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薬剤抵抗性の髄外病変を有する多発性骨髄腫、トアルクエタマブ+テクリスタマブが有望/NEJM

 薬剤抵抗性の真性髄外性骨髄腫の治療において、トアルクエタマブ(抗G蛋白質共役型受容体ファミリーC グループ5 メンバーD[GPRC5D]/CD3二重特異性抗体)+テクリスタマブ(抗B細胞成熟抗原[BCMA]/CD3二重特異性抗体)併用療法は、79%という高い奏効割合を達成し、無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)も良好で、約4分の3の患者がGrade3/4の有害事象を経験したが、これは各薬剤単独の既知の安全性プロファイルと一致することが、米国・Mayo Clinic RochesterのShaji Kumar氏らRedirecTT-1 Investigators Study Groupが実施した「RedirecTT-1試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年12月7日号に掲載された。国際的な非無作為化Ib/II試験のII相の結果 RedirecTT-1試験は、日本の施設も参加した国際的な非盲検非無作為化Ib/II相試験であり、2023年7月~2024年9月に患者のスクリーニングを行った。本論では、第II相の結果が報告された。 再発・難治性多発性骨髄腫のうち、骨髄と連続せず骨皮質を破壊しない形質細胞腫(真性髄外性骨髄腫)を有し、3クラスの薬剤(プロテアソーム阻害薬、免疫調整薬、抗CD-38モノクローナル抗体)による治療歴がある患者を対象とした。 被験者は、トアルクエタマブ(0.8mg/kg)+テクリスタマブ(3.0mg/kg)の皮下投与を、28日を1サイクルとして2週に1回受けた。 主要評価項目は、奏効(部分奏効以上)とし、独立審査委員会が国際骨髄腫作業部会(IMWG)の2016年の判定規準を用いて機能的画像法で評価した。副次エンドポイントとして、奏効期間、PFS、OS、安全性などについて検討した。奏効持続期間中央値は13.8ヵ月 90例を登録した(年齢中央値64.5歳、追跡期間中央値12.6ヵ月)。骨髄腫の診断以降の経過期間中央値は4.7年で、この間に受けた治療ライン数中央値は4であった。病変部位数中央値は2(範囲:1~7)であり、54例(60%)が少なくとも1つの軟部組織病変、35例(39%)がリンパ節病変、30例(33%)が臓器病変を有しており、最も頻度の高い病変部位は後腹膜、腹壁、胸壁であった。 90例中71例で奏効が得られ、奏効割合は79%(95%信頼区間[CI]:69~87)と、仮説として設定された40%を上回った。きわめて良好な部分奏効以上は63例(70%)、完全奏効以上は49例(54%)だった。また、奏効例のうち18例に抗BCMA CAR-T療法による治療歴があり、8例は二重特異性抗体療法による治療歴を有していた。 奏効期間中央値は13.8ヵ月(95%CI:11.5~評価不能)で、奏効例のうち奏効持続期間が12ヵ月以上の患者の割合は64%(48~76)であった。 PFS中央値は15.4ヵ月(95%CI:10.8~評価不能)で、12ヵ月PFS率は61%(50~71)であった。また、OS中央値は未到達で、12ヵ月OS率は74%(63~83)だった。非致死性有害事象による投与中止は6%と低率 頻度の高い有害事象として、味覚障害、口腔乾燥、嚥下障害などの口腔症状(87%)、サイトカイン放出症候群(78%)、非発疹性皮膚症状(69%)を認めた。患者の76%にGrade3または4の有害事象(ほとんどが血液学的毒性)が発現し、31%にGrade3または4の感染症がみられた。 1剤または両剤の投与中止の原因となった非致死性有害事象の発生率は6%と低かった。追跡期間中に死亡した10例のうち、5例は感染症によるもので、5例は試験薬関連と考えられた。 著者は、「Grade3または4の有害事象は76%と高頻度に発現したが、これは各薬剤単独の既知の安全性プロファイルと一致した。有害事象は全般に、併用によって増悪することはなかった」「これらの結果は、骨髄腫治療における、すでに市販されている二重特異性抗体の併用療法の臨床的有益性を示し、GPRC5DとBCMAの二重標的化の妥当性を裏付けるものである」としている。

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再発・難治性濾胞性リンパ腫、タファシタマブ追加でPFS改善(inMIND)/Lancet

 濾胞性リンパ腫は長期生存率が高いが、一般的に根治が困難で、寛解と再発を繰り返すことから複数の治療ラインが求められている。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のLaurie H. Sehn氏らによる「inMIND試験」において、再発・難治性濾胞性リンパ腫の治療では、レナリドミド+リツキシマブへの追加薬剤として、プラセボと比較しFc改変型抗CD19抗体タファシタマブは、統計学的に有意で臨床的に意義のある無増悪生存期間(PFS)の改善をもたらし、全奏効割合や奏効期間も良好で、安全性プロファイルは許容可能であることが示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年12月5日号で報告された。世界210施設の無作為化プラセボ対照比較試験 inMIND試験は、日本を含む世界210施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2021年4月~2023年8月に参加者を登録した(Incyteの助成を受けた)。 年齢18歳以上、組織学的にCD19+およびCD20+の濾胞性リンパ腫と確定され、1ライン以上の全身療法(抗CD20モノクローナル抗体を含む)を受けた後に再発または不応の病変を有する患者を対象とした。 被験者を、タファシタマブ(28日を1サイクルとし、1~3サイクル目は1・8・15・22日に、4~12サイクル目は1・15日に12mg/kgを静注投与)を最大12サイクル投与する群、またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。全例に、レナリドミド+リツキシマブを投与した。 主要評価項目は、ITT集団におけるPFS(無作為化の時点から初回の病勢進行、再発、全原因による死亡までの期間)とし、各施設の担当医がLugano分類(2014)に従って評価した。安全性は、無作為化の対象となった患者のうち少なくとも1回の試験薬の投与を受けた集団で評価した。全生存期間のデータは不十分 548例(ITT集団)を登録した。273例をタファシタマブ群に、275例をプラセボ群に割り付けた。ITT集団の年齢中央値は64歳(範囲:31~88)で、249例(45%)が女性であった。 ベースラインで、433例(79%)が濾胞性リンパ腫国際予後指標で中または高リスクであり、患者全体の前治療ライン数中央値は1(範囲:1~10)で、248例(45%)が2ライン以上の前治療を受けていた。173例(32%)に初回診断から24ヵ月以内の病勢進行(POD24)を認め、209例(38%)が直近の前治療に不応で、233例(43%)は抗CD20モノクローナル抗体に不応の治療歴を有していた。 追跡期間中央値14.1ヵ月の時点で、担当医判定によるPFS中央値は、プラセボ群が13.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:11.5~16.4)であったのに対し、タファシタマブ群は22.4ヵ月(95%CI:19.2~評価不能)と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.43、95%CI:0.32~0.58、p<0.0001)。 独立審査委員会の判定によるPFS中央値も、タファシタマブ群で有意に延長した(未到達[95%CI:19.3~評価不能]vs.16.0ヵ月[95%CI:13.9~21.1]、HR:0.41、95%CI:0.29~0.56、p<0.0001)。 PFSのサブグループ解析では、POD24の有無、抗CD20抗体の不応歴の有無、前治療ライン数(1ライン、2ライン以上)、地理的地域の違い(欧州、北米、その他)を問わず、いずれの集団でもタファシタマブ群で有意に優れた。 全奏効割合(完全奏効、部分奏効:84%vs.72%、オッズ比:2.0、95%CI:1.30~3.02、p=0.0014)、奏効期間中央値(21.2ヵ月vs.13.6ヵ月、HR:0.47、95%CI:0.33~0.68、p<0.0001)、後治療開始までの期間中央値(未到達vs.28.8ヵ月、HR:0.45、95%CI:0.31~0.64、p<0.0001)は、いずれもタファシタマブ群で有意に良好だった。一方、全生存期間のデータは不十分であり、全体的な解析は追跡期間5年の時点で行う予定とされる。標準治療の新たな選択肢となる可能性 いずれかの群で患者の20%以上に発現した有害事象は、好中球減少(タファシタマブ群133例[49%]vs.プラセボ群123例[45%])、下痢(103例[38%]vs.77例[28%])、COVID-19(86例[31%]vs.64例[24%])、便秘(80例[29%]vs.67例[25%])などであった。 また、Grade3または4の有害事象(タファシタマブ群195例[71%]vs.プラセボ群189例[69%])、および重篤な有害事象(99例[36%]vs.86例[32%])の発現率は両群で同程度だった。 試験期間中にタファシタマブ群で15例(6%)、プラセボ群で23例(9%)が死亡し、それぞれ5例(2%)および17例(6%)が病勢進行による死亡だった。タファシタマブ群では治療関連有害事象による死亡例は認めなかったが、プラセボ群では2例(1%)に治療関連の致死的な有害事象が発現した。 著者は、「この3剤併用療法は3次医療機関だけでなく地域医療においても実施可能であるため、とくに現在選択肢が少ない2次治療として、再発・難治性濾胞性リンパ腫患者の標準治療の新たな選択肢となる可能性が示唆される」「タファシタマブ治療後の患者におけるCD19発現の解析が、その後の治療の決定の指針となる情報をもたらすと考えられる」としている。

