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12~17歳でのmRNA-1273ワクチンの安全性と有効性を考える(解説:田中希宇人氏、山口佳寿博氏)

 COVID-19の小児例は成人例に比べ症例数も少なく、ほとんどが無症状や軽症例であることがわかっている。COVID-19の臨床像を小児も含めた年齢層別に検討したイタリアからの報告では入院率、重症例の割合は年齢を重ねるごとに増加し、無症状例や軽症例は年齢とともに減少していた。3,836例の小児例の解析では約40%が無症状であり、ごく軽症や軽症を含めると95%以上という結果であった。ここで報告されている4例の小児死亡例は全例が6歳以下で、心血管系や悪性腫瘍の基礎疾患を併存している症例のみであり、新型コロナウイルスが原因とは考えられていなかった(Bellino S, et al. Pediatrics. 2020;146:e2020009399. )。本邦でも国立成育医療研究センターと国立国際医療研究センターの共同研究『COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)』を利用したCOVID-19の小児例が報告されている(Shoji K, et al. J Pediatric Infect Dis Soc. 2021 Sep 6. [Epub ahead of print] )。1,038例の18歳未満のCOVID-19例では約30%が無症状であり、症状を認めた730例のうち酸素投与まで必要となってしまう小児は15例(2.1%)であったとの報告である。 新型コロナワクチンの小児に対する報告はすでにファイザー製mRNAワクチンBNT162b2において安全性や有効性が示されている(Frenck RW Jr, et al. N Engl J Med. 2021;385:239-250. )。この研究では12~15歳の若年者2,260例が試験に参加しており、そのうち1,131例がBNT162b2ワクチンを接種している。副反応は一過性かつ軽度~中等度であり、注射部位の疼痛(79~86%)、疲労感(60~66%)、頭痛(55~65%)の頻度が高かったとの結果であった。またワクチン2回目接種後にCOVID-19を発症した症例はプラセボ群では1,129例中16例で認めたのに対し、BNT162b2ワクチン接種群では1例も認められずワクチン有効率は100%とされ、小児においても新型コロナワクチンの高い効果が示された結果となった。 本論評で取り上げた米国DM Clinical ResearchのAli氏らの論文『Teen COVE試験:Teen Coronavirus Efficacy trial』は2020年12月9日~2021年2月28日における12~17歳の健康な若年者3,732例を対象にモデルナ製新型コロナワクチンmRNA-1273ワクチンの安全性と有効性を確認するために行われた試験の中間解析結果を報告した。結果は12~17歳の若年者においても良好な安全性と18~25歳の若年成人と非劣性の免疫反応を示したとのことであった。 本研究に参加した若年者3,732例はmRNA-1273ワクチン接種群2,489例とプラセボ接種群1,243例に2対1でランダムに割り付けられ、28日間隔で2回接種された。主要評価項目は安全性と18~25歳の若年成人を対象にした臨床試験との免疫反応の非劣性を示すこととされ、副次評価項目としてはCOVID-19の発症予防やコロナウイルスの無症候性感染に対する有効性などが調査された。 まずワクチン接種の安全性としては局所の副反応として注射部位の疼痛が1回目の接種後93.1%、2回目の接種後92.4%、全身性のさまざまな副反応全体としては1回目の接種後68.5%、2回目の接種後86.1%が報告され、なかでも頭痛(1回目44.6%、2回目70.2%)、疲労感(47.9%、67.8%)、筋肉痛(26.9%、44.6%)、悪寒(18.4%、43.0%)が頻度の高い副反応として挙げられた(Ali K, et al. N Engl J Med. 2021 Aug 11. [Epub ahead of print])。ワクチン接種群の局所および全身性の副反応は約4日続き、1週間を越える局所での副反応はワクチン群でより高く、1回目接種後のほうが2回目接種後よりも頻度が高かった。また『COVE試験』(Baden LR, et al. N Engl J Med. 2021;384:403-416. )での18~25歳の若年成人と比較して、局所および全身性の副反応の頻度はほぼ同等の結果であったが、皮膚の紅斑は若年者のほうが高かった。本研究では小児多系統炎症性症候群(MIS-C)や死亡、そして心筋炎や心膜炎など特記すべき有害事象は認められなかった。 ワクチンの効果は若年成人に対する血清中和抗体の幾何平均力価比、応答率の差で評価され、それぞれ1.08(95%信頼区間:0.94~1.24)、0.2%(若年群98.8%、若年成人群98.6%)であり若年成人と同等の免疫原性が示された形となった。 Ali氏らは若年者に対する新型コロナワクチン接種は若年成人と同様の安全性を示し、免疫原性も非劣性であると述べているが、小児は重症化率や死亡者数が少なく正確な有効性を評価することは困難だとしている。小児では重症化率や死亡者数が少なく、無症状や軽症例が多いことは上記の本邦の報告でも同様の結果であり、小児に対するワクチンのメリットは成人者のそれとは異なることを理解する必要がある。また本研究が行われたのは2020年12月~2021年2月であり、現在本邦で問題になっているデルタ株を含めた変異株に対する有効性は評価することができない。 今回論評で取り上げたAli氏らの論文が解析された時点では、心筋炎・心膜炎の副反応は報告されていない。しかしながら英国ではBNT162b2ワクチン100万回接種当たり2.6件の心筋炎、2.0件の心膜炎、mRNA-1273ワクチン100万回接種当たり8.2件の心筋炎や心膜炎の発症が報告されている(厚生労働省「副反応疑い報告の状況について」 2021年7月21日)と発表している。本邦においてもBNT162b2ワクチン100万回接種当たり0.5件の心筋炎・心膜炎、mRNA-1273ワクチン100万回接種当たり0.6件の心筋炎・心膜炎の発症が報告されている。いずれもmRNAワクチン接種との因果関係は現時点では不明とされているが、年齢別にはmRNA-1273ワクチンでは10代の男性が症例は限られているものの100万回接種当たり17.1件と最も頻度が高い結果となっている(第68回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会「副反応疑い報告の状況について」)。BNT162b2ワクチン接種後の小児で心筋炎を発症した15例のケースシリーズでは、93%が男性、全例で胸痛と血清トロポニン値の上昇を認め、20%で心エコー上の心拍出量の低下を認めたが、死亡例は認められず良好な経過をたどったと報告している(Dionne A, et al. JAMA Cardiol. 2021 Aug 10. [Epub ahead of print] )。 現在2021年9月末で第5波は収束しつつある状況にあるが、学校における児童を発端としたクラス内感染や児童間での感染伝播の報告が散見された。またデルタ株流行下においては小児から家庭内に感染が広がるケースも認められた。ワクチンに対する感染予防効果や発症予防効果を考えれば、小児で影響の強いCOVID-19パンデミック下でのストレスや学校閉鎖などを防ぐために重要と捉えることができる。ただし成人のCOVID-19と比べると圧倒的に無症状や軽症例の多い小児において、きわめてまれなワクチン接種後の副反応であったとしても慎重に対応せざるを得ないと考える。

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第77回 岸田総裁が主張する医療・社会保障制度のバランス感は?

自民党総裁選が9月29日に行われ、元外務大臣で同党の元政務調査会会長(政調会長)だった岸田 文雄氏が新総裁に選出された。2012年の安倍 晋三氏の就任以降、悪く言えばほぼ出来レースの総裁選が続いていた中では、一政党の総裁選に過ぎないとはいえ、久々に白熱した選挙となった。1回目投票から1位だった岸田氏だが、その時は2位の河野 太郎氏にわずか1票差。それが決選投票では岸田氏は257票、河野氏は170票と一気に差がついた。もっとも比較的世論を反映しやすいと言われる1回目の党員票分では岸田氏が110票、河野氏が169票、決選投票に反映された都道府県連票では岸田氏がわずか8票、河野氏が39票ということを考えれば、国会議員票は「世論」とやや異なる動きをしたことは明らかである。さて、前回は総裁選候補者4人の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)対策を比較したが、岸田氏が新総裁、そして事実上次期総理大臣が確定したことを考えると、岸田氏自身の医療あるいは社会保障政策の中身を検討して見なければならない。まず岸田氏の著書『岸田ビジョン 分断から協調へ』(講談社刊)を読むと、高齢化社会の進展に伴う社会保障政策の根幹の考え方について、「全員で全員を支え合う社会保障への転換」と提示している。端的に言うならば、現役世代と高齢者世代という二元化ではなく、65歳以上でも能力と意欲とそれに伴う経済力次第では一定の負担をし、一方的な社会保障の受益者になるのではなく、むしろ支える側にまわると主張している。ちなみに私見だが、以前から財務省の良く使う「高齢者1人を現役世代〇人で支える」という硬直した思考に「???」と思っていたこともあり、これ自体は今後人口減少に伴う高齢化率上昇を考えると、極めて妥当な考え方と思える。そのうえで岸田氏はその実現のために必要な3つの視点を提示している。1つ目の視点は制度の縦割りを可能な限り排すること。これはすなわち医療保険での国保と社保、年金での国民年金と厚生年金の垣根を成るべく取り払うということだ。2つ目の視点として提示されているのが民間活力の導入である。具体的には医療保険、年金ともに公的仕組みでは必ずしも十分な給付はできないとして、屋上屋として民間の保険などを活用しても良いのではないかというもの。3つ目は地域、利用者の視点だ。地域での医療や社会保障の人材的リソースが枯渇している中では、それを補うために外国人労働者の活用やICT、AIの導入などでより効率化して、地方でのサービス維持に努めようというもの。このうち1や3については、やや形が違うもののほぼ中身が同じ主張を河野氏もしている。そして2だが、岸田氏はこの考えの背景について単に医療費を抑制するだけでは、医療技術の高度化に十分対応できないためとしている。もっともこの考えは一部高度な医療を受ける際には民間保険での償還を軸にするというもので、岸田氏は低所得者への配慮や民間保険会社による疾病リスク毎の保険料設定が過度になることへの注意も必要としている。より平たく言えば、現在の高度先進医療的な扱いの医療行為の範囲をより広くし、そこに一定の制約を設けて民間保険会社により医療保険事業に参入をしてもらい、所得が高い人はこの民間保険の枠組みでサービスを利用してもらおうということである。まあ、混合診療をより推し進めるとも言えるかもしれない。この辺はたぶん現状の医療をめぐる各ステークホルダーがどの程度許容するかは相当微妙なラインと言える。また、岸田氏が社会保障ではなく経済政策の一環として、「成長と分配の好循環」の形成を検討している。たとえば、看護師、介護士、幼稚園教諭、保育士などのように賃金が公的に決まる(厳密には公的な報酬から経営母体の方針によって決まるということ)にも関わらず、仕事内容に比して報酬が十分でない労働者の収入を思い切って増やすための「公的価格評価検討委員会(仮称)」を設置し、公的価格を抜本的に見直すと主張している。要は公的に賃金体系に影響が及ぶ職種は賃上げを誘導し、それによって消費を喚起して、この消費力を軸に企業が次なる成長への投資につなげていくという考えだ。一方、前回紹介した新型コロナ対策での病床確保について岸田氏は「平素から診療報酬等の上乗せで優遇を与える『感染症危機中核病院』のようなものを設置し、危機の際には国のコントロールによって 半強制的にこうした病院に病床を提供してもらい、それに応じない場合はペナルティも考えていく仕掛けも必要」と主張している。これらを併せて考えると、岸田氏の医療・社会保障に関する主張は経済面、制度面での公的関与、より突っ込んで言えば統制を圧倒的に強め、加えて財源上の問題から給付範囲は絞り込もうというもの。あまりにも政府の独善性が強すぎるものに思えてしまう。まあ、もっとも総裁選で掲げる政策というのはある意味割引いて見なければならないので、当面はお手並み拝見というところか。

