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コロナvs.インフル、年齢別死亡リスクを比較/奈良医大

 新型コロナウイルスのオミクロン株は、デルタ株と比較して重症化リスクが低下したとされ、季節性インフルエンザとの臨床経過を比較することへの関心が高まっている。奈良県立医科大学は、8月4日のプレスリリースで、同大学の野田 龍也氏らによる、日本における季節性インフルエンザとオミクロン株流行期の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による人口1,000万人当たりの年間死亡者数について、複数の公開データベースを用いて年齢別に比較した研究を発表した。その結果、70歳以上の高齢者ではCOVID-19による年間死者数が有意に多かったのに対して、20~69歳では、COVID-19の年間死亡者数のほうがインフルエンザのよりも多いものの、その差が小さかったという結果が得られたという。なお本研究は、日本臨床疫学会発行のAnnals of Clinical Epidemiology誌オンライン版2022年8月3日号に早期公開された。インフルエンザと新型コロナの死亡者数の差は69歳以下では大きくない 本研究では、オミクロン株が主流となった2022年1月5日~7月5日の26週間、および高齢者のワクチン接種が80%を超えた2022年3月30日~7月5日の14週間におけるCOVID-19関連の年齢別死亡者数を、厚生労働省の公開データベースから特定されている。COVID-19関連の累計死亡者数は、26週間で1万3,756例だった。COVID-19の第6波の流行期の死亡者数を基に、その流行期と同水準の死亡者数が1年間にわたり発生するという想定で年間死亡者数が推計されている。 一方、新型コロナパンデミック以前は、国内での季節性インフルエンザによる毎年の累積推計受診者数は約1,200万人であったが、新型コロナ流行以降は受診者数が大きく減少している。そのため本研究での季節性インフルエンザ関連の年齢別死亡者数は、新型コロナパンデミック以前の2017年9月1日~2019年8月31日の期間、厚生労働省が構築しているレセプト情報・特定健診等情報データベースから、COVID-19による1,000万人当たりの年齢別年間死亡者数と比較対象となる数値が算出されている。同期間でのインフルエンザ関連の累計死亡者数は2万2,876例だった。 季節性インフルエンザと新型コロナの年間死亡者数について比較した主な結果は以下のとおり。・COVID-19の26週間における分析では、1,000万人当たりの年齢別年間死亡者数をCOVID-19とインフルエンザで年齢別に比較すると、最小値は共に10~19歳で11例vs.15例(死亡者数の差:-5、95%信頼区間[CI]:-16~7)、最大値は共に80歳以上で1万7,192例vs.7,531例(同:9,661、95%CI:9,285~1万36)となった。・COVID-19の26週間における分析では、1,000万人あたりの年齢別年間死亡者数0~9歳ではCOVID-19のほうがインフルエンザよりも30例少なく、10~29歳ではその差が不確実だった。30~69歳では、COVID-19による死者数のほうが20~439例多くなり、70歳以上では1,951~9,661例多くなっていた。・高齢者のコロナワクチン3回目接種率が高かった2022年3月30日以降14週間における分析でも、おおむね26週間の分析と類似の結果が得られた。 研究チームは本結果について、インフルエンザ関連の死亡者数は、レセプトの特性上、院外死亡のケースが計上されない可能性があるが、COVID-19では院外死亡例も多くが把握されやすいといった理由から、COVID-19の年間死亡者数が多めに算出されやすいとしている。しかしその想定下でも、新型コロナとインフルエンザの年間死亡者数の差は、69歳以下では大きいものではなく、70歳以上で有意に大きかったため、高齢者を優先した感染対策が重要となることが示唆されている。

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第113回 新型コロナの全数把握見直し、定点サーベイランスに移行も検討/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナの全数把握見直し、定点サーベイランスに移行も検討/厚労省2.大学病院医師、時間外労働1,860時間超過が多いのは産婦人科/厚労省3.感染症法改正で、感染症に初期対応する病院に減収の補償へ/厚労省4.抗原定性検査キットは医療機関へ優先供給を/日本医師会5.大学病院のICU医師が一斉退職/東京女子医科大学6.マイナンバー保険証、導入補助金期限に注意/厚労省1.新型コロナの全数把握見直し、定点サーベイランスに移行も検討/厚労省新型コロナウイルス感染者の全数把握について、医療機関側の負担が大きいとする意見が出されているのに対して、特定の医療機関からの報告によって感染状況を監視する「定点把握」を導入することを検討し出したことを厚生労働省は明らかにした。新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの座長でもある国立感染症研究所の脇田隆字所長は、18日の記者会見で定点サーベイランスについて厚生労働省や感染症研究所が検討を行っていることを明言した。また、8月19日の衆院厚労委員会の閉会中審査で、加藤厚労大臣は全数把握の見直しについて、時期は明言しなかったが早急に結論を出すと答弁した。(参考)コロナ「定点把握」厚労省が検討 特定医療機関のみ 全数把握見直し(毎日新聞)コロナ感染者の全数把握見直し「早急に」厚労相(日経新聞)新型コロナの全数把握見直し 厚労相「速やかに対応」 8月中に(毎日新聞)2.大学病院医師、時間外労働1,860時間超過が多いのは産婦人科/厚労省厚生労働省は、8月17日に社会保障審議会医療部会を開催し、今年3月から4月に行った「医師の働き方改革の施行に向けた準備状況調査」の結果を公表した。この中で、大学病院の本院および防衛医科大学校病院のうち、副業・兼業先も含めた時間外・休日労働時間は、82病院中20病院(24%)において把握できているとの結果だった。また、時間外・休日労働時間数が年通算1,860時間相当超の医師数が多い診療科は上から順に外科、内科、産婦人科であり、その割合が多い診療科は産婦人科7.0%、脳神経外科5.8%、外科5.1%の順番だった。2024(令和6)年4月の医師の時間外労働規制の強化を踏まえ、医師労働時間短縮計画の策定を本格化させることが必要としている。(参考)医師の働き方改革の施行に向けた準備状況調査 調査結果(厚労省)1,860時間超の医師割合、最も高いのは産婦人科 厚労省が大学病院の調査結果を医療部会に報告(CB news)大学病院勤務医、「時間外1,860時間超」は2.4%(日経メディカル)2024年からスタートする「医師の働き方改革」とは?(DIME)3.感染症法改正で、感染症に初期対応する病院に減収の補償へ/厚労省厚生労働省は8月19日に社会保障審議会医療保険部会を開催し、感染症法改正について提案した。新型コロナウイルス感染症の拡大を反映して、感染症対策を強化することとし、通常医療を制限して感染病床を確保する必要が生じたときに、早期の受け入れなど初期対応を行った医療機関の減収分を補償することとした。これにより、あらかじめ自治体と協定を結んだ公立、公的病院などがスムーズに患者受け入れが行えるようにする。(参考)感染症法の改正について(厚労省)感染症「協定締結医療機関」の減収補償へ 流行初期対応などで、厚労省(CB news)病院減収分を埋め合わせ 感染症の初期対応時 厚労省が制度案(日経新聞)新興感染症「初期」対応する中核病院などに対し、公費や保険料で「減収補填」を行ってはどうか-社保審・医療保険部会(1)(Gem Med)4.抗原定性検査キットは医療機関へ優先供給を/日本医師会日本医師会の松本吉郎会長は8月19日、加藤勝信厚労大臣と面談し、6項目からなる「今後の感染拡大を踏まえた今後の対応に関する要望書」を手渡した。この中で、OTC化をすすめるとしている新型コロナウイルス感染症の抗原定性検査キットにつき、医療機関に優先的に供給するように依頼した。このほか、HER-SYSについては、医療機関の負担軽減のため入力項目削減に加え、重症化リスクが高い患者を捕捉する機能を維持しながら、さらに作業効率化につなげるように改善を求めた。(参考)抗原定性検査キット、医療機関へ優先供給を 日医会長が厚労相に要望書手渡す(CB news)日本医師会 松本会長 加藤厚労相と会談 新型コロナ対策で要望(NHK)今般の感染拡大を踏まえた今後の対応に関する要望書提出について(日医on-line)5.大学病院のICU医師が一斉退職/東京女子医科大学東京女子医科大学病院のICUに勤務する集中治療科の医師9名が一斉に退職したことを文芸春秋社はオンラインで報じた。学校法人 東京女子医科大学は2014年2月に耳鼻咽喉科において、術後に人工呼吸中の小児に禁忌のプロポフォールを大量投与したために死亡した事故をきっかけに、特定機能病院を2015年に取り消されていた。その後、小児集中治療部門の経営強化が行われたが、今年の2月に小児集中治療室(小児ICU)の医師の離職が報道されたばかり。今回のICUの医師の一斉退職については、詳細は不明だが、今後、注目を浴びることになりそうだ。(参考)東京女子医科大学病院のICU医師9人が一斉退職「ICU崩壊状態」で移植手術は中止か(文春オンライン)東京女子医科大学病院の「ICU崩壊状態」を招いた、患者の命を軽視した経営方針と恐怖政治(同)女子医大が小児治療「最後の砦」解体へ 再発防止誓ったのに、わずか半年で撤退方針(東洋経済オンライン)6.マイナンバー保険証、導入補助金期限に注意/厚労省厚生労働省は、現在、データヘルスの集中改革プランを進めているが、全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大のためにマイナンバーを利用を推進しており、これにより電子処方箋のシステム構築や、マイナポータルからの特定健診結果の閲覧も進めている。医療機関に対しては、電子カルテ情報共有のために、来年の4月からオンライン資格確認などシステム導入を原則義務化するとしている。オンライン資格確認などシステム導入が遅れてしまうと、医療機関などでは保険指定が取り消されることになりかねないため、中医協でも診療側医院からは救済措置を求める意見が出されたが、支払側委員からは「やむを得ない事情があるとは言えず、救済措置の対象にすべきでない」と反論が出されるなど、診療機関側は遅滞なく対応することが求められている。(参考)オンライン資格確認等システム導入の経費補助を充実、医療機関などは「早期の申し込み、システム改修」に努めよ-厚労省(Gem Med)電子処方箋モデル事業、4地域で10月末開始 厚労省、日本海総合病院・国保旭中央病院など(CB news)電子処方箋の仕組みの構築について(厚労省)

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BA.2.75の免疫回避能、BA.5より低い?/Lancet Microbe

 2021年11月に新型コロナウイルス亜種のオミクロン株が出現後、BA.1、BA.2、BA.2.12.1、BA.2.75(別名:ケンタウロス)、BA.4、BA.5などが世界中で流行している。BA.2.75は2022年6月にインドと日本で確認された新しい変異株で、そのスパイクタンパク質にはBA.2にはない9つの変異がある。今回、シンガポール・Duke-NUS Medical SchoolのChee-Wah Tan氏らが、ヒト血清でBA.5とBA.2.75の免疫回避の程度を調べたところ、BA.2.75とBA.5はワクチン接種やBA.1/BA.2への感染で誘導された免疫を回避すること、BA.2.75の免疫回避能はBA.5より低いことが示唆された。Lancet Microbe誌オンライン版2022年8月10日号に掲載。 本研究では、以下の血清パネルを用いて、武漢株、BA.1、BA.2、BA.2.75、BA.5の免疫回避の程度をシュードウイルスに対する50%中和抗体価(pVNT50s)の幾何平均で比較した。- ファイザー製ワクチン(BNT162b2)2回接種(n=20)- ファイザー製ワクチン3回接種(n=19)- ファイザー製ワクチン2回接種後モデルナ製ワクチン(mRNA-1273)1回接種(n=20)- ファイザー製ワクチン2回接種後オミクロン株に感染(n=19)- ファイザー製ワクチン3回接種後オミクロン株に感染(n=9)- ワクチン未接種でBA.1に感染(n=11)- ワクチン未接種でBA.2に感染(n=8) 主な結果は以下のとおり。・ファイザー製ワクチン2回接種者では、武漢株に対するpVNT50sの幾何平均に比べて、BA.2.75、BA.5を含むオミクロン株全般に対しては低く、26~35分の1だった。・ワクチン3回接種者(3回目にモデルナ製ワクチンを接種した人を含む)、ワクチン2回または3回接種後にオミクロン株に感染した人では、各オミクロン株に対する中和抗体価はワクチン2回接種者より改善したものの、武漢株に対する抗体価より低く、BA.5に対する抗体価が最も低かった。BA.2に対するpVNT50sの幾何平均と比べると、BA.2.75に対しては1.1~1.4分の1、BA.5に対しては2.2~3.8分の1と低かった。・ワクチン未接種でBA.1もしくはBA.2に感染した人は、武漢株、BA.2.75、BA.5に対する中和抗体価が低かった。・BA.1感染者において、BA.1に対するpVNT50の幾何平均と比べると、BA.2.75に対しては10分の1、BA.5に対しては28分の1と低かった。・BA.2感染者において、BA.2に対するpVNT50の幾何平均と比べると、BA.2.75に対しては5分の1、BA.5に対しては7分の1と低かった。 Tan氏らは「重要なのは、BA.2.75がBA.5より後に出現し多くの変異があるにもかかわらず、BA.5より免疫回避能が低いことだ」としている。

