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統合失調症スペクトラム障害と感情精神病の発症リスク要因は

 統合失調症スペクトラム障害(SSD)と感情精神病(AP)には、特徴的で共通の発症前リスク要因として、産科合併症、小児期の精神病理、認知障害、運動障害などがあることが示された。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のKristin R. Laurens氏らが、システマティックレビューにより明らかにした。こうした共通の発症前リスクを特定することは、病因学的仮説を改良し、ターゲットを絞った予防的介入に実行に役立つ可能性がある。BMC Psychiatry誌2015年8月25日号の掲載報告。 検討では、SSDおよびAP発症のリスク要因および先行条件に関する利用可能なエビデンスを統合し、最も強く支持する要因を特定し、残存するエビデンスギャップに注目した。Medlineを用いて、プロスペクティブな出生、集団、ハイリスク、ケースコントロールコホートについて系統的に文献検索を実施するとともに、全文が入手可能な英語の発表済み論文について、補足的に手動検索を行った。適格/除外の判断とデータ抽出は2名が並行して実施した。成人精神科診断により確定診断された症例および対照群の曝露因子に3つのリスク要因カテゴリー、4つの先行条件カテゴリーを採用。利用可能なデータからエフェクトサイズおよび発生頻度を抽出し、試験デザインにかかわらずエビデンスの強さを総合して質的評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・検索で特定された1,775試験のうち、127試験がレビューの対象となった。・SSD発症例は、胎児期から青年期にわたり、さまざまな種類の軽微な発病前発達不全とリスク曝露を認めた。・最も重大なもの(あるいは最も一貫して認められたもの)として、産科合併症、妊娠中の疾患(とくに感染症)、他の母体の身体的要因、情緒発達に負の影響のある家庭環境、精神病理および精神症状、認知および運動障害が挙げられた。・APにおいて、このような曝露因子の多様性を関連付けるエビデンスの蓄積は相対的に少なく、いまだ検証されていない事項も多いが、これまでに最も一貫性のある、または強いエビデンスは産科合併症、精神病理、認知指標、運動障害であった。・SSDとAPの直接比較を行っているいくつかの検討において、SSDはAPに比べてエフェクトサイズが大きく、有意な関連を示す報告がより多かった。・SSDとAPに共通するリスク要因は、産科合併症、小児期の精神病理、認知指標および運動障害などであったが、リスク要因および先行条件について一般的なものと特別なものとを識別するには、APに関する利用可能な前向きデータが不足しており限定的であった。 結果を踏まえ、著者らは「さらなる検討が必要だが、明らかになったリスク要因の存在は、SSDやAPに対する予防的介入に活用可能な目標の明確化に役立つ」とまとめている。関連医療ニュース 統合失調症の同胞研究、発症と関連する脳の異常 統合失調症患者の脳ゲノムを解析:新潟大学 統合失調症患者を発症前に特定できるか:国立精神・神経医療研究センター  担当者へのご意見箱はこちら

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脳出血再発抑制に降圧は有効。それでもRCTは必要(解説:石上 友章 氏)-425

 マサチューセッツ総合病院のAlessandro Biffi氏らは、脳出血のサバイバー(90日以上生存者)を対象にして、その再発抑制に関する降圧治療の影響を調べて報告した。その結果、『降圧治療』および『血圧管理の質』が、脳葉型(lobular type)脳出血、非脳葉型(non-lobular type)脳出血のいずれのタイプの脳出血においても、再発抑制に有効であることが明らかになった。『血圧管理の質』については、米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)による脳出血の2次予防の推奨血圧(非糖尿病者:SBP<140mmHg、DBP<90mmHg、糖尿病者:SBP<130mmHg、DBP<80mmHg)を基準にして、二項変数として「適切」、「不十分」とした。 この結果は、ガイドライン遵守による降圧治療の正当性をリアルワールドの実臨床データで証明するとともに、細動脈硬化によらない脳葉型の脳アミロイド血管障害(Cerebral Amyloid Angiopathy:CAA)によるとされる脳出血であっても、降圧治療が有効であることを示すことができた。 脳内出血サバイバーを対象にした単施設のコホート試験であることから、本研究は著者らが本文中に明言するように、試験結果の解釈は仮説提示に留まっている。観察研究は、さまざまなバイアスリスク(選択バイアス、実行バイアス、検出バイアス、症例減少バイアス)を持っている。本研究では、『小脳出血』を脳葉型、非脳葉型に分類できないという理由から除外しているが、もしデータ化しているのであれば、重要な情報となりうることから、解析に含めることが望ましかった。量反応関係の証明については、『降圧・アウトカム』間に、図に示すような関係が認められているが、降圧に限定した解析では、交絡因子をどれだけ解消することができたのか疑問が残る。本研究を仮説提示に留めるとするのであれば、より多くの情報を用いて仮説化していく試みがあってもよかった。本邦でも、MINDSの診療ガイドライン作成マニュアルでは、観察研究のエビデンスの強さの評価にあたっては、『弱(C)』から始めることが推奨されている。したがって、本研究によって明らかにされたCQに対する回答は、本論文の掉尾を飾る下記の一文に集約されるだろう。“These data suggest that randomized clinical trials are needed to address the benefits and risks of stricter BP control in ICH survivor.”画像を拡大する

