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血圧と12の心血管疾患の関連が明らかに~最新の研究より/Lancet

 30歳以上(最高95歳)の血圧値と12の心血管疾患との関連を分析した結果、どの年齢でも強い相関性が認められ、現状の高血圧治療戦略では生涯負荷が大きいことが明らかにされた。英国・Farr Institute of Health Informatics ResearchのEleni Rapsomaniki氏らが、同国プライマリ・ケア登録患者から抽出した125万例のデータを分析して報告した。著者は「今回の結果は、新たな降圧治療戦略の必要性を強調するものであり、その評価のための無作為化試験をデザインする際の有用な情報になると思われる」とまとめている。本報告は、血圧と心血管疾患との関連に関する最新の集団比較研究である。Lancet誌2014年5月31日号掲載の報告より。プライマリ・ケア登録125万例のデータを用いて分析 調査対象とした12の心血管疾患は、安定・不安定狭心症、心筋梗塞、予測していなかった冠動脈疾患死、心不全、心停止/突然死、一過性脳虚血発作、詳細不明の脳梗塞と脳卒中、くも膜下出血、脳内出血、末梢動脈疾患、腹部大動脈瘤)だった。 被験者データは、1997年1月~2010年3月にCALIBER(CArdiovascular research using LInked Bespoke studies and Electronic health Records)プログラムへと、225人のプライマリ・ケア医により登録された125万例分を用いた。被験者は30歳以上で、登録時は心血管疾患がなく、約5分の1(26万5,473例)が降圧治療を受けていた。 これらのデータについて、エンドポイントを12の心血管疾患の初発とし、臨床的に測定した血圧値と12の急性・慢性心血管疾患との関連を年齢特異的に比較検討した。また、生涯リスク(最高年齢95歳まで)と、その他リスク因子補正後の30歳、60歳、80歳時における心血管疾患発症の早まりを推算した。関連が低かったのは各年齢とも90~114/60~74mmHg、J曲線関連はみられず 追跡期間中央値5.2年の間に、8万3,098件の初発心血管疾患が記録されていた。 心血管疾患リスクが最も低かったのは、各年齢群とも、収縮期血圧値90~114mmHg、拡張期血圧60~74mmHgの人で、血圧低値群ではリスクが増大するというJ曲線関連のエビデンスはみられなかった。 また高血圧の影響は、心血管疾患エンドポイントでばらつきがあり、強く明白な影響が認められる一方で、まったく影響が認められない場合もあった。 収縮期血圧高値との関連が最も強かったのは、脳内出血(リスク比:1.44、95%信頼区間[CI]:1.32~1.58)、くも膜下出血(同:1.43、1.25~1.63)、安定狭心症(同:1.41、1.36~1.46)だった。逆に最も弱かったのは、腹部大動脈瘤(同:1.08、1.00~1.17)。 拡張期血圧と収縮期血圧の影響を比較した分析では、収縮期血圧上昇の影響が大きかったのは、安定狭心症、心筋梗塞、末梢動脈疾患だった。一方、拡張期血圧上昇の影響が大きかったのは腹部大動脈瘤であった。 脈圧の影響に関する分析では、腹部大動脈瘤だけが唯一、高値ほどアウトカムが良好となる逆相関がみられた(10mmHg上昇ごとのHR:0.91、95%CI:0.86~0.98)。なお脈圧の影響が最も強かったのは、末梢動脈疾患(HR:1.23、95%CI:1.20~1.27)だった。 高血圧症の人(血圧値140/90mmHg以上または降圧薬服用者)の30歳時における全心血管疾患発症の生涯リスクは63.3%(95%CI:62.9~63.8%)であるのに対して、正常血圧の人では46.1%(同:45.5~46.8%)だった。同年齢において高血圧は心血管疾患の発症を5.0年(95%CI:4.8~5.2年)早めることが示され、狭心症の発症が最も多かった(43%;安定狭心症22%、不安定狭心症21%)。 一方80歳時では、高血圧の影響による発症の早まりは1.6年(95%CI:1.5~1.7年)で、心不全、安定狭心症(それぞれ19%)が最も多かった。

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事例04 カルベジロール査定のポイント【斬らレセプト】

解説院外処方せんで処方したアーチスト®錠が、医療機関と調剤薬局の請求内容を突き合わせる突合点検において、A事由(医学的に適応と認められないもの)を理由に査定となった。同錠2.5㎎には「不安定狭心症」の適応がないことが主な査定理由と思われた。一方で、同錠の添付文書の重要な基本的注意事項には、「投与が長期にわたる場合には、心機能検査(脈拍、血圧、心電図など)を定期的に行う」、「虚血性心疾患を有する患者において、本剤の投与を急に中止した場合、症状の悪化をきたす可能性があるので、観察を充分に行う」、「患者に医師の指示なしに服薬を中止しないよう説明する」などとある。事例をみてみると、12月は診療実日数1日で、検査などの実施が無く、投与日数も84日分、長期投薬加算も算定している。服用有無の観察が必要とされる薬剤を投与中に、約3ヵ月後の来院を指示されているのではないかとの疑問が生じても不思議ではない。医学的必要性があって、このような処方を行う場合は、次回検査予定や医学的な必要性をあらかじめレセプトに記載をして、審査に委ねることが、査定対策に必要である。

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初発の心血管疾患を予測する指標としてHbA1cの有用性は高くない…(コメンテーター:吉岡 成人 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(197)より-

糖尿病は心血管疾患(cardiovascular disease: CVD)の発症・進展に関連したリスク因子であり、糖代謝に関わる臨床指標がCVDの発症と密接に関連しているという結果を示す疫学データは多い。2010年のACC(American College of Cardiology foundation)/AHA(American Heart Association)のガイドラインでは、糖尿病患者ではなくとも、狭心症の症状がない成人におけるCVDのリスクアセスメントにHbA1cの測定は有用ではなかろうかと結論付けられていた。しかし、糖尿病患者におけるHbA1cの測定には臨床的な意味があるが、非糖尿病者ではその有用性がないのではないかという意見もあり、2013年に改訂されたガイドラインでは、HbA1cの測定は推奨されていない。 このような背景のもとに、73件の前向き試験から、糖尿病やCVDの既往がない29万4,998人を抽出して、従来リスク因子(年齢、性別、喫煙状況、収縮期血圧値、総コレステロール値、HDLコレステロール値など)とHbA1cなどの血糖値に関連した代謝指標に関する情報を加えた場合のCVDリスク予測モデルを新たに作成し、アウトカムのリスク層別化(C統計値)、10年リスク予測(低:5%未満、中:5~7.5%未満、高:7.5%以上)の再分類(ネット再分類改善)について検討したEmerging Risk Factors Collaborationのデータが本論文である。  今回の検討では、血糖値に関連した代謝指標として、HbA1c値(<4.5、4.5~<5、5~<5.5、5.5~<6、6~<6.5、≧6.5%)のみならず、空腹時血糖値、随時血糖値、経口ブドウ糖負荷後の血糖値のデータの有用性も検討されている。 検討の対象となった者の登録時における平均年齢は58歳、男女比はほぼ1:1で、86%がヨーロッパまたは北米民族、HbA1c 5.37±0.54%であり、追跡期間は中央値で9.9年、経過中の致死的・非致死的CVDの発生は、2万840例(冠動脈心疾患1万3,237例、脳卒中7,603例)であった。 従来の心血管リスク因子を補正した後の分析において、HbA1c値とCVDリスクとの関連性はJ-カーブを示し、HbA1c値が4.5~5.5%の群におけるハザード比を1とするとそれ以下の群ではハザード比が1.2、HbA1cが6.5%を超える群では1.5となっていた。CVDリスクと血糖値の指標がJ-カーブを示す傾向は、空腹時血糖値、随時血糖値、負荷後血糖値でも同様であった。HbA1c値とCVDのリスクに関しての関連性は、総コレステロール、トリグリセリド、またはeGFR値で補正した場合に相関がわずかに高まったものの、HDLコレステロール、CRPでの補正後には関連性が減弱した。 CVDリスク予測モデルのC統計値(リスクスコアの低い症例のほうが生存期間は長いことを、実際のデータでどのくらいの確率で正しいかを示す値、0.5~1で示される。将来の予測をする時間軸を加味した値)は、従来の心血管リスク因子のみでは0.7434(95%信頼区間[CI]:0.7350~0.7517)。HbA1cに関する情報を追加した場合のC統計値の変化は0.0018(95%CI:0.0003~0.0033)で、10年リスク予測分類のネット再分類改善値は0.42(-0.63~1.48)と報告されている。 75g糖負荷試験における2時間値とCVDの関連が示唆される疫学成績がある一方で、糖尿病患者の食後血糖値に介入して、CVDの発症リスクを軽減できたとする臨床成績はない。一般に、糖尿病ではなくとも食後高血糖や糖負荷後の高血糖を示す場合には、CVDの発症リスクが高まるのではないかと考えられている。しかし、今回の検討からは、非糖尿病患者において、高血糖のマーカーとしてのHbA1cを従来のCVDリスク因子に追加して検討を行っても、CVDの新規発症に関する予測精度が高まるわけではないことが再確認されたといえる。

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心臓カテーテル検査によって脳血管障害を来し死亡したケース

