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心臓発作から回復後にしてはいけないこと

 心臓発作から回復した後に、座位行動の時間が長いほど発作再発や死亡リスクが高く、座位行動を運動または睡眠に置き換えることでそのリスクが抑制される可能性のあることが明らかになった。米コロンビア大学医療センターのKeith Diaz氏らの研究によるもので、詳細は「Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes」に5月19日掲載された。 この研究は、2016~2020年に急性冠症候群(心筋梗塞や不安定狭心症)の症状のために同センター救急外来で治療を受けた成人患者を対象に実施された。退院後30日間にわたり、手首装着型の加速度計を用いて、座位行動や身体活動、および睡眠の時間を測定。また退院1年後に、電話調査や医療記録、死亡記録によって転帰が確認された。解析対象者数は609人(平均年齢62歳〔範囲21~96〕、男性52%)で、1日の座位時間は平均13.6±1.8時間だった。 1年間の追跡で8.2%の患者に何らかのイベント(急性冠症候群の再発または新たな心血管疾患の発症および死亡)の発生が確認された。対象者全体を座位行動時間の三分位に基づき3群に分け、第1三分位群(座位行動時間が短い下位3分の1)を基準にイベント発生リスクを比較すると、第3三分位群(座位行動時間が長い上位3分の1)の人は約2.6倍リスクが高かった。詳しくは、第2三分位群がハザード比(HR)0.95(95%信頼区間0.37~2.40)、第3三分位群がHR2.58(同1.11~6.03)であって、座位行動時間が長いほどハイリスクとなる傾向が示された(傾向性P値=0.011)。 統計学的手法を駆使した検討により、30分間の座位行動をやめて中~高強度の身体活動をしたとすると、イベントリスクが61%低下することが分かった(HR0.39〔0.16~0.96〕)。また、軽度の身体活動に置き換えた場合にも、リスクが51%低下(HR0.49〔0.32~0.75〕)すると計算された。さらに、睡眠に置き換えた場合にも、14%のリスク低下(HR0.86〔0.78~0.95〕)が予測された。 Diaz氏はこの研究の背景として、「現在の治療ガイドラインは、心臓発作後の患者に対して、運動を奨励することに重点を置いている。それに対してわれわれは、座位時間の長さそのものが、心血管リスクを押し上げる可能性があるのではないかと考えた」と語っている。そして得られた結果を基に、「心臓発作を経験した後になにもマラソンを始めることはなく、座る時間を減らし体を動かしたり睡眠を少し増やしたりするだけで大きな違いが生まれるようだ」と総括。「この結果を基に、医療専門家が、より柔軟で個別化されたアプローチを採用するように変化していくのではないか」と付け加えている。 同氏はまた、座位行動を睡眠に置き換えることでもリスクが低下する可能性が示されたことについて、「この結果には驚いた。睡眠は心身の回復に欠かせず、心臓発作のような深刻な健康問題の後には特に重要となるのではないか」と推察している。

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多くの高齢者が白内障手術に恐怖心を抱いている

 白内障の手術は最も安全性の高い手術の一つであり、成功率は95%に達する。それにもかかわらず、多くの高齢者は失明を恐れて手術を受けていないことが、米シンシナティ大学医学部のLisa Kelly氏らによる研究で明らかにされた。この研究の詳細は、「The Journal of Clinical Ophthalmology」に3月28日掲載された。 白内障は、目のレンズの役割を担う水晶体が白く濁り、視界がぼやけたり暗くなったりする病態を指す。原因は、主に加齢に伴い水晶体を構成するタンパク質が酸化して白く濁ることにある。米クリーブランド・クリニックによると、90代の約半数では、どこかの時点で濁った水晶体を透明な人工水晶体に置換する手術を受ける必要があるという。手術に要する時間は非常に短い上に、痛みはほとんどない。米国では毎年300万件以上の白内障手術が行われている。 今回の研究でKelly氏らは、シンシナティ大学医療センターのHoxworth眼科クリニックで募集した50歳以上の白内障患者42人(平均年齢66.2歳、男性17人)を対象に、白内障手術および失明に対する恐怖心と健康リテラシーとの関係を評価した。全ての対象者が、白内障の病理や治療に関する理解や態度を評価する質問票に回答した。また、Rapid Estimate of Adult Literacy in Medicine-Short Form(REALM-SF〔成人の医療リテラシー簡易評価法〕)による健康リテラシーの評価も受けた。 その結果、REALM-SFのスコアと白内障手術に対する恐怖心は関連しておらず、健康リテラシーが白内障手術に対する恐怖心に影響しないことが示唆された。実際、約36%の患者が白内障手術に対する恐怖心を報告し、そのうちの53%は「失明に対する不安」を恐怖心の理由として挙げていた。解析からは、白内障手術に対する恐怖心と「手術により視力が改善する可能性がある」との考えの間に、統計学的に有意な関連が見られ、手術効果に対する患者の考えが手術に対する恐怖心に影響することが示唆された。一方、失明に対する恐怖心と「手術によって視力が改善する可能性がある」との考えとの間に有意な関連は見られなかった。研究グループは、「つまり、失明に対する恐怖心は知識不足に基づくものではなく、より本能的な何かに基づくということだ」との考えを示している。 論文の筆頭著者であるシンシナティ大学医学部のSamantha Hu氏は、「患者に大量の情報を提供しても、必ずしも不安が軽減されるわけではない」と同大学のニュースリリースの中で話す。Kelly氏は、「この研究結果はむしろ、オープンなコミュニケーションによる医師と患者の良好な関係の重要性を指摘している。患者教育は確かに重要だが、それだけでは不十分なこともある。患者が恐怖心を克服できるよう、人間関係と信頼関係を築くことも同様に重要だ。これは医師にとって重要な教訓だ」と述べている。 さらにKelly氏は、「この研究は、患者が恐怖心を抱えていることを改めて認識させてくれる。われわれの役割は、健康管理のパートナーとして患者と協力しながら医療に取り組むことだ」と述べている。

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MASH代償性肝硬変に対するefruxiferminの有用性(解説:相澤良夫氏)

 臨床肝臓病学の関心は、HCVを含む慢性ウイルス肝炎からMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)の治療に移りつつある。慢性C型肝炎/肝硬変は、抗ウイルス薬の進歩により激減しHCVの根絶も視野に入っているが、わが国に相当数存在するMASHに対し直接的に作用する治療薬は、今のところ保険収載されていない。しかし、中等度以上の線維化を伴うMASHは進行性の病態であり、MASH治療薬の登場が待ち望まれている。 このアンメットニーズに対して、米国FDAは肝硬変以外の中等度から高度の肝線維化を伴うMASH に対し、食事療法や運動療法と共に使用する肝臓指向性THR-βアゴニストのresmetirom(1日1回経口投与)を承認し、MASHの成因に根差した新たな治療戦略が確立されつつある。 efruxiferminを含むFGF(線維芽細胞増殖因子)21アナログはホルモン様の作用があり、さまざまな臓器に作用して糖・脂質代謝を改善する薬剤で、resmetiromと同様にMASHに対する治療効果が期待されている。今回のMASH代償性肝硬変を対象とした36週間の臨床試験(週1回の皮下注射)では線維化改善効果は認めなかったが、より長期(96週間)に治療された症例では有害事象の増加なしに疾患活動性が制御され、線維化が改善する可能性が強く示された。今後は、エンドポイントを96週あるいはさらに長期に設定した治療研究が期待される。 C型代償性肝硬変では、HCVが排除されてから長期間(5年程度)経過すれば肝硬変の線維化が改善することが示されている。今回の試験では、同様の事象がMASH肝硬変でも生じる可能性が示され、従来は非可逆的な病変とされていた肝硬変も可逆的な病変で、病因が長期にわたって制御されれば改善しうる可逆性の病変であるという、パラダイムシフトが起こりつつあることが実感された。 なお、この研究には燃え残り(肝臓の線維化が進んで脂肪沈着が減少、消失した状態)のMASH肝硬変も20%未満含まれ、治療効果は典型的なMASHと差がなかった。この結果は、多様な薬理作用を有するefruxiferminの汎用性を示唆するものと考えられ、efruxiferminを含むFGF21アナログ製剤やTHR-βアゴニストがわが国の臨床現場でも早急に使用できるようになることが期待される。

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猛暑と受験【Dr. 中島の 新・徒然草】(585)

