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眼疾患の早期発見につながる行動がとられていないことが明らかに

 バイエル薬品は19日、2013年8月に全国の50代から70代の男女1,034名を対象に実施した目の健康に関する意識調査、および関東地方中心の50代から90代の加齢黄斑変性(age-related macular degeneration、以下 AMD)の患者80名を対象としたアンケート調査の結果を発表した。 その結果、昨今の iPS臨床研究に関する報道などから AMDの疾患認知率は77.6%と高まっており、50代から70代の一般の人々は、他の部位の健康に比べ、目の健康について意識している人が多い(40.5%)ことがわかった。しかし、高い視力検査受診率(63.5%)と比較して、眼科での検査受診率は43.0%と低く、定期的な検査として受診している割合は全体のわずか10.6%であった。また片目ずつの見え方の自己チェックを行っている割合も37.1%にとどまっていた。AMDなどの深刻な眼疾患に気づくための行動が十分取られていないことが明らかになったという。 一方、患者のアンケートからは、外見からは目の病気であることはわからないため、「何度説明しても症状が相手には理解されない」「相手の顔がわからないので知り合いだと気づかず、『挨拶してくれなかった』と誤解されてしまった」など、“見たいものが見えない”という AMD による中心視力の低下により、誤解を受けた経験がある人が 68.8%にのぼっていた。詳細はプレスリリースへ(PDF)http://byl.bayer.co.jp/html/press_release/2013/news2013-09-19.pdf