循環器最終判決判例タイムズ 824号183-197頁概要胸痛の精査目的で心臓カテーテル検査が行われた61歳男性。検査中に250を超える血圧上昇、意識障害がみられたため、ニトログリセリン、ニフェジピン(商品名:アダラート)などを投与しながら検査を続行した。検査後も意識障害が継続したが頭部CTでは出血なし。脳梗塞を念頭においた治療を行ったが、検査翌日に痙攣重積となり、気管切開、人工呼吸器管理となった。検査後9日目でようやく意識清明となり、検査後2週間で一般病室へ転室したが、その直後に消化管出血を合併。輸血をはじめとするさまざまな処置が講じられたものの、やがて播種性血管内凝固症候群、多臓器不全を併発し、検査から19日後に死亡した。詳細な経過患者情報高血圧、肥満、長期の飲酒歴、喫煙歴、高脂血症、軽度腎障害を指摘されていた61歳男性経過1983年1月12日胸がモヤモヤし少し苦しい感じが出現。1月18日胸が重苦しく圧迫感あり、近医を受診して狭心症と診断され、ニトログリセリンを処方された。1月26日某大学病院を受診、胸痛の訴えがあり狭心症が疑われた。初診時血圧200/92、心電図は正常。2月2日血圧160/105、心電図では左室肥大。3月初診から1ヵ月以上経過しても胸痛が治まらないので心臓カテーテル検査を勧めたが、患者の都合により延期された。9月胸痛の訴えあり。10月同様に胸痛の訴えあり。1983年5月25日左手親指の痺れ、麻痺が出現、運動は正常で感覚のみの麻痺。7月8日脳梗塞を疑って頭部CTスキャン施行、中等度の脳萎縮があるものの、明らかな異常なし。1985年9月血圧190/100、心電図上左軸偏位あり。1986年7月健康診断の結果、肥満(肥満度26%)、心電図上の左軸偏位、心肥大、動脈硬化症などを指摘され、「要精査」と判断された。冠状動脈の狭窄を疑う所見がみられたので、担当医師は心臓カテーテル検査を勧めた。9月17日心臓カテーテル検査目的で某大学病院に入院。9月18日12:30検査前投薬としてヒドロキシジン(同:アタラックス-P)50mg経口投与。検査開始前の血圧158/90、脈拍71。13:30血圧154/96。右肘よりカテーテルを挿入。13:48右心系カテーテル検査開始(肺動脈楔入圧、右肺動脈圧)。13:51心拍出量測定。13:57右心系カテーテル検査終了。この間とくに訴えなく異常なし。14:07左心系カテーテル検査開始、血圧169/9114:13左心室圧測定後間もなく血圧が200以上に上昇。14:21血圧232/117、胸の苦しさ、顔色口唇色が不良となる。ニトログリセリン1錠舌下。14:27血圧181/111と低下したので検査を再開。14:28左冠状動脈造影施行(結果は左冠状動脈に狭窄なし)、血圧は150-170で推移。左冠状動脈造影直後に約5.1秒間の心停止。咳をさせたところ脈は戻ったが、徐脈(45)、傾眠傾向がみられたので硫酸アトロピン0.5mg静注。血圧171/10214:36左心室撮影。血圧17514:40左心室のカテーテルを再び大動脈まで戻したところ、再度血圧上昇。14:45血圧253/130、アダラート®10mg舌下。14:50血圧234/12314:56血圧220程度まで低下したので、右冠状動脈造影再開。14:59血圧183/105。右冠状動脈造影終了(25~50%の狭窄病変あり)、直後に約1.8秒の心停止出現。15:01検査終了後の血管修復中に血圧230/117、ニトログリセリン4錠舌下。15:04カテーテル抜去、血圧224/11715:30検査室退室。血圧150/100、脈拍77、呼びかけに対し返答はするものの、すぐに眠り込む状態。15:40病室に帰室、血圧144/100、うとうとしていて声かけにも今ひとつ返答が得られない傾眠状態が継続。19:00呼名反応やうなずきはあるがすぐに閉眼してしまう状態。検査から3時間半後になってはじめて脳圧亢進による意識障害の可能性を考慮し、脳圧降下薬、ステロイド薬の投与開始。9月19日08:00左上肢屈曲位、傾眠傾向が継続したため頭部CT施行、脳出血は否定された。ところが検査後から意識レベルの低下(呼名反応消失)、左上肢の筋緊張が強くなり、左への共同偏視、左バビンスキー反射陽性がみられた。15:00神経内科医が往診し、脳塞栓がもっとも疑われるとのコメントあり。9月20日全身性の痙攣発作が頻発、意識レベルは昏睡状態となる。気管切開を施行し、人工呼吸器管理。痙攣重積状態に対しチオペンタールナトリウム(同:ラボナール)の持続静注開始。9月24日痙攣発作は消失し、意識レベルやや改善。9月27日ほぼ意識清明な状態にまで回復したが、腎機能の悪化傾向あり。9月30日人工呼吸器より離脱。10月3日09:30状態が改善したためICUから一般病室へ転室となる。13:00顔面紅潮、意識レベルの低下、大量の消化管出血が出現。10月4日上部消化管内視鏡検査施行、明らかな出血源は指摘できず、散在性出血がみられたためAGML(急性胃粘膜病変)と診断された。ところが、その後肝機能、腎機能の悪化、慢性膵炎の急性増悪、腎不全などとともに、血小板数の低下、フィブリノーゲンの著明な減少などからDICと診断。10月8日15:53全身状態の急激な悪化により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.心臓カテーテル検査の適応検査前に狭心症に罹患していたとしても軽度なものであり、心臓カテーテル検査を行う医学的必要性はなかった。また、検査の3年前から脳梗塞の疑いがもたれていたにもかかわらず、脳梗塞の症状がある患者にとってはきわめて危険な心臓カテーテル検査を行った2.異常高血圧にもかかわらず検査を中止しなかった過失250を越える異常な血圧の上昇を来した時点で、事故の発生を未然に防止するために検査を中止すべき注意義務があったのに、検査を強行した3.神経内科の診察を早期に手配しなかった過失検査終了時点で意識障害があり、脳塞栓が疑われる状況であったのに、神経内科専門医の診察を依頼したのは検査後24時間も経過してからであり、適切な処置が遅れた4.死因医学的に必要のない検査を行ったうえに、検査中の脳梗塞発症に気付かず検査を続行し、検査後もただちに専門医の診察を依頼しなかったことが原因で、最終的には胃出血によるDICおよび多臓器不全により死亡に至ったものである病院側(被告)の主張1.心臓カテーテル検査の適応患者には胸痛のほか、高血圧、肥満、長期の飲酒歴、喫煙歴、高脂血症、軽度腎障害などの冠状動脈狭窄を疑わせる所見が揃っており、冠状動脈を精査し、手術なり薬剤投与なりを開始することが治療上不可欠であった。脳梗塞については、検査の3年前に施行した頭部CTスキャンで異常はなく、自覚症状としてみられた左手親指、人差し指の感覚障害は末梢神経または神経根障害と考えられ、改めて脳梗塞を疑うべき症状は認められなかった2.異常高血圧にもかかわらず検査を中止しなかった過失心臓カテーテル検査中に最高血圧が230-250になるのは臨床上起こり得ることであり、血圧上昇時には必要に応じて降圧薬を投与し、経過を観察しながら検査を継続するものである。そして、200以上の血圧上昇がもつ意味は患者によって個体差があり、普段の血圧が170-190くらいであった本件の場合には検査時のストレスによって血圧が200以上になっても特別に異常な反応ではない3.神経内科の診察を早期に手配しなかった過失検査後に意識レベルが低下し、四肢硬直がおきたため脳梗塞、脳幹部循環障害などの可能性を考え、治療を開始するとともに神経内科などに相談しながら、最良の治療を行った4.死因死因は脳病変に基づくものではなく、意識障害が回復した後の消化管出血によるDIC、および多臓器不全に伴った心不全である。この消化管出血にはステロイド薬の使用、ストレスなどが関与したものであるが、抗潰瘍薬の投与などできるだけ予防策は講じていたのであるから、やむを得ないものであった裁判所の判断1. 心臓カテーテル検査の適応患者には検査前から高血圧、肥満、長期の喫煙歴、軽度の腎障害など、虚血性心疾患の危険因子のうちいくつかが明らかに存在し、さらに心電図で左室肥大および左軸偏位が認められ、胸痛という自覚症状もあったので、狭心症を疑って心臓カテーテル検査を行ったことに誤りはない。さらに急性期の脳梗塞患者、発症直後の脳卒中患者には冠状動脈造影を行ってはならないとされているが、本件の場合には検査前に急性期の脳梗塞が疑われるような症状はないので、心臓カテーテル検査を差し控えなければならないとはいえない。2. 異常高血圧にもかかわらず検査を中止しなかった過失250を越える異常な血圧の上昇がみられた時点で、検査のストレスによる血圧上昇だけでは説明できない急激な血圧の上昇であることに気付き、脳出血を主とする脳血管障害発生の可能性を考え、検査を中止するべきであった。さらに検査で用いた76%ウログラフィン®(滲透圧の高い造影剤)のため、脳梗塞によって生じた脳浮腫をさらに増強させる結果になった。3. 神経内科の診察を早期に手配しなかった過失検査終了後は、ただちに専門の神経内科医に相談するなどして合併症の治療を開始するべきであったのに、担当医らが脳血管障害の可能性に気付いたのは、検査終了から3時間半後であり、その間適切な治療を開始するのが遅れた。4. 死因脳梗塞が発症したにもかかわらず、検査を続行したことによって脳浮腫が助長され、意識障害が悪化した。さらに検査終了後もただちに適切な処置が行われなかったことが、胃からの大量出血を惹起し死亡にまで至らしめた大きな原因の一つになっている。原告側合計8,276万円の請求に対し4,528万円の判決考察心臓カテーテル検査に伴う死亡率は、1970年代までは多くの施設で1%を越えていましたが、技術の進歩とヘパリン使用の普及により、現在は0.1~0.3%の低水準に落ち着いています。また、心臓カテーテル検査に伴う脳血管障害の合併についても、0.1~0.2%の低水準であり、「組織だった抗凝固処置」によって大部分の脳血管系の事故が防止できるという考え方が主流になっています。カテーテル検査中に脳塞栓を生じる機序としては、(1)カテーテルによって動脈硬化を起こした血管に形成された壁在血栓が剥離されて飛ばされ、脳の血管に流れた結果脳梗塞を生じる(2)カテーテルの周囲に形成された血栓またはカテーテルのなかに形成された血栓が飛ばされ、脳の血管に移行して脳梗塞を生じる(3)粥状硬化、動脈硬化を起こした血管の粥腫(アテローム)がカテーテルによって剥離されて飛ばされ、脳の血管に流された結果脳梗塞を生じるの3つが想定されています。これに対する処置としては、(1)十分なヘパリン投与を行った患者においても、カテーテルのフラッシュは十分注意しかつ的確に行うこと(2)ガイドワイヤーは使用する前に十分に拭い、血液を付着させないこと(3)ガイドワイヤーを入れたままのカテーテル操作は、1回あたり2分以内にとどめること(2分経過後はガイドワイヤーを必ず抜き出して拭い、再度ガイドワイヤーを用いる時はカテーテルをフラッシュする)(4)リスクの高い患者では不必要にカテーテルやガイドワイヤーを頸動脈や椎骨脳底動脈に進めないなどが教科書的には重要とされていますが、現在心臓カテーテル検査を担当されている先生方にとってはもはや常識的なことではないかと思います。つまり本件では、心臓カテーテル検査中に発症した脳血管障害というまれな合併症に対し、どのように対処するべきであったのか、という点が最大のポイントでした。裁判所の判断では、心臓カテーテル検査中に「血圧が250以上に上昇した時点ですぐに検査を中止せよ」ということでしたが、循環器内科医にとってすぐさまこのような判断をすることは実際的ではないと思います。ここで問題となるのが、(1)コントロールはこれでよかったか(2)障害の可能性を念頭に置いていたかという2点にまとめられると思います。この当時の状況を推測すると、大学病院の循環器内科に入院して治療が行われていましたので、1日に数件の心臓カテーテル検査が予定され、全例を何とか(無事かつ迅速に)こなすことに主眼がおかれていたと思います。そして、検査中にみられた高血圧に対しては、とりあえずニトログリセリン、アダラート®などを適宜使用するのがいわば常識であり、通常のケースであれば何とか検査を終了することができたと思います。にもかかわらず、本件では降圧薬使用後も250を越える高血圧が持続していました。この次の判断として、血圧は高いながらも一見神経症状はなく大丈夫そうなので検査を続行してしまうか、それとも(少々面倒ではありますが)ニトログリセリン(同:ミリスロール)などの降圧薬を持続静注することによって血圧を厳重にコントロールするか、ということになると思います。結果的には前者を選択したために、裁判所からは「異常高血圧を認めた時点で検査中止するのが正しい」と判断されました。日常の心臓カテーテル検査では、時に200を超える血圧上昇をみることがありますが、ほとんどのケースでは無事に検査を終了できると思います。さらに、心臓カテーテル検査中に脳梗塞へ至るのは1,000例ないし500例に1例という頻度ですから、当時の状況からして、急いで微量注入器を準備して降圧薬の持続静注をするとか、血圧が安定するまでしばらく様子をみるなどといった判断はなかなか付きにくいのではないかと思います。しかし、本件のように心臓カテーテル検査中に脳血管障害が発症しますと、あとからどのような抗弁をしようとも、「異常高血圧に対して適切な処置をせず検査を強行するのはけしからん」とされてしまいますので、たとえ時間がかかって面倒に思っても、厳重な血圧管理をしなければあとで後悔することになると思います。次に問題となるのが、心臓カテーテル検査中に生じた「少々ボーっとしている」という軽度の意識障害をどのくらい重要視できたかという点です。後方視的にみれば、誰がみてもこの時の意識障害が脳梗塞に関連したものであったことがわかりますが、当時の担当医は「検査前投薬の影響が残っていて少しボーっとしているのであろう」と考えたため、脳梗塞発症を認識したのは検査から3時間半も経過したあとでした。前述したように、心臓カテーテル検査で脳梗塞を合併するのは1,000例ないし500例に1例という頻度ですから、ある意味では滅多に遭遇することのないリスクともいえます。しかし、日常的にこなしている(安全と思いがちな)検査であっても、どこにジョーカーが潜んでいるのか予測はまったくつかないため、本件のような事例があることを常に認識することによって早めの処置が可能になると思います。本件でも脳梗塞発症の可能性をいち早く念頭においていれば、たとえ最悪の結果に至ってしまっても医事紛争にまでは発展しなかった可能性が十分に考えられると思います。判決文全体を通読してみて、今回この事例を担当された先生方は真摯に医療の取り組まれているという印象が強く、けっして怠慢であるとか、レベルが低いなどという次元の問題ではありません。それだけに、このような医事紛争へ発展してしまうのは大変残念なことですので、少しでも侵襲を伴う医療行為には「最悪の事態」を想定しながら臨むべきではないかと思います。循環器

