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二次性赤血球増加症、EPO遺伝子変異が関連か/NEJM

 フランス・パリ・サクレー大学のLaurent Martin氏らは、赤血球生成の主要な制御因子であるエリスロポエチン(EPO)に着目し、二次性赤血球増加症がEPO遺伝子変異(variant)と関連する可能性があることを明らかにした。二次性赤血球増加症は、組織の低酸素や、不適切なEPO産生増加を引き起こす病態に起因することが多い。EPOの発現は、胎児期は複雑かつ厳格に制御されており、出生後まもなく肝臓から腎臓へと移行する。検討では、患者の細胞からiPS細胞を作製し、肝細胞様EPO産生細胞を分化させ評価する実験法が用いられた。NEJM誌2025年5月1日号掲載の報告。分子的・機能的に新たな赤血球増加症の6家系を特定し遺伝子変異を調査 研究グループは、血中EPO濃度が正常範囲内である、分子的・機能的に新たな赤血球増加症の6家系を特定し、これらの家系のEPO遺伝子の非コード領域の変異を調査した。 特定した変異の影響を、レポーターアッセイ法(EPOプロモーターで発現するルシフェラーゼレポーター遺伝子)および患者由来のiPS細胞から分化させた肝細胞様EPO産生細胞モデルを用いて検討した。患者の血中EPOプロファイルを等電点電気泳動法で特徴付けた。3つの新たな遺伝子変異を同定、新治療開発への道を開く可能性 EPO遺伝子の非コード領域から3つの新たな遺伝子変異が同定された。 レポーターアッセイ法およびiPS細胞由来の肝細胞様EPO産生細胞を用いた実験により、特定された遺伝子変異は、これまでに特徴付けられていなかった遺伝子の制御エレメントを標的としていること、また、低酸素に対して高い反応性を有することが示された。 等電点電気泳動において、全患者のEPOは塩基性側にシフトしたパターンを示し、新生児や肝疾患に伴う二次性赤血球増加症患者に発現する肝臓で産生されるタイプのEPOと同様のパターンであった。 患者の血漿検体と臍帯血検体から精製されたEPOは、in vitroにおいてEPO受容体シグナル伝達活性の増強を示し、EPOの肝臓型糖鎖付加に関連する機能獲得の可能性が示唆された。 今回の検討結果を踏まえて著者は、「この分野の研究継続は、EPO制御のさらなる側面を解明し、新たな治療開発への道を開く可能性がある」とまとめている。

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インフル・コロナ混合ワクチン、50歳以上への免疫原性・安全性確認/JAMA

 インフルエンザと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の混合ワクチン「mRNA-1083」の免疫原性と安全性を、50歳以上の成人を対象に評価した第III相無作為化観察者盲検試験の結果が報告された。開発中のmRNA-1083は、推奨されるインフルエンザワクチン(高用量、標準用量)およびCOVID-19ワクチンと比較して非劣性基準を満たし、4種すべてのインフルエンザ株(50~64歳)、SARS-CoV-2(全年齢)に対して高い免疫応答を誘導したことが実証され、許容可能な忍容性および安全性プロファイルが示された。米国・ModernaのAmanda K. Rudman Spergel氏らが報告した。JAMA誌オンライン版2025年5月7日号掲載の報告。4価ワクチン+COVID-19併用接種群と比較 試験は、2023年10月19日~11月21日に米国146施設で50歳以上の成人を登録して行われた。データ抽出は2024年4月9日に完了した。 被験者は年齢で2コホート(65歳以上、50~64歳)に分けられ、mRNA-1083+プラセボを接種する群、承認済みの季節性インフルエンザ4価ワクチン(65歳以上:高用量4価不活化インフルエンザワクチン[HD-IIV4]、50~64歳:標準用量IIV4[SD-IIV4])とCOVID-19ワクチン(全年齢:mRNA-1273)を併用接種する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 本試験の主要目的は、29日時点におけるmRNA-1083接種後の体液性免疫応答の対照ワクチンに対する非劣性の検証、mRNA-1083の反応原性および安全性の評価であった。副次目的は、29日時点におけるmRNA-1083接種後の体液性免疫応答の対照ワクチンに対する優越性の検証などであった。mRNA-1083の免疫原性の非劣性、高い免疫応答の誘導を確認 全体で8,015例がワクチンを接種された(65歳以上4,017例、50~64歳3,998例)。年齢中央値は65歳以上のコホート70歳、50~64歳のコホート58歳、女性はそれぞれ54.2%と58.8%、黒人またはアフリカ系は18.4%と26.7%、ヒスパニックまたはラテン系は13.9%と19.3%であった。 mRNA-1083の免疫原性は、すべてのワクチン適合インフルエンザ株およびSARS-CoV-2株に対して非劣性が検証された。すなわち、幾何平均抗体価比の97.5%信頼区間(CI)下限値は0.667を上回り、セロコンバージョン/血清反応率の差の97.5%CI下限値は-10%超であった。 mRNA-1083は、4種すべてのインフルエンザ株に対してSD-IIV4(50~64歳に接種)よりも高い免疫応答を誘導し、3種のインフルエンザ株(A/H1N1、A/H3N2、B/ビクトリア)に対してHD-IIV4(65歳以上に接種)よりも高い免疫応答を誘導した。また、SARS-CoV-2(全年齢にmRNA-1273を接種)に関しても高い免疫応答を誘導した。 mRNA-1083接種後の依頼に基づく非自発的に報告された副反応は、両年齢コホートにおいて対照ワクチン群と比較し、頻度および重症度ともに数値的には高かった。頻度は、65歳以上ではmRNA-1083接種群83.5%、HD-IIV4+mRNA-1273接種群78.1%であり、50~64歳ではmRNA-1083接種群85.2%、SD-IIV4+mRNA-1273接種群81.8%であった。重症度は大半がGrade1または2であり短期間に消失した。以上から、安全性に関する懸念は認められなかった。

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β遮断薬やスタチンなど、頻用薬がパーキンソン病発症を抑制?

 痛みや高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療薬として、アスピリン、イブプロフェン、スタチン系薬剤、β遮断薬などを使用している人では、パーキンソン病(PD)の発症が遅くなる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。特に、PDの症状が現れる以前からβ遮断薬を使用していた人では、使用していなかった人に比べてPDの発症年齢(age at onset;AAO)が平均で10年遅かったという。米シダーズ・サイナイ医療センターで神経学副部長兼運動障害部門長を務めるMichele Tagliati氏らによるこの研究結果は、「Journal of Neurology」に3月6日掲載された。 PDは進行性の運動障害であり、ドパミンという神経伝達物質を作る脳の神経細胞が減ることで発症する。主な症状は、静止時の手足の震え(静止時振戦)、筋強剛、バランス障害(姿勢反射障害)、動作緩慢などである。 この研究では、PD患者の初診時の医療記録を後ろ向きにレビューし、降圧薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、スタチン系薬剤、糖尿病治療薬、β2刺激薬による治療歴、喫煙歴、およびPDの家族歴とPDのAAOとの関連を検討した。対象は、2010年10月から2021年12月の間にシダーズ・サイナイ医療センターで初めて診察を受けた1,201人(初診時の平均年齢69.8歳、男性63.5%、PDの平均AAO 63.7歳)の患者とした。 アテノロールやビスプロロールなどのβ遮断薬使用者のうち、PDの発症前からβ遮断薬を使用していた人でのAAOは72.3歳であったのに対し、β遮断薬非使用者でのAAOは62.7歳であり、発症前からのβ遮断薬使用者ではAAOが平均9.6年有意に遅いことが明らかになった。同様に、その他の薬剤でもPDの発症前からの使用者ではAAOが、スタチン系薬剤で平均9.3年、NSAIDsで平均8.6年、カルシウムチャネル拮抗薬で平均8.4年、ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)で平均6.9年、利尿薬で平均7.2年、β刺激薬で平均5.3年、糖尿病治療薬で平均5.2年遅かった。一方で、喫煙者やPDの家族歴を持つ人は、PDの症状が早く現れる傾向があることも示された。例えば、喫煙者は非喫煙者に比べてAAOが平均4.8年早かった。 Tagliati氏は、「われわれが検討した薬剤には、炎症抑制効果などの共通する特徴があり、それによりPDに対する効果も説明できる可能性がある」とシダーズ・サイナイのニュースリリースで話している。 さらにTagliati氏は、「さらなる研究で患者をより長期にわたり観察する必要はあるが、今回の研究結果は、対象とした薬剤が細胞のストレス反応や脳の炎症を抑制することで、PDの発症遅延に重要な役割を果たしている可能性が示唆された」と述べている。

