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うつ病は、脳卒中発症リスクと顕著に関連

 スウェーデン・カロリンスカ研究所のIffat Rahman氏らは、うつ病ならびに抗うつ薬使用が及ぼす心血管疾患(CVD)発症への影響について、脳卒中と冠動脈疾患に分けて検討を行った。その結果、抗うつ薬を使用していないうつ病患者でCVD発症リスクが高く、脳卒中との間に顕著な関連がみられることを報告した。European Journal of Epidemiology誌オンライン版2013年7月9日号の掲載報告。 うつ病がCVDの発症リスクを高めることは、多くの研究で示されている。抗うつ薬の使用とCVD発症との関連についても過去に検討されているが、その結果は相反するものであった。また、うつ病ならびに抗うつ薬の使用とCVD発症リスクとの関連は、脳卒中よりもむしろ冠動脈疾患との関連においてより広く研究されていた。それら先行研究を踏まえて、研究グループは、スウェーデン人高齢者双生児3万6,654例からなる集団ベースのコホート研究を実施した。追跡期間は最長4年間であった。治療内容、アウトカム、共変数に関する情報は、スウェーデン全国患者登録、スウェーデン処方薬登録およびスウェーデン双子登録から収集した。 主な結果は以下のとおり。・うつ病と、抗うつ薬使用は、両者ともCVD発症と関連していた。・抗うつ薬を使用していないうつ病患者のリスクが、最も高かった(ハザード比:1.48、CI:1.10~2.00)。・CVDの2つの主要なアウトカムである冠動脈疾患と虚血性脳卒中を別々に評価したところ、冠動脈疾患のない虚血性脳卒中において顕著な関連が認められた。・ベースライン時より10年以上前にうつ病と診断された場合に限った検討でも、うつ病と脳卒中との間に有意な関連が維持されていた。・本研究の結果は、うつ病がCVD発症に関連しうるリスクファクターであることを支持している。・さらに、CVDアウトカムに対するハザード比は抗うつ薬を使用していないうつ病患者で最も高いこと、うつ病との関連は脳卒中において著しいこと、冠動脈疾患との関連は薄いことが明らかとなった。関連医療ニュース 抗うつ薬による治療は適切に行われているのか?:京都大学 抗精神病薬の高用量投与で心血管イベントリスク上昇:横浜市立大 抑うつ症状改善に“手紙による介入”は効果的か?:京都大学で試験開始

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心カテの閉塞性CAD診断率、北米の2州で大きな差/JAMA

 米国・ニューヨーク州の待機的心臓カテーテル検査による閉塞性冠動脈疾患(CAD)の診断率は、カナダ・オンタリオ州に比べ約15%も低いことが、臨床評価科学研究所(トロント市)のDennis T Ko氏らの検討で示された。同氏は「検査対象に含まれる低リスク例の差が原因」と推察している。同検査は、医療コストや診断効率の観点から、対象をより絞り込むべきとの意見がある一方で、重症CAD患者の同定に問題が生じたり、血行再建術が有効な患者を見逃す危険が指摘されている。同氏らはすでに、人口当たりの検査数はニューヨーク州がオンタリオ州の2倍に上り、これは疾病負担や選択基準の違いで説明可能なことを報告しているが、根本的な原因はわかっていなかった。JAMA誌2013年7月10日号掲載の報告。診断効率、予測発症率の寄与を2州で比較 研究グループは、ニューヨーク州とオンタリオ州における心臓カテーテル検査による閉塞性CADの診断効率を評価し、予測発症率に基づく検査対象の選択状況の比較を目的とする観察試験を行った。 解析には、New York Cardiac Catheterization DatabaseおよびCardiac Care Network of Ontario Cardiac Registryの登録データを使用した。対象は、年齢20歳以上、心疾患の既往歴がなく、2008年10月1日~2011年9月30日までに待機的心臓カテーテル検査を受けた安定期CAD患者とした。 閉塞性CADの定義は,左主冠動脈の50%以上の狭窄または主要な心外膜血管の70%以上の狭窄とした。また、3枝CADは、左冠動脈前下行枝、左冠動脈回旋枝、右冠動脈の70%以上の狭窄と定義した。診断率:30.4 vs 44.8%、予測発症率50%以上の割合:19.3 vs 41% ニューヨーク州は1万8,114例、オンタリオ州は5万4,933例が解析の対象となった。ニューヨーク州の患者のほうが若く(平均年齢:61.2 vs 63.7歳、p<0.001)、女性が多かった(45.3 vs 39.0%、p<0.001)。典型的な狭心症症状がみられない患者もニューヨーク州が多かった(55.7 vs 29.3%、p<0.001)。 心臓カテーテル検査前の非侵襲的な心筋虚血評価の施行率はオンタリオ州のほうが高く(63.2 vs 75.1%、p<0.001)、虚血評価例のうち高リスクと判定された患者はオンタリオ州が著明に高率だった(4.7 vs 50.9%、p<0.001)。施設の特徴にも差があり、PCIやCABGも施行可能な病院で心臓カテーテル検査を受けた患者はオンタリオ州のほうが多かった(56.9 vs 73.2%、p<0.001)。 心臓カテーテル検査施行例における閉塞性CADの診断率は、ニューヨーク州が30.4%と、オンタリオ州の44.8%に比べ有意に低かった(p<0.001)。左主冠動脈病変または3枝病変の診断率も、ニューヨーク州は7.0%であり、オンタリオ州の13.0%よりも有意に低かった(p<0.001)。 ニューヨーク州では、閉塞性CADの予測発症率が低い患者に対する心臓カテーテル検査施行率が高かった。たとえば、予測発症率が50%以上の患者に対する施行率はニューヨーク州が19.3%と低値であったのに対し、オンタリオ州は41%に達していた(p<0.001)。 30日粗死亡率は、ニューヨーク州が0.65%(90/1万3,824例)であり、オンタリオ州の0.38%(153/4万794例)に比べ有意に高率であった(p<0.001)。 著者は、「ニューヨーク州では心臓カテーテル検査による閉塞性CADの診断率が低く、これは検査対象に予測発症率の低い患者が多く含まれるためと考えられる。施行件数がニューヨーク州で多い点も、検査対象に低リスク例が多く選択されていることの反映であり、コストもニューヨーク州のほうが高額と推測される」と指摘している。

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APLに対し、ATRA+三酸化ヒ素がATRA+化学療法より優れる可能性/NEJM

 急性前骨髄球性白血病(APL)に対し、全トランス型レチノイン酸(ATRA)+三酸化ヒ素の併用治療は、標準治療とされているATRA+化学療法と比較して少なくとも非劣性であり、優れている可能性が示された。イタリア・トール・ヴェルガータ大学のF. Lo-Coco氏ら研究グループが、第3相多施設共同の無作為化試験を行い報告した。APLに対する標準治療のATRA+化学療法の治癒率は80%を超える。一方で、三酸化ヒ素のAPLに対する有効性も高く、また、ATRAの併用療法について検討した予備試験(ATRA有無別で検討)では、高い有効性と血液毒性の軽減が示されていた。NEJM誌2013年7月11日号掲載の報告より。ATRA+化学療法(標準療法)とATRA+三酸化ヒ素の有効性と血液毒性を比較 研究グループは本検討において、新規に診断された低~中リスク(白血球数10×109/L以下)のAPL患者について、ATRA+化学療法(標準療法)とATRA+三酸化ヒ素の併用療法の、有効性と血液毒性を比較検討することを目的とした。 検討では患者を、ATRA+三酸化ヒ素による寛解導入および地固め療法を行う群と、標準的なATRA+イダルビシン(商品名:イダマイシン)による寛解導入療法の後、ATRA+化学療法による地固め療法(3サイクル)、および低用量化学療法とATRAによる維持療法を行う群のいずれかに、無作為に割り付けた。 本試験は、2年時点の無イベント生存率を主要エンドポイントとした、非劣性試験(群間差が5%を超えない)としてデザインされた。APLは化学療法なしで治療可能なことが示唆される 被験者の事前規定登録は2007年10月~2010年9月に行われた。解析(intention to treat解析)は2012年11月に行われ、156例が組み込まれた。追跡期間の中央値は34.4ヵ月だった。 完全寛解を得られたのは、ATRA+三酸化ヒ素群77例全例(100%)と、ATRA+化学療法群79例中75例(95%)だった(p=0.12)。 2年無イベント生存率は、ATRA+三酸化ヒ素群97%、ATRA+化学療法群は86%だった。群間差は11ポイント(95%信頼区間[CI]:2~22ポイント)で、ATRA+三酸化ヒ素の非劣性が確認された(p<0.001)。さらに、無イベント生存率に関するlog-rank検定により同群の優越性も確認された(p=0.02)。 また、2年全生存率も、ATRA+三酸化ヒ素のほうが優れていた(99%対91%、p=0.02)。 そのほかに、ATRA+三酸化ヒ素はATRA+化学療法と比較して、血液毒性と感染症が少なかったが、肝毒性は多かった。 これらの結果を踏まえて著者は本論の最後で、「本試験は、APLが化学療法なしで治療可能なことを示している」と述べ、確実な結論を得るにはさらなる長期の試験が必要だが、本試験の結果は既報の予備試験のエビデンスを支持するものであり、APLの根治にATRAと三酸化ヒ素が相乗的に作用することを示しているとまとめている。

