クローン病患者の便意切迫感を改善するミリキズマブ/リリー・持田製薬

提供元:ケアネット

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公開日:2025/04/30

 

 日本イーライリリーと持田製薬は、ミリキズマブ(商品名:オンボー)のクローン病(CD)に対する適応追加にあたり、4月10日にメディアセミナーを開催した。

 今回適応拡大されたミリキズマブは、2023年6月に同じ炎症性腸疾患の潰瘍性大腸炎の治療薬として発売され、今回、中等症~重症の活動期CDの治療(既存治療で効果不十分な場合に限る)の適応が追加された。

 セミナーでは、同社が行ったCD患者へのアンケート結果やミリキズマブの適応拡大における第III相臨床試験VIVID-1試験の概要が説明された。

クローン病患者が苦しんでいる日常生活

 「クローン病の疾患概要と課題、便意切迫感の影響と実態に関する調査結果について」をテーマに日比 紀文氏(慶應義塾大学医学部 名誉教授)が、病態などの説明と持田製薬が行った患者アンケートの概要を述べた。

 CDは、免疫異常などの関与で起こる肉芽腫性炎症性疾患であり、わが国には約7万例の患者が推定され、男性に多く、わが国では10代後半からの発症が多いという。主な症状としては、下痢、腹痛、発熱などがある。また、潰瘍性大腸炎と異なり、大腸のほかにも胃や小腸でも病変が認められ、縦走潰瘍、敷石像などが内視鏡で観察される。また、全層性の炎症で、瘻孔や狭窄もあり、痔ろうなど腸管合併症も認められる。そして、CDの病型分類では、小腸大腸型で1番患者数が多く、小腸型と大腸型では同じ割合で患者がいる。

 CDの症状に対する患者と医師の認識の差について、「QOLに最も影響を与える症状」では、患者が「便意切迫感」(65%)が1番多かったのに対し、医師では「腹痛」(82%)だった1)

 この患者が挙げる便意切迫感は、「突然かつ緊急に感じる排便の必要性」と定義され、患者のQOLを著しく悪化させている。そこで、日比氏と持田製薬は、2025年1~2月にアンケートを実施し、CDにおける便意切迫感の影響と実態に関する調査結果を発表した。

 調査は、CD患者100人、一般人431人、医師106人にインターネットで実施された。質問で「便意切迫感に襲われた経験がある人(98人)に頻度」を聞いたところ、「1日1回以上」と回答した人が42.8%だった。また、CD患者100人に「便意切迫感にどの程度困っているか」を聞いたところ、「日常生活を普通に過ごせないくらい」が14.0%、「困っているが普通の生活を努力して維持できる」が62.0%と全体で約75%の患者が困っていると回答していた。そのほか、日常生活の便意切迫感で困っていることでは「トイレの待ち時間に不安を感じる」が54.0%、人生において便意切迫感で困っていることでは「仕事・学校を辞めた」が24.0%と患者に多大な影響を及ぼしていることがうかがえた。CDの症状や便意切迫感について、「どのように理解され、対応してほしいか」を患者に聞いたところ、「困るときがあるので、求められたら手を差し伸べてほしい」が45.0%で1番多い回答だった。

 以上から「便意切迫感の課題」として、患者は日常生活だけでなく人生のイベントに影響を受けていること、日常生活の維持に患者の努力があること、本音では患者は「便意切迫感から解放されたい」と思っていること、この「便意切迫感」は、周囲には伝えきれていないことを示した。最後に日比氏は、「今後は日常生活の中で『便意切迫感』に不安にならない環境作りが大切だ」と指摘し、「その実現には、周囲の偏見や誤解をなくすことが重要だ」と語った。

臨床試験でミリキズマブは便意切迫感を改善

 「クローン病に対する新しい治療選択肢について」をテーマに、久松 理一氏(杏林大学医学部消化器内科学 教授)が、ミリキズマブの特徴と第III相臨床試験VIVID-1(AMAM)試験の概要について説明した。

 「令和5年クローン病治療指針(内科)」2)では、軽症~中等症~重症まで3段階に分けて使用する薬剤が示されている。ミリキズマブは、既存治療で効果不十分な場合に、中等症以上の病変で使用することができる治療薬。

 本剤は、抗IL-23p19モノクローナル抗体製剤として、腸管炎症の原因となるサイトカインを作る免疫細胞に指令を出すIL-23に付着し、指令を阻害することでサイトカイン産生を阻む機序を持つ。使用に際しては、治療開始時に寛解導入療法として点滴静注製剤1回900mgを4週間隔で3回投与し、その後は維持療法として皮下注製剤1回300mgを4週間隔で投与する。

 そして、今回適応拡大で行われた第III相臨床試験VIVID-1(AMAM)試験では、CD患者を対象に(1)患者報告型アウトカム(PRO)による12週における臨床的改善かつ52週における内視鏡的改善、(2)PROによる12週における臨床的改善かつ52週におけるCrohn’s disease activity index(CDAI)による臨床的寛解の2つを主要評価項目として、プラセボに対するミリキズマブの優越性を評価した。

 試験対象は、ステロイド系薬剤、免疫調節薬などに対し効果不十分、効果減弱または不耐の中等症~重症の活動性CD患者1,152例(日本人28例を含む)。

 試験の結果、12週時点でPROによる臨床的改善かつ52週時点で内視鏡的改善を達成した患者の割合は、ミリキズマブ群(579例)で38.0%に対し、プラセボ群(199例)で9.0%だった。また、12週時点でPROによる臨床的改善かつ52週時点でCDAIによる臨床的寛解を達成した患者の割合は、ミリキズマブ群(579例)で45.4%に対し、プラセボ群(199例)で19.6%だった。

 そのほか、52週時点の排便回数・腹痛スコアのベースラインからの変化量は、ミリキズマブ群(579例)は-3.28であったのに対し、プラセボ群(199例)は-1.39だった。腹痛スコアも52週のミリキズマブ群(579例)は-1.16だったのに対し、プラセボ群(199例)は-0.52だった。

 では、既存の治療薬との効果の違いはあるのか。ウステキヌマブとの比較で、52週時点でのCDAIによる臨床的寛解を達成した患者の割合は、ミリキズマブ群(579例)が54.1%でウステキヌマブ群(287例)の48.4%に対し非劣性であった。同じく52週時点での内視鏡的改善を達成した患者の割合は、ミリキズマブ群が48.4%、ウステキヌマブ群が46.3%だった。

 安全性については、死亡事例はなく、主な有害事象としては、貧血、関節痛、頭痛などが報告された。

 最後に久松氏は「ミリキズマブは、中等症~重症の活動期CD患者の臨床症状、粘膜炎症および患者報告アウトカムをいずれも改善したこと、排便回数、腹痛および便意切迫感の有意な改善が認められたこと、CD患者を対象とした臨床試験で新たな有害事象の懸念は認められなかったこと」に言及して講演をまとめた。

(ケアネット 稲川 進)

原著論文はこちら

2)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班) 令和5年度分担研究報告書. 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針(令和5年度改訂版). 2024:p.41.