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若々しい脳を保つ秘訣は筋肉量の維持と脂肪のカット

 身体が健康的で筋肉量が多いと脳の健康状態が良好に維持されやすいことが、米セントルイス・ワシントン大学放射線学・神経学准教授のCyrus Raji氏らによる新たな研究で示された。Raji氏は、「筋肉量が多く内臓脂肪が少ない健康的な身体では、脳もより健康的で若々しい傾向にある」と話している。この研究結果は、北米放射線学会年次学術集会(RSNA 2025、11月30日~12月4日、米シカゴ)で発表された。 Raji氏は、「年齢を重ねると、筋肉量が減り内臓脂肪が増えることは広く知られているが、こうした健康指標が脳の老化そのものに関連していることが、今回の研究で示された。体内の筋肉量と脂肪量は、脳年齢に基づいた脳の健康状態を反映する重要な指標であることが明らかになった」と説明している。 Raji氏らは今回の研究で、1,164人の健康な成人(平均年齢55.17歳、52%女性)の全身のMRI画像を収集した。MRI画像は、脂肪は明るく、体液は暗く映るT1強調画像という手法を使って撮影された。次に、AIアルゴリズムを用いて各参加者の筋肉量や脂肪量(皮下脂肪と内臓脂肪)、および推定「脳年齢」を数値化し、それらの指標と脳年齢との関係を解析した。 その結果、内臓脂肪と筋肉の比率が高い人ほど脳年齢が高いことが明らかになった。一方、皮下脂肪は脳年齢とはほとんど関係していなかった。この結果についてRaji氏は、「筋肉量が多い参加者では脳が若々しい傾向にあった一方、筋肉量に対して内臓脂肪の量が多い参加者では脳が老化している傾向にあった」と言う。また、同氏は「皮下脂肪は脳の老化には関連していなかった。つまり、筋肉量が多く、筋肉量に対する内臓脂肪量の比率が低いほど脳が若いということだ」と説明している。 Raji氏は、この研究は身体と脳の健康が密接に結び付いていることを示していると指摘し、「この研究は、体組成のバイオマーカーと脳の健康との関連について広く信じられていた仮説を実証し、今後のさまざまな代謝介入や治療の臨床試験に、これらのバイオマーカーを組み込む基盤を提供するものだ」と述べている。 またRaji氏は、「本研究から、筋肉量を維持しながら脂肪、特に内臓脂肪を減らすことが、脳の老化や脳の健康に最も良い影響を与えることが示唆された」と述べている。近年、GLP-1受容体作動薬の登場により、多くの人が余分な脂肪を減らすためにこれらの減量薬に頼るようになっている。しかし、Raji氏らによれば、GLP-1受容体作動薬は筋肉量を減らす可能性もあるという。この点を踏まえ同氏は、「今回の研究から得られた知見は、内臓脂肪のみを標的とし、筋肉量への影響を最小限に抑えたGLP-1受容体作動薬の開発に役立つ可能性がある」との見方を示している。 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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SGLT2阻害薬のCKD進行抑制:糖尿病およびアルブミン尿の有無にかかわらず得られる絶対的ベネフィット/JAMA(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? SMART-C(SGLT2 Inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists' Consortium)は、SGLT2阻害薬のランダム化比較試験(RCT)における心・腎アウトカムをメタ解析する国際共同研究組織である。SMART-C研究の成果は、2024~25年にLancet誌などに4編の論文として主要誌に報告された。そのうち2編は主として腎保護効果に焦点を当てた解析であり、JAMA誌オンライン版(2025年11月7日号)に同時掲載された。 その第1報はNeuenらによる論文で、これは「腎アウトカム」のクラスエフェクトを解析した研究である。ここでは、SGLT2阻害薬の腎保護作用が、糖尿病の有無にかかわらず、eGFRが低下したステージ4の患者や尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が低い群においても相対的効果が認められることが示された(CLEAR!ジャーナル四天王「SGLT2阻害薬の腎保護作用:eGFR低下例・低アルブミン尿例でも新たな可能性/JAMA」)。 第2報は、Staplinらによる今回紹介するJAMA誌掲載論文である。本論文では、腎疾患イベントに加え、「死亡および入院」に関する絶対リスクの評価を中心としたメタ解析が行われた。その結果、糖尿病の有無やUACRの値にかかわらず、腎機能、入院、死亡といったアウトカムにおいて、SGLT2阻害薬の絶対的ベネフィットが確認された。これらの新知見は、SGLT2阻害薬の適応や治療選択肢の拡大の可能性を支持するものである。本SMART-C研究の主な成績 腎疾患を適応とするSGLT2阻害薬を使用したRCT8件を対象に解析を行った。解析対象は5万8,816例で、平均年齢は64±10歳、女性は35%であった。内訳は、糖尿病患者4万8,946例、非糖尿病患者9,870例である。主要評価項目は、腎・安全・全般アウトカムとして、腎疾患進行、急性腎障害(acute kidney injury:AKI)、全入院および全死亡とした。統計解析は逆分散重み付け法によるハザード比(hazard ratio:HR)の統合を行い、糖尿病の有無およびUACR<200mg/gと≧200mg/gで層別化して異質性を評価した。絶対効果は、各サブグループにおけるプラセボ群のイベント率に統合相対リスクを適用して推計した。 その結果、腎疾患進行に対するHRは、糖尿病ありで0.65(95%信頼区間[CI]:0.60~0.70)、糖尿病なしで0.74(95%CI:0.63~0.85)であった。推計イベント率は、糖尿病ありで33対48/1,000人年、糖尿病なしで32対46/1,000人年(いずれもSGLT2阻害薬群vs.プラセボ群)であった。AKIについては、糖尿病ありでHR:0.77(95%CI:0.69~0.87)、糖尿病なしでHR:0.72(95%CI:0.56~0.92)であり、糖尿病の有無にかかわらずAKIリスクの有意な低下が認められた。全入院は、糖尿病ありでHR:0.90(95%CI:0.87~0.92)、糖尿病なしでHR:0.89(95%CI:0.83~0.95)であった。全死亡は、糖尿病ありでHR:0.86(95%CI:0.80~0.91)、糖尿病なしでHR:0.91(95%CI:0.78~1.05)であり、非糖尿病群では統計学的に境界的であった。さらに、UACRによる層別サブグループ解析では、相対効果はUACR≧200mg/g群と<200mg/g群でおおむね同程度であったが、ベースラインの高いUACR≧200mg/g群では、腎疾患進行に対する絶対的ベネフィットがより大きかった。一方、全入院に対する絶対的ベネフィットは、UACR<200mg/g群においても明瞭に認められた。2つのSMART-C研究のインパクト KDIGOガイドライン(Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) CKD Work Group. Kidney Int. 2024;105:S117-S314.)では、糖尿病の有無やUACRの程度により推奨の強さが異なるため、臨床現場において「SGLT2阻害薬はどのような患者に、どれだけの絶対的利益が期待できるのか」という点には不確実性が残されていた。本論文で報告されたSMART-C研究第2報は、糖尿病の有無およびUACR200mg/gを閾値として層別化したサブグループごとに治療効果を統合し、入院や死亡といったアウトカムに対する「絶対評価」を行うことで、この不確実性を明らかにしようとした試みである。 SMART-C研究第1報が、SGLT2阻害薬の「腎アウトカム」におけるクラスエフェクトに焦点を当てたのに対し、第2報では、「入院・死亡」を含む臨床的に重要なアウトカムに対するSGLT2阻害薬の絶対的ベネフィットに焦点を当てたわけである。言い換えれば、第1報の解析が「どの程度まで進行した腎疾患に有効か」という相対的観点から検討したのに対し、第2報の解析は、「誰がどれだけ利益を得るのか」を糖尿病の有無やUACRによって具体的に層別化して検討した点に特徴がある。その結果、本研究により、SGLT2阻害薬がもたらす絶対的ベネフィットが明確に示された。本論文のインパクトは、現行ガイドラインにおける適応基準の再検討や、より多様な患者集団に対する個別化治療の拡大につながる可能性を示唆する。実臨床の視点からSMART-C研究を紐解く SMART-C研究の解析結果は、統計学的に妥当性はあるとしても、SGLT2阻害薬は決して「腎保護の万能薬」となるわけではない。実臨床において本結果をどのように活用するかの各論は、3大腎疾患である糖尿病性腎臓病(DKD)、慢性糸球体腎炎(CGN)、腎硬化症(NS)によりおのずと異なる。DKDおよびCGNにおいては、UACRの多寡にかかわらずSGLT2阻害薬を選択することに大きな異論はないが(ただし、大規模RCTの多くはRAS阻害薬併用が前提となっている点には留意が必要)、高齢者ではUACRが比較的少ないNSでは注意が必要である。DKDやCGNの病態の主体は糸球体過剰濾過である(Kanbay M, et al. Nephrol Dial Transplant. 2024;39:1228-1238.)。一方、NSの病態の基本は、これとは異なり糸球体虚血である。 SGLT2阻害薬は、DKDでは糖尿病により拡張した輸入細動脈を収縮させ、CGNではRAS活性化により収縮した輸出細動脈を拡張させることで、糸球体過剰濾過を改善し、腎保護作用を発揮する。一方、輸入細動脈の狭小化を特徴とするNSでは、糸球体はむしろ虚血腎の状態にあり、病態生理学的には、過剰濾過改善機序による腎保護効果は期待しにくい。また、SGLT2阻害薬導入時の安全面への配慮として、脱水や低血圧の確認、DKDにおけるシックデイ時の対応やケトアシドーシス予防、AKIリスクの管理、尿路感染症への注意なども決して軽視できない。確かにSMART-Cの本論文の結果は、UACRの多寡を問わずSGLT2阻害薬の絶対的ベネフィットを示した点で朗報である。しかしながら、高齢者に多い高血圧性腎硬化症においても同様のベネフィットが再現され、末期腎不全や透析導入の減少に結びつくのか、さらに長期安全性や副作用リスクをどこまで担保できるのかについては、今後の実臨床の積み重ねとリアルワールドデータによる検証が不可欠である。

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第276回 訪問看護に激震? 28億円不正請求問題で厚生労働省が「全国一斉調査」開始へ