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ツレがうつになりまして。【うつ病】

今回のキーワード診断基準危険因子進化医学偏桃体社会脳かかわり方うつ病とは?皆さんの周りに、うつ病で休んでいる人はいますか? またはみなさんの中にうつ病で休んだ人はいますか? 今やうつは、日本だけでなく、世界的にも広がりを見せています。「なぜ現代にうつ病は増えているの?」「なぜうつ病になるの?」という疑問を率直に持つ人も多いでしょう。今回は、さらに踏み込んで、そもそも「なぜうつ病は『ある』の?」というところまで迫ってみたいと思います。そして、そこから、うつ病を良くして、防ぐヒントを探っていきましょう。今回、取り上げるのは、2011年の映画「ツレがうつになりまして。」です。ほのぼのとした絵のタッチの原作マンガのカットが映画の要所で織り交ぜられ、とても心温まる夫婦の愛と成長が描かれています。また、うつ病の人へのかかわり方のエッセンスが詰まっていて、とても勉強になります。うつ病にはどんな症状がある?―診断基準(表1)主人公のハルさんは売れない漫画家で、そのツレ(夫)の幹男はサラリーマン。この夫婦とペットのイグアナとの3人で暮らしています。結婚5年目のある時、ツレの様子が変わっていきます。ツレは「何だか食欲がないんだ」「体がダルいし」「何もできない」と打ち明けます。促されてようやく受診した病院では、医師からうつ病と診断されます。「うつとは気分が落ち込んだ状態」「普通は気持ちを切り替えたり割り切ったりして、落ち込んだ状態から脱するわけですが、それを自力ではできなくなってしまっている状態」と説明されます。薬の治療が始まりますが、その後、良くなったり悪くなったりを繰り返します。「こんな飼い主でイグ(ペット)に申し訳ないよ」「ハルさんのマンガが売れないのも全て僕のせいだ」と言い出します(罪業妄想)。そして、涙を流し、自殺を試みるのです。ツレの様子は、以下のうつ病の診断基準に照らし合わせると、9項目のほとんどを満たしています。表1 うつ病の診断基準(DSM-5) 感情意欲思考項目(1)抑うつ気分(2)無関心(興味・喜びの喪失)(3)体重変化(食欲)>5%/月(4)睡眠障害(不眠or過眠)(5)精神運動焦燥or精神運動制止(6)疲労感(無気力)(7)無価値感、罪責感(8)思考抑制(思考制止)(9)自殺念慮、自殺企図備考(1)か(2)必須9項目中5項目以上がほとんど毎日(ほとんど1日中)(9)については反復するだけで満たされる症状の持続は2週間以上なぜうつ病になるの?―危険因子(表2)(1)環境因子ツレは、外資系のパソコンサポートセンターに勤務しています。仕事をバリバリこなすデキるサラリーマンで、最近のリストラで生き残った数少ない1人でした。もともとの仕事の激務に加え、リストラ後の職場環境の変化、毎日の満員電車での通勤などストレス負荷が強まっていることが分かります。また、ツレは、パソコン操作に苦労する顧客の「できないさん」から度々、理不尽なクレームを付けられます。さらには、「できないさん」からツレの応対へのクレームの手紙が社長にまで行ってしまい、ツレは上司から「センター全体の査定に響く」と理不尽に問い詰められます。上司は、クレームの詳細を確認せず、一方的に部下のツレのせいにします。けっきょく、ツレは上司にも顧客にも謝罪しています。これは、人間関係のストレスです。職場で、競争や評価にさらされて味方や頼れる人がいない中、家でも、当初ハルさんはツレがうつうつとしていても、寄り添う雰囲気にはなっていません。食欲がないツレに「どうせ私の料理はまずいよ」とふてくされたり、「治す気がないから治んない」と言い捨てています。ツレは周りの助け(ソーシャルサポート)がないまま孤立していました。(2)個体因子ツレは、毎朝、自分でお弁当を作ります。入れるお気に入りのチーズは曜日によってあらかじめ決めています。締めるネクタイも曜日によって決まっています。「できないさん」のクレームの文書にツレの名前が間違って表記されていた時、ツレは「人の名前ですから間違ってもらったら困ります」と「できないさん」につい言ってしまいます。同僚の若者が、仕事や人間関係の愚痴を吐いていると「お客様の悪口は言わない」「適当じゃだめだよ」とたしなめます。ツレのもともとの性格(病前性格)は、一言で言えば、生真面目で几帳面すぎます(執着器質)。いつもきっちりしていないと気がすまないのです。その性格で、仕事を抱え込み、責任を全てかぶり、自分で自分を追い込んでもいます。物事のとらえかたが偏っていると言えます(認知の偏り)。一方、同僚の若者は、「(クレームの顧客は)何でもすぐに分からない、できないって電話する前に自分の頭で考えろって」「(退職する同僚の送別会は)マジかったるくないですか」と愚痴を吐きます。ツレが食べないお弁当をもらっておきながら、チーズは苦手だと言い、端に避けています。彼は、おおざっぱで図々しくもあります。ツレとは性格が対照的です。うつ病の危険因子として、認知の偏り(病前性格)を挙げました。性格(パーソナリティ)は厳密には生育環境因子も絡んでいますが、ここではこれを除いた遺伝的要素に注目してみましょう。そもそも多くの病気には複数の遺伝子(多因子)が絡んでいます。1つ1つは生存に有利でも、それらが組み合わされると、生存に不利になりえます。例えば、「真面目な遺伝子」「敏感な遺伝子」「慎重な遺伝子」のそれぞれは生存に有利ですが、これらの遺伝子が集積すると、まさにこの映画のツレのようになり、生存に不利になってしまいます。つまり、うつ病になりやすい人となりにくい人が遺伝的にいるということです。その他、ホルモン変化があげられます。ライフサイクルにおいて、特に女性は、妊娠や出産で女性ホルモンが劇的に変化して、マタニティブルーズからの産後うつ病になるリスクがあります。また、男性も含めて、更年期や加齢によるホルモンの減少から、うつ病のリスクが高まります。表2 うつ病の危険因子個体因子環境因子遺伝的要素認知の偏り(病前性格)ホルモン変化妊娠、出産、更年期、加齢などストレス負荷過重労働、環境変化、人間関係など周りの助け(ソーシャルサポート)の乏しさ(孤立)なぜうつ病は「ある」の?―進化の代償これまで、「なぜうつ病になるのか?」といううつ病の直接的な危険因子(直接要因)を見てきました。それでは、そもそもなぜうつ病は「ある」のでしょうか? その答えは、うつ病は、私たちが進化の過程で手に入れた脳の働きの負の側面であるからです。つまり、進化の代償です。これから、このうつ病の起源(究極要因)である主に4つの脳の働き(能力)を、進化医学的に詳しく探っていきましょう。(1)無理にがんばる能力―「がんばりすぎ脳」1つ目は、無理にがんばる能力です。その起源は、5億年前に遡ります。当時、まだ魚であった私たちの祖先に、「危険感知センサー」(偏桃体)が進化しました。これは、天敵がやってきたり環境が変わるなどで身に危険が及びそうになった時に、作動(興奮)します。すると、危険から逃げたり敵と戦ったりするために体を活性化させるストレスホルモン(コルチゾールなど)が分泌されます。そして、交感神経が高まり、攻撃性(不安)や活動性(焦燥)が増えるのです。しかし、このストレスホルモンには、欠点がありました。それは、分泌がある一定期間なら、いつもよりも脳は働き続けるのですが、分泌が長期間続くと、脳の神経ネットワーク(樹状突起)が消耗してしまい(BDHF生成の減少)、逆に脳が働かなくなるのです。例えるなら、脳が全速力で走り続けて息切れをしている状態です。実験的に、魚(ゼブラフィッシュ)がずっと天敵(リーフフィッシュ)に食べられることなく追われ続けるという特殊な生態環境をつくったところ、最初は必至に逃げ回っていたのに、やがて、じっとして動かなくなる様子、つまり魚のうつ状態が確認されています。現代の私たち人間に当てはめれば、ノルマ(過重労働)や環境変化という「敵」に対して、疲れても休めず、無理にがんばり続けると(過剰適応)、不安や焦燥が強まります。そして、その後に力尽きて、うつ病になってしまうということです。本来は、無理にがんばる能力が進化したわけで、それ自体は適応的なのですが、問題はその能力に期限があり、その期限を超えると、その後に長期間、普通にがんばれなくなってしまうということです。つまり、うつ病は、一時的に無理にがんばることができるようになった進化の代償と言えます。また、このストレスホルモンの分泌には、遺伝的な個人差があるようで、特にそれほどストレスがないのに、ストレスホルモンが誤作動を起こして分泌される場合もあります。だから、明らかなストレスがないのに、うつ病になる患者もいるというわけです(内因性)。(2)群れ(集団)をつくる能力―「上下関係脳」2つ目は、群れ(集団)をつくる能力です。その起源は、2000万年前に遡ります。当時、類人猿となった私たちの祖先は、天敵から身を守るなど個体の生存に有利になるため、群れ(集団)をつくるように進化しました。この時、集団としてより機能的になるために、ヒエラルキー(上下関係)を築く心理(習性)も同時にできました。例えば、猿山の猿たちをイメージしてみましょう。ボス猿は、大きな態度をとり、下っ端の猿にひれ伏す態度を求め、地位を維持しようとします(進軍戦略)。一方、下っ端の猿は、目線を合わせずにひれ伏し、こわばらせて大人しい態度をとり、被害を最小にしようとします(退却戦略)。また、自分よりも強い猿によってボスの座を奪われた元ボス猿は、態度が急変して元気がなくなります。体力が残っていても、もはや再び反撃することはありません。このように、集団において、より優位な個体はより高揚的(支配的)になり、より劣位な個体はより抑うつ的(服従的)になります(ランク理論)。言い換えるなら、集団の中で、食糧や繁殖パートナーなどの自分のなわばり(資源)が奪われ不利になった時に、大人しくして歯向かわない自分を周りに見せること(服従の信号)、これがうつとも言えます。うつは地位(資源)の喪失によって生じるストレス反応でもあります。現代の私たち人間に当てはめれば、命令をされ続けたり、謝罪をさせられ続けたりするなどの人間関係のストレスによって自己評価(地位)が低まります(自尊心の喪失)。すると、意識せず意図せずに、抑うつ(服従)の心理が高まるわけです。例えば、現代で一番価値が置かれる資源はお金です。よって、「(ある程度あるはずなのに)お金がない」と思い込むこともあります(貧困妄想)。また、その次に価値の置かれる資源は、人にもよりますが健康が多いでしょうか。そこで、「(特に大病があるわけではないのに)不治の病にかかっている」と思い込むこともあります(心気妄想)。さらに、現代の人間関係は、常に評価にさらされ、より競争的で勝ち負けや格差がはっきりしていたり、また職業的に気を使ったり謝ることが増えています。「上下関係」脳が刺激されやすくなっており、うつ病を引き起こしやすいのです。つまり、うつ病は、集団をつくることができるようになった進化の代償と言えます。特に、男女差で見た場合、男性の方が女性よりもうつ病による自殺既遂率が高いです。