん妄は、患者の転帰と医療システムの両方に重大な影響を及ぼす可能性があるため、PODのリスク因子を特定し、予防することが重要である。三重大学医学部附属病院のRio Suzuki氏らは、下肢整形外科手術後におけるPODのリスク因子を特定したことを報告した。PLoS One誌2025年4月1日号掲載の報告。 本研究では、人工股関節全置換術や人工膝関節全置換術といった下肢整形外科手術後の患者におけるPODのリスク因子を調査した観察研究を、主要な医学データベース(CINAHL、MEDLINE)から網羅的に収集した。適格基準を満たす2つ以上の研究で解析されたせん妄に関する変数を抽出し、ランダム効果モデルを用いて、プールされたオッズ比(OR)、標準化平均差(SMD)を算出した。データはp<0.05の場合に統計学的に有意と見なされた。データベースの検索期間は1975~2024年7月までとした。 主な結果は以下のとおり。・データベース検索では、あらかじめ定義された検索キーワードを用いて2,599件の記録が同定され、最終的に27件の研究が適格基準を満たした(11件が前向きコホート研究、16件が後ろ向きコホート研究)。・この27件の研究の中で計9,044例の参加者データを統合し、システマティックレビューとメタ解析を行った結果、PODの発症に関連する以下の20の因子が特定された。【患者側の因子】 高齢(SMD:0.8、95%信頼区間[CI]:0.56~1.03)、ポリファーマシー(OR:1.47、95%CI:1.19~1.82)【合併症】 入院前の認知機能低下(OR:3.76、95%CI:1.57~9.02)、認知症(OR:4、95%CI:2.09~7.67)、一過性脳虚血発作(OR:1.69、95%CI:1.22~2.32)、パーキンソン病(OR:2.32、95%CI:1.56~3.44)、心血管疾患(OR:1.4、95%CI:1.16~1.68)、心筋梗塞(OR:1.4、95%CI:1.01~1.95)、せん妄歴(OR:12.64、95%CI:8.75~18.27)【術前因子】 認知機能検査(MMSE)のスコア(SMD:-0.59、95%CI:-1.05~-0.13)、血清Alb低値(SMD:-0.69、95%CI:-1.09~-0.29)、CRP高値(SMD:0.47、95%CI:0.05~0.88)、TSH異常値(SMD:-1.83、95%CI:-2.66~-1.01)、FT3異常値(SMD:-0.37、95%CI:-0.62~-0.12)【術中因子】 入院期間の延長(SMD:0.47、95%CI:0.18~0.76)、長時間の手術(SMD:0.53、95%CI:0.16~0.90)、長時間の麻酔(SMD:0.16、95%CI:0.05~0.28)、全身麻酔(OR:1.28、95%CI:1.04~1.58)、脊髄麻酔(OR:0.79、95%CI:0.65~0.97)、輸血(OR:2.03、95%CI:1.02~4.08) 著者らは「術前および術後のデータを収集することは、PODの高リスク患者を同定するために非常に重要である。本研究の結果が整形外科手術後のPODの予測および予防に役立つ可能性がある」と結論付けている。

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患者・市民参画(PPI)の詳細情報、4医学誌でも不足/BMJ

 「患者・市民参画(patient and public involvement:PPI)」は、無作為化比較試験(RCT)の効率と妥当性を向上させ、研究が患者の真のニーズと嗜好に合致するようにするためにきわめて重要とされる。ベルギー・KU LeuvenのAlice Vanneste氏らは、主要な医学雑誌に掲載されたRCT論文やそのプロトコールのうち、PPIの記載があるのは20%未満にすぎず、PPIの役割と貢献度に関する詳細な情報は不足しており、プロトコールで計画されたPPI活動と発表された論文で報告された内容の間には矛盾が存在することを明らかにした。研究の成果は、BMJ誌2025年4月10日号に掲載された。主要4誌のメタ疫学研究 研究グループは、主要な医学雑誌に掲載されたRCTの論文およびその試験プロトコールに記載されたPPIの報告とその進展の状況を経時的に調査する目的でメタ疫学研究を行った(特定の研究助成は受けていない)。 4つの主要医学雑誌(BMJ、JAMA、NEJM、Lancet)で2015~23年に発表されたRCT論文と、これに関連する査読付きのプロトコールをPubMedで検索した。各雑誌でこの期間に発表されたその年の最初の10件のRCTを対象とした(論文360報)。 本研究では、PPIを「患者、介護者、一般市民が、試験の計画・立案から実施、結果報告に至るまで、研究の全過程に積極的に関与することであり、試験参加者としての役割とは異なるもの」と定義した。試験委員会への参加が最も多い 360報の論文のうち、対応するプロトコールに言及していたのは299報(83%)であった。PPIを報告していたのは、64報(18%)の論文と56報(19%)のプロトコールだけであった。36件のRCTでは、論文とプロトコールの両方でPPIを報告していたが、両者のPPI報告には顕著な矛盾が存在した。全体として、360の試験のうち84試験(23%)が、論文とプロトコールのいずれか、または両方でPPIを報告していた。 PPIを報告した論文64報とプロトコール56報では、PPI活動に関与していたのは主に患者とその代理人で、最も一般的なPPI活動は試験委員会(たとえば、運営、管理、データ監視の委員会)への参加であった(論文:44報[69%]、プロトコール:39報[70%])。 PPIは、主にRCTの開発段階で行われ、試験デザインに関するフィードバック、試験資料(参加者情報、同意書など)のレビュー、試験の実行可能性(パイロット試験中の試験参加負担、受診頻度、介入の受容性など)の評価などの情報が得られた。PPI報告は増加傾向に プロトコールには論文よりも詳細な情報が記載されていることもあったが、いずれにおいてもほとんどの場合、PPIの貢献度については曖昧なことが多く、特定のアウトカムやRCT内での意思決定への影響に関する詳細な情報の記載はなかった。また、PPIの寄与に関する正式な評価の記載は、プロトコール(18報[32%])よりも論文(37報[58%])で多く、主に謝辞の部分でPPIの貢献度を評価していた。 PPI報告は、全体的に経時的に増加する傾向を認め、過去2年間に最高水準に達していたが、まだ30%を超えていなかった。また、2014年にPPI報告を義務付けたBMJ誌は、論文中のPPI報告の多くを占めた(49報[77%])。PPI報告を義務付けていない他誌では、論文よりもプロトコールでPPIが報告されることが多かった。 著者は、「これらの知見は、一貫性があり詳細で構造化された記述を可能にし、最終的に臨床研究におけるPPIの透明性と影響力を増強するためには、標準化されたPPI報告の方法が必要であること示すものである」としている。

