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エボロクマブ追加で心血管イベントリスクを有意に低減/NEJM

 前駆タンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害薬エボロクマブ(商品名:レパーサ)は、スタチン治療でLDLコレステロール(LDL-C)値のコントロールが不良なアテローム動脈硬化性心血管疾患患者のLDL-C値を30mg/dLまで低下させ、心血管イベントのリスクを有意に低減することが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMarc S Sabatine氏らが行ったFOURIER試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2017年3月17日号に掲載された。本薬は単剤でLDL-C値を約60%低下させることが報告されているが、心血管イベントを予防するかは不明であった。2万7,564例を対象とするプラセボ対照無作為化試験 FOURIER試験は、エボロクマブのスタチンへの上乗せによる心血管イベントの予防の改善効果を検証する国際的な二重盲検プラセボ対照無作為化試験(Amgen社の助成による)。 対象は、年齢40~85歳、アテローム動脈硬化性心血管疾患でスタチンの投与を受けているが、LDL-C値が≧70mg/dLの患者であった。被験者は、エボロクマブ(患者の好みで、2週ごとに140mgまたは1ヵ月ごとに420mgから選択)またはプラセボを皮下投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症による入院、冠動脈血行再建術の複合エンドポイントであった。主な副次評価項目は、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合エンドポイントとした。 2013年2月~2015年6月に、49ヵ国1,242施設で2万7,564例が登録され、エボロクマブ群に1万3,784例、プラセボ群には1万3,780例が割り付けられた。追跡期間中央値は2.2年だった。LDL-C値が59%低下、主要評価項目が15%改善 ベースラインの全体の平均年齢は63歳、女性が24.6%含まれた。心筋梗塞の既往が81.1%、非出血性脳卒中の既往が19.4%、症候性末梢動脈疾患が13.2%に認められた。スタチン治療は、ACC/AHAガイドラインのhigh-intensityが69.3%、moderate-intensityが30.4%に行われ、5.2%にはエゼチミブも投与されていた。 ベースラインのLDL-C値中央値は92mg/dL(IQR:80~109)であった。48週時に、エボロクマブ群のLDL-C値中央値は30mg/dL(IQR:19~46)に低下し、プラセボ群との絶対差は56mg/dL(95%信頼区間[CI]:55~57)であった。LDL-C値の減少率の最小二乗平均値は59%(95%CI:58~60、p<0.001)であり、エボロクマブ群が有意に良好であった。 主要評価項目の発生は、エボロクマブ群が9.8%(1,344例)と、プラセボ群の11.3%(1,563例)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.85、95%CI:0.79~0.92、p<0.001)。主な副次評価項目の発生も、エボロクマブ群が有意に良好だった(5.9%[816例] vs.7.4%[1,013例]、HR:0.80、95%CI:0.73~0.88、p<0.001)。 また、エボロクマブ群はプラセボ群に比し、心筋梗塞(3.4 vs.4.6%、HR:0.73、95%CI:0.65~0.82、p<0.001)、脳卒中(1.5 vs.1.9%、0.79、0.66~0.95、p=0.01)、冠動脈血行再建術(5.5 vs.7.0%、0.78、0.71~0.86、p<0.001)、虚血性脳卒中/一過性脳虚血発作(1.7 vs.2.1%、0.77、0.65~0.92、p=0.003)を有意に改善した。一方、心血管死、全死因死亡、不安定狭心症による入院、心血管死/心不全の増悪による入院には差がなかった。 主要評価項目と主な副次評価項目に関するエボロクマブ群のベネフィットは、年齢、性、アテローム動脈硬化性血管疾患のタイプなどの主要なサブグループのほとんどに一貫して認められた。さらに、ベネフィットは、ベースラインのLDL-C値の最高四分位群(中央値:126mg/dL、IQR:116~143)から最低四分位群(74mg/dL、69~77)まで、一貫してみられた。 有害事象(77.4 vs.77.4%)、重篤な有害事象(24.8 vs.24.7%)、治験薬関連と考えられる有害事象の発現および治験レジメンの中止(1.6 vs.1.5%)は、両群に有意な差はなかった。また、筋関連イベント(5.0 vs.4.8%)、白内障(1.7 vs.1.8%)、新規糖尿病(8.1 vs.7.7%)、神経認知有害事象(1.6 vs.1.5%)にも、両群に差はなかったが、注射部位反応(2.1 vs.1.6%、p<0.001)はエボロクマブ群で有意に多くみられた。 著者は、「これらの知見は、アテローム動脈硬化性心血管疾患患者は、LDL-C値を現在の目標値よりも、さらに下げることでベネフィットが得られることを示すもの」と指摘している。

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多枝病変STEMI、非責任病変へのPCI追加は有用か?/NEJM

 多枝病変を有する急性期ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の治療において、梗塞責任動脈へのプライマリPCI施行時に、非責任動脈へ冠血流予備量比(FFR)ガイド下に完全血行再建術を行うと、責任病変のみの治療に比べ心血管リスクが低減することが、オランダ・マーススタト病院のPieter C Smits氏らが行ったCompare-Acute試験で示された。研究の成果は、NEJM誌2017年3月30日号(オンライン版2017年3月18日号)に掲載された。STEMI患者の責任病変へのPCIは血流を回復して転帰を改善するが、非責任病変へのPCIの追加の意義については議論が続いている。非責任動脈への介入の有無別のMACCEを評価 本研究は、欧州とアジアの24施設が参加した医師主導の前向き無作為化試験であり、2011年7月~2015年10月に患者登録が行われた(Maasstad Cardiovascular Researchなどの助成による)。 梗塞責任動脈へのプライマリPCIが施行された多枝病変を有するSTEMI患者885例が、非責任動脈へFFRガイド下血行再建術を追加する完全血行再建群(295例)またはこれを追加しない梗塞動脈単独治療群(590例)に無作為に割り付けられた。 PCIはエベロリムス溶出ステントが望ましいとされた。完全血行再建群では、非責任動脈への介入は全般に責任動脈への介入時に行われたが、担当医の裁量で遅延も可とされた(72時間以内が望ましい)。梗塞動脈単独治療群にも、完全血行再建群と同様のFFR測定が行われたが、その後の処置は行われず、測定結果は患者および担当医には知らされなかった。 主要評価項目は、12ヵ月時の全死因死亡、非致死的MI、血行再建術(PCI、CABG)、脳血管イベントの複合エンドポイント(MACCE)とした。梗塞動脈単独治療群では、プライマリPCI施行後45日以内に臨床所見に基づいて行われた待機的血行再建術はイベントに含めなかった。MACCEが65%低下、血行再建術は約3分の1に ベースラインの平均年齢は、完全血行再建群が62±10歳、梗塞動脈単独治療群は61±10歳、男性がそれぞれ79.0%、76.3%を占めた。喫煙者が梗塞動脈単独治療群で多かった(40.8 vs.48.7%、p=0.03)が、これ以外の背景因子には両群に差はなかった。 1年時のMACCEは、完全血行再建群が23例、梗塞動脈単独治療群は121例に発現し、100例当たりのイベント発生はそれぞれ8例、21例と、完全血行再建群が有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.35、95%信頼区間[CI]:0.22~0.55、p<0.001)。 死亡率は完全血行再建群が1.4%(4例)、梗塞動脈単独治療群は1.7%(10例)(HR:0.80、95%CI:0.25~2.56)、MIの発生率はそれぞれ2.4%(7例)、4.7%(28例)(0.50、0.22~1.13)であり有意な差を認めなかったが、血行再建術は6.1%(18例)、17.5%(103例)(0.32、0.20~0.54、p<0.001)と、完全血行再建群が有意に優れた。脳血管イベントの発生率は、それぞれ0%(0例)、0.7%(4例)だった。 副次評価項目のうち、心臓死、MI、血行再建術、脳卒中、大出血の複合エンドポイント(NACE:8.5 vs.29.5%、HR:0.25、95%CI:0.16~0.38、p<0.001)、心不全、不安定狭心症、胸痛による入院(4.4 vs.8.0%、0.54、0.29~0.99、p=0.04)、1年以内に行われた待機的または緊急の初回血行再建術(6.4 vs.27.3%、0.47、0.29~0.76、p=0.002)が、完全血行再建群で有意に良好だった。 FFR関連の重篤な有害事象が梗塞動脈単独治療群の2例(0.2%)に発現した。1例は、FFRワイヤーにより非梗塞右冠動脈に解離が生じ、結果として閉塞を来し、梗塞が引き起こされて院内で死亡した。もう1例は、FFR抜去後に非梗塞左冠動脈前下行枝が閉塞したため、ST上昇を来し、胸痛が再発した(PCIは成功)。 著者は、「この完全血行再建群のリスク低減は、主に血行再建術の必要性が低下したことによる」と指摘している。

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ACS後のP2Y12阻害薬+低用量リバーロキサバンの安全性/Lancet