五百八十五の段 猛暑と受験梅雨が始まったと思ったら、なぜか真夏みたいな暑さ!ついに今年初めて自宅のクーラーをつけました。ちょっとした罪悪感はあるものの、やはり涼しいと原稿執筆も捗ります。さて、外来をやっていると患者さんからいろいろな相談を受けます。恋愛関係の悩みはまだいいほうです。この前は豊胸手術を受けたほうがいいのか、真剣に尋ねられました。そんなことを私に聞かれても困ります。とりあえずそのままでいいんじゃないか、と適当に答えたら「何てこと言うんですか!」と怒られてしまいました。かくいう私も、以前は患者さんの悩みに対して真面目にアドバイスしていたのです。が、徐々に答え方が変わってきました。というのも、何か相談する人は、すでに心の中に答えを持っているからです。だから会話の流れの中で相手の求めている答えを探り出し、それとなく賛成しておけば安心してもらえるわけですね。先日あった相談は子供の受験に関すること。相談してきたのは30代の女性患者さんです。患者「子供に国立の附属小学校を受けさせようと思うんですけど」中島「教育大附属ですか。確か3校舎あったと思うけど、どこが近いんですかね」患者「附属天王寺です」中島「ぜひとも受けましょう!」確か、大阪教育大学附属小・中・高にはそれぞれ池田、天王寺、平野の3校舎があったと思います。いずれ劣らぬ進学校で、読者の中にも卒業生が沢山いるはず。患者「幼稚園のママ友に言ったら『地元の小学校で十分よ』と、誰も賛成してくれないんですよ」中島「へえ、そうなんですか」患者「主人も私も学歴は無いんですけど、子供にしてやれることはやっぱり教育だと思うんです」中島「そりゃそうでしょう」患者「附属を受けるって……無謀なことないですよね」中島「ないない。挑戦あるのみ!」ここは、大阪在住のメリットを最大限に生かすべし。中島「国公私立すべてで進学校が沢山あるのは、大阪の強みですよ」患者「確かにそうかも」中島「しかも小中高のどの段階でも、進学校に潜り込むチャンスがあるわけですから」ママ友なんかに染まったら駄目でしょ。患者「中島先生に相談して良かったです」ようやく賛同者が現れたせいか、このお母さんは少し涙ぐんでいました。中島「結果がどうあれ、一生懸命に取り組んだという経験は必ず子供の財産になりますよ」患者「そうですね。頑張ります!」どうやら患者さんの心の中にあった答え以上に、熱く語ってしまったみたいです。確かに恋愛相談や豊胸手術に比べれば、今回ははるかに感情移入できました。同僚の医師の間でも、子供の受験は常に話題の中心です。それだけ親子含めて皆の共通体験だということですね。この患者さんに対しても、プレッシャーにならない程度に励まし続けたいと思います。最後に1句猛暑来て 受験勉強 本格化

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医師の世界でのディフェンスから、博士号の要否について考える【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第85回

サッカー日本代表とディフェンス悔しいです。サッカー日本代表は、2025年6月5日にオーストラリアのパースで行われた2026年ワールドカップ(W杯)アジア最終予選第9節でオーストラリア代表と対戦し、0-1で敗れました。予選通算成績は6勝1敗2分と、日本は今回の初黒星にもかかわらず予選突破を決めているのですが、無敗でのW杯を願っていた自分としては残念でなりません。試合は序盤から圧倒的に日本がボールを支配したものの、オーストラリアのベタ引きしたディフェンスを崩すことができませんでした。試合時間の終了間際の90分に、パスミスで与えたスローインから左サイドの突破を許し豪快なシュートを叩きこまれ決勝点を奪われたのです。ディフェンスを固め、一瞬の隙のオフェンスに賭けた戦略にやられました。この試合の地上波での中継はなく、インターネットでの後日情報から記したものです。「日本A代表サッカーの試合は全部地上波テレビでやれ!」と叫びたい気持ちを押さえて。今日は、「ディフェンス」「オフェンス」について医師の立場から考察します。論文審査会はディフェンス医師にとって博士号の取得は、医師免許試験に合格した後に続く重要なステップです。博士号取得のためには、自らの研究をまとめた論文について、論文審査委員の前でプレゼンし、審議を通過する必要があります。この学位論文のことを「Thesis」と呼称し、論文審査委員会は「Thesis Committee」となります。「Thesis」は「シーシス」と発音します。発音を間違える人が多いため、あえてカタカナ書きしました。この論文審査の場は、一般の人も含めて公開されることが多く、公聴会として開催日時を広くアナウンスする大学もあります。この博士号取得のための論文審査会のことを、特に「ディフェンス(defense)」と呼びます。公聴会の様子を紹介しましょう。博士候補学生の簡単な自己紹介から始まり、研究の背景や目的、研究方法、結果などを順番にプレゼンします。30分から1時間程の制限時間が設定されるのが普通です。候補者からのプレゼンが終わると質疑応答です。審査委員は研究に関して厳しい質問や意見を投げかけてきます。学生はそれに対して適切な回答を行わなければなりません。その内容は、プレゼンした研究についてだけでなく、背景となる領域全体について広範に問われます。オフェンス側である論文審査会のメンバーの攻撃から、候補者がディフェンス側として自らの研究を弁護・防護する戦いの場なのです。研究の完成度だけでなく、それに対する批判的思考、理解の深さ、学術的議論の力も評価対象です。単なる発表ではなく、批判的な問いに対する応答能力が求められる場であるため、「ディフェンス」という言葉が使用されるのです。公聴会を終えた後に、「果たして自分の博士論文は大丈夫なのだろうか…」と不安になる人もいるようです。しかし、現実ここまで進んで失敗する人は非常に少ないです。公聴会当日の厳しい質疑応答は、博士を称する研究者として、ディフェンスできるかどうか試されているという通過儀礼のような側面もあります。公聴会までに事前審査や予備審査等の厳しい指導を経てきたはずだからです。博士号のメリットとデメリット医師のキャリアとして博士号の取得に疑問を感じる若手医師も増えています。臨床医として専門医を取得することには熱心です。臨床キャリアに加えて、「研究活動を行い、論文執筆をして博士号をとる意味があるのかどうか」という問いは、多くの若手医師が抱える迷いです。博士号取得のメリットとして一番に考えられるのは、アカデミアでのキャリア構築に不可欠であることです。大学病院や医学部で将来的に教員・教授職を目指すのであれば、博士号は必須です。昇任要件になることが多く、ポスト確保や昇進に有利になります。次に考えられるのは、研究的視点が身につくことです。研究活動を通じて「問いを立てる力」「エビデンスを批判的に読む力」「論理的に考える力」が養われます。これは臨床にも直結する有用なスキルです。製薬企業との共同研究などで、博士号を有していると信頼性・交渉力が高まります。下世話な小さなメリットとして、「博士」と名乗り、名刺に「Ph.D」と書くことができます。逆説的ですが、博士号を持っていない人には、「Ph.D」が眩しく感じるそうです。次にデメリットを考えてみましょう。時間的・金銭的なコストを要します。2025年度のデータとして、国立大学医学部の大学院であっても、入学金と4年間の授業料を合算すると250万円強の金額になります。研究に集中する期間中は、手技・臨床現場から離れることになるため、臨床スキルが一時的に鈍る可能性があります。博士号があっても、すぐにキャリアアップが約束される訳ではなく、研究業績、時々のポジションの空き枠などがなければ思うようにアカデミアでの道が開けないこともあります。本音を述べます私の意見としては、医師としての価値を高め、アカデミアで教員や研究リーダーとして活躍していただくためにも是非とも博士号を目指してもらいたいです。一方で、教授に言われたから渋々というパターンが一番辛いと思います。学位はなくても医師として働くことはできます。自発的に取りたいと思う方以外は、学位をとる必要はないと考えます。返事にもならない返事で申し訳ないのですが、現役の医学部の臨床系教授としての本音を述べたつもりです。それでもなお、「それでも博士号って取った方がいいですか?」と聞いてくる方がいます。そんなとき私は、こう答えるようにしています。「博士号を取るってことは、あなたの人生における最大のディフェンスです。親戚の集まりで『最近どう?』と聞かれても、『博士になりました』で、全部守れますから」社会人になっても、オフェンスは容赦なく飛んできます。だからこそ、研究という名のディフェンスで守備ラインを整えることも一策です。

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クロストリジウム属による壊死性筋膜炎【1分間で学べる感染症】第28回

