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さらなるAIツールを用いて医学的疑問や論文を簡単に検索!【タイパ時代のAI英語革命】第8回

さらなるAIツールを用いて医学的疑問や論文を簡単に検索!前回はChatGPTを用いた論文検索について解説しましたが、実はChatGPT以外にも、英語の医学論文を探したり読んだりすることに特化したAIツールが続々と登場しています。論文は、学会発表や研究執筆のためだけでなく、臨床における疑問や解決策を調べる際にも非常に役立ちます。必要な情報を論文から素早く簡単に得ることができれば、忙しい臨床現場でも大きな助けとなるでしょう。今回は、使いやすく、しかも無料で使えるAI論文検索ツールをご紹介します。1. Elicit:効率的にリサーチクエスチョンに答える概要と特徴Elicitは、英語の論文データベースから情報を抽出し、ユーザーのリサーチクエスチョンに対して「エビデンスに基づいた回答候補」を提示してくれるAIツールです。開発元は、米国の非営利研究機関「Ought」で、主に研究者や大学院生を対象としています。大きな特徴は、従来のPubMed検索と異なり、検索キーワードを探して整えなくとも、「質問文」を直接入力できる点にあります。たとえば、“Does vitamin D reduce the risk of respiratory infections?”(ビタミンDは呼吸器感染症のリスクを減らしますか?)と入力すると、それに関連する文献を自動で抽出し、著者名、要旨、研究対象・結果などを比較しやすい表形式で提示してくれます。Elicitは自ら論文データを保持しているわけではありませんが、PubMedを含むオープンアクセス型の論文データベースと連携しています。その中核を担っているのがSemantic Scholarという、AIを活用した無料の学術論文検索エンジンです(研究機関が開発した「AI版PubMed」のようなもの)。このSemantic Scholarのデータをベースに、ElicitがさらにAIで再構成した内容を検索結果として提示するため、各論文の要点が非常に整理されており、読みやすくなっているのが特徴です。Elicitは無料で使える機能が非常に充実しており、日常的な文献検索や簡単なリサーチには十分対応可能です。質問を入力すると、まず約50件の関連文献をピックアップし、その中から5〜10件程度の論文の要約と違いの比較を提示してくれます。さらに、各論文にはリンクも付いており、そこから元のジャーナルや原文にアクセスすることも可能です。有料プランに加入すると使える機能はさらに増えますが、筆者はこれまで無料プランであまり不便を感じたことはありません。具体的な使い方を説明していきましょう。使い方まずは、トップページにアクセスし、アカウント登録を行います。その後チャットボックスに、知りたい医学的な質問を英語で入力します。※日本語でも検索は可能ですが、その場合は日本語論文が多く抽出される傾向にあります。海外論文を中心に調べたい場合は、英語で質問することをお勧めします。Elicitの優れた点は、質問内容をその場で吟味してくれることです。入力したリサーチクエスチョンが適切かどうか、あるいはより詳細な質問が必要かを、検索前に教えてくれます。また、英語表現が多少不自然でも、AIが自動で修正してくれます。もちろん、完璧な英文で質問したい場合は、先週紹介したChatGPTを使って事前に英文を整えるのも良い方法です。しかし、明確なリサーチクエスチョンが決まっている場合やある程度の英語文がタイピングできる方は、細かい文法等は気にせず、直接Elicitに英語で書き込んでしまって大丈夫です。たとえば、“Does metformin reduce the risk of dementia?”(メトホルミンは認知症のリスクを軽減しますか?)と入力すると、Elicitがさらに詳細な関連質問を3つほどチャットボックスの下部に提示してくれます。クリックすると、“Does metformin reduce the risk of dementia in older adults with type 2 diabetes?”(メトホルミンは2型糖尿病を患う高齢者の認知症リスクを軽減しますか?)といったように、より具体的なクエスチョンに自動で書き換えてくれます(このとき、英語の文法も修正してくれます)。これで右矢印ボタンをクリックして1分ほど待つと、表形式で文献がリストアップされます。画像を拡大する内容としては、以下のような情報が表示されます。文献タイトル発表年研究デザイン研究対象(例:高齢者、糖尿病患者など)サンプルサイズ結果の概要全文解析かアブストラクトのみの解析かこれらの情報が一覧で表示されるため、文献の傾向や比較が一目でわかります。気になる論文があれば、それをクリックすることで、要約ページや原文サイトへのリンクにアクセスすることが可能です。結果はまとめて登録したメールアドレスに送られるので、あとから見返すのにも便利です。2. OpenEvidence:系統的レビュー作成の革新的ツール概要と特徴OpenEvidenceは、Daniel Nadler氏によって設立された医療AIスタートアップで、AIを活用してエビデンスマップやシステマティックレビューを自動生成するプラットフォームです。AIに加えて専門チームの人間によってもハイブリッドで評価・更新されています。見た目や使用感はChatGPTに似ていますが、医学情報のみに特化している点が大きな特徴です。このOpenEvidenceの最大の魅力は、どんな医学的な質問にも、論文の引用元情報を添えて即座に回答してくれることにあります。まさに「革新的」で、使いやすさという観点では世界的に有名なUpToDateすらしのぐ印象です。さらに現在(2025年9月時点)、OpenEvidenceは無料で提供されています。日本国内でも、医療者、医学生、研究者であれば登録するだけでフル機能を利用可能なはずです。OpenEvidenceが優れている点はいくつもありますが、主なものを2つ挙げます。1)引用される論文の質の高さ文献は主にPubMedやEMBASEなどから収集されており、たとえばNEJMやJAMAといった、世界のトップジャーナルの論文がよく引用されることが特徴です。もちろん、最終的な引用の妥当性については各自で確認が必要ですが、筆者の経験上、AIハルシネーション(AIによる捏造)のような現象はほとんど起きていません。2)英語で質問を入力する必要がない「AIと医療英語の連載記事」という本連載の大前提が崩れてしまいますが、英語が前提な多くの医療AIツールの中で、OpenEvidenceでは日本語で質問を入力すれば、日本語で回答が返ってきます。しかも、回答には英語の論文の引用情報も付いてくるのです。つまり、AIが日本語の質問を英訳し、英語文献を検索・要約したうえで、それを再び日本語に翻訳して提示してくれている、という複雑なプロセスを一瞬で行ってくれています。使い方まずはサイトにアクセスし、メールアドレスの登録を済ませます。その際に、画像を拡大するこのような画面が出てきますが、これに医療関係者であることを示すものを送ればすぐ使えるようになります(日本のライセンスでも可能です)。一旦登録すると、その後は制限なく利用可能です。画像を拡大する知りたい内容をチャットボックスに入力すると、その質問に対する自動生成された情報と、対応する引用文献が提示されます。引用元を確認したい場合は、画面を下にスクロールすることで、論文のリンクだけでなく、研究の種類や質についての細かな情報も確認できます。論文を探すことはもちろんですが、日常臨床の疑問に対する情報収集に最も適していると感じます。まとめ2つのツールを紹介しました。それぞれの簡単な特徴は以下のとおりです。Elicit研究同士の比較がしやすい。疑問テーマが決まっているときの初期検索OpenEvidence文章での記載で読みやすい。臨床現場の疑問やエビデンスチェックこれらのツールをうまく組み合わせることで、論文の情報を短時間に効率的に引き出すことができます。ぜひ活用してみてください。

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第283回 自由診療クリニックで相次ぐ再生医療等安全性確保法がらみの事件(前編) MSC投与で死亡事故、一般社団法人のクリニックは名称を即変更の不可解