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泣かないと決めた日(続)【パワーハラスメント(差別)】

「あんたなんか辞めればいいのに」みなさんは、職場で「あんたなんか辞めればいいのに」と言われたり、そうした状況を見かけたことはありませんか?そして、そう言う人が、相手にしないわけにはいかない立場の人だったことはありませんか?このように、人間関係で優位な立場を使って行う嫌がらせやいじめは、パワーハラスメントと呼ばれます。これは、学校のいじめよりも力関係がはっきりしており、教育・指示・命令の名を利用している点で、その線引きが難しいことがあります。今回は、このパワーハラスメントをテーマに、7月号の続編として、2010年に放映されたテレビドラマ「泣かないと決めた日」を取り上げます。主人公の美樹は、新入社員として夢と希望と期待を胸いっぱいに抱えて、憧れの大企業に入社します。ところが、その職場で彼女を待ち構えていたのは、理不尽なパワーハラスメントでした。可哀想なシーンが続き、見ている私たちまでもつらくなります。彼女はくじけそうになりますが、持ち前の強さで這い上がります。そして、彼女が職場の雰囲気を変えていくのです。このドラマでは、様々な人の心の動きが描かれています。7月号では、助け合い、裏切り、噂好き、自尊心などの心のメカニズムを、新しい科学の分野である進化心理学の視点から明らかにしました。今回はさらに掘り下げて、パワーハラスメントの根源でもある心理―「なぜ人は優位に立ちたいのか?」(自己愛)、「なぜ人は誰かを悪者にするのか?」(カテゴリー化)、そして「なぜ人は調子を合わせるのか?」(同調)などの心のメカニズム―の解明に迫っていきたいと思います。そして、私たちができる具体的な取り組みについて考えていきたいと思います。パワーハラスメント―力関係により身体的または精神的な苦痛を負わせる美樹は、新人として職場に来て早々に、ぴりぴりとした空気を感じ取ります。全く歓迎されていません。そんな中、美樹の教育係となった1つ上の先輩の同僚がミスを起こします。社外秘の書類を誤って取り引き先へファックスしてしまったのです。それを美樹が見てしまいます。しばらくして発覚すると、その同僚は、みんなの前で、「コピー機(ファックス兼用)の使い方、分からなかったのよね?」と美樹に言い、すかさずそのミスを美樹になすりつけたのです。完全な濡れ衣です。しかも、他の同僚たちもその同僚に加勢します。さらには、職場のリーダーは、美樹に有無を言わさず謝罪を迫るのです。そして、けっきょく、謝罪を無理矢理させられた美樹の心は、深く傷付くのでした。この状況は、パワーハラスメントです。パワーハラスメントとは、職場などでの力関係によって身体的または精神的な苦痛を負わせることです。美樹は、その後も数々のパワーハラスメントを受け続けます(表1)。このパワーハラスメントは、以前から指摘されてきたセクシャルハラスメントも含みます。そして、このパワーハラスメントを大きな括りとして、現在では状況や加害者との関係性によって、「アカハラ(アカデミックハラスメント)」「アルハラ(アルコールハラスメント)」「ドクハラ(ドクターハラスメント)」「マタハラ(マタニティハラスメント)」など様々なネーミングが生まれています。もともとこのパワーハラスメントという言葉は、2000年に入って生まれた和製英語です。パワーハラスメントに当たる言葉として、欧米ではモラルハラスメントが一般的です。日本のモラルハラスメントは、権力や利害の関係がないはずの夫婦や家族の間のDV(家庭内暴力)などに限定されて使われることが多く、ニュアンスに違いがあります。また、児童虐待や患者虐待などの虐待は、圧倒的な力の差がある場合に起こるパワーハラスメントとも言えます。さらに広げて言えば、人種差別や男女差別などの差別は、差異によって不当な分け隔てをするパワーハラスメントともいえます。今回は、これらの全てのハラスメントを含めた広い意味として、パワーハラスメントを考えていきましょう。表1 パワーハラスメントのタイプタイプ美樹の場合能力の否定「辞めればいいのに」と嫌味を言われるリーダーから「考える頭もないわけ?」と大声で怒鳴られる企画書をくしゃくしゃに丸めて投げられる無視行事などの日程を知らされない仕事が与えられない不要な仕事を押し付けられる脅迫男性の同僚に肩をつかまれ怒鳴られる椅子を蹴られる商品の豆をぶつけられる権利の否認仕事の仕方を教えてもらえないミスを押し付けられる仕事が知らない間に変更されている個の侵害同僚のプライベートの使い走り(ただし、美樹の場合は自ら申し出ている)パワーハラスメントの3つの心理実は、美樹が入社する前にいた新人も、同じような目に遭い、心の傷を負って辞めていました。この職場では、同じことが繰り返されているのでした。もっと広げて言えば、パワーハラスメントは、職場だけでなく、学校、地域社会、そして国家でも起っています。集団という社会ができる場所では、世界中のどこの場所でも、そして人間の歴史のいつの時代にも、変わらず起こってきました。それでは、なぜパワーハラスメントが私たちに起こるのでしょうか?進化心理学的に考えれば、普遍的に存在することには、必ずそこに理由があります(究極要因)。この究極的な理由を探るため、その源となった原始の時代の私たちの心まで遡り、パワーハラスメントの根源となるとなる3つの心理―自己愛、カテゴリー化、同調をそれぞれ考えてみましょう。(1)自己愛―競争の動機付け1. 優位に立ちたい心理同僚たちは、美樹に対して無愛想で高圧的です。特に、教育係となった1つ上の先輩の同僚の当たりは、とてもきついです。美樹に不要な仕事を押し付け、遅い時間まで残業させます。指導するどころか、ミスをなすり付け、そして手柄を横取りします。また、リーダーも、美樹を追い込んでいます。部下たちの前で、美樹を一方的に厳しく叱り付けたり、部下たち全員に謝らせたり、あえて仕事を与えません。こうして、「私が上だ」「私を舐めるな」というパワー(力関係)の見せつけが露骨に起きています(威嚇、ディスプレイ)。なぜ同僚たちやリーダーは美樹をここまでして追い込むのでしょうか?それは、このように「優位に立ちたい」と思ってしまうのは、人間の闘争本能の心理だからです。これは、自己愛の心理と言えます。同僚たちにとっては、実力や経験年数が近いほど、その葛藤が強くなります。また、リーダーにとっては、罰の見せしめとして、他の部下たちへの引き締めになります。よって、美樹が惨めな思いをすればするほど、つまり美樹の自尊心が傷付けられれば傷付けられるほど、同僚たちやリーダーは自分のパワーを実感できて(万能感)、安心できるのです。さらには、ドラマの中で、同僚たちもリーダーもそれぞれ「思い通り」にならない悩みを抱えていることが明かされます。つまり欲求不満の状態です。そこから沸き起こるエネルギーが、いら立ちとして表れます。この欲求不満(ストレス)のエネルギーの発散のはけ口(置き換え)として美樹をしつこく責めることで、「思い通り」にしたいという自分のパワー(支配力)を代わりに実感しようともしているのです。表2 自己愛の二面性困った面良い面「私が上だ」「私を舐めるな」→パワー(力関係)の見せつけ(威嚇、ディスプレイ)→攻撃性「自分を大切にする」「優位に立ちたい」(闘争本能)2. 自己愛の起源それでは、そもそも私たちはなぜ人間関係の中で「優位に立ちたい」と本能的に思ってしまうのでしょうか?その答えは、原始の時代から、相手と自分は「どちらが強いか」「どちらが優れているか」という相手との力関係を意識し振る舞う種ほど生き残り、その遺伝子が現在の私たちに引き継がれているからです。逆に言えば、「優位に立ちたい」と思う遺伝子を持たない種は、生存競争の中で生き残り、子孫を残すことは難しいでしょう。つまり、優越感と劣等感の狭間で生きてしまうのは、人間の本質なのです。動物行動学的には、群れで飼われる鶏はお互いつつき合うことで、それぞれの強さ(序列)を確かめて、群れの秩序を保っています(つつき順位)。また、サル山のサルたちは、うなり声や攻撃のポーズをとったり、「どけ」と攻撃を仕掛けるなどして威嚇することで、相手との力関係を探り合います。また、ケンカをしている2匹のサルを見て、群れの他のサルたちは、おのおの自分との力関係を推し量ります。こうして、群れの序列ができていきます。そして、ボスザルが決まれば、歯向かうサルはいなくなり、群れの秩序は保たれます。こうして、ボスザルは自分の子孫をより多く残していき、ますます優位に立とうとする遺伝子が広がっていくのです。私たち人間は、他の動物よりも高度な社会を築く中で、この「優位に立ちたい」(自己愛)という心理と「助け合う」「分け合う」(公平性)という心理のバランスを取りながら進化してきました。人は、平等を唱える一方で、自分は特別扱いされたいという矛盾した心の働きを持っているとも言えます。実際に、平等な集団ほど力関係の葛藤が生まれています。例えば、学校に存在する生徒の間のスクールカースト、公園に集まるママ友の間に勃発するお受験戦争、そして慈善団体の職員の間に見られる手柄の奪い合いなどです。(2)カテゴリー化―競争か協力かの区別の動機付け1. 誰かを悪者(敵)にする心理美樹は、出勤の初日に、だめなメンバーのレッテルを貼られました(ラベリング)。そして、その後も、トラブルが起きるたびに、「またあなたなの!?」とその原因は理不尽にも全て美樹のせいだとみんなに決め付けられます(ステレオタイプ化)。さらに、ある同僚は、美樹の後ろでみんなに聞こえるように「辞めちゃえばいいのに」と独り言を言い、美樹は職場の厄介者として蔑(さげす)まれています(排斥、オストラシズム)。なぜ美樹はここまで悪者扱いされなければならないのでしょうか?それでは、なぜターゲットは美樹だったのでしょうか?その後にリストラで辞めていく同僚が本音を漏らします。「誰でもいいのよ、会社に慣れてなくて、どこかに付け込むスキがあれば」「みんなの嫌がらせのターゲットになって」と。つまり、その理由は、美樹が「付け込むスキ」がある新人だからです。新人(新参者)は、集団に受け入れられるどうかの葛藤があり、自己主張がしづらく、立場が弱いため、付け込まれやすいのです。このような立場が弱く無抵抗な人―外国人(新参者)、障害者、貧困者、少数派(マイノリティ)などは、昔から偏見(差別)の格好の餌食にされてきた歴史があります。表3 カテゴリー化の二面性困った面良い面決め付け(ステレオタイプ化)レッテル貼り(ラベリング)烙印(スティグマ)極端化→偏見、差別、排斥思い込み(暗示、妄想)概念化因果関係に気付く傾向分析予測ひいき想像力2. カテゴリー化の起源それでは、そもそも私たちはなぜ人間関係の中で「誰かが悪者である」と本能的に思ってしまう、つまり悪者を仕立て上げてしまうのでしょうか?その答えは、原始の時代から、「誰が味方で誰が敵か」と鋭敏に感じ取る種ほど生き残り、その遺伝子が現在の私たちに引き継がれているからであると考えられます。当時から、人は、助け合う心理(協力)と「優位に立つ」ための騙す心理(非協力、裏切り)を使い分けながら、限られた資源を取り合う生存競争の中で子孫を残してきました。その中でも、騙してくる相手つまり裏切り者を未然に見つけ出し、区別する心理(カテゴリー化)に長けている人は、騙されずに済んで、生存確率が高まります。もっと言えば、多少の誤作動があっても、裏切りの脅威に対して敏感な方が鈍感な方よりも生き残ります。こうして、人間は、カテゴリー化によって、相手やものごとの共通点と相違点を見いだし(概念化)、社会生活をより円滑にして、知能を進化させてきたのでした(社会脳)。そして、発見された因果関係の積み重ねによって、傾向分析や予測が可能になり、科学を進歩させてきました。つまり、人間の心の進化の負の産物として、誰かを選んで助ける心理(ひいき)と同じように、誰かを選んで助けない、敵意を向ける心理(偏見)は人間の本質的なものなのです。しかし、現在、かつてないほど平和で豊かな時代にようやくなりました。誰かに裏切られても殺されたり飢え死にしたりすることはありません。つまり、悪者(裏切り)の脅威センサーはそれほど働かなくてもよくなったのです。しかし、脅威が減ったことに合わせて、脅威センサーの感度が下がるように心が進化するには時間があまりにも短すぎます。つまり、脅威が減っても、それを感じ取る私たちの脅威センサーはほぼ原始時代仕様の敏感なままということです。すると、何が起きるでしょうか?もともと脅威ではないものを脅威として感じやすくなります。つまり、悪者(裏切り)の脅威センサーの誤作動です。本来裏切っていない、つまり敵ではない相手を、見た目や振る舞いの些細な違いから「得体が知れない」と不気味に思い、敵意を抱いてしまうことです。3. 原始時代仕様の心と体原始時代仕様であるのは、脅威センサーだけでなく、心もですし、体もです。例えば、現代は、原始の時代とは違い、文明によって、運動をほとんどしなくてもよくなりました。だからと言って、人は運動をしなくなったでしょうか?人は、運動をしなければ、体調や気分がすぐれなくなり不健康になることを実感しています。だから、逆にあえて運動をするために、私たちは散歩したりスポーツジムに通うなどして体と心の健康を維持しています。さらには、現代は、科学や法律によって、得体が知れないものへの恐怖や身の危険を感じることが少なくなってきました。しかし、人はそれでそのままハッピーなのでしょうか?では、なぜ人はジェットコースターに乗るのでしょうか?なぜお化け屋敷に行くのでしょうか?なぜアクション映画やホラー映画を見るのでしょうか?その答えはこうです。原始の時代から人は、得体が知れない恐怖や身の危険を感じることが当たり前の環境で生きてきました。そして、当たり前だと思う遺伝子が現代の私たちに引き継がれてきました。だから、現代になって、いきなりそれらの刺激(ストレス)がなくなると、逆に物足りないということです。人は、ある程度のハラハラドキドキの擬似体験が必要なのです。体のアレルギー反応になぞらえてみましょう。花粉症や喘息などの体のアレルギー反応では、自分の免疫の抗体が自分の体を間違って攻撃します。その原因の1つは、現代の生活環境があまりにも清潔になってしまい、本来攻撃していた細菌があまりにもいなくなってしまったからなのです。これと同じように、心のアレルギー反応、つまり脅威へのアレルギー反応によって、脅威が全くなくても脅威を抱く矛先がどこかに向けられてしまいます。その時にたまたま選ばれた誰かが、生け贄(身代わり)としてターゲットとなるのです(スケープゴート現象)。そして、悲しいことに、私たちは、脅威のターゲットがその誰かに特定されていることで、心のバランスが保たれ、安心が得られるのです。たとえそのターゲットが全く見当違いだとしてもです。4. 黒い羊効果私たちは、この心理を感覚的に知っており、逆に利用してさえいます。