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コロナ禍で離婚は増えたのか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第216回

コロナ禍で離婚は増えたのか?pixabayより使用日本では少子高齢化がどんどん進んでおり、このままだとあまり明るい未来が期待できない状況です。COVID-19の流行が結婚と出生の減少を加速させ、離婚までも増加させているのではないかと懸念されています。そんな日本の結婚・離婚・出生について扱った論文が、BMJ Gobal Health誌から発表されました。Ghaznavi C, et al.Changes in marriage, divorce and births during the COVID-19 pandemic in Japan.BMJ Glob Health. 2022 May;7(5):e007866.2011年12月~2021年5月の日本の人口動態統計データを収集しました。コロナ禍を含む任意の月に、有意な過不足が発生していないかどうかを判断するために、Farringtonアルゴリズムを使用して、結婚・離婚・出生数を観察しました。Farringtonアルゴリズムは、アウトブレイク検出法としても広く用いられている手法です。さて、1度目の緊急事態宣言中(2020年4〜5月)に、結婚数と離婚数に減少が見られることがわかりました。さらに、2020年12月〜2021年2月には出生数の減少が確認されました。つまり、1度目の緊急事態宣言の8〜10ヵ月後に当たるわけで、その時期に妊娠を控えていた夫婦が多かったということを意味します。この報告で興味深かったのは結婚と出生数はともかく、離婚数の減少も見られていたことです。意外な結果でした。コロナ禍で自宅にいる人が増えたため、夫婦で話し合う時間が増えたから離婚が減ったのでしょうか。あるいは、「本当は離婚したいけど、新型コロナがこんな感じだし、ちょっと保留にしようか」ということでしょうか。…神のみぞ知る。

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第122回 「ブラックな職場環境を変えるのも医師の社会的責任」-NHK党・浜田氏に聞く(後編)

NHKの既得権益打破のみのシングル・イシュー政党だったかと思いきや、実は他党と比べても遜色のない新型コロナ政策を公約に掲げていたNHK党。同党の新型コロナ対策を立案した同党政調会長の浜田 聡参議院議員にその背景を聞いたインタビューの前編を第121回に掲載した。今回はその後編で、主に日本版のCDC(疾病予防管理センター)構想、日本版ACIP(ワクチン接種に関する諮問委員会)構想やワクチン政策について聞いた。現状で一気に新型コロナを5類相当にすると保健所のパンクは解消されるかもしれませんが、医療機関への問い合わせが激増して逆に医療逼迫を加速化させかねません。確かにそのような懸念もあるでしょう。しかし、保健所に比べて医療機関のほうが対応力は高いはずなので、見方を変えると、その流れのほうが本来の方向性と言える面もあります。一方、重症化リスクが高いと言われたデルタ株の流行時と比べれば、新型コロナの診療を行う医療機関も確実に増えています。この動きは少しずつかもしれませんが、今後も進んでいくと予想しています。その意味で受け入れ医療機関のすそ野を広げるためには、新型コロナ患者の受け入れが経営に寄与するような仕組みも必要です。NHK党でもこの辺を念頭に置いた政策立案を検討しています。公約に掲げていた日本版CDC創設は、参議院選挙前に岸田首相が打ち出しました。これについてはどのように受け止めていますか?まず、われわれが政策に盛り込んだのは、厚生労働省(以下、厚労省)が感染症を担当することは組織的には当然ながらも、同省の業務の幅が広く、かつ膨大なため、今回のようなパンデミックが重なれば業務逼迫は必然だと思ったからです。菅 義偉前首相が厚労省の分割案を唱えた背景にも同じような事情があったのだろうと推察しています。こうした観点から別途、感染症担当専門組織の創設が望ましいと考え、アメリカなどにあるCDCを手本とした組織創設を政策に盛り込みました。岸田首相による日本版CDC創設の決定は、私たちが掲げた政策と同じ方向に進んでいる点で喜ばしいと受け止めています。現状で日本版CDCの全貌は見えてませんが、私がこの組織に求めるのは、医療従事者向けの感染症教育機能です。もちろん医学部などでの感染症教育はありますが、現状のコロナ禍のような状況に立ち向かうことを想定するならば、学部教育では不十分です。また、現時点では少ない日本感染症学会の認定感染症専門医が今後増えていくと仮定しても、パンデミック時に必要なマンパワーにはほど遠いだろうと予想します。その意味で日本版CDC創設による感染症教育の充実を期待したいところです。今回提示した政策の中にはCDC創設だけではなく、アメリカでCDCや保健福祉省にワクチン接種の推奨提案を行う「ワクチン接種に関する諮問委員会(ACIP)」制度の日本版導入も訴えていますね。私自身がACIPの存在を知ったのは、神戸大学医学部教授の岩田 健太郎氏の著書を通じてです。そもそもアメリカは自由の国と言いつつ、感染症対策の中でもワクチン接種に関してはやや強権的な方針を絶妙に医療政策に反映しています。その一翼を担っているのがACIPです。ACIPの活動の中で個人的に最も納得感が大きかったのは、ワクチン接種推奨の議論をフルオープンな場で行うことです(議論は全公開で、インターネット配信もされる)。このような政策決定議論の公開性が今の日本の政治、政策決定で最も足りない部分です。この公開性はすべての政策決定で必要だと私個人は思っています。実は過去の衆参両院の議事録を調べると、国会議員から日本版ACIP創設を求める意見が何度か出ています。しかも、議事録を読む限りでは厚労省も否定的ではありませんでした。その意味でも実現に向けて貢献したいと考えています。もちろん公開性を実現しても、ワクチン問題では付き物のワクチン忌避派の不満がゼロになるわけではないことは百も承知です。しかし、忌避派も含めさまざまな意見を公開することは、国民の納得感がより高いワクチン政策を進める良策だと思います。その意味では先日、塩野義製薬が緊急承認を申請した新型コロナ治療薬の審議がリアルタイムで公開されました。同様の公開性をワクチンに関する審議でも目指したいということですね?そうですね。政策的な妥当性が一方的な多数決で決定できるほど単純ではないことは分かりますし、あの公開を受けてSNS上に医療関係者を中心にさまざまな声が発信されたというのは改めて興味深かったですね。ちなみに新型コロナワクチンの接種を推進している現在の政府の政策についてはどのように見ていますかまず、基本的に今回の新型コロナワクチンに関しては、各種トップジャーナルの論文などで示された有効性・安全性は信頼性がある報告と考えています。また、従来からインフルエンザワクチンでは高齢者などのハイリスク者や医療従事者のシーズン毎接種が推奨されている経験もあり、私自身は今後、新型コロナワクチンが毎年接種の勧奨になったとしても、とくに抵抗はありません。ただし、コロナ禍がなかなか収束しないということで、重症化リスクの低い若年者でも同様に頻回接種を続けていくべきかと言えば、必ずしもそこまで必要とは思っていません。基本的に一医療者としては、半ば接種を強く求める現状の法的な努力義務はあるべき姿とは思いますが、社会一般の受け入れを念頭に置いた場合はより緩やかに自由意思を尊重する立場です。ワクチン忌避の考えは、日本に限らず世界的にもゼロにはなりませんから、本音を言ってしまうと、やむを得ないのかなという思いもあります。新型コロナワクチン接種に関しては、先日岸田首相が突如、医療従事者と高齢者施設職員を新たな4回目接種対象者に加えました。これまで対象になっていなかったのは、おそらくイスラエルの研究で、比較的若年層の4回目接種の効果が高齢者などに比べると極めて限定的という結果があったからだと思います。それを変更したのはこの第7波があったからでしょうが、この点はどのような評価ですか?状況が突然大きく変化したので何かしたいという岸田首相の思いは十分理解はできます。ただ、この点に関する評価は、今後の推移を見ないと、なんとも言えないのではないかと考えています。最近ではファイザーやモデルナが開発を進めているオミクロン株対応も含めた2価ワクチンでの5回目接種を政府が考えているとの報道もありました。検討している政策について、かなり早い段階で漏れ出てくるのは、ある意味観測気球の側面があるのではないかという穿った見方もできてしまいますので、その是非についても現時点では肯定も否定もしにくいですね。基本的に今回の新型コロナワクチンそのものには肯定的立場とのことですが、参議院選挙直後、今回新たに議席を得た参政党と院内会派を組むことを検討していましたね。参政党は今回の新型コロナワクチンについて懐疑的な主張をしています。この辺の矛盾はないのでしょうか?まず政党と会派はある意味似ているようで結構違うところがあります。政党内では基本的に政策の賛否をすべて一致させる必要があり、それゆえに党議拘束もあるわけですが、会派はその必要がありません。その意味で国防や皇室・国体という国の在り方である程度一致していれば、ほかの政策の違いは許容の範囲と受け止めています。ですので、会派結成に関して参政党との新型コロナワクチンに対する考え方の違いに大きな問題があるとは考えていません。そもそも参政党の神谷 宗弊さんとは2018年から付き合いがありますので、個人的な付き合いなども加味して会派を組むべきかなと思っていました。もっとも直近の会派届け出は締め切られたので次の機会があればと思うのですが、これはさまざまな事情も絡むのでその時になってみないと分からないですね。また、今回の政策で驚いたのはアメリカのナース・プラクティショナー制度の日本導入を掲げたことです。浜田さん自身、現在の医師の偏在や過重労働を念頭に置いたということでしょうか?この政策は一般社団法人・救国シンクタンクから提案を受けたものを取り入れました。最大の理由は地域偏在も含めた医師不足に対応するという意味です。ナース・プラクティショナー自体はご存じのようにすでにアメリカの各州で実際に運用されている制度です。アメリカの場合、現在の新型コロナ治療薬を、こうした資格を持つ看護師のほか、薬剤師なども処方できる柔軟さを持ち合わせています。もちろん現在の新型コロナ治療薬の中にはファイザー社のパキロビッドのように多様な相互作用が指摘されているものもあり、医師以外が処方することに慎重な意見があるのは承知しています。ただ、そもそも私個人は現状の医師をガチガチに守る規制は、時代に合わせて緩和していくべきだと思いますし、ナース・プラクティショナーは実際に運用している国があるわけですから、今後の日本の医療制度を考えた場合に選択肢の一つだと考えています。もっとも日本の場合はなかなか進まなさそうな感じもしますが。この点については推進したい日本看護協会とそれに反対する日本医師会の平行線状態が続いています。ちなみに浜田さんは議員になる前の医師専業時代、医師の労働環境をどのように見ていましたか? 私の場合は放射線科医ですが、画像読影を行う放射線科医の数には限界があるため、多くの放射線科医が過重労働に近い読影環境に置かれていたとの印象があります。また、周囲の他診療科でも過重労働の環境にある医師を目にしてきました。しかし、時に「私はこんな過酷な労働条件で働いています」という感じの自虐とも自慢ともとれるアピールをする医師がいますが、私はそうしたスタンスには疑問を持ちます。専門職の職能を存分に発揮するためには過酷な職場環境は積極的に変えていこうとするのが専門職の社会的責任の一つではないと思うからです。「そうは言っても、なかなか難しい」というご意見もあるでしょう。しかし、少し考えてみればわかるように、医師は一定の独自裁量を持ち、身分保障もある専門職です。おごった言い方に聞こえるかもしれませんが、仕事そのものを完全に失うリスクは他職種に比べ明らかに低いのです。ならば、ブラックな環境を積極的に変えていく、それが叶わないならば自分からそこを去るという決断も可能だと思っています。今回はコロナ対策を中心にお話を聞きましたが、今回の公約には載せていないものの、医療・社会保障関連で政治家として訴えていきたいことがあれば教えてください。一つは専門的な観点からの医療政策の発出、平たく言えば検査や予防接種をはじめとして医療の専門的観点を可能な範囲で一般の方々にも広めていきたいという抱負はあります。もう一つは先ほど言及したACIPに通じるところもありますが、政策決定の透明化です。現在の政策決定プロセスは半ばブラックボックスですが、どのような理由でその政策を進めるかが明らかになったほうが一般の方々にとってのメリットは多いはずです。そうしたことに少しでも尽力できればと思っています。繰り返しになるがNHK党と言えば、ド派手なスローガンとパフォーマンスの党首・立花 孝志氏のイメージが強いが、私個人が今回お会いした浜田氏は、立花氏と比べると真逆なキャラクターだった。低めの声で朴訥と語り、とりわけ新型コロナワクチンの予防接種法に基づく努力義務に関連した話題では、医師、政治家、市民の三者の立場への配慮や苦悩をにじませながら語った瞬間もあったように見えた。つまり私たちがよく目にする「政治家を演じ切っている政治家」とは異なるという印象だ。ところで記者・ジャーナリストによる政治家への取材となると、おおむねその対象は与党第一党、あるいは野党第一党の幹部となることが多い。それ以外はあったとしても衆参両院のいずれか、あるいはその合計で二桁議席がある政党ぐらいである。その点からすると今回取材したNHK党は浜田氏、さらに先ごろの参議院選挙で当選したYouTuberのガーシー(東谷 義和)氏の2人のみの小政党である。当然ながら読者の皆さんの中には「そんな小所帯の政党の政策を聞いて何になる?」との意見もあるだろう。しかし、この連載で政治的な話題に触れる時、時折紹介する友人のフリーライター・畠山 理仁氏は、「既存政党とは無関係の無頼系独立候補(一般には泡沫候補と呼ばれるが畠山氏は候補者への敬意からこの言葉を使わない)の中にもキラリと光る政策がある」と力説している。この言葉を聞いてから選挙公報にはくまなく目を通すようになったが、興味深い政策は結構あるものだ。もっともその政党や候補者のそうした政策や背景について知れる機会は少ない。その一助となれば幸いである。