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CHD死亡率、10年で約43%低下/BMJ

 英国・グラスゴー大学のJoel W Hotchkiss氏らは、2000~2010年のスコットランドにおける冠動脈性心疾患(CHD)死亡の傾向について分析した。その結果、同期間にCHD死亡は約半減(43%減)しており、背景要因として薬物療法の選択肢が増大したこと、その有益性をスコットランド国民保健サービス(NHS)が社会経済的階級を問わず公正に供給したことがあったと思われたことを報告した。一方で、血圧やその他リスク因子の低下による、かなりの寄与は、肥満や糖尿病の有害性で減弱していたことも判明した。著者は、「次の10年におけるCHD死亡減少と不公正性の解消を図るために、付加的な広域集団への介入を急がなければならない」とまとめている。BMJ誌オンライン版2014年2月6日号掲載の報告より。IMPACTモデルを用いて、CHD死亡低下の要因を定量化 分析は、スコットランドにおけるCHD死亡に対する予防および治療の寄与を定量化することを目的とし、IMPACTSECモデルを用いて後ろ向きに行った。IMPACTモデルは、曝露リスク因子と取り入れた治療の経時的変化の寄与を定量化することで、CHD死亡低下の要因を示すことができるよう著者らが開発したものである。同モデルを用いて、9つの非オーバーラップ患者群の中で最近のCHD死亡低下を、主要心血管リスク因子の変化および40以上の治療の増大へと割り当てるように設計された。 被験者は、スコットランドの25歳超成人で、性別、年齢群、社会経済的指数(Scottish Index of Multiple Deprivation)で5群に層別化した。主要評価項目は、予防または延期された死亡であった。収縮期血圧の低下の寄与は37%、コレステロールや禁煙の寄与が意外に小さい 結果、2010年のCHD死亡は、2000年当時の死亡率が持続した場合に起こりえた件数より5,770件少ない発生であった(予測1万3,813件に対し観察されたのは8,042件)。これはCHD死亡率で約43%(95%信頼区間[CI]:33~61%)の低下(10万当たり262から148に)を示した。低下は治療の改善によるものであり、このベネフィットは5群の階層群全体に平等に認められた。 治療の寄与が顕著であったのは、高コレステロール血症(13%)の一次予防、二次的予防薬(11%)、慢性狭心症治療(7%)であった。 死亡率低下におけるリスク因子の改善の寄与は、約39%(95%CI:28~49%)(5群中最高位群では36%、最低位群では44%であった)。 社会経済的背景を考慮せずに評価した収縮期血圧の低下の寄与は、死亡率低下の3分の1以上(37%)であった。総コレステロール(9%)、喫煙(4%)、運動不足(2%)の改善からの寄与はいずれもわずかであった。加えて、肥満と糖尿病の増大が、これらのベネフィットの一部を相殺し、それぞれ潜在的に4%、8%の死亡率増加をもたらしていた。また糖尿病の死亡増大の寄与には、社会経済的背景により格差があること(5群中最高位群では5%増大、最低位群では12%増大)が示された。

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サッカーファンの肥満男性のために英プレミアリーグが動く/Lancet

 肥満男性は年々増加しているが、多くの男性が減量プログラムに消極的である。そこで英国・グラスゴー大学のKate Hunt氏らは、スコットランド・プレミアリーグ傘下のサッカークラブに依頼をして、各地域でクラブのコーチが指導を行う減量プログラムを開発し、“サッカーファンの肥満男性”に参加してもらい効果を検証した。実践的無作為化比較試験にて行われた本検討の結果、参加被験者の体重が減少し臨床的効果が認められたという。Lancet誌オンライン版2014年1月20日号掲載の報告より。プレミアリーグクラブのコーチが指導する減量プログラムを開発 研究グループは、サッカーファンのための減量・健康生活プログラム(Football Fans in Training:FFIT)の効果を評価することを目的に、2群比較の実践的無作為化試験を行った。13のスコットランドのプロサッカークラブから、35~65歳でBMI 28以上のサッカーファンの男性747例を集めた。被験者はクラブごとに階層化され、毎週開催の12のセッション(各クラブのコーチによる減量プログラム)に参加するよう介入群(374例)と対照群(374例)に無作為に割り付けられた。 介入群には、3週間以内に減量プログラムが開始され、対照群は、12ヵ月間待機するよう指示された。被験者には全員、体重管理の小冊子が配布された。 主要アウトカムは、12ヵ月時点の両群の体重減少の平均差であった。評価は、絶対体重とパーセンテージ(減量率)で評価した。なお主要アウトカムは、マスキングされ、解析はintention to treatにて行われた。12ヵ月後、介入群と対照群とで有意な体重減少の差 12ヵ月時点の評価を受けたのは、介入群89%(333例)、対照群95%(355例)だった。 12ヵ月時点での両群間の体重減少の平均差は、ベースライン時体重とクラブで補正後、4.94kg(95%信頼区間[CI]:3.95~5.94)だった。減量率は、同様の補正後4.36%(同:3.64~5.08)で、いずれにおいても介入の有意性が認められた(p<0.0001)。 重大有害イベントは8件報告された。介入群では5例(既往狭心症の服薬による意識喪失、胆嚢切除、心筋梗塞疑いの入院、消化管破裂、アキレス腱断裂)、対照群は3例(一過性脳虚血発作、2例の死亡)だった。これらのうち、プログラムに関連していたのは、胆囊切除とアキレス腱断裂の2つだった。 以上を踏まえて著者は、「FFITプログラムは、多くの男性の臨床的に有意義な減量に役立つ可能性がある。男性肥満への効果的なチャレンジ戦略である」とまとめている。

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冠動脈プラーク評価におけるフッ化ナトリウムおよびFDG‐PETの比較(コメンテーター:近森 大志郎 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(170)より-

近年の基礎研究の発展により、動脈硬化は慢性的な炎症性疾患であると理解されるようになってきた。そして、分子生物学的にはマクロファージ・血管新生・細胞アポトーシス・サイトカインなどが重要な役割を果たしており、これらの反応過程をイメージングするmolecular imagingの進歩が著しい。 なかでも、活性化したマクロファージの代謝を利用してイメージングするfluorodeoxyglucose(FDG) 陽電子放射断層撮影(PET)が、高リスク動脈硬化病変の検出に有用である。とくにFDGは、施設へのデリバリーが可能であるため、非常に高額なサイクロトロンを設置する必要がなく、臨床的汎用性に優れている。 しかしながら、FDG‐PETによる動脈硬化病変の評価ができるのは、動きが少なく、ある程度の大きさを持つ動脈、すなわち、大動脈や頸動脈に限られる。とくに心臓については、冠動脈の周囲は心筋であり、グルコース代謝によるFDGの取り込みがあることから、プラーク病変のイメージングは困難であるとされていた。 エジンバラ大学のNikhil V Joshi氏らは18Fを利用したPETによる高リスク・プラーク病変の検出・特定能について、2種の放射性トレーサー、フッ化ナトリウム(18F-NaF)と18F-FDGの検出・特定能を比較検討した。なお18F-NaF PET-CTは、費用は高いが骨新生のイメージング化の手段として優れており、サイクロトロンが装備された一部の施設では、がんの骨転移の早期診断などに利用されている。 この研究は、18F-NaF PET-CT、18F-FDG PET-CTおよび侵襲的冠動脈造影を受けた心筋梗塞(40例)および安定狭心症(40例)の患者を対象としている。主要エンドポイントは、急性心筋梗塞患者の責任または非責任冠動脈プラークの、18Fフルオライドの組織/バックグランド比とした。 心筋梗塞患者のうち37例(93%)の検討では、責任プラークへの集積は18F-NaFが最も高かった(最大組織/バックグランド比の中央値:責任プラーク1.66[IQR:1.40~2.25]vs. 最大非責任プラーク1.24[同:1.06~1.38]、p<0.0001)。対照的に、18F-FDGは心筋に集積され概して不明瞭であり、責任プラークと非責任プラークについて識別の有意差はみられなかった(同:1.71 [1.40~2.13] vs. 1.58 [1.28~2.01]、p=0.34)。安定狭心症患者18例(45%)での検討では、18F-NaFのプラークへの集積は局在的で(最大組織/バックグランド比の中央値:1.90[IQR:1.61~2.17])、血管内超音波における高リスク所見と関連していた。 なお、18F-NaFの集積の組織学的意味付けを考察するために、症候性頸動脈疾患患者からの頸動脈内膜剥離術検体を用いて組織学的に比較検討した。その結果、著明な18F-NaFの集積がすべての頸動脈プラーク破綻部位で認められ、石灰化活性の組織学的エビデンス、マクロファージ浸潤、アポトーシス、壊死との関連がみられた。 本研究は、動脈硬化の過程においてカルシウムが中膜に沈着すること、18F-NaF PETが骨新生に対して高い感度を示すイメージング方法であること、正常の心筋ではカルシウム代謝は関与しないこと、心電図同期PETの融合画像を用いればmotion artifactを低減できることなどに着目して実施されたのであろう。そして、仮説通りに18Fフルオライド集積の組織/バックグランド比は18F-NaFの方が18F-FDGよりも優れていた。正常心筋でもFDGの取り込みがあることを考慮すれば当然ともいえる。 しかしながら、イメージングを主題とした研究論文の常ではあるが、急性心筋梗塞症例や頸動脈内膜剥離手術症例のfigureとして提示されたPET-CT融合画像・病理組織・冠動脈造影の対比は説得力を持つ。ただし、すべてがこのような明瞭な画像とは思えず、境界領域の画像についてどのようにデータ処理がなされているかについても考慮する必要がある。とくに、PETは陽電子カウントの客観的な定量化に優れているが、この基礎となるstandard uptake value(SUV)について18F-NaFでは確立しておらず、論文のsupplementary appendixにも詳細は記載されていない。 次に、動脈硬化の分子イメージングでは、まずターゲットとする生化学反応および細胞・分子が明確化される必要がある。フッ化ナトリウムは動脈硬化のどの時点でどの反応に関与するのかは不明であり、筆者らもカルシウム沈着による細胞アポトーシスの誘導という一般的な仮説しか提示できていない(Ewence AE et al. Circ Res. 2008; 103: e28-34.)。この弱点を補強するために、頸動脈摘出標本からイメージングと組織像の対比のデータが追加されている。 筆者らは、論文タイトルにもあるように、冠動脈への18F-NaFの集積を高リスク・プラークと提案している。しかしながら、安定狭心症における血管内超音波の個々の指標との比較による横断的検討を基にして、上記の仮説を出すのは尚早と思われる。なぜならば、安定狭心症と診断された症例中の約5割にも高リスク・プラークがあるというのは、臨床の実情とは大きな乖離があるからでる。冠動脈CTのプラーク評価と予後についての重要な研究では、892人中で不安定プラークの特徴を有していたのは72人(8%)でしかない(Motoyama S et al. J Am Coll Cardiol. 2009; 54: 49-57.)。しかも約2年間の経過観察中、CTにて特徴的な不安定プラークを有する症例の15%で急性冠症候群を発症したのに対して、このようなプラークを持たない症例では僅か0.5%と著しく低い発症率であった(p

