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日本の大学生の血圧、コロナ禍後に上昇

 日本の大学生における血圧の5年ごとの調査で、コロナ禍後の2023年に血圧が上昇していたことが、慶應義塾大学の安達 京華氏らの研究でわかった。一方、喫煙・飲酒習慣や睡眠不足、精神的ストレス、ファストフードやスナック菓子の摂取は減少、運動習慣は増加しており、血圧上昇の原因は特定されなかった。Hypertension Research誌2025年2月号に掲載。 高血圧は中高年だけでなく、若年者においても心血管疾患のリスクを高める。コロナ禍では世界中で血圧の上昇傾向が観察されたが、若年成人については十分な評価がなされていない。本研究では、コロナ禍の前後を含む2003~23年の20年間、5年ごとに大学生(10万6,691人)の血圧を調査した。  主な結果は以下のとおり。・2003~18年において血圧に目立った変化はなかったが、コロナ禍後に男女とも血圧の上昇がみられ、収縮期血圧は、男性が2018年の118.1(SD:14.2)mmHgから2023年の120.6(SD:12.5)mmHgに、女性が104.6(SD:11.8)mmHgから105.1(SD:11.7)mmHgに上昇した。・これらの傾向は、標準体重/低体重の学生、および1年生と2年生で顕著であった。・生活習慣を調査した結果、喫煙・飲酒習慣、睡眠不足、精神的ストレス、ファストフードやスナック菓子の摂取が減少し、運動習慣が増加していた。

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日本人は35歳を過ぎると男女ともにBMIが増加傾向に/慶大

 年を重ね中高年になると、私たちの体型はどのように変化していくのであろう。この疑問に慶應義塾大学スポーツ医学研究センターの植村 直紀氏らの研究グループは、全国健康保険協会(協会けんぽ)の2015~20年度の加入者データから身長と体重、BMIの推移を解析した。その結果、男女ともにすべての年齢層でBMIが増加していたことが明らかになった。この結果は、International Journal of Obesity誌オンライン版2024年12月18日号に掲載された。 主な結果は以下のとおり。 研究グループは、2015~20年の協会けんぽの年次健康診断のデータを用い、35~69歳(1950~80年代生)の男性477万7,891人と女性337万8,003人を、性別と5年ごとの年齢区分に基づいて14のサブグループに層別化した。そして、線形混合効果モデルを用い、6時点(2015~20年)を独立変数とし、各アウトカムの値を推定した。・平均BMI変化はすべてのサブグループでプラスであり、BMIの増加傾向を示した(男性:0.02~0.14/年、女性:0.05~0.16/年)。・若いサブグループでは、変化は比較的大きく、体重の推移はBMIの推移を反映していた。・一方、高齢のサブグループでは体重の平均変化はマイナスだった(男性:-0.06kg/年、女性:-0.01kg/年)。・身長の減少はサブグループ全体で年齢とともに増加した(男性:-0.14~-0.03cm/年、女性:-0.18~-0.01cm/年)。 これらの結果から研究グループは、「日本人成人の全年齢群においてBMIは、男女とも年齢とともに増加する傾向があった。BMIの増加は、若年から中年にかけての体重増加に影響されているようであったが、高齢者では身長の減少がBMIの増加に影響していた」と結論付けている。

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コロナ関連の小児急性脳症、他のウイルス関連脳症よりも重篤に/東京女子医大

 インフルエンザなどウイルス感染症に伴う小児の急性脳症は、欧米と比べて日本で多いことが知られている。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症においても、小児に重篤な急性脳症を引き起こすことがわかってきた。東京女子医科大学附属八千代医療センターの高梨 潤一氏、東京都医学総合研究所の葛西 真梨子氏らの研究チームは、BA.1/BA.2系統流行期およびBA.5系統流行期において、新型コロナ関連脳症とそれ以外のウイルス関連脳症の臨床的違いを明らかにするために全国調査を行った。その結果、新型コロナ関連脳症は、他のウイルス関連脳症よりもきわめて重篤な脳症の頻度が高く、27%の患者が重篤な神経学的後遺症または死亡という転帰であったことが判明した。Journal of the Neurological Sciences誌2025年2月15日号に掲載。 本研究では、日本小児神経学会会員を対象としたWebアンケートを用い、2022年1~5月のBA.1/BA.2系統流行期と2022年6~11月のBA.5系統流行期において、新型コロナ関連脳症を発症した18歳未満の103例の患者を対象に臨床症状について調査した。 主な結果は以下のとおり。・全103例のうち、BA.1/BA.2系統流行期の患者は32例(0~14歳、中央値5歳)、BA.5系統流行期の患者は68例(0~15歳、中央値3歳)だった。103例中95例(92.2%)が新型コロナウイルスワクチンを接種していなかった。・オミクロン株BA.1/BA.2系統流行期とBA.5系統流行期で新型コロナ関連脳症の臨床症状に有意差は認められないものの、BA.5系統流行期は新型コロナ関連脳症の発症時にけいれん発作を起こす患者が多く、68例中50例において、発症時にけいれん発作が認められた。・急性脳症症候群のタイプとして、けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)が最も多く、103例中27例(26.2%)を占めた。・103例中6例が劇症脳浮腫型脳症(AFCE)、8例が出血性ショック脳症症候群(HSES)という最重度の急性脳症症候群であり、他のウイルス関連脳症と比べて高頻度だった。AFCEおよびHSESの患者はすべて新型コロナワクチンを接種していなかった。・新型コロナ関連脳症の転帰は、完全回復が45例、軽度から中等度の神経学的後遺症は28例、重度の神経学的後遺症は17例、死亡は11例であった。新型コロナ関連脳症は他のウイルス関連脳症と比べて予後不良の転帰となる患者が多かった。 著者らは本結果について、「AFCEやHSESは脳浮腫が急速に進行し致死率が高い疾患である一方、発症がきわめてまれであるため診断法や治療法が十分に解明されていない。今後は、新型コロナ関連脳症の中でもこれら2つに注目し、詳細な臨床経過を把握し、迅速診断のためのバイオマーカーや有効な治療開発に向けてエビデンスを構築していきたい。小児に対する新型コロナワクチンの接種が急性脳症の予防につながるかどうかも確かめる必要がある」としている。

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日本人PD-L1低発現の切除不能NSCLC、治験不適格患者へのICI+化学療法の有用性は?