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心筋炎リスクを天秤にかけても新型コロナワクチンは接種したほうがよいようだ(解説:甲斐久史氏)

 感染力は強いものの重症化率が低いとされるオミクロン株が主流となったことで、正常な社会経済活動と新型コロナウイルスが共存するWithコロナ時代が本格的到来かと思われた。しかし、オミクロン株BA.5による感染拡大第7波は、8月に入ってもピークアウトすることなく、3年ぶりの行動制限のない夏休み・お盆休みを迎えた。感染者も小児〜若年者中心から後期高齢者も含めた全年齢層に拡大し、重症者数・死亡者数も着実に増加している。加えて、多くの医療従事者が感染者あるいは濃厚接触者となることで出勤停止となり、その結果、コロナ診療のみならず一般医療・救急医療はこれまでにない逼迫した状況に直面している。そのような中、60歳以上の高齢者に加えて、急遽、医療従事者および高齢者施設等の従事者への新型コロナワクチン第4回目接種が進められることとなった。わが国における3回目接種率は60歳以上では80%以上であるのに対して、12〜19歳では36%、20〜30歳代では50%前後にとどまっている。若者ほどワクチン接種後の高熱や倦怠感といった副反応が強いことに加え、若者には実感しにくい重症化予防効果はさておき、目に見える感染予防効果がオミクロン株において低下していることもその背景にあろう。依然、若年者、とくに若年男性には新型コロナワクチン接種後心筋炎の危惧もある。 本研究は、新型コロナmRNAワクチン接種後心筋炎の大規模なケースレポート/サーベイランスの包括的検索による総説である。2020年10月から2022年1月までの間にmRNAワクチン(ファイザー社製コミナティ、モデルナ社製スパイクバックス)接種後、心筋炎約8,000例(一部、心膜炎・心筋心膜炎)が報告されていた。従来の報告どおり、mRNAワクチン接種後心筋炎は思春期から青年期の男性に最も多く認められ、その発生頻度は12〜17歳で50〜139例/100万人、18〜29歳で28〜147例/100万人であった。コミナティと比較してスパイクバックスで発症率が高かった。18〜29歳女性の発症率は20例/100万人未満であった。5〜11歳男女においてはコミナティのデータしかないが、発症率は20例/100万人未満であった。30歳以上の男女、12〜17歳の女性については、若年男性より明らかに発症は少ないが、バラツキが大きく統計的信頼度が不十分なため発症率を提示できなかったという。興味深いことに、1回目と2回目の接種間隔は31日以上で発症が少なく、とくに18〜29歳男性では56日以上で明らかな低下がみられた。発症後の経過は従来の報告どおり、症状は軽微で自然軽快し、入院期間も2〜4日間、薬物治療もおおむね非ステロイド系抗炎症薬による対症療法であった。本研究では、心筋炎発症の危険因子、長期予後、発症機序についても検討されたが、いずれも評価に耐えるエビデンスは得られなかったという。また、3回接種の影響については、40歳以上の男性では発症率20例/100万人未満であろうという確実性の低い結果以外に、われわれが最も知りたい若年男性を含めた他のグループについてのエビデンスは現時点で存在しないとのことであった。 結局のところ、一般の心筋炎の発症頻度が80〜100例/100万人であり、新型コロナウイルス罹患後の心筋炎発症率が約800例/100万人であることを考えると、高齢者や重症化高リスク群はもとより、12〜29歳の男性においても、mRNAワクチン接種のメリットは、ワクチン接種後心筋炎の発症リスクを上回っている。これからも引き続き、このコンセンサスを踏まえて、本人(または保護者)に説明し納得してもらうことになる。せめて、12〜29歳男性に対しては、任意にコミナティを選択できるようにしたいものである。

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わかる統計教室 特別編 カットオフ値とROC解析

インデックスページへ戻る特別編 カットオフ値とROC解析新型コロナウイルスの検査でもよく目にする「カットオフ値」と「ROC解析」。「カットオフ値」は検査で陽性・陰性を分ける値、「ROC解析」はカットオフ値を調べる方法の1つです。今回はこれらをテーマに、「わかる統計教室」の特別編として、統計・解析のエキスパート、菅 民郎氏が解説します。1 カットオフ値とは与えられた値から真(TRUE)か偽(FALSE)かを判断したいことがあります。たとえば模擬試験の点数から○○大学に合格(T)か不合格(F)かを予測したい、検査値から病気(T)か健康(F)かを判断したいなどです。「カットオフ値(cutoff value)」とは、定量データを区切るために用いる基準の値のことです。医療分野では、ある検査の陽性、陰性を分ける値のことで、病態識別値とも呼ばれます。検査結果によって、特定の疾患に罹患した患者と罹患していない患者を分ける境界値のことです。次にいくつかの事例を示します。(1)肥満を判定するBMIのカットオフ値は30以上である。(2)大腸がんをスクリーニングする便潜血検査のカットオフ値は、約100ng/mLである。(3)日本動脈硬化学会によって設定された、高コレステロール血症の診断基準、総コレステロールは220mg/dL以上である。(1)について、補足します。肥満は健康に重大な悪影響を及ぼします。肥満指数(BMI)は体重(kg)を身長(m)の2乗で割って算出され、測定・計算が簡単で、肥満・痩せの指標として広く使われており、その水準が健康リスクや死亡率と深く関係していることが、海外の多くの研究で報告されています。WHO(世界保健機関)では国際的な基準(カットオフ値)として、BMIは25以上を「過体重」、30以上を「肥満」としました。BMI(kg/m2)=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)2 真陽性、偽陽性、偽陰性、真陰性とは過体重であるかどうかのカットオッフ値は25ですが、ある生活習慣病をスクリーニングするBMIのカットオフ値は25とは限りません。そこで、ある生活習慣病のBMIのカットオフ値を算出するために、ある病院に来院した患者20人に次の検査をしました。表1BMIの検査結果と、ある生活習慣病の疾病有無(陽性、陰性)を調べたデータ表2表1のデータを陽性・陰性別にBMIを降順で並べ替えたもの表3表2のデータについて、陽性・陰性別BMI数値別に患者人数を集計したもの表1 BMIと疾病の有無表2 陽性・陰と性別表3 BMI数値別陽性・陰性別人数このデータにおけるカットオフ値を求めることが課題ですが、とりあえず、カットオフ値を「27」とします。そこでBMI27以上、27未満別の陽性・陰性別の患者人数を集計しました。表4の4つのセルの値は、表5に示す名前が付けられています。表4 カットオフ値27以上とした場合の陽性・陰性別人数表5 真陽性、偽陽性、真陰性、偽陰性の定義真陽性(A)実際に疾患がある人が陽性と判断されること偽陽性(B)実際には疾患がない人が陽性と判断されること偽陰性(C)実際に疾患がある人が陰性と判断されること真陰性(D)実際には疾患がない人が陰性と判断されること3 感度、特異度とは理想的なカットオフ値とは、検査陽性者(BMI検査で陽性と判定された患者)は全員疾患(疾病有無で陽性の患者)があり、検査陰性者は全員疾患がないと判定できる検査です。しかし、現実的にはどのようなカットオフ値を設定しても、疾患はあるが陰性と判定(偽陰性)、疾患はないが陽性と判定(偽陽性)される患者が出現します。したがって、適正なカットオフ値は、偽陰性および偽陽性と判定される患者が少なくなるように定められる検査です。裏返せば真陽性および真陰性と判定される患者が多くなるカットオフ値が適正だということです。表4における真陽性は3人、真陰性は13人です。真陽性が多いかの判断は、「疾患がある患者のうち検査陽性者がどれほどいるかの割合(真陽性者÷疾病有無陽性者)」で調べることができます。求められた値を「感度」といいます。表5の単語名を使って感度を求める式を示します。そこで、表4について感度を求めると「3÷(3+3)=0.5(50%)」です。真陰性が多いかどうかの判断は、「疾患がない患者のうち検査陰性者がどれほどいるかの割合(真陰性者÷疾病有無陰性者)」で調べることができます。そして、求められた値を「特異度」といいます。表5の用語名を使って特異度を求める式を示します。表4について特異度を求めると「13÷(13+1)=0.929(92.9%)」です。感度、特異度の両方が大きければ、設定したカットオフ値は「適正」といえます。このケースでは、特異度(92.9%)は大きいが感度(50%)は大きいといえません。そのため27以上に設定したカットオフ値は適正といえません。カットオフ値を26以上として、表3のデータについて、陽性・陰性別の患者人数を表6に集計しました。表6 カットオフ値を26以上とした場合の陽性・陰性別人数表6について感度と特異度を求めます。感度、特異度の両方が大きいので、設定したカットオフ値26以上は適正といえそうです。カットオフ値27以上と26以上について検討しましたが、その他のカットオフ値すべてについて感度、特異度を求め、どのカットオフ値が適正かを調べなければなりません(表7)。表7 感度、特異度感度、特異度どちらも高いのはBMI26以上で、この生活習慣病の疾病の有無を判定するBMIのカットオフ値は26以上であるといえます。4 カットオフ値を算出する方法の種類カットオフ値を算出するための方法は、今まで述べてきたものとは別の方法もあります。3つほど紹介します。(1)感度・特異度最小値法(今まで述べてきた方法)(2)2×2分割表のクラメール連関係数(3)ROC解析5 2×2分割表のクラメール連関係数表8に2×2分割表を示します。表8 2×2分割表クラメール連関係数は次式によって求められます。2×2分割表において、真陽性(A)と真陰性(D)が大きく、偽陽性(B)と偽陰性(C)が小さくなるほど、とクラメール連関係数は大きな値になります。値は0~1の間に収まります。BMI26の分割表についてクラメール連関係数を表9に求めます。表9 BMI検査26の2×2分割表BMI検査値を21~30に変化させ、クラメール連関係数を算出します。クラメール連関係数の最大値は0.762です。そのBMIは26です。最適なカットオフ値は26です(表10)。表10 クラメール連関係数6  ROC解析ROC解析について説明します。この解析で使用されるROC曲線は第2次世界大戦中にレーダーの性能評価をするために開発されました。現在では、工業、医療などさまざまな分野で利用されています。ROCとは“Receiver operating characteristic”の略です。ROC解析は、カットオフ値を連続的に変化(例題のBMI値では30~21)させたときの、感度と100%から特異度を引いた値(1-特異度)を用います。縦軸(y軸)を感度とし、横軸(x軸)を1-特異度とするグラフ上に、感度および1-特異度をプロットして、グラフを作成します。こうして描かれた曲線が「ROC曲線」です。例題におけるROC曲線のグラフを表11と図1に示します。表11 感度、1-特異度図1 表11データのROC曲線グラフROC曲線を用いて、最適なカットオフ値の求め方を示します。2つの方法があります。【方法(1)】グラフの左上隅の点(0%、100%)から点までの距離が最小の検査結果が最適なカットオフ値です。例題は、横軸7.1%、縦軸83.3%の点まで距離が18.1%で最小です。そのBMIは26です。最適なカットオフ値は26です(表12、図2)。表12 起点から点までの距離図2 表12データのROC曲線【方法(2)】点(0%、0%)と点(100%、100%)を結ぶ直線を引きます。点から直線までの距離を求めます。距離が最大の検査結果が最適なカットオフ値です。例題では、横軸7.1%、縦軸83.3%の点から直線まで距離が53.1%で最大です。そのBMIは26です。最適なカットオフ値は26となります(表13、図3)。表13 点から斜線までの距離図3 表13データのROC曲線用いる方法によっては、求めた最適なカットオフ値が異なることがあります。どれを選ぶかは分析者の判断に委ねられます。7 検査の有用性を調べる方法について検査にどれくらい有用性があるのかを調べる方法を説明するために、2つのケースを示します。〔ケース1〕BMI26以上の10人は全員が陽性、BMI26未満の10人は全員が陰性です。検査陽性者(BMI検査で陽性と判定された患者)は皆疾患(疾病の有無で陽性の患者)があり、検査陰性者は皆疾患がないと判定できる検査です。クラメール連関数の最大は1.000で当然ながらカットオフ値は26です(表14)。表14 ケース1のデータ画像を拡大する図4にROC曲線を描きました。曲線で囲まれる面積は1(100%)となります。陽性と陰性を完璧に分ける理想的な検査の面積は100%となります。図4 ケース1のROC曲線〔ケース2〕疾患の有無で陰性10人のBMI検査は21~30です。陽性10人のBMI検査も21~30で、どのカットオフ値も陽性と陰性を判別することができていません。画像を拡大する図5にROC曲線を描きました。曲線で囲まれる面積は0.5(50%)となります。陽性と陰性をまったく判別できない検査における面積は50%となります。図5 ケース2のROC曲線8  AUC(Area Under the Curve)について面積をAUC(Area Under the Curve)と言います。AUCとは、ROC曲線の下側の面積のことです。AUCは「ある検査が、どれくらい有用性があるのか」を調べる指標です。先の例からわかるように、でたらめな検査のときにAUCが0.50(50%)になり、完璧な検査のときにAUCは1(100%)になります。表1のAUCを図6に示します。 AUCは92.3%で100%に近く有用性のある検査といえます。図6 表1のデータのAUCこの検査が母集団についても有用性があるかは1群母比率検定で調べることができます。帰無仮説AUCは0.5(50%)である。対立仮設AUCは0.5(50%)より大きい。(片側検定)p値はExcel関数で求められます。NORMSDIST(1-検定統計量)→0.0001以上から「p<0.05より、BMI検査は有用な検査であるといえる」となります。インデックスページへ戻る