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狭心症を肋間神経痛と誤診して死亡したケース

循環器最終判決判例タイムズ 914号234-240頁概要60歳男性が夜間胸痛を訴えて、救急車にて近く病院に搬送され、診察を受けたところ、肋間神経痛との診断で消炎鎮痛薬を処方され帰宅した。翌日、苦しんで身動きがとれなくなっているところを発見され、救急車にて再度病院を受診したが、急性心筋梗塞を発症したために入院後3時間で死亡した。詳細な経過患者情報60歳男性経過昭和63年4月22日12:00頃この頃から胸の苦しさを自覚していた。4月23日胸痛と左脇から左腕の内側にかけての痛みのため仕事を休んだ。23:00頃胸痛のため、救急車にてA病院に搬送された。当直であるB医師が診察に当たり、問診したところ、左胸痛と左腕にひびく痛みを訴えた。血圧は152/90mmHg、脈拍84、触診および聴診にて異常は認められず、心電図検査では「完全右脚ブロック」であった。心筋梗塞を示す異常を認めず、以前に肋間神経痛といわれたことがあったことから、「肋間神経痛の疑い」として、消炎鎮痛薬を投与し、痛みが持続したり、増強するようであれば再度受診するように注意を与えて、帰宅させた。4月24日08:00階段の横で息を荒くし、苦しんでいるところを発見され、救急車にてA病院に再度搬送された。救急外来担当のC医師が診察し、左胸痛を訴えていたものの、心肺に異常を認めないため、心電図検査は行わず、胸/腹部のX線写真が撮られた。09:50さらに検査の必要があるため、A病院への入院となった。10:30頃病棟に入院後、顔色不良で看護師に対し、全身倦怠感、胸苦、胸痛、左腕および左背部の差し込むような痛みを訴えた。消炎鎮痛薬の注射がされ、心電図検査が行われた。11:00頃胸痛が増強するため、重症病室に移動し、心電図検査結果は急性心筋梗塞を呈していたため、酸素吸入、心電図モニター装着が開始された。11:20呼吸が停止し、心肺蘇生を試みた。11:55死亡。その後の解剖により、左冠状動脈内に血栓が認められ、内腔をほぼ閉塞し、左室前壁に梗塞がみられ、裂孔も生じており、心嚢内に約300mLの凝血を認めたことから、死因は急性心筋梗塞による心破裂で心タンポナーデを来したためと考えられた。当事者の主張患者側(原告)の主張主訴および心電図検査結果から狭心症に罹患していることを疑い、十分な問診を尽くし、必要な検査を行って、狭心症と診断したうえで、入院させて定期的な観察、検査をし、血管拡張薬、血栓溶解薬の投与などの治療を行って心筋梗塞へ移行することを阻止すべき義務があった。4月24日A病院に救急搬入された際、胸部の激痛で身動きできない状態であったのであるから、C医師はただちに心電図検査をして心筋梗塞の診断をし、二次救急病院に搬送するか、または心筋梗塞に対する適切な治療をすべき義務があった。病院側(被告)の主張A病院が4月23日に実施した心電図検査によると、完全右脚ブロックであり、狭心症や心筋梗塞を疑えるものではない。この心電図の結果から、狭心症や心筋梗塞の疑いを否定し、聴診の結果からとくに緊急を要するような肺疾患の疑いを否定し、以前に肋間神経痛と一度いわれたことがあり、肋間にひびくような痛みがあると述べたことから、肋間神経痛の疑いと診断したのであり、過失はない。4月24日救急隊員に介助されながら徒歩でA病院に来院し、医師の問診、看護師の質問にも通常に対応した。同日の心電図検査時より、数時間ないしは十数時間前に左冠状動脈主幹部に血栓性の閉塞を来していた。それ故、左心室の広範囲前壁の急性心筋梗塞を発症して心筋の壊死が進行し、11:00~11:10頃に左室前壁の心筋断裂による穿孔を来して、心嚢内に出血し、心タンポナーデにより急速な経過で死に至ったのであるから、たとえ、心電図検査を来院直後に実施していても、救命できなかった。つまり、来院直後に心電図検査を施行しなかったことと死亡との間には因果関係がない。裁判所の判断4月23日にA病院に搬入された際にすでに狭心症に罹患していたか、という点について、受診した際に訴えていた左上腕にひびくような痛みは、放散痛(関連痛)であり、狭心症に典型的な症状である。これに加え、4月24日に救急車でA病院に搬入され、数時間後に急性心筋梗塞による心嚢血腫症(心タンポナーデ)で死亡したことから、4月23日には不安定狭心症に罹患していたとみるべきであるとした。次に、B医師が肋間神経痛と診断したことについて、カルテには胸痛発作の性状、誘因、時間帯、経過などの記載がなく、十分な問診をしたとはいえず、安易に心電図検査のみで狭心症の疑いを否定している。また、肋間神経痛と診断するために必要な圧痛点を確認したことの記載もなく、肋間神経痛の疑いとして消炎鎮痛薬を投与して帰宅させた。それ故、B医師にはこの診断と、取るべき処置を誤ったという過失があるとした。最後に4月23日の時点で狭心症を疑って必要な処置をしていれば、死亡は回避できたか、という点について、そうしていれば、24日に急性心筋梗塞を発症しておらず、死亡を回避することができた蓋然性が高いとした。つまり、A医師の過失行為と心筋梗塞による死亡との間には相当因果関係があるとした。原告側合計759万円の請求に対し、426万円の判決考察本件は、プライマリケアを担当する医師にとっては教訓的な事例だと思います。胸痛というありふれた症状に対しては、基本的な対応(問診、カルテ記載)をぜひとも心掛けたいと思います。1. 問診義務最近では、さまざまな臨床検査により得られた情報を重視して診断を下す傾向があり、一見素朴ではありますが、患者の健康状態を全体的に把握する方法の視診、触診、問診などが少々軽視されがちであると思います。中でも、問診は患者の記憶の中に潜む情報を収集する方法であり、ほかの検査では代替できないため、その重要性はあらためて認識するべきと思われます。それは裁判においても同様であり、問診義務違反を理由として医師の責任を問われるのは、問診から得られるべき情報が医療上の意思決定の際の判断材料とされていたならば、当該医療事故の発生を予見し、回避することができたはずである、という場合です。2. 胸痛患者を診た場合ところが、入院後に抗菌薬などの点滴をすると「強い不快感」が出現するというエピソードをくり返し、もともと高血圧症の患者でありながら入院2日後には血圧が80台へと低下しました。このとき、入院時に認められていた湿性ラ音が消失していたため、担当医師は抗菌薬の効果が出てきたと判断、血圧低下は脱水によるものだろうと考えて、輸液を増やす指示を出しました。しかしこの時点ですでに心タンポナーデが進行していて、脱水という不適切な判断により投与された点滴が、病態をさらに悪化させたことになります。心タンポナーデでは、心膜内に浸出液が貯留して静脈血の心臓への環流が妨げられるため、心拍量が低下して低血圧が生じるほか、消化管のうっ血が強く生じるため嘔気などの消化器症状がみられます。さらに肺への血流が減少して肺うっ血が減少し、湿性ラ音が聴取されなくなることも少なくありません。3. 狭心症患者を診た場合狭心症の特徴は、典型的な狭心痛のほかに漠然とした不快感や、違和感のこともあります。時に冷汗を伴ったりします。痛みの自覚部位は通常胸骨の裏側であることが多いとされていますが、中には、上腕、肩、顎、歯、心窩部などに症状を訴えることもあり、肩から手にかけてのしびれ感、すなわち放散痛を訴えることもあります。持続時間は通常5分前後のことが多いようです。このように狭心症の疑いがある場合には、痛みの性状、誘因、時間帯、部位、持続時間などを聴取する必要があります。狭心症の検査には、心電図検査、核医学検査、心エコー図検査、冠動脈造影検査、血液検査などがありますが、まずは簡便な心電図検査が用いられます。狭心症の典型的な例では、心電図はST-T変化として認められることが多いですが、実際は非発作時を含めて変化のないこともしばしば経験されます。このため、心電図検査のみで狭心症を否定することはできず、その診断に当たっては十分な注意を要します。狭心症の中には、適切な治療が行われなければ、心筋梗塞に移行し、突然死するものもあり、診断に迷った際には、循環器科専門医のコンサルトを得るか、入院させて医師の管理下に置き経過観察をするべきでしょう。本件でも心電図検査のみで狭心症を否定し、上記のような問診をしなかった、あるいはたとえ問診をしていたとしても、医師が狭心症を否定するに至った重要な情報をカルテに記載していなかったのは、問診をしていないのと同等であると裁判所では判断しています。したがって、問診を詳しくとることはもちろんのこと、日頃からこのような重要な情報はカルテに記載しておくことを心掛ける必要があります。見方によっては、最初のB医師(内科非常勤で専門は麻酔科)は深夜の当直帯で患者を診て、心電図まで取ったのだから良いだろう、というご意見もあろうかと思います。しかし、狭心症は胸痛発作時にしか心電図異常が出ないため、狭心症を否定できないのであらば帰宅させる時のリスクを考えて、ニトログリセリン舌下錠を処方しておくという方法もあり得るのではないかと思います。循環器

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PET-CT検査:放射性トレーサーの違いで、冠動脈プラークの検出に差/Lancet

 18Fフルオライド陽電子放射断層撮影(PET-CT)による高リスクプラークの検出・特定能について、2種の放射性トレーサー、18Fフッ化ナトリウム(18F-NaF)と18F-フルオロデオキシグルコース(18F-FDG)の検出・特定能を比較検討した結果、18F-NaF PET-CTが非侵襲的画像診断法では最も有用である可能性が示された。英国・エジンバラ大学のNikhil V Joshi氏らによる前向き試験の結果で、著者は「この方法が、冠動脈疾患患者のマネジメントと治療の改善に役立つかどうかを立証するための、さらなる研究が必要である」とまとめている。非侵襲的画像診断法による同プラークの特定は、冠動脈疾患の予防と治療の臨床的前進に大きく寄与することを意味するものである。Lancet誌オンライン版2013年11月11日号掲載の報告より。心筋梗塞40例と安定狭心症40例の患者を対象に検証 試験は、18F-NaF PET-CT、18F-FDG PET-CTおよび侵襲的冠動脈造影を受けた、心筋梗塞(40例)および安定狭心症(40例)の患者を対象とした。 18F-NaFの集積は、症候性頚動脈疾患患者からの頚動脈内膜剥離術検体を用いて組織学的に比較検討した。また安定狭心症患者では血管内超音波を検討に用いた。 主要エンドポイントは、急性心筋梗塞患者の責任または非責任冠動脈プラークの、18Fフルオライドの組織/バックグランド比とした。責任プラークへの集積は18F-NaFが最も高い 心筋梗塞患者のうち37例(93%)の検討では、責任プラークへの集積は18F-NaFが最も高かった(最大組織/バックグランド比の中央値:責任プラーク1.66[IQR:1.40~2.25]vs. 最大非責任プラーク1.24[同:1.06~1.38]、p<0.0001)。 対照的に、18F-FDGは心筋に集積され概して不明瞭であり、責任プラークと非責任プラークについて識別の有意差はみられなかった(同:1.71 [1.40~2.13] vs. 1.58 [1.28~2.01]、p=0.34)。 著明な18F-NaFの集積は、すべての頸動脈プラーク破綻部位で認められ、石灰化活性の組織学的エビデンス、マクロファージ浸潤、アポトーシス、壊死との関連がみられた。 安定狭心症患者18例(45%)での検討では、18F-NaFのプラークへの集積は局在的で(最大組織/バックグランド比の中央値:1.90[IQR:1.61~2.17])、血管内超音波における高リスク所見と関連していた。すなわち、リモデリング陽性(リモデリング指数:プラーク集積あり1.12[IQR:1.09~1.19]vs. 同なし1.01[0.94~1.06]、p=0.0004)、微小石灰化(73%vs. 21%、p=0.002)、壊死性コア(25%[21~29]vs. 18%[14~22]、p=0.001)。

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インフルエンザワクチン接種者で心血管イベント減少/JAMA