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ビスホスホネート関連大腿骨不完全骨折には外科的治療が有効

 ビスホスホネート系薬剤が誘発する大腿骨不完全骨折の予後に関するレトロスペクティブな調査の結果、外科的治療のほうが保存的治療と比較し、より早く症状を消失させるとともに治癒に至らせる割合が高いことが報告された。調査を行った米国・ニューヨーク大学関節疾患病院のKenneth A. Egol氏らは、外科的治療はビスホスホネート関連大腿骨不完全骨折の症状緩和に有効であり、患者に対し予防的手術の効果の可能性について助言すべきである、とまとめている。Journal of Orthopaedic Trauma誌2013年6月27日号の掲載報告。 対象は、難治性の症状を有するかまたはX線所見にて骨折線の進行が認められたビスホスホネート関連大腿骨不完全骨折患者31例(不完全骨折43件)で、不完全骨折に対し保存的治療または外科的治療が行われた。 対象者は、全例女性で、平均年齢69.2歳(範囲:46~92歳)、ビスホスホネート治療の平均期間は9.1年(範囲:5~20年)だった。 X線所見とShort Musculoskeletal Functional Assessment(SMFA)により、予後を評価した。 主な結果は以下のとおり。・不完全骨折の49%(21/43件)は、切迫骨折や保存的治療無効のため最終的に外科的治療を行った。・外科的治療群では、81%で疼痛が消失し、100%でX線所見上治癒が確認された。治癒までの平均期間は7.1ヵ月(範囲1.5~12ヵ月)であった。 ・保存的治療群で疼痛消失が得られたのは64%であり、平均11ヵ月でX線所見上治癒が確認されたのはわずか18%であった。・SMFA機能障害指数は、外科的治療群のほうが保存的治療群より良好であった(保存的治療群 19.7 vs外科的治療群 25.7、p=0.0017)。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・無視できない慢性腰痛の心理社会的要因…「BS-POP」とは?・「天気痛」とは?低気圧が来ると痛くなる…それ、患者さんの思い込みではないかも!?・腰椎圧迫骨折3ヵ月経過後も持続痛が拡大…オピオイド使用は本当に適切だったのか?  治療経過を解説

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関節リウマチの医療費の抑制は可能か?(コメンテーター:杉原 毅彦 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(116)より-

生物学的製剤(TNF阻害薬 IL-6阻害薬 T細胞選択的阻害薬)の登場により、関節リウマチの疾患活動性のコントロールが可能となったが、関節リウマチの医療費が高騰している。もっともスタンダードな治療法であるメトトレキサート(MTX)で疾患活動性のコントロールが不十分であると判断した場合、リウマチ専門医はTNF阻害薬をMTXに追加することが増えてきた。 今回の無作為比較試験(RCT)では、TNF阻害薬をMTXに追加する代わりに、生物学的製剤より薬価の低い古典的な抗リウマチ薬2剤を追加しても、両群で同じように疾患活動性が抑制されることが示された。このことは、医療経済的な観点から考えると、今後MTX無効例に対してTNF阻害薬を使用する前に古典的抗リウマチ薬の多剤併用を試すことが主流となる可能性を秘めているが、いくつかの問題点がある。 現在の治療目標は、関節炎の程度を、低疾患活動性あるいは寛解にコントロールすることであることが、世界中のリウマチ医のコンセンサスとなっているが、今回のRCTではエントリーできた症例数が予定より少なく、当初のプライマリーエンドポイント、低疾患活動性の達成率の比較を評価できなくなり、途中でプライマリーエンドポイントが変更となっている。変更したプライマリーエンドポイントにおいては、MTXと古典的抗リウマチ薬の多剤併用と、MTXとTNF阻害薬の併用に差を認めなかったが、低疾患活動性や寛解の達成率はMTXとTNF阻害薬併用のほうが優れていた。また、有意差はないが、MTXとTNF阻害薬の併用で関節破壊進行が抑制される傾向にあった。 また今回RCTで試された古典的抗リウマチ薬は抗マラリア薬で、日本では発売中止となっている薬剤であった。本邦でも、MTXで効果不十分なRA患者に、MTXに追加することで有効性が認められている古典的抗リウマチ薬がいくつかある。生物学的製剤の開始の遅れが関節破壊を進行させてしまうことが示されている現状においても、古典的抗リウマチ薬とMTXの多剤併用療法が、MTXと生物学的製剤の併用療法の代わりとなりうるのか検討することは、医療経済的側面から重要であろう。

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アリピプラゾール経口剤⇒注射剤への切り替え、その安全性は?

 米国・カリフォルニア大学のSteven G. Potkin氏らは、経口抗精神病薬から月1回投与の持続性注射剤アリピプラゾールに切り替える際の安全性と忍容性の評価を行った。その結果、経口抗精神病薬の中間安定期を経ることなく、月1回投与のアリピプラゾールに安全に切り替え可能であることが示されたことを報告した。Current Medical Research and Opinion誌オンライン版2013年7月3日号の掲載報告。 本試験は、経口抗精神病薬から月1回投与の持続性注射剤アリピプラゾールに切り替える際の安全性と忍容性を評価する目的で行われた。登録対象は、アリピプラゾール以外の経口非定型抗精神病薬治療を受けており、アリピプラゾールの忍容性が確認されている統合失調症患者とした。まず、スクリーニング期に、主治医の判断で固定用量の経口非定型抗精神病薬を14日間以上投与した。その後、服用中の経口非定型抗精神病薬を中/低用量に減量して14±1日間併用しつつ、月1回投与のアリピプラゾール(400 mg)による治療を開始した。28日間の治療期における安全性と忍容性を評価した。また、投与開始7、14、28日目に血漿中アリピプラゾール濃度を測定し、薬物動態を評価した。 主な結果は以下のとおり。・登録被験者は60例であった。・治療期間中、経口オランザピン(3例)、クエチアピン(28例)、リスペリドン(24例)、ジプラシドン(5例、国内未承認)の併用を継続した。これら併用経口抗精神病薬の投与期間は0~15日間とさまざまであった。・忍容性は良好であった。最も高頻度に発現した治療関連有害事象(TEAEs)は、注射部疼痛と歯痛であり(各々 4/60例、6.7%)、次いでジストニア、疲労、血清クレアチンホスホキナーゼ(CPK)上昇、不眠および不穏であった(各々 3/60例、5.0%)。・TEAEsの大半は、経口抗精神病薬併用後、最初の8日間に出現した。・臨床検査値または空腹時の代謝パラメータにおいて、臨床的に意味のあるベースラインからの変化は認められなかった。・精神症状は安定していた。・血中アリピプラゾール濃度は、経口アリピプラゾール連日投与のデータと同様であった。・月1回投与のアリピプラゾールをアリピプラゾール以外の経口抗精神病薬と併用した際の有害事象プロファイルは、既報告と一致するものであった。・前治療の非定型抗精神病薬の種類および投与期間にかかわらず有害事象は同様であり、経口抗精神病薬の中間安定期を経ることなく、月1回投与のアリピプラゾールに安全に切り替え可能であることが示された。・なお、試験デザイン(オープンラベル、短期間)と患者集団(男性、アフリカ系アメリカ人が圧倒的多数)の側面から、これら知見を一般化するには限界があった。関連医療ニュース 統合失調症へのアリピプラゾール持効性注射剤、経口剤との差は? どのタイミングで使用するのが効果的?統合失調症患者への持効性注射剤投与 青年期統合失調症の早期寛解にアリピプラゾールは有用か?