 急性冠症候群(ACS)患者に対する低用量経口抗凝固薬リバーロキサバンとP2Y12阻害薬との併用、すなわちデュアル・パスウェイ抗血栓療法は、従来のアスピリンとP2Y12阻害薬との併用(抗血小板薬2剤併用療法:DAPT)と比較し、臨床的に重大な出血リスクに差はないことが示された。米国・デューク大学医学部のE Magnus Ohman氏らが、P2Y12阻害薬との併用薬はアスピリンより低用量リバーロキサバンが安全かを検証したGEMINI-ACS-1試験の結果を報告した。ACS後のDAPTに第Xa因子阻害薬であるリバーロキサバンを追加すると、死亡と虚血イベントは減少するが、出血が増加する恐れがあることが示唆されている。しかし、アスピリンの代わりに低用量リバーロキサバンをP2Y12阻害薬と併用する抗血栓療法の安全性は、ACS患者でこれまで評価されていなかった。Lancet誌オンライン版2017年3月18日号掲載の報告。CABGに関連しない臨床的に重大な出血を評価 GEMINI-ACS-1試験は、多施設共同無作為化二重盲検比較第II相試験として、21ヵ国371施設で実施された。対象は、不安定狭心症、心電図上の虚血変化または血管造影で確認されたアテローム性責任病変のいずれかを伴う心臓バイオマーカー陽性の、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)またはST上昇型心筋梗塞(STEMI)の18歳以上の患者であった。 ACS発症による入院後10日以内に、置換ブロック法(ブロックサイズ4)を用いて、使用予定のP2Y12阻害薬で層別化し、アスピリン(100mg/日)群またはリバーロキサバン(2.5mg、2回/日)群に1対1の割合で無作為に割り付け、二重盲検下で180日以上治療を行った。P2Y12阻害薬(クロピドグレルまたはチカグレロル)の選択については、無作為化はせず、研究者の好みや各国の利用状況(試験期間中、日本では未承認)に基づいて選択された。 主要評価項目は、390日目までの冠動脈バイパス術(CABG)に関連しない臨床的に重大な出血(TIMI出血基準の大出血、小出血、治療を要する出血)で、intention-to-treat解析で評価した。低用量リバーロキサバン群とアスピリン群で同等 2015年4月22日~2016年10月14日に、ACS患者3,037例が無作為化された(アスピリン群1,518例、リバーロキサバン群1,519例)。1,704例(56%)はチカグレロル、1,333例(44%)はクロピドグレルが用いられた。 治療期間中央値は291日(IQR:239~354)であった。TIMI出血基準のCABGに関連しない臨床的に重大な出血は、全体で154例(5%)、リバーロキサバン群とアスピリン群の頻度は80/1,519例(5%) vs.74/1,518例(5%)で、同程度であった(HR:1.09、95%信頼区間[CI]:0.80~1.50、p=0.5840)。 著者は研究の限界として、患者は無作為化前に安定したDAPTを受ける必要があったりACS発症から無作為化までに約5日の遅れが生じたこと、対象患者の多くが白人であったことなどを挙げながら、「この新しい抗血栓療法の有効性と安全性を検証するため、さらに大規模で十分な検出力のある治験が必要である」とまとめている。

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iFRガイドPCI、FFRガイドに比べ非劣性/NEJM

 安定狭心症または急性冠症候群(ACS)の患者に対し、iFR(instantaneous wave-free ratio:瞬時血流予備量比)ガイド下の血行再建術は、FFR(fractional flow reserve:冠血流予備量比)ガイド下に比べ、術後12ヵ月以内の主要有害心イベント(MACE)発生リスクは非劣性であることが示された。スウェーデン・ルンド大学のMatthias Gotberg氏らが、2,037例の患者を対象に行った無作為化比較試験の結果、明らかにした。これまでに、小規模試験でiFRとFFRの診断精度が同等であることは明らかになっているものの、iFRとFFRガイド下での血行再建術に関する臨床アウトカムについては不明であった。NEJM誌オンライン版2017年3月18日号掲載の報告。12ヵ月以内のMACE発生率を比較 研究グループは、Swedish Coronary Angiography and Angioplasty Registry(SCAAR)から、安定狭心症またはACSで、冠状動脈狭窄の生理学的ガイド下評価が適応の2,037例を対象に、非盲検多施設共同無作為化比較試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方の群にはiFRガイド下で、もう一方にはFFRガイド下で、それぞれ血行再建術を実施した。 主要エンドポイントは、全死因死亡・非致死的心筋梗塞・術後12ヵ月以内の予定外の血行再建術の複合だった。 術中の胸部不快感はiFR群で大幅に減少 主要エンドポイントの発生は、iFR群1,012例中68例(6.7%)、FFR群の1,007例中61例(6.1%)であり、イベント発生率差の95%信頼区間の上限値が、非劣性マージンとして事前に規定した3.2ポイント以内で、iFR群の非劣性が示された(イベント発生率差:0.7ポイント、95%信頼区間[CI]:-1.5~2.8、非劣性のp=0.007、ハザード比:1.12、95%CI:0.79~1.58、p=0.53)。この結果は、主なサブグループの検討でも同様に認められた。また、心筋梗塞、標的血管血行再建術、再狭窄、ステント血栓症の発生率も、両群で同等だった。 なお、術中に胸部不快感を訴えた患者の割合は、FFR群が68.3%だったのに対し、iFR群では3.0%と有意に低率だった(p<0.001)。

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エボロクマブFOURIER試験、心血管アウトカム2年で有意に改善

 エボロクマブ(商品名:レパーサ)の心血管イベントの大規模研究であるFOURIER試験の結果が、米国心臓病学会(ACC.17)のLate Breaking Clinical Trialセッションで発表された。PCSK9阻害薬の追加による、主要心血管有害事象(MACE)の抑制を初めて示したこの結果は、同時にNew England Journal of Medicineにも掲載された。実臨床を反映し、高リスク患者を対象にした2万7千例の試験 FOURIERは、エボロクマブの効果と安全性を評価した無作為化プラセボ対照二重盲検第III相試験。対象は、アテローム性心血管病変を有し、LDL70mg/dL以上でスタチン治療を受けている患者2万7,564例。81.1%に心筋梗塞、19.4%に非出血性脳卒中、13.2%に症候性の末梢動脈病変の既往があり、69.3%は高強度のスタチン療法を受けているなど高リスク集団である。患者は無作為にエボロクマブ(140mg/2週間または420mg/月 )+最適スタチン群(1万3,784例)と、プラセボ+最適スタチン群(1万3,780例)の2群に無作為に割り付けられた。この研究はイベント・ドリブン型であり、主要副次的評価項目のイベント想定数1,630例を超えた時点で解析され、試験期間の中央値は2.2年である。評価委員会はTIMI(Thrombolysis in Myocardial Infarction)試験グループで、データは試験スポンサーとは独立して解析された。2.2年で20%のMACEリスク低減 LDL-C中央値は、エボロクマブ群でベースラインの92mg/dLから48週目に30mg/dLまで低下し、その効果は試験期間を通して持続した。この2.2年の試験期間において、主要複合評価項目である心血管死、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症による入院、冠動脈再建術のイベント発生は、エボロクマブ群9.8%、プラセボ群11.3%と、エボロクマブで15%有意に減少した(HR:0.85、95%CI:0.79~0.92、p<0.001)。また、一般的なMACEの指標で、試験の主要副次的複合評価項目である、心臓血管死、心筋梗塞または脳卒中の発症は、エボロクマブ群5.9%、プラセボ群7.4%と、エボロクマブ群で20%有意に減少した(HR:0.80、95% CI:0.73~0.88、p<0.001)。単独の評価項目でも確認されたリスク抑制 イベント抑制は個別の評価項目でも確認され、心筋梗塞では27%(p<0.001)、脳卒中では21%(p=0.01)、冠動脈血行再建については22%(p<0.001)、エボロクマブ群で有意な相対リスク減少がみられた。また、日本人患者429例を含む、Asia/Pacificサブグループでもイベント抑制が確認されており、主要評価項目は27%、副次的評価項目は33%、エボロクマブ群で相対リスク減少がみられた。また、このリスク低下は時間と共に増加し、Amgen社の発表によれば、致命的・非致死的心筋梗塞または脳卒中の相対リスク減少は1年目の19%(p=0.003)から1年目以降は33%(p<0.00001)に増加していた。 試験を主導したTIMI試験グループのChairで論文筆頭著者のMarc S. Sabatine氏(ブリガム&ウィメンズ病院)は、ACCのインタビューで「この結果は、イベントリスクが高いアテローム性動脈硬化症患者にとっては非常に良いニュースであり、患者がLDL-Cを現在の目標値以上に低下させることで、より利益を得ることを強く示唆している」と述べている。(ケアネット 細田 雅之)参考ACC News StorySabatine MS, et al. N Engl J Med. 2017 Mar 17. [Epub ahead of print]Amgen社(米国):ニュースリリースFOURIER試験(Clinical Trials.gov)

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エボロクマブ FOURIER試験のエンドポイント達成か

 アムジェン社(THOUSAND OAKS, カリフォルニア)は2017年2月2日、アテローム硬化性心血管疾患(ASCVD)に対するエボロクマブ(商品名:レパーサ)のイベントリスク抑制を評価するFOURIER(Further Cardiovascular OUtcomes Research with PCSK9 Inhibition in Subjects with Elevated Risk)試験において、複合主要評価項目(心血管死、非致死心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症または冠動脈再建術の入院)および副次的評価項目(心血管死、非致死心筋梗塞または非致死的脳卒中)を達成し、新たな安全性の問題も認められなかった、と発表した。 また、FOURIER試験の被験者で行われた認知機能試験EBBINGHAUSにおいても、その主要評価項目を達成し、エボロクマブの認知機能への影響について、プラセボに対する非劣性を証明したことも明らかにした。 この2試験の結果は、2017年3月17日からワシントンD.C.で行われる第66回米国心臓病学会(ACC)学術集会で発表される(FOURIER試験は、3月17日のLate Breaking Clinical Trialセッション、EBBINGHAUS試験は、3月18日の Late Breaking Clinical Trialセッション)。 昨年(2016年)の米国心臓学会議(AHA)で発表されたGLAGOV試験では、最適なスタチン療法でLDLが適正値に保たれた患者における、エボロクマブのアテローム抑制効果を証明した。このFOURIER試験では、心筋梗塞に加え、虚血性脳卒中、症候性末梢動脈疾患といった、より重症な患者が含まれている。この実臨床に近い多様な対象に対してエボロクマブの心血管イベントリスク抑制を示した、同試験の詳細な発表が待たれる。 アムジェン社(米国)のニュースリリースはこちら

