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現行世代の薬剤溶出性ステントを改善するハードルは高い(解説:山地杏平氏)

 新しい世代のシロリムス溶出ステントであるAbluminus DES+を検証したランダム化比較試験であるABILITY Diabetes Global試験の結果がLancet誌に掲載されました。本ステントはシロリムスを薬剤として用い、ポリマーをステント外側(abluminal side)に限定し、さらにバルーン表面にもコーティングを施すことで、血管壁への薬剤送達効率を高めることを狙った設計となっています。 本試験では、糖尿病患者という再狭窄リスクが高い症例において、12ヵ月時点の虚血を伴う標的病変再血行再建(ID-TLR)および標的病変不全(TLF)を主要エンドポイントとして評価が行われました。それぞれ絶対リスク差2.8%、3.0%の非劣性マージンが事前に設定され、その結果、12ヵ月時点のID-TLRはAbluminus DES+群で約4.8%、XIENCE群で約2.1%、また、TLFはそれぞれ約9.7%と6.2%で非劣性は示すことができず、さらに、心筋梗塞など臨床的に重要なイベントも、Abluminus DES+群で一貫して多い傾向が認められました。 本試験において非劣性マージンが絶対リスク差で設定されている点には注意が必要です。近年のDES治療ではイベント率自体が低下しているため、数%の絶対差であっても相対的には大きなリスク増加を意味します。今回設定された2.8%というマージンは、相対的にはおよそ4割前後のイベント増加を許容する水準に相当し、糖尿病患者という高リスク集団においては決して小さな差とはいえません。そのように「かなり下駄を履かされた」状態においてなお、非劣性を示すことができませんでした。 本試験ではステント留置時に45秒以上の長時間バルーン拡張が推奨されていましたが、実臨床ではこの条件が十分に遵守されていない症例も確認されています。Abluminus DES+は薬剤送達の最適化を前提とした設計であり、手技が誤っていた場合、その性能が発揮されにくい可能性があります。 生体吸収性スキャフォールド(BRS)でも同様の問題が指摘されてきました。BRSにおいても、長時間拡張や十分な後拡張といった推奨手技が遵守されなかったことは、期待された成績が得られなかった一因と考えられています。新規デバイスは設計思想に基づいた最適使用条件を前提としており、推奨される使用方法に準拠した適切な手技が行われて初めて本来の性能が評価可能となります。本試験の結果は、新規デバイス導入時には正しい手技を用いた植え込みが必須であることを示しているともいえます。

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第282回 初診は据え置き、再診は実質3点増、2026年度改定の全体像明らかに/中医協

<先週の動き> 1.初診は据え置き、再診は実質3点増、2026年度改定の全体像明らかに/中医協 2.末期腎不全も緩和ケア対象に、診療報酬改定で/厚労省 3.在宅医療にメス 頻回訪問を抑制、報酬体系を大幅見直し/厚労省 4.急性期A・B新設で何が変わる? 入院基本料再編の全体像/厚労省 5.ナースコールからランサムウェアが侵入、患者情報1万人流出/日医大武蔵小杉病院 6.医療行為が刑事裁判に 赤穂市民病院手術事故、指導体制も争点/神戸地裁 1.初診は据え置き、再診は実質3点増、2026年度改定の全体像明らかに/中医協中央社会保険医療協議会(中医協)は2月13日、2026年度診療報酬改定の内容を決定した。物価高騰と人件費上昇への対応を最重要課題に位置付け、診療報酬本体は3.09%引き上げられる。内訳は賃上げ対応1.70%、物価対応1.29%で、30年ぶりに「賃金・物価」を正面から評価する改定となった。外来では、初診料(291点)は据え置く一方で、再診料は1点引き上げられて76点とし、新設の「物価対応料」により初診・再診とも2点(20円)が加算される。これにより再診時は合計3点増となる。訪問診療でも物価対応料が上乗せとなり、いずれも1日単位で算定が可能とされた。さらに、今後の物価上昇を見据え、2027年6月以降は物価対応料を原則2倍とする方針が示されている。賃上げを実施する医療機関を評価する「ベースアップ評価料」も拡充される。外来・在宅では、初診時17点、再診時4点を基本とし、すでに賃上げを行っている医療機関ではより高い点数が付く。入院ベースアップ評価料も最大250点まで拡大され、医師・看護師に加え、事務職員や看護補助者など幅広い職種を対象に処遇改善を促す設計となった。2027年度には評価水準をさらに引き上げる。今回の改定の特徴は、外来よりも入院医療を厚く評価する点にある。急性期一般入院料は機能に応じて約8~11%引き上げられ、救急搬送件数や全身麻酔手術件数など実績を重視した評価体系が導入される。多職種協働体制を評価する新加算や、救急・外科医療体制を支援する加算も相次いで新設され、地域の急性期拠点を明確に選別する方向性が打ち出された。その一方で、入院時の食費は1食40円、光熱水費は1日60円引き上げられ、患者負担は増加する。医療DXでは、生成AIの活用を前提に医師事務作業補助体制加算の人員基準を柔軟化するなど、実績と効率化を重視する評価が強まった。総じて2026年度改定は、「賃上げを実行する医療機関」「急性期・救急機能を担う病院」「DXで生産性を高める施設」を重点的に評価する構造となった。算定の可否により病院経営への影響差は大きく、各医療機関には自院の機能定位と戦略的な届出判断が求められる。 参考 1) 個別改定項目について(厚労省) 2) 物価高・賃上げ対応で初診・再診料ともに引き上げへ…中医協が診療報酬改定内容を決定(読売新聞) 3) 物価高に対応、初診2点・再診3点引き上げ 26年度診療報酬改定、入院評価を重点化(CB news) 4) 診療報酬加算引き上げへ 中医協が改定案答申 患者窓口負担も増(NHK) 2.末期腎不全も緩和ケア対象に、診療報酬改定で/厚労省2026年度診療報酬改定で、緩和ケアの評価対象が大きく見直される。これまで診療報酬上、主にがん患者に限られてきた緩和ケアについて、末期の腎不全患者や呼吸器疾患が新たに対象に加えられることが決まった。ただし、「緩和ケア病棟」の入院料としては末期腎不全のみであり、末期呼吸器疾患は緩和ケア診療加算・外来緩和ケア管理料で算定可能となった。背景には、がん以外の疾患では十分な緩和ケアが提供されてこなかったという課題がある。とりわけ、人工透析を中断した末期腎不全患者は、呼吸困難や意識障害、強い吐き気などの重い症状に直面することが多く、苦痛緩和の必要性が指摘されてきた。今回の改定では、透析療法の開始や継続が困難な終末期の腎不全患者を、診療報酬上も正式に緩和ケアの対象として位置付ける。あわせて、高齢者を中心に問題となっている多剤服用や重複投薬への対策も強化される。病棟に勤務する薬剤師が、転院・退院時に服薬状況や副作用リスクについて患者や家族に指導した実績を適切に評価する仕組みを整える。さらに、在宅医療では医師と薬剤師が同時に訪問し服薬指導を行った場合、半年に1回3,000円を算定できる「訪問診療薬剤師同時指導料」が新設される。国の調査では、半数近くが飲み忘れや飲み残しによる残薬を自宅に保管しているとされ、60歳以上でとくに多い傾向が確認されている。処方・調剤時に残薬を確認し、調剤量を調整する取り組みを評価することで、患者の安全確保と医療費の適正化につなげる狙い。厚生労働省は、6月からの改定施行を通じ、がん以外の疾患も含めた幅広い終末期医療と薬物療法の質向上を後押ししたいとしている。 参考 1) 末期腎不全患者を緩和ケア対象に 残薬対策も 26年度診療報酬改定(毎日新聞) 2) 緩和ケアの診療報酬 末期の腎不全患者など対象の方針 中医協(NHK) 3.在宅医療にメス 頻回訪問を抑制、報酬体系を大幅見直し/厚労省2月13日に答申された、2026年度診療報酬改定では、在宅医療、とりわけ訪問看護や訪問診療を巡る報酬体系が大きく見直される。焦点となっているのは、高齢者住宅や有料老人ホームに併設された訪問看護ステーションによる「頻回訪問」や、いわゆるホスピス型住宅での過剰請求への対応だ。厚生労働省は、同一建物で多数の入居者に短時間・高頻度で訪問看護を行い、高額な報酬を得ている事例が増えているとして、包括的な評価方式を導入する。ホスピス型住宅では、従来の出来高払いに代えて定額制の包括払いを新設し、1人当たり月80~90万円に上るケースがあった報酬水準は、最大でも45万円程度に抑えられる。出来高払いを選択した場合でも、多人数への頻回訪問では報酬が引き下げられ、20分未満の訪問は算定不可となる。訪問診療についても、必要性の乏しい頻回訪問を抑制する方向が示された。要介護度や重症度の低い患者への月2回以上の訪問は原則とせず、月1回を標準と位置付ける。がんなど重症患者の割合が低い医療機関では、管理料を低い区分に制限する仕組みとし、通院可能な患者は外来対応へ誘導する。24時間往診体制の評価も、自院完結型か他院連携型かで差を設け、実質的な関与が乏しい場合の報酬を抑える。さらに、在宅医療を担う病院・診療所には、災害時の業務継続計画(BCP)の策定が施設基準として義務化される。新規開設は2026年度から、既存施設も2027年5月末までに策定が求められ、地域の訪問看護や介護事業者、行政との連携を前提とする。今回の改定では、在宅医療の「量」から「質」への転換を明確にし、高齢者の囲い込みや過剰な医療提供を抑制する一方で、真に必要な在宅・終末期医療の持続可能性を確保する狙いがある。 参考 1) 「ホスピス型住宅」報酬引き下げ 訪問看護、厚労省6月から(共同通信) 2) 在宅医療「もうけすぎ」にメス 診療報酬見直し、高齢者囲い込み防止(日経新聞) 3) 高齢者住まい等への頻回訪問に包括評価を導入(日経メディカル) 4) 在宅医療巡り病院・診療所にBCP策定義務化へ…厚労省、災害時の地域連携促す(読売新聞) 4.急性期A・B新設で何が変わる? 急性期医療の拠点化と実績重視/厚労省2026年度診療報酬改定では、急性期病院の入院基本料が大きく再編され、急性期医療の拠点化と実績重視の姿勢が鮮明になった。最大の特徴は、新たに創設された「急性期病院一般入院料A・B」である。急性期Aは1日1930点と、従来の急性期一般1より56点高く設定され、地域の基幹病院としての役割を強く評価する。急性期Bは1,643点だが、多職種7対1体制を整え「看護・多職種協働加算2(255点)」を算定すれば1,898点となり、急性期一般1を上回る水準に達する。従来の急性期一般入院料(1~6)も軒並み引き上げられ、とくに急性期一般1は1,874点へと大幅に増点された。結果として点数序列は「急性期A、次いで多職種体制を整えた急性期B、その下に急性期一般1」という構図が明確になった。単なる看護配置だけでなく、多職種協働体制の整備が収益に直結する設計となっている。さらに、総合入院体制加算と急性期充実体制加算を統合した「急性期総合体制加算」が新設された。最上位区分では入院7日以内に530点が上乗せされて、救急・高度医療を担う病院への重点配分が強化される。加えて、物価高への対応として入院でも物価対応料が加算され、2027年以降は原則倍増する見通し。今回の改定は、急性期病院に対し「どの機能を担い、どの水準を目指すのか」という戦略的選択を迫る内容であり、届出の有無が経営に大きな差を生む改定となった。 参考 1) 急性期Aは1,930点、多職種7対1急性期Bは1,898点、急性期1と多職種7対1急性期4は1,874点(Gem Med) 2) 地域包括医療病棟を「3,367-3,066点」の6区分に細分化、ADL低下割合などの基準柔軟化も(同) 3) 2026年度診療報酬改定の詳細が決定 急性期の病院機能を報酬で明確化へ(日経メディカル) 5.ナースコールからランサムウェアが侵入、患者情報1万人流出/日医大武蔵小杉病院日本医科大学武蔵小杉病院(川崎市、372床)は2月13日、ランサムウェアによるサイバー攻撃を受け、患者約1万人分の個人情報が外部に流出したと公表した。流出したのは氏名、性別、住所、電話番号、生年月日、患者IDなどで、病名・病歴や電子カルテ、クレジットカード情報の漏洩は現時点で確認されていない。攻撃者は身代金として1億ドル(約150億円)を要求しているが、病院側は支払いに応じない方針を示している。病院によると、2月9日午前1時50分頃、病棟のナースコール端末が正常に作動しなくなり、システム障害が発覚。調査の結果、ナースコール用サーバーがランサムウェアに感染していたことが判明した。侵入経路は、医療機器保守用に設置されていたVPN装置とみられ、パスワード管理が脆弱だった可能性があるという。11日には攻撃者側とみられるサイト上で、患者情報の一部流出が確認された。診療体制への直接的な影響はなく、外来・入院・救急はいずれも通常通り継続している。ただし、ナースコールは完全復旧に至っておらず、看護師の増員や病室巡回の強化で安全確保を図っている。同院は、厚生労働省や文部科学省に報告し、神奈川県警に被害届を提出。対象患者には個別通知を開始し、相談窓口も設置した。今回の事案は、医療機関における周辺システムやVPN管理の脆弱性が、診療データ以外からも大規模な情報漏洩につながり得ることを示した。医療DXが進む中、電子カルテ以外を含むシステム全体のセキュリティ点検、BCPやインシデント対応体制の再確認が、改めて医療現場に突き付けられている。 参考 1) 当院へのサイバー攻撃による個人情報漏洩に関するご報告とお詫び(第日本医科大学武蔵小杉病院) 2) 患者1万人分の個人情報漏洩 日医大武蔵小杉病院にサイバー攻撃(朝日新聞) 3) 日本医科大武蔵小杉病院にサイバー攻撃 患者約1万人の情報漏洩(日経新聞) 4) またもVPNからランサム被害、日本医科大学武蔵小杉病院で約1万人の情報漏洩(日経クロステック) 6.医療行為が刑事裁判に 赤穂市民病院手術事故、指導体制も争点/神戸地裁兵庫県赤穂市民病院で2020年1月、腰椎手術中に患者の神経を損傷し重い後遺障害を負わせたとして、当時の執刀医の男性(47)が業務上過失傷害罪に問われた事件で、神戸地裁姫路支部は2月9日、初公判を開いた。被告は起訴内容をおおむね認め、「詳細は被告人質問で答える」と述べ、弁護側も「罪が成立することは争わない」とした。医師の医療行為が刑事裁判で審理されるのは異例とされる。起訴状などによると、被告は女性患者(80)の腰椎の一部を切除する手術で、出血が多く患部の視認が困難な状況にもかかわらず十分な止血を行わず、威力の高い医療用ドリルで骨を削る操作を継続。誤って神経(脊髄・馬尾周辺)を切断し、両下肢麻痺など全治不能の後遺障害を負わせたとされる。検察側は、「科長から止血を促されても血を吸引しただけで手技を続けた」と指摘し、「事故は容易に予見できた」と過失の程度を強調した。その一方で、弁護側は「手術は1人で遂行できず、経験の浅い被告だけに責任を負わせるのは相当でない」と主張。証人として出廷した指導医は止血を勧めたが執刀を止めなかった経緯を説明し、「1分1秒でも早く交代していればよかった」と後悔を口にした。この事故を巡っては民事でも、被告と赤穂市に約8,800~8,900万円の賠償を命じた判決が確定している。病院側は医療過誤と認定。被告が着任後約半年で関与した手術で医療事故が複数(後遺障害8件、計11件とも報道)起き、2人が死亡したとされる点も、管理体制を含めた再発防止策が問われている。公判では証拠として手術映像も法廷で取り調べられ、被害者側親族が被害者参加制度で出廷した。今後、被告人質問や求刑・弁論を経て結審する見通しで、量刑判断とともに、指導医の関与や病院の教育・監督体制が争点となる。医療安全と人材育成の両面で、現場に突き付けられた課題は重い。 参考 1) 赤穂市民病院の医療過誤 執刀医の男、起訴内容認める 神戸地裁姫路支部で初公判(神戸新聞) 2) 手術で重い障害残る医療過誤…業務上過失傷害罪の初公判で赤穂市民病院の元医師認める(読売新聞) 3) 市民病院医療事故多発 被告医師「私一人だけ悪いとなるのはおかしい」(赤穂民報)