 PD-L1低発現の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)+化学療法の有用性は臨床試験ですでに検証されている。しかし、実臨床では臨床試験への登録が不適格となる患者も多く存在する。そこで、研究グループはPD-L1低発現の切除不能NSCLC患者を臨床試験への登録の適否で分類し、ICI+化学療法の有用性を検討した。その結果、臨床試験への登録が不適格の集団は、適格の集団よりも全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)が短かったものの、ICI+化学療法が化学療法単独よりも有用であることが示唆された。ただし、PS2以上、扁平上皮がんではICI+化学療法によるOSの改善はみられなかった。本研究結果は、畑 妙氏(京都府立医科大学大学院 呼吸器内科学)らにより、Lung Cancer誌2025年2月号で報告された。 本研究は、多施設共同後ろ向きコホート研究として、日本の19施設において実施された。対象患者は、PD-L1低発現(TPS 1~49%)のStageIIIB、IIIC、IV(TNM分類第8版)のNSCLC患者のうち、ICI+化学療法または化学療法単独による治療を行った728例とした。対象患者を第III相試験への登録基準への適否で分類し(適格集団/不適格集団)、OSやPFSなどを検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者728例のうち、適格集団は333例、不適格集団は395例であった。・対象患者の年齢中央値は70歳(範囲:36~89)、男性が79%、現/元喫煙者が89%、組織型は腺がんが58%、扁平上皮がんが32%であった。・OSは適格集団、不適格集団のいずれにおいてもICI+化学療法群が化学療法群と比べて有意に長かった。しかし、不適格集団のPS2以上、扁平上皮がんに限定した解析では、有意差はみられなかった。OS中央値は以下のとおり。<適格集団> ICI+化学療法群25.1ヵ月、化学療法群18.5ヵ月(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.54~0.97、p=0.03)<不適格集団> ICI+化学療法群18.2ヵ月、化学療法群14.9ヵ月(HR:0.75、95%CI:0.59~0.95、p=0.018)<PS2以上の不適格集団> ICI+化学療法群12.2ヵ月、化学療法群9.2ヵ月(p=0.21)<扁平上皮がんの不適格集団> ICI+化学療法群12.9ヵ月、化学療法群13.1ヵ月(p=0.27)・PFSは適格集団、不適格集団のいずれにおいてもICI+化学療法群が化学療法群と比べて有意に長かった。不適格集団のうち扁平上皮がんに限定した解析では、ICI+化学療法群が有意に長かったが、PS2以上に限定した解析では有意差はみられなかった。PFS中央値は以下のとおり。<適格集団> ICI+化学療法群9.3ヵ月、化学療法群6.1ヵ月(p<0.0001)<不適格集団> ICI+化学療法群7.0ヵ月、化学療法群5.1ヵ月(p<0.0001)<PS2以上の不適格集団> ICI+化学療法群5.7ヵ月、化学療法群4.0ヵ月(p=0.17)<扁平上皮がんの不適格集団> ICI+化学療法群6.1ヵ月、化学療法群5.0ヵ月(p=0.008) 本研究結果について、著者らは「PS2以上、扁平上皮がんを除き、臨床試験への登録が不適格の集団においてもICI+化学療法の有用性が示唆された」とまとめた。

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HER2+早期乳がん、TILが20%以上ならde-escalation可能か

 第III相ShortHER試験の長期追跡データを用いて、HER2+の早期乳がん患者における腫瘍浸潤リンパ球(TIL)と予後との関連性を評価した結果、TILが高値であるほど遠隔無病生存期間(DDFS)および全生存期間(OS)が良好で、TIL量が20%以上の場合はde-escalationの術後補助療法であっても過剰なリスクは認められなかったことを、イタリア・パドヴァ大学のMaria Vittoria Dieci氏らが明らかにした。JAMA Oncology誌オンライン版2025年2月13日号掲載の報告。 ShortHER試験は、2007年12月~2013年10月にHER2+の早期乳がん患者1,253例を登録し、術後化学療法と併用したトラスツズマブの9週間投与と1年間投与を比較したイタリアの多施設共同ランダム化非劣性試験。1年投与群に対する9週投与群の非劣性は認められなかったが、N0およびN1~3の集団では10年OS率が非常に類似していた。研究グループは、TILの予後因子としての可能性を探るため、追跡期間中央値9年のデータを2023年2月~2024年8月に解析し、TIL量(5%刻み)が予後に与える影響を評価した。評価項目はDDFSおよびOSで、Cox回帰モデルを使用してハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・全参加者1,253例のうち、評価可能なTILデータを有したのは866例(69%)であった。年齢中央値は56歳で、TIL量の中央値は5%(四分位範囲:1~15)であった。・TILデータがある集団における9週群vs.1年群のDDFSのHRは1.44(95%CI:0.98~2.10)、OSのHRは1.11(95%CI:0.71~1.76)であった。・TIL量が5%増加するごとにDDFSイベントリスクは13%減少し(HR:0.87、95%CI:0.80~0.95、p=0.001)、OSリスクは11%減少した(HR:0.89、95%CI:0.81~0.98、p=0.01)。・TILが低値の集団よりも高値の集団のほうが10年DDFS率および10年OS率は良好で、TIL量が20%以上の集団では89.8%および91.3%、30%以上の集団では91.7%および93.3%、50%以上の集団では96.9%および98.1%であった。・10年DDFS率および10年OS率は、TIL量が20%未満の集団では1年群のほうが9週群よりも良好であったが、TIL量が20%以上の集団では9週群のほうが良好であった。

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急性期病院におけるBPSDの有病率〜メタ解析

 認知症の行動・心理症状(BPSD)は、急性期病院における治療を複雑にする可能性があり、このようなケースにおけるBPSDに関するエビデンスは多様である。タイ・Prince of Songkla UniversityのKanthee Anantapong氏らは、急性期病院におけるBPSDの有病率を特定し、関連するリスク因子、治療法、アウトカムを評価した。Age and Ageing誌2025年1月6日号の報告。 2024年 3月5日までに公表された急性期病院入院中の認知症高齢者におけるBPSDの有病率に関する研究をCochrane Library、MEDLINE、PsycINFOより検索し、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。研究のスクリーニング、選択、データ抽出には、独立した二重レビュープロセスを用いた。12項目のBPSDに関するデータは、Neuropsychiatric Inventory Questionnaire(NPI)およびアルツハイマー病行動病理学尺度(BEHAVE-AD)に基づき抽出した。リスク因子、治療、アウトカムをレビューした。メタ解析を用いて、結果を統合した。 主な結果は以下のとおり。・1万5,101件中30件(23研究)を分析に含めた。・ほとんどの研究の品質は、中程度(12件)〜低(17件)であった。・メタ解析では、急性期病院入院中の認知症高齢者における全体的なBPSDのプールされた有病率(BPSD症状が1つ以上)は60%(95%信頼区間:43〜78)であった(11研究)。・サブグループ解析では、評価ツールに基づくBPSDの有病率のばらつきが示唆された(BEHAVE-AD:85%、NPI:74%、その他:40%)。・一般的なBPSD症状として、攻撃性/興奮(39%)、睡眠障害(38%)、摂食障害(36%)、易怒性(32%)がみられた。・BPSDは、せん妄、痛み、不快な介入、向精神薬使用、介護者のストレスの増加との関連が認められた。・患者とスタッフのやり取りが不十分で、退院計画が断片化しているため、緊急入院や再入院の発生率が高かった。 著者らは「急性期病院でのBPSDマネジメントのためのカスタマイズされたアプローチの実施、スタッフトレーニングの強化、介護者とのコミュニケーション改善、統合された退院計画の策定が、現在の医療システムに求められる」と結論付けている。

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CAR-T細胞療法後、T細胞リンパ腫に対するモニタリング必要/NEJM