2026年が明けました。医療業界では医療法改正などで、新しい動きが見えてきました。そのなかで、メディアによって問題が深刻化していることが明らかになった訪問看護ステーションの話題を年の初めに考えてみたいと思います。近年、末期がんや難病患者の受け皿として急増した「サービス付き高齢者向け住宅」(以下「サ高住」と略します)。病院からの早期退院を促す国の政策と、在宅での看取りニーズが合致し、一見すると社会課題の解決に寄与するビジネスモデルとして急成長を遂げました。しかし、その裏側では、診療報酬・介護報酬を組織的に搾取する「闇」が広がっていたことが、相次ぐ内部告発と特別調査委員会の報告によって白日の下にさらされました。今回は、「PDハウス」を運営していた最大手のサンウェルズや「医心館」のアンビスホールディングス、精神科の訪問看護最大手ファーストナースを巡る不正請求の実態と、それを受けた厚生労働省の「全国一斉調査」および「個別指導の厳格化」についてまとめ、今後の厚労省による調査が訪問看護およびサ高住に与える影響について考察してみたいと思います。利益至上主義が生んだ「不正請求」の実態2025年2月に東証プライム上場のサンウェルズが発表した特別調査委員会の報告書は、業界に大きな衝撃を与えました。不正請求の試算額は、総額約28億4,700万円に上り、ほぼすべての施設で組織的な不正・過剰請求が認定されました。主な不正・過剰請求の手法として、「短時間訪問」の偽装と「同行者不在」の加算請求が挙げられていました。「短時間訪問」の偽装としては、実際には数秒~数分の安否確認や投薬、あるいは睡眠センサーの画面確認のみであるにもかかわらず、診療報酬の算定要件である「30分以上の訪問」を行ったと虚偽の記録を作成していたものです。その件数は17万件を超えています。また、「同行者不在」の請求でも、実際には1人で訪問しているにもかかわらず、複数名で訪問したと偽り、加算報酬を不当に得ていました。さらに入居者の病態に関わらず、最初から「1日3回・毎日」の訪問看護を行うことが標準化され、マニュアルで「必須記載」と指示を行い、1人当たりの月間診療報酬の「合格ライン」を81万円に設定するなど、医療の必要性ではなく「売上目標」から逆算したオペレーションが常態化していました。こうした実態は最大手の「医心館(アンビスホールディングス)」でも指摘され、特別調査委員会の報告では、組織的不正は否定しつつも、実態のない請求が約6,300万円分判明しています。さらに特掲診療料の施設基準等別表第7や同第8に基づく訪問看護の特例を用いて、医療保険で算定できる患者を集め、収益性を高く維持していました。厚労省による訪問看護「全国一斉調査」と選定基準の明確化こうした事態を重くみた厚労省は、この2026年1月より健康保険法に基づき訪問看護ステーションに対する「全国一斉調査」を開始します。医療機関などに対する全国規模の同時調査は、訪問看護の分野では極めて異例の措置です。指導・監督の厳格化(通知のポイント)「令和7年度に実施する指定訪問看護事業者等に対する共同指導に係る取扱いについて」および関連事務連絡によれば、厚労省は指導対象の選定基準を明確化しています。訪問看護レセプト1件当たりの平均額が都道府県平均を超え、かつ全ステーションの上位1%に含まれる事業所を「都道府県個別指導」の対象として優先的に選定するよう指示しています。さらに情報提供(内部告発)への対応として、不正請求や過剰訪問に関する具体的な情報提供があった場合、これを最優先で指導対象とします。不当事項が確認された場合、原則として指導月から1年以上遡って報酬の自主返還を求めます。また、中央社会保険医療協議会(中医協)では、同一建物内の多数の患者に対する頻回訪問について、報酬を引き下げる方向で検討が進んでいます。今後の訪問看護・サ高住への影響と考察今回の一連の騒動と規制強化によって、今後の在宅医療・介護のあり方を劇的に変える可能性があります。これまで、サ高住や有料老人ホームに訪問看護ステーションを併設し、入居者を「自社サービス」で囲い込んで報酬を最大化するモデルは、過剰利潤を追求しやすい収益性の高いビジネスでした。しかし、今後は「1件当たりの単価」が高い事業所が自動的に指導対象となるため、不必要な過剰サービスを提供して請求する事業者ついては、返還リスクと社会的信用の失墜により淘汰されることになります。訪問看護の実施には、必ず医師の「訪問看護指示書」が必要です。報道によると、一部のホスピス住宅では「末期がん」でない患者に末期がんの診断を付けたり、不必要な頻回訪問の指示を出したりする医師の存在が指摘されています。厚労省の調査では、当然ながら「指示を出した医師」の判断も検証対象となります。医学的妥当性を欠く指示を出し続けた医師は、不適切な請求を助長したとして、行政指導や免許に関わる責任を問われるリスクが生じます。このほか、不正に得た高額な報酬を原資として、訪問看護ステーション側が地域の急性期病院から看護師を「高給」で引き抜いていた実態も明らかになりました。規制強化によって事業者の収益が適正化されれば、こうした高額な給与提示は困難になります。地域医療全体としては、偏在していた看護師が本来必要とされる現場に戻るポジティブな側面もありますが、その一方で、経営基盤の弱い中小のサービス事業者にとっては、さらなる採用難につながる恐れもあります。「適切な事業者」の選定が求められる退院支援さらに病院側にも影響が出ることになります。病院のソーシャルワーカーや勤務医は、これまで患者の転院・退院先としてホスピス型住宅を依頼する際、「空きがあるから」という理由だけで紹介することができなくなります。「外部のサービスを排除して囲い込みをしていないか」、あるいは医療機関側に「訪問看護指示書の記載」について要求が多くはないかといったチェックが必要になります。性善説の終焉と「説明責任」の時代へ訪問看護のシステムは、長らく「性善説」に基づいて運用されてきました。しかし、今回のサンウェルズ事件を契機に、その信頼は崩れ去り、今後は、記録や不適切な算定を防止するために医療・介護DXといったITテクノロジー(GPSや入退室ログなど)で監視する仕組みが標準化されるでしょう。医師にとって重要なのは、訪問看護が「なぜ頻回の訪問が必要なのか」を患者の病態に基づいて医学的にいつでも説明できることです。訪問看護事業者や訪問サービス事業者の意見に引きずられた訪問診療や訪問看護は、もはや「隠し通せる時代」ではありません。地域医療の崩壊を防ぐためには、不正を排除し、真に手厚い看取りを必要とする患者に資源を集中させる健全な市場環境の再構築が急務となります。 参考報道 1) 訪問看護、1月全国調査へ 厚労省、不正請求問題で(共同通信) 2) 看護師たちの勇気の告発がついに国を動かした ホスピス住宅と精神科の訪問看護、国が全国一斉に不正調査へ(共同通信) 3) 指定訪問看護事業者等に対する高額を理由とする都道府県個別指導の取扱いについて/令和7年度に実施する指定訪問看護事業者等に対する共同指導に係る取扱いについて(厚労省) 4) 老人ホーム会社、診療報酬28億円不正請求疑い 高額紹介料支払いも(朝日新聞) 5) 特別調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ(サンウェルズ社) 6) 訪問看護の最大手、過剰請求か 精神科「あやめ」が全社的に(共同通信) 7) 訪問看護における「別表7」を徹底解説(カーネル)

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「グーフィス」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第83回

第83回 「グーフィス」の名称の由来は?販売名グーフィス®錠5mg一般名(和名[命名法])エロビキシバット水和物(JAN)効能又は効果慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)用法及び用量通常、成人にはエロビキシバットとして10mgを1日1回食前に経口投与する。なお、症状により適宜増減するが、最高用量は1日15mgとする。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.腫瘍、ヘルニア等による腸閉塞が確認されている又は疑われる患者[腸閉塞を悪化させるおそれがある。]※本内容は2026年1月5日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2022年4月改訂(第6版)医薬品インタビューフォーム「グーフィス®錠5mg」

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NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その4】そもそもなんで多重人格は「ある」の?-進化精神医学から迫る解離性同一症の起源

今回のキーワード記憶喪失知らないふり乳幼児の生存戦略慕うふり産業革命病理化適応度可塑性[目次]1.なんで多重人格は「ある」の?-「慕うふり」で生き延びる2.「心の傷を癒すということ」は「生き延びるということ」3.参考記事前回(その3)、多重人格になるメカニズムを、脳科学の視点から仮説を使って解き明かしました。それでは、人類の心の進化の歴史のなかで、多重人格はいつ生まれたでしょうか? 言い換えれば、多重人格はなぜ「ある」のでしょうか?この謎の答えに迫るために、今回も引き続き、NHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げ、進化精神医学の視点から、多重人格の起源に迫ります。なお、多重人格の現在の名称は解離性同一症です。ただ、この記事では、わかりやすさを優先して、このドラマで使われた従来の名称である「多重人格」で表記します。なんで多重人格は「ある」の?-「慕うふり」で生き延びる片岡さんは、安先生に「こんな病気(多重人格)になったんは、私が弱いからですよね」とたずねます。すると、安先生は「違うよ。とても耐えられんような苦しさと悲しさの中で、それでも生き延びる方法を見つけようとしたんや。生きる力が強いんや」と力強く答えます。確かに片岡さんが言うように、多重人格になるのはその脆弱性があるからとその3で説明しました。しかし、進化の視点で捉え直すと、安先生が言うように、「生き延びる方法」として「生きる力が強い」と言えます。どういうことでしょうか? そもそもなぜ多重人格は「ある」のでしょうか?まず多重人格の起源は、記憶喪失の起源を土台にして考えることができます。そこで、記憶喪失の進化の起源を理解する必要があります。この詳細については、関連記事1をご覧ください。記憶喪失の起源とは、約300万年前に人類が助け合いの集団をつくるようになってから、トラウマ体験を「知らないふり」(記憶喪失)で生き延びるという、新しい環境に適応するための生存戦略であると説明しました。ここで、多重人格は大人ではなく子供、とくに乳幼児期のトラウマ体験によって発症することを踏まえると、原始の時代、人類の乳幼児がどんな環境に身を置いていたかに着目する必要があります。その環境とは、現代社会のような人権という概念すらなく、子供、とくに乳幼児の命はとても軽かったでしょう。病気ですぐに死んでしまうので、たくさん子供がつくられました。よくよく考えると、つい近世まで、飢餓の時は、捨て子さえも珍しくありませんでした。児童労働もごく当たり前でした。つまり、現代で禁止されている虐待は、原始の時代ではごくありふれた現象であったことが想定されます。そんななか、親から虐待された子供は、そのトラウマ体験によって記憶喪失になるだけだと、その親の顔を思い出せないのでその親に後追いや抱き着きなどの愛着行動を示すことができません。すると、親はたくさんいる他の兄弟に目をかけるようになり、その子供は構ってもらえなくなります。原始の時代、そんな子供(遺伝子)は死(淘汰)を意味します。一方で、人格部分として再び現れてでも、その親の顔を認識して愛着行動を示すことができれば、虐待されるにしても、食料は分け与えられるなどの一定の保護が得られます。たとえば、幼児の人格部分が出ていた片岡さんのように、「私のおうち、どこ?」「ママに会いたい。ママ…」と泣くことです。原始の時代、そんな子供(遺伝子)は生き残るでしょう。そして、主人格は、当初親の顔については記憶喪失になっているわけですが、人格部分が代わりに親との愛着関係をつなぎ留めていてくれたおかげで、やがて成長するにつれていつも一緒にいる大人がおそらく親であると再認識するようになるでしょう。これは、乳幼児の生存戦略です。つまり、大人と違って子供は、「知らないふり」(記憶喪失)だけでは不十分で、「知ってるふり」「慕うふり」(人格部分による愛着行動)もして、何とか親(愛着対象)に食らいついて生き延びるよう進化したでしょう。これが、多重人格の起源と考えられます。大人と違って子供の場合、虐待する親であっても一定の養育行動を引き出さなければ生き延びられないので、親の顔の記憶を喪失して愛着行動を示さない主人格の代わりに、愛着行動を示す人格部分が積極的に出てくる必要があったというわけです。なお、大人になった片岡さんは、気味が悪いと避難所から追い出されるなどのトラブルを起こしていました。しかし、原始の時代は、多重人格として大人になってもそれほど困らなかったと考えられます。なぜなら、原始の社会では、言葉さえなく、その日暮らしでその瞬間を生きているだけであり、人格は1つであるという概念すらなかったからです。ちなみに、言葉を話すようになったのは約20万年前、人格などの概念を用いるようになったのは約10万年前以降、そして人格は1つであり変わらないという合理主義や個人主義の価値観が広がったのは約200年前の産業革命以降です。そしてまさに産業革命以降に、多重人格が病気として認識(病理化)され、報告されるようになったのでした1)。以下のグラフは、「24」、「エクソシスト」、そして今回に論じてきた解離症のすべての起源をまとめたものです。「心の傷を癒すということ」は「生き延びるということ」進化の視点で捉え直すと、安先生が言うように、多重人格が「ある」のは、「弱いから」ではなく、子供が「生き延びる方法」(生存戦略)として「生きる力が強い」と言えます。これは、発達心理学の視点では可塑性、進化精神医学の視点では適応度と言い換えられます。つまり、安先生の言葉は、小さい子供の時の片岡さん自身だけでなく、私たちの祖先の人類にも当てはまることだったのです。この点で、このドラマのタイトルである「心の傷を癒すということ」とは、私たち人類が「生き延びるということ」でもあると言えるのではないでしょうか?なお、多重人格の治療については、関連記事2をご覧ください。参考記事ちなみに、虐待を含む不適切な養育(マルトリートメント)における子供の愛着の反応パターンとしては、今回の「知ってるふり」(多重人格)だけでなく、「馴れ馴れしいふり」(脱抑制型対人交流症)や「よそよそしいふり」(反応性アタッチメント症)も挙げられます。これらも、乳幼児の生存戦略であると言えます。多重人格は、脱抑制型対人交流症や反応性アタッチメント症と比べて、幼少期は目立たず潜在しており、その後に顕在化する特徴があります。そして、これらは、その3でも触れたストレンジ・シチュエーション法2)における、以下のタイプと関連しています。 1) 稀で特異な精神症候群ないし状態像、p80:中安信夫、星和書店、2004 2) 乳幼児のこころpp103-104、遠藤利彦ほか、有斐閣アルマ、2011 ■関連記事米国ドラマ「24」【その2】なんで腰抜けや記憶喪失は「ある」の?-進化精神医学から迫る解離症の起源スプリット【なぜ記憶がないの?なぜ別人格がいるの?どうすれば良いの?(解離性障害)】