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ICU患者への生命維持装置の使用と転帰、2014~23年の動向/JAMA

 2014~23年の10年間に、米国の集中治療室(ICU)入室患者では院内死亡率とICU在室期間が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック期に増加したが、その後はパンデミック前の水準に戻り、パンデミック前と比較して機械換気を受けるICU患者が減少したものの、昇圧薬の投与を要する患者は3倍に増加したことが、米国・ペンシルベニア大学のEmily E. Moin氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年4月14日号で報告された。ICU入室経験のある入院患者の10年間の後ろ向きコホート研究 研究グループは、COVID-19のパンデミック前・中・後における米国の救命救急診療の疫学的状況を描出する目的で後ろ向きコホート研究を行った(筆頭著者[Moin氏]は米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 解析には、2014年1月1日~2023年12月31日の10年間に、米国の54のヘルスシステムからEpic Cosmos(2億6,200万例以上の医療記録を擁する地域共同ヘルスシステム)に登録された18歳以上の入院患者で、少なくとも1回のICU入室経験を有する集団のデータを用いた。 解析には、2014年1月1日~2023年12月31日の10年間に、米国の54のヘルスシステムからEpic Cosmos(2億6,200万例以上の医療記録を擁する地域共同ヘルスシステム)に登録された18歳以上の入院患者で、少なくとも1回のICU入室経験を有する集団のデータを用いた。COVID-19陰性・陽性例ともパンデミック期に院内死亡率上昇 ICU入室を含む入院345万3,687件を解析の対象とした。10年間の入院におけるICU治療の割合は15.3%で、2014年の15.0%から2023年には14.8%に低下した(差:0.2%ポイント[95%信頼区間[CI]:0.2~0.3])。全体の年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:53~75)、男性が55.3%で、黒人が17.3%、ヒスパニック系またはラテン系が6.1%であり、院内死亡率は10.9%であった。 補正後院内死亡率は、パンデミック期間中にCOVID-19陰性例(補正後オッズ比[aOR]:1.3[95%CI:1.2~1.3])、同陽性例(aOR:4.3[95%CI:3.8~4.8])のいずれにおいても上昇したが、2022年の半ばまでにベースラインの状態に戻った。 全体のICU在室期間中央値は2.1日(IQR:1.1~4.2)であり、パンデミック期にはCOVID-19陰性例(2.1日)に比べ同陽性例(4.1日)で延長していた(差:2.0日[95%CI:2.0~2.1])。また、パンデミック後のICU在室期間中央値は2.2日(IQR:1.1~4.3)と、パンデミック前と比較して長かった(差:0.1日[95%CI:0.1~0.1])。機械換気の使用割合はベースラインよりも低下 侵襲的機械換気の使用割合は、パンデミック前の23.2%(95%CI:23.1~23.2)から、パンデミック期には25.8%(25.8~25.9)に上昇し、その後は22.0%(21.9~22.2)とパンデミック前のベースラインの値よりも低くなった。一方、ICU在室中の昇圧薬の使用率は、2014年の7.2%から2023年には21.6%へと大幅に増加した。 ICU在室中に昇圧薬も侵襲的機械換気も使用しなかった患者の割合は、パンデミック前に72.5%(95%CI:72.4~72.5)であったのに対し、パンデミック期には65.1%(65.0~65.2)に低下し、その後も66.7%(66.5~66.8)と低下した状態が続いた。 著者は、「本研究の結果は、COVID-19のパンデミック期におけるICU患者の死亡率は、COVID-19への罹患の有無にかかわらず増加し、とくにCOVID-19罹患の急増期に顕著であったことを示しているが、これにはさまざまな潜在的な原因が考えられる。また、これらの結果は、特定の地域やメディケア受給者ではパンデミック期にCOVID-19陰性例の院内死亡率が上昇したとの先行研究の知見を広げるものである。これは、ICU治療の恩恵を受けられたはずの入院患者のICU治療へのアクセスが低下したためと推測されているが、本研究ではICU治療を受けた陰性例でも死亡率が上昇していた」と考察している。