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安定冠動脈疾患にRAS阻害薬は他剤より有効か/BMJ

 心不全のない安定冠動脈疾患の患者に対するレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬の投与は、プラセボとの比較では心血管イベント・死亡のリスクを低減するものの、Ca拮抗薬やサイアザイド系利尿薬などの実薬との比較では、同低減効果は認められなかった。また、対プラセボでも対照集団が低リスクの場合は、同低減効果は認められなかった。米国・ニューヨーク大学のSripal Bangalore氏らが、24の無作為化試験についてメタ解析を行い明らかにし、BMJ誌2017年1月19日号で発表した。心不全のない安定冠動脈疾患患者へのRAS阻害薬投与については、臨床ガイドラインでは強く推奨されているものの、最近の現行治療への上乗せを検討した試験結果では、対プラセボの有効性が示されなかった。非心不全・冠動脈疾患患者100例以上、追跡期間1年以上の試験を対象にメタ解析 研究グループは、PubMed、EMBASE、コクラン・ライブラリCENTRALを基に、2016年5月1日までに発表された、心不全のない(左室駆出分画率40以上または臨床的心不全なし)安定冠動脈疾患を対象に、RAS阻害薬とプラセボまたは実薬を比較した24の無作為化試験についてメタ解析を行い、RAS阻害薬の有効性を検証した。 対象とした試験は100例以上の該当患者を含み、また追跡期間は1年以上だった。アウトカムは死亡、心血管死、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、血行再建術、糖尿病発症、有害事象による服薬中止だった。RAS阻害薬は死亡率14.10/1,000人年超の集団で有効 分析対象とした試験の総追跡期間は、19万8,275人年だった。 RAS阻害薬群はプラセボ群に比べ、全死因死亡(率比:0.84、95%信頼区間[CI]:0.72~0.98)、心血管死(0.74、0.59~0.94)、心筋梗塞(0.82、0.76~0.88)、脳卒中(0.79、0.70~0.89)、また、狭心症(0.94、0.89~0.99)、心不全(0.78、0.71~0.86)、血行再建術(0.93、0.89~0.98)のリスクをいずれも低減した。一方で実薬との比較では、いずれのアウトカム発生リスクの低減は認められなかった。率比は全死因死亡1.05(95%CI:0.94~1.17、交互作用のp=0.006)、心血管死1.08(0.93~1.25、p<0.001)、心筋梗塞0.99(0.87~1.12、p=0.01)、脳卒中1.10(0.93~1.31、p=0.002)などだった。 ベイズ・メタ回帰分析の結果、RAS阻害薬による死亡・心血管死リスクの低減が認められたのは、対照群のイベント発生率が高値の集団(全死因死亡14.10/1,000人年超、心血管死7.65/1,000人年超)だった試験のみで、低値の集団だった試験では同低減効果は認められなかった。 著者は、「心不全のない安定冠動脈疾患患者において、RAS阻害薬の心血管イベントおよび死亡の抑制は、プラセボ対照群の試験でのみみられ、実薬対照群の試験ではみられなかった。またプラセボ対照群においても、RAS阻害薬の有益性は、主に対照群のイベント発生率が高かった試験では認められたものの、低い場合は認められなかった」と述べている。そのうえで、「その他の実薬対照を含めてRAS阻害薬が優れていることを支持するエビデンスはない」とまとめている。

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FFRジャーナルClub 第2回

FFRジャーナルClubでは、FFRをより深く理解するために、最新の論文を読み、その解釈を議論していきます。第2回目の今回は、本年11月14日に薬事承認を受け、日本での臨床使用開始に向け期待が高まっているFFR-CTに関連する論文を読みたいと思います。第2回 Denmark Aarhus University Hospitalにおける日常臨床でのFFR-CT使用に関する報告Norgaard BL, et al. Clinical use of coronary CTA-derived FFR for decision making in stable CAD. J Am coll Cardiol Img. 2016, Apr 7. [Epub ahead of print]冠動脈CT(以下、CTA)は、その陰性的中率の高さ、および検査へのアプローチのしやすさから、とくに日本では非常に広く使用されている。そのCTAの画像データから、スーパーコンピュータを用いて冠血流、冠内圧の情報を推測・計算する手法がFFR-CT(coronary computed tomography angiography derived fractional flow reserve)として報告されている1)~3)。今回は、実臨床におけるFFR-CTを用いた診断戦略の有用性、侵襲的検査(以下、ICA:Invasive coronary angiography)に対するゲートキーパーとしての役割について検討したsingle center、observational all-comers studyを紹介する。2014年4月からの1年間、Aarhus University Hospitalを受診し、安定冠動脈疾患が疑われた症例が対象である。外来にて、緊急を要さないCTAの依頼が出された連続1,248の症例が対象とされた。同施設では、新規発症で検査前確率がlow~intermediateの症例において、CTAが診断モダリティの第1選択として好んで使われていた。CTAはSiemens社製のdual-source CT scannerが使用され、心拍数60bpm以下を目標とし、経口・経静脈的β遮断薬が投与され、また全例でニトログリセリンの舌下投与が行われた。CTAの判読結果により下記の3つのリスクカテゴリーに層別化し、その後の診断手法を決定した。画像を拡大するFFR-CTは、CTAの画像データをHeart Flow社(カリフォルニア)に送り解析された。主要枝ごとに計算され、FFR-CT≦0.80を有意狭窄と判断した。結果:1,248例中75例(6%)は、心拍の不整、重度の石灰化などの理由で造影剤を注入する前に、ほかの検査アプローチあるいは治療方針(ICA、MPIあるいは薬物療法)に変更された。CTAの対象となったのは1,173例で、非典型的胸痛が763例(65%)と多くを占め、典型的胸痛が152例(13%)、非狭心症性胸痛が176例(15%)、呼吸困難が82例(7%)であった。検査時心拍数は58±9bpm(37~122)、Agaston scoreは0~4,830(四分位数範囲:0~54)。CTAを施行した1,173例中、33例(3%)は、解析するには画像が不十分であり(造影剤量不足、motion artifact、blooming artifact)、引き続きperfusion imagingが行われた。CTAの結果、858例はOMTが選択され、82例でICA、189例でFFR-CT、44例でMPI(myocardial perfusion imaging)が選択された。FFR-CTが依頼された189例において、FFR-CT解析が可能であったのは185例(98%)であった。185例中57例(31%)、740枝中72枝(10%)においてFFR-CT≦0.80を呈した。画像を拡大するFFR-CT後のICAにおいて、37例で確認のため侵襲的FFRが計測された。研究期間の開始から3分の2の時期までで計測されたのは35例中27例(77%)であったのに対し、後期3分の1では19例中10例(53%)であった。計測されたFFR値と、FFR-CT値の間には良好な相関を認めた(下図)。全体では、FFR-CT値がFFRよりも軽度(0.04)低値を示す傾向を認めたが、FFR-CT ≦ 0.80が侵襲的FFR陽性を示す診断率は37例中27例(74%)、53枝中37枝(70%)であった。画像を拡大するFFR-CT≦0.80にてICAに送られた49例中22例(45%)に血行再建(PCI n=12、CABG n=10)が行われた。FFR-CT≦0.75にてICAに送られた23例では、70%に血行再建(PCI n=10、CABG n=6)が行われた。CTAからFFR-CTの計測なしで直接ICAに送られた82例では53例(65%)に血行再建(PCI n=42、CABG n=11)が行われた。12ヵ月の追跡期間中(6~18ヵ月)、FFR-CT、ICA、MPIいずれの群においても重篤なイベントは生じなかった。FFR-CT値が0.80以上でありICAを行わなかった123例においても重篤なイベントはみられず、経過中胸部症状により2例にICAが行われたが、いずれも血行再建の必要性は認めなかった。結語:FFR-CTに基づいた診断戦略は妥当であり、有用な情報を与えてくれる。FFR-CT値>0.80によってICAをdeferしても、良好な短期予後が得られた。私見:FFR-CTは、CTAと比べて追加の検査の必要性はなく、その意味でとても使いやすい検査法といえる。一方、結果として出てきたFFR-CTの値を信じて、冠動脈造影検査や、カテーテル治療自体の適応を決定してよいのか、現時点ではまだ議論の余地がある。しかし、非侵襲的検査と考えると、今存在しているほかのどの検査法も決して100%ではなく、それらの情報を基に主治医が総合的に判断することにより、より正しいと考えられる結果を導いていく。その1つの検査法として考えれば、解剖学的な情報に加え、同時に機能的な情報が得られるというメリットは大きい。では、本検査を侵襲的検査のゲートキーパーの役割として使用するのはどうか? その意味で最も信頼されているのは負荷心筋シンチグラムと思われる。これは6万例を超える非常に大きなデータにより、負荷心筋シンチグラム陰性であればその後の予後が良好である4)、というデータが示されていることが大きい。また運動負荷で行えば、負荷時の自覚症状や心電図の所見が加味できることも重要である。FFR-CTは、負荷心筋シンチグラムに代わりうるか?CTAはもとより陰性的中率が高いことが示されている。侵襲的検査に送った結果、偽陽性が多い点が問題であった。また中等度狭窄が存在しても、虚血の有無に関しては再度負荷試験を行う必要があった。FFR-CTは、CTAの陰性的中率は変えずに陽性的中率を高めることが可能か? 本論文において最も重要と思うのは、FFR-CTが陰性であってICAをdeferした症例の予後である。約12ヵ月と短期間ではあるが問題となるイベントは生じていない。観察中2例に持続する胸痛があり再度のICAが行われたが、FFR-CT 0.88(LAD)でdeferされた症例のICAは血管不整所見のみ、FFR-CT 0.78(LAD)でdeferされた症例のICAは、びまん性の軽度病変で侵襲的FFR 0.84であった。FAME試験において、FFRガイド群、すべての病変をステント治療するAngioガイド群、そのどちらも自覚症状が消失したのは約70%である。何らかの症状があった場合に、過剰な再検査が行われる可能性がある。FAME試験では、再造影の際PCIを考慮する場合は、(FFRガイド群では)必ずFFRの計測が義務付けられていた。当面のイベントを減らす、ということよりもその担当医がFFRの再現性を実感し、その信頼度を高めていく、という意味でその意義は大きかったといえる。FFR-CTにおいても、その信頼を確立するまでは、多少時間が必要と思われる。“CTAである程度のプラークを認めたが、FFR-CTは陰性”、という症例の予後に関するデータを積み上げていくことが重要である。(執筆・監修:東京医科大学八王子医療センター 循環器内科 田中信大)参考論文1.Koo BK, et al. J Am Coll Cardiol. 2011;58:1989-1997.2.Min JK, et al. JAMA. 2012;308:1237-1245.3.Nørgaard BL, et al. J Am Coll Cardiol. 2014;63:1145-1155.4.Shaw LJ, Iskandrian AE. J Nucl Cardiol. 2004;11:171-185.