この理由は、男性の方が、地位(仕事)や繁殖のパートナー(恋愛)などの資源の奪い合いで闘争をより行うため、上下関係をより意識して、その地位の喪失をより感じる傾向があるからではないでしょうか。例えば、退職後にうつ病のリスクが高まります。(3)集団でうまくやっていく能力―「つながり脳」3つ目は、集団でうまくやっていく能力です。その起源は、300万年以上前に遡ります。当時、ようやく人類となった私たちの祖先は、草原で天敵から身を守ると同時に、食糧を手に入れるなどして協力して生き残るために、より大きな集団をつくるように脳が進化しました。この時、集団でうまくやっていく能力(社会脳)が進化しました。それは、周り(相手)を打ち負かそうとするもともとの競争の心理だけでなく、周り(相手)と仲良くなろうとする協力の心理でもあります。そしてこの2つの心理をうまく使い分け、バランスをとることです。例えば、協力するために、周りと同じ動きをすることで心地良くなります(同調)。また、周り(相手)の気持ちを察することです(心の理論)。さらには、集団の一員として認められるために、役割を全うして役に立とうとすることです(承認)。そのために、集団で価値の置かれること(集団規範)を重んじる性格傾向になることです。それが極端なのが、映画のツレの性格でもある「真面目で几帳面」です(執着気質)。逆に言えば、周りから相手にされなかったり、一人ぼっちになると、ストレスを感じることでもあります。その感覚が、「自分はだめだ」「自分は役立たずだ」という無価値感や自責感です。そこから「周り(社会)に迷惑をかけている」と極端に思い込むこともあります(罪業妄想)。このように、集団において、つながりが強まるとより心地良く感じ、つながりが弱まったりなくなるとより心地悪くなります(愛着理論)。この心地悪さを、私たちは悲しみと呼んでいます。このつながる先は、心のよりどころ(愛着対象)であり、一番は家族です。言い換えるなら、家族を初めとする集団のつながりを失った時に、その人が悲しみ続けること、これもうつと言えます。うつはつながり(人間関係)の喪失によって生じるストレス反応でもあります。このストレスを感じなかった種は、一人ぼっちのままで、生存率や繁殖率を極端に低め、子孫を残せません。現代の私たちに当てはめると、家族を含む自分の味方(仲間)がいることに安心する一方、逆にその味方がいなくなったり(死別反応)、自分が仲間外れにされると、悲しみを感じます。例えば、いじめ自殺への介入が難しい点は、いじめ被害者が抑うつ的になり、「疎外は嫌だ」「孤独は嫌だ」と思い、必死になっていじめ加害者の言いなりになり、いじめを被害者が隠そうとしてしまうことです。そして、いじめがますますエスカレートしてしまうことです。また、現代は、都市化や核家族化が進み、その人間関係は希薄化や孤立化が進んでいるとよく言われます。「つながり」脳が満たされなくなってきており、うつ病を引き起こしやすいのです。つまり、うつ病は、集団でうまくやっていくようになった進化の代償と言えます。特に、男女差で見た場合、女性の方が男性よりもうつ病の発症率が高いです。さきほど男性の方が女性よりも自殺既遂率は高いとご紹介しましたが、この違いは、女性はうつ病になりやすいですが、なっても軽いのに対して、男性はうつ病になりにくいですが、なったら重いということです。この理由は、ホルモン変化による発症を差し引いても、女性の方が、共感性が高く、言い換えれば傷付きやすいため、つながりをより意識して、その喪失をより感じる傾向があるからではないでしょうか。例えば、情緒不安定な人(情緒不安定性パーソナリティ障害)はうつ病の合併率が高いです。(4)自分自身を振り返る能力―「先読み脳」4つ目は、自分自身を振り返る能力です。その起源は、10万年から20万年前に遡ります。当時、ついに現生人類(ホモ・サピエンス)となった私たちの祖先は、喉の構造が進化して、複雑な発声ができるようになり、言葉を使う脳が進化しました。そして、言葉によって抽象的思考もできるようになりました。それは、相手の視点に立つ心理から(メタ認知)、自分自身を振り返る心理、さらには過去、現在、未来の時間軸で自分を俯瞰(ふかん)して見る心理です。例えば、私たちは、過去から現在までの流れから、未来に見通しを立てます。その時、望ましいことが起こるなら、私たちは希望を持ちます。一方、全く望ましくないことが起こるなら、私たちは絶望します。「このつらさはこれからも続く」「これから生きていく意味がない」「死んだら楽になる」と考えれば考えるほど、うつの心理は増幅して自殺のリスクが高まります。よくよく考えると、人間だけが唯一自殺ができる生き物です。つまり、うつ病は、自分自身を振り返り、先が読めるようになった進化の代償と言えます。私たちは、希望を抱くようになったと同時に、絶望も抱くようにもなってしまったのです。うつ病にはどうしたらいいの?-それぞれの「脳」へのアプローチ(表3)うつ病を治すには、まず薬の治療が効果的です。特に、抗うつ薬は、ストレスホルモンによって傷付いた脳の神経ネットワークを修復したり、興奮した偏桃体を鎮める働きがあります。ただ、これまで明らかにしてきたうつ病の起源を理解することで、薬だけではなく、うつ病へのより良いアプローチが理解できます。それでは、うつ病を引き起こすさきほどの4つの「脳」に分けて見てみましょう。(1)がんばりすぎない―環境調整「がんばりすぎ」脳に対しては、がんばりすぎ(過剰適応)の予防やがんばりすぎた後の休養の徹底(環境調整)が重要であることが分かります。訪ねてきたツレの兄は、「こいつちっちゃい頃から細かいこと気にするたちでさあ。だからうつ病になっちまうんだよっ」「がんばって早く治さないとな」「男ってのはさ、一家の大黒柱なんだよ」「だからどんなに辛くても家族のためだと思えばがんばれるもんなんだよ」と説教をします。すると、その後にツレは「何をどうがんばればいいんだよぉ・・・」「今の僕には無理だよ」とさらに症状を悪化させています。うつ病の人には「がんばれ」と励ますのではなく、「よくがんばったね」と受容するのがポイントです。ツレは、徐々に回復していく中、「自分のために治りたいんです」「他の誰かのためじゃなくて」と言うようになります。そして、招待された講演で「あ・と・で」という3つのうつ病への心のあり方を紹介します。それは、「焦らない、焦らせない」「特別扱いしない」「できることとできないことを見分けよう」です。一方、ハルさんは離婚して焦っている友達に「がんばらなくていいんです」「そのまんまでいいんです」と言うようになります。まさに、がんばりすぎない心のあり方が描かれています。(2)自尊心を保つ―アサーション「上下関係脳」に対しては、自尊心を保つために感謝し合うポジティブなコミュニケーション(アサーション)が重要であることが分かります。謝罪を求めてばかりいたかつての顧客の「できないさん」は、ツレの講演の参加者として最後にツレに対して「ありがとう」と感謝したことで、ツレが報われていました。コミュニケーションのコツとしては、「困るじゃないか」「だめじゃないの」と単にネガティブに叱るのではなく、「こうしたら良くなる」とポジティブに伝えることです。さらに、前後に「いつもよくがんばってる」「これからも頼もしく思う」というほめ言葉や感謝の言葉で挟むのです。ツレは、講演で「人は誰でもどんな時でも自分の生きている姿を誇りに思うことができる」「恥ずかしいとか情けないとか思ってしまった自分も含めてちょっと誇らしく思っています」と言い、自尊心を保つ心のあり方が描かれています。(3)周りとつながる―ソーシャルサポート「つながり脳」に対しては、家族を初めとする周りとつながっていること(ソーシャルサポート)が重要であることが分かります。ツレが自殺未遂をした直後に「僕なんていなくても誰も困らない」「僕はここにいていいのかな?」とハルさんに漏らします。「つながり脳」が危うくなっている瞬間です。ハルさんは、「ツレはここにいていいんだよ」と優しく受け止め、寄り添います。ハルさんは、ツレにさりげなく「はい、これ。消しゴムかけて」とマンガのアシスタントを任せるようになります。あえて本人に役割を持たせるのです。「夫婦で助け合っている」「夫婦としてどんな時も味方である」「自分には居場所がある」というつながりの心理を強めています。ただ、説教臭いツレの兄に対してハルさんが「静かに見守ってほしい」と心の中でつぶやいているように、過干渉にならずにほど良い心の間合い(心理的距離)を保つことへの注意も必要です(温かい無関心)。役割や居場所を実感する心のあり方が描かれています。(4)バランスよくものごとをとらえる―認知行動療法「先読み脳」に対しては、バランスよくものごとをとらえること(認知行動療法)が重要であることが分かります。ハルさんは、自分の母親に「私、最近思うんだ」「ツレがうつ病になった原因じゃなくて、うつ病になった意味は何かって?」と言うようになっています。ツレには「そのうちできるようになるよ」「またすぐ良くなるよ」「できないんじゃなくて、しないって思えばいいんだよ」と言っています。一方のツレは、結婚の同窓会で「この1年は、(自分がうつ病になって)私たちにとって苦しい年でした」「でも、夫婦としていろいろなことを得た1年でもありました」と言い、状況のポジティブな面に目を向けています。うつ病という試練を通して、夫婦の絆が深まり、ハルさんもツレも人間的に成長している様子がうかがえます。ものごとをバランスよくとらえ、絶望ではなく希望を抱く心のあり方が描かれています。表3 うつ病を引き起こすそれぞれの「脳」へのアプローチ アプローチ「がんばりすぎ脳」がんばりすぎ(過剰適応)の予防やがんばりすぎた後の休養の徹底(環境調整)「上下関係脳」自尊心を保つために感謝し合うコミュニケーション(アサーション)「つながり脳」家族を初めとする周りとつながっていること(ソーシャルサポート)「先読み脳」バランスよくものごとをとらえる(認知行動療法)うつ病とは?―かかわり方のポイント(表4)うつ病を単なる病気の1つとしてとらえるのではなく、私たちの心の進化の産物ととらえることができた時、なぜそのかかわり方が望ましいのかということに納得できるようになります。その時、私たちはうつ病をより身近にそしてより温かみを持って感じることができるのではないでしょうか? そして、うつ病の人たちへのより良い理解とかかわり方をすることができるようではないでしょうか?表4 かかわり方のポイント(精神療法)望ましい望ましくない「何か困っていますか」(探索、傾聴)「どうなの?」(質問攻め)「つらいのですね」(共感)「その気持ち分かります」(受容)「だめじゃない!」(説教、批判、非難、叱責)「その考え方いいですね」(支持、肯定)「あなたは間違っています」(否定、議論)「誰でもそうですよ」(標準化)「家族を悲しませますよ」(審判)「(こうすれば)大丈夫です」(保証)「がんばれ!」(叱咤激励)「困ったら言ってください」(温かい無関心)「○○しなさい」「△△してあげます」(過干渉)1)アンソニー・スティーブンズほか:進化精神医学、世論時報社、20112)井村裕夫:進化医学、羊土社、20133)NHK取材班:病の起源、うつ病と心臓病、宝島社、20144)北村英哉・大坪康介:進化と感情から解き明かす社会心理学、有斐閣アルマ、2012