 オーストラリア・Peter MacCallum Cancer CentreのSimon J. Harrison氏らは、1~3レジメンの前治療歴のあるレナリドミド抵抗性多発性骨髄腫患者を対象に、B細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたCAR-T細胞療法ciltacabtagene autoleucel(cilta-cel)と標準治療を比較した第III相無作為化試験「CARTITUDE-4試験」において、cilta-cel投与後に末梢性T細胞リンパ腫(CAR導入遺伝子発現と組み込みを伴う悪性単クローン性T細胞リンパ増殖症)を発症した2例について報告した。著者は、この病態を「CAR導入遺伝子T細胞リンパ増殖性腫瘍(CTTLN)」と呼んでいるが、「T細胞リンパ腫の発症に対する挿入突然変異の関与は、直接的な証拠がないため現在のところ不明である」と述べている。NEJM誌2025年2月13日号掲載の報告。2例ともCAR導入遺伝子発現と組み込みを認める 症例1は、細胞遺伝学的高リスク(del[17p]およびgain[1q])の50代男性で、cilta-cel単回投与により完全奏効が得られ微小残存病変(MRD)陰性(閾値10-6)が確認された。本症例では、投与5ヵ月後に急速に増大する紅斑性鼻顔面斑が出現し、皮膚生検で異型T細胞浸潤が認められ、FDG-PETで確認された頸部リンパ節腫脹の組織でも顔面病変と同じT細胞浸潤が認められた。病変組織にはレンチウイルスDNA(0.8コピー/cell)が含まれており、その90~100%がCAR+であることが明らかになった。皮膚およびリンパ節生検組織からはTET-2変異(H1416R)が検出された。 症例2は、IgG-κ型多発性骨髄腫と診断された細胞遺伝学的高リスク(t[4;14]およびgain[1q])の50代の女性で、治療後1年で完全奏効が得られMRD陰性となった。本症例では、投与16ヵ月後に顔面や体幹、乳房などに皮膚腫瘤が出現し、自然退縮したが再発した。FDG-PETで皮膚、リンパ節、乳房、肺、骨に病変が確認され、病変細胞は主にCAR+であることが明らかになった。遺伝子解析で、CARのARID1A遺伝子への組み込みが確認され、TET2変異(Y1902H)も検出された。 両患者とも、治療によりT細胞リンパ腫は完全奏効が得られた。直接的な証拠はなし 両患者の単クローン性T細胞は、検出可能なCAR導入遺伝子発現と組み込みが認められた。これらのCTTLNの臨床遺伝学的特徴から、その発症には既存のTET2変異T細胞への遺伝子組み込みに続き、さらなるがん原性ゲノム変異の獲得など、複数の内在性または外在性の因子が寄与している可能性が示唆された。また、生殖細胞系列のゲノム変異、ウイルス感染、多発性骨髄腫の治療歴などの寄与も考えられた。しかし、T細胞性リンパ腫の発症に挿入突然変異が関与している直接的な証拠は現在のところない。 これらの結果を踏まえて著者は「多発性骨髄腫に対するCAR-T細胞療法のベネフィットは依然としてリスクよりまさっているが、T細胞リンパ腫に対する警戒、モニタリングを行う必要がある」とまとめている。

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ホルモン避妊法、脳梗塞・心筋梗塞のリスクは?/BMJ

 生殖年齢15~49歳の女性において、現在使用されているエストロゲン・プロゲスチンおよびプロゲスチン単剤による避妊法は、レボノルゲストレル放出子宮内避妊具を除き、虚血性脳卒中および一部の症例では心筋梗塞のリスク増加と関連していることが、デンマーク・Nordsjaellands HospitalのHarman Yonis氏らが同国居住の女性約203万例を対象に行った前向きコホート研究の結果で示された。著者は、「絶対リスクは低いが、臨床医はホルモン避妊法を処方する際、ベネフィットとリスクの評価に動脈血栓症の潜在的リスクを含めるべきである」と述べている。BMJ誌2025年2月12日号掲載の報告。デンマーク居住の約203万例を対象にコホート研究 研究グループは、1996~2021年にデンマークに居住しており、動脈・静脈血栓症、がん(非黒色腫皮膚がんを除く)、血栓症、肝疾患、腎疾患、抗精神病薬の使用、不妊治療、ホルモン療法の使用、卵巣摘出、子宮摘出、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜症の既往歴のない15~49歳の女性202万5,691例を対象に、前向きコホート研究を行った。 主要アウトカムは、虚血性脳卒中または心筋梗塞の初回退院時診断とした。脳梗塞10万人年当たり、経口避妊薬群39件、黄体ホルモン単剤ピル群33件 2,220万9,697人年の追跡において、虚血性脳卒中イベントの発生は4,730件、心筋梗塞イベントの発生は2,072件であった。 試験集団は、ホルモン避妊法非使用群、複合ホルモン避妊法使用群(複合経口避妊薬[経口エチニルエストラジオール30~40μg、同20μg、経口エストラジオール]、膣リング、パッチ)、プロゲスチン単剤避妊法使用群(経口[ピル]、子宮内避妊具、インプラント、注射)に特徴付けられた。 標準化虚血性脳卒中発生頻度(10万人年当たり)は、ホルモン避妊法非使用群が18(95%信頼区間[CI]:18~19)、複合経口避妊薬使用群が39(36~42)、プロゲスチン単剤ピル使用群が33(25~44)、子宮内避妊具使用群が23(17~29)。標準化心筋梗塞発生頻度(10万人年当たり)は、それぞれ8(8~9)、18(16~20)、13(8~19)、11(7~16)であった。 非使用群に対する複合経口避妊薬使用群の補正後発生率比は、虚血性脳卒中2.0(95%CI:1.9~2.2)、心筋梗塞2.0(1.7~2.2)であった。これら標準化発生率比の差は、10万人年当たり虚血性脳卒中21例(18~24例)、心筋梗塞10例(7~12例)の増加に相当した。 非使用群に対するプロゲスチン単剤ピル使用群の補正後発生率比は、虚血性脳卒中1.6(95%CI:1.3~2.0)、心筋梗塞1.5(1.1~2.1)で、これは10万人年当たり虚血性脳卒中15例(6~24)、心筋梗塞4例(-1~9)の増加に相当した。 動脈血栓症リスクの増加は、膣リング使用群(補正後発生率比:虚血性脳卒中2.4[95%CI:1.5~3.7]、心筋梗塞3.8[2.0~7.3])、パッチ使用群(虚血性脳卒中3.4[1.3~9.1]、心筋梗塞なし)、およびプロゲスチン単剤インプラント使用群(虚血性脳卒中2.1[1.2~3.8]、心筋梗塞≦3)でも観察されたが、プロゲスチン単剤放出子宮内避妊具使用群では観察されなかった(虚血性脳卒中1.1[1.0~1.3]、心筋梗塞1.1[0.9~1.3])。

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価値ある研究だが、国による医療事情の違いへの考慮が必要(解説:野間重孝氏)

 本試験では、最初の診断時に冠動脈CT血管造影(CCTA)を施行したグループにおいても、最初にCCTAが行われたが、その後のフォローアップで定期的にCCTAが使用されたわけではない。したがって、初回の診断による薬物治療や治療方針の違いが長期転帰に影響を与えた可能性はあるが、病変の進展を観察しながら治療を逐次変更していったわけではない。それでもこうした有意差が認められたことは、治療開始時に冠動脈病変を正確に把握しておくことの重要性をあらためて認識させた研究であるといえよう。これは私たちのような古手の循環器科医にとっては耳の痛い話であるが、若い人たちは「そんなことは当然では?」と思われるかもしれない。 わが国では冠動脈疾患が疑われた患者は特別な事情がない限り、まずCCTAや冠動脈造影が行われ、75%以上の狭窄が見つかった患者はFFRやiFRなどさらなる検査が行われ、高齢・合併症などにより施行が困難な場合を除いて、適応と考えられたほぼ全員がPCIや冠動脈バイパスの治療を受ける。フォローアップの過程においても何らかの変化がみられれば、当然のようにCCTAなどが再度施行される。したがって、SCOT-HEART試験でのCCTA群での初期治療方針の選択・変更が長期的な転機の改善につながったという点は、初期評価・診断の重要性を強調するものではあるが、わが国の現行の医療体制下では追加的な意味を持ちにくいと考えられる。JCSガイドラインにおいても、安定冠動脈疾患患者に対する治療戦略として至適薬物療法(OMT)と生活習慣の是正を基盤としつつ、機能的狭窄度評価を重視し、適切な血行再建術の適応を判断することが推奨されている。 SCOT-HEART試験は、2015年に初期結果が発表され、2018年には5年間のフォローアップ結果が報告された。今回の報告は、同グループが10年間のフォローアップ結果を発表したものである。10年間という長期間にわたる医療環境の変化を考えたとき、初期における適切な患者評価がいかに重要かをあらためて強調した研究として、高く評価されるものであろうと思われる。ただ、前述のようにわが国と英国では医療事情が異なっており、彼らの主張は大いに参考になるが、日本の医療環境は異なるため、そのまま適用するのではなく、FFR-CTの位置付けなどを含めた日本独自の診断戦略を構築することが求められる。

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第231回 高額療養費制度の行方、医療現場はどう変わる?