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喘息治療における吸入薬投与の最適なタイミングとは

 喘息患者は、1日1回の吸入ステロイド薬を遅めの午後に使用することで、夜間の症状を効果的にコントロールできる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。英マンチェスター大学のHannah Jane Durrington氏らによるこの研究結果は、「Thorax」に4月15日掲載された。 薬物投与のタイミングを体内時計に合わせる治療法はクロノセラピー(時間治療)と呼ばれ、薬の治療効果を高めることが期待されている。Durrington氏らによると、喘息には明確な日内リズムがあり、気流閉塞と気道炎症の主要な影響は夜間にピークに達する。実際、致死的な喘息発作の約80%は夜間に発生しているという。 このことを踏まえてDurrington氏らは、25人の喘息患者を対象にランダム化クロスオーバー試験を実施し、クロノセラピーの効果を検討した。対象患者は、吸入ステロイド薬のベクロメタゾンプロピオン酸エステルを、以下の3通りの投与法でランダムな順序で投与した。1)午前8〜9時の間に400μgを1日1回投与(午前投与)、2)午後3〜4時の間に400μgを1日1回投与(午後投与)、3)午前8〜9時の間と午後8〜9時の間の2回に分けて200μgずつ投与(2回投与)。投与期間は28日であり、各投与法の間には2週間のウォッシュアウト期間を設けた。 25人中21人が全ての投与法を完了した。治療により肺機能は全ての投与法でベースラインより改善していたが、改善のタイミングは投与法により異なり、午後10時のFEV1(1秒量)については、午後投与での改善が最も大きかった。FEV1とは、最大限に息を吸った後、できるだけ強く、速く息を吐き出した際の最初の1秒間の呼出量のこと。具体的には、午後投与では中央値で160mLの改善が認められたのに対し、2回投与では中央値で80mLの改善にとどまっており、午前投与では中央値で−20mLと改善は認められなかった。また、午後投与は夜間(午後10時と午前4時)の血中好酸球数の抑制に最も効果的だった。好酸球の増加は、気道の炎症や過敏性、狭窄の原因として知られている。 研究グループは、「これらの結果は、人の体内時計に合わせて投与のタイミングを調整するクロノセラピーの有効性を裏付けるものだ」と述べている。研究グループは、喘息の症状に関連する炎症の連鎖は午後半ばに始まる傾向があり、そのときに予防的な吸入薬を投与すると効果が高まる可能性がある」と指摘している。 一方、本論文の付随論評では、午後投与では肺機能と好酸球数の点で臨床的に重要な違いが確認されたものの、全体的な症状のコントロールが優れていたとは言えないことが指摘されている。ただし、それは対象者数の少なさと追跡期間の短さが原因である可能性はある。付随論評の著者の1人である英キングス・カレッジ・ロンドンのRichard Edward Russell氏は、「これらの研究結果を臨床実践に応用する場合、最大の課題は喘息治療の遵守になるだろう。一般人口の約30~40%が吸入ステロイド薬を指示通りに使用することに苦労している現状を考えると、使用時間を限定することは事態をさらに複雑にする可能性がある」と述べている。 研究グループは、本研究で確認された吸入ステロイド薬の投与のタイミングが夜間の発作に与える影響を確認するために、より大規模な試験の実施を推奨している。

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免疫チェックポイント阻害薬の治療効果、年齢による差は認められず

 人の免疫システムが加齢に伴い衰えていくことはよく知られている。しかし、そのような免疫機能の低下が、がんに対する免疫療法の効果を妨げることはないようだ。がん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬による治療は年齢に関わりなく有効であることが、新たな研究で明らかにされた。米ジョンズ・ホプキンス大学医学部腫瘍学分野のDaniel Zabransky氏らによるこの研究結果は、「Nature Communications」に4月21日掲載された。Zabransky氏は、「高齢患者に対する免疫療法の効果は、若年患者と同等か、場合によってはそれ以上だ」と述べている。 がん細胞は、免疫チェックポイントと呼ばれる正常な免疫システムを利用して免疫細胞の攻撃を回避することが知られている。免疫チェックポイント阻害薬は、この免疫システムのブレーキを解除し、免疫細胞ががん細胞をより効果的に攻撃できるようにする薬剤である。研究グループによると、がんと診断される患者の大半は65歳以上だという。がん治療における全体的な治療成績は高齢患者の方が悪い傾向にあり、免疫システムの老化が原因の一部と考えられている。しかし、免疫療法がこのような老化の影響の克服に役立つのかは明確になっていない。 本研究では、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた104人のがん患者(男性67.3%)を対象に、治療後の免疫反応を比較した。対象者のうち54人が65歳以上だった。免疫反応は、試験開始時と治療から1〜5カ月後に採取した末梢血サンプルを用いて評価した。追跡期間中央値は8.8カ月だった。 その結果、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)において年齢による有意な差は認められなかった。奏効率は、高齢患者で35.4%、若年患者で23.1%であり、この差も統計学的に有意ではなかった。 一方で、免疫反応については高齢患者と若年患者の間に違いが見られた。例えば、高齢患者では、ナイーブT細胞(特定の抗原に曝露したことのないT細胞)が少なく、免疫チェックポイント阻害薬による増強がなければ、がんなどの新たな脅威に対応する準備ができていない可能性が示唆された。研究グループは、「このような違いは、免疫療法薬が高齢患者にとって特に有益なものになる可能性があることを示唆している」と述べている。 研究グループは次の研究で、腫瘍内部で見つかった免疫細胞の違いに注目し、年齢層間で比較して免疫療法に対する反応を調べる予定だとしている。Zabransky氏は、「現行の治療では、免疫システムによるがん細胞の認識能力に年齢差がある点をあまり考慮せずに、免疫チェックポイント阻害薬をどの患者にも同じように投与している。われわれは、加齢に伴う免疫システムの変化に対する理解を深めることで、新たな治療戦略を特定し、患者ごとに異なる重要な因子に基づく個別化治療を進めていきたいと考えている」との展望を示している。

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妊娠合併症は将来の心臓の健康に悪影響を及ぼす

 妊娠中に妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群といった合併症を発症した女性は、後年の心臓の健康リスクが高いことを示す研究結果が報告された。米ノースウェスタン大学のJaclyn Borrowman氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に4月22日掲載された。 著者らによると、妊娠合併症と健康リスクとの関連は、妊娠前に過体重や肥満であった女性に、特に強く当てはまるという。そして、「女性にとって妊娠中に合併症を発症するか否かは、将来の健康状態や慢性疾患のリスクを予測するという点で、あたかも“ストレス負荷テスト”のようなものだ」と解説。またBorrowman氏は、「われわれの研究結果は、妊娠を考えている女性が体重管理を優先することが、妊娠中および将来の心臓血管の健康につながり得ることを示唆している」と話している。 この研究は、妊娠前に高血圧や糖尿病のない18歳以上の妊婦4,269人(平均年齢30.1±5.6歳)を妊娠28週(範囲24~32週)時点に登録し、観察研究として行われた。妊娠前に、22%は過体重(BMI25~30未満〔国内ではこの範囲も肥満に該当〕)、11%は肥満(BMI30以上)だった。妊娠糖尿病は13.8%に、妊娠高血圧症候群は10.7%に認められた。 出産後11.6±1.3年間追跡(範囲10~14年)。平均41.7±5.6歳の時点において、妊娠前に肥満であった群はそうでない群に比べて、平均血圧(7.0mmHg〔95%信頼区間6.0~8.1〕)、トリグリセライド(28.5mg/dL〔同21.9~35.1〕)、HbA1c(0.3%〔0.2~0.4〕)が有意に高かった。 妊娠糖尿病の発症は、肥満と追跡期間中のHbA1cとの関連を24.6%(20.9~28.4)媒介し、妊娠高血圧症候群の発症は、肥満と追跡期間中の平均動脈圧との関連を12.4%(10.6~14.2)媒介していた。この結果についてBorrowman氏は、「妊娠合併症は将来の心臓病リスクに寄与するが、そのリスクの全てを説明できるわけではなく他の因子も関係している。妊娠合併症と心臓病リスクとの関連性を理解することは、効果的な予防戦略の開発や最良の介入タイミングの決定のために重要である」と話している。 米イノバ・ヘルス・システムのGarima Sharma氏が、この論文に対する付随論評を寄せ、「本研究は、医師が妊娠後の女性の心臓リスク因子を予測する際に役立つ可能性のある、示唆に富む情報を提供している」と評価。また、「示された結果は、妊娠前および出産後に、過剰な脂肪を減らすことの意義を強調するものと言える。抗肥満薬などの新しい治療選択肢が整ってきた現在では、この点はより重要な意味を持つ」と付け加えている。

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セマグルチドはPADを有する2型糖尿病患者の歩行距離を改善する(解説:原田和昌氏)