画像を拡大するTake home messageクロストリジウム属(とくにClostridium perfringens)による壊死性筋膜炎は、数時間で進行する非常に重篤な感染症である。迅速な外科的デブリードマンの介入が重要。壊死性筋膜炎は、感染症疾患の中でもとくに致死率の高い疾患として有名です。迅速な診断と適切な治療介入が必要であることは言うまでもありません。多くの起因菌が壊死性筋膜炎を来しますが、その中でもクロストリジウム属は重要な起因菌の1つです。今回は、このクロストリジウム属による壊死性筋膜炎について解説します。微生物クロストリジウム属は、嫌気性で芽胞を形成するグラム陽性の桿菌です。毒素を産生することにより、急速に壊死性病変を引き起こします。主要な菌種Clostridium perfringensはクロストリジウム属の中で最も頻繁に壊死性筋膜炎の原因となり、壊死性筋膜炎全体の約80%を占めます。Clostridium septicumは外傷の既往がないケースでも発症し、消化管悪性腫瘍との関連が強く指摘されています。Clostridium sordelliiやClostridium tertium(被外傷性壊死性筋膜炎の報告)も起因菌となることが報告されており、とくにC. sordelliiは産後や手術後に発症する劇症型の感染症として知られています。診断の進め方診断の手掛かりとしては、まず画像検査で皮下ガスの存在を確認することが重要です。単純X線やCTでガスの存在を把握できることが多く、感染の深達度を評価するうえでも有用です。また、グラム染色では太く短いグラム陽性桿菌が確認できる場合があり、外科的所見としては悪臭を伴う壊死組織やガスの存在が認められることが特徴です。さらに、術中に採取した病理組織で筋膜における炎症所見の有無を確認し、確定診断に至ります。治療の基本方針抗菌薬としてはペニシリンGに加えて、毒素産生を抑制する目的でクリンダマイシンを併用します。また、重要な点として、抗菌薬治療に加えて早期の外科的デブリードマンが予後を大きく左右します。壊死性筋膜炎を疑った際には速やかに外科や救急外科に連絡を取り、外科的介入を検討しましょう。1)Stevens DL, et al. N Engl J Med. 2017;377:2253-2265.2)Aldape MJ, et al. Clin Infect Dis. 2006;43:1436-1446.3)Sanford Guide: Necrotizing Fasciitis, Clostridia sp.

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第16回 認知症介護者は将来の認知症リスクが高い? 米国の研究が示す、介護者の見過ごされがちな健康問題

急速な高齢化が進む日本で、認知症は多くの人にとって身近な課題でしょう。家族が認知症と診断され、介護に奮闘している方も少なくないと思います。そんな中、その献身的な介護が、実は介護者自身の将来の健康、とくに「脳の老化」のリスクを高めている可能性があるとしたら…。米国から出された報告は、まさにこの事実を指摘し、警鐘を鳴らしています1)。介護者が抱える、見過ごされがちな認知症リスク要因米国・アルツハイマー協会のPublic Health Center of Excellence on Dementia Risk Reductionおよびミネソタ大学のPublic Health Center of Excellence on Dementia Caregivingという機関が、2025年6月12日に発表した報告書によれば、認知症患者を介護する人の5人中3人近く(59%)が、自分自身の認知症発症の可能性を高めるリスク要因を少なくとも1つ抱えていることが明らかになりました。さらに、4人に1人(24%)は2つ以上のリスク要因を抱えている、ともされています。この報告書は、2021~22年に米国の47州で収集されたデータを分析したものです。その結果、認知症患者の介護者は一般の人と比べて、脳の老化に関連する5つのリスク要因を持つ割合が高いことがわかりました 。具体的な数値は以下の通り。喫煙(30%高い)高血圧(27%高い)睡眠不足(21%高い)糖尿病(12%高い)肥満(8%高い)一方、唯一「身体活動を欠く」という点については、介護者の方が一般の人より9%低いという結果でした。これは、介護そのものに伴う身体的な負担や活動が影響している可能性が高いと見られています。こうした結果は、認知症患者の介護者が家族や友人のケアに追われるあまり、自分自身の健康を見過ごしがちになってしまう傾向を表しているのかもしれません。とくに深刻な「若い世代の介護者」の健康リスクこの報告書がとくに強い懸念を示しているのが、若い世代の介護者です。若い介護者は、同世代の他の人と比べて、複数の認知症リスク要因を持つ可能性が40%も高いことがわかりました。さらに詳細に各要因を見ると、その差は驚くべきものでした。若い介護者は同世代の非介護者と比較して、喫煙する可能性が86%高い高血圧である可能性が46%高い一晩の睡眠時間が6時間未満であると報告する可能性が29%高いという結果でした。これは、仕事や子育てといったやるべきことに加えての介護負担が、心身にきわめて深刻な影響を及ぼしていることを示唆しています。介護者を社会全体で支えるために今回ご紹介した報告書は、単にリスクを指摘するだけでなく、今後の対策の方向性も示唆しています。介護者の中でどの認知症のリスク要因が多いかを知ることで、資源や介入策の優先順位付けをし、調整することができるからです。また、今回の報告書は、介護者の負担が精神的なストレスにとどまらず、身体的リスク、ひいては介護者自身の将来の認知症リスクにまでつながることを示唆した点で重要です。これはもはや、個人や家庭内の問題ではなく、社会全体で取り組むべき公衆衛生上の課題といえるでしょう。介護は誰にとっても他人事ではありません。介護者が孤立せず、自分自身の健康にも目を向けることができるよう、周囲の理解とサポート、そして行政による的を絞った支援策の充実が急がれます。今回のニュースは、介護者への負担がさまざまな形で自身の健康リスクにまでつながっていることを改めて私たちに教えてくれています。参考文献・参考サイト1)Public Health Center of Excellence on Dementia Risk Reduction. Risk Factors for Cognitive Decline Among Dementia Caregivers 2021-2022 Data from 47 U.S. States. 2025 Jun 12.

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中年期の体重減少の維持は将来の慢性疾患の予防となる

 中年期の体重増減とその後の糖尿病をはじめとする慢性疾患の発症、死亡について、どの程度の関連があるのだろうか。この課題について長期的な観点からの研究報告は少なかった。このテーマについて、フィンランド・ヘルシンキ大学のTimo E Strandberg氏らの研究グループは、約2万3,000人を対象に中年期の体重減少の維持が、その後の健康障害に与える影響について複数のコホート研究から解析した。その結果、中年期の持続的な体重減少は、薬剤などの介入がなくとも長期的に2型糖尿病以外の慢性疾患のリスクの低下や心疾患などの死亡率の低下に寄与することがわかった。この報告は、JAMA Network Open誌2025年5月1日号に掲載された。体重減少を維持できれば心血管疾患やがん、喘息の予防につながる可能性 研究グループは、中年期(40~50歳)の健康な時期におけるBMIの変化と、後年の疾患発症率および死亡率との長期的な関連性を検討することを目的に、英国のホワイトホールII研究(WHII:1985~1988年)、フィンランドのヘルシンキ・ビジネスマン研究(HBS:1964~1973年)、フィンランド公共部門研究(FPS:2000年)の3つのコホート研究のデータ解析を行った。 この3つの研究で参加者の最初の2回の体重測定結果に基づき、中年期のBMIの変化について「BMIが25未満を持続」「BMIが25以上から25未満へ変化」「BMIが25未満から25以上へ変化」「BMIが25以上の持続」の4つのグループに分類した。疾患発症率と死亡率のアウトカムを追跡調査し、データ解析は2024年2月11日~2025年2月20日に行われた。 WHIIとFPSでは、2型糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、がん、喘息、または慢性閉塞性肺疾患を含む新規発症の慢性疾患が評価され、HBSでは全原因の死亡率が評価された。 主な結果は以下のとおり。・3つのコホートの総参加者は2万3,149人。・WHIIからは4,118人(男性72.1%)が参加し、初回受診時の年齢中央値(四分位範囲:IQR)は39(37~42)歳だった。・HBSからは男性2,335人が参加し、初回受診時の年齢中央値(IQR)は42(38~45)歳だった。・FPSからは1万6,696人(女性82.6%)が参加し、初回受診時の年齢中央値(IQR)は39(34~43)歳だった。・追跡期間の中央値(IQR)は22.8(16.9~23.3)年で、初回評価時の喫煙、収縮期血圧、血清コレステロールを調整した後、WHIIの参加者で体重減少を経験した群は、持続的に肥満していた群と比較し、慢性疾患の発症リスクが低下していた(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.35~0.78)。この結果は、アウトカムから糖尿病を除外した後も再現された(HR:0.58、95%CI:0.37~0.90)。・FPSでは追跡期間中央値(IQR)は12.2(8.2~12.2)年で、HRは0.43(95%CI:0.29~0.66)だった。・HBSで体重減少に関連した延長した追跡期間中央値(IQR)は35(24~43)年で、HRは0.81(95%CI:0.68~0.96)であり、死亡率の低下と関連していた。 これらの結果から研究グループは、「手術や薬物療法による体重減少介入がほとんど存在しなかった時代に実施された調査である。中年期の体重減少の維持は、持続的な肥満と比較し、2型糖尿病以外の慢性疾患のリスク低下および全死亡率の低下と関連していた」と結論付けている。

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NSCLCへの周術期ニボルマブ追加、OS中間解析(CheckMate 77T)/ASCO2025