今年2月になって突然、飛び込んできた「高額療養制度の見直し」について多くの方はなぜそんなに急に? と疑念を抱かれたと思います。わが国はバブル景気の後の「失われた30年」の間、経済が停滞していた間も少子化と高齢人口の増加が続いてきました。リーマンショック後の安倍政権をきっかけに、日本経済も回復したとはいえ、2040年まで高齢化が続く中、増大する医療費や介護費のため、社会保障制度の持続可能性について検討が続いています。社会保障改革の経過の振り返り令和元(2019)年から開かれていた全世代型社会保障検討会議の最終報告からまとめられた「全世代型社会保障改革の方針」(令和2年)でも、少子化対策の子育て支援とともに、医療提供体制の改革や後期高齢者の自己負担割合の在り方について検討をすることが盛り込まれていました。これらについて政策の実際の発動は、新型コロナウイルス感染症の拡大で延期され、令和4年1月から開催された「全世代型社会保障構築会議」で、すべての世代が安心できる「全世代型社会保障制度」を目指し、働き方の変化を中心に据えながら、社会保障全般にわたる改革を検討しました。この会議の中で「給付と負担のバランス・現役世代の負担上昇の抑制」について、「高額療養費制度の見直しも併せてしっかり取り組んでいただきたい。厚生労働省からはそれを検討するという報告があったわけで、これはぜひ1つでも2つでもできるものをどんどん実現してほしい」という発言がなされていました(【第20回全世代型社会保障構築会議議事録】)。このような発言を反映してか、令和6年1月26日の社会保障審議会で「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」の中で、経済情勢に対応した患者負担などの見直し(高額療養費自己負担限度額の見直し/入院時の食費の基準の見直し)が入っていました。2月に入り厚労省の社会保障審議会医療保険部会の「令和7年8月~令和9年8月にかけて段階的に実施高額療養費制度の見直し」を行うという資料【高額療養費制度の見直しについて】をもとに国会の予算審議で大きく取り上げられたのをきっかけに大きな話題となりました。画像を拡大する当然ながら、高額療養費の対象となるがんや難病の患者さんの団体から反対の声が上がり、2月7日に厚労省で鹿沼 均保険局長と患者団体が面会を行い、いったん凍結を求められました。厚労省側から改革案を部分修正する意向を示されたものの、患者団体はこれを反対するなどしばらく予算審議を進めていく中、予定通り令和7年8月からの引き上げは難しくなっています。Financial toxicityがクローズアップされている高額療養費制度はわが国の保険診療のセーフティネットとして必要なもので、これが十分に機能しているため患者さんは安心して高額な抗がん剤や先進的な治療を受けることができますが、一方で、諸外国ではこのようなシステムがないため、すでに2000年代になって画期的な新薬の承認とともに問題となっていました。高額療養費制度の見直しが必要になったのは高額な新薬の登場です。近年登場する抗がん剤は非常に高額なため、公的な保険で十分にカバーできない問題が諸外国で話題になっていました。筆者も以前、製薬企業で勤務していたときに有害事象として報告された用語に“financial toxicity”という言葉を目にしたことがあります。Financial Toxicity(ファイナンシャル・トキシシティ:経済毒性)とは、国際医薬用語集にも掲載されている用語で、医療費による経済的負担が患者さんや家族に与える悪影響を指します。高額な新薬によって医療費が増大するのを抑制するため、欧米諸国では保険制度で新薬については、適応とする患者さんの症状によっては処方制限するなどしてアクセス制限をしています。新薬が使えない場合は、患者団体がメーカー側に働きかけて医薬品価格を引き下げさせたり、欧州では医療経済学者を中心に費用対効果を審査して、薬価と効果の面で医薬品を経済評価するようになっており、新薬として承認されても保険償還について別個で審査してアクセス制限をしています。実際にイギリスでは2009年から、新規の抗がん剤への患者アクセスを改善するためにNICE(国立保健医療研究所)によって「非推奨」とされた抗がん剤を中心に対象とする薬剤を評価後にリスト収載し、それらに対する費用をCDF(Cancer Drugs Fund:英国抗がん剤基金)から拠出してきましたが、財政負担の著しい増加に対して、2016年からは新CDFを含むNICEの抗がん剤評価に関する新スキームの運用が開始され、新薬として承認を取得するすべての新規抗がん剤は、NICEにより評価され、「推奨」とされた場合には、英国国民保健サービス(NHS)から償還を受けることができますが、「非推奨」の場合には、Individual Funding Request(IFR)による1件ごとの審議となり、使用は大きく制限されています。わが国でも2014年に承認されたニボルマブ(商品名:オプジーボ)をきっかけに、主に高額な薬価をめぐって国内で大きく取り上げられました。ニボルマブの承認時の償還薬価は100mg1瓶72万8,029円と高額でしたが、その後、適応症の拡大と処方患者の増加で急速に売り上げが伸びたため、厚労省が新たに設けた特例拡大再算定などの薬価引き下げ策で、新薬承認からわずか4年で75%も安くなり【「オプジーボ」続く受難 用量変更でまたも大幅引き下げ…薬価収載時から76%安く】、その後も薬価は低下し、現在は当初の価格から13万1,811円(2024年4月以降)と18.1%の価格になっています。過剰な薬価抑制策にはネガティブな側面もわが国では承認された新薬の保険償還の価格を引き下げることはよくありますが、国際的にみて、新薬の価格は特許がある間は開発費を回収して、さらに画期的な新薬開発への投資を行う原資を得るために保証されているのが通常で、わが国のように日本発の新薬ですら大きく価格を抑制することは、新薬を開発する製薬会社からみて市場としては魅力的には映りません。さらに日本では薬価制度で対応しつつ、同時に新薬の承認・審査するPMDA(医薬品医療機器総合機構)は「新規作用機序を有する革新的な医薬品については、最新の科学的見地に基づく最適な使用を推進する観点から、承認に係る審査と並行して最適使用推進ガイドラインを作成し、当該医薬品の使用に係る患者及び医療機関等の要件、考え方及び留意事項を示すこととしています」とあり、また、「症例ごとに適切な処方を求めるようになっています」として、処方する専門医に対して、学会や製薬企業から情報提供がなされるようになっています。現実問題として、わが国では以前、ドラッグラグ(承認の遅れ)が目立っていましたが、薬事審査に当たってのさまざまな障壁(日本人データの要求など)が業界側や患者側からの働きかけで短縮していました。一方、最近問題となっているのはドラッグロスと言って、そもそも日本市場に参入がないことです。これについては企業側の努力不足もあるとは思いますが、大手製薬企業としては日本の薬価制度がハードルになっている以外にも、近年ベンチャー創薬によって開発されているオーファンドラッグ(希少薬品)のようにニーズはあるが売り上げが大きくない医薬品の場合、企業側の体力がないため日本での薬事承認申請まで辿り着けないなどの問題も発生しています。わが国もこのままでは新規医薬品の開発力が低下してしまうのを避けるため、日本人データを必ずしも必須としないなど条件緩和を進めていますが、医療分野でのイノベーションに見合うだけの収益が得られないため、日本の製薬企業でも海外での開発や販売を優先するケースが近年目立っています。国民の生活にかかわる政策決定には透明化も必要わが国の製薬市場が欧州やアメリカより小さいながらも、中小の製薬企業がそれぞれ得意分野で活躍して開発競争を行ってきましたが、21世紀に入った今、低分子薬を中心とした生活習慣病の開発競争から、抗がん剤など中分子~高分子の医薬品に競争分野が変化し、より高い薬価の医薬品を開発する必要があります。薬価引き下げで多くの製薬企業は特許切れの長期収載品による安定した収益を失い、より新薬開発競争を国際的に進めねばならず厳しい状態が続いています。今回の見直しのように薬価は高いけれど、効果の高い新薬を使用して治療を受けたいという国民の声に政府は応える必要があり、薬価引き下げではなく、患者自己負担を増やすことで一定のバランスを得ようとしたことはある意味正しいと考えます。しかし、高薬価の新薬の開発は続いており、続々と新薬が承認されています。ニボルマブのような強制的な薬価引き下げを続けることは、国際的にみても日本の製薬市場の縮小、ひいてはわが国の制約産業の衰退を招く可能性もあり、薬価引き下げだけでは持続可能性は乏しいと考えます。医療費用の増加は高齢化もあり、やむを得ない事情があり、経済成長に見合った形であれば社会保障費の経済的な負担増大にはつながらないのですが、今回のように患者数の増加や治療費の増加をどう抑えるかは国の中でも結論がでておらず、2024年の国政選挙でもこの話題はまったく討論されず、話の持って行き方にかなり問題があったと感じています。高額療養費の引き上げについて、厚労省の審議会では「既定路線」であったものの、患者さんやその家族にとって貧困を理由に治療が中断することは、国民のコンセンサスを得ていたとは考えにくいです。今後も増え続けるキャンサーサバイバーの患者さんのニーズに応えるためには、財源を用意する必要があります。政府の中できちんと討論した上で、患者自己負担をなるべく広く薄くなるのか、それとも患者自己負担を一定の割合で求めるか、すでに問題となっている多重受診の患者さんの自己負担や軽症疾患のビタミン剤や湿布をOTC化の促進で医療費を抑制した分を回すか、あるいは別のタバコ税や酒税のような形で財源を調達するか、何らかの形で国民に問う必要があったと考えています。すでに津川 友介氏のような一部のオピニオンリーダーからは解決策を提示する意見【「国民の健康を犠牲にすることなく、2.3~7.3兆円の医療費削減が実現可能な『5つの医療改革』」】も出ていますが、他にもさまざまな方策を考えるには絶好のタイミングだと思います。今回のように国民に知らされないまま、審議会という密室で大事な政策が決められるようなやり方を日本人は好みません。わが国は民主主義国家ですから、今年の夏から患者さんの高額療養費を引き上げるのであれば、参議院議員選挙で各政党から意見を出してもらい、どういう形をとるかを決めるべき時期かと考えています。参考1)高額療養費制度の見直しについて(厚労省)2)全世代型社会保障改革の方針[令和2年](同)3)社会保障審議会(同)4)「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」、「こども未来戦略」について(同)5)Financial Toxicityおよびがん治療[PDQ](がん情報サイト)6)「オプジーボ」続く受難 用量変更でまたも大幅引き下げ…薬価 収載時から76%安く(Answers News)7)最適使用推進ガイドライン(PMDA)8)レカネマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドラインについて(日本精神神経学会)