 心血管疾患リスクの高い患者に対するインフルエンザワクチンの接種により、心血管イベントが抑制されることが、カナダ・トロント大学のJacob A Udell氏らの検討で示された。非古典的な心血管リスク因子のうち、気道感染症の原因となるインフルエンザやインフルエンザ様感染が、致死的および非致死的なアテローム血栓性イベントと関連することが指摘されている。また、インフルエンザワクチン接種により心血管イベントが抑制されることが、いくつかの疫学試験で示唆されている。JAMA誌2013年10月23日号掲載の報告。心血管イベント予防効果をメタ解析で評価 研究グループは、インフルエンザワクチンによる心血管イベントの予防効果を検証するために、文献を系統的にレビューし、メタ解析を行った。対象は、高い心血管疾患リスクを有する患者においてインフルエンザワクチン接種とプラセボまたは対照を比較した無作為化試験で、有効性あるいは安全性のイベントとしての心血管アウトカムについて報告している論文とした。 3つの医学データベース(MEDLINE、EMBASE、Cochrane Library Central Register of Controlled Trials)を用いて、2013年までに発表された無作為化試験の論文を検索した。選出された論文から、2名の研究者が別個に、試験デザイン、ベースラインの患者背景、アウトカム、安全性などのデータを抽出した。無作為化、割り付け情報のマスク、盲検法、フォローアップの完全性に関する適切な方法の記述がある論文を質の高い試験と判定した。 複合心血管イベント(心筋梗塞による死亡または入院、不安定狭心症、脳卒中、心不全、緊急冠動脈血行再建術)、心血管死、全死因死亡について、ランダム効果モデルを用いてMantel-Haenszel法によりリスク比(RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。また、割り付け前の1年以内の急性冠症候群(ACS)の有無で層別化した。複合心血管イベントが有意に36%低下 発表済みの5試験と未発表の1試験に参加した6,735例(ワクチン群3,373例、プラセボ/対照群3,362例)が解析の対象となった。全体の患者背景は、平均年齢67歳、女性51.3%、心疾患の既往歴36.2%で、平均フォローアップ期間は7.9ヵ月であった。 発表済みの5試験の解析では、1年以内の複合心血管イベントの発症率はインフルエンザワクチン群が2.9%(95/3,238例)であり、プラセボ/対照群の4.7%(151/3,231例)に比べ有意に低かった(RR:0.64、95%CI:0.48~0.86、p=0.003)。 ACSの既往歴のある患者では、インフルエンザワクチン接種による複合心血管イベントの抑制効果が認められた(RR:0.45、95%CI:0.32~0.63、p<0.001)が、既往歴のない患者では有意な抑制効果はみられず(0.94、0.55~1.61、p=0.82)、ACSによる交互作用が示唆された(交互作用検定:p=0.02)。 1年以内の心血管死(ワクチン群1.3% vs プラセボ/対照群1.7%、RR:0.81、95%CI:0.36~1.83、p=0.61)および全死因死亡(1.9 vs 2.1%、0.85、0.45~1.61、p=0.62)には有意な差はみられなかった。 未発表の1試験のデータを加えても、結果は同様であった。 著者は、「インフルエンザワクチン接種により、心血管疾患のリスクが高い患者において有害な心血管イベントのリスクが低下した」と結論し、「これらの知見を検証し、心筋梗塞や脳卒中などの個々の心血管エンドポイントを評価するために、適切なパワーを備えた大規模な多施設共同試験を行う必要がある」と指摘している。

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CABGとPCI、健康状態もCABGのほうが良好-糖尿病の多枝冠動脈疾患患者-/JAMA

 糖尿病を有する多枝冠動脈疾患患者の血行再建戦略では、冠動脈バイパス移植術(CABG)のほうが薬剤溶出ステント(DES)を用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)よりも、中期的な健康状態やQOLが良好なことが、米国Saint Luke’s Mid America Heart InstituteのMouin S Abdallah氏らが行ったFREEDOM試験のサブ解析で示された。本試験ではすでに、CABGはDESによるPCIに比べ死亡率や心筋梗塞の発生率は低いが、脳卒中の頻度が高いことが報告されている。JAMA誌2013年10月16日号掲載の報告。治療法別の全般的な健康状態への影響を評価 FREEDOM試験の研究グループは、今回、CABGおよびDESによるPCIが、糖尿病を合併する多枝冠動脈疾患患者の全般的な健康状態に及ぼす影響について評価を行った。 本無作為化試験には、2005~2010年までに18ヵ国から糖尿病と多枝病変を有する患者1,900例が登録された。初回治療としてCABGを施行する群に947例が、PCIを行う群には953例が割り付けられた。ベースラインの健康状態の評価は1,880例[CABG群935例(平均年齢63.0歳、男性69.8%)、PCI群945例(63.2歳、73.2%)]で行われた。 健康状態については、シアトル狭心症質問票(SAQ)を用いて患者の自己申告による狭心症の頻度、身体機能の制限、QOLの評価を行った(ベースライン、1、6、12ヵ月後、その後は年に1回)。個々の評価スケールは0~100でスコア化した(スコアが高いほど健康状態が良好)。混合効果モデルを用いて治療法の影響を縦断的に解析した。再血行再建術の施行率の差も一因か ベースライン時のSAQ平均スコア(SD)は、CABG群の狭心症頻度が70.9(25.1)、身体機能制限が67.3(24.4)、QOLは47.8(25.0)で、PCI群はそれぞれ71.4(24.7)、69.9(23.2)、49.2(25.7)であった。 2年後のSAQ平均スコア(SD)は、CABG群がそれぞれ96.0(11.9)、87.8(18.7)、82.2(18.9)、PCI群は94.7(14.3)、86.0(19.3)、80.4(19.6)であり、いずれもCABG群で有意に良好であった。平均治療ベネフィット(>0でCABG群が良好)は、狭心症頻度1.3ポイント(95%信頼区間[CI]:0.3~2.2、p=0.01)、身体機能制限4.4ポイント(同:2.7~6.1、p<0.001)QOL:2.2ポイント、95%CI:0.7~3.8、p=0.003)であった(群間の比較のp<0.01)。 2年以降は、2つの血行再建戦略における患者申告によるアウトカムに差はなくなり、全般に同等となった。 著者は、「糖尿病を有する多枝冠動脈疾患患者では、CABG施行例のほうがDESによるPCI施行例よりも中期的な健康状態やQOLが良好であったが、そのベネフィットの程度は小さなもので、2年以降は両群間の差はなくなった」とまとめ、「このような差の原因の1つとして、PCI施行例では再血行再建術の施行率が高かったことが挙げられる」と指摘している。

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第19回 PTCAで患者が死亡した場合の医師の責任 診療ガイドラインからの考察

■今回のテーマのポイント1.循環器疾患の訴訟では、急性冠症候群が最も多い疾患であり、PTCA(経皮的冠動脈形成術)の適応が最も多く争われている2.PTCAの適応を判断するに当たり、裁判所は、ガイドラインを重視している3.ガイドラインに反する診療を行う場合には、より高度な説明義務が課せられる事件の概要患者X(60歳)は、平成11年8月下旬に近医にて心電図異常を指摘されたことから、同年9月9日、精査目的でY病院を受診しました。Y病院にて、冠動脈造影および運動負荷タリウム心筋スペクト検査を受けた結果、右冠動脈#3に100%狭窄、左前下行枝#6に75%、#7および#8に90%の狭窄、左回旋枝#14に75%、#15に75%狭窄が認められたものの、左心室造影の結果、駆出率は73%と正常範囲であり、全周性に壁運動は保たれていたことから、冠動脈末梢部分の陳旧性心筋梗塞と診断されました。Xは、平成12年2月7日にY病院に入院し、翌8日、左前下行枝#6、#7および#8に対しPTCAが行われました。その後、5月15日に行われた冠動脈造影において、右冠動脈#3に100%狭窄、左回旋枝#15に75%を含む3ヵ所の狭窄のほか、前回PTCAを行った左前下行枝#6から#8、#9くらいのところまで、血流の遅延を伴う程度の99%狭窄が認められ、左心室造影では、左前下行枝の高度狭窄の影響と考えられる壁運動の低下が認められ、駆出率も61%と低下していること、また、前回造影時より側副血行路の発達が認められました。Xは、5月19日にY病院に入院し、22日に2回目のPTCAを受けました。しかし、PTCA施行中に左前下行枝中間部に穿孔が生じてしまい、心嚢ドレナージなど処置が行われたものの、左冠動脈主幹部に血栓性閉塞が生じ、これに対し緊急冠動脈バイパス手術が行われたのですが、翌23日、Xは死亡しました。これに対し、Xの相続人達は、(1)XにはPTCAの適応がなかったこと、(2)PTCAの手技上のミスがあったこと、(3)PTCAを施行するにあたって説明義務違反があったことなどを理由に、Y病院に対し、約8,000万円の損害賠償を請求しました。事件の判決ある症状に対して、一般的適応のある治療行為が行われた場合は、原則として、正当な医療行為と認められ、違法性を有しない(他人の身体に対して侵襲を加えることの違法性が阻却される。)が、一般的適応のない治療行為が行われた場合(当該症状が治療行為の必要のないものであったり、当該治療行為が当該症状に対しては治療効果を期待できないものであったり、治療効果に比して不相応に大きな危険を伴うものであったような場合)は、原則として、その治療行為は違法性を有するものと解される。もっとも、一般的適応のある治療行為であっても、患者の意識がないなど、患者の同意を得ることができないような状況にない限り、患者の自己決定権に基づく同意は必要であり、患者の同意がない場合は、原則として、その治療行為は違法性を有するものと解される。一般的適応については、一応、以上のように解することができるとしても、具体的な治療の場面では、当該治療行為を行う医療従事者の能力(知識・経験、技術を含む)の問題、当該治療行為に必要な医療設備ないし医療環境(助力を求めることができる他の医療従事者の有無等)の問題等、他の要因も加わって当該治療を実施することの適法性が判断されることになり、一般的適応があっても、知識・経験、技術等の点から当該医療従事者あるいは当該医療機関が当該治療行為を行うことは許されない場合もありうるし、一般的適応に欠けるところがあっても、患者の同意があれば、当該治療行為を行うことが許される場合もありうる。例えば、医療技術の進歩の著しい分野においては、一般的適応があるとはいえないが、一定の能力を有する医療従事者が、患者の同意を得て、一定の医療設備及び医療環境のもとで実施する場合には、一定の治療効果が期待できるので、当該治療行為が許されるという場合もありうるし、当該治療の実施例が少なく、当該治療行為の危険性についても、治療効果についても十分に検証されているとはいえないが、そのことを十分に患者が理解し、当該治療行為の実施を患者が望めばこれを実施することも許されるという場合もありえよう。一般的適応に欠けるところがあっても、患者の同意によって当該治療行為を行うことが許される場合について、これを患者の同意があれば当該治療行為の適応があるというのか、適応はないが、患者の同意によって治療行為としての正当性が認められるというのかは、表現の違いにすぎず、法的には、いずれにしても、患者の同意があってはじめて当該治療行為が正当な医療行為として認められるものと解される。そして、この場合の患者の同意は、一般的適応がある場合の同意と連続性を有するものではあるが、一般的適応のある治療行為が、それ自体で、原則として正当な医療行為と認められるのに対して、一般的適応に欠ける治療行為は、患者の同意があってはじめて治療行為としての正当性が認められるという意味で、より重い意義を有するものというべきである。このように、違法性の有無、軽重の観点から考えると、治療行為の適応の問題は、当該治療行為に対する患者の同意の問題と切り離すことはできない。そして、当該治療行為について、その内容を十分理解した上でその実施に患者が同意したかどうか、すなわち、当該同意が、患者の自己決定権の行使としての同意、あるいは、一般的適応に欠ける治療行為について正当性を与えるための同意として有効なものといえるかどうかは、患者が同意するか否かを合理的に判断できるだけの情報が医療従事者から患者に対して与えられたかどうか、すなわち、説明義務が尽くされたかどうかにかかることになる。・・・(中略)・・・本件適応ガイドラインに従うと、本件PTCAは(前回PTCAも)、危険にさらされた側副血行路派生血管の病変に対するもので、原則禁忌に該当するものであったということになるし、ガイドラインの記載に従えば、本件PTCAを実施するのであれば、まず、右冠動脈3番の狭窄に対してPTCAを行ってはじめて本件PTCAを行うことが許されるものであったということになるので、特段の事情がない限り、本件PTCAは一般的適応を欠くものであったというべきである。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(東京地判平成16年2月23日判タ1149号95頁)ポイント解説今回は、各論の3回目として、循環器疾患を紹介します。循環器疾患で最も訴訟が多い疾患は、急性冠症候群です。1)急性冠症候群に関する判決とその傾向心筋梗塞や狭心症といった急性冠症候群は、普通に日常生活を送っていた人が急速な転帰をたどり死に至ることから、争われやすい疾患といえる一方、年間死亡数が急性心筋梗塞とその他虚血性心疾患で77,217人(平成22年)と非常に多く、死亡率もいまだに高く致死的な疾患であることから、特に最近では原告勝訴率があまり高くないという特徴があります(表1)。急性冠症候群に関する訴訟において争点となるのは、本件においても争われているPTCAの適応についてが最も多く、ついで診断の遅れ、手技ミス、説明義務違反となっています(表2)。2)PTCAの適応に関する裁判所の判断わが国のCCU(心疾患集中治療室)は多くの場合、カテーテル治療を行う循環器内科医が中心となって運営されていることから、畢竟、カテーテル治療が優先的に選択される傾向があり、本判決においても、「PTCAについては、内科医が適応を決定することが多く、CABG(冠動脈大動脈バイパス移植術)よりもPTCAに重点を置いた説明がなされる傾向があるというのであり(鑑定人)、CABGよりもPTCAが患者に好まれる傾向がある」と判示されています。しかし、PTCAの適応については、本判決でも引用されているように「冠動脈疾患におけるインターベンション治療の適応ガイドライン」が作成されており、これによると、PTCAの原則禁忌として、「(1)保護されていない左冠動脈主幹部病変、(2)3 枝障害で 2 枝の近位部閉塞、(3)血液凝固異常、(4)静脈グラフトのび漫性病変、(5)慢性閉塞性病変で拡張成功率の極めて低いと予想されるもの、(6)危険にさらされた側副血行路」が挙げられています。したがって、これら禁忌に該当する場合にもかかわらずPTCAが選択された場合には、第15回でも解説した通り、違法と判断されやすくなることから注意が必要となります。本件では、2枝病変で左前下行枝近位部に病変があることから、同ガイドラインによると一般的にCABGの適応であり、その上、左前下行枝に危険な側副血行路が認められ、PTCAの原則禁忌(6)に該当することから、「特段の事情がない限り、本件PTCAは一般的適応を欠くものであった」と判断されています。3)一般的適応を欠く場合における説明義務本判決の最大の特徴は、ガイドラインに適合しない治療を行う場合には、説明義務が加重されると判示した点にあります。その結果、説明義務違反があったとされ、精神的慰謝料として約1,300万円もの損害賠償が認められています。医療は進歩し続けており、新しいより良い治療を模索する諸活動が日々行われています。その中でも、まったくの新規の治療法のような研究的色彩が強いものは、臨床研究としてIRB(倫理審査委員会)の承認を経て、しっかりとしたインフォームド・コンセント(説明と同意)の下、行われるべきであることはいうまでもありません。また、一般論として、一般的適応を欠く治療を行う場合には、より丁寧なインフォームド・コンセントが行われるべきであるということも首肯できます。しかし、この一般的適応性判断を行うに当たり、ガイドラインを重視しすぎることは、本連載でも述べている通り、現状のガイドラインのあり方、そもそもとしての医療におけるガイドラインの意義を鑑みると勇み足といわざるを得ません(ただし、本件は控訴され、高裁判決では説明義務違反はないとして病院側の逆転勝訴となっています)。ただ、本判決も含め、司法はガイドラインを重視しますので、現状においては、ガイドラインに従うか否かにかかわらず、患者に対し、(1)ガイドラインが存在すること(2)それを踏まえて個別具体的に判断した結果、当該治療方針が適切であると考えていることを説明することが肝要といえます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)東京地判平成16年2月23日判タ1149号95頁