 切除可能非小細胞肺がん(NSCLC)におけるニボルマブを用いる周術期サンドイッチ療法(術前:ニボルマブ+化学療法、術後:ニボルマブ)は、国際共同第III相無作為化比較試験「CheckMate 77T試験」において、術前補助療法として化学療法を用いる治療と比べて無イベント生存期間(EFS)を改善したことが報告されている1)。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、Mariano Provencio氏(スペイン・Hospital Universitario Puerta de Hierro)が、本試験のEFSのアップデート解析および全生存期間(OS)の第1回中間解析の結果を報告した。試験デザイン:国際共同無作為化二重盲検第III相試験対象:切除可能なStageIIA(>4cm)~IIIB(N2)のNSCLC患者(AJCC第8版)試験群(ニボルマブ群):ニボルマブ(360mg、3週ごと)+プラチナ製剤を含む化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→ニボルマブ(480mg、4週ごと)を最長1年 229例対照群(プラセボ群):プラセボ+プラチナ製剤を含む化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→プラセボを最長1年 232例評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)に基づくEFS[副次評価項目]BICRに基づく病理学的完全奏効(pCR)、OS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値41.0ヵ月時点(データベースロック日:2024年12月16日)におけるEFS中央値は、ニボルマブ群46.6ヵ月、プラセボ群16.9ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.61、95%信頼区間[CI]:0.46~0.80)。30ヵ月EFS率は、それぞれ61%、43%であった。・循環腫瘍DNA(ctDNA)クリアランスは、ニボルマブ群66%(50/76例)、プラセボ群38%(24/64例)に認められ、そのうちpCRが達成された患者の割合は、それぞれ50%(25/50例)、12%(3/24例)であった。・治療群にかかわらず、ctDNAクリアランスとpCRの両方を達成した患者集団は、EFSが良好であった。・KRAS、KEAP1、STK11遺伝子のいずれかに変異がみられた集団におけるEFSは、ニボルマブ群28.9ヵ月、プラセボ群10.5ヵ月であった(HR:0.63、95%CI:0.32~1.23)。KRAS、KEAP1、STK11遺伝子のいずれにも変異がみられない集団では、それぞれ未到達、17.0ヵ月であった(同:0.65、0.39~1.10)。以上から、いずれの集団でもニボルマブ群が良好な傾向にあった。・OS中央値は、ニボルマブ群とプラセボ群はいずれも未到達であったが、ニボルマブ群が良好な傾向にあった(HR:0.85、95%CI:0.58~1.25)。30ヵ月OS率は、それぞれ78%、72%であった。・肺がん特異的生存期間中央値もニボルマブ群とプラセボ群はいずれも未到達であったが、ニボルマブ群が良好な傾向にあった(HR:0.60、95%CI:0.40~0.89)。30ヵ月肺がん特異的生存率は、それぞれ87%、75%であった。 本結果について、Provencio氏は「切除可能NSCLCにおいて、ニボルマブを用いる周術期治療は有用な治療選択肢の1つであることが支持された」とまとめた。

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世代を超えた自閉スペクトラム症と認知症との関係

 自閉スペクトラム症(ASD)患者は、認知機能低下や認知症のリスクが高いことを示唆するエビデンスが報告されている。この関連性が、ASDと認知症の家族的因子によるものかは不明である。スウェーデン・カロリンスカ研究所のZheng Chang氏らは、ASD患者の親族における認知症リスクを調査した。Molecular Psychiatry誌オンライン版2025年5月14日号の報告。 スウェーデンのレジスターにリンクさせた家族研究を実施した。1980〜2013年にスウェーデンで生まれた個人を特定し、2020年までフォローアップを行い、ASDの臨床診断を受けた人を特定した。このASD患者と両親、祖父母、叔父/叔母をリンクさせた。ASD患者の親族における認知症リスクの推定には、Cox比例ハザードモデルを用いた。認知症には、すべての原因による認知症、アルツハイマー病、その他の認知症を含めた。親族の性別およびASD患者の知的障害の有無で層別化し、解析を行った。 主な内容は以下のとおり。・ASD患者の親族は、認知症リスクが高かった。・認知症リスクは、両親で最も高く、祖父母、叔父/叔母では低かった。【両親】ハザード比(HR):1.36、95%信頼区間(CI):1.25〜1.49【祖父母】HR:1.08、95%CI:1.06〜1.10【叔父・叔母】HR:1.15、95%CI:0.96〜1.38・ASD患者と母親の認知症リスクには、父親よりも強い相関が示唆された。【母親】HR:1.51、95%CI:1.29〜1.77【父親】HR:1.30、95%CI:1.16〜1.45・ASD患者の親族において、知的障害の有無による差はわずかであった。 著者らは「ADSとさまざまな認知症は、家族内で共存しており、遺伝的関連の可能性を示唆する結果となった。今後の研究において、ASD患者の認知症リスクを明らかにすることが求められる」としている。

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多発性骨髄腫のASCT前処置、BU+MEL vs.MEL200/Blood

 新規診断の多発性骨髄腫に対する自家幹細胞移植(ASCT)の前処置として、高用量ブスルファン(BU)+メルファラン(MEL)とMEL単独(MEL200)を比較した第III相GEM2012試験の結果、BU+MELがMEL200より微小残存病変(MRD)陰性率を有意に向上させることが示された。無増悪生存期間(PFS)は、BU+MELで約16ヵ月改善したものの有意差は認められなかった。スペイン・Hospital Universitario 12 de OctubreのJuan-Jose Lahuerta氏らが、Blood誌オンライン版2025年6月11日号で報告した。 本試験では、新規に多発性骨髄腫と診断され、強化ボルテゾミブ・レナリドミド・デキサメタゾン(VRD)による導入療法と地固め療法を受けている患者におけるASCTの前処置として、BU+MELとMEL200を比較した。458例(2013~15年)が登録され、導入療法後にBU+MEL療法(230例)または MEL200療法(228例)に無作為に割り付けられた。主要評価項目はPFSで、国際病期分類(ISS)Stageおよび高リスク遺伝子異常によるサブグループ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・2年間の維持療法後、MRD陰性率(10-6)は全体で63%であった(BU+MEL:68%、MEL200:58%、オッズ比[OR]:1.51、p=0.035)。・PFSはBU+MEL群がMEL200群より中央値が約16ヵ月長かったが、有意ではなかった(89ヵ月vs.73.1ヵ月、ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.70~1.14、p=0.3)。・BU+MEL群は、ISS StageII/III、t(14;16)、del(1p)の患者でベネフィットを示した。・BU+MEL群のISS StageII/IIIとMEL200群のISS StageIの患者を合わせたサブグループでは、PFS中央値は96ヵ月(95%CI:76~NE)であった。・安全性に関する懸念は認められなかった。

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血中循環腫瘍DNA検査は大腸がんスクリーニングに有用か/JAMA

 平均的リスクの大腸がんスクリーニング集団において、血液ベースの検査(血中循環腫瘍DNA[ctDNA]検査)は大腸がん検出の精度は許容範囲であることが実証されたが、前がん病変の検出にはなお課題が残ることが、米国・NYU Grossman School of MedicineのAasma Shaukat氏らPREEMPT CRC Investigatorsによる検討で示された。大腸がん検診は広く推奨されているが十分に活用されていない。研究グループは、血液ベースの検査は内視鏡検査や糞便ベースの検査に比べて受診率を高める可能性はあるものの、検診対象の集団において臨床的に実証される必要があるとして本検討を行った。結果を踏まえて著者は、「引き続き感度の改善に取り組む必要がある」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年6月2日号掲載の報告。大腸内視鏡検査を参照対照法として、大腸がんに対する感度などを評価 研究グループは、大腸がんの平均的リスク集団において、開発中のctDNA検査の臨床パフォーマンスを、参照対照法として組織病理学的な大腸内視鏡検査を用いて評価する前向き多施設共同横断観察研究を行った。 対象は、大腸がんリスクが平均的で、標準的な大腸がんスクリーニングを受ける意思がある無症状の45~85歳。参加者には、採血後に大腸内視鏡検査を受けることが求められた。 試験は、米国49州とアラブ首長国連邦の計201施設で行われ、参加者は2020年5月~2022年4月に登録された。血液検体は試験地での採血およびモバイル採血にて収集された。 参加者、スタッフ、病理医は血液検査結果が盲検化され、臨床検査も大腸内視鏡検査の所見を盲検化して実施された。 事前に規定された主要エンドポイントは4つで、ctDNA検査の大腸がんに対する感度、進行大腸腫瘍(大腸がんまたは進行前がん病変)に対する特異度、進行大腸腫瘍の陰性的中率、進行大腸腫瘍の陽性的中率であった。副次エンドポイントは、進行前がん病変に対する感度であった。大腸がんの感度79.2%、進行大腸腫瘍の特異度91.5%だが、進行前がん病変の感度は12.5% 臨床検証コホートには結果が評価された2万7,010例が包含された。年齢中央値は57.0歳、55.8%が女性であった。73.0%が白人で、アジア系は8.8%。 ctDNA検査の大腸がんに対する感度は79.2%(57/72例、95%信頼区間[CI]:68.4~86.9)、進行大腸腫瘍に対する特異度は91.5%(2万2,306/2万4,371例、95%CI:91.2~91.9)であった。進行大腸腫瘍の陰性的中率は90.8%(2万2,306/2万4,567例、95%CI:90.7~90.9)、進行大腸腫瘍の陽性的中率は15.5%(378/2,443例、95%CI:14.2~16.8)で、すべての主要エンドポイントが、事前に規定した受容基準を満たした。 進行前がん病変に対する感度は12.5%(321/2,567例、95%CI:11.3~13.8)で、事前に規定した受容基準を満たさなかった。