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AYA世代がん治療後の妊孕性予測モデル構築に向け、クラウドファンディング実施/大阪急性期・総合医療センター

 「小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2024年12月改訂 第2版」の外部評価委員を務めた森重 健一郎氏(大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センター生殖医療センター長)が、AYA世代の妊孕性予測ツールを開発する目的でクラウドファンディングを開始しており、5月16日まで寄付を募集している。AYA世代への妊孕性介入の課題 現在、国が進める「第4期がん対策推進基本計画」では目標3本柱として、1)がん予防、2)がん医療、3)がんとの共生を掲げており、2)がん医療のがん医療提供体制において妊孕性温存療法の対策の推進が触れられている。厚生労働省の「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」1)に携わる森重氏は、「がん医療の進歩により、AYA世代(思春期・若年成人、15~39歳)のがんサバイバー数は増加傾向にある。一方で、AYA世代の患者やその家族には、治療開始のタイミングで卵子の温存までは考えが及ばないことが多いため、医療者による妊孕性温存法の選択に関する情報提供が求められる。彼女らの将来の選択肢を残すためにも、AYA世代の罹患率が高い乳がん、造血器腫瘍、希少がんを扱う医療者への周知はもちろんだが、高齢化が進んだ地方ではAYA世代のがん患者への対応が不十分なところもあり、格差の解消が必要」とコメント。妊孕性温存法には患者の環境や年代に応じて3つの選択肢(胚[受精卵]凍結、未受精卵子凍結、卵巣組織凍結)があり、2021年4月より補助制度1)がスタートしている。生殖医療の対象要件をバイオマーカーで解決させたい この補助制度における対象者の選定については、ガイドライン第2版の内容が反映されているが、そこにはエビデンス不足による課題が残っていると同氏は話した。「米国臨床腫瘍学会や欧州臨床腫瘍学会のガイドラインに基づいて、国内のガイドライン第2版でも女性患者の場合“無月経の発生をもとに卵巣機能不全”と定義して対象患者の選定基準を設けているが、この根拠は薄弱で評価方法については検討の余地がある。対象患者の要件をより適正にするためには、卵巣機能低下を正確な指標で評価する必要がある」と述べ、「そこで、妊孕性の正確なパラメータとして有用とされる抗ミュラー管ホルモン(AMH)*を用いた前向きコホート研究を行い、そのための寄付を募集している」とクラウドファンディングを始めた経緯を説明した。研究実施体制としては、大阪府のみならず、全国のがん診療連携拠点病院やがん患者妊孕性温存治療費助成事業指定病院に協力を仰ぎ、森重氏らが研究統括として、データ管理や解析を担っている。*現在、既婚・パートナーがいる不妊症患者については保険適用だが、未婚のAYA世代には保険適用外。 クラウドファンディングで得られる寄付金は検査費用、データ分析や予測モデルの作成、Webツール開発などの費用の一部に充てる予定で、「AYA世代のがん患者さんが将来の赤ちゃんを諦めずに済むよう、妊孕性について十分納得してがん治療に取り組むことができるような社会創生のために研究を行っている。1人でも多くの方々にプロジェクトの意義を知ってもらい、参加いただきたい」と話した。【プロジェクト概要】・目標金額:650万円・募集期間:5月16日(金)午後11時まで・プロジェクトの目的:AYA世代女性がん患者の治療後の卵巣機能評価に関する前向きコホート研究を実施し、AMH、FSH(卵胞刺激ホルモン)、月経の有無などから判断される卵巣機能不全の予測モデルを構築し、補助医療の対象者の適正化などを図る・寄付金の使途:AMH/FSH/胞状卵胞数測定費用、データ分析、予測モデルの作成、Webツールの開発の費用、クラウドファンディング手数料など

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帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%低下/Nature