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CAD-Man試験:冠動脈CT(CTCA)は虚血性心疾患診療適正化のゲートキーパーになれるか?(解説:中野 明彦 氏)-614

【はじめに】 CTCAは冠動脈狭窄の評価に加え、positive remodelingに隠されたプラークの検出(内腔のみを判定する冠動脈造影[CAG]では冠動脈硬化症の重症度が過小評価になってしまう)、胸痛を呈する非冠動脈疾患(肺梗塞・大動脈解離・心膜炎・肺炎胸膜炎・食道裂肛ヘルニアなど)の鑑別を非侵襲的に行える利点を有する。有意狭窄判定の感度・特異度は報告によりばらつきがあるが、陰性適中率については100%近い精度を示し虚血性心疾患のルールアウトに有用というのが共通認識となっている。これらの利点により、CTCAはすでに日本の津々浦々の循環器専門病院やクリニックで導入されているが、臨床現場でどう使っていくかについてのスタンスは施設ごとにまちまちであり、これからの課題と考えられる。 その指標となる本邦での直近の指針「冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン(JCS 2009)1)」を整理してみると、以下のようになる。(UAP;不安定狭心症、NSTEMI;非 ST上昇型急性心筋梗塞、STEMI;ST上昇型急性心筋梗塞) *:安定狭心症のリスク層別化は検査前有病予測を意味し、胸痛の性状や臨床所見から推測する急性冠症候群の短期リスク評価とは異なる。胸痛の特徴(1.胸骨後部に手のひらで押されたような圧迫感,重苦しさ、2.労作に伴って出現、3.安静により治まる)を満たす項目数により典型的狭心症・非典型的狭心症・非狭心症性胸痛に分類し、年齢・性別を加味して層別化するが、非典型的狭心症の大半と非狭心症性胸痛で男性(>40歳)/高齢女性(>60歳)が中リスク群に分類される2)。検査前有病予測ではDuke clinical score2)がよく知られている。 【CAD-Man試験について】 ドイツから報告された CAD-Man(Coronary Artery Disease Management)試験は、特定のクリニカルシナリオ(30歳以上の非典型的狭心症および非狭心症性胸痛;2つ以上の負荷試験陽性例を除く)を対象としたCTCAとCAGとの無作為比較試験である。中リスクが多い対象群であり、上記「IIa 安定狭心症」に重なる。 詳細は、別項(本ページ上部:オリジナルニュース)に譲るが、要約すると、CTCAを選択しても放射線被曝量・3年間の心血管イベントの発生頻度は変わらず、QOL(入院期間・満足度)が高かった。CTCA群で最終診断ツールであるCAGが実施された割合は14%であり、当然のことながらその正診率(75%)は高く、CAG群の5倍だった。さらに、一連の検査・治療による大合併症(1次エンドポイント)は不変、小合併症は有意に抑制された。 わずか329例、single centerでの研究がBMJ誌に掲載されたことに驚かされたが、これまでCTCAとCAGとの直接比較が少なかったことや、特定のシナリオを設定しその有用性を示した点が評価されたのだろう。 本研究への疑問点・課題をいくつか提示しておきたい。 まずは、有病率の低さ(CTCA群11%、CAG群15%)である。トロポニンI/T値や心電図変化を対象外とせず、したがって急性冠症候群(UAP/NSTEMI)を許容する一方、全症例の平均年齢は60歳、半数が女性で糖尿病合併率は20%未満、虚血性心疾患の既往症例は除外された。さらに非典型的狭心症も半数以下だったことから、実際にはCTCA・CAGの適応とならない低リスク群が多数含まれていたと推察される。Duke clinical scoreから34.3%と予測した筆者らにとっても誤算だったであろうが、対象症例の有病率の低さは、検査に伴う合併症や長期予後の点に関してCTCA群に有利に働いた可能性があるし、被曝の観点からも問題である。 次に、血行再建術適応基準が示されていない点が挙げられる。CTCA群のみMRIでの当該領域心筋バイアビリティー≧50%が次のステップ(CAG)に進む条件となっているが、血行再建術の適応はCAG所見のみで決定されている。負荷試験の洗礼を受けない対象症例達は生理的・機能的評価なしに解剖学的要件のみで“虚血”と判断されたことになり、一部overindicationになっている可能性がある。 さらに、研究施設の日常臨床の延長線上で行われた本研究では、CTCAはすべて入院下で施行された。この点は、外来で施行されることが多い本邦の現状とは異なる。同様の試験を日本で行えば、入院期間やコスト面で、CTCA群での有効性にさらなる上積みが期待される。【冠動脈診療の適正化とCTCA】 高齢化社会の到来や天井知らずに膨らみ続ける医療経済的観点から、諸外国では医療の標準化・適正化(appropriateness)が叫ばれて久しい。虚血性心疾患診療の分野でも、治療のみならず診断の段階から appropriateness criteriaが提示されている3)。翻って、日本はどうだろうか。循環器疾患診療実態調査報告書(2015年度実施・公表) 4)から2010年と2014年のデータを比較すると、CTCAが34.6万件から42.4万件へと増加しているのに対し、CAGはいずれも49.8万件であった。待機的PCI数やCABG数があまり変化していないことを考え合わせれば、CTCAを有効かつ適正には活用できていないことになる。 CAD-Man試験は、CTCAが“不要な”CAGを減少させる可能性を示し、また反面教師として、 症例選択の重要性も示唆した。一方、血行再建症例の適応基準が課題として残っている。 多少横道にそれるが、新時代を切り開く技術としてFFRCTが注目されている。FFRCT法は CTCAのボリュームデータを使い、数値流体力学に基づいて血行動態をシミュレーションし FFRを推定する方法で、解剖学的判定と生理的・機能的評価を非侵襲的に行うことができる理想的なモダリティーである。実臨床に普及するには多くのハードルがあるが、昨年Duke大学から報告された「FFRCT版CAD-Man試験」ともいうべきPLATFORM試験5)6)では、臨床転帰を変えることなくCAGの正診率向上やコスト低減・QOL改善効果が示された。  日本でもappropriatenessの議論が始まっていると聞くが、CAD-Man試験が示したように現在のCTCAにはまだまだ課題が多い。適切な症例選択とFFRCT、これが融合すればCTCAが真のゲートキーパーとなる、と確信する。参考文献1)循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007―2008年度合同研究班報告)―冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン(PDF)2)Pryor DB, et al. Ann Intern Med. 1993;118:81-90.3)Hendel RC, et al. J Am Coll Cardiol. 2006;48:1475-1497.4)循環器疾患診療実態調査報告書 (2015年度実施・公表)(PDF)5)Douglas PS, et al. Eur Heart J. 2015;36:3359-3367.6)Douglas PS, et al. J Am Coll Cardiol. 2016;68:435-445.

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NOBLE試験ではLM病変に対するPCI治療はCABG治療に対して劣性であった(解説:許 俊鋭 氏)-611

【概要】背景 冠動脈バイパス術(CABG)は、左主冠動脈疾患(LM)に対する標準的な治療法と考えられてきたが、近年、LM病変に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)治療が増加している。本研究は、PCIとCABGのLM疾患治療における有効性を比較することを目的とした。方法 北欧の36心臓センターが参加し、LM症例を対象としてCABG群とPCI群を1:1に割り付けた前向き無作為、非盲検、非劣性試験を実施した。試験参加適格症例は、安定狭心症、不安定狭心症または非ST上昇心筋梗塞症例とした。除外基準は、24時間以内のST上昇型心筋梗塞、CABGやPCIのリスクが高すぎる症例、または1年の生命予後が期待できない症例とした。 主要評価項目は主要な有害心臓および脳血管イベント(MACCE)の複合(全死因死亡、心筋梗塞、冠動脈に対する再血行再建術、および脳卒中)とした。CABG群に対するPCI群の非劣性は、5年間の経過観察で1.35のハザード比(HR)を超えないことを必要条件とした。結果 2008年12月9日~2015年1月21日の間に、1,201例のLM症例を無作為にPCI群598例とCABG群603例に割り付け、各グループ592例を分析対象とした。 5年間カプランマイヤーカーブのMACCE推定値は、PCI群29%(121イベント)、CABG群19%(81イベント)で、HR:1.48でPCIが劣性の結果であった。CABG群の治療成績は、PCI群に対して有意に良好であった(p=0.0066)。5年間のMACCEの発症推定値をPCI群 vs.CABG群で比較すると、全死因死亡率は12% vs.9%(p=0.77)、心筋梗塞は7% vs.2%(p=0.0040)、再血行再建術は16% vs.10%(p=0.032)、脳卒中は5% vs.2%(p=0.073)で有意水準まで到達していない項目もあるがいずれもCABG群のほうが成績良好であった。コメント これまでのPCIに適したLM病変に対してPCIを推奨するとしたガイドラインは主に、SYNTAX試験結果に基づき作成されてきた。また、ガイドラインは無作為化試験であるLE MANS試験、PRECOMBAT試験、Boudriot試験などの結果も参照しているが、患者サンプル数が少ないため、PCIをunprotected LM病変の最良の治療法と決定するためにはエビデンスとしては弱いと考えられていた。 今回のNOBLE試験は、unprotected LM治療でCABG群と比較してPCI群は非劣性の臨床結果をもたらすと仮定して実施されたが、結果は逆にPCI群はCABG群に対して劣性であった。本研究の結果は、LM治療においてCABGの治療成績がPCIよりも優れている可能性を示唆している。