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110)旅行で太らない10のヒント【高血圧患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話 患者先生、この間、旅行にいって太ってしまって……。今度、友人と旅行しようと計画しているので、また、太っちゃうんじゃないかと心配で……。 医師なるほど。もうどこにいくか決められましたか? 患者いえ。まだ、これからなんです。 医師それなら、いい方法がありますよ。旅行にも太る旅行と太らない旅行があります。 患者確かに。あまり動かないバス旅行なんかは、体重が増えちゃいます。 医師それに対して、動き回ってあまりつまみ食いをしない旅行。これは体重があまり増えませんね。 患者確かに、T遊園地にいった時は広い敷地を歩き回って、中で食べると値段が高いかなと思って、あまり食べませんでした。そしたら、逆に、体重が減っていて……。 医師旅行でもいろいろありますね。ここに旅行で体重を増やさないヒントが、いくつか書いてありますので、参考にしてみてください。 患者はい。わかりました(うれしそうな顔)。●ポイント同じ旅行であっても、太る旅行と太らない旅行があることを上手に説明します●資料旅行で体重を増やさないヒント (1)歩き回る旅行を計画する (2)夕食は量より質のよいものを注文する (3)旅行前に体重計にのる (4)動きやすい服装にする (5)朝食のバイキングはいつも通りのものをチョイスする (6)昼は軽めにする (7)夕食は好きなものを食べて、後は残す (8)温泉に入ったら、体重計にのる (9)余分なものは食べずに早めに寝る (10)帰宅後に体重計にのり、翌日から普段の生活をする

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これからのうつ病治療、どんな介入を行うべきか

 うつ病は、運動不足と関連しており慢性的な身体健康状態に影響を及ぼしている可能性があるが、うつ病に対する心理学的介入と、身体活動促進のための行動変容技術(たとえば行動活性化療法[BA]など)を組み合わせた介入は、ほとんど行われていない。英国・エクセター大学医学部のClaire Pentecost氏らは、心理療法アクセス改善(IAPT)プログラム内で予備的な無作為化比較試験を実施し、参加者の募集やデータ収集に困難はあったものの、被験者は概してBAおよび身体活動促進(BAcPAc)の自助パンフレットに関心を持ち、身体活動促進に意欲を示したことを明らかにした。無作為化比較試験の実施に当たってはいくつかの課題も浮き彫りとなり、著者らは「大規模臨床試験を行うためには、これらの課題をよく理解し解決する必要がある」とまとめている。Trials誌オンライン版2015年8月20日号の掲載報告。 研究グループは、成人うつ病患者60例を、BAのみまたはBA+身体活動促進(BAcPAc)のいずれかに基づいた自助プログラムに無作為化し、ベースラインおよび4ヵ月後に評価した。研究方法や介入方法の許容性および実現性を検討するため、参加者およびpsychological wellbeing practitioner(PWP)から質的データを収集するとともに、費用などに関するデータも収集した。 主な結果は以下のとおり。・4ヵ月後に評価し得た症例は、44例(73%)であった。・加速度計を用いた身体活動データは、44例中28例(64%)で収集された。・20例(33%)が少なくとも1回は治療を受けた。・インタビューデータは、参加者15例およびPWP9名について分析した。・既存のIAPTサービス内で無作為化比較試験を実施することの課題として、スタッフの高い離職率、参加者のスケジュール管理の問題、PWPおよび参加者が認知機能に関する治療を優先させること、BA実施プロトコルの逸脱が明らかになった。・BAcPAc療法は、概して患者とPWPに受け入れられた。関連医療ニュース うつ病へのボルダリング介入、8週間プログラムの成果は 日本人治療抵抗性うつ病患者へのCBT併用試験とは:FLATT Project 軽度うつ病患者の大うつ病予防効果を検証するRCTは実施可能か