 症候性末梢動脈疾患(PAD)の罹患者は世界で2億3,000万人超と推定され、高齢化により増加している。PAD患者の機能低下と健康関連QOL低下を改善する治療は、ほとんどなかった。米国・コロラド大学のMarc P. Bonaca氏らは第IIIb相二重盲検無作為化プラセボ対照試験のSTRIDE試験にて、PADを有する2型糖尿病(DM)患者においてセマグルチドがプラセボと比較して歩行距離を改善することを示した。20ヵ国112の外来臨床試験施設で行われた。 2型DMで間欠性跛行を伴うPAD(Fontaine分類IIa度、歩行可能距離>200m)を有し、足関節上腕血圧比(ABI)≦0.90または足趾上腕血圧比(TBI)≦0.70の患者を対象とした。セマグルチド1.0mgを週1回52週間皮下投与する群(396例)またはプラセボ群(396例)に無作為に割り付けた。主要エンドポイントは、定荷重トレッドミルで測定した52週時点の最大歩行距離の対ベースライン比であった。25%が女性で年齢中央値は68.0歳、ベースラインのABIの幾何平均値は0.75、同TBIは0.48、最大歩行距離中央値185.5m、追跡期間中央値は13.2ヵ月であった。 主要エンドポイントは、セマグルチド群(1.21[四分位範囲[IQR]:0.95~1.55])がプラセボ群(1.08[0.86~1.36])よりも有意に大であった(推定治療群間比:1.13[95%信頼区間:1.06~1.21]、p=0.0004)。52週時点の最大歩行距離の絶対改善中央値は、セマグルチド群37m(IQR:-8~109.0)、プラセボ群13m(-26.5~70.0)であった。重篤な有害事象はセマグルチド群19%、プラセボ群20%であり、試験薬に関連した重篤な有害事象はセマグルチド群1%、プラセボ群2%で重篤な胃腸障害の頻度が最も高かった。治療に関連した死亡はなかった。 PADの治療は運動療法とアスピリンまたはクロピドグレル、シロスタゾール、スタチンが基本であり、下肢血行再建術後のPADにはリバーロキサバン2.5mgの1日2回経口投与+アスピリンが承認されている。2020年Marc P. Bonaca氏らによるVOYAGER PAD試験にて主要有害下肢/心血管イベントリスクの低下が示されたことによる。一方、STRIDE試験では歩行距離の延長と副次的評価項目のABI改善が示されており、PAD+2型DM患者に対するセマグルチドの早期承認が望まれる。心血管合併症などでシロスタゾールが使用しにくい患者にとくに有効と考えられる。なお、事後解析では救肢のための血行再建術+薬物追加+死亡も有意に減少していた。 著者らはメカニズムを強調していないが、PAD患者はもともと体重があまり大きくないため体重減少の効果は少なそうである。GLP-1受容体作動薬のDMの臨床試験のメタ解析にてCRP値の低下を含む抗炎症作用が示されており、心血管イベント抑制だけでなく血管自体に効いているという可能性がある。非DM患者に対する効果も興味深いところである。

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小児・保護者との関わり方【すぐに使える小児診療のヒント】第2回

小児・保護者との関わり方前回は、小児の採血やルート確保についてお話しました。採血やルート確保の手順を身につけることはとても大切です。しかし、それ以上に重要なのは、小児や保護者の心理に寄り添いながら対応することです。実際、技術的な部分よりも、泣いて暴れる小児や不安そうな保護者への対応に苦手意識を持っている先生も多いのではないでしょうか。今回は、そうした場面での具体的な関わり方についてお話しします。症例3歳、男児6日間持続する発熱を主訴に受診。活気は保たれているが、眼球結膜充血や口唇発赤を認める。川崎病を疑い、採血をする方針とした。子「いたいのいやだーーー!!」母「この子、注射が本当に苦手で…。暴れないか心配です。」小児への声掛けの工夫処置前には小児の気持ちに共感して、年齢に応じた声掛けをします。そして、終わったあとには自信を持てるように褒めてあげましょう。大事なことは、(1)嘘をつかないこと、(2)一人前の人間として接することです。つい「痛くないよ~」と声掛けをしてしまいがちですが、誰しも注射は痛いものです。小児だって人間ですから、騙されたと思うと今後は協力してくれません。伝え方としては、「どうして〇〇になって(例:熱が出て)いるか調べてみようね。そして検査して早く治ろうね。みんな〇〇君に早くよくなってほしいと思っているよ」といったように声掛けしてみましょう。およそ2歳以上の小児であれば、多くの場合は理解してくれると思います。たまに耳にしますが、「言うこと聞かないと注射するよ!」という脅しはもってのほかです。脅すのではなく、「嫌だ」という気持ちに共感し、その上で頑張る気持ちを尊重しましょう。「嫌だから頑張れない自分」ではなく、「嫌だけど頑張ろうと思えた自分」を褒めてあげるのです。そうすれば実際に処置が終わると、「やられた」のではなく「できた」という自信に繋がります。この経験がその後の医療への向き合い方や自己肯定感に影響を与えることがあるからこそ、一つひとつの機会を大切にしたいものです。言葉で伝えるだけではなく、ごっこ遊びやおもちゃを活用して、病気や治療に関する理解を促す方法もあります。たとえば、おもちゃの注射器を持たせたり、人形に注射をするまねをしてもらったりしながらごっこ遊びをすることもあります。これを「プレパレーション」といい、2~7歳の小児にはとくに有用であるとされていますが、年齢にかかわらず理解できるように説明する必要があります。また、保護者に協力してもらって、おもちゃやDVDなどで小児の注意をそらして心理的負担を軽減させることを「ディストラクション」といいます。小児が感じている不安や恐怖を軽減し、前向きに治療を受けられるようにするための大切なプロセスであるといえます。保護者との関わり方保護者とは、まずは「なぜ処置が必要なのか/必要ないのか」を共有しましょう。安易に処置を行うことは不要な苦痛を生みかねません。「まぁ、採血ぐらいしとこうかな」と思っても、難しくて何度も穿刺することになってしまった、ということは容易に想像がつきますね。また、理由を説明しなかったり、保護者に言われるがままに処置をしたりすると、「前の先生はやってくれたのに、どうして今回はしてくれないんですか!」といった今後のトラブルにも繋がりかねません。そもそも、検査や処置の要否について、判断を保護者に委ねることは医師としての矜持に欠けるのではないでしょうか。「何を重要だと思っているか」を互いに理解し合おうとする姿勢が大切であるように思います。小児をお預かりするor保護者が付き添う多くの小児科外来では、「では、検査をするのでお子さんをお預かりします。お母さん(お父さん)はお外でお待ちください」と、処置の際は保護者は付き添わずにお預かりするスタイルが主流です。保護者が見ている前で泣き叫ぶ小児のルートをとる、という医療者側のプレッシャーは大きいでしょう。小児が処置を受けている様子を見るのがつらいという保護者の意見もあるかもしれません。しかし、日本ユニセフの「小児の権利条約」の第9条に「児童が父母の意に反してその父母から分離されない」と掲げられていることを受けて、保護者同伴で処置をする場面が少しずつ増えてきているように感じます。私は普段、よほど切迫している状況でなければ「どちらを選んでもいいですよ」と保護者に選択権を渡すようにしています。保護者が一緒に付いてくれているほうが、小児が安心して頑張れるというパターンをよく経験します。わが子が必死に助けを求めていたのに助けてあげられなかった、という意識になってしまう保護者に対しては、「お母さん(お父さん)が付いていてくれたおかげで心強かったと思います。助かりました、ありがとうございます」とぜひ伝えてください。小児の採血や点滴は難しいと感じるかもしれませんが、適切な準備と関わり方を知ることで、確実に成功率を上げることができます。処置の必要性は、小児の状態を的確に評価した上で判断し、不要な侵襲を伴う手技を避けることが大切です。また、小児には正直かつ前向きな声掛けを行い、保護者には処置の目的を丁寧に説明することで、不安を和らげ、協力を得ることができます。採血を「嫌な記憶」ではなく、「頑張れた経験」として残せるよう、ぜひ実践してみてください。本コラムでは、疾患の診断や治療だけでなく、診療の際の小児や保護者への関わり方についても毎回考えていきます。次回は、よく遭遇する生後3ヵ月未満児の発熱について、一緒に学んでいきましょう。 参考資料 1) Tomas-Jimenez M, et al. Int J Environ Res Public Health. 2021;18:7403. 2) Constantin KL, et al. J Pediatr Psychol. 2023;48:108-119. 3) ユニセフ:子どもの権利に関する条約 4) 国際成育医療センター:お子さんが注射を受けることになったとき

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第263回 大学病院などで医療機器メーカー社員が無資格でX線検査、医療機器絡みのリベートや労務提供がなくならない理由とは