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モデルナ製ワクチン第III相最終解析、重症化予防効果は/NEJM

 mRNA-1273ワクチン(Moderna製)は、2回接種後5ヵ月以上にわたり新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症および重症化の予防に有効で、無症候性感染も減少した。米国・Baylor College of MedicineのHana M. El Sahly氏らが、mRNA-1273ワクチンの安全性および有効性を検証した無作為化観察者盲検プラセボ対照第III相試験における盲検期の最終解析結果を報告した。mRNA-1273ワクチンは、この試験の中間解析で有効率94.1%を示し、緊急使用が許可された後、プロトコールが修正され非盲検期が追加されていた。NEJM誌オンライン版2021年9月22日号掲載の報告。約3万人を対象にmRNA-1273ワクチンの有効性と安全性を評価 研究グループは、2020年7月27日~10月23日の期間に、米国の99施設において、SARS-CoV-2感染の既往がなく、SARS-CoV-2に感染するリスクが高いあるいは重症化するリスクが高い18歳以上の参加者を、mRNA-1273(100μg)群またはプラセボ群に1対1の割合に割り付け、28日間隔で2回筋肉注射した。 主要評価項目は、SARS-CoV-2感染歴がない参加者における2回目接種後14日以降でのCOVID-19発症予防とし、有効性の評価は盲検下で独立判定委員会が行った。データカットオフ日は、2021年3月26日であった。 3万415例が登録され、mRNA-1273群1万5,209例、プラセボ群1万5,206例に割り付けられた。約5ヵ月間のCOVID-19予防効果は93.2%、重症化予防効果は98.2% 参加者の96%以上が2回の接種を受け、2.3%がベースラインでSARS-CoV-2感染が確認された。盲検期の追跡期間中央値は5.3ヵ月で、COVID-19は799例確認され、プラセボ群が744例(5.3%)、mRNA-1273群が55例(0.4%)であった。mRNA-1273のCOVID-19発症予防効果は93.2%(95%信頼区間[CI]:91.0~94.8)、発症頻度はmRNA-1273群が9.6例/1,000人年(95%CI:7.2~12.5)、プラセボ群が136.6例/1,000人年(95%CI:127.0~146.8)であった。 重症COVID-19の予防効果は98.2%(95%CI:92.8~99.6)で、重症例はmRNA-1273群で2例、プラセボ群で106例であった。接種後14日以降の無症候性感染例はmRNA-1273群214例、プラセボ群498例で、無症候性感染予防効果は63.0%(95%CI:56.6~68.5)であった。mRNA-1273の有効性は、人種/民族、年齢、併存疾患等にかかわらず一貫していた。安全性に関する懸念は認められなかった。

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重症化リスクのある外来COVID-19に対し吸入ステロイドであるブデソニドが症状回復期間を3日短縮(解説:田中希宇人氏、山口佳寿博氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ではエビデンスの乏しかった2020年初頭からサイトカインストームによる影響がいわれていたことや、COVID-19の重症例のCT所見では気管支拡張を伴うびまん性すりガラス陰影、いわゆるDAD(diffuse alveolar damage)パターンを呈していたことから実臨床ではステロイドによる加療を行っていた。2020年7月に英国から報告された大規模多施設ランダム化オープンラベル試験である『RECOVERY試験』のpreliminary reportが報告されてからCOVID-19の治療として適切にステロイド治療が使用されることとなった。『RECOVERY試験』では、デキサメタゾン6mgを10日間投与した群が標準治療群と比較して試験登録後28日での死亡率を有意に減少(21.6% vs.24.6%)させた(Horby P, et al. N Engl J Med. 2021;384:693-704. )。とくに人工呼吸管理を要した症例でデキサメタゾン投与群の死亡率が29.0%と、対照群の死亡率40.7%と比較して高い効果を認めた。ただし試験登録時に酸素を必要としなかった群では予後改善効果が認められず、実際の現場では酸素投与が必要な「中等症II」以上のCOVID-19に対して、デキサメタゾン6mgあるいは同力価のステロイド加療を行っている。 また日本感染症学会に「COVID-19肺炎初期~中期にシクレソニド吸入を使用し改善した3例」のケースシリーズが報告されたことから、吸入ステロイドであるシクレソニド(商品名:オルベスコ®)がCOVID-19の肺障害に有効である可能性が期待され、COVID-19に対する吸入ステロイドが話題となった。シクレソニドはin vitroで抗ウイルス薬であるロピナビルと同等以上のウイルス増殖防止効果を示していたことからその効果は期待されていたが、前述のケースシリーズを受けて厚生労働科学研究として本邦で行われたCOVID-19に対するシクレソニド吸入の有効性および安全性を検討した多施設共同第II相試験である『RACCO試験』でその効果は否定的という結果だった(国立国際医療研究センター 吸入ステロイド薬シクレソニドのCOVID-19を対象とした特定臨床研究結果速報について. 2020年12月23日)。本試験は90例の肺炎のない軽症COVID-19症例に対して、シクレソニド吸入群41例と対症療法群48例に割り付け肺炎の増悪率を評価した研究であるが、シクレソニド吸入群の肺炎増悪率が39%であり、対症療法群の19%と比較しリスク差0.20、リスク比2.08と有意差をもってシクレソニド吸入群の肺炎増悪率が高かったと結論付けられた。以降、無症状や軽症のCOVID-19に対するシクレソニド吸入は『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第5.3版』においても推奨されていない。 その他の吸入ステロイド薬としては、本論評でも取り上げるブデソニド吸入薬(商品名:パルミコート®)のCOVID-19に対する有効性が示唆されている。英国のオックスフォードシャーで行われた多施設共同オープンラベル第II相試験『STOIC試験』では、酸素が不要で入院を必要としない軽症COVID-19症例を対象にブデソニド吸入の効果が検証された(Ramakrishnan S, et al. Lancet Respir Med. 2021;9:763-772. )。本研究ではper-protocol集団およびITT集団におけるCOVID-19による救急受診や入院、自己申告での症状の回復までの日数、解熱薬が必要な日数などが評価された。結果、ブデソニド吸入群が通常治療群と比較して有意差をもってCOVID-19関連受診を低下(per-protocol集団:1% vs.14%、ITT集団:3% vs.15%)、症状の回復までの日数の短縮(7日vs.8日)、解熱剤が必要な日数の割合の減少(27% vs.50%)を認める結果であった。 本論評で取り上げた英国のオックスフォード大学Yu氏らの論文『PRINCIPLE試験』では、65歳以上あるいは併存症のある50歳以上のCOVID-19疑いの非入院症例4,700例を対象に行われた。結果は吸入ステロイドであるブデソニド吸入の14日間の投与で回復までの期間を通常治療群と比較して2.94日短縮した、とのことであった。本研究は英国のプライマリケア施設で実施され、ブデソニド吸入群への割り付けは2020年11月27日~2021日3月31日に行われた。 4,700例の被検者は通常治療群1,988例、通常治療+ブデソニド吸入群1,073例、通常治療+その他の治療群1,639例にランダムに割り付けられた。ブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入し、最大14日間投与するという治療で、喘息でいう高用量の吸入ステロイド用量で行われた。症状回復までの期間推定値は被検者の自己申告が採用されたが、通常治療群14.7日に対してブデソニド吸入群11.8日と2.94日の短縮効果(ハザード比1.21)を認めている。同時に評価された入院や死亡については通常治療群8.8%、ブデソニド吸入群6.8%と2ポイントの低下を認めたが、優越性閾値を満たさない結果であった。 今までの吸入ステロイドの研究では主に明らかな肺炎のない症例や外来で管理できる症例に限った報告がほとんどであり、前述の『STOIC試験』においても酸素化の保たれている症例が対照となっている。本研究ではCOVID-19の重症化リスクである高齢者や併存症を有する症例が対照となっており、高リスク群に対する効果が示されたことは大変期待できる結果であった考えることができる。ただしCOPDに対する吸入ステロイドは新型コロナウイルスが気道上皮に感染する際に必要となるACE2受容体の発現を減少させ、COVID-19の感染予防に効果を示す(Finney L, et al. J Allergy Clin Immunol. 2021;147:510-519. )ことがいわれており、本研究でもブデソニド吸入群に現喫煙者や過去喫煙者が46%含まれていることや、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)症例が9%含まれていることは差し引いて考える必要がある。そして吸入薬であり「タービュヘイラー」というデバイスを用いてブデソニドを投与する必要がある特性上、呼吸促拍している症例や人工呼吸管理がなされている症例に対してはこの治療が困難であることは言うまでもない。 また心配事として、重症度の高いCOPD症例に対する吸入ステロイドは肺炎のリスクが高まるという報告がある(Vogelmeier C, et al. N Engl J Med. 2011;364:1093-1103.、Crim C, et al. Ann Am Thorac Soc. 2015;12:27-34. )ことである。この論評で取り上げたYu氏らの論文では重篤な有害事象としてブデソニド吸入群で肋骨骨折とアルコールによる膵炎によるものの2例が有害事象として報告されており治療薬とはまったく関係ないものとされ、肺炎リスクの上昇は取り上げられていない。ただもともと吸入ステロイド薬であるブデソニドは、気管支喘息や閉塞性換気障害の程度の強いCOPDや増悪を繰り返すCOPDに使用されうる薬剤であり、ステロイドの煩雑な使用は吸入剤とはいえ呼吸器内科医としては一抹の不安は拭うことができない。 心配事の2つ目として吸入薬の適切な使用やアドヒアランスの面が挙げられる。この『PRINCIPLE試験』で用いられているブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入、最大14日間であるが、症状の乏しいCOVID-19症例に、しかも普段吸入薬を使用していない症例に対しての治療であるので実臨床で治療薬が適切に使用できるかは考えるところがある。COVID-19症例や発熱症例に対して対面で時間をかけて吸入指導を行うことは非現実的なので、紙面やデジタルデバイスでの吸入指導を理解できる症例に治療選択肢は限られることになるであろう。 最後に本研究が評価されて吸入ステロイドであるブデソニドがコロナの治療薬として承認されたとしても、その適正使用に関しては慎重に行うべきであると考える。日本感染症学会に前述のシクレソニド吸入のケースシリーズが報告された際も、一部メディアで大々的に紹介され、一時的に本邦でもCOVID-19の症例や発熱症例に幅広く処方された期間がある。その期間に薬局からシクレソニドがなくなり、以前から喘息の治療で使用していた患者に処方ができないケースが散見されたことは、多くの呼吸器内科医が実臨床で困惑されたはずである。COVID-19の治療選択肢として検討されることは重要であるが、本来吸入ステロイドを処方すべき気管支喘息や増悪を繰り返すCOPD症例に薬剤が行き渡らないことは絶対に避けなければいけない。