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寝室での夜間光曝露がうつ病に関連

 現代生活では夜間光曝露が増加しているが、夜間光曝露はサーカディアンリズム(生体の概日リズム)の変調に関連している。しかし、家庭における夜間光曝露がうつ病と関連しているかどうかは不明である。今回、奈良県立医科大学地域健康医学講座の大林 賢史氏らが高齢者を対象とした研究の横断解析を行った結果、一般の高齢者において自宅の夜間光曝露が抑うつ症状に有意に関連することが示唆され、寝室を夜間暗く保つことによってうつ病のリスクが低下する可能性が示された。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2013年7月12日号に報告。 著者らは、高齢者516人(平均年齢72.8歳)において、夜間尿中メラトニン排泄量と夜間の寝室および日中光の曝露照度を測定した。抑うつ症状は老年期うつ尺度を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・夜間曝露照度中央値は0.8ルクスであった(四分位範囲:0.2~3.3)。・日中光曝露、不眠、高血圧、睡眠時間、身体活動を調整した多変量ロジスティック回帰モデルにより、うつ群(n=101)は非うつ群(n=415)と比べて、夜間光曝露(平均照度5ルクス以上)の割合が有意に高いことが認められた(調整オッズ比[OR]:1.89、95%信頼区間[CI]:1.10~3.25、p=0.02)。・同様に、夜間光曝露のもう1つのパラメータ(10ルクス以上の時間:30分以上)の割合も、非うつ群に比べてうつ群で有意に高いことが認められた(調整OR:1.71、95%CI:1.01~2.89、p=0.046)。・一方、尿中メラトニン排泄量と抑うつ症状の間に有意な関連は認められなかった。

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毛染めアレルギーの診断スクリーニングに加えるべき成分

 デンマーク・コペンハーゲン大学ゲントフテ病院のHeidi Sosted氏らは、ヘアダイ(毛染め)に一般的に含まれている成分に着目して、接触皮膚炎との関連性を調べた。12ヵ所の皮膚科クリニックで約3,000例を対象としたパッチテストの結果から、陽性反応を示す主要な成分はp-フェニレンジアミン(PPD)で、そのほかにも陽性反応を示す成分として、トルエン-2.5-ジアミン(PTD)、p-アミノフェノールとm-アミノフェノールが特定された。著者はそれら成分について、ヘアダイアレルギー診断のためのスクリーニングに加えるべき根拠が得られたとまとめている。Contact Dermatitis誌2013年7月号の掲載報告。 PPDは、ヘアダイアレルギー診断パッチテストの主要なスクリーニング対象成分だが、ヘアダイにはそのほかにも約100種のさまざまな化学成分が使用されている。 研究グループは、PPDがヘアダイアレルギー診断のスクリーニング対象成分として至適であるのか、またそのほかに臨床的意義のある感作物質はないかを調べた。 12ヵ所の皮膚科クリニックで連続患者2,939例を対象に、パッチテストサプライヤーが供給可能であった5つのヘアダイについてパッチテストを行った。さらに、パッチテストサプライヤーが供給できないものの使用頻度が高い22のヘアダイ成分について、それぞれ500例の患者を被験者とするサブグループ試験を行った。 主な結果は以下のとおり。・PPDに対する陽性反応を示した患者は、4.5%であった。また、PTDに対する反応を示した患者は2.8%、p-アミノフェノールに対しては1.8%、m-アミノフェノールは1%、レゾルシノールは0.1%で、合わせると5.3%(156例)が陽性反応を示した。・毛染めは、アレルギー症例の中で最も頻度の高い原因だった(55.4%)。「temporary henna」と呼ばれる一時的なタトゥーが原因の症例は8.5%であった。・p-メチルアミノフェノールへの反応を示した患者は20例(2.2%)であった。そのうち3例が臨床的に意義のある症例だった。5つのヘアダイ全部に共通した反応ではなかった。

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虚血性脳卒中の一次予防における予測能についての、新しいアルゴリズムQ Strokeと従来のアルゴリズムとの比較―前向きオープン試験―(コメンテーター:山本 康正 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(115)より-

英国では、冠状動脈疾患や虚血性脳卒中・一過性脳虚血発作などの心血管病の危険因子や予測因子は、QRISK2で代表されるようなアルゴリズムが広く一般医の臨床現場で電子化され使用されている。 今回、QRISK2に項目を追加して「Q Stroke」という、脳卒中・一過性脳虚血発作予測の絶対リスクを算出できるようなアルゴリズムを作成した。QRISK2の項目は、人種、年齢、性、喫煙(なし、喫煙経験、1日10本以下、10~19本、20本以上、に程度分類)、心房細動、収縮期血圧、総コレステロール/HDLコレステロール、Body Mass Index、冠状動脈疾患の家族歴、出身地、高血圧、関節リウマチ、CKD、1型糖尿病、2型糖尿病であるが、Q Strokeではこれに、冠状動脈疾患、心不全、弁膜疾患を追加した。 脳卒中・一過性脳虚血発作のない患者で電子化されたデータを集積し再解析すると、Derivation cohort 354万9,478人(平均追跡7年)から7万7,578人、validation cohort 189万7,168人(平均追跡6.7年)から3万8,404人の脳卒中・TIAが発症した。Q StrokeとFramingham stroke equationを比較すると、ROC値、R2、D統計量はいずれもQ Strokeで高く、予測アルゴリズムとして良好であった。validation cohortで心房細動を有する7,683人を限定して10年間追跡すると、890人の脳卒中・TIAが発症した(21%で抗凝固療法が追加されていた)。 CHADS2、CHA2DS2VASc は頻用されているが、Q Strokeのリスク予測能は、ROC値、R2、C統計量でいずれも、とくに男性でより高かった。657人(9%)はQ Strokeではhigh risk、CHADS2でlow riskとなり、その10年の絶対リスクは19%、650人(9%)でQ Strokeではlow risk、CHADS2でhigh riskとなり、10年のリスクは8%となった。両方のアルゴリズムともにhigh riskは25.4%であった。 すなわち、Q Stroke における予測能はCHADS2より(CHA2DS2VAScでは僅差となるが)優れており、抗凝固療法の選択においてQ Strokeを参考にすることで、不要な抗凝固療法を避けたり、抗凝固療法が必要な例を見出したりできる可能性がある。Q Strokeのみにみられる、喫煙(量反応性あり)、脂質異常、BMI、関節リウマチ、CKDなどの因子にも注目する必要があるかもしれない。

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抑うつ症状改善に“手紙による介入”は効果的か?:京都大学で試験開始