夏の終わりに都内のクリニックで問題事案が相次いで発覚こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBは9月30日(現地時間)からいよいよポストシーズンに突入します。今年は、ドジャース、パドレス、カブス、レッドソックスと日本人選手が所属するチームが4チームも進出しています。ワールドシリーズ2連覇を狙うドジャースはナショナルリーグ西地区で優勝したものの、地区優勝チーム3チーム中勝率3位のためシードを外れ、ワイルドカードシリーズで3位レッズとの対戦からのスタートです。復調した佐々木 朗希投手がリリーフに回り、ブルペン陣も若干強化されるようですが、昨年ほどにはスムーズに勝ち進んで行けないでしょう。いずれにしても、ワールドシリーズに日本人選手が所属するチームが進出することを期待したいと思います。さて、今回は夏の終わりに都内のクリニックで相次いで発覚した、再生医療等安全性確保法がらみの事件について書いてみたいと思います。いずれも保険診療では認められていない“怪しげ”な治療法を自由診療で提供、死亡例が出たケースもあります。50歳代の外国人女性にMSC投与厚生労働省は8月29日、一般社団法人TH(8月29日時点では一般社団法人日本医療会)が運営する医療機関ティーエスクリニック(8月29日時点では東京サイエンスクリニック、東京都中央区)で再生医療を受けた患者1人が死亡する事例が確認されたと発表しました。厚労省は原因究明が不十分で、さらなる発生を防ぐ必要があると判断、同日付で再生医療等安全性確保法(再生医療等の安全性の確保等に関する法律)に基づき、クリニックに対し同治療と同治療に類似した治療の一時停止を命じる緊急命令を出しました。また、細胞を製造したバイオベンチャーのコージンバイオ(埼玉県坂戸市)の埼玉細胞加工センターにも同治療に用いる特定細胞化合物等の製造の一時停止を命じました。発表や各紙報道などによると、同クリニックは8月20日、50代の外国人女性に本人の脂肪組織を取り出して増やした細胞を静脈に注射し、痛みを改善するとうたう治療(自己脂肪由来間葉系幹細胞〈MSC〉投与)を実施。MSC投与中に女性は急変し心停止、死亡したとのことです。このMSCを同クリニックからの委託で製造していたのがコージンバイオでした。同クリニックは8月27日、厚労省に報告、女性の死因についてはアナフィラキシーショックだと説明しましたが、厚労省は断定できないとして緊急命令を出し、立ち入り調査を含め、原因究明が進められることになりました。患者の死亡を受けて再生医療等安全性確保法に基づく緊急命令が出されたのは今回が初めてとのことです。「第248回 自家NK細胞療法を自費で行うクリニックに改善命令、敗血症発症は『生来健康』な成人の衝撃、厚労省は新たなガイダンス作成へ」で書いたケースでも、治療の提供を一時停止させる緊急命令が出されていますが、この時は敗血症を発症した2人は後に回復しています。MSC投与の施術料は税込み275万円ティーエスクリニックのMSC投与とはどんなものだったのでしょう。9月1日にこの事件を報じた日経バイオテクは、同クリニックの患者向け説明文書を入手、その内容について「同治療は、患者の脂肪から取り出したMSCを培養し、点滴によって投与することにより『幹細胞が体内の傷ついた場所に集まり、炎症を抑え傷ついた組織を修復することで、痛みの原因となる慢性炎症を抑え、末梢神経などの傷害部位を修復し、疼痛などの症状を改善させる効果が期待される』と説明されている。同文書によると、同診療所で医師が患者の下腹部あるいは大腿部から脂肪組織を切除あるいは吸引して採取し、コージンバイオのCPC(細胞培養加工施設)に輸送。MSCが分離された後、約1ヵ月培養・増幅されて、ティーエスクリニックに冷凍状態で返送されたものを投与していた。施術料として税込み275万円で実施されていたという」と書いています。「疼痛などの症状を改善させる」となっていますが、このMSC投与、実際には、顔や首などのシミ、くすみ、シワ、たるみの改善、いわゆる美容やアンチエイジング目的に受ける人が多いようです。再生医療等安全性確保法では再生医療を自費診療や研究目的で提供できることになっていますが、届け出を行う場合その目的は美容やアンチエイジングではなく、あくまでも医療である必要があるため、届け出文書も含め、このように「疼痛」を前面に出した“表向き”の説明が行われているとみられます。事故発生後、法人名、クリニック名を即変更ところで、事故が起こった時点の一般社団法人THのティーエスクリニックは、8月29日の厚労省発表では、一般社団法人日本医療会の東京サイエンスクリニックに「変更」となっています。約1ヵ月後、9月30日時点ではどちらの法人もクリニックもウェブ検索では発見することができません。事故発生後、法人名、クリニック名をすぐに変更していることから、報道後、再び名称を変えている可能性もあります。ちなみに美容医療に関するニュースを発信しているヒフコNEWSは8月30日付けで発信した記事「再生医療で死亡事故、足を運んでみて分かったこと」で、記者が実際に銀座五丁目にあるとされるティーエスクリニック(厚労省発表時は東京サイエンスクリニック)を訪ねています。その結果、名称がまったく異なる「Tokyo Stemcell Research」があったと書き、さらには、「GoogleでTokyo Stemcell Researchを検索すると、日本東京幹細胞移植治療研究所が出てきた」としており、最終的に事故を起こしたクリニックには辿り着けていないようでした。死亡事故を起こしたクリニックはいったいどこで、今の名称は何なのでしょうか。コロコロと名前を変えて同定できない点や、もっともらしい名称の診療所名や事業所名、さらには研究所名が出てくるところがますます怪しいです。本連載の「第215回 乱立する一般社団法人の美容クリニック、院長の名義貸しも常態化、見て見ぬふりの厚労省も規制にやっと本腰か?」でも書いたことですが、診療所の開設には、基本的に管轄する保健所の認可が必要となります。しかし、保健所の管轄地域にすでに一般社団法人の診療所があれば、ほぼ認可されるようです。つまり、すでに一般社団法人の美容外科が乱立している大都市部(東京都中央区や港区など)ならば、その開設や名称変更は極めて容易なのです。さらに一般社団法人には監督官庁がなく、事業の報告義務もありません。事故を起こしたクリニックが平気でクリニック名を変え、何事もなかったかのように営業を続けられる(客や患者も確認できない)のも、監督官庁がない“野放し”状態の一般社団法人だからとも言えるでしょう。再生医療の危険性や、“野放し”状態の一般社団法人の問題点が浮き彫り今回の死亡事故の原因等については、厚労省からも、事故を起こした一般社団法人からも9月30日時点で公式の発表はまだありません。一方、コージンバイオは緊急命令と同日の8月29日に出したプレスリリースで、「当社にて実施した調査の結果、出荷された特定細胞加工物等は、本計画に基づき、(患者由来脂肪組織の)受入から培養、品質管理試験、輸送にいたるすべての工程において、適切に実施されていたことを確認しております」と主張しています。患者の死因は何だったのか、投与されたMSCに問題があったのか、MSCの保存状態に問題があったのかについては、厚労省の発表を待つしかありませんが、改めて再生医療等安全性確保法下で行われている再生医療の危険性や、“野放し”状態の一般社団法人の問題点が浮き彫りになった事件でした。再生医療等安全性確保法がらみでは、8月にもう1件、問題となる事案が発覚しています。厚労省と環境省は2025年8月22日、自由診療の枠組みでがんの遺伝子治療を提供していた東京都内の診療所に対して、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」に基づく措置命令を出しました。こちらは再生医療等安全性確保法に加え、カルタヘナ法にも抵触していました。一体、何が起こったのでしょうか。(この稿続く)

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救急看護師vs.生成AI、臨床判断の精度が高いのは?【論文から学ぶ看護の新常識】第33回

救急看護師vs.生成AI、臨床判断の精度が高いのは?救急看護師と生成AIモデル、臨床判断の精度が高いのはどちらか。両者を比較した研究から、生成AIが高い精度を持つ一方、AIには代えられない人間の判断の重要性が示された。C. Levin氏らの研究で、International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年9月12日号に掲載。生成AI時代の看護判断:救急看護師の臨床的意思決定能力に関する国際比較研究研究チームは、イスラエルとイタリアの救急看護師の臨床的意思決定能力を、生成AIモデル(Claude-3.5、ChatGPT-4.0、およびGemini-1.5)と比較することを目的に、前向き観察研究を行った。82名の救急看護師(イタリア49名、イスラエル33名)を対象とし、各看護師が5つの標準化された臨床症例を独立して評価し、その判断を構造化評価ルーブリックを用いて生成AIモデルによる判断と比較した。評価項目は、重症度評価、入院判断、検査選択における差異とし、同時に人口統計学的特性および専門的特性が意思決定の正確性に与える影響を調査した。統計分析には、予測精度を評価するために、分散分析(ANOVA)、カイ二乗検定、ロジスティック回帰分析、およびROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve:受信者操作特性曲線)分析を用いた。主な結果は以下の通り。生成AIモデルは、全体的な意思決定の正確性が高く、専門家の推奨との整合性も強かった。入院判断と重症度評価においては、顕著な差異が認められた。症例2(重症度評価):生成AIは重症度をレベル1と評価したのに対し、イタリアとイスラエルの看護師はそれぞれ1.98と2.23と評価した(p<0.01、F=199)。症例1(入院決定):生成AIモデルはすべて入院を推奨したのに対し、イタリアの看護師の推奨率はわずか4.1%、イスラエルの看護師では30.3%であった。看護師は、検査選択と重症度判断において、AIより大きなばらつきを示し、臨床的直感と文脈的推論の活用を反映していた。年齢、性別、経験年数などの人口統計学的特性は、判断精度を予測する有意な因子ではなかった。生成AIモデルは一貫性と専門家の見解との整合性を示したが、救急医療に不可欠な文脈的感受性に欠けていた。これらの結果は、臨床的意思決定支援ツールとしての生成AIの可能性を示す一方で、人間の臨床判断の変わらない重要性を強調している。本研究は、現代の看護が直面する最も重要な問いの一つに見事に切り込んでいます。それは、「AIがデータに基づいた“正解”を提示できる時代に、看護師の臨床判断の価値はどこにあるのか?」という問いです。この研究で特に興味深いのは、AIが人間よりも遥かに多く「入院」を推奨したという結果です。これは単なる性能の違いではなく、AIの思考の限界を示唆しています。AIはデータ上のリスクを最小化するロジックで動きますが、そこには「不要な入院が患者に与える負担」や「家族のサポート体制」といった、データ化できない人間的な側面への配慮はありません。一方で、看護師の判断には、臨床的リスクと患者さんを取り巻く現実との間でバランスを取る、総合的な思考が見て取れます。研究ではAIが総合スコアで人間を上回っていますが、この「正確性」が臨床現場で最善の結果をもたらすとは限りません。むしろ、看護師の判断に見られる「ばらつき」は、欠点ではなく、ケースや患者ごとの状況に適応しようとする専門性の証と言えるでしょう。実際に、看護師の重症度評価と入院判断の間に強い相関が見られたことは、その判断が一貫した臨床的推論に基づいていることを示しています。これからの看護師に求められるのは、AIの提示する答えを鵜呑みにするのではなく、自身の臨床経験と照らし合わせて「なぜAIはこの結論を出したのか」を批判的に吟味し、最終的な意思決定の責任を負う能力です。これからの私たちの役割は、AIという新たなパートナーと共に、より質の高いケアを追求していくことなのではないでしょうか。論文はこちらLevin C, et al. Int J Nurs Stud. 2025 Sep 12. [Epub ahead of print]

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鼻血の初の全国調査、多い季節・年齢・性別・治療法は?