例えば、美樹の1つ先輩の同僚は、ターゲットが美樹でなくなったら、次は自分になるという危機感を募らせています。誰かが犠牲になれば、自分は安全だという心理です。だからこそ、この同僚は、「必死」に美樹に強く当たっているのです。また、リーダーは、部下たちが自分の陰口を言っているのを立ち聞きしてしまい、その不満をかわそうとしていました。実際に、かつて国の支配者が、民衆の不満を逸らすため、国家的に「悪者」を作り出し、不満のはけ口としてその「悪者」を攻撃させるという偏見(差別)の心理を利用してきた悲しい歴史もあります。ヨーロッパでは、昔から日常用語として、「悪者」になった人を「黒い羊」と呼ぶことがあります。羊はたいてい白く、もともと従順で群れに馴染みやすいイメージがあります。その白い羊毛が様々な色に染められるのに対して、黒い羊毛は黒色にしかならない、つまり他の色に染められないことから、黒い羊は、否定的な「悪者」のイメージが付いてしまいました。英語のことわざに「どんな群れにも1頭の黒い羊がいる(There is a black sheep in every flock.)」があります。これは、人間の世界に当てはめると、群れという社会には、黒い羊、つまり裏切り者、ならず者、厄介者、異端者、逸脱者という「悪者」が必ずいるという意味になります。ただ、カテゴリー化の中の偏見(差別)の心理を踏まえると、正確には、「1頭の黒い羊がいる」のではなく、「1頭が黒い羊に見える」ということになります。他の羊が全て真っ白だと、たまたまある羊がちょっと黒いだけでも、とても黒く見えてしまうのです。つまり、他の人たちが全員同じ方向を向いていればいるほど、ある1人の人が少しでもずれた方向を見ると、全員がその人へより大きな敵意を感じてしまうということです(黒い羊効果)。かつて「歩きタバコ」は当たり前に行われていました。しかし、最近は「歩きタバコ」が規制されることで、ほとんど見かけることはなくなりました。すると、逆に「歩きタバコ」をしている人をたまに見かけると、規制の地域以外であっても、不快に思い、その人に敵意を抱いてしまいます。これと同じように、きっと近い将来、「歩きスマホ」が規制されれば、「歩きスマホ」をする人に敵意を私たちは抱くでしょう。よく冗談で言われる「赤信号みんなで渡れば怖くない」という言い回しがあります。その逆の「みんなが渡らない青信号を渡る」傾向のある人―例えば、「新卒」ではない就職活動者(フリーター)―は、就職面接などでは採用されにくいという現実もあります。(3)同調―協力の動機付け1. 周りに合わせる心理美樹以外のチームの同僚6人は、とても結束が強いです。特に4人の女性の同僚たちは、美樹の悪口でいつも盛り上がっています。そして、同僚たちだけでなくリーダーも、美樹が受け続けるパワーハラスメントを当たり前のように見ています。こうして、周りが傍観者として黙認することで、事態の容認が生まれています。つまり、傍観者であることは、パワーハラスメントに手を貸しているとも言えます(傍観者効果)。なぜ同僚たちは、これほどまでに温度差なく揃って美樹に敵意を抱いてしまうのでしょうか?それは、周りに調子を合わせることは人間の本能的な心理だからです。この心理は、同調と呼ばれています。さきほど、大御所芸能人が弱ったスキャンダル芸能人を吊り仕上げることで、自分の地位を固めようとする自己愛の心理を紹介しました。実は、それを見ている私たちの多くもそうなることを望んでいます。また、国家が民衆の不満をかわすために「悪者」のターゲットを作り出すという偏見(差別)の心理をさきほどに紹介しましたが、これも同じです。さらにこの心理は、国内だけでなく国際的な問題としてもよく見られます。その国の国内の政治に国民の不満が高まった時、「悪者」として特定の他国の脅威やかつての復讐心を煽ることで、不満がすり替わるだけでなく、いとも簡単に国家としての一体感(愛国心)が高まります。これは、政治の常套手段でもあります。表4 同調の二面性困った面良い面馴れ合い、横並び意識甘え、しがらみイエスマンカリスマ崇拝(極端化)仲間外し(「村八分」)仲良し思いやり、助け合い分け合い(公平性)信頼感一致団結、一体感2. 同調の起源それでは、そもそも私たちはなぜ人間関係の中で、周りに調子を合わせようと本能的にしてしまう、つまり同調するのでしょうか?その答えは、原始の時代から、「周りに調子を合わせよう」と心が動く種ほど生き残り、その遺伝子が現在の私たちに引き継がれているからです。当時、人は猛獣の襲撃や飢餓の脅威を目の前にして、助け合う(協力)ために、周り(集団)に調子を合わせる、つまり多数派の考え(集団規範)に従い、集団のメンバーたちと心を1つにして協力しました。そうするのが心地良いと同調の心理が動機付けられる種ほど生存確率が高まったのでした。実際に、ある心理実験では、人の印象において、相手が少数派であるというだけでその相手への評価が否定的になるという結果が得られています(印象形成のバイアス)。「寄らば大樹の陰」ということわざは、これを端的に表しています。また、「差別は普通ではないことである」「差別する人は普通の人ではない」「私は普通の人だから差別をするはずがない」と言う人がいます。しかし、普通(多数派)であるという意識を高めるほど同調の心理が強まり、結果的に少数派を否定的に見てしまうという差別の心理が生まれています。つまり、逆説的にも「普通の人」ほど差別をしてしまうということです。原始の時代の心を引き継ぐ私たちは、共通の脅威がある時ほど同調(協力)し、一体感の心地良さを味わうことが分かりました。逆に言えば、その心地良さを味わうには、共通の敵(脅威)が必要です。つまり、脅威を同じもの(共通)にしようとする心理こそが、同調の源なのです。しかも、共通の脅威が集団の外にない場合は、集団の中に見いだします。こうして、集団の共通の脅威となったターゲット(スケープゴート)は、集団のメンバーから敵意を向けられるわけです。集団内において、人は、仲良し(協力関係)になるために、仲間外れ(脅威の身代わり)を作らなければならないという矛盾した心理を持っているのです。表5 パワーハラスメントの心理と動機付け心理自己愛カテゴリー化同調「私が上よ」「(悪者は)あの人に決まってる」「ですよねえ」動機付け競争競争か協力かの区別協力敵意を抱いて優位に立つ悪者(裏切り)の脅威センサーの誤作動に乗っかり安心を得る悪者(裏切り者など)の脅威を共有し、協力する組織としての具体的な取り組み美樹を見守る唯一の味方のキャラクターとして登場するマネージャーが言います。「生き残りたいなら強くなれ」「このまま黙って静かに消えたら、お前の思いもやってきたことも何もなかったことになるんじゃないか」「どんなに辛くても、逃げずに立ち向かえば絶対に誰かの心に残る」と。生き残って這い上がって来いという力強い励ましメッセージが込められています。このマネージャーのお陰で、美樹は成長し強くなりました。このドラマの展開から学ぶことは、パワーハラスメントは個人のひたむきさやコミュニケーションの能力、そして支えてくれる味方によって乗り越えられる場合があることです。と同時に、以前にいた新人が心の傷を負ったように、必ずしも全ての人が乗り越えていけるほど生易しいものでもないことです。これまで、パワーハラスメントの根源となるとなる3つの心理―自己愛、カテゴリー化、同調―を解明してきました。そして、パワーハラスメントは、進化の産物としての集団の心理であることも分かってきました。つまり、パワーハラスメントは、特別な集団の特別な人たちがするのではなく、ごく普通の集団でごく普通の人たちがしてしまうということです。しかも、武器や権力などのパワーを持てば持つほど、潜んでいたその遺伝子が目を覚ましてしまうということです。これから、パワーハラスメントは、人間の本質を美化して「起きない」ことを前提にするのではなく、人間の本質を直視して「起きる」ことを前提にする必要があります。私たちがつくる集団(社会)に理想郷は存在しないことを自覚することが出発点です。この前提に立てば、個人だけではなく、集団としての組織の具体的な取り組みが見えてきます。それでは、みなさんのそれぞれの組織の中で具体的に何ができるか、ドラマのエピソードに触れながら、3つのポイントを整理してみましょう。表6 組織としての具体的な取り組み具体例客観化トラブルが起きたらオープンにするメンバー同士がチェックできる部下もリーダーを評価する外部の相談窓口の設置定期的な研修注意喚起のための張り紙構造化メンバーが具体的なビジョン(目標)を共有する役割をはっきりさせる限界設定個人として自分の限界を示し、泣き寝入りしないICレコーダーや携帯電話の録音機能により、証拠を押さえる労働組合や弁護士に相談する(1)客観化美樹が冷凍室に閉じ込められた事件では、美樹のせいにされました。そして、原因は美樹の「不注意」という始末書が作成されます。詳しく調査をすれば、原因は美樹の不注意ではなく、別の同僚のせいであることに辿りつくのは明らかなのにです。そのわけは、リーダーは、美樹の不注意と決め付けて、詳しく調べなかったのでした。一方、美樹は、冷凍室事件では、その前にミスをしていた引け目もあり、自分の言い分を言うことができません。ここから学ぶ1つ目の取り組みは、パワーハラスメントによるトラブルが起きたらオープンにすることです(客観化)。私たち日本人は、自分の言い分を言うことは目立ったり迷惑になったりして恥ずかしいと思いがちです。しかし、パワーハラスメントは起きるものであることが分かりました。大事なのは、これを集団の共通認識とすることです。逆に、うやむやにしたり隠すこと(隠ぺい体質)は、憶測から思わぬ犯人探しの心理(偏見)を生み出します。また、ドラマでは、咎められなかったことを良いことにその同僚の仕業はエスカレートしていきました。オープンにする組織の文化が次の被害者を出さないためにも大事です。また、逆に、パワーハラスメントという言葉が、センセーショナルな響きから独り歩きし、悪用されることもあります。いわゆる「逆パワハラ」です。部下が傷付いたと騒ぎ、上司を訴えるパターンです。この状況も、オープンにしていることで、予防ができます。大事なのは、集団のメンバーに公正な判断材料が十分にあり、お互いが客観的にチェックできることです。例えば、組織内でのメールは公開し、それぞれの指示などもメンバーがチェックできるようにすることです。また、人事の評価は、リーダーからだけでなく、部下たちからも行うことです(360度査定)。さらには、外部の相談窓口の設置、定期的な研修、「言葉の暴力も懲戒の対象になります」との具体例を示すなどの貼り紙を義務付けることで、パワーハラスメントを語ること自体が開かれていることも大切です。(2)構造化美樹が、チームの同僚たちに受け入れられるようになったきっかけとして、美樹のひたむきさや前向きさに加えて、いっしょに協力しなければ成功しないというプロジェクトが始まったことです。それまでは仕事の奪い合いで、チームのメンバーたちは競争の関係にありました。しかし、プロジェクトの成功という報酬が目の前にあることで、協力の関係が動機付けられます。つまり、同僚たちの敵(脅威)は、それまでは美樹でしたが、その後はプロジェクトの失敗という未来に差し替えられたのでした。ここから学ぶ2つ目の取り組みは、メンバーが具体的なビジョン(目標)を共有する枠組みを作ることです(構造化)。協力の本質は、共通の脅威を乗り越えることでした。協力するための脅威は、肯定的な「脅威」、つまり目標に置き換えることができるということです。不適切な例は、「とにかくリーダーである私の言うことを聞きなさい」という関係です。これは、共有すべきビジョンも部下の役割も、曖昧です。よって、適切な例は、上司が具体的なビジョン(目標)のための取り決めを前もってはっきりさせることです。そして、「あなたには何ができる?」「私に何を求める?」と確認し合うことです。すると、メンバーは、言われたままにやるのではなく、自分の行動に責任を持つようになり、役割がはっきりしてきます。部下だけでなく上司も、目標に向かって取り決めを守り、役割を果たしているという姿勢を見せることです。もはや、リーダーも部下も人としては対等で、職場においての決められた役割が違うだけになります(フラット化)。これは、ちょうどジグゾーパズルのピースのように、集団のメンバー1人1人の役割が対等に果たされることで1つの仕事が達成されれば、メンバーのそれぞれが相手に敵意を抱かなくなる仕組みです(ジグゾー法)。これは仕事においてだけでなく、スポーツ観戦においても見られます。ひいきのスポーツチームを応援するために、ファンやサポーターがスタジアムに集まり共に熱狂することで、ファン同士が仲良くなることです。敵チームを疑似脅威と見立てることで、集団の一体感を高める効果が期待できます。(3)限界設定ドラマでは、皮肉にも、ある同僚の隠し撮りの映像が美樹の窮地を救いました。ここから学ぶ3つ目の取り組みは、証拠を確保し、自分の限界を示し、泣き寝入りしないことです(限界設定)。これは、1つ目と2つ目の集団での取り組みでもパワーハラスメントが改善されない場合の個人の取り組みです。例えば、パワーハラスメントが日常的に起きている場合は、ICレコーダーや携帯電話の録音機能を使い、証拠をまず押さえることです。証拠を持って、労働組合や弁護士に相談することです。いくら組織が変わらないからと言って、泣き寝入りをしないことがより良い組織作りにおいて必要です。逆に言えば、管理者は職場においても録音されている可能性があるという発想を持つ必要があります。パワーハラスメントの裁判において、録音などの証拠があって初めて、パワーハラスメントが認定されます。例えば、管理者が、パワーハラスメントが起きている状況を知りながら放置している場合は、従業員の安全に配慮する義務(安全配慮義務)や従業員の心身の健康を保つ義務(就業環境調整保持義務)に違反していることになります。より良い職場(社会)のために心を「進化」させる心の働きは、進化心理学という理論的なフィルターを通して見ると、すっきりしてきます。ただし、パワーハラスメントの心理が進化の産物であるからと言って、私たちは遺伝子の操り人形ではありません。そのような本能的で感情的な「野生の心」を俯瞰(ふかん)して見ることができる、理性的な「文明の心」も私たちは持ち合わせています。より良い職場(社会)のために、この「文明の心」をフルに活用させ、人間関係における様々な心理をよく理解することで、私たちの心はより理性的により賢く「進化」していくことができるのではないでしょうか。1)岡田康子・稲尾和泉:パワーハラスメント、日経文庫、2011年2)それ、パワハラです:笹山尚人、光文社新書、2012年3)大渕憲一:新版 人を傷つける心、サイエンス社、2011年4)本間美智子:集団行動の心理学、サイエンス社、2011年5)石川幹人:人は感情によって進化した、ディスカヴァー携書、2011年