 帯状疱疹ワクチンは、痛みを伴う発疹の予防だけでなく、認知症の発症から高齢者を守る効果もあるようだ。新たな研究で、英国のウェールズで帯状疱疹ワクチンが利用可能になった際にワクチンを接種した高齢者は、接種しなかった高齢者に比べて認知症の発症リスクが20%低いことが示された。米スタンフォード大学医学部のPascal Geldsetzer氏らによるこの研究の詳細は、「Nature」に4月2日掲載された。 帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)の原因ウイルスでもある水痘・帯状疱疹ウイルスにより引き起こされる。このウイルスは、子どもの頃に水痘に罹患した人の神経細胞内に潜伏し、加齢や病気により免疫力が弱まると再び活性化する。帯状疱疹ワクチンは、高齢者の水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫反応を高め、潜伏中のウイルスが体表に現れて帯状疱疹を引き起こすのを防ぐ働きがある。しかし、最近の研究では、特定のウイルス感染が認知症リスクを高める可能性が示唆されていることから、Geldsetzer氏らは、帯状疱疹ワクチンにも脳を保護する効果があるのではないかと考えた。 このことを検討するためにGeldsetzer氏らは、2013年9月1日に高齢者に対する帯状疱疹ワクチンの接種が開始されたウェールズに目を向けた。当時はワクチン(Zostavax)の供給量が限られていたため、このときの接種対象者は1933年9月2日以降に生まれた79歳の人に限定され、接種可能な期間も1年間に限られていた。開始時点で80歳以上だった人は、生涯にわたって接種対象外とされた。しかし、この規制が、ワクチンの影響を検証するランダム化比較試験の条件を自ずと生み出したと研究グループは指摘する。Geldsetzer氏らは、帯状疱疹ワクチン接種開始の直後に80歳に達した接種対象者(接種群)とワクチン接種直前に80歳に達した接種対象外の高齢者(1933年9月2日より前に生まれた人、対照群)を7年間追跡し、認知症の発症について比較した。 その結果、接種群では対照群に比べて、追跡期間中に新たに認知症の診断を受ける確率が3.5パーセントポイント低いことが示された。これは、接種群では対照群と比較して、認知症の相対的なリスクが20%低下したことに相当する。この効果は、教育レベルや糖尿病、心臓病、がんなどの慢性疾患など、認知症リスクに影響を与え得る因子を考慮した解析でも変わらず認められた。ワクチン接種のこのような保護効果は、男性よりも女性で顕著だった。さらに、イングランドとウェールズの合算人口を対象にした別のデータを使った検討でも同様の結果が確認された。 Geldsetzer氏は、「本研究で確認された兆候は非常に強力かつ明確な上に、持続的でもあった」と話す。ただし、なぜ帯状疱疹ワクチンが認知症を予防するのかは明らかになっていない。研究グループは、ワクチンが免疫システム全体を強化するか、あるいは特に水痘・帯状疱疹ウイルスが脳の健康に及ぼす未知の影響を防ぐことで、脳を保護する可能性があると推測している。 さらに、研究グループは、現時点では米国でのみ入手可能な最新のワクチンであるShingrixが、今回の研究で検討されたZostavaxと同様の認知症予防効果をもたらすのかどうかも不明だと話す。Zostavaxは弱毒化された水痘・帯状疱疹ウイルスを用いた生ワクチンであるのに対し、Shingrixはウイルスの特定のタンパク質のみを利用した遺伝子組み換え不活化ワクチンである。研究グループによると、Shingrixは水痘・帯状疱疹ウイルスに対してZostavaxより効果的だが、認知症リスクへの影響はZostavaxと異なる可能性があるという。 Geldsetzer氏は、本研究で得られた知見がきっかけとなって、Shingrixの認知症予防効果を検討する研究が実施されるようになることに期待を示している。同氏は、「少なくとも、今持っている資源の一部を使って帯状疱疹ワクチンと認知症との関連に関して研究を進めることで、治療と予防の面で画期的な進歩につながる可能性がある」と話している。

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百日咳ってどんな病気?