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「GERD」、患者さんに英語で説明するには?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第45回

医学用語紹介:胃食道逆流症 GERD「胃食道逆流症」を患者さんに説明する際に、専門用語であるGERD(gastroesophageal reflux disease)が通じなかった場合、どのような一般用語で言い換えればよいでしょうか?講師紹介

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オールラウンド外来診療ガイドブック

診療にすぐ活かせる知識と判断力を集約自身の専門外の疾患に遭遇した時、あるいは患者から専門外の愁訴を相談された際に、医師は、(1)何をすべきか? (2)何をすべきでないか? (3)どの段階で専門医に紹介すべきか? という視点で、500の疾患・症状を、24分野の診療科のスペシャリスト474名が見開き2ページで解説する。病態の理解から診療のエッセンス、患者さんへの説明の工夫に至るまで「明日からの診療にすぐに活かせる知識と判断」が集約されている。ジェネラリストの診療の迷いを解き、明日からの外来診療に差がつくスペシャリストからの珠玉の処方箋。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するオールラウンド外来診療ガイドブック定価13,200円(税込)判型B5判(並製)頁数1,064頁発行2025年12月総編集宮地 良樹(京都大学名誉教授/静岡社会健康医学大学院大学学長)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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餅などによる気道閉塞、腹部突き上げ法と背部叩打法の有効性~MOCHI研究班

 お正月は餅を食べる機会が多く、餅による窒息の初期対処法をいま一度確認しておきたい。日本医科大学の五十嵐 豊氏らが、餅などの異物による気道閉塞患者に対して腹部突き上げ法もしくは背部叩打法による初期対応を実施する場合の有効性を介入なしの場合と比較したところ、いずれの方法も介入なしと比べて有意に良好な神経学的転帰と関連し、さらに背部叩打法は生存率改善とも関連していたことが示された。Resuscitation Plus誌2025年9月号に掲載。 本研究は、MOCHI(multi-center observational choking investigation:窒息に関する多施設共同観察研究)研究班による国内25病院で実施された前向き多施設観察研究で、2020年4月~2023年3月に異物による気道閉塞で救急外来を受診した18歳以上の患者が対象。主要評価項目は30日後の良好な神経学的転帰(Cerebral Performance Category1または2)、副次的評価項目は30日生存率および閉塞解除の成功率とした。交絡因子を調整するため、治療の逆確率重み付け(IPTW)を用いた傾向スコア分析を実施し、ロジスティック回帰分析およびCox比例ハザードモデルで解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・407例(年齢中央値:81歳)のうち、腹部突き上げ法が24例、背部叩打法が76例、バイスタンダーによる介入なしが175例であった。・IPTW調整後、腹部突き上げ法群(38%vs.16%、差22%、95%信頼区間[CI]:14~31)および背部叩打法群(31%vs.16%、差15%、95%CI:8~23)は、介入なし群と比較して良好な神経学的転帰の頻度が有意に高かった。・背部叩打法は生存率改善と関連していた(調整後ハザード比[HR]:0.52、95%CI:0.35~0.78)が、腹部突き上げ法は関連していなかった(調整後HR:0.73、95%CI:0.40~1.35)。

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抗CGRP抗体は中止したほうが良いのか? 中止後、片頭痛症状はどう変化する?

 抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体による治療は、片頭痛の予防に有意な効果をもたらしたが、抗CGRP抗体治療中止による長期的な影響は依然としてよくわかっていない。ブラジル・Clinical Hospital of the Federal University of ParanaのLuana Miyahira Makita氏らは、抗CGRP抗体治療中止後の臨床アウトカムに及ぼす影響を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。CNS Drugs誌オンライン版2025年9月30日号の報告。 2024年9月までに報告された研究をPubMed、Embase、Cochraneデータベースより検索した。対象研究は、抗CGRPモノクローナル抗体またはゲバントによる予防的治療を受けた反復性または慢性片頭痛患者における治療中止後の影響を報告したランダム化研究または観察研究とした。主要アウトカムは、ベースラインから中止後までの1ヵ月当たりの片頭痛日数の平均変化とした。副次的アウトカムは、急性頭痛薬の使用、積極的治療から治療中止までの片頭痛頻度の平均変化、50%以上の治療反応率とした。異質性は、二値アウトカムについては予測区間(PI)、連続データについてはI2を用いて評価した。ランダム効果モデルを用いて平均差(MD)とリスク比(RR)をプールし、フォローアップ期間、研究デザイン、慢性片頭痛患者に基づくサブグループ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・8研究(1,012例)をメタ解析に含めた。・ゲバントの治療中止後の影響を評価した研究は、見当たらなかった。・1ヵ月当たりの片頭痛日数は、投与中止後、ベースラインと比較して有意に減少した(MD:-3.78、95%信頼区間[CI]:-4.89〜-2.67、I2=57%、p<0.05)。・減少日数は、1ヵ月時点で5.70日、3ヵ月時点で3.62日であった。・慢性片頭痛患者では、投与中止後と投与前期間において、1ヵ月当たりの片頭痛日数が持続的に減少した(MD:-6.54、95%CI:-8.64〜-4.43、I2=68%、p<0.05)。・1ヵ月当たりの急性頭痛薬服用日数は、ベースラインと比較して減少した(MD:-1.74、95%CI:-2.84〜-0.64、I2=0%、p<0.05)。・治療中止3ヵ月後の1ヵ月当たりの片頭痛日数は、中止直前と比較して増加した(MD:4.43、95%CI:2.61〜6.25、I2=86%、p<0.05)。また、1ヵ月当たりの急性頭痛薬の使用日数は3.22日増加した。・50%以上の治療反応率は低下した(RR:0.42、95%CI:0.33〜0.53、PI:0.17〜1.03、p<0.05)。 著者らは「抗CGRP抗体の治療中止後、片頭痛の負担は悪化したが、治療前のレベルよりは低いままであった。抗CGRP抗体の疾患修飾作用と最適な治療中止戦略を明らかにするためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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『がん患者におけるせん妄ガイドライン』改訂、抗精神病薬+ベンゾジアゼピン系薬など現場で多い処方を新規CQに 

 2025年9月、『がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版』(日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会編、金原出版)が刊行された。2019年の初版から改訂を重ね、今回で第3版となる。日本サイコオンコロジー学会 ガイドライン策定委員会 せん妄小委員会委員長を務めた松田 能宣氏(国立病院機構近畿中央呼吸器センター心療内科/支持・緩和療法チーム)に改訂のポイントを聞いた。――「がん患者におけるせん妄」には、その他の臨床状況におけるせん妄とは異なる特徴がある。がん治療にはオピオイド、ステロイドなどの薬剤が多用されるが、それらが直接因子となったせん妄が多くみられる。さらに、近年では免疫チェックポイント阻害薬に代表されるがん免疫療法の普及に伴い、この副作用としてせん妄を発症する患者も増えている。また高カルシウム血症や脳転移など、がんに伴う身体的問題を背景としてせん妄を発症することもある。進行がん患者におけるせん妄は、その原因が複合的であることが多い。さらに、終末期におけるせん妄では身体的要因の改善が困難であり、治療目標をせん妄の回復からせん妄による苦痛の緩和に変更し、それに合わせてケアを組み立てていく必要もある。総論に7つの個別テーマを新設 2025年版は前版と比較して約40ページ増となった。総論では、「関連する病態についてより詳しく説明できるとよいのでは」という委員会の議論を経て、7つのテーマを追加した。 総論に追加したテーマは以下のようになっている。1.アルコール離脱せん妄(評価のためのスコア、薬物治療)2.術後せん妄(周術期神経認知障害、超高齢・がん外科治療の文脈も含む)3.低活動型せん妄(頻度・症状・鑑別・マネジメント)4.身体拘束に関する考え方(実態・葛藤・多職種アプローチ・法的倫理的視点)5.認知症に重畳するせん妄(頻度・リスク因子・評価・対応)6.せん妄とがん疼痛の合併(終末期、可逆的などで分岐する対応アルゴリズムなど)7.在宅におけるせん妄診療(介護者負担、投与経路制限、在宅継続の可否、在宅アルゴリズムなど) 「アルコール離脱せん妄」はがん患者に限ったものではないが、アルコールが関連するがん、たとえば頭頸部がんとの関連が深いため、別個に取り上げた。通常、せん妄治療にベンゾジアゼピン系薬を単剤で使うことはほぼないが、アルコール離脱せん妄の場合は適応となるなど、治療の独自性も高い。「術後せん妄」は、通常のがん患者におけるせん妄とはまた状況が異なり、頻度も高いため、改めて扱うこととした。 せん妄は「過活動型せん妄」「低活動型せん妄」「活動水準混合型」の3つに分類される。中でも低活動型せん妄は見逃しやすく、がん患者での頻度が高いために取り上げた。「身体拘束」は、これまで過活動型の患者に対し、安全性確保のために拘束するケースがあった。しかし、近年はその有害性が報告されるようになっており、拘束を最小限にするための多職種によるアプローチをまとめた。 高齢化社会の進行の中で「認知症」とせん妄を併発する患者が増えている。なかなか鑑別が難しいが、評価や対応についてまとめた。また、「せん妄とがん疼痛の合併」も非常に多いパターンで、中等度以上の痛みを伴うがん患者の3分の1以上がせん妄を合併している、との報告もある。ここには厚労省科研費里見班による報告があったので、そちらの治療アルゴリズムを掲載している。前版までは病院におけるせん妄治療が中心だったが、在宅医療におけるせん妄も増加していることを受け、介護者の存在や薬剤の制限など、在宅医療独自の状況を踏まえて項目を作成した。CQでは予防と併用療法の項目を追加 CQは4つ新設し、前版の12から15となった。増えたCQは以下のとおりとなっている。CQ3:ラメルテオン単独投与による予防は推奨されるか?CQ4:オレキシン受容体拮抗薬単独投与による予防は推奨されるか?いずれも「単独で投与しないことを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:D) 予防目的の薬物治療として、新規睡眠薬(ラメルテオン/オレキシン拮抗薬)を明示的に扱うようになったのが大きな変更点となる。いずれも現時点では予防に有効とのエビデンスは確立しておらず、「単独で投与しないことを提案する」との記載となった。予防には非薬物的介入が第1選択という点は前版から変わらないが、実臨床においてはせん妄予防よりも睡眠リズムをつくることを目的に新規睡眠薬を投与する医師が一定数いると予想され、こうした処方までを一概に否定するものではない。高リスク群など一部の集団においては「個々の患者の状況やリスクを適切に評価し、予防的投与の妥当性を判断することが必要」との点も明記した。CQ11:症状軽減を目的に、抗精神病薬+ベンゾジアゼピン系薬の併用投与は推奨されるか?「併用で投与することを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:C) このCQに関する文献は1件のみで、エビデンスとして質の高い研究ではあったものの、試験対象が「すでにハロペリドールを定時投与されている終末期の重症せん妄患者」に限定されていたことには注意が必要だ。よって、どんな症例でも併用投与を推奨するわけでなく、症例ごとの見極めが重要になる。また、試験の治療薬はロラゼパム注とハロペリドール注であったが、日本ではロラゼパム注が使われることは少なく、今後は日本で汎用されているベンゾジアゼピン系薬での検討や、重症例以外の検討が求められる。CQ12:症状軽減を目的に、抗精神病薬+抗ヒスタミン薬の併用投与は推奨されるか?「併用で投与しないことを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:D) せん妄に認められる不穏の症状に対して、抗ヒスタミン薬や抗精神病薬を用いることがあるが、抗ヒスタミン薬はせん妄の原因ともなり得るなど安全性の懸念も残る。検討対象となった観察研究では、併用投与によるアウトカム改善は認められなかったため、「併用で投与しないことを提案する」との記載になった。 がん患者のせん妄は、臨床試験が組みにくく、エビデンスが蓄積されにくい分野だ。理由としては、患者ごとにせん妄の原因が異なっているため試験の組み入れ条件をそろえることが難しい、終末期患者が多く同意取得が困難、といった背景がある。一方、患者数は多く、医療者・患者/家族ともケアに悩むことが多い分野でもある。今後も限られたエビデンスを集め、ガイドラインのアップデートや外部評価に努めたい。患者自身や家族がケアに関わることも多いので、同じ学会で作成する『がん患者における 気持ちのつらさガイドライン』『がん医療における 患者・医療者間のコミュニケーションガイドライン』と一緒に、患者向けガイドの作成も進めている。