 鼻出血(鼻血)の発生率のピークは冬季にあることが複数の研究で示されているが、研究のほとんどは単施設または特定の地域のデータに基づいており、全国的な季節的傾向、年齢と性別の分布、地理的パターンは不明である。今回、岡山大学の牧原 靖一郎氏らは、日本における鼻出血治療の季節的、人口統計学的、地域的差異を明らかにするため、全国行政データベースを用いて疫学調査を行った。その結果、鼻出血は冬季、小児と高齢者、男性に多く、また、地域によって処置の傾向が異なっていることがわかった。Auris Nasus Larynx誌2025年10月号に掲載。 著者らは、2019~22年度のレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)のオープンデータを解析し、鼻出血に対する2種類の治療法(ガーゼパッキング止血法と焼灼術)について検討した。治療パターンは月別、年齢別、性別、都道府県別に評価した。 主な結果は以下のとおり。・調査期間において、ガーゼパッキング止血法が87万819件、焼灼術が52万3,591件記録されていた。・両処置とも一貫した季節パターンを示し、冬(12月~2月)にピークがあった。・年齢分布は二峰性パターンを示し、小児と高齢者において発生率が高く、すべての年齢層で男性が多かった。・小児の患者はガーゼパッキング止血法を受ける傾向が強かった。・地域的には、西日本ではガーゼパッキング止血法が多いのに対し、北日本では焼灼術が多かった。 著者らは「これらの結果は、気候以外の要因が治療法選択に影響を及ぼす可能性を示唆する」としている。

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双極性うつ病に対する抗うつ薬治療後の躁転リスク〜ネットワークメタ解析

 抗うつ薬の躁転リスクは、双極性うつ病の治療において依然として大きな懸念事項である。しかし、抗うつ薬の種類による躁転リスクへの具体的な影響は、依然として不明である。スペイン・バルセロナ大学のVincenzo Oliva氏らは、各抗うつ薬とプラセボを比較することにより、双極性うつ病における躁転リスクを評価するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析(NMA)を実施した。EClinicalMedicine誌2025年8月7日号の報告。 2025年2月19日までに公表された研究をClinicalTrials.gov、CENTRAL、PsycINFO、PubMed、Scopus、Web of Scienceのデータベースよりシステマティックに検索した。対象は、双極性うつ病における急性期抗うつ薬治療を評価したランダム化比較試験(RCT)とし、言語制限なしに抽出した。主要アウトカムは、抗うつ薬治療後の躁転リスクとした。頻度主義NMAを用いてリスク比(RR)および95%信頼区間(CI)を推定した。感度分析は、治療レジメン(単剤療法または併用療法)、ベースライン時の重症度、躁転の定義、研究設定、精神疾患合併症、治療期間、非薬物療法の併用、企業スポンサード、バイアスリスクに基づき実施した。エビデンスの確実性の評価には、CINeMAフレームワークを用いた。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングされた2,434件のうち、13件のRCT(1,362例)において、女性818例(60.1%)、男性511例(37.5%)、性別不明33例(2.4%)をNMAに含めた。・躁転リスク増加を示すエビデンスはいくつか認められたものの、プラセボと比較し、躁転リスクが有意に高い抗うつ薬は認められなかった。・ベンラファキシンは、抗うつ薬の中で最も高いリスク推定値を示したが、統計的に有意なRRは示されなかった(RR:4.53、95%CI:0.47〜43.25)。しかし、各研究において、躁転リスク増加の一貫したシグナルを示した唯一の薬剤であった。・エビデンスベースでは、併用療法のほうがより大規模であったのに対し、単剤療法については利用可能なデータが少なかった。・これらの結果は、感度分析により裏付けられた。また、異質性は低かった。・エビデンスに対する全体的な信頼性は、低いと評価された。 著者らは「抗うつ薬は、とくに併用療法として、急性双極性うつ病の治療選択肢である。しかし、抗うつ薬の使用は、患者固有のプロファイルおよびその他の潜在的なリスクを考慮し、的確な精神医学的アプローチに沿って個別化されるべきである。抗うつ薬治療による長期的な安全性を明らかにするには、さらなる研究が必要である」としている。

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経口orforglipron、肥満成人の減量に有効~日本を含む第III相試験/NEJM

 非糖尿病の成人肥満者において、プラセボと比較して経口低分子GLP-1受容体作動薬orforglipronは有意な体重減少をもたらすとともに、ウエスト周囲長や収縮期血圧、非HDLコレステロール値を改善し、有害事象プロファイルは他のGLP-1受容体作動薬と一致する。カナダ・McMaster UniversityのSean Wharton氏らATTAIN-1 Trial Investigatorsが、第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験「ATTAIN-1試験」の結果を報告した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年9月16日号で発表された。日本を含む9ヵ国137施設で実施 ATTAIN-1試験は、日本を含む9ヵ国137施設で行われた(Eli Lillyの助成を受けた)。2023年6月~2025年7月に、年齢18歳以上で、BMI値30以上、または同27~30で少なくとも1つの肥満関連合併症(高血圧、脂質異常症、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸症候群)に罹患し、減量を目的とする食事療法に失敗した経験が1回以上あると自己報告した患者3,127例を登録した。糖尿病の診断を受けた患者と、スクリーニング前の90日以内に±5kg以上の体重の変動を認めた患者は除外した。 被験者を、健康的な食事と身体活動に加えて、orforglipron 6mgを1日1回経口投与する群(723例)、同12mg群(725例)、同36mg群(730例)、プラセボ群(949例)に無作為に割り付け、72週間投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから72週目までの体重の平均変化量とした。 ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は45.1(±12.1)歳、女性が2,009例(64.2%)で、平均体重は103.2kg、平均BMI値は37.0であり、参加者の36.0%が前糖尿病であった。減少率別の達成率も有意に改善 ベースラインから72週目までの体重の平均変化量は、プラセボ群が-2.1%(95%信頼区間[CI]:-2.8~-1.4)であったのに対し、orforglipron 6mg群は-7.5%(-8.2~-6.8)、同12mg群は-8.4%(-9.1~-7.7)、同36mg群は-11.2%(-12.0~-10.4)であり、用量依存性の体重減少を認めた。 体重の平均変化量のプラセボ群との群間差は、orforglipron 6mg群が-5.5%ポイント(95%CI:-6.5~-4.5)、同12mg群が-6.3%ポイント(-7.3~-5.4)、同36mg群は-9.1%ポイント(-10.1~-8.1)と、いずれの用量とも有意に優れた体重減少効果を示した(すべてのp<0.001)。 また、72週時に、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上の体重減少率を達成した患者の割合は、いずれもプラセボ群に比べorforglipronのすべての用量群で有意に高かった(多重性の調整を行っていないためp値を表記しない6mg群の減少率20%以上を除き、すべてのp<0.001)。たとえば、10%以上の体重減少を達成した患者の割合は、プラセボ群が12.9%であったのに対し、orforglipron 6mg群は33.3%、同12mg群は40.0%、同36mg群は54.6%であった。 さらに、orforglipron群では、ウエスト周囲長(72週目までの平均変化量:orforglipron 6mg群-7.1cm、同12mg群-8.2cm、同36mg群-10.0cm、プラセボ群-3.1cm、プラセボ群との比較で3つの用量群のすべてのp<0.001)、収縮期血圧(3つの用量群の統合解析とプラセボ群の変化量の群間差:-4.2mmHg、95%CI:-5.3~-3.2、p<0.001)、非HDLコレステロール値(変化率の群間差:-4.9%、95%CI:-6.7~-3.1、p<0.001)、トリグリセライド値(変化率の群間差:-11.5%、95%CI:-14.5~-8.3、p<0.001)などの心代謝系リスク因子の有意な改善を認めた。また、無作為化の時点で前糖尿病であった患者のうち72週目に正常血糖値に達した割合は、プラセボ群の44.6%に対し、3つの用量のorforglipron群では74.6~83.7%の範囲であった。軽度~中等度の消化器系有害事象が多い orforglipron群で頻度の高い有害事象は悪心、便秘、下痢、嘔吐などの消化器症状で、ほとんどは軽度~中等度であった。消化器系の有害事象による投与中止は、orforglipron群の3.5~7.0%、プラセボ群の0.4%で発生した。 重篤な有害事象は、orforglipron群の3.8~5.5%、プラセボ群の4.9%に発現し、72週目までに3例が死亡した(6mg群1例[死因不明]、12mg群1例[転移のある卵巣がん]、プラセボ群1例[肺塞栓症])。orforglipron群の5例で軽度の膵炎がみられ、orforglipron群の7例とプラセボ群の1例で正常上限値の10倍以上に達するアミノトランスフェラーゼ値の上昇が報告された。また、平均脈拍数は、orforglipron群で4.3~5.3拍/分の増加を認めたが、プラセボ群では0.8拍/分の増加だった。 著者は、「GLP-1受容体作動薬は、体重減少を誘導する作用と、体重に依存しない直接的な作用の両方によって心血管アウトカムを改善する可能性があるが、orforglipronによる体重減少とバイオマーカーの変化が心血管リスクの低減につながるかを知るには、それ専用のアウトカム試験が必要である」「低分子化合物は標的でない受容体に結合する可能性があるため、付加的な有害作用の可能性が高まるが、本薬剤の開発計画ではそのような作用は検出されておらず、安全性プロファイルはペプチド性GLP-1受容体作動薬の第III相試験の結果と一致する」としている。