百日咳ってどんな病気?• 「百日咳菌」への感染によって起こり、飛沫感染や接触感染が主な感染経路です• 名前のとおり激しい咳を伴う病気で、いずれの年齢でもかかりますが、1歳以下、とくに生後6ヵ月以下の乳児では重症化や、まれに死に至ることもあり注意が必要です主な症状予防するには?経過は3期に分けられ、全体で約2~3ヵ月で回復するとされていますワクチン接種により、罹患リスクを80~85%程度減らすことができると報告されています1.カタル期(約2週間持続):通常7~10日間程度の潜伏期を経て、普通のかぜ症状で始まり、次第に咳の回数が増えて程度も激しくなります5種混合ワクチン:0~1歳児の定期接種として導入されている5種混合ワクチンは、百日咳を含む5つの感染症を予防するワクチンですけいがい2.痙咳期(約2~3週間持続):特徴的な発作性けいれん性の咳(短い咳が連続的に起こり、息を吸う時にヒューという音が出る)になります(夜間に悪化することが多い)。乳児期早期では特徴的な咳がなく、単に息を止めているような無呼吸発作からチアノーゼ(顔や唇、爪の色が紫色に見えること)、けいれん、呼吸停止と進展することがあります3.回復期:激しい咳は次第に減衰します。成人では咳が長期にわたって持続する場合がありますが、やがて回復に向かいます初回接種:生後2~7ヵ月に至るまでの間を標準的な接種期間として20日以上(標準的には20~56日まで)の間隔をおいて3回接種します追加接種:初回接種終了後6ヵ月以上(標準的には6~18ヵ月まで)の間隔をおいて1回接種します※ワクチンによる予防効果は4~12年で減弱すると報告されており、接種から時間が経つことで感染することがあります。ワクチン未接種の新生児・乳児の感染源とならないよう注意が必要です出典:厚生労働省HP「百日咳」「5種混合ワクチン」JIHS感染症情報提供サイト「百日咳」Copyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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日本と海外の診療ガイドライン比較を効率化するプロンプト【誰でも使えるChatGPT】第3回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。前回は、ChatGPTを「病態把握と鑑別診断」のブレーンストーミング・パートナーとして活用するプロンプトをご紹介しました。患者さんの症状から考えられる疾患をリストアップさせ、見落としを防ぐ一助とする使い方でしたが、診断プロセスを検討する際のお役に立てたでしょうか。さて、シリーズ第3回となる今回は、診断後の「治療方針決定」に関わる場面での活用法です。とくに「日本と海外の診療ガイドラインの違い」を、効率的に把握するためのプロンプトをご紹介します。ご存じのとおり、多くの疾患には国内外で作成された診療ガイドラインが存在します。日本のガイドラインは、国内の保険制度や医療実態、日本人におけるエビデンスに基づいて最適化されていますが、一方で、海外のガイドライン、とくに欧米のものは、新薬の承認状況や治療アルゴリズムの考え方に違いが見られることがあります。最新の国際的な治療動向を把握し、自らの診療の参考にしたり、患者さんへの説明に役立てたりするためには、これらのガイドラインを比較検討することが非常に有益です。しかし、複数の言語で書かれた長大なガイドラインを読み込み、比較点を抽出するのは、多忙な日常診療の中ではなかなか骨の折れる作業ですよね。そこで役立つのが、今回のプロンプトです。関連サイトChatGPT(疾患名)における日本と海外(例:米国、欧州など)の診療ガイドラインを比較し、とくに治療法の推奨に関する主な相違点を解説してください。ここで(疾患名)には、比較したい具体的な疾患名、たとえば「アトピー性皮膚炎」や「尋常性乾癬」などを入力します。必要であれば、比較対象にしたい海外の地域(米国皮膚科学会[AAD]、欧州皮膚科学性病学会[EADV]など)を指定すると、より的確な情報が得られやすくなります。アトピー性皮膚炎における日本皮膚科学会の診療ガイドラインと、欧州皮膚科フォーラム(European Dermatology Forum)のガイドライン(またはAADガイドライン)を比較し、とくに中等症~重症例に対する全身療法の推奨(生物学的製剤やJAK阻害薬の位置付けなど)に関する主な相違点を簡潔に解説してください。ChatGPTからの回答例以下に、日本皮膚科学会(JDA)診療ガイドライン(2021年改訂)と、欧州皮膚科フォーラム(EDF 2022)および米国皮膚科学会(AAD 2023)の中等症~重症アトピー性皮膚炎に対する全身療法の位置付けを比較し、主な相違点を簡潔にまとめます。◆比較の焦点:中等症〜重症アトピー性皮膚炎の全身療法(生物学的製剤・JAK阻害薬)画像を拡大する◆解説・まとめ日本(JDA)は依然としてシクロスポリンを中心にした従来の免疫抑制薬を重視しつつ、デュピルマブやJAK阻害薬は新たな選択肢として位置付ける慎重な姿勢が見られます。欧州(EDF)はdupilumabを最も標準的な治療と認識しており、JAK阻害薬は代替的選択肢にとどまります。米国(AAD)はdupilumabとJAK阻害薬の両方を初回治療の選択肢としており、より柔軟な治療戦略を示しています。ご要望があれば、それぞれのガイドラインの具体的な記述や推奨グレードもご紹介いたします。その際は、お知らせください。このように、ChatGPTに尋ねることで、膨大なガイドラインの中から比較すべきポイントや主な違いを短時間でリストアップさせることが可能です。これにより、「どこに注目して原文を読み込むべきか」という当たりをつけることができます。ただし、今回も重要な注意点があります。1.情報の鮮度と正確性ChatGPTが参照しているガイドラインのバージョンが最新であるとは限りません。必ず、回答で示されたガイドライン名や発行年を確認し、必要であれば最新版の原文を参照してください。2.最終判断は医師自身でAIが示す比較・解説はあくまで「要約」や「たたき台」です。治療方針の最終決定は、必ず一次情報であるガイドライン本文や関連論文を確認し、個々の患者さんの状況に合わせて医師自身が行う必要があります。3.解釈のニュアンスガイドラインの推奨度(強く推奨、条件付き推奨など)の微妙なニュアンスは、AIの要約だけではつかみきれない場合があります。重要な判断に関わる場合は、原文での確認が不可欠です。このプロンプトは、国際的な標準治療や最新の考え方を効率的にキャッチアップし、日々の診療に深みを持たせるための「情報収集アシスタント」として活用できるでしょう。次回は、患者さんへの説明資料作成をサポートするプロンプトなど、また別の角度からの活用法をご紹介できればと考えています。どうぞお楽しみに。

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第264回 線維筋痛症女性の痛みが健康な腸内細菌の投与で緩和、生活の質も向上