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エボロクマブのプラーク退縮、AHAで発表:アムジェン

 アムジェン社は2016年11月15日、冠動脈疾患(CAD)患者に対して最適用量のスタチン療法にエボロクマブ(商品名:レパーサ)を上乗せした結果、統計学的に有意なアテローム性動脈硬化の退縮が確認されたことを発表した。この第III相プラセボ対照無作為化二重盲検比較試験(GLAGOV試験)の結果は、2016年米国心臓学会議(AHA)学術集会での発表と同時に、Journal of the American Medical Association(JAMA)誌にも掲載された。 GLAGOV試験では、サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害剤エボロクマブの、最適用量のスタチン療法を受けている患者に対する冠動脈のアテローム性プラーク進展への影響をベースラインおよび78週目の血管内超音波(IVUS)測定により検証した。 この試験は主要評価項目を達成し、エボロクマブの治療が、動脈血管内に占めるプラークの割合であるアテローム体積率(PAV:Percent Atheroma Volume)をベースライン時から統計学的に有意に減少することを明らかにした。 最適用量スタチン+エボロクマブ(エボロクマブ群)ではPAVがベースラインに対し0.95%の減少が認められたが、最適用量スタチン+プラセボ群では0.05%の増加が認められた(エボロクマブ群:p<0.0001、プラセボ群:p=0.78)。投与群間で統計的に有意な差が認められた(p<0.0001)。さらに、エボロクマブ群ではプラセボ(プラセボ群)と比較し、より多くの患者でPAVの退縮が認められた(エボロクマブ群:64.3%、プラセボ群:47.3%、p<0.0001)。 プラーク量測定のもう1つの基準である標準化した総アテローム体積(TAV:Total Atheroma Volume)の減少ついては、エボロクマブ群で平均5.8mm3、プラセボ群では0.9mm3で(エボロクマブ群:p<0.0001、プラセボ群:p=0.45)、2群間で統計的に有意な差が認められた(p<0.0001)。 ベースラインでは、いずれの群でも患者の平均LDL-C値は92.5mg/dLであり、両群で98%の患者が高用量から中用量のスタチン療法を受けていた。78週間の治療期間中、エボロクマブ群のLDL-C値の時間加重平均は36.6mg/dLで、プラセボ群の93.0mg/dLと比較し59.8%の低下が認められた。78週目において、エボロクマブ群の平均LDL-C値は29mg/dLで、プラセボ群が90mg/dLを示したのに対し、ベースラインから68.0%低下を認めた。  この試験では、安全性に関する新たな所見は認められなかった。治療中の有害事象の発現率は両群で同等であった(エボロクマブ群:67.9%、プラセボ群:79.8%)。本試験で検討された臨床的に重要な有害事象は筋肉痛(エボロクマブ群:7.0%、プラセボ群:5.8%)、新たに診断された糖尿病(エボロクマブ群:3.6%、プラセボ群:3.7%)、神経認知機能関連の事象(エボロクマブ群:1.4%、プラセボ群:1.2%)、注射部位反応(エボロクマブ群:0.4%、プラセボ群:0.0%)であった。 GLAGOV試験では結合抗体はほとんど認められず(エボロクマブ群:0.2%[1例])、中和抗体は検出されなかった。 また、心血管イベントへの影響を評価する目的では設計されていないものの、明確に主要心血管イベントと判定された事象の発現率はエボロクマブ群で12.2%、プラセボ群で15.3%であった。判定された事象の多くは、冠動脈血行再生術(エボロクマブ群:10.3%、プラセボ群:13.6%)、心筋梗塞(エボロクマブ群:2.1%、プラセボ群:2.9%)、その他の判定された心血管イベントの発現率はいずれの治療群でも0.8%以下であった。GLAGOV試験について GLAGOV(GLobal Assessment of Plaque ReGression with a PCSK9 AntibOdy as Measured by IntraVascular Ultrasound)試験は、臨床的に冠動脈造影が必要とされている最適用量のスタチン治療中の患者968例を対象に、冠動脈疾患における動脈硬化(プラーク)に対するエボロクマブの効果を評価するため設計された。患者は、最低4週間継続して定用量のスタチン療法を受けており、LDL-C80mg/dL以上か、60~80mg/dL の場合は、1件の重要な心血管リスク要因(冠動脈以外のアテローム性血管疾患、直前2年間における心筋梗塞または不安定狭心症による入院、もしくは2型糖尿病と定義)または3件の軽微な心血管リスク要因(現在喫煙している者、高血圧、HDLコレステロール低値、若年性冠動脈疾患の家族歴、2mg/dL以上の高感度C反応性タンパク質、50歳以上の男性、55歳以上の女性)があることが要件であった。被験者は、エボロクマブ420mg月1回またはプラセボに1:1で割り付けられた。最適用量のスタチン療法の定義は、20mg/日以上相当のアトルバスタチンを投与し、ガイドラインに沿ってLDL-Cを低下させられる投与用量とした。主要評価項目は、IVUS測定による、プラセボと比較した78週目におけるPAVのベースラインからの変化率。副次的評価項目は、PAVの減少(ベースラインからのすべての減少)、78週目におけるTAVのベースラインからの変化、およびTAVの減少(ベースラインからのすべての減少)であった。(ケアネット 細田 雅之)原著論文はこちらNicholls SJ, et al.JAMA. 2016 Nov 15. [Epub ahead of print]参考アムジェン社(米国):ニュースリリースGLAGOV試験(ClinicalTrials.gov)

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左冠動脈主幹部病変、PCIよりCABGが予後良好/Lancet

 左冠動脈主幹部病変の治療では、冠動脈バイパス術(CABG)が経皮的冠動脈インターベンション(PCI)よりも良好な予後をもたらす可能性があることが、フィンランド・オウル大学病院のTimo Makikallio氏らが行ったNOBLE試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2016年10月31日号に掲載された。欧州では、従来、非保護左主幹部病変の標準的な血行再建術はCABGであるが、最近はPCIの使用が急増している。欧州心臓病学会(ESC)の現行ガイドラインでは、左主幹部病変や非複雑病変、非びまん性病変にはPCIが推奨されているが、その論拠とされる試験は症例数が少なく、最良の治療を決めるには検出力が十分でないという。約1,200例が参加したPCIの非劣性試験 NOBLEは、非保護左主幹部病変を有する患者において、薬剤溶出ステントを用いたPCIのCABGに対する非劣性を検証する非盲検無作為化試験(デンマーク・オーフス大学病院などの助成による)。 対象は、冠動脈造影で視覚的な狭窄度≧50%または冠動脈の入口部、midshaft、分岐部の冠血流予備量比≦0.80の病変を有する安定狭心症、不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞の患者であった。 主要評価項目は、主要な心脳血管有害事象(MACCE)の複合エンドポイント(全死因死亡、手技に伴わない心筋梗塞、再血行再建術、脳卒中)であった。非劣性マージンは1.35とした。 2008年12月9日~2015年1月21日までに、欧州9ヵ国36施設に1,201例が登録され、PCI群に598例、CABG群には603例が割り付けられた。両群とも592例ずつがITT解析の対象となった。全死因死亡に差はないが、5年MACCE発生率が高い ベースラインの平均年齢は、PCI群が66.2歳(SD 9.9)、CABG群は66.2歳(9.4)で、女性がそれぞれ20%、24%(p=0.0902)を占め、糖尿病を有する患者が両群とも15%含まれた。logistic EUROSCOREは両群とも2(IQR:2~4)、SYNTAXスコアはそれぞれ22.4(SD 7.8)、22.3(7.4)であった。 Kaplan-Meier法による5年MACCE発生率は、PCI群が29%(121イベント)、CABG群は19%(81イベント)で、HRは1.48(95%CI:1.11~1.96)であり、CABG群のPCI群に対する優越性が確認された(p=0.0066)。 全死因死亡の5年発生率には有意な差はなかった(PCI群:12% vs.CABG群:9%、HR:1.07、0.67~1.72、p=0.77)が、手技に伴わない心筋梗塞(7 vs.2%、2.88、1.40~5.90、p=0.0040)および血行再建術(16 vs.10%、1.50、1.04~2.17、p=0.032)はPCI群で有意に多く、脳卒中(5 vs.2%、2.25、0.93~5.48、p=0.073)はPCI群で多い傾向がみられた。 1年MACCE発生率は、2つの群で同じであり(7 vs.7%、リスク差:0.0、95%CI:-2.9~2.9、p=1.00)、両群間の差は1年以降に生じていた。1年時の全死因死亡(p=0.11)、手技に伴わない心筋梗塞(p=0.49)、血行再建術(p=0.27)、脳卒中(p=0.16)にも差は認めなかった。 著者は、「これらの知見は、SYNTAX試験の左主幹部病変例とPRECOMBAT試験のメタ解析の結果(5年MACCE発生率、PCI群:28.3% vs. CABG群:23.0%、p=0.045)を追認するものである」としている。

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生体吸収性スキャフォールド、3年で血管運動は回復したのか/Lancet