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事例018 外来感染対策向上加算の算定【斬らレセプト シーズン4】

解説2025年4月から急性呼吸器感染症(ARI:風邪症候群、急性上気道炎など)が感染症法上の5類に位置付けられて、定点サーベイランスの対象となるとのニュースが報道されました。定点サーベイランス対象の医療機関数は増やさないとされていますが、受診データの作成が必要になるのか、初診料または再診料の注の「外来感染対策向上加算」の届出をしたほうが良いのかと相談を受ける事例が増えています。日常的に感染防護体制をとられて発熱外来を提供しているにもかかわらず、「外来感染対策向上加算」を算定されていない診療所もみかけます。また、「届出要件がわからない」との声も聞きます。この加算には届出た後、施設基準維持にかかる研修会などの出席や複数の記録が継続的に必要になるというデメリットがあります。メリットは、新しい感染対策や地域の感染症対応状況などの情報が手に入りやすくなります。熱発に対応されている診療所にお勧めです。届出には「新型コロナウイルス感染症をはじめとする発熱感染症に適切に対応する」と申し出て、第二種協定指定医療機関(発熱外来の実施)の指定を受けることが必須となります。この指定は、診療所であれば「発熱外来の(適切な)実施」のみで受けられます。現状の発熱患者対応とほぼ同じように、通常患者との動線の分離(時間差、駐車場車内待機など)があれば認められています。施設基準の届出は様式1の4を使用します。感染対策にかかる必要書類の見本は地域医師会に整備されていますし、連携先も相談いただけます。いまだ要件解釈が揺れているところもありますので、届出前には必ず所在地医師会と都道府県感染症対策課にメールでご相談を願います。そして、相談をいただくと届出用の資料が届きます。次回は本加算の届出書類記載にかかる留意事項をお届けします。

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イサツキシマブ、未治療の多発性骨髄腫に適応追加/サノフィ

 サノフィは、イサツキシマブ(商品名:サークリサ点滴静注)について、未治療の多発性骨髄腫患者を対象としてボルテゾミブ・レナリドミド・デキサメタゾン併用療法(BLd)に本剤を追加する新たな併用療法(IsaBLd)の承認を2025年2月20日に取得したと発表した。今回の承認により、再発/難治性の多発性骨髄腫に加え、未治療の多発性骨髄腫に対する新たな選択肢となる。 本剤は、CD38受容体の特異的エピトープを標的とするモノクローナル抗体製剤で、日本では2020年8月に発売され、現在4種類の治療レジメンで承認されている(再発又は難治性の多発性骨髄腫における、ポマリドミド・デキサメタゾン併用療法と、単剤療法、カルフィルゾミブ・デキサメタゾン併用療法、デキサメタゾン併用療法)。 今回の承認は、ランダム化非盲検国際共同第III相試験であるIMROZ試験の結果に基づいている。本試験は移植非適応の未治療の多発性骨髄腫446例(うち日本人25例)を対象に、BLd療法とBLd療法にイサツキシマブを上乗せしたIsaBLd療法を2:3の割合で割り付け、比較した。主要評価項目である無増悪生存期間の中央値はIsaBLd群では未達、BLd群では54.34ヵ月(95%信頼区間[CI]:45.207~推定不能)で、IsaBLd群で有意な延長が示された(ハザード比:0.596、98.5154%CI:0.406~0.876、p=0.0005、層別log-rank検定)。新たな安全性の懸念は認められなかった。<適応追加後の「効能又は効果」「用法及び用量」>●効能又は効果:多発性骨髄腫●用法及び用量:他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人にはイサツキシマブ(遺伝子組換え)として1回10mg/kgを、併用する抗悪性腫瘍剤の投与サイクルを考慮して、以下のA法又はB法の投与間隔で点滴静注する。デキサメタゾンのみとの併用投与又は単独投与の場合(再発又は難治性の場合に限る)、通常、成人にはイサツキシマブ(遺伝子組換え)として1回20mg/kgを、以下のA法の投与間隔で点滴静注する。 A法:1週間間隔、2週間間隔の順で投与する。 B法:1週間間隔、2週間間隔及び4週間間隔の順で投与する。