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第94回 システマティックレビュー? メタアナリシス?【統計のそこが知りたい!】

第94回 システマティックレビュー? メタアナリシス?臨床試験や医学研究を読む際に「システマティックレビュー」と「メタアナリシス」という用語を目にすることがよくあります。しかし、これらの言葉はしばしば同じ意味で使われることが多いものの、本来は異なる意味を持っています。今回は、その違いを正確に説明するとともに、論文を読む際の注意点について解説します。■システマティックレビューとは?システマティックレビューは、「ある特定の研究課題に対する既存のエビデンスをあらかじめ定めた基準にしたがって、体系的かつ包括的に論文を収集、評価する研究」を指します。その主な目的は、研究結果の全体像を把握することで、最後に結果を統合して、効果ありや効果なしとかの結論は出さなくてもシステマティックレビューは成り立ちます。【システマティックレビューの手順】明確な研究課題や目的を設定する。定義された基準に従って、関連するすべての研究を検索する。収集した研究を厳密に評価し、有用性や信頼性を判断する。各研究の結果をまとめ、全体的な総括を提示する。【特徴】定性的(質的)な分析が中心。データの統計的統合を必ずしも含まない。システマティックレビューは、質の高いエビデンスを提供するために不可欠であり、特定の治療や介入の有効性を評価する際に重要な基盤を提供します。■メタアナリシスとは?メタアナリシスは、システマティックレビューの一部または拡張として行われる場合が多く、これは「統計的手法を用いて複数の研究結果を統合し、定量的な結論を導き出すプロセス」です。【メタアナリシスの手順】システマティックレビューによって収集されたデータを使用する。各研究の効果サイズ(例:リスク比や平均差)を計算する。効果サイズを統合して、全体の効果を推定する。【特徴】定量的(数値的)な分析が中心。統合された結果を視覚化するためのフォレストプロット*が一般的。*フォレストプロット同じ問題を扱った多数の科学的研究から得られた推定結果を、全体の結果とともにグラフ化したもの。■論文を読む際の注意点1)研究の質を確認するシステマティックレビューやメタアナリシスの信頼性は、元となる研究の質に依存します。バイアスの有無や研究デザインの適切性を確認します。2)異質性の検定複数の研究を統合するメタアナリシスなどでは,研究間の結果にばらつきがあるかどうかを異質性の検定を用いて確認します。3)結果の解釈に注意メタアナリシスの統合結果が有意であっても、実際の臨床的意義を慎重に判断する必要があります。システマティックレビューとメタアナリシスは、医学研究のエビデンスレベルを評価する上で非常に重要です。ただし、それぞれの役割や特徴を理解し、適切に解釈することが求められます。とくにメタアナリシスの結果を過信せず、研究の質や臨床的意義を考慮することが大切です。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第83回 「中間解析」のメリット、デメリットは第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?第85回 健康寿命はどうやって算出する?

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「ビラノア」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第84回

第84回 「ビラノア」の名称の由来は?販売名ビラノア®錠20mg、ビラノア®OD錠20mg一般名(和名[命名法])ビラスチン(JAN)効能又は効果◯アレルギー性鼻炎◯蕁麻疹◯皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症)に伴うそう痒用法及び用量通常、成人にはビラスチンとして1回20mgを1日1回空腹時に経口投与する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2026年2月16日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2024年7月改訂(第11版)医薬品インタビューフォーム「ビラノア®錠20mg/ビラノア®OD錠20mg」