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第7回 どこまで進むか小児新型コロナワクチン

小児COVID-19の問題点「子供にとって、COVID-19はただの風邪」という意見もよく耳にします。実際にほとんどが風邪症状で終わっていますが、感染者がとても多い年齢層であることから、ワクチン未接種が感染拡大に影響していることはほぼ間違いないとされています。最近、日本の小児COVID-19に関する研究が2つ報告されています。1つ目は、デルタ株優勢期(2021年8月1日~12月31日)とオミクロン株優勢期(2022年1月1日~3月31日)の疫学的・臨床的特徴を比較検討したものです1)。国立国際医療研究センターが運営している国内最大の新型コロナウイルス感染症のレジストリ「COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)」を用いて、国立成育医療研究センターの医師らが解析したものです。これによると、オミクロン株優勢期では、2~12歳で発熱やけいれんが多く観察されることが示されています。また、ワクチン接種歴の有無が判明していた790例に絞ると、酸素投与・集中治療室入院・人工呼吸管理などのいずれかを要した43例は、いずれも新型コロナウイルスワクチン2回接種を受けていないことがわかりました。オミクロン株の113例とオミクロン株前の106例の小児を比較した、もう1つの国立成育医療研究センターの研究では、0~4歳の患者において、咽頭痛と嗄声はオミクロン株のほうが多く(それぞれ11.1% vs.0.0%、11.1% vs.1.5%)、嗄声があったすべての小児でクループ症候群という診断が下りました。また、5~11歳の小児において、嘔吐はオミクロン株のほうが多いことが示されました(47.2% vs.21.7%)2)。オミクロン株になって軽症化しているのは、ワクチンを接種した成人だけであって、小児領域では基本的に症状が強めに出るようです。重症例がおおむねワクチン未接種者で構成されているというのは、驚くべき結果でした。小児の新型コロナワクチン接種率現在、5歳以上の小児には新型コロナワクチン接種が認められていますが、ほかの年齢層と比べると、その接種率は非常に低い状況です(表)。実際私の子供の周りでも、接種していないという小学生は結構多いです。それぞれの考え方がありますので、接種率が低い現状について親を責めようという気持ちはありません。表. 8月15日公表時点でのワクチン接種率(首相官邸サイトより)日本小児科学会の推奨さて、小児におけるCOVID-19の重症化予防のエビデンスが蓄積されてきました。オミクロン株流行下では、確かに感染予防効果はこれまでの株と比べて劣るものの、接種によって、小児多系統炎症性症候群の発症を約90%防げることがわかっています3)。そのため、受けないデメリットのほうが大きいと判断され、5~17歳の小児へのワクチン接種は「意義がある」という表現から、「推奨します」という表現に変更されました4)。子供のワクチン接種率は、親の意向が如実に反映されてしまいます。「とりあえず様子見」という親が多いので、日本小児科学会の推奨によって接種率が向上するのか注目です。参考文献・参考サイト1)Shoji K, et al. Clinical characteristics of COVID-19 in hospitalized children during the Omicron variant predominant period. Journal of Infection and Chemotherapy. DOI: 10.1016/j.jiac.2022.08.0042)Iijima H, et al. Clinical characteristics of pediatric patients with COVID-19 between Omicron era vs. pre-Omicron era. Journal of Infection and Chemotherapy. DOI: 10.1016/j.jiac.2022.07.0163)Zambrano LD, et al. Effectiveness of BNT162b2 (Pfizer-BioNTech) mRNA Vaccination Against Multisystem Inflammatory Syndrome in Children Among Persons Aged 12-18 Years - United States, July-December 2021. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022;71(2):52-8.4)日本小児科学会 5~17歳の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方

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コロナ罹患後症状、約13%は90~150日も持続/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の持続する全身症状(いわゆる後遺症)としての呼吸困難、呼吸時の痛み、筋肉痛、嗅覚消失・嗅覚障害などの長期(90~150日)発生率は12.7%と推定されることが、オランダで約7万6,000例を対象に行われた観察コホート試験で示された。オランダ・フローニンゲン大学のAranka V. Ballering氏らが、同国北部在住者を対象にした、学際的前向き住民ベース観察コホート試験で、健康状態や健康に関連する生活習慣などを評価するLifelines試験のデータを基に、COVID-19診断前の状態や、SARS-CoV-2非感染者のマッチングコントロールで補正し、COVID-19に起因する罹患後症状の発生率を明らかにした。Lancet誌2022年8月6日号掲載の報告。23項目の身体症状を繰り返し調査 これまでのコロナ罹患後症状に関する検討では、COVID-19診断前の状態や、SARS-CoV-2非感染者における同様の症状の有病率や重症度を考慮した検討は行われておらず、研究グループは、SARS-CoV-2感染前の症状で補正し、非感染者の症状と比較しながら、COVID-19に関連する長期症状の経過、有病率、重症度の分析を行った。 検討はLifelines試験のデータを基に行われた。同試験では、18歳以上の参加者全員に、COVID-19オンライン質問票(digital COVID-19 questionnaires)が送達され、COVID-19診断に関連する23項目の身体症状(SARS-CoV-2アルファ[B.1.1.7]変異株またはそれ以前の変異株による)について、2020年3月31日~2021年8月2日に、24回の繰り返し評価が行われた。 SARS-CoV-2検査陽性または医師によるCOVID-19の診断を受けた被験者について、年齢、性別、時間をCOVID-19陰性の被験者(対照)とマッチングした。COVID-19の診断を受けた被験者については、COVID-19前後の症状と重症度を記録し、マッチング対照と比較した。90~150日時点の持続症状、陽性者21.4%、非感染者8.7% 7万6,422例(平均年齢53.7[SD 12.9]歳、女性は4万6,329例[60.8%])が、合計88万3,973回の質問に回答した。このうち4,231例(5.5%)がCOVID-19の診断を受けた被験者で、8,462例の対照とマッチングされた。 COVID-19陽性だった被験者において、COVID-19後90~150日時点で認められた持続する全身症状は、胸痛、呼吸困難、呼吸時の痛み、筋肉痛、嗅覚消失・嗅覚障害、四肢のうずき、喉のしこり、暑さ・寒さを交互に感じる、腕・足が重く感じる、疲労感で、これらについてCOVID-19前およびマッチング対照と比較した。 一般集団のCOVID-19患者のうち12.7%が、COVID-19後にこれらの持続症状を経験すると推定された。また、これらの持続症状の少なくとも1つを有し、COVID-19診断時またはマッチング規定時点から90~150日時点で中等度以上に大幅に重症度が増していた被験者は、COVID-19陽性被験者では21.4%(381/1,782例)、COVID-19陰性の対照被験者では8.7%(361/4,130例)だった。 これらの結果を踏まえ著者は、「検討で示された持続症状は、COVID-19罹患後の状態と非COVID-19関連症状を区別する最も高い識別能を有しており、今後の研究に大きな影響を与えるものである。COVID-19罹患後の関連症状を増大する潜在的メカニズムを明らかにする、さらなる研究が必要である」と述べている。

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第122回 米国では使わない2価の“旧改良ワクチン”を日本は無理やり買わされる?国のコロナワクチン対策への素朴な疑問