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BUD/GLY/FOR配合薬が喘息にも有効(KALOS/LOGOS)/ERS2025

 吸入ステロイド薬(ICS)/長時間作用性β2刺激薬(LABA)でコントロール不良の喘息において、慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬として用いられるブデソニド・グリコピロニウム臭化物・ホルモテロールフマル酸塩水和物(BUD/GLY/FOR)のトリプル製剤が有効であることが示された。欧州呼吸器学会(ERS Congress 2025)において、Alberto Papi氏(イタリア・フェラーラ大学)が、国際共同第III相試験「KALOS試験」および海外第III相試験「LOGOS試験」の統合解析の結果を報告した。KALOS試験・LOGOS試験のデザイン(両試験とも同様のデザインで実施)試験デザイン:第III相無作為化二重盲検比較試験対象:中~高用量のICS/LABAでコントロール不良(7項目の喘息コントロール質問票[ACQ-7]スコア1.5以上)の12~80歳の喘息患者4,311例(有効性解析対象4,304例)試験群1:BUD/GLY/FOR 320/28.8/10μgを1日2回(高用量群:1,179例)試験群2:BUD/GLY/FOR 320/14.4/10μgを1日2回(低用量群:725例)対照群1:BUD/FOR(エアロスフィア製剤)320/10μgを1日2回(1,208例)対照群2:BUD/FOR(タービュヘイラー製剤)320/9μgを1日2回(1,192例)投与方法:4週間のrun-in期間にBUD/FOR(エアロスフィア製剤)320/10μgを1日2回投与し、4群に無作為に割り付けた。無作為化後は割り付けられた治療を24~52週間実施した。評価項目:[主要評価項目]投与24週時のトラフ1秒量(FEV1)値のベースラインからの変化量[主要な副次評価項目]投与24週時の投与0~3時間後のFEV1値の曲線下面積(FEV1 AUC0-3)[統合解析の主要解析]重度の喘息増悪の年間発現率 試験実施国によって解析計画が異なるが、今回は欧州での解析計画に基づいて報告された(対照群1および2を統合して解析)。主な結果は以下のとおり。・主要評価項目の投与24週時のトラフFEV1値のベースラインからの変化量は、KALOS試験ではBUD/GLY/FOR高用量群が対照群と比べて有意に改善し、LOGOS試験では高用量群および低用量群のいずれも対照群と比べて有意に改善した。対照群に対するトラフFEV1値の群間差(95%信頼区間[CI])、p値は以下のとおり。 <高用量群> KALOS試験:56mL(31~82)、p<0.001 LOGOS試験:97mL(70~123)、p<0.001 統合解析:76mL(57~94)、名目上のp<0.001 <低用量群> KALOS試験:25mL(-7~56)、p=0.126 LOGOS試験:103mL(73~134)、p<0.001 統合解析:65mL(43~88)、名目上のp<0.001・投与24週時のFEV1 AUC0-3値のベースラインからの変化量は、いずれの試験においてもBUD/GLY/FOR高用量群および低用量群が対照群と比べて改善した。対照群に対するFEV1 AUC0-3値の群間差(95%CI)およびp値は以下のとおり。 <高用量群> KALOS試験:69mL(44~94)、p<0.001 LOGOS試験:112mL(87~138)、p=0.001 統合解析:90mL(72~108)、名目上のp<0.001 <低用量群> KALOS試験:45mL(15~76)、名目上のp=0.003 LOGOS試験:115mL(85~145)、p<0.001 統合解析:81mL(60~103)、名目上のp<0.001・重度の喘息増悪の年間発現率(回/人年)は、対照群が0.63であったのに対し、BUD/GLY/FOR高用量群0.54(レート比:0.86、95%CI:0.76~0.97、p=0.01)、低用量群0.53(同:0.84、0.73~0.97、p=0.02)であり、BUD/GLY/FOR高用量群および低用量群が改善した。・治験薬との関連が否定できない有害事象の発現割合は、対照群が3.6%であったのに対し、BUD/GLY/FOR高用量群5.4%、低用量群4.6%であった。治験薬の中止に至った有害事象の発現割合は、それぞれ0.9%、1.1%、1.2%であった。 本試験結果について、Papi氏は「ICS/LABAでコントロール不良の喘息患者において、BUD/GLY/FORの単一デバイスによる3剤併用療法は、呼吸機能の改善および重度の喘息増悪の改善について、ICS/LABAに対する優越性を示した。BUD/GLY/FORの安全性プロファイルはBUD/FORと同等であった」とまとめた。

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ER+/HER2-進行乳がん、オラパリブ+デュルバルマブ+フルベストラントの有効性

 転移を有するER+/HER2-乳がんに対し、PARP阻害薬、ER阻害薬、PD-L1阻害薬の併用が、関連するゲノム変化のある患者に有効であり、毒性プロファイルも許容できるものであったことが多施設共同単群第II相DOLAF試験で示された。フランス・Institut Regional du Cancer de MontpellierのSeverine Guiu氏らがClinical Cancer Research誌オンライン版2025年9月23日号で報告した。 本試験では、転移を有するER+/HER2-乳がんに対する2次治療または3次治療として、オラパリブ+フルベストラント+デュルバルマブの3剤併用療法の有効性と安全性を評価した。対象は、相同組み換え修復(HRR)遺伝子の体細胞または生殖細胞系列変異、マイクロサテライト不安定性(MSI)状態、内分泌抵抗性関連変異のいずれかを有する患者であった。主要評価項目は24週無増悪生存(PFS)率であった。 主な結果は以下のとおり。・対象の172例すべてにおいて転移乳がんに対する内分泌療法歴があり、86%はCDK4/6阻害薬を受け、39%は生殖細胞系列BRCA1/2(gBRCA1/2)変異を有していた。・24週PFS率は、評価可能集団で66.7%(95%信頼区間[CI]:58.6~74.1)、gBRCA1/2変異症例で76.3%(95%CI:63.4~86.4)であった。・PFS中央値は、ITT集団で9.3ヵ月(95%CI:7.5~12.7)、gBRCA1/2変異集団で12.6ヵ月(95%CI:8.2~16.7)であった。・全生存期間中央値は30ヵ月(95%CI:26.6~NR)であった。・Gradeを問わず最も多くみられた有害事象は、悪心(59%)および無力症(43%)で、新たな毒性はみられなかった。