 「高齢うつ病患者に対し手紙を出すという介入で、抑うつ状態を改善できるのか」というプラグマティックな無作為化試験が、京都大学東南アジア研究所フィールド医学の今井必生氏、同教授・松林公蔵氏らにより開始された。「手紙による介入」は1976年に米国で、大うつ病退院患者の自殺予防を目的に初めて行われたが、地域在住の抑うつ状態の高齢者への適用は本試験が初めてだという。Trials誌オンライン版2013年7月9日号で、その試験概要が報告された。 米国で行われた手紙による介入試験は、5年間で24通の手紙を出したというもので、介入後2年間の自殺率が有意に減少し、全体では13年間にわたり介入群の自殺率が低かったことが認められたという。同様の手法を用いた試験はその後、イスラエル、オーストラリアでも行われ(目的は過量服薬または自傷行為防止、計3試験)、介入群に有意な効果が認められたことが報告されていた。 今回、抑うつ状態の高齢者に同介入を試みることについて、研究グループは「高齢者における抑うつはQOLを低下させ、罹病率や死亡率、さらに医療費を増大している。この疾患負荷への対策は、医学的政策と社会的政策が相まったものでなければならないが、既存の研究のほとんどが長期にわたる精神療法をベースとしたもので、なおかつそれらは地域での応用には不適当なものである」ことが背景にあると述べている。手紙による介入に着目した理由としては、「人的および予算的コストがほとんどかからない」ことを挙げている。そして、「本研究で、手紙による介入が有効であることが実証されれば、地域での介入のマイルストーンになるだろう」としている。 本試験の主な概要は以下のとおり。・試験デザインは、プラグマティック非盲検並行群間比較無作為化試験である。・試験地は、高齢化が進んだ地方の町(四国の中央部、人口4,407人、65歳以上高齢者割合38.8%、農業と林業が主産業)とする。・被験者適格条件は、「地域在住の高齢者(65歳以上)」「社会的支援が限られている(食事を一人でとっている)」「うつ症状が認められる(GDS-15得点が4点以上)」とする。・介入の手紙の送付は、月1回、8ヵ月間行われた。送られる手紙は、手書きのメッセージ(被験者の返信があればそれに答えるなど、社会的関係性や自尊心を高める内容)と、時候だよりのプリント(京都からの季節の挨拶やイベントニュースなどを知らせる内容)から構成される。また、返信用封筒(利便性を考慮して宛名、切手貼付をしておくが、返信は任意)も同送する。・主要アウトカムは、GDSスコアの変化で、毎年1回実施される住民健診の際に測定する。・副次アウトカムは、視覚アナログスケールで測定したQOL、自己評価基本ADL、自己評価進行ADLとする。・その他、受容性の検証として被験者は介入を有効と感じたか、ならびに記憶している受け取った手紙の回数、返信した回数も調べる。・被験者数は、70%脱落を想定して180例登録を予定している。関連医療ニュース 抗うつ薬による治療は適切に行われているのか?:京都大学 うつ病治療に「チューインガム」が良い!? 抑うつ症状は、がん罹患有無に関係なく高齢者の死亡に関連

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CO、PM2.5による大気汚染で心不全増加/Lancet

 大気中の特定のガス状物質や粒子状物質と、心不全による入院や死亡リスクとの関連が、英国エジンバラ大学のAnoop S V Shah氏らの検討で明らかとなった。心不全の有病率は加齢とともに上昇し、罹患者は世界で2,300万人以上に上ることから、公衆衛生学上の課題として浮上している。一方、WHOの推算では、世界で毎年100万人以上の死亡に大気汚染が影響を及ぼしている。大気汚染への急性曝露と心筋梗塞との関連が知られているが、心不全に対する影響はこれまで不明であった。Lancet誌オンライン版2013年7月10日号掲載の報告。6物質のリスクを35論文のメタ解析で評価 研究グループは、大気汚染と急性非代償性心不全の関連の評価を目的に、系統的レビューとメタ解析を行った。 5つの医学文献データベースを検索して、4つのガス状物質[一酸化炭素(CO)、二酸化硫黄(SO2)、二酸化窒素(NO2)、オゾン(O3)]および2つの粒子状物質[PM2.5(直径<2.5μm)、PM10(直径<10μm)]と、心不全による入院、死亡の関連を検討した試験を選出し、ランダム効果モデルを用いて個々の汚染物質の推定リスクを算出した。 日本からの2編を含む35編の論文が解析の対象となった。10試験が事例交差デザイン(case-crossover design)、24試験が時間シリーズデザイン(times-series design)で、1試験は両方のデザインを採用しており、総イベント数は400万件に上った。O3以外の5つの物質がリスク上昇と関連 CO濃度が1PPM増加すると、心不全による入院、死亡のリスクが有意に3.52%(95%信頼区間[CI]:2.52~4.54)上昇した。SO2とNO2も、濃度10 PPB増加当たりのリスクが、それぞれ2.36%(95%CI:1.35~3.38)、1.70%(同:1.25~2.16)上昇したが、O3濃度の増加はリスク上昇とは関連しなかった(0.46%/10PPB、95%CI:-0.10~1.02)。 粒子状物質にも心不全による入院、死亡リスクとの関連が認められ、PM2.5濃度が10μg/m3増加するとリスクは2.12%(95%CI:1.42~2.82)上昇し、PM10濃度の10μg/m3増加当たり、リスクが1.63%(95%CI:1.20~2.07)上昇した。 米国の場合、PM2.5濃度の目標値5.8μg/m3(健康への有害作用が発現しない上限値)の達成には、全国的に平均3.9μg/m3の低下を実現する必要があり、これによって心不全関連入院が7,978件回避され、年間約3億700万ドルが節減可能と推算された。 著者は、「開発途上国におけるさらなる検討を要するが、大気汚染は心血管疾患や医療経済に関連する公衆衛生学上の広範な課題であり、引き続き世界的な保健政策の主要対象とすべき」と指摘している。

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入院中に喫煙者を同定し支援することで、禁煙達成が改善/BMJ

 2次医療施設に入院中の患者に対し、喫煙状況の確認と禁煙支援による介入を行い、退院後は地域サービスによる支援の利用を促すことで、禁煙の達成、維持状況が改善可能であることが、英国・ノッティンガム市立病院のR L Murray氏らの検討で示された。15年以上前から、英米の診療ガイドラインは、入院患者の喫煙状況を確認して禁煙の意思のある喫煙者には支援を行うよう勧告しているが、2次医療施設におけるこの勧告の遂行状況は不良な状態が続いているという。一方、入院時の診断名にかかわらず、入院中に禁煙に対する動機づけを集中的に行い、退院後に禁煙支援を1ヵ月以上継続することで禁煙達成率が上昇することが示されている。BMJ誌オンライン版2013年7月8日号掲載の報告。入院中の禁煙支援の効果をクラスター無作為化試験で評価 研究グループは、入院中の成人の喫煙者および元喫煙者に対する禁煙支援の効果を評価するクラスター無作為化試験を実施した。 地域の大規模な教育病院であるノッティンガム市立病院の18の急性期病棟(脳卒中科4病棟、腫瘍科4病棟、糖尿病科2病棟、呼吸器科2病棟など)が、介入を行う群(9病棟)または通常治療を行う群(9病棟)に割り付けられた。 介入群では、入院中に全患者の喫煙状況を確認し、喫煙者には禁煙専門家による行動支援および禁煙薬物療法が実施され、退院後は地域サービスへの紹介が行われた。通常治療群では医療者の自主性、裁量に任せられた禁煙支援が行われた。主要アウトカムは4週後の呼気一酸化炭素濃度測定に基づく禁煙の達成とした。 2010年10月~2011年8月までに、介入群に264例、通常治療群には229例が登録され、4週後の主要アウトカムのデータはそれぞれ260例、224例から得られた。4週後禁煙達成率:38 vs 17%、6ヵ月禁煙継続率:19 vs 9% 全体の平均年齢は56歳(18~91歳)、男性が60%であったが、介入群のほうが若く(55 vs 58歳、p=0.028)、男性が多かった(67 vs 52%、p=0.001)。全体の入院期間中央値は5日(1~98日)で、介入群がわずかに長かった(6 vs 5日、p=0.05)。 介入群では全例が少なくとも喫煙を止めるよう助言を受けたが、通常治療群では46%(106例)にとどまった。 4週後の禁煙達成率は介入群が38%(98例)、通常治療群は17%(37例)であった(補正オッズ比[OR]:2.10、95%信頼区間[CI]:0.96~4.61、p=0.06、1例の禁煙達成に必要とされる治療例数[NNT]:8例)。 退院時の禁煙達成率は介入群が58%(151例)、通常治療群は29%(67例)であり(補正OR:1.95、95%CI:0.94~4.05、p=0.07)、禁煙薬物療法施行率はそれぞれ49%(128例)、27%(62例)であった(補正OR:3.95、95%CI:1.81~8.63、p<0.001)。 退院後の禁煙支援への紹介率は介入群55%(144例)、通常治療群 6%(13例)(補正OR:21.8、95%CI:9.4~50.6、p<0.001)、支援の利用率はそれぞれ31%(80例)、10%(21例)(補正OR:4.22、95%CI:2.27~7.83、p<0.001)であり、いずれも介入群のほうが良好であった。 6ヵ月後の禁煙継続率は介入群が19%(47例)と、通常治療群の9%(19例)よりも良好な傾向を認めたが、有意な差はなかった(補正OR:1.53、95%CI:0.60~3.91、p=0.37)。 著者は、「介入により入院中の喫煙者の禁煙達成状況が実質的に改善された。このモデルを最適化し、医療以外の分野のサービスにも適用するために、さらなる検討を進める必要がある」と指摘している。

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メタボリックシンドローム患者は喘息を発症しやすいのか?