「2日早いです!」、自衛隊大規模接種会場でワクチン打てずこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週は野球の話題に事欠かない1週間でした(内閣改造もありましたが、その話題は日を改めて)。米国ではロサンゼルス・エンゼルスの大谷 翔平選手が10勝目をあげ、2桁勝利、2桁本塁打を達成しました(勝利後の大谷選手が冷静かつ少々浮かない表情だったのが気になりました)。また、昨年「第71回 『もはや災害時』なら、『現実解』は“野戦病院”、医師総動員、医療職の業務範囲拡大か」でも書いた、MLBの「フィールド・オブ・ドリームス」公式戦(シンシナティ・レッズ対シカゴ・カブス)が今年もアイオワ州ダイアーズビルで行われ、ファンを楽しませました。日本ではヤクルト・スワローズの村上 宗隆内野手が史上最年少、22歳で本塁打40号に到達しました。村上選手は近い将来、MLBに挑戦すると思いますが、本塁打に関しては、大谷、松井選手以上の成績を残すかもしれません。高校野球では、14日に行われた2回戦、大阪桐蔭(大阪)対聖望学園(埼玉)の試合がいろいろな意味で衝撃的でした。埼玉大会の決勝で、強豪、浦和学院を1対0で破った聖望は、エース岡部 大輝投手の制球が素晴らしく、王者・大阪桐蔭の打線をどこまで抑えられるかが見どころでした。結果は、19対0と歴史的な大敗。夏の埼玉大会は毎年、何試合か現場で観戦しているので、個人的にも大きなショックでした。果たして、埼玉の高校野球は立ち直れるでしょうか……。そうした野球観戦の合間に、新型コロナワクチンの4回目接種を受けに、東京・大手町の自衛隊大規模接種会場に家族と出かけました。同行の家族はすんなり打てたのですが、私は隅に連れて行かれ、「5ヵ月まで2日早いです!なので打てません」の宣告。接種券をよく見てみると、接種が可能となる5ヵ月目までまだ2日あったのです。少々ごねてみたのですが、スタッフは「できません」の一点張り。結局、再予約するはめになってしまいました。たった2日早いだけなのに……。スタッフの多さがやたらと目立つガラガラの会場で、日本のワクチン行政の融通の効かなさ、硬直性にため息しか出ませんでした。というわけで、今回は久しぶりに下世話な事件から離れ、コロナに関する出来事について書いてみたいと思います。2価ワクチンの“謎”、従来型対応はいるの?厚生労働省は8月8日、新型コロナウイルスのオミクロン型に対応した2価の改良ワクチンの接種を10月半ばにも始める方針を明らかにしました。米・ファイザーと独・ビオンテック、米・モデルナが開発を進めてきた製品で、9月から輸入できる見通しとのことです。今後、2回目までの接種を終えている全員を対象に想定して準備を進めるそうです。厚労省はこれら2製品の製薬企業と供給契約を結んでおり、承認申請はファイザー・ビオンテックが8月8日に、モデルナは8月10日に済ませています。この改良ワクチンは、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)の起源株(いわゆる従来株)とオミクロン株 「BA.1」系統のスパイクタンパク質をそれぞれコードする2種類のメッセンジャーRNA(mRNA)を含む2価ワクチンで、生理食塩水での希釈が不要な「RTU製剤」とのことです。臨床試験では、オミクロン型や派生型に対する抗体ができるのを確認できたとのことで、8日の厚労省の審議会では、高齢者の重症化だけでなく若者の感染や発症を防ぐ効果も期待できる、との声も上がったとのことです。なお、モデルナの臨床試験では、追加接種によってオミクロン株の働きを抑える中和抗体の量が現行品よりも増えることが確認されており、BA.1だけでなく現在主流のBA.5に対しても“一定の効果“が期待できるとのことです。ファイザー・ビオンテック製、モデルナ製ともに厚労省は審査を簡略化する特例承認制度を適用して迅速に審査を進める方針で、承認されれば9月中旬にも輸入される予定です。なお、打つ間隔などは製造販売を承認する際に決めるそうですが、3回目から5ヵ月空ける場合、60歳以上の対象者数のピークは12月以降、冬になる見通しだそうです。FDAはBA.4とBA.5に有効な新しい改良ワクチンの開発をメーカーに要請2価のワクチンで、今流行中のBA.5にも一定の効果があるということですから、一見、期待が高まるニュースのように読めますが、気になる点もあります。日本貿易振興機構(ジェトロ)が7月1日に配信したビジネス短信に、「米FDA、オミクロン株新派生型に有効な改良ワクチン開発を製薬企業に要請」というタイトルのニュースがありました。それによれば、米国食品医薬品局(FDA)は6月30日、諮問委員会の新型コロナウイルス用ワクチンに関する討論を経て、「2022年秋から追加接種として使用する新型コロナワクチンのオミクロン株に対抗する要素を含めることを推奨する」とした委員が圧倒的多数を占めたと発表しました。その上でFDAは、ワクチンメーカーに対して、オミクロン株のBA.4とBA.5に有効な新しい改良ワクチンを、今年秋からの追加接種のために開発するよう要請したそうです。なお、モデルナはBA.4とBA.5に関して、同社が開発中の改良ワクチン(mRNA-1273.214、以降、旧改良ワクチンと呼びます)の有効性が確認されたとしており、6月22日に公表されたデータでは、過去の感染有無にかかわらず全被験者(2回接種に加え、追加1回接種済み)でBA.4、BA.5に対する強力な中和抗体反応が確認できたとのことです。一方、ファイザーとビオンテックは6月25日、同社が開発中の改良ワクチン(つまり旧改良ワクチン)は、追加接種として接種した場合に、BA.1に対して高い有効性があると発表しました。ただし、BA.4とBA.5に対しては、BA.1に対する効果の3分の1程度だったとのことです。米国、モデルナの新改良ワクチンを導入決定このニュースから見えてくるのは、日本はどうやら米国では使わない旧改良ワクチンを買わされて使うことになるのだろう、ということです。米国はメーカーにBA.4とBA.5に効く“新改良ワクチン”の開発を急がせており、秋からの追加接種に間に合わせようしています。上述したように、従来株とBA.1対応の2価の旧改良ワクチンでは、BA.4とBA.5に対する効果が低いことがわかっているからです。しかし、8日に日本政府が導入すると発表したのはこの旧改良ワクチンです。「開発はしてみたけれど、米国ではもっと効く新改良ワクチンを投入する予定だから、効きが弱い古いのは日本に売ってしまおう」とファイザー・ビオンテックや、モデルナが考えたかどうかわかりませんが、何だか“余り物”を掴まされているようで、気分はスッキリしません。と、ここまで書いたら、モデルナの2価の新改良ワクチン(mRNA-1273.222)を、米国政府が6,600万回分確保した、というニュースが飛び込んできました。このワクチンは、従来製品「スパイクバックス」にオミクロンBA.4、BA.5対応のmRNAを組み合わせたもので、追加接種用ワクチン候補を2億3,400万回分追加購入するオプションを含んだ契約だそうです。やはり米国は秋以降、旧改良ワクチンではなく、新改良ワクチンでコロナに対抗しようとしているのです。ちなみに、モデルナの旧改良ワクチンは英国、オーストラリア、カナダ、EUなど日本以外の複数の国でも導入が決定しており、英国政府は8月15日に世界で初めて承認したと発表しました。いつまでたっても、米国を周回遅れでしか追えない日本のワクチン接種。開発力の差がその根底にあるのは確かですが、それを招いたのは、国の緊急の感染症発生に対する準備不足です。パンデミックが起こる前から、ワクチン研究者やメーカーへの支援や臨床試験や承認手続きの簡略化などにしっかり取り組んでいれば、状況はもう少し変わっていたはずです。その意味で、“余り物”の旧改良ワクチン導入は、日本のワクチン行政の融通の効かなさ、硬直性が招いた結果であるとも言えるでしょう。

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CDCが接触者の行動指針を更新、その詳細は?隔離不要だが…

 CDCは2022年8月11日、COVID-19感染者の接触者が取るべき行動の指針を更新した。今回の更新では、隔離は緩和されたものの、10日後までは、屋内では高性能マスクもしくは医療用マスク(N95など)を着用する、マスクを着用できない場所には行かない、6日後に検査を受ける、などが求められている。 COVID-19感染者の接触者となった際のCDCの指針は以下のとおり。この指針はワクチン接種の有無やCOVID-19感染歴の有無によらない。■曝露が判明したらすぐにマスクを着用■曝露日(Day 0)から10日後(Day 10)までの措置(COVID-19発症の可能性があるため)・自宅や屋内の公共の場で周囲に人がいるときは、常に高性能マスクもしくは医療用マスク(N95など)を着用する。・マスクを着用できない場所(旅行や公共交通機関を含む)には行かない。・重症化するリスクが高い人の近くにいる場合は、とくに注意する。・発熱(38℃以上)、咳、息切れなどのCOVID-19症状が出たら、すぐに隔離し、検査を受け、結果がわかるまで自宅にいる。・検査が陽性の場合は隔離に関する推奨に従う。■曝露から6日後(Day 6)に検査を実施・曝露から5日以上経過してから検査を受ける(症状が出ていなくても)。・過去90日以内にCOVID-19の感染歴がある場合は、別途、推奨事項を参照する。・陰性の場合、10日後(Day10)まで上記措置を継続し、自宅や屋内の公共の場で周囲に人がいるときは高性能マスクを着用する。・陽性の場合はすぐに隔離する。

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第125回 気疲れは脳のグルタミン酸蓄積の仕業?

プロのチェス選手でさえ試合で4~5時間も経つと間違えをするように1日中試験や発表(プレゼン)で過ごした後で頭が回らなくなるという経験は誰しも覚えがあるでしょう。そういう気疲れ(精神的疲労)に神経伝達物質・グルタミン酸の脳での蓄積が寄与しうることが新たな試験で示唆されました1)。運動している時の筋肉がそうであるように、より頭を使う難解な課題で気疲れするのは簡単な課題に比べてエネルギーがより消費されて枯渇するのが原因とするというこれまでの通説とは異なる結果であり、その試験結果はちょっとした物議を醸しています2)。Cellの姉妹誌Current Biologyに結果が発表された今回の新たな試験で研究者は集中の維持や予定を立てるときに働く脳領域・外側前頭前野のグルタミン酸濃度が気疲れした時によくある振る舞い・克己心の欠如などと関連するかどうかを調べました。被験者40人は2つに分けられ、一方は気疲れを誘う難解な課題に取り組み、もう一方はより簡単な課題をしました。それら課題をしている6時間半の間に気疲れのほどや外側前頭前野のグルタミン酸濃度が何度か調べられました。気疲れのほどは、後で手に入る大金のために目先の小銭を我慢する自制心を問う質問などで評価されました。その結果、より難解な課題の群は簡単な課題の群に比べて克己心を失った衝動的な選択が10%ほど多く、外側前頭前野のグルタミン酸濃度が8%ほど上昇していました2)。より簡単な課題の群ではそのようなグルタミン酸濃度上昇は認められませんでした。今回の試験結果はあくまでも関連を示しただけであり、知能の酷使が脳でのグルタミン酸の有害な蓄積を引き起こすと結論づけるものではありません。米国・ブラウン大学の神経科学者Sebastian Musslick氏はグルタミン酸の上昇は気疲れの主因ではなく何らかの役割を担っていると考えています2)。われわれの脳は臓器と絶えず通信し、いつ食べたり飲んだり寝たりすればいいかを知らせてくれます。それと似たような脳内の保守に前頭前野のグルタミン酸も携わっているのではないかと同氏は想定しています。また、プリンストン大学のJonathan Cohen氏もグルタミン酸のような余剰物を気疲れの主因とする考えを疑っています。脳はより手の込んだ処理で膨大な情報を捌いているに違いなく、余剰物の上げ下げといった単純な仕組みで事足りる筈がない(It just can‘t be that easy)と言っています。今後の課題として、代謝の残り滓を洗い流して脳を掃除する睡眠や休息でグルタミン酸濃度が落ち着くかどうかを調べる必要があります。先立つ研究によると睡眠中にグルタミン酸がシナプスから取り除かれることはかなり確かなようです3)。脳疾患の多くでグルタミン酸の異常な伝達が認められており、うつ病治療に使われるエスケタミンやアルツハイマー病症状を治療するメマンチンなどの神経のグルタミン酸受容体を狙う薬がすでに存在します。また、最近のアルツハイマー病や脊髄小脳失調症(SCA)の試験で残念ながら効果を示すことはできませんでしたが、グルタミン酸除去薬troriluzoleも臨床試験段階に進んでいます。外傷性脳損傷(TBI)、多発性硬化症、新型コロナウイルス感染(COVID-19)後にも生じうるらしい筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)などの脳を酷使させる病気の研究に今回のような成果は重要な意義を持ち、その議論を前進させる筈とKessler Foundationの神経学者Glenn Wylie氏は言っています4)。参考1)Wiehler A, et al.Curr Biol. 2022 Aug 4:S0960-9822.01111-3.2)Mentally exhausted? Study blames buildup of key chemical in brain / Science3)Why thinking hard makes you tired / Eurekalert4)Neurotransmitter Buildup May Be Why Your Brain Feels Tired / TheScientist

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第112回 世界の科学論文、中国が世界一に、日本は低落傾向明らかに/文科省