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タンジール病〔Tangier disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義タンジール病は、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白(アポ)A-I濃度が著しく低下し、オレンジ色の咽頭扁桃腫大、肝脾腫、角膜混濁、末梢神経障害などの種々の臓器にコレステロールエステルが蓄積することに伴う臨床症状を特徴とする常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。なお、血清脂質値は常染色体共優性遺伝。1961年に米国バージニア州タンジール島の5歳の少年から摘出されたオレンジ色の異常扁桃の病理所見で、多数の泡沫細胞が存在し、この少年と姉の血清HDL-Cが極端な低値を示すことが、Fredricksonらによって報告され「タンジール病」と命名された1)。アポA-Iによる細胞からのコレステロール引き抜きに関与するATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)の遺伝子異常に起因する極めてまれな疾患で、早発性冠動脈疾患を来すため早期診断が重要である。■ 疫学極めてまれな難病で、世界全体でこれまで約130例程度しか報告がなく2)、有病率はおよそ100万分の1と推定されている。わが国でも報告例は十数家系程度であるが、未診断例も存在する可能性がある。HDL-C値の下位1%未満の集団の10%にABCA1変異が同定されている。■ 病因ABCA1遺伝子は染色体9q31に位置し、その機能喪失型変異によりタンジール病が生じる3)。ABCA1は細胞膜上のコレステロール輸送体で、血中の遊離アポA-IがABCA1に結合し、ABCA1は細胞内から余剰のコレステロールとリン脂質を細胞外へ排出し、アポA-Iに受け渡し、原始HDLである円盤状のpreβ-HDL粒子を形成する役割を担う。本症では、ABCA1の機能喪失によりpreβ-HDL粒子が形成されず、HDL産生が著しく低下する。また、細胞内からのコレステロール搬出が障害された結果、コレステロールエステルが網内系、皮膚、粘膜、末梢神経のシュワン細胞などの細胞内に異常蓄積し、多臓器で泡沫細胞が出現して機能障害や細胞死を引き起こす。骨髄、肝、脾、リンパ節、皮膚、大腸粘膜、平滑筋などに泡沫細胞が認められ、その結果種々の症状を来す。■ 症状1)臓器腫大と機能障害コレステロールエステルの異常沈着は全身の網内系臓器や粘膜に及ぶため、多彩な臓器腫大・障害が生じる。主な所見は以下のとおりである。(1)オレンジ色扁桃腫大:扁桃は分葉・腫大し、明らかなオレンジ色または黄~灰色の表面を持つ。再発性扁桃炎や扁桃摘出の病歴がしばしば認められる(図1)。(2)肝脾腫:肝腫大は約3分の1に認めるが、肝機能障害は通常軽微である。脾腫は約半数で認められ、軽度の血小板低下症と網状赤血球増加を伴う。脾臓・肝臓への脂質沈着により腹部膨満や肝脾腫が身体診察で認められる。(3)その他臓器へのコレステロールエステル蓄積:リンパ節、胸腺、腸管粘膜、皮膚などで、組織学的には泡沫細胞浸潤として確認される。大腸粘膜沈着に起因する難治性の慢性下痢を呈したまれな症例もある。(4)眼病変:角膜へのコレステロール沈着により角膜混濁(角膜の乳白色の濁り)を来す。多くは軽度で視力障害は生じないが、進行すると視力低下を来す可能性がある。網膜にも色素変性様所見(斑点状の色素沈着)が報告されている。(5)血液・骨髄:血中HDL欠損に伴い赤血球形態異常(棘状赤血球や口裂赤血球など)が報告されており、軽度の溶血性貧血を伴う例もある。骨髄生検では泡沫化マクロファージの貯留像を認める。図1 タンジール病患者のオレンジ色扁桃A:舌扁桃 B:咽頭扁桃(文献2より引用)画像を拡大する2)末梢神経障害軽度から重症までさまざまな末梢神経障害が報告されている。知覚障害、運動障害または混合障害が、一過性または持続性に出現する。小児~若年期から発症し、シュワン細胞内へのコレステロール沈着により髄鞘脱落を起こし、多彩な神経症候を呈する。深部知覚や腱反射の低下はまれで、脳神経を含む末梢神経の再発性非対称性障害や下肢に強い対称性の末梢神経障害や脊髄空洞症様の末梢神経障害として出現する。3)早発性の動脈硬化性疾患タンジール病(ABCA1遺伝子変異ホモ接合体)中の20%で狭心症・心筋梗塞などの動脈硬化性心血管病変の症状が認められる。さらに35~65歳の本症患者では約44%と対照群(男性6.5%、女性3.2%)と比較すると著しく高頻度である。ただ、ABCA1のミスセンス変異の機能障害の違いにより、動脈硬化の程度は個々の症例により異なる。したがって、各患者での動脈硬化のリスク評価と画像診断が必要である。血管内超音波法(IVUS:intravascular ultrasound)による冠動脈の観察で、強度のびまん性の石灰化病変を認めた報告4)や、全身性の重症の動脈硬化病変を合併した症例の報告2)がある。4)耐糖能異常・2型糖尿病膵β細胞におけるABCA1欠損はインスリン分泌障害を引き起こすことが示されており、本症の患者で耐糖能異常や2型糖尿病を合併しやすい一因と考えられる。ABCA1欠損により、膵島(とくにβ細胞)へのコレステロール蓄積によるインスリン初期分泌能低下が機序と考えられる5)。耐糖能異常や2型糖尿病の管理は心血管リスク低減のためにも重要である。■ 予後タンジール病そのものは先天的代謝異常であり、生涯にわたりHDL欠損状態が続くため、長期療養と経過観察が必要である。適切な管理により小児~成人期まで比較的良好に経過する症例もあるが、若年~中年期での冠動脈疾患発症や脳卒中により生命予後が短縮するケースもある。予後改善には動脈硬化性合併症の予防と早期介入が最も重要であり、患者のQOL維持のためには症状コントロールと包括的なリスク管理を続ける必要がある。とくに、狭心症、心筋梗塞などの早発性冠動脈疾患の発症に留意し、定期的な動脈硬化性疾患のチェックが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査血液検査で脾機能亢進による血小板減少症(巨大血小板性血小板低下症)や溶血性貧血(間接ビリルビンや網状赤血球増加)が見られることがある。空腹時血糖上昇、経口糖負荷試験(OGTT)で耐糖能異常やインスリン初期分泌能の指標であるinsulinogenic index を評価し、インスリン初期分泌低下が認められることがある。■ 特殊検査1)脂質検査タンジール病(変異ABCA1遺伝子ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)患者では、血中HDL-Cは通常5mg/dL以下(同定された症例の平均3±3mg/dL)と正常の約6%に低下しており、アポA-I値も10mg/dL以下に低下する。LDLコレステロール(LDL-C)も平均正常値の約37%に低下している。これはABCA1欠損により末梢から肝へのコレステロール逆転送が低下し、肝細胞のコレステロール不足からLDL受容体発現が亢進してLDL-Cが低下するためと考えられる。軽度の高TG血症を認めることが多く、TGに富むレムナントリポ蛋白の増加を認める。近年の研究で、ABCA1欠損が肝臓由来のangiopoietin-like protein 3(ANGPTL3)の分泌増加を招き、これが本症患者でみられる高TG血症に関与する可能性が報告されている。一方、変異ABCA1遺伝子ヘテロ接合体(キャリア)では血中HDL-CおよびアポA-I値は正常者の約50%程度に低下する。2)眼科検査コレステロール蓄積による角膜混濁を認めることがあり、眼科で角膜検査が必須である。3)耳鼻科検査本症に特徴的なオレンジ色の扁桃腫大を認めることがあり、耳鼻科での目視検査が必要となる。幼少~青年期に扁桃の著明な腫大と黄色~橙色調への変色がしばしば最初の兆候として現れる。扁桃は分葉状に肥大し、独特のオレンジ~黄灰色を呈するため「オレンジ色扁桃」と呼ばれる。小児期に反復する扁桃炎や扁桃摘出術の既往を有する患者も少なくない。4)画像・生検所見腹部超音波検査で肝脾腫を検査する。オレンジ色扁桃や肝脾腫、角膜混濁などの身体所見から本症を疑った場合、組織生検で泡沫細胞沈着を確認する。とくに直腸粘膜生検は侵襲が比較的低く有用とされ、粘膜固有層にコレステロールエステルを蓄積して泡沫化したマクロファージの集積像が認められれば支持所見となる。同様の所見は骨髄、生検可能な皮膚、肝・脾、生検可能なリンパ節などでも検出される。5)神経内科的検査末梢神経障害精査のため神経伝導速度や筋電図検査で神経障害の分布・程度を評価する。6)早発性動脈硬化性疾患の有無の評価早発性動脈硬化性疾患の有無の精査のため、運動負荷心電図、経胸壁心臓超音波検査、頸動脈エコーや冠動脈CTスキャン検査などで、動脈硬化病変のスクリーニングを行う。無症状でも思春期以降は定期的に心血管評価を実施し、動脈硬化性疾患の発症防止と早期発見に努める。家族内発症が疑われる場合は保因者(ヘテロ接合体)に対する脂質検査によるスクリーニングも重要である。■ 確定診断遺伝子診断でABCA1(ATP-binding cassette transporter A1)遺伝子変異(ホモ接合または複合ヘテロ接合体)を認める。常染色体優性遺伝でHDL-Cが著減するfamilial HDL deficiency(ABCA1遺伝子変異のヘテロ接合体やアポA-I遺伝子変異で起こり、早発冠動脈疾患を合併し、タンジール病のような全身性のコレステロール沈着[オレンジ扁桃・肝脾腫・神経障害]は伴わない)との鑑別が必要である。以下に、厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」による本症の診断基準を示す。難病情報センターのホームページ「タンジール病」より引用した(2026年1月20日)。最新の情報については、当該ホームページまたは厚生労働省「原発性脂質異常症に関する調査研究班」のホームページで確認いただきたい。【タンジール病の診断基準】Definite、Probableを対象とする。A.必須項目1)血清HDLコレステロールが25mg/dL未満2)血中アポA-I濃度20mg/dL未満B.症状1.オレンジ色の特徴的な扁桃腫大2.肝腫大または脾腫3.角膜混濁4.末梢神経障害5.動脈硬化性心血管病変C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、アポリポタンパクA-I欠損症、二次性低HDLコレステロール血症*1*1:外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む)HDL-C<25mg/dLの場合、低HDL-C血症の診断フローチャート(図2)6)に従って、二次性低HDL血症を除外し、他の原発性低HDL血症である、古典的LCAT欠損症、魚眼病、アポA-I欠損症を鑑別して診断する(表)6)。遊離コレステロールは増加しておらず、アポA-Iが20mg/dL未満であるが検出限界以下ではない場合、タンジール病が強く疑われる。D.遺伝子検査ABCA1遺伝子変異の同定。ABCA1遺伝子解析が2021年4月に保険収載されている。<診断のカテゴリー>Definite必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。Probable必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。図2 遺伝性HDL欠損症の診断フローチャート(文献6より引用)表 遺伝性HDL欠損症の臨床所見の比較(文献6より引用)画像を拡大する3 治療HDL-C低値そのものを直接是正する薬剤は存在しない。また、現在のところ、遺伝子治療によるABCA1の補充などの根本的な治療はなく、臨床で利用可能な特異的治療薬は存在しない。過去にナイアシン(ニコチン酸)薬やフィブラート系薬がHDL-C上昇の目的で試みられたが、タンジール病ではABCA1欠損が根本原因のため薬物でのHDL-C正常化は困難であり、有効性を支持する明確なエビデンスはない。粥状動脈硬化性疾患の著しい増加が問題となるので、心血管リスクを下げる目的でHDL-Cを可能な範囲で増加させるための生活習慣の改善が推奨される。具体的には、有酸素運動、適正体重の維持、禁煙に加え、食事では飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える(地中海食的なアプローチ)ことなどが推奨される。これらによりHDL-Cが僅かに上昇し得るほか、末梢神経症状の改善が報告されている。高TG血症を伴う場合にはフィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーターのペマフィブラート(商品名:パルモディア)や魚油製剤の使用を検討する。本症の血清LDL-C値は一般に低いが、もしそうでない場合はスタチンあるいはそのほかの薬でLDL-C値を低下させる。治療目標は症状軽減と動脈硬化危険因子の管理に置かれ、高血圧があれば厳格な降圧、喫煙者には禁煙指導を行い、すべての心血管リスク因子を包括的に管理する。血糖コントロールのための食事・運動療法(必要に応じ経口血糖降下薬やインスリンなど)も糖尿病合併例では重要となる。さらに、合併する早発性動脈硬化性疾患の早期発見と治療も行う。一方、タンジール病に伴う各臓器・組織の症状には、必要に応じて対症的・外科的介入を行う場合がある。扁桃肥大による呼吸・嚥下障害や反復炎症がある場合、扁桃摘出術を検討する。オレンジ色扁桃そのものは病的ではないが、大きさにより気道狭窄や感染温床となる場合がある。角膜混濁が進行し、視力障害を来した場合には角膜移植が考慮されるが、タンジール病の角膜混濁は軽度で視機能に問題はない例が多く、定期フォローに留めることもある。末梢神経障害に対してはリハビリテーションと支持療法を行う。筋力低下や足下垂に対しては装具装着(足関節装具など)や理学療法による歩行補助を行う。痛みやしびれが強い場合は、プレガバリンやデュロキセチンといった神経障害性疼痛の薬物療法を用いることもあるが、エビデンスは症例報告レベルである。なお、本症は2015年から「指定難病 261」として、医療費給付の対象となっている。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)将来的な治療法として遺伝子治療が期待されている。たとえば、肝臓におけるABCA1発現をウイルスベクターなどで補充し、HDL産生を回復させる試みが提案されている。ただし、HDL代謝は全身の細胞で営まれるため、肝細胞への遺伝子導入だけでどこまで臨床効果が得られるかは不明である。また、アポA-Iや合成HDLの補充療法、肝X受容体(LXR)作動薬による残存ABCA1の発現誘導なども理論上考えられるが、いずれも現時点では成功していない。総じて現時点では対症療法と合併症予防が中心であり、新規治療法の実現には今後の研究の進歩が必要である。5 主たる診療科(紹介すべき診療科) 患者の予後は主に動脈硬化性疾患の発症に左右されるため、長期的には主に循環器内科で心血管イベント予防に重点を置きつつ、管理を行う。神経障害やその他臓器合併症への対策を継続するために多職種チーム医療が重要であり、循環器内科医、脳神経内科医、眼科医、消化器科医、遺伝カウンセラーなどが連携して患者を包括的にケアする。また、定期フォローアップでは以下の点に留意する。1)早発性動脈硬化性疾患のモニタリング若年期より定期的な循環器内科的評価を行う。具体的には詳細な問診・診察に加え、必要に応じて心電図や心エコー、運動負荷試験、頸動脈エコー、冠動脈CTなどで無症候性の動脈硬化病変のスクリーニングを行う。血清脂質、血糖、血圧、喫煙の有無のチェックも継続し、LDL-C、TGや血圧が管理目標を逸脱していれば治療を行う。2)末梢神経障害の管理神経症状は進行したり寛解したりするため、脳神経内科医による神経学的評価を定期的に行い、筋力低下や感覚障害の変化をモニタリングする。必要に応じてリハビリ計画を見直し、装具の調整や痛みのコントロールを図る。重度の神経障害に対しては日常生活動作のサポート(理学療法士・作業療法士の介入、補助具導入など)も検討する。3)眼合併症の管理眼科検査を定期施行し、角膜混濁の進展や視力変化を評価する。角膜混濁による視力障害が生じれば眼科的介入のタイミングを検討する。4)脾腫・感染症対策脾摘を施行した場合は感染症予防を徹底する。脾腫を温存している場合も、脾臓破裂を防ぐため、激しいスポーツ時のプロテクター装着や事故防止策について指導する。5)家族検査とカウンセリング患者の血縁者に対しては遺伝カウンセリングを提供し、希望があれば保因者検査(ABCA1遺伝子検査や脂質検査)を実施する。ヘテロ接合体では動脈硬化リスクがやや高い可能性もあるため、生活習慣指導を行う。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター タンジール病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版 「低脂血症の診断と治療」 日本動脈硬化学会(2023年6月30日発行)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学医学部附属病院循環器内科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)りんくう総合医療センター循環器内科  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Fredrickson DS, et al. Ann Intern Med. 1961;55:1016-1031. 2) Muratsu J, et al. J Atheroscler Thromb. 2018;25:1076-1085. 3) Brooks-Wilson A, et al. Nat Genet. 1999;22:336-345. 4) Komuro R, et al. Circulation. 2000;101:2446-2448. 5) Koseki M, et al. J Atheroscler Thromb. 2009;16:292-296. 6) 日本動脈硬化学会(編). 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版. 低脂血症の診断と治療. 日本動脈硬化学会. 2023. 公開履歴初回2026年2月16日

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医学英語で「歩行異常」はどう言う?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第50回

医学用語紹介:歩行異常 abnormal gait今回は「歩行異常」について説明します。医療現場ではabnormal gaitやgait abnormalityがよく使われますが、患者さんとの会話ではどのような一般的な英語表現を使えばよいでしょうか?講師紹介

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認知症の修正可能な14因子、日本人で影響が大きいのは?