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2型DMとCKD併存、フィネレノン+エンパグリフロジンがUACRを大幅改善/NEJM

 2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)患者の初期治療について、非ステロイド性MR拮抗薬フィネレノン+SGLT2阻害薬エンパグリフロジンの併用療法は、それぞれの単独療法と比べて尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の大幅な低下に結び付いたことを、米国・Richard L. Roudebush VA Medical CenterのRajiv Agarwal氏らCONFIDENCE Investigatorsが報告した。同患者における併用療法を支持するエビデンスは限定的であった。NEJM誌オンライン版2025年6月5日号掲載の報告。併用療法と各単独療法のUACR変化量を無作為化試験で比較 研究グループは、CKD(eGFR:30~90mL/分/1.73m2)、アルブミン尿(UACR:100~5,000mg/gCr)、2型糖尿病(レニン・アンジオテンシン系阻害薬服用)を有する患者を、(1)フィネレノン10mg/日または20mg/日(+エンパグリフロジンのマッチングプラセボ)、(2)エンパグリフロジン10mg/日(+フィネレノンのマッチングプラセボ)、(3)フィネレノン+エンパグリフロジンを投与する群に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、対数変換した平均UACR値のベースラインから180日目までの相対変化量であった。安全性も評価した。180日時点で併用群のUACRは単独群より29~32%低下 ベースラインで、UACRは3群で同程度であった。UACRのデータが入手できた被験者(フィネレノン単独群258例、エンパグリフロジン単独群261例、併用群265例)におけるUACR中央値は579mg/gCr(四分位範囲:292~1,092)であった。 180日時点で、併用群のUACRは、フィネレノン単独群よりも29%有意に大きく低下し(ベースラインからの変化量の差の最小二乗平均比:0.71、95%信頼区間:0.61~0.82、p<0.001)、エンパグリフロジン単独群よりも32%有意に大きく低下した(0.68、0.59~0.79、p<0.001)。 単独群または併用群のいずれも、予期せぬ有害事象は認められなかった。 試験薬の投与中止に至った有害事象の発現頻度は、3群とも5%未満だった。症候性低血圧の発現は併用群の3例で報告され、急性腎障害の発現は合計8例(併用群5例、フィネレノン単独群3例)であった。高カリウム血症の発現は併用群25例(9.3%)、フィネレノン単独群30例(11.4%)で、相対的に併用群が約15~20%低かった。この所見は、重度の高カリウム血症のリスクがSGLT2阻害薬により抑制されることが示されている先行研究の所見と一致していた。

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両側卵管卵巣摘出術で遺伝性乳がん患者の死亡とがんリスクが低下

 BRCA1遺伝子かBRCA2遺伝子のいずれかまたはその両方に病的バリアントを有する乳がんサバイバーでは、卵巣と卵管を摘出することで死亡リスクが劇的に低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。この研究では、両側卵管卵巣摘出術(BSO)を受けた乳がんサバイバーで、死亡リスクが48%低かったことが示されたという。英ケンブリッジ大学がん遺伝疫学センターのHend Hassan氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Oncology」に5月7日掲載された。 BRCA1/2遺伝子の病的バリアント保持者は、乳がんと卵巣がんの発症リスクが高くなるため、一般的には乳がん罹患歴の有無に関わりなくBSOを行い、卵巣がんリスクを軽減することが推奨されている。しかし、卵巣と卵管の摘出は急激な閉経を引き起こし、それに伴う心血管疾患やうつ病などのリスク上昇が懸念されている。 今回の研究では、BRCA1/2遺伝子の病的バリアント保持者で1995年から2019年の間に乳がんの診断を受けた20〜75歳の女性3,423人を対象に、BSOと長期健康アウトカムの関連を検討した。病的バリアント保持者の内訳は、BRCA1遺伝子が1,674人、BRCA2遺伝子が1,740人、両遺伝子が9人だった。このうち1,855人がBSOを受けており、遺伝的バリアント別に見た内訳は、BRCA1遺伝子851人(50.8%)、BRCA2遺伝子1,001人(57.5%)、両遺伝子3人(33.3%)だった。追跡期間中央値は5.5年だった。 解析の結果、BSOを受けた女性では受けなかった女性に比べて全死亡リスクが48%(ハザード比0.52、95%信頼区間0.41〜0.64)、乳がん関連死亡リスクが45%(同0.55、0.42〜0.70)低いことが示された。リスク低下は、BRCA2遺伝子の病的バリアント保持者で、BRCA1遺伝子の病的バリアント保持者よりも顕著だった(全死亡:56%対38%、乳がん関連死亡:52%対38%)。また、BSOを受けた女性では、乳がん以外のがん(2次がん)の再発リスクも41%有意に低かった(同0.59、0.37〜0.94)。一方、BSOと心血管疾患や脳卒中、うつ病との間に有意な関連は認められなかった。 こうした結果を受けて研究グループは、本研究で認められたリスク低下の全てがBSOに起因すると言うことはできないものの、その可能性を強く示唆する結果だとの見方を示している。 Hassan氏は、「BSOを行うことで卵巣がんリスクが劇的に低下することは分かっているが、一方で、突然の閉経が予期せぬ結果をもたらす可能性が懸念されていた」とケンブリッジ大学のニュースリリースの中で述べている。そして、「本研究では、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントを有し、乳がんの既往歴がある女性において、BSOが心臓病やうつ病などの副作用をもたらす可能性は低く、逆に生存率の向上やがんリスクの低下の点で利点をもたらす可能性があるという、安堵をもたらす結果が示された」と述べている。 一方、本論文の上席著者であるケンブリッジ大学公衆衛生・プライマリケア学部のAntonis Antoniou氏は、「本研究結果は、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントに関連するがんに罹患した女性に対するカウンセリングにおいて重要な知見となるだろう。この知見に基づくことで、BSOの実施について十分な情報に基づいた決定を下すことができるようになるはずだ」とニュースリリースで述べている。

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身体活動量が十分でも座位時間が長いと認知機能は低下する?

 身体活動を毎日していてもソファで過ごす時間が長い高齢者は、アルツハイマー病(AD)を発症しやすい可能性があるようだ。新たな研究で、高齢者における長い座位時間は、認知機能の低下やADの発症に関連する脳領域の萎縮と関連していることが明らかになった。米ピッツバーグ大学神経学分野のMarisssa Gogniat氏らによるこの研究結果は、「Alzheimer’s & Dementia」に5月13日掲載された。 Gogniat氏らは、50歳以上の成人404人(平均年齢71±8歳、男性54%)を対象に、座位時間とADの関係を調査した。試験参加者は、腕時計型の活動量計を7日間装着して活動量を測定したほか、神経心理検査と脳の3T MRI検査を受けた。試験開始時の活動量計での測定時には、79%の参加者で認知機能に障害は見られなかった。また、87%が米疾病対策センター(CDC)が推奨する身体活動量(中〜高強度の運動〔MVPA〕を1週間当たり150分以上)を満たしており、1日当たりのMVPAの時間は平均61分だった。 横断解析(1時点のデータに基づく)の結果、座位時間が長いことは、嗅内皮質や中側頭皮質などのADに関連する脳領域の皮質厚の減少(ADシグネチャー)、およびエピソード記憶の低下と有意な関連を示した。ただし、エピソード記憶との関連はMVPAで調整すると有意ではなくなった。これらの関連は、ADの遺伝的リスク因子であるAPOE-e4の保有者において特に顕著だった。一方、縦断解析(長期追跡データに基づく)からは、座位時間が長いほど、記憶を司る海馬の体積の減少速度が速く、また、言葉を思い出す能力と情報を処理する能力の低下速度が速いことが明らかになった。 こうした結果を受けてGogniat氏は、「ADのリスクを減らすには、1日に1回の身体活動だけでは不十分だ。たとえ毎日、身体活動を行っていても、ADの発症リスクを抑制するには座位時間を最小限に抑えるべきだ」と話している。 論文の上席著者である米ヴァンダービルト記憶・アルツハイマーセンター創設ディレクターのAngela Jefferson氏は、「加齢に伴うライフスタイルの選択とそれが脳の健康に及ぼす影響を研究することは非常に重要だ。われわれの研究は、座位時間を減らすことが、脳の神経変性とそれに続く認知機能低下を予防する有望な戦略となり得ることを示したものであり、特に、ADの遺伝的リスクが高い高齢者において、座位時間を減らすことの重要性が強調されている。日中に座って過ごす時間を減らして体を動かし、活動的な時間を増やすことは、脳の健康にとって非常に重要だ」と述べている。 研究グループは、今後の研究では座位時間の長さがなぜ認知機能の低下につながるのかに焦点を当てるべきだとの考えを示している。