兄弟会社含めると“お騒がせ”2度目の外資系メーカーこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。米国MLB、日本人投手受難の日々が続いていますね。デトロイト・タイガースの前田 健太投手は調子上がらず結局解雇、シカゴ・カブスの今永 昇太投手は太もも怪我、そしてロサンゼルス・エンゼルスの菊池 雄星投手は未だに未勝利です。菊池投手は、これまでに9試合に先発し5度のクオリティ・スタート(6回3自責点以内)をマークしていますが、勝ち星はついておらず0勝4敗という成績です。こちらは不運としか言いようがありません。また、ロサンゼルス・ドジャースの佐々木 朗希投手も先行きが不安視されています。かろうじて1勝はしているものの、5月9日(現地時間)の登板(初めての中5日登板)は5回途中、わずか61球で降板しています。日本で過保護に育てられ過ぎてスタミナがないのか、あるいは肩がどこかおかしいのか、フォーシームのスピード、変化球のキレともに日本時代より相当落ちている気がしました。日本のスポーツ紙各紙も「ドジャース傘下“トリプルA”で出直した方がいい」「明らかな球速低下『並の投手』に」「カットボールなどを覚えて幅を広げないと厳しい」など、手厳しい評価をしています。この先、立て直すことができるのか、あるいは怪我をして長期離脱してしまうのか……、とここまで書いたら、現地時間13日、右肩痛により故障者リスト入りが発表されました。まるでロッテ時代みたいですね。いろいろな意味で心配です。さて、今回は先月表沙汰になった医療機器メーカー社員が大学病院などで無資格でX線装置を操作していた事件を取り上げます。この医療機器メーカーは脊椎手術で使う脊椎インプラントを製造販売するニューベイシブジャパン(東京都中央区)です。同社は2009年5月に米国カリフォルニア州サンディエゴに本拠を置くNuVasive社の日本法人として設立されました。ちなみに、米国のNuVasive社は2023年にやはり脊椎インプラントを製造販売するGlobus Medical社(ペンシルバニア州オーデュボン)と合併しています。そのGlobus Medical社の日本法人、グローバスメディカル(東京都中央区)は2020年に同社の製品を購入した病院の医師に対し、売上の10%前後をキックバックしていたことで世間を騒がせました(第35回 著名病院の整形外科医に巨額リベート、朝日スクープを他紙が追わない理由とは?)。というわけで、この外資系メーカー、兄弟会社を合わせると2度目の“お騒がせ”ということになります。関東や関西の複数医療機関で整形外科手術に立ち会いX線装置を操作4月18日付の朝日新聞朝刊は、「手術中、無資格でX線照射」と題する記事を掲載、米国系の医療機器メーカー、ニューベイシブジャパンの営業担当者らが、大学病院などの医療機関で手術に立ち会い、資格を持たずにX線装置を操作していたと報じました。同記事には「関西の大学病院の手術内で、X線装置を操作する医療機器メーカーの営業担当者」というキャプションとともに、防護服を着用して操作中の社員の写真も掲載されています。同記事によれば、朝日新聞の取材に対し同社は、「営業担当者4人が2024年4~11月に関東や関西の五つの医療機関で整形外科手術に立ち会い、X線装置を操作した」と説明、診療放射線技師法違反も認めたとのことです。手術は同社製の脊椎インプラントを使用した手術ですが、操作していたX線装置は同社製ではありませんでした。そんなことを黙認していた病院も病院です。同記事は、「同社関係者は『営業担当者は、自社の医療機器を購入してもらうために医師に労務を提供し、便宜をはかっていた』と話す。五つの医療機関以外でも同社社員によるX線装置の操作が目撃されている」と書いています。この日の朝日新聞は「X線照射、密室の癒着」と題する関連記事も掲載しています。同記事によれば、ニューベイシブジャパンの営業社員が操作していたのは、「Cアーム」と呼ばれる機器で、術中の放射線の照射は長時間に及ぶことが多く、とくに高度な操作が必要とされる、としています。営業の成果を求めるメーカー社員、人手不足などからメーカー側の労力に頼る病院医師同記事は、医療機器の操作資格がない営業担当者が、医師の指示のもとに手術に関わる「立ち会い」という慣習の存在について、「背景にあるのは、機器の選別・購入に影響力がある医師と、メーカー側との関係だ。メーカーの営業社員にとって、手術室で医師と一緒に過ごす時間は、自社の医療機器を売り込む格好の機会になる。外資系メーカーでは、営業成績に応じてボーナスが支給される制度もある」と書くとともに、「患者に対して責任を負うべき医師は、なぜ無資格の営業担当の行為を容認するのか。医療関係者によると、放射線技師の人数が不足する病院では、外来や検査も担当する技師を手術中、長時間にわたり拘束することが難しいケースがある。整形外科手術は数時間に及ぶことも多い。医師がメーカーの社員の助けに依存する構図が生まれる」と、営業の成果を求めるメーカー社員と、人手不足などからメーカー側の労力に頼る病院医師との癒着を指摘しています。関西医科大学総合医療センター、横浜新緑総合病院は無資格X線認める朝日新聞はさらに4月19日付の朝刊で「証拠握る社員 社長が批判」と題する続報記事を掲載。ニューベイシブジャパンの社員が無資格でX線装置を操作していた問題について、昨年、一部の社員が是正のため違法行為の証拠として操作の様子を写真に撮るなどしたところ、同社の田中 孝明社長(グローバスメディカルの社長でもあります)が営業担当者らに対し、証拠写真撮影は「間違った姿勢」などとメール、違法行為を隠蔽するかのような指示をした事実も明らかになっています。朝日新聞は続いて4月23日付朝刊で「無資格X線 2病院認める」と題する記事を掲載、同紙が把握している無資格でX線装置を操作していたニューベイシブジャパンの社員について、違法行為を行ったとされる5病院に事実関係を確認した結果を報じています。それによれば、関西医科大学総合医療センター(大阪府守口市)、医療法人社団三喜会・横浜新緑総合病院(横浜市緑区)が無資格者によるX線装置操作を認めたとのことです。和歌山県立医科大学(和歌山市)、兵庫医科大学病院(兵庫県西宮市)は調査中、残りの大阪府内の病院は「無資格者の照射があったという報告はない」と答えたとのことです。厚労大臣「無資格は法令違反、実態の把握に努める」、医療機器業公正取引協議会は調査開始こうした一連の報道を受け、福岡資麿厚生労働大臣は4月18日、閣議後の記者会見で「医療機関における放射線の照射は法律の規定により、医師、歯科医師または診療放射線技師でない者が人体に対して放射線を照射することを禁止しているため、仮に無資格の方がこれを行っていた場合については、法令違反となり、刑事罰の対象となる。医療現場において、医療機器が適切に使用されることは大変重要だと考えている。どういったことが行われていたのか、実態の把握に努める」と語りました。一方、4月19日付の朝日新聞によれば、医療機器業界の自主規制機関「医療機器業公正取引協議会(公取協)」が、ニューベイシブジャパンが医師に対し、X線装置を操作するという労務を提供して便宜を図った疑いがあるとして調査を始めることを決めたとのことです。なお、ニューベイシブジャパンは4月18日に社員が無資格でX線装置を操作していた事実を認め、4月22日にはウェブサイトで「当社に関する一部報道について」と題する文書を公開、「現在、関係当局にご報告しつつ当社の米国本社と連携の上、外部の弁護士による調査を実施しています」とコメントしています。リベート供与を罰する法律が整備されておらず、企業も医師も法律上は「何の罪も犯していない」ことになる日本それにしても、医療機器メーカーによる医療機関や医師に対する利益供与(今回はリベートではなく労務)はどうしてなくならないのでしょうか。本連載では、冒頭で紹介した「第35回 著名病院の整形外科医に巨額リベート、朝日スクープを他紙が追わない理由とは?」のほか、「第111回 手術動画提供で機器メーカーの不当な現金供与発覚、類似事件がなくならないワケとは」、「第139回 眼科医の手術動画提供事件、行政指導で一通りの決着、スター・ジャパンは白内障用眼内レンズ取り扱い終了へ」などでこの問題を取り上げました。同様の事件がなくならない原因は明らかです。日本にはリベート供与を罰する法律が整備されておらず、企業も医師も法律上は「何の罪も犯していない」ことになるからです。今回の朝日新聞も、「労務の提供」ではなく、「無資格者によるX線装置の操作が診療放射線技師法違反に相当する」ことに焦点を当てた報道をしたのもそのためと考えられます。そろそろ「自主規制ルール」ではなく、法律で厳格に罰するべきでは「第35回」で書いたケースでは、グローバスメディカルの脊椎インプラントを購入した病院の医師20数人に対し、同社は売上の10%前後をキックバックしていました。当時の朝日新聞の記事によれば、キックバック額は2019年の1年間で総額1億円超となり、医師本人ではなく、各医師や親族らが設立した会社に振り込む形で行っていたとのことです。20数人の医師は関東や関西、九州の大規模な民間病院の勤務医で、東京慈恵会医科大学病院や岡山済生会総合病院などの名前が挙がっていました。この時は朝日新聞のみが報道、他媒体はほとんど後追いしませんでした。企業も医師も法律上は「何の罪も犯していない」状況で、事件性が薄かったためと思われます。メーカーから医師への金銭や労務の提供は、景品表示法に基づく規約(医療機器業公正競争規約)で禁じられてはいます。医療機器業界の自主規制機関である公取協はこの規約を運用し、メーカーを調査・指導しており、違反すると再発防止策を取るよう警告され、社名公表などの処分もありますが、それはあくまでも業界内の処分でしかありません。そうした“甘さ”が、似たような事件が何年おきに起こる最大の原因と言えます。医療機関が購入する医療機器の代金はそもそも公的財源も入った診療報酬で賄われています。その代金にあらかじめリベートや不当な現金供与分、労役分なども上乗せされているとしたら、それは大きな問題と言えるでしょう。医療機器絡みのリベートや不当な現金供与、そして今回のような労務提供などは、そろそろ「自主規制ルール」ではなく、法律で厳格に罰するようにすべきではないでしょうか。

