サイト内検索|page:162

検索結果 合計:35100件 表示位置:3221 - 3240

3221.

線形回帰(重回帰)分析 その1【「実践的」臨床研究入門】第50回

まずは相関と回帰これまで、統計解析手法はアウトカム指標(目的変数)の型によって異なることを説明してきましたが、その内容を以下のように表にまとめました。アウトカム指標(目的変数)の型による統計解析手法の分類記述統計の際、カテゴリ変数はデータ数が20未満の場合は頻度の実数で、データ数が20以上の場合は割合で示します。連続変数の場合は、まずヒストグラムを作成し、そのデータの分布が正規分布に準じるか否かを確認します。正規分布に近似できる場合、平均値と標準偏差(Standard Deviation:SD)で示すか、または中央値(四分位範囲)で示します。正規分布に近似できない場合は、中央値(四分位範囲)で示すことが推奨されています(連載第46回参照)。生存時間の記述統計については、人年法を用いて生存時間曲線を描きます(連載第40回〜第43回参照)。また、2群の生存時間曲線の比較では、一般的にLogrank検定を使用します。2群比較ではカテゴリ変数(2値)の場合はΧ2検定(もしくはFisher検定)、連続変数の場合は(正規分布に準じていれば)t検定を用います。もしデータが歪んだ分布である場合、対数変換を行い、正規分布に近似させることを検討します(連載第48回参照)。今回からは、アウトカム指標が連続変数の場合の多変量解析(回帰モデル)手法のひとつである線形回帰(重回帰)について解説していきます。まずはその前段として、相関と回帰について説明します。まず、相関とは「2つの連続変数間の直線的な関係」を指します。一方の変数が他方の変数に影響を及ぼしており、一方の値が増加すると他方の値も増加、または減少する関係性です。このような 1対1に対応する2つの連続変数データ を観察する場合、両者の関連性を視覚的に表す最も良い方法は散布図です。散布図とは、2次元のグラフ上で x軸に一方のデータの値を、y軸に他方のデータの値をとり、それぞれの該当する場所に点をプロットしたグラフです。もし、2つの連続変数間に直線的な関係が見られた場合、次に考えることは「一方の値から他方の値を予測できるか」ということではないでしょうか。別の言い方をすると、「ある結果を表す変数(従属変数、または目的変数)」を「他の変数(独立変数、または説明変数)」によってどの程度説明できるかを考えることです。この手法を回帰と呼びます。散布図に基づき、最も適切な回帰直線を当てはめるための数学的な方法が最小二乗法です。最小二乗法は、実際のデータ点と予測値との誤差の二乗和を最小化することで、最適な回帰直線を求めます。データをプロットした散布図において、できるだけ多くのデータ点に「近い」直線を引こうとするイメージです。それでは、仮想データ・セットを用い、EZR(Eazy R)で散布図と回帰直線を描いてみましょう。仮想データ・セットをダウンロードする※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。はじめに。以下の手順で仮想データ・セットをEZRに取り込みます。「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」続いて「グラフと表」→「散布図」を選択し、下記のポップアップウィンドウのとおり、x変数は「age」をy変数は「diff_eGFR5」を指定、またOptionsでは「最小2乗直線」のチェックボックスにレ点を入れます。※「diff_eGFR5」は、われわれのResearch Question(RQ)のセカンダリO(アウトカム)に設定されている、ベースラインから5年後の糸球体濾過量(GFR)変化量「OK」をクリックすると、下記のような散布図と回帰直線が描けたでしょうか。回帰直線の傾きからは、「age」が増加すると「diff_eGFR5」が減少(eGFRの低下幅が大きくなる)する傾向、すなわち負の相関が示唆されます。今回の解説では、相関と回帰について基礎から説明し、EZRを用いて散布図と回帰直線を描画する手順を示しました。次回は、この基礎を踏まえて線形回帰(重回帰)分析について実践的に解説していきます。

3223.

映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その4)【実は双極性障害から進化したの!?(統合失調症の起源)】Part 1

今回のキーワード双極性障害遺伝率共通の遺伝因子ランク理論(社会的地位理論)前適応双極性障害起源説敏感さ(過敏性)創造性前回(後編・その3)、統合失調症が昔から世界中で100人に1人発症する謎、青年期に発症する謎、途上国や田舎で回復しやすい謎を、この記事で提唱する「集団統合仮説」から解き明かしました。しかし、まだ謎が残っています。それは…統合失調症は一体どうやって生まれたのでしょうか? ヒントは、双極性障害との謎の関係です。今回(後編・その4)は、前回にも取り上げた映画「ミスト」とドラマ「ザ・ミスト」を踏まえて、統合失調症と双極性障害の謎の関係から、「統合失調症は双極性障害から進化した」という仰天の仮説を立てます。そして、いよいよ統合失調症の起源に迫ってみましょう。統合失調症と双極性障害の謎の関係とは?まず、統合失調症と双極性障害の相違点と共通点をそれぞれ3つの項目に分けて、その謎の関係に迫ってみましょう。なお、双極性障害の詳細については、関連記事1をご覧ください。(1)疫学まず、疫学においてです。その相違点として、一番は繁殖成功率です。統合失調症は男性20%、女性50%でかなり低下しているのに対して、双極性障害は男性75%、女性85%で比較的に保たれています1)。一方の共通点として、遺伝率は、統合失調症も双極性障害もほぼ同じく約80%です。共通の遺伝因子は、双極性障害の発症因子全体の約40%を占めています2)。実際に、家族歴では、統合失調症と双極性障害は同じ家系に混在していることが多いです。ちなみに、うつ病の遺伝率は約40%で、ストレスとの関係の方が大きいことが指摘されています。発症率は、統合失調症も双極性障害もほぼ同じく約1%で、性差がない点も同じです。ちなみに、うつ病は、約10%程度と高く、男性よりも女性が2倍多いです。発症年齢は、統合失調症も双極性障害もほぼ同じく20歳台が多いです。ちなみに、うつ病の発症年齢は、ストレスとの関係から中高年も多く、幅広いです。つまり、疫学的に、実は双極性障害は、うつ病よりも統合失調症に断然近いことがわかります。(2)治療次に、治療においてです。その相違点として、統合失調症には抗精神病薬、双極性障害には気分安定薬を主に使います。一方の共通点として、統合失調症にも気分安定薬、双極性障害にも抗精神病薬を併用することが多いです。実際に、抗精神病薬に気分安定薬を追加することで増強効果が発揮されるため、統合失調症の治療にも有効です。また、昨今の抗精神病薬は、抗幻覚妄想作用だけでなく気分安定作用もあり、気分安定薬として代用できるため、双極性障害にも適応があります。ちなみに、うつ病への気分安定薬の効果は限定的です。逆に、双極性障害への抗うつ薬の効果は無効です。それどころか、抑うつ状態から躁状態に転じるリスクもあります。つまり、治療的にも、実は双極性障害は、うつ病よりも統合失調症に断然近いことがわかります。実際に、双極性障害は、うつ病と誤診されると治療薬が違うので問題になりますが、統合失調症と誤診されても治療薬がほぼ同じなのであまり問題にならないです。治療薬の詳細については、心療内科・精神科の薬(2024)をご覧ください。(3)経過最後に、経過においてです。その相違点として、統合失調症は陽性症状(敏感さ)と陰性症状(鈍感さ)を繰り返し、双極性障害は躁状態と抑うつ状態を繰り返します。症状の中身(内容)としてはもちろん違います。そして、統合失調症には残遺症状(後遺症)があるのに対して、双極性障害にはないです。一方の共通点として、統合失調症の陽性症状と双極性障害の躁状態、統合失調症の陰性症状と双極性障害の抑うつ状態はそれぞれ重なります。つまり、名称が違うだけで、実は統合失調症の経過(形式)は、双極性障害と同じく2つの相(エピソード)を繰り返す「双極性」(循環性)です。ちなみに、うつ病の経過は、再発する場合は反復性ではありますが、「双極性」(循環性)ではなく「単極性」です。つまり、経過的にも、実は双極性障害は、うつ病よりも統合失調症に断然近いことがわかります。統合失調症と双極性障害は共通点が多すぎて、もはや同じ病態の症候群で、ただ表面的な症状だけで別々に分類されているにすぎないとも言えそうです。実際の脳画像の研究においても、統合失調症と宗教体験は同じ脳領域が過活動になっていることをその1で触れましたが、さらに双極性障害もこれらと同じ脳領域が過活動になっていることがわかっています3)。また、双極性障害とうつ病は同じ気分障害に分類されていながら、意外にもこの2つの正体はまったく別物であることもわかります。次のページへ >>

3224.