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セマグルチドは代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)の予後を改善する(解説:住谷哲氏)

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)へ、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)へと呼称が変更されてから約2年が経過した。“alcoholic”および“fatty”が不適切な表現であるのが変更の理由らしい。この2年間に米国のFDAは甲状腺ホルモン受容体β作動薬であるresmetiromをMASHの治療薬として条件付きで承認している。わが国でresmetiromの承認に向けて治験が開始されているか否かは寡聞にして筆者は知らないが、本論文で用いられたセマグルチドはわが国でも使用可能であり臨床的意義は大きい。 本試験ESSENCEはpart1およびpart2から構成されており、本論文はセマグルチド投与72週後のMASHの組織学的変化を主要評価項目としたpart1についての報告である。part2の主要評価項目は240週後のcirrhosis-free survivalとされており、part1はESSENCEの中間解析の位置付けである1)。 これまでにMASHへの薬物介入を試みた試験としては、ピオグリタゾンまたはビタミンEの有効性を検討したNASH-CRNがある2)。本論文と同じく組織学的変化を主要評価項目としたが、ビタミンEはプラセボに比較して有意な組織学的改善を認めたがピオグリタゾンでは認めなかった。しかしこの試験では2型糖尿病患者は対象から除外されており、試験の結果が2型糖尿病患者に適用できるかは不明であった。一方、本試験では患者の56%と半数以上が2型糖尿病を合併しており、Supplementにあるサブグループ解析では2型糖尿病の有無で有効性に差はない。したがって、2型糖尿病を合併したMASHでもセマグルチドは有効と考えられる。 組織学的改善は代替エンドポイントであり、厳密にはpart2終了後のcirrhosis-free survivalの結果を待つ必要がある。しかし、MASH患者の予後を決定する要因として心血管イベントは無視できない。これまでのセマグルチドの臨床試験の結果から、おそらくMASH患者の心血管イベントもセマグルチドの投与により有意に減少する可能性は高い。したがって、代替エンドポイントではあるがMASH治療薬としてのセマグルチドは現時点で正当化されると思われる。わが国でも早期の承認が期待される。

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アルツハイマー病の超早期診断が実現「p-tau217血液検査」【外来で役立つ!認知症Topics】第30回

FDA承認、血液バイオマーカーによるAD超早期診断米国食品医薬品局(FDA)が2025年5月に、アルツハイマー病(AD)診断の初の血液検査法として、リン酸化タウの1つp-tau217の測定系を承認した1)。これは、AD脳に生じるアミロイドβ蓄積などの病理学的変化を、超早期に高感度かつ特異的に検出できるバイオマーカーだと考えられる。今回の承認が持つ医学的な意味について解説する。AD診断のよくある誤解さて私が受ける一番の「あるある質問」は、「アルツハイマー病って認知症のことでしょう」というものだが、言うまでもなく誤りである。また「アルツハイマー病の診断はMRIで海馬が痩せていればできるんですね?」というものも少なくない。これも誤りだが、一般の方にとって病気診断の考え方は馴染みが薄いだろう。そこでまずADの診断法を説明しよう。症状としては、記憶障害とその進行が中心となる症状・経過がみられることが必要である。そして病理学的に、老人斑と神経原線維の存在が病理学所見の必須条件である。前者を主に構成するのがアミロイドβであり、後者のそれがリン酸化されたタウである。したがって、ADの確証的診断は、死後脳に老人斑と神経原線維の存在が確かめられることにある。この両者がいわば「AD脳の2大ゴミ」なのだが、それらの性質には違いがある。前者は脳内で神経細胞の外に溜まっていて、その蓄積量と認知機能の低下度は相関しない。アミロイドβは正常高齢者の脳でもみられることがある。後者は神経細胞の内部に溜まっていて、その蓄積量と認知機能の低下度は相関する。リン酸化タウは正常高齢者の脳にはみられない。アミロイドβの出現があって、それにリン酸化タウの出現が続くことが大切である。こうしたところからAD治療薬の根本は老人斑と神経原線維を消すことにあると考えられてきた。そして最近になって、前者に対する抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)が承認されたのである。従来の診断法の課題と血液検査への期待長年にわたって、生きたAD患者の脳内に真犯人とされる老人斑や神経原線維変化の存在を確認する術はなかった。近年に至り、アミロイドβとリン酸化タウを標的としたアミロイドPETやタウPETにより、これがやっと可能になったのである。既に承認された2つの抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)の投与は、標的となるアミロイドβがなくては無意味となるため、これらを使うには、アミロイドPETか脳脊髄液の測定によるアミロイドβの存在証明が前提になる。しかしコスト・侵襲性・汎用性の点からはこの両者には難点があるため、久しく血液バイオマーカーによる診断が望まれてきた。実際、20年も前から血液中のアミロイドβとリン酸化タウを測定しようとする試みが繰り返しなされてきた。ところが採取条件、血液保存容器の性状、同一人物における日内変動などの障壁のため容易に満足できる結果は得られなかった。とくに本質的な疑問は、「『本丸』である大脳の状態(アミロイドβとリン酸化タウの蓄積)をみるのに、『二の丸』である脳脊髄液で測定するのはまだ許せる。しかし末梢血などいわば『城外』ではないか。城外で測定した測定値で本丸の状態がわかるとは思えない」というものであった。p-tau217の診断的意義とはいえ、徐々にしかし確実に進歩があった。近年信頼できるマーカーになり得るとして注目されたものには、血液リン酸化タウ(p-tau181、p-tau217、p-tau231)、glial fibrillary acidic protein(GFAP)、neurofilament light chain(NfL)等がある。とくにp-tau217は、タウタンパク質の蓄積がPETスキャンなどの方法で明らかになる以前から血液、脳脊髄液に漏れ出て鋭敏に上昇し、アミロイド蓄積を早期から検出可能にすることが 2020 年頃から世界的に注目されるようになった。既述のように、AD脳には初めにアミロイドβが神経細胞の外に蓄積し、その影響を受けて細胞内にタウタンパク質が蓄積して神経細胞の変性脱落が起こる結果、認知機能障害が生じることは重要である。なぜならp-tau217というタウタンパク質が存在するなら、その上流のアミロイドβもまた存在すると考えられる、上記のAD診断の病理学条件を満たすからである。これまでの報告2)によれば、ADにおけるp-tau217の測定結果として、年齢階層によらず高い陽性正診率(95.3~97.5%)が確認されている。そしてADと臨床診断された人で血液p-tau217が陽性であれば、ほぼ確実に脳内にアミロイドβ病理が存在するといえそうである。なお血漿p-tau217の診断精度については、抗アミロイドβ抗体薬の投与対象である軽度認知障害(MCI)群においては、年齢階層が高くなるほど陽性正診率は上昇し、陰性正診率は低下する。また鑑別という観点からは、前頭側頭型認知症、血管性認知症、大脳皮質基底核症候群では年齢階層にかかわらず高い陰性正診率(91.2~99%)が確認されている。つまり非アルツハイマー型認知症と臨床診断された人で血液p-tau217が陰性であれば、ほぼ確実に脳内にアミロイドβ病理は存在しないと考えられる。いずれにせよ、末梢の血液検査で、ほぼ確実な診断ができるようになったことは、AD医学・医療におけるエポックメイキングな成果である。参考1)FDA NEWS RELEASE:FDA Clears First Blood Test Used in Diagnosing Alzheimer’s Disease. 2025 May 16. 2)Therriault J, et al. Diagnosis of Alzheimer’s disease using plasma biomarkers adjusted to clinical probability. Nat Aging. 2024;4:1529-1537.