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中心静脈カテーテル挿入、鎖骨下静脈が低リスク/NEJM

 中心静脈カテーテル(CVC)の挿入3部位別のリスクについて検討した結果、鎖骨下静脈へのカテーテル挿入が、内頸静脈または大腿静脈と比べて、血流感染および症候性血栓症のリスクが低いことが明らかにされた。気胸のリスクは高かった。フランス・CHU de CaenのJean-Jacques Parienti氏らが多施設共同無作為化試験の結果、報告した。CVCでは鎖骨下静脈、内頸静脈、大腿静脈の3部位への挿入が一般的に行われているが、いずれも重大合併症の可能性が指摘されていた。NEJM誌2015年9月24日号掲載の報告。血流感染・症候性血栓症の複合リスクを比較 試験は2011年12月~14年6月に、フランス国内の大学関連病院4施設、一般総合病院5施設、代表的な10ヵ所のICU施設で行われた。ICUで非留置型CVC受けた成人患者を、鎖骨下群、内頸静脈群、大腿群に無作為に割り付けて検討した。挿入が3部位とも検討可能であった患者は3部位選択肢比較で1対1対1の3群に、同2部位が可能であった患者は2部位選択肢比較で1対1の2群に、無作為に割り付けた。1部位のみの患者は試験に包含しなかった。 主要アウトカムは、カテーテル関連の血流感染、症候性深部静脈血栓症の複合とした。1,000カテーテル日当たり1.5 vs.3.6 vs.4.6(p=0.02)、ただし気胸発生が多い 3,027例の患者に3,471本のカテーテル挿入が行われた。 3部位選択肢比較の主要アウトカム発生は、鎖骨下群8例、内頸静脈群20例、大腿群22例であった。1,000カテーテル日あたりの発生はそれぞれ、1.5件、3.6件、4.6件であった(p=0.02)。 2部位選択肢比較では、鎖骨下群 vs.大腿群では後者の主要アウトカム発生リスクが有意に高いことが示された(ハザード比[HR]:3.5、95%信頼区間[CI]:1.5~7.8、p=0.003)。また、鎖骨下群 vs.内頸静脈群でも後者の同発生リスクが有意に高かった(HR:2.1、95%CI:1.0~4.3、p=0.04)。一方で、大腿群と内頸静脈群のリスクは同等だった(HR:1.3、95%CI:0.8~2.1、p=0.30)。 なお3部位選択肢比較において、胸腔チューブ挿入を要した気胸が鎖骨下群で13件(1.5%)、内頸静脈群で4件(0.5%)発生した。

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取り下げ論文では矛盾点のみられる頻度が高い/BMJ

 英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのGraham D Cole氏らは、盲検化ケースコントロール試験により、取り下げ vs.非取り下げの臨床試験報告における矛盾点の出現頻度を調べた。その結果、取り下げ論文で、有意に多くの矛盾点が確認されたことを報告した。検討は取り下げの有無を知らされていない専門外のサイエンティストによって行われた。著者は「矛盾点は、信頼に値しない臨床試験報告を早期にかつすみやかに発見するシグナルといえそうだ」とまとめている。BMJ誌オンライン版2015年9月20日号掲載の報告。取り下げ論文と非取り下げ論文の矛盾点数を比較 研究グループは、PubMedで取り下げに分類された臨床試験報告50本を無作為に選択し、対となるようにそれぞれ同一のジャーナルから、先行の非取り下げ臨床試験報告を50本選び検討を行った。試験報告は、2012年12月以降のものを対象とした。 取り下げに関する情報をすべて削除した100本の論文の矛盾点を、取り下げ情報について伏せられた3人のサイエンティストが評価。矛盾点をプールし、クロスチェックを行い、あらかじめ規定したカテゴリでカウントした。その後、取り下げ情報を公開し分析した。 主要評価項目は、各論文の総矛盾点数(数学的、論理的な矛盾ステートメントで定義)とした。とくに多いのは、事実の食い違い、計算エラー、p値のミス 評価論文100本において、479件の矛盾点が発見された。348件は取り下げ論文で見つかり、非取り下げ論文では131件だった。 平均すると、取り下げ論文1本につき認められた矛盾点は、非取り下げ論文のそれよりも有意に多かった。中央値比較で4(四分位範囲:2~8.75) vs.0(0~5)であった(p<0.001)。 矛盾がみられたペーパーは、取り下げ論文のほうが有意に多いようであった(オッズ比:5.7、95%信頼区間[CI]:2.2~14.5、p<0.001)。とくに、非取り下げ論文と比べて取り下げ論文では次の3タイプの矛盾の発生頻度が有意に高かった。事実の食い違い(p=0.002)、計算エラー(p=0.01)、p値のミス(p=0.02)。 後ろ向き解析の結果、引用とジャーナルのインパクトファクターは、上記の結果には影響していないと思われた。 これらを踏まえて著者は、「発表試験報告における矛盾点は重要ではないと看過すべきではない。盲検化された専門外のサイエンティストでも、非取り下げ論文と比べて取り下げ論文で有意に多くの矛盾点を確認した。矛盾点は、信頼に値しない臨床試験報告を早期かつすみやかに発見するシグナルだといえる」とまとめている。

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AZ、2015年欧州がん学会においてオンコロジー研究の進展を発表

 アストラゼネカ(本社:英国ロンドン、最高経営責任者(CEO):パスカル・ソリオ[Pascal Soriot]、以下、アストラゼネカ)は、同社のグローバルバイオ医薬品研究開発部門であるメディミューンとともに、オーストリア、ウィーンで開催された2015年欧州がん学会(ECC)(2015年9月25~29日)において、AZD9291、durvalumab、olaparibのデータを含む19本の口頭およびポスター発表により、過去に発表された結果の確認・補完的解析ならびに新たなデータが提供されたと発表した。既治療NSCLC患者におけるAZD9291 既治療NSCLC患者を対象としたAURA第II相試験(AURA延長試験・AURA2試験)の解析データ(抄録 # 3113)により、過去の学会で報告されたAZD9291の結果が確認された。400超例の既治療EGFR T790M患者の統合データにより客観的奏効率 (ORR)は66%(95%信頼区間(CI): 61~71%)と示された。ORRは、人種、活性化変異タイプおよび脳転移の有無を問わずAZD9291治療を受けたすべてのサブグループにおいて概ね一貫していた。初期のPFS中央値は9.7ヵ月(95% CI: 8.3ヵ月~算出不能 [NC])、奏効期間(DoR)の中央値は算出不能であった(95% CI: 8.3ヵ月~NC)。 安全性プロファイルも過去のデータと合致していた。主な有害事象(AE)は下痢が42%(グレード3以上: 1%)および発疹が41%(グレード3以上: 1%)であった。高血糖、間質性肺疾患(ILD)およびQT延長の報告は過去に発表されたデータと合致していた。ILDおよび肺炎が3%(グレード3以上: 2%)、高血糖が1%(グレード3以上: 0%)、QT延長が4%(グレード3以上: 1%)であった。患者の4%が薬剤関連AEによりAZD9291を中止した(治験担当医による評価)。 AURA第II相試験の解析(抄録 # 3083)により、脳転移の有無を問わず、EGFR T790M変異陽性NSCLC患者におけるAZD9291の一貫した活性が示された。臨床症例によりAZD9291は脳における抗腫瘍活性を持つ可能性があることが示されている。BLOOM(NCT02228369)試験によりAZD9291が脳における抗腫瘍活性を有する可能性をさらに検討している。がん免疫治療プログラムの進展 メディミューンは、免疫治療が奏効する可能性が最も高い患者を同定するバイオマーカー研究の進展を明示。本研究は、腫瘍におけるPD-L1およびINF-γの発現増加と抗PD-L1抗体であるdurvalumabの効果に関連性があることを示している(抄録 # 15LBA)。この新研究はNSCLCに対するdurvalumab臨床開発プログラムの一環であり、本年のWCLCおよび他学会において検討されたPACIFIC(NCT02125461)、ATLANTIC(NCT02087423)、ARCTIC(NCT02352948)、MYSTIC (NCT02453282)およびNEPTUNE(NCT02542293)試験が含まれる。アストラゼネカ株式会社のプレスリリースはこちら