映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その4)【実は双極性障害から進化したの!?(統合失調症の起源)】Part 2

統合失調症は双極性障害からどうやって生まれたの?統合失調症の起源は抽象的な思考が可能になった約10万年前であるとその2で説明しました。その後に人類がアフリカから大規模な拡散を始めたのは、約7万年前です。よくよく考えると、発症率をはじめ統合失調症の特徴は世界共通であることから、約7万年前にはすでに統合失調症は現在の形に「完成」されていたことになります。だとしたら、統合失調症は10万年前から7万年前の3万年間で進化したわけですが、単独で進化するには期間があまりにも短すぎます。一方で、先ほどの示した統合失調症と共通点の多い双極性障害の起源は、ランク理論(社会的地位理論)から、少なくとも人類が部族をつくるようになった約300万年前と推定できます。ランク理論の詳細については、関連記事2をご覧ください。以上を踏まえると、統合失調症の進化には双極性障害という土台(前適応)があった、つまり統合失調症は双極性障害から進化したという仮説を立てることができます。名付けて、統合失調症の「双極性障害起源説」です。それでは、統合失調症は双極性障害からどうやって生まれたのでしょうか? 次は、先ほどの経過の共通点と相違点から、大きく3つの段階で進化精神医学的に解き明かしてみましょう。なお、前適応の詳細については、関連記事3をご覧ください。(1)躁状態から敏感さが生まれたランク理論を踏まえると、約300万年前から人類は、躁状態によって「ボスザル」になり上がる種が現れていたでしょう。躁状態では、ハイテンションになり、興奮して怒りっぽくもなります。この易怒性は、躁状態の診断基準の1つです。そこから、被害的にもなりやすいことは容易に想像できます。これが、被害妄想の起源です。つまり、躁とは何かに敏感でもあるわけです。1つ目の段階は、躁状態から敏感さ(過敏性)が生まれたことです。わかりやすく言えば、過敏さは躁状態という「エンジン」によって生まれたということです。躁状態が、意欲だけでなく、思考や知覚、そして自我意識まで広がって活性化するイメージです。思考の過敏さは妄想、知覚の過敏さは幻覚です。ちょうど、ドラマ版のナタリーが動物と会話する状況が当てはまります。これは、精霊信仰(アニミズム)の起源でしょう。また、自我意識の過敏さは作為体験です。これは、自分を意識する感覚が過剰になると、自分ではない誰かが自分を意識している、つまり見られている感覚やコントロールされている感覚になることです。そして同時に、ないものをあるかのように感じて想像する能力でもあります。これが、いわゆる霊感(超越的な存在の実感)の起源です。ちょうど、ドラマ版で登場人物たちが「あの霧は私のことを知っている」と言い出し、霧の中で操られるシーンに重なります。もちろん、これはドラマの設定上の霧の仕業という演出ですが、あたかも作為体験のように描かれている点が興味深いです。なお、統合失調症の敏感さやそのメカニズムの詳細については、関連記事4、関連記事5をご覧ください。実際の臨床では、躁状態(双極性障害)による興奮と幻覚妄想状態(統合失調症)による興奮は、区別できないことが多いです。これらがそれぞれ極端になった病態は同じく緊張病と呼ばれます。また、統合失調症と双極性障害が合併した病態として、統合失調感情障害もあります。一方、幻覚妄想状態が一時的にだけ出てくる病態として、急性一過性精神病性障害があります。また、幻覚がなく妄想だけが出てくる妄想症という病態もあります。そして、明らかな幻覚や妄想がなく、もともと霊感が強いだけの統合失調型パーソナリティ障害という性格特性もあります。これらは、神のお告げを繰り返し聞くこと(幻聴)がないため、それができるリーダー(統合失調症)には負けるでしょう。そして、これらの病態は、統合失調症ほど「集団統合機能」として完成されていないからこそ、統合失調症のリーダーとの対立を引き起こさず、そのリーダーのフォロワーとしてサポート的な「集団統合機能」を発揮したでしょう。これらすべての病態を合わせて、統合失調症スペクトラム障害と呼んでいます。なお、統合失調症にまで発症していなくても、統合失調症スペクトラム障害の人がリーダーになる方法が、実はありました。それは、外的な影響(ストレス因子)によって、一時的に幻覚妄想状態になること、いわゆるトランスを繰り返すことです。たとえば、古くから多くのシャーマンがわざわざ幻覚作用のある毒キノコを食べて幻覚状態になっていたのは、このためです。また、夜通し同じお経(歌)を唱え続けたり、同じ仕草や振り付け(ダンス)を繰り返すのも、このためです。この時、疲れ果てて身体的なストレスから幻覚状態(せん妄)を引き起こしていました。これらは、原始の時代に、幻覚状態(統合失調症)になりきれない場合の「裏技」として発明された行動様式と解釈することができます。さらに、リーダーだけでなく、フォロワーも一緒に毒キノコを食べたり、一緒にお経(歌)や振り付け(ダンス)をすることで同調効果が高まり、集団がよりまとまったでしょう。(2)抑うつ状態から鈍感さが生まれた躁状態の「エンジン」は、アクセル全開で過敏性を生み出したわけですが、循環性であるため、一定期間で抑うつ状態というブレーキがかかります。つまり、敏感の真逆の鈍感にもなります。2つ目の段階は、抑うつ状態から鈍感さが生まれたことです。鈍感さとは、陰性症状として、感情鈍麻、無為自閉、認知機能障害などが挙げられます。これらは、抑うつ状態の抑うつ気分、興味・喜びの減退、思考制止に似ています。(3)敏感さが止められない状況で残遺症状が生まれた双極性障害に残遺症状がないことから、もともと統合失調症も残遺症状がなかったでしょう。しかし、躁状態の「エンジン」から生まれた敏感さは、とくに部族の危機が解決せずにリーダーシップを続ける必要がある状況では、ブレーキがかかりにくくなったでしょう。つまり、鈍感になるという休息ができない状況です。その代償が、脳の過活動による脳細胞の消耗です。簡単に言えば、「脳細胞の過労死」です。3つ目の段階は、敏感さが止められない状況(社会環境によるストレス)で残遺症状(後遺症)が生まれたことです。逆に、そのストレスがなければ、スムーズに陰性症状(鈍感さ)の時期を迎え、残遺症状は目立たないでしょう。これは、回復率への影響因子としてすでにその3で説明しました。実際に、かつてのアフリカのヌアー族という未開の部族社会についての調査研究によると、当時にやってきたヨーロッパ人やアラブ人たちの脅威によって、部族の団結を精力的に促す預言者(シャーマン)が出てきた一方、奇行が目立つ預言者(シャーマン)も出てきたとの報告がされています4,5)。まさに、この部族の危機は、その3で説明した先進国や都市部の生活環境のストレスに重なります。つまり、統合失調症の残遺症状については、うつ病と同じく社会環境によるストレスの要素が大きいと言えます。そして、この残遺症状が繁殖成功率を下げる要因にもなっているでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

3225.

映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その4)【実は双極性障害から進化したの!?(統合失調症の起源)】Part 3

統合失調症の起源は創造性じゃなかったの?統合失調症の「双極性障害起源説」について説明してきました。従来から、統合失調症の起源仮説として、創造性が挙げられています。統合失調症は、人類が創造性という能力を進化させた時の副産物であるという仮説です。確かに、創造性と幻覚妄想は、紙一重です。創造性とは、まさにないものあるかのように感じて表現することであり、作為体験に通じます。しかし、創造性は起源ではないと考えられます。その理由は3つあります。1つ目は、創造性が生まれたのは、早くても約5万年前であり、7万年前の出アフリカよりもあとです。もしも創造性が起源だとしたら、統合失調症の発症率などに地域差が生まれることになってしまい、世界共通であることを説明できなくなるからです。2つ目は、創造性が起源だとすると、その3で説明した発症率、好発年齢、回復率の謎のどれも説明できなくなるからです。3つ目は、創造性が「集団統合機能」のように生存や生殖の適応度を直接高めることがなく、進化の選択圧(淘汰圧)としては弱いからです。つまり、創造性もまた「集団統合機能」の副産物と言えるでしょう。創造性の起源の詳細については、関連記事6をご覧ください。ボスザルからリーダーに約20万年前に人類が言葉を話すようになり、約10万年前に抽象的な思考(概念化)ができるようになってから、敏感さ(過敏性)を得た人は、その超越的な存在の実感を神と呼ぶようになったでしょう。しかも、もともと躁状態であったことから、確信して断定的に言ったでしょう。こうして、双極性障害のボスザルになる機能は、統合失調症のリーダーになる機能に拡張されていったのです。これが、その2で説明した「集団統合仮説」です。統合失調症と同じく双極性障害も発症率が1%であることから、おそらく100人の部族には最終的に双極性障害と統合失調症が1人ずついたことになります。おそらく、生活環境(社会環境)が安定している時はハイテンションの双極性障害がそのままボスとなり、逆に生活環境が不安定な時はカリスマ的な統合失調症がリーダーに台頭するという役割分担をしていたのかもしれません。現在の調査研究でも、感染症が蔓延して生活環境が不安定な亜熱帯の地域ほど、宗教の数が増えていくことがわかっています3,6)。そのような地域の人々は、まさに映画版のカーモディさんやドラマ版のナタリーのような教祖(統合失調症)にすがってしまうのでしょう。実際に、その時代の社会情勢が不安定な時にこそ、カルトを含む宗教が盛り上がるのは、日本も含め歴史から学ぶことができます。だからこそアフリカのサバンナからグレートジャーニーへよくよく考えると、約20万年前から私たち現生人類(ホモサピエンス)の脳は構造的にも遺伝的にも大きく変わっていないです。この点を踏まえると、人類の概念化の能力や一部の人(統合失調症)の霊感の能力(超越的な存在の実感)は、約20万年前の時点ですでに潜在的に備わっていたと考えられます。それらが、ようやく約10万年前になって言葉によって表現され共有され、顕在化したのでしょう。つまり、10万年前から7万年前(出アフリカ)の3万年間は、統合失調症が進化した期間ではなく、すでに進化していた統合失調症の歴代のリーダーたちが「集団統合機能」を言葉(伝承)によって文化的に発展させる、つまり原始宗教を確立する期間であったのでしょう。そして、この原始宗教が約7万年前にようやく確立したからこそ、その時点でアフリカからの大規模な拡散、つまりグレートジャーニー(大陸大移動)が始まったのでしょう。かつてのアフリカのサバンナのボスザルは、「約束の地」(神が約束した新天地)へと導くリーダーになっていった…統合失調症の起源に根気強く迫っていくなか、そんな人類史の壮大な歴史にまで思いを馳せてしまいます。参考記事なお、さらに20万年前よりも以前に遡った概念化の心理機能とは、そもそも目の前にないものを存在として認識する心理機能(象徴機能)が考えられます。この詳細については、お化けの起源として、関連記事7をご覧ください。確かに、神とお化けは同じく、姿がよくわからないし、何かされそう…実は神はもともとお化けだった…!?1)「進化精神病理学」p.195、p.214:マルコ・デル・ジュディーチェ:福村出版、20232)「標準精神医学 第8版」p.306、p.329:医学書院、20213)「宗教の起源」p.246:ロビン・ダンバー、白揚社、20234)「ヌアー族」pp.323-324:エヴァンズ・プリチャード、平凡社、20235)「ヌアー族の宗教 下」p.231:エヴァンズ・プリチャード、平凡社、19956)「友だちの数は何人? ダンバー数とつながりの進化心理学」P127:ロビン・ダンバー、インターシフト、2011<< 前のページへ■関連記事映画「心のままに」(その1)【どうハイテンションになるの?そのあとは?(双極性障害)】Part 1映画「心のままに」(その1)【どうハイテンションになるの?そのあとは?(双極性障害)】Part 3NHK「おかあさんと一緒」(前編)【歌うと話しやすくなるの?(発声学習)】Part 1絵画編【ムンクはなぜ叫んでいるの?】ビューティフルマインド【統合失調症】ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 2絵本「ねないこだれだ」【なんでお化けは怖いの?なんで親は子供にお化けが来るぞと言うの?(お化けの起源)】Part 1