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再発・難治性多発性骨髄腫、テクリスタマブ+ダラツムマブでPFS延長(MajesTEC-3)/NEJM

 1~3ラインの前治療歴を有する再発または難治性の多発性骨髄腫患者において、テクリスタマブ+ダラツムマブ併用療法は、ダラツムマブ+ポマリドミド+デキサメタゾン併用療法またはダラツムマブ+ボルテゾミブ+デキサメタゾン併用療法(DPdまたはDVd群)と比較し、無増悪生存期間(PFS)を有意に延長させることが、米国・アラバマ大学バーミンガム校のLuciano J. Costa 氏らが20ヵ国150施設で実施した非盲検第III相試験「MajesTEC-3試験」の結果で示された。T細胞表面のCD3と骨髄腫細胞表面のB細胞成熟抗原を標的とする二重特異性モノクローナル抗体であるテクリスタマブは、第I/II相試験で再発または難治性の多発性骨髄腫に対する持続的な奏効を示し、抗CD38を標的とするヒト型モノクローナル抗体であるダラツムマブは多発性骨髄腫患者において生存期間の延長が示されていた。NEJM誌オンライン版2025年12月9日掲載の報告。テクリスタマブ+ダラツムマブの有効性および安全性をDPdまたはDVdと比較 研究グループは、プロテアソーム阻害薬およびレナリドミドを含む1~3ラインの前治療歴を有する再発または難治性の多発性骨髄腫患者を、テクリスタマブ+ダラツムマブ併用群と、治験担当医師選択によるDPdまたはDVd群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 前治療歴が1ラインのみの患者は、国際骨髄腫作業部会(IMWG)の基準によりレナリドミド耐性であることが必須であった。 主要評価項目は、独立判定委員会によるPFS、主要な副次評価項目は完全奏効以上(完全奏効[CR]または厳格な完全奏効[sCR])、奏効率(部分奏効以上)、微小残存病変陰性(MRD:閾値10-5)、全生存期間、症状悪化までの期間であった。テクリスタマブ+ダラツムマブでPFSが有意に延長、奏効率、MRD陰性率も高値 2021年10月22日~2023年9月29日に587例が無作為化された(テクリスタマブ+ダラツムマブ群291例、DPdまたはDVd群296例)。 データカットオフ(2025年8月1日)時点の追跡期間中央値34.5ヵ月において、テクリスタマブ+ダラツムマブ群はDPdまたはDVd群と比較してPFSを有意に延長した。推定36ヵ月PFS率は、テクリスタマブ+ダラツムマブ群83.4%(95%信頼区間[CI]:78.2~87.4)、DPdまたはDVd群29.7%(95%CI:23.6~36.0)であり、ハザード比は0.17(95%CI:0.12~0.23、p<0.001、初回中間解析の有意水準p=0.0139)であった。 テクリスタマブ+ダラツムマブ群はDPdまたはDVd群と比較し、CR以上(81.8%vs.32.1%)、奏効率(89.0%vs.75.3%)、およびMRD陰性率(58.4%vs.17.1%)のいずれも有意に高かった(すべてのp<0.001)。 重篤な有害事象はテクリスタマブ+ダラツムマブ群で70.7%、DPdまたはDVd群で62.4%に認められ、最も多かったのは肺炎であった(それぞれ16.6%、13.1%)。有害事象による死亡はそれぞれ7.1%(20例)および5.9%(17例)であった。

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妊娠高血圧腎症のリスク評価と層別化に基づく計画的早期分娩の有用性/Lancet

 妊娠高血圧腎症のリスク層別化に基づく計画的早期分娩は、緊急帝王切開や新生児集中治療室への入室を増加させることなく、妊娠高血圧腎症の発生を減少させたことが、英国・キングス・カレッジ病院のJames Goadsby氏らによる、英国の2施設で実施されたアダプティブデザインの無作為化非盲検並行群間比較試験「PREVENT-PE試験」の結果で示された。これまで、高リスク妊娠において、正期産での妊娠高血圧腎症を減少させる確実な介入法は存在しなかった。Lancet誌オンライン版2025年12月4日号掲載の報告。妊娠35週0日~36週6日に定期超音波検査を受けた妊婦を登録 研究グループは、妊娠35週0日~36週6日に実施される定期超音波検査の受診時に参加者を募集した。適格基準は、単胎妊娠で、重大な先天異常がなく、文書による同意が得られ、妊娠高血圧腎症の既往歴または他の類似の臨床試験への参加歴のない16歳以上の女性であった。 適格者を、施設で層別化し置換ブロック法により、介入群(妊娠高血圧腎症リスク評価で高リスク、および妊娠高血圧腎症リスクが≧1/50と判定された場合はリスク層別化計画的早期分娩)または対照群(通常ケアによる正期産)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、国際妊娠高血圧学会(ISSHP)2021年基準に基づく妊娠高血圧腎症を伴う分娩であった。リスク層別化による計画的早期分娩で、妊娠高血圧腎症を伴う分娩は30%減少 2023年5月9日~2024年6月7日に、妊娠35週0日~36週6日の定期超音波検査を受診した1万1,280例の女性のうち1万803例(95.8%)が適格で、このうち8,136例(75.3%)が無作為に割り付けられた。8,136例中6例(0.1%)が同意撤回、36例(0.4%)が無作為割り付けの誤りにより除外され、最終解析対象は8,094例(99.5%)であった(介入群4,037例、対照群4,057例)。 8,094例のうち2,098例(25.9%)が非白人系、5,996例(74.1%)が白人系と自己申告した。 主要アウトカムである妊娠高血圧腎症を伴う分娩は、介入群で4,037例中158例(3.9%)、対照群で4,057例中226例(5.6%)に発生した。補正後リスク比は0.70(95%信頼区間:0.58~0.86、p=0.0051、欠測値補完法によるITT解析)。 重篤な有害事象の発現割合は、介入群0.1%(5/4,031例)、対照群0.2%(10/4,048例)であり、差は認められなかった(Fisherの正確確率検定のp=0.30)。

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令和6年度 女性医師の勤務環境の現況に関する調査まとまる/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、12月24日に定例の記者会見を開催した。会見では、令和8(2026)年度の診療報酬改定がほぼ確定したことを受けて、医師会としての意見と先般完成した「令和6年度 女性医師の勤務環境の現況の関する調査報告」の概要が説明された。 はじめに松本氏が、令和8年度診療報酬改定について、「医療機関などにおける賃金上昇や物価高騰への対応、さらに日進月歩の医療の高度化への対応に理解が示されたことに心からお礼申し上げる。日本医師会は、さらなる地域医療の充実へ全力であたっていく」と今回のプラス改定への評価と展望を述べた。また、懸念事項として、「OTC類似薬の保険給付の見直し」については、子供や難病患者に対しては慎重な対応が必要だと語った。女性医師の病院管理者は現状ではわずか数% 続いて常任理事の松岡 かおり氏(いけだ病院 理事長・院長)が、「令和6年度 女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書」の完成に伴い、その概要について報告した。 この調査は、病院に勤務する女性医師を対象に8年ごとに実施され、病院に勤務している女性医師の働き方、子育て・介護との両立、女性医師としての悩み、医療現場の男女共同参画に関する現状を把握することを目的に行われている。 2024年度版では、2024年11月~2025年1月に調査が実施され、回収数8,998件(回収率32.5%)のうち有効回答数は8,928件(有効回答率32.3%)だった。回答者の属性について約半数は20・30代であり、既婚率(65.6%)は以前の調査と比較すると多く、配偶者・パートナーの職業は約6割が医師だったが、以前の調査よりも低下していた。 勤務実態については、常勤が約8割から9割まで上昇し、うち短時間正職員が10%だった。非常勤勤務の理由としては、「育児」が約6割に増加、「介護」もわずかながら増加していた。全体の休職離職割合は減少しているものの、休職・離職の理由では「出産」が最多で77.5%、次いで「子育て」が58.2%で多かった。また、勤務先での役職は、部長職の増加はあるものの、病院管理者(院長・副院長など)は2%と少ないままだった。 職場環境については、環境の整備は「整備されている」が55.2%まで増加し、「準備中」を含めると約7割弱と進んでいた。 出産・育児中の働き方では、育児休業をとらない場合は35%が休職・退職しており、配偶者の協力が前回の53.6%から64.2%まで増加していた。普段子供の面倒をみている人は、自分(86.9%)、配偶者・パートナー(57.7%)、保育所・託児所(55.3%)の順で多かった。 仕事を続ける上で必要な制度や仕組み・支援対策については、「人員の増員」(71.1%)、「主治医制の見直し」(55.5%)を求める声が増加していた。また、割合が高いが、保育関係・宿日直の免除は減少に転じていた。 介護中の勤務環境について、「介護」は12.4%が「経験」と回答、介護休暇の取得は29.1%と増加していた。 これらの調査結果踏まえ松岡氏は、「調査が始まったこの16年間で、社会は目まぐるしく変化している。女性医師の働き方が、どのように変化していったのか、子育て介護との両立や医療現場における意識改革が進んだのか、現状と課題、そして今後について、何らかの示唆になればと思う」と語り、説明を終えた。