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第268回 NHKが医療問題を徹底特集、日本医師会色を廃した番組編成から見えてきたものは?(後編) 「ミスやトラブルを起こす一部の医師にも頼らざるを得ない」病院のドキュメンタリー番組、日本医師会が要請文書をNHKに送付

「どう守る 医療の未来」をテーマにさまざまな番組で医療問題を取り上げたNHKこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。やっとこさ1勝あげた後、右肩の痛みのためケガ人(IL)リスト入りしていたロサンゼルス・ドジャースの佐々木 朗希投手が、どうやら今シーズンの戦力の構想から外れたようです。6月16日付のNHKニュースなどの報道によれば、現地時間15日、デーブ・ロバーツ監督は報道陣に対して佐々木投手が現在ボールを投げずに調整していることを明かし、「今シーズンは彼なしで編成を考えることが妥当だ」と述べました。ドジャースは現在、佐々木投手のほかサイ・ヤング賞を2回受賞したブレイク・スネル投手や昨シーズン開幕投手のタイラー・グラスナウ投手など先発陣を中心にケガ人が相次いでいます。ドジャースの独走状態だったナショナル・リーグ西地区の順位も混戦気味で、ポストシーズン進出に黄信号が灯りはじめています(大谷 翔平選手の突然の登板の理由の1つとも考えられます)。ガラスの肩でファンをやきもきさせる佐々木投手に対して、毛の生えた心臓(?)でメジャー復帰をかけるのが、制球難から3Aでの調整が続いている藤浪 晋太郎投手です。藤浪投手はシアトル・マリナーズ傘下3Aタコマに所属しており、現在8試合連続無失点を記録、最速158キロも記録しています。近々、再びメジャーの舞台に戻って来るかもしれません。それにしても、佐々木投手の肩と藤浪投手の肩の違いは何なのでしょう。佐々木投手は夏の高校野球岩手県大会決勝で肩を温存して登板せず、一方の藤浪投手は甲子園で春夏連覇を達成しています。育てられ方やキャリアがまったく異なる2人の豪速球投手のこれからが気になります。さて、NHKが先月末から6月頭にかけて「どう守る 医療の未来」をテーマにさまざまな番組で医療問題を取り上げました。今回もその中の番組についての感想を書いてみたいと思います。6月1日にNHK総合で放送された『NHKスペシャル ドキュメント 医療限界社会 追いつめられた病院で』は、島根県江津市の済生会江津総合病院を舞台に、「ミスやトラブルを起こす一部の医師にも頼らざるを得ないほど現場は追い詰められている」実態を赤裸々に追ったドキュメンタリーです。なんと日本医師会はこの番組に対し「不適切と思われる部分があった」として、医療の正しい情報を報道するよう求める要請文書を送付したそうです。前回書いた『日曜討論』に日医の役員が出ていなかったのも気になりましたが、番組内容に対し「正しい情報を報道するよう求める」というのも穏やかではありません。一体何が日医の気に障ったのでしょうか?「心電図も読めない」「電気ショックを行っていいかわからない」「自分に誤って刺した注射針を患者に使い回す」「気管カニューレの装着で患者の喉を傷つけても報告しない」医師たち済生会江津総合病院は地域の中核病院で、19科240床の病院で2次救急を担ってきましたが、2004年に28人いた常勤医は2024年には12人まで減っていました。番組によれば、「ある病院からの切実な訴え」が(NHKに)届き、病院は「医療の質が維持できなくなっている実態を知って欲しい」とNHKの取材を受け入れたそうです。そうした経緯から、同病院の院長、医局長、看護師らから話を聞き、現場で起きた「あってはならない事態」をリポートしたのが同番組です。そこで語られたのは、「心電図も読めない」医師、「電気ショックを行っていいかわからないから指示を出せない」医師、「薬を違う患者に出してしまう」医師、「自分に誤って刺した注射針を患者に使い回す」医師、「希釈するべきアスパラギン酸カリウム注なのに希釈のオーダーを出さない」医師、「気管カニューレを無理やり引っこ抜き(あるいは挿入して)患者の喉を傷つけても報告しない」医師たちです。番組は「頭を悩ませているのは一部の医師が起こすトラブル」、「医師の高齢化が進行中で不注意によるミスも相次いでいる」と一部の高齢医師がトラブルやミスの元凶であることを暗に示唆しており、院長は「この人ダメだから(といって)外すことは難しい」と診療体制維持の難しさを吐露していました。医療機関で働く医師や看護師が、同じ病院で働く同僚医師を(報道などで)表立って非難することはなかなかないことです。そうした言葉をあえて現場から引き出して放送したこと自体、ある意味医療界のタブーを破ったと言えるでしょう。済生会本部がよく取材を了承したものです。番組は次いで、こうした高齢医師が最前線の救急の現場で働かざるを得ないのは常勤医師数減少が原因だとして、2004年に始まった新医師臨床研修制度の影響を挙げ、「昔はミスやトラブルが目立つ医師がいてもカバーする余力があったが、ここまで医師が減るとそれが難しくなる。医師確保は全部失敗。大学も医師がいないので派遣する余力がない」という院長の言葉を紹介しています。新医師臨床研修制度は一因だが、病院の機能分化やダウンサイジング、集約化の必要性に気付かなかった経営者自身にも少なからぬ責任新医師臨床研修制度が大学医局の医師派遣機能を削いだ、というのは一面の真理ではありますが、それが最大の原因だとは言い切れません。地域ではそれなりに医師を確保できている病院もあるからです。結果として、今盛んに言われるようになった病院の機能分化やダウンサイジング、集約化の必要性に気が付かなかった経営者自身にも少なからぬ責任があるでしょう。地域医療構想は10年も前にスタートしていますが、いわゆる「協議の場」で病院長がそれぞれの病院存続に向けて建設的な”協議”をしてこなかったことも、今の地域医療の崩壊につながっているからです。とは言え、この番組も後半で指摘していますが、医師不足に対し、医師の養成数増だけに注力し、医師の偏在対策(地域偏在、医療機関間偏在)にほとんど対応してこなかった国(厚生労働省)の責任も大きいと言えます。日医は診療看護師が医師の処置などに対する自身の見解を述べた場面に対して強い懸念さて、この番組に対し、日本医師会が不適切と思われる部分があったとして要請文書を送付したという報道がありました。6月5日付のメディファクスによれば、日医の広報担当の黒瀬 巌常任理事は同紙に対して、6月3日に黒瀬氏の名前で要請文書をNHKに送付したことを明らかにしました。同紙によれば「(日医は)医療の正しい情報と、さまざまな考え方に基づく選択肢を国民に提示することができる組織として、正しい医療の現状を発信するために協力したい」というのがその趣旨だそうです。なお、要請文書そのものの内容は明らかにされていません。また同紙によれば、黒瀬氏は番組が特定の病院への取材や視聴者などの声を基にした構成となっていたと指摘、「個別の事例により、国民に誤った印象を与えることがないよう注意すべき」とも語っています。中でも、診療看護師が医師の処置などに対する自身の見解を述べた場面について、「こうした場面を公共放送で紹介することにより、全国の医師に対する国民・患者の信用やチーム医療の推進が損なわれないか、強い懸念を感じざるを得ない」との認識を示したとのことです。また、番組が、「医師偏在」「医療機関経営」といった日本の医療にとって極めて大きなテーマを取り上げたにもかかわらず、日医の意見が聞かれなかったことについても遺憾の意を示したそうです。医師がトラブルやミスの元凶であり、それを看護師チームがフォローしているという構図が強過ぎる「特定の病院への取材や視聴者などの声を基にした構成」なのは、ドキュメンタリーなのだから仕方ありません。そこをとやかく言うのは明らかに筋違いでしょう。ただ、一方で「診療看護師が医師の処置などに対する自身の見解を述べた場面」への指摘の一部は理解できます。これは冒頭でも書いた「気管カニューレを無理やり引っこ抜き(あるいは挿入して)患者の喉を傷つけても報告しない」医師に関する場面への指摘と考えられます。「診療看護師」という肩書のテロップが出た男性看護師が登場し、意思疎通ができない神経難病の患者の喉に見つかった内出血について、「多分抵抗があるのを(気管カニューレを)無理やり抜いて、力でぎゅっと入れるから、毛細血管とか皮下の静脈を傷つけた恐れがある」と自身の見解(見立て)を述べています。こうしたある意味“越権行為”について、日医はおそらくカチンと来たのではないでしょうか。私自身も、番組全体として同病院では医師がトラブルやミスの元凶であり、それを看護師チームがフォローしているという構図(医師=悪、看護師=正義)が強過ぎる印象を受けました。トラブルやミスを起こすのは一部の高齢医師であるというナレーションはありますが、そうした医師が何人いるかについては示されません。もしそれが仮に1、2人の問題だとしたら、「医師不足」というよりも、「医師の質・能力」や「経営者(院長)の問題医師の取り扱い・処遇」の問題となってしまいます。問題医師が実際は何人いる(いた)のか、そこが明示されなかったのは、このドキュメンタリーの弱い部分でもあります。ただ、そこが明示され、問題が「医師の質・能力」となっても日医としてはやはりまずいことになります。“越権行為”についての指摘に留めたのも、そうした理由からかもしれません。『ETV特集 “断らない病院”のリアル』では3次救急の大病院の苦悩を伝える番組は後半で、同病院の「さらなる危機」として「年間4億7,000万円の赤字」経営によって非常勤医師の確保が困難になったことや、「看護師全体の1割15人の一斉退職」を描きます。そして、最終的に病床削減、診療科の削減といった撤退戦に舵を切り、医師については救急医療にも対応できる総合診療医の確保に向かう、というところで終わっています。200床規模の病院では現時点で生き残るにはその道しかないでしょう。今後、さらに人口減少が進めば、もっと徹底したリストラが必要になると思われます。NHKが「どう守る 医療の未来」をテーマにさまざまな番組で医療問題を取り上げた中、もう一つ興味深く見た番組は、5月31日夜に教育テレビで放送された『ETV特集 “断らない病院”のリアル』です。こちらの舞台は済生会江津総合病院とは対象的な大病院、3次救急として年間3万人の救急患者を受け入れる神戸市立医療センター中央市民病院でした。こちらはこちらで、「断らない救急」という理想と、働き方改革という現実のあいだで現場の医師は疲弊し、院長は経営難という宿題も抱え、ほぼお手上げの状態でした。最後に院長が、「従業員を守ること、患者の安全、病院の収支、この三つ巴の状態を良い方向に回せるか、私には自信がない」と語っていたのが印象的でした。今こそ診療所の診療報酬を抑え、病院の入院医療に回すことを真剣に検討すべきNHKが一連の番組で一番伝えたかったのは、規模にかかわらず病院全体が直面している苦境でしょう。前回、「第267回 NHKが医療問題を徹底特集、日本医師会色を廃した番組編成から見えてきたものは?(前編)元厚労官僚・中村 秀一氏の『入院医療と外来医療の配分を考えてもらう必要がある』発言の衝撃」で、中村氏の「医療界全体として自分たちも協力する部分は協力するということで、入院医療と外来医療の配分も考えてもらう必要がある」との発言を紹介しましたが、今こそ診療所の診療報酬を抑え、病院の入院医療に回すことを真剣に検討しないと、地域の医療は壊滅してしまうでしょう。日本医師会がそうした改革に本気でコミットしていくかが大きなポイントだと言えます。もはや、病院の診療看護師の言動に目くじらを立てている時代ではないのです。