3226.

婚活の「希望条件」はキャリアプランも踏まえて設定を【アラサー女医の婚活カルテ】第5回

アラサー内科医のこん野かつ美です☆前回は、結婚相談所(以下、相談所)で婚活を始める際に重要となる、プロフィール写真や自己PR文について書きました。今回も引き続き、婚活の事前準備について私の経験をご紹介したいと思います。「居住地」問題に直面地方在住者には高いハードルが…婚活では、当然ながら「結婚相手に希望する条件」を明確にしなければなりません。年齢、居住地、年収、職業、学歴、容姿、身長……。いろいろな項目がありますが、すべてが自分の理想通りというお相手はそうそういないので、優先順位を付ける必要があります。医師、とくに大学医局に所属している医師にとって、障壁となりやすいのが「居住地」の問題です。居住地の離れたお相手と結婚した場合、別居婚を許容するのでない限り、転居を考えなくてはなりません。医師免許さえあれば、全国どこでも仕事は見つかるでしょうが、自分の所属する医局の関連病院がない地域だと、退局の決断を迫られることになります。将来のキャリア設計に大きく関わることです。大手の連盟(「連盟」については第3回を参照)である「TMS」の発表データ1)によれば、会員の約4割が関東在住(6万4,845名中2万5,698名、2023年11月時点)だそうです。もう1つの大手である「IBJ」では、首都圏在住者の割合はもっと高いと聞きます。私のような地方在住の医師にとって、医局でのキャリアを継続しながら相談所婚活で結婚するというのは、それだけハードルが高いということです(結婚のために退局するというのも、それはそれで1つの選択肢だとは思いますが……)。また、たとえ婚活時点では居住地が同じ県内でも、全国転勤があるお相手だと、ゆくゆくは同じ問題に直面することになります。「居住地」問題、私はこう向き合った「居住地」の問題、私はこんなふうに向き合いました。私の場合、せっかく積み上げてきた医局でのキャリアを捨てたくなかったので、「将来同じ県内に住むことができる」というのは、譲れない条件でした。また、子育てのことを考えると、必要なときには実家の親にサポートしてもらえるよう、私の地元に近い場所に住みたいという理由もありました。そこで、男性からお見合いを申し込まれた場合は、担当カウンセラーを通じてあらかじめ居住地の条件を伝え、お相手が了承してくれた場合のみ、お見合いをお受けするようにしました。私からお見合いを申し込む場合も、担当カウンセラーを通じて、全国転勤のある方かどうかを事前に確認するようにしました。条件には優先順位を付けて居住地以外にも、私がこだわった条件がいくつかありました。本連載の第1回でも触れましたが、私はお相手を同業者(医師)に限定せずに活動しました。しかし一方で、バックグラウンドがあまりにも自分とかけ離れたお相手だと共同生活が成り立たないと考えたため、「大卒以上」の学歴と「500万~600万円以上」の年収を最低限の条件として、フィルターをかけました。また、婚活を始めた大きな理由の1つが「子どもを持ちたかったため」だったので、将来の生活設計を考えて、年齢は「自分の年齢±5歳まで」としました。一方、これらの条件を設定した分、容姿や身長といった私にとって優先度の低い条件には、あまりこだわりませんでした。年収や職業の開示は「身バレ」リスクも要考慮女性医師が、プロフィールページで自身の年収や職業を開示するかどうかは、悩みどころです(私の利用していた連盟は、なぜか女性は年収を開示しなくてもよいシステムでした)。私の担当カウンセラーは、「女性は年収を公表しないほうが婚活しやすい」という意見でした。その理由は、「男性は、年収が自分よりも高い女性を敬遠しがちだから」だとか……。学歴についても同様だそうです。共働き世帯の多い令和の時代に、ちょっと前時代的ですよね(汗)。前述のように、私は自分より極端に収入が低い男性を避けたかったため、カウンセラーの意見を聞いて、むしろ積極的に年収を開示することにしました。一方、職業については「医療系の専門職」という表現でぼかし、プロフィールページでは姓・名ともに匿名にしました(私の利用していた連盟では、匿名設定の場合でも、お見合いが成立した段階でお互いの姓が開示されるシステムでした)。医師はインターネット上に顔写真や氏名を公開する機会が多く、「(名字) 医師」で検索するだけで、身元がわかってしまう場合があります。不特定多数への「身バレ」のリスクを小さくするための、私なりの自衛策でした。余談ですが、職業をぼかして書いていたため、非医療職の男性とお見合いで会うなり「看護師さんですか?」と(食い気味に)尋ねられたことが何度かありました(白衣の天使に憧れをお持ちだったのかもしれません)。「いえ、医師です」と答えると、「じゃあ、僕より頭が良いのですね……」と、何だかちょっと引かれてしまい、(担当カウンセラーが言っていたのは、このことかぁ~)と思いました。それ以来、お見合いが成立したお相手には、前述の居住地の条件と合わせて、私が医師であることも事前に伝えてもらうことにしました。いかがでしたか?お相手への希望条件設定に当たり、地方在住医師ならではの苦労した点をご紹介しました。次回は、お見合いに臨んだ際の経験をお伝えします。お楽しみに。参考1)会員プロフィール/TMS

3227.

ワイン摂取量と尿中酒石酸・心血管リスクの関係/Eur Heart J

 適度なワイン摂取は、心血管疾患(CVD)の発症リスクを低下させると報告されているが、ワイン摂取量は自己申告に基づくものであり、正確な評価は難しい。そこで、スペイン・バルセロナ大学のInes Dominguez-Lopez氏らの研究グループは、ワイン摂取量の指標としての尿中酒石酸濃度の有用性を検討し、また尿中酒石酸濃度とCVDイベント発生リスクとの関係を検討した。その結果、尿中酒石酸濃度とCVDイベント発生リスクには、有意な関係が認められ、ワイン摂取量よりも尿中酒石酸濃度が有用な指標となる可能性が示された。本研究結果は、European Heart Journal誌オンライン版2024年12月18日号で報告された。 本研究は、心血管リスクの高い集団を対照として、地中海食とCVDイベントとの関連を検討した無作為化比較試験「PREDIMED試験」1)のデータを用いて実施した。対象は、PREDIMED試験の対象となった7,447例のうち、試験期間中にCVDイベント(心不全、心筋梗塞、脳卒中、心血管死)が発生した685例と、発生していない547例であった。自己申告によるワイン摂取量、ベースライン時および1年後の尿中酒石酸濃度を用いて、CVDリスクとの関係を検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象の平均年齢は68歳で、女性は657例(53.3%)であった。・ワイン摂取量と尿中酒石酸濃度には正の相関があった(r=0.46、95%信頼区間[CI]:0.41~0.50)。・ベースライン時の尿中酒石酸濃度が3~12μg/mL、12~35μg/mLの集団ではCVDイベント発生リスクが低かった。尿中酒石酸濃度別のCVDイベントのハザード比(HR)、95%CI、p値は以下のとおりであった。 <1μg/mL(ワイングラス1杯/月未満に相当):1(対照) 1~3μg/mL(同1~3杯/月):0.89、0.56~1.42、p=0.637 3~12μg/mL(同3~12杯/月):0.62、0.38~1.00、p=0.050 12~35μg/mL(同12~35杯/月):0.50、0.27~0.95、p=0.035 >35μg/mL(同1.25杯/日超):0.89、0.48~1.66、p=0.723・CVDイベント別の解析では、尿中酒石酸濃度の増加に伴って心筋梗塞のリスクが低下した(尿中酒石酸濃度1SD増加当たりのHR:0.70、95%CI:0.50~0.97)。・ワイン摂取量別の解析では、CVDイベント発生リスクの低下はみられなかった。 本研究結果について、著者らは「少量~中等量のワイン摂取量に相当する尿中酒石酸濃度は、CVDイベント発生リスクの低下に関連した。尿中酒石酸濃度がワイン摂取量の客観的なバイオマーカーとなり、CVDイベント発生リスクの評価に有用である可能性が示された」とまとめた。

3228.