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気管内吸引前の生理食塩水注入は非推奨【論文から学ぶ看護の新常識】第14回

気管内吸引前の生理食塩水注入は非推奨Sun Ju Chang氏らの研究により、人工呼吸器装着患者への気管内吸引前の生理食塩水注入は、利点よりも有害な影響が上回る可能性が示唆された。Intensive and Critical Care Nursing誌2023年10月号に掲載された。集中治療室の人工呼吸器装着成人患者における気管吸引前の生理食塩水注入の利点と有害性:システマティックレビューとメタアナリシス研究チームは、人工呼吸器装着患者において、気管吸引前の生理食塩水注入が臨床的アウトカムに及ぼす影響を明らかにすることを目的として、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。関連文献の検索には6つの主要な論文データベースに加え、特定された研究の参考文献リストや過去のシステマティックレビューなども対象とし、最終的に16件の研究(ランダム化比較試験13件、準実験研究3件)が分析対象となった。データ分析には、ナラティブ・シンセシスとメタアナリシスの手法が用いられた。主な結果は以下の通り。ナラティブ・シンセシスの結果:気管内吸引前に生理食塩水を注入することは、酸素飽和度の低下、酸素飽和度が基準値(ベースライン)に回復するまでの時間の延長、動脈血pHの低下、分泌物量の増加、人工呼吸器関連肺炎の発生率の減少、心拍数の増加、および収縮期血圧の上昇と関連していた。メタアナリシスの結果:吸引後5分時点の心拍数に有意な差が認められたが、吸引後2分および5分の酸素飽和度、および吸引後2分の心拍数については有意差は認められなかった。本研究の結果から、気管内吸引前に生理食塩水を注入することは、利点よりも有害な影響が上回る可能性が示唆された。人工呼吸器管理中の成人患者に対する気管内吸引前の生理食塩水注入に関する最新のシステマティックレビューが発表されました。この研究では、生理食塩水注入の利点と害について包括的に検討しています。生理食塩水注入は、分泌物の粘性を下げ、咳嗽反射を刺激し、吸引量を増やすといった効果を期待して行われる手技です。海外では日常的に行われている施設もあるようです。しかし、今回の研究では、生理食塩水注入により酸素飽和度の低下、回復時間の延長、動脈血pHの低下、心拍数や収縮期血圧の上昇といった有害な影響が示唆されました。これらのエビデンスを踏まえて、臨床現場では生理食塩水注入の適応をより慎重に判断する必要があります。ルーチン手技として行うのではなく、個々の患者の状態に応じて必要性を評価し、選択的に実施することが望ましいでしょう。特に循環動態が不安定な患者や、酸素化が悪化しやすい患者には注意が必要です。気管内吸引の目的は、気道の開存性を維持し、肺コンプライアンスや酸素化を改善することです。しかし、同時に侵襲的な手技であり、合併症のリスクも伴うため理論や根拠をしっかり把握した上で実施する必要があります。日本では生理食塩水注入はあまり行われていませんが、海外ではローカルルールとして実施されている現状があるようです。しかし、ローカルルールに基づく医療行為は、最新エビデンスとの間に乖離が生じ、リスクが伴う可能性があります。今回の研究結果は、そうしたローカルルールの危険性を再考するきっかけにもなるでしょう。論文はこちらChang SJ, et al. Intensive Crit Care Nurs.2023;78:103477.

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急がば回れ。実習では手を抜かない【研修医ケンスケのM6カレンダー】第2回

急がば回れ。実習では手を抜かないさて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。この原稿を書いているただいまは2025年4月28日夜の21時、GWの休みに福岡へ帰省して、明日の日直に向けて名古屋へ戻る新幹線車内でカタカタしています。今年は飛び石連休のGW、皆さまいかがお過ごしでしょうか。私は前回の皆さんのご感想、評価が気になってソワソワしています。5月にやるべきこと(イチゴ狩りの季節到来。先端が甘いので、ヘタの方から食べるのがマイルール)さて、5月ですが、4月に続いて講義や実習がある大学が多いと聞いています。この連載では国家試験対策を想定していますが、それまでの間に控えるマッチング、OSCE、卒業試験と、医学部6年生は忙しない毎日ですよね。私の出身大学も5月は臨床実習が普通に毎日ありましたが、よく「実習なんかやっている場合じゃない」「病院見学に行きたい」「国家試験対策に思うように身が入らない」といった声を耳にしたものです。先月は"走り出す準備"として"勉強会のすゝめ"をテーマに記しましたが、今月、5月にぜひ準備してほしいことは2つです。1.どうせやるなら実習はしっかりやる2.志望病院のマッチングに必要なものを揃え始める実習は国試対策に大いに役に立つおそらくこのタイトルを見た時に多くの方が「そりゃないでしょ」と感じると思います。しかし私はこの時期の実習こそ、しっかり臨むべきだと今日お伝えしたいです。そのワケとして強調したいのは「臨床現場の勘を養うことができるから」です。医師国家試験自体が、ペーパー試験なので、試験対策となるとデスクワーク中心になるのは当然です。実習だと机に向き合う時間がないから、試験対策が進まないと感じるのも無理ありません。しかし、ここ数年での医師国家試験、とくに臨床問題では判断力を問われる問題や臨床現場では常識と考えられている問題の出題が増えており、そのような問題こそ得点差がつく傾向にあります。「器具を問われる問題が出たから、実習をしっかり」と感じている教育担当の先生方のお心もお察ししますが、せいぜい出ても2問=2点ほどで、かなり運の要素が強いので、失ったとしても割り切ることができる内容だと私は思います。一方で、判断力や現場の常識を問うような問題は各ブロックで出題され得るため、総合力が合否を分ける医師国家試験では、その対策に時間をかけることに意義を見出すことができます。何より国家試験以上に、卒業試験での多くの学生が苦しむのがこのような問題ではないでしょうか。これらはただ過去問を演習しているだけでは十分な対策になりません。現場での判断力や現場の常識はやはり現場で学ぶのが自然で、最もコスパが良いです。(救急ローテにて。間近で見るドクターヘリってカッコいい!)各検査や治療の温度感を体感するでは具体的に実習では何に注目すべきなのか、が次に気になることと思います。それはズバリ「各検査や治療の温度感を体感する」です。よく試験の総評で「こんなの、いきなりやらないのにな」と耳にするのは、まさに受験生と現場の間での温度感のズレがあるからだと思います。私自身は5月に大学の救命救急センター(=3次救急)、7月に市中病院の救急外来(=2次救急)を実習させていただきました。1つの例だと私は実習を通して「気管挿管」に対する温度感がまるで変わりました。大学の救急に来るような症例は重症であることがほとんどで、挿管されている症例をたくさん学びました。ところが市中病院の2次救急のERでは挿管した症例には出合うことがありませんでした。医療圏ごとの事情はもちろんありますが、当時救命救急センターの実習では日課のように見ていた、あるいは選択肢の1つとしてよく見かけていた「気管挿管」が決して当たり前でないと気づいたのです。研修医や先生方からすると、上記の私のエピソードなんて鼻で笑うほどのことですが、本質的には同じような経験をされた学生は少なくはないはず。しっかり実習に取り組むことが一番の対策になります。実習で手を抜かないことはマッチングにも有利さて、国家試験対策の話をしてきましたが、実習での頑張りはマッチング、とくに人気市中病院での競争にも関わることがあります。6年生で実習に行く各病院には、皆さんが研修医になった時に一緒に働く未来の2年目の先輩方が揃っています。大学病院内はもちろん、関連の市中病院に実習に行く場合にも、そこには1つ上の先輩方がすでに働いています。実習は毎日病院見学をしているようなもので、1つ上の先輩方はどうしても「一緒に働きたいか」という目線で見てしまうものです。さらに不思議なもので、実習先で出会った先生が、実は志望する病院の研修医の同期や先輩後輩関係だった、なんてことがあるんです。「毎日、病院見学のような緊張感をもって」とまでは言いませんが、決して手抜きせず、そこで得られた信用がマッチングで有利に働くと信じて取り組みましょう!マッチングに必要な書類を整える(大学を出て見えた景色はとても新鮮でした!)マッチングの話題に触れましたが、6月にはマッチング登録が始まります。5月にもなれば志望病院もなんとなく定まっている方が多いはずですが、どの病院を受験するにしても採用に必要な書類があります。履歴書や小論文では、志望理由や自身の医療観を必ず書くことでしょう。病院ごとに表現を変える、視点を変えることは必要なことですが、自分の持つ軸があるはずです。「こんな研修生活を送りたい」「現状の医療に対してはこんなことを感じているから、将来的には…」など。これらは実際の書面に落とさずとも、何かに書き出して言語化することは始めておきましょう。必ず書く、あるいは発表することですし、取り組み始めることでマッチング対策の助走になります。何より自分の医療に対する価値観を見つめようという気持ちになります。そしてマッチングで一番初めにふるいにかけられるのは書類です。書類を提出して初めて採用試験の受験資格を得ることができます。つまり、律速段階、というわけです。早目に取り掛かることで「あー、やらなきゃな」というストレスから解放され、試験対策にもプライベートにも注力できます。今月のまとめいかがだったでしょうか。今月は実習では手を抜かず、マッチングの書類は早目に取り組むべし、というお話でした。5月の現在、2月の国家試験までは意外と時間があります。試験対策に焦りを感じること自体は悪いとは思いませんが、それ以上に注力することがあります。「急がば回れ」、まずは今だからこそ取り組むべきことをしっかりやれば大丈夫ですし、なんだかんだで早いです。次回もまたお楽しみに!