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なぜ心房細動ばかりが特別扱い?(解説:後藤 信哉 氏)-424

 脳卒中予防は重要である。Framingham研究は、地域住民の34年間という長期の観察により、脳卒中のリスク因子として、心房細動、心不全、冠動脈疾患、高血圧などの重要性を示した。近未来の脳卒中発症予測法は、近未来の心筋梗塞発症予測法よりも信頼性が高い。 実際、「非弁膜症心房細動」症例の、近未来の脳卒中リスク予測に用いるCHA2DS2-VASc scoreを構成する、心不全、高血圧、高齢、糖尿病、脳卒中の既往、血管病、性差のうち、心不全、血管病、高血圧が心房細動の有無にかかわらず脳卒中発症の独立した危険因子であることは、Framingham研究からも明らかにされていた。実際、脳卒中発症に関わる「心不全」の寄与は、「心房細動」の寄与に匹敵する。CHA2DS2-VASc scoreが心房細動を合併した症例の脳卒中予防のみでなく、一般的な脳卒中発症予測にも利用価値があるのではないかと考えるのは、きわめて自然である。Framingham研究が、脳卒中の発症における心房細動の重要性をすでに示しているので、予測因子に「心房細動」を含まないCHA2DS2-VASc scoreの脳卒中予測能力は、非心房細動例では心房細動例よりも不安定であろうという仮説も論理的である。 本研究は、およそ20%の心房細動例を含む4万2,987例の心不全症例を対象とした。抗凝固療法を受けている症例は除外されている。心不全発症後1年以内における虚血性脳卒中、全身塞栓症、死亡率と CHA2DS2-VASc scoreの関係が、心房細動例と非心房細動例において検証された。予想のとおりであるが、いずれのエンドポイントも心房細動の有無にかかわらず、CHA2DS2-VASc scoreの高い症例におけるイベント発症率が高かった。本研究は、新規発症の「心不全例」のうち、抗凝固療法を受けていない症例を対象としているが、CHA2DS2-VASc scoreは、脳卒中、全身塞栓症、死亡率の予測に、心房細動の有無にかかわらず役立つことを示して興味深い。 われわれは以前、日本において、心筋梗塞後、脳卒中後、心房細動の症例を登録して8,000例を超えるデータベースを構築した。CHADS 2 scoreは、1年間の観察期間内の心筋梗塞の発症予測には役立たなかったが、脳卒中、死亡率の予測には有用であることを示した1)。CHA2DS2-VASc scoreにしてもCHADS 2 scoreにしても、心房細動症例に限局せず、近未来の脳卒中、死亡率と関連していることは、臨床医は再認識すべきである。今回のJAMA誌の論文は、CHA2DS2-VASc scoreにかかわらず、脳卒中イベントよりも死亡率が近未来のイベントとしてインパクトが大きいことを示した。実際、過去のRE-LY試験、ENGAGE TIMI 48試験など、心房細動を対象としたNOAC開発試験においても、脳卒中発症率よりも近未来の死亡率が高かったことを再認識すべきである。新規開発された経口抗凝固薬が過剰宣伝されると「CHA2DS2-VASc scoreは心房細動症例以外の症例でも脳卒中予防に役立つ」、「CHA2DS2-VASc scoreは近未来の死亡予測に役立つ」など、いわゆるNOAC販売に繋がらない重要な臨床情報が十分に伝達されない。 ヒトの一生は「心房細動」の有無で大きな影響を受けるものではないことを再認識すべきである。

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「やめたい気持ち」を探してみよう

「やめたい気持ち」を探してみようあなたの「タバコをやめたい気持ち」は、10点満点でいうと何点くらいでしょうか?絶対に死ぬまで吸い続けたい : 0点……どんなことをしてでも今すぐにやめたい:10点「タバコをやめたい気持ち」が0点ではない方…それはなぜでしょうか?タバコをやめたい気持ちが0点ではない理由を担当医にお話しください。社会医療法人敬愛会 ちばなクリニックCopyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.清水 隆裕氏

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朝食を抜きがちで運動不足の一人暮らしの男子大学生は太る【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第52回

朝食を抜きがちで運動不足の一人暮らしの男子大学生は太る FREEIMAGESより使用 この後ろ向きコホート研究は、男子大学生が肥満にならないようにするためにはどうしたらいいか、ヒントを与えてくれます。 これは京都大学で2000~07年に行われた研究です。被験者は、健康診断を毎年受けている法学部3回生です。私は関西出身なので、大学生のことを「年生」ではなく「回生」と呼んでいました。京都大学もおそらく「回生」と呼んでいる学生が多いのでは? Goto M, et al. Lifestyle risk factors for overweight in Japanese male college students. Public Health Nutr. 2010 Oct;13(10):1575-80. 余談はさておき、この研究に登録されたのはBMIが22.0以上の4,634人の男性学生でした。平均年齢は21.5歳。「あっ! この研究にオレも入ってるかも!」と思った読者がいるかな、とふと思ったのですが、法学部出身の人はこの連載を読んでないですよね。1年間のフォローアップで、BMIが5%以上増加したのは598人(12.9%)の生徒でした。BMI増加の独立リスク因子とされたのは、運動不足(オッズ比[OR]1.33、95%信頼区間:1.11~1.60)、アルコール摂取量が少ないこと(OR 1.30、95%信頼区間:1.08~1.57)、朝食をよく抜くこと(OR 1.34、95%信頼区間:1.12~1.61)、高脂肪食を好むこと(OR 1.36、95%信頼区間:1.04~1.78)、一人暮らし(OR 1.23、95%信頼区間:0.99~1.52)でした。該当するリスク因子数に応じて層別化を行うと、健康的な生徒と比較した場合、リスク因子最多の生徒ではBMI増加のオッズ比が6.22(95%信頼区間:2.58~15.0)でした。アルコールを飲まないほうが太るというのが「ハテナ?」と思いましたが、アルコール摂取で肥満のリスクが上昇するというコンセンサスはないのですね。知りませんでした。むしろ、アルコール摂取をしない大学生は、他のカロリー摂取源として食事を多く取るという可能性があるとかないとか。他の研究だと、早食いする大学生は体重が増えやすいという報告もあります1)。私も大学の頃はかなり早食いでしたが、子どもができてからゆっくり食べるようになりました。ところで、京都の大学に通っていると、ラーメン屋に行く頻度が多いと思います(それが統計学的に有意かどうかは神のみぞ知る)。私は研修医時代を京都で過ごしたのですが、週1回くらいの頻度でラーメン屋に通っていました。「いいちょ」という店が大好きで、ラーメンとチャーハンを毎回セットで頼んでいました。そのせいもあってか、当時は現在より体重が5kgも多かったのです。ちなみに、昼食に頻繁にラーメンを食べると日本人はトランスアミナーゼが増えるという報告があります2)。参考文献1)Yamane M, et al. Obesity (Silver Spring). 2014;22:2262-2266.2) Iwata T, et al. Tohoku J Exp Med. 2013;231:257-263.インデックスページへ戻る

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思春期うつ病、パロキセチンとイミプラミンの試験を再解析/BMJ