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第77回 想定の範囲外!? 「人流増加でも感染者減少」で問われる専門家の説明責任

人流増加にかかわらず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者数が一気に減少したことについて、感染者増加のシミュレーションを描いていた専門家は納得のいく分析ができていない。このことは、専門家への信頼を揺るがすだけでなく、感染症対策に関しては人流抑制を前提にできないことも示している。数理モデルでは予測できなかった行動変容9月16日に開かれた厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーホードで、新規感染者数の減少要因の可能性として(1)連休・夏休み・長雨の影響などで外出が減少した(2)感染者急増・医療逼迫などの報道によるメディア効果で行動変容が起きた(3)ワクチン接種が現役世代を含めて進んだ―ことが要因として挙げられた。数理モデルでCOVID-19の流行を分析している西浦 博氏(京都大学大学院医学系研究科社会健康医学系専攻教授)は、あるテレビ番組で「デルタ株の流行で他国の状況を見ていると、人出がこれだけある中で減らすのは、もう無理かもしれないと本気で思っていた」と述べた上で、「医療が大変な状況であることなど、リスクを皆さんが認識した。データに基づく分析は未完成だが、これが相当大きかったと考えている」と人々の行動変容の影響を強調した。西浦氏は、8月の東京の新規感染者数について、1日1万人を超え、8月末には3万人を上回ると予測していたが、実際は8月中旬の約5,800人をピークに下降している。9月になって新学期が始まり、連休もあったが、9月27日現在の東京の新規感染者数は154人にまで減少している。西浦氏ら専門家に対して、元大阪府知事で弁護士の橋下 徹氏は、別のテレビ番組の中で、「予想が外れたなら、なぜ外れたのか言ってもらえないと信用できない。彼らの計算はあくまで机上論だと感じる。この人たちの予測が当たる確率がどのくらいの程度か。100%正しいと思って、危ない、危ないと言っていたけれど、その感覚はやめないといけない」と批判した。複製のエラー増加でウイルス自体が自滅、という説もまた、西浦氏がCOVID-19拡大防止策として、「人との接触8割減」を国に提言し「8割おじさん」として知られるだけに、橋下氏は新規感染者数の減少について「ウイルスが自然に減少することもあるのではないか。人流抑制の一本槍ではいけない」と述べた。ウイルスの自然減少に関しては、ドイツの生物物理学者でノーベル化学賞受賞者の故マンフレート・アイゲン氏が1971年に発表した「エラーカタストロフの限界」という考え方が今、改めて注目されている。ウイルスが増殖する際にコピーミスが起き、変異株が出現する。中には増殖の速いタイプのウイルスが生まれ、急速に感染が拡大。しかし、増殖が速ければコピーミスも増える。一定の閾値を超えると、ウイルスの生存に必要な遺伝子まで壊してしまい、ウイルスが自壊するという考え方だ。この考え方に基づくと、新型コロナウイルスのコピーミスにより7月以降に急速に感染拡大したが、8月中旬にコピーミスが「エラーカタストロフの限界」を超えたため、ウイルスの自壊が始まり、感染が急速に減少したのではないか、ということになる。あくまで仮説の1つだが、検証してみる価値はあるのではないか。反省から生まれる「リスク評価」「リスク管理」の軌道修正西浦氏の予測には過激なものもあるだけに、『週刊新潮』では「『8割“狼”おじさん』は怖がらせるのがお仕事」という見出しの記事まで掲載された。数値的データ中心の予測には、人々の行動変容を変数にすることは難しいかもしれないが、予測が外れたことを説明しない理由にはならないはずだ。そもそも専門家は、どうリスクを評価し、それをどう政治家や国民に伝えるべきか。専門家は、未知のリスクに対して科学的に最悪のケースを含めた選択肢を示すのが責務だ。政治から独立した姿勢が国民の信頼を高めるだろう。一方、専門家のリスク評価をどう政策に活かすかというリスク管理は、政治家の責務だ。専門家も政治家も、言いっぱなし、やりっぱなしではなく、説明責任の義務を負うべきだ。それがメディアを通した発信であればなおさらである。自身の言動に真摯に向き合った結果分析や反省によって、より正しいリスク評価やリスク管理への軌道修正が可能となるだろう。

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学校のコロナ対策、毎日迅速抗原検査の効果は隔離と同等/Lancet

 学校において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)接触者に対する毎日の迅速抗原検査は、自己隔離と比較してCOVID-19感染制御において非劣性であり、両アプローチによる生徒および学校職員の症候性SARS-CoV-2感染率は同程度であることが、英国・オックスフォード大学のBernadette C. Young氏らが実施した非盲検クラスター無作為化比較試験で示された。イングランドでは、学校でのCOVID-19接触者は自宅での自己隔離を求められ、重要な教育機会が失われている。そこで著者らは、接触者には毎日検査を実施することで学校への出席を可能にしつつ、自己隔離と同様の感染抑制効果が得られるかを検討した。著者は、「学校内の接触者の感染率は低く、学校での曝露後の自宅隔離に代わり、接触者の毎日の検査を検討すべきである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2021年9月14日号掲載の報告。学校単位で、接触者10日間自己隔離群vs.学校で毎日迅速抗原検査群を検討 研究グループは、イングランドの中等学校(11~16歳)および継続教育カレッジ(16~18歳)を、学校単位で、COVID-19接触者を10日間自己隔離する群(対照群)と、SARS-CoV-2抗原迅速検査(Orient Gene製)で陰性の接触者は学校に留まり7日間毎日任意で同検査を行う群(介入群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化は、学校の種類と規模、第6学年(16~18歳)の有無、寮生の有無、無料の学校給食を受ける生徒の割合によって層別化された。 主要評価項目は、生徒ならびに学校職員における、COVID-19に関連した学校欠席およびPCRで確認された症候性COVID-19である。準ポアソン回帰法を用いたintention-to-treat解析により、地域の感染率で調整した学校内感染を推定した(非劣性マージン<50%相対的増加)。また、順守者のみの平均因果効果(CACE)も推定した。PCRで確認された症候性感染ならびにCOVID-19関連欠席の発生頻度に差はなし 2021年3月18日~5月4日の間に、研究に同意し参加を決定した201校が無作為に割り付けられた(対照群99校、介入群102校)。試験期間は最長10週間で、2021年4月19日~5月10日に開始し、事前に指定された中止日(2021年6月27日)まで継続した。201校中、生徒および学校職員が参加したのは対照群76校、介入群86校であったが、参加を辞退した学校のほとんどは国のデータを追加することで主要評価項目の分析に含めることができた。介入群では、接触者5,763例中2,432例(42.4%)が毎日の検査に参加した。 PCRで確認された症候性感染は、対照群では感染リスクのある778万2,537日(59.1/10万人/週)において657件、介入群では同837万9,749日(61.8/10万人/週)において740件であり、補正後発生率比(aIRR)はintention-to-treat解析で0.96(95%信頼区間[CI]:0.75~1.22、p=0.72)、CACE解析で0.86(95%CI:0.55~1.34)であった。 生徒および学校職員のCOVID-19関連欠席発生頻度は、対照群では365万9,017人学校日当たり5万9,422人(1.62%)、介入群では384万5,208人学校日当たり5万1,541人(1.34%)であり、aIRRはintention-to-treat解析で0.80(95%CI:0.54~1.19、p=0.27)、CACE解析で0.61(95%CI:0.30~1.23)であった。

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コロナ治療用:ステロイド各種の換算表/患者の不安軽減のためのスライド

新型コロナウイルス感染症では、酸素が必要な中等症II以上の患者さんに対し、ステロイド投与が必要になるケースもあります。その際、デキサメタゾンの供給不足や個々の体調に応じて代替処方が予想される場合も。そんな時に「換算表」があればオーダー時の悩みが解決されるのではないでしょうか。 今回の換算表は日本鋼管病院の薬剤部医薬品情報室の方々、田中 希宇人氏(日本鋼管病院 呼吸器内科医長)にご協力いただき、一部改変して公開しています。 また 、自宅療養を余儀なくされる患者さんのステロイドに対する不安軽減には「患者向けスライド」をお役立てください。医師向け患者さん向け参考日本感染症学会:COVID-19に対する薬物治療の考え方 第8版

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第77回 コロナ受け入れで病院は潰れない!大阪・松本病院倒産の原因は巨額の診療報酬不正請求か?