 冠動脈狭窄患者の治療において、エベロリムス溶出生体吸収性スキャフォールド(Absorb)はエベロリムス溶出金属ステント(Xience)と比較して、力学特性の指標である、血管運動の回復の結果としての内腔径の増加に寄与しないことが、英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのPatrick W Serruys氏らが進めるABSORB II試験の中期的な検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2016年10月30日号に掲載された。循環器インターベンション医にとって、務めを終えたら消え去る一過性のスキャフォールドは、長い間の夢だという。生理学的には、固い金属製のケージがなければ、血管運動の堅調さや適応性のあるずり応力、遠隔期の内腔拡張などの回復が促進される可能性がある。約500例の3年時の解析結果 ABSORB IIは、生体吸収性スキャフォールドの導入を支持するエビデンスに基づくデータを生成することで、この技術の付加的な価値を評価する単盲検実対照比較試験(Abbott Vascular社の助成による)。今回は、3年時の中期的な解析の結果が発表された。 対象は、年齢18~85歳、心筋虚血および異なる心外膜血管に1または2個の新たな自然病変が確認された患者であった。被験者は、AbsorbまたはXienceを留置する群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。 複合主要エンドポイントは、3年時の硝酸塩の冠動脈内投与後の冠動脈造影による血管運動反応性(投与前後の平均内腔径の変化)の優越性と、冠動脈造影による遠隔期損失径の非劣性(非劣性マージン:0.14mm)であった。 2011年11月28日~2013年6月4日までに、欧州とニュージーランドの46施設に501例が登録され、Absorb群に335例(364病変)、Xience群には166例(182病変)が割り付けられた。抗血小板薬2剤併用の長期投与が今後の研究トピックに ベースラインの平均年齢は、Absorb群が61.5歳(SD 10.0)、Xience群は60.9歳(10.0)、女性がそれぞれ24%、20%含まれた。糖尿病は両群とも24%にみられ、安定狭心症は両群とも64%、不安定狭心症はそれぞれ20%、22%であり、一枝病変が83%、85%を占めた。 3年時の血管運動反応性は両群間に有意な差を認めず(Absorb群:0.047mm[SD 0.109] vs.Xience群:0.056mm[0.117]、優越性検定p=0.49)、遠隔期損失径はAbsorb群のほうが大きい(0.37mm[0.45] vs.0.25mm[0.25]、非劣性検定p=0.78)という結果であり、複合主要エンドポイントは達成されなかった。この内腔径の差は、最小血管面積の血管内エコー検査で確定された(4.32mm2[SD 1.48] vs.5.38 mm2[1.51]、p<0.0001)。 患者志向の副次エンドポイントであるシアトル狭心症質問票(狭心症の頻度・安定性、身体機能制限、QOL、治療満足度)に「狭心症なしの患者数」を加えた指標、および運動負荷試験は、両群間に有意な差を認めなかった。 一方、デバイス志向の複合エンドポイント(心臓死、標的血管心筋梗塞、臨床的に標的領域の血行再建を要する場合)はAbsorb群で有意に高頻度であり(10% vs.5%、ハザード比[HR]:2.17、95%信頼区間[CI]:1.01~4.69、log-rank検定p=0.0425)、この差には主に周術期心筋梗塞(4 vs.1%、p=0.16)を含む標的血管心筋梗塞(6 vs.1%、p=0.0108)が寄与していた。 著者は、「今後の研究では、デバイスのサイズの決定やスキャフォールド留置術の最適化における血管内画像法の臨床的インパクトを検討すべきであり、留置後の長期の抗血小板薬2剤併用療法のベネフィットと必要性の検討もトピックとなるだろう」と指摘している。

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心臓CT検査は冠動脈造影に代わり得るか/BMJ

 冠動脈疾患が疑われる患者への心臓CT検査は、冠動脈造影の施行率を抑制して診断率を改善するとともに、入院期間を短縮し、放射線被曝量や長期的なイベントを増加させないため、冠動脈造影の安全なゲートキーパーとなる可能性があることが、ドイツ・シャリテベルリン医科大学のMarc Dewey氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2016年10月24日号に掲載された。従来、閉塞性冠動脈疾患の最終診断は冠動脈造影で行われる。同時にステント留置が可能、CABGの計画が立てられるといった利点があるが、診断率が低いとのエビデンスがあり、過剰施行の可能性が指摘されている。CTは、正確で非侵襲的な選択肢とされるが、非定型的な胸痛のため冠動脈疾患が疑われ、冠動脈造影の適応となる患者におけるリスクおよび利点は知られていないという。329例を対象とする単施設無作為化試験 研究グループは、冠動脈疾患の中等度の可能性があり、冠動脈造影の適応とされる患者において、CTと侵襲的冠動脈造影の有用性を比較する単施設の前向き無作為化試験を行った(ドイツ研究振興協会[DFG]の助成による)。 非定型的狭心症または胸痛がみられ、冠動脈疾患の疑いで臨床的に冠動脈造影の適応とされた患者329例が対象となった。CT群に167例(平均年齢60.4歳[SD 11.3]、女性88例)、冠動脈造影群には162例(同60.4歳[11.4]、78例)が割り付けられた。 主要評価項目は、最後の手技から48時間以内のCTまたは冠動脈造影関連の重度の合併症(死亡、心筋梗塞、入院期間を24時間以上延長する他の合併症)の発現であった。重度合併症はまれ、軽度合併症はより少ない CTにより冠動脈造影の必要性は14%(24/167例、95%信頼区間[CI]:9~20)に低下した。冠動脈造影による閉塞性冠動脈疾患の診断率は、CT群で冠動脈造影を要した患者の75%(18/24例、95%CI:53~90)であり、冠動脈造影群の15%(25/162例、95%CI:10~22)に比べ有意に優れた(p<0.001)。 主要評価項目の発生率は全体で0.3%とまれであり、両群でほぼ同等であった(CT群:1例[心筋梗塞] vs.冠動脈造影群:0例、p=1.00)。一方、手技関連の軽度合併症(穿刺部の血腫・後出血、徐脈、梗塞を伴わない狭心症など)の発生率は、CT群が3.6%と冠動脈造影群の10.5%よりも良好であった(p=0.014)。 入院期間中央値は、CT群が30.0時間(IQR:3.5~77.3)と冠動脈造影群の52.9時間(IQR:49.5~76.4)よりも22.9時間短かった(p<0.001)。また、放射線被曝量は、CT群が5.0mSv(IQR:4.2~8.7)、冠動脈造影群は6.4mSv(IQR:3.4~10.7)であり、両群に差はなかった(p=0.45)。 フォローアップ期間中央値3.3年における重度の心血管有害事象の発生率は、CT群が4.2%(7/167例)、冠動脈造影群は3.7%(6/162例)であった(p=0.86)。内訳は、CT群では心筋梗塞が1例、不安定狭心症が2例、再血行再建/初回血行再建術が6例に、冠動脈造影群では心臓死が1例、脳卒中が1例、再血行再建/初回血行再建術が5例に認められた。 受容性に関する調査では、CTが好ましいと答えた患者が79%(219/278例)であったのに対し、冠動脈造影が好ましいと答えた患者は7%(20/278例)であった(p<0.001)。CTが好ましいと答えた患者は、CT群で多かった(87 vs.70%、p<0.001)。 著者は、「本試験は大学病院で行われたため、実臨床とはCTの施行能が異なる可能性がある。主要評価項目の発生数が予想よりも少なく、結果として検出力が低い試験となった」としている。【訂正のお知らせ】本文内の表記を、一部訂正いたしました(2016年11月8日)。

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第6回 DPP-4阻害薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第6回】DPP-4阻害薬による治療のキホン―DPP-4阻害薬の長期投与の安全性について教えてください。 最初のDPP-4阻害薬が海外で臨床使用されるようになってから約10年、国内で使用されるようになってから約7年が経過し、今では国内外で多くの糖尿病患者さんに使われています。しかし、古くから使われているSU薬やビグアナイド(BG)薬などに比べると使用期間が長くないため、長期投与の安全性について懸念される先生方も多いと思います。 DPP-4阻害薬については、心不全による入院リスクの増加が指摘されており、それを受け、1万4,671例の心血管疾患のある2型糖尿病患者さんを対象に、通常治療へのシタグリプチン追加の心血管に対する安全性を検討した多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験「TECOS(Trial to Evaluate Cardiovascular Outcomes after treatment with Sitagliptin)」が行われました1)。その結果、追跡期間中央値3年(四分位範囲2.3~3.8年)で、主要評価項目である心血管疾患死、非致死的心筋梗塞(MI)、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院の複合エンドポイントにおいて非劣性が示されており、これら有害事象のリスク上昇はみられなかったという結論に至っています※。また、類薬でも心血管に対する安全性を検討した試験が報告されています2)。 ※本試験でのシタグリプチン投与量は「100mg/日(30mL/分/1.73m2≦eGFR<50mL/分/1.73m2例は50mg/日)」となっており、国内での用法・用量は「通常、成人にはシタグリプチンとして50mgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら100mg1日1回まで増量することができる。」です。 しかし、DPP-4阻害薬は、インスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるGIPおよびGLP-1を分解し不活性化するDPP-4を阻害することで血糖値を下げる薬剤で、DPP-4は、免疫応答調節に関与するCD26などの活性化T細胞をはじめとし、さまざまな器官の細胞に存在するため、GIPおよびGLP-1以外の物質やホルモンなどに影響を及ぼす可能性があると考えられています。そのため、さらに長期的な安全性については、より多くの実臨床における使用成績が蓄積されることで、現時点で確認されていない有害事象を含め、わかってくることと思います。―DPP-4阻害薬の膵臓がんとの関連について教えてください。 DPP-4阻害薬の膵疾患との関連については以前より議論されており、さまざまな解析が行われ、多くの専門家がそれらを考察していますが、現在のところ、膵臓に対する安全性として、米国糖尿病学会(ADA)および欧州糖尿病学会(EASD)、国際糖尿病連合(IDF)は、情報が十分でないため、DPP-4阻害薬による治療に関する推奨事項を修正するには至らないという合同声明を発表しています3)。 国内では、保険会社の医療費支払い申請のデータベースを基に、DPP-4阻害薬における急性膵炎の発症を検討した後ろ向き解析で、急性膵炎のリスクを高めないという報告もありますが4)、現時点で、膵炎や膵臓がんなどへのDPP-4阻害薬の関与について、十分な症例数で、十分な期間、前向きに検討した試験はありません。しかし最近、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)による膵がんの発症リスクは、スルホニル尿素(SU)薬と変わらないことが、CNODES試験5)で確認されました。CNODES試験は、2型糖尿病患者の治療におけるインクレチン関連薬とその膵がんリスクの関連を検証した国際的な他施設共同コホート研究であり、カナダ、米国、英国の6施設が参加し2007年1月1日~2013年6月30日の間に抗糖尿病薬による治療を開始した97万2384例が解析の対象となりました。DPP-4阻害薬では、リナグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチンが、GLP-1受容体作動薬ではエキセナチド、リラグルチドが含まれました。SU薬と比較したインクレチン関連薬の膵がん発症の補正ハザード比[HR]は、1.02(95%信頼区間[CI]: 0.84~1.23)であり、有意な差を認めませんでした。また、SU薬と比べて、DPP-4阻害薬(補正HR: 1.02、95%CI: 0.84~1.24)およびGLP-1受容体作動薬(補正HR:1.13、95%CI:0.38~3.38)の膵がん発症リスクは、いずれも同等でした。治療開始後の期間についても、インクレチン関連薬の膵がんリスクに有意な影響はありませんでした。この論文では、インクレチン関連薬に起因するがんが潜在している可能性があるため監視を継続する必要はあるものの、今回の知見によりインクレチン関連薬の安全性が再確認された、と結論付けています。 DPP-4阻害薬の中には、重要な基本的注意として「急性膵炎が現れることがあるので、持続的な激しい腹痛、嘔吐などの初期症状が現れた場合には、速やかに医師の診察を受けるよう患者に指導すること」とされているものもあります。なお、糖尿病患者さんでは、健康成人に比べて急性膵炎や膵がんの発症率が高いので6)、DPP-4阻害薬使用の有無にかかわらず、注意して観察する必要があります。―1日1回、1日2回、週1回の製剤はどのような基準で選べばよいのか、教えてください。 投与回数はアドヒアランスに影響しますので、まずは患者さんの服薬状況やライフスタイルによって選ぶとよいと思います。アドヒアランスは効果に反映します。毎日きちんと服薬できているような患者さんでは問題ありませんが、仕事が忙しく、どうしても飲み忘れてしまうという患者さんや、勤務時間がバラバラだったり、夜勤などもあって、服薬が習慣化できないような患者さんでは、1日2回より1日1回、1日1回よりは週1回のほうが飲み忘れが少なくなるかもしれません。―DPP-4阻害薬の各薬剤間に大きな違いはあるのでしょうか。どのように使い分けをすべきか、教えてください。 DPP-4阻害薬の使い分けについては、第2回 薬物療法のキホン(総論)―同グループ内での薬剤の選択、使い分けを教えてください。をご覧ください。1)Green JB, et al. N Engl J Med. 2015;373:232-242.2)Scirica BM, et al. N Engl J Med. 2013;369:1317-1326.3)Egan AG, et al. N Engl J Med. 2014;370:794-797.4)Yabe D, et al. Diabetes Obes Metab. 2015;17:430-434.5)Azoulay L, et al. BMJ. 2016;352:i581.6)Ben Q, et al. Eur J Cancer. 201;47:1928-1937.