 思春期大うつ病に対して、パロキセチンおよび高用量イミプラミンはいずれも有効性は示されず、有害性を増大することが明らかにされた。英国・バンガー大学のJoanna Le Noury氏らが、「SmithKline Beecham's Study 329」の再解析の結果、報告した。BMJ誌オンライン版2015年9月16日号掲載の報告。SmithKline Beecham's Study 329のプライマリデータを引き出し再解析 無作為化試験に関しては、試験データの大半にアクセスできず偏向報告の検出を困難なものとしている。また、ミスリードの結論が発表されても、プライマリデータへのアクセス不可が、それを確定的なものと思わせている。 研究グループは、思春期大うつ病に対するパロキセチンおよびイミプラミンの有効性、安全性をプラセボと比較した「SmithKline Beecham's Study 329」(2001年にKeller氏らにより発表)も、そうした試験の1つだとして、「RIAT(restoring invisible and abandoned trials)イニシアチブ」に基づく再解析を行った。無作為化試験の完全データセットへのアクセスが可能かを確認し、また再解析の結果が、根拠に基づく医療として臨床的意義があるのかを検証した。 GSK社に対してRIATレコメンデーションや交渉を行い、Webサイトで入手可能となったファイナル臨床報告などのデータを用いて再解析を行った。 被験者は、北米12ヵ所の大学附属の精神科センターで、1994年4月20日~98年2月15日に集められたオリジナル試験の青年275例であった。被験者は12~18歳で、少なくとも8週間の大うつ病を有していた。除外基準は、精神障害や内科的疾患の併存、および自殺傾向であった。 二重盲検無作為化プラセボ対照法により、被験者は、パロキセチン(20~40mg)、イミプラミン(200~300mg)またはプラセボの8週投与を受ける群に無作為に割り付けられ評価を受けた。 事前規定の主要有効性変数は、ベースラインから8週時点(急性期治療フェーズ終了時)までの、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)総スコア、治療反応者の割合(HAM-Dスコア8以下またはベースライン時HAM-Dスコアより50%低減)の変化であった。また事前規定の副次アウトカムは、ベースラインから終了時までの、K-SADS-Lのうつ評価項目、臨床全般印象度(CGI)、自律機能性チェックリスト、自己知覚尺度、SIP(sickness impact scale)の変化、および反応性予測因子、さらに維持フェーズ期間における再発患者数であった。また有害経験について、主として記述的統計を用いて比較を行った。コーディングについては事前規定されていなかった。プライマリデータおよびプロトコルによる分析の必要性を例示する結果に 結果、パロキセチンとイミプラミンの有効性は、あらゆる事前特定の主要アウトカムおよび副次有効性アウトカムについて、プラセボと比較して、統計学的または臨床的な有意差は示されなかった。 HAM-Dスコアは、パロキセチン群10.7ポイント低下(最小二乗法による平均値、95%信頼区間[CI]:9.1~12.3)、イミプラミン群9.0ポイント低下(7.4~10.5)に対して、プラセボ群9.1ポイント低下(7.5~10.7)であった(p=0.20)。 一方、臨床的に顕著な有害性の増大が、パロキセチン群では自殺念慮や自殺行動およびその他の重大有害事象についてみられ、イミプラミン群では心血管の問題についてみられた。 これら再解析の結果を踏まえて著者は、「パロキセチン、高用量イミプラミンの両者とも、思春期大うつ病への有効性は示されなかった。また両薬で有害性の増大が認められた」と結論している。そのうえで、「試験のプライマリデータへのアクセスは、発表済みの有効性および安全性に関する結論を盲目的に信ずるべきではないなど、臨床および研究のいずれにとっても重大な意義をもたらすものである。今回のStudy 329の再解析は、エビデンスベースの厳密さを増すためにプライマリ試験データやプロトコルを入手することの必要性を例示するものであった」と述べている。

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待機的THRより股関節骨折手術は死亡リスクが高い/JAMA

 待機的人工股関節全置換術(THR)患者と比べて股関節骨折手術患者は、年齢、性別および術前併存疾患を補正後の術後院内死亡リスクが有意に高いことが明らかにされた。カナダ・マックマスター大学のYannick Le Manach氏らによる、フランスの大規模コホートを対象とした検討の結果、明らかにされた。股関節骨折手術後患者は、待機的THR患者と比べて死亡や重大合併症のリスクが高いことは知られていたが、この術後リスクの増大が、高年齢や併存疾患の影響を受けているかは不明であった。今回の検討で、死亡の相対リスクは5.88倍であったという。著者は、「さらなる検討により、この差の原因を明らかにする必要がある」と述べている。JAMA誌2015年9月15日号掲載の報告。フランス国内69万995例について評価 研究グループは、年齢、性別および周術期合併症補正後、股関節骨折手術群と待機的THR群で院内死亡率に差があるかどうかを調べる検討を行った。 2010年1月~13年12月のFrench National Hospital Discharge Databaseから、フランスの病院に入院した45歳以上の股関節手術患者を包含。ICD-10コードで、術後の患者の併存疾患や合併症を調べた。年齢、性別、術前併存疾患で適合した患者を、待機的THR群または股関節骨折手術群に、多変量ロジスティックモデルと貪欲適合アルゴリズム法を用いて1対1に無作為に割り付け評価した。 主要評価項目は、術後院内死亡率であった。 フランス国内864センターから総計69万995例の適格患者が包含された。待機的THR群(37万1,191例)のほうが、年齢が若く、男性が多く、併存疾患が少なかった。死亡リスク5.88倍、重大術後合併症リスク2.50倍 結果、股関節骨折手術群(31万9,804例)は、術後1万931例(3.42%)が退院前に死亡。一方、待機的THR群の死亡は669例(0.18%)であった。 適合集団(23万4,314例)の多変量解析の結果、股関節骨折手術群のほうが、死亡リスクが高い[1.82% vs.0.31%、絶対リスク増:1.51%(95%信頼区間[CI]:1.46~1.55%)、相対リスク[RR]:5.88(95%CI:5.26~6.58)、p<0.001]、重大術後合併リスクが高い[5.88% vs.2.34%、絶対リスク増:3.54%(95%CI:3.50~3.59%)、RR:2.50(95%CI:2.40~2.62)、p<0.001]ことが示された。

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COPDの新薬スピオルト レスピマット、製造販売承認取得

 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:青野吉晃、以下「日本ベーリンガーインゲルハイム」)は、2015年9月28日、1日1回吸入のCOPD治療配合剤スピオルト レスピマット28吸入、同60吸入(一般名:チオトロピウム臭化物水和物/オロダテロール塩酸塩製剤)(以下、スピオルト)が、慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎、肺気腫)の気道閉塞性障害に基づく諸症状の緩解(長時間作用性吸入抗コリン剤及び長時間作用性吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)を適応として、日本で製造販売承認を取得したことを発表した。 スピオルト主要な検証試験において、スピリーバと比べて呼吸機能、息切れ、QOL、レスキュー薬の使用に有意に改善することが示された。 スピオルトは、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)チオトロピウムと、長時間作用性β2刺激薬(LABA)オロダテロールの配合剤。吸入用器具レスピマットを用いて吸入する。日本ベーリンガーインゲルハイム、プレスリリースはこちら

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糖尿病黄斑浮腫と脂質異常症との関連、その真偽は?