負債約52億円で民事再生法の適用を申請こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBのレギュラーシーズンの試合も残り少なくなってきました。9月27日は朝5時に起きて、NHKBSでロサンジェルス・エンジェルスの大谷 翔平投手の登板試合を観戦しました。7回1失点、10奪三振という好投でしたが、今回もチームの打撃が振るわず、10勝目をあげることはできませんでした。あと、残り6試合(9月28日現在)です。10勝目の登板機会がやってくるかどうかと、アメリカン・リーグのホームラン王争いがとても気になります。それにしてもエンジェルス、打てなさ過ぎです。さて、8月26日、大阪市福島区で松本病院を経営する医療法人友愛会が、負債約52億円を抱え大阪地裁に民事再生法の適用を申請、弁済禁止の保全処分と監督命令を受けました。このニュース、「コロナ受け入れ病院が倒産」といったセンセーショナルな切り口で取り上げるメディアがいくつかありました。コロナを受け入れている病院は、「第55回 コロナで“焼け太り”病院続出? 厚労省通知、財務省資料から見えてくるもの(前編)」でも書いたように、非常に手厚い補助金が入っています。「コロナ受け入れが理由で倒産はあり得ない」と思ったのですが、その後、興味深い続報が出たので、今回はそれについて書きます。不正請求分の返還が求められると事業継続困難に医療法人友愛会・松本病院は阪神電鉄野田駅前に建つ199床の病院です。内科、外科、循環器内科、脳神経外科、整形外科、形成外科など外科系に強く、救急患者の24時間受け入れを行っています。病床構成は一般病棟93床、回復期リハビリテーション病棟49床、地域包括ケア病棟44床、ハイケアユニット13床で、民間の中規模病院に多い典型的なケアミックス型病院と言えます。今年1月からは新型コロナの軽症と中等症の患者も受け入れていました。倒産報道から2週間ほど経った9月10日、毎日新聞が、民事再生法の適用を申請した医療法人友愛会が診療報酬を不正に請求していた疑いのあることが判明したと報道しました。債権者への説明資料に基づく情報として、保険医療機関の指定取り消しの可能性があるとともに、不正請求分の返還が求められた場合、事業継続が困難になると判断したことが民事再生法の適用を申請した理由であると同紙は報じています。不正請求が疑われているのは、前理事長時代の2014年2月~2017年4月の約3年間。入院基本料や回復期リハビリテーション病棟入院料について、施設の基準を満たしていないにも関わらず、満たしたとして不正請求を続けていたとのことです。通常、医療機関の不正請求の調査は、地方厚生局(大阪だと近畿厚生局)の指導監査担当部署の指導から始まります。悪質な場合は本格的な監査となり、改善命令、処分決定と続きます。返還命令が下されるのは処分決定後ですから、医療法人友愛会はその決定を待っている段階とみられます。返還金額が決まる前に民事再生法の適用を申請したということは、相当悪質かつ巨額な不正請求だったことが予想されます。8月の倒産報道時は、理事長名で倒産の理由を「過去の設備投資に伴う過大な有利子負債など経営の稚拙さに起因する」というコメントを出していましたが、実際のところは過大な設備投資が経営悪化を招き、不正請求に走ったのかもしれません。コロナで焼け太りの病院、日赤は黒字1,000億円松本病院の民事再生法の適用申請はコロナ患者受け入れとは全く無関係(というよりむしろ、収入増で倒産までの時間が長くなった可能性もあります)で、「コロナ受け入れで倒産はあり得ない」という見立ては正しかったわけです。実際、2020年度の病院の経営状況は、コロナを受け入れた病院については、以前も書いたように桁違いに“ウハウハ”だったようです。いくつかの病院団体の調査や決算などを見ても、コロナに伴う患者数の減少で通常診療の収支は悪化したものの、コロナに対応する医療機関に対する補助金がプラスに働き、最終的な損益としては黒字を計上しているところがほとんどです。例えば、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3病院団体による病院経営状況調査では、20年度はコロナ関連の支援金を加えた利益率は、コロナ受け入れ実績のある病院では2.4ポイント増でした。また、日本赤十字社(91病院中89病院でコロナ対応)の20年度医療施設特別会計の決算は最終的に1,090億円の黒字を計上しました。うち約1,000億円はコロナ関連補助金などとのことです。東京都病院経営本部がまとめた2020年度の都立8病院の決算も、経常収支が102億円の黒字(19年度は42億円の赤字)でした。都立病院も外来患者や入院患者の医業収益は落ち込んだものの、コロナ病床確保に対する国からの約300億円の補助金によって黒字となったとのことです。1,000億円とか、100億円とか、とにかく桁違いの数字に唖然とします。日赤と都立病院は公的・公立の病院で民間病院とは事情が違う部分もあると思いますが、大雑把に「コロナを受け入れた急性期病院は1病院あたり10億円前後の黒字」と言えそうです。「ポスト・コロナ倒産」が起きるかも一方で、コロナに対応していない病院の経営状況は芳しくありません。前述の3病院団体の病院経営状況調査では、コロナ受け入れ実績のない病院の利益率は、コロナ関連の支援金を加えても0.3ポイント減となっていました。そんな中、コロナ未対応の医療機関にとってショックなニュースが、先週末飛び込んで来ました。田村 憲久厚生労働相は9月24日、新型コロナウイルス感染対策を促す目的で、全医療機関を対象としてきた診療報酬の特例加算を9月末で廃止する方針を表明したのです。代わりに実費分を補助する仕組みを設ける予定だそうです。これまでは、防護服着用や職員研修の経費として、初診・再診は1回50円、入院は1日1,000円、調剤は1回40円などを加算。この特例加算はコロナ患者を受け入れていない医療機関も対象となっており、「なぜコロナ未対応の医療機関も」という強い批判がありました。この加算の創設が決まった2020年12月当時、厚労省と財務省は「21年10月以降は延長しないことを基本想定としつつ、感染状況や地域医療の実態を踏まえ、年度前半の措置を単純延長することを含め、必要に応じ、柔軟に対応する」という玉虫色の内容で合意していました。ギリギリまで決まらなかった特例加算の廃止ですが、結局はコロナの第5波の収束も踏まえ、財務省の意向を反映する形で廃止が決まったわけです。コロナとは無関係の医療機関にとっては“お年玉”のような加算の廃止は、相当な打撃でしょう。世の中が徐々にポスト・コロナに動き始めています。医療機関も、そろそろコロナで変わった人々の受療行動や、マスク習慣化による感染症減少といったさまざまな要素も勘案しつつ新しい医業経営の仕方を考えないと、それこそ「ポスト・コロナ倒産」が起きてしまうかもしれません。

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ファイザー製ワクチン、3回目接種後の副反応は?

 米国食品医薬品局(FDA)は9月22日、ファイザー/ビオンテック社製COVID-19ワクチン(BNT162b2)の3回目接種(ブースター接種)について、65歳以上や重症化リスクの高い人などを対象に緊急使用許可を承認した1)。この承認に当たり開催されたFDAの諮問委員会でファイザー社が提出した資料2)には、ブースター接種による免疫応答と安全性についてのデータが含まれた。本稿では、安全性データについてまとめる。※なお、9月30日更新の米国疾病予防管理センター(CDC)からの推奨事項では3)、BNT162b2ブースター接種の対象は、65歳以上、18歳以上の介護施設の居住者、基礎疾患のある者、リスクの高い環境で働く者、リスクの高い環境に住む者とされている。対象:phase1試験から12人(65~85歳)、phase2/3試験から306人(18~55歳)試験概要:参加者はBNT162b2 30μgの2回接種の後、phase1試験参加者は約7~9ヵ月後、phase2/3試験参加者は約6ヵ月後にBNT162b2 30μgの3回目接種を受けた。安全性の評価:参加者はブースター接種後1日~7日目まで副反応と解熱鎮痛薬の使用についてe-diaryで報告した。副反応には、接種部位反応(痛み、発赤、腫れ)および全身性反応(発熱、倦怠感、頭痛、悪寒、吐き気、下痢、筋肉痛、関節痛)が含まれる。その他の安全性評価には、各投与後30分以内に発生する副反応、1回目投与からブースター接種後1ヵ月間の非重篤な未確認の副反応、およびブースター接種からデータカットオフ日(phase1:2021年5月13日、phase2/3:2021年6月17日)までの重篤な副反応が含まれた。 dose1(16~55歳、2,899人)、dose2(16~55歳、2,682人)のデータと比較したdose3接種後の副反応報告は以下のとおり。・phase1試験の12人(65~85歳)、phase2/3試験の289人(18~55歳)からe-diaryによる報告が得られた。接種部位反応・痛み:dose1(83.7%)、2(78.3%)、3(18~55歳:83.0%、65~85歳:66.7%)・腫れ:dose1(6.3%)、2(6.8%)、3(18~55歳:8.0%、65~85歳:0.0%)・発赤:dose1(5.4%)、2(5.6%)、3(18~55歳:5.9%、65~85歳:0.0%)全身性反応・倦怠感:dose1(49.4%)、2(61.5%)、3(18~55歳:63.8%、65~85歳:41.7%)・頭痛:dose1(43.5%)、2(54.0%)、3(18~55歳:48.4%、65~85歳:41.7%)・筋肉痛:dose1(22.9%)、2(39.3%)、3(18~55歳:39.1%、65~85歳:33.3%)・悪寒:dose1(16.5%)、2(37.8%)、3(18~55歳:29.1%、65~85歳:16.7%)・関節痛:dose1(11.8%)、2(23.8%)、3(18~55歳:25.3%、65~85歳:16.7%)・下痢:dose1(10.7%)、2(10.0%)、3(18~55歳:8.7%、65~85歳:0.0%)・嘔吐:dose1(1.2%)、2(2.2%)、3(18~55歳:1.7%、65~85歳:0.0%)・発熱(≧38.0℃):dose1(4.1%)、2(16.4%)、3(18~55歳:8.7%、65~85歳:0.0%)・解熱鎮痛薬の使用:dose1(27.8%)、2(45.2%)、3(18~55歳:46.7%、65~85歳:33.3%) ブースター接種から1ヵ月後までのphase2/3試験参加者(306人)において報告された副反応のうち、最も多かったのはリンパ節腫脹(5.2%)で、最初の2回(0.4%)よりも多かった。その他複数の参加者で報告されたのは、悪心(0.7%)、注射部位の痛み(0.7%)、痛み(0.7%)、腰痛(0.7%)、首の痛み(0.7%)、頭痛(0.7%)、 不安感(0.7%)、および接触性皮膚炎(0.7%)だった。 ブースター接種後1ヵ月以上が経過した後のモニタリング期間中に、1件の急性心筋梗塞が重篤な副反応として報告されたが、ファイザー社は因果関係は認められないと評価し、FDAもそれに同意している。その他の重篤な副反応、死亡例は報告されていない。 報告書では、ブースター接種後に報告された副反応の頻度および重症度は、2回目接種後と差がみられなかったとしている。(2021年10月1日 記事内容を一部修正いたしました)