線維筋痛症女性の痛みが健康な腸内細菌の投与で緩和、生活の質も向上腸内細菌入れ替えの線維筋痛症治療の効果が、イスラエルでの少人数の臨床試験で示されました1)。どこかを傷めていたり害していたりするわけでもないのに、体のほうぼうが痛くなる掴みどころのない慢性痛疾患である線維筋痛症の少なくともいくらかは、健康なヒトからの腸内細菌のお裾分けで改善するようです。線維筋痛症は多ければ25人に1人の割合で認められ、主に女性が被ります。線維筋痛症の根本原因や仕組みは不明瞭で、的を絞った効果的な治療手段はありません。線維筋痛症で生じる神経症状は痛みに限らず、疲労、睡眠障害、認知障害をもたらします。それに過敏性腸症候群(IBS)などの胃腸障害を生じることも多いです。腸内微生物が慢性痛のいくつかに携わりうることが示されるようになっており、IBSなどの腸疾患と関連する内臓痛への関与を示す結果がいくつも報告されています。線維筋痛症の痛みやその他の不調にも腸内微生物の異常が寄与しているのかもしれません。実際、線維筋痛症の女性の腸内微生物叢が健康なヒトと違っていることが最近の試験で示されています。そこでイスラエル工科大学(通称テクニオン)の痛み研究者Amir Minerbi氏らは、健康なヒトの腸内細菌を投与することで線維筋痛症の痛みや疲労が緩和しうるのではないかと考えました。まずMinerbi氏らは、線維筋痛症の女性とそうではない健康な女性の腸内微生物を無菌マウスに移植して様子をみました。すると、線維筋痛症の女性の腸内微生物を受け取ったマウスは、健康な女性の腸内微生物を受け取ったマウスに比べて機械刺激、熱刺激、冷刺激に対してより痛がり、自発痛の増加も示しました。続く実験で腸内細菌の入れ替えの効果が裏付けられました。最初に線維筋痛症の女性の微生物をマウスに投与して痛み過敏を完全に発現させます。その後に抗菌薬を投与して腸内微生物を一掃した後に健康な女性の微生物を移植したところ、細菌の組成が変化して痛み症状が緩和しました。一方、抗菌薬投与なしで健康な女性の微生物を投与した場合の細菌組成の変化は乏しく、痛みの緩和は認められませんでした。線維筋痛と関連する細菌を健康なヒトからの細菌と入れ替えることは、痛み過敏を解消する働きがあることをそれら結果は裏付けています。その裏付けを頼りに、細菌の入れ替えがヒトでも同様の効果があるかどうかが線維筋痛症の女性を募った試験で調べられました。試験には通常の治療のかいがなく、とても痛く、ひどく疲れていて症状が重くのしかかる重度の線維筋痛症の女性14例が参加しました。それら14例はまず抗菌薬と腸管洗浄で先住の腸内微生物を除去し、続いて健康な女性3人から集めた糞中微生物入りカプセルを2週間ごとに5回経口服用しました。最後の投与から1週間後の評価で14例のうち12例の痛みが有意に緩和していました。不安、うつ、睡眠、身体的な生活の質(physical quality-of-life)の改善も認められ、症状の負担がおおむね減少しました。投与後の患者の便検体を調べたところ、健康な女性の細菌と一致する特徴が示唆されました。健康な女性の微生物投与の前と後では糞中や血中のアミノ酸、脂質、短鎖脂肪酸の濃度に違いがありました。また、コルチゾンやプロゲスチンなどのホルモンのいくつかの血漿濃度が有意に低下する一方で、アンドロステロンなどのホルモンのいくつかの糞中濃度の上昇が認められました。「14例ばかりの試験結果を鵜呑みにすることはできないが、さらなる検討に値する有望な結果ではある」とMinerbi氏は言っています2)。 参考 1) Cai W, et al. Neuron. 2025 Apr 24. [Epub ahead of print] 2) Baffling chronic pain eases after doses of gut microbes / Nature

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食事中の飲酒量が多いと片頭痛発生率が低い

 アルコール摂取と片頭痛または重度の頭痛との関係は、これまでの文献において依然として議論の的となっている。アルコールは広く消費されている飲料であるため、アルコールと片頭痛または重度の頭痛との関連を明らかにすることは、患者のマネジメントに役立つと考えられる。中国・安徽医科大学のYi Tang氏らは、アルコール摂取と片頭痛または重度の頭痛との潜在的な関係を調査するため、本研究を実施した。Brain and Behavior誌2025年3月号の報告。 1999年3月〜2004年12月の米国国民健康栄養調査(NHANES)データベースのデータを用いて、閾値効果、平滑化曲線フィッティング、多変量ロジスティック回帰を網羅した分析を行い、アルコール摂取レベルと片頭痛または重度の頭痛との関係を評価した。サブグループ解析と相互作用テストにより、異なる層別集団間におけるこれらの関連の安定性を調査した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、1万3,083例。・食事中のアルコール摂取量が増加すると、片頭痛または重度の頭痛のオッズ比が減少することが認められた。・これは、高齢者および男性のサブグループにおいて、より顕著であった。 著者らは「食事中のアルコール摂取量と片頭痛または重度の頭痛との間に、有意な負の相関が認められた」と結論付けている。