 Lancet委員会では、2017年より認知症の修正可能なリスク因子に関する研究結果を報告しており、最新の研究結果は2024年に公開されている。そこでは、修正可能なリスク因子として14因子が挙げられ、難聴と高LDLコレステロール(LDL-C)が最も影響の大きな因子とされた1)。では、これらの因子の日本人における影響はどうだろうか。その疑問に答える研究結果が、和佐野 浩一郎氏(東海大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授)らによって、The Lancet Regional Health – Western Pacific誌2026年1月号で報告された。本研究では、日本人は難聴が最も影響が大きく、14因子を合計すると最大で38.9%(グローバル研究は45%)が理論上予防可能であることが示された。 研究グループは2024年のLancet委員会の報告に基づき、14の修正可能なリスク因子(教育歴の低さ、難聴、高LDL-C、うつ、外傷性脳損傷、身体不活動、糖尿病、喫煙、高血圧、肥満、過度の飲酒、社会的孤立、大気汚染、未治療の視力低下)を調査対象とした。日本の国民健康・栄養調査や大規模コホート研究などのデータを用いて、各リスク因子の日本国内での該当割合を推定し、集団寄与危険割合(PAF)※1 および潜在的影響割合(PIF)※2 を算出した。これにより、本邦における認知症予防の潜在的規模を定量的に評価した。※1:あるリスク因子が存在しなかったと仮定した場合に、どれだけの割合で疾患発生が予防できた可能性があるかを示す指標※2:あるリスク因子を一定割合減らしたと仮定した場合に、どれだけの割合で疾患発生が減少する可能性があるかを示す指標 主な結果は以下のとおり。・全14因子を考慮した場合、認知症の38.9%が理論上予防可能であると推計された。影響が大きい因子(PAFが大きい因子)は、難聴、身体不活動、高LDL-Cであった。詳細は以下のとおり(括弧内はグローバル研究の数値を示す)。<早期(early life)>教育歴の低さ:1.5%(5%)<中年期(midlife)>難聴:6.7%(7%)身体不活動:6.0%(2%)高LDL-C:4.5%(7%)糖尿病:3.0%(2%)高血圧:2.9%(2%)うつ:2.6%(3%)喫煙:2.2%(2%)過度の飲酒:1.3%(1%)外傷性脳損傷:0.8%(3%)肥満:0.7%(1%)<老年期(late life)>社会的孤立:3.5%(5%)大気汚染:2.5%(3%)未治療の視力低下:0.6%(2%)・PIFについて、危険因子を一律に10%低減させた場合は4.7%(約20.8万人)の認知症が予防され、20%低減の場合は9.2%(約40.8万人)予防されると推計された。 本研究結果について、著者らは「日本における認知症予防戦略として、とくに聴覚ケア、身体活動の促進、代謝関連疾患の管理を優先すべきであることを示唆している。2024年に施行された認知症基本法や今後の認知症施策の具体化に向けて、これらの知見が科学的根拠として活用されることが期待される」とまとめている。

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未治療・再発肺MAC症、吸入アミカシン上乗せの有用性は?(ARISE)

 肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)のうち、Mycobacterium avium complex(MAC)を原因菌とするものが肺MAC症である。肺MAC症に対し、国際的なガイドラインではマクロライド系抗菌薬、エタンブトール、リファンピシンによる3剤併用療法が推奨されている1)。また、本邦の指針である『成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解―2023年改訂―』でも、空洞がなく重度の気管支拡張所見がない場合は、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン)、エタンブトール、リファンピシンの併用が標準治療とされている2)。ただし、この3剤併用療法には忍容性や治療成功率に課題も存在する。 そのような背景から、肺MAC症に対する新規治療薬としてアミカシンリポソーム吸入懸濁液(ALIS、商品名:アリケイス)が承認されているが、適応は「多剤併用療法による前治療において効果不十分な患者」に限定されている。そこで、米国・National Jewish HealthのCharles L. Daley氏らは、未治療または再発の非空洞性肺MAC症患者を対象に、アジスロマイシン+エタンブトールへALISを上乗せする治療の有用性を検討する国際共同第III相試験「ARISE試験」を実施した。その結果、ALIS併用群は対照群と比較して、6ヵ月時点および治療終了1ヵ月後の7ヵ月時点における排菌陰性化率が数値的に高く、より早期に排菌陰性化を達成することが示唆された。本研究結果は、Annals of the American Thoracic Society誌オンライン版2026年1月23日号で報告された。試験デザイン:国際共同無作為化二重盲検第III相試験対象:未治療または再発の非空洞性肺MAC症の成人患者99例試験群(ALIS群):アジスロマイシン(250mg/日)+エタンブトール(15mg/kg/日)+ALIS(590mg/日)を6ヵ月 48例対照群:アジスロマイシン(250mg/日)+エタンブトール(15mg/kg/日)+吸入プラセボを6ヵ月 51例評価項目:[主要評価項目]患者報告アウトカム(PRO)ツールの妥当性検証[副次評価項目]排菌陰性化率、安全性など 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は69歳で、女性の割合は77.8%、白人の割合は80.8%であった。・6ヵ月時点の排菌陰性化率(5ヵ月・6ヵ月時点の連続で陰性)は、ALIS群80.6%、対照群63.9%であった(群間差16.7%、95%信頼区間[CI]:-1.4~34.9、p=0.0712)。・治療終了1ヵ月後の7ヵ月時点における排菌陰性化率(6ヵ月・7ヵ月時点の連続で陰性)は、ALIS群78.8%、対照群47.1%であり、ALIS群が高かった(群間差31.7%、95%CI:12.9~50.5、p=0.0010)。・排菌陰性化達成までの期間中央値は、ALIS群1.0ヵ月に対し、対照群では2.0ヵ月であった。・排菌陰性化を達成した患者のうち、7ヵ月時点までに再発が確認された割合は、ALIS群12.8%(5例)に対し、対照群では50.0%(20例)と対照群が高かった。・PRO評価(QOL-B RDスコア)において、ALIS群では7ヵ月時点まで継続的な改善傾向がみられた一方、対照群では3ヵ月以降に改善が頭打ちとなり、その後低下した。・安全性について、有害事象はALIS群91.7%、対照群80.4%に発現した。ALIS群で多くみられた有害事象は、発声障害(41.7%)、下痢(27.1%)、咳嗽(27.1%)などであり、新たな安全性シグナルは認められなかった。 本研究結果について、著者らは「本試験は6ヵ月間という短期間の検討であり、ガイドライン推奨の治療期間を反映していないものの、早期介入における吸入アミカシンの有用性を示す重要なデータである」と述べている。現在、同様の集団を対象とした12ヵ月間の長期投与による検証試験「ENCORE試験」が進行中である。

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食事からの重金属摂取は2型糖尿病の発症因子か/国立環境研

 糖尿病の発症には、遺伝、環境、生活習慣因子などさまざまな原因がある。とくに食生活において海産物を多く摂取する日本人は、魚介類からごく微量の重金属も摂取している可能性がある。こうした重金属の摂取が、2型糖尿病の発症のリスク因子となるのであろうか。このテーマに関し、国立健康危機管理研究機構 臨床研究センター 疫学・予防研究部の伊東 葵氏らの研究グループは、健康診断の血液サンプルを用いて、水銀、鉛などと2型糖尿病発症との関連性を検討した。その結果、血清水銀濃度が高いほど2型糖尿病のオッズ比が高いことが判明した。この結果は、Clinical Nutrition誌2026年2月号に掲載された。水銀が2型糖尿病発症のリスク因子になる可能性 研究グループは、血清中の水銀、鉛、カドミウム、ヒ素と2型糖尿病発症との関連性を明らかにすることを目的に、2008~09年に人間ドックを受けた日本人勤労者4,754例を対象としたネステッドケースコントロール研究を行った。研究では、カドミウム、鉛、水銀、ヒ素濃度を誘導結合プラズマ質量分析法で測定した。2型糖尿病の発症は、5年間の追跡期間中に血漿グルコースやHbA1cが基準を満たした場合、または自己申告により判断した。発生密度法を用い、各症例に対し年齢、性別、ドック受診時期を基準に2例の対照群を無作為にマッチングした結果、2型糖尿病を発症した325例と対照群611例が得られた。その後、条件付きロジスティック回帰モデルを用いて、各重金属濃度の四分位群ごとに2型糖尿病のオッズ比と95%信頼区間を推定した。 主な結果は以下のとおり。・職業区分、交代勤務、喫煙、飲酒、余暇の身体活動、糖尿病家族歴、BMI、高血圧、および血清中長鎖ω3脂肪酸、ビタミンD、マグネシウム、セレン、鉛、カドミウム、ヒ素濃度を調整後も、血清水銀濃度が高いほど2型糖尿病のオッズ比は高かった。・血清水銀濃度の最低から最高四分位におけるオッズ比(95%信頼区間)は、それぞれ1(基準値)、1.15(0.70~1.90)、 1.41(0.85~2.36)、1.98(1.13~3.47)だった(P=0.01)。・カドミウム、鉛、ヒ素と2型糖尿病発症との間に関連は認められなかった。 なお、研究グループは、「血中水銀濃度が食事からの摂取量を直接反映するものではなく、水銀曝露あるいは魚摂取と2型糖尿病との関連についてはさらなる研究が必要」と述べている。

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重症円形脱毛症、別のJAK阻害薬への切り替えが約半数の患者で有効

 JAK阻害薬は円形脱毛症治療に大きな変化をもたらしたが、すべての患者が初期治療に反応するわけではなく、治療抵抗性の円形脱毛症におけるJAK阻害薬の切り替えの有用性は、十分に研究されていない。米国・Lahey Hospital & Medical CenterのAubrey Martin氏らによる多施設共同後ろ向き研究の結果、約半数の患者で2剤目のJAK阻害薬により重症度が改善した。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2026年1月30日号の報告。 本多施設共同後ろ向き研究では、6ヵ月間以上の治療期間を経て経口JAK阻害薬の切り替えを行った重症円形脱毛症患者108例を対象として解析を実施。治療反応性はSeverity of Alopecia Tool(SALT)を用いて評価した。2剤目のJAK阻害薬に対する効果予測因子を特定するために、多変量ロジスティック回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・48.8%の患者が2剤目のJAK阻害薬によりSALTスコア20以下を達成し、32.6%がSALTスコア10以下を達成した。・3剤目のJAK阻害薬を投与された患者24例のうち、52.4%がSALTスコア20以下を達成し、38.1%がSALTスコア10以下を達成した。・1剤目のJAK阻害薬に反応を示した患者は、2剤目にも反応する可能性が高かった(オッズ比:3.33、95%信頼区間:1.22~9.68、p=0.022)。・有害事象は軽度であり、過去の報告と一致していた。 著者らは、「JAK阻害薬間の切り替えは、重症円形脱毛症患者、とくに先行するJAK阻害薬に反応を示した患者にとって、有用な戦略であると考えられる」とし、「前治療への反応性は、治療シークエンスを決定する際の一助となる可能性がある」とまとめている。

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国内初の萎縮型AMD治療薬「アイザベイ」、地図状萎縮拡大の進行を抑制/アステラス