<先週の動き>1.世界の科学論文、中国が世界一に、日本は低落傾向明らかに/文科省2.コロナ検査キット、インターネットでの販売を審議/厚労省3.看護職員らの処遇改善、今年10月から/中医協4.マイナ保険証、追加負担引き下げ、10月から新たな加算へ/厚労省5.特定保健指導の見直し、アウトカム評価を導入へ6.海外で腎移植、臓器売買で入手か、術後に日本人が重篤に1.世界の科学論文活動、中国が世界一に、日本は低落傾向明らかに/文科省文部科学省の科学技術・学術政策研究所は、8月9日に日本の科学技術活動について、研究開発費、研究開発人材、高等教育と科学技術人材、研究開発のアウトプット、科学技術とイノベーションの5つのカテゴリー分類で評価した「科学技術指標」を公表した。これによると、日本の研究開発費、研究者数は主要国(日米独仏英中韓の7ヵ国)中第3位であるが、日本の論文数(分数カウント法)は世界第4位から第5位へ、注目度の高い論文数のうち引用上位1%に入るトップ論文数は第9位から第10位と低下し、いずれもインドに抜かれたことが明らかとなった。また、トップ1%補正論文数で中国が初めて米国を上回り、世界第1位となった。日本の博士号取得者数は2006年度をピークに減少傾向にあり、韓国、中国、米国では2000年度と最新年度で比較すると2倍以上になっていることと対照的な結果となっている。(参考)「科学技術指標2022」 [調査資料-318]論文被引用率、中国が世界1位に…日本は?(日刊工業新聞)中国、最上位論文数も世界一 日本の低落傾向続く―文科省(時事通信)中国、科学論文で世界一 「質」でも米抜き3冠(日経新聞)2.コロナ検査キット、インターネットでの販売を審議/厚労省厚生労働省は、8月10日に開催された新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードにおいて、新型コロナウイルスの抗原定性検査キットのOTC化について説明をした。これまで専門家から提言もあり、「医療現場への供給を優先することを前提にOTC化の検討を進める」として、具体的な検討を進めることとした。なお、キットのメーカーの在庫は8月1日時点で、約1.65億回分あり、自治体や医療機関、薬局に対して在庫に余裕のある製品への切り替えを依頼している。今後は、8月17日の厚生労働省の審議会において議論を進める見込み。(参考)抗原定性検査キットの確保などについて(新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード)コロナ抗原検査キットのネット販売、検討表明 厚労省(日経新聞)コロナ検査キットのネット販売、17日審議 厚労相表明(同)3.看護職員らの処遇改善、今年10月から/中医協厚生労働省は、8月10日に中医協総会を開催した。看護職員の賃金を引き上げる答申を行った。賃上げ対象となる病院の条件は、救急医療管理加算の届け出施設で、救急搬送を年200台以上受け入れる医療機関、あるいは三次救急病院。これらに勤務する看護師や助産師らが対象。詳しい内容は9月上旬に官報で告示される。(参考)個別改定項目について(中医協総会)看護職員処遇改善評価料を答申、10月開始(日経ヘルスケア)【看護職員処遇改善評価料】を答申、病院ごとの看護職員数・入院患者数に応じた点数を設定-中医協総会(2)(Gem Med)看護職員処遇改善評価料、最大で1日340点に 165通りの点数設定、中医協が答申(CB news)4.マイナ保険証、追加負担引き下げ、10月から新たな加算へ/厚労省厚生労働省は8月10日に中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を開催し、マイナンバーカードを健康保険証に代用した患者に上乗せされてきた追加の医療費負担が、今年10月から引き下げられることとなった。逆に、マイナンバーカードの代わりに、従来の健康保険証を利用した際は自己負担が9円から12円に引き上げられる。(参考)マイナンバーカードの健康保険証 追加の医療費負担軽減へ(NHK)医療DXの推進で「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」を新設-10月改定(医事新報)現行の電子加算を廃止し、医療情報・システム基盤整備体制充実加算を新設(医療経営研究所)5.特定保健指導の見直し、アウトカム評価を導入へ厚生労働省の「第4期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会」のワーキンググループは特定健診・特定保健指導の効率的・効果的な実施方法について、取りまとめを12日に公表した。この中で、特定保健指導の成果を重視したアウトカム評価の導入すべきであり、あわせてプロセス評価(保健指導実施の介入量の評価)も併用して評価するとした。また「見える化」の推進やICTを活用した特定保健指導の推進も行うとした。(参考)特定健診・特定保健指導の効率的・効果的な実施方法等について(議論のまとめ)特定保健指導の見直し、WGで取りまとめ アウトカム評価を導入(Medifax)6.海外で腎移植、臓器売買で入手か、術後に日本人が重篤に東京都内のNPO法人が海外での生体腎移植手術を仲介し、移植手術後に重篤な状態になっていたことが明らかとなった。ドナー(臓器提供者)は経済的困窮を抱えるウクライナ人で、他のルートから同様に移植手術を受けていたイスラエル人は死亡していた。このため当初は4人が腎移植を受ける予定だったが、残りの日本人への手術は中止された。日本国内の腎移植は家族が臓器提供を行わない場合は、待機期間が14年と長く、ドナー不足のため海外での移植を希望する患者も多く、今回は氷山の一角と言える。今後、海外での臓器売買に対する批判の高まりもあり、国内での臓器移植推進のために新たな方策が望まれる。(参考)海外での移植手術で臓器売買か、都内NPOが仲介…術後に日本人患者が重篤に(読売新聞)臓器売買疑惑のNPO「貧乏な人から買ったと言われる」…虚偽のドナー脳死証明書も用意(読売新聞)国内の腎移植は「14年待ち」、深刻なドナー不足…海外で移植希望する患者も(読売新聞)

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幼児のいる親はコロナ重症化リスクが低い~300万人超の分析

 米国・Kaiser Permanente Northern California(KPNC)のMatthew D. Solomon氏らが、幼児と接する機会の有無が、成人のCOVID-19重症化リスクに影響するかどうかを、300万人超の大規模なリアルワールドデータで調査した。その結果、家に0~5歳の幼児がいる成人では、家に幼児がいない成人に比べて重症化率が有意に低いことが報告された。これまで、小児では、過去のSARS-CoV-2以外のコロナウイルスへの曝露による交差免疫が、COVID-19の重症化予防に寄与している可能性が示唆されている。そこで、5歳未満の幼児のいる成人ではウイルスへの曝露機会が増加することから、成人のSARS-CoV-2以外のコロナウイルスへの交差免疫の有無を小児との接触と推定して、コロナ重症化リスクを評価することにした。Proc Natl Acad Sci USA誌2022年8月16日号に掲載。幼児のいる成人に比べコロナによる入院率が子供不在群は有意に高かった 本調査の対象は、2019年2月1日~2021年1月31日にKPNCデータベースに登録されていて、2020年2月1日時点で18歳以上の成人312万6,427人。家に0~5歳(最年少の子の年齢)の幼児がいる成人(27万4,316人)を研究群とし、対照群を6~11歳の子供がいる成人(21万1,736人)、12~18歳の子供がいる成人(25万7,762人)、家に子供のいない成人(238万2,613人)とした。研究群と3つの対照群をそれぞれ1:1に割り付け、年齢・糖尿病や高血圧の有無・BMIなどのCOVID-19重症化リスク因子で調整した。主要評価項目は、PCR検査によるSARS-CoV-2感染の確認、COVID-19による入院、COVID-19によるICU利用で、フォローアップは2020年2月1日~2021年1月31日まで行われた。 幼児のいる成人のコロナ重症化リスクを評価した主な結果は以下のとおり。・各群の子供の年齢が上がるほど、成人の平均年齢は上昇し(幼児群:36.2歳、6~11歳群:41.4歳、12~18歳群:44.6歳、子供不在群:50.8歳)、高血圧と糖尿病の有病率も上昇した。BMIは各群で同程度であった。・コロナ重症化リスク因子による傾向分析において、幼児群に比べ、6~11歳群および12~18歳群のSARS-CoV-2感染率は高かった(6~11歳群の発生率比[IRR]:1.09、95%信頼区間[CI]:1.05~1.12、p<0.0001、12~18歳群のIRR:1.09、95%CI:1.05~1.13、p<0.0001)。一方、SARS-CoV-2陽性者の入院率およびCOVID-19によるICU利用率に有意差は認められなかった。・幼児群に比べ、子供不在群のSARS-CoV-2感染率は低かった(IRR:0.85、95%CI:0.83~0.87、p<0.0001)。一方、SARS-CoV-2陽性者の入院率およびICU利用率は有意に高かった(入院率のIRR:1.49、95%CI:1.29~1.73、p<0.0001、ICU利用率のIRR:1.76、95%CI:1.19~2.58、p=0.0043)。 Solomon氏らは、本調査の結果により、SARS-CoV-2以外のコロナウイルス曝露による交差免疫は、COVID-19の重症化を抑制する可能性があるとまとめている。

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コロナ関連死リスク、BA.1株はデルタ株より低い/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡のリスクは、オミクロン変異株(BA.1)のほうがデルタ変異株(B.1.617.2)より低い。英国・Office for National StatisticsのIsobel L. Ward氏らが、後ろ向きコホート研究の結果を報告した。これまでに、オミクロン株のすべての系統(BA.1、BA.2、BA.3、BA.4、BA.5)はデルタ株より感染しやすいが、SARS-CoV-2検査陽性後28日以内の入院および死亡リスクは、オミクロン株のほうがデルタ株より低いことが示唆されていた。しかし、オミクロン株とデルタ株で、死亡診断書から特定されるCOVID-19関連死のリスクを比較した研究は不足していた。BMJ誌2022年8月2日号掲載の報告。死亡診断書で特定したCOVID-19関連死について解析 研究グループは2021年12月1日~30日の期間に、国民保健サービス(NHS)Test and Trace(Pillar 2)のPCR検査が陽性で、Lighthouse研究所における分析にてオミクロンBA.1またはデルタ株の感染が確定し、国家統計局(ONS)公衆衛生データ資産にリンクできた18~100歳の103万5,149例(2021年12月の検査陽性成人全体の約44%)を解析対象とした。 主要評価項目は、死亡診断書で特定されたCOVID-19関連死で、性別、年齢、ワクチン接種状況、感染歴、感染日、民族、貧困状態(複数の剥奪指標のランク)、世帯貧困、学位、キーワーカーの状況、出生国、主要言語、地域、障害、併存疾患で調整した死因別Cox比例ハザードモデル(COVID-19関連死以外の死亡は打ち切りとする)を用いて解析した。また、変異株と、性別、年齢、ワクチン接種状況、併存疾患との交互作用についても検討した。オミクロンBA.1によるCOVID-19関連死のリスクは、デルタ株より66%低下 潜在的な交絡因子を調整したCOVID-19関連死のリスクは、デルタ株と比較してオミクロンBA.1で66%低下した(ハザード比[HR]:0.34、95%信頼区間[CI]:0.25~0.46)。デルタ株と比較したオミクロン株のCOVID-19関連死リスクの低下は、18~59歳(死亡数:デルタ株46例vs.オミクロン株11例、HR:0.14[95%CI:0.07~0.27])において、70歳以上(113例vs.135例、0.44[0.32~0.61]、p<0.0001)より顕著であった。変異株と併存疾患数との間にリスク差は確認されなかった。 著者は、すべてのSARS-CoV-2感染者が対象ではないこと、病院での検査(NHS Pillar 1)でCOVID-19変異株を特定したデータを利用できず症例数が少ないことなどを研究の限界として挙げた上で、今回の結果は「デルタ株と比較してオミクロンBA.1では、入院に関して重症化リスクが低いことを示唆する以前の研究を裏付けるものである」と述べている。

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第121回 「コロナ検査で陽性でも治療方針は変わらない」-NHK党・浜田氏に聞く(前編)