 メタボリックシンドロームや、その診断項目である基準以上の腹囲や高血糖・糖尿病があると成人喘息発症のリスクが高くなることが、ノルウェー科学技術大学のBen Michael Brumpton氏らにより報告された。The European respiratory journal誌オンライン版2013年7月11日号の掲載報告。 肥満は成人喘息発症のリスクファクターであり、メタボリックシンドロームの診断基準における主要な項目ともなっている。本研究の目的は、メタボリックシンドロームおよびその診断項目が成人喘息の累積発症率と、どのように関係しているかを調べることである。  1995年から2008年までのthe Nord-Trondelag Health Study(HUNT study)の参加者データから、喘息ではない患者(n=23,191)を対象に前向き研究を行った。ベースラインのメタボリックシンドロームは、いくつかの国際組織の暫定的な共同声明の定義により分類した。フォローアップ期間中(平均11年間)の喘息発症は自己申告により調査した。 主な結果は以下のとおり。・メタボリックシンドロームは成人喘息発症のリスクファクターであった(補正オッズ比:1.57 、95%信頼区間[Cl]:1.31~1.87)。より厳格な喘息の評価基準を用いた感度の高い解析でも、この関連は一貫していた(補正オッズ比:1.42 、95%Cl:1.13~1.79)。・メタボリックシンドローム診断項目間で相互調整を行った後においても、基準以上の腹囲と高血糖・糖尿病の2項目は成人喘息発症のリスクとの間に強い関連性がみられた(それぞれ、補正オッズ比[95%CI]:1.62[1.36~1.94] 、1.43[1.01~2.04])。

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脳卒中にも抗血小板併用療法は必要か?(コメンテーター:後藤 信哉 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(114)より-

心筋梗塞急性期には、多くの症例が冠動脈インターベンションを受ける。内科的治療に終わった症例であっても、急性冠症候群後1年間はアスピリンとクロピドグレルの抗血小板併用療法を行なうことにより、心血管死亡/心筋梗塞/脳卒中のリスクを低減できることが、1990年代に施行されたランダム化比較試験により示された。脳梗塞と心筋梗塞、急性冠症候群には類似点が多い。いずれも動脈硬化を基盤とする動脈系の血栓性疾患である。 慢性期の症例を対象としたランダム化比較試験の結果は、脳と心臓の差異を示してきた。多くの試験では、慢性期には脳では抗血小板併用療法は出血を増すのみで、ベネフィットは少ないとされた。急性期の方が脳と心臓の病態の類似性が大きい。さて、急性期の脳卒中の試験の結果は急性期の冠動脈の疾患と同じ結果になるだろうか?あるいは急性期ではあっても脳は脳としての特殊性を示し続けるだろうか? 試験の結果、急性期の脳梗塞では急性期の冠動脈疾患と同様、抗血小板併用療法使用群は有効かつ安全との結果であった。本試験は5,170例のランダム化比較試験である。読者は是非本論文を読んでいただきたい。とくに、MethodのStudy Oversightを読むとよい。わが国には多くの優秀な脳卒中専門医がいる。わが国からも脳卒中関係のデータは多く発表されている。しかし、中国は政府を中心にランダム化比較試験を国際スタンダードで施行する仕組みを作り上げてしまった。この試験の構造は、TIMI group、Duke大学など米国のAROが作り上げた世界標準に近い。国家制度の差異から政府主導の試験になっているが、ランダム化比較試験による臨床的仮説の検証能力においても、中国の力が欧米並みになっている事実は、わが国の臨床医、臨床研究者のさらなる奮起を促すものである。

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さわやま流 音楽的聴診術<上巻>

第1回「 I音とII音」第2回「II音の亢進と過剰心音」 聴診部位によって異なる心音。その正常・異常の違いを、音楽に見立てて親しみながら理解できます。30種類の心音・心雑音を楽譜のようにグラフィック化したことで、音の大小やリズムを目で見て学べます。視覚的な表現で印象に残りやすいので、心音聴取を苦手にしていた人もきっと聴診が楽しくなります!上巻では、Ⅰ音とⅡ音の聴き分け、Ⅱ音の亢進と過剰心音、Ⅳ音の心尖拍動の触診方法などを解説します。第1回「 I音とII音」冒頭で「耳試し」と称する実際の心音の聴取テストをしてから、主に Ⅰ音とⅡ音について解説していきます。Ⅰ音は心尖部と心基部でどう聴こえ方が違うのか?Ⅱ音の分裂と呼吸との関係は?Ⅱ音の識別方法は?など、曖昧にしがちな部分を音楽と楽譜的な図を使って次々にくっきり明快にしていきます。特に今回はⅡ音に間違えられやすい「僧帽弁逸脱」「クリック音」「Ⅲ音」を「Ⅱ音の固定性分裂」と共に1つの音楽にまとめ、一目でⅡ音からの距離や音の性質が分かるように図示しました。この機会に是非心音の基本であるⅠ音とⅡ音の聴き分けを自分のものにして下さい。第2回「II音の亢進と過剰心音」 今回はII音の亢進と過剰心音について取り上げます。なぜII音の大動脈弁成分の亢進は単音しか聴かれず、肺動脈弁成分の亢進は2つの音が聴かれるのでしょうか?生理的III音と病的III音の違いは?重合奔馬調律は何音と何音が重なっているのでしょうか?そんな疑問に沢山先生が答えます。“心音の楽譜”ともいえる“sound file”を使えば、微妙な違いも一目瞭然!またIV音の心尖拍動の触診の方法なども詳しく解説。「触診も併用して心音を聴くべき」とする“五感診療”をモットーとする先生の本領発揮です!明日から聴診器を片手に過剰心音を探したくなること請け合いです。

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第16回 診療ガイドライン その2: 「沿う」以上に重要な「適切なガイドライン」作り!!