 アステラス製薬は萎縮型加齢黄斑変性(萎縮型AMD)に対する国内初の治療薬として2025年11月に発売された、アバシンカプタド ペゴルナトリウム(商品名:アイザベイ)の発売プレスセミナーを2026年1月29日に開催した。堀 聡志氏(アステラス製薬 メディカルアフェアーズジャパンヘッド)が眼科領域の事業戦略を紹介し、続いて門之園 一明氏(横浜市立大学 大学院医学研究科 視覚再生外科学 主任教授)が「地図状萎縮を伴う萎縮型加齢黄斑変性の病態と治療」をテーマに講演した。患者QOLを長期に損なう地図状萎縮、早期介入・早期診断が鍵 萎縮型AMDは、網膜の中心部である黄斑の組織が加齢に伴い地図状に萎縮し、不可逆的な視力低下を来す慢性疾患である。国内の患者数は約10万例と推定され1,2)、適切なタイミングで治療を受けない場合、患者の66%が失明または重度の視覚障害に至る可能性があるとされる3,4)。AMDは、2040年にはアジアでの症例数が世界最多になると推計されている5)。 地図状萎縮(GA)は萎縮型AMDの必須所見であり、光干渉断層計(OCT)や眼底自発蛍光(FAF)で確定診断を行う。米国のAREDS(加齢性眼疾患研究)コホートの検討では、GAと診断されてから約2.5年(中央値)で中心窩へ進行したと報告されている6)。門之園氏は、GAが進行性で視機能に重大な影響を及ぼす点に触れ、萎縮拡大と共に視界の中心がぼやける、ゆがむ、黒く見えるなどの症状が現れ、家事やスマートフォンの操作、運転など日常生活が難しくなると述べた。症状を早期に捉えて介入時期を逃さないことが臨床上の鍵になるという。 これまで萎縮型AMDに対しては禁煙や食生活改善などの生活指導が中心で、治療選択肢が乏しかった。こうした背景の下、登場したのが「アイザベイ」である。海外第III相GATHER 2試験で主要評価項目を達成 アイザベイは、萎縮型AMDにおけるGAの進行を抑制する日本初の硝子体内注射液である。補体因子C5を標的とし、補体系の活性化による炎症や細胞傷害作用などを抑えることでGAの進行を遅らせ、視機能障害の進行抑制に寄与することが期待される。用法・用量は、初回から12ヵ月までは1ヵ月に1回硝子体内投与し、以降は2ヵ月に1回硝子体内投与する。 海外第III相GATHER 2試験では、GAを伴う萎縮型AMDの外国人患者448例を対象に、アイザベイ2mgまたはシャムを1年目は毎月、2年目以降は隔月で投与した。主要評価項目である12ヵ月時点のGA面積(平方根変換)の平均成長速度はアイザベイ群で0.336mm/年、シャム群で0.392mm/年で、統計学的に有意に減少した(p=0.0064)。一方、最高矯正視力スコアのベースラインからの変化量は、12ヵ月および24ヵ月のいずれの時点でも両群で明らかな差は認められなかった7,8)。 安全性について、24ヵ月時点までに治験薬との関連性がある有害事象はアイザベイ群で225例中7例(3.1%)、シャム群で222例中2例(0.9%)に認められ、そのうち重篤な有害事象としてアイザベイ群で脈絡膜血管新生が1例認められ、投与中止に至った有害事象は認められなかった。24ヵ月時点までに投与手技との関連性がある有害事象はアイザベイ群で84例(37.3%)、シャム群で47例(21.2%)に認められ、そのうち重篤な有害事象としてアイザベイ群で眼内炎が1例、投与中止に至った有害事象としてアイザベイ群で硝子体剥離、眼圧上昇各1例が認められた。全体を通して、本試験の24ヵ月時点までに死亡に至った有害事象は認められなかった9)。 門之園氏は、硝子体内注射に伴う事象に加え、眼圧上昇や脈絡膜血管新生には注意が必要だと述べた。とくに脈絡膜血管新生が生じた場合の対応としては、「状況に応じて抗VEGF薬との併用もありうる」とした。実臨床でのポイント――効果判定は6ヵ月目安、治療は長期継続へ 門之園氏は、「アイザベイはあくまで萎縮面積の拡大を抑制する治療薬であり、すでに失われた視力や視野を回復する効果はない」としたうえで、治療に早く着手すればするほど効果が期待できる可能性を示唆し、新たな治療選択肢としての意義を示した。 また、毎月の投与時に所見は確認するものの、GAの変化は1mm単位で評価されるため効果判定は1ヵ月単位では難しく「6ヵ月程度が現実的」との見解を示した。治療継続については、進行抑制という薬効の性質上、基本的に長期にわたる治療となる見立てである。未治療のまま進行した症例背景としては、患者本人の受診忌避だけでなく、医療機関へのアクセスが悪い地域性や、退職後に定期健診の機会が減ること、運転習慣の有無といった「気付き」の機会格差も影響しうると述べ、早期受診の重要性をあらためて強調した。 堀氏は、GAを「これまで満たされてこなかったアンメットニーズ」と位置付け、治療薬がなかったこともあり疾患啓発や診断の意義付け自体が課題だったと説明した。今後は学会などと連携しGAの認知度を高め、早期介入・早期診断につなげたい考えを示した。新たな選択肢の登場を契機に、疾患理解と受診行動のギャップをどう埋めるかが、今後の普及の焦点になりそうだ。参考文献・参考サイトはこちら1)Cheung CMG, et al. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2025;263:2081-2099.2)WHO. Japan Data. Available at:https://data.who.int/countries/392.(2026年2月閲覧)3)Keenan TDL, et al. Adv Exp Med Biol. 2021;1256:1-31.4)Colijn JM, et al. JAMA Ophthalmol. 2021;139:743-750.5)Wong WL, et al. Lancet Glob Health. 2014;2:e106-e116.6)Lindblad AS, et al. Arch Ophthalmol. 2009;127:1168-1174.7)Khanani AM, et al. Lancet. 2023;402:1449-1458. 8)Khanani AM, et al. Ophthalmology. 2025:S0161-6420(25)00790-0.9)アステラス製薬株式会社, アイザベイ 適正使用ガイド. 2025:53-60.

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6種類のSSRIの安全性プロファイル比較

 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、現在のうつ病の薬物治療において中心的な薬剤であるが、実臨床における安全性プロファイルの比較に関しては、依然として情報が不足している。エビデンス不足は、臨床の意思決定や患者アウトカムに深刻な影響を及ぼす。中国・Bayer PharmaceuticalsのAdrian Chin Yan Chan氏らは、主要な6つのSSRIに関する安全性を分析するため、グローバルファーマコビジランス分析を実施した。Cureus誌2025年12月8日号の報告。 WHOの個別症例安全性報告データベースであるVigiBaseを用いて、主要な6つのSSRI(セルトラリン、fluoxetine、パロキセチン、citalopram、エスシタロプラム、フルボキサミン)に関する34万2,000件超の報告を含む包括的なファーマコビジランス分析を実施した。臨床的に関連する7つの安全性ドメイン(抗コリン作用、性機能障害、代謝作用、錐体外路症状、睡眠障害、離脱症候群、心伝導異常)について、情報成分(IC)値を用いた不均衡解析を実施した。 主な内容は以下のとおり。・各SSRI間で安全性プロファイルに有意な異質性が認められた。また、薬力学的特性と有害事象パターンの間には明らかな相関が認められた。・パロキセチンは、抗コリン作用、性機能障害、体重増加、離脱症候群の発生率が最も高かった。これは、ムスカリン性M1受容体への高い結合親和性(Ki:108nM)と相関していた。・citalopramは、心伝導異常の増加を示した。・fluoxetineは、錐体外路症状の増加を示した。・SSRIの半減期と離脱症候群の報告数との間に強い逆相関が認められた。 著者らは「本解析により、SSRIはそれぞれ異なる安全性プロファイルを示しており、それが薬力学的特性と相関していることが明らかとなった。この結果は、同クラスのSSRIを均質な治療薬群としてみなす従来の考え方に疑問を投げかけるものであった。これらの知見は、個々の患者のリスク因子に基づいた精密な処方アプローチを支持するものであり、エビデンスに基づいたSSRI選択のためのメカニズムに関する知見となりうる」と結論付けている。

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非糖尿病PADへのメトホルミン、歩行能力を改善せず/JAMA

 非糖尿病の末梢動脈疾患(非糖尿病PAD)患者において、メトホルミンの投与はプラセボと比較して、追跡6ヵ月時点の6分間歩行距離に関する評価において改善は認められなかったことが、米国・ノースウェスタン大学のMary M. McDermott氏らが行った無作為化二重盲検試験「PERMET試験」の結果で示された。PAD患者の歩行能力を改善する効果が示されている治療法はほとんどない。メトホルミンは、入手がしやすく安価な2型糖尿病の治療薬だが、AMP活性化プロテインキナーゼの活性化、酸化ストレスの軽減、血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性化など多面的な作用を有することで知られている。著者は、「今回示された結果は、メトホルミンはPAD患者の歩行能力を改善しないことを裏付けるものであった」とまとめている。JAMA誌2026年2月3日号掲載の報告。6分間歩行距離の6ヵ月間の変化量を対プラセボで評価 PERMET試験は、米国4施設で被験者を募り実施され、2017年5月23日に登録を開始し、2025年2月17日に終了した。最終追跡調査は2025年8月19日。 被験者は、50歳以上のPAD患者(包含基準:ABIが両足とも0.90以下など。除外基準:GFR≦45のCKD、糖尿病など)であった。 資金の制限により、登録された被験者は202例(目標212例の95%)であった。 被験者は、メトホルミン群(1錠[500mg]を1日2回で開始、2週間後から2錠を1日2回、97例)またはプラセボ群(105例)に無作為化され、6ヵ月間治療を受けた。副作用が発現した場合は、症状が許容範囲になるまたは消失するまで服用量が減らされた。被験者は、服用量を日誌に記録するよう指導され、3ヵ月後の受診時に服薬アドヒアランスの評価(服薬日誌と薬瓶の回収)が行われた。また、評価後に残り3ヵ月分の錠剤が渡された。 主要アウトカムは6分間歩行距離の6ヵ月間の変化量(臨床的に重要な最小変化量:8~20m)。副次アウトカムは、トレッドミルでの最大歩行時間、トレッドミルでの無痛歩行時間、歩行障害質問票(Walking Impairment Questionnaire)の距離および速度のスコア、SF36身体機能スコア、および上腕動脈FMDなどであった。各評価項目の結果は、試験施設とベースライン値で補正された。6ヵ月間の変化量はメトホルミン群-5.4m、プラセボ群-5.3m 無作為化された202例(平均年齢69.6[SD 8.4]歳、女性56例[28%]、黒人79例[39%])のうち、179例(89%)が6ヵ月の追跡調査を完了した。 メトホルミン投与群において、プラセボ群と比較して6分間歩行距離に関する有意な改善は認められなかった。メトホルミン投与群の6分間歩行距離は358.6mから353.2mへの変化で(群内変化量:-5.4m)、プラセボ群は同359.8mから354.5m(-5.3m)であった(補正後群間差:1.1m、95%信頼区間:-16.3~18.6、p=0.90)。 副次アウトカムについてもいずれも、プラセボと比較してメトホルミン群で有意な改善は示されなかった。 最も多くみられた重篤な有害事象は、心血管イベントであった(メトホルミン群3.1%、プラセボ群1.9%)。最も多くみられた非重篤な有害事象は、消化不良/胃もたれ(メトホルミン群64.9%、プラセボ群40.6%)および頭痛(メトホルミン群37.2%、プラセボ群49.5%)であった。