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軽~中等症コロナ治療薬「ゼビュディ」を特例承認/厚労省

 厚生労働省は9月27日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として、「ゼビュディ点滴静注液 500mg」(一般名:ソトロビマブ[遺伝子組換え])の国内における製造販売を承認した。酸素療法を必要としない軽症・中等症かつ重症化リスクが高いCOVID-19患者が投与対象となる。海外第II/III相臨床試験(COMET-ICE試験)では、ゼビュディの単回投与で、重症化リスクの高い軽症~中等症のCOVID-19成人患者の入院または死亡リスクが有意に低下することが示されており、グラクソ・スミスクライン(GSK)が9月6日、特例承認の適用を求め申請していた。国内におけるCOVID-19治療薬としては、レムデシビル、デキサメタゾン、バリシチニブ、ロナプリーブに続く5例目となる。ゼビュディは投与29日目までに24時間を超える入院または死亡を79%低減 ゼビュディは、GSKと米国・Vir Biotechnologyが研究開発を行う抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体。COMET-ICE試験に参加した1,057例の有効性に関する主要解析において、ゼビュディは投与29日目までに24時間を超える入院または死亡がプラセボと比べ79%低減し(補正相対リスク減少)(p<0.001)、主要評価項目を達成したことが報告されている。いずれかの投与群で1%以上の被験者に認められた有害事象の中で、プラセボ群よりもソトロビマブ投与群で発現率が高いものは下痢(ソトロビマブ群:2%[8例] vs.プラセボ群:1%未満[4例])で、いずれもグレード1(軽度)または2(中等度)だった。 また、in vitro試験のデータでは、デルタ株、ラムダ株を含む懸念される変異株/注目すべき変異株に対し、活性を維持することが示されているが、臨床に及ぼす影響はまだ不明で、データ収集と解析が続いている。 ゼビュディの国内供給については、当面の間は厚労省が購入し、GSKに流通を委託する。医療機関には、GSKの登録センターに登録する方法でゼビュディが配分される見通し。<ゼビュディ製品概要>販売名:ゼビュディ点滴静注液 500mg一般名:ソトロビマブ(遺伝子組換え)効能又は効果: SARS-CoV-2 による感染症用法及び用量:通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、ソトロビマブ(遺伝子組換え)として500mgを単回点滴静注する。

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薬局倒産件数が過去最多!“薬局余り”が現実に【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第76回

新型コロナウイルス感染症による“受診控え”の影響が、薬局の「倒産」という数字で表れてきました。2021年1-8月の「調剤薬局」の倒産は22件(前年同期比83.3%増)に達し、2004年の調査開始以来、年間最多だった2017年(17件)を大幅に上回った。22件のうち、コロナ関連倒産は4件(構成比18.1%)で、今後さらにコロナ関連倒産が増加しそうだ。(東京商工リサーチ 2021年9月7日付)倒産とは、ついにそこまで来てしまったか、という感じです。この調査結果の「調剤薬局」とは、いわゆる調剤を主に行う薬局のことで、医薬品小売業やドラッグストアは除かれています。コロナ禍でマスクや消毒液などの購買が伸びたこともあってか、調剤薬局を除く医薬品小売業やドラッグストアの倒産件数はそれぞれ前年同期を下回っていましたので、調剤の売り上げおよび利益の確保が難しくなったということでしょう。これは8月までの結果ですので、残念ながらその後も倒産件数はまだ伸び続けると思われます。では、昨年の調剤医療費はどのくらい変化したのでしょうか。8月末に厚生労働省が2020年度の調剤医療費を発表していますが、調剤医療費は7兆4,987億円(前年度比2.6%減)でした。その内訳は技術料が1兆8,779億円(同5.0%減)、薬剤料が5兆6,058億円(同1.8%減)でした。また、処方箋単価は9,849円(同7.2%増)、処方箋枚数は7億6,135万枚(同9.2%減)でした。ものすごく単純に考えると、調剤薬局の売り上げは単価×処方箋枚数ですから、単価の増加が処方箋枚数の減少をカバーしきれなかったのでしょう。また、調剤という業務の実態を考えると技術料はほぼそのまま利益と考えられますが、その技術料が5%減ったというのも経営的に大打撃です。この20年ほどは、薬剤師が余る、調剤だけを行う薬局が多すぎる、と言われてきましたが、ついに現実になったのだなと思います。受診控えや感染対策による感染症の減少によって患者数が減ったままという流れはまだ続くと予想できます。では、売り上げが好調なマスクや消毒液を売ればいいのかというとそんなに簡単な話ではなく、在宅や地域活動に力を入れて技術料や加算を算定していく、専門薬剤師などの資格を取得して高度医療に挑戦する、もしくはOTC医薬品などを知識も交えて販売できるようにするなど、薬局の大きな方向性を決めなくてはいけないのだと思います。数年後には、処方箋を待っているだけの薬局はなくなっているかもしれません。参考1)「調剤薬局」の倒産が過去最多、コロナで受診控えが響く(2021年1-8月)|東京商工リサーチ(tsr-net.co.jp)2)調剤医療費(電算処理分)の動向~令和2年度版~|厚生労働省(mhlw.go.jp)

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第79回 ACE2をつてに細胞感染しうるコウモリコロナウイルスを発見

フランス・パリのパスツール研究所のウイルス学者Marc Eloit氏が同国と東南アジアの同僚と協力してコウモリ645匹を調べた研究1,2)の甲斐あって新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の起源探しが大いに前進しました。SARS-CoV-2が見つかってからこれまでにその起源発見を目指して種々の動物が調べられました。昨年にNature誌に掲載された報告によると10年近く前の2013年に中国の雲南省のコウモリから見つかったコロナウイルスRaTG13はゲノム配列がSARS-CoV-2と96.2%同一であり3)、Eloit氏らの今回の研究が報告されるまではコウモリコロナウイルスの中でSARS-CoV-2に最も近縁でした。よく知られているようにヒト細胞のACE2(hACE2)がSARS-CoV-2の受容体であり、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合領域(RBD)の17アミノ酸がACE2と相互作用します。RaTG13のゲノム配列全般はSARS-CoV-2と非常に似通っていますがRaTG13のRBDのそれら17アミノ酸のうちSARS-CoV-2と一致するのはわずか11のみであり、hACE2への親和性はごく僅かです2,4)。新たな研究でEloit氏らはインドシナ半島のラオス北部の洞窟のコウモリ645匹の血液、唾液、糞/肛門、尿を調べ、RaTG13を含む今まで知られているどのウイルスよりもSARS-CoV-2に似ていてSARS-CoV-2と同様にhACE2を介してヒト細胞に侵入しうるコロナウイルス3種を発見しました2)。それらウイルス3種のRBDはRaTG13とは対照的にSARS-CoV-2のそれとアミノ酸配列が1つか2つしか違わず、流行しはじめの頃のSARS-CoV-2株と同様に手際よくhACE2に結合しうることが示されました。また、3種のうちの1つ・BANAL-236のスパイクタンパク質を導入した代理ウイルス(pseudovirus)はhACE2発現ヒト細胞に侵入することができ、その侵入にはhACE2を必要としました。代理ウイルスではなくBANAL-236を細胞培養で増やすことはすでに実現しており、これからはBANAL-236そのものの病原性が動物実験で検討される予定です1)。SARS-CoV-2が研究所の人為的産物ではないかと疑う向きがありますが、hACE2を介してヒト細胞に侵入しうるコロナウイルスがコウモリから今回同定されたことはSARS-CoV-2の自然発生をいっそう物語っています。しかし、まだわからないこともあります。たとえば今回ラオスで見つかったコロナウイルスのスパイクタンパク質にはヒト細胞のプロテアーゼ・フリン(furin)による切断部位(フリン切断部位)がありません。フリン切断部位はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質には存在し、ヒト細胞への侵入をより容易にすることが知られています。フリン切断部位は調べたコウモリの数が不十分で見つからなかったのかもしれませんし、コウモリから別の動物への過渡期、あるいは人間界を巡りはじめて間もない頃にウイルスに備わった可能性もあります2)。東南アジアのコウモリやその他の野生動物のさらなる調査が多数進行中であり1)、それらの取り組みでSARS-CoV-2の起源の疑問がさらに解消していくでしょう。参考1)Closest known relatives of virus behind COVID-19 found in Laos / Nature2)Coronaviruses with a SARS-CoV-2-like receptor-binding domain allowing ACE2-mediated entry into human cells isolated from bats of Indochinese peninsula. Research Square. 2021 Sep 16.3)Zhou P,et al. Nature. 2020 Mar;579:270-273.4)Liu K,et al. Cell 2021 Jun 24;184:3438-3451.

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いよいよ総裁選!医師が希望する次期総裁は?…会員1,000人アンケート

 9月29日、自民党総裁選の開票が行われる。出馬する4氏のうち次期総裁になって欲しい人物や、次期総裁に期待する政策について、会員医師1,000人を対象にアンケートを行った(2021年9月22日実施)。 「出馬を表明した4氏のうち、次の総裁になってほしいのは誰ですか?」との問いには河野 太郎氏(行政改革担当大臣)が54%の支持を集めトップで、続く21%の高市 早苗氏(前総務相)に倍以上の差をつけた。岸田 文雄氏(前政務調査会長)は高市氏と僅差の20%、野田 聖子氏(幹事長代行)は5%と伸び悩んだ。 回答者の勤務先別で見ると、20床以上の病院に勤務する層では20床未満の層よりも河野氏の支持率が高く、高市・岸田両氏の支持率が低かった。年代別で見ると20~30代では河野氏の支持率が60%と高い一方、60代以上は同53%となり、河野氏の代わりに岸田氏の支持率が上がっていた。新型コロナ対策よりも経済政策を優先 「次期総裁について、最も注力すべきとお考えの政策は何ですか?」との問いでは、「経済・財政政策」が43%と最多で、「新型コロナ対策」の33%を10%上回る結果となり、新規感染者数に減少傾向が続き、緊急事態宣言の解除が見込まれる状況において、経済再生への期待が強い状況を反映する結果となった。 「最も注力すべき政策」では、支持する候補別に傾向の違いも顕著となった。河野氏の支持者は「新型コロナ対策」が42%と最多だが、高市氏の支持者は「経済・財政政策」が42%で最多、「外交・安全保障政策」が38%でこれに続き、「新型コロナ対策」は12%に留まった。岸田氏は「経済・財政政策」が52%と4候補の中で唯一過半を占め、野田氏は「新型コロナ対策」が36%で最多ながら、他候補では1%未満の「ジェンダーや多様性」が4%となるなど、強調する政策の違いが現れた。 「新型コロナウイルス感染症対策の中で、最も注力すべきとお考えの政策は何ですか?」との問いには「医療体制の整備、病床確保」「ワクチン・治療薬の開発・確保」がそれぞれ約40%という結果となった。 自由回答には「今回の総裁選は面白い」「初の女性宰相誕生に期待」とのコメントが集まり、久しぶりに白熱する総裁選に注目する声が集まった。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。『いよいよ総裁選!医師が希望する次期総裁は?…会員1,000人アンケート』