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FRISC-II試験:死ぬまで大規模臨床試験!(解説:中野 明彦 氏)-597

【はじめに:非ST上昇ACSに対する治療法の変遷】 現在日本の循環器専門施設において、非ST上昇といえどACS患者に冠動脈造影(必要ならPCIやCABG)を行わないところはまずないであろう。しかし、FRISC-II試験が登録された1990年代後半には、その是非は賛否両論だった。 血行再建術が成熟していなかった影響も大きいが、不安定狭心症を対象としたVA studyや非Q波心筋梗塞・不安定狭心症で比較したVANQWISH・TIMI-IIIB試験では、早期侵襲的治療群(侵襲群)の非侵襲的治療群(非侵襲群)に対する優位性は示せなかった。 FRISC-II試験は、侵襲群の優位性を示した最初のランダム化試験で、TACTICS-TIMI18・RITA-3・ISAR-COOLなどがこれに続き、最新のガイドラインにも反映されている。その優位性はACS再発による再入院にとどまらず、死亡・心筋梗塞といった重大イベント抑制に及び、patient riskが高いサブグループほど絶対リスクの差が大きい。また、原則的にそうしたhigh risk群ほど早い介入が望まれる。【FRISC-II試験と本論文について】 FRISC-II試験は、1996~98年に登録された。当然ベアメタルステントの時代である。侵襲群において、その後の一連の試験に比して、冠動脈造影まで要した時間は最も長く(中央値96時間)、ステントやスタチン併用が最も少ない。一方、非侵襲群からのクロスオーバーは最も少なく(14%)、これが侵襲群の優位性を際立たせ、血行再建の遅れによるマイナス面を相殺したと考えられる。総死亡+非致死性心筋梗塞を1次エンドポイントとして、6ヵ月・1年・2年・5年の結果が報告されている。 そして、本論文は15 年の集大成である。 15年間に血行再建術が施行された患者は82% vs.58%だったが、最終的な心臓死の割合は14.5% vs.16.3%(p=0.292)で有意差がなかった。 総じて、侵襲群では当初の3~4年間、心臓死や心筋梗塞発症が抑制されたものの、5年後には予後に関するアドバンテージは消失4)、新たな心筋梗塞発症も以降平行線を辿っている。つまり、急性期積極的血行再建の賞味期限は3~4年ということらしい。【15年経つ、15年観る、ということ】 誰が決めたか知らないが、循環器系の(も?)大規模臨床試験の観察期間は長くて5年である。企業主導であろうが医師主導であろうが、多くの症例を厳密にfollow-upする努力・モチベーション・予算は5年が限界なのかもしれない。また、その頃には別なテーマやデバイスが浮上し、人々の興味も次へとシフトする。 つまり、本論文で特筆すべきはその観察期間の長さである。さらにデータ回収率が高く、生死および死因に関する情報は99%、イベントに関する情報も89%の症例で確認されている。それを裏支えしているのは、スカンジナビア諸国で行われている公衆衛生の登録制度である。個人識別番号と疾病・負傷、入退院、死亡(死因)、処方薬などのさまざまな医療情報をリンクさせ、それを関係者で共有することにより、人・金・施設などの限られた資源を有効活用し、包括的で質の高い医療を目指そうという国家的プロジェクトである。 FRISC-II試験の登録症例の年齢(中央値)は66歳、スカンジナビア諸国の平均寿命は78~81歳。つまり、15年というのは半数の患者が平均寿命に達する期間である。割り付けられた介入の影響がどんどん薄まっていき、原疾患たる冠動脈疾患や心疾患、さらには高齢者故の心臓以外の疾患により予後やQOLが損なわれていくのは当然である。逆にいえば、平均寿命まで追跡することによって、その介入が患者の一生にどう関わるかを判定しようという壮大な視点が垣間みえる。 ノルディックモデルと称される社会民主主義的福祉レジームによる制度的再配分福祉を整備するスカンジナビア諸国では、高い租税率を代償として国営に近い形で医療が遂行されている。だからこそ可能になった登録制度を、医療制度・文化の異なる他国に当てはめるのは現実的ではないが、一方日本の現状を顧みると、個人情報保護の高い壁と相次ぐ医療不信により大規模臨床試験の未来はあまり明るくはない。 対象疾患のリスクで異なるであろうが、大規模臨床試験の適切な観察期間はどのくらいなのか? ガイドラインで示される治療介入が長期的にみて本当に有効なのか? またその賞味期限はどの程度なのか? ―今後さらに発信されるであろうスカンジナビアからの情報を、遠くからしっかり見守りたいと思う。

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139)性格でわかる心筋梗塞になりやすい人【高血圧患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話 医師お待たせしました。早速、血圧を測りましょう。(血圧測定後)…血圧がちょっと高いですね。 患者いや、だいぶ待たされましたから(早口で)。 医師それは、申し訳ありませんでした。ここに興味深いデータがあります。 患者(大声で)それは何ですか? 医師せっかちな人は、そうでない人に比べ2倍以上、狭心症や心筋梗塞になりやすいんだそうです。 患者えっ、そうなんですか(過剰な反応)。 医師そうなんです。ちょっと、チェックしてみましょうか? (チェック表を確認、採点) 患者8点ですね。 医師完璧に心筋梗塞になりやすい性格ですね。 患者この性格、どうしようもないんですよね。 医師性格はなかなか変わりませんが、行動は変えることができますよ。●ポイント性格ではなく、行動パターンは変えることができることを説明します●参考資料1)Rosenman RH, et al. JAMA. 1975;233:872-877.2)Ikeda A, et al. Int J Epidemiol. 2008;37:1395-1405.