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搾乳した母乳は採乳時間に合わせて授乳すべき

 母親が朝に搾乳した母乳を乳児に夕方に与えると、母乳が持つ本来のリズムと異なる合図を乳児に与えてしまう可能性があるようだ。母乳の中には、乳児の睡眠・覚醒リズムに関与すると考えられるホルモンや免疫因子なども含まれているが、それらは日内で変動することが、新たな研究で明らかにされた。このことから研究グループは、午前中に搾乳して保存した母乳を午後や夕方に与えると、意図せず乳児の休息を妨げる可能性があると警告している。米ラトガース大学栄養科学分野のMelissa Woortman氏らによるこの研究結果は、「Frontiers in Nutrition」に9月5日掲載された。 Woortman氏は、「母乳は栄養価の高い食品だが、搾乳した母乳を乳児に与える際には、タイミングを考慮する必要がある」と話している。また、論文の上席著者であるラトガース大学生化学・微生物学分野教授のMaria Gloria Dominguez-Bello氏は、「このような情報を受け取るタイミングは、幼少期、とりわけ、体内時計がまだ発達段階にある乳児期には特に重要だろう」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 医師は母乳を、乳児の免疫システムの構築や成長中の身体の栄養を助けるビタミン、ミネラル、化合物を豊富に含む「スーパーフード」と見なしている。母乳は乳児にとって最良の栄養源であると広く考えられている。しかし、1日を通して常に直接授乳することができないため、搾乳して保存しておいた母乳を後で与える母親は少なくない。 今回の研究は、38人の授乳中の母親から、1日(24時間)の中で4つの異なる時間帯(午前6時、正午、午後6時、午前0時)に採取した母乳サンプルを収集し、その成分の変動を解析した。調べた成分は、メラトニン、コルチゾール、オキシトシン、免疫グロブリンA(IgA)、ラクトフェリンで、いずれもELISA法を用いて濃度を測定した。また、微生物組成は16S rRNA解析により評価した。 メラトニンとコルチゾールは、いずれも睡眠・覚醒リズムに関与するホルモンであり、メラトニンは夜間に分泌が増えて睡眠を促し、コルチゾールは朝に分泌が増えて覚醒を促す。オキシトシンは「愛情ホルモン」とも呼ばれ、母子の絆形成に関与するとされる。IgAは免疫系によって産生される抗体の一種であり、ラクトフェリンは糖タンパク質で乳児をさまざまな感染症から守る働きを持つ。これらはいずれも乳児の免疫機能や消化器系の発達などに影響を与える。 解析の結果、メラトニンとコルチゾールの濃度には明確な日内変動が認められ、メラトニンは真夜中、コルチゾールは早朝に濃度がピークに達することが明らかになった。この結果についてWoortman氏は、「血液中のホルモンは概日リズムに従って変動する。授乳中の母親では、それが母乳に反映されやすい。メラトニンやコルチゾールなどのホルモンも、概日リズムに従って母体循環から母乳に移行する」と説明している。他の成分は、1日を通してほぼ安定していた。一方、母乳中の微生物組成は昼夜で変動し、夜間には皮膚由来の細菌、日中には環境由来の細菌が増加することが示された。 研究グループは、「この結果は、搾乳した母乳はできるだけ採乳・保存した時間帯に合わせて与えるべきであることを示唆している」と述べている。Dominguez-Bello氏は、「搾乳した母乳に『朝』『午後』『夕方』のラベルを貼り、それに応じて授乳すれば、搾乳と授乳のタイミングをそろえ、母乳本来のホルモン・微生物組成や概日リズムの情報を保つのに役立つ可能性がある」とアドバイスしている。一方、Woortman氏は、「母親が1日中乳児と一緒にいることが難しい現代社会において、授乳時間と搾乳時間を合わせることは、搾乳した母乳を与える際に母乳のメリットを最大限に引き出すシンプルで実用的な方法だ」と述べている。

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関節リウマチの一因は免疫の早期老化?

 関節リウマチ(RA)は、免疫システムの早期老化が一因で生じる可能性のあることが、新たな研究で示された。この研究では、関節痛や関節炎を有する人において、免疫の老化が進んでいる兆候が認められたという。英バーミンガム大学免疫老化分野のNiharika Duggal氏らによるこの研究の詳細は、「eBioMedicine」に9月3日掲載された。 Duggal氏らは、「これは、免疫の老化がRAの発症に直接的な役割を果たしている可能性があることを示唆している」と述べている。RAは、免疫系が自身の関節を攻撃することで発症する自己免疫疾患の一種である。 この研究でDuggal氏らは、224人の参加者を対象に、RAの初期段階にある人において免疫老化の兆候が認められるのかどうかを検討した。参加者のうち、32人は臨床的に疑わしい関節痛(平均年齢46.5歳、男性11%)、44人は分類不能の関節炎(平均年齢51.96歳、男性21%)、23人は新規発症RA(発症後3カ月以内、疾患修飾性抗リウマチ薬〔DMARD〕未使用、平均年齢56.5歳、男性30%)、56人はRA(発症後3カ月以上、DMARD未使用、平均年齢56.41歳、男性41%)を持っていた。残る69人は健康な対照(平均年齢57.12歳、男性28%)であった。免疫老化の特徴はフローサイトメトリーにより評価され、8種類の免疫細胞頻度のサブセットを基に統合スコア(IMM-AGE)が算出された。さらに、免疫老化の分子レベルでの特徴を明らかにするためにトランスクリプトーム解析を行った。 その結果、臨床的に疑わしい関節痛と分類不能の関節炎を有する参加者では、ナイーブCD4 T細胞と胸腺から血中に移行した直後の新生T細胞が減少していることが明らかになった。また、Th17細胞、制御性T細胞(Treg)、老化様T細胞の増加などの免疫老化の特徴は、RAの発症後にのみ見られることも判明した。総じて、RA発症前の早期段階の人でもIMM-AGEスコアは上昇を示し、炎症やオートファジー(細胞の自食作用)の低下などの老化の兆候も確認された。 Duggal氏は、「RAの早期段階、つまり臨床的に診断を受ける前の段階にある人でも、免疫システムの老化が進んでいる兆候が認められた」と述べ「この結果は、RAを予防する治療法の開発につながる可能性がある」と期待を示している。同氏はさらに、「これらの結果は、損傷した細胞を除去する体内の自然なプロセスを促進するなど、老化を遅らせる治療法を用いることで、リスクのある人の疾患の進行を阻止し、発症を防ぐことができる可能性を示唆している」と話している。 研究グループは、「今後の研究では、既存の薬により免疫の早期老化を防ぎ、RAリスクが高い人の疾患の進行を遅らせたり止めたりできるのかどうかに焦点が当てられる可能性がある」と述べている。

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adagrasib:KRAS G12C変異陽性NSCLCに対する2次治療の新たな選択肢(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 「KRYSTAL-12試験」の結果は、KRASG12C変異陽性NSCLCに対する2次治療の新たな標準選択肢が確立した点が重要と捉えられる。従来、1次治療であるプラチナ併用化学療法+免疫チェックポイント阻害薬による治療後に病勢進行したNSCLCに対しては、ドセタキセル±ラムシルマブなどが標準的であった。しかし、本試験ではKRASG12C変異を有する集団では従来の殺細胞性抗がん剤よりも標的治療adagrasibのほうが無増悪生存期間を延長し、腫瘍縮小効果も高いことが明確に示された。安全性プロファイルの観点でも、adagrasibは経口薬である利便性や重篤な骨髄抑制などが少ない点で有利と考えられる。消化器症状や肝機能上昇といった副作用はあるものの、治療継続困難となる症例割合は少ない。実際、治療関連有害事象による中止はadagrasib群で8%にとどまり、ドセタキセル群(14%)より少ない結果であった。 脳転移への有効性という点も注目される。本試験では安定した脳転移症例を含めて登録され、adagrasib群で頭蓋内病変の縮小効果(頭蓋内奏効)が確認された。ドセタキセル群では脳転移に対する奏効率が11%に対し、adagrasib群では24%と倍以上の奏効が認められた点も評価したい。この差は、基礎データで示されていたadagrasibの中枢神経系への移行性の高さを裏付けるものと考えられる。 2025年時点で実臨床で活用されているKRAS阻害薬ソトラシブは、第III相試験である「CodeBreaK 200試験」でドセタキセルとの直接比較が行われている。この試験ではPFS中央値5.6ヵ月vs.4.5ヵ月で、ハザード比0.66(p=0.0017)と、ソトラシブの有意なPFS延長が報告されている。しかしOSに関しては有意差が出ず、ソトラシブは「生存期間の延長」を明確に証明されなかった経緯がある。 今回の「KRYSTAL-12試験」でもPFSや奏効率の改善はソトラシブと同等に良好な結果であったが、OSが未成熟である点は共通しており今後の結果が待たれる。 現時点でソトラシブとadagrasibを直接比較した試験はないが、PFSのハザード比(ソトラシブ0.66 vs.adagrasib 0.58)やORR(28%vs.32%)はおおむね近い水準であり、臨床効果は同程度であると推測する。adagrasibは1日2回投与で作用が持続的であることが考えられ、安定した効果発現や脳内移行に利点がある可能性がある。 本論文でも指摘されているが、対照群レジメンの選択としてドセタキセル単剤が選ばれた点には議論の余地がある。現在2次治療の選択肢としては、ドセタキセル+ラムシルマブの併用レジメンが広く使われている。ドセタキセル単剤に比べ生存期間の延長(中央値+1.4ヵ月)を示した実績がある。本論文では、国際汎用性の観点からドセタキセル単独を対照群としたと説明されている。また、本試験ではOSの有意差は確認できておらず、ソトラシブが使用できる現在、adagrasibが生存に寄与するかは結論が出ていない。ドライバー遺伝子全般的に言えることであるが、クロスオーバーが倫理的にも妥当な措置と考えられ、最終的なOS解析で群間差が出にくいことが予想される。患者側から考えると生存期間の延長が最も重要な指標ではあるが、PFS延長や奏効率の高さも症状緩和やQOL維持につながると考え評価すべきと私は考えている。 本論文で示された中央追跡期間は約7~9ヵ月と短いため、まだ長期生存や毒性の評価が不十分であるが、中枢神経系転移への効果や耐性獲得の問題など、今後の解析結果が期待され注目すべき薬剤であることは間違いない。

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異物除去(6):鼻腔異物(2)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q150

異物除去(6):鼻腔異物(2)Q150外勤先の診療所での4歳男児の鼻腔異物の症例。「mother’s kiss」を試みたが除去できなかった。外勤先には耳鏡があるが、耳鼻科用鑷子などの使えそうなデバイスがない。あるのは一般的な事務用品くらいだ。何か使えるものはあるだろうか。