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ミノサイクリンは急性期脳梗塞に有益か/Lancet

 急性期虚血性脳卒中に対する発症後72時間以内に開始したミノサイクリン療法は、プラセボとの比較において、安全性への懸念なく90日時点で有意な機能的アウトカムの改善をもたらしたことが示された。中国・首都医科大学のYao Lu氏らEMPHASIS Investigatorsが、同国58病院で行った多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験「EMPHASIS試験」の結果を報告した。ミノサイクリンは、広く使用されている忍容性が良好で安価なテトラサイクリン系の抗菌薬で、さまざまな神経疾患に対する有望な薬剤として注目されており、前臨床モデルおよび小規模臨床試験で虚血性脳卒中に対する潜在的なベネフィットが示されていた。著者は、「さらなる研究を行い、今回示された知見を確認し、より重症または軽症の脳卒中患者にも同様のベネフィットが及ぶかどうかを明らかにする必要がある」とまとめている。Lancet誌オンライン版2026年1月30日号掲載の報告。発症後72時間以内に投与開始、90日時点の優れた機能的アウトカムを評価 EMPHASIS試験の対象は、18~80歳、脳CTまたはMRIで虚血性脳卒中が確認された、発症から72時間以内、National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア範囲4~25、意識レベルスコア(NIHSSのサブスケール1a)≦1の患者であった。 被験者は、ルーチンに行われていた治療に加えてミノサイクリンの経口投与を受ける群(初回投与量200mg、その後12時間ごとに100mgを4日間)またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。コンピュータ生成無作為化シークエンス法によるブロック無作為化(試験施設により層別化された固定4ブロックサイズ)が用いられた。 主要アウトカムは、90日時点の優れた機能的アウトカム(修正Rankinスケール[mRS]スコア:0~1)であり、無作為化され試験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者を対象に、欠損データの補完を行うことなく解析した。 安全性のアウトカムは、試験薬を少なくとも1回投与され、少なくとも1回安全性の評価を受けた患者を対象とし、24時間時点および6日時点の症候性頭蓋内出血などを評価した。主要アウトカム、ミノサイクリン群52.6%、プラセボ群47.4% 2023年5月19日~2024年5月20日に、1,724例がミノサイクリン群(862例)またはプラセボ群(862例)に無作為化された。年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:57~71)、男性が1,151例(66.8%)、女性が573例(33.2%)であり、ベースラインのNIHSSスコア中央値は5(IQR:4~7)であった。 4例(ミノサイクリン群3例、プラセボ群1例)が同意を取り下げ、19例(9例、10例)が追跡不能であった。 90日時点でmRSスコアが0~1の被験者は、ミノサイクリン群で447/850例(52.6%)、プラセボ群で403/851例(47.4%)であった(補正後リスク比:1.11、95%信頼区間[CI]:1.03~1.20、p=0.0061)。 mRSスコアの全範囲にわたる順序解析でもミノサイクリン群が優れ、補正後共通オッズ比は1.19(95%CI:1.03~1.38、p=0.018)であった。 症候性頭蓋内出血の発生はミノサイクリン群とプラセボ群で、24時間時点(1/860例[0.1%]vs.0/861例[0%])、6日時点(3/859例[0.3%]vs.0/861例[0%])でいずれも同程度であった。重篤な有害事象(ミノサイクリン群40/862例[4.6%]vs.プラセボ群51/862例[5.9%]、p=0.24)を含むその他の安全性アウトカムについて有意差は認められなかった。

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普通の医師には見えない! 富裕層だけが知る不動産「勝ち組の情報ルート」とは?【医師のためのお金の話】第101回

「富裕層にしか回ってこない『極秘物件』は実在する」不動産投資に興味を持つ方なら、一度はこの噂を耳にしたことがあるはずです。今はインターネットで誰もが平等に情報へアクセスできる時代。「そんな時代錯誤で不公平な話、あるわけがない」と一笑に付すのは簡単です。しかし、現役の勤務医でありながら、ゼロから数十億円規模の不動産ポートフォリオを築き上げた私は断言します。「一般の目に触れることなく、富裕層の間だけで取引される物件は、確実に存在する」と。なぜ、そんなことが起こるのでしょうか? それは決して「怪しいコネ」や「陰謀」といった曖昧な理由ではありません。そこには、不動産業者が抱える切実な事情と、極めて冷徹な「ビジネス上の経済合理性」が働いているからです。なぜ、あなたの元には「本当に美味しい」物件情報が届かないのか?不動産業者が一般顧客よりも「富裕層」を最優先する、真の理由とは?資産家が加速度的に資産を増やしていく「情報の好循環」の仕組みこのメカニズムを知ることは、残酷な格差の現実を知ることでもありますが、同時に「勝ち組」の思考回路をインストールする絶好の機会でもあります。不動産投資の「リアル」を余すところなくお話ししたいと思います。良い物件が富裕層に優先的に紹介される理由とは?富裕層に優良物件が紹介される理由は、物件情報を握っている不動産業者のビジネスモデル(手数料商売)にあります。不動産の仲介にかかる手間は、数百万円の物件でも数億円の物件でも、ほとんど差がありません。同じ労力であれば、当然1件あたりの単価が高く、売上の大きい物件を扱いたいと考えるものです。そして、そのような高価格帯の物件を確実に購入できるのは、やはり富裕層に限られます。また、一般的に投資慣れしている富裕層は、意思決定が非常に迅速です。私の例で恐縮ですが、物件情報をいただいた瞬間に投資の可否を判定して、その場で「買うか買わないか」を回答します。この「スピード感」こそが、富裕層の最大の武器であり、不動産業者から信頼される要因です。不動産業者からすれば、早く手数料を確定させたい優良物件を、1ヵ月も一般顧客の検討に回すリスクを取る必要がないのです。さらに、富裕層には銀行融資の審査が通らないリスクがほとんどありません。高額な物件であればあるほど融資のリスクは大きくなりますが、属性の高い顧客であれば、その心配が極めて低いのも不動産業者にとっては大きな魅力となります。つまり不動産業者にとって、富裕層は「確実に、かつスピーディーに売買が成立して、多額の手数料が入る上客」なのです。そのため、優良物件であればあるほど、市場に出回る前に、真っ先に富裕層へと持ち込まれることになります。富裕層がどんどん資産を増やしていく仕組み一方、富裕層である不動産投資家は、手当たり次第に不動産業者へ声をかけるような効率の悪いことはしません。本当に実力のある不動産業者の中でも、とくに優秀な担当者とだけ深く付き合うケースが多いのです。ちなみに、私が懇意にしている不動産業者の担当者はたったの2名です。その2名からもたらされる物件情報だけで、数十億円規模の不動産ポートフォリオを構築してきました。いずれも選りすぐりの物件ばかりで本当にありがたい限りです…。優秀な担当者を見つけるコツは、彼らが抱えている案件の「質」を見極めることです。一般の公開市場に出ている物件ばかりを紹介してくる担当者は、富裕層向けの優良情報を持っている可能性は低いと判断できます。そして、大きな金額の物件を継続的に購入できる顧客は、不動産会社にとってもメリットが大きいため、非常に大切に扱われます。その結果、ますます優先的に優良物件が紹介されて、資産形成がさらに加速するという相乗効果が生まれるのです。ただし、医師であっても一般の方がいきなり「富裕層と不動産業者のインナーサークル」に入るのは、正直なところ極めて困難と言わざるを得ません。最初の1件目、あるいは2件目の実績を作るまでは、不動産業者から「富裕層の予備軍」とは見なされにくいからです。しかし、一度インナーサークルの中に入ってしまえば、面白いほど簡単に優良物件を紹介してもらえるようになるのも事実です。不動産投資は奥が深く、最初のころはうまくいかないケースが多いです。一度うまくいき始めると加速度的に状況が良くなっていきます。一般の方と比べて高収入の医師にとっても敷居が高い不動産投資ですが、思い切って足を踏み入れてみても良いかもしれません。

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第300回 シン・高市政権が考える、医療に対するお金の使い道

INDEX自民党、316議席で歴史的大勝圧倒的優勢の高市政権の方向性、成否は?大型財政出動、成功の分かれ道自民党、316議席で歴史的大勝ここ2回(第298回、第299回)、衆議院議員総選挙(以下、衆院選)の各党の医療・社会保障政策を紹介してきたが、2月8日の投開票の結果は高市 早苗首相率いる自民党が316議席を獲得。参院で否決された法案の再可決や憲法改正の国民投票の発議などに必要な衆院議席の3分の2である310議席を上回る歴史的な大勝で終わった。対抗馬トップの位置にいた立憲民主党と公明党が結党した新党「中道改革連合」は、改選前議席の3分の1すら下回る49議席。このうち公明党出身者が28議席であり、立憲民主党出身者が21議席。改選前の立憲民主党出身者は148人で、実に7分の1までに激減。もはや党の消滅危機である。圧倒的優勢の高市政権の方向性、成否は?さてこの圧倒的優勢の高市政権がどのような方向性に進むのか? そしてそれが成功するのか? ご存じのように、高市氏は「危機管理投資」「経済安全保障」というキーワードで、日本の経済成長を実現する「日本列島を強く豊かに」を大目標に掲げている。そこで医療関連の中で最も「経済」という言葉に近い製薬産業関連で、自民党が衆院選で掲げた政策を基に考えてみたい。まず今回衆院選で自民党が提示した医薬品に関わる政策は以下のようになる。詳細は以下のとおり経済安全保障の確保の観点から、半導体、医薬品、蓄電池、重要鉱物、船体などの重要技術・物資のサプライチェーンの強靱化、サーキュラーエコノミーの推進、「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)」の推進、経済的威圧への取組み、機微技術の管理やインテリジェンス体制強化を図る半導体、医薬品、蓄電池、レアアースを含む重要鉱物、船体などの特定重要物資について国内生産能力の強化や調達の多元化などに向けた支援を行う。併せて、重要な物資が本来期待される機能を発揮するために必要不可欠な役務を支援対象とするほか、幅広いサプライチェーンの関係者からの情報収集や必要な協力を得ることを可能とするなど、これまでの取組みの効果を踏まえたうえで、実効性のある措置を新たに講じるゲノムデータ・創薬基盤の充実、医薬品や医療機器などの開発、国際協力、人材育成などの取組みを進めるとともに、グローバルヘルス戦略に基づき、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成を目指すわが国の創薬力を抜本的に強化し、その基盤となる産学官の研究力を向上させるとともに、特に将来の感染症流行に備えて、国産ワクチン・治療薬・診断薬については、研究基盤の整備や治験機能・体制、製造段階を含む生産能力を強化製薬産業をわが国の基幹産業と位置付け、創薬力の強化を図るため、創薬ベンチャーの実用化開発支援や抗体医薬品・再生医療など製品などのバイオ医薬品の生産体制の整備を推進未来社会の鍵となる、AI、量子、バイオ、健康医療、マテリアル、光電融合、ブロックチェーン技術や、宇宙・航空、次世代車、CCSなどの各種最先端分野について研究開発から社会実装までの取組みを進めるとともに、ムーンショット型研究開発制度を着実に推進します。また、これらの研究DXを推進します。革新的な医薬品を開発できる環境を整備し、後発医薬品の安定供給を確保することで、国民の命・健康を守る ざっと眺めまわすと、「支援」「強化」というキーワードが目立つ。この方向性を2025年度補正予算から見ていくと、まず創薬等支援に1,842億円が投じられている。この中でも最大の予算が投じられているのは、「後発医薬品製造基盤整備基金事業」の844億円である。端的に言えば、後発医薬品企業の品目統合や事業再編などを支援し、後発医薬品産業全体の構造的問題を解決することで後発医薬品の安定供給を実現することが目的である。これも含め備蓄、バイオシミラーの製造施設支援など国内で必要な医薬品の安定供給に約1,040億円が充てられている。前出の1,842億円の大部分が高市首相の唱える「経済安全保障」の分野である。一方、成長投資に当たる部分は、創薬支援強化として、「革新的医薬品等実用化支援基金の造成による創薬環境の整備」が241億円、「ファースト・イン・ヒューマン(FIH)試験実施体制の整備」が12億円、「産学連携による創薬ターゲット予測・シーズ探索AIプラットフォーム開発(創薬AI)」が2億円、「AI創薬指向型・患者還元型・リアルタイム情報プラットフォーム事業」が5.5億円、「再生医療等の臨床研究支援等に係る基盤の体制整備・強化」が3億円、「がん・難病の全ゲノム解析における情報基盤の構築、研究の推進」が115億円といった具合だ。大型財政出動、成功の分かれ道さてとくに後者の成長投資については予算規模の多寡はこの時点では棚上げして、今後の成否を占うファクターを考えてみる。まずその大前提として、現在の高市政権が掲げる「責任ある積極財政」の市場の評価は必ずしも良いものばかりではないことはすでに報じられている。詰まるところ、大型財政出動に見合った経済成長が得られず、政府債務が膨張する不安だ。しかも、昨今では金利が上昇しており、最悪の場合、政府債務は雪だるま式に増えることになる。実はこうした懸念から考えれば、高市政権が目論む“成長”が得られるかどうかの要因は、「構造転換ができるかどうか?」のほぼ1点に絞られる。日本で政府債務、すなわち赤字国債の発行が常態化するようになったきっかけは、高度経済成長期後の1970年代半ばのオイルショックによる景気後退である。戦後初のマイナス成長に陥った結果、税収不足を補うため、成長回復までの“つなぎ”として初めて赤字国債が発行され、今の今までこの状態がずるずると続いている。「高度経済成長の夢よ、もう一度」のまま、約半世紀も債務を垂れ流し、対外的にも国内的にも経済成長を実感できない状態になっている。こうした“前科”があるからこそ、マーケットは大型財政出動に懐疑的になっているのである。だが、ご存じのように、いまや少子高齢化まっしぐらで高度経済成長期のような生産人口の増加は起こりえず、さらに当時は最先端だった日本の技術力も今や中国の後塵を拝するなど、もはや前提条件が大幅に狂っている。つまり前提条件の大幅な変更を折り込んだ施策が必要であることは言うまでもない。この点で言えば、AI創薬への積極投資などを含んだ2025年度の補正予算は一定程度評価できるものとも言える。ただし、つぎ込んだ投資が回収できるサービス・製品の実用化とそれに伴う収益による経済成長と税収増まで実現しなければ、この大型財政出動は成功とは言えない。要は大型財政出動による出口までの整備、つまるところその過程での目詰まりポイントの解消が求められる。目詰まりポイントとは、必要な規制の整備と過度な規制の緩和である。たとえばAI創薬に関して言えば、昨年国内ではAI推進法が成立したが、今のところこの法律や薬機法の下で創薬AIの評価基準や安全性確保のガイドライン整備はまだ進んでいない。また、AI推進法はイノベーションの促進の観点から作られた法律だが、EUではリスクベースのAI規制が中核であり、こうした諸外国の法制度とのハーモナイズはこれからである。また、AI創薬だけでなく、今回の補正予算に盛り込まれたがん・難病の全ゲノム解析における情報基盤の構築などは、「仮名加工医療情報」の活用が必須である。次世代医療基盤法では、2024年に「仮名加工医療情報」の活用に向けた改正が進められたばかりである。ただ、仮名加工情報の作成・使用には認証が必要であり、その運用が課題になる可能性が指摘されている。このように大型財政出動の先にある課題に高市政権がどう取り組むのか? あるいは最悪、何も取り組まないのか? この点が戦後最強の同政権の今後を占うポイントである、と私は考えている。