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統合失調症に対するアリピプラゾール併用による糖脂質代謝への影響〜メタ解析

 アリピプラゾール補助療法は、統合失調症の精神症状および代謝障害の改善に潜在的な影響を及ぼすことが現在の研究で示唆されている。しかし、これらの研究は不足しており、糖脂質代謝指標に関する詳細な分析が不十分である。中国・Yulin City Veterans' HospitalのTianbao Wei氏らは、アリピプラゾール補助療法が精神症状および糖脂質代謝に及ぼす影響を評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Frontiers in Psychiatry誌2025年1月10日号の報告。 アリピプラゾール補助療法が糖脂質代謝および臨床症状に及ぼす影響を評価したRCTを、PubMed、EMBASE、Web of Science databasesよりシステマティックに検索した。 主な結果は以下のとおり。・アリピプラゾール補助療法は、統合失調症患者の血糖値、トリグリセライド、総コレステロール、LDL値を低下させたが、HDL値への有意な影響は認められなかった。・アリピプラゾールの短期的(8週間以内)および投与量15mg超で、代謝パラメータの有意な改善が認められた。・アリピプラゾール補助療法は、臨床症状の悪化につながる可能性も否定できないため、使用に際しては注意が必要である。 著者らは「アリピプラゾール補助療法は精神症状および代謝パラメータの両方を改善する潜在的なベネフィットが認められた。とくに糖脂質代謝指標に関して、これらの結果を確固たるものにするためには、より包括的な研究が求められる」と結論付けている。

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アスピリンはPI3K経路に変異のある大腸がんの再発リスクを低下させる/ASCO-GI

 低用量アスピリンの毎日の服用は、大腸がん患者のがん再発を抑制する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この研究では、PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)シグナル伝達経路(以下、PI3K経路)の遺伝子に変異のある大腸がん患者に1日160mgのアスピリンを毎日、3年間投与したところ、がんの再発リスクが半減することが示された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のAnna Martling氏らによるこの研究は、米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO-GI 2025、1月23~25日、米サンフランシスコ)で発表された。 PI3K/AKT(プロテインキナーゼB)/mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)シグナル伝達経路は、細胞の成長や増殖など細胞の生存に関わるさまざまな機能に関与する重要な経路である。この経路の異常は、がんや糖尿病、自己免疫疾患などの発症に関連することが知られている。過去の後ろ向き研究では、PI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路において重要な役割を果たす遺伝子であるPIK3CAの変異の有無により、アスピリンによる治療に対する反応を予測できる可能性のあることが報告されている。しかし、これらの研究はランダム化比較試験ではなく、因果関係を証明するには不十分だった。 今回の研究では、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェーの33カ所の病院において、PI3K経路に変異を有する大腸がん(ステージI~IIIの直腸がん、ステージII~IIIの結腸がん)患者を対象に、アスピリンの毎日の服用ががんの再発リスクに与える影響をプラセボとの比較で検討した。まず、対象者をPI3K経路関連遺伝子の変異パターンに基づき、PIK3CA遺伝子のエクソン9と20のいずれかまたは両方に変異を持つ「グループA」と、および、それ以外のPI3K遺伝子(PIK3CA遺伝子のエクソン9または20以外の部位、PIK3R1、PTEN)に変異を持つ「グループB」の2つに分けた。その上で、それぞれのグループの中で対象者を、手術後3カ月以内に毎日160mgのアスピリンを3年にわたって投与する群とプラセボを投与する群にランダムに割り付けた。主要評価項目は再発までの期間(TTR)、副次評価項目は無病生存期間(DFS)であった。 遺伝子解析で明確な結果を得た2,980人のうち、1,103人(37%)にPI3K経路関連遺伝子に変異が認められた(グループA:515人、グループB:588人)。最終的に、626人がアスピリンまたはプラセボのいずれかを投与される群にランダムに割り付けられた。 その結果、アスピリンの投与は、プラセボの投与と比べて、がんの進行を抑制する可能性のあることが示された。治療開始から3年後に再発が認められた対象者の割合は、グループAではアスピリン群7.7%、プラセボ群14.1%、グループBではそれぞれ7.7%と16.8%であった。プラセボ群と比べたアスピリン群でのTTRのハザード比(HR)は、グループAで0.49(P=0.044)、グループBで0.42(P=0.013)であった。また、DFSのHRは、グループAで0.61(P=0.091)、グループBで0.51(P=0.017)であった。アスピリン服用に関連する副作用の発生は少なく、重度の胃腸出血が1件、血腫が1件、アレルギー反応が1件報告された。 研究グループは、「この研究結果は、大腸がん患者の治療法をただちに変える可能性がある」と述べている。Martling氏は、「アスピリンは、PI3K経路に変異を有する大腸がん患者の3分の1以上において、再発率を効果的に低下させ、DFSを改善することが示された」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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冷水浸漬はある程度の効果をもたらす可能性あり