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絞扼性イレウスの見落とし?【医療訴訟の争点】第15回

症例絞扼性イレウスは、緊急の開腹手術が第1選択となり、機を逃すと致死的な結果を招くにもかかわらず、鑑別が容易でないことも珍しくない。本稿では、診療過程における絞扼性イレウスの見落としが争点となった東京地裁令和3年11月29日判決を紹介する。<登場人物>患者男児(8歳)原告患者の両親被告大学病院事案の概要は以下の通りである。平成28年2月20日(土)患児は、夜から嘔吐を繰り返す。2月21日(日)午前10時8分休日診療所を受診。受診時、嘔気と嘔吐を訴え、体温は38.3度、下痢なし、咽頭・胸部異常なし、インフルエンザ検査は陰性。同診療所で診察した医師は、急性胃腸炎と診断し、第二次救急医療機関であるA医療センターを紹介した。正午頃A医療センターを受診受診時、患児は、心拍数210回/分、体温38度、腸音通常で、腹部はやや硬く全体的に圧痛が認められた。A医療センターの医師は、PSVT(発作性上室頻拍)を認めて処置を行ったが、A医療センターでの薬物治療および原因検索は困難であるとして、PSVTの治療をお願いする旨の申し送りをし、第三次救急医療機関である被告病院に転送した。午後5時頃被告病院に到着。到着時、茶褐色の嘔吐。午後5時28分頃12誘導心電図検査を実施。このときの心拍数は200回/分午後5時35分頃茶褐色の嘔吐をした。診察した医師は、超音波検査および診察を行い、劇症型心筋炎の可能性は低いと判断。午後5時56分頃PSVT治療のため、午後5時56分頃にアデホス0.1mL、同日午後5時58分頃にアデホス0.2mL、同日午後6時2分頃にアデホス0.4mL、同日午後6時31分頃にアデホス0.5mL、同日午後6時44分頃にワソラン0.5アンプルの静注を行った。午後6時15分頃不穏な言動をするなどして意識障害様の症状がみられる。午後6時52分頃茶褐色の嘔吐。午後8時30分頃頭部および胸腹部の単純CT検査(本件CT検査)を実施。胃および小腸の著明な拡張ならびに腹水貯留が認められており、「イレウス疑い・腹水貯留」と診断午後9時1分頃PEA(無脈性電気活動、心停止)状態午後10時25分心臓マッサージ開始午後11時24分死亡死亡後本件患者の死因につき、絞扼性イレウスも考えられることを原告らに対し説明実際の裁判結果原告側は、繰り返す嘔吐、腹痛といった所見から、絞扼性イレウスを疑うべきであった、腹部単純X線や超音波検査を行えば異常が把握でき、緊急手術により救命できた可能性が高い旨を主張した。これに対し、被告病院は、搬送時から頻拍・低血圧が続き、心筋炎や循環動態不全が強く疑われる状況であった、嘔吐も循環器疾患や感染症に伴う可能性があり、腹部疾患に直ちに結びつく特異的所見ではない旨を主張した。具体的には、以下のタイミングで、腹部検査(単純レントゲン検査、単純CT検査、造影CT検査および超音波検査など)を行う義務があったかが争われ、裁判所は以下のとおり判断した。(1)「傷病名胃腸炎、受診前日より腹痛・嘔吐を認める」旨が記載された診療情報提供書が送付され、被告病院に到着し、嘔吐があった時(2月21日午後5時10分)の検査義務について裁判所は、以下の点を指摘し、「まず行うべき処置は、PSVTを含む循環器疾患に対する処置であり、本件患児が被告病院に到着した平成28年2月21日午後5時10分頃の時点において、被告病院の医師が絞扼性イレウスを含む腹部疾患を疑って、直ちに本件腹部検査を行うべきであったとはいえない」とした。前医(A医療センター)は、傷病名をPSVT、急性胃腸炎とし、上室性頻拍に対する迷走神経刺激手技などの治療を行っていること前医(A医療センター)での上記治療が行われるも、頻脈が持続し、A医療センターでの薬物治療と原因検索は困難であるとして、被告病院に紹介していることA医療センターの医師は、被告病院の医師に電話でPSVTの治療をお願いする旨の申し送りをしていること循環器疾患の中でも、心筋炎は、発熱、腹痛、嘔吐の前駆症状を伴うことが多く、また、細菌やウイルスなどによる感染起因のものが多く何らかの感染症に罹患している可能性もあること。循環器疾患が強く疑われていたことを踏まえると、急性胃腸炎との傷病名や腹痛・嘔吐などの経過報告の記載は循環器疾患に付随する情報提供と考えることが合理的であること(2)再度の茶褐色の嘔吐があり、心エコーおよび診察にて劇症型心筋炎の可能性が低いと判断された時(2月21日午後5時40分)の検査義務について裁判所は、以下の点を指摘し、「循環器疾患の原因として感染症が疑われることや循環動態の悪化が継続したことによる嘔吐も考えられ、嘔吐は消化器以外に原因があることが少なくないことを踏まえれば、本件患児の場合、嘔吐が認められたからといって、腹部疾患を疑って本件腹部検査をすべきであったとはいえない」とした。劇症型心筋炎の可能性は低いと判断されたものの、本件患児の心拍数は、2月21日午後5時28分頃の12誘導心電図検査の段階で200回/分と、非常に高値であったこと12誘導心電図では、PSVTと矛盾しない所見が得られている上、初診時に認めた発熱、低血圧などの所見は、PSVTや心筋炎の所見と矛盾なく、循環器疾患の疑いはなお強い状態であったこと被告病院医師の初診時、本件患児の腹部は平坦で軟であり圧痛はなく、腹部超音波検査時にも腹部の張りや筋性防御を認めなかった上、明確な腹痛の主訴もなかったこと(3)アデホスを3回投与したが頻脈が治らない一方、嘔吐を繰り返している時(2月21日午後6時2分)の検査義務について裁判所は、以下の点を指摘し、「本件腹部検査をすべきであったということはできない」とした。アデホスは、短時間作用性のため繰り返し使用できる一方で、再発の可能性も高く、頻拍の再発があったからといって、循環器疾患を否定できるものではないこと2月21日午後5時39分頃の血液検査によれば、心筋炎症マーカーが高値となっており、急性心筋炎が強く疑われる状態であったこと(4)アデホスを4回投与した上、ワソランを投与したが頻脈が治らない一方、さらに嘔吐した時(2月21日午後6時52分)の検査義務について裁判所は、以下の点を指摘し、「被告病院の医師をして、絞扼性イレウスを含む緊急性のある腹部疾患を疑って本件腹部検査をすべきであったとはいえない」とした。本件患児は急性心筋炎が強く疑われる状態であり、被告病院の医師は、種々の細菌検査、複数回の12誘導心電図検査、アデホスとワソランの投与などを行っていること急性心筋炎は感染起因が多いこと、急性心筋炎には繰り返しの心電図検査が肝要であること、アデホスとワソランはPSVTの薬物治療として有用であることから、被告病院で行われた検査や治療はいずれも適切であったことアデホスとワソランの薬物治療が奏功しなくても、急性心筋炎といった緊急性のある循環器疾患は否定できないものであること発熱、意識障害を伴う嘔吐は中枢神経疾患の鑑別に重要であることから、感染を原因としてウイルス性脳炎などの可能性を疑ったことにも不適切な点はないこと午後6時52分頃まで、本件患児の病状が絞扼性イレウスの所見と矛盾しない症状を呈していたことは認められるものの、非特異的所見であること絞扼性イレウスをとくに示唆する腹部膨満や激しい腹痛は午後6時52分の時点においても認められず、他方で急性心筋炎、感染症、脳炎などを疑う症状もあったこと。とくに急性心筋炎は本件患児の臨床症状や検査結果からその存在を積極的に疑うべき状態に変わりはなかったこと注意ポイント解説本判決は、小児の消化器症状を循環器疾患とどう峻別すべきかが焦点となった事例である。繰り返す嘔吐は腹部疾患を疑わせるものであるが、必ずしも特異的ではなく、心筋炎などでも同様の症状を呈し得るものであること、診療情報の流れや臨床所見から循環器疾患がより強く疑われたことから、裁判所は、腹部検査を直ちに行うべき注意義務を否定した。また、本件では、死亡の数時間前の午後8時30分頃に撮影されたCTにて、胃および小腸の著明な拡張ならびに腹水貯留が認められており、「イレウス疑い・腹水貯留」と診断されているものの、解剖やCTによる死後画像造影が行われておらず、死因としては、急性心筋炎、脳症、絞扼性イレウスなどが考えられ、絞扼性イレウスであったと特定することができないこともまた、上記の判断に影響した部分があると思われる。このため、仮に、前医から腹部疾患を強く疑われる旨の診療情報が提供されていたり、非特異的な所見にとどまらず、腹部膨満や激しい腹痛などの絞扼性イレウスを示唆する所見が確認されていたりする場合には、異なる判断となった可能性がある点に留意する必要がある。なお、上記のとおり、本件患児の死因は、急性心筋炎、脳症、絞扼性イレウスなどの複数が考えられ、特定ができない中、「イレウスが死因かもしれない」旨の説明を受けることで、見落としへの不信を募らせたために訴訟に至っていると思われる。このため、顛末報告の説明は必要であるが、限られた情報の中で、誤解や不信感を抱かれないよう、丁寧に説明をする必要があることが改めて確認される事案でもある。医療者の視点本判決は、小児の非特異的な症状から重篤な疾患を鑑別する、臨床現場の難しさを反映したものと考えられます。裁判所は、頻拍や低血圧といった循環器系の異常を重視し、そちらの検査・治療を優先すべきであったと判断しました。これは、生命維持に直結する循環・呼吸の安定化を最優先するという救急医療の原則に合致しており、臨床医の判断プロセスと非常に近いものです。一方で、実臨床では、一つの疾患に絞って診断を進めるわけではありません。循環器疾患の治療を行いながらも、「嘔吐が続く」という情報から消化器疾患の可能性を常に念頭に置き、状態の変化を注意深く観察します。訴訟では特定の時点での「検査義務」が問われますが、現場では治療と並行して、どのタイミングで次の検査に踏み切るかという、より動的で連続的な判断が求められます。とくに、本件のように循環動態が不安定な患児をCT室へ移動させることには大きなリスクが伴います。そのため、まずはベッドサイドでできる治療や検査を優先するという判断は、実臨床ではやむを得ない、むしろ標準的な対応と言えるでしょう。この症例は、非特異的な症状であっても、絞扼性イレウスを示唆する腹部膨満や圧痛といった特異的な所見を見逃さないために、繰り返し身体所見をとることの重要性を改めて教えてくれる事例です。