急性呼吸不全、高流量経鼻酸素vs.非侵襲的人工換気/JAMA

 急性呼吸不全患者への呼吸支持療法として、高流量経鼻酸素療法(HFNO)は非侵襲的人工換気(NIV)に対して非劣性なのか。ブラジル・Hcor Research InstituteのAlexandre Biasi CavalcantiらRENOVATE Investigators and the BRICNet Authorsは、急性呼吸不全患者を原因で5群に層別化して、無作為化非劣性検証試験「RENOVATE試験」を行い、4群(免疫不全の低酸素血症、呼吸性アシドーシスを来したCOPD増悪、急性心原性肺水腫[ACPE]、低酸素血症を伴うCOVID-19)について非劣性が示されたことを報告した。ただし、サンプルサイズや感度分析の観点から結果は限定的であるとしている。急性呼吸不全患者の呼吸支持療法として、HFNOとNIVはいずれも一般的に用いられている。JAMA誌オンライン版2024年12月10日号掲載の報告。ブラジルの33病院で実施、5群で7日以内の気管内挿管または死亡を評価 試験は2019年11月~2023年11月にブラジルの33病院で行われ、急性呼吸不全を呈し入院した18歳以上の患者を5群に層別化し、7日時点の気管内挿管または死亡の発生率について、HFNOのNIVに対する非劣性を検証した。5群の内訳は、(1)非免疫不全の低酸素血症群、(2)免疫不全の低酸素血症群、(3)呼吸性アシドーシスを来したCOPD増悪群、(4)ACPE群、(5)低酸素血症を伴うCOVID-19群(2023年6月26日に試験プロトコールに追加)であった。最終フォローアップは2024年4月26日。 主要アウトカムは、7日以内の気管内挿管または死亡で、患者群間の動的利用(dynamic borrowing)法を用いた階層ベイズモデルで評価した。非劣性は、オッズ比(OR)が1.55未満となる事後確率(NPP)が0.992以上と定義された。低酸素血症を伴うCOVID-19群でHFNOの非劣性を検証 1,800例が登録・無作為化され、1,766例(平均年齢64[SD 17]歳、女性707例[40%])が試験を完了した(HFNO群883例、NIV群883例)。 主要アウトカムの発生率は、HFNO群39%(344/883例)、NIV群38%(336/883例)であった。 非免疫不全の低酸素血症群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群57.1%(16/28例)、NIV群36.4%(8/22例)であった。同患者の登録は無益性により途中で中止され、最終ORは1.07(95%信用区間[CrI]:0.81~1.39)、非劣性のNPPは0.989であった。 免疫不全の低酸素血症群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群32.5%(81/249例)、NIV群33.1%(78/236例)であった(OR:1.02[95%CrI:0.81~1.26]、NPP:0.999)。 ACPE群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群10.3%(14/136例)、NIV群21.3%(29/136例)であった(OR:0.97[95%CrI:0.73~1.23]、NPP:0.997)。 低酸素血症を伴うCOVID-19群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群51.3%(223/435例)、NIV群47.0%(210/447例)であった(OR:1.13[95%CrI:0.94~1.38]、NPP:0.997)。 呼吸性アシドーシスを来したCOPD増悪群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群28.6%(10/35例)、NIV群26.2%(11/42例)であった(OR:1.05[95%CrI:0.79~1.36]、NPP:0.992)。 しかしながら、5群にわたる動的利用法を用いない事後解析では、呼吸性アシドーシスを来したCOPD増悪群、免疫不全の低酸素血症群、ACPE群でいくつかの質的に異なる結果が示された。著者は、「これら患者群についてはさらなる試験が必要」としている。 重篤な有害事象の発現率は、HFNO群(9.4%)とNIV群(9.9%)で同程度であった。

3229.

体脂肪率が片頭痛の重症度と関連、とくに女性で顕著

 片頭痛は、悪心、光恐怖症、音恐怖症を頻繁に伴う反復性頭痛を特徴する疾患であり、その有病理は非常に高く、社会経済的負担の増大と関連している。近年、一般人口における肥満の割合は増加しているが、体脂肪率と重度の頭痛や片頭痛の発症率との関連は、あまり研究されていなかった。中国・重慶医科大学のRongjiang Xu氏らは、この課題を明らかにするため、体脂肪率と重度の頭痛または片頭痛の発生率との関連を調査した。Cureus誌2024年10月26日号の報告。 対象は、1999〜2004年の米国国民健康栄養調査(NHANES)より抽出した5,060例。性別、貧困所得比(PIR)、学歴、喫煙状況、中程度の身体活動、高血圧で調整した後、制限付き3次スプライン(RCS)曲線およびロジスティック回帰を用いて、体脂肪率と重度の頭痛または片頭痛の発生率との関連を調査した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者のうち、重度の頭痛または片頭痛が認められた患者は1,289例(25.5%)。・重度の頭痛または片頭痛を有する患者は、そうでない患者と比較し、女性の割合が高く、学歴、世帯収入、喫煙、アルコール摂取、糖尿病、高血圧が低い傾向であった。・とくに女性では、モデルにおいて体脂肪率と重度の頭痛または片頭痛との間に有意な関連が認められたが、男性では認められなかった。・体脂肪率の四分位を用いた多変量ロジスティック回帰分析でも、同様の結果であった。 著者らは「関連変数で調整した後、体脂肪率と重度の頭痛または片頭痛との間に正の相関が認められた。この関連は、とくに女性で強かった」としたうえで「肥満と片頭痛との関連は複雑であり、体脂肪率が片頭痛の悪化に及ぼす影響を明らかにするためにも、さらなる研究が求められることが浮き彫りとなった」とまとめている。

3230.

医師の腺腫検出率改善が大腸がんリスク低下と関連/JAMA

 大腸がん検診プログラムで大腸内視鏡検査を受ける参加者において、医師の腺腫検出率(ADR)の改善が大腸がんリスク低下と統計学的に有意に関連することが示された。ただし関連が認められたのは、医師の改善前のADRが26%未満であった場合のみであった。ポーランド・Maria Sklodowska-Curie National Research Institute of OncologyのNastazja D. Pilonis氏らが、大腸がん検診プログラムのデータを用いた観察研究の結果を報告した。ADRの改善が大腸がん発生率の低下と関連しているかどうかは明らかになっていなかった。JAMA誌オンライン版2024年12月16日号掲載の報告。年30件以上大腸内視鏡を実施している医師の検査を受けた参加者について解析 ポーランドでは2000年以降、ポーランド在住の50~66歳または大腸がんの近親者がいる40~49歳のすべての人を対象に、大腸内視鏡検査による大腸がん検診プログラム(PCSP)が実施されている。 研究グループは、PCSPにて2000年10月1日~2017年12月31日に大腸内視鏡検査を受けたすべての人を、スクリーニング大腸内視鏡検査日から死亡または追跡期間終了時(2022年12月31日)まで追跡し、PCSPデータベースおよびポーランドのがん登録より大腸がんの診断および死亡に関するデータを取得した。 また、PCSPにて2000~2017年に大腸内視鏡検査を実施した医師で、年30件以上の内視鏡検査を実施した医師を対象にADRを算出した(各医師について暦年ごとに、腺腫またはがんを検出した大腸内視鏡検査数÷大腸内視鏡検査の総数で算出)。 主要評価項目は、ADRの改善と大腸内視鏡後の大腸がん発生率との関連であった。Joinpoint回帰分析を用い、大腸内視鏡検査後の大腸がん発生率を、ADRが改善した医師と改善しなかった医師で比較した。ADRは、データセットの六分位に基づき6つのカテゴリー(0~13%、>13~18%、>18~22%、>22~26%、>26~31%、>31~63%)に分類し、少なくとも1段階改善または最高位にとどまった場合をADR改善と定義した。検査後大腸がん発生率の変化が示されたADRの変曲点は26% 年30件以上の内視鏡検査を実施した医師は789人、それら医師の内視鏡検査を受け適格基準(最初のスクリーニングで大腸がんと診断されていない、など)を満たした参加者48万5,615人(平均年齢57[SD 5.41]歳、女性が59.6%)が解析対象となった。ベースラインの医師のADRは中央値21.8%(四分位範囲:15.9~28.2)、最高値は63.0%であった。 追跡期間中央値10.2年において、大腸内視鏡検査後の大腸がんの診断は1,873例、大腸がん関連死亡は474例に発生した。 Joinpoint回帰分析の結果、大腸がん発生率の変化が示されたADRのjoinpoint(変曲点)は26%であった。ADRが26%の医師の患者の、大腸内視鏡検査後の大腸がん発生率は27.1(95%信頼区間[CI]:20.6~33.7)/10万人年。 ADRがベースラインでは26%未満で追跡期間中に改善が認められた医師の患者では、大腸内視鏡検査後の大腸がん発生率は31.8(95%CI:29.5~34.3)/10万人年であったのに対し、改善しなかった医師の患者では40.7(37.8~43.8)/10万人年で有意差が認められた(差:8.9/10万人年、95%CI:5.06~12.74、p<0.001)。 一方、ベースラインのADRが>26%の場合の大腸がん発生率は、追跡期間中に改善が認められた医師の患者で23.4(95%CI:18.4~29.8)/10万人年、改善がみられなかった医師の患者で22.5(18.3~27.6)/10万人年で有意差はみられなかった(差:0.9/10万人年、95%CI:-6.46~8.26、p=0.80)。

3231.