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生体吸収性スキャフォールド、中長期の臨床成績

 Absorb生体吸収性冠動脈スキャフォールド(Bioresorbable vascular scaffold:BVS、Abbott Vascular社)の1年超の臨床結果が、JACC: Cardiovascular Intervention誌 2016年9月号に発表された。ABSORB II、ABSORB JAPANなどの複数の試験によって、実現性と安全性が証明されているが、中長期の臨床結果に関する報告が限られているうえ、先行研究は比較的単純な冠動脈病変のみを対象としていた。医師主導型前向き単一施設単群試験 この試験は、医師主導型の前向き単一施設単群試験で、石灰化や完全閉塞、長病変、小血管径のような日常臨床でみられる病変に対するBVSの有用性を評価した。冠動脈へのインターベンションの既往がない新規の狭窄による非ST上昇型心筋梗塞、安定または不安定狭心症、無症候性虚血を対象とした。手技に関連した中長期的な臨床結果を評価した。主要評価項目を、心臓関連死亡、心筋梗塞、標的冠動脈病変の再灌流療法で定義された主要心血管イベントの発生とした。249例の335冠動脈病変が対象、平均追跡期間622日 2012年9月~2015年1月までに249例の患者の335冠動脈病変が組み込まれた。患者1人当たりのスキャフォールドの数は1.79±1.15であった。IVUSなどの侵襲的な画像診断を39%に用いている。ACC/AHA分類のタイプB2/C病変(複雑病変)が38.1%に認められ、冠動脈病変の平均病変長が22.16±13.79mmであった。ステント留置後の初期獲得径は1.39±0.59mm、平均追跡期間は622日(四分位範囲:376~734)であった。18ヵ月での主要心血管イベント、確定したステント血栓症は6.8%と1.9% Kaplan-Meier法による18ヵ月時点の主要心血管イベント発生率が6.8%であった。18ヵ月時点の心臓死、心筋梗塞および標的冠動脈病変に対する再灌流療法施行の割合はそれぞれ1.8%、5.2%および4.0%であった。確定診断されたスキャフォールドに関連した18ヵ月時点の血栓症の割合は1.9%であった。報告者らは、複雑な患者および冠動脈病変に対するBVS留置後の有害事象発生率が、追跡期間が長期となっても許容できる程度であった一方で、早期の血栓症は確認されなかったという結論を示している。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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第4回 チアゾリジン薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第4回】チアゾリジン薬による治療のキホン―チアゾリジン薬はどのような患者に適しているのでしょうか。 チアゾリジン薬は、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化を促進させ、アディポネクチン※を分泌する小型脂肪細胞の増加や大型脂肪細胞のアポトーシス(細胞死)を惹起したり、脂肪細胞への脂肪酸の取り込み増加により、骨格筋や肝に取り込まれる脂肪酸の量を減少させることなどにより、末梢組織でのインスリン感受性を高め、インスリン抵抗性を改善して、血糖を低下させます。そのため、インスリン抵抗性のある肥満患者が適しています(BMI≧24、あるいは空腹時血中インスリン値≧5μU/mL)1)。 チアゾリジン薬では、循環血液量の増加による浮腫や心不全に注意する必要があります。浮腫は女性で多いことが報告されているため、女性では最小用量の15mg(1日1回)から開始します1)。副作用は効果の裏返しともいえます。チアゾリジン薬の市販後調査でも、女性のほうが本剤の感受性が強いことが報告されています。2),3)。女性のほうが効果が出やすいので、15mgでも浮腫が出るようであれば、減量しながらみていきます。 また、海外で、女性でチアゾリジン薬による骨折リスクが報告されていますので4)、骨粗鬆症や、閉経後の女性では注意が必要です。 私のこれまでの臨床経験から、チアゾリジン薬では明らかに効果が出る患者さん(レスポンダー)がいると感じています。そのため、そういった患者さんでは、効果と安全性のバランスをみながら、適宜増減を考慮し、治療を進めていくとよいと思います。 ※脂肪細胞から分泌される生理活性物質(アディポサイトカイン)で、骨格筋や肝における脂肪酸の燃焼と糖の取り込みを促進し、インスリン感受性を増強させる5)。また、マウスにおける動脈硬化の抑制や、アディポネクチン欠損マウスにおける血管の炎症性内膜肥厚の亢進が示されていることから、動脈硬化抑制作用を持つと考えられている6,7)。―どの程度の心疾患既往者であれば使用してよいのでしょうか。 チアゾリジン薬は心不全および心不全既往例では禁忌で、心不全発症の恐れのある心筋梗塞、狭心症、心筋症、高血圧性心疾患などの心疾患患者さんには慎重投与です1)。つまり、心不全以外の既往症であれば投与できますが、心疾患既往例では、心不全のリスクが高いことを念頭に置き、投与中は、浮腫や急激な体重増加、息切れや動悸といった心不全の症状がないかどうか、十分注意します。患者さんにも、あらかじめ、これら異常がみられた場合には、すぐに受診するよう伝えます。 また、定期的に血中BNP値や心電図、胸部X線検査などでモニタリングするとよいでしょう。とくに、心室で合成され、血中を循環する心臓ホルモンであるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド;Brain Natriuretic Peptide)は、心室への負荷の程度を反映する生化学的マーカーで、広く臨床現場で使用されています。「慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)」では、心不全の所見に加え、BNP>100pg/mLであれば、心不全を想定して検査を進めるとされています8)。心不全のリスクが高い患者さんでは、BNP値を測定し、上昇してくるようであれば、診察時には毎回検査するなど、注意が必要です。―膀胱がんの危険性について教えてください。 海外の研究で、ピオグリタゾンを投与した患者さんで膀胱がん発生リスクが増加する恐れがあり、投与期間が長くなるとリスクの増加傾向があることが示されています9)。そのため、膀胱がん治療中の患者さんには投与を避けることとされています1)。また、「膀胱がん既往例には、薬剤の有効性および危険性を十分に勘案したうえで、投与の可否を慎重に判断する」となっていますが1)、私は膀胱がん既往例に対しては、ピオグリタゾン以外の選択肢がない場合にしか用いていません。 ピオグリタゾンの膀胱がんのリスクについては、海外でリスクが増加する恐れがあるという報告があることを患者さんに伝え、投与期間が長くなってきたら、定期的な尿検査を行うなど、注意する必要があります。また、投与終了後も継続して、十分観察します。―浮腫・体重増加がみられる女性患者への対応を教えてください。 前述したように、女性は効果がある反面、浮腫が出現しやすいため、“むくみが出る可能性がある”こと、“塩分摂取量にはとくに注意する必要がある”ことを事前に伝えます。体重増加がみられれば、それが浮腫によるものなのか(急激な体重増加、手足のむくみ、息苦しさ、動機など)、あるいは生活習慣の乱れによる体重増加なのかを見極め、浮腫の場合には、心不全でないことを確認したうえで、浮腫に対する対応として、塩分制限や利尿剤投与などの対応を検討します。 チアゾリジン薬では、小型脂肪細胞が増加し、大型脂肪細胞のアポトーシスが惹起されることでインスリン抵抗性を改善する働きがあるとお話ししましたが、小型脂肪細胞が治療前より増加するため、過食などによる体重増加にも注意する必要があります。実際に、チアゾリジン薬を投与された2型糖尿病患者さんでは、内臓脂肪は減少するものの、皮下脂肪が増加することがわかっています10)。1)アクトス製品添付文書(2015年3月改訂)2)医薬品インタビューフォーム アクトス錠15・30,アクトスOD錠15・30(2015年11月改訂).p533)Kawamori R, et al. Diab.Res.Clin.Pract. 76(2007)229-235.4)Habib ZA, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2010;95:592-600.5)Shindo T, et al. Nat Med. 2002;8:856-863.6)Kubota N, et al. 2002;277:25863-25866.7)Yamauchi T, et al. J Biol Chem. 2003;278:2461-2468.8)日本循環器学会ほか.慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版).In:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009年度合同研究班報告).9)Lewis JD, et al. Diabetes Care. 2011;34:916-922.10)Miyazaki Y, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2002;87:2784-2791.

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冠動脈CT-FFR、安定狭心症の管理を改善するか

 胸痛患者の評価方法にはさまざまな選択肢があり、最適な評価に関して議論が分かれる。そのうえ、冠動脈造影を実施しても、冠動脈狭窄が認められないという結果に終わることが多い。 CT血管造影(CTA)を用いた血流予備量比(FFR)の測定(FFRCT)は、冠動脈造影の際に実施する侵襲的なFFRに対して感度・特異度ともに高く、有用性が指摘されている。PLATFORM(Prospective Longitudinal Trial of FFRCT: Outcome and Resource Impacts)試験では、FFRCTを前向きに適応した結果、冠動脈造影が予定されていた患者群で、予定されていた冠動脈造影の60%をキャンセルすることができた。また、冠動脈造影で狭窄の認められなかった症例の割合が73%から12%に減少し(無駄な冠動脈造影が減少した)、冠動脈造影予定群の90日間の費用が有意に低かった。 Duke University School of MedicineのPamela S. Douglas氏らは、PLATFORM試験の12ヵ月までの追跡結果をまとめ、FFRCTを用いた場合の1年後の臨床的、経済的転帰およびQOLを評価した。欧州11施設が参加した前向き連続コホート研究で、Journal of the American College of Cardiology誌2016年8月号に発表された。584例の新規発症狭心症患者を連続して登録 584例の患者を担当医の評価によって冠動脈造影予定群と非侵襲的検査予定群に割り付けた後、さらに各群を予定された検査(侵襲的冠動脈造影または非侵襲的検査)とCTAに割り付けた。CTAに割り付けた場合、冠動脈造影予定群では全員、非侵襲的検査予定群ではCTAで30%以上の狭窄が認められた場合、予定された検査の前にFFRCTを実施した。 584例中581例(99.5%)が1年間の追跡を完了した。評価項目を主要心イベント(MACE:死亡、心筋梗塞、予定外の再灌流療法)、総医療費およびQOLとした。冠動脈造影予定群では、FFRCT群の医療費が33%安い 平均年齢は61歳、検査前の冠動脈疾患保有の確率は平均で49%であった。1年後の時点でMACEの発生はまれであり、冠動脈造影予定群の従来ケア群、FFRCT群で各2例、非侵襲的検査予定群では従来ケア群の1例でMACEが発生した。冠動脈造影予定群では、FFRCT群の平均医療費が従来ケア群と比べて33%安かった(FFRCT:8,127ドル vs. 従来ケア:1万2,145ドル、p<0.0001)。非侵襲的検査予定群では、FFRCTの費用をゼロとした場合の平均医療費に差がみられなかったが(FFRCT:3,049ドル vs. 従来ケア:2,579ドル、p=0.82)、FFR CTとCTAの費用を同等とするとFFRCT群が高かった。CTAとFFRCTに基づく治療、臨床成績とQOLが同等でコスト安 安定狭心症で冠動脈造影を予定している患者に対するCTAと選択的FFRCTに基づく治療は、1年後のフォローアップ時、結果として冠動脈に狭窄が認められない冠動脈造影を有意に減らし、臨床成績、QOLも同等でかつ医療費も安いという結果が示された。報告者らはその一方で、非侵襲的検査が予定された患者では臨床での心イベントの頻度が低いため、医療費やQOLの比較が難しく、大規模な試験が必要であるという結論を示している。

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