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第286回 過度のランナーは大腸がんを生じやすいかもしれない

過度のランナーは大腸がんを生じやすいかもしれない長い距離を走る過度のランナーの多くに、意外にも大腸がんの前駆病変が認められました1)。米国のバージニア州のがんセンターInova Schar Cancer Instituteの胃腸がん治療部門を率いる医師の1人のTimothy Cannon氏は、1年ほどの間によく似た3例の患者に遭遇しました。全員が比較的若く、単なる健康体にとどまらず長い距離を走る極端なアスリートでもありました。そして全員がStageIVの大腸がんでした2)。3人ともランニングを習慣としているという奇妙な一致に触発されて、Cannon氏らはマラソンやそれ以上の距離を走るウルトラマラソンの経験者を調べることを思い立ちます。Cannon氏らの試験には50km以上のウルトラマラソンを少なくとも2回走っているか、フルマラソンを5回以上走っている35~50歳のランナー100人が参加しました。全員が試験の一環で大腸内視鏡検査を受けました。すると研究者が驚いたことに7例に1例ほど(15%)もの多くの人に大腸がんの前駆病変の進行腺腫(advanced adenoma)が認められました1)。その割合は一般人口をだいぶ上回るようです。米国で大腸内視鏡検診を受けた50歳までの約13万人を調べた結果によると、60歳前に大腸がんや進行腺腫を生じた一等親血縁者がいない平均的リスクの40歳代の人の進行腺腫を含む進行新生物(advanced neoplasia)の有病率は5%でした3)。Cannon氏らの試験結果は今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表されました。査読済み論文としての発表にはまだ至っていません。被験者の人数は少なく、がんの素因となりうる情報が限られているという欠点もあります。それに非ランナーを含む対照群を設けておらず、ランナーであるかどうかと関係ない進行腺腫の割合を考慮できていません。そういう不備もあって、長い距離を走ることが大腸がんを生じやすくすると今回の試験で結論することは当然ながらできません。しかし、もしそうだと仮定してランニングと大腸がんを関連付けうるいくつかの仕組みが考えられそうです。たとえば長い距離をへとへとになって走っているときには、筋肉の働きを助けるように血流が胃腸を一時的に迂回するようになります4)。その状態を長く続ける極端なランナーはがんを生じやすくする生理的な変化を被るかもしれません。また、ランナーとそうでない人の腸内微生物の違いが大腸がんの生じやすさに関わるかもしれません。ランナーは今回のCannon氏らの結果を心配するかもしれませんが、自身もランナーである同氏はランニングをやめるつもりはないと言っています2)。運動の有益効果が言わずもがな数多く報告されており、その中にはがんを予防しうる効果も含まれます。われわれにとってより重大な健康懸念は運動が不十分ということであり、運動は間違いなく続けたほうがよいとCannon氏は述べています。ただし、アスリートはとても健康なのでがんとは無縁であろうとみるのは問題で、誰もがそうであるように長い距離を走るランナーも大腸がん検診を確実に受け、血便などの異常があれば詳しく検査する必要があります2)。 参考 1) Cannon TL, et al. JCO. 2025 May 28. [Epub ahead of print] 2) Marathon Runners Face Unexpected Colon Cancer Risk, New Study Suggests / Health 3) Liang PS, et al. Gastroenterology. 2022;163:742-753. 4) Al-Beltagi M, et al. World J Gastroenterol. 2025;31:106835.

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タレトレクチニブ、ROS1陽性非小細胞肺がんに承認/日本化薬

 日本化薬は、2025年9月19日、Nuvation Bioから導入したタレトレクチニブ (商品名:イブトロジー)について、「ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺」を効能又は効果とした製造販売承認を取得した。 同承認はROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)を対象とした2つの第II相臨床試験(TRUST-IおよびTRUST-II)の結果などに基づくもの。これらの試験により、日本人患者も含め、ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発のNSCLC 患者に対するタレトレクチニブの有効性が示された。 タレトレクチニブの本承認は米国(2025年6月)、中国(2024年12月)に続くもの。 タレトレクチニブのコンパニオン診断薬としてはAmoyDx肺マルチ遺伝子PCRパネルが承認されている。製品概要商品名:イブトロジーカプセル200mg一般名:タレトレクチニブアジピン酸塩製造販売承認日:2025年9月19日効能又は効果:ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺

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大豆製品の摂取と不眠症との関係

 不眠症は、中高年にさまざまな悪影響を及ぼす疾患である。食生活の調整により、不眠症の改善が期待できることが注目を集めている。中国・温州医学大学のLanrong Sun氏らは、中高年における大豆製品の摂取と不眠症の関連性を調査し、炎症性因子の役割を検証するため、横断的研究を実施した。Nature and Science of Sleep誌2025年8月13日号の報告。 対象は、台州市温嶺病院の心臓内科を受診または入院した45歳以上の中高年877例(女性の割合:35.01%)。大豆製品の摂取量は、食品摂取頻度質問票(FFQ)を用いて評価した。睡眠状態は、不眠症重症度指数(ISI)を用いて定量化した。大豆製品の摂取量の中央値(IQR)は週1回以下(週1回以下、週2~6回)であり、不眠症スコアの平均値は、5.43±5.13であった。 主な結果は以下のとおり。・中国の中高年成人において、大豆製品の摂取量は不眠症(|r|s≧0.117、ps<0.001)と負の相関を示した。・また、C反応性タンパク質(CRP、調整済みβ:-0.139、95%信頼区間[CI]:-0.265~-0.012)、腫瘍壊死因子α(TNF-α、調整済みβ:-0.049、95%CI:-0.091~-0.006)、トリグリセライド(TG、調整済みβ:-0.043、95%CI:-0.085~-0.000)との負の相関を示した。・大豆製品の摂取量と白血球数、好中球絶対数、血小板数、インターロイキン-1β、インターロイキン-2、インターロイキン-6、ヘモグロビン、赤血球数、低密度リポタンパク質コレステロール、高密度リポタンパク質コレステロール、総コレステロールとの間に有意な相関は認められなかった。 著者らは「中高年において、大豆製品の摂取量が少ないと不眠症の発生率が高くなることが示された。さらに、大豆製品の摂取量は、末梢血のCRP、TNF-α、TGレベルと負の相関関係にあることも明らかとなった。バランスの取れた食事を通じて中高年の睡眠を改善するための新たな臨床的視点を提示するものであり、睡眠には炎症や脂質が重要な役割を果たす可能性があることが示唆された」と結論付けている。

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多枝病変NSTEMI血行再建、責任病変のみvs.FFRガイド下/JAMA