不規則な睡眠は肥満に関連する肝疾患の特徴?

 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、夜中の頻回な覚醒や、入眠後の覚醒時間の延長など、睡眠の断片化に関連していることが、新たな研究で明らかになった。バーゼル大学消化器・肝疾患センター(スイス)のSofia Schaeffer氏らによるこの研究の詳細は、「Frontiers in Network Physiology」に12月4日掲載された。Schaeffer氏は、「MASLD患者は、頻回な覚醒や覚醒時間の延長により、夜間の睡眠が著しく断片化していることが明らかになった」と話している。 MASLDは、肝臓に脂肪が過剰に蓄積する病態をいう。通常は、肥満や2型糖尿病と関連して生じ、肝臓に炎症や瘢痕化をもたらし、重症化すると肝不全に至る可能性がある。MASLDの世界的な有病率は25%程度と推定されている。マウスモデルを用いた過去の研究では、概日リズムの乱れが肝臓を含む複数の臓器の代謝に影響を与え、MASLDの発症に関与する可能性が示唆されている。また、睡眠に関する質問票を用いた研究では、MASLD患者における睡眠覚醒リズムの乱れも確認されている。 今回の研究でSchaeffer氏らは、手首に装着するタイプの加速度センサー(アクチグラフ)により、24時間連続で4週間にわたって記録された活動と休息に関する客観的なデータを分析して、MASLD患者と健常者の睡眠パターンを比較した。対象は、生検でMASLDが確認された35人(年齢中央値58歳)と健康な対照16人(同61歳)だった。睡眠リズムを整えるために、2週目に標準化された睡眠衛生教育セッションが1回実施された。 その結果、MASLD群は対照群に比べて、一晩当たりの覚醒回数が多く(8.5回対5.5回、P=0.0036)、入眠後の覚醒時間が長く(45.4分対21.3分、P=0.0004)、睡眠効率が低い(86.5%対92.8%)ことが明らかになった。客観的な睡眠時間に差は認められなかったが、MASLD群の自己報告による睡眠時間は対照群よりも短く(6時間対6時間45分、P=0.01)、睡眠潜時が長く、睡眠の質が低下していることが示唆された。標準化された睡眠衛生教育セッション後も、これらの睡眠パラメーターに変化は認められなかった。このほか、睡眠障害が心理的ストレスと関連していることを報告したのは、対照群ではわずか6%程度であったのに対して、MASLD群では32%に達していた。 Schaeffer氏は、MASLD患者の睡眠の質が低下する理由について、「根本的なメカニズムには、遺伝、環境要因、および免疫反応の活性化が関与していると考えられるが、最終的には肥満とメタボリックシンドロームが原因となっている」とジャーナルの発行元であるFrontiers社のニュースリリースで述べている。 また、論文の上席著者であるバーゼル大学消化器・肝疾患センターのChristine Bernsmeier氏は、「今後の研究では、MASLD患者の睡眠覚醒リズムを改善するために、継続的な睡眠カウンセリングセッションや光療法などの介入を他のライフスタイルの変化と組み合わせて検討する必要がある」と話している。

3232.

難治性進行膀胱がん、新たな治療法に期待

 第一選択療法が奏効しない難治性の進行膀胱がん患者に希望をもたらす、新たな治療法に関する研究結果が報告された。Cretostimogene grenadenorepvec(以下、cretostimogene)と呼ばれる新薬による治療で、標準治療のBCG療法に反応を示さなかった筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)患者の4分の3が完全寛解を達成したことが確認された。米メイヨー・クリニック総合がんセンターのMark Tyson氏らによるこの研究結果は、泌尿器腫瘍学会年次総会(SUO 2024、12月4〜6日、米ダラス)で発表された。Tyson氏は、「これらの研究結果は、膀胱がん患者の大きなアンメットニーズに応えるものであり、患者の生活の質(QOL)を向上させる可能性がある」と話している。 米国がん協会(ACS)によると、米国では毎年8万3,000人以上が新たに膀胱がんと診断され、このがんに関連して1万7,000人近くが死亡している。膀胱がんは高齢者に多く、女性よりも男性の方がリスクが高い。 膀胱がんでは、BCGワクチンを膀胱内に注入する治療法(膀胱内BCG注入療法)が標準治療とされている。BCGワクチンは、1921年に結核予防を目的に開発されたが、膀胱に注入することで免疫反応を引き起こし、がん細胞を攻撃してその増殖や再発を抑制する効果を期待できることから、膀胱がんの治療にも用いられている。しかし、全ての患者がBCG療法に反応するわけではないと研究グループは説明する。 今回の研究でTyson氏らは、BCG療法が奏効しなかった110人のNMIBC患者を対象に、cretostimogeneによる治療の安全性と有効性を検討した。Cretostimogeneは、腫瘍溶解性ウイルス療法の一種で、がん細胞に感染させたウイルスの力でがん細胞を攻撃させ、同時に免疫システムを活性化させることでがんの治癒を目指す。対象患者には、3年間にわたり膀胱内にcretostimogeneを断続的に投与する治療が行われた。 その結果、対象者の75%近くががんの完全寛解に至り、その多くが2年以上がんのない状態で生存していることが確認されたことを、Tyson氏らはメイヨー・クリニックのニュースリリースで報告している。また、驚くべきことに、ほとんどの対象者は膀胱摘出術を必要としなかった。さらに、cretostimogeneによる治療の忍容性は高く、重篤な副作用は最小限であったという。 Tyson氏は、「本研究により、cretostimogeneによる治療は効果的で安全性も高いことが判明した。膀胱摘出術の必要性を減らすこの治療法は、治療選択肢が限られている患者にとって待望の代替手段となる可能性がある」と述べている。研究グループは、今後の調査で長期的な有効性や、この治療法を他の治療法と組み合わせることでその有効性が高まるかどうかを調べる予定であるとしている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

3233.

疾患の検出や発症予測、血液検査が一助に?

 定期健診で一般的に行われている血液検査の検体には、検査を受けた人の健康状態について現在医師が得ている情報よりも多くの情報が隠されているようだ。全血球計算(complete blood count;CBC)と呼ばれるルーチンで行われている血液検査が、心疾患や2型糖尿病、骨粗鬆症、腎疾患など数多くの疾患の検出や発症の予測に役立つ可能性のあることが新たな研究で示された。米マサチューセッツ総合病院の病理医であるJohn Higgins氏らによるこの研究は、「Nature」に12月11日掲載された。 CBCでは、全身を循環している血液中の赤血球、白血球、血小板数を測定する。Higgins氏は、「CBCは一般的な検査だ。われわれの研究では、CBCは完全に健康な人であっても個人差が大きく、より個別化されたプレシジョンメディシン(精密医療)のアプローチによって、その人の健康状態や疾患の実態をより詳細に把握できる可能性のあることが示された」と説明する。 Higgins氏らは今回、1万2,407人の健常者から採取された血液を用いて、CBCによって測定される10種類の血液成分について調査し、患者ごとのばらつきを計算した。調査した成分は、赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、血小板数(PLT)、ヘマトクリット値(HCT)、ヘモグロビン濃度(HGB)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、平均血小板容積(MPV)、赤血球分布幅(RDW)である。その結果、性別や人種/民族、年齢の影響を受けることのない、それぞれの患者に固有の「セットポイント(基準値)」が存在することが明らかになった。研究グループは、これらのセットポイントを活用することで、医師は一見健康そうに見える人でも早期の段階で疾患を診断できる可能性があると話す。 次に、セットポイントが推定されてから15年間の追跡データがそろう1万4,371人のデータを用いて、セットポイントと全死亡リスクや主要疾患の発症リスクとの関連を検討した。その結果、多くの指標において、セットポイントの値が高くなるか低くなるにつれ10年間の死亡リスクが上昇することが明らかになった。ただし、HCTとHGBに関しては、セットポイントの値が中間で最もリスクが低く、両極端の値(高過ぎる、低過ぎる)でリスクが上昇することが示された。また、MCHCのセットポイントが低いことは心筋梗塞や脳卒中、心不全(主要心血管イベント〔MACE〕)のリスク上昇と関連し、WBCの高いセットポイントは2型糖尿病、MCVの高いセットポイントは骨粗鬆症、HCTの低いセットポイントは慢性腎臓病、RDWの高いセットポイントは心房細動、RBCの低いセットポイントは骨髄異形成症候群のリスク増加と関連していた。 Higgins氏らは、「セットポイントを調べることで、本研究で対象となった健康な成人の20%以上が、その値の逸脱により、10年間での全死亡や心血管疾患や糖尿病などの早期介入が有効な主要疾患の診断の絶対リスクが2〜5%以上増加することが示唆された」と述べている。 なお、今回の研究の結果は先行研究の結果とも一致しているという。例えば、HGBの低下は心筋梗塞のアウトカムに関連し、MCVは大腿骨近位部骨折に、またWBCは糖尿病に関連していることが示されている。 Higgins氏らは、「これらの関連が生じるメカニズムの解明にはさらなる研究が必要だが、今回の研究では、セットポイントが複数の疾患において、2〜4倍の相対リスクの層別化を可能にすることが示された。これは、家族歴や一部の遺伝子変異を含む一般的な疾患のスクリーニング因子による相対リスクの層別化に匹敵する」と結論付けている。

3234.