■今回のテーマのポイント1.ガイドラインに沿った診療は紛争化リスクを低減する2.ガイドラインに沿った診療をしていれば、違法と判断される危険性は低い3.実医療現場に沿った適切なガイドラインの作成が課題である事件の概要患者X(54歳)は、4日前より持続する呼吸困難、動悸を認めたため、平成15年10月29日、Y病院を受診したところ、重症心不全および心房細動と診断され、加療のため同日入院となりました。主治医Aは、同日よりXに対し、心不全の治療として酸素投与と利尿薬、カテコラミンの投与を、心房細動に対しヘパリン、翌日よりワルファリンカリウム(商品名:ワーファリン)(2㎎/日)を開始しました。11月4日には、トイレへ歩行しても呼吸苦を認めなくなりました。11月7日、経食道心エコーを行ったところ、左房内に明らかな血栓を認めなかったものの、モヤモヤエコーが描出されました。明らかな血栓がなかったことから、A医師は、Xに対し、電気的除細動を行ったところ、1度は正常洞調律に戻りましたが、その後、心房性期外収縮が頻発するなど不整脈が出現していました。なお、11月6日のXのPT-INRは1.15でした。Xに対するワーファリン®の投与量は、11月4日より3㎎/日に、9日より4㎎/日と順次増量しましたが、10日退院時のPT-INRは1.2でした。A医師は、心不全および心房細胞が改善したこと、Xが退院を希望したことから、ワーファリン®を4.5㎎/日として、10日に退院としました。しかし、翌11日午後7時半頃、Xは、自宅にて右片麻痺が出現し、救急搬送されたものの、脳塞栓症にて右不全麻痺と失語症が残存することとなりました。これに対し、Xは、1)電気的除細動の適応がなかったこと、2)ワーファリン®による抗凝固療法が十分ではなかったにもかかわらず電気的除細動を行ったこと、3)電気的除細動後、抗凝固療法が不十分であったにもかかわらず退院させたことなどを争い、Y病院に対し、約1億5,200万円の損害賠償を請求しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過患者X(54歳)は、4日前より持続する呼吸困難、動悸を認めたため、平成15年10月29日、Y病院を受診したところ、重症心不全および心房細動と診断され、加療のため同日入院となりました。胸部単純X線上、著明な肺鬱血を認め、心エコー上、左室駆出率は24%、心嚢液貯留を認めました。主治医Aは、同日よりXに対し、心不全の治療として酸素投与と利尿薬、カテコラミンの投与を、心房細動に対しヘパリン、翌日よりワーファリン®(2㎎/日)を開始しました。11月4日には、トイレへ歩行しても呼吸苦を認めなくなったものの、5日に行われた心エコーでは、左室駆出率21%、左房径50㎜、左室拡張末期径64㎜であり、拡張型心筋症様でした。11月7日、経食道心エコーを行ったところ、左房内に明らかな血栓を認めなかったものの、モヤモヤエコーが描出されました。明らかな血栓がなかったことから、A医師は、Xに対し、電気的除細動を行ったところ、1度は正常洞調律に戻りましたが、その後、心房性期外収縮が頻発するなど不整脈が出現していました。なお、11月6日のXのPT-INRは1.15でした。Xに対するワーファリン®の投与量は、11月4日より3㎎/日に、9日より4㎎/日と順次増量しましたが、10日退院時のPT-INRは1.2でした。A医師は、心不全および心房細胞が改善したこと、Xが退院を希望したことから、ワーファリン®を4.5㎎/日として、10日に退院としました。しかし、翌11日午後7時半頃、Xは、自宅にて右片麻痺が出現し、救急搬送されたものの、脳塞栓症にて右不全麻痺と失語症が残存することとなりました。事件の判決1)電気的除細動の適応がなかったこと平成13年ガイドラインでは、除細動により自覚症状や血行動態の改善が期待される場合には、電気的除細動の適応があるとされていること、同ガイドラインでは、除細動しても再発率が高く、効果が期待できない例として、(1)心房細動の持続が1年以上の慢性心房細動、(2)左房径が5センチメートル以上、(3)過去に除細動歴が2回以上、(4)患者が希望しないという条件が1つでもある場合は、積極的な除細動を勧めていないところ、(1)については判断できないが、(2)については11月5日の左房径は5センチメートルとぎりぎりの基準であったこと、同ガイドラインでは、重症心不全では、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされていることなどから、平成13年ガイドラインから逸脱していない。・・・・・・(中略)・・・・・・すなわち、前記医学的知見に示した、平成13年ガイドラインによれば、重症心不全の場合、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされているところ、前記認定のとおり、本件除細動時、原告は重症心不全の状態にあったこと、前記前提事実によれば、原告は、本件入院時から本件除細動時の約10日間心房細動が持続していたこと等が認められることから、平成13年ガイドラインによって照合しても電気的除細動を行う適応があったといえる。2)ワーファリンによる抗凝固療法が十分ではなかったにもかかわらず電気的除細動を行ったこと前記前提となる医学的知見によれば、心房細動の持続が48時間以上となると左房内に血栓が形成されて塞栓症を起こす危険が高まること、心房細動では、除細動後、洞調律に戻った後に一過性の機械的機能不全が生じ、この時期に心房内に血栓が形成され、機械的興奮が回復してから血栓が剥がれて飛んで塞栓症の原因となると考えられていること、日本では、INR2程度を目標とすることとされていること、平成13年ガイドラインによれば、心拍数が毎分99以下の発作性心房細動の項で、心房細動の持続時間が48時間を超える場合には、経食道心エコーにて左房内血栓の有無を確認し、無ければヘパリン投与下で除細動を行うとされていることが認められる。そして、前記認定事実によれば、原告のINRは、10月29日に1.15、11月4日に1.14、6日に1.15だったこと、A医師は、本件除細動前に、原告に対して経食道心エコーを行い、左房・左心耳内に血栓がないことを確認したこと、本件除細動時、ヘパリンを投与していたこと等が認められる。以上を総合すると、D医師が電気的除細動の実施に際し、抗凝固の目標値であるINR2~3でワーファリン2をかなり下回るINR1.5程度で本件除細動を行ったことは塞栓症のリスク管理という点から疑問がないとは言えないが、A医師はガイドラインの指針に従って、経食道心エコーにより、左房・左心耳内に血栓がないことを確認し、ヘパリン投与下で本件除細動を行ったのであり、鑑定意見及び医学的知見に照らすと、INRが2程度になる様に抗凝固療法を行った上で除細動を行うべき注意義務があったとまではいえない。3)電気的除細動後、抗凝固療法が不十分であったにもかかわらず退院させたこと平成13年ガイドラインで、電気的除細動施行後はワーファリンによる抗凝固療法(INR2~3)を4週間継続することが推奨されていること、ヘパリンとワーファリンの併用方法としては、ワーファリンの抗凝固療法の効果が出るまでに約72時間ないし96時間を要するため、INRが治療域に入ってからヘパリンを中止することが勧められていることが認められる。前記前提事実及び前記認定事実によれば、A医師は、原告退院時、ワーファリンを従前の4錠(4ミリグラム)から4.5錠(4.5ミリグラム)に増量した上で退院させていることが認められる。しかし、前記前提事実及び前記認定事実によれば、原告の退院時のINRは1.20と、平成13年ガイドラインの推奨するINRの値及び重大な塞栓症が発症する可能性の高いINR1.6を相当下回っていたこと、鑑定書によれば、原告は心不全を合併していたことから特に、脳塞栓症の発生リスクが高まっていたことが認められる。そして、前記認定事実によれば、原告が本件脳梗塞を発症した後の11月13日のINRは1.21であることが認められ、脳梗塞発症時には抗凝固療法のレベルがINR1.2前後であったことが推認できる。・・・・・・(中略)・・・・・・以上の事実を総合すると、原告の退院時の抗凝固レベルは不十分かつ塞栓症発生の危険が高い状態であり、原告退院後、ワーファリン増量の効果が発現するのになお数日を要する状態であったのであるから、A医師には、入院を継続してヘパリンによる抗凝固療法を中止することなく併用しつつ、ワーファリンの投与量を調節して推奨抗凝固レベルを確保する入院を継続させて原告の抗凝固レベルが推奨レベルになるまでの間、特段の事情がない限り、入院を継続し、原告の状態を観察する注意義務があったといえる。・・・・・・(中略)・・・・・・よって、A医師は原告の抗凝固レベルが推奨レベルになるまでの間、入院を継続し、原告の状態を観察する注意義務を怠ったといえる。(岐阜地判平成21年6月18日)ポイント解説今回も、前回に引き続きガイドラインについて解説いたします。前回解説したように、ガイドラインは、裁判所が医療水準を判断する際の重要な資料であり、裁判所はおおむねガイドラインに沿った判断をしていることから、ガイドラインに反した診療をした場合には、「過失」と判断されやすいといえます。それでは、「ガイドラインに沿った診療をしていた場合には、裁判所はどのような判断をするのか?」が今回のテーマとなります。「事件の判決」で挙げている3つの争点について、裁判所は、いずれも日本循環器学会が作成したガイドラインを引用し、過失判断をしています。そして、1)においては、「平成13年ガイドラインによれば、重症心不全の場合、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされているところ、前記認定のとおり、本件除細動時、原告は重症心不全の状態にあったこと、前記前提事実によれば、原告は、本件入院時から本件除細動時の約10日間心房細動が持続していたこと等が認められることから、平成13年ガイドラインによって照合しても電気的除細動を行う適応があったといえる」と判示し、過失がなかったとしています。第14回で解説したように、判決は法的三段論法(図1)で書かれているところ、1)における大前提(規範定立)は、「平成13年ガイドラインによれば、重症心不全の場合、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされている」であり、ガイドライン=規範となっています。そして、ガイドライン=規範に本件事案は反していないこと(小前提)から過失はなかった(結論)としているのです。同様に、2)においても、ガイドラインを規範とした上で、「D医師が電気的除細動の実施に際し、抗凝固の目標値であるINR2~3でワーファリン2をかなり下回るINR1.5程度で本件除細動を行ったことは塞栓症のリスク管理という点から疑問がないとは言えないが、A医師はガイドラインの指針に従って、経食道心エコーにより、左房・左心耳内に血栓がないことを確認し、ヘパリン投与下で本件除細動を行ったのであり、鑑定意見及び医学的知見に照らすと、INRが2程度になる様に抗凝固療法を行った上で除細動を行うべき注意義務があったとまではいえない」と判示しており、ガイドラインに沿っていることを理由にPT-INRが低くともなお適法であるとしています。この判示は、より高い医療水準を設定することが可能な場合においても、ガイドラインにさえ沿っていれば、違法と判断しないとした点で重要であるといえます。2000年代前半において、現場の実情や医療を無視した救済判決が出されたことで、医療界が大きく混乱しました。萎縮医療が生じた原因は、医療に対する要望が急速に高まっていく中、年々、求められる医療水準が上昇していったことです(図2)。すなわち、診療当時に入手可能な判例に沿った診療(診療時のルールに基づく診療)を行ったとしても、それが裁判となり争われ、判決が出されるまでの間に、求められる医療水準が上昇(判決時=将来のルール)してしまい、結果、「違法」と判断されてしまったことから、実医療を行うにあたり自身の行為が適法か否かの判断ができなくなってしまったのです。自らの診療の適法性に対する予見可能性がなくなれば、実医療現場で診療する医療従事者にとっては、結果論で裁かれるのと同じことになりますので、その結果、危険を伴う診療には関与しないという萎縮医療が生じてしまいました。本判決のように、その当時のガイドラインに従っていれば、少なくとも違法とは判断されないということは、現場の医療従事者にとっては非常に重要な意味を持ちます。特にその内容が、裁判官ではなく、その領域の専門家である医師によって定められることは、適切な医療訴訟(敗訴しても医師が納得できる)を目指す上でも価値があるといえます。昨今の判決では、裁判所は、ガイドラインを尊重していること、前回解説したように、ガイドラインに準じた治療であった場合には、そもそも弁護士が事件を受任しないことから紛争化自体を防ぐことができるということで、ガイドラインの重要性は増しています。しかしながら、現在作成されているガイドラインの中には、適法性の基準としてみると疑問といえるものも散見されます。特に、複数の選択肢があり、現場の医師の裁量に任せるべきケースに対し、他の選択肢を否定するかのような表記がなされている場合は、しばしば紛争化の道をたどることとなるので注意が必要です。いずれにせよ、医療の正しさは専門家である医師が決定していくということは、重要なことであり、不幸な時期を経て、ようやく手にしたものです。医療界は、ガイドラインを適法性の判断基準にしないで欲しいという後ろ向きの議論をするのではなく、実医療現場で働く医師が困ることのない適切なガイドラインを作成するよう努力していかなければなりません。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)岐阜地判平成21年6月18日