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MRSA感染症が原因で心臓手術から6日後に死亡したケース

感染症最終判決判例時報 1689号109-118頁概要心臓カテーテル検査で冠状動脈3枝病変が確認され、心臓バイパス手術が予定された63歳男性。手術前に咳、痰、軽度の咽頭痛が出現し、念のため喀痰を培養検査に提出したが、検査結果を待たずに予定通り手術が行われた。術後から38℃以上の発熱が続き、喀痰やスワンガンツカテーテルの先端からはMRSAが検出された。集中治療にもかかわらずまもなくセプシスの状態となり、急性腎不全が原因で術後6日目に死亡した。なお、術後に問題となったMRSAは術前の喀痰培養で検出されたものと同一であった。詳細な経過患者情報既往症として脳梗塞、心筋梗塞を指摘されていた63歳男性経過1991年1月近医の負荷心電図検査で異常を指摘された。2月18日某大学病院外科を紹介受診。ニトロールRを処方され外来通院開始(以後手術まで胸痛はなく病態は安定)。3月4日~3月6日心臓カテーテル検査のため入院。■冠状動脈造影結果左冠状動脈前下行枝完全閉塞左回旋枝末梢の後側壁枝部分で閉塞右冠状動脈50~75%の狭窄心拍出量3.84L左心室駆出率56%左室瘤および心尖部の血栓(+)以上の所見をもとに、主治医はACバイパス手術を勧めた。患者は仕事が一段落するのを待って手術を承諾(途中で海外出張もこなした)。5月28日大学病院外科に入院、6月12日に手術が予定された。6月4日頭部CT検査で右大脳基底核、右視床下部の脳梗塞を確認。神経内科の診察では右上下肢の軽度知覚障害、右バビンスキー反射陽性が確認された。6月8日(手術4日前)咳と喉の痛みが出現。6月9日(手術3日前)研修医が診察し、咳、痰、軽度の咽頭痛などの所見から上気道炎と診断し、イソジンガーグル®、トローチなどを処方。6月10日(手術2日前)研修医の指示で喀痰の細菌培養を提出(研修医から主治医への報告なし)。6月12日09:00~18:00ACバイパス手術施行。6月13日00:00~4:00術後の出血がコントロールできなかったため再開胸止血術が行われた。09:00体温38.7℃、白血球5,46013:00手術前に提出された喀痰培養検査でMRSA(感受性があるのはゲンタマイシン、ミノマイシン®のみ)が検出されたと報告あり。主治医は術後の抗菌薬として(MRSAに感受性のない)パンスポリン®、ペントシリン®を投与。6月14日体温38.6℃、白血球12,900、強い腹痛が出現。6月15日体温38.9℃、白血球11,490、一時的な低酸素によると思われる突然の心室細動、心停止を来したが、心臓マッサージにより回復。6月16日体温39.5℃と高熱が続く。主治医はMRSA感染をはじめて疑い、感受性のあるゲンタマイシンを開始。再度喀痰培養を行ったところ、術前と同じタイプのMRSAが検出された。6月17日顔面、口角を中心としたけいれんが出現し、意識レベルが低下。また、尿量が減少し、まもなく無尿。カリウムも徐々に上昇し最高値8.1となり、心室細動となる。スワンガンツカテーテル先端からもMRSAが検出されたが、血液培養は陰性。6月18日12:30腎不全を直接死因として死亡(術後6日目)。当事者の主張患者側(原告)の主張1.培養検査の結果を待たずに手術を行った過失今回の手術は緊急性のない待機的手術であったのに、喀痰検査の結果を確認することなく、さらにMRSAの除菌を完全に行わずに手術に踏み切ったのは主治医の過失である2.術後管理の過失手術直後からMRSA感染が疑われる状況にありながら、MRSAに効果のある薬剤を開始するのが4日も遅れたために適切な治療を受ける機会を逸した3.死亡との因果関係担当医の過失によりMRSA感染症による全身性炎症反応症候群からショック状態となり、腎不全を引き起こして死亡した病院側(被告)の主張1.培養検査の結果を待たずに手術を行った点について入院病歴から判断して狭心症重症度3度に該当する労作性狭心症であり、左冠状動脈前下行枝完全閉塞、右冠状動脈75%狭窄、心筋虚血のある状態ではいつ何時致命的な心筋梗塞が発症しても不思議ではなかったので、速やかに手術を行う必要があったまた、一般にすべての心臓手術前に細菌培養検査を実施する必要はないので、本件でも術前に行った喀痰培養の結果が判明するまで手術を待つ必要はなかった。確かに術前の喀痰検査でMRSAが陽性であったが、術前はMRSAの保菌状態にあったに過ぎず、MRSA感染症は発症していない2.術後管理について心臓手術後は通常みられる術後急性期の経過をたどっており、MRSA感染症を発症したことを考えるような臨床所見はなかった。そして、MRSAを含めた感染症の可能性を考えて、各種培養検査を行い、予防的措置として広域スペクトラムを持つ抗菌薬を投与するとともに術前の喀痰培養で検出されたMRSAに感受性を示す抗菌薬も開始した3.死亡との因果関係死亡に至るメカニズムは、元々の素因である脳動脈硬化性病変によりけいれん発作が出現し、循環動態が急激に悪化して急性腎不全となり、心停止に至ったものである。MRSAは喀痰およびスワンガンツカテーテルの先端から検出されたが、血液培養ではMRSAが検出されていないのでMRSA感染症を発症していたとはいえず、死亡とMRSA感染症は関係ない裁判所の判断緊急性のない心臓バイパス手術に際し、上気道炎に罹患していることに気付かず、さらに喀痰培養の検査中であることも見落として検査結果を待つことなく手術を行ったのは主治医の過失である。さらに術後高熱が続いているのに、術前の喀痰培養でMRSA、が検出されたことを知った後もMRSA感染症を疑わず、MRSAに感受性のある抗菌薬を投与したのは症状がきわめて悪化してからであったのは術後管理の明らかな過失である。その結果MRSA感染症からセプシスとなり、急性腎不全を併発して死亡するという最悪の結果を迎えた。原告側合計3億257万円の請求に対し、1億5,320万円の判決考察MRSAがマスコミによって大きく取り上げられ社会問題化してからは、多くの病院で「院内感染症対策マニュアル」が整備され、感染症対策委員会を設けて病院全体としてMRSAをはじめとする院内感染に細心の注意を払うようになったと思います。今回の大学病院でも積極的に院内感染症対策に取り組み、緊急の場合を除いて感染症の所見があれば(たとえ軽症であっても)MRSA感染の有無を確認し、もしMRSA感染が判明すれば侵襲の大きい手術は行わないという原則が確立していました。こうしたMRSAに対する十分な配慮が行われていたにもかかわらず、なぜ今回のような事故が発生したのでしょうか。その答えとして真っ先に思い浮かぶのが、「院内のコミュニケーション不足」であると思います。今回の手術に際して、患者さんと頻繁に接していたのはネーベンである研修医であったと思います。その研修医が患者さんから手術の3日前に「喉が痛くて咳や痰がでる」という症状の申告を受けたため、イソジンガーグル®によるうがいを励行するように指導し、トローチを処方しました。そして、「念のため」ではあると思いますが、痰がでるという症状に対し細菌感染を疑って喀痰培養を指示しました。以上の対応は、研修医としてはマニュアル化された範囲内でほぼ完璧であったと思います。ところが、この研修医はオーベンである主治医に培養検査を行ったことを報告しなかったうえに(実際には報告したのにオーベンが忘れていたのかもしれません)、おそらく培養検査を提出したこと自体を失念したのでしょうか、検査結果がでるのを待たずに予定通り手術が行われてしまいました(通常の培養検査は結果が判明するまでに3~4日はかかりますので、手術の2日前に培養検査を提出したのであれば、培養結果の報告は早くても手術当日か手術直後になることを当然予測しなければなりません)。その背景として、複数の患者を受け持つ一番の下働きである研修医は、日常のオーダーを出すだけでもてんてこ舞いで、寝る時間も惜しんで働いていたであろうことは容易に想像できます。そのためにたかが風邪に対する喀痰培養検査に重きを置かなかったことは、同じ医師としてやむを得ない面はあると理解はできます。一方で、研修医に間違いがないかどうかをチェックするのがオーベンの重要な仕事であるのに、今回のオーベンは術前に喀痰培養検査が行われたことなどつゆ知らず、ましてや手術の翌日に「術前喀痰培養でMRSA陽性」と判明した後も何ら対策をとりませんでした。おそらく、「MRSAが検出されたといっても、院内に常在する細菌なので単なる「保菌状態」であったのだろう、術前には大きな問題はなかったのでまさかMRSA感染症にまで発展するはずはない」と判断したのではないかと思います。つまり本件では、「術前に喀痰培養を行ったので、手術をするにしても培養結果がでてからにしてください」とオーベンにいわなかった研修医と、「研修医が術前に喀痰培養を行った」ことをまったく知らなかった(普段から研修医の出す指示をチェックしていなかった?)オーベンに問題があったと思います(なお裁判では監督責任のあるオーベンだけが咎められて、研修医は問題になっていません)。心臓手術のように到底一人の医師だけではすべてを担当できないような病気の場合には、チームとして治療に当たる必要があります。つまり一人の患者さんに対して複数の医師がかかわることになりますので、医師同士のコミュニケーションをなるべく頻繁にとり、たとえ細かいことであってもできる限り情報は共有しておかなければなりません。そうしないと今回の事例のような死角が生じてしまい、結果として患者さんはもちろんのこと、医師にとってもたいへん不幸な結果を招く可能性があるという、重要な教訓に与えてくれるケースであると思います。感染症