1歳半までの受傷歴がある子どもは、ケガの再発リスクが高い―国内縦断研究

 生後18カ月(1歳半)までにケガを負ったことのある子どもは、7歳に至るまでに再度、ケガを負いやすいことが、国内で行われた縦断研究から明らかになった。岡山大学学術研究院医歯薬学域地域救急・災害医療学講座の小原隆史氏らの研究であり、詳細が「Scientific Reports」に10月21日掲載された。 子どもはさまざまな場面でケガを負いやすく、その一部は致命的となり得る。これまでに法医学的な剖検例から、頭部外傷で死亡した子どもには以前の受傷を示唆する所見が多いことなどが報告されている。ただし、子どものケガの再発リスクに関する多くの研究は後方視的なデザインで行われたものであり、かつ限られた部位の外傷に焦点を当てたものだった。これを背景として小原氏らは、厚生労働省が行っている「21世紀出生児縦断調査」のデータを用いた縦断的な解析により、1歳半までの受傷歴がその後の受傷リスクと関連しているかを検討した。 2010年5月10~24日に出生した4万3,767人の子どものうち2万191人の家庭が、7歳に至るまで定期的に行われた縦断調査に回答していた。このうち80.4%に相当する1万6,239人が、1歳半までに家庭内を中心に何らかのケガを負っていた。一方、1歳半から7歳までの追跡期間中に、35.6%に当たる7,179人が何らかのケガによる受療行動を取っていた。 追跡期間中のケガの有無で背景因子を比較すると、ケガあり群は男児が多く(57.9対49.7%)、単胎出産がわずかに多く(98.5対98.1%)、1歳半時点において保育園への通園がわずかに少ない(26.2対27.7%)という有意差が認められた。ただし、母親の出産時年齢・教育歴、在胎期間(正期産/早産)、両親の喫煙状況、居住地などは有意差がなかった。 次に、1歳半までに何らかのケガを負っていた1万6,239人のケガの再発リスクを検討すると、その37.4%に当たる6,067人に、追跡期間中のケガによる受療行動が認められた。ロジスティック回帰分析で交絡因子(子どもの性別、単胎/多胎、保育園への通園、在胎期間、母親の教育歴、両親の喫煙状況、居住地など)を調整後、1歳半までの受傷歴は、追跡期間中のケガの発生と独立した関連のあることが明らかになった(調整オッズ比〔aOR〕1.48〔95%信頼区間1.37~1.60〕)。 1歳半までのケガのタイプ別に追跡期間中のケガのリスクを見ると、やけど(aOR1.47〔同1.31~1.65〕)、誤飲(aOR1.35〔1.17~1.55〕)、転倒(aOR1.34〔1.26~1.43〕)、溺水(aOR1.29〔1.19~1.40〕)、挟まれ(aOR1.22〔1.15~1.29〕)については有意なオッズ比上昇が観察された。一方、切り傷、噛み傷、窒息、および交通事故については、1歳半までの受傷歴がない群と有意差がなかった。 続いて、5歳半時点での問題行動(話を聞く、がまんする、約束を守る、などができない)の有無で群分けした解析を実施。問題行動のない群(80.1%)では1歳半までの受傷歴がある場合、追跡期間中のケガの発生aORが1.44(1.31~1.57)であり、問題行動がある群(19.9%)でも1.72(1.42~2.08)であって、ともに有意に多く発生していた。 これらの結果から著者らは、「1歳半までにケガを経験した子どもは7歳に至るまでにケガを繰り返すリスクが高いことが示された。ケガ再発のリスク抑制のため、1歳半健診でケガの既往が確認された子どもの家庭に対しては、特にやけど、誤飲、転倒、溺水、身体を物に挟むといったことに関する安全対策の指導が欠かせない」と結論付けている。加えて、8割以上の子どもが1歳半までに何らかのケガを負っていることから、「家庭内で発生する子どものケガを減らすための普遍的な対策を強化する必要がある」としている。 なお、1歳半までに受傷歴があり5歳半時点で問題行動がある場合に、受傷リスクがやや上昇することが示されたが、問題行動のない子どもとの差は大きなものでないことについて、「これは、子どものケガの再発には発達特性以外の要因の影響が大きいことを示唆しているのではないか」との考察が加えられている。

3235.

おそらく後進国(資源の限られた国)における血友病治療の光となる新たな遺伝子治療(解説:長尾梓氏)

 インドから新たな血友病に対する遺伝子治療の報告である。他の疾患では使われている(と聞いている)レンチウイルスを使った治療は血友病では初めての報告で、NEJM誌に掲載された当日に米国血液学会(ASHといって世界最大の血液学会です)での口頭発表・拍手喝采もあった。筆頭著者のAlok Srivastava氏は筆者の友人でもあり以前からこの活動を聞いていたが、とにかくすごいのはインドと米国の政府による研究資金支援で実施された臨床研究であって、製薬会社が関わっていない点である。彼はさまざまな血友病関連の学会などで役割を担っているのはもちろんのこと、AHAD-APというAPAC領域の血友病学会を数年前に立ち上げて、APACの患者のために尽力している(私もsteering committeeとして参加しています)。すごいバイタリティ!! さて、この論文と同時にNEJM誌にはMahlangu医師(これまたASHから表彰されたことのある)による総説が掲載された。それを参考にこの試験の何がすごいか解説していく。 これまで血友病で開発されてきたのはAAVを使った遺伝子治療である。血友病Aにおいては米国、EUを中心にRoctavian(BioMarin製)がすでに発売されている。しかし、AAV遺伝子治療には複数の課題があり、既存のAAV抗体を持つ患者は使えない、治療効果が個人間で異なり予測もできない、免疫抑制薬が必要となる肝障害が発生する場合があるが誰に起こるか予想ができない、第VIII因子活性が何年持続するか不確実である。BioMarinは2024年のプレスリリースでRoctavianの取り組みを米国、ドイツ、イタリアの3市場に集中すると発表した。売上を伸ばすのに苦労しているとの報道もある。 今回のレンチウイルス遺伝子治療はAAV抗体や肝機能の問題を回避可能で、小児にも使えるかもしれないというメリットがある。効果もしっかりあった。 ただ、安全性の懸念はもちろんあり、第一は発がんリスクを含めた安全性だ。この研究ではより安全な前処置(treosulfan)が使用され、短期間のフォローアップでは安全性の問題は認められなかったとのこと。しかし…今では健康に生涯を生きられる血友病に骨髄移植、移植前処置をするってどうなんでしょう。 よって、本稿のタイトルのとおり、資源の限られた国、経済的な理由で既存の薬剤が定期的に使用できない国での治療としての可能性があるのだろうと思う。

3236.