 激しい運動後の回復方法として冷水シャワーやアイスバスが流行しているが、実際に効果はあるのだろうか? 新たなエビデンスレビューで、その流行を裏付ける科学的根拠のあることが示された。南オーストラリア大学でヘルス・アンド・ヒューマンパフォーマンスを研究するTara Cain氏らによるレビューから、冷水浸漬(cold-water immersion)により、ストレスが軽減し、睡眠の質が改善し、QOLが向上する可能性のあることが示された。ただし、その効果は長続きしないことが多かったという。この研究の詳細は、「PLOS One」に1月29日掲載された。 冷水浸漬とは、10〜15℃の水に身体の一部または全体を浸すことである。Cain氏らは今回のレビューで、「冷水シャワーやアイスバスなどにより15℃以下の水に30秒以上、最低でも胸部まで浸す」という条件を満たした冷水浸漬に関する11件のランダム化比較試験のデータを統合して解析し、冷水浸漬が心理的・身体的・認知的側面に与える影響を評価した。これらの研究には、18歳以上の成人が合計3,177人参加していた。冷水浸漬の効果については、心理的側面として精神的ウェルビーイング、抑うつ、不安、気分、認知的側面として集中力、覚醒度、フォーカスする力、身体的側面として睡眠の質、ストレス、疲労感、活力、皮膚の健康、免疫機能、炎症を評価した。 メタアナリシスを行うのに十分なデータがそろっていたのは、炎症、ストレス、免疫機能についてのみであった。解析の結果、冷水浸漬は、直後および1時間後に炎症を有意に亢進させることが確認された。この現象について、論文の上席著者で南オーストラリア大学のBen Singh氏は、「冷水浸漬直後の炎症の亢進は、ストレス要因としての冷たさに対する身体反応だ。これは身体の適応や回復を助けるものであり、運動が筋肉を強化する前に筋肉にダメージを与えるのと似ている。そのため、短期的な効果しかなくてもアスリートが冷水浸漬を利用する理由となっている」と説明する。 ただし、このような炎症反応があることを考慮すると、心臓病や高血圧、糖尿病などの健康問題を抱えている人は、冷水浸漬を行う前に医師に相談した方が良い可能性がある。「基礎疾患を持つ人が冷水浸漬を行う場合、炎症が健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、特に注意が必要だ」とSingh氏は言う。 一方、ストレスについては、冷水浸漬の12時間後に有意なストレス軽減が確認されたが、直後、1時間後、24時間後、48時間後では有意な変化は認められなかった。免疫機能については、冷水浸漬の直後でも1時間後でも、有意な変化は認められなかった。 アウトカムに関する報告が単一の研究に限られていたり、評価時点が研究間で大きく異なっていたりするなど、メタアナリシスには適さないアウトカムについては、ナラティブシンセシス(記述的統合)の手法を用いて検討した。その結果、ある研究において、1カ月間にわたり30秒、60秒、90秒のいずれかの時間で冷水シャワーを浴びた参加者ではQOLのスコアの中央値がわずかに高かったことが示された。しかし、Cain氏によると、「この効果も、3カ月後には消失していた」という。この研究では、冷水シャワーを習慣的に浴びた参加者で、対照群よりも病欠の頻度が29%低いことも示された。また、別の研究では、運動後の冷水浸漬で睡眠の質が改善する可能性が示唆されていた。ただ、「それらのデータは男性に限定されたものであったため、より範囲を広げて適用するには限界があった」とCain氏は付け加えている。 Cain氏は、「本研究では、冷水浸漬の効果が時間とともに変化することを確認した。例えば、冷水浸漬によってストレスレベルは低下し得るが、それが持続するのは冷水浸漬後12時間程度に過ぎない」と述べる。同氏は、「現時点で、冷水浸漬によって最大の効果を得られるのはどのような人なのか、あるいはその理想的なアプローチはどのようなものなのかを正確に示した質の高い研究が十分にあるとは言えない」と指摘し、「その効果の持続性と実際の適用について解明を進めるためには、より多様な集団を対象に長期的な研究を行う必要がある」と述べている。

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重度の感染症による入院歴は心不全リスクを高める

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やインフルエンザなどの感染症による入院は、心臓病リスクを高める可能性があるようだ。重度の感染症で入院した経験のある人が後年に心不全(HF)を発症するリスクは、入院歴がない人と比べて2倍以上高いことが新たな研究で示された。米国立衛生研究所(NIH)の資金提供を受けて米メイヨー・クリニックのRyan Demmer氏らが実施したこの研究の詳細は、「Journal of the American Heart Association」に1月30日掲載された。 この研究では、1987年から2018年まで最大31年間にわたる追跡調査を受けたARIC研究参加者のデータを分析して、感染症関連の入院(infection-related hospitalization;IRH)とHFとの関係を評価した。ARIC研究は、アテローム性動脈硬化リスクに関する集団ベースの前向き研究で、1987〜1989年に45〜64歳の成人を登録して開始された。本研究では、研究開始時にHFを有していた人などを除外した1万4,468人(試験開始時の平均年齢54歳、女性55%)が対象とされた。対象者は、2012年までは毎年、それ以降は2年に1回のペースで追跡調査を受けていた。左室駆出率(LVEF)が得られた患者については、LVEFが正常範囲(50%以上)に保たれたHF(HFpEF)患者と、LVEFが低下(50%未満)したHF(HFrEF)患者に2分して検討した。 追跡期間中(中央値27年)に、6,673人が1回以上のIRHを経験し、3,565人が新たにHFを発症していた。IRH歴を持たない人と比べて、IRH歴を持つ人のHF発症のハザード比(HR)は2.35(95%信頼区間2.19〜2.52)であった。この関係は、呼吸器感染症や泌尿器感染症、血流感染症など、感染症の種類に関わりなく認められた。さらに、HFのタイプが判明した7,669人を対象にした解析でも、IRHはHFrEFおよびHFpEFと有意な関連を示した(HFrEF:HR 1.77〔95%信頼区間1.35〜2.32〕、HFpEF:同2.97〔同2.36〜3.75〕)。 研究グループは、「本研究の対象者の半数近くがIRHを経験していた。このことは、感染症が米国人の心臓の健康に極めて大きな影響を与えていることを示唆している」と述べている。 Demmer氏は、「本研究は、重度の感染症とHFの因果関係を証明したわけではないが、人々は変わらず、重度の感染症を予防するための常識的な対策を取るべきことを示唆している」との見方を示す。同氏は、「特に、心臓病リスクが高く、重度の感染症を患っている人は、かかりつけ医に相談し、心臓の健康を守るための対策を講じるべきだ」と付け加えている。 一方、米国立心肺血液研究所(NHLBI)のSean Coady氏は、「これは、注目に値する知見だ。感染症罹患歴と心筋梗塞との関連についてのエビデンスは豊富にあるが、本研究は、心筋梗塞ではなくHFに焦点を当てている点が異なる。米国でのHF患者数は推定600万人に上るが、HFについての研究はあまり進んでいない」と話している。

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フロスの使用に脳梗塞の予防効果?

 デンタルフロス(以下、フロス)の使用は、口腔衛生の維持だけでなく、脳の健康維持にも役立つようだ。米サウスカロライナ大学医学部神経学分野のSouvik Sen氏らによる新たな研究で、フロスを週に1回以上使う人では、使わない人に比べて脳梗塞(虚血性脳卒中)リスクが有意に低いことが示された。この研究結果は、米国脳卒中学会(ASA)の国際脳卒中学会議(ISC 2025、2月5〜7日、米ロサンゼルス)で発表され、要旨が「Stroke」に1月30日掲載された。 この研究では、アテローム性動脈硬化リスクに関する集団ベースの前向き研究であるARIC研究のデータを用いて、フロスの使用と脳梗塞(血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞)および心房細動(AF)との関連が検討された。対象者は、ARIC研究参加者から抽出した、脳梗塞の既往がない6,278人(うち6,108人にはAFの既往もなし)とした。対象者の65%(脳梗塞の既往がないコホート4,092人、AFの既往がないコホート4,050人)がフロスを使用していた。 25年の追跡期間中に、434人が脳梗塞を(血栓性脳梗塞147人、心原性脳塞栓症97人、ラクナ梗塞95人)、1,291人がAFを発症していた。解析からは、フロスを使用していた人では使用していなかった人に比べて、脳梗塞全体のリスクが22%低く(調整ハザード比0.78、95%信頼区間0.63〜0.96)、特に心原性脳塞栓症のリスクについては大幅な低下が認められた(同0.56、0.36〜0.87)。AFについてもリスク低下の傾向が認められた(同0.88、0.78〜1.00)。一方、フロスの使用と血栓性脳梗塞およびラクナ梗塞との間に有意な関連は認められなかった。 こうした結果を受けてSen氏は、「フロスの使用が脳梗塞の予防に必要な唯一の方法と言うわけではないが、本研究結果は、フロスの使用は、健康的なライフスタイルに加えるべきもう一つの要素であることを示唆している」と述べている。また同氏は、「フロスを使うと、炎症と関係のある口腔感染症や歯周病が軽減される」と指摘する。その上で、炎症は、脳卒中リスクを高める可能性があるため、「定期的にフロスを使うことで、脳梗塞やAFのリスクが軽減すると考えるのは理にかなっている」と話している。 Sen氏は、「世界の口腔の健康に関する最近の報告書によると、未治療の虫歯や歯周病などの口腔疾患を有する人は、2022年には35億人に達している。口腔の問題は、最も蔓延している健康問題の一つだ」と話す。同氏は、「歯科治療は費用がかかるが、フロスは、どこででも手頃な価格で入手できるし、健康的な習慣として取り入れるのも容易だ」と利点を挙げている。 本研究には関与していない、米サウスカロライナ医科大学疫学分野のDaniel Lackland氏は、「この研究は、歯の健康に関わる特定の習慣が、脳梗塞リスクとその低下に関与している可能性について、さらなる洞察をもたらした。今後の研究の結果次第では、『Life’s Essential 8』の8つの要素、すなわち、食事、身体活動、ニコチン曝露、睡眠、BMI、血圧、血糖値、血中脂質に歯の健康習慣が加えられる可能性がある」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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日本人の食事関連温室効果ガス排出量と死亡リスクにU字型の関連