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“心が痛い”と“身体が痛い”

心療内科が痛みを診る:その理由心療内科が「疼痛」を診ることについては、馴染みのない方もいるかもしれないが、われわれにとっては自然なことである。当科で疼痛患者さんを多く診るようになったのは、当科の歴史的背景に起因する。初代教授である池見酉次郎先生は、早くから心と身体の結びつきに着目し、1961年に九州大学で精神身体医学研究施設を設立、1963年に「心療内科」という診療科名が冠された。「心療内科」が正式な標榜科として認可されたのは1996年であるから、それより30年以上前の話である。当初は過敏性腸症候群や気管支喘息、蕁麻疹など、内科的な分野を中心に研究が始まった。その後、当科の先輩である中井吉英先生(関西医科大学名誉教授/日本心療内科学会理事長)が慢性膵炎の研究の中で、腹痛についても積極的に取り組まれることとなる。また、ペインクリニックとの連携によって全身の痛みを扱うようになり、症例を重ねるうちに、さまざまな痛みに対して心身医学的アプローチが応用できることがわかってきた。こうした経緯から、当科は摂食障害、病的疲労、睡眠障害、生活習慣病などとともに、内科系でありながら慢性疼痛をもつ症例一般を治療対象とするようになってきている。心療内科のアプローチは身体医学とは異なる部分も含んでいる。身体医学では、ある時点での情報を重要視するが、心療内科では、その人の考え方、動き方、生き方(生活様式)の流れやそのルーツを重要視する。今はこういう状態だが以前はどうだったのか、何故そうなったのか、周囲の人たちとのつながりはどうなのか、など生活背景や流れに注目し、その患者さんの水面下にある苦悩を患者さんと一緒に対話するなかで見つけていき苦悩・苦痛の緩和をともに創造していくのである。画像を拡大する難治の慢性疼痛患者さんの傾向当科には全国から重症の疼痛を持つ患者さんが集まってくる。当科を受診する難治性の慢性疼痛患者さんを分析したところ、興味深いことに、厳しい被養育経験がトラウマになっているケースが多いことがわかってきた。厳しい体罰などの身体的虐待、言葉による心理的虐待、性的トラウマもあれば、親の過干渉や愛着障害もある。また、こういった患者さんには、大変な環境に過剰適応していくうちに「失感情症」という自らの気持ちを言葉で表現しにくい心理特性を持っている方が多い。さらに、病院を転々とし、医療に対し不信感を抱いている患者さんも多いのも特徴であろう。■失感情症と慢性疼痛の関係性われわれは日々の臨床経験を通して、失感情症が痛みに大きく影響していることを実感している。なぜ、そのようなことが起こるのだろうか?痛みの伝達には感覚系経路と情動系経路があることが知られている。感覚系は痛みの強さや位置を伝達し、情動系は不快感を伝え警報を鳴らす役割である。どんな痛みもこの感覚系と情動系の信号がミックスされている。情動系は脳の前部帯状回、島皮質、扁桃体、前頭前野を活性化する。この部位はまた、社会的ストレスによっても活性化されること(社会的痛みの体験)が明らかになっている。社会的ストレスに晒され不快情動系が活性化されていると、患者さんの頭の中で常に警報が鳴っている状態になると考えられ、社会的疎外感を感じている「いじめられ体験」にも通じる現象と考えられる。一方、失感情症の方は最近の脳画像研究で前部帯状回、島皮質などの上記の部位に異常があることがわかってきている。そのため、社会的ストレスが蓄積されると、不快情動の成分をしっかり体験しながらも感覚成分のみに注目がいき、身体的疼痛の訴えが強調され、「とにかく痛い、なんとかして」という切迫した訴え(破局化)につながると考えられる。自分の感情を自然に表現できない環境に育った失感情症の方は、「(心理的に)大丈夫です」といいながら、身体の痛みでSOSを出しているともいえる。実際、痛みという表面的な訴えの背景には不安・抑うつなどの否定的感情、虐待歴、社会的疎外感による心の痛みなど、患者さんの深い苦悩が存在することが多い。もうひとつ、医療不信についてお話しする。医療不信の方と信頼関係を構築して心境をうかがっていくと、両親との関係性に問題のある人間不信の方が多いことがわかる。医療不信は、身体的疼痛やそれに伴う心の苦しみを医師がきちんと診てくれないという思いから、ドクターショッピングを繰り返し成り立っていく。これは、子どもの頃、両親に一人の人間として自身の存在を大切にしてもらえなかった、という彼らの被養育体験からくる長年の人間不信の思いと共通する症例もある。久山町疫学研究における慢性疼痛と失感情症の調査からみえてきたこと失感情症と慢性疼痛の関連性については国際的なエビデンスはあるが、日本人に適用できるかどうかはまだ検証されていなかった。そこで本邦の心身症患者さんを対象とした検討を続ける一方で、一般住民を対象に慢性疼痛に関する心身医学的な疫学研究を行った。福岡県久山町の定期検診の際、40歳以上の一般住民において失感情症の質問紙TAS20のスコアと疼痛の有無の関係を調べたものである。被験者927名のなかで慢性疼痛(6ヵ月以上続く痛み)を有する割合は、失感情症なし群46%に対し、失感情症あり群では67%と、失感情症あり群で有意に多かった。さらに失感情症の程度を4分位し、慢性疼痛罹患リスクを解析した。罹患リスクは失感情症スコアが中央値を超えて重症化するにつれ上昇し、もっとも高い群(TAS20スコア 55以上)では、2.0倍(全体から急性疼痛あり群を除くと2.8倍)にも増加していた。さらに、慢性疼痛はQOL低下を招き、そこに失感情症を合併するとさらにQOLが低下することがわかった。また、慢性疼痛を有していても、失感情症がない場合は失感情症がある場合よりも生活満足度が高いという結果が出ている。画像を拡大する画像を拡大するTAS-20:トロント アレキシサイミア(失感情症)スケール日本人には、「つらくても表に出さずに耐え忍ぶ」「弱音は吐かない」といった国民性がある。これは日本文化では美徳とされるが、心身医学的な観点から言えば、失感情症につながるものであり、心身の健康という点からは決して喜ばしいものではない。QOL向上につながる失感情症のケアについては、今後さらに注目していくべきであると考える。慢性疼痛患者さんの診療におけるdos and don'ts慢性疼痛では、身体の訴えの強さと比較して基本にある身体的疼痛がみえにくいケースがある。そのような場合でも、始まりは社会的ストレスに伴った筋肉痛や関節痛などの機能性痛みが合併していたが、経過のなかで改善し、心理的苦悩の成分が残存していることがある。■まずは信頼関係の構築を心療内科では患者さんと医療者との信頼関係構築のため、初診の診療に時間をかける。一般の先生はわれわれのように長い時間をかけることはできないかもしれないが、せめて5分くらいは患者さんの顔を見て本人に自由に話していただく時間をとってほしい。そして患部を丁寧に診察する時間をつくっていただきたい。それだけでも患者さんは安心するものである。すぐに患者さんから話を聞き出すことができなくても、診察のたびに顔をみて話しかけていけば、徐々に信頼関係は構築されていく。そうすると、いざというときに患者さんの変化からSOSに気づくことができるし、治療効果を高めることにもつながる。もし一時的に状態が悪くなる時期があっても、「苦しい今をしのいで一緒に乗り越えていきましょう」と言えるような関係づくりが大切だと考える。■「痛くないはず」と思い込まないこと患者さんが強い痛みを訴えていても、医学的原因が判明しないことも少なくないが、それだけで、「痛くないはず」と治療者が思いこまないことは大切である。その際に、社会的疎外感だけでも身体的痛みのときと同様の苦しみを感じさせるという近年の知見を医学的情報として知っていることで病態評価が展開することがある。つまり、身体の痛みと感じている患者の体験は、身体の機能的異常とともに何らかの社会的疎外感を感じて苦しみが悪化しているのではないだろうかと考えて、生活環境の変化について、質問をしてみるとよい。そして患者さんには「最近は痛みに伴う心理的な要因を考慮した痛みの対処法が進んでいるから、専門の医師に相談してみてはどうか」とポジティブな言葉で専門医への紹介受診を促していただきたい。そうすれば「心が弱いから痛みが起こる」という誤解をすることなく、「がんばっている人の身体の痛みを社会的ストレスがより不快にする」という理解のもとに、患者さんは生活環境に合ったオーダーメイドの治療ステップへと進むことができるのである。■薬をむやみに切り替えないこと効かないからとすぐに薬を変更することは避けたいものである。プラセボ効果の反対で「ノセボ効果」という現象がある。「効かないだろう」という思い込みによって、効くはずの薬が効きにくくなってしまうのである。A先生に出してもらった薬はよく効いたが、同じ薬をB先生が出すと全然効かないというようなケースもある。同じ薬でも処方する医師への期待値によって効き方が違ってくる。その根底には医療あるいは医師への不信感がある。処方医に対して不信感があると薬の効果が減退してしまうのである。要するに、患者さんとの信頼関係が築けていない状況下では、どんなに薬を切り替えても適切な効果は期待できない。効果が出ずに投与量だけ増えている、というような場合には、まず患者さんとの信頼関係や服用のコンプライアンスを見直すところから始めてみてほしい。信頼関係なくしてよい治療は成り立たない。患者さんが安心して自分の気持ちを出せる場を提供し、信頼関係が築けたうえでその人に合うだろうという薬を少量から始める。そうすると、過去に効かなかった薬ですら効果が出る、ということも少なくない。患者さんと医療者との信頼関係が治療や予後に大きく影響するため、われわれは患者さんが話しやすい場をつくり、患者さんの人間としての全体像を知るように努めている。慢性疼痛においては、身体的な痛みについては標準的なアプローチは継続しながらも、対人交流不全の苦悩や、生活環境などによる社会的痛みや実存的な苦しみ(自尊心の問題)をターゲットとすることが効果的なことも多い。良好な患者ー医療者関係を築きながら、感情をうまく言葉にできず葛藤場面で適切な自己主張ができない患者さんの心身を疲弊させ、苦しめているものが具体的に何かを患者さんと一緒に探していくのである。慢性疼痛の心身医学的アプローチにより得られる知見が、今後一般診療にもさらに生かされ、患者・医療者がともに創り出す痛み治療に対して双方の満足感が増えることを期待したい。

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ドライアイスを飲み込んだらどうなる?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第3回

ドライアイスを飲み込んだらどうなる?まだ早朝にクマゼミがジージーと鳴いている地域もあるでしょうか、残暑が続きますね。まだまだアイスクリームがおいしい季節です。60kcal程度のアイスクリームなら…と毎日のようにアイスクリームをむさぼっている最近です。さて今回は少し涼しくなるような医学論文を2つ紹介します。といっても、テーマはアイスクリームではなくドライアイスですが。ドライアイスはマイナス79℃の二酸化炭素の固体であり、触ると粘膜に熱傷のような表皮剥離を来して痛くなることは、誰しもご存じと思います。氷と違ってドライアイスは固体から気化するため、水分が無いから痛いのだろうと思います。そんなドライアイスを飲み込んでしまったらいったいどうなるのか、想像したことはあるでしょうか。救急医だとドライアイスを飲み込んだ症例を経験したことがあるかもしれませんが、実際に医学論文として報告されている例は多くないようです。検索した限りで、ドライアイスを飲み込んだ症例報告が過去に2例あったのでご紹介します。Shirkey BL, et alFrostbite of the esophagus.J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2007 Sep;45:361-2.この論文は15歳の男の子の症例で、高校の化学の実験の最中にドライアイス入りの水を飲んだようです。ドライアイスが溶けきっていなかったため、飲んだ直後に強い咽頭痛を訴えました。H2受容体拮抗薬などが投与され、20時間後に上部消化管内視鏡検査が行われました。その結果、食道には出血を伴う粘膜病変が観察されました。幸いにも胃粘膜には異常はみられませんでした。彼の症状は次第に改善し、ステロイドと抗菌薬を投与された後退院することができたそうです。この病変は食道異所性胃粘膜 (inlet patch)ではないかという指摘もあったようですが、その後の著者の回答によって臨床的にはドライアイスによる消化管の粘膜障害と結論づけられています(J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2008 Apr;46:472-3; author reply 473.)。Li WC, et al.Gastric hypothermic injury caused by accidental ingestion of dry ice: endoscopic features.Gastrointest Endosc. 2004 May;59737-8.一方、16歳の女の子が誤ってドライアイスを飲み込んでしまったという症例報告もあります。ドライアイスによって、胃粘膜にはびらんを伴う発赤と線状の多発出血性病変がみられ、多発性の潰瘍も観察されました。この症例報告は、ドライアイスによって胃粘膜に障害を来すことを明らかにしました。そういえば子どものころ、ドライアイスを水に入れて、出てきた煙(二酸化炭素)に手をかざして絵本に登場する“魔法使い”のようなことをして遊んでいた記憶があります。昔のテレビのCMでも、ドライアイスが頻繁に使われていたような気がします。ドライアイスは一見すると氷と間違えそうになるので、子どもは誤って飲み込まないよう注意したいですね。多くの場合、口にひっつくので飲み込むことすらできないと思いますが、小さいものだと今回紹介した症例のように水と一緒に飲み込める可能性もあります。飲料にドライアイスを入れて炭酸水を作っている人を見たことがありますが、そもそもドライアイスは食品として作られることはありませんので、衛生上の観点からも避けた方がよいと思います。最近は、吸水ポリマーが原料の保冷剤が普及してきているため、ドライアイスを見かけることは少なくなりましたね。昔は、魚屋さんの裏手にたくさん転がっていたものですが。

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『基礎インスリン+GLP-1アナログ』 で 広がる選択肢

2013年9月17日、2型糖尿病治療薬のリキシセナチド(商品名:リキスミア皮下注300μg)が発売された。リキシセナチドは、基礎インスリンとの併用が保険適応となった初のGLP-1受容体作動薬であり、エキセナチド(商品名:バイエッタ、ビデュリオン)、リラグルチド(同:ビクトーザ)に次ぐ3成分目の薬剤である。今回、この新薬についてサノフィ株式会社本社担当者に話を聞いた。リキシセナチドの特徴は、大きく3つリキシセナチドが従来製剤と大きく異なるのは、GLP-1受容体作動薬で初めて「基礎インスリンとの併用」について適応取得した点である。さらに、食後血糖降下作用のほか、胃内容排出遅延作用も認められている。この「基礎インスリンと併用可能」「食後血糖コントロール」「胃内容排出遅延作用」の3点がリキシセナチドの特徴といえる。基礎インスリン+GLP-1受容体作動薬 のメリットとくに「基礎インスリンと併用可能」という特徴は新規性が高い。これまでGLP-1受容体作動薬の投与患者に対しインスリン投与を考える場合は、一度GLP-1受容体作動薬を中止したうえでインスリンへ切り替える必要があった。その点、リキシセナチドは中断の必要がなく汎用性が高い。また、基礎インスリンでは補いきれない食後高血糖についてのコントロールが期待できる。投与対象はBOTで血糖管理不十分な患者さんしかし、GLP-1受容体作動薬すべてに該当することだが、リキシセナチドも経口薬との併用に縛りがある。開発当初、SU薬が糖尿病治療薬の中心であった背景から、リキシセナチドと併用できる経口薬は「SU薬単独、またはSU薬とビグアナイド薬の併用」に限定されている。サノフィ株式会社の本社担当者は、「汎用性のある経口薬との適応拡大も視野に入れているが現実的には先の話になる」と断ったうえで、「発売時点では、『BOTで血糖改善が認められない患者さん』にお使いいただき、徐々にご評価いただきたい」と述べた。アジア人を対象としたリキシセナチドの効果リキシセナチドの血糖降下作用を示すデータとして、日本人を含むアジア人を対象としたGetGoal-L-Asia試験がある。これは基礎インスリン療法(±SU薬)で血糖コントロール不十分(HbA1c:7.0~10%)な2型糖尿病患者311例を対象にした追跡試験である。24週後のHbA1c値および朝食後2時間血糖値の変化は、リキシセナチド群で-0.88%、-141mg/dL、とプラセボに比べて有意な低下が認められている1)。従来と同程度の安全性。ただし、継続評価が大切安全性については、第III相試験において、HbA1c低下効果についてエキセナチドに対する非劣性が示されたうえで、嘔気・嘔吐を含む消化器系副作用や低血糖症の発現率が少ないとの報告がある。ただし、嘔気・嘔吐はGLP-1受容体作動薬に共通の副作用であることから、発売後の症例集積に伴う慎重な評価が求められるだろう。リキシセナチドにより、併用の選択肢が広がったリキシセナチドの投与法は、1日1回、朝食前1時間以内の皮下注射である。前出の担当者は「リキスミアと基礎インスリンの投与タイミングを朝に集中させることで、患者さんの負担軽減にもつながるのではないか」と期待を語った。リキシセナチドの登場により、併用療法に「基礎インスリン+GLP-1受容体作動薬」という新たな選択肢が加わったといえるのではないだろうか。(ケアネット 佐藤寿美)1) Seino Y,et al.Diabetes Obes Metab. 2012;14:910-917.