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募集した質問にエキスパートが答える!骨粗鬆症診療 Q&A (Part.2)

今回、骨粗鬆診療に関連する3つの質問に回答します。「骨折ハイリスク例の見分け方」「薬剤の併用療法」。日頃の悩みがこれで解決。骨折のハイリスク例の見分け方について教えてください。既存椎体骨折、大腿骨近位部骨折の既往は骨折ハイリスク例となります。今年、改訂された「原発性骨粗鬆症診断基準(2012年度改訂版)」と「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン(2011年版)」ではこれらの骨折既往がある場合には骨密度検査をせずに骨粗鬆症と診断し薬物治療を開始することが推奨されています(図)。その他のハイリスク例として、ステロイド性骨粗鬆症があげられます。プレドニン換算で5mg/日を3ヵ月以上投与する患者には、ステロイド開始と同時にビスホスホネート製剤などの薬物治療を開始することが推奨されています。図画像を拡大する併用療法について教えてください。現在の薬剤は単剤治療の効果のエビデンスに基づいているので、原則的には単剤治療を行うべきでしょう。併用にはいろいろなパターンがありますが、複数薬を併用する場合には互いに薬剤効果が相殺されないこと、有害事象がおきないこと、単剤使用の場合よりも明らかに相乗効果が認められることが条件になります。近年、活性型ビタミンD3はビスホスホネート製剤と併用すると、重症患者ではビスホスホネート製剤単独で使用するより骨折予防効果が高いことが報告されています(A-TOP研究)。

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デイサービス介護中に失踪した認知症老人が水死体で発見されたケース