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第71回 3回目ワクチン早ければ年内にも/コロナ特例加算9月で廃止

<先週の動き>1.3回目ワクチン、早ければ年内にも医療従事者から開始/厚労省2.コロナ特例加算は今月末で廃止、補助金で代替へ/厚労省3.浸透しないオンライン診療、患者負担が割高で敬遠か4.来年度の診療報酬改定に診療側と支払い側で議論紛糾/中医協5.胃・大腸の進行がん症例増加、がん検診控えの影響か6.病院を選ぶ理由の1位は? 受療行動調査で明らかに/厚労省1.3回目ワクチン、早ければ年内にも医療従事者から開始/厚労省厚生労働省は、22日に自治体向けの説明会を開催し、新型コロナウイルスワクチンの追加接種について、早ければ年内の12月から3回目接種の実施に向けて準備を開始するように働きかけた。追加接種は2回接種完了からおおむね8ヵ月以上経過した人を対象に想定しており、まずは医療従事者から開始となる。高齢者への接種は年明け以降の見通し。ワクチンの種類は2回目までと同じものを基本としながら、別の種類も認めるかはあらためて検討される。(参考)ワクチン3回目接種、年内は医療従事者104万人 高齢者は年明け(朝日新聞)新型コロナウイルスワクチンの接種体制確保について(厚労省)2.コロナ特例加算は今月末で廃止、補助金で代替へ/厚労省厚労省は、特例的に上乗せしていた診療・介護報酬における新型コロナ感染症対策実施加算について、今年9月末までとする方向で、財務省と検討していることが報道された。外来診療で1例当たり50円、入院1日当たり100円などの加算は時限的措置であったため、医療介護団体は10月以降も継続を求める要望書を厚労省に宛てて提出しているが、財務省は「新型コロナの対応に当たる医療機関に限定すべき」として打ち切りを主張していた。このため、特例措置は9月末までが期限となり、今年末までは経過措置として補助金で支援を継続する方針。このほか、新たに発熱外来などの対応を行う医療機関への診療報酬の加算も検討されている。(参考)診療や介護報酬、特例打ち切りへ コロナ患者非対応も加算に批判(日経新聞)新型コロナ 特例加算、月末で廃止 診療・介護報酬 補助金で代替(毎日新聞)コロナ対応の特例延長で要望書続出 日医、四病協、日看協や全老健など医療・介護団体(CBnewsマネジメント)3.浸透しないオンライン診療、患者負担が割高で敬遠か新型コロナウイルス感染拡大の中、政府によって初診患者についても規制緩和されているオンライン診療について、各医療機関が保険診療の点数が低いために、これとは別に利用料を請求している事例があることを日本経済新聞が報道した。厚労省はオンライン診療を「補完的」と位置付け、診療報酬を低くしているが、医療機関側は患者に対して、システム利用料や通信費の名目で平均約900円の負担を求めているという。また、日本医師会も対面での診療が基本とする姿勢を崩していない。政府の規制改革推進会議では、引き続きオンライン診療の規制緩和を求めているが、厚労省には、安全性・信頼性の担保のほか、令和4年度の診療報酬改定も含めた議論が求められる。(参考)オンライン診療・オンライン服薬指導に関する検討状況について(厚労省)ネット診療の患者負担が割高 平均900円加算、普及阻む(日経新聞)患者「便利だが」割高敬遠 ネット診療、システム利用コスト 医療機関「対面より手間」(日経新聞)4.来年度の診療報酬改定に診療側と支払い側で議論紛糾/中医協22日に中央社会保険医療協議会・診療報酬基本問題小委員会が開催され、入院医療等の調査・評価分科会の中間とりまとめを基に、2022年度の診療報酬について議論が行われた。入院診療の医療費をめぐって、コロナの影響か前回の診療報酬改定の影響か判断がつかない中、診療現場に大きな影響が出るような改定に診療側は懸念を示すものの、支払い側は、コロナ禍であっても必要と、一般病棟入院基本料など見直すべき課題を列挙した。今後、中医協でさらなる検討を重ね、年内の取りまとめに動く見込み。(参考)診療報酬調査専門組織入院医療等の調査・評価分科会からの報告について(中医協)入院医療の中間とりまとめ受け意見対立、中医協 診療側「病床削減避けるべき」、支払側「やるべきはやる」(中医協)5.胃・大腸の進行がん症例増加、がん検診控えの影響か日本対がん協会は、今年上半期のがん検診受診者数は156万6,022人と、大幅に減少していた去年の同時期に比べて2.2倍に増加したが、感染拡大前の一昨年に比べると17%減少しており、コロナの余波がまだ残っていることを明らかにした。また、横浜市立大学の研究チームは、コロナウイルス感染拡大により、胃や大腸の早期がんの診断者数が減少し、進行がんの症例が増えたと報告しており、検診控えにより、早期がんの診断が遅れ、症状が発現してから発見に至る症例が増えたことも考えられる。今後、各自治体による働きかけが求められるが、自治体もコロナの影響で対応が遅れており、さらなる対策が必要だろう。(参考)がん検診の受診者が回復傾向 コロナ禍前には及ばず 日本対がん協会(朝日新聞)自治体実施のがん検診受診者 去年より回復もコロナ前に戻らず(NHK)進行した大腸がん増加、患者調査 コロナで検診、受診控え(東京新聞)6.病院を選ぶ理由の1位は? 受療行動調査で明らかに/厚労省厚労省が3年おきに行なっている受療行動調査の結果が公表された。全国の一般病院484施設を利用する患者(外来・入院)約16万人を対象として、10月に調査を実施。受診した医療機関を選んだ理由が「ある」と回答した人のうち、外来・入院ともに「医師による紹介」が最多で、外来は38.7%、入院は55.5%だった。次いで、外来では「交通の便が良い」が27.5%、入院では「専門性が高い医療を提供している」が26.5%であった。また、外来で「予約をした」患者は77.4%となっており、前回(2017年)と比べて6.0ポイント上昇していた。全体として、医療を受けた病院に「満足」と回答した患者は、外来64.5%、入院68.9%であり、「不満」と回答した患者は、外来3.8%、入院4.9%だった。病院の種類別で「満足」と回答した患者は、外来・入院ともに特定機能病院が最も高かった。(参考)令和2(2020)年受療行動調査(概数)の概況(厚労省)20年の受療行動調査結果を公表 厚労省(CBnewsマネジメント)小規模病院や療養病床持つ病院で「社会的入院」が増加、背景を地域ごとに探る必要あり―2020年受療行動調査(Gem Med)

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日常診療で認知機能を確認する方法【コロナ時代の認知症診療】第7回

患者さんの認知機能レベルをどうチェックする?私が医者になりたてで整形外科で働いていた頃、記憶をどうチェックする? に関する思い出がある。当時から整形外科では今でいうフレイル、ロコモの患者さんが溢れていたから、必然的に高齢患者さんが多かった。その中には、指導が頭に入っている様子がなかったり、予約を間違えたりする高齢者もいる。そこの院長は、看護師に依頼して、ちょっとしたタイミングでさりげなく「ところで今日は何月、何日でしたっけ?」と尋ねてもらっていた。確かにこれは認知障害の度合いを知るのに適切な問いである。もっとも尋ねられる方の中には、怪訝な表情を浮かべる人もいた。多くの臨床家は自然とその認知機能レベルを知りたいと思う患者さんに少なからず遭遇するようだ。実際、以前から認知症を専門としない医師からよく尋ねられる質問に、「試されていると思われないように、記憶の程度をチェックするのにいい問いはないか」というものがある。もっとも自分には、これという妙案、名回答がなかった。患者さんにオリンピックについての質問をしてみると…ところが、期間限定だろうがとてもいい質問を見つけた。今回の東京オリンピックとパラリンピック2020関連である。まず「オリンピックやパラリンピックは見ましたか?」と問う。NHKなど終日放映している状態だったから、コロナ禍の開催断固反対の人以外は、たいていが見ていたと思うし、家族の証言もそのようだ。ところが「あまり見なかった」という中途半端な回答は結構多い。このような回答は怪しい、軽度から中等度の認知症がある可能性がある。ときに「東京オリンピックなんてものがあったの?」という回答もある。次に「一番記憶に残ったのはなに?」と尋ねるが、「男女ペア卓球の金メダル」とか「今メダル2つの女子水泳」などとしっかり答えられたら認知機能はまず大丈夫だろう。なおこうした人の多くが、「オリンピック以上にパラリンピックに感動した」と加えられることは印象深い。一方で、軽度から中等度に多いのは「オリンピックの花マラソンですね」とか「どの選手もよく頑張った」などとどこにでも当てはまりそうな回答だと思う。あるいは「内村の金メダル」(リオデジャネイロでは?)、「富士山のトビウオ」(なに!)などもときにある。いずれにせよ、長谷川式テストなどの得点と回答ぶりがよく相関して、なるほどと頷いてしまう。若年性認知症、日本にどのくらいの患者さんがいるかパラリンピックは参加要件が細分化されていることを筆者は今回の大会で知った。知的障害の部があることを知ったときに、認知症とくに若年性認知症の人々による聖火リレーを思い出した。当院に通院中の若年性アルツハイマー病の方で過去にオリンピックに出場、今回は聖火ランナーを務めた男性がいる。そのときの写真を本当に嬉しそうに生き生きと、当方がびっくりするくらい詳細に説明してもらった。ここから連想が及んだ若年性認知症(EOD)の問題に触れてみたい。EODの有病率全国調査はこれまでに3回行われている。最初が1997年、第2回は2009年に報告されている。最近では、2017~19年度に実施した日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業によって実施した若年性認知症の調査において、わが国の若年性認知症有病率は18~64歳人口10万人当たり50.9人、若年性認知症者の総数は3.57万人と推計された1)。結果として、どれもだいたい同じ数の報告がなされておりとくに増減はない。第1,2回の報告では原因疾患として血管性認知症が最多とされ日本のEODの特徴と思われた。しかし第3回調査では欧米のようにアルツハイマー病が最多とされている。男女差はあまりない。さて当院に定期的に通院される患者さんの中には、このEODの方が50名はいらっしゃる。中には今も現役で会社員をされ一人で通院ができている患者さんも少なくない。こうした例では、必ず現在および今後の勤務形態や労働条件が問題になる。要は、「仕事をしたい、それによって所得を得たい」当事者・その家族と、「今の労働効率とそれにふさわしい給与」を考える企業側とのコンフリクトである。次回は、こうした問題を深堀してみたい。参考文献・参考情報1)粟田 主一他,若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システム