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院内の転倒事故で工作物責任を問われたケース

リハビリテーション科最終判決判例時報 1736号113-118頁概要脳内出血後に生じた右不全片麻痺に対し入院リハビリテーションを行っていた71歳女性。病院内の廊下を歩行していたところ、子供が廊下の壁に沿って設置されていた防火扉の取っ手に触れたため、防火扉が閉じ始めて患者と接触、その場に転倒し、右大腿骨頸部骨折を受傷した。患者側は、防火扉の設置保存に瑕疵があったために負傷したとして、病院に損害賠償を請求してきた。詳細な経過患者情報脳内出血による左不全片麻痺を発症し、急性期治療を他院で受けた71歳女性経過1996年11月5日リハビリテーション目的で某病院に入院となる。ADL(日常生活動作)については、T字杖を用いて200m程度歩行可能。手摺を使えば階段昇降も可能、ベッド上からの起き上がり、車椅子からベッドへの乗り移り、更衣、食事、排泄、入浴も一人で行うことができた。12月6日病院の廊下を歩行中、子供が廊下の壁に沿って設置されていた防火扉の取っ手に触れたため、防火扉が閉じ始めて患者に接触、その場に転倒するという事故が発生した。X線写真で右大腿骨頸部骨折と診断され、人工骨頭置換手術が行われた。術後もリハビリテーションを続けたが、T字杖ではなく、もっぱら4点杖を使用して50m程度しか歩行できなくなり、転倒への恐怖心や病院への不信感などから、リハビリテーションに対しては消極的となった。それ以外のADLでは、入浴の際、膝から下を洗うことが困難となった以外には目立った変化はみられなかった。その他、右臀部痛がひどく、ベッドから起き上がる際には介助が必要となった。もともと患者は一人暮らしを希望していたが、介助が必要になったため娘との同居を余儀なくされた。当事者の主張患者側(原告)の主張1.防火扉の設置保存の瑕疵により発生した傷害事故であるため、病院側は工作物責任を負うべきである2.もともと労災等級で第3級に相当する状態であったところへ、人工骨頭置換術により下肢の三大関節の用廃第8級が追加されたため、両者を併合して第1級の後遺障害である病院側(被告)の主張1.子供が触れた防火扉を避けきれずに転倒したのは、脳内出血による右片麻痺が寄与していたし、転倒して骨折したことには重度の骨粗鬆症が寄与しているため、7割の過失相殺がある2.後遺障害の等級は事故前後ともに第3級相当である裁判所の判断1.病院内は高齢者や身体に疾患を有するものが多数往来しているため、今回のような事故を回避するために、一般の住宅や通常の施設とは違った、利用者の安全へのより高度の注意義務が課せられている。したがって、本件は病院内工作物の設置保存の瑕疵により生じた事故である2.患者は現在一人で生活をおくることはきわめて困難であり、随時介護を要する状態にあるので、後遺障害は第2級に該当する3.患者の年齢、骨折の際の肉体的苦痛、リハビリテーションの負担などは原告にとって相当程度のものであったことを斟酌すると、後遺障害の等級を減じる要素や過失相殺の要因とはならない原告側2,590万円の請求に対し、2,010万円の支払命令考察このような事件は、患者さんにしてみればとても不幸なことですが、病院側に「全面的な責任あり」という判決が下っても、もなかなか容易には受け入れ難いように思います。そもそも、病院を建設する時には消防法にしたがって適切な場所に防火扉を設置する義務があるわけですし、その防火扉を病院職員が誤って閉じたのならまだしも、面会に来ていた子供がいたずらして閉じてしまったのですから、「そこまで責任を負わなければならないのか」、という感想をもちます。なかには、子供の保護者に責任をとってもらうべきだというようなご意見もあるでしょう。ただし、このような事件が実際にあるということは、われわれ医療従事者にとっては病院内の設備を見直すときのとてもよい教訓となりますので、今後同じような紛争が起きないように配慮を行うことが肝心だと思います。まず第一に、将来的には欧米並の訴訟社会に移行することを念頭において、病院内の設備にはリスクがないかどうか、細心の注意を払って見直す必要があります。少々極端な話にも聞こえますが、「病院内で滑って転んだのは掃除の時に水をこぼしたのが悪い」ですとか、「玄関の自動ドアに手を挟まれたのは病院の責任だ」、「職員が非常口のドアを反対側から突然開けたので転倒した」などなど、例を挙げればきりがないと思います。今回の事件では防火扉が予期せぬところで閉じてしまったために、たまたま居合わせた患者が負傷するという事故が発生しました。そのような場合には、「病院は一般の住宅や通常の施設とは違った、利用者の安全へのより高度の注意義務が課せられている」と判断されますので、あらかじめリスクの高いところへは患者さんがいかないようにしなければなりません。すなわち、防火扉、非常口、非常階段などは、身体的に不自由な患者さんにとってはハイリスクエリアと考え、そこへは立ち入ることがないよう物理的なバリアを設けたり、リハビリテーションを兼ねた歩行練習は安全な場所で行うようにするなど、職員への周知を徹底することが肝心だと思います。また、普段病院に常駐しているスタッフにとっては、いつもと違った角度で施設内のリスクを見直すにはどうしても限界があると思いますので、定期的に外部の人間にチェックしてもらうなどの方策を講じるのがよいと思います。なお今回と同様の事故として、高齢の入院患者が窓際に設置されたベッドから窓の外に転落し死亡したケースに対し、病院側の工作物責任を認めたもの(判例タイムズ 881号183頁)、見舞いに来た幼児が窓際に設置したベッドから窓の外に転落した事故(判例時報 693号72頁)などがあります。次に、不幸にして院内で転倒そのほかの事故が発生してしまい、結果的に患者さんへの不利益が生じた場合には、スタッフ全員ができる限り誠意のこもった対応をするよう心がける必要があります。今回の事件でも、病院側は「やむを得なかった」という弁解をくり返し、自らの責任を認めようとしなかったため、患者側は著しい不信感を抱き、かえって話がこじれてしまいました(もし当初からきちんと話し合いをしたうえで、できる限り力になりましょうという態度をとっていれば、訴外で解決できた可能性も十分にあると思います。もちろん、その場合にも損害保険会社の施設賠責保険が使用可能です)。では具体的にどのようにすればよいのか、という点に明快な回答を用意するのは難しいのですが、少なくとも病院内で発生した外傷事故、あるいは結果的に患者さんにとっての不利益が院内で生じた場合には、病院側にも責任の一端があるという態度で臨むべきではないかと思います。その際の責任範囲をどこまで設定するのかということについては、さまざまな考え方があるかと思いますので、必ず院内の安全管理委員会で検討するとともに、弁護士をはじめとする外部の顧問にアドバイスを求めるのがよいと思います。リハビリテーション科

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1日1杯のワインがうつ病を予防

 うつ病はアルコール摂取に関連しているといわれている。スペイン・ナバラ大学のAlfredo Gea氏らはアルコール摂取とうつ病との関係をプロスペクティブに評価した。BMC medicine誌オンライン版2013年8月30日号の報告。 対象は、PREDIMEDトライアル(最大7年フォローアップ)の参加者のうちハイリスク群の男女5,505人(55~80歳)。試験登録時、対象者にうつ病の有病および既往歴はなく、アルコール関連の問題もなかった。アルコール摂取量を評価するため、栄養士によって管理された137項目の食物摂取頻度調査票による調査を毎年実施した。うつ病発症の定義は、臨床診断により新規にうつ病と診断された場合、あるいは抗うつ薬の使用を開始した場合とした。分析にはCox回帰分析を用いた(2万3,655人年)。 主な結果は以下のとおり。・適度なアルコール摂取(5~15g/日)は、うつ病発症の低いリスクと有意に関連していた(HR[95%CI]:0.72[0.53~0.98] vs 禁酒群)。・具体的には、1週間あたり2~7杯のワイン摂取がうつ病発症の低リスクと有意に関係していた(HR[95%CI]:0.68[0.47~0.98])。・適度なワインの摂取はうつ病発症リスクの軽減につながるが、大量飲酒ではリスクが増加する傾向がある。関連医療ニュース 日本人のうつ病予防に期待?葉酸の摂取量を増やすべき 「抑うつ+過度な飲酒」その影響は? ゲームのやり過ぎは「うつ病」発症の原因か?!