 食習慣に伴う温室効果ガス排出量と死亡リスクとの関連が明らかになった。温室効果ガス排出量が多い食習慣の人だけでなく、排出量が少ない食習慣の人も死亡リスクが高い可能性があるという。早稲田大学スポーツ科学学術院の渡邉大輝氏、筑波大学医学医療系社会健康医学の村木功氏(研究時点の所属は大阪大学)らの研究によるもので、詳細は「Environmental Health Perspectives」に11月7日掲載された。 人類が生み出す温室効果ガスの21~37%は食事関連(食糧生産・流通・調理など)が占めるとされており、人々が地球の健康も考えた食事スタイルを選択することが重要となっている。これまでに欧米諸国からは、個人の食習慣に伴う温室効果ガス排出量(diet-related greenhouse gas emissions;dGHGE)が死亡リスクとJ字型またはU字型の関連があると報告されているが、アジア人でのデータはない。渡邉氏らは、1980年代後半にスタートした国内一般住民対象の多施設共同大規模コホート研究(JACC研究)のデータを用いて、日本人のdGHGEと死亡リスクとの関連を検討した。 JACC研究参加者のうち、食事調査のデータがあり、摂取エネルギー量が極端(500kcal/日未満または3,500kcal/日以上)でなく、研究参加時に心筋梗塞、脳卒中、がんの既往のなかった40~79歳の日本人5万8,031人を解析対象とした。この対象の主な特徴は、平均年齢が56.1±9.9歳、女性60.4%で、BMIは22.8±3.3であり、食事調査データから算出したdGHGE(CO2換算値)は、食品1kg、1日当たり1,522±133g-CO2eq/kg/日だった。dGHGEの19.4%は穀類、11.6%は魚類、10.5%は肉類で占めていた。 中央値19.3年(四分位範囲11.4~20.8)の追跡で、1万1,508人(19.8%)の死亡が記録されていた。dGHGEの五分位数で5群に分類し、交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、摂取エネルギー量、居住地域、教育歴、婚姻・就業状況、高血圧・糖尿病の既往、テレビ視聴時間、睡眠時間)を調整後に、第4五分位群を基準として死亡リスクを比較した。 その結果、全死亡(あらゆる原因による死亡)については、dGHGEが最も少ない第1五分位群(ハザード比〔HR〕1.11〔95%信頼区間1.05~1.18〕)、dGHGEが最も多い第5五分位群(HR1.09〔同1.03~1.17〕)において、有意なリスク上昇が認められた。また心血管死亡については、第1五分位群(HR1.23〔1.10~1.38〕)、第2五分位群(HR1.12〔1.00~1.25〕)、第5五分位群(HR1.22〔1.08~1.37〕)で、有意なリスク上昇が認められた。がん死亡や呼吸器疾患による死亡については、dGHGEとの関連が見られなかった。 次に、タンパク質源として1食分の赤肉を他のタンパク質食品に置き換えた場合のdGHGEと死亡リスクに与える影響を検討すると、dGHGEについては、卵(-367g-CO2eq/kg/日)や豆類(-347g-CO2eq/kg/日)をはじめ、魚類や鶏肉などに置き換えた場合にも有意に減少すると予測された。一方、死亡リスクについては、豆類に置き換えた場合にのみ、有意に低下すると考えられた(HR0.96〔0.93~0.99〕)。 これらの結果に基づき著者らは、「日本人のdGHGEと死亡リスクの間には、U字型の関連が認められる。この知見は、人々の健康と環境の改善を意図した持続可能な食糧政策の策定に役立つのではないか」と結論付けている。なお、論文の考察において、「dGHGEが高い場合の死亡リスク上昇には動物性食品の摂取量が多いこと、dGHGEが低い場合の死亡リスク上昇にはタンパク質の不足や栄養不良が関与していると考えられる」と述べられている。

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妊娠糖尿病とメトホルミン―「非劣性試験で有意差なし」の解釈は難しい(解説:住谷哲氏)

 妊娠糖尿病患者が食事療法のみで血糖管理が困難になれば、インスリンを投与するのがゴールドスタンダードである。わが国では妊娠糖尿病に対するメトホルミン投与は禁忌であるが、米国での妊娠糖尿病患者の69%はメトホルミンまたはグリブリド(グリベンクラミドと同じ)が投与され1)、英国では薬物療法が必要となった妊娠糖尿病患者の59%にメトホルミンが投与されているとのデータがある2)。さらに英国のNICEガイドラインではメトホルミンが妊娠糖尿病に対する第一選択薬に推奨されている3)。 妊娠糖尿病に対するメトホルミンの有効性を検討した試験にMiG試験がある4)。同試験の主要評価項目は新生児複合アウトカムであり、メトホルミン群は必要であればインスリンが追加投与されている。Discussionに“a methodologic limitation”として記載されているが、試験デザインはインスリンのメトホルミンに対する優越性を検証する優越性試験であった。しかし、事後解析として実施された非劣性デザインを用いた解析において、メトホルミンのインスリンに対する非劣性が証明された。ちなみに同論文の付属論説では明確にnon-inferiority trialとしている。 本試験はMiG試験とは異なり、メトホルミン投与で血糖が管理できなかった際にインスリンではなくグリブリドを投与する群と、最初からインスリンを投与する群との比較である。また主要評価項目は、LGA(large for gestational age)の発生率である。さらに試験デザインはインスリン群に対するメトホルミン群の非劣性を検証する非劣性試験である。結果は絶対リスク差4.0%(95%信頼区間[CI]:-1.7~9.8、p=0.09)であり、95%CIの上限が設定した非劣性マージンの8%を超えており、結論は「非劣性が証明されなかった」となった。 「非劣性が証明されなかった」試験の正しい解釈は、有効性に関して介入群は対照群と比較して「優越 superior」でも「同等 equivalent」でも「劣性 inferior」でもなく、統計学的に「判定不能」である。つまり本試験の結果からは、群間差について統計学的には何も言えないことになる。 近年、非劣性試験は多用される傾向にある。糖尿病領域でもほとんどのCVOTは非劣性試験であり、循環器領域でのワルファリンに対するDOACの有用性を検討した試験も同様である5)。冒頭に述べたように、妊娠糖尿病患者にメトホルミンの使用ができないわが国ではリスクとベネフィットを天秤に掛ける必要はないが、メトホルミンへの追加薬剤としてはインスリンが無難だろう。

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