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ファイザー製ワクチンの6ヵ月の有効性と安全性、第II/III相試験データ/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のBNT162b2ワクチン(Pfizer-BioNTech製)について、6ヵ月間でワクチンの有効性は徐々に低下するものの安全性プロファイルは良好であり、COVID-19予防効果は高い。米国・ニューヨーク州立大学のStephen J. Thomas氏らが、現在進行中の国際共同無作為化観察者盲検プラセボ対照第II/III相試験の結果を報告した。BNT162b2ワクチンは現在、世界各国で承認、条件付き承認または緊急使用が正式に認められているが、最初の認可の時点で接種後2ヵ月を超えるデータは得られていなかった。NEJM誌オンライン版2021年9月15日号掲載の報告。16歳以上の4万4,165例、12~15歳の2,264例で、プラセボと比較 研究グループは2020年7月27日~10月29日の期間に、152施設(米国130、アルゼンチン1、ブラジル2、南アフリカ4、ドイツ6、トルコ9)において、健康または安定慢性疾患を有する16歳以上の4万4,165例を、また2020年10月15日~2021年1月12日の期間に米国の29施設にて12~15歳の2,264例を、BNT162b2ワクチン群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、1回30μgを21日間隔で2回接種した。 安全性評価項目は、接種後7日間の局所反応・全身性イベント・解熱剤の使用、初回接種後から2回目接種後1ヵ月後までに発生した自発的な有害事象、初回接種後から2回目接種後1ヵ月後および6ヵ月後までに発生した重篤な有害事象とし、少なくとも1回接種を受けた16歳以上の参加者を対象に解析した。 有効性評価項目は、2回目接種後7日以内の血清学的またはウイルス学的SARS-CoV-2陰性参加者、および過去の感染の有無に関係ない参加者における、2回目接種後7日以上経過後の検査で確認されたCOVID-19感染で、少なくとも1回接種を受けた12歳以上のすべての参加者を解析対象とした。BNT162b2ワクチンの6ヵ月間の有効性は91.3%、安全性は良好 BNT162b2の安全性は良好で、有害事象プロファイルは許容可能なものであった。重篤な有害事象や試験中止に至った有害事象はほとんどなかった。 初回接種後以降、BNT162b2群で2万1,926例中15例(0.068%)、プラセボ群で2万1,921例中14例(0.064%)の死亡が認められたが、死因は両群で一致しており、BNT162b2に関連した死亡はなかった。 SARS-CoV-2感染陰性で評価可能な12歳以上の4万2,094例において、データカットオフ日(2021年3月13日)までに2回目接種後7日以上経過後のCOVID-19発症例は、BNT162b2群で77例、プラセボ群で850例であり、有効率は91.3%(95%信頼区間[CI]:89.0~93.2)であった。 期間別に見たBNT162b2の有効率は、2回目接種後7日~2ヵ月未満で96.2%(95%CI:93.3~98.1)、2回目接種後2~4ヵ月未満で90.1%(86.6~92.9)、2回目接種後4ヵ月~データカットオフ日までで83.7%(74.7~89.9)であった。 重症のCOVID-19に対するBNT162b2の有効性は、96.7%であった(95%CI:80.3~99.9)。 本試験ではサブグループ別の有効性を評価する検出力はなかったが、年齢、性別、人種・民族、併存疾患の有無、国別のサブグループにおける2回目接種後のBNT162b2の有効性は、全体集団とおおむね一致していた。また、懸念されているSARS-CoV-2変異株B.1.351(またはβ株)が確認された南アフリカにおいて、ワクチン有効性は100%(95%CI:53.5~100)であることが示された。

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第76回 総裁選でも気になるコロナ対策、4氏の具体策は現実的?

最近はテレビのニュースの時間になると同じ4人の顔を見ることが増えてきた。言わずと知れた自民党総裁選に出馬した岸田 文雄氏、河野 太郎氏、高市 早苗氏、野田 聖子氏の4人のことである。ちなみにこの順番で表記したのは男尊女卑でも何でもなく、単純に50音順である。総裁選後には任期満了に伴う衆議院選挙が控えているが、現在の衆議院で政権与党の自民党と公明党の占める議席が465議席中304議席(竹下 亘氏の死去による欠員分を除く)であり、現下の情勢では多少議席を減らしたとしても与党側が過半数を大きく割る可能性はほぼないと思われる。つまるところ、この総裁選の勝者が当面の次期総理大臣となることは99%確実である。実は過去の本連載でも取り上げたことがあるが、この総裁選立候補者の政策を新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)対策に限定して俯瞰してみたい。ちなみに4氏のうち野田氏以外は全員が総裁選用の特設サイトを開設している。岸田氏:声をかたちに。信頼ある政治河野氏:日本を前にすすめる。温もりのある国へ高市氏:政策9つの柱これと、各人の著書、具体的には岸田氏の「岸田ビジョン 分断から強調へ」(講談社)、河野氏の「日本を前に進める」(PHP新書)、高市氏の「美しく、強く、成長する国へ。―私の『日本経済強靱化計画』―」(WAC)、野田氏の「みらいを、つかめ 多様なみんなが活躍する時代に」(CCCメディアハウス)や、日本記者クラブでの総裁選候補討論会の動画、テレビ朝日での全員出演動画などを参考に各人の主張を紹介するとともに、そこに若干の論評を加えてみたい。ちなみに予め言っておくと、私がこれら候補に関する主張や報道を読んで、各人の底流に流れる政治思想を「○○主義」と名づけるなら、岸田氏は「協調主義」、河野氏は「合理主義」、高市氏は「国粋主義」、野田氏は「女性活躍主義」と表現する。さてその各人の考える新型コロナ対策だが、実はテレビ朝日への出演では、番組サイドが「何をコロナ対策の一丁目一番地と考えるか?」を尋ねている。岸田氏は「病床・医療人材の確保を徹底」を挙げた。これについてはこれまでの岸田氏の主張やそれにかかわる報道から解説が必要だろう。まず、岸田氏は今後もワクチン接種を推進して行く中で11月には希望者全員のワクチン接種が終了し、経口治療薬の登場までの間隙を縫って第6波が来ることも想定し、そこに向けた対策として病床・人材の確保を主張する。この点は岸田氏の政策集の『コロナ対策 岸田4本柱』にもあるように、重症者は国公立病院のコロナ重点病院化、一般的な発熱患者や新型コロナの自宅療養者は開業医で対応し、この間をつなぐものとして政府による野戦病院的臨時医療施設の開設や借り上げした大規模宿泊施設などを中間設置して第6波に備えるというもの。基本は現状とあまり変わらないが、「病床・医療人材の確保を徹底」とは、要はこの中間施設のハードとソフトの確保を謳っていると思われる。もっとも東京都の例を挙げると、開設を予定した臨時医療施設の一部で稼働が遅れた主な原因が人員確保に手間取ったゆえだった。このことを考えると、それをここ2~3ヵ月で解決するのは容易ではない。そして今回のコロナ禍では第5波まで経験しながら、感染拡大局面で病床がひっ迫することについて世論からは一貫して疑問を呈せられてきた。この点の解決策については日本記者クラブでの記者会見で各人が考えを表明している。「臨時病院の設置も含め非常時の指揮命令系統と権限というのは、これは見直さなければいけない。今回痛切に感じたのは、ベッドはあるけれども高度な治療ができる人材やチームがいないこと。また、重症から回復した人を臨時病院や軽症・中等症の病床に移していくことがうまく動かなかった。そこはやはり国や都道府県の調整をしなければならなかった。国と都道府県、どちらが何をやるのかというのを決めなければいけない」(河野氏)「病床確保については国が総合調整機能を持って調整することになっているが、将来的により強力な調整機能を発揮のために新たなこの工夫が必要になる。一方的に強制すると現場の反発を買ってしまう。平素から診療報酬等の上乗せで優遇を与える『感染症危機中核病院』のようなものを設置し、危機の際には国のコントロールによって 半強制的にこうした病院に病床を提供してもらい、それに応じない場合はペナルティも考えていく仕掛けも必要」(岸田氏)「国民皆保険制度の下である以上、緊急事態では国や地方自治体が医療機関や医療従事者に対して、病床確保等の必要な対応を命令する権限を持つことも含めて法案化を考えたい」(高市氏)「急変時に医療の手が届かないことを考えると自宅療養という仕組みはもう無理。入院できないならば危機的な時だけ国がサブホスピタルを作る必要がある」(野田氏)4氏のコロナ政策、主張あれこれテレビ朝日で「コロナ対策一丁目一番地」として河野氏が主張したのは「政府による製造支援も念頭に置いた、簡易検査キットの低コストでの大量調達と供給。薬局での販売解禁」である。簡易検査はたぶん抗原検査を意味していると思われる。河野氏は「どんどん検査をすることで、見える景色が大きく変わってくると思います」と述べているが、どのような着地点を持ってこの主張をしているかが不明である。第5波では膨大な数の検査陽性者が発生したことで、保健所も医療機関もキャパシティーをオーバーし、半ば機能不全に陥った例もある。実際、河野氏が言う簡易検査を不特定多数に行った場合、かなりの陽性者が判明するはずで、そうした人を自宅待機にするのか、その場合誰がどうフォローアップするのかなど抱えている課題は多い。ちなみに岸田氏も『コロナ対策 岸田4本柱』で「予約不要の無料PCR 検査所の拡大と、簡易な抗原検査など在宅検査手段の普及促進」を謳っているが、PCR検査ともなるとそこにも人材の配置が必要になるため、前述の河野氏のところで指摘した課題に加え、再び人材確保という壁にぶち当たる。一方、高市氏と野田氏がテレビ朝日で第一に主張したのは、ともに感染者の重症化を予防するための「治療薬の確保」。ちなみに高市氏はわざわざ「国産の治療薬」としていたのが、彼女らしいとも言える。日本記者クラブでの討論会では「ワクチンまた治療薬の国産化に向けてとくに生産設備に対するしっかりとした投資(支援)をする」との考えも示している。この点は政策集などで河野氏も「治療薬と国産ワクチンの確保」を主張し、岸田氏も年内の治療薬登場に期待するコメントを日本記者クラブでの会見で述べている。現在、第III相試験中と最も開発が先行しているmolnupiravirは外資系のメルク社のものであり、それも年内中の上市については未知の部分は残されている。そして国産の治療薬、ワクチンに関しては、塩野義製薬のプロテアーゼ阻害薬が第I/II相、第一三共のmRNAワクチン、塩野義製薬の組み換えタンパクワクチン、KMバイオロジクスの不活化ワクチンのいずれもがやはり第I/II相と初期段階に過ぎない。アンジェスのDNAワクチンが第II/III相だが、最近になって高用量での第I/II相を開始したことから考えると、第II/III相まで進行した当初の用量での臨床試験は芳しいものとは言えなかったと見る向きもある。いずれにせよ国産化まではまだ相当時間を要する見通しで、この点は各人ともやや楽観的過ぎるともいえる。なおワクチン接種に関しては各人とも推進の方針。この中で河野氏はワクチン担当相ということもあってか、3回目のブースター接種開始への意欲を示したほか、来年以降に現行のmRNAワクチンが生後6ヵ月以上に適応拡大が進む見通しについて言及。野田氏も現在ワクチン接種対象外の11歳以下の小児に対し、希望者へのワクチン接種推進を訴えている。ちなみに野田氏のこの主張の背景には2010年にアメリカで卵子提供を受け妊娠、2011年1月に出産した障害児の息子を抱えることも念頭にあっての発言だろうと推察される。コロナの先を見据える女性陣その意味ではテレビ朝日での4氏討論の際は次なる感染拡大時のロックダウンの可否について、野田氏だけが否定的な見解を示した。その理由については現時点で法制度上不可能なこと、ワクチン接種、病床確保などそれ以前に行うべきものがあると挙げながら、「人がウイルスを運んでいるようなものですが、人は生きていくために動かなければいけません。とくに子供は動き回らなければいけないので、そこは冷静に判断していかなければいけません」と述べている。やはりここでも「子供」が出てくるところは少子化対策に熱心な野田氏らしい視座とも言える。一方、高市氏と河野氏は、どちらかというとより強力な新興感染症が登場することを念頭に法令上の整備が必要という考え。岸田氏はいわゆる外出禁止やそれに伴う刑事罰などを含めた厳密な意味でのロックダウンは日本に合わないとして、「ワクチン接種証明や陰性証明を組み合わせて、人流抑制をお願いする日本型のロックダウン政策」を述主張する。岸田氏は「電子的なワクチン接種証明の積極活用」も政策として掲げていることから、先日政府が発表した行動制限緩和策の「ワクチン・検査パッケージ」に何らかの法的な位置付けを与えて人流抑制に活用しようというものらしい。菅首相にチクリの男性陣今回の自民党総裁選で菅首相の不出馬というサプライズが起こる前から一番手で立候補に名乗りを上げていただけあって、岸田氏の場合、政策集に書かれていることは実現の可否は別にして充実している。その中で公衆衛生上の危機発生時に国・地方を通じた強い司令塔機能を有する「健康危機管理庁(仮称)」と「臨床医療」「疫学調査」「基礎研究」を一体的に扱う「健康危機管理機構(仮称)」の創設を謳っている。また、菅首相の対応をやんわり批判した発言も目に付く。今回のコロナ対応について岸田氏は「国民への丁寧な説明」と「楽観的な見通し」が課題だったと各所で指摘している。この点について日本記者クラブでの公開討論会では「国民の協力が必要な中では納得感のある説明、(政策決定の)結果だけではなく、そこに至るプロセスなどを丁寧に説明する必要があった」と指摘している。これは菅首相による複数回の緊急事態宣言の発出時のことが念頭にあることは明らかである。同時に別の場所では、楽観的な見通しについて緊急事態宣言解除の時期などを挙げている。もし、岸田氏が自民党総裁となり、その後総理大臣となることがあったら、この点がどの程度実現できるかは注視したいところである。一方、河野氏も国民への説明については自らの政策集で「新型コロナウイルスについて、最新の科学的知見に基づいたわかっていること、わからないこと、できること、できないことをしっかりと国民と共有し、謙虚に、わかりやすい対話をしながら決めていきます」としている。時にはスタンドプレーになりがちな河野氏のことは本連載でも指摘してきたが、一大臣と総理大臣では求められるものの質と許容されることの幅も異なってくる。さてさて最終的にどうなることやら。個人的にはかなり注目しているところである。