多発血管炎性肉芽腫症〔GPA:granulomatosis with polyangiitis〕

1 疾患概要■ 概念多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA)は抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)の主要疾患の1つで、血清中に出現するANCAと小型血管(臓器内動静脈、細動静脈、毛細血管)の肉芽腫性炎を特徴とする。罹患血管には免疫複合体の沈着はほとんどみられない(pauci-immune)。■ 疫学GPAは国が定める指定難病で、2022年度末の指定難病受給者証所持者数は3,437人であり、登録患者数は徐々に増加している。世界的には100万人当たり96.8人の患者数が報告されている。GPAは、日本を含むアジアよりも欧州、とくに緯度が高い地域で多くみられる傾向がある。■ 病因GPAは他の自己免疫性リウマチ性疾患と同様に、遺伝的要因と環境要因が相まって発症すると考えられている。ヨーロッパおよび北米におけるヨーロッパ系集団を対象としたゲノムワイド関連解析では、HLA-DPA1、DPB1遺伝子領域との関連が報告されており、臨床分類よりもPR3-ANCAとの関連がより強くみられる。日本人集団においてもDPB1*04:01の増加傾向が認められている。非HLA領域では、SERPINA1、PRTN3がヨーロッパ系集団で、ETS1の発現低下に関連する単塩基バリアントが日本人集団で関連することが報告されている。■ 症状GPAは発熱・倦怠感、体重減少、筋痛、関節痛などの全身症状と多彩な臓器症状を呈する疾患である。臓器病変は、眼(34~61%)、耳・鼻・咽喉頭(83~99%)、肺(66~85%)、心臓(8~25%)、消化管(6~13%)、腎臓(66~77%)、皮膚(33~46%)、中枢神経(8~11%)、末梢神経(15~40%)に出現する。眼病変、上・下気道病変、腎病変がとくに重要である。眼病変として、結膜炎、上強膜炎、強膜炎、眼球突出、鼻病変として鼻閉・膿性鼻汁・鼻出血、鼻粘膜の痂疲・潰瘍、鞍鼻、耳病変として滲出性または肉芽腫性中耳炎、咽喉頭病変として口腔内潰瘍、声門下狭窄による嗄声・呼吸困難がみられる。肺では肺肉芽腫性結節、肺胞出血、間質性肺炎がみられ、咳・息切れ・喀血などを呈する。腎では壊死性半月体形成性糸球体腎炎が典型的であり、しばしば急速進行性糸球体腎炎として発症する。■ 予後国内の前向きコホート研究では、治療開始後6ヵ月までの死亡率は1.9%で、治療開始後6ヵ月までに末期腎不全に至ったのは3.7%あった。中長期的には、治療に関連した副作用・合併症が問題となる。欧州における検討では、AAV患者を平均7.3年追跡すると65.6%の患者で治療に関連した副作用・合併症(高血圧、骨粗鬆症、糖尿病、心血管イベント、白内障など)がみられ、グルココルチコイドの早期減量・中止が重要と考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)国内における診断には指定難病の診断基準が広く用いられている。国際的には、米国リウマチ学会と欧州リウマチ学会が共同で開発した分類基準(表1)を参考に診断することが多い。疾患特異的自己抗体として抗プロテイナーゼ3(抗PR3)抗体(PR3-ANCA)が知られている。活動期にはCRPが陽性となることが多い。GPAでみられる臓器病変を想定した問診と身体診察に血液検査と画像検査を組み合わせて診断および罹患臓器を検索し、活動性を評価する。表1 GPAの分類基準分類基準を使用する前に以下を考慮する。小・中型血管炎と診断された患者を多発血管炎性肉芽腫症に分類するために、本分類基準を適用すべきである。本分類基準を適用する前に、血管炎類似疾患の除外をすべきである。画像を拡大する10項目の中から該当項目のスコアを合計し、5点以上であれば多発血管炎性肉芽腫症に分類する。(難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班.多発血管炎性肉芽腫症の分類基準[2024年9月20日アクセス]より引用)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ANCA関連血管炎の中でGPAと顕微鏡的多発血管炎(MPA)の標準治療は同一であり、難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班が作成した診療ガイドラインに示されている。標準治療は、寛解導入治療と寛解維持治療で構成される。さらに、長期予後を改善するために、合併症リスクを最小限に抑える必要がある。寛解導入治療ではリツキシマブまたはシクロホスファミドのいずれかを、グルココルチコイドまたはアバコパン(商品名:タブネオス)またはその両者と併用する。リツキシマブはキメラ型抗CD20抗体で、375mg/体表面積1m2を週に1回、4週連続で投与する。シクロホスファミドは15mg/kgを0、2、4、7、10、13週に点滴静注で投与するパターンが標準だが、投与量は年齢と血清クレアチニン濃度で調整し(表2)、投与回数と投与間隔は原疾患の重症度と安全性のバランスで調整する。シクロホスファミドは経口投与(1~2mg/kg/日)も可能だが、副作用の観点から点滴静注が望ましい。表2 年齢および腎機能によるシクロホスファミド投与量の調節画像を拡大する(Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.より引用)アバコパンは経口の補体C5受容体阻害薬で、1回30mgを1日2回朝・夕に内服する。アバコパンは原則的にグルココルチコイドと併用する。アバコパンは腎機能改善に有用である可能性が示されている。アバコパンの副作用として重症肝機能障害(胆道消失症候群を含む)が報告されているので、血管炎の治療に精通した施設での使用が望ましい。標準的な寛解導入療法で使用するグルココルチコイドの投与量は2つの臨床試験結果から、以前よりも大幅に減量された(表3)。表3 寛解導入治療におけるグルココルチコイド減療法画像を拡大する(Walsh M, et al. N Engl J Med. 2020;382:622-631.およびFuruta S, et al. JAMA. 2021;325:2178-2187.より引用)血清クレアチニン濃度が5.7mg/dLを超える最重症の腎障害を伴うGPAでは、グルココルチコイドとシクロホスファミドに血漿交換が併用される場合がある。MPAおよびGPAに対する血漿交換のメタ解析から、欧州リウマチ学会の推奨では血清クレアチニン濃度が3.4mg/dLを超える腎障害で血漿交換を考慮する場合があるとされている。リツキシマブにより寛解導入した場合には、治療開始後6ヵ月から寛解維持治療に移行し、シクロホスファミド点滴静注の場合には、最終投与後3~4週間で寛解維持治療に移行する。寛解維持治療はリツキシマブまたはアザチオプリンを用いる。寛解維持療法におけるリツキシマブ投与方法は、375mg/体表面積1m2を6ヵ月ごと、500mg/回を6ヵ月ごと、1,000mg/回を4ヵ月または6ヵ月ごとなどがある。アザチオプリンは1~2mg/kg/日を使用し、開始前にNUDT15遺伝子多型検査を実施する。寛解維持治療における有効性はアザチオプリンよりもリツキシマブが有意に優れている。GPAはMPAよりも再発しやすい。寛解維持治療中は症状および検査をモニタリングし、早期に再発の兆候を把握する。腎病変は症状なく再発することがあるため、尿検査を定期的に実施する。寛解維持治療期間は、リツキシマブでは1年6ヵ月よりも4年、アザチオプリンでは1年よりも2年6ヵ月以上が有意に再発を防ぐことが示されている。個々の患者における寛解維持治療期間は、治療開始前の疾患活動性、治療経過、再発歴、合併症を参考に検討する。4 今後の展望GPAの分類基準が改訂され、診断に関する検討は一段落したと考えられる。治療に関する課題として、アバコパンを寛解導入に使用する際に適切なグルココルチコイドの使用方法、リツキシマブの寛解維持療法の標準化、アバコパンの安全性、新規の抗B細胞治療などが挙げられる。5 主たる診療科膠原病リウマチ内科、腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 多発血管炎性肉芽腫症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(患者とその家族および支援者の会)膠原病サポートネットワーク(患者とその家族および支援者の会)1)針谷正祥 責任編集. Evidence Base Medicineを活かす膠原病・リウマチ診療. メジカルビュー社.2020.2)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 針谷正祥ほか編集. ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023. 診断と治療社.2023.3)Hellmich B, et al. Ann Rheum Dis. 20242;83:30-47.4)Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.5)Walsh M, et al. N Engl J Med. 2020;382:622-631.6)Furuta S, et al. JAMA. 2021;325:2178-2187.公開履歴初回2024年12月31日

3237.

映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その3)【こんなにユニークなのに…だから発症するのは昔から世界中で100人に1人の若者だったの!?(統合失調症の疫学)】Part 1

今回のキーワード発症率ダンバー数好発年齢回復率集団分裂仮説オープンダイアローグ前回(後編・その2)、統合失調症の機能とは、原始の時代に部族集団をまとめることであるという仮説を立てました。そして、「集団統合仮説」と名付けました。この仮説によって解ける統合失調症の謎があります。今回(後編・その3)は、前回にも取り上げた映画「ミスト」とドラマ「ザ・ミスト」を踏まえて、この「集団統合仮説」から、統合失調症の疫学的な謎を3つ解いてみましょう。なんで昔から世界中で100人に1人が発症するの?統合失調症になると、周りで誰も話していないのに声が聞こえてきたり、周りから何かされるのではないかと思い込んでしまい、社会生活が難しくなるわけですが、これほど症状がユニークであるにもかかわらず、このような人は、実は100人に1人はいます。皆さんが学校に通っていた時、その学校で同じ学年(100人程度)にいた知り合いのうち、1人はその後にこの心の病気を発症している計算になり、実はとても身近な病気です。この割合は、他の国でもだいたい同じです。しかも、100人に1人は、昔から大きく変わらないようです。1つ目の謎は、発症率(有病率)です。この答えは、原始の時代の部族集団の人数がちょうど100人程度だからです。その人数の集団に1人の統合失調症のリーダーが生まれるように進化したと考えることができます。この100人という数は、実際に原始の時代の部族集団の最終的な最大人数である150人以内に収まっています。この150人という数は、ダンバー数と呼ばれています。この「150人」を超えると、脳(認知機能)が集団のメンバー同士の人間関係を把握しきれなくなることがわかっています。この詳細については、関連記事1をご覧ください。よくよく考えると、この発症率の数値は絶妙です。その理由を、部族集団の人数が少ない場合、ちょうど良い場合、多い場合の3つに分けてそれぞれ考えてみましょう。(1)人数が少ない場合1つ目は、部族の人数が50人以下で少ない場合です。この時、統合失調症のリーダーが生まれる人数が0.5人を下回り、生まれない可能性の方が高くなります。しかし、人間に最も近いチンパンジーの群れの平均頭数が60頭であることから、この人数なら人間もチンパンジーと同じように、統合失調症のリーダーがいなくても、集団はまとまることができます。(2)部族の人数がちょうど良い場合2つ目は、部族の人数が50~150人でちょうど良い場合です。この時、統合失調症のリーダーが生まれる人数が0.5~1.5人となり、ほぼ1人生まれることになり、当然ながら、集団はまとまります。(3)人数が多い場合3つ目は、部族の人数が150人以上で多い場合です。この時、統合失調症のリーダーが生まれる人数が1.5人を上回り、2人生まれる可能性が高くなっていきます。これは、カーモディさんとナタリーが同じ集団にいるようなものです。この2人がすぐに対立するのは、容易に想像できるでしょう。そして、どちらかが自分の信者を引き連れて、「約束の地」(神が約束した新天地)を目指して出ていくでしょう。つまり、集団の人数が多くなりすぎたら、分裂を促す働きもあるわけです。そもそも150人を超えた時点で部族のメンバーたちの脳のキャパオーバーが起き始めます。この状況で、2人目のリーダーが現れて分裂が加速されるのは、集団の機能の維持としてとても適応的です。この点で、従来の統合失調症の起源仮説である集団分裂仮説が思い起こされます1,2)。ただし、集団分裂仮説は、統合失調症の人をあくまで「異端児」(アウトサイダー)として捉え、主流派から去っていく少数派グループと想定し、分裂することを優位な機能としています。また、先ほどの発症率やダンバー数を考慮していません。この記事で提唱する「集団統合仮説」というネーミングは、見てのとおり、この集団分裂仮説を文字っています。「集団統合仮説」では、統合失調症の人を主流派のど真ん中に想定し、まずまとまることを優位な機能としています。集団の人数が増えすぎた場合に限り、もともといる統合失調症のリーダーとさらに現れた2人目の統合失調症のリーダーによって半々に分裂が引き起こされ、引き続きそれぞれの集団がまとまると説明しています。なお、冒頭で1学年の人数が100人程度と想定しましたが、この記事をここまで読むと、そもそもダンバー数によって、無意識にも学年の人数や大学の学科の定員が100人程度になるように設定されているとも言えます。次のページへ >>

3238.