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パーキンソン病〔PD:Parkinson's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義1817年、英国の外科医であり地質学者であったJames Parkinsonは“Essay on The Shaking Palsy”として6症例のパーキンソン病患者の症状を詳細に報告した。その後、神経学の祖であるJean-Martin Charcotがこのエッセイに着目し「パーキンソン病」と名付け、疾患概念が確立された。本疾患はドパミン神経細胞が脱落するため、動作緩慢、振戦、筋強剛などが出現する。進行すると姿勢保持障害、歩行障害なども顕著になり、転倒のリスクが高まる。さらに、運動症状以外にも睡眠障害、嗅覚低下、自律神経障害、認知症、精神症状など多彩な非運動症状を合併する。そのため日常生活動作が低下し、介護度が高くなり、患者本人の生活の質を悪化させるのみならず、介護者にも多大な影響が及ぶ疾患である。病理学的所見としては、黒質緻密部を中心としたドパミン神経細胞の変性・脱落とレビー小体の形成が特徴である。■ 疫学有病率は10万人当たり100~180人とされているが、65歳以上では1,000人程度存在するといわれている。海外で行われた年齢別有病率を調査した研究では、40~49歳では10万人当たり約40人であるのに対し、80歳以上では約1,900人と報告されており、加齢に伴い急激に増加することがわかる。発症頻度には地域差があり、欧州や北米では高く、アジアやアフリカでは低い傾向がある。また、海外では男性に多いとされる一方で、わが国では女性の有病率が高いと報告されている。■ 病因本疾患の病因は長らく不明とされてきたが、近年の分子病理学的・遺伝学的研究の進展により、その中核にはαシヌクレインの異常凝集と蓄積があることが明らかとなっている。αシヌクレインは、本来シナプス前終末に豊富に存在する可溶性タンパク質であるが、異常構造へ変化するとオリゴマー、プロトフィブリル、フィブリルへと段階的に凝集し、神経毒性を獲得する。これらの凝集体は、神経細胞内でレビー小体やレビー神経突起を形成し、ドパミン神経を中心とした神経変性を引き起こすと考えられている。さらに、病的αシヌクレインは細胞間を伝播する性質を有し、特定の神経回路に沿って病理が拡大することが示唆されている。その一方で、パーキンソン病は単一の原因で発症する疾患ではなく、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡む多因子疾患である。αシヌクレインをコードするSNCAは最初に発見された家族性パーキンソン病の原因遺伝子である。さらに常染色体顕性遺伝性パーキンソン病に頻度が高いLRRK2、重大なリスク遺伝子であるGBAなどが同定されており、これらはαシヌクレインの凝集に関与している。また、孤発例においても、複数の感受性遺伝子が発症リスクに寄与することが明らかとなっており、遺伝的背景が病態形成に重要な役割を果たす。そのほか農薬曝露、頭部外傷、腸内細菌叢などの環境因子も発症リスクとして報告されており、遺伝要因と環境要因の相互作用が発症の引き金となる可能性が考えられている。さらに近年では、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、神経炎症、タンパク質分解系の破綻など、複数の細胞内異常が相互に関連しながら神経変性を進行させることが示唆されている。とくにリソソーム・オートファジー系の障害は、異常αシヌクレインの蓄積を促進し、分解不能になるという悪循環を形成する重要な病態基盤と考えられている。このようにパーキンソン病の病因は、αシヌクレイン凝集を中心とした分子病態を軸に、多層的・連続的な異常が重なり合うことで発症すると考えられる。2 診断臨床診断は主に症候学的所見に基づいて行われる。2015年に国際パーキンソン病・運動障害学会が診断基準を策定した(表)。この診断基準では、寡動を中心に、振戦と筋強剛のどちらか1つがあるとパーキンソン症状があると判断し、特異的な所見である、レボドパ製剤に対する良好な反応性、レボドパ誘発性ジスキネジア、四肢の静止時振戦、嗅覚低下および123I-MIBG心筋シンチグラフィによる心臓交感神経脱落の証明を支持的診断基準としている。除外基準のみならず、パーキンソン病でも認められるが非典型的な症状や経過をレッドフラッグとして挙げている。支持的基準を2つ以上満たし、除外基準およびレッドフラッグが認められない場合は“clinically established”であり、支持的基準を満たしていてもレッドフラッグを認める場合や、レッドフラッグがなくても十分に支持的基準を満たさない場合は“probable”と診断される。診断基準の特異度は高いが感度は低く、類縁疾患である多系統萎縮症や進行性核上性麻痺といったParkinson-like disorderとの鑑別は難しい。また、運動症状が発症する前より、便秘、嗅覚低下、レム睡眠行動異常症が認められる場合がある。ビデオ睡眠ポリグラフでレム睡眠行動異常障害認められる場合、パーキンソン病を発症するリスクが高まる。採血や画像診断は補助的な診断である。採血では特異的な変化はないが、パーキンソン症状を来す疾患(甲状腺機能亢進症や低下症、ウィルソン病、抗リン脂質抗体症候群など)の鑑別は必要である。神経画像は診断に有用であり、頭部MRIやCTなどの構造画像は除外診断目的で行われる。とくにMRIは被殻の萎縮と被殻外側のスリット、脳梁の萎縮、中脳背側(中脳被蓋部)の萎縮、上/中小脳脚の萎縮、橋の萎縮などに注目し、Parkinson-like disorderと鑑別する。また、DATスキャンを行うことで、パーキンソン症状が黒質線条体のドパミン機能障害により引き起こされていることが確認できる。薬剤性パーキンソニズム、本態性振戦、ジストニア、錐体路障害などによるパーキンソン様症状は正常であり除外できる。123I-MIBG心筋シンチグラフィは心臓交感神経の脱落を確認できるが、認める場合はパーキンソン病に特異的な所見であり、重要な診断の手掛かりとなる。最近、髄液に存在する微量な凝集型αシヌクレインを増幅することで診断できる可能性が示されているが、研究レベルであり実用化はされていない。表 国際パーキンソン病・運動障害学会の診断基準画像を拡大する診断のフローを以下に示す。【パーキンソン病の診断基準(MDS)】■臨床的に確実なパーキンソン病(clinically established Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在し、さらに、1)絶対的な除外基準に抵触しない。2)少なくとも2つの支持的基準に合致する。3)相対的除外基準に抵触しない。■臨床的にほぼ確実なパーキンソン病(clinically probable Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在しさらに、1)絶対的除外基準に抵触しない。2)相対的除外基準と同数以上の支持基準がみられる。ただし、2つを超える相対的除外基準がみられてはならない。■支持的基準(Supportive criteria)1)明白で劇的なドパミン補充療法に対する反応性がみられる。この場合、初期治療の段階では正常かそれに近いレベルまで改善がみられる必要がある。もし、初期治療に対する反応性が評価できない場合は以下のいずれかで判断する。用量の増減により、顕著な症状の変動(UPDRS partIIIでのスコアが30%を超える)がみられる。または患者または介護者より治療により顕著な改善がみられたことが確認できる明らかに顕著なオン/オフ現象がみられる2)L-ドパ誘発性のジスキネジアがみられる。3)四肢の静止時振戦が診察上確認できる。4)ほかのパーキンソニズムを示す疾患との鑑別診断上、80%を超える特異度を示す検査法が陽性である。現在この基準を満たす検査として以下の2つが挙げられる。嗅覚喪失または年齢・性を考慮したうえで明らかな嗅覚低下の存在MIBG心筋シンチグラフィによる心筋交感神経系の脱神経所見■絶対的除外基準(Absolute exclusion criteria)1)小脳症候がみられる。2)下方への核上性眼球運動障害がみられる。3)発症5年以内に前頭側頭型認知症や原発性進行性失語症の診断基準を満たす症状がみられる。4)下肢に限局したパーキンソニズムが3年を超えてみられる。5)薬剤性パーキンソニズムとして矛盾のないドパミン遮断薬の使用歴がある。6)中等度以上の重症度にもかかわらず、高用量(>600mg)のL-ドパによる症状の改善がみられない。7)明らかな皮質性感覚障害、肢節観念運動失行や進行性失語がみられる。8)シナプス前性のドパミン系が機能画像検査により正常と評価される。9)パーキンソニズムを来す可能性のある他疾患の可能性が高いと考えられる。■相対的除外基準(Red flags)1)5年以内に車椅子利用となるような急速な歩行障害の進展がみられる。2)5年以上の経過で運動症状の増悪がみられない。3)発症5年以内に重度の構音障害や嚥下障害などの球症状がみられる。4)日中または夜間の吸気性喘鳴や頻繁に生じる深い吸気*注など、吸気性の呼吸障害がみられる。5)発症から5年以内に以下のような重度の自律神経障害がみられる。起立性低血圧:立位3分以内に少なくとも収縮期で30mmHgまたは拡張期で15mmHgの血圧低下がみられる発症から5年以内に重度の尿失禁や尿閉がみられる6)年1回を超える頻度で繰り返す発症3年以内の転倒。7)発症から10年以内に、顕著な首下がり(anterocollis)や手足の関節拘縮がみられる。8)5年の罹病期間の中で以下のようなよくみられる非運動症候を認めない。睡眠障害:睡眠の維持障害による不眠、日中の過剰な傾眠、レム睡眠行動障害の症状自律神経障害:便秘、日中の頻尿、症状を伴う起立性低血圧嗅覚障害精神症状:うつ状態、不安、幻覚9)他では説明のできない錐体路症状がみられる。10)経過中一貫して左右対称性のパーキンソニズムがみられる。*注:inspiratory sighs;多系統萎縮症で時にみられる呼吸障害の1つで、しばしば突然不規則に生じる深いため息様の吸気。(文献1より引用)3 治療本疾患はドパミン神経変性により運動症状および多彩な非運動症状を呈するため、ドパミン補充療法が治療の中心である。L-ドパ製剤は最も有効性が高く中心的薬剤であるが、吸収に食事の影響を受けやすいこと、phasicな刺激によりL-ドパ誘発性ジスキネジアが生じやすく、半減期が短いためウェアリングオフを誘発することが課題となる。MAO-B阻害薬はドパミン分解を抑制することで効果を発揮する。すくみ足に効果があることが示されている。ドパミン受容体作動薬は半減期が長く、continuous dopaminergic stimulation(CDS)に近い刺激が可能で、ジスキネジア発現を遅らせる一方、眠気、衝動制御障害、精神症状に注意を要する。ウェアリングオフ出現時には、L-ドパ頻回投与やCOMT阻害薬併用により血中濃度の安定化を図る。また、アマンタジンを早期から始めることで、ジスキネジアの発現抑制が可能であることが示されている。経口治療で調整困難な場合にはデバイス補助療法を考慮する。経腸的L-ドパ持続療法や皮下持続投与製剤はオフ時間を短縮し、運動の日内変動を大きく改善する。さらに、L-ドパ製剤への反応性を有し、重度の認知症や精神症状を伴わない症例では脳深部刺激療法(DBS)も考慮される。主なターゲットは視床下核(STN)と淡蒼球内節(GPi)であり、STN刺激は薬剤減量効果が期待できる一方、GPi刺激はL-ドパ誘発性ジスキネジアの抑制に有効である。効果は同等とされるが、薬剤減量ができるSTNがfirst choiceである。強い振戦が主体の場合には視床Vim核が選択される。DBSは運動症状を安定化させ、薬物治療の限界を補完する治療オプションであり、適応がある症例の場合、必ず考慮すべきである。4 今後の展望近年、分子病理学的研究やバイオマーカー研究の進展により、パーキンソン病は従来の臨床症候に基づく疾患概念から、αシヌクレイン病理を中核とした生物学的疾患概念へと大きく変容しつつある。とくに、微量な病的αシヌクレインを検出可能とする種増幅アッセイ(seed amplification assay:SAA)は、発症前・前駆期から疾患を同定しうる技術として注目されている。また、脳に蓄積するαシヌクレインを可視化するPET検査も開発されている。これらのバイオマーカーの確立は、早期診断のみならず、疾患の生物学的病期分類や層別化を可能とし、疾患修飾療法(disease-modifying therapy:DMT)の研究を推進する際に適切な対象集団の選定に直結する。現在までに、αシヌクレイン病理、神経変性、遺伝背景を統合した新たな分類・病期分類の枠組みが提唱されており、今後の臨床試験や治療戦略の基盤となることが期待される。5 主たる診療科脳神経内科脳深部刺激療法を行う場合は脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本神経学会 パーキンソン病診療ガイドライン2018(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター パーキンソン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Bloem BR, et al. Lancet. 2021;397:2284-2303. 2) Armstrong MJ, et al. JAMA. 2020;323:548-560. 3) Ben-Shlomo Y, et al. Lancet. 2024;403:283-292. 4) Hatano T, et al. J Mov Disord. 2024;17:127-137. 5) Postuma RB, et al. Mov Disord. 2015;30:1591-1601. 公開履歴初回2026年2月13日