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青年期統合失調症に対するブレクスピプラゾールの短期的有用性〜第III相試験

 青年期の統合失調症に対する現在の治療は、不十分であり、新たな治療オプションが求められている。米国・Otsuka Pharmaceutical Development & CommercializationのCaroline Ward氏らは、青年期統合失調症に対するブレクスピプラゾール治療の短期的有効性および安全性を評価するため、10ヵ国、62施設の外来診療における国際共同ランダム化二重盲検プラセボ対照第III相試験を実施した。The Lancet Psychiatry誌2025年5月号の報告。 同試験の対象は、DSM-5で統合失調症と診断され、スクリーニング時およびベースライン時に陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)合計スコア80以上であった13〜17歳の患者。ブレクスピプラゾール群(2〜4mg/日)、プラセボ群、アリピプラゾール群(10〜20mg/日)のいずれかに1:1:1でランダムに割り付けられた。主要有効性エンドポイントは、PANSS合計スコアのベースラインから6週目までの変化とした。安全性は無作為に割り付けられ、試験薬を1回以上投与された患者について評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・2017年6月29日〜2023年2月23日にスクリーニングされた376例のうち、316例がランダム化された。内訳は、ブレクスピプラゾール群110例、プラセボ群104例、アリピプラゾール群102例。・対象患者の平均年齢は、15.3±1.5歳。女性は166例(53%)、男性は150例(47%)。・米国国勢調査局分類による人種別では、白人204例(65%)、黒人またはアフリカ系米国人21例(7%)、アメリカ先住民またはアラスカ先住民7例(2%)、アジア人2例(1%)、その他81例(26%)。・最終診察時の平均投与量は、ブレクスピプラゾールで3.0±0.9mg、アリピプラゾールで13.9±4.7mgであった。・PANSS合計スコアのベースラインから6週目までの最小二乗平均値変化は、ブレクスピプラゾール群で−22.8±1.5、プラセボ群で−17.4±1.6(プラセボ群との最小二乗平均値差:−5.33、95%信頼区間[CI]:−9.55〜−1.10、p=0.014)であった。アリピプラゾール群は−24.0±1.6であり、プラセボ群との最小二乗平均値差は−6.53(95%CI:−10.8〜−2.21、p=0.0032、多重検定調整なし)であった。・治療中に発生した有害事象は、ブレクスピプラゾール群で44例(40%)、プラセボ群で42例(40%)、アリピプラゾール群で53例(52%)発現した。・発生率5%以上の有害事象は、ブレクスピプラゾール群では頭痛(7例)、悪心(7例)、アリピプラゾール群で傾眠(11例)、疲労(8例)、アカシジア(7例)。・重篤な有害事象は、ブレクスピプラゾール群で1例(1%)、プラセボ群で3例(3%)、アリピプラゾール群で1例(1%)報告された。・死亡例の報告はなかった。 著者らは「青年期統合失調症において、ブレクスピプラゾール2〜4mg/日は、プラセボと比較し、6週間にわたる症状重症度の大幅な改善に寄与することが示唆された。また、安全性プロファイルは、成人の場合と一致していた。これらの結果は、青年期統合失調症におけるブレクスピプラゾールに関するエビデンスのさらなる充実につながり、臨床現場における治療選択の参考となるであろう」と結論付けている。

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未治療の進行性肺線維症、ニンテダニブ+抗炎症薬の同時導入療法の安全性・有効性(TOP-ILD)/日本呼吸器学会

 進行性肺線維症(PPF)に対する治療は、原疾患の標準治療を行い、効果不十分な場合に抗線維化薬を使用するが、早期からの抗線維化薬の使用が有効な可能性も考えられている。そこで、未治療PPFに対する抗線維化薬ニンテダニブ+抗炎症薬の同時導入療法の安全性と有効性を検討する国内第II相試験「TOP-ILD試験」が実施された。本試験において、ニンテダニブ+抗炎症薬の同時導入療法は、治療継続率が高く、有効性についても良好な結果が得られた。第65回日本呼吸器学会学術講演会において、坪内 和哉氏(九州大学病院)が本試験の結果について解説した。・試験デザイン:医師主導国内第II相単群試験・対象:%FVC(努力肺活量の予測値に対する実測値の割合)が50%以上の未治療PPF※患者34例・治療方法:1~7日目にプレドニゾロン(10mg、1日1回)+タクロリムス(0.075mg/kg、1日2回)→8日目以降にニンテダニブ(300mg、1日2回)+プレドニゾロン(10mg、1日1回)+タクロリムス(0.075mg/kg、1日2回)・評価項目:[主要評価項目]同一患者における治療介入前と治療介入後24週間の%FVC変化率(相対値)の差解析計画:治療介入前と治療介入後24週間の%FVC変化率(相対値)の差が0より有意に大きい場合に主要評価項目達成とした。※:特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)、分類不能型特発性間質性肺炎(分類不能型IIPs)、線維性過敏性肺炎、関節リウマチに伴う間質性肺疾患(RA-ILD)のいずれか 主な結果は以下のとおり。・対象患者34例中32例が試験を完遂した。・対象患者の登録時の診断名は、分類不能型IIPsが16例、線維性過敏性肺炎が15例、iNSIPが2例、RA-ILDが1例であった。・対象患者の年齢中央値は71歳、男性の割合は64.7%であった。%FVC(平均値±標準偏差[SD])は75.2±17.1%、%DLco(平均値±SD)は58.2±12.6%であった。自己抗体陽性の割合は23.5%、気管支肺胞洗浄液(BALF)中のリンパ球割合(中央値)は9.0%(範囲:0.4~78.8)であった。UIP(通常型間質性肺炎)like patternを呈する割合は58.8%であった。・プレドニゾロン、タクロリムス、ニンテダニブの減量に至った割合はそれぞれ11.8%、8.8%、33.3%であった。有害事象のため薬剤中止となった症例はいなかった。・%FVCの相対変化率(%/年)は、治療介入前24週間が-20.9%であったのに対し、治療介入後24週間では11.2%であった。主要評価項目の治療介入前と治療介入後24週間の%FVC変化率(相対値)の差は32.1%(95%信頼区間:17.2~47.0)となり、主要評価項目は達成された。・サブグループ解析(BALF中のリンパ球割合20%以上/未満、UIP like patternあり/なし)において、いずれの集団でもニンテダニブと抗炎症薬の同時導入療法による良好な治療効果が示された。 本結果について、坪内氏は「抗線維化薬と抗炎症薬の同時導入療法は治療継続率が高く、有効な治療法となる可能性が示唆された。今後は治療開始後52週まで追跡し、有効性および安全性を検討する予定である」とまとめた。

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糖尿病や腎臓病リスクが高まる健診の未受診期間は?/H.U.グループ中央研究所・国循