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健康長寿を目指すなら、この食事がベスト

 高齢になっても健康を維持するためには、中年期にどのような食生活を送れば良いのだろうか。10万5,000人を超える男女を最長で30年間にわたって追跡し、8つのパターンの食事法について調べた研究からは、代替健康食指数(Alternative Healthy Eating Index;AHEI)が明確に優れていることが示された。コペンハーゲン大学(デンマーク)公衆衛生学准教授で、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の栄養学客員准教授でもあるMarta Guasch-Ferre氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に3月24日掲載された。 AHEIは2002年に、米国農務省(USDA)による米国の食事ガイドラインの遵守度の指標である健康食指数(Healthy Eating Index;HEI)の代替指標として、ハーバード大学の研究者らにより作成された。ハーバード大学によると、HEIとAHEIは似ているが、AHEIの方が慢性疾患のリスクを軽減することにより重点を置いた指標になっているという。AHEIの高い食事とは、果物や野菜、全粒穀物、ナッツ類、豆類、健康的な脂肪を豊富に摂取し、赤肉や加工肉、加糖飲料、塩分、精製穀物の摂取は控えた食事である。 今回の研究では、医療従事者を対象にした2つの長期研究(Nurses’ Health Study、Health Professionals Follow-Up Study)参加者(10万5,015人)が定期的に記入している、食事に関する質問票のデータを分析し、8種類の食事パターンへの遵守度が点数化された。8種類の食事パターンとは、1)AHEI、2)代替地中海食指数(Alternative Mediterranean Index;aMED)、3)DASH食(高血圧予防食)、4)MIND食(地中海食とDASH食を組み合わせた神経変性を遅らせるための食事)、5)健康的な植物性食品ベースの食事指数(Healthful Plant-Based Diet Index;hPDI)、6)プラネタリーヘルスダイエット指数(Planetary Health Diet Index;PHDI)、7)経験的炎症性食事パターン(Empirically Dietary Inflammatory Pattern;EDIP)、8)高インスリン血症のための経験的食事指標(Empirical Dietary Index for Hyperinsulinemia;EDIH)である。 論文の共著者であるハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のFrank Hu氏は、本研究について、「これまでの研究では、特定の疾患や寿命の観点から食事パターンの調査が行われてきた。これに対し、今回の研究では、『自立した生活や良好な生活の質(QOL)を保つ能力に食事がどのような影響を与えるのか』という疑問について、多面的な観点から検討した」と説明している。 30年間の追跡期間中、全参加者の9,771人(9.3%)が健康的に年を重ねていた。解析からは、全ての食事パターンにおいて、遵守度の高かった人は低かった人に比べて、70歳まで健康的に年を重ねているオッズが有意に高いことが明らかになった。その中でも、特に関連が強かったのはAHEIで、オッズ比は1.86(95%信頼区間1.71〜2.01)と算出された。年齢を75歳まで引き上げた場合でも、AHEI遵守度の高い人は低い人に比べて健康的に年を重ねているオッズが有意に高かった(オッズ比2.24、2.01〜2.50)。 Guasch-Ferre氏は、「この研究結果は、植物性食品が豊富で健康的な動物性食品も適度に取り入れた食事パターンが、全般的なヘルシーエイジング(健康的な加齢)を促す可能性があることを示している。また、今後の食事ガイドラインのあり方を検討する上でも、この研究結果が役立つ可能性がある」との見解をハーバード大学のニュースリリースで示している。 一方、論文の筆頭著者でモントリオール大学(カナダ)栄養学分野のAnne-Julie Tessier氏は、「今回の研究結果は、全ての人に適した食事療法は存在しないことを示している。健康的な食事は、個人のニーズや嗜好に合わせることができる」と同大学のニュースリリースの中で述べている。