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糖尿病患者は心臓突然死リスクが極めて高い

 1型か2型かにかかわらず糖尿病患者は、心臓突然死のリスクが極めて高いとする論文が、「European Heart Journal」に12月4日掲載された。コペンハーゲン大学病院(デンマーク)のTobias Skjelbred氏らの研究によるもので、心臓突然死が多いことが一因となり、糖尿病患者は寿命も短いという実態も示されたという。 この研究では、デンマーク全国民の医療記録データベースが解析に用いられた。2010年の1年間で6,862件の心臓突然死が記録されており、そのうち97件が1型糖尿病、1,149件が2型糖尿病の患者だった。心臓突然死の発生率は一般集団と比較して、1型糖尿病では3.7倍、2型糖尿病では6.5倍だった。年齢層別に解析すると若年層で発生率の差がより大きく、50歳未満の糖尿病患者は一般集団の7倍であり、特に30代の1型糖尿病患者では22.7倍と極めて高値だった。 糖尿病患者は寿命が短く、その影響の一部は心臓突然死に起因していることも分かった。例えば30歳の一般集団の寿命は80.7歳だが、1型糖尿病患者の寿命はそれより14.2年短い66.5歳、2型糖尿病患者では7.9年短い72.8歳だった。このような寿命短縮のうち、心臓突然死による影響が、1型糖尿病では3.4年、2型糖尿病では2.7年と計算された。同様に、60歳の一般集団の寿命は83.0歳だが、1型糖尿病患者の寿命はそれより8.0年、2型糖尿病患者では5.0年短く、心臓突然死による影響が同順に1.5年、1.6年と計算された。 論文の筆頭著者であるSkjelbred氏によると、糖尿病はいくつかのメカニズムで心臓突然死のリスクを高める可能性があり、高血糖や合併症の神経障害などが心臓病や不整脈を引き起こすことが関係しているという。ただし同氏は、「これは観察研究であり、糖尿病と心臓突然死の関連性が示されたものの因果関係の証明にはならない」とし、慎重な解釈を促している。また同氏は、「心臓突然死を予測して予防することは困難だが、今回得られた知見は、糖尿病患者が心血管疾患リスクを抑制するために医師と協力することの重要性を、改めて示すものだ」とも付け加えている。 Skjelbred氏はさらに、SGLT2阻害剤やGLP-1受容体作動薬などの新しい糖尿病治療薬の登場によって、糖尿病患者が良好な血糖コントロールを維持しやすくなってきたことで、近年は心臓突然死のリスクが低下している可能性を指摘。加えて、突然心停止のリスクが高い人には、心停止を検知して電気ショックを与え正常な心拍を再開させるインプラントを植え込むという治療法があることを紹介。あわせて、糖尿病患者の中でこのような治療が有益な集団を特定できるようにするため、今後の研究への期待を述べている。 本論文に対して、アムステルダム大学(オランダ)のYaxuan Gao氏とHanno Tan氏が付随論評を寄せている。その中でTan氏は、「突然心停止を検知して、倒れた本人に代わり救急要請を通報する機能付きスマートウォッチは、糖尿病患者にとって有益かもしれない。このような機能は特に1型糖尿病患者により有用と考えられる。なぜなら、1型糖尿病患者は、目撃者のいない状況での突然心停止の発生率が高いからだ」と記している。

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mRNAインフルエンザワクチンが「速い」「安い」「確実」を実現するかもしれない(解説:栗原宏氏)

革新性 不活化ワクチンの鶏卵由来のタイムラグと変異(卵馴化)を克服し、流行株に「ジャストフィット」させる可能性を示した。臨床的意義 A型流行下において既存ワクチンに勝る有効性を実証。1シーズン限定だが、mRNAのポテンシャルを証明した。普及の壁 不活化ワクチンより高い副反応(発熱など)の受容性。とくに「病気を防ぐためのワクチンで発熱する」ことへの心理的抵抗。今後の焦点 重症化リスクの高い高齢者・基礎疾患保有者でのデータ。およびB型株に対する改良。 不活化ワクチンの生産は、鶏卵への接種からワクチン原液の製造まで約6ヵ月を要し、従来のインフルエンザワクチンは次シーズンに流行する株を予測して生産するという、いわば「博打」のような状況である。それに加えて卵馴化による変異を起こすという不確定要素もある。実際に、過去10年をみると2014-15シーズンは予測したワクチン株と実際の流行株でミスマッチとなり、ワクチンの効果がかなり小さかったとされている。 一方、mRNAワクチンは遺伝子配列から化学合成が可能であり、約1ヵ月程度で製造が可能とされている。流行直前まで見極めることで、精度の高いワクチン生産が可能になると推測される。理論上のmRNAワクチンの有意点に対し、実際の調査においても1シーズンのみではあるが、既存の不活化ワクチンに対する非劣性、優位性を示した意義は大きいと思われる。 今後のmRNAワクチンの普及を考えるうえでは、軽症・中等症かつ一過性ながら既存のワクチンよりも副反応が多かった点が問題になるかもしれない。最も頻度の高い全身性イベントは倦怠感と頭痛とされ、発熱(≦40.0℃)に関してはmRNAワクチン群で5.6%、対照群で1.7%と4倍ほど多かった。とくに健康な若年世代にとっては、ワクチン自体でインフルエンザのような症状が出て、日常生活に支障が出るとすればワクチンのメリットが感じにくいかもしれない。 本調査の対象は、年齢18~64歳の健康な成人であるため、実際に最も問題となる高齢者、基礎疾患を有する患者での調査結果が待たれる。インフルエンザBでは非劣性を示せていないが、B型ウイルス特有のタンパク質構造が、mRNAワクチンによる免疫誘導と相性が悪かったためと分析されており、今後の改良が期待される。

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MASH(代謝異常関連脂肪性肝炎)に対するGLP-1/グルカゴン共受容体作動薬ペムビドチド24週間治療の成績;肝線維化ステージは改善せず(解説:相澤良夫氏)

 GLP-1/グルカゴン共受容体作動薬pemvidutideのMASH(線維化ステージF2およびF3)に対する週1回皮下注射24週間治療の効果について、疾患活動性の抑制および肝線維化ステージの改善を指標として検討した。その結果、pemvidutideは安全性・忍容性に優れ、肝線維化を悪化させることなしにMASHの活動性を強力に抑制した。しかし肝組織内の線維量は減少したものの線維化ステージの改善には至らなかった。なお、治療期間中は体重減少が継続して認められた。 pemvidutideを含むインクレチン関連薬で体重減少効果を認めMASH治療効果が期待される薬物として、本邦ではGLP-1受容体作動薬セマグルチドが皮下注射薬だけでなく経口薬(商品名:リベルサス)も保険収載されているが、適用疾患は2型糖尿病であることから、肥満やMASLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患)を合併した2型糖尿病に用いられている。セマグルチド製剤(商品名:ウゴービ)は2024年2月から肥満症を適用疾患として販売されているが、適用条件や施設基準が厳しく一般診療での使用は困難である。なお、セマグルチドは本邦施設も参加したMASHに対する72週間治療の国際共同第III相試験で肝線維化改善を含む治療効果が認められている。 より強力な作用が期待されるGIP/GLP-1共受容体作動薬チルゼパチドも2型糖尿病治療薬として2023年4月から発売開始となり、2024年末には肥満症治療薬(商品名:ゼップバウンド)として製造販売承認されたが、ウゴービと同様に適用条件は厳格である。チルゼパチドも本邦施設を含む国際共同第II相試験(52週間治療)で肝線維化の改善を含むMASH治療効果と体重減少効果が認められた。 海外では、さらにGIP/GLP-1/グルカゴントリプル受容体作動薬retatrutideが開発され、強力な体重減少作用が報告されている。 pemvidutideに関しては、他のインクレチン関連薬をしのぐMASH治療効果が示されること、とくに36週治療以降での肝線維化ステージ改善効果が他のインクレチン関連薬を凌駕することが焦点となるものと思われ、pemvidutideの優位性が確認されればMASHを適用疾患としてわが国にも導入される可能性がある。 なお、MASH治療薬としては唯一2024年3月に肝指向性のresmetirom(選択的甲状腺ホルモン受容体β作動薬)が米国FDAから承認されたが、その治療効果は必ずしも強力ではない。 今後、全世界で若年層を中心に肥満者が増加し、肥満と密接な関係にあるMASHも増加すると考えられ、健康に悪影響を及ぼす重大疾患として広く認識されることが予想される。このような事情を背景に、今後もより効果的なMASH治療薬の開発が進むものと予想される。

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NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その3】なんで虐待されると多重人格になるの?-「ニューラルネットワーク分離発達説」