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急性心筋梗塞の再潅流療法において血栓吸引は有用か?(コメンテーター:上田 恭敬 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(131)より-

本論文は、スウェーデンの国家的レジストリーであるSwedish Coronary Angiography and Angioplasty Registry(SCAAR)に登録されている患者に加えて、デンマークの追加施設から同レジストリーシステムへ登録される患者を対象として行われた多施設、前向き、オープンラベル、無作為化比較対照試験Thrombus Aspiration in ST-Elevation Myocardial Infarction in Scandinavia(TASTE) trialの結果についての報告である。 対象症例は発症24時間以内のST上昇型急性心筋梗塞であり、マニュアルによる血栓吸引療法の有用性を30日以内の全死亡(一次エンドポイント)で評価している。二次エンドポイントは、30日以内の再梗塞による入院、ステント血栓症、標的血管再血行再建術(TVR)施行、標的病変再血行再建術(TLR)施行、および全死亡と再梗塞の複合エンドポイントとしている。7,244例がランダム化され、結果としてはいずれのエンドポイントにも群間に有意差を認めなかったことから、血栓吸引療法に有用性を認めないとしている。 たしかに、ここで設定されたエンドポイントに著明な有意差がつくほどの効果はないのであろう。しかし、もともと血栓吸引療法をしない場合に、血栓の末梢塞栓やslow flow/no flowが生じてSTの再上昇や梗塞サイズの増大を生じたと思われる症例はまれであり、さらにそれらを生じた症例中にはプラーク内容物の末梢塞栓が原因で、血栓吸引療法では予防できない症例も含まれていることを考慮すると、血栓吸引療法が単独で心機能保護に役立つ症例は非常にまれと思われ、死亡率低下にまで役立つ症例はさらにまれと思われる。ただし、末梢の血管構築が見えるようになることで、その後のPCI手技が容易になるために合併症が減るといった効果も、とくに未熟な術者に対しては期待される。 さらに、特定のサブ集団では血栓吸引療法の有用性が示される可能性も残されていると考える。実際、この試験において4,697例がランダム化されずに除外されており、血栓吸引療法が必要との判断で除外された症例も7%含まれることや、血栓吸引療法非施行群に割り付けられたのに実際には施行された症例や、その逆のクロスオーバー症例がそれぞれ5%、6%含まれることが記載されており、これらのために血栓吸引療法の効果が過小評価されてしまったのではないかとの危惧が残る。 これらのことを考慮すれば、本試験の結果の解釈は、血栓吸引療法には「ルーチン使用した場合に死亡などのアウトカムを有意に改善するほどの著明な効果はないが、逆に有害でもない」、さらに「有用性が示される特定のサブ集団が存在するか否かについてはさらに検討が必要である」とすべきである。有害でないことが示され、有用性が完全には否定されていないと思われる血栓吸引療法に関しては、現時点ではその施行を容認すべきではないだろうか。 同様の状況は末梢保護デバイスについてもあてはまる。これまでに存在するエビデンスからは、急性冠症候群や安定狭心症症例全体において末梢保護デバイスの有用性は示されていないが、slow flow/no flowの高リスク症例を対象とすることによってその有用性を示そうとする臨床試験がいくつか進行中である。末梢保護デバイスが有用な症例が存在することは、経験的には多くの循環器専門医が認めるだろうが、それをエビデンスとして示すことは難しいようである。 本当にその治療法を必要とする対象をランダム化できない限り、その効果を正しく判断することはできない。本論文のような結果に基づいて血栓吸引療法をすべきでないと短絡的に主張する者が現れ、実際は有用である可能性がある治療法を葬り去ることにならないかと危惧する。

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DPP-4阻害薬、糖尿病の虚血性イベント増減せず/NEJM

 DPP-4阻害薬サキサグリプチン(商品名:オングリザ)は、心血管イベント既往またはリスクを有する2型糖尿病患者の治療において、心不全入院率は上昇するが虚血性イベントは増大も減少もしなかったことが、米国・ハーバードメディカルスクールのBenjamin M. Scirica氏らによるSAVOR-TIMI 53試験の結果、示された。著者は「サキサグリプチンは糖尿病患者において、血糖コントロールを改善するが、心血管リスクを低下させるにはその他のアプローチが必要である」と結論している。本研究は、2013年9月2日、オランダ・アムステルダム市で開催された欧州心臓病学会(ESC)で報告され、同日付けのNEJM誌オンライン版に掲載された。1万6,492例を対象にサキサグリプチンの有効性と安全性を評価 SAVOR-TIMI 53試験は、心血管イベントリスクを有する患者の心血管アウトカムについてサキサグリプチンの有効性と安全性を評価する第4相の多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験。対象は、HbA1c 6.5~12.0%で心血管イベントの既往またはリスクを有する2型糖尿病患者であった。 26ヵ国788施設において1万6,492例の被験者が1対1の割合で、サキサグリプチン(5mg/日、eGFR≦50mL/分の患者は2.5g/日)を投与される群(8,280例、平均年齢65.1歳、女性33.4%、2型糖尿病罹病期間中央値10.3年、HbA1c 8.0%、BMI平均値31.1)またはプラセボを投与される群(8,212例、65.0歳、32.7%、10.3年、8.0%、31.2)に割り付けられ、中央値2.1年間(最長2.9年間)追跡を受けた。なお担当医は、血糖降下薬を含むその他の薬物を調整することが許されていた。 主要エンドポイントは、心血管死・心筋梗塞・脳梗塞の複合であった。心不全による入院は増大するが、その他の虚血性イベントは増減せず 主要エンドポイントの発生は、サキサグリプチン群613例、プラセボ群609例であった。発生率は2年時Kaplan-Meier推定値で7.3%対7.2%、サキサグリプチンのハザード比は1.00(95%信頼区間[CI]:0.89~1.12)だった(優越性p=0.99、非劣性p<0.001)。この結果は、治療継続(投与を中止しなかった)患者における解析でも同様であった(ハザード比:1.03、95%CI:0.91~1.17、p=0.60)。 主要副次複合エンドポイント(心血管死・心筋梗塞・脳卒中・不安定狭心症入院・冠動脈再建術・心不全)の発生は、サキサグリプチン群1,059例、プラセボ群1,034例だった。発生率は2年時Kaplan-Meier推定値で12.8%、12.4%で、サキサグリプチンのハザード比は1.02(95%CI:0.94~1.11)だった(p=0.66)。 個別にみた副次エンドポイントでは、心不全による入院について有意差がみられ、プラセボ群よりもサキサグリプチン群のほうがより発生が多かった(3.5%対2.8%、ハザード比:1.27、95%CI:1.07~1.51、p=0.007)。 急性膵炎(サキサグリプチン群0.3%、プラセボ群0.2%)および慢性膵炎(両群とも0.1%)と診断された割合は、両群で同程度であった。 以上の結果から著者は、「DDP-4阻害薬サキサグリプチンは、心不全による入院を増大したが、虚血性イベントは増大も減少もしなかった。サキサグリプチンは血糖コントロールを改善するが、2型糖尿病の患者において心血管リスクを低下させるには、その他のアプローチが必要である」と結論している。

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DPP-4阻害薬、糖尿病の心血管リスク増大せず/NEJM

 新規DPP-4阻害薬アログリプチン(商品名:ネシーナ)は、直近の急性冠症候群(ACS)既往歴のある2型糖尿病患者の治療において、心血管リスクを増加させずに糖化ヘモグロビン(HbA1c)を改善することが、米国・コネチカット大学のWilliam B. White氏らが行ったEXAMINE試験で示された。糖尿病患者では、血糖値の改善により細小血管合併症リスクが低下する可能性があるが、大血管イベントへの良好な効果は示されておらず、米国FDAをはじめ多くの国の監督機関は、新規の抗糖尿病薬の承認前後で、心血管系の安全性プロフィールの包括的な評価を求めている。本研究は、2013年9月2日、オランダ・アムステルダム市で開催された欧州心臓病学会(ESC)で報告され、同日付けのNEJM誌に掲載された。心血管アウトカムをプラセボとの非劣性試験で評価 EXAMINE試験は、ACSの既往歴を有する2型糖尿病患者における、アログリプチンのプラセボに対する心血管アウトカムの非劣性を評価する二重盲検無作為化試験。対象は、HbA1c 6.5~11.0%(インスリン投与例は7.0~11.0%)で、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬以外の抗糖尿病薬の投与を受け、割り付け前15~90日にACS(急性心筋梗塞、入院を要する不安定狭心症)を発症した2型糖尿病患者であった。 被験者は、2型糖尿病および心血管疾患の標準治療に加えて、アログリプチンまたはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合エンドポイントであり、ハザード比(HR)の非劣性マージンは1.3に設定された。 アログリプチンの投与量は、ベースラインの推定糸球体濾過量に基づき71.4%には25mg/日が投与され、25.7%は12.5mg/日、2.9%は6.25mg/日の投与を受けた。最長40ヵ月、中央値18ヵ月のフォローアップが行われ、投与期間中央値は533日だった。約50ヵ国900施設、5,000例以上で、安全性を確認 2009年10月~2013年3月までに日本を含む49ヵ国898施設から5,380例が登録され、アログリプチン群に2,701例(年齢中央値61.0歳、男性67.7%、2型糖尿病罹病期間中央値7.1年、HbA1c 8.0%、BMI中央値28.7)、プラセボ群には2,679例(61.0歳、68.0%、7.3年、8.0%、28.7)が割り付けられた。 主要評価項目の発生率はアログリプチン群が11.3%(305例)、プラセボ群は11.8%(316例)であり、HRは0.96、信頼区間(CI)上限値は1.16であり、アログリプチンはプラセボに対し非劣性であった(非劣性:p<0.001、優越性:p=0.32)。 主要評価項目に入院後24時間以内の不安定狭心症による緊急血行再建術を加えた副次的評価項目の発生率は、アログリプチン群が12.7%(344例)、プラセボ群(359例)は13.4%であり、両群間に有意な差はみられなかった(HR:0.95、CI上限値:1.14、優越性:p=0.26)。 ベースラインから試験終了までのHbA1cの変化率は、アログリプチン群が-0.33%、プラセボ群は0.03%であり、最小二乗平均差は-0.36(95%CI:-0.43~-0.28)と有意な差が認められた(p<0.001)。 重篤な有害事象の発生率は、アログリプチン群が33.6%、プラセボ群は35.5%(p=0.14)であり、低血糖、がん、膵炎、透析導入の頻度にも両群間に差はなかった。 著者は、「アログリプチン投与により、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中がプラセボよりも増加することはなかった」とまとめ、「これらのデータは、心血管リスクが著しく高い2型糖尿病患者の治療において、抗糖尿病薬を選ぶ際の指標として有用と考えられる」と指摘している。