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レニン阻害薬、動脈硬化進展を抑制せず/JAMA

 冠動脈疾患を有する高血圧前症患者へのレニン阻害薬アリスキレン(商品名:ラジレス)投与はプラセボと比較して、アテローム性動脈硬化の進展を抑制しないことが、南オーストラリア健康・医療研究所(SAHMRI)のStephen J. Nicholls氏らによる無作為化試験AQUARIUSの結果、示された。著者は、「今回の結果は、アテローム性動脈硬化症の退縮または予防についてアリスキレン使用を支持しないものであった」と結論している。JAMA誌オンライン版2013年9月3日号掲載の報告より。アリスキレン300mg/日またはプラセボを104週間投与 アテローム性動脈硬化症では、血圧降下とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)阻害が治療目標となる。一方、動脈硬化の進展に対するレニン阻害の効果はこれまで検討されていなかったことから、アリスキレンとプラセボを比較検討する本試験が行われた。 AQUARIUS(Aliskiren Quantitative Atherosclerosis Regression Intravascular Ultrasound Study)は前向き多施設共同二重盲検法にて2009年3月~2011年2月に、ヨーロッパ、オーストラリア、南北アメリカの103施設で被験者を募って行われた。 被験者は、冠動脈疾患、高血圧前症(収縮期血圧125~139mmHg)、2つ以上の心血管リスク因子(心筋梗塞等の既往歴あり、尿中アルブミン/クレアチニン比30~300mg/g、2型糖尿病など9因子のうち)を有する613例であった。冠動脈血管内超音波法(IVUS)検査による画像診断を受け、305例がアリスキレン300mg/日の経口投与を、308例がプラセボをそれぞれ104週間投与された。 治療72週以降にIVUS検査を行い、疾患進行について評価を行った。主要有効性指標は、アテローム容積率(PAV)のベースラインから試験終了までの変化とし、副次有効性指標は、標準化総アテローム容積(TAV)の変化およびアテロームが退縮した患者の割合などが含まれた。安全性および忍容性も評価された。主要有効性指標PAV、副次有効性指標TAVともに有意差がみられず ベースラインと追跡調査時の画像診断データが入手できたのは、458例(74.7%、アリスキレン群は225例)であった。 主要有効性指標のPAVは、両群間で有意差はみられなかった。アリスキレン群-0.33%(95%信頼区間[CI]:-0.68~0.02%)、プラセボ群0.11%(同:-0.24~0.45%)で群間差は-0.43%(同:-0.92~0.05%、p=0.08)だった。 副次有効性指標のTAVも差がみられなかった。アリスキレン群-4.1m3(95%CI:-6.27~-1.94m3)、プラセボ群-2.1m3(同:-4.21~0.07m3)で群間差は-2.04m3(同:-5.03~0.95m3、p=0.18)だった。 PAV、TAVの改善を示した患者の割合も両群間で有意差はなかった。PAV(アリスキレン群56.9%対プラセボ群48.9%、p=0.08)、TAV(同:64.4%対57.5%、p=0.13)だった。 有害事象については、低血圧症(同:7.2%対3.9%、p=0.04)、腎および尿路障害(6.9%対4.9%、p=0.38)の発生(試験担当者が報告)が、プラセボ群よりもアリスキレン群のほうがより多くみられる傾向があった。高カリウム血症(≧5.5mEq/L)の発生は、両群で同程度だった(アリスキレン群10.7%対プラセボ群9.8%、p=0.76)。なお有害事象による試験中断はアリスキレン群のほうが多かった(同:8.2%対4.5%)。

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低線量ヘリカルCTは早期肺がん検出能が高い/NEJM

 低線量ヘリカルCTによる毎年の肺がん検診は、胸部X線によるものに比べ、陽性適中率は低いものの、早期肺がんの検出能が高い傾向が明らかにされた。米国・カリフォルニア大学のDenise R. Aberle氏らが、低線量ヘリカルCTと胸部X線の肺がん検診のアウトカムを調べる全米肺検診試験(National Lung Screening Trial:NLST)の結果を分析し報告した。NEJM誌2013年9月5日号掲載の報告より。5万人超を無作為化、年1回の検診を3回実施 NLSTは、2002~2004年にかけて登録した被験者5万3,454人を無作為に2群に分け、2002~2007年に低線量ヘリカルCTまたは胸部X線による年1回の肺がん検診を計3回実施し(T0、T1、T2)、発生イベントについて2009年末まで追跡した。その結果、低線量ヘリカルCT群のほうが肺がん死亡率が胸部X線群よりも20%低かったことが先行研究において報告されている。 研究グループは本検討においてT1、T2の、被験者の検診アドヒアランス、検診および確定診断の結果、肺がん症例の特徴、ファーストライン治療を調べ、両検査実施の価値について評価した。 結果、検診受診率は、T1は低線量ヘリカルCT群94.0%、胸部X線群91.2%、T2はそれぞれ92.9%と89.4%だった。 また、T1とT2の検診結果が陽性だったのは、低線量ヘリカルCT群はそれぞれ27.9%と16.8%、胸部X線群は6.2%と5.0%だった。肺がんステージIAは低線量ヘリカルCT群48%、胸部X線群24% 低線量ヘリカルCT群の検診結果について分析した結果、T1は感度94.4%、特異度72.6%、陽性適中率2.4%、陰性適中率99.9%だった。陽性的中率はT2では5.2%に上昇していた。 一方、胸部X線群は、T1は感度59.6%、特異度94.1%、陽性適中率4.4%、陰性適中率99.8%であった。T2では感度が63.9%に、陽性適中率が6.7%へと改善していた。 肺がんステージが明らかになった人についてみると、T1では、低線量ヘリカルCT群はステージIAが47.5%(87例)で、31.1%(57例)がステージIIIまたはIVだった。一方、胸部X線群はステージIAが23.5%(31例)で、59.1%(78例)がステージIIIまたはIVで、低線量ヘリカルCT群で早期肺がんの検出が多い傾向が認められた。

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『尿路結石症診療ガイドライン』が10年ぶりに大改訂

 『尿路結石症診療ガイドライン(第2版) 2013年版』(編集: 日本泌尿器科学会/日本泌尿器内視鏡学会/日本尿路結石症学会)が、10年ぶりの大改訂を経て、9月20日より発売される。 今回の改訂(第2版)では、尿路結石症診療の最新の課題について、EBMの手法で徹底考察、徹底解明しており、38のCQ(クリニカルクエスチョン)形式で構成されている。 具体的には、大きく3つの領域に分け、「疫学」では「尿路結石症の発生には季節変動はあるか?」、「診断・治療」では「尿管結石の疼痛管理に推奨される治療法は何か?」、「再発予防」では「繊維性食物の摂取は尿路結石再発の予防になるか?」などのCQを設定し、疾患の基礎知識、最新の治療から生活指導のポイントまで、尿路結石症診療のあらゆる領域の疑問について臨床現場を意識した回答を行っている。 ガイドラインは、全国の書店、アマゾンなどで発売。定価は1,995円(本体1,900円+税5%)。詳しくは、金原出版まで

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椎間関節の重度変形性関節症は高齢者腰痛の独立リスク因子

 高齢者の腰痛に、椎間関節の変形性関節症(OA)は関与しているのだろうか。米国・VA Puget Sound Healthcare System/ ワシントン大学のPradeep Suri氏らは、フラミンガム子孫コホートの高齢者を対象に検討した。その結果、CT画像で確認された重度椎間関節OAの存在と程度は、社会人口統計学的および健康要因や椎間板高とは独立して地域の高齢者の腰痛と関連していることが示されたと報告した。Osteoarthritis and Cartilage誌2013年9月号の掲載報告。 研究グループの目的は、CTによる椎間板高狭小化測定などを用いた評価で、椎間関節の重度OAと高齢者腰痛との関連を明らかにすることであった。 対象は、フラミンガム子孫コホートの高齢者252例(平均年齢67歳)で、CTによりL2~S1の椎間板高と腰部椎間関節OAを4段階の半定量的スケールで評価した。 腰痛は、患者報告にて過去12ヵ月間「ほぼ毎日」また「毎日」痛みがあるものと定義した。 主な結果は以下のとおり。・椎間関節の重度OAの頻度は、腰痛がある高齢者が、腰痛がない高齢者より高かった(63.2% vs 46.7%、p=0.03)。・多変量解析の結果、椎間関節の重度OAの存在は腰痛と有意に関連していた(オッズ比[OR]:2.15、95%信頼区間[CI]:1.13~4.08)。・重度OAの関節が増えるごとに、腰痛のリスクが大きくなった(1関節あたりのOR:1.20、95%CI:1.02~1.41)。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・脊椎疾患にみる慢性疼痛 脊髄障害性疼痛/Pain Drawingを治療に応用する・無視できない慢性腰痛の心理社会的要因…「BS-POP」とは?・「天気痛」とは?低気圧が来ると痛くなる…それ、患者さんの思い込みではないかも!?

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ざ瘡瘢痕の治療間隔とその効果:フラクショナルCO2レーザー

 フラクショナルCO2レーザーを用いたざ瘡瘢痕治療について、治療間隔の違いによる効果と副作用が、デンマーク・オーフス大学病院のBjorn M氏らにより調査・報告された。その結果、フラクショナルCO2レーザー治療によりざ瘡瘢痕が改善したこと、治療間隔が1ヵ月であっても3ヵ月であっても、効果と副作用には影響しなかったことが示された。Lasers in Surgery and Medicine誌オンライン版2013年9月9日号掲載の報告。 これまで、ざ瘡瘢痕に対するフラクショナルCO2レーザーの有用性および忍容性は示されていたものの、治療間隔の影響については、十分に評価されていなかった。そのため、Bjorn M氏らは、フラクショナルCO2レーザーの照射が1ヵ月間隔と3ヵ月間隔の場合とで、有効性と安全性に影響が出るかどうか評価した。 被験者は、顔面中央または下部に、左右の対称的な萎縮性のざ瘡瘢痕を有する13例。フラクショナルCO2レーザーによる治療を1ヵ月間隔群と3ヵ月間隔群に無作為に割り当てた。最終照射から1ヵ月後、6ヵ月後に、盲検下にて評価(10ポイントスケール)を実施した。評価項目は、瘢痕萎縮度、患者満足度、副作用であった。 主な結果は以下のとおり。・フラクショナルCO2レーザー施術前のざ瘡瘢痕の重症度は中程度であった(5.86±1.87)。・最終照射から1ヵ月後では、1ヵ月間隔群と3ヵ月間隔群ともに瘢痕が改善していた(1ヵ月間隔群:1.96±1.23、p<0.0001、3ヵ月間隔群:1.82±1.08、p=0.0006)。・最終照射から6ヵ月後でも、1ヵ月間隔群と3ヵ月間隔群ともに瘢痕が改善していた(1ヵ月間隔群:1.56±1.24、p=0.0021、3ヵ月間隔群:1.33±1.66、p=0.0002)。・治療間隔の違いは、治療後のいずれの時点においても、ざ瘡瘢痕の改善度に影響していなかった(p=0.81)。・被験者は治療結果に対して、どちらの治療間隔であっても中程度に満足していた(p=0.93)。・治療による副作用は少数であり、それには治療間隔(3ヵ月/ 6ヵ月)による差はみられなかった。