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看護師主導の早期緩和ケアが、がん患者のQOLを改善【論文から学ぶ看護の新常識】第19回

看護師主導の早期緩和ケアが、がん患者のQOLを改善早期緩和ケアとして行われた看護師主導の強化支持療法に、がん患者のQOLを改善させる効果があることが示された。Yun Y. Choi氏らの研究で、International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年5月1日号に掲載された。進行がん患者に対する早期一次緩和ケアアプローチとしての看護師主導強化支持療法の効果:ランダム化比較試験研究チームは、進行がん患者に対する早期一次緩和ケアとして、看護師主導による強化支持療法の効果を評価することを目的に、ランダム化比較試験を実施した。緩和的化学療法を開始する進行がん患者258例を、トレーニングを受けた看護師による強化支持療法(各化学療法サイクル前の症状管理および対処能力向上のカウンセリング)を行う介入群と、症状のモニタリングのみを行う対照群に、1:1の比率で無作為に割り付けた。主要評価項目は、3ヵ月時点での生活の質(EORTC QLQ-C30)、症状(ESAS)、対処行動(Brief COPE)。副次評価項目は、6ヵ月時点での生活の質、症状、対処行動に加えて、3ヵ月および6ヵ月時点のがんへの対処に関する自己効力感(CBI 3.0-K)、がん患者と家族介護者の抑うつ状態(HADS-D)を評価した。データは線形混合モデルを用いて分析した。介入群では、以下の項目において統計的に有意な効果が認められた。生活の質(QOL):3ヵ月時点での役割機能ドメイン(1.01±2.34 vs.−8.37±2.07、p=0.003、95%信頼区間[CI]:−15.57~−3.18、調整済みp=0.044)。対処行動:3ヵ月時点での積極的対処(0.27±0.16 vs.−0.34±0.14、p=0.006、95%CI:−1.04~−0.18、調整済みp=0.044)およびセルフディストラクション(0.22±0.17 vs.−0.42±0.15、p=0.004、95%CI:−1.08~−0.20、調整済みp=0.044)。がんへの対処に関する自己効力感:3ヵ月時点での活動性と自立性の維持(1.45±0.47 vs.−0.31±0.42、p=0.006、95%CI:−2.99~−0.52、調整済みp=0.044)。一方、患者の症状や抑うつ、または家族介護者の抑うつの軽減には、有意な効果は認められなかった(調整済みp>0.05)。早期の一次緩和ケアとしての看護師主導による強化支持療法は、進行がん患者の生活の質における役割機能ドメイン、コーピング方法の活用、および活動性と自立性を維持する自己効力感の向上に有効であることが示された。本研究で検証された看護師主導の強化支持療法は、進行がん患者のQOLにおける役割機能ドメイン(仕事や家事、趣味など、その人本来の「役割」がどのくらい妨げられているかを評価する項目)、積極的なコーピング戦略の活用、および活動と自立の維持に関する自己効力感を統計的に有意に改善しました。看護師が中心となって行う早期からの一次緩和ケアが、これらの項目に有効であった点は特筆すべきです。なぜなら、看護の本質は端的にいって対象者の主観的な幸せに貢献すること(People-Centered Care)だからです。役割を果たせることや、問題に自ら対処できること、そして自分ならできると思える自己効力感は、患者本人が幸せだと感じられる生活を支える上で、非常に重要だと考えます。一方で、症状の軽減や、患者や介護者の抑うつの軽減においては、直接的な効果が認められませんでした。しかし、本研究は、困難な臨床環境に直面する進行がん患者のQOL向上に対し、実用的かつ効果的な看護師主導の早期一次緩和ケアの可能性を、ランダム化比較試験(RCT)という質の高い研究手法により力強く示しました。そしてその結論は、トレーニングを受けた看護師によって提供される早期からの一次緩和ケアを、日常的ながん看護実践に組み込むべきであるという、今後のがん看護におけるきわめて重要な提言になると考えられます。論文はこちらChoi YY, et al. Int J Nurs Stud. 2025 May 1. [Epub ahead of print]

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DOACによる消化管出血での死亡率~20研究のメタ解析

 抗凝固薬による消化管出血は、発生頻度や死亡リスクの高さから、その評価が重要となる。しかし、重篤な消化管出血後の転帰(死亡を含む)は、現段階で十分に特徴付けられておらず、重症度が過小評価されている可能性がある。今回、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のNicholas L.J. Chornenki氏らは、直接経口抗凝固薬(DOAC)関連の重篤な消化管出血が30日全死亡率の有意な上昇と関連していることを明らかにした。Thrombosis Research誌2025年5月24日号掲載の報告。 研究者らは、静脈血栓塞栓症または心房細動と診断されDOACを処方された成人を対象とした大規模ランダム化比較試験とコホート研究について、データベース(MEDLINE、EMBASE、Cochrane CENTRAL)で検索し、消化管出血の発生件数に対する死亡件数で測定した消化管出血後の30日全死亡率を主要評価項目とした。また、対象研究のバイアスリスクをmodified QUIPS(Quality In Prognosis Studies)で評価し、逆分散法を用いて要約推定値を算出した。 主な結果は以下のとおり。・7,824件の研究から646件をレビューし、20件が解析に含まれた。・解析対象は、全20研究においてDOAC治療後に重篤な消化管出血を来した3,987例であった。・30日全死亡率の統合推定値は8.4%(95%信頼区間[CI]:4.9~12.5、I2=83%)であった。・サブグループ解析では、以下の結果が示された。◯前向き研究(9研究) 主な消化管出血:675例、30日全死亡率:10.3%(95%CI:6.5~14.7、I2=24%)◯後ろ向き研究(11研究) 同:3,312例、同:7.3%(95%CI:2.2~14.4、I2=90%)◯バイアスリスクが高いと判断された研究(9研究) 同:387例、同:12.9%(95%CI:6.3~21.1、I2=44%)◯バイアスリスクが低いと判断された研究(10研究) 同:3,562例、同:6.1%(95%CI:2.9~10.1、I2=89%)※1件の研究はバイアスリスクが不明であった。 なお研究者らは、「本集団における死亡原因と寄与因子について、さらなる研究を行うことで高リスク患者を特定し、リスクを軽減できる戦略を策定していく必要がある」としている。

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