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入浴中の死亡、年間で最もハイリスクな日は?

 日本は世界的にみて高齢者の溺死率がきわめて高く、その主な要因は家庭での入浴習慣にある。とくに入浴中の死亡は冬場にピークを迎えるが、全国規模での外気温の影響や、特定の「ハイリスク日」については十分に検討されていなかった。奈良県立医科大学の田井 義彬氏らの研究グループは、全国の26年間のデータを解析した結果、浴槽内溺死リスクの季節性の影響のうち約80%が外気温の影響であり、元日や大晦日にとくにリスクが上昇することを明らかにした。Environmental Health and Preventive Medicine誌2025年号に掲載。 本研究では、1995〜2020年の死亡診断書に基づく住宅での浴槽内溺死データ(ICD-10コードW65)9万9,930件を用いて、全国47都道府県を対象とした時系列解析を実施した。季節性と外気温の寄与分画(AF)の推定には、1年周期の変動を制御するスプライン回帰と、気温の遅延効果を考慮した分布ラグ非線形モデル(DLNM)を組み合わせた手法を用いた。また、特定日のリスク評価には準ポアソン回帰分析を、2060年代までの将来予測には人口動態および気候変動シナリオ(SSP)を統合した予測モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・浴槽内溺死は顕著な季節性を示し、リスクが最小となる8月(219日目)に対し、ピークである1月上旬(9日目)のリスクは9.26倍(95%信頼区間[CI]:8.42~10.19)であった。・溺死リスクの季節性AFは77.8%であったが、外気温の影響を調整すると15.3%まで減少した。これは、外気温が季節性AFの80.3%を占めていることを示している。・外気温の中央値16.2℃と比較して、浴槽内溺死の相対リスク(RR)は、0℃で2.40(95%CI:2.15~2.69)、30℃で0.23(95%CI:0.19~0.27)であり、低温ほどリスクが増大した。・季節性と気温の調整後、平日と比較して、浴槽内溺死のRRは、祝日で1.12(95%CI:1.08~1.16)と有意に高く、とくに元日(RR:1.72、95%CI:1.61~1.84)と大晦日(RR:1.63、95%CI:1.52~1.74)で突出していた。・日曜日は平日(金曜日)と比較して、RR:1.16(95%CI:1.12~1.20)であった。・将来予測では、人口減少に伴い浴槽内溺死の総死亡者数は2040年代から減少に転じるが、高齢化の影響により、温暖化が進んでも人口当たりの浴槽内溺死率は、2060年代まで2020年代と同等以上の高水準が維持されると予測された。 著者らは、日曜日や祝日にリスクが高まる要因として、入浴介助サービスの休止や、正月期間中の飲酒習慣、医療機関への受診の遅れなどが関連している可能性を指摘している。また、外気温そのものは制御できないが、脱衣所や浴室の暖房による室内温度の管理や、個人の寒冷曝露を避ける対策を講じることで、入浴関連死を予防できる可能性があると結論付けている。

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てんかん重積状態に対するジアゼパム点鼻液の利点

 てんかん重積状態(status epilepticus:SE)においては迅速な対応が予後を左右する。新たに登場したジアゼパム点鼻液(商品名:スピジア)が病院前治療にいかなる変革をもたらすのか、3人の専門家が紹介。迅速な発作終息がもたらす神経学的予後の改善と、患者・家族のQOL向上に向けた新たな可能性が示された。薬剤抵抗性てんかんの危険性 日本のてんかん患者は42万例と推定されるが、文献などによれば100万例にのぼる可能性がある。その中で、抗てんかん薬でも発作をコントロールできない薬剤抵抗性患者は20~30%いるとされる。てんかん発作の中でもSEは、「発作がある程度の長さ以上に続くか、または、短い発作でも反復し、その間の意識の回復がないもの」と定義される。SEの中でも5分以上持続するケースは治療対象となり、30分以上持続するSEでは高次脳機能障害、運動障害など深刻な後遺障害のリスクがきわめて高くなる。小児における重積化阻止と早期終息の重要性 国立精神神経医療センターの中川 栄二氏は、SEへの移行を未然に防ぎ、発作を早期に終息させることが、神経学的予後を改善するための最重要戦略であると述べた。 消防庁の報告では入電から医師への引継ぎまでに30分以上要した例は8割。 SEによる後遺症を回避するうえでも、医療機関に着く前の介入(病院前治療)は必要だ。小児てんかん重積状態・けいれん重積状態治療ガイドライン2023においても病院前治療の必要性が明記されている。 病院前治療としてのレスキュー薬の現状は満足できるものではない。現在のレスキュー薬はジアゼパム坐剤、ミダゾラム口腔用剤、抱水クロラールの坐剤/注腸である。しかし、発作時すぐに使えないなどの問題があり、使用後に救急搬送が必要になる場合も少なくない。簡便に投与でき、効果発現が早く、副作用が少なく、長時間作用を有するレスキュー薬が求められていた。 そのような背景の中、ジアゼパム点鼻液が承認された。点鼻液という特性から発作時にも投与しやすい。同剤は点鼻投与でありながら97%という生体利用効率を示し、非侵襲的で確実な血中濃度の立ち上がりを実現している。 小児患者における臨床試験では良好な成績も示されている。抗てんかん薬使用中も発作を発症した、あるいはジアゼパムによる発作抑制が必要な患者において、初回投与時の奏効率(発作抑制割合)は62.5%、1週以降24週後までの奏効率は80.2%にのぼった。けいれん発作消失までの時間中央値は1.5分で、5〜10分という坐剤の効果発現を考えると臨床的意義は大きい。ジアゼパム点鼻液の治療患者におけるSEの再発抑制は9割を超えていた。有害事象についても口腔用液で懸念される呼吸抑制のような重篤なものは認められておらず、医療機関外での使用における安全性も示されている。 近年、SE移行リスクのある発作に対する迅速介入の治療概念として「FAST(First Aid Seizure Termination)」が提唱されている。「迅速な効果発現と長時間持続を併せ持つジアゼパム点鼻液は新たなFAST治療薬」と中川氏は期待を寄せる。成人のSEにおけるジアゼパム点鼻液の可能性 獨協医科大学の藤本 礼尚氏は、成人てんかん患者のSE治療においてジアゼパム点鼻液の早期介入の可能性を訴えた。 てんかんは小児だけでなく成人にも多い。SEによる死亡率は成人でも高く、日本では8.5%、米国では20%を超えるという報告もある。前述のように現状の救急搬送は30分を超えており、てんかん治療ガイドラインによる5分以内のSE治療開始は困難だ。この「空白の時間に脳損傷が進行してしまうリスクがある」と藤本氏は警鐘を鳴らす。 成人のSEについても日本のレスキュー薬は十分とは言えない。海外ではSEに対する病院前治療の選択肢は豊富だが、日本の成人に対する保険適用は坐剤のみであった。成人の衣服を脱がせて坐剤を投与することはきわめて困難であり、成人SEに対するレスキュー治療の新たな選択肢が求められていた。 ジアゼパム点鼻液は成人にも使用可能であり、臨床試験でも有望な成績を示す。海外の成人を含む臨床試験の結果、作用発現までの時間は2分、発作停止までの時間は4分(いずれも中央値)であった。患者調査では約8割が2時間以内に普段の状態に戻ったと回答している。 「成人てんかんも救急搬送に頼らないで発作対応を目指すべき。将来は海外と同様に救急救命士がレスキュー薬を使用できることが望まれる」と藤本氏は述べる。患者・家族の視点から見たジアゼパム点鼻液の可能性 ドラベ症候群患者家族会の黒岩 ルビー氏は、ジアゼパム点鼻液による早期の発作終息は、不必要な救急搬送を回避し、患者とその家族のQOLを改善すると期待を示した。 ドラベ症候群は乳幼児期からてんかん重積発作を繰り返す希少・難治性のてんかんである。同家族会のアンケートでは、SEによる救急要請の回数は、11~20回が3割弱、31回以上は2割という結果であった。SE後の急性脳症発症を経験した割合は17%、その72%は後遺症を有している。 「元気だった子が、突然一生残る重度の障害を負うリスクがある」と黒岩氏は懸念する。また、頻繁な救急搬送や夜間発作が家族の慢性的な不安やうつ状態を招いてしまう。 ジアゼパム点鼻液により、てんかん発作の遷延を防ぐことができる。 さらに救急搬送が回避できることで、病院から離れられない生活から解放される可能性がある。とはいえ、発作はいつどこで起きるか予測ができない。家族と離れている保育園、学校、施設などにおいても点鼻薬のような簡便な手段があれば、職員の手で迅速な救護が可能となる。「そういった環境を整備していくことが重要だ」と黒岩氏は訴えた。

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乳がん生存率、アジア系と白人を比較

 乳がん生存率についてアジア系米国人と白人を比較した研究はほとんどない。今回、中国・Qinghai UniversityのYongxin Li氏らがSEERデータを用いて検討したところ、アジア系米国人の乳がん患者は白人の乳がん患者より全生存期間(OS)が有意に良好で、すべてのサブグループにおいても一貫していた。Clinical Breast Cancer誌2026年3月号に掲載。 本研究はSEERデータベース(2010~21年)のデータを用いて、アジア系米国人と白人の乳がん患者を対象とした後ろ向きコホート研究である。年齢、Stage、分子サブタイプ、治療法などのベースライン特性を調整するため、傾向スコアマッチングを適用した。評価項目はOSおよび乳がん特異的生存期間(BCSS)とした。 主な結果は以下のとおり。・乳がん患者37万4,930例(アジア系米国人:4万4,092例、白人:33万838例)が対象となった。・ベースライン特性の調整後、アジア系米国人は白人と比較して有意に良好なOS(ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.75~0.81)およびBCSS(HR:0.88、95%CI:0.84~0.93)を示した。・アジア系米国人の白人に対する優位性は、すべての臨床的・人口統計学的サブグループで一貫してみられた。また、Stage、年齢、治療法などの主要な予後因子の調整後も、アジア系米国人は独立して有意にOS(HR:0.77)およびBCSS(HR:0.86)が良好であった。 著者らは「これらの結果は、固有の生物学的因子または生活習慣による保護因子の存在が示唆され、さらなる調査が必要である」としている。

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