今回のキーワード解離性同一症人格部分乳幼児期のトラウマ体験解離性フラッシュバックローカルスリープストレス脆弱性理論トラウマ・スペクトラム愛着タイプD[目次]1.多重人格の特徴とは?2.なんで虐待されると多重人格になるの?-「ニューラルネットワーク分離発達説」3.なんで虐待されても多重人格にならないの?―ストレス脆弱性モデル4.脳科学からみる多重人格とは?-生まれるのではなく1つにならなかっただけ心のなかに何人かの別の自分がいる…いわゆる多重人格は何とも不思議で魅惑的です。急に豹変するその様子には、人と接するのに馴れているはずのメンタルヘルスの関係者でも度肝を抜かれることがあります。そして、実は演技じゃないかと疑ってしまうこともあります。はたして、どうなんでしょうか? なぜ多重人格になるのでしょうか? どのようにしてなるのでしょうか?この謎を解き明かすために、今回、再びNHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げ、多重人格の特徴を説明します。そして脳科学の視点から、乳幼児の脳の特徴を踏まえて、ある仮説を提唱して、多重人格のメカニズムを解き明かします。なお、多重人格の現在の正式名称は解離性同一症です。ただ、この記事では、わかりやすさを優先して、このドラマで使われた従来の名称である「多重人格」で表記します。また、このドラマについての以前の記事は、関連記事1をご覧ください。多重人格の特徴とは?時は、阪神淡路大震災の直後。精神科医の安(あん)先生は、避難所になっている小学校で診療を続けます。そんななか、安先生はある若い女性を診察するよう頼まれます。彼女の名前は片岡さん。片岡さんの言動から、多重人格の特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)心の中に何人かの別の自分がいる―人格部分片岡さんは「これ(予診票の作成)で頭痛薬、いただけるんですか?」と弱々しく話します。しかし、その直後に気を失い倒れてしまい、安先生にベッドで寝かされます。そして、しばらく経って起き上がったら、今度は「にいちゃん、ここ酒あんのか?」「酒もないところで休めるかいな」と荒々しく言い放ちます。あまりの豹変ぶりに、安先生は唖然とします。さらに数日後の診察のあと、安先生は、彼女が小学校の玄関先でうずくまっているのを発見します。安先生が声をかけると、彼女は「私のおうち、どこ?」「ママに会いたい。ママ…」と幼児言葉で泣くのでした。しゃべり方から何から全然違い、まるで別人です。1つ目の特徴は、心の中に何人かの別の自分がいることです。精神医学的には、人格部分と呼ばれます。これは、覚えていること(記憶)をはじめ、気の持ち方(感情)、考え方(思考)、振る舞い方(意欲)、場合によっては感じ方(知覚)などの精神機能が特徴づける自分らしさ(人格)です。それが意図せずに切り替わってしまうのです。なお、意図して何人かの別の「自分」(役)を使い分けている場合は、もちろん演技と呼ばれます。(2)記憶の空白がある-健忘翌日に安先生が、小学校の玄関での出来事を片岡さんに伝えると、彼女は「覚えてません」とまた弱々しく言うだけなのでした。2つ目の特徴は、記憶の空白があることです。精神医学的には、健忘と呼ばれます。これは、それぞれの人格部分との記憶がつながっていないからです。なお、健忘がなく、心のなかに別の自分がいると認識している場合は、二重自我と呼ばれます。また、その別の自分から声が聞こえてくると訴える場合は、幻聴と呼ばれます。これらは、統合失調症の診断が当てはまります。(3)小さい時に虐待されている―乳幼児期のトラウマ体験片岡さんは、安先生に「 父はアパートの管理人をしてて、母は早くに死にました。あたしが小学校に上がる前。父はお酒を飲むと、なんか食えるもんないんかと怒鳴るんです」「いつも取りに(万引きしに)行っていましたと語ります。その後に幼児の人格部分が出てきた時は「ああ、痛い痛い痛い。もうしません、ごめんなさい。許して、パパ」と泣きじゃくります。3つ目は、小さい時に虐待されていることです。精神医学的には、乳幼児期のトラウマ体験と呼ばれます。実際に、多重人格の患者の約90%に、乳幼児期からの繰り返す虐待が報告されています1)。なんで虐待されると多重人格になるの?-「ニューラルネットワーク分離発達説」安先生は、片岡さんに「こんなふうに記憶がなくなって、よう困っとるんとちゃう?」「あなたの中にはいくつかの部分があるんやと思う。多重人格。たとえば、あまりにもつらい目に遭うた時、子供はこれは自分の身に起きたことやないと感じる。今苦しんでるのは別の子やと。その子の中に痛い思いを引き受けてくれる人格が生まれるんやね。そうやって苦痛をやり過ごした子は、そのあとも複数の人格を生み出しながら、生きていくことになってしまうんや」と説明します。多重人格の原因は、明らかに乳幼児期のトラウマ体験なのですが、それでは実際にはどのようにして人格部分は「生まれる」のでしょうか?脳科学の視点から、多重人格のメカニズムは、同じく解離症に分類される憑依(憑依トランス症)のメカニズムを発展させて解き明かすことができます。そこで、まず憑依のメカニズムを理解する必要があります。この詳細については、関連記事2をご覧ください。憑依のメカニズムは、「ニューラルネットワーク分離作動説」という仮説を提唱して、解き明かしました。ただし、この仮説は、意識から精神機能や身体機能が分離して独自に作動してしまう病態のメカニズムを説明することができますが、作動するだけでなくさらに成長発達までもするメカニズムを説明することはできません。それではさらに、このメカニズムをどう説明すればいいでしょうか?ここで、多重人格の原因となるトラウマ体験の時期は成人期ではなく乳幼児期であることから、子供の脳の特徴に着目します。そして、3つの段階に分けて、多重人格が生まれるメカニズムを解き明かしてみましょう。(1)そもそも小さい子供の記憶はばらばらである幼児は1歳以降でどんどん言葉を覚えていきますが、言葉をつなぎ合わせて出来事(エピソード)を話すようになるのは4歳以降です。また、同じ本の読み聞かせを何度もねだり、同じごっこ遊び(エピソードの演技)を繰り返すのですが、これが少なくとも就学前の6歳まで続きます。つまり、幼児は、エピソード記憶をはじめ脳の機能が未発達であることで、これまでの出来事にしても本の内容にしてもごっこ遊びにしても、大人のようにつながりのある全体的なエピソードとして結び付けたり関連付けることはできず、ばらばらな断片のシーンとしてしか覚えられないのです。だから、読み聞かせもごっこ遊びも何度やっても飽きないのです。1つ目は、そもそも小さい子供の記憶はばらばらである、つまり大人と比べて乳幼児の精神機能はまだ完成(統合)していないことです。ちょうど、前回(2025年11月号)でご紹介した分離脳で脳梁でのネットワークがつながっていないのと同じように、幼児の脳は、エピソード記憶とこれに派生する感情、思考、意欲、場合によっては知覚のニューラルネットワークの複合体の一つひとつがまだ十分につながっておらず、その瞬間を反射的に生きており、意識はその瞬間でころころ変わっていると言えます。また、記憶だけでなく、感情、思考、自己意識などの精神機能もまだ統合されておらず、恐怖を恐怖として感じることができなかったり、体験を過去のこととして俯瞰して自己認識することができないのです。(2)小さい子供はフラッシュバックを現実として認識するその1で地震の揺れ(身体感覚のフラッシュバック)を感じ続ける男の子について説明しましたが、彼は小学生ながらこのフラッシュバックの世界をあたかも現実として認識してしまいそうな危うさがありました。裏を返せば、だからこそ、彼は地震ごっこ(再演遊び)をついやってしまっていたのでした。もしも彼がもっと小さい幼児だったら、そのフラッシュバックを完全に現実として認識していたでしょう。2つ目は、小さい子供はフラッシュバックを現実として認識してしまう、つまり精神機能が未発達であることから自己認識ができず、そのトラウマ体験の記憶(フラッシュバック)の世界が前面に出てしまうことです。これは、解離性フラッシュバックと呼ばれます。大人でも見られることはありますが、圧倒的に子供に多いことが考えられます。このような解離性フラッシュバックは、乳幼児がトラウマ体験を受けた時にPTSDの症状として出てくる場合以外に、もう1つ考えられます。それは、解離性健忘になる場合です。この場合、その体験を含んだエピソード記憶のニューラルネットワークがしばらくローカルスリープになります。この点は、大人と同じです。しかし、その後にそのローカルスリープが再活性化したら、大人のようにその記憶を思い出して心理的なショックを受けたり、ただフラッシュバックが出てくるわけではなく、この解離性フラッシュバックが出てくることが考えられます。そして、多重人格の多くは、主パーソナリティが子供の頃の記憶をあまり思い出せないことから、解離性同一症では、まず解離性健忘になってそのあとに解離性フラッシュバックが出ている後者のパターンであることが考えられます。(3)小さい子供はその解離性フラッシュバックの世界を生きる解離性フラッシュバックは意識の前面に出て占有していることから、この解離性フラッシュバックを引き起こすニューラルネットワークは、憑依を引き起こすニューラルネットワークと同じように分離していると考えることができます。この2つの違いは、憑依は宗教儀式(暗示)などによって一時的にしか出現しないのに対して、解離性フラッシュバックは持続して出現することができる点です。よって、解離性フラッシュバックを引き起こすニューラルネットワークは、その解離性フラッシュバックが出ている(ローカルスリープになっていない)時の新たな日常生活の体験の記憶のニューラルネットワークとはつながっていき、逆にその解離性フラッシュバックが出ていない(ローカルスリープになっている)時の体験の記憶のニューラルネットワークとはつながらずに、人格部分として独立して成長していくと仮定することができます。3つ目は、小さい子供はその解離性フラッシュバックの世界をそのまま生きてしまう、つまり解離性フラッシュバックの記憶のニューラルネットワークが人格部分の土台となり、統合されずに独立してしまい、勝手に成長発達してしまうことです。この記事では、これを「ニューラルネットワーク分離発達説」と名付けます。そして、それぞれの解離性フラッシュバックの出現の時間や頻度によって新たな体験の記憶に差が出てきます。それを考慮すると、かなり成長すれば酒飲みの片岡さんのように成人した人格部分になり、ほとんど成長しなければ幼児言葉を話していた片岡さんのように幼児のままの人格部分になるわけです。よくよく考えると、片岡さんの幼児の人格部分は、成長していないので、当時のトラウマ体験そのままの解離性フラッシュバックであるとも言い換えられます。一方で、成人期に受けたトラウマ体験のフラッシュバックは、大人の脳がすでに完成されていることから、解離性フラッシュバックになったとしてもそもそも短時間(数秒~数分)であり、さらに恐怖で圧倒されて動けないことがほとんどであるため、その時の新たな体験をする間もなく、人格部分として独立して成長していくことはないわけです。だからこそ、成人期に受けたトラウマ体験によってPTSDや記憶喪失にはなっても多重人格にはならないのです。実際の画像研究では、大人の多重人格において、トラウマ体験の記憶のない主人格とトラウマ体験の記憶のある人格部分のそれぞれの出現時に、中立的な脚本とトラウマ的な脚本をそれぞれ聞かせたところ、主人格の出現時には脚本の違いによって脳の血流パターンに違いは認められませんでした。また、中立的な脚本を聞かせた人格部分との違いも認められませんでした。ところが、トラウマ的な脚本を聞かせた人格部分の脳の血流パターンに限り、違いが認められました2)。このことからも、もちろん多重人格は本人が意図した演技なのではなく、主人格と人格部分のそれぞれ違う脳のニューラルネットワークが交代でローカルスリープになっており、ローカルスリープになっていない(起きている)方が反応していることがわかります。また、ローカルスリープの極端な例として、イルカや渡り鳥は、大脳半球を交互に眠らせることで、泳いだり飛びながら睡眠をとること(半球睡眠)ができます3)。これは、まさに分離脳と同じように、右脳と左脳のそれぞれの「人格部分」(ニューラルネットワーク)として分離しており、それらが交代制で独立して意思決定をして行動をしていることになります。つまり、イルカや渡り鳥は、多重人格の動物モデルと言えます。人間は、イルカや渡り鳥ほどローカルスリープを進化させてはいませんが、幼児期の重度ストレスは人間のローカルスリープを過剰発達させることができてしまうと言えます。なんで虐待されても多重人格にならないの?―ストレス脆弱性モデル先ほど、虐待されると多重人格になるメカニズムを解き明かしました。一方で、虐待されても多重人格にならない人もいます。その違いは何でしょうか?これは、ストレス脆弱性モデルを使って説明することができます。この理論を簡単に言うと、ストレスが大きければ大きいほど、そしてそのストレスに脳が弱ければ弱いほど発症するということです。実際に、このモデルは多くの精神障害に当てはまります。(1)ストレスが大きければ大きいとまず、ストレスの大きさとしては、明らかに虐待なのですが、さらにそれが繰り返されることも挙げられます。すると、先ほど説明した解離性フラッシュバックがいくつも生まれてしまうわけですが、同時にその回数分だけ脳にダメージを与えるため、それらの解離性フラッシュバックが成長発達とともに統合されにくくなり、結果的に人格部分として残ってしまうと説明することができます。逆に言えば、虐待が繰り返されていない場合はダメージが減るので、解離性フラッシュバックは成長発達とともにやがて統合されて人格部分が残らないことも想定できます。たとえば、虐待が1回だけの場合、解離性フラッシュバックが1回だけ出てきて、人格部分が1つだけ独自に成長して「二重人格」になることはあまりないということです。これは、人格部分が少ない比較的に軽症の症例のほうが統計学的に考えれば多いはずなのに、実際には人格部分の平均人数は8、9人と多く、2、3人の少数の症例はあまり見かけない現象を説明することができます。(2)脳が弱ければ弱いと次に、脳の脆弱性としては、明らかに乳幼児の脳なのですが、とくに脆弱な乳児が挙げられます。実際に、乳児(1歳から1歳半)の愛着タイプを評価するストレンジ・シチュエーション法において、虐待歴のある乳児は、親がいない状況でしばらくして親が戻ってきたら、顔を背けながら近づこうとする特徴(愛着タイプD)が観察されています4)。これは、虐待する親への接近行動と回避行動が同時に現れる奇妙な病態です。このメカニズムは、親に接近しようとするニューラルネットワークと親を回避しようとするニューラルネットワークがまだ交代できず、同時に働いていることが考えられます。ちょうど、「エクソシスト」で紹介した分離脳によるエイリアンハンド症候群に重なります。ただし、このような現象は、年齢が上がると目立たなくなる点で、やはりとくに未発達な脳を持つ乳児特有の一時的な現象と考えられます。そして、この現象からも、幼児よりも乳児の脳はさらに統合されていないことを説明することができます。なお、交代するメカニズムも、それぞれのニューラルネットワーク同士のせめぎ合いの発達から説明することができます。同じように交代する例としては、目の前に伸ばした人差し指2本をつなげると、ソーセージのように見えるのですが、この時にどちらかの指に交互にくっ付くようにも見える視覚現象(両眼視野闘争)が有名です。ちなみに、ストレンジ・シチュエーション法の残りの愛着タイプA、B、Cの3つの詳細については、関連記事3をご覧ください。逆に、成長発達した大人の脳は、乳幼児と比べて脆弱ではないことから、先ほどにも触れたように、成人期に受けたトラウマ体験では、PTSDや記憶喪失にはなっても多重人格にはならないことを説明することができます。また、前回までに紹介した憑依と同じように、脆弱性(ニューラルネットワークの分離のしやすさ)には個人差があることが考えられます。多くは、人格部分ができたとしても大人になって治っていき(統合されていき)、明らかな人格部分は出てこなくなることが考えられます。ただ、その代わりに、フラッシュバックが残って感情のコントロールが難しくなる病態(複雑性PTSD)や、些細なことで人が変わったように急に怒ったり泣いたりする病態(ボーダーラインパーソナリティ症)になることがあります。これらは、まるで「人が変わった」(人格部分が出てきている)ように見える点では、やはり多重人格との連続性があると言えます。単に、本人が「人が変わった」程度をどれくらい自覚できるかどうかの違いです。なお、多重人格、記憶喪失、憑依現象だけでなく、PTSD(単純性PTSD)、複雑性PTSD、ボーダーラインパーソナリティ症の診断基準にも解離症状が含まれており、これらはトラウマ体験(重度ストレス)を原因としている点では連続した病態(トラウマ・スペクトラム)であると言えそうです。脳科学からみる多重人格とは?-生まれるのではなく1つにならなかっただけ安先生が言ったように、従来の精神医学では、「その子の中に痛い思いを引き受けてくれる人格が生まれる」という多重人格のメカニズムの解釈がありました。これは、私たちの心に訴える文学的なセンスはあったのですが、残念ながら科学的な根拠はありませんでした。脳科学の視点から多重人格のメカニズムに迫ると、人格部分とは、もともと1つだった人格が部分に分かれたのではなく、もともとエピソード記憶のニューラルネットワークの1つ1つの部分が最終的に1つの大きなエピソード記憶のニューラルネットワーク(人格)につながらなかった(統合されなかった)、つまりこの記事で提唱する「ニューラルネットワーク分離発達説」として理解することができます。つまり、人格部分とは、急にぽんと生まれたのではなく、最終的に1つにならなかっただけだったのでした。そう考えると、多重人格はそれほど不思議な現象でもないように思えてきます。今回、多重人格はどうやってなるかを解き明かしました。それでは、人類の心の進化の歴史のなかで、多重人格はいつ生まれたでしょうか? 言い換えれば、多重人格はなぜ「ある」のでしょうか? 1) DSM-5-TR、p323、日本精神神経学会、医学書院、2023 2) 心の解離構造、p196:エリザベス・F・ハウエル、金剛出版、2020 3) <眠り>をめぐるミステリー、p188:櫻井武、NHK出版新書、2012 4) 乳幼児のこころp104、遠藤利彦ほか、有斐閣アルマ、2011 ■関連記事NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その2】地震ごっこは人類進化の産物だったの!? だから楽しむのがいいんだ!-プレイセラピー映画「エクソシスト」【その1】どうやって憑依するの?-「ニューラルネットワーク分離作動説」あなたには帰る家がある(後編)【なんで倦怠期は「ある」の?どうすればいいの?】スプリット【なぜ記憶がないの?なぜ別人格がいるの?どうすれば良いの?(解離性障害)】