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エキスパートQ&A

プライマリ・ケア医はどの範囲まで、がん患者さんを診るべきなのでしょうか?プライマリ・ケア医の定義がなかなか難しいところですが、地域の開業医の先生方であれ病院勤務の一般内科の先生方であれ、がん患者さんを診るべきだと思います。サブスペシャリティががんとは無関係の領域(循環器、神経、内分泌、腎臓、膠原病、感染症など)であったとしても同じことです。理由は単純です。患者さんは多いのに診る医者が少ないからです。がんは日本人の2人に1人が罹患し、3人に1人が亡くなるという非常にコモンな病気です。がん患者の診療において、専門医数(全国でがん薬物療法専門医<1000人、緩和医療専門医<100人)が少ないなどインフラの問題もありますが、一番大きい問題は患者さん側と医師側が日本のがん医療や一般診療に対してそれぞれが持つ固定観念だと思います。患者さん側は「大きな病院で専門医の先生にずっと診てもらわないと心配だ」、医師側は「がん診療は高度に専門化していて難しい。患者や家族の対応にもストレスを感じることが多い。治らずに亡くなっていく患者を診るのもつらいし、しんどい」といった気持ちがお互いにあるのではないでしょうか。これを少しずつでも変えていかないことには、がん対策基本法の理念である「すべてのがん患者さんに等しく適切な医療を提供する」を実現することは困難だと思います。がん診療はやりがいがあります。患者さんにとって一度は死を意識せざるを得ない疾患ですから、その患者さんや家族との対応の中で自分なりのさまざまな思索を巡らすことになります。また、自分や家族も将来罹患する可能性が高い疾患を目の前の患者さんを通じて経験し、人間の永遠のテーマである「生と死」について深く考えることができるのです。プライマリ・ケア医にできる身体的なケアにはどのようなものがあるでしょうか?がん患者さんの何を診るかについては議論のあるところですが、患者さんのQOL維持・向上のため少なくとも支持療法(緩和医療)についてはカバーすべきと考えています。支持療法の範囲は広く、緊急事態(オンコロジック・エマージェンシー)への対応、疼痛を含む症状コントロール、がん治療による有害事象対策、栄養療法、リハビリ、無再発患者の定期的フォロー(再発の有無、二次がんのチェック、骨粗鬆症、不妊、一般内科的マネジメント)などプライマリ・ケア医であればある程度対応可能な分野と考えています。抗がん薬治療はご自身のサブスペシャリティと、置かれている環境(開業医か病院勤務医か、地方か都市部か)で異なると思いますが、開業医の先生方が抗がん薬治療を扱うのは現状ではなかなか難しいかもしれません。基幹病院への紹介の仕方や、うまく機能しているシステムがあれば教えていただけますか?具体的に機能しているシステムはわかりませんが、病病連携や病診連携において大切なのはやはり「顔の見える関係」です。紙だけのやり取りでは関係が希薄になりがちですので、研究会等で基幹病院の先生と会って良い関係を築くことが重要ですし、いろいろな情報や知識も得られると思います。また紹介患者さんが基幹病院に入院したら、その病院に会いに行くことも重要だと思います。患者さんが喜ぶのはもちろん、基幹病院の医療スタッフも信頼を寄せますので、患者さんを逆紹介していただきやすくなると思います。可能であれば、基幹病院、地域の開業医、訪問看護ステーション、ケアマネージャーなどで症例を通じた多職種カンファレンスを開くのもよいと思います。日常診療でがんを早期発見するためには、どこに気を付ければよいですか?有症状か無症状かで考え方が異なります。有症状の場合、そのがんはすでに早期がんである確率は低いので、ご質問そのものに対する回答にはなっていませんが、個人的には以下のような症状があった場合には、がんを疑うことにしています。すなわち、体重減少、リンパ節腫脹、原因不明で夜間に増悪する腰痛・背部痛、不明熱、嚥下困難、下血・血便・タール便、黄疸、血痰、血尿などです。また過去のがんの既往があれば、より検査閾値を下げて精密検査を進めることになると思います。無症状のがんを診断するためには、基本的にはがん検診を定期的に受けていただくことだと思います。私はがん以外で診ている患者さんに「がんについては検診を受けてください。残念ながら、あなたががんになっていないかどうかについてまでは診られていないのです」と説明しています。高血圧や糖尿病で診ている患者さんでも、患者さん側からすればがんも含めて診てもらっていると思っている方がいらっしゃいます。しかし、がんでない患者さん全員にがんが無いかどうかを診ていくのは大変だと思います。ただ、がん検診については注意すべき点があります。がん検診は早期発見のみを目的にしているのではなく、早期発見を通じてがんによる死亡を減らすことを目標としていますし、その点についてある程度コンセンサスがあるがん種についてがん検診が行われているのです。したがって、がん検診の内容に満足できない患者さんには、賛否両論あるにせよ、人間ドックを受けていただく以外にないと考えています。また、がんをスクリーニングする方法としての腫瘍マーカー測定は勧められません。スクリーニングには高い感度が求められますが、腫瘍マーカーで感度の高い検査はないからです(PSAは前立腺がんのスクリーニングには適していますが、早期診断することで死亡割合を低下させるかどうかが専門家の間で見解が異なるため現時点でがん検診に用いられてはいません)。症状もないのに患者さんの希望のみで、安易に腫瘍マーカーを測定し少しでも異常があった場合には、患者側も医師側も必要以上にがんを心配することになってしまいます。健診受診を促していますが、嫌がる人が多いです。どうすべきでしょうか?どうして嫌がるのかその理由によると思います。がんが見つかるのが怖いのか、それともがんになっても構わないし、早期発見が重要と考えていないなど、いろいろ理由があると思います。まずは患者さんの考え方を十分に把握することから始めてみてはいかがでしょう。CKDにおける抗がん治療の注意点を教えてください。腎障害の程度や、抗がん薬が腎排泄か肝代謝・肝排泄かなどによって、投与量は変わってきますので一般化できません。また、透析患者さんの場合はまた別の因子(透析性、分布容積、蛋白結合率、投与するタイミングなど)を考慮する必要が出てきます。詳しくは各抗がん薬の添付文書をご覧ください。高齢患者さんの治療に関する注意点を教えてください。一般的に抗がん治療の治療目標は二つあります。すなわち、生存期間の延長とQOLの改善・維持です。高齢患者さんの場合、抗がん治療により得られるメリットは非高齢患者さんのそれに比して小さくなります。つまり、生存期間の延長も小さくなるでしょうし、QOLも低下する可能性が十分あります。大切なことは、何を治療目標にして個々の患者さんを治療しているのかについて主治医と患者さん・家族が十分話し合い、認識を共有しておくことだと思います。個々の抗がん治療(手術、抗がん薬、放射線)の注意点については紙面の関係でここでは割愛します。食欲不振に対する対処法を教えてください。食欲不振の原因によります。原疾患によるものか、抗がん薬治療によるものか、あるいはうつ病などの内因性精神疾患によるものか、など多岐にわたります。認知症患者におけるがん治療について教えてください。がん治療に関して、その患者さんに自己意思決定能力があるかどうかが最大の問題になります。認知症のために本人に意思決定ができない場合は、家族や友人などに代理意思決定をしていただく必要があります。その際に大切なのは、代理者の意向ではなく、患者さん本人の意思を代弁する(または推定する)ことです。あくまでも患者さんが主体です。また、認知症患者の抗がん治療自体も難しいものになります。認知症の患者さんは脳の脆弱性のため、せん妄を起こしやすく、脳以外の身体の脆弱性も伴っていることが多いことから、その他の合併症(肺炎など)も起こしやすいのです。前立腺がんにおける高濃度ビタミンCの有用性について教えてくださいマルチビタミン(ビタミンCを含む)とミネラル補充療法の前立腺がん発症や進行予防との関連についてはメタ解析により現時点では否定されています(Stratton J,et al. Family Practice. 2011; 28:243–252)。上部消化管検診においてペプシノゲンがBaや内視鏡に代行できるという考え方はもう一般的になっているのでしょうか?日本のガイドラインでは現時点においても胃透視を推奨しており、ペプシノゲンはピロリ抗体や胃内視鏡と共に胃透視に比べてエビデンスレベルは下位に位置づけられています(Hamashima C, et al. Jpn J Clin Oncol 2008;38(4)259–267)。したがって、一般的にペプシノゲン測定はほかの検査の代用にはならないと考えられます。ただ、ABC検診と言って、血液検査でH. pylori感染とペプシノゲン値を調べ、胃がんのリスク評価を行う検診があり、リスクに応じて胃内視鏡検査による胃がんのスクリーニングを推奨する動きもあります。

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これからの総合診療、そして緩和医療の未来を語ろう

私は総合診療に軸足を置きながら、レジデント教育、がん診療、膠原病診療、そして最近では緩和医療に携わる地域基幹病院に勤める勤務医です。私の立場は、開業医の先生方やがん専門病院の先生方、大学や総合病院の腫瘍内科や緩和医療科の先生方のそれとはやや異なり、その立場でお話しすることをご承知ください。総合診療の定義を語るとき、現在の立場や出自で大きく異なること、そのためかそのidentityに揺らぎを生じ、ともすればidentity crisisに陥る可能性が問題となります。私たちの天理よろづ相談所病院 総合診療教育部では、真の総合診療とは専門性や現在の立場を超えたところにあって、「患者・家族にとって真の主治医でありつづける」ことと考えており、レジデント(研修医)には常にそれを求めています(参照:「主治医力を磨くワークショップ」 )。個人的には「真の主治医」に必要な要素として、以下の2点を大切にしています。1. 真のEBMを実践できること患者の疾患だけを診るのではなく、患者の環境・患者の歩んできた人生の中でそれを「病(やまい)」としてとらえ、患者の価値観、エビデンス、医師の知識・経験(時には社会資源も含めて)の総合判断により真のEBMを実践できることを目指します。EBMは最近ではNarrative Medicine※1と融合し、NEBM(Narrative Evidence-based Medicine)とも呼ばれ、個々の患者をより重視する意識が芽生えてきています(Charon R, et al. Lancet.2008;371:296-297.)。2. 患者・家族にとって「潤いのある2.5人称の存在」になること作家 柳田邦男氏が「2.5人称」という概念を提唱しています。医療において、患者自身の立場は1人称、家族や親友は2人称ということになります。医療者は一般的に3人称の存在として、患者の生と死について科学的に分析、評価、治療、診断、時に死亡診断を行います。しかし、3人称も「乾いた」存在では時に冷たい存在となり、患者や家族を傷つけることになります。一方、2人称では主観的すぎて正確な判断・評価が難しくなります。そこで、人としての温かみや潤いのある2.5人称の視点が求められているのです。患者や家族に寄り添い、自己決定を支援し、より良き人生を送るためのナビゲーターとなる、そんな存在が「潤いのある2.5人称」としての主治医であると私は考えています。総合診療は、ともすればその病歴や身体診察からの診断力に注目される傾向がありますが、実際は治療を含めた診断後の経過にこそ、その醍醐味があると考えています。そしてそれは他の専門診療科の先生方や開業医の先生方とも共有したいパラダイムです。同じ診断であっても、年齢・性別・既往歴、社会や家庭での役割、そして本人の死生観を含む価値観により治療方針は異なりますし、経過も大きく異なるでしょう。私たち医師は、診療セッティングや専門性を超えて、患者に対し先述の2つの視点を持った主治医としての役割が求められているのです。多くの学会が自身の専門医不足を主張しますが、医療が高度に専門分化する中でそれぞれの領域で専門性を追求することにのみ専念すれば、いつまで経っても専門医が足りることはありませんし、「真の主治医」という視点がなければ専門医療の提供のみに終始し、患者の幸福に貢献できないかもしれません。自分の専門外であってもまずは一旦患者を引き受けようとする心意気、そして他の領域にも一歩踏み込んで関わろうとする積極的姿勢(オーバーラップ)がこれからの超高齢社会には何より必要と考えられます。そうすれば患者が転院しても自宅に帰っても切れ目のない、そしてしなやかな診療が提供できると考えます。最後に緩和医療についてお話ししたいと思います。私は、総合診療医(総合内科医)は緩和医療に積極的に関わるべきだと考えています。とくに終末期医療はがん患者であるか否かにかかわらず、2025年には非常に大きな問題になります※2。つまり病院であれ診療所であれ、看取りを抜きにこれからの医療は語れなくなるのです。WHO(2002年)による緩和医療の定義は「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理・社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処を行うことによって、苦しみを予防し和らげることでQOLを改善するアプローチである」とされています。まさしく、総合診療医(あるいはその素養を持つ臓器別専門医)が親和性を持つ領域であると思います。人はいつかは死を迎える、だからこそより良き生を考える緩和医療を提供する私たちは、患者に寄り添いながら、その人の生と死に立ち会いながら、人生をいかに生きるかという究極の命題に深い思索を巡らすことができるのかもしれません。※1病(やまい)を患者の人生という物語の中で位置づけ、その文脈の中で理解し医療を提供しようとする考え。この中では同じ疾患であっても、患者によって提供される医療には多様性がありうることを前提としている。※22015年には「団塊の世代」と呼ばれる人々が75歳以上の高齢者となり、高齢者人口ならびに年間死亡者数はそれぞれ推計で3,500万人、160万人と見込まれている(2011年は2,980万人、119万人)。これまでは高齢者割合の増加スピードが問題となっていたが、2015年以降は高齢者数という数が問題になる。死にゆく人を看取る場として、病院は90万人弱と推定されており、残り70万人強の人は自宅や施設で亡くなることになるが、その体制作りは緒に就いたばかりであり喫緊の課題である。ご意見がございましたら、tazuma@tenriyorozu.jp までお寄せいただければ大変光栄に存じます。