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ファイザー製ワクチン、60歳以上で3回目接種の効果は?/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンBNT162b2(Pfizer/BioNTech製)について、2回接種を5ヵ月以上前に完了した60歳以上の高齢者に対する3回目ブースター接種は、COVID-19感染および重症化リスクが大幅に低下することを、イスラエル・Weizmann Institute of ScienceのYinon M. Bar-On氏らが報告した。イスラエルでは2021年7月30日に、5ヵ月以上前にBNT162b2の2回接種を完了した60歳以上の高齢者への、3回目接種が承認されている。研究グループは、追加免疫のデータを収集するため3回目ブースター接種を行った同国約114万例の高齢者を対象に試験を行った。NEJM誌オンライン版2021年9月15日号掲載の報告。ブースター接種後4~6日、12日以上経過の有効性も比較 研究グループは2021年7月30日~8月31日に、イスラエル保健省のデータベースを基に、60歳以上でBNT162b2の2回接種を5ヵ月以上前に完了した113万7,804例を対象に、3回目ブースター接種の予防効果を検証した。 主要解析では、COVID-19感染率と重症化率について、ブースター接種後12日以上経過者(ブースター群)と、ブースター非接種者(非ブースター群)を比較した。2次解析では、ブースター接種後4~6日群と、12日以上経過群について同発生率を比較した。 すべての解析は、交絡因子補正後Poisson回帰分析を用いて行った。ブースター接種後12日以上群、4~6日群に比べ感染率5倍超低下 ブースター群のCOVID-19感染率は、非ブースター群に比べ11.3倍低かった(補正後率比:11.3、95%信頼区間[CI]:10.4~12.3)。重症率についても、ブースター群は非ブースター群に比べ、19.5倍低かった(補正後率比:19.5、95%CI:12.9~29.5)。 2次解析では、ブースター接種後12日以上経過群が、4~6日経過群に比べ、感染率は5.4倍低かった(率比:5.4、95%CI:4.8~6.1)。

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第76回 「ブレインフォグ」に見るCOVID-19後遺症の社会的影響

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を巡り、後遺症に関するデータが徐々に蓄積されてきている。後遺症として確認されている症状は、200種類以上にのぼるという。睡眠障害などの精神神経症状、筋力低下などの全身症状、呼吸苦などの呼吸器症状、胃腸障害などの消化器症状、そして味覚障害や嗅覚障害、脱毛などだ。中でも、比較的若い世代で増えていると言われているのが「ブレインフォグ」だ。脳に霧がかかったような認知機能障害の一種で、主な症状としては記憶障害、集中力不足、精神疲労、不安などの症状が挙げられる。コロナ感染により、脳に炎症が起きてアルツハイマー病に起こるような変化が脳細胞に生じ、脳機能が低下、認知機能障害などが起きると見られている。日常生活や勤務にも大きな影響社会的・経済的な影響も大きい。昨年8月にCOVID-19の症状が出た30代女性は、何か作業をするとすぐに頭痛が生じ、店で考えながら買い物をしただけで疲れて寝込むこともあるという。今年5月にCOVID-19の症状が出た40代女性は、文章が書けなくなったり、文字は読めても内容が理解できなくなったりして、会社を退職した。フランスの大学病院が実施したコロナ入院患者の調査によると、患者の38%が入院から4ヵ月経過後も認知障害を認める結果が出た。一方、キングス・カレッジ・ロンドンが2020年12月~2021年7月までの約220万人のデータを分析したところ、ワクチンを2回接種した場合、後遺症リスクが49%減少したという。また、LongCovidSOSによると、4月にワクチン接種を受けた約900人を調査したところ、後遺症があっても57%が改善したという。後遺症のメカニズムはどの症状も解明途上にあるが、これらの調査によると、コロナ後遺症の転帰に関しては「ワクチン接種」が1つの重要なカギを握るようだ。「コロナ後遺症外来」を設けている都内のクリニック院長は「COVID-19は男性のほうが重症化しやすいと指摘されているが、後遺症については20〜40代の女性が多い。世界的に見ても、女性は男性の約1.5倍多くなっている。女性に自己免疫系疾患が多いことと関連しているのかもしれない」と話す。6ヵ月後も3割超で症状が残存東京・世田谷区が今月公表した、コロナ感染者を対象に今年7〜8月に実施した調査によると、回答があった3,710人のうち48.1%が「後遺症がある」と回答。年代別では10代で30%、10歳未満でも14%など、若い世代や子供でも後遺症が見られることが明らかになった。全体で最も多かったのは嗅覚障害(54%)で、次いで全身の倦怠感(50%)、味覚障害(45%)などが続き、ブレインフォグと見られる集中力低下(24%)や記憶障害(10%)を訴える人もいた。また厚生労働省のアドバイザリーボードは、2020年1月~2021年2月に入院した525症例を対象にした研究の中間報告を今年6月に公表。退院時までに疲労感・倦怠感、筋力低下、息苦しさ、睡眠障害、思考力・集中力の低下などの症状があった患者の3割以上で、6ヵ月後にも同じ症状が認められた。世田谷区、厚労省の調査・研究のいずれにも、記憶障害や思考力・集中力が低下するブレインフォグの症状が認められる。症状の類似性から筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)との関連も指摘されているように、COVID-19の後遺症はさまざまな要因の症状が同時多発的に起きている。しかも影響が多岐にわたる懸念があり、原因解明に向けたサーベイランスや、後遺症治療のための地域医療体制も必須である。一命は取り留めても、その後の社会生活を困難なものに変える懸念をはらむコロナ後遺症。長期的経過を注意深く見ていく必要がありそうだ。

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