 糖尿病黄斑浮腫(DME)は糖尿病患者の視力障害を引き起こすが、その発症・進展のリスク因子として、脂質異常症が知られている。アイルランド・クィーンズ大学のRadha Das氏らは、DMEと脂質異常症との関連を調べる目的でシステマティックレビューを行った。その結果、症例対照研究のメタ解析では血清脂質とDMEの強い関連を示唆するエビデンスが得られたものの、前向き無作為化比較試験のみのメタ解析ではその関連が確認されなかったことを明らかにした。著者は、「血清脂質とDMEとの関連は重要な問題であり、今後さらなる研究を要する」とまとめている。Ophthalmology誌2015年9月号(オンライン版2015年7月3日号)の掲載報告。 研究グループは、血清脂質とDMEとの関連を調べた無作為化比較試験、コホート研究、症例対照研究および横断研究について、2014年9月までに発表された論文をMEDLINE、PubMedおよびEmbaseにて検索した。 症例対照研究、横断研究およびコホート研究については、研究の質をNewcastle-Ottawaスケールで評価した。また、無作為化比較試験に関してはCochraneバイアスリスクツールで評価した。 主な結果は以下のとおり。・レビューには、21件(横断研究5件、コホート研究5件、症例対照研究7件および無作為化比較試験4件)が組み込まれた。・症例対照研究のメタ解析では、非DME患者と比較しDME患者で血清総コレステロール(TC)、LDLおよび血清トリグリセライド(TG)の平均値が有意に高かった(TC:30.08、95%信頼区間[CI]:21.14~39.02、p<0.001/ LDL:18.62、95%CI:5.80~31.43、p<0.05/ TG:24.82、95%CI:9.21~40.42、p<0.05)。・無作為化試験のメタ解析では、プラセボ群と脂質低下群とで硬性白斑の増悪およびDME重症度のリスクに有意差はみられなかった(硬性白斑の相対リスク1.00、95%CI:0.47~2.11、p=1.00/ DMEの相対リスク1.18、95%CI:0.75~1.86、p=0.48)。

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EMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)-421

 心血管イベントを主要アウトカムとするEMPA-REG OUTCOMEの試験結果が、2015年9月17日の欧州糖尿病学会(EASD2015、スウェーデン・ストックホルム)で発表され、New England Journal of Medicine誌のオンライン版に同時掲載された。日本国内で使用できる6種類のSGLT2阻害薬の中で、最も遅れて市場に登場したエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)の驚くべきデータであり、大きな話題を呼んでいる。 EMPA-REG OUTCOME試験 心血管イベントの既往がある成人の2型糖尿病患者で、BMI 45以下、eGFR 30mL/分/1.73m2以上の患者を対象として、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンが心血管イベントに及ぼす影響を検討した試験である。北米、中南米、オーストラリア、ニュージーランド、ヨーロッパ、アフリカ、アジアの世界各地からの患者を登録し、プラセボ群、エンパグリフロジン10mg群、25mg群の3群にランダムに割り付けて実施された。主要アウトカム(primary outcome)として3つの複合心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の初発までの期間)、重要2次アウトカム(key secondary outcome)には、主要アウトカムに不安定狭心症による入院までの期間を加えた4つの複合心血管イベントを総合したのものを設定して実施された。3年間の観察期間で心血管死、全死亡が有意に減少 2010年から2013年までに7,028例が登録され、7,020例(平均63.1歳、男性72%、白人72%、アジア人22%、レニン・アンジオテンシン系阻害薬使用者81%、利尿薬使用者43%、スタチン使用者77%)が解析の対象となっている(プラセボ群2,333例、エンパグリフロジン群4,687例であり、10mg投与患者と25mg投与患者のデータが合算されている)。 中央値3.1年の観察期間における主要アウトカムはプラセボ群282例(12.1%)、エンパグリフロジン群490例(10.5%)であり、エンパグリフロジン群で有意な減少が確認された[ハザード比(HR)0.86、95%信頼区間:0.74~0.99、p=0.04]。また、重要2次アウトカムについては、プラセボ群333例(14.3%)、エンパグリフロジン群599例(12.8%)と有意差はないもの(HR:0.89、95%信頼区間:0.78~1.01、p=0.08)減少傾向にあることが確認された。わずか3年間の観察期間において、糖尿病治療薬の使用によって心血管死、全死亡が減少したことは驚くべきことであり、にわかには信じがたい(“too good to be true”)試験結果といえる。死亡率は減少しても個別のアウトカムとして、心筋梗塞は減少しない 個別のアウトカムについては、心血管死(HR:0.62、95%信頼区間:0.49~0.77、 p<0.001)、全死亡(HR:0.68、95%信頼区間:0.57~0.82、p<0.001)、心不全による入院(HR:0.65、95%信頼区間:0.50~0.85、p=0.002)について有意差が認められている。しかし、脳卒中については、非致死性脳卒中のみならず、致死性の脳卒中を含めた場合でも、ハザード比は1.24(95%信頼区間:0.92~1.67、 p=0.16)、1.18(95%信頼区間:0.89~1.56、 p=0.26)であり、統計学的には有意ではないものの増加する可能性を否定しえない。さらには、症候性の心筋梗塞(非致死性、致死性)、無症候性の心筋梗塞についてもHRはそれぞれ、0.87(95%信頼区間:0.70~1.09、p=0.22)、1.28(95%信頼区間:0.70~2.33、p=0.42)であり、心筋梗塞の減少が死亡率の減少に結び付くわけではない。サブグループ解析では高齢者、アジア人で有用性が高い傾向 主要アウトカムについてのサブグループ解析では、高齢者(65歳以上、p=0.01)、アジア人(p=0.09)、HbA1c 8.5%未満(p=0.01)、BMI 30未満(p=0.06)の群での有益性が高いと考えられた。併用薬剤に関しては、利尿薬の有無で主要アウトカムに差はなく(p=0.72)、ACE-IやARBの併用に関しても差はなかった(p=0.49)。eGFRについても60mL/分/1.73m2未満、60~90 mL/分/1.73m2未満、90mL/分/1.73m2以上の3群間で差異は認めなかった(p=0.20)。 EMPA-REG OUTCOMEの結果はなぜもたらされたのか… 心血管イベントの既往がある2型糖尿病に、3年間SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンを投与すると、死亡率が32%減少する(NNT:38/3年間)。心血管死も心不全による入院も有意に減少する。しかし、症候性の心筋梗塞は減少せず、無症候性の心筋梗塞や脳卒中は増加するかもしれない…。 EMPA-REG OUTCOMEの試験期間中、薬剤投与群ではHbA1cで約0.4~0.6%の低下が認められた。しかし、死亡の減少がわずかな血糖コントロールの改善とは考えられず、むしろ、SGLT2阻害薬による「体液量の減少」による「心不全の管理」が奏効した症例が一定の割合であったためなのではないかと思われる。 SGLT2阻害薬は近位尿細管に存在するSGLT2を選択的に阻害することで、尿糖の排泄量を増加させ、血糖値を降下させる薬剤である。浸透圧利尿により短期的にはレニン・アンギオテンシン・アルドステロン(RAS)系が活性化される。しかし、SGLT2はグルコースとNaを1:1で再吸収するため、SGLT2の阻害はNaの再吸収を低下させ、遠位尿細管に到達するNaClを増加させる。レニンはmacula densaに達するClが減少することでその分泌が刺激されるため、Clの増加はレニンの分泌を刺激しない可能性が想定される。腎臓におけるレニン活性には、浸透圧利尿による脱水とmacula densaにおけるCl濃度の双方が影響するため、SGLT2阻害薬がRAS系に及ぼす影響は短期投与と長期投与では異なり、個体差もあるのかもしれない。さらにSGLT2阻害薬は tubuloglomerular feedback(TGF)を回復させ、糸球体過剰濾過を改善させるとの報告もある。 Na代謝を介して循環血液量と血管抵抗性を調節することで血圧を規定しているRAS系、さらには、腎臓へ対しての複雑なSGLT2阻害薬の作用を明らかにすることが、EMPA-REG OUTCOME試験の結果を理解するための重要なポイントになるのかもしれない。【お知らせ】本コメントの公開当初、コメントの一部に「有意ではないが脳卒中と無症候性心筋梗塞は増加傾向」との表現がありました。「増加傾向」という表現を、“増加”と誤解された読者もおられましたので、より正確性を期すために、その部分について表現の変更をJ-CLEARからコメンテーターにお願いいたしました。(10月19日)臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)理事長 桑島 巌関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験:リンゴのもたらした福音(解説:住谷 哲 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)

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