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重度狭窄部への予防的PCIが予後改善/NEJM

 ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)患者への救急時の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)において、梗塞部に加え重度狭窄部への予防的PCIを施行することは、重大心血管イベントリスクを有意に低下することが、英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のDavid S. Wald氏らによる無作為化試験PRAMIの結果、示された。これまで同患者における梗塞部へのPCI施行が予後を改善することは明らかであったが、予防的PCIの予後改善効果は不明であった。NEJM誌オンライン版2013年9月1日号掲載の報告より。予防的PCI群と非予防的PCI群を比較し予後改善を評価 PRAMI試験は2008~2013年の間、英国内5つの医療施設で行われた。465例のSTEMI(3例は左脚ブロック患者)で梗塞部PCIを受けた患者を登録し、予防的PCI群(234例)または非予防的PCI群(梗塞部のみにPCI施行、231例)に無作為に割り付けて行われた。 主要アウトカムは、心臓関連死・非致死的心筋梗塞・難治性狭心症の複合とし、intention-to-treat解析にて評価した。予防的PCI群の複合アウトカム発生ハザード比0.35 試験は2013年1月までに、データおよび安全性モニタリング委員会によって結果が確定的であるとみなされ、試験の早期中止が勧告された。平均追跡期間は23ヵ月であった。 同期間中の主要アウトカムの発生は、予防的PCI群21例に対し、非予防的PCI群は53例であった。イベント発生率に換算するとそれぞれ100患者当たり9例、23例の発生に相当した(予防的PCI群のハザード比:0.35、95%信頼区間[CI]:0.21~0.58、p<0.001)。 主要複合アウトカムの3つの死亡について個別にみると、心臓関連死亡は0.34(95%CI:0.11~1.08、p=0.07)、非致死的心筋梗塞0.32(同:0.13~0.75、p=0.009)、難治性狭心症0.35(同:0.18~0.69、p=0.002)だった。 これらの結果について、事前規定の5つの共変量(年齢、性、糖尿病の有無、梗塞部位、狭窄を有する冠動脈数)、試験施設の影響はなかった。

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統合失調症患者、合併症別の死亡率を調査

 統合失調症は、重大な併存疾患と死亡を伴う主要な精神病性障害で、2型糖尿病および糖尿病合併症に罹患しやすいとされる。しかし、併存疾患が統合失調症患者の超過死亡につながるという一貫したエビデンスはほとんどない。そこで、ドイツ・ボン大学のDieter Schoepf氏らは、一般病院の入院患者を対象とし、統合失調症の有無により併存疾患による負担や院内死亡率に差異があるかどうかを調べる12年間の追跡研究を行った。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2013年8月13日号の掲載報告。統合失調症の併存疾患の大半は糖尿病合併症またはその他の環境因子に関与 対象は、2000年1月1日から2012年6月末までにマンチェスターにある3つのNHS一般病院に入院した成人統合失調症患者1,418例であった。1%以上の発現がみられたすべての併存疾患について、年齢、性別を適合させたコントロール1万4,180例と比較検討した。多変量ロジスティック回帰解析により、リスク因子(例:院内死亡の予測因子としての併存疾患など)を特定した。 統合失調症の併存疾患を比較検討した主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者はコントロールに比べ緊急入院の割合が高く(69.8 vs. 43.0%)、平均入院期間が長く(8.1 vs. 3.4日)、入院回数が多く(11.5 vs. 6.3回)、生存期間が短く(1,895 vs. 2,161日)、死亡率は約2倍であった(18.0 vs. 9.7%)。 ・統合失調症患者では、うつ病、2型糖尿病、アルコール依存症、喘息、COPDに罹患していることが多く、併存疾患としては23種類も多かった。また、これらの大半は糖尿病合併症またはその他の環境因子に関与していた。・これに対し、高血圧、白内障、狭心症、脂質異常症は統合失調症患者のほうが少なかった。・統合失調症患者の死亡例において、併存疾患として最も多かったのは2型糖尿病で、入院中の死亡の31.4%を占めていた(試験期間中、2型糖尿病を併発している統合失調症患者の生存率はわずか14.4%であった)。・統合失調症患者においては、アルコール性肝疾患(OR:10.3)、パーキンソン病(OR:5.0)、1型糖尿病 (OR:3.8)、非特異的な腎不全(OR:3.5)、虚血性脳卒中(OR:3.3)、肺炎(OR:3.0)、鉄欠乏性貧血(OR:2.8)、COPD(OR:2.8)、気管支炎(OR:2.6)などが院内死亡の予測因子であることが示された。・コントロールとの比較において、統合失調症患者の高い死亡率に関連していた併存疾患はパーキンソン病のみであった。パーキンソン病以外の併存疾患に関しては、統合失調症の有無による死亡への影響に有意差は認められなかった。・統合失調症患者の死亡例255例におけるパーキンソン病の頻度は5.5%、試験期間中に生存していた1,163例におけるパーキンソン病の頻度は0.8%と、統合失調症患者の死亡例で有意に多かった(OR:5.0)。・また、統合失調症死亡例はコントロール死亡例に比べ、錐体外路症状の頻度が有意に高かった(5.5 vs. 1.5%)。・12年間の追跡調査により、統合失調症患者はコントロールに比べて多大な身体的負担を有しており、このことが不良な予後と関連していることが判明した。・以上のことから、統合失調症において、2型糖尿病および呼吸器感染症を伴うCOPDの最適なモニタリングと管理は、鉄欠乏性貧血、糖尿病細小血管障害、糖尿病大血管障害、アルコール性肝疾患、錐体外路症状の的確な発見ならびに管理と同様に細心の注意を払う必要がある。関連医療ニュース 検証!抗精神病薬使用に関連する急性高血糖症のリスク 抗精神病薬によるプロラクチン濃度上昇と関連する鉄欠乏状態 抗精神病薬と抗コリン薬の併用、心機能に及ぼす影響

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ACS症例に対するカテのタイミング:どこまで早く、どこまで慎重に?(コメンテーター:香坂 俊 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(124)より-

2013年現在、虚血性心疾患に対するカテーテル治療の適応は大まかに以下のようになっている。ST上昇心筋梗塞(STEMI) 基本的に緊急PCIは早ければ早いほど良い。発症から12時間以内であればほぼ適応となり、なるべくならばdoor-to-balloon time 90分以内で。12時間を経てしまった症例に関しては状態によって判断。なお、48~72時間を経てしまった症例に関しては、欧米のガイドラインではPCIの適応はないとされている。非ST上昇心筋梗塞/不安定狭心症(NSTEMI/UA) 緊急PCIの適応はリスクによる(後述)。安定狭心症(Stable Ischemic Heart Disease:SIHD) 症状が安定していれば基本的にPCI適応はない(至適薬物療法を行う)。ただし、虚血の領域が大きいなどリスクが高いと判断される場合はPCIやCABGが考慮される。  さて、今回の論文でもトピックとなっているNSTEMI/UAであるが、緊急PCIの適応についてはここ10年間大きな議論を呼んできた。2013年現在のスタンスは、基本的にTIMIスコアやGRACEスコアなどの定量的なリスク評価システムを使い、そのリスクが高ければ早めにPCIを考えるし、そうでなければ時間をおいて、ということになっている。 今回のカナダのグループの解析結果は、早期の侵襲的に治療によってAKIの発症に早期の侵襲的治療が関連しているとされており(長期的には透析の導入といった大きな問題はない)、この分野に一石を投じる内容となっている。 PCIを考えるにあたって常につきまとうのが合併症の問題だが、なかでも造影剤の使用による腎症の発症は大きな問題である。従来は、STEMIを筆頭として、緊急カテやPCIは早ければ早いほどよいと信じられてきたが、現在はリスクとのバランスを考えて適切な治療を選ぶ時代となっており、そのときにはこうした腎症のリスクというものは避けては通ることができない。 なおPCI後のAKI発症に関しては、最近PCI施行中の出血の大小が大きく関連しているとの報告もなされている(Ohno Y et al. J Am Coll Cardiol. 2013 Jun 12.)。蛇足ながら、AKI予防のためのヒントとして提示させていただく。

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心カテの閉塞性CAD診断率、北米の2州で大きな差/JAMA

 米国・ニューヨーク州の待機的心臓カテーテル検査による閉塞性冠動脈疾患(CAD)の診断率は、カナダ・オンタリオ州に比べ約15%も低いことが、臨床評価科学研究所(トロント市)のDennis T Ko氏らの検討で示された。同氏は「検査対象に含まれる低リスク例の差が原因」と推察している。同検査は、医療コストや診断効率の観点から、対象をより絞り込むべきとの意見がある一方で、重症CAD患者の同定に問題が生じたり、血行再建術が有効な患者を見逃す危険が指摘されている。同氏らはすでに、人口当たりの検査数はニューヨーク州がオンタリオ州の2倍に上り、これは疾病負担や選択基準の違いで説明可能なことを報告しているが、根本的な原因はわかっていなかった。JAMA誌2013年7月10日号掲載の報告。診断効率、予測発症率の寄与を2州で比較 研究グループは、ニューヨーク州とオンタリオ州における心臓カテーテル検査による閉塞性CADの診断効率を評価し、予測発症率に基づく検査対象の選択状況の比較を目的とする観察試験を行った。 解析には、New York Cardiac Catheterization DatabaseおよびCardiac Care Network of Ontario Cardiac Registryの登録データを使用した。対象は、年齢20歳以上、心疾患の既往歴がなく、2008年10月1日~2011年9月30日までに待機的心臓カテーテル検査を受けた安定期CAD患者とした。 閉塞性CADの定義は,左主冠動脈の50%以上の狭窄または主要な心外膜血管の70%以上の狭窄とした。また、3枝CADは、左冠動脈前下行枝、左冠動脈回旋枝、右冠動脈の70%以上の狭窄と定義した。診断率:30.4 vs 44.8%、予測発症率50%以上の割合:19.3 vs 41% ニューヨーク州は1万8,114例、オンタリオ州は5万4,933例が解析の対象となった。ニューヨーク州の患者のほうが若く(平均年齢:61.2 vs 63.7歳、p<0.001)、女性が多かった(45.3 vs 39.0%、p<0.001)。典型的な狭心症症状がみられない患者もニューヨーク州が多かった(55.7 vs 29.3%、p<0.001)。 心臓カテーテル検査前の非侵襲的な心筋虚血評価の施行率はオンタリオ州のほうが高く(63.2 vs 75.1%、p<0.001)、虚血評価例のうち高リスクと判定された患者はオンタリオ州が著明に高率だった(4.7 vs 50.9%、p<0.001)。施設の特徴にも差があり、PCIやCABGも施行可能な病院で心臓カテーテル検査を受けた患者はオンタリオ州のほうが多かった(56.9 vs 73.2%、p<0.001)。 心臓カテーテル検査施行例における閉塞性CADの診断率は、ニューヨーク州が30.4%と、オンタリオ州の44.8%に比べ有意に低かった(p<0.001)。左主冠動脈病変または3枝病変の診断率も、ニューヨーク州は7.0%であり、オンタリオ州の13.0%よりも有意に低かった(p<0.001)。 ニューヨーク州では、閉塞性CADの予測発症率が低い患者に対する心臓カテーテル検査施行率が高かった。たとえば、予測発症率が50%以上の患者に対する施行率はニューヨーク州が19.3%と低値であったのに対し、オンタリオ州は41%に達していた(p<0.001)。 30日粗死亡率は、ニューヨーク州が0.65%(90/1万3,824例)であり、オンタリオ州の0.38%(153/4万794例)に比べ有意に高率であった(p<0.001)。 著者は、「ニューヨーク州では心臓カテーテル検査による閉塞性CADの診断率が低く、これは検査対象に予測発症率の低い患者が多く含まれるためと考えられる。施行件数がニューヨーク州で多い点も、検査対象に低リスク例が多く選択されていることの反映であり、コストもニューヨーク州のほうが高額と推測される」と指摘している。

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