 2型糖尿病の進展は、糖尿病性腎症や透析を含む合併症の発症など健康上の大きな問題となる。年1回の健康診断と健康転帰との良好な関係は周知のことだが、定期的な健康診断をしなかった場合の2型糖尿病および透析への進展に及ぼす影響についてはどのようなものがあるだろうか。この課題に対して、H.U.グループ中央研究所の中村 いおり氏と国立循環器病研究センターの研究グループは、年1回の健康診断の受診頻度と糖尿病関連指標との関連、および透析予防における早期介入の潜在的影響について検討した。その結果、健康診断を3年以上連続して受診しなかった人は、2型糖尿病のリスクが高いことが示唆された。この結果は、BMC Public Health誌2025年4月14日号に掲載された。3年連続で健康診断を受けないと上がる2型糖尿病リスク 研究グループは、延岡市の40歳以上の市民2万2,094人を対象に、2021年の健診データを解析した。2018~20年の健診受診状況に基づいて参加者を4群に分類。ロジスティック回帰分析により、健診頻度とHbA1cや推算糸球体濾過量などの糖尿病関連指標との関連を評価した。健康診断を受けていない人が透析を受けるまでの期間は、以前に発表されたモデルを用い、未治療と治療のシナリオによって推定した。 主な結果は以下のとおり。・2021年に健康診断を受診した3,472人のうち、2,098人(60.4%)が女性、1,374人(39.6%)が男性だった。・3年連続で健診を受診しなかった人は、毎年健診を受けていた人よりも2型糖尿病のリスクが高かった(オッズ比:4.69、95%信頼区間:2.78~7.94)。・3年のうち1~2回受診した人と毎年受診した人では、2型糖尿病発症率に有意差は認められなかった。・発症の高リスクな人を対象としたシミュレーションでは、39人中32人に生涯透析を必要とする可能性があったが、早期介入により31人が透析を防ぐことができた。 研究グループでは、この結果から「健康診断を3年以上連続して受診しなかった人は2型糖尿病のリスクが高く、このような集団における糖尿病を予防するための的を絞った公的介入の必要性が強調される」と提言を行っている。

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既治療のHER2変異陽性NSCLC、zongertinibは有益/NEJM

 既治療のHER2変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、経口不可逆的HER2選択的チロシンキナーゼ阻害薬zongertinibは臨床的有益性を示し有害事象は主に低Gradeであったことが、米国・University of Texas M.D. Anderson Cancer CenterのJohn V. Heymach氏らBeamion LUNG-1 Investigatorsによる第Ib相試験の結果で報告された。HER2変異陽性NSCLC患者には、革新的な経口標的療法が求められている。zongertinibは第Ia相試験で進行または転移を有するHER2異常を認める固形がん患者への有効性が示されていた。NEJM誌オンライン版2025年4月28日号掲載の報告。複数コホートで用量探索および安全性・有効性を評価 第Ia/Ib試験はヒト初回投与試験で、現在も進行中である。進行または転移を有するHER2異常を認める固形がん患者(Ia相)および進行または転移を有するHER2変異陽性NSCLC患者(Ib相)を登録した複数コホートでzongertinibの用量探索および安全性・有効性が評価された。 本論ではIb相から既治療の患者が登録された3つのコホートにおけるzongertinibの主要解析の結果が報告された。3コホートは、チロシンキナーゼドメイン(TKD)変異陽性NSCLC患者(コホート1)、TKD変異陽性かつHER2標的抗体薬物複合体による治療歴のあるNSCLC患者(コホート5)、非TKD変異陽性NSCLC患者(探索的コホート3)である。 コホート1の患者は、zongertinib 1日1回120mgまたは240mgで投与を開始し、コホート3および5の患者は、同240mgで投与を開始した。コホート1の用量選択の中間解析の結果を受けて、その後は全コホートが120mgの投与を受けた。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定で評価(コホート1、5)または治験担当医師判定で評価(コホート3)した奏効率(ORR)であった。副次評価項目は、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間などであった。zongertinib 1日1回120mg投与群の71%で奏効 2023年3月8日~2024年11月29日に、オーストラリア、欧州、アジア、米国の74施設で、コホート1は132例、コホート5は39例、コホート3は25例の患者が治療を受けた。 データカットオフ(2024年11月29日)時点で、コホート1では計75例がzongertinib 1日1回120mgの投与を受けており、そのうち奏効を示したのは53例で(ORR:71%[95%信頼区間[CI]:60~80]、p<0.001)、DOR中央値は14.1ヵ月(95%CI:6.9~未到達)であった。Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)は13例(17%)に発現した。 コホート5(31例)では、ORRは48%(95%CI:32~65)であった。Grade3以上のTRAEは1例(3%)に発現した。 コホート3(20例)では、ORRは30%(95%CI:15~52)であった。Grade3以上のTRAEは5例(25%)に発現した。 全3コホートにおいて、薬剤性間質性肺疾患の発現は報告されなかった。

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中等度早産児へのカフェイン投与継続、入院期間を短縮するか/JAMA

 中等度早産児(在胎期間29週0日~33週6日で出生)に対するカフェイン投与の継続は、プラセボ投与と比較して入院期間の短縮には至らなかったことが、米国・アラバマ大学バーミングハム校のWaldemar A. Carlo氏らEunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development Neonatal Research Networkによる無作為化試験「MoCHA試験」の結果で示された。中等度早産児に最も多くみられる疾患の1つに未熟児無呼吸発作がある。カフェインなどのメチルキサンチン製剤が非常に有効だが副作用が生じる可能性があり、必要以上に投与を継続すべきではないとされる。2024年に発表されたメタ解析では、早産児へのカフェイン中止戦略の有益性と有害性に関するデータは限定的であることが示され、カフェイン投与の短期的および長期的な影響のさらなる評価が求められていた。JAMA誌オンライン版2025年4月28日号掲載の報告。無作為化後の退院までの期間を評価 研究グループは、2019年2月~2022年12月に米国の29病院で、カフェイン療法の延長が入院期間を短縮するかを評価する無作為化試験を行った。対象は、在胎期間29週0日~33週6日で出生し、(1)無作為時の月経後年齢が33週0日~35週6日、(2)カフェイン投与を受けており投与中止の計画があり、(3)120mL/kg/日以上の経口栄養および/または経管栄養を受けている新生児とした。 対象児は退院後28日まで、経口カフェインクエン酸塩(10mg/kg/日)投与を受ける群またはプラセボ投与を受ける群に無作為に割り付けられ、追跡評価を受けた(フォローアップ完了は2023年3月20日)。 主要アウトカムは、無作為化後の退院までの期間。副次アウトカムは、生理的発達(無呼吸発作が連続5日間なく、完全経口栄養を受けており、少なくとも48時間保育器から出ている)までの日数、退院時の月経後年齢、あらゆる要因による再入院およびあらゆる疾患による受診、安全性アウトカム、死亡などであった。補正後群間差中央値0日、生理的発達までの日数も短縮せず 事前に規定された無益性閾値の検出に必要とされた被験者登録は878例であったが、計827例(在胎期間中央値31週、女児414例[51%])が無作為化(カフェイン群416例、プラセボ群411例)された時点で登録は早期に中止された。 無作為化から退院までの入院日数は、カフェイン群18.0日(四分位範囲[IQR]:10~30)、プラセボ群16.5日(10~27)で群間差はなく(補正後群間差中央値:0日[95%信頼区間[CI]:-1.7~1.7])、また生理的発達までの日数も差は認められなかった(14.0日vs.15.0日、補正後群間差中央値:-1日[95%CI:-2.4~0.4])。 カフェイン群の新生児は無呼吸発作消失までの期間が短縮したが(6.0日vs.10.0日、補正後群間差中央値:-2.7日[95%CI:-3.4~-2.0])、完全経口栄養を受けるようになるまでの期間は同程度であった(7.5日vs.6.0日、0日[-0.1~0.1])。再入院および疾患による受診は両群で差はなかった。 有害事象については、両群間で統計学的有意差は認められなかった。

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歩く速度が不整脈リスクと関連

 歩行速度が速い人は不整脈リスクが低いという関連のあることが報告された。英グラスゴー大学のJill Pell氏らの研究によるもので、詳細は「Heart」に4月15日掲載された。歩行速度で3群に分けて比較すると、最大43%のリスク差が認められたという。 これまで、身体活動が不整脈リスクを抑制し得ることは知られていたが、歩行速度と不整脈リスクとの関連についての知見は限られていた。Pell氏らはこの点について、英国で行われている一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いて検討した。 UKバイオバンクの参加者42万925人(平均年齢55.8±9.30歳、女性55.3%)を、自己申告に基づき、歩行速度が速い群(時速4マイル〔約6.4km〕超)40.7%、遅い群(時速3マイル〔約4.8km〕未満)6.6%、および、平均的な速度の群(時速3~4マイル)52.7%の3群に分類。中央値13.7年(四分位範囲12.8~14.4年)の追跡期間中に、全体で3万6,574人(8.7%)が不整脈を発症していた。 結果に影響を及ぼし得る交絡因子(年齢、性別、民族性、喫煙・飲酒・運動習慣、睡眠時間、野菜や果物・加工肉・赤肉の摂取量、握力など)を調整後、歩行速度が遅い群を基準として不整脈発症リスクを比較すると、歩行速度が平均的な群では35%(ハザード比〔HR〕0.65〔95%信頼区間0.62~0.68〕)、速い群では43%(HR0.57〔同0.54~0.60〕)、それぞれ有意にリスクが低いことが明らかになった。 不整脈の中でも脳梗塞につながる心房細動は、追跡期間中に2万3,526人が発症していた。この心房細動の罹患リスクも上記と同様の解析の結果、歩行速度が平均的な群では38%(HR0.62〔0.58~0.65〕)、速い群では46%(HR0.54〔0.50~0.57〕)、それぞれ有意にリスクが低かった。 次に、加速度計のデータにより歩行時間を把握できた8万773人を対象とする解析が行われた。この集団では中央値7.9年(四分位範囲7.4~8.5)の追跡期間中に4,177人が不整脈を発症していた。前記同様の交絡因子を調整後、高速での歩行の時間が長いこと(1標準偏差当たりHR0.93〔0.88~0.97〕)、および、平均的な速度での歩行の時間が長いこと(同HR0.95〔0.91~0.99〕)は、不整脈リスクの低さと有意な関連があった。一方で低速での歩行時間の長さは不整脈リスクと関連がなかった。 なお、サブグループ解析からは、女性、60歳未満、非肥満者、高血圧罹患者、2種類以上の慢性疾患罹患者で、歩行速度と不整脈リスクとの関連がより強く認められた。また、媒介分析からは、歩行速度と不整脈リスクとの関連の36.0%を、肥満や代謝・炎症(BMI、総コレステロール、収縮期血圧、HbA1c、C反応性蛋白)によって説明できることが分かった。 著者らは、「われわれの研究結果は、歩行速度と不整脈の関連性を示し、その関連に代謝因子と炎症因子が何らかの役割を果たしている可能性を示す、初のエビデンスである」と述べている。