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統合失調症の再発、コスト増加はどの程度

 カナダ・Groupe d'analyse LteeのMarie-Helene Lafeuille氏らは、コストの側面から統合失調症の再発について評価を行った。その結果、再発エピソード期間中は薬局、外来、入院・救急などのリソース活用が有意に増えてコスト増大を招くこと、とくに入院や救急などの病院診療がコスト増大に大きく関わることを報告した。Journal of Medical Economics誌オンライン版2013年9月5日号の掲載報告。 本研究は、統合失調症の再発ならびに再発の主要なコスト・ドライバーを、コストベースのアルゴリズムに基づいて明らかにすることを目的としたものであった。Multistate Medicaid dataを用いて、1997~2010年までに非定型抗精神病薬(AP)の投与を受けた成人統合失調症患者を抽出し、初めて統合失調症と診断されAP投与が開始された日をもってindex dateとした。再発エピソードは(1)index dateから2年以降に、ベースライン(index date前12ヵ月)から高額なコスト増加を認めた週、(2)週間絶対コスト高値とし、これら2つの基準によりcompound scoreを算出し、患者の54%でベースラインからの高額なコスト増加、および週間絶対コスト高値を認めた場合に再発とした。ベースラインおよび再発エピソード期間中のリソース使用とコストはincidence rate ratios (IRRs)およびブートストラップ法により比較検討した。 主な結果は以下のとおり。・再発例は9,793例で、1例当たり平均9回の再発エピソードが認められた。・再発エピソードの期間は、経過とともに減少した(平均[中央]値:初回エピソードは34[4]週間、その後のエピソードは8[1]週間)。・しかし再発エピソード期間中は、薬局、外来および病院診療(入院、救急)におけるリソース活用が、ベースラインと比較して有意に増大していた(IRRsは1.9~2.4、すべてのp<0.0001)。・同様に1週間当たりの平均増分コストも、再発により2,459ドル(95%CI:2,384~2,539ドル)増加した。病院診療に関する増大が53%だった。・本研究には、以下の点で限界がある。再発例および再発エピソードをコストベースのアルゴリズムにより特定したが、これは臨床的再発の定義とは相反するものである。また、それらは統合失調症患者の約54%が2年間に1回以上の再発エピソードを経験するであろう、という文献からの仮定にすぎなかった。・以上を踏まえて、統合失調症の再発はコストを有意に増加することが認められた。それは主に入院、救急などの病院診療によるものであった。関連医療ニュース 統合失調症患者の再発を予測することは可能か? 統合失調症“再発”の危険因子は? 統合失調症の再燃や再入院を減少させるには:システマティックレビュ―

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PCI前の血栓吸引、STEMI患者の予後を改善しない/NEJM

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行前の血栓吸引はPCI単独に比べ、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の予後を改善しないことが、スウェーデン・エーレブルー大学病院のOle Frobert氏らが実施したTASTE試験で示された。STEMI患者に対する初回PCI前の冠動脈内血栓吸引は、血流やST上昇を改善する可能性があり、簡便で迅速に施行可能で、相対的に安価との指摘があるが、これは一般的な見解ではないという。1,071例を対象に単施設で行われたTAPAS試験では、STEMI患者における生存ベネフィットが示唆されているが、むしろ高額であるとの指摘や、脳卒中リスクを増大させるとのメタ解析の結果が報告されていた。本研究は、2013年9月1日、オランダ・アムステルダム市で開催された欧州心臓病学会(ESC)で発表され、同日付けのNEJM誌オンライン版に掲載された。血栓吸引追加の効果をレジストリに基づく無作為化試験で評価 TASTE試験は、STEMI患者に対するPCI前の血栓吸引の有用性を評価する非盲検の前向き無作為化試験で、患者登録やデータ収集にSwedish Coronary Angiography and Angioplasty Registry(SCAAR)と呼ばれるオンラインシステムに基づく地域住民ベースのレジストリを利用している。 対象は、冠動脈造影所見によりPCIの施行が予定されているSTEMI患者で、入院前に30分以上持続する心筋梗塞を疑わせる胸痛がみられ、症状発現から24時間以内、心電図検査で新たなST上昇または左脚ブロックを認めた場合とした。 被験者は、血栓吸引後にPCIを施行する群またはPCIのみを行う群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は30日全死因死亡とした。全死因死亡率:2.8 vs 3.0%、心筋梗塞再発による再入院率:0.5 vs 0.9% SCAARに参加する30のPCI施設(スウェーデン29施設、アイスランド1施設)およびデンマークの1施設から合計7,244例が登録され、血栓吸引群に3,621例(平均年齢66.5歳、男性75.1%、症状発現からPCI施行までの時間中央値185分、心電図による診断からPCI施行までの時間中央値67分)が、PCI単独群には3,623例(65.9歳、74.6%、182分、66分)が割り付けられた。 30日全死因死亡率は、血栓吸引群が2.8%(103例)、PCI単独群は3.0%(110例)で、両群間に有意な差はなかった(ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.72~1.22、p=0.63)。事前および事後に規定されたサブグループ解析でも、有意差のあるサブグループは認めなかった。 30日後までの心筋梗塞の再発による再入院率は、血栓吸引群が0.5%、PCI単独群は0.9%(HR:0.61、95%CI:0.34~1.07、p=0.09)で、ステント血栓症の発症率はそれぞれ0.2%、0.5%(同:0.47、0.20~1.02、p=0.06)であり、いずれも両群間に有意な差はみられなかった。 標的病変の血行再建術の施行率(1.1 vs 1.2%、p=0.57)や、脳卒中または神経学的合併症の発症率(0.5 vs 0.5%、p=0.87)も、両群間で同程度であった。 著者は、「PCI前の血栓吸引はSTEMI患者の30日死亡率を改善しなかった」とし、「レジストリベースの無作為化試験には、患者選択基準の幅が広いため臨床的適用性が拡大する、フォローアップ率が高く脱落例が少ないなどの利点があるが、本試験の場合は固有の限界点があるため、参加者がすべての患者を完全に代表しているとはいえない」と指摘している。

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DPP-4阻害薬、糖尿病の虚血性イベント増減せず/NEJM

 DPP-4阻害薬サキサグリプチン(商品名:オングリザ)は、心血管イベント既往またはリスクを有する2型糖尿病患者の治療において、心不全入院率は上昇するが虚血性イベントは増大も減少もしなかったことが、米国・ハーバードメディカルスクールのBenjamin M. Scirica氏らによるSAVOR-TIMI 53試験の結果、示された。著者は「サキサグリプチンは糖尿病患者において、血糖コントロールを改善するが、心血管リスクを低下させるにはその他のアプローチが必要である」と結論している。本研究は、2013年9月2日、オランダ・アムステルダム市で開催された欧州心臓病学会(ESC)で報告され、同日付けのNEJM誌オンライン版に掲載された。1万6,492例を対象にサキサグリプチンの有効性と安全性を評価 SAVOR-TIMI 53試験は、心血管イベントリスクを有する患者の心血管アウトカムについてサキサグリプチンの有効性と安全性を評価する第4相の多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験。対象は、HbA1c 6.5~12.0%で心血管イベントの既往またはリスクを有する2型糖尿病患者であった。 26ヵ国788施設において1万6,492例の被験者が1対1の割合で、サキサグリプチン(5mg/日、eGFR≦50mL/分の患者は2.5g/日)を投与される群(8,280例、平均年齢65.1歳、女性33.4%、2型糖尿病罹病期間中央値10.3年、HbA1c 8.0%、BMI平均値31.1)またはプラセボを投与される群(8,212例、65.0歳、32.7%、10.3年、8.0%、31.2)に割り付けられ、中央値2.1年間(最長2.9年間)追跡を受けた。なお担当医は、血糖降下薬を含むその他の薬物を調整することが許されていた。 主要エンドポイントは、心血管死・心筋梗塞・脳梗塞の複合であった。心不全による入院は増大するが、その他の虚血性イベントは増減せず 主要エンドポイントの発生は、サキサグリプチン群613例、プラセボ群609例であった。発生率は2年時Kaplan-Meier推定値で7.3%対7.2%、サキサグリプチンのハザード比は1.00(95%信頼区間[CI]:0.89~1.12)だった(優越性p=0.99、非劣性p<0.001)。この結果は、治療継続(投与を中止しなかった)患者における解析でも同様であった(ハザード比:1.03、95%CI:0.91~1.17、p=0.60)。 主要副次複合エンドポイント(心血管死・心筋梗塞・脳卒中・不安定狭心症入院・冠動脈再建術・心不全)の発生は、サキサグリプチン群1,059例、プラセボ群1,034例だった。発生率は2年時Kaplan-Meier推定値で12.8%、12.4%で、サキサグリプチンのハザード比は1.02(95%CI:0.94~1.11)だった(p=0.66)。 個別にみた副次エンドポイントでは、心不全による入院について有意差がみられ、プラセボ群よりもサキサグリプチン群のほうがより発生が多かった(3.5%対2.8%、ハザード比:1.27、95%CI:1.07~1.51、p=0.007)。 急性膵炎(サキサグリプチン群0.3%、プラセボ群0.2%)および慢性膵炎(両群とも0.1%)と診断された割合は、両群で同程度であった。 以上の結果から著者は、「DDP-4阻害薬サキサグリプチンは、心不全による入院を増大したが、虚血性イベントは増大も減少もしなかった。サキサグリプチンは血糖コントロールを改善するが、2型糖尿病の患者において心血管リスクを低下させるには、その他のアプローチが必要である」と結論している。

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乳幼児早期発症のアトピー性皮膚炎、約7割は寛解

 台湾の乳幼児早期に発症したアトピー性皮膚炎(AD)の子どもの自然経過について調べた結果、罹病期間は中央値4.2年、約70%が最終的には寛解に至り、アレルギー性鼻炎や喘息はADの疾患経過には影響しなかったことを、台湾・台北栄民総醫院のT-C Hua氏らが、住民ベースコホート研究の結果、報告した。ADは乳幼児期の早期発症の頻度が高いが、その後の疾患経過は患者個々によって多様である。ADの自然経過に関する先行研究は、一般にサンプルサイズが小さく、全国ベースで行われたものはなかった。British Journal of Dermatology誌オンライン版2013年8月23日号の掲載報告。 研究グループは、台湾において早期に発症した小児AD患者(2歳未満で発症)について、罹病期間と寛解率を調べること、またアレルギー性鼻炎や喘息がADの疾患経過に影響を及ぼすかについて調べた。 被験者は、台湾のNational Health Insurance Research Databaseから選出し、誕生から10歳時点まで追跡した。AD罹病期間と寛解率の分析は、Kaplan-Meier生存分析法にて行い、log-rank検定法を用いて群間解析を行い疾患経過のリスク因子の影響を分析した。 主な結果は以下のとおり。・1,404例の早期発症小児AD患者が解析に含まれた。・罹病期間が1年未満であったのは19.4%であり、48.7%が罹病期間が4年未満であった。・10歳時までの追跡期間中、69.8%が寛解に至った。・性別、発症年齢、アレルギー性鼻炎、喘息、または両疾患(アレルギー性鼻炎と喘息)を有することの疾患経過への影響は、統計的に有意ではなかった。・以上より、早期発症小児AD患者の罹病期間は中央値4.2年、約70%が最終的に寛解に至り、アレルギー性鼻炎および喘息はADの疾患経過に影響を及ぼさないことが明らかになった。

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