精神最終判決平成13年9月25日 静岡地方裁判所 判決概要失語症をともなう重度の老人性認知症と診断されていた高齢男性。次第に家族の負担が重くなり、主治医から老人介護施設のデイサービス(通所介護)を勧められた。約3週間後、通算6回目となるデイサービスで、職員が目を離したわずか3分間程度の間に、高さ84㎝の窓をよじ登って施設外に脱出、そのまま行方不明となった。施設や家族は懸命な捜索を行ったが、約1ヵ月後、施設からは遠く離れた砂浜に水死体として打ち上げられた。詳細な経過患者情報平成7年(1995)11月27日 失語をともなう重度の老人性認知症と診断された高齢男性経過平成8(1996)年10月31日失語症により身体障害者4級の認定。認知症の程度:妻との意思疎通は可能で、普通の感情はあり、家庭内であれば衣服の着脱や排泄は自力ででき、歩行には問題なく徘徊もなかった。ただし、妻に精神的に依存しており、不在の時に捜して出歩くことがあった。次第に家族は介護の負担が大きく疲労も増してきたため、担当医師に勧められ、老人介護施設のデイサービス(通所介護)を利用することになる。4月30日体験入所。5月2日施設のバスを利用して、週2回のデイサービスを開始。デイサービス中の状況:職員と1対1で精神状態が安定するような状況であれば、職員とも簡単な会話はでき、衣服の着脱などもできたが、多人数でいる場合には緊張して冷や汗をかいたり、ほとんどしゃべれなくなったり、何もできなくなったりした。また、感情的に不安定になり、帰宅したがったり、廊下をうろうろすることがあり、職員もそのような状態を把握していた。5月21日通算6回目のデイサービス。当日の利用者は、男性4名、女性5名の合計9名であり、施設側は2名の職員が担当した。10:15入浴開始。入浴サービスを受けている時は落ち着いており、衣服の着脱や歩行には介助不要であった。10:50入浴を終えて遊戯室の席に戻る。やがてほかの利用者を意識してだんだん落着きがなくなり、席を離れて遊戯室を出て、ほかの男性の靴を持って遊戯室に入ってきたところ、その男性が自分の靴と気づいて注意したため、職員とともに靴を下駄箱に返しにいく。その後遊戯室に戻ったが、何度も玄関へいき、そのつど職員に誘導されて遊戯室に戻った。11:40職員がほかの利用者のトイレ誘導をする時、廊下にいるのをみつけ、遊戯室に戻るように促す。ところが、みかけてから1~2分程度で廊下に戻ったところ、本人の姿はなく、館内を探したが発見することができなかった。失踪時の状況:施設の北側玄関は暗証番号を押さなければ内側からは開かないようになっており、裏口は開けると大きなベルとブザーが鳴る仕組みになっていて、失踪当時、北側玄関および裏口は開いた形跡はなかった。そして、靴箱には本人の靴はなく、1階廊下の窓の網戸(当時窓ガラスは開けられ、サッシ網戸が閉められていた)のうちひとつが開かれたままの状態となっていた。そのため、靴箱から自己の靴を取ってきて、網戸の開いた窓(高さは84cm程度)によじ登り、そこから飛び降りたものと推測された。5月22日09:03翌日から家族は懸命な捜索活動を行う。親戚たちと協力して約150枚の立看板を作ったり、施設に捜索経過を聞きにいったりして必死に捜したが、消息はつかめなかった。6月21日約1ヵ月後、施設から遠く離れた砂浜に死体となって打ち上げられているのを発見された。当事者の主張患者側(原告)の主張もともと重度の老人性認知症により、どのような行動を起こすか予測できない状態であり、とくに失踪直前は不安定な状態であったから、施設側は窓を閉めて施錠し、あるいは行動を注視して、窓から脱出しないようにする義務があったのに怠り、結果的に死亡へとつながった。デイサービスを行う施設であれば、認知症患者などが建物などから外へ出て徘徊しないための防止装置を施すべきであるにもかかわらず、廊下北側の網戸付サッシ窓を廊下面より約84cmに設置し、この窓から外へ出るのを防止する配慮を怠っていたため、施設の建物および設備に瑕疵があったものといえる。病院側(被告)の主張失踪当時の状況は、本人を最後にみかけてから失踪に気づくまでわずか3分程度であった。その時の目撃者はいないが、施設の玄関は施錠されたままの状態で、靴箱に本人の靴はなく、1階廊下西側の窓の網戸(当時窓ガラスは開けられサッシ網戸が閉められていた)が開かれたままの状態となっていることが発見され、ほかの窓の網戸はすべて閉まっていたことから、1階廊下西側の窓から飛び降りた蓋然性が高い。当該施設は法令等に定められた限られた適正な人員の中でデイサービスを実施していたのだから、このような失踪経過に照らしても、施設から失踪したことは不可抗力であって過失ではない。裁判所の判断もともと失語を伴う重度の老人性認知症と診断されている高齢者が単独で施設外に出れば、自力で施設または自宅に戻ることは困難であり、また、人の助けを得ることも難しい。そして、失踪直前には、靴を取ってこようとしたり、廊下でうろうろしているところを施設の職員に目撃されており、職員は施設から出ていくことを予見可能であった。したがって、デイサービス中には行動を十分に注視して、施設から脱出しないようにする義務があった。しかし、デイサービスの担当職員は2名のみであり、1名は入浴介助、ほかの1名はトイレ介助を行っていて、当該患者を注視する者はいなかったため、網戸の開いた窓に登り、そこから飛び降り、そのまま行方不明となった。身体的には健康な認知症老人が、84cm程度の高さの施錠していない窓(84cm程度の高さの窓であればよじ登ることは可能であることは明白)から脱出することは予見可能であった。したがって、施設職員の過失により当該患者が行方不明となり、家族は多大な精神的苦痛を被ったといえる。施設側の主張するように、たしかに2人の職員で、男性4名、女性5名の合計9名の認知症老人を介助し、入浴介助、トイレ介助をするかたわら、当該患者の挙動も注視しなければならないのは過大な負担である。さらに施設側は、法令等に定められた限られた適正な人員の中でデイサービス事業を実施しているので過失はないと主張する。しかし、法令等に定められた人員で定められたサービスを提供するとサービスに従事している者にとっては、たとえ過大な負担となるような場合であっても、サービスに従事している者の注意義務が軽減されるものではない。そして、失踪後の行動については、具体的に示す証拠はなく、施設からはるか離れた砂浜に死体となって打ち上げられるにいたった経緯はまったく不明である。当時の状況は、老人性認知症があるといっても事理弁識能力を喪失していたわけではなく、知った道であれば自力で帰宅することができていたのであり、身体的には健康で問題がなかったのであるから、自らの生命身体に及ぶ危険から身を守る能力まで喪失していたとは認めがたい。おそらく施設から出た後に帰宅しようとしたが、道がわからず、他人とコミュニケーションができないため、家族と連絡がとれないまま放浪していたものと推認できる。そうすると失踪からただちに同人の死を予見できるとは認めがたく、職員の過失と死亡との間の相当因果関係はない。原告(患者)側4,664万円の請求に対し、285万円の判決考察デイサービスに来所していた認知症老人が、わずか3分程度職員が目を離した隙に、施設を抜け出して失踪してしまいました。当時、玄関や裏口から脱出するのは難しかったので、たまたま近くにあった窓をよじ登って外へ飛び降りたと推定されます。その当時、9名の通所者に対して2名の職員が対応しており、それぞれ入浴介助とトイレ誘導を行っていて、けっしていい加減な介護を提供していたわけではありません。したがってわれわれ医療従事者からみれば、まさに不可抗力ともいえる事件ではないかと思います。もし失踪後すみやかに発見されていれば、このような医事紛争へと発展することはないのですが、不幸なことに行方不明となった1ヵ月後、砂浜に水死体として打ち上げられました。これからますます高齢者が増えるにしたがって、同様の紛争事例も増加することが予測されます。これは病院、診療所、介護施設を問わず、高齢者の医療・福祉・保健を担当するものにとっては避けて通ることのできない事態といっても過言ではありません。なぜなら、裁判官が下す判断は、「安全配慮義務」にもとづいて、「予見義務」と「結果回避義務」という2つの基準から過失の有無を推定し、かつ、医療・福祉・保健の担当者に対しては非常にハイレベルの安全配慮を求める傾向があるからです。本件では、失踪直前にそわそわして遊戯室の席に座ろうとしなかったり、他人の靴を持ち出して玄関に行こうとしたところが目撃されていました。とすれば、徘徊して失踪するかもしれないという可能性を事前に察知可能、つまり「予見義務」が発生することになります。さらに、そのような徘徊、失踪の可能性があるのなら、「結果回避義務」をつくさねばならず、具体的には、すべての出入口、窓などを施錠する、あるいは、つきっきりで監視せよ、ということになります。われわれ医療従事者の立場からすると、玄関・裏口などの出入口にバリアを設けておけば十分ではないか、外の空気を入れるために窓も開けられないのか、と考えたくもなります。そして、施設側の主張どおり、厚生労働省が定めた施設基準をきちんとクリアしているのだから、それを上回るような、通所者全員の常時監視は職員への過大な負担となる、といった考え方も十分に首肯できる内容です。ところが裁判では、「法令等に定められた人員で定められたサービスを提供するとサービスに従事している者にとっては、たとえ過大な負担となるような場合であっても、サービスに従事している者の注意義務が軽減されるものではない」という杓子定規な理由で、施設側の事情はすべて却下されました。このような背景があると、高齢者を担当する病院、診療所、介護施設で発生する可能性のある次のような事故の責任は、われわれ医療従事者に求められる可能性がかなり高いということがいえます。徘徊、無断離院、無断離設による不幸な事態(転倒による骨折、交通事故など)暴力および破壊行為による不幸な事態(患者本人のみならず、他人への危害)嚥下障害に伴う誤嚥、窒息よくよく考えると、上記の病態は「疾病」に起因するものであり、けっして医療従事者や介護担当者の責任を追及すべきものではないように思います。つまり、悪いのは患者さんではなく、医療従事者でもなく、まさに「病気」といえるのではないでしょうか。ところが昨今の考え方では、そのような病気を認識したうえで患者さんを預かるのであれば、事故は十分に「予見可能」なので、「結果回避」をしなければけしからん、だから賠償せよ、という考え方となってしまいます。誤解を恐れずにいうと、長生きして大往生をとげるはずのおじいさん、おばあさんが、家で面倒をみるのが難しくなって病院や施設へ入所したのち、高齢者にとっては予測されるような事態が発生して残念な結果となった場合に、医療過誤や注意義務違反の名目で、大往生に加えて賠償金も受け取ることができる、となってしまいます。それに対する明確な解決策を呈示するのは非常に難しいのですが、やはり第一に考えられることは、紛争を水際で防止するために、患者およびその家族とのコミュニケーションを深めておくことがとても大事だと思います。高齢者にとって、歩行が不安定になったり、飲み込みが悪くなったり、認知が障害されるような症状は、なかなか避けて通ることはできません。したがって、事故が発生する前から高齢者特有の病態について家族へは十分に説明し、ご理解をいただいておくことが重要でしょう。まったく説明がない状況で事故が発生すると、家族の受け入れは相当難しいものになります。そして、一般的に家族の期待はわれわれの想像以上ともいえますので、本件のよう場合には不可抗力という言葉はなるべく使わずに、家族の心情を十分にくみ取った対応が望まれます。そして、同様の事例が発生しないように、認知症老人を扱うときには物理的なバリアをできるだけ活用し、入り口や窓はしっかり施錠する、徘徊センサーを利用するなどの対応策をマニュアル化しておくことが望まれます。精神

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