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触覚フィードバックで軽度アトピー性皮膚炎患者における夜間掻痒が軽減

 軽度のアトピー性皮膚炎に対する触覚フィードバックは、患者の夜間掻痒を軽減させる非薬理学的介入として使用できる可能性があるという研究結果が、「JAMA Dermatology」に2月5日掲載された。 米ミシガン大学アナーバー校のAlbert F. Yang氏らは、単アーム2段階コホート試験を実施し、クローズドループ・触覚フィードバックを備えた人工知能(AI)対応ウェアラブルセンサーについて、軽症アトピー性皮膚炎の夜間掻痒症状に対する検出精度および軽減効果を検討した。試験には、中等度~重度の掻痒行動を自己申告した軽症アトピー性皮膚炎患者が対象者として登録された。手に装着したウェアラブルセンサーから送られる触覚フィードバックは、AIアルゴリズムによって夜間掻痒症状が検出されたときに発せられる。対象者は、まず検出機能のみ作動させたセンサーを7日間装着し、その後触覚フィードバックも作動させた状態でセンサーを7日間装着した。 対象者10人について、合計104回、831時間の夜間睡眠がモニタリングされた。追跡期間中に試験から脱落した対象者はいなかった。解析の結果、第2週目に触覚フィードバックを作動させると、1夜当たりの掻痒イベント平均回数が28%有意に減少し(45.6回対32.8回)、睡眠1時間当たりの掻痒平均時間に50%の有意差が認められた(15.8秒対7.9秒)。総睡眠時間の減少はなかった。 著者らは、「この技術は、全身治療の適応でない、あるいはステロイド外用薬の使用を希望しないが掻痒行動が多いと訴える軽症AD患者において、掻痒行動を減少させるための単独、あるいはより現実的には補助的な治療機器として役立つ可能性がある」と述べている。 なお複数の著者が、本研究の一部助成を行い、特許を出願中であるマルホ社と、1人の著者がアッヴィ社との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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バーミンガム股関節表面置換術で高レベルの身体活動を維持

 表面置換型人工股関節置換術の一種であるバーミンガム股関節表面置換術(BHR)を受けた患者では、人工股関節全置換術(THA)を受けた患者と同程度に、長期間にわたり高レベルの身体活動を維持できることが長期研究で明らかになった。米ワシントン大学医学部整形外科教授のRobert Barrack氏らによるこの研究結果は、「The Journal of Bone and Joint Surgery」に3月19日掲載された。 長年、熱心にスポーツを続けていると体に負担がかかり、股関節に痛みを伴う変形性関節症を発症することがある。THAはこうした症状に対する治療選択肢の一つだが、術後に高強度の運動や負荷の高い動きが制限されてしまうことが少なくない。そのため、若くて活動的な患者の間では、THAよりも、患者を競技レベルの運動に復帰させた実績のあるBHRが好まれることが多い。 THAでは、大腿骨頭を切除して人工の関節頭(ボール)を取り付けるとともに、骨盤側の関節窩を人工物(ソケット)に置き換える。これに対し、BHRでは、大腿骨頭の表面のみを削って人工物(キャップ)を被せ、関節窩に受け皿(ソケット)を設置する。この術式では、大腿骨の大部分を残せるため、股関節での自然な荷重伝達が保たれやすく、術後も高い活動レベルを維持できる可能性が高まる。 Barrack氏らは、2006年6月から2013年12月にかけてバーンズ・ジューイッシュ病院でBHRを受けた35歳から59歳の患者224人の長期転帰を分析した。その結果、手術から15年後の時点で、何らかの原因で股関節の再手術を必要としなかった患者の割合は96.0%、感染以外の理由による再手術を必要としなかった患者の割合は97.4%に上ると推定されることが明らかになった。また、THAを受けた患者を対照として患者報告アウトカムを比較したところ、BHR群とTHA群の間で全体的な活動性について有意な差は認められなかった。さらに、術後も活動的な状態を維持していた患者の割合は、両群で同等だったが、BHR群の方が「高度に活動的」である患者の割合が高い傾向が認められた。 Barrack氏は、「BHRを受けた患者は、術後5~10年後の時点でランニングやバスケットボールなどの高強度の運動に復帰していた患者の割合がTHA群の3倍に上っていた。驚くべきことに、ほぼ全員が術後平均14年を経てもアクティブな活動に従事している」とワシントン大学医学部のニュースリリースで述べている。 50歳のJason Cutterさんも、BHRを受けた1人だ。Cutterさんは、何年も前から生じていた股関節の痛みがアマチュアホッケー選手やアウトドアマンとしての活動に支障を来たし始めていると感じていたが、その原因は加齢やストレッチ不足、住宅リフォームの副業で着用していた重い工具ベルトによる負担だと考えていた。しかし、所属しているレクリエーションリーグの元プロアイスホッケー選手らに勧められて整形外科医の診察を受けた。その結果としてBHRを受けたCutterさんは、術後3カ月で氷上に戻り、ホッケーのプレーを再開できるようになったという。

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3枝病変へのFFRガイド下PCIは有効か/Lancet(解説:山地杏平氏)

 3枝冠動脈疾患(3VD)患者に対し、FFR(冠血流予備量比)を用いたガイド下の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と冠動脈バイパス術(CABG)を無作為に比較したFAME 3試験の5年追跡結果が報告されました。主要複合エンドポイント(全死亡、脳卒中、心筋梗塞)の5年発生率は、PCI群で16%、CABG群で14%と、統計学的に有意な差は認められませんでした(ハザード比[HR]:1.16、95%信頼区間[CI]:0.89~1.52)。全死亡率は両群ともに7%で同等でしたが、心筋梗塞の発生率はPCI群が8%、CABG群が5%と、PCI群で有意に高く(HR:1.57、95%CI:1.04~2.36)、さらに再血行再建の必要性もPCI群で16%、CABG群で8%と、PCI群で有意に多い結果でした(HR:2.02、95%CI:1.46~2.79)。 3枝病変に対する標準治療はCABGとされてきました。とくに、1990年代までのバルーン血管形成術の時代には、3枝病変にPCIが行われることはほとんどありませんでした。1990年代にベアメタルステントが導入された後も、依然として多くの症例ではCABGが選択されてきました。その後、第1世代薬剤溶出性ステントの登場により実施されたSYNTAX試験では、SYNTAXスコアによる層別解析において、中等度から高スコア(>22)の患者ではCABGが優れている一方、低スコア(≦22)であればPCIとCABGの成績は同等であることが示されました。 現行世代の薬剤溶出性ステントは、再狭窄やステント血栓症のリスクを低減しており、さらにFFRによる病変の機能的評価や薬物療法の最適化など、PCIに関連する技術は大きく進歩しています。これらを背景に、FAME 3試験にて最新のPCIを用いてCABGとの比較が行われましたが、1年時点でPCIはCABGと比較して非劣性は示されませんでした。しかしながら、今回の5年追跡結果は、最新のPCI戦略がCABGと同等の長期成績を示す可能性を示唆するものです。 また、日本のCREDO-Kyoto研究から、3枝病変を有する患者において、高齢者ではCABGが優れている一方、若年者ではPCIとCABGの長期成績が同等であることが報告されました。これらの知見を踏まえると、長期予後を考慮したうえで、高齢者でCABGが可能な場合はCABGが望ましい選択肢と考えられますが、若年患者においては、今回のFAME 3試験の5年結果を踏まえると、PCIを治療選択肢として積極的に検討する余地があると考えられます。

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