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1日の心拍数を歩数で割った値がCVリスクの評価に有用

 健康増進のためにスマートウォッチを使って毎日の歩数を測定している人は少なくない。しかし、新たな研究によると、スマートウォッチは歩数だけでなく、健康にとって重要な別の指標も測定しており、それら両者のデータを用いることで、より高い精度で健康効果を予測できる可能性があるという。米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部のZhanlin Chen氏らの研究の結果であり、米国心臓病学会(ACC.25、3月29~31日、シカゴ)で報告された。 一般的に、健康のために1日1万歩歩くことが推奨されている。しかし実際には、研究によって、最適とされる歩数は異なる値が報告されている。一方、Chen氏らの研究結果は、単に歩数を測定するのではなく、1日の心拍数を歩数で割ると、心臓の健康状態をより高精度に評価できるというものだ。同氏は同大学発のリリースの中で、「われわれが開発した方法は、運動そのものではなく、運動に対して心臓がどのように反応するかという点に着目したものだ。身体活動が1日を通して変動する中で、ストレスが加わった時に心臓がそれに適応する能力を把握しようとする、より核心的な課題に迫る意義の高い方法である。われわれの研究は、スマートウォッチというウェアラブルデバイスでそれを捉える初の試みだ」と話している。 この研究では、米国立衛生研究所(NIH)が支援して行われている全国規模の前向き研究の参加者のうち、スマートウォッチ(Fitbit社)の記録と電子カルテ情報がそろっている約7,000人の米国成人のデータが解析に使われた。用いられたデータは合計で、580万人日、歩数にすると510億歩に及んだ。 1日の心拍数を歩数で割った値(daily heart rate per step;DHRPS)が高い人(上位4分の1)は、DHRPSが低い人に比べて、高血圧リスクが1.6倍、2型糖尿病リスクが2倍、アテローム性動脈硬化症による冠疾患のリスクが1.4倍、心不全リスクが1.7倍であることが明らかになった。また、DHRPSは歩数のみや心拍数のみよりも、心血管疾患リスクとの強い関連が認められた。ただし、脳卒中や心臓発作のリスクとの間には、有意な関連が見られなかった。 この結果に基づき研究者らは、「歩数で除した心拍数を用いることで、心臓のより詳しい検査が必要な人を抽出したり、運動療法により高い効果を期待できる人を特定したりすることが可能ではないか」と話している。またChen氏は、「この指標は誰もが容易に計算でき、スマートウォッチにアプリをダウンロードして値を求めることもできる」と、DHRPSの利点を付け加えている。 さらに研究者らは現在、1日単位ではなく、分単位で心拍数/歩数の値をモニタリングして、それが疾患の予後と関連があるか否かを確認する研究を計画している。「ウェアラブルデバイスの利用者は急速に拡大しており、1日中装着されることが多いため、短時間で変動する心臓の健康に関する情報を分単位で得ることが可能だ」とChen氏は述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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新たな方法を用いた強力なMRIがてんかん病変を検出

 標準的な3T(静磁場強度が3テスラ)MRIの2倍以上の強さの磁場を発生させる7T MRIを用いることで、3T MRIでは検出できなかったてんかんの原因となる病変を検出できることが、新たな研究で明らかにされた。特に、パラレル送信システムを用いた7T MRI(pTx 7T MRI)は病変の描出に優れていたという。英ケンブリッジ大学生物医学画像分野教授のChristopher Rodgers氏らによるこの研究の詳細は、「Epilepsia」に3月20日掲載された。 MRIは、薬剤抵抗性てんかん患者の手術前評価において、脳の構造的病変の検出に重要な役割を果たしている。7Tてんかんタスクフォースの2021年のコンセンサスペーパーでは、薬剤抵抗性てんかん患者に対しては、7T MRIの使用が推奨されている。7T MRIは、従来の3T MRIよりも空間解像度と感度が優れており、3T MRIでは検出できないてんかんの構造的病変を検出できる。しかし、7T MRIには、側頭葉などの脳の重要な領域において信号ドロップアウト(信号が低下した領域が黒く映る)が発生するという欠点がある。 この欠点を補うためにRodgers氏らは、1つではなく8つの送信機を頭部周囲に配置するパラレル送信システムをMRIに実装した。その上で、3T MRIでは陰性または曖昧な結果しか得られなかった薬剤抵抗性てんかん患者31人を対象に、pTx 7T MRI画像と単一送信7T MRI(CP 7T MRI)画像を取得し、比較した。Rodgers氏は、「MRI装置は、かつては単一の無線送信機を使用していた。しかし、単一のWi-Fiルーターでは信号を受信しにくい領域が出てくるのと同様に、この方法ではMRI画像に関連組織を判別しにくい黒い点が残されがちだった」とケンブリッジ大学のニュースリリースで述べている。 その結果、7T MRIにより、9人(29%)において、これまで3T MRIでは確認できなかった病変が特定された。また、4人(13%)において、3T MRIで疑わしいとされていた病変が実際にてんかん発作の原因であることが、さらに4人(13%)においては、3T MRIで疑わしいとされていた病変が実際にはてんかん発作の原因ではないことが確認された。病変は、57%の症例でpTx 7T MRIにおいてCP 7T MRIよりも鮮明に可視化されていた。 7T MRIによる検査によりてんかん管理が変更された患者は18人(58%)に上った。うち9人では病変の除去手術が提案され、別の1人にはレーザー間質性熱療法が行われた。また3人では病変が極めて複雑であったため、手術が適応外とされた。さらに5人では、電極を使用して病変を正確に特定し、発作を管理する代替技術が提案された。 論文の上席著者であるケンブリッジ大学臨床神経科学分野のThomas Cope氏は、「抗てんかん薬が効かないてんかんは、患者の生活に大きな影響を及ぼし、自立や仕事の継続能力に影響を及ぼすことが多い」とニュースリリースの中で指摘する。さらに同氏は、「これらの患者の多くを治癒に導くことは可能だが、そのためには、脳のどこに発作の原因があるのかを正確に突き止めなければならない。7T MRIは、導入以来ここ数年でその有望性を示してきたが、今回のパラレル送信という新たな技術のおかげで、より多くのてんかん患者が人生を変える手術を受けられるようになるだろう」と述べている。

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