映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その3)【こんなにユニークなのに…だから発症するのは昔から世界中で100人に1人の若者だったの!?(統合失調症の疫学)】Part 2

なんで青年期に発症するの?統合失調症は、男女を問わず、その多くが20歳台で発症します。結婚には当然不利になり、子孫(遺伝子)を残しにくいのにです。実際に、統合失調症の繁殖成功率は、男性20%、女性50%です1)。それにもかかわらず、遺伝素因は全人口の約30%と推定され3)、遺伝の影響度(遺伝率)が約80%と算定されており4)、遺伝子を残し続けていることになります。2つ目の謎は、好発年齢です。この答えは、リーダーに適した年齢だからです。厳密には、発症平均年齢は、男性27歳、女性30歳です。ピーク年齢については、男性が20歳台であるのに対して、女性は二峰性であり、1つ目のピークは男性と同じく20歳台で比較的に大きく、2つ目のピークは30歳台後半で比較的に小さいです5)。女性のピークが二峰性である原因も、リーダーに適した状態かどうかで説明することができます。それは、妊娠出産のタイミングです。当然ながら、妊娠出産の一定期間は、リーダーシップを発揮することが難しいです。よって、本来、発症するはずの年齢で、先に妊娠してしまったら、いったん発症が抑制され待機状態になるメカニズムが進化した可能性が考えられます。その根拠として、実際に、すでに発症した後に妊娠した場合、妊娠中の精神状態は比較的安定していることが多いからです。一方、出産後は、産褥期精神病(産後発症の統合失調症)という言葉があるように、発症リスクが上がるからです。また、2つ目の小さなピークである30歳台後半は、妊娠率が下がり始める時期に一致しているからです。男性よりも女性の方が、発症平均年齢がやや高いことも、妊娠出産で発症が一時的に抑制されるメカニズムが働いていることから説明できます。これ以外で、納得できる説明は見当たりません。逆に言えば、リーダーシップを発揮する年齢は、当時の平均寿命を考慮すれば、児童期以前(12歳以下)では早すぎて、中年期以降(40歳以上)では遅すぎることから、説明することができます。なお、妊娠出産(妊娠率)と関係して発症する精神障害として、実は摂食障害が挙げられます。この詳細については、関連記事2をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

3239.

映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その3)【こんなにユニークなのに…だから発症するのは昔から世界中で100人に1人の若者だったの!?(統合失調症の疫学)】Part 3

なんで先進国よりも途上国で回復しやすいの?統合失調症は、なんと先進国よりも途上国でより速く回復するというWHOの調査結果が出ています3)。3つ目の謎は、回復率(寛解率)です。この答えは、より原始の時代に近い生活環境(社会環境)だからです。統合失調症の発症率はだいたい同じですが、その後に良くなるかの経過には地域差があることがわかっています。実際に、回復率が高いのは、先進国よりも途上国であるだけでなく、都市よりも農村であることもわかっています3)。イメージだけですと、途上国の方が、貧しく、不便で、正直不潔です。ストレスはとても高そうで、回復しにくそうです。一方、先進国は豊かで、便利で、清潔です。しかし、よくよく考えると、それは先進国にいる側の、そして統合失調症を発症していない側の発想です。先進国にいる場合、合理主義的であるため、ルールが多く、不合理なことを言う統合失調症の人たちの言動はより悪目立ちします。また、個人主義的であるため、人とのつながりが乏しく、孤独になりやすいです。リーダーシップを発揮するチャンスなどいっさいありません。さらに、衛生観念が厳しいため、統合失調症が慢性化した後遺症によって不潔になりがちになると、ますます受け入れられません。つまり、逆でした。ストレスが高いのは、統合失調症の人たちにとっては先進国であり、都会なのでした。よって、統合失調症の人は、途上国に移住することは現実的ではないにしても、なるべく自然が多い田舎に移住し、その共同体の中で人と触れ合い、マイペースでなるべく自給自足の生活をして、のびのびと暮らすことが適応的であることがわかります。まさに、原始の時代の共同体(部族社会)のイメージです。これは、「自然化」と呼ばれています5)。タイトルで「ユニーク」と表現しましたが、実は統合失調症がユニークなのではなく、現代の社会構造が彼らにとって「ユニーク」であるとも言えます。また、統合失調症のリーダーシップ機能を擬似的に発揮させて安定を図る取り組みとして、オープンダイアローグが挙げられます。これは、統合失調症の人に積極的に(オープンに)おしゃべり(ダイアローグ)をさせて受け止めることで、最近注目されています。よくよく考えると、この取り組みも従来の宗教活動に似ており、理に適っています。なお、合理主義、個人主義、清潔主義がより求められる先進国や都市で増悪する精神症状として、認知症の周辺症状(BPSD)も挙げられます。この詳細については、関連記事3をご覧ください。ただ、統合失調症は最近、軽症化しているのも事実です3)。遺伝素因の保因者は一定数いて発症率は変わらないとは言うものの、さすがに現代の社会構造のままでは、淘汰圧(選択圧)は免れないでしょう。つまり、遠い将来においては、発症率は下がっていくことが推定できます。その前兆として、軽症化していると解釈することができます。まだ残っている謎は?今回は、統合失調症の疫学をテーマに、その謎解きをしました。しかし、まだ謎が残っています。それは…統合失調症は一体どうやって生まれたのでしょうか?1)「進化精神病理学」p.195、p.198:マルコ・デル・ジュディーチェ:福村出版、20232)「臨床精神医学 こころの進化と精神医学」p.843:アークメディア、20113)「統合失調症」p.158、p.192、p.197、p.199:岡田尊司、PHP新書、20104)「標準精神医学 第8版」p.306:医学書院、20215)「統合失調症」p.5、p.169:村井俊哉、岩波新書、2019<< 前のページへ■関連記事映画「アバター」【私たちの心はどうやって生まれたの?(進化心理学)】Part 2映画「心のカルテ」(後編)【なんでやせ過ぎてるってわからないの?(エピジェネティックス)】Part 1ペコロスの母に会いに行く【認知症】

3240.

第247回 プラスチックの化学物質のたった1年間の影響で世界的に約60万例が死亡

プラスチックの化学物質のたった1年間の影響で世界的に約60万例が死亡世界の38ヵ国を調べたところ、プラスチックにたいてい含まれる3つの化学物質と関連する2015年のたった1年間の健康の害が1.5兆ドルの負担を強いました1,2)。言い換えると、それらの化学物質を使っていなければ1.5兆ドル分を浮かせられたことになります。メリーランド大学の経済学者Maureen Cropper氏らによる研究です。プラスチックは色付け、柔軟性、耐久性のために1万6,000を超える化学物質を使って製造されます。プラスチックから漏れ出した化学物質はそれらの普段使いによって多くの人に行き及んでいます。食品包装によく使われているプラスチック成分・ビスフェノールA(BPA)は内分泌を撹乱することで知られ、心血管疾患、糖尿病、生殖機能障害と関連します。食品加工、家庭用品、電気製品で使われるフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)は心血管が原因の死亡や発育不調との関連が知られます。繊維、家具、その他家庭用品に添加される難燃剤・ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)は神経に差し障るようであり、妊娠中にPBDEを被った母親の子は認知発達を損ないます。プラスチックに含まれる化学物質の中で最もよく調べられているそれら3つと関連する健康の害に的を絞り、できるだけ多くの国におけるそれらの害の蔓延を調べることをCropper氏らは目指しました。Cropper氏らは情報がそろっていて最も万全な検討ができた2015年のデータを使って、38ヵ国でのBPA、DEHP、PBDEの健康や経済への影響を推定しました。その結果、BPAは540万例の虚血性心疾患、35万例弱の脳卒中と関連し、43万例強の死亡を引き起こしていました。それら死亡の経済的損失は1兆ドル弱です。DEHPは55~64歳の中高齢者の16万例強の死亡と関連し、4千億ドル弱の経済的損失をもたらしました。PBDEは2015年生まれの子の知能指数(IQ)1,170万点の損失をもたらし、800億ドルを超える生産性損失と関連しました。それらを総ずると、38ヵ国でBPAとDEHPを排除していたら約60万例が死なずに済みました。また、PBDEも含めて3つとも排除していたら1.5兆ドルを捻出できたことになります。米国、カナダ、欧州連合(EU)加盟国はすでにBPA、DEHP、PBDEを減らす手立てを始めており、成果も示唆されています。たとえば米国では製造業界の規制や自主的な制限のかいがあって、BPAに起因する心血管死が2003年から2015年に60%減じています。そのような前向きな取り組みの一方で、プラスチックに使われている7割超の化学物質は毒性が検査されないままです。プラスチックの化学物質の害から健康を守るには化学物質を扱う法律を根本から変える必要があると著者は言っており2)、それら化学物質の健康への影響を減らす国際的な合意が国連条約(United Nations Global Plastics Treaty)に基づいて確立されることを望んでいます3)。参考1)Cropper M, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2024;121:e2412714121. 2)Health, Economic Costs of Exposure to 3 Chemicals in Plastic: $1.5T in a Year, Study Shows / University of Maryland3)These 3 plastic additives are lowering our IQ and killing us sooner, new study finds / MassLive.com

検索結果 合計:35100件 表示位置:3221 - 3240