 オランダ・Zuyderland Medical CentreのTobias F. S. Pustjens氏らの研究チームは国際的な臨床無作為化試験「SLIM試験」において、多枝病変を有する非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)では、梗塞責任病変のみの血行再建と比較して、責任病変とともに血流予備量比(FFR)のガイド下にすべての非責任病変の完全血行再建を行う戦略が、複合アウトカム(全死因死亡や非致死的心筋梗塞の再発などから成る)の発生を有意に改善し、この効果は主に再血行再建の減少によることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年8月31日号で発表された。欧州3ヵ国の研究者主導型無作為化試験 SLIM試験は、オランダ、ハンガリー、チェコの9施設で実施した研究者主導型の多施設共同無作為化試験(Abbott Vascularの助成を受けた)。2018年6月~2024年7月に、責任病変に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が成功した多枝病変NSTEMI患者478例(平均[±SD]年齢65.9[±10.6]歳、男性347例[72.9%])を登録し、引き続きFFRガイド下にすべての非責任病変へのPCIを行う完全血行再建群に240例、それ以上のPCIを行わない責任病変のみの血行再建群に238例を無作為に割り付けた(責任病変のみの血行再建群のうち7例はクロスオーバー)。 多枝病変は、責任血管の一部としてステント留置がなされていない直径2.0mm以上の血管に局在する、血管造影画像上で50%以上の狭窄を示す少なくとも1つの非責任病変と定義した。責任病変のみの血行再建群では、初回の手技から6週間以内のstaged PCIが許容された。 主要アウトカムは、PCI後1年の時点での全死因死亡、非致死的心筋梗塞、再血行再建、脳卒中の複合とした。主要アウトカムの発生、13.6%vs.5.5%で有意差(p=0.003) 主要アウトカムは、責任病変のみ血行再建群で32例(13.6%)に発生したのに対し、FFRガイド下完全血行再建群では13例(5.5%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.38[95%信頼区間[CI]:0.20~0.72]、p=0.003)。 主要アウトカムの個別の構成要素(副次アウトカム)のうち、再血行再建の発生が完全血行再建群で有意に少なかったが(3.0%vs.11.5%、HR:0.24[95%CI:0.11~0.56]、p<0.001)、他の3項目は両群間に有意差を認めなかった。全臨床的有害事象もFFRガイド下完全血行再建群で良好 また、他の副次アウトカムのうち、全臨床的有害事象(心臓死、非致死性心筋梗塞、血行再建、脳卒中、大出血の複合)の発生が、完全血行再建群で有意に良好だった(6.3%vs.15.3%、HR:0.39[95%CI:0.21~0.70]、p=0.002)。一方、出血、大出血、心不全または不安定狭心症による再入院、全死因死亡または非致死性心筋梗塞、左室駆出率の低下(40%未満)、ステント血栓症の頻度は、いずれも両群で同程度であった。 著者は、「本試験の結果は、初回手技時に梗塞責任病変とともにすべての非責任病変の完全な血行再建を行うことへの推奨を支持するものである」「大規模な先行試験で、完全血行再建群における心筋梗塞の発生率の有意な減少が報告されており、本試験ではこのような結果は観察されなかったが、今後の長期の追跡調査により、FRRガイド下完全血行再建が心筋梗塞の再発を抑制するか否かに関する知見が得られる可能性がある」としている。

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新薬が血圧コントロール不良の慢性腎臓病患者に降圧効果

 アルドステロンというホルモンを合成する酵素を阻害する新薬のバクスドロスタットの投与により、既存の薬では高血圧をコントロールできなかった慢性腎臓病(CKD)患者の収縮期血圧が約5%低下したとする第2相臨床試験(FigHTN)の結果が報告された。米ユタ大学保健学部のJamie Dwyer氏らによるこの研究結果は、米国心臓協会(AHA)のHypertension Scientific Sessions 2025(9月4〜7日、米ボルチモア)で発表されるとともに、「Journal of the American Society of Nephrology」に9月6日掲載された。Dwyer氏は、「CKDと高血圧を抱えて生きる人にとって、この研究結果は励みになる。この2つの病状はしばしば同時に進行し、危険な悪循環を生み出す」と述べている。 CKDと高血圧は密接に関連しており、適切に管理されない場合、心筋梗塞、脳卒中、心不全、腎不全への進行などの深刻な転帰を招く可能性がある。副腎から分泌されるアルドステロンは、体内でのナトリウムと水分の保持を促すことで血圧の上昇を引き起こす。このホルモンが過剰になると、時間の経過とともに血管の硬化と肥厚が起こり、心臓の損傷や腎臓の瘢痕化につながる可能性があり、高血圧と慢性腎臓病の両方に悪影響を与え得る。 今回の試験では、CKDを有し、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬またはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)による治療を受けても高血圧が十分にコントロールされていない195人の患者(平均年齢66歳、女性32%)を対象に、バクスドロスタットの有効性が検討された。対象患者の選定基準は、座位収縮期血圧が非糖尿病患者で140mmHg以上、糖尿病患者で130mmHg以上、かつ尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)が100mg/g以上とした。患者は、26週間にわたり低用量(0.5mgから最大1mgまで漸増)のバクスドロスタットを投与する群(低用量群)、高用量(2mgから4mgまで漸増)の同薬を投与する群(高用量群)、およびプラセボを投与する群(プラセボ群)にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、26週時点の座位収縮期血圧のベースラインからの変化量とされた。 ベースライン時の平均収縮期血圧は151.2mmHg、平均推算糸球体濾過量(eGFR)は44mL/分/1.73m2、UACRの中央値は714mg/gであった。26週間後のプラセボ群と比べた収縮期血圧の低下の幅は、バクスドロスタット投与群全体で−8.1mmHg(P=0.003)、低用量群で−9.0mmHg(P=0.004)、高用量群で−7.2mmHg(P=0.02)であった。 また、バクスドロスタット投与群では、プラセボ群と比較して、UACRが55.2%減少した。尿中のアルブミン値が高いことは、心臓病や腎臓病の予測因子と考えられている。Dwyer氏は、「これは、バクスドロスタットによる治療により長期的な利益を得られる可能性を期待させる結果だ」と指摘。「尿中アルブミン値の減少は、バクスドロスタットが腎障害進行の遅延にも役立つ可能性があることを示している。この可能性は現在、2つの大規模な第3相試験で評価されているところだ」とコメントしている。 バクスドロスタットの投与に伴い最も多く見られた副作用は血中カリウム濃度の上昇で、バクスドロスタット投与群の41%に発生したのに対し、プラセボ群ではわずか5%だった。ただし、ほとんどの症例は軽度から中等度であった。 AHAの高血圧および腎臓心血管科学委員会の前委員長である米ペンシルベニア大学ペレルマン医学部のJordana Cohen氏は、「高血圧やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の亢進を伴うCKD患者を対象とした試験で、薬剤への耐性が良好で、血圧とアルブミン尿の両方に効果があったことは、非常に心強い。この薬剤クラスは、CKD患者の高血圧管理に画期的な変化をもたらす可能性がある」とAHAのニュースリリースの中で述べている。なお、本研究は、バクスドロスタットの開発元であるアストラゼネカ社の資金提供を受けて実施された。

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早期梅毒に対するペニシリンの1回投与、3回投与と同等の効果を示す

 早期梅毒に対するペニシリンの1回投与は、現在、臨床現場で広く行われている3回投与と同等の治療効果を有することが、新たな臨床試験で示された。ベンザチンペニシリンG(BPG)の3回投与は、早期梅毒の治療に追加的な効果をもたらさないことが示されたという。米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の資金提供を受けて米アラバマ大学バーミンガム校のEdward Hook III氏らが実施したこの研究結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に9月3日掲載された。 この研究には関与していない、NIAID腸管・性感染症部門の責任者を務めるCarolyn Deal氏は、「BPGは梅毒に非常に効果的だが、3回投与のレジメンは患者への負担が大きく、フォローアップ診察の受診をためらわせる可能性がある」と話す。その上で同氏は、「1回投与が3回投与と同等の効果を持つことを示した今回の知見は、治療を簡素化できる可能性を示しており、特に、梅毒の罹患率が依然として非常に高い状況下では歓迎すべきエビデンスとなるものだ」と述べている。 研究グループは、梅毒は性的に活発な米国人にとって依然として健康上の脅威であると指摘している。米国では2023年に20万9,000件以上の梅毒症例が確認された。これは、2019年比で61%の増加に当たるという。梅毒は、放置すると脳障害、臓器不全、妊娠合併症、先天異常を引き起こす可能性があるだけでなく、HIV感染やHIV感染拡大のリスクを高めもする。 BPGは、梅毒に効果を発揮することが知られている数少ない抗菌薬の一つである。研究グループによると、現在、米国ではBPGが全国的に不足しており、輸入に頼らざるを得ない状況だという。 今回の研究では、米国の10カ所の医療センターの早期梅毒患者249人(男性97%、HIV感染者61%)を対象に、BPGの1回投与と3回投与の効果を比較した。試験参加者は、BPG1回240万単位を1回投与する群と、週に1回、計3回投与する群にランダムに割り付けられた。なお、「単位」とは、ペニシリンの効き目(抗菌力)をもとに決められた投与量の基準のことである。 その結果、6カ月時点の血清学的反応、すなわち、RPRテスト(Rapid Plasma Reagin Test)の値が治療前の4分の1まで下がるか(2段階以上低下)、またはRPRが完全に陰性になった割合は、1回投与群で76%、3回投与群で70%であり、群間差は−6%であった。この結果から、1回投与は3回投与に対して非劣性であることが示された。 Hook III氏は、「梅毒は1世紀以上にわたって研究・治療され、BPGは50年以上使用されている。それにもかかわらず、われわれはいまだに治療の最適化に役立つ情報を十分に得られていない。今回の研究結果が、梅毒の予防と診断における科学的進歩によって補完されることを期待している」と米国立衛生研究所(NIH)のニュースリリースの中で述べている。研究グループはまた、BPGの投与を1回に制限することで、細菌の薬剤耐性獲得を防ぐとともに、薬剤不足の影響を抑えることにも役立つ可能性があると見ている。 さらに研究グループは、この臨床試験では、BPGの1回投与が3回投与と同等の効果を有することのエビデンスが得られたものの、このような短期間での治療戦略の可能性を完全に理解するにはさらなる研究が必要だとの考えを示している。また、BPGの1回投与が末期梅毒患者や細菌が神経系に侵入した梅毒患者にも有効なのかどうかも明らかになっていないと付け加えている。

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