先日の参議院選挙直前に各党の政策をやや斜に構えて紹介(第115回、第116回)したが、その際私が一番驚いたのはNHK党の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)対策だった。なんせ同党は党首の立花 孝志氏が「NHKをぶっ壊す!」と、いつもながらに標的のNHKの政見放送で叫ぶ強烈さが頭を離れず、どうしてもシングル・イシューの政党のイメージが強かった。その意味でこの公約を読んだ私は、半ば「鳩が豆鉄砲を食らった」ような状態だった。本連載記事では、「誰か新たなブレーンが入ったのだろうか?」と書いていたが、直後に政治界隈に詳しい知り合いから、「あれはたぶん浜田さんが作ったものじゃないか」という情報が入ってきた。同党は2019年参議院選挙の比例代表で初めて1議席を獲得し、立花氏が晴れて国会議員になったが、なんとその3ヵ月後、立花氏は参議院埼玉選挙区の補欠選挙に出馬するとして辞職。その結果、同党からは繰り上げ当選者が発生した。「浜田さん」とは、この時繰り上げ当選者となった浜田 聡氏である。浜田氏の同参議院議員選挙での個人得票は9,308票。参議院比例代表当選者では史上2番目に少ない得票で議員に就任した。その後は同党の政策調査会長に就任している。率直に言うと、私は浜田氏のことはまったくフォローしていなかったが、情報を得た後に調べると東京大学卒業後、京都大学医学部医学科に再受験で入学し、2011年卒業。政治家になる前は放射線科医として働いていたという。前述の政治界隈事情通から浜田氏のことを聞いた直後、同党が毎週金曜日に開催している定例記者会見への参加を模索していた。参議院選投開票の前週金曜日は東京を不在にしていたため、投開票2日前の会見に出席するつもりだった。ところがご存じのようにその前日、奈良県で安倍 晋三元首相が凶弾に倒れる事件があり、そちらへの対応でてんてこ舞になってしまった(一応、医療ジャーナリストを名乗りながらも国際紛争やテロもカバーしているため)。その最中、本連載の担当編集者から、なんと浜田氏から私宛に同党の政策を評価してもらえたことの謝辞メールが届いたことを知った。それによると今回の政策は昨年末の衆議院選挙最中に浜田氏が作成して発表したものを一部改変したもので、たまたま私が同党ホームページを見た時にはなかったのだろうとの説明が記されていた。謝辞メールには浜田氏のメールアドレスも記載してあったが、私は記者根性の一端でやっぱり直撃しようと7月22日の同党定例会見に向かい、そこで初めてこの件について質問した。これは同党が配信するyoutube動画(私の質問は49:38ぐらいから)でも配信されている。もっとも会見という時間の制約がある現場でもあったため、浜田氏の説明は極めて簡潔なもの。そこで改めてインタビューをお願いし、参議院議員会館で話を聞いた。今回と次回の2回に分けて報告したいと思う。NHK党・浜田氏×医療ジャーナリスト・村上氏今回の公約でマスク外しを提唱された背景を教えてください。(インタビューは屋内であるため、浜田氏も私もこの時はマスクを着用)マスク外しに関しては後藤厚労相の発言がありますが、それ以前から厚生労働省は「屋外やリスクの低い環境でマスクを外して良い」と言っていたはずです。しかし、ご存じの通り、現状で外を歩けばそうした人は全然いないと言っても良い状態です。その意味では政治の側からもリスクの低い屋外などで積極的にマスクを外していきましょうという主張があっていいはずです。過去に曲がりなりにも政治の立ち位置からそのような主張をしていたのは、私の知る限り、以前NHK党から参議院選挙に立候補し、その後、国民主権党を自ら設立した平塚 正幸さんぐらいでしょう。彼の主張は周囲から白眼視されていますし、私も若干そういう目で見ていたところはありますが。そうした観点で、公約を発表した昨年衆議院議員選挙時や先日の参議院選挙時は感染状況がかなり落ち着いていたこともあり、公約の中に入れました。炎天下の中、多くの人がマスクを外さず屋外を闊歩する状況を浜田さんはどのように分析されていますか?一度始めた習慣が定着し、マスクを外すという行動に至り難くなっているのではないでしょうか。日本人の特性と言って切って良いかはさまざまな意見があるでしょうが、個人的には良くも悪くも日本人らしいと考えています。政治家が呼びかけることで一般人の行動変容は起こるでしょうか?効果の程は、正直私もわかりかねます。呼びかけの主体が自民党である場合とわれわれNHK党である場合でもかなり状況が異なるとは思います。ただ、最大与党の自民党がそうした呼びかけをしないのなら、リスクの低い局面でのマスク外しをわれわれが主張をする意味はあると思っています。一方、NHK党は「検査の意義を考慮した上で、無駄な検査や害となりうる検査拡充に警鐘を鳴らす」とPCR検査などの検査拡充に異議を唱えています。多くの政党がむしろ検査拡充を訴える中で目を引きました。参議院選挙後に起きた現在の第7波の最中では検査拡充の持つ意味はやや異なってきますが、まず検査について一般の方々の誤解が多いと感じています。医療者の立場からすれば、検査とは必ず白黒がはっきりするものではなく、限界があるというのが当然の認識です。しかし、一般の方々の多くはそのことを知らないのだろうという印象を持っています。私は2011年に医学部を卒業していますが、学部では臨床教育移行時にどのような場合に検査をすべきかについて、いわゆる「ベイズの定理」に基づき、事前確率の高さを基準に検査をすべきとの教育を受けました。ところが最近の国会での議論を見てると、率直に言って医師免許を有する比較的高齢の国会議員の方々がそうしたことを十分に理解されていない点にやや危機感を覚えます。事前確率で絞り込むことなしに闇雲に検査件数を増やせば、間違った検査結果も必然的に増加します。近年の医学教育を受けた自分としては、この点は国政の場でしっかりと伝えていくべきだと思っています。他方、一部の地方首長はこの検査の限界を理解して発言されています。国会で同じ方向で議論が進めば良いと願い、公約に入れさせていただいたのが経緯です。先ほど、第7波突入を念頭に置いた次元の変化に触れましたが、では第7波下の検査のあり方についてはどのようにお考えですか?まず陽性者の受け入れ態勢を一旦脇に置いて考えると、自治体によっては時に検査陽性率90%超というケースも報告されている現在は、理論上から言えば検査件数がまったく足りないことになるので、検査を拡充したほうが良いという判断になるでしょう。しかし、受け入れ態勢を含めて考えるとかなり厄介です。現在主流のオミクロン株(BA.5)の感染では、基本的に自宅療養をすれば良い方がほとんどです。しかし、一般の方は陽性と判定されれば、ほとんどの方が不安を抱えます。その結果、軽症患者が医療機関の外来に殺到しているという悩ましい状況が今現在です。政府は抗原検査キットの無料配布政策まで打ち出しました。一般の方々は興味本位も含め自分の感染有無を知りたい方が多いでしょうし、その気持ちもわかります。その気持ちに配慮した上で行われている政策であることは理解できます。しかし、医師でもある自分の考えは、検査結果次第で治療方針が変わるならば検査の意味はありますが、新型コロナの場合は重症化リスクのある人を除けば、陽性が確定しても特別な治療があるわけではありません。これは検査によって治療方針がほとんど変わらない事例の典型例とも言えます。今回の幅広い層への抗原検査キットや無料検査所の拡大は、こうした医学的視点が反映されていない政策です。私自身はどちらかといえばやらないほうが良いのではと思っています。現在も診療に従事されているとのことですが、その現場で第7波の影響を感じることはありますか?私自身は、放射線科医なので新型コロナの肺炎に至った患者さんのCT画像を見ることはありますが、現状はそうした事例は必ずしも多くはありません。また、勤務先の病院は新型コロナ患者で逼迫しているという状況でもないです。ただ一方で、友人や恩師の医師のSNSの投稿やコメントでは、軽症患者が殺到して混乱に陥っていること、また保健所も大変な状況にあることは認識しています。そうした中で、当事者たちからそろそろ全数把握は止めて、入院患者に限定した患者数把握で良いのではないかとの意見が出ていることも承知しています。私自身もその通りだと考えています。その意味では新型コロナに関しては従来から感染症法上の5類扱いにすべきという意見があります。この論調はデルタ株などに比べ感染力が強いわりに重症化リスクは低いと言われているオミクロン株に入れ替わってから、一般人を中心に勢いを増し、一方でこの点に慎重な医療従事者との溝が深まっている印象も受けます。私自身は新型コロナを感染症法上の5類扱いにするか否かについて、あまり強いこだわりはありません。そもそも5類に分類されている感染症の中でも現実の臨床現場での対応には差がつけられているように感じています。新型コロナについても同様で今後のワクチン接種の進展などに応じてケースバイケースで少しずつ緩やかに設定を進めていけば良いのではないでしょうか。もっとも一般の方々からすると、この5類か否かという議論はある意味わかりやすさもあるのでしょうし、議論すること自体を私は否定しているわけではありません。印象論になってしまいますが、この件に関して、厚生労働省は保健所が過度な負担を抱えていることを認識しているにもかかわらず、あまり現状を動かしたがっていないように感じています。この認識に立つと、厚生労働省の対応は以前から少し不思議ですね。もっともこの点も厚生労働省自体が未曽有のコロナ禍でなかなか身動きがとりにくい状況なのかもしれないと推察しています。次回は日本版CDCや日本版ACIP、ナースプラクティショナー導入を提唱した経緯やワクチン政策などについて浜田氏の考えを取り上げる予定である。

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医療者のブレークスルー感染率、3回vs.4回接種

 オミクロン株流行下において、感染予防の観点から医療従事者に対する4回目接種を行うメリットは実際あったのか? イスラエルでのオミクロン株感染ピーク時に、3回目接種済みと4回目接種済みの医療従事者におけるブレークスルー感染率が比較された。イスラエル・Clalit Health ServicesのMatan J. Cohen氏らによるJAMA Network Open誌オンライン版2022年8月2日号掲載の報告より。ブレークスルー感染予防に医療従事者の4回目ワクチン接種は有効 本研究は、イスラエルにおけるオミクロン株感染者が急増し、医療従事者に対する4回目接種が開始された2022年1月に実施された。対象はイスラエルの11病院で働く医療従事者のうち、2021年9月30日までにファイザー社ワクチン3回目を接種し、2022年1月2日時点で新型コロナウイルス感染歴のない者。4回目接種後7日以上が経過した者(4回目接種群)と、4回目未接種者(3回目接種群)を比較し、新型コロナウイルス感染症の感染予防効果を分析した。感染の有無はPCR検査結果で判定され、検査は発症者または曝露者に対して実施された。 3回目接種済みと4回目接種済みの医療従事者におけるブレークスルー感染率を比較した主な結果は以下の通り。・計2万9,611例のイスラエル人医療従事者(女性:65%、平均[SD]年齢:44[12]歳)が2021年9月30日までに3回目接種を受けていた。・このうち2022年1月に4回目接種を受け、接種後1週間までに感染のなかった5,331例(18%)が4回目接種群、それ以外の2万4,280例が3回目接種群とされた(4回目接種後1週間以内に感染した188例も3回目接種群に組み入れられた)。・接種後30日間における全体のブレークスルー感染率は、4回目接種群では7%(368例)、3回目接種群では20%(4,802例)だった(粗リスク比:0.35、95%信頼区間[CI]:0.32~0.39)。・3回目のワクチン接種日によるマッチング解析の結果(リスク比:0.61、95%CI:0.54~0.71)および時間依存のCox比例ハザード回帰モデルの結果(調整ハザード比:0.56、95%CI:0.50~0.63)において、4回目接種群で同様のブレークスルー感染率の減少がみられた。・両群とも、重篤な疾患や死亡は発生していない。 著者らは、4回目のワクチン接種は医療従事者のブレークスルー感染予防に有効であり、パンデミック時の医療システムの機能維持に貢献したことが示唆されたとまとめている。

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新型コロナ入院患者へのバリシチニブ、死亡低減効果は?/Lancet

 英国・オックスフォード大学のPeter W. Horby氏ら「RECOVERY試験」共同研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者に対する経口ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬バリシチニブの死亡リスク低減効果は約13%と、これまでに発表されたJAK阻害薬の無作為化比較試験8件のメタ解析によるリスク低減効果(約43%)よりも小さかったことを報告した。また、RECOVERY試験を含めたメタ解析の結果、JAK阻害薬(主にバリシチニブ)によるCOVID-19入院患者の死亡低減効果は約20%であったことも報告した。Lancet誌2022年7月30日号掲載の報告。バリシチニブを最大10日投与し、28日死亡率を通常治療のみと比較 研究グループは、COVID-19で英国内の病院に入院した患者を1対1の割合で無作為に2群に分け、一方には通常の治療のみを、もう一方には通常の治療に加え、バリシチニブ(4mg/日、経口投与)の10日間投与、または退院までのいずれか短い期間の投与を行った。主要アウトカムは、intention-to-treat(ITT)集団における28日死亡率だった。 また、同試験結果と、COVID-19入院患者を対象に行ったバリシチニブまたはその他JAK阻害薬の無作為化比較試験について、メタ解析を行った。RECOVERY試験を含む9試験のメタ解析で死亡を20%低減 2021年2月2日~12月29日にかけて、1万852例が試験に登録され、うち8,156例が無作為化を受けた。無作為化の時点で、コルチコステロイドを95%が服用、またトシリズマブを23%(24時間以内の使用予定者を含むとさらに9%追加)が服用していた。 全体で、無作為化後28日以内の死亡は、通常治療群14%(546/4,008例)に対しバリシチニブ群12%(514/4,148例)だった(年齢補正後率比:0.87、95%信頼区間[CI]:0.77~0.99、p=0.028)。 一方で、これまでに発表されたJAK阻害薬の無作為化比較試験8件(被験者総数3,732例、死亡425例)のメタ解析の結果では、JAK阻害薬による死亡低減率は43%(率比:0.57、95%CI:0.45~0.72)で、RECOVERY試験の結果(死亡を13%低減)に比べると減少は大きかった。 それら8試験とRECOVERY試験を統合した9試験のメタ解析(被験者総数1万1,888例、死亡1,485例)の結果、通常治療のみと比べたJAK阻害薬の死亡低減率は20%だった(率比:0.80、95%CI:0.72~0.89、p<0.0001)。 なお、RECOVERY試験において、COVID-19に関連のない死亡または感染症、および血栓症やその他の安全性に関わるアウトカムの顕著に過剰な発生は認められなかった。

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第6回 市販の抗原検査キット陽性をどう扱う?