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第296回 「子どもを医師にしますか?」2026(前編)“医師氷河期”到来の予感、「皆が医学部行こうとするのは不思議」と玉川徹氏

病院経営をテーマに取り上げた「羽鳥慎一モーニングショー」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。2025年の最終回ということで、日々の事件から離れて、最近改めて気になっていることを書いてみたいと思います。それは、「今、医師は、自分の子どもを医師にしたいと考えているのか」ということです。きっかけは12月3日に放送されたテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」です。この日はテーマの1つに病院経営の悪化が取り上げられていました。11月26日に厚労省が公表した医療経済実態調査の結果を紹介しながら、病院経営が危機的な状況に陥っていることを報じたのですが、コメンテーターの玉川 徹氏が、経営がとても厳しい状況にもかかわらず「医師の数は増えているんだけど、いまだに東大とか京大行くよりも医師になる方を選ぶんですよ、各進学校は。あれは、何なんですかね?」と疑問を投げ掛け、解説者として出演していた千葉大学病院次世代医療構想センター特任教授の吉村 健佑氏に対し、「僕はこれから人口も減っていくし、AIもどんどん導入されるなかで、今のように医師の地位が社会的な地位とか収入とかも含めて、ずっと高いまま続いていくのかなと(疑問に)思っているのに、何でみんな医学部行こうとするのか不思議。なんでしょうね?」と問い掛けたのです。「儲かると思っているのかなぁ?と思って」と玉川氏が畳み掛けると、吉村氏は「保険診療に対する信頼があるのかなと思っています。その中で専門的な技術を身に付けたい。とくに最近女子の学生さんの進学が多くて、資格を得て技術を得てご自身でやっていく力をつける1つの職業としての魅力はまだあるのかなと思います」と回答。続けて吉村氏が「私も実は東京大学理科二類を最初に入って辞めて医学部入り直したんです」と明かすと玉川氏がその理由を尋ね、吉村氏が「理系の学部で進学していた時の先のイメージが、貢献に対するやり方が見えなかった。医師の方がわかりやすくて、社会に対する貢献ができるんじゃないかと私は25年前に考えた」と答え、玉川氏は「皆がそうだったら素晴らしいね。皆がそうだったら直美なんかないよ」と発言、議論は大した深まりをみせず、中途半端な形で収束しました。テレビ番組なので議論の尻切れ感は仕方ないかもしれません。しかし、玉川氏の「いまだに東大とか京大行くよりも医師になる方を選ぶんですよ、各進学校は。あれは、何なんですかね?」という問い掛けは、なかなかに芯を突いたコメントだと感じました。来年医学部に入る若者が一人前になる2040年は“医師氷河期”医療機関、とくに病院の経営の苦境が伝えられ、かつ医療現場の過酷さや報酬の低さなどもあって、消化器外科医や心臓外科医の不足や、医師が初期研修後に一般的な専門科を経ずに直接美容医療の道へ進む“直美”問題などが報道されています。また、「第294回  改正医療法やっと成立、医療機関の集約化、統合・再編、病床削減さらに加速へ 『地域医療構想の見直し』8つのポイント」でも書いたように、人口減少を背景に、病院はこれから集約化、統合・再編が進み、各病院の診療科が減るとともに、ポスト(部長ポストなど)自体も減るでしょう。病院のポストが減るなら開業すればいいのかと言えば、それも得策とは言えません。人口減少はそのまま診療所の患者数減少につながるからです。高齢者の人口増も早晩頭打ちとなりますので、あと15~20年もしたらあらゆる診療科の患者(訪問診療ですら)は減っていくに違いありません。仮に都心部で開業でき(改正医療法では外来医師が多い地域で無床診療所の新規開設が規制されることになります)、熾烈な患者獲得競争を勝ち抜いたとしても、早晩、患者数減少という局面が待ち受けます。来年医学部に入ったとして、卒業するのは2030年前半、一人前の医師になる2040年頃(「新たな地域医療構想」の目標年でもあります)はそれこそ“医師氷河期”に突入すると予想されます。そうした状況を考えると、玉川氏の「みんな医学部行こうとするのは不思議」発言はまさに正論と言えます。今の高校教育にも残る医学部偏重、東大至上主義とはいえ、大学医学部の人気は依然高いままです。2025年度の国公立医学部一般選抜(前期)の志願倍率はおおよそ4倍強で、全学部平均(約3倍)よりかなり高い水準が続いています。 一方、私立医学部では「第292回 藤田医科大の学費800万円値下げから見えてくる、熾烈を極める大学医学部サバイバル戦」でも書いた学費の値下げや、奨学金拡充により「手の届く選択肢」として検討する受験生が増えています。なお、学費下げによってサラリーマンの子弟も比較的“手軽に”医学部受験ができるようになって、開業医など医師の子どもがなかなか入学できなくなっている、というまた別の問題もあるようです。こうした医学部人気の背景には、医学部受験の強さを相変わらず看板にしている進学校の存在があります。3年前の本連載「第93回 医学部進学実績トップ校の生徒が起こした事件で考えた教育現場の時代錯誤」でも取り上げた、愛知県の私立、東海高校がその代表ですが、その他、全国各地の名だたる中高一貫校が「医学部受験」を売りにしているのは、皆さんもご存じのとおりです。この「第93回」では、「今の高校生が医学部に行って、一人前の医師になる四半世紀後は、医師の仕事内容は大きく変わっている可能性があります。脳神経外科や心臓外科といった専門医の数は極力絞られ、総合診療医や家庭医といったジェネラリストが医師の主な職務となっているかもしれません。今回の事件で気になったのは、進学高校の教育現場における時代錯誤です。何十年も前の私の高校時代にあった医学部偏重、東大至上主義の構図が、今の高校教育にも厳然として残っていることはある意味驚きです」と書きましたが、3年経ってもその状況はまったく変わっていないわけです。進学校や予備校は、本当に受験生の将来を考えて教育をしているのでしょうか?2009年に医学雑誌に掲載された特集記事「子どもを医者にしますか?」そんなことを考えていたら、昔読んだある記事を思い出しました。今から17年前、まだ紙の雑誌だった日経メディカルが2009年1月号に掲載した「子どもを医者にしますか?」というタイトルの特集記事です。 「過重労働、訴訟の増加、医療費抑制など医師を取り巻く環境が悪化する中、『子どもは医師にしたくない』という医師が目立つようになった」として、当時の医師の本音をアンケートで調査するとともに、将来を予測しています。アンケートでは、今よりも医療機関の経営環境は良好だった当時でも、「子どもは医師にはなってほしくない」という医師は一定数いたようです。年明けの次回は今読んでもなかなかに興味深い、同記事の内容を紹介するとともに、今、「子どもを医者にすべきなのかどうか」について、改めて考えます。(この項続く)

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