ついに抗原検査キットがネット解禁へ以前からドラッグストアで購入できた抗原検査キットは、ご存じのように抗原定性検査を指します。「体外診断用」と記載されたものが、厚労省が承認しているキット(図)で、未承認のキットは「研究用」と記載されています。参考文献・参考サイト厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の体外診断用医薬品(検査キット)の承認情報厚生労働省 医療用抗原検査キットの取扱薬局リスト(令和4年8月9日18:00時点)画像を拡大する図. 薬事承認を受けた抗原検査キット(筆者作成)厚労省が承認した抗原検査キットを無料配布し始めている自治体もあります。それでもなお、品薄の状況であることから、政府はついにネットでの販売を解禁する方向へ舵を切るようです。抗原検査キット陽性でCOVID-19と確定してもよいか?承認された「体外診断用」の抗原検査キットを用いた場合、COVID-19と自己診断して療養することが可能です。ネットで登録できるシステムを各自治体が立ち上げています。ただ、ネット通販などで手に入る「研究用」の抗原検査キットを用いて診断しても、登録できない仕組みになっています。抗原検査キットでCOVID-19と自己診断する場合、虚偽の報告があると、とくにお金にかかわる部分でトラブルになるかもしれません。それゆえ、あまり手続きを簡略化し過ぎると、それはそれでまずい。そのため、一部の自治体は、かなり厳格に判定しています。たとえば以下のような条件です。有症状検査結果がわかる画像を添付本体に油性マジック等で氏名と検査日を記入(検査キット本体に直接記入)薬事承認された医療用抗原検査キットを利用されていること医師のオンライン面談後、登録とはいえ、医師のオンライン面談と登録がもはや難しい自治体もあり、自己登録システムでスピーディーに承認している自治体もあります。問題は、自己登録に不備がある場合、それをいちいち「検査に不備があります」と指摘して差し戻す作業自体が、結局行政の仕事量を増やすことにつながりかねないということです。東京都では、Googleフォームを通した申請になるため、ある程度ネットに慣れた人でないと登録は難しいかもしれません。また、1日3,000件までの申請しか受理していないため、これが今後の主たる手続きになるわけではなさそうです。このスキームには、陽性を装うことで何か詐欺に悪用できるような「コスパ」がそこまでないと思うので、甘めに判定してもそんなに金銭トラブルは多くないと予想されますが…果たして。ちなみに、市販の抗原検査キット陽性ということで発熱外来を受診した場合、それが未承認の「研究用」のキットであれば、医療機関でPCR検査や抗原定量検査を再度実施すべきと個人的に考えます。

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第121回 大量退職の市立大津市民病院その後、今まことしやかに噂されるもう一つの“真相”

大量退職報道をきっかけに病院経営が苦境にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、山仲間と八ヶ岳山麓にある先輩宅を訪れ、権現岳から編笠岳を日帰りで縦走してきました。観音平から三ツ頭、権現岳に至るルートは人も少なく、快適な山行を楽しむことができました。ただ、八ヶ岳の入門コースとも言える編笠山に回るとさすがに登山者は多く、コロナ禍を感じさせない賑わいぶりでした。実際、登山中にコロナ感染というニュースはまだ読んだことがありません。風も比較的ある中での屋外スポーツは、感染リスクは相当低いと言っていいかもしれません(山小屋はそこそこリスクが高そうですが)。今週末はどこかのプールにでも行こうかと考えています。さて今回は、本連載でもたびたび取り上げた、前理事長のパワハラまがいの“退職勧奨”が医師の大量退職につながり大きな社会問題となった滋賀県大津市にある基幹病院、地方独立行政法人・市立大津市民病院(大津市、30診療科・401床)について改めて取り上げてみたいと思います。市立大津市民病院の大量退職については、「第99回 背景に府立医大と京大のジッツ争い?滋賀・大津市民病院で医師の大量退職が発覚」、「第103回 大津市民病院の医師大量退職事件、『パワハラなし』、理事長引責辞任でひとまず幕引き」で詳しく書きました。同病院の現状についての最近の報道では、大量退職報道をきっかけに病院経営が苦境に陥っていると伝えています。また、今回の事件について、滋賀、京都界隈の医療関係者の間では、新しい“解釈”も流布しはじめているようです。4月分の入院と外来を合わせた収益は前年同月比で14%減7月21日付の京都新聞は、「医師大量退職『印象良くない』診療収入1割減 大津市民病院『手立て必要』」のタイトルで、7月11日に大津市内で開かれた同病院の業務実績をチェックする評価委員会に市が報告した内容を伝えています。それによれば、大量退職が発覚した後の今年4月分の入院と外来を合わせた収益は、前月から17%落ち込み、前年同月比では14%下がっていました。地域の開業医から紹介患者が減り、入院の診療報酬が伸びなかったことも響いたとのことです。4月18日に就任した日野 明彦院長は「(退職した)医師を補充して診療体制は整ったが、患者の印象はまだ良くない。新たな診療分野を立ち上げるなど手だてが必要」と説明したとのことです。評価委員会には昨年度決算も報告されました。それによれば、医業損益は5億9,300万円の赤字で計画を大きく下回ったものの、新型コロナウイルス病床確保支援金などの補助金収入が寄与し、最終損益は29億3,100万円の黒字でした。純資産は44億300万円で、累積欠損金を解消した2020年度から29億3,000万円増えました。ただし、コロナの影響もあって入院・外来患者数とも不調で、病床稼働率は7割強に留まるなど、補助金頼みの苦しい経営状況も示されました。「当事者となった医師たちの話を直接聞き、深く同情した」と日野院長新任の日野院長は、日経メディカルのインタビューにも答えています。インタビューは2回に渡って掲載され、7月25日付の1回目の記事「滋賀・市立大津市民病院院長、日野明彦氏インタビュー(前編)『大量退職の当事者となった医師たちの話を直接聞き、深く同情し、共感もしました』」では、日野氏が大量退職に対する考えや思いを語っています。同記事で日野氏は「僕も一応、京都府立医科大学の出身ですが、前理事長や前院長とは全く面識がありませんでした。赴任が決まってからは、周囲から彼らの仲間であるとか、府立医大の手先であるとか色々言われましたが、全くの虚偽です」と語り、院長就任についても京都府立医大の意向が働いてのことではない、と強調しています。大量退職については、「僕も当事者となった医師たちの話を直接聞き、深く同情し、共感もしました。当事者の医師たちはこの病院で一生懸命働いて来られた方々だと思います。それなのに新しい理事長から『業績が悪いから辞めてください』と言われたら、簡単には納得できないと思います。外科のリーダーだった副院長が前理事長に呼ばれた当時(2021年9月)はCOVID-19で診療に制限がかかっている頃です。それを考えると、単純に『業績が悪い』とは言えないし、ましてや直ちに退職勧奨されるようなレベルではなかったような気がします」と前理事長の対応に疑問を投げかけています。さらに、パワハラを否定した第三者委員会の報告書についても、「問題の本質は、『パワーハラスメント』という言葉の法律上の定義ではないと思います。法律上のパワハラに該当しないから責任が無いということにはなりません」と、当時の病院の経営者側の責任についても言及しています。「風評」の影響で外来患者、紹介患者激減2回目の記事「滋賀・市立大津市民病院院長、日野明彦氏インタビュー(後編)『受診控えの影響で市立大津市民病院の病床稼働率は7割、経営は厳しい』」で日野氏は、医師大量退職の報道で「一番つらかったのは風評」だとして、病院の経営状況を次のように赤裸々に語っています。「そんな病院ではちゃんと診察してもらえないんじゃないか」という不安から、外来患者さん、特に新患の数が減りました。地域の開業医の先生方からの紹介患者さんも激減しました。『市民病院に患者さんを送っても大丈夫か?』と不安に思われる先生方が増えたのと、患者さん自身がトラブルのある病院を避けて、他院への紹介を望まれるケースが増えたことの、2つの要因があると思います。こうした受診控えの影響で、病床の稼働率は現在7割ほどです。経営状態は非常に厳しいです。その一方で、近隣の病院では患者さんが増えて、一部の手術が待機になったりしているようですし、待てない患者さんは京都の病院に流れているという話も聞きました」。この記事では、日野氏自身が地域の診療所や病院に、「市立大津市民病院は大丈夫です」と営業活動をして回っているとも書かれています。一人の経営を知らない理事長が“暴走”しただけで、病院がここまで苦境に陥るとは、経営学的にもとても興味深い事例だと言えます。市立大津市民病院から手を引きたがっていた京大が描いたシナリオと、ここまでなら京都府立医大出身の前理事長が赤字だった外科などの医師に高圧的な態度を取り、京大の医局が激怒して医師を引き上げた、というわかりやすいストーリーということで終了なのですが、滋賀、京都界隈の医療関係者のあいだでは、事件のもう一つの“解釈”が噂されているようです。曰く、「かねてから業績も今ひとつだった市立大津市民病院から手を引きたがっていた京大が、前理事長の“暴走”に乗じ、パワハラと関係がなかった科も含めて全面撤退を決めたことで、事が大きくなってしまった……」。大津市には市立大津市民病院のほかに、日本赤十字社・大津赤十字病院(37診療科、684床)、独立行政法人地域医療推進機構・滋賀病院(JCHO滋賀病院、26診療科、325床)という2つの公的な病院があり、少し離れたところには滋賀医科大学附属病院(31診療科、612床)もあって、患者獲得競争を繰り広げています。この中で、最大規模で3次救急に対応する救命救急センターを持ち、外来患者数や救急外来患者数、手術件数などで他の病院を圧倒する大津赤十字病院は、院長が京都大学医学部出身で、副院長が京大出身者と神戸大出身者の2人と、京大色が強い病院です。今、全国各地で人口減少が急速に進み、病院の機能集約や統廃合が喫緊の課題となっています。また、医師の働き方改革が本格始動まで2年を切り、各大学の医局も医師を派遣する病院の再編成に乗り出しています。そんな中、京大が大津市の医療圏に投入するリソースを、機能的、経営的にも中途半端な市立大津市民病院から引き上げて、大津赤十字病院に集約しようと考えた、というシナリオです。大量退職事件で一番得をしたのは京大?関西で働く知人の医師は、「もちろん悪いのはきっかけを作った前理事長で、そこに府立医大の意向も働いていたのは確かだろう。しかし、それに乗じた京大にも多少の責任があるのでは。世間では今、事が大きくなり過ぎたため、府立医大と京大のトップが裏で話し合い、罪は全部前理事長に負わせて、2つの大学自体は世間からバッシングを受けないようにした、とまことしやかに噂されているよ」と話していました。もしそれが事実なら、今回の大量退職事件で一番得をしたのは京大、ということになるかもしれません。事の真相は藪の中ですが。

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